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人事訴訟事件等についての国際裁判管轄 に関する外国法制等の調査 ...

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人 事 訴 訟 事 件 等 についての 国 際 裁 判 管 轄に 関 する 外 国 法 制 等 の 調 査 研 究 報 告 書平 成 24 年 1 月株 式 会 社 商 事 法 務


人 事 訴 訟 事 件 等 についての 国 際 裁 判 管 轄に 関 する 外 国 法 制 等 の 調 査 研 究 報 告 書目次第 1 部 比 較 法 に 関 する 調 査1. ドイツ………………………………………………………………………… 西 谷 祐 子 …12. オーストリア・スイス……………………………………………………… 小 池 泰 …1103. フランス…………………………………………………………………… 北 澤 安 紀 …1394. イギリス………………………………………………………………… 織 田 有 基 子 …1765. アメリカ 合 衆 国 …………………………………………………………… 村 上 正 子 …2086. 中 華 人 民 共 和 国 ……………………………………………………………… 黄 軔 霆 …2567. 大 韓 民 国 ……………………………………………………………………… 金 汶 淑 …272第 2 部 個 別 事 項 に 関 する 調 査1. 失 踪 宣 告 …………………………………………………………………… 北 澤 安 紀 …3152. 婚 姻 の 成 立 及 び 効 力 ……………………………………………………… 西 谷 祐 子 …3233. 離 婚 及 びその 効 果 ………………………………………………………… 北 澤 安 紀 …3484. 血 縁 による 親 子 関 係 ………………………………………………………… 小 池 泰 …3555. 養 子 縁 組 及 び 離 縁 ………………………………………………………… 村 上 正 子 …3686. 親 子 間 の 法 律 関 係 , 未 成 年 及 び 成 年 後 見 …………………………… 織 田 有 基 子 …3887. 氏 ……………………………………………………………………………… 小 池 泰 …4068. 扶 養 義 務 …………………………………………………………………… 西 谷 祐 子 …4109. 相 続 ………………………………………………………………………… 西 谷 祐 子 …430


第 1 部 比 較 法 に 関 する 調 査1. ドイツ( 執 筆 担 当 : 九 州 大 学 西 谷 祐 子 )〔 目 次 〕I. 法 源 .........................................................................................................................................................................2A. 条 約 ...............................................................................................................................................................2B. EU 法 ..............................................................................................................................................................7C. 条 約 及 び EU 規 則 の 実 施 法 .....................................................................................................................10D. 国 内 法 源 ......................................................................................................................................................11II. 国 際 裁 判 管 轄 全 般 ..............................................................................................................................................11III. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 ...................................................................................................................20A. 総 説 ..............................................................................................................................................................20B. 婚 姻 事 件 ......................................................................................................................................................22C. 親 子 事 件 ......................................................................................................................................................41D. 血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 .............................................................................................................................52E. 養 子 縁 組 事 件 ..............................................................................................................................................55F. 年 金 分 割 事 件 ..............................................................................................................................................59G. 登 録 パートナーシップ 事 件 ....................................................................................................................62H. 世 話 事 件 及 び 保 護 収 容 事 件 , 成 年 補 佐 事 件 .......................................................................................67I. その 他 の 家 事 事 件 及 び 非 訟 事 件 ..............................................................................................................70IV. 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 制 度 ................................................................................................................................78A. 婚 姻 事 件 に 関 する 承 認 確 認 決 定 ............................................................................................................78B. 婚 姻 事 件 以 外 の 家 事 事 件 に 関 する 自 動 承 認 制 度 ...............................................................................83C. 外 国 裁 判 の 承 認 要 件 .................................................................................................................................83D. 外 国 裁 判 の 執 行 .........................................................................................................................................87V. 外 国 法 に 関 する 情 報 ..........................................................................................................................................88A. 婚 姻 ・ 離 婚 ..................................................................................................................................................88B. 親 子 関 係 ......................................................................................................................................................92C. 後 見 , 補 佐 , 世 話 .....................................................................................................................................96D. 登 録 パートナーシップ.............................................................................................................................98VI. 手 続 の 類 型 .........................................................................................................................................................99A. 婚 姻 事 件 ......................................................................................................................................................99B. 親 子 関 係 事 件 ............................................................................................................................................100( 参 考 資 料 1)「 家 事 事 件 及 び 非 訟 事 件 の 手 続 に 関 する 法 律 」( 翻 訳 ).....................................................102( 参 考 資 料 2)「 外 国 法 に 基 づく 養 子 縁 組 の 効 果 に 関 する 法 律 」( 翻 訳 ).................................................10711


I. 法 源A. 条 約(1) 婚 姻 事 件婚 姻 事 件 に 関 する 多 国 間 条 約 として,1967 年 9 月 8 日 の 婚 姻 事 件 に 関 する 裁 判 の 承 認 執 行 に 関するルクセンブルク 条 約 1 ,そして 1970 年 6 月 1 日 離 婚 及 び 法 定 別 居 の 承 認 に 関 するハーグ 条 約 2 が存 在 するが,ドイツはいずれも 批 准 していない。二 国 間 条 約 として 国 際 裁 判 管 轄 を 規 律 するものは 存 在 しないが, 婚 姻 事 件 の 裁 判 の 承 認 については,ドイツは,スイス 3 及 びチュニジア 4 と 二 国 間 条 約 を 締 結 している。 他 方 ,ベルギー,ギリシア,イタリア,オーストリア,スペイン,そして 連 合 王 国 との 間 にも 二 国 間 条 約 が 存 在 したが,これら5の 条 約 は, 婚 姻 ・ 親 子 事 件 の 裁 判 管 轄 及 び 判 決 承 認 に 関 する EU 規 則 ( 以 下 ,「ブリュッセル IIbis 規 則 」という)が 同 第 64 条 に 基 づいて 適 用 される 以 前 の 古 い 事 件 に 妥 当 するだけであり,ブリュッセル IIbis規 則 が 適 用 される 事 件 については,もっぱら 同 規 則 によることとなる 6 。婚 姻 事 件 , 特 に 離 婚 事 件 について,ドイツがブリュッセル IIbis 規 則 又 は「 家 事 事 件 及 び 非 訟 事件 の 手 続 に 関 する 法 律 」(FamFG: 後 掲 訳 参 照 ) 7 第 98 条 に 基 づいて 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 場 合 には,FamFG 第 98 条 第 2 項 に 基 づいて 附 帯 処 分 にも 管 轄 が 拡 張 される。ただし, 個 々の 附 帯 処 分 である夫 婦 財 産 制 の 解 消 や 扶 養 料 支 払 請 求 等 が 別 の 条 約 又 は EU 法 上 の 管 轄 ルールに 服 している 場 合 には,FamFG 第 98 条 第 2 項 は 妥 当 せず, 各 附 帯 処 分 について 別 途 管 轄 が 認 められなければならない 8 。(2) 登 録 パートナーシップ登 録 パートナーシップ 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 又 は 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 に 関 する 多 国 間 条 約 は 存在 しない。ブリュッセル IIbis 規 則 は, 登 録 パートナーシップ 又 は 同 性 婚 を 適 用 対 象 外 としている。それゆえ, 身 分 関 係 を 包 括 的 に 承 認 するためのドイツ・EU 諸 国 の 二 国 間 条 約 だけが 登 録 パートナーシップ 事 件 にも 適 用 されうる 9 。1 Convention sur la reconnaissance des décisions relatives au lien conjugal, signée à Luxembourg le 8.9.1967 (conventionn o 11 de la Commission internationale de l’état civil).2 Hague Convention of 1 June 1970 on the Recognition of Divorces and Legal Separations (entry into force: 24.8.1975).3 Abkommen zwischen dem Deutschen Reich und der Schweizerischen Eidgenossenschaft über die gegenseitige Anerkennungund Vollstreckung von gerichtlichen Entscheidungen und Schiedssprüchen vom 2.11.1929, RGBl. 1930 II S. 1066,RGBl. II S. 1270.4 Deutsch-tunesischer Vertrag vom 19.7.1966, BGBl. 1969 II S. 890, BGBl. 1970 II S. 125.5 Council Regulation (EC) No 2201/2003 of 27 November 2003 concerning jurisdiction and the recognition and enforcementof judgments in matrimonial matters and the matters of parental responsibility, repealing Regulation (EC) No 1347/2000, O.J. 2003, L 338/1.6 MünchKomm-ZPO/Rauscher, Bd. 4, 3. Aufl. (München 2010), § 97 FamFG, Rn. 22.7 Gesetz über das Verfahren in Familiensachen und in den Angelegenheiten der freiwilligen Gerichtsbarkeit (FamFG) vom17.12.2008 (BGBl. I S. 2586, 2587).8 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 22.9 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 23 et seq.22


(3) その 他 の 家 事 事 件 及 び 相 続 事 件(a) 多 国 間 条 約(i) 監 護 事 件10子 の 監 護 事 件 については,1961 年 10 月 5 日 未 成 年 者 の 保 護 に 関 するハーグ 条 約 及 び 1996 年10 月 19 日 子 の 保 護 に 関 するハーグ 条 約 11 が 存 在 し,ドイツはいずれも 批 准 している。 両 条 約 とも,子 の 監 護 に 関 する 保 護 措 置 の 国 際 裁 判 管 轄 , 準 拠 法 ,そして 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 を 定 めている。1996年 条 約 は,1961 年 条 約 において 問 題 となっていた 本 国 管 轄 ( 同 4 条 )を 廃 止 したこと, 新 たに 中 央当 局 同 士 の 行 政 協 力 体 制 を 導 入 していること 等 に 特 徴 がある。1961 年 条 約 と 1996 年 条 約 双 方 の 締約 国 との 関 係 では, 後 者 が 優 先 して 適 用 される。また,いずれの 条 約 も 子 が 締 約 国 の 一 つに 常 居 所を 有 する 場 合 に 適 用 されるが,EU 構 成 国 との 関 係 では,ブリュッセル IIbis 規 則 がこれらの 条 約 に優 先 して 適 用 される(ブリュッセル IIbis 規 則 60 条 a 号 及 び 61 条 )。他 方 , 欧 州 評 議 会 によって 採 択 された 条 約 として,1980 年 5 月 20 日 子 の 監 護 に 関 する 裁 判 の承 認 執 行 及 び 子 の 監 護 の 回 復 に 関 するルクセンブルク 条 約 もある(ドイツについては 1991 年 2 月 1 日発 効 ) 12 。この 条 約 は, 子 の 監 護 に 関 する 締 約 国 の 裁 判 の 承 認 執 行 だけを 規 律 対 象 としており, 間 接管 轄 について 定 めているに 過 ぎない。EU 構 成 国 との 関 係 では,ブリュッセル IIbis 規 則 がルクセンブルク 条 約 に 優 先 して 適 用 される。後 見 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 については,1902 年 6 月 12 日 後 見 に 関 するハーグ 条 約 13 がある。もっとも, 本 条 約 は,1961 年 未 成 年 者 の 保 護 に 関 するハーグ 条 約 の 締 約 国 との 関 係 では 劣 後 するため,現 実 には,ドイツとベルギー 及 びルーマニアとの 関 係 において 適 用 されるに 過 ぎなかった 14 。1996年 子 の 保 護 条 約 の 発 効 後 は, 同 条 約 が 1902 年 条 約 に 取 って 代 わる。それゆえ,2011 年 1 月 1 日 に1996 年 条 約 が 発 効 したドイツとルーマニアについては, 現 在 では 1996 年 条 約 が 妥 当 している 15 。一 つの 締 約 国 から 他 の 締 約 国 に 不 法 に 連 れ 去 られ 又 は 留 置 されている 子 の 返 還 については,1980 年 子 の 奪 取 の 民 事 面 に 関 するハーグ 条 約 16 が 規 律 している。 子 奪 取 条 約 は,EU 構 成 国 間 の 関 係においても 適 用 され,ブリュッセル IIbis 規 則 11 条 ( 手 続 に 関 する 特 則 ) 及 び 42 条 ( 他 の 構 成 国 による子 の 返 還 命 令 は 執 行 宣 言 を 経 ることなく 執 行 力 を 付 与 される)によって 補 充 されるに 過 ぎない 17 。10 Hague Convention of 5 October 1961 concerning the Powers of Authorities and the Law Applicable in respect of the Protectionof Infants (entry into force: 4.2.1969).11 Hague Convention of 19 October 1996 on Jurisdiction, Applicable Law, Recognition, Enforcement and Co-operation in Respectof Parental Responsibility and Measures for the Protection of Children (entry into force: 1.1.2002).12 European Convention of 20 May 1980 on Recognition and Enforcement of Decisions concerning Custody of Childrenand on Restoration of Custody of Children. このルクセンブルク 条 約 は,1972 年 にバーゼルで 開 催 された 第 7 回 ヨーロッパ 司 法 大 臣 会 議 によって 発 案 されたものである。 締 約 国 は, 欧 州 評 議 会 を 構 成 する 47 カ 国 のうち,37カ 国 を 数 える(2012 年 1 月 20 日 現 在 。http://conventions.coe.int/ 参 照 )。13 Convention de la Haye du 12 juin 1902 pour régler la tutelle des mineurs.14 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 27.15 Staudinger/von Hein, Neubearbeitung 2008, Vorbem zu Art. 24 EGBGB, Rn. 3; Heinz Peter Mansel/Karsten Thorn/RolfWagner, Europäisches Kollisionsrecht 2010: Verstärkte Zusammenarbeit als Motor der Vereinheitlichung?, in: IPRax 2011,S. 12. ベルギーは 1996 年 条 約 を 未 批 准 である(2011 年 1 月 20 日 現 在 :http://www.hcch.net/ 参 照 )。16 Hague Convention of 25 October 1980 on the Civil Aspects of International Child Abduction (entry into force: 1.12.1983).17 この 点 については, 拙 稿 「 国 際 的 な 子 の 奪 取 に 関 するハーグ 条 約 とドイツにおける 運 用 」 民 事 月 報 65 巻 11号 (2010 年 )69 頁 以 下 参 照 。33


されるのが 原 則 である。ただし,2007 年 ハーグ 議 定 書 28 に 拘 束 されない 構 成 国 が 下 した 扶 養 料 支 払命 令 については,その 限 りではない(EU 扶 養 義 務 規 則 第 68 条 第 2 項 )。他 方 ,EU 扶 養 義 務 規 則 第 69 条 第 1 項 は, 規 則 制 定 時 にすでに 構 成 国 が 加 盟 していた 多 国 間 条約 又 は 二 国 間 条 約 は, 同 規 則 によってもその 適 用 を 妨 げられないとしつつ, 第 69 条 第 2 項 において,EU 構 成 国 間 の 関 係 では,EU 扶 養 義 務 規 則 が 優 先 することを 定 めている。したがって,EU 扶 養 義務 規 則 は, 扶 養 義 務 に 関 する 他 の EU 構 成 国 の 裁 判 の 承 認 ・ 執 行 に 関 するかぎり, 両 ハーグ 条 約 に優 先 して 適 用 されるのが 原 則 である 29 。ただし,1973 年 扶 養 義 務 に 関 する 裁 判 の 承 認 執 行 に 関 するハーグ 条 約 第 21 条 30 は, 裁 判 外 の 合 意 であっても,それが 行 われた 本 源 国 において 執 行 力 をもつかぎり, 他 の 締 約 国 において 承 認 執 行 の 対 象 となるとしている。そして,EU 扶 養 義 務 規 則 は, 扶 養 義務 に 関 する 裁 判 のほか, 裁 判 上 の 和 解 又 は 公 正 証 書 を 承 認 執 行 の 対 象 とするに 過 ぎないため, 公 正証 書 に 記 されていない 裁 判 外 の 合 意 で, 本 源 国 において 執 行 力 をもつものについては,EU 構 成 国 間においても,EU 扶 養 義 務 規 則 ではなく,1973 年 ハーグ 条 約 によって 承 認 執 行 されうる 31 。なお, 言うまでもなく,EU 構 成 国 以 外 の 第 三 国 であって 両 ハーグ 条 約 の 締 約 国 である 国 々との 関 係 では, 従前 と 同 じく, 両 ハーグ 条 約 が 適 用 される。2007 年 11 月 23 日 の 国 際 的 な 扶 養 料 の 回 収 に 関 するハーグ 条 約 32 は, 現 在 でも 未 発 効 であるため,EU 扶 養 義 務 規 則 第 69 条 の 適 用 対 象 とはならない。 他 方 ,2007 年 ハーグ 条 約 第 51 条 第 4 項 33 は,制 定 の 先 後 を 問 わず,EU が 制 定 する 扶 養 義 務 に 関 する 規 範 は,ハーグ 条 約 に 優 先 することを 定 めている(ただし,EU 構 成 国 と 第 三 国 との 関 係 については,EU 規 則 が 2007 年 ハーグ 条 約 の 適 用 を 妨 げない 限 りでのみ, 優 先 的 に 適 用 される) 34 。関 する EU 規 則 には 拘 束 されないのが 原 則 である。しかし,ブリュッセル I 規 則 については,2005 年 10 月 19日 に EC 及 びデンマーク 間 の 条 約 によって, 同 規 則 をデンマークにも 適 用 することが 取 り 決 められている(Agreement between the European Community and the Kingdom of Denmark on jurisdiction and the recognition andenforcement of judgments in civil and commercial matters, signed at Brussels on 19 October 2005, O.J. L 299/62)。さらに,同 条 約 によって,デンマークは, 扶 養 義 務 に 関 してブリュッセル I 規 則 を「 改 正 」した EU 扶 養 義 務 規 則 にもオプト・インできることとなり,2009 年 1 月 14 日 の 通 知 によってオプト・インしている。ただし, 扶 養 義 務 の 準拠 法 に 関 する 第 3 章 ,そして 中 央 当 局 同 士 の 協 力 に 関 する 第 7 章 は 対 象 外 としているため,これらの 事 項 に 関するかぎり,デンマークとの 関 係 では,EU 扶 養 義 務 規 則 は 適 用 されない。Rauscher/Andrae, EuropäischesZivilprozess- und Kollisionsrecht — Kommentar, München 2010, Art. 1 EG-UntVO, Rn. 50.28 Hague Protocol of 23 November 2007 on the Law Applicable to Maintenance Obligations.29 Rauscher/Andrae, op.cit., Art. 69 EG-UntVO, Rn. 5.30 1973 年 ハーグ 条 約 21 条 は,「 合 意 は,それが 行 われた 国 において 執 行 することができるものである 場 合 には,裁 判 と 同 一 の 条 件 ( 合 意 について 適 用 することができるものに 限 る。)のもとで 承 認 され,かつ, 執 行 を 認 許 される。」と 定 めている。31 Rauscher/Andrae, op.cit., Art. 69 EG-UntVO, Rn. 6.32 Convention of 23 November 2007 on the International Recovery of Child Support and Other Forms of Family Maintenance( 未発 効 )。33 2007 年 ハーグ 条 約 51 条 4 項 は, 次 のように 定 めている。「この 条 約 は,この 条 約 の 当 事 者 たる 地 域 経 済 統 合組 織 の 協 定 であって,この 条 約 の 締 結 の 後 に 採 択 され,この 条 約 により 規 律 される 事 項 に 関 するものの 適 用 に,その 協 定 がその 国 と 他 の 締 約 国 との 関 係 においてこの 条 約 の 規 定 の 適 用 に 影 響 を 及 ぼさない 限 り, 影 響 を 及 ぼさない。 地 域 経 済 統 合 組 織 の 構 成 国 間 の 決 定 の 承 認 又 は 執 行 に 関 しては,この 条 約 は,その 地 域 経 済 統 合 組 織の 規 則 に,その 規 則 の 採 択 がこの 条 約 の 締 結 の 前 後 のいずれであるかを 問 わず, 影 響 を 及 ぼさない。」34 Rauscher/Andrae, op.cit., Art. 69 EG-UntVO, Rn. 9 et seq.55


EU 構 成 国 とそれ 以 外 の EFTA 構 成 国 (スイス,ノルウェー,アイスランド),そしてデンマークとの 関 係 においては, 扶 養 義 務 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 及 び 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 について,2007 年 10月 30 日 民 事 及 び 商 事 における 裁 判 管 轄 及 び 判 決 の 承 認 執 行 に 関 するルガノ 条 約 35 (1988 年 条 約 36 を 改正 したもの。2010 年 1 月 1 日 に EU,デンマーク,ノルウェー,2011 年 1 月 1 日 にスイス,2011 年 5 月 1 日 にアイスランドについて 発 効 )が 適 用 される。2007 年 ルガノ 条 約 第 67 条 第 1 項 (1988 年 ルガノ 条 約 第 57条 )は,ブリュッセル I 規 則 と 同 様 に 優 遇 原 則 に 従 い, 両 ハーグ 条 約 の 適 用 を 排 除 していない 37 。他 方 ,ルガノ 条 約 と EU 扶 養 義 務 規 則 (ブリュッセル I 規 則 )との 関 係 においては,2007 年 ルガノ 条 約 及 び 1988 年 ルガノ 条 約 のいずれも 影 響 を 受 けない。すなわち,2007 年 ルガノ 条 約 第 64 条 第2 項 によれば, 国 際 裁 判 管 轄 については, 被 告 がスイス,ノルウェー,アイスランドのいずれかに住 所 をもつ 場 合 にはルガノ 条 約 が 適 用 される。また, 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 については,スイス,ノルウェー,アイスランドのいずれかが 判 決 国 又 は 承 認 国 である 場 合 にはルガノ 条 約 が 適 用 される。1988 年 ルガノ 条 約 についても,EU 扶 養 義 務 規 則 第 69 条 を 根 拠 として, 同 規 則 の 適 用 に 優 先 する 38 。なお,1956 年 6 月 20 日 国 外 での 扶 養 料 の 回 収 に 関 するニューヨーク 条 約 39 は,57 の 締 約 国 との 関 係 で, 扶 養 料 の 回 収 を 援 助 するための 司 法 共 助 について 定 めるに 過 ぎず, 外 国 裁 判 の 承 認 執 行については 規 律 していない 40 。(iv) 養 子 縁 組 事 件1993 年 5 月 29 日 国 際 養 子 縁 組 に 関 するハーグ 条 約 41 は, 締 約 国 において 同 条 約 に 基 づいて 行 われた 養 子 縁 組 の 承 認 を 規 定 している。 外 国 で 行 われた 非 断 絶 型 養 子 縁 組 は,1993 年 ハーグ 条 約 第 274243条 及 びドイツ 養 子 縁 組 効 果 法 第 3 条 に 基 づいて, 断 絶 型 養 子 縁 組 に 転 換 されうる 44 。35 Lugano Convention of 30.10.2007 on jurisdiction and the recognition and enforcement of judgments in civil and commercialmatters, O.J. L. 339, 21.12.2007, p. 3.36 Lugano Convention of 16 September 1988 on jurisdiction and the enforcement of judgments in civil and commercial matters,O.J. L 319, 25.11.1988, p. 9.37 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 33.38 Rauscher/Andrae, op.cit., Art. 69 EG-UntVO, Rn. 16 et seq.39 Convention on the Recovery Abroad of Maintenance, New York, 20 June 1956.40 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 30.41 Hague Convention of 29 May 1993 on Protection of Children and Co-operation in Respect of Intercountry Adoption (entry intoforce: 1.5.1995).42 1993 年 ハーグ 養 子 縁 組 条 約 27 条 1 項 は, 次 のように 規 定 している。「 出 身 国 で 認 められた 養 子 縁 組 が 既 存 の法 律 上 の 親 子 関 係 を 断 絶 する 効 果 を 持 たない 場 合 には,その 養 子 縁 組 は, 次 の 各 号 に 該 当 するときに,この 条約 に 従 ってその 養 子 縁 組 を 承 認 する 受 入 国 において,そのような 効 果 を 有 する 養 子 縁 組 に 変 換 することができる。a 受 入 国 の 法 が 認 めるとき。b そのような 効 果 を 有 する 養 子 縁 組 のために, 第 4 条 c 及 び d に 掲 げる 同 意 が 与 えられていたとき 又 は 同 意 が与 えられるとき。」43 Gesetz über Wirkungen der Annahme als Kind nach ausländischem Recht (Adoptionswirkungsgesetz - AdWirkG) vom5.11.2001, BGBl. I S. 2950, 2953.44 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 34.66


(b) 二 国 間 条 約(i) 外 国 裁 判 の 承 認 執 行ドイツは, 家 事 事 件 全 般 , 親 族 関 係 に 関 する 財 産 関 係 事 件 , 身 分 関 係 事 件 の 裁 判 , 争 訟 性 の 判決 などに 関 して( 各 条 約 ごとに 規 律 対 象 は 異 なる), 次 の 国 々と 二 国 間 条 約 を 締 結 している。すなわち,ベルギー,ギリシア,イスラエル,イタリア,ノルウェー,オランダ,オーストリア,スイス,スペイン,チュニジア,そして 連 合 王 国 である。 扶 養 義 務 については,2007 年 ルガノ 条 約 第 65 条 (1988年 ルガノ 条 約 第 55 条 )に 従 い,ドイツがスイス 及 びノルウェーと 締 結 している 二 国 間 条 約 の 適 用 が 排除 される。また,2008 年 EU 扶 養 義 務 規 則 は, 二 国 間 条 約 及 び 他 国 間 条 約 のいずれにも 優 先 するため,ドイツがベルギー,イタリア,ギリシア,オランダ,スペイン,そして 連 合 王 国 と 締 結 している 二 国 間 条 約 の 適 用 が 除 外 されることに 注 意 が 必 要 である 45 。(ii) 後 見 事 件後 見 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 及 びその 実 行 について,ドイツは,オーストリア,ポーランド,スペイン,そしてロシアとの 間 に 二 国 間 条 約 を 締 結 している 46 。(iii) 相 続 事 件相 続 事 件 における 領 事 の 業 務 について,ドイツは,ロシア,スペイン,トルコ, 米 国 ,そして連 合 王 国 との 間 に 二 国 間 領 事 条 約 を 締 結 している 47 。B. EU 法(1) 2000 年 ブリュッセル I 規 則これまでは, 扶 養 義 務 についてブリュッセル I 規 則 が 適 用 されてきたが,2008 年 扶 養 義 務 規 則の 施 行 に 伴 い,ブリュッセル I 規 則 は 適 用 されなくなっている。 原 則 として, 争 いのない 債 権 に 関する 2004 欧 州 債 務 名 義 規 則 についても, 同 様 に 扱 われる( 上 述 参 照 )。(2) 2003 年 ブリュッセル IIbis 規 則(a) 婚 姻 事 件第 一 に,ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 以 下 は, 婚 姻 事 件 ,すなわち 離 婚 , 法 定 別 居 ,そしてあらゆる 形 態 で 婚 姻 を 無 効 とする 事 件 ( 特 に 婚 姻 取 消 し)の 国 際 裁 判 管 轄 について 規 定 している。ブリュッセル IIbis 規 則 の 場 所 的 及 び 人 的 適 用 範 囲 については, 同 第 6 条 が 不 正 確 であるため, 誤 解 を 招くおそれがある。 正 確 には,1 同 規 則 6 条 の 規 定 によって 同 規 則 第 3~ 第 5 条 が 排 他 的 に 適 用 されるべき 場 合 ((a) 被 告 である 配 偶 者 が EU 構 成 国 の 一 つに 常 居 所 をもっている 場 合 ,あるいは EU 構 成 国 の 一 つ45 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 35 et seq.46 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 37.47 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 38.77


の 国 籍 〔 連 合 王 国 及 びアイルランドについては 住 所 〕をもっている 場 合 を 指 す) 48 ,そして2 同 規 則 第 3~第 5 条 の 規 定 によって 他 のいずれかの 構 成 国 に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる 場 合 には( 同 規 則 第 7 条 第1 項 参 照 ), 同 規 則 によって 国 際 裁 判 管 轄 が 決 定 される。1 及 び2のいずれにも 当 てはまらない 場 合に 初 めて,ドイツ FamFG 第 98 条 が 適 用 される 49 。ブリュッセル IIbis 規 則 は,できるかぎり 離 婚 を容 易 にするため, 婚 姻 事 件 についてかなり 広 い 管 轄 原 因 を 認 めており( 特 に 原 告 管 轄 の 問 題 性 ) 50 , 第三 国 との 関 係 では, 過 剰 管 轄 が 発 生 するおそれがある。なお,ここでいう EU 構 成 国 には,デンマークは 含 まれない。婚 姻 事 件 について 下 された 外 国 裁 判 の 承 認 については,ブリュッセル IIbis 規 則 第 21 条 以 下 が,その 執 行 については, 同 規 則 第 28 条 以 下 が 適 用 される。ブリュッセル IIbis 規 則 は,ブリュッセル I規 則 と 同 様 の 執 行 宣 言 制 度 をとっている。それゆえ, 承 認 執 行 の 対 象 となる 裁 判 が 構 成 国 の 一 つ(ただしデンマークを 除 く)において 下 されたかぎり,その 根 拠 となった 管 轄 原 因 の 如 何 を 問 うことなく( 国 内 法 源 や 条 約 等 に 基 づいて 管 轄 が 行 使 された 場 合 を 含 む),ブリュッセル IIbis 規 則 に 基 づいて 承 認 執行 がなされる 51 。(b) 親 責 任 事 件第 二 に,ブリュッセル IIbis 規 則 8 条 以 下 は, 親 責 任 に 関 する 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 について 規 定している。 事 項 的 適 用 範 囲 は, 同 規 則 2 条 に 定 めるとおりであり,FamFG 第 99 条 及 び 第 151 条 が定 める 親 子 事 件 とは 必 ずしも 一 致 しない。EU 法 に 固 有 の 概 念 としての 親 責 任 には, 公 法 上 の 子 のための 保 護 措 置 も 含 まれ,その 点 において 1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 と 軌 を 一 にする。もっとも, 対象 となるのは FamFG 第 151 条 第 1~ 第 6 号 の 手 続 だけであり, 同 第 8 号 の 手 続 は 対 象 とならない 52 。場 所 的 ・ 人 的 適 用 範 囲 については, 子 が 構 成 国 の 一 つに(ブリュッセル IIbis 規 則 にいう 意 味 での) 常 居所 をもつかぎり, 専 らブリュッセル IIbis 規 則 が 適 用 され,FamFG 第 99 条 は 適 用 されない。 他 方 ,血 縁 による 親 子 関 係 事 件 (FamFG 第 100 条 ) 及 び 養 子 縁 組 事 件 (FamFG 第 101 条 )については,ブリュッセル IIbis 規 則 は 適 用 されないため, 専 ら FamFG によって 国 際 裁 判 管 轄 が 決 定 される 53 。1961 年 ハーグ 未 成 年 者 保 護 条 約 及 び 1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 との 関 係 は, 各 々ブリュッセル IIbis 規 則 第 60 条 a 号 及 び 第 61 条 によって 決 定 される。1996 年 条 約 は, 欧 州 連 合 及 びその 構 成 国との 関 係 で 発 効 しており,それに 伴 って, 子 の 常 居 所 を 基 準 として 次 のような 適 用 関 係 が 導 かれる。48 Article 6 Exclusive nature of jurisdiction under Articles 3, 4 and 5:“A spouse who:(a) is habitually resident in the territory of a Member State; or(b) is a national of a Member State, or, in the case of the United Kingdom and Ireland, has his or her ‘domicile' in the territory of oneof the latter Member States,may be sued in another Member State only in accordance with Articles 3, 4 and 5.”49 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 44.50 Heimo Schack, Internationales Zivilverfahrensrecht, 5. Aufl., München 2010, Rn. 424.51 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 50.52 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 46. 精 神 病 の 未 成 年 者 の 自 由 を 剥 奪 する 保 護 収 容 措 置 は,監 護 権 に 関 する 保 護 措 置 とはいえないからである53 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 46.88


すなわち,1 子 が EU 構 成 国 のいずれか(ただしデンマークを 除 く)に 常 居 所 をもつ 場 合 には, 専 らブリュッセル IIbis 規 則 第 8 条 以 下 の 規 定 によって 国 際 裁 判 管 轄 が 決 定 される。21996 年 条 約 の 締 約国 であるが,EU 構 成 国 ではない 国 に 子 が 常 居 所 をもつ 場 合 には, 専 ら 1996 年 条 約 によって 国 際 裁判 管 轄 が 決 定 される。3EU 構 成 国 でも 1996 年 条 約 の 締 約 国 でもない 国 に 子 が 常 居 所 をもつ 場 合 には, 専 ら FamFG 第 99 条 が 適 用 される。この 1996 年 条 約 に 関 する 適 用 関 係 は, 同 様 に 1961 年 未 成年 者 保 護 条 約 との 関 係 でも 妥 当 する 54 。子 が EU 構 成 国 の 一 つ(ただしデンマークを 除 く)から 他 の 構 成 国 へと 奪 取 された 場 合 には,1980年 ハーグ 子 奪 取 条 約 の 適 用 は 排 除 されず, 子 の 返 還 自 体 は 同 条 約 を 根 拠 として 行 われる。ただし,ブリュッセル IIbis 規 則 第 11 条 には,ハーグ 子 奪 取 条 約 を 補 充 するための 規 定 が 置 かれている。親 責 任 事 件 について 下 された 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 は, 婚 姻 事 件 の 場 合 と 同 じく, 各 々ブリュッセル IIbis 規 則 第 21 条 以 下 及 び 第 28 条 以 下 による。 承 認 執 行 の 対 象 となる 裁 判 が 構 成 国 の 一 つ(ただしデンマークを 除 く)において 下 されたかぎり,その 根 拠 となった 管 轄 原 因 の 如 何 を 問 うことなく,ブリュッセル IIbis 規 則 に 基 づいて 承 認 執 行 がなされる 55 。1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約 及 び 1996 年 子の 保 護 条 約 も, 承 認 執 行 についてブリュッセル IIbis 規 則 に 劣 後 する。それゆえ, 他 の 構 成 国 が 下 した 裁 判 の 承 認 執 行 については, 子 の 常 居 所 如 何 にかかわらず, 常 にブリュッセル IIbis 規 則 が 優 先 して 適 用 される 56 。なお, 子 の 面 会 交 流 及 び 子 の 返 還 に 関 する 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 については,ブリュッセル IIbis 規 則 第 40 条 以 下 に 特 則 が 置 かれており, 執 行 宣 言 が 不 要 とされている。(3) 2008 年 扶 養 義 務 規 則2008 年 に 制 定 された EU 扶 養 義 務 規 則 は, 国 際 裁 判 管 轄 , 準 拠 法 ,そして 外 国 裁 判 の 承 認 執 行について 定 めている。EU 扶 養 義 務 規 則 の 施 行 後 (2011 年 6 月 18 日 )は, 同 規 則 が 常 に 国 際 裁 判 管 轄及 び 構 成 国 の 一 つが 下 した 裁 判 の 承 認 執 行 について 適 用 される。したがって, 国 際 裁 判 管 轄 について FamFG 第 105 条 及 び 第 232 条 が 適 用 されることはなく,また 構 成 国 の 一 つが 下 した 裁 判 の 承 認 執行 について FamFG 第 108~ 第 110 条 が 適 用 されることもない 57 。EU 扶 養 義 務 規 則 においては, 構 成 国 の 一 つが 下 した 裁 判 の 承 認 執 行 について, 当 該 構 成 国 が2007 年 ハーグ 議 定 書 が 定 める 準 拠 法 ルールに 従 っているか 否 かによって 区 別 をしている。 当 該 構 成国 が 2007 年 ハーグ 議 定 書 に 拘 束 されている 場 合 には,その 裁 判 の 執 行 には 執 行 宣 言 が 必 要 とされないのに 対 して( 欧 州 債 務 名 義 規 則 型 〔EU 扶 養 義 務 規 則 第 17 条 〕), 当 該 構 成 国 が 2007 年 ハーグ 議 定 書 に拘 束 されていない 場 合 には,その 裁 判 の 執 行 に 執 行 宣 言 が 必 要 とされる(ブリュッセル I 規 則 型 〔EU扶 養 義 務 規 則 第 26 条 〕) 58 。54 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 48.55 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 50.56 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 52.57 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 59.58 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 97 FamFG, Rn. 60.99


(4) その 他現 在 ,EU においては, 相 続 に 関 する 規 則 59 , 夫 婦 財 産 制 に 関 する 規 則 60 ,そして 登 録 パートナーシップ 財 産 制 に 関 する 規 則 61 が 制 定 される 予 定 であり, 各 々 委 員 会 提 案 が 出 されている( 以 下 , 各 々「 相 続 規 則 提 案 」,「 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 」,「 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 」という)。いずれも 国 際裁 判 管 轄 , 準 拠 法 , 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 について 規 定 する 予 定 である。その 内 容 は, 必 要 に 応 じて以 下 でも 紹 介 するが, 詳 細 は 各 項 目 別 の 調 査 研 究 にゆずることとする。C. 条 約 及 び EU 規 則 の 実 施 法(1) AVAG民 事 及 び 商 事 に 関 する 外 国 判 決 の 承 認 執 行 は,2001 年 2 月 19 日 「 民 事 及 び 商 事 に 関 する 外 国判 決 の 承 認 執 行 に 関 する 条 約 の 実 施 並 びに 欧 州 共 同 体 の 規 則 及 び 条 約 の 実 施 に 関 する 法 律 」(AVAG)62 によって 規 律 される。AVAG に 基 づく 外 国 判 決 の 承 認 執 行 手 続 の 適 用 対 象 となる 条 約 として,1968年 ブリュッセル 条 約 ,1988 年 及 び 2007 年 ルガノ 条 約 のほか,1977 年 ドイツ・ノルウェー 条 約 ,1977年 ドイツ・イスラエル 条 約 ,1983 年 ドイツ・スペイン 条 約 が 挙 げられる(AVAG 第 1 条 )。また,AVAGによって 実 施 される EU 規 則 及 び EU が 締 結 した 条 約 として,2000 年 ブリュッセル I 規 則 ,2005 年EU・デンマーク 条 約 ,2007 年 ルガノ 条 約 が 挙 げられる(AVAG 第 1 条 )。 本 法 は, 以 上 の 法 源 に 基づいて 下 された 外 国 判 決 を 債 務 名 義 とする 執 行 について,ドイツ 国 内 における 職 分 管 轄 及 び 土 地 管轄 , 申 立 て, 手 続 , 執 行 決 定 , 執 行 文 の 付 与 , 上 訴 及 び 執 行 異 議 ,そして 承 認 要 件 に 関 する 確 認 手続 などを 定 めている。(2) IntFamRVG子 の 監 護 に 関 する 条 約 及 び EU 規 則 の 実 施 は,2005 年 1 月 26 日 「 国 際 家 族 法 の 領 域 における特 定 の 法 規 範 の 実 施 に 関 する 法 律 」(IntFamRVG) 63 による。 本 法 の 適 用 対 象 となるのは,2003 年 ブリュッセル IIbis 規 則 ,1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 ,1980 年 ハーグ 子 奪 取 条 約 ,そして 1980 年 子 の監 護 に 関 するルクセンブルク 条 約 である(IntFamRVG 第 1 条 )。 本 法 は, 以 上 の 法 源 に 関 して,1中 央 当 局 の 指 定 ( 司 法 省 の 一 部 局 である 連 邦 司 法 局 (Bundesamt für Justiz)) 及 びその 任 務 ,2 少 年 局 の59 Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on jurisdiction, applicable law recognition andenforcement of decisions and authentic instruments in matters of succession and the creation of of a European Certificate ofSuccession, 14.10.2009, COM (2009) 154 final.60 Proposal for a Council Regulation on jurisdiction, applicable law and the recognition and enforcement of decisions inmatters of matrimonial property regimes, 16.3.2011, COM(2011) 126 final.61 Proposal for a Council Regulation on jurisdic- tion, applicable law and the recognition and enforcement of decisionsregarding the property consequences of registered partnerships, 16.3.2011, COM(2011) 127 final.62 Gesetz zur Ausführung zwischenstaatlicher Verträge und zur Durchführung von Verordnungen und Abkommen derEuropäischen Gemeinschaft auf dem Gebiet der Anerkennung und Vollstreckung in Zivil- und Handelssachen (Anerkennungs- undVollstreckungsausführungsgesetz - AVAG) vom 19.2.2001 (BGBl. I S. 288), in der Fassung vom 3.12.2009 (BGBl. I S. 3830),zuletzt geändert durch Artikel 6 des Gesetzes vom 23.5.2011 (BGBl. I S. 898 (2094)).63 Gesetz zur Aus- und Durchführung bestimmter Rechtsinstrumente auf dem Gebiet des internationalen Familienrechts (InternationalesFamilienrechtsverfahrensgesetz [IntFamRVG]) vom 26.1.2005 (BGBl. I S. 162), zuletzt geändert durch Artikel 7 desGesetzes vom 23.5.2011 (BGBl. I S. 898).1010


関 与 ,3 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 の 手 続 ( 国 内 土 地 管 轄 , 管 轄 の 集 中 , 外 国 への 管 轄 の 移 転 ), 職 分 管 轄 , 強制 執 行 の 許 可 , 異 議 申 立 て, 承 認 要 件 に 関 する 確 認 手 続 , 子 奪 取 条 約 に 基 づく 子 の 返 還 手 続 及 びその 執 行 ,4 国 境 を 越 えた 子 の 保 護 収 容 措 置 などを 定 めている。D. 国 内 法 源ドイツにおいては,2008 年 の FamFG 制 定 に 伴 い, 民 事 訴 訟 法 (ZPO) 64 及 び 非 訟 事 件 手 続 法 (FGG)に 置 かれていた 人 事 ・ 家 事 に 関 する 訴 訟 及 び 非 訟 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 及 び 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 に 関する 規 定 が, 若 干 の 変 更 のうえ,FamFG 第 98 条 以 下 ( 後 掲 訳 参 照 )に 整 理 し 直 されている。また,外 国 でなされた 養 子 縁 組 裁 判 の 承 認 の 効 果 については, 養 子 縁 組 効 果 法 ( 後 掲 訳 参 照 )に 特 則 がある。以 下 では,ドイツ 国 内 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 ルール 及 び 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 制 度 について 詳 しく 論 ずることとし, 必 要 に 応 じて EU 法 及 び 条 約 上 のルールにも 言 及 する。II. 国 際 裁 判 管 轄 全 般(1) ドイツ 国 内 法 上 の 職 分 管 轄 及 び 土 地 管 轄ドイツ 国 内 における 職 分 管 轄 については, 次 のように 定 められている。すなわち, 婚 姻 及 び 親65子 事 件 全 般 については, 家 庭 裁 判 所 ( 区 裁 判 所 の 家 事 部 )が 職 分 管 轄 をもつ(ドイツ 裁 判 所 構 成 法 第23b 条 )。また, 世 話 関 係 事 件 , 収 容 措 置 事 件 , 世 話 裁 判 所 に 関 する 事 件 については, 世 話 裁 判 所 が職 分 管 轄 をもつ( 同 第 23c 条 )。 相 続 及 び 遺 産 分 割 事 件 については, 非 訟 事 件 として 相 続 裁 判 所 が 職分 管 轄 をもつ( 同 第 23 条 )。ドイツ 国 内 における 土 地 管 轄 については,FamFG 第 122 条 〔 婚 姻 事 件 〕, 第 152 条 〔 親 子 事 件 〕,第 170 条 〔 血 縁 に 基 づく 親 子 関 係 事 件 〕, 第 187 条 〔 養 子 縁 組 事 件 〕, 第 201 条 〔 婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件 〕,第 211 条 〔 暴 力 からの 保 護 に 関 する 事 件 〕, 第 218 条 〔 年 金 分 割 事 件 〕, 第 232 条 〔 扶 養 事 件 〕, 第 262 条〔 夫 婦 財 産 関 係 事 件 〕, 第 267 条 〔その 他 の 家 事 事 件 〕, 第 272 条 〔 世 話 関 係 事 件 〕, 第 313 条 〔 収 容 措 置事 件 〕, 第 341 条 〔 世 話 裁 判 所 に 関 する 事 件 〕, 第 343 及 び 第 344 条 〔 相 続 及 び 遺 産 分 割 事 件 〕, 第 454 条〔 相 続 債 権 者 の 公 示 催 告 事 件 〕に 各 々 規 定 が 置 かれている。(2) 国 際 裁 判 管 轄(a) 住 所 / 常 居 所ドイツ 国 内 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 ルールについては, 家 事 事 件 については, 住 所 ではなく 常 居 所が 管 轄 原 因 とされている。ZPO の 管 轄 ルールを 準 用 する 場 合 には,「 住 所 」が「 常 居 所 」に 読 み 替 えられるのが 通 常 である。ドイツ 国 内 法 上 の 管 轄 原 因 としての 常 居 所 は, 国 際 民 事 手 続 法 上 の 概 念 と64 Zivilprozessordnung (ZPO) vom 12.9.1950, in der Fassung der Bekanntmachung vom 5.12.2005 (BGBl. I S. 3202 (2006 I S.431) (2007 I S. 1781), zuletzt geändert durch Artikel 3 des Gesetzes vom 22.12.2011 (BGBl. I S. 3044).65 Gerichtsverfassungsgesetz (GVG) vom 12.9.1950, in der Fassung der Bekanntmachung vom 9.5.1975 (BGBl. I S. 1077),zuletzt geändert durch Artikel 4 des Gesetzes vom 6.12.2011 (BGBl. I S. 2582).1111


して 法 廷 地 法 であるドイツ 法 のそれに 従 う。ただし, 条 約 上 及 び EU 法 上 の 常 居 所 概 念 も 考 慮 される。 常 居 所 の 決 定 基 準 は, 人 の 生 活 の 中 心 であること(Lebensmittelpunkt)である。 実 務 上 は, 基 本的 に 6 ヶ 月 以 上 の 居 住 の 事 実 があれば, 常 居 所 が 認 められているが, 学 説 の 中 には, 生 活 の 中 心 がドイツに 移 された 後 に 初 めて 常 居 所 が 発 生 するとすべきであり, 機 械 的 に 6 ヶ 月 という 基 準 によるべきではないとする 立 場 もある( 詳 細 は, 個 別 事 項 に 関 する 解 説 〔 婚 姻 事 件 〕 参 照 )。それに 対 して, 相 続 ・ 遺 産 分 割 事 件 については,「 住 所 」が 管 轄 原 因 とされている。 住 所 概 念は,BGB 66 第 7 条 以 下 によるとされている( 詳 細 は, 個 別 事 項 に 関 する 解 説 〔 相 続 ・ 遺 産 分 割 事 件 〕 参 照 )。また, 性 転 換 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 については, 第 一 義 的 には 申 立 人 の 住 所 が, 申 立 人 の 住 所 がドイツ 国 内 にない 場 合 にはその 常 居 所 が 管 轄 原 因 とされている( 詳 細 は, 個 別 事 項 に 関 する 解 説 〔 性 転 換 事件 〕 参 照 )。(b) 専 属 管 轄 の 有 無家 事 事 件 に 関 するドイツ 国 内 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 については, 専 属 管 轄 はなく,ドイツ 裁 判 所と 外 国 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 が 競 合 することが 前 提 とされている。この 点 は, 婚 姻 事 件 の 国 際 裁 判管 轄 に 関 する 1986 年 ZPO 第 606a 条 第 1 項 (ほぼそのまま FamFG 第 98 条 第 1 項 に 引 き 継 がれている)において 言 及 されていたが, 現 在 では 家 事 事 件 に 共 通 する 原 則 として,FamFG 第 106 条 において 独立 に 規 定 されている 67 。その 結 果 ,ドイツが 国 際 裁 判 管 轄 をもつことは, 外 国 裁 判 所 が 裁 判 権 を 行 使する 妨 げとはならず, 外 国 裁 判 所 が 下 した 外 国 判 決 又 は 外 国 非 訟 裁 判 をドイツで 承 認 することの 障碍 にもならない(この 点 は 国 際 訴 訟 競 合 においても 意 味 をもつ)。また, 外 国 裁 判 所 のほうがより 適 切 な法 廷 地 (forum conveniens)であることを 理 由 として,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 を 否 定 することはできない。これは, 当 該 外 国 法 上 は, 外 国 裁 判 所 が 専 属 管 轄 をもつ 場 合 も 同 様 である 68 。立 法 者 は,1986 年 に ZPO 第 606a 条 を 制 定 する 際 にも,ドイツのみならず, 他 国 の 国 際 裁 判 管轄 を 肯 定 することが 当 事 者 その 他 の 関 係 者 の 利 益 にかなうものと 考 えていた。それは, 家 事 事 件 については, 不 動 産 の 所 在 地 のように 利 益 を 実 現 すべき 決 まった 場 所 はなく, 複 数 当 事 者 が 関 与 することに 鑑 みて, 広 く 競 合 管 轄 を 認 めるのが 相 当 であると 解 されたことにある。 複 数 の 管 轄 原 因 相 互間 にも 序 列 はなく, 同 じレベルの 競 合 管 轄 として 扱 われる 69 。他 方 ,FamFG 第 98 条 から 第 105 条 に 定 める 管 轄 原 因 は, 限 定 列 挙 であり,それ 以 外 の 管 轄 原因 は 認 められない。 従 前 の ZPO 第 640a 条 第 2 項 第 2 文 については, 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 明 文 規定 のほか,ZPO 第 12 条 以 下 の 準 用 によっても 国 際 裁 判 管 轄 が 導 かれるとする 見 解 があった。しかし,FamFG 制 定 後 は, 家 事 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 が 一 括 して FamFG において 規 定 されており,ZPOの 一 般 原 則 を 援 用 する 余 地 はないと 解 される 70 。66 Bürgerliches Gesetzbuch (BGB) vom 18.8.1896, in der Fassung der Bekanntmachung vom 2.1.2002 (BGBl. I S. 42, 2909; 2003I S. 738), zuletzt geändert durch Artikel 1 des Gesetzes vom 27.7.2011 (BGBl. I S. 1600).67 BT-Drucks. 16/6308, S. 220.68 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 106 FamFG, Rn. 3 et seq.69 BT-Drucks. 10/504, 89.70 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 106 FamFG, Rn. 8.1212


(c) 附 帯 処 分離 婚 事 件 の 附 帯 処 分 については, 離 婚 についてドイツ 裁 判 所 が 管 轄 をもつかぎり, 附 帯 処 分 にも 管 轄 が 及 ぶ(FamFG 第 98 条 第 2 項 : 詳 細 は, 後 述 箇 所 参 照 )。 特 に 離 婚 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 が 一 方 当事 者 の 国 籍 に 基 づいている 場 合 には, 端 的 に 附 帯 事 件 全 般 にも 管 轄 を 及 ぼすと 過 剰 管 轄 を 招 き,ドイツにおいて 外 国 で 承 認 されえない 判 決 が 下 されることになるとして 批 判 されている 71 。もっとも,FamFG 第 98 条 第 2 項 による 離 婚 事 件 の 管 轄 の 附 帯 処 分 への 拡 張 は,EU 法 又 は 条 約上 の 規 範 の 優 先 適 用 によってある 程 度 緩 和 されている。EU 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 c 号 及 び d 号 (2007年 ルガノ 条 約 第 5 条 第 2 号 b・c 及 びブリュッセル I 規 則 第 5 条 第 2 号 後 段 〔 第 3 条 c 号 だけ〕も 同 旨 )によれば, 身 分 関 係 事 件 又 は 親 責 任 事 件 について 管 轄 をもつ 裁 判 所 は, 附 帯 して 扶 養 料 支 払 請 求 についても 判 断 しうるが, 前 者 の 管 轄 が 一 方 当 事 者 の 国 籍 だけに 基 づく 場 合 にはその 限 りではない。たとえば,ドイツ 人 妻 がデンマーク 人 夫 とコペンハーゲンで 生 活 していたが, 後 にベルリンのシェーネベルク 裁 判 所 に 離 婚 を 申 し 立 てた 場 合 には(FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 及 び 第 122 条 第 6 号 ), 離 婚 事 件の 国 際 裁 判 管 轄 は 一 方 当 事 者 の 国 籍 だけを 根 拠 としているため,ブリュッセル I 規 則 第 5 条 第 2 号後 段 に 従 い, 附 帯 してドイツ 人 妻 による 扶 養 請 求 の 管 轄 を 認 めることはできない。 妻 は,ブリュッセル I 規 則 第 2 条 及 び 第 5 条 第 2 号 前 段 に 従 い,デンマークでのみ 扶 養 請 求 をすることができる 72 。親 責 任 事 件 については,ブリュッセル IIbis 規 則 第 12 条 及 び 1996 年 子 の 保 護 条 約 第 10 条 は,当 事 者 の 合 意 を 基 礎 として, 離 婚 や 別 居 等 に 附 帯 した 管 轄 を 認 めている。 子 が EU 構 成 国 又 は 1996年 子 の 保 護 条 約 の 締 約 国 に 常 居 所 をもつ 場 合 には,これらの 規 定 が 優 先 して 適 用 され,FamFG 第 98条 第 2 項 による 附 帯 処 分 の 管 轄 は 認 められない。そのほか 2011 年 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 4 条 及 び 2011 年 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案第 4 条 は, 当 事 者 の 合 意 を 基 礎 として, 構 成 国 の 一 つがブリュッセル IIbis 規 則 に 基 づいて 離 婚 , 別居 , 婚 姻 無 効 について 管 轄 をもつ 場 合 ,あるいは 国 内 法 上 の 管 轄 ルールに 基 づいて 登 録 パートナーシップの 解 消 又 は 無 効 について 管 轄 をもつ 場 合 には, 当 事 者 の 合 意 を 基 礎 として, 夫 婦 財 産 制 又 は登 録 パートナーシップ 財 産 制 の 解 消 についても 附 帯 して 判 断 しうるとしている。 他 方 , 夫 婦 財 産 制規 則 提 案 第 3 条 及 び 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 第 3 条 は, 配 偶 者 又 はパートナーの 一 方が 死 亡 した 場 合 の 相 続 事 件 について 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 裁 判 所 は, 夫 婦 財 産 制 又 は 登 録 パートナーシップ 財 産 制 の 解 消 についても 附 帯 して 判 断 しうると 定 めている。(d) 主 観 的 ・ 客 観 的 併 合家 事 事 件 及 び 相 続 ・ 遺 産 分 割 事 件 に 関 するドイツ 国 内 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 については, 主 観 的併 合 又 は 客 観 的 併 合 は 認 められないものと 解 される。71 Schack, op.cit., Rn. 431.72 Schack, op.cit., Rn. 431.1313


従 前 は, 扶 養 事 件 についてブリュッセル I 規 則 又 はルガノ 条 約 が 適 用 され,その 第 6 条 第 1 号によって 被 告 の 住 所 地 の 管 轄 が 基 礎 付 けられるかぎり, 主 観 的 併 合 が 認 められていた。またブリュッセル I 規 則 又 はルガノ 条 約 が 適 用 されない 場 合 には,FamFG 第 105 条 を 介 して 土 地 管 轄 に 関 するFamFG 第 232 条 第 3 項 第 2 号 が 適 用 され, 子 が 父 母 双 方 に 対 して 扶 養 請 求 をする 場 合 には, 一 方 の親 について 管 轄 が 認 められることで 他 方 の 親 についても 主 観 的 併 合 が 認 められていた。しかし, 現在 では,2008 年 EU 扶 養 義 務 規 則 が 施 行 されており,これらの 規 範 が 適 用 される 余 地 はないため,主 観 的 併 合 は 認 められないものと 解 される。(e) 合 意 管 轄 / 応 訴 管 轄家 事 事 件 及 び 相 続 ・ 遺 産 分 割 事 件 に 関 するドイツ 国 内 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 については, 合 意 管轄 は,デロガシオン( 法 定 管 轄 原 因 を 排 除 する 合 意 )とプロロガシオン( 法 定 管 轄 原 因 以 外 の 管 轄 を 定 める 合 意 )のいずれについても 認 められない。また, 応 訴 管 轄 も 排 除 されている。ブリュッセル IIbis 規 則 第 12 条 及 び 1996 年 子 の 保 護 条 約 第 10 条 は, 当 事 者 の 合 意 を 基 礎 として, 離 婚 及 び 別 居 , 婚 姻 無 効 に 附 帯 した 親 責 任 事 件 の 管 轄 を 認 めているほか,ブリュッセル IIbis 規則 第 9 条 第 2 項 は, 面 会 交 流 権 をもつ 親 による 応 訴 に 基 づく 管 轄 を 認 めている。家 事 事 件 の 一 つではあるが, 金 銭 給 付 を 目 的 とする 扶 養 事 件 については, 扶 養 義 務 規 則 第 4 条は 合 意 管 轄 を 認 めている。すなわち, 当 事 者 は, 扶 養 義 務 に 関 する 現 在 又 は 将 来 の 争 いについて,書 面 をもって,1 一 方 当 事 者 の 常 居 所 地 又 は2 一 方 当 事 者 の 本 国 の 管 轄 を 合 意 すること,さらに3現 在 又 は 過 去 の 夫 婦 間 の 扶 養 義 務 については, 当 事 者 の 婚 姻 事 件 について 管 轄 をもつ 裁 判 所 の 管 轄 ,あるいは4 夫 婦 が 少 なくとも 一 年 間 , 最 後 の 共 通 常 居 所 を 有 していた 地 の 管 轄 を 合 意 することができる( 別 異 の 合 意 がないかぎり 専 属 的 合 意 とされる)( 第 4 条 第 1・ 第 2 項 )。ただし,18 歳 未 満 の 未 成 年者 に 対 する 扶 養 義 務 については, 管 轄 の 合 意 は 排 除 される( 第 4 条 第 3 項 )。また, 扶 養 義 務 規 則 第 5条 は, 応 訴 管 轄 を 認 めている。 従 前 のブリュッセル I 規 則 及 びルガノ 条 約 においては, 扶 養 関 係 事件 は 通 常 の 民 商 事 事 件 の 一 つとして 扱 われており, 特 則 も 設 けられていないことから, 扶 養 関 係 事件 について, 選 択 されうる 法 廷 地 を 限 定 することなく 合 意 管 轄 及 び 応 訴 管 轄 が 認 められると 解 される(ブリュッセル I 規 則 及 び 2007 年 ルガノ 条 約 第 23 条 及 び 第 24 条 参 照 )。他 方 , 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 4 条 及 び 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 第 4 条 は, 当 事 者の 合 意 を 基 礎 として, 離 婚 及 び 別 居 ,あるいは 登 録 パートナーシップの 解 消 等 に 附 帯 した 夫 婦 財 産制 又 は 登 録 パートナーシップ 財 産 制 に 関 する 管 轄 を 認 めている。また, 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 5 条第 2 項 は, 当 事 者 が 夫 婦 財 産 制 を 規 律 する 準 拠 法 所 属 国 ( 同 提 案 第 16 条 及 び 第 18 条 参 照 )の 裁 判 所 の管 轄 を 合 意 することを 認 めている。(f) 緊 急 管 轄条 約 又 は EU 規 則 ,あるいはドイツ 国 内 法 上 の 管 轄 ルールに 従 い,ドイツ 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管轄 が 認 められない 場 合 であっても, 代 わりに 手 続 を 行 いうる 適 切 な 外 国 裁 判 所 が 存 在 しない 場 合 に1414


は, 緊 急 管 轄 が 認 められると 解 されている。 具 体 的 には, 婚 姻 事 件 , 血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 , 養 子縁 組 事 件 について 緊 急 管 轄 の 可 能 性 が 認 められている( 個 別 項 目 に 関 する 解 説 参 照 )。 親 子 事 件 及 び 世話 事 件 については,FamFG 第 99 条 第 1 項 第 2 号 第 2 文 及 び 第 104 条 第 1 項 第 2 号 第 2 文 においてドイツにおける 保 護 の 必 要 性 が 管 轄 原 因 とされているため,それ 以 外 に 緊 急 管 轄 を 認 めるべき 必 要はないと 解 される。EU 法 上 は, 扶 養 義 務 規 則 第 7 条 , 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 7 条 ,そして 登 録 パートナーシップ財 産 制 規 則 提 案 第 7 条 が 明 文 で 緊 急 管 轄 を 規 定 している。(a) 総 説(3) 職 権 調 査 主 義ドイツ 訴 訟 法 上 , 国 際 裁 判 管 轄 は, 国 内 土 地 管 轄 その 他 の 訴 訟 要 件 とは 異 なる 独 立 の 訴 訟 要 件である。ドイツ 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 は, 裁 判 手 続 のいかなる 段 階 においても, 職 権 で 調 査される。 国 内 土 地 管 轄 が 欠 缺 する 場 合 には 移 送 が 可 能 であるが(ZPO 第 281 条 参 照 ),ドイツ 裁 判 所が 本 来 , 国 際 裁 判 管 轄 をもつにもかかわらず, 訴 えを 却 下 した 場 合 には, 申 立 人 がドイツ 国 際 私 法に 基 づく 裁 判 を 受 ける 権 利 を 奪 うことになる。それゆえ, 誤 って 国 際 裁 判 管 轄 を 否 定 することは,上 告 理 由 になると 解 されている(ZPO 第 545 条 第 2 項 は 国 際 裁 判 管 轄 には 妥 当 しないと 解 されている)。 同じ 理 由 から, 本 来 ドイツで 訴 訟 追 行 する 義 務 を 負 っていない 相 手 方 が 不 当 にドイツ 裁 判 権 に 服 させられた 場 合 には, 第 一 審 及 び 第 二 審 が 肯 定 した 国 際 裁 判 管 轄 を 上 告 審 において 争 いうる 73 。それに 対 して,ドイツ 国 内 法 上 の 職 分 管 轄 及 び 土 地 管 轄 については, 管 轄 違 いを 理 由 とする 控74訴 及 び 上 告 の 可 能 性 が 排 除 されているため(ZPO 第 513 条 第 2 項 及 び 第 545 条 第 2 項 75 ), 第 一 審 の 裁判 所 だけが 職 権 で 審 査 しうることになる。(b) 基 準 時 点国 際 裁 判 管 轄 は, 訴 訟 要 件 の 一 つであるため, 管 轄 原 因 事 実 は, 手 続 開 始 時 点 において 存 在 しなければならないのが 原 則 である。そして, 手 続 開 始 時 点 において 管 轄 原 因 事 実 が 存 在 したかぎり,事 後 的 に 国 籍 又 は 常 居 所 の 変 更 等 によってそれが 失 われても,ドイツ 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 は 肯 定され,「 管 轄 の 継 続 」(perpetuatio fori)が 認 められるのが 原 則 である(FamFG 第 113 条 第 1 項 第 2 文 及び ZPO 第 261 条 第 3 項 第 2 号 参 照 )。その 根 拠 として, 裁 判 所 が 一 旦 手 続 を 開 始 した 以 上 は, 管 轄 の 喪失 によってそれを 無 駄 にすべきではないこと,また 相 手 方 が 手 続 の 進 行 中 に 国 外 に 住 居 を 移 すことで 管 轄 が 失 われ, 申 立 人 が 相 手 方 を 追 いかけて 外 国 で 訴 訟 追 行 しなければならないとすると, 申 立73 Schack, op.cit., Rn. 444; Staudinger/Spellenberg, Berlin 2005, § 606a ZPO, Rn. 37 et seq.74 § 513 ZPO [Berufungsgründe]: “(2) Die Berufung kann nicht darauf gestützt werden, dass das Gericht des ersten Rechtszugesseine Zuständigkeit zu Unrecht angenommen hat.”75 § 545 ZPO [Revisionsgründe]: “(2) Die Revision kann nicht darauf gestützt werden, dass das Gericht des ersten Rechtszugesseine Zuständigkeit zu Unrecht angenommen oder verneint hat.”1515


人 にとって 負 担 になることが 挙 げられる 76 。 他 方 , 手 続 開 始 時 点 において 管 轄 原 因 事 実 が 存 在 しなくても, 事 後 的 に 口 頭 弁 論 終 結 時 までに 要 件 が 具 備 された 場 合 には, 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 される。婚 姻 事 件 , 血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 , 年 金 分 割 事 件 , 登 録 パートナーシップ 事 件 などについては,一 般 に 手 続 開 始 時 点 において 管 轄 原 因 事 実 が 存 在 したかぎり,それが 事 後 的 に 失 われても 管 轄 の 継続 が 認 められる。ただし, 婚 姻 事 件 に 関 する FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 のドイツ 判 決 の 承 認 可 能性 の 判 断 基 準 時 については 争 いがあり, 多 数 説 によれば 承 認 可 能 性 は, 提 訴 時 ではなく, 口 頭 弁 論終 結 時 に 認 められなければならないと 解 されている( 後 述 参 照 )。それに 対 して, 親 子 事 件 , 養 子 縁 組 事 件 ,そして 世 話 事 件 については, 多 数 説 によれば, 手 続開 始 時 点 に 管 轄 原 因 事 実 が 存 したが, 事 後 的 に 失 われた 場 合 に 管 轄 が 継 続 するか 否 かは, 事 案 ごとに 柔 軟 に 決 定 するとされている。これらの 事 件 においては, 特 に 本 人 の 保 護 を 図 る 必 要 がある。そこで, 子 の 福 祉 又 は 成 年 者 保 護 の 必 要 性 に 配 慮 し, 申 し 立 てられた 保 護 措 置 の 内 容 , 手 続 の 進 行 段階 , 管 轄 原 因 事 実 が 失 われた 理 由 ,ドイツ 裁 判 の 外 国 での 承 認 可 能 性 等 を 勘 案 して, 事 案 に 応 じてドイツ 裁 判 所 が 手 続 を 継 続 するのが 相 当 であるか 否 かを 判 断 するという( 後 述 III-B-3 参 照 )。(c) 職 権 による 調 査 の 対 象国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 職 権 調 査 主 義 とは,いずれの 当 事 者 が 当 該 事 実 を 主 張 したかにかかわりなく, 裁 判 官 が 独 立 に 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 審 査 することを 意 味 する。 相 手 方 の 異 議 をとどめない応 訴 によって 管 轄 が 発 生 する 事 件 については, 当 事 者 が 一 致 して 主 張 した 事 実 に 拘 束 され,それ 以上 の 証 拠 を 求 めることができないが, 家 事 事 件 はそれに 当 たらない。それゆえ, 裁 判 官 は,いずれの 当 事 者 の 主 張 であるかを 問 わず, 職 権 で 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 調 査 する 77 。ドイツ 国 内 法 上 の 職 分 管 轄 及 び 土 地 管 轄 については, 管 轄 違 いを 理 由 とする 控 訴 及 び 上 告 の 可能 性 が 排 除 されており, 第 一 審 の 裁 判 所 だけが 職 権 で 審 査 しうる。ただし, 家 庭 裁 判 所 等 の 裁 判 所が 職 分 管 轄 をもつか 否 かは, 当 該 事 件 の 性 質 決 定 に 関 わるが,この 点 に 関 しては 控 訴 審 及 び 上 告 審においても 職 権 で 審 査 される 78 。そして,その 性 質 決 定 に 基 づいて 上 級 審 が 下 級 審 と 異 なって 国 際 裁判 管 轄 を 否 定 すれば, 訴 えは 却 下 される。それに 対 して, 上 級 審 が 下 級 審 と 異 なって 国 際 裁 判 管 轄を 肯 定 した 場 合 には, 改 めて 土 地 管 轄 についても 審 査 すると 解 されている 79 。「 二 重 に 関 係 する 事 実 」(doppelrelevante Tatsachen)とは, 管 轄 原 因 事 実 と 請 求 原 因 事 実 が 符 合する 場 合 を 指 す。 家 事 事 件 に 関 する 実 体 法 上 の 請 求 原 因 について 判 断 するに 当 たって, 国 籍 又 は 常居 所 等 の 管 轄 原 因 事 実 が 意 味 をもつことはほとんど 考 えられないが, 抵 触 法 上 の 準 拠 法 決 定 につい76 Schack, op.cit., Rn. 451. 婚 姻 事 件 における 本 国 管 轄 について, 配 偶 者 の 帰 化 が 上 告 審 の 段 階 でようやく 認 められた 場 合 について,その 事 実 を 考 慮 し,ドイツの 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 されるとした 判 例 がある(BGH, 17.12.1969,BGHZ 53, 128)。この 判 例 法 理 は, 訴 訟 経 済 にかなうと 解 される。そうでなければ, 一 旦 訴 えが 却 下 された 後 ,申 立 人 が 直 ちに 再 度 提 訴 しなければならないからである。Schack, op.cit., Rn. 447.77 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 39.78国 際 裁 判 管 轄 について 控 訴 審 及 び 上 告 審 でも 争 いうることは,ドイツ 判 例 法 理 として 確 立 している。BGH14.6.1965, BGHZ 44, 46; BGH 28.11.2002, BGHZ 153, 82.79 Staudinger/Spellenberg, op.cit., Vorbem zu §§ 606a, 328 ZPO, Rn. 42 et seq.1616


ては 意 味 をもつ。 多 数 説 は, 訴 訟 経 済 の 観 点 から, 管 轄 原 因 事 実 及 びその 他 の 訴 えの 適 法 性 に 関 する 原 因 事 実 は 証 明 を 必 要 とせず, 申 立 人 による 合 理 的 な 主 張 で 足 りると 解 している。その 理 由 は,証 拠 収 集 を 請 求 原 因 事 実 の 審 査 の 段 階 に 延 期 することは 特 に 相 手 方 の 負 担 にならないこと, 管 轄 原因 事 実 について 審 査 するとなると, 当 該 事 実 の 証 明 がないかぎり 訴 えが 不 適 法 であるとして 却 下 され, 申 立 人 がその 後 に 必 要 な 証 拠 方 法 を 入 手 した 場 合 には,その 段 階 で 改 めて 提 訴 せざるを 得 なくなり, 訴 訟 経 済 に 反 することにある。また, 訴 訟 判 決 ではなく 本 案 判 決 だけが 既 判 力 による 遮 断 効をもつため, 管 轄 原 因 事 実 に 関 する 申 立 人 の 証 明 を 要 求 せず, 本 案 手 続 を 開 始 することが 相 手 方 の利 益 にもかなうという 理 由 も 挙 げられる 80 。ここにいう 職 権 調 査 主 義 は, 職 権 探 知 主 義 とは 異 なる。 職 権 調 査 主 義 の 下 では, 裁 判 官 は, 手続 法 上 定 められた 範 囲 を 超 えて 事 実 に 関 する 証 拠 を 収 集 することはできない(ただし, 外 国 法 の 内 容は 職 権 で 調 査 する)。 裁 判 官 は, 当 事 者 が 提 供 する 証 拠 を 採 用 しなければならない。 弁 論 主 義 との 相 違は, 特 に 訴 えを 却 下 するに 当 たって, 相 手 方 による 管 轄 違 いの 主 張 を 要 件 としない 点 にある。つまり, 裁 判 所 は, 国 際 裁 判 管 轄 について 疑 義 がある 場 合 には, 客 観 的 な 証 明 責 任 を 負 う 当 事 者 ( 後 述 (e)参 照 )に 必 要 な 事 実 を 証 明 するよう 命 ずる。たとえば 当 事 者 が 単 にドイツ 国 内 に 常 居 所 をもつことを 主 張 するだけでは 足 りず, 相 手 方 の 自 白 によっても 管 轄 は 基 礎 付 けられない。 証 拠 が 提 出 されない 場 合 には, 訴 えは 不 適 法 であり, 却 下 される 81 。(d) 土 地 管 轄 と 国 際 裁 判 管 轄 の 審 査 の 順 序国 際 裁 判 管 轄 と 土 地 管 轄 のいずれを 先 に 審 査 するかについては, 従 来 から 学 説 上 争 いがある。すなわち,1 土 地 管 轄 を 国 際 裁 判 管 轄 よりも 先 に 審 査 する 説 82 ,2 国 際 裁 判 管 轄 を 土 地 管 轄 よりも 先に 審 査 する 説 ,そして,3いずれを 先 に 審 査 してもよいとする 説 83 がある。伝 統 的 な 多 数 説 は,1 説 によっており, 土 地 管 轄 は, 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 判 断 する 前 に 審 査すべきであるとしてきた。それに 対 して,2 説 の 根 拠 として, 論 理 的 に 国 際 裁 判 管 轄 が 土 地 管 轄 に先 立 つこと, 国 際 裁 判 管 轄 の 問 題 のほうが 重 要 であること, 国 際 裁 判 管 轄 が 否 定 されれば 訴 え 却 下によって 手 続 が 終 了 するため,まず 土 地 管 轄 の 欠 缺 を 理 由 として 移 送 するよりは, 最 初 に 受 訴 した裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 判 断 すべきことなどが 挙 げられる。近 時 は,3 説 が 有 力 となっている。3 説 に 立 脚 する 学 説 の 一 つは, 審 査 の 先 後 の 問 題 ではなく,土 地 管 轄 をもたないドイツ 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 判 断 してよいか 否 かの 問 題 であるとする。仮 に 当 事 者 が, 土 地 管 轄 又 は 職 分 管 轄 をもつ 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 について 判 断 するよう 求 める 権利 をもつのであれば, 否 定 に 解 すべきであるが,ZPO は, 受 訴 裁 判 所 を 同 等 とみなしており, 土 地管 轄 及 び 職 分 管 轄 の 欠 缺 を 重 大 な 問 題 とは 見 ていない(ZPO 第 513 条 第 2 項 及 び 第 545 条 第 2 項 参 照 )。つまり,これらの 管 轄 ルールの 遵 守 に 対 する 当 事 者 の 利 益 は 否 定 されている。それゆえ, 土 地 管 轄80 Schack, op.cit., Rn. 446; Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 40.81 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 41.82 Zöller/Geimer, ZPO-Kommentar, 28. Aufl., Köln 2010, § 98 FamFG, Rn. 14.83 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 43; Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 104.1717


及 び 国 際 裁 判 管 轄 の 双 方 が 欠 ける 場 合 , 受 訴 裁 判 所 は, 自 ら 国 際 裁 判 管 轄 がないと 判 断 して 訴 えを却 下 できるほか, 土 地 管 轄 をもつ 裁 判 所 に 移 送 してもよいという 84 。また,これらの 訴 訟 要 件 は 同 等であること(ただし,ドイツ 裁 判 権 の 範 囲 に 関 する 訴 訟 要 件 を 除 く),そして 実 務 上 の 処 理 の 簡 便 さ 及 び訴 訟 経 済 を 理 由 として, 国 際 裁 判 管 轄 と 土 地 管 轄 のいずれを 先 に 審 査 してもよいとする 学 説 もある 85 。(e) 証 明 責 任職 権 調 査 主 義 の 下 では,「 主 観 的 証 明 責 任 」は 存 在 しないが,「 客 観 的 証 明 責 任 」は 存 在 する。ドイツの 国 際 裁 判 管 轄 がない 場 合 には, 一 般 原 則 に 従 い 訴 えが 却 下 されるため, 申 立 人 が 客 観 的 証明 責 任 を 負 うという。 申 立 人 は, 少 なくとも 管 轄 原 因 の 要 件 事 実 の 一 つが 存 すること(ドイツ 国 籍 又はドイツにおける 常 居 所 )を 証 明 しなければならない 86 。 当 事 者 の 一 方 がドイツ 国 籍 をもっているかもしれないこと,あるいはドイツ 国 内 に 常 居 所 をもっているかもしれないという 事 実 だけでは 足 りない。 疑 わしき 場 合 にドイツの 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 するという 推 定 は 働 かないからである。ただし,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 の 要 件 だけは 例 外 であり, 文 言 上 , 夫 婦 双 方 の 本 国 においてドイツ 判 決 が 明 らかに 承 認 されない 場 合 にのみ, 国 際 裁 判 管 轄 が 否 定 される。そこで, 夫 婦 の本 国 におけるドイツ 判 決 の 承 認 可 能 性 を 推 定 することで, 証 明 責 任 が 転 換 されていると 解 されている( 後 述 参 照 ) 87 。(f) 国 際 裁 判 管 轄 の 欠 缺 の 治 癒ドイツ 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 をもたないにもかかわらず, 判 決 が 下 され,それが 確 定 した 場 合には,もはや 取 り 消 されえない。 判 決 の 無 効 確 認 請 求 や 再 審 請 求 (FamFG 第 118 条 及 び ZPO 第 578 条以 下 )も 認 められないと 解 されている 88 。(4) 国 際 訴 訟 競 合ドイツ 国 内 法 上 , 家 事 事 件 についても 国 際 訴 訟 競 合 の 規 律 に 関 する 明 文 規 定 は 置 かれていない。しかし, 従 来 と 同 様 に, 訴 訟 事 件 と 非 訟 事 件 のうち 争 訟 性 のある 事 件 については,FamFG 第 113 条を 介 して ZPO 第 261 条 第 3 項 第 1 号 ( 国 内 事 件 に 関 する 二 重 起 訴 の 禁 止 に 関 する 規 定 )を 準 用 すべきであると 解 されている。それによれば, 同 一 当 事 者 間 で 同 一 の 争 いについて, 外 国 裁 判 所 においてドイツ 裁 判 所 よりも 先 に 事 件 が 係 属 しており,しかもその 外 国 裁 判 所 が 下 すであろう 裁 判 がドイツで承 認 されうることが 予 測 される 場 合 には,ドイツにおける 裁 判 手 続 が 中 止 される( 承 認 予 測 説 ) 89 。84 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 43. ただし, 控 訴 審 は,ZPO 第 513 条 第 2 項 に 従 い, 国 際 裁 判 管轄 についてだけ 判 断 できる。85 Schack, op.cit., Rn. 449.86 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 44.87 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 46.88 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 309; Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 14.89 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 106 FamFG, Rn. 6.1818


それに 対 して,FamFG における 争 訟 性 のない 非 訟 事 件 , 特 に 後 見 事 件 や 世 話 事 件 のように 当 事者 を 保 護 するための 裁 判 手 続 については,ZPO 第 261 条 第 3 項 を 準 用 して 承 認 予 測 の 有 無 を 基 準 とするのではなく, 事 案 ごとに 判 断 し, 場 合 によっては 事 後 的 な 裁 判 の 変 更 として 対 処 すべきであると 解 されている。すなわち, 承 認 の 段 階 では, 原 則 として, 先 に 係 属 した 事 件 が 優 先 する(FamFG第 109 条 第 1 項 第 3 号 )。しかし, 外 国 裁 判 所 において 事 件 が 先 に 係 属 していたが,ドイツ 裁 判 所 よりも 後 に 裁 判 が 下 されたとき,すでに 矛 盾 するドイツ 裁 判 が 存 在 していても, 外 国 裁 判 が 新 事 実 に 基づいてドイツ 裁 判 を 変 更 したものと 解 されるかぎりは,ドイツにおいて 承 認 されうるという 90 。EU 法 上 ,ブリュッセル IIbis 規 則 が 適 用 される 婚 姻 事 件 について, 複 数 の 構 成 国 間 で 訴 訟 競 合が 発 生 した 場 合 には, 一 括 してブリュッセル IIbis 規 則 第 19 条 によって 規 律 される。すなわち, 異なる 構 成 国 の 裁 判 所 に 同 一 夫 婦 間 の 離 婚 , 別 居 ,あるいは 婚 姻 無 効 に 関 する 訴 訟 が 係 属 した 場 合 には, 後 から 係 属 した 裁 判 所 は 職 権 で, 先 に 係 属 した 裁 判 所 の 管 轄 が 肯 定 されるまで 手 続 を 中 止 する(ブリュッセル IIbis 規 則 第 19 条 第 1 項 )。 先 に 裁 判 手 続 が 係 属 した 裁 判 所 の 管 轄 が 肯 定 された 場 合 には,後 から 係 属 した 裁 判 所 は, 当 該 裁 判 所 のために 管 轄 を 否 定 する。その 場 合 には, 後 から 係 属 した 裁判 所 に 提 訴 した 当 事 者 は, 先 に 係 属 した 裁 判 所 に 同 一 事 件 の 提 訴 をすることができる( 同 第 2 項 )。ブリュッセル IIbis 規 則 第 19 条 は, 構 成 国 間 の 訴 訟 競 合 に 関 するかぎり, 管 轄 原 因 がブリュッセルIIbis 規 則 に 基 づくか, 国 内 法 上 の 管 轄 ルールに 基 づくかを 問 わない。たとえば,ドイツ 人 夫 とベルギー 人 妻 が 米 国 で 居 住 しており, 夫 がドイツにおいて 離 婚 訴 訟 を 提 起 し, 妻 がベルギーにおいて 離婚 訴 訟 を 提 起 したとき, 各 々の 国 際 裁 判 管 轄 は 国 内 法 上 の 管 轄 ルールによるが, 訴 訟 競 合 の 規 律 はブリュッセル IIbis 規 則 19 条 による 91 。これは,ブリュッセル IIbis 規 則 が 他 の 構 成 国 による 裁 判 の承 認 について, 間 接 管 轄 を 要 件 としていないことと 平 仄 を 合 わせたものである。 他 方 ,ドイツと EU以 外 の 第 三 国 との 訴 訟 競 合 は, 上 記 の 国 内 法 上 の 基 本 原 則 に 従 って 規 律 される。EU 扶 養 義 務 規 則 第 12 条 は, 同 一 当 事 者 間 の 同 一 の 争 いについて, 後 から 係 属 した 構 成 国 の 裁判 所 は, 先 に 係 属 した 裁 判 所 の 管 轄 が 肯 定 されるまで 職 権 で 裁 判 手 続 を 中 止 すること, 同 第 13 条 は関 連 する 争 いについて, 後 から 係 属 した 構 成 国 の 裁 判 所 は 任 意 に 裁 判 手 続 を 中 止 又 は 無 管 轄 を 宣 言92しうることを 定 めている。また, 相 続 規 則 提 案 第 13 条 及 び 第 14 条 も 同 様 に 規 定 している。 夫 婦 財産 制 規 則 提 案 第 12・ 第 13 条 及 び 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 第 12・ 第 13 条 も 同 旨 であるが, 各 提 案 の 第 12 条 における 同 一 当 事 者 間 の 同 一 の 争 いについて, 先 に 裁 判 手 続 が 係 属 した 裁 判 所が 6 ヶ 月 以 内 に 管 轄 の 有 無 を 判 断 すべきことを 規 定 している 点 で 違 いがある。90 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 106 FamFG, Rn. 7.91 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 11.92 Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on jurisdiction, applicable law, recognition andenforcement of decisions and authentic instruments in matters of succession and the creation of a European Certificate ofSuccession, 14.10.2009, COM(2009)154 final.1919


(5) 保 全 処 分ドイツ 国 内 法 上 , 家 事 事 件 に 関 しては,ドイツ 裁 判 所 が 本 案 について 国 際 裁 判 管 轄 をもつかぎり, 保 全 処 分 についても 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる(FamFG 第 50 条 第 1 項 )。EU 法 上 ,ブリュッセル IIbis 規 則 第 20 条 第 1 項 によれば, 他 の 構 成 国 が 本 案 について 管 轄 をもつ 場 合 であっても, 緊 急 の 場 合 には, 同 規 則 の 規 定 にかかわりなく, 当 事 者 又 は 目 的 物 が 所 在 する構 成 国 の 裁 判 所 は, 自 国 法 に 基 づいて 保 護 措 置 を 含 む 保 全 処 分 を 命 ずることができる。ただし,これらの 措 置 は,ブリュッセル IIbis 規 則 に 基 づいて 本 案 の 管 轄 をもつ 構 成 国 の 裁 判 所 が 適 切 な 措 置 をとった 場 合 には 効 力 を 失 う。それに 対 して, 扶 養 義 務 規 則 第 14 条 , 相 続 規 則 提 案 第 15 条 , 夫 婦 財産 制 規 則 提 案 第 14 条 , 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 第 14 条 は, 何 ら 限 定 を 付 すことなく,他 の 構 成 国 が 本 案 の 管 轄 をもつ 場 合 にも, 各 構 成 国 の 裁 判 所 は 保 全 処 分 を 命 じうると 規 定 している。III. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄A. 総 説ドイツ 法 上 の 各 々の 家 事 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 については,B. 以 下 の 項 目 で 紹 介 するが,ここでは,わが 国 の 家 事 事 件 手 続 法 及 び 人 事 訴 訟 法 に 掲 げられた 各 事 件 類 型 がドイツ 国 内 法 上 のどの 管 轄 原 因 に 相 当 するかを 示 しておく。1. 家 事 事 件 手 続 法(1) 成 年 後 見 に 関 する 審 判 事 件 ( 家 事 事 件 手 続 法 第 117 条 ~ 第 127 条 ): 成 年 者 保 護 に 関 する 事 件 として,FamFG 第 104 条 による。(2) 保 佐 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 128 条 ~ 第 135 条 ):(1)に 同 じ。(3) 補 助 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 136 条 ~ 第 144 条 ):(1)に 同 じ。(4) 不 在 者 の 財 産 の 管 理 に 関 する 処 分 の 審 判 事 件 ( 同 第 145 条 ~ 第 147 条 ): 不 在 者 の 財 産 管 理 は,BGB 第 1911 条 によって 不 在 補 佐 (Abwensenheitspflegschaft)によることが 定 められている。それゆえ,おそらく FamFG 第 104 条 によるものと 解 される。(5) 失 踪 の 宣 告 に 関 する 審 判 事 件(a) 失 踪 の 宣 告 の 審 判 事 件 ( 同 第 148 条 ):VerschG 第 12 条 による。(b) 失 踪 の 宣 告 の 取 消 しの 審 判 事 件 ( 同 第 149 条 ):VerschG 第 12 条 による。(6) 婚 姻 等 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 150 条 ~ 第 158 条 ):FamFG 第 98 条 (ドイツ 法 上 の 婚 姻 事 件 ),FamFG第 105 条 及 び 第 262 条 第 2 項 ( 夫 婦 財 産 制 ),FamFG 第 99 条 ( 親 子 事 件 )。(7) 親 子 に 関 する 審 判 事 件(a) 嫡 出 否 認 の 訴 えの 特 別 代 理 人 の 選 任 の 審 判 事 件 ( 同 第 159 条 ):おそらく 未 成 年 者 の 後 見 人又 は 補 佐 人 の 選 任 の 問 題 として,FamFG 第 99 条 によるものと 解 される。2020


(b) 子 の 氏 の 変 更 についての 許 可 の 審 判 事 件 ( 同 第 160 条 ):おそらく FamFG 第 99 条 によるものと 解 される。(c) 養 子 縁 組 をするについての 許 可 の 審 判 事 件 ( 同 第 161 条 ):FamFG 第 101 条 による。(d) 死 後 離 縁 をするについての 許 可 の 審 判 事 件 ( 同 第 162 条 ):FamFG 第 101 条 による。(e) 離 縁 等 の 場 合 における 祭 具 等 の 所 有 権 の 承 継 者 の 指 定 の 審 判 事 件 ( 同 第 163 条 ):おそらくFamFG 第 101 条 によるものと 解 される。(f) 特 別 養 子 縁 組 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 164 条 ~ 第 166 条 ):FamFG 第 101 条 による。(8) 親 権 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 167 条 ~ 第 175 条 ):FamFG 第 99 条 による。(9) 未 成 年 後 見 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 176 条 ~ 第 181 条 ):FamFG 第 99 条 による。(10) 扶 養 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 182 条 ~ 第 187 条 ):EU 扶 養 義 務 規 則 による。(11) 推 定 相 続 人 の 廃 除 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 188 条 ・ 第 189 条 ):FamFG 第 105 条 及 び 第 343 条 による。(12) 相 続 の 場 合 における 祭 具 等 の 所 有 権 の 承 継 者 の 指 定 の 審 判 事 件 ( 同 第 190 条 ):(11)に 同 じ。(13) 遺 産 の 分 割 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 191 条 ~ 第 200 条 ):FamFG 第 105 条 及 び 第 343 条 並 びに 第344 条 によると 解 される。(14) 相 続 の 承 認 及 び 放 棄 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 201 条 ):FamFG 第 105 条 及 び 第 343 条 並 びに 第344 条 第 7 項 によると 解 される。(15) 財 産 分 離 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 202 条 ):FamFG 第 105 条 及 び 第 343 条 によると 解 される。(16) 相 続 人 の 不 存 在 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 203 条 ~ 第 208 条 ):(13)に 同 じ。(17) 遺 言 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 209 条 ~ 第 215 条 ):(13)に 同 じ。(18) 遺 留 分 に 関 する 審 判 事 件 ( 同 第 216 条 ):(13)に 同 じ。(19) 任 意 後 見 契 約 法 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 217 条 ~ 第 225 条 ): 任 意 後 見 契 約 の 制 度 は, 世 話 に 関する 事 前 の 代 理 権 付 与 (BGB 第 1901c 条 :Vorsorgevollmacht)に 類 似 しており,おそらく FamFG第 104 条 によるものと 解 される。(20) 戸 籍 法 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 226 条 ~ 第 231 条 ):FamFG 第 105 条 及 び PStG 第 50 条 第 2 項による。(21) 性 同 一 性 障 害 者 の 性 別 の 取 扱 いの 特 例 に 関 する 法 律 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 232 条 ):FamFG第 105 条 及 び TSG 第 2 条 第 2 項 による。(22) 厚 生 年 金 保 険 法 等 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 233 条 ):FamFG 第 102 条 による。(23) 児 童 福 祉 法 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 234 条 ~ 第 239 条 ):FamFG 第 99 条 による。(24) 生 活 保 護 法 等 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 240 条 ):(23)に 同 じ。(25) 精 神 保 健 及 び 精 神 障 害 者 福 祉 に 関 する 法 律 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 241 条 ):(23)に 同 じ。(26) 破 産 法 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 242 条 ): 各 々 夫 婦 財 産 事 件 , 親 子 事 件 , 相 続 事 件 の 管 轄 によるものと 解 される。2121


(27) 中 小 企 業 における 経 営 の 承 継 の 円 滑 化 に 関 する 法 律 に 規 定 する 審 判 事 件 ( 同 第 243 条 ):FamFG第 105 条 及 び 第 343 条 並 びに 第 344 条 によるものと 解 される。2. 人 事 訴 訟 法(1) 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しの 訴 え, 離 婚 の 訴 え, 協 議 上 の 離 婚 の 無 効 及 び 取 消 しの 訴 え 並 びに 婚 姻 関係 の 存 否 の 確 認 の 訴 え:FamFG 第 98 条 による。(2) 嫡 出 否 認 の 訴 え, 認 知 の 訴 え, 認 知 の 無 効 及 び 取 消 しの 訴 え, 民 法 第 773 条 規 定 により 父 を 定 めることを 目 的 とする 訴 え 並 びに 実 親 子 関 係 の 存 否 の 確 認 の 訴 え:FamFG 第 100 条 による。(3) 養 子 縁 組 の 無 効 及 び 取 消 しの 訴 え, 離 縁 の 訴 え, 協 議 上 の 離 縁 の 無 効 及 び 取 消 しの 訴 え 並 びに 養親 子 関 係 の 存 否 の 確 認 の 訴 え:FamFG 第 101 条 による。B. 婚 姻 事 件1. 適 用 範 囲(1) ブリュッセル IIbis 規 則 との 関 係ドイツ 国 内 法 上 , 婚 姻 事 件 については FamFG 第 98 条 が 国 際 裁 判 管 轄 を 規 定 している。しかし,その 適 用 範 囲 は,ブリュッセル IIbis 規 則 によって 大 きく 制 限 されている。 特 に FamFG 第 98 条 が 適用 対 象 とする 婚 姻 事 件 は,ブリュッセル IIbis 規 則 第 1 条 第 1 項 a 号 が 定 める 事 項 的 適 用 範 囲 とほぼ一 致 する。それゆえ,FamFG 第 98 条 が 適 用 されるのは,ブリュッセル IIbis 規 則 第 7 条 第 1 項 によって 国 内 法 上 の 管 轄 ルールが 援 用 されうる 場 合 ,すなわち, 同 規 則 第 3~ 第 5 条 の 規 定 によっていずれの 構 成 国 (ただしデンマークを 除 く)にも 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められない 場 合 に 限 定 される 93 。具 体 的 には, 以 下 のいずれかの 場 合 には, 専 らブリュッセル IIbis 規 則 によって 婚 姻 事 件 の 国 際裁 判 管 轄 が 決 定 される。すなわち,1 夫 婦 双 方 が 構 成 国 の 一 つに 常 居 所 をもつ 場 合 (ブリュッセル IIbis規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 第 1 款 ),2 夫 婦 双 方 が 構 成 国 の 一 つに 最 後 の 常 居 所 をもっており,しかも 配 偶者 の 一 方 がまだその 国 に 居 住 している 場 合 ( 第 2 款 ),3 被 告 配 偶 者 が 構 成 国 の 一 つに 常 居 所 をもつ場 合 ( 第 3 款 ),4 夫 婦 双 方 による 共 同 申 立 ての 場 合 に,その 一 方 が 構 成 国 の 一 つに 常 居 所 をもつ 場合 ( 第 4 款 ),5 原 告 配 偶 者 が 構 成 国 の 一 つに 常 居 所 をもっており,しかもそこに 申 立 て 直 前 の 1 年以 上 前 から 居 住 している 場 合 ( 第 5 款 ),6 原 告 配 偶 者 が 国 籍 ( 連 合 王 国 及 びアイルランドについては 住所 )をもつ 構 成 国 に 常 居 所 をもっており,しかもそこに 申 立 て 直 前 の 6 ヶ 月 以 上 前 から 居 住 している 場 合 ( 第 6 款 ),7 夫 婦 双 方 がいずれかの 構 成 国 の 国 籍 ( 連 合 王 国 及 びアイルランドについては 住 所 )をもつ 場 合 ( 第 3 条 第 1 項 b 号 ),8 法 定 別 居 の 離 婚 への 転 換 については, 当 該 構 成 国 の 国 内 法 上 管 轄が 認 められる 場 合 ( 第 5 条 )である 94 。ブリュッセル IIbis 規 則 は, 事 案 がドイツ 以 外 の EU 構 成 国 と93 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 8.94 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 8. なお, 離 婚 を 申 し 立 てる 者 がその 国 の 国 籍 をもつ 場 合 には,12 ヶ 月 間 ではなく 6 ヶ 月 間 常 居 所 をもつだけで 足 りるとする 規 定 (ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 a号 第 5 及 び 第 6 款 )は,EU 市 民 の 国 籍 による 差 別 に 該 当 し,EU 法 に 違 反 しているという 指 摘 がある。Schack,2222


結 び 付 きをもつことを 前 提 としていないため,ドイツに 居 住 する 非 EU 国 民 同 士 の 離 婚 事 件 にも 適用 される 95 。上 記 の1~8のいずれにも 該 当 しない 場 合 にのみ,FamFG 第 98 条 第 1 項 によって 国 際 裁 判 管轄 が 決 定 される(ブリュッセル IIbis 規 則 第 7 条 第 1 項 )。 具 体 的 には, 一 方 配 偶 者 だけがドイツ 人 であるとき, 夫 婦 双 方 が EU 以 外 の 第 三 国 に 常 居 所 をもつ 場 合 ,あるいは 申 立 人 配 偶 者 が 構 成 国 の 一 つに 常 居 所 をもつが, 必 要 な 期 間 (1 年 又 は 6 ヶ 月 )が 経 過 していないときがそれに 当 たる 96 。ただし,ブリュッセル IIbis 規 則 は 常 に 優 先 的 に 適 用 されるため, 一 方 配 偶 者 がドイツ 人 であっても, 国 際 裁判 管 轄 は 否 定 されうる。たとえば,ドイツ 人 夫 が 第 三 国 の 国 籍 をもつ 妻 とともにフランスに 常 居 所をもつ 場 合 には,ブリュッセル IIbis 規 則 上 ,1 又 は3によってフランスに 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるため, 国 内 法 上 の 管 轄 ルールの 援 用 は 認 められず,ドイツ 裁 判 所 の 本 国 管 轄 (FamFG 第 98 条 第 1項 第 1 号 )は 否 定 される 97 。また, 複 数 の 構 成 国 間 の 訴 訟 競 合 についても,ブリュッセル IIbis 規 則 が優 先 的 に 適 用 され, 管 轄 原 因 が 同 規 則 に 基 づく 場 合 も 国 内 法 上 の 管 轄 ルールに 基 づく 場 合 も 含 めて,一 律 に 同 規 則 第 19 条 によって 規 律 される( 詳 細 は, 上 述 II 参 照 )。(a) 総 説(2) 婚 姻 事 件 の 概 念FamFG 第 98 条 第 1 項 が 適 用 対 象 とする 婚 姻 事 件 は, 原 則 としてFamFG 第 121 条 の 定 義 による。それによれば, 婚 姻 事 件 とは,1 離 婚 に 関 する 手 続 (FamFG 第 121 条 第 1 号 ),2 婚 姻 取 消 しに 関 する 手 続 ( 同 第 2 号 ),そして3 当 事 者 間 の 婚 姻 の 存 在 又 は 不 存 在 を 確 認 する 手 続 ( 同 第 3 号 )を 指 す 98 。もっとも,ドイツ 国 際 私 法 によれば, 婚 姻 の 有 効 性 (EGBGB 99 第 13 条 第 1 項 ) 100 及 び 離 婚 (EGBGB第 17 条 : 原 則 として 同 第 14 条 を 準 用 ) 101 について 外 国 法 が 準 拠 法 となることもある(なお,2012 年 6op.cit., Rn. 424.95 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 9.96 ブリュッセル IIbis 規 則 は,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 と 異 なって, 常 居 所 を 基 本 的 な 管 轄 原 因 とし, 本 国管 轄 を 限 定 しているといえる。Zöller/Geimer, § 98 FamFG, Rn. 4.97 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 10.98 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 12.99 Einführungsgesetz zum Bürgerlichen Gesetzbuche (EGBGB) vom 18.8.1896, in der Fassung der Bekanntmachung vom21.9.1994 (BGBl. I S. 2494; 1997 I S. 1061), zuletzt geändert durch Artikel 2 des Gesetzes vom 27.7.2011 (BGBl. I S. 1600, 1942).100 EGBGB 第 13 条 によれば, 婚 姻 の 実 質 的 成 立 要 件 は, 原 則 として 各 当 事 者 の 本 国 法 による(EGBGB 第 13 条第 1 項 )。ただし, 各 当 事 者 の 本 国 法 によったのでは, 婚 姻 が 有 効 に 成 立 しない 場 合 には, 以 下 の 要 件 が 満 たされるかぎり,ドイツ 法 が 適 用 される( 同 条 第 2 項 )。すなわち,1 婚 約 者 の 一 方 がドイツに 常 居 所 をもっている又 はドイツ 国 籍 であること( 第 1 号 ),2 両 婚 約 者 が 婚 姻 要 件 を 具 備 するのに 必 要 な 手 立 てをとったこと( 第 2号 ),そして,3 婚 姻 成 立 を 拒 否 することが 婚 姻 の 自 由 と 相 容 れないことである。 特 に 婚 約 者 の 一 方 の 従 前 の 婚姻 は,それがドイツにおいて 下 された 又 は 承 認 された 裁 判 によって 解 消 された 場 合 ,あるいは 婚 約 者 の 配 偶 者が 死 亡 宣 告 を 受 けた 場 合 には, 婚 姻 の 成 立 は 妨 げられない( 第 3 号 )。101 EGBGB 第 17 条 第 1 項 第 1 文 によれば, 離 婚 は, 原 則 として, 離 婚 申 立 て 当 時 の 婚 姻 の 身 分 的 効 力 の 準 拠 法( 同 第 14 条 によれば, 原 則 として 夫 婦 の 現 在 又 は 過 去 の 同 一 本 国 法 ,それがない 場 合 には, 夫 婦 の 現 在 又 は 過去 の 同 一 常 居 所 地 法 ,それもない 場 合 には, 夫 婦 の 最 密 接 関 係 地 法 による)による。ただし,その 法 によっても 離 婚 が 認 められない 場 合 には, 離 婚 を 申 し 立 てた 配 偶 者 がその 当 時 又 は 婚 姻 当 時 にドイツ 人 であった 場 合 には, 離 婚 にはドイツ 法 が 適 用 される( 同 第 17 条 第 1 項 第 2 文 )。2323


月 21 日 には, 離 婚 準 拠 法 に 関 する EU 規 則 〔ローマ III 規 則 〕 102 が 施 行 されるため, 離 婚 準 拠 法 はローマ III 規則 によって 決 定 され,EGBGB 第 17 条 の 適 用 は 排 除 される) 103 。それゆえ,FamFG 第 98 条 第 1 項 の 対 象には, 外 国 法 上 の 制 度 も 含 まれる。ドイツ 裁 判 所 は, 裁 判 拒 否 を 避 けるため, 外 国 法 上 の 特 殊 な 法制 度 にも 対 応 して 適 切 な 手 続 を 用 意 しなければならない。そこで, 外 国 法 上 の 制 度 又 は 法 的 救 済 は,ドイツ 国 際 私 法 及 びドイツ 手 続 法 の 観 点 に 照 らして 性 質 決 定 され,FamFG 第 121 条 にいう 婚 姻 事 件に「 機 能 的 にみて 相 当 する」(funktional equivalent)かぎり, 婚 姻 事 件 として 扱 われる 104 。 外 国 法 上の 制 度 又 は 法 的 救 済 が 機 能 的 にみて 婚 姻 事 件 に 相 当 する 場 合 には, 土 地 管 轄 は FamFG 第 122 条 によって 決 定 され, 婚 姻 事 件 の 手 続 に 関 する 規 定 (FamFG 第 121 条 以 下 )が 適 用 される 105 。(b) FamFG における 婚 姻 事 件(i) 離 婚 事 件FamFG 第 121 条 第 1 号 に 定 める 離 婚 事 件 の 重 要 なメルクマールは, 婚 姻 生 活 共 同 体 において 生じた 瑕 疵 に 対 応 するために, 現 時 点 から(ex nunc) 婚 姻 関 係 を 解 消 することにある。それゆえ, 外国 法 上 の 法 的 な 婚 姻 関 係 を 解 消 する 制 度 のみならず, 法 的 な 婚 姻 関 係 の 解 消 を 伴 わない 形 式 上 の 法定 別 居 も 対 象 となる(イタリアなど。FamFG 第 107 条 第 1 項 も, 法 的 な 婚 姻 関 係 を 維 持 したまま 婚 姻 を 解 消する 法 的 形 態 を 前 提 とする)。また, 夫 婦 の 合 意 に 基 づく 別 居 を 裁 判 所 が 確 認 する 手 続 も 離 婚 事 件 に 含まれる。さらに,EGBGB 第 17 条 第 2 項 によれば,ドイツ 国 内 における 離 婚 は 必 ず 裁 判 手 続 によるため( 裁 判 離 婚 の 専 権 性 :Scheidungsmonopol), 外 国 離 婚 準 拠 法 が 協 議 離 婚 制 度 によっている 場 合 に( 日 本 , 韓 国 , 中 国 ,イラン,エジプトなど。ポルトガルも 協 議 離 婚 制 度 をもつ),ドイツ 裁 判 所 が 外 国 法上 の 法 律 行 為 による 離 婚 を 裁 判 手 続 において 行 う 場 合 も 離 婚 事 件 に 当 たる。 外 国 離 婚 準 拠 法 が 宗 教婚 を 身 分 登 録 簿 に 登 録 することで 民 事 上 の 効 力 を 与 えており,その 民 事 上 の 効 力 を 取 り 消 すだけの裁 判 手 続 を 行 う 場 合 も(イタリアなど), 離 婚 事 件 に 該 当 する。 外 国 離 婚 準 拠 法 が 離 婚 を 宗 教 法 によらしめ, 離 婚 手 続 自 体 も 当 該 夫 婦 が 帰 属 する 宗 教 共 同 体 の 裁 判 所 にゆだねている 場 合 にも(シリア,イスラエルなど),ドイツ 裁 判 所 は 離 婚 手 続 を 代 行 できると 解 されている 106 。102 Council Regulation (EU) No 1259/2010 of 20 December 2010 implementing enhanced cooperation in the area of the lawapplicable to divorce and legal separation, O.J. 2010, L 343/10. ローマ III 規 則 は, 初 めての 試 みとして,デンマークを除 く 全 構 成 国 La Belgique, la Bulgaire, l’Allemagne, l’Espagne, la France, l’Italie, la Letto- nie, le Luxembourg, laHongrie, Malte, l’Autriche, le Portugal, la Roumanie et la Slovénie103 ローマ III 規 則 第 5 条 によれば, 離 婚 は, 原 則 として 当 事 者 が 選 択 した 法 による。 選 択 されうる 法 は,1 合 意当 時 の 夫 婦 の 同 一 常 居 所 地 法 ,2 夫 婦 の 過 去 の 同 一 常 居 所 地 法 であって, 合 意 当 時 に 一 方 配 偶 者 がまだそこに居 住 しているとき,3 合 意 当 時 の 一 方 配 偶 者 の 本 国 法 ,そして4 法 廷 地 法 である。 夫 婦 が 離 婚 準 拠 法 を 選 択 しなかった 場 合 には,ローマ III 規 則 第 8 条 により,1 離 婚 申 立 て 当 時 の 夫 婦 の 同 一 常 居 所 地 法 ,それがなければ,2 夫 婦 の 過 去 の 同 一 常 居 所 地 法 であって, 離 婚 申 立 て 直 前 の 一 年 以 内 に 同 一 常 居 所 が 解 消 されたばかりであり,一 方 配 偶 者 がまだそこに 居 住 しているとき,それがなければ,3 離 婚 申 立 て 当 時 の 夫 婦 の 同 一 本 国 法 ,それもなければ,4 法 廷 地 法 による。なお,ローマ III 規 則 第 9 条 によれば, 法 定 別 居 の 離 婚 への 転 換 は, 第 5 条 に 基づく 夫 婦 の 別 意 の 合 意 がないかぎり, 法 定 別 居 に 適 用 された 法 による( 同 第 1 項 )。ただし, 法 定 別 居 に 適 用 された 法 によれば 離 婚 への 転 換 が 認 められない 場 合 には, 第 5 条 に 基 づく 夫 婦 の 別 意 の 合 意 がないかぎり, 第 8条 に 定 める 法 による( 同 第 2 項 )。104 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 13.105 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 14.106 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 15, 30.2424


(ii) 婚 姻 取 消 しFamFG 第 121 条 第 2 号 にいう 婚 姻 事 件 は, 婚 姻 挙 行 時 の 瑕 疵 に 対 応 するために, 婚 姻 関 係 を 解消 するすべての 手 続 を 指 す。そこには, 遡 及 効 をもたない 婚 姻 の 取 消 手 続 (BGB 第 1313 条 以 下 参 照 )だけではなく, 遡 及 的 に 婚 姻 の 効 力 を 失 わせる 婚 姻 の 無 効 宣 言 手 続 (ドイツ 法 上 は,1998 年 7 月 1 日の 婚 姻 挙 行 法 改 正 によって 廃 止 )も 含 まれる。また, 婚 姻 の 実 質 的 成 立 要 件 の 準 拠 法 (EGBGB 第 13 条第 1 項 )が, 婚 姻 挙 行 時 の 瑕 疵 の 効 果 として, 宗 教 婚 の 民 事 上 の 効 力 を 喪 失 させる 手 続 を 予 定 している 場 合 には,それも 婚 姻 事 件 に 含 まれる。 婚 姻 の 実 質 的 成 立 要 件 の 準 拠 法 が, 婚 姻 挙 行 時 の 瑕 疵に 対 応 するために 離 婚 によっている 場 合 には(スウェーデンなど),ドイツ 裁 判 所 の 手 続 としては, 機能 的 にみて 離 婚 事 件 ではなく,FamFG 第 121 条 第 2 号 にいう 婚 姻 事 件 に 当 たると 解 される 107 。(iii) 確 認 手 続FamFG 第 121 条 第 3 号 に 定 める 確 認 訴 訟 は, 機 能 的 にみて, 婚 姻 に 基 づく 身 分 関 係 の 形 成 ではなく, 当 事 者 間 の 婚 姻 の 存 在 又 は 不 存 在 の 確 認 を 目 的 とするあらゆる 訴 訟 を 包 括 する。 特 に EGBGB第 13 条 第 1 項 による 婚 姻 の 身 分 的 効 力 の 準 拠 法 が, 婚 姻 挙 行 時 の 瑕 疵 によって, 婚 姻 の 取 消 しではなく, 端 的 に 婚 姻 を 無 効 としている 場 合 (イスラーム 法 上 の 妻 の 重 婚 など)がそれに 該 当 する 108 。外 国 で 下 された 離 婚 裁 判 の 有 効 又 は 無 効 の 確 認 を 求 める 場 合 には,FamFG 第 98 条 及 び 第 121条 第 3 号 に 基 づく 確 認 訴 訟 ではなく,FamFG 第 107 条 に 基 づく 州 法 務 局 ( 州 によっては 州 上 級 裁 判 所に 移 管 )による 外 国 離 婚 裁 判 の 承 認 又 は 不 承 認 に 関 する 行 政 手 続 によるのが 原 則 である( 承 認 及 び 承認 拒 否 の 専 権 性 :Anerkennungs- und Verwerfungsmonopol)。 特 に 裁 判 所 は, 扶 養 料 支 払 請 求 等 の 他 の 手続 に 附 帯 して 外 国 離 婚 裁 判 を 承 認 することもできず,まずは 州 法 務 局 による 承 認 手 続 を 経 なければならない。ただし, 州 法 務 局 による 承 認 の 専 権 性 が 妥 当 しない 場 合 には( 特 に 夫 婦 双 方 の 本 国 が 下 した 離 婚 裁 判 :FamFG 第 107 条 第 1 項 第 2 文 ), 裁 判 所 に 直 接 , 婚 姻 の 存 否 確 認 訴 訟 を 提 起 することができ,その 先 決 問 題 としての 外 国 離 婚 裁 判 の 承 認 の 可 否 も 附 帯 的 に 判 断 されうる 109 。それに 対 して,EGBGB 第 17 条 が 指 定 する 外 国 準 拠 法 に 基 づいて, 配 偶 者 の 死 亡 宣 告 による 婚姻 解 消 の 確 認 を 求 める 訴 訟 手 続 (スイスなど)は,ドイツ 失 踪 法 (Verschollenheitsgesetz) 第 9 条 によって 死 亡 が 推 定 され, 善 意 の 配 偶 者 は BGB 第 1319 条 第 2 項 によって 保 護 される 場 合 であっても,FamFG 第 121 条 第 3 号 に 定 める 確 認 訴 訟 には 該 当 しない。このような 訴 訟 手 続 は, 確 認 訴 訟 ではなく 形 成 訴 訟 にあたり, 固 有 の 類 型 の 婚 姻 事 件 として 分 類 される 110 。なお, 婚 姻 生 活 の 実 現 (Eheherstellung:BGB 第 1353 条 第 2 項 〔 婚 姻 生 活 を 実 現 するための 義 務 の 履行 又 は 婚 姻 関 係 を 妨 害 する 行 為 の 差 止 めを 指 す〕。 後 述 V-A 参 照 )に 関 する 積 極 的 又 は 消 極 的 確 認 訴 訟 は,107 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 16.108 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 17.109 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 18.110 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 19.2525


FamFG においては 争 訟 性 のある 家 事 事 件 として,FamFG 第 121 条 にいう 婚 姻 事 件 ではなく(ZPO 第606 条 とは 異 なる), 第 266 条 第 1 項 第 2 号 に 定 めるそれ 以 外 の 家 事 事 件 に 分 類 されている 111 。(3) 外 国 法 とドイツにおける 手 続(a) 外 国 準 拠 法 上 の 実 体 法離 婚 準 拠 法 が 外 国 法 となる 場 合 にも(EGBGB 第 17 条 第 1 項 ,ローマ III 規 則 参 照 ),ドイツ 国 内 においては 裁 判 離 婚 の 専 権 性 (EGBGB 第 17 条 第 2 項 )が 妥 当 する。それゆえ,FamFG 第 121 条 以 下 に定 める 婚 姻 事 件 の 手 続 は,できるかぎり 離 婚 準 拠 法 上 の 制 度 に 合 わせることとされている。 判 決 の主 文 も,ドイツ 実 体 法 が 知 らない 形 成 判 決 や 離 婚 原 因 を 含 めて, 離 婚 準 拠 法 上 の 制 度 に 合 わせて 記載 される 112 。 外 国 準 拠 法 が 依 然 として 有 責 主 義 によっており, 配 偶 者 の 有 責 性 を 宣 言 することを 予定 している 場 合 にも,ドイツ 実 体 法 又 は 手 続 法 上 の 基 本 原 則 とは 矛 盾 しない 113 。外 国 離 婚 準 拠 法 が 離 婚 を 宗 教 法 によらしめ, 離 婚 手 続 自 体 も 当 該 夫 婦 が 帰 属 する 宗 教 共 同 体 の裁 判 所 にゆだねている 場 合 にも,ドイツ 裁 判 所 は 離 婚 手 続 を 行 いうる。かつての 裁 判 例 では,ドイツ 裁 判 所 は, 宗 教 裁 判 所 による 手 続 を 代 行 できないという 立 場 もみられたが 114 , 現 在 では 一 般 に 否定 されている 115 。 特 にドイツに 居 住 する 外 国 人 夫 婦 に 対 してドイツ 国 内 での 裁 判 離 婚 の 専 権 性 を 妥当 させる 一 方 で,ドイツ 裁 判 所 が 外 国 の 宗 教 裁 判 所 による 離 婚 手 続 を 代 行 できないとすると, 裁 判拒 否 に 当 たるからである。その 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 が 下 した 離 婚 判 決 が 当 事 者 の 本 国 において承 認 されないおそれもあるが,それは FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 に 定 める 場 合 を 除 けば,ドイツの 国 際 裁 判 管 轄 を 否 定 する 理 由 にはならないと 解 されている 116 。外 国 離 婚 準 拠 法 が 協 議 離 婚 制 度 によっており( 上 述 参 照 ), 法 律 行 為 による 離 婚 を 予 定 している場 合 にも,ドイツ 裁 判 所 は 離 婚 手 続 を 行 う。その 場 合 にも,ドイツ 裁 判 所 は,「 法 律 行 為 による 離 婚を 認 める」 旨 の 判 決 ではなく, 端 的 に 形 成 判 決 としての 離 婚 判 決 を 下 す 117 。外 国 離 婚 準 拠 法 が 法 定 別 居 制 度 を 予 定 しており, 法 的 な 婚 姻 を 解 消 しないで 婚 姻 生 活 共 同 体 だけを 解 消 する 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 も FamFG 第 121 条 以 下 の 手 続 に 従 い, 法 定 別 居 を 命 ずる。その 際 には, 外 国 法 上 , 裁 判 所 が 形 成 判 決 として 法 定 別 居 を 命 ずるか,あるいは 確 認 判 決 として 法 定別 居 を 宣 言 するかを 問 わない。また, 外 国 準 拠 法 上 , 法 定 別 居 が( 破 綻 主 義 ) 離 婚 の 前 提 であるか,あるいは 婚 姻 生 活 共 同 体 を 解 消 する 唯 一 の 手 段 であるかも 問 わない 118 。111 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 20.112 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 29.113 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 34.114 ユダヤ 教 のラビ 裁 判 所 による 離 婚 手 続 について,KG FamRZ 1994, 839 参 照 。115 Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 19.116 Dieter Henrich, IPRax 1995, 88 ; idem, IPRax 2004, 1958 ; Erik Jayme, Identité culturelle et intégration : le droit internationalprivé postmoderne, in: Recueil des cours 251 (1995), pp. 232 et seq.; idem, Religiöses Recht vor staatlichen Gerichten (Heidelberg1999), pp. 13 et seq.117 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 31 et seq.118 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 33.2626


結 局 , 現 在 では, 外 国 離 婚 準 拠 法 上 の 制 度 がドイツ 法 上 の 制 度 と 本 質 的 に 相 容 れないことを 理由 にドイツの 国 際 裁 判 管 轄 が 否 定 されることはごく 稀 であり,ドイツ 手 続 法 上 の 規 定 を 準 用 することで 対 応 している 119 。(b) 外 国 準 拠 法 上 の 手 続 法各 国 の 家 族 制 度 は, 実 体 法 と 手 続 法 が 密 接 に 絡 み 合 って 出 来 上 がっている。ドイツ 裁 判 所 が 手続 を 行 うかぎり,その 手 続 は 法 廷 地 法 によるのが 原 則 であるが, 実 体 を 規 律 する 準 拠 法 が 外 国 法 である 場 合 には,できるかぎりその 外 国 法 上 の 制 度 と 平 仄 を 合 わせなければならない。そうすることで, 準 拠 法 が 適 切 に 適 用 され,ドイツ 判 決 が 外 国 において 承 認 される 機 会 も 拡 大 する 120 。外 国 離 婚 準 拠 法 が 夫 婦 関 係 調 整 の 試 み( 調 停 )を 予 定 している 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 もそれに 従 い, 次 回 期 日 までに 必 要 な 時 間 を 置 くこととされている。 調 停 人 として 第 三 者 を 関 与 させることもある 121 。 裁 判 例 においても,アフガニスタン 法 上 の 裁 判 外 の 調 停 の 要 件 を 充 足 するため, 調 停人 として 親 類 の 関 与 を 命 じた 例 がある 122 。また,ドイツ 裁 判 所 が 宗 教 法 上 の 離 婚 手 続 を 行 う 際 には,必 要 な 範 囲 で 離 婚 手 続 の 適 応 が 認 められる。たとえばイスラーム 法 系 の 離 婚 法 が 準 拠 法 となる 場 合であって,タラーク 離 婚 を 行 う 際 に, 夫 によるタラーク 宣 言 のほか 証 人 二 名 の 在 席 が 要 件 とされている 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 においても 証 人 二 名 を 召 喚 できるとされている 123 。それに 対 して, 外 国 離 婚 準 拠 法 上 予 定 されている 公 的 機 関 ( 特 に 検 察 官 〔defensor vinculi〕)の 関与 は, 基 本 的 に 認 められない。ただし, 学 説 上 は, 例 外 的 にドイツ 判 決 の 外 国 での 承 認 を 確 保 するのに 必 要 な 範 囲 で 認 める 説 124 ,あるいは BGB 第 1316 条 第 1 項 第 1 号 に 基 づいて 婚 姻 取 消 し 等 を 申し 立 てうる 行 政 機 関 の 参 加 によって 代 替 する 説 125 などがある。外 国 離 婚 準 拠 法 上 の 証 拠 方 法 の 制 限 は, 少 なくともドイツ 判 決 の 外 国 での 承 認 を 確 保 し, 跛 行婚 を 避 けるのに 必 要 な 範 囲 で 認 められるという 126 。 他 方 , 外 国 離 婚 準 拠 法 上 自 白 が 認 められない 場合 には,ドイツにおける 裁 判 手 続 においても 認 められない 127 。119 Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 20. MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 35 は,そもそも 外国 法 上 の 手 続 がドイツ 法 上 のそれと 相 容 れないことを 理 由 に, 国 際 裁 判 管 轄 を 否 定 することはできないとする。120 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 38; Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 21.121 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 39.122 Hamburg FamRZ 2000, 1007. 同 様 に,クロアチア 法 上 の 調 停 について,Frankfurt a.M. FamRZ 2000, 293 参 照 。チュニジア 法 上 の 罪 滅 ぼし(Sühneversuch)を 試 みた 例 もある。Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 22 参 照 。123 BGH, 6.10.2004, BGHZ 160, 332, FamRZ 2004, 1952, IPRax 2005, 346.124 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 40.125 Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 21.126 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 41; Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 23.127 Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 23.2727


2. 婚 姻 事 件 における 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定(1) 一 方 配 偶 者 がドイツ 人 であること(a) 対 象 となる 者FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 によれば, 一 方 配 偶 者 がドイツ 人 である 場 合 又 は 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 人 であった 場 合 に,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 肯 定 される。この 規 定 にいう「ドイツ 人 」とは,ドイツ 国 籍 法 ,ドイツ 基 本 法 第 116 条 128 ,そして FamRÄndG 第 9 条 第 2 項 第 5 号 第 1 文 にいうドイツ人 を 指 し,ドイツ 国 籍 をもつ 者 だけではなく, 難 民 ,ドイツ 民 族 に 属 する 追 放 者 ,そして 最 近 の 外国 への 移 住 者 を 指 す。ナチス 時 代 に 政 治 的 ・ 人 種 的 ・ 宗 教 的 理 由 でドイツ 国 籍 を 剥 奪 され, 後 に 申立 てによってドイツ 国 籍 を 再 取 得 した 者 も(ドイツ 基 本 法 第 116 条 第 2 項 ),ドイツ 人 に 含 まれる。 一方 配 偶 者 がドイツ 国 籍 の 取 得 を 申 請 しており,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 がその 国 籍 取 得 の 有 無 によって左 右 される 場 合 には, 国 籍 取 得 が 認 められるまで 婚 姻 事 件 の 手 続 が 中 止 される 129 。ドイツ 人 配 偶 者が 重 国 籍 者 であっても,ドイツ 国 籍 の 実 効 性 を 問 題 とすることなく, 常 に 管 轄 が 認 められる 130 。ドイツ 国 内 法 , 国 際 法 ,あるいは EU 法 を 根 拠 として,ドイツ 国 籍 法 又 は 基 本 法 にいうドイツ人 との 平 等 取 扱 いが 保 障 されている 者 は, 同 じく FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 に 基 づく 国 際 裁 判 管轄 を 援 用 することができる 131 。 特 に EU 法 上 は,EU 市 民 の 平 等 取 扱 いが 定 められている。そこで,ブリュッセル IIbis 規 則 第 7 条 第 2 項 は, 被 告 が EU 構 成 国 内 (デンマークを 除 く)に 常 居 所 をもたず,当 該 構 成 国 の 国 民 でもない( 連 合 王 国 及 びアイルランドについては 当 該 構 成 国 内 に 住 所 をもたない) 場 合 ,EU 構 成 国 の 国 民 であって 他 の 構 成 国 に 常 居 所 をもつ 原 告 は,その 常 居 所 地 国 の 国 民 と 同 様 にその 国の 国 内 法 上 の 管 轄 ルールを 援 用 できると 定 めている。それゆえ,ドイツに 常 居 所 をもつ 他 の 構 成 国(フランス,イタリア,スペインなど)の 国 民 は,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 に 基 づくドイツ 裁 判 所の 管 轄 を 援 用 することができる 132 。(b) 基 準 時 点(aa) 一 方 配 偶 者 が 現 在 ドイツ 人 であることFamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 前 段 は, 一 方 配 偶 者 の 現 在 のドイツ 国 籍 を 基 準 としている。この管 轄 原 因 の 判 断 の 基 準 時 点 は, 口 頭 弁 論 終 結 時 である。したがって, 提 訴 時 は 両 配 偶 者 とも 外 国 籍であっても, 口 頭 弁 論 終 結 時 までに 少 なくとも 一 方 配 偶 者 がドイツに 帰 化 した 場 合 には, 国 際 裁 判128 Artikel 116 GG: [Begriff »Deutscher« – Wiedereinbürgerung]“(1) Deutscher im Sinne dieses Grundgesetzes ist vorbehaltlich anderweitiger gesetzlicher Regelung, wer die deutscheStaatsangehörigkeit besitzt oder als Flüchtling oder Vertriebener deutscher Volkszugehörigkeit oder als dessen Ehegatte oderAbkömmling in dem Gebiete des Deutschen Reiches nach dem Stande vom 31. Dezember 1937 Aufnahme gefunden hat.(2) Frühere deutsche Staatsangehörige, denen zwischen dem 30. Januar 1933 und dem 8. Mai 1945 die Staatsangehörigkeit auspolitischen, rassischen oder religiösen Gründen entzogen worden ist, und ihre Abkömmlinge sind auf Antrag wieder einzubürgern.Sie gelten als nicht ausgebürgert, sofern sie nach dem 8. Mai 1945 ihren Wohnsitz in Deutschland genommen haben und nichteinen entgegengesetzten Willen zum Ausdruck gebracht haben.”129 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 42; Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 54 et seq.;Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 80.130 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 43; Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 79, 81.131 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 44.132 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 48.2828


管 轄 が 肯 定 される。 他 方 , 一 方 配 偶 者 が 提 訴 時 又 は 口 頭 弁 論 終 結 時 までの 一 時 期 においてドイツ 人であり, 後 にドイツ 国 籍 を 喪 失 した 場 合 にも, 管 轄 は 継 続 する 133 。(bb) 一 方 配 偶 者 が 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 人 であったことFamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 後 段 によれば,ドイツ 裁 判 所 は, 一 方 配 偶 者 が 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 人 であった 場 合 にも 国 際 裁 判 管 轄 をもつ。これは, 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 人 であった 配 偶 者 は, 事後 的 に(しかも 訴 訟 係 属 前 に)ドイツ 国 籍 を 離 脱 しても,ドイツ 裁 判 所 において 婚 姻 事 件 の 手 続 を 追行 しうることを 意 味 する 134 。この 規 定 は,かつて 国 際 裁 判 管 轄 と 準 拠 法 の「 並 行 原 則 」がとられていた 時 代 に, 婚 姻 挙 行 時にドイツ 人 であった 者 の 婚 姻 の 有 効 性 ( 婚 姻 の 実 質 的 成 立 要 件 について, 当 時 の EGBGB 第 13 条 は, 現 行第 13 条 第 1 項 と 同 じく 各 当 事 者 の 本 国 法 によっていた)に 関 するドイツ 裁 判 所 の 管 轄 を 基 礎 付 けるために ZPO 第 606b 条 第 2 号 に 置 かれたものである。しかし, 現 在 では, 並 行 原 則 は 放 棄 されており,EGBGB 第 13 条 を 根 拠 として 管 轄 を 基 礎 付 けることはできない。また, 法 政 策 的 にみても,この 規定 は 申 立 人 のみならず 相 手 方 が 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 人 であった 場 合 にも 妥 当 するため, 過 剰 管 轄 のによって 相 手 方 の 保 護 を 奪 うおそれがある。しかし, 学 説 上 は,この 規 定 を 擁 護 する 立 場 が 一 般 的である。その 理 由 として,1 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 人 であった 配 偶 者 には,ドイツ 裁 判 所 に 婚 姻 事 件の 判 断 を 求 める 可 能 性 を 認 めるべきであること 135 ,2 一 時 的 な 移 住 を 含 めて 様 々な 移 住 の 形 態 があり, 離 婚 に 関 する 基 本 原 則 も 各 国 で 異 なるため, 婚 姻 挙 行 時 のドイツ 国 籍 を 管 轄 原 因 とする 合 理 性があること 136 ,などが 挙 げられている。なお, 難 民 についてこの 規 定 を 直 接 適 用 すると, 婚 姻 挙 行 時 にドイツに 常 居 所 をもっていた 難民 は,その 後 他 国 に 移 り 住 んでいても, 同 じくドイツ 裁 判 所 の 管 轄 を 援 用 できることになる。しかし,この 場 合 に 難 民 はドイツと 密 接 な 関 係 をもたないため, 目 的 論 的 な 限 定 解 釈 によって, 難 民 がドイツ 人 と 同 じ 法 的 地 位 を 享 受 するためには, 提 訴 時 にもドイツに 常 居 所 をもっていることを 要 件とすべきであると 解 されている 137 。(2) 夫 婦 双 方 がドイツに 常 居 所 をもつこと(a) 常 居 所 概 念FamFG 第 98 条 第 1 項 第 2 号 によれば, 夫 婦 双 方 がドイツに 常 居 所 をもつ 場 合 にも,ドイツ 裁判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。この 常 居 所 概 念 は, 国 際 民 事 手 続 法 上 の 概 念 として 法 廷 地 法 で133 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 53 et seq.134 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 55 et seq.135 Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 87.136 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 56. Rauscher は, 最 終 的 に 採 択 されなかった 2006 年 ローマIII/ブリュッセル IIter のための 欧 州 委 員 会 提 案 (Proposal for a Council Regulation amending Regulation (EC) No2201/2003 as regards jurisdiction and introducing rules concerning applicable law in matrimonial matters, 17.7.2006,COM(2006) 399 final)の 第 3a 条 が, 夫 婦 が 将 来 の 離 婚 訴 訟 のために 予 め 管 轄 合 意 をなしうると 定 めていたことを 援 用 し, 夫 婦 の 予 見 可 能 性 という 観 点 から FamFG 第 98 条 第 1 条 第 1 項 後 段 を 根 拠 付 けている。137 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 49.2929


あるドイツ 法 の 概 念 によって 決 定 される。その 際 には,FamFG 第 122 条 及 び ZPO 旧 第 606 条 が 参考 になるが, 他 方 で, 条 約 上 及 び EU 法 上 の 常 居 所 概 念 にも 配 慮 する 必 要 があるとされる。常 居 所 の 決 定 基 準 は,それが 人 の 生 活 の 中 心 であること(Lebensmittelpunkt)である。これは,人 の 家 族 関 係 上 及 び 職 業 上 の 結 び 付 きの 中 心 を 指 す。 基 準 となるのは 客 観 的 な 居 住 状 況 であり, 生活 の 中 心 を 移 す 等 の 主 観 的 な 意 思 は 基 準 とはされない 138 。 成 年 者 については, 常 居 所 の 変 更 は 通 常 ,予 定 された 長 期 の 居 住 地 の 変 更 を 意 味 するが,「 法 廷 地 漁 り」を 目 的 としてドイツに 常 居 所 が 移 される 場 合 の 扱 いは 別 途 問 題 となる。 具 体 的 な 判 断 に 当 たっては, 未 成 年 者 の 常 居 所 の 決 定 基 準 とされてきた 要 素 も 考 慮 される。 実 務 上 は, 基 本 的 に 6 ヶ 月 以 上 の 居 住 の 事 実 があれば, 常 居 所 が 認 められるとされている 139 。もっとも, 学 説 の 中 には,ドイツにおける 長 期 の 滞 在 が 予 定 されていなければ, 生 活 の 中 心 がドイツに 移 された 後 に 初 めて 常 居 所 が 発 生 するとすべきであり, 機 械 的 に 6 ヶ 月という 基 準 時 を 設 定 すべきではないとする 立 場 もある 140 。成 年 者 が 合 法 的 な 滞 在 資 格 に 基 づいてドイツに 居 住 している 場 合 には, 生 活 の 中 心 が 明 らかにドイツにあり, 国 際 裁 判 管 轄 を 基 礎 付 けるためだけにドイツに 滞 在 しているのでないかぎり, 常 居所 が 認 定 される。 難 民 については,ドイツ 人 と 同 一 の 法 的 地 位 を 享 受 し,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1号 によってドイツの 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるため, 常 居 所 について 論 ずる 実 益 がない。 難 民 条 約上 の 難 民 の 地 位 をもたない 難 民 申 請 者 については, 個 別 事 案 ごとにドイツ 滞 在 の 安 定 性 及 び 継 続 性を 勘 案 して 常 居 所 を 認 定 する。その 者 が 短 期 滞 在 資 格 しかもたない 場 合 にも, 生 活 の 中 心 がドイツに 移 されており, 外 人 法 上 の 滞 在 資 格 の 延 長 が 認 められる 可 能 性 があるかぎり,ドイツに 常 居 所 が認 められうる。また,ドイツが 人 道 的 理 由 から 強 制 送 還 を 中 止 しているだけの 場 合 にも, 管 轄 原 因としての 常 居 所 を 認 定 する 余 地 がある 141 。労 働 を 目 的 として 長 期 的 に 滞 在 する 労 働 移 民 (Gastarbeiter)については,ドイツに 永 住 する 予定 ではなく, 家 族 が 本 国 にとどまっている 場 合 であっても,ドイツでの 就 業 が 一 時 的 なものでないかぎり, 常 居 所 が 認 められる。それに 対 して, 一 時 的 にだけドイツで 就 労 する 季 節 労 働 者 (Saisonarbeiter),また国 境 を 越 えてドイツに 通 勤 している 労 働 者 (Grenzpendler)については, 常 居 所 は 認 められない 142 。(b) 管 轄 原 因 としての 夫 婦 双 方 の 常 居 所FamFG 第 98 条 第 1 項 第 2 号 の 管 轄 原 因 については, 夫 婦 双 方 がドイツ 国 内 に 常 居 所 をもっていることが 要 件 となる。ただし, 夫 婦 の 同 居 , 特 に 婚 姻 住 居 における 同 居 は 必 要 ない 143 。138 Burkhard Hess, Europäisches Zivilprozessrecht, Heidelberg et al. 2010, p. 398.139 Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 91.140 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 59.141 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 60; Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 92.142 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 61.143 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 62.3030


(c) 基 準 時 点FamFG 第 98 条 第 1 項 第 2 号 の 管 轄 を 基 礎 付 けるためには, 夫 婦 双 方 は, 遅 くとも 口 頭 弁 論 終結 時 にはドイツに 常 居 所 をもっていなければならない。ドイツにおける 常 居 所 を 基 礎 付 ける 事 実 関係 は,それが 証 明 を 必 要 としないかぎり, 法 律 審 において 主 張 することもできる 144 。他 方 で, 夫 婦 双 方 が 訴 訟 係 属 時 にドイツに 常 居 所 を 取 得 した 場 合 には,その 後 に 一 方 又 は 双 方がドイツの 常 居 所 を 失 ったとしても, 管 轄 は 継 続 すると 解 するのが 多 数 説 である 145 。ただし, 少 数説 として,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 と 平 仄 を 合 わせ,この 場 合 にドイツ 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるには, 夫 婦 双 方 又 は 一 方 の 本 国 においてドイツが 下 す 判 決 が 承 認 されうることを 要 件 とし, 承 認 可能 性 がない 場 合 には,ドイツの 管 轄 を 否 定 すべきであるとする 見 解 もある 146 。(d) ブリュッセル IIbis 規 則 による 適 用 除 外現 在 では,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 2 項 は,ブリュッセル IIbis 規 則 によって 完 全 に 適 用 除 外 されている。 夫 婦 双 方 がドイツに 常 居 所 をもつ 場 合 には,すでにブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項a 号 第 1 款 によってドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められ, 同 規 則 7 条 1 項 に 定 める 国 内 管 轄 ルールが 援用 される 場 合 に 当 たらないからである。 訴 訟 係 属 後 に 夫 婦 双 方 又 は 一 方 の 常 居 所 が 変 更 されても,結 論 は 変 わらない 147 。(3) 無 国 籍 者 である 配 偶 者 がドイツに 常 居 所 をもつこと(a) 総 説FamFG 第 98 条 第 1 項 第 3 号 によれば, 一 方 配 偶 者 が 無 国 籍 者 でドイツに 常 居 所 をもつ 場 合 には, 当 然 に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。この 原 則 は,ドイツ 国 際 私 法 上 , 無 国 籍 者 については 本 国法 に 代 えて 常 居 所 地 法 によっていること(EGBGB 第 5 条 第 2 項 )と 平 仄 が 合 うほか, 難 民 条 約 上 の 義務 にも 沿 うものである 148 ( 常 居 所 概 念 については, 上 述 (2) 参 照 )。(b) 国 籍 が 不 明 である 者ドイツに 常 居 所 をもつ 一 方 配 偶 者 が 外 国 籍 をもっているか 否 かが 不 明 である 場 合 には, 無 国 籍者 であると 推 定 される。FamFG 第 98 条 第 1 項 第 3 号 及 び 第 4 号 は, 一 方 配 偶 者 だけがドイツに 常居 所 をもつ 場 合 にも, 夫 婦 双 方 の 本 国 との 間 で 跛 行 婚 が 生 ずるおそれがないかぎり,ドイツ 裁 判 所の 管 轄 を 肯 定 する 趣 旨 であると 解 される。そして, 無 国 籍 者 には 本 国 がないため, 本 国 におけるドイツ 判 決 の 承 認 可 能 性 は 問 題 とならない。そこで, 同 第 3 号 によって, 無 国 籍 者 及 び 国 籍 が 不 明 である 者 については, 端 的 にドイツにおける 常 居 所 を 管 轄 原 因 とすることに 合 理 性 があるという 149 。144 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 65.145 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 65.146 Staudinger/Spellenberg, 2004, § 606a ZPO Rn. 30, 300 et seq. 参 照 。147 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 67.148 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 68.149 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 69.3131


(c) 基 準 時 点常 居 所 の 基 準 時 は, 口 頭 弁 論 終 結 時 であるが, 提 訴 時 又 は 口 頭 弁 論 終 結 前 に 一 旦 ドイツに 常 居所 が 取 得 されていた 場 合 にも,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 3 号 によって 管 轄 が 肯 定 される。 反 対 に,過 去 にドイツに 常 居 所 をもっていた 無 国 籍 者 が 訴 訟 係 属 前 に 外 国 に 常 居 所 を 移 した 場 合 には, 同 号の 要 件 は 満 たされない 150 。(d) ブリュッセル IIbis 規 則 との 関 係ブリュッセルIIbis 規 則 第 3 条 は, 無 国 籍 者 に 関 する 特 別 の 管 轄 原 因 を 定 めていないため,FamFG第 98 条 第 1 項 第 3 号 が 一 定 範 囲 で 適 用 されうる。すなわち, 夫 婦 の 同 一 常 居 所 がない 場 合 (ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 第 1 款 ),あるいは 無 国 籍 者 である 申 立 人 がドイツに 常 居 所 をもつが, 必要 な 一 年 の 居 住 期 間 を 経 ていない 場 合 ( 同 第 5 款 )には,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 3 号 によって 国 際裁 判 管 轄 が 認 められる。(4) 一 方 配 偶 者 がドイツに 常 居 所 をもつこと 及 びドイツ 判 決 の 本 国 での 承 認 可 能 性(a) 総 説FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 は, 基 本 的 に, 一 方 配 偶 者 がドイツ 国 内 に 常 居 所 をもっていれば,婚 姻 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めうることを 出 発 点 とする。ドイツ 判 決 の 夫 婦 一 方 の 本 国 における 承 認 可 能 性 を 要 件 としているのは, 明 らかに 跛 行 的 な 離 婚 判 決 を 避 けるために 過 ぎない 151 。それゆえ,ドイツ 判 決 の 外 国 における 承 認 可 能 性 が 推 定 され, 証 明 責 任 が 転 換 されている 152 。(b) FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 の 適 用 要 件FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 に 基 づく 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるためには,1 夫 婦 いずれも 現在 又 は 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 人 ではないこと( 同 第 1 号 の 本 国 管 轄 が 認 められないこと),2ドイツに 常 居所 をもつ 申 立 人 配 偶 者 が 外 国 籍 であり,1 年 以 上 ドイツに 居 住 していないこと( 同 第 3 号 の 無 国 籍 者ではなく,ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 第 5 款 にも 当 たらないこと),3 相 手 方 配 偶 者 は 外 国 に常 居 所 をもつこと( 同 第 2 号 の 管 轄 原 因 又 はブリュッセル IIbis 規 則 第 3 項 第 1 項 a 号 第 1~ 第 3 款 に 当 たらないこと),そして4 他 の 構 成 国 がブリュッセル IIbis 規 則 第 3~ 第 5 条 によって 管 轄 をもたないこと150 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 71. Rauscher によれば, 無 国 籍 者 が 婚 姻 挙 行 時 にドイツに常 居 所 をもっていた 場 合 であっても, 無 国 籍 者 とドイツ 人 の 平 等 取 扱 いを 根 拠 として 第 1 号 に 基 づく 国 際 裁 判管 轄 を 基 礎 付 けることはできない。ドイツ 人 との 平 等 取 扱 いは,その 者 が 訴 訟 係 属 時 においてもドイツに 常 居所 をもっていることが 要 件 となるからであるという。151 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 73; Staudinger/Spellenberg, § 606a ZPO, Rn. 130.152連 邦 議 会 においては, 一 方 配 偶 者 の 本 国 での 承 認 可 能 性 の 要 件 を 完 全 に 外 すことも 案 として 出 されていた。しかし, 最 終 的 には, 外 国 人 夫 婦 が 離 婚 を 求 めてドイツ 裁 判 所 に 押 し 寄 せることが 懸 念 されたため, 同 要 件 を残 すこととされたという。Schack, op.cit., Rn. 428.3232


( 同 規 則 第 7 条 第 1 項 )を 要 件 とする 153 。ドイツにおける 常 居 所 は, 訴 訟 係 属 時 又 は 口 頭 弁 論 終 結 時までに 存 しなければならない 154 ( 常 居 所 概 念 については, 上 述 (2) 参 照 )。(c) ドイツ 判 決 の 夫 婦 いずれか 一 方 の 本 国 における 承 認 可 能 性(aa) 総 説FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 によれば, 一 方 配 偶 者 がドイツに 常 居 所 をもっていても,ドイツ判 決 が 夫 婦 いずれの 本 国 においても 承 認 されえないことが 明 らかである 場 合 には, 国 際 裁 判 管 轄 が否 定 される。 換 言 すれば,ドイツ 判 決 が 夫 婦 の 一 方 の 本 国 において 承 認 される 可 能 性 があるかぎり,国 際 裁 判 管 轄 は 肯 定 される 155 。夫 婦 の 一 方 が 重 国 籍 者 である 場 合 には,1その 実 効 国 籍 のある 本 国 ,すなわち 当 事 者 が 常 居 所その 他 の 要 素 によって 密 接 な 関 係 をもつ 本 国 における 承 認 可 能 性 だけを 基 準 とする 多 数 説 (EGBGB第 5 条 第 1 項 第 1 文 参 照 )と 156 ,2 重 国 籍 のいずれか 一 つの 本 国 において 承 認 可 能 性 が 肯 定 されれば足 りるとする 少 数 説 157 がある。2は, 仮 に 当 事 者 が 実 効 国 籍 をもつ 本 国 がドイツ 判 決 を 承 認 しない場 合 であっても, 他 の 本 国 がそれを 承 認 していれば 補 いうることを 理 由 とする。しかし,FamFG 第98 条 第 1 項 第 4 号 は, 当 事 者 が 国 籍 をもつ 何 れかの 国 での 承 認 可 能 性 をもって 足 りるとするのではなく, 当 事 者 の 法 的 地 位 について 重 要 な 意 味 をもつ 国 との 間 で 跛 行 婚 を 避 けることを 目 的 としている。それゆえ,1のように, 当 事 者 が 実 効 国 籍 をもつ 本 国 (ドイツ 国 際 私 法 においても,EGBGB 第 5条 第 1 項 第 1 文 によって,その 国 の 法 が 本 国 法 となる)における 承 認 可 能 性 を 基 準 とすべきであろう 158 。(bb) 承 認 要 件(i) 承 認 適 格 性承 認 可 能 性 の 審 査 は, 婚 姻 事 件 における 具 体 的 な 判 決 内 容 を 対 象 とし( 判 決 理 由 が 承 認 されるか否 かは 考 慮 されない),ドイツ 判 決 がその 内 容 どおりに 承 認 されるか 否 かを 基 準 とする。たとえば, 当該 国 において,ドイツ 離 婚 判 決 に 法 定 別 居 の 効 力 しか 付 与 されない 場 合 には, 承 認 に 当 たらない 159 。反 対 に,ドイツ 離 婚 判 決 のうち 離 婚 だけが 承 認 され, 離 婚 の 効 果 に 関 する 部 分 は 承 認 を 拒 否 されても, 承 認 要 件 は 充 足 される。また,ドイツ 判 決 が 当 該 国 において 効 力 をもつために, 身 分 登 録 簿 に創 設 的 届 出 が 行 われなければならない 場 合 にも, 承 認 は 肯 定 される。 当 該 国 において 形 式 的 な 承 認153 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 74, 93.154 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 75.155 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 77 et seq.156 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 79. その 理 由 として, 跛 行 婚 を 避 けるという 本 規 定 の 目的 に 照 らせば, 一 方 配 偶 者 が 実 効 国 籍 をもつ 本 国 における 承 認 可 能 性 を 審 査 することが 重 要 であり,かつそれで 足 りること, 重 国 籍 者 のすべての 本 国 における 承 認 可 能 性 を 審 査 するのは 煩 雑 であることが 挙 げられている。157 Zöller/Geimer, § 98 FamFG, Rn. 108.158 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 150 et seq.159 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 164 et seq.3333


手 続 (FamFG 第 107 条 参 照 ) 又 は 裁 判 所 による 承 認 手 続 ( 従 前 のイタリアにおける 有 効 宣 言 判 決 など)が予 定 されていても, 本 案 について 独 立 の 新 しい 判 決 が 下 されるのでないかぎり, 承 認 は 肯 定 される 160 。当 該 国 において 実 質 的 再 審 査 (révision au fond)が 行 われる 場 合 には, 学 説 の 立 場 が 分 かれている。 一 方 では,1 実 質 的 再 審 査 が 行 われることをもって 端 的 にドイツ 判 決 の 承 認 が 否 定 されるとする 立 場 があるが 161 , 他 方 では,2 承 認 要 件 の 審 査 のために 実 質 的 再 審 査 が 行 われるに 過 ぎない 場 合と, 純 粋 に 新 しい 判 決 が 下 される 場 合 とを 区 別 し, 前 者 については 承 認 が 肯 定 されるとする 立 場 162 もある。FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 が 跛 行 婚 の 回 避 を 目 的 としていることに 鑑 みれば, 実 質 的 に 承認 可 能 性 が 確 保 されれば 足 りるといえ,2のように 広 く 解 釈 すべきであろう。(ii) 承 認 要 件 の 排 除一 方 配 偶 者 の 本 国 において, 当 該 婚 姻 が 存 在 しない 場 合 ( 婚 姻 が 無 効 である 場 合 など)には, 承認 可 能 性 を 問 題 としなくてよい。ドイツとの 間 で 跛 行 婚 が 発 生 するおそれがないからである。また,一 方 配 偶 者 の 本 国 において, 当 該 婚 姻 が 離 婚 又 は 取 消 しによって 解 消 されている 場 合 ( 当 該 国 においてドイツでは 承 認 されない 離 婚 判 決 が 下 されている 場 合 , 宗 教 裁 判 所 又 は 法 律 行 為 によって 離 婚 が 成 立 している 場 合 など)も 同 様 である 163 。それに 対 して, 離 婚 準 拠 法 であるドイツ 法 又 は 外 国 法 がドイツ 離 婚 を 承 認 していても,FamFG第 98 条 第 1 項 第 4 号 の 要 件 は 不 要 とはならない。このような 解 釈 は, 同 規 定 の 文 言 に 反 するうえ,離 婚 準 拠 法 の 内 容 は, 管 轄 の 有 無 には 影 響 しないからである 164 。ドイツの 本 案 手 続 において 離 婚 請 求 が 棄 却 されるべき 場 合 に, 夫 婦 の 本 国 におけるドイツ 判 決の 承 認 可 能 性 の 要 件 を 排 除 できるか 否 かについては,1 肯 定 説 165 と2 否 定 説 166 がある。1 肯 定 説 の根 拠 として, 請 求 棄 却 の 判 決 が 下 されれば, 跛 行 婚 が 発 生 するおそれがないこと, 請 求 棄 却 判 決 の外 国 における 承 認 可 能 性 を 審 査 する 実 益 がないこと(FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 の 目 的 論 的 な 限 定 解 釈 )が 挙 げられる。かつては,1が 有 力 であったが, 近 時 は,2の 否 定 説 が 一 般 的 となっている。2の根 拠 として, 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 決 定 する 時 点 では,まだ 本 案 について 判 断 されていないこと,そして 国 際 裁 判 管 轄 の 前 提 となるドイツ 判 決 の 承 認 可 能 性 は, 本 案 に 関 する 証 拠 収 集 を 行 う 前 に 判断 すべきことが 挙 げられている。 国 際 裁 判 管 轄 が 訴 訟 要 件 の 一 つである 以 上 は, 本 案 手 続 に 入 る 前にその 有 無 を 判 断 すべきであり, 事 後 的 に 本 案 について 請 求 が 棄 却 される 段 階 で 初 めて 管 轄 を 肯 定160 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 80; Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 155.161 Cfr. Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 105.162 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 158; MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 81 は, 反公 序 性 の 審 査 については,いずれにしても 実 質 的 再 審 査 を 行 わなければならないことを 指 摘 している。163 Baumbach/Lauterbach, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 10; MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 86; Schack,op.cit., Rn. 429.164 Schack, op.cit., Rn. 429. 反 対 説 として,Zöller/Geimer, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 118.165 Zöller/Geimer, § 98 FamFG, Rn. 106.166 MünchKomm-ZPO/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 82; Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 171.3434


の 承 認 可 能 性 を 認 めるのであればよいが, 一 部 の 国 は 明 らかに 否 定 している 場 合 には, 跛 行 婚 を 避けるという 制 度 趣 旨 に 照 らして, 国 際 裁 判 管 轄 を 否 定 すべきであると 解 されている 171 。2の 外 国 法 上 の 承 認 法 制 に 関 しては, 通 常 の 外 国 法 の 調 査 と 同 じく, 職 権 探 知 主 義 が 妥 当 する172 。 国 際 裁 判 管 轄 は, 職 分 管 轄 及 び 土 地 管 轄 とは 異 なって, 控 訴 審 及 び 上 告 審 においても 審 査 されうる( 上 述 II-(3) 参 照 )。それゆえ,ドイツ 判 決 の 外 国 における 承 認 可 能 性 に 関 しても, 上 告 が 認 められると 解 されている 173 。3の 具 体 的 事 案 におけるドイツ 判 決 の 外 国 における 承 認 可 能 性 については, 職 権 調 査 主 義 が 妥当 する。 当 該 外 国 法 上 承 認 要 件 の 前 提 となる 事 実 ( 当 事 者 がドイツに 常 居 所 又 は 住 所 をもつことなど)については,いずれの 当 事 者 が 当 該 事 実 を 主 張 したかにかかわりなく, 裁 判 官 が 独 立 に 承 認 可 能 性を 審 査 する。ただし, 通 常 の 国 際 裁 判 管 轄 の 場 合 には, 申 立 人 が 客 観 的 証 明 責 任 を 負 うのに 対 して,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 項 の 場 合 には,ドイツ 判 決 の 承 認 可 能 性 の 推 定 によって 証 明 責 任 が 転 換され, 相 手 方 が 客 観 的 証 明 責 任 を 負 う( 上 述 II-(3) 参 照 ) 174 。ドイツ 裁 判 官 は,2 及 び3について 審 査 するに 当 たって,(a) 客 観 的 な 調 査 手 段 を 尽 くす 必 要 がある( 承 認 可 能 性 について 疑 義 がある 場 合 には, 専 門 家 の 鑑 定 意 見 を 求 める)とする 見 解 175 と,(b) 当 該 外国 が 常 にドイツ 判 決 の 承 認 を 拒 否 することが 明 らかである 場 合 ( 当 該 国 が 離 婚 を 禁 止 しており,ドイツ離 婚 判 決 が 常 に 公 序 に 反 するとして 承 認 を 拒 否 する 場 合 など)に 当 たらないかぎり, 承 認 可 能 性 を 肯 定 してよい( 専 門 家 の 鑑 定 意 見 を 求 める 必 要 はない)とする 見 解 176 がある。(b) 説 は,FamFG 第 98 条 第 1 項第 4 号 がドイツ 判 決 の 承 認 可 能 性 を 推 定 していることに 鑑 みて, 裁 判 官 が 利 用 できる 資 料 を 用 いれば 足 りるとする。しかし,(a) 説 からは, 図 書 館 等 が 整 備 されていない 裁 判 所 においては 調 査 をしなくてもよいことになり, 法 治 国 家 における 裁 判 を 受 ける 権 利 の 保 障 という 観 点 からは 問 題 があると指 摘 されている。 現 在 の 学 説 においては, 外 国 法 上 の 承 認 法 制 に 関 しては, 外 国 法 の 調 査 の 場 合 と同 じく 職 権 探 知 主 義 が 妥 当 し, 職 権 証 拠 調 べが 行 われること,また 裁 判 所 は 当 事 者 に 対 して 外 国 法に 関 する 情 報 提 供 , 特 に 専 門 家 の 鑑 定 意 見 を 求 めることができ, 当 事 者 が 提 出 した 証 拠 は 必 ず 審 査すること(ZPO 第 293 条 参 照 )を 出 発 点 とする(a) 説 の 方 が,より 広 い 支 持 を 得 ているようである 177 。171 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 47 et seq.172 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 179.173 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 180 et seq. 外 国 法 の 適 用 違 背 に 基 づく 上 告 可 能 性 は, 一 般 に 否 定されてきたが,その 場 合 にも, 控 訴 審 が 外 国 法 を 全 く 考 慮 しなかった 場 合 ,あるいは 外 国 法 が 事 後 的 に 変 更 された 場 合 には 上 告 理 由 になるとされていた。つまり, 連 邦 通 常 裁 判 所 〔BGH〕は, 控 訴 審 が 外 国 法 を 調 査 する義 務 を 果 たしたか 否 かを 審 査 することとされていた。それに 対 して,ZPO 第 545 条 第 1 項 改 正 後 は, 端 的 に 権利 侵 害 を 理 由 として 上 告 できることになったため, 外 国 法 の 適 用 違 背 に 基 づく 権 利 侵 害 を 理 由 として 上 告 を 認める 見 解 が 有 力 になっているという(FamFG 第 72 条 第 3 項 及 び ZPO 第 560 条 も 参 照 )。Clemens Trautmann,Europäisches Kollisionsrecht und ausländisches Recht im nationalen Zivilverfahren, Tübingen 2011, S. 29 et seq.174 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 46, 183 et seq.175 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 84 et seq.176 Baumbach/Lauterbach/Albers/Hartmann, ZPO, 69. Aufl. (München 2011), § 98 FamFG, Rn. 9; Zöller/Geimer, § 98 FamFG,Rn. 104.177 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 194 et seq.3636


(5) 国 際 裁 判 管 轄 ルールに 関 する 一 般 原 則(a) 限 定 列 挙 及 び 専 属 管 轄 の 否 定FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1~ 第 4 号 に 掲 げる 管 轄 原 因 は, 限 定 列 挙 であり,それ 以 外 の 管 轄 原因 は 認 められない。たとえば, 過 去 の 常 居 所 , 住 所 ,あるいは 婚 姻 挙 行 地 は 管 轄 原 因 とはならない。ドイツ 法 が 婚 姻 の 実 質 的 成 立 要 件 の 準 拠 法 又 は 離 婚 準 拠 法 となることは, 管 轄 を 基 礎 付 けない。また, 合 意 管 轄 も 認 められない 178 。他 方 , 婚 姻 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 は,FamFG 第 98 条 第 1 項 に 定 めるいずれの 場 合 も 専 属管 轄 ではなく, 外 国 裁 判 所 の 管 轄 と 競 合 しうることが 前 提 とされている(FamFG 第 106 条 ) 179 。(b) 緊 急 管 轄ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 以 下 の 規 定 及 び FamFG 第 98 条 第 1 項 の 規 定 によってドイツ 裁 判所 の 管 轄 が 認 められない 場 合 であっても, 代 わりに 手 続 を 行 いうる 外 国 裁 判 所 が 存 在 しない 場 合 には, 緊 急 管 轄 が 認 められる。すなわち, 適 切 な 外 国 法 廷 地 が 存 在 せず, 当 該 事 案 がドイツ 裁 判 所 による 判 断 を 受 けるのに 十 分 なほどドイツとの 牽 連 性 をもつ 場 合 には, 法 治 国 家 の 原 則 に 照 らして,申 立 人 による 離 婚 請 求 権 の 実 現 を 助 けるために 緊 急 管 轄 を 認 めなければならないとされる 180 。具 体 的 には,たとえば,1 一 方 配 偶 者 がドイツに 常 居 所 をもつが, 夫 婦 双 方 の 本 国 においてドイツ 判 決 の 承 認 可 能 性 が 認 められないため, 本 来 であればドイツの 管 轄 が 否 定 されるところ(FamFG第 98 条 第 1 項 第 4 号 ), 夫 婦 いずれの 本 国 も 離 婚 について 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めない 場 合 ,2 夫 婦 の 一方 又 は 双 方 がドイツに 滞 在 しているが, 外 人 法 上 の 問 題 によってドイツに 常 居 所 を 取 得 できない 場合 ( 人 道 的 理 由 だけから 本 国 に 強 制 送 還 されていない 場 合 など),3 夫 婦 双 方 が 無 国 籍 者 で 決 まった 常 居所 をもっていないため, 離 婚 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 める 国 がなく,ドイツに 居 所 だけもっている 場 合などがそれに 当 たる。また,4ドイツ 法 上 , 外 国 離 婚 判 決 が 承 認 されないが(FamFG 第 107 条 及 び 第109 条 参 照 ), 十 分 な 内 国 牽 連 性 があり, 改 めて 離 婚 判 決 を 下 す 必 要 がある 場 合 もそれに 当 たる 181 。3. 婚 姻 事 件 における 附 帯 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄(1) 総 説(a) 管 轄 の 拡 張ドイツ 裁 判 所 が 離 婚 事 件 について 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 場 合 には,FamFG 第 98 条 第 2 項 によって 附 帯 処 分 にも 管 轄 が 拡 張 される。FamFG 第 98 条 第 2 項 は,あくまで 婚 姻 事 件 に 付 随 する 管 轄 を178 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 94.179 この 点 は, 従 前 の ZPO 第 606a 条 第 1 項 第 2 文 においても 定 められていたとおりである。180 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 95.181 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 95. 4の 例 は,わが 国 の 最 判 平 成 8 年 6 月 24 日 民 集 50 巻 7 号 1451頁 の 事 案 (ドイツで 下 された 離 婚 判 決 が 日 本 における 承 認 要 件 を 欠 いていたため, 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定された 事 案 )に 相 当 する。3737


基 礎 付 けるに 過 ぎず, 離 婚 の 効 果 に 関 する 事 項 が 独 立 の 手 続 で 争 われる 場 合 の 管 轄 は, 各 事 項 の 管轄 ルール(FamFG 第 99 条 , 第 102 条 , 第 105 条 )による 182 。(b) 附 帯 処 分 の 内 容FamFG 第 98 条 第 2 項 にいう 離 婚 事 件 の 附 帯 処 分 とは,FamFG 第 137 条 が 定 めるところにより,1 年 金 分 割 事 件 (FamFG 第 137 条 第 2 項 第 1 号 ),2 扶 養 事 件 ( 夫 婦 の 子 に 対 する 扶 養 及 び 配 偶 者 に 対 する扶 養 )( 同 第 2 号 ),3 婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件 ( 同 第 3 項 ),4 夫 婦 財 産 事 件 ( 同 第 4 号 ),そして5 未 成年 者 の 親 権 に 関 する 事 件 ( 親 権 の 移 転 又 は 取 り 上 げ, 面 会 交 流 権 , 夫 婦 の 子 の 引 渡 し)(FamFG 第 137 条 第3 項 )を 指 す。 附 帯 処 分 に 関 する 管 轄 の 基 準 時 は, 離 婚 事 件 に 関 する 訴 訟 が 係 属 した 時 点 である 183 。附 帯 処 分 に 関 する 手 続 が 分 離 された 場 合 にも,FamFG 第 98 条 第 2 項 に 基 づく 管 轄 が 失 われるわけではなく, 附 帯 処 分 は 離 婚 事 件 に 付 随 する(FamFG 第 137 条 第 5 項 参 照 )。また, 附 帯 処 分 に 関 する 判 断 の 前 に 離 婚 判 決 が 下 され, 確 定 した 場 合 にも,FamFG 第 98 条 第 2 項 の 管 轄 は 存 続 する 184 。(c) FamFG 第 99 条 , 第 102 条 , 第 105 条 との 関 係FamFG 第 98 条 第 2 項 は, 付 帯 処 分 に 関 するかぎり,FamFG 第 99 条 , 第 102 条 及 び 第 105 条に 定 める 管 轄 ルールの 適 用 を 除 外 する。そして, 離 婚 事 件 の 管 轄 裁 判 所 の 管 轄 を 附 帯 処 分 にも 拡 張することで, 同 時 に 土 地 管 轄 も 決 定 している 185 。(d) ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 との 関 係FamFG 第 98 条 第 2 項 は,ブリュッセル IIbis 規 則 第 3~ 第 5 条 によってドイツ 裁 判 所 が 離 婚 事件 の 管 轄 をもつ 場 合 にも 適 用 される。ブリュッセル IIbis 規 則 は, 第 12 条 第 1 項 186 において 当 事 者の 合 意 及 び 子 の 福 祉 にかなうことを 要 件 として, 婚 姻 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 を 親 責 任 事 件 に 拡 張 する以 外 は, 附 帯 処 分 に 関 する 管 轄 を 定 めていない。これは,ブリュッセル IIbis 規 則 が 附 帯 処 分 の 管 轄の 決 定 を 国 内 法 , 条 約 又 は 他 の EU 規 則 にゆだねる 趣 旨 であり,FamFG 第 98 条 第 2 項 の 適 用 は, 同規 則 によって 排 除 されないことを 意 味 する。ただし, 各 々の 附 帯 処 分 に 関 する EU 法 及 び 条 約 法 上の 管 轄 ルールは, 国 内 法 上 の 管 轄 ルールに 優 先 するため, 注 意 が 必 要 である 187 。182 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 97, 110 et seq.183 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 98.184 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 99.185 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 100.186 Article 12 Brussels IIbis Regulation [Prorogation of jurisdiction]“1. The courts of a Member State exercising jurisdiction by virtue of Article 3 on an application for divorce, legal separation ormarriage annulment shall have jurisdiction in any matter relating to parental responsibility connected with that application where:(a) at least one of the spouses has parental responsibility in relation to the child; and(b) the jurisdiction of the courts has been accepted expressly or otherwise in an unequivocal manner by the spouses and by theholders of parental responsibility, at the time the court is seised, and is in the superior interests of the child.” ブリュッセル IIbis規 則 第 12 条 第 1 項 に 基 づく 管 轄 は 排 他 的 ではなく, 同 条 第 3 項 は 未 成 年 者 が 実 質 的 な 関 連 をもち, 当 事 者 全 員が 受 け 入 れた 国 の 付 随 的 な 管 轄 も 認 めるほか, 同 規 則 第 8 条 によって 端 的 に 子 の 常 居 所 地 の 管 轄 も 認 められる。187 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 101; Zöller/Geimer, § 98 FamFG, Rn. 25.3838


(2) 条 約 及 び EU 規 則 との 関 係(a) 総 説附 帯 処 分 の 対 象 となる 事 項 について EU 法 又 は 条 約 上 , 国 際 裁 判 管 轄 を 定 めるルールが 存 在 する 場 合 には,それらのルールが 国 内 法 上 の 管 轄 ルールの 援 用 を 認 める 範 囲 でのみ,FamFG 第 98 条第 2 項 が 適 用 される(FamFG 第 97 条 第 1 項 参 照 ) 188 。(b) 親 子 事 件親 子 事 件 ( 親 責 任 事 件 )については,ブリュッセル IIbis 規 則 の 事 項 的 ・ 場 所 的 ・ 人 的 適 用 範 囲内 の 事 件 に 関 するかぎり, 同 規 則 第 8 条 以 下 が FamFG 第 98 条 第 2 項 に 優 先 して 適 用 される。 子 がEU 構 成 国 内 (デンマークを 除 く)に 常 居 所 をもつ 場 合 には,ブリュッセル IIbis 規 則 第 12 条 によって婚 姻 事 件 に 附 帯 した 管 轄 が 認 められ,FamFG 第 98 条 第 2 項 は 適 用 されない。 子 がドイツに 常 居 所をもつ 場 合 には, 端 的 にブリュッセル IIbis 規 則 第 8 条 に 基 づいて 親 子 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 されるが, 土 地 管 轄 については,FamFG 第 137 条 第 3 項 及 び 第 152 条 に 基 づいて 婚 姻 事 件 に 附 帯 した管 轄 が 認 められる。親 子 事 件 については,ブリュッセル IIbis 規 則 第 8 条 以 下 が 適 用 されない 場 合 にも,1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 第 5 条 以 下 ( 又 は 1961 年 ハーグ 未 成 年 者 保 護 条 約 第 1 条 以 下 )の 規 定 が 優 先 的 に 適 用され,FamFG 第 98 条 第 2 項 はそれ 以 外 の 場 合 にのみ 適 用 される。それゆえ, 子 が 1996 年 条 約 ( 又は 1961 年 条 約 )の 締 約 国 に 常 居 所 をもつかぎり,FamFG 第 98 条 第 2 項 は 適 用 されない。1961 年 条約 第 15 条 は, 締 約 国 が 婚 姻 事 件 に 関 する 附 帯 処 分 として, 子 に 対 する 親 権 ・ 監 護 権 の 判 断 にも 管 轄を 拡 張 することを 認 めていたが 189 ,ドイツは 他 の 締 約 国 と 同 じくその 権 限 を 援 用 しなかったため,1961 年 条 約 の 下 では, 第 1 条 , 第 4 条 , 第 9 条 の 管 轄 ルールが 妥 当 していた。それに 対 して,1996年 条 約 第 10 条 は, 当 事 者 の 合 意 及 び 子 の 福 祉 にかなうことを 要 件 として, 婚 姻 事 件 に 附 帯 した 管 轄を 認 めているため,ドイツ 裁 判 所 は, 婚 姻 事 件 について 管 轄 をもつ 場 合 には, 同 規 定 に 基 づいて 親権 ・ 監 護 権 についても 判 断 しうる 190 。188 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 102.189 1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約 第 15 条 は 次 のように 規 定 している。「[1] 各 締 約 国 は, 未 成 年 者 の 父 母 の 間 の 婚 姻 関 係 の 無 効 , 解 消 又 は 緩 和 の 申 立 について 決 定 することを 求 められたその 国 の 官 憲 が,その 未 成 年 者 の 身 上 又 は 財 産 上 の 保 護 措 置 をとる 権 限 を, 留 保 することができる。[2] 他 の 締 約 国 は, 右 の 措 置 を 承 認 する 義 務 を 負 わない。」190 1996 年 子 の 保 護 条 約 第 10 条 は 次 のように 規 定 している。「[1] 第 5 条 から 第 9 条 の 適 用 を 妨 げることなく, 他 の 締 約 国 に 常 居 所 のある 子 の 両 親 の 離 婚 若 しくは 別 居 又は 婚 姻 の 無 効 の 申 立 の 決 定 について 管 轄 権 を 行 使 する 締 約 国 の 機 関 は,その 国 の 法 律 の 規 定 により 認 められている 場 合 には, 以 下 の 場 合 に, 子 の 身 上 又 は 財 産 保 護 のための 措 置 を 執 ることができる。a 手 続 の 開 始 時 において 両 親 の 一 方 又 は 双 方 がその 国 に 常 居 所 を 有 し, 両 親 の 一 方 が 子 に 対 する 関 係 で 親 責 任を 有 し;かつ,b 当 該 機 関 の 保 護 措 置 を 執 る 管 轄 権 を 両 親 及 び 子 に 対 する 関 係 で 親 責 任 を 有 する 他 の 者 が 受 け 入 れ,それが 子の 最 善 の 利 益 に 適 う 場 合[2] 第 1 項 による 子 の 保 護 措 置 の 管 轄 権 は, 離 婚 , 別 居 又 は 婚 姻 無 効 の 申 立 の 許 否 についての 判 断 が 確 定 し,又 は 他 の 理 由 により 手 続 が 終 了 した 場 合 には 直 ちに 消 滅 する。」3939


(c) 扶 養 事 件扶 養 事 件 については,EU 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 c 号 ( 従 前 のブリュッセル I 規 則 第 5 条 第 2 号 後 段 )によれば, 身 分 関 係 事 件 について 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 裁 判 所 は, 一 方 当 事 者 の 国 籍 だけが 管 轄 の 基礎 となった 場 合 を 除 いて, 附 帯 処 分 としての 扶 養 事 件 の 管 轄 をもつ 191 。つまり, 一 方 配 偶 者 がドイツ 人 であることだけが 管 轄 原 因 とされた(FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 )のでないかぎり,ドイツ 裁 判所 は, 婚 姻 事 件 に 附 帯 して 扶 養 事 件 の 管 轄 をもつ 192 。 扶 養 義 務 規 則 は, 場 所 的 な 適 用 範 囲 を 限 定 しておらず 193 ,すべての 事 案 に 適 用 され, 扶 養 義 務 について 国 内 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 ルールが 適 用 される 余 地 はない 194 。なお, 扶 養 義 務 規 則 の 管 轄 ルールは,すべて 同 時 に 土 地 管 轄 も 決 定 するため 195 ,FamFG に 基 づく 土 地 管 轄 のルール(FamFG 第 137 条 第 2 項 第 1 号 及 び 第 232 条 第 1 項 第 1 号 参 照 )も 適 用 されない。ドイツ 国 内 法 上 , 土 地 管 轄 については, 申 立 人 は 必 ず 婚 姻 事 件 の 附 帯 処 分 として 扶 養 料 支 払 請 求 をしなければならないが(FamFG 第 232 条 第 2 項 ), 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 c 号 は 競 合 管 轄 に 過 ぎないため,申 立 人 は, 婚 姻 事 件 の 附 帯 処 分 による 管 轄 を 利 用 することも, 扶 養 事 件 を 切 り 離 して 同 規 則 第 3 条a・b 号 に 基 づく 管 轄 を 独 立 に 利 用 することもできる。他 方 ,1988 年 ルガノ 条 約 及 び 2007 年 ルガノ 条 約 の 適 用 は, 扶 養 義 務 規 則 によって 妨 げられない( 上 述 I-A 参 照 )。それゆえ, 被 告 ( 婚 姻 事 件 ではなく, 扶 養 事 件 の 被 告 〔 扶 養 義 務 者 〕)がノルウェー,アイスランド,スイスのいずれかに 住 所 をもつ 場 合 には,ルガノ 条 約 の 適 用 が 優 先 する 196 。ルガノ 条 約 が 適 用 される 場 合 ,1 扶 養 義 務 者 が 婚 姻 事 件 の 手 続 が 行 われている 締 約 国 に 住 所 をもつときには,2007 年 ルガノ 条 約 第 2 条 第 1 項 197 に 基 づいて 扶 養 事 件 の 管 轄 が 認 められる。この 場合 には,ルガノ 条 約 は 土 地 管 轄 までは 規 定 しない。そのため, 土 地 管 轄 については,FamFG 第 137条 第 2 項 第 1 号 及 び 第 232 条 第 1 項 第 1 号 に 従 い, 婚 姻 事 件 に 附 帯 した 管 轄 が 認 められる。それに対 して,2 扶 養 義 務 者 が 婚 姻 事 件 が 行 われている 締 約 国 以 外 の 締 約 国 に 住 所 をもつ 場 合 であって,婚 姻 事 件 に 関 する 管 轄 が 一 方 当 事 者 の 国 籍 だけに 基 づくのでなければ,2007 年 ルガノ 条 約 第 5 条 第2 号 b 198 に 基 づいて 扶 養 事 件 に 関 する 付 随 的 な 管 轄 が 認 められる。しかも,この 規 定 は 同 時 に 土 地 管轄 も 規 定 しているため,FamFG は 適 用 されない 199 。ただし,2の 場 合 にも, 扶 養 権 利 者 は, 婚 姻 事件 の 附 帯 処 分 として 扶 養 料 支 払 請 求 をする 義 務 を 負 わないため, 扶 養 事 件 を 切 り 離 し, 相 手 方 の 住191 Article 3 Brussels IIbis Regulation [General provisions], lit. c: “the court which, according to its own law, has jurisdiction toentertain proceedings concerning the status of a person if the matter relating to maintenance is ancillary to those proceedings, unlessthat jurisdiction is based solely on the nationality of one of the parties”.192 Rauscher/Andrae, op.cit., Art. 3 EG-UntVO, Rn. 48.193 ブリュッセル I 規 則 が 被 告 が 構 成 国 内 に 住 所 をもつことを 要 件 とするのと 異 なる。194 Rauscher/Andrae, op.cit., Vorbem Artt. 3 ff. EG-UntVO, Rn. 1 et seq.195 Rauscher/Andrae, op.cit., Art. 3 EG-UntVO, Rn. 7. 従 来 のブリュッセル I 規 則 においては, 第 5 条 第 2 号 の 規 定だけが 国 際 裁 判 管 轄 と 土 地 管 轄 を 同 時 に 決 定 していたが,EU 扶 養 義 務 規 則 においては,すべての 国 際 裁 判 管 轄のルールが 同 時 に 土 地 管 轄 を 決 定 している。196 Rauscher/Andrae, op.cit., Art. 69 EG-UntVO, Rn. 16.197 1998 年 ルガノ 条 約 第 2 条 第 1 項 に 同 じ。198 1988 年 ルガノ 条 約 第 5 条 第 2 号 後 段 に 同 じ。199 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 221 et seq.4040


所 地 (2007 年 ルガノ 条 約 第 2 条 第 1 項 ) 又 は 申 立 人 の 住 所 地 (2007 年 ルガノ 条 約 第 5 条 第 2 号 a)において 独 立 に 扶 養 料 支 払 請 求 をすることもできる 200 。(d) 年 金 分 割 事 件年 金 分 割 事 件 は,ブリュッセル I 規 則 が 適 用 除 外 している 夫 婦 財 産 事 件 (ブリュッセル I 規 則 第 1条 第 2 項 )に 該 当 するため,EU 規 則 の 適 用 はないと 解 されている。したがって,FamFG 第 98 条 第2 項 がそのまま 適 用 される 201 。ただし, 年 金 分 割 事 件 が 将 来 の EU 夫 婦 財 産 制 規 則 の 適 用 対 象 となるか 否 かは 明 らかではなく(2011 年 EU 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 1 条 第 1 項 は, 税 法 及 び 行 政 法 上 の 制 度 を 適 用除 外 するだけである),ドイツの 学 者 はこの 点 を EU 規 則 において 明 記 するよう 提 案 している 202 。(e) 婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件 について 直 接 規 定 する EU 法 上 のルールはない。ドイツ 国 際 私 法 上 は,婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件 の 性 質 決 定 について,1 扶 養 義 務 として 性 質 決 定 する 見 解 と,2 離 婚 の 身 分的 効 力 として 性 質 決 定 する 見 解 (EGBGB 第 17 条 )があったが, 現 在 では EGBGB 第 17a 条 に 特 則 があり,ドイツに 所 在 する 婚 姻 住 居 及 び 家 財 については,ドイツ 法 が 準 拠 法 となる 203 。 国 際 裁 判 管 轄については, 筆 者 が 調 査 しえたかぎり, 婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件 を 扶 養 義 務 規 則 及 びルガノ 条 約 の 事項 的 適 用 範 囲 外 と 解 する 見 解 が 有 力 であることから, 基 本 的 には,FamFG 第 98 条 第 2 項 に 基 づいて 婚 姻 事 件 に 附 帯 した 管 轄 が 認 められると 解 されよう 204 。C. 親 子 事 件1. 総 説FamFG 第 99 条 第 1 項 によれば,ドイツ 裁 判 所 は, 第 151 条 第 7 号 に 定 める 手 続 ( 精 神 病 者 の 保護 収 容 に 関 する 州 法 に 基 づく, 未 成 年 者 の 自 由 を 剥 奪 する 保 護 収 容 命 令 に 関 する 手 続 )のほか, 子 が1ドイツ 人 であるとき( 同 第 1 文 第 1 号 ),あるいは2ドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 するとき( 同 第 2 号 )には 管轄 をもつ。また,ドイツ 裁 判 所 は, 子 がドイツ 裁 判 所 による 保 護 措 置 を 必 要 とする 場 合 にも, 管 轄をもつ( 同 第 2 文 )。FamFG 第 99 条 第 2~ 第 4 項 は,ドイツ 裁 判 所 及 び 外 国 裁 判 所 の 双 方 が 後 見 及 び 補 佐 (Pflegschaft)について 管 轄 をもつ 場 合 の 特 則 である。それによれば,1ドイツ 裁 判 所 と 外 国 裁 判 所 の 競 合 管 轄 が認 められ, 後 見 事 件 がすでに 当 該 外 国 において 係 属 している 場 合 には,それが 被 後 見 人 の 利 益 にか200 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 228 et seq. 結 局 , 扶 養 権 利 者 と 扶 養 義 務 者 の 双 方 がドイツに 住 所をもつ 場 合 にのみ, 義 務 的 な 附 帯 処 分 の 管 轄 が 妥 当 する(FamFG 第 232 条 第 1 項 第 1 号 )。201 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 106.202 Dieter Martiny, Die Kommissionsvorschläge für das Ehegüterrecht sowie für das Güterrecht eingetragener Partnerschaften,IPRax 2011.203 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 231 et seq.204 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 237 参 照 。4141


なうかぎり,ドイツ 裁 判 所 は 後 見 開 始 命 令 を 下 さない( 同 第 2 項 )。また,2 同 じく 競 合 管 轄 が 認 められ,ドイツ 国 内 ではすでに 後 見 が 行 われているときには,ドイツ 裁 判 所 は,それが 被 後 見 人 の 利益 にかない, 後 見 人 が 同 意 し, 当 該 外 国 が 後 見 の 引 継 ぎをする 意 思 を 表 示 した 場 合 には, 当 該 外 国の 裁 判 所 に 後 見 をゆだねることができる( 同 第 3 項 )。3これらの 規 定 は, 補 佐 及 び 自 由 を 奪 う 収 容措 置 にも 準 用 される( 同 第 4 項 )。 以 上 の 規 定 は, 実 効 的 な 子 の 保 護 を 図 るために, 内 外 裁 判 所 の 手続 を 調 整 することを 目 的 としている 205 。2. 親 子 事 件 の 適 用 範 囲(1) FamFG の 事 項 的 ・ 人 的 適 用 範 囲FamFG 第 99 条 第 1 項 は, 未 成 年 者 の 身 上 監 護 又 は 財 産 管 理 ,あるいはその 代 理 に 関 する 事 件の 国 際 裁 判 管 轄 について 定 めている。その 者 が 未 成 年 者 であるか 否 かは, 多 数 説 によれば, 法 廷 地法 であるドイツ 法 ではなく,EGBGB 第 7 条 に 従 い, 各 人 の 本 国 法 によって 決 定 される 206 。ただし,常 に 法 廷 地 法 であるドイツ 法 に 従 って 18 歳 を 基 準 とする 少 数 説 もある 207 。また, 胎 児 の 保 護 もFamFG 第 99 条 第 1 項 の 適 用 対 象 となる 208 。この 規 定 にいう 親 子 事 件 とは, 具 体 的 には,FamFG 第 151 条 第 1 から 第 6 号 及 び 第 8 号 に 定 める 事 項 を 指 す。すなわち,1 親 権 ・ 監 護 権 ( 親 権 ・ 監 護 権 の 存 否 確 認 を 含 む)( 第 1 号 ),2 面 接 交 流 ( 第2 号 ),3 子 の 引 渡 し( 第 3 号 ),4 後 見 ( 第 4 号 ),5 補 佐 又 はそれ 以 外 の 未 成 年 者 又 は 胎 児 の 代 理 人の 指 定 ( 第 5 号 ),6 子 の 自 由 を 奪 う 収 容 措 置 ( 第 6 号 ),そして7 少 年 裁 判 所 法 に 基 づく 措 置 ( 第 8号 )である。それに 対 して, 精 神 病 者 の 保 護 収 容 に 関 する 州 法 に 基 づく 未 成 年 者 の 自 由 を 剥 奪 する保 護 収 容 命 令 (FamFG 第 151 条 第 7 号 )は, 公 法 上 の 収 容 措 置 であるため, 明 示 的 に 適 用 除 外 されている( 成 年 者 についても 同 旨 〔 第 104 条 第 3 項 〕)。この 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 は,FamFG第 105 条 に 従 い, 土 地 管 轄 ルールを 準 用 することで 導 かれる。なお, 成 年 者 の 世 話 人 及 び 補 佐 人 の 選 任 及 び 事 務 の 遂 行 ,そして EGBGB 第 24 条 第 3 項 に 基 づく 外 国 法 上 の 成 年 者 の 後 見 (ドイツ 実 質 法 上 は 存 在 しない 制 度 )の 実 行 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 は,FamFG第 104 条 によって 決 定 される 209 。(2) EU 規 則 及 び 条 約 との 適 用 関 係FamFG 第 99 条 第 1 項 が 規 定 する 親 子 事 件 については, 以 下 の EU 規 則 及 び 条 約 が 優 先 的 に 適用 される。すなわち,1ブリュッセル IIbis 規 則 ,21980 年 ハーグ 子 奪 取 条 約 ,31961 年 ハーグ 未成 年 者 保 護 条 約 ,41996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 ,51902 年 ハーグ 後 見 条 約 ,6オーストリア,ポー205 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1 et seq.206 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 3; Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1.207 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1.208 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 4.209 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 4 et seq.4242


ランド,スペイン,ロシアとの 二 国 間 条 約 である。ここでは, 特 に 重 要 度 の 高 い1~4と FamFG 第99 条 第 1 項 の 適 用 関 係 のみ 紹 介 する。(a) 1980 年 子 奪 取 条 約1980 年 子 奪 取 条 約 は,ブリュッセル IIbis 規 則 によっても 適 用 除 外 されず, 同 規 則 第 11 条 によって 補 充 されるに 過 ぎない。もとより 子 の 返 還 手 続 を 行 う 奪 取 先 の 国 は, 子 の 監 護 権 に 関 する 国 際裁 判 管 轄 をもたず,あくまで 子 の 返 還 について 決 定 できるに 過 ぎない。(b) ブリュッセル IIbis 規 則ブリュッセル IIbis 規 則 第 8 条 以 下 は, 親 責 任 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 定 めている。ブリュッセル IIbis 規 則 の 事 項 的 適 用 範 囲 となる 親 責 任 は,EU 法 上 の 拡 大 解 釈 によれば,1996 年 子 の 保 護 条 約第 1 条 a 号 に 定 める 保 護 措 置 の 概 念 に 相 当 し, 同 条 約 第 3 及 び 第 4 条 において 詳 細 に 定 義 されている 210 。そこで,ブリュッセル IIbis 規 則 は, 上 述 の FamFG 第 151 条 第 1 号 から 第 6 号 に 掲 げる 事 項については,FamFG 第 99 条 第 1 項 に 優 先 して 適 用 されるが,FamFG 第 151 条 第 8 号 に 関 する 事 項( 少 年 裁 判 法 上 の 措 置 )については,ブリュッセル IIbis 規 則 の 適 用 対 象 外 となるため,FamFG 第 99条 第 1 項 が 適 用 される 211 。また, 胎 児 の 保 護 についても,ブリュッセル IIbis 規 則 は 適 用 されないため( 同 規 則 第 2 条 第 7 から 第 11 号 参 照 ),FamFG 第 99 条 第 1 項 による 212 。ブリュッセル IIbis 規 則 の 場 所 的 適 用 範 囲 については,EU 構 成 国 (デンマークを 除 く)のいずれかに 常 居 所 をもつ 子 が 対 象 となる。ブリュッセル IIbis 規 則 においては, 人 的 適 用 範 囲 を 定 義 していないが,1996 年 子 の 保 護 条 約 第 2 条 と 同 様 に,18 歳 未 満 の 者 を 指 すと 解 される 213 。この 点 は,FamFG第 99 条 第 1 項 の 対 象 となる 子 の 定 義 がその 本 国 法 にゆだねられているのと 異 なる。そこで,18 歳以 上 の 者 が 本 国 法 はまだ 未 成 年 である 場 合 には(EGBGB 第 7 条 :18 歳 又 は 19 歳 の 日 本 人 など),EU構 成 国 に 常 居 所 をもっていても,その 親 権 ・ 監 護 権 等 に 関 する 親 子 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 は,FamFG第 99 条 第 1 項 によって 決 定 される 214 。210 1996 年 条 約 第 3 条 及 び 第 4 条 は, 次 のように 定 めている。第 3 条 「 第 1 条 の 措 置 は, 特 に 以 下 の 事 項 に 関 するものとする。a 親 責 任 の 帰 属 , 行 使 , 終 了 又 は 制 限 及 び 委 任 ,b 子 の 身 上 保 護 に 関 連 する 権 利 特 に 子 の 居 所 指 定 権 を 含 む子 の 監 督 保 護 権 及 び 子 の 常 居 所 地 以 外 の 地 に 限 定 された 期 間 子 を 連 れていく 権 利 を 含 む 面 接 交 渉 権 ,c 後 見 ,補 佐 及 びこれらに 類 似 の 制 度 ,d 子 の 身 上 監 護 , 財 産 管 理 , 代 理 又 は 補 佐 の 任 にあたる 者 若 しくは 機 関 の 任 命及 び 権 限 ,e 受 け 入 れ 家 族 若 しくは 施 設 への 付 託 又 はカファーラ( 筆 者 注 ;イスラム 教 国 法 上 の 付 託 制 度 ) 若しくは 類 似 の 制 度 による 監 督 保 護 ,f 子 の 監 督 保 護 の 任 にあたる 者 に 対 する 公 的 な 監 督 ,g 子 の 財 産 の 管 理 ,保 全 又 は 処 分 」。第 4 条 「 本 条 約 は 以 下 の 事 項 には 適 用 されない。a 親 子 関 係 の 成 立 又 は 係 争 ,b 養 子 縁 組 に 関 する 決 定 , 養 子 縁 組 の 準 備 段 階 の 措 置 又 は 養 子 縁 組 の 無 効 若 しくは 取 消 ,c 子 の 氏 名 ,d 親 権 解 放 (emancipation),e 扶 養 義 務 ,f 信 託 又 は 相 続 ,g 社 会 保 障 ,h 教 育又 は 保 健 に 関 する 一 般 的 な 公 的 措 置 ,i 子 の 刑 事 法 上 の 行 為 の 結 果 として 執 られる 措 置 ,j 庇 護 権 及 び 入 国 に関 する 決 定 」。211 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 13.212 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 2.213 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 14; Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1.214 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1.4343


ブリュッセル IIbis 規 則 が 適 用 される 場 合 には,その 第 8 条 以 下 の 規 定 によって 親 責 任 事 件 の 国際 裁 判 管 轄 が 決 定 され,FamFG 第 99 条 第 1 項 の 適 用 は 除 外 される。ブリュッセル IIbis 規 則 第 8 条によっていずれの 構 成 国 も 管 轄 をもたず(ブリュッセル IIbis 規 則 第 14 条 ),また 1961 年 条 約 又 は 1996年 条 約 によっても 締 約 国 が 管 轄 をもたない 場 合 にのみ,FamFG 第 99 条 第 1 項 が 適 用 されうる 215 。なお,ブリュッセル IIbis 規 則 は, 国 際 裁 判 管 轄 しか 決 定 しないため,ドイツ 国 内 の 土 地 管 轄 は 常 にFamFG 第 152 条 によって 決 定 される 216 。(c) 1961 年 ハーグ 未 成 年 者 保 護 条 約 及 び 1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約ブリュッセル IIbis 規 則 は, 原 則 として,1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約 よりも 優 先 して 適 用 される。もっとも, 次 の 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 は 1961 年 条 約 に 従 って 決 定 される。すなわち,1 子 が EU 構 成 国 以 外 の 1961 年 条 約 締 約 国 に 常 居 所 をもつ 場 合 ,あるいは2 子 が EU 構 成 国 に常 居 所 をもつが,EU 構 成 国 以 外 の 1961 年 条 約 締 約 国 の 国 籍 をもつ 場 合 (EU 域 内 の 関 係 にとどまらないため:ブリュッセル IIbis 規 則 第 60 条 a 号 参 照 )である。それに 対 して,1996 年 子 の 保 護 条 約 の 適 用は, 子 の 常 居 所 が EU 構 成 国 内 にあるかぎり, 端 的 にブリュッセル IIbis 規 則 によって 除 外 される 217 。なお,1996 年 条 約 は,2011 年 1 月 1 日 にドイツについて 発 効 しており,1996 年 条 約 と 1961 年 条 約双 方 の 締 約 国 である 国 との 関 係 では, 前 者 が 後 者 に 代 わって 適 用 される。ブリュッセル IIbis 規 則 及 び 両 ハーグ 条 約 が 適 用 されない 場 合 には,FamFG 第 99 条 第 1 項 によってドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 決 定 される 218 。3. 親 子 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定FamFG 第 99 条 第 1 項 は,3 つの 管 轄 原 因 を 定 めている。すなわち,1 子 がドイツ 人 であること( 同 第 1 文 第 1 号 ),2 子 がドイツ 国 内 に 常 居 所 をもつこと( 同 第 2 号 ),あるいは3 子 がドイツ 裁判 所 による 保 護 措 置 を 必 要 とすること( 同 第 2 文 )である。 従 前 の EGBGB 第 23 条 は, 本 国 が 保 護措 置 を 取 らない 場 合 にのみ 他 の 管 轄 原 因 を 認 めており 219 , 管 轄 原 因 相 互 間 に 順 位 があったが, 現 在ではこの 要 件 は 削 除 されており,1から3の 管 轄 原 因 は 同 等 の 選 択 的 な 管 轄 原 因 となっている 220 。成 年 者 の 保 護 に 関 する FamFG 第 104 条 第 1 項 も,ほぼ 同 第 99 条 第 1 項 と 一 致 した 規 定 を 採 用 している。FamFG 第 99 条 が 適 用 され,ドイツの 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 される 場 合 には,その 土 地 管 轄 はFamFG 第 152 条 によって 決 定 される 221 。215 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 15.216 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 2.217 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 16 et seq.218 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 5.219法 例 24 条 2 項 , 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 第 35 条 第 2 項 参 照 。220 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 102.221 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 104. フォン・ハインは, 訴 訟 経 済 に 従 って 国 際 裁 判 管 轄 と 国 内土 地 管 轄 のいずれを 先 に 審 査 するかを 決 定 するとし, 特 に 順 序 は 決 められていないという。4444


(1) 子 がドイツ 人 であることFamFG 第 99 条 第 1 項 第 1 文 第 1 号 によれば,ドイツ 裁 判 所 は, 子 がドイツ 人 である 場 合 に 国際 裁 判 管 轄 をもつ。「ドイツ 人 」の 概 念 には,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 の 場 合 と 同 じく,ドイツ国 籍 をもつ 者 のみならず,ドイツ 基 本 法 第 116 条 に 定 義 するドイツ 人 , 難 民 条 約 上 の 難 民 ,そして難 民 適 格 者 が 含 まれる。無 国 籍 の 子 については,1EGBGB 第 5 条 第 2 項 を 介 して 本 国 管 轄 の 対 象 となるという 説 222 と,2 本 国 管 轄 は 妥 当 しないが, 保 護 の 必 要 性 に 基 づく 管 轄 (FamFG 第 99 条 第 1 項 第 2 号 第 2 文 )が 認 められるという 説 223 がある。 重 国 籍 の 子 については,その 一 つがドイツ 国 籍 であるかぎり,FamFG 第99 条 第 1 項 第 1 文 第 1 号 に 基 づく 管 轄 が 認 められる。 国 籍 の 実 効 性 は 問 題 とされず,いわば EGBGB第 5 条 第 1 項 第 2 文 に 定 める 内 国 国 籍 優 先 の 原 則 がここでも 妥 当 する 224 。胎 児 について( 特 にドイツ 法 上 は,BGB 第 1774 条 第 2 文 及 び 第 1912 条 ,FamFG 第 151 条 第 5 号 において 胎 児 の 後 見 及 び 補 佐 が 規 定 されている), 子 がドイツ 人 となることが 予 想 される 場 合 には,ドイツ 裁判 所 の 管 轄 が 肯 定 される。 子 を 基 準 として 仮 定 的 な 国 籍 を 基 準 とするほうが, 保 護 の 必 要 性 に 基 づく 管 轄 を 肯 定 するよりも 相 当 であるという 225 。(2) 子 がドイツに 常 居 所 をもつことFamFG 第 99 条 第 1 項 第 1 文 第 2 号 によれば, 子 がドイツに 常 居 所 をもつ 場 合 にも 国 際 裁 判 管轄 が 認 められる。 現 行 法 上 は, 本 国 管 轄 の 優 先 が 定 められておらず, 同 1 号 と 同 2 号 の 管 轄 は 並 列関 係 にある。 従 前 は, 外 国 人 に 対 して 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 するのが 困 難 であり, 手 続 の 遅 滞 を 招 いていたが( 本 国 が 自 国 民 に 対 して 後 見 又 は 補 佐 の 手 続 を 行 う 利 益 をもつか 否 か 不 明 であることが 多 かったため),その 問 題 は 解 消 されている 226 。「 常 居 所 」の 概 念 については, 法 律 上 も 条 約 ・EU 規 則 上 もまだ 明 確 な 定 義 規 定 がない。 一 般には, 子 の 常 居 所 は, 子 が 現 実 に 一 定 期 間 継 続 して 滞 在 しており,その 生 活 の 中 心 を 置 くところであると 解 されている。ドイツ 立 法 者 は, 意 識 的 に 常 居 所 を 管 轄 原 因 としており, 単 なる 居 所 では 足りないことを 示 している 227 。 常 居 所 とは, 通 常 は, 子 が 現 実 に( 親 とともに) 居 住 し, 通 園 ・ 通 学 している 場 所 を 指 すが, 社 会 的 統 合 が 進 んでいないために, 子 の 常 居 所 が 否 定 されることもありうる。子 の 常 居 所 は,BGB 第 11 条 に 定 める「 住 所 」とは 異 なって, 親 権 者 ( 監 護 権 者 )の 住 所 と 連 動 する222 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 47. ただし, 無 国 籍 の 子 がドイツに 常 居 所 をもつかぎり,ブリュッセル IIbis 規 則 第 8 条 以 下 によって 管 轄 が 認 められるため, 子 が( 確 定 できる) 常 居 所 をもたず,ドイツ 国 内に 単 なる 居 所 をもつ 場 合 にのみ(EGBGB 第 5 条 第 2 項 後 段 ),FamFG 第 99 条 第 1 項 第 1 文 第 1 号 に 基 づいて管 轄 が 認 められるという。223 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 111.224 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 48; Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 110.225 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 112.226 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 114.227 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 116. もっとも, 子 がドイツ 国 内 に 単 なる 居 所 しかもっていなくても 保 護 の 必 要 がある 場 合 には, 裁 判 所 が 迅 速 に 必 要 な 保 護 措 置 をとることができるように,FamFG 第 99 条第 1 項 第 2 文 によって 管 轄 が 認 められる。4545


わけではなく,その 意 思 にかかるわけでもない。また, 常 居 所 が 複 数 存 在 することはないと 解 されている。それゆえ, 子 の 常 居 所 は, 純 粋 に 事 実 としての 判 断 基 準 として, 親 権 者 ( 監 護 権 者 )の 同 意なしに 又 はその 意 思 に 反 して, 別 の 場 所 に 移 されることもありうる 228 。問 題 は, 他 方 の 親 の 監 護 権 を 侵 害 する 形 で 違 法 に 子 の 所 在 地 が 移 された 場 合 である。 従 来 , 子の 奪 取 先 の 国 において 社 会 的 な 関 係 が 存 在 し( 片 方 の 親 , 祖 父 母 , 親 戚 など), 通 園 ・ 通 学 がなされている 場 合 には, 基 本 的 に 6 ヶ 月 の 滞 在 で 新 たな 常 居 所 が 取 得 されるものと 解 されてきた 229 。FamFG第 99 条 第 1 項 第 1 文 第 2 号 には,1996 年 子 の 保 護 条 約 第 7 条 230 に 相 当 する 規 定 (ブリュッセル IIbis規 則 第 10 条 参 照 )がないため, 国 外 へと 子 が 連 れ 去 られ, 監 護 権 を 侵 害 された 親 が 子 の 返 還 を 求 めるに 当 たって,ドイツ 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 をもち 続 けることは 自 明 ではない。しかし,1996 年 子の 保 護 条 約 第 7 条 の 趣 旨 に 照 らして,FamFG 第 99 条 第 1 項 第 1 文 第 2 号 を 合 目 的 的 に 解 釈 することはできる。すなわち,このような 場 合 に 子 が 外 国 において 社 会 的 に 統 合 されるのに 必 要 な 期 間 は,6 ヶ 月 ではなく 12 ヶ 月 に 延 長 することができる。また, 子 が 連 れ 去 られた 国 の 当 局 に 適 時 に 子 の 返還 申 立 てがなされた 場 合 には, 当 該 国 における 社 会 的 な 統 合 が 妨 げられ, 子 が 常 居 所 を 取 得 しないと 解 される。そして,すでにドイツで 親 子 事 件 が 係 属 している 場 合 には,FamFG 第 99 条 第 1 項 第 2文 による 保 護 の 必 要 性 に 基 づく 管 轄 は 失 われないと 解 釈 できるという 231 。それに 対 して, 子 の 所 在 地 が 当 事 者 全 員 の 合 意 によって 国 外 又 はドイツへと 移 された 場 合 には,その 移 動 自 体 が 違 法 であっても, 直 ちに 常 居 所 が 取 得 されるという。それゆえ, 子 がドイツに 移 ってきたときには, 社 会 的 統 合 に 必 要 とされる 期 間 の 経 過 を 待 つことなく, 直 ちに FamFG 第 99 条 第1 項 第 1 文 第 2 号 に 基 づく 管 轄 が 認 められる。 反 対 に, 子 がドイツから 外 国 へと 移 された 場 合 には,―― 子 の 福 祉 を 実 現 するために 従 前 の 裁 判 所 の 管 轄 が 継 続 するのでないかぎり――FamFG 第 99 条第 1 項 第 1 文 第 2 号 に 基 づく 管 轄 は 失 われる。 一 旦 当 事 者 が 子 の 転 居 に 同 意 した 以 上 は, 移 転 後 にその 同 意 を 一 方 的 に 撤 回 できないのがその 理 由 であるという 232 。近 時 , 子 の 常 居 所 については,ブリュッセル IIbis 規 則 に 関 する 欧 州 司 法 裁 判 所 の 重 要 判 例 が 出されており,EU 法 上 の 常 居 所 概 念 の 外 延 が 少 しずつ 固 まりつつある。おそらく 欧 州 司 法 裁 判 所 の 判例 法 理 は,ドイツ 国 内 法 上 の 管 轄 ルールの 常 居 所 概 念 にも 影 響 を 及 ぼすものと 思 われる( 特 に 欧 州 司法 裁 判 所 2009 年 4 月 2 日 判 決 参 照 233 )。228 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 50.229 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 51. 一 国 内 での 頻 繁 な 常 居 所 の 移 転 は, 当 該 国 の 常 居 所 を 認 定 する 妨 げとはならないが, 社 会 的 な 統 合 が 進 んでいないことの 証 左 にはなるという。230上 掲 注 参 照 。231 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 52.232 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 53.233 European Court of Justice, 2 April 2009, Case C-523/07, para. 44: “……the concept of ‘habitual residence’ under Article8(1) of the Regulation must be interpreted as meaning that it corresponds to the place which reflects some degree of integration bythe child in a social and family environment. To that end, in particular the duration, regularity, conditions and reasons for the stay onthe territory of a Member State and the family’s move to that State, the child’s nationality, the place and conditions of attendance atschool, linguistic knowledge and the family and social relationships of the child in that State must be taken into consideration. It isfor the national court to establish the habitual residence of the child, taking account of all the circumstances specific to eachindividual case.“4646


なお, 胎 児 のための 保 護 措 置 に 関 しては, 生 まれる 前 に 胎 児 の 常 居 所 を 特 定 できないため,FamFG 第 99 条 第 1 項 第 1 文 第 2 号 ではなく 同 第 2 文 に 従 い,どの 場 所 で 保 護 の 必 要 性 が 生 じているかを 基 準 とすると 解 されている。 具 体 的 には, 母 が 申 立 てをした 時 点 でドイツ 国 内 に 常 居 所 をもっていれば, 同 第 3 号 の 要 件 が 満 たされるという 234(3) 内 国 における 保 護 の 必 要 性FamFG 第 99 条 第 1 項 第 2 号 第 2 文 によれば, 子 がドイツ 裁 判 所 による 保 護 を 必 要 とする 場 合にも 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。この 管 轄 原 因 は, 外 国 裁 判 所 による 本 国 管 轄 又 は 常 居 所 地 管 轄 と競 合 するが,FamFG 第 99 条 第 1 項 第 1 号 及 び 第 2 号 第 1 文 の 要 件 が 満 たされない 場 合 に 援 用 されるため, 保 護 の 必 要 性 を 認 定 するには 慎 重 かつ 謙 抑 的 でなければならないとされる 235 。子 の 保 護 の 必 要 性 に 基 づく 管 轄 は, 子 の 身 上 監 護 及 び 財 産 管 理 のいずれについても 認 められる。通 常 は,ドイツが 子 の 居 所 地 である 又 は 財 産 所 在 地 である 場 合 等 がそれに 当 たる。 特 に 子 が 難 民 又は 難 民 申 請 者 であって 父 母 がドイツに 所 在 していない 場 合 には, 単 なる 居 所 に 基 づいて 国 際 裁 判 管轄 を 認 めるべきであると 解 される 236 。(4) 国 際 裁 判 管 轄 の 一 般 原 則(a) 専 属 管 轄 の 否 定親 子 事 件 についても,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 は 専 属 的 ではなく, 外 国 裁 判 所 の 管 轄 と 競 合 する(FamFG 第 106 条 )。 外 国 裁 判 の 承 認 は, 当 該 事 件 についてドイツ 裁 判 所 が 管 轄 をもっていたことを理 由 として 拒 否 されえない。なお, 矛 盾 するドイツ 裁 判 と 外 国 裁 判 が 並 存 する 場 合 の 処 理 は,FamFG第 109 条 第 3 項 によるが, 親 子 事 件 の 裁 判 には 既 判 力 がなく 事 後 的 な 変 更 も 可 能 であるため,ドイツ 裁 判 とは 矛 盾 する 内 容 の 外 国 裁 判 ( 異 なる 監 護 権 者 の 指 定 など)が 事 後 的 に 承 認 されることもある 237 。(b) 管 轄 の 継 続親 子 事 件 に 関 しては, 一 旦 ドイツの 国 際 裁 判 管 轄 が 発 生 した 後 , 管 轄 原 因 が 消 滅 した 場 合 に,管 轄 が 継 続 するか 否 か 争 われている。 多 数 説 は, 特 に 親 子 事 件 関 しては 事 案 ごとの 利 益 衡 量 によって 判 断 すること,つまり 申 し 立 てられた 保 護 措 置 , 手 続 の 進 行 段 階 , 外 国 における 承 認 可 能 性 ,そして 管 轄 原 因 が 消 滅 した 理 由 などを 勘 案 したうえで,まだドイツにおける 保 護 の 必 要 性 があれば,管 轄 を 肯 定 するとしている。 親 子 事 件 においては, 子 の 福 祉 を 実 現 するのが 至 上 命 題 であることに鑑 みれば, 事 案 ごとにドイツ 裁 判 所 と 外 国 裁 判 所 のいずれが 子 のためにより 適 切 な 判 断 をなしうるかを 考 慮 し, 柔 軟 に 対 応 するのが 相 当 であろう 238 。234 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 117.235 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 54.236 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 55.237 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 57.238 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 58; Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 106;Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 20.4747


なお,ブリュッセル IIbis 規 則 第 8 条 によれば, 子 が 合 法 的 に 国 外 に 常 居 所 を 移 した 場 合 にも,原 則 として, 従 前 の 裁 判 所 が 継 続 して 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 239 。それに 対 して,1996 年 子 の 保 護 条 約第 5 条 第 2 項 によれば, 合 法 的 な 国 外 への 常 居 所 の 移 転 の 場 合 には, 新 たな 常 居 所 地 の 裁 判 所 が 国際 裁 判 管 轄 をもつとされている( 子 が 奪 取 された 場 合 にはその 限 りでない) 240 。4. 後 見 ・ 補 佐 に 関 する 外 国 裁 判 所 との 競 合 管 轄 の 調 整(1) EU 法 及 び 条 約 の 優 位未 成 年 者 の 後 見 ・ 補 佐 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 については,ブリュッセル IIbis 規 則 ,1961 年 ハーグ 未 成 年 者 保 護 条 約 ,そして 1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 が FamFG 第 99 条 第 2 から 第 4 号 に 優 先して 適 用 される。いずれも EU 構 成 国 又 は 締 約 国 間 の 管 轄 及 び 判 決 の 相 互 承 認 のほか, 助 言 , 管 轄の 移 転 〔 移 送 〕(Verweisung; transfer),そして 外 国 における 裁 判 手 続 の 係 属 の 尊 重 によって, 監 護 権( 後 見 ・ 補 佐 に 限 定 されない)に 関 する 並 行 手 続 を 回 避 し, 子 の 福 祉 を 実 現 するのに 最 も 適 した 裁 判所 を 決 定 するための 制 度 を 整 えている。(a) ブリュッセル IIbis 規 則ブリュッセル IIbis 規 則 第 15 条 によれば,EU 構 成 国 の 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 裁 判 所 は, 子 が 特 別の 結 び 付 きをもつ 他 の 構 成 国 の 裁 判 所 に 管 轄 を 移 転 〔 移 送 〕すること(Verweisung; transfer)ができる。 後 者 の 裁 判 所 が 子 の 福 祉 についてよりよく 審 査 できると 判 断 し, 管 轄 を 受 け 入 れる 場 合 には,管 轄 が 移 転 され, 最 初 に 裁 判 手 続 が 係 属 していた 裁 判 所 は 管 轄 を 否 定 する。 管 轄 移 転 の 申 立 ては,当 事 者 が 行 いうるほか, 最 初 に 裁 判 手 続 が 係 属 していた 裁 判 所 及 び 移 転 先 の 裁 判 所 のいずれも 行 う239 ただし,ブリュッセル IIbis 規 則 第 9 条 第 1 項 によれば, 面 会 交 流 については, 子 が 合 法 的 に 国 外 に 常 居 所 を移 した 後 3 ヶ 月 間 は, 従 前 の 常 居 所 地 の 裁 判 所 が 下 した 面 会 交 流 に 関 する 裁 判 が 効 力 をもつ〔 同 第 2 項 :ただし, 面 会 交 流 権 をもつ 者 が 新 常 居 所 地 の 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 を 受 け 入 れた 場 合 には,その 限 りでない〕。240 1996 年 条 約 第 5 条 第 2 項 によれば,「 第 7 条 の 規 定 に 従 うことを 条 件 として, 子 の 常 居 所 が 他 の 締 約 国 に 変更 した 場 合 には 新 たな 常 居 所 地 国 の 機 関 が 管 轄 権 を 有 する。」とされている。この 条 約 第 7 条 は, 子 が 奪 取 された 場 合 について, 次 のように 定 めている。「[1] 子 の 違 法 な 連 れ 去 り 又 は 留 置 の 場 合 においては, 他 の 国 に 子 の常 居 所 が 確 立 され,かつ, 以 下 の 要 件 が 満 たされるまで, 当 該 連 れ 去 り 又 は 留 置 の 直 前 に 子 が 常 居 所 を 有 した締 約 国 の 機 関 が 管 轄 権 を 保 持 する。a 監 護 権 を 有 する 人 , 施 設 又 は 他 の 機 関 が, 当 該 連 れ 去 り 又 は 留 置 を 宥 恕 した 場 合 ; 又 は,b 監 護 権 を 有 する 人 , 施 設 又 は 他 の 機 関 が, 子 の 所 在 を 知 り, 又 は 知 り 得 た 時 から 少 なくとも 1 年 間 , 子 が 他の 国 に 居 住 し,その 期 間 内 に 子 の 返 還 請 求 がなされることなく, 子 が 新 しい 環 境 に 馴 染 んだ 場 合[2] 子 の 連 れ 去 り 又 は 留 置 は, 以 下 の 場 合 に 違 法 とされる。a 連 れ 去 り 又 は 留 置 の 直 前 に 子 が 常 居 所 を 有 した 国 の 法 律 により, 共 同 又 は 単 独 で 子 の 監 護 権 を 有 する 人 , 施設 又 は 他 の 団 体 の 当 該 監 護 権 を 侵 害 し;かつ,b 連 れ 去 り 又 は 留 置 の 時 に, 当 該 監 護 権 が 共 同 若 しくは 単 独 で 現 実 に 行 使 されているか 又 は, 連 れ 去 り 若 しくは 留 置 がなければ 行 使 されていたであろう 場 合a の 監 護 権 は, 特 に, 法 律 上 当 然 に, 司 法 的 若 しくは 行 政 的 判 断 により, 又 はその 国 の 法 律 により 法 的 効 力 を有 する 合 意 によって 生 じ 得 る。[3] 第 1 項 の 機 関 が 管 轄 権 を 保 持 する 限 り, 子 が 連 れ 去 られ, 又 は 留 置 されている 国 の 機 関 は, 子 の 身 上 又 は財 産 の 保 護 に 必 要 な 第 11 条 による 緊 急 措 置 に 限 り, 執 ることができる。」4848


ことができる(ブリュッセル IIbis 規 則 第 15 条 第 2 項 )。この 管 轄 の 移 転 は, 競 合 管 轄 の 存 在 を 前 提 とするものではなく,むしろ 積 極 的 に 管 轄 を 基 礎 付 ける 機 能 をもつ 241 。(b) 1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約1961 年 条 約 第 10 条 及 び 第 11 条 は, 締 約 国 の 官 憲 同 士 の 非 公 式 の 助 言 及 び 情 報 交 換 だけを 定 めている。それによれば, 締 約 国 の 官 憲 は,すでに 保 護 措 置 が 存 在 している 他 の 締 約 国 の 官 憲 と 意 見交 換 をした 後 で, 初 めて 必 要 な 保 護 措 置 をとることができる( 第 10 条 ) 242 。 他 方 , 一 旦 保 護 措 置 を取 った 締 約 国 の 官 憲 は,その 旨 を 遅 滞 なく 未 成 年 者 の 本 国 及 び 常 居 所 地 国 の 官 憲 に 通 知 しなければならない( 第 11 条 ) 243 。それゆえ,ドイツ 裁 判 所 は, 本 国 管 轄 又 は 常 居 所 地 管 轄 をもつ 場 合 に, 他の 締 約 国 の 官 憲 との 意 見 交 換 を 経 てから 保 護 措 置 を 取 るか 否 かを 決 定 することができる 244 。(c) 1996 年 子 の 保 護 条 約1996 年 条 約 第 8 及 び 第 9 条 は,ブリュッセル IIbis 規 則 第 15 条 と 類 似 の 手 法 によって, 同 条 約第 5 又 は 第 6 条 上 の 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 裁 判 所 が 相 互 の 協 力 を 通 じて, 事 案 と 関 連 性 をもつ 他 の 裁判 所 に 管 轄 を 移 転 することを 認 めている。すなわち, 当 該 締 約 国 の 裁 判 所 が 本 来 は 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 場 合 であっても, 他 の 締 約 国 の 裁 判 所 が 当 該 具 体 的 事 案 において 子 の 福 祉 についてよりよく 判断 できると 考 える 場 合 には, 管 轄 の 移 転 を 要 請 することができる(1996 年 条 約 第 8 条 第 1 項 ) 245 。もっとも, 拘 束 力 をもつ 管 轄 の 移 転 は 存 在 せず,あくまで 他 の 締 約 国 の 裁 判 所 が 管 轄 を 受 け 入 れることが 要 件 となる 246 。241 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 62. それ 以 外 の 場 合 には, 同 規 則 第 19 条 が 訴 訟 競 合 について 規 定しているように, 競 合 管 轄 をもつ 複 数 の 裁 判 所 の 間 では, 最 初 に 裁 判 手 続 が 係 属 した 裁 判 所 が 優 先 する。242 1961 年 条 約 第 10 条 「 未 成 年 者 に 適 用 される 制 度 の 継 続 性 を 確 保 するため, 各 締 約 国 の 官 憲 は,できる 限 り,現 に 効 力 を 有 する 決 定 をした 他 の 締 約 国 の 官 憲 と 意 見 の 交 換 を 行 なつた 後 でなければ,その 未 成 年 者 についての 措 置 をとらないものとする。」243 1961 年 条 約 第 11 条 「[1] この 条 約 の 規 定 によつて 措 置 をとつたいかなる 官 憲 も,その 未 成 年 者 の 属 する 国の 官 憲 及 び 場 合 によりその 常 居 所 の 国 の 官 憲 に 対 し, 遅 滞 なくそれを 通 告 しなければならない。[2] 各 締 約 国 は, 前 項 に 規 定 する 通 告 を 直 接 に 行 ない 又 は 受 領 することのできる 官 憲 を 指 定 しなければならない。 各 締 約 国 は,その 指 定 をオランダ 外 務 省 に 通 告 しなければならない。」244 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 63.245 1996 年 条 約 第 8 条 「[1] 第 5 条 又 は 第 6 条 により 管 轄 権 を 有 する 締 約 国 の 機 関 は, 特 定 の 事 件 について 他 の締 約 国 の 機 関 の 方 が 子 の 最 善 の 利 益 をよりよく 評 価 できると 考 える 時 は, 例 外 的 に, 当 該 他 の 機 関 に 直 接 又 はその 国 の 中 央 当 局 の 助 力 の 下 に, 必 要 と 考 える 保 護 措 置 を 執 るための 管 轄 権 を 行 使 することを 要 請 し, 又 は,事 件 の 審 理 を 中 止 し, 当 事 者 に 他 の 国 の 機 関 に 要 請 を 行 うことを 促 すことができる。[2] 前 項 の 規 定 により 要 請 を 受 けることのできる 締 約 国 機 関 は 以 下 のとおりとする。a 子 の 国 籍 所 在 国b 子 の 財 産 所 在 地 国c 子 の 両 親 の 離 婚 , 別 居 又 は 婚 姻 の 無 効 の 申 立 が 係 属 する 機 関 の 所 属 国d 子 が 実 質 的 関 連 性 を 有 する 国[3] 関 係 諸 機 関 は, 意 見 の 交 換 を 行 うことができる。[4] 第 1 項 により 要 請 を 受 けた 機 関 は, 子 の 最 善 の 利 益 に 適 うと 考 えるときは, 第 5 条 又 は 第 6 条 により 管 轄権 を 有 する 機 関 に 代 わり, 管 轄 権 を 行 使 することができる。」246 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 64.4949


反 対 に, 本 来 は 国 際 裁 判 管 轄 をもたない 裁 判 所 であっても, 自 らが 子 の 福 祉 について 判 断 するのにより 適 していると 考 える 場 合 には, 子 の 常 居 所 地 の 裁 判 所 に 対 して( 特 に 中 央 当 局 を 介 して) 管轄 を 移 転 してもらえるよう 要 請 できるほか, 当 事 者 に 対 して,その 旨 の 申 立 てをするよう 求 めることができる( 同 条 約 第 9 条 第 1 項 ) 247 。この 場 合 にも, 一 方 的 な 管 轄 の 引 継 ぎはできず,あくまで 他の 締 約 国 の 裁 判 所 が 管 轄 の 移 転 に 同 意 することが 要 件 となる( 同 第 3 項 ) 248 。(2) ドイツの 後 見 開 始 命 令 の 差 し 控 え(a) 適 用 範 囲FamFG 第 99 条 第 2 項 は, 未 成 年 者 に 関 する 後 見 開 始 命 令 について, 同 第 3 項 は, 未 成 年 者 の後 見 事 務 の 遂 行 の 受 け 継 ぎについて 規 定 している。これらの 規 定 は, 同 第 4 項 の 規 定 に 従 い, 未 成年 者 及 び 胎 児 に 関 する 補 佐 開 始 命 令 及 び 補 佐 事 務 の 遂 行 (FamFG 第 151 条 第 5 号 ),そして 家 族 法 上の 自 由 を 剥 奪 する 未 成 年 者 の 収 容 措 置 (FamFG 第 151 条 第 6 号 :BGB 第 1631b 条 , 第 1800 条 , 第 1915条 参 照 )にも 準 用 される 249 。FamFG 第 99 条 第 2 及 び 第 3 項 の 規 定 は, 成 年 者 の 世 話 及 び 収 容 措 置 にも 準 用 される(FamFG第 104 条 第 2 項 )。 反 対 に,これらの 規 定 は, 遺 産 管 理 手 続 における 不 在 当 事 者 のための 補 佐 には 準用 されない(FamFG 第 364 条 )。また,FamFG 第 151 条 第 1 号 , 第 4 号 , 第 7 号 ,そして 第 8 号 が 定める 措 置 には 準 用 されない 250 。(b) 競 合 管 轄FamFG 第 99 条 第 1 項 が 定 める 本 国 管 轄 及 び 常 居 所 地 管 轄 によれば, 外 国 国 家 が 同 様 の 要 件 又はより 厳 格 な 要 件 の 下 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 める 場 合 にも,ドイツ 裁 判 所 との 間 で 競 合 管 轄 が 発 生 しうる。 外 国 において 後 見 事 件 に 関 する 裁 判 手 続 が 係 属 していること 自 体 は,ドイツ 裁 判 所 が 管 轄 権を 行 使 することの 妨 げにはならない。そこで,FamFG 第 99 条 第 2 項 は, 被 後 見 人 の 利 益 のために,ドイツ 裁 判 所 が 管 轄 権 の 行 使 を 差 し 控 えることで 柔 軟 に 対 応 できるようにしている 251 。FamFG 第 99 条 第 2 項 の 第 一 の 要 件 は, 他 国 の 裁 判 所 が 後 見 開 始 命 令 を 行 う 国 際 裁 判 管 轄 をもつことである。その 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 決 定 する 基 準 は,FamFG 第 99 条 第 1 項 及 び 当 該 外 国 の管 轄 ルールの 双 方 である。FamFG 第 99 条 第 1 項 を 基 準 とすることで, 外 国 裁 判 所 が 下 す 後 見 開 始247 1996 年 条 約 第 9 条 「[1] 前 条 第 2 項 の 締 約 国 の 機 関 が, 特 定 の 事 件 について 子 の 最 善 の 利 益 をよりよく 評 価できると 考 える 時 は, 子 の 常 居 所 地 の 存 する 締 約 国 の 管 轄 機 関 に, 直 接 又 はその 国 の 中 央 当 局 の 助 力 の 下 に 必要 と 考 える 保 護 措 置 を 執 るための 管 轄 権 を 行 使 する 許 可 を 求 め, 又 は, 当 事 者 に, 子 の 常 居 所 地 の 存 する 締 約国 の 機 関 に 要 請 を 行 うよう, 促 すことができる。[2] 関 係 諸 機 関 は, 意 見 の 交 換 を 行 うことができる。[3] 要 請 を 行 った 機 関 は, 子 の 常 居 所 地 の 存 する 締 約 国 の 機 関 がその 要 請 を 受 け 入 れた 場 合 に 限 り, 当 該 機 関に 代 わって 管 轄 権 を 行 使 することができる。」248 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 65.249 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 66.250 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 67.251 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 68.5050


命 令 のドイツにおける 承 認 可 能 性 を 確 保 することができる(FamFG 第 109 条 第 1 項 第 1 号 )。 他 方 , 外国 裁 判 所 は, 当 該 国 法 上 の 管 轄 ルールによっても 管 轄 をもつ 必 要 がある(そうでなければ, 競 合 管 轄は 見 せかけに 過 ぎない)。 各 国 法 上 は, 被 後 見 人 の 常 居 所 を 管 轄 原 因 とする 立 法 例 が 多 いため, 当 該 外国 に 常 居 所 地 管 轄 が,ドイツに 本 国 管 轄 が 認 められる 場 合 に 競 合 が 生 ずる 例 が 多 いと 解 される 252 。FamFG 第 99 条 第 2 項 の 第 二 の 要 件 は, 外 国 においてすでに 後 見 開 始 命 令 又 はそれに 相 当 する保 護 措 置 の 開 始 が 命 じられていることである。 後 見 人 が 選 任 されていることまでは 必 要 ない。もっとも, 被 後 見 人 の 利 益 にならない 不 適 切 な 外 国 での 手 続 によって 保 護 の 抜 け 穴 が 生 じないように,場 合 によっては 外 国 裁 判 所 と 直 接 話 し 合 うことが 推 奨 されている 253 。(c) 後 見 開 始 命 令 等 の 差 し 控 えFamFG 第 99 条 第 2 項 に 定 める 場 合 には,BGB 第 1773 条 及 び 第 1774 条 の 規 定 にかかわらず,ドイツにおける 後 見 開 始 命 令 を 差 し 控 えることができる。その 決 定 は, 裁 判 所 の 義 務 に 沿 った 裁 量にゆだねられ, 判 断 基 準 は 唯 一 , 被 後 見 人 の 利 益 の 実 現 である。 外 国 において 被 後 見 人 に 対 して,ドイツ 法 のレベルに 相 当 する 十 分 な 保 護 が 保 証 されている 場 合 には,ドイツにおける 後 見 開 始 命 令を 差 し 控 えることができる。 利 益 考 量 に 際 しては,ドイツと 外 国 で 並 行 して 後 見 事 務 が 行 われた 場合 に 矛 盾 する 判 断 が 生 じうることも 考 慮 要 素 に 入 れるべきであるという 254 。原 則 として, 外 国 での 後 見 がドイツにおいて 承 認 されることが,ドイツでの 後 見 開 始 命 令 を 差し 控 えるための 要 件 となる 255 。 反 対 に, 外 国 での 後 見 によったのでは 被 後 見 人 の 利 益 が 十 分 に 保 護されない 場 合 には, 国 際 裁 判 管 轄 をもつドイツ 裁 判 所 は, 内 国 における 後 見 開 始 を 命 令 する。 内 国裁 判 と 矛 盾 する 外 国 裁 判 の 承 認 は 妨 げられるため(FamFG 第 109 条 第 1 項 第 3 号 ),この 場 合 には 外 国後 見 はドイツにおいて 承 認 されない 256 。なお,ドイツにおいて 後 見 がすでに 開 始 されている 場 合 には,FamFG 第 99 条 第 2 項 ではなく, 同 第 3 項 の 問 題 となる 257 。(3) 外 国 への 後 見 の 引 継 ぎ 又 は 外 国 からの 後 見 の 引 き 受 け(a) 外 国 への 後 見 の 引 継 ぎの 要 件後 見 を 監 督 している 裁 判 所 は,ドイツですでに 開 始 されている 後 見 の 事 務 を, 後 見 開 始 命 令 について 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 国 に 引 き 継 いでもらうことができる。ここでも 当 該 国 の 国 際 裁 判 管 轄 は,ドイツ 法 上 の 管 轄 ルール 及 び 外 国 法 上 の 管 轄 ルールの 双 方 によって 認 められなければならない 258 。252 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 69.253 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 70.254 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 71.255 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 72.256 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 73.257 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 74.258 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 75.5151


後 見 の 外 国 への 引 継 ぎは,それが 被 後 見 人 の 利 益 にかなう 場 合 にのみ 認 められる。 裁 判 所 は,被 後 見 人 の 利 益 について, 義 務 に 沿 った 裁 量 によって 判 断 する。また, 外 国 のほうも 引 継 ぎを 承 諾しなければならない。これは, 必 然 的 に 当 該 国 当 局 との 公 式 又 は 非 公 式 な 話 し 合 いを 前 提 とする 259 。後 見 の 引 継 ぎは, 原 則 として 後 見 人 の 同 意 ( 複 数 の 後 見 人 がいる 場 合 にはその 全 員 の 同 意 )も 要 件とする。ただし,その 同 意 が 得 られない 場 合 には, 当 該 家 庭 裁 判 所 の 控 訴 審 に 当 たる 州 裁 判 所 の 決定 によって 代 えることができる(FamFG 第 99 条 第 3 項 第 2 文 )。 州 裁 判 所 の 決 定 を 取 り 消 すことはできない( 同 第 3 文 ) 260 。(b) 後 見 の 引 継 ぎの 効 果外 国 裁 判 所 に 後 見 を 引 き 継 ぐと,ドイツにおける 後 見 は 終 了 する。その 後 に 改 めてドイツにおける 後 見 開 始 の 必 要 性 が 生 じた 場 合 には, 再 引 き 受 けの 可 能 性 を 別 にすれば, 新 たに 後 見 開 始 命 令を 下 す 必 要 がある 261 。(c) 外 国 で 行 われている 後 見 の 引 き 受 けFamFG 第 99 条 第 3 項 は, 一 方 的 な 外 国 への 後 見 の 引 継 ぎしか 明 文 で 定 めていないが, 解 釈 論上 , 双 方 的 に 適 用 されることが 認 められている。つまり, 外 国 で 行 われている 後 見 は, 同 様 の 要 件の 下 にドイツ 裁 判 所 に 引 き 継 がれる。ドイツ 裁 判 所 は,FamFG 第 99 条 第 1 項 に 従 い 国 際 裁 判 管 轄をもち,しかも 後 見 を 引 き 継 ぐことが 被 後 見 人 の 利 益 にかなう 場 合 にのみ, 後 見 の 引 継 ぎを 承 諾 する。もっとも, 外 国 裁 判 所 が 後 見 を 継 続 する 予 定 がない 場 合 には,これらの 要 件 が 満 たされなくても,ドイツ 裁 判 所 が 後 見 を 引 き 継 ぐことがありうる 262 。D. 血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件1. 規 律 対 象(1) 総 説FamFG 第 100 条 は, 血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 定 めている。 同 条 によれば,血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 については, 子 , 母 , 父 ,あるいは 母 の 妊 娠 時 に 同 衾 していたと 宣 誓 した 男性 がドイツ 人 であるとき 又 はドイツに 常 居 所 をもつとき, 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。 土 地 管 轄 は,FamFG 第 170 条 による。ドイツの 本 国 管 轄 が 認 められ, 当 事 者 のいずれもドイツ 国 内 に 常 居 所 をもたない 場 合 には,ベルリンのシェーネベルク 裁 判 所 が 管 轄 をもつ(FamFG 第 170 条 第 3 項 ) 263 。従 前 は,BGB 旧 第 1600e 条 第 1 項 に 基 づく 父 子 関 係 の 確 定 が ZPO 第 640 条 以 下 に 基 づいていたのに 対 して, 相 手 方 死 亡 後 の BGB 旧 第 1600e 条 第 2 項 に 基 づく 手 続 は, 非 訟 事 件 とされていた。259 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 76.260 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 77.261 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 78.262 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 79.263 Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 12 et seq.5252


それに 対 して,FamFG 制 定 後 は, 血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 は 一 括 して 申 立 手 続 (Antragsverfahren)とされており(FamFG 第 171 条 ),もはや 家 事 事 件 ( 同 第 112 条 )には 分 類 されていない。なお,1997年 親 子 法 によって 嫡 出 子 及 び 非 嫡 出 子 の 区 別 が 撤 廃 されて 以 来 ,ZPO 第 640a 条 第 2 項 においては,国 際 裁 判 管 轄 も 統 一 的 に 規 定 されていた 264 。(2) 適 用 範 囲(a) 事 項 的 適 用 範 囲FamFG 第 100 条 が 対 象 とする 血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 は,FamFG 第 169 条 に 定 める 事 項 に 相 当する。 具 体 的 には,1 親 子 関 係 の 存 否 確 認 , 特 に 父 子 関 係 の 認 知 の 有 効 又 は 無 効 確 認 に 関 する 手 続 ,2DNA 検 査 に 対 する 同 意 に 代 わる 手 続 及 び 試 験 的 採 取 の 承 諾 を 命 ずる 手 続 ,3 親 子 関 係 鑑 定 書 の 閲覧 又 はその 謄 本 の 作 成 に 関 する 手 続 ,そして4 父 子 関 係 の 否 認 に 関 する 手 続 を 指 す。(b) 条 約 上 又 は EU 法 上 の 規 範血 縁 上 の 親 子 関 係 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 定 める EU 規 則 , 多 国 間 又 は 二 国 間 条 約 は 存 在 しない。ブリュッセル IIbis 規 則 ,1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約 ,1996 年 子 の 保 護 条 約 は,いずれも 親 権 ・監 護 権 について 定 めるに 過 ぎず, 親 子 関 係 の 存 否 に 関 する 争 いは 対 象 外 としている 265 。(3) 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定(a) 管 轄 原 因 の 主 体血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 については,FamFG 第 99 条 のように 子 だけを 中 心 に 管 轄 を 決 定 するのではなく,それ 以 外 の 関 係 当 事 者 も 管 轄 原 因 を 基 礎 付 ける 主 体 となる。FamFG 第 100 条 によれば,子 , 母 , 父 ,そして 母 の 妊 娠 時 に 同 衾 していたと 宣 誓 した 男 性 がドイツ 人 であるとき 又 はドイツに常 居 所 をもつときには, 国 際 裁 判 管 轄 が 基 礎 付 けられる。FamFG 第 100 条 にいう 父 母 とは, 準 拠 法 上 (EGBGB 第 19 条 によって 決 定 される) 266 , 父 又 は 母としての 法 的 地 位 をもつ 者 をいう。 本 条 に 基 づく 裁 判 手 続 が 親 子 関 係 の 否 定 を 目 的 としていることは,これらの 管 轄 原 因 を 妨 げない。 反 対 に, 血 縁 上 の 親 子 関 係 に 関 する 申 立 てが 父 子 関 係 又 は 母 子関 係 の 確 定 を 目 的 としている 場 合 には,これらの 者 が 本 条 にいう 父 又 は 母 に 当 たる。 子 を 分 娩 していない 女 性 が 母 子 関 係 の 積 極 的 確 認 又 は 分 娩 に 基 づく 母 子 関 係 の 否 定 を 申 し 立 てる 場 合 にも(BGB264 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 1 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 1.265 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 6; Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 2. ただし, 親 子 関 係 の存 否 に 関 する 手 続 を 行 うための 子 の 代 理 人 として, 補 助 補 佐 人 又 は 後 見 人 が 選 任 される 場 合 には,ブリュッセル IIbis 規 則 及 び 両 ハーグ 条 約 が 適 用 される。266 EGBGB 第 19 条 第 1 項 によれば, 血 縁 に 基 づく 親 子 関 係 は, 原 則 として 子 の 常 居 所 地 法 , 父 又 は 母 の 本 国 法の 選 択 的 連 結 による。 母 が 婚 姻 している 場 合 には, 子 の 出 生 当 時 の 婚 姻 の 身 分 的 効 力 の 準 拠 法 (EGBGB 第 14条 第 1 項 )によることもできる( 子 の 出 生 前 に 婚 姻 が 死 亡 によって 解 消 されている 場 合 には, 婚 姻 解 消 時 のそれを 基 準 とする)。 他 方 , 同 条 第 2 項 によれば, 父 母 が 婚 姻 していない 場 合 には, 母 の 妊 娠 に 基 づく 父 の 責 任 は,母 の 常 居 所 地 法 による。5353


第 1591 条 は,そのような 争 いを 予 定 していない),その 者 が 母 に 当 たる。BGB 第 1600 条 第 1 項 第 2 号 に基 づく 父 子 関 係 否 認 事 件 においては, 母 の 妊 娠 時 に 同 衾 していたと 宣 誓 した 男 性 ,すなわち 生 物 学上 の 父 も, 管 轄 原 因 を 基 礎 付 ける 主 体 となる 267 。(b) ドイツ 国 籍FamFG 第 100 条 にいうドイツ 人 は, 同 第 98 条 第 1 項 第 1 号 及 び 同 第 99 条 第 1 項 第 1 号 にいうドイツ 人 と 同 じ 概 念 によっており,ドイツ 国 籍 をもつ 者 のみならず, 難 民 や 難 民 申 請 者 等 も 含 む。その 者 が 重 国 籍 者 であり,その 一 つがドイツ 国 籍 である 場 合 には, 国 籍 の 実 効 性 を 問 題 とすることなく 端 的 に 管 轄 原 因 となる( 詳 細 は, 上 述 II-A 参 照 ) 268 。(c) ドイツにおける 常 居 所管 轄 原 因 としての 常 居 所 の 概 念 は,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 2 号 及 び 同 第 99 条 第 1 項 第 2 号 と同 じである。 常 居 所 を 管 轄 原 因 とすることで, 母 だけがドイツに 常 居 所 をもつ 場 合 ( 子 の 出 生 後 にドイツに 移 住 してきた 場 合 も 含 む)にも, 外 国 にいる 父 を 相 手 方 として,ドイツで 父 子 関 係 の 存 否 を 争 いうることになり, 父 の 法 的 地 位 を 侵 害 するおそれがある。しかし,これは 1997 年 親 子 法 が 父 子 関 係に 関 しても 母 を 独 立 の 当 事 者 と 見 ていることの 帰 結 であり, 現 行 法 上 は 致 し 方 ないとされる 269 。(c) 限 定 列 挙 及 び 専 属 管 轄 の 否 定FamFG 第 100 条 の 管 轄 原 因 は, 限 定 列 挙 であり,それ 以 外 の 管 轄 原 因 は 認 められない 270 。外 国 人 当 事 者 の 本 国 や 準 拠 法 所 属 国 におけるドイツ 決 定 の 承 認 可 能 性 は 問 題 とされない。 解 釈論 上 , 不 便 宜 法 廷 地 (forum non conveniens)の 法 理 を 認 める 学 説 もあるが, 支 持 は 得 ていない 271 。FamFG 第 100 条 は, 子 の 保 護 の 必 要 性 に 基 づく 管 轄 (FamFG 第 99 条 第 1 項 第 2 号 第 2 文 参 照 )を 認 めていないが, 無 国 籍 の 子 又 はドイツに 居 所 をもつ 子 については, 保 護 の 必 要 性 が 存 する 場 合 もありうるため, 緊 急 管 轄 の 可 能 性 は 肯 定 されている 272 。血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 について 合 意 管 轄 が 否 定 されること,また 手 続 開 始 時 に 管 轄 原 因 事 実 が失 われた 場 合 にも 管 轄 の 継 続 が 認 められることは, 他 の 家 事 事 件 と 同 様 である。 特 に 血 縁 上 の 親 子関 係 は, 親 権 ・ 監 護 権 等 に 関 する 親 子 事 件 のように 動 的 ではなく, 静 的 に 過 去 の 時 点 における 実 体法 上 の 要 件 を 審 査 すれば 足 りるため, 子 の 福 祉 に 配 慮 して 管 轄 の 継 続 を 制 限 する 必 要 はない。 管 轄原 因 が 専 属 的 ではなく 競 合 管 轄 が 認 められることも, 他 の 家 事 事 件 と 共 通 する(FamFG 第 106 条 ) 273 。267 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 8 et seq.268 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 13 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 3 et seq.269 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 15 et seq. Rauscher は,この 場 合 にも FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4号 の 場 合 と 同 様 に,ドイツ 裁 判 の 外 国 における 承 認 可 能 性 を 要 件 とすべきことを 提 唱 している。270 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 18. 従 前 は,ZPO 第 640a 条 第 2 項 の 管 轄 原 因 に 加 えて, 土 地 管轄 に 関 する 規 定 も 準 用 できるとする 見 解 もあったが, 現 行 法 上 は 否 定 されている。271 Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 8 et seq.272 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 19; Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 1.273 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 21 et seq.5454


E. 養 子 縁 組 事 件1. 総 説FamFG 第 101 条 は,ドイツ 裁 判 所 の 養 子 縁 組 事 件 (FamFG 第 186 条 以 下 参 照 )に 関 する 国 際 裁判 管 轄 を 定 めている 274 。この 規 定 によれば, 養 親 , 夫 婦 共 同 養 子 縁 組 の 養 親 の 一 人 ,あるいは 子 がドイツ 人 であるとき 又 はドイツに 常 居 所 をもつ 場 合 に, 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。外 国 法 に 基 づく 養 子 縁 組 については, 外 国 法 に 基 づく 養 子 縁 組 の 効 果 に 関 する 法 律 (AdWirkG)第 5 条 第 1 項 に 従 い 土 地 管 轄 が 集 中 されており, 原 則 として, 各 州 上 級 裁 判 所 の 管 区 ごとに 一 つの家 庭 裁 判 所 が 管 轄 をもつことと 定 められている( 後 掲 ・ 条 文 訳 参 照 ) 275 。なお, 養 子 縁 組 事 件 については, 従 前 は 後 見 裁 判 所 が 職 分 管 轄 をもっていたが,FamFG の 制 定に 伴 い, 家 庭 裁 判 所 ( 区 裁 判 所 の 家 事 部 )に 移 管 されている。2. 適 用 範 囲(1) 事 項 的 適 用 範 囲FamFG 第 101 条 は, 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 だけではなく, 成 年 者 との 養 子 縁 組 も 対 象 とする 276 。同 条 にいう 養 子 縁 組 事 件 には,FamFG 第 186 条 第 1~ 第 3 号 に 定 める 事 項 が 含 まれる。すなわち,1 子 との 養 子 縁 組 に 関 する 手 続 (FamFG 第 186 条 第 1 号 ),2 子 との 養 子 縁 組 への 同 意 に 代 わる 決 定に 関 する 手 続 ( 同 第 2 号 ),そして,3 離 縁 に 関 する 手 続 ( 同 第 3 号 )である。 体 系 上 は,FamFG 第101 条 は, 養 子 縁 組 親 族 の 婚 姻 障 碍 の 除 去 ( 同 第 4 号 )をも 対 象 とするが,この 点 は 後 述 する。1~3には, 養 子 縁 組 について 家 庭 裁 判 所 がとるあらゆる 措 置 が 含 まれる。 具 体 的 には,ドイツ 実 質 法 上 ,1に 該 当 するのは, 家 庭 裁 判 所 による 未 成 年 者 の 養 子 縁 組 決 定 (BGB 第 1752 条 ) 及 び成 年 者 の 養 子 縁 組 決 定 (BGB 第 1767 条 第 2 項 , 第 1768 条 )である。また,2に 該 当 するのは, 後 見人 又 は 補 佐 人 が 理 由 なく 養 子 縁 組 への 同 意 を 拒 否 したときの 同 意 に 代 わる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 (BGB第 1746 条 第 3 項 ), 一 方 の 親 の 同 意 に 代 わる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 (BGB 第 1748 条 ), 配 偶 者 の 同 意 に 代わる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 (BGB 第 1749 条 第 1 項 ), 成 年 者 の 養 子 縁 組 への 準 用 及 び 登 録 パートナーの 同意 に 代 わる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 (BGB 第 1767 条 第 2 項 )である。そのほか, 養 子 縁 組 に 関 する 個 人 情報 の 非 開 示 命 令 (BGB 第 1758 条 第 2 項 第 2 文 ), 子 の 氏 名 に 関 する 決 定 (BGB 第 1757 条 第 2・ 第 4 項 〔 未成 年 養 子 〕, 第 1767 条 第 2 項 〔 成 年 養 子 への 準 用 〕, 第 1765 条 〔 離 縁 後 の 子 の 氏 〕),そして 後 見 事 務 の 遂 行(BGB 第 1751 条 第 1 項 第 2 文 )も 養 子 縁 組 事 件 に 含 まれる。3にいう 離 縁 に 関 する 手 続 (BGB 第 1760条 , 第 1763 条 , 第 1771 条 , 第 1772 条 第 2 項 )も 養 子 縁 組 事 件 の 対 象 となる 277 。それに 対 して, 一 方 親 による 養 子 縁 組 への 同 意 が 効 力 を 失 った 場 合 の 監 護 権 の 移 転 (BGB 第 1751条 第 3 項 , 第 1764 条 第 4 項 )は,FamFG 第 101 条 ではなく, 第 99 条 の 問 題 となる。また, 養 子 縁 組274 この 規 定 は, 従 前 の 非 訟 事 件 手 続 法 第 43b 条 第 1 項 第 1 文 に 相 当 する。275 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 1 et seq.276 Zöller/Geimer, op.cit., § 101, Rn. 1.277 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 4.5555


を 契 機 とする 又 はその 準 備 のための 監 護 権 に 関 する 決 定 ( 子 の 養 子 縁 組 への 同 意 のための 後 見 人 又 は 補佐 人 の 選 任 など)に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 も,FamFG 第 99 条 ,あるいはそれに 優 先 するブリュッセルIIbis 規 則 又 は 1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約 ないし 1996 年 子 の 保 護 条 約 による 278 。(2) 外 国 準 拠 法 に 基 づく 養 子 縁 組外 国 法 が 養 子 縁 組 の 準 拠 法 となる 場 合 (EGBGB 第 22 条 ) 279 には, 国 際 裁 判 管 轄 は, 機 能 的 にFamFG 第 186 条 に 定 める 家 庭 裁 判 所 の 措 置 に 相 当 するあらゆる 措 置 を 対 象 とする。そこには,ドイツ 実 体 法 が 知 らない 措 置 ,たとえば 養 子 縁 組 障 碍 の 排 除 や 特 定 の 養 子 縁 組 要 件 の 確 定 なども 含 まれる。 従 前 の 実 務 においては, 養 子 縁 組 に 関 するかぎり, 当 該 外 国 法 上 の 制 度 があまりにドイツの 制度 と 異 なり 家 庭 裁 判 所 が 対 応 できないことを 理 由 に, 管 轄 が 否 定 された 例 はない。むしろドイツ 裁判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 をもち,EGBGB 第 22 条 によって 外 国 法 が 準 拠 法 として 指 定 される 場 合 には,可 能 なかぎり, 外 国 準 拠 実 体 法 上 の 要 請 に 適 応 すべきであると 解 されている 280 。養 子 縁 組 事 件 について 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 される 場 合 に, 外 国 準 拠 法 が 契 約 型 の 養 子 縁 組 を 予定 しているときにもドイツ 裁 判 所 が 決 定 によって 養 子 縁 組 を 行 ってよいかどうかは 問 題 となる。 多数 説 によれば,これは 養 子 縁 組 の 方 法 及 び 要 件 の 問 題 であるため,EGBGB 第 22 条 が 指 定 する 準 拠法 に 従 う( 国 際 私 法 の 問 題 であり, 国 際 民 事 手 続 法 の 問 題 ではない)。そして, 養 子 縁 組 の 準 拠 法 が, 契約 型 養 子 縁 組 を 行 うために 裁 判 所 の 関 与 ( 許 可 など)を 予 定 している 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 はその措 置 を 取 ることができる。それに 対 して, 養 子 縁 組 の 準 拠 法 が 裁 判 所 の 関 与 を 全 く 予 定 していない場 合 には,ドイツ 裁 判 所 は 裁 判 権 を 行 使 することはできない。ただし, 裁 判 所 の 関 与 なしに 行 われる 養 子 縁 組 が 具 体 的 事 案 において 公 序 に 反 する(EGBGB 第 6 条 ) 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 は, 欠 缺補 充 のために BGB 第 1752 条 第 1 項 を 適 用 して 縁 組 決 定 を 下 すと 解 されている 281 。養 子 縁 組 の 準 拠 法 が 養 子 縁 組 を 知 らない 場 合 にも,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 は 認 められる。そして,当 事 者 のドイツ 国 籍 又 はドイツにおける 常 居 所 に 基 づいて 十 分 な 内 国 牽 連 性 があり,その 準 拠 法 の適 用 が 公 序 に 反 する 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 は, 欠 缺 補 充 のためにドイツ 法 を 適 用 して 縁 組 決 定 をする。 子 又 は 養 親 の 本 国 がその 養 子 縁 組 を 承 認 しないことは, 管 轄 権 を 行 使 する 妨 げにはならない 282 。278 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 5.279 EGBGB 第 22 条 第 1 項 によれば, 養 子 縁 組 は, 原 則 として 養 親 の 縁 組 当 時 の 本 国 法 による。 一 方 配 偶 者 又 は夫 婦 双 方 による 養 子 縁 組 は, 第 14 条 第 1 項 が 定 める 婚 姻 の 身 分 的 効 力 の 準 拠 法 による。 同 第 2 項 によれば, 養子 縁 組 の 効 果 としての 養 親 子 関 係 及 び 実 親 子 関 係 は, 第 1 項 に 定 める 準 拠 法 による。 同 第 3 項 によれば, 養 親死 亡 後 の 相 続 関 係 については, 相 続 人 が 終 意 処 分 においてその 旨 を 定 め, 相 続 の 準 拠 法 がドイツ 法 である 場 合には, 配 偶 者 又 は 親 族 と 養 子 との 関 係 は, 第 1 項 及 び 第 2 項 に 定 める 法 いかんにかかわらず,ドイツ 法 によって 決 定 される(ただし, 養 子 が 縁 組 当 時 に 満 18 歳 に 達 していた 場 合 にはその 限 りではない)。280 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 6.281 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 7 et seq.282 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 9.5656


(3) FamFG 第 186 条 第 4 号 に 基 づく 措 置FamFG 第 186 条 第 4 号 は,BGB 第 1308 条 第 1 項 に 定 める 縁 組 親 族 の 婚 姻 障 碍 の 除 去 に 関 する手 続 を 定 めている。 体 系 上 は,FamFG 第 101 条 による 国 際 裁 判 管 轄 は, 縁 組 親 族 の 婚 姻 障 碍 の 除 去も 対 象 とするが, 立 法 政 策 としては 疑 問 であり, 立 法 の 不 備 であると 指 摘 されている。すなわち,婚 姻 障 碍 の 除 去 は, 養 子 法 と 関 係 するが, 実 際 には 婚 姻 の 実 質 的 成 立 要 件 の 問 題 であり, 各 当 事 者の 本 国 法 によって 判 断 される(EGBGB 第 13 条 第 1 項 )。 従 来 の 多 数 説 は, 縁 組 親 族 の 婚 姻 障 碍 の 除 去も 各 当 事 者 の 本 国 が 判 断 することしていたが, 近 時 は, 婚 約 者 双 方 がドイツ 国 内 に 常 居 所 をもつ 場合 には, 保 護 のための 管 轄 又 は 常 居 所 地 管 轄 を 根 拠 として(FGG 旧 第 43 条 第 1 項 及 び 旧 第 35 条 第 1 項第 2 号 類 推 適 用 ), 管 轄 を 肯 定 する 見 解 も 有 力 になっていた 283 。一 つの 見 解 によれば,ドイツ 法 が 一 方 当 事 者 の 婚 姻 の 実 質 的 成 立 要 件 の 準 拠 法 であり,BGB 第1308 条 第 1 項 に 基 づいて 婚 姻 障 碍 を 除 去 すべき 場 合 には,FamFG 第 101 条 に 基 づいてドイツ 裁 判 所が 管 轄 をもつという。 他 方 , 外 国 法 に 基 づく 縁 組 親 族 の 婚 姻 障 碍 を 除 去 する 場 合 には,FamFG 第 99条 第 1 項 第 2・ 第 3 号 及 び 第 101 条 第 2 号 の 包 括 的 な 類 推 適 用 によって, 一 方 婚 約 者 がドイツに 常居 所 をもつ 又 は 例 外 的 に 保 護 の 必 要 性 がある 場 合 ( 内 国 での 婚 姻 挙 行 の 予 定 , 本 国 の 無 管 轄 など)には,ドイツ 裁 判 所 が 管 轄 をもつという 284 。(4) EU 法 及 び 条 約ブリュッセル IIbis 規 則 は, 親 権 ・ 監 護 権 について 規 律 するだけである。 唯 一 , 養 子 縁 組 の 前 提となる 監 護 権 に 関 する 事 件 ( 補 佐 人 又 は 後 見 人 の 選 任 )に 適 用 されるに 過 ぎない。1961 年 未 成 年 者 保護 条 約 及 び 1996 年 子 の 保 護 条 約 は, 養 子 縁 組 には 適 用 されず,ただその 前 提 となる 監 護 権 に 関 する事 件 ( 補 佐 人 又 は 後 見 人 の 選 任 )に 適 用 されるに 過 ぎない。1965 年 11 月 15 日 ハーグ 養 子 縁 組 条 約 は, 養 子 縁 組 に 関 する 直 接 管 轄 は 定 めておらず, 外 国 で下 された 養 子 縁 組 決 定 の 承 認 について 定 めるに 過 ぎない。 外 国 裁 判 所 の 間 接 管 轄 については, 同 条約 第 3 条 に 規 定 がある 285 。 他 方 ,1993 年 5 月 29 日 「 国 際 養 子 縁 組 に 関 する 子 の 保 護 及 び 協 力 に 関するハーグ 条 約 」は, 国 境 を 越 えた 養 子 縁 組 に 関 する 行 政 協 力 を 中 心 とする 条 約 である。1993 年 条約 第 2 条 第 1 項 は, 本 条 約 の 場 所 的 適 用 範 囲 について,「ある 締 約 国 ( 出 身 国 )に 常 居 所 を 有 する 子が, 出 身 国 において 他 の 締 約 国 ( 受 入 国 )に 常 居 所 を 有 する 夫 婦 又 は 単 身 者 と 縁 組 をした 後 に, 又283 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 10.284 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 10. ラウシャーによれば,BGB 第 1308 条 第 2 項 に 基 づく 婚 姻 障碍 の 除 去 は 縁 組 姻 族 との 関 係 でのみ 問 題 となるため, 養 親 の 一 方 がドイツに 常 居 所 をもつことを 根 拠 として 管轄 を 認 めると,おかしな 結 論 になるという。285 1965 年 ハーグ 養 子 縁 組 条 約 第 3 条「[1] 養 子 縁 組 の 成 立 を 認 める 裁 判 (その 他 の 処 分 )につき 管 轄 権 を 有 する 機 関 は 左 の 通 りとする。一 単 独 で 養 親 となる 者 が 常 居 所 を 有 する 国 の 機 関 ,または, 夫 婦 で 養 親 になろうとする 場 合 には,その 夫 婦がいずれも 常 居 所 を 有 する 国 の 機 関二 単 独 で 養 親 となる 者 が 国 籍 を 有 する 国 の 機 関 ,または, 夫 婦 で 養 親 になろうとする 場 合 には,その 夫 婦 が共 通 の 国 籍 を 有 する 国 の 機 関[2] 常 居 所 および 国 籍 に 関 する 諸 要 件 は, 本 条 に 定 める 機 関 に 申 立 がなされた 時 においても,また,その 機 関が 養 子 縁 組 の 成 立 を 認 める 裁 判 (その 他 の 処 分 )をするに 際 しても, 充 たされていなければならない。」5757


は 受 入 国 若 しくは 出 身 国 においてこのような 縁 組 をするために, 受 入 国 に 移 動 を 終 え, 現 に 移 動 し,又 は 移 動 しようとする 場 合 に 適 用 する」と 定 めている。それによれば, 養 子 縁 組 自 体 が 養 子 の 出 身国 と 養 親 による 受 入 国 のいずれにおいて 行 われるかは 規 定 しておらず, 国 際 裁 判 管 轄 及 び 準 拠 法 の決 定 について 各 締 約 国 の 判 断 にゆだねている。そのほか,1964 年 4 月 24 日 ヨーロッパ 評 議 会 養 子 縁 組 条 約 は, 実 質 法 を 対 象 とする。 養 子 縁組 の 国 際 裁 判 管 轄 について 規 律 している 二 国 間 条 約 は 存 在 しない 286 。3. 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定(1) 基 準 となる 主 体FamFG 第 101 条 は, 同 第 99 条 及 び 第 100 条 と 同 じ 管 轄 原 因 によっている。 基 準 となる 主 体 は,単 独 養 親 , 養 親 となる 夫 婦 の 一 方 ,そして 子 のいずれかであり, 選 択 的 に 適 用 される。ドイツの 国際 裁 判 管 轄 は,これらの 者 のいずれかがドイツ 国 籍 又 はドイツに 常 居 所 をもつだけで 要 件 が 充 足 される。 連 れ 子 養 子 の 場 合 ,FamFG 第 101 条 の 文 言 上 は, 実 親 がドイツ 国 籍 又 はドイツに 常 居 所 をもっていても 要 件 は 充 足 されない( 実 親 の 配 偶 者 又 は 登 録 パートナーだけが 養 親 に 当 たるため)。しかし,利 害 関 係 は 夫 婦 共 同 養 子 縁 組 の 場 合 と 共 通 するため, 第 101 条 を 類 推 適 用 し, 実 親 のドイツ 国 籍 又はドイツの 常 居 所 を 管 轄 原 因 とすることが 提 唱 されている 287 。(2) 管 轄 原 因管 轄 原 因 としての「ドイツ 人 」(FamFG 第 101 条 第 1 号 ) 及 び「ドイツにおける 常 居 所 」( 同 第 2号 )は, 各 々 第 99 条 及 び 第 100 条 の 概 念 と 一 致 する。(3) 限 定 列 挙 及 び 専 属 管 轄 の 否 定FamFG 第 101 条 に 定 める 管 轄 原 因 は, 限 定 列 挙 であり,それ 以 外 の 管 轄 原 因 を 援 用 することはできない。FamFG 第 99 条 第 1 項 第 3 号 のような 保 護 の 必 要 性 に 基 づく 管 轄 は 認 められない。いずれの 当 事 者 もドイツ 国 籍 又 はドイツに 常 居 所 をもっていないとき,ドイツが 養 子 縁 組 を 行 う 必 要 性があるケースはほとんど 想 定 されないうえ, 縁 組 決 定 を 下 しても 外 国 で 承 認 されず, 跛 行 的 法 律 関係 が 発 生 するからである。ドイツ 法 が 養 子 縁 組 の 準 拠 法 となることも, 管 轄 原 因 とはならない 288 。ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 は 専 属 的 ではなく, 外 国 裁 判 所 の 管 轄 と 競 合 する(FamFG 第 106 条 )。 外 国裁 判 所 が 管 轄 をもつことは,それが 外 国 法 上 は 専 属 管 轄 であっても,ドイツ 裁 判 所 が 裁 判 権 を 行 使する 妨 げにはならない 289 。286 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 11 et seq.287 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 14. FamFG 第 101 条 は, 登 録 パートナーには 言 及 していないが,おそらくそれはドイツ 実 質 法 上 , 登 録 パートナーが 共 同 養 子 縁 組 をなし 得 ないことにあると 解 される。もっとも,ドイツ 実 質 法 上 も, 登 録 パートナーが 連 れ 子 養 子 をすることは 可 能 である( 登 録 パートナーシップ 法 第 9条 第 7 項 )。288 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 18 et seq.289 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 21. ただし,ドイツの 学 説 上 は, 解 釈 論 上 フォーラム・ノン・5858


(4) 管 轄 の 継 続養 子 縁 組 事 件 については, 基 本 的 に 親 子 事 件 と 同 様 に, 管 轄 の 継 続 に 慎 重 さが 要 求 される。FamFG 第 101 条 は, 養 子 だけではなく, 養 親 も 管 轄 原 因 の 主 体 としているため, 子 の 福 祉 の 実 現 だけを 制 度 趣 旨 とするわけではないが, 子 の 常 居 所 がドイツから 他 国 に 移 転 した 場 合 には,ドイツが縁 組 決 定 を 行 っても 子 の 常 居 所 地 国 が 承 認 しない 可 能 性 がある。それゆえ, 多 数 説 は, 管 轄 の 継 続を 認 めるか 否 かは, 事 案 ごとに 諸 要 素 を 勘 案 して 決 定 するとしている 290 。F. 年 金 分 割 事 件1. 総 説FamFG 第 102 条 は, 離 婚 事 件 の 附 帯 処 分 ではなく, 独 立 に 年 金 分 割 請 求 がなされた 場 合 の 国 際裁 判 管 轄 について 定 めている。 従 前 は, 年 金 分 割 事 件 が 離 婚 の 必 要 的 附 帯 処 分 とされていたため,独 立 の 管 轄 原 因 を 定 める 規 定 が 存 在 せず, 欠 缺 補 充 について 見 解 が 分 かれていた。 連 邦 通 常 裁 判 所は,1 婚 姻 事 件 の 附 帯 処 分 に 関 する 規 定 を 類 推 適 用 するとしていた(ZPO 旧 第 606a 条 第 1 項 第 1 号 :一 方 配 偶 者 の 国 籍 も 管 轄 原 因 とされていた) 291 。それに 対 して, 学 説 上 は,2 附 帯 処 分 としての 請 求 ではないこと 理 由 に, 非 訟 事 件 に 関 する 規 定 (FGG 旧 第 45 条 )を 類 推 適 用 する 説 ,あるいは,3 年 金分 割 事 件 が 一 方 では 夫 婦 財 産 事 件 に, 他 方 では 扶 養 事 件 に 類 似 する 二 重 の 性 質 をもつことを 理 由 に,ZPO 第 12 条 , 第 13 条 , 第 23 条 ,そして 第 23a 条 による 説 があった 292 。FamFG 第 102 条 によれば,ドイツ 裁 判 所 は,(a) 請 求 者 又 は 相 手 方 がドイツに 常 居 所 をもつとき( 第 1 号 ),(b) 内 国 における 年 金 期 待 権 について 判 断 するとき( 第 2 号 ),あるいは(c)ドイツ 裁 判 所 が離 婚 判 決 を 下 したとき( 第 3 号 )に 管 轄 をもつ。 立 法 者 は,FamFG 第 102 条 を 制 定 するに 当 たって,婚 姻 事 件 に 関 する 管 轄 ルールの 準 用 を 否 定 した。 特 に 一 方 配 偶 者 の 国 籍 だけを 管 轄 原 因 とするのは,過 剰 管 轄 につながるとして 否 定 し 293 , 基 本 的 には3 説 の 立 場 に 従 っている。ただし, 外 国 における年 金 期 待 権 の 分 割 は 離 婚 とは 独 立 に 判 断 されることが 多 いが, 外 国 裁 判 所 が 年 金 分 割 請 求 を 認 めるか 否 かは 分 からないため,FamFG 第 102 条 第 3 号 は,ドイツ 裁 判 所 が 離 婚 判 決 を 下 した 場 合 には,事 後 的 に 年 金 分 割 事 件 についても 管 轄 をもつと 定 めている。それによって,「 管 轄 の 継 続 」 原 則 によってはドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められないケースも(EGBGB 第 17 条 第 3 項 第 2 号 に 定 める 離 婚 判 決 後の 年 金 分 割 請 求 など 294 ),FamFG 第 102 条 第 3 号 によって 救 済 される 295 。コンヴィーニエンスの 法 理 を 採 用 し, 外 国 におけるドイツ 養 子 縁 組 決 定 の 承 認 可 能 性 が 否 定 される 場 合 には,管 轄 権 を 行 使 すべきではないという 見 解 もある。Rauscher は, 特 に 第 三 世 界 の 国 籍 をもつ 子 がドイツに 常 居 所をもっていない 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 は 管 轄 権 を 行 使 すべきではないとし,フォーラム・ノン・コンヴィーニエンスの 法 理 ではなく, 権 利 保 護 の 必 要 性 に 鑑 みて 管 轄 権 の 有 無 を 判 断 すべきことを 根 拠 としている。290 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 101 FamFG, Rn. 22.291 BGHZ 75, 241; BGH FamRZ 1993, 176.292 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 1.293 Zöller/Geimer, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 1.294 EGBGB 第 17 条 第 3 項 第 1 文 によれば, 年 金 分 割 請 求 の 準 拠 法 は, 原 則 として 離 婚 裁 判 係 属 時 の 婚 姻 の 身 分的 効 力 の 準 拠 法 による。 年 金 分 割 請 求 は,それによってドイツ 法 が 指 定 され,しかも 夫 婦 双 方 の 離 婚 裁 判 係 属時 の 本 国 法 の 一 つが 年 金 分 割 請 求 制 度 をもっている 場 合 にのみ 遂 行 される。 同 第 2 文 によれば,それ 以 外 の 場5959


2. 国 際 裁 判 管 轄 ルール(1) 適 用 範 囲(a) 事 項 的 適 用 範 囲FamFG 第 102 条 の 事 項 的 適 用 範 囲 は, 同 第 217 条 に 定 める「 年 金 分 割 に 関 する 手 続 を 対 象 とする 事 件 」である。 夫 婦 間 のみならず, 登 録 パートナー 間 の 年 金 分 割 請 求 にも 適 用 される 296 。附 帯 処 分 として 年 金 分 割 が 請 求 される 場 合 には,FamFG 第 98 条 第 2 項 に 従 ってドイツ 裁 判 所の 管 轄 が 認 められる。この 管 轄 原 因 は, 年 金 分 割 事 件 を 附 帯 処 分 として 手 続 が 開 始 され, 後 に 手 続が 分 離 された 場 合 にも, 管 轄 の 継 続 を 認 める。それゆえ,FamFG 第 102 条 は, 独 立 の 年 金 分 割 事 件 ,特 に1 外 国 で 離 婚 がなされた 後 に 年 金 分 割 請 求 がなされる 場 合 ,2 事 後 的 に EGBGB 第 17 条 第 3 項に 基 づいて 年 金 分 割 請 求 がなされる 場 合 ,3 年 金 分 割 法 第 19 条 ~ 第 26 条 に 基 づく 年 金 分 割 請 求 ,4 従 前 の 離 婚 事 件 において 留 保 されていた 債 務 法 上 の 年 金 分 割 請 求 ,そして5 年 金 分 割 法 第 48 条 以下 の 移 行 規 定 に 基 づく 手 続 について 適 用 される 297 。(b) EU 法 及 び 条 約EU 法 上 , 年 金 分 割 請 求 について 直 接 定 めている 規 範 はまだない。ブリュッセル IIbis 規 則 は,夫 婦 財 産 制 に 関 する 事 項 を 適 用 対 象 外 としている( 第 1 条 第 1 項 a 号 )。しかし, 将 来 の 夫 婦 財 産 制 に関 する EU 規 則 及 び 登 録 パートナーシップ 財 産 制 に 関 する EU 規 則 においては, 年 金 分 割 請 求 をその 適 用 対 象 として 明 記 すべきであると 指 摘 されている。 現 行 法 上 は,ブリュッセル IIbis 規 則 によって 離 婚 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる 場 合 には,FamFG 第 98 条 第 2 項 に 基 づいて 附 帯 処 分 としての 年 金 分 割 請 求 にも 管 轄 が 拡 張 される( 上 述 III-A-3 参 照 )。(2) 管 轄 原 因(a) 常 居 所FamFG 第 102 条 第 1 号 によれば, 申 立 人 又 は 相 手 方 がドイツに 常 居 所 をもつ 場 合 には, 国 際 裁判 管 轄 が 認 められる( 常 居 所 概 念 については, 上 述 III-A 参 照 )。この 国 際 裁 判 管 轄 は, 外 国 において 発生 した 年 金 期 待 権 であって, 附 帯 処 分 としての 年 金 分 割 請 求 権 に 算 入 すべきであった 部 分 にも 及 ぶ。つまり, 本 号 の 国 際 裁 判 管 轄 の 範 囲 は,EGBGB 第 17 条 第 3 項 第 1 文 の 規 定 ( 職 権 による 年 金 分 割 )又 は 第 2 文 の 規 定 ( 申 立 てによる 年 金 分 割 )と 平 仄 を 合 わせている 298 。合 には, 年 金 分 割 は, 一 方 配 偶 者 の 申 立 てにより, 他 方 配 偶 者 が 婚 姻 期 間 中 に 内 国 において 年 金 期 待 権 を 取 得したとき( 第 2 文 第 1 号 ),あるいは 婚 姻 の 身 分 的 効 力 が 婚 姻 期 間 中 の 一 部 において, 年 金 分 割 を 認 める 外 国 法に 服 しているときであって( 同 第 2 号 ),その 実 行 が 双 方 の 経 済 関 係 に 鑑 みてドイツ 以 外 の 地 で 過 ごした 期 間 を算 入 することが 衡 平 の 原 則 に 反 しないとき,ドイツ 法 に 基 づいて 認 められる。295 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 1 et seq.296 Zöller/Geimer, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 3.297 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 4.298 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 7.6060


(b) ドイツにおける 年 金 期 待 権FamFG 第 102 条 第 2 号 によれば,ドイツ 裁 判 所 は, 内 国 における 年 金 期 待 権 (Inländische Anrechte)について 判 断 すべき 場 合 に 管 轄 をもつ。これは,EGBGB 第 17 条 第 3 項 第 2 文 第 1 号 にいう「 内 国における 年 金 期 待 権 」(Inländische Versorgungsanwartschaft)( 申 立 てによる 年 金 分 割 請 求 )に 相 当 する 299 。問 題 は,FamFG 第 102 条 第 2 号 に 基 づく 管 轄 が,1 専 ら 内 国 における 年 金 期 待 権 を 争 う 場 合 にだけ 妥 当 するのか,あるいは,2 内 国 における 年 金 期 待 権 に 加 えて, 外 国 における 年 金 期 待 権 も 分割 請 求 の 対 象 となっている 場 合 にも 妥 当 するのかという 点 である。これは,EGBGB 第 17 条 第 3 項第 2 文 第 1 号 の 申 立 てによる 年 金 分 割 請 求 が, 内 国 における 年 金 期 待 権 だけを 対 象 とするのか,あるいは 外 国 における 年 金 期 待 権 も 包 括 するのかという 議 論 とも 共 通 する。もっとも, 管 轄 が 問 題 となるのは,EGBGB 第 17 条 第 3 項 第 2 文 の 場 合 に 限 られない。むしろ,ドイツには FamFG 第 102条 第 2 号 に 基 づく 管 轄 しか 存 しないが,EGBGB 第 17 条 第 3 項 第 1 文 に 基 づいて, 職 権 で 包 括 的 な年 金 分 割 が 行 われるべき 場 合 もある。この 場 合 に, 管 轄 の 欠 缺 が 生 じないようにするためには,FamFG 第 102 条 第 2 号 に 基 づく 管 轄 を 内 国 における 年 金 期 待 権 に 限 定 すべきではない。むしろ, 一旦 ドイツの 管 轄 が 肯 定 されれば,その 判 断 の 対 象 となる 事 項 は, 専 ら EGBGB 第 17 条 第 3 項 によって 決 定 されるという 300 。(c) ドイツ 裁 判 所 による 離 婚FamFG 第 102 条 第 3 号 によれば,ドイツ 裁 判 所 が 離 婚 判 決 を 下 した 場 合 には, 独 立 の 年 金 分 割請 求 についても 国 際 裁 判 管 轄 をもつ。 規 定 の 目 的 に 照 らせば, 特 に 対 象 となるのは, 外 国 における年 金 期 待 権 が 離 婚 の 附 帯 処 分 としての 年 金 分 割 において 参 入 されていなかったため, 事 後 的 に( 通常 は 債 務 法 上 の) 年 金 分 割 請 求 がなされる 場 合 である。もっとも,それに 限 定 されず,ドイツ 裁 判 所が 離 婚 判 決 を 下 した 場 合 には, 第 3 号 に 定 める 管 轄 原 因 が, 事 後 的 に EGBGB 第 17 条 第 3 項 に 基 づいて 年 金 分 割 が 行 われるあらゆる 場 合 に 妥 当 する。なお, 年 金 分 割 請 求 が 離 婚 事 件 の 附 帯 処 分 として 係 属 しており, 事 後 的 に 分 離 されたに 過 ぎない 場 合 には,FamFG 第 98 条 第 2 項 の 規 定 に 従 う 301 。(d) 限 定 列 挙 及 び 専 属 管 轄 の 否 定FamFG 第 102 条 は, 附 帯 処 分 ではない 独 立 の 年 金 分 割 請 求 事 件 について, 管 轄 原 因 を 限 定 列 挙しており,それ 以 外 の 管 轄 原 因 は 認 められない。この 規 定 は, 従 前 の 判 例 と 異 なって, 一 方 配 偶 者のドイツ 国 籍 だけに 基 づく 管 轄 (FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 参 照 )を 否 定 することを 主 な 目 的 としていた。それゆえ,ドイツ 法 上 年 金 分 割 請 求 権 が 認 められること,あるいは EGBGB 第 17 条 第 3 項 第2 文 第 2 号 ( 婚 姻 期 間 中 の 一 時 期 , 婚 姻 の 身 分 的 効 力 の 準 拠 法 がドイツ 法 であったこと)によって 申 立 てに299 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 9.300 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 10.301 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 11.6161


基 づく 年 金 分 割 請 求 権 が 認 められることをもって, 直 ちに 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 されるわけではない。さらに,ZPO 上 の 一 般 的 な 管 轄 ルールの 援 用 , 特 に 合 意 管 轄 も 排 除 されている 302 。FamFG 第 102 条 の 管 轄 は 専 属 的 ではなく, 外 国 裁 判 所 の 管 轄 と 競 合 する(FamFG 第 106 条 参 照 )。(e) 管 轄 の 継 続訴 訟 係 属 後 に 管 轄 原 因 事 実 が 失 われた 場 合 に, 管 轄 が 継 続 するか 否 かは,その 性 質 上 ,FamFG第 102 条 第 1 号 についてしか 問 題 とならない。 訴 訟 係 属 時 にドイツに 常 居 所 を 有 していた 一 方 配 偶者 が,その 後 口 頭 弁 論 終 結 前 に 外 国 に 常 居 所 を 移 した 場 合 には,ZPO 第 261 条 第 3 項 第 2 号 に 基 づいてドイツ 裁 判 所 の 管 轄 は 係 属 する。 年 金 分 割 請 求 は, 財 産 法 的 性 格 が 強 いため,FamFG 第 99 条や 第 101 条 のような 権 利 保 護 の 要 請 は 働 かないと 解 されている 303 。G. 登 録 パートナーシップ 事 件1. 総 説FamFG 第 103 条 は, 登 録 パートナーシップ 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 について 規 定 している。この 規定 は, 従 前 の ZPO 第 661 条 を 引 き 継 ぎ, 発 展 させたものである。FamFG 第 103 条 第 1 項 によれば,登 録 パートナーシップの 解 消 又 は 存 否 確 認 については,ドイツ 裁 判 所 は,1 一 方 当 事 者 が 現 在 又 は登 録 パートナーシップ 締 結 時 にドイツ 人 であるとき( 第 1 号 ),2 一 方 当 事 者 がドイツに 常 居 所 をもつとき( 第 2 号 ),あるいは3 登 録 パートナーシップがドイツで 締 結 されたとき( 第 3 号 )に 管 轄 をもつ。 同 条 第 2 項 によれば, 同 第 1 項 に 基 づく 管 轄 は, 附 帯 処 分 にも 及 ぶ。 同 条 第 3 項 によれば,第 99 条 , 第 101 条 , 第 102 条 , 第 105 条 は, 登 録 パートナーシップにも 準 用 される。2. 登 録 パートナーシップの 解 消 及 び 存 否 確 認 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 ルール(1) 適 用 範 囲(a) 事 項 的 適 用 範 囲FamFG 第 103 条 第 1 項 は, 同 規 定 が 登 録 パートナーシップの 解 消 (FamFG 第 269 条 第 1 項 第 1 号 )及 び 登 録 パートナーシップの 存 否 確 認 ( 同 第 2 号 )に 適 用 されることを 明 文 で 定 めている。それ 以 外の 登 録 パートナーシップに 関 する 事 項 については,FamFG 第 103 条 第 2 項 及 び 第 3 項 によって 国 際裁 判 管 轄 が 決 定 される。 登 録 パートナーシップの「 解 消 」という 概 念 には, 異 性 間 の 婚 姻 における「 離 婚 」 及 び「 婚 姻 取 消 し」の 双 方 に 相 当 する 法 律 関 係 が 含 まれる( 各 々 登 録 パートナーシップ 法 第15 条 第 1 項 ・ 第 2 項 第 1 文 ,そして 同 第 15 条 第 2 項 第 2 文 に 規 定 がある) 304 。問 題 は,FamFG 第 103 条 第 1 項 の 規 定 が, 外 国 法 上 の 法 制 度 にも 拡 張 して 適 用 されるか 否 かという 点 である。 外 国 法 秩 序 における 対 応 する 法 制 度 は, 多 種 多 様 である。 具 体 的 には,1 同 性 カッ302 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 12.303 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 102 FamFG, Rn. 13.304 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 5.6262


プルの 婚 姻 を 認 める 国 々( 同 性 婚 型 :ベルギー,オランダ,スペインなど),2 同 性 カップルのためにドイツ 法 上 の 登 録 パートナーシップと 類 似 した 法 制 度 を 設 けている 国 々( 登 録 パートナーシップ 型 : 米 国の 複 数 の 州 ), 他 方 で,3 同 性 カップルと 異 性 カップルの 双 方 を 対 象 とした 制 度 を 設 けている 国 々(パックス 型 :フランス,またオランダ 及 びベルギー),さらには4 異 性 間 の 事 実 婚 カップルを 制 度 化 している 国 々( 非 婚 共 同 体 型 :たとえばスロヴェニア)もある。FamFG 第 103 条 は, 一 方 的 にドイツ 法 上 の 登録 パートナーシップ 制 度 を 対 象 としているが(この 点 は,EGBGB 第 17b 条 が 登 録 パートナーシップ 制 度を 対 象 とした 抵 触 規 則 を 置 いているのと 同 じである), 同 規 定 を 外 国 法 上 の 制 度 に 適 用 することは 否 定 されていない。 実 際 にも,FamFG 第 103 条 第 1 項 がドイツ 法 上 の 登 録 パートナーシップにしか 適 用 されないとすると, 適 用 対 象 を 同 項 第 3 号 が 定 めるドイツを 登 録 地 とする 登 録 パートーナーシップに限 定 することになってしまう 305 。そこで, 個 々の 法 制 度 を 性 質 決 定 し,それが 機 能 的 にみて FamFG第 103 条 にいう「 登 録 パートナーシップ」に 相 当 するか 否 かを 判 断 する 必 要 がある。2のモデルが 機 能 的 に「 登 録 パートナーシップ」に 相 当 することには 争 いがない。1の 同 性 婚についても, 通 常 は, 異 性 間 の 婚 姻 とは 異 なるものとして,ドイツ 法 上 の「 登 録 パートナーシップ」に 相 当 するものと 解 されている(いずれもブリュッセル IIbis 規 則 の 適 用 はない〔 後 述 参 照 〕)。3のパックス 型 については, 同 性 カップル 同 士 のパックス( 民 事 連 帯 契 約 )に 関 するかぎり,FamFG 第 103 条 第 1 項 が 直 接 適 用 される。 他 方 , 異 性 カップル 同 士 のパックスについては, 憲 法 第6 条 第 1 項 の「 婚 姻 及 び 家 族 の 保 護 」に 関 する 競 合 禁 止 の 原 則 に 基 づいて, 登 録 パートナーシップは 同 性 カップルであることを 要 件 とするため,FamFG 第 103 条 第 1 項 は 直 接 適 用 されえない。しかし, 現 実 には 利 害 関 係 が 共 通 しており, 登 録 地 の 管 轄 及 び 居 住 地 の 管 轄 を 認 める 必 要 があると 解 されることから,FamFG 第 103 条 第 1 項 が 類 推 適 用 されるという。それに 対 して,4の 非 婚 共 同 体 型 については, 身 分 関 係 を 構 成 せず, 事 実 上 の 同 居 に 基 づいて親 族 法 類 似 の 法 的 効 果 を 導 くに 過 ぎない 場 合 には,FamFG 第 103 条 第 1 項 は 適 用 されない。ただし,婚 姻 挙 行 の 方 式 を 履 践 していなくても, 当 該 外 国 法 が 身 分 関 係 として 構 成 している 場 合 には(コモンロー 婚 , 南 米 諸 国 の 事 実 婚 〔matrimonio de hecho〕など),FamFG 第 98 条 にいう 婚 姻 の 問 題 となる 306 。(b) EU 法 及 び 条 約FamFG 第 103 条 第 1 項 に 優 先 して 適 用 される 条 約 上 又 は EU 法 上 の 規 範 は 存 在 しない。ブリュッセル IIbis 規 則 は, 登 録 パートナーシップには 適 用 されない。また, 同 規 則 にいう「 婚 姻 」とは,EU 法 に 固 有 の 概 念 であり,それを 同 性 カップルにも 拡 張 する 構 成 国 の 国 内 法 制 は 基 準 とならないため, 同 性 婚 もブリュッセル IIbis 規 則 の 適 用 対 象 外 であると 解 されている 307 。305 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 6.306 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 7.307 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 8 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 1.6363


(2) 管 轄 原 因(a) 一 方 パートナーのドイツ 国 籍FamFG 第 103 条 第 1 項 第 1 号 によれば,パートナーの 一 方 が 口 頭 弁 論 終 結 時 又 はパートナーシップ 登 録 時 においてドイツ 人 であった 場 合 に, 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。 本 条 にいう「ドイツ 人 」の 概 念 は,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 等 の 概 念 と 一 致 する 308 。(b) 一 方 パートナーのドイツにおける 常 居 所FamFG 第 103 条 第 1 項 第 2 号 によれば,ドイツ 裁 判 所 は, 一 方 パートナーが 現 在 ドイツに 常 居所 を 有 している 場 合 にも 管 轄 をもつ。「 常 居 所 」 概 念 は,FamFG 第 98 条 第 1 項 等 の 概 念 と 一 致 する。ただし,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 とは 異 なって,FamFG 第 103 条 第 1 項 第 2 号 は, 当 事 者の 本 国 における 承 認 可 能 性 を 要 件 としていない。この 点 については, 過 剰 管 轄 であるとの 批 判 もあるという。しかし, 現 実 には,FamFG 第 103 条 第 1 項 第 2 号 による 管 轄 が 問 題 となるのは,ドイツに 居 住 する 外 国 人 パートナーが(ドイツ 人 であれば 第 1 号 による), 外 国 法 に 基 づいて 登 録 されたパートナーシップ(ドイツで 締 結 されていれば 第 3 号 による)―― 機 能 的 にドイツ 法 上 の 登 録 パートナーシップに 相 当 するもの――に 関 する 身 分 関 係 訴 訟 を 提 起 する 場 合 に 限 定 され, 実 務 上 の 意 義 は 大 きくはない。また,ドイツとしては, 当 事 者 の 本 国 法 上 の 制 度 にかかわりなく 登 録 パートナーシップ 制度 による 保 護 を 与 えている 以 上 は(EGBGB 第 17b 条 第 1 項 によれば, 登 録 パートナーシップは 原 則 として登 録 地 法 による), 当 事 者 に 外 国 法 上 の 類 似 の 法 制 度 に 基 づく 保 護 も 与 えるのが 一 貫 している。そして, 同 性 カップルによる 登 録 パートナーシップの 制 度 をもっている 国 は,まだ 限 られており, 外 国での 承 認 可 能 性 は 担 保 されていないため, 当 事 者 の 本 国 での 承 認 可 能 性 を 度 外 視 することは 当 事 者の 不 利 にはならない。さらに, 登 録 パートナーシップが 婚 姻 とは 異 なる 制 度 である 以 上 , 前 者 を 解消 する 際 の 管 轄 要 件 を 離 婚 の 場 合 よりも 緩 和 しても 不 当 ではないと 解 されている 309 。(c) ドイツにおける 登 録 パートナーシップの 創 設 的 登 録FamFG 第 103 条 第 1 項 第 3 号 によれば, 登 録 パートナーシップがドイツ 当 局 において 締 結 されたかぎり,ドイツ 裁 判 所 は 登 録 パートナーシップ 事 件 に 関 する 管 轄 をもつ。 国 際 的 にまだ 確 立 していない 身 分 制 度 を 創 設 した 国 は,その 身 分 関 係 の 確 認 及 び 解 消 について 法 的 保 護 を 与 えるのが 相 当であるといえる。このような 登 録 を 基 準 とする 管 轄 は,EGBGB 第 17b 条 とも 平 仄 が 合 うものであり,婚 姻 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 とは 同 列 に 論 じ 得 ない(もとより 婚 姻 事 件 について 婚 姻 挙 行 地 の 国 際 裁 判 管 轄 を認 めれば, 明 らかに 過 剰 管 轄 となる) 310 。FamFG 第 103 条 第 1 項 第 3 号 は,ドイツにおいてドイツ 法 に 従 い, 登 録 パートナーシップが 創設 されたことを 前 提 とする。これは,EGBGB 第 17b 条 第 1 項 第 1 号 によれば, 登 録 パートナーシッ308 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 10 et seq.309 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 12.310 Zöller/Geimer, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 17.6464


プの 実 質 的 及 び 形 式 的 成 立 要 件 のいずれについても 登 録 地 法 が 準 拠 法 とされ, 実 質 と 方 式 の 並 行 が予 定 されていることによる 311 。(3) 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 基 本 原 則(a) 限 定 列 挙 及 び 専 属 管 轄 の 否 定登 録 パートナーシップ 事 件 について,FamFG 第 103 条 第 1 項 に 掲 げる 管 轄 原 因 は 限 定 列 挙 であり,それ 以 外 の 管 轄 原 因 は 認 められない 312 。 登 録 パートナーシップ 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 は,専 属 管 轄 ではなく, 外 国 裁 判 所 の 管 轄 と 競 合 しうる(FamFG 第 106 条 )。それゆえ,ドイツ 裁 判 所 が管 轄 をもつことは, 登 録 パートナーシップに 関 する 外 国 裁 判 を 承 認 する 障 碍 とはならない。(b) 管 轄 の 継 続管 轄 の 継 続 は, 婚 姻 事 件 と 同 様 に 認 められる。3. それ 以 外 の 登 録 パートナーシップ 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 ルール(1) 適 用 範 囲(a) 事 項 的 適 用 範 囲FamFG 第 103 条 第 2 項 及 び 第 3 項 が 対 象 とするその 他 の 登 録 パートナーシップ 事 件 とは,FamFG 第 269 条 第 1 項 第 3 号 ~ 第 12 号 及 び 同 条 第 2 項 ・ 第 3 項 に 定 める 事 項 である。 具 体 的 には,1 親 権 , 面 接 交 流 権 , 子 の 引 渡 請 求 (FamFG 第 269 条 第 1 項 第 3 号 ),2 養 子 縁 組 及 び 養 子 縁 組 への 同意 に 代 わる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 ( 第 4 号 ),3 登 録 パートナーシップに 基 づく 住 居 ( 第 5 号 ),4 家 財 ( 第6 号 ),5 年 金 分 割 請 求 ( 第 7 号 ),6 登 録 パートナーとの 共 通 の 未 成 年 子 に 対 する 法 律 上 の 扶 養 義 務( 第 8 号 ),7 登 録 パートナーシップに 基 づく 法 律 上 の 扶 養 義 務 ( 第 9 号 ),8 登 録 パートナーシップ財 産 制 に 基 づく 請 求 ( 第 三 者 が 関 与 する 場 合 を 含 む)( 第 10 号 ),9 登 録 パートナーシップに 基 づく 財産 処 分 に 関 する 家 庭 裁 判 所 の 決 定 ( 第 11 号 ),10 登 録 パートナーシップ 財 産 契 約 に 基 づく 財 産 処 分 に関 する 家 庭 裁 判 所 の 決 定 ( 第 12 号 ),11 登 録 パートナーシップの 予 約 (FamFG 第 269 条 第 2 項 第 1 号 ),12 登 録 パートナーシップに 基 づく 請 求 ( 同 第 2 号 ),13 登 録 パートナーシップに 関 する 別 居 又 は 解 消に 関 する 当 事 者 同 士 の 請 求 ,あるいは 登 録 パートナーと 一 方 親 の 請 求 ( 同 第 3 号 ),そして,14 日 常家 事 債 務 (FamFG 第 269 条 第 3 項 )である。(b) EU 法 及 び 条 約ブリュッセル IIbis 規 則 第 8 条 以 下 は, 登 録 パートナーシップに 基 づく 親 責 任 にも 適 用 される。ただし, 同 規 則 第 12 条 は, 婚 姻 関 係 の 存 在 を 前 提 とし, 当 事 者 の 合 意 及 び 子 の 福 祉 にかなうことを311 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 13 et seq.312 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 16. FamFG 第 98 条 の 類 推 適 用 , 土 地 管 轄 に 関 する FamFG 第 270条 第 1 項 及 び 第 121 条 , 一 般 原 則 としての ZPO を 援 用 することで, 別 の 管 轄 原 因 を 認 めることはできない。6565


要 件 として, 離 婚 , 法 定 別 居 又 は 婚 姻 無 効 に 附 帯 して 親 責 任 事 件 の 管 轄 を 認 める 規 定 であるため,登 録 パートナーシップには 適 用 されないと 解 されている 313 。 他 方 , 登 録 パートナーシップに 基 づく扶 養 義 務 には,EU 扶 養 義 務 規 則 が 適 用 される。 登 録 パートナーシップの 財 産 関 係 については, 上 述のとおり,いずれ EU 規 則 が 制 定 される 予 定 である。条 約 としては, 登 録 パートナーシップに 基 づく 監 護 権 について,1961 年 ハーグ 未 成 年 者 保 護 条約 及 び 1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 が 適 用 される。ただし,1996 年 条 約 第 10 条 は, 婚 姻 関 係 の 存 在を 前 提 とし, 当 事 者 の 合 意 及 び 子 の 福 祉 にかなうことを 要 件 として, 離 婚 , 法 定 別 居 又 は 婚 姻 無 効に 附 帯 して 親 責 任 事 件 の 管 轄 を 認 める 規 定 であるため, 登 録 パートナーシップには 適 用 されないと解 されている 314 。(2) 管 轄 原 因(a) 附 帯 処 分登 録 パートナーシップの 解 消 又 は 存 否 確 認 (FamFG 第 269 条 第 1 項 第 1 号 ・ 第 2 号 )の 国 際 裁 判管 轄 は,その 附 帯 処 分 にも 及 ぶ(FamFG 第 103 条 第 2 項 )。この 原 則 は, 婚 姻 事 件 に 関 する FamFG 第98 条 第 2 項 と 一 致 する。(b) 独 立 した 登 録 パートナーシップ 事 件FamFG 第 103 条 第 3 項 は,FamFG 第 97 条 以 下 の 一 般 原 則 が 登 録 パートナーシップにも 妥 当 することを 確 認 しているに 過 ぎない。つまり,FamFG 第 269 条 第 1 項 第 3 号 から 第 12 号 に 定 める 登録 パートナーシップ 事 件 は, 当 然 に 各 々の 家 事 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 の 問 題 として 処 理 される。その意 味 では,FamFG 第 103 条 第 3 項 が 第 99 条 , 第 101 条 , 第 102 条 , 第 105 条 が「 準 用 される」と規 定 しているのは, 当 事 者 が 婚 姻 関 係 にあるか 登 録 パートナーシップ 関 係 にあるかを 区 別 しない 身分 関 係 に 関 するかぎり,ミスリーディングであるという 315 。FamFG 第 103 条 第 3 項 が 援 用 しているのは, 次 の 事 項 である( 番 号 は 上 記 3(1)(a) 参 照 )。1 親 権 ,面 接 交 流 権 , 子 の 引 渡 請 求 (FamFG 第 269 条 第 1 項 第 3 号 )の 管 轄 については,FamFG 第 99 条 による。2 養 子 縁 組 及 び 養 子 縁 組 への 同 意 に 代 わる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 ( 第 4 号 )の 管 轄 については, 第101 条 による。5 年 金 分 割 請 求 ( 第 7 号 )の 管 轄 については, 第 102 条 による。その 他 , 家 事 事 件 に対 応 する 制 度 があるが, 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 明 文 規 定 がない 登 録 パートナーシップ 事 件 については 316 ,FamFG 第 105 条 に 基 づき 土 地 管 轄 に 関 する 規 定 を 準 用 することで, 国 際 裁 判 管 轄 が 決 定 され313 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 20.314 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 23 et seq.315 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 25.316具 体 的 には,3 登 録 パートナーシップに 基 づく 住 居 ( 第 5 号 ),4 家 財 ( 第 6 号 ),6 未 成 年 子 に 対 する 扶 養義 務 ( 第 8 号 ),7 登 録 パートナーに 対 する 扶 養 義 務 ( 第 9 号 ),8 登 録 パートナーシップ 財 産 制 に 基 づく 請 求( 第 三 者 が 関 与 する 場 合 を 含 む)( 第 10 号 ),9 法 定 財 産 制 に 基 づく 財 産 処 分 に 関 する 家 庭 裁 判 所 の 決 定 ( 第 11号 ),10 登 録 パートナーシップ 財 産 契 約 に 基 づく 財 産 処 分 に 関 する 家 庭 裁 判 所 の 決 定 ( 第 12 号 )を 指 す。6666


る 317 。その 他 ,FamFG 第 269 条 第 2 項 及 び 第 3 項 に 定 める 登 録 パートナーシップ 事 件 については 318 ,「その 他 の 家 事 事 件 」(FamFG 第 266 条 第 1 項 第 1 号 ~ 第 3 号 及 び 第 2 項 )と 同 様 に,FamFG 第 105 条によって 土 地 管 轄 の 規 定 を 準 用 することで 国 際 裁 判 管 轄 が 決 定 される 319 。H. 世 話 事 件 及 び 保 護 収 容 事 件 , 成 年 補 佐 事 件1. 総 説FamFG 第 104 条 によれば, 世 話 事 件 及 び 保 護 収 容 事 件 ,そして 成 年 補 佐 事 件 については,1 本人 又 は 成 年 者 である 被 補 佐 人 がドイツ 人 であるとき(FamFG 第 104 条 第 1 項 第 1 号 ),2ドイツ 国 内 に常 居 所 を 有 するとき( 同 第 2 号 第 1 文 ),あるいは3 本 人 又 は 成 年 者 である 被 補 佐 人 がドイツ 裁 判 所による 保 護 措 置 を 必 要 とするとき( 同 第 2 号 第 2 文 )には, 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。 未 成 年 者 の後 見 命 令 に 関 する FamFG 第 99 条 第 2 項 及 び 第 3 項 の 規 定 は 準 用 される(FamFG 第 104 条 第 2 項 )。ただし,FamFG 第 104 条 第 1 項 ・ 第 2 項 の 規 定 は, 第 312 条 第 3 号 に 基 づく 保 護 収 容 事 件 320 には 適用 されない(FamFG 第 104 条 第 3 項 ) 321 。2. 適 用 範 囲(a) 事 項 的 適 用 範 囲(aa) 世 話 事 件 及 び 保 護 収 容 事 件FamFG 第 104 条 は, 同 第 271 条 に 定 める 世 話 事 件 及 び 同 第 312 条 に 定 める 保 護 収 容 事 件 を 適用 対 象 としている 322 。FamFG 第 271 条 によれば, 世 話 事 件 とは,1 世 話 人 の 選 任 及 び 世 話 関 係 の 解消 ( 第 1 号 ),2 同 意 権 の 留 保 決 定 に 関 する 手 続 ( 第 2 号 ),3その 他 の 成 年 者 の 法 律 上 の 世 話 (BGB第 1896 条 から 第 1908i 条 まで)に 関 する 手 続 であって, 保 護 収 容 事 件 以 外 のもの( 第 3 号 )を 指 す。他 方 ,FamFG 第 312 条 によれば, 保 護 収 容 事 件 とは,1 被 世 話 人 (BGB 第 1906 条 第 1~ 第 3 号 ),あるいは 第 三 者 に 自 由 を 奪 う 保 護 収 容 を 行 う 権 限 を 付 与 した 者 (BGB 第 1906 条 第 5 項 )の 自 由 を 奪う 保 護 収 容 の 許 可 (FamFG 第 312 条 第 1 号 ),2BGB 第 1906 条 第 4 項 に 基 づく 自 由 を 奪 う 措 置 の 許 可(FamFG 第 312 条 第 2 号 ),3 精 神 病 者 の 保 護 収 容 に 関 する 州 法 に 基 づく 成 年 者 の 自 由 を 奪 う 保 護 収容 (FamFG 第 312 条 第 3 号 )を 指 す。ただし,FamFG 第 104 条 第 3 項 では, 明 文 で3FamFG 第 312条 第 3 号 に 関 する 措 置 を 適 用 対 象 から 外 しているため, 結 局 は1 及 び2だけが 対 象 となる。317 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 26.318具 体 的 には,11 登 録 パートナーシップの 予 約 (FamFG 第 269 条 第 2 項 第 1 号 ),12 登 録 パートナーシップに 基づく 請 求 ( 同 第 2 号 ),13 登 録 パートナーシップ 上 の 別 居 又 は 解 消 に 関 する 当 事 者 間 の 請 求 ,あるいは 登 録 パートナーと 一 方 親 の 請 求 ( 同 第 3 号 ),そして,14 日 常 家 事 債 務 (FamFG 第 269 条 第 3 項 )を 指 す。319 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 27.320後 掲 訳 及 び 注 参 照 。321 FamFG 第 104 条 第 1 項 は, 従 前 の FGG 第 35b 条 第 1 項 ・ 第 2 項 及 び 第 69e 条 第 1 項 第 1 文 を 受 けたものである。FamFG 第 104 条 第 3 項 は, 従 前 の FGG 第 70 条 第 4 項 における 例 外 規 定 を 引 き 継 いでいる。FamFG 第104 条 第 2 項 は, 従 前 の FGG 第 70 条 第 4 項 及 び 第 47 条 (すでに 外 国 裁 判 所 によって 保 護 措 置 が 取 られている場 合 )を 引 き 継 いだ 規 定 である。MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 104 FamFG, Rn. 1 et seq.322 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 103 FamFG, Rn. 3.6767


(bb) 成 年 補 佐 事 件成 年 補 佐 事 件 とは,FamFG 第 340 条 第 1 号 にいう 世 話 裁 判 所 の 事 務 として 世 話 裁 判 所 が 行 うもの,すなわち 未 成 年 者 及 び 胎 児 の 補 佐 ,そして 相 続 補 佐 を 除 く 補 佐 事 件 を 指 す 323 。それに 対 して,FamFG 第 340 条 第 2 号 にいう 世 話 裁 判 所 による 事 務 に 関 しては, 国 際 裁 判 管 轄を 定 める 明 文 規 定 がない。しかし, 世 話 人 ではない 代 理 人 の 選 任 の 場 合 と 利 害 関 係 は 共 通 するため,FamFG 第 104 条 第 1 項 を 準 用 することが 提 唱 されている。もっとも,FamFG 第 105 条 に 従 って 土 地管 轄 に 関 する 規 定 (FamFG 第 341 条 及 び 第 272 条 )を 準 用 しても, 国 際 裁 判 管 轄 のルールとしては 実質 的 に 違 わない。 今 後 , 立 法 が 予 定 されている 世 話 裁 判 所 の 事 務 についても, 同 様 に 扱 うことが 提唱 されている 324 。(b) EU 法 及 び 条 約以 上 の 事 項 的 適 用 範 囲 に 入 る EU 法 上 の 規 範 は 存 在 しない。 条 約 としては 唯 一 ,2000 年 1 月 13日 ハーグ 成 年 者 保 護 条 約 (2009 年 1 月 1 日 にドイツについて 発 効 )の 適 用 が 問 題 となる。 成 年 者 保 護 条約 は, 成 年 者 のための 世 話 , 補 佐 ,その 他 の 代 理 関 係 の 設 定 及 び 実 行 , 民 事 上 の 保 護 収 容 措 置 等 に広 く 適 用 される。ただし, 相 続 法 上 の 法 律 行 為 に 関 する 許 可 要 件 (たとえば BGB 第 1908i 条 第 1 項 第 1文 及 び 第 1822 条 第 1 号 ・ 第 2 号 )は,FamFG 第 104 条 の 適 用 対 象 となるが, 成 年 者 保 護 条 約 との 関 係では, 世 話 関 係 (すなわち 保 護 措 置 )ではなく, 世 話 人 の 事 務 ( 相 続 法 上 の 事 務 )に 該 当 するため, 同条 約 第 4 条 第 1 項 d 号 によって 適 用 除 外 されている。2000 年 成 年 者 保 護 条 約 は,1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約 及 び 1996 年 子 の 保 護 条 約 と 同 様 に, 本 人の 国 籍 とは 関 係 なく, 本 人 が 締 約 国 の 一 つに 常 居 所 を 有 するかぎり, 国 内 法 上 の 管 轄 ルールに 優 先して 適 用 される。ただし, 例 外 的 に 常 居 所 が 不 明 である 場 合 には, 本 人 が 締 約 国 の 一 つに 単 なる 居所 をもつだけで 同 条 約 が 適 用 される 325 。それ 以 外 の 場 合 には,FamFG 第 104 条 によって 国 際 裁 判 管轄 が 決 定 される。 成 年 者 保 護 条 約 における 国 際 裁 判 管 轄 ルールの 詳 細 については, 個 別 項 目 の 解 説にゆずる。3. 国 際 裁 判 管 轄 ルール(1) FamFG 第 104 条 第 1 項 に 基 づく 国 際 裁 判 管 轄(a) 総 説成 年 者 保 護 条 約 が 適 用 されず,FamFG 第 104 条 によって 国 際 裁 判 管 轄 を 決 定 すべき 場 合 には,ドイツ 裁 判 所 は,1 本 人 がドイツ 人 であるとき(FamFG 第 104 条 第 1 項 第 1 号 ),2 本 人 がドイツに 常居 所 をもつとき( 同 第 2 号 第 1 文 ),あるいは3 本 人 がドイツ 裁 判 所 による 保 護 措 置 を 必 要 とすると323 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 104 FamFG, Rn. 4.324 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 104 FamFG, Rn. 5.325 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 104 FamFG, Rn. 6 et seq.6868


き( 同 第 2 号 第 2 文 )に 管 轄 をもつ。これらの 管 轄 原 因 の 解 釈 については, 基 本 的 に 親 子 事 件 について 述 べたことが 妥 当 する( 上 述 箇 所 参 照 )。ただし, 成 年 者 の 常 居 所 の 決 定 に 当 たっては, 成 年 者 保 護 条 約 第 5 条 と 同 様 に, 本 人 の 自 然 な意 思 (natürliche Willensrichtung)が 基 準 とされる。 仮 に 成 年 者 の 判 断 能 力 が 衰 えていても, 常 居 所 を決 定 するメルクマールとなる 社 会 環 境 への 統 合 を 判 断 するには, 本 人 の 意 思 を 重 視 すべきであるからである。 保 護 を 必 要 とする 成 年 者 が 本 人 の 意 思 に 反 して 他 国 に 連 れて 行 かれた 場 合 には, 子 奪 取の 場 合 と 同 じく, 従 前 の 常 居 所 が 存 続 すると 解 される。ドイツ 人 の 中 には, 冬 の 間 だけイタリアやスペイン 等 の 地 中 海 沿 岸 で 過 ごす 老 年 者 (Mittelmeer-Überwinterer)も 多 く,そのような 者 については, 複 数 の 常 居 所 ,あるいは 季 節 ごとに 入 れ 替 わる 常 居 所 の 概 念 を 認 めるべきか 否 かを 論 ずる 必 要があるという 326 。(b) 管 轄 に 関 する 一 般 原 則一 旦 ドイツ 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められたが, 訴 訟 係 属 後 に 管 轄 原 因 事 実 が 失 われた 場 合( 常 居 所 が 外 国 に 移 された 場 合 など)に 管 轄 が 継 続 するか 否 かは, 一 義 的 には 決 められない。むしろ,親 子 事 件 の 場 合 と 同 じく, 具 体 的 事 案 ごとに, 成 年 者 のための 保 護 措 置 を 取 るのにどの 国 の 裁 判 所が 適 しているかを 判 断 したうえで, 管 轄 の 継 続 を 認 めるか 否 かを 判 断 するとされている 327 。FamFG 第 104 条 第 1 項 に 定 める 3 つの 管 轄 原 因 ,そして 同 条 第 2 項 ・ 第 3 項 に 定 める 管 轄 原 因は,いずれも 同 列 である。ただし, 同 第 2 項 によれば,ドイツ 裁 判 所 が 管 轄 をもっており, 本 人 の保 護 の 必 要 性 が 存 する 場 合 であっても, 外 国 裁 判 所 による 保 護 措 置 に 鑑 みて, 内 国 での 保 護 措 置 を差 し 控 えることがある。なお,ドイツ 裁 判 所 には 専 属 管 轄 はなく, 外 国 裁 判 所 の 管 轄 と 競 合 しうる(FamFG 第 106 条 )。(2) FamFG 第 104 条 第 2 項 に 基 づく 国 際 裁 判 管 轄FamFG 第 104 条 第 1 項 に 基 づいてドイツ 裁 判 所 に 管 轄 が 認 められる 場 合 に, 外 国 裁 判 所 も 同 時に 管 轄 をもっている 場 合 の 調 整 ,そして 世 話 事 務 の 外 国 への 引 き 継 ぎ 又 は 外 国 からの 引 き 受 けは,親 子 事 件 に 関 する FamFG 第 99 条 第 2 項 及 び 第 3 項 の 規 定 に 則 って 行 われる。ただし, 成 年 者 については, 親 子 事 件 と 異 なる 事 情 もありうる。 特 に 成 年 者 について 外 国 で 後見 が 開 始 されていても,ドイツでは, 本 人 の 権 利 ( 特 に 人 格 権 )への 介 入 度 が 低 く 適 切 な 措 置 として,世 話 が 開 始 されることもありうる。FamFG 第 104 条 第 2 項 によって 第 99 条 第 2 項 を 準 用 する 際 には,ドイツで 世 話 を 開 始 することのメリットと,それによって 外 国 で 開 始 された 後 見 の 承 認 が 拒 否されること(FamFG 第 109 条 第 1 項 第 3 号 参 照 ),またドイツの 保 護 措 置 が 外 国 において 承 認 されないであろうことのデメリットを 勘 案 して 判 断 される 328 。326 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 104 FamFG, Rn. 11, 18.327 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 104 FamFG, Rn. 18.328 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 104 FamFG, Rn. 22 et seq.6969


I. その 他 の 家 事 事 件 及 び 非 訟 事 件1. 総 説FamFG 第 98 条 ~ 第 104 条 において 明 文 規 定 がない 事 項 の 国 際 裁 判 管 轄 は,FamFG 第 105 条 に従 い, 土 地 管 轄 に 関 する 規 定 を 準 用 することで 決 定 される。FamFG 第 105 条 の 規 定 は, 該 当 する 土地 管 轄 ルールの「 二 重 機 能 性 」(Doppelfunktionsgrundsatz)を 示 すものである 329 。特 に 従 来 は, 非 訟 事 件 としての 相 続 及 び 遺 産 分 割 事 件 について,いわゆる「 並 行 原 則 」( 準 拠 法と 国 際 裁 判 管 轄 の 並 行 を 指 す)が 妥 当 しており,ドイツ 法 が 相 続 準 拠 法 となる 場 合 にのみ 国 際 裁 判 管 轄が 認 められていたが 330 ,FamFG 第 105 条 によって, 新 たに 相 続 及 び 遺 産 分 割 事 件 についても 土 地 管轄 に 関 する 規 定 が 準 用 されるに 至 っている 331 。2. FamFG 第 98~ 第 104 条 以 外 の 家 事 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 ルール(1) 婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 を 定 める EU 法 又 は 条 約 法 上 の 規 範 は 存 在 しない。これらの 事 件 は,EU 法 に 固 有 の 解 釈 としては 夫 婦 財 産 制 に 分 類 され,ブリュッセル I 規 則 第 1 条 第 2 項a 号 及 び 2007 年 ルガノ 条 約 第 1 条 第 2 項 a 号 によって 適 用 除 外 されている 332 。FamFG 第 200 条 に 定 める 手 続 (BGB 第 1361a 条 〔 別 居 後 の 家 財 の 分 割 〕, 第 1361b 条 〔 別 居 後 の 婚 姻住 居 〕, 第 1568a 条 〔 離 婚 後 の 婚 姻 住 居 の 扱 い〕, 第 1568b 条 〔 離 婚 後 の 家 財 の 分 割 〕)の 国 際 裁 判 管 轄 については,FamFG 第 201 条 を 準 用 する。それによれば,ドイツ 裁 判 所 は,1ドイツにおいて 婚 姻 事 件 ( 離婚 の 場 合 には,FamFG 第 98 条 第 2 項 に 基 づく 管 轄 が 認 められる)が 係 属 している 場 合 (FamFG 第 201 条 第1 号 準 用 ),2 夫 婦 共 通 の 住 居 がドイツにある 場 合 ( 同 第 2 号 準 用 ),あるいは3 夫 婦 の 一 方 がドイツに 常 居 所 をもっている 場 合 ( 同 第 3 号 及 び 第 4 号 準 用 )に 管 轄 をもつ 333 。(2) 暴 力 からの 保 護 に 関 する 事 件夫 婦 間 又 は 登 録 パートナーシップ 間 の 暴 力 事 件 は, 婚 姻 住 居 及 び 家 財 事 件 に 近 い 事 項 であるため, 同 様 にブリュッセル I 規 則 及 びルガノ 条 約 の 適 用 は 除 外 される。それに 対 して, 婚 姻 関 係 又 は登 録 パートナーシップ 関 係 にない 者 の 間 の 暴 力 については,ブリュッセル I 規 則 第 5 条 第 3 号 (2007年 ルガノ 条 約 第 5 条 第 3 号 )に 定 める 不 法 行 為 の 一 つであるため, 同 規 則 又 はルガノ 条 約 によって 国際 裁 判 管 轄 が 決 定 される。その 場 合 には, 被 告 の 住 所 地 (ブリュッセル I 規 則 第 2 条 /ルガノ 条 約 第 2 条 )又 は 不 法 行 為 地 (ブリュッセル I 規 則 第 5 条 第 3 号 /ルガノ 条 約 第 5 条 第 3 号 )が 管 轄 原 因 となる。ただし,329 Zöller/Geimer, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 1.330 ただし, 外 国 法 が 準 拠 法 となる 場 合 にも, 内 国 に 所 在 する 財 産 については 相 続 証 書 が 発 行 されてきた(BGB第 2369 条 )。331 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 1 et seq.332 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 5.333 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 6.7070


GewSchG(ドイツ 暴 力 からの 保 護 に 関 する 法 律 ) 334 第 2 条 に 定 める 住 居 の 専 権 的 利 用 に 関 する 措 置 については,ブリュッセル I 規 則 第 22 条 第 1 号 /2007 年 ルガノ 条 約 第 22 条 第 1 号 に 定 める 不 動 産 に 関 する 物 権 的 権 利 をめぐる 争 いとして, 不 動 産 所 在 地 の 専 属 管 轄 が 認 められる 335 。被 告 が EU 構 成 国 又 はルガノ 条 約 の 締 約 国 以 外 の 国 に 住 所 をもつ 場 合 には,FamFG 第 211 条 の準 用 によって 国 際 裁 判 管 轄 が 導 かれる。それによれば,1 当 該 行 為 がドイツにおいて 行 われたとき(FamFG 第 211 条 第 1 号 準 用 ),2 当 事 者 の 共 通 住 居 がドイツにあるとき( 同 第 2 号 準 用 ),あるいは3相 手 方 がドイツに 常 居 所 をもつとき( 同 第 3 号 準 用 )に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。1の 行 為 地 は,ブリュッセル I 規 則 第 5 条 第 3 号 及 び ZPO 第 32 条 の 不 法 行 為 地 と 同 じ 概 念 として 理 解 され, 行 動地 と 結 果 発 生 地 の 双 方 が 含 まれる。それゆえ, 加 害 者 が 外 国 から 通 信 手 段 を 用 いてドイツにいる 被害 者 をストーキングした 場 合 にも(GewSchG 第 1 条 第 2 項 第 2 号 b),またドイツにおいて 暴 力 を 振 るう 旨 の 脅 しだけでも(GewSchG 第 1 条 第 2 項 第 1 文 第 1 号 ),ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 肯 定 される 336 。(3) 扶 養 事 件扶 養 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 については,EU 法 上 , 扶 養 義 務 規 則 によって 管 轄 が 決 定 される。EU扶 養 義 務 規 則 は, 場 所 的 適 用 範 囲 を 被 告 が 構 成 国 に 住 所 をもつ 場 合 に 限 定 しておらず, 一 般 的 な 適用 を 予 定 している。そして,EU 構 成 国 又 はルガノ 条 約 締 約 国 のいずれも 管 轄 をもたない 場 合 には,補 充 的 管 轄 として 夫 婦 の 共 通 本 国 の 管 轄 を 認 めており( 第 6 条 :Auffangzuständigkeit), 国 内 法 上 の管 轄 ルールの 適 用 を 排 除 している。それゆえ, 扶 養 義 務 規 則 又 はルガノ 条 約 の 事 項 的 適 用 範 囲 に 入る 扶 養 事 件 については,FamFG 第 105 条 及 び 第 231 条 第 1 項 は 適 用 されない( 上 述 I-A 参 照 )。しかも, 扶 養 義 務 規 則 は, 家 族 間 の 扶 養 全 般 を 対 象 とするため,FamFG 第 269 条 第 1 項 第 9 号 に 定 める登 録 パートナーシップに 基 づく 扶 養 義 務 もその 事 項 的 適 用 範 囲 に 含 まれる 337 。扶 養 義 務 規 則 によれば, 第 一 に, 扶 養 義 務 者 又 は 扶 養 権 利 者 がドイツに 常 居 所 をもつ 場 合 に,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められる( 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 a・b 号 )。この 規 定 は, 同 時 に 土 地 管 轄 も 定 めている。また, 身 分 関 係 事 件 又 は 親 責 任 事 件 について 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 裁 判 所 は, 附 帯 処 分 としての 扶 養 請 求 についても 管 轄 をもつ( 同 条 c・d 号 )。 当 事 者 には, 一 定 範 囲 で 管 轄 合 意 が 認 められ( 同4 条 ), 応 訴 管 轄 も 認 められる( 同 第 5 条 )。 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 ~ 第 5 条 の 規 定 によっても,EU 構成 国 又 はルガノ 条 約 締 約 国 のいずれも 管 轄 をもたない 場 合 には, 補 充 的 に 夫 婦 の 共 通 本 国 の 管 轄 が認 められる( 同 第 6 条 )。334 Gesetz zum zivilrechtlichen Schutz vor Gewalttaten und Nachstellungen (Gewaltschutzgesetz - GewSchG) vom11.12.2001, BGBl. I S. 3513.335 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 7 et seq.336 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 9.337 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 11.7171


(4) 夫 婦 財 産 制 ・ 登 録 パートナーシップ 財 産 制夫 婦 財 産 制 及 び 登 録 パートナーシップ 財 産 制 については, 今 後 EU 規 則 が 制 定 され,そこで 国際 裁 判 管 轄 についても 規 律 される 予 定 である( 詳 細 は, 個 別 項 目 の 解 説 にゆずる)。これらの EU 規 則が 制 定 ・ 施 行 されるまでは, 離 婚 事 件 等 の 附 帯 処 分 ではなく, 独 立 の 裁 判 手 続 としての 夫 婦 財 産 事件 については,FamFG 第 105 条 に 基 づいて 第 262 条 第 2 項 を 準 用 することで 国 際 裁 判 管 轄 が 導 かれる。FamFG 第 262 条 第 2 項 は,ZPO の 規 定 を 準 用 しているため, 具 体 的 には,1 請 求 の 相 手 方 の 常居 所 地 (ZPO 第 12・ 第 13 条 準 用 ),あるいは2 十 分 な 内 国 牽 連 性 がある 場 合 には 財 産 所 在 地 (ZPO 第23 条 準 用 )がドイツにある 場 合 に, 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 される 338 。なお, 夫 婦 財 産 登 記 簿 への 登 記 , 特 に EGBGB 第 16 条 に 基 づく 外 国 法 上 の 契 約 又 は 法 定 夫 婦 財産 制 の 登 記 については, 夫 婦 の 一 方 がドイツに 常 居 所 をもつかぎり,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められる(FamFG 第 105 条 による 第 377 条 第 3 項 の 準 用 )。 夫 婦 いずれもドイツに 常 居 所 をもたないが, 一方 配 偶 者 がドイツにおいて 事 業 を 行 う 場 合 , 第 三 者 に 対 抗 するためにはドイツでの 登 記 が 必 要 となる(EGBGB 第 16 条 第 1 項 )。その 場 合 の 国 際 裁 判 管 轄 は,EGHGB 339 第 4 条 第 1 項 から 導 かれ 340 , 主たる 事 業 所 所 在 地 を 所 轄 する 夫 婦 財 産 登 記 簿 に 登 記 するだけで, 土 地 管 轄 が 発 生 する 341 。登 録 パートナーシップ 財 産 事 件 (FamFG 第 269 条 第 1 項 第 10 号 )の 国 際 裁 判 管 轄 については,FamFG 第 105 条 に 基 づいて 土 地 管 轄 のルールが 準 用 される。そして,FamFG 第 270 条 第 1 項 第 2文 によれば,FamFG 第 111 条 第 9 号 の 夫 婦 財 産 事 件 に 準 じて 扱 われるため, 上 述 の 夫 婦 財 産 事 件 の管 轄 ルールが 登 録 パートナーシップにも 妥 当 することになる。(5) 保 護 収 容 措 置FamFG 第 99 条 第 1 項 及 び 第 104 条 第 3 項 が 対 象 としていない, 州 法 に 基 づく 精 神 病 者 の 保 護収 容 措 置 については, 未 成 年 者 の 場 合 にはブリュッセル IIbis 規 則 及 び 1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約の 適 用 が, 成 年 者 の 場 合 には 2000 年 ハーグ 成 年 者 保 護 条 約 の 適 用 がありうる。ドイツ 法 上 は, 公 法上 の 保 護 措 置 であっても,それが EU 法 上 又 は 条 約 上 の 概 念 としては 私 法 上 の 保 護 措 置 に 当 たるかぎり,これらの 規 範 が 適 用 される 342 。本 人 が EU 構 成 国 又 はハーグ 条 約 締 約 国 に 常 居 所 をもたない 場 合 には,FamFG 第 105 条 及 び 第152 条 ( 未 成 年 者 ) 又 は 第 313 条 第 3 項 ( 成 年 者 )に 従 って 国 際 裁 判 管 轄 が 決 定 される。それによれば, 未 成 年 者 については, 本 人 がドイツに 常 居 所 をもつとき 又 はドイツにおいて 保 護 する 必 要 があ338 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 15 et seq.339 Einführungsgesetz zum Handelsgesetzbuch (HGBEG) vom 10.05.1897, zuletzt geändert durch das Gesetz vom 22.12.2011(BGBl. I S. 3044).340 EGHGB 第 4 条 第 1 項 は,「Die nach dem bürgerlichen Recht mit einer Eintragung in das Güterrechtsregister verbundenenWirkungen treten, sofern ein Ehegatte Kaufmann ist und seine Handelsniederlassung sich nicht in dem Bezirk eines fürden gewöhnlichen Aufenthalt auch nur eines der Ehegatten zuständigen Registergerichts befindet, in Ansehung der auf denBetrieb des Handelsgewerbes sich beziehenden Rechtsverhältnisse nur ein, wenn die Eintragung auch in das Güterrechtsregisterdes für den Ort der Handelsniederlassung zuständigen Gerichts erfolgt ist. Bei mehreren Niederlassungen genügtdie Eintragung in das Register des Ortes der Hauptniederlassung.」と 規 定 している。341 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 43.342肯 定 説 として,MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 17 et seq.7272


るときに(FamFG 第 152 条 準 用 ), 成 年 者 については,ドイツにおいて 保 護 収 容 措 置 をとる 必 要 があるときに(FamFG 第 313 条 第 3 項 準 用 ), 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる 343 。3. 相 続 及 び 遺 産 分 割 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 ルール(1) EU 法 及 び 条 約EU においては,2009 年 に 相 続 規 則 提 案 が 出 されており,EU 規 則 として 相 続 規 則 を 制 定 するための 準 備 作 業 が 進 んでいる。 条 約 においては, 領 事 条 約 の 一 部 に 相 続 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 規 定がある( 上 述 参 照 )。(2) 土 地 管 轄 ルールの 準 用(a) 並 行 原 則 の 解 消従 来 , 非 訟 事 件 としての 相 続 及 び 遺 産 分 割 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 は, 判 例 法 理 によって「 並 行 原則 」に 従 っていた。そして,EGBGB 第 25 条 第 1 項 によってドイツ 法 が 準 拠 法 となる 場 合 にだけ,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められるとされていた。しかし,FamFG の 立 法 者 は, 並 行 原 則 を 放 棄 し,土 地 管 轄 に 関 する FamFG 第 343 条 及 び 第 344 条 の 規 定 を 準 用 することで 国 際 裁 判 管 轄 ルールを 導 くこととした(FamFG 第 105 条 ) 344 。その 根 拠 として, 土 地 管 轄 と 国 際 裁 判 管 轄 の 平 仄 を 図 ることができること, 並 行 原 則 が 必 ずしも 国 際 判 決 調 和 に 資 するとはいえないこと,そして 相 続 ・ 遺 産 分 割 事件 についてだけ 並 行 原 則 を 認 めるのは 体 系 的 な 調 和 を 欠 くこと 等 が 挙 げられる 345 。(b) 管 轄 原 因(aa) 相 続FamFG 第 105 条 によって 同 第 343 条 を 準 用 することにより,ドイツ 相 続 裁 判 所 は, 次 の 場 合 に国 際 裁 判 管 轄 をもつ。1 被 相 続 人 が 最 後 の「 住 所 」をドイツに 有 していたときには, 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる(FamFG第 343 条 第 1 項 )。 相 続 事 件 については, 法 文 上 の「 住 所 」 概 念 が 常 居 所 と 読 み 替 えられず, 端 的 に住 所 が 管 轄 原 因 とされるため, 注 意 が 必 要 である。 住 所 概 念 は, 相 続 準 拠 法 とはかかわりなく,BGB第 7 条 以 下 の 規 定 に 従 って 決 定 される 346 。2ドイツ 相 続 裁 判 所 は, 被 相 続 人 がドイツ 人 であったときにも 管 轄 をもつ(FamFG 第 343 条 第 2項 )。この 原 則 は, 被 相 続 人 が 重 国 籍 者 であっても,ドイツ 国 籍 の 実 効 性 を 問 うことなく 常 に 認 められる。 被 相 続 人 が 外 国 に 住 所 をもっていた 場 合 には,ベルリン・シェーネベルク 相 続 裁 判 所 が 土 地管 轄 をもつ 347 。343 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 19.344 Zöller/Geimer, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 4.345 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 34 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 4.346 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 25.347 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 26.7373


さらに,3ドイツ 相 続 裁 判 所 は, 相 続 財 産 が 内 国 に 所 在 している 場 合 にも 管 轄 をもつ(FamFG第 343 条 第 3 項 ) 348 。以 上 の 管 轄 原 因 は, 原 則 としていずれも 包 括 的 である。それゆえ,ドイツに 最 後 の 住 所 をもっていた 被 相 続 人 についても,EGBGB 第 25 条 第 1 項 及 び 第 4 条 第 1 項 ( 反 致 及 び 転 致 )ないし 第 25条 第 2 項 (ドイツに 所 在 する 不 動 産 に 関 するドイツ 法 の 選 択 )によって 準 拠 法 となる 法 に 基 づいて, 対象 を 限 定 しない 包 括 的 な 相 続 証 書 が 付 与 される 349 。(bb) 遺 言 事 件遺 言 に 関 わる 特 殊 な 問 題 については,FamFG 第 105 条 及 び 第 344 条 に 従 い, 以 下 の 管 轄 原 因 が導 かれる。公 的 機 関 による 特 別 な 遺 言 書 の 保 管 (Verwahrung)については, 以 下 の 裁 判 所 が 管 轄 をもつ。公 正 証 書 遺 言 については, 公 証 人 が 本 拠 をもつ 地 を 管 区 とする 裁 判 所 が(FamFG 第 344 条 第 1 項 第 1号 ), 遺 言 が 市 区 町 村 長 の 面 前 で 作 成 された 場 合 には,その 市 区 町 村 長 を 管 区 とする 裁 判 所 が( 同 第2 号 ) 管 轄 をもつ。BGB 第 2247 条 に 基 づく 自 筆 証 書 遺 言 については,あらゆる 裁 判 所 が 管 轄 をもつ。ただし, 被 相 続 人 はいつでも, 第 1 項 に 従 い 管 轄 をもつ 裁 判 所 における 保 管 を 求 めることができる( 同 第 3 号 )。 他 方 ,FamFG 第 349 条 第 2 項 に 基 づく 公 的 機 関 による 共 同 遺 言 の 再 保 管 は, 先 に 死 亡した 者 の 相 続 財 産 について 管 轄 をもつ 裁 判 所 が 行 う。ただし, 生 存 配 偶 者 又 は 生 存 登 録 パートナーが 別 の 区 裁 判 所 での 保 管 を 求 めた 場 合 には,その 限 りでない(FamFG 第 344 条 第 2 項 )。 相 続 契 約 書の 保 管 についても,FamFG 第 344 条 第 1 項 及 び 第 2 項 が 準 用 される( 同 第 3 項 )。相 続 財 産 の 保 全 (Sicherung)については,その 保 全 の 必 要 性 が 存 する 管 区 の 裁 判 所 が 管 轄 をもつ(FamFG 第 344 条 第 4 項 )。 夫 婦 財 産 制 について 共 有 制 がとられており, 夫 婦 総 括 財 産 の 一 部 が 相続 財 産 に 帰 属 している 場 合 の 夫 婦 総 括 財 産 の 分 割 については, 原 則 として 遺 産 分 割 を 行 う 裁 判 所 が管 轄 をもつ(FamFG 第 344 条 第 5 項 )。FamFG 第 343 に 定 める 以 外 の 裁 判 所 が 終 意 処 分 証 書 を 保 管 している 場 合 には,その 裁 判 所 が 終 意 処 分 を 開 始 するための 管 轄 をもつ(FamFG 第 344 条 第 6 項 )。相 続 放 棄 (BGB 第 1945 条 第 1 項 ) 又 は 相 続 放 棄 の 取 消 し(BGB 第 1955 条 )の 意 思 表 示 については, 相 続 放 棄 を 行 う 者 又 はその 取 消 しを 行 う 者 が 住 所 をもつ 管 区 の 相 続 裁 判 所 も 管 轄 をもつ。この意 思 表 示 の 記 録 は,その 裁 判 所 から 管 轄 をもつ 相 続 裁 判 所 に 転 送 される(FamFG 第 344 条 第 7 項 )。(3) 対 象 を 限 定 した 相 続 証 書(a) 個 別 準 拠 法 と 相 続 分 割 主 義総 括 準 拠 法 としての 相 続 準 拠 法 は,EGBGB 第 25 条 によって 決 定 されるが,それ 以 外 にも,EGBGB 第 3a 条 第 2 項 によって 優 先 的 に 適 用 される 個 別 準 拠 法 の 存 在 に 留 意 しなければならない。相 続 証 書 手 続 において, 個 別 準 拠 法 に 服 している 相 続 財 産 があることが 明 らかになった 場 合 には( 特348 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 27.349 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 28.7474


にフランス 又 はコモンロー 諸 国 に 所 在 する 不 動 産 ),EGBGB 第 25 条 が 定 める 相 続 準 拠 法 だけによって 相続 証 書 を 付 与 することはできない。この 場 合 には, 外 国 の 個 別 準 拠 法 が 適 用 されることを 理 由 に,対 象 を 限 定 して 相 続 証 書 を 付 与 する 必 要 はない( 並 行 原 則 が 放 棄 されたため)。むしろ,ドイツ 国 際 私法 が 指 定 する 相 続 準 拠 法 が 分 割 されている 場 合 であるため, 複 数 の 相 続 証 書 ―― 場 合 によっては 一枚 の 証 書 にまとめることもできる――を 付 与 することで, 相 異 なる 相 続 準 拠 法 に 服 する 相 続 財 産 を証 明 する 350 。同 じ 原 則 は, 部 分 反 致 又 は 部 分 転 致 によって 複 数 の 相 続 準 拠 法 が 指 定 され, 各 々 異 なる 相 続 財産 に 適 用 される 場 合 にも 当 てはまる(EGBGB 第 25 条 及 び 第 4 条 第 1 項 )。また,EGBGB 第 25 条 第 2項 によって, 被 相 続 人 が 内 国 に 所 在 する 不 動 産 についてだけドイツ 法 を 選 択 しており,その 他 の 相続 財 産 は 外 国 法 である 相 続 準 拠 法 に 服 している 場 合 も 同 様 である 351 。(b) FamFG 第 343 条 第 3 項 の 限 定 解 釈FamFG の 立 法 者 は,FamFG 第 105 条 によって 準 用 される 同 第 343 条 第 3 項 ( 相 続 財 産 が 内 国 に所 在 していることによる 管 轄 )も 包 括 的 であると 考 えていたようである。しかし,FamFG 第 343 条 第3 項 が 内 国 に 所 在 する 相 続 財 産 についてだけ 管 轄 を 認 める 以 上 , 管 轄 が 及 ぶ 対 象 は 限 定 され, 外 国に 所 在 する 相 続 財 産 は 対 象 にならないと 解 される 352 。(c) BGB 第 2369 条 第 1 項 による 相 続 証 書 の 制 限ドイツ 裁 判 所 が 包 括 的 管 轄 をもつとすると, 特 に 外 国 に 所 在 する 相 続 財 産 が 外 国 法 を 準 拠 法 としている 場 合 に 不 当 な 結 果 となりうる。ドイツ 裁 判 所 が 手 間 と 時 間 をかけて 外 国 法 に 基 づく 相 続 証書 を 作 成 しても, 外 国 において 承 認 されない 可 能 性 があるからである。そこで,BGB 第 2369 条 第 1項 は, 相 続 財 産 の 一 部 が 外 国 に 所 在 する 場 合 には, 内 国 に 所 在 する 相 続 財 産 だけを 対 象 として 相 続証 書 を 申 し 立 てることを 認 めている。BGB 第 2369 条 は, 相 続 準 拠 法 が 外 国 法 となることを 要 件 としていないため,ドイツ 人 被 相 続 人 も 同 様 に 対 象 を 限 定 した 相 続 証 書 を 申 し 立 てることができる 353 。(4) 内 在 的 な 管 轄 の 制 限相 続 ・ 遺 産 分 割 事 件 において 準 拠 法 が 外 国 法 である 場 合 には,ドイツ 相 続 裁 判 所 がどの 範 囲 で外 国 法 が 予 定 する 遺 産 管 理 手 続 を 行 うか 問 題 となる。 特 に 実 務 上 問 題 となるのは, 英 米 法 系 の 遺 産管 理 (administration)やオーストリア 法 上 の「 相 続 確 定 決 定 」(Einantwortung) 354 である。 多 くの 裁判 例 は, 並 行 原 則 の 下 で 外 国 法 が 準 拠 法 となることを 理 由 にドイツ 裁 判 所 の 管 轄 を 否 定 していたが,350 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 29.351 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 30.352 Rauscher は,ZPO 第 23 条 に 基 づく 財 産 所 在 地 管 轄 が 判 例 によって 制 限 され, 内 国 牽 連 性 が 要 件 とされていることも 根 拠 に 挙 げている。MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 31.353 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 32.354被 相 続 人 の 相 続 財 産 がどの 相 続 人 にどの 割 合 で 帰 属 するかを 確 定 し, 引 き 渡 すための 裁 判 所 の 決 定 。たとえば 不 動 産 登 記 簿 に 相 続 の 事 実 を 記 載 するためには,「 相 続 確 定 決 定 」(Einantwortung)が 必 要 とされる。7575


この 法 理 は, 並 行 原 則 を 放 棄 した FamFG においては 援 用 できない。この 点 は,ドイツ 裁 判 所 にとって「 本 質 的 に 相 容 れない 事 務 」(wesensfremd)であるか 否 かで 判 断 される。その 際 には,ドイツ 裁判 所 は,できる 限 り 外 国 相 続 法 上 の 制 度 に 沿 う 形 で 意 思 表 示 の 受 諾 やそれ 以 外 の 手 続 ( 相 続 の 承 認 又は 放 棄 , 限 定 承 認 など), 責 任 制 限 を 伴 う 財 産 目 録 の 作 成 等 を 行 うとされている 355 。しかし, 英 米 法 上 の 遺 産 管 理 について,ドイツ 相 続 裁 判 所 は, 遺 産 管 理 人 の 選 任 ,そして 遺 産管 理 裁 判 所 (probate court)の 裁 判 手 続 に 則 った 監 督 及 び 援 助 を 代 行 できないため,ドイツ 所 在 の 相続 財 産 についてもそれを 行 うことはできない。また,ドイツ 相 続 裁 判 所 は, 相 続 財 産 の 取 得 に 関 する 形 成 決 定 (konstitutive Entscheidungen), 特 にオーストリア 法 上 の「 相 続 確 定 決 定 」を 行 うことや,裁 量 に 基 づく 遺 産 分 割 を 行 うこともできない。したがって, 外 国 相 続 準 拠 法 上 の 形 成 決 定 は, 当 事者 が 本 国 で 取 得 すべきであり,それができない 場 合 には,ドイツ 相 続 裁 判 所 は 内 国 に 所 在 する 相 続財 産 についてのみ 相 続 承 認 によって 代 行 する。たとえば,オーストリア 人 で 最 後 の 住 所 をドイツにもつ 被 相 続 人 がドイツ 及 びオーストリアに 相 続 財 産 を 遺 して 死 亡 し,その 法 定 相 続 人 が 相 続 証 書 を申 し 立 てた 場 合 には,ドイツ 相 続 裁 判 所 は,オーストリア 裁 判 所 がすでに 相 続 確 定 決 定 を 下 している 場 合 にのみ, 全 相 続 財 産 を 対 象 とする 相 続 証 書 を 発 行 し,それ 以 外 の 場 合 には,BGB 第 2369 条に 基 づいて, 内 国 所 在 の 相 続 財 産 だけを 対 象 とする 相 続 証 書 を 発 行 するという 356 。FamFG による 管 轄 ルールの 改 正 は, 外 国 で 発 効 された 相 続 人 証 書 ,あるいは 外 国 で 選 任 された遺 産 管 理 人 , 遺 言 執 行 者 ,あるいは 人 格 代 表 者 (personal representative)の 承 認 には 影 響 しない。FamFG第 105 条 によって 承 認 のための 間 接 管 轄 の 範 囲 は 拡 大 するが,この 場 合 は 実 質 法 上 の 効 果 の 承 認 の可 否 ,そして 外 国 法 上 の 遺 産 管 理 人 をドイツ 法 上 の 遺 産 管 理 手 続 に 組 み 込 むことの 可 否 の 問 題 となるからである。たとえば, 外 国 法 に 基 づく 相 続 証 書 は 承 認 されない。 実 質 法 上 の 構 成 要 件 的 効 果 ( 公示 の 効 果 )は,FamFG 第 109 条 による 外 国 裁 判 の 承 認 の 対 象 にならないからである。また, 外 国 の遺 産 管 理 裁 判 所 (probate court)によって 選 任 された 人 格 代 表 者 は,ドイツにおいては,その 選 任 が相 続 人 の 処 分 権 を 制 限 する 趣 旨 であり, 英 米 法 上 の 遺 産 管 理 手 続 の 遂 行 に 限 られない 場 合 にのみ,機 能 的 に 遺 言 執 行 者 として 行 動 できるに 過 ぎない 357 。4. その 他 の 身 分 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄(1) 公 示 催 告 事 件公 示 催 告 (FamFG 第 433 条 以 下 にその 手 続 が 規 定 されている)が 問 題 となる 事 件 は 多 様 であり,FamFG 第 442 条 ~ 第 484 条 に 個 別 事 項 に 関 する 規 定 があるほか,BGB 等 にも 根 拠 規 定 がある。 家 事事 件 との 関 係 では, 特 に1 相 続 証 書 の 失 効 (BGB 第 2361 条 ),2 遺 言 執 行 者 証 書 の 失 効 (BGB 第 2368条 第 3 項 ),3 相 続 権 者 の 届 出 (BGB 第 1965 条 )が 問 題 となりうる。355 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 35.356 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 39 et seq.357 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 41.7676


1の 相 続 証 書 の 失 効 については, 当 該 相 続 証 書 を 交 付 した 相 続 裁 判 所 が 専 属 管 轄 をもつ(BGB第 2361 条 )。 相 続 証 書 の 交 付 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 及 び 土 地 管 轄 は,FamFG 第 343 条 による( 上 述 参照 ) 358 。2の 遺 言 執 行 者 証 書 の 失 効 についても, 同 様 に FamFG 第 343 条 による 359 。3の 相 続 権 者 の届 出 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 は,FamFG 第 105 条 及 び 第 454 条 第 2 項 による。それによれば, 相 続 裁判 所 としての 事 務 を 行 う 区 裁 判 所 が 管 轄 をもつ。その 事 務 が 区 裁 判 所 ではなく, 行 政 機 関 に 移 管 されている 場 合 には,その 相 続 行 政 機 関 が 本 拠 をもつ 管 区 の 区 裁 判 所 が 管 轄 をもつ(FamFG 第 454 条 第2 項 第 1・ 第 2 文 ) 360 。(2) 身 分 登 録 事 件身 分 登 録 事 件 (Personenstandssachen)の 国 際 裁 判 管 轄 については, 特 則 がなく,FamFG の 規 定が 準 用 される(PStG 361 第 51 条 第 1 項 )。それに 従 い,FamFG 第 105 条 も 身 分 登 録 事 件 に 準 用 されることから, 土 地 管 轄 に 関 する PStG の 規 定 を 準 用 することで 国 際 裁 判 管 轄 が 導 かれる。PStG 第 50 条第 2 項 に 定 める 土 地 管 轄 の 規 定 に 従 えば, 身 分 登 録 事 件 を 裁 判 所 に 申 し 立 てた 身 分 登 録 局 (Standesamt),職 権 による 身 分 登 録 行 為 を 行 う 身 分 登 録 局 ,あるいはその 身 分 登 録 簿 の 訂 正 が 求 められている 身 分 登 録 局 の 本 拠 がある 管 区 の 裁 判 所 が 管 轄 をもつ。したがって, 従 前 の 判 例 と 同 様 に, 一 般 にドイツにおける 身 分 登 録 が 問 題 となるかぎり,ドイツの 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる 362 。(3) 性 転 換 事 件ドイツ 法 上 , 性 転 換 については, 名 の 変 更 及 び 性 別 確 認 に 関 する 法 (TSG) 363 が 存 在 する。TSG第 4 条 第 1 項 によれば, 性 転 換 者 の 性 別 確 認 及 び 名 の 変 更 のための 裁 判 手 続 は, 特 段 の 定 めがないかぎり,FamFG の 規 定 に 従 う。 国 際 裁 判 管 轄 について TSG に 規 定 はないため,FamFG 第 105 条 に従 い,TSG 第 2 条 の 土 地 管 轄 に 関 する 規 定 が 準 用 されると 解 される。TSG 第 2 条 第 2 項 によれば, 申 立 人 が 住 所 をもつ 管 区 の 区 裁 判 所 が 土 地 管 轄 をもち, 申 立 人 がドイツ 国 内 に 住 所 をもたない 場 合 には,その 常 居 所 のある 管 区 の 区 裁 判 所 が 土 地 管 轄 をもつ。 基 準時 点 は, 申 立 てがなされた 時 点 である( 第 1 文 )。 申 立 人 がドイツ 人 であり,ドイツ 国 内 にドイツも常 居 所 ももたない 場 合 には,ベルリンのシェーネベルク 区 裁 判 所 が 土 地 管 轄 をもつ。ただし,シェーネベルク 区 裁 判 所 は, 重 大 な 事 由 によって 必 要 となる 場 合 には, 他 の 裁 判 所 に 移 送 することができる。 移 送 の 決 定 は, 後 者 の 裁 判 所 を 拘 束 する( 第 2 文 )。358 Prütting/Helms/Fröhler, FamFG-Kommentar, Köln 2009, § 353 FamFG, Rn. 4.359 Prütting/Helms/Fröhler, op.cit., § 355 FamFG, Rn. 6 und 7.360 Keidel/Engelhardt, FamFG-Kommentar, 6. Aufl., München 2009, § 105 FamFG, Rn. 2.361 Personenstandsgesetz vom 19.2.2007, BGBl. I S. 122.362 Keidel/Engelhardt, op.cit., § 105 FamFG, Rn. 6. なお, 婚 姻 証 書 については, 婚 姻 証 書 の 発 行 に 関 する 欧 州 評 議 会条 約 がある。Art. 1 CIEC-Übereinkommen über die Ausstellung von Ehefähigkeitszeugnissen 参 照 。363 Gesetz über die Änderung der Vornamen und die Feststellung der Geschlechtszugehörigkeit in besonderen Fällen (Transsexuellengesetz)[TSG] vom 10.9.1980, BGBl. I S. 1654.7777


この TSG 第 2 条 第 2 項 第 1 文 の 規 定 を 国 際 裁 判 管 轄 に 準 用 すると, 第 一 義 的 には 申 立 人 の 住 所が, 住 所 がドイツ 国 内 にない 場 合 に 常 居 所 がドイツ 国 内 にあるには 常 居 所 が, 管 轄 原 因 となると 解される。また, 同 第 2 文 は, 申 立 人 がドイツ 人 であり,ドイツに 住 所 も 常 居 所 もない 場 合 の 土 地 管轄 を 定 めているため, 申 立 て 人 がドイツ 人 である 場 合 には 本 国 管 轄 を 認 める 趣 旨 であると 解 される。(4) 失 踪 宣 告ドイツ 法 上 は, 死 亡 宣 告 の 制 度 がとられている。 外 国 法 上 の 不 在 宣 告 及 び 失 踪 宣 告 等 の 制 度 を含 めて,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 問 題 となる。かつては, 非 訟 事 件 について 一 般 に 並 行 原 則 が 妥 当 していたが,1986 年 EGBGB 改 正 以 後 は 廃 止 され, 特 別 法 に 各 々 死 亡 宣 告 の 国 際 裁 判 管 轄 及 び 準 拠 法が 規 定 されるに 至 っている。VerschG 364 第 12 条 によれば, 死 亡 宣 告 及 び 死 亡 時 点 の 確 認 に 関 する 裁 判 については, 失 踪 者 又は 死 亡 者 が 最 後 に 生 存 していた 時 点 でドイツ 人 であったこと,あるいはドイツ 国 内 に 常 居 所 をもっていたことが 管 轄 原 因 となる(VerschG 第 12 条 第 1 項 第 1・ 第 2 号 )。また,ドイツ 裁 判 所 による 死 亡宣 告 又 は 死 亡 時 点 の 確 認 に 関 して「 正 当 な 利 益 」(berechtigtes Interesse)が 存 する 場 合 にも, 国 際 裁判 管 轄 が 認 められる。 本 国 管 轄 が 認 められれば,EGBGB 第 9 条 が 死 亡 宣 告 , 死 亡 確 認 ,そして 死 亡時 期 の 確 認 , 生 存 及 び 死 亡 の 推 定 に 関 する 準 拠 法 を 失 踪 者 の 本 国 法 としているため,そのかぎりでは, 管 轄 と 準 拠 法 が 一 致 する 365 。IV. 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 制 度A. 婚 姻 事 件 に 関 する 承 認 確 認 決 定1. 総 説ドイツ 国 内 法 上 , 外 国 裁 判 は, 承 認 要 件 を 満 たすかぎり(FamFG 第 109 条 ), 特 別 の 手 続 を 要 することなく 自 動 承 認 されるのが 原 則 である(FamFG 第 108 条 )。もっとも,そうすると 外 国 裁 判 が 承認 要 件 を 具 備 しているか 否 かは,ドイツ 国 内 において 司 法 機 関 や 行 政 機 関 が 各 々 独 自 に 判 断 するため, 場 合 によってはその 判 断 が 食 い 違 い, 国 内 での 判 決 調 和 (Entscheidungseinklang)が 達 成 されないこともある。 特 に 重 要 な 身 分 関 係 である 婚 姻 事 件 ( 離 婚 , 別 居 , 婚 姻 取 消 しほか)については, 国 内での 判 決 不 調 和 は 望 ましくない。そこで, 立 法 者 は,1941 年 に 行 政 機 関 による 形 式 的 な 承 認 確 認 手続 を 導 入 しており,1962 年 には FamRÄndG 第 7 条 第 1 項 ,2008 年 には FamFG 第 107 条 に 引 き 継 がれ, 現 在 に 至 っている。この 承 認 確 認 手 続 は, 安 価 かつ 迅 速 で, 専 門 性 が 高 いメリットがあるとされる 366 。なお, 州 によっては 州 上 級 裁 判 所 に 移 管 されている(FamFG 第 107 条 第 3 項 参 照 )。 州 法 務 局が 申 立 てを 棄 却 した 場 合 には,FamFG 第 63 条 及 び 第 107 条 第 5 項 に 従 い,1 ヶ 月 以 内 に 州 上 級 裁 判364 Verschollenheitsgesetz vom 1.1.1964, zuletzt geändert durch das Gesetz vom 27.6.2000, BGBl. I S. 897.365 Staudinger/Weick, Berlin 2007, Art. 9 EGBGB, Rn. 41.366 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 1 et seq.7878


所 に 異 議 申 立 てをすることができる。 立 法 者 は,それによって 州 法 務 局 の 決 定 が 既 判 力 をもち, 法的 安 定 性 に 資 することを 企 図 している。また, 州 上 級 裁 判 所 の 決 定 については,FamFG 第 70 条 以下 の 規 定 に 従 い, 法 律 審 への 上 告 (FamFG 第 70 条 以 下 )も 認 められる 367 。FamFG 第 107 条 は, 本 来 ,司 法 機 関 が 行 うべき 職 務 を 行 政 機 関 にゆだねるもので, 違 憲 であり(GG 368 369第 92 条 ), 欧 州 人 権 条 約370第 6 条 第 1 項 及 び EU 人 権 憲 章 第 47 条 第 2 項 にも 違 反 するという 見 解 もある 371 。2. 適 用 範 囲(1) 事 項 的 適 用 範 囲承 認 確 認 手 続 の 事 項 的 適 用 範 囲 は, 異 性 間 の 婚 姻 事 件 に 限 られる。 婚 姻 していた 配 偶 者 の 一 方が 外 国 で 離 婚 し,ドイツにおいて 登 録 パートナーシップを 締 結 することを 望 んでいる 場 合 にも, 外国 離 婚 判 決 の 承 認 確 認 手 続 が 行 われうる。それに 対 して, 登 録 パートナーシップを 解 消 する 外 国 裁判 は, 承 認 確 認 手 続 の 対 象 にならないと 解 されている 372 。しかし,そうなると 登 録 パートナーシップを 解 消 する 外 国 裁 判 の 承 認 の 可 否 が 個 別 の 事 件 に 附 帯 して 判 断 されるため, 国 内 での 判 決 調 和 が達 成 されず, 跛 行 婚 が 生 じうることになり, 立 法 論 的 には 批 判 がある 373 。(2) 場 所 的 適 用 範 囲承 認 確 認 手 続 の 場 所 的 適 用 範 囲 については,EU 構 成 国 (デンマークを 除 く)が 下 した 婚 姻 事 件の 裁 判 の 承 認 に 関 するかぎり,ブリュッセル IIbis 規 則 が 優 先 して 適 用 される。しかも,ブリュッセル IIbis 規 則 は, 承 認 について 間 接 管 轄 を 要 件 としておらず, 構 成 国 が 同 規 則 の 管 轄 ルール 又 は 国 内法 上 の 管 轄 ルールのいずれを 適 用 した 場 合 にも 同 規 則 に 基 づいて 承 認 される 構 造 をとっている。ブリュッセル IIbis 規 則 は, 自 動 承 認 制 度 をとっており, 州 法 務 局 の 承 認 確 認 手 続 なしに 他 の 事 件 に 附帯 して 承 認 要 件 が 審 査 される。 当 事 者 は, 外 国 裁 判 の 承 認 要 件 の 存 否 確 認 を 求 めることもできる(ブリュッセル IIbis 規 則 第 21 条 第 3 項 )( 土 地 管 轄 は 集 中 されている〔IntFamRVG 第 12 条 〕) 374 。367 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 5 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 2. 従 前 は, 州 上級 裁 判 所 への 1 ヶ 月 の 控 訴 期 限 が 設 けられておらず, 法 律 審 への 上 告 は 認 められていなかった。368 Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland vom 23.5.1949.369 Europäische Konvention zum Schutze der Menschenrechte und Grundfreiheiten vom 4.11.1950.370 Charta der Grundrechte der Europäischen Union, ABl.EU 2010, Nr. C 83/389.371 Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 3.372従 前 の FamRÄndG 第 7 条 第 1 項 については,それを 登 録 パートナーシップを 解 消 する 外 国 裁 判 に 類 推 適 用 するか 否 か 争 われていたが,2008 年 に FamFG 立 法 者 が FamFG 第 107 条 では 婚 姻 事 件 しか 対 象 とせず, 登 録 パートナーシップを 明 記 しなかった 以 上 は, 後 者 が 排 除 されると 解 釈 されている。373 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 3 et seq.374婚 姻 事 件 の 外 国 裁 判 の 承 認 に 適 用 される 多 国 間 条 約 はない。ドイツと 他 の EU 構 成 国 との 二 国 間 条 約 については,ブリュッセル IIbis 規 則 に 劣 後 し 適 用 されない。ドイツとスイス 及 びチュニジアの 二 国 間 条 約 は 適 用 されるが, 優 遇 原 則 に 従 い,FamFG 第 107 条 も 補 充 的 に 適 用 されうる。7979


3. 承 認 確 認 手 続州 法 務 局 は, 承 認 確 認 手 続 を 専 権 的 に 行 い(Monopolisierung),FamFG 第 109 条 に 定 める 承 認要 件 が 具 備 されているか 否 かを 決 定 する。 州 法 務 局 の 専 権 性 のため, 裁 判 所 や 行 政 機 関 ( 身 分 登 録 局又 は 税 務 局 など)は, 婚 姻 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 の 承 認 について 州 法 務 局 の 判 断 を 先 取 りする 形 で(vorgreiflich) 判 断 してはならない。それゆえ, 裁 判 所 は, 外 国 裁 判 の 承 認 要 件 の 存 否 確 認 ,あるいはその 婚 姻 関 係 自 体 の 存 否 確 認 をすることはできず, 州 法 務 局 が 判 断 をするまでは, 外 国 裁 判 の 有効 又 は 無 効 のいずれも 前 提 とはできない。 婚 姻 事 件 の 外 国 裁 判 の 承 認 の 可 否 が, 親 子 事 件 や 扶 養 事件 等 の 先 決 問 題 として 争 われる 場 合 にも( 外 国 において 裁 判 離 婚 した 元 妻 が 元 夫 に 対 して 扶 養 料 支 払 いを請 求 する 場 合 など), 裁 判 所 は, 附 帯 して 婚 姻 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 の 承 認 の 可 否 を 判 断 することはできない。さらに, 州 法 務 局 の 決 定 が 下 される 前 に, 外 国 裁 判 と 同 じ 訴 訟 物 についてドイツで 訴 えが提 起 された 場 合 , 外 国 裁 判 が 承 認 されれば 消 極 的 訴 訟 要 件 となるが,その 点 を 裁 判 所 が 判 断 することもできない。これらの 場 合 には, 裁 判 所 は 職 権 で 裁 判 手 続 を 中 止 し, 当 事 者 に FamFG 第 107 条 第1 項 の 承 認 確 認 手 続 を 行 う 機 会 を 与 え, 州 法 務 局 の 判 断 を 待 たなければならない。これは, 州 法 務局 の 承 認 確 認 手 続 が 手 続 の 障 碍 となることを 意 味 する 375 。それに 対 して, 裁 判 所 の 判 断 が 州 法 務 局 の 判 断 の 先 取 りには 当 たらない 場 合 ,たとえば 外 国 で離 婚 判 決 の 対 象 となった 婚 姻 がドイツ 法 からみると 無 効 であった 場 合 などには, 州 法 務 局 の 判 断 を仰 ぐために 手 続 を 中 止 する 必 要 はない。また,ドイツ 裁 判 所 は, 外 国 裁 判 所 との 訴 訟 競 合 のケースにおいて, 将 来 の 外 国 裁 判 の 承 認 可 能 性 を 自 ら 判 断 することができる 376 。 保 全 処 分 を 命 ずることも妨 げられない 377 。4. 承 認 の 対 象(1) 外 国 裁 判FamFG 第 107 条 は, 婚 姻 の 無 効 又 は 取 消 し, 離 婚 , 別 居 ,そして 婚 姻 関 係 存 否 確 認 に 関 する 裁判 を 承 認 対 象 としている。FamFG 第 107 条 は, 外 国 法 上 の 諸 種 の 制 度 に 対 応 するために 第 98 条 の婚 姻 事 件 よりも 詳 細 なリストを 掲 げているが,FamFG 第 98 条 も 準 拠 外 国 法 上 の(ドイツ 法 が 知 らない) 制 度 に 合 わせて 手 続 を 行 うことを 前 提 としているため, 両 者 の 射 程 は 基 本 的 に 一 致 する 378 。FamFG 第 107 条 の 適 用 対 象 となるのは, 第 一 に, 外 国 の 司 法 機 関 , 行 政 機 関 その 他 の 国 家 機 関 ,あるいは 国 家 元 首 が 行 った 婚 姻 事 件 に 関 する 裁 判 又 は 決 定 である。 外 国 公 的 機 関 による 裁 判 又 は 決定 は, 機 能 的 にみて 外 国 裁 判 に 該 当 し, 当 該 国 において 形 式 的 既 判 力 を 備 えており,FamFG 第 109条 の 要 件 を 具 備 する 場 合 には 承 認 される。 宗 教 裁 判 所 が 行 った 判 断 は, 当 該 国 において 直 ちに 民 事上 の 効 力 をもつ 場 合 には, 端 的 にドイツ 州 法 務 局 承 認 の 対 象 となるが, 民 事 上 の 効 力 をもつために国 家 機 関 による 承 認 手 続 が 必 要 とされる 場 合 には, 後 者 の 承 認 決 定 がドイツ 州 法 務 局 による 承 認 の375 Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 6 et seq.376 Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 35.377 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 12 et seq., 17 et seq.378 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 22.8080


対 象 となる。 当 該 外 国 において, 婚 姻 事 件 の 裁 判 が 効 力 をもつために 身 分 登 録 簿 への 創 設 的 登 録 が要 件 となっている 場 合 には, 登 録 がなされて 初 めて 州 法 務 局 の 承 認 確 認 決 定 が 下 されるが, 承 認 の対 象 はあくまで 外 国 裁 判 であり,その 創 設 的 登 録 ではない 379 。外 国 における 請 求 棄 却 裁 判 は,FamFG 第 107 条 の 適 用 対 象 とはならない。ただし, 請 求 棄 却 裁判 が 婚 姻 関 係 の 存 否 確 認 に 既 判 力 を 与 える 場 合 には, 承 認 の 対 象 となる。それに 対 して,1 婚 姻 生活 共 同 体 の 回 復 を 命 ずる 裁 判 ,2 一 方 配 偶 者 に 法 律 行 為 による 離 婚 に 応 ずるよう 命 じる 裁 判 (ユダヤ 法 上 のゲット 離 婚 との 関 係 で, 夫 が 妻 にゲット〔 離 婚 証 書 〕を 手 渡 すよう 命 ずる 裁 判 が 下 される 場 合 など 380 ),そして3 先 決 問 題 としてのみ 婚 姻 の 存 在 を 確 認 する 裁 判 などは,FamFG 第 107 条 による 承 認 の 対 象とならない 381 。(2) 法 律 行 為 による 離 婚外 国 において 行 われた 法 律 行 為 による 離 婚 ,たとえば 外 国 で 行 われた 協 議 離 婚 ,タラーク 離 婚(イスラーム 法 ),ゲット 離 婚 (ユダヤ 法 ) 等 もドイツにおいて 承 認 されうる。ただし,FamFG 第 107条 による 州 法 務 局 の 専 権 性 が 妥 当 するのは, 外 国 での 離 婚 において 公 的 機 関 が 関 与 した 場 合 に 限 られる。 多 数 説 及 び 判 例 によれば, 何 らかの 形 で 外 国 の 公 的 機 関 が 関 わっていれば 足 り, 創 設 的 ではなく, 確 認 的 な 関 与 ( 記 録 や 登 録 など)でも 足 りると 解 されている。 他 方 , 公 的 機 関 が 全 く 関 与 しない 純 粋 な 法 律 行 為 による 離 婚 の 承 認 には, 州 法 務 局 の 承 認 確 認 手 続 は 必 要 とされない 382 。州 法 務 局 は, 承 認 確 認 手 続 において 承 認 要 件 の 具 備 を 審 査 するが, 承 認 要 件 は,ドイツ 国 際 私法 の 体 系 上 ,わが 国 と 同 じく, 外 国 において 公 的 機 関 が 公 権 的 判 断 を 下 した 場 合 と, 私 人 の 法 律 行為 によって 法 律 関 係 が 創 設 された 場 合 で 区 別 される 383 。 前 者 の 外 国 裁 判 については,FamFG 第 109条 に 従 い,その 既 判 力 等 の 訴 訟 法 上 の 効 力 が 承 認 される。それに 対 して, 外 国 で 法 律 行 為 によって身 分 関 係 が 創 設 された 場 合 には,ドイツ 国 際 私 法 が 指 定 する 準 拠 法 に 照 らして, 実 体 法 上 の 効 力 が承 認 される。それゆえ, 外 国 で 行 われた 法 律 行 為 による 離 婚 は,EGBGB 第 17 条 が 定 める 離 婚 準 拠法 (2012 年 6 月 12 以 降 は,ローマ III 規 則 による)の 要 件 を 満 たす 場 合 には,ドイツで 承 認 される 384 。そして,その 法 律 行 為 による 離 婚 に 公 的 機 関 の 関 与 があったかぎり,その 承 認 は, 州 法 務 局 の 専 権的 な 承 認 確 認 手 続 にゆだねられる 385 。379 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 20.380特 に 夫 の 信 教 の 自 由 との 関 係 で,Heinz-Peter Mansel, Die kulturelle Identität im Internationalen Privatrecht, BerDGesVR43 (2008), S.137 et seq. 参 照 。381 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 23.382 Schack, op.cit., Rn. 988 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 23 et seq. それに 対 して,Rauscher は, 公的 機 関 の 確 認 的 な 関 与 はあまり 意 味 をもたないため, 純 粋 な 法 律 行 為 による 離 婚 を 含 めて,すべて 州 法 務 局 の承 認 確 認 手 続 によらしめるとしている。MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 27.383 この 二 つの 承 認 ルートの 区 別 については, 拙 稿 「イタリアにおける 外 国 判 決 承 認 制 度 と 国 際 私 法 」 国 際 法 外交 雑 誌 101 巻 1 号 (2002 年 )52 頁 以 下 及 び 同 「 国 際 私 法 における 公 序 と 人 権 」 国 際 法 外 交 雑 誌 108 巻 2 号 (2009年 )57 頁 以 下 参 照 。384特 にタラーク 離 婚 については, 妻 が 事 前 に 知 らされていなかった 場 合 ,あるいは 子 の 監 護 権 も 財 産 分 与 も 受け 取 ることができず, 一 方 的 に 追 い 出 されるような 場 合 には,その 承 認 は EGBGB 第 6 条 の 公 序 則 に 反 する。385 ドイツ 国 内 では, 裁 判 離 婚 の 専 権 性 が 妥 当 する(EGBGB 第 17 条 第 2 項 )。そのため, 日 本 人 同 士 がドイツ 在8181


(3) 離 婚 の 効 果離 婚 や 別 居 等 の 効 果 に 関 する 事 項 ( 親 権 ・ 監 護 権 , 財 産 分 与 , 扶 養 料 支 払 請 求 , 年 金 分 割 請 求 など)は, 州 法 務 局 による 専 権 的 な 承 認 確 認 手 続 には 服 さない。これらの 事 項 は,FamFG 第 108 条 に 従 い,自 動 承 認 される。ただし, 離 婚 の 効 果 に 関 する 事 項 は, 外 国 での 離 婚 が 承 認 された 後 に 初 めて 承 認されうるため, 州 法 務 局 による 専 権 的 な 承 認 確 認 手 続 が 先 行 する 386 。親 権 者 又 は 監 護 権 者 の 指 定 が 離 婚 の 効 果 としてなされた 場 合 には,1996 年 子 の 保 護 条 約 ( 又 は1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約 )が 適 用 されるときにも,その 承 認 には 州 法 務 局 による 離 婚 の 承 認 確 認 手 続が 先 行 しなければならない。 反 対 に, 親 権 者 又 は 監 護 権 者 の 指 定 が 離 婚 と 連 動 せずに 行 われえた 場合 には( 事 実 上 の 別 居 による 親 権 者 指 定 など), 州 法 務 局 による 承 認 確 認 手 続 を 経 ることなく, 端 的 に1996 年 条 約 によって 承 認 される。 婚 姻 事 件 と 親 子 事 件 のいずれにもブリュッセル IIbis 規 則 が 適 用 される 場 合 (すなわち EU 構 成 国 の 裁 判 である 場 合 )には, 端 的 に 自 動 承 認 制 度 が 妥 当 する。EU 構 成 国が 離 婚 の 効 果 として 扶 養 料 の 支 払 いを 命 ずる 場 合 も 同 様 である(しかも 扶 養 料 支 払 命 令 は, 扶 養 義 務 規則 によって 執 行 宣 言 決 定 〔exequatur〕なしに 執 行 されうる)。ただし,EU 構 成 国 以 外 のルガノ 条 約 締 約 国が 離 婚 の 効 果 として 扶 養 料 支 払 命 令 を 下 した 場 合 には, 離 婚 について 州 法 務 局 による 承 認 確 認 手 続が 先 行 する 387 。(4) 夫 婦 双 方 の 本 国 による 婚 姻 事 件 の 裁 判FamFG 第 107 条 第 1 項 第 2 文 によれば, 例 外 的 に, 夫 婦 双 方 の 本 国 が 下 した 婚 姻 事 件 の 裁 判 の承 認 については, 州 法 務 局 による 承 認 確 認 手 続 を 経 る 必 要 がない。それゆえ, 自 動 承 認 制 度 に 従 い,承 認 要 件 は 他 の 事 件 に 附 帯 して 判 断 されうる。これは, 夫 婦 双 方 の 本 国 が 下 した 裁 判 は, 信 頼 性 が高 いことを 理 由 とする。ただし, 当 事 者 は, 外 国 裁 判 の 承 認 の 可 否 に 疑 義 がある 場 合 には, 任 意 で州 法 務 局 に 申 立 てをすれば 承 認 確 認 決 定 を 得 ることができ, 裁 判 所 に 外 国 裁 判 の 承 認 要 件 の 存 否 確認 を 申 し 立 てなくても 済 む 388 。(5) そのほかFamFG 第 107 条 第 10 項 は,1941 年 11 月 1 日 の 時 点 で, 外 国 裁 判 に 基 づいて 登 録 簿 に 婚 姻 の無 効 , 取 消 し, 離 婚 , 法 定 別 居 等 が 記 載 されていれば, 州 法 務 局 による 承 認 確 認 決 定 と 同 じ 効 力 をもつと 定 めている。その 反 対 解 釈 として,FamFG 第 107 条 及 び FamRÄndG 第 7 条 第 1 項 制 定 前 の時 点 で 下 された 外 国 裁 判 についても,FamFG 第 107 条 が 遡 及 して 適 用 されると 解 されている 389 。外 公 館 に 届 け 出 て 協 議 離 婚 を 行 った 場 合 にも, 日 本 法 上 は 有 効 な 離 婚 であるが( 民 法 第 741 条 類 推 適 用 ),ドイツにおいては 効 力 を 認 められない。また, 在 外 公 館 であっても,ドイツ 国 内 で 届 出 がなされれば, 外 国 離 婚 の承 認 の 問 題 にはならない。386 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 28 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 14 et seq.387扶 養 義 務 に 関 する 裁 判 の 承 認 執 行 について 1973 年 ハーグ 条 約 が 適 用 される 場 合 には, 婚 姻 事 件 に 関 する 州法 務 局 の 承 認 確 認 手 続 が 先 行 しなくてよいという。MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 30 et seq.388 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 32 et seq.389 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 37.8282


5. 承 認 の 効 果州 法 務 局 が 外 国 裁 判 の 承 認 を 確 認 する 又 はそれを 否 定 する 決 定 は, 対 世 効 をもつ 390 。B. 婚 姻 事 件 以 外 の 家 事 事 件 に 関 する 自 動 承 認 制 度ドイツ 国 内 法 上 , 婚 姻 事 件 以 外 の 家 事 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 の 承 認 は, 特 別 の 手 続 を 必 要 とせず, 自 動 承 認 制 度 によっている。それゆえ,ドイツの 司 法 機 関 及 び 行 政 機 関 は, 他 の 事 件 に 附 帯 して 外 国 裁 判 の 承 認 の 可 否 を 判 断 することができる(FamFG 第 108 条 第 1 項 )。当 事 者 は, 婚 姻 事 件 以 外 の 家 事 事 件 に 関 する 非 財 産 事 件 の 外 国 裁 判 の 承 認 の 可 否 について 391 ,確 認 の 利 益 をもつかぎり, 家 庭 裁 判 所 に 承 認 要 件 の 存 否 確 認 を 申 し 立 てることができる(FamFG 第108 条 第 2 項 第 1 文 : 第 107 条 第 9 項 準 用 )。ただし, 養 子 縁 組 の 承 認 要 件 の 存 否 確 認 については, 養 子が 縁 組 当 時 18 歳 未 満 であった 場 合 ,AdWirkG( 外 国 法 に 基 づく 養 子 縁 組 の 効 果 に 関 する 法 律 ) 第 2 条 ,第 4 条 及 び 第 5 条 が 適 用 される。また, 一 定 の 要 件 が 満 たされれば, 裁 判 所 は, 外 国 法 上 の 養 子 縁組 の 効 果 をドイツ 法 上 のそれに 転 換 することができる(AdWirkG 第 3 条 )。 承 認 要 件 の 存 否 確 認 手 続の 土 地 管 轄 は, 申 立 ての 相 手 方 又 は 対 象 者 の 常 居 所 地 ,それがない 場 合 には, 確 認 の 利 益 がある 地又 は 保 護 措 置 の 必 要 性 がある 地 に 専 属 的 に 認 められる(FamFG 第 108 条 第 3 項 )。EU 法 及 び 条 約 上 の 規 範 は,FamFG 第 108 条 に 優 先 して 適 用 される。そこで,EU 構 成 国 が 下した 親 権 ・ 監 護 権 及 び 面 会 交 流 権 に 関 する 裁 判 については,ブリュッセル IIbis 規 則 が 専 ら 適 用 され,優 遇 原 則 に 基 づいて FamFG 第 108 条 が 適 用 される 余 地 はない。 同 様 に,EU 構 成 国 が 下 した 扶 養 義務 の 裁 判 には, 専 ら 扶 養 義 務 規 則 が 適 用 される。EU 構 成 国 以 外 の 1961 年 ハーグ 未 成 年 者 保 護 条 約 又 は 1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 の 締 約 国 が下 した 親 子 事 件 に 関 する 裁 判 の 承 認 は, 専 ら 該 当 する 条 約 による。 同 様 に, 各 締 約 国 との 関 係 では,成 年 者 保 護 に 関 する 裁 判 の 承 認 は 2000 年 ハーグ 成 年 者 保 護 条 約 に, 扶 養 義 務 の 裁 判 の 承 認 は 1973年 ハーグ 扶 養 義 務 裁 判 の 承 認 執 行 条 約 に, 養 子 縁 組 決 定 の 承 認 は 1993 年 ハーグ 養 子 縁 組 条 約 による。これらの 条 約 には,FamFG 第 108 条 の 適 用 を 除 外 する 明 文 規 定 がないため, 同 条 がより 容 易 に 承 認を 認 める 場 合 には, 優 遇 原 則 に 従 い, 後 者 が 適 用 されうる 392 。C. 外 国 裁 判 の 承 認 要 件1. 外 国 裁 判 所 の 裁 判FamFG 第 108 条 第 1 項 及 び 第 109 条 による 承 認 の 対 象 となるのは, 外 国 裁 判 所 の 裁 判 である。判 決 国 において 裁 判 所 ではなく, 行 政 機 関 や 国 家 元 首 , 公 証 人 協 会 等 が 下 した 判 断 であっても, 機能 的 にみて, 当 事 者 に 対 する 手 続 的 保 障 に 基 づく 公 権 的 な 判 断 に 該 当 するかぎりは,ドイツにおい390 Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 18.391 FamFG 第 108 条 第 2 項 第 1 文 が 非 財 産 事 件 に 限 定 しているのを 批 判 するものとして,Zöller/Geimer, op.cit., §108 FamFG, Rn. 3.392 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 108 FamFG, Rn. 5 et seq. 二 国 間 条 約 については,Rn. 6a を 参 照 。8383


て 外 国 裁 判 として 承 認 される。 宗 教 裁 判 所 による 判 断 も, 当 該 国 において 民 事 上 の 効 力 をもつかぎり, 外 国 裁 判 として 承 認 される 393 。それに 対 して, 法 律 行 為 によって 創 設 される 身 分 関 係 の 成 立 及び 効 力 は,ドイツ 国 際 私 法 が 指 定 する 準 拠 法 によって 判 断 される。たとえば, 認 知 及 び 認 知 への 同意 は,EGBGB 第 19 条 及 び 第 23 条 が 指 定 する 準 拠 法 により, 契 約 型 養 子 縁 組 及 びその 同 意 は,EGBGB第 22 条 及 び 第 23 条 が 指 定 する 準 拠 法 によって 判 断 される 394 。外 国 裁 判 としての 承 認 の 対 象 になるのは, 本 案 判 決 又 は 決 定 だけであり, 具 体 的 には, 訴 訟 物に 関 する 終 局 的 裁 判 ,そして 人 の 身 分 関 係 を 形 成 する 裁 判 を 指 す。 相 続 証 書 が 訴 訟 法 上 の 効 力 をもたず, 権 利 関 係 を 擬 制 する 実 体 法 上 の 効 力 ( 公 信 の 原 則 )しかもたないかぎり 395 , 承 認 の 対 象 とならない 396 。それに 対 して, 訴 訟 判 決 , 訴 訟 の 開 始 に 関 する 決 定 , 裁 判 所 による 事 実 行 為 (たとえば 相 続法 上 の 宣 言 の 受 容 ), 身 分 登 録 簿 等 への 登 録 は 承 認 の 対 象 にならない。また, 第 三 国 の 裁 判 の 承 認 を 決定 する 外 国 裁 判 も,ドイツにおいて 承 認 されえない( 二 重 の 有 効 宣 言 〔Doppel-Exequatur〕の 禁 止 )。承 認 の 対 象 となるのは, 判 決 国 において 効 力 をもつ 裁 判 である。ZPO 第 328 条 の 解 釈 としては,法 的 安 定 性 を 確 保 するため, 外 国 判 決 の 確 定 性 ,すなわち 通 常 の 不 服 申 し 立 ての 方 法 では 覆 らない状 態 になっていることが 要 件 とされる 397 。ただし, 非 訟 裁 判 に 関 するかぎり, 形 式 的 及 び 実 質 的 既判 力 は 要 件 とされない。外 国 保 全 処 分 も, 承 認 の 対 象 となる。 保 全 処 分 が 略 式 手 続 によっていたり, 本 案 判 決 が 下 されるまでの 限 定 された 効 力 をもたない 場 合 にも, 承 認 自 体 の 妨 げとはならない 398 。2. 承 認 要 件(1) 総 説FamFG 第 109 条 は, 外 国 裁 判 が 承 認 されることを 出 発 点 とし, 例 外 的 に 承 認 を 拒 否 すべき 事 由を 列 挙 する 形 をとっている。この 規 定 は,ZPO 第 328 条 第 1 項 第 1~ 第 4 号 及 び 旧 FGG 第 16a 条 を引 き 継 いでいる。また,FamFG 第 109 条 第 5 項 においては, 一 般 に 認 められてきた 実 質 的 再 審 査 の禁 止 原 則 が 明 記 されるに 至 っている。(2) 承 認 拒 否 事 由FamFG 第 109 条 第 1 項 によれば, 外 国 裁 判 の 承 認 は, 以 下 の 場 合 に 拒 否 される。すなわち,(a)外 国 裁 判 所 がドイツ 法 によれば 管 轄 をもっていなかったとき( 第 1 号 ),(b) 一 方 当 事 者 が 本 案 について 争 っておらず, 適 式 又 は 適 時 の 送 達 の 欠 如 を 援 用 していること( 第 2 号 ),(c) 外 国 裁 判 がドイツの先 行 裁 判 又 はドイツで 承 認 される 第 三 国 の 先 行 裁 判 と 矛 盾 すること( 第 3 号 ),(d) 外 国 裁 判 の 承 認 が393 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 108 FamFG, Rn. 8 et seq.394 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 108 FamFG, Rn. 11.395 ドイツ 法 について,Rainer Frank/Tobias Helms, Erbrecht, 5. Aufl., München 2010, S. 212 et seq.396 Zöller/Geimer, op.cit., § 108 FamFG, Rn. 10.397家 事 事 件 の 外 国 裁 判 の 承 認 要 件 に 関 する 規 定 が ZPO 第 328 条 から FamFG 第 109 条 に 移 行 した 後 は, 外 国 裁判 の 確 定 性 を 要 件 としなくてよいとする 説 もある。MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 108 FamFG, Rn. 14.398 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 108 FamFG, Rn. 15.8484


公 序 に 反 すること( 第 4 号 )である。また,(e) 一 定 の 家 事 事 件 については, 相 互 の 保 証 がない 場 合にも 承 認 が 拒 否 される(FamFG 第 109 条 第 4 項 )。FamFG 第 109 条 に 定 める 承 認 要 件 は,FamFG 第 108条 によって 外 国 裁 判 が 自 動 承 認 される 場 合 のみならず, 第 107 条 によって 婚 姻 事 件 に 関 する 外 国 裁判 が 州 法 務 局 の 承 認 確 認 手 続 によって 承 認 される 場 合 にも 妥 当 する。(a) 間 接 管 轄FamFG 第 109 条 第 1 項 第 1 号 が 定 める 間 接 管 轄 の 要 件 は, 原 則 として,ドイツ 法 上 の 管 轄 ルールに 従 って 判 断 される(いわゆる「 鏡 像 理 論 」) 399 。ただし,1 婚 姻 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 は, 一 方 配偶 者 がその 判 決 国 において 常 居 所 を 有 していた 場 合 には,FamFG 第 98 条 第 1 項 第 4 号 の 規 定 にかかわらず 承 認 される(FamFG 第 109 条 第 2 項 第 1 文 )。また,2 婚 姻 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 が 夫 婦 双 方の 本 国 において 承 認 される 場 合 には, 第 98 条 の 規 定 にかかわらず 承 認 される( 同 第 2 文 )。 同 様 に,3 登 録 パートナーシップ 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 は,パートナーシップの 登 録 国 が 当 該 裁 判 を 承 認 する 場 合 には, 第 103 条 の 規 定 にかかわらず 承 認 される( 同 第 109 条 第 3 項 )。これらの 規 定 は, 婚 姻 事件 又 は 登 録 パートナーシップ 事 件 の 裁 判 に 関 する 承 認 要 件 を 緩 和 するものであり, 特 に2と3は,離 婚 事 件 又 は 登 録 パートナーシップ 事 件 の 準 拠 法 所 属 国 (EGBGB 第 17 条 第 1 項 第 1 文 及 び 第 14 条 第 1項 第 1 号 ;EGBGB 第 17b 条 第 1 項 第 1 文 )との 判 決 調 和 の 達 成 を 優 先 するものである 400 。なお, 外 国 裁 判 所 が 当 該 国 において 妥 当 している 準 則 によって 国 際 裁 判 管 轄 をもっていたか 否かは, 審 査 されない。また, 外 国 において 裁 判 を 申 立 てた 者 は, 承 認 段 階 において 外 国 裁 判 所 の 無管 轄 を 主 張 できない 401 。(b) 適 式 又 は 適 時 の 送 達FamFG 第 109 条 第 1 項 第 2 号 は, 当 事 者 の 防 禦 権 を 保 障 するための 規 定 であり, 一 方 当 事 者 が本 案 について 争 っておらず, 適 式 又 は 適 時 の 送 達 がなかったことを 援 用 する 場 合 には, 外 国 裁 判 の承 認 を 否 定 する。ZPO 第 328 条 第 1 項 第 2 号 が 被 告 の 防 禦 権 を 保 障 しているのに 対 して,FamFG 第109 条 第 1 項 第 2 号 は, 被 告 又 は 相 手 方 に 限 定 せず,いずれの 当 事 者 も 対 象 とする。FamFG 第 109条 は,ブリュッセル IIbis 規 則 第 23 条 b 号 とは 異 なって, 親 子 事 件 において 子 の 意 見 が 聴 取 されなかったことを 承 認 拒 否 事 由 としていないが,FamFG 第 109 条 第 1 項 第 4 号 の 公 序 に 反 する 可 能 性 はある 402 。399少 数 説 として,EU 法 又 は 条 約 上 の 承 認 ルールが 妥 当 しない(EU 構 成 国 又 は 条 約 締 約 国 以 外 の) 第 三 国 が 下した 裁 判 について,FamFG 第 109 条 に 基 づいて 承 認 の 可 否 を 判 断 すべき 場 合 であっても,FamFG 第 98 条 以 下 の管 轄 ルールだけではなく,EU 法 又 は 条 約 上 の 管 轄 ルールを 援 用 できるとする 見 解 もある。たとえば, 米 国 内 に常 居 所 をもつ 夫 婦 について, 米 国 の 当 該 州 の 裁 判 所 が 離 婚 決 定 を 下 した 場 合 , 間 接 管 轄 は,ブリュッセル IIbis規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 に 従 って 肯 定 されるという。MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 109 FamFG, Rn. 12 (Fn. 20).400 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 109 FamFG, Rn. 4 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 109 FamFG, Rn. 7 et seq.401 Bassange/Roth/Althammer, op.cit., § 109 FamFG, Rn. 2.402 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 109 FamFG, Rn. 23 et seq.8585


FamFG 第 109 条 第 1 項 第 2 号 の 承 認 拒 否 事 由 は, 当 事 者 による 主 張 があって 初 めて 審 査 され,職 権 では 審 査 されない。 適 式 の 送 達 がなくても, 当 事 者 が 防 禦 するのに 足 りるだけ 適 時 に 送 達 がなされていた 場 合 には, 承 認 されうる。 送 達 の 適 式 性 は, 判 決 国 法 によって 判 断 されるのに 対 して,送 達 の 適 時 性 は,ドイツ 法 上 の 応 訴 期 間 を 勘 案 したうえで, 客 観 的 に 判 決 国 裁 判 所 で 防 禦 するのに十 分 な 時 間 的 余 裕 があったか 否 かを 基 準 とする 403 。(c) 先 行 裁 判 との 矛 盾FamFG 第 109 条 第 1 項 第 3 号 によれば, 外 国 裁 判 は,ドイツですでに 下 されている 先 行 裁 判 又はドイツでの 承 認 要 件 を 具 備 した 第 三 国 の 先 行 裁 判 と 矛 盾 する 場 合 には, 承 認 されない。 双 方 が 同一 事 件 である 必 要 はなく, 重 要 な 点 で 一 致 していれば, 要 件 が 満 たされる 404 。(d) 公 序FamFG 第 109 条 第 1 項 第 4 号 は, 外 国 裁 判 がドイツの 実 体 的 公 序 又 は 手 続 的 公 序 に 反 する 場 合には, 承 認 が 拒 否 されるとしている。これは, 基 本 的 に EGBGB 第 6 条 に 定 める 公 序 則 と 一 致 する。基 準 時 点 は, 外 国 裁 判 の 承 認 の 可 否 について 判 断 する 時 点 である。 外 国 裁 判 の 反 公 序 性 の 判 断 においては, 基 本 権 侵 害 の 有 無 ( 特 に 裁 判 を 受 ける 権 利 , 家 族 生 活 の 保 障 , 子 の 福 祉 など)も 審 査 される。(e) 相 互 の 保 証家 事 事 件 の 外 国 裁 判 の 承 認 については, 相 互 の 保 証 が 要 件 とされないのが 原 則 である。ただし,FamFG 第 109 条 第 4 項 によれば, 争 訟 性 の 家 事 事 件 ( 第 1 号 )(FamFG 第 121 条 に 規 定 する 事 項 ) 405 及び 登 録 パートナーシップ 事 件 ( 第 1 号 に 該 当 する 争 訟 性 の 事 件 のほか, 第 2~ 第 5 号 )については, 相 互の 保 証 が 要 求 される。 後 者 に 該 当 するのは, 争 訟 性 のある 事 件 として(FamFG 第 109 条 第 4 項 第 1 号 ),1 扶 養 事 件 ,2 登 録 パートナーシップ 財 産 制 事 件 ,3その 他 の 登 録 パートナーシップ 事 件 が 挙 げられる。また,それ 以 外 にも,4 登 録 パートナーシップ 上 の 扶 助 及 び 協 力 義 務 (FamFG 第 109 条 第 4 項第 2 号 ),5 住 居 及 び 家 財 ( 同 第 3 号 ),6 法 定 の 後 得 財 産 共 有 制 の 清 算 において, 支 払 猶 予 又 は 対 象財 産 の 引 渡 しを 命 ずる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 ( 第 4 号 ),5 選 択 財 産 制 としての 共 有 制 において, 特 定 の法 律 行 為 に 対 する 他 方 パートナーの 同 意 等 に 代 わる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 ( 第 5 号 )も 対 象 となる。 婚姻 事 件 については 相 互 の 保 証 を 要 件 とせず, 登 録 パートナーシップ 事 件 についてだけそれを 要 件 としているのは, 同 性 カップルを 法 的 に 保 護 する 国 がまだ 少 なく,その 形 態 も 各 国 ごとに 大 きく 異 なることにあるという 406 。403 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 109 FamFG, Rn. 26 et seq. 相 手 方 が 判 決 国 において 上 訴 しなかったことは, 承 認拒 否 の 妨 げにはならない。404 Bassange/Roth/Althammer, op.cit., § 109 FamFG, Rn. 4.405 FamFG 第 121 条 に 規 定 する 事 項 であって,FamFG 施 行 前 には ZPO において 規 定 されていた 事 項 を 指 す。406 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 109 FamFG, Rn. 6, 55 et seq.8686


D. 外 国 裁 判 の 執 行1. 総 説外 国 裁 判 の 承 認 とは 異 なり, 執 行 はドイツの 公 権 力 行 使 を 前 提 とするため,FamFG に 基 づく 執行 においても 執 行 宣 言 決 定 (exequatur)が 要 求 される(FamFG 第 110 条 第 2 項 )。ルガノ 条 約 ,1996年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 ( 又 は 1961 年 ハーグ 未 成 年 者 保 護 条 約 ),2000 年 ハーグ 成 年 者 保 護 条 約 等 に 基 づく 外 国 裁 判 の 執 行 も 同 様 である。もっとも, 近 時 の EU 規 則 は,EU 域 内 における 判 決 の 自 由 移 動 を確 立 するため, 執 行 宣 言 制 度 を 廃 止 する 傾 向 にある。ブリュッセル IIbis 規 則 は, 婚 姻 事 件 及 び 通 常の 親 子 事 件 について 執 行 宣 言 決 定 を 要 件 としているが, 子 の 返 還 事 件 及 び 面 会 交 流 事 件 について 執行 宣 言 制 度 を 廃 止 しているほか, 扶 養 義 務 規 則 も 執 行 宣 言 制 度 を 廃 止 している。 現 在 進 行 中 のブリュッセル I 規 則 の 改 正 作 業 においても, 執 行 宣 言 制 度 を 廃 止 する 方 向 で 検 討 されている。2. 執 行 宣 言 手 続(1) 原 則FamFG 第 110 条 第 1 項 に 基 づく 外 国 裁 判 の 執 行 に 関 しては,ドイツ 裁 判 所 が 執 行 宣 言 をすることが 要 件 となる。この 執 行 宣 言 は,FamFG 第 110 条 第 2 項 のような 形 式 的 な 決 定 ではなく, 執 行 手続 における 中 間 決 定 (Zwischenentscheidung)として 下 される 407 。裁 判 所 は, 執 行 宣 言 をするに 当 たって, 外 国 裁 判 が FamFG 第 109 条 に 定 める 承 認 要 件 を 具 備しているか 否 かを 審 査 する。 従 来 と 同 じく, 実 質 的 再 審 査 は 行 われない。 婚 姻 事 件 については, 承認 について 必 ず 州 法 務 局 による 承 認 確 認 手 続 が 先 行 し,それを 経 てから 執 行 宣 言 を 得 ることができる。 他 方 ,FamFG 第 108 条 第 2 及 び 第 3 項 に 従 い, 外 国 裁 判 の 承 認 の 可 否 について 確 認 判 決 が 下 されている 場 合 には, 執 行 可 能 性 を 判 断 する 裁 判 所 もそれに 拘 束 される。FamFG 第 108 条 第 2 及 び 第3 項 の 確 認 手 続 が 係 属 している 場 合 には, 執 行 宣 言 を 求 められた 裁 判 所 は 手 続 を 中 止 することができる。外 国 裁 判 は, 外 国 において 確 定 しており,しかも 執 行 力 をもっていなければならない。 外 国 裁判 後 , 執 行 までの 間 に 事 情 が 変 更 した 場 合 には,ドイツ 国 内 手 続 法 上 と 同 様 に 処 理 される。 特 に 外国 裁 判 の 執 行 が 子 の 福 祉 と 相 容 れない 状 態 になったときには,ドイツ 裁 判 所 は, 外 国 裁 判 の 執 行 を拒 否 するか, 特 定 の 執 行 手 段 を 拒 否 するか,あるいは 対 象 となっている 外 国 裁 判 を 変 更 することができる 408 。(2) ZPO に 基 づく 執 行外 国 裁 判 が FamFG 第 95 条 第 1 項 に 定 める 義 務 のいずれかを 内 容 とする 場 合 には,その 執 行 は,執 行 宣 言 決 定 を 要 件 とする。 強 制 執 行 には,ZPO の 規 定 が 準 用 される。その 義 務 とは, 具 体 的 には,407 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 110 FamFG, Rn. 8.408 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 110 FamFG, Rn. 10 et seq.8787


1 金 銭 の 支 払 い(FamFG 第 95 条 第 1 項 第 1 号 ),2 動 産 又 は 不 動 産 の 引 渡 し( 同 第 2 号 ),3 代 替 執 行が 可 能 又 は 不 可 能 である 行 為 ( 同 第 3 号 ),4 受 忍 義 務 及 び 不 作 為 ( 同 第 4 号 ),そして5 意 思 表 示 ( 同第 5 号 )を 指 す。これらの 事 項 に 関 する 外 国 裁 判 は,FamFG 第 109 条 の 要 件 のほか, 判 決 国 法 上 ,形 式 的 な 既 判 力 を 備 えていなければならない。 婚 姻 事 件 については,FamFG 第 107 条 による 州 法 務局 による 承 認 確 認 手 続 が 先 行 し,その 後 に 執 行 宣 言 決 定 が 下 される 扱 いとなる 409 。V. 外 国 法 に 関 する 情 報A. 婚 姻 ・ 離 婚1. 婚 姻 の 成 立ドイツ 法 上 は, 義 務 的 な 民 事 婚 制 度 が 採 用 されており, 両 当 事 者 の 合 意 と 身 分 登 録 局 への 届 出によって 婚 姻 が 成 立 する 410 。 婚 姻 年 齢 に 達 していない 者 の 婚 姻 (BGB 第 1303 条 :16 歳 の 者 と 18 歳 以上 の 成 年 者 であること) 及 び 婚 姻 障 碍 のある 婚 姻 (BGB 第 1306~ 第 1308 条 : 重 婚 ; 近 親 婚 ; 縁 組 親 族 との婚 姻 禁 止 〔ただし, 家 庭 裁 判 所 の 許 可 を 得 て 婚 姻 しうる〕)は, 取 り 消 されうる(aufheben)。 婚 姻 における 意 思 表 示 の 瑕 疵 ( 錯 誤 , 詐 欺 , 強 迫 など)も 婚 姻 の 取 消 原 因 となる(BGB 第 1314 条 第 2 項 )。 婚 姻 の取 消 しは, 家 庭 裁 判 所 の 裁 判 によって 婚 姻 関 係 を 現 時 点 から 解 消 する(BGB 第 1313 条 第 1 項 ) 411 。婚 姻 取 消 手 続 は, 家 庭 裁 判 所 によって 行 われる(FamFG 第 111 条 第 1 項 ,121 条 第 2 号 )。 手 続 は,申 立 てによって 開 始 され, 申 立 権 者 は 実 体 法 上 の 規 定 によって 決 定 される(BGB 第 1316 条 )。 一 方 配偶 者 が 申 立 人 となる 場 合 には, 他 方 配 偶 者 が 相 手 方 となる。それに 対 して, 行 政 機 関 が 申 立 てをする 場 合 ,あるいは 重 婚 について 第 三 者 が 申 立 てをする 場 合 には, 夫 婦 双 方 が 相 手 方 となる。 婚 姻 は,婚 姻 取 消 裁 判 が 確 定 することで 解 消 される(BGB 第 1313 条 第 2 文 )。 婚 姻 取 消 原 因 は, 法 律 上 限 定 列挙 されている(BGB 第 1313 条 第 3 文 )。婚 姻 が 取 り 消 されると, 現 時 点 から 婚 姻 関 係 が 解 消 され, 当 事 者 は 再 婚 することが 可 能 になる。遡 及 効 は 認 められないのが 原 則 である。ただし, 婚 姻 挙 行 時 に 重 大 な 婚 姻 取 消 事 由 が 存 することを知 っていた 配 偶 者 は,BGB 第 1913 条 による 生 存 配 偶 者 の 相 続 権 を 失 う(BGB 第 1318 条 第 5 項 )。 婚姻 取 消 しに 伴 い, 原 則 として 年 金 分 割 及 び 婚 姻 住 居 ・ 家 財 の 分 配 が 行 われ,また 一 定 の 場 合 には,婚 姻 取 消 後 も 当 事 者 間 で 扶 養 請 求 が 認 められる。 夫 婦 間 の 未 成 年 者 の 親 権 については, 離 婚 の 場 合409 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 110 FamFG, Rn. 13 et seq.410従 来 は, 教 会 での 挙 式 を 行 うには, 事 前 に 有 効 な 民 事 婚 が 成 立 していることが 要 件 であったが(Verbot derkirchlichen Voraustrauung),2009 年 1 月 1 日 以 降 はこの 原 則 が 廃 止 されている。それによって, 理 論 的 には, 民 事婚 と 教 会 法 上 の 婚 姻 が 並 立 し, 宗 教 上 だけ 有 効 で 民 事 上 の 効 力 をもたない 婚 姻 がなされうることとなった。もっとも,プロテスタント 教 会 は, 従 前 と 同 じく 事 前 の 民 事 婚 を 教 会 での 挙 式 の 要 件 としており,カトリック 教会 は, 例 外 的 に 司 教 の 許 可 を 得 た 場 合 にのみ, 事 前 の 民 事 婚 なしに 教 会 で 挙 式 しうる 扱 いとなっている。DieterSchwab, Familienrecht, 19. Aufl., München 2011, S. 30.411 Schwab, op.cit., S. 39 et seq.8888


と 同 じく 共 同 親 権 が 存 続 するのが 原 則 であり, 父 母 の 別 居 後 , 申 立 てがあって 初 めて 単 独 親 権 への転 換 が 行 われうる( 後 述 B 参 照 )。2. 婚 姻 の 効 力婚 姻 をすることで, 夫 婦 は, 婚 姻 共 同 体 を 共 に 形 成 する 義 務 を 負 う。 具 体 的 には, 同 居 , 共 同生 活 に 関 する 配 慮 ( 家 事 , 子 の 監 護 , 自 由 時 間 の 過 ごし 方 など), 家 財 道 具 及 び 婚 姻 住 居 の 共 同 占 有 , 夫婦 相 互 の 援 助 ( 配 偶 者 の 自 殺 の 予 防 など), 夫 婦 相 互 の 配 慮 ( 信 教 及 び 職 業 選 択 の 尊 重 , 信 書 の 秘 密 の 尊 重 ,自 宅 での 隠 しマイクによる 録 音 の 禁 止 など),そして 夫 婦 の 同 権 が 包 括 される。これらの 義 務 の 違 反 があっても, 履 行 請 求 できず(BGB 第 1353 条 第 2 項 : 婚 姻 生 活 の 実 現 を 命 ずる 裁 判 は 執 行 力 をもたない〔FamFG第 120 条 第 3 項 〕), 一 定 の 場 合 に 損 害 賠 償 請 求 が 認 められるに 過 ぎない 412 。 氏 については, 夫 婦 は 婚姻 後 も 従 前 の 氏 を 維 持 できるほか, 一 方 配 偶 者 の 氏 を 共 通 の 氏 とすること,あるいは 一 方 配 偶 者 の氏 を 共 通 の 氏 としたうえで, 他 方 配 偶 者 が 自 分 の 氏 をその 前 又 は 後 に 付 加 すること(ダブルネーム:子 には 引 き 継 がれない)が 認 められている(BGB 第 1355 条 ) 413 。夫 婦 は, 相 互 に 扶 養 する 義 務 を 負 う。 扶 養 は, 労 働 ( 特 に 家 事 労 働 , 子 の 監 護 , 勤 労 による 収 入 )及 び 財 産 によって 行 われる。 日 常 家 事 債 務 は,1それが 性 質 上 , 生 活 に 必 要 な 行 為 であること,2家 族 の 必 要 に 応 えるものであること,そして3その 手 段 が 適 切 であること( 家 族 の 経 済 状 態 及 び 生 活習 慣 に 則 していること)という 三 要 件 をメルクマールとする(BGB 第 1357 条 )。 日 常 家 事 債 務 については, 夫 婦 は 連 帯 債 務 を 負 うが, 判 例 法 上 , 財 産 を 取 得 しても 共 有 にはならない 414 。3. 夫 婦 財 産 制法 定 の 夫 婦 財 産 制 は,いわゆる 剰 余 共 同 制 (Zugewinngemeinschaft)である。ただし, 家 族 関 係の 多 様 性 に 鑑 みて, 当 事 者 には, 夫 婦 財 産 契 約 を 締 結 することで, 別 産 制 (Gütertrennung) 又 は 共同 制 (Gütergemeinschaft)を 選 択 することが 認 められている( 後 二 者 を 合 わせて 選 択 的 夫 婦 財 産 制 と呼 んでいる) 415 。別 産 制 (BGB 第 1414 条 )は, 夫 婦 が 婚 姻 中 に 取 得 する 財 産 は 各 人 に 帰 属 し, 各 人 が 管 理 するもので, 婚 姻 に 基 づく 処 分 又 は 債 務 負 担 の 制 限 等 はない。 婚 姻 関 係 を 解 消 する 際 にも, 財 産 分 与 は 行われないが, 年 金 分 割 請 求 だけは, 明 示 的 な 合 意 によって 排 除 されていないかぎり 行 われる。ただし, 上 記 の 婚 姻 関 係 の 効 力 として 生 ずる 婚 姻 共 同 体 を 形 成 する 義 務 , 扶 養 義 務 , 日 常 家 事 債 務 の 連帯 責 任 という 効 力 は, 別 産 制 においても 発 生 するほか, 婚 姻 中 の 支 出 (Zuwendungen)については婚 姻 解 消 時 に 分 割 請 求 が 認 められる 416 。412 Schwab, op.cit., S. 52 et seq.413 Schwab, op.cit., S. 89 et seq.414 Schwab, op.cit., S. 75 et seq.415 Schwab, op.cit., S. 95.416詳 細 は,Schwab, op.cit., S. 96 et seq.8989


反 対 に, 共 同 制 (BGB 第 1415~ 第 1518 条 )においては, 夫 婦 が 婚 姻 前 に 有 していた 財 産 も 婚 姻中 に 取 得 する 財 産 もすべて 両 者 の 合 有 となる。 特 段 の 合 意 のないかぎり, 夫 婦 は 財 産 全 体 について同 一 の 権 利 をもち, 義 務 を 負 う。 一 方 配 偶 者 は, 財 産 全 体 又 は 個 々の 財 産 に 対 する 持 分 を 処 分 することはできない。ただし, 法 律 行 為 によって 譲 渡 できない 特 別 財 産 (Sondergut),あるいは 夫 婦 財 産契 約 又 は 第 三 者 の 終 意 処 分 において 定 められた 留 保 財 産 (Vorbehaltsgut)については 別 扱 いとなる。夫 婦 の 共 通 財 産 は 共 同 管 理 され, 各 配 偶 者 の 債 務 については 共 通 財 産 及 びその 者 の 個 人 財 産 が 引 き当 てとなるほか, 原 則 として 他 方 配 偶 者 の 個 人 財 産 も 引 き 当 てとなる 417 。法 定 の 夫 婦 財 産 制 である 剰 余 共 同 制 は, 夫 婦 が 婚 姻 中 に 取 得 する 財 産 には 両 者 の 貢 献 があったと 見 るものである。しかし,フランス 法 系 の 法 定 財 産 制 である 後 得 財 産 共 有 制 (Errungenschaftsgemeinschaft)とは異 なり, 剰 余 共 同 制 においては, 従 前 の 各 人 の 財 産 及 び 剰 余 共 同 制 が 開 始 した 後 に各 人 が 取 得 した 財 産 は, 各 人 の 単 独 所 有 とされる。 財 産 管 理 は, 各 人 が 行 うが, 他 方 配 偶 者 の 保 護のため, 一 定 の 債 務 及 び 処 分 の 制 限 が 定 められている( 一 方 配 偶 者 が 自 己 の 財 産 全 体 を 処 分 する 場 合 又はそのような 債 務 を 負 う 又 は 履 行 する 行 為 , 家 財 道 具 を 処 分 する 行 為 等 は, 他 方 配 偶 者 の 同 意 を 要 件 とする)。婚 姻 中 に 取 得 した 財 産 に 対 する 夫 婦 相 互 の 関 与 は, 剰 余 共 同 制 の 解 消 時 に 顕 在 化 する。 一 方 配 偶 者の 死 亡 による 剰 余 共 同 制 の 解 消 の 場 合 であって, 他 方 配 偶 者 が 相 続 人 又 は 受 贈 者 であるときには,相 続 分 の 増 加 (BGB 第 1371 条 )によって 両 者 の 財 産 が 調 整 される。それに 対 して,(i) 離 婚 ,(ii) 婚 姻取 消 し,(iii) 夫 婦 財 産 契 約 による 剰 余 共 同 制 の 終 了 ,(iv) 一 方 配 偶 者 が 死 亡 したが 他 方 配 偶 者 が 相 続人 でも 受 贈 者 でもない 場 合 ,あるいは(v) 剰 余 共 同 制 の 早 期 の 解 消 の 場 合 には, 取 得 財 産 が 少 ない 配偶 者 が 他 方 配 偶 者 に 対 して 債 務 法 上 の 財 産 分 割 請 求 (BGB 第 1363 条 第 2 項 第 2 文 , 第 1378 条 )をすることで, 調 整 される 418 。夫 婦 は, 夫 婦 財 産 契 約 によって, 特 に 以 下 の 合 意 をすることができる。すなわち,1 選 択 的 夫婦 財 産 制 としての 別 産 制 又 は 共 同 制 を 選 択 すること,2 婚 姻 後 に 法 定 夫 婦 財 産 制 又 は 選 択 された 夫婦 財 産 制 を 変 更 すること,3 単 に 法 定 夫 婦 財 産 制 を 排 除 すること 又 は 事 後 的 に 取 り 消 すこと( 代 わりに 別 産 制 による),4 法 定 財 産 制 における 分 割 請 求 権 だけを 排 除 すること( 代 わりに 別 産 制 による),5 夫 婦 財 産 制 に 関 する 個 別 の 規 定 を 変 更 又 は 補 充 すること,6 他 方 配 偶 者 に 自 己 の 財 産 の 管 理 をゆだねることである 419 。4. 離 婚(1) 離 婚 要 件離 婚 については, 裁 判 離 婚 主 義 がとられており(BGB 第 1564 条 ),1977 年 の 離 婚 法 改 正 以 来 ,積 極 的 破 綻 主 義 によっている。 離 婚 のみならず, 離 婚 の 効 果 についても, 配 偶 者 の 有 責 性 は 問 題 と417 Schwab, op.cit., S. 101 et seq.418 Schwab, op.cit., S. 103 et seq., 122 et seq.419 Schwab, op.cit., S. 104 et seq.9090


されない。 離 婚 原 因 は,「 婚 姻 関 係 が 破 綻 していること」,すなわち 夫 婦 の 婚 姻 生 活 がもはや 存 在 せず,その 回 復 も 期 待 できないことだけである(BGB 第 1565 条 第 1 項 )。家 庭 裁 判 所 が 婚 姻 関 係 の 破 綻 の 認 定 に 当 たって, 夫 婦 のプライバシーに 立 ち 入 るのを 避 けるため, 反 証 を 許 さない 形 で 破 綻 を 推 定 する 規 定 が 置 かれている。それによれば,1 夫 婦 が 1 年 以 上 別居 しており, 両 者 が 離 婚 を 申 し 立 てる 又 は 相 手 方 が 離 婚 に 同 意 する 場 合 (BGB 第 1566 条 第 1 項 ),あるいは2 夫 婦 が 3 年 以 上 別 居 している 場 合 ( 同 第 2 項 )には, 反 証 を 許 さない 形 で 破 綻 が 推 定 される。夫 婦 が 別 居 を 開 始 してから 1 年 経 過 していない 場 合 には, 申 立 人 にとって 婚 姻 の 継 続 が 耐 え 難 い 場合 ( 重 大 な 暴 力 行 為 , 重 大 な 扶 養 義 務 の 不 履 行 など)にのみ 離 婚 が 認 められる(BGB 第 1565 条 第 2 項 ) 420 。それに 対 して, 婚 姻 関 係 が 破 綻 している 場 合 にも, 相 手 方 は 婚 姻 関 係 の 継 続 に 強 い 関 心 をもつことがある( 離 婚 によって 相 手 方 配 偶 者 の 精 神 病 が 悪 化 すると 予 想 される 場 合 , 夫 の 事 業 のために 献 身 的 に 尽くしてきた 妻 が 離 婚 によって 不 利 益 を 被 る 場 合 など)。また, 子 の 利 益 に 鑑 みれば,むしろ 破 綻 していても 婚 姻 関 係 を 継 続 するのが 望 ましいこともありうる( 特 に 離 婚 によって 子 の 家 庭 環 境 , 教 育 環 境 , 精 神 状態 ,あるいは 経 済 状 態 が 大 きく 悪 化 し, 子 の 福 祉 が 損 なわれる 場 合 がそれに 当 たる)。このような 場 合 に 対 応するため,BGB は 過 酷 条 項 (BGB 第 1568 条 )を 設 けており, 婚 姻 関 係 が 破 綻 していても, 例 外 的 に離 婚 申 立 てを 棄 却 することを 認 めている 421 。(2) 離 婚 の 効 果(a) 扶 養 義 務離 婚 後 は, 各 配 偶 者 は 自 己 の 費 用 で 生 活 するのが 原 則 であるが, 例 外 的 にそれができない 配 偶者 は,BGB 第 1570~ 第 1576 条 のいずれかの 規 定 に 該 当 する 場 合 には, 他 方 配 偶 者 に 対 して 扶 養 請求 をすることができる(BGB 第 1569 条 )。この 場 合 には, 申 立 人 配 偶 者 は,BGB 第 1570~ 第 1576条 のいずれかの 要 件 事 実 の 存 在 を 主 張 ・ 立 証 しなければならない 422 。(b) 年 金 分 割 請 求年 金 分 割 請 求 は,1976 年 から 存 在 するが, 当 初 の 制 度 においては 実 態 に 合 わない 高 額 の 支 払 いが 命 じられることがあり, 憲 法 問 題 となった。2009 年 改 正 によって 423 , 重 要 な 規 定 は BGB から 特別 法 である「 年 金 分 割 に 関 する 法 律 」(Gesetz über den Vorsorgungsausgleich [VersAusglG])に 移 行 している。それに 伴 い, 年 金 分 割 の 算 定 基 準 も 変 更 されており, 各 配 偶 者 が 婚 姻 期 間 中 に 得 た 年 金 期 待権 を 合 算 し,それを 清 算 するのではなく, 各 配 偶 者 が 相 互 に 相 手 方 配 偶 者 が 婚 姻 期 間 中 に 得 た 年 金の 基 礎 となる 価 値 の 半 分 を 取 得 すること,すなわち 両 者 が 年 金 期 待 権 を 取 得 したのであれば, 相 互420 Schwab, op.cit., S. 154 et seq.421 Schwab, op.cit., S. 159 et seq.422 Schwab, op.cit., S. 173 et seq.423 Gesetz zur Strukturreform des Versorgungsausgleichs vom 3.4.2009, BGBl. I S. 700.9191


に 権 利 をもち, 義 務 を 負 うと 構 成 することで 算 定 されることとなっている。また, 一 定 の 場 合 には,債 務 法 上 の 年 金 分 割 請 求 権 も 認 められるに 至 っている 424 。(c) 婚 姻 住 居 及 び 家 財 道 具婚 姻 住 居 については, 子 の 福 祉 及 び 配 偶 者 双 方 の 生 活 関 係 に 鑑 みて 婚 姻 住 居 をより 必 要 とする配 偶 者 は, 離 婚 に 際 して, 他 方 配 偶 者 に 住 居 を 明 け 渡 すよう 求 めることができる(BGB 第 1568a 条 第1 項 )。ただし, 他 方 配 偶 者 が 婚 姻 住 居 が 立 っている 土 地 の 所 有 権 又 は 用 益 権 をもつ 場 合 には, 不 当に 過 酷 な 状 況 を 避 けるのに 必 要 な 範 囲 でのみ 明 渡 請 求 が 認 められる( 同 第 2 項 )。 婚 姻 住 居 の 明 渡 しを 受 ける 配 偶 者 は, 賃 貸 人 に 通 知 した 時 点 又 は 婚 姻 住 居 の 明 渡 しを 命 ずる 終 局 裁 判 が 確 定 した 時 点から, 両 者 が 当 事 者 であった 賃 貸 借 契 約 を 単 独 で 引 き 継 ぐのが 原 則 である( 同 第 3 項 )。 婚 姻 住 居 について 賃 貸 借 関 係 が 存 しない 場 合 には, 明 渡 請 求 権 をもつ 配 偶 者 は,その 地 域 で 一 般 的 な 条 件 の 下で 賃 貸 借 契 約 を 締 結 するよう 求 めることができる( 同 第 5 項 )。ただし, 第 3 及 び 第 5 項 の 請 求 権 は,いずれも 離 婚 事 件 の 終 局 裁 判 が 確 定 してから 1 年 経 過 した 段 階 で 消 滅 する。家 財 道 具 については, 子 の 福 祉 及 び 配 偶 者 双 方 の 生 活 関 係 に 鑑 みて 共 有 の 家 財 道 具 をより 必 要とする 配 偶 者 は, 他 方 配 偶 者 にその 引 渡 しを 求 めることができる(BGB 第 1568b 条 第 1 項 )。 婚 姻 期間 中 に 共 同 生 活 のために 購 入 された 家 財 道 具 は, 共 有 であると 推 定 される( 同 第 2 項 )。ただし, 家財 道 具 を 引 き 渡 す 配 偶 者 は, 相 手 方 から 適 切 な 補 償 を 求 めることができる( 同 第 3 項 )。B. 親 子 関 係1. 血 縁 上 の 親 子 関 係 の 成 立(1) 総 説ドイツにおいては,1997 年 親 子 法 改 正 以 来 , 嫡 出 子 と 非 嫡 出 子 の 区 別 が 撤 廃 され, 統 一 的 な 親子 法 となっている。ただし, 父 母 が 婚 姻 しているか 否 かの 区 別 は, 全 く 意 味 を 失 ったわけではなく,一 定 範 囲 で 親 子 関 係 の 成 否 の 基 準 とされる。(2) 母 子 関 係子 の 母 は, 子 を 分 娩 した 者 であると 定 義 されており(BGB 第 1591 条 ), 母 子 関 係 については 事実 主 義 がとられている。BGB 第 1591 条 は,1997 年 親 子 法 改 正 によって 導 入 されたもので, 生 殖 補助 医 療 の 発 展 に 伴 い 法 的 な 母 子 関 係 を 定 義 する 必 要 が 生 じてきたことによる。この 規 定 によって,母 となるのは 分 娩 した 者 だけであり, 卵 子 提 供 者 ではないことが 示 されている 425 。424 Schwab, op.cit., S. 219 et seq.425 Schwab, op.cit., S. 252 et seq.9292


(3) 父 子 関 係 の 成 立それに 対 して, 子 の 父 は,1 子 の 出 生 当 時 に 子 の 母 と 婚 姻 していた 者 (BGB 第 1592 条 第 1 号 ),2 認 知 をした 者 ( 同 第 2 号 ),あるいは3BGB 第 1600d 条 又 は FamFG 第 182 条 第 1 項 ( 裁 判 所 による父 子 関 係 の 確 定 )によって 父 とされた 者 である。 父 母 が 婚 姻 関 係 にない 場 合 には, 認 知 主 義 がとられており, 父 による 認 知 があって 初 めて 父 子 関 係 が 成 立 する( 認 知 については,BGB 第 1594 条 以 下 )。もっとも,1 及 び2に 基 づく 父 子 関 係 は, 裁 判 手 続 を 経 て 父 子 関 係 が 否 認 されれば 覆 る(BGB 第 1599条 第 1 項 及 び 第 1600 条 以 下 )。(4) 父 子 関 係 の 否 認父 子 関 係 の 否 認 を 申 し 立 てることができるのは,(i) 法 律 上 の 父 ( 子 の 母 との 婚 姻 又 は 認 知 によって父 であると 推 定 されている 者 ),(ii) 母 ,(iii) 子 ,(iv) 事 実 上 の 父 ,そして(v) 認 知 に 基 づく 父 子 関 係 を 否 認する 権 限 をもつ 行 政 当 局 である(BGB 第 1600 条 第 1 項 )。これらの 否 認 権 者 は 限 定 列 挙 であり,それ以 外 の 者 は 対 象 にならない。(i)~(iii)による 否 認 には, 特 段 の 要 件 が 付 加 されていないのに 対 して,(iv) 事 実 上 の 父 による 否 認 は,その 者 が 受 胎 時 に 母 と 同 衾 していたと 宣 誓 すること,そして 子 と 法 律上 の 父 との 間 に「 社 会 的 な 家 族 関 係 」( 法 律 上 の 父 が 基 準 時 において 子 に 対 する 事 実 上 の 責 任 を 負 っている又 は 負 っていたこと)が 存 しないことも 要 件 としている(BGB 第 1600 条 第 1 項 第 2 号 及 び 第 2 項 )。(v)による 父 子 関 係 の 否 認 は, 偽 装 認 知 に 対 応 するために 2008 年 に 導 入 されたものである 426 。父 子 関 係 を 早 期 に 確 定 させ, 身 分 関 係 の 安 定 を 図 るため, 父 子 関 係 の 否 認 には, 原 則 として,父 子 関 係 を 疑 わしめる 事 情 を 知 った 時 点 から 2 年 間 の 出 訴 期 限 が 設 けられている(BGB 第 1600b 条 第1 項 :(v)については 1 年 )。ただし, 子 については, 未 成 年 の 間 に 法 定 代 理 人 が 適 切 に 否 認 権 を 行 使 しないこともありうるため, 成 人 後 , 父 子 関 係 を 疑 わしめる 事 情 を 知 った 時 点 から 2 年 以 内 に 自 ら 否認 権 を 行 使 しうるとされている( 同 第 3 項 )。また, 父 子 関 係 の 維 持 を 期 待 できない 事 情 が 生 じた 場合 には( 母 の 夫 が 母 を 殺 害 しようとしたと 事 後 的 に 知 った 場 合 など), 子 の 否 認 権 は 復 活 し,その 時 点 から 2 年 間 の 出 訴 期 限 にかかる( 同 第 4 項 ) 427 。父 子 関 係 の 否 認 の 申 立 てが 認 容 されれば, 遡 及 効 をもって( 婚 姻 子 の 場 合 には 出 生 時 に, 非 婚 子 の場 合 には 認 知 時 に 遡 って) 父 子 関 係 が 否 認 される。 父 子 関 係 を 否 認 する 決 定 が 確 定 すれば, 対 世 効 をもつ(FamFG 第 184 条 第 2 項 )。(5) 父 子 関 係 の 確 定法 律 上 の 原 因 によればまだ 父 子 関 係 が 成 立 していない 場 合 には, 家 庭 裁 判 所 の 決 定 によって 父子 関 係 を 確 定 することができる(BGB 第 1600d 条 第 1 項 )。 申 立 権 者 は, 法 律 上 明 記 されていないが,制 度 趣 旨 に 照 らせば, 子 , 母 ,そして 父 本 人 である。 子 が 生 物 学 上 , 当 事 者 の 男 性 から 生 まれたと解 される 場 合 には, 申 立 てが 認 容 される。 父 子 関 係 の 確 定 を 容 易 にするため, 子 の 母 と 同 衾 してい426 Schwab, op.cit., S. 253 et seq.427 Schwab, op.cit., S. 264.9393


た 男 性 が 父 であると 推 定 される。ただし, 反 証 を 挙 げれば,その 推 定 を 覆 すことができる(BGB 第1600d 条 第 2 項 ) 428 。 父 子 関 係 の 確 定 を 認 容 する 決 定 が 確 定 すれば, 対 世 効 をもつ。2. 親 権(1) 親 権 の 内 容親 権 (elterliche Sorge)は, 身 上 監 護 と 財 産 管 理 からなる(BGB 第 1626 条 第 1 項 )。身 上 監 護 は, 子 の 世 話 をし, 子 を 教 育 し, 子 を 監 督 し, 子 の 居 所 を 決 定 する 義 務 と 権 利 を 包 括する(BGB 第 1631 条 第 1 項 )。 親 は, 身 上 監 護 のために 法 定 代 理 権 , 子 の 居 所 指 定 権 , 子 の 引 渡 請 求権 , 面 会 交 流 決 定 権 などの 法 的 権 限 をもつ(BGB 第 1633 条 )。 子 の 氏 の 決 定 も 身 上 監 護 に 属 する。 父母 が 婚 姻 しており, 共 通 の 氏 をもっていれば, 子 は 自 動 的 にその 氏 を 取 得 するが(BGB 第 1616 条 ),それ 以 外 の 場 合 に 共 同 親 権 をもつ 親 が 別 の 氏 を 称 している 場 合 には, 父 母 の 合 意 によって 氏 を 決 定し, 父 母 の 合 意 がなければ, 家 庭 裁 判 所 が 父 母 の 一 方 に 氏 の 決 定 権 を 付 与 する(BGB 第 1617 条 )。財 産 管 理 の 目 的 は, 第 一 義 的 には, 子 の 利 益 のために 財 産 を 維 持 し, 増 加 させ, 処 分 することにある。 親 権 者 は, 財 産 管 理 のための 法 定 代 理 権 をもつが, 子 に 不 利 益 を 及 ぼす 管 理 処 分 ,リスクのある 管 理 処 分 ,あるいは 特 に 重 要 な 管 理 処 分 を 行 うには, 家 庭 裁 判 所 の 許 可 を 得 なければならない(BGB 第 1643 条 )。(2) 親 権 の 帰 属ドイツ 民 法 上 , 子 の 出 生 時 点 で 父 母 が 婚 姻 していれば, 法 律 に 基 づいて 自 動 的 に 共 同 親 権 となる(BGB 第 1626a 条 第 1 項 の 反 対 解 釈 : 婚 姻 に 基 づく 共 同 親 権 )。また, 父 母 が 子 の 出 生 時 に 婚 姻 していなくても, 両 者 が「 親 権 宣 言 」(Sorgeerklärung)をすれば, 共 同 親 権 者 となる(BGB 第 1626a 条 第 1 項第 1 号 : 意 思 表 示 に 基 づく 共 同 親 権 )。 親 権 宣 言 は, 親 の 自 己 決 定 権 の 尊 重 を 基 礎 とするため, 父 母 の意 思 表 示 だけで 成 立 し, 家 庭 裁 判 所 による 審 査 ( 親 権 宣 言 が 子 の 福 祉 にかなうか 否 か)や 子 の 同 意 は 要件 とされていない。また, 父 母 の 同 居 も 要 件 ではない 429 。共 同 親 権 をもつ 父 母 の 別 居 又 は 離 婚 後 も, 一 方 親 が 家 庭 裁 判 所 に 単 独 親 権 への 変 更 又 は 親 権 の一 部 移 転 を 申 し 立 てないかぎり, 法 律 上 の 効 果 として 共 同 親 権 が 存 続 する(BGB 第 1671 条 第 1 項 )。単 独 親 権 への 変 更 又 は 親 権 の 一 部 移 転 は, 他 方 の 親 権 者 が 同 意 したとき( 同 条 第 2 項 第 1 号 ),あるいは 家 庭 裁 判 所 がそれが 子 の 福 祉 に 最 もかなうと 判 断 したとき( 同 条 第 2 項 第 2 号 ), 認 容 される。父 母 が 子 の 出 生 時 点 で 未 婚 であり,「 親 権 宣 言 」もしていない 場 合 には, 母 の 単 独 親 権 となる(BGB 第 1626a 条 第 2 項 )( 母 子 関 係 に 基 づく 単 独 親 権 )。そして, 父 母 が 事 後 的 に 婚 姻 すれば, 婚 姻 の時 点 から 法 律 に 基 づいて 共 同 親 権 に 切 り 替 わる( 同 条 第 1 項 第 2 号 )。それ 以 外 の 場 合 には, 父 は, 母の 同 意 がなければ 子 を 認 知 できず(BGB 第 1595 条 第 1 項 ), 親 権 宣 言 をして 共 同 親 権 を 取 得 することもできないと 定 められていた(BGB 第 1626a 条 第 1 項 第 1 号 )。また, 父 は, 母 との 別 居 後 も, 母 の 同428 Schwab, op.cit., S. 268 et seq.429 Gernhuber/Coester-Waltjen, Familienrecht, 5. Aufl., München 2006, S. 704.9494


意 に 基 づいて 家 庭 裁 判 所 に 親 権 の 全 部 又 は 一 部 移 転 の 申 立 てをし,それが 子 の 福 祉 にかなうと 判 断されて 初 めて, 共 同 又 は 単 独 親 権 を 取 得 することとされていた(BGB 第 1672 条 第 1 項 )。この 母 の「 拒否 権 (Vetorecht)」は, 現 在 では 違 憲 であるとされており 430 , 法 改 正 が 待 たれている。(3) 親 権 の 行 使単 独 親 権 者 である 親 は, 子 の 身 上 監 護 及 び 財 産 管 理 に 関 する 事 項 について 単 独 で 決 定 する。 他方 の 親 は,たとえ 子 との 面 接 権 をもっていたとしても, 親 権 に 関 する 事 項 には 干 渉 できない。それに 対 して, 父 母 が 共 同 親 権 を 行 使 する 場 合 には, 両 者 が 同 等 の 権 利 を 有 し 義 務 を 負 い, 自 己 の(ただし 共 通 の) 責 任 において, 相 互 の 合 意 に 基 づいて 子 の 福 祉 のために 親 権 を 行 使 する(BGB 第 1627条 第 1 文 )。 父 母 が 合 意 に 達 しないときには, 特 定 の 事 項 に 関 する 決 定 権 を 付 与 するよう 家 庭 裁 判 所に 求 めることができる(BGB 第 1628 条 )。ただし, 共 同 親 権 者 は, 緊 急 の 場 合 には 各 々 単 独 で 代 理 権を 行 使 できる(BGB 第 1629 条 第 1 項 第 4 文 )。父 母 の 別 居 又 は 離 婚 後 に 共 同 親 権 を 行 使 する 際 には, 父 母 は「 重 要 事 項 」については 合 意 する必 要 があるが,それ 以 外 の「 日 常 生 活 に 関 する 事 項 」については, 子 と 同 居 している 親 が 単 独 で 決定 する 権 限 をもつ(BGB1687 条 第 1 項 ・ 第 2 項 :「 共 同 親 権 の 分 割 」)。(4) 親 権 の 停 止 及 び 取 り 上 げ親 が 行 為 無 能 力 であれば, 親 権 は 停 止 する(BGB 第 1673 条 第 1 項 )。 親 が 制 限 行 為 能 力 者 であるときも 親 権 は 停 止 し(BGB 第 1673 条 第 2 項 第 1 文 ), 親 は 子 の 法 定 代 理 人 とともに 身 上 監 護 権 をもつが, 代 理 権 はもたない( 同 第 2 文 )。 共 同 親 権 者 の 一 方 が, 事 実 上 の 障 碍 によって 親 権 を 行 使 できない 又 は 親 権 が 停 止 している 場 合 に, 他 方 の 親 が 親 権 を 行 使 できるときには,その 親 が 単 独 で 行 使 する(BGB 第 1678 条 第 1 項 )。親 権 が 本 来 の 機 能 を 果 たしておらず, 子 の 福 祉 が 危 険 にさらされている 場 合 には, 家 庭 裁 判 所は, 親 権 を 全 面 的 又 は 部 分 的 に 取 り 上 げ, 子 を 保 護 することができる(BGB 第 1666 条 ~ 第 1667 条 )。親 権 が 全 面 的 に 取 り 上 げられ, 他 方 親 が 代 わりに 親 権 を 行 使 し 得 ない 場 合 には, 後 見 人 が 選 任 される。また, 親 権 が 部 分 的 に 取 り 上 げられた 場 合 には, 補 佐 人 が 選 任 される 431 。430 ドイツ 連 邦 憲 法 裁 判 所 の 2003 年 1 月 29 日 決 定 (BVerfG vom 29.1.2003, FamRZ 2003, 285)は,BGB 第 1626a条 第 1 項 第 1 号 及 び 第 1672 条 第 1 項 を 合 憲 としたが, 欧 州 人 権 裁 判 所 は,2009 年 12 月 3 日 判 決 (European Courtof Justice, Judgment of 3.12.2009, Zaunegger v. Germany (Application No. 22028/04))においてドイツには 欧 州 人 権 条約 違 反 があったとした。それを 受 けて,ドイツ 連 邦 憲 法 裁 判 所 も 2010 年 7 月 21 日 (BVerfG vom 21.7.2010, FamRZ2010, 1403)に 判 例 変 更 をし,BGB 第 1626a 条 第 1 項 第 1 号 及 び 第 1672 条 第 1 項 はドイツ 基 本 法 第 6 条 第 2 項に 定 める 親 の 権 利 を 侵 害 するものであり, 違 憲 であるとした。431以 上 の 点 については, 西 谷 祐 子 「ドイツにおける 児 童 虐 待 への 対 応 と 親 権 制 度 」 民 商 法 雑 誌 141 巻 6 号 545頁 以 下 ,142 巻 1 号 1 頁 以 下 (2010 年 ) 参 照 。9595


3. 養 子 縁 組養 子 縁 組 は, 公 正 証 書 によって 家 庭 裁 判 所 に 申 し 立 てることで 行 われる(BGB 第 1752 条 第 2 項 )。養 親 は, 原 則 として 25 歳 以 上 でなければならず, 連 れ 子 養 子 の 場 合 にのみ 21 歳 以 上 で 足 りる。 共同 養 子 縁 組 の 場 合 には, 一 方 が 少 なくとも 25 歳 以 上 , 他 方 が 少 なくとも 21 歳 以 上 でなければならない(BGB 第 1743 条 )。養 子 縁 組 には, 以 下 の 類 型 がある。1 婚 姻 している 夫 婦 は, 原 則 として 共 同 で 養 子 縁 組 を 行 う(BGB 第 1741 条 第 2 項 )。2 一 方 配 偶 者 は, 他 方 配 偶 者 の 子 ( 前 婚 の 子 など)を 養 子 にとることができる( 連 れ 子 養 子 )。32004 年 改 正 以 来 , 登 録 パートナーも 相 手 方 パートナーの 子 を 養 子 にとることができる。4 婚 姻 していない 養 親 は, 単 独 でしか 縁 組 できない(BGB 第 1741 条 2 項 )。5 養 親 子 関 係が 存 在 しているかぎり, 子 は 養 親 の 生 存 中 , 他 の 者 の 養 子 となることはできない 432 。養 子 縁 組 を 行 うには, 子 (14 歳 以 上 の 子 は, 法 定 代 理 人 の 同 意 に 基 づいて 自 ら 同 意 をする), 実 親 ( 非婚 父 も 含 めて), 子 の 配 偶 者 ,そして 養 親 の 配 偶 者 の 同 意 を 得 る 必 要 がある(BGB 第 1746 条 以 下 )。ドイツ 法 は, 決 定 型 の 養 子 縁 組 制 度 によっており, 養 子 縁 組 が 必 ず 家 庭 裁 判 所 の 決 定 によって 行 われる(BGB 第 1752 条 )。 家 庭 裁 判 所 は, 養 子 となる 子 の 福 祉 (FamFG 第 1741 条 第 1 項 第 1 文 ),そして 養親 又 は 養 子 の 子 らの 利 益 など(BGB 第 1745 条 )に 鑑 みて, 養 子 縁 組 の 可 否 を 決 定 する 433 。養 子 縁 組 の 申 立 てを 認 容 する 決 定 が 下 されれば, 養 子 は 養 親 の 子 としての 地 位 を 取 得 し(BGB第 1754 条 第 2 項 ), 養 親 は 親 権 を 取 得 し( 同 第 3 項 ),その 他 の 親 子 関 係 としての 効 力 が 発 生 する。 養子 及 びその 子 孫 は, 養 親 及 びその 親 族 と 完 全 な 親 族 関 係 をもつほか, 養 子 は 養 親 の 氏 を 取 得 する。他 方 , 養 子 及 びその 子 孫 と, 養 子 の 実 親 その 他 の 親 族 との 親 族 関 係 は 解 消 される 434 。なお, 養 子 縁組 に 必 要 な 申 立 て 又 は 同 意 が 適 式 になされていなかった 場 合 (BGB 第 1760~ 第 1762 条 ),あるいは 子の 福 祉 に 関 する 重 大 な 事 由 によって 養 子 縁 組 の 解 消 が 必 要 になる 場 合 (BGB 第 1763 条 )には, 離 縁が 認 められる。C. 後 見 , 補 佐 , 世 話1. 後 見1990 年 に 世 話 法 が 制 定 されて 以 来 , 後 見 (Vormundschaft)は 本 人 が 未 成 年 者 である 場 合 に 限 定されている。 成 年 者 の 保 護 は, 世 話 制 度 による。 後 見 は, 親 による 親 権 行 使 が 不 可 能 である 場 合 ( 父母 の 死 亡 又 は 親 権 の 取 り 上 げなど)に 開 始 し, 後 見 人 は, 親 権 全 体 に 関 する 権 限 を 代 わりに 行 使 する。後 見 人 は, 通 常 , 家 庭 裁 判 所 の 職 権 で 選 任 される(BGB 第 1774 条 第 1 文 ,FamFG 第 151 条 第 4 号 )。ただし, 後 見 人 を 必 要 とする 非 婚 子 が 出 生 した 場 合 (BGB 第 1791c 第 1 項 ),あるいは 実 親 の 養 子 縁 組への 同 意 によって 親 権 が 停 止 した 場 合 には(BGB 第 1751 条 第 1 項 ), 自 動 的 に 少 年 局 が 後 見 人 となる。432 Schwab, op.cit., S. 370 et seq.433 Schwab, op.cit., S. 371 et seq.434 Schwab, op.cit., S. 376 et seq.9696


後 見 は, 未 成 年 者 が 成 人 に 達 したとき, 親 の 親 権 が 回 復 したとき,あるいは 本 人 が 死 亡 したときには 終 了 する 435 。2. 補 佐補 佐 人 は, 後 見 人 とは 異 なって, 親 権 の 一 部 に 関 する 権 限 を 行 使 する。 補 佐 に 関 しては, 基 本的 に 後 見 に 関 する 規 定 が 準 用 される(BGB 第 1915 条 第 1 項 )。 補 佐 は, 未 成 年 者 のほか, 特 定 の 場 合には 成 年 者 , 胎 児 ,そして 包 括 財 産 のためにも 開 始 される。ただし, 未 成 年 者 又 は 胎 児 のための 補佐 は 親 子 事 件 として(FamFG 第 151 条 ), 家 庭 裁 判 所 の 職 分 管 轄 に 属 するが, 成 年 者 の 補 佐 については, 世 話 事 件 として(FamFG 第 340 条 第 1 号 ), 世 話 裁 判 所 の 職 分 管 轄 に 属 する。 補 佐 には, 補 充 補佐 と 代 替 補 佐 があり, 親 権 又 は 後 見 の 機 能 を 補 充 するための 前 者 の 補 佐 が 用 いられるのが 一 般 的 である( 父 母 の 親 権 の 一 部 としての 居 所 指 定 権 や 代 理 権 が 取 り 上 げられ, 補 佐 人 が 選 任 される 場 合 など) 436 。3. 世 話世 話 制 度 は, 精 神 病 ,あるいは 身 体 的 ・ 精 神 的 ・ 情 緒 的 な 障 碍 のために 自 己 の 事 務 を 完 全 には行 い 得 ない 成 年 者 を 保 護 するための 制 度 である。このような 成 年 者 は, 申 立 てに 基 づいて 又 は 裁 判所 の 職 権 で 世 話 人 を 付 される(BGB 第 1896 条 第 1 項 第 1 文 )。 世 話 事 件 は, 世 話 裁 判 所 の 職 分 管 轄 に属 する(FamFG 第 271 条 )。本 人 の 行 為 能 力 は, 世 話 人 の 選 任 によって 制 限 されない。 行 為 能 力 の 有 無 は, 常 に BGB 第 104条 第 2 号 によってのみ 決 定 される。 本 人 の 法 律 行 為 に 関 する 行 動 の 自 由 を 制 限 する 必 要 があるときには, 世 話 人 の 同 意 をその 意 思 表 示 の 要 件 とすることができる(BGB 第 1903 条 )。ただし, 世 話 人 の権 限 と 本 人 の 行 為 能 力 との 関 係 は 複 雑 で, 実 務 上 も 問 題 が 生 じたため,2005 年 改 正 によって, 本 人が 事 理 弁 識 能 力 をもつかぎり,その 自 由 意 思 に 反 しては 世 話 人 を 選 任 できないことが 規 定 されている(BGB 第 1896 条 第 1a 項 ) 437 。世 話 人 が 行 う 事 務 は, 法 律 行 為 その 他 の 法 的 行 為 及 び 訴 訟 行 為 ,そしてそれらの 事 務 を 準 備 し実 行 するのに 必 要 な 事 実 行 為 を 含 む。 世 話 人 の 事 務 は, 通 常 , 一 定 範 囲 の 事 項 に 限 定 され, 本 人 の事 務 全 般 を 包 括 することは 稀 である。 世 話 人 は,その 定 められた 事 務 の 範 囲 で 本 人 を 代 理 する 法 定代 理 権 をもつほか(BGB 第 1902 条 ), 本 人 の 状 態 に 応 じて, 居 所 指 定 権 , 面 会 交 流 の 決 定 権 , 医 療 行為 への 同 意 権 又 は 拒 否 権 , 収 容 措 置 への 同 意 権 などが 付 与 されることもある(BGB 第 1901a 条 , 第 1901b条 , 第 1904 条 以 下 )。ただし, 世 話 人 の 法 定 代 理 権 は, 様 々な 制 限 に 服 しており, 後 見 に 関 する 制 限がほぼそのまま 妥 当 するほか( 利 益 相 反 行 為 の 禁 止 〔BGB 第 1908i 条 第 1 項 第 1 文 , 第 1795 条 第 1 項 第 2号 〕など), 世 話 制 度 に 固 有 の 制 限 ( 危 険 な 医 療 行 為 への 同 意 には 世 話 裁 判 所 の 許 可 が 要 件 とされる〔BGB第 1904 条 第 1 項 〕など)も 設 けられている 438 。435 Schwab, op.cit., S. 413 et seq.436 Schwab, op.cit., S. 424 et seq.437 Schwab, op.cit., S. 412 et seq., 426 et seq.438 Schwab, op.cit., S. 430 et seq.9797


D. 登 録 パートナーシップ2001 年 に 導 入 された 登 録 パートナーシップ 制 度 は, 同 性 カップルの 共 同 体 に 法 的 形 態 を 与 えるものである。 登 録 パートナーシップは, 様 々な 点 において 意 識 的 に 婚 姻 制 度 とは 区 別 されており,BGB ではなく, 特 別 法 である 登 録 パートナーシップ 法 (LPartG)において 規 律 されている 439 。ただし, 実 際 には 婚 姻 法 に 関 する 規 定 を 準 用 している 部 分 も 多 い。登 録 パートナーシップは, 同 性 である 二 人 の 者 が 権 限 をもつ 当 局 ( 通 常 は 身 分 登 録 局 であるが,州 によって 異 なりうる)において 登 録 パートナーシップ 関 係 に 入 ることを 宣 言 することで 成 立 する(LPartG 第 1 条 第 1~ 第 2 項 )。 未 成 年 者 ,すでに 登 録 パートナーシップ 関 係 にある 者 又 は 婚 姻 している 者 , 直 系 親 族 又 は 兄 弟 姉 妹 は, 登 録 パートナーシップを 行 うことができない( 同 第 3 項 )。これらに 違 反 して 成 立 した 登 録 パートナーシップは, 婚 姻 のように 取 消 しうるのではなく, 端 的 に 無 効 となる。 登 録 パートナーシップの 意 思 表 示 に 瑕 疵 があった 場 合 には, 裁 判 所 の 判 決 によって 取 り 消 される(LPartG 第 15 条 第 2 項 第 2 文 ) 440 。登 録 パートナーは, 共 通 の 氏 を 称 することができる(LPartG 第 3 条 第 1 項 )。また, 登 録 パートナーは, 相 互 に 扶 助 及 び 援 助 して 共 同 生 活 を 築 く 義 務 を 負 い, 相 互 に 責 任 を 負 う(LPartG 第 2 条 )。婚 姻 とは 異 なり, 明 確 な 同 居 義 務 及 び 貞 操 義 務 は 定 められていない。それに 対 して, 扶 養 義 務 (LPartG第 5 条 ), 日 常 家 事 債 務 , 債 務 者 である 登 録 パートナーへの 財 産 帰 属 の 推 定 (LPartG 第 8 条 )のほか,相 続 分 及 び 遺 留 分 の 承 認 (LPartG 第 10 条 ), 家 族 ・ 姻 族 関 係 の 創 設 (LPartG 第 11 条 )という 点 では,婚 姻 と 同 様 の 効 果 が 認 められている。 登 録 パートナーシップの 財 産 制 については, 夫 婦 財 産 制 に 関する 規 律 が 準 用 され, 法 定 財 産 制 は 剰 余 共 同 制 であること(LPartG 第 6 条 ), 登 録 パートナーシップ財 産 契 約 によって 別 産 制 又 は 共 同 制 を 選 択 できることが 定 められている(LPartG 第 7 条 ) 441 。子 との 関 係 では, 婚 姻 制 度 と 明 確 に 区 別 され, 登 録 パートナー 双 方 が 共 同 で 養 子 縁 組 をすることは 認 められていない。もっとも, 一 方 の 登 録 パートナーが 単 独 で 親 権 をもつ 子 については,その同 意 によって 他 方 のパートナーは, 日 常 生 活 に 関 する 事 項 について 共 同 で, 緊 急 時 には 親 権 に 関 する 事 項 について 単 独 で 決 定 することができる(LPartG 第 9 条 第 1~ 第 4 項 )。 子 が 登 録 パートナー 双 方と 一 緒 に 暮 らす 場 合 には, 単 独 親 権 又 は 共 同 親 権 をもつ 登 録 パートナーは,パートナー 共 通 の 氏 を子 に 付 与 することができる(LPartG 第 9 条 第 5 項 )。 一 方 の 登 録 パートナーが 単 独 で 養 子 縁 組 をする場 合 には, 他 方 のパートナーの 同 意 が 要 件 とされる(LPartG 第 9 条 第 6 項 )。さらに, 一 方 パートナーの 子 を 他 方 パートナーが 養 子 とすることも 認 められ( 同 第 7 項 : 連 れ 子 養 子 ),その 場 合 にはパートナー 双 方 の 共 同 親 権 となる 442 。登 録 パートナーシップは, 離 婚 と 同 様 に 解 消 されうるが, 立 法 者 は 特 別 に「 取 消 し」(Aufhebung)という 文 言 を 用 いている(LPartG 第 15 条 第 2 項 第 1 文 )。 登 録 パートナーシップの 取 消 原 因 は, 離 婚439 Gesetz zur Beendigung der Diskriminierung gleichgeschlechtlicher Gemeinschaften: Lebenspartnerschaften vom16.2.2001, BGBl. I S. 266.440 Schwab, op.cit., S. 456 et seq.441 Schwab, op.cit., S. 458 et seq.442 Schwab, op.cit., S. 463 et seq.9898


とは 独 立 に 規 定 されている。それによれば,1パートナー 双 方 が 1 年 以 上 別 居 しており, 取 消 しに合 意 していること( 同 第 1 号 a),2パートナー 双 方 が 1 年 以 上 別 居 しており, 生 活 共 同 体 の 回 復 が望 めないこと( 同 第 1 号 b),3パートナー 双 方 が 3 年 以 上 別 居 していること( 同 第 2 号 ),そして4登 録 パートナーシップ 関 係 の 継 続 が 耐 え 難 い 苦 痛 となること( 同 第 3 号 )が 取 消 原 因 とされる。ただし,パートナー 双 方 が 3 年 以 上 別 居 していても, 登 録 パートナーシップの 取 消 しが 相 手 方 にとって過 酷 な 状 態 をもたらす 場 合 には, 例 外 的 に 取 消 しが 否 定 されうる(LPartG 第 15 条 第 3 項 : 過 酷 条 項 )。登 録 パートナーシップ 取 消 しの 効 果 としては, 婚 姻 住 居 及 び 家 財 道 具 について 離 婚 に 関 する 規定 が 準 用 されるほか(LPartG 第 17 条 ), 登 録 パートナーシップ 財 産 制 についても, 夫 婦 財 産 制 において 剰 余 共 同 制 を 解 消 する 場 合 と 同 じく 分 割 請 求 が 認 められ(LPartG 第 6 条 第 2 文 ), 年 金 分 割 請 求 も認 められる(LPartG 第 20 条 )。また, 離 婚 の 場 合 と 同 様 に, 登 録 パートナーシップ 解 消 後 の 扶 養 請 求も 認 められる(LPartG 第 16 条 )。VI. 手 続 の 類 型A. 婚 姻 事 件2008 年 に FamFG が 制 定 されて 以 来 , 婚 姻 事 件 ( 特 に 離 婚 事 件 )は ZPO ではなく,FamFG に 規定 されている。 婚 姻 事 件 については, 家 庭 裁 判 所 が 職 分 管 轄 をもつ。 手 続 は, 訴 えではなく「 申 立て」(Antrag)によって 開 始 され, 当 事 者 も 申 立 人 (Antragsteller) 及 び 相 手 方 (Antragsgegner)と 呼ばれる。FamFG によれば, 申 立 てに 際 して ZPO に 基 づく 訴 状 に 関 する 規 定 が 準 用 されるほか(FamFG第 124 条 ,ZPO 第 253 条 ), 特 に 以 下 の 点 を 記 載 する 必 要 がある。すなわち,1 夫 婦 の 未 成 年 の 子 の 氏名 , 生 年 月 日 , 常 居 所 ,2 夫 婦 が 当 事 者 となっている 他 の 家 事 事 件 が 係 属 しているか 否 か,3 夫 婦が 親 権 , 子 との 面 会 交 流 , 婚 姻 住 居 及 び 家 財 道 具 に 関 する 権 利 関 係 について 合 意 しているか 否 かという 点 である(FamFG 第 133 条 第 1 項 ) 443 。婚 姻 事 件 については, 弁 論 主 義 ではなく, 職 権 探 知 主 義 が 妥 当 する。そして, 家 庭 裁 判 所 は,裁 判 を 下 す 基 礎 となる 事 実 を 認 定 するために 必 要 な 調 査 を 行 うのが 原 則 である(FamFG 第 127 条 第 1項 )。ただし, 離 婚 手 続 に 関 しては 重 要 な 制 限 があり, 当 事 者 が 自 ら 主 張 しない 事 実 は, 婚 姻 関 係 を維 持 するのに 役 立 つか 又 は 申 立 人 が 反 対 しないかぎりでのみ 考 慮 されうる(FamFG 第 127 条 第 2~ 第 3項 )。 婚 姻 事 件 全 般 については, 弁 護 士 強 制 が 妥 当 する(FamFG 第 114 条 第 1 項 )。ただし, 相 手 方 は,必 ずしも 弁 護 士 による 代 理 を 必 要 としない。 必 要 があれば, 家 庭 裁 判 所 は 職 権 で, 相 手 方 に 弁 護 士を 付 すことができる(FamFG 第 138 条 )。いずれにしても, 離 婚 に 対 する 同 意 又 は 同 意 の 撤 回 , 離 婚申 立 ての 取 り 下 げは, 弁 護 士 による 代 理 を 必 要 としない(FamFG 第 114 条 第 4 項 第 3 号 ) 444 。離 婚 手 続 においては, 離 婚 事 件 及 びその 効 果 に 関 する 事 件 が 併 合 されうる。 年 金 分 割 請 求 については, 通 常 , 当 事 者 の 申 立 てなしに 職 権 で, 離 婚 との 併 合 手 続 が 行 われる(FamFG 第 137 条 第 2 項 )。443 Schwab, op.cit., S. 152 et seq.444 Schwab, op.cit., S. 153.9999


その 他 の 離 婚 の 効 果 に 関 する 事 件 ( 元 配 偶 者 に 対 する 扶 養 請 求 , 子 に 対 する 扶 養 請 求 , 夫 婦 財 産 制 に 基 づく 請 求 〔 財 産 分 割 請 求 ほか〕, 婚 姻 住 居 及 び 家 財 道 具 に 関 する 請 求 )については, 夫 婦 の 一 方 が 第 一 審 の 口頭 弁 論 開 始 の 2 週 間 以 上 前 に, 離 婚 事 件 において 合 わせて 申 立 てをした 場 合 にのみ, 併 合 手 続 が 行われる(FamFG 第 137 条 第 2 項 )。それに 対 して, 子 に 関 する 事 件 , 特 に 親 権 及 び 子 に 対 する 面 会 交流 に 関 する 事 件 については, 夫 婦 の 一 方 が 第 一 審 の 口 頭 弁 論 終 結 前 に 申 立 てをすれば, 併 合 手 続 が行 われうる(FamFG 第 137 条 第 3 項 ) 445 。ただし, 家 庭 裁 判 所 は 当 事 者 の 申 立 てには 拘 束 されず, 子の 福 祉 に 鑑 みて 適 切 ではないと 判 断 すれば, 併 合 手 続 を 拒 否 できる。 併 合 手 続 が 行 われ, 申 立 てが認 容 される 場 合 には, 一 つの 決 定 によって 統 一 的 に 判 断 が 下 される(FamFG 第 142 条 第 1 項 ) 446 。B. 親 子 関 係 事 件親 権 及 び 子 との 面 会 交 流 等 に 関 する 親 子 事 件 については, 家 庭 裁 判 所 が 職 分 管 轄 をもつ(FamFG第 111 条 第 2 号 , 第 151 条 )。 特 に 子 の 居 所 指 定 , 面 会 交 流 , 引 渡 し,あるいは 子 の 福 祉 の 危 険 に 関 する 事 件 については, 手 続 が 優 先 的 かつ 迅 速 に 進 められる(FamFG 第 155 条 )。 他 方 で, 子 の 福 祉 に 反しないかぎりは, 手 続 のいかなる 段 階 においても 和 解 が 試 みられる(FamFG 第 156 条 )。 手 続 には,職 権 探 知 主 義 が 妥 当 する(FamFG 第 26 条 )。 子 の 利 益 を 実 現 するのに 必 要 な 場 合 には( 法 定 代 理 人 との 利 害 の 対 立 , 親 権 の 取 り 上 げが 問 題 となる 場 合 など), 手 続 補 佐 人 が 選 任 される(FamFG 第 158 条 )。14歳 以 上 の 子 については 原 則 として,14 歳 未 満 の 子 については 適 切 な 場 合 に 意 見 聴 取 がなされる(FamFG 第 159 条 )。 親 も 直 接 尋 問 されるほか, 養 育 人 及 び 少 年 局 も 関 与 する(FamFG 第 160 条 以 下 )。血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件 については, 家 庭 裁 判 所 が 職 分 管 轄 をもつ(FamFG 第 111 条 第 3 号 , 第 169条 第 4 号 )。FamFG 制 定 以 来 , 手 続 は, 訴 えではなく 申 立 てによって 開 始 され(FamFG 第 171 条 第 1項 ), 被 告 は 存 在 しない。 子 , 法 律 上 の 父 ,そして 母 は 必 ず 当 事 者 となる(FamFG 第 172 条 第 1 項 )。未 成 年 子 の 利 益 を 実 現 するために 必 要 があれば, 手 続 補 佐 人 が 選 任 される(FamFG 第 174 条 )。 手 続には, 職 権 探 知 主 義 が 妥 当 する(FamFG 第 26 条 )。ただし, 当 事 者 が 主 張 していない 事 実 は, 父 子 関係 を 維 持 するのに 役 立 つか 又 は 申 立 て 人 が 同 意 するかぎりでのみ 判 断 の 基 礎 とされる(FamFG 第 177条 第 1 項 )。 当 事 者 の 一 人 が 終 局 裁 判 の 確 定 前 に 死 亡 した 場 合 にも, 他 の 当 事 者 の 一 人 が 1 ヶ 月 以 内に 申 立 てをすれば, 手 続 は 継 続 する(FamFG 第 181 条 ) 447 。養 子 縁 組 についても, 家 庭 裁 判 所 が 職 分 管 轄 をもつ(FamFG 第 111 条 第 4 号 , 第 186 条 以 下 )。 縁組 手 続 においては, 養 親 及 び 養 子 となる 子 (FamFG 第 192 条 ),さらに 養 親 又 は 養 子 の 子 ら(FamFG第 193 条 )のほか, 養 子 となる 子 が 未 成 年 である 場 合 には, 少 年 局 も(FamFG 第 194 条 第 1 項 ) 意 見445親 権 及 び 子 との 面 会 交 流 については,1976 年 離 婚 法 改 正 後 (Erstes Gesetz zur Reform des Ehe- und Familienrechts [1.EheRG] vom 14.6.1976, BGBl. I, S. 1421)は, 必 ず 離 婚 事 件 において 附 帯 的 に 決 定 されていたが( 必 要 的 併 合 手 続[Zwangsverbund]),1997 年 親 子 法 改 正 後 は, 父 又 は 母 の 申 立 てが 要 件 とされている(FamFG 第 137 条 第 3 項 )。446 Schwab, op.cit., S. 153 et seq.447当 事 者 の 死 亡 後 の 父 子 関 係 の 否 認 は, 相 続 権 との 関 係 で 意 味 をもつ。Schwab, op.cit., S. 265.100100


聴 取 される。 家 庭 裁 判 所 は, 縁 組 の 申 立 てについて 決 定 をもって 判 断 する。 養 子 縁 組 が 認 容 される場 合 には, 縁 組 決 定 は, 養 親 に 通 知 した 時 点 から 効 力 をもつ(FamFG 第 197 条 第 1・ 第 2 項 )。101101


( 参 考 資 料 1)「 家 事 事 件 及 び 非 訟 事 件 の 手 続 に 関 する 法 律 」 448第 1 編 第 9 章 渉 外 関 係 手 続第 1 節 国 際 法 上 の 条 約 と 欧 州 連 合 の 制 定 法第 97 条 優 先 性 及 び 適 用 可 能 性(1) 国 際 法 上 の 条 約 における 準 則 は,それが 国 内 法 上 直 接 適 用 しうる 規 範 となっているかぎり, 本 法の 規 定 に 優 先 する。 欧 州 連 合 の 制 定 法 上 の 準 則 の 適 用 は 妨 げられない。(2) 前 項 にいう 条 約 及 び 制 定 法 を 国 内 法 化 及 び 実 施 するために 定 められた 準 則 の 適 用 は 妨 げられない。第 2 節 国 際 裁 判 管 轄第 98 条 婚 姻 事 件 ; 離 婚 事 件 と 附 帯 処 分 事 件 の 併 合(1) ドイツ 裁 判 所 は, 以 下 の 場 合 に 婚 姻 事 件 について 管 轄 をもつ。1. 一 方 配 偶 者 がドイツ 人 であるとき 又 は 婚 姻 時 にドイツ 人 であったとき。2. 夫 婦 双 方 がドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 しているとき。3. 一 方 配 偶 者 が 無 国 籍 者 でドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 しているとき。4. 一 方 配 偶 者 がドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 しているとき。ただし,ドイツで 下 す 予 定 の 裁 判 が 夫 婦 いずれの 本 国 法 によっても 明 らかに 承 認 されえない 場 合 には,その 限 りではない。(2) 前 項 に 基 づくドイツ 裁 判 所 の 管 轄 は, 離 婚 事 件 及 び 附 帯 処 分 事 件 が 併 合 されているときには, 離婚 の 附 帯 処 分 にも 及 ぶ。第 99 条 親 子 事 件(1) ドイツ 裁 判 所 は, 第 151 条 第 7 号 に 定 める 手 続 を 除 いて 449 , 子 が,1. ドイツ 人 であるとき,あるいは2. ドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 するときには,管 轄 をもつ。また,ドイツ 裁 判 所 は, 子 がドイツ 裁 判 所 による 保 護 措 置 を 必 要 とする 場 合 にも, 管轄 をもつ。(2) ドイツ 裁 判 所 及 び 外 国 裁 判 所 が 後 見 開 始 命 令 のための 管 轄 をもっており, 後 見 がすでに 当 該 外 国において 開 始 されている 場 合 には,それが 被 後 見 人 の 利 益 にかなうかぎり,ドイツ 国 内 では 後 見 開始 命 令 を 差 し 控 えることができる。(3) ドイツ 裁 判 所 及 び 外 国 裁 判 所 が 後 見 開 始 命 令 のための 管 轄 をもっており,ドイツ 国 内 ではすでに後 見 が 行 われている 場 合 には, 後 見 を 監 督 している 裁 判 所 は,それが 被 後 見 人 の 利 益 にかない, 後448 Gesetz über das Verfahren in Familiensachen und in den Angelegenheiten der freiwilligen Gerichtsbarkeit (FamFG) vom17.12.2008 (BGBl. I S. 2586, 2587).449第 151 条 第 7 号 は, 精 神 病 者 の 保 護 収 容 に 関 する 州 法 に 基 づく, 未 成 年 者 の 自 由 を 剥 奪 する 保 護 収 容 命 令 に関 する 手 続 を 指 す。102102


見 人 が 同 意 し, 当 該 国 が 後 見 の 引 継 ぎを 承 諾 したときには, 後 見 開 始 命 令 に 関 して 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 国 に 後 見 をゆだねることができる。 単 独 後 見 人 ,あるいは 共 同 で 後 見 が 行 われている 際 の 複 数後 見 人 の 一 人 が 同 意 を 拒 否 した 場 合 には, 後 見 事 件 が 係 属 している 裁 判 所 に 代 わって, 審 級 が 上 位の 裁 判 所 が 決 定 を 下 す。その 決 定 を 取 り 消 すことはできない。(4) 第 2 項 及 び 第 3 項 の 規 定 は, 第 151 条 第 5 号 及 び 第 6 号 の 手 続 に 準 用 する 450 。第 100 条 血 縁 上 の 親 子 関 係 事 件ドイツ 裁 判 所 は, 子 , 母 , 父 ,あるいは 母 の 妊 娠 時 に 同 衾 していたと 宣 誓 した 男 性 が,1. ドイツ 人 であるとき,あるいは2. ドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 するときには,管 轄 をもつ。第 101 条 養 子 縁 組 事 件ドイツ 裁 判 所 は, 養 親 , 夫 婦 共 同 養 子 縁 組 の 養 親 の 一 人 ,あるいは 子 が,1. ドイツ 人 であるとき,あるいは2. ドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 するときには,管 轄 をもつ。第 102 条 年 金 分 割 事 件ドイツ 裁 判 所 は,1. 申 立 人 又 は 相 手 方 がドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 するとき,2. ドイツ 国 内 における 年 金 期 待 権 について 決 定 すべきとき,あるいは3. ドイツのいずれかの 裁 判 所 が 申 立 人 と 相 手 方 の 離 婚 判 決 を 下 したときには,管 轄 をもつ。第 103 条 登 録 パートナーシップ 事 件(1) ドイツ 裁 判 所 は, 登 録 パートナーシップ 法 に 基 づく 登 録 パートナーシップの 解 消 ,あるいは 登 録パートナーシップの 存 在 又 は 不 存 在 の 確 認 を 対 象 とする 登 録 パートナーシップ 事 件 について,1. 登 録 パートナーの 一 人 がドイツ 人 であるとき 又 は 登 録 パートナーシップ 締 結 時 にドイツ 人 であったとき,2. 登 録 パートナーの 一 人 がドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 しているとき,あるいは3. 登 録 パートナーシップがドイツ 国 内 の 当 局 において 締 結 されたときには,管 轄 をもつ。450第 151 条 第 5 号 は, 補 佐 又 はそれ 以 外 の 未 成 年 者 又 は 胎 児 の 代 理 人 の 選 任 に 関 する 手 続 を, 同 第 6 号 は, 未成 年 者 の 自 由 を 剥 奪 する 保 護 収 容 (BGB 第 1631b 条 , 第 1800 条 , 第 1915 条 )に 関 する 手 続 を 指 す。103103


(2) 前 項 に 基 づくドイツ 裁 判 所 の 管 轄 は, 登 録 パートナーシップの 解 消 事 件 と 附 帯 処 分 事 件 が 併 合 されているときには, 附 帯 処 分 にも 及 ぶ。(3) 第 99 条 , 第 101 条 , 第 102 条 , 第 105 条 の 規 定 は 準 用 される。第 104 条 世 話 事 件 及 び 保 護 収 容 事 件 , 成 年 補 佐 事 件(1) ドイツ 裁 判 所 は, 本 人 又 は 成 年 者 である 被 補 佐 人 が,1. ドイツ 人 であるとき,あるいは2. ドイツ 国 内 に 常 居 所 を 有 するときには,管 轄 をもつ。また,ドイツ 裁 判 所 は, 本 人 又 は 成 年 者 である 被 補 佐 人 がドイツ 裁 判 所 による 保 護 措置 を 必 要 とする 場 合 にも, 管 轄 をもつ。(2) 第 99 条 第 2 項 及 び 第 3 項 の 規 定 は 準 用 される。(3) 第 1 項 及 び 第 2 項 の 規 定 は, 第 312 条 第 3 号 に 基 づく 保 護 収 容 事 件 451 には 適 用 されない。第 105 条 その 他 の 手 続本 法 に 基 づくその 他 の 手 続 については,ドイツ 裁 判 所 は,ドイツのいずれかの 裁 判 所 が 土 地 管 轄 をもつ 場 合 に 管 轄 をもつ。第 106 条 専 属 管 轄 の 否 定本 節 に 定 める 管 轄 は, 専 属 的 ではない。第 3 節 外 国 裁 判 の 承 認 及 び 執 行第 107 条 婚 姻 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 の 承 認(1) 婚 姻 を 無 効 とする, 取 消 す, 婚 姻 関 係 が 成 立 した 後 に 又 はそれを 維 持 したままで 解 消 する,あるいは 当 事 者 の 婚 姻 の 存 在 又 は 不 存 在 を 確 認 する 外 国 の 決 定 は, 州 法 務 局 が, 承 認 要 件 が 具 備 されていることを 確 認 した 場 合 にのみ 承 認 される。ただし, 夫 婦 双 方 が 裁 判 時 に 国 籍 を 有 していた 国 の司 法 機 関 又 は 行 政 機 関 が 判 断 した 場 合 には,その 承 認 は, 州 法 務 局 による 確 認 を 必 要 としない。(2) 管 轄 をもつのは, 夫 婦 の 一 方 が 常 居 所 をもつ 州 の 法 務 局 である。 夫 婦 のいずれもドイツ 国 内 に 常居 所 をもたない 場 合 には, 新 たな 婚 姻 が 挙 行 される 又 は 登 録 パートナーシップが 締 結 される 予 定 である 州 の 法 務 局 が 管 轄 をもつ。その 場 合 に, 州 法 務 局 は, 婚 姻 の 挙 行 又 は 登 録 パートナーシップの登 録 が 申 請 されたことの 証 明 を 求 めることができる。その 他 の 管 轄 原 因 が 存 しない 場 合 には,ベルリン 州 の 法 務 局 が 管 轄 をもつ。451第 312 条 第 3 号 は, 精 神 病 者 の 保 護 収 容 に 関 する 州 法 に 基 づく, 成 年 者 の 自 由 を 剥 奪 する 保 護 収 容 に 関 する手 続 を 指 す。104104


(3) 州 政 府 は, 行 政 規 則 によって, 本 条 が 州 法 務 局 に 与 えている 権 限 を 一 又 は 複 数 の 州 上 級 裁 判 所 長に 移 管 することができる。 州 政 府 は, 行 政 規 則 によって, 第 1 文 に 基 づく 権 限 を 州 法 務 局 に 移 管 することができる。(4) 決 定 は, 申 立 てに 基 づいて 下 される。 申 立 てをすることができるのは, 承 認 に 関 する 法 的 利 益 を疎 明 した 者 である。(5) 州 法 務 局 が 申 立 てを 棄 却 した 場 合 には, 申 立 人 は, 州 上 級 裁 判 所 に 対 して 決 定 を 求 めることができる。(6) 州 法 務 局 が, 承 認 要 件 が 具 備 されていることを 確 認 した 場 合 には, 申 立 てをしていない 他 方 配 偶者 は, 州 上 級 裁 判 所 に 対 して 決 定 を 求 めることができる。 州 法 務 局 の 決 定 は, 申 立 人 に 対 する 通 知によって 有 効 となる。ただし, 州 法 務 局 は,その 決 定 の 中 で, 州 法 務 局 が 定 める 一 定 期 間 の 経 過 後に 初 めて 有 効 となることを 定 めることができる。(7) 管 轄 をもつのは, 州 法 務 局 が 所 在 する 管 区 を 所 轄 する 州 上 級 裁 判 所 の 民 事 部 である。 裁 判 所 の 決定 の 申 立 ては, 効 力 発 生 を 停 止 しない。その 手 続 については, 第 4 及 び 第 5 節 の 規 定 並 びに 第 14 条第 1・ 第 2 項 及 び 第 48 条 第 2 項 が 準 用 される。(8) 前 項 までの 規 定 は, 外 国 裁 判 の 承 認 要 件 の 不 存 在 確 認 が 申 し 立 てられた 場 合 にも 準 用 される。(9) 承 認 要 件 の 存 在 又 は 不 存 在 確 認 は, 裁 判 所 及 び 行 政 機 関 を 拘 束 する。(10) 1941 年 11 月 1 日 の 時 点 で, 外 国 裁 判 に 基 づいてドイツ 家 族 登 録 簿 ( 婚 姻 登 録 簿 )に 婚 姻 の 無 効 ,取 消 し, 離 婚 , 別 居 , 婚 姻 の 存 在 又 は 不 存 在 が 付 記 されていた 場 合 には,その 記 載 は, 本 条 に 基 づく 承 認 と 同 じ 効 力 をもつ。第 108 条 その 他 の 外 国 裁 判 の 承 認(1) 外 国 裁 判 は, 婚 姻 事 件 に 関 する 裁 判 を 除 き, 特 別 の 手 続 を 要 することなく 承 認 される。(2) 法 的 利 益 をもつ 当 事 者 は, 財 産 法 関 係 以 外 の 外 国 裁 判 の 承 認 又 は 不 承 認 に 関 する 決 定 を 申 し 立 てることができる。その 場 合 には, 第 107 条 第 9 項 の 規 定 が 準 用 される。ただし, 養 子 縁 組 の 承 認 又は 不 承 認 については, 養 子 が 縁 組 当 時 に 満 18 歳 未 満 であった 場 合 には, 養 子 縁 組 の 効 果 に 関 する 法第 2 条 , 第 4 条 及 び 第 5 条 が 適 用 される。(3) 第 2 項 第 1 文 に 基 づく 申 立 てに 対 する 決 定 については, 申 立 ての 当 時 ,その 管 区 内 に,1. 相 手 方 又 は 決 定 の 対 象 者 が 常 居 所 を 有 しているところの 裁 判 所 ,2. 第 1 号 の 管 轄 がない 場 合 には, 確 認 の 利 益 が 存 する 又 は 保 護 措 置 の 必 要 性 が 存 するところの 裁 判所 が 土 地 管 轄 をもつ。この 管 轄 は, 専 属 的 である。第 109 条 承 認 拒 否 事 由(1) 外 国 裁 判 の 承 認 は, 以 下 の 場 合 には 拒 否 される。すなわち,1. 外 国 裁 判 所 がドイツ 法 によれば 管 轄 をもっていなかったとき,105105


2. 当 事 者 の 一 方 が 本 案 について 応 訴 せず, 裁 判 手 続 開 始 のための 書 面 が 適 式 に 又 は 自 己 の 権 利 を 行使 しうる 程 度 に 適 時 に 通 知 されなかったことを 援 用 しているとき,3. 外 国 裁 判 がドイツにおいて 下 された 裁 判 ,ドイツにおいて 承 認 される 先 行 外 国 裁 判 ,あるいはその 外 国 裁 判 の 基 礎 となった 裁 判 手 続 がドイツにおいて 先 に 係 属 した 裁 判 手 続 と 相 容 れないとき,あるいは4. 外 国 裁 判 の 承 認 が,ドイツ 法 上 の 重 要 な 基 本 原 則 と 明 らかに 相 容 れない 結 果 となるとき, 特 にその 承 認 が 基 本 権 と 相 容 れないとき,である。(2) 婚 姻 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 は, 夫 婦 の 一 方 がその 裁 判 国 において 常 居 所 を 有 していた 場 合 には,第 98 条 第 1 項 第 4 号 の 規 定 にかかわらず 承 認 される。 婚 姻 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 が 夫 婦 双 方 が 国 籍をもつ 国 において 承 認 される 場 合 には, 第 98 条 の 規 定 にかかわらず 承 認 される。(3) 登 録 パートナーシップ 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 は, 登 録 国 が 当 該 裁 判 を 承 認 する 場 合 には, 第 103条 の 規 定 にかかわらず 承 認 される。(4) 以 下 の 事 項 に 関 する 外 国 裁 判 は, 相 互 の 保 証 がない 場 合 には 承 認 されない。1. 争 訟 性 の 家 事 事 件 。2. 登 録 パートナーシップ 上 の 扶 助 及 び 協 力 義 務 。3. 登 録 パートナーの 共 同 住 居 及 び 家 財 に 関 する 法 律 関 係 の 規 律 。4. 登 録 パートナーシップ 法 第 6 条 第 2 文 並 びに 民 法 第 1382 条 及 び 第 1383 条 に 基 づく 決 定 452 。5. 登 録 パートナーシップ 法 第 7 条 第 2 文 並 びに 民 法 第 1426 条 , 第 1430 条 及 び 第 1452 条 に 基 づく決 定 453 。(5) 外 国 裁 判 の 適 法 性 に 関 する 審 査 は 行 われない。第 110 条 外 国 裁 判 の 執 行 可 能 性(1) 外 国 裁 判 は, 承 認 されえないかぎり, 執 行 されない。(2) 外 国 裁 判 が 第 95 条 第 1 項 に 定 める 義 務 を 内 容 とする 場 合 には, 執 行 可 能 性 は 決 定 によって 命 じられる。その 決 定 には, 理 由 を 付 さなければならない。(3) 第 2 項 に 定 める 決 定 を 下 す 管 轄 をもつのは, 債 務 者 が 普 通 裁 判 籍 をもつ 区 裁 判 所 のほか, 民 事 訴訟 法 第 23 条 の 規 定 に 従 い, 債 務 者 に 対 する 提 訴 が 可 能 な 区 裁 判 所 である。この 決 定 は, 外 国 裁 判 所の 裁 判 が 当 該 裁 判 所 に 妥 当 する 法 によって 既 判 力 を 取 得 した 後 に 下 される。452登 録 パートナーシップの 法 定 財 産 制 である 後 得 財 産 共 有 制 の 清 算 に 当 たって, 支 払 猶 予 又 は 対 象 財 産 の 引 渡しを 命 ずる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 を 指 す。453登 録 パートナーシップにおいて 選 択 財 産 制 である 共 有 制 がとられているとき, 特 定 の 法 律 行 為 に 対 する 他 方パートナーの 同 意 , 共 有 財 産 を 単 独 管 理 するパートナーの 財 産 処 分 に 対 する 同 意 ,あるいは 共 有 財 産 が 共 同 管理 されている 場 合 の 特 定 の 法 律 行 為 等 に 対 する 他 方 パートナーの 同 意 に 代 わる 家 庭 裁 判 所 の 決 定 を 指 す。106106


454( 参 考 資 料 2) 外 国 法 に 基 づく 養 子 縁 組 の 効 果 に 関 する 法 律第 1 条 適 用 範 囲本 法 の 規 定 は, 外 国 における 裁 判 又 は 外 国 の 事 項 規 定 (Sachvorschriften)に 基 づく 養 子 縁 組 に 適 用される。 本 法 の 規 定 は, 養 子 が 縁 組 当 時 に 満 18 歳 に 達 していた 場 合 には 適 用 されない。第 2 条 承 認 及 び 効 力 の 確 認(1) 家 庭 裁 判 所 は, 申 立 てにより, 第 1 条 に 定 める 養 子 縁 組 が 承 認 される 又 は 有 効 であるか 否 か,そして 子 の 実 親 との 親 子 関 係 が 縁 組 によって 断 絶 しているか 否 かを 確 認 する。(2) 養 子 縁 組 が 承 認 される 又 は 有 効 である 場 合 には, 家 庭 裁 判 所 は,さらに,1. 第 1 項 に 定 める 実 親 との 親 子 関 係 が 断 絶 している 場 合 には, 養 親 子 関 係 がドイツの 事 項 規 定 に基 づく 養 親 子 関 係 と 同 等 であること,2. そうでなければ, 養 親 子 関 係 が 養 親 の 親 権 及 び 扶 養 義 務 との 関 係 で,ドイツの 事 項 規 定 に 基 づく 養 親 子 関 係 と 同 等 であること,を 確 認 する。ただし, 第 1 文 に 定 める 確 認 は, 同 時 に 第 3 条 に 基 づく 転 換 請 求 がなされている 場 合には 差 し 控 えることができる。(3) ドイツ 家 庭 裁 判 所 が 外 国 の 事 項 規 定 に 基 づいて 養 子 縁 組 を 命 ずる 場 合 には, 職 権 で, 第 1 項 及び 第 2 項 に 定 める 事 項 を 確 認 する。 養 子 縁 組 の 承 認 可 能 性 又 は 有 効 性 に 関 する 確 認 決 定 はなされない。第 3 条 転 換 請 求(1) 家 庭 裁 判 所 は, 第 2 条 第 2 項 第 1 文 第 2 号 に 定 める 場 合 について, 以 下 の 要 件 が 満 たされれば,申 立 てにより, 子 がドイツの 事 項 規 定 に 基 づいて 縁 組 をされた 子 と 同 じ 法 的 地 位 を 取 得 することを命 ずることができる。すなわち,1. それが 子 の 福 祉 にかなうこと,2. 実 親 子 関 係 の 断 絶 の 効 果 を 伴 う 縁 組 に 対 して, 必 要 な 同 意 がなされていること,3. 養 親 又 は 養 子 の 配 偶 者 ないし 子 の 優 先 的 利 益 に 反 しないこと,である。第 1 文 第 2 号 にいう 同 意 の 必 要 性 及 びその 実 現 には, 養 子 縁 組 への 同 意 に 適 用 される 規 定 及 び 民 法施 行 法 6 条 455 が 準 用 される。また, 子 の 同 意 については, 合 わせて 民 法 第 1746 条 第 1 項 第 1~ 第 3文 及 び 同 条 第 2・ 第 3 項 も 適 用 される。 養 子 が 縁 組 決 定 当 時 に 満 18 歳 に 達 していた 場 合 には, 第 1文 第 1 号 に 定 める 要 件 は 除 外 される。454 Gesetz über Wirkungen der Annahme als Kind nach ausländischem Recht (Adoptionswirkungsgesetz - AdWirkG) vom5.11.2001 (BGBl. I S. 2950, 2953).455公 序 に 関 する 規 定 を 指 す。107107


(2) 第 1 項 の 規 定 は, 縁 組 の 効 果 がドイツの 事 項 規 定 が 定 める 効 果 とは 異 なる 場 合 には, 第 2 条 第2 項 第 1 文 第 1 号 に 定 める 場 合 にも 準 用 される。第 4 条 申 立 て 及 び 決 定 の 効 力 が 及 ぶ 範 囲(1) 申 立 権 者 となるのは,1. 第 2 条 第 1 項 の 確 認 については,a) 養 親 , 夫 婦 共 同 養 子 縁 組 の 場 合 には 各 々の 養 親 ,b) 養 子 ,c) 実 親 ,あるいはd) 身 分 登 録 法 第 27 条 第 1 項 に 基 づいて 出 生 登 録 簿 における 子 の 出 生 登 録 を 管 理 する 権 限 をもつ 身分 登 録 局 ,あるいは 身 分 登 録 法 第 36 条 に 基 づいて 子 の 出 生 登 録 を 行 う 権 限 をもつ 身 分 登 録 局 ,である。2. 第 3 条 第 1 項 又 は 第 2 項 に 定 める 請 求 については, 養 親 及 びその 配 偶 者 は, 共 同 でしか 申 立 てをすることができない。第 1 文 第 1 号 d 号 及 び e 号 に 基 づく 申 立 権 は, 疑 義 がある 場 合 にのみ 援 用 することができる。 第 1文 第 2 号 に 基 づく 申 立 てには, 民 法 第 1752 条 第 2 項 及 び 第 1753 条 が 適 用 される。(2) 第 2 条 に 基 づく 確 認 及 び 第 3 条 に 基 づく 請 求 は,すべての 者 に 対 して 有 利 にも 不 利 にも 働 く 456 。ただし, 第 2 条 に 基 づく 確 認 は, 実 親 に 対 しては 効 力 をもたない。もっとも, 第 2 条 に 基 づく 決 定においては, 実 親 が 手 続 を 開 始 した 場 合 ,あるいは 第 1 項 第 1 文 第 1 号 a から c に 定 める 申 立 権 者の 申 立 てにより, 手 続 に 参 加 した 場 合 には, 実 親 に 対 してもその 効 力 が 及 ぶことを 命 ずる。 実 親 の手 続 への 参 加 及 び 第 3 文 に 基 づく 効 力 の 拡 張 命 令 は, 別 の 手 続 において 申 し 立 てることもできる。第 5 条 管 轄 及 び 手 続(1) 第 2 条 及 び 第 3 条 に 基 づく 申 立 てについては,その 管 区 内 に 州 上 級 裁 判 所 が 所 在 するところの家 庭 裁 判 所 が,その 州 上 級 裁 判 所 の 管 区 について 管 轄 をもつ。ベルリン 控 訴 裁 判 所 の 管 区 については,シェーネベルク 区 裁 判 所 が 管 轄 をもつ。 国 際 裁 判 管 轄 及 び 土 地 管 轄 については, 家 事 事 件 及 び非 訟 事 件 の 手 続 に 関 する 法 律 第 101 条 及 び 第 187 条 第 1・ 第 2 及 び 第 4 項 の 規 定 が 準 用 される。(2) 州 政 府 は, 条 例 によって, 第 1 項 第 1 文 に 定 める 管 轄 について, 州 上 級 裁 判 所 の 管 区 内 にある別 の 家 庭 裁 判 所 に,また 一 州 に 複 数 の 州 上 級 裁 判 所 が 存 する 場 合 には, 州 上 級 裁 判 所 の 全 部 又 はそのうちの 複 数 の 管 区 について 一 つの 家 庭 裁 判 所 に 管 轄 を 与 えることができる。 州 政 府 は,その 決 定権 限 を 州 法 務 局 にゆだねることができる。(3) 家 庭 裁 判 所 は, 非 訟 裁 判 手 続 によって 決 定 をする。 家 事 事 件 及 び 非 訟 事 件 の 手 続 に 関 する 法 律第 167 条 及 び 第 168 条 第 1 項 第 1 文 及 び 第 2 ないし 第 4 項 は 準 用 される。 実 親 は, 本 法 第 2 条 に 基456対 世 効 をもつという 趣 旨 である。108108


づく 手 続 には, 第 4 条 第 2 項 第 3 及 び 第 4 文 に 基 づいてのみ 関 与 する。 第 2 条 に 基 づく 手 続 には,外 国 養 子 縁 組 の 連 邦 中 央 当 局 として 連 邦 司 法 局 が, 第 3 条 に 基 づく 手 続 には, 少 年 局 及 び 州 少 年 局の 中 央 養 子 縁 組 部 が 参 加 する。(4) 養 子 縁 組 の 承 認 可 能 性 又 は 有 効 性 の 確 認 ,あるいはそれに 基 づく 子 の 実 親 との 親 子 関 係 の 断 絶の 確 認 ,また 第 2 条 第 2 項 第 1 文 に 基 づく 確 認 ,そして 第 3 条 第 1 又 は 第 2 項 あるいは 第 4 条 第 2項 第 3 文 に 基 づく 請 求 には, 家 事 事 件 及 び 非 訟 事 件 の 手 続 に 関 する 法 律 第 197 条 第 2 及 び 第 3 項 が準 用 される。そのほか 決 定 に 対 しては, 同 法 に 基 づいて 異 議 申 立 てをすることができる。 決 定 は,確 定 することで 効 力 をもつ。ただし, 第 4 条 第 2 項 第 2 文 の 規 定 は 影 響 を 受 けない。109109


2. オーストリア・スイス[A: 総 論 ]( 執 筆 担 当 : 九 州 大 学 小 池 泰 )01:オーストリア 11. 国 際 裁 判 管 轄 全 般国 際 裁 判 管 轄 の 規 律 については、ブリュッセル 規 則 Ⅱa のような EU レベルのもの、 多国 間 ・ 二 国 間 条 約 など、 国 際 法 上 の 規 律 があればそれが 優 先 する(JN 27a 条 2 項 )。国 内 法 上 の 法 源 としては、 裁 判 管 轄 法 (JN)がある。JN は、 一 般 的 規 定 (27a 条 )と 事件 ごとの 特 別 規 定 を 置 く。 家 族 法 ・ 相 続 法 上 の 事 件 に 関 する 特 別 規 定 としては、 同 76 条 2項 ( 婚 姻 解 消 事 件 )、106・107 条 ( 相 続 事 件 )、108 条 3 項 ( 実 親 子 関 係 事 件 )、110 条 ( 親権 ・ 後 見 等 事 件 )、113b 条 ( 養 子 事 件 )、114 条 4 項 ( 婚 姻 関 係 事 件 )がある。(1) 管 轄 原 因ⅰ 住 所 ・ 常 居 所 ・ 国 籍国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 国 内 法 の 規 律 では、 一 般 の 民 事 事 件 の 場 合 、 土 地 管 轄 があればそれがそのまま 国 際 裁 判 管 轄 権 となっている(JN 27a 条 1 項 )。 土 地 管 轄 のうち、 普 通 裁 判籍 は、 被 告 の 住 所 または 常 居 所 による( 同 66 条 1 項 第 1 文 、 同 2 項 第 1 文 )。 住 所 とは、その 地 に 継 続 的 に 留 まる 意 図 を 有 することが 明 らかな 場 所 または 諸 事 情 からそのことが 認められる 場 所 である( 同 66 条 1 項 第 2 文 )。 常 居 所 とは、 経 済 的 ・ 社 会 的 な 生 活 拠 点 である。これは、 期 間 2 、 安 定 性 その 他 その 者 と 滞 在 地 の 間 に 継 続 的 な 結 びつきがあることを 示す 個 人 的 または 職 業 的 な 事 情 を 考 慮 して、 判 断 される( 同 2 項 第 3 文 )。また、 居 所 は、もっぱら 事 実 的 事 情 によって 判 断 される。 家 族 法 ・ 相 続 法 上 の 事 件 に 関 する 特 別 規 定 は、ほとんどの 場 合 、 常 居 所 と 国 籍 を 管 轄 原 因 としている。1以 下 の 文 献 を 参 照 した。Fasching,Kommentar zu den Zivilprozeßgesetzen,Bd.1 2.Aufl.(2000) / Bd.5 2.Aufl. 1 Teilband(2008)・2.Teilband(2010)(Fasching,Bd,(Autor)で 引 用 );Fuchs,Internationale Zuständigkeit in Außerstreitverfahren(2004);Nademleinsky/Neumayr,Internationales Familienrecht(2007);Rechberger(Hrsg),Kommentar zur ZPO 3.Aufl(2006)(Rechberger(Autor)で 引 用 )、Rechberger/Simotta、Zivilprozessrecht 8.Aufl.(2010);Neumayr/Nunner-Krautgasser,Exekutionsrecht 3.Aufl.(2011)また、 法 令 等 の 略 語 は 以 下 の 通 り。Haager Übereinkommen über die Zuständigkeit der Behörden und das anzuwendendeRecht auf dem Gebiet des Schutzes von Minderjährigen vom 5.10.1961(MSA: 未 成 年 者 の 保 護 に 関 する 官 憲 の 管 轄 権 及 び 準 拠法 に 関 する 条 約 。 翻 訳 については、 民 事 月 報 22 巻 9 号 101 頁 を 参 照 ),Haager Übereinkommen über die Zuständigkeit,dasanzuwendende Recht,die Anerkennung,Vollstreckung und Zusammenarbeit auf dem Gebiet der elterliche Verantwortung undMaßnahmen zum Schutz von Kindern,vom 19.10.1996(KSÜ: 親 責 任 及 び 子 の 保 護 措 置 に 関 する 管 轄 権 、 準 拠 法 、 承 認 、 執 行及 び 協 力 に 関 する 条 約 。 翻 訳 については、 民 事 月 報 52 巻 6 号 95 頁 を 参 照 ),Haager Übereinkommen über die zivilrechtlichenAspekte internationaler Kindesentführung,vom 25.10.1980(HKÜ: 国 際 的 な 子 の 奪 取 の 民 事 面 に 関 する 条 約 ),EuropäishcesÜbereinkommen vom 20.5.1980 über die Anerkennung und Vollstreckung von Entscheidungen über das Sorgerecht für Kinder und dieWiederherstellung des Sorgerechtsverhältnisses(ESÜ)、Luganer Übereinkommen über die gerichtliche Zuständigkeit und dieAnerkennung und die Vollstreckungs von Entscheidungen in Zivil- und Handelssachen(ルガノ 条 約 )、VO(EG) 2003/2201 des Ratesv 27.11.2003 über die Zuständigkeit und die Anerkennung und Vollstreckungs von Entscheidungen in Ehesachen und in Verfahrenbetreffend die elterliche Verantwortung und zur Aufhebung derVO(EG)2000/1347(ブリュッセル 規 則 Ⅱa)、VO(EG) 2009/4 desRates v 18.12.2008 über die Zuständigkeit, das anwendbare Rechts,die Anerkennung und Vollstreckungs von Entscheidungen und dieZusammenarbeit in Unterhaltssachen(EU 扶 養 規 則 )、Allgemeines Bürgerliches Gesetzbuch(ABGB: 民 法 )Exekutionsordung(EO:執 行 法 )。2期 間 としては、 約 6か 月 が 目 安 となるようである(Rechberger/Simotta,ZPR,Rz.234)。1110


ⅱ 管 轄 の 専 属 性 の 有 無 、 合 意 管 轄 ・ 応 訴 管 轄 の 可 否国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 国 内 法 の 規 律 は、 合 意 管 轄 ・ 応 訴 管 轄 を 認 めている(JN104 条 1項 ( 合 意 管 轄 )・3 項 ( 応 訴 管 轄 )) 3 。もっとも、これらの 規 定 は 他 の 規 定 によって 特 に 管轄 が 定 められているときは 適 用 されない( 同 5 項 )。そして、 家 族 法 ・ 相 続 法 上 の 事 件 に 関する 上 記 の 特 別 規 定 はこれに 該 当 する。よって、 国 内 法 上 、 家 族 法 ・ 相 続 法 上 の 事 件 については、これらの 特 別 規 定 上 の 管 轄 原 因 が 存 在 しない 場 合 において 当 事 者 の 合 意 によって国 際 裁 判 管 轄 権 を 基 礎 づけることはできないことになる 4 。国 際 法 上 の 規 律 では、たとえば、ブリュッセル 規 則 Ⅱa は 離 婚 事 件 に 関 して 合 意 管 轄 を認 めていない( 同 6 条 ) 5 。また、 扶 養 事 件 に 関 しては、EU 扶 養 規 則 は 一 定 の 制 限 の 下 で合 意 管 轄 を 認 めている( 同 4 条 。 応 訴 管 轄 は 5 条 )。ⅲ 主 観 的 併 合 、 附 帯 処 分1 主 観 的 併 合 国 内 法 の 規 律 では、 被 告 となる 通 常 共 同 訴 訟 人 に 外 国 人 が 含 まれている場 合 であっても、 被 告 のうちの 一 人 がオーストリアに 普 通 裁 判 籍 ( 住 所 または 常 居 所 )を有 していれば、オーストリアの 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる(JN 93 条 1 項 ・27a 条 ) 6 。2 附 帯 処 分 離 婚 の 該 当 箇 所 (2.(c))を 参 照 。ⅳ 緊 急 管 轄国 際 法 及 び 国 内 法 の 規 律 ではオーストリアの 国 際 裁 判 管 轄 権 を 基 礎 づけることができないときでも、 原 告 が、オーストリア 国 籍 を 有 するか、オーストリアに 住 所 ・ 常 居 所 を 有 しており、かつ、 外 国 での 権 利 追 求 が 可 能 でないまたは 期 待 できないときは、オーストリア最 高 裁 判 所 (OGH)が、 事 物 管 轄 ある 裁 判 所 に 土 地 管 轄 権 を 認 めることができる(JN 28条 1 項 2 号 )。 外 国 での 権 利 追 求 が 可 能 でない、または 期 待 できないときとは、たとえば、外 国 の 判 決 がオーストリアで 承 認 ・ 執 行 できない 場 合 、 判 断 が 緊 急 を 要 するのに 外 国 でそれを 得 ることができない 場 合 、 少 なくとも 一 方 の 当 事 者 にとって 外 国 での 訴 訟 遂 行 には 政治 的 訴 追 の 危 険 が 伴 う 場 合 、などである 7 。もっとも、 国 際 法 上 他 の 国 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が認 められている 場 合 や、 国 内 法 が 国 際 裁 判 管 轄 について 明 示 的 に 規 律 している 場 合 など、国 際 法 ・ 国 内 法 に 基 づいてオーストリアに 国 際 裁 判 管 轄 権 がないとされているときは、 本規 定 は 適 用 されない( 同 28 条 3 項 )。3非 訟 手 続 については、 合 意 管 轄 は 認 められない(Rechberger/Simotta,Rz.99)。なお、JN 104 条 4 項 は 特 定 の 規 定 を 列 挙 してそれについて 管 轄 合 意 は 認 められないとしているが、 列 挙 条 文 は 家 族 法 ・ 相 続 法 上 の 事 件 に 関 するものではない。しかし、JN 104 条 5 項 を 追 加 した 際 、そこでの「 特 別 な 制 定 法 上 の 指 示 」として 想 定 されていたのは、 婚 姻 関 係 事 件 の 国 際 裁判 管 轄 に 関 する 76 条 2 項 と 114a 条 4 項 であり、これらについての 管 轄 合 意 は 原 則 として 無 効 となりうる、という 考 えだったようである(898 Dder Beilagen ⅩⅩ.GP RO Erluterungen S.38・39)。4Fasching,Bd.1(Simotta)JN§104 Rz.116;Rechberger/Simotta,Rz.99;Rechberger(Mayr)§104 JN Rz.13. もっとも、この場 合 の 管 轄 欠 缺 の 瑕 疵 も、 判 決 に 既 判 力 が 生 じれば 治 癒 される(Rechberger/Simotta,Rz.107)。5Rechberger/Simotta,Rz.156.6Fasching,Bd.1(Simotta)JN§93 Rz.30;Rechberger(Mayr)JN 93 Rz.4. なお、 前 者 は、 本 文 のような 理 解 を 支 持 する 補強 的 論 拠 として、 民 事 及 び 商 事 事 件 における 裁 判 管 轄 及 び 裁 判 の 執 行 に 関 する 2000 年 12 月 22 日 の 理 事 会 規 則 (EC)44/2201(ブリュッセルⅠ 規 則 )6 条 1 号 ( 通 常 共 同 訴 訟 の 裁 判 籍 )において、 被 告 のうちの 少 なくとも 一 人 が 加 盟 国 に 住 所 を 有 していれば、 第 三 国 に 住 所 を 有 する 者 をも 被 告 に 加 えることができる、という 理 解 が 支 配 的 であることを 挙 げている。7Rechberger/Simotta,Rz.89(Fn.33).2111


(2) 管 轄 原 因 に 関 する 職 権 調 査 の 有 無国 際 裁 判 管 轄 権 は 訴 訟 要 件 であり、 職 権 で 調 査 されることになる 8 。(3) 国 際 訴 訟 競 合国 際 法 上 の 規 律 9 がない 場 合 には、 国 内 法 にもこの 点 に 関 する 規 律 がないため、 外 国 での訴 訟 の 係 属 は 訴 訟 を 妨 げないことになる。しかし、 近 時 の 判 例 では、 外 国 の 手 続 についても、それについての 判 決 が 国 内 で 承 認 される 可 能 性 があれば、 訴 訟 係 属 に 関 する 規 律 を 適用 することができる、という 見 解 が 採 られているようである 10 。(4) 保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄国 際 法 上 の 規 律 11 が( 妥 当 し)ない 場 合 は、 国 内 法 によることになる。 保 全 処 分 についての 国 際 裁 判 管 轄 を 規 律 する 明 文 の 規 定 はないが、 国 内 法 上 の 保 全 処 分 の 管 轄 (EO 387 条 )があるときは、 国 際 裁 判 管 轄 権 も 認 められる、とされている 12 。 近 時 の 判 例 によれば、 外国 で 承 認 されないことや 執 行 できないことは、 国 内 で 保 全 処 分 を 下 すことの 妨 げにならない。これは、 処 分 対 象 が 国 内 にある 場 合 には 処 分 の 必 要 性 もそれにとどまり、また、 国 外にいる 相 手 方 が 任 意 に 保 全 処 分 に 従 う 可 能 性 があることによる。132. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄14(a) 失 踪 宣 告死 亡 宣 告 (Todeserklärung)の 国 際 裁 判 管 轄 は、 次 の 場 合 に 認 められる( 死 亡 宣 告 法 12条 )。1 生 存 していた 最 後 の 時 点 で、 失 踪 者 がオーストリア 国 籍 を 有 していたとき、2 失 踪者 がその 財 産 を 国 内 に 有 しているとき、3 失 踪 者 の 死 亡 事 実 が、 国 内 で 判 断 されるべき 権利 または 法 律 関 係 にとって 重 大 であるとき、4 死 亡 宣 告 の 申 立 てが 失 踪 者 の 配 偶 者 によってなされ 場 合 については、 当 該 配 偶 者 がオーストリア 国 籍 を 有 する、または、その 常 居 所を 国 内 に 有 しかつ 失 踪 者 との 婚 姻 が 成 立 した 時 点 でオーストリア 国 籍 を 有 していたとき。* 死 亡 宣 告 法 (Todeserklärungsgesetz)12 条 失 踪 者 の 死 亡 宣 告 についての 国 際 裁 判 管 轄 権 は、 以 下 の 場 合 に 認 められる。1. 存 在 する 情 報 によれば 生 存 していたとされる 最 後 の 時 点 で、 失 踪 者 がオーストリア 国 籍 を 有 していたとき、または、2. 失 踪 者 がその 財 産 を 国 内 に 有 しているとき、または、3. 失 踪 者 の 死 亡 事 実 が、 国 内 で 判 断 されるべき 権 利 もしくは 法 律 関 係 にとって 重 大 であるとき、または4. 死 亡 宣 告 の 申 立 てが 失 踪 者 の 配 偶 者 によってなされ、かつ、 当 該 配 偶 者 がオーストリア 国 籍 を 有 するもしくはその8Fasching,Bd.1(Matscher)JN§27a Rz.11;Rechberger/Simotta,Rz.110. なお、ブリュッセル 規 則 Ⅱa 17 条 、EU 扶 養 規 則 10条 も、 同 様 に 職 権 で 調 査 するものとしている。9たとえば、ブリュッセル 規 則 Ⅱa 19 条 、EU 扶 養 規 則 12 条 などがある。10Rechberger/Simotta,Rz.719.11たとえば、ブリュッセル 規 則 Ⅱa 20 条 ・EU 扶 養 規 則 14 条 がある。12Fasching,Bd.1(Matscher)EGJN Vor Ⅸ Rz.70;Neumayr/Nunner-Krautgasser,S.302-3.13オーストリア 裁 判 管 轄 法 (JN)において 特 別 の 管 轄 規 定 が 設 けられている 家 族 法 ・ 相 続 法 の 事 件 類 型 は、 以 下 のとおりである。1 訴 訟 手 続 によるものとして、 夫 婦 関 係 及 び 登 録 パートナーの 無 効 ・ 解 消 等 及 び 存 否 確 認 事 件 (76 条 )、 夫 婦 関 係および 登 録 パートナシップ 事 件 (100 条 ・49 条 2 項 2b 号 )、 相 続 事 件 (77 条 。 相 続 権 及 び 遺 贈 等 の 死 因 処 分 に 基 づく 請 求権 に 基 づく 訴 え、 遺 産 分 割 の 訴 え)。2 非 訟 手 続 によるものとして、 夫 婦 関 係 及 び 登 録 パートナーシップ 事 件 (114a 条 )、実 親 子 関 係 事 件 (108 条 )、 準 正 事 件 (113 条 )、 養 子 事 件 (113a 条 )、 親 権 (Obsorge)・ 後 見 (Sachwalterschaft・Kuratel)事 件 (109 条 )、 扶 養 および 親 子 関 係 事 件 (114 条 )、 相 続 事 件 (105 条 )。14失 踪 宣 告 事 件 は、 人 の 権 利 能 力 に 関 わるものであり、ルガノ 条 約 等 の 多 国 間 条 約 の 対 象 からは 除 外 されている。もっとも、 外 国 における 失 踪 宣 告 の 承 認 については、 二 国 間 条 約 がいくつか 存 在 する。3112


常 居 所 を 国 内 に 有 しかつ 失 踪 者 との 婚 姻 が 成 立 した 時 点 でオーストリア 国 籍 を 有 していたとき。(b) 婚 姻 ・ 登 録 パートナーシップの 成 立 ・( 身 分 的 ・ 財 産 的 ) 効 力(1) 婚 姻 の 成 立婚 姻 の 取 消 し(Aufhebung)・ 無 効 は、ブリュッセル 規 則 Ⅱa 1 条 1 項 a 号 「 婚 姻 の 無 効 」に 該 当 し、それを 争 う 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 の 有 無 は、まず、 同 規 則 3 条 に 従 って 判 断 される((c)を 参 照 )。これに 対 して、 婚 姻 の 存 否 の 確 認 の 訴 えについて、ブリュッセル 規 則Ⅱa は 適 用 されない 15 。国 内 法 の 規 律 では、 次 の 場 合 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる(JN 76 条 2 項 )。1 当 事 者の 一 方 がオーストリア 国 籍 を 有 するとき、2 被 告 が、または、 当 事 者 双 方 を 相 手 方 とする無 効 の 訴 え 16 では 少 なくとも 夫 婦 の 一 方 が、その 常 居 所 をオーストリアに 有 するとき、3原 告 が、その 常 居 所 をオーストリアに 有 し、かつ、 当 事 者 の 双 方 がその 最 後 の 共 通 の 常 居所 をオーストリアに 有 していたまたは 原 告 が 無 国 籍 もしくは 婚 姻 成 立 時 にオーストリア 国籍 を 有 していたとき。(2) 婚 姻 の 効 果 、 夫 婦 財 産 制 ( 扶 養 は(g)を 参 照 )ブリュッセル 規 則 Ⅱa は、 婚 姻 の 効 果 に 関 する 事 件 には 適 用 されない。もっとも、 同 規則 で 離 婚 事 件 の 管 轄 が 認 められる 場 合 には、 国 内 法 規 律 (JN 76a 条 )により、これと 合 わせて 婚 姻 の 効 果 についての 管 轄 権 も 生 じる 17 。国 内 法 の 規 律 は、 訴 訟 事 件 と 非 訟 事 件 に 分 かれている。まず、 訴 訟 事 件 については 以 下の 通 りである。 夫 婦 関 係 から 生 じた 財 産 法 上 の 紛 争 および 純 粋 に 財 産 法 上 とはいえない 紛争 で、 訴 訟 手 続 によるべきものについての 国 際 裁 判 管 轄 権 は、JN 76 条 2 項 の 類 推 によるとされている((1)を 参 照 ) 18 。非 訟 事 件 については、 当 事 者 の 一 方 がオーストリア 国 籍 またはオーストリアに 常 居 所 を有 するときに、 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる(JN 114a 条 4 項 第 1 文 ) 19 。よって、 夫 婦 双方 とも 外 国 にいるが 一 方 がオーストリア 国 籍 を 有 する 場 合 、 夫 婦 双 方 がオーストリア 国 籍を 有 しないが 一 方 がオーストリアに 常 居 所 を 有 する 場 合 のいずれも、オーストリアに 国 際裁 判 管 轄 権 が 認 められる 20 。15Fasching,Bd.5/2.Hb(Simotta)EuEheKindVO Art 1 Rz.9-16;Fuchs,126.16なお、 国 籍 や 氏 の 取 得 を 目 的 とする 婚 姻 について 検 察 官 が 婚 姻 無 効 の 訴 えを 提 起 する 場 合 については( 婚 姻 法 28 条 1項 )、 本 条 の 適 用 はなく、 一 般 的 規 律 (JN 27a 条 )に 従 い 被 告 の 普 通 裁 判 籍 ( 住 所 ・ 常 居 所 )による(Rechberger(Mayr)§76 Rz.1。 当 該 裁 判 所 が 配 偶 者 の 一 方 に 関 して 普 通 裁 判 籍 を 有 しないときでも、 共 同 訴 訟 の 規 律 (JN 93 条 1 項 )に 従 い、管 轄 が 認 められる(A.a.O))。17Nademleinsky/Neumayr,Rz.04.01・05.08.18Nademleinsky/Neumayr,Rz.04.03( 及 び S.60Fn3);Fasching,Bd.1(Simotta)JN§76a,Rz.42.;Rechberger(Mayr)§76a Rz.2.オーストリア 法 上 、 婚 姻 関 係 から 生 じた 争 いで 訴 訟 事 件 とされているものには、 夫 婦 間 扶 養 を 求 める 訴 え、 夫 婦 財 産 契 約上 の 訴 え、 日 常 家 事 代 理 権 から 生 じた 紛 争 、 夫 婦 財 産 の 清 算 など 夫 婦 財 産 制 に 基 づく 請 求 、 婚 姻 住 宅 の 利 用 を 求 める 訴 え、不 貞 の 不 作 為 を 求 める 訴 え、 婚 姻 の 際 に 生 じた 氏 の 使 用 継 続 の 許 可 などがある。19Nademleinsky/Neumayr,Rz.04.04( 及 び S.61Fn9);Fuchs,Rz.395. オーストリア 法 上 、 夫 婦 関 係 から 生 じた 争 いで 非 訟 事 件とされるものとしては、 一 方 の 配 偶 者 の 営 業 への 協 力 に 対 する 補 償 、 婚 姻 共 同 生 活 の 日 常 使 用 財 産 の 分 割 、 住 居 使 用 の 適法 性 の 確 認 などがある。20申 立 人 がオーストリアに 常 居 所 を 有 するというだけで、 相 手 方 にオーストリアでの 裁 判 手 続 を 強 いることになる 点 に 対しては、 学 説 の 批 判 もある(Fasching,Bd.1(Simotta)JN§114a,Rz.67ff)。しかし、 判 例 はこの 批 判 を 受 け 入 れていないようである(Nademleinsky・Neumayr、S.62 注 11)。4113


(3) 登 録 パートナーシップ( 成 立 ・ 効 果 ・ 解 消 についての 事 件 の 管 轄 )オーストリアでは、 同 性 の 婚 姻 は 認 められていない。 同 性 の 者 には、 登 録 パートナーシップが 用 意 されている(2010 年 改 正 )。ブリュッセル 規 則 Ⅱa における 婚 姻 の 概 念 は、 登 録 パートナーシップを 含 まないため 21 、これらに 関 する 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 は、 国 内 法 によって 定 まる。すなわち、1 一 方 がオーストリア 国 籍 を 有 するとき、2 被 告 が、または、パートナー 双 方 を 相 手 方 とする 無 効 の 訴えでは 少 なくともその 一 方 が、その 常 居 所 をオーストリアに 有 するとき、3 原 告 が、その常 居 所 をオーストリアに 有 し、かつ、パートナー 双 方 がその 最 後 の 共 通 の 常 居 所 をオーストリアに 有 していたまたは 原 告 が 無 国 籍 もしくはパートナーシップ 成 立 時 にオーストリア国 籍 を 有 していたとき(JN 76 条 2 項 1~3 号 )。さらに、オーストリアで 登 録 されたパートナーシップの 解 消 、 無 効 宣 言 、 存 否 確 認 については、オーストリアに 国 際 裁 判 管 轄 権 が認 められる( 同 3 項 ( 訴 訟 手 続 の 場 合 )・ 同 114a 条 4 項 第 3 文 ( 非 訟 手 続 の 場 合 )) 22 。23(c) 離 婚 事 件 及 びその 効 果 に 関 する 事 件 ( 扶 養 義 務 は(g) 参 照 )ⅰブリュッセル 規 則 Ⅱa 24まず 問 題 となるのは、ブリュッセル 規 則 Ⅱa の 適 用 である 25 。1 原 則 同 規 則 は、 常 居 所 ( 同 3 条 1 項 a 号 )と 国 籍 ( 同 b 号 )を 管 轄 原 因 として、7つの 場 合 を 列 挙 している。これらは 限 定 列 挙 である。また、 専 属 管 轄 であり、 合 意 管 轄 ・応 訴 管 轄 は、いずれも 認 められない 26 。これによると、 以 下 の 場 合 には、オーストリアの裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる。a 共 通 の 常 居 所 オーストリアに 夫 婦 双 方 が 常 居 所 を 有 する 場 合 、 夫 婦 双 方 が 最 後 の 常居 所 をオーストリアに 有 していて、 一 方 が 現 在 でも 常 居 所 を 有 している 場 合b 相 手 方 の 常 居 所 申 立 ての 相 手 方 がオーストリアに 常 居 所 を 有 する 場 合 、 配 偶 者 の 一方 がオーストリアに 常 居 所 を 有 していて、 共 同 の 申 立 てをする 場 合 、 申 立 て 前 の 少 なくとも 1 年 以 上 オーストリアに 滞 在 する(aufenthalten) 申 立 人 がオーストリアに 常 居 所 を 有 する 場 合 、 申 立 て 前 の 少 なくとも 6 か 月 以 上 オーストリアに 滞 在 する(aufhalten) 申 立 人 が、21Fasching,Bd.5 Hb.2(Simotta)Art 1 EuEheKindVO.Rz.27.22登 録 パートナーシップの 導 入 に 際 して JN 76 条 3 項 が 新 設 された。これは 以 下 の 理 由 による。オーストリアにおける 登録 パートナーシップの 成 立 には、オーストリアとの 密 接 関 連 性 は 要 求 されていないため、オーストリアで 登 録 されたパートナーシップであっても、JN 76 条 2 項 の 要 件 を 欠 くためにオーストリアにおいて 解 消 できない 場 合 が 生 じうる。さらに、当 該 パートナーシップが、 本 国 または 滞 在 国 がオーストリアで 成 立 したパートナーシップを 承 認 しないためにこれらの 国でも 解 消 できない 場 合 には、 新 たなパートナーシップや 婚 姻 関 係 を 成 立 させることができなくなる。この 問 題 への 対 応 策としては、オーストリアにこの 点 に 関 する 管 轄 を 認 める 方 法 と、 緊 急 管 轄 による 方 法 があるが、 立 法 者 は 前 者 を 採 用 したのである(485 der Beilagen ⅩⅩⅣ.GP RO Erläuterungen,S.20)。23オーストリア 法 の 離 婚 は、すべて 裁 判 離 婚 である。これには、 訴 訟 手 続 によるもの( 判 決 離 婚 。 婚 姻 法 46 条 )と、 非訟 手 続 によるもの( 合 意 に 基 づく 離 婚 。 婚 姻 法 55a 条 )がある。 後 者 は、 婚 姻 生 活 共 同 体 の 解 消 から 少 なくとも 半 年 が 経過 しており、かつ、 破 綻 していることおよび 離 婚 することについて 当 事 者 間 に 合 意 があるときに、 共 同 の 申 立 てによってなす。なお、その 際 、 離 婚 の 効 果 について、 事 前 に 合 意 書 面 を 作 成 して 裁 判 所 に 提 出 するか、または 裁 判 所 での 書 面 による 合 意 をすることが 必 要 である。そして、 以 下 のものが 必 要 的 合 意 事 項 とされている。1 当 事 者 間 の 未 成 年 子 があるときは、(とりわけ 離 婚 後 も 共 同 親 権 とするなら)いずれを 主 たる 生 活 地 とするのか( 両 親 間 を 交 互 に 行 き 来 するのでもよい)、面 会 交 流 権 (ABGB 148 条 )の 行 使 (もっとも、この 点 は 後 に 決 めるのでもよい)、 子 への 扶 養 義 務 (140 条 )、2 夫 婦 間 の問 題 としては、 財 産 的 請 求 (98 条 、81 条 以 下 )、 扶 養 ( 婚 姻 法 69a 条 以 下 )。24婚 姻 解 消 を 伴 わない 別 居 を 求 める 申 立 てを 離 婚 の 申 立 てに 変 更 する 場 合 は、 前 者 について 判 断 を 下 した 裁 判 所 が 管 轄 権を 有 する( 同 5 条 )。25なお、 離 婚 に 関 連 する 事 件 のうち、 親 権 については、ブリュッセル 規 則 Ⅱa の 適 用 対 象 とされている(4 条 )。これに 加えて、 婚 姻 関 係 から 生 じた 夫 婦 間 の 権 利 ・ 義 務 をめぐる 争 いについて、 附 帯 処 分 の 管 轄 Verbundszutändigkeit が 認 められる(JN 76 条 2 項 の 類 推 適 用 による。Nademleinsky/Neumayr,Rz.05.08・04.01)。26Rechberger/Simotta,Rz.156;Fasching,Bd.5/2.Hb(Simotta)EuEheKindVO Art 3 Rz.8.5114


オーストリアの 国 籍 を 有 している 場 合 、である。c 共 通 の 国 籍 夫 婦 双 方 が、オーストリア 国 籍 を 有 していて、 一 方 または 双 方 が 国 外 に滞 在 している 場 合 、オーストリアが 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する。 重 国 籍 者 については、 管 轄の 有 無 が 問 題 となる 国 の 国 籍 を 有 すれば 足 りる。 難 民 及 び 無 国 籍 者 については、 原 則 として 管 轄 権 は 認 められない。 国 籍 が 異 なるときは、 常 居 所 によって 管 轄 が 決 まるため、 待 機期 間 という 要 件 が 加 重 される。2 反 訴 および 反 対 の 申 立 て( 同 規 則 4 条 ) 反 訴 ( 反 対 の 申 立 て)については、 本 訴 ( 本来 の 申 立 て)が 係 属 する 裁 判 所 が 専 属 的 に 管 轄 権 を 有 する。これは、 異 なる 国 の 裁 判 所 で同 一 ないし 類 似 の 事 件 が 同 時 に 係 属 することを 回 避 するためである。 反 訴 と 本 訴 とは 同 種のものでなければならない。 同 種 か 否 かの 判 断 基 準 は、 両 者 が 同 規 則 1 条 1・2 項 の 同 一 の号 に 該 当 するか、による。 反 訴 および 反 対 の 申 立 てが 許 される 期 間 については、 国 内 法 の規 律 (JN 96 条 、ZPO 233 条 2 項 )に 従 う。なお、オーストリアの 裁 判 所 に 離 婚 の 訴 えが係 属 しているときに、 夫 婦 双 方 であらためて 合 意 離 婚 の 申 立 て(die EinvernehmlicheScheidung)をする 場 合 (ZPO 460 条 10 号 )も、 当 該 裁 判 所 の 管 轄 権 が 認 められる 27 。これに 対 して、 一 方 の 提 起 した 離 婚 の 訴 えの 手 続 中 になされた 親 権 に 関 する 判 断 を 求 める 申 立ての 管 轄 については、 同 規 則 12 条 が 妥 当 する。3 補 足 裁 判 所 は、 職 権 で、 本 指 令 に 基 づく 国 際 裁 判 管 轄 権 の 有 無 を 検 討 しなければならない( 同 規 則 17 条 )。 国 際 裁 判 管 轄 権 の 有 無 を 判 断 する 基 準 時 は、 訴 え 提 起 時 である( 同16 条 参 照 )。 管 轄 原 因 に 該 当 する 事 実 が 事 後 的 に 脱 落 しても、 以 上 の 点 に 影 響 しない。ある 管 轄 原 因 に 基 づいて 裁 判 所 が 選 択 されれば、 他 の 管 轄 原 因 を 理 由 とした 別 の 裁 判 所 の 管轄 権 は 排 除 される。ⅱ 国 内 法 による 場 合1 国 内 法 に 従 った 判 断 に 対 する 制 約 ブリュッセル 規 則 Ⅱa 3~5 条 によってはいずれの加 盟 国 の 管 轄 権 も 認 められない 場 合 には、 国 内 法 (JN)にしたがって 管 轄 権 を 判 断 することになる( 同 規 則 7 条 )。もっとも、 国 内 法 によればオーストリアの 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する 場 合 であっても、それが 認 められない 場 合 がある。これは、 同 規 則 3~5 条 の 管 轄 規 律 に専 属 性 が 認 められていることによる( 同 規 則 6 条 )。すなわち、オーストリア 以 外 の 加 盟 国Aの 主 権 領 域 内 に 常 居 所 を 有 する、または、Aの 国 籍 を 有 する( 連 合 王 国 ・アイルランドの 場 合 はその 主 権 領 域 内 にドミサイルを 有 する) 配 偶 者 を 相 手 方 とする 場 合 において、オーストリアの 裁 判 所 で 手 続 をすることができるのは、 同 規 則 3~5 条 により、オーストリアに 管 轄 権 が 認 められるときに 限 定 されるのである 28 。292 国 内 法 による 管 轄 規 律 オーストリアの 国 内 法 上 、オーストリアの 裁 判 所 に 国 際 裁判 管 轄 権 が 認 められるのは、 次 の 場 合 である。 訴 訟 事 件 については、a 夫 婦 の 一 方 がオーストリア 国 籍 を 有 する 場 合 、b 被 告 配 偶 者 がオーストリアに 常 居 所 を 有 する 場 合 、c 原 告27Rechberger/Simotta,Rz.155.28以 上 の 規 律 は、 第 三 国 で 在 住 する 第 三 国 の 国 籍 を 有 する 者 については、 妥 当 しない。また、( 婚 姻 法 55a 条 が 合 意 による 離 婚 の 場 合 に 予 定 しているような) 共 同 の 申 立 ての 場 合 にも、 相 手 方 を 欠 くため、 妥 当 しない( 一 方 の 配 偶 者 の 本 国 法が 適 用 される。 配 偶 者 が 異 なる 加 盟 国 の 国 籍 を 有 するときは、いずれの 本 国 法 にもよることができる)。29なお、 原 告 ・ 申 立 人 がオーストリア 以 外 の 加 盟 国 の 国 籍 を 有 するときでも、オーストリアに 常 居 所 を 有 している 場 合 には、オーストリアの 国 内 法 に 基 づく 国 際 裁 判 管 轄 権 によることが 認 められる( 同 規 則 7 条 2 項 )。これは、EU 加 盟 国 の 国民 間 で 平 等 とりあつかいを 確 保 するためである。6115


配 偶 者 が 常 居 所 をオーストリアに 有 し、かつ、 夫 婦 双 方 が 最 後 の 共 通 の 常 居 所 を 国 内 に 有していた 場 合 または 原 告 が 無 国 籍 であるか 婚 姻 成 立 時 にオーストリア 国 籍 を 有 していた 場合 (JN 76 条 2 項 )。なお、 当 事 者 の 合 意 に 基 づく 裁 判 離 婚 は 非 訟 手 続 でなされるが、 当 事者 の 一 方 がオーストリア 国 籍 またはオーストリアに 常 居 所 を 有 するとき、オーストリアの裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる(JN 114a 条 4 項 第 1 文 ) 30 。訴 訟 ・ 非 訟 のいずれ 手 続 であれ、 合 意 管 轄 ・ 応 訴 管 轄 は 認 められないとされている 31 。(d) 実 親 子 関 係 ( 嫡 出 推 定 ・ 否 認 、 認 知 、 親 子 関 係 存 否 確 認 )実 親 子 関 係 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 に 関 する 国 際 法 規 律 はなく 32 、 国 内 法 (JN)に 従 って判 断 される。331 準 正 以 外 の 実 親 子 関 係 事 件 a 子 、この 者 との 父 子 関 係 が 問 題 となっている 男 性 、子 の 母 のいずれかが、オーストリア 国 籍 を 有 している 場 合 、b 子 、または、この 者 との 父子 関 係 が 問 題 となっている 男 性 が、オーストリアに 常 居 所 を 有 している 場 合 、オーストリアに 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる(JN 108 条 3 項 )。 母 がオーストリアに 常 居 所 を 有 しているというだけでは、オーストリアの 国 際 裁 判 管 轄 権 は 認 められない 34 。2 準 正 準 正 に 裁 判 所 が 関 与 すべき 場 合 35 の 国 際 裁 判 管 轄 は、 制 定 法 に 明 確 な 規 律 がない。この 場 合 、 準 正 されるべき 子 についてすでに 保 護 手 続 (Pflegschaftsverfahren)が 係 属しているときは、 親 権 ・ 未 成 年 後 見 の 場 合 と 同 様 に JN 110 条 ((f)を 参 照 )で 対 応 し、それ以 外 は 準 正 されるべき 子 の 父 の 普 通 裁 判 籍 (JN 27a 条 )による、とする 見 解 がある 36 。37(e) 養 子 縁 組 及 び 離 縁養 子 事 件 についての 国 際 裁 判 管 轄 は、 国 内 法 の 規 律 (JN 113b 条 )による 38 。これによれば、 養 子 の 許 可 、その 撤 回 および 養 子 の 解 消 についての 国 際 裁 判 管 轄 権 は、 以 下 のいずれかに 該 当 する 場 合 に 生 じる。1 養 親 となる 者 ( 夫 婦 が 養 親 となる 場 合 はその 一 方 )または養 子 となる 者 が、オーストリア 国 籍 を 有 するとき( 同 1 項 1 号 )、2 養 親 となる 者 および 養子 となる 者 のうちの 一 人 のみが 無 国 籍 者 で、かつ、その 者 が 常 居 所 (それがない 場 合 はたんなる 居 所 (Aufenthalt))をオーストリアに 有 するとき( 同 1 項 2 号 )、3 養 親 となる 者 ( 夫婦 が 養 親 となる 場 合 はその 一 方 )および 養 子 となる 者 がオーストリアに 常 居 所 を 有 するとき( 同 2 項 1 号 )、4 養 親 となる 者 および 養 子 となる 者 のうちの 一 人 のみがオーストリアに30ただし、ブリュッセル 規 則 Ⅱa の 妥 当 する( 同 3 条 1 項 a 号 ダッシュ 4 に 該 当 する) 場 合 は、 同 規 則 による。31Nademleinsky/Neumayr,Rz.05.43。32親 子 関 係 の 確 認 と 取 消 しは、ブリュッセル 規 則 Ⅱa、MSA、KSÜ の 適 用 対 象 から 除 外 されている。33オーストリア 法 には 母 子 関 係 の 認 知 はないが、たとえば、 婚 姻 していない 女 性 がオーストリアとフランス 国 籍 を 有 している 場 合 (フランスには 母 の 認 知 がある)などは、 本 文 にしたがって 判 断 される。34非 訟 事 件 手 続 法 の 改 正 に 伴 い JN 108 条 で 実 親 子 関 係 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 を 規 定 するにあたっては、 十 分 な 連 結 点 を確 保 する 目 的 で 本 文 のabが 定 められたが、 国 内 の 母 の 常 居 所 では 広 すぎるとされた(225.der Beilagen ⅩⅩⅡ.GP,S.10)。35準 正 に 裁 判 所 が 関 与 する 必 要 がある 場 合 に 限 り、 準 正 についての 国 際 裁 判 管 轄 が 問 題 となる(Fuchs,Rz.280)。オーストリアの 準 正 には、 父 子 関 係 の 確 認 後 に 婚 姻 がなされる 場 合 (ABGB 161 条 )と、 親 または 子 が 連 邦 大 統 領 の 判 断 を 求 める 申立 てをして、 裁 判 所 (Pflegschafsgericht)がこれを 許 可 することで 認 められる 場 合 がある( 同 162 条 ・AußStrG 92 条 )。36Rechberger(Mayr)JN§113,Rz.3;Nademleinsky/Neumayr,Rz.06.02.37オーストリア 法 上 、 養 子 制 度 については、 成 立 における 許 可 およびその 取 消 し( 遡 及 効 あり)、そして 解 消 ( 遡 及 効 なし)の 場 面 で、 裁 判 所 の 関 与 が 不 可 欠 とされている。38ブリュッセル 規 則 Ⅱa は 養 子 縁 組 に 適 用 されず( 同 1 条 3 項 b 号 )、また、KSÜ も 適 用 されない( 同 4 条 b 号 )。 養 子 縁組 についての 期 間 の 管 轄 権 、 準 拠 法 及 び 裁 判 その 他 の 処 分 の 承 認 に 関 する 条 約 (1965 年 )は 養 子 縁 組 の 国 際 裁 判 管 轄 について 規 律 しているが、オーストリアは 2008 年 10 月 23 日 に 解 消 している。また、その 後 継 となる 国 際 養 子 縁 組 に 関 する 子の 保 護 及 び 協 力 に 関 する 条 約 (HAÜ)は、 関 係 機 関 の 協 力 および 相 互 承 認 のみを 内 容 としており、 管 轄 規 律 を 欠 く。7116


常 居 所 を 有 し、かつ、 養 子 となる 者 の 保 護 手 続 についてオーストリアが 国 際 裁 判 管 轄 権 を有 するか、 養 親 となる 者 または 養 子 となる 者 の 本 国 のいずれも 当 該 養 子 事 件 の 管 轄 を 有 さないとき( 同 2 項 2 号 )。(f) 親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 、 子 の 奪 取 、 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 )(1) 親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 、 子 の 奪 取 、 未 成 年 後 見39ⅰブリュッセル 規 則 Ⅱa の 規 律本 規 則 により 加 盟 国 のいずれかの 裁 判 所 に 管 轄 権 が 認 められるときは、これによる。 管轄 原 因 は、 申 立 時 における 子 の 常 居 所 である( 同 規 則 8 条 1 項 ) 40 。 子 の 国 籍 は 問 わない。申 立 て 後 に 子 の 常 居 所 が 他 の 加 盟 国 に 移 転 して 場 合 でも、 原 則 として 管 轄 に 変 更 はない。以 上 については、 面 会 交 流 権 、 子 の 奪 取 、 管 轄 についての 合 意 、という 三 つの 場 面 で 特則 がある( 同 8 条 2 項 。 子 の 奪 取 の 場 合 ( 同 10 条 )については 触 れない)。1まず、 子 が 加 盟 国 間 で 転 居 をした 場 合 で、 元 の 加 盟 国 ですでに 面 会 交 流 権 についての判 断 があるときは、 当 該 判 断 の 変 更 について、 元 の 加 盟 国 の 管 轄 が 認 められることがある( 同 9 条 )。これは、 転 居 する 前 にあらかじめ 転 居 先 の 状 況 に 応 じた 面 会 交 流 の 合 意 を 両 親がするようにするためである 41 。2さらに、 離 婚 手 続 が 加 盟 国 の 裁 判 所 に 係 属 している 場 合 で、 以 下 の 要 件 をみたすときは、 当 該 加 盟 国 の 裁 判 所 が 親 権 の 判 断 についても 管 轄 権 を 有 する( 同 12 条 )。すなわち、夫 婦 の 少 なくとも 一 方 が 当 該 子 の 親 権 を 有 していること、 夫 婦 双 方 または 親 権 を 有 する 配偶 者 が 当 該 裁 判 所 に 管 轄 権 があることを 承 認 していること、 当 該 裁 判 所 に 管 轄 を 認 めることが 子 の 福 祉 に 適 うこと、である( 同 12 条 1 項 )。また、 離 婚 手 続 の 係 属 を 問 わず、 子 どもが 密 接 な 関 係 性 を 有 する 42 加 盟 国 の 裁 判 所 には、 手 続 当 事 者 全 員 の 合 意 があれば、 親 権事 件 についての 管 轄 権 が 認 められる( 同 12 条 3 項 )。もっとも、 当 該 裁 判 所 に 管 轄 権 を 認めることが 子 の 福 祉 に 適 うことが 必 要 である。ⅱ 国 内 法 による 管 轄 権 ブリュッセル 規 則 Ⅱa の 規 律 ( 同 8~13 条 )ではいずれの 加 盟 国にも 管 轄 が 認 められないときに 限 り、 加 盟 国 の 国 内 法 に 基 づく 管 轄 権 が 認 められる( 同 14条 )。 国 内 法 規 律 によれば、1 未 成 年 者 がオーストリア 国 籍 を 有 するとき( 未 成 年 者 が( 継続 的 に) 外 国 に 滞 在 していても 構 わない)、2 未 成 年 者 がオーストリアに 常 居 所 を 有 する、または、 緊 急 の 措 置 が 問 題 となる 場 合 はたんに 国 内 に 滞 在 しているとき、3 未 成 年 者 がオーストリアに 財 産 を 有 していてそれに 関 する 措 置 が 問 題 となっているとき( 未 成 年 者 がオーストリア 国 籍 を 有 していなくても 構 わない)、オーストリアが 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する(JN 110 条 1 項 1~3 号 )。(2) 成 年 後 見 事 件39EU 加 盟 国 ではないが、 未 成 年 者 の 保 護 に 関 する 官 憲 の 管 轄 権 及 び 準 拠 法 に 関 する 条 約 (オーストリアでは 1975 年 から発 効 )・ 親 責 任 及 び 子 の 保 護 措 置 に 関 する 管 轄 権 、 準 拠 法 、 承 認 及 び 協 力 に 関 する 条 約 (オーストリアでは 2011 年 4 月 11日 から 発 効 )に 加 盟 する 国 との 関 係 では、 当 該 条 約 の 管 轄 規 律 によることになるが、ここでは 触 れない。40子 の 常 居 所 が 判 明 しないとき、または 子 が 難 民 であるときは、 子 の 現 在 する 地 が 管 轄 原 因 となる( 同 13 条 )。41Nademleinsky/Neumayr,Rz.08.34.42条 文 は、 子 が 国 籍 を 有 している 場 合 と 親 権 者 の 一 方 が 常 居 所 を 有 している 場 合 を 例 示 する。8117


国 際 法 上 の 規 律 はないため 43 、 国 内 法 の 規 律 (JN 110 条 )による((1)ⅱ1~3の 未 成 年者 を 事 件 本 人 ( 要 保 護 者 )に 置 き 換 えた 内 容 になる)。44(g) 扶 養 事 件ⅰEU 扶 養 規 則扶 養 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 については、まず、EU 扶 養 規 則 が 問 題 となる。これによって管 轄 が 定 まらないときは 45 、 国 内 法 による。1 原 則 扶 養 のみを 請 求 する 場 合 は、 被 告 または 扶 養 権 利 者 がその 常 居 所 を 有 する 地 を管 轄 する 裁 判 所 が、 管 轄 権 を 有 する( 同 規 則 3 条 a・b 号 )。 扶 養 権 利 者 は、 相 手 方 および自 己 の 常 居 所 のいずれかを 選 択 して 訴 えを 提 起 することができる。身 分 事 件 または 親 権 事 件 に 附 帯 して 扶 養 を 請 求 することもできる( 同 3 条 c・d 号 )。この 場 合 は、 当 該 身 分 事 件 ・ 親 権 事 件 について 管 轄 権 を 有 する 加 盟 国 の 裁 判 所 に 管 轄 権 が 認められる。もっとも、 当 該 加 盟 国 法 上 、そうした 附 帯 請 求 が 許 されていること、および、身 分 ・ 親 権 事 件 についての 国 際 裁 判 管 轄 権 が 当 事 者 の 一 方 の 国 籍 のみに 基 づくもの 46 ではないこと、の 二 つが 必 要 である。 前 者 について、オーストリア 法 上 、 婚 姻 事 件 ・ 実 親 子 関係 事 件 に 附 帯 して 扶 養 請 求 をすることは 認 められているが、 養 子 事 件 ・ 親 権 事 件 に 附 帯 して 扶 養 請 求 をすることは 認 められていない 47 。2 合 意 管 轄 ・ 応 訴 管 轄 いずれの 加 盟 国 ( 内 のいずれ)の 裁 判 所 の 管 轄 とするかについて、 当 事 者 は 合 意 することができる 48 。 合 意 による 管 轄 は、 当 事 者 が 異 なる 合 意 をしていないかぎり、 専 属 的 である( 同 規 則 4 条 1 項 第 3 文 )。 合 意 は 書 面 によってする 必 要 がある( 同 2 項 )。なお、 合 意 の 内 容 には 一 定 の 制 限 がある。まず、 夫 婦 間 の 扶 養 事 件 の 場 合 は、当 該 夫 婦 間 または 元 夫 婦 間 の 婚 姻 事 件 について 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 、または、 夫 婦 がすくなくとも 1 年 間 最 後 の 共 通 の 常 居 所 を 有 していた 加 盟 国 の 裁 判 所 でなければならない( 同 4 条 1 項 c 号 )。 次 に、 夫 婦 間 以 外 の 扶 養 事 件 の 場 合 は、 当 事 者 の 一 方 がその 常 居 所 を有 する 加 盟 国 の 裁 判 所 、または、 当 事 者 の 一 方 がその 国 籍 を 有 する 加 盟 国 の 裁 判 所 でなければならない( 同 4 条 1 項 a・b 号 )。なお、 未 成 年 者 の 不 利 益 となる 管 轄 合 意 を 防 ぐため、18 歳 未 満 の 子 に 対 する 扶 養 事 件 については、 本 条 の 適 用 を 認 めていない 49 。さらに、 管 轄 権 のない 裁 判 所 であっても、 被 告 が 手 続 に 応 じたときは、 管 轄 権 が 認 めら43オーストリアは、Übereinkommen über den internationalen Schutz von Erwachsenen vom 13.1.2000( 成 年 者 の 国 際 的 保 護 に関 する 条 約 )を 批 准 していない。また、 成 年 後 見 事 件 を 対 象 とする 二 国 間 協 定 もないようである(Fuchs,Rz.237)。44オーストリアでは、 夫 婦 間 扶 養 と 離 婚 後 扶 養 (さらに、 登 録 パートナー 間 扶 養 とその 解 消 後 の 扶 養 )は 訴 訟 手 続 、 世 代Generationen 間 扶 養 は 非 訟 手 続 であつかわれるが、いずれの 事 件 も 本 規 則 の 適 用 対 象 となる(Fasching,Bd.5/Tb.2(Fucik)EuUVO Art.3 Rz.1)。また、オーストリア 法 上 、 家 族 関 係 に 基 づく 扶 養 義 務 は、 夫 婦 ・ 登 録 パートナー 間 と 直 系 血 族 間 でしか 問 題 とならない。これに 対 して、 本 規 則 は 内 縁 間 扶 養 や 親 族 扶 養 も 含 む。そこで、 対 応 するものがない 場 合 は、 前 提 となる 状 況 の 類 似 性 から、 非 訟 事 件 手 続 としてあつかうのが 妥 当 である。45以 下 の 規 律 のほか、 受 皿 的 管 轄 ( 同 規 則 6 条 )、 緊 急 管 轄 ( 同 7 条 )の 規 律 がある。46JN 76 条 2 項 1 号 に 基 づく 場 合 などがこれに 該 当 する。47JN 76a 条 は 婚 姻 ・ 登 録 パートナー 事 件 で 夫 婦 ・ 登 録 パートナー 間 の 扶 養 事 件 をあつかうことを、また、108 条 1 項 は 実親 子 関 係 事 件 で 子 に 対 する 扶 養 事 件 をあつかうことを、それぞれ 認 めている。なお、 学 説 には、 親 権 事 件 に 附 帯 して 扶 養事 件 をあつかえるようにすべきとするものもある(Rechberger/Simotta,Rz.184/1・184/12)。48国 際 裁 判 管 轄 についての 合 意 のみがある 場 合 は、 土 地 管 轄 は 合 意 によって 管 轄 の 認 められた 国 の 法 律 に 従 って 定 まる。オーストリアの 国 際 裁 判 管 轄 が 合 意 されているにもかかわらず、オーストリアでの 扶 養 事 件 の 土 地 管 轄 が 認 められない 場合 は、オーストリア 最 高 裁 判 所 (OGH)が 指 定 (Ordination(JN 28 条 1 項 3 号 )する(Rechberger/Simotta,Rz.184/15・184/21)。49同 4 条 3 項 。 手 続 開 始 時 点 で 18 歳 になっていたときでも、 追 完 は 認 められない(Rechberger/Simotta,Rz.184/25)。なお、扶 養 権 利 者 が 年 齢 によって 行 為 能 力 が 制 限 されている 場 合 と 同 様 に、 精 神 障 害 によって 行 為 能 力 が 制 限 されている 場 合 について、 管 轄 合 意 の 禁 止 を 及 ぼすべきとの 主 張 がある(AaO,Rz.184/24)。9118


れる( 応 訴 管 轄 ( 同 規 則 5 条 1 項 ))。ただし、 手 続 に 応 じたのが 管 轄 の 欠 缺 を 主 張 するためであったときは 除 く( 同 2 項 )。ⅱ 国 内 法国 内 法 の 規 律 は 以 下 の 通 りである。1 婚 姻 中 及 び 離 婚 後 の 夫 婦 間 扶 養 50 については、 次の 場 合 にオーストリアの 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる。すなわち、 夫 婦 の 一 方 がオーストリア 国 籍 を 有 する 場 合 、 被 告 が 国 内 に 常 居 所 を 有 する 場 合 、 原 告 が 国 内 に 常 居 所 を 有 しかつ 夫 婦 の 最 後 の 共 通 の 常 居 所 が 国 内 にあるまたは 原 告 が 無 国 籍 者 もしくは 婚 姻 成 立 時 にオーストリア 国 籍 を 有 していた 場 合 、である 51 。2 未 成 年 子 扶 養 については、JN 110 条 1 項 1~3 号 に 従 い 52 、 次 の 各 場 合 にオーストリアの 管 轄 権 が 認 められる。a 未 成 年 者 がオーストリア 国 籍 を 有 するとき、b 未 成 年 者 がオーストリアに 常 居 所 を 有 する、または、 緊 急 の 措置 が 問 題 となる 場 合 はたんに 滞 在 しているとき、c 未 成 年 者 がオーストリアに 財 産 を 有 していてそれに 関 する 措 置 が 問 題 となっているとき 53 、である 54 。3 成 年 子 と 親 といった 直 系血 族 間 の 扶 養 事 件 についても、 対 応 する 規 律 はないが、 土 地 管 轄 の 規 律 (JN 27a 条 )に 従うとされている 55 。(h) 相 続 事 件国 際 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 規 律 が 妥 当 しないときは 56 、 国 内 法 に 従 って 判 断 される(JN 106条 )。これは、 被 相 続 人 の 財 産 を 不 動 産 と 動 産 に 分 けて 規 律 している。すなわち、 被 相 続 人の 財 産 については、 以 下 の 場 合 にオーストリアの 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する 57 。すなわち、1 国 内 にある 不 動 産 ( 同 106 条 1 項 1 号 )、2オーストリア 国 内 にある 動 産 (ただし、 被 相 続 人 が 最 後 にオーストリア 国 籍 を 有 していた 場 合 、オーストリアに 最 後 の 常 居所 を 有 していた 場 合 に 限 る。 同 2 号 a・b・c)、3 外 国 にある 動 産 (ただし、 被 相 続 人 が 最後 にオーストリア 国 籍 を 有 しており、かつ、オーストリアに 最 後 の 常 居 所 を 有 していた 場合 に 限 る( 同 3 号 a・b)) 58 。なお、 死 亡 調 査 (Todesaufnahme) 59 、 引 渡 手 続 (Ausfolgungsverfahren) 60 、これらと 関連 する 保 全 処 分 については、 常 にオーストリアの 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められるとされてい50この 扶 養 事 件 は 訴 訟 手 続 による(JN49 条 2 項 2 号 。Rechberger(Mayr)§49 Rz.4)51この 点 について、JN は 明 文 の 規 律 を 置 いていないが、 同 76a 条 ・76 条 2 項 の 類 推 適 用 によるとされている(Fasching,Bd.1(Simotta)JN§76a Rz.42;Rechberger(Mayr)§76a Rz.2;Nademleinsky/Neumayr,Rz.10.28)。52Rechberger(Mayr)§114 Rz.4;Nademleinsky/Neumayr,Rz.10.29.53国 内 に 財 産 を 有 する 扶 養 義 務 者 に 対 する 請 求 をこの 場 合 に 含 めるか、という 問 題 について、 判 例 は 消 極 に 解 している(Nademleinsky/Neumayr,Rz.10.30)。54この 規 律 では、 外 国 にいる 外 国 籍 の 未 成 年 者 の 扶 養 事 件 について、オーストリアに 国 際 裁 判 管 轄 は 認 められない(Nademleinsky/Neumayr,Rz.10.29)55Nademleinsky/Neumayr,Rz.10.33;Rechberger(Mayr)§114 Rz.4.56いくつかの 二 国 間 協 定 があり( 旧 ユーゴスラビア 諸 国 やロシアなど)、 不 動 産 に 関 してはその 所 在 国 、 動 産 については被 相 続 人 の 本 国 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めているようである(Fuchs,Rz.32ff)。572・3の 動 産 については、 相 続 法 ( 法 定 相 続 、 遺 留 分 、 遺 言 ) 上 の 権 利 を 外 国 で 実 現 することができない 場 合 にも、オーストリアの 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる(JN 106 条 1 項 2 号 c・3 号 b)。58非 訟 事 件 手 続 法 の 改 正 に 伴 い JN 106 条 に 相 続 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 を 規 定 するにあたっては、 外 国 にある 動 産 について管 轄 を 認 めるのを 制 限 しようとする 意 図 があった(225.der Beilagen ⅩⅩⅡ.GP S.9)。 立 法 時 の 説 明 によれば、 外 国 にある動 産 ・ 債 権 の 処 理 は 現 実 には 難 しく、 管 轄 を 認 めても 利 害 関 係 人 の 利 益 保 護 には 十 分 といえないことから、JN 106 条 3 項に 要 件 a)・b)を 設 けたとのことである。また、 外 国 にある 動 産 についての 手 続 は、 当 事 者 の 申 立 てがなければ 開 始 されない(AußStrG 143 条 2 項 。オーストリア 法 上 、 相 続 事 件 の 手 続 は 職 権 で 開 始 される( 同 1 項 ))。59被 相 続 人 に 関 する 事 実 の 把 握 、 相 続 権 を 有 する 血 族 の 有 無 、 遺 言 の 存 否 、 積 極 財 産 と 消 極 財 産 の 存 否 などを 調 査 する(AußStrG 145 条 )。60引 渡 手 続 とは、 国 内 にある 動 産 が 遺 産 処 理 手 続 の 対 象 から 外 れるとき(JN 106 条 1 項 2 号 に 該 当 しない 場 合 )に、それについて 承 継 権 限 ある 者 の 申 立 てに 基 づいて、 当 該 動 産 をこの 者 に 引 き 渡 すことを 内 容 とする(AußStrG 150 条 )。10119


2. 第 一 審 としてとくに 挙 げた 一 つまたは 複 数 の 裁 判 所 。当 該 合 意 は、 文 書 によって 証 明 されなければならない;その 他 の 要 件 がみたされる 必 要 はない。2 項 略3 項 国 際 裁 判 管 轄 または 事 物 管 轄 もしくは 土 地 管 轄 を 欠 くために 管 轄 権 のない 裁 判 所 であっても、 被 告 が、これらの 管 轄の 欠 缺 の 抗 弁 をせずに、 事 件 について 主 張 をした(ZPO74 条 )または 口 頭 弁 論 に 応 じたときは、 被 告 が 弁 護 士 または 公 証人 を 代 理 人 としている 限 り、または、 事 前 に 裁 判 官 からこのような 抗 弁 の 可 能 性 およびその 効 果 について 教 示 されておりかつ 当 該 教 示 が 調 書 に 記 載 されている 限 り、 管 轄 権 を 有 する。4 項 略5 項 第 1 項 ないし 第 4 項 は、 国 際 法 または 特 別 の 法 規 定 がこれと 異 なる 定 めを 明 示 的 にしているときは、そのすべてまたは 一 部 について、 適 用 されない。[ 遺 産 処 理 (Verlassenschaftsabhandlung)]105 条 略106 条1 項 遺 産 の 処 理 及 びこれに 代 替 する 手 続 ( 非 訟 事 件 手 続 法 153 条 以 下 )については、 以 下 のものについて、 国 際 裁 判 管 轄権 を 有 する。1. 国 内 にある 不 動 産 。2. 国 内 にある 動 産 で、a) 被 相 続 人 が 最 後 にオーストリア 国 籍 を 有 していたとき、または、b) 被 相 続 人 がオーストリアに 最 後 に 常 居 所 を 有 していたとき、または、c) 相 続 法 、 遺 留 分 法 、 又 は 遺 言 から 導 かれる 権 利 を 外 国 で 実 現 することができないとき3. 外 国 にある 動 産 で、 被 相 続 人 が 最 後 にオーストリア 国 籍 を 有 しており、かつ、a) 最 後 の 常 居 所 がオーストリアにあったとき、または、b) 相 続 法 、 遺 留 分 法 、 又 は 遺 言 から 導 かれる 権 利 を 外 国 で 実 現 することができないとき。2 項 前 項 の 国 際 裁 判 管 轄 権 は、これに 代 替 するものについても 及 ぶ。107 条 相 続 調 査 (Todesfallaufnahme)、 引 渡 し 手 続 (Ausfolgungsverfahren) 及 びこれらと 関 連 する 保 全 処 分 については、常 に 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する。[ 実 親 子 関 係 Abstammung]108 条 1 項 非 訟 事 件 手 続 法 第 二 章 第 1 節 の 実 親 子 関 係 手 続 とそれと 結 びつくすべての 法 定 の 請 求 権 に 関 しては、 未 成 年者 に 対 する 保 護 の 実 施 を 担 当 する 裁 判 所 が 管 轄 権 をもつ。それ 以 外 は、 子 がその 管 轄 区 域 に 常 居 所 をもつ 裁 判 所 ; 国 内 にこれに 該 当 する 裁 判 所 がない 場 合 は、 母 がその 管 轄 区 域 に 常 居 所 をもつ 裁 判 所 、それ 以 外 は 子 との 実 親 子 関 係 の 存 在 または 不 存 在 の 確 認 がなされるべき 男 性 がその 管 轄 区 域 に 常 居 所 をもつ 裁 判 所 ; 国 内 にこれに 該 当 する 裁 判 所 がない 場 合 はウィーン 市 の 地 区 裁 判 所 。2 項 実 親 子 関 係 事 件 手 続 がある 裁 判 所 によっておこなわれているときは、 当 該 子 に 関 する 別 の 実 親 子 関 係 手 続 についても、子 の 裁 判 所 が 管 轄 を 有 する。3 項 第 1 項 の 定 める 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 権 は、 子 、 確 認 されたもしくはされるべき 父 、 母 のいずれかが、オーストリア 国 民 の 場 合 、または、 子 、 確 認 されたもしくはされるべき 父 のいずれかが、オーストリアに 常 居 所 を 有 する 場 合 に、認 められる。13122


[ 親 権 (Obsorge)、 後 見 (Sachwalterschaft)、 特 別 代 理 人 (Kuratel)]109 条1 項 親 と 未 成 年 子 の 間 の 権 利 、 第 三 者 による 親 権 、 後 見 及 び 特 別 代 理 人 に 関 する 規 定 にしたがい 保 護 裁 判 所(Pflegschaftsgericht)がなすべき 事 務 の 処 理 については、 当 該 未 成 年 者 その 他 の 被 保 護 者 (Pflegebefohlene)がその 常 居 所を 有 する 地 域 を 管 轄 とする 裁 判 所 、 常 居 所 をもたない 場 合 はその 滞 在 する 地 域 を 管 轄 とする 裁 判 所 が、 管 轄 権 を 有 する;法 人 その 他 の 当 事 者 能 力 については、 所 在 地 を 基 準 とする。2 項 国 内 に 滞 在 していないときは、 法 定 代 理 人 がその 常 居 所 を 有 する 地 域 を 管 轄 とする 裁 判 所 が、 管 轄 権 を 有 する。109a 条親 権 及 び 面 会 交 流 を 求 める 権 利 に 関 する 外 国 判 決 の 承 認 及 び 執 行 については、 国 際 法 またはヨーロッパ 共 同 体 の法 的 行 為 に 別 の 定 めがない 限 り、 第 109 条 に 掲 げる 地 区 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。110 条1 項 109 条 に 掲 げる 事 件 については、 次 の 場 合 に 国 内 裁 判 権 が 認 められる。すなわち、 未 成 年 者 またはその 他 の 被 保 護 者が、1.オーストリア 国 籍 をもつ 場 合 、または、2.オーストリアに 常 居 所 をもつもしくは 緊 急 の 措 置 が 必 要 なときは 少 なくともオーストリアに 居 所 をもつ 場 合 、または、3.その 所 有 する 財 産 で、 措 置 の 対 象 となるものが、オーストリアにある 場 合 。2 項 オーストリア 国 籍 を 有 する 未 成 年 者 または 被 保 護 者 が 外 国 に 常 居 所 または 財 産 を 有 しているとき、または、 外 国 籍 の未 成 年 者 その 他 被 保 護 者 が 問 題 となるときは、 裁 判 所 は、 外 国 でなされたまたはなされることが 期 待 できる 措 置 がこれらの 者 の 権 利 及 び 利 益 を 十 分 に 保 護 するものである 場 合 に 限 り、 手 続 の 開 始 または 継 続 をしないことができる。 未 成 年 者 がオーストリア 国 籍 を 有 する 場 合 は、 判 断 の 前 に、この 者 が 所 在 する 地 を 管 轄 区 域 とする 行 政 官 庁 の 意 見 を 聴 かなければならない。[ 嫡 出 でない 子 の 準 正 ]113 条 嫡 出 でない 子 の 準 正 について 裁 判 所 が 協 働 しなければならない 場 合 において、 準 正 されるべき 者 のために 保 護 手 続がすでに 係 属 しているときは 当 該 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 し、それ 以 外 のときは、 準 正 されるべき 嫡 出 でない 子 の 父 が 訴 訟 事件 において 普 通 裁 判 籍 を 持 つ 地 区 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。[ 養 子 ]113a 条1 項 養 子 の 許 可 については、 養 子 となる 者 の 保 護 の 実 施 を 担 当 する 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 し、そのような 裁 判 所 がないときは、 養 子 となる 者 の 常 居 所 がその 管 轄 区 域 にある 地 区 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。これらの 裁 判 所 が 国 内 にないときは、 養親 となる 者 の 常 居 所 、 夫 婦 が 養 親 となるときはその 一 方 の 常 居 所 がその 管 轄 区 域 内 にある 地 区 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 し、これらも 存 在 しない 場 合 には、ウィーン 市 の 地 区 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。2 項 前 項 の 規 定 は、 許 可 の 取 消 し 及 び 養 子 関 係 の 解 消 の 場 合 に 準 用 する。113b 条1 項 養 子 の 許 可 についての 国 際 裁 判 管 轄 権 は、 以 下 の 場 合 に 認 められる。1. 養 親 となる 者 、 夫 婦 が 養 親 となるときはその 一 方 、または、 養 子 となる 者 がオーストリア 国 籍 を 有 する 場 合 、または、2. 前 号 に 掲 げる 者 のうちの 一 人 のみが 無 国 籍 だが、その 者 が 常 居 所 、それがないときは 滞 在 地 を 国 内 に 有 する 場 合 。2 項 第 1 項 の 場 合 のほかは、 次 の 場 合 に 限 り、 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる。1. 養 親 となる 者 、 夫 婦 が 養 親 となるときはその 一 方 、 及 び 養 子 となる 者 が、 国 内 に 常 居 所 を 有 する 場 合 、または、14123


2. 前 号 に 掲 げる 者 のうちの 一 人 のみが 国 内 に 常 居 所 を 有 し、かつ、 養 子 となる 者 に 対 する 保 護 についての 裁 判 管 轄 権 が 存在 する、もしくは、 前 号 に 掲 げる 者 の 属 する 国 家 のいずれもが 養 子 についての 裁 判 管 轄 権 を 有 さない 場 合 。3 項 第 1 項 及 び 第 2 項 の 規 定 は、 許 可 の 取 消 し 及 び 養 子 関 係 の 解 消 の 場 合 に 準 用 する。[ 扶 養 およびその 他 の 親 子 関 係 から 生 じる 請 求 権 ]114 条1 項 未 成 年 子 に 対 する 保 護 開 始 が 申 立 てられた 裁 判 所 は、 法 定 の 扶 養 義 務 及 びその 他 の 親 子 関 係 から 生 じる 請 求 権 の 判 断についても 管 轄 権 を 有 する。2 項 その 他 の 直 系 血 族 間 の 法 定 の 扶 養 請 求 権 については、その 管 轄 区 域 に 扶 養 権 利 者 が 訴 訟 事 件 の 普 通 裁 判 籍 を 有 する 裁判 所 が 管 轄 権 を 有 する。 扶 養 権 利 者 が 国 内 に 訴 訟 事 件 の 普 通 裁 判 籍 を 有 しないときは、その 管 轄 区 域 に 請 求 の 相 手 方 が 訴訟 事 件 の 普 通 裁 判 籍 を 有 する 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。3 項 親 子 関 係 から 生 じるそのほかの 請 求 権 に 関 する 判 断 については、その 管 轄 区 域 に 子 が 訴 訟 事 件 の 普 通 裁 判 籍 を 有 する裁 判 所 が、 管 轄 権 を 有 する。 子 が 国 内 に 訴 訟 事 件 の 普 通 裁 判 籍 を 有 しないときは、その 管 轄 区 域 に 請 求 の 相 手 方 が 訴 訟 事件 の 普 通 裁 判 籍 を 有 する 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。[ 婚 姻 及 び 登 録 パートナーシップ 事 件 ]114a 条 1 項 婚 姻 事 件 及 び 登 録 パートナーシップ 事 件 の 管 轄 権 については、 第 76 条 第 1 項 及 び 第 104 条 を 準 用 する。 婚姻 または 登 録 パートナーシップの 存 否 (Bestand)に 関 する 外 国 判 決 の 承 認 については、 申 立 てをなす 当 事 者 の 常 居 所 がその 管 轄 内 にある 裁 判 所 が、 専 属 的 に 管 轄 権 を 有 する。 申 立 をなす 当 事 者 の 常 居 所 がオーストリア 国 内 にないときは、 相 手方 の 当 事 者 の 常 居 所 がその 管 轄 内 にある 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 し、それ 以 外 の 場 合 はウィーン 市 の 地 区 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有する。2 項 配 偶 者 または 登 録 パートナーシップの 一 方 からの 共 同 の 住 居 の 移 転 の 求 め、 転 居 の 拒 絶 、 別 居 についてその 適 法 性 の確 認 を 求 める 申 立 て、 稼 得 活 動 への 協 働 に 対 する 適 切 な 補 償 または 日 常 使 用 財 産 及 び 蓄 えの 分 割 の 申 立 て、 婚 姻 または 登録 パートナーシップの 存 否 (Bestand)に 関 する 外 国 判 決 の 承 認 の 申 立 てがある 裁 判 所 に 係 属 し、かつ、 第 一 審 における 当該 手 続 が 終 了 していないときは、 当 該 裁 判 所 は、さらになされた 同 種 の 申 立 てについても 管 轄 権 を 有 する。ただし、 他 の裁 判 所 の 管 轄 とする 合 意 の 許 容 性 は、 排 除 されない。3 項 第 2 項 は、 第 76 条 第 1 項 に 掲 げる 争 いの 係 属 し、かつ、 第 一 審 における 口 頭 弁 論 (Streitverhandlung)が 終 結 していない 裁 判 所 について、 準 用 する。4 項 婚 姻 事 件 及 び 登 録 パートナーシップ 事 件 については、 当 事 者 の 一 方 がオーストリア 国 籍 またはオーストリアに 常 居 所を 有 するときは、オーストリアの 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する。 婚 姻 または 登 録 パートナーシップの 存 否 (Bestand)に 関 する 外 国 判 決 の 承 認 については、これに 関 する 土 地 管 轄 が 存 在 するときにも、オーストリアの 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる。 登 録 パートナーシップの 解 消 事 件 については、オーストリアで 登 録 されたパートナーシップについては、オーストリアの 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる。* 非 訟 事 件 手 続 法 (AußStrG)97 条1 項 婚 姻 解 消 を 伴 わない 別 居 、 離 婚 または 婚 姻 の 無 効 宣 言 、 及 び、 婚 姻 の 存 否 の 確 認 についての 外 国 判 決 は、 当 該 判 決 が既 判 力 を 有 し、かつ、 承 認 拒 絶 事 由 がないときは、オーストリアで 承 認 される。この 承 認 は、 特 別 の 手 続 を 要 することな15124


く、 前 提 問 題 として 独 立 に 判 断 することができる。2 項 前 項 の 判 決 の 承 認 は、 次 に 掲 げる 各 場 合 には、 拒 絶 することができる。1.オーストリア 法 秩 序 の 基 本 的 価 値 判 断 (ordre public( 訳 注 ‐ 括 弧 書 きは 原 文 ))に 反 することが 明 らかな 場 合 ;2. 夫 婦 の 一 方 に 対 する 法 的 審 問 が 保 障 されていない 場 合 、ただし、この 者 が 判 決 に 同 意 していることが 明 白 である 場 合 を除 く;3. 当 該 判 決 が、 同 じ 婚 姻 についての 別 居 、 離 婚 、 無 効 宣 言 、または 存 否 の 確 認 を 内 容 とするオーストリアの 判 決 または 既に 存 在 するオーストリアの 承 認 要 件 をみたす 判 決 と 矛 盾 する 場 合 ;4. 当 該 判 決 を 下 した 機 関 に、オーストリア 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められない 場 合 。100 条 第 97 条 ないし 第 99 条 の 規 定 は、 国 際 法 または 欧 州 共 同 体 の 法 的 行 為 が 別 段 の 定 めをするときは、 適 用 しない。[ 執 行 宣 言 ]112 条1 項 親 権 及 び 面 会 交 流 権 に 関 する 外 国 の 裁 判 所 の 裁 判 は、それがオーストリアについて 執 行 可 能 であると 裁 判 所 で 宣 言 されるときに 限 り、 執 行 される。この 場 合 において、 裁 判 上 の 和 解 及 び 執 行 可 能 な 公 的 証 書 は 裁 判 所 の 裁 判 と 等 しいものとする。2 項 外 国 の 裁 判 は、それが 裁 判 のなされた 国 の 法 によれば 執 行 可 能 であり、かつ、 執 行 宣 言 の 拒 絶 事 由 がないときは、 執行 可 能 であると 宣 言 されなければならない。[ 拒 絶 事 由 ]113 条1 項 執 行 宣 言 は、 次 の 場 合 には、 拒 絶 しなければならない。1.それが 子 の 福 祉 またはオーストリア 法 秩 序 の 基 本 的 価 値 判 断 (ordre public( 訳 注 ‐ 括 弧 書 きは 原 文 ))に 明 らかに 反 するとき;2. 裁 判 のなされた 国 において 相 手 方 の 法 的 審 問 が 保 障 されていなかった 場 合 、ただしこの 者 が 裁 判 に 明 確 に 承 諾 しているときは 除 く;3.その 裁 判 が、オーストリアでその 後 に 下 された 親 権 または 面 会 交 流 権 の 裁 判 、または、 外 国 でその 後 に 下 されてオーストリアでの 執 行 宣 言 の 要 件 を 満 たす 親 権 または 面 会 交 流 権 の 裁 判 と 矛 盾 するとき;4.オーストリア 法 を 適 用 するとした 場 合 において、 判 断 を 下 した 機 関 が、 裁 判 をする 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 していなかったことになるとき。2 項 執 行 宣 言 は、 子 の 親 権 を 有 する 者 の 申 立 てがある 場 合 において、この 者 が 裁 判 を 下 した 国 の 手 続 に 関 与 する 可 能 性 を有 していなかったときは、 拒 絶 しなければならない。143 条 1 項 死 亡 が 公 けに 通 知 され、その 他 疑 い 得 ない 方 法 で 通 知 されたときは、 遺 産 手 続 は、 職 権 で 開 始 されなければならない。2 項 外 国 にある 動 産 についての 遺 産 処 理 (JN 106 条 )は、 相 続 人 の 地 位 を 証 した 当 事 者 の 申 立 てがある 場 合 に 限 り、 開 始することができる。 申 立 人 に 相 続 人 の 地 位 がないことが 明 らかとなり、かつ、 当 該 手 続 を 他 の 申 立 人 に 基 づいて 継 続 すべきものでないときは、 当 該 手 続 は 決 定 をもって 中 止 しなければならない。* 強 制 執 行 法 (Exekutionsordnung)79 条16125


1 項 外 国 で 作 成 された 文 書 及 び 証 書 で、 第 2 条 に 掲 げる 執 行 名 義 (Exekutionstitel)に 該 当 しないもの( 外 国 の 債 務 名 義 )に 基 づく 執 行 の 承 認 は、それらがオーストリアについて 執 行 可 能 であると 宣 言 されることを 要 する。2 項 文 書 及 び 証 書 は、それらが 作 成 された 国 の 規 定 によれば 執 行 可 能 でありかつ 国 家 間 協 定 Staatsverträge またはVerordnung で 相 互 性 が 保 証 されているときは、 執 行 可 能 を 宣 言 されなければならない。80 条 外 国 の 裁 判 所 その 他 の 官 庁 の 判 断 、これらにおいてなされた 和 解 、 外 国 の 公 文 書 に 基 づく 執 行 宣 言 の 申 立 ては、 以下 の 各 場 合 に 限 り、 許 される。1. 管 轄 について 国 内 で 妥 当 する 規 定 によれば、 当 該 法 律 事 件 が 外 国 で 係 属 する 可 能 性 がある 場 合 ;2. 外 国 の 裁 判 所 または 官 庁 で 手 続 が 開 始 される 召 喚 または 処 分 が、 当 該 執 行 のなされるべき 者 に、 当 該 外 国 の 領 域 でまたは 司 法 共 助 によって 他 の 国 の 領 域 でまたは 国 内 で、 訴 状 の 送 達 に 関 して 妥 当 する 規 程 に 従 い、 送 達 されたとき;3. 判 決 が、それに 関 して 存 在 する 外 国 裁 判 所 その 他 の 官 庁 の 証 明 書 によれば、 当 該 国 に 妥 当 する 法 上 、 執 行 可 能 性 を 阻 止する 法 的 手 段 にもはや 服 さないとき。[ 管 轄 ]387 条1 項 保 全 処 分 の 許 可 、その 実 行 のために 必 要 な 命 令 の 許 可 、これらの 処 分 の 機 会 に 生 じるその 他 の 申 立 て 及 び 手 続 については、 本 法 に 別 の 定 めがない 限 り、 最 初 の 申 立 て 時 において、 処 分 をなすにあたり 考 慮 を 要 する 本 案 の 手 続 または 執 行 手続 が 係 属 している 裁 判 所 が、 管 轄 権 を 有 する。2 項 法 的 紛 争 が 開 始 する 前 、または、それについての 既 判 力 ある 判 断 が 下 されたがその 執 行 が 開 始 する 前 に、そのような処 分 が 申 し 立 てられたときは、 許 可 の 命 令 、 申 立 て 及 び 手 続 については、 最 初 の 申 立 ての 時 点 で 申 立 ての 相 手 方 が 当 該 争訟 事 件 の 普 通 裁 判 籍 を 有 する 地 区 裁 判 所 が、 管 轄 権 を 有 する。 本 法 の 妥 当 する 領 域 にいて 普 通 裁 判 籍 が 認 められないときは、その 管 轄 区 域 に、 処 分 をなすにあたり 考 慮 を 要 する 物 の 所 在 する、または、 第 三 債 務 者 の 住 所 、 所 在 地 または 滞 在 地のある 地 区 裁 判 所 、または、その 管 轄 区 域 において 保 全 処 分 の 執 行 のための 行 為 がなされるべき 地 区 裁 判 所 が、 管 轄 権 を有 する。3 項 第 2 項 に 該 当 する 場 合 であっても、 第 382 条 1 項 8 号 、382b 条 、 不 正 競 争 、 著 作 権 法 、 消 費 者 保 護 法 28 条 ないし 30条 に 基 づく 保 全 処 分 については、 本 案 の 手 続 について 管 轄 権 を 有 すべき 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。4 項 第 2 項 に 該 当 する 場 合 であっても、 第 382g 条 の 保 全 処 分 については、 申 立 て 債 権 者 die gefährdete Partei が 訴 訟 事 件の 普 通 裁 判 籍 を 有 する 地 区 裁 判 所 が、 管 轄 権 を 有 する。17126


02:スイス 671. 国 際 裁 判 管 轄 全 般(1) 管 轄 原 因ⅰ 住 所 、 常 居 所 、 国 籍スイス 国 際 私 法 (IPRG)は、その 総 則 において、 被 告 の 住 所 を 国 際 裁 判 管 轄 の 管 轄 原 因とし( 同 2 条 )、さらに、 個 別 の 事 件 に 応 じて、 多 くの 特 則 を 用 意 している。そして、 家 族法 ・ 相 続 法 上 の 事 件 における 国 際 裁 判 管 轄 の 管 轄 原 因 は、 一 般 的 に、 自 然 人 の 住 所 、 常 居所 、 国 籍 である。スイス 国 際 私 法 上 、 自 然 人 は、 継 続 してとどまる 意 思 を 持 って 滞 在 する 国 に 住 所 を 有 し(IPRG 20 条 1 項 a 号 )、また、 相 当 の 期 間 (あらかじめ 一 定 期 間 と 定 められていてもよい)居 住 する 国 に 常 居 所 を 有 する( 同 b 号 )、とされている。 住 所 を 複 数 有 することは 認 められない( 同 2 項 第 1 文 )。 住 所 をどこにも 有 していないときは、 常 居 所 をもって 住 所 とする( 同第 2 文 )。 住 所 ・ 居 所 については、スイス 民 法 典 の 規 定 は 適 用 されない( 同 第 3 文 )。自 然 人 の 国 籍 は、 当 該 国 籍 が 問 題 となっている 国 の 法 に 従 って 定 まる( 同 22 条 )。スイス 国 籍 に 加 えて 他 の 国 の 国 籍 を 有 する 者 の 場 合 、 本 籍 地 の 裁 判 管 轄 の 発 生 に 関 しては、スイスの 国 籍 のみが 基 準 となる( 同 23 条 1 項 )。また、スイスにおける 外 国 判 決 の 承 認 の 要件 として 国 籍 が 問 題 となるときは、その 者 の 持 つ 国 籍 のうちの 一 つを 考 慮 すればよい( 同3 項 )。 無 国 籍 者 ・ 難 民 については、 住 所 をもって 国 籍 とする( 同 24 条 3 項 )。なお、スイスにおける 国 際 法 上 の 規 律 としては、 民 事 事 件 一 般 についてのルガノ 条 約 がある(2007 年 に 改 正 された 内 容 が、2011 年 からスイスで 妥 当 している)。もっとも、 本 条約 は、 身 分 、 婚 姻 、 親 子 、 相 続 などに 関 する 事 件 を 対 象 から 除 外 しており、 家 族 法 ・ 相 続法 上 の 事 件 で 本 条 約 が 問 題 となるのは 扶 養 事 件 に 限 られる。ⅱ 管 轄 の 専 属 性 の 有 無 など1 合 意 管 轄 スイス 国 際 私 法 上 、 財 産 法 上 の 請 求 に 関 して、 国 際 裁 判 管 轄 の 合 意 が 一 般的 に 認 められている(IPRG 5 条 1 項 ) 68 。「 財 産 法 上 の 請 求 に 関 して」とは、 金 銭 または 金銭 的 価 値 に 向 けられている、という 意 味 である。よって、 家 族 法 上 の 請 求 であっても、 扶養 請 求 などはこれに 該 当 しうる。さらに、2 応 訴 管 轄 財 産 法 上 の 紛 争 の 場 合 、 何 も 留 保 せずに 応 訴 したときは、 訴 えが 提 起 されたスイスの 裁 判 所 に 管 轄 が 認 められる(IPRG 6 条 ) 69 。ⅲ 主 観 的 併 合 ・ 附 帯 処 分67以 下 の 文 献 を 参 照 した。Honsell/Vogt/Schnyder/Berti, Basler Kommentar Internationares Privatrecht 2.Aufl.(2007);Siehr, DasInternationale Privatrecht der Schweiz(2002);Girsberger/Heini/Keller/Kostkiewitcz/Siehr/Vischer/Volken, Züricher Kommentar zumIPRG(2004);Walter,Internationales Zivilprozessrecht der Schweiz 4.Aufl.(2007);Schnyder/Liatowitsch, Internationales Privat- undZivilverfahrensrecht 3.Aufl.(2011);Hauser/Geiser/Aebi-Müller,Das Familienrecht des Schweizerischen Zivilgesetzbuch(2010)。スイス 国 際 私 法 (IPRG)の 翻 訳 としては、 奥 田 安 弘 訳 「スイス 連 邦 国 際 私 法 (1987 年 )」 同 『 国 際 私 法 ・ 国 籍 法 ・ 家 族 法資 料 集 』(2006 年 、 中 央 大 学 出 版 局 )、 三 浦 正 人 訳 [1987 年 スイス 連 邦 国 際 私 法 仮 訳 ] 名 状 39 巻 1 号 65 頁 (1989 年 )、 井之 上 宜 信 「スイスの 国 際 私 法 典 (1989 年 )について 1・2 完 」 新 報 96 巻 1・2 号 ・ 同 5 号 (1989~1990 年 )がある。また、登 録 パートナーシップ 導 入 に 関 連 する 改 正 法 については、 北 坂 尚 洋 「 登 録 パートナーシップに 関 するスイス 国 際 私 法 の 新規 定 」 法 学 論 集 ( 福 岡 大 学 )49 巻 3・4 号 (2005 年 )を 参 照 。ルガノ 条 約 (1988 年 )の 翻 訳 としては、 奥 田 安 弘 「EC・EFTAの 裁 判 管 轄 および 判 決 の 執 行 に 関 するルガノ 条 約 」『 国 際 取 引 法 の 理 論 』( 有 斐 閣 、1992 年 )308 頁 以 下 がある。68ルガノ 条 約 が 妥 当 する 場 合 も、 合 意 管 轄 が 認 められる( 同 23 条 )。69ルガノ 条 約 が 妥 当 する 場 合 も、 応 訴 管 轄 が 認 められる( 同 24 条 )。18127


主 観 的 併 合 については、スイス 国 際 私 法 に 明 文 の 規 律 がある(IPRG 8a 条 )。これによると、 本 法 によればスイスで 訴 えを 提 起 されうる 複 数 の 共 同 訴 訟 人 に 対 する 訴 えについては、被 告 当 事 者 の 一 人 について 管 轄 権 を 有 するスイスの 裁 判 所 が、すべての 被 告 当 事 者 について 管 轄 権 を 有 する( 同 1 項 )。ⅳ 緊 急 管 轄 の 可 否 スイス 国 際 私 法 上 、スイスが 管 轄 権 を 有 しない 場 合 であっても、 外 国での 手 続 が 可 能 でないまたは 期 待 できないときは、 事 案 と 十 分 な 関 連 を 有 する 地 のスイスの 裁 判 所 ・ 官 庁 に 管 轄 権 が 認 められる(IPRG 3 条 ) 70 。 可 能 でないこと・ 期 待 できないことは、 原 告 が 主 張 ・ 証 明 する 必 要 があり、また、その 認 定 に 関 しては、 裁 判 所 に 相 当 の 裁量 が 認 められる 71 。(2) 国 際 訴 訟 競 合国 際 訴 訟 競 合 については、スイス 国 際 私 法 上 、 次 のように 規 律 されている(IPRG 9 条 )。同 一 の 当 事 者 間 の 同 一 の 目 的 に 関 する 訴 訟 が 外 国 で 係 属 している 場 合 において、 当 該 外 国の 裁 判 所 が 相 当 な 期 間 内 にスイスで 承 認 されうる 判 決 を 下 すことが 期 待 できるときは、スイスの 裁 判 所 は 手 続 を 中 止 する( 同 1 項 ) 72 。(3) 保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄 権 は、1 本 案 について 管 轄 権 を 有 するスイスの 裁 判 所 ・ 官 庁 、さらに、2 当 該 保 全 処 分 が 執 行 されるべき 地 のスイスの 裁 判 所 ・ 官 庁 に 認 められる(IPRG10 条 )。なお、 個 別 の 事 件 について 特 則 がある(62 条 ( 離 婚 事 件 )、89 条 ( 相 続 事 件 ) 等 )。2. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄(a) 失 踪 宣 告 事 件失 踪 宣 告 については、 不 在 者 の 最 後 に 知 られた 住 所 地 のスイスの 裁 判 所 ・ 官 庁 が 国 際 裁判 管 轄 権 を 有 する(IPRG 41 条 1 項 )。さらに、 保 護 に 値 する 利 益 があるときも 73 、スイスの 裁 判 所 ・ 官 庁 が 管 轄 権 を 有 する( 同 2 項 )。外 国 でなされた 失 踪 宣 告 または 死 亡 宣 告 は、 失 踪 者 の 最 後 に 知 られた 住 所 地 国 または 失踪 者 の 本 国 でなされたときには、スイスでも 承 認 される( 同 42 条 )。70たとえば、スイス 人 の 両 親 が 離 婚 後 にそれぞれ 日 本 ・アメリカに 転 居 した 場 合 における 子 の 親 権 をめぐる 事 件 で、 緊 急管 轄 が 認 められている(BaslerK(Berti),§3 Rz.11)。71Schnyder/Liatowitsch,Rz.969.72同 2 項 によれば、スイスにおける 訴 訟 の 係 属 の 時 点 とは、 訴 えの 提 起 に 必 要 な 手 続 行 為 の 時 点 を 基 準 とし、 和 解 手 続 のs 開 始 もこれに 該 当 するとされている( 同 2 項 )。また、スイスの 裁 判 所 は、スイスで 承 認 しうる 外 国 の 判 決 が 提 出 されたときは、 直 ちに 訴 えを 却 下 するものとされている( 同 3 項 )。73たとえば、 婚 姻 を 死 亡 解 消 させて 再 婚 する 場 合 が 挙 げられる(Schnyder/Liatowitsch,RZ.981)。19128


(b) 婚 姻 ・ 登 録 パートナーシップの 成 立 、 及 び、 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力(1) 婚 姻 の 成 立 に 関 する 事 件 ( 婚 姻 の 無 効 ・ 取 消 し・ 不 存 在 ) 74離 婚 及 び 別 居 に 関 する IPRG 59 条 以 下 の 規 律 は、 婚 姻 の 無 効 ・ 取 消 しも 対 象 とするとされているので、(c)を 参 照 。(2) 婚 姻 の 効 力 に 関 する 事 件 ( 扶 養 事 件 については、(g)を 参 照 。)ⅰ 国 際 裁 判 管 轄婚 姻 関 係 上 の 権 利 ・ 義 務 をめぐる 事 件 については、まず、1 夫 婦 の 一 方 の 住 所 地 、 住 所がないときはその 常 居 所 地 のスイスの 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する(IPRG 46 条 )。 一 般 原 則 によれば 相 手 方 の 住 所 または 常 居 所 となるが( 同 2 条 )、 裁 判 で 問 題 となる 法 的 保 護 は 通 常 は原 告 の 生 活 拠 点 で 必 要 とされるものであることなどから、 特 別 の 規 律 が 設 けられている 75 。さらに、2 夫 婦 双 方 がスイスに 住 所 ・ 常 居 所 のいずれも 有 していないときでも、 夫 婦 の一 方 がスイス 国 籍 を 有 していれば、スイスの 裁 判 所 の 管 轄 権 が 補 充 的 に 認 められる( 同 47条 )。ただし、 夫 婦 の 一 方 が 有 する 外 国 の 住 所 または 常 居 所 で 訴 えを 提 起 するのが 可 能 でないまたは 期 待 できない 場 合 に 限 られる。なお、3 夫 婦 財 産 制 については 特 別 の 規 律 がある。 夫 婦 財 産 制 について 争 いが 生 じるのは、 通 常 、 離 婚 と 遺 産 分 割 の 場 合 であることから、 夫 婦 財 産 制 に 関 する 管 轄 は、 離 婚 事 件 ・遺 産 分 割 事 件 の 管 轄 に 付 随 して 生 じるものとされている( 同 51 条 a 号 ・b 号 ) 76 。4 婚 姻 の 効 力 のうち、 財 産 法 上 の 請 求 に 関 するものについては、 一 般 規 律 (IPRG 5 条 ・6 条 )にしたがい、 合 意 管 轄 ・ 応 訴 管 轄 の 可 否 が 問 題 となりうる 77 (たとえば、 夫 婦 財 産 制の 下 での 債 権 はこれにあたる)。もっとも、このような 管 轄 権 に 基 づくスイスの 裁 判 は、 外国 で 承 認 されない 可 能 性 がある。ⅱ 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行扶 養 以 外 の 婚 姻 関 係 の 効 果 に 関 する 外 国 判 決 ・ 処 分 は、 夫 婦 の 一 方 の 住 所 地 国 または 常居 所 地 国 でなされたものであるときは、スイスで 承 認 される(IPRG 50 条 )。なお、 夫 婦 財 産 制 に 関 する 外 国 の 判 決 ・ 決 定 については 特 則 があり( 同 58 条 1 項 a~d号 )、 以 下 の 場 合 にスイスで 承 認 される。すなわち、1 判 決 ・ 決 定 が 被 告 配 偶 者 の 住 所 のある 国 で 下 された、または、 承 認 されるものであるとき、2 被 告 配 偶 者 がスイスに 住 所 を 有しない 場 合 においては、 判 決 ・ 決 定 が 原 告 配 偶 者 の 住 所 のある 国 で 下 されたか、 承 認 されるものであるとき、3 判 決 ・ 決 定 が 本 法 によって 準 拠 法 として 選 択 された 国 で 下 された、74婚 姻 の 成 立 そのものについては、1 婚 姻 をしようとする 者 の 少 なくとも 一 方 が、スイスに 住 所 を 有 するまたはスイス 国籍 を 有 するときは、スイスの 官 庁 が 管 轄 を 有 する(IPRG 43 条 1 項 )。さらに、 婚 姻 をしようとする 者 がスイスの 住 所 もスイスの 国 籍 も 有 さない 場 合 であっても、 当 該 婚 姻 が 当 事 者 双 方 の 住 所 地 国 または 本 国 で 承 認 されるときは、 婚 姻 成 立 の 管轄 を 有 するスイスの 官 庁 がスイスでの 婚 姻 の 成 立 を 認 めることができる( 同 2 項 )。75BaslerK(Courvoiser)Art.46.Rz.16.76なお、 婚 姻 解 消 に 伴 う 夫 婦 財 産 の 清 算 は、 離 婚 事 件 に 付 随 してあつかわれる 場 合 と 相 続 事 件 に 付 随 してあつかわれる 場合 とで、 一 体 的 処 理 ができるか 否 かの 違 いが 生 じる。というのも、 相 続 事 件 については、 外 国 に 所 在 する 不 動 産 が 管 轄 外とされる 可 能 性 があるからである(IPRG 86 条 2 項 )。もっとも、 離 婚 事 件 に 付 随 して 外 国 所 在 不 動 産 を 夫 婦 財 産 の 清 算 対象 としたとしても、これに 関 するスイスの 裁 判 が 外 国 で 承 認 されない 可 能 性 はある。77しかし、 合 意 管 轄 を 認 めることに 対 しては、1 夫 婦 財 産 の 清 算 が 離 婚 事 件 ・ 相 続 事 件 と 関 連 するものであり、これらの事 件 では 合 意 管 轄 が 認 められないこと、2スイス 法 上 は 離 婚 とそれに 伴 う 効 果 は 一 体 的 に 解 決 するという 原 則 があり、この 原 則 は 離 婚 裁 判 所 が 離 婚 の 効 果 についても 一 定 の 監 督 をする 点 で 妥 当 といえることなどから、 疑 問 とされている(BaslerK(Courvoiser)Art.51.Rz.21~27)。20129


または 承 認 されるとき、4 不 動 産 についての 判 決 ・ 決 定 の 場 合 においては、 当 該 不 動 産 の所 在 地 国 で 下 された、または 承 認 されるとき。さらに、 夫 婦 財 産 制 についての 判 決 ・ 処 分が、 離 婚 ・ 死 亡 による 婚 姻 解 消 の 事 件 などに 附 帯 して 下 されたものであるとき、その 承 認は、 婚 姻 の 一 般 的 効 力 ( 同 50 条 )・ 離 婚 ( 同 65 条 )・ 相 続 ( 同 96 条 )の 規 定 による( 同58 条 2 項 )。これは、 一 体 的 にあつかって 矛 盾 が 生 じないようにするためである。78(3) 登 録 パートナーシップ・ 婚 姻 類 似 の 生 活 共 同 体 に 関 する 事 件登 録 パートナーシップについては、 婚 姻 に 関 する 規 律 (IPRG 第 3 章 43~65 条 )が 準用 される( 同 65a 条 ) 79 。これに 加 えて、 外 国 の 判 決 ・ 処 分 の 承 認 について、 以 下 の 規 律が 追 加 されている。すなわち、パートナーシップが 登 録 された 国 でなされた 判 決 ・ 処 分 であって、かつ、スイス 国 際 私 法 第 3 章 により 管 轄 が 認 められる 国 において 訴 え・ 申 立 てをすることが 可 能 でなかったまたは 期 待 できなかったときは、スイスで 承 認 される( 同 65d条 )。これは、スイス 法 の 管 轄 規 律 にしたがうと 登 録 パートナーシップが 認 められていない国 に 管 轄 が 認 められる 場 合 に 生 じる 不 都 合 を 回 避 するためである。非 婚 カップルでは、その 効 力 をめぐる 事 件 の 管 轄 が 問 題 となる。この 点 については、IPRG46 条 以 下 の 婚 姻 に 関 する 規 定 を 類 推 適 用 できるとする 見 解 がある 80 。81(c) 離 婚 及 びそれに 伴 う 効 果 ( 年 金 分 割 請 求 権 を 含 む)に 関 する 事 件ⅰ 国 際 裁 判 管 轄離 婚 及 び 別 居 の 訴 えについてスイスに 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められるのは、まず、1 被 告の 住 所 地 がスイスにあるとき、である(IPRG 59 条 a 号 )。さらに、2 原 告 が 1 年 以 上 スイスに 滞 在 しているとき 82 、または、 原 告 がスイス 国 民 である 場 合 は 原 告 の 住 所 がスイスにあるときは、 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる( 同 b 号 )。1は 国 際 的 に 承 認 された 一 般 的 な 管轄 原 因 であり、2はスイスとの 一 定 の 関 連 性 を 管 轄 原 因 とするものである。以 上 に 加 えて、 本 国 管 轄 が 補 充 的 に 認 められている。すなわち、3 夫 婦 双 方 がスイスに住 所 を 有 しないが、 一 方 がスイス 国 民 であって、 一 方 の 住 所 地 での 訴 えの 提 起 が 可 能 でないまたは 期 待 できない 場 合 83 には、 本 籍 地 の 裁 判 所 に 管 轄 権 が 認 められる( 同 60 条 )。なお、 離 婚 事 件 は 財 産 法 上 の 事 件 ではないので、 合 意 管 轄 (IPRG 5 条 )・ 応 訴 管 轄 ( 同6 条 )は 認 められない。78スイスは、 同 性 婚 は 認 めておらず、 同 性 カップルは 登 録 パートナーシップを 利 用 することになる。なお、 異 性 の 者 は 登録 パートナー 制 度 を 利 用 できない。また、 婚 姻 類 似 の 生 活 共 同 体 は、 法 典 上 、 独 自 の 制 度 として 認 められていないが、 実務 では 婚 姻 に 関 する 規 定 などによって 規 律 されているようである(Hausheer/Geiser/Aebi-Müller,Rz.03.20f)。79登 録 パートナーシップについては、IPRG の 第 3a 章 が 新 たに 設 けられ、 解 消 の 際 の 登 録 についての 管 轄 の 規 定 ( 同 65b条 )、 準 拠 法 に 関 する 補 充 規 定 ( 同 65c 条 )、 外 国 の 判 決 ・ 処 分 の 承 認 の 規 定 (65d 条 )が 置 かれている。80BaslerK(Courvoiser)Vor Art.43-65d.Rz.41. 婚 姻 ほどの 結 びつきが 認 められず、IPRG 46 条 の 類 推 適 用 はない、とする 見 解もある(Siehr,S.32)。81IPRG 第 4 節 の 表 題 にはないが、 婚 姻 の 無 効 ( 宣 言 )・ 取 消 し、 婚 姻 関 係 の 確 認 の 訴 えも 対 象 に 含 まれる。なお、 裁 判による 別 居 に 関 する 管 轄 ・ 準 拠 法 ・ 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行 については、 離 婚 裁 判 所 と 同 様 とされている( 同 59 条 以 下 )。また、 裁 判 による 別 居 に 伴 う 効 果 も、 結 合 される(IPRG 63 条 2 項 ・64 条 2 項 )。82この 要 件 について 対 立 があり、 常 居 所 を 要 するとの 立 場 と、たんなる 滞 在 でよいとする 立 場 がある。83戦 争 ・ 自 然 災 害 で 裁 判 所 が 活 動 していない 場 合 や、 宗 教 的 理 由 からの 差 別 のおそれがある 場 合 などが、その 例 である。なお、 緊 急 管 轄 (IPRG 3 条 )における「 可 能 でないまたは 期 待 できない」という 要 件 よりは、 厳 格 なものである(BaslerK(Bopp)Art.61.Rz.11)。21130


ⅱ 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行離 婚 ・ 別 居 に 関 する 外 国 判 決 の 承 認 については、 一 般 的 要 件 (IPRG 25 条 以 下 )に 加 えて、 特 別 の 規 律 がある。すなわち、 夫 婦 の 一 方 の 住 所 地 国 、 常 居 所 地 国 、 本 国 のいずれかで 下 されたものであるとき、または、これらの 国 で 承 認 されたときは、スイスでも 承 認 される( 同 65 条 1 項 )。ただし、 夫 婦 のいずれもが 国 籍 を 有 しない 国 、または 原 告 配 偶 者 のみが 国 籍 を 有 する 国 で 下 された 判 決 は、 次 の1~3に 該 当 する 場 合 に 限 り、スイスで 承 認される( 同 2 項 a~c 号 )。1 訴 え 提 起 時 において 少 なくとも 一 方 の 配 偶 者 が 当 該 国 に 住 所または 常 居 所 を 有 しており、かつ、 被 告 配 偶 者 がスイスに 住 所 を 有 していなかったとき、2 被 告 配 偶 者 が 外 国 裁 判 所 の 管 轄 に 無 条 件 に 服 したとき、3 被 告 配 偶 者 がスイスでの 承 認に 同 意 したとき。なお、 以 上 の 規 律 は、 婚 姻 解 消 に 関 する 外 国 判 決 に 妥 当 するものである。もっとも、 扶養 や 年 金 分 割 など 離 婚 と 密 接 に 関 連 する 付 随 効 果 が 離 婚 判 決 とともになされている 場 合 には、IPRG 65 条 によって 承 認 できるとされている 84 ( 夫 婦 財 産 の 清 算 に 関 する 外 国 判 決 の 承認 の 場 合 は、この 点 が 明 文 で 示 されている( 同 58 条 2 項 ))。ⅲ 保 全 処 分離 婚 ・ 別 居 事 件 がスイスの 裁 判 所 に 係 属 している 場 合 において、 本 案 の 管 轄 権 がないことが 明 白 といえないまたは 既 判 力 で 確 定 していないときは、 保 全 処 分 についても 当 該 裁 判所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する 85 (IPRG 62 条 1 項 )。もっとも、 夫 婦 間 ・ 親 子 間 の 扶 養 86 および 親 権 に 関 する 保 全 処 分 は、この 規 定 の 適 用 対 象 とならない( 同 3 項 )。(2) 離 婚 に 伴 う 効 果離 婚 に 伴 う 効 果 については、 離 婚 事 件 について 管 轄 ある 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる(IPRG 63 条 1 項 )。これは 離 婚 判 決 の 一 体 性 というスイス 国 内 法 の 原 則 に 対 応 するものであり、 離 婚 事 件 がスイスの 裁 判 所 に 実 際 に 係 属 していることが 必 要 となる。ここでいう 効 果 には、 夫 婦 間 の 法 律 関 係 に 関 するものとして、 氏 の 変 更 、 夫 婦 財 産 法 上の 効 果 、 離 婚 後 の 夫 婦 間 扶 養 、 年 金 分 割 、 婚 姻 住 宅 の 清 算 などが、 親 子 関 係 に 関 するものとして、 親 権 、 面 会 交 流 権 、 未 成 年 子 扶 養 などがある 87 。なお、 離 婚 判 決 でなすべき 判 断 がなされていない 場 合 において 88 、その 補 充 を 求 める 訴84BaslerK(Bopp)Art.65.Rz.7.85すでに 外 国 で 離 婚 手 続 が 係 属 している 場 合 でも、スイスでの 手 続 は 停 止 されるにすぎず、スイスの 国 際 裁 判 管 轄 権 じたいは 存 在 するので、 保 全 処 分 は 可 能 である。もっとも、 外 国 で 保 全 処 分 がなされていないとき、または、 外 国 での 保 全 処分 がスイスで 承 認 ・ 執 行 されないときに 限 るとされている(BaslerK(Bopp)Art.62.Rz.9)。86扶 養 事 件 についてはルガノ 条 約 が 妥 当 し(LugÜ 5 条 2 項 )、 保 全 処 分 についても 同 条 約 の 適 用 対 象 となる( 同 31 条 )。もっとも、 身 分 関 係 を 本 案 とする 手 続 で 扶 養 事 件 が 扱 われる 場 合 には、 当 事 者 の 一 方 の 国 籍 のみに 基 づいて 管 轄 が 認 められているのでない 限 り、スイス 国 際 私 法 の 管 轄 規 律 によることになる( 同 5 条 2 項 c)。87ただし、 扶 養 についてはルガノ 条 約 、 親 権 ・ 面 会 交 流 権 については KSÜ の 管 轄 規 律 が 優 先 する。もっとも、ルガノ 条約 上 、 夫 婦 間 扶 養 事 件 と 離 婚 事 件 との 一 体 的 処 理 を(LugÜ 5 条 2 項 b)、また、KSÜ も 面 会 交 流 を 含 む 親 権 事 件 と 離 婚 事 件との 一 体 的 処 理 を(KSÜ 10 条 )、それぞれ 認 めている(そして、ルガノ 条 約 は 未 成 年 子 扶 養 事 件 と 親 権 事 件 との 結 合 を 認めている(LugÜ5 条 2 項 c))。88離 婚 裁 判 における 欠 缺 やその 変 更 として 問 題 となる 事 項 は、 離 婚 後 扶 養 、 年 金 分 割 、 未 成 年 子 扶 養 、 親 権 などである。もっとも、これらの 事 項 について 国 際 法 上 の 管 轄 規 律 が 妥 当 する 場 合 は、それが 優 先 する。 扶 養 についてはルガノ 条 約 、未 成 年 者 保 護 ( 親 権 など)については KSÜ がある(この 点 は IPRG 64 条 1 項 第 2 文 が 明 示 する)。22131


えについては、 当 該 判 決 をスイスの 裁 判 所 が 下 していたとき、または、 離 婚 事 件 の 国 際 裁判 管 轄 の 規 律 (IPRG 59・60 条 )によりスイスの 裁 判 所 に 管 轄 が 認 められるときは、スイスに 国 際 裁 判 管 轄 がある 89 ( 同 64 条 1 項 。 裁 判 の 変 更 についても 同 様 である)。(d) 血 縁 による 親 子 関 係 ( 嫡 出 推 定 ・ 否 認 、 認 知 、 親 子 関 係 存 否 確 認 )ⅰ 国 際 裁 判 管 轄親 子 の 身 分 に 関 する 訴 え 90 についての 国 際 裁 判 管 轄 権 は、スイス 国 際 私 法 で 判 断 される。1 管 轄 原 因 は、まず、 子 の 常 居 所 、または、 母 もしくは 父 の 住 所 91 である(IPRG 66 条 )。これらがスイスにあるときは、スイスの 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する。 母 と 父 の 住 所のいずれかがスイスにあれば 足 りる。したがって、 父 子 関 係 についての 争 いであっても、母 がスイスに 住 所 を 有 することのみに 基 づいて、スイスに 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる 92 。2さらに、 父 母 のいずれもがスイスに 住 所 を 有 さず、また、 子 の 常 居 所 もスイスにない場 合 でも、スイスの 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる 可 能 性 がある。すなわち、 母 または 父 がスイス 国 籍 を 有 しており、かつ、 父 母 それぞれが 有 する 外 国 の 住 所 および 子 の 常居 所 のいずれにおいても 訴 えを 提 起 することが 可 能 でないまたは 期 待 できない 93 場 合 には、父 または 母 の 本 籍 地 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する( 同 67 条 )。このように、 本 国 管 轄 は、66条 の 要 件 を 満 たさないことを 前 提 として 認 められるに 過 ぎず、 補 充 的 なものと 位 置 づけられている。なお、 合 意 管 轄 は 認 められない 94 。ⅱ 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行親 子 の 身 分 それ 自 体 について 外 国 でなされた 裁 判 は、 次 の 場 合 にスイスで 承 認 される。すなわち、1 子 の 常 居 所 のある 国 または 子 の 本 国 でなされた 裁 判 、または、2 母 または 父の 住 所 地 国 または 本 国 でなされた 裁 判 、である(IPRG 70 条 )。なお、 認 知 の 取 消 しに 関 する 外 国 の 判 決 は、 子 の 常 居 所 地 国 の 法 、 子 の 本 国 法 、または 父 もしくは 母 の 住 所 地 国 の 法もしくは 父 母 それぞれの 本 国 法 上 有 効 なものであるときは、スイスでも 承 認 される( 同 73条 2 項 ) 95 。89外 国 判 決 の 補 充 ・ 変 更 をする 場 合 は、 当 該 判 決 がスイスで 承 認 されることが 前 提 となる(BaslerK(Bopp)Art.64.Rz.3)。90本 条 にいう「 訴 え」とは、 外 国 法 の 制 度 でスイス 民 法 (ZGB)252 条 以 下 ( 母 子 関 係 、 婚 姻 ・ 認 知 による 父 子 関 係 、 養親 子 関 係 )に 対 応 するものを 広 く 含 む。よって、スイス 国 際 私 法 68 条 以 下 に 従 い 適 用 されることになる 準 拠 法 において 身分 関 係 の 訴 えとされるもの、たとえば、 嫡 出 子 であることの 確 認 、 準 正 の 訴 え、 身 分 占 有 の 確 認 、 非 嫡 出 父 子 関 係 の 確 認 、母 子 関 係 の 不 存 在 の 確 認 、 嫡 出 でないことの 確 認 、なども 含 まれることになる。なお、 認 知 の 取 消 しおよび 養 子 の 取 消 しも、66・67 条 によるとされている(71 条 3 項 ・75 条 2 項 )。91親 がすでに 死 亡 していてその 相 続 が 問 題 となるような 場 合 において、 被 相 続 人 とその 子 の 親 子 関 係 について 他 の 相 続 人が 争 うときも、IPRG 66 条 に 掲 げる 親 の( 死 亡 時 の) 住 所 が 管 轄 原 因 となる(BaslerK(Schwander)Art.66.Rz.19)。92BaslerK(Schwander)Art.66.Rz.17. もちろん、このような 管 轄 権 に 基 づいてスイスの 裁 判 所 が 下 した 判 決 が 外 国 で 承 認されるかは、 別 問 題 である。93可 能 でないまたは 期 待 できない 場 合 の 例 としては、 身 分 の 訴 えがない 場 合 や 婚 外 子 について 認 められていない 場 合 、( 婚外 子 や 姦 生 子 など) 外 国 では 身 分 について 著 しい 別 扱 いがあってスイスの 公 序 に 反 するような 場 合 、 外 国 の 手 続 では 親 子関 係 に 関 して 科 学 的 手 法 による 証 明 ができない 場 合 などが 挙 げられている(BaslerK(Schwander)Art.67.Rz.8)。94ZüricherK(Siehr)Art.66.RZ.30. 他 に、 緊 急 管 轄 (IPRG 3 条 )の 例 として、スイスで 許 容 された 生 殖 補 助 医 療 技 術 を 利用 して 誕 生 した 子 についての 親 子 身 分 をめぐる 争 いが、 外 国 では 可 能 でないまたは 期 待 できず、かつ、IPRG 66・67 条 の 要件 を 満 たさない 場 合 が 挙 げられている(BaslerK(Schwander)Art.66.Rz.24)。95この 規 律 は、 外 国 でなされた 準 正 の 承 認 について 準 用 される( 同 74 条 )。23132


(e) 養 親 子 関 係 事 件 ( 縁 組 および 離 縁 ) 96養 子 縁 組 については、1 養 親 となる 者 または 養 親 となる 夫 婦 97 の 住 所 地 のスイスの 裁 判所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する(75 条 1 項 )。 養 親 に 着 眼 するのは、とりわけ 未 成 年 子 が 養子 となる 場 合 には 養 親 となる 者 の 生 活 環 境 を 慎 重 に 明 らかにして 判 断 する 必 要 があることによる 98 。さらに、2 養 親 となる 者 または 養 親 となる 夫 婦 がスイスに 住 所 を 有 さず、かつ、いずれかがスイス 国 籍 を 有 するときは、その 本 籍 地 のスイスの 裁 判 所 に 管 轄 が 認 められる(76 条 )。ただし、その 住 所 において 養 子 縁 組 をすることが 可 能 でないまたは 期 待 できないときに 限 る。養 子 縁 組 の 取 消 および 離 縁 については、 実 親 子 関 係 に 関 する 規 定 ( 同 66 条 ・67 条 )による( 同 75 条 2 項 )。外 国 でなされた 養 子 縁 組 は、 養 親 となる 者 または 養 親 となる 夫 婦 の 住 所 または 本 籍 地 のある 国 で 下 されたものであるとき、スイスで 承 認 される( 同 78 条 1 項 )。なお、 外 国 でなされた 養 子 縁 組 が、スイスの 養 子 制 度 と 本 質 的 に 異 なる 効 果 をもつときは 99 、 当 該 成 立 国で 認 められる 効 果 の 範 囲 に 限 り、スイスで 承 認 される( 同 78 条 2 項 )。(f) 親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 権 (、 子 の 奪 取 )、 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見(1) 親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 権 、 未 成 年 後 見ⅰ 国 際 裁 判 管 轄子 の 身 上 監 護 及 び 財 産 管 理 の 保 護 のための 措 置 についての 国 際 裁 判 管 轄 権 は、「 親 権 及 び子 の 保 護 のための 措 置 の 分 野 における 管 轄 、 準 拠 法 、 承 認 、 執 行 、 協 働 に 関 する 条 約 」( 以下 、KSÜ)によって 判 断 される(IPRG 85 条 1 項 ) 100 。これによると、 子 の 常 居 所 101 ( 同 5条 1 項 )が 管 轄 原 因 となる。 常 居 所 が 不 明 の 場 合 は、 子 が 現 在 する 国 が 管 轄 を 有 する( 同6 条 2 項 ・1 項 )。なお、スイス 国 際 私 法 上 、 緊 急 管 轄 の 一 般 規 律 (IPRG 3 条 )に 加 えて、 特 別 の 緊 急 管 轄が 定 められている( 同 85 条 3 項 )。これによれば、 子 およびその 財 産 の 保 護 のために 必 要なときは、スイスの 裁 判 所 に 管 轄 権 が 認 められる。また、 扶 養 を 含 む 102 親 子 関 係 の 効 果 に 関 して、 子 と 親 (の 一 方 )が 当 事 者 となって 103 争96なお、スイスでは、 養 子 縁 組 についての 機 関 の 管 轄 権 、 準 拠 法 及 び 裁 判 その 他 の 処 分 の 承 認 に 関 する 条 約 は、2003 年10 月 23 日 をもって 失 効 している。これに 代 わり、 国 際 養 子 縁 組 に 関 する 子 の 保 護 及 び 協 力 に 関 する 条 約 が、2003 年 1 月 1日 から 効 力 を 生 じている。97夫 婦 の 一 方 のみがスイスに 住 所 を 有 するときについては、 本 条 の 適 用 を 認 める 立 場 と、 本 条 の 適 用 外 として 緊 急 管 轄(IPRG 3 条 )の 余 地 を 認 める 立 場 がある(BaslerK(Urwyler/Hauser)Art.75.Rz.4)。もっとも、 管 轄 の 所 在 の 問 題 とは 別 に、住 所 を 異 にして 生 活 共 同 体 を 形 成 していない 者 が 養 親 となるのが 子 の 福 祉 にかなうか、という 問 題 は 残 る。98BaslerK(Urwyler/Hauser)Art.75.Rz.1.99外 国 法 における 養 子 の 効 果 とスイス 法 におけるそれが 完 全 に 一 致 している 必 要 はない。たとえば、スイス 法 は 完 全 養 子を 採 用 しており、 外 国 の 養 子 が 養 子 と 実 親 の 間 に 血 族 関 係 ( 婚 姻 障 害 については 別 である) 及 び 双 方 向 の 相 続 権 を 残 す 場合 には、スイス 法 とは 本 質 的 に 異 なる 効 果 をもつとされる。100同 条 約 1 条 1 項 は、 子 の 身 上 監 護 および 財 産 管 理 の 保 護 ための 措 置 についての 管 轄 権 や 保 護 措 置 の 承 認 ・ 執 行 を 条 約の 対 象 に 挙 げている( 同 a・d 号 )。ここにいう 措 置 には、 親 権 の 帰 属 ・ 行 使 ・ 全 部 および 一 部 の 喪 失 、 居 所 指 定 権 ・ 面 会交 流 権 、 未 成 年 後 見 、 施 設 への 収 容 などが 該 当 する( 同 3 条 a~g 号 。なお、 同 4 条 は 除 外 事 項 を 列 挙 しており、たとえば子 の 氏 ・ 名 などは 除 外 されている)。101常 居 所 の 概 念 は、スイス 国 際 私 法 20 条 1 項 b 号 ではなく、 本 条 約 に 即 して 解 釈 される。すなわち、 事 実 として 当 該 子自 身 の 生 活 の 中 心 となっている 場 所 である。102もっとも、 扶 養 事 件 についてはルガノ 条 約 の 規 律 が 優 先 する。103BaslerK(Schwander)Art.79.Rz.6.24133


う 事 件 については、スイス 国 際 私 法 上 、 子 の 常 居 所 、または、 被 告 たる 親 の 住 所 (それがない 場 合 は 常 居 所 )があれば、スイスの 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる(IPRG 79条 1 項 。ただし、 氏 ・ 名 ( 同 33、37~40 条 )、 未 成 年 者 の 保 護 ( 同 85 条 )、 相 続 ( 同 86~89 条 )については 104 、 特 別 の 規 定 が 妥 当 する)。さらに、 子 ・ 被 告 たる 親 のいずれもスイスに 住 所 ・ 常 居 所 を 有 さず、かつ、いずれかがスイス 国 民 であるときは、 本 籍 地 の 裁 判 所に 管 轄 が 認 められる( 同 80 条 )。ⅱ 外 国 判 決 の 承 認KSÜ 加 盟 国 の 判 決 については 同 条 約 による( 同 条 約 23 条 以 下 )。 加 盟 国 でない 場 合 は、子 が 常 居 所 を 有 する 国 で 下 されたまたは 承 認 された 措 置 は、スイスでも 承 認 される(IPRG85 条 4 項 )。その 他 の 親 子 関 係 の 効 果 については、 子 が 常 居 所 を 有 するか、 被 告 である 親が 住 所 ・ 常 居 所 を 有 する 国 で 下 された 判 決 は、スイスでも 承 認 される(IPRG 84 条 1 項 ) 105 。(2) 成 年 後 見 事 件 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 )成 年 後 見 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 および 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行 については、 成 年 の 国 際 的 保護 に 関 するハーグ 条 約 106 が 妥 当 する(IPRG 85 条 2 項 )。これによれば、 原 則 として、 事 件本 人 の 常 居 所 が 管 轄 原 因 となる( 同 条 約 5 条 1 項 )。 常 居 所 が 不 明 の 場 合 は、 事 件 本 人 が 現在 する 国 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する( 同 条 約 6 条 2 項 ・1 項 )。さらに、スイス 国 際 私 法 上 、 事 件 本 人 およびその 財 産 の 保 護 のために 不 可 欠 であるときも、スイスの 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる(IPRG 85 条 3 項 )。成 年 後 見 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 の 承 認 については、 前 記 条 約 (22 条 以 下 )による。 前 記条 約 に 加 盟 していない 国 で 下 された 裁 判 は、それが 事 件 本 人 の 常 居 所 のある 国 で 下 されたまたは 承 認 されたものであるときは、スイスでも 承 認 される(IPRG 85 条 4 項 )。(g) 扶 養 事 件扶 養 義 務 についての 国 際 裁 判 管 轄 権 は、まず、ルガノ 条 約 によって 判 断 される(LugÜ 2・5 条 )。これに 対 して、 相 手 方 がスイス・ルガノ 条 約 締 約 国 のいずれにも 住 所 を 有 さないときは、スイスの 国 際 私 法 による。(1) 婚 姻 夫 婦 間 の 扶 養 、 離 婚 後 扶 養107ⅰ 国 際 裁 判 管 轄国 際 裁 判 管 轄 に 関 するルガノ 条 約 の 一 般 原 則 によれば、 被 告 の 住 所 が 管 轄 原 因 となる(LugÜ 2 条 1 項 )。これに 加 えて、 扶 養 権 利 者 ( 原 告 )の 住 所 または 常 居 所 も 管 轄 原 因 とされている( 同 5 条 2 号 a) 108 。なお、 離 婚 後 扶 養 の 場 合 は、それが 離 婚 事 件 と 合 わせて104条 文 にはないが、 離 婚 事 件 に 付 帯 して 親 子 関 係 事 件 が 取 り 上 げられる 場 合 の 62 条 1 項 、63 条 1 項 、64 条 1 項 も 特 別の 規 定 となる(BaslerK(Schwander)Art.79.Rz.2)。105ただし、 子 の 氏 ・ 名 (IPRG 39 条 。 外 国 でなされた 氏 ・ 名 の 変 更 )、 未 成 年 者 の 保 護 ( 同 85 条 。 親 権 など)、 相 続 ( 同96 条 )についての 特 別 規 定 がある 場 合 は、それによる。106Haager Übereinkommen über den internationalen Schutz von Erwachsenen vom 13.1.2000( 翻 訳 については 民 事 月 報 55 巻 11号 29 頁 を 参 照 ). スイスでは、2009 年 7 月 1 日 より 妥 当 している(SR 0.211.232.1)。これは、 成 年 後 見 ( 同 3 条 c 号 )、 事件 本 人 の 行 為 能 力 および 保 護 体 制 の 設 定 に 関 する 判 断 ( 同 a 号 )、 施 設 への 入 所 ( 同 e 号 )などを 対 象 としている。107扶 養 義 務 者 が 外 国 の 離 婚 判 決 で 確 認 された 扶 養 債 務 の 減 額 を 求 めるときは、LugÜ 5 条 2 号 ではなく 同 2 条 1 項 による。108なお、 同 条 約 では、 住 所 については、 裁 判 所 が 自 国 の 法 に 従 って 判 断 できるとしている(LugÜ 59 条 )。また、 常 居 所については、 扶 養 に 関 するハーグ 条 約 の 常 居 所 と 同 じ 意 義 ( 生 活 の 中 心 となっているところ)に 理 解 すべきものとされて25134


判 断 される 場 合 は、 離 婚 事 件 についてスイスの 国 内 法 (IPRG 63 条 1 項 ・59 条 )により 管轄 を 有 する 裁 判 所 に 訴 えることもできる 109 ( 同 5 条 2 号 )。スイス 国 際 私 法 によれば、まず、1 夫 婦 の 一 方 の 住 所 、 住 所 がない 場 合 は 常 居 所 が 管 轄原 因 となる(IPRG 46 条 )。さらに、2 夫 婦 の 双 方 がスイスに 住 所 も 常 居 所 も 有 さない 場 合でも、 夫 婦 の 一 方 がスイス 国 籍 を 有 するときは、 本 籍 地 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する( 同 47条 )。ただし、 夫 婦 の 一 方 が 外 国 に 住 所 または 常 居 所 を 有 するときは、そこに 訴 えまたは 申立 てをなすことが 可 能 でないまたは 期 待 できないことが 必 要 である。たとえば、 戦 争 や 自然 災 害 のために 外 国 の 裁 判 所 が 活 動 をしていない 場 合 ( 可 能 でない)、 宗 教 上 またはイデオロギー 上 の 理 由 からの 差 別 が 危 惧 される 場 合 ( 期 待 できない)が、これに 該 当 する。なお、離 婚 後 扶 養 は、 離 婚 の 付 随 的 効 果 として 離 婚 事 件 と 合 わせてあつかうことができる(IPRG63 条 1 項 )。ⅱ 外 国 判 決 の 承 認ルガノ 条 約 締 約 国 において 下 された 扶 養 に 関 する 判 決 は、そのまま 承 認 される(LugÜ 33条 1 項 )。ルガノ 条 約 の 締 約 国 でない 国 において 下 された 判 決 の 場 合 は、 夫 婦 の 一 方 の 住 所または 常 居 所 のある 国 でくだされたものであるときに、スイスで 承 認 される(IPRG 50 条 。もちろん、 承 認 に 関 する 他 の 一 般 的 要 件 も 具 備 することが 必 要 である) 110 。(2) 親 子 間 扶 養 ( 未 成 年 子 扶 養 )ⅰ 国 際 裁 判 管 轄(1)と 同 様 、ルガノ 条 約 によれば、 被 告 ( 親 )の 住 所 、 扶 養 権 利 者 ( 子 )の 住 所 ・ 常 居 所が 管 轄 原 因 となり、これらがスイスにあれば、スイスの 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 することになる(LugÜ 2 条 ・5 条 2 号 a)。さらに、 身 分 関 係 の 争 いに 附 帯 して 扶 養 事 件 があつかわれる 場 合 は、 前 者 について 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 が 扶 養 事 件 の 管 轄 権 も 有 する( 同 5条 2 号 c。ただし、 前 者 の 管 轄 権 が 当 事 者 の 一 方 の 国 籍 のみに 基 づく 場 合 (IPRG 67 条 )はこの 限 りでない)。スイス 国 際 私 法 によれば、 子 の 常 居 所 ・ 住 所 がスイスにあるとき、それらないときは 被告 となる 親 の 常 居 所 がスイスにあるとき、スイスの 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する(IPRG 79 条 )。 以 上 の 管 轄 原 因 を 欠 く 場 合 でも、 当 事 者 の 一 方 がスイス 国 籍 を 有 するときは、スイスの 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する( 同 80 条 )。ⅱ 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行ルガノ 条 約 締 約 国 において 下 された 扶 養 に 関 する 判 決 は、そのまま 承 認 される(LugÜ 33条 1 項 )。ルガノ 条 約 の 締 約 国 でない 国 において 下 された 判 決 の 場 合 、 子 が 常 居 所 を 有 する国 で 下 されたもの、または、 被 告 である 親 が 住 所 ・ 常 居 所 を 有 する 国 で 下 されたものであいる(Schnyder/Liatowitsch,Rz.989)。109よって、IPRG 59 条 の 法 廷 地 で 離 婚 がなされたときは、 当 該 裁 判 所 が、 他 の 締 約 国 に 住 所 を 有 する 元 配 偶 者 に 対 する 離婚 後 扶 養 事 件 についても、 管 轄 権 を 有 する。ただし、この 管 轄 権 が 当 事 者 の 国 籍 のみから 導 かれた 場 合 はこの 限 りでない(LugÜ 5 条 2 号 ただし 書 )。110なお、ルガノ 条 約 を 締 約 していない 国 の 判 決 についても、 扶 養 義 務 に 関 する 裁 判 及 び 執 行 に 関 する 条 約 (1973 年 )が妥 当 するときは、それによる。26135


るときは、スイスで 承 認 される(IPRG 84 条 1 項 。もちろん、 承 認 に 関 する 他 の 一 般 的 要件 も 具 備 することが 必 要 である)。(3) その 他 の 扶 養ルガノ 条 約 は 親 族 扶 養 も 含 めて 広 く 妥 当 するものである。ルガノ 条 約 が 妥 当 しない 場 合にはスイス 国 際 私 法 によることになるが、IPRG は 夫 婦 間 扶 養 ・ 親 子 間 扶 養 以 外 の 親 族 扶養 についての 規 律 を 欠 いている。そこで、ルガノ 条 約 と 同 様 に 考 えるようである 111 。112(h) 相 続 事 件ⅰ 国 際 裁 判 管 轄相 続 事 件 について、 二 国 間 協 定 はあるが 113 、ルガノ 条 約 は 原 則 として 適 用 されない 114 。国 際 法 の 規 律 が 妥 当 しない 場 合 には、スイスの 国 際 私 法 によって 国 際 裁 判 管 轄 権 が 定 まる。スイス 国 際 私 法 の 規 律 (IPRG 86~89 条 )の 基 本 原 則 は、 住 所 115 を 管 轄 原 因 とすること、 遺 産 を 統 一 的 に 取 り 扱 うこと、である 116 。 以 下 、 規 律 の 内 容 について 述 べる。まず、1 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 がスイスにあれば、 原 則 として、スイスの 裁 判 所 が 遺産 すべてについて 管 轄 権 を 有 する( 同 86 条 1 項 ) 117 。ただし、 外 国 にある 不 動 産 の 場 合 、当 該 所 在 国 がこれについて 専 属 管 轄 権 を 有 するとしているときは、それによる( 同 2 項 )。次 に、2 外 国 に 最 後 の 住 所 を 有 していたスイス 国 民 は、 遺 産 のすべてまたはスイスにある 自 己 の 財 産 について 118 、 本 籍 地 のスイスの 裁 判 所 の 管 轄 とすることができる( 同 87 条 2項 。ただし、 外 国 にある 不 動 産 については、この 限 りでない( 同 87 条 2 項 ただし 書 ・86条 2 項 ))。これには、そうする 旨 の 遺 言 ・ 相 続 契 約 が 必 要 となる 119 。また、 外 国 に 最 後 の住 所 を 有 していたスイス 国 民 120 の 遺 産 について、 外 国 の 官 庁 が 対 応 をしないときは 121 、 本111ZüricherK(Siehr)§79 Rz.11.112ある 裁 判 手 続 において 前 提 問 題 として 相 続 人 の 地 位 が 問 題 となる 場 合 、 当 該 裁 判 所 は、 相 続 事 件 についての 国 際 管 轄権 がなくても、この 点 について 判 断 をすることができる。ただし、 準 拠 法 が 前 提 問 題 について 特 別 の 手 続 に 留 保 しているときはこの 限 りでない(Siehr,S.157)。113たとえば、 遺 産 の 管 轄 権 は、イタリアとの 協 定 では 本 国 法 、アメリカとの 協 定 では 住 所 のある 国 ・ 遺 産 の 所 在 地 となっている。114同 1 条 2 項 1 号 。もっとも、 相 続 法 上 の 前 提 問 題 に 答 える 必 要 のある 民 事 ・ 商 事 事 件 については、 妥 当 する。なお、スイスは、 被 相 続 人 の 財 産 の 国 際 的 管 理 に 関 する 条 約 および 死 亡 による 財 産 の 相 続 の 準 拠 法 に 関 する 条 約 は、 批 准 していない。しかし、 遺 言 の 方 式 に 関 する 法 律 の 抵 触 に 関 する 条 約 は、スイス 国 際 私 法 93 条 1 項 で 参 照 を 指 示 されている。115なお、 住 所 を 有 しない 者 については、 住 所 の 代 わりに 常 居 所 による(IPRG 20 条 2 項 第 2 文 )。116BaslerK(Schnyder/Liatowitsch),Art.86.Rz.2.117相 続 事 件 は 財 産 法 的 性 格 も 併 せ 持 つ 点 で、 合 意 管 轄 ( 同 5 条 )・ 応 訴 管 轄 ( 同 6 条 )の 可 能 性 が 問 題 となる。 遺 産 に 関する 個 別 の 紛 争 について 合 意 管 轄 を 認 めるのでは、 遺 産 の 統 一 的 処 理 は 阻 害 されてしまうので、 合 意 管 轄 を 無 制 約 に 肯 定することはできないとされている(ZüricherK(Heini)Art.86.Rz.9)。そして、この 点 については、 利 害 関 係 人 全 員 の 合 意 がある 場 合 や 相 続 法 上 の 争 いが 他 の 遺 産 に 利 害 関 係 を 有 する 者 に 影 響 を 持 たない 場 合 に 限 り 許 されるとし、 他 方 、 被 相 続 人 の意 思 のみあるいは 相 続 契 約 のような 被 相 続 人 と 他 の 者 の 合 意 によって、 管 轄 の 指 定 を 認 めることには 疑 問 を 示 すものがある(BaslerK(Schnyder/Liatowitsch),Art.86.Rz.20・21)。118したがって 外 国 の 財 産 のみを 対 象 とすることはできない。119このような 被 相 続 人 の 遺 言 ・ 相 続 契 約 がない 場 合 において、 外 国 の 官 庁 が 当 該 遺 産 に 対 応 しないときは、スイスの 裁判 所 ・ 官 庁 が 補 充 的 に 管 轄 権 を 有 する(IPRG 87 条 1 項 )。この 補 充 的 管 轄 権 が 認 められないときでも、スイスの 官 庁 は、スイスにある 遺 産 について 保 全 処 分 をすることができる(89 条 )。なお、スイス 国 民 がスイスに 住 所 を 有 さないが、 外 国 に住 所 を 有 するか 否 かも 判 明 しないときには、この 補 充 的 管 轄 権 の 規 定 が 類 推 適 用 される(Schnyder/Liatowitsch,Rz.1044)。120スイスにも 外 国 にも 最 後 の 住 所 を 有 していなかったスイス 国 民 については、 本 文 12のいずれも 妥 当 しない。しかし、相 続 事 件 以 外 の 国 際 裁 判 管 轄 の 規 律 で 本 国 管 轄 を 認 める 規 定 は、 本 文 2のように 外 国 の 住 所 を 有 することは 要 求 せず、たんに 本 国 管 轄 を 認 めるものが 多 い(たとえば、IPRG 47 条 、 同 60 条 など)。そこで、スイスに 最 後 の 住 所 を 有 していなかったスイス 国 民 にも 87 条 1 項 の 適 用 を 認 める 解 釈 論 がある(BaslerK(Schnyder/Liatowitsch)Art.87 Rz.8)。121この 要 件 については、 外 国 住 所 地 の 官 庁 の 不 対 応 で 足 りるか、それとも 外 国 の 官 庁 すべての 不 対 応 を 要 するかが 議 論されている。なお、 外 国 の 裁 判 所 が、ある 財 産 を 手 続 の 対 象 としていない 場 合 も、ここでの 不 対 応 に 該 当 する。27136


籍 地 のスイスの 裁 判 所 の 管 轄 権 が 認 められる( 同 87 条 1 項 )。なお、3 外 国 に 最 後 の 住 所 を 有 していた 外 国 人 の 遺 産 122 については、スイスの 国 際 裁 判管 轄 権 は 認 められない。ただし、 外 国 の 官 庁 が、 法 的 ・ 事 実 的 な 理 由 から、スイスにある遺 産 について 対 応 しないときは、スイスの 裁 判 所 ・ 官 庁 が 補 充 的 に 管 轄 権 を 有 する( 同 88条 1 項 ) 123 。この 補 充 的 管 轄 権 が 認 められないときでも、スイスの 官 庁 は、スイスにある遺 産 について 保 全 処 分 をすることができる( 同 89 条 。 同 10 条 の 特 則 であり、 要 件 が 緩 和されている)。ⅱ 外 国 の 判 決 ・ 処 分 の 承 認相 続 事 件 に 関 する 外 国 の 判 決 ・ 処 分 は、1 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 のあった 国 、または 被相 続 人 が 選 択 した 法 の 国 で 下 されたものであるとき、21に 該 当 する 国 で 承 認 されるとき、3 不 動 産 に 関 するものである 場 合 は、 当 該 不 動 産 の 所 在 地 国 で 下 されたものであるとき、または 当 該 国 で 承 認 されるとき、スイスでも 承 認 される(IPRG 96 条 1 項 ) 124 。123の間 には 優 劣 関 係 はないが、 不 動 産 については、 不 動 産 の 所 在 地 国 が 当 該 不 動 産 について 専属 管 轄 としているときは、 当 該 国 の 判 決 ・ 処 分 のみが 承 認 される( 同 2 項 )。さらに、 被 相 続 人 の 財 産 の 所 在 地 国 においてなされた 保 全 処 分 は、スイスでも 承 認 される( 同 3 項 )。125(i) 氏氏 の 変 更 については、 申 立 人 の 住 所 地 のスイスの 官 庁 が 管 轄 を 有 する(IPRG 38 条 1 項 )。また、スイスに 住 所 を 有 さないスイス 国 民 は、その 者 の 本 籍 のある 州 (Kanton)の 官 庁 に、氏 および 名 の 変 更 を 求 めることができる( 同 2 項 )。もっとも、 外 国 人 がスイスで 氏 名 の 変更 をするときは、スイス 法 に 基 づく 変 更 が 本 国 でも 承 認 されない 可 能 性 がある。3. 外 国 裁 判 の 承 認 ・ 執 行 制 度(1) 外 国 の 判 決 ・ 非 訟 裁 判 の 承 認 ・ 執 行 の 要 件外 国 判 決 の 承 認 ・ 決 定 の 承 認 の 一 般 的 要 件 は、 以 下 の 通 りである(IPRG 25 条 a~c 号 )。1 判 決 ・ 決 定 が 下 された 国 の 裁 判 所 または 官 庁 が 管 轄 権 を 有 していたこと、かつ、2 判 決 ・決 定 に 対 して 通 常 の 異 議 申 立 てができなくなっていること、または、 判 決 ・ 決 定 が 終 局 的であること、かつ、3 第 27 条 の 拒 絶 事 由 が 存 在 しないこと。通 常 、 外 国 判 決 の 承 認 には 特 別 の 手 続 を 要 しない。 裁 判 所 ・ 官 庁 は、 外 国 判 決 の 国 内 における 効 力 が 問 題 となる 場 合 、たとえば 事 件 の 前 提 として 問 題 となっている 場 合 、 承 認 について 判 断 することができる( 同 29 条 3 項 )。(2) 外 国 保 全 処 分 の 承 認 ・ 執 行 の 可 能 性この 点 に 関 して、 判 例 の 立 場 は 統 一 されておらず、 学 説 上 も 見 解 の 対 立 がある 126 。なお、ここでいう 遺 産 には、スイスに 所 在 する 不 動 産 も 含 まれる。スイス 国 内 の 複 数 の 場 所 に 遺 産 があるときは、 最 初 に 対 応 した 裁 判 所 ・ 官 庁 が 管 轄 権 を 有 する(IPRG 88 条 2 項 )。さらに、 外 国 判 決 の 承 認 に 関 する 一 般 的 要 件 も 具 備 する 必 要 がある。スイス 国 際 私 法 は、 氏 を 人 格 権 に 属 するものと 把 握 する。そして、IPRG 37 条 は 身 分 関 係 の 変 動 に 伴 って 生 じる 氏 の 変更 に 関 する 準 拠 法 の 決 定 を 規 律 し、 同 38 条 は 意 思 に 基 づく 氏 名 の 変 更 に 関 する 管 轄 と 準 拠 法 決 定 を 規 律 する。12212312412528137


相 続 事 件 については、 例 外 的 に 外 国 の 保 全 処 分 をスイスで 承 認 する 旨 の 規 定 が 置 かれている( 同 96 条 3 項 )。これに 対 して、ルガノ 条 約 が 妥 当 する 場 合 には、 一 定 の 要 件 の 下 で、 外 国 の 保 全 処 分 も承 認 される。これは、ルガノ 条 約 32 条 における 外 国 判 決 の 承 認 の 対 象 たる「 判 決 」に 保 全処 分 も 含 まれるとされていることによる 127 。たとえば、 扶 養 費 についての 仮 の 支 払 命 令 がこれに 該 当 する。*スイス 国 際 私 法 ( 奥 田 訳 以 後 、 条 文 に 変 更 のあったもの)8a 条 (2011 年 1 月 1 日 より)第 1 項訴 えが、 本 法 にしたがいスイスで 訴 えを 提 起 されうる 複 数 の 共 同 訴 訟 人 に 対 するものであるときは、 被 告 の 一 人について 管 轄 権 を 有 するスイスの 裁 判 所 がすべての 被 告 についての 管 轄 権 を 有 する。第 2 項本 法 にしたがいスイスで 訴 えを 提 起 されうる 複 数 の 請 求 が 一 人 の 被 告 に 対 するものであり、かつ 相 互 に 実 質 的 な関 連 を 有 するときは、これらの 請 求 の 一 つについて 管 轄 権 を 有 するスイスの 裁 判 所 のいずれもが 管 轄 権 を 有 する。10 条 (2011 年 1 月 1 日 より) 保 全 処 分 の 命 令 について 管 轄 権 を 有 するのは、a. 本 案 について 管 轄 権 を 有 するスイスの 裁 判 所 または 官 庁 、または、b. 当 該 命 令 を 執 行 すべき 地 のスイスの 裁 判 所 または 官 庁 、である。126127Walter,S.388・522. 否 定 説 は、IPRG 25 条 1 項 b 号 の 終 局 性 (endgültig) 要 件 を 欠 くことを 理 由 とするようである。Walter,S.429・523.29138


3. フランス( 執 筆 担 当 : 慶 應 義 塾 大 学 北 澤 安 紀 )1. 総 説フランスの 人 事 ・ 家 事 事 件 にかかる 国 際 裁 判 管 轄 及 び 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 に 関 する法 制 度 には、EU の 条 約 や 規 則 に 由 来 するもの( 国 際 的 法 源 )と 国 内 法 に 由 来 するもの( 国 内 的 法 源 )とがある。そこで、 以 下 では、まず、フランスにおいて 適 用 されている EU 法 について 概 観 した 上 で 1 、それらと 補 完 関 係 にある、 国 内 法 の 状 況 について説 明 する。欧 州 連 合 (EU)は、 欧 州 経 済 共 同 体 (ECC)をその 前 進 とする。 欧 州 経 済 共 同 体 (ECC)は、1957 年 3 月 25 日 に、フランスを 含 む6カ 国 2 によって 調 印 された「 欧 州 経 済 共 同体 の 創 設 を 定 めるローマ 条 約 」によって 創 設 され、この 条 約 は、 加 盟 国 における 判 決の 相 互 承 認 と 執 行 にかかる 手 続 の 簡 素 化 を 目 標 の1つに 掲 げていた( 同 条 約 220 条 を参 照 )。それを 受 けて、1968 年 9 月 27 日 、「 民 事 及 び 商 事 事 件 に 関 する 裁 判 管 轄 及 び判 決 の 執 行 に 関 する 条 約 ( 以 下 、「ブリュッセル 条 約 」という) 3 」が 署 名 、 批 准 された 後 、1973 年 2 月 1 日 に 発 効 した。ブリュッセル 条 約 は、 欧 州 共 同 体 構 成 国 間 における 裁 判 管 轄 規 則 及 び 外 国 判 決 の 承 認 に 関 する 手 続 の 統 一 及 び 簡 素 化 を 目 指 して 締 結 されたものである。 一 方 、1960 年 5 月 3 日 にイギリスが 中 心 となって 設 立 された、 欧 州自 由 貿 易 連 合 (EFTA)には、 欧 州 経 済 共 同 体 の 枠 外 の 欧 州 諸 国 が 加 盟 していたが、1973年 には、デンマーク、 連 合 王 国 が、1986 年 には、ポルトガルが、 欧 州 共 同 体 (EC)への 加 盟 に 伴 い、 欧 州 自 由 貿 易 連 合 (EFTA)を 脱 退 し 4 、 欧 州 共 同 体 (EC) 加 盟 国 はさらに 増 えた。ブリュッセル 条 約 は、 共 同 体 に 加 盟 したと 同 時 に 適 用 されるわけではく、それが 適 用 されるためには、 個 別 の 決 定 が 必 要 となる。 欧 州 共 同 体 (EC)は、デンマーク、アイルランド 及 び 連 合 王 国 の 共 同 体 加 盟 に 伴 い、1978 年 10 月 9 日 にルク1 EU における 国 際 裁 判 管 轄 規 則 の 生 成 、 発 展 については、 例 えば、 小 梁 吉 章 「 家 族 関係 事 件 の 国 際 的 訴 訟 競 合 とブラッセル2bis」 広 島 法 科 大 学 院 論 集 5 号 (2009 年 )37頁 以 下 を 参 照 。2 ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダ。3 Convention de Bruxelles du 27 septembre 1968, concernant la compétence judiciaire etl'exécution des décisions en matière civile et commerciale. ブリュッセル 条 約 については、中 西 康 「 民 事 及 び 商 事 事 件 における 裁 判 管 轄 及 び 裁 判 の 執 行 に 関 するブリュッセル 条約 ( 一 )( 二 ・ 完 )」 民 商 法 雑 誌 122 巻 3 号 426 頁 、 同 122 巻 4=5 号 712 頁 を 参 照 。4 1995 年 には、オーストリア、スウェーデン、フィンランドが、 欧 州 共 同 体 (EC)への 加 盟 に 伴 い、 欧 州 自 由 貿 易 連 合 (EFTA)を 脱 退 した。1139


センブルクで3カ 国 の 加 入 条 約 (1978 年 加 入 条 約 ) 5 に 署 名 し、それらの 国 々との 間でも、ブラッセル 条 約 が 適 用 されることとなった。また、ギリシャの 共 同 体 加 盟 に 伴い、1982 年 には、ギリシャの 加 入 条 約 (1982 年 加 入 条 約 ) 6 がルクセンブルクで 署 名され、ギリシャとの 間 でも、ブラッセル 条 約 が 適 用 されることとなった。さらに、スペインとポルトガルの 共 同 体 加 盟 に 伴 い、これら2カ 国 の 加 入 条 約 (1989 年 加 入 条 約 )7 が 1989 年 5 月 26 日 にサン・セバスチャンで 署 名 され、これら2カ 国 との 間 でも、ブラッセル 条 約 が 適 用 されることとなった。その 後 、 欧 州 共 同 体 (EC)は、1988 年 9月 16 日 、 当 時 欧 州 自 由 貿 易 連 合 (EFTA)に 加 盟 していた6カ 国 との 間 で、ブリュッセル 条 約 を 模 し、 欧 州 自 由 貿 易 連 合 (EFTA) 構 成 国 を 取 り 込 む 形 で、「 民 事 及 び 商 事事 件 に 関 する 裁 判 管 轄 及 び 判 決 の 執 行 に 関 するルガノ 条 約 ( 以 下 、「ルガノ 条 約 」という) 8 」を 締 結 した。1996 年 11 月 29 日 、オーストリア、フィンランド 及 びスウェーデンの 欧 州 連 合 (EU) 加 盟 に 伴 い、これら3カ 国 の 加 入 条 約 (1996 年 加 入 条 約 ) 9 が署 名 され、これらの 国 々との 間 でも、ブリュッセル 条 約 が 適 用 されることとなった。1992 年 7 月 29 日 に 欧 州 連 合 条 約 ( 以 下 、「マーストリヒト 条 約 」という)が 締 結 されたことから、 欧 州 共 同 体 (EC)は、 欧 州 連 合 (EU)となった。 欧 州 連 合 (EU)においては、1999 年 5 月 のアムステルダム 条 約 の 発 効 後 、EU 域 内 における 民 事 司 法 協力 に 関 する 立 法 権 限 が 欧 州 共 同 体 に 付 与 されたことから、EC 規 則 による 域 内 での 国際 私 法 および 国 際 民 事 手 続 法 の 統 一 については、かなりの 進 展 がみられる(ただし、デンマークを 除 く) 10 。2000 年 12 月 22 日 には、「 民 事 及 び 商 事 事 件 における 裁 判 管 轄及 び 判 決 の 承 認 及 び 執 行 に 関 する 2000 年 12 月 22 日 の 理 事 会 規 則 (EC)44/2001( 以下 、「ブリュッセルⅠ 規 則 」という) 11 」が 成 立 し、2002 年 3 月 1 日 に 発 効 した(ただ5 JOCE 1978 L 304, p. 1.6 JOCE 1982 L 388, p. 1.7 JOCE 1989 L 285, p. 1.8 Convention de Lugano du 16 septembre 1988, concernant la compétence judiciaire etl'exécution des décisions en matière civile et commerciale. ルガノ 条 約 については、 関 西 国際 民 事 訴 訟 法 研 究 会 「 民 事 及 び 商 事 に 関 する 裁 判 管 轄 並 びに 判 決 の 執 行 に 関 するルガノ 条 約 公 式 報 告 書 〔 全 訳 〕」 国 際 商 事 法 務 29 巻 4 号 484 頁 を 参 照 。なお、ルガノ 条 約については、2007 年 10 月 30 日 に 改 正 条 約 が 採 択 されているが、 現 時 点 では 未 発 効 である。9 JOCE 1997 C 15, p. 1.10 それらの 動 きについて、 詳 しくは、 中 西 康 「アムステルダム 条 約 後 の EU における国 際 私 法 ― 欧 州 統 合 と 国 際 私 法 についての 予 備 的 考 察 ―」 国 際 法 外 交 雑 誌 100 巻 4 号535 頁 以 下 (2001), 西 谷 祐 子 「ハーグ 国 際 私 法 会 議 のこれから」 東 北 法 学 会 会 報 23 号1 頁 以 下 (2005) 等 を 参 照 。11 Règlement (CE) No. 44/2001 du 22 décembre 2000, concernant la compétence judiciaire, la2140


し、デンマークは 加 入 していない)。 同 規 則 は、 前 述 のブリュッセル 条 約 の 趣 旨 を 受 け継 ぎながら、それを 一 部 改 正 、 規 則 化 したものであり、 財 産 関 係 事 件 に 関 する 裁 判 管轄 及 び 外 国 判 決 の 承 認 執 行 について 定 めたものである。 続 く、2004 年 4 月 21 日 には、欧 州 債 務 名 義 に 関 する 欧 州 理 事 会 規 則 805/2004 12 が 成 立 し、2003 年 1 月 21 日 に 発 効 した。このように 財 産 関 係 事 件 の 裁 判 管 轄 及 び 外 国 判 決 の 承 認 執 行 については、 欧 州 内での 規 則 の 整 備 が 進 められており、フランスで 財 産 関 係 事 件 の 裁 判 管 轄 及 び 外 国 判 決の 承 認 執 行 が 問 題 となる 場 合 には、それらの 規 則 を 適 用 し、 事 案 を 処 理 している。その 一 方 で、 欧 州 連 合 (EU)においては、 人 事 ・ 家 事 事 件 にかかる 民 事 訴 訟 手 続 についても 規 則 の 整 備 が 進 められている。その 進 展 は、 財 産 関 係 事 件 に 関 する 国 際 裁 判管 轄 及 び 外 国 判 決 の 承 認 執 行 に 関 する 規 則 の 整 備 に 比 べれば、 緩 やかなものであった。すでに、1980 年 5 月 20 日 には、「 子 の 監 護 に 関 する 裁 判 の 承 認 執 行 及 び 子 の 監 護 の 回復 に 関 するルクセンブルク 条 約 ( 以 下 、「ルクセンブルク 条 約 」という) 13 」が 締 結され、 国 境 を 越 えて 生 じる 子 の 監 護 及 び 子 の 奪 取 に 関 する 裁 判 の 承 認 執 行 についての規 定 が 設 けられている。欧 州 連 合 (EU)では、1992 年 のマーストリヒト 条 約 の 規 定 が、 民 事 における 司 法共 助 のための 制 度 の 確 立 を 加 盟 国 に 求 めていたことから( 同 条 約 、K. 3 条 参 照 )、1998年 5 月 28 日 、 人 事 ・ 家 事 事 件 に 関 する 裁 判 管 轄 及 び 外 国 判 決 の 承 認 執 行 に 関 する 欧 州理 事 会 協 定 14 が 成 立 し、 欧 州 理 事 会 は、 加 盟 国 に 対 して、 国 内 法 に 従 いこの 協 定 を 受け 入 れるよう 勧 告 した。この 協 定 は、 離 婚 、 別 居 、 婚 姻 無 効 の 訴 えに 関 する 民 事 手 続及 びこれらの 手 続 の 当 事 者 間 の 子 に 対 する 親 責 任 に 関 する 民 事 手 続 の 裁 判 管 轄 及 び 他reconnaissance et l'exécution des décisions en matière civile et commerciale, JOCE L 12, p. 1.ブリュッセルⅠ 規 則 については、 中 西 康 「 民 事 及 び 商 事 事 件 における 裁 判 管 轄 及 び 裁判 の 執 行 に 関 する 2000 年 12 月 22 日 の 理 事 会 規 則 (EC)44/2001(ブリュッセルⅠ 規則 )〔 上 〕〔 下 〕」 国 際 商 事 法 務 30 巻 3 号 311 頁 、 同 30 巻 4 号 465 頁 、 関 西 国 際 民 事 訴訟 法 研 究 会 「 民 事 及 び 商 事 事 件 に 関 する 裁 判 管 轄 及 び 裁 判 の 承 認 及 び 執 行 に 関 する 理事 会 規 則 (EC)についての 提 案 (ブラッセル 規 則 についての 提 案 )」 国 際 商 事 法 務 31巻 2 号 251 頁 を 参 照 。12 Règlement n°. 805/2004 du Parlement européen et du Conseil, du 21 avril 2004, portantcréation d'un titre exécutoire européen pour les créances incontestées. 同 規 則 は、 債 務 者 が 異議 を 述 べない 債 権 については、 加 盟 国 裁 判 所 の 債 務 名 義 の 効 果 を 他 の 加 盟 国 においても 承 認 、 執 行 することを 認 めている。13 European Convention on Recognition and Enforcement of Decisions concerning Custody ofChildren and on Restoration of Custody of Children, Luxembourg, 20.5.1980.14 Acte du Conseil du 28 mai 1998 établissant, sur la base de l'article K. 3 du traité sur l'Unioneuropéenne, la convention concernant la compétence, la reconnaissance et l'exécution desdécisions en matière matrimoniale. JO n°C221 du 16 juillet 1998, p. 1.3141


の 加 盟 国 の 裁 判 所 が 行 った 判 決 等 の 承 認 執 行 について 定 めたものである。そして、2000年 5 月 29 日 、この 協 定 を 一 部 修 正 した「 婚 姻 及 び 婚 姻 当 事 者 間 の 子 に 対 する 親 責 任 に関 する 事 件 の 裁 判 管 轄 及 び 判 決 の 承 認 執 行 に 関 する 理 事 会 規 則 1347/2000( 以 下 、「ブリュッセルⅡ 規 則 」という) 15 」が 制 定 され、2001 年 3 月 1 日 に 施 行 された。ブリュッセルⅡ 規 則 については、 離 婚 後 に 親 が 子 に 面 会 する 権 利 についても 規 則 に加 えるべきであるとのフランス 政 府 の 提 案 や、 同 規 則 が 離 婚 等 についての 有 責 配 偶 者の 責 任 を 扱 っていないという 批 判 があったことから、 同 規 則 は 改 正 され、2003 年 11月 27 日 、「 理 事 会 規 則 1347/2000 を 廃 止 する、 婚 姻 及 び 親 責 任 に 関 する 事 件 の 裁 判 管轄 及 び 判 決 の 承 認 執 行 に 関 する 2003 年 11 月 27 日 の 理 事 会 規 則 2201/2003( 以 下 、「ブリュッセル IIbis 規 則 」という) 16 」が 制 定 され、2005 年 3 月 1 日 に 施 行 された。ブリュッセル IIbis 規 則 は、 離 婚 、 法 定 別 居 及 び 婚 姻 無 効 のほか、 親 責 任 ( 親 権 又 は 監護 権 )の 帰 属 、 行 使 、 委 託 、 制 限 又 は 終 了 をめぐる 争 いについて( 同 規 則 1 条 1 項 2項 参 照 )、EU 域 内 での 国 際 裁 判 管 轄 及 び 裁 判 の 承 認 執 行 について 定 めたものである。また、2008 年 12 月 18 日 には、「 扶 養 義 務 に 関 する 事 件 の 裁 判 管 轄 、 準 拠 法 及 び 判 決の 承 認 執 行 及 び 協 力 に 関 する 理 事 会 規 則 4/2009( 以 下 、「 扶 養 義 務 規 則 」という) 17 」が 成 立 している。このように、 欧 州 連 合 (EU)は、 人 事 ・ 家 事 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 及び 外 国 判 決 の 承 認 執 行 についても、 規 則 の 整 備 を 着 実 に 進 めており、 今 後 は、EU 相続 規 則 案 18 19,EU 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 及 び EU 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 20 、等 が 採 択 される 予 定 である。15 Règlement no. 1347/2000 du Conseil du 29 mai 2000 relatif à la compétence, lareconnaissance et l'exécution des décisions en matière matrimoniale et en matière deresponsabilité parentale des enfants communs. JO n°L160 du 30 juin 2000, p. 19.16 Règlement (CE) n°2201/2003 du Conseil du 27 novembre 2003 relatif à la compétence, lareconnaissance et l'exécution des décisions en matière matrimoniale et en matière deresponsabilité parentale abrogeant le règlement (CE) n°1347/2000. JO n°L 338 du 23décembre 2003, p. 1.17 Council Regulation (EC) No 4/2009 of 18 December 2008 on jurisdiction, applicable law,recognition and enforcement of decisions and cooperation in matters relating to maintenanceobligations, O.J. 2009, L 7/1.18 Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on jurisdiction,applicable law, recognition and enforcement of decisions and authentic instruments in mattersof succession and the creation of a European Certificate of Succession, 14.10.2009,COM(2009)154 final.19 Proposal for a Council Regulation on jurisdiction, applicable law and the recognition andenforcement of decisions in matters of matrimonial property regimes, 16.3.2011, COM(2011)126 final.20 Proposal for a Council Regulation on jurisdiction, applicable law and the recognition andenforcement of decisions regarding the property consequences of registered partnerships,4142


フランスの 人 事 ・ 家 事 事 件 にかかる 国 際 裁 判 管 轄 及 び 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 に 関 する法 制 度 についての 国 際 的 法 源 といえば、 以 上 のような EU 法 上 の 条 約 や 規 則 があるほか、ハーグ 国 際 私 法 会 議 関 係 の 諸 条 約 が 法 源 とされる 場 合 もある。例 えば、フランスが 批 准 している 人 事 ・ 家 事 事 件 に 関 するハーグ 国 際 私 法 会 議 関 係の 諸 条 約 としては、1954 年 の「 民 事 訴 訟 手 続 に 関 する 条 約 」、1961 年 の「 未 成 年 者 の保 護 に 関 する 機 関 の 管 轄 並 びに 準 拠 法 に 関 する 条 約 」,1980 年 の「 国 際 的 な 子 の 奪 取の 民 事 面 に 関 する 条 約 」、1993 年 の「 国 際 養 子 縁 組 に 関 する 子 の 保 護 及 び 協 力 に 関 する 条 約 」、1996 年 の「 親 責 任 及 び 子 の 保 護 措 置 に 関 する 管 轄 権 、 準 拠 法 、 承 認 、 執 行及 び 協 力 に 関 する 条 約 」、2000 年 の「 成 年 者 の 国 際 的 保 護 に 関 する 条 約 」、1956 年 の「 子 に 対 する 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 する 条 約 」、1958 年 の「 子 に 対 する 扶 養 義 務 に 関する 決 定 の 承 認 及 び 執 行 に 関 する 条 約 」、1973 年 の「 扶 養 義 務 に 関 する 決 定 の 承 認 及び 執 行 に 関 する 条 約 」、「 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 する 条 約 」、2007 年 の「 子 の 養 育 費その 他 の 親 族 の 扶 養 料 の 国 際 的 な 回 収 に 関 する 条 約 」(ただし、 同 条 約 については、批 准 ではなく 署 名 )、 同 年 の「 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 する 議 定 書 」 等 がある 21 。このほか、 国 際 裁 判 管 轄 及 び 外 国 判 決 の 承 認 執 行 に 関 する 事 項 で、フランスが 他 国と 締 結 した 二 国 間 条 約 も 複 数 存 在 し、それらが 法 源 とされる 場 合 もある 22 。このような 国 際 的 法 源 が 規 律 していない 事 項 については、フランスの 国 内 法 上 の、人 事 ・ 家 事 事 件 にかかる 国 際 裁 判 管 轄 及 び 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 に 関 するルールを 適 用し、 問 題 を 処 理 している。 例 えば、 前 述 のブリュッセル IIbis 規 則 は、 離 婚 、 法 定 別居 及 び 婚 姻 無 効 のほか、 親 責 任 ( 親 権 又 は 監 護 権 )の 帰 属 、 行 使 、 委 託 、 制 限 又 は 終了 をめぐる 争 いについて( 同 規 則 1 条 1 項 2 項 参 照 )、EU 域 内 での 国 際 裁 判 管 轄 及び 裁 判 の 承 認 執 行 について 定 めたものであるが、 親 子 関 係 の 創 設 及 び 異 議 、 養 子 縁 組 、子 の 氏 名 、 親 権 又 は 後 見 からの 解 放 (émancipation)、 扶 養 義 務 、 信 託 と 相 続 、 子 による 犯 罪 等 については、ブリュッセルⅡbis 規 則 の 適 用 範 囲 外 である( 同 規 則 1 条 3 項 参照 )。そのため、これらの 事 項 が 問 題 となる 場 合 には、フランスの 国 内 法 上 の 規 律 に 従わなければならない。Brussels, 16.3.2011, COM(2011) 127 final.21 フランスのハーグ 条 約 批 准 状 況 については、ハーグ 国 際 私 法 会 議 ホームページ(http://www.hcch.net/)を 参 照 。22 それらの 条 約 については、 例 えば、Mayer et Heuzé, Droit international privé, 10è éd,2010, p. 342 et suiv.を 参 照 。5143


フランスでは、 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 個 別 の 立 法 は 存 在 せず、 原 則 として、 国 内 の土 地 管 轄 の 規 定 を 国 際 的 平 面 に 拡 張 し、 適 用 してきた。そのため、フランス 民 法 典 やフランス 新 民 事 訴 訟 法 典 (Nouveau Code de procédure civile: 以 下 、NCPC という)や 司法 組 織 法 典 (Code de l’organisation judiciaire) 中 には、 国 際 裁 判 管 轄 及 び 外 国 判 決 の 承認 執 行 の 際 に 適 用 される 規 定 が 幾 つか 存 在 するが、それらについては、 以 下 でもう 少し 詳 しく 述 べる。2. 国 際 裁 判 管 轄 全 般(1) 管 轄 原 因 ; 管 轄 の 専 属 性 の 有 無 ; 附 帯 処 分 ; 主 観 的 併 合 , 応 訴 管 轄 , 合 意 管轄 , 緊 急 管 轄 の 可 否 ほかフランスでは、 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 個 別 の 立 法 は 存 在 しない。そのため、フランスの 判 例 及 び 通 説 的 見 解 は、 国 内 の 土 地 管 轄 を 決 定 する 際 に 用 いられる 基 準 を 国 際 的平 面 に 拡 張 、 転 用 することで、 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 決 定 してきた 23 。この 一 般 原 則に 加 え、フランス 民 法 典 14 条 及 び 15 条 に 基 づく、 本 国 管 轄 が 認 められている。そこで、 以 下 では、1 管 轄 の 共 通 原 則 ( 国 内 土 地 管 轄 規 定 の 拡 張 及 び 転 用 )、2フランス 国籍 に 基 づく 管 轄 (フランス 民 法 典 14 条 及 び 15 条 )3 規 定 は 存 在 しないが、 国 内 法 から 直 接 導 き 出 される 管 轄 ( 緊 急 管 轄 を 含 む)について 説 明 する。1 管 轄 の 共 通 原 則 ( 国 内 土 地 管 轄 規 定 の 拡 張 及 び 転 用 )・ 原 則フランスの 判 例 は、 国 内 の 土 地 管 轄 を 決 定 する 際 に 用 いられる 基 準 を 国 際 的 平 面 に拡 張 (extention)、 転 用 することで、 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 決 定 してきた 24 。もっとも、この「 拡 張 」という 表 現 については、 国 内 の 土 地 管 轄 規 定 を 何 らの 変 更 なしに 厳 格 に国 際 裁 判 管 轄 の 基 準 として 用 いることを 意 味 しかねないため、フランスの 学 者 の 中 には、「 拡 張 」という 用 語 ではなく、あえて、 国 内 土 地 管 轄 規 定 の 国 際 的 平 面 への「 置 換(transposition)」という 用 語 を 用 いるものが 多 い 25 。フランス 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 の決 定 基 準 としての、 国 内 土 地 管 轄 規 定 の 転 用 は、1948 年 6 月 21 日 の Patinõ 事 件 にお23 この 点 について 指 摘 するものとして、 池 原 季 雄 「 国 際 的 裁 判 管 轄 」『 新 ・ 実 務 民 事訴 訟 法 講 座 7( 国 際 民 事 訴 訟 法 ・ 会 社 訴 訟 )』(1982 年 )10 頁 以 下 がある。24 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 206.25例 えば、Simon-Depitre, Rev. crit. DIP, 1965, p. 710, Bourel, Rev. crit. DIP, 1971, p. 288.6144


26ける 破 毀 院 民 事 部 判 決 中 にも 見 出 されるが、「 管 轄 に 関 するフランスの 国 内 規 則 の 国際 的 秩 序 への 拡 張 」という 原 則 を 破 毀 院 が 明 確 に 打 ち 出 したのは、1959 年 10 月 19 日の Pelassa 事 件 における 民 事 部 判 決 27 においてであるといわれる 28 。その 後 、この 原 則は、1962 年 10 月 30 日 の Scheffel 事 件 における 破 毀 院 民 事 部 判 決 29 においても 繰 り 返された。 判 例 によれば、 国 内 の 土 地 管 轄 規 則 は 国 際 裁 判 管 轄 規 則 と 一 致 し、「 被 告 の 住所 地 の 裁 判 所 が 管 轄 を 有 する」との 国 内 の 土 地 管 轄 規 則 は、「フランスの 裁 判 秩 序 は、被 告 がフランスに 住 所 を 有 するときに、 管 轄 を 有 する」との 国 際 裁 判 管 轄 規 則 に 対 応する 30 。 同 様 に、 不 動 産 に 関 しては、 不 動 産 所 在 地 の 裁 判 所 が 管 轄 を 有 するとの 国 内土 地 管 轄 規 則 は、 不 動 産 がフランスに 所 在 する 場 合 には、フランスの 裁 判 所 が 管 轄 を有 するという 国 際 裁 判 管 轄 規 則 であると 理 解 することになる。また、 国 際 裁 判 管 轄 を決 定 する 基 準 としての、 例 えば、「 住 所 」 概 念 は、 内 国 の 立 法 者 が「 住 所 」 概 念 に 与 えた 意 味 においてそれを 理 解 しなければならず、 民 法 典 102 条 以 下 の 規 定 に 従 い、 住 所概 念 を 決 定 すべきであると 解 されている 31 。それらの 民 法 典 の 規 定 によれば、 全 てのフランス 人 の 住 所 (domicile)は、その 民 事 上 の 権 利 の 行 使 に 関 しては、その 者 がその本 拠 (principal établissement)を 有 する 地 にあるとされ( 民 法 典 102 条 1 項 )、 住 所 の変 更 は、 他 の 地 にその 本 拠 を 定 める 意 図 を 伴 って 現 実 に 居 住 することによって 行 われる( 民 法 典 103 条 )。 夫 及 び 妻 は、 生 活 の 共 同 (communauté de la vie)に 関 する 規 則 を侵 害 することにはならずに、 別 個 の 住 所 を 有 することができる( 民 法 典 108 条 1 項 )。また、 解 放 されない 未 成 年 者 は、その 父 母 の 下 に 住 所 を 有 し( 民 法 典 108 条 の 2、1項 )、 父 母 が 別 個 の 住 所 を 有 する 場 合 には、 親 のうちその 者 が 居 所 を 共 にする 者 のもとに 住 所 を 有 する( 民 法 典 108 条 の 2、2 項 )。また、 相 続 に 関 して、 相 続 が 開 始 する 地(lieu)は、 住 所 (domicile)によって 決 定 される( 民 法 典 110 条 )。このような、フランス 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 基 準 として、 判 例 により 採 用 されてきた、 国 際 裁 判 管 轄 を 土 地 管 轄 であると 位 置 づけ、 国 際 裁 判 管 轄 規 則 は、 国 内 の26 Cass. civ. 21 juin 1948: Rev. crit. DIP, 1949, p. 557, note Francescakis.27 Cass. civ. 19 oct. 1959: Rev. crit. DIP, 1960, p. 215, note Y. L., D. 1960.37, note Holleaux.28 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 206.29 Cass. civ. 30 oct. 1962: Rev. crit. DIP, 1963, p. 387, note Francescakis, Ancel et Lequette,Les grands arrêts de la jurisprudence française de droit international privé, 5e éd, 2006, n° 37.同 判 決 については、 矢 澤 曻 治 『フランス 国 際 民 事 訴 訟 法 の 研 究 』( 創 文 社 ・1995 年 )85 頁 以 下 を 参 照 。30 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 206.31前 述 の Patinõ 事 件 における 破 毀 院 民 事 部 判 決 (Cass. civ. 21 juin 1948: Rev. crit. DIP,1949, p. 557, note Francescakis.)における 住 所 の 決 定 を 参 照 。 判 例 のこのような 立 場 に言 及 するものとして、Mayer et Heuzé, op. cit., p. 206.7145


土 地 管 轄 規 則 と 一 致 するという、いわゆる 二 重 機 能 説 の 立 場 に 対 しては、 学 説 は、 特にその 国 際 裁 判 管 轄 の 性 質 の 理 解 をめぐり、 様 々な 疑 問 を 提 示 してきた 32 。その 結 果 、今 日 では、 判 例 及 び 通 説 的 見 解 は、 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 については、 原 則 として、 国内 の 土 地 管 轄 規 定 を 国 際 的 な 平 面 に 拡 張 するが、 国 内 土 地 管 轄 の 基 準 が 国 際 的 な 訴 訟の 特 殊 性 に 適 合 しない 場 合 には、 例 外 的 に、その 原 則 は 排 除 されると 考 えている 33 。・ 原 則 の 適 用以 下 では、まず、 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 基 準 として 用 いられている、 国 内 の 土 地 管 轄の 規 定 について 説 明 する。まず、 全 ての 裁 判 所 に 共 通 する 管 轄 の 基 本 原 則 として、NCPC42 条 の 土 地 管 轄 の 規定 を 挙 げることができる。 同 条 は、「 訴 えは 被 告 の 裁 判 籍 にしたがう(actor sequiturforum rei)」との 準 則 に 立 脚 するものであり、「 土 地 の 管 轄 をもつ 裁 判 所 は、 反 対 の 規定 のない 限 り、 被 告 の 居 住 地 (lieu où demeure le défendeur)の 裁 判 所 である。 被 告 が複 数 の 場 合 には、 原 告 は、その 選 択 により、 被 告 の 1 人 の 居 住 地 の 裁 判 所 に 訴 えを 提起 することができる。〔 略 〕」と 規 定 している。 続 く NCPC43 条 は、「 被 告 の 居 住 地とは、 次 のものを 指 す。 自 然 人 については、その 者 の 住 所 地 、 又 は、それがなければ、その 者 の 居 住 地 。 法 人 については、その 設 立 地 。」と 定 める。この2 箇 条 から 導 き 出しうる 国 際 裁 判 管 轄 の 基 本 原 則 は、まず、「 自 然 人 である 被 告 がフランスに 住 所 を 有 する 場 合 には、その 者 の 国 籍 が 何 であれ、その 自 然 人 に 関 する 全 ての 訴 訟 について、フランスの 裁 判 所 は 管 轄 を 有 する」ということである。また、「 法 人 については、その 設立 地 がフランスである 場 合 に、フランスの 裁 判 所 に 管 轄 がある」ということである。フランスにおける 単 なる 居 所 (résidence)は、 被 告 がフランスにも 外 国 にも 住 所 を 持たない 場 合 以 外 は、フランス 裁 判 所 の 管 轄 の 根 拠 とはなりえない 34 。これらの NCPC42条 及 び 43 条 の 一 般 原 則 の 適 用 範 囲 は、 実 際 には、EU 内 部 で 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 統一 規 則 が 制 定 されるにつれ、 徐 々に 狭 まってきている 35 。 例 えば、 今 日 、 民 事 又 は 商事 事 件 に 関 するフランス 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 は、ブリュッセルⅠ 規 則 から 直 接 導 きだされており、NCPC42 条 及 び 43 条 の 一 般 原 則 を 根 拠 とするものではない。32 それらの 議 論 について、 詳 しくは、 矢 澤 ・ 前 掲 注 (29)89 頁 以 下 を 参 照 。33 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 210, Loussouarn, Bourel et De Vareilles-Sommières, Droitinternational privé, 9è éd, 2007, p. 620 et suiv. 矢 澤 ・ 前 掲 注 (29)92 頁 を 参 照 。34 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 207.35 Loussouarn, Bourel et De Vareilles-Sommières, op. cit., p. 622.8146


これらのNCPC42 条 及 び 43 条 の 一 般 原 則 の 特 則 が NCPC には 幾 つか 設 けられており、それの 規 定 も、 国 際 的 平 面 に 拡 張 され、 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 基 準 とされている。それらの 特 則 の 例 としては、 対 物 不 動 産 訴 訟 (actions réelles immobilières) 36 について、不 動 産 所 在 地 の 裁 判 所 のみが 管 轄 を 有 するとする NCPC44 条 37 、 相 続 に 関 する 訴 訟 において、 相 続 人 間 の 請 求 、 死 者 の 債 権 者 により 提 起 された 請 求 、 死 因 処 分 の 履 行 に 関する 請 求 については、 相 続 開 始 地 (= 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 )の 裁 判 所 に 管 轄 があるとする NCPC45 条 38 、 原 告 に、 被 告 の 居 住 地 の 裁 判 所 のほか、 一 定 の 類 型 の 訴 訟 について、 訴 えを 提 起 する 裁 判 所 を 選 択 すること 許 す( 例 えば、 契 約 に 関 する 訴 訟 については、 物 の 引 渡 しの 効 力 発 生 地 又 は 役 務 給 付 の 履 行 地 の 裁 判 所 、 不 法 行 為 に 関 する訴 訟 については、 加 害 行 為 地 又 は 損 害 発 生 地 の 裁 判 所 。)NCPC46 条 39 の 規 定 等 が 挙げられる。NCPC44 条 に 従 えば、 不 動 産 がフランスに 所 在 するかぎり、 不 動 産 の 所 有者 が 外 国 人 又 は 外 国 法 人 であっても、フランスの 裁 判 所 が 管 轄 を 有 する。・ 例 外これらの 国 内 土 地 管 轄 規 定 が、 原 則 として、 国 際 的 な 平 面 に 拡 張 されるとしても、土 地 管 轄 の 基 準 が 国 際 的 な 訴 訟 の 特 殊 性 に 適 合 しない 場 合 には、 例 外 的 に、その 原 則は 排 除 される。そのような 例 外 的 場 合 で 調 整 が 必 要 なものとして、 学 説 上 、 挙 げられているのが、(1) 不 動 産 相 続 に 関 する 訴 訟 のケース 40 、(2) 差 押 及 び 保 全 措 置 (saisieset mesures conservatoires)のケースである 41 。36対 物 不 動 産 訴 訟 (actions réelles immobilières)とは、 訴 訟 上 主 張 される 権 利 が 物 権 であって、しかもその 権 利 の 対 象 が 不 動 産 である 場 合 を 指 す。37 NCPC44 条 「 対 物 不 動 産 訴 訟 においては、 不 動 産 所 在 地 の 裁 判 所 のみが 管 轄 をもつ。」38条 文 内 容 については、 後 述 の「3. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 (h) 相 続 」の 項 を参 照 。39 NCPC46 条 「 原 告 は、 被 告 の 居 住 地 の 裁 判 所 のほか、その 選 択 により、 次 に 掲 げる裁 判 所 にも 訴 えを 提 起 することができる。― 契 約 に 関 する 訴 訟 においては、 物 の 引 渡 しの 効 力 発 生 地 又 は 役 務 給 付 の 履 行 地 の 裁判 所 。― 不 法 行 為 に 関 する 訴 訟 においては、 加 害 行 為 地 又 は 損 害 発 生 地 の 裁 判 所 。― 混 合 訴 訟 においては、 不 動 産 所 在 地 の 裁 判 所 。― 扶 養 料 又 は 婚 姻 の 負 担 についての 分 担 に 関 する 訴 訟 においては、 債 権 者 の 居 住 地 の裁 判 所 。」40 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 210 et suiv, Loussouarn, Bourel et Vareilles-Sommières, op. cit.,p. 623 et suiv.41 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 211, Loussouarn, Bourel et De Vareilles-Sommières, op. cit., p.9147


(1)の 不 動 産 相 続 に 関 する 訴 訟 については、 相 続 開 始 地 (= 被 相 続 人 の 最 後 の 住所 地 )の 裁 判 所 に 管 轄 があるとする NCPC45 条 の 規 定 をそのまま 適 用 するのではなく、たとえ 相 続 が 外 国 で 開 始 されたとしても、 不 動 産 がフランスに 所 在 する 場 合 には、フランス 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められるとする 42 。(2)の 差 押 及 び 保 全 措 置 のケースについても 議 論 がある。 執 行 民 事 手 続 に 関 する1992 年 7 月 31 日 のデクレ 211 条 は、 保 全 措 置 を 許 可 するための 管 轄 を 有 する 裁 判 所は、 債 務 者 の 居 住 地 の 執 行 裁 判 所 であると 定 めているが、この 規 定 を 国 際 的 平 面 で 適用 する 場 合 にも、 調 整 が 必 要 であるとされる。この 規 定 によれば、 債 務 者 の 住 所 地 がフランスにあれば、たとえ 措 置 が 外 国 で 行 われようとも、フランスの 裁 判 所 に 管 轄 が認 められる 43 。 保 全 措 置 が 行 われなければならない 財 産 が 外 国 にあるという 状 況 は、フランス 裁 判 所 の 管 轄 を 認 めることの 障 害 とはならない。しかしながら、 債 務 者 の 住所 地 が 外 国 にある 場 合 には、211 条 の 規 定 の 適 用 に 際 し 調 整 が 必 要 となる。211 条 の 規定 の 適 用 から 導 かれるフランス 裁 判 所 の 無 管 轄 (incompétence)は、 保 護 措 置 がフランスで 行 われなければならず、フランスの 裁 判 所 がそれを 命 じる、あるいは 許 可 するのに 最 善 の 場 所 である 場 合 には、 不 適 切 である。そこで、1992 年 のデクレ 以 前 から、破 毀 院 は、そのような 場 合 にも、 措 置 を 行 う 地 であるフランスの 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管轄 があることを 認 めてきた 44 。・ 派 生 的 管 轄 (compétences dérivées)このほかに、NCPC には、 派 生 的 管 轄 (compétences dérivées)と 呼 ばれる 一 連 の 規定 が 存 在 し、それらについても、 国 際 裁 判 管 轄 の 場 面 への 拡 張 が 行 われている。(1) 被 告 が 複 数 の 場 合NCPC42 条 2 項 は、「 被 告 が 複 数 の 場 合 には、 原 告 は、その 選 択 により、 被 告 の 1 人の 居 住 地 の 裁 判 所 に 訴 えを 提 起 することができる。」と 規 定 しており、この 規 定 によれば、 被 告 が 複 数 の 場 合 、 被 告 の1 人 がフランスに 住 所 を 有 するときには、 他 の 被 告が 外 国 に 住 所 を 有 していても、 原 告 は、フランスの 裁 判 所 に 訴 えを 提 起 することができる 45 。625 et suiv.42 Loussouarn, Bourel et De Vareilles-Sommières, op. cit., p. 623.43 Loussouarn, Bourel et De Vareilles-Sommières, op. cit., p. 626.44 Cass. civ. 6 déc. 1989: Rev. crit. DIP, 1990, p. 545, note Couchez.45 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 207 et suiv, Audit et D’Avout, Droit international privé, 6e éd.,10148


(2) 付 帯 請 求 (demande incidente)の 場 合すでに 係 属 中 の 訴 訟 について 管 轄 を 有 するフランスの 裁 判 所 は、その 訴 訟 に 対 してなされる 付 帯 請 求 (demande incidente)についても 管 轄 がある 46 。 付 帯 請 求 には、それをなす 当 事 者 により、 反 訴 請 求 (demande reconventionnelle)、 付 加 的 請 求 (demandeadditionnelle)、 参 加 請 求 (demande en intervention)の3 種 のものがあり、 反 訴 請 求 とは、 本 訴 の 被 告 がその 相 手 方 の 申 立 ての 単 なる 排 斥 以 上 の 利 益 を 得 ようとする 請 求 であり(NCPC64 条 )、 付 加 的 請 求 とは、 本 訴 の 原 告 がその 従 前 の 申 立 てを 変 更 、 拡 張 、縮 減 するためになす 請 求 であり(NCPC65 条 )、 参 加 請 求 とは、 第 三 者 を 訴 訟 の 当 事者 とすることを 目 的 とする 請 求 であり、それには、 請 求 が 第 三 者 からなされる 場 合 ( 任意 的 参 加 (intervention volontaire))と、 第 三 者 が 当 事 者 の 一 方 によって 訴 訟 に 関 与 させられる 場 合 ( 強 制 的 参 加 (intervention forcée))とがある(NCPC66 条 )。(3)その 他 の 場 合(1)、(2)の 場 合 以 外 にも、 別 個 の 事 件 ・ 請 求 ではあるが、 併 合 して 審 理 、 判決 することが 適 切 な 場 合 がある。その 場 合 については、 事 件 ・ 請 求 の「 関 連 性(connexité)」の 問 題 として 処 理 される 47 。⇒ 事 件 ・ 請 求 の「 関 連 性 」の 問 題 については、「(3) 国 際 訴 訟 競 合 」の 項 を 参 照 。2フランス 国 籍 に 基 づく 管 轄 (フランス 民 法 典 14 条 及 び 15 条 )フランス 民 法 典 14 条 及 び 15 条 は、 訴 訟 当 事 者 の 少 なくとも 一 方 がフランス 国 籍 を有 する 場 合 にフランスの 裁 判 所 の 管 轄 を 基 礎 付 けるものであるといわれる。これらの規 定 は、フランス 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 基 準 として、 極 めて 特 徴 的 なものである。民 法 典 14 条 及 び 15 条 は、 以 下 のような 規 定 である 48 。第 14 条 〔 外 国 人 との 約 定 債 務 の 裁 判 管 轄 〕フランスに 居 住 しない 外 国 人 であっても、その 者 がフランスにおいてフランス 人 と締 結 した 債 務 の 履 行 については、フランスの 裁 判 所 に 呼 び 出 すことができる。 外 国 人2010, p. 330 et suiv, Gutmann, Droit international privé, 6è éd., 2009, p. 261.46 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 208.47 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 208, Audit et D’Avout, op. cit., p. 333 et suiv.48法 務 大 臣 官 房 司 法 法 制 調 査 部 「 法 務 資 料 第 433 号 フランス 民 法 典 — 家 族 ・ 相 続 関係 —」(1978 年 ) 参 照 。11149


が 外 国 においてフランス 人 に 対 して 締 結 した 債 務 について〔も〕、フランスの 裁 判 所に 引 致 することができる。第 15 条 〔 同 前 フランス 人 を 被 告 とする 場 合 〕外 国 人 であっても、フランス 人 が 外 国 において 締 結 した 債 務 については、そのフランス 人 をフランスの 裁 判 所 に 引 致 することができる。これらの 規 定 は、 判 例 上 、フランス 人 の 利 益 になるよう 裁 判 所 に 管 轄 を 付 与 したものと 解 釈 されてきたが、それについては、 過 剰 管 轄 であるとして、 批 判 も 多 い。しかしながらヨーロッパの 多 くの 国 々に、この 種 の 規 定 が 存 在 する(この 点 については、ブリュッセル 条 約 3 条 、ブリュッセルⅠ 規 則 の Annexe I の 締 約 国 における 過 剰 管 轄 の規 定 のリスト 等 を 参 照 )。また、フランス 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 や 外 国 判 決 の 承 認 執 行制 度 に 関 する 個 々の 論 点 について、フランスの 判 例 ・ 学 説 が、 国 内 の 土 地 管 轄 規 定 と並 んでこの 本 国 管 轄 の 規 定 が 存 在 することを 前 提 に 議 論 を 行 っていることに 着 目 する必 要 がある。フランス 民 法 典 14 条 及 び 15 条 は、 原 告 がフランス 人 (14 条 )であるか、 又 は 被 告がフランス 人 (15 条 )であることを 根 拠 に、フランス 裁 判 所 の 管 轄 を 認 める。 当 事 者の 住 所 は 管 轄 原 因 として 考 慮 されず、 自 然 人 であれ 法 人 であれ、 原 告 又 は 被 告 がフランス 国 籍 を 有 することのみをもってフランス 裁 判 所 の 管 轄 を 認 めるため、フランス 国籍 に 基 づく 管 轄 の 優 位 を 認 める 規 定 であるといわれる 49 。フランス 破 毀 院 は、Compagnie La Métropole 事 件 における 1966 年 3 月 21 日 の 第 1 民 事 部 判 決 50 において、「フランス 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 は、 民 法 典 14 条 に 従 い、 係 争 中 の 事 実 から 生 じた 権利 ではなく、 当 事 者 の 国 籍 を 根 拠 とする。」と 判 示 し、 当 事 者 (ここでは 承 継 人 )の国 籍 を 管 轄 原 因 として 用 いることを 認 めた。・ 適 用 範 囲 ( 人 、 訴 訟 )民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 適 用 に 関 しては、 訴 訟 開 始 時 にフランス 人 であることが 必要 とされる 51 。 訴 訟 開 始 後 の 国 籍 の 変 更 によって、フランス 裁 判 所 の 管 轄 が 変 更 され49 Loussouarn, Bourel et De Vareilles-Sommières, op. cit., p. 636.50 Cass. 1er civ. 21 mars 1966: D. 1966. 429, note Malaurie; Ancel et Lequette, Les grandsarrêts de la jurisprudence française de droit international privé, 5e éd, 2006, n° 43.51 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 214.12150


ることはない 52 。14 条 及 び 15 条 は、 自 然 人 であれ 法 人 であれ、 訴 訟 当 事 者 の 一 方 がフランス 国 籍 を 有 する 場 合 に、 適 用 される 53 。前 述 のCompagnie La Métropole 事 件 における 1966 年 3 月 21 日 の 破 毀 院 判 決 が 承 継人 の 国 籍 を 管 轄 原 因 として 考 慮 した 結 果 、 民 法 典 14 条 のもとでは、 売 主 、 被 相 続 人 、債 権 譲 渡 の 譲 渡 人 、 債 権 者 ではなく、その 承 継 人 である 買 主 、 相 続 人 、 譲 受 人 、 間 接訴 権 (action oblique)( 債 権 者 代 位 権 )を 行 使 する 債 権 者 の 国 籍 を 援 用 しうると 判 例 ・学 説 上 は 解 されている 54 。それに 対 し、 代 理 人 がフランス 国 籍 であることは 管 轄 原 因として 考 慮 されない。 本 人 ではなく 代 理 人 の 名 で 行 為 しているからである 55 。また、承 継 人 のフランス 国 籍 を 根 拠 とするフランス 裁 判 所 の 管 轄 は、 債 権 譲 渡 の 譲 渡 人 と 譲受 人 間 の 詐 欺 的 な 共 謀 に 由 来 するものであってはならないとする 判 例 がある 56 。民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 規 定 の 適 用 範 囲 についていえば、 両 条 は、 規 定 の 文 言 上 、「 締 結 した 債 務 (les obligation contractées)」に 適 用 されるとしているが、フランスの判 例 は、 両 条 が、 財 産 的 であると 非 財 産 的 であるとを 問 わず、 全 ての 訴 訟 に 適 用 されると 解 している。このような 原 則 は、Weiss 事 件 における 1970 年 5 月 27 日 の 破 毀 院第 1 民 事 部 判 決 57 において 認 められたものである。この 判 決 で、 破 毀 院 は、「 民 法 典14 条 は、 全 ての 事 項 を 含 む 一 般 的 な 射 程 を 有 する。」と 判 示 した。また、 同 判 決 は、14 条 が 例 外 的 に 適 用 されない 場 合 として、「 対 物 不 動 産 訴 訟 、 外 国 に 所 在 する 不 動 産を 対 象 とする 分 割 の 訴 え 及 びフランス 外 で 行 われる 強 制 執 行 に 関 する 訴 え」のケースを 挙 げている。民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 規 定 が 非 訟 事 件 58 の 管 轄 権 についても 適 用 されるのか 否 かについては、 判 例 ・ 学 説 上 争 いがあり、 適 用 肯 定 説 59 と 適 用 否 定 説 60 とが 対 立 している。否 定 説 の 論 拠 の1つは、 非 訟 事 件 には 被 告 が 存 在 しないため、15 条 の 適 用 は 排 除 されるというものである。 非 訟 事 件 には 確 かに 被 告 は 存 在 しないが、「フランスは 自 国 の裁 判 所 を 自 国 民 に 自 由 に 使 わせる」という 考 え 方 自 体 は、 訴 訟 事 件 のみならず、 非 訟52 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 214.53 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 214.54 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 214, Monéger, op. cit., p. 192.55 Monéger, op. cit., p. 192.56 Cass. 1er civ. 24 nov. 1987: Rev. crit. DIP, 1998, p. 364, note Droz.57 Cass. 1er civ. 27 mai 1970: Ancel et Lequette, Les grands arrêts de la jurisprudencefrançaise de droit international privé, 5e éd, 2006, n° 49.58 フランスにおける 非 訟 事 件 (recours gracieux)については、 後 掲 「5. 手 続 の 類 型 」を 参 照 されたい。59 Ponsard, Rev. crit. DIP, 1970, p. 307 et suiv.60 Souleau, JCP 1969.II.15 845.13151


事 件 にも 妥 当 するため、 非 訟 事 件 への 適 用 を 肯 定 する 見 解 が 多 い 61 。 判 例 は、 民 法 典14 条 及 び 15 条 は、 非 訟 事 件 にも 適 用 されるとの 立 場 に 立 っている 62 。・ 民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 管 轄 は 専 属 的 なものか民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 規 定 を 根 拠 とする 管 轄 が 専 属 管 轄 であるのか 否 か、という点 は、 両 条 の 管 轄 の 性 質 をめぐり 長 い 間 、 判 例 ・ 学 説 上 で 争 われてきた 点 である。フランスの 判 例 は、かつては、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 のフランス 国 籍 を 根 拠 とする 管 轄については 専 属 的 な 性 質 のものと 理 解 していた。 同 時 に、それは、「 外 国 人 間 の 訴 訟事 件 におけるフランス 裁 判 所 の 無 管 轄 (incompétence)の 原 則 」を 生 み 出 し、この 原則 の 生 成 から 崩 壊 に 至 るプロセスは、フランスの 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 議 論 の 特 殊 性を 物 語 っている 63 。しかし、2006 年 の 破 毀 院 判 決 によって、そのような 民 法 典 14 条 及び 15 条 の 専 属 的 性 質 は 否 定 され、 今 日 、 判 例 及 び 学 説 は、14 条 及 び 15 条 の 管 轄 は、その 任 意 的 性 質 及 び 補 充 的 性 質 という2つの 性 質 によって 特 徴 付 けられると 解 している 64 。かつてのフランス 判 例 は、 訴 訟 当 事 者 の 一 方 がフランス 国 籍 を 有 する 場 合 には、フランスの 裁 判 所 が 専 属 的 な 管 轄 (compétence exclusive)を 有 すると 解 していた。そのことは、 直 接 管 轄 の 基 準 と 間 接 管 轄 の 基 準 を 同 一 のものと 捉 えるならば、 外 国 判 決 の承 認 執 行 の 場 面 では、 同 様 の 事 案 について、 住 所 地 管 轄 に 基 づいて 判 決 を 下 した 全 ての 外 国 の 裁 判 所 が 間 接 管 轄 を 持 たないと 看 做 すことであり、そのことは、 外 国 で 下 された 判 決 のフランスにおける 全 ての 承 認 及 び 執 行 の 妨 げとなる。この 点 は、フランス判 例 が 学 説 から 最 も 批 判 された 点 であった。また、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 規 定 の 文言 上 は、 専 属 管 轄 であることは 要 求 されていない 65 。これらの 批 判 は、 専 属 管 轄 を 認めることが 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行 の 妨 げとなるのではないか、という 一 般 的 な 不 信 感61 Audit et D’Avout, op. cit., p. 322 et suiv, Mayer et Heuzé, op. cit., p. 216.62 Cass. 1er civ. 9 déc. 2003: Dr. de la Famille, 2004, p. 163, note Bourdelois.63 フランス 民 法 典 14 条 及 び 15 条 は、 訴 訟 当 事 者 の 一 方 がフランス 人 である 場 合 のフランス 裁 判 所 の 管 轄 について 定 めているが、 訴 訟 当 事 者 が 双 方 とも 外 国 人 である 場 合については 特 に 述 べていない。そのため、 外 国 人 間 の 訴 訟 事 件 について、フランスの裁 判 所 が 管 轄 を 有 するのか 否 かが 問 題 とされた。この 外 国 人 間 の 訴 訟 事 件 におけるフランス 裁 判 所 の 無 管 轄 原 則 の 生 成 ・ 発 展 について、 詳 しくは、 矢 澤 ・ 前 掲 注 (29)13頁 以 下 を 参 照 。64 Monéger, op. cit., p. 193.65条 文 上 は、「〜しうる」という 意 味 の pourra が 用 いられ、「〜すべきである」という 意 味 の devra は 用 いられていない。この 点 につき、Monéger, op. cit., p. 193.を 参 照 。14152


を 表 したものである 66 。なお、1968 年 のブリュッセル 条 約 3 条 、2000 年 のブリュッセルⅠ 規 則 3 条 2 項 、2000 年 のブリュッセルⅡ 規 則 はいずれも、フランス 民 法 典 14 条及 び 15 条 の 規 定 を 過 剰 管 轄 であるとして、その 適 用 を 排 除 している。 学 説 の 厳 しい 批判 を 受 けて、 破 毀 院 は、 外 国 判 決 の 承 認 の 場 面 でスイスの 裁 判 所 の 間 接 管 轄 の 有 無 が問 題 となった Prieur 事 件 に 関 する、2006 年 5 月 23 日 の 第 1 民 事 部 判 決 67 において、 民法 典 15 条 は 専 属 的 なものではなくフランス 裁 判 所 の 任 意 的 管 轄 (compétencefacultative)を 認 めるものにすぎないと 判 示 した。・ 任 意 的 管 轄 (compétence facultative)民 法 典 14 条 及 び 15 条 によって 利 益 を 受 ける 当 事 者 は、その 利 益 を 放 棄 しうる(=任 意 的 管 轄 )。 判 例 は、これらの 規 定 が 公 序 に 関 するものではないことを 認 めている。しかしながら、それを 放 棄 しうるのは 当 事 者 のみである。 例 えば、フランス 人 たる 原告 は、 民 法 典 14 条 の 管 轄 を 放 棄 しうるし、 被 告 がフランス 人 である 場 合 、 民 法 典 15条 の 管 轄 を 放 棄 しうる。 放 棄 の 方 式 として、 明 示 又 は 黙 示 の 放 棄 があり 得 る。 明 示 の放 棄 は、 契 約 条 項 、 裁 判 管 轄 指 定 条 項 (clause attributive de juridiction)、 仲 裁 条 項 (clausecompromissoire)の 形 式 でなされうる。 黙 示 の 放 棄 は、 外 国 で 訴 訟 が 行 われたことによって 確 認 しうるかもしれないが、しかしながら、これはあくまでも 推 定 にすぎないとされる。この 点 について、 判 例 は、フランス 人 は、 彼 らの 利 益 を 守 るために 外 国 の 裁判 官 の 面 前 に 現 れるにすぎず、 裁 判 管 轄 の 特 権 を 放 棄 する 意 思 が 彼 らにあるわけではないとしている 68 。・ 補 充 的 管 轄 (compétence subsidiaire)民 法 典 14 条 及 び 15 条 がフランス 裁 判 所 の 専 属 的 管 轄 を 認 めるものではないとなると、NCPC の 土 地 管 轄 の 規 定 に 基 づく 国 際 裁 判 管 轄 と 民 法 典 14 条 及 び 15 条 に 基 づく国 際 裁 判 管 轄 の 関 係 をどのように 解 するかが 問 題 となる。この 点 については、 判 例 ・学 説 上 、かりに NCPC の 土 地 管 轄 の 一 般 規 則 に 従 い、フランスの 裁 判 所 に 管 轄 があるとされる 場 合 には、その 管 轄 規 則 がまず 適 用 され、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 を 適 用 する必 要 はないと 解 されている。このような NCPC の 土 地 管 轄 の 規 定 と 民 法 典 14 条 及 び66 そのような 批 判 として、 例 えば、Droz, Pour une réforme des articles 14 et 15 du Codecivil français, Rev. crit. DIP, 1975, p. 1 et suiv.67 Cass. 1er civ. 23 mai 2006: D. 2006. 1880, Ancel et Lequette, Les grands arrêts de lajurisprudence française de droit international privé, 5e éd, 2006, n° 87.68 Cass. 1er civ. 18 mai 1994: D. 1995. 20, note Courbe.15153


15 条 の 規 定 の 適 用 関 係 について、Cognacs and Brandies from France 事 件 における 1985年 11 月 19 日 の 破 毀 院 第 1 民 事 部 判 決 69 は、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 規 定 の 補 充 的 性格 を 明 らかにした。この 破 毀 院 判 決 は、 民 法 典 14 条 と NCPC48 条 のいずれが 適 用 されるべきかが 問 題 となった 事 案 において、「 被 告 のフランス 国 籍 を 理 由 にフランス 裁判 所 に 管 轄 を 付 与 する、これらの 条 文 のうちの 第 一 のものは、 土 地 管 轄 に 関 するいかなる 一 般 的 基 準 もフランスに 存 在 しない 場 合 に 適 用 される 理 由 があるにすぎない。」と 判 示 し、そのような 場 合 には、NCPC48 条 が 優 先 的 に 適 用 されるとした。3 国 内 法 から 直 接 導 き 出 される 管 轄 ( 緊 急 管 轄 を 含 む)NCPC の 土 地 管 轄 の 規 定 や 民 法 典 14 条 及 び 15 条 等 の 国 内 法 の 規 定 とは 別 に、いくつかの 場 合 にフランス 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められることがある。そのような 場 合 として、(1) 公 役 務 (service public)の 活 動 (fonctionnement)が 問 題 となる 場 合 、(2) 人 やその 財 産 の 保 護 が 緊 急 で 問 題 となる 場 合 、(3) 裁 判 拒 否 (déni de justice)の 場 合 等 が挙 げられる。(1) 公 役 務 (service public)の 活 動 (fonctionnement)が 問 題 となる 場 合公 役 務 (service public) 70 の 活 動 (fonctionnement)、 例 えば、フランスの 民 事 的 身 分(état civil)を 認 証 する 役 務 や 特 許 証 等 が 問 題 となっている 全 ての 訴 訟 は、フランスの裁 判 所 の 専 属 的 管 轄 に 属 する 71 。フランス 裁 判 所 は、 例 えそれが 外 国 人 に 関 するものであっても、フランスにおける 身 分 証 書 (acte de l’état civil) 72 の 変 更 又 は 訂 正 に 関 する 訴 訟 について、 管 轄 を 有 する 73 。また、フランス 国 籍 が 問 題 となる 全 ての 訴 訟 についても 同 様 である 74 。69 Cass. 1er civ. 19 nov. 1985: Ancel et Lequette, Les grands arrêts de la jurisprudencefrançaise de droit international privé, 5e éd., 2006, n° 71.70公 役 務 (service public)とは、 一 般 利 益 の 必 要 を 満 たすための 活 動 、 及 びその 活 動の 管 理 運 営 の 任 を 負 う 行 政 組 織 を 指 す。71 Audit et D’Avout, op. cit., p. 318, Monéger, op. cit., p. 187.72身 分 証 書 については、 民 法 典 34 条 以 下 に 規 定 がある。 身 分 証 書 とは、 人 の 民 事 的身 分 について 確 実 な 証 拠 を 示 す 公 式 証 書 とされ、 基 本 的 な 身 分 証 書 として、 出 生 証 書(acte de naissance)、 認 知 証 書 (acte de reconnaissance)、 婚 姻 証 書 (acte de mariage)、死 亡 証 書 (acte de décès) 等 がある。73 Audit et D’Avout, op. cit., p. 318.74 Monéger, op. cit., p. 187.16154


(2) 人 やその 財 産 の 保 護 が 緊 急 で 問 題 となる 場 合人 及 びその 財 産 の 保 護 が 問 題 となる 場 合 、 緊 急 の 要 請 で、あるいは 裁 判 拒 否 を 避 けるために、フランスの 裁 判 所 が 管 轄 を 持 つことがある 75 。(3) 裁 判 拒 否 (déni de justice)の 場 合NCPC 中 には、 緊 急 管 轄 について 一 般 的 に 定 めた 規 定 は 存 在 しない。しかし、フランスの 裁 判 所 が 原 則 として 管 轄 を 持 たない 場 合 でも、フランスの 外 部 で 当 該 紛 争 についての 判 決 機 関 を 見 出 すことができないために、フランス 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 が 補充 的 に 認 められることがある。これは 裁 判 拒 否 (déni de justice)を 回 避 するための 管轄 の 場 合 と 呼 ばれる 76 。4 主 観 的 併 合⇒ 「(1) 管 轄 原 因 の1 土 地 管 轄 の 派 生 的 管 轄 (3)」 及 び、「 (3) 国 際 訴 訟 競 合 」の項 を 参 照 。5 合 意 管 轄当 事 者 が、NCPC の 土 地 管 轄 の 規 定 の 適 用 を 除 外 するために、 裁 判 管 轄 指 定 条 項(clause attributive de juridiction)を 定 めることがある。この 点 について、NCPC48 条 は、「 直 接 的 又 は 間 接 的 に 土 地 管 轄 に 関 する 定 めに 抵 触 するすべての 条 項 は、 記 載 なきものとみなす。ただし、その 条 項 が 商 人 の 資 格 で 契 約 した 者 の 間 で 合 意 されており、かつ、それをもって 対 抗 される 当 事 者 の 契 約 書 において 非 常 に 明 白 に 特 記 されているときは、この 限 りでない。」と 規 定 している。 同 条 は、 国 内 の 公 序 に 関 する 規 定 であると 解 されており、この 規 定 に 従 えば、 管 轄 の 合 意 は、 商 人 間 で 明 白 な 仕 方 で 約 定 されていれば 有 効 となる。 問 題 は、この 規 定 が 国 際 的 な 公 序 に 関 する 規 定 としても 通 用 するのか 否 か、さらに、そのような 条 項 を 設 けることができるのは、NCPC48 条 で 挙 げ75 Monéger, op. cit., p. 187. 例 えば、 未 成 年 の 子 に 対 するその 監 護 者 としての 親 の 安 全保 護 義 務 ( 民 法 典 371−2 条 )のケースなどが 挙 げられる。 特 に、かつてフランスの 判例 が「 外 国 人 間 の 訴 訟 事 件 におけるフランス 裁 判 所 の 無 管 轄 の 原 則 」に 依 拠 していた時 代 には、このフランス 裁 判 所 の 管 轄 は 意 味 を 持 っていた。 今 日 では、NCPC の 土 地管 轄 の 規 定 によっても、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 によってもフランスの 裁 判 所 が 管 轄 を有 しない 場 合 に、この 管 轄 がなお 認 められる 余 地 がある。この 点 につき、Audit etD’Avout, op. cit., p. 318 et suiv.76 Mayer, op. cit., p. 212, Audit et D’Avout, op. cit., p. 319 et suiv, Loussouarn, Bourel et DeVareilles-Sommières, op. cit., p. 627, Monéger, op. cit., p. 187.17155


られているような 商 人 のみであるのか 否 かである 77 。この 点 につき、1985 年 12 月 17日 の Cie de signaux et d’entreprises électriques 事 件 における 破 毀 院 第 1 民 事 部 判 決 78 は、裁 判 管 轄 指 定 条 項 (clause attributive de juridiction)は 原 則 として 適 法 であるとし、さらに、それが 認 められる 場 合 の 要 件 として、1 国 際 的 な 紛 争 が 問 題 となっており、2 当該 条 項 がフランス 裁 判 所 の 強 行 的 な 土 地 管 轄 (competence territoriale impérative)の 実現 を 妨 げないことを 挙 げている。 強 行 的 な 土 地 管 轄 のケースとはどのようなケースであるかを 決 めることは 難 しいとされているが、 人 的 地 位 (statut personnel)、 対 物 不 動産 訴 訟 (actions réelles immobilières)、 公 役 務 (service public)に 関 する 全 ての 問 題 がこれに 該 当 すると 解 されている 79 。契 約 当 事 者 に 弱 者 を 含 む 労 働 契 約 や 消 費 者 契 約 、lois de police については、 強 行 的な 土 地 管 轄 のケースに 該 当 するのか 否 か 議 論 がある 80 。また、 裁 判 管 轄 指 定 条 項 のほかに、 当 事 者 が 商 事 契 約 に 関 して、 未 必 の 紛 争 を 仲 裁に 服 させる 旨 の 仲 裁 条 項 (clause compromissoire)を 設 けることもある。6 緊 急 管 轄⇒ 「3 国 内 法 から 直 接 導 き 出 される 管 轄 ( 緊 急 管 轄 を 含 む)」の 項 を 参 照 。7 管 轄 原 因 に 関 する 職 権 調 査 の 有 無ブリュッセル IIbis 規 則 17 条 は、 管 轄 原 因 を 職 権 調 査 事 項 であるとしている。また、民 法 典 14 条 の 管 轄 原 因 については、 職 権 調 査 事 項 であるとする 破 毀 院 判 例 81 がある。(2) 国 際 訴 訟 競 合国 際 訴 訟 競 合 については、フランスでも 議 論 がある。フランスでは、 国 際 訴 訟 競 合(litispendance)は、 手 続 の 抵 触 (conflits de procédure)の 問 題 82 の1つとしてとり 上 げ77 Monéger, op. cit., p. 188.78 Cass. 1er civ. 17 déc. 1985: Ancel et Lequette, Les grands arrêts de la jurisprudencefrançaise de droit international privé, 5e éd, 2006, n° 72.79 Monéger, op. cit., p. 188.80 Sinay-Citermann, La protection de la partie faible en droit international privé, Mél. Lagarde,Dalloz, 2005, p. 737.81 Cass. 1er civ. 16 avr. 1985: Rev. crit. DIP, 1987, p. 584, note Khairallah.82国 際 訴 訟 競 合 (litispendance)のほか、 手 続 の 抵 触 に 関 する 問 題 として、NCPC101条 に 関 わる 関 連 性 (connexité)の 抗 弁 の 問 題 がある。NCPC101 条 は、「 異 なった 二 つの 裁 判 所 に 提 起 された 事 件 の 間 に、それらを 併 せて 審 理 し 判 決 することが 良 き 司 法 の利 益 になるというような 関 係 が 存 する 場 合 には、それらの 裁 判 所 の 一 方 の 事 件 を 手 ば18156


られている。NCPC100 条 は、 同 一 の 紛 争 がともに 管 轄 を 有 する2つの 裁 判 所 に 係 属 している 状 態 について 規 定 しており、これらの 裁 判 所 が 同 一 審 級 の 場 合 には、2 番 目 に事 件 を 受 理 した 裁 判 所 は、 当 事 者 の 一 方 の 要 求 に 基 づき、 他 の 裁 判 所 のために 裁 判 権を 放 棄 し、 職 務 解 除 (dessaisissement)しなければならないし、また、 当 事 者 の 要 求 がなくても、 職 権 でそのようにすることができるとしている 83 。 異 なる 審 級 の2つの 裁判 所 間 に 事 件 係 属 が 生 じた 場 合 、 事 件 係 属 の 抗 弁 は、 下 級 審 裁 判 所 においてしか 提 出することができない(NCPC102 条 参 照 )。フランス 破 毀 院 は、Société Miniera di Fragne 事 件 に 関 する 1974 年 11 月 26 日 の 第 1民 事 部 判 決 84 において、「 事 件 係 属 の 抗 弁 (l’exception de litispendance)は、 同 様 に 管 轄のある 外 国 裁 判 所 の 面 前 で 訴 訟 手 続 が 開 始 されたことを 理 由 に、フランスの 普 通 法 の名 において、フランスの 裁 判 所 の 面 前 で 受 理 されうる。しかし、その 抗 弁 は、 外 国 において 下 されるべき 判 決 がフランスにおいて 承 認 される 可 能 性 がない 場 合 には、 受 け入 れられない。」と 判 示 した。したがって、 破 毀 院 は、 国 際 訴 訟 競 合 の 問 題 の 解 決 にあたり、 外 国 判 決 がフランスにおいて 承 認 されるか 否 か( 承 認 可 能 性 )を 検 討 した 上 で、フランスにおける 後 訴 を 規 律 する 立 場 に 立 つ( 承 認 予 測 説 )。国 際 訴 訟 競 合 については、 国 際 的 法 源 であるブリュッセルⅠ 規 則 第 9 節 、ブリュッセルⅡbis 規 則 にも 規 定 がある 85 。 例 えば、ブリュッセルⅡbis 規 則 においては、 離 婚 等の 事 件 や 親 責 任 に 関 する 事 件 のいずれについても、 国 際 裁 判 管 轄 が 複 数 認 められる 余地 がある。そのため、 国 際 訴 訟 競 合 に 関 する 規 定 が 設 けられている(19 条 )。 離 婚 、法 定 別 居 及 び 婚 姻 無 効 等 の 事 件 が、 加 盟 国 の 裁 判 所 ( 第 1 裁 判 所 )に 係 属 したのちに、同 一 の 当 事 者 の 離 婚 等 の 訴 えが 他 の 加 盟 国 の 裁 判 所 ( 第 2 裁 判 所 )に 提 起 された 場 合 、第 1 裁 判 所 がその 国 際 裁 判 管 轄 について 判 断 するまで、 第 2 裁 判 所 は、 判 断 を 停 止 することとされる( 同 条 1 項 )。これは 親 責 任 の 事 件 についても 同 様 である( 同 条 2 項 )。なして、その 審 理 を 他 方 の 裁 判 所 へそのまま 移 送 するよう 要 求 することができる。」と 定 める。83 NCPC100 条 「 同 一 の 紛 争 がともに 管 轄 を 有 する 同 一 審 級 の2つの 裁 判 所 に 属 している 場 合 には、2 番 目 に 事 件 を 受 理 した 裁 判 所 は、 当 事 者 の 一 方 が 要 求 したときには、他 の 裁 判 所 のために 事 件 を 手 ばなさなければならない。 当 事 者 の 要 求 がなくても、2番 目 の 受 訴 裁 判 所 は 職 権 でそのようにすることができる。」84 Cass. 1er civ. 26 nov. 1985: Ancel et Lequette, Les grands arrêts de la jurisprudencefrançaise de droit international privé, 5e éd, 2006, n° 54.85 フランスにおいて、ブリュッセルⅡ 規 則 及 びブリュッセルⅡbis 規 則 の 下 で、 国 際訴 訟 競 合 が 問 題 になった 事 案 が 幾 つか 存 在 するが、それらについては、 小 梁 ・ 前 掲 注(1)45 頁 以 下 を 参 照 。19157


先 に 訴 訟 が 係 属 した 裁 判 所 が 優 先 される。 第 2 裁 判 所 の 判 断 の 停 止 中 に、 第 1 裁 判 所に 国 際 裁 判 管 轄 があるとの 判 断 が 当 該 裁 判 所 で 下 された 場 合 には、 第 2 裁 判 所 は、 訴えを 却 下 することになる( 同 条 3 項 )。 訴 えを 却 下 された 当 事 者 は、 第 1 裁 判 所 に 反訴 を 提 起 することができる( 同 条 3 項 後 段 )。これらの 原 則 に 対 する 例 外 として、 親責 任 に 関 する 事 件 については、 同 規 則 15 条 が、 適 切 な 法 廷 地 による 解 決 を 図 っている。すなわち、 規 則 15 条 は、 子 の 利 益 を 考 慮 し、 訴 えが 提 起 された 裁 判 所 以 外 に 適 切 な 裁判 所 があるならば、 審 理 を 停 止 し、 当 事 者 に 適 切 な 裁 判 所 への 提 訴 を 勧 告 するとしている。ここで、 国 際 訴 訟 競 合 (litispendance)の 問 題 と 関 連 性 (connexité)の 問 題 とを、 文献 上 、 手 続 の 抵 触 という 同 一 の 項 目 の 中 で 扱 うフランス 法 の 特 徴 について 付 言 しておく。 手 続 の 抵 触 に 関 する 規 定 の 中 でも、NCPC100 条 は 国 際 訴 訟 競 合 に 関 するものであり、NCPC101 条 は 関 連 性 の 抗 弁 について 定 めるものである。litispendance は、 同 一 事件 がともに 管 轄 を 有 する2つの 裁 判 所 に 継 続 している 場 合 であり、connexité は、 共 通の 問 題 にかかわる2つの 事 件 が 異 なる 裁 判 所 に 提 起 されている 場 合 に、 別 個 の 事 件 、請 求 ではあるが、 併 合 して 審 理 、 判 決 することが 適 切 な 場 合 をいう。NCPC101 条 は、関 連 性 の 抗 弁 (exception de connexité)について 定 めており、 異 なった2つの 裁 判 所 に提 起 された 事 件 ( 請 求 )が 共 通 の 問 題 を 基 礎 としているために、 放 置 すると 矛 盾 した判 決 がなされるおそれがあることなど、それらを 併 せて 審 理 し 判 決 することが 良 き 司法 の 利 益 になるような 関 係 が 存 する 場 合 には、それらの 裁 判 所 の 一 方 が 裁 判 権 を 放 棄して、その 審 理 を 他 方 の 裁 判 所 へ 移 送 するように 要 求 することができるとする 86 。(3) 保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄 ほか⇒ フランスの 国 内 法 については、「2. 国 際 裁 判 管 轄 全 般 、(1) 管 轄 原 因 、1 管 轄 の共 通 原 則 ( 国 内 土 地 管 轄 規 定 の 拡 張 及 び 転 用 )」の 項 目 を 参 照 。⇒ 保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 国 際 的 な 法 源 として、ブリュッセル IIbis 規 則20 条 がある。86例 えば、 不 動 産 の 売 主 が 買 主 の 住 所 地 の 裁 判 所 で 売 買 代 金 の 支 払 を 請 求 したが、 買主 は 不 動 産 所 在 地 の 裁 判 所 で 売 買 契 約 の 解 除 を 請 求 しているような 場 合 に、 関 連 性 の抗 弁 が 認 められる。20158


3. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄(a) 失 踪 宣 告失 踪 宣 告 に 類 似 するフランス 法 上 の 制 度 として、 不 在 (absence)がある。フランス実 質 法 上 、 不 在 とは、 死 亡 の 確 証 はないが、 生 死 不 明 である 状 態 をいう。 不 在 については、 民 法 典 112 条 以 下 に、 不 在 の 推 定 (présomption d’absence)や 不 在 宣 告 (déclarationd’absence)についての 規 定 が 設 けられている。 日 本 民 法 の 失 踪 宣 告 は、 不 在 者 の 生 死不 明 が 一 定 期 間 続 けば、 失 踪 宣 告 をして 死 亡 者 と 看 做 す 制 度 であるが、フランス 法 上の 不 在 は、 生 死 不 明 者 を 死 亡 者 と 看 做 すことなく、その 生 存 を 前 提 とする 制 度 を 民 法典 中 に 設 けている。したがって、フランス 法 の 不 在 と 日 本 法 の 失 踪 宣 告 は、 厳 密 には、概 念 が 異 なるといえる。フランス 法 上 、 不 在 は、 失 踪 (disparition)とも 区 別 される。失 踪 とは、 死 亡 の 確 証 はないが、その 生 命 を 危 険 にさせる 状 況 ( 例 えば、 航 空 機 墜 落事 故 、 船 舶 沈 没 事 故 等 )を 直 接 に 知 ることができ、 本 人 の 死 亡 の 可 能 性 が 高 い 状 態 を指 す。 裁 判 所 は、 検 事 又 は 本 人 の 権 利 承 継 人 の 請 求 に 基 づき、 必 要 に 応 じて 調 査 をさせた 後 、 失 踪 者 (disparu)について、 死 亡 宣 告 (déclaration judiciaire du décès)をすることができる( 民 法 典 88 条 〜90 条 参 照 )フランス 法 上 の 不 在 の 推 定 (présomption d’absence)とは、 利 害 関 係 人 又 は 検 察 官 の請 求 に 基 づき、 後 見 裁 判 官 (juge des tutelles)が、 不 在 者 につき 不 在 状 態 を 確 認 し、その 財 産 管 理 のため 利 害 関 係 人 らが 適 当 な 措 置 をとることを 許 す 制 度 である( 民 法 典112 条 以 下 参 照 )。また、 不 在 の 推 定 の 確 認 判 決 後 10 年 、 又 はこの 確 認 がなくとも 本人 の 生 死 不 明 の 状 態 が 20 年 以 上 継 続 している 場 合 、 利 害 関 係 人 又 は 検 察 官 の 請 求 に 基づき、 大 審 裁 判 所 は、 不 在 宣 告 (déclaration d’absence) 判 決 をなしうる( 民 法 典 122条 )。この 判 決 により、 相 続 開 始 、 婚 姻 及 び 夫 婦 財 産 制 の 解 消 等 、 死 亡 (décès)と 類似 の 効 果 が 発 生 するが、 本 人 の 帰 来 又 はその 生 存 の 確 認 のあったときは 不 在 宣 告 判 決の 取 消 による 新 たな 効 果 が 生 じることになる( 民 法 典 128 条 以 下 参 照 )。1968 年 のブリュッセル 条 約 (1 条 1 号 )や 2000 年 のブリュッセルⅠ 規 則 (1 条 2 項a 号 )がその 適 用 範 囲 から 不 在 の 問 題 を 除 外 しているため、フランス 法 上 、 国 内 の 土地 管 轄 規 定 又 は 民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 管 轄 規 定 等 に 従 い、 不 在 の 推 定 や 不 在 宣 告 に関 するフランス 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 を 決 定 することになる。21159


まず、 不 在 の 推 定 の 国 際 裁 判 管 轄 については、 国 内 土 地 管 轄 規 定 である NCPC1062条 を 国 際 裁 判 管 轄 に 転 用 し、フランスに 不 在 者 の 居 住 地 (demeure) 87 又 は 最 後 の 居 所地 (résidence)がある 場 合 に、フランス 裁 判 所 ( 小 審 裁 判 所 )の 管 轄 が 認 められ、それが 存 在 しない 場 合 で、フランスに 申 立 人 の 居 住 地 がある 場 合 には、フランス 裁 判 所の 管 轄 が 認 められる 88 。また、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 に 従 い、 当 事 者 の 一 方 がフランス 人 の 場 合 には、フランス 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められる 89 。 非 訟 事 件 であることは、 民法 典 14 条 及 び 15 条 の 規 定 を 適 用 する 障 害 にはならないとされる。つぎに、 不 在 宣 告 の 国 際 裁 判 管 轄 については、 国 内 の 土 地 管 轄 の 規 定 であるNCPC1066 条 を 国 際 裁 判 管 轄 へ 転 用 し、フランスに 不 在 者 の 居 住 地 又 は 最 後 の 居 所 地がある 場 合 にフランス 裁 判 所 ( 大 審 裁 判 所 )の 管 轄 が 認 められ、それが 存 在 しない 場合 で、フランスに 申 立 人 の 居 住 地 がある 場 合 には、フランス 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められる 90 。また、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 に 従 い、 当 事 者 の 一 方 がフランス 人 の 場 合 には、フランス 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められる 91 。(b) 婚 姻 ( 異 性 ・ 同 性 婚 姻 の 成 立 及 び 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 ), 登 録 パートナーシップ( 異 性 ・ 同 性 登 録 パートナーシップの 成 立 及 び 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 )( 扶 養 義 務は(g) 参 照 )。婚 姻 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 について、ブリュッセル II 規 則 が 成 立 する 以 前 は、NCPC1070 条 の 家 族 関 係 事 件 に 関 する 土 地 管 轄 の 規 定 を 国 際 裁 判 管 轄 に 転 用 して、フランス 裁 判 所 の 管 轄 を 決 定 し、 同 条 の 管 轄 原 因 が 存 在 しない 場 合 で、 夫 婦 の 一 方 がフランス 人 であるときは、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 本 国 管 轄 の 規 定 を 根 拠 に、フランス裁 判 所 の 管 轄 を 認 めていた。 現 在 では、 婚 姻 事 件 は、ブリュッセルⅡbis 規 則 の 適 用 範囲 に 入 るため、まず、 規 則 3 条 1 項 の 管 轄 原 因 を 基 本 として、フランス 裁 判 所 の 管 轄が 認 められる(⇒ブリュッセルⅡbis 規 則 の 管 轄 規 定 については、「(c) 離 婚 及 びその 効果 」の 項 を 参 照 )。ブリュッセルⅡbis 規 則 に 基 づく 管 轄 原 因 が 存 在 しない 場 合 には、フランスの 国 内 法 に 基 づく 管 轄 が 認 められ、NCPC1070 条 の 土 地 管 轄 の 規 定 を 国 際 裁判 管 轄 に 転 用 するか、 同 条 の 管 轄 原 因 が 存 在 しなければ、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 規87居 住 地 (demeure)とは、 住 所 (domicile)と 居 所 (résidence)の 包 括 概 念 である。88 Goré, V° Absence, Répertoire du droit international; 2e éd., 1998, n° 9.89 Goré, op. cit. (88), n° 10.90 Goré, op. cit. (88), n° 9.91 Goré, op. cit. (88), n° 10.22160


定 に 従 い、フランス 裁 判 所 の 管 轄 を 決 定 する。 登 録 パートナーシップについては、ブリュッセルⅡbis 規 則 の 適 用 範 囲 には 含 まれない。(c) 離 婚 及 びその 効 果 ( 年 金 分 割 請 求 権 を 含 む。 扶 養 義 務 については(g) 参 照 ))フランスで 離 婚 する 場 合 には、 必 ず 裁 判 離 婚 をしなければならない 92 。この 原 則 はフランス 人 又 は 外 国 人 に 関 する 離 婚 に 適 用 される。 判 例 もこの 立 場 に 立 つ 93 。フランス 裁 判 所 の 管 轄 はフランス 法 に 従 い 決 定 される。この 点 、 離 婚 、 法 定 別 居 及び 婚 姻 無 効 事 件 の EU 域 内 での 国 際 裁 判 管 轄 及 び 裁 判 の 承 認 執 行 については、2003 年のブリュッセル IIbis 規 則 に 定 めがある。これらの 事 件 については、1 夫 婦 双 方 が 常 居所 を 有 する 地 ( 同 規 則 3 条 1 項 a 号 1 款 )、2 夫 婦 双 方 が 最 後 に 常 居 所 を 有 した 地 で、夫 婦 の 一 方 がなおそこに 居 住 している 地 ( 同 条 1 項 a 号 2 款 )、3 被 告 配 偶 者 が 常 居所 を 有 する 地 ( 同 条 1 項 a 号 3 款 )、4 夫 婦 が 共 同 申 立 てを 行 う 場 合 には、 夫 婦 の 一方 が 常 居 所 を 有 する 地 ( 同 条 1 項 a 号 4 款 )、5 原 告 配 偶 者 の 常 居 所 地 、ただし 申 立人 が 申 立 てを 行 う 直 前 の1 年 間 以 上 その 地 に 居 住 していた 場 合 ( 同 条 1 項 a 号 5 款 )、6 原 告 配 偶 者 の 常 居 所 地 、ただし 申 立 人 が 申 立 てを 行 う 直 前 の6ヶ 月 以 上 その 地 に 居住 しており、かつ 当 該 加 盟 国 の 国 民 である(または、 連 合 王 国 及 びアイルランドについては 当 該 国 のドミサイル(domicile)を 有 している) 場 合 ( 同 条 1 項 a 号 6 款 )、が管 轄 原 因 として 挙 げられている。また、7 夫 婦 双 方 がいずれかの 加 盟 国 の 国 籍 ( 連 合王 国 及 びアイルランドについてはドミサイル)をもつ 場 合 、 裁 判 管 轄 が 認 められる( 同規 則 3 条 1 項 b 号 参 照 )。なお、 規 則 3 条 にいう「ドミサイル」の 意 味 は、 連 合 王 国及 びアイルランド 法 に 従 う( 同 規 則 3 条 2 項 参 照 )。このように、ブリュッセル IIbis規 則 は、 原 告 に 非 常 に 広 範 な 管 轄 原 因 の 選 択 肢 を 用 意 している。このほか、 規 則 3 条に 従 い 管 轄 を 有 する 裁 判 所 は、 反 訴 の 管 轄 も 有 する( 同 規 則 4 条 )。また、 規 則 3 条により 法 定 別 居 の 管 轄 を 有 する 裁 判 所 は、これを 離 婚 に 変 更 する 管 轄 も 有 する( 同 規則 5 条 )。さらに、 規 則 7 条 は、 残 余 の 管 轄 (compétences résiduelles/ residual jurisdiction)と 呼ばれる、 加 盟 国 の 国 内 法 に 基 づいて 管 轄 が 決 められる 場 合 についても 規 定 している。規 則 7 条 1 項 によれば、いかなる 加 盟 国 の 裁 判 所 も 3 条 、4 条 、5 条 に 基 づく 管 轄 を 有しない 場 合 、 各 加 盟 国 において、 管 轄 は、 当 該 加 盟 国 の 法 律 に 従 って 決 定 される。フ92 Courbe, V° Divorce et Séparation de Corps, Répertoire du droit international; 2004, n° 15.93 Cass. 1er civ. 15 juin 1982: D. 1983. IR 151, obs. Audit, Rev. crit. DIP, 1983, p. 300, noteBischoff.23161


ランスでは、ブリュッセル IIbis 規 則 による 管 轄 原 因 が 存 在 しない 場 合 には、NCPC1070条 の 家 族 関 係 事 件 に 関 する 土 地 管 轄 の 規 定 を 国 際 裁 判 管 轄 に 転 用 して、フランス 裁 判所 の 管 轄 を 決 定 し、 同 条 の 管 轄 原 因 が 存 在 しない 場 合 で、 夫 婦 の 一 方 がフランス 人 であるときは、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 本 国 管 轄 の 規 定 を 根 拠 に、フランス 裁 判 所 の 管轄 を 認 める。なお、 規 則 6 条 が、 加 盟 国 に 常 居 所 を 有 する 者 や 加 盟 国 の 国 民 ( 連 合 王国 とアイルランドについては 当 該 国 の 領 域 内 にドミサイルを 有 する 者 )は、 他 の 加 盟国 においては、ブリュッセル IIbis 規 則 の 3 条 、4 条 、5 条 に 規 定 される 管 轄 原 因 に 従ってのみ 訴 えられるとしている。そのため、7 条 の 残 余 の 管 轄 の 対 象 となるのは、 非加 盟 国 の 国 民 で、 加 盟 国 に 常 居 所 を 有 しない 者 が 相 手 方 となる 場 合 である。ブリュッセル IIbis 規 則 のもとでの、 離 婚 、 法 定 別 居 、 婚 姻 無 効 事 件 に 関 する 外 国 判決 の 承 認 執 行 についていえば、EU のいずれかの 加 盟 国 の 裁 判 所 の 判 決 は、 他 の 加 盟国 において、いかなる 手 続 も 経 ることなく 承 認 される( 同 規 則 21 条 1 項 )。ただし、離 婚 等 の 事 件 については、その 判 決 を 承 認 することが 自 国 の 公 序 に 明 らかに 反 する 場合 、その 訴 えの 送 達 が 敗 訴 した 当 事 者 に 適 正 な 時 期 にかつ 防 御 の 機 会 を 与 えるような方 法 でなされなかった 場 合 、 自 国 における 同 一 当 事 者 間 の 裁 判 の 判 決 に 反 する 場 合 、及 び、 自 国 又 は 第 三 国 で 同 一 当 事 者 間 の 争 いについて 先 行 する 判 決 が 存 在 し、それに反 する 場 合 には、 承 認 されない( 同 規 則 22 条 )。ブリュッセル II 規 則 の 成 立 以 前 は、離 婚 及 び 別 居 に 関 する 外 国 判 決 の 承 認 については、 執 行 宣 言 手 続 は 不 要 とされていたが、 例 外 的 に、 離 婚 及 び 別 居 に 伴 う、 財 産 に 対 する 実 質 的 な 執 行 行 為 、 扶 養 料 支 払 請求 に 関 する 判 決 については、 執 行 宣 言 手 続 は 必 要 であるとされた 94 。(d) 血 縁 による 親 子 関 係 ( 嫡 出 推 定 ・ 否 認 , 認 知 , 親 子 関 係 存 否 確 認 )ブリュッセルⅡbis 規 則 は、 親 子 関 係 の 創 設 及 び 異 議 については、 適 用 範 囲 外 であるとする( 同 規 則 1 条 3 項 参 照 )。NCPC1149 条 以 下 に 親 子 関 係 (filiation)に 関 する 規 定 があるが、 管 轄 原 因 について定 めているものではない。おそらく、NCPC1070 条 の 家 族 関 係 事 件 に 関 する 土 地 管 轄の 規 定 を 親 子 関 係 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 に 転 用 して、フランス 裁 判 所 の 管 轄 を 決定 し、 同 条 の 管 轄 原 因 が 存 在 しない 場 合 で、 当 事 者 の 一 方 がフランス 人 であるときには、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 を 根 拠 に、フランス 裁 判 所 の 管 轄 を 肯 定 しているものと 思われる。94 Courbe, V° Divorce et Séparation de Corps, Répertoire du droit international; 2e éd., 1998,n° 214.24162


(e) 養 子 縁 組 及 び 離 縁ブリュッセルⅡbis 規 則 は、 養 子 縁 組 に 関 する 決 定 、それを 準 備 する 措 置 、 養 子 縁 組の 無 効 及 び 取 消 は、 同 規 則 の 適 用 範 囲 外 であるとしている( 同 規 則 1 条 3 項 )。フランスは、1993 年 のハーグ 養 子 縁 組 条 約 の 批 准 国 であるが、 同 条 約 には、 国 際 裁 判 管 轄 に関 する 規 定 は 存 在 しない。フランス 実 質 法 上 は、 完 全 養 子 縁 組 (adoption plénière) 及 び 単 純 養 子 縁 組 (adoptionsimple)の2 種 類 の 養 子 縁 組 制 度 が 設 けられており、いずれの 養 子 縁 組 についても、裁 判 所 の 養 子 決 定 が 必 要 とされる。 完 全 養 子 縁 組 の 場 合 、 養 子 縁 組 の 成 立 によって、養 子 は 養 親 家 族 に 完 全 に 組 み 込 まれ、 養 親 の 家 族 において 嫡 出 子 と 同 一 の 権 利 及 び 義務 を 有 する( 民 法 典 356 条 、358 条 )。 実 親 子 関 係 は、 養 子 の 身 分 証 書 から 完 全 に 抹 消され、その 子 と 実 方 家 族 との 関 係 は 断 絶 する。それに 対 し、 単 純 養 子 縁 組 の 場 合 には、養 子 縁 組 の 成 立 により、 養 子 は 養 親 家 族 との 間 で 新 たな 親 子 関 係 を 創 設 するが、 養 子と 実 方 家 族 との 関 係 は 断 絶 せず、 例 えば、 養 子 は 実 方 との 関 係 で 相 続 権 を 保 持 したまま、 養 親 家 族 との 間 でも 相 続 権 を 得 ることができる( 民 法 典 360 条 以 下 )。フランスで 養 子 縁 組 を 行 う 場 合 には、 国 内 事 案 であると 渉 外 事 案 であるとを 問 わず、裁 判 所 による 関 与 が 必 要 である 95 。1985 年 11 月 19 日 の Cognacs and Brandies from France 事 件 における 破 毀 院 第 1 民 事部 判 決 以 来 、 国 内 の 土 地 管 轄 規 定 に 対 し、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 規 定 は 補 充 的 な 性格 を 持 つものと 解 されているため(⇒2. (1) 2を 参 照 )、 養 子 縁 組 事 件 の 国 際 裁 判 管轄 についても、まず 国 内 土 地 管 轄 規 定 に 従 い、その 管 轄 原 因 が 存 在 しない 場 合 には、民 法 典 14 条 及 び 15 条 の 規 定 に 従 い、フランス 裁 判 所 の 管 轄 を 決 定 する。養 子 縁 組 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 については、NCPC1166 条 の 国 内 土 地 管 轄 の 規 定 を 国際 裁 判 管 轄 に 転 用 して、 申 立 人 ( 養 親 ) 又 は 養 子 の 居 住 地 がフランスにある 場 合 には、フランス 裁 判 所 の 管 轄 を 肯 定 する 96 。もし、それらの 管 轄 原 因 が 存 在 しない 場 合 には、NCPC1166 条 が 申 立 人 に 裁 判 所 の 選 択 を 許 しているため、その 規 定 を 国 際 裁 判 管 轄 の場 面 にどのように 転 用 するかが 問 題 となる。 申 立 人 に 裁 判 所 の 選 択 を 許 す 規 定 については、 外 国 に 居 住 する 全 ての 外 国 人 が 彼 らの 選 択 に 従 いフランスの 裁 判 所 に 申 立 ができるという 趣 旨 ではなく、フランス 人 がフランス 人 を 養 子 にする 場 合 で、 両 者 が 外 国に 常 居 所 を 有 している 場 合 に 適 用 される 規 定 である、と 解 釈 するのが 通 説 である 97 。95 Foyer, V° Adoption, Répertoire du droit international; 2e éd., 2003, n° 75.96 Audit et D’Avout, op. cit., p. 657.97 これらの 学 説 については、Foyer, op. cit.(95), n° 85.を 参 照 。25163


これらの 非 常 に 開 かれたルールがあることで、 実 際 には、 民 法 典 14 条 及 び 15 条 を 根拠 とするフランス 裁 判 所 の 管 轄 は 殆 ど 意 味 がないものとなっている。外 国 養 子 縁 組 の 承 認 については、 後 述 する 外 国 判 決 承 認 の 一 般 ルールに 従 う 98 。 外国 養 子 決 定 の 効 力 については、 外 国 で 成 立 した 養 子 縁 組 がフランスで 完 全 養 子 縁 組 として 承 認 されるか、 単 純 養 子 縁 組 として 承 認 されるかが 問 題 となる。この 点 については、2001 年 2 月 6 日 法 の 成 立 により、 現 在 では、 従 前 とは 異 なる 処 理 が 行 われるようになっている 99 。 外 国 養 子 縁 組 をフランスで 承 認 した 場 合 、その 効 力 については、 外国 法 の 規 定 の 内 容 が 多 様 であることから、その 外 国 法 上 の 効 果 をフランスで 実 現 することは 必 ずしも 容 易 でなく、フランス 人 養 子 の 希 望 に 添 わない 結 果 をもたらすこともあった。そこで、2001 年 2 月 6 日 法 により、 民 法 典 370−5 条 が 設 けられ、 同 条 は、 外国 で 成 立 した 養 子 縁 組 について、 実 親 との 関 係 が 完 全 に 断 絶 したものについては、フランスにおいて、 完 全 養 子 縁 組 としての 効 力 が 生 じ、そうでない 場 合 は、 単 純 養 子 縁組 としての 効 力 が 生 じるとしている 100 。(f) 親 権 ・ 監 護 権 , 面 会 交 流 , 子 の 奪 取 , 未 成 年 後 見 , 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審判 等 )ブリュッセル IIbis 規 則 は、 離 婚 等 に 関 する 事 件 のほか、 親 責 任 ( 親 権 又 は 監 護 権 )の 帰 属 、 行 使 、 委 託 、 制 限 又 は 終 了 をめぐる 争 いについて( 同 規 則 1 条 1 項 参 照 )、EU 域 内 での 国 際 裁 判 管 轄 及 び 裁 判 の 承 認 執 行 について 定 めている。 親 責 任 の 中 身 については、 同 規 則 1 条 2 項 で、 監 護 権 と 面 会 交 流 権 、 後 見 ・ 保 佐 、 子 自 身 とその 財 産を 管 理 ・ 代 理 ・ 補 佐 する 者 又 は 機 関 の 選 任 、 保 護 家 庭 又 は 保 護 機 関 へ 置 くこと、 子 の財 産 管 理 のための 保 全 処 分 等 が 列 挙 されている。子 に 対 する 親 責 任 ( 親 権 又 は 監 護 権 )については、 原 則 として、 申 立 てが 行 われた時 点 の 子 の 常 居 住 地 国 の 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる( 同 規 則 8 条 1 項 )。また、ブリュッセル IIbis 規 則 には、 管 轄 の 拡 張 に 関 する 規 定 が 存 在 し、 一 定 の 場 合 に、離 婚 、 法 定 別 居 、 婚 姻 無 効 に 関 する 事 件 について、 規 則 3 条 のもとで 管 轄 を 有 する 裁判 所 が、 親 責 任 に 関 する 事 件 についても 管 轄 を 持 つことを 認 めている( 同 規 則 12 条 参照 )。 一 定 の 場 合 として 挙 げられているのが、1 夫 婦 の 少 なくとも 一 方 が 親 責 任 を 行使 し、かつ212 条 による 管 轄 が、 申 立 時 に、 明 示 で 又 は 他 の 全 ての 明 確 な 方 法 で 夫 婦98 Foyer, op. cit.(95), n° 268-294.99 Foyer, op. cit.(95), n° 306.100 Foyer, op. cit.(95), n° 308.26164


子 の 奪 取 に 関 する 裁 判 の 承 認 執 行 についていえば、 他 の 構 成 国 において、 執 行 宣 言手 続 (exequatur)を 経 ることなしに、 直 ちに 執 行 手 続 がとられることに 留 意 する 必 要がある( 同 規 則 41 条 ・42 条 参 照 )。未 成 年 後 見 、 成 年 後 見 については、フランスは、1961 年 ハーグ 未 成 年 者 保 護 条 約 ,1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条 約 ,2000 年 ハーグ 成 年 者 保 護 条 約 の 締 約 国 である。1961 年ハーグ 未 成 年 者 保 護 条 約 1 条 は、 未 成 年 者 の 常 居 所 地 国 の 司 法 及 び 行 政 官 憲 が、 条 約3 条 から 5 条 の 規 定 の 留 保 のもとで、その 未 成 年 者 の 身 上 又 は 財 産 上 の 保 護 を 目 的 とする 措 置 をとるための 管 轄 権 を 有 するとしている。また、1996 年 ハーグ 子 の 保 護 条約 5 条 は、 原 則 として、 子 が 常 居 所 を 有 する 締 約 国 の 司 法 又 は 行 政 機 関 が 子 の 身 上 又は 財 産 の 保 護 措 置 を 執 る 管 轄 権 を 有 すると 規 定 し、2000 年 ハーグ 成 年 者 保 護 条 約 5 条の 規 定 も、 原 則 として、 成 年 者 が 常 居 所 を 有 する 締 約 国 の 司 法 機 関 又 は 行 政 機 関 がその 成 年 者 の 身 上 又 は 財 産 の 保 護 に 向 けられた 措 置 をとる 管 轄 権 を 有 するとしている。(g) 扶 養 義 務扶 養 義 務 については、ブリュッセルⅡbis 規 則 の 適 用 範 囲 外 である( 同 規 則 1 条 3項 参 照 )。 前 述 した 通 り、EU では、2008 年 12 月 18 日 に、「 扶 養 義 務 に 関 する 事 件 の裁 判 管 轄 、 準 拠 法 及 び 判 決 の 承 認 執 行 及 び 協 力 に 関 する 理 事 会 規 則 4/2009」が 成 立 している。また、フランスは、1958 年 の「 子 に 対 する 扶 養 義 務 に 関 する 決 定 の 承 認 及 び執 行 に 関 するハーグ 条 約 」、1973 年 の「 扶 養 義 務 に 関 する 決 定 の 承 認 及 び 執 行 に 関 するハーグ 条 約 」を 批 准 し、2007 年 の「 子 の 養 育 費 その 他 の 親 族 の 扶 養 料 の 国 際 的 な 回収 に 関 するハーグ 条 約 」に 署 名 している。2008 年 の EU 扶 養 義 務 規 則 は、 原 則 として、 全 ての 構 成 国 に 妥 当 する。 同 規 則 は、親 族 関 係 、 親 子 関 係 、 婚 姻 関 係 又 は 姻 族 関 係 から 生 じる 扶 養 義 務 に 適 用 される( 同 規則 1 条 1 項 )。 管 轄 については、 規 則 3 条 に 定 めがある。 同 条 は、まず、 被 告 の 常 居 所地 の 裁 判 所 の 管 轄 (a 号 )、または、 扶 養 権 利 者 の 常 居 所 地 の 裁 判 所 の 管 轄 (b 号 )を認 める。さらに、 人 の 身 分 又 は 親 責 任 に 関 する 訴 えに 付 随 してなされた 扶 養 手 続 については、その 法 廷 地 法 に 従 い 当 該 訴 えについて 管 轄 を 有 する 裁 判 所 が 管 轄 を 有 するとする(ただし、 当 事 者 の 一 方 のみの 国 籍 に 基 づいて 管 轄 をもつ 場 合 を 除 く)(c・d 号 )。合 意 管 轄 については、 同 規 則 4 条 に 定 めがある。 規 則 4 条 よれば、 当 事 者 の 一 方 の常 居 所 地 国 である 構 成 国 の 裁 判 所 (a 号 )、 当 事 者 の 一 方 が 国 籍 を 有 する 国 である 構 成国 の 裁 判 所 (b 号 )、 夫 婦 間 の 又 は 元 夫 婦 間 の 扶 養 義 務 に 関 しては、 婚 姻 関 係 事 件 につ28166


いて 裁 判 管 轄 を 有 する 裁 判 所 、 又 はそれらの 夫 婦 の 少 なくとも1 年 間 は 最 後 の 共 通 常居 所 地 国 であった 構 成 国 の 裁 判 所 (c 号 )の 中 から、 管 轄 について 合 意 することができる。ただし、18 歳 未 満 の 子 に 対 する 扶 養 義 務 訴 訟 については、 管 轄 の 合 意 は 認 められない(3 項 )。 応 訴 管 轄 については、5 条 に 規 定 されている。扶 養 義 務 規 則 6 条 は、 補 助 管 轄 について 定 めており、 構 成 国 の 裁 判 所 が 規 則 3 条 、4条 及 び 5 条 によって 管 轄 を 有 しない 場 合 、 並 びに 構 成 国 でないルガノ 条 約 の 締 約 国 の裁 判 所 が 同 条 約 の 規 定 によって 管 轄 を 有 しない 場 合 には、 両 当 事 者 が 共 通 の 国 籍 を 有する 構 成 国 の 裁 判 所 が 管 轄 を 有 する。また、 緊 急 管 轄 については、7 条 に 規 定 が 設 けられている。このほか、 訴 えの 制 限 に 関 する 規 定 として、8 条 がある。 同 条 は、 扶 養権 利 者 が 常 居 所 を 有 する 構 成 国 又 は 2007 年 のハーグ 扶 養 条 約 の 締 約 国 で 決 定 が 下 された 場 合 、 扶 養 義 務 者 による 扶 養 請 求 の 変 更 又 は 新 たな 決 定 を 得 るための 訴 えは、 扶養 権 利 者 が 当 該 決 定 の 下 された 国 に 常 居 所 を 有 するかぎり、 他 の 構 成 国 において、 提起 することができない(1 項 )。ただし、 合 意 管 轄 や 応 訴 管 轄 については、このかぎりではない(2 項 )。扶 養 義 務 規 則 12 条 には、 国 際 訴 訟 競 合 に 関 する 規 定 が 設 けられており、 先 に 訴 えが係 属 した 裁 判 所 が 管 轄 を 有 する。また、 規 則 14 条 の 規 定 によれば、たとえ、 同 規 則 に従 い、 他 の 構 成 国 の 裁 判 所 が 本 案 の 決 定 をする 裁 判 管 轄 を 有 するとしても、 仮 処 分 及び 保 全 処 分 は、 構 成 国 の 裁 判 所 に 申 し 立 てることができる。扶 養 事 件 に 関 する 決 定 の 承 認 及 び 執 行 については、2007 年 のハーグ 扶 養 議 定 書 に 拘束 される 構 成 国 の 決 定 か、それに 拘 束 されない 構 成 国 の 決 定 であるか 否 かに 従 い、 処理 が 異 なる。まず、ハーグ 扶 養 議 定 書 に 拘 束 される 構 成 国 の 決 定 については、 扶 養 義務 規 則 17 条 以 下 に 定 めがあり、 特 別 な 手 続 なしに、 他 の 構 成 国 で 承 認 され、 執 行 も 執行 許 可 を 必 要 としない。ハーグ 扶 養 議 定 書 に 拘 束 されない 構 成 国 の 決 定 については、規 則 23 条 以 下 の 規 定 に 従 い、 承 認 拒 否 事 由 の 検 討 及 び 執 行 許 可 手 続 が 必 要 となる。 規則 24 条 は、 承 認 拒 否 事 由 について 定 めており、 決 定 の 承 認 及 び 執 行 は、 承 認 が 求 められた 構 成 国 の 公 序 に 明 らかに 反 する 場 合 、その 訴 えの 送 達 が 敗 訴 した 当 事 者 に 適 正 な時 期 にかつ 防 御 の 機 会 を 与 えるような 方 法 でなされなかった 場 合 、 承 認 が 求 められた構 成 国 における 同 一 当 事 者 間 に 下 された 決 定 に 反 する 場 合 、 及 び、 構 成 国 又 は 第 三 国で 同 一 当 事 者 間 の 争 いについて 先 行 する 判 決 が 存 在 し、それに 反 する 場 合 には、 承 認されない。29167


(h) 相 続相 続 については、ブリュッセルⅡbis 規 則 の 適 用 範 囲 外 である( 同 規 則 1 条 3 項 参 照 )。相 続 に 関 する 訴 訟 においては、フランス 国 内 の 土 地 管 轄 に 関 する NCPC45 条 101 の 規定 を 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 の 場 面 に 転 用 している。 同 条 によれば、 相 続 人 間 の 請 求 、 死者 の 債 権 者 により 提 起 された 請 求 、 死 因 処 分 の 履 行 に 関 する 請 求 については、 相 続 開始 地 (= 被 告 の 住 所 地 )の 裁 判 所 に 管 轄 がある。 国 際 相 続 の 事 案 において、フランスの 裁 判 所 は、 例 え、 相 続 がフランスにおいて 開 始 しても、 外 国 に 所 在 する 不 動 産 については 管 轄 を 有 しない。それに 対 して、 外 国 で 相 続 が 開 始 しても、フランスに 所 在 する 不 動 産 については、フランスの 裁 判 所 に 管 轄 がある 102 。この 点 との 関 連 で、フランスは 相 続 の 準 拠 法 について、 動 産 相 続 については 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 法 により、不 動 産 相 続 については 不 動 産 所 在 地 法 によるとしているため、 相 続 に 関 しては、 裁 判管 轄 と 準 拠 法 の 一 致 が 図 られているとの 指 摘 もある 103 。 実 際 、フランスの 判 例 は、 伝統 的 に、 相 続 準 拠 法 と 相 続 の 裁 判 管 轄 の 一 致 を 確 立 してきており、 両 者 を 一 致 させることには、 相 続 財 産 の 清 算 と 分 配 を 行 う 上 で 利 点 があるとされている 104 。(i) 氏氏 については、 欧 州 連 合 域 内 での「 相 互 承 認 原 則 」が 妥 当 する。EU において 国 際私 法 の 立 法 が 進 展 するにつれて、 従 来 の 準 拠 法 決 定 のアプローチではなく、 構 成 国 相互 間 での 裁 判 及 び 法 律 関 係 の 承 認 が 重 視 されるようになってきている。この 相 互 承 認という 考 え 方 は、 初 めは, 物 の 自 由 移 動 に 関 して, 欧 州 司 法 裁 判 所 の 1979 年 のCassis de Dijon 事 件 における 先 決 裁 定 105 によって 認 められたものである。この 先 決 裁定 は、 一 構 成 国 において 適 法 に 生 産 され、 取 引 されている 限 り、 当 該 商 品 が 他 の 構 成101 NCPC45 条 「 相 続 に 関 する 訴 訟 においては、 次 のものは、 遺 産 分 割 手 続 終 了 まで、相 続 開 始 地 にある 裁 判 所 に 提 起 するものとする。— 相 続 人 間 の 請 求 。— 死 者 の 債 権 者 により 提 起 された 請 求 。— 死 因 処 分 の 履 行 に 関 する 請 求 。」。102 Mayer et Heuzé, op. cit., p. 210 et suiv, Loussouarn, Bourel et Vareilles-Sommières, op. cit.,p. 623 et suiv, Monéger, Droit international privé, 5e éd., 2009, p. 186.103 Monéger, op. cit., p. 186.104 Audit et D’Avout, Droit international privé, 6e éd., 2010, p. 309, Loussouarn, Bourel etVareilles-Sommières, op. cit., p. 623.105 Case 120/78, Rewe-Zentral AG v. Bundesmonopolverwaltung für Branntwein [1979] ECR649. Cassis de Dijon 事 件 については、 中 西 康 「カシス・ド・ディジョン 事 件 無 差 別 的措 置 と『 数 量 制 限 と 同 等 の 効 果 を 有 する 措 置 』」 中 村 民 雄 = 須 網 隆 夫 『EU 法 基 本 判 例集 〔 第 2 版 〕』( 日 本 評 論 社 ・2010 年 )175 頁 以 下 を 参 照 。30168


国 においても 輸 入 を 認 められるべきであると 判 断 した。この 立 場 は、 構 成 国 は 他 の 構成 国 が 商 品 に 対 して 行 う 規 制 を、 原 則 として、 相 互 に 承 認 しなければならないという意 味 に 理 解 され、「 相 互 承 認 (mutual recognition)」 原 則 と 呼 ばれる。 相 互 承 認 原 則 は、最 近 では、 判 決 の 相 互 承 認 という 形 でそれが 強 調 されているのをはじめ、 会 社 の 法 人格 や 身 分 行 為 等 の 承 認 の 場 面 にもその 原 則 が 拡 大 されてきている。 欧 州 司 法 裁 判 所(ECJ)は、まず、1999 年 の Centros 事 件 106 、2002 年 の Überseering 事 件 107 、2003 年の Inspire Art 事 件 108 、2005 年 の SEVIC Systems AG 事 件 109 において、EU の 他 の 構 成国 で 設 立 された 会 社 の 法 人 格 につき、EC 条 約 43 条 ・48 条 から 導 かれる「 法 人 の 開 業の 自 由 」の 観 点 からこれを 承 認 し、さらに、 氏 に 関 しては、2003 年 の Garcia Avello 事件 110 において、EC 条 約 12 条 から 導 かれる「EU 市 民 権 としての 国 籍 差 別 からの 自 由 」の 観 点 から、 他 の 構 成 国 での 氏 名 を 承 認 する 裁 定 を 下 した。この 裁 定 を 前 提 とすれば、EU では、 最 初 に 氏 を 決 定 した 構 成 国 以 外 の 構 成 国 には 管 轄 が 認 められない 可 能 性 がある。さらに、 欧 州 司 法 裁 判 所 は、2008 年 10 月 14 日 の Grunkin et Paul 事 件 111 において、 両 親 が 居 住 するデンマークで 生 まれたドイツ 国 籍 の 子 の 氏 に 関 して、ドイツの 機106 Case C-212/97, Centros Ltd. v. Erhvervs- og Selskabsstyrelsen [1999] ECR I-1459.107 Case C-208/00, Überseering BV v. Nordic Construction Company BaumanagementGmbH(NCC), [2002] ECR I-9919.108 Case C-167/01, Kamer van Koophandel en Fabrieken voor Amsterdam v. Inspire Art Ltd,[2003] ECR I-155.109 Case C-4411/03, SEVIC Systems AG.110 Case C-148/02, Carlos Garcia Avello v. Belgian State, [2003] ECR I-11613. 本 件 の 事 実関 係 は、 以 下 の 通 りである。スペイン 人 男 性 Garcia Avello は,ベルギー 人 女 性 Weberと 1986 年 にベルギーで 婚 姻 し, 同 地 で 1988 と 1992 年 に 2 人 の 子 が 生 まれた。 子 はいずれもベルギーとスペインの 重 国 籍 者 である。ベルギー 法 上 , 嫡 出 子 の 姓 は 父 の 姓 となるため, 子 はベルギーの 出 生 証 書 に Garcia Avello という 姓 で 登 録 されているが,スペイン 法 上 は 一 般 に 結 合 姓 が 用 いられており, 子 は, 父 と 母 それぞれの 結 合 姓 の 最 初の 部 分 を, 原 則 として 父 , 母 の 順 で 結 合 した 姓 を 称 するため,ブリュッセルのスペイン 大 使 館 領 事 部 には Garcia Weber という 姓 で 登 録 されている。1995 年 両 親 はこの 姓 をGarcia Avello から Garcia Weber に 変 更 するようベルギー 当 局 に 申 し 立 てたが, 結 局 申立 は 棄 却 された。この 決 定 の 取 消 を 求 められたコンセイユ・デタは,ベルギー 当 局 の措 置 が EC 条 約 17 条 ・18 条 に 違 反 するか 否 かという 先 決 問 題 を 欧 州 司 法 裁 判 所 に 付託 した。 欧 州 司 法 裁 判 所 は, 本 件 の 子 らは2つの 構 成 国 の 国 籍 を 有 しているため EC条 約 17 条 から 導 かれる EU 市 民 の 地 位 を 享 受 できること,さらに,その 姓 を 規 律 する準 則 に 関 して,EC 条 約 12 条 の 国 籍 に 基 づく 差 別 を 受 けない 権 利 を 利 用 できるとした上 で,「ある 構 成 国 の 行 政 当 局 がその 国 に 居 住 しその 国 の 国 籍 と 他 の 構 成 国 の 国 籍 を 有する 未 成 年 の 子 らの 姓 の 変 更 の 申 立 を 拒 絶 することは, 申 立 がこの 子 らが 他 の 構 成 国の 法 と 伝 統 に 従 い 有 する 姓 を 称 するためのものであるときには,EC 条 約 12 条 ・17 条に 違 反 する。」との 先 決 裁 定 を 下 した。111 JDI 2009, p. 203, note D’Avout, Rev. crit. DIP, 2009, p. 80, note Lagarde.31169


関 は、デンマーク 法 に 従 い、 出 生 当 時 、 子 に 付 与 されたダブルネームを 承 認 すべきであると 判 示 した。なお、 子 の 氏 名 については、ブリュッセルⅡbis 規 則 の 適 用 範 囲 外 である( 同 規 則 1 条 3 項 参 照 )。このほか、1950 年 に 設 立 された Commission international de l’état civile (CIEC)には、フランスを 含 む 15 のヨーロッパ 諸 国 が 加 盟 しており、この 委 員 会 は、 人 の 民 事 的 身 分(état civile)に 関 する 数 々の 国 際 条 約 を 制 定 してきた。 氏 名 の 変 更 に 関 する 1985 年 9月 4 日 のイスタンブール 条 約 112 ( 日 本 は 非 加 入 )は、 氏 に 関 する 締 約 国 の 決 定 の 承 認を 目 的 としており、 各 締 約 国 は、 他 の 締 約 国 に 属 する 者 の 氏 名 の 変 更 をすることができないとしている。4. 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 制 度(1) 外 国 判 決 及 び 外 国 非 訟 裁 判 の 承 認 執 行 要 件 ( 特 に 間 接 管 轄 , 執 行 宣 言 手 続(exequatur)の 有 無 など)・ 総 説フランスにおける 外 国 判 決 の 承 認 執 行 については、これを 直 接 定 めた 規 定 は 存 在 せず、 民 法 典 2123 条 及 び NCPC 509 条 が、 外 国 判 決 の 執 行 についてのみ 規 定 している。NCPC 509 条 113 は、 外 国 判 決 執 行 の 一 般 的 要 件 として、「 外 国 の 裁 判 所 によってなされた 判 決 及 び 外 国 の 官 吏 によって 承 認 された 証 書 は、 法 律 によって 定 められている 方法 でかつ 法 律 によって 定 められている 場 合 に、 共 和 国 の 領 土 で 執 行 することができる。」と 定 めている。・ 執 行 宣 言 手 続 (exequatur)外 国 判 決 は、 執 行 宣 言 手 続 (exequatur)と 呼 ばれる、それらの 判 決 をチェックする手 続 の 後 ではじめてフランスで 執 行 力 を 持 つにすぎない。この 外 国 判 決 の 承 認 執 行 の場 合 の 執 行 宣 言 手 続 の 管 轄 は、 大 審 裁 判 所 (tribunal de grande instance)の 専 属 的 管 轄112 1959 年 11 月 13 日 のデクレ 59−1303 号 により、フランスで 効 力 を 有 している。 同条 約 は、ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、オランダ、トルコで 発 効 している。113法 務 大 臣 官 房 司 法 法 制 調 査 部 「 法 務 資 料 第 434 号 注 釈 フランス 新 民 事 訴 訟 法 典 」を参 照 。32170


に 属 する 114 。かりにその 場 合 の 外 国 判 決 がフランスの 大 審 裁 判 所 より 上 級 審 の 外 国 裁判 所 が 下 したものであるとしても 同 様 である。もっとも、この 執 行 宣 言 手 続 は、あらゆる 場 合 に 要 求 されるわけではなく、それが不 要 とされる 場 合 もある。その 場 合 、 外 国 判 決 は、 執 行 宣 言 なしに、フランスで 承 認され、その 効 力 を 生 じうる。どのようなケースがそれに 該 当 するかというと、 外 国 判決 の 承 認 が、 外 国 での 既 判 事 項 (chose jugée)の 考 慮 や、 判 決 によって 外 国 で 創 設 された 状 況 (situation)の 考 慮 である 場 合 である。フランスの 判 例 は、 古 くから、 人 の 身分 に 関 する 判 決 が 執 行 宣 言 なしに 自 動 的 に 効 力 を 生 ずることを 認 めてきた。 破 毀 院 は、Bulkley 事 件 に 関 する 1860 年 2 月 28 日 の 民 事 部 判 決 115 において、 外 国 において 下 された 離 婚 について、 離 婚 に 関 する 外 国 判 決 の 執 行 宣 言 の 請 求 なしに、 離 婚 当 事 者 に 対 し、フランスにおいて 再 婚 することを 認 め、さらに、de Wrède 事 件 に 関 する 1900 年 5 月 9日 の 民 事 部 判 決 116 においても、 婚 姻 を 無 効 とした 外 国 判 決 について、 執 行 宣 言 手 続 なしに、 婚 姻 無 効 の 確 認 がフランスの 裁 判 所 によってなされうることを 認 めた。・ 外 国 判 決 の 承 認 執 行 の 要 件執 行 宣 言 手 続 において 外 国 判 決 を 承 認 するための 要 件 として、フランス 破 毀 院 は、Munzer 事 件 に 関 する 1964 年 1 月 7 日 の 第 1 民 事 部 判 決 117 において、「 執 行 宣 言 を 認 めるために、フランスの 裁 判 所 は、5つの 要 件 が 充 足 されていることを 確 認 しなければならない、すなわち、 判 決 を 下 した 外 国 裁 判 所 の 管 轄 、 当 該 裁 判 所 の 面 前 で 行 われた手 続 の 適 法 性 、フランスの 抵 触 規 定 に 従 い 管 轄 ある 法 の 適 用 、 国 際 的 公 序 との 一 致 、全 ての 法 律 詐 欺 の 不 存 在 である。」と 判 示 し、5つの 要 件 を 挙 げている。 一 方 、 外 国 判決 の 承 認 執 行 の 要 件 として、 学 説 上 、 一 般 的 に 挙 げられているのは、1 外 国 裁 判 所 に管 轄 があること( 間 接 管 轄 )、2フランスの 抵 触 規 則 に 従 い 指 定 される 準 拠 法 が 当 該 外国 判 決 において 適 用 されていること( 準 拠 法 要 件 )、3 当 該 外 国 判 決 が 国 際 的 な 公 序 に反 しないこと、4 当 該 外 国 判 決 に 法 律 詐 欺 (fraude à la loi)がないことである。 以 下 、学 説 の 挙 げる4つの 要 件 に 従 い、 外 国 判 決 の 承 認 執 行 の 要 件 について、もう 少 し 詳 しく 説 明 する。114 Monéger, op. cit., p. 213.115 Cass. civ. 28 févr. 1860: Ancel et Lequette, Les grands arrêts de la jurisprudence françaisede droit international privé, 5e éd, 2006, n° 4.116 Cass. civ. 9 mai 1900: Ancel et Lequette, Les grands arrêts de la jurisprudence française dedroit international privé, 5e éd, 2006, n° 10.117 Cass. 1er civ. 7 jan. 1964: Ancel et Lequette, Les grands arrêts de la jurisprudence françaisede droit international privé, 5e éd, 2006, n° 41.33171


1 間 接 管 轄1の 間 接 管 轄 の 要 件 に 関 する 第 1 準 則 として、 国 際 裁 判 管 轄 の 直 接 管 轄 に 関 するフランスの 規 定 がフランスの 裁 判 所 に 専 属 管 轄 を 付 与 している 場 合 には、 執 行 宣 言 は 拒絶 されるというものがある 118 。さらに、 第 2 準 則 として、 国 際 裁 判 管 轄 に 関 するフランスの 規 定 がフランスの 裁 判 所 に 専 属 管 轄 を 付 与 していない 場 合 には、 執 行 宣 言 は 容易 に 認 められるというものがある。 破 毀 院 は、Simitch 事 件 に 関 する 1985 年 2 月 6 日の 第 1 民 事 部 判 決 119 において、まず、「フランスの 国 際 的 間 接 管 轄 規 則 は、 自 律 的 で、独 自 の 管 轄 規 則 であるにとどまる。すなわち、 外 国 裁 判 所 の 国 際 管 轄 に 固 有 の、また、外 国 判 決 を 監 督 するために、 特 に 観 念 されたフランスの 規 則 である。」と 判 示 した。 学説 上 、この 判 決 は、 間 接 管 轄 を 決 定 する 基 準 と 直 接 管 轄 を 決 定 する 基 準 が 完 全 に 分 離されることを 破 毀 院 が 認 めた 判 決 であると 評 されている。その 上 で、 破 毀 院 は、 間 接管 轄 がいかなる 場 合 に 認 められるかという 基 準 について、「 係 争 が、 訴 えを 提 起 された裁 判 所 の 存 在 する 国 と 特 徴 的 な 関 連 を 有 しており、かつ、 裁 判 所 の 選 択 が 詐 欺 的 なものでない 場 合 には、 外 国 裁 判 所 は、 管 轄 を 有 するものと 認 められるべきである。」と 判示 した。この 定 式 は、 柔 軟 なものであり、 管 轄 の 抵 触 の 分 野 において「 特 徴 的 な 関 連(lien caractérisé)」、すなわち、 密 接 関 連 性 が 考 慮 される 場 合 があることを 示 しているものであるといわれている。 実 際 に、このような 基 準 に 照 らして、どのような 場 合 に外 国 裁 判 所 の 間 接 管 轄 が 肯 定 又 は 否 定 されるかについては 議 論 がある 120 。 破 毀 院 は 当初 、1994 年 6 月 15 日 の 第 1 民 事 部 判 決 121 において、 夫 婦 が 当 該 外 国 の 共 通 国 籍 を 有することのみをもって 特 徴 的 な 関 連 があるとし、その 外 国 裁 判 所 の 管 轄 を 肯 定 していたが、その 後 に 出 された 2004 年 2 月 17 日 の 破 毀 院 第 1 民 事 部 判 決 122 によって 判 例 を変 更 し、 夫 婦 の 双 方 がフランスに 住 所 を 有 する 場 合 には、 夫 婦 が 共 通 のアルジェリア国 籍 を 有 することは 訴 訟 をアルジェリアに 特 徴 的 に 関 連 付 けるのには 十 分 ではないと判 示 した。118 Cass. 1er civ. 5 mai 1962: D. 1962. 718, note Holleaux.119 Cass. 1er civ. 6 févr. 1985: D. 1985. 469, note Massip; Les grands arrêts de la jurisprudencefrançaise de droit international privé, 5e éd, 2006, n° 70. 同 判 決 について、 詳 しくは、 矢 澤 ・前 掲 注 (29)165 頁 以 下 を 参 照 。120 Courbe, op. cit. (92), n° 196-198.121 Cass. 1er civ. 15 juin 1994: D. 1994, somm. 352, obs. Audit.122 Cass. 1er civ. 17 févr. 2004, Courbe, op. cit. (92), n°198.34172


2 準 拠 法 要 件執 行 宣 言 手 続 を 行 う 裁 判 所 で 次 にチェックされなければならないのが、フランスの抵 触 規 則 に 従 い 指 定 される 準 拠 法 が 適 用 されていること( 準 拠 法 要 件 )である。 破 毀院 は、 前 述 した Munzer 事 件 に 関 する 判 決 において、 外 国 判 決 の 承 認 執 行 に 際 しては、準 拠 法 要 件 が 必 要 であると 判 示 した。この 要 件 はかなり 厳 しいものであり、 実 務 上 、外 国 判 決 の 効 力 は、フランスの 抵 触 規 定 と 外 国 の 抵 触 規 定 の 同 一 性 に 依 存 してしまうことになる。そこで、 破 毀 院 は、その 厳 格 性 を 緩 和 し、「いわゆる 等 価 性 の 理 論 (théoriedite de l’équivalence)」を 適 用 し、フランスの 抵 触 規 定 によって 指 定 された 法 が、その執 行 宣 言 が 請 求 されている 外 国 判 決 と 同 一 の 結 果 を 導 く 場 合 、たとえフランスと 外 国の 抵 触 規 定 間 の 同 一 性 が 存 在 しない 場 合 であっても、 執 行 宣 言 が 認 められるものとした。この 解 決 は、フランス 法 秩 序 における 解 決 の 予 見 可 能 性 を 犠 牲 にすることなしに、外 国 判 決 の 承 認 を 容 易 にしうるとして、 実 務 上 歓 迎 されている。 実 際 には、 外 国 判 決の 結 果 とフランスの 抵 触 規 定 が 指 定 する 法 が 導 く 結 果 の 等 価 性 が 存 在 しないことを 理由 に 執 行 宣 言 が 認 められないことは 非 常 に 稀 である。なお、 国 際 条 約 の 多 くは、 外 国判 決 の 効 力 に 関 してこの 準 拠 法 要 件 を 排 除 している。3 実 体 的 公 序 及 び 手 続 的 公 序3の 外 国 判 決 が 国 際 的 な 公 序 に 反 しないことという 要 件 が 必 要 とされる 点 については、 判 例 ・ 学 説 上 争 いがない。 国 際 的 公 序 には、 実 体 的 公 序 と 手 続 的 公 序 の 双 方 が 含まれると 解 されている。4 法 律 詐 欺 (fraude à la loi)の 不 存 在フランス 破 毀 院 は、 準 拠 法 選 択 の 場 面 でも、 法 律 回 避 行 為 は 法 の 詐 欺 (fraus legis)であるとして 無 効 と 判 断 してきており 123 、 外 国 判 決 の 承 認 の 場 面 でも 法 律 詐 欺 がないことが 必 要 とされる。5. 手 続 の 類 型フランスでは、 日 本 におけるような 人 事 ・ 家 事 事 件 について 個 別 の 立 法 を 設 けるという 形 式 をとっていない。わが 国 の 人 事 ・ 家 事 事 件 と 同 種 の 事 件 については、 通 常 の123 ボッフルモン 事 件 における 1878 年 3 月 18 日 の 破 毀 院 判 決 (Civ. 18 mars 1878: Lesgrands arrêts de la jurisprudence française de droit international privé, 5e éd, 2006, n° 6.)を 参照 。35173


民 事 事 件 と 同 様 に 扱 われ、NCPC にそれに 関 する 規 定 が 設 けられている。 家 族 法 や 人の 身 分 に 関 する 事 件 については、 大 審 裁 判 所 (tribunal de grande instance)が 権 限 を 有する。 大 審 裁 判 所 は、 民 事 に 関 する 第 一 審 の 普 通 法 裁 判 所 として、 法 律 によって 特 別の 定 めのないすべての 事 件 を 扱 う 124 。 大 審 裁 判 所 には、 公 開 法 廷 (audience publique)と 非 公 開 で 行 われる 法 廷 である 評 議 部 (chambre de conseil) 等 がある。 非 訟 事 件 (recoursgracieux)については、 大 体 、 評 議 部 で 審 理 される。 訴 訟 事 件 (recours contentieux)であっても、とくに 公 開 をはばかられる 事 件 ( 例 えば、 離 婚 事 件 )については、 評 議 部で 扱 うことができる。ただし、その 場 合 の 判 決 の 言 い 渡 しは、 公 開 法 廷 で 行 う。 大 審裁 判 所 には、 家 族 事 件 裁 判 官 (juge aux affaires familiales)という 専 門 の 単 独 制 判 事 が置 かれており( 司 法 組 織 法 典 L. 312−1 条 、 民 法 典 247 条 、NCPC1074 条 )、その 権 限 は、一 方 では、 離 婚 ・ 別 居 及 びその 諸 結 果 に 関 して、 他 方 では、 扶 養 義 務 ・ 家 庭 の 家 計 分担 ・ 子 の 養 育 義 務 の 決 定 や、 親 権 行 使 、 非 嫡 出 子 の 氏 の 変 更 、 名 の 変 更 等 に 関 して 管轄 権 をもつ。 離 婚 事 件 については、1994 年 以 降 、 従 来 の 婚 姻 事 件 裁 判 官 (juge aux affairesmatrimoniales)に 代 わり、その 権 限 が 拡 大 された。 家 族 法 や 人 の 身 分 に 関 する 事 件 の上 級 法 院 としては、 控 訴 院 があり、その 上 級 審 として、 破 毀 院 がある。・ 訴 訟 事 件 (recours contentieux)と 非 訟 事 件 (recours gracieux)非 訟 事 件 として 処 理 される 事 項 は、 非 訟 事 項 (matière gracieuse)とよばれる。 非 訟事 項 とは、 紛 争 が 存 在 しないにもかかわらず、 事 件 の 性 質 又 は 申 請 者 (requérant)の資 格 により、 裁 判 官 の 監 督 に 委 ねられることを 法 律 が 要 求 しているため、 裁 判 官 が 受理 する 事 案 をさす(NCPC25 条 参 照 )。NCPC25 条 は、「 紛 争 の 欠 如 」と「 裁 判 官 の 監督 が 法 律 上 要 求 されていること」の2 点 を 基 準 に、 何 が 非 訟 事 件 であるかを 定 義 している。「 相 手 方 当 事 者 の 不 存 在 」や「 裁 判 官 が 申 請 によって 事 件 を 処 理 すること」は、非 訟 事 件 であるか 否 かを 判 断 するための、 副 次 的 な 事 情 にすぎないとされる。 何 をもって 非 訟 事 項 とするのかについては、 従 来 から 学 説 上 争 いがある 125 。 非 訟 事 項 の 典 型例 としては、 養 子 縁 組 (NCPC1167 条 )、 協 議 離 婚 (divorce sur demande conjointe) 126(NCPC1088 条 )、 夫 婦 財 産 制 の 変 更 の 認 可 ( 民 法 典 1397 条 ) 等 が 挙 げられている。124滝 沢 正 『フランス 法 〔 第 4 版 〕』( 三 省 堂 ・2010 年 )185 頁 。125 Couchez, Langlade et Lebeau, Procédure civile, 1998, p. 288 et suiv; Guinchard, Chainaiset Ferrand, Procédure civile: Droit interne et droit de l’Union européenne, 30e éd., 2010, p.1354 et suiv.126 フランス 法 上 の「 協 議 離 婚 (divorce sur demande conjointe)」とは、 配 偶 者 双 方 の 申請 に 基 づき、 離 婚 の 諸 結 果 について 定 めた 合 意 案 を 裁 判 官 に 提 出 し、 裁 判 官 が 夫 婦 の36174


意 思 が 真 実 であることの 確 認 、 及 び、 離 婚 合 意 案 が 子 又 は 夫 婦 の 一 方 の 利 益 保 護 に 十分 であることの 確 認 をしたうえで、 離 婚 を 言 い 渡 すものであり( 民 法 典 230 条 〜232条 )、 日 本 民 法 の 協 議 離 婚 とは 異 なる。37175


4. イギリス( 執 筆 担 当 : 日 本 大 学 織 田 有 基 子 )《 内 容 》1 国 際 裁 判 管 轄 全 般Ⅰ イングランド 裁 判 所 の 管 轄 を 規 律 するルールについてⅡ ブラッセルⅠ 規 則 における 管 轄(1) 適 用 範 囲(2) ドミサイル1) 自 然 人2) 会 社 および 団 体(3) ドミサイルに 基 づく 管 轄(4) 専 属 管 轄(5) 保 全 処 分 の 管 轄Ⅲ 住 居 、 常 居 所 等(1) 住 居 、 通 常 住 居(2) 常 居 所2 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 、 子 の 奪 取 、 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 )、養 子 縁 組 、 遺 産 管 理Ⅰ EU 規 則(1) 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則1) 管 轄 の 拡 張2) 子 の 所 在 に 基 づく 管 轄(2) 8 条 原 則 の 補 完1) フォーラム・ノン・コンヴェニエンス2) 面 会 交 流 事 案 における 継 続 的 管 轄(3) 8 条 原 則 の 例 外1) 訴 訟 係 属 の 抗 弁2) 国 内 管 轄Ⅱ 伝 統 的 ルール(1) 本 来 的 管 轄(2) 後 見 人 選 任(3) Children Act 1989 および「8 条 命 令 」1) 離 婚 ベース2) 常 居 所 および 居 所 ベース3) 緊 急 管 轄(4) 手 続 停 止 の 権 限1176


(5) 特 別 後 見 命 令(6) イングランドからの 子 の 連 れ 去 りⅢ 外 国 命 令 のイングランドにおける 効 力(1) ヨーロッパの 命 令(2) 加 盟 国 以 外 の 外 国 命 令 : 後 見 命 令(3) 加 盟 国 以 外 の 外 国 命 令 : 監 護 命 令Ⅳ 国 際 的 子 奪 取(1) 国 際 条 約 総 説(2) ルクセンブルグ 条 約(3) ハーグ 条 約(4) 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則Ⅴ 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 )(1) Mental Capacity Act (2005) とハーグ 条 約(2) 管 轄 に 関 する 規 定(3) 承 認 ・ 執 行 に 関 する 規 定Ⅵ 養 子 縁 組(1) イングランドにおける 養 子 縁 組 立 法 とその 概 要(2) イングランド 法 による 養 子 縁 組(3) 養 子 縁 組 条 約 における 養 子 縁 組(4) 外 国 養 子 縁 組 の 承 認1) ブリテン 諸 島 における 養 子 縁 組2) 海 外 養 子 縁 組 (Overseas Adoptions)3) 養 子 縁 組 条 約 による 養 子 縁 組 の 承 認4) その 他 の 養 子 縁 組 の 承 認5) 公 序 要 件6) 外 国 養 子 縁 組 に 関 する 宣 言Ⅶ 遺 産 管 理(1) 序(2) イングランドの 遺 産 管 理 権 限 付 与1) 分 割 遺 言 (separate wills)2) 遺 産 管 理 権 限 が 付 与 される 者(3) イングランド 外 でなされた 許 諾 ( 権 限 付 与 )などの 承 認1) スコットランドおよび 北 アイルランドにおける 許 諾2) コモンウェルス 諸 国 における 許 諾3) 外 国 において 選 任 された 人 格 代 表 者※ McLean & Beevers, Morris The Conflict of Laws (7th ed) (2009, Sweet &Maxwell)を 参 照 した。2177


※ 離 婚 に 関 しては、 岡 野 祐 子 「イングランドにおける 国 際 離 婚 裁 判 に 関 する 手 続 的 諸 問題 」 法 と 政 治 ( 関 西 学 院 大 学 )61 巻 3 号 に 詳 しい。※この 領 域 におけるイングランドおよび EU の 法 改 正 の 動 きは 活 発 、かつ 極 めて 流 動 的であるので、 十 分 な 注 意 が 必 要 である。1 国 際 裁 判 管 轄 全 般Ⅰ イングランド 裁 判 所 の 管 轄 を 規 律 するルールについてイングランド 裁 判 所 の 管 轄 は、 以 下 の4つの 異 なるルール 群 によって 規 律 されている。すなわち、 1 ブラッセルⅠ 規 則 (Council Regulation 44/2001=the JudgmentsRegulation) / Civil Jurisdiction Order 2001(SI2001/3929) 、2 ルガーノ 条 約 / CivilJurisdiction and Judgments Act 1991、3 ブラッセル 規 則 の 国 内 管 轄 配 分 を 決 めるバージョンのもの、および4 伝 統 的 ルールの 4 つである。Civil Jurisdiction Order 2001 は、ブラッセルⅠ 規 則 を 英 国 法 に 適 合 させるための 規 定 である。ブラッセルⅠ 規 則 は、デンマークにおいて 特 別 合 意 により 受 け 入 れられ、2007 年7 月 1 日 に 発 効 したので、 現 在 、 全 EU 諸 国 において 適 用 されている。また、ブラッセルⅠ 規 則 には、1968 年 ブラッセル 条 約 において 最 初 に 制 定 されたルールの 最 新 版 が 含 まれている。 原 署 名 国 の 大 陸 法 の 伝 統 が 反 映 された 1968 年 条 約 は、 古 典 的 大 陸 法 の 伝 統 を 有しない 英 国 、アイルランド、デンマークの 条 約 加 入 を 促 進 するため、1973 年 に 調 整 された。1988 年 9 月 16 日 には、ブラッセル 条 約 を 下 敷 きにはしているものの、その 現 行 条 文 とは 異 なる 新 条 約 が、ルガーノにおいて EC 加 盟 国 および EFTA 加 盟 国 により 署 名 された。時 には「 平 行 条 約 」とも 呼 ばれるルガーノ 条 約 の 目 的 は、ブラッセル 条 約 の 原 則 が、より広 い 領 域 で 適 用 されるようにすることであった。しかしブラッセル 条 約 とは 異 なり、ルガーノ 条 約 は 欧 州 裁 判 所 の 権 威 的 解 釈 に 従 うものではない。その 後 、EFTA の 署 名 国 の 多 くは EU 加 盟 国 となったため、 今 やルガーノ 条 約 は、EU 加 盟 国 とアイスランド、ノルウェイ、スイスとの 間 で 適 用 されるに 過 ぎない。ルガーノ 条 約 は、Civil Jurisdiction andJudgments Act 1991 によって、 英 国 内 における 効 力 が 与 えられた。ルガーノ 新 条 約 が2007 年 10 月 30 日 に 合 意 されたが、 批 准 はまだ 行 われていない。ヨーロッパ 規 則 には 複 数 のバリエーションがあり、ブラッセル 規 則 にも 英 国 内 の 異 なる法 域 間 のような 国 内 管 轄 の 分 配 を 定 めるバージョンがある。 原 則 として、 英 国 内 の 異 なる法 域 にドミサイルを 有 する 者 は、イングランド 裁 判 所 においては、 他 の 締 約 国 にドミサイルを 有 する 者 と 同 様 な 地 位 にあると 言 える。以 上 の 管 轄 ルール 群 は 全 て、ヨーロッパのイニシャチブに 由 来 するものである。 英 国 がEU に 加 盟 した 時 、ヨーロッパ 条 約 に 基 づく 原 則 を、 英 国 裁 判 所 に 申 し 立 てられる 全 事 案につき 広 く 適 用 するかどうか 決 めるべきであった。しかし、 当 時 は 反 対 の 主 張 、すなわち、「 非 ヨーロッパ」 事 案 として 抽 象 的 に 表 現 されるような 事 案 においては、 現 行 のイングラ3178


ンド 裁 判 所 実 務 を 変 更 すべきでないという 主 張 が 強 かったのである。したがって、 英 国 裁判 所 の 管 轄 を 規 律 する 4 つ 目 のルール 群 は、 裁 判 官 が 発 展 させてきた、そして 現 在 は CivilProcedure Rules にまとめられている「 伝 統 的 ルール」ということになる。 多 くのコモンウェルス 諸 国 裁 判 所 のルールは、この 伝 統 的 ルールを 踏 まえた 原 則 に 基 づいている。イングランド 裁 判 所 が 伝 統 的 ルールを 適 用 し 得 る 根 拠 はブラッセルⅠ 規 則 4 条 であり、ブラッセルⅠ 規 則 の 規 定 が 用 いられない 事 案 には 国 内 法 の 適 用 が 認 められる(Article 4(1) If thedefendant is not domiciled in a Member State, the jurisdiction of the courts of each MemberState shall, subject to Articles 22 and 23, be determined by the law of that MemberState.)。一 時 期 、ハーグ 国 際 私 法 会 議 が 管 轄 および 判 決 の 承 認 執 行 に 関 する 世 界 規 模 の 条 約 を 作ろうとしたが、10 年 の 作 業 の 後 、その 企 画 は 頓 挫 した。その 失 敗 は 教 訓 的 である。なぜなら、コモンロー 諸 国 において 採 用 されているアプローチと 大 陸 法 諸 国 において 採 用 されているアプローチとの 間 、および 米 国 の 管 轄 規 則 と 他 のほとんど 全 ての 国 々の 管 轄 規 則 との 間 には、 依 然 として 緊 張 関 係 が 存 在 していることを、ハーグ 会 議 の 作 業 が 明 らかにしたからである。Ⅱ ブラッセルⅠ 規 則 における 管 轄(1) 適 用 範 囲ブラッセルⅠ 規 則 ( 以 下 、 本 規 則 )1 条 は、 裁 判 所 が courts であるか tribunals であるかにかかわらず、 本 規 則 は 民 商 事 事 件 に 適 用 されるが、 特 に、 歳 入 、 関 税 、 行 政 事 件 には 適用 されないことを 定 める。また、1 自 然 人 の 身 分 または 法 的 能 力 、 婚 姻 関 係 から 生 じる財 産 権 、 遺 言 、 相 続 、2 破 産 、 債 務 超 過 会 社 の 解 散 および 類 似 の 手 続 、3 社 会 保 障 、4和 解 、に 関 する 問 題 にも 適 用 されない。扶 養 は、1の「 婚 姻 関 係 から 生 じる 財 産 権 」に 含 まれず、したがって、 本 規 則 の 適 用 範囲 内 である。Van den Boogard v. Laumen 事 件 ([1997] E.C.R. Ⅰ-1147, [1997] Q.B. 759)において、イングランドの 離 婚 裁 判 所 は、 一 括 支 払 い、 一 定 財 産 の 移 転 、およびオランダで求 められていた 執 行 を 命 じた。ヨーロッパ 裁 判 所 は、 妻 の 生 活 費 を 提 供 するためになされた 命 令 と、 財 産 分 与 を 実 現 するための 命 令 とを 区 別 し、 前 者 は 扶 養 の 問 題 であり、 後 者 は、「 婚 姻 関 係 から 生 じる 財 産 権 」に 関 するものであるとした。この 区 別 は、 離 婚 後 になされるイングランド 裁 判 所 の 命 令 において、 特 に 大 金 が 絡 む 場 合 に、 明 確 に 行 うことは 難 しい。(2) ドミサイルドミサイルの 概 念 は、 本 規 則 のスキームにおいて 非 常 に 重 要 な 位 置 を 占 めるものであるが、その 定 義 は 会 社 およびその 他 の「 法 人 」にのみ 与 えられている。4179


1) 自 然 人事 件 が 係 属 している 裁 判 所 が 存 する 加 盟 国 に 当 事 者 がドミサイルを 有 しているかどうかを 決 定 するため、 裁 判 所 は 国 内 法 を 適 用 すべきであると 本 規 則 59 条 は 規 定 する。したがって、 当 事 者 がイングランドにドミサイルを 有 しているか 否 かをイングランド 裁 判 所 が 判断 しなければならない 場 合 、ドミサイルに 関 し 適 切 な 定 義 を 提 供 するのはイングランド 法である。このような 場 面 で、ドミサイルに 関 する 伝 統 的 理 解 を 用 いるべきでないことは 認 識 されている。その 意 味 におけるドミサイルは、とりわけ、 永 久 的 本 拠 や 出 生 に 基 づくドミサイルを 強 調 する 結 果 として 人 為 的 なものとなり、 確 定 することが 難 しい 場 合 がしばしば 生 じる。ドミサイルは 個 人 と 国 家 との 長 期 間 の 結 び 付 きを 示 すものである。しかし、たとえば、個 人 が 契 約 違 反 によって 訴 えられる 以 前 にそのような 結 び 付 きを 主 張 する 理 由 はない。実 際 、より 進 んで 適 用 されるような、そして 常 居 所 と 異 ならないものとして、 大 陸 法 諸 国におけるドミサイルの 理 解 により 近 づくような、ドミサイルの 定 義 が 要 求 されたのである。The Civil Jurisdiction and Judgments Act 1982 の 41 条 は、ブラッセル 条 約 の 文 脈 ににおける 新 しい 定 義 を 提 供 しており、それと 同 じルールが、The Civil Jurisdiction andJudgments Order 2001 に 用 いられている(Sch1, para.9)。そのルールは、 個 人 が 英 国 に 居 住 し、かつ、その 居 住 の 性 質 および 状 況 から、その 個 人が 英 国 と 実 質 的 関 連 性 を 有 していることが 示 されている 場 合 にのみ、 当 該 個 人 は 英 国 にドミサイルを 有 すると 規 定 する。「 居 住 」や「 実 質 的 関 連 性 」についての 定 義 はないが、イングランド 裁 判 所 は、「 安 定 的 なまたは 通 常 の 居 住 地 」と 述 べており、これはあらゆる 状況 に 関 し 時 間 をかけて 評 価 することを 含 み 得 るものである。この 必 要 性 を 最 小 限 にするため、 英 国 に 居 住 しており、 直 近 の 3 ヶ 月 間 以 上 英 国 に 居 住 している 個 人 の 事 案 においては、反 証 がない 限 り、 実 質 的 関 連 性 の 要 件 は 満 たされているものと 推 定 されるとそのルールは規 定 する。このルールは、たいていのドミサイルの 争 点 を 解 決 し 得 る 非 常 に 便 利 なものであるが、 推 定 の 打 破 や3ヶ 月 内 のドミサイルの 獲 得 の 証 明 が 求 められる 場 合 には、やはり「 実 質 的 関 連 性 」のテストが 必 要 となる。ある 者 のドミサイルが 単 に 英 国 に 存 することではなく、 英 国 内 の 特 定 の 法 域 、たとえばイングランドにあることを 示 すことはほとんど 常 に 必 要 である。 個 人 が 英 国 内 の 特 定 の 法域 に 居 住 しており、かつその 居 住 の 性 質 及 び 状 況 が、その 個 人 が 英 国 内 の 特 定 の 法 域 と 実質 的 関 連 性 を 有 することを 示 している 場 合 にのみ、その 個 人 はその 法 域 にドミサイルを 有している。3 ヶ 月 間 の 居 住 に 基 づく 推 定 は、この 場 面 においても 適 用 される。3 ヶ 月 ルールが 役 に 立 たない 事 案 もあるだろう。 仮 に、D がドイツの 会 社 に 指 名 されて、会 社 の 製 品 のマーケティングおよび 販 売 ネットワークを 立 ち 上 げるために 英 国 へ 来 たとする。 彼 は 英 国 に 合 計 6 ヶ 月 間 、そのうち 5 分 の 2 ずつイングランドおよびスコットランドに、 残 りの 5 分 の 1 は 北 アイルランドに 滞 在 した。 彼 はいずれの 地 にも 継 続 して 3 ヶ 月 過ごしたことはなく、いずれの 地 にも 実 質 的 関 連 性 を 有 しているとは 認 められないだろう。この 種 の 事 案 を 扱 うため、 個 人 が 英 国 にドミサイルを 有 しているが、いずれの 地 にも 実 質5180


的 関 連 性 を 有 していない 場 合 には、その 者 が 居 住 している 英 国 内 の 法 域 にドミサイルを 有しているものとして 扱 うよう、ルールは 規 定 している。本 規 則 の 下 では、 個 人 がドミサイルを 有 する「 場 所 」を 決 定 する 必 要 性 が 生 じることがある。その 者 が、(a)その 場 所 が 存 する 英 国 内 の 法 域 にドミサイルを 有 し、かつ、(b)その場 所 に 居 住 している 場 合 にのみ、その 者 は、 英 国 内 の 特 定 の 場 所 にドミサイルを 有 することになる。当 事 者 が 事 件 が 係 属 する 裁 判 所 が 存 する 国 にドミサイルを 有 していない 場 合 、その 者 が、他 の 加 盟 国 にドミサイルを 有 しているか 否 か 決 定 するために、 裁 判 所 は 他 の 加 盟 国 の 法 を適 用 しなければならないと、 本 規 則 は 規 定 する。このことは、 常 にイングランド 法 が 適 用される 伝 統 的 なドミサイルルールの 下 でのアプローチと 対 比 される。 他 にも 相 違 点 がある。すなわち、 本 規 則 の 下 では、 個 人 は 複 数 のドミサイルを 持 つことが 可 能 である。たとえば、ある 個 人 がフランスにドミサイルを 有 する 場 合 に、フランス 法 は 関 心 を 払 い、その 者 がベルギーにドミサイルを 有 する 場 合 、ベルギー 法 はその 者 を 受 け 入 れる。そのような 場 合 、いずれの 国 においても 訴 訟 を 開 始 することが 可 能 である。本 規 則 は、 加 盟 国 以 外 の 国 にドミサイルを 有 するか 否 かの 判 断 については 述 べていない。ある 個 人 が 加 盟 国 以 外 の 国 に 居 住 しており、かつその 居 住 の 性 質 および 状 況 が、その 国 と実 質 的 関 連 性 を 有 していることを 示 している 場 合 にのみ、その 者 はその 国 にドミサイルを有 していると、The Civil Jurisdiction and Judgments Order 2001 は 規 定 する。この 場 合 、3 ヶ 月 の 居 住 に 基 づく 推 定 は 存 在 しない。2) 会 社 および 団 体会 社 、その 他 の 法 人 、または 自 然 人 ないし 法 人 の 団 体 の 事 案 においては、 異 なるアプローチが 採 られている。ここには、パートナーシップやメンバー 限 定 のクラブも 含 まれるであろう。 本 規 則 の 目 的 に 照 らし、そのような 団 体 は、その 法 律 上 の 本 拠 地 、 中 心 的 運 営 地 、または 主 たる 事 業 地 を 有 する 地 にドミサイルを 有 すると 規 定 されている(60(1))。 実 際 的ではないように 見 えるが、これは、 団 体 が 異 なる 3 ヶ 国 にドミサイルを 有 し 得 ることを 意味 している。「 法 律 上 の 本 拠 地 」という 概 念 は、コモンロー 諸 国 では 知 られていないため、 本 規 則 は、英 国 およびアイルランドのために、「 法 律 上 の 本 拠 地 」とは、 登 録 された 事 業 所 所 在 地 、またはそのような 事 業 所 がどこにもない 場 合 には 設 立 地 、そのような 設 立 地 がどこにもない 場 合 には、 設 立 地 法 に 基 づく 地 を 意 味 するという 特 別 規 則 を 置 いている。さらに 複 雑 なのは、 本 規 則 22(2)が、 会 社 や 団 体 の 設 立 、 解 散 または 行 為 に 関 する 専 属管 轄 を、その 団 体 の「 本 拠 地 」の 裁 判 所 に 認 めていることである。その 本 拠 地 を 決 定 するために、 裁 判 所 は 国 際 私 法 ルールを 適 用 しなければならない。 関 連 するイングランドのルールは、The Civil Jurisdiction and Judgments Order 2001 に 規 定 されている。22(2)の 目 的に 照 らし、(a) 会 社 、 法 人 、または 団 体 が 英 国 内 の 法 域 の 法 に 基 づき 設 立 されたか、(b)その 中 心 的 運 営 および 統 御 が 英 国 内 で 行 われている 場 合 にのみ、その 会 社 、 法 人 、または団 体 は 英 国 に 本 拠 地 を 有 している。また、 本 規 則 が 適 用 される 他 国 に 会 社 、 法 人 、または団 体 が 本 拠 地 を 有 するのは、(a) それがその 国 の 法 に 基 づき 設 立 されたか、(b) その 中 心6181


的 運 営 及 び 統 御 がその 国 において 行 われている 場 合 のみである。しかし、それが 英 国 内 の法 域 の 法 に 基 づき 設 立 されたか、22(2)の 目 的 に 照 らして、 他 国 裁 判 所 がそこに 本 拠 地 があると 考 えない 場 合 には、それはその 国 に 本 拠 地 を 有 しているとは 解 されないだろう。(3) ドミサイルに 基 づく 管 轄本 規 則 2(1)に 規 定 されている 第 一 の 管 轄 原 因 は、 加 盟 国 にドミサイルを 有 する 者 は、その 国 籍 にかかわらず、その 国 の 裁 判 所 において 訴 えられるというものである。このことは、被 告 と 選 択 された 裁 判 所 との 間 の 結 び 付 きを 要 求 する、 基 本 的 な「 一 般 管 轄 」ルールと 一致 する。 被 告 の 英 国 のドミサイルは、 本 規 則 において、イングランド 裁 判 所 の 主 たる 管 轄原 因 である。 手 続 開 始 時 に、 被 告 は 加 盟 国 にドミサイルを 有 していなければならない。イングランドにおいて、 手 続 開 始 時 とは、 訴 状 が 被 告 に 送 達 された 時 ではなく、 請 求 フォームが 発 行 された 時 を 意 味 する。被 告 とされた 者 が 他 の 加 盟 国 にドミサイルを 有 する 場 合 、 本 規 則 5 条 から 24 条 に 規 定されたルールに 従 い、その 者 はイングランドで 訴 えられる 可 能 性 を 有 する。これらのルールには、 被 告 がその 法 域 に 服 従 する 事 案 、「 特 別 」 管 轄 の 事 案 、23 条 の 管 轄 合 意 が 存 在 する 事 案 が 含 まれる。イングランドに 一 時 的 に 所 在 する 被 告 への 訴 状 送 達 に 関 する 伝 統 的 なイングランドのルールに 従 うことは、3 条 によって 明 白 に 排 除 されている。被 告 が 他 の 締 約 国 にドミサイルを 有 していない 場 合 に 適 用 可 能 な 管 轄 ルールは、その 法廷 地 の 国 内 法 の 管 轄 ルールであり、イングランドにおいては 伝 統 的 ルールである。これらのルールは、 当 事 者 のドミサイルに 関 わりなく、 特 定 の 加 盟 国 の 裁 判 所 に 専 属 管 轄 を 与 える 本 規 則 22 条 に 常 に 従 う。(4) 専 属 管 轄本 規 則 は、 特 定 国 の 裁 判 所 に「 専 属 管 轄 」を 認 める 場 合 がある。 専 属 管 轄 という 語 は、本 規 則 固 有 の 意 味 を 有 しており、ある 事 案 が 特 定 の 問 題 に 関 するものである 場 合 、EU 内の 一 国 のみが 事 案 を 審 理 できるとすることに 締 約 国 が 同 意 したことを 示 している。もし、ある 加 盟 国 の 裁 判 所 が、 他 国 の 裁 判 所 が 専 属 管 轄 を 有 する 問 題 に 関 する 請 求 を 引 き 受 けたことに 気 づいた 場 合 、その 裁 判 所 はその 請 求 について 管 轄 を 有 していない 旨 を 宣 言 しなければならない(25 条 )。 専 属 管 轄 が 認 められる 事 案 類 型 は 22 条 に 列 挙 されており、それは、 不 動 産 、 会 社 、 公 的 登 録 機 関 、 知 的 財 産 、 判 決 の 執 行 の 5 つである。ここで、 本 規 則 の 下 で 生 じる 他 の 二 つの 状 況 を 認 識 し、 専 属 管 轄 と 区 別 することが 必 要である。その 一 つは、 当 事 者 が 裁 判 所 選 択 の 合 意 に 到 達 した 場 合 、その 合 意 に 従 うならば、裁 判 所 はその 事 案 につき 専 属 管 轄 を 有 するのと 同 様 に 扱 われることになる。しかし、この種 の 事 案 には 異 なるルールが 適 用 される。 二 つ 目 は、 一 定 の 請 求 ( 保 険 業 者 によるもの、または 消 費 者 や 労 働 者 に 対 するもの)は 被 告 がドミサイルを 有 する 国 でのみ 訴 えることができると 本 規 則 が 規 定 していることである。 被 告 は 複 数 の 国 にドミサイルを 有 することができるのであるから、これは 厳 密 には 専 属 管 轄 ではない。特 定 の 請 求 が 本 規 則 の 管 轄 規 則 に 該 当 するか 否 かを 検 討 する 際 、 専 属 管 轄 に 関 する 22条 から 始 めることが 賢 明 である。 本 条 は、 被 告 のドミサイルがどこにあるかに 関 わらず 適7182


用 される。このことは、もし 被 告 が、たとえばニュージーランドなどの 非 加 盟 国 にドミサイルを 有 していても、 同 条 が 関 係 することを 意 味 している。 裁 判 所 が 22 条 に 従 い 専 属 管轄 を 有 する 事 案 は、 関 連 する 手 続 の「 対 象 」への 言 及 によって 明 らかにされている。 言 及されているのは、その 訴 訟 を 提 起 する 請 求 者 の 目 的 ではなく、 争 われる 本 案 の 性 質 である。(5) 保 全 処 分 の 管 轄加 盟 国 裁 判 所 に 対 してなされる 申 立 ては、その 国 の 法 に 基 づき 利 用 可 能 な 保 全 処 分 に 関するものでも 良 い。それは、たとえ 本 案 については 本 規 則 によれば 他 の 加 盟 国 裁 判 所 が 管轄 を 有 する 場 合 であっても 認 められる(31 条 )。31 条 が 想 定 している 典 型 的 な 保 全 処 分は、フランス 法 の saisie conservatoire であり、たとえ、 被 告 の 財 産 や 銀 行 口 座 がフランス 国 外 に 所 在 していても、フランス 裁 判 所 は、 被 告 の 財 産 を 差 し 押 さえ、それを 封 印 し、あるいは 被 告 の 銀 行 口 座 を 凍 結 できる 強 力 な 権 限 を 有 している。この 場 合 、フランス 裁 判所 の 命 令 が 有 効 であるためには、 財 産 や 銀 行 口 座 の 所 在 地 国 で 執 行 されることが 必 要 となろう。 他 の 全 ての 原 加 盟 国 の 裁 判 所 は 同 様 の 権 限 を 有 している。そのような 保 全 処 分 の 有効 性 は、しばしば 驚 愕 という 要 素 にかかっているため、 被 告 に 告 知 することなく 行 われることがよくある。しかし、 本 規 則 の 下 では、 他 の 加 盟 国 において、saisie conservatoireを 行 うことは 認 められない。なぜなら、 被 告 の 出 廷 がないのに 判 決 が 言 い 渡 された 場 合 や、訴 訟 開 始 状 が 被 告 の 防 護 準 備 に 十 分 な 時 間 をとって 適 法 に 送 達 されなかった 場 合 には、その 判 決 は 承 認 されるべきではないからである(34(2))。31 条 は、このような 場 面 につき、たとえば、 財 産 所 在 地 国 の 裁 判 所 における 保 全 処 分の 申 立 てを 可 能 にすることによって 対 処 するものである。 請 求 者 のためには 驚 愕 の 効 果 を達 成 することが 重 要 であるが、それと 同 等 に、 被 告 および 第 三 者 のためには、そのような手 段 が 迅 速 に 全 ての 関 係 者 に 告 知 され、かつ 迅 速 な 反 撃 手 段 をとる 機 会 が 与 えられることが 重 要 なのである。イングランドの 実 務 において 最 も 重 要 な「 保 護 措 置 」は、マレーバ・インジャンクションと 呼 ばれるものである。これは、 本 案 につき 説 得 力 ある 証 拠 を 示 すことができる 請 求 者に 対 し、 被 告 が 財 産 所 在 地 である 当 該 法 域 の 外 への 財 産 処 分 や 移 動 を 行 わないように 差 し止 めることを 認 めるものである。その 目 的 は、 判 決 執 行 を 妨 げるために 財 産 を 散 逸 させることを 防 止 することにある。この 差 止 命 令 を 認 める 権 限 は、 現 在 は Supreme Court Act1981 の 37(3)、および Civil Jurisdiction and Judgment Act 1982 の 25 条 に 規 定 されている。これらの 規 定 においては、 当 該 法 域 内 に 所 在 する 財 産 についてのみ 言 及 されているが、 現在 、マレーバ・インジャンクションは 海 外 にある 財 産 についても 明 らかに 認 められている。8183


Ⅲ 住 居 、 常 居 所 等(1) 住 居 、 通 常 住 居 (residence / ordinary residence)個 人 と 国 家 との 最 も 基 礎 的 な 結 び 付 きは、 単 純 な 物 理 的 所 在 (physical presence)である。これは、 事 実 上 明 確 ではあるが、 関 連 性 が 非 常 に 限 定 的 なものであるため、 牴 触 法 においてはほとんどまたは 全 く 重 要 性 を 持 たない。むしろ、 住 居 (residence)の 方 が 多 く 登 場 する。 住 居 は 基 本 的 に 事 実 問 題 である。 住 居 は 物 理 的 所 在 よりは 若 干 意 味 を 有 する 場 面 もあるが、それ 以 上 のことを 意 味 するものではない。ある 国 を 旅 行 者 として 通 過 する 者 がそこに 住 居 を 有 していないことは 明 らかである。しかし、ある 者 がある 国 に 住 居 を 有 するならば、 住 居 という 関 連 性 は 短 期 間 不 在 にしている 間 も 残 るだろう。 住 居 概 念 はそれが 用 いられる 場 面 に 大 きく 依 存 するため、これ 以 上 特 定 することは 難 しい。これに 対 し、 通 常 住 居 (ordinary residence)は、「 偶 然 的 一 時 的 な 不 在 は 別 として、ある 程 度 継 続 して 一 定 の 場 所 に 居 住 していることを 示 唆 する」ものであると 解 されている(Levene v. IRC [1928] A.C. 217)。それは、 短 期 滞 在 か 長 期 滞 在 かにかかわらず、 人 が、当 面 の 日 常 生 活 の 常 態 の 一 部 として、 任 意 にかつ 決 まった 目 的 のために 選 んだ 特 定 の 場 所や 国 におけるその 者 の 住 居 を 指 す。通 常 住 居 は、 適 切 な 事 実 に 基 づきその 日 のうちに 変 更 されることもあり 得 るが、 人 は、同 時 に 複 数 の 国 に 通 常 住 居 を 持 つことはできないとする 理 由 はない。アイルランドに 家 を有 し、 仕 事 の 都 合 で 毎 月 1 週 間 イングランドのホテルに 滞 在 する 者 は、 所 得 税 の 関 係 では、イングランドに 通 常 住 居 があると 解 釈 されている(IRC v. Lysaght [1928] A.C. 234)。しかし、 彼 がアイルランドにも 通 常 住 居 を 有 しているのは 明 らかである。「どこに 住 むかを 自 分 自 身 で 決 めることのできない」 幼 い 子 は、 親 の 家 (matrimonialhome)に 通 常 住 居 を 有 するものとされ、これは 両 親 の 同 意 がなければ 変 更 できないと 解 されている。 別 居 している 両 親 の 合 意 により 子 がその 片 方 の 親 と 同 居 している 場 合 、その 子は 同 居 している 親 の 家 に 住 居 を 有 するものとされ、その 子 の 通 常 住 居 は、 他 方 の 親 が 子 をそこから 連 れ 去 ったという 理 由 だけでは 変 更 されない。(2) 常 居 所 (habitual residence)国 際 私 法 会 議 の 長 年 のお 気 に 入 りの 表 現 である 常 居 所 は、 数 多 くのハーグ 条 約 、そしてこれらに 効 力 を 認 める 数 多 くのイングランドの 制 定 法 に 登 場 している。しかし、 常 居 所 は、他 の 制 定 法 においてもますます 多 く 利 用 されてきている。 常 居 所 の 定 義 がハーグ 条 約 に 置かれたことはない。これは、 常 居 所 という 語 を、 異 なる 法 体 系 の 間 に 生 じるような 頑 迷 さと 矛 盾 を 生 み 出 す 技 巧 的 ルールから 切 り 離 しておきたいという 意 図 的 な 政 策 判 断 によるものである。この 語 は、 専 門 用 語 としてではなく、それが 包 含 する 二 つの 語 の 通 常 かつ 自 然な 意 味 に 従 って 理 解 されるべきであるとされる(Re J. (A Minor) (Abduction) [1990] 2 A.C.562)。 常 居 所 を 専 門 用 語 として 扱 わないと 強 調 しているにもかかわらず、 裁 判 所 は、 常 居所 の 成 立 時 期 に 関 するルールを 確 立 させる 傾 向 にある。 法 律 委 員 会 (Law Commission)は、特 に、 意 思 の 位 置 付 けや 常 居 所 となるために 要 求 される 居 住 期 間 の 長 さが 不 明 確 であるこ9184


とを 引 き 合 いに 出 して、 法 律 概 念 としての 常 居 所 に 関 し「 伝 えられている 未 発 達 な 状 態 」について 述 べている。裁 判 所 はこれまで 何 度 か 異 なる 見 解 を 示 したことがあるものの、 常 居 所 と 通 常 住 居 の 二つの 概 念 の 間 に 現 実 の 区 別 はない、あるいは、 少 なくともそれらは「 意 味 の 核 心 」を 共 有していると 考 えているようである。したがって、この 場 面 に 用 いられるテストもまた、 人が、 当 面 の 日 常 生 活 の 常 態 の 一 部 として、 任 意 にかつ 決 まった 目 的 のために 選 んだ 特 定 の国 におけるその 者 の 住 居 に 関 するものとなり、 証 明 責 任 はその 変 更 があったと 主 張 する 当事 者 が 負 うこととなろう。しかし、 貴 族 院 が、 常 居 所 は「 制 定 法 の 文 脈 と 目 的 に 従 い、 制定 法 ごとに 異 なる 意 味 を 有 する 可 能 性 がある」と 解 釈 していることには 注 意 すべきである( Mark v. Mark [2005] UKHL 42, [2006] 1 A.C. 98)。常 居 所 を 獲 得 するためには、 人 の 居 住 は 合 法 的 なものでなければならないと 長 年 考 えられてきた。しかし、 貴 族 院 は、Mark 判 決 において、 少 なくとも 税 目 的 の 場 合 は、たとえ居 住 が 不 法 なものであってとしても 常 居 所 の 獲 得 が 可 能 であることを 認 めた。 人 はその 居住 が 継 続 的 (habitual)なものになったことを 示 す 期 間 、 当 該 国 で 生 活 しなければならないが、その 期 間 は 決 まっていない。それはその 状 況 によらざるを 得 ないからである。 場 合 によっては、 常 居 所 は 一 日 で 失 われることもあり 得 る。 常 居 所 は 一 時 的 不 在 の 間 も 継 続 するが、 多 くの 場 合 、 人 は 常 居 所 を 持 たずにいることができるし、また、 同 時 に 複 数 の 常 居 所を 持 つこともできる。 常 居 所 に 関 するテストを、あたかも 条 文 の 文 言 であるかのように 扱わないことが 重 要 である。 常 居 所 が「 任 意 に 選 ばれた」ものであるかどうかは 通 常 は 争 点にはならないが、Breuning v. Breuning ([2002] EWHC 236(Fam), [2002] 1 F.L.R. 888) において、 自 ら 選 択 したのではないが、 治 療 のためイングランドに 滞 在 した 者 についてのイングランドにおける 継 続 的 所 在 は 常 居 所 とは 認 められないことが 判 示 された。「 一 定 の 意 思 」は 当 該 国 に 長 期 間 住 居 を 構 える 際 に 認 識 されるものである。しかし、 意思 ないし 目 的 という 証 拠 は 個 別 事 案 では 重 要 かもしれないが(たとえば、 実 際 の 居 住 期 間が 短 い 場 合 に 継 続 性 を 証 明 する)、 本 質 的 なものではないという 見 解 の 方 が 適 切 であるように 思 われる。 新 しい 国 における 長 期 間 の 居 住 が 立 証 されるならば、たとえその 者 が、( 駐 留 軍 基 地 におけるように) 外 国 居 住 者 グループの 中 でもっぱら 生 活 しているとしても、常 居 所 はそこになるだろう。子 の 常 居 所 について幼 い 子 は 大 人 に 要 求 される 一 定 の 意 思 や 目 的 を 有 さないが、それでも 常 居 所 を 有 するとして 扱 われることは 明 らかである。 多 くの 場 合 、 親 が 別 居 している 子 の 常 居 所 は、 子 の 監護 権 を 有 するいずれかの 親 の 常 居 所 と 同 じになる。 裁 判 所 は 定 期 的 に、 一 方 の 親 の 一 方 的行 為 によって 子 の 常 居 所 を 変 更 することはできず、 子 の 常 居 所 の 変 更 が 全 く 無 関 係 に 示 されるような 状 況 が 生 じない 限 り、それは 変 更 されないままであると 判 示 してきた。 両 親 が共 通 の 常 居 所 を 有 する 場 合 、 裁 判 所 は「 子 の 常 居 所 の 問 題 は、 当 事 者 の 共 通 の 意 思 によって 常 に 解 決 されるものではない。それは 最 終 的 に、 四 囲 の 状 況 に 鑑 み、 子 がイングランドおよびウェールズに 常 居 所 を 有 していると、 適 切 かつ 現 実 的 に 言 えるかどうかにかかっているのである」と 述 べている(A. (A child) [2006] EWHC 3338 (Fam))。10185


2 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 、 子 の 奪 取 、 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 )、養 子 縁 組 、 遺 産 管 理Ⅰ EU 規 則(1) 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 (2005 年 3 月 1 日 発 効 、 以 下 、 本 規 則 )は、 親 責 任 の 帰 属 、 実施 、 委 任 、 制 限 、 終 了 に 関 する 統 一 的 な 管 轄 規 則 、およびEU 領 域 内 の 判 決 についてのほぼ 自 動 的 な 判 決 承 認 を 定 めている(ただし、デンマークは 除 く)。本 規 則 は、 親 子 関 係 の 成 立 およびこれを 巡 る 争 い、 養 子 縁 組 、 子 の 名 前 、 未 成 年 子 に 対する 能 力 付 与 (emancipation)、 扶 養 、 信 託 、 相 続 、 子 による 犯 罪 に 関 する 問 題 には 適 用 されず、 子 の 財 産 に 関 しては、 子 の 保 護 手 段 についてのみ 適 用 される。( 同 1(3))( 子 の 保護 に 関 係 しない 子 の 財 産 に 関 する 問 題 は、ブラッセルⅠ 規 則 (Council Regulation 44/2001)によって 規 律 される。)なお、 本 規 則 には 子 の 年 齢 についての 定 めはなく、この 問 題 は 各 国 法 に 委 ねられている。本 規 則 8 条 は、 親 責 任 に 関 する 原 則 的 管 轄 規 則 を 定 めている。 同 条 は、 以 下 の 通 り、 事件 係 属 時 の 子 の 常 居 所 地 国 (ただし、 締 約 国 )に 管 轄 を 認 めている。Article 8 General jurisdiction1 The courts of a Member State shall have jurisdiction in matters of parentalresponsibility over a child who is habitually resident in that Member State at the timethe court is seised.2 Paragraph 1 shall be subject to the provisions of Articles 9, 10 and 12.(2) 8 条 原 則 の 補 完1) 管 轄 の 拡 張 (prorogation)本 規 則 12 条 によれば、 同 3 条 に 基 づき 婚 姻 関 係 事 件 の 管 轄 を 行 使 する 締 約 国 裁 判 所 もまた、 親 責 任 に 関 する 管 轄 を 有 する。それは、 少 なくとも 夫 婦 のいずれか 一 方 が 親 責 任 を有 し、かつ、( 裁 判 所 に 係 属 した 時 点 において)その 管 轄 が 明 示 的 に、またはその 夫 婦 及び 親 責 任 保 有 者 によって 明 白 に 認 められ、かつその 管 轄 が 子 の 最 上 の 利 益 に 適 う 場 合 である。締 約 国 裁 判 所 はまた、 子 が 当 該 締 約 国 と 実 質 的 関 連 を( 特 に、 親 責 任 を 有 する 者 がその国 に 常 居 所 を 有 しているか、 子 がその 国 の 国 民 であるという 理 由 で) 有 しており、かつ、その 管 轄 が、 明 示 的 に、または 手 続 の 全 当 事 者 によって 明 白 に 認 められ、かつ 子 の 最 上 の利 益 に 適 う 場 合 にも、 親 責 任 に 関 する 管 轄 を 有 する。2) 子 の 所 在 に 基 づく 管 轄本 規 則 では 常 居 所 について 定 義 されていないため、 本 規 則 の 趣 旨 に 従 い、 事 実 的 要 因 に基 づいて 決 定 されることになる。11186


子 の 常 居 所 に 基 づく 管 轄 は、 特 に、 子 が 非 常 に 幼 い 場 合 、 子 が 難 民 である 場 合 、 子 が 国際 的 に 移 動 している 場 合 にはその 判 断 が 難 しい。 本 規 則 は、そのような 場 合 について、 子の 常 居 所 が 立 証 されず、かつ 12 条 に 基 づく 管 轄 が 認 められないならば、 子 が 所 在(presence)している 締 約 国 の 裁 判 所 が 管 轄 を 有 すると 規 定 することによって 対 処 している( 同 13 条 )。(3) 8 条 原 則 の 例 外1) フォーラム・ノン・コンヴェニエンス伝 統 的 コモンローの 意 味 におけるフォーラム・ノンコンヴェニエンスは、ブラッセルⅠ規 則 ではほとんど 認 められておらず、 本 規 則 においても 婚 姻 関 係 事 件 では 全 く 認 められていない。しかし、 親 責 任 の 問 題 については、フォーラム・ノンコンヴェニエンスの 原 則 が 認 められ、 裁 判 所 は、この 原 則 に 基 づき、 親 責 任 事 件 の 管 轄 を 全 面 的 にまたは 部 分 的 に 停 止 することが 可 能 とされている。この 点 に 関 する 本 規 則 15 条 によれば、 当 該 子 が 他 の 締 約 国 と 特 別 な 関 係 を 有 している場 合 、 裁 判 所 は、 親 責 任 事 件 の 手 続 を 停 止 (stay)することができ、または 他 の 締 約 国 裁 判所 に 対 し 当 該 事 件 の 管 轄 を 引 き 受 けるよう 要 請 することができる。この 場 合 、 他 の 締 約 国の 裁 判 所 は、その 事 件 についてより 良 く 審 理 することができる 場 所 であり、その 管 轄 の 行使 は 子 の 最 上 の 利 益 に 適 うものと 考 えられる。子 がその 締 約 国 と 特 別 な 関 係 を 有 していると 解 されるべき 場 合 は、 次 の 通 りである。(a) 元 の 締 約 国 裁 判 所 に 事 件 が 係 属 した 後 に、 他 の 締 約 国 が 子 の 常 居 所 地 となった 場 合(b) その 締 約 国 が 子 の 以 前 の 常 居 所 地 である 場 合(c) その 締 約 国 が 子 の 国 籍 国 である 場 合(d) その 締 約 国 が、 親 責 任 を 有 する 者 の 常 居 所 地 である 場 合(e) その 締 約 国 が 子 の 財 産 の 所 在 地 国 であり、かつ、その 事 案 が、その 財 産 の 運 営 、 維持 、 処 分 に 関 する 子 の 保 護 手 段 に 関 するものである 場 合である( 同 15(3))。その 事 案 を 審 理 するのにより 良 い 法 廷 地 があるかどうかを 判 断 するために、 裁 判 所 間 で直 接 に、または 中 央 当 局 を 通 じて 協 力 し 合 うことができる( 同 15(6))。2) 面 会 交 流 事 案 における 継 続 的 管 轄本 規 則 9 条 は、ある 締 約 国 裁 判 所 が 親 責 任 関 係 事 件 において 面 会 交 流 権 に 関 する 判 決 を下 し、かつ、 子 が 他 の 締 約 国 に 合 法 的 に 移 動 することによって 新 しい 常 居 所 を 獲 得 した 場合 、 以 前 の 常 居 所 地 国 の 裁 判 所 が 3 ヶ 月 間 管 轄 を 行 使 し 続 けることを 認 めている。これは、面 会 交 流 権 に 関 する 判 決 を 修 正 するためである。 子 の 新 常 居 所 地 国 の 裁 判 所 は、この 期 間は 管 轄 を 有 しない。 面 会 交 流 権 を 有 する 者 は、 通 常 は、この 期 間 も 元 の 締 約 国 に 依 然 として 常 居 所 を 有 しているであろうから、 自 らの 面 会 交 流 権 がもはや 行 使 できなくなる 場 合 には、 同 じ 元 の 裁 判 所 に 変 更 を 申 し 立 てることができる。しかし、その 者 が 管 轄 権 を 争 うことなく 裁 判 手 続 に 参 加 することによって 新 しい 常 居 所 地 国 裁 判 所 の 管 轄 を 認 めた 場 合 には、12187


もはや 9 条 は 適 用 されない。この 規 定 が 面 会 交 流 権 にのみ 関 係 しているという 点 は 重 要 である。すなわち、 新 締 約 国 裁 判 所 が 他 の 問 題 について 判 断 することは 妨 げられないのである。しかし、9 条 の 規 定 は、 子 がある 締 約 国 から 他 の 締 約 国 へ 移 るや 否 や 新 しい 常 居 所 を 取得 することを 前 提 としているように 見 える 点 で 問 題 がある。なぜなら、イングランド 法 における 常 居 所 概 念 は、 新 しい 常 居 所 が 獲 得 されたと 裁 判 所 が 判 断 するまでに 一 定 期 間 が 経過 することが 要 求 されるからである。 一 定 期 間 が 経 過 するまで、 元 の 締 約 国 裁 判 所 は 9 条により 管 轄 を 行 使 することはできないだろう。なぜなら、 子 はどこにも 常 居 所 を 有 していないからである。おそらく、この 期 間 は、 子 の 新 しい 常 居 所 地 になるであろう 国 の 裁 判 所が、 子 の 所 在 という 管 轄 原 因 (13 条 )に 基 づき 管 轄 を 行 使 することになるだろう。だが、このことは、9 条 の 趣 旨 、すなわち、 面 会 交 流 権 に 関 する 元 の 命 令 を 短 期 間 内 に 変 更 させるという 趣 旨 を、すっかり 無 意 味 なものとしている。(4) 管 轄 に 関 するその 他 の 事 項1) 訴 訟 係 属 の 抗 弁本 規 則 19 条 は、 別 々の 締 約 国 裁 判 所 において 別 個 の 二 つの 手 続 が 開 始 された 場 合 につき、Lis Pendens のルールを 規 定 している。 異 なる 締 約 国 における 親 責 任 に 関 する 手 続 が、同 じ 子 ども、そして 同 じ 訴 訟 原 因 に 関 連 している 場 合 、 先 訴 裁 判 所 の 管 轄 が 証 明 されるまで、 後 訴 裁 判 所 はその 手 続 を 停 止 しなければならない。 先 訴 裁 判 所 が 15 条 のフォーラム・ノンコンヴェニエンスに 基 づき 手 続 を 停 止 しない 限 り、 後 訴 裁 判 所 は 管 轄 行 使 を 差 し控 えることになろう。2) 国 内 管 轄本 規 則 14 条 によれば、いずれの 締 約 国 裁 判 所 も 8 条 から 12 条 に 基 づく 管 轄 を 有 しない場 合 、 管 轄 については 各 締 約 国 がその 国 内 法 によって 判 断 することとなる。そして、それらの 判 断 については、 本 規 則 21 条 以 下 に 従 い、 他 の 締 約 国 において 承 認 執 行 されることになろう。本 規 則 は、 英 国 内 の 異 なる 法 域 間 にも 適 用 されると 解 釈 すべきである。 確 かに、 管 轄 に関 する 他 のヨーロッパ 規 則 は 単 一 の 法 域 としての 締 約 国 に 管 轄 を 分 配 しており、 締 約 国 内の 法 域 間 における 管 轄 権 の 分 配 をも 規 律 することは 求 めていないとされる。しかし、14条 は「いずれの 締 約 国 裁 判 所 も 管 轄 を 有 しない 場 合 」に 適 用 される。このことは、 本 規 則に 基 づきスコットランド 裁 判 所 が 管 轄 を 有 する 場 合 、イングランド 裁 判 所 は 1986 年 家 族法 に 基 づく 管 轄 を 行 使 できないことを 示 唆 している。 締 約 国 が 不 統 一 法 国 である 場 合 について 規 定 する 本 規 則 66 条 は、 常 居 所 や 国 籍 、ドミサイルを、 締 約 国 全 体 におけるものではなく、その 国 の 法 によって 指 定 される 当 該 法 域 におけるものを 指 し、また 締 約 国 の 当 局は、 関 連 する 当 該 法 域 の 当 局 を 指 すものと 規 定 している。66 条 は「 所 在 」には 触 れていないため、13 条 における 所 在 に 基 づく 管 轄 を 有 する 締 約 国 裁 判 所 という 文 言 は 国 内 法 によって 解 釈 されなければならない。 少 なくともその 程 度 まで、 国 内 法 は 異 なる 法 域 の 裁 判 所への 管 轄 の 分 配 に 関 係 しているのである。13188


改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 が 英 国 内 の 管 轄 問 題 を 判 断 すると 解 すべきか 否 かという 問 題 は、異 なる 結 論 に 至 った 2 件 のスコットランド 事 案 (S v. D [2007] S.L.T. (Sh. Ct.) 37 / MB v. CB(Sh. Ct.))に 基 づいて 議 論 されてきているが、 未 解 決 のままである。この 議 論 の 結 末 は、いつか 欧 州 裁 判 所 の 判 断 によって 決 まることになろう。Ⅱ 伝 統 的 ルールEU 締 約 国 裁 判 所 が 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 8 条 から 13 条 に 従 い 管 轄 を 有 していない 場 合には、 同 14 条 により 伝 統 的 ルールが 適 用 されることとなる。(1) 本 来 的 管 轄管 轄 はイングランド 牴 触 法 の 一 分 野 である。イングランド 牴 触 法 では、 忠 誠 が、イングランド 裁 判 所 の 管 轄 規 則 における 至 上 のものと 解 されている。なぜなら、 子 に 関 する 本 来的 管 轄 は、 後 見 人 (パレンス・パトリイ)としての 主 権 者 に 由 来 するものだからである。主 権 者 は、 自 分 に 対 して 忠 誠 を 誓 う 全 ての 者 に 保 護 を 与 える。そして、 主 権 者 に 対 し 忠 誠を 誓 う(かつ 彼 の 保 護 を 必 要 とする) 人 々には、 英 国 国 民 のみならず、イングランドに 所在 するすべての 人 々が 含 まれる。したがって、イングランド 裁 判 所 は、 英 国 民 である 子 に 対 しては、たとえイングランドに 所 在 していなくても 管 轄 を 有 する。この 管 轄 は、1854 年 の Hope v.Hope 事 件 において強 く 主 張 された。しかし、 今 日 、この 理 由 に 基 づき 管 轄 が 行 使 されるには、 当 該 子 が 厳 格な 意 味 での 英 国 民 であり、かつ 英 国 の 海 外 領 など 他 の 種 類 の 英 国 籍 を 持 っていないことが求 められると 考 えられている。また、 子 がイングランドに 所 在 するか、または 常 居 所 を 有 しているならば、たとえ、その 子 が 外 国 にドミサイルを 有 し、イングランドには 何 らの 財 産 も 有 さず、かつその 子 のドミサイルの 裁 判 所 が 既 に 後 見 人 を 指 名 した 場 合 であっても、 高 等 法 院 は 当 該 子 に 関 する 管轄 を 有 する。この 管 轄 原 因 は、 貴 族 院 の Re S (A Minor)(Custody HabitualResidence)([1998] A.C. 750) 判 決 によって 再 確 認 されている。 子 S(アイルランド 国 籍 )がモロッコ 人 父 とアイルランド 人 母 の 間 に 生 まれたが、 両 親 は 結 婚 しなかった。イングランドの 病 院 で 母 が 死 亡 した 翌 日 、Sは 母 方 の 祖 母 と 叔 母 によってアイルランドに 引 き 取 られ、さらにその 翌 日 、S の 父 は S をイングランド 裁 判 所 の 被 後 見 人 とした。 母 親 が 死 亡 当時 イングランドに 常 居 所 を 有 していたことが 事 実 問 題 として 立 証 されたため、S も、 母 親の 死 亡 当 時 、イングランドに 常 居 所 を 有 しているとされた。そこで、 貴 族 院 は、 母 親 が 死亡 したにもかかわらず、 常 居 所 をずっとイングランドに 有 していた S につき、イングランド 裁 判 所 は S の 常 居 所 に 基 づく 管 轄 を 有 していると 判 示 した。 貴 族 院 は、 無 国 籍 の 子 がイングランドに 所 在 していることに 基 づき、イングランド 裁 判 所 は 当 該 子 に 対 する 管 轄 を 有するとした 以 前 の 控 訴 審 判 決 (Re P.(G.E.) (A Infant) [1965] Ch.568) を 是 認 し、たとえ 命 令( 判 決 ) 時 までに 子 がイングランドから 連 れ 去 られ、その 国 籍 国 (アイルランド)に 居 住していたとしても、イングランド 裁 判 所 は 管 轄 を 行 使 できると 述 べている。ドミサイルを 代 替 的 管 轄 原 因 とすることについては、 先 の Re P.(G.E.) 判 決 によって 否定 されている。イングランド 裁 判 所 は、 親 子 関 係 事 件 の 子 に 対 する 管 轄 について、 忠 誠 の14189


当 然 の 帰 結 として 保 護 に 基 づく 管 轄 を 基 礎 としているのに 対 し、ドミサイルは 人 為 的 概 念であるため、 忠 誠 と 結 びつき 得 るものが 何 もないと 述 べられている。(2) 後 見 人 選 任イングランド 裁 判 所 は、さまざまな 場 面 において、Children Act 1989 に 基 づく 子 の 後見 人 選 任 の 管 轄 を 有 している。たとえば、 親 責 任 を 有 する 親 がいない 場 合 や、 親 または 後見 人 に 一 方 的 に 有 利 な 居 住 命 令 が 出 され、その 命 令 が 効 力 を 有 している 間 にその 親 または後 見 人 が 死 亡 した 場 合 である( 同 5(1)(a)(b))。このような 場 合 の 管 轄 は、 高 等 法 院 、 離婚 カウンティ 裁 判 所 ないし 治 安 判 事 裁 判 所 によって 行 使 される。ただし、 治 安 判 事 裁 判 所は 子 の 財 産 に 関 する 問 題 を 扱 うことはできない( 同 92(4))。 同 法 に 基 づく 管 轄 は、 本 来的 管 轄 と 同 様 、 子 が 英 国 民 であるか、(イングランドに 所 在 しまたは 常 居 所 を 有 するために) 君 主 に 忠 誠 を 負 っていることが 要 件 であると 解 される。後 見 人 選 任 事 案 につき、 以 前 は、イングランド 裁 判 所 とスコットランド 裁 判 所 の 間 で 管轄 が 衝 突 する 厄 介 な 問 題 が 多 く 存 在 した。スコットランド 裁 判 所 は 事 件 をドミサイルに 基づく 管 轄 に 拠 らしめていたのに 対 し、イングランド 裁 判 所 は、 主 として、 所 在 ないし 常 居所 に 基 づかせていた。 監 護 事 案 における 管 轄 牴 触 に 関 しては、スコットランド 裁 判 所 とイングランド 裁 判 所 は、Family Law 1986 によって 満 足 のいく 解 決 を 得 ていたが、それらの規 定 は 後 見 については 触 れておらず、 管 轄 が 衝 突 する 潜 在 的 危 険 性 は 残 されたままだった。しかし、Children (Scotland)Act 1995 によるスコットランド 法 の 改 革 によって、その 危 険性 は 大 幅 に 減 少 した。 同 法 は、 子 の 財 産 に 影 響 を 与 える 問 題 につき、スコットランド 裁 判所 の 管 轄 を 常 居 所 に 基 づかせている(Children (Scotland)Act 1995, s.14)。(3) Children Act 1989 および「8 条 命 令 」Children Act 1989 は、 子 の 世 話 (care)に 関 する 命 令 に 用 いられていた 以 前 の 文 言 を 変 更し、4 つの「8 条 」 命 令 を 採 用 した。それはすなわち、 居 住 命 令 (residence orders、 以 前 はcustody orders) 、 面 会 交 流 命 令 (contact orders 、 以 前 は access orders) 、 禁 止 命 令(prohibited steps orders)、 個 別 問 題 に 関 する 命 令 (specific issue orders)である。8 条 命 令を 認 める 管 轄 ルールは、Family Law Act 1986 第 1 部 に 置 かれている。これは、イングランドおよびスコットランドの 法 律 委 員 会 (Law Commission)の 報 告 書 (Report on Custody ofChildren Jurisdiction and Enforcement whitin the United Kingdom)に 示 された 勧 告 を 実 現したものである。 次 の 4 つの 場 合 に、イングランド 裁 判 所 はこれらの 命 令 を 下 す 管 轄 を 有している。(a) 離 婚 、 婚 姻 無 効 、または 法 的 別 居 のための 手 続 が 係 属 中 である 場 合 (「 離 婚 ベース」)(b) 子 がイングランドに 常 居 所 を 有 している 場 合 (「 常 居 所 ベース」)(c) 子 がイングランドに 所 在 しており、 裁 判 所 の 速 やかな 関 与 が 子 の 保 護 のために 要 求される 場 合 (「 緊 急 ベース」)(d) 子 がイングランドに 所 在 しており、かつ 英 国 の 他 のいずれの 法 域 にも 常 居 所 を 有 していない 場 合 (「 所 在 地 ベース」)15190


英 国 内 における 管 轄 の 牴 触 を 避 けるために、 常 居 所 や 所 在 地 に 基 づく 管 轄 権 に 対 して、離 婚 ベースの 管 轄 が 優 先 されている。 緊 急 管 轄 は 常 に 利 用 可 能 であるが、 英 国 内 の 他 の 法域 に 常 居 所 を 有 していない 場 合 の 管 轄 がそれに 代 わって 用 いられることになろう。 優 先 順位 を 決 する 日 は 申 立 て 日 である。そのため、たとえば、 命 令 を 申 し 立 てる 子 の 常 居 所 地 国裁 判 所 は、たとえ 離 婚 手 続 が 後 から 英 国 内 の 他 の 法 域 の 裁 判 所 において 始 められるとしても、その 申 立 てを 審 理 する 管 轄 を 有 している。これらの 原 則 に 基 づき 英 国 内 の 他 の 法 域 の裁 判 所 において 下 される 命 令 は、イングランド 裁 判 所 によって 下 された 先 行 命 令 に 優 先 する(Family Law Act 1986, 6(1)(2))。1) 離 婚 ベースFamily Law Act 1986 は 離 婚 ベースを 優 先 する。イングランド 裁 判 所 に 子 に 関 する 命 令を 申 し 立 てた 日 に、スコットランドまたは 北 アイルランド 裁 判 所 に 離 婚 、 婚 姻 無 効 、または 法 的 別 居 の 手 続 が 係 属 している 場 合 には、イングランド 裁 判 所 は 子 に 関 する 命 令 を 下 す管 轄 を 有 しない。しかし、スコットランドや 北 アイルランドの 裁 判 所 が、 子 に 関 する 命 令を 下 す 管 轄 を 放 棄 する 旨 の 命 令 を 出 した 場 合 は 別 である。イングランド 裁 判 所 は、たとえ子 が 海 外 にいる 場 合 であっても 管 轄 を 行 使 することができる。これは、 婚 姻 関 係 手 続 においては、 裁 判 所 が 主 たる 訴 えにつき 管 轄 を 有 する 場 合 はいつでも 付 随 命 令 を 出 す 管 轄 を 有するという 一 般 原 則 に 基 づくものである。したがって、たとえ 子 が 英 国 民 ではなく、かつイングランドに 常 居 所 や 居 所 を 有 していなくても、 婚 姻 関 係 問 題 につき 管 轄 を 有 しているならば、イングランド 裁 判 所 は 子 に 関 する 命 令 を 下 すことができるのである。イングランド 裁 判 所 は 婚 姻 関 係 手 続 において Children Act 1989 の8 条 に 基 づく 命 令 を下 す 管 轄 権 有 している( 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 は 適 用 されない)が、 当 該 子 に 関 する 問 題はイングランド 以 外 で 判 断 される 方 がより 適 切 であると 考 えられる 場 合 、イングランド 裁判 所 は、 管 轄 放 棄 の 効 力 を 有 する 命 令 を 出 すことができる(Family Law Act 1986,2A(4))。しかし、この 管 轄 放 棄 条 項 の 英 国 内 における 効 力 は 必 ずしも 明 らかではない。 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 14 条 に 基 づく 国 内 管 轄 は、 同 規 則 が 適 用 されて 初 めて 可 能 となるからである。この 放 棄 条 項 は、おそらく 同 規 則 8 条 から 13 条 に 基 づく 管 轄 がないことを 意 味 するものであろう。 管 轄 放 棄 条 項 の 英 国 内 における 意 義 は、 英 国 内 の 他 の 法 域 の 裁 判 所 が 常 居 所 ベースに 基 づく 管 轄 を 行 使 することを 認 めることにある。 英 国 内 の 他 の 法 域 の 裁 判 所 が、 同規 則 66(a)( 地 域 的 不 統 一 法 国 における 常 居 所 地 )とともに 読 まれるべき Children Act 1989の8 条 ( 常 居 所 に 基 づく 管 轄 権 )による 管 轄 を 有 すると 主 張 することも 可 能 かもしれない。常 居 所 の 裁 判 所 を 優 先 する 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 と、 婚 姻 関 係 手 続 の 裁 判 所 を 優 先 するFamily Law Act 1986 とは 果 たしてどのように 両 立 するのかは、 困 難 な 問 題 点 である。2) 常 居 所 および 居 所 ベースイングランド 裁 判 所 は、 子 がイングランドに 常 居 所 を 有 している 場 合 、またはイングランドに 所 在 し、かつ 英 国 の 他 の 法 域 に 常 居 所 を 有 していない 場 合 には、 婚 姻 関 係 手 続 以 外にも、Children Act 1989 に 基 づき、 居 住 、 面 会 交 流 、 禁 止 、 個 別 問 題 に 関 する 各 命 令 を 出す 管 轄 を 有 している、。しかし、 親 の 婚 姻 関 係 手 続 がスコットランドまたは 北 アイルラン16191


ドの 裁 判 所 に 係 属 しており、かつその 裁 判 所 が 監 護 に 関 する 管 轄 を 放 棄 しない 場 合 には、この 管 轄 は 認 められない。これらの 事 案 における 管 轄 は「 常 居 所 」ベースないし「 居 所 」ベースに 基 づいている。もし、 英 国 内 で「 離 婚 」ベースが 優 先 されるならば、 離 婚 、 婚 姻 無 効 、または 法 的 別 居 の手 続 がスコットランドまたは 北 アイルランドにおいて 係 属 している 場 合 、スコットランドまたは 北 アイルランドの 裁 判 所 が、 監 護 に 関 する 管 轄 を 放 棄 する 旨 の 命 令 を 下 さない 限 り、イングランド 裁 判 所 の 管 轄 権 は 失 われる。Family Law Act 1986 には 常 居 所 に 関 する 定 義 規 定 はないが、(それ 以 外 の) 個 別 規 定 が同 41 条 に 置 かれており、 次 のような 場 面 について 規 定 している。すなわち、 子 がイングランドから 連 れ 出 され、またはイングランド 外 に 留 め 置 かれ、あるいは 子 自 身 がイングランド 外 に 出 かけ、または 出 かけたままであるが、その 住 所 変 更 前 には、 子 が 英 国 内 に 常 居所 を 有 しており、そして、その 住 所 変 更 が、 英 国 の 常 居 所 地 法 に 基 づく 子 の 住 所 決 定 権 を有 するすべての 人 々の 同 意 なくして 生 じているか、または 英 国 裁 判 所 の 命 令 に 違 反 して 生じている 場 合 につき、 同 条 は、 子 は、 以 前 に 常 居 所 を 有 していた 英 国 のいずれかの 法 域 に1 年 間 継 続 して 常 居 所 を 有 していたものとして 扱 う。たとえば、 常 居 所 であるロンドンに母 と 共 に 居 住 している 子 が、 父 親 によって 母 の 同 意 なくしてベルファストへ 連 れ 出 され、北 アイルランドが 常 居 所 となった 場 合 、 常 居 所 ベースに 基 づくイングランド 裁 判 所 の 管 轄は、 子 の 連 れ 去 りから1 年 間 継 続 する。 英 国 のいずれかの 法 域 に 常 居 所 を 有 している 子 は、事 実 上 、 英 国 の 他 の 法 域 に 常 居 所 を 有 している 場 合 にのみ 41 条 が 適 用 されると 考 えられており、 連 れ 去 られた 子 が、 他 の 法 域 に 常 居 所 をまだ 獲 得 していない 場 合 には、 同 条 の 適用 はない。3) 緊 急 管 轄当 事 者 である 子 がイングランドに 所 在 しており、 迅 速 な 管 轄 行 使 が 子 の 保 護 のために 必要 であると 高 等 法 院 が 考 える 場 合 には、 裁 判 所 は 子 に 関 する 本 来 的 管 轄 権 をも 行 使 でき、子 の 世 話 、 教 育 、 面 会 交 流 に 関 する 命 令 を 出 すことができる(Family Law Act 1986,1(1)(d))。(4) 手 続 停 止 の 権 限イングランド 裁 判 所 は、 事 件 が 他 国 裁 判 所 で 審 理 されることがより 適 切 である 場 合 には、手 続 を 停 止 できる 広 い 権 限 を 有 している(Family Law Act 1986, 5(2))。 裁 判 所 は、 婚 姻関 係 手 続 事 案 (De Dampierre v. De Dampierre, [1998] A.C. 92)と 同 様 の 原 則 を 適 用 する。たとえば、M v B (Child: Jurisdiction)[1994] 2 F.L.R. 819 は、 次 のような 事 案 である。 合 衆国 市 民 である 両 親 およびテキサス 州 で 生 まれた 子 が、 父 親 が 勤 務 するアメリカ 空 軍 の 任 務を 果 たすためにイングランドへやってきた。その 後 、 両 親 は 別 居 し、 父 親 と 子 はアメリカへ 戻 った。 共 同 親 権 に 基 づき 子 が 母 親 とイングランドにいた 時 、 母 親 はイングランドで 手続 を 開 始 したが、 手 続 は 一 向 に 進 まなかった。 父 親 は 合 衆 国 裁 判 所 で 手 続 を 開 始 した。イングランド 裁 判 所 は、 仮 にイングランドに 事 件 が 係 属 しても、 父 親 は 不 便 さと 費 用 の 問 題17192


に 直 面 するだろうと 考 え、イングランドの 手 続 は 停 止 された。この 事 案 はアメリカ 人 家 族に 関 するものであり、アメリカで 審 理 されることが 最 も 適 切 である。このような 事 案 においては 子 の 福 祉 は 重 要 であるが、 最 も 重 要 なものではないと 考 えられているようである(Re S. (Residence Order: Forum Conveniens) [1995] 1 F.L.R. 314)(5) 特 別 後 見 命 令Adoption and Children Act 2002 の 115 条 ( 未 施 行 )は、 里 親 の 許 にいる 年 長 の 子 や 同 伴者 のいない 難 民 児 童 など、 実 親 とは 生 活 できないものの 養 子 縁 組 が 適 切 ではない 子 に 法 的保 護 を 与 える 命 令 に 関 する 新 しい 規 定 を Children Act 1989 に 入 れようとしている。この命 令 は、 特 別 後 見 人 (Special Guardian)が 子 の 養 育 に 関 する 日 常 的 判 断 を 行 うことを 認 めるものであり、 実 親 の 親 責 任 を 制 限 することになろうが、 養 子 縁 組 に 同 意 を 与 える( 与 えない) 実 親 の 権 利 を 奪 うものではない。イングランド 裁 判 所 は、 当 事 者 である 子 がイングランドおよびウェールズに 常 居 所 を 有している 場 合 、またはイングランドおよびウェールズに 所 在 しており、 英 国 のいずれの 法域 にも 常 居 所 を 有 していない 場 合 で、かつ 婚 姻 関 係 手 続 がスコットランドないし 北 アイルランドの 裁 判 所 に 係 属 していない 場 合 に、 特 別 後 見 命 令 を 下 す 管 轄 を 有 している。これらの 命 令 は 8 条 命 令 に 関 して 行 われるため、Family Law Act 1986 の 改 正 条 文 は、 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 の 下 でこの 命 令 を 下 す 管 轄 については 触 れていないが、 改 訂 ブラッセルⅡ 規則 における 親 責 任 の 定 義 は、 特 別 後 見 命 令 を 十 分 に 含 み 得 る 広 いものであるように 思 われる。(6) イングランドからの 子 の 連 れ 去 りChildren Act 1989 における 居 住 命 令 が 子 に 関 して 有 効 である 場 合 には、 子 に 対 し 親 責 任を 有 する 全 ての 者 の 同 意 書 ないし 裁 判 所 の 許 可 がない 限 り、 何 人 といえども 当 該 子 を 英 国から 連 れ 出 すことはできない。しかし、このことは、 居 住 命 令 により 居 住 地 の 決 定 が 委 ねられている 者 による1ヶ 月 より 短 い 期 間 の 子 の 移 動 を 禁 ずるものではない。 居 住 命 令 を 下す 裁 判 所 は、その 法 域 から 子 を 連 れ 出 すことについても、そして、 通 常 、または 休 日 に 子の 家 族 の 他 のメンバーと 知 り 合 わせるなど 特 定 目 的 のため、 許 可 を 出 すことができる。しかし、 移 動 先 の 外 国 がイングランドに 残 る 親 の 権 利 を 尊 重 しないような 法 制 度 を 有 する国 である 場 合 、 裁 判 所 は 許 可 を 出 す 前 に 非 常 に 慎 重 な 注 意 を 払 うことになろう。イスラムの 教 義 に 従 う 国 々が 関 係 する 事 案 において、イングランド 裁 判 所 は、 外 国 裁 判 所 の 命 令 により 外 国 へ 戻 された 子 の(イングランドへの) 返 還 について 公 証 された 合 意 を 要 求 し、そのようなセーフガードがない 場 合 には、シャーリア 裁 判 官 の 面 前 での 宣 誓 を 要 求 する 場 合もある(Re K (A Minor)(Removed from the Jurisdiction:Practice) [1999] 2 F.L.R. 1084)。16 歳 未 満 の 子 についてイングランドからの 連 れ 去 りを 制 限 する 命 令 は、その 命 令 を 出した 法 域 以 外 の 英 国 の 他 の 法 域 においても 有 効 である。その 命 令 が 特 定 の 他 の 法 域 (たとえばイングランド)への 子 の 連 れ 去 りを 禁 じている 場 合 、それはイングランドにおいて、イングランドから 当 該 命 令 が 認 めている 移 動 先 以 外 へのさらなる 子 の 連 れ 去 りを 禁 じる 効力 を 有 している(Family Law Act 1986, 36 条 )。18193


子 が 裁 判 所 の 被 後 見 人 とされた 場 合 、 裁 判 所 命 令 の 必 要 性 に 関 わりなく 適 用 される、 子の 連 れ 去 りに 対 する 自 動 的 制 約 があると 解 されている(Payne v. Payne [2001] EWCA Civ.166; [2002] Fam. 473)。このルールを、Family Law Act 1986 が 採 用 するスキームに 対 応させるため、 同 38 条 は、 被 後 見 人 の 親 の 離 婚 、 婚 姻 無 効 、または 法 的 別 居 の 手 続 がスコットランドまたは 北 アイルランドで 係 属 している 場 合 、または 子 がこれらのいずれかの 国に 常 居 所 を 有 している 場 合 、(いずれの 裁 判 所 の 同 意 を 得 ずとも)スコットランドまたは北 アイルランドへ、 場 合 によっては、その 国 の 離 婚 裁 判 所 ないしその 他 の 管 轄 を 有 する 裁判 所 の 同 意 を 得 た 上 で 他 の 場 所 へ、 子 を 移 動 させることができると 規 定 している。Ⅲ 外 国 命 令 のイングランドにおける 効 力(1) EU 加 盟 国 の 命 令改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 は、EU 加 盟 国 (ただし、デンマークを 除 く)の 裁 判 所 で 下 されたいずれの 判 決 も、 特 別 の 手 続 を 要 求 することなく、 他 の 加 盟 国 において 承 認 されなければならない、と 規 定 している( 同 21(1))。 利 害 関 係 人 は、 他 の 加 盟 国 裁 判 所 によって 下された 親 責 任 に 関 する 判 決 の 承 認 および 執 行 を、いずれの 加 盟 国 においても 申 し 立 てることができる( 同 21(3))。23 条 は、 裁 判 所 が 他 の 加 盟 国 において 下 された 判 決 の 承 認 を 拒絶 しなければならない 理 由 を 列 挙 している。それはすなわち、その 判 決 が、(a) 子 の 最 上の 利 益 の 見 地 から、 承 認 を 求 められる 加 盟 国 の 公 序 に 明 らかに 反 する 場 合 、(b) 緊 急 事 案を 除 き、 承 認 を 求 められる 加 盟 国 の 手 続 の 基 本 原 則 に 反 して、 子 が 聴 聞 を 受 ける 機 会 を 得ないまま 他 国 で 判 決 が 出 された 場 合 、(c) 当 事 者 が 判 決 を 明 白 に 受 け 入 れたと 判 断 される場 合 を 除 き、 手 続 開 始 の 書 面 またはこれと 同 種 の 書 面 が、 防 御 の 準 備 に 十 分 な 時 間 および方 法 で 送 達 されなかった 当 事 者 の 出 廷 がないまま 判 決 が 下 された 場 合 、(d) 親 責 任 を 有 する 者 が 聴 聞 を 受 ける 機 会 を 与 えられなかった 場 合 、(e) 当 該 判 決 が、 承 認 を 求 められる 加盟 国 において 後 に 出 された 親 責 任 に 関 する 判 決 と 矛 盾 する 場 合 、(f) 当 該 判 決 が、 承 認 を 求められる 加 盟 国 の 承 認 要 件 を 満 たすとしても、 子 の 常 居 所 地 である 他 の 加 盟 国 または 非 加盟 国 において 後 に 出 された 親 責 任 に 関 する 判 決 と 矛 盾 する 場 合 、(g) 同 56 条 ( 他 の 加 盟 国に 子 が 所 在 する 場 合 )に 規 定 される 手 続 が 遵 守 されていない 場 合 である。 判 決 を 下 した 加盟 国 裁 判 所 の 管 轄 は 審 査 されてはならないし(24 条 )、 如 何 なる 事 情 があろうとも、 判 決について 実 質 審 査 が 行 われてはならない(26 条 )。英 国 において 他 の 加 盟 国 の 判 決 が 執 行 されるためには、その 判 決 は 判 決 国 において 執 行可 能 なものであり、かつ 英 国 の 関 係 法 域 において 執 行 登 録 がなされていなければならない(28 条 )。 執 行 拒 否 の 理 由 は 承 認 拒 否 の 場 合 と 同 じである(31(2))。 拒 否 理 由 は 同 じだが、しかし、その 適 用 は 異 なっている。 元 のブラッセルⅡ 規 則 においては、 承 認 と 執 行 の二 つの 場 面 で 事 実 を 変 更 することが 可 能 であったため、 承 認 場 面 において 公 序 に 明 らかに反 する 事 柄 につき 執 行 場 面 においてもそのように 言 えるかどうか、 裁 判 所 が 判 断 した。改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 は、 二 つの 事 案 類 型 においてこの 手 続 を 免 除 している。すなわち、奪 取 に 引 き 続 いての 子 の 返 還 と、 面 会 交 流 権 の 承 認 および 執 行 である。 同 規 則 の 主 たる 関心 の 一 つは、 非 監 護 親 と 子 が 異 なる 加 盟 国 に 居 住 している 場 合 にも、 子 は 非 監 護 親 に 面 会19194


交 流 することによって 継 続 的 に 利 益 を 得 ていることを 保 証 することにある。したがって、面 会 交 流 権 を 有 する 者 は、 判 決 国 裁 判 所 により 認 可 証 が 作 成 されたならば、 直 接 に 面 会 交流 できるだろう(41 条 )。 面 会 交 流 権 は、 特 に、 一 定 期 間 子 をその 常 居 所 以 外 の 地 へ 連 れてゆく 権 利 を 含 むとされている(2(10))。 面 会 交 流 に 関 するプラクティスガイドは、 面 会交 流 権 が 国 内 法 の 問 題 であり、したがって、 非 監 護 親 、または 祖 父 母 など 他 の 家 族 も 保 有できることを 明 らかにしている(24 頁 )。(2) 加 盟 国 以 外 の 外 国 命 令 : 後 見 命 令子 の 後 見 人 を 選 任 する 管 轄 をいずれの 外 国 裁 判 所 が 有 するかについて 判 断 されたことは未 だない。おそらく、イングランド 裁 判 所 は、 当 該 未 成 年 者 の 所 在 国 、 国 籍 所 属 国 、または 常 居 所 地 国 の 裁 判 所 に 管 轄 を 譲 るだろう。なぜなら、これらはイングランド 裁 判 所 が 行使 する 管 轄 の3つのベースだからである。 外 国 後 見 人 の 地 位 について 異 議 が 申 し 立 てられない 限 り、その 後 見 人 は、イングランドにおいてイングランド 後 見 人 のあらゆる 権 限 を 行使 できる。しかし、 外 国 後 見 人 が 選 任 されても、イングランド 裁 判 所 が 後 見 人 を 選 任 する管 轄 を 有 しているならば、イングランド 裁 判 所 は 後 見 人 を 選 任 できる。イングランド 後 見人 が 選 任 された 場 合 、とりわけ、 子 が 裁 判 所 の 被 後 見 人 になった 場 合 、 外 国 後 見 人 は 非 常に 慎 重 に 行 動 する 必 要 があろう。 今 日 、 外 国 後 見 人 とイングランド 後 見 人 の 間 の 監 護 に 関する 争 いにおいて、 子 の 福 祉 が 最 初 にかつ 最 優 先 に 考 慮 されるべきことは 明 らかである(Children Act 1989, 1 条 参 照 )。外 国 後 見 人 が 裁 判 所 にある 被 後 見 人 の 資 金 から 自 分 への 支 払 を 求 める 場 合 、たとえ 外 国後 見 人 がその 外 国 法 に 基 づき 支 払 を 受 ける 権 利 を 有 していても、 裁 判 所 は 必 ずしも 支 払 を命 じる 必 要 はない。しかし、その 権 利 が 被 後 見 人 のために 利 用 されることについて 立 証 を求 めることはできる。(3) 加 盟 国 以 外 の 外 国 命 令 : 監 護 命 令外 国 裁 判 所 によって 監 護 命 令 が 下 された 場 合 でも、イングランド 裁 判 所 は、 未 成 年 者 の福 祉 に 鑑 み、 当 該 未 成 年 者 に 適 切 と 考 えられる 監 護 命 令 をイングランドにおいて 下 すことができる。この 原 則 にあてはまる 例 は、 枢 密 院 で 下 された McKee v. McKee 判 決 ([1951]A.C. 352)であり、 事 案 は 以 下 の 通 りである。 合 衆 国 に 居 住 するアメリカ 人 の 両 親 が 法 定別 居 し、 他 方 の 同 意 書 がない 限 りアメリカから 子 を 連 れ 出 さないことについて、 互 いに 同意 した。1945 年 、カリフォルニアの 離 婚 手 続 において、 母 親 にはその 少 年 の 監 護 権 が、父 親 には 面 会 交 流 権 が、それぞれ 認 められた。その 時 点 では、カリフォルニア 裁 判 所 で 出された 以 前 の 監 護 命 令 に 従 い、その 少 年 は 父 親 と 生 活 していた。1946 年 、 父 親 は 監 護 命令 に 関 する 最 後 の 上 訴 で 負 けたことを 聞 き、 彼 は、 同 意 に 違 反 し、 母 親 の 同 意 を 得 るどころか 母 親 に 知 らせることすらせずに、 少 年 をオンタリオへ 連 れ 去 った。そこで 母 親 はオンタリオで 人 身 保 護 手 続 を 開 始 した。1947 年 、11 日 間 の 聴 聞 を 経 て、オンタリオの 裁 判 官は 少 年 の 監 護 権 を 父 親 に 与 えた。この 判 断 は、オンタリオの 控 訴 審 では 認 容 され、カナダの 最 高 裁 では 破 棄 され、 枢 密 院 によって 再 び 認 容 された。McKee 事 件 の 手 続 全 体 は 長 い年 月 を 費 やし、それ 自 体 関 心 の 的 だったが、 結 局 のところ、ルールを 明 確 にするものでは20195


なかった。 外 国 の 監 護 命 令 が 出 ていても、オンタリオ 裁 判 所 はその 問 題 を 子 の 福 祉 の 見 地から 再 審 査 できるということが 判 断 されたにとどまった。しかし、 裁 判 所 が 最 上 と 考 えた場 合 には、 本 案 に 関 する 完 全 な 再 審 査 という 方 法 で、またはより 手 っ 取 り 早 い 方 法 で、 裁判 所 が 子 を 迅 速 に 返 還 することについては 未 解 決 のまま 残 された。外 国 監 護 命 令 を 拒 否 するにあたり、イングランド 裁 判 所 は 二 つの 点 について 考 慮 する 必要 がある。その 一 つは、 監 護 命 令 は 本 質 的 に 最 終 的 なものではなく、その 命 令 を 下 した 裁判 所 による 再 審 査 にいつでも 従 うということである。 二 つ 目 は、Children Act 1989 によれば、 子 の 福 祉 は 最 初 にかつ 最 優 先 に 考 慮 すべき 点 だということである。このことは、イングランド 内 の 事 案 のみならず、 外 国 裁 判 所 が 下 した 先 行 の 監 護 命 令 に関 する 事 案 にも 適 用 されると 解 されている。しかし、このアプローチは 不 利 である。なぜなら、これは 子 の 生 活 に 不 確 実 さと 不 安 定 さを 生 じさせ、かつ 外 国 裁 判 所 により 監 護 権 を否 定 された 親 がイングランドでより 望 ましい 判 決 を 求 めるための 訴 訟 を 促 進 しかねないからである。そこで、 異 なるアプローチとして、Family Law Act 1986 は、 英 国 の 他 の 法 域で 下 された 監 護 命 令 は 英 国 の 各 法 域 において 承 認 すること、およびその 登 録 と 執 行 のための 体 制 を 規 定 した(25 条 )。Child Abduction and Custody Act 1985 は、 一 定 の 事 案 において、 外 国 の 監 護 権 および 面 会 交 流 に 関 する 判 決 の 承 認 を 規 定 する 二 つの 国 際 条 約 ( 監 護件 の 執 行 に 関 する EC 条 約 (ルクセンブルグ 条 約 )、およびハーグ 子 奪 取 条 約 )にイングランド 法 上 の 効 力 を 認 め、かつ 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 は、 加 盟 国 における 子 の 奪 取 に 関 する 補 充 的 規 則 を 定 めている。これらの 規 定 ではカバーされない 事 案 において、どの 程 度 外 国 監 護 命 令 がイングランドで 重 視 されるかは、その 事 案 の 事 情 次 第 とならざるを 得 ない。Ⅳ 国 際 的 子 奪 取 関 連(1) 国 際 条 約 総 説Child Abduction and Custody Act 1985 は、1980 年 に 締 結 された 二 つの 国 際 条 約 に 英 国における 法 としての 効 力 を 与 えている。 一 つは、EC が 作 成 したルクセンブルグ 条 約 であり、もう 一 つはハーグ 国 際 私 法 会 議 によって 起 草 されたハーグ 国 際 子 奪 取 条 約 であり、これは 奪 取 された 子 を 常 居 所 地 国 へ 返 還 することを 主 たる 目 的 とするものである。 各 条 約 は、現 在 の 監 護 権 を 保 護 し、それらの 権 利 に 違 反 した 国 際 的 な 子 の 奪 取 をなくすことを 目 指 している。その 結 果 、 奪 取 された 子 がイングランドで 見 つかり、いずれかの 条 約 の 適 用 が 申し 立 てられた 場 合 、 本 案 を 審 理 し、 何 が 子 の 福 祉 に 最 も 適 うかを 判 断 するイングランド 裁判 所 の 権 限 は、 影 響 を 受 けない。 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 はこれら 両 条 約 に 優 先 し、EU 内ではルクセンブルグ 条 約 の 規 則 に 実 質 上 取 って 代 わり、ハーグ 条 約 についてはこれを 補 うものとなっている。(2) ルクセンブルグ 条 約ルクセンブルグ 条 約 (European Convention on Recognition and Enforcement ofDecisions Concerning Custody of Children and on the Restoration of Custody ofChildren 子21196


の 監 護 に 関 する 判 決 の 承 認 執 行 および 子 の 監 護 の 原 状 回 復 に 関 するヨーロッパ 条 約 )はEC の 援 助 の 下 で 準 備 され、1980 年 5 月 20 日 に 署 名 された。Child Abduction and CustodyAct 1985 は、 判 決 の 承 認 執 行 は 扱 うが、ハーグ 条 約 が 優 先 される 奪 取 は 扱 わないこのルクセンブルグ 条 約 の 規 定 に 対 し、 一 定 の 取 捨 選 択 の 上 で 効 力 を 与 えている。もし、イングランド 裁 判 所 に 両 条 約 に 基 づき 申 立 てが 行 われたならば、ハーグ 条 約 に 基 づく 申 立 ての 方が 優 先 される(Child Abduction and Custody Act 1985, 16(4)(c))。 次 々と 生 じるヨーロッパ規 則 の 採 用 および EU の 拡 大 は、 今 やルクセンブルグ 条 約 が 非 常 に 限 定 的 な 効 力 しか 有 し得 ないことを 意 味 している。(3) ハーグ 条 約ハーグ 国 際 私 法 会 議 の 援 助 の 下 で 作 成 されたハーグ 子 奪 取 条 約 (Convention on the CivilAspects of International Child Abduction、 以 下 、 本 条 約 )は、1980 年 10 月 25 日 に 署 名 された。Child Abduciton and Custody Act 1985 の 第 1 部 は、このハーグ 条 約 を 施 行 する 法である。 本 条 約 は、 法 によって、または 司 法 ・ 行 政 機 関 による 監 護 判 断 と 同 様 の 法 的 効 力を 有 する 合 意 によって 他 の 締 約 国 において 生 じる 監 護 権 に 関 係 する。また 本 条 約 は、 監 護権 に 違 反 した 子 の 不 法 な 連 れ 去 りまたは 留 置 の 事 案 を 扱 い、 子 の 常 居 所 地 国 への 半 ば 自 動的 返 還 を 土 台 として 機 能 する。 本 条 約 が 機 能 的 に 作 用 するか 否 かは、 各 締 約 国 の 中 央 当 局の 体 制 如 何 にかかっている。(4) 改 訂 ブラッセルⅡ 規 則改 訂 ブラッセルⅡ 規 則 は、EU 内 での 親 による 子 奪 取 をさらに 防 止 するため、 次 のように 規 定 する。すなわち、 本 条 約 は 引 き 続 き 適 用 されるが、EU 加 盟 国 間 の 子 奪 取 事 案 においては、 本 条 約 に 優 先 する 一 定 の 規 定 により 補 完 される(60(e))。同 規 則 は、 子 が 不 法 に 連 れ 去 られまたは 留 置 される 直 前 に 加 盟 国 に 常 居 所 を 有 していた場 合 、 子 が 他 の 加 盟 国 に 常 居 所 を 得 るまでは、 加 盟 国 裁 判 所 が 子 に 対 する 管 轄 権 を 持 ち 続けることを 規 定 している(10 条 )。 新 しい 常 居 所 の 獲 得 は、 子 に 対 して 監 護 権 を 有 する 全ての 者 が 連 れ 去 りを 黙 認 していたか、 子 が1 年 間 新 しい 国 に 居 住 しそこに 馴 染 んだことを監 護 権 を 有 する 全 ての 者 が 知 っていた 場 合 のみ、 本 条 約 の 趣 旨 に 沿 ったものとして 認 められる(10(a)(b))。その 上 、その 期 間 返 還 請 求 が 行 われず、または 返 還 請 求 が 撤 回 され、または 規 則 11 条 (7)に 従 い 終 結 し、または 判 決 を 下 した 加 盟 国 の 判 決 が 子 の 返 還 を 伴 っていないという 要 件 を 満 たさなければならない。さらに、この 継 続 的 管 轄 権 は、 判 決 国 裁 判 所が 子 の 返 還 を 命 令 しない 場 合 であっても、 非 監 護 親 の 面 会 交 流 については 判 断 することを認 めているものと 解 されている。本 条 約 に 基 づき、 加 盟 国 当 局 に 対 し、 常 居 所 地 である 加 盟 国 への 子 の 返 還 を 求 める 申 立てが、 個 人 、 施 設 その 他 の 監 護 権 を 有 する 団 体 によってなされる 場 合 、 同 規 則 11 条 は、補 充 規 定 および 権 限 授 与 規 定 をいろいろ 置 いている。 本 条 約 12 条 および 13 条 ( 返 還 拒 否事 由 )を 適 用 する 場 合 、 裁 判 所 は、 年 齢 または 成 熟 度 の 理 由 により 聴 聞 が 不 適 切 でない 限り、 子 が 聴 聞 を 受 ける 機 会 を 与 えられていたことを 確 認 しなければならない(11(2))。 子 の22197


返 還 を 求 める 申 立 てがなされたる 裁 判 所 は 迅 速 に 行 動 しなければならず、 例 外 的 事 情 がある 場 合 を 除 き、 申 立 時 から6 週 間 以 内 に 判 断 を 下 さなければならない。その 期 間 には 上 訴期 間 も 含 まれる。返 還 後 の 子 の 保 護 を 確 保 するために 適 切 な 措 置 がなされることが 証 明 されるならば、 裁判 所 は、 申 立 人 が 聴 聞 を 受 ける 機 会 を 与 えられなかったり、 本 条 約 13(b)の 理 由 がない 限り、 子 の 返 還 を 拒 否 することができない(11(4))。この 革 新 的 規 定 は、13(b)の 抗 弁 の 利 用を 抑 えることによって、 子 の 即 時 返 還 の 原 則 を 強 化 しようとするものである。 常 居 所 である 加 盟 国 において 適 切 な 保 護 手 段 が 実 施 されていることが 証 明 されるならば、たとえ 子 が返 還 されたならば 深 刻 な 危 険 のリスクを 負 うだろうと 奪 取 先 の 裁 判 所 が 考 えたとしても、返 還 しないという 裁 量 は 排 除 される。 裁 判 所 間 の 礼 譲 および 相 互 信 頼 という 概 念 があまりにも 広 げられ 過 ぎていないかどうかは 疑 問 である。いくら 国 家 が 洗 練 された 保 護 制 度 を 構築 しても、 暴 力 を 振 るう 親 がその 制 度 に 従 うかどうかはわからないからである。子 の 奪 取 先 の 加 盟 国 裁 判 所 が 本 条 約 13 条 に 従 い 返 還 拒 否 命 令 を 出 した 場 合 、その 裁 判所 は、その 命 令 および 全 ての 関 連 書 類 のコピーを、 子 の 常 居 所 である 加 盟 国 裁 判 所 または中 央 当 局 に 直 ちに 送 らなければならない(11(6))。 常 居 所 の 裁 判 所 または 中 央 当 局 は、それを 当 事 者 に 告 知 し、 告 知 日 から3ヶ 月 以 内 に 子 の 監 護 に 関 するその 裁 判 所 に submissionを 行 うよう 勧 める。もし3ヶ 月 以 内 に submission が 行 われないならば、その 事 案 は 終 結したものと 考 えられる(11(7))。この 規 定 は、 返 還 拒 否 命 令 が 承 認 されるや 否 や、 奪 取 先 の加 盟 国 が 監 護 権 の 本 案 に 関 する 管 轄 を 引 き 受 けることを 禁 じている。返 還 拒 否 に 関 する 厳 格 な 理 由 があると 考 えられたため、 奪 取 先 の 裁 判 所 が 返 還 拒 否 命 令を 出 した 場 合 でも、 規 則 に 基 づき 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 、すなわち、 奪 取 直 前 に 子 の 常 居所 があった 国 の 裁 判 所 は、 規 則 42 条 に 規 定 される 迅 速 な 追 跡 システムにより、 執 行 可 能な 返 還 命 令 を 出 すことができる。この 場 合 、 執 行 可 能 性 の 宣 言 は 不 要 であり、かつ 承 認 が反 対 される 可 能 性 もない(42(1))。つまり、 奪 取 前 の 子 の 常 居 所 地 裁 判 所 が 最 終 決 定 権 を有 していると 言 える。このようないわば「 奥 の 手 」 命 令 は、 加 盟 国 当 局 間 の 相 互 信 頼 および 相 互 尊 重 という 同 規 則 の 方 針 からは 逸 脱 しているように 思 われる。Ⅴ 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 )(1) Mental Capacity Act (2005) とハーグ 条 約2005 年 に 成 立 した 精 神 能 力 法 (Mental Capacity Act, c.9)は、その 63 条 において、イングランドおよびウェールズにおいて、 成 年 者 の 国 際 的 保 護 に 関 するハーグ 条 約 (HagueConvention of 13 January 2000 on International Protection of Adults)の 国 内 実 施 を 認 める旨 を 明 確 にしており、この 国 内 実 施 に 関 する 規 則 が、 同 法 附 則 (Scedule)3 に 置 かれている(ハーグ 国 際 私 法 会 議 HP によれば、 英 国 における 同 条 約 の 国 内 実 施 は 2009 年 1 月 1 日 )。(2) 管 轄 に 関 する 規 定管 轄 に 関 しては、 上 記 附 則 7 条 から 10 条 に 規 定 がある。23198


裁 判 所 が 管 轄 を 行 使 できるのは、 原 則 として、 次 のいずれかの 場 合 である。1 対 象 となる 成 年 者 が、イングランド・ウェールズに 居 住 している 場 合 、2その 成 年 者 の 財 産 が、イングランド・ウェールズに 所 在 する 場 合 、3 緊 急 の 場 合 には、その 成 年 者 がイングランド・ウェールズに 所 在 しているか、その 成 年 者 が 財 産 をそこに 所 有 している 場 合 、4その成 年 者 に 関 し、イングランド・ウェールズに 与 える 影 響 が 一 時 かつ 限 定 的 な 保 護 措 置 が 提案 される 場 合 には、 成 年 者 がイングランドに 所 在 している 場 合 (7 条 1 項 )。なお、 保 護 措置 一 般 に 関 しては、 同 附 則 5 条 などを 参 照 。また、イングランド・ウェールズに 所 在 する 成 年 者 は、1 常 居 所 が 確 認 できない 場 合 、2 難 民 である 場 合 、3 常 居 所 地 国 内 の 動 乱 のため 強 制 退 去 させられた 場 合 には、イングランド・ウェールズに 常 居 所 を 有 する 者 として 扱 われる。さらに、 対 象 となる 成 年 者 が、1 英 国 民 で、2スコットランドや 北 アイルランドより、イングランド・ウェールズにより 密 接 な 関 係 を 有 し、37 条 に 該 当 する 場 合 にも、 裁 判 所は 権 限 を 行 使 し 得 る(8 条 2 項 )。(3) 承 認 ・ 執 行 に 関 する 規 定上 記 附 則 19 条 から 25 条 は、 承 認 ・ 執 行 に 関 する 規 定 である。19 条 1 項 によれば、イングランド・ウェールズ 以 外 の 国 の 法 に 基 づきとられた 成 年 保護 措 置 は、その 成 年 者 がその 国 に 常 居 所 を 有 していた 場 合 には、イングランド・ウェールズにおいて 承 認 される。イングランド・ウェールズの 管 轄 基 準 に 照 らして 認 められる 場 合も 同 様 である( 同 条 2 項 )。ただし、その 保 護 措 置 がとられた 事 案 が 緊 急 のものではない場 合 、 成 年 者 が 審 問 の 機 会 を 与 えられていなかった 場 合 、 不 作 為 が 自 然 的 正 義 違 反(breach of natural justice)になる 場 合 には 承 認 されない( 同 条 3 項 )。また、 保 護 措 置 の 承認 が 明 らかに 公 序 に 反 する 場 合 、 保 護 措 置 がイングランド・ウェールズの 強 行 規 定 に 相 反する 場 合 、なども 同 様 である( 同 条 4 項 )。Ⅵ 養 子 縁 組(1) イングランドにおける 養 子 縁 組 立 法 とその 概 要イングランド 法 は、Adoption of Children Act 1926 年 まで、 養 子 縁 組 に 関 する 法 律 を 有していなかった。また、Adoption Act 1950 によって 初 めて、 養 子 は 養 親 の 子 としてその相 続 権 を 得 得 たのだった。 現 在 、 養 子 縁 組 に 関 する 事 項 は、Adoption and Children Act2002 によって 規 律 される。この 法 律 は、 地 方 当 局 に「 世 話 を 見 てもらう」 養 子 縁 組 の 利 用を 広 げようとするものである。また、 同 法 は、 養 子 縁 組 手 続 において 子 の 福 祉 を 最 大 限 に考 慮 するよう 求 めることによって、 養 子 縁 組 を、Children Act 1989 の 延 長 線 上 に 置 こうとしているのである。 国 際 養 子 縁 組 に 関 するハーグ 条 約 ( 以 下 、 養 子 縁 組 条 約 )は、 国 際 養子 縁 組 法 (Adoption(Intercountry Aspects)Act 1999)において 既 に 実 施 されていたが、それは 現 在 、 先 の 2002 年 法 にとって 代 わられている(ハーグ 国 際 私 法 会 議 HP によれば、UKにおける 同 条 約 の 国 内 実 施 は 2003 年 6 月 1 日 )。24199


イングランドおよびスコットランドにおいて、 養 子 縁 組 は、 裁 判 所 の 決 定 によってのみ有 効 になし 得 るものであり、その 決 定 は、 主 として、それが 子 の 福 祉 に 適 うものであることを 確 認 するための 司 法 調 査 を 経 た 後 に 下 される。イングランドでは、そのような 決 定 は、High Court、 郡 裁 判 所 、ないし 治 安 判 事 裁 判 所 によってなされる。 外 国 では、 養 子 縁 組 が、裁 判 所 の 許 可 や、 宗 教 的 儀 式 すらなく、 当 事 者 間 の 契 約 のみによって 有 効 になされ 得 る 所もある。イングランドおよびスコットランドにおいては、 養 子 となる 子 は 18 歳 未 満 で 未婚 の 者 でなければならない(シヴィルパートナーシップの 当 事 者 であることも 認 められない)。しかし、 多 くの 国 々では 成 年 者 の 養 子 縁 組 も 可 能 である。イングランドの 養 子 決 定の 効 力 は、 養 親 に 養 子 に 対 する 親 責 任 を 与 えることにある。これは、 実 質 的 に、 法 によって 両 親 が 嫡 出 子 およびその 財 産 に 関 して 有 していた 全 ての 権 利 と 義 務 を、 養 親 に 移 転 するものである。(2) イングランド 法 による 養 子 縁 組Adoption and Children Act 2002( 近 く 改 正 予 定 、 以 下 2002 年 法 )に 基 づき、 養 子 縁 組申 立 時 点 において 18 歳 未 満 の 子 を 養 子 とする 旨 の 申 し 立 ては、 申 立 人 ないし 夫 婦 の 一 方が、ブリテン 島 (the British Islands)のいずれかにドミサイルを 有 しているか、 申 立 日 以前 の 少 なくとも1 年 間 、ブリテン 島 のいずれかに 常 居 所 を 有 していた 場 合 に 可 能 である( 同 法 49 条 3 項 )。 申 立 てがカップルによってなされる 場 合 、そのいずれもが 21 歳 を 過ぎていなければならない。あるいは、 夫 婦 の 一 方 が 子 の 実 母 ないし 実 父 である 場 合 には、その 者 が 18 歳 を 越 えており、かつ 他 方 の 者 が 21 歳 を 越 えていなければならない。 養 子 縁組 の 申 立 ては、21 歳 を 越 えているならば、 未 婚 、あるいはシヴィルパートナーでない 者でも 行 うことができる。 既 婚 、あるいはシヴィルパートナーである 一 方 の 者 による 申 立 ては、その 者 がその 子 の 母 親 または 父 親 のパートナーである 場 合 、またはその 者 の 配 偶 者 またはシヴィルパートナーが 見 つからない、ないし 病 気 のため 申 立 てをすることが 出 来 ない、または 配 偶 者 やシヴィルパートナーが 別 居 している、ないし 別 居 が 継 続 するであろう 場 合にのみ 行 うことができる。「カップル」という 語 の 定 義 は、 結 婚 している 夫 婦 か、 永 続 的な 家 族 関 係 においてパートナーとして 生 活 しているカップルである。裁 判 所 は、 次 の 要 件 のうちいずれか 一 つが 充 足 される 場 合 に、 養 子 縁 組 を 認 めることができる。すなわち、1 各 親 ないし 後 見 人 がその 養 子 決 定 に 同 意 し、または 裁 判 所 の 決 定 によって 同 意 が 免 除 される 場 合 、2 子 が 養 子 縁 組 機 関 によって 養 親 の 所 に 置 かれた 場 合 、3子 がスコットランドまたは 北 アイルランドでなされた 解 放 決 定 の 対 象 である 場 合 、である。子 がイングランドにドミサイルを 有 するとか 居 住 している 等 の 管 轄 に 関 する 要 件 は 存 在しない。 唯 一 の 制 約 は、 子 は 未 婚 で、シヴィルパートナーとなったこともなく、 養 子 決 定日 において 19 歳 未 満 でなければならない、ということである。しかし、2002 年 法 42 条は、 養 子 決 定 が 行 われるためには、 申 立 人 の 類 型 に 応 じて 10 週 間 から 3 年 間 、 子 が 申 立人 の 家 (home)で 過 ごさなけれならない、と 定 めている。 養 子 縁 組 機 関 は、 養 親 の 家 で 養親 と 過 ごす 子 を 観 察 する 機 会 を 十 分 に 有 していなければならない。したがって、 子 は、 少なくとも 申 立 日 においては 管 轄 内 (イングランド)に 居 住 していなければならないことに25200


なる。 同 様 の 規 定 は Adoption Act 1976 にも 存 在 しており、Re Y. (minors) (Adoption:Jurisdiction) 事 件 ([1985]Fam.136)において、 養 子 縁 組 機 関 は 養 親 の 家 で 過 ごす 子 を 観 察する 十 分 な 機 会 を 有 していなければならないという 要 件 は 命 令 的 なものであり、( 申 立 人は 養 子 縁 組 の 意 図 を 地 方 当 局 に 通 知 することが 要 求 されるが)「 家 」はその 地 方 当 局 の 領 域内 になければならない、という 判 断 がなされた。この 結 果 、 申 立 人 が 英 国 のいずれかの 地域 にドミサイルは 有 しているが、 常 居 所 は 有 していないという 場 合 につき、 裁 判 所 が 養 子決 定 を 行 う 事 案 数 が 減 少 するに 違 いない。しかし、 Re S.L. (Adoption:Home inJurisdiction) 事 案 ([2004]EWHC 1283(Fam))において、Mumby 裁 判 官 は、Re Y 事 案 とは 区別 した 上 で、 通 知 の 時 点 で、( 養 親 の 家 で 養 親 とともに 過 ごす 子 を 観 察 する 機 会 を、 養 子機 関 に 十 分 に 与 えるため)、 子 は 特 定 の 地 方 当 局 の 領 域 内 にある 申 立 人 の 家 で 過 ごしていなければならないが、これは、 養 子 決 定 が 出 るまでの 一 定 期 間 、 子 が 養 親 と 過 ごす「 家 」が「 一 つ」でなければならないことを 意 味 するものではなく、 二 つのテストはそれぞれ 異なる 法 目 的 を 有 している、と 判 示 した。したがって、 Re S.L. 事 件 において、( 養 子 縁組 の 要 件 として 養 子 縁 組 直 前 の1 年 間 イングランドに 居 住 していることが 要 求 されているにもかかわらず) 申 立 人 がイングランドからスコットランドへ 引 っ 越 したという 事 実 は、養 子 決 定 を 行 う 裁 判 所 の 管 轄 にとっては 重 大 なことではないのである。Children and Adoption Act 2006 およびその 規 則 によって 補 足 される 2002 年 法 は、ブリテン 島 外 の 国 に 常 居 所 を 有 する 子 を、 養 子 縁 組 のために、ないし 養 子 縁 組 条 約 が 認 める 養子 縁 組 以 外 の 養 子 縁 組 のために、 英 国 内 に 連 れてくることが 出 来 るか 否 かに 関 し、 要 件 を課 している。 規 定 された 要 件 に 違 反 した 場 合 には、 最 長 1 年 の 禁 固 刑 に 処 せられる(2002年 法 83 条 8 項 )。2002 年 法 の 他 の 規 定 に 違 反 した 場 合 、たとえば 金 銭 を 授 受 した 場 合 などもまた 刑 事 罰 が 科 される。あるいは、 養 親 になろうとする 者 が、 子 の 親 でも 親 戚 でも 後見 人 でもない 場 合 に、 子 を 養 子 縁 組 機 関 以 外 の 者 に 引 き 渡 したり、 養 子 縁 組 機 関 以 外 の 者から 子 を 引 き 取 ったりする、いわゆる「 非 機 関 事 案 」の 場 合 も 同 様 である。さらに、 養 子縁 組 目 的 で、 子 を 特 定 の 国 (その 国 が 養 子 縁 組 条 約 の 締 約 国 である 場 合 も 含 む)から 英 国内 に 連 れ 込 むことも、 公 序 の 観 点 からの 制 約 が 国 務 大 臣 によって 課 される。その 例 は、カンボジア(SI 2008/1808)とグアテマラ(SI 2008/1809)である。(3) 養 子 縁 組 条 約 における 養 子 縁 組国 際 養 子 縁 組 に 関 するハーグ 条 約 (1993 年 )に 英 国 国 内 法 としての 効 力 を 認 めたものが、Adoption (Intercounrty Aspects)Act 1999 であり、 英 国 は、2003 年 6 月 2 日 に、 同 条 約 を批 准 した。 以 来 、1999 年 法 は 修 正 をたびたび 受 け、また、2002 年 法 や、 IntercountryAdoption(Hague Convention) Regulations 2003、および Adoptions with a Foreign ElementRegulations 2005 によって 補 充 されている。養 親 になろうとする 者 が 海 外 にいる 場 合イングランド・ウェールズにドミサイルも 常 居 所 も 有 していない 者 (カップル)が、ブリテン 島 以 外 の 国 の 法 に 基 づき 子 を 養 子 として 迎 えようと 考 えた 場 合 、High Court は、 子に 対 する 親 責 任 を 彼 らに 与 える 決 定 を 出 すことができる。しかし、その 場 合 、 子 がその 養26201


親 となろうとする 者 の 家 で 一 緒 に 生 活 していなければ、その 決 定 を 下 すことはできない。また、 養 親 になろうとする 者 がカップルの 両 方 である 場 合 には、 手 続 が 行 われる10 週 間の 間 ずっと 家 で 子 と 生 活 しなければならず、その 間 は 管 轄 内 (イングランド・ウェールズ)にいなければならないことになる。 Re Ge (A Child)(Adoption: Placement OutsideJurisdiction)([2008] EWCA Civ. 105)において、 控 訴 審 裁 判 所 は、この 要 件 の 目 的 は、 養 親になろうとする 者 と 養 子 との 間 につながりができることを 確 実 にすること、および 養 親 の適 格 性 を 当 局 が 評 価 する 機 会 を 作 ることにあると 述 べた。この 要 件 については、 海 外 の 養親 希 望 者 の 負 担 があまりにも 大 き 過 ぎるとの 批 判 がある。2002 年 法 86 条 によれば、 規 則により、 特 に、 血 縁 の 親 戚 による 養 子 縁 組 の 場 合 など、この 要 件 を 変 更 したり 適 用 しないとすることができることになっているが、その 権 限 は 今 まで 行 使 されたことがない。 仮 に、その 権 限 が 行 使 されたならば、アメリカに 居 住 する 家 族 が 養 親 となろうとした 事 案 には 有効 に 機 能 したであろう(Re G.(A Child)(Adoption: Placement Outside Jurisdiction)([2008]EWCA Civ. 105))。 養 母 となろうとする 者 がイングランドにいる 子 と 10 週 間 過 ごしたが、養 父 となろうとする 者 は3 週 間 した 過 ごさなかったその 事 案 において、 裁 判 所 は、この 状況 においてはそれは 法 の 目 的 を 満 たすのに 十 分 であると 判 示 した。(4) 外 国 養 子 縁 組 の 承 認1) ブリテン 諸 島 における 養 子 縁 組スコットランドで 下 された 養 子 決 定 がイングランドで 承 認 されることは 疑 いようもないし、このことにつき、 現 在 では 明 文 規 定 が 置 かれている(2002 年 法 105 条 )。 北 アイルランド、チャネル 諸 島 、マン 島 で 下 された 養 子 決 定 がイングランド・スコットランドで 承認 されることもまた、 明 文 で 規 定 されている( 同 法 106 条 、108 条 )。2) 海 外 養 子 縁 組 (Overseas Adoptions)2002 年 法 87 条 は、 国 務 大 臣 に、ブリテン 諸 島 以 外 の 国 の 法 に 基 づき 有 効 とされる 養 子縁 組 を「 海 外 養 子 縁 組 」として 特 定 する 権 限 を 与 えている。その 趣 旨 は、 広 い 意 味 で 英 国と 同 様 の 海 外 の 養 子 法 に 基 づき 海 外 で 認 められた 養 子 縁 組 を 容 認 しようとするものであり、命 令 (SI 1973/19 およびその 修 正 命 令 )によって、それらの 海 外 諸 国 は 特 定 されている(SI1973/19 Schedule)。そこには、コモンロー 諸 国 の 大 部 分 (ただし、インドおよびバングラディシュは 除 く)、すべての 西 欧 諸 国 、ユーゴスラビア、ギリシャ、トルコ、イスラエル、 南 アフリカ、 中 国 、アメリカが 含 まれている( 日 本 は 含 まれていない)。この 命 令 の下 では、 養 親 と 養 子 縁 組 が 有 効 に 認 められる 必 要 のある 国 との 間 に、ドミサイルなど、 管轄 を 生 み 出 す 結 び 付 きは 何 ら 要 求 されない。 唯 一 の 制 約 は、 養 子 縁 組 が、コモンローないし 慣 習 法 ではなく、 制 定 法 に 基 づき 有 効 とされなければならない、ということである。すなわち、 養 子 とされる 者 は 18 歳 未 満 、かつ 未 婚 でなければならず、 承 認 は、 公 序 に 反 して 行 われてはならない。このことを 満 たすならば、 承 認 は 自 動 的 になされる(2002 年 法66 条 、67 条 )。27202


3) 養 子 縁 組 条 約 による 養 子 縁 組 の 承 認養 子 縁 組 条 約 23 条 は、 養 子 縁 組 が 行 われた 国 の 権 限 ある 当 局 によって、 本 条 約 にしたがってなされたことが 証 明 された 養 子 縁 組 は、 他 の 締 約 国 において 法 律 上 当 然 に 承 認 される、と 規 定 している。 締 約 国 は、そのような 養 子 縁 組 が、 子 の 利 益 を 考 慮 に 入 れてもなお、明 らかにその 国 の 公 序 に 反 する 場 合 にのみ 承 認 しないことができる。2002 年 法 66 条 は、 養 子 縁 組 条 約 に 基 づく 条 約 の 承 認 に 言 及 する。 同 条 約 は、 永 続 的 な 親子 関 係 を 作 り 出 す 養 子 縁 組 ( 実 親 との 関 係 を 断 絶 する 養 子 縁 組 )のみをカヴァーするものである。しかし、 場 合 によっては、 子 とその 実 親 との 法 的 関 係 を 断 ち 切 らない 養 子 縁 組(「 単 純 養 子 縁 組 」と 呼 ぶ 法 体 系 もある)に 変 換 され 得 ることも 規 定 している( 同 条 約 26条 、27 条 )。 同 条 約 に 基 づく 養 子 縁 組 は、イングランドにおいては、たとえば 実 親 の 遺 産を 養 子 が 相 続 できるといった 断 絶 効 を 持 たない 養 子 縁 組 よりも、 子 の 身 分 についての 効 力がより 制 限 的 な 養 子 縁 組 として 承 認 されるということを、High Court が 指 示 できるようにするための 手 続 を、2002 年 法 88 条 は 規 定 している。4) その 他 の 養 子 縁 組 の 承 認上 記 以 外 の 養 子 縁 組 についてのイングランドにおける 承 認 は、コモンローに 従 う。 多 くの 養 子 縁 組 は、「 海 外 養 子 縁 組 」として 特 定 されているので、コモンローで 規 律 される 残りの 範 囲 はごくわずかである。しかし、それは、たとえば、 東 欧 諸 国 、トルコ 以 外 の 中 東諸 国 、パキスタン、 日 本 、 少 数 の 中 南 米 諸 国 においてなされた 養 子 縁 組 には 用 いられることになろう(なお、インドの 養 子 縁 組 は、コモンローに 基 づき 承 認 される)。また、「 海外 養 子 縁 組 」として 特 定 される 国 々においてなされた 養 子 縁 組 についても、その 養 子 縁 組が 慣 習 法 やコモンローに 基 づき 有 効 とされ、あるいは 成 年 者 養 子 に 関 わる 場 合 には、コモンローが 適 用 される。では、コモンローにおける 承 認 ルールとはどのようなものなのか?Re Valentine'sSettlement ([1965] Ch.831)における 控 訴 審 裁 判 所 の 多 数 意 見 は、デニング 卿 の 言 葉 を 用 いれば、 次 の 通 りである。コモンローでは、「 他 国 における 養 子 縁 組 は、 養 親 がその 国 にドミサイルを 有 し、 養 子 が 通 常 そこに 居 住 している 場 合 にのみ、 我 が 国 の 裁 判 所 は、 承 認 することになろう」。しかし、 子 の 通 常 の 居 住 が 承 認 要 件 として 必 要 か 否 かについてははっきりしないとする 少 数 意 見 もあった。その 事 案 では、 南 アフリカにドミサイルを 有 し 居 住していたと 推 測 される 二 人 の 子 につき 南 アフリカで 行 われた 2 件 の 養 子 決 定 の 承 認 を、 控訴 審 裁 判 所 は 拒 否 している。それは、 申 立 人 が 南 ローデシア( 現 在 のジンバブエ)にドミサイルを 有 しており、 南 ローデシアの 裁 判 所 は、 南 アフリカの 養 子 縁 組 を 承 認 しないことが 証 明 されたからであった。この 判 決 は、 南 アフリカの 養 子 決 定 が 南 ローデシアの 裁 判 所によって 承 認 されるならば、 何 の 問 題 もなくその 養 子 縁 組 は 承 認 されたであろうということを 示 唆 している。したがって、おそらく 次 のように 言 うことができるだろう。コモンローでは、 外 国 養 子 縁 組 は、 養 親 がその 外 国 にドミサイルを 有 しているか、 養 親 がドミサイルを 有 している 国 において 養 子 決 定 が 承 認 されるならば、イングランドにおいて 承 認 される、と。28203


5) 公 序 要 件上 記 事 案 において、デニング 卿 は、 承 認 することが 公 序 に 反 する 場 合 には、 外 国 養 子 縁組 は 承 認 してはならない、という 警 告 を 発 している。 外 国 養 子 縁 組 を 容 認 するか 否 か 判 断する 際 にこの 公 序 要 因 に 留 意 することは、 通 常 よりも 重 要 となる。なぜなら、 養 子 縁 組 の目 的 および 効 力 につき、イングランド 法 とはかなり 異 なる 外 国 法 があるからである。それゆえ、 養 子 縁 組 が 子 の 福 祉 とは 全 く 異 なる 目 的 でなされた 場 合 、 少 なくともその 効 力 の 一部 については、イングランドにおいて 承 認 を 拒 否 しなければならないだろう。 極 端 な 例 であるが、ある 外 国 法 が 50 歳 の 独 身 男 性 が 17 歳 の 未 婚 女 性 を 養 子 に 迎 えることを 認 める 場合 でも、イングランド 裁 判 所 は、その 男 性 にその 女 性 の 監 護 権 を 与 えることはしないだろうが、 男 性 の 死 亡 時 に、その 女 性 が、 男 性 の「 子 」としてその 遺 産 を 相 続 することは 認 めるだろう。 外 国 法 とイングランド 国 内 法 との 単 なる 相 違 は、 公 序 により 承 認 しないことの理 由 としては 十 分 ではない。 特 に、 養 子 の 年 齢 が 18 歳 を 越 えることとか、 養 子 縁 組 が 裁判 所 の 決 定 によらないことは、 承 認 を 妨 げるものではない。 重 婚 や 協 議 離 婚 を 承 認 する 準備 のある 法 制 度 は、 外 国 養 子 縁 組 の 承 認 についてそれほど 神 経 質 ではない。イングランドにおける「 海 外 養 子 縁 組 」の 承 認 は、 公 序 の 見 地 から 拒 否 できるが、ブリテン 諸 島 のいずれかの 地 域 でなされた 養 子 縁 組 の 承 認 が 拒 否 できないことはもちろんである。6) 外 国 養 子 縁 組 に 関 する 宣 言外 国 養 子 縁 組 の 有 効 性 に 関 する 宣 言 については、Family Law Act 1986 に 規 定 が 置 かれている(57 条 。ただし、2002 年 法 附 則 3 の 49 項 も 参 照 )。そのような 宣 言 を 求 めることができるのは、 養 子 縁 組 ( 養 子 縁 組 条 約 に 養 子 縁 組 、2002 年 法 に 規 定 される 海 外 養 子 縁 組 、イングランド・ウェールズ 法 により 承 認 されかつブリテン 島 以 外 の 外 国 法 に 基 づき 有 効 とされる 養 子 縁 組 )の 申 立 人 のみである。 申 立 人 が、 上 記 養 子 縁 組 のために 指 名 された 者 の養 子 である、またはそうではないという 宣 言 は、 養 子 縁 組 によって 与 えられる 身 分 に 関 する 2002 年 法 67 条 における 申 立 人 の 地 位 を 決 定 する。管 轄 ルールは、 他 の 家 族 法 問 題 の 宣 言 に 用 いられるルールと 同 様 である。したがって、申 立 人 が 申 立 日 においてイングランドにドミサイルを 有 しているか、 申 立 日 までの 1 年 間ずっとイングランドに 常 居 所 を 有 している 場 合 にのみ、イングランド 裁 判 所 は 管 轄 を 有 することになる。Ⅶ 遺 産 管 理(1) 序遺 産 の 扱 い 方 について、イングランドの 法 制 度 は、 近 代 的 大 陸 法 制 度 とは 大 きくかけ 離れている。イングランド 法 における 大 原 則 は、 裁 判 所 から 最 初 に 遺 産 管 理 権 限 を 得 た 者 以外 に、 死 者 の 財 産 を 扱 う 資 格 を 有 する 者 はいない、というものである。もし、 死 者 が 遺 言執 行 者 を 指 名 していて、その 者 が 進 んで 行 動 するならば、 遺 言 の 検 認 の 許 諾 (grant)を 得 た遺 言 執 行 者 によって、 必 要 的 権 限 は 認 められることになる。もし、 死 者 が 遺 言 を 残 さずに29204


死 亡 したならば、たとえば、 近 親 者 のうちの 一 人 、 債 権 者 など、いずれかの 者 が、 遺 産 管理 状 の 許 諾 を 得 ることによって、 必 要 的 権 限 を 認 めてもらうことになる。 遺 言 書 はあるものの 遺 言 執 行 者 がいない 場 合 には、 遺 産 管 理 状 は、「 遺 言 書 に 付 いている」ものとされる。遺 言 執 行 者 ないし 遺 産 管 理 人 ( 一 般 的 に、 人 格 代 表 者 と 呼 ばれる)は、 死 者 の 財 産 を 引 き継 ぎ、 遺 産 の 債 務 、 義 務 、および 費 用 を 清 算 しなければならない。すなわちこれは、 遺 産管 理 の 過 程 なのである。そして、 人 格 代 表 者 は、 遺 言 により、または 無 遺 言 の 場 合 、 資 格を 得 た 者 たちに 残 余 分 を 分 配 する。「 相 続 」の 問 題 は、この 遺 産 の 正 味 の 残 余 分 についての 受 益 的 分 配 に 関 わるものである。大 陸 法 諸 国 においては、 死 者 の 財 産 は、 直 接 に、 死 者 の 相 続 人 ないし 包 括 受 遺 者 に 渡 るのが 原 則 である。したがって、イングランド 法 における 意 味 での 人 格 代 表 者 は、 指 名 される 必 要 がないし、 人 格 代 表 者 が 指 名 されても、 彼 らの 義 務 は、 通 常 は、 監 督 的 性 質 を 有 するものに 過 ぎず、イングランド 法 の 人 格 代 表 者 とは 全 く 異 なるものである。しかし、たとえ、 外 国 法 がそうであるにしても、イングランド 内 にある 財 産 は、 決 して、 外 国 の 相 続 人や 包 括 受 遺 者 に、 直 接 わたることはない。イングランドの 遺 産 管 理 権 限 が 付 与 されなければならないのである。なお、 英 国 は、 被 相 続 人 の 財 産 の 国 際 的 管 理 に 関 するハーグ 条 約 (1973 年 )については署 名 のみで、 批 准 は 行 っていない。(2) イングランドの 遺 産 管 理 権 限 付 与遺 産 管 理 権 限 付 与 に 関 する 実 務 は、Non-Contentious Probate Rules 1987( 修 正 含 む。以 下 、1987 年 規 則 )によって 規 律 される。これらの 法 は、 裁 判 所 、 実 際 には 検 認 登 録 当 局 、に 広 い 裁 量 を 与 えている。しかし、 遺 産 管 理 に 関 する 議 論 は、 大 法 官 部 (ChanceryDivision)の 手 続 が 対 象 とされている。1932 年 まで、イングランド 裁 判 所 は、イングランドに 所 在 する 遺 産 がある 場 合 にのみ遺 産 管 理 権 限 を 与 えることができたが、この 制 約 は、 非 常 に 不 便 な 場 合 を 生 じさせ 得 る。イングランドにドミサイルを 有 する 死 者 が、 財 産 を 大 陸 法 諸 国 に 残 していた 場 合 、 外 国 裁判 所 は、 人 格 代 表 者 がイングランドで 遺 産 管 理 権 限 が 与 えられるまで、その 者 に 遺 産 管 理権 限 を 認 めることを 拒 否 することもあろう。その 場 合 に、もし、 死 者 がイングランドに 財産 を 残 していなかったならば、もはやどうしようもない。したがって、Administration ofJustice Act 1932 は、たとえ 死 者 がイングランド 内 に 遺 産 を 残 していない 場 合 にも、 裁 判所 は、 死 者 に 関 する 遺 産 管 理 権 限 を 付 与 する 管 轄 を 有 しなければならないと 規 定 した。しかし、イングランド 内 に 遺 産 が 全 くなく、かつ 死 者 が 海 外 にドミサイルを 有 している 場 合 、裁 判 所 は、 遺 産 管 理 権 限 の 付 与 を 非 常 に 嫌 がる。1) 分 割 遺 言 (separate wills)遺 言 者 は、 財 産 をイングランドと 外 国 に 分 けて、 別 個 に 遺 言 書 を 作 成 することがある。一 つの 文 書 が 他 の 文 書 を 裏 付 けることになるならば、それらはともに、 遺 言 者 の 最 後 の 遺言 となり、 人 格 代 表 者 への 遺 産 管 理 権 限 付 与 を 求 める 遺 言 執 行 者 は、その 二 つについて 検認 を 行 わなければならない。しかし、もしそれらの 遺 言 が 互 いに 独 立 したものであるなら30205


ば、 外 国 遺 言 についても 検 認 の 許 諾 を 与 える 理 由 がない 限 り、 実 務 上 、イングランドの 遺産 に 関 する 遺 言 についてのみ 検 認 を 認 めるべきである。2) 遺 産 管 理 権 限 が 付 与 される 者外 国 にドミサイルを 有 する 者 が 死 亡 した 場 合 、 裁 判 所 は、まず、 死 者 のドミサイルの 裁判 所 によって 遺 産 管 理 人 として 選 ばれた 者 に、 遺 産 管 理 権 限 を 付 与 しようとするだろう(1987 年 規 則 30 条 (1)(a))。ドミサイルにおける 遺 産 管 理 が「 主 たる 遺 産 管 理 」と 呼 ばれるのに 対 して、イングランドにおける 遺 産 管 理 は「 従 たる 遺 産 管 理 」と 呼 ばれることになる)。もし、たとえば、そのドミサイル 国 ではまだ 遺 産 管 理 権 限 付 与 の 申 立 てがなされていなかったり、また、その 裁 判 所 が、イングランド 法 の 意 味 における 人 格 代 表 者 を 指 名しないなどの 理 由 で、そのような 者 がいない 場 合 には、 遺 産 管 理 権 限 は、ドミサイル 法 により 遺 産 を 管 理 する 資 格 を 有 する 者 に 付 与 される(1987 年 規 則 30 条 (1)(b))。しかし、そのように 権 限 を 付 与 することは、あくまでも 裁 量 的 なものであって、 裁 判 所 は、 他 に 適切 な 者 がいればその 者 に 遺 産 管 理 権 限 を 与 えることもできる。死 者 が、 遺 産 管 理 人 などを 指 名 し、あるいは、その 者 の、イングランド 法 に 従 った 文 言で 明 記 された 義 務 が「 文 言 によれば」 遺 言 執 行 者 の 義 務 を 構 成 するのに 十 分 であるような、イングランド・ウェールズにおいて 形 式 的 に 有 効 な 遺 言 を 残 した 場 合 、 検 認 の 許 諾 はその者 に 認 められるだろう。ドミサイル 法 が、 人 格 代 表 者 の 権 限 を 死 者 の 死 亡 時 から 一 定 期 間内 に 制 限 している 場 合 、そのような 制 限 はイングランドにおいては 無 視 される(Estate ofGoenaga, [1949] p.367)。外 国 において 指 名 された 人 格 代 表 者 は、イングランド 法 により 適 切 に 権 限 が 付 与 される者 でなければならない。したがって、 裁 判 所 は、 未 成 年 者 である 外 国 の 人 格 代 表 者 に 権 限を 付 与 することはしないだろう。そして、 未 成 年 者 がいる 場 合 、または、 遺 言 に 従 い、または 無 遺 言 の 場 合 に 生 ずる 生 涯 権 がある 場 合 、 裁 判 所 は、 通 常 、 二 人 以 上 の 個 人 、または信 託 会 社 に 権 限 を 付 与 しなければならない。したがって、たとえ 一 個 人 がドミサイル 法 によって 遺 産 管 理 の 権 限 を 認 められていても、イングランドでは、そのような 者 には 権 限 が与 えられないのである。Consular Conventions Act 1949 によれば、 枢 密 院 の 命 令 により、その 法 が 外 国 の 領 事にまで 拡 張 され、その 国 の 国 民 が、イングランド 内 に 所 在 する 財 産 に 関 し 検 認 または 遺 産管 理 の 許 諾 を 得 る 資 格 を 有 しており、イングランドに 居 住 しておらず、かつ、 弁 護 士 による 裁 判 所 への 許 諾 の 申 立 がなされていない 場 合 には、 裁 判 所 はその 外 国 の 領 事 に 権 限 を 認めることができる。(3) イングランド 外 でなされた 許 諾 ( 権 限 付 与 )などの 承 認1) スコットランドおよび 北 アイルランドにおける 許 諾Administration of Estates Act 1971 の 1 条 は、スコットランドまたは 北 アイルランドにドミサイルを 有 する 者 が 死 亡 した 場 合 、スコットランドの「 確 認 」または 北 アイルランドの 許 諾 は、 他 に 何 らの 方 式 も 要 することなく、 最 初 からイングランドの High Court によ31206


ってなされたものと 同 じように 扱 われる、と 規 定 する。もちろん、スコットランドおよび北 アイルランドにおいても、イングランドの 許 諾 はそのまま 承 認 されるという 相 互 の 保 証が 存 在 している。 北 アイルランドとスコットランドの 間 も 同 様 である。2) コモンウェルス 諸 国 における 許 諾Colonial Probates Act 1892 によれば、 枢 密 院 の 命 令 により 同 法 が 適 用 される 国 においてなされた 人 格 代 表 者 の 許 諾 は、 検 認 登 録 とともに 印 影 を 付 されるから、イングランドの許 諾 と 同 様 の 効 力 を 有 することになろう。 同 法 は、コモンウェルスのほとんど 全 部 に 適 用される。 同 法 は、 死 者 が 許 諾 が 行 われる 国 にドミサイルを 有 することを 要 求 していないが、検 認 登 録 機 関 は 再 封 するか 否 かについての 裁 量 を 有 する。 特 別 の 事 情 がない 限 り、ドミサイルの 裁 判 所 によらない 許 諾 は 再 封 されないだろう。ただし、たとえば、 英 語 またはウェルシュ 語 で 書 かれた 遺 言 書 において 指 名 された 遺 言 執 行 者 や、ドミサイル 法 によって 遺 産管 理 の 資 格 を 与 えられた 者 など、イングランドにおいて 本 来 の 許 諾 が 与 えられる 資 格 を 有する 者 に 許 諾 が 与 えられた 場 合 は 除 く。3) 外 国 において 選 任 された 人 格 代 表 者イングランドにおいて 死 者 を 代 表 したいと 考 える 外 国 で 選 任 された 人 格 代 表 者 ( 以 下 、外 国 人 格 代 表 者 )は、イングランドの 許 諾 を 得 なければならない。 死 者 の 財 産 に 干 渉 するその 他 の 者 は、 人 格 代 表 者 と 同 様 の 責 任 は 負 うが、 人 格 代 表 者 と 同 様 の 特 権 は 有 しない。しかし、 外 国 に 所 在 する 遺 産 債 務 者 に 対 して 勝 訴 判 決 を 得 た 外 国 人 格 代 表 者 は、イングランド 法 上 の 許 諾 を 取 得 せずとも、 人 的 能 力 により、イングランドにおいてその 判 決 を 執 行し 得 る。イングランドの 許 諾 を 得 ていない 外 国 人 格 代 表 者 は、 外 国 人 格 代 表 者 の 法 的 資 格 において 保 持 した 財 産 や 行 った 行 為 につき、イングランドでは 責 任 を 問 われることがない。しかし、 外 国 人 格 代 表 者 は、 責 任 を 引 き 寄 せる 行 為 、たとえば、 遺 産 に 関 する 契 約 をイングランド 内 で 締 結 したり、 不 適 切 な 投 資 を 行 ったり、さらにはイングランドにある 資 産 に 干 渉するなどした 場 合 には、 債 務 者 や 受 託 者 と 同 様 、 自 らの 不 法 によってイングランドでも 遺言 執 行 者 として 責 任 を 負 うことになろう。32207


5. アメリカ 合 衆 国( 執 筆 担 当 : 筑 波 大 学 村 上 正 子 ) 1Ⅰ 国 際 裁 判 管 轄 全 般1.アメリカ 法 における 管 轄Judicial jurisdiction(Jurisdiction to Adjudicate)は、 被 告 を 個 人 的 に 拘 束 し、あるいは 被 告 の 財 産 に 対 する 利 益 に 影 響 を 与 える 判 決 を 下 す 裁 判 所 の 権 限 であり、これは 連 邦 憲法 の 適 正 条 項 (Due Process)によって 限 定 されている。 法 廷 地 と 被 告 、 請 求 の 原 因 となっている 行 為 ( 取 引 )もしくは 影 響 を 受 ける 財 産 との 間 に 十 分 な 関 連 性 がある 場 合 には、 管轄 権 の 行 使 はデュープロセスを 侵 害 しない。事 物 管 轄 権 (Subject matter jurisdiction)は、 特 定 の 種 類 の 事 件 を 審 判 する 裁 判 所 の 権限 である。 例 えば、 州 によっては、 特 定 の 裁 判 所 だけが 婚 姻 関 係 事 件 について 事 物 管 轄 権を 有 していると 制 定 法 が 定 めているところもある。Jurisdiction to Adjudicate の 決 定 は、事 物 管 轄 権 の 存 在 を 前 提 としている。また、 裁 判 所 が 管 轄 権 を 主 張 する 前 提 として、デュープロセスが 訴 訟 の 通 知 が 被 告 に 与 えられることを 必 要 としている。この 通 知 は、 通 常 は被 告 に 対 する 訴 状 の 送 達 によって 与 えられる( 例 えば、 被 告 への 呼 出 状 の 直 接 交 付 、 被 告本 人 のために 送 達 を 受 ける 代 理 人 に 対 する 送 達 、 呼 出 状 の 公 告 など)。ただし、 通 知 をしたことが 管 轄 原 因 となるわけではなく、それは 裁 判 所 が 有 する 管 轄 権 を 完 全 なものとするための 要 件 に 過 ぎない。それゆえ、 管 轄 権 の 行 使 及 び 通 知 要 件 の 遵 守 はともに、 管 轄 権 の 有効 な 行 使 のために 必 要 である。管 轄 権 を 欠 く 裁 判 所 によって 下 された 判 決 はデュープロセスの 意 味 においては、 判 決 地においては 無 効 であり、それゆえ、 憲 法 の 十 分 な 信 頼 かつ 信 用 条 項 の 下 で、 他 の 州 においても 承 認 される 資 格 を 有 さない。 無 効 な 判 決 を 承 認 することは、 逆 にデュープロセスを 侵害 することになる。 判 決 州 での 管 轄 権 の 行 使 がデュープロセス 要 件 に 従 っている 限 りで、1 米 国 法 については、 主 に 以 下 の 文 献 を 参 照 した。Albert A. Ehrenzweig=Erik Jayme, Private International Law, vol. 2 Jurisdiction,Judgments, Persons(Family) (1973), David P. Currie=Herma Hill Kay=LarryKramer=Kermit Roosevelt, Conflict of Laws Cases-Comments-Questions,7 th ed (2006),Gary B. Born=Peter B. Rutledge, International Civil Litigation in United States Courts,4 th ed.(2007), Peter Hay= Patrick J. Borchers=Symeon C. Symeonides, Conflict of Laws,5 th ed. (2010), Peter Hay, Conflict of Laws, 6 th ed. (2009), Russell J. Weintraub,Commentary on the Conflict of Laws, 6 th ed. (2010).統 一 法 については、http://www.nccusl.org/を 参 照 した。また、アメリカにおける 家 庭 裁 判 所 制 度 改 革 及 び 家 族 法 をめぐる 近 時 の 動 向 については、棚 村 政 行 「アメリカにおける 家 族 法 の 最 新 動 向 」 小 田 八 重 子 = 水 野 紀 子 編 ・ 新 家 族 法 実 務大 系 第 1 巻 親 族 〔1〕153 頁 以 下 (2008)を 参 照 。1208


その 結 果 下 された 判 決 は、 十 分 な 信 頼 及 び 信 用 条 項 の 下 で 承 認 される。このことは、 承 認国 における 管 轄 ルールがより 厳 格 なものであり、もし 承 認 国 に 訴 えが 提 起 されたのであれば 管 轄 は 認 められなかったであろう 場 合 でもあてはまる。 姉 妹 州 判 決 の 承 認 の 目 的 のためには、 連 邦 のデュープロセスが 管 轄 権 行 使 の 有 効 性 のための 唯 一 の 憲 法 上 の 基 準 である。2. 管 轄 権 の 種 類 2(1) 対 人 管 轄 権 (In Personam Jurisdiction)対 人 管 轄 権 は、 訴 訟 当 事 者 の 権 利 及 び 義 務 を 判 断 し、 当 事 者 を 個 人 的 に 拘 束 するための裁 判 所 の 権 限 である。 対 人 管 轄 権 を 行 使 する 裁 判 所 の 権 限 は、 領 域 的 限 界 ( 法 廷 地 州 の 領域 内 にいる 人 に 対 する 裁 判 所 の 権 限 )においてか、もしくは 欠 席 する 被 告 が 法 廷 地 州 内 に有 していた 関 連 性 の 機 能 としてみられる。被 告 が 法 廷 地 州 と 十 分 な 関 連 性 を 有 している 場 合 には、その 州 の 裁 判 所 が 一 般 的 管 轄 権(あらゆる 請 求 を 判 断 する 権 限 )を 行 使 しうる。これに 対 して、 被 告 と 法 廷 地 州 との 間 の特 定 の 関 連 性 (から 生 じる 請 求 例 えば、 法 廷 地 州 における 不 法 行 為 を 原 因 とする 請 求 )に限 定 して 認 められるのが、 特 定 管 轄 権 である。(2) 物 に 対 する 管 轄 権対 物 管 轄 権 (In Rem Jurisdiction)とは、 法 廷 地 州 内 にある 被 告 の 財 産 に 関 連 する 請 求に 関 して、その 財 産 が 所 在 することを 基 礎 として 行 使 される 管 轄 権 である。 裁 判 所 は 当 該財 産 に 着 目 し、それに 関 する 権 限 を 行 使 するものであり、 当 該 財 産 に 対 する 権 利 について判 断 する。 裁 判 所 の 判 決 は、 当 該 事 件 に 関 連 する 物 に 対 する 全 ての 利 益 を 拘 束 する。 準 対物 管 轄 権 (Quasi-in –Rem Jurisdiction)とは、 裁 判 所 の 対 人 管 轄 権 に 服 さない 被 告 の 所 有する 財 産 が 法 廷 地 州 内 にある 場 合 、 当 該 財 産 が 請 求 に 関 連 していない 場 合 でも、その 財 産が 所 在 することを 基 礎 として 行 使 される 管 轄 権 である。 裁 判 所 の 判 決 は、 当 事 者 が 請 求 している 物 に 対 する、 当 該 訴 訟 の 当 事 者 の 利 益 のみを 拘 束 する。3. 伝 統 的 な 管 轄 原 因(1)ドミサイル(domicile)人 のドミサイルは、その 人 が 最 も 密 接 な 関 連 を 持 つ 場 所 である。 人 は 誕 生 の 時 点 で 法 の機 能 によって」「 出 生 によるドミサイル(domicile of origin)を 獲 得 し、 嫡 出 子 のドミサイルは、 子 どもの 両 親 が 別 居 したり 離 婚 して、 母 親 が 子 どもの 監 護 権 を 得 ない 限 りは、 父 親のドミサイルと 同 じである。 両 親 離 婚 し 母 親 が 監 護 権 を 取 得 した 場 合 は、 母 親 のドミサイルが 子 のドミサイルとなり、これは 非 嫡 出 子 の 場 合 や 父 親 の 死 後 に 生 まれた 子 どもの 場 合も 同 様 である 3 。 子 どもが 未 成 年 の 間 は、そのドミサイルは 子 が 共 に 生 活 している 両 親 のそ2 Pennoyer v. Neff, 95 U.S. 714 (1878).3 Restatement (Second ) Conflict of Laws §14(2). ただし、このような 両 親 の 性 別 に 基2209


れに 従 う。 両 親 がともに 死 亡 したか、 無 能 力 になったか、あるいは 子 を 遺 棄 した 場 合 には、子 が 共 に 生 活 をしている 身 近 な 親 戚 のドミサイルが 子 のドミサイルとなる。 子 が 成 人 に 達したか、あるいはそれ 以 前 に 親 権 から 解 放 されたか、あるいは 家 を 選 択 する 精 神 的 能 力 を有 している 子 がドミサイルを 変 更 した 場 合 には、 新 しい「 選 択 によるドミサイル」を 得 ることができる。訴 えが 提 起 された 時 点 で、 当 事 者 がドミサイルを 有 していることが、 一 般 的 管 轄 権 のための 十 分 な 基 礎 となる 4 。これはドミサイルを 有 する 者 がその 時 点 で 当 該 州 に 物 理 的 に 存 在していなくてもあてはまる 5 。 英 米 法 の 原 則 に 鑑 みれば、 人 は 一 度 に1つのドミサイルしか持 たないのであり、ある 者 のドミサイルは、 彼 ないし 彼 女 の 当 該 州 に 対 する 最 も 密 接 な 関連 性 を 示 すといえるからである。 請 求 原 因 にかかわらず、 少 なくともどこか1つの 場 所 でその 者 を 訴 えることができとすることが 便 利 であり、 彼 ないし 彼 女 をドミサイルのある 地の 管 轄 権 に 服 させることはその 目 的 を 達 成 するための 衡 平 な 方 法 であるといえる。これは被 告 にとって 不 当 な 不 意 打 ちとはならない。ただこれに 対 しては 批 判 もあり、ドミサイルのかわりに、 常 居 所 地 (habitual residence)を 管 轄 権 の 基 礎 として 認 めるべきであるとする 見 解 もある 6 が、 合 衆 国 においては、 判 例 法が 依 然 としてドミサイルを 一 般 管 轄 権 の 十 分 な 基 礎 とみなしている。 制 定 法 が「 居 所 ないし 住 所 (residence)」という 文 言 を 用 いている 場 合 でも、それはしばしばドミサイルの 意 味で 解 釈 されることがある。 他 方 で、 例 外 はあるものの、「ドミサイル」という 文 言 は 制 定 法においてはほとんど 使 われていない。より 一 般 的 に 用 いられるのは、「レジデンス」という文 言 である。この 場 合 には、その 文 言 の 意 味 が、1 本 来 のドミサイルの 意 味 に 加 えて 実 際のレジデンスを 含 む、2ドミサイルと 同 義 、3ドミサイルの 意 味 を 含 まない 実 際 のレジデンスのいずれを 指 すかが 問 題 となり、 最 終 的 には 当 該 制 定 法 の 目 的 及 び 設 立 過 程 に 照 らして 判 断 されることになる。また、ドミサイルが 対 人 管 轄 権 の 一 般 的 な 基 礎 として 確 立 され、 管 轄 権 のための 憲 法 上の 基 礎 をなし、 州 内 に 存 在 しないがドミサイルを 有 している 者 に 対 して、 応 訴 を 要 求 しあるいは 不 在 のままその 利 益 を 判 断 することが、 通 常 は 公 正 かつ 合 理 的 であるといえるにしても、なお、 形 式 的 なドミサイルだけでは 対 人 管 轄 権 のための 合 理 的 な 基 礎 とはいえない場 合 もある。これは 例 えば、 被 告 が 戻 る 意 思 を 持 たずに 長 期 間 にわたり 当 該 地 に 存 在 せず、しかし、 選 択 による 新 たなドミサイルを 獲 得 していないということで、 依 然 としてその 地に 形 式 的 なドミサイルを 維 持 している 場 合 にあてはまる。このような 場 合 には、 州 の 裁 判所 の 管 轄 権 の 主 張 は、フェアプレイと 実 体 的 正 義 (fair play and substantial justice)の 下づいて 区 別 をしている 判 例 法 のルールが 今 でも 有 効 かどうかには 疑 問 の 声 もある。4 Restatement (Second ) Conflict of Laws §29 (1971), Restatement (Third) ForeignRelations Law §421 (2) (b) (1987).5 Milliken v. Meyer, 311 U.S. 457, 61 S.Ct. 339, 85 L.Ed. 278 (1940).6 国 際 私 法 に 関 するハーグ 委 員 会 はその 条 約 において、ドミサイルという 文 言 よりも 常 居 所地 という 文 言 を 用 いている。 例 えば、 子 の 奪 取 の 民 事 面 に 関 する 条 約 など。3210


で 判 断 されるという 基 準 7 によれば、 形 式 的 なドミサイルのみを 管 轄 権 の 基 礎 とすることは認 められないかもしれない 8 。さらに、 裁 判 所 がドミサイルを 管 轄 権 の 基 礎 としていても、それを 合 理 的 なものとする 法 廷 地 との 特 別 な 関 連 性 があることもある。 例 えば、Mounts v.Mounts 事 件 では、 逃 亡 した 前 夫 に 対 する 扶 養 請 求 事 件 において、 裁 判 所 は 夫 が 逃 亡 した 後も14 年 間 婚 姻 ドミサイルに 居 住 し 続 けていたと 認 定 した。この 推 定 ドミサイルは 失 踪 した 夫 に 対 する 対 人 管 轄 権 の 基 礎 としては 非 常 に 疑 問 のあるものであるが、 夫 が 婚 姻 ドミサイルで 家 族 を 遺 棄 したという 事 実 は、 彼 が 遺 棄 した 家 族 の 扶 養 に 関 する 事 件 において、 夫に 対 する 婚 姻 ドミサイルの 裁 判 所 に 管 轄 権 を 認 めるための 十 分 な 関 連 性 を 認 めるべきである 9 。なお、 被 告 のドミサイルに 基 づいて 一 般 的 管 轄 権 を 行 使 する 場 合 でも、 彼 ないし 彼 女 に適 切 な 通 知 と 審 問 を 受 ける 機 会 を 与 える 必 要 がある。(2)レジデンス(residence)レジデンスとは、ある 人 が 相 当 の 期 間 をそこで 過 ごしている 住 居 を 有 している 場 所 として 定 義 される 10 。 最 高 裁 判 所 は、 他 州 ( 国 )にドミサイルを 有 する 者 について、 州 内 にレジデンスを 有 することが、 管 轄 権 の 行 使 を 合 理 的 なものとするのに 十 分 かについて、いまだに 判 断 を 下 してはいないが、これを 積 極 的 に 解 する 見 解 もある 11 。ドミサイルを 有 していない 者 に 対 する 管 轄 権 の 拡 張 については、 後 述 の6を 参 照 。(3) 国 籍 ・ 州 籍 (nationality or citizenship)(3-1) 国 籍外 国 にドミサイルを 有 しているアメリカ 国 民 に 対 して、 合 衆 国 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 行 使することはできるか。 合 衆 国 の 国 籍 を 有 することは、 連 邦 法 に 関 わる 事 柄 において、 不 在の 被 告 に 対 して 連 邦 裁 判 所 が 対 人 管 轄 権 を 行 使 するのに 十 分 であるとする 見 解 もある 12 。これに 対 して 最 高 裁 判 所 は、 明 文 の 規 定 がない 場 合 にも、 国 籍 をもって 一 般 管 轄 権 の 十 分 な基 礎 とするかどうかの 問 題 については、 何 ら 判 断 を 下 していないが、ドミサイルと 同 様 に7 Shaffer v. Heitner, 433 U.S. 186, 212 (1977).8 Restatement Second §29 (1988 Revisions) は、 各 人 の 州 との 関 係 が 非 常 に 弱 いため、管 轄 権 の 行 使 が 不 合 理 となる 場 合 には、ドミサイルを 管 轄 の 基 礎 とすることはできないとする。ただこれに 対 しては、 他 のいずれの 州 にも 管 轄 が 認 められないと 信 じる 理 由 がある場 合 には、どこか1つの 法 廷 地 には 管 轄 があるということに 対 する 原 告 の 最 優 先 の 利 益 が、被 告 のドミサイルで 訴 えを 提 起 することを 認 めることが 合 理 的 であるとする 見 解 もある。9 181 Neb. 542, 149 N.W. 2d 435 (1967).10 Restatement Second §30, comment a (1971).11 Restatement Third §421 (2) (c) (1987).12 Restatement Second §31, Blackmer v. United States, 284 U.S. 421, 52 S.Ct. 252, 76L.Ed. 375 (1932), Restatement (Third) Foreign Relations Law §421 (2) (d) (1987).4211


考 えることが 示 唆 されている 13 。(3-2) 州 籍憲 法 第 14 修 正 の「 彼 らが 居 住 するところの 州 」という 文 言 が、ドミサイルのある 州 を意 味 すると 解 釈 されている 14 。すなわち、 州 籍 はドミサイルと 一 致 するので、ドミサイルによって 既 に 認 められている 管 轄 権 と 離 れて、 独 立 の 基 礎 となることはない。(4) 管 轄 内 での 送 達Pennoyer 対 Neff 事 件 において、 最 高 裁 は 管 轄 権 に 対 する 地 域 的 アプローチを 採 用 した。すなわち、 各 州 は、「その 領 域 内 にいる 人 及 財 産 に 対 して 排 他 的 な 管 轄 権 及 び 主 権 を 有 する」。それゆえ、 州 内 に 居 住 していない 者 に 対 してなされた 判 決 は、 他 州 では 承 認 されないし、また 憲 法 第 14 修 正 のデュープロセス 条 項 の 下 では 判 決 州 においても 無 効 であるとされていた。 他 方 で、 州 の 領 域 的 主 権 の 概 念 は、 当 該 州 が、その 領 域 内 において 送 達 を 受 けた 被告 に 対 しては 一 般 的 対 人 管 轄 権 を 得 ることを 意 味 していた。州 内 における 送 達 のみによって 得 られた 管 轄 権 はまた、 一 時 的 な 管 轄 権 (transientjurisdiction)として 知 られている 15 。この 一 時 的 な 管 轄 権 は、 被 告 をして、 彼 ないしは 彼女 が 一 時 的 に 存 在 していた 場 所 で 送 達 を 受 けたことをもって 応 訴 を 強 いることになるとはいえ、 依 然 として 自 然 人 との 関 係 では、 実 現 可 能 な 確 固 としたルールとされている 16 。ただしこの 一 時 的 管 轄 権 は、 国 際 裁 判 管 轄 の 基 礎 としては 批 判 も 多 い。 数 年 前 に 行 われていた 世 界 的 な 管 轄 ルールを 作 成 しようとするハーグ 国 際 私 法 会 議 での 試 みにおいても、合 衆 国 は、 少 なくとも 外 国 の 被 告 に 対 してはこの 管 轄 権 の 基 礎 を 断 念 せざるをえないかもしれないとされていた。4. 応 訴 管 轄被 告 が 管 轄 の 問 題 のみを 主 張 して 特 別 応 訴 (special appearance)をした 場 合 にのみ、 管轄 の 抗 弁 が 維 持 されうるとする 州 法 もあるが、 連 邦 規 則 は、このような 規 定 を 設 けていない。すなわち、 管 轄 に 関 する 抗 弁 は、それ 以 外 の 抗 弁 と 共 に 提 出 できる。にもかかわらず、連 邦 民 訴 規 則 は、 予 備 的 申 立 てがされた 場 合 には、 管 轄 の 抗 弁 もそこで 主 張 しなければならないと 規 定 している。もし 管 轄 の 抗 弁 がその 時 点 で 主 張 されなければ、 事 物 管 轄 に 関 す13 Restatement Second §31, comment d.14 In re Slaughter-House Cases, 83 U.S. (16 Wall.) 36, 21 L.Ed. 394 (1873).15 Grace v. jacArthur, 170 F. Supp. 442 (E.D.Ark. 1959). アーカンザス 州 に 居 住 していない 被 告 に 対 して、 同 州 の 上 空 を 飛 行 中 の 飛 行 機 の 中 で 送 達 が 行 われた。16 Burnham v. Superior Court, 495 U.S. 604, 110 S.Ct. 2105, 109 L.Ed.2d 631 (1990).ニュージャージー 州 に 居 住 する 被 告 は、その 妻 がカリフォルニア 州 で 提 起 した 離 婚 訴 訟 に 関連 して 同 州 で 送 達 を 受 けたが、 彼 は 仕 事 で 同 州 に 一 時 的 に 滞 在 し、 子 どもに 会 っていただけだった。 裁 判 官 のうち4 名 がこの 一 時 的 管 轄 権 の 合 憲 性 を 支 持 し、 他 4 名 の 裁 判 官 が、それぞれの 事 案 において、 管 轄 権 の 行 使 が 現 代 的 な 公 正 の 概 念 に 合 致 していることを 確 実にするために 審 査 されなければならないとした。5212


る 抗 弁 以 外 の 管 轄 権 に 関 する 抗 弁 は 排 斥 される。 複 数 の 予 備 的 申 立 てがなされる 場 合 には、管 轄 に 関 する 抗 弁 は 最 初 の 申 立 ての 際 にしなければならない( 連 邦 民 訴 規 則 12 条 )。 被 告が 対 人 管 轄 権 のないことを 主 張 した 場 合 には、 原 告 はそれについて、 管 轄 の 根 拠 となる 事実 を 証 明 するためのディスカバリー 命 令 を 得 て、 被 告 がその 命 令 に 従 わない 場 合 には、 事実 審 裁 判 所 は、 連 邦 民 訴 規 則 37 条 (b)(2)(A)に 基 づき、 管 轄 を 基 礎 づける 事 実 が 証 明 されたとみなすことができる。以 前 の 制 定 法 は、 州 の 高 速 道 路 を 利 用 することによって、 当 該 州 に 居 住 していない 被 告ドライバーは、 当 該 州 で 彼 が 起 こした 事 故 から 生 じる 請 求 に 関 する 送 達 を 受 け 取 るための代 理 人 として、 州 務 長 官 を 指 名 したものとみなされるとしていた 17 。しかしその 後 判 例 は 適切 に、この 種 の 管 轄 権 の 主 張 は 被 告 の「 黙 示 の 合 意 」に 基 づくものではなく、 州 の 警 察 権限 から 導 かれるものであると 指 摘 した。すなわち、 州 はその 高 速 道 路 の 利 用 を 規 制 し、その 利 用 者 に 特 定 の 条 件 と 効 果 を 与 えることができるのであり、「 黙 示 の 合 意 」は 擬 制 であって、 州 の 警 察 権 限 によって 正 当 化 されるとした 18 。今 日 では、 後 述 のロングアーム 法 の 規 定 が、 州 内 で 不 法 行 為 が 行 われたことに 基 づく 管轄 権 の 主 張 を 認 めていることから、この 規 定 が 以 前 の「 黙 示 の 合 意 」の 擬 制 に 取 って 代 わっている。5. 明 示 の 合 意当 事 者 は 常 に、ある 裁 判 所 の 管 轄 権 に 服 することを 合 意 できるし、そのような 合 意 を、契 約 上 の 管 轄 合 意 条 項 によって、 訴 訟 に 先 立 ってすることができる 19 。また、 被 告 は、 判 決 の 事 前 承 認 の 条 項 にサインすることで、 管 轄 権 の 利 益 及 び 通 知 を 受ける 利 益 を 放 棄 することもできる(ある 特 定 の 裁 判 所 もしくは 記 録 にあるどの 裁 判 所 における 判 決 を 自 認 する)。 最 高 裁 判 所 は、 被 告 が 通 知 及 び 審 問 に 対 するデュープロセルの 権 利を 放 棄 できるのは、その 放 棄 が「 自 発 的 に、 聡 明 に、かつ 意 識 的 に 行 われ、また 法 的 効 果を 完 全 に 理 解 したうえで」なされた 場 合 に 限 るとした 20 。多 くの 州 が、 制 定 法 によって 判 決 の 事 前 自 認 条 項 を 禁 止 または 厳 格 に 制 限 している 21 。しかしながら、ある 州 の 州 法 が、このような 条 項 を 無 効 にしているとしても、 十 分 な 信 頼 及び 信 用 条 項 はそれでも、 他 の 州 で、 判 決 の 事 前 自 認 条 項 に 基 づいてなされた 金 銭 判 決 について、 判 決 州 でそれが 有 効 であり、Overmyer 事 件 判 決 によって 確 立 された 憲 法 上 の 基 準 に合 致 している 限 りで、その 承 認 執 行 を 義 務 づけている。17 Hess v. Pawloski, 274 U.S. 352, 47 S.Ct. 632, 71 L.Ed. 1091 (1927).18 Olberding v. Iooinois Central R. Co., 346 U.S. 338, 340, 74 S.Ct. 83, 85, 98 L.Ed.39(1953).19 Restatement Second §§32.43 (1971).20 D.H.Overmyer Co., Inc. v. Frick Co., 405 U.S. 174, 92 S.Ct. 775, 31 L.Ed. 2d 124(1972).21 例 えば、 統 一 消 費 者 信 用 法 典 §1.201(8)(b-e)は、 居 住 者 である 消 費 者 が 管 轄 及 び 州 外 での 送 達 に 合 意 をしても、それはクレジットカード 取 引 においては 無 効 であるとしている。6213


6. 管 轄 権 の 拡 張 ( 州 内 に 居 住 していない 被 告 に 対 する 管 轄 権 を 得 るための 理 論 )Pennoyer 事 件 判 決 では、 管 轄 権 の 行 使 について 領 域 的 アプローチが 採 られていたが、 州際 間 の 移 動 が 増 え、 経 済 的 にも 相 互 の 関 連 性 が 増 してきた 社 会 においては、 被 告 の 所 在 とドミサイルに 基 づく 伝 統 的 な 管 轄 権 の 基 礎 (いわゆる 一 般 的 管 轄 権 )だけでは 不 十 分 となってきた。これ 以 外 の 基 礎 に 基 づく 管 轄 権 を 主 張 するには、 制 定 法 による 特 別 な 権 限 が 必要 となる。 合 衆 国 最 高 裁 の 判 例 は、 州 裁 判 所 の 管 轄 権 行 使 の 外 延 を 画 し、 州 の 制 定 法 は、州 が 連 邦 憲 法 の 制 限 内 で、どこまでの 管 轄 権 を 行 使 できるかを 決 めている。その 規 定 の 仕方 は 州 によって 分 かれるが、ニューヨーク 州 のように、 管 轄 権 を 行 使 できる 事 件 類 型 を 列挙 しているものもあれば 22 、カリフォルニア 州 のように、「デュープロセスの 範 囲 内 で」という 一 般 的 な 規 定 をするものもある 23 。いずれにせよ、 州 裁 判 所 による 管 轄 権 の 行 使 は、 州の 制 定 法 の 要 件 と 連 邦 憲 法 上 の 要 件 の 双 方 を 充 たす 必 要 がある。この 州 の 制 定 法 が 一 般 的に「ロングアーム 法 」として 知 られるものである。(1)International Shoe 事 件 判 決 の 示 した 基 準最 高 裁 は、International Shoe Co. v. Washington 事 件 において、 特 別 対 人 管 轄 権 のための 新 たな 基 準 を 宣 言 した。すなわち、 州 が 管 轄 権 を 行 使 できるのは、 被 告 と 法 廷 地 州 との間 に「 最 小 限 度 の 接 触 (minimum contacts)」があり、かつ、そのような 管 轄 権 の 行 使 が「 伝 統 的 なフェアープレイ 及 び 実 質 的 な 正 義 の 概 念 に 反 しない」 場 合 である。1) 最 小 限 度 の 接 触この 基 準 は 次 の 二 段 階 の 分 析 を 必 要 とする。 第 一 に、 裁 判 所 はそもそも 当 該 州 と 十 分 な最 小 限 度 の 接 触 があるかどうかを 判 断 しなければならない。もしこれがなければ、デュープロセス 要 件 が 管 轄 権 の 行 使 を 排 除 する。 十 分 な 接 触 がある 場 合 には、 第 二 段 階 として、管 轄 権 の 行 使 がフェアーかどうかが 判 断 されなければならない。もし 管 轄 権 の 行 使 がアンフェアーであるならば、 合 衆 国 憲 法 第 14 修 正 のデュープロセス 条 項 が 管 轄 権 の 行 使 を 違憲 とする。ただし、この 要 件 自 体 が 抽 象 的 であるため、 要 件 が 充 たされているかどうかを判 断 する 際 にはいくつかの 要 素 を 考 慮 する 必 要 があり、 裁 判 所 は 判 例 を 積 み 重 ねることによって 以 下 の 要 素 を 考 慮 すべきとしている。1 明 らかな 州 の 利 益 : 例 えば、 州 の 制 定 法 が 裁 判 所 に 対 して、 特 殊 な 状 況 において 管 轄 権を 行 使 する 権 限 を 与 えている 場 合 など、 当 該 州 が 管 轄 権 を 行 使 することに 明 らかな 利 益 を有 している 場 合 には、 法 廷 地 州 と 最 小 限 の 接 触 を 持 つ 州 に 居 住 していない 被 告 に 対 しても、裁 判 所 は 手 を 伸 ばし 管 轄 権 を 得 ることができる 24 。22 N.Y.C.P.C.R. 3.2(a). 一 般 的 な 事 件 類 型 としては、1 州 内 で 不 法 行 為 による 損 害 を 生 じさせたこと、2 州 内 で 取 引 行 為 を 行 うこと、3 州 内 の 不 動 産 に 対 して 権 利 を 有 していることが 挙 げられる。23 CA §410.10.24 McGee v. International Life Ins. Co., 355 U.S. 220 (1957).7214


2 意 図 的 な 利 用 : 被 告 が、 法 廷 地 州 内 において 何 らかの 活 動 に 従 事 することによって、 法廷 地 州 の 法 から 意 図 的 に 恩 恵 及 び 保 護 を 得 ていることが 必 要 である。 従 って、 原 告 が 行 った 単 独 の 行 為 は、この 要 件 を 充 たさない。この 要 件 は、 被 告 が 実 際 に 法 定 地 州 の 法 から 恩恵 を 受 けたことを 意 味 するものではなく、 被 告 が、 何 かあった 場 合 に、 恩 恵 を 得 ることが出 来 たことを 意 味 する 25 。 例 えば、 非 居 住 者 である 被 告 が、 法 廷 地 州 外 の 自 身 の 行 為 によって 法 廷 地 州 における 効 果 を 惹 き 起 こした 場 合 には、 被 告 は 意 図 的 に 法 定 地 州 の 恩 恵 と 保 護を 利 用 したといえる 26 。2) 予 測 可 能 性 (Foreseeability)例 えば、イリノイ 州 に 居 住 する 者 が、 非 居 住 者 である 製 造 業 者 が 製 造 し、 別 の 非 居 住 者である 製 造 業 者 によって 製 造 された 製 品 に 組 み 入 れられた 部 品 によって 怪 我 をした。 裁 判所 は、 部 品 製 造 業 者 ( 非 居 住 者 )がその 部 品 を、 完 成 品 を 製 造 した 製 造 業 者 ( 非 居 住 者 )に 販 売 し、その 部 品 が 法 廷 地 州 で 発 生 した 怪 我 の 原 因 となった 場 合 には、 部 品 製 造 業 者 は当 該 法 廷 地 州 の 管 轄 権 に 服 すると 判 示 した。 裁 判 所 は、 製 造 業 者 がその 製 品 を 商 品 流 通 の流 れにのせた 場 合 には、 当 該 製 造 業 者 が 法 廷 地 州 から 受 ける 保 護 の 利 益 がかなり 間 接 的 なものであったとしても、その 製 品 が 損 害 の 原 因 となった 場 合 には、 法 廷 地 州 で 当 該 製 造 業者 に 対 する 管 轄 権 を 行 使 したとしてもそれほど 不 当 ではないと 判 断 した 27 。(2)World-Wide Volkswagen 事 件 判 決 の 示 した 基 準上 記 の 判 断 をした Gray 事 件 判 決 から20 年 あまりのあと、 最 高 裁 は 予 測 可 能 性 についてより 限 定 的 な 判 断 を 示 した。すなわち、 被 告 の 行 為 と 法 廷 地 州 とのつながりは、 被 告 が 法廷 地 州 の 裁 判 所 に 呼 び 出 されることを 合 理 的 に 期 待 できるようなものでなければならない。これが 有 名 な World-Wide Volkswagen 事 件 判 決 である 28 。 原 告 らはニューヨーク 州 からアリゾナ 州 へのドライブ 中 に、オクラホマ 州 で 事 故 にあい、 重 傷 を 負 った。 原 告 は 車 の 製 造会 社 、 輸 入 会 社 、 地 元 の 卸 売 会 社 、そして 小 売 業 者 を 被 告 として、 製 造 物 責 任 訴 訟 を 提 起した。 地 元 の 卸 売 会 社 (ニューヨーク 州 、ニュージャージ 州 、コネティカット 州 ) 及 び 小売 業 者 (ニューヨーク 州 のビジネスマン)は 共 にオクラホマ 州 の 管 轄 権 行 使 を 争 った。 仮に Gray 事 件 判 決 で 示 された 予 測 可 能 性 の 要 件 が 本 件 に 適 用 された 場 合 、 被 告 らは 共 に、ニューヨーク 州 で 購 入 した 車 がオクラホマ 州 やそれ 以 外 の 州 で 運 転 されるということを 十 分に 予 測 できたという 理 由 で、 被 告 らに 対 する 管 轄 権 の 行 使 は 憲 法 の 要 請 に 合 致 しているといえるであろう。 裁 判 所 はしかし、この 予 測 可 能 性 という 広 い 概 念 を 認 めなかった。なぜなら、もしこれを 認 めれば、ある 動 産 の 売 り 主 は、それが 受 け 取 られた 場 所 ではどこででも、 応 訴 を 強 いられることになってしまうからである。その 代 わりに 裁 判 所 は、より 限 定25 Hanson v. Denckla, 357 U.S. 236 (1958).26 Kulko v. Superior Court, 436 U.S. 84 (1978).27 Gray v. American Radiator & Standard Sanitary Corp., 22 Ill. 2d. 432, 176 N.E.2d761 (1961).28 World-Wide Volkswagen Corp. v. Woodson, 444 U.S. 286 (1980).8215


的 な 合 理 的 期 待 という 基 準 を 採 用 し、 法 廷 地 州 が 適 法 に 管 轄 権 を 行 使 するためには、 被 告が 法 定 地 州 と 何 らかの 連 携 する 状 況 (affiliating circumstances)を 持 つこと( 被 告 が 意 図的 に、 法 廷 地 州 との 最 小 限 の 接 触 を 確 立 したこと)を 要 件 とした。 要 するに 裁 判 所 は、「 損害 の 予 測 可 能 性 」ではなく、 法 廷 地 州 の「 裁 判 所 に 呼 び 出 されることを 期 待 できたこと」( 被告 が、 自 分 自 身 の 行 為 を 原 因 として、 法 廷 地 で 訴 えを 提 起 されるかもしれないということを 予 期 できたかどうか)を 重 視 したのである。 裁 判 所 は、 憲 法 第 14 条 修 正 のデュープロセス 条 項 は2つの 機 能 を 果 たすとしている。1つは、 負 担 の 重 い 不 便 な 訴 訟 から 被 告 を 保護 することである。 今 1つは「 州 際 間 の 連 邦 主 義 (interstate federalism)」を 促 進 することである。この 機 能 はある 州 をして、 被 告 が 応 訴 をするのがほとんど、あるいは 全 く 不 便でない 場 合 でも、 管 轄 権 を 行 使 することを 排 除 しうるものである。World-Wide Volkswagen 事 件 において、 裁 判 所 は( 最 小 限 の 接 触 によって、 被 告 を 当 該管 轄 権 に 服 させることの) 公 正 さ(fairness)を 判 断 するために 考 慮 すべき5つの 要 素 を 挙げている。すなわち、1 被 告 に 対 する 負 担 、2 紛 争 を 判 断 することに 対 する 法 廷 地 州 の 利益 、3 便 利 かつ 効 果 的 な 救 済 を 得 ることに 対 する 原 告 の 利 益 、4 紛 争 の 最 も 効 果 的 な 解 決を 得 ることに 対 する 州 際 間 司 法 制 度 の 利 益 、5 基 本 的 な 実 体 的 社 会 政 策 を 促 進 することに対 する 複 数 の 州 に 共 通 の 利 益 、である。この 要 件 はその 後 、Asahi Metal 事 件 判 決 においても 採 用 された 29 。この 事 件 では、 台 湾の 会 社 が 日 本 の 会 社 をカリフォルニア 州 で 訴 え、 日 本 の 会 社 の 部 品 が 組 み 込 まれた 製 品 によって 怪 我 をした 者 に 支 払 った 損 害 賠 償 金 の 求 償 を 求 めたものである。 裁 判 所 は、カリフォルニア 州 で 応 訴 を 強 いられる 被 告 の 負 担 は「 深 刻 な(severe)」ものであるとして、 訴 訟をカリフォルニア 州 ですることに 対 する 原 告 及 びカリフォルニア 州 の 利 益 は「わずかな(slight)」ものであると 結 論 づけた。この 事 件 は 渉 外 事 件 であったことから、 上 述 の4と5の 要 素 は 他 の 国 家 の 手 続 及 び 実 体 的 政 策 の 考 慮 を 要 した。 管 轄 権 の 行 使 が 公 正 であったかどうかを 注 意 深 く 考 慮 した 結 果 、 被 告 に 対 する 深 刻 な 負 担 に、 法 廷 地 州 と 原 告 のわずかな 利 益 がまさることがあってはならないと 判 断 されたのである。3 人 の 判 事 が、 管 轄 権 の行 使 が 合 理 的 ではないと 一 たび 判 断 されたら、 十 分 な 最 小 限 の 接 触 が 存 在 したかどうかを判 断 する 必 要 はない、と 判 断 した。さらにこの 事 件 では、4 人 の 裁 判 官 が、 商 品 の 流 通 経路 に 製 品 を 載 せたというあけでは、 被 告 の 行 為 が 意 図 的 に 法 廷 地 州 に 向 けられたとはいえないと 判 断 している。 彼 らは、 法 廷 地 州 における「 市 場 に 物 を 供 給 するという 意 図 もしくは 目 的 」が 存 在 し、その 結 果 、 意 図 的 な 利 用 の 要 件 を 充 たしているといえるには、 被 告 が市 場 のためにある 製 品 をデザインしたなどのより 積 極 的 な 行 為 をした 必 要 がある。 他 の4名 の 裁 判 官 は、 被 告 が、 当 該 製 品 が 法 廷 地 州 の 市 場 に 出 されることを 認 識 していた 限 りは、被 告 が 当 該 製 品 の 小 売 り 人 から 経 済 的 な 利 益 を 受 け、かつ 法 廷 地 州 法 から「 間 接 的 な」 利益 を 得 ていたことを 理 由 に、 十 分 であるとしている 30 。29 Asahi metal Industry Co. v. Superior Court, 480 U.S. 102 (1987).30 近 時 の 連 邦 最 高 裁 判 例 として,Goodyear Dunlop Tires v. Brown, 27 June 2011, 131 S.9216


7.フォーラム・ノン・コンヴィニエンス(Forum Non Conveniens)フォーラム・ノン・コンヴィニエンスの 法 理 の 下 では、 裁 判 所 が1 非 常 に 不 便 宜 な 法 廷地 であり、2 私 的 及 び 公 的 な 要 素 に 鑑 みて、 裁 判 所 は 原 告 を 他 のより 適 切 かつ 利 用 できる法 廷 地 に 送 るべきであると 認 める 場 合 には、 裁 判 所 は 健 全 な 裁 量 の 行 使 において、その 管轄 権 の 行 使 を 拒 絶 することができる。リーディングケースである Gulf Oil Corp.v. Gilbert事 件 判 決 31においては、 州 及 び 連 邦 裁 判 所 が 利 用 している、 私 的 及 び 公 的 な 要 素 の 伝 統 的 なリストが 示 されている。すなわち、 訴 訟 当 事 者 の 私 的 な 利 益 に 関 する 要 素 は、 証 拠 及 び 証人 へのアクセスの 容 易 さを 重 視 する。これに 対 して 公 的 利 益 に 関 する 要 素 は 当 該 事 件 を 当該 法 廷 地 で 審 理 するための 公 的 資 源 の 支 出 と、 法 廷 地 と 当 該 訴 訟 における 出 来 事 との 間 の薄 弱 な 関 連 性 ゆえにこの 支 出 が 正 当 化 できないかどうかということを 重 視 する。 裁 判 所 がこれらの 私 的 な 要 素 と 公 的 な 要 素 を 共 に 考 慮 すべきなのか、それとも 私 的 な 要 素 を 考 慮 した 結 果 、 不 便 宜 な 法 廷 地 を 理 由 に 訴 えを 却 下 することを 必 要 としないと 判 断 された 場 合 にのみ 公 的 な 要 素 を 考 慮 するべきなのかについては、 判 例 の 立 場 が 分 かれている。また、 原告 に 本 来 認 められている 法 廷 地 選 択 という 戦 略 上 の 利 益 を 原 告 から 奪 うことが、どのような 場 合 には 実 体 的 正 義 を 否 定 するレベルにまで 達 するかどうかを 判 断 するのは、 裁 判 所 にとっては 決 して 容 易 ではないとされている。8. 外 国 裁 判 の 承 認(1) 判 例 法 上 のルール外 国 判 決 には、 憲 法 の 十 分 な 信 頼 と 信 用 条 項 の 下 での 承 認 を 与 えられる 資 格 はない。その 効 果 について 判 示 したのが、 合 衆 国 最 高 裁 の Hilton v. Guyot 判 決 である 32 。 当 初 、 裁 判所 は、 対 物 的 な 外 国 判 決 ( 例 えば 所 有 権 を 認 める 判 決 )、 外 国 の 身 分 判 決 ( 婚 姻 の 確 認 や 離婚 )、 及 び 外 国 人 間 の 外 国 判 決 はこの 国 で 承 認 されうることを 明 確 にした。ヒルトン 事 件 における 争 点 は、アメリカ 人 に 対 して 金 銭 の 支 払 を 命 じる 外 国 判 決 が 承 認 されるか 否 かであった。 裁 判 所 は、 古 典 的 な「 礼 譲 (comity)」 理 論 により、 外 国 判 決 は、 事 件 の 本 案 についての 判 断 の 一 応 の 証 拠 となり、 判 決 を 無 効 にするような 特 別 な 理 由 が 示 されない 限 りは 執行 されるべきであるとした。 他 方 で 裁 判 所 はまた、アメリカ 人 に 対 する 対 人 的 な 外 国 判 決は、 問 題 となっている 外 国 国 家 がアメリカ 判 決 を 確 定 的 なものとして 扱 わない 限 り( 相 互の 保 証 がないかぎり)、 合 衆 国 では 確 定 的 なものではないとも 判 示 した。それゆえ、ヒルトン 事 件 は、 承 認 のための 要 件 として、「 相 互 主 義 (reciprocity)」を 確 立 した。しかし、 合 衆 国 最 高 裁 が、 州 籍 相 違 事 件 における 連 邦 裁 判 所 は、 当 該 裁 判 所 が 所 在 する州 の 抵 触 法 を 適 用 することを Klaxon 事 件 で 判 示 してからは、ヒルトン 事 件 はもはや 州 の 裁判 所 も 連 邦 の 裁 判 所 も 拘 束 しないと 考 えられるようになった。その 結 果 、ほとんどの 州 のCt. 2846; 180 L. Ed. 2d 796; 2011 U.S. LEXIS 4801 及 び J. McIntyre Machinery v.Nicastro, 27 June 2011, 131 S. Ct. 62; 177 L. Ed. 2d 1151; 2010 U.S. LEXIS 5747 がある。31 330 U.S. 501, 67 S.Ct. 839, 91 L.Ed. 1055 (1947).32 159 U.S. 113, 16 S.Ct. 139, 40 L.Ed. 95 (1895).10217


裁 判 所 は、ヒルトン 事 件 の 相 互 保 証 の 要 件 に 従 わなくなり、 代 わりに、 姉 妹 州 判 決 と 同 じ要 件 で 外 国 判 決 も 承 認 するようになった。外 国 判 決 を 規 律 する 統 一 ルールを 提 供 するために、アメリカ 法 律 協 会 が2005 年 に、外 国 判 決 の 承 認 及 び 執 行 に 関 する 連 邦 法 の 草 案 を 提 案 した。その7 条 では 相 互 の 保 証 が 要件 となっており、それが 議 論 になっている。(2) 統 一 法1963 年 の 統 一 外 国 金 銭 判 決 承 認 法 (Uniform Foreign Money-Judgments RecognitionAct)は、 全 米 の30 余 の 州 (カリフォルニア 州 及 びニューヨーク 州 を 含 む)で 採 用 されている。 本 法 は、 金 銭 賠 償 を 命 じたり 否 定 する 外 国 判 決 を、 十 分 な 信 頼 と 信 用 を 与 えられる 姉 妹 州 の 判 決 と 同 様 の 方 法 で 承 認 執 行 することを 規 定 している。 本 法 はその 後 2005 年 に 改 正 され(Uniform Foreign-Country Money Judgments Recognition Act)、 現 在25 余 の 州 (カリフォルニア 州 を 含 む)で 採 用 されている。(3) 承 認 の 要 件承 認 の 一 般 的 な 要 件 は、 外 国 裁 判 所 が 人 的 かつ 事 物 管 轄 権 を 有 していること、 当 該 外 国判 決 が 他 の 判 決 と 抵 触 していないこと、 当 該 外 国 判 決 が 詐 取 されていないこと 及 び 承 認 州の 公 序 に 反 しないことである。外 国 判 決 は、アメリカ 法 の 基 準 からみて、 管 轄 を 有 している 裁 判 所 によってなされたものでなければならない。 外 国 の 裁 判 所 が 当 該 外 国 法 の 下 で 管 轄 権 を 有 しているだけでは 十分 ではない。 被 告 が 外 国 の 裁 判 所 の 管 轄 権 に 自 ら 服 するとした 場 合 ( 応 訴 により、もしくは 有 効 な 管 轄 合 意 に 基 づき)を 除 いて、 外 国 裁 判 所 の 管 轄 はアメリカ 法 のデュープロセスの 基 準 を 満 たしていなければならない。それゆえ、 外 国 判 決 は 当 該 外 国 では 有 効 でも、 合衆 国 では 承 認 されないということもありうる 33 。被 告 が 外 国 裁 判 所 の 管 轄 権 を 争 った 場 合 (つまり、 外 国 裁 判 所 の 管 轄 に 服 さなかった 場合 )には、 合 衆 国 でその 承 認 が 求 められた 場 合 に、 当 該 外 国 裁 判 所 が 管 轄 を 認 めたという事 実 は 管 轄 の 有 無 を 再 び 争 うことを 排 除 しない。この 点 が、 外 国 判 決 の 承 認 と 姉 妹 州 判 決の 承 認 との 相 違 点 である。すなわち、 州 際 間 においては、 敗 訴 した 被 告 は 判 決 州 で 合 衆 国憲 法 を 根 拠 に 管 轄 の 有 無 を 上 訴 審 で 争 えたはずである。これに 対 して、 外 国 裁 判 所 の 管 轄についての 判 断 に 対 しては、 合 衆 国 憲 法 を 理 由 として 上 訴 をすることはできない。それゆえ、 判 決 国 における 判 断 は、 管 轄 を 争 う 限 りは 既 判 事 項 とはならないのである。1963 年 の 承 認 法 はさらに、 当 該 判 決 を 下 した 裁 判 所 が 中 立 的 であること、もしくはデュープロセスの 要 件 を 満 たした 手 続 であることを 要 件 としている。この 要 件 の 審 査 は、33 例 えば、 原 告 のフランス 国 籍 もしくはドミサイルに 基 づいて 管 轄 を 認 めたフランスの 欠席 判 決 は、 被 告 と 判 決 国 の 関 連 性 が 不 十 分 であることを 理 由 に 合 衆 国 では 承 認 されないであろう。11218


承 認 の 対 象 となっている 特 定 の 判 決 についての 手 続 に 限 られず、 外 国 の 法 制 度 一 般 に 及 ぶものであるとされるが、これについては 争 いがある。1986 年 にアメリカ 法 律 協 会 が 採 用 した 外 国 関 係 法 リステイトメント( 第 三 版 )は、外 国 判 決 の 承 認 執 行 に 関 する 判 例 法 上 のルールを 以 下 のように 要 約 した。すなわち、§481では、 金 銭 の 支 払 を 命 じるあるいは 否 定 する、 人 の 身 分 を 形 成 するあるいは 確 認 する、財 産 に 対 する 権 利 を 決 定 する 外 国 の 裁 判 所 の 確 定 判 決 は、 当 事 者 間 では 終 局 的 なものであり、 合 衆 国 における 裁 判 所 で 承 認 されることができるとし、 承 認 が 認 められた 判 決 は 執 行が 求 められている 地 で 適 用 される 手 続 に 従 って 執 行 されうると 規 定 する。さらに§482は 外 国 判 決 の 承 認 拒 否 事 由 として、1 中 立 な 裁 判 所 やデュープロセスに 合 致 する 手 続 を 提供 していない 法 制 度 の 下 で 下 された 判 決 、2 判 決 を 下 した 裁 判 所 が、 判 決 国 の 法 及 び 合 衆国 のデュープロセスの 基 準 に 則 ったルールに 従 って、 被 告 に 対 して 管 轄 権 を 有 していなかった 場 合 を 挙 げ、この 場 合 には 承 認 してはならないとする。また、 裁 量 的 な 承 認 拒 否 事 由として、1 判 決 をした 裁 判 所 が、 対 物 的 管 轄 権 を 有 していなかった 場 合 、2 被 告 が 防 御 するのに 十 分 な 余 裕 をもって 手 続 の 通 知 を 受 けなかった 場 合 、3 判 決 が 詐 取 された 場 合 、4判 決 が 基 礎 としている 請 求 原 因 や 判 決 それ 自 体 が、 合 衆 国 ないしは 承 認 が 求 められている州 の 公 序 に 反 する 場 合 、5 当 該 判 決 が、 承 認 が 認 められる 他 の 確 定 判 決 と 抵 触 している 場合 、6 外 国 裁 判 所 における 手 続 が、 当 事 者 間 の 管 轄 合 意 に 反 している 場 合 が 挙 げられている 34 。2005 年 に 採 択 された 承 認 法 は、その 適 用 対 象 を 金 銭 判 決 に 限 定 し、 税 金 や 罰 金 の 支払 いを 命 じる 判 決 や 家 族 関 係 事 件 における 判 決 を 明 示 で 除 外 している(§3(b))。また、外 国 判 決 の 承 認 を 求 めて 訴 えを 提 起 しなければならないことを 明 示 し(§6)、その 出 訴 期間 は 外 国 判 決 の 効 力 が 当 該 外 国 において 発 生 してから15 年 としている(§9)。 承 認 拒 否事 由 のうち 公 序 要 件 については、 承 認 州 の 公 序 のみを 問 題 としていた1963 年 承 認 法 と異 なり、 承 認 州 に 加 えて 合 衆 国 の 公 序 を 理 由 に 承 認 を 拒 否 できるとしている(§4(c)(3))。9. 訴 訟 競 合 について合 衆 国 と 外 国 との 訴 訟 競 合 を 規 律 する 規 定 は 連 邦 法 にも 憲 法 にもないし、 州 法 も 同 様 である。 従 って、 合 衆 国 裁 判 所 がこの 問 題 を 扱 ういくつかのコモンロー 上 の 工 夫 を 編 み 出 してきた。第 一 の 工 夫 は、フォーラムノンコンヴィニエンスの 法 理 によって、 外 国 の 法 廷 地 を 優 先させ、 国 内 の 訴 えを 却 下 する 方 法 である。 第 二 の 工 夫 は、lis alibi pendens の 法 理 である。この 法 理 はフォーラムノンコンヴィニエンスの 法 理 に 関 連 し、 外 国 訴 訟 が 係 属 していることを 考 慮 して、 自 己 の 面 前 での 訴 えを 中 止 (stay)するものである。この 方 法 は、 州 と 連 邦34 1963 年 の 承 認 法 も§4において、3つの 義 務 的 な 承 認 拒 否 事 由 と6つの 裁 量 的 な 拒否 事 由 を 規 定 している。12219


の 訴 訟 競 合 及 び 連 邦 同 士 の 訴 訟 競 合 の 双 方 を 含 む 国 内 事 件 において、 最 も 幅 広 く 展 開 されているものであり、 国 際 事 件 にも 適 用 できるとされている。 手 続 の 中 止 は、 原 告 が、より便 宜 な 法 廷 地 での 他 の 訴 えで 完 全 な 救 済 を 得 られることが 明 らかな 場 合 で、かつ、 手 続 の中 止 が 訴 訟 の 不 必 要 な 重 複 を 軽 減 し 被 告 の 応 訴 の 煩 を 防 止 する 場 合 に 認 められる 傾 向 にある。 第 三 の 工 夫 は、antisuit injunction である。 合 衆 国 裁 判 所 は 外 国 の 法 廷 地 で 訴 えを 提 起すること、あるいは 訴 訟 を 追 行 することを 当 事 者 に 対 して 禁 じることができる。 合 衆 国 下級 審 裁 判 所 は 長 らく、 差 止 め 命 令 を 発 する 権 限 を 主 張 してきたが、そのような 差 止 め 命 令を 発 するための 要 件 は 不 明 確 なままである。 第 四 の 工 夫 は、 何 もしないことであり、 二 つ以 上 の 訴 訟 をそれぞれのペースで 判 決 まで 進 めさせることである。この 場 合 、 最 初 に 出 た確 定 判 決 が 通 常 は 第 二 の 法 廷 地 では 既 判 力 を 有 すると 主 張 される。 多 くの 合 衆 国 裁 判 所 ではこの 四 番 目 の 方 法 が 一 般 的 に 好 まれるアプローチである 35 。10. 保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄 については、 個 別 事 項 ( 下 記 Ⅱ)における 各 項 目 の 記 述 を 参 照されたい。Ⅱ. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄(a) 婚 姻 ( 異 性 ・ 同 性 婚 姻 の 成 立 及 び 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 )、 登 録 パートナーシップ( 異性 ・ 同 性 登 録 パートナーシップの 成 立 及 び 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 )1. 一 般 的 なルール合 衆 国 においては、 婚 姻 が 執 り 行 われた 州 の 法 の 下 で 有 効 な 婚 姻 は、それ 以 外 のどこでも 有 効 なものとみなされるとするのが 伝 統 的 な 見 解 である。このルールはまた、 事 実 婚 にも 適 用 されるが、 同 性 婚 にまで 自 動 的 に 拡 張 されるわけではない。 同 性 婚 の 場 合 には、その 成 立 及 び 身 分 的 効 力 は、 通 常 は 婚 姻 挙 行 地 の 法 ではなく、 法 廷 地 法 によって 判 断 される。婚 姻 は 民 法 上 の 契 約 と 規 定 する 州 も 少 なくないが、 伝 統 的 には 婚 姻 は 単 なる 契 約 以 上 のものであり、 一 たび 婚 姻 関 係 が 成 立 すれば、それは 法 的 手 続 によるか、あるいは 一 方 配 偶者 の 死 亡 によってしか 解 消 されることはない。この 婚 姻 関 係 の 永 続 性 が、 婚 姻 関 係 をして単 なる 合 意 に 基 づく 取 引 行 為 とを 区 別 するものである。婚 姻 関 係 で 特 に 重 要 なのは、 合 意 が 有 効 になされた 場 所 、 当 事 者 が 合 意 をした 時 点 あるいはその 後 に 住 所 を 有 していた 場 所 、 及 びこの 永 続 的 な 関 係 の 附 帯 条 件 ( 権 利 )が 享 受 されている 場 所 であるが、 多 くの 場 合 、 婚 姻 関 係 (の 有 効 性 )を 規 律 する 最 適 な 場 所 は、 婚姻 挙 行 地 、すなわち 合 意 がなされ、 証 明 された 場 所 である。また、 婚 姻 関 係 が 非 常 に 個 人的 なものであり、かつ 社 会 構 造 に 深 く 関 わっているものであることから、 当 事 者 が 婚 姻 の35 Laker Airways v. Sabena, 731 F.2d 909, 928 (D.C.Cir. 1984).13220


時 点 から 居 住 していた 州 が、 合 意 をめぐる 要 素 と 婚 姻 の 附 帯 条 件 の 双 方 に 適 切 な 利 害 を 有しているとされる。 米 国 の 裁 判 所 は 伝 統 的 には、 婚 姻 に 関 する 争 点 の 判 断 については、 婚姻 挙 行 地 を 参 照 した 単 一 の 抵 触 法 を 適 用 してきた。2. 同 性 婚婚 姻 は 伝 統 的 に 身 分 関 係 の 最 も 重 要 な 部 分 を 占 めてきたが、 今 日 では 同 性 間 の 関 係 も、登 録 パートナーシップ、あるいは civil unions として、 伝 統 的 な 婚 姻 に 類 似 の 権 利 を 認 める国 もある 36 。 米 国 においては、いくつかの 州 では 同 性 婚 を 認 めているし、また 他 州 で 挙 行 された 同 性 婚 を 州 内 で 有 効 なものとする 州 もあり、その 動 向 はめまぐるしく 変 化 している。ニューヨーク 州 では、 他 州 で 挙 行 された 同 性 婚 を 有 効 なものとして 認 めるものの、 州 内 で挙 行 することは 認 めていなかった。しかし2011 年 7 月 、ニューヨーク 州 は 同 性 婚 を 認める 法 律 を 制 定 している 37 。また、カリフォルニア 州 では、2008 年 に 州 最 高 裁 判 所 が、申 請 者 の 性 的 志 向 を 理 由 にマリッジライセンスを 拒 絶 するのは 州 憲 法 の 平 等 原 則 に 反 するとしたが、この 判 断 は 年 内 に 全 州 の 住 民 投 票 を 介 して 州 の 憲 法 を 修 正 することによって 覆された。その 後 も 判 例 においてはこの 憲 法 修 正 の 当 否 が 争 われている。これに 対 してルイジアナ 州 を 含 む 南 部 の 大 半 の 州 は 同 性 婚 を 認 めていない 38 。連 邦 レベルでは、1996 年 に、 合 衆 国 連 邦 議 会 が 婚 姻 保 護 法 (Defense of Marriage Act,DOMA)を 可 決 し、 各 州 に 対 して、 他 州 で 有 効 になされた 同 性 婚 の 承 認 を 拒 否 したり、 同性 婚 から 生 じる 権 利 や 請 求 を 拒 絶 する 権 限 を 与 えた 39 。DOMA の 合 憲 性 については 今 でも議 論 のあるところであるが、2009 年 の 時 点 で、 大 半 の 州 は 憲 法 上 の 修 正 ないしは 制 定法 を 設 け、 婚 姻 の 権 利 を 異 性 の 相 手 との 婚 姻 に 制 限 し、 明 示 ないしは 黙 示 で、 他 州 ないしは 他 国 でなされた 同 性 婚 姻 の 承 認 を 禁 止 している。3. 婚 姻 無 効 ・ 取 消 しの 訴 え婚 姻 無 効 の 訴 えについては、 通 常 、 当 事 者 のドミサイルもしくは 婚 姻 が 行 われた 場 所 に管 轄 が 認 められる。 例 えば、Whealton v. Whealton 事 件 40においては、カリフォルニア 州裁 判 所 はメリーランド 州 で 婚 姻 を 挙 行 し、いずれもドミサイルを 有 しないが、 手 続 には 二人 とも 出 頭 していた 夫 婦 間 の 婚 姻 無 効 確 認 手 続 の 管 轄 を 認 めた。 裁 判 所 は、 離 婚 の 場 合 とは 異 なり、 婚 姻 無 効 のための 準 拠 法 は、 当 事 者 がドミサイルを 変 更 したことによって 変 わるものではないとし、 彼 らがメリーランド 州 に 裁 判 のために 戻 らなければならない 不 便 宜36 カナダ、 南 アフリカ、ベルギー、スペイン、オランダなど。37 Domestic Relations Law §10-a.38 詳 しくは、http://www.freedomtomarry.org/states.php.を 参 照 。39 28 U.S.C.A.§1738C. 本 法 の 根 拠 は 合 衆 国 憲 法 の 十 分 な 信 頼 と 信 用 条 項 であるが、これに 基 づいて 制 定 された4つの 法 の 中 で、 本 法 は 唯 一 の 消 極 的 な 効 力 ( 承 認 を 拒 否 する)を認 めるものである。40 67 Cal.2d 656, 63 Cal.Rptr. 291, 432 P.2d 979 (Cal. 1967).14221


を 考 慮 して 管 轄 を 認 めた。(b) 離 婚 及 びその 効 果1. 離 婚 事 件 の 州 際 管 轄離 婚 の 管 轄 のうち 最 も 一 般 的 に 認 められている 管 轄 原 因 は、 離 婚 を 求 めている 当 事 者 のドミサイルである、また、 州 の 制 定 法 における「レジデンス」という 文 言 は、 通 常 は「ドミサイル」を 意 味 すると 解 釈 されている。ただしいくつかの 州 においては、「レジデンス」は単 に 物 理 的 な 居 所 を 意 味 し、 当 事 者 が 当 該 州 に 留 まることを 意 図 していることが 必 要 なドミサイルまでは 要 件 としていない 41 。ドミサイルが、 少 なくとも 共 同 体 における 構 成 員 に 係 る 関 連 性 を 示 している 場 合 には、それは 婚 姻 が 法 廷 地 州 によって 適 切 であると 思 われる 理 由 で 解 消 されるべきであるかどうかを 裁 判 所 が 審 理 するのに 十 分 な 根 拠 となる。この 理 由 から、 法 廷 地 は 常 に 離 婚 理 由 について 自 州 の 法 を 適 用 する。すなわち、 一 方 あるいは 両 当 事 者 のドミサイルとして、 法 廷 地は 自 州 の 法 を 適 用 する 十 分 な 利 益 を 有 する。それゆえ、 管 轄 と 準 拠 法 は 密 接 に 結 びつき、法 廷 地 裁 判 所 は 離 婚 の 理 由 を 判 断 するのに 自 州 の 法 以 外 に 準 拠 することはない。(1)ドミサイルに 基 づく 管 轄上 述 のように、アメリカ 法 においては、 離 婚 事 件 における 抵 触 法 の 問 題 を 管 轄 の 問 題 に吸 収 し、 管 轄 を 持 つ 州 が 離 婚 についての 権 利 を 判 断 する 際 に 自 州 の 法 を 適 用 している。20世 紀 初 頭 までは、 婚 姻 住 所 地 のある 州 のみが 離 婚 を 認 めるための 管 轄 を 有 するとされていたが、この 原 則 はその 後 、 婚 姻 住 所 地 以 外 の 地 にも 管 轄 を 認 める 方 向 へと 変 化 していく。そのリーディングケースが Williams v. North Carolina[Ⅰ] 事 件 である 42 。 最 高 裁 は、 婚姻 ドミサイル( 当 事 者 が 夫 婦 として 一 緒 に 生 活 をした 地 )ではなかったが、 後 に 原 告 である 一 方 配 偶 者 のみのドミサイルとなり、 離 婚 の 申 立 が 提 起 された 時 点 で 申 立 人 が 居 住 していた 州 に、 被 告 である 配 偶 者 が 手 続 に 出 頭 しなかったためにこの 者 に 対 する 対 人 管 轄 権 がない 場 合 であっても(ex parte divorce)、 離 婚 を 認 めるための 管 轄 があると 判 示 した。 婚 姻挙 行 地 でもなく、 夫 婦 として 一 緒 に 生 活 をした 地 でもなく、 離 婚 の 原 因 となった 事 実 が 全くない 地 でも、 申 立 人 のドミサイルだけで 離 婚 の 管 轄 権 としては 十 分 であるとしたのである。しかも 相 手 方 配 偶 者 が 出 頭 せず、 欠 席 した 配 偶 者 に 対 する 対 人 管 轄 権 を 認 める 根 拠 が何 もないにもかかわらずである。このように、ドミサイルを 根 拠 として 離 婚 の 裁 判 管 轄 権を 行 使 することが、due process の 要 請 に 適 合 するためには、 申 立 人 が、 欠 席 している 配 偶者 に 対 して 離 婚 裁 判 手 続 の 合 理 的 な 通 知 をし、 審 問 を 受 ける 機 会 を 与 えることが 必 要 である 43 。41 Wheat v. Wheat, 229 Ark. 842, 318 S.W.2d 793 (1958).42 317 US 287 (1942).43 Weintraub, Commentary on the Conflict of Laws, 6 th ed.34615222


離 婚 裁 判 の 申 立 人 のドミサイルに 管 轄 を 認 めることの 正 当 性 は、 夫 婦 の 一 方 のドミサイルとしての 法 廷 地 の 関 連 性 は、その 居 住 者 の 婚 姻 上 の 身 分 を 規 律 することに 合 理 的 な 利 益を 与 えるのに 十 分 であるという 点 に 認 められる。さらに 抵 触 法 リステイトメント( 第 二 版 )は、 離 婚 の 管 轄 権 は、ドミサイル 以 外 でも、例 えば 当 該 州 内 における 長 期 にわたる 継 続 的 な 存 在 のような、 密 接 な 関 連 性 に 基 づいても認 められるという 立 場 を 採 用 した 44 。また、 原 告 が 単 に 再 婚 する 自 由 を 望 んでいるに 過 ぎない 場 合 には、 原 告 及 び 原 告 の 新 しいドミサイルのある 法 廷 地 州 の 利 益 は、 相 手 方 の、 原 告の 自 由 への 途 を 遮 ろうとする 目 的 のない 利 益 よりも、かつ 破 綻 した 婚 姻 を 維 持 することに対 する 被 告 のドミサイルのある 州 の 怪 しげな 利 益 よりも 優 先 するという 見 解 もある 45 。統 一 婚 姻 離 婚 法 (Uniform Marriage and Divorce Act) 46 §302(a)(1)は、 当 事者 の 一 方 が、 訴 えが 提 起 された 時 点 で 州 内 にドミサイルを 有 していたと 裁 判 所 が 認 める 場合 には、 当 該 裁 判 所 は、 婚 姻 の 解 消 を 命 ずる 裁 判 をするものとしている。(2)ドミサイル 以 外 の 管 轄 原 因離 婚 の 管 轄 権 の 基 礎 として、ドミサイル 以 外 のものは 認 められるか。 連 邦 最 高 裁 は、ドミサイル 以 外 の 原 因 に 基 づいて 離 婚 の 管 轄 を 認 めることが 憲 法 に 合 致 するかどうかについては 判 断 していない。 通 常 認 められるのは、 夫 婦 のうち 少 なくとも 一 方 が 相 当 の 期 間 当 該州 に 実 際 の 居 所 を 有 していることである。 例 えば、 抵 触 法 リステイトメント( 第 二 版 )§72は、 申 立 人 がドミサイルを 有 していなくても 当 該 州 と 密 接 な 関 連 性 を 有 していれば、一 方 的 な 離 婚 (ex parte divorce)のための 管 轄 権 を 行 使 することができるとしている。また、 統 一 婚 姻 離 婚 法 §302(a)(1)は、 軍 人 (military personnel)が 90 日 間 、 当 該 州 に 継 続的 に 配 属 されていた 場 合 、ドミサイルではなく、レジデンスに 基 づいて、その 州 にその 者の 離 婚 を 認 める 権 限 を 与 えている。いくつかの 州 では 特 定 の 期 間 のレジデンスに 基 づいて離 婚 の 管 轄 権 を 認 める 旨 規 定 している。 例 えば、Lauterbach v. Lauterbach 事 件 では、 裁判 所 は、ドミサイルは 離 婚 のための 管 轄 権 の 基 礎 の 唯 一 のものではないという 理 由 で、このような 規 定 を 支 持 した 47 。また、Sosna v. Iowa 事 件 では、 連 邦 最 高 裁 は、1 年 間 のレジデンス( 当 該 州 によってドミサイルと 解 釈 されている)の 要 件 は、 以 下 の 理 由 で 正 当 化 されるとした。その 理 由 とは、 州 は、その 裁 判 所 で 離 婚 を 求 める 当 事 者 が 本 当 に 当 該 州 から離 れないということを 要 求 することに 利 益 を 有 し、 自 州 の 離 婚 裁 判 をして 事 後 的 攻 撃 から44 Restatement , Second, Conflict of Laws §72 (1971).45 Traynor, Is this Conflict Really Necessary? , 37 Texas L. Rev. 657,660-61 (1959).46 9A U.L.A. §302(a)(1).47 392 P.2d 24 (Alaska 1964). アーカンザス 州 はさらに 広 げて、 離 婚 の 管 轄 権 をドミサイルではなくレジデンスのみに 基 づいて 認 めている。 他 方 で、Alton v. Alton 事 件 において 連邦 裁 判 所 は、コネティカット 州 にドミサイルを 有 する 夫 婦 がバージン 諸 島 で 離 婚 の 申 立 をした 場 合 、 原 告 が 法 廷 地 にドミサイルを 獲 得 したという 証 明 がなされない 限 りは、 夫 婦 双方 に 対 する 対 人 管 轄 の 存 在 は、 法 廷 地 法 の 下 で 両 者 を 離 婚 する 権 限 を 伴 わないと 判 示 した(207 F.2d 667 (3 rd Cir. 1953))。16223


保 護 することに 利 益 を 有 している。 裁 判 所 は、 州 法 が 当 事 者 に、 善 意 のレジデンス(bona fideresidence)の 個 別 的 な 証 明 をさせなかったことでデュープロセスが 侵 害 された、という 当事 者 の 主 張 を 退 けた。ただし、1 年 以 上 の 継 続 を 要 件 とすることは、おそらくは 州 の 正 当 な利 益 を 確 保 するのに 合 理 的 とされる 範 囲 を 越 えるものとして、 破 棄 されるであろう。なお、 離 婚 の 管 轄 原 因 がなんであれ、 被 告 は 適 切 な 通 知 を 受 けなければならない。 適 切な 通 知 とは、 州 法 に 従 い、かつ 憲 法 のもとで 合 理 的 なものでなければならない。 合 理 的 な通 知 を 与 えなかった 場 合 はデュープロセス 違 反 となり、 裁 判 所 の 管 轄 は 認 められない。2. 離 婚 の 効 果 ~ 離 婚 扶 養 料 ・ 離 婚 後 扶 養 (Alimony, spousal support, maintenance)夫 婦 の 一 方 が、 離 婚 の 裁 判 に 際 して、 相 手 方 に 対 して 執 行 可 能 な alimony and supportの 判 断 も 望 むのであれば、 離 婚 を 管 轄 する 裁 判 所 は 相 手 方 に 対 して 対 人 管 轄 権 を 有 していなければならない。 夫 婦 の 一 方 が 婚 姻 ドミサイルで 離 婚 裁 判 を 提 起 した 場 合 には、 他 方 が当 該 州 を 離 れ、その 他 の 州 でドミサイルを 確 立 した 場 合 であっても、 当 該 州 に 不 在 の 配 偶者 は 婚 姻 ドミサイルと 関 連 性 を 有 しており、これらの 問 題 について 裁 判 をする 目 的 でドミサイルを 有 しない 者 に 対 して 管 轄 権 を 行 使 するのに 合 理 性 があるといえる 48 。離 婚 事 件 の 管 轄 が 比 較 的 緩 やかに 認 められることは 上 述 の 通 りであるが、 裁 判 所 は、 人的 裁 判 管 轄 権 を 有 していない 被 告 に 対 して 一 方 的 に(ex parte) 離 婚 判 決 を 下 すことはできても、 離 婚 後 の 扶 養 については 判 断 する 権 限 を 有 さない( 離 婚 判 決 効 果 の 可 分 性 (DivisibleDivorce))。新 たに 州 内 に 移 動 してきた 一 方 当 事 者 のドミサイルのみを 基 礎 として 管 轄 を 認 めた 離 婚判 決 においては、 欠 席 ( 不 在 ) 当 事 者 の 扶 養 義 務 の 判 断 がなされても、それは 当 該 判 断 を下 した 州 においても 無 効 であるし、それ 以 外 の 州 でも 承 認 ・ 執 行 されるものではない。ある 州 で 当 事 者 一 方 のみが 出 頭 して 離 婚 判 決 が 下 された 後 に、 別 の 州 で 扶 養 を 求 める 訴えが 提 起 できるかについては、 扶 養 を 求 められた 州 の 法 によってそれが 許 されるかどうかにかかるものであり、 離 婚 判 決 を 下 した 州 は、その 別 の 州 で 扶 養 を 求 める 機 会 を 排 除 してはならない。これに 対 して、 離 婚 裁 判 をする 裁 判 所 は、ドミサイルや 応 訴 に 基 づいて 対 人管 轄 権 に 服 する 当 事 者 の 扶 養 義 務 については 判 断 することができる。 対 人 管 轄 権 を 有 する裁 判 所 が 下 した 扶 養 義 務 の 判 断 は、 十 分 な 信 頼 と 信 用 に 基 づき、もしくはコミティーに 基づき 承 認 執 行 される 権 限 を 有 する。 対 人 管 轄 権 に 服 する 当 事 者 が、 扶 養 の 問 題 を 主 張 しなかった 場 合 には、その 後 その 問 題 について 争 うことは 許 されない(?)。しかしながら、 判例 によれば、 当 事 者 一 方 出 頭 で 離 婚 判 決 を 得 た 当 事 者 が 後 になって 扶 養 料 を 求 めた 場 合 でも、 当 該 離 婚 判 決 が、 離 婚 後 扶 養 及 び 子 の 扶 養 の 問 題 を 留 保 する 趣 旨 であるならば、 扶 養義 務 者 に 対 して 対 人 管 轄 権 を 有 する 他 の 州 はこれを 認 めてもよいとされている 49 。また、48 ただし、 法 廷 地 州 が 管 轄 権 行 使 の 権 限 を 与 え、 州 外 の 配 偶 者 に 合 理 的 な 通 知 と 審 問 の 機会 を 与 えるための 規 定 を 有 するロングアーム 法 を 有 している 必 要 がある。49 Brown v. Brown, 269 N.W.2d 819 (Iowa 1978).17224


Estin v. Estin 事 件 においては、 離 婚 判 決 がネバダ 州 で 得 られる 前 に、 扶 養 料 支 払 いを 命 ずる 判 決 がニューヨーク 州 で 認 められていた。この 場 合 、 離 婚 判 決 自 体 には 十 分 な 信 頼 と 信用 が 与 えられるものの、 離 婚 事 件 の 被 告 である 妻 に 対 してネバダ 州 が 対 人 管 轄 権 を 有 していなかったことから、ネバダ 州 はニューヨーク 州 が 妻 の 有 利 にその 法 を 適 用 し、 扶 養 料 支払 い 命 令 の 効 力 を 認 めることを 排 除 することはできない。この 事 件 で 連 邦 最 高 裁 は、 以 下の 点 を 明 らかにした。すなわち、1 子 の 事 例 における 結 論 は、 離 婚 判 決 を 可 分 化 するものである。すなわち、 婚 姻 上 の 身 分 に 関 わる 限 りでネバダ 州 の 判 決 に 効 力 を 与 え、 離 婚 後 扶養 の 争 点 についてはそれを 無 効 にするものである。2これは、ネバダ 州 とニューヨーク 州双 方 の 利 益 を、 各 州 の 持 つ 主 要 な 関 心 事 を 制 限 することで 調 整 するものである 50 。Vanderbilt v. Vanderbilt 事 件 においては、 妻 は、ニューヨーク 州 にドミサイルを 得 て、夫 は、 夫 婦 の 婚 姻 ドミサイルのあったカリフォルニア 州 を 離 れ、ネバダ 州 で 当 事 者 一 方 出頭 で 離 婚 判 決 を 得 た。その 後 妻 は、ニューヨーク 州 で 離 婚 後 扶 養 命 令 を 得 たという 事 案 である。このような 事 案 にも、 先 のエスティン 判 決 はあてはまるとされる 51 。しかし 他 方 で、夫 が 他 の 州 で 当 事 者 一 方 出 頭 で 離 婚 判 決 を 得 た 時 点 で 妻 がドミサイルを 有 していた 州 が、離 婚 後 の 扶 養 を 認 めない 場 合 には、 第 三 の 州 はこれを 認 めることはできないとされる 52 。3. 外 国 離 婚 裁 判 の 承 認原 則 として、 外 国 の 離 婚 は、 合 衆 国 において 姉 妹 州 の 離 婚 と 同 様 の 基 準 で 承 認 される。しかし、 多 くの 外 国 国 家 が 離 婚 事 件 の 管 轄 のための 要 件 として、 当 事 者 の 一 方 のドミサイルがあることを 要 求 していないことから、 問 題 が 生 じうる。 外 国 国 家 はドミサイルの 代 わりに、レジデンスのみに 基 づいて 管 轄 を 認 めることがあり、その 場 合 、アメリカ 法 とは 異なり、 当 事 者 の 本 国 の 実 体 法 を 適 用 することがある。 州 際 間 の 事 件 の 場 合 には、 両 当 事 者が 裁 判 所 に 出 廷 すれば、 管 轄 の 問 題 (ドミサイルのないこと)は 事 後 的 攻 撃 の 目 的 のために 失 われることになる( 州 際 間 の 場 合 、 裁 判 国 に 管 轄 があるかどうかの 調 査 は、 州 外 の 離婚 が ex parte であった 場 合 のみ 重 要 となる) 53 。これに 対 して 外 国 離 婚 裁 判 の 場 合 には、管 轄 権 がドミサイルに 基 づいていなければならないというアメリカ 法 に 基 づく 異 議 は、 外国 の 法 廷 地 法 の 下 では 主 張 できないことから、そのルールが 適 用 されない。 外 国 離 婚 裁 判の 承 認 に 際 しては、 州 際 間 の 十 分 な 信 頼 と 信 用 の 要 件 は 適 用 されない。 当 事 者 が 出 頭 した場 合 (inter parte)には、 裁 判 州 裁 判 所 の 管 轄 不 存 在 の 抗 弁 は 排 斥 される。なぜなら、 外国 裁 判 の 承 認 の 場 合 、 相 手 方 が 欠 席 した 場 合 の 外 国 裁 判 所 の 管 轄 は、 合 衆 国 の 基 準 によって、 州 際 間 の 場 合 よりも 厳 密 に 審 査 される。 通 常 の 民 事 事 件 の 場 合 と 異 なり、 婚 姻 関 係 を50 334 U.S. 541 (1948).51 354 U.S. 416 (1957).52 Loeb v. Loeb, 4 N.Y.2d 542, 152 N.E. 2d 36 (1958).53 当 事 者 はもとの 裁 判 において 管 轄 の 不 存 在 、 例 えばドミサイルがない 等 を 主 張 する 機 会 を有 していたのであり、この 機 会 を 利 用 しなかった、あるいは 主 張 したが 認 められなかったのであれば、 承 認 の 際 に 二 度 目 の 機 会 を 与 える 必 要 はないからである。18225


解 消 する 離 婚 裁 判 において、ドミサイルを 管 轄 の 基 礎 とする 州 は、 同 意 だけでは 管 轄 の 基礎 として 不 十 分 であると 考 えている。 重 要 なのは、 管 轄 (ドミサイル)が 裁 判 国 で 争 われたか、あるいは 争 い 得 たかどうかであるが、 大 陸 法 諸 国 においては、ドミサイルは 離 婚 管轄 の 基 礎 となっていないこともある。そこで、 承 認 の 際 にこの 点 を 争 うことができるのである。問 題 となる 事 件 を 類 型 化 すると 以 下 のようになる。 第 一 に、 外 国 国 籍 を 有 する 者 が 得 た離 婚 裁 判 の 効 力 が 合 衆 国 で 問 題 となった 場 合 には、 合 衆 国 が 外 国 の 裁 判 所 でなされた 離 婚を 無 効 にし、「は 行 婚 」を 生 み 出 すことに 何 らかの 利 益 を 有 しているかどうかがポイントとなる。 第 二 に、 外 国 にドミサイルもしくはレジデンスを 有 している 合 衆 国 市 民 が 関 わっている 場 合 である。 当 事 者 が 当 該 外 国 にドミサイルを 有 していた 場 合 には 問 題 ないが、レジデンスしか 有 していない 場 合 、 例 えばアメリカ 軍 に 所 属 しているような 場 合 には 問 題 である。 離 婚 管 轄 の 伝 統 的 な 考 え 方 の 基 礎 にある 考 慮 は、 夫 婦 の 利 益 が 保 護 され、かつドミサイルを 有 する 国 の 潜 在 的 な 懸 念 がはぐらかされないよう 確 保 することを 求 めている。 外 国の 離 婚 裁 判 に 両 当 事 者 が 出 席 しており、ドミサイル 法 が 適 用 された 場 合 には、この 目 的 に合 致 しているといえる。 第 三 に、アメリカにドミサイルを 有 する 夫 婦 が 離 婚 を 目 的 として当 該 外 国 ( 例 えばメキシコ)に 行 き、 合 意 による 離 婚 をした 場 合 である。Rosenstiel v.Rosenstiel 事 件 においては、ニューヨーク 州 控 訴 裁 判 所 は、メキシコの 裁 判 所 の 離 婚 判 決(quickie divorce)の 承 認 を 求 められた。 裁 判 所 は、その 当 時 ニューヨーク 州 の 離 婚 法 の 厳格 な 実 体 的 要 件 はネバダ 州 における 離 婚 によっても 回 避 できるのであるから、ネバダ 州 の離 婚 判 決 ( 十 分 な 信 頼 と 信 用 条 項 のもとで 承 認 が 義 務 付 けられる)とメキシコの 離 婚 判 決( 同 様 の 自 働 的 な 承 認 を 受 ける 資 格 はない)の 唯 一 の 相 違 点 は、 継 続 的 なレジデンスの 要件 である(ネバダ 州 は 6 週 間 であるのに 対 してメキシコは 事 実 上 ゼロ)、と 述 べた。 裁 判 所は 強 力 な 反 対 意 見 にもかかわらず、 両 当 当 事 者 が 出 席 してなされた 外 国 の 離 婚 判 決 は、ドミサイルが 判 決 国 では 管 轄 の 要 件 となっていなかった 場 合 であっても、 承 認 されると 判 示した。この 判 決 は、 離 婚 事 件 の 管 轄 はドミサイル 以 外 の 原 因 に 基 づいても 認 められてよいという 提 案 を 支 持 している。すなわち、ニューヨークでは、 離 婚 事 件 の 管 轄 は 単 なる 対 人管 轄 権 を 基 礎 としても 認 められる。(c) 血 縁 による 親 子 関 係 ( 嫡 出 推 定 ・ 否 認 、 認 知 、 親 子 関 係 存 否 確 認 )子 が 嫡 出 かどうかは、 通 常 は 子 の 誕 生 の 時 点 で 問 題 となっている 両 親 のドミサイルの 法によって 決 せられる。 親 子 関 係 存 否 確 認 の 訴 えの 管 轄 については、1973 年 の 統 一 父 性 法(Uniform Parentage Act ) 54 の 8 条 に 規 定 がある。それによれば、 当 該 州 において 性 交渉 をもった 者 は、その 行 為 によってもうけられた( 受 精 した) 可 能 性 のある 子 に 関 して 本法 の 下 で 提 起 された 訴 えに 関 して、 当 該 州 の 裁 判 所 の 管 轄 に 服 する。ロングアーム 法 を 含め、 制 定 法 によって 規 定 されているその 他 の 方 法 に 加 えて、 対 人 管 轄 権 は、 州 外 における54 9B U.L.A. 287 (1987)19226


召 喚 状 の 直 接 送 付 (personal service)もしくは 受 領 証 明 書 のある 書 留 郵 便 によって 認 められる。また、 訴 えは、 子 もしくは 父 とされる 者 が 居 所 を 有 するか、 発 見 された( 所 在 を 確認 された) 国 において 提 起 されうる。 父 が 死 亡 している 場 合 は、その 者 の 遺 言 の 検 認 のための 手 続 が 開 始 された、あるいは 開 始 されうるであろう 国 において 提 起 されうる。この 裁判 所 の 管 轄 権 は、 排 他 的 なものではなく、またこれらの 訴 えは、 離 婚 、 婚 姻 無 効 、 別 居 手当 もしくは 扶 養 を 求 める 訴 えと 併 合 できる。(d) 養 子 縁 組 及 び 離 縁1. 管 轄養 子 縁 組 事 件 において 管 轄 を 有 するのは、1 全 ての 当 事 者 ( 血 縁 の 両 親 、 子 及 び 養 親 )がドミサイルを 有 している 場 所 の 裁 判 所 、2 子 のドミサイルを 有 し、かつ 子 の 監 護 者 に 対して 対 人 管 轄 権 をもつ 裁 判 所 である 55 。さらに、 養 親 のドミサイルのある 裁 判 所 にも 管 轄 権が 認 められることがある 56 。養 子 縁 組 命 令 が 有 効 であるためには、 親 権 を 失 うことになる 親 ( 例 えば、 前 の 配 偶 者 が再 婚 し、 彼 又 は 彼 女 の 新 しい 配 偶 者 が 子 を 養 子 にしたいと 願 う 場 合 )は、 審 問 を 受 けるための 通 知 と 機 会 を 与 えられなければならない 57 。2. 国 際 養 子 縁 組 に 関 するハーグ 条 約合 衆 国 における 国 際 養 子 縁 組 をめぐる 状 況 は、2008 年 4 月 にハーグ 条 約 (HagueConvention on Protection of Children and Cooperation in respect of IntercountryAdoption, May 29, 1993, 32 I.L.M. 1134)が 効 力 をもったことにより、 大 きく 変 わった。本 条 約 は、 国 際 養 子 縁 組 を 保 護 するための 重 要 な 基 準 とセーフガードを 確 立 するものである。ハーグ 条 約 の 中 央 当 局 は、 合 衆 国 では 国 務 省 であるが、 米 国 市 民 権 ・ 移 民 業 務 局 (U.S.Citizenship and Immigration Services (USCIS))も 重 要 な 役 割 を 果 たすことになる。ハーグ 条 約 の 下 では、 養 子 縁 組 サービスを 提 供 する 機 関 (adoption service providers (ASPs))は 認 可 を 受 けたものでなければならない 58 。 ハーグ 条 約 の 適 用 範 囲 は 締 約 国 に 限 られるので、 養 親 の 常 居 所 地 国 も 養 子 となる 子 の 常 居 所 地 国 もハーグ 条 約 の 加 盟 国 でなければならない(ハーグ 条 約 の 手 続 については、 後 述 参 照 )。55 Restatement Second §78.56 See A v. M, 74 N.J.Super. 104, 180 A.2d 541 (1962). なお、 合 衆 国 では 一 握 りの 州 しか採 択 していない 統 一 養 子 縁 組 法 (Uniform Adoption Act (1994), 9 U.L.A. 1 (Supp. 1999))は、 最 も 広 く 管 轄 を 認 めている。See, Uniform Adoption Act, Section 3-101.57 Armstrong v. Manzo, 380 U.S. 545, 85 S.Ct. 1187, 14 L.Ed.2d 62 (1965).58 認 可 を 受 けている 機 関 のリストは 国 務 省 のウェブサイトに 掲 載 されている。http://www.adoption.state.gov/hague/agency4.php20227


3. 外 国 ( 州 際 ) 養 子 縁 組 の 承 認管 轄 権 のある 裁 判 所 によって 下 された 養 子 縁 組 の 裁 判 は 通 常 承 認 される。 同 性 婚 のカップルについても、 州 によっては、 当 該 州 は 同 性 婚 それ 自 体 を 認 めていなくても、( 同 性 婚の 解 消 の 後 に) 監 護 権 に 関 する 裁 判 を 執 行 する 養 親 の 権 利 を 認 める 州 もある 59 。これに 対 して 州 外 の 養 子 縁 組 が 承 認 州 の 公 序 に 反 するという 理 由 で 承 認 を 拒 否 する 場 合 も 稀 にではあるがみられる。 例 えば、 成 人 の 養 子 縁 組 が 第 三 者 の 遺 言 による 信 託 を 利 用 するためになされたものである 場 合 である 60 。 州 外 の 裁 判 の 効 果 は、 承 認 州 のそれと 同 様 であり、 養 子 とされた 子 は 通 常 、 養 親 のその 他 全 ての 子 と 並 んで 相 続 人 となる 61 。(e) 親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 、 子 の 奪 取 、 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 )1. 子 の 親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 、 子 の 奪 取 、 未 成 年 後 見(1) 法 源子 の 監 護 権 を 決 定 するため、あるいは 他 州 で 下 された 監 護 権 の 裁 判 を 変 更 するための 管轄 については、 連 邦 法 と、 全 州 で 採 用 されている 統 一 法 が 規 定 している。 最 初 に 制 定 された 統 一 法 は、1968 年 に 統 一 州 法 委 員 全 国 会 議 が 提 案 した 統 一 子 監 護 事 件 管 轄 法 (UniformChild Custody Jurisdiction Act, UCCJA)であり、この 統 一 法 は 後 に 統 一 子 監 護 事 件 管 轄及 び 執 行 法 (Uniform Child Custody Jurisdiction and Enforcement Act, UCCJEA)によって 改 定 され、 全 州 で 採 択 されている。また 1980 年 には、 親 による 誘 拐 防 止 法 (ParentalKidnapping Prevention Act, PKPA)が 議 会 によって 制 定 され、1986 年 加 盟 したハーグ 国際 的 な 子 の 奪 取 の 民 事 上 の 側 面 に 関 する 条 約 (Hague Convention on the Civil Aspects onInternational Child Abduction, Oct.25, 1980) 及 びその 国 内 施 行 法 である 国 際 的 な 子 の 奪取 救 済 法 (International Child Abduction Remedies Act, ICARA, 42 U.S.C.§11601 etseq.)があり、これらすべての 法 が 相 互 に 関 連 することによって、 州 際 間 及 び 国 際 的 な 子 の監 護 の 問 題 についての 管 轄 ( 国 際 裁 判 管 轄 ) 及 び 他 州 ( 外 国 )の 監 護 に 関 する 裁 判 の 承 認 ・執 行 が 規 律 されている。(2)UCCJA から UCCJEA へ 統 一 法 制 定 の 背 景 621)UCCJA1968 年 までは、 合 衆 国 の 各 州 は、 子 の 監 護 事 件 についての 管 轄 権 を、 自 州 における 子 の存 在 に 基 づいて 行 使 していた。さらに 各 裁 判 所 は、 姉 妹 州 の 命 令 を 自 由 に 変 更 していた。このような 状 況 は 子 の 奪 取 やフォーラムショッピングを 助 長 させていた。というのも、 現実 に 子 と 共 にいれば( 子 を 物 理 的 に 占 有 していれば)、 子 がその 州 にそれまで 何 ら 関 連 を 有59 Giancapso v. Congleton, 2009 WL 416301 (Mich.App. 2009).60 Matter of Estate of Griswold, 140 N.J.Super. 35, 354 A.2d 717 (1976).61 Restatement Second §290, comment (b).62 以 下 の 記 述 は、Patricia M.Hoff, The Uniform Child-Custody Jurisdiction andEnforcement Act, Juvenile Justice Bulletin, Decemer 2001 によるところが 大 きい。21228


していなくても、 監 護 権 を 決 定 してくれる 法 廷 地 を 選 択 することができたので、それが 子を 奪 取 する 法 律 上 のインセンティブになっていた。このような 状 況 を 解 決 するために、1968年 に UCCJA が 制 定 されたのである。UCCJA の 下 では、 以 下 の4つの 管 轄 原 因 が 認 められていた。すなわち、(ⅰ)ホームステイト( 子 が 手 続 の 開 始 の 前 少 なくとも 6 カ 月 居 住 していたことを 条 件 とする)、(ⅱ) 重 大 な 関 連 性 ( 子 がその 州 に 重 大 な 関 連 性 を 有 している 結果 、 子 についての 重 要 な 証 拠 が 当 該 州 にある 場 合 )、(ⅲ) 緊 急 の 場 合 ( 即 時 の 保 護 的 な 行為 を 必 要 とする、 遺 棄 や 虐 待 などがある 場 合 )、(ⅳ) 補 充 的 な 場 合 ( 上 記 いずれの 管 轄 原因 も 認 められない 場 合 )である。 緊 急 の 場 合 を 除 いて、UCCJA は 管 轄 原 因 として、 子 の 現実 の 所 在 を 認 めていなかったが、 同 時 にホームステイトルールを 広 く 認 めたことにより、子 を 連 れ 去 られた 親 は、 連 れ 去 られた 後 も 子 のホームステイトで 監 護 権 指 定 の 申 立 てをすることができることとなった。このように、UCCJA の 制 定 により、 状 況 はかなり 改 善 されたとはいえ、まだ 残 された 問題 はあった。すなわち、(ⅰ)この 規 律 では、2つ 以 上 の 州 の 管 轄 が 競 合 する 可 能 性 が 排 除されないこと、(ⅱ) 手 続 が 同 時 に 係 属 することを 禁 止 する 規 律 が 効 果 的 ではなく、 異 なる州 が 管 轄 権 を 行 使 し 矛 盾 する 監 護 命 令 を 出 すことを 阻 止 できないこと、(ⅲ) 立 法 担 当 者 が意 図 した 緊 急 管 轄 の 限 定 的 解 釈 に 反 して、この 管 轄 原 因 が 気 軽 に 利 用 されたこと、(ⅳ) 管轄 の 競 合 の 問 題 が 監 護 命 令 の 変 更 の 事 件 においても 続 いたこと、(ⅴ) 姉 妹 州 の 監 護 命 令 を執 行 し、 変 更 しないよう 義 務 付 けた 規 律 にもかかわらず、そのための 執 行 手 続 を 規 定 しなかったため、 当 事 者 は 自 力 で 地 元 の 手 続 を 探 し、その 手 続 が 州 によって 著 しく 異 なっていたため、 執 行 の 遅 延 を 招 き、 費 用 が 余 計 にかかり、また 結 果 を 予 測 困 難 にさせたこと、(ⅵ)UCCJA を 採 択 した 各 州 法 の 規 定 が 統 一 されていなかったこと、 等 である。2) 親 による 誘 拐 防 止 法 (PKPA)これらの 問 題 を 処 理 し、 州 際 間 の 子 の 監 護 事 件 をめぐる 実 務 により 統 一 感 をもたせるために、 議 会 は 1980 年 、PKPA を 制 定 した。この 法 律 は 州 に 以 下 のことを 要 求 している。すなわち、(ⅰ) 本 法 に 従 ってなされた 姉 妹 州 の 監 護 権 及 び 面 会 交 流 に 関 する 判 断 を 執 行 し、かつ 変 更 しないこと。ただし、その 命 令 を 下 した 州 がもはや 管 轄 権 を 有 していない、あるいは 管 轄 権 の 行 使 を 拒 絶 した 場 合 はこの 限 りでない、(ⅱ) 監 護 命 令 を 下 した 州 が 本 法 に 基づいて 管 轄 権 を 有 し、かつ 子 もしくは 両 親 のレジデンスがある 限 りは、 当 該 州 の 排 他 的 、継 続 的 管 轄 権 に 従 うこと、(ⅲ) 本 法 に 則 してある 事 件 について 他 州 が 管 轄 権 を 行 使 している 間 は 管 轄 権 の 行 使 を 控 えること、(ⅳ) 監 護 権 や 面 会 交 流 を 主 張 している 者 、その 親 権 が終 了 されていない 親 、 及 び 現 に 子 を 監 護 している 者 が 合 理 的 な 通 知 及 び 審 問 を 受 ける 機 会を 与 えられることである。本 法 の 基 準 に 従 って 管 轄 権 を 行 使 した 州 の 裁 判 所 には、その 監 護 及 び 面 会 交 流 に 関 する命 令 をして、 姉 妹 州 における 十 分 な 信 頼 と 信 用 を 与 えられるものであり、 当 該 裁 判 所 は 一定 の 要 件 のもとで、その 命 令 を 変 更 する 排 他 的 かつ 継 続 的 な 管 轄 権 も 持 つ。22229


本 法 の 管 轄 の 規 定 は、UCCJA のそれに 類 似 しているが、 以 下 の 点 で 大 きな 違 いある。すなわち、(ⅰ)ホームステイト 優 先 原 則 : 本 法 は 最 初 の 監 護 事 件 においてホームステイトの管 轄 権 を 優 先 させている。これは、 最 初 の 監 護 事 件 の 管 轄 権 を 一 つの 州 に 制 限 することで、当 該 子 がホームステイトを 有 している 場 合 には、 重 要 な 関 連 性 をもつ 州 が 当 該 事 件 について 管 轄 権 を 行 使 することを 防 ぐことを 目 的 としている。(ⅱ) 排 他 的 、 継 続 的 管 轄 権 : 本 法の 下 での 排 他 的 、 継 続 的 管 轄 権 は、 最 初 の 命 令 を 下 した 州 の、 当 該 命 令 を 変 更 するための管 轄 権 を 保 護 するものであり、それは、 当 該 州 が 州 法 の 下 で 管 轄 権 を 有 し、かつ 少 なくとも 親 のどちらかもしくは 子 がそこに 居 住 している 限 りは、 子 の 新 たなホームステイトにも優 先 するものである 63 。3)ハーグ 条 約 及 び 子 の 奪 取 救 済 法 (ICARA)ハーグ 子 の 奪 取 条 約 及 びその 施 行 法 である 子 の 奪 取 救 済 法 (ICARA)は、 国 際 的 な 不 法な 子 の 連 れ 去 り 及 び 留 置 の 問 題 と 扱 っている。ハーグ 条 約 は、( 通 常 はその 常 居 所 地 国 への)子 の 返 還 を 迅 速 に 遂 行 し、 国 境 を 越 えた 面 接 交 流 の 実 現 を 促 進 するための 行 政 上 かつ 司 法上 のメカニズムを 確 立 している。 子 の 奪 取 救 済 法 の 主 要 な 目 的 は 以 下 の 二 つである。すなわち、 本 法 は 州 と 連 邦 双 方 の 裁 判 所 に、ハーグ 条 約 のもとでの 権 利 を 決 定 するための 管 轄を 同 時 に 認 めている。また、 本 法 は 合 衆 国 内 にいる 子 の 返 還 に 関 する 司 法 的 救 済 を 規 定 する。 本 法 は、 合 衆 国 の 裁 判 所 に 基 礎 にある 監 護 権 請 求 の 本 案 を 判 断 する 権 限 を 与 えていない。 本 法 の 目 的 は、 現 存 する 監 護 命 令 に 違 反 した 子 の 違 法 な 連 れ 去 りや 保 持 に 対 して 救 済を 与 えることにある。ハーグ 条 約 の 下 では、 締 約 国 から 不 法 に 連 れ 去 られ、 締 約 国 に 留 置 されている 子 は 迅 速な 返 還 に 服 する。 後 述 する UCCJEA は、ハーグ 条 約 に 基 づく 子 の 返 還 命 令 の 執 行 を 特 別 に規 定 し、 当 局 者 に 子 の 所 在 を 確 認 し、ハーグ 条 約 事 件 における 子 の 返 還 を 確 保 する 権 限 を与 えている。(3)UCCJEAUCCJEA は、 全 米 の 裁 判 所 において 解 釈 が 衝 突 していた UCCJA の 規 定 を 明 確 にし、 州際 間 の 抵 触 を 効 率 的 に 縮 減 する 実 務 を 法 典 化 し、PKPA の 管 轄 基 準 に 一 致 させることを 目63 なお、 連 邦 犯 罪 者 引 渡 法 (Federal Extradition Act, 18 U.S.C. §3182 (1985))は、 誘拐 罪 の 告 発 に 応 えるため、ある 州 から 他 州 へ 犯 罪 者 を 引 き 渡 すために 用 いられる。California v. Superior Court of California, 428 U.S. 400 (1987)は、カリフォルニア 州 からルイジアナ 州 への 引 渡 が 求 められている 親 が、それ 以 前 に 有 効 であったカリフォルニア 州の 監 護 権 命 令 を 根 拠 に 引 渡 を 拒 もうとした 事 例 である。 裁 判 所 は 引 渡 法 が、 引 渡 を 要 求 されている 州 は 親 を 引 き 渡 すことを 要 求 していると 判 断 し、カリフォルニア 州 の 監 護 命 令 にいかなる 効 果 を 与 えるべきかはルイジアナ 州 裁 判 所 が 決 めることであると 判 示 した。23230


的 とし、 命 令 の 州 際 間 の 執 行 可 能 性 を 確 保 し、 避 難 所 を 求 めて 州 外 へ 逃 げた 家 庭 内 暴 力 の被 害 者 のための 保 護 を 加 えている。1) 適 用 範 囲UCCJEA は、 子 の 監 護 権 及 び 面 接 交 流 に 関 する 事 件 の 管 轄 権 とその 執 行 について 定 めているが、 本 法 は、 様 々な 手 続 に 適 用 される。 特 に、UCCJEA における 裁 判 所 は、 離 婚 、 別居 、ネグレクト、 虐 待 、 扶 養 、 後 見 、 父 性 確 定 、 親 権 の 終 了 及 び 家 庭 内 暴 力 からの 保 護 のための 手 続 において、 監 護 権 及 び 面 接 交 流 の 問 題 が 生 じた 場 合 には、 本 法 の 規 定 に 従 わなければならない。これに 対 して 本 法 は、 子 の 扶 養 手 続 や 養 子 縁 組 事 件 には 適 用 されない。本 法 はまた、 外 国 の 裁 判 所 が 下 した 子 の 監 護 権 の 判 断 についても、 本 法 の 管 轄 基 準 に 本質 的 に 合 致 した 事 実 の 下 で 下 されたことを 条 件 として、 各 州 にその 承 認 ・ 執 行 を 義 務 付 け、各 州 の 裁 判 所 は 外 国 を 合 衆 国 の 州 と 同 じように 扱 うべきことを 義 務 づけている(§105)。ただし、 外 国 の 監 護 権 に 関 する 法 が 人 権 の 基 本 原 則 を 侵 害 している 場 合 には、 州 の 裁 判 所は 本 統 一 法 を 適 用 する 必 要 はない。この 文 言 は、ハーグ 子 の 奪 取 条 約 20 条 からきているものであるが、 当 該 外 国 がハーグ 条 約 の 締 約 国 でない 場 合 に 特 に 有 用 であるとされる。2)UCCJEA の 管 轄 規 定本 法 の 下 で、 監 護 権 の 判 断 をするため、あるいはそれを 変 更 するための 要 件 は 二 つある。1つは、 裁 判 所 は 本 法 に 基 づいて 管 轄 権 の 基 礎 を 有 していなければならない(すなわち 事物 管 轄 権 )こと、 今 1つは、 当 事 者 は 審 問 を 受 けるための 通 知 及 び 機 会 を 与 えられなければならないということである。 当 事 者 の 一 方 もしくは 子 に 対 する 対 人 管 轄 権 ( 当 該 州 における 物 理 的 所 在 か 当 該 州 との 最 小 限 の 関 連 性 に 基 づく)は 要 件 とはなっていない。さらに、一 方 当 事 者 もしくは 子 に 対 する 対 人 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 は、 本 法 にもとづいて 管 轄 権 を行 使 するための 基 礎 がない 限 りは、 監 護 権 についての 裁 判 をすることはできない。1 最 初 の 管 轄 権本 法 は、 最 初 の 管 轄 権 のために4つの 管 轄 原 因 を 認 めている。すなわち、(a)ホームステイト、(b) 重 要 な 関 連 性 、(c)より 適 切 なフォーラム、(d)vacuum jurisdiction である。本 法 はまた、(e) 緊 急 の 理 由 に 基 づいた 仮 の 救 済 を 発 する 権 限 も 認 めている。(a)ホームステイト 管 轄 権 : 本 法 は、 最 初 の 子 の 監 護 に 関 する 手 続 において、ホームステイトの 管 轄 権 を 優 先 している。これは、 上 述 の PKPA に 沿 うものであり、ホームステイトと 重 要 な 関 連 性 を 基 礎 とした 管 轄 権 を 平 等 に 扱 っていた UCCJA の 立 場 を 否 定 するものである。 子 がホームステイトを 有 していないか、あるいはホームステイトが 管 轄 権 の 行 使 を拒 否 した 場 合 にのみ、 他 の 裁 判 所 は 重 要 な 関 連 性 があることを 基 礎 として、 管 轄 権 を 行 使することができる 64 。 旧 統 一 法 からの 改 正 は、 子 の 監 護 事 件 についての 管 轄 権 を 有 する 州 が64 §201(1)は、 子 の 監 護 権 の 管 轄 について、 手 続 の 開 始 時 点 で 子 の home state である24231


複 数 存 在 する 可 能 性 を 著 しく 減 少 させることを 意 図 するものであり、それにより、 異 なる州 における 裁 判 所 によって 発 せられる 監 護 命 令 が 抵 触 する 可 能 性 もまた 減 少 することになる。 本 法 の 下 では、ホームステイトルールが 拡 張 された、すなわち、 子 がそれまでのホームステイトを 去 った( 連 れ 去 られた) 後 でも、6カ 月 以 内 であれば、LBP( 連 れ 去 られた 親 )は 自 己 の 住 所 地 (ホームステイト)で 監 護 権 に 関 する 手 続 を 開 始 することが 出 来 ることになる(これに 対 して、6 カ 月 を 過 ぎても 手 続 が 開 始 されない 場 合 には、 子 が 移 動 した先 の 州 がそのホームステイトとなる)。(b) 重 要 な 関 連 性 に 基 づく 管 轄 権 :ホームステイトがない( 例 えば、 両 親 が 子 を 連 れて 頻繁 に 州 を 越 えて 引 っ 越 しを 繰 り 返 している 場 合 )か、あるいはホームステイトが 管 轄 権 の行 使 を 拒 んだ 場 合 には、 子 が 重 要 な 関 連 性 を 有 している 州 に 管 轄 権 が 認 められる 65 。この 基準 によると、 複 数 の 州 に 管 轄 権 が 認 められる 可 能 性 もあるが、 管 轄 権 を 行 使 できるのは、そのうちの 1 つであり、 手 続 が 競 合 する 州 の 間 で 調 整 をするか、 調 整 がつかない 場 合 は 最初 に 申 立 てがなされた 州 の 管 轄 権 が 優 先 される 66 。か、 手 続 の 開 始 前 6 カ 月 以 内 に 子 の home state であり、かつ 子 は 現 在 は 州 内 にはいないが両 親 もしくは 両 親 として 行 動 しているものが 引 き 続 き 州 内 に 居 住 している 場 合 にのみ、 当該 州 に 子 の 監 護 権 についての 最 初 の 判 断 をする 管 轄 権 を 認 めている。この 規 定 によれば、例 えば、ミネソタ 州 で 生 まれ 育 った2 歳 の 子 が、いずれの 両 親 も 監 護 権 の 指 定 の 申 立 てをする 前 には 母 親 によってアイダホ 州 に 連 れ 去 られた 場 合 、 残 された 父 親 は、 子 の 移 動 後 6カ 月 以 内 であれば、ホームステイトに 基 づく 管 轄 権 を 有 するミネソタ 州 で、 最 初 の 監 護 権に 関 する 申 立 てをすることができる。すなわち、 子 がミネソタにいないことは、 当 該 州 の管 轄 権 を 奪 うものではない。この 場 合 ミネソタ 州 がホームステイトであり、 仮 に 母 親 がアイダホ 州 で 手 続 を 始 めたとしても、 父 親 は 管 轄 権 がないことを 理 由 に 申 立 ての 却 下 を 主 張できる。65 §201(2)は、(1)の 下 で 他 の 州 に 管 轄 がないか、 子 の home state の 裁 判 所 が、§207 もしくは 208( 後 述 )の 下 でより 適 切 な 法 廷 地 があるという 理 由 で 管 轄 権 の 行 使 を 拒 んだ 場 合 で、かつ、 子 及 びその 両 親 、もしくは 子 と 少 なくとも 両 親 の 一 方 ないしはそのように 行 動 している 者 が、 単 なる 物 理 的 な 存 在 以 上 の 密 接 な 関 連 性 を 有 していて、 子 のケアー、保 護 、 教 育 (training) 及 び 人 的 関 係 に 関 して 重 要 な 証 拠 が 得 られる 場 合 には、その 州 に 管轄 権 を 認 める。66 §206(a)は、 手 続 の 開 始 の 時 点 で、 子 の 監 護 権 に 関 する 手 続 が、 本 法 と 本 質 的 に 合 致 する 管 轄 権 を 有 する 他 の 州 の 裁 判 所 で 開 始 されていた 場 合 には、 手 続 が 終 了 したか、あるいは§207 により 他 州 の 裁 判 所 が 当 該 州 の 裁 判 所 がより 適 切 な 法 廷 地 であるという 理 由 で 中止 された 場 合 を 除 いて、 当 該 州 の 裁 判 所 はその 管 轄 権 を 行 使 してはならない、と 規 定 する。(b)は、 裁 判 所 は、 子 の 監 護 権 に 関 する 手 続 の 審 問 (hearing)の 前 に、 裁 判 所 の 文 書 と 当 事者 によって 提 供 されたその 他 の 情 報 を 審 査 しなければならず、 子 の 監 護 権 に 関 する 手 続 が本 法 に 従 った 管 轄 権 を 有 する 他 州 の 裁 判 所 で 開 始 されていたと 判 断 した 場 合 には、 裁 判 所はその 手 続 を 中 止 し、 他 州 の 裁 判 所 と 連 絡 を 取 らなければならない。 管 轄 権 を 持 つ 他 州 の裁 判 所 が、この 裁 判 所 をより 適 切 な 法 廷 地 であると 判 断 しない 場 合 には、 裁 判 所 はその 手続 を 却 下 しなければならない、と 規 定 する。(c) 子 の 監 護 権 の 裁 判 を 変 更 するための 手 続 において、 裁 判 所 は 当 該 裁 判 の 執 行 のための 手 続 が 他 の 州 で 開 始 されていないかどうかを 判断 しなければならない。もし 開 始 されている 場 合 には、 裁 判 所 は、(1) 他 州 の 裁 判 所 の、25232


(c)より 適 切 な 法 廷 地 に 基 づく 管 轄 権 : 本 法 に 基 づく 3 番 目 の 管 轄 原 因 は、ホームステイトに 基 づく 管 轄 権 を 有 する 州 も、 重 要 な 関 連 性 に 基 づく 管 轄 権 を 有 する 州 も、いずれもが、自 州 が 不 便 宜 な 法 廷 地 である、もしくは 不 当 な 行 為 によって 得 られたという 理 由 で、 別 のより 適 切 な 法 廷 地 を 優 先 し、 管 轄 権 の 行 使 を 拒 否 した 場 合 に 存 在 する 67 。 例 えば、 両 親 が 別居 して 子 は 父 親 とニューヨーク 州 に 住 み、そこで 学 校 に 通 い、 母 親 の 住 むコロラド 州 で 月 1回 の 週 末 を 過 ごしていたが、 父 親 が 祖 父 母 の 住 むメリーランド 州 で 新 たな 生 活 を 始 めようとしている 場 合 を 想 定 すると、ホームステイトであるニューヨーク 州 、 及 び 重 要 な 関 連 性を 有 するコロラド 州 のいずれの 州 よりも、もうすぐ 子 のホームステイトとなるメリーランド 州 の 方 がより 適 切 な 法 廷 地 であると 判 断 され、 両 州 が 管 轄 権 の 行 使 を 拒 否 することもあり 得 る。(d)Vacuum jurisdiction: 上 記 3つの 管 轄 原 因 がいずれの 州 にも 認 められない 場 合 には、それに 代 わる 州 がその 空 白 (vacuum)を 埋 め、 管 轄 権 を 行 使 することが 認 められる 68 。この 規 定 が 適 用 されるのは、 子 がホームレスの 場 合 や 出 稼 ぎ 労 働 者 や 軍 関 係 者 の 子 、 子 が 親戚 の 間 をたらいまわしにされているような 場 合 である。(e) 仮 の 緊 急 的 な 管 轄 権 : 本 法 の 下 では、 子 が 遺 棄 された 場 合 や、 子 もしくはその 兄 弟 姉妹 あるいは 子 の 親 が 虐 待 にあっている、あるいはその 危 険 があるという 場 合 には、 仮 の 緊急 的 な 管 轄 権 が 認 められる 69 。「 緊 急 (emergency)」の 定 義 は、ネグレクトの 場 合 も 含 まれ当 該 手 続 の 執 行 、 中 止 、 棄 却 ないしは 却 下 いずれかの 命 令 が 発 せられるまで、 変 更 のための 手 続 を 中 止 する。(2) 当 事 者 が 執 行 のための 手 続 を 続 行 することを 禁 ずる。もしくは(3)裁 判 所 が 適 切 と 考 える 条 件 のもとで 変 更 の 手 続 を 続 行 する。いずれかの 措 置 をとることができる。67 §201(a)(3).68 §201(a)(4).69 §204 は、 仮 の 緊 急 管 轄 について 規 定 する。(a) 裁 判 所 は、 子 が 州 内 に 存 在 し、かつ 遺 棄された 場 合 、もしくは 子 または 子 の 兄 弟 もしくは 両 親 が 虐 待 等 を 受 けている、あるいは 受ける 恐 れがあるという 理 由 で、 子 を 保 護 することが 緊 急 に 必 要 である 場 合 には、 仮 の 緊 急管 轄 権 を 有 する。(b) 本 法 のもとで 執 行 できる 子 の 監 護 権 に 関 する 裁 判 が 以 前 にだされておらず、かつ 子 の 監 護 権 に 関 する 手 続 が 本 法 のもとで 管 轄 権 を 有 する 種 の 裁 判 所 で 開 始 されていない 場 合 には、 本 条 のもとで 下 された 子 の 監 護 権 に 関 する 裁 判 は、 管 轄 権 を 有 する 州の 裁 判 所 から 命 令 が 得 られるまでは、 効 力 を 持 ち 続 ける。 管 轄 権 を 有 する 州 の 裁 判 所 で 子の 監 護 に 関 する 手 続 が 開 始 されていない 場 合 には、 本 条 の 下 で 下 された 裁 判 が、 最 終 的 な判 断 となり、 当 該 州 が 子 の home state になる。(c) 本 法 の 下 で 執 行 できる 子 の 監 護 に 関 する裁 判 が 以 前 に 下 されている 場 合 、もしくは 子 の 監 護 に 関 する 手 続 が 管 轄 権 を 有 する 州 の 裁判 所 で 始 まっていた 場 合 には、 本 条 の 下 で 発 せられた 裁 判 所 の 命 令 は、その 中 で、 裁 判 所が 命 令 を 求 める 当 事 者 が 管 轄 権 を 有 する 州 から 命 令 を 得 ることを 許 すために 適 切 と 考 える期 間 を 特 定 しなければならない。 州 内 で 発 せられた 命 令 は、 特 定 された 期 間 内 に 他 州 から命 令 が 得 られるまで、あるいは 期 間 が 経 過 するまでは、 効 力 を 有 する。(d) 本 条 の 下 で 子 の監 護 に 関 する 裁 判 をするよう 求 められた 州 の 裁 判 所 は、 本 法 の 下 で 管 轄 権 を 有 する 州 の 裁判 所 で 子 の 監 護 に 関 する 手 続 が 開 始 されていたか、あるいは 子 の 監 護 に 関 する 裁 判 が 下 さ26233


ていた 旧 統 一 法 に 比 較 すると 狭 められたが、 他 方 で、 子 の 親 や 兄 弟 姉 妹 が 危 険 にさらされている 場 合 も 含 めることで 拡 張 されている。この 緊 急 管 轄 権 は、 手 続 が 他 州 で 既 に 開 始 されている 場 合 にも 行 使 できるし、それに 基 づいて 仮 の 命 令 を 下 すこともできる。 緊 急 性 を解 決 し、 当 事 者 及 び 子 の 安 全 を 確 保 し、 仮 の 命 令 がどのくらいの 期 間 有 効 とされるべきかを 判 断 するために、 迅 速 な 裁 判 所 間 のコミュニケーションが 義 務 付 けられている。また、本 法 及 び PKPA に 則 って 他 州 で 執 行 できる 仮 の 緊 急 命 令 を 下 すためには、 審 問 を 受 けるための 通 知 と 機 会 が 与 えられなければならない 70 。 本 規 定 に 基 づく 仮 の 緊 急 命 令 が 下 される 前に、 他 の 命 令 が 出 されておらず、またいずれの 州 でも 手 続 が 開 始 されていない 場 合 には、当 該 仮 の 緊 急 命 令 が、それを 発 した 州 が 子 のホームステイトであることを 前 提 として、 最終 的 な 判 断 となる。 既 に 別 の 命 令 があるか、 手 続 が 既 に 開 始 されている 場 合 には、 緊 急 の救 済 を 求 めた 者 が 他 の 裁 判 所 から 監 護 命 令 を 得 るための 適 切 な 期 間 を、 緊 急 命 令 の 中 で 特定 しなければならない。2 変 更 のための 管 轄 権最 初 の 監 護 命 令 を 変 更 することができるのは、いずれの 裁 判 所 か。 本 法 はこれについて、PKPA に 類 似 した、 排 他 的 かつ 継 続 的 な 管 轄 権 のルールを 採 用 した。すなわち、 本 法 に 従って 管 轄 権 を 行 使 して 最 初 の 命 令 を 下 した 裁 判 所 は、その 命 令 を 変 更 するための 排 他 的 かつ 継 続 的 な 管 轄 権 を 有 する。ただし、(ⅰ) 当 該 裁 判 所 が 重 要 な 関 連 性 に 基 づく 管 轄 権 を 失った 場 合 、もしくは(ⅱ) 子 、 子 の 両 親 が 当 該 州 にもはや 居 住 していない 場 合 には、この限 りではない 71 。 重 要 な 関 連 性 を 有 しているかどうかを 判 断 できるのは、 当 該 命 令 を 下 した州 のみであるが、 本 セクションで 規 定 されている 者 が 全 て 当 該 州 を 去 ったかどうかは、 他の 州 でも 判 断 できる。最 初 の 命 令 を 下 した 州 が 排 他 的 、 継 続 的 管 轄 権 を 有 している 限 りは、それ 以 外 の 州 は 当れたという 情 報 を 得 た 場 合 には、 即 時 に 当 該 他 の 裁 判 所 と 連 絡 を 取 らなければならない。§201 乃 至 203 に 従 って 管 轄 権 を 行 使 している 州 の 裁 判 所 は、 本 条 に 類 似 した 規 定 の 下 で他 州 の 裁 判 所 において、 子 の 監 護 に 関 する 手 続 が 開 始 されていたか、 子 の 監 護 に 関 する 裁判 が 下 されたという 情 報 を 得 た 場 合 には、 緊 急 事 態 を 解 決 し、 当 事 者 及 び 子 の 安 全 を 保 護するために 他 州 の 裁 判 所 と 即 時 に 連 絡 をとり、 仮 の 命 令 の 存 続 する 期 間 を 決 定 しなければならない。70 §205(a), and PKPA, 28 U.S.C.§1738A(e).71 §202 によれば、§201 や§203( 後 述 : 子 の 監 護 権 の 変 更 のための 管 轄 権 )に 従 って 子の 監 護 権 の 裁 判 をした 州 の 裁 判 所 は、 当 該 州 の 裁 判 所 が、 子 、 子 の 両 親 、 及 びそのように行 動 している 者 のいずれもが 当 該 州 と 重 要 な 関 連 性 を 持 たなくなり、かつ 子 のケアー、 保護 、 教 育 及 び 人 的 関 係 に 関 する 重 要 な 証 拠 がもはや 当 該 州 では 得 られなくなった、あるいは 当 該 州 の 裁 判 所 もしくは 他 の 州 の 裁 判 所 が、 子 、 子 の 両 親 及 びそのように 行 動 する 者 が現 時 点 で 当 該 州 には 居 所 を 有 していないと 判 断 するまでは、 子 の 監 護 権 に 関 する 裁 判 について 専 属 的 で 継 続 的 な 管 轄 権 を 有 する。そして、 子 の 監 護 権 の 裁 判 をして、 本 条 のもとで専 属 的 継 続 的 管 轄 権 を 有 しない 当 該 州 の 裁 判 所 は、§201 の 下 での 最 初 の 裁 判 をする 管 轄 権を 有 する 場 合 にのみ、その 裁 判 を 変 更 することができる。27234


該 命 令 を 変 更 することはできない。このことは、 子 がその 州 から 移 動 し、 新 たなホームステイト 州 を 確 立 した 場 合 にもあてはまる。この 新 たなホームステイト 州 が 最 初 の 命 令 を 変更 できるのは、 最 初 の 命 令 を 下 した 州 が 排 他 的 継 続 的 管 轄 権 を 失 ったか、 不 便 宜 な 法 廷 地を 理 由 に 管 轄 権 の 行 使 を 拒 絶 した 場 合 で、かつ 子 の 新 たなホームステイト 州 が 本 法 の 下 で管 轄 権 を 有 している 場 合 に 限 られる 72 。 旧 統 一 法 の 下 での 実 務 では、 子 の 新 旧 のホームステイトがどちらも 変 更 する 管 轄 権 を 主 張 できたことから、 抵 触 する 監 護 命 令 がだされ、いずれの 命 令 が 優 先 するかについてしばしば 混 乱 が 生 じていたが、 本 法 の 規 定 はこのような 混乱 を 回 避 することを 目 的 としている。3 管 轄 の 拒 絶本 法 のもとで、 本 来 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 がその 行 使 を 拒 絶 できるのは、その 裁 判 所 が不 便 宜 な 法 廷 地 であるか、 不 当 な 行 為 を 原 因 とする 場 合 である。(a) 不 便 宜 な 法 廷 地 : 本 法 は、いわゆる、フォーラムノンコンヴィニエンスの 法 理 を 適 用し、 他 の 州 がより 適 切 に 子 の 監 護 を 判 断 することができると 判 断 し、 自 州 の 管 轄 権 の 行 使を 拒 絶 する( 差 し 控 える)ことを 認 めている。その 際 に 考 慮 される 要 素 とは、 例 えば 家 庭内 暴 力 があるかどうか、もしあるのであれば、いずれの 州 が 当 事 者 及 び 子 を 最 も 適 切 に 保護 できるか、 子 がどのくらいの 期 間 州 外 に 居 住 しているか、いずれの 裁 判 所 が 当 該 事 件 に最 も 通 じているかなどである 73 。72 §203 は、 子 の 監 護 権 の 裁 判 を 変 更 するための 管 轄 について 規 定 する。 他 の 州 の 裁 判 所が 下 した 子 の 監 護 権 に 関 する 裁 判 を 変 更 できるのは、§201(a)(1)により 最 初 の 監 護 権 裁 判を 下 す 管 轄 権 を 有 していて、かつ、 他 州 の 裁 判 所 が§202 によってもはや 専 属 的 継 続 的 な 管轄 権 を 有 していないと 判 断 するか、 当 該 州 の 裁 判 所 がより 適 切 な 法 廷 地 であると 判 断 する場 合 、もしくは 当 該 州 の 裁 判 所 もしくは 他 州 の 裁 判 所 が、 子 、 子 の 両 親 及 び 両 親 として 行動 する 者 が 現 時 点 で 他 州 に 居 所 を 有 していないと 判 断 する 場 合 に 限 られる。73 §207(a) 本 統 一 法 の 下 で 子 の 監 護 権 に 関 する 裁 判 のための 管 轄 権 を 有 する 州 の 裁 判 所 は、状 況 に 応 じて 不 適 切 な 法 廷 地 であり、かつ 他 州 の 裁 判 所 がより 適 切 な 法 廷 地 であると 判 断した 場 合 はいつでも、その 管 轄 権 の 行 使 を 拒 むことができる。 不 適 切 な 法 廷 地 かどうかの問 題 は、 当 事 者 の 申 立 てにより、 又 は 職 権 により、あるいは 他 の 裁 判 所 の 要 請 によって 問題 とされうる。(b) 不 適 切 な 法 廷 地 であるか 否 かを 判 断 する 前 には、 他 州 の 裁 判 所 が 管 轄 権を 行 使 することが 適 切 かどうかを 考 慮 しなければならず、この 目 的 のために、 当 事 者 に 情報 を 提 供 することを 許 し、 以 下 を 含 むあらゆる 関 連 する 要 素 を 考 慮 しなければならない。(1)ドメスティックヴァイオレンスが 起 こったかどうか、 及 び 将 来 それが 続 く 可 能 性 があるか、そしてどの 州 が 最 も 両 親 及 び 子 を 保 護 することができるか。(2) 子 が 当 該 州 以 外の 州 で 居 所 を 有 していた 期 間 。(3) 当 該 州 の 裁 判 所 と 管 轄 権 を 有 すると 思 われる 州 の 裁 判所 との 間 の 距 離 。(4) 当 事 者 の 経 済 状 況 。(5)いずれの 州 が 管 轄 を 有 するべきかについての 当 事 者 の 合 意 。(6) 係 属 する 訴 訟 を 解 決 するのに 必 要 な 証 拠 ( 子 の 証 言 を 含 む)の 性質 及 び 所 在 。(7) 各 州 の 裁 判 所 の、 争 点 を 迅 速 に 判 断 する 能 力 及 び 証 拠 を 提 示 するのに 必要 な 手 続 。(8) 各 州 の 裁 判 所 が 係 属 する 訴 訟 における 事 実 及 び 争 点 にどれほど 精 通 しているか。(c) 自 州 の 裁 判 所 が 不 適 切 な 法 廷 地 であり、 他 州 の 裁 判 所 がより 適 切 な 法 廷 地 であると 判 断 した 場 合 、 裁 判 所 は、 子 の 監 護 権 に 関 する 手 続 が 他 の 指 名 された 州 において 迅 速 に開 始 されることを 条 件 として、 自 州 の 手 続 を 中 止 (stay)しなければならず、また 裁 判 所 が28235


(b) 不 当 な 行 為 : 本 法 は、 裁 判 所 の 管 轄 権 が 申 立 てを 提 起 した 当 事 者 の 不 当 な 行 為 によって 作 出 されたものである 場 合 には、その 行 使 を 拒 絶 することを 要 求 している 74 。 不 当 な 行 為とは 例 えば、 子 の 不 法 な 連 れ 去 り、 留 置 もしくは 隠 匿 などである。この 規 定 が 家 庭 内 暴 力のケースでどのように 機 能 するかについては 問 題 であるが、 逃 走 が 正 当 化 されるかどうかを 慎 重 に 審 理 する 必 要 がある。3 執 行本 法 は 州 の 裁 判 所 に 対 して、 本 法 の 管 轄 に 関 する 規 定 と 本 質 的 に 合 致 してなされたか、もしくは 本 法 の 管 轄 基 準 に 合 致 する 事 実 に 基 づいてなされた 子 の 監 護 に 関 する 判 断 を 承 認し 執 行 することを 要 求 している 75 。 本 法 は、 姉 妹 州 の 監 護 命 令 及 び 面 接 交 渉 の 命 令 の 執 行 義務 に 加 えて、 州 際 間 の 執 行 のための 新 たなメカニズムを 創 設 した。(a) 他 州 の 監 護 権 判 断 の 登 録本 法 は、 他 州 の 監 護 及 び 面 接 交 渉 命 令 の 登 録 のための 簡 易 な 手 続 を 創 設 した 76 。 当 事 者 は他 州 の 裁 判 所 に 登 録 の 要 求 をし、 子 の 監 護 権 に 関 する 判 断 のコピーとその 他 必 要 とされる情 報 を 添 付 する。 裁 判 所 は 外 国 裁 判 所 として 当 該 命 令 をファイルし、 命 令 において 監 護 権を 与 えられた 親 に 通 知 し、 通 知 を 受 けた 者 は 20 日 の 間 に、 当 該 命 令 の 有 効 性 を 争 うための審 問 を 要 求 できる。そのような 要 求 がなければ、 当 該 命 令 は 法 の 問 題 として 認 められ、 州内 の 命 令 と 同 様 に 執 行 されうる。 登 録 を 争 えるのは、 以 下 の3つの 理 由 に 限 られる。すなわち、(ⅰ) 監 護 権 の 判 断 をした 裁 判 所 に 管 轄 権 がないこと、(ⅱ) 登 録 を 争 っている 者 が手 続 の 通 知 を 受 ける 権 利 があったにもかかわらず、これを 受 けなかったこと、(ⅲ) 子 の 監護 権 に 関 する 判 断 が 無 効 か、 中 止 になったか、あるいは 変 更 されたことである。正 当 かつ 適 当 であると 考 えるその 他 の 条 件 を 課 すことができる。(d) 裁 判 所 は、 子 の 監 護 権に 関 する 裁 判 が 離 婚 その 他 の 手 続 に 併 合 されていて、 離 婚 その 他 の 手 続 について 管 轄 が 残っている 場 合 には、 本 法 に 基 づいてその 管 轄 権 の 行 使 を 拒 むことができる。74 §208. ただし、 両 親 が 管 轄 権 の 行 使 に 同 意 した 場 合 や、 他 に 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 がない 場 合 には、 管 轄 権 を 拒 絶 しなくてもよい。75 §303(a) 裁 判 所 は、 他 州 の 裁 判 所 が、 本 法 と 本 質 的 に 合 致 する 管 轄 権 を 行 使 したか、 裁判 が 本 法 の 管 轄 基 準 にあう 事 実 に 基 づいてなされ、かつ 本 法 に 基 づいて 変 更 されていない場 合 には、 子 の 監 護 に 関 する 当 該 裁 判 を 承 認 しかつ 執 行 しなければならない。(b) 裁 判 所 は、他 州 の 裁 判 所 が 下 した 子 の 監 護 に 関 する 裁 判 を 執 行 するために、 自 州 のその 他 の 法 の 下 で可 能 ないかなる 救 済 をも 利 用 することができる。 本 編 で 規 定 されている 救 済 は 累 積 的 なものであり、 子 の 監 護 に 関 する 裁 判 を 執 行 するためのその 他 の 救 済 の 利 用 を 妨 げるものではない。76 §305. 登 録 は、 監 護 命 令 が 将 来 執 行 できることを 確 実 にするために 活 用 することもできる。 例 えば、 外 国 人 の 親 が、 子 を 面 接 交 流 のために 合 衆 国 に 行 かせる 前 に、 外 国 でなされた 監 護 命 令 が 承 認 執 行 されるかどうかの 事 前 の 判 断 を 求 めて、 登 録 の 手 続 を 利 用 することもある。29236


(b) 仮 の 面 接 交 流 の 命 令本 法 の 下 では、 他 州 の 命 令 における 面 接 交 流 のスケジュールもしくは、 特 定 のスケジュールを 含 まない 他 州 の 命 令 の 面 接 交 流 の 規 定 を 執 行 するために、 裁 判 所 が 仮 の 命 令 を 発 することができる 77 。 例 えば、 裁 判 所 は 埋 め 合 わせのための 面 接 交 流 の 時 間 を 命 令 したり、 他州 の 命 令 における「 合 理 的 な 面 接 交 流 」に 特 定 の 意 味 を 与 えることができる。ただしこれは、あくまでも 面 接 交 流 を 容 易 にするための 措 置 であり、 他 州 の 命 令 を 変 更 することための 管 轄 権 を 与 えているわけではない。(c) 監 護 権 判 断 の 迅 速 な 執 行本 法 は、 子 の 迅 速 な 返 還 のための 迅 速 かつ 簡 易 な 手 続 も 新 設 した 78 。この 手 続 の 下 では、原 則 として、 通 知 のあと 24 時 間 以 内 に 執 行 のための 審 問 が 開 かれる。 審 問 では 相 手 方 は 限られた 抗 弁 しか 主 張 できず、 事 前 に 登 録 されている 場 合 には、 当 該 命 令 が 登 録 後 に 無 効 、中 止 あるいは 変 更 されたことしか 主 張 できない。 登 録 されていない 場 合 には、 相 手 方 は 先の 挙 げた3つの 抗 弁 を 主 張 できる。 相 手 方 の 抗 弁 が 認 められない 限 り、 裁 判 所 は、 申 立 人をして 即 時 に 子 の 物 理 的 な 監 護 を 得 る 権 限 を 与 える 命 令 を 発 しなければならない。さらに、 子 の 安 全 を 確 保 するための 手 続 として、 裁 判 所 は 法 執 行 官 に 即 時 の 子 の 物 理 的監 護 を 得 ることを 命 ずる 令 状 を 発 することもできる(pickup orders) 79 。この 令 状 は 執 行を 求 める 訴 えと 併 合 して 得 られる。この 救 済 方 法 は 国 際 的 な 子 の 奪 取 を 防 止 する 際 に 非 常に 役 立 つものである。ICARA は、ハーグ 条 約 の 案 件 を 審 理 する 裁 判 所 が、 州 及 び 連 邦 法 の下 で 子 の 福 祉 を 保 護 し、さらなる 子 の 連 れ 去 りや 隠 匿 を 阻 止 するために 必 要 な 措 置 をとることを 認 めており、この 令 状 の 規 定 は 裁 判 所 にこのような 必 要 な 措 置 をとるための 権 限 を与 えるものである。(d) 公 的 な 執 行本 法 は、 子 の 監 護 命 令 を 確 実 に 執 行 するために、 検 察 官 やその 他 適 切 な 役 人 (publicofficials)が 民 事 上 の 法 的 措 置 をとるためのメカニズムを 規 定 している 80 。この 法 的 措 置 は裁 判 所 のために( 裁 判 所 にかわって)とられるものであり、 検 察 官 等 はいずれの 当 事 者 をも 代 理 するものではない。77 §304(a) 子 の 監 護 に 関 する 裁 判 を 変 更 するための 管 轄 権 を 有 していない 州 の 裁 判 所 は、以 下 のことを 実 現 する 仮 の 命 令 を 発 することができる。(1) 他 州 の 裁 判 所 によって 下 された 面 会 交 流 のスケジュールや、(2) 特 定 の 面 会 交 流 のスケジュールを 定 めていない 他 州 の子 の 監 護 に 関 する 裁 判 の 面 会 交 流 に 関 する 条 項 。(b) 上 記 (2)の 下 で 裁 判 所 が 命 令 を 下 した 場 合 には、その 命 令 において、 申 立 人 が 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 から 命 令 を 得 ることを 許すために 適 切 と 考 える 期 間 を 特 定 しなければならない。この 命 令 は、 他 の 裁 判 所 から 別 の命 令 が 得 られるまで、あるいは 上 記 期 間 が 経 過 するまでは 効 力 を 有 する。78 §308-310.79 §311.80 §315-317.30237


以 上 要 するに、UCCJEA はホームステイトに 基 づく 管 轄 権 を 優 先 し、 排 他 的 継 続 的 管 轄権 のルールを 条 文 化 したことにより、 子 の 監 護 に 関 する 手 続 がいずれの 州 でなされるべきかが 明 らかにされ、それにより、 姉 妹 州 において 手 続 が 競 合 抵 触 する 数 が 著 しく 減 少 することになる。さらに 革 新 的 な 執 行 手 続 を 規 定 することにより、より 迅 速 かつスムーズ、そしてより 予 想 可 能 な 執 行 が 可 能 となる。2. 成 年 後 見手 続 の 目 的 が、 関 係 する 個 人 の 永 続 的 な 後 見 に 影 響 を 与 えることであるならば、その 判断 は 通 常 、 当 該 個 人 の 福 祉 に 最 も 関 連 の 強 い 州 の 裁 判 所 によってなされるべきである。ほとんどのケースにおいては、これは 当 該 個 人 ( 被 後 見 人 )のドミサイルである。ただし、保 護 を 有 する 無 能 力 者 は、どこにいようとも、 世 話 をしてくれる 人 を 任 命 してもらうことができ、 任 命 された 者 は、ドミサイルのある 地 の 裁 判 所 によって 任 命 された 者 と 同 様 の 後見 人 として 任 命 されうる。この 場 合 でも、ドミサイルのある 地 の 裁 判 所 で 任 命 された 後 見人 が 通 常 は 主 たる 後 見 人 とみなされる。そしてこの 後 見 人 の 権 限 はどこででも 承 認 される。(f) 扶 養 義 務1. 扶 養 一 般 について扶 養 事 件 においては、 管 轄 の 基 礎 は 様 々である。 扶 養 料 を 認 める 管 轄 は 対 人 管 轄 権 であることから、それは 扶 養 義 務 者 のドミサイル(もしくはレジデンス)か、 扶 養 義 務 者 の 継続 的 かつ 意 図 的 な 活 動 ( 例 えば 債 務 者 が 仕 事 をしている 州 )か、 債 務 者 の 存 在 か、 債 務 者と 最 小 限 の 関 連 があるか、もしくは、 統 一 扶 養 判 決 相 互 承 認 法 (Uniform ReciprocalEnforcement of Support Act, URESA)のいずれかに 基 づくものでなければならない。これに 対 して、 被 告 の 財 産 を 差 し 押 さえただけでは 管 轄 は 認 められない。(1)ドミサイルに 基 づく 管 轄扶 養 を 求 める 訴 えが 提 起 された 時 点 で 債 務 者 のドミサイルがあることは、 管 轄 を 認 める十 分 な 根 拠 となる。これが 一 般 的 な 管 轄 権 の 基 礎 として 認 められているからである。すなわち、ドミサイルとは、 被 告 が 請 求 がどこでなされたとしても、 人 的 請 求 に 応 えることを公 平 に 要 求 できる 場 所 を 指 す。(2) 存 在 に 基 づく 管 轄あらゆる 種 類 の 管 轄 について、International Shoe 事 件 で 示 された 最 小 限 の 関 連 性 を 要 求する Shaffer v. Heitner 事 件 との 整 合 性 が 争 われてはいるが、Burnham v. Superior Court,110 S.Ct. 2105 (1990) では、ただ 通 過 するだけのために 滞 在 した 者 に 送 達 したということを 根 拠 にした 管 轄 も、 婚 姻 関 係 事 件 においては 認 めらるとされた。31238


(3) 最 小 限 の 関 連 性 に 基 づく 管 轄多 くの 州 が、ロングアーム 法 を 制 定 し、 配 偶 者 や 子 が、 非 居 住 者 である 被 告 と 憲 法 上 必要 とされる 関 連 性 を 有 する 法 廷 地 において 扶 養 を 求 める 訴 えを 提 起 することを 認 めている。1) 扶 養 に 関 する 事 件 にけるロングアーム 法 による 管 轄ロングアーム 法 によれば、 当 該 州 にもはやレジデンスやドミサイルを 有 していない 被 告に 対 しても、その 州 に、 扶 養 を 求 める 当 事 者 が、その 訴 えが 提 起 された 時 点 でレジデンスないしはドミサイルを 有 していて、かつ 以 下 のいずれかの 要 件 を 充 たす 場 合 には、 管 轄 が認 められる。その 要 件 とは、(a) 当 該 州 が、 夫 婦 が 別 居 する 前 に 婚 姻 ドミサイルであったか、(b) 被 告 が 当 該 州 で 原 告 を 遺 棄 したか、(c) 扶 養 を 求 める 請 求 権 が 当 該 州 の 法 の 下 で 生 じたか、(d) 扶 養 を 求 める 請 求 権 が 当 該 州 で 認 められる 合 意 の 下 で 生 じたか、である。2) 親 子 関 係 に 関 連 する 訴 訟 におけるロングアーム 法 に 基 づく 管 轄婚 姻 関 係 事 件 に 関 するロングアーム 制 定 法 は、 親 子 関 係 に 関 連 する 訴 訟 において、レジデンスやドミサイルを 有 していない 者 に 対 して、 子 及 び 片 親 ないし 推 定 上 の 親 が 当 該 州 にレジデンスを 有 しているという 関 連 性 に 基 づいて、 管 轄 を 認 めることもある。3) 最 小 限 の 関 連 性このような 関 連 性 は、 最 小 限 の 関 連 性 テストに 合 致 していなければならない。 例 えば、Kulko v. Superior Court 事 件 においては、カリフォルニア 州 にレジデンスを 有 さない 父 親は、 彼 が、 子 どもがカリフォルニア 州 に 引 っ 越 すことに 同 意 したというだけで、 当 該 州 における 前 妻 の 扶 養 料 増 額 を 求 める 請 求 に 応 訴 するために、 同 州 の 管 轄 に 服 することはないと 判 示 された。ここでは、 父 親 が 引 越 しに 同 意 をしたことが、どんな 効 果 を 生 じさせるにせよ、それは 当 該 州 の 法 の 保 護 を 意 図 的 に 求 めようとしたことにはならない。カリフォルニア 州 は 管 轄 を 認 めることに 何 ら 特 別 な 政 府 の 利 益 を 立 証 しなかった。なぜなら 同 州 には 特 定 のロングアーム 法 がなく、 管 轄 は、 憲 法 と 相 反 することのない 何 らかの根 拠 の 下 でしか 認 められていないからである。 統 一 法 の 利 用 可 能 性 は、 妻 によるいかなる請 求 も、 夫 にカリフォルニア 州 に 来 ることを 要 求 することによって、 応 訴 及 び 防 御 の 負 担を 夫 に 負 担 させることを 相 殺 する。 統 一 法 の 下 では、いずれの 当 事 者 も 州 外 で 訴 訟 をする必 要 はない。 適 用 される 準 拠 法 はニューヨーク 州 法 であり、そのことが 妻 の 請 求 の 本 案 に対 するカリフォルニア 州 の 利 益 を 減 少 させる。2. 統 一 州 際 家 族 扶 養 法 (UIFSA)扶 養 に 関 して 最 も 重 要 な 法 は、 統 一 州 際 家 族 扶 養 法 (Uniform Interstate Family SupportAct: UIFSA)である。この 統 一 法 は 家 族 間 の 扶 養 命 令 の 執 行 のための 普 遍 的 かつ 統 一 的 なルールを 提 供 するものであるが、 同 時 に、 州 裁 判 所 に 対 して 基 本 的 な 管 轄 基 準 を 定 め、 各32239


州 が 子 の 扶 養 手 続 に 関 する 継 続 的 排 他 的 管 轄 権 を 行 使 するための 基 礎 を 判 断 し、 複 数 の 裁判 所 で 手 続 が 開 始 された 場 合 に、いずれの 州 が 支 配 的 な 命 令 を 出 すかを 決 定 するためのルールを 確 立 し、 他 州 の 子 の 扶 養 命 令 を 変 更 したり、その 変 更 を 拒 絶 するためのルールを 提供 している。この 統 一 法 の 前 身 は、1950 年 に 統 一 州 法 委 員 全 国 会 議 によって 制 定 された 扶養 の 相 互 承 認 に 関 する 統 一 法 (Uniform Reciprocal Enforcement of Support Act: URESA)であり、これはその 後 2 回 の 改 正 を 経 て、1968 年 に 大 々 的 な 改 正 により、その 名 称 も 改 正統 一 法 (Revised Uniform Reciprocal Enforcement of Support Act: RURESA)と 変 更 された。しかし 1988 年 までには、この 改 正 統 一 法 の 実 務 における 適 用 に 関 して 様 々な 問 題 が 生じたことにより、さらなる 改 正 の 機 運 が 高 まった。その 結 果 、 改 正 統 一 法 にかわるものとして、1992 年 に 統 一 州 際 家 族 扶 養 法 が 制 定 されたのである。この 新 しい 統 一 法 は 1996 年に 重 要 な 修 正 がなされたあと、 連 邦 議 会 が 修 正 された 統 一 法 が 全 米 で 採 択 されることを、州 の 子 の 扶 養 プログラムの 助 成 金 を 受 ける 条 件 として 義 務 付 けたことにより、1998 年 までには 全 米 の 全 ての 州 が 1996 年 の 統 一 法 を 採 択 した。この 統 一 法 の 最 も 重 要 なポイントは、1 つの 州 の 裁 判 所 が 1 つの 扶 養 命 令 を 出 し、または変 更 する 権 限 を 有 するという 基 本 的 な 管 轄 ルールを 確 立 したことにある。 一 たび 命 令 が 出されたら、 他 の 州 はその 命 令 を 執 行 しなければならず、またそれを 変 更 してはならない。さらに、 同 一 当 事 者 にかかる 命 令 を 複 数 の 州 の 裁 判 所 が 出 した 場 合 には、それらのうちの一 つが、 執 行 可 能 な 支 配 的 な 命 令 となる。 統 一 法 は、 命 令 を 出 した 州 以 外 の 州 における 命令 の 変 更 を 求 める 当 事 者 の 権 限 を 制 限 する 管 轄 ルールを 明 確 にする 一 方 で、 当 事 者 が、 自己 が 居 住 していない 州 で 命 令 を 出 してもらったり、 変 更 してもらうよう 自 発 的 に 求 められる 場 合 を 認 めている。この 統 一 法 の 下 では、 扶 養 命 令 を 発 するための 管 轄 原 因 と 子 の 監 護権 に 関 する 管 轄 権 は 別 であり、 扶 養 を 決 定 する 目 的 で 裁 判 所 の 管 轄 に 服 する( 応 訴 する)当 事 者 は、 子 の 監 護 権 や 面 接 交 流 に 関 して 応 答 する 州 の 管 轄 権 に 自 動 的 に 服 することになる。その 後 も 2001 年 及 び 2008 年 に 修 正 がされたが、 基 本 的 な 原 則 は 変 わらないまま、 実 務の 経 験 を 踏 まえて 細 かい 規 定 が 洗 練 されてきた。2008 年 の 修 正 が 最 も 新 しいものであるが、これは 米 国 が 2007 年 に 署 名 した、 子 の 扶 養 及 び 家 族 の 扶 養 の 国 際 的 な 回 復 に 関 するハーグ条 約 の 施 行 法 となるべく 統 一 法 を 修 正 したものである。2008 年 の 改 正 は、ハーグ 条 約 の 締約 国 の 扶 養 命 令 の 登 録 、 承 認 、 執 行 及 び 変 更 のためのガイドラインと 手 続 を 提 供 している(Article 7)(ハーグの 締 約 国 以 外 の 外 国 については、§105 が 適 用 され、 州 と 同 様 の 取 扱を 受 けることになる)。この 修 正 統 一 法 の 制 定 は、アメリカの 子 の 扶 養 命 令 の 海 外 での 執 行を 改 善 し、 合 衆 国 に 居 住 する 子 が、 両 親 がどこに 居 住 していようが、 彼 らから 正 当 な 経 済的 サポートを 受 けることを 確 実 にするものである( 連 邦 議 会 はまた、2010 年 までに 2008年 修 正 版 が 各 州 で 採 択 されることを、 連 邦 からの 助 成 金 を 引 き 続 き 受 けるための 条 件 とした)。本 統 一 法 における 管 轄 に 関 する 規 定 は 以 下 の 通 りである。33240


UIFSA§201 及 び 202 は、 扶 養 命 令 を 確 立 する、あるいは 血 統 を 定 める 目 的 のため、 州内 に 居 住 していない 相 手 方 に 対 する、いわゆるロングアーム 管 轄 を 認 めている。すなわち、§201(a)によれば, 扶 養 料 の 支 払 命 令 を 認 める、 執 行 するあるいは 変 更 するための 手 続 あるいは 血 統 を 定 めるための 手 続 においては、 以 下 の 州 の 裁 判 所 が 州 内 に 居 所 を 有 しない 者 に対 して 対 人 管 轄 権 を 有 する。1その 者 が 召 喚 状 を 当 該 州 内 において 直 接 送 付 された 場 合 。2 合 意 した 場 合 、 管 轄 について 異 議 を 述 べずに 応 訴 した 場 合 、 対 人 管 轄 に 対 するいかなる異 議 も 放 棄 する 効 果 をもつ 文 書 を 提 出 した 場 合 には、 当 該 州 の 管 轄 権 に 服 する。3 当 該 州において 過 去 に 子 と 一 緒 に 居 住 していた 場 合 。4 当 該 州 において 過 去 に 居 住 しており、かつ 子 の 出 生 前 の 費 用 ないしは 子 のための 扶 養 料 を 支 払 っていた 場 合 。5 被 告 の 行 為 ないしは 命 令 の 結 果 として 子 が 当 該 州 に 居 住 している 場 合 。6 被 告 が 当 該 州 において 性 的 交 渉 に従 事 し、 子 がその 行 為 によって 懐 胎 された 可 能 性 がある 場 合 。7〔 被 告 が( 当 該 州 の 推 定父 登 録 簿 において) 子 との 親 子 関 係 を 認 めている 場 合 〕。8その 他 対 人 管 轄 権 の 行 使 に 関 して 当 該 州 憲 法 及 び 合 衆 国 憲 法 に 合 致 する 基 礎 がある 場 合 である。7がブラケットに 入 っているのは,すべての 州 が 推 定 父 登 録 簿 を 備 えているわけではないからである。また,§202によれば,§201 に 従 って 認 められた 当 該 州 裁 判 所 の 対 人 管 轄 権 は, 当 該 州 の 裁 判 所 が§205,§206 及 び§211 条 に 従 って 扶 養 命 令 を 変 更 する 又 は 扶 養 命 令 を 執 行 するための 継 続 的 かつ 排 他 的 管 轄 をもつかぎり, 継 続 するとされている。本 法 に 従 って 子 の 扶 養 料 の 支 払 命 令 を 下 した 裁 判 所 のある 州 は、 当 該 州 が 子 の homestate か、あるいは 当 事 者 のいずれかの 居 所 であるか、 当 事 者 全 員 が 他 州 の 裁 判 所 が 命 令 を変 更 し、 継 続 的 かつ 専 属 的 な 管 轄 権 を 有 することに、 書 面 によって 合 意 をした 場 合 に 限 り、当 該 命 令 に 関 しては 継 続 的 な 専 属 管 轄 を 有 する(§205)。ここでいう 子 の home state とは、子 がそこで 両 親 の 一 方 あるいは 両 親 として 行 動 している 者 と、 当 該 申 立 の 提 起 直 前 少 なくとも 継 続 した 6 カ 月 間 生 活 していたか、 子 が 生 後 6 カ 月 に 満 たない 場 合 は、 出 生 の 時 から住 んでいた 場 合 を 指 す。夫 婦 間 の 扶 養 料 命 令 については、それを 発 した 裁 判 所 が、 当 該 命 令 の 継 続 する 間 は 継 続して 専 属 的 管 轄 を 有 する 81 。§204 は、 訴 訟 競 合 について 規 定 する。(a) 裁 判 所 は、 他 州 において 申 立 もしくはそれに相 当 するプリーディングがなされた 後 に、 申 立 がなされた 場 合 には、 以 下 の 場 合 にのみ 管轄 権 を 行 使 できる。(1) 自 州 の 申 立 てが、 他 州 による 管 轄 権 の 行 使 に 異 議 を 述 べる 答 弁(responsive pleading)をするために 当 該 州 で 認 められている 期 間 が 経 過 する 前 になされ、(2) 相 手 方 当 事 者 が 適 時 に 他 州 における 管 轄 権 の 行 使 に 異 議 を 述 べ、かつ(3) 関 連 がある 場 合 には、 自 州 が 子 の home state である 場 合 。(b) 以 下 の 場 合 には、 申 立 が 他 州 で 申立 が 提 起 される 前 にされた 場 合 でも、 扶 養 命 令 を 発 するための 管 轄 権 を 行 使 してはならない。(1) 他 州 における 申 立 が、 自 州 による 管 轄 権 の 行 使 に 異 議 を 述 べる 答 弁 をするために自 州 で 認 められている 期 間 の 経 過 前 に 提 起 され、(2) 相 手 方 当 事 者 が 適 時 に 管 轄 権 の 行 使81 Hay, Borchers and Symeonides, Conflict of Laws, fifth ed at 741.34241


に 異 議 を 述 べ、(3) 他 州 が 子 の home state である 場 合 。国 際 的 な 領 域 においては、 合 衆 国 は 相 互 の 保 証 に 基 づいた 扶 養 命 令 の 承 認 ・ 執 行 を 規 定する 二 国 間 条 約 を 複 数 の 国 と 締 結 している。2007 年 11 月 23 日 には、ハーグ 扶 養 料 の 国 際的 回 収 に 関 する 条 約 が 採 択 されたが、2010 年 の 時 点 で 署 名 したのは 合 衆 国 のみで、いまだ発 効 するには 至 っていない。合 衆 国 においては、 外 国 の 扶 養 命 令 は、 命 令 を 下 した 国 で 変 更 可 能 であったとしても、コミティーの 原 則 のもとで 承 認 されるという 立 場 が 有 力 である。また、 外 国 裁 判 が 承 認 された 場 合 、 合 衆 国 裁 判 所 は、その 変 更 を 求 める 請 求 も 認 めている 82 。3. 夫 婦 間 の 扶 養 について離 婚 事 件 については、たとえ 夫 婦 の 一 方 のみが 法 廷 地 にドミサイルを 有 していた 場 合 であっても 管 轄 が 認 められ、その 判 決 には 他 州 でも 十 分 な 信 頼 と 信 用 が 与 えられる。 離 婚 事件 については 比 較 的 緩 やかに 管 轄 が 認 められることに 鑑 みると、 離 婚 判 決 は 有 効 に 婚 姻 を解 消 し、それには 十 分 な 信 頼 と 信 用 が 与 えられるが、だからといって、それによって 婚 姻に 関 わるすべてのその 他 の 法 的 効 果 が 影 響 を 受 けるとしてしまうと、 一 方 配 偶 者 の 財 産 的利 益 について、その 者 に 対 して 対 人 管 轄 権 を 欠 く 裁 判 所 がその 利 益 を 消 滅 させることになってしまい、それは 妥 当 ではない。これが 離 婚 判 決 効 果 の 可 分 性 (Divisible Divorce)である。Estin v. Estin 事 件 判 決 は、 婚 姻 から 生 じた 経 済 的 利 益 を 妻 が 一 方 的 手 続 で 奪 われることを 妨 げ、 夫 がこれらの 利 益 の 調 整 を 望 むのであれば、 夫 は 妻 に 対 して 対 人 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 で 訴 えを 提 起 しなければならないとした 83 。4. 婚 外 子 扶 養 請 求 訴 訟 (Paternity)父 の 決 定 の 手 続 には、 父 と 推 定 される 者 に 対 する 対 人 管 轄 権 が 必 要 とされる。 従 って、有 効 な 当 事 者 一 方 出 頭 の 離 婚 判 決 の 附 帯 事 項 として 父 であることの 決 定 がなされても、その 承 認 は 認 められないのが 判 例 である(Schilz v. Superior Court, 144 Ariz. 65, 695 P.2d1103 (1985))。いくつかのロングアーム 制 定 法 は、 父 と 推 定 される 者 に 対 する 対 人 管 轄 権 のために 特 定 の 関 連 性 を 必 要 とすることを 示 した 父 の 決 定 手 続 のための 規 定 を 有 している。また、URESA が、 非 嫡 出 子 のための 扶 養 料 の 決 定 に 附 帯 して 父 を 決 定 するために 用 いられることもある。なお、URESA の 下 では、 両 当 事 者 が 裁 判 所 に 出 頭 していない 場 合 には、 父の 決 定 は 不 適 切 である 場 合 がある。5. 外 国 扶 養 命 令 の 承 認統 一 外 国 金 銭 判 決 承 認 法 は、 外 国 扶 養 命 令 を 明 文 で 対 象 外 としている。しかしながら、扶 養 事 件 における 国 際 的 協 力 の 必 要 性 自 体 は 認 識 されており、それは 州 際 間 の 協 力 の 必 要82 Restatement, Second, Conflict of Laws §109, cmnt. (d) (1971).83 334 U.S. 541 (1948).35242


性 が 統 一 州 際 家 族 扶 養 法 につながったのと 同 様 である。 統 一 法 のポリシーに 従 い、 外 国 国家 と 相 互 の 協 定 を 結 んでいる 州 もいくつかある。また、 連 邦 から 補 助 を 受 けている 州 に 対して、 国 務 省 によって 相 互 的 国 家 と 宣 言 されている 外 国 、もしくは 当 該 州 自 身 が 相 互 協 定を 結 んでいる 外 国 で 確 定 された 扶 養 義 務 を 執 行 することを 要 求 している 連 邦 法 もある。また 上 述 の 統 一 法 も、 外 国 の 裁 判 所 で、 統 一 法 の 下 での 手 続 と 実 質 的 に 同 等 の 扶 養 命 令の 発 布 及 び 執 行 のための 手 続 を 確 立 している、あるいはその 旨 規 律 する 法 を 有 しているものについては、 統 一 法 の 下 での 執 行 手 続 を 外 国 裁 判 所 の 命 令 についても 拡 張 している 84 。外 国 の 扶 養 命 令 が、 同 性 婚 や civil union の 解 消 に 併 合 されて 下 された 場 合 には、DOMAを 採 択 している 州 はその 承 認 を 拒 否 することが 予 想 される。(g) 相 続 ( 遺 産 管 理 )1. 遺 言 の 検 認遺 言 の 検 認 (または 無 遺 言 の 死 者 の 遺 産 の 管 理 )の 主 たる 場 所 は、 被 相 続 人 の 死 亡 時 のドミサイルである。そこが 家 族 及 び 財 産 に 関 する 利 益 の 中 心 地 であり、また 通 常 は 被 相 続人 の 財 産 と 最 も 関 連 のある 者 が 所 在 する 場 所 だからである。ドミサイルの 場 所 での 遺 言 検認 は 遺 産 のうち 動 産 について 常 に 重 要 である。ドミサイルでの 動 産 の 遺 言 検 認 が 優 先 されるため、 副 次 的 遺 産 管 理 手 続 の 管 轄 裁 判 所 は、 特 段 の 事 情 がない 限 り、ドミサイルでの 検認 がなされるまでは 検 認 を 拒 絶 することができるとされている。 他 方 で、 被 相 続 人 の 人 的遺 産 が 所 在 する 場 所 ならどこでも、 遺 言 を 検 認 することを 認 めるもしくは 拒 否 する 管 轄 権があるのは 明 白 である。ドミサイルでの 遺 言 検 認 を 優 先 させるというポリシーは、 統 一 遺産 管 理 法 典 (Uniform Probate Code)にも 反 映 されており、そこでは 副 次 的 管 轄 をもつ 裁判 所 をして、 被 相 続 人 のドミサイルの 以 前 の 判 断 に 従 い、ドミサイルの 人 格 代 表 者 の 任 命を 優 先 させることを 要 求 している 85 。2. 遺 産 の 管 理既 に 述 べたように、 被 相 続 人 の 最 後 のドミサイルでの 遺 産 管 理 が 通 常 は 望 ましく、 制 定法 がその 旨 規 定 している 場 合 を 除 いて、 被 相 続 人 が 所 有 する 財 産 がドミサイルのある 州 内に 所 在 することは、ドミサイルで 遺 産 管 理 人 を 任 命 するための 前 提 条 件 ではない。ただ 実際 は、 遺 産 管 理 は 財 産 がある 場 所 ならどこでも 行 うことができる。 従 って、 被 相 続 人 のドミサイルで 行 われるのが 主 たる 遺 産 管 理 手 続 であり、 財 産 所 在 地 であるその 他 全 ての 州 で行 われるのが 副 次 的 手 続 である。ドミサイルの 人 格 代 表 者 による 単 一 の 遺 産 管 理 が 可 能 であるならば、ドミサイルの 人 格 代 表 者 を 任 命 し、この 者 がドミサイルでの 遺 産 管 理 手 続 のために 他 州 にある 財 産 を 回 収 するために 手 続 を 進 めるべきである。84 UISFA,§101(19)(ⅱ)(1996 Act); §102(21)(B)(ⅲ)(2001 Act).85 U.P.C.§§3-202, 3-307 (2006).36243


3. 外 国 裁 判 所 の 行 った 遺 言 検 認 の 承 認被 相 続 人 のドミサイルのある 地 で 有 効 な 遺 言 として 検 認 を 認 められた 遺 言 は、 被 相 続 人が 動 産 を 有 しているその 他 全 ての 地 で 有 効 なものとして 承 認 されるべきである。 単 一 の 相続 手 続 及 び 前 訴 による 排 除 効 のポリシーがこの 見 解 を 支 持 する。これとの 関 係 で、 非 公 式の 検 認 ( 一 方 当 事 者 のみ 出 席 した 場 合 など)と 適 切 な 通 知 をした、あるいは 双 方 の 当 事 者が 出 席 した 公 式 の 検 認 とは 区 別 されるべきである。 両 当 事 者 が 出 席 した、あるいはその 機会 が 与 えられていた 場 合 には、 遺 言 をめぐる 争 いが 一 度 あれば 十 分 であり、たいていの 場合 は、ドミサイルがこの1 回 の 紛 争 にとっては 最 も 適 切 な 法 廷 地 である(そうでないと、たまたま 財 産 が 所 在 するというだけでそれを 管 轄 原 因 として 複 数 の 訴 訟 が 提 起 されることになる)。 従 って、 被 相 続 人 のドミサイルで、 被 相 続 人 の 財 産 の 有 効 な 遺 言 による 処 分 として 遺 言 の 検 認 をするために 書 類 が 認 められたということがされる 場 合 には、 他 の 州 は 当 然に 当 該 検 認 を 最 終 的 なものとして 受 け 入 れることになる。 財 産 所 在 地 の 州 は、ドミサイルを 有 する 州 が 宣 言 することが 被 相 続 人 の 財 産 の 適 切 な 処 分 かを 判 断 することに 利 益 を 有 しているが、 遺 言 が 有 効 なものとして 宣 言 された 場 合 には、その 問 題 は 解 決 されているとされる。ドミサイルを 有 する 地 でなされた 遺 言 の 検 認 、 及 びドミサイルのある 州 の 財 産 に 関 するそれに 基 づく 手 続 には、 当 該 財 産 がその 他 の 地 における 訴 訟 の 対 象 となっている 場 合 には、十 分 な 信 頼 と 信 用 が 与 えられなければならない 86 。 例 えば、 被 相 続 人 がある 州 にドミサイルを 有 していたという 事 実 認 定 は、 管 轄 権 に 関 する 後 訴 を 排 除 すべきである。ただし、 前 訴に 関 与 していなかった 当 事 者 についてはこの 限 りではない。 同 様 に、 被 相 続 人 のドミサイルのある 州 以 外 の 州 における 遺 言 の 検 認 は、その 州 にある 財 産 の 処 分 に 関 しては 最 終 的 なものとされる。ただし、 前 訴 で 争 いがなかった、あるいは 欠 席 のまま 裁 判 がなされた 場 合には、 当 該 裁 判 はそれ 以 外 の 州 では 遺 言 の 有 効 性 の 問 題 を 規 律 するものではない。これに対 して、 前 訴 がなされた 州 で 争 った 当 事 者 は、 同 一 の 問 題 をさらに 争 うことからは 排 除 される。Ⅲ 個 別 事 項 に 関 する 各 州 の 規 定1.カリフォルニア 州 87カリフォルニア 州 においては、 上 位 裁 判 所 (superior court)が 民 事 事 件 をはじめ、 家 族事 件 、 検 認 事 件 及 び 少 年 事 件 の 全 てを 審 理 する。ただし、ほとんどのカウンティーの 上 位裁 判 所 は、Family Court Service Program ないしは 類 似 の 制 度 を 有 しており、 上 位 裁 判 所の 裁 判 官 の 関 与 のもとで、 調 停 人 によって 子 をめぐる 夫 婦 間 の 争 いを 解 決 することを 促 進86 Restatement, Second, §317 (1971).87 カリフォルニア 州 法 については、http://www.leginfo.ca.gov/calaw.html を 参 照 した。37244


している( 調 停 の 手 続 については、カリフォルニア 州 裁 判 所 規 則 (California Rules of Court,rule 5.210 and rule 5.215)、 及 び 遺 産 管 理 法 Division 5, section 1800-1852 が 規 律 している)。 調 停 が 成 立 すると、これは stipulation と 呼 ばれ、 我 が 国 の 訴 訟 上 の 和 解 に 相 当 する。カリフォルニア 州 においては、 家 族 法 (Family Code)が 婚 姻 関 係 事 件 ( 婚 姻 の 無 効 、 解 消及 び 法 的 別 居 )、 子 の 監 護 、 扶 養 ( 夫 婦 間 及 び 子 )、 子 の 監 護 、 親 子 関 係 、 養 子 縁 組 について 規 律 し、 遺 産 管 理 法 (Probate Code)が、 成 年 後 見 及 び 未 成 年 後 見 、 相 続 ( 死 者 の 財 産の 管 理 )についてそれぞれ 規 定 している。 以 下 それぞれの 規 定 を 事 項 ごとにみていくこととする。(1) 婚 姻 関 係 事 件 ( 婚 姻 の 無 効 、 解 消 及 び 法 的 別 居 )婚 姻 の 無 効 、 取 消 及 び 法 的 別 居 ( 以 下 あわせて 婚 姻 関 係 事 件 とする)については、 家 族法 Division 6, section 2000-2452 に 規 定 がある。まず 婚 姻 関 係 事 件 のための 手 続 においては、 裁 判 所 は 以 下 の 点 についても 審 判 することができる。すなわち、1 婚 姻 の 状 態 、2 未成 年 の 子 の 監 護 権 、3 子 の 扶 養 、4 当 事 者 間 の 扶 養 、5 当 事 者 の 財 産 権 の 解 決 、6 弁 護 士費 用 の 支 払 についてである。さらに、カリフォルニア 州 民 事 訴 訟 法 415.50 に 則 って 相 手方 配 偶 者 に 呼 出 状 の 送 達 がされた 場 合 には、 裁 判 所 は、1 州 内 にある 送 達 を 受 けた 配 偶 者の 夫 婦 共 有 財 産 である 不 動 産 及 び 準 共 有 財 産 である 不 動 産 に 対 しても 同 様 の 管 轄 権 を 有 する。また、 裁 判 所 は 召 喚 状 の 中 で、 未 成 年 の 子 を 同 意 なく 州 外 に 連 れ 去 ったり、 財 産 を 勝手 に 処 分 ・ 隠 匿 することを 禁 ずる 仮 の 命 令 をすることもできる( 家 族 法 2040 以 下 )。婚 姻 の 無 効 確 認 を 求 める 申 立 てが 提 起 された 場 合 には、 召 喚 状 と 申 立 てのコピーが 通 常の 民 事 訴 訟 における 文 書 の 送 達 と 同 様 の 方 法 で 相 手 方 に 送 達 される。婚 姻 の 解 消 及 び 法 的 別 居 の 管 轄 については、 居 住 地 要 件 が 設 けられている。すなわち、婚 姻 関 係 の 当 事 者 の 一 人 が 6 カ 月 間 本 州 の 居 住 者 であり、かつ 申 立 の 提 起 に 先 立 つ 3 カ 月間 、 申 立 がされたカウンティーの 居 住 者 であったことが 要 件 とされている。これに 対 して、同 性 婚 の 場 合 には、 以 下 の 一 定 の 要 件 を 満 たせば、 当 事 者 のいずれもが 手 続 開 始 の 時 点 で本 州 の 居 住 者 でなく、またはドミサイルを 有 していなくても、 管 轄 を 認 めている。その 要件 とは、その 婚 姻 がカリフォルニア 州 で 挙 行 され、 離 婚 を 認 めてくれる 州 には 居 住 していない 場 合 である。 同 性 婚 の 解 消 については、 当 該 婚 姻 の 届 け 出 があったカウンティーの 上位 裁 判 所 に 管 轄 が 認 められる。婚 姻 の 解 消 及 び 法 的 別 居 の 手 続 において、 当 事 者 の 書 面 による 合 意 ないしは 口 頭 による裁 判 所 での 訴 訟 上 の 合 意 (stipulation)によって 排 除 されない 限 りで、 裁 判 所 は 財 産 分 与の 判 断 をすることができる( 家 族 法 2550)。また、 統 一 離 婚 承 認 法 を 受 けた 規 定 が、Division 6, Part1. Chapter 8,Section 2090-2093にある。そこでは、 他 の 管 轄 で 得 られた 離 婚 は、 婚 姻 の 両 当 事 者 が 離 婚 のための 手 続 が 開始 された 時 点 で 本 州 にドミサイルを 有 していない 場 合 には、 無 効 であり 何 ら 効 力 を 認 められないとされている(2091)。なお、 他 の 管 轄 で 離 婚 を 得 た 者 が、 手 続 の 開 始 前 12 カ 月 内38245


に 本 州 にドミサイルを 有 していて、そこから 離 れた 日 から 18 カ 月 以 内 に 本 州 に 居 住 していたと 推 定 されるか、 本 州 から 離 れた 後 帰 ってくるまでの 間 ずっと、 本 州 内 に 居 住 場 所 を 維持 していたという 証 拠 は、 離 婚 手 続 が 開 始 された 時 点 でその 者 が 本 州 にドミサイルを 有 していたという 一 応 の 証 拠 となる(2092)。(2) 親 子 関 係 ( 嫡 出 推 定 、 親 子 関 係 存 否 確 認 )親 子 関 係 については、 家 族 法 Division 12, section 7500-7961 に 規 定 がある。このうち、統 一 父 性 法 (Uniform Parentage Act)を 受 けた 規 定 が section 7600 以 下 にあり、7620 が管 轄 について 規 定 している。それによれば、 本 州 において 性 的 交 渉 を 持 ったか、あるいは法 律 上 の 親 となる 意 図 をもって 本 州 で 生 殖 補 助 を 受 けたことにより 懐 胎 を 生 じさせた 者 は、当 該 性 行 為 もしくは 生 殖 補 助 によって 懐 胎 した 可 能 性 のある 子 に 関 する 統 一 父 性 法 の 下 での 訴 えについて、 本 州 の 裁 判 所 の 管 轄 権 に 服 するものとされる。 統 一 父 性 法 の 下 での 訴 えは、 以 下 のいずれかのカウンティーで 提 起 される。1 子 が 居 住 しているか、または 発 見 されたカウンティー。2 子 が 現 在 進 行 中 あるいは 予 定 されている 養 子 縁 組 の 対 象 となっている 場 合 には、 当 該 子 が 譲 渡 されている、あるいはそれが 予 定 されているカリフォルニア 州の 認 可 を 受 けた 養 子 縁 組 エージェンシーが 事 務 所 を 有 するカウンティー。3 子 が 現 在 進 行中 あるいは 予 定 されている 養 子 縁 組 の 対 象 となっている 場 合 には、 養 子 縁 組 の 申 立 てを 審理 している 政 府 機 関 の 事 務 所 あるいは 公 的 養 子 縁 組 エージェンシーの 所 在 地 であるカウンティー。4 父 が 死 亡 している 場 合 には、 当 該 子 の 父 の 遺 産 の 検 認 のための 手 続 が 開 始 されている、もしくは 開 始 されうるカウンティーである。(3) 養 子 縁 組養 子 縁 組 については、 家 族 法 Division 13, section 8500-9340 が 規 定 している。まず、section 9210(a)は、 未 成 年 の 養 子 縁 組 のための 手 続 について 州 が 管 轄 権 を 行 使 できる 場 合 として、 以 下 の 場 合 を 列 挙 している。1 手 続 の 開 始 直 前 に、 養 子 となる 未 成 年 が 当該 州 に 両 親 のいずれか、 後 見 人 、 養 親 となる 者 もしくはその 他 両 親 として 行 動 している 者のいずれかと、 少 なくとも6カ 月 連 続 して 生 活 している 場 合 。 養 子 となる 未 成 年 が 生 後 6カ 月 、 未 満 の 場 合 には、 上 記 のいずれかの 者 と 生 後 直 後 から 共 に 生 活 し、かつ 当 該 州 において 当 該 未 成 年 の 現 状 もしくは 将 来 のケアーに 関 する 重 要 な 証 拠 がある 場 合 。2 手 続 開 始の 直 前 、 養 親 となる 者 が 当 該 州 に 少 なくとも 連 続 して6カ 月 生 活 していて、かつ 当 該 州 において 当 該 未 成 年 の 現 状 もしくは 将 来 のケアーに 関 する 重 要 な 証 拠 がある 場 合 。3 未 成 年の 養 子 縁 組 を 扱 う 機 関 が 当 該 州 に 所 在 し、 当 該 未 成 年 とその 両 親 、あるいは 当 該 未 成 年 と養 親 となる 者 が 当 該 州 と 著 しい 関 連 性 を 有 しており、かつ 当 該 州 において 当 該 未 成 年 の 現状 もしくは 将 来 のケアーに 関 する 重 要 な 証 拠 がある 場 合 。4 養 子 となる 未 成 年 及 び 養 親 となる 者 が 当 該 州 に 物 理 的 に 存 在 しており、かつ 未 成 年 が 遺 棄 され、 又 は 未 成 年 が 虐 待 やネグレクトを 受 けている、あるいはその 恐 れがあるという 理 由 で 当 該 子 を 保 護 することが 緊39246


急 に 必 要 な 場 合 。5 上 記 1から4と 実 質 的 に 合 致 する 要 件 の 下 で 他 のいずれの 州 も 管 轄 権を 有 さないと 思 われるか、 他 の 州 が、 当 該 州 が 審 理 する 方 がより 適 切 であるという 理 由 で管 轄 権 の 行 使 を 拒 絶 し、かつ 当 該 州 において 当 該 未 成 年 の 現 状 もしくは 将 来 のケアーに 関する 重 要 な 証 拠 がある 場 合 、である。さらに section 9211 は、どのカウンティに 養 子 縁 組の 申 立 てをすることが 出 来 るかを 規 定 している。すなわち、1 申 立 人 が 居 住 するカウンティ、2 子 が 出 生 した、もしくは 申 立 の 時 点 で 子 が 居 住 しているカウンティ、3 養 子 縁 組 を扱 っている 機 関 の 事 務 所 が 所 在 するカウンティ、4 申 立 を 調 査 している 役 所 もしくは 公 的養 子 縁 組 機 関 の 事 務 所 が 所 在 するカウンティのいずれかである( 当 該 州 に 居 住 していない者 については1を 除 く)。続 いて、section9219(b)は、 訴 訟 競 合 について 規 律 する。すなわち、 当 該 州 の 裁 判 所 は、未 成 年 の 養 子 縁 組 の 申 立 てがされた 時 点 で、 当 該 未 成 年 の 監 護 権 もしくは 養 子 縁 組 に 関 する 手 続 が 本 条 で 定 める 規 定 と 実 質 的 に 合 致 する 管 轄 権 を 行 使 する 他 の 州 の 裁 判 所 で 係 属 している 場 合 には、 当 該 未 成 年 の 養 子 縁 組 の 手 続 についての 管 轄 権 を 行 使 してはならない。ただし、 他 州 の 手 続 が、 当 該 州 がより 適 切 な 法 廷 地 である、もしくはその 他 の 理 由 で 中 止された 場 合 にはこの 限 りではない。また 同 (c)は、 当 該 州 の 養 子 縁 組 の 手 続 の 対 象 となっている 未 成 年 の 監 護 権 に 関 する 判 決 もしくは 命 令 が 他 州 の 裁 判 所 で 既 に 発 せられている 場 合には、 当 該 州 の 裁 判 所 は 養 子 縁 組 の 手 続 に 関 して 管 轄 権 を 行 使 してはならない。ただし、本 法 に 則 って 他 州 の 裁 判 所 の 命 令 を 修 正 するための 要 件 が 満 たされているか、 他 州 の 裁 判所 が 本 条 の 規 定 と 同 趣 旨 の 基 準 によれば 管 轄 権 を 有 していない 場 合 か、 他 州 の 裁 判 所 が 管轄 権 の 行 使 を 拒 絶 した 場 合 のいずれかに 該 当 し、かつ 当 該 州 の 裁 判 所 が 本 条 の 規 定 に 従 い管 轄 権 を 有 している 場 合 には、この 限 りではない 旨 規 定 する。(4) 親 権 ・ 監 護 権 、 面 会 交 流 権 、 子 の 奪 取 、 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見1) 監 護 権 (Custody)子 の 監 護 及 び 面 会 交 流 については、 家 族 法 Division 8, section 3000-3465 が 規 定 しているが、その 中 でも 重 要 なのは、 統 一 子 監 護 事 件 管 轄 及 び 執 行 法 を 受 けた 規 定 (section3400-3465)である。 詳 細 については、 前 述 の 説 明 を 参 照 されたい。2) 子 の 奪 取子 の 奪 取 については、 前 述 の 説 明 を 参 照 。なお、カリフォルニア 州 においては、 検 察 官及 び 執 行 官 が 子 の 監 護 権 の 執 行 手 続 ( 実 現 )に 関 与 するための 法 律 上 の 権 限 が 30 年 以 上 前から 認 められている。 統 一 法 の「public officials」 条 項 は、カリフォルニア 州 法 をモデルにしたとされる。 同 州 が 統 一 法 を 採 択 したことにより、その 執 行 実 務 に 若 干 の 変 化 はみられるものの、 採 択 前 の 検 察 官 や 執 行 官 の 役 割 を 精 査 することは 非 常 に 有 用 であると 思 われる。カリフォルニア 州 の 検 察 官 は、 子 が 他 州 に 違 法 に( 監 護 命 令 に 違 反 して) 連 れ 去 られた 場合 には、 刑 事 手 続 を 始 めるか、それとも 民 事 的 に 解 決 するかの 判 断 をするために 事 件 の 調40247


査 をする。 民 事 的 な 解 決 を 目 指 す 場 合 には、 連 れ 去 った 親 と 子 の 所 在 を 確 認 し、 電 話 で 奪取 親 に 連 絡 をとり、 法 律 を 説 明 したうえで 任 意 の 返 還 を 促 す。 仮 に 奪 取 親 が 拒 絶 した 場 合には、 検 察 官 は 裁 判 所 から、 検 察 官 に 子 の 取 り 戻 しを 命 ずる 命 令 を 得 るが、この 命 令 は 検察 官 に 仮 の 監 護 権 を 付 与 するものとされる。 検 察 官 は 子 が 所 在 する 管 轄 の 執 行 機 関 及 び 裁判 所 と 連 絡 をとり、 子 の 取 り 戻 しのための 調 整 ( 宿 泊 施 設 の 手 配 など)をする。 法 執 行 機関 が 非 協 力 的 な 場 合 には、 検 察 官 は 州 の 費 用 で 弁 護 士 を 雇 い、 当 該 州 法 下 で 必 要 な 法 的 措置 をとることもできる。 検 察 官 はまた、カリフォルニア 州 の 法 務 長 官 と 協 力 して、ハーグ条 約 がからむ 国 際 的 な 子 の 奪 取 においても 重 要 な 役 割 を 果 たしている。 子 が 同 州 からハーグ 条 約 締 約 国 へ 連 れ 去 られた 場 合 には、 検 察 官 は 子 の 任 意 の 返 還 を 求 めたり、 条 約 の 下 での 裁 判 所 の 訴 訟 手 続 を 子 の 返 還 のために 追 行 する。 子 がハーグ 条 約 締 約 国 から 同 州 に 奪 取されてきた 場 合 には、 検 察 官 が 子 の 所 在 を 探 知 し、 子 の 返 還 のための 申 立 てをすることもある。カリフォルニア 州 では、1991 年 から 1992 年 にかけて、 検 察 官 が 約 8000 件 の 民 事 監護 権 の 実 現 を 援 助 し、 奪 取 された 子 のうち 3000 人 を 取 り 戻 したとされる。3) 成 年 後 見 についての 管 轄カリフォルニア 州 においては、 上 位 裁 判 所 が 後 見 ( 成 年 後 見 及 び 未 成 年 後 見 )についての 職 分 管 轄 を 有 する(Probate Code, section 2200)。 本 州 の 居 住 者 のための 後 見 手 続 の 開 始に 関 して 適 切 なカウンティーは、1 被 後 見 人 とされる 者 が 居 住 する 地 、2 被 後 見 人 とされる 者 の 最 善 の 利 益 となるその 他 の 地 である(2201)。また、 本 州 の 非 居 住 者 の 後 見 のための手 続 を 開 始 するのに 適 したカウンティーは、 以 下 のいずれかである。すなわち、1 被 後 見人 とされる 者 が 一 時 的 に 生 活 をしている 地 、2その 者 の 最 善 の 利 益 となるその 他 の 地 である(2202(a)(1),(2))。4) 未 成 年 後 見 についての 管 轄未 成 年 後 見 については、 被 後 見 人 とされる 者 及 び 後 見 人 とされる 者 が 手 続 開 始 の 直 前 連続 して 6 カ 月 以 上 居 住 する 地 か、 裁 判 所 が 未 成 年 者 が 6 カ 月 未 満 の 場 合 はその 誕 生 から 居住 していた 地 が、 適 切 なカウンティーとされる(see, 2204(a)(1))。ただし、その 要 件 を 充たさなくても、 訴 えが 提 起 された 地 で 後 見 手 続 を 行 うことが 未 成 年 者 の 最 善 の 利 益 にかなうと 裁 判 所 が 判 断 した 場 合 には、 移 送 せずにそのまま 審 理 をしてよいとする( 同 (2))。(5) 扶 養夫 婦 間 の 扶 養 及 び 子 の 扶 養 については、 家 族 法 Division 9, section 3500-5616 が 規 律 しているが、この 中 でも 特 に 重 要 なのが、 統 一 州 際 家 族 扶 養 法 を 受 けた 規 定 である(section4900-5005)。 州 法 の 規 定 は 統 一 法 とは 細 かい 規 定 の 仕 方 等 に 相 違 はあるものの、 管 轄 及 び承 認 要 件 について 大 きな 変 更 はなされていないので、 詳 細 については 前 述 の 説 明 を 参 照 されたい。41248


(6) 相 続遺 産 の 管 理 については、 遺 産 管 理 法 が 規 律 している。 死 者 の 財 産 の 管 理 に 関 する 手 続 は、死 者 が 死 亡 した 場 所 にかかわらず、 死 者 が 死 亡 の 時 点 でドミサイルを 有 していた 州 のカウンティーの 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する(section 7051)。 死 者 が 死 亡 の 時 点 で 当 該 州 にドミサイルを 有 していない 場 合 には、 以 下 のいずれかの 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。1ドミサイルを 有 しない 死 者 の 財 産 が、その 者 が 死 亡 したカウンティーに 所 在 している 場 合 には、その者 が 死 亡 した 場 所 。2ドミサイルを 有 しない 死 者 の 財 産 が 死 亡 した 地 に 存 在 しないか、その 者 が 本 州 以 外 の 州 で 死 亡 した 場 合 には、 死 亡 地 がどこかにかかわらず、その 者 の 財 産 が所 在 するカウンティーに 管 轄 権 を 認 める。もし 財 産 が 複 数 のカウンティーにある 場 合 には、副 次 的 遺 産 管 理 手 続 のための 申 立 てが 最 初 に 提 起 されたところが 適 切 なカウンティーであり、その 裁 判 所 に 遺 産 の 管 理 についての 管 轄 権 が 認 められる(section 7052)。また 遺 産 の 管 理 手 続 においては、ある 人 が、 連 続 して 5 年 間 行 方 不 明 であり、その 不 在が 入 念 な 捜 索 にもかかわらず 満 足 に 説 明 できない 場 合 には、その 人 は 死 亡 したものと 推 定される。その 人 の 死 は、その 死 亡 がそれより 前 に 生 じたという 十 分 な 証 拠 がない 限 りは、5年 が 経 過 した 時 点 で 生 じたものと 推 定 される(section 12401)。 行 方 不 明 の 人 が、 最 後 に 目撃 された、あるいは 便 りがあった 時 点 で 州 内 に 居 住 していた 場 合 いは、その 人 の 最 後 に 知られた 居 住 地 のカウンティーの 上 位 裁 判 所 が、 遺 産 管 理 手 続 について 管 轄 権 を 有 する(section 12403(a))。 行 方 不 明 の 人 が、 最 後 に 目 撃 された、あるいは 便 りがあった 時 点 で州 内 に 居 住 していなかった 場 合 には、その 人 の 不 動 産 が 所 在 するカウンティーか、その 人が 州 内 に 不 動 産 を 有 していない 場 合 には 動 産 があるカウンティーの 上 位 裁 判 所 が 管 轄 権 を有 する( 同 (b))。また、 利 害 関 係 者 、もしくは 姉 妹 州 又 は 外 国 の 人 的 代 表 者 は 誰 でも、1ドミサイルを 有さない 被 相 続 人 の 遺 言 の 検 認 、2 地 元 の 人 的 代 表 者 の 任 命 のいずれか、もしくは 双 方 のために 裁 判 所 に 申 し 立 てることによって 副 次 的 遺 産 管 理 手 続 を 開 始 することができる(section 12510)。 副 次 的 遺 産 管 理 手 続 のための 適 切 なカウンティーは、 上 述 の§7052 に従 って 判 断 される。 被 相 続 人 が 姉 妹 州 にドミサイルを 有 している 間 に 死 亡 した 場 合 には、被 相 続 人 のドミサイルのある 地 の 裁 判 所 によって 任 命 された 人 的 代 表 者 が、その 他 全 ての人 に 優 先 する。ただし、 被 相 続 人 の 遺 言 により 違 う 者 が 当 該 州 において 人 的 代 表 者 とされている 場 合 を 除 く(section 12513)。当 該 州 にドミサイルを 有 さない 被 相 続 人 の 遺 言 が 外 国 法 に 従 って 検 認 された 場 合 には、裁 判 所 は 本 州 において 当 該 遺 言 を 検 認 することを 認 めなければならない。そして、 外 国 において 当 該 遺 言 の 検 認 を 認 めた 命 令 から、 以 下 の 全 ての 要 件 が 満 たされていることが 認 められる 場 合 には、 検 認 に 異 議 を 述 べたり 無 効 を 主 張 することは 許 されない。その 要 件 とは、1 外 国 における 判 断 が、 死 亡 の 時 点 で 被 相 続 人 が 当 該 外 国 にドミサイルを 有 していたという 事 実 に 基 づいてなされていること、2 全 ての 利 害 関 係 者 が 外 国 の 手 続 において 争 うための 通 知 と 機 会 を 与 えられていたこと、3 外 国 における 判 断 が 終 局 的 なものであること、の42249


3つである(section 12523(a))。ただし、 上 記 の 要 件 の 充 足 が 証 明 された 場 合 でも、 遺 言を 認 める 命 令 が 中 立 的 な 裁 判 所 、もしくは 法 の 適 正 条 項 の 要 件 に 合 致 する 手 続 を 提 供 しない 司 法 制 度 の 下 で 下 された 場 合 には、 裁 判 所 は 遺 言 の 承 認 を 拒 否 することができる( 同 (b))。本 法 の 下 で 検 認 を 認 められた、ドミサイルを 有 さない 被 相 続 人 の 遺 言 は、 当 該 州 で 検 認 を認 められた 当 該 州 にドミサイルを 有 している 間 に 死 亡 した 者 の 遺 言 と 同 様 の 効 力 と 効 果 を有 する(section 12524)2.ニューヨーク 州 88ニューヨーク 州 においては、 家 庭 裁 判 所 (Family Court)が、 扶 養 事 件 、 親 子 関 係 存 否確 認 、 監 護 ( 人 身 保 護 、 未 成 年 後 見 含 む)、 成 年 後 見 事 件 、 養 子 縁 組 について、 専 属 的 職 分管 轄 権 を 有 する(Family Court Acts, section 115)。また、 婚 姻 関 係 事 件 ( 婚 姻 の 無 効 、 離婚 及 び 別 居 )については 地 方 裁 判 所 (Supreme Court)が 職 分 管 轄 を 有 するが、 婚 姻 関 係事 件 において 扶 養 、 財 産 分 与 、 監 護 権 などが 併 せて 審 理 されている 場 合 に、これらの 事 件が 地 方 裁 判 所 から 家 庭 裁 判 所 に 移 送 (refer)されることもある。また、 相 続 については 遺言 検 認 裁 判 所 (Surrogate’s Court)が 職 分 管 轄 を 有 する。(1) 婚 姻 関 係 事 件婚 姻 関 係 事 件 については、 家 族 関 係 一 般 について 規 律 する 家 族 関 係 法 (DomesticRelations Law, DOM)に 管 轄 の 規 定 もある。§230 によれば、 婚 姻 の 無 効 を 宣 言 するための 訴 え、 離 婚 を 求 める 訴 え、 別 居 の 訴 えの 管 轄 がニューヨーク 州 に 認 められるのは 以 下 の 5つのいずれかの 場 合 である。すなわち、ニューヨーク 州 が、1 婚 姻 挙 行 地 であり、かつ 手続 開 始 直 前 の 連 続 した 一 年 間 、 当 事 者 のいずれかの 居 住 地 であるか、2 婚 姻 住 所 地 であり、かつ 手 続 開 始 直 前 の 連 続 した 一 年 間 、 当 事 者 のいずれかの 居 住 地 であるか、3 離 婚 原 因 発生 地 であり、かつ 手 続 開 始 直 前 の 連 続 した 一 年 間 、 当 事 者 のいずれかの 居 住 地 であるか、4 離 婚 原 因 発 生 地 であり、かつ 両 当 事 者 が 手 続 開 始 の 時 点 で 居 住 者 であるか、5 手 続 開 始直 前 少 なくとも 2 年 間 連 続 して、 当 事 者 のいずれかの 居 住 地 であった 場 合 である。また、§220 は、 相 手 方 が 失 踪 したことを 理 由 に 婚 姻 を 解 消 するための 特 別 な 手 続 について 規 定 する。この 場 合 にニューヨーク 州 に 管 轄 が 認 められるのは、1 申 立 人 がニューヨーク 州 の 居 住 者 であり、かつ 特 別 手 続 の 開 始 直 前 の 1 年 間 居 住 者 であった 場 合 、もしくは、2 失 踪 した 配 偶 者 が 失 踪 した 時 点 で、 婚 姻 住 所 地 がニューヨーク 州 にあった 場 合 である。この 場 合 、 裁 判 所 は 失 踪 したことを 認 める 実 体 的 要 件 と 特 定 の 事 項 が 告 知 されたことが 証明 されたと 認 めた 場 合 には( 要 件 等 手 続 については§221 を 参 照 )、このような 婚 姻 を 解 消する 終 局 的 な 命 令 を 下 すことができる。88 ニューヨーク 州 法 については、http://public.leginfo.state.ny.us/menuf.cgi を 参 照 した。43250


(2) 扶 養 事 件ニューヨーク 州 は 統 一 州 際 家 族 扶 養 法 を 採 択 している(FCT-Family Court, Article 5-B)ので、それについての 説 明 は 前 述 を 参 照 されたい。そのほかにも、 簡 単 な 管 轄 についての規 定 がある。§421 は、 扶 養 事 件 の 手 続 は、 当 事 者 の 一 方 が、 申 立 て 提 起 の 時 点 で 居 住 しているか、ドミサイルを 有 しているカウンティーで 始 められるとし、 家 庭 裁 判 所 は、 民 事 訴訟 法 (civil practice law and rules)5 条 に 従 って 手 続 の 審 理 の 場 所 を 変 更 することもできると 規 定 している。 申 立 の 提 起 があった 場 合 、 裁 判 所 は 仮 の 保 護 命 令 を 発 することもできるが、この 仮 の 命 令 は 相 手 方 当 事 者 が 欠 席 の 場 合 でも 出 せるし、 相 手 方 を 逮 捕 し 裁 判 所 の面 前 に 連 れてくるよう 命 じる 令 状 の 発 令 と 同 時 の 通 知 をすることで 発 することができる(§430)。また、 地 方 裁 判 所 における 婚 姻 関 係 事 件 において、 裁 判 所 は 職 権 で、または 配 偶 者 のいずれかの 申 立 てに 基 づいて、 扶 養 事 件 や 婚 姻 財 産 の 分 割 の 申 立 て、 監 護 権 や 面 会 交 流 を 定めるための 申 立 ての 判 断 やそれらの 執 行 ないし 変 更 の 申 立 ての 判 断 を 家 庭 裁 判 所 に 付 託 することができる(§464、467)。(3) 親 子 関 係 存 否 確 認親 子 関 係 存 否 確 認 ( 父 性 確 定 )のための 手 続 は、 母 もしくは 子 が 居 住 しているか、 発 見されたカウンティーか、 父 と 推 定 される 者 が 居 住 しているか 発 見 されたカウンティーで 始められる。 子 がニューヨーク 州 以 外 の 場 所 で 生 まれたという 事 実 は、 上 記 いずれかのカウンティーで 父 性 確 定 のための 手 続 を 禁 じるものではない(§521)。 父 を 定 めるための 手 続が 始 められた 時 には、 裁 判 所 は 職 権 又 は 本 法 の 下 で 扶 養 の 申 立 てを 提 起 する 資 格 のある 当事 者 の 申 立 てにより、 母 親 に 子 を 扶 養 することを 強 制 する 申 立 ての 提 起 を 命 じることができる(§563)。(4) 親 権 ・ 監 護 権 、 未 成 年 後 見監 護 権 については、 家 族 関 係 法 (DOM)に 規 定 があるが、そのうち Article 5-A は、 統一 子 の 監 護 管 轄 権 及 び 執 行 法 を 受 けた 規 定 である。 詳 しくは 前 述 の 説 明 を 参 照 されたい。(5) 養 子 縁 組 事 件養 子 縁 組 については、 家 庭 裁 判 所 と 検 認 後 見 裁 判 所 が 競 合 して 管 轄 権 を 有 する(FCT §641)。 養 子 縁 組 の 手 続 は、 実 親 の 権 利 の 終 了 や、 養 子 縁 組 機 関 への 監 護 権 や 後 見 の 付 与 の手 続 と 併 せて 行 われるようである。 私 的 な 養 子 縁 組 の 場 合 には、 手 続 は 養 親 が 居 住 するカウンティーか、 養 親 が 当 該 州 に 居 住 していない 場 合 には、 養 子 となる 子 どもが 居 住 するカウンティーで 開 始 されなければならない(DOM §115)。外 国 の 裁 判 所 、 行 政 機 関 等 が 下 した 養 子 縁 組 許 可 は、 一 定 の 要 件 を 満 たせば、ニューヨーク 州 の 管 轄 権 のある 裁 判 所 の 下 した 命 令 と 同 様 の 効 果 を 認 める。その 要 件 とは、1 養 親44251


のいずれかがニューヨーク 州 に 居 住 しており、かつ、2 外 国 でなされた 養 子 縁 組 の 有 効 性が、 当 該 子 に 関 して、 合 衆 国 の 移 民 局 の 所 定 のビザの 認 可 によって 証 明 されたことである。この 要 件 を 満 たした 外 国 の 養 子 縁 組 許 可 は、ニューヨーク 州 法 の 下 で 最 終 的 なものとされる。 外 国 養 子 縁 組 許 可 の 登 録 を 求 める 申 立 ては、 氏 の 変 更 の 申 立 てと 併 合 してできる(DOM§111-c)。(6) 相 続相 続 ( 遺 言 の 検 認 、 財 産 管 理 )に 関 する 手 続 や 訴 訟 は、 検 認 後 見 裁 判 所 (surrogate’s court)が 職 分 管 轄 を 有 する。 管 轄 権 については、 検 認 後 見 裁 判 所 手 続 法 (Surrogate’s CourtProcedure, SCP)の 中 に 規 定 がある。裁 判 所 の 対 人 管 轄 権 は、 当 事 者 に 対 する 送 達 、 送 達 を 放 棄 することによって 裁 判 所 の 管轄 権 に 服 する 意 思 表 示 、 成 人 の 適 格 当 事 者 本 人 の 出 頭 又 は 訴 訟 代 理 人 の 出 頭 もしくはプリーディングによって 得 られる(§203)。いずれのカウンティーの 検 認 後 見 裁 判 所 も、 死 亡 、失 踪 または 強 制 収 容 の 時 点 でニューヨーク 州 にドミサイルを 有 していた 被 相 続 人 の 財 産 に関 して 管 轄 権 を 有 する。 裁 判 官 は、 職 権 または 当 事 者 の 申 立 てにより、いかなる 手 続 も、適 切 なカウンティーの 検 認 後 見 裁 判 所 に 移 送 することができる。 他 方 で、いずれのカウンティーの 検 認 後 見 裁 判 所 も、 適 切 な 裁 判 地 として、その 死 亡 の 時 点 でニューヨーク 州 にドミサイルを 有 していた 被 相 続 人 及 び 2001 年 9 月 11 日 のテロ 攻 撃 の 結 果 として 負 った 傷 害がもとで 死 亡 した 被 相 続 人 の 手 続 について、 管 轄 権 を 有 する(§205)。これに 対 して、 被 相 続 人 がニューヨーク 州 にドミサイルを 持 たない 場 合 でも、その 者 が 州内 に 財 産 を 遺 したている、 又 は 同 州 のドミサイルを 有 する 者 に 対 する 不 法 死 亡 のための 訴訟 原 因 を 残 している 場 合 には、 検 認 後 見 裁 判 所 がその 者 の 財 産 に 対 して 管 轄 権 を 有 する。このような 財 産 に 関 連 した 手 続 のための 適 切 な 裁 判 地 は、1ドミサイルを 持 たない 被 相 続人 が 財 産 を 遺 したカウンティーか、2ドミサイルを 持 たない 被 相 続 人 に 帰 属 する 動 産 が、その 死 亡 、 失 踪 又 は 強 制 収 容 の 時 以 来 管 理 されていない 状 態 にあるカウンティーか、3ドミサイルを 有 さない 者 が 不 法 死 亡 のための 訴 訟 原 因 を 残 した 相 手 方 のドミサイルのあるカウンティーである。 適 切 な 裁 判 所 が 複 数 ある 場 合 には、 手 続 が 最 初 に 開 始 された 裁 判 所 が管 轄 権 を 有 し、 他 のカウンティーの 検 認 後 見 裁 判 所 において 係 属 しているドミサイルを 有さない 被 相 続 人 の 財 産 に 関 する 事 項 は、 当 該 裁 判 所 に 付 託 されるものとする。 裁 判 官 は、職 権 または 当 事 者 の 申 立 てにより、 適 切 なカウンティーの 検 認 後 見 裁 判 所 に 手 続 を 移 送 できる。3. ルイジアナ 州 89ルイジアナ 州 では、 子 に 関 する 事 件 ( 子 の 監 護 ( 面 会 交 流 を 含 む)、 養 子 縁 組 、 扶 養 、 未89 ルイジアナ 州 法 については、http://www.legis.state.la.us/を 参 照 した。45252


成 年 後 見 )の 管 轄 (Juvenile Jurisdiction)は、Caddo, Orleans, Jefferson, East Baton Rougeにおいては、 特 別 少 年 裁 判 所 ( 特 別 家 庭 裁 判 所 )の 専 属 管 轄 であり、それ 以 外 は、 地 方 裁判 所 (District Courts)と 区 裁 判 所 (Parish Court)とシティーコートが 同 時 に 管 轄 を 有 する(Children’s Code, TITEL Ⅲ, Chapter 2. Art. 302.)。(1) 婚 姻 関 係 事 件婚 姻 の 無 効 もしくは 離 婚 を 求 める 訴 えは、 当 事 者 のいずれかがドミサイルを 有 している区 か、 最 後 の 婚 姻 ドミサイルのある 区 に 管 轄 権 がある(CCP 3941)。(2) 子 に 関 する 事 件子 に 関 する 事 件 については、 別 段 の 定 めなきときは、1 子 がその 親 又 は 後 見 人 と 共 にドミサイルを 有 している 区 (parish)、2 子 が 居 住 している 区 、3 不 服 を 申 し 立 てられている行 為 が 行 われた、あるいは 不 服 の 対 象 となっている 状 態 が 存 在 している 区 、4 子 が 発 見 される 区 のいずれかで 始 めることができる(Art. 314)。また、 申 立 てがなされた 裁 判 所 は、いつの 時 点 でも、 当 事 者 及 び 証 人 の 便 宜 のため、 及 び 司 法 の 利 益 のため、 上 記 のいずれかの 別 の 裁 判 所 に 事 件 を 移 送 することができる(Art. 315. A.)。また、 申 立 てがなされた 裁 判所 は、1 子 がその 親 もしくは 後 見 人 とともに 別 の 区 にドミサイルを 有 しており、かつ2 子がドミサイルを 有 する 裁 判 所 で 現 在 手 続 が 係 属 しているという 情 報 を 得 た 場 合 には、 決 定により、 手 続 を 移 送 しなければならない(Art. 315. B)。(3) 監 護 権 及 び 扶 養 事 件民 事 訴 訟 法 (Code of Civil Procedure, CCP)にも 子 の 監 護 権 及 び 扶 養 の 事 件 の 管 轄 に 関する 規 定 がある。 未 成 年 の 監 護 権 獲 得 又 は 扶 養 義 務 の 確 定 のための 手 続 は、 当 事 者 のいずれかのドミサイルがある 区 か、 最 後 の 婚 姻 ドミサイルのある 区 に 提 起 されうる。また、 監護 権 の 変 更 を 求 める 手 続 は、 監 護 権 者 がドミサイルを 有 する 区 か、 監 護 権 の 裁 判 を 下 した区 に 提 起 されうる。 監 護 権 者 がもはやルイジアナ 州 にドミサイルを 有 していない 場 合 には、監 護 権 の 変 更 を 求 める 者 がドミサイルを 有 する 区 か、 監 護 権 の 裁 判 を 下 した 区 に 提 起 されうる(CCP Art.74.2)。 子 の 監 護 権 に 関 する 規 律 は、 前 述 の 統 一 法 を 受 けた 規 定 が RevisedStatute 13:1801 以 下 にある。扶 養 命 令 の 修 正 を 求 める 手 続 は 以 下 のいずれかの 区 で 提 起 されうる。12785 条 以 下の 規 定 によって 扶 養 命 令 が 登 録 された 区 に 扶 養 料 請 求 権 者 がドミサイルを 有 している 場 合にはその 区 、2 扶 養 命 令 がルイジアナ 州 の 他 の 裁 判 所 に 登 録 されていない 場 合 には、その命 令 を 下 した 区 、3 扶 養 命 令 がルイジアナ 州 の 複 数 の 裁 判 所 で 登 録 されている 場 合 には、最 後 に 登 録 された 区 、4 扶 養 料 請 求 権 者 がルイジアナ 州 にもはやドミサイルを 有 していない 場 合 には、 相 手 方 がドミサイルを 有 している 区 か、 扶 養 命 令 が 下 された 区 か、 扶 養 命 令が 最 後 に 確 認 された 区 のうちのいずれかの 区 である(CCP Art.74.2)。46253


(4) 養 子 縁 組養 子 縁 組 については、まず 裁 判 所 が、 養 子 に 出 される 子 の 親 の 権 利 及 び 義 務 を 終 了 させ、子 を 養 子 に 出 すことを 認 めるための 手 続 をとる 必 要 がある。これらの 手 続 において 最 も 重要 なのは、 子 の 最 善 の 利 益 を 保 護 することにあり、 親 の 権 利 の 終 了 が、 子 を 安 全 かつふさわしい 家 庭 に 永 続 的 におくため(すなわち、 養 子 縁 組 )の 最 初 のステップと 考 えられている(Art. 1001.)。これらの 手 続 についての 管 轄 権 は、 上 記 に 述 べた 子 の 事 件 についての 管轄 権 と 同 様 である(Art. 1006.1)。ただし、 養 親 となる 者 が 州 内 に 少 なくとも 8 カ 月 間 ドミサイルを 有 していないか、 子 が 行 政 機 関 の 監 護 にない 場 合 には、 親 権 を 放 棄 する 親 は 少 なくとも 8 カ 月 州 内 にドミサイルを 有 していなければならない(Art. 1109.)。 養 子 縁 組 、すなわち、 子 をふさわしい 家 庭 に 永 続 的 におくことを 促 進 する 手 続 について、ルイジアナ 州では 以 下 の3つのタイプの 養 子 縁 組 がある。すなわち、エージェンシーによる 養 子 縁 組 、私 的 な 養 子 縁 組 、 家 族 内 養 子 縁 組 である。いずれについても、 子 の 養 子 縁 組 のための 手 続は、1 申 立 人 がドミサイルを 有 する 区 の 家 庭 裁 判 所 、2 子 の 監 護 権 者 がドミサイルを 有 する 区 の 家 庭 裁 判 所 、3 養 子 に 出 される 子 が 任 意 に 差 し 出 された 区 の 家 庭 裁 判 所 、4 子 がケアーが 必 要 であると 裁 判 されたか、あるいはその 手 続 が 係 属 している 家 庭 裁 判 所 、5 養 子に 出 される 子 に 関 して 親 の 親 権 を 以 前 に 終 了 させた 家 庭 裁 判 所 のいずれかで 始 めることができる(Art. 1180. A)。なお、 成 人 の 養 子 縁 組 の 場 合 は、 養 子 縁 組 のいずれかの 当 事 者 のドミサイルがある 区 の 裁 判 所 に 管 轄 がある(CCP Art.74.5)。さらに、 外 国 で 生 まれた 孤 児 をルイジアナ 州 にドミサイルを 有 する 者 が 養 子 にする(Intercountry adoption of a foreign orphan) 場 合 には、 申 立 人 がドミサイルを 有 する 区の 家 庭 裁 判 所 か、 子 の 監 護 権 者 がドミサイルを 有 する 区 の 家 庭 裁 判 所 のいずれかで、 手 続を 開 始 することができる(TITLE Ⅻ-A. Chapter 1. Art. 1281.6A)。(5) 遺 産 管 理遺 産 管 理 の 手 続 は、 被 相 続 人 が 死 亡 の 時 点 でドミサイルを 有 していた 区 の 地 方 裁 判 所 に提 起 されなければならない。 被 相 続 人 がルイジアナ 州 にドミサイルを 有 していない 場 合 には、その 遺 産 管 理 の 手 続 は 以 下 のいずれかの 区 の 地 方 裁 判 所 で 始 められる。1 被 相 続 人 の不 動 産 所 在 地 、 又 は2 被 相 続 人 が 死 亡 の 時 点 でルイジアナ 州 に 何 ら 不 動 産 を 有 していない場 合 には、その 動 産 所 在 地 である(Code of Civil Procedure, CCP Art.2811)。(6) 外 国 裁 判 の 承 認 及 び 執 行外 国 裁 判 の 承 認 については、 民 事 訴 訟 法 (CCP) 及 び Revised Statute(RS) に 規 定 がある。 一 般 的 な 規 定 としては、RS 13:4242 が、 外 国 判 決 はルイジアナ 州 で 下 された 判 決 と 同一 の 方 法 で 扱 われ、 同 一 の 方 法 で 執 行 されうると 規 定 する。また、CCP 2541 は、この 方 法以 外 にも、 判 決 の 債 務 者 に 対 して、 適 切 なルイジアナ 州 の 裁 判 所 にもともとの 訴 えを 提 起47254


し、 当 該 外 国 裁 判 を 承 認 しルイジアナ 州 裁 判 所 の 判 断 としてもらうこともできるとする(CCP 2542 には 外 国 判 決 の 承 認 が 拒 否 されうる 場 合 が 規 定 されているが、この 規 定 は 名 誉毀 損 に 関 する 判 決 に 限 定 されたものである)。さらに、RS 13:4244 は、 債 務 者 が、 外 国 裁 判に 対 して 控 訴 が 係 属 している、 又 は 控 訴 する 予 定 があること、もしくは 執 行 の 中 止 が 認 められていることを 証 明 した 場 合 には、 裁 判 所 は、 控 訴 審 が 終 結 するか、 控 訴 期 間 が 徒 過 するか、あるいは 執 行 の 中 止 がとける 又 は 無 効 になるまで、 債 務 者 が 当 該 外 国 裁 判 を 下 した国 の 法 に 従 って 担 保 を 立 てたことを 証 明 したことを 条 件 に、 外 国 裁 判 の 執 行 を 中 止 しなければならない、と 規 定 する。48255


6. 中 華 人 民 共 和 国( 執 筆 担 当 : 帝 塚 山 大 学 黄 軔 霆 )中 国 では 法 文 上 、「 非 訟 」という 概 念 はなく、また 人 事 訴 訟 法 もなく、すべての 民 事 裁 判は 民 事 訴 訟 法 による。 民 事 訴 訟 法 では、 督 促 手 続 と 公 示 催 告 手 続 を 定 め、「 選 挙 人 資 格 事 件 」、「 失 踪 宣 告 および 死 亡 宣 告 事 件 」、「 民 事 行 為 無 能 力 および 制 限 能 力 認 定 事 件 」と「 無 主 財産 認 定 事 件 」について「 特 別 手 続 」によることを 定 める 以 外 、その 他 の 訴 訟 はすべて 通 常の 手 続 きによる。民 事 訴 訟 法 以 外 の 法 源 として、 最 高 裁 である 最 高 人 民 法 院 が 法 解 釈 を 統 一 するために 裁判 実 務 に 基 づき 定 める「 司 法 解 釈 」が 重 要 で、また 外 国 判 決 の 承 認 執 行 に 関 しては、 二 国間 司 法 共 助 条 約 に 関 連 規 定 が 設 けられることが 多 く、これらの 条 約 の 相 手 国 との 間 では、民 事 訴 訟 法 ではなく、 条 約 によって 判 決 の 相 互 承 認 が 判 断 される。1 国 際 裁 判 管 轄 全 般中 国 民 事 訴 訟 法 1は 第 4 編 「 渉 外 民 事 訴 訟 手 続 の 特 別 規 定 」において、 財 産 事 件 に 関 する国 際 裁 判 管 轄 の 管 轄 原 因 を 定 めている(241 条 ~244 条 )。また、 同 編 の 一 般 規 定 である 235条 第 2 文 は、「この 編 に 規 定 のない 場 合 には、この 法 律 のその 他 の 関 係 規 定 を 適 用 する」と定 めているため、 民 事 訴 訟 法 22 条 ないし 34 条 に 設 けられている 国 内 土 地 管 轄 の 規 定 が 渉外 民 事 訴 訟 においても 適 用 される。(1) 管 轄 原 因 ( 特 に「 住 所 」 又 は「 常 居 所 」/その 概 念 ); 管 轄 の 専 属 性 の 有 無 ; 附 帯 処分 ; 主 観 的 併 合 , 応 訴 管 轄 , 合 意 管 轄 , 緊 急 管 轄 の 可 否 ほか1 管 轄 原 因・ 普 通 裁 判 籍 としての 被 告 住 所 地 / 被 告 常 居 所 地民 事 訴 訟 法 22 条 1 項 は、「 公 民 が 提 起 する 民 事 訴 訟 は、 被 告 の 住 所 地 の 人 民 法 院 が 管 轄する。 被 告 の 住 所 地 と 経 常 的 居 住 地 が 一 致 しない 場 合 には、 経 常 的 居 住 地 の 人 民 法 院 が 管轄 する」と 規 定 している。これは 被 告 住 所 地 を 普 通 裁 判 籍 であると 定 め、 被 告 の 住 所 地 が常 居 所 地 と 一 致 しない 場 合 、つまり 被 告 が 経 常 的 に 住 所 地 を 離 れて 他 の 地 に 居 住 する 場 合1 1991 年 4 月 9 日 制 定 、2007 年 10 月 28 日 改 正 。1256


に、 被 告 常 居 所 地 の 裁 判 所 が 管 轄 すると 定 めるものである。ここにいう「 住 所 地 」、「 常 居 所 地 」について 民 事 訴 訟 法 自 身 に 特 に 定 義 されていないが、中 国 では 法 源 とされる、 民 事 訴 訟 法 に 関 する 中 国 最 高 裁 の 司 法 解 釈 「『 民 事 訴 訟 法 』の 適 用に 係 わる 若 干 問 題 に 関 する 意 見 」 2 ( 以 下 「 民 訴 法 実 施 意 見 」という)4 条 と 5 条 は、それぞれ 管 轄 原 因 としての 住 所 地 と 常 居 所 地 を 定 義 している。すなわち、4 条 によれば、 自 然 人の「 住 所 地 」とは 戸 籍 所 在 地 であり、 法 人 の「 住 所 地 」とは 主 たる 営 業 地 ないし 主 たる 事務 所 所 在 地 である。また、5 条 によれば、 自 然 人 の「 常 居 所 地 」とは、 自 然 人 が 入 院 する 場合 を 除 き、 住 所 地 を 離 れ、 訴 えの 提 起 まで 継 続 して 1 年 以 上 居 住 する 地 を 意 味 するものである。もっとも、 裁 判 実 務 上 、 外 国 人 夫 婦 の 離 婚 訴 訟 について 被 告 住 所 地 管 轄 を 認 める 際 に、当 事 者 双 方 が 中 国 に 居 住 し、かつ 離 婚 の 意 思 があることなど 他 の 要 素 も 考 慮 し 抑 制 的 な 姿勢 を 採 っているようである 3 。・ 身 分 関 係 訴 訟 における 原 告 住 所 地 管 轄民 事 訴 訟 法 23 条 は、「 中 華 人 民 共 和 国 の 領 域 内 に 居 住 していない 者 に 対 して 提 起 された身 分 関 係 に 関 する 訴 訟 」( 同 条 1 号 )と、「 行 方 が 不 明 であり、 又 は 失 踪 を 宣 告 された 者 に対 して 提 起 された 身 分 関 係 に 関 する 訴 訟 」( 同 2 号 )は、「 原 告 の 住 所 地 の 人 民 法 院 が 管 轄する。 原 告 の 住 所 地 と 経 常 的 居 住 地 とが 一 致 しない 場 合 には、 原 告 の 経 常 的 居 住 地 の 人 民法 院 が 管 轄 する。」( 同 柱 書 )と 定 め、 被 告 住 所 地 原 則 に 対 する 例 外 として、 原 告 住 所 地 管轄 を 定 めている。また、 身 分 関 係 訴 訟 に 限 定 しないが、 同 条 3、4 号 は、 拘 禁 された 者 などに 対 する 訴 訟 についても、 原 告 住 所 地 管 轄 を 認 めている。もっとも、 裁 判 実 務 上 、 中 国 人 原 告 から 提 起 される 離 婚 訴 訟 について 原 告 住 所 地 管 轄 を適 用 する 例 が 多 いが、 外 国 人 が 原 告 となる 離 婚 訴 訟 について、 基 本 的 に 原 告 住 所 地 管 轄 を認 めないようである 4 。2 1992 年 7 月 14 日 「 最 高 人 民 法 院 関 于 適 用 『 中 華 人 民 共 和 国 民 事 訴 訟 法 』 若 干 問 題 的 意見 」 法 発 (1992)22 号 。3 拙 稿 ( 黄 軔 霆 )「 中 国 の 渉 外 家 事 実 務 と 日 本 」 国 際 私 法 年 報 9 号 175-178 頁 参 照 。4 拙 稿 ・ 同 上 。2257


・ その 他 の 管 轄 原 因民 訴 法 実 施 意 見 15 条 、16 条 は、 華 僑 5 以 外 の 中 国 人 夫 婦 の 渉 外 離 婚 について、 本 国 管 轄を 認 めている。「15 条 一 方 が 国 外 に 居 住 し、 一 方 が 国 内 に 居 住 する 中 国 人 の 離 婚 訴 訟 について、いずれの 当 事 者 が 訴 訟 を 提 起 するかを 問 わず、 国 内 に 居 住 する 当 事 者 の 住 所 地 の 人 民 法 院 が 管轄 を 有 する。 国 外 に 居 住 する 当 事 者 が 居 住 国 裁 判 所 に 訴 訟 を 提 起 し、 国 内 に 居 住 する 当 事者 が 国 内 裁 判 所 に 訴 訟 を 提 起 した 場 合 に、 国 内 裁 判 所 は 管 轄 を 有 する。16 条 国 外 に 所 在 するが 定 住 していない 中 国 人 間 の 離 婚 について、 一 方 当 事 者 が 人 民 法院 に 離 婚 訴 訟 を 提 起 した 場 合 に、 原 告 又 は 被 告 の 原 住 所 地 の 人 民 法 院 が 管 轄 する。」また、 後 述 するように、 華 僑 間 の 離 婚 訴 訟 について、 緊 急 管 轄 としての 本 国 管 轄 が 認 められている。なお、 財 産 関 係 事 件 に 関 する 管 轄 原 因 は、 民 事 訴 訟 法 24~33 条 、 渉 外 的 財 産 関 係 事 件 に関 する 管 轄 原 因 は、 同 241~244 条 に 定 められている。・ 管 轄 の 専 属 性 の 有 無民 事 訴 訟 法 34 条 は、 専 属 管 轄 に 関 する 規 定 であり、34 条 1 号 は「 不 動 産 に 係 る 紛 争 について 提 起 される 訴 訟 」、 同 3 号 は「 相 続 財 産 に 係 る 紛 争 について 提 起 される 訴 訟 」を、それぞれ「 不 動 産 所 在 地 の 人 民 法 院 」と「 被 相 続 人 の 死 亡 時 の 住 所 地 又 は 主 要 な 遺 産 の 所 在地 の 人 民 法 院 」が 専 属 的 に 管 轄 すると 定 めている。また、 民 事 訴 訟 法 244 条 は、 特 殊 な 類 型 の 渉 外 契 約 について 中 国 裁 判 所 が 専 属 的 に 管 轄すると 定 める 規 定 である。・ 附 帯 処 分中 国 婚 姻 法 では、 未 成 年 の 子 の 撫 養 、 夫 婦 の 財 産 分 割 等 は 離 婚 自 体 と 一 体 して 処 理 されるべき 問 題 と 捉 えている。たとえば、 夫 婦 に 離 婚 の 合 意 があっても、 子 の 撫 養 と 夫 婦 財 産の 問 題 について 協 議 が 整 っていない 場 合 には、 協 議 離 婚 は 認 められず、 必 ず 裁 判 離 婚 によらなければならない。 従 って、 裁 判 離 婚 において 離 婚 自 体 の 認 容 に 付 随 して、 当 然 に 子 の撫 養 その 他 の 問 題 も 一 括 して 処 理 される。これらの 処 分 には、 未 成 年 の 子 と 共 同 生 活 し 直 接 に 撫 養 する 者 、 直 接 に 撫 養 しない 者 が5 ここでいう 華 僑 とは、 一 般 的 に、 外 国 に 定 住 する 中 国 国 籍 の 人 をいう。3258


負 担 する 子 の 撫 養 費 ( 生 活 費 、 教 育 費 と 医 療 費 など)、 子 との 面 接 の 方 式 と 時 間 、 夫 婦 の 財産 分 割 と 債 務 負 担 、 財 産 分 与 、 離 婚 に 対 する 損 害 賠 償 などが 含 まれる。・ 主 観 的 併 合民 事 訴 訟 法 53 条 1 項 は、「 当 事 者 の 一 方 又 は 双 方 が 2 名 以 上 である 場 合 において、その訴 訟 物 が 共 同 であり、または 訴 訟 物 が 同 一 の 種 類 であり、 人 民 法 院 が 併 合 審 理 することができると 認 め、かつ、 当 事 者 の 同 意 を 得 たときは、 共 同 訴 訟 とする」と 定 めている。このうち、「 訴 訟 物 が 共 同 」である 前 者 は、「 必 要 的 共 同 訴 訟 」とされ、 事 件 の 併 合 が 法的 に 要 求 される。これには、 遺 産 相 続 事 件 が 含 まれる( 民 訴 法 実 施 意 見 54 条 )。その 管 轄は、 各 共 同 被 告 に 共 通 する 法 廷 地 のほかに、いずれかの 被 告 の 住 所 地 若 しくは 常 居 所 地 にも 認 められる( 民 事 訴 訟 法 22 条 3 項 )。これに 対 し、「 訴 訟 物 が 同 一 の 種 類 」である 後 者 は、「 通 常 共 同 訴 訟 」とされ、 併 合 されるには、 各 当 事 者 の 承 認 が 必 要 であるほか、 共 同 被 告 のいずれについても 法 廷 地 に 管 轄 権があることが 前 提 とされる 6 。・ 応 訴 管 轄民 事 訴 訟 法 243 条 は、「 渉 外 民 事 訴 訟 の 被 告 が 人 民 法 院 の 管 轄 に 対 して 異 議 を 提 起 せず、かつ 訴 えに 応 じて 答 弁 した 場 合 には、 当 該 人 民 法 院 を 管 轄 権 を 有 する 裁 判 所 として 承 認 したものとみなす。」と 定 めて、 渉 外 事 件 に 限 って 応 訴 管 轄 を 認 めている。 国 内 事 件 で 応 訴 管轄 を 認 めないのは、1 国 内 に 移 送 管 轄 という 制 度 があること、2 管 轄 規 則 及 び 管 轄 権 に 対する 異 議 申 立 の 制 度 に 詳 しくないような 被 告 を 保 護 する 必 要 性 、の2 点 が 理 由 とされる 7 。応 訴 管 轄 が 成 立 するには、 被 告 が 管 轄 権 に 異 議 を 申 し 立 てないことと、 紛 争 の 実 質 問 題に 対 し 答 弁 を 行 ったことの 両 方 を 同 時 に 具 備 することが 必 要 とされる。 専 ら 管 轄 権 を 争 うために 裁 判 所 に 出 頭 した 場 合 はもちろん、 被 告 が 管 轄 権 を 争 う 一 方 、 実 質 的 抗 弁 も 行 った場 合 にも、 応 訴 管 轄 が 成 立 しないとされる 8 。243 条 に 基 づく 応 訴 管 轄 が 財 産 関 係 事 件 に 適 用 されることはもちろんであるが、 同 条 の 法文 上 、 渉 外 性 以 外 に 対 象 紛 争 を 特 に 限 定 していないため、 渉 外 家 事 事 件 にも 適 用 できると6 柴 発 邦 編 『 民 事 訴 訟 法 学 新 編 』( 法 律 出 版 社 、1992 年 )165 頁 、 陳 桂 明 編 『 民 事 訴訟 法 与 仲 裁 法 学 』( 法 律 出 版 社 、2000 年 )38 頁 参 照 。7 陳 桂 明 ・ 前 掲 注 (6)23-24 頁 参 照 。8 姚 壮 編 『 国 際 私 法 理 論 与 実 務 』( 法 律 出 版 社 、1992 年 )187 頁 参 照 。4259


解 し 得 る。 裁 判 実 務 において 同 規 定 に 基 づき 渉 外 離 婚 事 件 の 管 轄 権 を 認 めた 例 があるとされる 9 。・ 合 意 管 轄中 国 民 事 訴 訟 法 は 国 内 事 件 の 合 意 管 轄 と 渉 外 事 件 の 合 意 管 轄 を 区 別 して 定 めている。 国内 事 件 の 合 意 管 轄 について 定 めた 民 事 訴 訟 法 25 条 は、「 契 約 の 当 事 者 双 方 は、 書 面 による契 約 において 被 告 の 住 所 地 、 契 約 履 行 地 、 契 約 締 結 地 、 原 告 の 住 所 地 、 目 的 物 の 所 在 地 の人 民 法 院 の 管 轄 を 合 意 して 選 択 することができる。ただし、この 法 律 の 審 級 管 轄 および 専属 管 轄 についての 規 定 に 違 反 してはならない。」と 規 定 し、 合 意 管 轄 を 契 約 関 係 事 件 に 限 定し、かつ 合 意 できる 法 廷 地 の 範 囲 は 原 被 告 住 所 地 、 契 約 履 行 地 、 契 約 締 結 地 、 請 求 の 目 的物 所 在 地 に 限 定 している。これに 対 して、 渉 外 事 件 の 合 意 管 轄 について 定 めた 民 事 訴 訟 法 242 条 は、「 渉 外 契 約 又 は渉 外 財 産 権 益 に 係 る 紛 争 の 当 事 者 は、 書 面 により、 紛 争 と 実 際 的 な 関 連 を 有 する 場 所 の 裁判 所 が 管 轄 することを 合 意 して 選 択 することができる。 中 華 人 民 共 和 国 の 法 院 の 管 轄 を 選択 する 場 合 には、この 法 律 の 審 級 管 轄 および 専 属 管 轄 に 関 する 規 定 に 違 反 してはならない。」と 規 定 し、 財 産 関 係 事 件 に 限 り 合 意 管 轄 が 許 容 されること、 合 意 される 裁 判 所 が 紛 争と 実 質 的 関 連 を 有 することを 要 求 している。ここにいう 合 意 管 轄 が 法 定 管 轄 以 外 に 管 轄 を 創 設 する 付 加 的 管 轄 の 合 意 (prorogation)か、それとも 法 定 管 轄 を 排 除 する 専 属 的 管 轄 の 合 意 (derogation)かについて、 中 国 法 に 明 文 規 定はないが、 学 説 上 も 実 務 上 もその 双 方 が 認 められている。・ 緊 急 管 轄中 国 民 事 訴 訟 法 では、 一 般 的 に 緊 急 管 轄 を 認 める 条 文 はない。しかし、 民 訴 法 実 施 意 見13 条 、14 条 は、 華 僑 間 の 離 婚 訴 訟 に 限 り 緊 急 管 轄 としての 本 国 管 轄 を 認 めている。「13 条 国 内 で 婚 姻 し 国 外 に 定 住 した 華 僑 について、 定 住 国 裁 判 所 が 婚 姻 挙 行 地 に 管 轄があるとして 離 婚 訴 訟 を 受 理 しない 場 合 に、 当 事 者 が 人 民 法 院 に 離 婚 訴 訟 を 提 起 したとき、婚 姻 挙 行 地 または 一 方 当 事 者 の 国 内 における 最 後 の 居 住 地 の 人 民 法 院 が 管 轄 する。14 条 国 外 で 婚 姻 し 国 外 に 定 住 した 華 僑 について、 定 住 国 裁 判 所 が 国 籍 所 属 国 に 管 轄 が9 郭 玉 軍 「 中 国 渉 外 家 族 法 における 手 続 法 上 の 問 題 」( 黄 軔 霆 訳 ) 立 命 館 法 学 2007 年 第 5号 302 頁 参 照 。5260


あるとして 離 婚 訴 訟 を 受 理 しない 場 合 に、 当 事 者 が 人 民 法 院 に 離 婚 訴 訟 を 提 起 したとき、一 方 当 事 者 の 原 住 所 または 国 内 における 最 後 の 居 住 地 の 人 民 法 院 が 管 轄 する。」(2) 管 轄 原 因 に 関 する 職 権 調 査 の 有 無訴 訟 要 件 について 定 めた 民 事 訴 訟 法 108 条 は、「 人 民 法 院 が 民 事 訴 訟 を 受 理 する 範 囲 および 受 訴 人 民 法 院 の 管 轄 に 属 すること」を 要 求 している(108 条 4 号 )。訴 えの 提 起 があったとき、 裁 判 所 は 訴 状 に 基 づき 職 権 で 108 条 に 定 めた 各 訴 訟 要 件 の 充足 を 審 査 し、7 日 以 内 に 事 件 を 受 理 するか 否 かの 裁 定 をしなければならない( 民 事 訴 訟 法111 条 、112 条 )。この 場 合 、 当 該 裁 判 所 の 管 轄 に 属 しない 事 件 について、まず 原 告 に 管 轄がある 裁 判 所 に 訴 えを 提 起 するよう 告 知 し(111 条 4 号 )、 原 告 が 訴 えの 提 起 を 取 り 下 げない 場 合 には、 受 理 しないという 裁 定 を 下 すことになる( 民 訴 法 実 施 意 見 141 条 )。(3) 国 際 訴 訟 競 合訴 訟 競 合 について、 民 訴 法 実 施 意 見 306 条 は、 特 に 制 限 しないという 立 場 を 採 用 している。 同 条 は、 中 国 の 裁 判 所 が 管 轄 を 有 する 事 件 について、 一 方 当 事 者 がすでに 外 国 の 裁 判所 で 訴 訟 を 提 起 したかにかかわらず、 他 方 当 事 者 が 中 国 裁 判 所 で 訴 訟 を 提 起 した 場 合 に、中 国 裁 判 所 が 受 理 することができると 規 定 し、さらに、 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行 の 場 面 において、 条 約 の 適 用 がない 限 り、 承 認 時 に 中 国 判 決 が 既 になされた 場 合 に、 外 国 判 決 を 承 認しないと 規 定 している。(4) 保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄 ほか民 訴 法 実 施 意 見 31 条 は、 保 全 処 分 について、 財 産 所 在 地 の 人 民 法 院 が 管 轄 すると 定 めている。 中 国 裁 判 所 が 本 案 について 管 轄 を 有 しても、 財 産 が 中 国 国 内 に 所 在 しない 場 合 には、国 外 に 所 在 する 財 産 に 対 して 保 全 処 分 を 命 じることはない。2. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄(a) 失 踪 宣 告民 事 訴 訟 法 は 失 踪 宣 告 および 死 亡 宣 告 に 関 する 特 別 手 続 を 定 め、それぞれ 166 条 と 167条 において、 失 踪 宣 告 と 死 亡 宣 告 を 申 し 立 てる 利 害 関 係 者 が、 行 方 不 明 者 の 住 所 地 の 人 民法 院 に 申 し 立 てることを 定 めている。6261


(b) 婚 姻 ( 異 性 ・ 同 性 婚 姻 の 成 立 及 び 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 ), 登 録 パートナーシップ( 異性 ・ 同 性 登 録 パートナーシップの 成 立 及 び 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 )( 扶 養 義 務 は(g) 参 照 )中 国 婚 姻 法 は、 婚 姻 を 男 女 間 の 結 合 と 限 定 し、その 他 の 法 律 においても、 婚 姻 以 外 の 登録 パートナーシップ 類 似 の 制 度 、 同 性 婚 姻 などを 一 切 認 めていない。婚 姻 の 無 効 、 取 消 に 関 する 訴 訟 の 管 轄 について、 特 別 の 規 定 は 設 けられておらず、 被 告住 所 地 原 則 と、 身 分 関 係 訴 訟 に 認 める 原 告 住 所 地 管 轄 の 規 定 に 服 することになる。なお、婚 姻 の 無 効 、 取 消 について 離 婚 事 件 に 関 する 本 国 管 轄 の 規 定 を 類 推 適 用 することが 考 えられるが、この 点 に 関 する 中 国 の 学 説 と 裁 判 例 は 見 当 たらない。(c) 離 婚 及 びその 効 果 ( 年 金 分 割 請 求 権 を 含 む。 扶 養 義 務 は(g) 参 照 ))前 述 したように、 離 婚 訴 訟 の 管 轄 として、 被 告 住 所 地 原 則 と、 身 分 関 係 訴 訟 に 認 める 原告 住 所 地 管 轄 がある。さらに、 華 僑 以 外 の 中 国 人 夫 婦 の 渉 外 離 婚 に 関 して 本 国 管 轄 、 華 僑間 の 離 婚 訴 訟 に 限 り 緊 急 管 轄 としての 本 国 管 轄 が 認 められる。もっとも、 裁 判 実 務 上 、 外 国 人 が 原 告 となる 離 婚 訴 訟 について、 基 本 的 に 原 告 住 所 地 管轄 を 認 めず、さらに、 外 国 人 夫 婦 の 離 婚 訴 訟 について 被 告 住 所 地 管 轄 を 認 める 際 にも、 当事 者 双 方 が 中 国 に 居 住 し、かつ 離 婚 の 意 思 があることなど 他 の 要 素 も 考 慮 し 慎 重 な 姿 勢 を採 っているようである。離 婚 の 効 果 として、 前 述 したように、 婚 姻 関 係 の 解 消 以 外 に、 未 成 年 の 子 がいる 場 合 に、その 子 と 共 同 生 活 し 直 接 に 撫 養 する 者 、 直 接 に 撫 養 しない 者 が 負 担 する 子 の 撫 養 費 、 子 との 面 接 の 方 式 と 時 間 、 夫 婦 の 財 産 分 割 と 債 務 負 担 、 財 産 分 与 、 離 婚 に 対 する 損 害 賠 償 などが 離 婚 に 付 随 して 判 断 される。 年 金 分 割 請 求 権 は 認 められないが、 夫 婦 共 同 財 産 で 年 金 保険 料 を 支 払 った 場 合 には、 婚 姻 存 続 中 に 実 際 に 支 払 った 保 険 料 の 金 額 を 夫 婦 共 同 財 産 として 分 割 を 求 めることが 可 能 である( 婚 姻 法 に 関 する 司 法 解 釈 である「『 中 華 人 民 共 和 国 婚 姻法 』の 適 用 に 係 わる 若 干 問 題 の 解 釈 ( 三 )」 10 13 条 )。また、 離 婚 した 男 女 の 間 に 相 互 の 扶養 義 務 は 認 められない。(d) 血 縁 による 親 子 関 係 ( 嫡 出 推 定 ・ 否 認 , 認 知 , 親 子 関 係 存 否 確 認 )中 国 法 は、 婚 姻 関 係 にある 父 母 から 生 まれた 子 を「 婚 生 子 」と 呼 び、 婚 姻 関 係 にない 父10 2011 年 7 月 4 日 「 最 高 人 民 法 院 関 于 適 用 『 中 華 人 民 共 和 国 婚 姻 法 』 若 干 問 題 的 解 釈 ( 三 )」法 釈 (2011)18 号 。7262


母 から 生 まれた 子 を「 非 婚 生 子 」と 呼 び、 法 定 相 続 分 を 含 め 両 者 の 間 に 法 的 な 権 利 ・ 地 位に 関 する 区 別 は 一 切 ない( 婚 姻 法 25 条 、 相 続 法 である「 継 承 法 」10 条 )。日 本 法 にいう「 嫡 出 推 定 」、「 嫡 出 否 認 」と「 認 知 」に 相 当 する 法 制 度 はないが、 女 性 が婚 姻 中 ( 婚 姻 の 成 立 の 日 から 解 消 の 日 までの 間 )に 出 産 した 子 は、 事 実 上 その 夫 の 子 と 推定 され、これを 否 認 するためには、 親 子 関 係 存 否 確 認 訴 訟 による。 親 子 関 係 の 存 否 について、 中 国 法 は 事 実 主 義 による。 事 実 上 の 血 縁 関 係 が 認 められれば、 法 律 上 の 親 子 関 係 も 当然 認 められる。また、このような 親 子 関 係 存 否 確 認 訴 訟 の 提 起 時 期 について、 特 に 制 限 は設 けられていない。親 子 関 係 存 否 確 認 訴 訟 の 管 轄 について、 民 事 訴 訟 法 に 特 段 の 規 定 はなく、 被 告 住 所 地 原則 と 身 分 関 係 訴 訟 に 認 める 原 告 住 所 地 管 轄 による。なお、この 場 合 の 当 事 者 は、 子 とその親 ( 父 親 )である。(e) 養 子 縁 組 及 び 離 縁中 国 法 における 養 子 縁 組 の 成 立 は 契 約 型 であり、 裁 判 ではなく、 当 事 者 間 の 合 意 のうえ、民 政 機 関 における 登 記 によって 成 立 する( 養 子 縁 組 法 である「 収 養 法 」15 条 )。養 子 縁 組 の 解 除 は、 合 意 によって 成 立 することができるが、 合 意 ができない 場 合 に、 養子 縁 組 の 解 除 を 求 める 訴 訟 を 提 起 することができる。この 場 合 の 管 轄 について、 民 事 訴 訟法 に 特 段 の 規 定 はなく、 被 告 住 所 地 原 則 と 身 分 関 係 訴 訟 に 認 める 原 告 住 所 地 管 轄 による。(f) 親 権 ・ 監 護 権 , 面 会 交 流 , 子 の 奪 取 , 未 成 年 後 見 , 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 )中 国 法 に「 親 権 」という 概 念 はなく、 婚 姻 法 36 条 は、 父 母 と 子 との 間 の 権 利 義 務 関 係 は、父 母 の 離 婚 によって 消 滅 することはないと 定 めている。また、 民 法 通 則 16 条 は、 未 成 年 者の 父 母 が 子 の 監 護 人 として、 子 に 対 する 監 護 権 を 行 使 すると 定 めている。 従 って、 離 婚 において、 未 成 年 の 子 の 親 権 ないし 監 護 権 を 父 母 のいずれかに 定 めるのではなく、その 子 と共 同 生 活 し 直 接 に 撫 養 する 者 ( 婚 姻 法 36 条 )、 直 接 に 撫 養 しない 者 が 負 担 する 子 の 撫 養 費( 同 37 条 )、 子 との 面 接 の 方 式 と 時 間 を 定 めることになる( 同 38 条 )を 定 めることになる。また、これらの 問 題 は 離 婚 の 裁 判 において 一 体 として 判 断 されるが、 離 婚 後 に 裁 判 によって 変 更 することができる。子 との 面 接 交 流 に 関 する 裁 判 を 履 行 しない 当 事 者 について、 人 民 法 院 が 強 制 執 行 をするが( 婚 姻 法 48 条 )、この 場 合 の 強 制 執 行 は 間 接 強 制 しか 認 められず、 直 接 強 制 はできない8263


と 規 定 されている(( 婚 姻 法 に 関 する 司 法 解 釈 である「『 中 華 人 民 共 和 国 婚 姻 法 』の 適 用 に係 わる 若 干 問 題 の 解 釈 ( 一 )」 11 32 条 )。 子 の 奪 取 について、 特 段 の 規 定 は 設 けられていない。子 の 撫 養 者 、 撫 養 費 、 面 接 交 渉 などの 管 轄 について、 特 段 の 規 定 はなく、 離 婚 と 一 括 して 判 断 する 際 には、 離 婚 訴 訟 の 管 轄 による。また 離 婚 後 に 変 更 の 裁 判 を 申 し 立 てる 場 合 には、 被 告 住 所 地 原 則 と 身 分 関 係 訴 訟 に 認 める 原 告 住 所 地 管 轄 による。この 場 合 の 当 事 者 は、子 の 撫 養 者 の 変 更 と 面 接 交 渉 については 父 と 母 、 撫 養 費 については 子 と 親 である。行 為 無 能 力 者 と 制 限 行 為 能 力 者 の 認 定 について、 民 事 訴 訟 法 は 特 別 手 続 によることを 定め、170 条 において、 本 人 の 住 所 地 の 人 民 法 院 が 管 轄 すると 定 めている。(g) 扶 養 義 務中 国 法 は、 卑 属 が 尊 属 に 対 する 扶 養 を「 贍 養 」、 尊 属 が 卑 属 に 対 する 扶 養 を「 撫 養 」、その 他 の 親 族 間 の 扶 養 を「 扶 養 」と、 用 語 を 区 別 している( 婚 姻 法 21 条 、28 条 、29 条 )。 前述 したように、 夫 婦 が 離 婚 した 後 に、 相 互 に 扶 養 義 務 は 存 在 しない。扶 養 義 務 に 関 する 訴 訟 の 管 轄 について、 民 事 訴 訟 法 に 特 段 の 規 定 はなく、 被 告 住 所 地 原則 と 身 分 関 係 訴 訟 に 認 める 原 告 住 所 地 管 轄 による。(h) 相 続専 属 管 轄 の 部 分 で 述 べたように、 民 事 訴 訟 法 34 条 3 号 は、「 相 続 財 産 に 係 る 紛 争 について 提 起 される 訴 訟 」を、「 被 相 続 人 の 死 亡 時 の 住 所 地 又 は 主 要 な 遺 産 の 所 在 地 の 人 民 法 院 」が 専 属 的 に 管 轄 すると 定 めている。(i) 氏中 国 法 では 夫 婦 別 姓 制 を 採 用 しており、 婚 姻 によって「 姓 」が 変 更 することはない。 姓名 権 に 関 する 紛 争 は 人 格 権 の 問 題 とされる。その 管 轄 について、 民 事 訴 訟 法 に 特 段 の 規 定はなく、 被 告 住 所 地 原 則 による。11 2001 年 12 月 24 日 「 最 高 人 民 法 院 関 于 適 用 『 中 華 人 民 共 和 国 婚 姻 法 』 若 干 問 題 的 解 釈 ( 一 )」法 釈 (2001)30 号 。9264


(j) その 他特 になし。3. 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 制 度(1) 外 国 判 決 及 び 外 国 非 訟 裁 判 の 承 認 執 行 要 件 ( 特 に 間 接 管 轄 , 執 行 宣 言 手 続 (exequatur)の 有 無 など)中 国 法 は、 外 国 判 決 と 外 国 非 訟 裁 判 の 承 認 を 区 別 せず、 一 律 に 外 国 判 決 の 承 認 執 行 として 処 理 する。 中 国 で 外 国 判 決 の 執 行 を 求 める 場 合 には、 必 ず 中 国 の 人 民 法 院 に 対 し 外 国 判決 の 承 認 と 執 行 令 の 付 与 を 申 し 立 てる 必 要 がある。ただ、その 際 の 根 拠 条 文 ないし 承 認 のルートとしては、 以 下 のように 3 通 りある。まず、 判 決 国 と 中 国 との 間 に 2 国 間 民 事 司 法 共 助 条 約 が 締 結 され、その 条 約 に 相 互 の 判決 承 認 要 件 と 手 続 きが 定 められている 場 合 には、 条 約 による。つぎに、 判 決 国 と 中 国 との間 に、 相 互 の 判 決 承 認 要 件 と 手 続 きを 定 める 規 定 を 含 む 2 国 間 民 事 司 法 共 助 条 約 が 締 結 されていない 場 合 には、 民 事 訴 訟 法 による。さらに、 外 国 離 婚 判 決 の 承 認 執 行 について、 特別 法 としての 司 法 解 釈 が 存 在 する。これらの 3 つの 承 認 ルートについて、それぞれ 承 認 要件 が 異 なる。・まず、2 国 間 民 事 司 法 共 助 条 約 における 承 認 要 件 であるが、 個 々の 条 約 によって 差 異 が存 在 するものの、 基 本 的 に 以 下 の 要 件 が 課 されている 12 。1 当 該 外 国 判 決 は 確 定 判 決 であること。2 判 決 を 下 した 外 国 裁 判 所 が 管 轄 を 有 すること( 間 接 管 轄 )。もっとも、 条 約 によって 外 国 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 するか 否 かの 判 断 基 準 が 大 きく 異 なる。 二 国 間 司 法 共 助 条 約 における 間 接 管 轄 は、 主 に 3 つのアプローチがある。(ア) 承 認 国 法 説 によることを 要 件 とするアプローチ。 中 国 とフランス、ポーランド、モンゴル、ルーマニア、キューバ、ブルガリア、トルコ、ハンガリー、モロッコなどとの二 国 間 司 法 共 助 条 約 がその 例 である 13 。12 拙 稿 ( 黄 軔 霆 )「 中 国 国 際 民 事 訴 訟 法 と『ハーグ 裁 判 管 轄 と 判 決 条 約 準 備 草 案 』」 阪 大 法学 51 巻 2 号 144-147 頁 、 郭 玉 軍 ・ 前 掲 注 (9)306 頁 以 下 参 照 。13 1987 年 中 国 とフランスとの 民 商 事 司 法 共 助 条 約 22 条 、1987 年 中 国 とポーランドとの 民10265


(イ) 承 認 国 の 専 属 管 轄 に 抵 触 しないことを 要 件 とするアプローチ。 中 国 とロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナ、キルギスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、ギリシア、ラオスとの 二 国 間 司 法 共 助 条 約 がその 例 である 14 。(ウ) 認 められる 間 接 管 轄 原 因 をリスト・アップするというアプローチ。 中 国 とイタリア、スペイン、エジプト、キプロスとの 二 国 間 司 法 共 助 条 約 がその 例 である 15 。リストの内 容 もほぼ 一 致 し、 被 告 の 住 所 地 と 居 所 地 、 法 人 の 事 務 所 所 在 地 、 合 意 管 轄 、 応 訴 管 轄 、契 約 締 結 地 、 契 約 の 義 務 履 行 地 、 目 的 物 の 所 在 地 、 不 法 行 為 の 加 害 行 為 地 と 結 果 発 生 地 、不 動 産 所 在 地 、 身 分 関 係 訴 訟 における 当 事 者 の 住 所 地 と 居 所 地 、 扶 養 義 務 事 件 における 債権 者 の 住 所 地 と 居 所 地 、 相 続 事 件 における 被 相 続 人 の 死 亡 時 の 住 所 地 又 は 主 要 な 遺 産 の 所在 地 が 列 挙 されている。3 欠 席 判 決 の 敗 訴 被 告 が 適 法 な 送 達 を 受 けたこと。ほとんどの 条 約 は、 送 達 の 適 法 性 を 判 決 国 法 によって 判 断 すると 定 めている 16 。なお、これらすべて 司 法 共 助 条 約 には、 送 達 に 関 する 取 り 決 めが 置 かれている。4 判 決 の 承 認 が 承 認 国 の 公 序 に 反 しないこと。5 一 事 不 再 理 の 原 則 に 抵 触 しないこと。条 約 には 一 方 の 締 約 国 での 訴 訟 係 属 中 を 理 由 に、もう 一 方 の 国 の 管 轄 権 行 使 を 禁 止 するような 規 定 が 設 けられていない。つまり、 二 重 訴 訟 を 防 止 する 措 置 が 取 られていない。そうすると、 必 然 的 に 双 方 の 国 で 同 一 の 訴 訟 原 因 に 基 づく 訴 訟 が 係 属 し、 抵 触 する 判 決 が下 される 可 能 性 が 存 在 し、この 場 合 に 相 手 国 の 判 決 の 承 認 が 問 題 となる。まず、 承 認 が 求事 刑 事 司 法 共 助 条 約 20 条 、1990 年 中 国 とモンゴルとの 民 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 18 条 、1992年 中 国 とルーマニアとの 民 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 22 条 、1993 年 中 国 とキューバとの 民 事 刑事 司 法 共 助 条 約 25 条 、1994 年 中 国 とブルガリアとの 民 事 司 法 共 助 条 約 21 条 、1997 年 中国 とモロッコとの 民 商 事 司 法 共 助 条 約 20 条 、など。14 1992 年 中 国 とロシアとの 民 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 20 条 、1993 年 中 国 とベラルーシとの 民事 刑 事 司 法 共 助 条 約 21 条 、1993 年 中 国 とカザフスタンとの 民 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 21 条 、1993 年 中 国 とウクライナとの 民 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 21 条 、1997 年 中 国 とキルギスタンとの 民 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 20 条 、1997 年 中 国 とタジキスタンとの 民 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 20条 、2001 年 中 国 とラオスとの 民 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 21 条 、など。15 1992 年 中 国 とイタリアとの 民 事 司 法 共 助 条 約 22 条 、1993 年 中 国 とスペインとの 民 商 事司 法 共 助 条 約 21 条 、1994 年 中 国 とエジプトとの 民 商 事 刑 事 司 法 共 助 条 約 22 条 、など。16 例 えば、 中 国 とフランスとの 条 約 22 条 4 項 、 中 国 とイタリアとの 条 約 21 条 3 項 。11266


められた 時 点 で、 抵 触 する 内 国 確 定 判 決 がある 場 合 若 しくは 抵 触 する 第 三 国 の 判 決 が 既 に承 認 された 場 合 には、 判 決 国 の 判 決 が 承 認 されない。つぎに、 承 認 が 求 められた 時 点 で、承 認 国 の 裁 判 所 に 同 一 の 訴 訟 原 因 に 基 づく 訴 訟 が 係 属 している 場 合 には、2つのアプローチが 取 られている。1つは 常 に 内 国 係 属 中 の 訴 訟 を 優 先 させ、 相 手 国 の 判 決 を 承 認 しないアプローチである 17 。もう 一 つは 先 に 係 属 した 内 国 訴 訟 を 優 先 させるアプローチである 18 。6 自 然 人 の 身 分 と 能 力 について、 承 認 国 の 国 際 私 法 が 指 定 する 準 拠 法 か、それと 同様 な 結 果 をもたらす 法 が 適 用 されたこと。このようないわゆる 準 拠 法 要 件 は、フランス、スペインなどごく 一 部 の 国 との 条 約 に見 られる。・つぎに、 民 事 訴 訟 法 における 外 国 判 決 の 承 認 ・ 執 行 要 件 は、265 条 と 266 条 に 定 められ、 確 定 判 決 という 要 件 、 互 恵 関 係 ( 相 互 の 保 証 )の 要 件 と 公 序 要 件 しか 要 求 されていない。もっとも、 中 国 の 裁 判 実 務 上 、 互 恵 関 係 の 要 件 は 厳 格 に 解 釈 され、 互 恵 関 係 が 存 在 すると 認 めるためには、 外 国 裁 判 所 が 中 国 の 判 決 を 承 認 した 先 例 があることが 必 要 とされ( 事実 上 の 互 恵 関 係 )、このような 立 場 に 基 づいて 日 本 との 互 恵 関 係 を 否 定 した 中 国 の 裁 判 例 があるし 19 、この 中 国 の 裁 判 例 などを 理 由 に、 中 国 との 相 互 の 保 証 を 否 定 した 日 本 の 裁 判 例 がある 20 。・ 外 国 離 婚 判 決 の 承 認 について、 二 国 間 条 約 が 適 用 されない 場 合 に、 民 事 訴 訟 法 ではなく、 最 高 人 民 法 院 の 司 法 解 釈 である 1991 年 「 中 国 人 が 外 国 法 院 による 離 婚 判 決 の 承 認 を 申請 する 手 続 問 題 に 関 する 規 定 」 21 と 2000 年 「 人 民 法 院 における 外 国 法 院 離 婚 判 決 の 承 認 申請 の 受 理 に 関 する 問 題 に 関 する 規 定 」 22 に 基 づいて 承 認 される。その 特 徴 は 以 下 の 通 りである:17 例 えば、スペイン、ポーランド、ローマニアとの 二 国 間 条 約 。18 中 国 とフランスとの 条 約 22 条 6 項 、 中 国 とイタリアとの 条 約 21 条 4 項 、5 項 。19 拙 稿 ( 黄 軔 霆 )「 中 国 国 際 民 事 訴 訟 法 と『ハーグ 裁 判 管 轄 と 判 決 条 約 準 備 草 案 』」 阪 大 法学 51 巻 2 号 147-148 頁 参 照 。20 大 阪 高 判 平 成 15 年 4 月 9 日 ジュリスト 1274 号 215 頁 。21 1991 年 7 月 5 日 最 高 人 民 法 院 「 関 于 中 国 公 民 申 請 承 認 外 国 法 院 離 婚 判 決 程 序 問 題 的 規 定 」法 ( 民 ) 発 (1991)21 号 。22 2000 年 3 月 1 日 最 高 人 民 法 院 「 関 于 人 民 法 院 受 理 申 請 承 認 外 国 法 院 離 婚 判 決 案 件 有 関 問題 的 規 定 」 法 释 (2000)6 号 。12267


1 外 国 離 婚 判 決 の 承 認 は、 婚 姻 を 解 消 する 形 成 力 の 部 分 と、それに 付 随 する 財 産 分 与 、子 の 親 権 者 指 定 、 養 育 費 の 支 払 などその 他 の 部 分 とに 分 けて 扱 われる。2 婚 姻 を 解 消 する 形 成 力 の 部 分 について、 外 国 人 間 の 外 国 離 婚 判 決 に 関 して 特 に 中 国裁 判 所 による 承 認 は 必 要 なく、 当 事 者 が 中 国 で 再 婚 しようとする 場 合 には、 上 記 外 国 離 婚判 決 に 基 づき 独 身 証 明 を 取 得 すればよい。これに 対 し、 中 国 人 当 事 者 を 含 む 外 国 離 婚 判 決に 関 して、 中 国 裁 判 所 による 承 認 が 必 要 である。3 承 認 要 件 として 確 定 判 決 であること、 間 接 管 轄 を 有 すること、 適 法 な 送 達 があったこと、 同 一 事 件 につき 中 国 の 判 決 もしくはすでに 承 認 した 外 国 の 判 決 がないこと、 公 序 に反 しないことが 挙 げられる。 他 の 外 国 判 決 の 承 認 に 適 用 する 民 事 訴 訟 法 上 の 要 件 と 異 なり、互 恵 関 係 の 存 在 が 要 件 とされない。また、 準 拠 法 要 件 も 課 されていない。4 婚 姻 を 解 消 する 形 成 力 の 部 分 に 付 随 する 財 産 分 割 、 扶 養 義 務 、 子 の 扶 養 などに 関 する 部 分 の 承 認 執 行 は、 上 記 両 司 法 解 釈 の 適 用 範 囲 外 と 規 定 されているため、 民 事 訴 訟 法 に規 定 する 通 常 の 判 決 承 認 要 件 が 適 用 され、 互 恵 関 係 の 存 在 が 要 件 とされる。しかし、 前 述したように 中 国 では 互 恵 関 係 の 存 在 が 厳 格 に 判 断 されるため、 二 国 間 条 約 が 適 用 されない場 合 に 民 事 訴 訟 法 によって 外 国 判 決 を 承 認 することは 事 実 上 不 可 能 に 近 いともいえる。 結局 、 中 国 と 相 互 の 保 証 のない 国 の 離 婚 判 決 における 財 産 分 割 等 の 部 分 については、 外 国 判決 を 承 認 するのではなく、 当 事 者 が 改 めて 中 国 で 訴 えを 提 起 し、その 訴 訟 において 外 国 判決 を 重 要 な 証 拠 として 採 用 する 実 務 が 行 われているとされる 23 。5 外 国 裁 判 所 における 離 婚 調 停 は 外 国 離 婚 判 決 と 同 様 に 扱 われる。 中 国 では 従 来 から、外 国 裁 判 所 の 調 停 離 婚 は 広 義 の 外 国 離 婚 判 決 の 一 つとして、 離 婚 判 決 と 同 様 に 承 認 の 対 象であると 考 えられている。 上 記 2000 年 の 司 法 解 釈 によってこの 点 が 明 文 化 される 以 前 に、すでに 日 本 の 調 停 離 婚 を 承 認 した 例 が 数 件 報 告 されている 24 。23 拙 稿 ( 黄 軔 霆 )「 中 国 の 渉 外 家 事 実 務 と 日 本 」 国 際 私 法 年 報 9 号 180 頁 参 照 。24 例 えば、1991 年 2 月 27 日 に 大 阪 地 方 裁 判 所 において、 中 国 人 夫 婦 間 の 離 婚 調 停 が 成 立した。 当 事 者 は 北 京 市 中 級 裁 判 所 に 当 該 調 停 離 婚 の 承 認 を 申 し 立 てた。 裁 判 所 は 当 該 調 停離 婚 が 中 国 法 における 外 国 判 決 承 認 要 件 に 抵 触 しないとして、 同 年 5 月 28 日 に 承 認 を 決 定した。 最 高 人 民 法 院 応 用 法 学 研 究 所 編 『 人 民 法 院 案 例 選 (1992~1999 年 合 訂 本 、 下 巻 )』( 中13268


(2) 外 国 保 全 処 分 の 承 認 執 行 の 可 能 性 ほか中 国 法 は、 承 認 執 行 の 対 象 を、 外 国 裁 判 所 の 確 定 判 決 に 限 定 しているため( 民 事 訴 訟 法265 条 )、 外 国 保 全 処 分 は 承 認 執 行 されない。4. 各 国 法 に 関 する 情 報詳 細 は 本 調 査 報 告 の 他 の 部 分 を 参 照 されたいが、 日 本 法 との 比 較 という 観 点 からいえば、中 国 法 は、 離 婚 の 際 に 子 の 親 権 者 ではなく 撫 養 者 を 定 める 点 、 実 親 子 関 係 の 成 立 について事 実 主 義 を 採 用 する 点 において 特 徴 的 である。5. 手 続 の 類 型冒 頭 に 述 べたように、 中 国 法 では、 非 訟 事 件 のための 特 別 手 続 法 や、 人 事 訴 訟 法 はなく、すべて 民 事 訴 訟 法 による。また、 民 事 訴 訟 法 では、 督 促 手 続 、 公 示 催 告 手 続 、「 選 挙 人 資 格事 件 」、「 失 踪 宣 告 および 死 亡 宣 告 事 件 」、「 民 事 行 為 無 能 力 および 制 限 能 力 認 定 事 件 」と「 無主 財 産 認 定 事 件 」に 関 する「 特 別 手 続 」を 除 き、その 他 の 訴 訟 はすべて 通 常 の 手 続 きによる。中 国 の 裁 判 所 が 訴 訟 を 受 理 する 際 に、その 紛 争 の 類 型 に 応 じて、「 案 由 」と 呼 ばれる 類 別に 分 類 しなければならない。「 案 由 」は 事 件 の 検 索 、 統 計 にも 使 われるとされる。 最 高 人 民法 院 は、 裁 判 実 務 によく 見 られる 紛 争 の 類 型 に 基 づき、「 案 由 」の 分 類 規 定 を 制 定 し、また改 訂 をする。その 規 定 である「 民 事 案 件 案 由 規 定 」 25 によれば、 家 族 関 係 紛 争 に 関 する「 案由 」(すなわちよく 見 られる 紛 争 の 類 型 )は 以 下 のとおりである。・ 婚 姻 家 庭 、 相 続 紛 争一 、 婚 姻 家 庭 紛 争1、 婚 約 財 産 紛 争2、 離 婚 紛 争3、 離 婚 後 の 財 産 紛 争4、 離 婚 後 の 損 害 賠 償 責 任 紛 争5、 婚 姻 無 効 紛 争6、 婚 姻 の 取 消 紛 争国 法 制 出 版 社 、2000 年 )2030-2032 頁 。25 法 (2011〕41 号 。2007 年 10 月 29 日 制 定 、2011 年 2 月 18 日 改 正 。14269


7、 夫 婦 財 産 契 約 紛 争8、 同 居 関 係 紛 争(1) 同 居 関 係 に 係 る 財 産 分 割 紛 争(2) 同 居 関 係 に 係 る 子 の 撫 養 紛 争9、 撫 養 紛 争(1) 撫 養 費 紛 争(2) 撫 養 関 係 の 変 更 紛 争10、 扶 養 紛 争(1) 扶 養 費 紛 争(2) 扶 養 関 係 の 変 更 紛 争11、 贍 養 紛 争(1) 贍 養 费 紛 争(2) 贍 養 関 係 の 変 更 紛 争12、 養 子 縁 組 関 係 紛 争(1) 養 子 縁 組 関 係 の 存 否 確 認 紛 争(2) 養 子 縁 組 関 係 の 解 除 紛 争13、 監 護 権 紛 争14、 面 接 権 紛 争15、 財 産 分 割 紛 争二 、 相 続 紛 争16、 法 定 相 続 紛 争(1) 数 次 相 続 紛 争(2) 代 襲 相 続 紛 争17、 遺 言 相 続 紛 争18、 被 相 続 人 債 務 弁 済 紛 争19、 遺 贈 紛 争20、 遺 贈 扶 養 契 約 紛 争なお、 下 位 の 案 由 に 該 当 しない 紛 争 についても、 訴 訟 要 件 を 満 たせば 裁 判 所 は 受 理 しなければならないが、その 場 合 には 上 位 の 案 由 に 分 類 することになる。たとえば、 親 子 関 係不 存 在 の 確 認 訴 訟 について、「 婚 姻 家 庭 紛 争 」という 案 由 に 分 類 することになる。15270


以 上16271


7. 大 韓 民 国( 執 筆 担 当 : 甲 南 大 学 金 汶 淑 )Ⅰ. 各 国 法 に 関 する 調 査 ( 韓 国 )1. 総 説韓 国 の 国 際 私 法 1 は、 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 原 則 ( 第 2 条 )を 定 めており、さらに 失 踪宣 告 ( 第 12 条 )、 限 定 治 産 ( 準 禁 治 産 ) 及 び 禁 治 産 ( 第 14 条 ) 2 及 び 後 見 ( 第 48 条 第 2 項 )について 韓 国 の 裁 判 所 が 管 轄 を 有 する 場 合 を 規 定 しており、 消 費 者 及 び 労 働 者 保 護 のための 国 際 裁 判 管 轄 ( 第 27 条 及 び 第 28 条 )を 規 定 している。 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 原 則 を 定める 国 際 私 法 第 2 条 は、 国 際 家 事 訴 訟 ・ 非 訟 事 件 にかかる 国 際 裁 判 管 轄 についても 一 般 原則 として 重 要 な 意 味 を 有 するものである。外 国 判 決 の 承 認 執 行 については、 民 事 訴 訟 法 第 217 条 が 外 国 判 決 の 効 力 を 規 定 しており、民 事 執 行 法 第 26 条 及 び 第 27 条 が 外 国 判 決 の 強 制 執 行 及 び 執 行 判 決 を 各 々 規 定 している。これらの 規 定 が、 国 際 家 事 訴 訟 ・ 非 訟 事 件 に 関 する 外 国 判 決 ( 裁 判 )の 承 認 執 行 についても 適 用 又 は 類 推 適 用 されるのかが 問 題 となる。なお、ハーグ 国 際 私 法 会 議 関 係 の 諸 条 約 (1961 年 未 成 年 者 保 護 条 約 、1965・1993 年 養 子縁 組 条 約 、1980 年 子 奪 取 条 約 、1996 年 子 の 保 護 条 約 、2000 年 成 年 者 保 護 条 約 、1958・1973・2007 年 扶 養 義 務 条 約 ほか)について 韓 国 は 批 准 又 は 加 入 していない 3 。 近 時 、1980 年 子 奪取 条 約 に 加 入 するための 作 業 が 法 務 部 を 中 心 に 推 進 されており、1993 年 養 子 縁 組 条 約 についても 加 入 に 向 けて 議 論 されている。目 下 、 国 際 家 事 事 件 分 野 における 国 際 裁 判 管 轄 及 び 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 については 主 に婚 姻 関 係 ( 離 婚 又 は 婚 姻 無 効 等 ) 事 件 が 対 象 となっており、その 他 の 具 体 的 な 事 案 におけ1法 律 第 6465 号 、2001 年 4 月 7 日 制 定 、 同 年 7 月 1 日 施 行 。2限 定 治 産 ( 準 禁 治 産 ) 及 び 禁 治 産 の 制 度 を 成 年 後 見 制 度 に 拡 大 ・ 改 変 する 内 容 の 民 法 改 正 がなされた( 法 律 第 10429 号 、2011 年 3 月 7 日 一 部 改 正 、2013 年 7 月 1 日 施 行 )。 今 後 、 国 際 私法 の 関 連 条 文 について 改 正 の 動 きがあるものと 予 想 される。3 なお、ハーグ 国 際 私 法 会 議 で 作 成 された 条 約 のうち 韓 国 が 加 入 しているものとしては、「 外 国公 文 書 の 認 証 を 不 要 とする 条 約 」(1961 年 )、「 民 事 又 は 商 事 に 関 する 裁 判 上 及 び 裁 判 外 の 文 書の 外 国 における 送 達 及 び 告 知 に 関 する 条 約 」(1965 年 ) 及 び「 民 事 及 び 商 事 についての 外 国 における 証 拠 の 収 集 に 関 する 条 約 」(1970 年 )が 挙 げられる。1272


る 裁 判 例 や 理 論 的 研 究 は 十 分 ではないものの、 学 説 よりも 判 例 の 立 場 に 焦 点 を 合 わせる 本調 査 の 趣 旨 に 従 い、 検 討 を 行 うことにする。2. 国 際 裁 判 管 轄 全 般(1) 管 轄 原 因 ( 特 に「 住 所 」 又 は「 常 居 所 」/その 概 念 ); 管 轄 の 専 属 性 の 有 無 ; 附帯 処 分 ; 主 観 的 併 合 , 応 訴 管 轄 , 合 意 管 轄 , 緊 急 管 轄 の 可 否 ほか。1 一 般 管 轄韓 国 の 国 際 私 法 は、 従 前 の「 渉 外 私 法 」 4 が 全 面 改 正 されたものである。この 改 正 により、「 渉 外 私 法 」という 名 称 を「 国 際 私 法 」に 変 更 し、 総 則 に 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 原 則 を 規定 することになった。 渉 外 私 法 の 下 では 国 際 裁 判 管 轄 の 一 般 的 基 準 に 対 してこれを 直 接 規律 する 成 文 の 規 定 がなかったので、 主 に 判 例 によりその 基 準 が 形 成 されてきた。なお、 韓国 の 裁 判 所 には 最 高 裁 判 所 として 大 法 院 、 下 級 裁 判 所 として 高 等 法 院 、 地 方 法 院 及 び 家 庭法 院 があり、この 意 味 においては「 法 院 」という 用 語 を 本 調 査 では 表 記 することにする。国 際 私 法 第 2 条 ( 国 際 裁 判 管 轄 )1 法 院 は、 当 事 者 又 は 紛 争 となった 事 案 が 大 韓 民 国 と 実 質 的関 連 がある 場 合 に 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する。この 場 合 、 法 院 は 実 質 的 関 連 の 有 無 を 判 断 するにあたって 国 際 裁 判 管 轄 配 分 の 理 念 に 符 合 する 合 理 的 な 原 則 に 従 わなければならない。2 法 院 は、 国 内 法 の 管 轄 規 定 を 参 酌 して 国 際 裁 判 管 轄 権 の 有 無 を 判 断 するものの、 第 1 項 の規 定 の 趣 旨 に 照 らして 国 際 裁 判 管 轄 の 特 殊 性 を 十 分 に 考 慮 しなければならない。国 際 私 法 第 1 条 は、 外 国 的 要 素 がある 法 律 関 係 に 関 して 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 原 則 と 準拠 法 を 定 めることを 目 的 とする。 国 際 私 法 の 制 定 の 際 に、 従 来 において 国 際 裁 判 管 轄 に 関する 研 究 が 十 分 ではなく、ハーグ 国 際 私 法 会 議 の 次 元 において 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 全 世界 的 な 条 約 が 成 案 中 であったため、 国 内 法 に 完 結 された 規 則 をおくことは 難 しいことを 理由 に、 過 渡 期 的 措 置 として 総 則 の 第 2 条 において 従 前 の 大 法 院 判 例 5 が 採 っていた 立 場 を 反映 し、 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 一 般 原 則 のみを 規 定 することになったとされる 6 。4法 律 第 966 号 、1962 年 1 月 15 日 制 定 、 公 布 日 施 行 、5 1992 年 7 月 28 日 宣 告 91タ41897 判 決 、1995 年 11 月 21 日 宣 告 93タ39607 判 決 等 。6石 光 現 『 国 際 私 法 解 説 〔 第 2 版 〕』32 頁 ( 芝 山 、2003)。2273


ⅰ) 実 質 的 関 連国 際 私 法 第 2 条 第 1 項 第 1 文 における「 実 質 的 関 連 」とは、 法 廷 地 国 たる 韓 国 が 国 際 裁判 管 轄 権 を 行 使 することを 正 当 化 することができるほど 当 事 者 又 は 紛 争 の 対 象 が 韓 国 と 関連 性 を 有 すること、すなわち 連 結 点 が 存 在 することを 意 味 し、その 具 体 的 認 定 の 有 無 は 裁判 所 が 個 別 事 件 において 総 合 的 な 事 情 を 考 慮 して 判 断 することになるであろう 7 。通 常 の 民 事 及 び 商 事 事 件 の 場 合 、 被 告 又 は 紛 争 の 対 象 と 法 定 地 たる 韓 国 との 間 で 実 質 的関 連 が 存 在 することが 必 要 であるところ、 家 事 事 件 の 場 合 、 例 外 的 に 原 告 の 国 籍 又 は 扶 養権 利 者 の 住 所 又 は 常 居 所 に 基 づく 管 轄 を 肯 定 する 余 地 もありうるので、 原 告 と 韓 国 との 間に 存 在 する 実 質 的 関 連 を 根 拠 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 める 必 要 性 を 考 慮 して「 被 告 」の 代 わりに「 当 事 者 」としたとされる 8 。ⅱ) 国 際 裁 判 管 轄 配 分 の 理 念 と 合 理 的 原 則実 質 的 関 連 の 具 体 的 な 例 としては、 一 般 管 轄 又 は 特 別 管 轄 の 根 拠 となる 連 結 点 が 挙 げられる。 実 質 的 関 連 の 判 断 は、そのような 連 結 点 を 根 拠 に 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 することは、一 定 の 究 極 的 な 基 準 に 照 らして 正 当 であるか 否 かにより 行 わざるをえず、このような 基 準として 機 能 するのが 国 際 私 法 第 2 条 第 1 項 第 2 文 における「 国 際 裁 判 管 轄 配 分 の 理 念 」と「 合 理 的 原 則 」である 9 。ⅲ) 国 際 裁 判 管 轄 の 特 殊 性国 際 私 法 第 2 条 第 2 項 は、 国 内 法 の 管 轄 規 定 を 参 酌 するが、これに 拘 泥 されず、 国 際 裁判 管 轄 の 特 殊 性 を 十 分 に 考 慮 することによって 精 緻 な 国 際 裁 判 管 轄 規 則 を 定 立 することを要 求 するものである。この 際 、 国 内 法 の 管 轄 規 定 には、まず 民 事 訴 訟 法 における 土 地 管 轄だけでなく、 家 事 訴 訟 と 非 訟 事 件 に 関 する 国 内 法 の 管 轄 規 定 も 包 含 される 10 。ここで 注 意 すべきことは、 国 際 私 法 第 2 条 第 2 項 が 国 内 法 の 管 轄 規 定 を 参 酌 して 国 際 裁判 管 轄 権 の 有 無 を 判 断 することにしたのは、 適 切 な 管 轄 規 定 がある 場 合 を 指 すことである。しかし、 国 内 法 の 管 轄 規 定 又 は 裁 判 籍 がないことを 理 由 に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められないわけではなく、その 場 合 には 第 2 条 第 1 項 の 原 則 に 戻 って、 実 質 的 関 連 の 原 則 によって 国 際789石 ・ 前 掲 注 (6)38 頁 。石 ・ 前 掲 注 (6)39 頁 以 下 。石 ・ 前 掲 注 (6)42 頁 。10石 ・ 前 掲 注 (6)44 頁 。3274


裁 判 管 轄 の 有 無 を 判 断 しなければならない。もちろんこの 場 合 において 国 際 裁 判 管 轄 の 肯定 は 非 常 に 慎 重 でなければならないとされる 11 。大 法 院 2008 年 5 月 29 日 宣 告 2006 タ 71908、71915 判 決 では、「 国 際 裁 判 管 轄 について 国際 私 法 第 2 条 が 規 定 しているので、 当 事 者 間 の 公 平 、 裁 判 の 適 正 、 迅 速 及 び 経 済 を 期 するという 基 本 理 念 により、 国 際 裁 判 管 轄 を 決 定 しなければならず、 具 体 的 には 訴 訟 当 事 者 の公 平 、 便 宜 そして 予 測 の 可 能 性 のような 個 人 的 な 利 益 だけでなく、 裁 判 の 適 正 、 迅 速 、 効率 及 び 判 決 の 実 効 性 等 のような 裁 判 所 ないし 国 家 の 利 益 も 一 緒 に 考 慮 すべきであり、このような 多 様 な 利 益 のうちいかなる 利 益 を 保 護 する 必 要 があるのか 否 かは、 個 別 事 件 において 法 廷 地 と 当 事 者 の 実 質 的 関 連 性 及 び 法 廷 地 と 紛 争 となった 事 案 との 実 質 的 関 連 性 を 客 観的 な 基 準 として 合 理 的 に 判 断 しなければならないだろう。」 12 と 判 示 した 13 。本 件 は 韓 国 会 社 が 日 本 会 社 にロシアで 船 積 みした 冷 凍 ニシンを 中 国 で 引 き 渡 すことにし、その 代 金 は 船 積 み 当 時 の 臨 時 検 品 時 に 検 品 結 果 により 臨 時 に 定 めて 支 給 するが、 引 渡 地 で最 終 検 品 をして 最 終 価 格 を 定 めた 後 、 上 記 の 臨 時 価 格 との 差 額 を 精 算 することにした 売 買契 約 において、その 差 額 の 精 算 に 関 する 紛 争 は 最 終 検 品 の 有 無 及 びその 結 果 が 主 に 問 題 となるため、 引 渡 地 たる 中 国 の 裁 判 所 が 紛 争 となった 事 案 と 最 も 実 質 的 関 連 がある 裁 判 所 であるが、 被 告 が 原 告 を 相 手 に 中 国 裁 判 所 に 提 起 した 訴 えが 却 下 され、 本 件 のニシンがもはや 存 在 せず、 被 告 が 本 件 ニシンの 引 き 渡 しを 受 け、 処 分 した 時 点 から 約 5 年 が 経 過 しており、いまさら 韓 国 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 権 を 否 定 すると、 当 事 者 の 権 利 救 済 を 度 外 視 する結 果 を 惹 起 しうる 点 、 被 告 が 本 件 の 本 訴 に 対 して 反 訴 を 提 起 しているので、 原 ・ 被 告 間 の紛 争 を 終 局 的 に 一 挙 に 解 決 する 必 要 性 がある 点 、 原 告 が 韓 国 の 会 社 であり、 韓 国 で 契 約 の締 結 と 関 連 する 書 類 をファクスで 転 送 する 方 法 で 本 件 契 約 を 締 結 し、 本 件 における 清 算 金の 送 金 を 受 けることにした 地 が 韓 国 である 点 等 を 考 慮 するとき、 韓 国 にも 当 事 者 又 は 紛 争となった 事 案 と 実 質 的 関 連 があるということができ、したがって 韓 国 の 裁 判 所 に 国 際 裁 判管 轄 権 を 認 めることができるとしたのである。111213石 ・ 前 掲 注 (6)44 頁 。大 法 院 2005 年 1 月 27 日 宣 告 2002 タ 59788 判 決 参 照 。大 法 院 2010 年 7 月 15 日 宣 告 2010 タ 18355 判 決 も 同 旨 である。 本 判 決 は、2002 年 韓 国 の 金海 空 港 近 辺 で 発 生 した 中 国 航 空 機 墜 落 事 故 で 死 亡 した 中 国 人 乗 務 員 の 遺 族 が 中 国 航 空 社 を 相 手に 韓 国 の 裁 判 所 に 損 害 賠 償 請 求 訴 訟 を 提 起 した 事 案 において、 民 事 訴 訟 法 上 の 土 地 管 轄 権 、 訴訟 当 事 者 らの 個 人 的 利 益 、 裁 判 所 の 利 益 、 他 の 被 害 遺 族 らとの 衡 平 性 等 に 照 らして、 損 害 賠 償訴 訟 は 韓 国 と 実 質 的 関 連 があるとみるのが 十 分 であるため、 韓 国 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認めた。4275


2 専 属 管 轄民 事 訴 訟 法 ( 第 31 条 )は 専 属 管 轄 に 属 する 事 件 については 当 事 者 の 合 意 又 は 応 訴 により排 除 することができないと 規 定 している。 後 述 するように、 家 事 訴 訟 法 は 家 事 訴 訟 事 件 及び 家 事 非 訟 事 件 の 管 轄 に 関 する 専 属 管 轄 を 規 定 しているが、それに 基 づいて 当 然 に 専 属 的国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるわけではない。3 客 観 的 併 合民 事 訴 訟 法 ( 第 25 条 第 1 項 )は、 請 求 の 客 観 的 併 合 の 場 合 、 関 連 裁 判 籍 を 規 定 する。 家事 訴 訟 法 ( 第 14 条 第 1 項 )も、 家 事 訴 訟 間 及 び 家 事 訴 訟 と 家 事 非 訟 間 において 関 連 事 件 を併 合 することができると 規 定 している。 関 連 裁 判 籍 に 関 する 基 準 が 国 際 家 事 訴 訟 ・ 非 訟 事件 における 国 際 裁 判 管 轄 にも 適 用 ないし 類 推 適 用 されるかが 問 題 となる。大 法 院 2003 年 9 月 26 日 宣 告 2003 タ 29555 判 決 は、「 国 際 裁 判 管 轄 における 関 連 裁 判 籍は 被 告 の 立 場 において 不 当 に 応 訴 を 強 要 されないように、 請 求 の 牽 連 性 、 紛 争 の 1 回 解 決の 可 能 性 、 被 告 の 現 実 的 応 訴 の 可 能 性 等 を 総 合 的 に 考 慮 して 慎 重 に 認 められるべきであり、インターネットを 通 じた 不 法 行 為 において 不 法 行 為 の 結 果 発 生 地 としての 裁 判 管 轄 の 認 定には 被 害 者 の 保 護 、 被 害 の 軽 重 、 証 拠 収 集 の 便 宜 、 加 害 者 の 意 図 と 予 測 可 能 性 等 が 考 慮 されなければならない」と 判 示 した。4 応 訴 管 轄民 事 訴 訟 法 ( 第 30 条 )は 被 告 が 第 1 審 法 院 で 管 轄 違 反 であることを 抗 弁 せず、 本 案 に 対して 弁 論 するか 又 は 弁 論 準 備 期 日 に 陳 述 すれば、その 法 院 は 管 轄 権 を 有 すると 規 定 している。 一 般 的 に 国 際 裁 判 管 轄 においてもこのような 応 訴 管 轄 が 認 められる。大 法 院 1988 年 4 月 12 日 宣 告 85 ム 71 判 決 は、「 渉 外 離 婚 事 件 における 離 婚 判 決 を 下 した外 国 裁 判 所 に 裁 判 管 轄 権 があるとするためには、その 離 婚 請 求 の 相 手 方 が 行 方 不 明 その 他これに 準 ずる 事 情 があるか 又 は 相 手 方 が 応 訴 してその 利 益 が 不 当 に 侵 害 されるおそれがないとみられる 例 外 的 な 場 合 を 除 き、その 国 に 相 手 方 が 住 所 を 有 することを 要 件 とする、いわゆる 被 告 住 所 地 主 義 によることが 相 当 である。」と 判 示 した。 本 判 決 は 相 手 方 が 積 極 的 に応 訴 した 場 合 であっても 応 訴 管 轄 を 認 める 代 わりに、 例 外 的 な 事 情 の 枠 内 で 理 解 している。5276


5 管 轄 の 合 意民 事 訴 訟 法 ( 第 29 条 )は 当 事 者 が 一 定 の 法 律 関 係 による 訴 えに 関 して 管 轄 の 合 意 をすることができ、 合 意 の 方 式 に 関 して 書 面 によることを 規 定 する。 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 合 意も 許 される。 一 般 的 に、 韓 国 裁 判 所 のほかに 外 国 裁 判 所 を 管 轄 裁 判 所 とする 付 加 的 合 意 の場 合 はとくに 問 題 はないが、 外 国 裁 判 所 のみを 排 他 的 に 管 轄 裁 判 所 とする 専 属 的 合 意 の 場合 は 韓 国 の 裁 判 権 を 排 除 するので 問 題 となる。大 法 院 1997 年 9 月 9 日 宣 告 96 タ 20093 判 決 14 は、「 韓 国 裁 判 所 の 管 轄 を 排 除 し、 外 国 の裁 判 所 を 管 轄 裁 判 所 とする 専 属 的 な 合 意 が 有 効 となるためには、ⅰ) 当 該 事 件 が 韓 国 裁 判所 の 専 属 管 轄 に 属 しないこと、ⅱ) 指 定 された 外 国 裁 判 所 がその 外 国 法 上 当 該 事 件 に 対 して 管 轄 権 を 有 すること、ⅲ) 当 該 事 件 がその 外 国 裁 判 所 に 対 して 合 理 的 な 関 連 性 を 有 しなければならことが 要 求 され、さらにⅳ) 専 属 的 管 轄 合 意 が 顕 著 に 不 合 理 であり 不 公 正 である 場 合 にはその 管 轄 合 意 は 公 序 良 俗 に 反 する 法 律 行 為 に 該 当 する 点 においても 無 効 である」と 判 示 した。ところが、ⅲ)の 要 件 、すなわち 外 国 裁 判 所 を 管 轄 裁 判 所 とする 専 属 的 合 意管 轄 を 有 効 とするために 合 理 的 関 連 性 を 要 求 する 大 法 院 の 立 場 については 批 判 的 な 見 解 が有 力 である。なお、 国 際 私 法 第 27 条 及 び 第 28 条 は、 消 費 者 契 約 に 関 する 訴 えと 労 働 契 約 に 関 する 訴えにおいて 国 際 裁 判 管 轄 の 合 意 をするためには、ⅰ) 書 面 合 意 であること、ⅱ)すでに 紛争 が 発 生 した 後 の 事 後 的 合 意 であること、ⅲ) 第 27 条 及 び 第 28 条 の 法 定 管 轄 裁 判 所 に 追加 する 付 加 的 合 意 であることを 要 件 としている。家 事 訴 訟 法 ( 第 13 条 第 1 項 )は、この 法 律 に 特 別 な 規 定 がある 場 合 を 除 き、 被 告 の 普 通裁 判 籍 がある 地 の 家 庭 法 院 が 管 轄 すると 規 定 しており、 原 則 的 に 管 轄 の 合 意 を 認 めていない 点 、そして 国 際 家 事 事 件 の 特 殊 性 及 び 公 益 性 等 を 考 慮 すれば、 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 当事 者 間 の 合 意 は 認 めらないという 見 解 が 有 力 である。(2) 管 轄 原 因 に 関 する 職 権 調 査 の 有 無国 際 裁 判 管 轄 権 は 具 体 的 訴 訟 の 進 行 において 訴 訟 要 件 の 形 態 で 作 用 し、 公 益 的 性 格 が 大きい 独 立 的 訴 訟 要 件 であるため、 国 際 取 引 関 連 訴 訟 が 韓 国 裁 判 所 に 提 起 された 場 合 、まず14大 法 院 2004 年 3 月 25 日 宣 告 2001 タ 53349 判 決 も 同 旨 。6277


韓 国 裁 判 所 に 当 該 事 件 の 裁 判 管 轄 権 があるか 否 かを 職 権 で 調 査 しなければならない。 韓 国裁 判 所 は、 管 轄 権 がないと 認 められる 場 合 は、その 訴 えを 却 下 しなければならない 15 。(3) 国 際 訴 訟 競 合外 国 裁 判 所 の 判 決 が 韓 国 で 承 認 される( 民 事 訴 訟 法 第 217 条 ) 可 能 性 が 予 測 されるときには、 訴 訟 係 属 とみることができる。この 場 合 、 外 国 裁 判 所 に 訴 訟 係 属 中 の 同 一 事 件 に 対して 国 内 裁 判 所 に 訴 えが 提 起 されたならば、 重 複 訴 訟 とみて 却 下 されなければならない。(4) 保 全 処 分 の 国 際 裁 判 管 轄民 事 執 行 法 の 保 全 処 分 に 関 する 土 地 管 轄 規 定 を 根 拠 に 国 際 裁 判 管 轄 を 導 き 出 すので、 仮差 押 えと 仮 処 分 の 場 合 にはともに 本 案 管 轄 を 有 する 国 家 の 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 し、仮 差 押 えの 場 合 には 仮 差 押 え 目 的 物 所 在 地 に、 仮 処 分 の 場 合 には 例 外 的 に 係 争 物 の 所 在 地の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 する 見 解 が 有 力 である。家 事 訴 訟 法 ( 第 63 条 第 1 項 )は、 家 庭 法 院 は 家 事 訴 訟 事 件 又 はマ 類 家 事 非 訟 事 件 を 本 案事 件 として 仮 差 押 え 又 は 仮 処 分 をすることができ、この 場 合 には 民 事 執 行 法 上 の 仮 差 押え・ 仮 処 分 に 関 する 規 定 が 準 用 されると 規 定 している。16(5) 国 際 家 事 事 件 手 続 の 概 観2010 年 外 国 人 との 婚 姻 は 婚 姻 件 数 の 約 10.5%、そのうち 韓 国 人 男 性 と 外 国 人 女 性 との 婚姻 が 76.8%を 占 めている 17 。2010 年 外 国 人 との 離 婚 は 離 婚 件 数 の 9.6%であり、このうち 韓国 人 男 性 と 外 国 人 女 性 との 離 婚 が 約 70%を 占 めている 18 。15法 院 行 政 処 『 国 際 取 引 裁 判 実 務 編 覧 』(2006)4 頁 。16 チョン・ヨンスク「 国 際 家 事 訴 訟 事 件 の 実 態 分 析 及 び 改 善 方 案 :ソウル 家 庭 法 院 家 事 5 単 独( 国 際 家 事 訴 訟 事 件 ) 専 担 裁 判 部 」 実 務 例 を 中 心 として」 国 際 私 法 研 究 第 12 号 58 頁 以 下 参 照(2006)。17婚 姻 件 数 の 推 移 をみると、 外 国 人 との 婚 姻 件 数 ( 総 婚 姻 中 の 比 重 )は 2006 年 (11.7%)、2007年 (10.9%)、2008 年 (11%)、2009 年 (10.8%)、2010 年 (10.5%)である。2010 年 において国 籍 別 外 国 人 女 性 は 中 国 人 (36.6%)、ベトナム 人 (36.6%)、フィリピン 人 (7.38%)、 日 本 人(4.5%)であり、 国 籍 別 外 国 人 男 性 は 中 国 人 (28.8%)、 日 本 人 (26.3%)、 米 国 人 (19%)、カナダ(5.1%)である( 統 計 庁 2010 年 婚 姻 ・ 離 婚 統 計 報 道 資 料 10 頁 以 下 参 照 )。18離 婚 件 数 の 推 移 をみると、 外 国 人 との 離 婚 件 数 は( 総 離 婚 中 の 比 重 )は、2006 年 (4.9%)、2007 年 (7.0%)、2008 年 (9.7%)、2009 年 (9.4%)、2010 年 (9.6%)である( 統 計 庁 2010 年婚 姻 ・ 離 婚 統 計 報 道 資 料 20 頁 以 下 参 照 )。7278


国 際 家 事 訴 訟 事 件 は、 離 婚 又 は 婚 姻 無 効 等 の 婚 姻 関 係 事 件 が 大 多 数 であり( 表 1 参 照 )、このうち 韓 国 人 男 性 と 中 国 朝 鮮 族 女 性 との 婚 姻 関 係 事 件 が 主 流 をなしている 19 。その 他 、韓 国 人 と 日 本 、フィリピン、ベトナム、ウズベキスタン、パキスタン 等 外 国 人 間 の 婚 姻 関係 事 件 、 国 内 居 住 の 韓 国 人 と 外 国 居 住 の 韓 国 人 との 婚 姻 関 係 事 件 も 少 なくない。当 事 者 又 は 関 係 人 が 韓 国 に 住 所 を 有 しない 場 合 であっても 韓 国 で 裁 判 することができることを 前 提 に( 根 拠 規 定 として 家 事 訴 訟 法 第 13 条 第 2 項 参 照 ) 20 、 国 際 家 事 事 件 の 90% 以上 を 処 理 しているソウル 家 庭 法 院 は、 国 際 家 事 訴 訟 事 件 を 専 担 する 単 独 裁 判 部 2 個 、 合 議裁 判 部 1 個 を 設 け、 国 際 家 事 訴 訟 事 件 を 処 理 している。 事 件 を 受 け 付 ける 段 階 において、原 告 と 被 告 の 一 方 又 は 双 方 が 外 国 人 であるか、 若 しくは 原 ・ 被 告 いずれもが 韓 国 人 であっても 一 方 又 は 双 方 の 住 所 地 が 外 国 であるため 外 国 へ 送 達 をする 必 要 がある 場 合 には、これを 国 際 家 事 訴 訟 事 件 として 分 類 し、 上 記 の 裁 判 部 に 事 件 を 配 当 しているとされる 21 。< 表 1: 第 1 審 家 事 訴 訟 事 件 >2005 年 度 2006 年 度 2007 年 度 2008 年 度 2009 年 度家 事 訴 訟 事 件 関1,840 名 ( 原 告 :3,196 名 ( 原 告 :4,407 名 ( 原 告 :5,803 名 ( 原 告 :6,323 名 ( 原 告 :連 外 国 人 数185 名 、 被 告 :631 名 、 被 告 :1,260 名 、 被 告 :2,179 名 、 被 告 :2,449 名 、 被 告 :1,655 名 )2,565 名 )3,147 名 )3,624 名 )3,874 名 )離 婚 又 は 婚 姻 無85.5% 85% 87.1% 88.6% 88.6%効 事 件 にかかる人 員国 籍 別 中 国 人 :1,244中 国 人 :2,097中 国 人 :2,975 名中 国 人 :3,853 名中 国 人 :4,761 名名 (67.6%)名 (77.2%)(77.1%)(66.4%)(75.3%)米 国 人 :138 名米 国 人 :179 名ベトナム 人 :359ベトナム 人 :586ベトナム 人 :919(7.5%)(6.6%)名 (9.3%)名 (10.1%)名 (14.5%)19 チョン・ 前 掲 注 (16)59 頁 。20 この 規 定 については、 直 接 的 に 国 際 家 事 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 規 定 しているとはいいがたいとの 見 解 や 本 国 管 轄 主 義 の 実 定 法 上 の 根 拠 とみる 見 解 もある。21原 ・ 被 告 がいずれも 韓 国 人 である 場 合 、 原 告 の 住 所 地 は 外 国 にあり、 被 告 の 住 所 地 は 韓 国 にあるときに、 原 告 に 訴 訟 代 理 人 が 選 任 されているか 又 は 送 達 領 収 人 が 韓 国 にいるので 外 国 送 達の 必 要 性 がない 場 合 は、 一 般 家 事 事 件 として 配 当 している(チョン・ 前 掲 注 (16)59 頁 注 (3))。8279


日 本 人 :65 名日 本 人 :60 名フィリピン 人 :127フィリピン 人 :143フィリピン 人 :167(3.5%)(2.2%)名 (3.3%)名 (2.6%)名 (2.6%)以 下 では、ソウル 家 庭 法 院 家 事 5 単 独 の 実 務 例 を 中 心 に 検 討 する。221 出 入 国 管 理 事 務 所 に 出 入 国 事 実 照 会国 際 家 事 訴 訟 事 件 として 分 類 される 事 件 が 受 け 付 けられると、 家 庭 法 院 は 職 権 で 出 入 国管 理 事 務 所 に 被 告 の 出 入 国 内 訳 を 事 実 照 会 して 被 告 が 国 内 にいるか、 被 告 が 外 国 にいるかを 把 握 することにしている。また 被 告 が 外 国 人 である 場 合 は、 出 入 国 管 理 事 務 所 に 出 入 国内 訳 の 照 会 をするときに 被 告 の 外 国 人 登 録 の 有 無 も 事 実 照 会 し、 仮 に 外 国 人 登 録 がされていれば、 外 国 人 登 録 簿 謄 本 を 家 庭 法 院 に 送 付 することを 要 請 している 23 。これは 被 告 の 国内 住 所 を 確 認 するためのものであり、 原 告 が 国 内 にいる 被 告 の 住 所 を 疏 明 できない 場 合 、職 権 で 外 国 人 登 録 簿 謄 本 に 記 載 された 滞 留 地 に 訴 状 等 を 送 達 するためである。242 被 告 が 国 内 にいる 場 合被 告 が 国 内 にいてその 者 に 対 する 送 達 が 可 能 である 場 合 は、 国 内 事 件 と 同 様 に 送 達 すれば 足 りる。 法 院 裁 判 事 務 処 理 規 則 第 9 条 は、「 裁 判 事 務 等 に 関 する 文 書 のうち 国 語 を 解 読 できない 外 国 人 に 交 付 又 は 提 示 する 文 書 として 必 要 と 認 められるもの 及 び 外 国 語 でされた 文書 を 受 け 付 ける 際 には、その 文 書 の 提 出 者 に 翻 訳 文 を 付 けさせなければならない」と 規 定している 25 。ところが 被 告 に 対 する 送 達 が 不 可 能 である 場 合 、 被 告 が 韓 国 人 であるときには、 国 内 家事 事 件 と 同 様 に 公 示 送 達 のための 要 件 として 被 告 の 住 民 登 録 抹 消 と 被 告 の 父 母 又 は 兄 弟 姉妹 のうち 1 人 に 被 告 に 対 する 所 在 不 明 確 認 書 の 提 出 を 要 求 し、 若 しくはそのような 所 在 不明 確 認 書 を 提 出 することができない 場 合 に、 親 族 事 実 照 会 をして 被 告 の 住 所 に 対 する 回 信22 チョン・ 前 掲 注 (16)61 頁 。23 ただし、 原 告 が 被 告 と 同 居 しながら 被 告 の 住 所 が 知 れない 場 合 はないはずなので、 登 録 滞 留地 が 原 告 の 住 所 と 同 じである 場 合 は、 別 途 に 登 録 滞 留 地 に 送 達 をしていない。ところが、 出 入国 事 実 照 会 をするためには、 照 会 対 象 者 の 旅 券 上 英 文 姓 名 と 生 年 月 日 を 確 認 する 必 要 があり、婚 姻 申 告 時 に 提 出 することになっている 婚 姻 証 書 、 婚 姻 成 立 要 件 具 備 証 明 書 又 はこれに 代 わる宣 誓 書 若 しくは 公 証 書 等 を 原 告 に 提 出 させるよう 補 正 命 令 をしている(チョン・ 前 掲 注 (16)61 頁 )。24 チョン・ 前 掲 注 (16)62 頁 。25国 際 家 事 訴 訟 事 件 の 場 合 、ほとんどの 被 告 は 中 国 朝 鮮 族 であり 韓 国 語 を 解 読 することが 可 能であり、その 他 の 外 国 人 の 場 合 も 訴 状 の 受 け 付 け 段 階 ではその 外 国 人 の 韓 国 語 解 読 の 可 否 が 不明 であるので、 特 別 に 訴 状 の 翻 訳 を 要 求 していない(チョン・ 前 掲 注 (16)62 頁 )。9280


がないときは 公 示 送 達 をしている。 被 告 が 外 国 人 であるときには、 原 告 が 被 告 の 住 所 として 疏 明 した 住 所 地 に 送 達 したが 送 達 不 可 能 となるか 又 は 初 めから 被 告 の 住 所 が 知 れないと主 張 する 場 合 、 職 権 で 確 認 した 外 国 人 登 録 簿 に 記 載 された 国 内 滞 留 地 に 送 達 しているところ、これに 対 する 送 達 も 不 可 能 であるときには、 原 告 に 利 害 関 係 人 の 被 告 に 対 する 所 在 不明 確 認 書 を 提 出 させ、 公 示 送 達 で 進 行 している。263 被 告 が 外 国 にいる 場 合ⅰ) 外 国 住 所 の 確 認外 国 送 達 事 件 は 送 達 にかかる 期 間 が 国 内 事 件 に 比 べてはるかに 長 いため、 送 達 を 数 回 にわたって 実 施 する 場 合 には 裁 判 が 非 常 に 遅 延 されるので、 出 入 国 事 実 照 会 の 結 果 、 被 告 が外 国 にいる 場 合 、 被 告 の 外 国 住 所 を 徹 底 に 確 認 して 1 回 の 外 国 送 達 で 送 達 の 目 的 を 達 成 できるようにしている。まず 被 告 が 韓 国 人 である 場 合 、 原 告 が 訴 状 に 被 告 の 外 国 住 所 を 特 定 していれば 原 告 に 被告 の 国 外 住 所 に 対 する 疏 明 資 料 ( 被 告 から 届 いた 封 筒 、 在 外 国 民 登 録 簿 謄 本 等 )を 提 出 させ、 訴 状 に 記 載 された 被 告 の 住 所 が 実 際 において 被 告 の 住 所 であるか 否 かを 確 認 している。原 告 が 訴 状 に 被 告 の 外 国 住 所 を 特 定 できない 場 合 には、「 被 告 に 送 達 可 能 な 国 外 住 所 とそれに 対 する 疏 明 資 料 を 提 出 せよ」という 趣 旨 の 補 正 命 令 をすると 同 時 に、 職 権 で 外 交 通 商 部に 在 外 国 民 登 録 簿 謄 本 を 家 庭 法 院 に 送 付 することを 要 請 している。その 後 、 原 告 が 疏 明 した 被 告 の 住 所 と 在 外 国 民 登 録 簿 上 に 登 録 された 住 所 が 異 なる 場 合 、 諸 状 況 をみて 被 告 が 居住 しているとみられる 地 に 送 達 しており、 仮 にどの 地 が 被 告 の 住 所 地 であるかにつき 確 信が 立 たない 場 合 には 二 つの 住 所 いずれにも 送 達 している。ところが 原 告 が 被 告 の 送 達 可 能な 外 国 の 住 所 を 疏 明 できず 在 外 国 民 登 録 もされていない 場 合 は、 国 内 事 件 と 同 様 に 住 民 登録 の 抹 消 と 被 告 の 父 母 又 は 兄 弟 姉 妹 のうち 1 人 の 被 告 に 対 する 所 在 不 明 確 認 書 の 提 出 、 若しくは 被 告 の 父 母 又 は 兄 弟 姉 妹 のうち 2 人 に 対 する 事 実 照 会 の 結 果 、 回 信 がないことを 要件 として 公 示 送 達 をしている。他 方 、 被 告 が 外 国 人 である 場 合 、 前 述 のように、 婚 姻 申 告 時 に 提 出 することになっている 婚 姻 証 書 、 婚 姻 成 立 要 件 具 備 証 明 書 又 はこれに 代 わる 宣 誓 書 若 しくは 公 証 書 等 を 提 出 させ、 被 告 の 外 国 住 所 を 確 認 している。 原 告 が 疏 明 した 住 所 と 上 記 の 書 類 上 の 住 所 が 異 なる場 合 は、 原 告 に 外 国 住 所 に 対 する 疏 明 資 料 を 提 出 させており、これを 提 出 できず 被 告 の 外国 住 所 を 把 握 するようになった 経 緯 を 明 らかにすることができない 場 合 には、 上 記 の 書 類26 チョン・ 前 掲 注 (16)62 頁 以 下 参 照 。10281


上 に 記 載 された 外 国 住 所 に 送 達 している。ところが 原 告 が 初 めから 被 告 の 住 所 が 知 れないとされ、 被 告 の 住 所 を 疏 明 できず 上 記 の 書 類 上 の 住 所 さえ 確 認 することができない 場 合 、また 上 記 の 書 類 上 の 住 所 が 非 常 に 前 のものであり、 請 求 原 因 等 の 諸 事 情 を 考 慮 してみれば、現 在 その 住 所 地 に 居 住 している 可 能 性 が 希 薄 である 場 合 は、 外 国 送 達 を 実 施 するのではなく、 直 ちに 外 国 公 示 送 達 をしている。27ⅱ) 外 国 送 達 の 嘱 託韓 国 が 締 結 した 送 達 関 連 条 約 としては、 二 国 間 条 約 として「 大 韓 民 国 とオーストラリアとの 間 における 民 事 司 法 共 助 条 約 」、「 大 韓 民 国 と 中 華 人 民 共 和 国 間 における 民 事 及 び 商 事司 法 共 助 条 約 」があり、 多 国 間 条 約 として「 民 事 及 び 商 事 の 裁 判 上 及 び 裁 判 外 の 文 書 の 外国 送 達 に 関 する 条 約 」( 以 下 、ハーグ 送 達 条 約 という。)がある。なお、 領 事 送 達 の 根 拠 となる「 領 事 関 係 に 関 するウィーン 条 約 」がある。 国 内 法 としては、 国 際 民 事 司 法 共 助 法 、その 下 位 規 範 として 国 際 民 事 司 法 共 助 規 則 、 国 際 民 事 司 法 共 助 等 に 関 する 例 規 があり、 民事 訴 訟 法 28 がある。被 告 が 外 国 人 である 場 合 、 二 国 間 条 約 関 係 にある 国 家 及 びハーグ 送 達 条 約 締 約 国 への 送達 は 中 央 当 局 29 を 通 じて 送 達 をしており、 条 約 関 係 がない 国 家 への 送 達 は 管 轄 裁 判 所 への嘱 託 送 達 の 方 法 を 取 っている。 他 方 、 被 告 が 韓 国 人 である 場 合 には 領 事 送 達 をしている。ただし、 米 国 への 送 達 についてはその 対 象 が 韓 国 人 である 場 合 はもちろん、 米 国 人 と 第 3国 国 民 である 場 合 でも 領 事 送 達 が 可 能 である。 外 国 へ 送 達 する 場 合 には、 送 達 方 式 により必 要 とされる 所 定 の 翻 訳 文 が 添 付 されなければならない。ハーグ 送 達 条 約 締 約 国 に 対 して送 達 をする 場 合 において、 国 外 送 達 要 請 書 、 文 書 の 要 旨 、 送 達 証 明 書 は 英 語 、フランス 語又 は 被 嘱 託 国 の 共 用 語 で 作 成 し、その 他 の 送 達 書 類 は 韓 国 語 で 作 成 した 後 、 被 嘱 託 国 の 共用 語 を 使 用 した 翻 訳 文 を 添 付 しなければならない。30ⅲ) 期 日 の 指 定出 入 国 の 事 実 照 会 により 被 告 が 外 国 にいることが 明 らかになり、 送 達 する 外 国 住 所 が 特定 されれば、 被 告 が 韓 国 人 である 場 合 には 直 ちに、 被 告 が 外 国 人 である 場 合 は、 原 告 に 訴状 副 本 を 翻 訳 させた 後 、 具 体 的 な 期 日 を 定 めることになる。 通 常 、1 回 目 の 弁 論 期 日 は 外国 送 達 嘱 託 書 の 作 成 日 から 6 か 月 ないし 7 か 月 後 に 定 め、その 次 の 弁 論 期 日 はそれから 3272829法 院 行 政 処 ・ 前 掲 注 (15)23 以 下 参 照 。第 191 条 、 第 194 条 、 第 196 条 。韓 国 の 中 央 当 局 は 法 院 行 政 処 である。30 チョン・ 前 掲 注 (16)62 頁 。11282


週 ないし 4 週 後 に、3 回 目 の 弁 論 期 日 は 1 回 目 の 期 日 から 2 か 月 後 に 定 める。1 回 目 の 期 日と 3 回 目 の 期 日 との 間 で 間 隔 を 2 か 月 にする 理 由 は、1 回 目 の 期 日 まで 送 達 回 信 が 来 ていない 場 合 、 公 示 送 達 31 をしながら、3 回 目 の 期 日 に 期 日 変 更 をしているが、 外 国 公 示 送 達 の効 力 が 2 か 月 後 に 生 ずるからである。この 場 合 、3 回 目 の 期 日 までも 送 達 回 信 が 来 ていないか 又 は 送 達 不 可 能 の 回 信 が 来 ると、そのまま 公 示 送 達 状 態 で 弁 論 期 日 を 進 行 し、もし 送達 されたという 回 信 が 来 ると、 公 示 送 達 の 決 定 を 取 消 し、その 期 日 を 進 行 することになる 32 。334 審 理ソウル 家 庭 法 院 の 家 事 5 単 独 で 主 に 処 理 する 国 際 家 事 訴 訟 事 件 ( 原 告 と 被 告 が 韓 国 人 である 場 合 を 除 く。)の 類 型 は、 三 つに 区 別 できる。 第 1 に、 韓 国 人 が 韓 国 に 入 国 していない外 国 人 を 相 手 にする 離 婚 、 婚 姻 無 効 、 婚 姻 取 消 事 件 であり、 第 2 に、 韓 国 人 が 国 内 に 居 住している 外 国 人 又 は 韓 国 に 入 国 したが 家 出 してその 行 方 が 不 明 である 外 国 人 を 相 手 にする離 婚 、 離 婚 及 び 慰 謝 料 、 離 婚 及 び 親 権 者 ・ 養 育 者 指 定 、 婚 姻 無 効 、 婚 姻 取 消 事 件 であり、第 3 に 外 国 人 ( 主 に 中 国 女 性 )が 韓 国 人 を 相 手 にする 離 婚 又 は 離 婚 及 び 慰 謝 料 請 求 事 件 である。 第 3 の 類 型 は 韓 国 人 が 外 国 人 を 相 手 にする 離 婚 又 は 離 婚 及 び 慰 謝 料 請 求 事 件 において、 外 国 人 が 韓 国 人 を 相 手 に 離 婚 又 は 離 婚 及 び 慰 謝 料 請 求 を 反 訴 で 提 起 する 形 態 でなされることもある 34 。大 部 分 の 事 件 は 公 示 送 達 で 進 行 されており、 送 達 された 事 件 においても 当 事 者 が 争 うことは 稀 である。 公 示 送 達 で 進 行 される 事 件 、 争 いのない 事 件 においては、 婚 姻 無 効 及 び 婚姻 取 消 事 件 を 除 き、 職 権 で 実 施 した 出 入 国 事 実 照 会 の 回 信 結 果 と 当 事 者 が 提 出 した 陳 述 書 、家 出 申 告 書 をもって 立 証 されたものとみなして 原 告 勝 訴 判 決 を 宣 告 しており、 婚 姻 無 効 事件 又 は 婚 姻 取 消 事 件 の 場 合 は、その 事 由 を 認 められる 客 観 的 な 立 証 資 料 がない 限 り、 離 婚に 請 求 趣 旨 を 変 更 させている。 他 方 、 争 いのある 事 件 においては、 一 般 家 事 事 件 と 同 様 に、31 ハーグ 送 達 条 約 第 15 条 に 基 づき 送 達 回 信 が 来 ていない 場 合 、 公 示 送 達 を 通 じて 判 決 を 宣 告している。ハーグ 送 達 条 約 が 適 用 されない 国 の 場 合 であっても 送 達 をして 相 当 の 時 間 が 経 過 したが、 何 の 回 報 がないときには 民 事 訴 訟 法 第 194 条 第 1 項 に 該 当 するとみて 公 示 送 達 をしている(チョン・ 前 掲 注 (16)66 頁 )。32被 告 に 送 達 がされた 場 合 は、 事 案 によって 三 つの 弁 論 期 日 をすべて 活 用 して 主 張 ・ 立 証 をする 場 合 もあるが、ほとんどは 1 回 目 ないし 2 回 目 の 弁 論 期 日 が 実 際 に 進 行 され、 残 りの 期 日 は取 消 して 宣 告 している。 他 方 、1 回 目 の 弁 論 期 日 以 前 に 送 達 不 可 能 の 回 信 が 到 着 するときには、住 所 補 正 の 必 要 性 があるとみられる 特 別 な 事 情 がない 限 り、 直 ちに 外 国 公 示 送 達 をしながら、公 示 送 達 の 効 力 が 発 生 する 2 か 月 後 の 日 付 で 期 日 変 更 をしている(チョン・ 前 掲 注 (16)66 頁以 下 )。33 チョン・ 前 掲 注 (16)66 頁 。34 チョン・ 前 掲 注 (16)67 頁 。12283


家 事 調 査 を 受 けさせ、その 後 、 調 停 手 続 を 経 て、 弁 論 で 審 理 をした 後 、 判 決 を 宣 告 している 35 。3. 個 別 事 項 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄(1) 離 婚国 際 家 事 事 件 においては 主 に 婚 姻 関 係 ( 離 婚 及 び 婚 姻 無 効 等 ) 事 件 が 問 題 となっているため、 判 例 及 び 実 務 もこれにかかわるものが 多 い。大 法 院 1975 年 7 月 22 日 宣 告 74 ム 22 判 決 では、「 外 国 人 間 の 離 婚 審 判 請 求 事 件 に 対 する裁 判 請 求 権 の 行 使 は、 訴 訟 手 続 上 の 公 平 及 び 正 義 観 念 に 照 らして 相 手 方 たる 被 請 求 人 の 行方 不 明 その 他 これに 準 ずる 事 情 があるか 又 は 被 告 が 積 極 的 に 応 訴 してその 利 益 が 不 当 に 侵害 されるおそれがないとみられ、それらに 対 する 審 判 の 拒 否 がむしろ 外 国 人 に 対 する 法 の保 護 を 拒 否 するものとなり、 正 義 に 反 すると 認 められる 例 外 的 な 場 合 を 除 き、 相 手 方 たる被 請 求 人 の 住 所 が 韓 国 にあることを 要 件 とする。」と 判 示 した。この 判 決 を 主 導 的 先 例 として 判 例 の 主 流 的 立 場 が 確 立 され、 従 来 の 主 流 的 判 例 によれば、 本 国 ( 国 籍 ) 管 轄 を 基 準 とするものはみられず、 住 所 を 基 準 として 被 告 住 所 地 管 轄 を 原 則 とするが、 制 限 的 原 告 住 所地 管 轄 を 認 める 36 。ところが、このような 立 場 が 外 国 人 間 の 離 婚 のみに 適 用 されるのか、それとも 一 般 的 に 国 際 離 婚 事 件 の 裁 判 管 轄 に 適 用 されるのかは 明 らかではない。国 際 私 法 第 2 条 の 新 設 後 、 大 法 院 2006 年 5 月 26 日 宣 告 2005 ム 884 判 決 では、 米 国 国 籍の 原 告 と 韓 国 国 籍 であったが 韓 国 で 婚 姻 した 後 に 米 国 国 籍 を 取 得 した 被 告 と 居 住 期 限 を 定めず 韓 国 で 居 住 したが、 被 告 を 相 手 に 離 婚 、 親 権 者 及 び 養 育 者 指 定 を 請 求 した 事 案 において、「1 原 ・ 被 告 が 韓 国 に 常 居 所 を 有 し、その 婚 姻 が 韓 国 で 成 立 しており、その 婚 姻 生 活 のほとんどが 韓 国 で 形 成 された 点 まで 考 慮 すれば、 韓 国 と 実 質 的 関 連 性 があるとみることができるので、 国 際 私 法 第 2 条 第 1 項 の 規 定 により 韓 国 の 裁 判 所 は 裁 判 管 轄 権 がある、2 米国 ミズーリ 州 の 国 際 離 婚 管 轄 法 を 検 討 した 後 に、 国 際 私 法 第 2 条 第 2 項 で 規 定 される 国 際裁 判 管 轄 の 特 殊 性 を 十 分 に 考 慮 しても 韓 国 の 裁 判 所 は 裁 判 管 轄 権 を 行 使 するに 何 ら 問 題 は35 チョン・ 前 掲 注 (16)70 頁 以 下 。36大 法 院 1988 年 4 月 12 日 宣 告 85 ム 71 判 決 、 大 法 院 1994 年 2 月 21 日 ザ 92 ス 26 決 定 においても 本 国 管 轄 について 明 らかにしていない。13284


ない、3 被 告 が 積 極 的 に 応 訴 した 点 まで 考 慮 すれば、 韓 国 の 裁 判 所 に 裁 判 管 轄 権 を 認 めるにさらに 何 の 問 題 がない。」と 判 示 した。本 件 は 被 告 の 住 所 が 韓 国 にある 事 案 であり、 被 告 住 所 地 管 轄 の 原 則 により 国 際 離 婚 の 裁判 管 轄 を 認 めることで 従 来 の 主 流 的 判 例 の 態 度 と 一 貫 している 37 。 国 際 私 法 第 2 条 は 国 際離 婚 における 裁 判 管 轄 について 直 接 規 定 していないため、 同 条 が 新 設 された 後 にも 従 前 の判 例 の 立 場 は 維 持 されることになるであろう。国 籍 は 婚 姻 等 身 分 関 係 が 当 事 者 の 本 国 と 密 接 な 関 係 があり、 国 際 私 法 上 においても 本 国法 の 適 用 範 囲 に 属 する 点 、 国 際 民 事 訴 訟 法 上 の 利 益 衡 量 の 見 地 から 当 事 者 が 本 国 裁 判 所 の裁 判 に 対 して 有 する 信 頼 を 保 護 することにも 合 理 性 がある 点 において 実 質 的 関 連 性 を 認 める 重 要 な 資 料 となりうる。しかし、 最 近 では 国 籍 のみで 国 際 裁 判 管 轄 を 認 める 場 合 は 実 務上 ほとんどなく、 裁 判 上 の 事 実 認 定 又 は 証 拠 収 集 の 容 易 性 、 裁 判 の 迅 速 、 訴 訟 経 済 等 の 側面 から 住 所 又 は 常 居 所 へ 移 る 趨 勢 である 38 。下 級 審 の 実 務 においては、 当 事 者 と 事 件 との 実 質 的 関 連 性 を 判 断 するために、 国 籍 、 住所 、 常 居 所 等 と 原 告 の 請 求 原 因 等 を 検 討 するが、 当 事 者 と 関 連 しては 公 平 、 訴 訟 遂 行 の 便宜 、 予 測 可 能 性 等 を、 裁 判 と 関 連 しては 証 拠 調 査 又 は 証 人 審 問 の 容 易 性 等 裁 判 の 迅 速 ・ 能率 性 と 判 決 の 実 効 性 等 を 考 慮 している 39 。外 国 人 間 の 離 婚 訴 訟 において、 原 告 が 遺 棄 されか、 被 告 の 行 方 不 明 その 他 これに 準 ずる事 情 がある 場 合 、 又 は 被 告 が 応 訴 してその 利 益 が 不 当 に 侵 害 されるおそれがないとみられる 場 合 、 韓 国 に 居 住 している 外 国 人 を 保 護 することが 国 際 私 法 生 活 における 正 義 ・ 公 平 の理 念 に 附 合 するとみて 原 告 の 住 所 のみが 韓 国 にあっても 韓 国 に 裁 判 管 轄 権 を 認 め、それ 以外 には 被 告 の 住 所 が 韓 国 にあることを 要 件 とする 40 。当 事 者 双 方 が 韓 国 人 である 場 合 、 又 は 原 告 が 韓 国 人 であり、その 常 居 所 又 は 当 事 者 双 方の 最 後 の 住 所 を 韓 国 に 有 する 場 合 には、 韓 国 裁 判 所 に 裁 判 管 轄 権 を 認 めている。ただし、相 手 方 が 婚 姻 時 から 引 き 続 き 外 国 に 居 住 しており、その 居 住 地 も 明 らかである 場 合 には、37韓 国 の 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 容 易 に 認 めることができたにもかかわらず、あえてあいまいで 不 確 実 に 説 示 していることについては 批 判 がある(チャン・ジュンヒョク「 韓 国 の 国 際 離婚 管 轄 法 判 例 の 現 況 ― 国 際 私 法 第 2 条 新 設 後 の 判 例 を 中 心 としてー」 民 事 訴 訟 第 13 巻 第 1 号66 頁 (2009))。38 ハン・スクヒ「 国 際 家 事 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 と 外 国 判 決 の 承 認 及 び 執 行 : 離 婚 を 中 心 として」国 際 私 法 研 究 第 12 号 (2006)22 頁 。39 ハン・ 前 掲 注 (38)24 頁 。40 ハン・ 前 掲 注 (38)24 頁 以 下 。14285


その 者 が 積 極 的 に 応 訴 しない 限 り、 韓 国 裁 判 所 に 裁 判 管 轄 権 を 認 め 難 い。 実 務 においては、裁 判 権 の 行 使 が 国 家 の 主 権 行 使 の 一 種 であり、 韓 国 国 民 の 身 分 関 係 は 韓 国 の 主 権 の 影 響 の下 にあり、 国 民 の 身 分 を 管 理 する 戸 籍 も 韓 国 で 管 理 していること、 単 に 家 族 関 係 登 録 ( 戸籍 ) 整 理 のための 訴 訟 を 外 国 の 裁 判 所 に 提 起 させることは 手 続 又 は 費 用 面 において 非 現 実的 であり、 国 民 の 権 利 保 護 を 非 常 におろそかにする 結 果 にいたること 等 を 理 由 に、 当 事 者の 一 方 が 韓 国 の 国 民 である 場 合 、 融 通 をきかせ、 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めている 41 。このようにソウル 家 庭 法 院 を 始 め 1 審 法 院 の 裁 判 実 務 は、 主 流 的 判 例 とは 別 途 に、 従 来 の 少 数 判 例を 明 確 な 国 際 管 轄 規 則 として 発 達 させる 態 度 をみせている 42 。(2) 失 踪 宣 告国 際 私 法 第 12 条 は、「 法 院 は 外 国 人 の 生 死 が 不 明 である 場 合 に、 大 韓 民 国 にその 財 産 があるか 又 は 大 韓 民 国 法 によるべき 法 律 関 係 があるとき、その 他 の 正 当 な 事 由 があるときには、 大 韓 民 国 法 によって 失 踪 宣 告 をすることができる。」と 規 定 している。これは、 失 踪 宣 告 について 外 国 人 の 本 国 に 原 則 的 管 轄 があることを 前 提 とするものの、これを 明 示 的 に 規 定 せず、 韓 国 裁 判 所 が 例 外 的 に 管 轄 を 有 する 場 合 のみを 規 定 するものである。 性 質 上 非 訟 事 件 に 対 する 国 際 裁 判 管 轄 を 定 めるものである。(3) 限 定 治 産 及 び 禁 治 産国 際 私 法 第 14 条 は、「 法 院 は 大 韓 民 国 に 常 居 所 又 は 居 所 を 有 する 外 国 人 に 対 して、 大 韓民 国 法 によって 限 定 治 産 又 は 禁 治 産 の 宣 告 をすることができる。」と 規 定 している。これは限 定 治 産 及 び 禁 治 産 の 宣 告 について 外 国 人 の 本 国 に 原 則 的 管 轄 があることを 前 提 とするものの、これを 明 示 していない。ただし、 韓 国 裁 判 所 の 例 外 的 管 轄 の 範 囲 を 規 定 するものであり、 性 質 上 非 訟 事 件 に 対 する 国 際 裁 判 管 轄 を 規 定 するものである。41 ハン・ 前 掲 注 (38)25 頁 以 下 、チョン・ 前 掲 注 (16)68 頁 。 実 際 、ソウル 家 庭 法 院 に 提 起された 国 際 離 婚 事 件 のうち 相 当 の 部 分 が 国 内 に 居 住 する 韓 国 の 国 民 ( 原 告 )が 外 国 に 居 住 する外 国 人 ( 被 告 )を 相 手 にするものであるため、 被 告 の 住 所 地 主 義 を 貫 徹 する 場 合 には、 国 際 裁判 管 轄 が 問 題 となりうる。しかし 被 告 が 韓 国 での 婚 姻 生 活 に 適 応 できず、 原 告 の 意 思 に 反 して一 方 的 に 自 国 へ 出 国 したので 原 告 を 遺 棄 した 事 件 である 点 、 婚 姻 期 間 が 短 くそれらの 間 には 子がいない 点 、 主 に( 家 族 関 係 登 録 ) 戸 籍 整 理 を 目 的 とするものであり、 慰 謝 料 請 求 等 のそれ 以上 の 実 質 的 請 求 が 含 まれていない 点 等 を 勘 案 して、 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めている(ハン・ 前 掲 注(38)26 頁 )。42 チャン・ 前 掲 注 (37)75 頁 。15286


(4) 後 見国 際 私 法 第 48 条 第 1 項 は、 後 見 は 被 後 見 人 の 本 国 法 によると 規 定 しており、 第 2 項 は、大 韓 民 国 に 常 居 所 又 は 居 所 を 有 する 外 国 人 に 対 する 後 見 は、1)その 本 国 法 によれば 後 見 開始 の 原 因 があってもその 後 見 事 務 を 行 う 者 がいないか 又 は 後 見 事 務 を 行 う 者 がいても 後 見事 務 を 行 うことができない 場 合 、2) 大 韓 民 国 で 限 定 治 産 又 は 禁 治 産 を 宣 告 する 場 合 、3)その 他 被 後 見 人 を 保 護 すべき 緊 急 な 必 要 がある 場 合 に 限 り、 大 韓 民 国 法 によると 規 定 している。後 見 は 被 後 見 人 の 本 国 法 によることを 原 則 とし、 国 際 私 法 第 48 条 第 2 項 は 韓 国 で 常 居 所又 は 居 所 を 有 する 外 国 人 に 対 して 例 外 的 に 韓 国 の 裁 判 所 が 韓 国 法 により 後 見 事 務 を 行 うことができるようにして、 外 国 人 たる 被 後 見 人 を 保 護 するものである。さらに 外 国 人 たる 被後 見 人 を 韓 国 で 迅 速 に 適 切 に 保 護 すると 同 時 にその 者 と 取 引 する 内 国 の 第 3 者 を 保 護 するためにも 例 外 的 管 轄 が 認 められるものである。4. 外 国 判 決 の 承 認 執 行外 国 判 決 の 承 認 執 行 については、 民 事 訴 訟 法 第 217 条 ( 外 国 判 決 の 効 力 )、 民 事 執 行 法 第26 条 ( 外 国 判 決 の 強 制 執 行 ) 及 び 第 27 条 ( 執 行 判 決 )が 規 定 している。民 事 訴 訟 法 第 217 条 ( 外 国 判 決 の 効 力 ) 外 国 法 院 の 確 定 判 決 は、 次 の 各 号 の 要 件 をすべて 備 えなければ 効 力 が 認 められない。1. 大 韓 民 国 の 法 令 又 は 条 約 による 国 際 裁 判 管 轄 の 原 則 上 、その 外 国 法 院 の 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認められること2. 敗 訴 した 被 告 が 訴 状 又 はこれに 準 ずる 書 面 及 び 期 日 通 知 書 若 しくは 命 令 を 適 法 な 方 式 により防 御 に 必 要 な 時 間 の 余 裕 を 置 いて 送 達 を 受 けたか( 公 示 送 達 又 はこれに 似 た 送 達 による 場 合 を除 く。) 又 は 送 達 を 受 けなくても 訴 訟 に 応 じたこと3.その 判 決 の 効 力 を 認 めることが 大 韓 民 国 の 善 良 な 風 俗 又 はその 他 の 社 会 秩 序 に 外 れないこと4. 相 互 保 証 があること民 事 執 行 法 第 26 条 ( 外 国 判 決 の 強 制 執 行 )1 外 国 法 院 の 判 決 に 基 づく 強 制 執 行 は、 大 韓 民 国の 法 院 で 執 行 判 決 をもってその 適 法 であることを 宣 告 しなければ、することができない。2 執 行 判 決 を 請 求 する 訴 えは、 債 務 者 の 普 通 裁 判 籍 がある 地 の 地 方 法 院 が 管 轄 し、 普 通 裁 判 籍がないときには 民 事 訴 訟 法 第 11 条 の 規 定 により 債 務 者 に 対 する 訴 えを 管 轄 する 法 院 が 管 轄 する。16287


民 事 執 行 法 第 27 条 ( 執 行 判 決 )1 執 行 判 決 は、 裁 判 の 是 非 を 調 査 することなく、しなければならない。2 執 行 判 決 を 請 求 する 訴 えは、 次 の 各 号 のいずれか 一 つに 該 当 すれば、 却 下 しなければならない。1. 外 国 法 院 の 判 決 が 確 定 したことを 証 明 していないとき2. 外 国 判 決 が 民 事 訴 訟 法 第 217 条 の 条 件 を 備 えていないとき(1) 外 国 判 決 又 は 外 国 非 訟 裁 判 の 承 認 執 行 要 件 ( 特 に 間 接 管 轄 、 執 行 宣 言 手 続 (exequatur)の 有 無 等 )1 外 国 判 決 の 承 認民 事 訴 訟 法 第 217 条 43 は、 外 国 判 決 の 効 力 について 定 めている。 同 条 の 承 認 要 件 を 満 たす 外 国 判 決 は 韓 国 で 司 法 的 確 認 手 続 なしに 自 動 的 に 承 認 され、 当 該 外 国 判 決 が 有 する 効 力が 韓 国 で 認 められる。 外 国 判 決 に 該 当 するか 否 かは 承 認 国 の 法 律 によることが 通 説 であり、国 際 家 事 事 件 においても 家 事 訴 訟 であるのか 家 事 非 訟 であるかについては 承 認 国 たる 韓 国の 法 律 ないし 法 律 観 念 を 基 準 にすることになる。身 分 上 の 請 求 に 関 する 外 国 判 決 にも 民 事 訴 訟 法 第 217 条 が 適 用 されるかについて、 判 例は 民 事 訴 訟 法 第 217 条 が 判 決 の 種 類 を 区 別 しておらず、 身 分 上 の 請 求 に 関 する 外 国 判 決 承認 の 規 定 が 別 途 に 存 在 していないため、このような 身 分 上 の 請 求 に 関 する 判 決 も 包 含 されると 解 釈 する 44 。ⅰ) 国 際 裁 判 管 轄 の 要 件民 事 訴 訟 法 第 217 条 第 1 号 は、「 大 韓 民 国 の 法 令 又 は 条 約 による 国 際 裁 判 管 轄 の 原 則 上 、その 外 国 法 院 の 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められること」を 規 定 している。「 大 韓 民 国 の 法 令 」と43法 律 第 6626 号 、2002 年 1 月 26 日 全 面 改 正 、2002 年 7 月 1 日 施 行 。 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条は、 次 のとおりに 規 定 していた。「 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条 ( 外 国 判 決 の 効 力 ) 外 国 法 院 の 確 定 判 決 は、 次 の 条 件 を 具 備 しなければ、その 効 力 がない。1. 法 令 又 は 条 約 で 外 国 法 院 の 裁 判 権 を 否 認 しないこと2. 敗 訴 した 被 告 が 大 韓 民 国 の 国 民 である 場 合 に、 公 示 送 達 によらないで 訴 訟 の 開 始 に 必 要 な 召喚 又 は 命 令 の 送 達 を 受 けたこと 又 は 受 けずに 応 訴 したこと3. 外 国 法 院 の 判 決 が 大 韓 民 国 の 善 良 な 風 俗 その 他 社 会 秩 序 に 違 反 しないこと4. 相 互 の 保 証 があること」44外 国 家 事 非 訟 裁 判 の 承 認 要 件 については、 民 事 訴 訟 法 ( 旧 第 203 条 )の 規 定 のうち 外 国 裁 判の 承 認 に 関 する 本 質 的 ・ 不 可 欠 な 要 件 として、 第 1 号 及 び 第 3 号 を 適 用 する 見 解 がある( 金 ・ウォンテ「 外 国 家 事 裁 判 の 承 認 ・ 執 行 に 関 する 問 題 の 再 検 討 」 国 際 私 法 研 究 第 6 号 68 頁 (2001))。17288


は 国 際 私 法 第 2 条 及 び 国 内 法 の 管 轄 規 定 を 指 し、「 条 約 」 45 とは 大 韓 民 国 が 加 入 した 条 約 を指 す。 間 接 管 轄 と 直 接 管 轄 の 基 準 との 関 係 が 問 題 となるが、 両 者 を 同 一 の 原 則 によって 判断 する 見 解 が 多 数 説 であり、 主 流 的 な 判 例 46 である。ソウル 家 庭 法 院 1997 年 10 月 24 日 宣 告 96 デ 73619 判 決 は、 韓 国 国 籍 の 夫 婦 に 対 する 米国 テキサス 州 裁 判 所 の 離 婚 判 決 について、 米 国 で 原 告 の 訴 訟 提 起 時 に 被 告 は 韓 国 に 住 所 を有 し、 当 時 被 告 が 行 方 不 明 その 他 これに 準 ずる 事 情 があったか 又 はその 訴 訟 に 積 極 的 に 応訴 したとみる 資 料 もないので、 米 国 判 決 は 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条 第 1 号 の 要 件 が 欠 けていると 判 示 した。ⅱ) 送 達 要 件民 事 訴 訟 法 第 217 条 第 2 号 は、「 敗 訴 した 被 告 が 訴 状 又 はこれに 準 ずる 書 面 及 び 期 日 通 知書 若 しくは 命 令 を 適 法 な 方 式 により 防 御 に 必 要 な 時 間 の 余 裕 を 置 いて 送 達 を 受 けたか( 公示 送 達 又 はこれに 似 た 送 達 による 場 合 を 除 く。) 又 は 送 達 を 受 けなくても 訴 訟 に 応 じたこと」を 規 定 している。これは、 承 認 要 件 として 送 達 の 適 法 性 と 適 時 性 を 要 求 するものである。送 達 の 意 味 について、 大 法 院 1992 年 7 月 14 日 宣 告 92 タ 2585 判 決 は、 領 事 派 遣 国 の 裁判 所 が 外 交 上 の 経 路 を 経 由 せずに 韓 国 の 国 民 又 は 法 人 を 相 手 にして 自 国 の 領 事 による 直 接実 施 方 式 で 送 達 をした 場 合 において、 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条 第 2 号 でいう 送 達 とは、「 補 充送 達 又 は 郵 便 送 達 でない 通 常 の 送 達 方 法 による 送 達 を 意 味 し、その 送 達 は 適 法 でなければならない。」と 判 示 した。送 達 の 適 法 性 を 判 断 する 基 準 について、 大 法 院 2010 年 7 月 22 日 宣 告 2008 タ 31089 判 決は、「 法 廷 地 たる 判 決 国 で 被 告 に 防 御 の 機 会 を 付 与 するために 規 定 する 送 達 に 関 する 方 式 又は 手 続 によらない 場 合 には、ここでいう 適 法 な 方 式 による 送 達 がなされたとはいえない。」と 判 示 した。しかし 送 達 の 方 法 は 承 認 国 の 主 権 を 侵 害 してはいけず、 特 に 被 告 が 裁 判 国 に送 達 を 受 ける 者 を 置 かなかった 結 果 、 司 法 共 助 の 方 式 により 韓 国 へ 送 達 をし、その 裁 判 の承 認 及 び 執 行 が 韓 国 で 問 題 となる 場 合 には、 送 達 の 適 法 性 は 裁 判 国 法 と 国 際 条 約 及 び 国 際民 事 司 法 共 助 法 に 照 らして 適 法 でなければならないとされる 47 。45国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 規 定 が 包 含 されている 韓 国 が 結 んでいる 国 際 条 約 として、「 国 際 航 空運 送 についてのある 規 則 の 統 一 に 関 する 条 約 」 及 び「 油 による 汚 染 損 害 についての 民 事 責 任 に関 する 条 約 」が 挙 げられる。46大 法 院 1995 年 11 月 21 日 宣 告 93 タ 39607 判 決 等 。47石 ・ 前 掲 注 (6)452 頁 。18289


国 際 民 事 司 法 共 助 法 48 は、 民 事 事 件 において 外 国 への 司 法 共 助 嘱 託 手 続 と 外 国 からの 司法 共 助 嘱 託 法 に 対 する 処 理 手 続 を 規 定 する。 同 法 は 外 交 上 の 経 路 を 経 由 して 管 轄 裁 判 所 への 嘱 託 方 法 を 定 めている 49 。より 迅 速 な 処 理 のため、 韓 国 はハーグ 送 達 条 約 に 2000 年 1 月13 日 加 入 した。 韓 国 は 郵 便 による 送 達 ( 第 10 条 a 号 )に 対 して 明 示 的 に 異 議 を 提 起 したので、 締 約 国 に 行 う 郵 便 による 送 達 は 不 適 法 であるといえよう。実 務 上 、 被 告 が 裁 判 管 轄 権 の 肯 定 可 能 性 を 予 想 して 主 位 的 に 裁 判 管 轄 権 を 否 認 しながら、予 備 的 に 原 告 の 請 求 原 因 事 実 に 対 して 争 う 場 合 がしばしばあり、この 場 合 は 被 告 が 応 訴 したものとみることができない 50 。 適 法 な 送 達 又 は 応 訴 事 実 は 外 国 判 決 の 承 認 を 求 める 者 が主 張 、 立 証 しなければならない。ⅲ) 公 序 要 件民 事 訴 訟 法 第 217 条 第 3 号 は、「その 判 決 の 効 力 を 認 めることが 大 韓 民 国 の 善 良 な 風 俗 又はその 他 の 社 会 秩 序 に 外 れないこと」と 規 定 している。実 体 的 公 序 において、 外 国 判 決 が 承 認 されるためには 準 拠 法 要 件 が 必 要 であるかにつき、大 法 院 1971 年 10 月 22 日 宣 告 71 タ 1393 判 決 は、 米 国 ネバダ 州 離 婚 判 決 事 件 において 準 拠法 要 件 を 充 足 することができなかったので 効 力 を 認 めることができないとしたソウル 高 等法 院 51 の 判 示 を 仮 説 的 説 明 にすぎないとして、 準 拠 法 を 定 める 国 際 私 法 は 外 国 裁 判 所 に 対する 裁 判 規 範 となりえないと 判 示 した 52 。大 法 院 1997 年 9 月 9 日 宣 告 96 タ 47517 判 決 は、 米 国 ミネソタ 州 に 居 住 する 原 告 ( 米 国及 び 韓 国 の 国 籍 )が 被 告 ( 韓 国 国 籍 )を 相 手 に 米 国 裁 判 所 に 被 告 を 相 手 にして 不 法 行 為 による 精 神 的 苦 痛 、 治 療 費 、 収 入 喪 失 その 他 の 費 用 等 、 米 貨 合 計 50,000 ドルを 超 過 する 合 理的 損 害 額 の 賠 償 を 求 める 損 害 賠 償 請 求 訴 訟 を 提 起 し、 被 告 は 訴 状 及 び 20 日 以 内 に 答 弁 書 を提 出 すること 及 び 答 弁 書 を 提 出 しない 場 合 には 原 告 が 裁 判 所 に 上 記 の 訴 状 で 要 求 する 救 済を 請 求 する 趣 旨 であることを 明 らかにする 召 喚 状 の 交 付 送 達 を 受 けたにもかかわらず 何 ら応 訴 をしていないまま、 韓 国 に 帰 国 したので、 原 告 は 米 国 裁 判 所 に 請 求 金 額 を 米 貨 500,000ドルで 確 定 した 欠 席 判 決 を 申 請 し、これによって 米 国 ミネソタ 州 裁 判 所 で 米 貨 合 計 500,0004849法 律 第 4342 号 、1991 年 3 月 8 日 制 定 、 同 年 4 月 8 日 施 行 。外 国 からの 嘱 託 は、 外 交 上 の 経 路 を 経 由 することを 要 件 とし、 送 達 場 所 を 管 轄 する 第 1 審 法院 が 管 轄 する( 第 11 条 )。50 ハン・ 前 掲 注 (38)40 頁 。51 ソウル 高 等 法 院 1971 年 5 月 12 日 宣 告 70 ナ 1561 判 決 。52大 法 院 1987 年 4 月 28 宣 告 83 タ 1767 判 決 も 同 旨 。19290


ドルの 損 害 賠 償 の 判 決 が 宣 告 された 事 案 において、 米 国 判 決 は 米 国 法 上 欠 席 判 決 によって不 確 定 損 害 の 賠 償 を 求 めるにあたって 要 求 される 諸 手 続 をろくに 経 て 成 立 したものであり、防 御 の 機 会 を 自 ら 放 棄 した 結 果 となったといえるところ、 被 告 がその 後 にも 一 部 訴 訟 書 類を 受 領 すること 等 で 本 件 の 米 国 判 決 が 問 題 となることを 知 っていながらも、 上 訴 又 はその他 の 可 能 な 救 済 手 続 を 全 く 取 らなかった 事 実 等 に 照 らしてみれば、 本 件 の 米 国 判 決 がその成 立 手 続 において 韓 国 の 善 良 な 風 俗 その 他 の 社 会 秩 序 に 違 反 するとみることは 難 しい。」と判 示 した。 上 告 審 において 懲 罰 的 損 害 賠 償 の 存 否 に 関 する 被 告 の 主 張 がなかったので、 大法 院 はこれについて 明 示 的 に 言 及 していない。したがって 外 国 判 決 の 懲 罰 的 損 害 賠 償 に 関する 公 序 違 反 の 有 無 に 関 する 大 法 院 の 立 場 は 明 らかでない。手 続 的 公 序 について、 訴 訟 開 始 書 面 以 外 の 書 面 の 送 達 が 適 法 になされなかった 場 合 、 民事 訴 訟 法 第 217 条 第 2 号 の 問 題 であるかそれとも 第 3 号 の 問 題 であるかにつき、 大 法 院 2003年 9 月 26 日 宣 告 2003 タ 29555 判 決 は、「 訴 状 又 はこれに 準 ずる 書 面 及 び 期 日 通 知 書 若 しくは 命 令 の 送 達 とは、 訴 状 及 び 訴 訟 開 始 に 必 要 な 召 喚 状 等 をいい、このような 書 類 が 適 法 に送 達 された 以 上 、その 後 の 召 喚 等 の 手 続 が 郵 便 送 達 又 は 公 示 送 達 等 の 手 続 によって 進 行 されたとしても 承 認 の 対 象 となりうる。」と 判 示 した。詐 欺 又 は 欺 罔 によって 取 得 した 外 国 判 決 の 承 認 について、 大 法 院 2004 年 10 月 28 日 宣 告2002 タ 74213 判 決 は、「 外 国 判 決 の 内 容 自 体 が 善 良 な 風 俗 又 はその 他 の 社 会 秩 序 に 外 れる場 合 だけでなく、その 外 国 判 決 の 成 立 手 続 における 善 良 な 風 俗 又 はその 他 の 社 会 秩 序 に 外れる 場 合 にも、 承 認 及 び 執 行 を 拒 否 する 事 由 に 包 含 されるといえるものの、 実 質 的 再 審 査禁 止 の 原 則 に 照 らして 偽 造 ・ 変 造 ないしは 廃 棄 された 書 類 を 使 用 したか 又 は 偽 証 を 利 用 するような 詐 欺 的 方 法 で 外 国 判 決 を 得 た 事 由 は、 原 則 的 に 承 認 及 び 執 行 を 拒 否 する 事 由 とならない。ただし、 再 審 事 由 に 関 する 民 事 訴 訟 法 第 451 条 第 1 項 第 6 号 ・ 第 7 号 及 び 第 2 項の 内 容 に 照 らしてみれば、 被 告 が 判 決 国 の 法 廷 で 上 記 のような 詐 欺 的 事 由 を 主 張 することができない 場 合 に 限 り、 承 認 又 は 執 行 を 求 める 外 国 判 決 を 無 効 化 する 別 途 の 手 続 を 当 該 判決 国 で 経 ていなかったとしても、 直 ちに 韓 国 で 承 認 ないし 執 行 を 拒 否 することができる。」と 判 示 した。既 判 力 の 抵 触 について、 大 法 院 1994 年 5 月 10 日 宣 告 93 ム 1051、1068 判 決 は、 被 告 ( 夫 )が 原 告 ( 妻 )を 相 手 に 韓 国 の 裁 判 所 で 離 婚 審 判 請 求 をしたが、 棄 却 ・ 確 定 された 以 後 、 原 ・被 告 いずれも 米 国 で 居 住 することになると、 被 告 は 原 告 を 相 手 に 再 び 米 国 の 裁 判 所 で 離 婚請 求 をして 勝 訴 判 決 を 得 て 確 定 された。 韓 国 に 戻 った 被 告 は 上 記 の 外 国 の 確 定 判 決 に 基 づきソウルの 区 役 所 に 離 婚 の 申 告 をした 後 、 再 婚 して 生 活 している 途 中 、 原 告 が 以 前 の 国 内20291


判 決 の 既 判 力 に 抵 触 される 上 記 の 外 国 判 決 に 基 づく 離 婚 が 無 効 であると 主 張 して 離 婚 無 効確 認 訴 訟 を 提 起 した 事 案 において、「 同 一 当 事 者 間 の 同 一 事 件 に 関 して 大 韓 民 国 で 判 決 が 確定 された 後 に 再 び 外 国 で 判 決 が 宣 告 されて 確 定 されたならば、その 外 国 判 決 は 大 韓 民 国 判決 の 既 判 力 に 抵 触 されるものとして 大 韓 民 国 の 善 良 な 風 俗 その 他 の 社 会 秩 序 に 違 反 され、民 事 訴 訟 法 第 217 条 第 3 号 で 定 められる 外 国 判 決 の 承 認 要 件 が 欠 けている 場 合 に 該 当 するので、 大 韓 民 国 では 効 力 がない。」と 判 示 した。ⅳ) 相 互 保 証民 事 訴 訟 法 第 217 条 第 4 号 は、「 相 互 保 証 があること」を 規 定 している。判 例 及 び 戸 籍 実 務 は、 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条 が 離 婚 判 決 を 除 く 身 分 関 連 の 外 国 判 決 にも適 用 されることを 前 提 に 相 互 保 証 が 必 要 であるとした。 国 際 家 事 事 件 、 特 に 国 際 離 婚 事 件の 場 合 、 相 互 保 証 がないという 理 由 のみで 外 国 裁 判 所 の 判 決 を 承 認 しないことは 破 行 婚 の発 生 等 身 分 関 係 が 歪 曲 される 余 地 があるだけでなく、 当 事 者 を 始 め 利 害 関 係 人 の 苦 痛 が 大きいので、 相 互 保 証 の 要 件 を 緩 和 するか 又 は 排 除 しなければならないという 意 見 が 有 力 である。米 国 のネバダ 州 裁 判 所 が 宣 告 した 離 婚 判 決 の 承 認 と 執 行 を 求 める 事 件 において、 大 法 院1971 年 10 月 22 日 宣 告 71 タ 1393 判 決 は、「 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条 第 4 号 所 定 の 相 互 保 証があることとは、 当 該 外 国 が 条 約 によって 又 はその 国 内 法 によって 大 韓 民 国 判 決 の 当 否 を調 査 せずに、 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条 の 規 定 と 同 じであるか 又 はこれよりも 寛 大 な 条 件 の 下で 大 韓 民 国 判 決 の 効 力 を 認 めている 場 合 を 指 すので、 韓 国 と 米 国 との 間 に 人 事 及 び 商 事 判決 の 効 力 に 関 して 相 互 保 証 がない。」と 判 示 した。 本 件 では 相 互 保 証 の 意 味 を 非 常 に 厳 格 に制 限 したとはいえ、 裁 判 例 をみると、 相 互 保 証 を 理 由 に 外 国 判 決 の 承 認 を 拒 否 した 事 件 はこく 稀 であるといえよう。離 婚 及 び 養 育 費 支 給 を 命 ずる 米 国 ニューヨーク 州 の 判 決 に 対 して、 大 法 院 1989 年 3 月14 日 宣 告 88 ム 184、191 判 決 は、「ニューヨーク 州 裁 判 所 が 判 例 で 相 互 主 義 の 原 則 を 排 撃し、ただし、 外 国 判 決 が 詐 欺 で 獲 得 されたものであるか 又 は 公 序 に 反 するか 若 しくは 裁 判管 轄 権 の 欠 缼 がなければ 実 質 審 査 をせずに、 外 国 判 決 の 効 力 をそのまま 承 認 しているならば、そのニューヨーク 州 裁 判 所 の 判 決 は 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条 第 2 号 ・ 第 4 号 の 承 認 要 件を 具 備 するものとみなければならない。」と 判 示 し、 米 国 ニューヨーク 州 裁 判 所 の 離 婚 及 び養 育 費 判 決 を 承 認 し、その 結 果 、 韓 国 での 後 訴 を 既 判 力 に 抵 触 されることを 理 由 に 棄 却 した。21292


相 互 保 証 の 意 味 をさらに 緩 和 解 釈 したのものとして、 大 法 院 2009 年 6 月 25 日 宣 告 2009タ 22952 判 決 53 は、「 韓 国 と 外 国 との 間 に 同 種 の 判 決 の 承 認 要 件 が 顕 著 に 均 衡 を 失 わず、 外国 で 定 められる 要 件 が 韓 国 で 定 める 要 件 よりも 全 体 として 過 重 なものではなく、 重 要 な 点において 実 質 的 にほとんど 相 違 がない 程 度 であるならば、 民 事 訴 訟 法 第 217 条 第 4 号 において 定 める 相 互 保 証 の 要 件 を 具 備 しているとみるのが 相 当 であり、またこのような 相 互 の保 証 は 外 国 の 法 令 、 判 例 及 び 慣 例 等 により 承 認 要 件 を 比 較 して 認 めれば 十 分 であり、 必 ずしも 当 事 者 国 との 条 約 が 締 結 されている 必 要 はなく、 当 該 外 国 で 具 体 的 に 韓 国 の 同 種 判 決を 承 認 した 事 例 がなくても、 実 際 に 承 認 するであろうと 期 待 できる 状 態 であるならば 十 分であるといえよう。」と 判 示 した。なお、 日 本 と 韓 国 との 間 に 相 互 保 証 の 存 在 が 肯 定 されている 54 。2 外 国 離 婚 判 決 による 離 婚 申 告離 婚 判 決 は 夫 婦 という 身 分 関 係 を 消 滅 させる 形 成 判 決 の 効 力 で 離 婚 が 成 立 し、 家 族 関 係登 録 簿 ( 戸 籍 簿 )の 記 載 はいわゆる 報 告 的 申 告 にすぎない。2008 年 1 月 1 日 から「 戸 籍 法 」が 廃 止 され、「 家 族 関 係 の 登 録 等 に 関 する 法 律 」 55 が 施 行 されることにともない、 大 法 院 は「 戸 籍 例 規 」を 廃 止 し、 家 族 関 係 登 録 事 務 処 理 手 続 に 関 する 基 準 を 提 示 するため、「 家 族 関係 登 録 例 規 」を 新 たに 制 定 した(2007 年 12 月 10 日 制 定 )。 家 族 関 係 登 録 例 規 第 173 号 ないし 第 175 号 は、 外 国 離 婚 判 決 に 基 づく 離 婚 申 告 に 関 する 処 理 指 針 を 定 めており、 外 国 離婚 判 決 については 執 行 判 決 を 要 求 していない 56 。53大 法 院 2004 年 10 月 27 日 宣 告 2002 タ 74213 判 決 も 同 旨 。54 ソウル 中 央 地 方 法 院 2009 年 12 月 4 日 宣 告 2009 ガハップ 114294 判 決 。55 「 家 族 関 係 の 登 録 等 に 関 する 法 律 」( 法 律 第 8435 号 、2007 年 5 月 17 日 制 定 )は、2008 年 1月 1 日 から 民 法 上 戸 主 制 度 が 廃 止 されることにともない、 既 存 の 戸 籍 に 代 わり、 国 民 個 々 人 の出 生 ・ 婚 姻 ・ 死 亡 等 家 族 関 係 の 発 生 と 変 動 事 項 に 関 する 登 録 及 びその 証 明 に 関 する 事 項 を 規 定する。56当 初 は、 外 国 離 婚 判 決 の 場 合 にも 韓 国 で 外 国 判 決 の 承 認 要 件 を 具 備 しているときには 当 然 にその 効 力 が 認 められ、 執 行 判 決 が 必 要 でないという 立 場 から、 外 国 裁 判 所 の 判 決 謄 本 と 確 定 証明 書 を 添 付 してその 一 方 が 離 婚 申 告 をした 場 合 には 戸 籍 法 ( 第 40 条 )に 準 じて 処 理 していた。ところが、 大 法 院 1971 年 10 月 22 日 宣 告 71 タ 1393 判 決 に 対 して 外 国 離 婚 判 決 に 執 行 判 決 を要 するという 趣 旨 であると 誤 解 され、 大 法 院 は 外 国 裁 判 所 の 離 婚 判 決 は 旧 民 事 訴 訟 法 第 477 条によって 執 行 判 決 を 得 なければ 離 婚 申 告 をすることができないという 内 容 で 例 規 を 制 定 した。その 後 、 外 国 判 決 に 対 する 執 行 判 決 を 規 定 している 旧 民 事 訴 訟 法 条 文 の 立 法 趣 旨 及 び 文 言 に背 馳 するだけでなく、 外 国 の 身 分 判 決 は 形 成 判 決 として 承 認 要 件 を 具 備 すればそれ 自 体 として法 律 関 係 が 創 設 ・ 変 更 ・ 消 滅 される 形 成 の 効 力 が 発 生 し、それによる 戸 籍 への 申 告 は 報 告 的 申告 にすぎない 点 、 韓 国 国 民 が 外 国 裁 判 所 で 身 分 判 決 を 得 る 場 合 が 多 いが、 再 び 執 行 判 決 を 得 なければならないことは 国 民 に 与 える 不 便 が 非 常 に 大 きい 点 等 を 考 慮 して、 大 法 院 は 1981 年 10月 14 日 戸 籍 例 規 第 371 号 を 制 定 して、 外 国 裁 判 所 の 離 婚 判 決 に 基 づき 執 行 判 決 なしに 戸 籍 に 記載 することができようになった(ハン・ 前 掲 注 (38)44 頁 )。22293


外 国 法 院 の 離 婚 判 決 による 家 族 関 係 登 録 事 務 処 理 指 針 ( 第 173 号 )1. 外 国 法 院 の 離 婚 判 決 は、「 民 事 訴 訟 法 」 第 217 条 が 定 める 条 件 を 具 備 する 限 り、 韓 国 でもその 効 力 を 有 する。2. 第 1 項 の 外 国 判 決 による 離 婚 申 告 は、 韓 国 判 決 による 離 婚 申 告 と 同 様 に「 家 族 関 係 の 登 録 等に 関 する 法 律 」 第 78 条 、 第 58 条 による 手 続 に 従 うものの、その 申 告 にはその 判 決 の 正 本 又 は謄 本 と 判 決 確 定 証 明 書 、 敗 訴 した 被 告 が 訴 状 又 はこれに 準 ずる 書 面 及 び 期 日 通 知 書 若 しくは 命令 を 適 法 な 方 式 により 防 御 に 必 要 な 時 間 の 余 裕 を 置 いて 送 達 を 受 けたか( 公 示 送 達 又 はこれに似 た 送 達 による 場 合 を 除 く。) 又 は 送 達 を 受 けなくても 訴 訟 に 応 じた 書 面 ( 判 決 の 正 本 又 は 謄 本によって 利 点 が 明 白 でない 場 合 に 限 る。) 及 び 上 記 の 各 書 類 の 翻 訳 文 を 添 付 しなければならない。ただし、 外 国 ( 例 :オーストラリア) 法 院 の 正 本 又 は 謄 本 とその 確 定 証 明 書 に 代 わって 離婚 証 明 書 を 発 行 した 場 合 には、その 証 明 書 を 添 付 することができる。3. 第 2 項 による 離 婚 申 告 が 提 出 された 場 合 、 家 族 関 係 登 録 公 務 員 は 離 婚 申 告 に 添 付 された 判 決の 正 本 又 は 謄 本 によって 該 当 外 国 判 決 が「 民 事 訴 訟 法 」 第 217 条 が 定 める 各 条 件 を 具 備 しているか 否 かを 審 査 して、その 受 理 の 可 否 を 決 定 しなければならないところ、その 条 件 の 具 備 の 有無 が 明 白 でない 場 合 には、 必 ず 関 係 書 類 のすべてを 添 付 して 監 督 法 院 に 質 問 し、その 回 答 を 受けて 処 理 しなければならない。外 国 法 院 の 離 婚 判 決 による 離 婚 申 告 ( 第 174 号 )外 国 法 院 の 離 婚 判 決 による 離 婚 申 告 処 理 指 針 に 関 して「 大 法 院 家 族 関 係 登 録 例 規 」 第 173 号で 定 める 事 項 以 外 には、 次 のとおり 処 理 する。1. 外 国 法 院 の 離 婚 判 決 による 離 婚 申 告 の 場 合 に 下 記 の 事 由 があるときには、 必 ず 関 係 書 類 のすべてを 添 付 して 監 督 法 院 に 質 問 し、その 回 答 を 受 けて 処 理 しなければならない。ガ. 外 国 判 決 が 確 定 されたか 否 かが 不 明 である 場 合ナ. 送 達 が 適 法 であるか 否 かが 不 明 である 場 合タ. 外 国 法 院 の 判 決 手 続 が 進 行 される 当 時 、 被 告 が 該 当 外 国 に 居 住 しなかった 場 合ラ.その 他 外 国 判 決 の 効 力 が 疑 わしい 場 合2. 次 の 場 合 には 第 1 項 にかかわらず、 監 督 法 院 に 質 問 を 要 しない。ガ. 外 国 判 決 上 、 被 告 人 たる 大 韓 民 国 の 国 民 が 該 当 外 国 判 決 による 離 婚 申 告 に 同 意 するか 又は 自 ら 離 婚 申 告 をした 場 合ナ. 外 国 法 院 の 離 婚 判 決 に 対 し「 民 事 執 行 法 」 第 26 条 及 び 第 27 条 による 執 行 判 決 を 受 けた場 合国 際 離 婚 事 件 に 対 して 外 国 法 院 の 裁 判 管 轄 権 が 認 められるための 要 件 ( 第 175 号 )「 民 事 訴 訟 法 」 第 217 条 第 1 号 は、 外 国 裁 判 所 の 離 婚 判 決 にも 適 用 され、 国 際 離 婚 事 件 において 離 婚 判 決 を 下 した 外 国 法 院 に 裁 判 管 轄 権 があるとするためには、その 離 婚 訴 訟 の 被 告 が 行方 不 明 その 他 これに 準 ずる 事 情 があるか 又 は 被 告 が 積 極 的 に 応 訴 してその 利 益 が 不 当 に 侵 害 されるおそれがないとみられる 例 外 的 な 場 合 を 除 き、 被 告 の 住 所 がその 国 にあることを 要 件 とする( 大 法 院 1988 年 4 月 12 日 宣 告 85 ム 71 判 決 )。23294


3 外 国 判 決 の 執 行民 事 執 行 法 第 26 条 は 外 国 判 決 の 強 制 執 行 について、 民 事 執 行 法 第 27 条 は 執 行 判 決 について 規 定 している。 民 事 執 行 法 第 27 条 第 1 項 は、いわゆる 実 施 的 再 審 査 禁 止 の 原 則 を 定 めている。 大 法 院 2010 年 4 月 29 日 宣 告 2009 タ 68910 判 決 は、「 民 事 執 行 法 第 26 条 第 1 項 が規 定 する 外 国 法 院 の 判 決 とは、 裁 判 権 を 有 する 外 国 司 法 機 関 がその 権 限 に 基 づき 私 法 上 の法 律 関 係 に 関 して 対 立 的 当 事 者 に 対 する 相 互 間 の 尋 問 が 保 障 される 手 続 において 終 局 的 にした 裁 判 であり、 具 体 的 給 付 の 履 行 等 その 強 制 的 実 現 に 適 合 する 内 容 を 有 することを 意 味し、その 裁 判 の 名 称 又 は 形 式 等 が 何 であるかは 問 題 とならない。」と 判 示 した。韓 国 の 有 力 説 及 び 判 例 は、 法 律 関 係 を 明 確 にする 実 益 があるときには 履 行 判 決 でなくても 執 行 判 決 を 求 めることができ、 広 義 の 執 行 には 形 成 判 決 たる 離 婚 判 決 に 基 づく 家 族 関 係登 録 簿 の 記 載 が 包 含 される。すなわち 身 分 関 連 の 外 国 判 決 に 対 しても 執 行 判 決 を 要 求 することにし、 裁 判 所 が 承 認 要 件 の 具 備 可 否 を 審 査 することにする。 前 述 のように、 大 法 院 は外 国 離 婚 判 決 による 離 婚 申 告 の 際 に、 離 婚 判 決 については 執 行 判 決 を 要 求 しない 例 外 を 認めている( 家 族 関 係 登 録 例 規 173 号 ないし 第 175 号 )。ただし、 外 国 離 婚 判 決 等 確 認 判 決 又は 形 成 判 決 の 場 合 にも 承 認 要 件 の 充 足 の 有 無 を 争 うときには、 裁 判 所 の 判 断 を 受 け、 法 律関 係 を 明 確 にするという 意 味 で 執 行 判 決 を 請 求 することができる 57 。その 他 、 婚 姻 無 効 ・取 消 し、 離 婚 無 効 、 嫡 出 子 関 係 不 存 在 判 決 等 他 の 身 分 関 係 判 決 は 依 然 として 執 行 判 決 を 得てその 判 決 によって 家 族 関 係 登 録 簿 に 記 載 することになる 58 。大 法 院 1982 年 12 月 28 日 宣 告 82 ム 25 判 決 は、 外 国 判 決 が 家 庭 法 院 の 審 判 事 項 を 内 容 とする 執 行 判 決 請 求 の 訴 えの 管 轄 裁 判 所 が 家 庭 法 院 であるかについて、 執 行 判 決 を 請 求 する訴 えは 債 務 者 の 普 通 裁 判 籍 所 在 地 の 地 方 法 院 が 管 轄 するが、 家 庭 法 院 はこの 意 味 における地 方 法 院 に 該 当 しないと 判 示 した。したがって、このような 事 件 は 家 事 訴 訟 法 第 2 条 各 号所 定 の 家 事 事 件 に 属 するものでもなく、 他 の 法 律 又 は 大 法 院 規 則 で 家 庭 法 院 の 権 限 に 属 することになった 事 項 でもないので、 一 般 民 事 事 件 となる。ソウル 家 庭 法 院 はこのような 訴57家 族 関 係 登 録 ( 戸 籍 )への 離 婚 申 告 の 際 に、 離 婚 判 決 に 対 して 承 認 要 件 の 審 査 がろくになされておらず、 漫 然 に 離 婚 申 告 がなされる 関 係 で、 不 意 打 ちに 離 婚 された 当 事 者 は 自 ら 離 婚 無 効確 認 の 訴 えを 提 起 して 当 該 離 婚 判 決 が 韓 国 では 効 力 がないことを 主 張 して 立 証 しなければならないという 不 合 理 が 実 際 に 生 じている( 石 ・ 前 掲 注 (6)459 頁 参 照 )。58外 国 裁 判 所 の 離 婚 判 決 にのみ 適 用 される 処 理 指 針 は、 外 国 裁 判 所 で 旧 民 事 訴 訟 法 第 203 条 の要 件 を 備 えた 婚 姻 無 効 又 は 取 消 判 決 を 得 た 場 合 には、 国 内 で 執 行 判 決 を 得 なければその 戸 籍 申告 をすることができない(1983 年 3 月 30 日 法 定 第 105 号 )。 外 国 裁 判 所 で 民 事 訴 訟 法 旧 第 203条 の 要 件 を 備 えた 婚 姻 無 効 判 決 を 得 たとしても、その 判 決 による 戸 籍 訂 正 申 請 をするためには執 行 判 決 を 得 てない 外 国 裁 判 所 の 婚 姻 無 効 判 決 に 基 づく 戸 籍 訂 正 申 請 は 無 効 事 由 に 該 当 され、受 理 することができない(1992 年 8 月 3 日 法 定 第 1314 号 )。24295


えが 提 起 された 場 合 には、その 外 国 判 決 の 対 象 たる 家 事 事 件 の 事 物 管 轄 により 受 け 付 け、受 訴 法 院 がこれを 家 事 訴 訟 法 第 13 条 第 3 項 により 管 轄 地 方 法 院 に 移 送 して 処 理 する 59 。(2) 外 国 判 決 の 承 認 の 対 象 として 確 定 判 決 であるかどうかが 問 題 となる 場 合大 法 院 2010 年 4 月 29 日 宣 告 2009 タ 68910 判 決 は、「 民 事 訴 訟 法 第 217 条 第 1 号 後 段 における 外 国 裁 判 所 の 判 決 とは、 裁 判 権 を 有 する 外 国 の 司 法 機 関 がその 権 限 に 基 づき 司 法 上の 法 律 関 係 に 関 して 対 立 的 当 事 者 に 対 する 相 互 間 の 尋 問 が 保 障 された 手 続 において 終 局 的にした 裁 判 であり、 具 体 的 給 付 の 履 行 等 その 強 制 的 実 現 に 適 合 した 内 容 を 有 することを 意味 し、その 裁 判 の 名 称 又 は 形 式 等 が 何 であるかは 問 題 とならない」と 判 示 した。1 中 間 判 決 の 場 合中 間 判 決 は 終 局 判 決 をする 前 に 訴 訟 の 進 行 中 に 当 事 者 間 で 争 点 となる 事 項 に 対 して 予 め整 理 ・ 判 断 して 終 局 判 決 を 容 易 にし、これを 準 備 する 判 決 である 60 。 中 間 判 決 は 終 局 判 決ではないので、 外 国 判 決 の 承 認 対 象 とならない 61 。2 保 全 処 分 の 場 合民 事 執 行 法 第 4 編 には 仮 差 押 え 命 令 ・ 仮 処 分 命 令 の 制 度 がある。 仮 差 押 え・ 仮 処 分 のような 保 全 処 分 を 承 認 するか 否 かについて 学 説 は 対 立 する。 下 級 審 判 決 62 では、 旧 民 事 訴 訟法 第 203 条 により 承 認 されうる 外 国 判 決 の 中 には 仮 差 押 え・ 仮 処 分 のような 保 全 処 分 はこれに 該 当 しないと 判 示 したものがある。3 裁 判 上 の 和 解 調 書 の 場 合民 事 訴 訟 法 第 220 条 は、 和 解 調 書 に 確 定 判 決 と 同 一 の 効 力 を 認 めている。ただし、この効 力 範 囲 に 対 しては 諸 説 がある。 大 法 院 は、 和 解 の 内 容 が 強 行 法 規 に 反 する 場 合 にも、 準再 審 の 手 続 によって 救 済 を 受 けることは 別 として、 和 解 は 無 効 ではないとか 63 又 は 裁 判 上の 和 解 は 詐 欺 ・ 錯 誤 を 理 由 に 取 消 しできない 64 として 無 制 限 的 既 判 力 を 認 める。 下 級 審 判59 ソウル 家 庭 法 院 「 家 事 裁 判 資 料 集 」(1995)12 頁 。60大 法 院 1994 年 12 月 27 日 宣 告 94 タ 38355 判 決 。61 ソウル 高 等 法 院 2001 年 5 月 25 日 宣 告 2000 ナ 55005 判 決 。62 ソウル 地 方 法 院 2000 年 7 月 20 日 宣 告 99 ガハップ 49618 判 決 。63大 法 院 1982 年 12 月 28 日 宣 告 81 タカ 1247 判 決 。64大 法 院 1975 年 5 月 15 日 宣 告 78 タ 1094 判 決 。25296


決 の 中 には 日 本 裁 判 所 の 認 諾 調 書 65 66、 調 停 調 書 及 び 裁 判 上 の 和 解 調 書 67 に 対 して 外 国 裁 判所 の 確 定 判 決 に 該 当 するものとみて、 承 認 ・ 執 行 を 認 めた 判 決 がある。5. 韓 国 の 家 族 法 制 に 関 する 近 時 の 動 向68(1) 家 事 訴 訟 法韓 国 において 家 事 事 件 又 は 家 事 に 関 する 事 件 とは、 一 般 的 に 家 事 訴 訟 法 その 他 法 令 によって 家 庭 法 院 が 処 理 する 訴 訟 ・ 非 訟 及 び 調 停 事 件 をいう。 家 庭 法 院 が 事 件 を 処 理 するにあたって、1 原 則 的 調 停 前 置 主 義 を 採 用 しており、2 裁 判 官 の 補 助 人 力 として 調 査 官 を 置 くことで 専 門 的 な 知 識 を 事 件 処 理 に 活 用 しており、3 身 分 関 係 の 生 成 、 変 更 、 消 滅 に 関 する事 件 に 対 しては 職 権 で 事 実 を 調 査 する 一 方 、 証 拠 提 出 期 間 の 制 限 、 失 機 した 攻 撃 ・ 防 御 方法 の 却 下 、 擬 制 自 白 等 に 関 する 民 事 訴 訟 法 規 定 の 適 用 を 排 除 しており、 結 果 においても 請求 の 認 諾 を 許 容 しておらず、 判 決 の 既 判 力 を 第 3 者 にも 与 える 等 特 別 扱 いをしている 69 。家 事 訴 訟 法 は、 人 格 の 尊 厳 と 男 女 平 等 を 基 本 として 家 庭 の 平 和 と 親 族 間 で 互 いに 助 け 合う 美 風 良 俗 を 保 存 して 発 展 させるために 家 事 に 関 する 訴 訟 と 非 訟 及 び 調 停 に 対 する 手 続 の特 例 を 定 めることを 目 的 とする( 第 1 条 )。 家 庭 法 院 の 管 掌 事 項 に 対 する 審 理 と 裁 判 は、 家庭 法 院 の 専 属 管 轄 となる( 第 2 条 )。 家 事 訴 訟 事 件 は 民 事 訴 訟 法 、 家 事 非 訟 事 件 は 非 訟 事 件手 続 法 、 家 事 調 停 事 件 は 民 事 調 停 法 を 各 々 一 般 手 続 法 として 準 用 している。家 事 訴 訟 法 は、 第 1 編 総 則 ( 第 1 条 ないし 第 11 条 )、 第 2 編 家 事 訴 訟 ( 第 12 条 ないし 第31 条 ) 70 、 第 3 編 家 事 非 訟 ( 第 34 条 ないし 第 48 条 の 3)、 第 4 編 家 事 調 停 ( 第 49 条 ないし 第 61 条 )、 第 5 編 履 行 の 確 保 ( 第 62 条 ないし 第 65 条 )、 第 6 編 罰 則 ( 第 66 条 ないし 第65済 州 地 方 法 院 1998 年 5 月 28 日 宣 告 97 ガハップ 2982 判 決 。66 ソウル 南 部 地 方 法 院 1996 年 6 月 20 日 宣 告 95 ガハップ 15378 判 決 。67 ソウル 民 事 地 方 法 院 1968 年 10 月 17 日 宣 告 68 ガ 620 判 決 。68家 事 訴 訟 法 ( 法 律 第 4300 号 、1990 年 12 月 31 日 制 定 、1991 年 1 月 1 日 施 行 )は、 従 前 の 人事 訴 訟 法 及 び 家 事 審 判 法 のうち 矛 盾 ・ 抵 触 される 規 定 を 整 理 して、 家 事 事 件 の 裁 判 手 続 に 適 用される 新 しい 基 本 法 として 制 定 された。 制 定 以 後 、 数 回 の 改 正 がなされ、2010 年 家 事 訴 訟 法 改正 ( 法 律 第 10212 号 、2010 年 3 月 31 日 一 部 改 正 、 公 布 日 施 行 )は、 法 的 簡 潔 性 ・ 含 蓄 性 と 調和 を 図 る 範 囲 において 法 文 章 の 表 記 をハングル 化 し、 難 しい 用 語 を 分 かりやすい 韓 国 語 へ 書 き直 し、 複 雑 な 文 章 は 体 系 を 整 理 して 簡 潔 に 整 えるものである。69 ハン・ 前 掲 注 (38)4 頁 。70 2005 年 家 事 訴 訟 法 改 正 の 際 に 第 32 条 及 び 第 33 条 が 削 除 された。26297


73 条 )からなる。 家 事 訴 訟 は 判 決 で、 家 事 非 訟 は 審 判 で 裁 判 し、 家 事 訴 訟 事 件 (ナ 類 事 件及 びタ 類 事 件 )と 家 事 非 訟 事 件 (マ 類 事 件 )は 調 停 の 対 象 となる。第 1 編 総 則第 2 条 ( 家 庭 法 院 の 管 掌 事 項 )1 次 の 各 号 の 事 項 ( 以 下 、「 家 事 事 件 」という。)に 対 する 審 理と 裁 判 は、 家 庭 法 院 の 専 属 管 轄 とする。1. 家 事 訴 訟 事 件ガ.ガ 類 事 件 1) 婚 姻 の 無 効 、2) 離 婚 の 無 効 、3) 認 知 の 無 効 、4) 嫡 出 子 関 係 存 否 確 認 、5)養 子 縁 組 の 無 効 、6) 離 縁 の 無 効ナ.ナ 類 事 件 1) 事 実 上 婚 姻 関 係 存 否 確 認 、2) 婚 姻 の 取 消 し、3) 離 婚 の 取 消 し、4) 裁 判 上の 離 婚 、5) 父 の 決 定 、6) 嫡 出 否 認 、7) 認 知 の 取 消 し、8) 認 知 に 対 する 異 議 、9) 認 知 請 求 、10) 養 子 縁 組 の 取 消 し、11) 離 縁 の 取 消 し、12) 裁 判 上 の 離 縁 、13) 親 養 子 縁 組 の 取 消 し、14)親 養 子 の 離 縁タ.タ 類 事 件 1) 婚 約 解 除 又 は 事 実 婚 関 係 不 当 破 棄 による 損 害 賠 償 請 求 ( 第 3 者 に 対 する 請 求を 含 む。) 及 び 原 状 回 復 の 請 求 、2) 婚 姻 の 無 効 ・ 取 消 し、 離 婚 の 無 効 ・ 取 消 し 又 は 離 婚 を 原 因とする 損 害 賠 償 請 求 ( 第 3 者 に 対 する 請 求 を 含 む。) 及 び 原 状 回 復 の 請 求 、3) 養 子 縁 組 の 無 効 ・取 消 し、 離 縁 の 無 効 ・ 取 消 し 又 は 離 縁 を 原 因 とする 損 害 賠 償 請 求 ( 第 3 者 に 対 する 請 求 を 含 む。)及 び 原 状 回 復 の 請 求 、4) 民 法 第 839 条 の 3 による 財 産 分 割 請 求 権 保 全 のための 詐 害 行 為 取 消 し及 び 原 状 回 復 の 請 求712. 家 事 非 訟 事 件ガ.ラ 類 事 件 1) 民 法 第 9 条 から 第 14 条 までの 規 定 による 限 定 治 産 ・ 禁 治 産 の 宣 告 とその 取消 し、2) 民 法 第 22 条 から 第 26 条 までの 規 定 による 不 在 者 財 産 の 管 理 に 関 する 処 分 、3) 民 法第 27 条 から 第 29 条 までの 規 定 による 失 踪 の 宣 告 とその 取 消 し、4) 民 法 第 781 条 第 4 項 による姓 と 本 の 創 設 許 可 、5) 民 法 第 781 条 第 5 項 による 子 の 従 前 の 姓 と 本 の 継 続 使 用 許 可 、6) 民 法第 781 条 第 6 項 による 子 の 姓 と 本 の 変 更 許 可 、7) 民 法 第 829 条 第 2 項 ただし 書 による 夫 婦 財 産約 定 の 変 更 に 対 する 許 可 、8) 民 法 第 869 条 ただし 書 による 後 見 人 の 養 子 縁 組 承 諾 に 対 する 許 可 、9) 民 法 第 871 条 及 び 第 900 条 ( 同 法 第 906 条 により 準 用 される 場 合 を 含 む。) による 後 見 人 の養 子 縁 組 同 意 又 は 離 縁 同 意 に 対 する 許 可 、10) 民 法 第 872 条 による 後 見 人 が 被 後 見 人 を 養 子 とする 縁 組 に 対 する 許 可 、11) 民 法 第 899 条 第 2 項 による 後 見 人 又 は 実 家 の 他 の 直 系 尊 属 の 離 縁協 議 に 対 する 許 可 、12) 民 法 第 908 条 の 2 による 親 養 子 縁 組 の 許 可 、13) 民 法 第 909 条 第 2 項ただし 書 による 親 権 行 使 方 法 の 決 定 、14) 民 法 第 915 条 及 び 第 945 条 ( 同 法 第 948 条 により 上記 の 各 条 項 が 準 用 される 場 合 を 含 む。)による 感 化 又 は 校 正 機 関 に 委 託 することに 対 する 許 可 、15) 民 法 第 918 条 ( 同 法 第 956 条 により 準 用 される 場 合 を 含 む。)による 財 産 管 理 人 の 選 任 又 は改 任 と 財 産 管 理 に 関 する 処 分 、16) 民 法 第 921 条 ( 後 見 人 と 被 後 見 人 、 数 人 の 後 見 人 間 で 利 害71 2011 年 民 法 改 正 ( 第 10429 号 、2011 年 3 月 7 日 一 部 改 正 、2013 年 7 月 1 日 施 行 )により、家 事 非 訟 事 件 のうち、 民 法 第 9 条 から 第 14 条 までの 規 定 、 第 869 条 、 第 871 条 、 第 899 条 、 第936 条 、 第 939 条 、 第 941 条 、 第 947 条 、 第 954 条 、 第 957 条 が 改 正 され、 民 法 第 963 条 、 第966 条 、 第 967 条 、 第 969 条 、 第 970 条 、 第 972 条 が 削 除 された。27298


が 相 反 される 場 合 を 含 む。)による 特 別 代 理 人 の 選 任 、17) 民 法 第 927 条 による 親 権 者 の 法 律 行為 代 理 権 及 び 財 産 管 理 権 の 辞 退 又 は 回 復 に 対 する 許 可 、18) 民 法 第 936 条 及 び 第 940 条 による後 見 人 の 選 任 又 は 変 更 、19) 民 法 第 939 条 による 後 見 人 の 辞 退 に 対 する 許 可 、20) 民 法 第 941条 第 1 項 ただし 書 ( 同 法 第 948 条 により 準 用 される 場 合 を 含 む。)による 後 見 人 の 財 産 目 録 作 成のための 期 間 の 延 長 許 可 、21) 民 法 第 947 条 第 2 項 による 禁 治 産 者 の 監 禁 等 に 対 する 許 可 、22)民 法 第 954 条 ( 同 法 第 948 条 により 準 用 される 場 合 を 含 む。)による 後 見 事 務 に 関 する 処 分 、23)民 法 第 955 条 ( 同 法 第 948 条 により 準 用 される 場 合 を 含 む。)による 後 見 人 に 対 する 報 酬 の 授 与 、24) 民 法 第 957 条 第 1 項 ただし 書 による 後 見 終 了 時 の 管 理 計 算 期 間 の 延 長 許 可 、25) 民 法 第 963条 第 1 項 本 文 、 第 965 条 第 2 項 及 び 第 971 条 による 親 族 会 員 の 選 任 ・ 補 充 ・ 改 任 又 は 解 任 、26)民 法 第 966 条 による 親 族 会 の 招 集 、27) 民 法 第 967 条 第 3 項 による 親 族 会 の 書 面 決 議 の 取 消 し、28) 民 法 第 969 条 による 親 族 会 の 決 議 に 代 わる 裁 判 、29) 民 法 第 970 条 による 親 族 会 員 の 辞 退に 対 する 許 可 、30) 民 法 第 1019 条 第 1 項 ただし 書 による 相 続 の 承 認 又 は 放 棄 のための 期 間 の 延長 許 可 、31) 民 法 第 1023 条 ( 同 法 第 1044 条 により 準 用 される 場 合 を 含 む。)による 相 続 財 産 保存 のための 処 分 、32) 民 法 第 1024 条 第 2 項 、 第 1030 条 及 び 第 1041 条 による 相 続 の 限 定 承 認 申告 又 は 放 棄 申 告 の 受 理 と 限 定 承 認 取 消 申 告 又 は 放 棄 取 消 申 告 の 受 理 、33) 民 法 第 1035 条 第 2 項( 同 法 第 1040 条 第 3 項 、 第 1051 条 第 3 項 及 び 第 1056 条 第 2 項 により 準 用 される 場 合 を 含 む。)及 び 第 1113 条 第 2 項 による 鑑 定 人 の 選 任 、34) 民 法 第 1040 条 第 1 項 による 共 同 相 続 財 産 のための 管 理 人 の 選 任 、35) 民 法 第 1045 条 による 相 続 財 産 の 分 離 、36) 民 法 第 1047 条 による 相 続 財産 分 離 後 の 相 続 財 産 管 理 に 関 する 処 分 、37) 民 法 第 1053 条 による 管 理 人 の 選 任 及 びその 公 告 と財 産 管 理 に 関 する 処 分 、38) 民 法 第 1057 条 による 相 続 人 捜 索 の 公 告 、39) 民 法 第 1057 条 の 2による 相 続 財 産 の 分 与 、40) 民 法 第 1070 条 第 2 項 による 遺 言 の 検 認 、41) 民 法 第 1091 条 による 遺 言 の 証 書 又 は 録 音 の 検 認 、42) 民 法 第 1092 条 による 遺 言 証 書 の 開 封 、43) 民 法 第 1096 条による 遺 言 執 行 者 の 選 任 及 びその 任 務 に 関 する 処 分 、44) 民 法 第 1097 条 第 2 項 による 遺 言 執 行者 の 承 諾 又 は 辞 退 のための 通 知 の 受 理 、45) 民 法 第 1104 条 第 1 項 による 遺 言 執 行 者 に 対 する 報酬 の 決 定 、46) 民 法 第 1105 条 による 遺 言 執 行 者 の 辞 退 に 対 する 許 可 、47) 民 法 第 1106 条 による遺 言 執 行 者 の 解 任 、48) 民 法 第 1111 条 による 負 担 ある 遺 言 の 取 消 しナ.マ 類 家 事 非 訟 事 件 1) 民 法 第 826 条 及 び 第 833 条 による 夫 婦 の 同 居 ・ 扶 養 ・ 協 力 又 は 生 活費 用 の 負 担 に 関 する 処 分 、2) 民 法 第 829 条 第 3 項 による 財 産 管 理 者 の 変 更 又 は 共 有 財 産 の 分 割のための 処 分 、3) 民 法 第 837 条 及 び 第 837 条 の 2( 同 法 第 843 条 により 上 記 の 各 条 項 が 準 用 される 場 合 及 び 婚 姻 の 取 消 し 又 は 認 知 を 原 因 とする 場 合 を 含 む。)による 子 の 養 育 に 関 する 処 分 とその 変 更 、 面 接 交 渉 権 の 制 限 又 は 排 除 、4) 民 法 第 839 条 の 2 第 2 項 ( 同 法 第 843 条 により 準 用される 場 合 及 び 婚 姻 の 取 消 しを 原 因 とする 場 合 を 含 む。)による 財 産 分 割 に 関 する 処 分 、5) 民法 第 909 条 第 4 項 及 び 第 6 項 ( 婚 姻 の 取 消 しを 原 因 とする 場 合 を 含 む。)による 親 権 者 の 指 定 と変 更 、6) 民 法 第 924 条 から 第 926 条 までの 規 定 による 親 権 ・ 法 律 行 為 代 理 権 ・ 財 産 管 理 権 の 喪失 宣 告 及 び 失 権 回 復 の 宣 告 、7) 民 法 第 972 条 による 親 族 会 の 決 議 に 対 する 異 議 、8) 民 法 第 976条 から 第 978 条 までの 規 定 による 扶 養 に 関 する 処 分 、9) 民 法 第 1008 条 の 2 第 2 項 及 び 第 4 項による 寄 与 分 の 決 定 、10) 民 法 第 1013 条 第 2 項 による 相 続 財 産 の 分 割 に 関 する 処 分2 家 庭 法 院 は、 他 の 法 律 又 は 大 法 院 規 則 で 家 庭 法 院 の 権 限 として 定 める 事 項 に 対 しても 審 理 ・裁 判 する。28299


3 第 2 項 の 事 件 に 関 する 手 続 は、 法 律 又 は 大 法 院 規 則 で 別 に 定 める 場 合 を 除 き、ラ 類 家 事 非 訟事 件 の 手 続 による。1 家 事 訴 訟 事 件家 事 訴 訟 は、 婚 姻 、 親 子 、 養 子 等 の 基 本 的 な 身 分 関 係 に 関 する 紛 争 及 びそれと 関 連 する財 産 関 係 に 関 する 紛 争 のうち 家 事 訴 訟 法 又 は 家 事 訴 訟 規 則 若 しくは 他 の 法 律 の 規 定 により家 庭 法 院 の 権 限 に 属 する 事 件 を 対 立 当 事 者 の 構 造 の 訴 訟 手 続 によって 処 理 する 裁 判 手 続 である。 家 事 訴 訟 は、ガ 類 ・ナ 類 の 家 事 訴 訟 とタ 類 の 家 事 訴 訟 として 分 類 される( 家 事 訴 訟法 第 2 条 第 1 項 第 1 号 )。これは 職 権 主 義 によって 審 理 されるか 否 か 及 び 調 停 の 対 象 となるか 否 かによって 区 分 される 72 。ガ 類 事 件 として、1) 婚 姻 の 無 効 、2) 離 婚 の 無 効 、3) 認 知 の 無 効 、4) 嫡 出 子 関 係 存 否確 認 、5) 養 子 縁 組 の 無 効 、6) 離 縁 の 無 効 について 規 定 している。ガ 類 訴 訟 事 件 は、 職 権主 義 によることになり( 家 事 訴 訟 法 第 17 条 )、 当 事 者 の 任 意 処 分 が 許 容 されず、 調 停 の 対象 とならない。ガ 類 家 事 訴 訟 を 民 事 訴 訟 法 学 界 では 形 成 訴 訟 とみるのが 一 般 的 であるのに対 し、 民 法 学 界 では 確 認 訴 訟 とみるのが 通 説 であり、 判 例 の 態 度 である。ナ 類 事 件 として、1) 事 実 上 婚 姻 関 係 存 否 確 認 、2) 婚 姻 の 取 消 し、3) 離 婚 の 取 消 し、4)裁 判 上 の 離 婚 、5) 父 の 決 定 、6) 嫡 出 否 認 、7) 認 知 の 取 消 し、8) 認 知 に 対 する 異 議 、9)認 知 請 求 、10) 養 子 縁 組 の 取 消 し、11) 離 縁 の 取 消 し、12) 裁 判 上 の 離 縁 、13) 親 養 子 縁組 の 取 消 し、14) 親 養 子 の 離 縁 について 規 定 している。ナ 類 家 事 訴 訟 事 件 は 職 権 主 義 により 審 理 されるが( 家 事 訴 訟 法 第 17 条 )、 調 停 の 対 象 となる。ナ 類 家 事 訴 訟 は 事 実 上 婚 姻 関係 存 否 確 認 の 訴 えを 除 き、 形 成 訴 訟 である。タ 類 事 件 として、1) 婚 約 解 除 又 は 事 実 婚 関 係 不 当 破 棄 による 損 害 賠 償 請 求 ( 第 3 者 に 対する 請 求 を 含 む。) 及 び 原 状 回 復 の 請 求 、2) 婚 姻 の 無 効 ・ 取 消 し、 離 婚 の 無 効 ・ 取 消 し 又は 離 婚 を 原 因 とする 損 害 賠 償 請 求 ( 第 3 者 に 対 する 請 求 を 含 む。) 及 び 原 状 回 復 の 請 求 、3)養 子 縁 組 の 無 効 ・ 取 消 し、 離 縁 の 無 効 ・ 取 消 し 又 は 離 縁 を 原 因 とする 損 害 賠 償 請 求 ( 第 3者 に 対 する 請 求 を 含 む。) 及 び 原 状 回 復 の 請 求 、4) 民 法 第 839 条 の 3 による 財 産 分 割 請 求権 保 全 のための 詐 害 行 為 取 消 し 及 び 原 状 回 復 の 請 求 について 規 定 している。タ 類 家 事 訴 訟事 件 は 純 粋 な 財 産 上 の 請 求 として 本 質 上 民 事 事 件 であるが、ガ 類 又 はナ 類 家 事 訴 訟 事 件 に72 ここで 列 挙 されていない 場 合 であっても、 極 めて 制 限 的 に 法 律 関 係 たる 身 分 関 係 の 存 否 を 即時 確 定 する 利 益 がある 場 合 であるならば、 一 般 訴 訟 法 の 法 理 によりその 身 分 関 係 存 否 確 認 の 訴訟 を 提 起 することができる( 大 法 院 1993 年 7 月 16 日 宣 告 92 ム 372 判 決 )。29300


属 する 紛 争 が 請 求 の 基 礎 をなす 事 件 であり、 本 質 上 民 事 事 件 に 属 するので、 職 権 主 義 が 適用 されず、 純 粋 な 民 事 訴 訟 手 続 により 処 理 される。タ 類 家 事 訴 訟 は 履 行 訴 訟 である。家 事 訴 訟 手 続 については、 家 事 訴 訟 法 に 特 別 な 規 定 がある 場 合 を 除 き、 民 事 訴 訟 法 が 適用 されるが、 家 事 訴 訟 法 においては 家 事 訴 訟 のうちガ 類 ・ナ 類 家 事 訴 訟 については 明 文 で民 事 訴 訟 法 の 適 用 がない 場 合 を 列 挙 している( 第 12 条 )。家 事 訴 訟 は 家 庭 法 院 の 専 属 管 轄 に 属 する( 第 2 条 第 1 項 、 第 13 条 第 1 項 、 第 22 条 、 第26 条 、 第 30 条 )。 応 訴 管 轄 、 合 意 管 轄 、 緊 急 管 轄 について 家 事 訴 訟 法 には 特 別 な 規 定 がないので、 民 事 訴 訟 法 が 適 用 されることになるであろう( 第 29 条 、 第 30 条 等 参 照 )。 特 定 事件 が 家 庭 法 院 と 一 般 民 事 地 方 法 院 のうちどちらの 管 轄 に 属 するかが 不 明 であるときには 関係 法 院 に 共 通 される 高 等 法 院 が 管 轄 法 院 を 指 定 する( 第 32 条 )。被 告 が 自 然 人 であるときの 普 通 裁 判 籍 は、 第 1 次 にその 住 所 による( 民 事 訴 訟 法 第 3 条 )。仮 に 被 告 が 韓 国 に 住 所 を 有 しないか、 又 は 住 所 が 知 れないときには 第 2 次 的 に 居 所 、 居 所も 有 しないか 又 は 居 所 が 知 れないときには 第 3 次 的 に 最 後 の 住 所 による( 同 条 ただし 書 )。第 2 編 家 事 訴 訟第 1 章 通 側第 13 条 ( 管 轄 )1 家 事 訴 訟 法 は、この 法 律 に 特 別 な 規 定 がある 場 合 を 除 き、 被 告 の 普 通 裁 判 籍がある 地 の 家 庭 法 院 が 管 轄 する。2 当 事 者 又 は 関 係 人 の 住 所 、 居 所 又 は 最 後 の 住 所 により 管 轄 が 定 められる 場 合 に、その 住 所 、居 所 又 は 最 後 の 住 所 が 国 内 にないか 又 はこれが 知 れないときには、 大 法 院 がある 地 の 家 庭 法 院が 管 轄 する。3 家 庭 法 院 は、 訴 訟 の 全 部 又 は 一 部 に 対 して 管 轄 権 がないことを 認 定 した 場 合 には、 決 定 で 管轄 法 院 に 移 送 しなければならない。4 家 庭 法 院 は、その 管 轄 に 属 する 家 事 訴 訟 事 件 に 関 しては、 顕 著 な 存 在 又 は 遅 延 を 避 けるために 必 要 な 場 合 には 職 権 で 又 は 当 事 者 の 申 請 により 他 の 管 轄 家 庭 法 院 に 移 送 することができる。5 移 送 決 定 と 移 送 申 請 の 棄 却 決 定 に 対 しては 即 時 抗 告 をすることができる。第 2 章 婚 姻 関 係 訴 訟第 22 条 ( 管 轄 ) 婚 姻 の 無 効 又 は 取 消 し、 離 婚 の 無 効 又 は 取 消 し 及 び 裁 判 上 の 離 婚 の 訴 えは、 次の 各 号 の 区 分 による 家 庭 法 院 の 専 属 管 轄 とする。1. 夫 婦 が 同 じ 家 庭 法 院 の 管 轄 区 域 内 に 普 通 裁 判 籍 があるときにはその 家 庭 法 院2. 夫 婦 が 最 後 に 同 じ 住 所 地 を 有 していた 家 庭 法 院 の 管 轄 区 域 内 に 夫 婦 のうちいずれか 一 方 の普 通 裁 判 籍 があるときにはその 家 庭 法 院3. 第 1 号 と 第 2 号 に 該 当 しない 場 合 として 夫 婦 のうちいずれか 一 方 が 他 の 一 方 を 相 手 にする場 合 には、 相 手 方 の 普 通 裁 判 籍 がある 地 の 家 庭 法 院 、 夫 婦 双 方 を 相 手 とする 場 合 には 夫 婦 のうちいずれか 一 方 の 普 通 裁 判 籍 がある 地 の 家 庭 法 院4. 夫 婦 のうちいずれか 一 方 が 死 亡 した 場 合 には、 生 存 した 他 の 一 方 の 普 通 裁 判 籍 がある 地 の家 庭 法 院30301


5. 夫 婦 がすべて 死 亡 した 場 合 には、 夫 婦 のうちいずれか 一 方 の 最 後 の 住 所 地 の 家 庭 法 院第 3 章 親 子 関 係 訴 訟第 1 節 嫡 出 子 関 係第 26 条 ( 管 轄 )1 嫡 出 否 認 、 認 知 の 無 効 又 は 取 消 し 若 しくは 民 法 第 845 条 による 父 を 定 める 訴えは、 子 の 普 通 裁 判 籍 がある 地 の 家 庭 法 院 の 専 属 管 轄 とし、 子 が 死 亡 した 場 合 には 子 の 最 後 の住 所 地 の 家 庭 法 院 の 専 属 管 轄 とする。2 認 知 に 対 する 異 議 の 訴 え、 認 知 請 求 の 訴 え 又 は 民 法 第 865 条 による 嫡 出 子 関 係 存 否 確 認 の 訴えは、 相 手 方 ( 相 手 方 が 数 名 であるときにはそのうちの 1 名 )の 普 通 裁 判 籍 がある 地 の 家 庭 法院 の 専 属 管 轄 とし、 相 手 方 がすべて 死 亡 した 場 合 には、そのうちの 1 名 の 最 後 の 住 所 地 の 家 庭法 院 の 専 属 管 轄 とする。第 2 節 養 子 縁 組 ・ 親 養 子 縁 組 関 係第 30 条 ( 管 轄 ) 次 の 各 号 の 訴 えは、 養 父 母 のうち1 名 の 普 通 裁 判 籍 のある 地 の 家 庭 法 院 の 専 属管 轄 とし、 養 父 母 がすべて 死 亡 した 場 合 には、そのうち 1 名 の 最 後 の 住 所 地 の 家 庭 法 院 の 専 属管 轄 とする。1. 養 子 縁 組 の 無 効2. 養 子 縁 組 又 は 親 養 子 縁 組 の 取 消 し3. 離 縁4. 親 養 子 の 離 縁5. 離 縁 の 無 効 又 は 取 消 し2 家 事 非 訟 事 件家 事 非 訟 は 法 令 によって 家 事 非 訟 事 件 として 規 定 され、 家 庭 法 院 の 権 限 に 属 する 事 件 を家 庭 法 院 の 後 見 的 立 場 から 合 目 的 的 な 裁 量 により 処 理 する 裁 判 手 続 である( 家 事 訴 訟 法 第2 条 第 1 項 第 2 号 )。 家 事 訴 訟 法 が 規 定 する 家 事 非 訟 事 件 のうち、ラ 類 家 事 非 訟 事 件 は 相 手方 の 存 在 を 前 提 としない 非 争 訟 的 なものであり、 調 停 の 対 象 とならず、 家 庭 法 院 が 後 見 的許 可 又 は 監 督 処 分 が 要 求 されるものであり、マ 類 家 事 非 訟 事 件 は 相 手 方 の 存 在 を 前 提 とする 争 訟 的 なものとして、 調 停 の 対 象 となり、 家 庭 法 院 の 合 目 的 的 な 裁 量 によって 判 断 が 要求 されるものである。家 事 非 訟 手 続 に 関 しては、 特 別 な 規 定 がある 場 合 を 除 き、 非 訟 事 件 手 続 法 の 規 定 を 準 用し( 第 34 条 )、 家 事 訴 訟 法 と 大 法 院 規 則 で 管 轄 法 院 を 定 めない 限 り、 大 法 院 所 在 の 家 庭 法院 の 管 轄 とする( 第 35 条 )。第 3 編 家 事 非 訟第 1 章 通 側第 35 条 ( 管 轄 )1この 法 律 と 大 法 院 規 則 で 管 轄 法 院 を 定 めない 限 り、 家 事 非 訟 事 件 は 大 法 院 のある 地 の 家 庭 法 院 が 管 轄 する。2 家 事 非 訟 事 件 に 関 しては、 第 13 条 第 2 項 から 第 5 項 までの 規 定 を 準 用 する。31302


第 2 章 ラ 類 家 事 非 訟 事 件第 44 条 ( 管 轄 )ラ 類 家 事 非 訟 事 件 は、 次 の 各 号 の 家 庭 法 院 が 管 轄 する。1. 次 の 各 目 のいずれか 一 つに 該 当 する 事 件 は、 事 件 本 人 の 住 所 地 の 家 庭 法 院ガ. 禁 治 産 ・ 限 定 治 産 に 関 する 事 件ナ. 失 踪 に 関 する 事 件タ. 姓 と 本 の 創 設 に 関 する 事 件ラ. 子 の 従 前 の 姓 と 本 の 継 続 使 用 に 関 する 事 件マ. 子 の 姓 と 本 の 変 更 に 関 する 事 件2. 不 在 者 の 財 産 管 理 に 関 する 事 件 は、 不 在 者 の 最 後 の 住 所 地 又 は 不 在 者 の 財 産 がある 地 の 家 庭法 院3. 夫 婦 間 の 財 産 約 定 の 変 更 に 関 する 事 件 、 共 同 の 子 に 対 する 親 権 行 使 方 法 の 決 定 事 件 は 第 22条 第 1 号 から 第 3 号 までの 家 庭 法 院4. 養 子 縁 組 ・ 親 養 子 縁 組 又 は 離 縁 に 関 する 事 件 は、 養 子 ・ 親 養 子 の 住 所 地 又 は 養 子 ・ 親 養 子 となる 者 の 住 所 地 の 家 庭 法 院5. 親 権 と 後 見 に 関 する 事 件 ( 夫 婦 間 の 共 同 の 子 に 対 する 親 権 行 使 方 法 の 決 定 事 件 は 除 く。)は、未 成 年 者 たる 子 又 は 被 後 見 人 の 住 所 地 の 家 庭 法 院6. 相 続 に 関 する 事 件 は 相 続 開 始 地 の 家 庭 法 院7. 遺 言 に 関 する 事 件 は 相 続 開 始 地 の 家 庭 法 院 。ただし、 民 法 第 1070 条 第 2 項 による 遺 言 の 検認 事 件 は 相 続 開 始 地 又 は 遺 言 者 住 所 地 の 家 庭 法 院8. 第 1 号 から 第 7 号 までに 該 当 しない 事 件 は、 大 法 院 規 則 で 定 める 家 庭 法 院第 3 章 マ 類 家 事 非 訟 事 件第 46 条 ( 管 轄 )マ 類 家 事 非 訟 事 件 は、 相 手 方 の 普 通 裁 判 籍 がある 地 の 家 庭 法 院 が 管 轄 する。ただし、 親 族 会 の 決 議 に 対 する 異 議 事 件 は、 被 後 見 人 の 住 所 地 の 家 庭 法 院 が 管 轄 する。3 家 事 調 停家 事 調 停 に 関 しては、 家 事 訴 訟 法 に 特 別 な 規 定 がある 場 合 を 除 き、 民 事 調 停 法 の 規 定 を準 用 する。ただし、 民 事 調 停 法 第 18 及 び 第 23 条 は 準 用 しない( 第 49 条 )。ナ 類 及 びタ 類 家 事 訴 訟 事 件 とマ 類 家 事 非 訟 事 件 に 対 して 家 庭 法 院 に 訴 えを 提 起 するか 又は 審 判 を 請 求 しようとする 者 は、まず 調 停 を 申 請 しなければならない( 第 50 条 第 1 項 )。これらの 事 件 については 家 事 調 停 前 置 主 義 が 採 用 され、 家 事 調 停 手 続 においては 必 須 的 に事 実 調 査 をしなければならない( 第 56 条 )。 調 停 又 は 確 定 された 調 停 に 代 わる 決 定 は 裁 判上 の 和 解 と 同 一 の 効 力 があるとするが、ただし、 当 事 者 が 任 意 に 処 分 できない 事 項 に 対 してはこの 限 りでない( 第 59 条 第 2 項 )。32303


第 4 編 家 事 調 停第 51 条 ( 管 轄 ) 家 事 調 停 事 件 は、それに 相 応 する 家 事 訴 訟 事 件 又 は 家 事 非 訟 事 件 を 管 轄 する 家庭 法 院 又 は 当 事 者 が 合 意 で 定 める 家 庭 法 院 が 管 轄 する。4 関 連 事 件 の 併 合 の 場 合数 個 の 家 事 訴 訟 又 は 家 事 訴 訟 事 件 と 家 事 非 訟 事 件 の 請 求 の 原 因 が 同 一 の 事 実 関 係 に 基 づくか 又 は 1 個 の 請 求 の 当 否 が 他 の 請 求 の 当 否 の 前 提 となる 場 合 には、これを1 個 の 訴 えとして 提 起 することができる( 第 14 条 第 1 項 )。ただし、 家 事 訴 訟 事 件 と 通 常 の 民 事 事 件 は、他 の 種 類 の 訴 訟 手 続 によるので、 原 則 的 に 併 合 が 許 容 されない 73 。これらの 事 件 の 管 轄 法 院 が 異 なるときには、 家 事 訴 訟 事 件 のうち 1 個 の 請 求 に 対 する 管轄 権 がある 家 庭 法 院 に 訴 えを 提 起 することができる( 第 14 条 第 2 項 )。これら 事 件 のうちタ 類 家 事 訴 訟 事 件 又 は 家 事 非 訟 事 件 が 各 々 異 なる 家 庭 法 院 に 係 属 された 場 合 には、ガ 類 又はナ 類 家 事 訴 訟 事 件 の 受 訴 法 院 は。 職 権 で 又 は 当 事 者 の 申 請 により、 決 定 でタ 類 家 事 訴 訟事 件 又 は 家 事 非 訟 事 件 を 併 合 することができる( 第 14 条 第 3 項 )。この 場 合 、 関 連 事 件 の併 合 申 請 を 受 けた 家 庭 法 院 は、その 申 請 が 理 由 ありと 認 めたときには 関 連 事 件 を 併 合 する趣 旨 の 決 定 を、 理 由 なしと 認 めたときには 申 請 を 棄 却 する 趣 旨 の 決 定 をしなければならない。 併 合 決 定 に 対 しては 即 時 抗 告 をすることができる。しかし 併 合 申 請 を 棄 却 した 決 定 に対 しては 不 服 することができない( 家 事 訴 訟 規 則 第 15 条 第 1 項 、 第 3 項 )。74(2)2009 年 家 事 訴 訟 法 改 正2009 年 家 事 訴 訟 法 改 正 において 養 育 費 履 行 確 保 のためにいくつかの 制 度 が 新 設 ・ 補 完 された。 養 育 費 の 確 保 は 子 の 安 定 した 成 長 のために 必 要 不 可 欠 な 要 件 であるにもかかわらず、その 金 額 は 低 く、 従 来 の 手 続 は 複 雑 で 難 しい 実 情 であったため、より 容 易 に 養 育 費 の 確 保を 図 るものである。 主 要 な 改 正 内 容 は 以 下 のとおりである。1 養 育 費 負 担 調 書 の 作 成 ( 民 法 第 836 条 の 2 第 5 項 )協 議 離 婚 の 場 合 、2007 年 民 法 改 正 75 で 離 婚 の 際 に 当 事 者 間 で 子 の 養 育 費 負 担 に 関 する 協議 を 義 務 化 したが( 民 法 第 837 条 第 2 項 )、その 協 議 だけでは 執 行 力 が 認 められず、 養 育 費支 給 義 務 者 が 養 育 費 を 履 行 しない 場 合 、 確 定 判 決 等 の 執 行 権 原 を 得 て 再 び 強 制 執 行 手 続 を737475大 法 院 2006 年 1 月 13 日 宣 告 2004 ム 1378 判 決 。法 律 第 9650 号 、2009 年 5 月 8 日 一 部 改 正 、 公 布 日 から 6 か 月 後 施 行 。法 律 第 8720 号 、2007 年 12 月 21 日 一 部 改 正 、 公 布 日 施 行 。33304


経 なければならなかった。したがって 2009 年 民 法 改 正 76 では、 家 庭 法 院 が 協 議 離 婚 をする当 事 者 が 作 成 した 養 育 費 負 担 協 議 書 を 確 認 した 後 、 養 育 費 負 担 調 書 を 作 成 することにし、その 効 力 に 関 しては 審 判 の 執 行 力 に 関 する 家 事 訴 訟 法 第 41 条 77 を 準 用 することで、 強 制 執行 の 手 続 をより 簡 素 化 した。協 議 離 婚 の 際 に、 当 事 者 の 協 議 により「 養 育 費 負 担 調 書 」の 作 成 を 義 務 化 し、これに 執行 力 を 付 与 するものである( 強 制 執 行 可 能 )。2 財 産 明 示 及 び 財 産 照 会 制 度 ( 家 事 訴 訟 法 第 48 条 の 2、 第 48 条 の 3)財 産 明 示 ・ 財 産 照 会 制 度 は 財 産 分 割 ・ 扶 養 料 及 び 未 成 年 の 子 の 養 育 費 請 求 事 件 の 場 合 、強 制 執 行 できる 執 行 権 原 がなくても、 請 求 人 の 申 請 又 は 職 権 により、 両 当 事 者 の 財 産 明 示及 び 財 産 照 会 が 可 能 である。3 養 育 費 直 接 支 給 命 令 ( 家 事 訴 訟 法 第 63 条 の 2)養 育 費 直 接 支 給 命 令 制 度 は、 父 母 の 養 育 を 必 要 とする 未 成 年 の 子 の 健 康 な 成 長 のために必 要 な 費 用 を 適 正 で 迅 速 に 確 保 することができるように 家 庭 法 院 が 給 料 所 得 者 たる 養 育 費支 給 義 務 者 の 債 務 者 に 養 育 費 に 該 当 する 金 額 を 直 接 養 育 者 等 に 定 期 的 に 支 給 することを 命じることができるものであり、 煩 雑 な 強 制 執 行 手 続 を 経 ずに、 子 に 必 要 な 養 育 費 が 定 期 的に 支 給 できるように 導 入 されたものである( 未 履 行 の 際 には 支 給 義 務 者 の 債 務 者 に 1,000万 ウォン 以 下 の 過 料 を 課 す)。 養 育 費 直 接 支 給 命 令 は、 強 制 執 行 と 同 一 の 効 力 ( 差 押 え 及 び転 付 命 令 )が 認 められる。要 件 として、1 定 期 的 養 育 費 支 給 債 権 があること 78 、 2 正 当 な 理 由 なしに 2 回 以 上 の 債務 不 履 行 があること 79 、 3 執 行 権 原 があること 80 、4 養 育 費 債 権 者 の 申 請 による 法 院 の 支給 命 令 があることが 満 たされなければならない。7677法 律 第 9650 号 、2009 年 5 月 8 日 一 部 改 正 、 公 布 日 から 3 か 月 後 施 行 。家 事 訴 訟 法 第 41 条 は、「 金 銭 の 支 給 、 物 件 の 引 き 渡 し、 登 記 、その 他 に 義 務 の 履 行 を 命 ずる審 判 は、 執 行 権 原 となる。」と 規 定 している。78直 接 支 給 命 令 を 申 請 するためには、まず 養 育 費 債 権 者 が 養 育 費 債 務 者 に 対 して 定 期 金 形 態 の「 養 育 費 債 権 」が 存 在 しなければならない。 民 法 上 「 養 育 費 」に 対 する 定 義 は 定 められていないが、 一 般 的 に 未 成 年 の 子 を 保 護 ・ 教 育 するために 必 要 な 経 済 的 費 用 として 理 解 されている。79連 続 して 2 回 以 上 であることを 要 求 しておらず、1 回 の 不 履 行 があった 後 、 養 育 費 債 務 の 履行 を 継 続 したが 再 び1 回 以 上 の 養 育 費 債 務 不 履 行 があれば 申 請 が 可 能 となる。80養 育 費 直 接 支 給 命 令 を 申 請 するためには 強 制 執 行 の 要 件 と 強 制 執 行 開 始 の 要 件 を 備 えなければならず、 執 行 権 原 は 執 行 文 とともに 強 制 執 行 の 一 般 要 件 に 該 当 する。 養 育 費 に 関 する 事 件はマ 類 家 事 非 訟 事 件 に 該 当 するので、 実 際 において 執 行 権 原 のほとんどはこれに 関 する 審 判 ( 家34305


効 果 として、 養 育 費 債 権 者 が 給 与 所 得 者 たる 養 育 費 支 給 義 務 者 の 所 得 税 源 泉 徴 収 義 務 者から 直 接 養 育 費 の 支 給 を 受 けることができ、これは 民 事 執 行 法 上 の 第 3 債 務 者 に 対 する 差押 え 及 び 転 付 命 令 と 同 一 の 効 力 を 有 する。 日 本 の 場 合 、 期 限 未 到 来 の 養 育 費 債 権 に 対 する差 押 え 規 定 ( 民 事 執 行 法 第 151 条 の 2 第 2 項 )があるが、これは 強 制 執 行 の 開 始 要 件 を 定めただけで、 開 始 後 の 手 続 については 定 めていないことに 照 らしてみると、 韓 国 の 養 育 費直 接 支 給 命 令 制 度 の 方 がより 強 化 されたものであるといえよう。 一 度 直 接 支 給 命 令 を 受 けると、 養 育 費 支 給 義 務 者 が 退 職 する 等 の 事 情 がない 限 り、 養 育 費 債 権 者 は 引 き 続 き 安 定 的に 養 育 費 の 支 給 を 受 けることができる。ただし、 給 与 者 が 実 際 に 支 給 を 受 けるのは、 所 得税 ・ 住 民 税 などの 税 制 ・ 公 課 金 を 控 除 した 残 額 のうち 差 押 え 禁 止 範 囲 81 を 超 えない 限 度 内で 給 与 控 除 がなされることになる。4 担 保 提 供 及 び 一 時 金 支 給 命 令 ( 家 事 訴 訟 法 第 63 条 の 3)養 育 費 直 接 支 給 義 務 者 が 自 営 業 者 等 である 場 合 にも 将 来 の 養 育 費 債 権 が 安 定 的 に 確 保 できるように 養 育 費 事 件 ( 家 事 非 訟 マ 類 第 3 号 )を 審 理 しながら、 定 期 金 で 支 給 させる 審 判をする 場 合 、 職 権 又 は 養 育 者 の 申 請 により 養 育 費 支 給 義 務 者 をもって 相 当 の 担 保 を 提 供 させることができ、すでに 審 判 又 は 調 停 等 によって 養 育 費 を 定 期 金 で 支 給 する 執 行 権 原 上 の債 務 があるにもかかわらずこれを 履 行 しないときには、 養 育 者 の 申 請 により 担 保 提 供 を 明示 することができる。 仮 に 担 保 を 提 供 しない 場 合 には、その 制 裁 手 段 として 養 育 費 の 全 部又 は 一 部 を 一 時 金 として 支 給 することを 命 じることができる。(3)2011 年 民 法 改 正2011 年 には 成 年 年 齢 の 引 き 下 げ 及 び 成 年 後 見 制 度 の 導 入 82 、そして 家 庭 法 院 による 未 成年 者 法 定 代 理 人 の 選 任 等 83 に 関 して 2 回 の 民 法 改 正 がなされた。 改 正 の 主 要 内 容 は 以 下 のとおりである。事 訴 訟 法 第 41 条 ) 又 は 調 停 調 書 ( 家 事 訴 訟 法 第 59 条 第 2 項 )、 養 育 費 負 担 調 書 ( 民 法 第 836条 の 2 第 5 項 )となるであろう。81給 与 債 権 の 1/2。ただし、その 金 額 が 150 万 ウォン 以 下 であるときには、 給 与 債 権 に 対 して差 押 えが 不 可 能 であるため( 民 事 執 行 法 施 行 令 第 3 条 、 第 4 条 )、 直 接 支 給 命 令 制 度 を 活 用 することができない。82法 律 第 10429 号 、2011 年 3 月 7 日 一 部 改 正 、2013 年 7 月 1 日 施 行 。83法 律 第 10645 号 、2011 年 5 月 19 日 一 部 改 正 、2013 年 7 月 1 日 施 行 。35306


1) 成 年 年 齢 の 引 き 下 げ2011 年 民 法 改 正 では、 青 少 年 の 早 熟 化 にともない 成 年 年 齢 を 引 き 下 げる 世 界 的 趨 勢 と 19歳 の 青 少 年 に 成 年 に 準 ずる 地 位 を 認 める 韓 国 のその 他 法 令 及 び 社 会 経 済 的 現 実 を 反 映 して、成 年 年 齢 を 満 20 歳 から 満 19 歳 に 下 げた( 改 正 民 法 第 4 条 )。2) 成 年 後 見これは 既 存 の 禁 治 産 ・ 限 定 治 産 制 度 を、 現 在 の 精 神 的 制 約 がある 者 はもちろん、 将 来 に精 神 的 能 力 が 弱 くなる 状 況 に 備 えて 後 見 制 度 を 利 用 しようとする 者 が、 財 産 行 為 だけでなく 治 療 、 療 養 等 福 利 に 関 する 幅 広 い 助 力 を 受 けることができる 成 年 後 見 制 へ 拡 大 ・ 改 編 し、禁 治 産 ・ 限 定 治 産 宣 告 の 請 求 権 者 に 後 見 監 督 人 と 地 方 自 治 体 の 長 を 追 加 して 後 見 を 充 実 化するとともに、 成 年 後 見 等 を 必 要 とする 老 人 ・ 障 害 者 等 に 対 する 保 護 を 強 化 し、 被 成 年 後見 人 等 と 取 り 引 きする 相 手 方 を 保 護 するために 成 年 後 見 等 について 登 記 で 公 示 することができる 制 度 である。1 成 年 後 見 ・ 限 定 後 見 ・ 特 定 後 見 制 度 の 導 入 ( 改 正 民 法 第 9 条 、 第 12 条 及 び 第 14 条 の2 新 設 )画 一 的 に 行 為 能 力 を 制 限 する 問 題 点 を 内 包 している 既 存 の 禁 治 産 ・ 限 定 治 産 制 度 の 代 わりに、より 一 層 能 動 的 で 積 極 的 な 社 会 福 祉 システムである 成 年 後 見 ・ 限 定 後 見 ・ 特 定 後 見制 度 を 導 入 し、 既 存 の 禁 治 産 ・ 限 定 治 産 宣 告 の 請 求 権 者 に「 後 見 監 督 人 」と「 地 方 自 治 体の 長 」を 追 加 して 後 見 を 充 実 化 し、 成 年 後 見 等 を 必 要 とする 老 人 ・ 障 害 者 等 に 対 する 保 護を 強 化 する。2 制 限 能 力 者 能 力 の 拡 大 ( 改 正 民 法 第 10 条 及 び 第 13 条 )成 年 後 見 を 受 ける 者 の 法 律 行 為 のうち 日 用 品 の 購 入 等 日 常 生 活 に 必 要 な 行 為 や 後 見 開 始の 審 判 により 特 に 定 めたことは 取 り 消 すことができず、 限 定 後 見 を 受 ける 者 の 法 律 行 為 は家 庭 法 院 で 限 定 後 見 人 の 同 意 事 項 として 決 定 したものでない 以 上 、 確 定 的 に 有 効 な 法 律 行為 と 認 められ、 特 定 後 見 を 受 ける 者 の 法 律 行 為 はいかなる 法 的 制 約 が 伴 われないものとする。3 後 見 を 受 ける 者 の 福 利 、 治 療 行 為 、 住 居 の 自 由 等 に 関 する 身 上 保 護 規 定 の 導 入 ( 改 正民 法 第 947 条 、 第 947 条 の 2 新 設 )36307


被 後 見 人 の 福 利 に 対 する 後 見 人 の 幅 広 い 助 力 が 可 能 となるようにするが、 被 後 見 人 の 身上 に 関 する 決 定 権 は 本 人 が 有 するという 原 則 、そして 後 見 人 の 任 務 遂 行 において 被 後 見 人の 意 思 尊 重 義 務 を 明 示 する 等 被 後 見 人 の 福 利 を 実 質 的 に 保 障 することができるようにする。4 複 数 ・ 法 人 の 後 見 導 入 及 び 同 意 権 ・ 代 理 権 の 範 囲 に 対 する 個 別 的 決 定 ( 改 正 民 法 第 930条 及 び 第 938 条 、 第 959 条 の 4 及 び 第 959 条 の 11 新 設 )後 見 人 の 法 定 順 位 を 廃 止 し、 家 庭 法 院 が 被 後 見 人 の 意 思 等 を 考 慮 して 後 見 人 とその 代 理権 ・ 同 意 権 の 範 囲 等 を 個 別 的 に 決 定 できることにし、 複 数 ・ 法 人 後 見 人 も 選 任 することができるようにする。5 後 見 監 督 人 制 度 の 導 入 ( 改 正 民 法 第 940 条 の 2 から 第 947 条 の 7 まで、 第 959 条 の 5及 び 第 959 条 の 10 新 設 )親 族 会 を 廃 止 する 代 わりに 家 庭 法 院 が 事 案 によって 後 見 監 督 人 を 個 別 的 に 選 任 できることにし、 後 見 人 の 任 務 懈 怠 、 権 限 濫 用 に 対 する 実 質 的 な 牽 制 ができるものとする。6 後 見 契 約 制 度 の 導 入 ( 改 正 民 法 第 959 条 の 14 から 第 959 条 の 20 まで 新 設 )後 見 を 受 けようとする 者 が 事 務 を 処 理 する 能 力 が 不 足 した 状 況 にあるか 又 は 不 足 することになる 状 況 に 備 えて 財 産 管 理 及 び 身 上 保 護 に 関 する 事 務 の 全 部 又 は 一 部 を、 自 分 が 望 む後 見 人 に 委 託 する 内 容 の 契 約 を 締 結 することができるようにする 一 方 、 後 見 契 約 は 公 正 証書 で 締 結 することにし、その 効 力 発 生 時 期 を 家 庭 法 院 の 任 意 後 見 監 督 の 選 任 時 とする 等 、被 後 見 人 の 権 益 を 保 護 できる 制 度 的 装 置 を 設 ける。7 第 3 者 を 保 護 するため、 成 年 後 見 を 登 記 で 公 示 ( 改 正 民 法 第 959 条 の 15、 第 959 条 の19 及 び 第 959 条 の 20 新 設 )取 引 の 安 全 を 保 護 し、 被 成 年 後 見 人 と 取 引 する 相 手 方 の 第 3 者 を 保 護 するために 後 見 契約 等 を 登 記 することで 公 示 するようにする。3) 家 庭 法 院 による 未 成 年 者 法 定 代 理 人 の 選 任離 婚 等 で 単 独 親 権 者 となった 父 母 の 一 方 が 死 亡 するか 又 は 親 権 を 喪 失 する 等 親 権 を 行 使することができない 場 合 に、 家 庭 法 院 の 審 理 を 経 て、 親 権 者 とならなかった 父 母 のうち 他方 を 親 権 者 と 指 定 するか 又 は 後 見 が 開 始 されることにし、 養 子 縁 組 が 取 り 消 されたか 又 は離 縁 した 場 合 若 しくは 養 父 母 が 死 亡 した 場 合 にも、 家 庭 法 院 の 審 理 を 経 て、 実 父 母 又 はそ37308


の 一 方 を 親 権 者 と 指 定 するか 又 は 後 見 が 開 始 されることにし、 不 適 格 者 たる 父 又 は 母 が 当然 に 親 権 者 となることにより 未 成 年 者 の 福 利 に 悪 影 響 を 及 ぼすことを 防 止 し、 離 婚 等 で 単独 親 権 者 となった 父 母 の 一 方 が 遺 言 で 未 成 年 者 の 後 見 人 を 指 定 した 場 合 であっても、 未 成年 者 の 福 利 のために 必 要 と 認 めれば、 後 見 を 終 了 して 親 権 者 とならなかった 父 母 のうち 他方 を 親 権 者 と 指 定 できることにして、 未 成 年 者 の 福 利 を 増 進 させようとするものである。1 単 独 親 権 者 の 死 亡 、 養 子 縁 組 の 取 消 し、 離 縁 又 は 養 父 母 の 死 亡 の 場 合 、 家 庭 法 院 による 未 成 年 者 法 定 代 理 人 の 選 任 ( 改 正 民 法 第 909 条 の 2 新 設 )ⅰ) 離 婚 等 で 単 独 親 権 者 となった 父 母 の 一 方 が 死 亡 した 場 合 、 生 存 する 父 又 は 母 、 未 成年 者 、 未 成 年 者 の 親 族 がその 事 実 を 知 った 日 から 1 か 月 、 死 亡 した 日 から 6 か 月 内 に 家 庭法 院 に 生 存 する 父 又 は 母 を 親 権 者 として 指 定 することを 請 求 できるようにするものの、 親権 者 指 定 の 請 求 がある 場 合 であっても 未 成 年 者 の 福 利 のために 適 切 でないと 認 めれば、 家庭 法 院 が 職 権 で 後 見 人 を 選 任 することで 請 求 を 棄 却 することができるようにする。ⅱ) 生 存 する 父 又 は 母 、 未 成 年 者 、 未 成 年 者 の 親 族 が 親 権 者 指 定 の 請 求 をしない 場 合 には、 家 庭 法 院 が 職 権 で 又 は 未 成 年 者 、 未 成 年 者 の 親 族 、 利 害 関 係 人 、 検 査 の 請 求 により、後 見 人 を 選 任 することができるようにするが、この 場 合 、 生 存 する 父 又 は 母 の 意 見 を 聞 くことにし、 後 見 人 選 任 の 請 求 がある 場 合 であっても 後 見 人 選 任 が 未 成 年 者 の 福 利 のために適 切 でないと 認 めれば、 家 庭 法 院 が 職 権 で 生 存 する 父 又 は 母 を 親 権 者 と 指 定 することで 後見 人 選 任 の 請 求 を 棄 却 することができるようにする。ⅲ) 未 成 年 者 に 法 定 代 理 人 がない 期 間 が 生 じないようにするため、 家 庭 法 院 が 職 権 で 又は 未 成 年 者 、 未 成 年 者 の 親 族 、 利 害 関 係 人 、 検 査 の 請 求 により、 未 成 年 者 に 対 する 親 権 者又 は 後 見 人 が 定 められるときまで、 後 見 人 の 任 務 を 代 行 する 者 を 選 任 することができるようにする。ⅳ) 生 存 する 父 又 は 母 を 親 権 者 と 指 定 することが 未 成 年 者 の 福 利 のために 適 切 でないことを 理 由 に 後 見 人 が 選 任 された 場 合 であっても、 後 見 人 選 任 後 、 養 育 環 境 や 養 育 能 力 の 変更 等 で、 生 存 する 父 又 は 母 が 親 権 を 行 使 することが 未 成 年 者 の 福 利 のために 必 要 な 場 合 には、 家 庭 法 院 が 生 存 する 父 又 は 母 、 未 成 年 者 の 請 求 によって、 後 見 を 終 了 して 生 存 する 父又 は 母 を 親 権 者 と 指 定 することができるようにする。ⅴ) 一 方 、 養 子 縁 組 の 取 消 し 又 は 離 縁 された 場 合 、 又 は 養 父 母 がすべて 死 亡 した 場 合 にも、 実 父 母 又 はその 一 方 、 未 成 年 者 、 未 成 年 者 の 親 族 が 家 庭 法 院 に 実 父 母 又 はその 一 方 を38309


親 権 者 と 指 定 することを 請 求 できるようにする 等 、 単 独 親 権 者 が 死 亡 した 場 合 において 未成 年 者 の 法 定 代 理 人 を 選 任 する 手 続 と 同 一 の 手 続 を 経 て 未 成 年 者 の 法 定 代 理 人 を 選 任 するようにする。2 親 権 者 指 定 の 基 準 ( 改 正 民 法 第 912 条 第 2 項 新 設 )家 庭 法 院 が 親 権 者 を 指 定 するときには、 子 の 福 利 を 優 先 的 に 考 慮 することにし、このために 関 連 分 野 の 専 門 家 等 から 諮 問 を 受 けられるようにする。3 単 独 親 権 者 に 親 権 喪 失 、 所 在 不 明 等 親 権 を 行 使 することができない 重 大 な 事 由 がある場 合 、 家 庭 法 院 による 未 成 年 者 法 定 代 理 人 の 選 任 ( 改 正 民 法 第 927 条 の 2 新 設 )離 婚 等 で 単 独 親 権 者 と 定 められた 父 又 は 母 が 親 権 を 喪 失 するか 又 は 所 在 不 明 になる 等 親権 を 行 使 することができない 重 大 な 事 由 がある 場 合 には、 単 独 親 権 者 が 死 亡 した 場 合 において 未 成 年 者 の 法 定 代 理 人 を 選 任 する 手 続 を 準 用 して 未 成 年 者 の 法 定 代 理 人 を 選 任 するようにするが、 未 成 年 者 の 法 定 代 理 人 が 定 められた 後 、 単 独 親 権 者 であった 父 又 は 母 が 親 権を 回 復 するか 又 は 所 在 が 発 見 される 等 親 権 を 行 使 することができるようになった 場 合 には、その 父 又 は 母 、 未 成 年 者 、 未 成 年 者 の 親 族 の 請 求 により、 親 権 者 を 新 たに 定 めることにする。4 単 独 親 権 者 が 遺 言 で 未 成 年 者 の 後 見 人 を 指 定 した 場 合 、 家 庭 法 院 による 親 権 者 の 指 定( 改 正 民 法 第 931 条 第 2 項 新 設 )単 独 親 権 者 が 遺 言 で 指 定 した 未 成 年 者 の 後 見 人 が 選 任 された 場 合 であっても、 家 庭 法 院が 未 成 年 者 の 福 利 のために 必 要 と 認 めれば、 生 存 する 父 又 は 母 、 未 成 年 者 の 請 求 により、後 見 を 終 了 し、 生 存 する 父 又 は 母 を 親 権 者 と 指 定 することができるようにする。84(4)2012 年 民 法 改 正当 事 者 間 の 合 意 により 成 立 する 養 子 縁 組 制 度 ( 契 約 型 ・ 非 断 絶 型 )に 加 え、 親 養 子 縁 組制 度 ( 決 定 型 ・ 断 絶 型 )が 2005 年 民 法 改 正 時 に 新 しく 導 入 された 85 。 前 者 においては 成 年者 も 未 成 年 者 も 養 子 となりうるが、 未 成 年 者 の 養 子 縁 組 と 離 縁 は 市 ・ 邑 ・ 面 の 長 に 対 する申 告 のみで 成 立 するので、 児 童 虐 待 の 習 癖 がある 者 も 容 易 に 養 子 縁 組 をすることができ、84法 律 第 11300 号 、2012 年 2 月 10 日 一 部 改 正 、2013 年 7 月 1 日 施 行 (ただし、 第 818 条 、 第828 条 、 第 843 条 及 び 第 925 条 の 改 正 規 定 は 公 布 日 から 施 行 する)。85法 律 第 7427 号 、2005 年 3 月 31 日 一 部 改 正 、 公 布 日 施 行 。39310


その 結 果 、 未 成 年 者 の 福 利 に 悪 影 響 を 与 える 事 例 がしばしば 発 生 しているので、これを 防止 するため 未 成 年 者 を 養 子 縁 組 するときには 家 庭 法 院 の 許 可 を 得 ることにし、 未 成 年 者 に対 する 離 縁 は 裁 判 のみですることができ、 父 母 の 所 在 が 知 れない 等 の 場 合 には、 父 母 の 同意 がなくても 養 子 縁 組 ができる 等 養 子 縁 組 制 度 を 改 善 し、 親 養 子 縁 組 ができる 年 齢 を 現 行の 15 歳 未 満 から 未 成 年 者 に 引 き 上 げることで 現 実 に 合 せて 緩 和 する 一 方 、 重 婚 に 対 する 取消 請 求 権 者 に 直 系 卑 属 を 追 加 する 等 現 行 制 度 の 運 用 上 の 不 備 点 を 改 善 ・ 補 完 するものである。 改 正 の 主 要 内 容 は 以 下 のとおりである。1) 養 子 縁 組 制 度 の 改 善条 )1 未 成 年 者 の 養 子 縁 組 に 対 する 家 庭 法 院 の 許 可 制 導 入 ( 改 正 民 法 第 867 条 新 設 及 び 第 898養 父 母 が 保 険 金 を 受 領 する 目 的 で 養 子 縁 組 した 幼 児 を 殺 害 したり、 養 子 縁 組 した 児 童 を性 暴 行 する 等 の 犯 罪 が 引 き 続 き 発 生 する 等 、 不 適 格 者 による 養 子 縁 組 が 深 刻 な 社 会 問 題 になっている。したがって、 未 成 年 者 を 養 子 縁 組 するときには、 家 庭 法 院 の 許 可 を 得 ることにし、 家 庭 法 院 が 養 子 縁 組 を 許 可 するときには 養 父 母 となる 者 の 養 育 能 力 、 養 子 縁 組 の 動機 等 を 審 査 して 許 可 の 可 否 を 決 定 することにする 一 方 、 養 子 が 未 成 年 者 である 場 合 には 裁判 のみで 離 縁 することができるように 養 子 縁 組 手 続 を 改 善 するものである。2 父 母 の 所 在 が 知 れない 場 合 、 父 母 の 同 意 がなくても 養 子 縁 組 可 能 ( 改 正 民 法 第 870 条 、第 871 条 及 び 第 908 条 の 2 第 2 項 )現 在 は 父 母 の 同 意 を 得 なければ 養 子 となりえないが、 父 母 の 所 在 が 知 れない 場 合 には 同意 を 得 られない 問 題 があり、 最 近 では 父 母 が 養 子 縁 組 の 同 意 を 条 件 に 金 銭 的 代 価 を 要 求 する 事 例 もあった。 父 母 の 所 在 が 知 れない 等 の 理 由 で 父 母 の 同 意 を 得 られない 場 合 にはその同 意 がなくても 家 庭 法 院 が 養 子 縁 組 を 許 可 することができることにし、 父 母 が 3 年 以 上 子に 対 する 扶 養 義 務 を 履 行 しない 場 合 等 には 父 母 が 同 意 を 拒 否 しても 家 庭 法 院 が 養 子 縁 組 を許 可 することができるように 制 度 を 改 善 する。3 親 養 子 縁 組 ができる 年 齢 の 緩 和 ( 改 正 民 法 第 908 条 の 2 第 1 項 第 2 号 )現 在 、 親 養 子 となる 者 は 15 歳 未 満 でなければならないが、 長 い 間 共 同 生 活 を 通 じて 継 父母 と 継 子 女 との 間 に 事 実 上 の 親 子 関 係 が 形 成 された 再 婚 家 庭 の 場 合 、 年 齢 の 制 限 によって、親 養 子 縁 組 をすることができない 事 例 があった。 親 養 子 縁 組 の 年 齢 制 限 を 緩 和 して 親 養 子となる 者 が 未 成 年 者 であれば、 親 養 子 縁 組 がすることができるようにする。40311


2) 現 行 制 度 の 運 用 上 の 不 備 を 改 善 ・ 補 完1 重 婚 の 取 消 請 求 権 者 に 直 系 卑 属 の 追 加 ( 改 正 民 法 第 818 条 )2010 年 7 月 29 日 に 憲 法 裁 判 所 86 によって 民 法 第 818 条 が 憲 法 不 合 致 と 決 定 されたので、重 婚 に 対 する 取 消 請 求 権 者 に 直 系 卑 属 を 追 加 する。2 民 法 第 828 条 ( 夫 婦 間 の 契 約 の 取 消 し)の 削 除 : 従 前 の 民 法 828 条 は「 夫 婦 間 の 契 約は、 婚 姻 中 いつでも 夫 婦 の 一 方 がこれを 取 り 消 すことができる。ただし、 第 三 者 の 害 することはできない。」と 規 定 していた。(5) 性 転 換 者 の 性 別 訂 正 許 可 申 請 事 件大 法 院 2006 年 6 月 22 日 宣 告 2004 ス 42 全 員 合 議 体 決 定 87 により 性 転 換 者 に 対 する 性 別訂 正 が 許 容 されることにともない、 大 法 院 は「 性 転 換 者 の 性 別 訂 正 許 可 申 請 事 件 等 事 務 処理 指 針 」( 家 族 関 係 登 録 例 規 第 256 号 ) 88 を 制 定 した。その 後 、 大 法 院 2011 年 9 月 2 日 宣告 2009 ス 117 決 定 89 の 内 容 を 反 映 するため、 第 6 条 の 題 目 「 性 別 訂 正 の 許 可 基 準 」を「 調86憲 法 裁 判 所 2010 年 7 月 29 日 決 定 ( 全 員 裁 判 部 )2009 憲 ガ 8 は、「 重 婚 の 取 消 請 求 権 者 を 規定 した 民 法 第 818 条 はその 取 消 請 求 権 者 として、 直 系 尊 属 と 4 親 等 以 内 の 傍 系 血 族 を 規 定 しているものの 直 系 卑 属 を 除 外 しているところ、 直 系 卑 属 を 除 外 して 直 系 尊 属 のみを 取 消 請 求 権 者と 規 定 することは、 家 父 長 的 ・ 宗 法 的 な 思 考 を 土 台 にしており、 直 系 卑 属 が 相 続 権 等 と 関 連 して 重 婚 の 取 消 請 求 を 求 める 法 律 的 な 利 害 関 係 が 直 系 尊 属 と 4 親 等 以 内 の 傍 系 血 族 に 劣 らず 大 きいので、その 取 消 請 求 権 者 の 一 人 として 定 められる 検 事 に 取 消 請 求 を 求 めても 検 事 に 職 権 発 動を 促 すことにすぎない 点 等 を 考 慮 すれば、 合 理 的 な 理 由 なしに 直 系 卑 属 を 差 別 しており、 平 等原 則 に 違 反 する」と 判 示 した。87戸 籍 上 女 性 として 登 載 されていたが、 成 長 期 から 女 性 に 対 する 不 一 致 感 と 男 性 としての 帰 属感 を 示 しており、 成 人 になった 後 には 長 い 間 男 性 として 生 活 していて 性 転 換 手 術 を 受 けた 者 が戸 籍 訂 正 及 び 改 名 申 請 をした 事 案 において、 社 会 通 念 上 男 性 として 評 価 されうる 性 転 換 者 に 該当 することが 明 らかであるので、 戸 籍 訂 正 及 び 改 名 を 許 可 する 余 地 が 十 分 にあるとみて、 性 転換 者 に 対 する 戸 籍 訂 正 を 許 容 する 根 拠 がないとした 等 の 理 由 でこれを 不 許 可 した 原 審 決 定 を 破棄 した 事 例 である。88 2007 年 12 月 10 日 制 定 。89家 族 関 係 登 録 簿 上 、 男 性 として 登 載 されている 甲 が 乙 と 婚 姻 をして 未 成 年 の 子 たる 丙 を 設 けていたが、 酷 い 性 同 一 性 障 害 のため、 数 回 の 精 神 科 治 療 を 受 けていて、 結 局 、 性 転 換 手 術 を 受けたので、 家 族 関 係 登 録 簿 上 の 性 別 欄 訂 正 を 申 請 した 事 案 において、 性 転 換 者 が 婚 姻 中 にあるか 又 は 未 成 年 の 子 がある 場 合 には、 家 族 関 係 登 録 簿 に 記 載 された 性 別 を 訂 正 して 配 偶 者 又 は 未成 年 の 子 の 法 的 地 位 とそれに 対 する 社 会 的 認 識 に 困 難 をもたらすことまで 許 容 することはできないため、 現 在 、 婚 姻 中 にあるか 又 は 未 成 年 の 子 がある 性 転 換 者 の 性 別 訂 正 は 許 容 されないとして、 性 転 換 者 甲 の 性 別 訂 正 を 不 許 可 した 原 審 判 断 を 肯 定 した 事 例 である。41312


査 事 項 」へ 変 更 し、これに 合 わせて 同 条 の 字 句 を 一 部 修 正 ・ 追 加 した( 家 族 関 係 登 録 例 規第 346 号 ) 90 。この 指 針 は、 性 転 換 者 が 家 族 関 係 登 録 簿 の 性 別 欄 に 記 録 された 出 生 当 時 の 性 を 転 換 された 性 へ 変 更 するために「 家 族 関 係 の 登 録 等 に 関 する 法 律 」 第 104 条 91 により 登 録 簿 訂 正 許可 申 請 をする 場 合 に 必 要 な 事 項 と 法 院 がその 審 理 のために 調 査 する 事 項 、そして 性 別 訂 正許 可 決 定 を 受 けた 性 転 換 者 の 家 族 関 係 登 録 簿 記 録 と 関 連 する 事 項 を 定 めることを 目 的 とする( 第 1 条 )。法 院 は、 性 別 訂 正 許 可 申 請 事 件 の 審 理 のために、 申 請 人 に 対 し、1 申 請 人 が 大 韓 民 国 国籍 者 として 満 20 歳 以 上 の 行 為 能 力 者 であるか 否 か、 現 在 婚 姻 中 であるか 否 か、 申 請 人 に 未成 年 の 子 があるか 否 か、2 申 請 人 が 性 転 換 症 によって 成 長 期 から 持 続 的 に 先 天 的 な 生 物 学的 性 が 自 己 意 識 の 不 一 致 により 苦 痛 を 受 け、むしろ 反 対 の 性 に 対 し 帰 属 感 を 感 じてきたのか 否 か、3 申 請 人 に、 相 当 の 期 間 、 精 神 科 的 治 療 又 はホルモン 療 法 による 治 療 等 を 実 施 したが、 申 請 人 が 依 然 として 手 術 的 処 置 を 希 望 し、 資 格 ある 医 師 の 判 断 と 責 任 の 下 で 性 転 換手 術 を 受 けて 外 部 性 器 を 含 む 身 体 外 観 が 反 対 の 性 に 変 わったのか 否 か、4 性 転 換 手 術 の 結果 、 申 請 人 が 生 殖 能 力 を 喪 失 し、 以 後 、 従 前 の 性 へ 再 転 換 する 蓋 然 性 がないか、きわめて希 薄 なであるか 否 か、5 申 請 人 に 犯 罪 又 は 違 法 行 為 に 利 用 する 意 図 又 は 目 的 で 性 別 訂 正 許可 申 請 をした 等 の 特 別 な 事 情 があるか 否 かについての 事 由 を 調 査 する( 第 6 条 )。90 2011 年 12 月 5 日 改 正 。91家 族 関 係 の 登 録 等 に 関 する 法 律 第 104 条 は、「 登 録 簿 の 記 録 が 法 律 上 許 可 されえないもの 又はその 記 載 に 錯 誤 若 しくは 漏 れがあると 認 められるときには、 利 害 関 係 人 は 事 件 本 人 の 登 録 基準 地 を 管 轄 する 家 庭 法 院 の 許 可 を 得 て 登 録 簿 の 訂 正 を 申 請 することができる。」と 規 定 している。42313


第 2 部 個 別 事 項 に 関 する 調 査1. 失 踪 宣 告( 執 筆 担 当 : 慶 應 義 塾 大 学 北 澤 安 紀 )失 踪 宣 告 の 国 際 裁 判 管 轄 については、1968 年 のブリュッセル 条 約 (1 条 1 号 )や 2000年 のブリュッセルⅠ 規 則 (1 条 2 項 a 号 )がその 適 用 範 囲 からこの 問 題 を 除 外 しているため、EU 構 成 国 では、 各 国 法 上 の 管 轄 ルールに 従 い、 失 踪 宣 告 に 関 する 各 国 裁 判所 の 国 際 裁 判 管 轄 を 決 定 している。わが 国 でも、 失 踪 宣 告 については、 公 的 機 関 によりそれが 行 われるのが 通 常 であるため、その 国 際 的 管 轄 が 問 題 となる。 失 踪 宣 告 に 関 してわが 国 の 裁 判 所 の 管 轄 については、 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 6 条 に 定 めがあり、 同 条 は 以 下 のように 規 定 している。( 失 踪 の 宣 告 )第 6 条 1 裁 判 所 は、 不 在 者 が 生 存 していたと 認 められる 最 後 の 時 点 において、 不 在者 が 日 本 に 住 所 を 有 していたとき 又 は 日 本 の 国 籍 を 有 していたときは、 日 本 法 により、失 踪 の 宣 告 をすることができる。2 前 項 に 規 定 する 場 合 に 該 当 しないときであっても、 裁 判 所 は、 不 在 者 の 財 産 が 日本 に 在 るときはその 財 産 についてのみ、 不 在 者 に 関 する 法 律 関 係 が 日 本 法 によるべきときその 他 法 律 関 係 の 性 質 、 当 事 者 の 住 所 又 は 国 籍 その 他 の 事 情 に 照 らして 日 本 に 関係 があるときはその 法 律 関 係 についてのみ、 日 本 法 により、 失 踪 の 宣 告 をすることができる。まずは、 通 則 法 制 定 前 の 状 況 について 説 明 する。 法 例 6 条 は、 失 踪 宣 告 について、以 下 のように 規 定 していた。( 失 踪 宣 告 )外 国 人 ノ 生 死 カ 分 明 ナラサル 場 合 ニ 於 テハ 裁 判 所 ハ 日 本 ニ 在 ル 財 産 及 ヒ 日 本 ノ 法 律ニ 依 ルヘキ 法 律 関 係 ニ 付 テノミ 日 本 ノ 法 律 ニ 依 リテ 失 踪 ノ 宣 告 ヲ 為 スコトヲ 得1315


この 規 定 に 対 し、 外 国 人 の 失 踪 宣 告 につき、わが 国 の 裁 判 所 がそれを 行 う 場 合 のみを 規 定 しているため、この 規 定 の 前 提 として 日 本 人 についてわが 国 の 裁 判 所 が 失 踪 宣告 をできるか 否 か、 解 釈 論 上 争 いがあった 1 。 伝 統 的 な 通 説 は、この 規 定 が、 外 国 人 に対 してわが 国 の 裁 判 所 が 例 外 的 に 失 踪 宣 告 を 行 う 場 合 について 定 めていると 解 し、その 前 提 として、 日 本 人 に 対 しては、その 本 国 であるわが 国 の 裁 判 所 に 原 則 的 な 国 際 裁判 管 轄 が 認 められるとしていた 2 。 失 踪 宣 告 という 制 度 は、 人 の 死 亡 を 擬 制 ないし 推 定するものであり、その 者 の 人 格 に 関 する 制 度 であるから、 国 際 私 法 上 、その 者 の 本 国と 密 接 に 関 係 することが 本 国 管 轄 を 原 則 とする 理 由 であった。また、 法 例 修 正 案 参 考書 も「 失 踪 ノ 宣 告 ハ 失 踪 者 ノ 本 国 裁 判 所 カ 本 国 法 ニ 依 リテ 之 ヲ 宣 告 スルヲ 以 テ 原 則 トス」とし、 同 様 の 立 場 をとっていた。 下 級 審 裁 判 例 の 中 にもこの 立 場 に 立 つものがあった 3 。なお、 通 説 と 同 じように、 法 例 6 条 が 例 外 的 場 合 について 定 めた 規 定 であるとの 前提 に 立 ちながら、わが 国 の 裁 判 所 が 原 則 的 管 轄 を 持 つのは、わが 国 が 不 在 者 の 本 国 でではなく、 不 在 者 の 最 後 の 常 居 所 地 国 である 場 合 とする 見 解 もあった 4 。 失 踪 宣 告 では、不 在 者 本 人 の 利 益 保 護 よりも、その 利 害 関 係 人 の 利 益 保 護 に 重 点 が 置 かれるべきであり、 不 在 者 の 生 活 の 本 拠 があった 最 後 の 常 居 所 地 国 にこそ 原 則 的 管 轄 が 認 められるべきであるというのがその 理 由 であったが、このような 解 釈 は 法 例 6 条 の 文 言 上 無 理 があるとして 批 判 されていた。このほかに、 法 例 6 条 こそが 本 則 であり、この 規 定 が 定 める 以 外 に 管 轄 を 認 める 必要 はないとの 見 解 も 有 力 に 主 張 されていた 5 。1 これらの 議 論 状 況 については、 中 西 康 「 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 第 6 条 失 踪 の 宣告 」 櫻 田 嘉 章 = 道 垣 内 正 人 編 『 注 釈 国 際 私 法 第 1 巻 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 §§1〜23』( 有 斐 閣 ・2011 年 )126〜132 頁 を 参 照 。2久 保 岩 太 郎 『 国 際 私 法 論 』( 三 省 堂 ・1935 年 )116 頁 、 江 川 英 文 『 国 際 私 法 ( 改 訂 版 )〔 有 斐 閣 全 書 〕』141 頁 、 桑 田 三 郎 「 権 利 能 力 、 失 踪 宣 告 」 国 際 法 学 会 編 『 国 際 私 法 講座 Ⅱ 巻 』( 有 斐 閣 ・1955 年 )299 頁 、 溜 池 良 夫 「 渉 外 人 事 非 訟 事 件 の 諸 相 」『 新 ・ 実 務民 事 訴 訟 法 講 座 7( 国 際 民 事 訴 訟 法 ・ 会 社 訴 訟 )』(1982 年 )198 頁 、 沼 邊 愛 一 「 外 国人 の 失 踪 宣 告 の 裁 判 管 轄 と 準 拠 法 」 判 タ 747 号 493 頁 、 清 水 節 「 渉 外 失 踪 宣 告 の 裁 判管 轄 権 及 び 準 拠 法 」 岡 垣 學 = 野 田 愛 子 編 『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5』( 日 本 評 論 社 ・1990年 )76 頁 等 。3大 阪 家 審 昭 和 38 年 2 月 18 日 ( 家 月 15 巻 7 号 128 頁 )、 岐 阜 家 多 治 見 支 審 昭 和 44 年4 月 1 日 ( 家 月 21 巻 10 号 122 頁 ) 等 。4山 田 鐐 一 『 国 際 私 法 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ・2004 年 )193 頁 。5折 茂 豊 『 国 際 私 法 〔 各 論 〕〔 新 版 〕〔 法 律 学 全 集 〕』( 有 斐 閣 ・1972 年 )12 頁 。2316


このような 議 論 状 況 を 踏 まえ、 通 則 法 制 定 時 には、 理 論 的 ・ 政 策 的 観 点 から 法 例 6条 の 見 直 しが 行 われ、 失 踪 宣 告 の 国 際 裁 判 管 轄 、 準 拠 法 及 び 効 力 の 及 ぶ 範 囲 について網 羅 的 に 規 定 している 通 則 法 6 条 が 設 けられることとなった。 通 則 法 6 条 は、1 外 国人 に 限 らない 不 在 者 一 般 を 対 象 とする 失 踪 宣 告 についての 原 則 的 な 国 際 裁 判 管 轄 及 び準 拠 法 に 関 する 規 律 を 新 たに 設 け、さらに、2 原 則 的 な 規 律 に 従 えば、 日 本 の 裁 判 所に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められない 場 合 であっても、わが 国 の 裁 判 所 に 失 踪 宣 告 の 管 轄 を認 める 一 定 の 必 要 性 があるときは、 例 外 的 に 日 本 の 裁 判 所 に 管 轄 を 認 め、そのような例 外 的 管 轄 原 因 及 び 例 外 的 管 轄 に 基 づく 失 踪 宣 告 の 準 拠 法 とその 効 力 が 及 ぶ 範 囲 についても 規 定 している。 通 則 法 6 条 が 定 める 管 轄 原 因 は、 結 果 的 に、 法 例 6 条 が 定 める管 轄 原 因 よりも 広 いものとなっており、 法 例 6 条 の 管 轄 原 因 は 狭 きに 過 ぎるとの 批 判に 応 えるかたちとなった。通 則 法 制 定 時 の 法 制 審 議 会 での 議 論 においては、 当 初 、「1、 不 在 者 が 生 存 していたとされる 最 後 の 時 点 において 日 本 国 籍 を 有 していた 場 合 であったときまたは2 不 在 者が 生 存 していたとされる 最 後 の 時 点 において 日 本 に[ 常 居 所 / 住 所 ]を 有 していた 場合 にはいずれも 原 則 的 管 轄 原 因 を 認 めるものとし、このような 原 則 的 管 轄 原 因 がない場 合 であっても、3 日 本 に 不 在 者 の 財 産 があるとき、または、4 不 在 者 の 法 律 関 係 が日 本 に 関 係 する 場 合 にはいずれも 例 外 的 管 轄 原 因 を 認 める。」という 考 え 方 がたたき 台とされた 6 。 審 議 会 の 席 上 、これら1から4の 全 てを 管 轄 原 因 とすべきであるとの 見 解が 多 数 であった。その 根 拠 としては、 以 下 の 点 が 挙 げられる 7 。まず、1の 管 轄 原 因 については、 失 踪 宣 告 による 戸 籍 の 整 理 が 可 能 となること、また、 不 在 者 の 親 族 等 の 利害 関 係 人 は 日 本 に 所 在 することが 多 いと 想 定 されることから、 日 本 で 失 踪 宣 告 をする利 益 があるといえること、つぎに、2の 管 轄 原 因 については、 不 在 者 の 利 害 関 係 人 が日 本 に 集 中 していることが 多 いと 予 想 され、 日 本 で 公 示 催 告 を 行 い、 不 在 者 の 法 律 関係 を 処 理 する 定 型 的 な 必 要 性 があること、3や4の 管 轄 原 因 については、1や2の 原則 的 管 轄 が 認 められない 場 合 であっても、3や4の 場 合 のように 失 踪 宣 告 を 行 う 必 要性 が 認 められるときには、 例 外 的 管 轄 を 認 めるべきであること、また、 失 踪 宣 告 について 国 際 裁 判 管 轄 をある 程 度 広 く 認 めたとしても、 濫 用 の 危 険 は 少 ないこと、さらに、比 較 法 的 にも、3や4の 管 轄 原 因 を 含 む 複 数 の 管 轄 原 因 を 認 める 国 があること、 等 の理 由 である。もっとも、これら1から4の 管 轄 原 因 を 認 めることに 対 しては、 日 本 で67小 出 邦 夫 編 著 『 逐 条 解 説 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 』( 商 事 法 務 ・2009 年 )67 頁 。小 出 ・ 前 掲 書 67 頁 参 照 。3317


失 踪 宣 告 をする 実 質 的 な 利 益 が 存 在 する 場 合 と 評 価 できる3 及 び4の 管 轄 原 因 を 認 めれば 足 り、 特 に2の[ 常 居 所 / 住 所 ] 地 管 轄 については、 不 在 者 の 最 後 の[ 常 居 所 /住 所 ]が 日 本 にあるとしても、 日 本 で 失 踪 宣 告 を 行 う 利 益 が 存 しない 場 合 も 想 定 されることから、これを 管 轄 原 因 として 認 めることに 否 定 的 な 意 見 もあった。このほか、4の 管 轄 原 因 の「 不 在 者 の 法 律 関 係 が 日 本 に 関 係 する 場 合 」については、諸 外 国 でも 採 用 されている「 日 本 に 保 護 に 値 する 利 益 があるとき」という 管 轄 原 因 を採 用 することも 検 討 された 8 。しかし、 法 例 制 定 当 時 の 議 論 9 や「 保 護 に 値 する 利 益 」の 概 念 が 不 明 確 であること 等 を 踏 まえ、「 不 在 者 に 係 る 法 律 関 係 が 日 本 に 関 係 する 場合 」とするのが 適 当 とされた。これらの 審 議 を 経 て、「 国 際 私 法 の 現 代 化 に 関 する 要 綱 中 間 試 案 」 第 3 では、 以 下 の通 り、 前 述 した1から4までの 管 轄 原 因 が 全 て 列 挙 されている。第 3 失 踪 宣 告 の 国 際 裁 判 管 轄 及 び 準 拠 法 ( 第 6 条 )裁 判 所 は、 以 下 のいずれかの 場 合 には、 日 本 の 法 律 によって 失 踪 宣 告 をすることができるものとする。ただし、 失 踪 宣 告 の 効 力 は、3を 管 轄 原 因 とする 場 合 には 日 本 に所 在 する 不 在 者 の 財 産 に、4を 管 轄 原 因 とする 場 合 には 日 本 に 関 係 する 不 在 者 に 係 る法 律 関 係 に、それぞれ 限 定 されるものとする。1 不 在 者 が 生 存 していたとされる 最 後 の 時 点 において 日 本 の 国 籍 を 有 していた 場 合2 不 在 者 が 生 存 していたとされる 最 後 の 時 点 において 日 本 に[ 常 居 所 / 住 所 ]を 有していた 場 合3 不 在 者 の 財 産 が 日 本 に 所 在 する 場 合4 不 在 者 に 係 る 法 律 関 係 が 日 本 に 関 係 する 場 合( 注 1)2において、[ 常 居 所 / 住 所 ]とあるのは、 管 轄 原 因 を 常 居 所 又 は 住 所 のいずれかに 定 めた 趣 旨 であるが、この 点 については、なお 検 討 する。( 注 2) 外 国 でされた 失 踪 宣 告 の 承 認 に 関 する 規 律 については、 解 釈 にゆだねることとする( 前 注 2 参 照 )この 提 案 は、パブリックコメント 手 続 でも 多 数 の 支 持 を 受 けたため、「 国 際 私 法 の 現代 化 に 関 する 要 綱 」 第 3 においては、4の 表 現 を 若 干 修 正 したのみで、1から4まで89小 出 ・ 前 掲 書 68 頁 。小 出 ・ 前 掲 書 68 頁 。4318


の 管 轄 原 因 の 全 てを 採 用 する 提 案 が 行 われ、これが 通 則 法 6 条 に 規 定 されることとなった。通 則 法 6 条 1 項 は、 失 踪 宣 告 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 原 則 的 管 轄 について、2 項 は例 外 的 管 轄 について 規 定 している。・ 原 則 的 管 轄 ( 通 則 法 6 条 1 項 )通 則 法 6 条 1 項 は、 失 踪 宣 告 の 原 則 的 管 轄 として、 本 国 管 轄 と 住 所 地 国 管 轄 の 双 方を 認 めており、 不 在 者 が 生 存 していたと 認 められる 最 後 の 時 点 において、 不 在 者 が 日本 に 住 所 を 有 していたとき 又 は 日 本 の 国 籍 を 有 していたときは、わが 国 の 裁 判 所 が、失 踪 宣 告 について 国 際 裁 判 管 轄 を 有 するとしている。 前 述 した 通 り、 失 踪 宣 告 の 原 則的 管 轄 が 不 在 者 の 本 国 と 住 所 地 又 は 常 居 所 地 国 のいずれに 認 められるべきについては、法 例 6 条 の 規 定 をめぐり、 従 来 から 学 説 上 争 いがあった。しかし、 法 例 下 の 立 法 論 としては、 本 国 管 轄 及 び 住 所 地 国 管 轄 は 相 互 に 排 他 的 なものではなく、いずれも 合 理 的な 管 轄 であると 考 えられるという 見 解 も 主 張 され 10 、 通 則 法 6 条 は、 原 則 的 管 轄 原 因として 国 籍 及 び 住 所 の 双 方 を 採 用 している。・ 例 外 的 管 轄 ( 通 則 法 6 条 2 項 )通 則 法 6 条 1 項 の 原 則 的 な 規 律 によれば、 失 踪 宣 告 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 が 日 本 の裁 判 所 に 認 められない 場 合 であっても、 不 在 者 の 財 産 が 日 本 にあるとき 又 は 不 在 者 に関 する 法 律 関 係 が 日 本 に 関 係 があるときは、 日 本 の 裁 判 所 に 例 外 的 管 轄 が 認 められる。通 則 法 6 条 2 項 は、 法 例 6 条 の「 日 本 ニ 在 ル 財 産 」という 管 轄 原 因 を「 財 産 が 日 本に 在 るとき」とし、そのまま 維 持 している。それに 対 し、 法 例 6 条 に 規 定 されていた「 日 本 ノ 法 律 ニ 依 ルヘキ 法 律 関 係 」という 管 轄 原 因 を「 法 律 関 係 が 日 本 法 によるべきときその 他 法 律 関 係 の 性 質 、 当 事 者 の 住 所 又 は 国 籍 その 他 の 事 情 に 照 らして 日 本 に 関係 があるとき」に 修 正 している。これは、 次 のような 法 例 6 条 に 対 する 批 判 に 応 えたものである。すなわち、 法 例 下 の 解 釈 としては、 日 本 人 と 外 国 人 の 夫 婦 が 外 国 に 同 一常 居 所 を 有 しており、 外 国 人 配 偶 者 が 不 在 者 となった 場 合 に、 日 本 人 配 偶 者 が 日 本 に帰 国 後 、 婚 姻 関 係 の 解 消 をしようとするような 事 案 において、 婚 姻 関 係 の 準 拠 法 が、夫 婦 の 同 一 常 居 所 地 法 又 は 最 密 接 関 係 地 法 である 外 国 法 であるときは、 法 例 6 条 の「 日本 ノ 法 律 ニ 依 ルヘキ 法 律 関 係 」が 存 在 しないことになるため、 日 本 の 裁 判 所 に 失 踪 宣10清 水 ・ 前 掲 論 文 80 頁 。5319


告 についての 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められないことになり、このような 結 論 は 学 説 から 批判 されていた 11 。通 則 法 6 条 2 項 は、 不 在 者 に 関 する 法 律 関 係 の 準 拠 法 が 日 本 法 である 場 合 でなくても、 不 在 者 に 関 する 法 律 関 係 が 日 本 に 関 係 があるときにも、 日 本 の 裁 判 所 に 例 外 的 管轄 原 因 を 認 める。その 際 の 考 慮 事 情 として、 法 律 関 係 の 性 質 、 当 事 者 の 住 所 又 は 国 籍その 他 の 事 情 が 挙 げられている。ここにいう「 法 律 関 係 の 性 質 」とは、 個 別 の 法 律 関係 における 要 素 (とりわけ、 履 行 地 、 行 為 地 、 目 的 物 の 所 在 地 等 の、 独 立 した 考 慮 要素 として 例 示 されている 不 在 者 以 外 の 当 事 者 の 住 所 または 国 籍 を 除 く 場 所 的 要 素 や、問 題 となる 法 律 関 係 が 財 産 的 なものか 身 分 的 なものかといった 要 素 )から 判 断 される法 律 関 係 の 特 徴 や 性 質 をいう 趣 旨 である 12 。 実 際 に、どの 程 度 の 関 係 があれば 日 本 との 牽 連 があるとされるのかについては、 一 律 な 基 準 を 定 律 することは 困 難 であるとされ、 個 別 具 体 的 な 事 案 に 応 じて 判 断 されることになる 13 。・ 失 踪 宣 告 の 効 力 の 及 ぶ 範 囲通 則 法 6 条 1 項 の 原 則 的 管 轄 に 基 づく 失 踪 宣 告 の 場 合 、その 効 力 の 及 ぶ 範 囲 は 特 に限 定 されていない。これに 対 し、 通 則 法 6 条 2 項 の 例 外 的 管 轄 に 基 づく 失 踪 宣 告 の 場合 、 法 例 6 条 に 関 する 通 説 の 理 解 と 同 様 、 失 踪 宣 告 の 効 力 は、 不 在 者 の 財 産 が 日 本 に在 るときはその 財 産 についてのみ、 不 在 者 に 関 する 法 律 関 係 が 日 本 に 関 係 があるときはその 法 律 関 係 についてのみ 及 ぶ。したがって、 日 本 に 所 在 しない 財 産 及 び 日 本 に 関係 しない 法 律 関 係 については、 失 踪 宣 告 の 効 力 は 及 ばないということになる。もっとも、 通 則 法 6 条 2 項 に 従 い、 失 踪 宣 告 がなされる 以 上 、その 効 力 は、 単 に 失 踪 宣 告 の原 因 となった 特 定 の 財 産 又 は 法 律 関 係 についてのみ 生 ずるのではなく、 日 本 に 所 在 する 不 在 者 の 財 産 及 び 日 本 に 関 係 する 不 在 者 に 関 する 法 律 関 係 全 般 に 及 ぶ 14 。このように 例 外 的 管 轄 に 基 づく 失 踪 宣 告 の 効 力 の 範 囲 を 限 定 的 に 解 することに 対 しては、 法 制 審 議 会 において、 次 のような 反 対 意 見 があった。すなわち、 法 例 制 定 当 時にそのように 失 踪 宣 告 の 効 力 を 限 定 的 に 解 した 理 由 は、 失 踪 宣 告 は 死 亡 と 類 似 の 人 格の 存 否 に 関 する 制 度 であるため、 原 則 として 属 人 法 に 服 すべき 問 題 であるとされ、 失11121314折 茂 ・ 前 掲 書 15 頁 。小 出 ・ 前 掲 書 65 頁 。小 出 ・ 前 掲 書 65 頁 。小 出 ・ 前 掲 書 66 頁 、 神 前 禎 『 解 説 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 —— 新 しい 国 際 私 法 』( 弘 文 堂 ・2006 年 )46 頁 、 中 西 ・ 前 掲 論 文 132 頁 。6320


踪 宣 告 に 対 する 原 則 的 管 轄 も 本 国 のみに 認 められることを 前 提 に、そのような 本 国 管轄 はできる 限 り 尊 重 される 必 要 があると 考 えられたためであると 解 されるが、 今 回 の改 正 で、 本 国 のみならず 常 居 所 地 国 にも 原 則 的 管 轄 を 認 めるのであれば、 法 例 と 前 提が 異 なるため、 管 轄 原 因 によって 失 踪 宣 告 の 効 力 の 及 ぶ 範 囲 を 別 異 に 考 える 合 理 的 な理 由 は 認 められないとする 反 対 意 見 があった 15 。しかしながら、 日 本 の 裁 判 所 が 例 外的 管 轄 に 基 づき 失 踪 宣 告 を 行 うときには、 外 国 の 裁 判 所 が 原 則 的 管 轄 に 基 づいて 失 踪宣 告 を 行 うことも 考 えられるため、 国 際 協 調 の 観 点 からは、 例 外 的 管 轄 に 基 づく 失 踪宣 告 の 効 力 が 及 ぶ 範 囲 を 管 轄 原 因 となる 財 産 または 法 律 関 係 に 限 定 することは 合 理 的であること 等 を 理 由 として、 失 踪 宣 告 の 効 力 の 及 ぶ 範 囲 を 限 定 することとされた 16 。・ 外 国 失 踪 宣 告 の 承 認外 国 でされた 失 踪 宣 告 (これに 類 する 死 亡 宣 告 や 不 在 宣 告 を 含 む)がわが 国 で 承 認されるか 否 かについては、 国 際 裁 判 管 轄 と 異 なり、 通 則 法 中 に 規 定 は 設 けられていない。この 点 については、 引 続 き 解 釈 に 委 ねられている。 失 踪 宣 告 は 非 訟 裁 判 である。したがって、ここでは、 外 国 非 訟 裁 判 の 承 認 が 問 題 となる。 外 国 非 訟 裁 判 については、訴 訟 事 件 に 関 する 外 国 裁 判 所 の 確 定 した 判 決 のような 明 文 の 承 認 規 定 ( 民 事 訴 訟 法118 条 )は 存 在 しない。しかし、わが 国 において 承 認 の 対 象 となる 外 国 裁 判 に、 外 国裁 判 所 の 非 訟 事 件 の 裁 判 が 含 まれることに 異 論 はみられないとされる 17 。 外 国 非 訟 裁判 の 承 認 については、 民 事 訴 訟 法 118 条 は 適 用 されない。ただし、118 条 の 類 推 適 用が 問 題 となり、 同 条 の 要 件 のうち、 間 接 管 轄 に 関 する 1 号 要 件 と 公 序 に 関 する 3 号 要件 は、 条 理 上 、 審 査 すべきであるとの 見 解 が 主 張 されてきた 18 。それ 以 外 にも、わが国 の 国 際 私 法 の 定 める 失 踪 宣 告 に 関 する 準 拠 法 がその 外 国 失 踪 宣 告 において 適 用 されていることを 要 件 とする 見 解 (= 準 拠 法 要 件 必 要 説 )がかつては 通 説 であったが、 現在 ではそのような 要 件 は 不 要 であるとするのが 通 説 である 19 。15別 冊 NBL 編 集 部 編 『 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 関 係 資 料 と 解 説 』 別 冊 NBL110 号 ( 商事 法 務 ・2006 年 )132〜133 頁 参 照 。16小 出 ・ 前 掲 書 69〜70 頁 、 北 澤 安 紀 「 能 力 、 親 族 、 総 則 」ジュリスト 1292 号 (2005年 )55〜56 頁 等 を 参 照 。17高 桑 昭 「 外 国 裁 判 の 承 認 」 高 桑 昭 = 道 垣 内 正 人 編 『 新 ・ 裁 判 実 務 体 系 (3)—— 国 際 民 事 訴 訟 法 ( 財 産 法 関 係 )』( 青 林 書 院 ・2002 年 )307 頁 参 照 。18鈴 木 忠 一 「 外 国 の 非 訟 裁 判 の 承 認 ・ 取 消 ・ 変 更 」 法 曹 時 報 26 巻 9 号 (1974 年 )1499頁 以 下 、 櫻 田 嘉 章 『 国 際 私 法 〔 第 5 版 〕』( 有 斐 閣 ・2008 年 )147 頁 、 中 西 ・ 前 掲 論 文137 頁 等 を 参 照 。19 これらの 議 論 について 詳 しくは、 中 西 ・ 前 掲 論 文 137 頁 を 参 照 。7321


民 事 訴 訟 法 118 条 1 号 の 定 める 間 接 管 轄 の 要 件 については、 外 国 失 踪 宣 告 が 通 則 法6 条 1 項 に 対 応 する 場 合 、すなわち、 不 在 者 が 失 踪 宣 告 を 行 った 国 の 国 民 であるか、その 国 に 最 後 の 住 所 を 有 していた 場 合 には、 失 踪 宣 告 を 行 った 国 に 間 接 管 轄 が 認 められ、その 他 の 要 件 を 満 たすかぎり、 当 該 外 国 失 踪 宣 告 はわが 国 で 承 認 されることになる。そして、その 効 力 は、 当 該 外 国 に 所 在 する 財 産 などに 限 定 されることなく、 一 般的 なものとして 承 認 される。これに 対 し、 外 国 失 踪 宣 告 が 通 則 法 6 条 2 項 に 対 応 する場 合 、すなわち、 不 在 者 が 失 踪 宣 告 を 行 った 国 の 国 民 ではなく、その 国 に 最 後 の 住 所も 有 していないが、その 国 に 財 産 が 在 るか、その 国 と 関 係 のある 法 律 関 係 がある 場 合には、 失 踪 宣 告 を 行 った 国 に 間 接 管 轄 が 認 められ、その 他 の 要 件 を 満 たせば、 外 国 失踪 宣 告 はわが 国 で 承 認 されると 通 説 は 解 している 20 。ただし、その 効 力 は、 当 該 外 国に 所 在 する 財 産 などに 限 定 されたものとして 承 認 される。20 これらの 議 論 について 詳 しくは、 中 西 ・ 前 掲 論 文 137 頁 を 参 照 。8322


2. 婚 姻 の 成 立 及 び 効 力( 執 筆 担 当 : 九 州 大 学 西 谷 祐 子 )1. 総 説A. 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 し婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しの 訴 えは, 人 事 訴 訟 法 第 2 条 第 1 号 において 人 事 訴 訟 事 件 の 一 つに 挙げられている。 同 号 においては, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しの 訴 えと 並 んで, 離 婚 の 訴 え, 協 議 上 の離 婚 の 無 効 及 び 取 消 しの 訴 え 並 びに 婚 姻 関 係 の 存 否 確 認 の 訴 えが 挙 げられており, 従 前 の 人 事 訴訟 手 続 法 と 同 様 に, 婚 姻 事 件 として 同 列 に 扱 う 趣 旨 であると 解 される。 国 際 裁 判 管 轄 についても,昭 和 36 年 4 月 に 法 制 審 議 会 国 際 私 法 部 会 小 委 員 会 によって 公 表 された「 法 例 改 正 要 綱 試 案 ( 婚 姻の 部 )」は, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しに 関 する 国 際 裁 判 管 轄 については, 離 婚 に 準 ずるものとしていた 1 。 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しと 離 婚 は, 広 い 意 味 での 婚 姻 関 係 解 消 を 目 的 とする 点 で 共 通 しており,両 者 が 主 位 的 請 求 と 予 備 的 請 求 の 関 係 に 立 つことも 少 なくないため, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しについても, 原 則 として 離 婚 の 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 基 準 に 従 うことに 合 理 性 がある 2 。 後 述 するように,比 較 法 的 にみても, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しを 離 婚 と 同 様 に 扱 うのが 一 般 的 である 3 。もっとも, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しは, 婚 姻 の 成 立 要 件 に 関 わる 問 題 であり, 一 旦 有 効 に 成 立した 婚 姻 の 解 消 に 関 する 離 婚 とは 利 益 状 況 が 異 なる 部 分 もある。 特 に 婚 姻 の 方 式 要 件 の 欠 缺 や 戸籍 訂 正 が 問 題 となる 場 合 には, 離 婚 に 関 する 管 轄 原 因 に 加 えて, 端 的 に 婚 姻 挙 行 地 の 管 轄 を 認 めることも 考 えられる。また, 婚 姻 無 効 確 認 又 は 婚 姻 取 消 しの 訴 えは, 当 事 者 である 夫 婦 間 で 提 起されるだけではなく, 利 害 関 係 をもつ 第 三 者 ( 相 続 権 者 など)が 提 起 することもあり 4 ,その 場 合にも 同 じ 管 轄 ルールが 妥 当 すべきか 否 かは, 別 途 検 討 が 必 要 となろう。2. 日 本 法 の 状 況(1) 総 説婚 姻 の 無 効 又 は 取 消 しに 関 する 国 際 裁 判 管 轄 については, 従 来 の 裁 判 例 は, 基 本 的 に 離 婚 に関 する 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 基 準 によっている 5 。 離 婚 の 国 際 裁 判 管 轄 についても 明 文 規 定 はなく,12溜 池 良 夫 「 渉 外 人 事 訴 訟 および 家 事 審 判 の 諸 問 題 」『 実 務 民 事 訴 訟 講 座 6』( 日 本 評 論 社 ,1971 年 )123 頁 。本 間 靖 規 ・ 中 野 俊 一 郎 ・ 酒 井 一 『 国 際 民 事 手 続 法 』( 有 斐 閣 ,2005 年 )80 頁 , 溜 池 ・ 前 掲 論 文 124 頁 , 三井 哲 夫 「 国 際 人 事 ・ 家 事 事 件 の 裁 判 管 轄 」『 国 際 私 法 の 争 点 〔 新 版 〕』( 有 斐 閣 ,1996 年 )229 頁 , 山 田 鐐 一「 人 事 訴 訟 事 件 の 裁 判 管 轄 権 」『 国 際 私 法 の 争 点 』( 有 斐 閣 ,1980 年 )147 頁 。3後 述 A-3 参 照 。4 たとえば, 名 古 屋 高 判 平 成 2 年 2 月 27 日 家 月 42 巻 12 号 31 頁 参 照 。5東 京 高 判 平 成 18 年 4 月 13 日 判 時 1934 号 42 頁 , 福 岡 地 判 平 成 8 年 3 月 12 日 判 タ 940 号 250 頁 , 大 阪 地 判昭 和 59 年 12 月 24 日 家 月 37 巻 10 号 104 頁 ほか。ただし, 名 古 屋 地 判 平 成 7 年 2 月 17 日 判 時 1562 号 98 頁1323


判 例 法 理 が 基 準 とされてきた。 先 例 である 最 大 判 昭 和 39 年 3 月 25 日 ( 民 集 18 巻 3 号 486 頁 )は,朝 鮮 人 ( 韓 国 人 ) 夫 婦 の 離 婚 について, 原 則 として 被 告 の 住 所 地 に, 例 外 的 に「 原 告 が 遺 棄 された 場 合 又 は 被 告 が 行 方 不 明 である 場 合 その 他 これに 準 ずる 場 合 」には, 原 告 の 住 所 地 に 国 際 裁 判管 轄 が 認 められるとした。それに 加 えて, 学 説 においては 国 籍 に 基 づく 本 国 管 轄 を 認 めるべきか否 か, 認 めるとすればどの 範 囲 かについて 見 解 が 分 かれており, 判 例 の 立 場 も 確 立 していない 6 。最 判 平 成 8 年 6 月 24 日 ( 民 集 50 巻 7 号 1451 頁 ), 日 本 在 住 の 日 本 人 夫 からドイツ 在 住 のドイツ 人妻 に 対 して 離 婚 訴 訟 等 を 提 起 した 事 件 であるが, 先 に 下 されたドイツ 離 婚 判 決 が 公 示 送 達 によって 開 始 されており,わが 国 において 承 認 されえなかったこと 等 に 鑑 みて,わが 国 の 管 轄 を 肯 定 したものである。 本 判 決 の 理 解 は 分 かれており, 緊 急 管 轄 を 認 めたとする 説 が 比 較 的 多 いが 7 ,マレ8ーシア 航 空 事 件 以 来 の 条 理 の 枠 組 みで 判 断 し, 昭 和 39 年 ルールとは 異 なる 管 轄 原 因 を 認 めたとする 見 解 や 9 , 実 質 的 には 昭 和 39 年 ルールにいう 原 告 住 所 地 の 管 轄 を 認 めるべき「その 他 これに準 ずる 場 合 」に 該 当 するという 見 解 10 もある。(2) 被 告 の 住 所 地婚 姻 の 無 効 又 は 取 消 しに 関 する 従 来 の 裁 判 例 においては, 原 告 と 被 告 の 双 方 が 日 本 に 住 所 を有 しているケース( 最 判 平 成 8 年 3 月 8 日 家 月 48 巻 10 号 145 頁 ; 京 都 家 審 昭 和 50 年 10 月 17 日 家 月 28巻 9 号 87 頁 , 神 戸 地 判 平 成 9 年 1 月 29 日 判 時 1638 号 122 頁 , 熊 本 家 判 平 成 22 年 7 月 6 日 TKC 25464099など) 11 ,あるいは 少 なくとも 被 告 が 日 本 に 住 所 を 有 しているケース( 東 京 高 判 平 成 18 年 4 月 13 日は, 民 事 訴 訟 法 第 1 条 に 定 める 被 告 の 普 通 裁 判 籍 を 根 拠 として, 婚 姻 無 効 確 認 訴 訟 についても, 原 則 として被 告 の 住 所 地 にのみ 管 轄 を 認 めるとしている。6溜 池 良 夫 『 国 際 私 法 講 義 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ,2006 年 )472 頁 以 下 , 同 ・ 前 掲 論 文 124 頁 以 下 , 小 野 寺 規夫 「 渉 外 離 婚 事 件 の 裁 判 管 轄 権 及 び 調 停 離 婚 の 可 否 」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5・ 渉 外 関 係 事 件 』( 日 本 評 論社 ,1990 年 )165 頁 以 下 ほか。また, 個 別 事 項 に 関 する 調 査 ( 離 婚 ) 参 照 。7多 喜 寛 ・ 平 成 18 年 度 重 判 268 頁 以 下 , 道 垣 内 正 人 ・ジュリ 1120 号 (1997 年 )133 頁 , 本 間 ほか・ 前 掲 書79 頁 , 渡 辺 惺 之 ・ 法 学 教 室 195 号 (1996 年 )106 頁 以 下 ほか。8最 判 昭 和 56 年 10 月 16 日 民 集 37 巻 5 号 1224 頁 。9櫻 田 嘉 章 『 国 際 私 法 判 例 百 選 〔 新 法 対 応 補 訂 版 〕』( 有 斐 閣 ,2007 年 )185 頁 , 横 溝 大 ・ 法 協 115 巻 5 号 689頁 。10山 田 鐐 一 『 国 際 私 法 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ,2004 年 )463 頁 。11最 判 平 成 8 年 3 月 8 日 家 月 48 巻 10 号 145 頁 ( 日 本 在 住 の 韓 国 人 夫 婦 の 夫 が 前 婚 の 妻 に 対 して, 届 出 意 思の 不 存 在 を 理 由 に 婚 姻 無 効 確 認 を 求 めた 事 件 ), 熊 本 家 判 平 成 22 年 7 月 6 日 (TKC 25464099: 日 本 人 夫 からフィリピン 妻 に 対 して, 妻 が 婚 姻 当 時 に 重 婚 であったことを 理 由 に 婚 姻 無 効 確 認 を 求 めた 事 件 ), 神 戸 地 判平 成 9 年 1 月 29 日 判 時 1638 号 122 頁 ( 日 本 人 妻 から 英 国 ・カナダ 二 重 国 籍 の 夫 に 対 して, 主 位 的 に 重 婚 を理 由 とする 後 婚 の 取 消 し, 予 備 的 に 離 婚 を 請 求 した 事 件 ), 京 都 家 審 昭 和 50 年 10 月 17 日 家 月 28 巻 9 号 87頁 ( 日 本 人 妻 と 米 国 人 夫 が 確 定 的 な 米 国 での 挙 式 を 取 り 止 めた 事 情 があり, 日 本 での 婚 姻 届 出 時 に 確 定 的 意思 を 欠 いていたことを 理 由 に 婚 姻 無 効 確 認 が 認 められた 事 件 )。おそらく 横 浜 地 判 昭 和 57 年 10 月 19 日 家 月36 巻 2 号 101 頁 も 同 様 ( 米 国 人 夫 が 日 本 人 妻 に 対 してハイチ 共 和 国 で 離 婚 訴 訟 を 提 起 し 判 決 が 下 されたところ, 妻 が 日 本 において 外 国 判 決 の 無 効 確 認 及 び 夫 の 後 婚 取 消 訴 訟 を 提 起 し, 請 求 が 認 容 された 事 件 ( 後 婚 はニューヨーク 州 法 に 従 い 無 効 とされる))。2324


判 時 1934 号 42 頁 ) 12 が 多 い。これらの 事 件 においては, 問 題 なく 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 されている。このように 被 告 の 住 所 が 日 本 にある 場 合 にわが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めることは, 受 動的 立 場 にある 被 告 の 防 禦 権 の 保 障 に 資 するもので, 管 轄 ルールとして 広 く 認 められており, 婚 姻の 無 効 及 び 取 消 しについてもそれを 認 めることにほぼ 異 論 はないものと 解 される。(3) それ 以 外 の 管 轄 原 因(a) 原 告 の 住 所 地それに 対 して, 被 告 の 住 所 が 外 国 にあるが, 原 告 の 住 所 が 日 本 にあることを 理 由 にわが 国 の国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 したと 解 される 裁 判 例 として, 次 のものがある。大 阪 地 判 昭 和 59 年 12 月 24 日 ( 家 月 37 巻 10 号 104 頁 )は, 日 本 在 住 の 日 本 人 原 告 から 韓 国人 被 告 に 対 して, 偽 装 婚 姻 として 婚 姻 意 思 を 欠 いていたことを 理 由 に 婚 姻 無 効 確 認 の 訴 えを 提 起した 事 案 であり, 被 告 が 韓 国 への 送 還 後 , 行 方 不 明 となっていることを 理 由 に, 例 外 的 に 原 告 の住 所 地 である 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるとした 13 。 佐 賀 地 判 平 成 13 年 11 月 27 日 (TKC 28071640)は, 日 本 在 住 の 日 本 人 夫 が 斡 旋 によって 中 国 在 住 の 中 国 人 妻 と 中 国 法 上 の 方 式 によって 婚 姻 をし,日 本 の 戸 籍 窓 口 に 報 告 的 届 出 をしたが, 婚 姻 生 活 の 実 体 が 全 くないまま 妻 が 来 日 を 拒 否 し 行 方 が知 れなくなっているため, 日 本 において 婚 姻 無 効 確 認 訴 訟 を 提 起 したものである。ただし, 判 決は, 国 際 裁 判 管 轄 に 言 及 することなく 本 案 について 判 断 し, 請 求 を 認 容 している。他 方 , 名 古 屋 地 判 平 成 7 年 2 月 17 日 ( 判 時 1562 号 98 頁 )は, 日 本 在 住 の 日 本 人 原 告 が 統 一教 会 の 指 示 に 従 い, 韓 国 在 住 の 韓 国 人 被 告 と 韓 国 で 集 団 挙 式 し, 日 本 の 戸 籍 窓 口 に 婚 姻 届 を 提 出していたところ, 没 交 渉 のまま 数 年 経 過 しており, 婚 姻 意 思 の 不 存 在 を 理 由 に 婚 姻 無 効 確 認 訴 訟を 提 起 した 事 件 である。 本 判 決 は, 原 則 として 専 ら 被 告 の 住 所 地 に 管 轄 があるとしたうえで, 本件 被 告 は 韓 国 在 住 の 韓 国 人 であるところ, 韓 国 法 上 は 婚 姻 の 申 告 がなされておらず 跛 行 婚 状 態 にあり, 原 告 は 韓 国 において 婚 姻 無 効 確 認 を 求 める 手 段 がないと 解 されること, 日 本 に 住 所 をもつ日 本 人 で 日 本 法 上 婚 姻 無 効 確 認 の 請 求 権 をもつ 者 の 身 分 関 係 に 十 分 な 保 護 を 与 え, 跛 行 婚 状 態 を解 消 すべきことを 理 由 に, 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 した。また, 福 岡 地 判 平 成 8 年 3 月 12 日 ( 判タ 940 号 250 頁 )も,ほぼ 同 様 の 事 実 関 係 のもとで, 婚 姻 意 思 の 不 存 在 を 理 由 に 婚 姻 無 効 確 認 訴 訟12東 京 高 判 平 成 18 年 4 月 13 日 判 時 1934 号 42 頁 ( 後 述 参 照 : 本 件 本 訴 としての 婚 姻 取 消 訴 訟 については,被 告 が 日 本 人 で 日 本 に 居 住 していた)。13東 京 地 判 平 成 3 年 3 月 29 日 家 月 45 巻 3 号 67 頁 は, 日 本 在 住 の 日 本 人 妻 からエジプト 在 住 のエジプト 人夫 に 対 して, 主 位 的 に 婚 姻 無 効 確 認 を, 予 備 的 に 離 婚 を 請 求 した 事 件 である。 本 判 決 は, 被 告 の 住 所 地 が 外国 であるにもかかわらず, 国 際 裁 判 管 轄 には 触 れないまま 本 案 について 判 断 しており, 結 論 的 に 原 告 の 住 所地 かつ 本 国 である 日 本 の 管 轄 を 認 めている。 主 位 的 請 求 については, 夫 の 本 国 法 であるエジプト 法 によれば異 教 徒 であることを 理 由 に 婚 姻 が 無 効 となるが,その 適 用 はわが 国 の 公 序 に 反 するとして 請 求 が 棄 却 されたが, 予 備 的 請 求 である 離 婚 については, 平 成 元 年 改 正 後 の 法 例 第 16 条 但 書 に 従 い, 日 本 法 によって 認 容 された。3325


が 提 起 された 事 件 である。 本 判 決 は, 被 告 はまだ 韓 国 において 婚 姻 届 を 提 出 していないこと, 両者 が 同 居 した 事 実 は 全 くないこと, 被 告 は 本 件 訴 状 の 送 達 後 も 全 く 応 答 していないことが 認 められることから, 原 告 に 被 告 の 住 所 地 である 韓 国 での 訴 訟 追 行 を 求 めることは 条 理 にもとるとして,例 外 的 にわが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるとした。なお,これらの 事 案 は,いずれも 原 告 が 日 本 に 居 住 するだけではなく 日 本 国 籍 をもつ 者 であり, 条 理 の 内 容 を 具 体 的 に 判 断 し 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 するに 当 たって, 原 告 の 国 籍 も 考 慮している 例 がある( 特 に 前 掲 ・ 名 古 屋 地 判 平 成 7 年 2 月 17 日 ほか)。もっとも,これらの 事 案 も,あくまで 原 告 の 住 所 地 管 轄 を 肯 定 する 事 情 として 日 本 国 籍 を 考 慮 しているもので, 端 的 に 本 国 管 轄を 認 めるものではない。(b) 婚 姻 挙 行 地東 京 高 判 平 成 2 年 2 月 27 日 ( 家 月 42 巻 12 号 31 頁 )は, 日 本 に 居 住 していた 韓 国 人 夫 婦 ABについて, 昭 和 57 年 に 夫 A が 死 亡 した 後 , 妻 B と 両 者 の 子 X( 同 じく 韓 国 国 籍 )の 間 で 相 続 権 をめぐって 争 いとなり, 昭 和 60 年 に B が 死 亡 した 後 ,X が 検 察 官 を 相 手 方 として(A の 遺 言 執 行 者が 補 助 参 加 人 ),AB の 婚 姻 無 効 確 認 の 訴 えを 提 起 したという 事 件 である。AB は, 日 本 でも 韓 国 でも 婚 姻 届 を 出 しておらず,A 死 亡 後 の 昭 和 58 年 ,A の 相 続 をめぐって 争 いが 生 じたため,B は 偽造 した 日 本 の 婚 姻 届 受 理 証 明 書 をもって 韓 国 で 婚 姻 有 効 確 認 審 判 を 取 得 し, 韓 国 の 戸 籍 に 婚 姻 を届 け 出 たものである。ただし,X は, 後 に 韓 国 で AB の 婚 姻 無 効 確 認 審 判 を 得 ている。 本 判 決 は,AB 死 亡 後 であっても, 両 者 の 婚 姻 の 有 効 性 は X の 相 続 分 に 影 響 し,X の 身 分 関 係 の 安 定 性 にもかかわること,AB の 婚 姻 の 事 実 が 日 本 戸 籍 に 記 載 されていなくても 確 認 の 利 益 が 認 められるとし, 訴 えは 適 法 であるとした。そして, 法 例 13 条 ( 平 成 元 年 改 正 前 )によれば, 婚 姻 の 方 式 は 挙行 地 法 である 日 本 法 であったところ, 本 件 においては 日 本 法 上 の 方 式 要 件 が 満 たされておらず,AB の 婚 姻 は 無 効 であったとした。本 判 決 も 原 審 14 も, 国 際 裁 判 管 轄 には 言 及 しないまま, 本 案 について 判 断 している。X の 住所 地 は,おそらく 日 本 であると 解 され, 原 告 及 び 被 告 の 住 所 地 はいずれも 日 本 であり,また ABのかつての 婚 姻 住 所 地 も 日 本 であった。しかし, 本 判 決 は, 外 国 人 同 士 の 婚 姻 であって 日 本 戸 籍への 記 載 がなく,しかも AB 死 亡 後 であったが,X の 婚 姻 無 効 確 認 の 訴 えの 利 益 を 認 めたものである。 日 本 が 婚 姻 挙 行 地 であり, 偽 造 された 日 本 の 婚 姻 届 受 理 証 明 書 が 存 在 する 本 件 の 事 案 においては, 端 的 に 婚 姻 挙 行 地 としての 管 轄 を 認 める 趣 旨 を 含 むと 解 することもできるであろう。14名 古 屋 地 判 平 成 元 年 3 月 24 日 家 月 42 巻 12 号 37 頁 。4326


(c) 反 訴反 訴 被 告 が 外 国 に 住 所 をもつが, 反 訴 が 本 訴 と 密 接 な 関 係 をもつことを 理 由 に 国 際 裁 判 管 轄を 肯 定 した 例 として, 東 京 高 判 平 成 18 年 4 月 13 日 ( 判 時 1934 号 42 頁 ) 15 がある。 本 件 においては, 韓 国 人 夫 の 死 亡 後 , 韓 国 在 住 の 韓 国 人 である 妻 子 が, 日 本 在 住 の 日 本 人 後 妻 に 対 して 重 婚 を理 由 とする 後 婚 取 消 請 求 訴 訟 を 提 起 したところ, 後 婚 の 妻 が 前 婚 無 効 確 認 請 求 等 の 反 訴 を 提 起 したものであり, 反 訴 について 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるか 否 かが 争 いとなった。 原 審 が 反訴 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 否 定 したのに 対 して, 控 訴 審 は, 前 掲 ・ 最 判 平 成 8 年 6 月 24 日 が 示 した 条 理 に 基 づく 判 断 枠 組 みを 援 用 したうえで, 反 訴 請 求 が 本 訴 と 密 接 な 関 係 を 有 するかぎり, 反訴 被 告 が 応 訴 を 余 儀 なくされることによる 不 利 益 があるとは 認 められないこと, 本 訴 と 反 訴 とを併 合 審 理 することにより 審 理 の 重 複 や 判 断 の 矛 盾 を 避 け 身 分 関 係 に 関 する 紛 争 の 画 一 的 ・ 一 回 的解 決 を 図 ることができる 場 合 には, 例 外 的 にわが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 するのが 条 理 にかなうとした。そして, 本 件 反 訴 で 確 定 されるべき 前 婚 の 効 力 は, 本 訴 に 関 する 原 告 適 格 及 び 重 婚 該 当性 を 判 断 するための 不 可 欠 な 前 提 問 題 であって, 本 件 本 訴 の 訴 訟 要 件 及 び 請 求 と 密 接 な 関 係 を 有することを 理 由 に, 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 した。本 件 の 判 断 枠 組 みとの 関 係 では, 反 訴 として 提 起 された 離 婚 訴 訟 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 名古 屋 高 判 平 成 7 年 5 月 30 日 ( 判 タ 891 号 248 頁 ) 16 も 参 考 になる。 本 件 は, 日 本 人 妻 X( 反 訴 原 告 )が 日 本 においてカナダ 人 夫 Y( 反 訴 被 告 )との 協 議 離 婚 届 を 提 出 したところ,Y が 離 婚 無 効 確 認 の訴 えを 提 起 したのに 対 して,X が 予 備 的 反 訴 として 離 婚 を 求 めた 事 件 である。 原 審 が 反 訴 について 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 を 否 定 したのに 対 して, 控 訴 審 は,Y が 本 件 反 訴 提 起 当 時 から 常 住 居 所 が明 らかでない 状 態 にあること,Y は 現 に X を 相 手 方 として 日 本 の 裁 判 所 に 離 婚 無 効 確 認 の 訴 えを提 起 しており,それが 原 裁 判 所 に 係 属 中 であることから, 本 件 反 訴 については, 訴 訟 当 事 者 間 の公 平 という 基 本 理 念 に 照 らして 例 外 的 に 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 すべき 事 情 があるとした。3. 比 較 法(1) 離 婚 及 び 別 居 の 承 認 に 関 するハーグ 条 約1970 年 6 月 1 日 の「 離 婚 及 び 別 居 の 承 認 に 関 するハーグ 条 約 」は, 外 国 で 下 された 離 婚 裁 判及 び 別 居 裁 判 等 の 承 認 に 関 するものである(タラーク 離 婚 のような 法 律 行 為 による 離 婚 も 対 象 となる)。同 条 約 は, 離 婚 及 び 別 居 事 件 の 直 接 管 轄 について 定 めるものではないが, 間 接 管 轄 について 明 文規 定 を 置 いているため, 参 考 になる。 同 条 約 第 2 条 によれば, 次 のいずれかの 場 合 に, 判 決 国 の間 接 管 轄 が 肯 定 される。「1. 相 手 方 が, 判 決 国 に 常 居 所 を 有 したとき。」1516本 件 評 釈 として, 中 野 俊 一 郎 ・ 判 時 1950 号 192 頁 ほか。本 件 評 釈 として, 田 村 精 一 ・ 平 成 7 年 度 重 判 264 頁 , 中 西 康 ・ジュリ 1142 号 (1998 年 )116 頁 以 下 ほか。5327


「2. 申 立 人 が, 判 決 国 にその 常 居 所 を 有 し,かつ, 次 のいずれかの 要 件 をみたしたとき。a) その 常 居 所 が 申 立 の 日 に 至 るまで 少 なくとも 一 年 間 継 続 していたこと。b) 夫 婦 が, 判 決 国 に 最 後 の 共 通 常 居 所 を 有 したこと。」「3. 夫 婦 の 双 方 が, 判 決 国 の 国 民 であつたとき。」「4. 申 立 人 が 判 決 国 の 国 民 で,かつ, 次 のいずれかの 要 件 をみたしたとき。a) 申 立 人 が, 判 決 国 に 常 居 所 を 有 したこと。b) 申 立 人 が, 申 立 の 日 に 先 立 つ 二 年 間 に 少 なくともその 一 部 が 含 まれている 一 年 間 継続 して 判 決 国 に 常 居 所 を 有 したとき。」「5. 離 婚 の 申 立 人 が 判 決 国 の 国 民 であり,かつ, 次 の 二 つの 要 件 がみたされたとき。a) 申 立 人 が, 申 立 の 日 に, 判 決 国 に 現 在 したこと。b) 夫 婦 が, 申 立 の 日 に,その 国 の 法 律 が 離 婚 を 認 めて 居 ない 国 に, 最 後 の 共 通 常 居 所を 有 したこと。」(2) ブリュッセル IIbis 規 則17ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 以 下 は, 婚 姻 事 件 としての 離 婚 , 別 居 ,そして 婚 姻 の 無 効 ( 同規 則 1 条 1 項 a 号 が 定 める 事 項 的 適 用 範 囲 に 相 当 する)を 区 別 することなく, 婚 姻 事 件 全 体 に 妥 当 する一 般 的 な 管 轄 規 定 を 置 いている。ただし,ブリュッセル IIbis 規 則 は, 婚 姻 の 存 否 確 認 に 関 する 訴えを 対 象 としておらず, 身 分 関 係 を 変 更 する 訴 えだけを 対 象 としている 18 。ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 によれば, 婚 姻 事 件 について, 以 下 の 場 合 に 当 該 構 成 国 の 国 際裁 判 管 轄 が 認 められる。すなわち,1 夫 婦 双 方 が 構 成 国 の 一 つに 常 居 所 をもつ 場 合 (ブリュッセルIIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 第 1 款 ),2 夫 婦 双 方 が 構 成 国 の 一 つに 最 後 の 常 居 所 をもっており,しかも 配 偶 者 の 一 方 がまだその 国 に 居 住 している 場 合 ( 第 2 款 ),3 被 告 配 偶 者 が 構 成 国 の 一 つに 常 居所 をもつ 場 合 ( 第 3 款 ),4 夫 婦 双 方 による 共 同 申 立 ての 場 合 に,その 一 方 が 構 成 国 の 一 つに 常 居所 をもつ 場 合 ( 第 4 款 ),5 原 告 配 偶 者 が 構 成 国 の 一 つに 常 居 所 をもっており,しかもそこに 申 立て 直 前 の 1 年 以 上 前 から 居 住 している 場 合 ( 第 5 款 ),6 原 告 配 偶 者 が 国 籍 ( 連 合 王 国 及 びアイルランドについては 住 所 )をもつ 構 成 国 に 常 居 所 をもっており,しかもそこに 申 立 て 直 前 の 6 ヶ 月 以 上前 から 居 住 している 場 合 ( 第 6 款 ),7 夫 婦 双 方 がいずれかの 構 成 国 の 国 籍 ( 連 合 王 国 及 びアイルランドについては 住 所 )をもつ 場 合 ( 第 3 条 第 1 項 b 号 ),そして,8 法 定 別 居 の 離 婚 への 転 換 については, 当 該 構 成 国 の 国 内 法 上 管 轄 が 認 められる 場 合 ( 第 5 条 )である。ブリュッセル IIbis 規 則 は,事 案 がドイツ 以 外 の EU 構 成 国 と 結 び 付 きをもつことを 前 提 としていないため,ドイツに 居 住 す17 Council Regulation (EC) No 2201/2003 of 27 November 2003 concerning jurisdiction and the recognition andenforcement of judgments in matrimonial matters and the matters of parental responsibility, repealing Regulation (EC)No 1347/2000, O.J. L 338, p. 1.18 Burkhard Hess, Europäisches Zivilprozessrecht, Heidelberg et al. 2010, p. 391.6328


る 非 EU 国 民 同 士 の 離 婚 事 件 にも 適 用 される。ブリュッセル IIbis 規 則 は, 通 常 の 婚 姻 事 件 について 7 つの 管 轄 原 因 を 定 めており, 優 先 順 位 はなくすべて 並 立 の 管 轄 原 因 となっていることから,原 告 による 法 廷 地 漁 りを 許 すものであると 批 判 されている 19 。(3) EU 構 成 国 国 内 法ブリュッセル IIbis 規 則 が 適 用 されない 場 合 には, 構 成 国 の 国 内 法 上 の 管 轄 原 因 が 妥 当 する 20 。ドイツ 国 内 法 上 は FamFG 第 98 条 第 1 項 が 適 用 されるが, 同 条 が 対 象 とする 婚 姻 事 件 とは,原 則 として FamFG 第 121 条 の 定 義 に 従 い, 離 婚 に 関 する 手 続 (FamFG 第 121 条 第 1 号 ), 婚 姻 取 消しに 関 する 手 続 ( 同 第 2 号 ),そして 当 事 者 間 の 婚 姻 の 存 在 又 は 不 存 在 を 確 認 する 手 続 ( 同 第 3 号 )を 指 す。それゆえ, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しと 離 婚 のいずれについても, 同 じ 管 轄 ルールが 妥 当 する。それによれば,1 一 方 配 偶 者 が 現 在 又 は 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 国 籍 をもつこと(FamFG 第 98 条第 1 項 第 1 号 ),2 夫 婦 双 方 がドイツに 常 居 所 をもつこと( 同 第 2 号 ),3 一 方 配 偶 者 が 無 国 籍 者 でドイツ 国 内 に 常 居 所 をもつこと( 同 第 3 号 ),あるいは4 一 方 配 偶 者 がドイツ 国 内 に 常 居 所 をもつこと( 同 第 4 号 :ただし,ドイツで 下 す 裁 判 が 夫 婦 いずれの 本 国 法 によっても 承 認 されえない 場 合 を 除 く)が 管 轄 原 因 となる 21 。フランス 国 内 法 上 も, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しの 管 轄 は 離 婚 と 同 じ 準 則 に 従 う。それによれば,第 一 義 的 には 土 地 管 轄 に 関 する 新 民 事 訴 訟 法 第 1070 条 によって, 婚 姻 住 所 地 ( 又 は 被 告 の 住 所 地 :現 実 にはブリュッセル IIbis 規 則 によることになろう)に 管 轄 が 認 められ 22 , 補 充 的 に 民 法 第 14 条 及 び第 15 条 によって, 原 告 又 は 被 告 のフランス 国 籍 に 基 づいて 本 国 管 轄 が 認 められる 23 。オーストリア 国 内 法 上 も, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しの 管 轄 原 因 は, 離 婚 と 同 じく 裁 判 管 轄 法 (JN)第 76 条 第 2 項 に 従 って 決 定 される。それによれば,1 一 方 配 偶 者 がオーストリア 国 籍 をもっていること( 第 1 号 ),2 被 告 ( 当 事 者 双 方 を 相 手 方 とする 無 効 の 訴 えでは 少 なくとも 一 方 配 偶 者 )がオース19 Hess, op.cit., p. 396.20 ブリュッセル IIbis 規 則 の 場 所 的 適 用 範 囲 については,ドイツに 関 する 調 査 報 告 7 頁 以 下 及 び 22 頁 以 下 ほか 参 照 。21 ドイツに 関 する 調 査 報 告 参 照 。22 Article 1070 Nouveau code de procédure civile: „Le juge aux affaires familiales territorialement compétent est :- le juge du lieu où se trouve la résidence de la famille ;- si les parents vivent séparément, le juge du lieu de résidence du parent avec lequel résident habituellement les enfantsmineurs en cas d'exercice en commun de l'autorité parentale, ou du lieu de résidence du parent qui exerce seul cetteautorité ;- dans les autres cas, le juge du lieu où réside celui qui n'a pas pris l'initiative de la procédure.En cas de demande conjointe, le juge compétent est, selon le choix des parties, celui du lieu où réside l'une ou l'autre.Toutefois, lorsque le litige porte seulement sur la pension alimentaire, la contribution à l'entretien et l'éducation del'enfant, la contribution aux charges du mariage ou la prestation compensatoire, le juge compétent peut être celui du lieuoù réside l'époux créancier ou le parent qui assume à titre principal la charge des enfants, même majeurs. La compétenceterritoriale est déterminée par la résidence au jour de la demande ou, en matière de divorce, au jour où la requête initialeest présentée.”23 フランスに 関 する 調 査 報 告 参 照 。7329


トリアに 常 居 所 をもっていること( 第 2 号 ),3 原 告 がオーストリアに 常 居 所 をもつ 場 合 であって,しかも 当 事 者 双 方 の 最 後 の 共 通 常 居 所 がオーストリアにあること, 原 告 が 無 国 籍 者 であること,あるいは 婚 姻 挙 行 時 にオーストリア 国 籍 をもっていたこと( 第 3 号 )が 管 轄 原 因 となる 24 。(4) その 他スイスにおいても, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しに 関 する 国 際 裁 判 管 轄 は, 離 婚 に 関 するスイス 国際 私 法 59 条 以 下 の 規 定 によるという。 具 体 的 には,1 被 告 の 住 所 地 (IPRG 第 59 条 a 号 ),2 原 告がスイスに 一 年 以 上 居 住 している 又 はスイス 国 籍 である 場 合 には, 原 告 の 住 所 地 ( 同 b 号 )が 管轄 原 因 となる。また,3 夫 婦 いずれもスイスに 住 所 を 有 しないが, 一 方 配 偶 者 がスイス 国 籍 であり,しかも 一 方 配 偶 者 の 住 所 地 での 提 訴 が 不 可 能 である 又 は 期 待 できない 場 合 には, 本 国 管 轄 が認 められる(IPRG 第 60 条 ) 25 。中 国 についても, 婚 姻 の 無 効 ・ 取 消 しに 関 する 特 則 はなく, 被 告 の 住 所 地 の 管 轄 と, 身 分 関係 訴 訟 に 関 する 原 告 の 住 所 地 の 管 轄 の 規 定 が 適 用 されるという。ただし, 婚 姻 の 無 効 ・ 取 消 しについて, 離 婚 事 件 に 関 する 本 国 管 轄 の 規 定 を 類 推 適 用 することも 考 えられるが,この 点 に 関 する学 説 と 裁 判 例 は 見 当 たらないようである 26 。韓 国 も, 婚 姻 の 無 効 ・ 取 消 しについても 離 婚 と 同 じ 管 轄 原 因 によっているとされる。 具 体 的には, 外 国 人 間 の 争 いについては, 原 則 として 被 告 の 住 所 地 管 轄 が 妥 当 するが, 原 告 が 遺 棄 された 又 は 被 告 が 行 方 不 明 であるその 他 これに 準 ずる 事 情 がある 場 合 ,あるいは 被 告 が 応 訴 してその利 益 が 不 当 に 侵 害 されるおそれがない 場 合 には, 原 告 の 住 所 地 管 轄 が 認 められる。それに 加 えて,当 事 者 双 方 が 韓 国 国 籍 である 場 合 ,あるいは 原 告 だけが 韓 国 国 籍 であって,しかも 韓 国 に 常 居 所を 有 している 場 合 又 は 当 事 者 双 方 の 最 後 の 住 所 地 が 韓 国 にあった 場 合 にも, 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。 特 に 本 国 管 轄 については, 韓 国 人 の 戸 籍 訂 正 の 必 要 性 に 配 慮 して, 柔 軟 に 管 轄 が 認 められる 傾 向 にあるという 27 。それに 対 して, 米 国 では, 婚 姻 無 効 の 訴 えについて 通 常 当 事 者 のドミサイルもしくは 婚 姻 挙行 地 に 管 轄 が 認 められるという。 当 事 者 のドミサイルについては, 離 婚 の 管 轄 原 因 と 共 通 するが,婚 姻 挙 行 地 は, 離 婚 とは 異 なる 婚 姻 無 効 に 固 有 の 管 轄 原 因 であると 解 されているようである 28 。24 オーストリアに 関 する 調 査 報 告 参 照 。25 スイスに 関 する 調 査 報 告 参 照 。26中 国 に 関 する 調 査 報 告 参 照 。27韓 国 に 関 する 調 査 報 告 参 照 。28米 国 に 関 する 調 査 報 告 参 照 。8330


4. 考 察(1) 総 説わが 国 の 裁 判 例 及 び 学 説 は, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しについて, 離 婚 の 場 合 と 同 じく 当 事 者 の住 所 を 基 準 とするのが 一 般 的 である。さらに, 離 婚 について 本 国 管 轄 を 認 める 学 説 に 従 えば, 婚姻 の 無 効 及 び 取 消 しについても 一 定 範 囲 で 本 国 管 轄 が 認 められるべきことになろう。法 律 概 念 としての 住 所 概 念 は, 各 国 実 質 法 上 異 なるが,ここにいう 住 所 とはあくまで 国 際 裁判 管 轄 を 決 定 する 基 準 としての 国 際 民 事 手 続 法 上 の 住 所 であって, 当 事 者 の 訴 訟 上 の 便 宜 に 鑑 みて 決 定 される。それゆえ, 厳 格 な 取 得 要 件 を 課 す 必 要 はなく, 当 事 者 が 一 定 期 間 居 住 することで密 接 な 関 係 をもつ 地 であれば 足 りるものと 解 される 29 。ブリュッセル IIbis 規 則 においては, 各 構成 国 の 国 内 法 上 の 概 念 との 混 同 を 避 け,1980 年 子 奪 取 条 約 等 のハーグ 条 約 などとの 平 仄 を 図 るため, 常 居 所 30 を 管 轄 原 因 としており,ドイツやオーストリアの 国 内 立 法 も 常 居 所 を 管 轄 原 因 としている。もっとも, 少 なくとも 婚 姻 事 件 に 関 するかぎり, 常 居 所 概 念 は, 実 質 的 にはわが 国 の 国際 民 事 手 続 法 にいう 住 所 概 念 と 大 きく 相 違 するものではないと 解 される 31 。法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 〔 以 下 通 則 法 という〕の 制 定 時 には, 第 5 条 ( 後 見 開 始 の 審 判 等 ) 及 び第 6 条 ( 失 踪 宣 告 )の 管 轄 原 因 として 住 所 によるか 常 居 所 によるかが 議 論 されたが, 最 終 的 には国 際 民 事 手 続 法 の 一 般 的 な 概 念 と 平 仄 を 合 わせるため, 準 拠 法 の 決 定 基 準 とは 異 なって, 住 所 が管 轄 原 因 とされた 経 緯 がある 32 。 人 事 及 び 家 事 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 を 法 制 化 するに 当 たって, 住所 と 常 居 所 のいずれを 基 準 とすべきか( 仮 に 住 所 を 基 準 とする 場 合 には 財 産 関 係 事 件 における 住 所 概 念と 区 別 されるか)は, 今 後 の 議 論 にゆだねられるが, 以 下 では, 原 則 として 両 者 を 一 括 して「 住 所 」と 称 したうえで(ただし 立 法 例 の 紹 介 箇 所 では, 管 轄 原 因 が 常 居 所 であるときにはそれに 従 う), 論 点 を整 理 することにする。29溜 池 ・ 前 掲 論 文 126 頁 以 下 。なお,ブリュッセル I 規 則 における 住 所 概 念 は, 同 規 則 第 59 条 において 定義 されており,「 受 訴 裁 判 所 が 所 属 する 構 成 国 の 領 域 内 に 当 事 者 が 住 所 を 有 するかを 決 定 するためには, 裁判 所 はその 国 内 法 を 適 用 する。」とされている( 第 59 条 第 1 項 )。また,「 当 事 者 が, 受 訴 裁 判 所 が 所 属 する構 成 国 に 住 所 を 有 しないときに, 他 の 構 成 国 にその 当 事 者 が 住 所 を 有 するかを 決 定 するためには, 裁 判 所 は後 者 の 国 の 法 を 適 用 する。」とされている( 同 条 第 2 項 )。これは,いわゆる 領 土 法 説 の 立 場 から,その 者 が当 該 領 域 内 に 住 所 を 有 するか 否 かは, 当 該 国 の 国 内 法 が 決 定 するとするものであり, 従 前 の 法 例 第 29 条 の解 釈 論 としてとられていた 立 場 と 同 じである。それゆえ, 同 一 人 が 複 数 の 共 同 体 構 成 国 に 住 所 をもつ 場 合 ,あるいは 一 つの 共 同 体 構 成 国 とそれ 以 外 の 第 三 国 に 住 所 をもつ 場 合 ( 重 住 所 )もありうるほか, 無 住 所 となる 場 合 もありうる。Jan Kropholler, Europäisches Zivilprozeßrecht – Kommentar zu EuGVO und Lugano-Übereinkommen,7. Aufl., Heidelberg 2002, Art. 3 Rn. 2.30 ただし, 現 実 には, 各 国 において 常 居 所 概 念 が 異 なって 定 義 されており, 法 律 概 念 となりつつあるのが 現状 であるように 思 われる。31 ブリュッセル IIbis 規 則 における 常 居 所 概 念 については,ドイツに 関 する 調 査 報 告 29 頁 以 下 参 照 。ヨーロッパ 法 上 も, 住 所 概 念 と 常 居 所 概 念 は 基 本 的 に 一 致 することが 認 められている。Hess, op.cit., p. 398.32法 制 審 議 会 国 際 私 法 ( 現 代 化 関 係 ) 部 会 第 27 回 ( 平 成 17 年 7 月 5 日 ) 会 議 議 事 録 参 照 (www//moj.go.jpからダウンロード 可 )。9331


(2) 個 別 の 管 轄 原 因(a) 被 告 の 住 所 地わが 国 の 裁 判 例 においても, 上 述 のハーグ 離 婚 条 約 ,ブリュッセル IIbis 規 則 ,そして 各 国 の立 法 例 においても, 被 告 の 住 所 地 の 国 際 裁 判 管 轄 はほぼ 異 論 なく 認 められている。これは, 受 動的 立 場 にある 被 告 の 防 禦 権 の 保 護 に 資 するもので, 国 際 民 事 手 続 法 の 一 般 的 な 考 え 方 とも 整 合 的である 33 。わが 国 の 土 地 管 轄 についても, 人 事 訴 訟 法 第 4 条 第 1 項 によって, 被 告 である 夫 又 は妻 の 住 所 地 の 管 轄 が 認 められる。(b) 原 告 の 住 所 地それに 対 して, 原 告 の 住 所 地 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるか 否 かは 問 題 となる。 原 告 は, 自 ら 手続 を 開 始 する 者 であるため, 端 的 に 原 告 の 住 所 地 を 管 轄 原 因 とすると, 受 動 的 立 場 にある 被 告 の保 護 に 欠 けるおそれが 大 きい。そこで,わが 国 の 裁 判 例 においても, 比 較 法 的 にも, 端 的 に 原 告の 住 所 地 を 管 轄 原 因 とするのではなく, 何 らかの 要 件 を 加 重 するのが 一 般 的 である(ただし, 中 国の 例 を 除 く)。ただし,わが 国 の 土 地 管 轄 に 関 するかぎり, 人 事 訴 訟 法 第 4 条 第 1 項 によって, 端的 に 原 告 である 夫 又 は 妻 の 住 所 地 の 管 轄 が 認 められる。(aa) わが 国 の 裁 判 例 ・ 学 説わが 国 の 離 婚 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 昭 和 39 年 ルールによれば, 例 外 的 に 原 告 の 住 所 地 管轄 が 認 められるのは,「 原 告 が 遺 棄 された 場 合 又 は 被 告 が 行 方 不 明 である 場 合 その 他 これに 準 ずる場 合 」である。もっとも, 国 際 民 事 手 続 法 に 固 有 の「 遺 棄 」の 概 念 については, 被 告 が 国 外 に 去った 場 合 だけを 指 すのか,あるいは 国 外 で 遺 棄 された 原 告 が 日 本 に 来 住 した 場 合 も 指 すのかについては, 見 解 が 分 かれている。また,「その 他 これに 準 ずる 場 合 」とは, 具 体 的 には, 被 告 が 国 外に 追 放 された 場 合 , 外 国 法 上 は 夫 婦 ではなく 離 婚 できないため, 跛 行 婚 を 解 消 する 必 要 がある 場合 , 被 告 の 応 訴 がある 場 合 などを 指 すとされるが, 裁 判 例 も 分 かれており,その 外 延 は 確 定 していない 34 。上 述 のように, 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しに 関 する 裁 判 例 においても, 昭 和 39 年 ルールに 従 い,例 外 的 に 原 告 の 住 所 地 管 轄 を 認 める 理 由 として, 被 告 が 行 方 不 明 であることを 挙 げているものがある( 前 掲 ・ 大 阪 地 判 昭 和 59 年 12 月 24 日 )。 他 方 で, 裁 判 例 によっては 様 々な 事 情 を 勘 案 したうえで, 原 告 の 住 所 地 管 轄 を 肯 定 しているものもある。たとえば, 前 掲 ・ 名 古 屋 地 判 平 成 7 年 2 月 17日 は, 当 該 婚 姻 は 日 本 でのみ 成 立 した 跛 行 婚 であり, 原 告 は 韓 国 において 婚 姻 無 効 確 認 を 請 求 できないこと, 原 告 は 日 本 在 住 の 日 本 人 であり,その 日 本 法 上 の 婚 姻 無 効 確 認 請 求 権 を 尊 重 すべき3334上 述 I-2 及 び 3 参 照 。岡 野 ・ 前 掲 183 頁 , 溜 池 ・ 前 掲 論 文 126 頁 , 三 井 ・ 前 掲 論 文 229 頁 ほか。10332


こと 等 の 事 情 を 挙 げている。また, 前 掲 ・ 福 岡 地 判 平 成 8 年 3 月 12 日 は, 当 該 婚 姻 が 日 本 においてのみ 成 立 している 跛 行 婚 であること, 原 告 が 韓 国 在 住 の 韓 国 人 被 告 と 同 居 した 事 実 は 全 くないこと, 被 告 は 訴 状 の 送 達 後 も 全 く 応 答 していない 等 の 事 情 を 挙 げている。このような 昭 和 39 年 ルールの 枠 組 みは, 柔 軟 性 には 資 する 反 面 , 必 ずしも 当 事 者 の 予 見 可 能 性 や 法 的 安 定 性 を 保 証 するものではなく, 学 説 において 批 判 されている 35 。(bb) 比 較 法わが 国 の 裁 判 例 と 比 較 すると, 条 約 ,EU 規 則 ,そして 諸 外 国 の 立 法 例 は,より 客 観 的 かつ明 確 な 基 準 を 採 用 してきている。1970 年 ハーグ 離 婚 条 約 第 2 条 第 2 号 によれば, 原 告 の 常 居 所 地 管 轄 を 認 めるには,a 申 立 人の 常 居 所 が 申 立 の 日 に 至 るまで 少 なくとも 一 年 間 継 続 していたこと( 同 a 号 ),あるいはb 夫 婦 がその 国 に 最 後 の 共 通 常 居 所 を 有 していたこと( 同 b 号 )が 要 件 となる。また,ブリュッセル IIbis規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 によれば, 以 下 のいずれかの 事 情 があれば, 原 告 の 常 居 所 地 管 轄 が 認 められる。すなわち,1 夫 婦 の 最 後 の 共 通 常 居 所 地 であって, 原 告 がまだそこに 居 住 していること( 第2 款 ),2 夫 婦 双 方 による 共 同 申 立 てであること( 第 4 款 ),3 原 告 がその 常 居 所 地 に 申 立 ての 1 年以 上 前 から 居 住 していること( 第 5 款 ),4 原 告 が 同 時 にその 国 の 国 籍 をもつ 場 合 には,そこに 申立 ての 6 ヶ 月 以 上 前 から 居 住 していること( 第 6 款 )である。ハーグ 離 婚 条 約 第 2 条 第 2 号 b 号 の 管 轄 原 因 (b)は, 申 立 人 が 婚 姻 住 所 地 に 継 続 して 居 住している 場 合 にその 国 の 管 轄 を 認 めるもので,ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 第 2 款 (1)やオーストリア JN 第 76 条 第 2 項 第 3 号 においても 認 められている。また,フランス 新 民 事 訴 訟法 1070 条 は, 端 的 に 婚 姻 住 所 地 の 管 轄 を 肯 定 している。 婚 姻 住 所 地 ( 夫 婦 最 後 の 共 通 住 所 地 )は,夫 婦 双 方 が 婚 姻 生 活 を 営 むことで 密 接 な 関 係 をもつ 場 所 である。もとより 夫 婦 双 方 がすでに 婚 姻住 所 地 を 離 れ, 別 の 地 に 居 住 している 場 合 には, 過 去 の 住 所 地 に 管 轄 を 認 める 必 然 性 は 乏 しく,当 事 者 の 便 宜 にも 反 すると 考 えられる。しかし, 少 なくとも 一 方 当 事 者 が 継 続 してそこに 居 住 している 場 合 には, 密 接 関 連 性 があり, 管 轄 原 因 とすることに 合 理 性 が 認 められよう。 被 告 だけが婚 姻 住 所 地 を 離 れ, 国 外 に 退 去 したような 場 合 にも,この 客 観 的 な 管 轄 原 因 によれば,( 現 在 のわが 国 の 判 例 法 理 とは 異 なって) 被 告 による 遺 棄 の 有 無 等 の 審 査 を 経 ることなく, 端 的 に 原 告 の 住 所地 かつ 最 後 の 婚 姻 住 所 地 としての 管 轄 を 認 めることができる。他 方 ,ハーグ 離 婚 条 約 第 2 条 第 2 号 a 号 の 管 轄 原 因 (a)は, 申 立 人 が 常 居 所 地 に 1 年 以 上継 続 して 居 住 していることを 要 件 として, 常 居 所 地 管 轄 を 認 めるものである。ブリュッセル IIbis規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 第 5 款 (3),スイス IPRG 第 59 条 b 号 も 同 様 の 準 則 を 採 用 している。もっ35西 島 太 一 「 身 分 関 係 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 総 論 ―― 管 轄 権 の 判 断 手 法 に 関 する 一 つの 仮 説 ――」 阪 大 法 学46 巻 6 号 (1997 年 )90 頁 以 下 , 本 間 ほか・ 前 掲 書 77 頁 参 照 。11333


とも,これは, 夫 婦 双 方 の 過 去 の 居 住 状 況 , 被 告 の 現 在 の 居 住 地 及 び 国 籍 等 を 考 慮 することなく,端 的 に 原 告 が 法 廷 地 において 1 年 以 上 居 住 していることを 管 轄 原 因 とするものであり, 被 告 にとっては, 全 く 見 知 らぬ 地 で 応 訴 を 余 儀 なくされるおそれもある。 特 にブリュッセル IIbis 規 則 第 3条 第 1 項 a 号 第 5 款 の 管 轄 原 因 は, 第 三 国 との 関 係 でも 妥 当 するため,たとえば 日 本 在 住 の 日 本人 夫 婦 の 関 係 が 破 綻 し, 夫 が 単 身 でドイツに 出 張 し,1 年 間 ドイツに 居 住 した 後 にドイツで 婚 姻無 効 確 認 又 は 離 婚 の 訴 えを 提 起 した 場 合 にも, 同 規 定 によってドイツの 国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 されうることになる 36 。このような 管 轄 原 因 は, 原 告 に 過 度 に 有 利 となるものであり,ドイツ 等 の 学説 によって 強 く 批 判 されている 37 。そこで, 同 規 定 の 適 用 範 囲 を 制 限 するため, 原 告 が 常 居 所 を取 得 した 時 点 から 1 年 以 上 ,その 国 に 居 住 していることを 要 件 とするものと 解 釈 する 学 説 もある 38 。もっとも,ドイツの 実 務 上 は, 基 本 的 に 6 ヶ 月 以 上 の 居 住 の 事 実 があれば 常 居 所 が 認 定 されており 39 , 実 際 には 要 件 としての 居 住 期 間 が 若 干 長 くなるに 過 ぎないであろう。そのほかブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 第 4 款 (2)によれば, 夫 婦 が 共 同 で 提 訴する 場 合 にも, 原 告 の 住 所 地 管 轄 が 認 められる。 離 婚 又 は 婚 姻 無 効 確 認 の 訴 えが 夫 婦 共 同 で 提 起された 場 合 には, 少 なくとも 提 訴 すること 及 びその 場 所 について 合 意 があると 解 されることから,原 告 住 所 地 を 管 轄 原 因 と 認 めるものである。また,ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 第 6 款 (4)は, 原 告 が 常 居 所 地 の 国 籍 を 有しており,しかもそこに 申 立 ての 6 ヶ 月 以 上 前 から 居 住 している 場 合 にも 管 轄 を 認 めている。スイス IPRG 第 59 条 b 号 は, 居 住 期 間 の 要 件 を 課 すことなく, 端 的 に 原 告 の 住 所 地 が 同 時 にその 本国 であることを 管 轄 原 因 とする。また,オーストリア JN 第 76 条 第 2 項 第 3 号 は, 原 告 が 婚 姻 挙行 時 にオーストリア 国 籍 であり, 現 在 オーストリアに 常 居 所 をもっていれば, 管 轄 を 認 めている。これらの 管 轄 原 因 は, 少 しずつ 要 件 が 相 違 するが, 基 本 的 には 外 国 に 居 住 していた 夫 婦 の 一 方 が婚 姻 関 係 破 綻 後 ,( 元 の) 本 国 に 戻 って 住 所 ( 常 居 所 )を 取 得 すれば, 離 婚 又 は 婚 姻 無 効 確 認 等 の訴 えを 提 起 できるとする 趣 旨 であり,いわゆる「 逃 げ 帰 り 離 婚 」を 可 能 にするものである。この点 は, 本 国 管 轄 の 可 否 及 びその 範 囲 の 問 題 とも 関 係 するため, 改 めて 次 節 で 論 ずる。そのほか 各 国 法 上 は, 原 告 が 無 国 籍 である 場 合 に, 原 告 の 常 居 所 地 管 轄 を 認 める 例 もある(ドイツ FamFG 第 98 条 第 1 項 第 3 号 ,オーストリア JN 第 76 条 第 3 号 )。また,ドイツ FamFG 第 98 条 第 136 Yuko Nishitani, Mancini and the Principle of Nationality in Japanese Private International Law, in: Festschrift ErikJayme zum 70. Geburtstag, Vol. 1, Berlin 2004, pp. 627 et seq.37 Erik Jayme, Die Kulturelle Dimension des Rechts – ihre Bedeutung für das Internationale Privatrecht und dieRechtsvergleichung, in: RabelsZ 67 (2003), p. 225; idem, Das internationale Privatrecht zwischen Postmoderne undFuturismus, in: Recht und Rechtswissenschaft – Ringvorlesung der Juristischen Fakultät der Universität Heidelberg,Heidelberg 2000, pp. 165 et seq.; idem, Le droit international privé du nouveau millénaire: la protection de la personnehumaine face à la globalisation, in: Recueil des Cours 282 (2000), pp. 24 et seq.38 Ulrich Spellenberg, Die Zuständigkeiten für Eheklagen nach der EheGVO, in: Festschrift Geimer zum 65. Geburtstag,München 2002, pp. 1268 et. seq.39 ドイツに 関 する 調 査 報 告 29 頁 。12334


項 第 4 号 は, 原 告 がドイツに 常 居 所 をもっており,ドイツにおいて 将 来 下 される 裁 判 が 夫 婦 のいずれか 一 方 の 本 国 において 承 認 される 場 合 にも, 管 轄 を 認 めている。これは, 基 本 的 に 一 方 配 偶者 がドイツに 常 居 所 をもっていれば, 婚 姻 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めることを 出 発 点 とするもので, 夫 婦 いずれか 一 方 の 本 国 における 承 認 可 能 性 を 要 件 としているのは, 明 らかに 跛 行 的な 離 婚 判 決 を 避 けるために 過 ぎない。それゆえ,ドイツ 判 決 の 外 国 における 承 認 可 能 性 が 推 定 され, 証 明 責 任 が 転 換 されている 40 。この 管 轄 ルールは,ドイツと 夫 婦 の 本 国 との 判 決 調 和 の 達 成に 配 慮 しており, 国 際 私 法 の 基 本 理 念 にはかなうが, 当 事 者 にとっては, 将 来 のドイツ 裁 判 が 夫婦 の 本 国 で 承 認 されうるか 否 かを 判 断 するのは 容 易 ではない。また 裁 判 官 にとっても, 訴 訟 要 件としての 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 判 断 する 段 階 で, 本 案 に 関 する 将 来 のドイツ 裁 判 の 承 認 可 能 性 を審 査 せざるを 得 ず, 手 続 の 遅 延 をもたらすおそれもあろう 41 。(c) 夫 婦 双 方 又 は 一 方 の 国 籍婚 姻 無 効 及 び 取 消 し,そして 離 婚 について 本 国 管 轄 を 認 めるか 否 かは, 重 要 な 論 点 である。わが 国 の 学 説 においては, 本 国 管 轄 を 否 定 する 少 数 説 もあるが 42 , 一 般 には 本 国 管 轄 を 肯 定 するのが 多 数 説 であるとされる。ただし,その 範 囲 としては, 夫 婦 いずれの 本 国 にも 管 轄 を 認 める 説 ,被 告 の 本 国 にだけ 管 轄 を 認 める 説 ,そして 夫 の 本 国 にだけ 管 轄 を 認 める 説 ( 今 日 では 妥 当 しない 立場 である)がある 43 。 昭 和 39 年 ルール 成 立 後 の 裁 判 例 においては, 一 方 配 偶 者 が 日 本 国 籍 であることに 言 及 するものも 見 られるが, 国 籍 だけを 根 拠 として 管 轄 を 認 めた 例 はないようであり, 一般 に 国 籍 は 他 の 関 連 要 素 を 補 充 する 形 で 参 照 されている 44 。比 較 法 的 にみると, 端 的 に 一 方 配 偶 者 の 国 籍 を 管 轄 原 因 としている 立 法 例 として,ドイツFamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 ,フランス 民 法 第 14 条 及 び 第 15 条 ,オーストリア JN 第 76 条 第 2項 第 1 号 がある。しかもドイツ FamFG 第 98 条 第 1 項 第 1 号 は, 一 方 当 事 者 の 婚 姻 挙 行 時 という過 去 の 時 点 での 国 籍 をも 基 準 としている。これは, 婚 姻 挙 行 時 にドイツ 人 であった 者 は, 将 来 にわたって 常 にその 婚 姻 事 件 についてドイツ 裁 判 所 の 判 断 を 求 めうることを 意 味 する(なお,オーストリア JN 第 76 条 第 2 項 第 3 号 は, 原 告 の 婚 姻 挙 行 時 のオーストリア 国 籍 を 管 轄 原 因 とするに 当 たって, 原告 がオーストリアに 常 居 所 をもつことを 要 件 としている)。40 ドイツに 関 する 調 査 報 告 32 頁 以 下 参 照 。41特 にドイツの 一 般 的 な 実 務 に 従 い, 職 権 鑑 定 が 利 用 される 場 合 には, 時 間 がかかることが 多 い。42本 国 管 轄 を 否 定 する 少 数 説 として, 池 原 季 雄 「 離 婚 に 関 する 国 際 私 法 上 の 二 ・ 三 の 問 題 」 家 月 4 巻 12 号(1952 年 )1 頁 以 下 , 澤 木 敬 郎 「 渉 外 家 事 事 件 手 続 の 概 要 」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5・ 渉 外 関 係 事 件 』( 日本 評 論 社 ,1990 年 )12 頁 以 下 。43小 野 寺 ・ 前 掲 論 文 166 頁 以 下 参 照 。44岡 野 祐 子 『 国 際 私 法 判 例 百 選 〔 新 法 対 応 補 正 版 〕』( 有 斐 閣 ,2007 年 )183 頁 , 道 垣 内 正 人 「 離 婚 事 件 の 国際 的 裁 判 管 轄 権 --その 新 たなルール 化 をめざして」 法 律 のひろば 39 巻 11 号 (1986 年 )3 頁 以 下 参 照 。 東 京家 審 平 成 19 年 9 月 11 日 家 月 60 巻 1 号 108 頁 は,オーストリア 離 婚 判 決 の 承 認 に 関 する 間 接 管 轄 ( 民 訴 第118 条 第 1 号 )について, 一 方 配 偶 者 の 国 籍 だけを 管 轄 原 因 とするのは 過 剰 管 轄 であると 述 べている。13335


それに 対 して, 一 方 配 偶 者 の 国 籍 だけでは 足 りず, 夫 婦 に 共 通 の 国 籍 がある 場 合 にそれを 管轄 原 因 とする 例 として,ハーグ 離 婚 条 約 第 2 条 第 3 号 ,ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 b 号がある。また, 一 方 配 偶 者 の 国 籍 に 加 えて 特 定 の 要 件 を 加 重 することで, 管 轄 原 因 として 認 める 例 もある。ハーグ 離 婚 条 約 第 2 条 第 4 及 び 第 5 号 によれば, 申 立 人 の 本 国 管 轄 を 認 めるためには,1申 立 人 が 判 決 国 に 常 居 所 を 有 したこと( 第 2 条 第 4 号 a),2 申 立 人 が 申 立 てに 先 立 つ 2 年 間 に 少 なくともその 一 部 が 含 まれる 1 年 間 継 続 して 判 決 国 に 常 居 所 を 有 したこと( 同 b),あるいは,3 申立 人 が 申 立 時 点 において 判 決 国 に 現 在 しており,しかも 夫 婦 が 申 立 時 点 において, 離 婚 を 認 めない 国 に 最 後 の 共 通 常 居 所 を 有 したこと( 第 2 条 第 5 号 a 及 び b)のいずれかの 要 件 が 満 たされなければならない。 同 様 に,ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 a 号 第 6 款 も, 原 告 が 自 己 の 本 国 に常 居 所 をもっており,そこに 申 立 て 直 前 の 6 ヶ 月 以 上 前 から 居 住 していることを 要 件 としている。従 来 , 本 国 管 轄 を 認 める 根 拠 として, 一 国 はその 国 民 に 対 して 対 人 主 権 に 基 づき 国 民 の 身 分関 係 の 保 護 のために 管 轄 をもつべきであること,わが 国 の 国 際 私 法 が 身 分 関 係 について 本 国 法 主義 を 採 用 し, 身 分 関 係 が 本 国 と 密 接 な 関 係 をもつとしている 以 上 ,その 管 轄 権 も 当 然 本 国 に 認 められるべきことなどが 挙 げられてきた 45 。もとより 移 民 が 急 増 している 欧 米 諸 国 においては, 当事 者 が 本 国 との 実 質 的 な 結 び 付 きを 失 っていることも 少 なくなく 46 ,EU 規 則 における 準 拠 法 決 定の 基 準 としても, 本 国 法 主 義 から 常 居 所 地 法 主 義 へと 移 行 する 傾 向 が 顕 著 である 47 。しかし, 少なくともわが 国 の 現 状 及 び 国 籍 法 等 に 鑑 みれば, 当 事 者 が 日 本 人 であれば, 基 本 的 に 日 本 と 実 効的 な 結 び 付 きを 保 持 しており, 言 語 等 の 面 でも 訴 訟 追 行 上 便 宜 であることが 多 いと 推 測 される。また, 日 本 が 本 国 として 管 轄 権 を 行 使 することで, 自 国 民 の 身 分 関 係 について 判 断 し, 戸 籍に 反 映 させることが 可 能 になる。わが 国 の 戸 籍 制 度 は, 日 本 国 民 だけを 登 載 し, 国 民 登 録 としての 機 能 も 果 たす 特 殊 な 身 分 登 録 制 度 であり, 日 本 国 民 の 身 分 関 係 を 正 確 かつ 網 羅 的 に 反 映 することを 旨 とする。ところが, 外 国 在 住 の 日 本 人 と 外 国 人 の 夫 婦 が 外 国 で 婚 姻 無 効 確 認 判 決 等 を 得 たとしても, 日 本 で 判 決 が 承 認 されなければ, 戸 籍 に 反 映 させられない 48 。また, 日 本 人 が 居 住 す4546溜 池 ・ 前 掲 書 472 頁 以 下 。特 に 欧 米 諸 国 においては 重 国 籍 者 が 増 えており, 必 ずしも 当 事 者 が 密 接 な 関 係 をもたない 共 通 本 国 が 存 在する 場 合 もありうることに 注 意 が 必 要 である。ブリュッセル IIbis 規 則 第 3 条 第 1 項 b 号 の 解 釈 としては, 構成 国 同 士 の 国 籍 は 同 等 であり,その 実 効 性 の 有 無 を 問 わず,いずれも 管 轄 原 因 となるとされている。EuropeanCourt of Justice, 16.7.2009, Case C-168/08, Laszlo Hadadi (Hadady) v Csilla Marta Mesko, married name Hadadi(Hadady), Report 2009 I-06871.47特 に, 離 婚 準 拠 法 に 関 する EU 規 則 〔ローマ III 規 則 〕(Council Regulation (EU) No 1259/2010 of 20 December2010 implementing enhanced cooperation in the area of the law applicable to divorce and legal separation, O.J. 2010, L343/10) 参 照 。また, 一 般 的 な 議 論 として,Heinz-Peter Mansel, Die kulturelle Identität im Internationalen Privatrecht,in: BerDGesVR 43 (2008), pp. 137 et seq.48戸 籍 実 務 においては, 外 国 判 決 に 基 づく 報 告 的 届 出 がなされた 場 合 には, 判 決 の 謄 本 及 び 判 決 確 定 証 明 書等 に 基 づいて 民 事 訴 訟 法 118 条 の 承 認 要 件 が 満 たされているかどうかを 判 断 して, 届 出 の 受 否 を 決 定 する。ただし, 実 際 には, 当 該 判 決 が 明 らかに 民 事 訴 訟 法 118 条 の 承 認 要 件 を 欠 いていると 認 められないかぎり(し14336


る 外 国 の 法 律 上 夫 婦 の 婚 姻 が 成 立 していない 場 合 には,そもそも 当 該 外 国 において 婚 姻 無 効 確 認又 は 取 消 し, 離 婚 等 を 請 求 することができない 49 。このような 場 合 を 勘 案 すると, 当 事 者 の 日 本国 籍 を 根 拠 としてわが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めることで, 本 国 として 自 国 民 の 身 分 関 係 に 適 切 な保 護 を 与 え, 戸 籍 上 の 身 分 関 係 の 正 確 さを 期 すことにも 合 理 性 があるともいえよう。他 方 で, 国 際 私 法 における 準 拠 法 の 決 定 と, 国 際 民 事 手 続 法 における 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 とは 基 本 的 発 想 が 異 なっており, 後 者 においては, 第 一 義 的 に 当 事 者 の 訴 訟 上 の 便 宜 を 図 ることが重 要 である。そして, 本 国 管 轄 を 認 めると, 夫 婦 が 外 国 に 居 住 している 場 合 には, 被 告 に 過 大 な応 訴 の 負 担 がかかるほか, 事 実 上 日 本 人 配 偶 者 による「 逃 げ 帰 り 離 婚 ( 又 は 婚 姻 無 効 確 認 )」を 認める 結 果 となりかねない。このような 観 点 からは, 日 本 の 裁 判 所 による 過 剰 管 轄 を 避 け, 原 告 の利 益 と 被 告 の 防 禦 権 の 双 方 に 配 慮 するために, 一 方 配 偶 者 の 国 籍 だけを 管 轄 原 因 とするのではなく,それが 共 通 本 国 であること,あるいはその 者 が 一 定 期 間 日 本 に 居 住 していること 等 を 要 件 として 加 重 することも 考 えられるであろう。このように 本 国 管 轄 を 認 めることにはメリットとデメリットがあり, 慎 重 な 検 討 が 必 要 になるものと 解 される。(d) 婚 姻 挙 行 地婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しは, 婚 姻 の 成 立 要 件 に 関 わる 問 題 である。 特 に 婚 姻 の 方 式 要 件 の 欠 缺が 問 題 となる 場 合 には, 離 婚 に 関 する 管 轄 原 因 に 加 えて, 端 的 に 婚 姻 挙 行 地 の 管 轄 を 認 めることも 考 えられよう 50 。 米 国 においては, 婚 姻 挙 行 地 も 管 轄 原 因 とされている 51 。 仮 に 日 本 で 婚 姻 が 挙行 された 後 , 外 国 に 住 所 をもつ 夫 婦 がその 外 国 で 婚 姻 無 効 確 認 判 決 等 を 得 たとしても,それが 日本 で 承 認 されるとは 限 らないため, 婚 姻 挙 行 地 を 管 轄 原 因 とすれば 当 事 者 の 便 宜 が 図 られることもあろう。もとより 婚 姻 の 無 効 及 び 取 消 しについて, 一 方 当 事 者 の 日 本 国 籍 を 基 準 とする 本 国 管轄 を 認 めるのであれば, 戸 籍 訂 正 の 必 要 性 には 対 応 できる。しかし, 外 国 人 同 士 が 日 本 において日 本 法 上 の 方 式 に 従 って 婚 姻 を 挙 行 した 場 合 にも, 戸 籍 窓 口 によって 届 出 書 類 は 保 管 され, 婚 姻届 受 理 証 明 書 が 発 行 される。それゆえ, 日 本 における 婚 姻 挙 行 時 の 方 式 等 に 瑕 疵 があった 場 合 にかも 4 号 要 件 はそもそも 戸 籍 窓 口 では 調 査 されない), 届 出 は 受 理 される 扱 いとなっている( 昭 51・1・14民 ニ 280 通 達 参 照 )。 南 敏 文 ・ 澤 木 敬 郎 編 『 新 しい 国 際 私 法 』( 日 本 加 除 出 版 ,1990 年 )42 頁 以 下 。49離 婚 についても, 日 本 人 夫 婦 が 居 住 する 外 国 が 離 婚 を 認 めていない 又 は 要 件 がきわめて 厳 格 である 場 合 に,日 本 で 裁 判 離 婚 を 請 求 できることになる。ただし, 世 界 的 に 見 て,マルタが 2011 年 に 離 婚 を 導 入 した 後 は,離 婚 を 認 めない 法 制 は,フィリピン,バチカン 市 国 ,そしてカノン 法 上 の 婚 姻 法 制 を 採 用 している 若 干 の 法域 ( 宗 教 ごとに 適 用 される 婚 姻 法 が 異 なる 中 近 東 諸 国 〔シリアほか〕にその 例 が 見 られる)などに 限 定 されている。Dieter Henrich, Internationales Scheidungsrecht — einschließlich Scheidungsfolgen —, 2. Aufl., Bielefeld2005, para. 94; Staudinger/Mankowski, », Berlin 2011, Art. 17 EGBGB, para. 20 et seq.50鳥 居 淳 子 ・ジュリ 295 号 88 頁 , 三 浦 正 人 編 『 国 際 私 法 』( 青 林 書 院 ,1983 年 )249 頁 〔 松 岡 執 筆 〕( 未 確認 )。51上 述 I-3 参 照 。15337


は, 端 的 に 婚 姻 挙 行 地 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めることも 考 えられるであろう( 前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 2年 2 月 27 日 参 照 )。ところで, 婚 姻 無 効 確 認 又 は 取 消 しの 訴 えは, 当 事 者 である 夫 婦 間 で 請 求 されるだけではなく, 相 続 権 者 等 の 利 害 関 係 人 ( 前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 2 年 2 月 27 日 の 事 案 ),あるいは 検 察 官 のような公 益 代 表 者 が 提 起 することもある。わが 国 の 学 説 の 中 には,このような 第 三 者 が 原 告 となる 場 合について, 婚 姻 挙 行 地 , 婚 姻 住 所 地 , 身 分 登 録 地 などに 管 轄 を 認 める 説 もある 52 。もっとも, 提訴 権 者 が 誰 であるかは, 準 拠 実 質 法 ごとに 相 対 的 に 決 まるものである。また, 同 様 の 問 題 が 生 じうる 親 子 関 係 存 否 確 認 等 については 特 に 議 論 はなく, 提 訴 権 者 によって 管 轄 原 因 を 異 にする 立 法例 も 見 られない。 日 本 における 婚 姻 挙 行 時 の 方 式 の 瑕 疵 等 が 問 題 となる 場 合 については, 婚 姻 挙行 地 を 管 轄 原 因 とすることの 可 否 と 合 わせて, 特 定 の 提 訴 権 者 に 固 有 の 管 轄 原 因 を 認 めることの可 否 も 検 討 しておく 必 要 があろう。(e) その 他 の 管 轄 原 因(aa) 応 訴 管 轄離 婚 の 国 際 裁 判 管 轄 については, 昭 和 39 年 ルールの 枠 内 で 原 告 の 住 所 地 管 轄 を 認 める 事 情として, 被 告 の 応 訴 が 挙 げられることが 少 なくない 53 。これは, 被 告 の 応 訴 があれば, 被 告 保 護の 観 点 から 問 題 はないことを 理 由 とする。それに 対 して, 多 数 説 は, 離 婚 事 件 について 合 意 管 轄及 び 応 訴 管 轄 のいずれも 否 定 しており,その 理 由 として, 人 事 訴 訟 事 件 に 関 しては 当 事 者 の 任 意処 分 が 制 限 されること( 請 求 の 放 棄 ・ 認 諾 に 関 する 民 事 訴 訟 法 第 266 条 は, 人 事 訴 訟 事 件 には 準 用 されない〔 人 事 訴 訟 法 第 19 条 第 2 項 〕),そして 法 廷 地 漁 りが 助 長 されうることを 挙 げている 54 。ブリュッセル IIbis 規 則 においては, 応 訴 管 轄 は 認 められていない。(bb) 反 訴上 述 のように,わが 国 の 裁 判 例 においては, 本 訴 としての 後 婚 取 消 訴 訟 に 対 して, 反 訴 として 前 婚 無 効 確 認 訴 訟 が 提 起 された 場 合 ,あるいは 協 議 離 婚 無 効 確 認 訴 訟 に 対 して, 予 備 的 反 訴 として 離 婚 訴 訟 が 提 起 された 場 合 について, 反 訴 が 本 訴 と 密 接 な 関 係 をもつことを 理 由 に, 反 訴 の国 際 裁 判 管 轄 が 肯 定 された 例 がある。なお,ブリュッセル IIbis 規 則 第 4 条 は, 第 3 条 に 基 づいて管 轄 をもつ 裁 判 所 は, 同 規 則 の 事 項 的 適 用 範 囲 に 入 る 反 訴 についても 管 轄 が 認 められるとしている。52本 間 ほか・ 前 掲 書 80 頁 , 三 井 ・ 前 掲 論 文 229 頁 , 木 棚 照 一 = 松 岡 博 = 渡 辺 惺 之 『 国 際 私 法 概 論 』( 有 斐 閣 )( 未 確 認 )。53溜 池 ・ 前 掲 書 474 頁 以 下 , 小 野 寺 ・ 前 掲 論 文 170 頁 以 下 , 三 井 ・ 前 掲 論 文 229 頁 ほか。54本 間 ほか・ 前 掲 書 77 頁 参 照 。16338


1. 総 説B. 婚 姻 の 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力婚 姻 の 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 については, 準 拠 法 の 決 定 及 び 適 用 に 関 して 学 説 上 の 議 論 が 活 発である。しかし, 国 際 裁 判 管 轄 についてはほとんど 議 論 がなく, 裁 判 例 も 限 られている。もとより 離 婚 の 際 には 夫 婦 財 産 制 の 解 消 及 び 財 産 分 与 等 も 問 題 となるが,これらは 一 般 に 離 婚 の 附 帯 処分 として 扱 われ, 独 立 の 国 際 裁 判 管 轄 の 問 題 が 生 ずることは 明 確 には 意 識 されてこなかったように 思 われる。ところで, 婚 姻 の 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 には 様 々な 問 題 が 包 括 されるが, 一 般 にわが 国 の 国 際私 法 上 は, 次 のように 性 質 決 定 がなされている。第 一 に, 婚 姻 の 身 分 的 効 力 の 単 位 法 律 関 係 ( 通 則 法 第 25 条 )には, 一 般 に,1 日 常 家 事 債 務に 関 する 他 方 配 偶 者 の 責 任 ,2 夫 婦 間 の 同 居 義 務 ・ 貞 操 義 務 ,3 夫 婦 間 の 契 約 の 取 消 し 等 の 問 題が 包 括 される 55 。1 日 常 家 事 債 務 について, 従 来 の 多 数 説 は, 婚 姻 の 共 同 生 活 の 円 滑 な 運 営 のために 強 行 的 に 認 められ, 夫 婦 財 産 契 約 によって 排 除 できない 制 度 であり, 婚 姻 関 係 そのものの 効果 と 見 るべきことを 理 由 に, 婚 姻 の 身 分 的 効 力 の 準 拠 法 によってきた 56 。もっとも, 近 時 は, 日常 家 事 債 務 の 問 題 は, 夫 婦 の 財 産 関 係 の 問 題 であることを 理 由 に, 夫 婦 財 産 制 の 問 題 と 見 る 立 場も 有 力 になりつつある 57 。第 二 に, 婚 姻 の 財 産 的 効 力 ,すなわち 夫 婦 財 産 制 の 単 位 法 律 関 係 には( 通 則 法 第 26 条 ), 一 般に,1 法 定 夫 婦 財 産 制 ,2 夫 婦 財 産 契 約 のほか,3 個 別 の 財 産 の 帰 属 及 び 支 配 関 係 ,4 婚 姻 生 活費 の 分 担 ,5 一 方 配 偶 者 の 死 亡 又 は 離 婚 による 夫 婦 財 産 制 の 解 消 が 包 括 される 58 。それに 加 えて,6 日 常 家 事 債 務 を 夫 婦 財 産 制 の 問 題 とする 有 力 説 のあることは, 上 述 のとおりである。また,4婚 姻 生 活 費 用 の 分 担 については, 扶 養 義 務 との 関 係 が 問 題 となる。 従 来 の 多 数 説 によれば, 婚 姻生 活 維 持 のための 出 捐 については,まず 夫 婦 財 産 制 の 問 題 として 婚 姻 生 活 費 用 の 分 担 が 定 められること,そして 一 方 配 偶 者 が 自 己 の 分 担 を 果 たせず, 他 方 配 偶 者 がその 分 を 代 わりに 負 担 するに至 った 段 階 で, 初 めて 扶 養 義 務 の 問 題 になると 解 されていた 59 。それに 対 して, 最 近 では, 婚 姻生 活 費 用 の 分 担 を 一 括 して 扶 養 義 務 の 問 題 とみる 見 解 が 有 力 になっている 60 。 裁 判 例 においても,555657溜 池 ・ 前 掲 書 446 頁 以 下 。溜 池 良 夫 「 婚 姻 の 効 果 」『 国 際 私 法 講 座 〔 第 2 巻 〕』( 有 斐 閣 ,1955 年 )545 頁 以 下 。櫻 田 嘉 章 『 国 際 私 法 〔 第 5 版 〕』( 有 斐 閣 ,2007 年 )250 頁 ( 未 確 認 ), 高 鳥 トシ 子 「 渉 外 婚 姻 の 効 力 の 準拠 法 ―― 夫 婦 財 産 制 を 中 心 として――」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5・ 渉 外 関 係 事 件 』( 日 本 評 論 社 ,1990 年 )141 頁 以 下 , 山 田 ・ 前 掲 書 427 頁 ( 改 説 )ほか。58溜 池 ・ 前 掲 書 443 頁 以 下 。59溜 池 ・ 前 掲 書 454 頁 以 下 , 同 ・ 前 掲 論 文 ( 婚 姻 の 効 果 )552 頁 。 裁 判 例 として, 大 阪 家 審 昭 和 54 年 2 月 1日 家 月 32 巻 10 号 67 頁 ( 事 案 の 詳 細 については, 扶 養 義 務 の 箇 所 を 参 照 )。60早 田 芳 郎 「 渉 外 的 扶 養 関 係 事 件 の 裁 判 管 轄 権 及 び 準 拠 法 」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5・ 渉 外 関 係 事 件 』( 日本 評 論 社 ,1990 年 )265 頁 , 高 鳥 ・ 前 掲 論 文 140 頁 , 山 田 ・ 前 掲 書 541 頁 。17339


扶 養 義 務 として 性 質 決 定 するものがほとんどである 61 。 後 者 の 見 解 は, 扶 養 義 務 に 関 するハーグ諸 条 約 によれば, 扶 養 義 務 には, 各 国 の 法 制 上 の 名 称 を 問 わず, 人 の 生 活 に 必 要 なあらゆる 類 型の 財 産 給 付 が 含 まれること,そして 婚 姻 費 用 分 担 の 請 求 は 扶 養 を 目 的 とするのが 通 常 であり, 夫婦 間 の 扶 助 義 務 と 平 仄 を 合 わせるべきことなどを 理 由 とする。第 三 に, 夫 婦 間 の 扶 養 義 務 は,かつては 婚 姻 の 身 分 的 効 力 の 問 題 として( 法 例 第 14 条 〔 当 時 〕)性 質 決 定 されていたが,わが 国 が「 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 するハーグ 条 約 」を 批 准 し,「 扶 養 義 務の 準 拠 法 に 関 する 法 律 」を 制 定 した 後 は, 扶 養 義 務 が 独 立 の 単 位 法 律 関 係 となっている。したがって, 現 在 では,1 夫 婦 間 の 協 力 ・ 扶 助 義 務 ,そして2 離 婚 後 の 扶 養 は, 端 的 に 扶 養 義 務 の 問 題に 含 まれる(ただし,2は 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 する 法 律 第 4 条 第 1 項 に 従 い, 離 婚 に 適 用 された 法 による)。また,3 婚 姻 費 用 分 担 を 扶 養 義 務 の 問 題 と 性 質 決 定 する 有 力 説 もあるのは, 上 述 のとおりである。それに 対 して, 離 婚 時 の 財 産 分 与 については, 多 数 説 は, 固 有 の 離 婚 給 付 として 離 婚 準 拠法 による( 通 則 法 第 27 条 )としている。 財 産 分 与 は, 妻 の 家 事 労 働 や 夫 の 財 産 形 成 への 貢 献 など,婚 姻 中 にはその 価 値 が 顕 在 化 していなかったものを 婚 姻 解 消 時 に 評 価 し, 夫 婦 の 財 産 を 調 整 する性 質 をもつからである 62 。もとより 以 上 のような 国 際 私 法 における 性 質 決 定 の 議 論 は,そのまま 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 に当 てはまるわけではなく, 管 轄 規 則 を 法 制 化 する 際 には, 抵 触 規 則 における 単 位 法 律 関 係 と 異 なる 類 型 化 を 行 うことも 可 能 である。この 点 は,この 点 は,どのように 類 型 化 して 管 轄 規 則 を 整 備するかに 関 わるため, 詳 細 は 今 後 の 議 論 にゆだねることとし, 以 下 では, 特 に 夫 婦 財 産 事 件 に 関する 国 際 裁 判 管 轄 について 検 討 することにしたい。なお, 婚 姻 費 用 分 担 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管轄 については, 扶 養 義 務 の 箇 所 で 論 ずることとする。2. 日 本 法 の 状 況夫 婦 財 産 制 に 関 係 するわが 国 の 裁 判 例 として, 以 下 のものが 挙 げられる。京 都 地 判 昭 和 32 年 10 月 17 日 ( 下 民 集 8 巻 10 号 1940 頁 )は, 日 本 在 住 のカナダ 人 妻 が, 日 本在 住 の 英 国 人 夫 の 訴 外 銀 行 に 対 する 借 受 金 債 務 の 担 保 として 自 己 の 保 有 する 株 式 を 提 供 したところ, 債 務 が 返 済 されず, 同 銀 行 が 株 式 を 処 分 したため, 妻 が 夫 に 求 償 した 事 件 である。 本 判 決 は,61山 田 ・ 前 掲 書 541 頁 。 高 鳥 ・ 前 掲 論 文 140 頁 。 古 い 裁 判 例 である 東 京 家 審 昭 和 49 年 1 月 29 日 家 月 27 巻 2号 95 頁 , 那 覇 家 (コザ 支 ) 審 昭 和 53 年 3 月 7 日 家 月 31 巻 12 号 87 頁 , 大 阪 高 決 昭 和 55 年 8 月 28 日 家 月32 巻 10 号 90 頁 ( 前 掲 ・ 大 阪 家 審 昭 和 54 年 2 月 1 日 の 抗 告 審 ),そして 東 京 家 審 昭 和 55 年 9 月 22 日 家 月35 巻 6 号 120 頁 は, 扶 養 義 務 の 問 題 と 性 質 決 定 したうえで, 法 例 第 14 条 ( 当 時 )に 従 い, 夫 の 本 国 法 を 適用 している。わが 国 が 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 する 条 約 を 批 准 し, 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 する 法 律 を 制 定 した後 は, 同 法 が 適 用 されている。 神 戸 家 審 平 成 4 年 9 月 22 日 家 月 45 巻 9 号 61 頁 , 熊 本 家 審 平 成 10 年 7 月 28日 家 月 50 巻 12 号 48 頁 など。62溜 池 ・ 前 掲 書 470 頁 , 鳥 居 淳 子 「 渉 外 離 婚 事 件 の 準 拠 法 」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5・ 渉 外 関 係 事 件 』( 日本 評 論 社 ,1990 年 )153 頁 以 下 , 山 田 ・ 前 掲 書 451 頁 ほか。18340


国 際 裁 判 管 轄 には 言 及 しないまま, 本 案 について 判 断 している。 夫 婦 財 産 制 の 準 拠 法 については,婚 姻 当 時 の 夫 の 本 国 法 ( 法 例 第 15 条 〔 当 時 〕)としての 英 国 法 であったが, 英 国 国 際 私 法 は, 法 定夫 婦 財 産 制 について 不 動 産 は 所 在 地 法 , 動 産 は 婚 姻 当 時 の 夫 の 住 所 地 法 によっており, 本 件 株 式については 日 本 法 への 反 致 が 成 立 するとした( 法 例 第 29 条 〔 当 時 〕)。そして, 民 法 第 762 条 は 夫婦 別 産 制 によっており, 夫 婦 の 一 方 が 婚 姻 前 から 有 する 財 産 及 び 婚 姻 中 自 己 の 名 で 取 得 した 財 産はその 特 有 財 産 となるため, 妻 がその 特 有 財 産 を 夫 の 債 務 の 担 保 として 差 入 れ, 担 保 権 の 実 行 によってその 所 有 権 を 失 ったときは, 妻 は 夫 に 求 償 権 をもつとし, 請 求 を 認 容 した。神 戸 地 判 昭 和 34 年 10 月 6 日 ( 下 民 集 10 巻 10 号 2099 頁 )は, 日 本 在 住 の 英 国 人 夫 からオーストラリア 人 妻 ( 転 地 療 養 のため, 昭 和 32 年 10 月 子 二 人 を 連 れてオーストリアに 出 帆 。 住 居 は 日 本 にある)に 対 して, 所 有 権 に 基 づいて, 被 告 方 にある 原 告 のピアノを 返 還 するよう 請 求 した 事 件 である。本 判 決 は, 国 際 裁 判 管 轄 には 言 及 しないまま, 本 案 について 判 断 している。そして, 夫 婦 財 産 制の 準 拠 法 である 英 国 法 ( 夫 の 本 国 法 : 法 例 第 15 条 〔 当 時 〕)の 内 容 が 不 明 であるため, 条 理 によって本 件 ピアノが 夫 の 単 独 所 有 であると 解 されるとし, 返 還 請 求 を 認 容 した。東 京 高 判 昭 和 61 年 1 月 30 日 ( 家 月 39 巻 6 号 46 頁 )は, 米 国 在 住 の 米 国 人 夫 (カリフォルニア 州 出 身 )が 日 本 人 妻 に 対 して, 両 者 の 離 婚 後 , 日 本 に 所 在 する 土 地 建 物 が 両 者 の 共 有 であることの 確 認 等 を 請 求 した 事 件 である。 本 判 決 も, 国 際 裁 判 管 轄 には 言 及 しないまま, 本 案 について判 断 している。 夫 婦 財 産 制 の 準 拠 法 については, 法 例 第 15 条 及 び 第 27 条 第 3 項 ( 当 時 )によれば 夫 の 本 国 法 である 米 国 カリフォルニア 州 法 となるところ, 同 州 の 判 例 法 及 び 抵 触 法 第 2 リステイトメントによれば, 不 動 産 の 所 在 地 法 である 日 本 法 への 反 致 が 成 立 するとした( 法 例 第 29 条 〔 当時 〕)。そして, 日 本 法 は 夫 婦 別 産 制 によっているため, 本 件 土 地 建 物 は 妻 の 単 独 所 有 であったとし, 夫 による 控 訴 を 棄 却 した。他 方 , 東 京 高 判 平 成 8 年 3 月 12 日 ( 判 タ 950 号 230 頁 : 原 審 ・ 東 京 地 判 平 成 7 年 5 月 29 日 TKC 28010532)は, 離 婚 後 の 夫 婦 財 産 の 調 整 に 関 する 米 国 判 決 の 承 認 の 可 否 が 争 われた 事 案 である。 本 件 では,米 国 在 住 の 米 国 人 夫 婦 が 共 同 名 義 で, 被 告 のディストリビューターとしての 契 約 上 の 地 位 を 有 していたところ, 両 者 の 離 婚 後 , 夫 は 米 国 ヴァージニア 州 において 本 件 地 位 が 夫 に 単 独 帰 属 することを 決 定 する 判 決 を 得 た。それに 対 して, 両 者 は 各 々 被 告 を 相 手 方 として, 本 件 地 位 の 共 同 帰 属又 は 単 独 帰 属 の 確 認 , 契 約 名 義 の 変 更 等 を 求 めて 日 本 で 提 訴 した。 本 判 決 は, 米 国 ヴァージニア州 判 決 は 民 事 訴 訟 法 200 条 ( 当 時 )の 承 認 要 件 を 満 たすとし, 被 告 は 契 約 の 相 手 方 からの 名 義 変更 承 認 請 求 を 承 認 すべき 契 約 上 の 義 務 を 負 うとして 妻 の 請 求 を 棄 却 し, 夫 の 請 求 を 認 容 した。以 上 の 裁 判 例 は,いずれも 求 償 権 の 行 使 又 は 個 別 財 産 の 帰 属 が 争 われた 財 産 事 件 であり,その 前 提 として 法 定 夫 婦 財 産 制 の 内 容 が 審 査 されている。これらの 裁 判 例 においては,いずれも 夫婦 双 方 が 日 本 に 住 所 を 有 していたか,あるいは 少 なくとも 被 告 が 日 本 に 住 所 を 有 していたと 解 さ19341


れる( 間 接 管 轄 に 関 する 前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 8 年 3 月 12 日 を 含 む) 63 。ただし, 前 掲 ・ 京 都 地 判 昭 和32 年 10 月 17 日 , 神 戸 地 判 昭 和 34 年 10 月 6 日 ,そして 東 京 高 判 昭 和 61 年 1 月 30 日 は,いずれも 国 際 裁 判 管 轄 には 言 及 しておらず,どのような 根 拠 で 管 轄 が 認 められたのかは 明 らかではない。なお, 大 阪 家 審 昭 和 54 年 2 月 1 日 ( 家 月 32 巻 10 号 67 頁 : 抗 告 審 ・ 大 阪 高 決 昭 和 55 年 8 月 28 日家 月 32 巻 10 号 90 頁 )は, 日 本 在 住 の 妻 が 米 国 在 住 の 米 国 (カリフォルニア 州 ) 人 夫 に 対 して, 婚姻 費 用 分 担 等 を 請 求 した 事 件 である。 本 審 判 は, 婚 姻 生 活 費 の 分 担 のあり 方 は 第 一 義 的 に 夫 婦 財産 制 の 問 題 であるとしたうえで, 夫 婦 の 一 方 が 無 資 力 で 婚 姻 費 用 分 担 能 力 がなく, 他 方 配 偶 者 に婚 姻 費 用 分 担 を 求 める 場 合 には 扶 養 請 求 に 当 たるとし, 申 立 てを 認 容 した( 詳 細 は 扶 養 義 務 の 箇 所参 照 )。 本 審 判 は, 外 国 在 住 の 相 手 方 に 対 する 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めたものであるが, 夫 婦 財 産 制 は,扶 養 請 求 の 前 提 問 題 として 判 断 されているに 過 ぎない。3. 比 較 法(1) EU 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 及 び 登 録 パートナーシップ 規 則 提 案(a) 総 説EU においては, 現 在 , 夫 婦 財 産 制 及 び 登 録 パートナーシップ 財 産 制 について,それぞれ 国際 裁 判 管 轄 , 準 拠 法 ,そして 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 を 規 律 する EU 規 則 を 制 定 する 動 きがある。201164年 3 月 16 日 には, 欧 州 委 員 会 がそれぞれ 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 及 び 登 録 パートナーシップ 財 産 制規 則 提 案 65 を 公 表 している。これらの 規 則 提 案 は,いずれも 異 性 間 と 同 性 間 のカップル 双 方 に 適用 されることに 注 意 が 必 要 である。ヨーロッパ 諸 国 においては, 同 性 カップルを 法 的 に 保 護 している 構 成 国 が 多 いが,その 形 態は 様 々である。とりわけ1オランダやベルギー,スペインのように 男 女 間 の 婚 姻 と 全 く 同 じ 保 護を 与 える 法 制 ,2ドイツの 登 録 パートナーシップのように, 婚 姻 に 準 ずる 効 力 をもつが, 養 子 縁組 等 において 一 定 の 制 約 を 課 す 法 制 ,3フランスのパックスのように, 一 種 の 契 約 としてカップルの 法 的 関 係 を 規 律 する 法 制 などに 分 類 される 66 。1は, 同 性 カップルが 異 性 間 の 婚 姻 と 同 じ 保護 を 受 けるもので, 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 の 適 用 対 象 となる。それに 対 して,2 及 び3の 形 態 は,63 なお, 当 事 者 の 住 所 地 が 明 確 には 示 されていない 事 案 もある。64 Proposal for a Council Regulation on jurisdiction, applicable law and the recognition and enforcement of decisions inmatters of matrimonial property regimes, 16.3.2011, COM(2011) 126 final. (hereinafter “Matrimonial Property RegimesProposal”).65 Proposal for a Council Regulation on jurisdiction, applicable law and the recognition and enforcement of decisionsregarding the property consequences of registered partnerships, 16.3.2011, COM(2011) 127 final (hereinafter “PropertyConsequences of Registered Partnerships”).66詳 細 は, 中 西 康 「 比 較 国 際 私 法 における 登 録 パートナーシップ―― 抵 触 法 上 の 各 種 規 律 方 法 の 比 較 分 析 のための 予 備 的 考 察 」 法 学 論 叢 156 巻 3・4 号 (2005 年 )293 頁 以 下 , 林 貴 美 「 同 性 カップルに 対 する 法 的 保護 の 現 代 的 動 向 と 国 際 私 法 」 国 際 私 法 年 報 6 号 (2004 年 )138 頁 以 下 ,ハインリッヒ・デルナー『 国 際 家 族法 の 現 代 的 課 題 』「2. 国 際 私 法 における 同 性 パートナーシップ」( 西 谷 祐 子 ・ 申 美 穂 訳 ) 法 学 70 巻 2 号 (2006年 )159 頁 以 下 ,ドイツに 関 する 調 査 報 告 63 頁 ほか 参 照 。20342


登 録 パートナーシップ 財 産 制 提 案 の 適 用 対 象 となる。 他 方 で,フランスのパックスは, 異 性 間 のカップルも 利 用 できるが,その 場 合 には 登 録 パートナーシップ 財 産 制 提 案 の 適 用 対 象 となる。(b) 夫 婦 財 産 制夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 は, 第 3 条 ~ 第 8 条 において 国 際 裁 判 管 轄 を 決 定 するための 準 則 を 置 いている。そもそも 夫 婦 財 産 制 に 関 する 争 いは, 死 亡 ,あるいは 離 婚 , 別 居 , 婚 姻 無 効 による 婚 姻関 係 の 解 消 に 伴 って 生 ずることが 多 い。そのため, 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 3 条 及 び 第 4 条 は, 相続 事 件 又 は 婚 姻 事 件 の 管 轄 をもつ 裁 判 所 が 附 帯 的 に 夫 婦 財 産 制 の 解 消 及 び 清 算 についても 判 断 しうるとしている。 具 体 的 には, 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 3 条 によれば,( 将 来 制 定 される 予 定 の)EU相 続 規 則 67 に 従 い 一 方 配 偶 者 の 相 続 事 件 について 受 訴 した 裁 判 所 は, 端 的 に 関 連 する 夫 婦 財 産 事件 の 管 轄 ももつ。 他 方 , 第 4 条 は, 当 事 者 の 合 意 を 要 件 として,ブリュッセル IIbis 規 則 に 従 い 離婚 , 別 居 ,あるいは 婚 姻 無 効 事 件 について 受 訴 した 裁 判 所 は, 関 連 する 夫 婦 財 産 事 件 の 管 轄 ももつとしている。この 当 事 者 の 合 意 は, 訴 訟 前 にも(ただし 書 面 での 合 意 が 要 件 ) 訴 訟 中 にも 行 うことができる。 当 事 者 の 合 意 がなければ, 第 5 条 以 下 の 規 定 によって 夫 婦 財 産 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄が 決 定 される。夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 5 条 は, 第 3 条 又 は 第 4 条 が 適 用 されない 場 合 の 国 際 裁 判 管 轄 について 段 階 的 に 決 定 している。 第 5 条 は, 相 続 又 は 離 婚 等 とは 独 立 に 夫 婦 財 産 制 に 関 する 争 いが 生 ずる 場 合 であり, 申 立 てによって 夫 婦 財 産 制 の 変 更 が 求 められる 場 合 などが 該 当 する 68 。 第 5 条 第 1項 によれば, 第 一 義 的 には,1 夫 婦 の 共 通 常 居 所 地 の 管 轄 が 認 められるが( 第 5 条 第 1 項 a 号 ),共 通 常 居 所 地 がなければ,2 最 後 の 共 通 常 居 所 地 であって 一 方 配 偶 者 がまだ 居 住 している 地 ( 同b 号 ),それもなければ,3 被 告 の 常 居 所 地 ( 同 c 号 ),それもなければ,4 夫 婦 の 共 通 本 国 ( 連 合王 国 及 びアイルランドについては 共 通 住 所 )の 管 轄 が 認 められる。ただし, 第 5 条 第 2 項 によれば 一定 範 囲 で 管 轄 合 意 も 認 められ, 当 事 者 は, 第 16 条 及 び 第 18 条 に 従 い 選 択 した 夫 婦 財 産 制 の 準 拠法 所 属 国 の 管 轄 を 合 意 することができる。この 当 事 者 の 合 意 は, 訴 訟 前 にも(ただし 書 面 での 合 意が 要 件 ) 訴 訟 中 にも 行 うことができる。第 3 条 ~ 第 5 条 の 規 定 に 従 えばいずれの 構 成 国 の 裁 判 所 も 管 轄 をもたない 場 合 には, 第 6 条に 従 い, 夫 婦 双 方 又 は 一 方 の 財 産 が 所 在 している 構 成 国 の 管 轄 が 認 められる。ただし,その 場 合には, 受 訴 裁 判 所 は,その 対 象 財 産 についてだけ 判 断 することができる。 第 6 条 は, 特 定 の 構 成67 2009 年 に, 欧 州 委 員 会 による EU 相 続 規 則 提 案 が 公 表 されている。Proposal for a Regulation of the EuropeanParliament and of the Council on jurisdiction, applicable law, recognition and enforcement of decisions and authenticinstruments in matters of succession and the creation of a European Certificate of Succession, 14.10.2009, COM(2009)154 final.68 Matrimonial Property Regimes Proposal, p. 7.21343


国 に 夫 婦 双 方 又 は 一 方 の 財 産 が 所 在 している 場 合 に, 夫 婦 及 び 第 三 者 の 裁 判 を 受 ける 権 利 を 保 障するものである 69 。以 上 の 規 定 に 従 えばいずれの 構 成 国 の 裁 判 所 も 管 轄 をもたない 場 合 であって, 第 三 国 における 裁 判 手 続 が 不 可 能 である 又 は 適 切 に 行 われないときには, 第 7 条 は, 緊 急 管 轄 として, 当 該 事案 と 十 分 に 密 接 な 関 連 性 をもつ 構 成 国 の 裁 判 所 が 例 外 的 に 管 轄 権 を 行 使 することを 認 めている。そのほか 第 8 条 によれば, 第 3 条 ~ 第 7 条 に 従 って 受 訴 した 裁 判 所 は,この 夫 婦 財 産 制 規 則の 事 項 的 適 用 範 囲 に 含 まれる 反 訴 について 判 断 するための 管 轄 ももつ。(c) 登 録 パートナーシップ 財 産 制登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 第 3 条 ~ 第 8 条 は, 次 のような 管 轄 ルールを 置 いている。まず 登 録 パートナーシップ 財 産 制 は, 夫 婦 財 産 制 と 同 様 に, 一 方 パートナーの 死 亡 ,あるいは 登 録 パートナーシップ 関 係 の 解 消 又 は 無 効 に 際 して 問 題 となることが 多 い。そこで, 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 第 3 条 第 1 項 及 び 第 4 条 は, 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 3 条 及 び 第 4 条と 同 様 に, 各 々 相 続 事 件 及 び 登 録 パートナーシップ 事 件 について 管 轄 をもつ 裁 判 所 が, 附 帯 的 に登 録 パートナーシップ 財 産 制 事 件 についても 判 断 しうることを 規 定 している( 第 4 条 は, 同 じく 当事 者 の 合 意 を 要 件 とする)。ただし, 登 録 パートナーシップは 特 殊 な 制 度 であり,EU 構 成 国 の 中 でも 制 度 をもたない 国 がある。そのため, 相 続 事 件 の 受 訴 裁 判 所 は,その 国 の 法 が 登 録 パートナーシップ 制 度 を 承 認 していない 場 合 には, 管 轄 権 行 使 を 拒 否 することができる( 第 3 条 第 2 項 ) 70 。登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 第 3 条 及 び 第 4 条 以 外 の 場 合 で, 夫 婦 財 産 事 件 が 独 立の 裁 判 手 続 において 争 われる 場 合 には, 第 5 条 第 1 項 に 従 い, 管 轄 が 段 階 的 に 決 定 される。それによれば, 第 一 義 的 には,1 登 録 パートナーの 共 通 常 居 所 地 の 管 轄 が 認 められるが( 第 5 条 第 1項 a 号 ), 共 通 常 居 所 地 がなければ,2 最 後 の 共 通 常 居 所 地 であって 一 方 の 登 録 パートナーがまだ居 住 している 地 ( 同 b 号 ),それもなければ,3 被 告 の 常 居 所 地 ( 同 c 号 ),それもなければ,4 登録 パートナーの 登 録 地 ( 同 d 号 )の 管 轄 が 認 められる。ただし,a~c 号 によって 管 轄 をもつ 裁 判所 は,その 国 の 法 が 登 録 パートナーシップ 制 度 を 承 認 していない 場 合 には, 管 轄 権 行 使 を 拒 否 することができる( 第 5 条 第 2 項 )。4の 管 轄 原 因 は, 登 録 パートナーシップに 固 有 のものである 71 。第 3 条 ~ 第 5 条 の 規 定 によれば,いずれの 構 成 国 の 裁 判 所 も 管 轄 をもたない 又 は 管 轄 権 行 使を 拒 否 した 場 合 には, 第 6 条 の 規 定 に 従 い,1 登 録 パートナー 双 方 又 は 一 方 の 財 産 が 所 在 する 地(a 号 : 裁 判 所 は 対 象 財 産 についてだけ 判 断 できる),あるいは2 登 録 パートナーの 共 通 本 国 ( 連 合 王国 及 びアイルランドについては 共 通 住 所 地 )(b 号 )に 管 轄 が 認 められる。69 Matrimonial Property Regimes Proposal, p. 7.70 Property Consequences of Registered Partnerships, p. 7.71 Property Consequences of Registered Partnerships, pp. 7 et seq.22344


以 上 の 規 定 によっても,いずれの 構 成 国 も 管 轄 をもたない 又 は 管 轄 権 行 使 を 拒 否 した 場 合 であって, 第 三 国 における 裁 判 手 続 が 不 可 能 である 又 は 適 切 に 行 われないときには, 第 7 条 は, 緊急 管 轄 として, 当 該 事 案 と 十 分 に 密 接 な 関 連 性 をもつ 構 成 国 の 裁 判 所 が 例 外 的 に 管 轄 権 を 行 使 することを 認 めている。そのほか 第 8 条 によれば, 第 3 条 ~ 第 7 条 に 従 って 受 訴 した 裁 判 所 は,この 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 の 事 項 的 適 用 範 囲 に 含 まれる 反 訴 について 判 断 するための 管 轄 ももつ。(2) ヨーロッパ 各 国夫 婦 財 産 制 及 び 登 録 パートナーシップ 財 産 制 について EU 規 則 が 制 定 ・ 施 行 されるまでは,各 構 成 国 の 国 内 法 上 の 管 轄 ルールが 妥 当 する。ドイツにおいては, 夫 婦 財 産 事 件 が 離 婚 等 の 附 帯 処 分 となる 場 合 には, 婚 姻 事 件 の 管 轄 に 従う。 夫 婦 財 産 事 件 が 独 立 の 裁 判 手 続 において 争 われる 場 合 の 国 際 裁 判 管 轄 は, 土 地 管 轄 に 関 するFamFG 第 262 条 第 2 項 の 準 用 による(FamFG 第 105 条 )。FamFG 第 262 条 第 2 項 は,さらに ZPOの 規 定 を 準 用 しているため, 具 体 的 には,1 請 求 の 相 手 方 の 常 居 所 地 (ZPO 第 12 条 及 び 第 13 条 準用 ),あるいは2 十 分 な 内 国 牽 連 性 がある 場 合 には 財 産 所 在 地 (ZPO 第 23 条 準 用 )の 管 轄 が 肯 定 される。 夫 婦 財 産 登 記 簿 への 登 記 , 特 に EGBGB 第 16 条 に 基 づく 外 国 法 上 の 契 約 又 は 法 定 夫 婦 財 産制 の 登 記 については, 夫 婦 の 一 方 がドイツに 常 居 所 をもつかぎり,ドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められる(FamFG 第 105 条 による 第 377 条 第 3 項 の 準 用 ) 72 。 登 録 パートナーシップ 財 産 事 件 (FamFG 第269 条 第 1 項 第 10 号 )の 国 際 裁 判 管 轄 は, 夫 婦 財 産 事 件 に 準 じて 扱 われる(FamFG 第 270 条 第 1 項 第2 文 による FamFG 第 111 条 第 9 号 の 援 用 ) 73 。オーストリアにおいては, 夫 婦 関 係 から 生 じた 財 産 法 上 の 争 いに 関 する 国 際 裁 判 管 轄 は,JN76 条 2 項 の 類 推 適 用 によるという 74 。したがって,1 一 方 配 偶 者 がオーストリア 国 籍 をもっていること(JN 第 76 条 第 2 項 第 1 号 ),2 被 告 がオーストリアに 常 居 所 をもっていること( 第 2 号 ),3原 告 がオーストリアに 常 居 所 をもつ 場 合 であって,しかも 当 事 者 双 方 の 最 後 の 共 通 常 居 所 がオーストリアにあること, 原 告 が 無 国 籍 者 であること,あるいは 婚 姻 挙 行 時 にオーストリア 国 籍 をもっていたこと( 第 3 号 )が 管 轄 原 因 となる。スイスにおいては, 夫 婦 財 産 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 は, 第 一 義 的 には,1 相 続 事 件 又 は 離 婚 ・別 居 事 件 の 管 轄 に 付 随 するとされている(IPRG 第 51 条 a 号 及 び b 号 )。2 夫 婦 財 産 事 件 が 附 帯 処 分72夫 婦 いずれもドイツに 常 居 所 をもたないが, 一 方 配 偶 者 がドイツにおいて 事 業 を 行 う 場 合 , 第 三 者 に 対 抗するためにはドイツでの 登 記 が 必 要 となる(EGBGB 第 16 条 第 1 項 )。その 場 合 の 国 際 裁 判 管 轄 は,EGHGB第 4 条 第 1 項 から 導 かれ, 主 たる 事 業 所 所 在 地 を 所 轄 する 夫 婦 財 産 登 記 簿 に 登 記 するだけで, 土 地 管 轄 が 発生 する。73 ドイツに 関 する 調 査 報 告 72 頁 参 照 。74上 述 A-3 及 びオーストリアに 関 する 調 査 報 告 参 照 。23345


ではなく 独 立 の 裁 判 手 続 において 争 われる 場 合 には, 婚 姻 の 身 分 的 効 力 ( 婚 姻 関 係 上 の 権 利 義 務 )に 関 する 管 轄 ルールが 準 用 される( 同 条 c 号 )。それによれば,(i) 夫 婦 の 一 方 の 住 所 地 ,それがなければ 夫 婦 の 一 方 の 常 居 所 地 の 管 轄 が 認 められ(IPRG 第 46 条 ),(ii) 夫 婦 がスイスに 住 所 も 常 居 所地 ももっていないが, 夫 婦 の 一 方 がスイス 国 民 であるときには, 夫 婦 の 一 方 の 住 所 地 又 は 常 居 所地 における 訴 訟 追 行 が 不 可 能 である 又 は 期 待 できない 場 合 であるかぎり, 本 国 の 管 轄 が 認 められる(IPRG 第 47 条 ) 75 。4. 考 察(1) 夫 婦 財 産 事 件 に 関 する 管 轄 原 因上 述 のように,わが 国 の 裁 判 例 及 び 学 説 においては, 夫 婦 財 産 制 に 関 する 議 論 はあまりなく,国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 に 関 する 基 準 は 明 らかではない。 土 地 管 轄 については, 夫 婦 財 産 契 約 による財 産 の 管 理 者 の 変 更 等 の 審 判 事 件 について, 夫 又 は 妻 の 住 所 地 が 管 轄 原 因 となることが 定 められている( 家 事 審 判 手 続 法 第 150 条 第 2 号 )に 過 ぎない。上 述 の 比 較 的 動 向 を 踏 まえれば, 重 要 な 管 轄 原 因 をいくつか 挙 げることができる。第 一 に, 夫 婦 財 産 事 件 は, 一 方 配 偶 者 の 死 亡 又 は 離 婚 等 による 婚 姻 解 消 時 に 問 題 となることが 多 いため,EU 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 3 条 及 び 第 4 条 ,そしてスイス IPRG 第 51 条 a 号 及 び b号 が 規 定 しているように, 第 一 義 的 には, 相 続 事 件 又 は 婚 姻 事 件 に 附 帯 して 管 轄 を 認 めるのが 相当 であると 解 される。ただし,EU 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 4 条 のように, 婚 姻 事 件 に 附 帯 して 夫婦 財 産 事 件 の 管 轄 を 認 めるのに 当 事 者 の 合 意 を 要 件 とするか 否 かは, 別 途 検 討 すべきであろう。第 二 に, 夫 婦 財 産 事 件 が 独 立 の 裁 判 手 続 において 争 われる 場 合 には, 別 途 管 轄 ルールが 必 要になる。 夫 婦 間 での 財 産 関 係 をめぐる 争 いは, 離 婚 のように 婚 姻 の 解 消 を 前 提 とするわけではない。それゆえ,EU 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 5 条 のように, 第 一 義 的 には 現 在 の 婚 姻 住 所 地 ,それがなければ 過 去 の 婚 姻 住 所 地 の 管 轄 を 認 め,それがない 場 合 に 補 充 的 な 管 轄 原 因 によることに 理由 がある。これらの 管 轄 原 因 は, 夫 婦 の 生 活 の 中 心 地 を 基 準 とするもので, 通 常 はそこに 財 産 が所 在 していることも 多 いと 解 される 76 。 補 充 的 な 管 轄 原 因 として, 被 告 の 住 所 地 のほか, 夫 婦 の共 通 本 国 の 管 轄 を 認 める 否 かは, 離 婚 , 婚 姻 無 効 又 は 取 消 し 等 の 婚 姻 事 件 と 合 わせて 検 討 することになろう。第 三 に, 夫 婦 間 においては, 夫 婦 財 産 事 件 として 個 々の 財 産 の 帰 属 が 争 いとなることもある。前 掲 ・ 神 戸 地 判 昭 和 34 年 10 月 6 日 及 び 前 掲 ・ 東 京 高 判 昭 和 61 年 1 月 30 日 などはその 例 である。このような 事 案 については, 個 々の 財 産 所 在 地 にも,その 対 象 財 産 に 関 するかぎりで 管 轄 を 認 めることも 考 えられる。EU 夫 婦 財 産 制 規 則 提 案 第 6 条 はその 趣 旨 を 定 めているほか,ドイツ 国 内75 スイスに 関 する 調 査 報 告 参 照 。76 Matrimonial Property Regimes Proposal, p. 7.24346


法 上 も ZPO 第 23 条 の 準 用 によって 財 産 所 在 地 の 管 轄 が 認 められる(ただし,ZPO 第 23 条 の 場 合 には, 管 轄 権 の 行 使 は 対 象 財 産 に 限 定 されない)。(2) 登 録 パートナーシップわが 国 の 実 質 法 上 は, 言 うまでもなく, 同 性 婚 制 度 も, 異 性 又 は 同 性 の 婚 姻 外 カップルに 法的 保 護 を 与 えるための 登 録 パートナーシップ 制 度 も 存 在 しない。そこで, 仮 に 外 国 で 成 立 した 同性 婚 又 は 登 録 パートナーシップ 等 の 有 効 性 , 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 ,あるいは 解 消 に 関 する 争 いについてわが 国 裁 判 所 に 申 立 てがなされた 場 合 には 問 題 となりうる。 学 説 においては, 同 性 婚 又 は登 録 パートナーシップ 等 の 準 拠 法 決 定 に 関 する 議 論 はあるが 77 , 国 際 裁 判 管 轄 との 関 係 では,そもそも 家 事 事 件 手 続 法 及 び 人 事 訴 訟 法 が 予 定 していない 制 度 について 家 庭 裁 判 所 が 職 分 管 轄 をもつか 否 かという 点 から 考 察 すべきことになろう。EU 登 録 パートナーシップ 財 産 制 規 則 提 案 第 3条 第 2 項 , 第 5 条 第 2 項 が, 登 録 パートナーシップ 制 度 を 承 認 していない 構 成 国 の 裁 判 所 に 管 轄権 行 使 を 拒 否 することを 認 めているのは 示 唆 的 である。なお, 同 じく 日 本 法 が 知 らない 制 度 として,( 法 定 ) 別 居 制 度 (イタリア,ブラジルなど)がある。 学 説 においては, 現 在 の 多 数 説 は, 従 来 の 通 説 とは 異 なって 78 , 別 居 に 関 する 家 庭 裁 判 所 の職 分 管 轄 を 肯 定 している。その 理 由 として, 別 居 の 要 件 及 び 手 続 は 本 質 的 に 裁 判 離 婚 と 異 ならないこと, 効 果 として 法 的 な 婚 姻 関 係 は 継 続 するが, 婚 姻 共 同 体 は 解 消 され( 夫 婦 財 産 制 の 解 消 , 未成 年 子 の 親 権 者 ・ 監 護 権 者 の 指 定 ほか), 別 居 は 一 種 の「 効 果 の 弱 い 離 婚 」といえること, 日 本 に 居住 する 外 国 人 夫 婦 ( 特 にブラジル 人 夫 婦 )が 別 居 決 定 を 得 るために 常 に 本 国 に 戻 らねばならないとすると, 大 きな 負 担 になること 等 が 挙 げられている 79 。ただし, 実 際 に 別 居 を 命 じた 裁 判 例 は,まだ 見 当 たらない。7778前 掲 注 61 参 照 。江 川 英 文 『 国 際 私 法 [ 改 訂 版 ]』( 有 斐 閣 ,1970 年 )276 頁 , 久 保 岩 太 郎 『 国 際 私 法 概 論 [ 改 訂 版 ]』( 厳 松 堂 ,1953 年 )228 頁 以 下 , 実 方 正 雄 『 国 際 私 法 概 論 』( 有 斐 閣 ,1942 年 )296 頁 。79折 茂 豊 『 国 際 私 法 各 論 [ 新 版 ]』( 有 斐 閣 ,1972 年 )314 頁 , 木 棚 照 一 ・ 松 岡 博 ・ 渡 辺 惺 之 『 国 際 私 法 概 論[ 第 三 版 補 訂 版 ]』( 有 斐 閣 ,2001 年 )192 頁 , 櫻 田 嘉 章 『 国 際 私 法 [ 第 五 版 ]』( 有 斐 閣 ,2006 年 )266 頁 以下 , 溜 池 ・ 前 掲 書 478 頁 以 下 など。 詳 細 は, 西 谷 祐 子 「わが 国 におけるブラジル 人 の 離 婚 について」 法 学 66巻 3 号 (2002 年 )302 頁 以 下 参 照 。25347


3. 離 婚 及 びその 効 果( 執 筆 担 当 : 慶 應 義 塾 大 学 北 澤 安 紀 )12003 年 ブリュッセル IIbis 規 則離 婚 、 法 定 別 居 及 び 婚 姻 無 効 事 件 の EU 域 内 での 国 際 裁 判 管 轄 及 び 裁 判 の 承 認 執 行については、2003 年 のブリュッセル IIbis 規 則 3 条 以 下 に 定 めがある。ブリュッセルIIbis 規 則 1 条 1 項 ・2 項 によれば、この 規 則 は、 離 婚 、 法 定 別 居 及 びあらゆる 形 態 で婚 姻 を 無 効 とする 事 件 のほか、 親 責 任 ( 親 権 又 は 監 護 権 )の 帰 属 、 行 使 、 委 託 、 制 限又 は 終 了 をめぐる 争 いについて 適 用 される。ブリュッセル IIbis 規 則 では、 離 婚 、 法 定 別 居 及 び 婚 姻 無 効 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 について、1 夫 婦 双 方 が 常 居 所 を 有 する 地 ( 同 規 則 3 条 1 項 a 号 1 款 )、2 夫 婦 双 方 が 最後 に 常 居 所 を 有 した 地 で、 夫 婦 の 一 方 がなおそこに 居 住 している 地 ( 同 条 1 項 a 号 2款 )、3 被 告 配 偶 者 が 常 居 所 を 有 する 地 ( 同 条 1 項 a 号 3 款 )、4 夫 婦 が 共 同 申 立 てを 行 う 場 合 には、 夫 婦 の 一 方 が 常 居 所 を 有 する 地 ( 同 条 1 項 a 号 4 款 )、5 原 告 配 偶者 の 常 居 所 地 、ただし 申 立 人 が 申 立 てを 行 う 直 前 の1 年 間 以 上 その 地 に 居 住 していた場 合 ( 同 条 1 項 a 号 5 款 )、6 原 告 配 偶 者 の 常 居 所 地 、ただし 申 立 人 が 申 立 てを 行 う直 前 の6ヶ 月 以 上 その 地 に 居 住 しており、かつ 当 該 加 盟 国 の 国 民 である(または、 連合 王 国 及 びアイルランドについては 当 該 国 のドミサイル(domicile)を 有 している) 場合 ( 同 条 1 項 a 号 6 款 )、が 管 轄 原 因 として 定 められている。また、7 夫 婦 双 方 がいずれかの 加 盟 国 の 国 籍 ( 連 合 王 国 及 びアイルランドについてはドミサイル)をもつ 場合 にも、 裁 判 管 轄 が 認 められる( 同 規 則 3 条 1 項 b 号 参 照 )。 規 則 3 条 にいう「ドミサイル」の 意 味 は、 連 合 王 国 及 びアイルランド 法 に 従 う( 同 規 則 3 条 2 項 参 照 )。このほか、 規 則 3 条 の 管 轄 原 因 に 従 い 管 轄 のある 裁 判 所 は、 反 訴 の 管 轄 も 有 する( 同 規則 4 条 )。また、 規 則 3 条 に 従 い 法 定 別 居 について 管 轄 のある 裁 判 所 は、これを 離 婚に 変 更 する 管 轄 をも 有 する( 同 規 則 5 条 )。ブリュッセル IIbis 規 則 6 条 は、 加 盟 国 に常 居 所 を 有 する 者 や 加 盟 国 の 国 民 ( 連 合 王 国 とアイルランドについては 当 該 国 の 領 域内 にドミサイルを 有 する 者 )は、 他 の 加 盟 国 においては、ブリュッセル IIbis 規 則 の 3条 、4 条 、5 条 に 規 定 される 管 轄 原 因 に 従 ってのみ 訴 えられるとしている。さらに、 規則 7 条 は、ブリュッセル IIbis 規 則 ではなく、 加 盟 国 の 国 内 法 に 基 づいて 管 轄 が 決 められる 場 合 ( 残 余 の 管 轄 (residual jurisdiction))についても 規 定 している。すなわち、1348


規 則 7 条 1 項 によれば、いかなる 加 盟 国 の 裁 判 所 も 3 条 、4 条 、5 条 に 基 づく 管 轄 を 有しない 場 合 には、 各 加 盟 国 において、 管 轄 は、 当 該 加 盟 国 の 法 律 に 従 って 決 定 されるとしている。この 7 条 と 6 条 の 規 定 をあわせて 解 釈 すると、 非 加 盟 国 の 国 民 で、 加 盟国 に 常 居 所 を 有 しない 者 が 相 手 方 となる 場 合 にはじめて、7 条 の「 残 余 の 管 轄 」(= 各加 盟 国 の 国 内 法 上 の 管 轄 ルール)に 従 い、 裁 判 管 轄 を 決 定 すべきことになる。離 婚 、 法 定 別 居 、 婚 姻 無 効 事 件 に 関 する 外 国 判 決 の 承 認 については、ブリュッセルⅡbis 規 則 21 条 以 下 の、 執 行 については、 規 則 28 条 以 下 の 規 定 に 従 う。 規 則 21 条 1項 によれば、EU のいずれかの 加 盟 国 の 裁 判 所 の 判 決 は、 他 の 加 盟 国 において、いかなる 手 続 も 経 ることなく 承 認 される。ただし、 離 婚 等 の 事 件 については、その 判 決 を承 認 することが 自 国 の 公 序 に 明 らかに 反 する 場 合 、その 訴 えの 送 達 が 敗 訴 した 当 事 者に 適 正 な 時 期 にかつ 防 御 の 機 会 を 与 えるような 方 法 でなされなかった 場 合 、 自 国 における 同 一 当 事 者 間 の 裁 判 の 判 決 に 反 する 場 合 、 及 び、 自 国 又 は 第 三 国 で 同 一 当 事 者 間の 争 いについて 先 行 する 判 決 が 存 在 し、それに 反 する 場 合 には、 承 認 されない( 同 規則 22 条 )。ブリュッセルⅡbis 規 則 においては、 国 際 訴 訟 競 合 に 関 する 規 定 も 設 けられている( 規 則 19 条 )。ブリュッセルⅡbis 規 則 のもとでは、 離 婚 等 の 事 件 について、 裁 判 管 轄が 複 数 認 められる 可 能 性 があるためである。かりに、 離 婚 、 法 定 別 居 及 び 婚 姻 無 効 等の 事 件 が、 加 盟 国 の 裁 判 所 ( 第 1 裁 判 所 )に 係 属 したのちに、 同 一 の 当 事 者 の 離 婚 等の 訴 えが 他 の 加 盟 国 の 裁 判 所 ( 第 2 裁 判 所 )に 提 起 された 場 合 には、 第 1 裁 判 所 がその 国 際 裁 判 管 轄 について 判 断 するまで、 第 2 裁 判 所 は、 判 断 を 停 止 することとされている( 規 則 19 条 1 項 )。そこでは、 先 に 訴 訟 が 係 属 した 裁 判 所 が 優 先 される。また、第 2 裁 判 所 の 判 断 の 停 止 中 に、 第 1 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 があるとの 判 断 が 当 該 裁 判所 で 下 された 場 合 には、 第 2 裁 判 所 は、 訴 えを 却 下 することになる( 規 則 19 条 3 項 )。訴 えを 却 下 された 当 事 者 は、 第 1 裁 判 所 に 反 訴 を 提 起 することができる( 規 則 19 条 3項 後 段 )。21970 年 ハーグ 離 婚 及 び 別 居 の 承 認 に 関 する 条 約離 婚 及 び 別 居 の 承 認 に 関 するハーグ 条 約 2 条 は、 間 接 管 轄 について 定 めた 規 定 であり、それによれば、 離 婚 又 は 別 居 の 判 決 は、1 相 手 方 が 判 決 国 に 常 居 所 を 有 していたとき、2 申 立 人 が 判 決 国 に 常 居 所 を 有 し、かつ、 申 立 の 日 まで 少 なくとも1 年 間 その常 居 所 を 有 していること、 又 は、 夫 婦 が 判 決 国 に 最 後 の 共 通 常 居 所 を 有 していたとき、2349


3 夫 婦 双 方 が 判 決 国 の 国 民 であったとき、4 申 立 人 が 判 決 国 の 国 民 で、かつ、 申 立 人が 判 決 国 に 常 居 所 を 有 していたこと、 又 は、 申 立 人 が、 申 立 の 日 に 先 立 つ2 年 間 に 少なくともその 一 部 が 含 まれている1 年 間 継 続 して 判 決 国 に 常 居 所 を 有 していたとき、5 離 婚 の 申 立 人 が 判 決 国 の 国 民 であり、かつ、 申 立 人 が、 申 立 の 日 に、 判 決 国 に 現 在したとき、 又 は、 夫 婦 が、 申 立 の 日 に、その 国 の 法 律 が 離 婚 を 認 めていない 国 に、 最後 の 共 通 常 居 所 を 有 していたとき、 締 約 国 で 承 認 される。また、 承 認 を 求 められた 国 の 国 内 法 によれば、それと 同 一 の 事 実 に 基 づいては 離 婚又 は 別 居 が 許 されない 場 合 があることや、その 承 認 を 求 められた 国 の 国 際 私 法 規 定 によれば、 準 拠 法 となるべき 法 律 でないものが 適 用 されたからといって、 離 婚 又 は 別 居の 承 認 を 拒 絶 することはできない(6 条 )。3わが 国 の 判 例 ・ 学 説・ 離 婚 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄渉 外 的 な 離 婚 事 件 について、 日 本 の 裁 判 所 がどのような 場 合 に 国 際 裁 判 管 轄 を 有 するかについては,よるべき 条 約 や 明 確 な 国 際 法 上 の 原 則 も、また、これを 直 接 に 規 定した 法 令 も 存 在 しないため、 解 釈 ( 条 理 )に 委 ねられてきた。最 高 裁 昭 和 39 年 3 月 25 日 大 法 廷 判 決 1 は、 戦 前 に 中 華 民 国 において 朝 鮮 人 と 婚 姻 し、戦 後 単 身 帰 国 した 元 日 本 人 妻 ( 日 本 在 住 )から、 日 本 に 来 たことのない 行 方 不 明 の 夫に 対 する 離 婚 訴 訟 について、「 離 婚 の 国 際 的 裁 判 管 轄 権 の 有 無 を 決 定 するにあたっても、被 告 の 住 所 がわが 国 にあることを 原 則 とすべき」であるが、「 原 告 が 遺 棄 された 場 合 、被 告 が 行 方 不 明 である 場 合 その 他 これに 準 ずる 場 合 においても、いたずらにこの 原 則に 膠 着 し、 被 告 の 住 所 がわが 国 になければ、 原 告 の 住 所 がわが 国 に 存 していても、なお、わが 国 に 離 婚 の 国 際 的 裁 判 管 轄 権 が 認 められないとすることは、わが 国 に 住 所 を有 する 外 国 人 で、わが 国 の 法 律 によっても 離 婚 の 請 求 権 を 有 すべき 者 の 身 分 関 係 に 十分 な 保 護 を 与 えないこととな」るとして、わが 国 の 裁 判 管 轄 権 を 肯 定 した。 住 所 が 異なる 外 国 人 夫 婦 の 離 婚 の 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 についてこの 判 決 が 示 した、 原 則 として被 告 の 住 所 地 主 義 をとり、「 原 告 が 遺 棄 された 場 合 」、「 被 告 が 行 方 不 明 である 場 合 」、「その 他 これに 準 ずる 場 合 」には、 例 外 的 に 原 告 の 住 所 地 にも 管 轄 を 認 めるという 原則 は、 昭 和 39 年 ルールと 呼 ばれ、 最 高 裁 昭 和 39 年 4 月 9 日 第 1 小 法 廷 判 決 2 において1民 集 18 巻 3 号 486 頁 。 本 判 決 以 前 の 学 説 については、 山 田 恒 久 「 離 婚 の 国 際 裁 判 管轄 」 獨 協 法 学 54 号 46 頁 参 照 。2家 月 16 巻 8 号 78 頁 。3350


も 踏 襲 された。このケースは、 日 本 在 住 のアメリカ 人 夫 からの、アメリカ 在 住 のアメリカ 人 妻 に 対 する 離 婚 訴 訟 であるが、 最 高 裁 は、この 事 件 の 事 実 関 係 は、「 原 告 が 遺 棄された 場 合 」、「 被 告 が 行 方 不 明 である 場 合 」、「その 他 これに 準 ずる 場 合 」のいずれにも 該 当 しないとして、わが 国 の 裁 判 所 の 管 轄 権 を 否 定 した。これら2つの 最 高 裁 判 決によって、 日 本 の 判 例 法 の 原 則 が 一 応 確 立 したものとされている 3 。これに 対 し、 最 高 裁 平 成 8 年 6 月 24 日 第 2 小 法 廷 判 決 4 は、 日 本 在 住 の 日 本 人 夫 からの、ドイツ 在 住 のドイツ 人 妻 に 対 する 離 婚 訴 訟 について、「 離 婚 請 求 訴 訟 においても、被 告 の 住 所 は 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 決 定 するに 当 って 考 慮 すべき 重 要 な 要 素 であり、被 告 が 我 が 国 に 住 所 を 有 する 場 合 に 我 が 国 の 管 轄 が 認 められることは、 当 然 というべきである」、「しかし、 被 告 が 我 が 国 に 住 所 を 有 しない 場 合 であっても、 原 告 の 住 所 その 他 の 要 素 から 離 婚 請 求 と 我 が 国 との 関 連 性 が 認 められ、 我 が 国 の 管 轄 を 肯 定 すべき場 合 のあることは、 否 定 し 得 ないところであり、どのような 場 合 に 我 が 国 の 管 轄 を 肯定 すべきかについては、 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 法 律 の 定 めがなく、 国 際 的 慣 習 法 の 成熟 も 十 分 とは 言 い 難 いため、 当 事 者 間 の 公 平 や 裁 判 の 適 正 ・ 迅 速 の 理 念 により 条 理 に従 って 決 定 するのが 相 当 である」とし、「 管 轄 の 有 無 の 判 断 に 当 っては、 応 訴 を 余 儀 なくされることによる 被 告 の 不 利 益 に 配 慮 すべきことはもちろんであるが、 他 方 、 原 告が 被 告 の 住 所 地 国 に 離 婚 請 求 訴 訟 を 提 起 することにつき 法 律 上 又 は 事 実 上 の 障 害 があるかどうか 及 びその 程 度 をも 考 慮 し、 離 婚 を 求 める 原 告 の 権 利 の 保 護 に 欠 けることのないよう 留 意 しなければならない」とした 上 で、 具 体 的 な 事 実 関 係 に 照 らし、ドイツにおいてはドイツ 人 妻 が 提 起 した 離 婚 訴 訟 において 判 決 が 確 定 しているが、わが 国 において、 当 該 判 決 は、 民 訴 法 200 条 2 号 ( 現 118 条 2 号 に 相 当 )の 要 件 を 欠 くためその 効 力 を 認 めることができず、かりに 原 告 たる 日 本 人 夫 がドイツに 離 婚 請 求 訴 訟 を 提起 しても、すでに 婚 姻 が 終 了 していることを 理 由 として 訴 えが 不 適 法 とされる 可 能 性が 高 く、 夫 にとっては、わが 国 に 離 婚 請 求 訴 訟 を 提 起 する 以 外 に 方 法 はないとして、わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 した。なお、この 平 成 8 年 最 高 裁 判 決 は、 夫 婦 の 一 方 が日 本 人 である 離 婚 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 初 めての 最 高 裁 判 決 であるが、わが 国の 管 轄 を 認 めるにあたり、 当 事 者 の 国 籍 には 言 及 していない。 平 成 8 年 最 高 裁 判 決 については、それが 昭 和 39 年 ルールの 枠 組 みの 中 で 判 断 されたものであるのか 否 かが 問題 となっており、この 点 については 様 々 見 解 が 主 張 されている。 昭 和 39 年 ルールの「そ34山 田 鐐 一 『 国 際 私 法 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ・2004 年 )462 頁 。民 集 50 巻 7 号 1451 頁 。4351


の 他 これに 準 ずる 場 合 」に 該 当 するとの 見 解 がある 5 一 方 で、 本 判 決 は、わが 国 に 離 婚訴 訟 を 提 起 する 以 外 に 婚 姻 関 係 を 終 了 させる 方 法 がないことを 理 由 に 日 本 の 裁 判 所 の管 轄 を 肯 定 している 点 で、いわゆる 緊 急 管 轄 を 認 めたものであるとする 見 解 6 、 国 際 裁判 管 轄 について「 当 事 者 間 の 公 平 や 裁 判 の 適 正 ・ 迅 速 の 理 念 により 条 理 に 従 って 決 定する」としていることから、マレーシア 航 空 事 件 判 決 ( 最 判 昭 和 56・10・16 民 集 35巻 7 号 1224 頁 )の 判 断 枠 組 みを 離 婚 事 件 について 踏 襲 したものとする 見 解 7 、 等 がある。離 婚 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 については、 様 々な 学 説 が 主 張 されている。 特 に、 管 轄 の基 準 として 認 められるのは 住 所 のみか、それとも、 国 籍 と 住 所 か。また、 夫 婦 の 住 所 、国 籍 が 異 なる 場 合 、いずれの 住 所 、 国 籍 を 基 準 とするのか、について 見 解 が 対 立 している。国 籍 については、これを 管 轄 の 決 定 基 準 とする 説 8 とそれを 否 定 する 説 9 がある。 最近 では、 国 籍 のみを 管 轄 の 基 礎 とする 見 解 は 存 在 せず、それを 管 轄 の 決 定 基 準 とする場 合 にも、 補 充 的 にのみ 用 いるという 見 解 が 示 されている 10 。 国 籍 を 管 轄 の 決 定 基 準とする 説 の 中 には、 特 に 夫 婦 が 国 籍 を 異 にする 場 合 、 夫 婦 いずれの 本 国 にも 管 轄 を 認める 立 場 が 多 数 説 であるが、 被 告 の 本 国 にのみ 管 轄 を 認 める 立 場 、 夫 の 本 国 のみに 管轄 を 認 める 立 場 もある。 住 所 を 管 轄 原 因 とする 場 合 、 特 に 夫 婦 が 住 所 を 異 にするときは、 夫 婦 いずれの 住 所 地 国 にも 管 轄 を 認 める 説 、 被 告 住 所 地 国 の 管 轄 を 原 則 としつつ、遺 棄 等 の 特 別 の 事 情 がある 場 合 に 例 外 的 に 原 告 住 所 地 国 の 管 轄 を 肯 定 する 説 11 が 有 力に 主 張 されてきた。 最 高 裁 39 年 判 決 は、この 後 者 の 説 に 従 ったものといえる。1961 年 の 法 制 審 議 会 国 際 私 法 小 委 員 会 による「 法 例 改 正 要 綱 試 案 ( 婚 姻 の 部 )」7離 婚 の 裁 判 管 轄 権 第 15では、 以 下 のような 提 案 が 示 されている。5山 田 ・ 前 掲 書 463 頁 。6多 喜 寛 ・ 平 成 8 年 重 要 判 例 解 説 (ジュリスト 1113 号 )287 頁 、 道 垣 内 正 人 ・ジュリスト 1120 号 133 頁 、 出 口 耕 自 『 基 本 論 点 国 際 私 法 〔 第 2 版 〕』( 青 林 書 院 ・2001 年 )243 頁 ほか。7横 溝 大 「 最 高 裁 判 所 民 事 判 例 研 究 」 法 協 115 巻 5 号 689 頁 。8久 保 岩 太 郎 「 国 際 離 婚 事 件 に 関 するわが 裁 判 権 」 一 橋 論 叢 36 巻 1 号 10 頁 ほか。9池 原 季 雄 「 離 婚 に 関 する 国 際 私 法 上 の 二 、 三 の 問 題 」 家 月 4 巻 12 号 6 頁 、 道 垣 内 正人 「 離 婚 事 件 の 国 際 的 裁 判 管 轄 権 」ひろば 39 巻 11 号 24 頁 、 矢 澤 昇 治 「 渉 外 離 婚 訴 訟における 国 際 裁 判 管 轄 について(2・ 完 )」 熊 本 法 学 44 号 13 頁 等 参 照 。10渡 辺 惺 之 ・ 判 例 評 論 367 号 ( 判 例 時 報 1315 号 )9 頁 、 山 田 ( 恒 )・ 前 掲 注 67 頁 、 貝瀬 幸 雄 「 離 婚 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 小 考 」 名 古 屋 大 学 法 政 論 集 140 号 22 頁 ほか。11池 原 ・ 前 掲 論 文 6 頁 以 下 、 江 川 英 文 『 国 際 私 法 ( 改 訂 版 )〔 有 斐 閣 全 書 〕』274 頁 ほか。5352


甲 案1. 被 告 が 日 本 に 住 所 を 有 するときは、 日 本 の 裁 判 所 に 管 轄 権 がある。2. 次 の 場 合 には、 被 告 の 住 所 が 日 本 になくても、 原 告 が 日 本 に 住 所 を 有 するときは、日 本 の 裁 判 所 に 管 轄 権 がある。イ 原 告 が 遺 棄 された 場 合 、 被 告 が 国 外 に 追 放 された 場 合 、 被 告 が 行 方 不 明 である場 合 その 他 これに 準 ずる 場 合ロ 被 告 が 応 訴 した 場 合乙 案当 事 者 のいずれか 一 方 が 日 本 人 であるとき 又 は 日 本 に 住 所 を 有 するときは、 日 本 の裁 判 所 に 管 轄 権 があるものとする。このほか、1970 年 の「 離 婚 及 び 別 居 の 承 認 に 関 するハーグ 条 約 」2 条 が 定 める 管 轄規 則 や、 改 正 前 の 人 事 訴 訟 手 続 法 1 条 を 類 推 又 は 参 考 として、 婚 姻 住 所 地 を 管 轄 の 決定 基 準 とすることも 主 張 されている。もっとも、 人 事 訴 訟 手 続 法 は、 平 成 15 年 の 改 正によって 人 事 訴 訟 法 となり、 裁 判 管 轄 については、「 婚 姻 住 所 地 」から「 当 事 者 が 普 通裁 判 籍 を 有 する 地 」へと 改 められている( 人 事 訴 訟 法 4 条 参 照 )。・ 手 続 の 調 整 問 題裁 判 離 婚 主 義 をとる 国 の 法 が 離 婚 の 準 拠 法 である 場 合 に、わが 国 の 調 停 又 は 審 判 手続 によることができるか。わが 国 の 多 数 説 は、 調 停 離 婚 も 審 判 離 婚 も 当 事 者 の 意 思 に基 礎 を 置 く 離 婚 制 度 であることから、 離 婚 準 拠 法 上 、 裁 判 離 婚 しか 認 められていない場 合 には、それらの 手 続 によることはできないとする 12 。それに 対 し、 家 庭 裁 判 所 の実 務 は、 調 停 前 置 主 義 を 前 提 に、 渉 外 離 婚 について、 調 停 による 離 婚 や 審 判 による 離婚 を 認 めている。そこで、こういった 実 務 を 考 慮 してか、 調 停 離 婚 も 審 判 離 婚 も 当 事者 の 自 由 に 任 されているのではなく、 常 に 裁 判 所 の 判 断 が 加 わる 一 種 の 簡 易 裁 判 であることを 理 由 に、これらを 裁 判 離 婚 の 一 種 と 解 する 説 13 が 主 張 されているほか、わが手 続 法 の 精 神 から 渉 外 離 婚 についても 調 停 前 置 主 義 を 認 め、 家 事 審 判 法 23 条 に 準 じた審 判 を 行 うべきであるとする 説 14 もある。 近 時 は、23 条 審 判 説 を 支 持 するものが 増 えてきている 15 。また、 日 本 の 手 続 にどこまでの 代 行 可 能 性 が 認 められるかについては、12折 茂 豊 『 国 際 私 法 〔 各 論 〕〔 新 版 〕〔 法 律 学 全 集 〕』( 有 斐 閣 ・1972 年 )305 頁 、 溜 池良 夫 『 国 際 私 法 講 義 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ・2005 年 )463 頁 、 山 田 ・ 前 掲 注 449 頁 。13久 保 岩 太 郎 『 国 際 身 分 法 の 研 究 』( 有 信 堂 ・1973 年 )129 頁 。14海 老 沢 美 広 「 国 際 離 婚 法 三 題 」 久 保 還 暦 329 頁 。15秌 場 準 一 ・ジュリスト 864 号 (1986 年 )113 頁 、 澤 木 敬 郎 ・ 判 タ 454 号 (1982 年 )6353


抽 象 的 に 論 じられるべき 問 題 ではなく、 個 々の 事 件 毎 に 離 婚 準 拠 法 上 の 裁 判 離 婚 の 実体 をよくみながら、 判 断 すべきであるといわれている 16 。このほか、 別 居 の 準 拠 外 国 法 が 裁 判 上 の 別 居 を 認 めている 場 合 、 日 本 で 手 続 を 行 いうるものとするか 議 論 がある。 別 居 の 準 拠 法 が 協 議 上 の 別 居 を 認 めている 場 合 に、わが 国 でこれを 請 求 しうることについて 学 説 は 一 致 している。しかし、 裁 判 上 の 別 居 については、わが 国 に 制 度 がないことや 別 居 の 裁 判 についての 手 続 規 定 がないことから手 続 の 代 行 可 能 性 が 問 題 となる。 学 説 は、わが 国 で 別 居 の 裁 判 ができないとする 説 17 とわが 国 の 離 婚 手 続 を 別 居 手 続 に 適 応 させて、 日 本 の 裁 判 所 に 別 居 の 判 決 を 請 求 できるとする 説 18 に 分 かれている。・ 外 国 離 婚 判 決 の 承 認外 国 で 下 された 離 婚 判 決 がわが 国 において 効 力 を 有 するか 否 かについては、 判 例 ・学 説 ・ 先 例 の 立 場 は 分 かれている。かつての 通 説 は、この 問 題 を 一 般 の 外 国 判 決 の 承認 と 区 別 し、 離 婚 判 決 のような 形 成 判 決 の 特 質 に 鑑 み、 法 例 の 定 める 離 婚 の 準 拠 法 に従 って 行 われた 離 婚 であればこれを 認 め( 準 拠 法 要 件 )、 旧 民 事 訴 訟 法 200 条 ( 現 118条 )が 4 号 要 件 を 除 いて 類 推 適 用 されるとしていた 19 。その 後 は、 外 国 離 婚 判 決 においても 国 家 機 関 の 判 断 行 為 が 存 在 するとして、 外 国 判 決 の 承 認 に 関 する 旧 民 事 訴 訟 法200 条 ( 現 118 条 )が 4 号 を 除 いて、 類 推 適 用 ないし 準 用 されるとする 見 解 が 多 数 を占 めたが、 近 時 の 裁 判 例 、 戸 籍 実 務 ならびに 有 力 な 見 解 は、 条 はそのまま 外 国 離 婚 判決 にも 適 用 されるものとしている 20 。しかし、 民 事 訴 訟 法 118 条 を 直 接 適 用 する 説 に対 しては、4 号 の 相 互 の 保 証 の 要 件 は、 財 産 関 係 判 決 ついて 特 に 執 行 との 関 係 で 形 成されたものであり、 身 分 形 成 関 係 訴 訟 には 性 質 上 適 用 の 余 地 がないと 批 判 されている。3 頁 、 鳥 居 淳 子 ・ 渉 外 判 例 百 選 〔 第 2 版 〕125 頁 。16鳥 居 ・ 前 掲 125 頁 、 佐 藤 やよひ・ジュリスト 1064 号 (1995 年 )126 頁 ほか。この点 につき、より 詳 しくは、 青 木 清 「 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 第 27 条 離 婚 」 櫻 田 嘉 章= 道 垣 内 正 人 編 『 注 釈 国 際 私 法 第 2 巻 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 §§24〜43・ 附 則 』( 有 斐 閣 ・2011 年 )53〜54 頁 を 参 照 。17江 川 ・ 前 掲 書 276 頁 、 久 保 岩 太 郎 『 国 際 私 法 概 論 〔 改 訂 版 〕』( 厳 松 堂 ・1954 年 )228〜229 頁 ほか。18折 茂 ・ 前 掲 書 314 頁 、 溜 池 ・ 前 掲 書 455 頁 、 山 田 ・ 前 掲 書 458 頁 、 櫻 田 嘉 章 『 国 際私 法 〔 第 5 版 〕』( 有 斐 閣 ・2008 年 )275 頁 ほか。19江 川 英 文 「 外 国 判 決 の 承 認 」 法 協 50 巻 11 号 2054 頁 、 昭 和 25・12・22 民 事 甲 3231号 民 事 局 長 回 答 。20東 京 地 判 昭 和 46・12・17( 判 例 時 報 665 号 72 頁 )、 昭 和 51・1・14 民 2 第 2800 号民 事 局 長 通 達 、 山 田 ・ 前 掲 書 473 頁 、 林 脇 トシ 子 ・ジュリスト 513 号 113 頁 ほか。7354


4. 血 縁 による 親 子 関 係( 執 筆 担 当 : 九 州 大 学 小 池 泰 )ⅰ 学 説実 親 子 関 係 事 件 の 管 轄 原 因 について 1 、 学 説 上 は、 同 じ 人 事 訴 訟 である 婚 姻 ・ 離 婚 事 件 の場 合 と 同 様 に、 被 告 の 住 所 地 (1)が 原 則 とされている 2 。これに 加 えて、 子 の 保 護 の 観 点から 子 の 住 所 地 3 (2)を 認 めるものも 多 い 4 。さらに、とりわけ 戸 籍 の 訂 正 のために 親 子 関 係 の 不 存 在 (・ 存 在 )の 確 認 判 決 が 必 要 となる 局 面 があることを 理 由 として 5 、 国 籍 を 管 轄 原 因 に 加 えること(3 本 国 管 轄 )も 主 張 されている 6 。ⅱ 裁 判 例1 被 告 ・ 相 手 方 の 住 所 地 国 によるものとしては、 以 下 のものがある。嫡 出 否 認 (13、27、35、57、58、60)、 親 子 関 係 不 存 在 確 認 (02、05、06、08、11、12、14、15、17、19、20、21、24、25、29、31、50、56、59)、 親 子 関 係 存 在 確 認 (10、28、30、1文 献 としては、 江 川 英 文 「 国 際 私 法 に 於 ける 裁 判 管 轄 権 ( 三 ・ 完 )」 法 協 60 巻 3 号 369 頁 、 海 老 沢 美 広 「 渉 外 親 子 関 係事 件 をめぐる 一 考 察 」 国 際 法 外 交 雑 誌 68 巻 1 号 35 頁 、 池 原 季 雄 ・ 平 塚 真 「 渉 外 訴 訟 における 裁 判 管 轄 」および 溜 池 良 夫「 渉 外 人 事 訴 訟 および 家 事 審 判 の 諸 問 題 」『 実 務 民 事 訴 訟 法 講 座 6』( 日 本 評 論 社 、1971 年 )3 頁 および 123 頁 、 松 岡 博 「 国際 家 事 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 」 同 『 国 際 家 族 法 の 理 論 』( 大 阪 大 学 出 版 会 、2002 年 。 初 出 は 1973 年 )159 頁 、 山 田 鐐 一 「 人事 訴 訟 事 件 の 裁 判 管 轄 権 」『 国 際 私 法 の 争 点 』(1980 年 )147 頁 、 石 黒 一 憲 「 渉 外 訴 訟 における 訴 え 提 起 」『 講 座 民 事 訴 訟 2訴 訟 の 提 起 』( 弘 文 堂 、1984 年 ) 石 黒 一 憲 『 現 代 国 際 私 法 ( 上 )』( 東 京 大 学 出 版 会 、1986 年 )、 岡 垣 学 ・ 田 中 恒 朗 「 親 子 関係 事 件 の 国 際 的 裁 判 管 轄 権 」『 注 解 人 事 訴 訟 手 続 法 』( 青 林 書 院 、1987 年 )300 頁 以 下 、 高 橋 宏 志 「 国 際 裁 判 管 轄 」 澤 木 敬郎 ・ 青 山 善 充 『 国 際 民 事 訴 訟 法 の 理 論 』( 有 斐 閣 、1987 年 )31 頁 、 村 重 慶 一 「 渉 外 親 子 関 係 存 否 確 認 事 件 の 裁 判 管 轄 権 とその 準 拠 法 」『 講 座 実 務 家 事 審 判 法 5』( 日 本 評 論 社 、1990 年 )203(203-206) 頁 、 矢 澤 曻 治 「 身 分 関 係 事 件 の 国 際 的 裁 判管 轄 」『 演 習 国 際 私 法 [ 新 版 ]』( 有 斐 閣 、1992 年 )260 頁 、 西 島 太 一 「 身 分 関 係 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 総 論 ‐ 管 轄 権 の 判 断手 法 に 関 する 一 つの 仮 説 ‐」 阪 法 46 巻 6 号 981 頁 (1997 年 )・ 西 島 太 一 「 身 分 関 係 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 総 論 ‐ 総 論 に 付随 する 諸 問 題 ‐」 阪 法 47 巻 2 号 427 頁 (1997 年 )、 道 垣 内 正 人 「 渉 外 嫡 出 親 子 関 係 の 成 否 の 準 拠 法 と 国 際 裁 判 管 轄 」 判 タ1100 号 197 頁 (2002 年 )、 渡 辺 惺 之 「 渉 外 実 親 子 関 係 の 国 際 裁 判 管 轄 と 準 拠 法 」 野 田 愛 子 ・ 梶 村 太 一 編 『 新 家 族 法 実 務 大系 2』( 新 日 本 法 規 、2008 年 )639 頁 、 松 本 博 之 『 人 事 訴 訟 法 第 2 版 』( 弘 文 堂 、2007 年 )107 頁 、 司 法 研 修 所 編 『 渉 外 家事 ・ 人 事 訴 訟 事 件 の 審 理 に 関 する 研 究 』( 法 曹 会 、2010 年 )、などがある。2山 田 鐐 一 ・ジュリ 343 号 145 頁 ( 判 例 17 評 釈 )。 法 例 改 正 要 綱 試 案 ( 親 子 の 部 )(1972 年 ) 四 も、 被 告 の 常 居 所 地 国 に 国際 裁 判 管 轄 権 を 認 めるのを 原 則 とした 上 で、 例 外 的 に 原 告 の 常 居 所 地 とする 場 合 を 認 めていた( 山 田 鐐 一 「 法 例 改 正 要 綱 試案 ( 親 子 の 部 ) 解 説 」 民 商 72 巻 2 号 3 頁 (1975 年 )。なお、「 当 事 者 はいずれか 一 方 が 常 居 所 または 国 籍 を 有 する 国 の 裁 判所 」とする 立 場 が 別 案 として 掲 げられている)。被 告 の 住 所 地 に 管 轄 を 認 めることに 対 しては、 親 子 関 係 事 件 において 親 と 子 は 対 等 な 立 場 にあるわけではないこと、 利益 、 採 証 上 の 便 宜 は 子 の 住 所 地 国 にあるのが 通 常 であることなどから、 批 判 もある( 佐 藤 やよひ・ジュリ 881 号 145 頁 ( 判例 45 評 釈 ))。3未 成 年 者 の 住 所 を 親 権 と 関 連 づけて 判 断 すべきか、については、 西 島 ・ 諸 問 題 432-4 頁 を 参 照 。4子 の 住 所 地 国 の 裁 判 所 に 管 轄 権 を 認 める 場 合 でも、 離 婚 事 件 についての 最 大 判 昭 和 39・3・25 民 集 18 巻 3 号 486 頁 の 特段 の 事 情 として 認 める、というように 例 外 的 な 取 り 扱 いとするもの( 鳥 居 淳 子 ・ジュリ 309 号 91 頁 ( 判 例 15 評 釈 ); 島 野穹 子 ・ジュリ 407 号 130 頁 ( 判 例 21 評 釈 ); 廣 江 健 司 ・ジュリ 831 号 109 頁 ( 判 例 42 評 釈 ); 石 黒 ・43 頁 ; 石 黒 ( 上 )338頁 など)、 子 の 住 所 地 を 被 告 住 所 と 同 等 の 管 轄 原 因 とするもの、がある( 桑 田 三 郎 ・ジュリ 628 号 244-5 頁 ( 判 例 39 評 釈 );あき 場 準 一 ・ 昭 和 57 年 重 判 解 説 282 頁 )。5国 籍 を 原 則 的 な 管 轄 原 因 とするのは、 江 川 ・388 頁 である(なお、( 子 の) 居 住 地 も 管 轄 原 因 と 認 めるが、これは 便 宜 上の 必 要 からにすぎないとしている)。また、 海 老 沢 ・48 頁 は、とりわけ 親 子 関 係 不 存 在 確 認 の 訴 えについて、それが 戸 籍 訂正 の 手 段 として 利 用 されていることに 鑑 み、 戸 籍 の 属 人 主 義 的 取 り 扱 いとの 調 和 をも 挙 げて、 本 国 管 轄 を 認 めるべきとする( 在 外 日 本 人 が 日 本 の 裁 判 所 に 親 子 関 係 不 存 在 確 認 の 訴 えを 提 起 できるようにする 点 に 狙 いがある)。これに 対 して、 西 島 ・ 諸 問 題 434-5 頁 は、ここでの 問 題 は 国 籍 のみを 管 轄 原 因 とすることにあるのではなく、 戸 籍 の 訂 正 ・変 更 の 必 要 性 、 財 産 ・ 利 害 関 係 人 の 所 在 、 日 本 社 会 への 定 着 性 から 日 本 の 管 轄 が 認 められるか 否 かが 判 断 されるべきであって、 本 国 管 轄 という 評 価 は 正 確 でないとする。6国 籍 を 管 轄 原 因 とすることについては、すでに、「 国 籍 は 基 準 とすべきではないとする 傾 向 にある」( 溜 池 ・142 頁 )と指 摘 されていた。しかし、 近 時 でも、「 渉 外 親 子 関 係 事 件 に 関 する 具 体 的 な 決 定 基 準 とされるのは、 当 事 者 の 国 籍 と 住 所 の二 つを 上 げるのが 通 例 である」( 岡 垣 ・317 頁 。 高 橋 ・74 頁 も 住 所 と 国 籍 を 並 列 している)とするものがある 一 方 で、「 近時 の 学 説 において、この 管 轄 原 因 を 原 則 的 に 肯 定 する 立 場 はほとんど 見 られない……」( 矢 澤 ・262 頁 )とするものもある。1355


32)、 認 知 の 許 可 (51)、 認 知 の 訴 え(34、36、43、47、48、52、62)、 認 知 無 効 (01、44( 被 告 の 生 前 の 最 後 の 住 所 ))。2 原 告 ・ 申 立 人 の 住 所 地 国 によるものとしては、 以 下 のものがある。親 子 関 係 存 在 確 認 (53( 被 告 両 親 とも 死 亡 ))、 親 子 関 係 不 存 在 確 認 (すべて 子 が 原 告 である。03、18、22、26、37、38、39、45、(49?)、55)、 認 知 の 訴 え(04( 死 後 認 知 )、33( 死 後 認 知 )、42)、 認 知 無 効 (15( 子 が 原 告 )、46( 認 知 者 が 申 立 人 )、54( 子 が 原 告 、 認知 者 すでに 死 亡 ))。3その 他 としては、 以 下 のものがある。40( 親 子 関 係 不 存 在 確 認 、 合 意 管 轄 ?)、41( 親 子 関 係 不 存 在 確 認 、 当 該 親 子 関 係 の 第 三者 たる 原 告 の 住 所 地 国 )、61( 反 訴 としての 親 子 関 係 不 存 在 確 認 )、63( 不 明 )。* 判 例 一 覧01: 大 阪 家 裁 堺 支 審 昭 和 29・2・6 家 月 6 巻 9 号 34 頁 : 認 知 無 効 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 成 年 子 。 日 本 国 籍 )→ 相 手 方 ( 認 知 者 。 中 国 籍 。 日 本 に 住 所 )。子 の 母 が 勝 手 に 認 知 届 を 作 成 ・ 提 出 した 事 案 。02: 東 京 地 判 昭 和 29・8・26 下 民 集 5 巻 8 号 1371 頁 : 親 子 関 係 の 存 在 確 認 ・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 ( 父 。 北 朝 鮮 国 籍 )→ 被 告 ( 北 朝 鮮 国 籍 。 未 成 年 子 。 日 本 で 原 告 と 生 活 。 母 は 原 告 の 妻 ( 日 本 国 籍 )ですでに 死 亡 )原 告 ・ 被 告 の 帰 化 申 請 にあたり、 両 者 の 戸 籍 が 北 朝 鮮 にあって 親 子 関 係 の 証 明 ができず、 被 告 の 法 定 代 理 人 として 原 告が 帰 化 申 請 手 続 を 行 うことができないことから、 確 認 を 求 めたもの。03: 横 浜 地 裁 横 須 賀 支 判 昭 和 31・8・17 下 民 集 7 巻 8 号 2231 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 ( 未 成 年 子 )→ 被 告 ( 出 生 時 における 母 の 夫 。アメリカ 国 籍 。 所 在 不 明 )原 告 は 母 と 被 告 との 婚 姻 破 綻 中 出 生 子 で( 後 に 離 婚 成 立 )、 被 告 との 父 子 関 係 はないことから、 母 の 子 として 戸 籍 に 登 載するため、 親 子 関 係 の 不 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 。 被 告 は 米 国 帰 国 後 音 信 不 通 。04: 東 京 地 判 昭 和 32・7・31 家 月 9 巻 10 号 35 頁 :( 死 後 ) 認 知 の 訴 え・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 → 検 察 官 ( 認 知 すべき 者 は 米 国 籍 で、すでに 死 亡 )05: 大 津 家 審 昭 和 32・8・13 家 月 9 巻 8 号 45 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 相 手 方 1の 母 。 日 本 国 籍 )→ 相 手 方 1( 未 成 年 子 。 韓 国 籍 。 申 立 人 と 生 活 )・ 相 手 方 2( 申 立 人 の 元 夫 。 韓 国 籍 。日 本 に 住 所 ) 相 手 方 1は、 申 立 人 と 相 手 方 2の 事 実 上 の 離 婚 中 に 出 生 した 子 で、 真 実 の 父 は 申 立 人 の 現 夫 。06: 大 阪 家 審 昭 和 34・5・13 家 月 11 巻 7 号 81 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 成 年 子 と 未 成 年 子 。 韓 国 籍 。 住 所 は 日 本 )→ 相 手 方 ( 母 の 夫 。 韓 国 籍 。 住 所 は 日 本 )07: 京 都 家 審 昭 和 34・12・9 家 月 12 巻 4 号 102 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)2356


申 立 人 ( 日 本 国 籍 。 相 手 方 1の 真 実 の 母 )→ 相 手 方 1( 未 成 年 子 )・ 相 手 方 2( 中 国 籍 。 相 手 方 1の 父 の 妻 )相 手 方 1は、 申 立 人 と 相 手 方 2の 夫 Aとの 間 にできた 子 で、 相 手 方 2とAの 嫡 出 子 として 出 生 届 がされた 事 案 。08: 大 阪 家 審 昭 和 35・5・11 家 月 12 巻 8 号 157 頁 :( 母 子 ) 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 子 。 朝 鮮 国 籍 。 住 所 は 日 本 )→ 相 手 方 ( 申 立 人 の 父 の 妻 。 朝 鮮 国 籍 。 住 所 は 日 本 )09: 大 阪 家 裁 堺 支 審 昭 和 35・7・29 家 月 12 巻 11 号 140 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 子 )→ 相 手 方 ( 母 の 夫 。 帰 化 して 日 本 国 籍 を 取 得 )申 立 人 は、 相 手 方 の 妻 が 婚 姻 前 に 他 男 との 間 に 設 けた 子 だったが、 婚 姻 後 に 相 手 方 の 嫡 出 子 として 出 生 届 がされた。10: 前 橋 家 審 昭 和 36・1・23 家 月 13 巻 6 号 166 頁 : 親 子 関 係 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 相 手 方 の 実 の 母 。 日 本 国 籍 )→ 相 手 方 ( 成 年 子 。 日 本 に 住 所 )相 手 方 は、 申 立 人 とその 内 縁 の 夫 M との 間 に 生 まれた 子 だが、( 韓 国 ) 戸 籍 上 は M とその 妻 の 嫡 出 子 となっている。そして、 申 立 人 と 相 手 方 は 母 子 として、 申 立 人 と M は 内 縁 夫 婦 として 日 本 で 生 活 している。M の 妻 は 朝 鮮 から 離 れたことはなく、 現 在 は 生 死 不 明 である。11: 東 京 家 審 昭 和 36・6・9 家 月 13 巻 11 号 113 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 相 手 方 の 戸 籍 上 の 父 母 。 中 華 民 国 籍 。 中 華 民 国 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 未 成 年 子 。 中 華 民 国 籍 。 日 本 に 住 所 )12: 前 橋 家 審 昭 和 36・11・14 家 月 14 巻 4 号 224 頁 : 親 子 関 係 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 相 手 方 の 真 実 の 親 。 米 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 未 成 年 子 。 日 本 国 籍 。 住 所 は 申 立 人 と 同 じ)相 手 方 は 申 立 人 の 子 だが、 申 立 人 の 姉 夫 婦 の 戸 籍 に 嫡 出 子 として 届 出 がなされた( 真 実 は 申 立 人 とかつて 内 縁 関 係 にあった 日 本 男 性 との 間 にできた 子 で、 申 立 人 は 米 国 人 と 婚 姻 して 米 国 籍 を 取 得 し、 相 手 方 とともに 米 国 で 暮 らすために、 親 子関 係 を 明 確 にしておく 必 要 があることから、 本 件 事 件 に 至 った)13: 東 京 家 審 昭 和 38・7・4 家 月 16 巻 4 号 163 頁 : 嫡 出 否 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 相 手 方 の 父 と 推 定 される 夫 。 米 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 未 成 年 子 。 日 本 に 住 所 )14: 東 京 家 審 昭 和 38・10・22 判 タ 155 号 222 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 夫 婦 。 韓 国 籍 。 住 所 は 日 本 )→ 相 手 方 ( 未 成 年 子 。 日 本 に 住 所 。 特 別 代 理 人 あり)外 国 人 登 録 原 票 上 、 相 手 方 は 申 立 人 夫 婦 の 子 となっているが、 真 実 は 他 人 の 子 を 養 子 縁 組 手 続 によらず 引 き 取 って 実 子同 然 に 養 育 してきたというにすぎないとして、 親 子 関 係 の 不 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 。15: 秋 田 地 判 昭 和 38・10・31 判 タ 155 号 220 頁 : 父 子 関 係 の 認 知 無 効 、 母 子 関 係 の 不 存 在 確 認 ( 認 容 )原 告 ( 朝 鮮 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 被 告 1( 朝 鮮 国 籍 ・ 住 所 不 明 )・ 被 告 2( 朝 鮮 国 籍 ・ 日 本 に 住 所 )原 告 は、 被 告 1・ 被 告 2を 父 母 として 出 生 届 がなされているが、 両 者 との 父 子 ・ 母 子 関 係 はない 事 案 。「 外 国 人 間 の 親 子 関 係 に 関 する 事 件 につき 日 本 の 裁 判 所 の 裁 判 権 が 及 ぶ 範 囲 は 原 則 としては 当 該 親 子 関 係 の 当 事 者 の 国籍 いかんにより 決 すべきであり、 少 なくとも 当 該 親 子 関 係 の 当 事 者 の 一 方 が 日 本 の 国 籍 を 有 する 場 合 にはこれに 対 し 日 本の 裁 判 所 の 裁 判 権 が 及 ぶと 解 すべきであるが、さらに 当 事 者 双 方 がいずれも 日 本 の 国 籍 を 有 しない 場 合 であっても、 当 事3357


者 が 日 本 に 住 所 を 有 する 場 合 すなわち 当 事 者 双 方 が 日 本 に 住 所 を 有 するときは 勿 論 その 一 方 のみが 日 本 に 住 所 を 有 するにすぎない 場 合 においても、 当 該 親 子 関 係 は 我 国 の 公 益 と 密 接 な 関 係 を 有 するのであるから、これに 対 し 日 本 の 裁 判 所 の 裁判 権 が 及 ぶと 解 すべきである。」16: 神 戸 地 判 昭 和 38・11・1 判 タ 157 号 186 頁 : 親 子 関 係 存 在 確 認 ・ 認 容原 告 ら( 未 成 年 子 。 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 被 告 ( 米 国 籍 。 日 本 に 住 所 。 原 告 の 母 の 現 夫 )原 告 らは、 親 権 者 である 母 ( 日 本 国 籍 )の 前 夫 との 婚 姻 中 出 生 子 と 解 消 後 300 日 以 内 出 生 子 だが、 真 実 は 被 告 ( 母 の 現夫 )との 間 の 子 であるとして、 親 子 関 係 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 (なお、 被 告 は 請 求 原 因 事 実 をすべて 認 めている)。本 件 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 成 文 の 法 規 はないが、「 当 事 者 が 国 籍 を 異 にしていても、 当 事 者 双 方 いずれも 日 本 国 内 に 住所 を 有 するときは、わが 国 の 裁 判 所 にその 裁 判 管 轄 権 を 認 めるのが 条 理 に 合 致 するものと 謂 うべきである。( 改 行 )けだし、親 子 関 係 存 在 確 認 訴 訟 の 特 質 並 びに 裁 判 における 事 実 確 定 の 適 正 を 期 する 趣 旨 からして、 当 事 者 双 方 住 所 の 存 する 国 の 裁判 所 にその 管 轄 権 を 認 めるのが 合 理 的 であり、 且 つ 被 告 が 外 国 人 たることを 理 由 としてわが 国 の 裁 判 管 轄 権 を 否 定 すべき国 内 法 上 及 び 国 際 法 上 の 根 拠 もないからである。」17: 大 阪 家 審 昭 和 39・9・12 家 月 17 巻 2 号 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 夫 婦 。 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )韓 国 戸 籍 上 申 立 人 は 相 手 方 の 嫡 出 子 となっているが、これは 不 実 の 届 出 ( 藁 の 上 からの 養 子 の 事 案 のようである)に 基づくものであり、 真 実 は 日 本 人 女 性 の 子 であるとして、 後 者 との 母 子 関 係 を 明 らかにする 前 提 として 申 立 てをした 事 案 。「 当 事 者 双 方 が 外 国 籍 を 有 していても、いずれも 日 本 に 住 所 があり、また 永 住 の 意 思 をもつこと(……)の 明 らかな 本件 について、わが 国 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 することは 明 らかである。」18: 大 阪 地 判 昭 和 39・10・9 下 民 集 15 巻 10 号 1419 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・ 認 容原 告 ( 未 成 年 子 。 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 被 告 ( 韓 国 戸 籍 上 は 原 告 の 母 。 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 なし。 所 在 も 不 明 )「わが 国 に 住 所 を 有 する 韓 国 人 たる 原 告 が、わが 国 に 住 所 を 有 しない 戸 籍 上 のみの 母 (……) 韓 国 人 たる A を 被 告 として 母 子 関 係 不 存 在 確 認 を 求 めるのについて、わが 国 の 裁 判 権 を 肯 定 するには、 国 際 条 理 上 、 被 告 の 住 所 がわが 国 にあることを 原 則 とすると 解 せられる。」しかし、 本 件 では、 原 告 は 出 生 以 来 大 阪 市 で 父 ( 被 告 の 夫 )と 母 ( 父 の 事 実 上 の 妻 )によって 育 てられており、 戸 籍 上 のみの 母 ( 父 の 妻 )である 被 告 とは 一 面 識 もなく、また、 父 も 来 日 以 来 一 度 も 朝 鮮 に 帰 省 したことはなく、 父 と 被 告 とは 終 戦 前 から 音 信 普 通 で、 被 告 の 所 在 も 不 明 であること、 原 告 と 父 母 を 同 じくする 妹 については原 告 と 同 様 に 父 の 戸 籍 に 被 告 を 母 として 登 載 されていたが 母 の 戸 籍 に 入 ることができたこと、などの 事 情 が 認 められる。そして、 本 件 の 訴 えのように「 被 告 が 所 在 不 明 であり、かつわが 国 に 本 件 の 裁 判 管 轄 権 を 認 めても 弊 害 があるとは 考 えられないような 事 情 は、 本 件 についてわが 国 に 裁 判 管 轄 権 を 認 めるべき 特 別 の 事 情 にあたると 解 するのが、 国 際 私 法 生 活 における 正 義 公 平 の 理 念 に 添 うものということができる( 最 高 裁 昭 和 37 年 (オ) 第 449 号 昭 和 39 年 3 月 25 日 判 決 参 照 )。」とする。19: 大 阪 地 判 昭 和 40・3・30 下 民 集 16 巻 3 号 549 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・ 認 容原 告 → 被 告 1( 中 華 民 国 籍 。 現 在 は 所 在 不 明 (それまで 日 本 で 生 活 ))・ 被 告 2( 未 成 年 子 。 日 本 に 住 所 )原 告 は、 被 告 2は 被 告 1・Aの 夫 婦 の 婚 姻 中 出 生 子 となっているが、 真 実 の 父 は 自 分 ( 母 はA)であるとして、 訴 えを提 起 した 事 案 。「 本 件 親 子 関 係 の 一 方 の 当 事 者 である 被 告 2( 子 )およびその 法 定 代 理 人 の 住 所 地 が 大 阪 市 にあるので、 被告 1の 所 在 が 不 明 であっても、わが 国 の 裁 判 所 の 裁 判 権 を 肯 定 するのが 相 当 で 解 せられる。」4358


20: 東 京 家 審 昭 和 40・4・19 家 月 18 巻 2 号 111 頁 : 第 三 者 からの 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 中 華 民 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 1( 申 立 人 の 前 妻 。 中 華 民 国 籍 。 日 本 に 住 所 )・ 相 手 方 23( 申 立 人 の 子 。一 方 は 成 人 しており、もう 一 方 の 特 別 代 理 人 となっている。 中 華 民 国 籍 。 日 本 に 住 所 ( 申 立 人 と 同 じ))相 手 方 23は 戸 籍 上 は 申 立 人 と 相 手 方 1を 父 母 としているが、 真 実 の 母 は 別 人 であるとして、 本 件 申 立 て。「 本 件 は 日 本に 住 所 がある 中 華 民 国 人 間 の 嫡 出 親 子 関 係 に 関 するからわが 国 に 裁 判 権 があ」る。21: 大 阪 家 審 昭 和 40・11・10 家 月 18 巻 5 号 91 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 1( 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )・ 相 手 方 2( 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 なし?)韓 国 戸 籍 上 、 申 立 人 の 事 実 上 の 夫 と 相 手 方 2が 夫 婦 、 相 手 方 1がその 嫡 出 子 となっているが、 相 手 方 1の 真 実 の 母 は 申立 人 であるとして、 相 手 方 1・2には 親 子 ( 母 子 ) 関 係 が 存 在 しないことの 確 認 を 求 めた 事 案 。「…… 問 題 となっている 親 子 関 係 の 一 方 の 当 事 者 である 子 A( 引 用 者 注 ‐ 相 手 方 1)の 住 所 がわが 国 にあること、および 他 方 の 当 事 者 ( 戸 籍 上 の 母 )B( 引 用 者 注 ‐ 相 手 方 2)が 当 裁 判 所 で 申 立 人 申 立 の 如 き 裁 判 をなすことについて 合 意 していること(……)からみて、わが 国 の 裁 判 所 が 本 件 につき 管 轄 権 を 有 することは 明 らかである。」22: 東 京 地 判 昭 和 41・1・13 家 月 19 巻 1 号 44 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・ 認 容原 告 ( 未 成 年 子 。 北 朝 鮮 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 被 告 ( 北 朝 鮮 国 籍 。 朝 鮮 帰 国 後 消 息 不 明 、 最 後 の 住 所 は 日 本 。 公 示 送 達 )原 告 の 親 権 者 ( 母 )は、 被 告 と 婚 姻 し、 被 告 の 出 奔 後 ・ 離 婚 成 立 の 間 に 原 告 を 出 産 し、 原 告 の 小 学 校 入 学 手 続 のためやむをえず 被 告 との 間 の 嫡 出 子 として 出 生 届 をしたが、 真 実 の 父 は 被 告 でないとして、 本 件 訴 えを 提 起 した。昭 和 39 年 3 月 25 日 最 高 裁 大 法 廷 判 決 に 従 うとした 上 で、 本 件 では、「 原 告 の 主 張 は、 被 告 が 妻 である 原 告 の 母 を 遺 棄 して 朝 鮮 民 主 主 義 人 民 共 和 国 に 帰 還 し、その 所 在 が 不 明 である 為 、 原 被 告 間 の 親 子 関 係 不 存 在 確 認 の 訴 えを 提 起 するというにあり、……、 当 裁 判 所 は、 右 判 例 の 趣 旨 を 準 用 し、 本 件 につき 国 際 的 裁 判 管 轄 権 を 有 すると 考 える。」23: 東 京 家 審 昭 和 41・2・4 家 月 18 巻 10 号 83 頁 : 親 子 関 係 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 成 年 子 )→ 相 手 方 ( 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )申 立 人 は、 戸 籍 上 韓 国 人 夫 婦 ABの 子 と 記 載 されているが、 真 実 はAと 相 手 方 の 間 の 子 であるとして、 相 手 方 との 母 子関 係 の 確 認 を 求 めた 事 案 。「 本 件 において、 相 手 方 は 日 本 人 であり、 申 立 人 は 韓 国 人 であるが、 日 本 東 京 都 内 に 住 所 があり、また 永 住 の 意 思 を 有 すること(……)が 認 められるので、わが 国 の 裁 判 所 が 本 件 につき 裁 判 権 を 有 し……」24: 東 京 家 審 昭 和 41・3・29 家 月 18 巻 11 号 96 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 1( 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )・ 相 手 方 2( 韓 国 籍 )申 立 人 は、 相 手 方 1との 婚 姻 により 日 本 国 籍 を 喪 失 して 韓 国 籍 となった 者 で、 当 該 婚 姻 中 に 相 手 方 2を 出 産 したが、 相手 方 2の 真 実 の 父 は 相 手 方 1ではないとして、 本 件 訴 えを 提 起 した。「 本 件 について 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 することは、 申 立 人 及 び 相 手 方 らの 住 所 がいずれも 日 本 にあることから 肯 定 される……」25: 東 京 家 審 昭 和 41・4・9 家 月 18 巻 12 号 68 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 1( 米 国 国 籍 。 米 国 に 住 所 )・ 相 手 方 23( 申 立 人 とともに 日 本 在 住 か?)相 手 方 23は、 戸 籍 上 、 相 手 方 1と A 男 ( 日 本 国 籍 )の 子 となっているが、 真 実 は 申 立 人 とAの 子 であるとして、 親 子関 係 不 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 。 申 立 人 と 相 手 方 1は 姉 妹 で、A は 相 手 方 1と 離 婚 後 、 申 立 人 と 婚 姻 している。 相 手 方 1は、Aと 離 婚 後 、 米 国 人 と 再 婚 し、 現 在 は 米 国 籍 を 取 得 のうえ 米 国 に 居 住 しているが、 親 族 訪 問 のために 帰 国 してしばら5359


く 滞 在 することになったため、 本 申 立 てがなされた。「 相 手 方 (1‐ 引 用 者 注 )は、 日 本 に 住 所 を 有 する 申 立 人 の 本 件 申 立 てに 応 じて 調 停 期 日 に 出 頭 し、 合 意 をしているのであるから、わが 国 の 裁 判 所 が 本 件 につき 裁 判 権 を 有 し、……」26: 神 戸 家 審 昭 和 43・2・14 家 月 20 巻 9 号 113 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 本 籍 なし。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 英 国 籍 。 香 港 に 住 所 )申 立 人 は、 戸 籍 上 、 申 立 人 の 母 と 相 手 方 の 間 の 子 ( 婚 姻 破 綻 中 出 生 子 )となっているが、 真 実 は 申 立 人 母 と A の 間 の 子であるとして、 親 子 関 係 不 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 。 申 立 人 の 母 と 相 手 方 とはすでに 離 婚 している。「 申 立 人 は 日 本 国 内 に住 所 を 有 するけれども、 相 手 方 は 英 国 人 であり、かつ 日 本 国 内 に 住 所 を 有 しない。しかし 相 手 方 は 申 立 人 の 本 件 申 立 に 応じて 調 停 期 日 に 出 頭 し 合 意 をしているので、 本 件 についてはわが 国 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 し、……」27: 東 京 家 審 昭 和 43・5・7 家 月 20 巻 10 号 94 頁 : 嫡 出 否 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 未 成 年 子 。 中 華 民 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 中 華 民 国 籍 。 日 本 に 住 所 )申 立 人 は、 戸 籍 上 、 母 ( 親 権 者 )と 相 手 方 の 子 ( 婚 姻 破 綻 中 出 生 子 )となっているが、 真 実 は 母 とAの 子 であるとして父 子 関 係 不 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 ( 嫡 出 否 認 の 申 立 に 変 更 )。 母 は 日 本 人 だったが、 相 手 方 と 婚 姻 後 に 中 華 民 国 籍 を 取 得 。「 申 立 人 も 相 手 方 も 中 華 民 国 の 国 籍 を 有 し 外 国 人 登 録 をしているが、 申 立 人 は 埼 玉 県 内 に、 相 手 方 は 東 京 都 内 に、それぞれ 住 所 を 有 しているので、わが 国 の 裁 判 所 が 本 件 について 裁 判 権 を 有 し、…」28: 東 京 家 審 昭 和 43・5・11 家 月 20 巻 12 号 109 頁 : 親 子 関 係 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 子 。 韓 国 人 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 母 。 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )申 立 人 は、 韓 国 戸 籍 上 、 父 AとBの 間 にできた 庶 子 として 登 載 されているが、Bは 架 空 人 であって、 申 立 人 は 本 当 はAと 相 手 方 の 子 であるとして、 母 子 関 係 の 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 。「 本 件 において、 相 手 方 は 福 井 県 小 浜 氏 に 住 所 を 有 する 日 本 人 であり、 申 立 人 は 韓 国 人 であるが、 日 本 東 京 都 内 に 住 所を 有 しているので、わが 国 の 裁 判 所 が 本 件 につき 裁 判 権 を 有 することは 明 らかであり、……」29: 東 京 家 審 昭 和 43・8・22 家 月 21 巻 2 号 190 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 相 手 方 1の 父 、 相 手 方 2の 夫 。 韓 国 籍 )→ 相 手 方 1・ 相 手 方 2(いずれも、 韓 国 籍 ・ 日 本 在 住 )相 手 方 1は、 韓 国 戸 籍 上 、 申 立 人 とその 妻 である 相 手 方 2との 間 の 嫡 出 子 となっているが、 真 実 は 申 立 人 と 日 本 人 女 性( 相 手 方 1の 特 別 代 理 人 )の 子 であるとして、 相 手 方 1と 相 手 方 2に 母 子 関 係 が 存 在 しないことの 確 認 を 求 めた 事 案 。「…… 本 件 申 立 人 および 相 手 方 2の 国 籍 及 び 相 手 方 1の 表 見 的 国 籍 はいずれも 韓 国 であるからいわゆる 渉 外 事 件 であるが、 当 事 者 らはいずれも 長 年 日 本 に 居 住 するものであるからわが 国 の 裁 判 所 に 裁 判 権 があり、……」30: 前 橋 家 裁 高 崎 支 審 昭 和 44・3・10 判 タ 241 号 270 頁 : 親 子 関 係 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 未 成 年 子 。 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )申 立 人 は、A 男 と 相 手 方 の 内 縁 関 係 から 生 じた 子 だが、( 韓 国 ) 戸 籍 上 はAとその 妻 Bの 子 となっているので、 母 子 関 係の 存 在 確 認 を 求 めた 事 案 。 申 立 人 は、 日 本 人 である 相 手 方 からの 出 生 により 日 本 国 籍 を 取 得 したが、 父 のなした 嫡 出 子 出生 届 が 認 知 の 効 力 を 持 ち、これにより 韓 国 籍 を 取 得 し、 当 時 の 国 籍 法 23 条 により 日 本 国 籍 を 喪 失 している。「 韓 国 籍 を 有 する 申 立 人 と 日 本 国 籍 を 有 する 相 手 方 との 間 の 渉 外 親 子 関 係 確 認 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 については 当 事 者の 住 所 を 規 準 として 之 を 決 定 すべきところ、いずれも 日 本 国 内 に 住 所 を 有 するので 日 本 国 裁 判 所 がその 裁 判 権 ( 国 際 管 轄6360


権 )を 有 することとなる……」31: 山 口 家 審 昭 和 44・3・14 家 月 21 巻 8 号 128 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 韓 国 籍 )→ 相 手 方 1・ 相 手 方 2(いずれも、 韓 国 籍 、 日 本 に 住 所 )相 手 方 2は、 戸 籍 上 、Aとその 妻 である 相 手 方 1の 子 となっているが、 真 実 は 申 立 人 とAの 子 であるとして、 相 手 方 12 間 の 母 子 関 係 不 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 。「 相 手 方 両 名 はいずれも 大 韓 民 国 に 国 籍 を 持 つものであるが、 永 らく 日 本 に 住所 があるものであるから、わが 国 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 することは 明 らかである。」32: 広 島 家 審 昭 和 45・11・10 家 月 23 巻 5 号 88 頁 : 親 子 関 係 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 成 年 子 。 朝 鮮 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 朝 鮮 国 籍 。 日 本 に 住 所 )申 立 人 は、( 朝 鮮 ) 戸 籍 上 はAB 夫 婦 の 嫡 出 子 だが、 真 実 はA 男 と 相 手 方 の 子 であるとして、 母 子 関 係 存 在 の 確 認 を 求 めた 事 案 。「…… 当 事 者 は 大 韓 民 国 に 国 籍 を 有 するものとして 認 定 できる。しかして 申 立 人 は 日 本 で 出 生 し 以 来 日 本 に 居 住 し、相 手 方 は 昭 和 10 年 以 来 日 本 に 居 住 するものであり、わが 国 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 することは 明 らかである。」33: 東 京 地 判 昭 和 47・3・4 判 タ 279 号 335 頁 :( 死 後 ) 認 知 の 訴 え・ 認 容原 告 ( 子 、 日 本 国 籍 )→ 検 察 官 ( 父 たるべき 者 はリヒテンシュタイン 公 国 籍 で、すでに 死 亡 )認 知 を 求 める 相 手 がリヒテンシュタイン 公 国 籍 を 有 し、すでに 死 亡 していること、この 者 と 原 告 の 母 ( 日 本 国 籍 )との間 には 継 続 的 な 情 交 関 係 があったこと、 原 告 は 日 本 で 出 生 しそのまま 日 本 で 養 育 され、 現 在 は 日 本 人 の 養 子 となっていること、といった 事 実 を 挙 げ、「 右 の 事 実 によれば、 本 件 はわが 国 に 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。」34: 東 京 家 審 昭 和 47・4・18 家 月 24 巻 12 号 80 頁 : 認 知 の 訴 え・23 条 審 判申 立 人 ( 未 成 年 子 。タイ 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )申 立 人 の 母 A はタイ 国 籍 の B と 婚 姻 してタイに 渡 り、タイ 国 籍 を 取 得 したが、 後 に B に 無 断 で 帰 国 し、 相 手 方 との 間 に申 立 人 をもうけた。AB の 離 婚 はまだ 成 立 していないが、B は 申 立 人 は 自 分 の 子 でないと 主 張 している。「 申 立 人 は、 日 本 とタイとの 二 重 国 籍 を 有 することとなった A を 母 として 出 生 し、その 夫 はタイ 国 人 であるから、 一 応形 式 的 にはタイ 国 ( 籍 ‐ 引 用 者 注 )ということになり、 従 ってまずその 裁 判 管 轄 権 が 問 題 となるが、 本 件 は、その 当 否 は別 として、 日 本 人 である 相 手 方 に 対 して 認 知 を 求 める 事 件 であり、また 申 立 人 および 相 手 方 の 住 所 地 はいずれも 日 本 国 の東 京 都 に 存 するのであるから、わが 国 の 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 し……」35: 東 京 家 審 昭 和 48・5・8 家 月 25 巻 12 号 64 頁 : 嫡 出 否 認 ・23 条 審 判申 立 人 (イタリア 国 籍 。 住 所 はイタリア)→ 相 手 方 ( 未 成 年 子 。 日 本 に 住 所 )申 立 人 は 相 手 方 の 母 A とモスクワで 婚 姻 した 後 、 別 居 状 態 となり、 申 立 人 はイタリアに、A は 日 本 に 帰 国 した。 現 在 離婚 訴 訟 がイタリアで 係 属 中 であるが、A は B( 日 本 国 籍 )との 間 に 相 手 方 をもうけたので、これを 知 った 申 立 人 が 嫡 出 否 認を 求 めた 事 案 。「 本 件 は 渉 外 事 件 であるが、 未 成 年 者 は A と 共 に 日 本 において、 肩 書 住 所 に 居 住 するものであるから 日 本 の裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 し、……」36: 名 古 屋 家 審 昭 和 49・3・28 家 月 26 巻 8 号 94 頁 : 認 知 の 訴 え・23 条 審 判申 立 人 ( 米 国 国 籍 。 米 国 に 住 所 )→ 相 手 方 ( 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )申 立 人 は、その 母 ( 親 権 者 )とその 夫 ( 米 国 籍 )の 婚 姻 中 に 出 生 した 子 であるが、 真 実 は 母 と 相 手 方 の 子 であるとして、7361


認 知 を 求 めた 事 案 。 母 とその 夫 はすでに 離 婚 し、 母 と 相 手 方 、そして 申 立 人 は 日 本 で 一 緒 に 生 活 している。「…… 本 件 は、アメリカ 合 衆 国 国 籍 を 有 する 申 立 人 が 日 本 国 籍 を 有 する 相 手 方 に 対 し 認 知 を 求 める 事 件 であるが、 申 立人 も 相 手 方 もともに 日 本 に 居 住 しているので、このような 場 合 には 国 際 私 法 生 活 における 正 義 公 平 の 理 念 からみて 日 本 の裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 するものと 解 する。」37: 千 葉 地 判 昭 和 19・12・25 判 時 781 号 96 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ( 認 容 )原 告 ( 成 年 子 )→ 検 察 官 ( 父 となっている A は 韓 国 籍 ですでに 死 亡 )原 告 は、 韓 国 戸 籍 上 、A の 嫡 出 子 となっているが、 真 実 は 棄 児 であったのを A に 養 育 されたにすぎず、 韓 国 籍 を 離 れて日 本 国 籍 を 取 得 したいと 考 え、 本 件 訴 えを 提 起 した。「 渉 外 親 子 関 係 存 否 確 認 請 求 事 件 の 裁 判 管 轄 件 は、 特 別 の 事 情 のない限 り、 被 告 の 住 所 地 の 存 する 国 の 裁 判 所 が 有 する。しかし、 本 件 のように、 訴 訟 の 対 象 が 死 者 との 間 の 親 子 関 係 の 存 否 であり、 検 察 官 が 法 の 規 定 により 被 告 になる 場 合 には、 右 の 原 則 は、 実 質 的 な 訴 訟 の 防 御 者 である 死 者 を 被 告 と 解 してその適 用 を 考 えるべきである。 死 者 には 住 所 がない。そうすると、そのような 場 合 には、 死 者 の 最 後 の 住 所 により 右 の 原 則 の適 用 を 考 えるべきか、それとも 特 別 の 事 情 があるとして 訴 訟 の 攻 撃 者 である 原 告 の 住 所 の 存 する 国 の 裁 判 所 に 裁 判 管 轄 権を 認 めるべきかが 問 題 となる。 第 三 の 選 択 肢 はないと 解 する。……A の 最 後 の 住 所 地 が 船 橋 市 ……であると 認 めることができ、…… 原 告 の 住 所 地 が 右 同 所 であると 認 めることができる。そうすると、 右 の 原 則 の 適 用 をどう 考 えても、 右 住 所 地の 存 するわが 国 の 裁 判 所 に 裁 判 管 轄 権 があることになる。」38: 那 覇 家 審 昭 和 50・1・17 家 月 28 巻 2 号 115 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・24 条 審 判申 立 人 ( 子 ( 母 と 共 に 中 華 民 国 籍 を 離 脱 し、 帰 化 申 請 中 のため 無 国 籍 。 住 所 は 日 本 )→ 相 手 方 ( 原 告 の 表 見 上 の 父 母 。中 華 民 国 籍 。 住 所 は 台 湾 )原 告 は、 真 実 の 父 ( 日 本 国 籍 )と 母 ( 中 華 民 国 籍 )の 同 棲 中 に 出 生 し、 母 の 姉 夫 婦 の 嫡 出 子として 出 生 届 がなされた( 藁 の 上 からの 養 子 ) 後 に、 真 実 の 父 母 との 間 に 養 子 縁 組 をした 事 案 。なお、 相 手 方 のうち、 一人 は 本 人 自 ら 手 続 に 関 与 し、もう 一 人 は 代 理 人 が 関 与 。「 申 立 人 は 上 記 のとおり 現 在 無 国 籍 であるが、 日 本 ・ 沖 縄 県 に 住 所 があり、また 永 住 の 意 思 を 有 していることが 認 められ、 他 方 相 手 方 らは 中 華 民 国 人 であるが、 当 裁 判 所 で 申 立 人 申 立 の 如 き 裁 判 をなすことについて 合 意 している 点 からみて、我 国 の 裁 判 所 が 本 件 について 管 轄 権 を 有 することは 明 らかである。」39: 名 古 屋 地 判 昭 和 50・12・24 下 民 集 26 巻 9-12 号 1053 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 の 確 認 ・ 認 容原 告 ( 未 成 年 子 。 親 権 者 母 は 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 被 告 ( 母 の 前 夫 で、 原 告 の 父 との 推 定 を 受 ける 者 。アメリカ 国籍 。 所 在 不 明 。 公 示 送 達 )国 際 裁 判 管 轄 についてはわが 国 に 明 文 の 規 定 がなく、また 国 際 上 の 原 則 も 未 確 立 なので、 専 ら 条 理 に 従 って 解 決 する 他ないとした 上 で、「 親 子 関 係 訴 訟 事 件 においては、 被 告 とされたものの 住 所 が 日 本 にあるか、 又 は、 当 事 者 の 一 方 たる 子 の住 所 が 日 本 にある 場 合 には、 右 事 件 につきわが 国 の 民 事 裁 判 権 が 及 ぶと 解 するのが 相 当 である。( 改 行 ) 蓋 し、 前 者 については 被 告 の 便 宜 、つまりは 訴 訟 における 双 方 の 平 等 公 平 の 見 地 から、 後 者 については 親 子 関 係 の 事 件 における 子 の 利 益 保護 の 要 請 から、そしてその 双 方 のいずれの 場 合 においても 右 の 点 を 肯 定 的 に 解 することが 条 理 に 沿 うゆえんであると 考 えられ、なお、わが 民 事 訴 訟 法 第 1 条 、 人 事 訴 訟 法 第 27 条 の 趣 旨 も 右 の 解 釈 を 間 接 的 ながら 支 えるものである……」として、本 件 では 原 告 の 住 所 が 日 本 にあることから 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認 めている。40: 山 口 家 審 昭 和 51・8・18 家 月 29 巻 9 号 119 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 子 。 表 見 上 は 日 本 の 国 籍 を 有 しない)→ 相 手 方 ( 韓 国 籍 )8362


申 立 人 は、 母 B( 日 本 国 籍 )と 相 手 方 の 婚 姻 中 出 生 子 ( 事 案 からすれば 推 定 の 及 ばない 子 といえる)だが、 真 実 はBとAの 子 だった。Bは 相 手 方 と 離 婚 後 にAと 婚 姻 しており、 申 立 人 をAとの 戸 籍 に 入 れるため、 本 件 申 立 てをした。「 両 当 事 者 はいずれも、 日 本 国 内 において 出 生 しかつ 日 本 国 内 に 住 居 を 有 し、さらに 相 手 方 は 日 本 に 永 住 する 意 思 を 有していること( 申 立 人 らの 永 住 の 意 思 については 今 後 日 本 人 の 父 母 の 戸 籍 に 入 れたいと 申 立 てていることから 推 定 される)、そして 申 立 人 らの 本 申 立 に 対 し、 相 手 方 は 日 本 の 裁 判 所 で 本 件 を 審 理 することに 同 意 していることが 認 められる」ので、わが 国 の 裁 判 所 に 裁 判 権 がある。41: 札 幌 地 裁 小 樽 支 決 昭 和 51・12・24 下 民 集 27 巻 9~12 号 819 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 の 確 認 ・ 移 送原 告 ( 被 告 1とは 異 父 のきょうだい。 日 本 国 籍 )→ 被 告 1( 成 年 子 。 米 国 国 籍 を 取 得 して 米 国 に 住 所 )・ 検 察 官 ( 原 告 の父 Aはすでに 死 亡 )Aの 相 続 を 背 景 に、 戸 籍 上 Aの 子 となっている 被 告 1とAの 親 子 関 係 不 存 在 の 確 認 を 求 めたもの。最 大 判 昭 和 39・3・25 民 集 18 巻 3 号 486 頁 と 同 様 、 親 子 関 係 事 件 についても、「 被 告 が 住 所 を 有 する 国 の 裁 判 所 に 管 轄権 を 認 めるのを 原 則 とし、 被 告 の 行 方 不 明 など 特 別 の 事 情 がある 場 合 には 補 充 的 に 原 告 が 住 所 を 有 する 国 の 裁 判 所 にも 管轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。」 検 察 官 が 被 告 である 点 は、 公 益 の 代 表 として 関 与 している 点 に 鑑 み、 考 慮 に 入 れるのは 相当 でない。そして、 本 件 では、 被 告 1の 住 所 は 米 国 にあるが、 被 告 1は 志 望 により 米 国 国 籍 を 取 得 して 同 時 に 日 本 国 籍 を喪 失 した 事 実 が 認 められるので、「このような 場 合 には 当 事 者 間 の 便 宜 公 平 や 子 の 福 祉 の 点 からみても 特 別 の 事 情 があるとみるのが 相 当 であり、したがって、 補 充 的 に 原 告 らが 住 所 を 有 するわが 国 の 裁 判 所 に 管 轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。」42: 大 阪 地 判 昭 和 55・2・25 家 月 33 巻 5 号 101 頁 : 認 知 の 訴 え・ 認 容原 告 ( 未 成 年 子 。 日 本 に 住 所 。 親 権 者 母 は 日 本 国 籍 で 日 本 に 住 所 )→ 被 告 (カナダ 国 籍 。 現 在 の 住 所 は 不 明 、 最 後 の 住所 は 日 本 。 公 示 送 達 で 手 続 には 一 切 関 与 せず)日 本 に 住 所 を 有 する 原 告 がカナダ 国 籍 を 有 する 被 告 に 対 して 認 知 を 求 める 場 合 、「 国 際 条 理 上 、 原 則 として 被 告 の 住 所 がわが 国 内 にあることを 必 要 とするものと 解 すべきである。しかし、 本 件 に 於 ては、 被 告 の 住 所 が 不 明 であることは 訴 訟 上明 らか」であり、さらに、 原 告 の 母 A はわが 国 内 にある 被 告 の 肩 書 最 後 の 住 所 地 に 於 て 被 告 と 同 棲 しているうちに 原 告 を懐 妊 したもので、 出 生 届 など「 原 告 の 出 生 をめぐる 状 況 はすべてわが 国 内 に 於 て 展 開 したものであって、これに 関 わる 重要 な 承 認 の 殆 どすべてがわが 国 に 居 住 しているものと 考 えられる。このような 事 情 にある 場 合 に、 国 際 裁 判 管 轄 権 の 前 記原 則 に 固 執 することは、 原 告 の 訴 訟 による 父 の 捜 索 を 著 しく 困 難 ならしめ、 却 って 国 際 私 法 生 活 に 於 ける 正 義 と 公 平 の 観念 に 背 反 する 結 果 を 招 来 することになるから、 本 件 における 右 の 事 情 は 前 記 原 則 の 例 外 を 認 めるべき 特 別 の 事 情 に 当 たるものというべきであって、 本 件 訴 訟 はわが 国 の 裁 判 管 轄 権 に 属 するものと 解 するのが 相 当 である。」43: 神 戸 地 判 昭 和 56・9・29 家 月 34 巻 9 号 110 頁 : 認 知 の 訴 え・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 : 未 成 年 子 ( 日 本 に 住 所 。 親 権 者 母 は 日 本 国 籍 )→ 被 告 ( 中 国 籍 。 日 本 に 住 所 )44: 東 京 地 判 昭 和 56・10・9 判 時 1041 号 87 頁 : 認 知 無 効 確 認 ・ 認 容原 告 ( 成 年 子 。 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 検 察 官 ( 認 知 者 Aは 韓 国 籍 ですでに 死 亡 、 日 本 に 住 所 あった)「 本 件 は、 大 韓 民 国 の 国 籍 を 有 し、わが 国 に 住 所 を 有 する 原 告 が、 大 韓 民 国 の 国 籍 を 有 した 亡 A の 死 亡 後 に、 検 察 官 を被 告 として、 亡 A が 生 前 した 原 告 についての 認 知 の 無 効 を 求 めるものであるところ、かかる 認 知 無 効 の 訴 えについて、わが 国 の 裁 判 所 がいわゆる 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 するためには、 国 際 条 理 上 、 原 則 として 生 存 していれば 被 告 となるべき 認 知者 が 生 前 わが 国 内 に 住 所 を 有 したことを 必 要 とするものと 解 すべきである。しかして 本 件 において、 後 記 認 定 の 通 り 認 知者 亡 A は 生 前 原 告 の 前 記 肩 書 住 所 地 に 住 所 を 有 し、 同 所 において 死 亡 したのであるから、 本 件 訴 えはわが 国 の 裁 判 所 の 管9363


轄 権 に 属 するものと 解 するのが 相 当 である。」45: 浦 和 地 判 昭 和 57・5・14 家 月 36 巻 2 号 112 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 の 確 認 ・ 認 容原 告 ( 未 成 年 子 。 日 本 に 住 所 。 親 権 者 母 は 日 本 国 籍 で 日 本 に 住 所 )→ 被 告 ( 米 国 籍 、 住 所 不 明 、 最 後 の 住 所 は 米 国 )原 告 の 母 は 米 国 で 被 告 と 婚 姻 したが、 後 に 単 身 帰 国 し、 以 後 は 被 告 と 接 触 を 持 たず 離 婚 に 至 った。しかし、 原 告 は 離 婚から 数 ヶ 月 で 出 生 したため 被 告 の 嫡 出 子 と 推 定 されている。 原 告 の 母 と 血 縁 上 の 父 は 婚 姻 し、 原 告 と 共 に 生 活 している。国 際 裁 判 管 轄 について、「 我 国 の 法 律 に 直 接 の 明 文 の 規 定 がなく、 明 確 な 国 際 法 上 の 原 則 も 未 だ 確 立 されていないので、専 ら 条 理 にしたがって 解 決 するほかはない。( 改 行 )そして、 本 件 のような 親 子 関 係 事 件 においては、 被 告 の 住 所 が 日 本 にある 場 合 はもとよりのこと、 子 の 住 所 が 日 本 にある 場 合 にも、 子 の 利 益 保 護 の 見 地 から 我 国 の 民 事 裁 判 権 が 及 ぶものと 解するのが 相 当 である。」46: 東 京 家 審 昭 和 57・6・24 家 月 35 巻 9 号 117 頁 : 認 知 無 効 の 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 認 知 者 。 日 本 国 籍 。 住 所 は 日 本 )→ 相 手 方 ( 未 成 年 子 。 無 国 籍 。 台 湾 に 住 所 ・ 居 住 )申 立 人 が 相 手 方 の 母 ( 中 華 民 国 籍 。 台 湾 に 住 所 ・ 居 住 )と 婚 姻 する 際 、すでに 出 生 していた 相 手 方 を 認 知 したが、 新 たに 相 手 方 と 養 子 縁 組 をするために、 認 知 無 効 を 求 めた 事 案 ( 親 権 者 は 認 知 無 効 ・ 縁 組 に 同 意 )。 申 立 人 の 認 知 により 相 手 方は 中 華 民 国 国 籍 を 失 い 無 国 籍 となり、 就 学 できない 状 況 にあった。「 子 の 認 知 ・ 認 知 無 効 ・ 取 消 しなどの 親 子 関 係 事 件 については 我 国 には 明 文 の 規 定 は 存 しないので、 条 理 に 基 き 判 断 するに、かかる 親 子 関 係 事 件 の 管 轄 権 は 専 ら 当 事 者 の 住 所 を基 準 として 決 すべきであり、 当 事 者 の 住 所 地 国 が 異 なる 場 合 には 相 手 方 ( 被 告 )の 利 益 保 護 の 見 地 から 原 則 として 相 手 方の 住 所 地 国 に 管 轄 権 を 認 めるべきであるが、 例 外 的 に 申 立 人 ( 原 告 )の 住 所 地 国 にも 管 轄 権 を 認 める 場 合 がると 解 する。( 改行 ) 本 件 では、 相 手 方 の 住 所 地 は 台 湾 であるが、 相 手 方 法 定 代 理 人 が、 日 本 に 住 所 を 有 する 申 立 人 の 申 立 てに 応 じて 我 が国 で 裁 判 あるいは 審 判 を 受 けることに 合 意 し、 調 停 期 日 に 出 頭 していることがみとめられるのであって、かかる 場 合 には申 立 人 の 住 所 地 国 である 我 が 国 にも 裁 判 管 轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。」47: 横 浜 地 判 昭 和 58・11・30 判 時 1117 号 154 頁 : 認 知 の 訴 え・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 ( 成 年 子 。 無 国 籍 あつかい、 住 所 はインドネシア)→ 被 告 ( 日 本 国 籍 )48: 東 京 地 判 昭 和 59・3・28 判 時 1141 号 102 頁 : 認 知 の 訴 え・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 ( 未 成 年 子 。 親 権 者 ・ 母 は 日 本 国 籍 )→ 被 告 ( 台 湾 籍 。 日 本 に 居 住 )中 華 民 国 法 上 の「 養 育 による 認 知 」が 認 められる 事 案 であったが、それでも 訴 えの 利 益 はある、とした。49: 神 戸 地 判 昭 和 60・5・10 家 月 38 巻 4 号 111 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 の 確 認 ・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 ( 未 成 年 子 。 日 本 で 出 生 。 表 見 上 の 国 籍 は 韓 国 。 親 権 者 ・ 母 は 韓 国 籍 )→ 検 察 官 ( 出 生 時 の 母 の 夫 Aはすでに 死 亡 )判 決 には、 原 告 ( 母 とAの 協 議 離 婚 から 96 日 後 に 出 生 した 子 )とその 親 権 者 たる 母 の 住 所 が 明 示 されていないが、おそらく 日 本 在 住 であろう。50: 大 阪 地 判 昭 和 60・9・27 判 時 1179 号 94 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 の 確 認 ・ 認 容原 告 ( 成 年 子 。 日 本 で 出 生 。 朝 鮮 国 籍 )→ 被 告 ( 外 国 人 登 録 原 票 上 の 父 母 で、ともに 朝 鮮 国 籍 。 父 となっている 者 はすでに 死 亡 )。 外 国 人 登 録 原 票 上 の 親 子 関 係 の 訂 正 が 目 的 である。また、 原 告 ・ 被 告 は 日 本 在 住 と 思 われる。10364


51: 東 京 家 審 昭 和 62・5・19 家 月 39 巻 11 号 147 頁 : 認 知 ・23 条 審 判申 立 人 ( 未 成 年 子 。フィリピン 国 籍 )→ 相 手 方 ( 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )なお、 申 立 人 の 母 ( 親 権 者 。フィリピン 国籍 )と 申 立 人 ・ 相 手 方 は、 現 在 、 日 本 で 同 居 している。「 相 手 方 の 住 所 が 我 国 に 存 するので、 我 国 に 国 際 裁 判 管 轄 権 がある。」52: 東 京 家 審 昭 和 62・10・8 家 月 40 巻 10 号 49 頁 : 認 知 の 訴 え・23 条 審 判申 立 人 (ブラジル 国 籍 の 母 と 相 手 方 との 間 の 婚 姻 前 出 生 子 、 日 本 で 出 生 )→ 相 手 方 ( 日 本 国 籍 、 日 本 に 住 所 )。「 本 件 について 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 し、しかも 当 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 することは 申 立 人 および 相 手 方 がいずれも肩 書 住 所 に 居 住 することから 明 らかであり、……」53: 神 戸 地 判 昭 和 63・4・26 判 時 1301 号 130 頁 : 親 子 関 係 存 在 確 認 ・ 棄 却 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 ( 中 国 籍 。 中 国 残 留 孤 児 。 日 本 に 住 所 )→ 検 察 官 ( 父 ・ 母 とされる 者 ( 日 本 国 籍 )はすでに 死 亡 )54: 大 阪 地 判 平 成 4・2・6 判 時 1430 号 113 頁 : 認 知 無 効 ・ 却 下原 告 ( 成 年 子 。 母 は 日 本 国 籍 )→ 検 察 官 ( 認 知 者 A( 韓 国 国 籍 )はすでに 死 亡 )。「 日 本 に 住 所 を 有 し 日 本 の 国 籍 を 有 する 原 告 が、 日 本 に 住 所 を 有 し 大 韓 民 国 の 国 籍 を 有 していたAの 死 亡 後 、 同 人 がなした 原 告 に 対 する 認 知 が 無 効 であるとして、 検 察 官 を 被 告 としてその 無 効 確 認 を 求 めるものであるが、 条 理 上 、 我 が 国 の裁 判 所 が 本 件 訴 えについていわゆる 国 際 的 裁 判 管 轄 権 を 有 すると 解 するのが 相 当 である。」最 判 平 成 3・9・13 民 集 45 巻 7 号 1151 頁 の 差 戻 審 であり、その 一 審 である 大 阪 地 判 平 成 3・9・12 民 集 45 巻 7 号 1162頁 は 次 のように 述 べている「 日 本 に 住 所 を 有 し 日 本 の 国 籍 を 有 する 原 告 が、 日 本 に 住 所 を 有 し 大 韓 民 国 の 国 籍 を 有 していたAの 死 亡 後 、 同 人 が 生 前 になした 原 告 に 対 する 認 知 が 無 効 であるとして、 検 察 官 を 被 告 として 認 知 無 効 の 確 認 を 求 めるものであるが、 被 認 知 者 ( 子 )である 原 告 の 住 所 がわが 国 にあるのであるから、 国 際 条 理 上 、わが 国 の 裁 判 所 が 本 件 訴 えについていわゆる 国 際 的 裁 判 管 轄 権 を 有 すると 解 するのが 相 当 である。」( 原 審 これを 引 用 している)55: 福 岡 地 判 平 成 6・9・6 判 タ 876 号 254 頁 :Ⅰ 父 子 関 係 不 存 在 確 認 の 訴 え・ 認 容 、Ⅱ 父 子 関 係 存 在 確 認 の 訴 え・ 却 下Ⅰ: 原 告 12( 韓 国 籍 。 日 本 に 住 所 )→ 被 告 1( 韓 国 籍 。 日 本 に 最 後 の 住 所 。 公 示 送 達 、 不 出 頭 )Ⅱ: 原 告 12(1と 同 じ)→ 検 察 官 ( 父 とされる 者 Aは 韓 国 籍 ですでに 死 亡 )原 告 の 母 Bは、 被 告 1との 婚 姻 が 事 実 上 破 綻 している 間 に、Aとの 間 に 原 告 1をもうけた。AはBとの 婚 姻 届 と 原 告 1を 認 知 する 届 出 をした(Bは 重 婚 )。その 後 、Bは 原 告 2を 出 産 。 韓 国 戸 籍 上 、 原 告 12はAの 戸 籍 にBとの 子 として 記 載され、 他 方 、 被 告 1の 戸 籍 には 原 告 12の 記 載 はない。Ⅰにつき、「わが 国 に 住 所 を 有 する 韓 国 人 である 原 告 らとわが 国 に 最 後 の 住 所 を 有 していた 韓 国 人 である 被 告 1との 間 の本 件 渉 外 的 父 子 関 係 不 存 在 確 認 の 訴 えについては、わが 国 に 裁 判 管 轄 権 が 認 められ」る。Ⅱについては 管 轄 に 触 れず、 確認 の 利 益 なしとして 却 下 した。56: 名 古 屋 家 審 平 成 7・1・27 家 月 47 巻 11 号 84 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 未 成 年 子 。 母 はフィリピン 国 籍 )→ 相 手 方 ( 父 とされる 者 。 日 本 国 籍 )「 申 立 人 、 相 手 方 共 に 日 本 国 内 に 住 所 を 有 し、また、 当 事 者 双 方 は、わが 国 の 裁 判 所 で 審 理 、 判 断 するについて、 何 ら異 議 を 止 めず、 本 件 調 停 に 出 席 し、 上 記 合 意 をしているのであるから、 日 本 の 裁 判 所 に 管 轄 権 があると 認 められる。」57: 名 古 屋 家 審 平 成 7・5・19 家 月 48 巻 2 号 153 頁 : 嫡 出 否 認 ・23 条 審 判11365


申 立 人 ( 父 。 日 本 国 籍 )→ 相 手 方 (コロンビア 国 籍 の 母 が 申 立 人 と 離 婚 後 300 日 以 内 に 産 んだ 未 成 年 子 )「 本 件 は、 申 立 人 が 日 本 国 籍 であり、 相 手 方 の 母 ……がコロンビア 国 籍 であるから、 渉 外 事 件 として、 国 際 裁 判 管 轄 権が 問 題 となるが、わが 国 にはこの 点 に 関 する 成 文 法 はないので 条 理 によって 解 釈 することとなるところ、 申 立 人 、 相 手 方共 に 日 本 国 内 に 住 所 を 有 し、また、 当 事 者 双 方 は、わが 国 の 裁 判 所 で 審 理 、 判 断 するについて、 何 ら 異 議 を 止 めず、 本 件調 停 に 出 席 し、 上 記 合 意 をしているのであるから、 日 本 の 裁 判 所 に 管 轄 権 があると 認 められる。」58: 水 戸 家 審 平 成 10・1・12 家 月 50 巻 7 号 100 頁 : 嫡 出 否 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 父 。 日 本 国 籍 )→ 相 手 方 (タイ 国 籍 の 母 が 申 立 人 との 婚 姻 中 に 産 んだ 未 成 年 子 )嫡 出 否 認 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 の 明 文 規 定 ないが、「 申 立 人 、 相 手 方 及 び 相 手 方 の 母 の 当 事 者 全 員 が 日 本 に 住 所 を 有 しており、また、 当 事 者 双 方 は、 我 が 国 の 裁 判 所 で 審 理 、 判 断 することについて、 何 ら 異 議 を 留 めず、 本 調 停 に 出 席 し、 前 記合 意 ( 注 : 相 手 方 が 申 立 人 の 嫡 出 子 であることを 否 認 すること)をしているのであるから、 本 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 は 我 が国 にあると 認 められる。」59: 神 戸 地 判 平 成 10・3・30 判 タ 1007 号 280 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 ・ 認 容原 告 ( 両 親 。 中 国 籍 )→ 被 告 ( 成 年 子 。 中 国 籍 )国 際 裁 判 管 轄 を 定 める 成 文 法 はないから、「 当 事 者 の 公 平 、 裁 判 の 適 正 ・ 迅 速 を 期 するという 理 念 に 照 らし、 条 理 により国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 決 定 すべきであるところ、 原 告 ら 及 び 被 告 はいずれも 神 戸 市 内 に 住 所 を 有 すること、 被 告 の 出 生 届は 日 本 において 提 出 されていること、 当 事 者 双 方 は 当 裁 判 所 での 審 理 ・ 判 断 に 何 ら 異 議 がなく、 本 訴 事 件 ・ 反 訴 事 件 ( 養親 子 関 係 の 確 認 ‐ 引 用 者 注 )についてそれぞれ 応 訴 していることは 本 件 記 録 から 明 らかであるから、 当 裁 判 所 に 管 轄 権 を認 めても 身 分 関 係 訴 訟 の 公 益 性 を 害 する 弊 害 は 少 なく、むしろ 当 事 者 の 公 平 ・ 便 宜 に 適 うと 解 することができる。」60: 大 津 家 審 平 成 12・1・17 家 月 52 巻 7 号 101 頁 : 嫡 出 否 認 ・23 条 審 判申 立 人 ( 父 。ブラジル 国 籍 )→ 相 手 方 (ブラジル 国 籍 の 母 が 申 立 人 との 婚 姻 中 に 産 んだ 未 成 年 子 )申 立 人 、 相 手 方 、 相 手 方 の 母 は、 日 本 で 生 活 している( 後 二 者 は 今 後 も 日 本 で 生 活 する 予 定 である)「 当 事 者 が 日 本 に 住 所 を 有 し、 我 が 国 の 裁 判 所 で 審 理 、 判 断 することについて、なんら 異 議 を 認 めず、 本 調 停 に 出 席 し、前 記 合 意 ( 注 : 相 手 方 が 申 立 人 の 嫡 出 子 であることを 否 認 する 旨 の 合 意 )をしているのであるから、 本 件 の 国 際 裁 判 管 轄権 は 我 が 国 にあると 認 められる。」61: 東 京 高 判 平 成 18・4・13 判 時 1934 号 42 頁 : 婚 姻 取 消 しの 訴 えの 反 訴 としての 親 子 関 係 不 存 在 確 認1950 年 にA( 韓 国 籍 。2004 年 に 死 亡 )と 韓 国 で 婚 姻 したと 主 張 する 配 偶 者 X 1 ( 韓 国 籍 。 韓 国 在 住 ) 及 びAX 1 の 子 と 主張 するX 2 ( 成 年 子 。 韓 国 籍 。 韓 国 在 住 )が、AとY( 日 本 人 )の 日 本 での 婚 姻 (1988 年 )は 重 婚 であるとして、Yを 相 手として 取 消 しを 求 める 訴 えを 提 起 した 事 案 。これに 対 して、Yは、AX 1 の 婚 姻 の 無 効 の 確 認 、および、AX 2 の 親 子 関 係の 不 存 在 の 確 認 を 反 訴 として 求 めた。一 審 は、 本 訴 を 認 容 し、 反 訴 については 国 際 裁 判 管 轄 がないとして 訴 えを 却 下 したが、 本 判 決 は、 原 判 決 を 取 消 して、差 し 戻 した。「 婚 姻 無 効 確 認 及 び 親 子 関 係 不 存 在 確 認 の 各 請 求 訴 訟 においても、 被 告 の 住 所 は 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 決 定 するに 当 たって 考 慮 すべき 重 要 な 要 素 であり、 被 告 が 我 が 国 に 住 所 を 有 する 場 合 にわが 国 の 管 轄 が 認 められることは 当 然 というべきであるが、 被 告 が 我 が 国 に 住 所 を 有 しない 場 合 であっても、 我 が 国 と 法 的 関 連 を 有 する 事 件 について 我 が 国 の 国際 裁 判 管 轄 を 肯 定 すべき 場 合 のあることは 否 定 し 得 ず、どのような 場 合 に 我 が 国 の 管 轄 を 肯 定 すべきかについては、 当 事者 間 の 公 平 や 裁 判 の 適 正 ・ 迅 速 の 理 念 により 条 理 に 従 って 決 定 するのが 相 当 である( 最 高 裁 平 成 8 年 6 月 24 日 第 二 小 法 廷12366


判 決 、 民 集 50 巻 7 号 1451 頁 )。そして、 婚 姻 無 効 確 認 等 の 請 求 訴 訟 が 我 が 国 の 裁 判 所 に 反 訴 として 提 起 された 場 合 には、その 請 求 が 本 訴 と 密 接 な 関 係 を 有 する 限 り、 反 訴 被 告 が 応 訴 を 余 儀 なくされることによる 不 利 益 があるとは 認 められないし、 反 訴 と 本 訴 とを 併 合 審 理 することにより 審 理 の 重 複 や 判 断 の 矛 盾 を 避 け 身 分 関 係 に 関 する 紛 争 の 画 一 的 ・ 一 回 的 解 決を 図 ることができるのであるから、 特 段 の 事 情 のない 限 り、 我 が 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 するのが 当 事 者 間 の 公 平 や 裁 判の 適 正 ・ 迅 速 の 理 念 に 適 する 者 と 解 される。」 本 件 では、 本 訴 が 我 が 国 で 提 起 されており、 反 訴 で 確 定 されるべき 前 婚 の 効力 および 親 子 関 係 の 存 否 は、 本 訴 原 告 の 原 告 適 格 と 重 婚 該 当 性 を 判 断 するために 不 可 欠 の 前 提 問 題 であって、 反 訴 請 求 は本 訴 の 訴 訟 要 件 と 請 求 と 密 接 な 関 係 を 有 する、とした。62: 大 阪 高 判 平 成 19・9・13 家 月 60 巻 3 号 38 頁 : 認 知 の 訴 え・ 却 下 ( 管 轄 に 言 及 なし)原 告 は、 原 告 の 実 父 A( 中 国 籍 )が 被 告 ( 帰 化 により 日 本 国 籍 取 得 )の 子 であることを 認 知 することを 求 めて 訴 えを 提起 ( 被 告 は 一 審 係 属 中 に 死 亡 したため、 検 察 官 が 訴 訟 を 追 行 )。 被 告 とAの 親 子 関 係 は 出 生 により 成 立 しているとして、 確認 の 利 益 を 否 定 し、 却 下 。 一 審 も 含 めて 判 決 からは 明 らかでないが、 被 告 の 住 所 は 日 本 にあったと 思 われる。63: 最 判 平 成 20・3・18 判 時 2006 号 77 頁 : 親 子 関 係 不 存 在 確 認 の 訴 え・( 濫 用 )( 管 轄 には 言 及 なし)原 告 ら( 韓 国 籍 )が、 韓 国 の 戸 籍 上 その 弟 とされている 被 告 に 対 して、 父 ( 韓 国 籍 )と 被 告 との 間 に 親 子 関 係 が 存 在 しないことの 確 認 を 求 めた 事 案 。13367


5. 養 子 縁 組 及 び 離 縁( 執 筆 担 当 : 筑 波 大 学 村 上 正 子 )本 項 目 においては, 養 子 縁 組 に 関 するハーグ 条 約 を 概 観 したあと、わが 国 の 養 子 縁 組 及び 離 縁 についての 国 際 裁 判 管 轄 をめぐる 学 説 及 び 審 判 例 の 状 況 をまとめる。Ⅰ. 国 際 養 子 縁 組 に 関 するハーグ 条 約養 子 縁 組 に 関 しては、これまでハーグ 国 際 私 法 会 議 は 二 つの 条 約 を 成 立 させている 1 。すなわち、1965 年 の「 養 子 縁 組 の 裁 判 管 轄 権 、 準 拠 法 及 び 決 定 の 承 認 に 関 する 条 約 」( 以下 、1965 年 ハーグ 養 子 縁 組 条 約 、という)と、1993 年 の「 国 際 養 子 縁 組 に 関 する子 の 保 護 及 び 協 力 に 関 する 条 約 」( 以 下 、1993 年 ハーグ 養 子 縁 組 条 約 、という)である。1.1965 年 ハーグ 養 子 縁 組 条 約1965 年 のハーグ 養 子 縁 組 条 約 は、 第 二 次 大 戦 後 の 戦 災 孤 児 や 戦 後 多 く 生 まれた 混 血児 など、その 本 国 では 適 当 な 養 子 縁 組 を 見 出 しにくい 児 童 との 国 際 的 養 子 縁 組 が 増 加 したことに 伴 い、それについて 生 じる 可 能 性 のある 弊 害 と 危 険 から、 児 童 をはじめ 養 親 や 実 親等 の 関 係 者 の 利 益 を 保 護 しようとする 国 際 的 な 動 きが 高 まったことを 受 けて 成 立 したものである。しかしこの 条 約 は、 発 効 に 必 要 な3カ 国 (オーストリア、スイス、イギリス)が締 約 国 になりようやく 発 効 したにとどまり、 広 くは 普 及 しなかった( 現 在 のところ 締 約 国は 一 つもない)。その 理 由 としては、 同 一 国 籍 を 有 しない 夫 婦 や、 同 一 常 居 所 地 をもたない夫 婦 が 養 親 である 場 合 には 条 約 が 適 用 されないこと、 養 子 縁 組 の 成 立 を 認 める 裁 判 その 他の 処 分 につき 管 轄 権 を 有 する 国 を 養 親 の 常 居 所 地 国 または 本 国 に 限 っていたこと、 管 轄 権を 有 する 国 の 法 が 原 則 として 準 拠 法 としたことが、 養 子 の 出 身 国 にとって 受 け 入 れ 難 かったばかりでなく、 一 般 的 にも 管 轄 権 と 準 拠 法 を 分 離 する 法 制 を 有 する 国 には 馴 染 みにくかったこと、 承 認 に 関 する 規 定 が 概 括 的 でその 効 果 が 明 確 でないこと 等 が 挙 げられている。2. 新 たな 条 約 成 立 の 背 景その 後 、 国 際 養 子 縁 組 のかたち 及 びそれをとりまく 状 況 は 大 きく 変 化 していった。すなわち、 発 展 途 上 国 の 児 童 が 先 進 国 に 送 られるという 形 態 の 養 子 縁 組 の 数 が 急 増 し、それに伴 い、 法 制 度 や 法 政 策 の 相 違 に 基 づく 子 の 不 安 定 な 地 位 の 発 生 、 養 子 縁 組 という 名 の 下 で1 ハーグ 養 子 条 約 については、 以 下 の 文 献 を 参 考 にした。 鳥 居 淳 子 「 国 際 養 子 縁 組 に 関 する子 の 保 護 及 び 協 力 に 関 する 条 約 について」 国 際 法 外 交 雑 誌 93 巻 6 号 1 頁 以 下 (1995年 )、 清 水 響 「ヘーグ 国 際 私 法 会 議 第 17 会 期 の 概 要 ― 国 際 養 子 縁 組 に 関 する 子 の 保 護 及 び協 力 に 関 する 条 約 を 中 心 として」 民 事 月 報 48 巻 11 号 30 頁 以 下 (1994 年 )、 床 谷 文雄 = 清 水 愛 砂 = 梅 澤 彩 「 国 際 養 子 縁 組 をめぐる 世 界 の 動 向 と 日 本 の 課 題 」 戸 籍 時 報 674号 2 頁 以 下 (2011 年 )。1368


の 子 どもの 売 買 など、 子 どもや 実 親 ( 特 に 実 母 )の 人 権 の 無 視 という 事 態 も 増 加 していった。その 結 果 、 国 際 養 子 縁 組 において、 子 どもを 始 めとする 関 係 者 全 員 の 権 利 を 保 障 するためにも、 新 たな 枠 組 みでの 国 際 的 な 協 力 の 必 要 性 が 認 識 されるようになり、またさらに、1989 年 に 国 連 総 会 本 会 議 で 採 択 された「 児 童 の 権 利 に 関 する 条 約 」( 以 下 、 児 童 の 権 利条 約 、という)が、その21 条 において、 国 際 養 子 縁 組 が 国 内 養 子 縁 組 と 同 等 の 保 障 及 び規 準 を 享 受 すること、 金 銭 上 の 不 当 な 利 得 を 伴 わないことなどを 規 定 していることも、 新たな 枠 組 みの 作 成 への 動 きを 後 押 ししたといえる。3.1993 年 ハーグ 養 子 縁 組 条 約以 上 を 背 景 に、1993 年 5 月 に 開 催 されたハーグ 国 際 私 法 会 議 第 17 会 期 で 成 立 したのが、1993 年 ハーグ 養 子 縁 組 条 約 である。この 条 約 は、1 国 際 養 子 縁 組 が 子 の 最 善 の利 益 に 基 づき、 国 際 法 により 認 められた 子 の 基 本 的 権 利 を 尊 重 して 行 われるための 保 護 措置 を 定 めること、2 条 約 の 定 める 保 護 措 置 の 遵 守 を 確 保 することにより、 子 の 奪 取 、 売 買 、及 び 取 引 の 防 止 のための 国 際 協 力 の 制 度 を 定 めること、3 条 約 に 従 った 養 子 縁 組 の 締 約 国間 での 承 認 の 保 障 をすることを 目 的 としている(1 条 )。このことからわかるように、 本 条約 は、 子 の 保 護 のための 最 小 限 の 実 質 法 上 の 保 護 措 置 ( 養 子 の 送 出 国 ( 出 身 国 )と 受 入 国の 中 央 当 局 ・ 認 可 斡 旋 機 関 の 密 接 な 協 力 による 国 際 養 子 縁 組 の 適 正 な 成 立 )を 定 め 2 、 条 約に 従 った 養 子 縁 組 の 締 約 国 間 における 承 認 を 保 障 することを 目 的 としており、 準 拠 法 や 国際 裁 判 管 轄 権 については 一 切 規 定 していない。したがって、これらの 問 題 については、 養子 縁 組 が 行 われる 国 の 国 内 法 に 委 ねられていることになる 3 。 本 条 約 は1995 年 5 月 1 日に 発 効 し、2011 年 12 月 15 日 現 在 、 締 約 国 は85カ 国 にのぼり、 欧 米 、アジア、 大洋 州 、アフリカの 関 係 国 多 数 を 含 み、 主 要 7カ 国 のうち 批 准 していないのは 日 本 のみである。4.1995 年 の 養 子 縁 組 条 約 の 概 要1995 年 の 養 子 縁 組 条 約 は、18 歳 未 満 の 養 子 の 国 境 を 越 えた 移 動 を 伴 う 国 際 養 子 縁組 ( 養 親 となる 者 と 養 子 となる 者 が 居 住 地 を 異 にし、 養 子 縁 組 に 伴 い 養 子 が 国 境 を 越 えて移 動 する 場 合 4)を 対 象 として(2 条 ・3 条 )、 以 下 のような 手 続 を 定 めている。2 中 央 当 局 の 制 度 を 定 め、その 職 責 を 規 定 するという 方 式 は、1980 年 の「 子 の 国 際 的 奪取 の 民 事 面 に 関 する 条 約 」と 類 似 するものであり、 司 法 共 助 のための 国 際 協 力 制 度 の 確 立を 意 図 するハーグ 国 際 私 法 会 議 作 成 の 条 約 の1つの 流 れに 沿 ったものとされている。 清水 ・ 前 掲 論 文 212 頁 以 下 、 及 び219 頁 ( 注 36)を 参 照 。3 この 条 約 は 準 拠 法 の 統 一 を 目 的 とした 条 約 ではなく、 一 種 の 人 権 条 約 であるという 評 価 がされているところである。 鳥 居 ・ 前 掲 論 文 8 頁 参 照 。4 1965 年 の 養 子 縁 組 条 約 は、 当 事 者 が 締 約 国 の 国 籍 を 有 する 場 合 のみを 適 用 対 象 としていた(1 条 )が、1995 年 条 約 は 当 事 者 の 国 籍 を 問 題 とすることなく、 子 が 国 境 を 越 えて 移 動 するような 養 子 縁 組 であれば 適 用 される。したがって、 養 親 と 子 が 国 籍 を1つにする 場 合 でも、 子 が 他 の 締 約 国 から 養 親 の 常 居 所 地 国 へ 入 国 し、 養 親 とともに 居 住 しようと2369


まず、 子 の 保 護 のための 最 小 限 の 実 質 法 上 の 保 護 措 置 として、 中 央 当 局 、 認 可 された 養子 斡 旋 機 関 等 の 国 際 的 な 協 力 関 係 のもとで 適 正 な 養 子 縁 組 を 成 立 させるための 規 定 を 定 める。すなわち、 子 どもの 送 出 国 ( 出 身 国 )に 設 けられる 中 央 当 局 は、 認 可 された 縁 組 斡 旋団 体 とともに、 養 子 となる 子 が 縁 組 可 能 であることの 認 定 、 親 ・ 子 本 人 の 意 思 の 確 認 、 国内 での 養 育 の 可 能 性 などを 適 正 に 考 慮 して(4 条 ・16 条 )、 国 際 養 子 縁 組 が 子 の 最 善 の 利益 に 合 致 すると 判 断 したときは、 対 応 する 受 入 国 の 中 央 当 局 、 認 可 斡 旋 団 体 と 協 力 して、受 入 国 側 で 養 親 として 適 格 と 判 断 され、その 同 意 を 確 保 した 者 (5 条 ・15 条 ・17 条 )とのマッチングとその 評 価 を 行 い、 適 合 すれば 養 子 縁 組 手 続 を 進 める。これに 対 して 不 適合 のときは、 子 どもを 他 の 養 親 希 望 者 に 託 置 するなどの 可 能 性 を 探 り、すでに 子 が 受 入 国に 移 動 している 場 合 は、 出 身 国 に 戻 すことは 子 の 利 益 に 合 致 する 限 りでの 最 終 手 段 とする(21 条 )。次 に 締 約 国 間 における 承 認 については、 以 下 のような 自 動 承 認 の 原 則 が 規 定 されている。すなわち、 国 際 養 子 の 出 入 国 を 円 滑 に 行 うために 中 央 当 局 が 適 切 な 措 置 をとり(18 条 ・19 条 )、 受 入 国 での 養 親 子 の 生 活 の 安 定 化 を 図 るために、 出 身 国 で 本 条 約 に 従 って 成 立 した 国 際 養 子 縁 組 については、 受 入 国 は、 原 則 として 自 動 的 にこれを 承 認 するものであり、子 の 最 善 の 利 益 を 考 慮 して、 明 らかに 公 序 に 反 する 場 合 に 限 って 承 認 を 拒 絶 することができるとしている(23 条 ・24 条 ) 5 。 承 認 の 効 力 については、1 法 的 親 子 関 係 の 成 立 、2養 親 の 子 に 対 する 親 責 任 、3 養 子 縁 組 がされた 国 において 養 子 縁 組 が 子 とその 父 母 との 間の 既 存 の 法 的 関 係 を 断 絶 する 効 果 を 有 する 場 合 には、その 断 絶 効 の 承 認 を 明 記 するほか、養 子 の 出 身 国 と 受 入 国 で 養 子 縁 組 の 断 絶 効 に 差 異 がある 場 合 についての 調 整 規 定 を 置 き(26 条 ) 6 、 受 入 国 において 断 絶 効 を 有 する 養 子 縁 組 に 転 換 することができるものと 規 定する 限 りは 適 用 されることになる。 清 水 ・ 前 掲 論 文 212 頁 参 照 。これに 対 して、 養 親 と子 どもが 国 籍 を 異 にしていても、 同 一 国 内 に 常 居 所 を 有 する 場 合 には、 条 約 の 対 象 外 となる。5 これについては、 中 央 当 局 ・ 認 可 斡 旋 機 関 による 重 大 な 職 務 違 反 がない 限 りはほぼ 適 用 されないであろうとされている。 床 谷 他 ・ 前 掲 論 文 8 頁 。6 26 条 2 項 は、「 既 存 の 親 子 関 係 を 断 絶 する 効 果 をもつ 養 子 縁 組 の 場 合 には、 子 は、 受 入国 及 びその 養 子 縁 組 が 承 認 された 受 入 国 以 外 のいずれの 締 約 国 においても、 当 該 国 で 同 様の 効 果 を 持 つ 養 子 縁 組 に 由 来 する 権 利 と 同 等 の 権 利 を 享 受 する」とし、さらに3 項 は、「 前項 の 規 定 は、 養 子 縁 組 を 承 認 する 国 で 効 力 を 有 する 子 により 有 利 な 規 定 を 適 用 することを妨 げない」と 規 定 する。2 項 の 規 定 は、いわゆる 特 別 養 子 型 の 養 子 縁 組 に 関 する 限 り、 養子 となった 子 は、1 受 入 国 において 同 様 の 効 果 を 持 つ 養 子 縁 組 に 由 来 する 権 利 と 同 等 の 権利 、2 承 認 国 において 同 様 の 効 果 を 持 つ 養 子 縁 組 に 由 来 する 権 利 と 同 等 の 権 利 を 有 すると定 めているが、1の 効 果 は 正 確 には 承 認 の 効 果 ではなく、 受 入 国 で 本 条 約 の 適 用 がある 縁組 がされた 場 合 、 自 動 的 に 受 入 国 の 特 別 養 子 と 同 等 の 権 利 が 与 えられるということを 意 味するもので、これは 受 入 国 における 養 子 縁 組 の 効 果 を 直 接 に 定 めた 実 体 規 定 であると 説 明される。 他 方 で、2は、 出 身 国 でされた 養 子 縁 組 が 受 入 国 その 他 の 締 約 国 で 承 認 された 場合 や、 受 入 国 でされた 養 子 縁 組 が 出 身 国 その 他 の 締 約 国 で 承 認 された 場 合 について 規 定 するものである。 以 上 について、 清 水 ・ 前 掲 論 文 208 頁 以 下 を 参 照 。3370


している(27 条 ) 7 。5. 国 際 養 子 縁 組 の 国 際 裁 判 管 轄 権 について1965 年 の 養 子 縁 組 条 約 では、 養 子 縁 組 の 管 轄 権 は、 養 親 となる 者 の 常 居 所 地 国 又 は国 籍 国 にのみ 認 められていた(3 条 ) 8 。1995 年 の 養 子 縁 組 条 約 では、 国 際 裁 判 管 轄 権について 明 示 の 規 定 は 置 かれていないが、その 適 用 対 象 を 定 める2 条 1 項 は、「この 条 約 は、ある 締 約 国 ( 出 身 国 )に 常 居 所 を 有 する 子 が、 出 身 国 において 他 の 締 約 国 ( 受 入 国 )に 常居 所 を 有 する 夫 婦 又 は 単 身 者 と 縁 組 をした 後 に、 又 は 受 入 国 若 しくは 出 身 国 においてこのような 縁 組 をするために、 受 入 国 に 移 動 を 終 え、 現 に 移 動 し、 又 は 移 動 しようとする 場 合に 適 用 する」と 規 定 していることから、 子 の 常 居 所 地 国 ( 出 身 国 ) 又 は 養 親 の 常 居 所 地 国( 受 入 国 )のいずれかに 管 轄 権 を 認 めることを 前 提 にしているといえる 9 。6. 養 子 縁 組 の 承 認 について1965 年 の 養 子 縁 組 条 約 では、 承 認 については 一 般 的 な 規 定 のみが 置 かれていた。すなわち、 第 8 条 は、 本 条 約 によって 規 律 され、 本 条 約 に 規 定 する 管 轄 権 を 有 する 機 関 によって 認 められた 養 子 縁 組 は、 締 約 国 において 自 動 的 に 承 認 されると 規 定 するにとどまる。これに 対 して、1995 年 の 養 子 縁 組 条 約 では、 上 述 のとおり、より 詳 細 な 規 定 を 置 いている。しかしその 規 定 をめぐっては、 特 別 養 子 型 の 養 子 縁 組 の 承 認 の 効 果 を 規 定 した26条 2 項 にいう「 同 等 の 権 利 」の 内 容 について、 何 をもって「 同 等 」とするか、さらには「 権利 」の 意 味 について、 解 釈 の 分 かれる 余 地 があるとされている 10 。いずれにしても、1995 年 の 養 子 縁 組 条 約 は、1965 年 のそれとは 異 なり、 管 轄 権や 準 拠 法 については 一 切 規 定 しておらず、 承 認 国 からみて 準 拠 法 が 異 なる 場 合 や 縁 組 国 の管 轄 権 が 認 められないような 場 合 であっても、 締 約 国 で 本 条 約 に 従 ってなされた 養 子 縁 組7 27 条 1 項 は、「 出 身 国 で 認 められた 養 子 縁 組 が 既 存 の 法 律 上 の 親 子 関 係 を 断 絶 する 効 果をもたない 場 合 には、その 養 子 縁 組 は、 次 の 各 号 に 該 当 するときに、この 条 約 に 従 ってその 養 子 縁 組 を 承 認 する 受 入 国 において、そのような 効 果 を 有 する 養 子 縁 組 に 変 換 することができる。a 受 入 国 の 法 が 認 めるとき。 b そのような 効 果 を 有 する 養 子 縁 組 のために、第 4 条 c 及 び d に 掲 げる 同 意 が 与 えられていたとき 又 は 同 意 が 与 えられるとき。」と 規 定 する。8 養 子 縁 組 の 準 拠 法 については、 成 立 要 件 については 管 轄 を 有 する 国 の 法 を(4 条 )、 養 親 、その 家 族 及 び 配 偶 者 以 外 の 者 の 同 意 及 び 協 議 に 関 する 事 項 については 子 の 本 国 法 を(5 条 )、それぞれ 適 用 するとしていた。9 ただし、 実 際 にこれらの 国 に 管 轄 が 認 められるかどうかは、 各 締 約 国 の 国 内 法 による。 清水 ・ 前 掲 論 文 212 頁 。10 例 えば、わが 国 の 国 内 法 上 の 特 別 養 子 縁 組 に 由 来 する 権 利 とするのか、それともわが 国の 国 際 私 法 による 準 拠 法 の 適 用 の 結 果 認 められるものとするのかという 問 題 や、 権 利 の 範囲 に 親 子 関 係 に 関 する 私 法 上 の 権 利 のみならず 公 法 的 な 権 利 まで 含 まれることになるのかとい 問 題 などである。 詳 しくは、 清 水 ・214 頁 以 下 を 参 照 。4371


であれば 締 約 国 は 自 動 承 認 義 務 を 負 うことになる。このような 本 条 約 のアプローチが 後 述のわが 国 の 実 務 ・ 議 論 と 果 たして 整 合 性 を 持 つかについては、さらに 慎 重 な 議 論 が 必 要 であろう。Ⅱ.わが 国 における 渉 外 養 子 縁 組 ・ 渉 外 養 子 離 縁 の 国 際 裁 判 管 轄 111. 渉 外 養 子 縁 組 12の 国 際 裁 判 管 轄(1) 学 説 の 状 況国 内 養 子 縁 組 については、 家 事 事 件 手 続 法 161 条 が、 養 子 縁 組 許 可 審 判 につき 養 子 となるべき 者 の 住 所 地 、 同 164 条 が 特 別 養 子 縁 組 成 立 審 判 につき 養 親 となるべき 者 の 住 所地 の、それぞれ 家 庭 裁 判 所 の 管 轄 に 属 すると 規 定 しているが、 渉 外 養 子 縁 組 について 国 際裁 判 管 轄 を 定 める 直 接 の 規 定 はない。 従 って、 上 記 の 国 内 土 地 管 轄 規 定 や、 養 親 となる 者 、養 子 となる 者 、それぞれの 我 が 国 との 関 連 性 を 基 礎 とし、さらには 養 子 縁 組 許 可 決 定 の 特殊 性 を 勘 案 したうえで、 当 事 者 間 の 公 平 や 事 件 処 理 の 適 正 その 他 の 事 情 をも 考 慮 して、わが 国 国 際 民 事 訴 訟 法 の 見 地 から 条 理 によって 裁 判 管 轄 有 無 の 基 準 を 考 えていくこととなる13。その 具 体 的 基 準 については 従 来 、 以 下 の 諸 説 が 主 張 されている。1 養 子 の 住 所 のみの 管轄 を 認 める 見 解 、2 養 親 または 養 子 の 住 所 双 方 の 管 轄 を 肯 定 し、これに 限 定 する 見 解 、311 この 問 題 については、 以 下 の 文 献 を 参 考 にした。 西 沢 修 「 外 国 人 との 養 子 縁 組 」『 家 族法 大 系 Ⅳ』247 頁 以 下 (1960)、 溜 池 良 夫 「 渉 外 人 事 訴 訟 および 家 事 審 判 の 諸 問 題 」『 実 務 民 事 訴 訟 講 座 6』123 頁 以 下 (1971)、 山 田 鐐 一 「 養 子 縁 組 の 準 拠 法 、 管 轄 権及 び 裁 判 の 承 認 」『 現 代 家 族 法 大 系 Ⅲ』205 頁 以 下 (1979)、あき 場 準 一 「 養 子 縁 組 ・離 縁 の 準 拠 法 及 び 国 際 的 管 轄 」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5』247 頁 以 下 (1990)、 早田 芳 郎 「 国 際 私 法 における 特 別 養 子 縁 組 」 家 月 40 巻 4 号 1 頁 以 下 、 石 黒 一 憲 「 国 際 的 養子 斡 旋 ・ 養 子 縁 組 の 諸 問 題 」『 講 座 ・ 現 代 家 族 法 Ⅲ』387 頁 (1992)、 同 「 国 際 養 子縁 組 の 準 拠 法 と 国 際 裁 判 管 轄 」 判 タ747 号 464 頁 以 下 (1991)、 同 「 国 際 養 子 縁 組の 現 代 的 課 題 」 国 際 私 法 の 争 点 181 頁 以 下 、 司 法 研 修 所 編 ・ 渉 外 養 子 縁 組 に 関 する 研 究(1999)、 早 川 吉 尚 「 国 際 養 子 縁 組 の 準 拠 法 と 国 際 裁 判 管 轄 」 判 タ1100 号 202 頁以 下 (2002)、 大 谷 美 紀 子 「 渉 外 養 子 縁 組 の 国 際 裁 判 管 轄 権 と 準 拠 法 」『 新 家 族 法 実 務大 系 第 2 巻 』663 頁 以 下 (2008)、 不 破 茂 「 養 子 縁 組 許 可 ・ 決 定 の 国 際 裁 判 管 轄 」 渉外 判 例 百 選 ( 第 三 版 )216 頁 以 下 、 西 島 太 一 「 養 子 縁 組 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 」 国 際 私 法判 例 百 選 ( 別 ジュリ172 号 )184 頁 以 下 、 同 ・ 国 際 私 法 判 例 百 選 ( 別 ジュリ185 号 )188 頁 以 下 、 豊 澤 佳 弘 「 未 成 年 者 特 別 養 子 縁 組 ・ 離 縁 の 裁 判 管 轄 と 準 拠 法 」 判 タ747号 467 頁 等 。12 日 本 国 内 に 住 む 子 ども( 日 本 人 、 外 国 人 )を 子 どもと 国 籍 の 異 なる 国 内 在 住 の 夫 婦 に 委 託し、 日 本 の 家 庭 裁 判 所 で 養 子 縁 組 を 完 了 するか、 外 国 に 住 む 子 どもが、 外 国 の 養 子 縁 組 斡旋 機 関 の 許 可 を 取 って 日 本 に 移 動 し、 日 本 の 家 庭 裁 判 所 で 養 子 縁 組 を 完 了 するものを 指 す。13 不 破 ・ 前 掲 判 批 ・216 頁 、 豊 澤 ・467 頁 他 。5372


養 親 養 子 の 各 住 所 に 加 えて、 本 国 管 轄 を 認 める 見 解 、4 各 当 事 者 の 本 国 管 轄 と 養 親 本 国 における 縁 組 の 承 認 を 条 件 とした 当 事 者 の 共 通 住 所 地 管 轄 を 本 則 としつつ、 緊 急 管 轄 として、養 子 住 所 のみに 基 づく 管 轄 を 認 める 見 解 などで、さらに 特 別 養 子 縁 組 については、5 家 事審 判 規 則 64 条 の3( 現 家 事 事 件 手 続 法 164 条 )の 趣 旨 から 養 親 の 住 所 がある 場 合 に 管轄 を 認 める 見 解 なども 主 張 されている。そもそも 養 子 縁 組 の 許 可 ・ 決 定 については、「 子 の 福 祉 」のために 適 切 であるかどうかが重 要 であるが、 養 子 とされる 者 が 未 成 年 かどうか、 特 別 養 子 縁 組 なのか 普 通 養 子 縁 組 なのかで、それぞれ 考 慮 すべき 要 素 も 異 なってくる。また、 当 事 者 の 国 籍 を 管 轄 の 基 準 として認 めるべきか 否 かも 問 題 となる。すなわち、 養 子 とされる 者 が 未 成 年 の 場 合 には、 子 の 福祉 のために 適 切 であるかを 判 断 するうえで、 当 事 者 の 経 済 状 態 や 生 活 環 境 の 調 査 が 重 要 とされるため、 実 親 を 含 めた 子 の 側 の 事 情 を 調 査 し 子 の 利 益 を 保 護 するうえで、 養 子 とされる 者 の 住 所 地 に 管 轄 を 認 めると 同 時 に、 養 親 側 の 事 情 を 調 査 し、 将 来 的 に 養 親 子 関 係 が 形成 される 地 である 養 親 の 住 所 地 にも 管 轄 を 認 めるのが 合 理 的 とされる。これは、 養 子 縁 組における 最 大 の 政 策 目 的 である 子 の 福 祉 の 観 点 から、 裁 判 管 轄 の 局 面 では、ともかく 養 子縁 組 の 機 会 を 奪 うことを 回 避 することに 重 点 を 置 くべきであるという 考 え 方 に 基 づいている。これによれば、 管 轄 を 認 めることと 縁 組 の 適 否 を 判 断 することは 別 問 題 であるから、管 轄 はできるだけ 広 く 認 めておく( 裁 判 所 の 関 与 ・ 介 入 の 機 会 を 保 障 する)ことに 意 義 があることになり、 養 親 となる 者 又 は 養 子 となる 者 の 住 所 地 国 の 双 方 に 並 列 的 に 管 轄 を 認 める。次 に 特 別 養 子 縁 組 については、これとは 異 なる 考 慮 を 必 要 とする 見 解 がある。そもそも特 別 養 子 縁 組 とは、 実 親 子 関 係 の 断 絶 を 伴 う 完 全 養 子 制 度 であり、 国 内 の 管 轄 について 養親 となる 者 の 住 所 地 の 家 裁 にその 管 轄 が 認 められているのは、 養 親 となる 者 の 適 格 性 や 養親 子 関 係 の 適 合 性 等 につき、いわゆる 試 験 養 育 を 通 じて、 普 通 養 子 縁 組 事 件 におけるよりも 一 層 慎 重 かつ 十 全 な 調 査 を 行 う 必 要 があるからであるとされる。したがって 国 際 裁 判 管轄 についても、 原 則 的 に 養 親 となる 者 の 住 所 ( 常 居 所 )を 基 準 とすべきであり、 養 親 となる 者 の 住 所 が 日 本 にないのに、 養 子 となる 者 の 住 所 が 日 本 にあるというだけでわが 国 の 家裁 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるのは 適 当 ではないとする 見 解 が 有 力 に 主 張 されている 14 。この 見解 は、 特 別 養 子 縁 組 成 立 事 件 における 家 裁 の 後 見 的 関 与 の 重 要 性 及 びその 実 効 確 保 の 必 要性 を 重 視 している 15 。しかしこれに 対 しては、 国 際 養 子 縁 組 においては、 子 どもを 如 何 なるプロセスを 経 て 外 国 に 連 れ 出 すことになるのか、 換 言 すれば、 子 どもの 人 権 を 守 っていくうえでは 国 際 養 子 斡 旋 のプロセスを 十 分 監 視 することが 最 も 重 要 であるという 観 点 から、当 該 の 子 が 生 まれ、その 後 養 育 されている 国 ( 養 子 とされる 子 の 住 所 地 ないしは 常 居 所 地国 )の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるべきであるとする 見 解 も 有 力 である 16 。この 見 解 は、 後 述 の 国14 早 田 ・18 頁 以 下 。15 豊 澤 ・467 頁 。16 石 黒 ・ 判 タ747 号 466 頁 他 。6373


際 養 子 縁 組 に 関 する 子 の 保 護 及 び 協 力 に 関 するハーグ 条 約 に 見 られる、 国 際 養 子 縁 組 が 関係 諸 国 の 当 局 間 の 協 力 により、 児 童 の 人 権 を 尊 重 しつつ 慎 重 になされるよう、 国 際 的 な 制度 枠 組 を 築 くという 国 際 的 な 流 れにも 着 目 し、 養 子 とされる 子 の 住 所 地 にも 国 際 裁 判 管 轄を 認 めることで、 特 に 日 本 で 産 まれた 子 どもが 海 外 へ 養 子 縁 組 のために 連 れ 出 されるという 国 際 養 子 縁 組 を 適 切 に 行 うために、 日 本 の 家 庭 裁 判 所 の 関 与 をできるだけ 広 く 認 める 必要 があることを 強 調 する。また、 特 別 養 子 縁 組 の 国 際 裁 判 管 轄 を 養 親 の 住 所 地 に 限 定 する根 拠 が、もっぱら 試 験 養 育 の 状 況 調 査 を 裁 判 所 が 適 切 に 行 う 必 要 性 にあるのだとすれば、養 親 が 外 国 に 居 住 する 場 合 であっても、 養 親 の 住 所 地 国 における 試 験 養 育 の 状 況 調 査 を 適格 になしうる 限 りで、 養 子 の 常 居 所 地 国 としての 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めてもよいとする 見 解 もある。この 見 解 も、 渉 外 養 子 縁 組 のために 海 外 に 送 り 出 される 子 の 利 益 ・ 福 祉 のために、 養 子 の 住 所 ( 常 居 所 ) 地 国 の 裁 判 所 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 し、そのような 渉 外 養子 縁 組 成 立 の 過 程 にわが 国 の 裁 判 所 が 関 与 ・ 介 入 する 機 会 を 保 障 しておくことが 望 ましいという 考 えにたつものである 17当 事 者 の 国 籍 を 管 轄 の 基 準 とするのは 妥 当 か。これについては、 養 親 養 子 のいずれの 住所 もわが 国 に 存 在 しない 場 合 に、 当 事 者 の 国 籍 に 基 づいてわが 国 の 裁 判 管 轄 を 認 めることが 妥 当 かという 形 で 問 題 となる。 本 国 管 轄 を 肯 定 する 論 拠 として 挙 げられているのは、 主に 非 訟 事 件 における 並 行 原 則 であり、わが 国 が 養 子 縁 組 の 成 立 について 養 親 の 本 国 法 主 義を 採 用 していることから( 法 例 ○ 条 )、 国 際 裁 判 管 轄 についてもこれと 並 行 して 養 親 の 本 国に 管 轄 を 認 めるべきであるとする。さらにより 実 質 的 な 考 慮 として、 養 子 縁 組 の 戸 籍 への反 映 を 重 視 する 見 解 もある。すなわち、 外 国 でなされた 養 子 縁 組 については、 当 該 養 子 縁組 決 定 の 承 認 によってそれを 戸 籍 へ 反 映 することも 可 能 であるが、それは 必 ずしも 十 全 ではないことから、それよりは、 将 来 的 な 紛 争 の 防 止 や 当 事 者 の 渉 外 的 身 分 関 係 の 更 なる 安定 を 考 慮 し、より 確 実 で 迅 速 な 方 法 として、 当 事 者 がわが 国 裁 判 所 における 審 判 を 望 むときにはこれを 拒 絶 すべきではないとする(その 方 が 戸 籍 に 迅 速 かつ 確 実 に 反 映 させることができる)。 特 別 養 子 縁 組 の 場 合 はさらにこの 要 請 が 強 くなるとされ、また、 居 住 地 国 において 養 子 縁 組 の 申 立 て 自 体 が 許 されない 場 合 に、 子 の 福 祉 のため 必 要 な 縁 組 の 方 途 を 遮 絶してしまわないという、 緊 急 管 轄 的 配 慮 も 必 要 であることから、 本 国 管 轄 も 付 随 的 に 認 めるべきであるとする 18 。(2) 渉 外 養 子 縁 組 許 可 事 件 の 審 判 例渉 外 養 子 縁 組 許 可 事 件 の 審 判 例 ( 末 尾 に 要 旨 を 掲 載 )をみると、 公 刊 された 審 判 例 で 国際 裁 判 管 轄 を 否 定 した 例 は 見 当 たらない 19 。また 国 際 裁 判 管 轄 があることを 前 提 として、そ17 大 谷 ・669 頁 。18 不 破 ・217 頁 、 西 島 ・ 別 ジュリ185 号 189 頁 も 同 旨 。19 2009 年 及 び2010 年 の、 家 庭 裁 判 所 における 家 事 渉 外 事 件 ( 養 親 又 は 養 子 のいずれかが 外 国 人 である 養 子 縁 組 。ただし、 日 本 人 の 子 どもを 国 外 に 連 れ 出 して 外 国 で 養 子 縁組 をするケースを 含 まず)として 集 計 されている 新 受 件 数 は、 養 子 をするについての 許 可7374


の 問 題 には 触 れずに 養 子 縁 組 の 許 否 について 審 判 している 例 もある( 判 例 59、62,63) 20 。 管 轄 権 を 認 めた 審 判 例 がその 理 由 として 挙 げているのは、1 養 親 及 び 養 子 の 双 方 が日 本 に 住 所 ( 居 所 )を 有 すること( 判 例 4、6、7、9、10、11、13~22、25~31、34、35、36-1、37-1~42、44~50、52、53、55、56、58、60、64、66)、2 養 子 が 日 本 に 住 所 ( 居 所 )を 有 すること( 判 例 2、3、5、8、24、32、33、37、43、51、65)、3 養 親 が 日 本 に 住 所 ( 居 所 )を 有 すること( 判 例 1、12、61)、4 養 親 と 養 子 の 双 方 、またはいずれか 一 方 が 日 本 に 住 所 ( 居所 )を 有 することに 加 えて、いずれかが 日 本 国 籍 を 有 すること( 判 例 23、36、57)、のいずれかである。この 中 で、これらの 基 準 をとることの 根 拠 についてまで 述 べている 例は 少 なく、 述 べられていても 簡 単 に、 養 子 となる 子 の 住 所 地 国 に 管 轄 権 を 認 める 根 拠 として、「 養 子 縁 組 の 制 度 は 子 の 福 祉 の 実 現 にあること」を 挙 げるにとどまる( 判 例 51、65)。以 上 の 審 判 例 を 概 観 すると、わが 国 では、 養 親 ・ 養 子 の 双 方 又 はいずれかの 住 所 が 日 本にある 場 合 には、わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるという 立 場 をとっているといえる。また国 籍 については、これに 言 及 する 審 判 例 もあるものの、それは 国 籍 のみを 管 轄 原 因 と 認 める 趣 旨 ではなく(したがって、 養 親 も 養 子 もいずれも 日 本 に 住 所 がない 場 合 でも、いずれかの 国 籍 のみを 理 由 として 管 轄 を 認 めるかどうかは 不 明 )、わが 国 の 管 轄 権 を 認 める 肯 定 的な 付 加 的 要 素 として 認 めているにすぎない 21 。なお、 審 判 例 が 管 轄 原 因 として 認 める 住 所 の 概 念 については、 一 定 期 間 日 本 で 日 常 生 活をしていることをもって 認 める 例 ( 判 例 4、12、30、56)や、 明 示 的 に( 常 ) 居 所が 日 本 にある( 日 本 に 居 住 している)ことを 根 拠 とする 例 ( 判 例 8、11、15、16、20、23、25、26、27、33、38、41、45、51、64、65、66)もある。このことから、わが 国 の 審 判 例 は、「 住 所 」か「 常 居 所 」という 概 念 それ 自 体 にこだわらず、 居 住 の 要 素 を 基 礎 とした 当 事 者 の 生 活 の 本 拠 に 基 づく 管 轄 原 因 として、わが 国 に裁 判 管 轄 を 認 めるのが 適 切 な 場 合 に、わが 国 に 住 所 なり 常 居 所 がある(あるいは 日 本 に 居住 している)として、 幅 広 く 管 轄 を 認 める 傾 向 にあるといえる 22 。がそれぞれ414 件 /352 件 、 特 別 養 子 縁 組 の 成 立 及 びその 離 縁 に 関 する 処 分 がそれぞれ29 件 /37 件 となっている( 司 法 統 計 年 報 ( 家 事 編 )による)。20 国 際 養 子 縁 組 に 関 しては、その 国 際 裁 判 管 轄 の 基 準 に 関 して 判 断 した 最 高 裁 判 例 はない。そもそも 国 際 裁 判 管 轄 の 根 拠 について 詳 細 に 判 示 した 裁 判 例 もみあたらないが、これは、これまでの 審 判 例 の 事 案 のほとんどで 当 事 者 全 てが 養 子 縁 組 や 離 縁 の 成 立 を 望 んでおり、わが 国 における 管 轄 の 有 無 が 本 格 的 に 争 われた 例 がほとんどないという 事 情 があると 指 摘されている。 早 川 ・203 頁 。また、ほとんどは 当 事 者 全 員 がわが 国 に 住 所 を 持 つか、 少なくとも 居 所 を 有 していた 事 例 であり、これは、 審 判 事 件 では 本 人 の 出 頭 が 要 請 され、 国内 管 轄 についても 養 子 の 住 所 が 基 準 となっていることが 影 響 を 与 えているという 指 摘 もある。あき 場 ・261 頁 以 下 。21 大 谷 ・666 頁 。22 不 破 ・217 頁 。 住 所 や 居 所 の 認 定 は、わが 国 の 国 際 管 轄 規 則 の 立 場 から 独 自 に 為 される。あき 場 ・263 頁 。 西 島 ・ 別 ジュリ185 号 189 頁 は、 日 本 が「 保 護 されるべき 利益 」の 所 在 地 といえるかが 決 め 手 になり、その 有 無 については、「 子 の 福 祉 」の 観 点 を 重 視8375


特 別 養 子 縁 組 についての 審 判 例 は、すべて 養 親 及 び 養 子 がいずれも 日 本 に 住 所 を 有 することを 理 由 にわが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めている( 判 例 48-1、49、52、53、58)。 学 説 で 問 題 とされている、 外 国 に 居 住 する 養 親 から、 日 本 に 住 所 を 有 する 養 子 について 特 別 養 子 縁 組 が 申 し 立 てられ、わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 が 問 題 となるような 事 例 は見 当 たらない。2. 渉 外 養 子 離 縁 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 23養 子 縁 組 の 離 縁 事 件 については、 家 事 事 件 手 続 法 165 条 が、 養 親 の 住 所 地 を 管 轄 する家 庭 裁 判 所 の 管 轄 に 属 すると 規 定 しているが、 国 際 裁 判 管 轄 については、 養 子 縁 組 成 立 の審 判 事 件 についてと 同 様 に、 明 文 の 規 定 がないことから、 条 理 によって 決 定 することになる。この 点 については、 渉 外 離 婚 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 に 準 じて、 被 告 の 住 所 地 国 に 管 轄 を認 めることを 原 則 とし、 被 告 が 原 告 を 悪 意 で 遺 棄 した 場 合 や 被 告 が 行 方 不 明 の 場 合 など、正 義 公 平 の 観 点 からこの 原 則 を 貫 くことが 原 告 に 酷 な 場 合 には、 例 外 的 に 原 告 の 住 所 地 国に 管 轄 を 認 めるとする 見 解 が 有 力 とされている。これに 対 しては、 特 に 渉 外 特 別 養 子 離 縁事 件 の 特 殊 性 を 重 視 する 見 解 からは、 離 婚 の 場 合 に 比 べ、 関 与 する 裁 判 所 の 機 能 に 根 本 的な 相 違 があることを 重 視 し、 独 自 の 基 準 ( 観 点 )も 主 張 されている。すなわち、 特 別 養 子離 縁 事 件 については、 国 内 管 轄 において 養 親 の 住 所 が 基 準 とされているのは、 養 親 による虐 待 、 悪 意 の 遺 棄 等 、 離 縁 事 由 の 審 理 のために 必 要 となる 養 親 による 養 子 の 養 育 状 況 の 調査 は、 養 親 の 住 所 地 において 容 易 になしうるという 理 由 からであり、このことは、 渉 外 事件 にも 妥 当 する。そのうえで、 渉 外 特 別 養 子 縁 組 事 件 の 審 理 にあたって 必 要 とされる 子 の福 祉 の 観 点 からの 子 の 要 保 護 性 に 関 する 判 断 を 適 切 になしうるのは 養 子 の 住 所 地 国 の 裁 判所 であることも 指 摘 する。この 見 解 によれば、 渉 外 特 別 養 子 縁 組 離 縁 事 件 においては、 離縁 事 由 の 有 無 の 判 定 に 必 要 な 資 料 の 適 切 な 収 集 という 観 点 から、 離 縁 の 実 質 的 な 相 手 方 である 養 親 の 住 所 ( 常 居 所 ) 地 国 に 原 則 として 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるとしつつ、 例 外 的 に 養親 による 悪 意 の 遺 棄 、 養 親 の 行 方 不 明 等 の 特 別 の 事 情 がある 場 合 には、 養 子 側 の 福 祉 や 要保 護 性 の 観 点 から、 養 子 の 住 所 ( 常 居 所 ) 地 国 にも 管 轄 権 を 認 めることになる 24 。 養 子 から養 親 に 対 して 申 し 立 てられた 離 縁 事 件 については、いずれの 見 解 にたっても 結 論 に 違 いはない。また 養 親 がその 住 所 地 国 で 養 子 に 対 して 申 し 立 てた 離 縁 事 件 においても、 養 親 の 住所 が 日 本 にあるというだけで 安 易 にわが 国 の 管 轄 を 認 めることが、 養 子 の 保 護 に 欠 けるのではないかという 懸 念 もあるが、 従 来 の 学 説 によっても 養 子 の 保 護 には 十 分 な 配 慮 がなさしたうえで、 子 の 国 際 的 移 動 のチェック、 養 子 としての 身 分 ・ 安 定 した 在 留 資 格 ・ 国 籍 ・市 民 権 の 取 得 等 のほか、 外 国 での 縁 組 の 必 要 性 と 可 能 性 、は 行 的 縁 組 の 発 生 防 止 、 戸 籍 への 反 映 、 外 国 の 養 親 に 日 本 で 申 立 て(あるいは 試 験 養 育 )させることの 可 能 性 と 妥 当 性 、実 質 的 な 調 査 ・ 審 理 の 可 能 性 ( 外 国 のソーシャルワーカー 等 との 連 携 )、 本 人 出 頭 主 義 との関 係 などを 総 合 勘 案 して 決 するしかない、とする。23 大 谷 ・670 頁 以 下 参 照 。24 豊 澤 ・467 頁 以 下 。9376


れることに 鑑 みれば、 結 局 いずれの 見 解 にたっても 結 論 に 違 いはないといえる 25 。渉 外 養 子 離 縁 事 件 の 審 判 例 は、いずれも 外 国 に 居 住 する 養 親 から 日 本 に 居 住 する 日 本 人養 子 に 申 し 立 てられた 普 通 養 子 離 縁 事 件 についてであるが、 特 に 管 轄 権 の 根 拠 に 言 及 することなく 離 縁 の 審 判 をしている 26 。なお、 審 判 例 はないが、 学 説 においては、 外 国 の 裁 判 所 その 他 の 当 局 の 関 与 によって 創設 的 に 成 立 した 養 子 縁 組 の 離 縁 事 件 については、 当 該 養 子 縁 組 を 成 立 させた 裁 判 所 等 が 属する 国 に 養 子 離 縁 の 裁 判 の 専 属 管 轄 権 を 認 めるべきであるとする 見 解 がある 27 。しかし、 前述 の 離 縁 事 由 の 判 断 に 必 要 な 資 料 の 適 切 な 収 集 や、 子 の 福 祉 ・ 要 保 護 性 という、 渉 外 離 縁事 件 に 関 する 特 殊 性 に 鑑 みて、 当 事 者 の 住 所 を 基 準 とする 管 轄 権 を 否 定 することには 疑 問をもつ 見 解 もある 28 。3. 外 国 養 子 縁 組 裁 判 の 承 認外 国 における 養 子 縁 組 が 裁 判 所 や 公 的 機 関 でなされた 場 合 に、その 承 認 の 要 件 をどうするかについては、 日 本 の 国 際 私 法 の 定 める 準 拠 法 に 従 ってなされたものであることを 要 件とするか、 民 訴 法 118 条 の 規 定 をどこまで 適 用 するか 等 について 争 いがある 29 。 渉 外 養 子縁 組 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 下 記 審 判 例 のうち、62の 事 例 は、 外 国 でなされた 養 子 縁 組の 我 が 国 における 効 果 ( 評 価 )が 問 題 となった 事 例 である。ここでは、 日 本 在 住 の 日 本 人夫 婦 が、 中 国 在 住 の 中 国 人 孤 児 を 中 国 の 方 式 による 普 通 養 子 縁 組 として 届 出 、 受 理 されたあと、 日 本 に 帰 化 した 子 についてわが 国 で 特 別 養 子 縁 組 の 申 立 てがなされた。 裁 判 所 は、法 例 20 条 1 項 により 養 親 の 本 国 法 である 日 本 法 を 適 用 し、 普 通 養 子 縁 組 が 成 立 している当 事 者 間 に 養 子 と 実 親 との 関 係 の 断 絶 という 日 本 法 上 の 特 別 養 子 縁 組 と 同 一 の 効 果 を 認 めるためには、 当 該 養 子 縁 組 の 成 立 要 件 が 日 本 民 法 の 特 別 養 子 縁 組 の 成 立 要 件 を 兼 ね 備 えていると 認 められることを 要 するとした。そのうえで、 中 国 司 法 部 公 証 司 民 法 処 における 公証 が 日 本 民 法 所 定 の 家 庭 裁 判 所 の 審 判 に 該 当 するものとはいえず、したがって 中 国 方 式 で成 立 した 本 件 養 子 縁 組 は、 日 本 国 法 上 はいまだ 普 通 養 子 縁 組 の 効 力 しか 生 じておらず、 子とその 実 親 戸 の 法 律 関 係 は 断 絶 していないとして、 特 別 養 子 縁 組 の 審 判 を 行 う 利 益 を 認 めた。この 判 断 に 対 しては、 中 国 での 公 的 機 関 による 養 子 縁 組 への 関 与 は 同 国 において 権 限を 有 する 機 関 によってなされたものであり、かつ 断 絶 型 養 子 縁 組 であったことから、 日 本の 家 庭 裁 判 所 による 審 判 の 代 替 可 能 性 は 肯 定 的 に 検 討 される 余 地 があるし、 中 国 法 を 適 用25 大 谷 ・671 頁 以 下 。26 水 戸 家 審 昭 和 48 年 11 月 8 日 家 月 26 巻 6 号 56 頁 、 那 覇 家 審 昭 和 56 年 7 月 31 日家 月 34 巻 11 号 54 頁 。27 山 田 ・205 頁 以 下 。28 大 谷 ・672 頁 。29 海 老 沢 美 広 「 外 国 養 子 決 定 の 承 認 」 民 商 法 雑 誌 75 巻 3 号 357 頁 以 下 (1976)、 同「 国 際 養 子 縁 組 の 問 題 点 」ジュリスト1059 号 148 頁 以 下 (1995)、 石 黒 一 憲 ・ 現代 国 際 私 法 ( 上 )570 頁 以 下 (1986) 等 参 照 。10377


してなされた 中 国 養 子 縁 組 の 我 が 国 における 効 力 を、 法 例 の 定 める 準 拠 法 = 日 本 法 に 従 って 判 断 した 点 を、 身 分 関 係 の 変 更 における 法 的 安 定 性 の 確 保 の 観 点 から 疑 問 視 する 見 解 もある 30 。【 参 考 資 料 】渉 外 養 子 縁 組 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 我 が 国 の 判 例01: 昭 和 32 年 12 月 12 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 10 巻 1 号 55 頁 )日 本 在 従 のアメリカ 人 を 養 親 とし 日 本 人 妻 の 連 れ 子 ( 日 本 人 )を 養 子 とする 縁 組 の 許可 については、 申 立 人 たる 養 親 が 現 に 日 本 国 に 滞 在 居 住 している 以 上 、 日 本 国 の 裁 判 所 が裁 判 権 を 有 する。02: 昭 和 33 年 12 月 25 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 11 巻 4 号 136 頁 )日 本 在 住 のアメリカ 人 夫 婦 とアメリカ 人 未 成 年 者 間 の 養 子 縁 組 について、アメリカ 国際 私 法 上 養 子 決 定 の 管 轄 権 決 定 の 基 礎 としての 養 子 の 住 所 は 法 定 住 所 でなく 単 なる 現 住 所でもよいとして、 養 子 の 住 所 は 日 本 にあるものと 認 定 し、 日 本 法 を 適 用 して 許 可 の 審 判 をした 事 例 。03: 昭 和 36 年 2 月 10 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 13 巻 6 号 168 頁 )日 本 在 住 のアメリカ 人 夫 ・ドイツ 人 妻 と 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 については、ドイツ 裁 判 所 の 認 可 に 関 する 管 轄 は 専 属 的 なものであるが、 国 際 法 上 他 国 の 非 訟 事 件 手 続法 における 管 轄 規 定 を 排 除 するとは 考 えられず、 従 って 子 の 住 所 地 である 日 本 の 裁 判 所 が管 轄 権 を 有 する。04: 昭 和 36 年 7 月 18 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 13 巻 11 号 108 頁 )日 本 在 従 のアメリカ 人 夫 がカナダ 人 たる 妻 の 連 れ 子 を 養 子 とする 場 合 、アメリカ 国 際私 法 上 、 日 本 において 相 当 永 続 的 に 生 活 を 営 んでいる 場 合 には、 養 子 縁 組 の 管 轄 決 定 の 基礎 としての 住 所 は 日 本 にあるとしたうえで、 当 事 者 の 法 定 住 所 が 日 本 にない 場 合 でも、 現実 の 生 活 が 現 在 に 至 るまで 相 当 永 続 的 に 日 本 において 営 まれているときは、わが 国 は、 右事 件 の 管 轄 権 を 有 する。05: 昭 和 37 年 5 月 17 日 大 阪 家 裁 堺 支 部 審 判 ( 家 月 14 巻 9 号 116 頁 )養 子 縁 組 許 可 については、 養 子 となるべき 者 が 日 本 に 住 所 を 有 する 日 本 人 であるときは、 家 庭 裁 判 所 は 管 轄 権 を 有 するとして、 日 本 在 従 のスウェーデン 人 夫 婦 と 日 本 人 未 成 年30 金 汶 淑 「 外 国 養 子 決 定 の 承 認 における 手 続 法 的 アプローチの 試 み( 一 )」 法 學 論 叢 150巻 1 号 55 頁 以 下 、64 頁 以 下 (2001)。11378


者 との 間 の 養 子 縁 組 について、 養 子 縁 組 が 主 として 子 の 福 祉 の 増 進 を 目 的 とすることから、養 子 となるべき 者 が 日 本 に 住 所 を 有 する 日 本 人 である 場 合 には、 子 の 住 所 地 である 日 本 の裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。06: 昭 和 38 年 4 月 24 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 15 巻 7 号 130 頁 )養 親 ・ 養 子 となるべき 外 国 人 が 日 本 国 内 に 住 所 を 有 するときは、わが 国 の 裁 判 所 は、養 子 縁 組 許 可 事 件 について 管 轄 権 を 有 するとして、 日 本 在 従 のイギリス 人 夫 婦 とアメリカ人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 については、 養 親 及 び 養 子 が 日 本 に 住 所 を 有 するから、 日 本の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。07: 昭 和 38 年 6 月 13 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 15 巻 10 号 153 頁 、 判 タ148 号 130 頁 )いずれも 日 本 国 内 に 住 所 を 有 する 日 本 人 未 成 年 者 と 外 国 人 間 の 養 子 縁 組 事 件 については、わが 国 は 管 轄 権 を 有 するとして、 日 本 在 住 の 朝 鮮 人 夫 婦 と 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 養子 縁 組 について、 養 親 および 養 子 の 住 所 が 日 本 にあるから、 日 本 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。08: 昭 和 39 年 4 月 8 日 東 京 家 裁 審 判 ( 判 タ160 号 175 頁 )日 本 在 従 のアメリカ 人 夫 と 日 本 人 妻 とが、 妻 の 連 れ 子 たる 日 本 人 未 成 年 者 を 養 子 とすることの 許 可 については、 未 成 年 者 の 常 住 居 所 が 日 本 にあるときは、 日 本 の 裁 判 所 が 国 際裁 判 管 轄 権 を 有 する。09: 昭 和 39 年 6 月 8 日 神 戸 家 裁 審 判 ( 家 月 17 巻 1 号 129 頁 )申 立 人 、 未 成 年 者 および 未 成 年 者 の 母 がいずれもアメリカ 合 衆 国 人 であるが、いずれも 我 が 国 に 住 所 を 有 する 養 子 縁 組 事 件 については、わが 国 の 裁 判 所 も、 国 際 非 訟 管 轄 権 を有 する。10: 昭 和 39 年 10 月 19 日 名 古 屋 家 裁 審 判 ( 家 月 17 巻 3 号 64 頁 )朝 鮮 人 夫 婦 と 日 本 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 事 件 については、 右 夫 婦 、 未 成 年 者 とともに 名 古 屋 市 に 住 所 を 有 しているときは、 日 本 国 が 裁 判 権 を 有 し、 名 古 屋 家 庭 裁 判 所 に 管 轄権 がある。11: 昭 和 40 年 5 月 27 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 17 巻 11 号 132 頁 )養 子 となるべき 未 成 年 者 が 日 本 に 住 所 を 有 する 日 本 人 で、 養 親 となるべき 申 立 人 の 一方 がブラジル 合 衆 共 和 国 に 居 住 する 日 本 人 で、 他 方 がブラジル 合 衆 共 和 国 人 であるが、 日本 に 居 所 を 定 めて 滞 在 している 養 子 縁 組 許 可 事 件 については、わが 国 に 裁 判 管 轄 権 がある。12379


12: 昭 和 40 年 6 月 18 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 18 巻 2 号 113 頁 )日 本 在 住 のアメリカ 人 夫 婦 がアメリカ 人 未 成 年 者 を 養 子 とする 縁 組 許 可 申 立 について、養 子 は 日 本 に 住 所 を 有 していなくとも、 申 立 人 の 夫 は 軍 属 として 来 日 しているとはいえ、15 年 余 も 日 本 に 居 住 しているときは、 申 立 人 らは 日 本 に 住 所 を 有 しているというべきであるので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。13: 昭 和 40 年 12 月 28 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 18 巻 8 号 80 頁 )日 本 在 住 の 韓 国 人 夫 婦 と 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 については、 養 子 が 日 本 に住 所 を 有 する 日 本 人 であり、 養 親 が 日 本 に 住 所 を 有 しているので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権を 有 する。14: 昭 和 41 年 7 月 4 日 長 崎 家 裁 佐 世 保 支 部 審 判 ( 家 月 19 巻 2 号 130 頁 )いずれも 日 本 に 住 所 を 有 する 米 国 人 間 の 養 子 縁 組 事 件 について、わが 国 の 裁 判 所 は 裁判 権 を 有 するとして、 日 本 在 住 のアメリカ 人 夫 婦 とそのもとで 現 在 養 育 されているアメリカ 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 について、 当 事 者 が 共 に 日 本 に 住 所 を 有 しているので 日 本の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。15: 昭 和 41 年 9 月 2 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 19 巻 4 号 110 頁 )米 国 人 養 親 と 日 本 人 で 東 京 都 内 に 居 所 を 有 する 日 本 人 未 成 年 者 の 養 子 縁 組 に 関 する 裁判 権 は、 日 本 の 裁 判 所 に 属 するとして、 軍 務 で 滞 日 中 のアメリカ 人 夫 婦 と 日 本 人 未 成 年 者間 の 養 子 縁 組 事 件 について、 日 本 国 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。16: 昭 和 41 年 10 月 29 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 19 巻 6 号 98 頁 )出 生 以 来 引 き 続 いて 日 本 に 居 住 している 米 国 人 の 未 成 年 者 と 日 本 に 居 住 している 米 国人 夫 婦 間 の 養 子 縁 組 事 件 について、わが 国 裁 判 所 は、 裁 判 権 を 行 使 することができるとして、 日 本 在 住 のアメリカ 人 夫 婦 とアメリカ 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 事 件 については、申 立 人 らが 日 本 に 居 住 し 未 成 年 者 が 出 生 以 来 日 本 に 居 住 しているので、 日 本 国 の 裁 判 所 が裁 判 権 を 有 する。17: 昭 和 42 年 2 月 20 日 長 崎 家 裁 佐 世 保 支 部 審 判 ( 家 月 19 巻 9 号 92 頁 )日 本 人 を 養 親 としドイツ 人 を 養 子 とする 養 子 縁 組 について、いずれも 日 本 に 住 所 を 有するときは、 日 本 の 裁 判 所 が 養 子 縁 組 許 可 事 件 の 裁 判 管 轄 権 を 有 する。18: 昭 和 42 年 3 月 7 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 19 巻 10 号 163 頁 )養 親 が 中 華 民 国 人 、 養 子 が 日 本 人 であって、いずれも 日 本 に 住 所 を 有 しているときは、13380


日 本 の 裁 判 所 は 養 子 縁 組 について 裁 判 権 を 有 する。19: 昭 和 42 年 4 月 4 日 宮 崎 家 裁 審 判 ( 家 月 19 巻 11 号 122 頁 、 判 時 493 号 52 頁 )カナダ 人 を 養 親 とし、 日 本 人 未 成 年 者 を 養 子 とする 養 子 縁 組 については、 当 事 者 がいずれも 日 本 に 住 所 があるときは、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。20: 昭 和 42 年 5 月 24 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 19 巻 12 号 67 頁 )養 親 が 日 本 に 住 所 を 有 する 日 本 人 であり、 養 子 がベトナム 人 であるが 日 本 に 居 所 を 定めて 滞 在 しているときは、その 間 の 養 子 縁 組 許 可 については、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有する。21: 昭 和 42 年 8 月 22 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 20 巻 3 号 98 頁 )養 子 が 日 本 に 住 所 を 有 する 日 本 人 であり、 養 親 もアメリカ 人 であるが 日 本 に 住 所 を 有するときは、その 間 の 養 子 縁 組 許 可 については 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。22: 昭 和 42 年 10 月 31 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 20 巻 4 号 54 頁 )フランス 人 を 養 親 として、オーストラリア 人 を 養 子 とする 養 子 縁 組 において、 当 事 者がすべて 日 本 に 在 住 しているときは、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。23: 昭 和 42 年 12 月 7 日 名 古 屋 家 裁 豊 橋 支 部 審 判 ( 家 月 20 巻 8 号 104 頁 )養 子 となるべき 未 成 年 者 およびその 親 権 者 がいずれも 日 本 に 住 所 を 有 する 日 本 人 で、養 親 となるべき 者 の1 人 は 日 本 人 で、 他 方 は 米 国 人 であるが 来 日 して 居 所 を 有 する 養 子 縁組 事 件 については、 日 本 の 裁 判 所 は 裁 判 権 を 有 する。24: 昭 和 42 年 12 月 19 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 20 巻 7 号 68 頁 )養 親 となるべき 者 または 養 子 となるべき 者 の 一 方 が 日 本 に 住 所 を 有 するかぎり、 渉 外養 子 縁 組 事 件 について、 日 本 の 裁 判 所 は 裁 判 権 を 有 するとして、 日 本 在 住 の 日 本 人 と、 中華 民 国 ( 台 湾 ) 在 住 の 中 華 民 国 人 との 養 子 縁 組 は、 養 親 または 養 子 の 一 方 が 日 本 に 住 所 を有 する 限 り、 日 本 の 裁 判 所 はその 養 子 縁 組 について 裁 判 権 を 有 する。25: 昭 和 43 年 8 月 6 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 21 巻 1 号 128 頁 )養 親 となるべき 申 立 人 、 養 子 となるべき 未 成 年 者 のいずれもが 外 国 人 であって、その本 国 法 上 の 住 所 も 日 本 にないが、 申 立 人 らが1 年 近 く 日 本 に 居 住 し、 未 成 年 者 も 日 本 に 生まれ 日 本 に 居 住 するものであり、かつ 未 成 年 者 の 親 も 日 本 に 居 住 しているときは、これらの 間 の 養 子 縁 組 に 関 する 裁 判 について、 日 本 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 するとして、アメリカ人 とフィンランド 人 夫 婦 を 養 親 としアメリカ 人 未 成 年 者 を 養 子 とする 縁 組 の 許 可 について14381


は、 養 親 、 養 子 がいずれも 日 本 に 居 住 するものであるから、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を有 する。26: 昭 和 43 年 11 月 11 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 21 巻 5 号 66 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 と 日 本 に 居 所 を 有 する 中 華 民 国 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 については、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 し、かつ 当 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。27: 昭 和 44 年 8 月 19 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 22 巻 4 号 76 頁 )日 本 滞 在 中 のアメリカ 人 と 日 本 人 未 成 年 者 ( 日 本 人 たる 妻 の 連 れ 子 )との 間 の 養 子 縁組 については、 養 子 が 日 本 に 居 所 を 有 する 日 本 人 であり、 養 親 も 日 本 に 居 所 を 有 するから、日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。28: 昭 和 44 年 9 月 22 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 22 巻 6 号 100 頁 )日 本 在 住 のオランダ 人 夫 婦 と 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 については、 当 事 者 がいずれも 日 本 に 住 所 を 有 しているので、 日 本 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。29: 昭 和 45 年 8 月 17 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 23 巻 4 号 84 頁 )日 本 在 住 のアメリカ 人 ・ 日 本 人 夫 婦 が 日 本 人 未 成 年 者 を 養 子 とする 縁 組 の 許 可 については、 養 子 および 養 母 は 日 本 に 住 所 を 有 する 日 本 人 であり、 養 父 は 日 本 に 住 所 を 有 するので、 日 本 の 裁 判 所 は 裁 判 権 を 有 する。30: 昭 和 46 年 2 月 22 日 札 幌 家 裁 審 判 ( 家 月 23 巻 7 号 78 頁 )養 親 および 養 子 ともにアメリカ 合 衆 国 に 同 国 法 上 の 法 定 住 所 を 有 するが、1 年 以 上 わが 国 の 一 定 の 地 で 日 常 生 活 を 過 ごしている 場 合 には、わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 権 の 子 に 根 拠となる 住 所 をわが 国 に 有 すると 認 められる。31: 昭 和 46 年 3 月 1 日 熊 本 家 裁 審 判 ( 家 月 23 巻 8 号 57 頁 )日 本 人 が 中 国 人 未 成 年 者 を 養 子 とする 場 合 、 養 親 および 養 子 が 日 本 に 住 所 を 有 するときは、わが 国 の 裁 判 所 に 裁 判 籍 がある。32: 昭 和 47 年 10 月 5 日 札 幌 家 裁 審 判 ( 家 月 25 巻 3 号 116 頁 )日 本 に 居 所 を 有 するアメリカ 人 を 養 親 とし、 日 本 在 住 のアメリカ 人 未 成 年 者 を 養 子 とする 縁 組 の 許 可 については、 養 子 縁 組 の 制 度 が 子 の 福 祉 の 実 現 にあるところから、 国 籍 の如 何 を 問 わず、 養 子 となるべき 者 の 住 所 地 である 日 本 の 裁 判 所 に 裁 判 権 がある。33: 昭 和 48 年 4 月 3 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 25 巻 10 号 108 頁 )15382


台 湾 に 本 籍 を 有 する 未 成 年 者 がわが 国 に 居 所 を 有 し、かつ 将 来 日 本 に 永 住 する 目 的 でその 居 所 を 定 めているときは、その 者 と 日 本 人 夫 婦 との 間 の 養 子 縁 組 許 可 については、 養子 となる 未 成 年 者 の 居 所 を 管 轄 する 裁 判 所 に 管 轄 権 がある。34: 昭 和 49 年 3 月 18 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 27 巻 3 号 90 頁 )韓 国 籍 を 有 し 日 本 に 住 所 を 有 した 養 親 と 日 本 人 養 子 との 養 子 離 縁 許 可 について、 養 親が 死 亡 しており 養 子 の 住 所 が 日 本 にあるときは、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。35: 昭 和 51 年 3 月 5 日 福 岡 家 裁 小 倉 支 部 審 判 ( 家 月 29 巻 1 号 111 頁 )日 本 人 夫 婦 が 日 本 に 住 所 を 有 する 韓 国 人 未 成 年 者 を 養 子 とする 場 合 、 当 事 者 がすべて日 本 に 住 所 を 有 するときは、 日 本 国 がその 許 可 につき 裁 判 権 を 有 する。36: 昭 和 52 年 5 月 4 日 盛 岡 家 裁 審 判 ( 家 月 29 巻 11 号 105 頁 、 戸 籍 395 号 44 頁 )日 本 人 夫 婦 と 日 本 在 住 のベトナム 人 との 間 の 養 子 縁 組 につき、 申 立 人 が 日 本 人 であり事 件 本 人 が 日 本 に 住 所 を 有 するときは、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。36-1: 昭 和 53 年 2 月 21 日 神 戸 家 裁 審 判 ( 家 月 31 巻 12 号 97 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 男 が 英 国 人 たる 妻 の 連 れ 子 を 養 子 とする 縁 組 の 許 可 申 立 について、当 事 者 がともに 日 本 に 住 所 を 有 しているので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。37: 昭 和 53 年 10 月 6 日 岡 山 家 裁 審 判 ( 家 月 32 巻 1 号 169 頁 )アメリカ 在 従 の 同 国 人 夫 婦 と 日 本 在 住 の 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 については、未 成 年 者 の 住 所 が 日 本 にあるから、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。37: 昭 和 57 年 12 月 22 日 大 阪 家 裁 審 判 ( 家 月 36 巻 5 号 112 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 男 が 英 国 人 たる 妻 の 連 れ 子 を 要 しとする 縁 組 の 許 可 申 立 について、当 事 者 が 共 に 日 本 に 住 所 を 有 しているので、 日 本 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。38: 昭 和 58 年 11 月 30 日 名 古 屋 家 裁 審 判 ( 家 月 36 巻 11 号 138 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 夫 婦 と 中 華 人 民 共 和 国 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 については、 養親 が 日 本 に 居 住 する 日 本 人 であり、 養 子 も 日 本 に 居 所 を 有 しているので、 日 本 の 裁 判 所 が裁 判 権 を 有 する。39: 昭 和 59 年 3 月 27 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 37 巻 1 号 153 頁 、 判 時 1132 号 135 頁 )日 本 在 住 の 西 ドイツ 人 と 日 本 在 住 の 成 年 の 日 本 人 との 間 の 養 子 縁 組 については、 当 事16383


者 の 住 所 が 共 に 日 本 にあるから、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。40: 昭 和 60 年 8 月 5 日 徳 島 家 裁 審 判 ( 家 月 38 巻 1 号 146 頁 )日 本 在 住 のアメリカ 人 と 日 本 在 住 の 日 本 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 については、 当 事 者の 住 所 がともに 日 本 にあるから、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。41: 昭 和 60 年 9 月 26 日 大 津 家 裁 審 判 ( 家 月 38 巻 7 号 84 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 と 日 本 在 住 のフィリピン 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 については、 当 事者 の 住 所 ・ 常 居 所 が 共 に 日 本 にあるから、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。42: 昭 和 61 年 1 月 28 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 38 巻 5 号 90 頁 )日 本 在 住 のスイス 人 夫 婦 と 日 本 在 住 の 日 本 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 については、 当 事者 の 住 所 が 共 に 日 本 にあるから、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。43: 昭 和 61 年 12 月 17 日 熊 本 家 裁 審 判 ( 家 月 39 巻 5 号 59 頁 )アメリカ 在 住 のアメリカ 人 夫 婦 と 日 本 在 住 の 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 について、 養 子 となる 者 が 日 本 に 住 所 を 有 するので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。44: 昭 和 62 年 3 月 12 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 40 巻 8 号 92 頁 )日 本 人 男 が 配 偶 者 の 嫡 出 子 であって 留 学 ビザで 日 本 に 居 住 する 中 華 民 国 ( 台 湾 ) 人 を養 子 とする 縁 組 の 許 可 申 立 については、 当 事 者 の 双 方 が 日 本 国 内 に 住 所 を 有 するので、 日本 に 国 際 的 裁 判 管 轄 権 がある。45: 昭 和 62 年 3 月 26 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 40 巻 10 号 34 頁 )日 本 在 住 のアメリカ 人 と 日 本 在 住 の 中 華 人 民 共 和 国 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 について、当 事 者 はいずれも 日 本 に 居 住 しているから、 日 本 に 国 際 的 裁 判 管 轄 権 がある。46: 昭 和 62 年 5 月 15 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 40 巻 10 号 40 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 がマレイシア 人 たる 妻 の 連 れ 子 を 養 子 とする 縁 組 の 許 可 申 立 について、 当 事 者 の 住 所 はいずれも 日 本 にあるので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 権 を 有 する。47: 昭 和 62 年 6 月 1 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 40 巻 10 号 43 頁 )日 本 在 住 のフランス 人 夫 婦 と 日 本 在 住 の 日 本 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 について、 当 事者 がいずれも 日 本 に 住 所 を 有 するので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。48: 昭 和 62 年 12 月 17 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 40 巻 10 号 59 頁 )17384


日 本 在 住 のカナダ 人 夫 婦 と 日 本 在 住 の 日 本 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 について、 当 事 者の 住 所 が 共 に 日 本 にあるから、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。48-1 昭 和 63 年 6 月 9 日 京 都 家 裁 審 判 ( 家 月 40 巻 12 号 39 頁 )49: 昭 和 63 年 6 月 28 日 京 都 家 裁 審 判 ( 家 月 40 巻 12 号 44 頁 )日 本 在 住 の 英 国 人 夫 、 日 本 人 妻 と 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 特 別 養 子 縁 組 について、 当事 者 がいずれも 日 本 に 住 所 を 有 するので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。50: 平 成 元 年 3 月 23 日 横 浜 家 裁 審 判 ( 家 月 41 巻 10 号 139 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 が 日 本 在 住 の 妻 の 嫡 出 子 たる 成 年 のコロンビア 人 を 養 子 とする 縁 組の 許 可 申 立 については、 当 事 者 はいずれも 日 本 に 住 所 を 有 しているので、 日 本 の 裁 判 所 が国 際 的 裁 判 管 轄 を 有 する。51: 平 成 元 年 6 月 23 日 千 葉 家 裁 市 川 出 張 所 審 判 ( 家 月 41 巻 11 号 102 頁 )養 子 縁 組 事 件 に 関 しては 養 子 となる 者 の 福 祉 を 主 眼 としてこれを 審 理 ・ 判 断 すべきことが 近 代 養 子 法 の 理 想 であるとの 原 則 が 一 般 的 かつ 国 際 的 に 承 認 されていることからすると、 原 則 として、その 国 際 裁 判 管 轄 は、 養 子 となる 者 の 常 居 所 地 に 属 すると 解 されるとしたうえで、カナダ 在 住 のカナダ 人 夫 ・ 日 本 人 妻 と 日 本 に 常 居 所 を 有 する 日 本 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 について、 未 成 年 者 は 申 立 人 らと 現 在 同 居 していはいるものの、 申 立 時 には 日本 の 乳 児 園 に 住 所 を 有 しており、また 仮 に 申 立 が 認 められない 場 合 には 同 乳 児 園 に 戻 ることになるので、 未 成 年 者 は 日 本 に 常 居 所 を 有 するものと 認 められ、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管轄 権 を 有 する。52: 平 成 元 年 10 月 24 日 東 京 家 裁 審 判 ( 家 月 42 巻 7 号 47 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 夫 ・ 英 国 人 妻 と 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 特 別 養 子 縁 組 について、 当事 者 がいずれも 日 本 に 住 所 を 有 するので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。53: 平 成 元 年 10 月 26 日 山 口 家 裁 徳 山 支 部 審 判 ( 家 月 42 巻 7 号 52 頁 )日 本 在 住 のアメリカ 人 夫 ・ 日 本 人 妻 と 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 特 別 養 子 縁 組 について、当 事 者 のいずれもが 日 本 に 住 所 を 有 するので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。54: 平 成 3 年 1 月 30 日 神 戸 地 裁 判 決 ( 判 タ764 号 240 頁 )日 本 在 住 の 中 華 民 国 人 養 母 の 中 華 民 国 人 養 子 に 対 する 養 子 縁 組 無 効 確 認 については、被 告 が 応 訴 している 場 合 、 被 告 住 所 地 主 義 の 例 外 として 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。18385


55: 平 成 3 年 12 月 16 日 盛 岡 家 裁 審 判 ( 家 月 44 巻 9 号 89 頁 )日 本 在 住 のフィリピン 人 妻 とフィリピン 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 について、 当 事者 がいずれも 日 本 に 住 所 を 有 するので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管 轄 権 を 有 する。56: 平 成 4 年 6 月 3 日 札 幌 家 裁 審 判 ( 家 月 44 巻 12 号 91 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 夫 ・ 韓 国 人 妻 と 韓 国 在 住 の 韓 国 人 未 成 年 者 との 間 の 養 子 縁 組 については、 申 立 人 たる 養 父 は 日 本 国 に 住 所 を 有 する 日 本 人 であり、 未 成 年 者 は 韓 国 人 で 日 本 に住 所 ( 常 居 所 )を 有 するものではないが、 現 在 日 本 国 の 養 父 母 のもとに 所 在 し、その 期 間も5カ 月 以 上 にわたるから、 日 本 国 に 国 際 裁 判 管 轄 権 が 認 められる。57: 平 成 4 年 9 月 22 日 水 戸 家 裁 土 浦 支 部 審 判 ( 家 月 45 巻 10 号 75 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 養 母 と 中 華 民 国 在 住 の 成 年 の 中 華 民 国 人 との 間 の 養 子 縁 組 について、養 母 の 本 国 で 住 所 地 でもある 日 本 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する。58: 平 成 6 年 1 月 13 日 高 松 家 裁 審 判 ( 家 月 47 巻 12 号 47 頁 )日 本 在 住 のカナダ 人 夫 婦 と 日 本 在 住 の 日 本 人 未 成 年 者 との 間 の 特 別 養 子 縁 組 につき、申 立 人 両 名 及 び 事 件 本 人 はいずれも 日 本 に 住 所 を 有 するので、 日 本 の 裁 判 管 轄 権 が 認 められる。59: 平 成 7 年 3 月 2 日 山 形 家 裁 審 判 ( 家 月 48 巻 3 号 66 頁 )日 本 国 籍 を 有 する 夫 とフィリピン 国 籍 の 妻 が 共 同 で、 妻 の 非 嫡 出 子 たるフィリピン 人の 未 成 年 者 を 養 子 にすることの 許 可 を 求 めた 事 案 について、わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認めた( 特 にその 根 拠 について 言 及 なし)。60: 平 成 7 年 5 月 10 日 神 戸 家 裁 審 判 ( 家 月 47 巻 12 号 58 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 夫 ・ 中 華 人 民 共 和 国 人 妻 が 日 本 人 未 成 年 者 を 養 子 とする 縁 組 の 許 可申 立 については、 当 事 者 がいずれも 日 本 に 住 所 を 有 しているので、 日 本 の 裁 判 所 が 裁 判 管轄 権 を 有 する。61: 平 成 7 年 10 月 11 日 横 浜 家 裁 横 須 賀 支 部 審 判 家 月 48 巻 12 号 66 頁日 本 在 住 のアメリカ 人 夫 婦 と 日 本 人 未 成 年 者 との 養 子 縁 組 については、 養 親 となる 申立 人 夫 婦 がいずれも 日 本 に 居 住 しているので、 日 本 の 裁 判 所 が 国 際 的 裁 判 管 轄 権 を 有 する。62: 平 成 8 年 1 月 26 日 東 京 家 裁 審 判 家 月 48 巻 7 号 72 頁日 本 人 夫 婦 が、 中 国 在 住 の 中 国 人 孤 児 を 中 国 の 方 式 による 普 通 養 子 縁 組 として 届 出 、19386


受 理 されたが、のちに 日 本 に 帰 化 した 同 児 を 特 別 養 子 とする 縁 組 の 申 立 てがなされた 事 案について、わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認 めた( 特 にその 根 拠 について 言 及 なし)。63: 平 成 11 年 2 月 15 日 水 戸 家 裁 土 浦 支 部 審 判 ( 家 月 51 巻 7 号 93 頁 )日 本 在 住 の 日 本 人 ・フィリピン 人 夫 婦 が 妻 の 非 嫡 出 子 たるフィリピン 人 未 成 年 者 を 養子 とする 縁 組 の 許 可 申 立 については、 日 本 の 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する( 特 にその 根拠 については 言 及 なし)。64: 平 成 15 年 3 月 25 日 東 京 家 裁 審 判 ( 判 例 集 未 搭 載 判 例 ID28082167)日 本 在 住 の 日 本 人 女 性 とパキスタン 人 未 成 年 者 との 間 の 普 通 養 子 縁 組 について、 双 方の 常 居 所 地 である 日 本 の 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する。65: 平 成 19 年 7 月 20 日 宇 都 宮 家 裁 審 判 ( 家 月 59 巻 12 号 106 頁 )イラン 人 夫 と 日 本 人 妻 ( 日 本 在 住 )がイラン 人 未 成 年 者 ( 日 本 在 住 )との 養 子 縁 組 の許 可 を 求 めた 事 案 において、 養 子 となる 者 が 現 実 に 居 住 している 地 で 審 判 を 行 うのが 子 の福 祉 に 適 うとしたうえで、 未 成 年 者 の 住 所 地 ないし 常 居 所 地 は 日 本 にあるから、わが 国 の裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する。66: 平 成 20 年 3 月 28 日 青 森 家 裁 十 和 田 支 部 審 判 ( 家 月 60 巻 12 号 63 頁 )米 国 人 夫 婦 と 日 本 人 未 成 年 者 との 特 別 養 子 縁 組 について、 申 立 人 ら 及 び 未 成 年 者 がいずれも 日 本 国 内 に 居 住 しているときは、わが 国 の 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する。20387


6. 親 子 間 の 法 律 関 係 , 未 成 年 及 び 成 年 後 見( 執 筆 担 当 : 日 本 大 学 織 田 有 基 子 )Ⅰ 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 裁 判 例 の 概 要Ⅱ 具 体 例(1) 親 権 ・ 監 護 権 など(イ) 親 権 ( 監 護 権 ) 者 の 指 定 のみが 争 われた 場 合(ロ) 離 婚 とともに 親 権 ( 監 護 権 ) 者 の 指 定 が 争 われた 場 合(ハ) 親 子 関 係 をめぐるその 他 の 問 題(2) 面 会 交 流(3) 子 の 奪 取(イ) 家 事 審 判 手 続 によるもの(ロ)( 子 の 監 護 等 につき 確 定 した 外 国 判 決 がある 場 合 には) 外 国 判 決 の 執 行手 続 によるもの(ハ) 人 身 保 護 手 続 によるもの(4) 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 )Ⅰ 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 裁 判 例 の 概 要親 権 ・ 監 護 、 面 会 交 流 ( 面 接 交 渉 )、 子 の 奪 取 ( 子 の 引 渡 )、 未 成 年 後 見 ・ 成 年 後 見 に 関 する判 例 のうち、 国 際 裁 判 管 轄 を 検 討 する 上 で 参 考 になると 思 われるものを、 以 下 の 別 表 に 掲 げた(なお、 本 稿 では、この 問 題 に 強 い 影 響 を 及 ぼしている 離 婚 訴 訟 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する昭 和 39 年 3 月 25 日 最 高 裁 判 所 大 法 廷 判 決 以 後 のものに 限 定 した)。これら 31 の 判 例 を 見 てみると、 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 の 判 断 要 因 は、「 子 の 住 所 地 」と 考 えられているようである。すなわち、 子 の 住 所 が 日 本 に 認 められるならば 日 本 に 管 轄 ありとされる。しかし、もちろん 例 外 も 散 見 される。 例 えば、[3]や[18]のように、 子 の 住 所 が 日 本 になくとも 管 轄 が 認 められている 事 案 がある。これは、 親 権 者 ( 監 護 者 ) 指 定 が 離 婚 問 題 とともに 審 理され、かつ 親 権 者 ( 監 護 者 ) 指 定 管 轄 は 離 婚 管 轄 に 附 従 するとの 見 解 が 採 られた 事 案 である。また、[22]は、 日 本 に 居 住 していない 事 件 本 人 についての 生 活 状 況 調 査 等 を 行 うにつき 支 障のないことが 日 本 の 管 轄 を 認 める 理 由 とされている。 他 方 、[10]は、 日 本 の 手 続 法 上 、 離 婚 訴訟 の 際 に 面 接 交 渉 につき 付 随 的 に 判 断 しうるとする 規 定 がないことから、[27]および[28]は、 日 本 での 滞 在 期 間 が 短 く 住 所 と 呼 べる 状 態 に 至 っていないこと、 外 国 裁 判 所 の 命 令 違 反が 認 められることなどから、 子 が 日 本 に 現 在 していても 管 轄 が 認 められなかった 事 案 である。また、 被 告 住 所 地 主 義 を 肯 定 する 判 例 も 比 較 的 多 く 見 られ、さらに、 当 事 者 の 国 籍 に 言 及する 判 例 もある。 詳 細 については、 具 体 例 を 参 照 されたい。3881


別 表(●= 日 本 に 住 所 [ 居 所 ]あり)番 号 裁 判 所 ・ 判 決 年 月 日 管 轄 申 立 人 相 手 方 子1 東 京 家 審 昭 40・12・20 ○ ● - ● 後 見2 東 京 家 審 昭 41・9・22 ○ ● - ● 後 見3 千 葉 地 判 昭 47・3・31 ○ ● × × 離 婚 + 監 護4 名 古 屋 地 判 昭 47・8・31 ○ ● ● ● 離 婚 + 親 権5 東 京 家 審 昭 48・10・3 ○ ● - ● 後 見6 東 京 家 審 昭 49・12・27 ○ ● - ● 後 見7 松 山 家 宇 和 島 支 審 昭 51・1・9 ○ × ● ● 親 権8 札 幌 家 審 昭 51・7・26 ○ ● - ● 後 見9 静 岡 家 審 昭 62・5・27 ○ × ● ● 親 権10 東 京 地 判 昭 62・7・24 × ● ● ● 面 接 交 渉 ( 予 備 )11 水 戸 家 審 平 3・3・4 ○ ● ● ● 離 婚 + 親 権12 東 京 家 審 平 4・9・18 ○ ● ● ● 子 の 引 渡13 神 戸 家 伊 丹 支 審 平 5・5・10 ○ × ● ● 監 護14 東 京 高 判 平 5・11・15 × × ● ● 子 の 引 渡 ( 執 行 )15 京 都 家 審 平 6・3・31 ○ × ● ● 面 接 交 渉16 大 阪 家 審 平 6・12・2 ○ × ● ● 監 護17 東 京 地 判 平 11・11・4 ○ ● × ● 離 婚 + 親 権18 名 古 屋 地 判 平 11・11・24 ○ ● × × 離 婚 + 親 権19 大 津 家 審 平 12・1・17 ○ ● ● ● 嫡 出 否 認20 東 京 地 判 平 16・1・30 ○ ● × ● 離 婚 + 親 権21 千 葉 家 松 戸 支 審 平 17・6・6 × × ● × 親 権22 東 京 高 決 平 17・11・24 ○ × ● × 親 権 [21] 控 訴 審23 京 都 家 審 平 18・3・31 ○ ● ● ● 面 接 交 渉24 東 京 高 決 平 18・7・11 ○ ● - ● 成 年 後 見25 東 京 家 審 平 20・5・7 × ● × × 面 接 交 渉26 新 潟 家 新 発 田 支 審 平 20・7・18 ○ ● × ● 離 婚 + 親 権27 東 京 家 審 平 20・8・7 × ● × ● 監 護28 東 京 高 決 平 20・9・16 × ● × ● 監 護 [27] 控 訴 審29 前 橋 家 審 平 21・5・13 ○ ● ● ● 親 権30 横 浜 家 小 田 原 支 審 平 22・1・12 ○ ● × ● 親 権31 大 阪 高 決 平 22・2・18 ○ × ● ● 人 身 保 護 請 求※「 親 権 」「 監 護 」は、 判 決 文 で 使 用 されている 語 に 拠 った。※ 後 見 の 裁 判 は 相 手 方 が 存 在 しないため、「-」で 表 示 した。3892


Ⅱ 具 体 例(1) 親 権 ・ 監 護 権 など親 権 ・ 監 護 権 ( 用 語 は 判 決 文 に 従 ったもの)をめぐる 争 いにおいて 国 際 裁 判 管 轄 につき 言 及 されたものは 多 い。そこで、(イ) 親 権 ( 監 護 権 ) 者 の 指 定 のみが 争 われた 場 合 、(ロ) 離 婚 とともに 親 権 ( 監 護 権 ) 者の 指 定 が 争 われた 場 合 、(ハ) 親 子 関 係 をめぐるその 他 の 問 題 、に 分 けて 紹 介 する。(イ) 親 権 ( 監 護 権 ) 者 の 指 定 のみが 争 われた 場 合[7] 松 山 家 宇 和 島 支 審 昭 和 51 年 1 月 9 日 家 月 29-3-101( 親 権 者 指 定 申 立 事 案 )申 立 人 ( 母 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )相 手 方 ( 父 -アメリカ 国 籍 、 住 所 はアメリカ・カリフォルニア 州 )事 件 本 人 (アメリカ 国 籍 、 住 所 は 日 本 )★ 隠 れた 反 致「・・・・ 渉 外 的 家 事 事 件 の 裁 判 管 轄 権 については 現 在 明 確 な 根 拠 となる 国 際 条 約 等 はなく、各 国 家 がそれぞれの 国 内 法 によりその 裁 判 管 轄 権 を 定 めているものと 解 せられ、 従 って 国 際的 私 法 生 活 全 体 を 通 ずる 普 遍 的 条 理 に 徴 しつつそれぞれの 国 家 制 定 法 の 解 釈 から 右 裁 判 管轄 権 の 内 容 を 推 知 するほかはないところ、・・・・ 子 の 親 権 者 指 定 申 立 事 件 は 我 国 民 法 819条 、 同 法 附 則 14 条 の 準 用 、 家 事 審 判 法 9 条 1 項 乙 類 7 号 、 家 事 審 判 規 則 70 条 、60 条 により 子 の 住 所 地 ( 住 所 概 念 は 我 国 法 上 のそれによる。)の 家 庭 裁 判 所 の 管 轄 とされるから、 その 国 際 裁 判 管 轄 権 もまた 我 国 にあると 解 するのが 相 当 ( 右 裁 判 管 轄 権 を 認 めることを 不 当 とするような 国 際 私 法 生 活 上 の 条 理 は[ 本 件 - 筆 者 注 ] 事 実 に 徴 し 認 められない。)である。「・・・・ 米 国 の 監 護 権 に 関 する 抵 触 法 理 によれば 実 体 的 準 拠 法 指 定 の 問 題 は 裁 判 管 轄 権 の問 題 と 判 然 分 離 して 論 議 されておらず、この 利 益 、 福 祉 に 最 も 密 接 に 関 連 しており、 従 って 最も 有 効 適 切 な 監 護 権 に 関 する 裁 判 を 下 し 得 る 裁 判 所 が(その 際 最 も 重 視 すべき 要 件 は 子 の 住所 地 裁 判 所 であるかどうかと 言 うこと。・・・・)その 法 廷 地 法 に 準 拠 して 裁 判 を 行 ない、その 後は 未 成 年 子 の 置 かれた 状 況 の 変 化 に 対 応 し、 子 の 福 祉 を 最 高 の 指 標 として 関 係 する 管 轄 裁判 所 がそれぞれの 法 廷 地 法 により 必 要 な 変 更 、 取 消 の 裁 判 を 自 由 にするという 原 則 が 認 められているものと 解 せられ」る。「・・・・ 右 州 際 間 の 抵 触 法 理 論 は 特 段 の 事 情 のない 限 り 国 際 間 の 法 律 関 係 にも 適 用 されるのであって・・・・、また 米 国 法 上 監 護 権 に 関 する 裁 判 をなす 際 最 も 重 視 される 住 所 は 少 なくとも 一時 的 にはそこを 家 庭 (Home)としようとする 意 図 を 持 ち、かつ 身 体 的 に 現 在 すると 言 う 要 件 を満 たせば 能 力 者 による 選 択 によって 取 得 でき、また 親 と 同 居 する 未 成 年 子 の 住 所 はその 同 居する 親 と 同 じとされ、また Home と 言 うのは 個 人 が 居 住 し、 家 族 的 、 社 会 的 、 市 民 的 生 活 の 中心 とする 場 所 のことであるとされる・・・・のであるから 上 記 [ 本 件 - 筆 者 注 ] 認 定 事 実 によ れば事 件 本 人 ・・・・ 及 び 申 立 人 の 米 国 抵 触 法 の 概 念 による 住 所 が 表 記 我 国 法 上 の 概 念 によ る 住3903


所 と 同 一 場 所 であることは 疑 を 容 れない。以 上 によれば 相 手 方 の 属 するカリフォルニア 州 のそれを 含 め 米 国 抵 触 法 理 上 本 件 は 事 件本 人 の 住 所 が 存 在 している 日 本 の 裁 判 所 が 法 廷 地 法 である 日 本 法 に 従 って 適 切 な 裁 判 をすべきものとされている・・・・」[9] 静 岡 家 審 昭 和 62 年 5 月 27 日 家 月 40-5-164( 親 権 者 指 定 申 立 事 案 )申 立 人 ( 元 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )相 手 方 ( 元 夫 -メキシコ 国 籍 、 住 所 はアメリカ・カリフォルニア 州 )事 件 本 人 ( 子 -アメリカ 国 籍 、 住 所 は 日 本 )★ 申 立 人 と 相 手 方 につき 離 婚 判 決 を 下 したカリフォルニア 州 上 級 裁 判 所 は、 事 件 本 人 の 親権 については 事 件 本 人 が 日 本 国 内 に 居 住 しているので 管 轄 権 を 有 しないとして 何 らの 決定 も 出 さなかった。「・・・・ 本 件 の 如 き 渉 外 家 事 事 件 である 親 権 者 指 定 申 立 事 件 についての 国 際 的 裁 判 管 轄 権が 我 国 にあるか 否 かについては、 我 国 の 国 際 民 事 手 続 法 上 の 概 念 により 結 局 条 理 上 これを決 するより 他 ない。・・・・ 事 件 本 人 は 国 籍 こそアメリカであるが、 昭 和 58 年 5 月 以 来 日 本 人 である 母 の 申 立 人 とともに 居 住 し、 今 後 は 日 本 に 帰 化 し 日 本 人 として 日 本 において 生 育 するこ とが 予 想 される。しかして 親 権 者 の 指 定 に 関 する 手 続 は 家 事 審 判 法 及 び 同 規 則 によって 規 律 され、 同 規 則 70 条 及 び60 条 によれば、 右 事 件 は 当 該 子 の 住 所 地 の 家 庭 裁 判 所 の 管 轄 に 属 するところ、 右 は 子 の 生 活 関 係 の 密 接 な 地 で 審 判 がなされることが 結 局 子 の 福 祉 により 適 合 するという 配 慮 に 出 たものと 考 えられる。そうであるとすれば 本 件 の 如 き 渉 外 親 子 関 係 事 件 についても 同 様 に 子 の 福 祉 を 考 慮 すべく、 当 該 子 の 生 活 関 係 の 深 い 地 即 ち 現 在 の 居 住 地 の 国 の家 庭 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 するというべきであるから、 本 件 について 当 家 庭 裁 判 所 が 管 轄 権 を有 することになる。」[13] 神 戸 家 伊 丹 支 審 平 成 5 年 5 月 10 日 家 月 46-6-72( 監 護 者 の 指 定 申 立 事 案 )申 立 人 ( 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )相 手 方 ( 夫 - 日 本 国 籍 、 住 所 はアメリカ・イリノイ 州 )事 件 本 人 2 名 ( 子 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )★イリノイ 州 裁 判 所 における 離 婚 訴 訟 係 属 中 に、 子 らの 一 時 的 監 護 権 を 申 立 人 から 相 手方 に 変 更 する 旨 の 命 令 が 出 されていた 事 案 。「 未 成 年 者 らの 住 所 がいずれも 我 が 国 にあるから、 我 が 国 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 する。」[16] 大 阪 家 審 平 成 6 年 12 月 2 日 家 月 48-2-150( 親 権 者 指 定 申 立 事 案 )申 立 人 ( 元 妻 - 中 華 人 民 共 和 国 国 籍 、 住 所 は 日 本 )相 手 方 ( 元 夫 - 中 華 人 民 共 和 国 国 籍 、 所 在 不 明 )未 成 年 者 ( 子 - 中 華 人 民 共 和 国 国 籍 、 住 所 は 日 本 )「 本 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 につき 検 討 するに、 親 権 者 又 は 監 護 者 の 指 定 事 件 については、 子3914


の 生 活 関 係 の 密 接 な 地 での 審 判 がなされることが 子 の 福 祉 に 適 合 し、かつ、 本 件 では 相 手 方の 所 在 が 明 らかでないことに 照 らすと、わが 国 が 裁 判 管 轄 権 を 有 し、かつ 未 成 年 者 の 居 住 地を 管 轄 する 当 裁 判 所 が 国 内 管 轄 権 を 有 するというべきである。」[21] 千 葉 家 松 戸 支 審 平 成 17 年 6 月 6 日 家 月 58-11-45( 親 権 者 指 定 申 立 事 案 )申 立 人 ( 元 妻 -フィリピン 国 籍 、 住 所 はフィリピン)相 手 方 ( 元 夫 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )事 件 本 人 ( 子 -フィリピン 国 籍 、 住 所 はフィリピン)「 親 権 者 の 指 定 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 については、 我 が 国 法 上 明 文 の 定 めがないことから、解 釈 に 委 ねられるところ、 親 権 者 の 指 定 については 子 の 福 祉 を 第 一 義 として 決 定 されるべき であるから、 子 の 福 祉 の 観 点 から 適 切 な 判 断 をなし 得 る 国 、すなわち 子 の 住 所 地 又 は 常 居 所 地の 国 に 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認 めるのが 相 当 であり、この 理 は 離 婚 の 際 の 親 権 者 指 定 の 場 合 にも 基 本 的 に 妥 当 するものというべきである。ただ、 後 者 の 場 合 において、 子 の 住 所 地 又 は 常 居所 地 の 国 での 親 権 者 指 定 の 裁 判 が 速 やかに 行 われる 見 込 みがないなどの 特 段 の 事 情 が 認められるときには、 離 婚 の 国 際 裁 判 管 轄 地 においても 親 権 者 指 定 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 め られるものと 解 するのが 相 当 である。これを 本 件 について 見 るに、 事 件 本 人 は、 出 生 から 現 在 までフィリピン 国 内 に 居 住 し 続 けており、 我 が 国 には 住 所 も 常 居 所 も 有 していないし、また、 上 記 特 段 の 事 情 を 認 めるべき 事 情 も窺 われないから、 我 が 国 には 本 件 の 国 際 裁 判 管 轄 はないといわざるを 得 」ない。[22] 東 京 高 決 平 成 17 年 11 月 24 日 家 月 58-11-40( 親 権 者 指 定 申 立 却 下 審 判 に 対 する即 時 抗 告 事 案 )[21]と 同 事 案★ 事 件 本 人 が、フィリピン 国 籍 の 他 に、 日 本 国 籍 も 取 得 していた( 国 籍 法 2 条 1 号 )が、同 法 12 条 に 基 づく 日 本 国 籍 留 保 の 意 思 表 示 が 法 定 期 間 内 にされなかったため、 日本 国 籍 を 出 生 時 に 遡 って 喪 失 したことが、 新 たに 認 定 された。「 親 権 者 指 定 の 裁 判 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 については、フィリピン 国 と 我 が 国 の 間 において定 める 条 約 は 存 在 しない 上 に、 我 が 国 法 上 の 明 文 の 規 定 は 存 在 しないため、 条 理 により 定 めるほかはない。そうとすれば、 離 婚 事 件 のみならず、 親 子 関 係 事 件 ( 本 件 親 権 者 の 指 定 の 事件 も 含 まれる。)についても、 相 手 方 が 行 方 不 明 その 他 の 特 段 の 事 情 のない 限 り、 相 手 方 の住 所 地 国 を 原 則 とするのが 相 当 である。もっとも、 親 子 関 係 事 件 の 中 でも 本 件 のように 未 成 年者 の 親 権 者 を 指 定 する 裁 判 の 場 合 については、 子 の 福 祉 という 観 点 から、 子 と 密 接 な 関 係 を有 する 地 である 子 の 住 所 地 国 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 める 合 理 性 も 否 定 できないことから、この場 合 は、 上 記 相 手 方 住 所 地 国 と 併 せて 子 の 住 所 地 国 にも 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるのが 相 当 である。これを 本 件 についてみるに、 上 記 認 定 事 実 によれば、 相 手 方 は 我 が 国 に 住 所 を 有 するから、 相 手 方 住 所 地 国 である 我 が 国 に 国 際 裁 判 管 轄 が 存 在 するというべきである。これに 対 し、 原 審 判 は、 本 件 親 権 者 指 定 裁 判 に 間 亜 する 国 際 裁 判 管 轄 は、 子 の 住 所 地 国又 は 常 居 所 地 の 国 での 親 権 者 指 定 の 裁 判 が 速 やかに 行 われる 見 込 みがないなどの 特 段 の事 情 がない 限 り、 子 である 事 件 本 人 の 住 所 地 国 であるフィリピン 国 にのい 存 在 すると 解 してい3925


るところ、その 理 由 として 親 権 者 の 指 定 については 子 の 福 祉 を 第 一 義 として 決 定 すべきである点 を 論 拠 としている。しかしながら、 親 子 関 係 事 件 であるからといって、 国 際 裁 判 管 轄 を 決 定 する 一 般 基 準 である 被 告 ( 本 件 の 場 合 は 相 手 方 ) 住 所 地 国 の 原 則 を 変 えるべき 合 理 性 は 認 め 難いというべきであるから、 同 解 釈 には 条 理 の 観 点 から 採 用 することはできない。また、 仮 に 同解 釈 に 依 ったとしても、 本 件 においては、 相 手 方 住 所 地 国 にも 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるべき 特段 の 事 情 があるというべきである。 何 故 ならば、 本 件 においては、〔1〕 子 である 事 件 本 人 と その 出 生 以 来 生 活 を 共 にしている 同 人 の 母 である 抗 告 人 は、 自 国 の 裁 判 所 ではなくわざわざ 遠隔 の 外 国 である 我 が 国 の 裁 判 所 に 対 し 親 権 者 指 定 の 審 判 を 求 めているものであり、それに もかかわらず、 事 件 本 人 の 利 益 の 点 を 重 視 してフィリピン 国 にしか 裁 判 管 轄 を 認 めないとする 必要 があるかどうか 疑 問 であること、〔2〕 仮 に 親 権 者 指 定 の 裁 判 の 審 理 のために 事 件 本 人 の 状況 を 調 査 する 必 要 性 がある 点 に 着 眼 したとしても、フィリピン 国 の 裁 判 所 は 抗 告 人 及 び 事 件 本人 の 調 査 についての 利 便 は 有 するものの、 我 が 国 に 居 住 する 相 手 方 に 対 する 調 査 が 極 めて困 難 なことが 明 らかであること、〔3〕 他 方 、 我 が 国 の 裁 判 所 が 抗 告 人 や 事 件 本 人 の 状 況 等 について 調 査 する 必 要 があるとしても・・・・、 事 件 本 人 と 生 活 関 係 を 同 じくする 抗 告 人 が 自 ら 我 が国 の 裁 判 所 に 本 件 申 立 てをしているのであるから、 抗 告 人 及 び 事 件 本 人 の 生 活 状 況 等 についての 調 査 を、 抗 告 人 を 通 じて 行 うことは 格 別 困 難 であるとはいえないとみられることなど の 事情 があり、 調 査 の 必 要 性 の 観 点 からも 我 が 国 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるのが 相 当 である からである。」[27] 東 京 家 審 平 成 20 年 8 月 7 日 家 月 61-11-65 ( 子 の 監 護 に 関 する 処 分 審 判 事 案 )申 立 人 ( 抗 告 人 )( 元 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 は[ 現 在 地 ]は 日 本 )相 手 方 ( 相 手 方 )( 元 夫 -アメリカ 国 籍 、 住 所 はアメリカ)未 成 年 者 (アメリカおよび 日 本 国 籍 、 住 所 [ 現 在 地 ]は 日 本 )★アメリカ 国 内 で 離 婚 した 夫 婦 間 の 未 成 年 者 に 関 し、アメリカ 裁 判 所 が 命 令 した 監 護 計 画 に反 して、 元 妻 が 未 成 年 者 とともに 日 本 に 滞 在 。1 ヶ 月 も 経 過 しないうちに、 日 本 の 裁 判 所に 監 護 者 変 更 ( 共 同 監 護 から 申 立 人 の 単 独 監 護 へ)などを 求 める 申 立 てを 行 った 事 案 。「 本 件 のような 監 護 者 の 変 更 等 について、 日 米 両 国 に 適 用 される 国 際 裁 判 管 轄 を 定 める 条約 は 存 在 せず、 我 が 国 法 上 明 文 の 規 定 もないから、 条 理 によってこれを 決 するほかない。親 子 関 係 事 件 、 特 に 本 件 のような 監 護 者 の 変 更 等 申 立 事 件 の 場 合 には、 子 の 福 祉 の 観 点 から、 子 の 生 活 関 係 の 密 接 な 地 で 審 判 を 行 うのが 相 当 であり、 子 の 住 所 地 又 は 常 居 所 地 の 国に、 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるべきである。これを 本 件 についてみるに、 確 かに、 未 成 年 者 は、 米 国 への 帰 国 予 定 日 を 2 週 間 余 り 過 ぎた 今 もなお、 日 本 国 内 に 留 め 置 かれており、 申 立 人 において、 早 々に 住 民 登 録 を 済 ませ、 本件 申 立 てをした 事 実 からも、 同 人 がこのまま 未 成 年 者 を 日 本 国 内 にとどめて、 一 方 的 に 米 国での 離 婚 命 令 を 反 故 にして、 日 本 国 内 で 未 成 年 者 との 生 活 を 始 めようとする 意 思 が 窺 われる。しかし、 未 成 年 者 は、 出 生 以 来 今 回 の 来 日 まで、 一 貫 して 米 国 内 で 生 活 してきたうえ、 本 件申 立 てから 僅 か1か 月 前 に、 罰 則 で 担 保 された 裁 判 所 の 命 令 によって、 未 成 年 者 の 居 住 場 所を 米 国 内 と 定 められたばかりである。しかもこの 命 令 は、 当 事 者 双 方 が 弁 護 士 を 依 頼 して 13936


年 4 か 月 に 及 ぶ 裁 判 手 続 の 中 でまさに 未 成 年 者 の 離 婚 後 の 居 住 場 所 を 争 い、ペアレンティング・カウンセリング、ペアレンティング・プラン・エバリュエーションを 経 て、 最 終 的 に 米 国 内 を 居住 場 所 とする 内 容 の 監 護 計 画 に 双 方 が 合 意 し、それを 裁 判 所 が 承 認 し、 命 令 したものであるから、 未 成 年 者 の 居 住 場 所 については、 必 要 な 議 論 が 尽 くされ、 決 着 がついたものといわなければならない。申 立 人 は、このような 命 令 が 出 た 直 後 に、 同 命 令 に 則 って、 米 国 に 戻 る 飛 行 機 や、その 後の 未 成 年 者 の 旅 券 を 管 理 する 相 手 方 両 親 宅 への 訪 問 予 定 まで 定 めた 旅 程 表 を 提 出 し、 保 証金 を 預 けて 未 成 年 者 の 旅 券 を 受 け 取 り、12 日 間 の 滞 在 予 定 で 来 日 したのであるから、 日 本 での 滞 在 は、まさに『 一 時 帰 国 』あるいは『 旅 行 』と 評 価 すべきである。また、 申 立 人 が 共 同 親 権 者 及 び 共 同 監 護 権 者 である 相 手 方 に 無 断 で、 一 方 的 に 旅 程 表 に反 して、 未 成 年 者 を 前 記 命 令 の 定 める 居 住 場 所 に 連 れ 帰 らずに 日 本 に 留 め 置 いて、 相 手 方の 共 同 親 権 及 び 共 同 監 護 権 の 行 使 を 妨 げているのは、 前 記 命 令 に 明 らかに 違 反 する 行 為 というべきである。以 上 の 事 情 からすると、 未 成 年 者 が 米 国 への 帰 国 予 定 日 を 2 週 間 余 り 過 ぎてなお 日 本 国内 に 滞 在 しているからといって, 直 ちに 未 成 年 者 の 生 活 関 係 の 密 接 な 地 が 日 本 国 ということは適 当 でないし、 未 成 年 者 の 居 所 を 形 式 的 に 捉 えて、 同 人 の 住 所 地 又 は 常 居 所 地 が 日 本 になったと 評 価 して、 我 が 国 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるのは 相 当 でない。」[28] 東 京 高 決 平 成 20 年 9 月 16 日 家 月 61-11-63( 子 の 監 護 に 関 する 処 分 審 判 に 対 する抗 告 事 件 ) [27]と 同 事 案「 当 裁 判 所 も、 未 成 年 者 の 監 護 者 を 抗 告 人 単 独 に 変 更 し、 未 成 年 者 の 養 育 場 所 を 日 本 国 に変 更 するよう 求 める 抗 告 人 の 本 件 各 申 立 ては、 我 が 国 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めることができず不 適 法 であると 判 断 する。その 理 由 は、 後 記 ・・・のとおり 付 加 するほかは、 原 審 判 の 理 由 説 示のとおりであるから、これを 引 用 する。・・・・ 抗 告 人 は、アメリカ 合 衆 国 内 を 未 成 年 者 の 居 住 場 所 とする 内 容 の 監 護 計 画 に 合 意 し、その 監 護 計 画 は 同 国 の 裁 判 所 の 命 令 として 承 認 されたものである。その 命 令 の 居 住 スケジュールの 下 において、 抗 告 人 が、 未 成 年 者 を 連 れて 一 時 帰 国 し、そのまま 滞 在 を 続 け、 未 成 年者 の 児 童 育 成 手 当 及 び 児 童 手 当 の 受 給 を 開 始 し、 未 成 年 者 の 国 民 健 康 保 険 証 や 乳 幼 児 医療 証 の 発 行 を 受 け、 未 成 年 者 を 保 育 園 に 通 園 させているとしても、 上 記 命 令 に 反 して 一 方 的に 作 出 した 状 態 を 理 由 として、 未 成 年 者 の 住 所 又 は 常 居 所 地 が 日 本 にあると 認 めることはできないというべきである。したがって、 本 件 各 申 立 てについて 我 が 国 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めることはできない。」[30] 横 浜 家 裁 小 田 原 支 審 平 成 22 年 1 月 12 日 家 月 63-1-140( 親 権 者 指 定 申 立 事 案 )申 立 人 ( 元 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )相 手 方 ( 元 夫 -アメリカ 国 籍 、 住 所 はアメリカ・ネブラスカ 州 )未 成 年 子 ( 日 本 およびアメリカ 国 籍 、 住 所 は 日 本 )★ネブラスカ 州 内 の 地 方 裁 判 所 において、 申 立 人 と 相 手 方 の 婚 姻 解 消 、 子 に 対 する 両 者の 共 同 監 護 、および 子 の 州 外 への 移 動 禁 止 などが 決 められたが、その 後 同 州 最 高 裁3947


判 所 によって、 国 際 裁 判 管 轄 権 の 不 存 在 を 理 由 に、 子 の 監 護 の 問 題 に 関 する 部 分 が取 り 消 された。 元 妻 ( 母 )は 未 成 年 者 を 連 れて 日 本 に 帰 国 。 子 の 親 権 者 は 未 定 の 状 態であるため 元 妻 が 自 己 を 親 権 者 とする 申 立 を 行 ったもの。なお、 帰 国 後 約 1 年 経 過 。「 親 権 者 の 指 定 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 は、 原 則 として 子 の 常 居 所 地 国 に 認 められるところ、未 成 年 者 は 日 本 に 住 民 登 録 されて 住 所 地 において 生 活 しているから、 日 本 の 裁 判 所 に 国 際裁 判 管 轄 権 が 認 められる。」(ロ) 離 婚 とともに 親 権 ( 監 護 権 ) 者 の 指 定 が 争 われた 場 合[3] 千 葉 地 判 昭 和 47 年 3 月 31 日 判 時 682-50( 離 婚 請 求 事 案 )原 告 ( 夫 -アメリカ 国 籍 、 住 所 は 日 本 )被 告 ( 妻 -アメリカ 国 籍 、 住 所 はアメリカ)子 (アメリカ 国 籍 、 住 所 はアメリカ)「 原 被 告 はいずれもアメリカ 合 衆 国 国 民 であり、その 離 婚 の 裁 判 管 轄 は、 原 則 としてアメリカ合 衆 国 にあると 解 せられるが、 当 事 者 の 住 所 地 を 基 準 として 裁 判 管 轄 を 認 めることは、 国 際 生活 の 円 滑 と 当 事 者 の 便 益 のためにも 必 要 と 解 され、 現 在 、 原 告 は・・・・、 引 続 き 日 本 に 住 所( 日 本 法 )をもち、 被 告 はアメリカ 合 衆 国 に 住 所 があるが、 被 告 は・・・・、 原 告 のもとを 去 り、アメリカ 合 衆 国 に 帰 国 したものであって、 斯 様 な 場 合 は 正 義 公 平 の 見 地 から、 原 告 の 住 所 地 を 管轄 する 当 裁 判 所 は、 国 際 的 裁 判 管 轄 権 があるものと 解 される( 最 高 裁 判 所 昭 和 39 年 3 月25 日 判 決 )。」「・・・・ 父 母 の 離 婚 による 子 の 監 護 者 の 決 定 は、 離 婚 に 附 随 して 生 ずる 問 題 であって、 当 裁判 所 にその 裁 判 管 轄 を 生 じ」る。[4] 名 古 屋 地 判 昭 和 47 年 8 月 31 日 高 民 29-2-116( 離 婚 請 求 事 案 )原 告 ( 妻 - 韓 国 国 籍 )被 告 ( 夫 - 韓 国 国 籍 )子 2 名★いずれも 住 所 は 日 本「・・・・ 原 告 と 被 告 とは、 現 在 それぞれ 肩 書 地 ( 日 本 )に 住 所 を 有 していることが 認 められ、これに 反 する 証 拠 はないので、・・・・、 本 件 離 婚 訴 訟 については、 日 本 国 の 裁 判 所 に 裁 判 権 があるというべきである。」「・・・・( 離 婚 準 拠 法 である 大 韓 民 国 民 法 は)・・・・ 親 権 者 指 定 に 関 しては、 裁 判 所 に 対 し 離 婚の 判 決 においてこれを 指 定 する 権 限 を 付 与 していないため、 親 権 者 を 指 定 することはできないので、 右 言 渡 しはしない。」[11] 水 戸 家 審 平 成 3 年 3 月 4 日 家 月 45-12-57( 夫 婦 関 係 調 整 調 停 申 立 事 案 )申 立 人 ( 妻 -フランス 国 籍 )相 手 方 ( 夫 -イギリス 国 籍 )3958


子 (フランス、およびイギリス 国 籍 )★いずれも、 現 在 の 住 所 は 日 本「・・・・ 相 手 方 の 生 活 状 況 に 鑑 みるとき 相 手 方 には、 右 の 意 味 [ 我 国 の 裁 判 所 が 本 調 停 事 件につき 管 轄 権 を 有 するか 否 か- 筆 者 注 ]における 住 所 を 我 国 に 有 するものということができ、かつ、 相 手 方 は 本 調 停 に 出 頭 して、 主 文 同 旨 [ 離 婚 、および 子 の 親 権 者 を 相 手 方 と 定 めること- 筆 者 注 ]の 内 容 について 申 立 人 と 合 意 をなしており、 相 手 方 の 前 記 の 住 所 地 を 考 慮 し、 結局 我 国 裁 判 所 が 本 調 停 について 管 轄 権 を 有 する。」[17] 東 京 地 判 平 成 11 年 11 月 4 日 判 タ 1023-267( 離 婚 請 求 事 案 )原 告 ( 夫 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )被 告 ( 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 はアメリカ・ニュージャージー 州 )子 ( 日 本 およびアメリカ 国 籍 、 住 所 は 日 本 )「 離 婚 請 求 訴 訟 においても、 被 告 の 住 所 は 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 を 確 定 するに 当 たって 考 慮すべき 重 要 な 要 素 である。しかし、 被 告 が 我 が 国 に 住 所 を 有 しない 場 合 であっても、 原 告 の 住所 その 他 の 要 素 から 離 婚 請 求 と 我 が 国 との 関 連 性 が 認 められ、 我 が 国 の 管 轄 を 肯 定 すべき場 合 のあることは、 否 定 し 得 ないところであり、どのような 場 合 に 我 が 国 の 管 轄 を 肯 定 すべきかについては、 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 法 律 の 定 めがなく、 国 際 的 慣 習 法 の 成 熟 も 十 分 とは 言い 難 いため、 当 事 者 間 の 公 平 や 裁 判 の 適 正 ・ 迅 速 野 理 念 により 条 理 に 従 って 決 定 するのが 相当 である( 最 高 裁 平 成 8 年 6 月 24 日 第 2 小 法 廷 判 決 ・・・・)。」「 本 件 訴 訟 においては、 被 告 は 離 婚 自 体 には 異 議 を 述 べておらず、 本 件 訴 訟 の 実 質 的 争 点は、 原 、 被 告 間 の 子 である○○の 親 権 の 帰 属 であるところ、○○は 平 成 9 年 4 月 以 降 現 在 に至 るまで、2 年 半 余 りの 間 、 一 貫 して 日 本 に 居 住 し、 現 在 は 都 内 の 私 立 中 学 校 に 通 ってい ることからすると、その 親 権 の 帰 属 の 審 理 および 判 断 に 当 たっては、○○ 自 身 及 びその 生 育 環 境の 職 権 での 調 査 が 不 可 欠 であることに 照 らしても、 我 が 国 の 裁 判 所 において 審 理 を 行 う のがより 適 切 迅 速 な 処 理 に 資 することは 明 らかというべきである。」「また、 本 件 の 原 告 及 び 被 告 はいずれも 日 本 国 籍 を 有 する 者 であり、 両 名 の 婚 姻 は 我 が 国の 方 式 によってなされたものである。そうすると、 離 婚 請 求 訴 訟 は 人 の 身 分 関 係 の 得 喪 に 影響 を 及 ぼすものである 以 上 、 日 本 人 である 原 、 被 告 間 の 離 婚 請 求 訴 訟 については、 我 が 国 との 関 連 性 が 深 いことは 明 らかであるし、・・・・ 原 、 被 告 夫 婦 の 生 活 は、アメリカ 合 衆 国 で 相 当 長期 に 及 んでいたとはいえ、その 経 済 的 基 盤 は、 日 本 に 居 住 する 原 告 の 実 母 ・・・・に 全 面 的 に依 存 していたことが 認 められるのであって、その 意 味 での、 原 、 被 告 夫 婦 のアメリカ 合 衆 国 での 生 活 と 我 が 国 との 実 質 的 関 連 性 も 否 定 できない。」「・・・・ 本 件 訴 訟 においては、 被 告 の 住 所 が 我 が 国 になく、かつ 被 告 の 住 所 地 であるアメリカ合 衆 国 ニュージャージー 州 においても 本 件 訴 訟 と 競 合 する 訴 えが 提 起 され、 未 だ 確 定 に 至 っていないとはいえ 既 に 判 決 も 下 されているところではあるが、 被 告 の 応 訴 の 負 担 の 程 度 、 原 告及 び○○の 生 活 状 況 等 を 考 慮 すれば、○○の 親 権 者 指 定 を 含 む 本 件 離 婚 請 求 訴 訟 について、 我 が 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 しても 一 方 的 に 被 告 に 不 利 益 を 課 すとまではいえないし、かえって、 本 件 訴 訟 の 実 質 的 争 点 である○○の 親 権 者 指 定 の 判 断 に 当 たっては、その 適 正3969


迅 速 な 処 理 により 資 するものであることが 明 らかである。そうであるとすれば、・・・・ 本 件 訴 訟 と 我 が 国 との 関 連 性 をも 考 慮 すると、 本 件 訴 訟 については、 原 告 が 主 張 する 被 告 による 遺 棄 の 事 実 の 存 否 にかかわらず、 我 が 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を認 めるのが 条 理 にかなうというべきである。」[18] 名 古 屋 地 判 平 成 11 年 11 月 24 日 判 時 1728-58( 離 婚 等 請 求 事 案 )原 告 ( 夫 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )被 告 ( 妻 -アメリカ 国 籍 、 住 所 はアメリカ・オレゴン 州 )子 2 名 ( 日 本 およびアメリカ 国 籍 、 住 所 はアメリカ・オレゴン 州 )★アメリカ・オレゴン 州 裁 判 所 による 確 定 判 決 ( 離 婚 、 子 の 親 権 者 を 被 告 と 指 定 )あり( 米国 確 定 判 決 )。「 我 が 国 の 民 事 訴 訟 において、 親 権 者 指 定 の 申 立 ては、 離 婚 の 訴 えに 付 随 するものであって独 立 の 訴 えではなく、 当 然 、 訴 訟 当 事 者 も 離 婚 の 訴 えと 同 一 であり、 判 断 の 基 礎 となる 事 実 関係 も 離 婚 の 訴 えを 共 通 する 部 分 が 多 いから、 法 律 関 係 が 不 安 定 な 状 態 が 生 じる( 子 の 住 所 地の 所 在 する 国 のみが 親 権 者 指 定 の 裁 判 の 国 際 裁 判 管 轄 を 有 すると 解 すると、 離 婚 が 確 定 しているのに、 親 権 者 が 指 定 されていない 状 態 が 生 じうる。)のを 防 止 し、 当 事 者 間 の 公 平 、 訴訟 経 済 や 当 事 者 の 負 担 ( 子 の 住 所 地 の 所 在 する 国 のみが 親 権 者 指 定 の 裁 判 の 国 際 裁 判 管轄 を 有 すると 解 すると、 例 えば、 離 婚 の 当 事 者 である 夫 婦 が 各 別 の 国 に 居 住 し、 子 がさらに 別の 国 に 居 住 している 場 合 、 当 事 者 の 意 思 にかかわらず、 離 婚 と 親 権 者 指 定 の 二 度 の 訴 訟 追行 を 要 することとなる。)を 考 慮 すると、 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する 国 は 親 権 者 指 定の 裁 判 の 国 際 裁 判 管 轄 も 有 すると 解 することは 合 理 的 であり、 条 理 にかなうというべきである。他 方 、 我 が 国 において、 親 権 者 指 定 に 関 する 審 判 事 件 は、 子 の 福 祉 の 観 点 から、 子 の 住 所地 の 家 庭 裁 判 所 の 管 轄 とされており( 家 事 審 判 規 則 70 条 、52 条 )、この 趣 旨 からすると、 親権 者 指 定 の 裁 判 管 轄 は、 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する 国 のみならず、 子 の 住 所 地 の所 在 する 国 も 有 すると 解 することができる。このように、 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する 国 とともに 子 の 住 所 地 の 所 在 する 国 にも親 権 者 指 定 の 裁 判 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めると、ある 国 で 離 婚 の 訴 えとともに 親 権 者 指 定 の 申立 てが 提 起 され、 他 の 国 で 親 権 者 指 定 の 裁 判 が 提 起 されることがありうるが、これは、 訴 訟 経済 に 反 するし、 離 婚 が 確 定 していないのに 親 権 者 が 指 定 されるという 法 律 関 係 が 錯 綜 した 状態 を 生 じうる。また、 子 を 配 偶 者 に 無 断 で 本 国 に 連 れ 帰 って 親 権 者 指 定 の 裁 判 を 提 起 した 場合 、 常 に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められることになって、 当 事 者 間 の 公 平 を 害 するようにも 思 わ れる。さらに 我 が 国 における 離 婚 の 訴 え 及 び 親 権 者 指 定 の 申 立 てに 対 する 判 決 に 先 んじて 他 国において 親 権 者 指 定 の 裁 判 が 確 定 し、これが 我 が 国 において 効 力 を 有 するとされることは、 我が 国 において、 離 婚 の 訴 えの 判 決 主 文 で 親 権 者 の 指 定 をしなければならないとされている こと( 民 法 819 条 2 項 、 人 事 訴 訟 手 続 法 15 条 5 項 、3 項 )と 整 合 しないようにも 思 われる。しかしながら、 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する 国 とともに 子 の 住 所 地 の 所 在 する 国 にも 親 権 者 指 定 の 裁 判 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるとしても、 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する国 に 親 権 者 指 定 の 申 立 ても 合 わせて( 我 が 国 では 当 然 に) 提 起 された 場 合 、 当 事 者 の 負 担 を39710


考 慮 すると、 通 常 は、 相 手 方 もこれに 応 じるものと 考 えられるから、 訴 訟 経 済 に 反 したり、 法 律関 係 が 錯 綜 した 状 態 が 生 じることはさほど 多 くないと 解 される。 子 と 同 居 している 配 偶 者 が、 相手 方 が 居 住 する 国 にのみ 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる 場 合 に、 二 重 の 訴 訟 追 行を 厭 わず、 自 己 の 住 所 地 の 所 在 する 国 に 親 権 者 指 定 の 裁 判 を 提 起 した 場 合 には、 訴 訟 経 済に 反 することとなり、また、 応 訴 を 強 制 される 相 手 方 にとっては 不 利 益 であるが、このような 場合 には、 子 の 福 祉 を 訴 訟 経 済 や 相 手 方 の 不 利 益 に 優 先 させるべきである。また、この 場 合 、子 の 住 所 地 の 所 在 する 国 の 裁 判 所 の 親 権 者 指 定 の 判 決 が 先 に 確 定 すると、 離 婚 が 確 定 していないのに 親 権 者 が 指 定 されるという 事 態 になり、 一 時 法 律 関 係 が 錯 綜 した 状 態 になることは否 定 できない。しかし、 右 確 定 判 決 が 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 を 有 する 国 で 効 力 を 有 する可 能 性 があり、 子 の 福 祉 の 観 点 からは、むしろ 望 ましいというべきである。 子 を 配 偶 者 に 無 断で 本 国 に 連 れ 帰 って 親 権 者 指 定 の 裁 判 を 提 起 した 場 合 、 常 に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められることにはなるが、 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 までも 認 められるわけではなく、 離 婚 の 訴 えについては 相 手 方 の 住 所 地 において 提 起 ないし 応 訴 せざるをえないから、 当 事 者 間 の 公 平 が 害 されることにもならない。 我 が 国 における 離 婚 の 訴 え 及 び 親 権 者 指 定 の 申 立 てに 対 する 判 決 に 先んじて 他 国 において 親 権 者 指 定 の 裁 判 が 確 定 し、これが 我 が 国 において 効 力 を 有 する 場 合 には、 我 が 国 の 離 婚 の 訴 えの 判 決 主 文 においては、 親 権 者 指 定 の 判 断 をしないものと 解 すれば足 りる( 民 法 819 条 2 項 、 人 事 訴 訟 手 続 法 15 条 5 項 、3 項 は、 離 婚 の 訴 えに 付 随 する 親 権者 指 定 の 申 立 てが 適 法 な 場 合 に 適 用 されるものであって、 不 適 法 な 場 合 にまで 適 用 される と解 する 必 要 はない。なお、この 場 合 、 判 決 主 文 において、 親 権 者 指 定 の 申 立 てを 却 下 すべ きものと 解 する 余 地 もあるが、 我 が 国 の 民 事 訴 訟 において、 親 権 者 の 指 定 は 職 権 による 判 断 事 項であって、 当 事 者 の 申 立 ては 裁 判 所 の 職 権 発 動 を 促 すものにすぎないから、 主 文 におい て、却 下 の 判 決 をすべきものではないと 解 する)。 本 件 のように、 離 婚 自 体 については 実 質 的 に 当事 者 間 に 争 いがなく、 親 権 者 の 指 定 が 争 いの 中 心 である 場 合 には、とりわけ、 子 の 福 祉 の 観点 を 重 視 すべきである。以 上 に 述 べたところからすると、 親 権 者 指 定 の 裁 判 の 国 際 裁 判 管 轄 は、 離 婚 の 訴 えの 国 際裁 判 管 轄 を 有 する 国 及 び 子 の 住 所 地 の 所 在 する 国 が 有 すると 解 するのが 相 当 である。」「 米 国 確 定 判 決 中 の 親 権 者 指 定 に 関 する 部 分 は、 民 事 訴 訟 法 118 条 各 号 の 要 件 を 満 たすから、 我 が 国 において、 効 力 を 有 するものと 解 するのが 相 当 である。したがって、 本 件 親 権 者 指 定 の 申 立 ては、 米 国 確 定 判 決 の 効 力 に 抵 触 するから、 不 適 法 である(なお、 米 国 確 定 判 決 中 の 親 権 者 指 定 に 関 する 部 分 が 我 が 国 において 効 力 を 有 することを 前 提 にした 場 合 、 本 件 親 権 者 指 定 の 申 立 ては、 実 質 的 には、 米 国 確 定 判 決 後 の 事 情 をも 考慮 した 親 権 者 変 更 の 申 立 てであると 解 する 余 地 がないわけではないが、 仮 にこのように 解 し たとしても、 我 が 国 において、 地 方 裁 判 所 は 親 権 者 変 更 の 申 立 ての 管 轄 を 有 しないから[ 民 法819 条 6 項 ]、 本 件 親 権 者 指 定 の 申 立 ては 不 適 法 である。右 のとおりであるから、 本 件 判 決 主 文 においては、 本 件 親 権 者 指 定 の 申 立 てに 対 する 言 渡しはしないこととする。」[20] 東 京 地 判 平 成 16 年 1 月 30 日 判 時 1854-51( 離 婚 等 請 求 事 案 )原 告 ( 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )被 告 ( 夫 -フランス 国 籍 、 住 所 はフランス)39811


子 (フランス 及 び 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )「 我 が 国 の 民 事 訴 訟 において、 親 権 者 指 定 の 申 立 ては、 離 婚 の 訴 えに 付 随 するものであって独 立 の 訴 えではなく、 当 然 、 訴 訟 当 事 者 も 離 婚 の 訴 えと 同 一 であり、 判 断 の 基 礎 となる 事 実 関係 も 離 婚 の 訴 えを 共 通 する 部 分 が 多 いから、 法 律 関 係 が 不 安 定 な 状 態 が 生 じるのを 防 止 し、当 事 者 間 の 公 平 、 訴 訟 経 済 や 当 事 者 の 負 担 を 考 慮 すると、 離 婚 の 訴 えの 国 際 裁 判 管 轄 を 有する 国 は 親 権 者 指 定 の 裁 判 管 轄 も 有 すると 解 するのが 相 当 である。 加 えて、・・・・○○[ 子 ]はフランス 国 籍 とともに 日 本 国 政 も 有 しており、これらの 点 も 我 が 国 に 国 際 裁 判 管 轄 を 首 肯 する要 素 として 考 慮 し 得 る。そうすると、 我 が 国 が○○[ 子 ]の 親 権 者 の 指 定 についても 国 際 裁 判 管 轄 を 有 するというべきである。」[26] 新 潟 家 新 発 田 支 審 平 成 20 年 7 月 18 日 消 費 者 法 ニュース 78-254( 離 婚 請 求 事 案 )原 告 ( 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )被 告 ( 夫 - 韓 国 国 籍 、 住 所 は 韓 国 )子 2 名 ( 韓 国 国 籍 、 住 所 は 日 本 )「 離 婚 等 請 求 訴 訟 につき 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 を 検 討 するにあたっては、 法 律 の 定 めがなく、国 際 的 慣 習 法 の 成 熟 も 十 分 とはいい 難 いから、 当 事 者 間 の 公 平 や 裁 判 の 適 正 迅 速 の 理 念 により 条 理 に 従 って 決 定 するのが 相 当 である。そして、その 判 断 に 当 たっては、 応 訴 を 余 儀 なくされる 被 告 の 不 利 益 に 配 慮 すべきことはもちろんであるが、 他 方 、 原 告 が 被 告 の 住 所 地 国 に 離婚 請 求 訴 訟 を 提 起 することにつき 法 律 上 又 は 事 実 上 の 障 害 があるかどうか 及 びその 程 度 も 考慮 し、 離 婚 を 求 める 原 告 の 権 利 の 保 護 に 欠 けることがないよう 留 意 しなければならない。・・・・ 認 定 事 実 によれば、〔1〕 本 件 訴 訟 全 体 に 関 しては、 原 告 の 収 入 は 月 額 12 万 円 余 りであり、 被 告 からは 長 男 及 び 長 女 の 養 育 費 は 別 居 後 は 全 く 受 領 していないにもかかわらず、長 男 及 び 長 女 を 養 育 しなければならないこと、 原 告 は、 本 件 訴 訟 に 関 し 日 本 司 法 支 援 センターの 民 事 法 律 扶 助 の 援 助 を 受 けたこと、さらには 原 告 の 別 居 は、 主 として 被 告 側 の 態 度 に 起因 していること、を 考 慮 すれば、 原 告 が 被 告 の 住 所 地 国 である 韓 国 に 渡 航 して 韓 国 で 裁 判 手続 を 提 起 追 行 しなければならないとすることは、 事 実 上 の 障 害 があるというべきことそのような障 害 をもたらしたのは、 究 極 的 には 被 告 側 の 態 度 に 起 因 すること、〔2〕 親 権 者 指 定 を 求 める 部分 に 関 しては、 長 男 及 び 長 女 は 現 在 日 本 国 内 に 居 住 していること、からすれば、 本 件 訴 訟 については 我 が 国 に 国 際 裁 判 管 轄 があると 解 するのが 当 事 者 間 の 公 平 や 裁 判 の 迅 速 適 正 の理 念 に 沿 い、 条 理 に 合 致 するというべきである。」(ハ) 親 子 関 係 をめぐるその 他 の 問 題[19] 大 津 家 審 平 成 12 年 1 月 17 日 家 月 52-7-101( 嫡 出 子 否 認 申 立 事 案 )申 立 人 ( 夫 -ブラジル 国 籍 )相 手 方 ( 妻 の 子 )相 手 方 法 定 代 理 人 親 権 者 母 ( 妻 -ブラジル 国 籍 )★いずれも、 住 所 は 日 本39912


「 我 が 国 には 嫡 出 子 否 認 申 立 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 について 明 文 の 規 定 はないが、 当 事者 が 日 本 に 住 所 を 有 し、 我 が 国 の 裁 判 所 で 審 理 、 判 断 することについて、なんら 異 義 を 留 めず、 本 調 停 に 出 席 し、 前 記 合 意 をしているのであるから、 本 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 は 我 が 国 にあると 認 められる。」(2) 面 会 交 流面 会 交 流 ( 面 接 交 渉 )における 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 判 例 としては、 次 の[10]、[15]、[23]が参 考 になるものと 思 われる。[10] 東 京 地 判 昭 和 62 年 7 月 24 日 判 タ 656-257原 告 ( 妻 - 中 華 民 国 およびアメリカ 国 籍 )被 告 ( 夫 - 英 国 ( 香 港 ))★ 未 成 年 子 も 含 め、いずれも 住 所 は 日 本★ 主 位 的 申 立 は 離 婚 ( 請 求 認 容 )、 被 告 による 予 備 的 申 立 が 面 接 交 渉 に 関 する 処 分「なお、 被 告 は、・・・・ 予 備 的 申 立 として、 右 長 男 、 長 女 との 面 接 交 渉 に 関 する 処 分 を 求 めているが、 法 廷 地 法 たる 日 本 の 手 続 法 上 、 離 婚 訴 訟 の 際 に、 裁 判 所 が 当 事 者 の 一 方 とその 未成 年 の 子 との 面 接 交 渉 についても 付 随 的 に 判 断 しうるとする 規 定 は 何 ら 存 しないものと 解 され、その 手 続 的 根 拠 を 欠 くというべきであるので、 被 告 の 右 申 立 は 不 適 法 であり、 却 下 を 免 れない。」[15] 東 京 家 審 平 成 6 年 3 月 31 日 判 時 1545-81( 面 接 交 渉 申 立 事 案 )申 立 人 ( 夫 -フランス 国 籍 、 住 所 はフランス)相 手 方 ( 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )事 件 本 人 ( 未 成 年 子 -フランスおよび 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )★ 既 に、パリ 控 訴 院 において、 面 接 交 渉 を 含 む 離 婚 等 に 関 する 判 決 が 確 定 していた 事 案 。「 本 件 は、フランス 人 の 父 ( 申 立 人 )から、 日 本 人 の 母 ( 相 手 方 )に 対 して、フランス 及 び 日 本の 二 重 国 籍 を 持 つ 当 事 者 間 の 長 女 ( 事 件 本 人 )との 面 接 交 渉 を 求 める 事 案 であるところ、 同 事件 の 国 際 的 裁 判 管 轄 権 に 関 しては、 我 が 国 には 特 別 の 規 定 も、 確 立 した 判 例 法 の 原 則 も 存在 しないが、 子 の 福 祉 に 着 目 すると 子 の 住 所 地 国 である 日 本 の 裁 判 所 に 専 属 的 国 際 裁 判 管轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。」「 上 記 フランス 控 訴 院 判 決 の 承 認 の 問 題 については、 離 婚 等 を 内 容 とする 訴 訟 裁 判 の 部 分と 面 接 交 渉 等 に 関 する 非 訟 裁 判 の 部 分 に 区 分 して 判 断 されるべきものと 解 する。そこで、 検 討するに、 離 婚 等 の 訴 訟 裁 判 の 部 分 についてはさておき、 面 接 交 渉 に 関 する 外 国 の 非 訟 裁 判 の承 認 については、 日 本 民 事 訴 訟 法 200 条 の 適 用 はないと 解 されるが、 条 理 により、その 承 認の 要 件 としては、 外 国 の 裁 判 が 我 が 国 の 国 際 手 続 法 上 裁 判 管 轄 権 を 有 する 国 でなされた こ40013


と、それが 公 序 良 俗 に 反 しないことの 二 つをもって 足 りると 考 える。そして 先 に 判 断 を 示 したように、 本 件 面 接 交 渉 申 立 審 判 事 件 については、 日 本 国 が 専 属 的国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 するものと 解 されるので、 上 記 フランス 控 訴 院 判 決 の 面 接 交 渉 に 関 する判 決 事 項 を 承 認 することはできず、 当 裁 判 所 が 同 事 項 について 独 自 の 立 場 で 判 断 をすることとなる。勿 論 、フランス 控 訴 院 の 判 断 は、 面 接 交 渉 の 判 決 事 項 についても、 可 能 な 限 り 尊 重 されるべきものであることは 言 うまでもない。」[25] 東 京 家 審 平 成 20 年 5 月 7 日 家 月 60-12-71( 子 の 監 護 に 関 する 処 分 ( 面 接 交 渉 )申 立 事 案 )申 立 人 ( 国 籍 - 判 決 文 からは 不 明相 手 方 ( 国 籍 - 判 決 文 からは 不 明 、 住 所 -アメリカ・ペンシルバニア 州 )未 成 年 者 ( 国 籍 - 判 決 文 からは 不 明 、 住 所 -アメリカ・ペンシルバニア 州 )「 子 の 監 護 に 関 する 処 分 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 については、 我 が 国 とアメリカ 合 衆 国 との 間 においてこれを 定 める 条 約 は 存 在 しない 上 、 我 が 国 には 国 際 裁 判 管 轄 権 に 関 する 明 文の 規 定 は 存 在 しないことから、 条 理 によって 定 めるしかない(ちなみに、 国 内 の 裁 判 管 轄 権 については、 家 事 審 判 規 則 52 条 により 子 の 住 所 地 の 家 庭 裁 判 所 が 有 するとされている。)。そ うすると、 離 婚 事 件 のみならず、 親 子 関 係 事 件 ( 本 件 子 の 監 護 に 関 する 処 分 事 件 も 含 まれる。)についても、 相 手 方 が 行 方 不 明 その 他 特 段 の 事 情 がない 限 り、 相 手 方 の 住 所 地 国 に 国際 裁 判 管 轄 があるとするのを 原 則 とし、 併 せて、 親 子 関 係 事 件 の 中 でも 本 件 のような 子 の 面接 交 渉 を 定 める 事 件 ( 我 が 国 で 定 めた 面 接 交 渉 に 関 する 調 停 条 項 の 変 更 を 求 める 場 合 も 含む。)については、 子 の 福 祉 という 観 点 から、 子 と 最 も 密 接 な 関 係 を 有 する 地 である 子 の 住 所地 国 にも 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるのが 相 当 である。これを 本 件 についてみると、・・・ 相 手 方 及 び未 成 年 者 は、いずれもペンシルバニア 州 に 住 所 を 有 するから、ペンシルバニア 州 に 国 際 裁 判管 轄 があるというべきである。」「そこで、 本 件 について、 我 が 国 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めなければならないような 特 段 の 事 情が 存 在 するかにつき 判 断 するに、・・・ 相 手 方 は 未 成 年 者 とともに、 平 成 19 年 × 月 × 日 、 日 本からペンシルバニア 州 に 転 居 し、 未 成 年 者 は 相 手 方 が○○ 大 学 ○○ 学 部 での 研 修 を 終 了 するまで 相 手 方 とともにペンシルバニア 州 で 生 活 することになること、[ 東 京 家 裁 における- 筆 者注 ] 前 件 調 停 条 項 を 変 更 するにあたっては 相 手 方 及 び 未 成 年 者 の 生 活 状 況 等 の 調 査 が 必 要であること、 申 立 人 は、 現 に、 面 接 交 渉 の 調 書 を 新 たに 作 成 ( 前 件 調 停 条 項 の 変 更 )するための 調 停 をペンシルバニア 州 ○○ 家 庭 裁 判 所 に 申 し 立 てており、 同 裁 判 所 に 本 件 についての 国際 裁 判 管 轄 を 認 めるほうがより 子 の 福 祉 の 観 点 から 適 切 な 判 断 をなし 得 るのみならず、 当 事者 の 出 頭 等 の 便 宜 にも 資 すること、また、ペンシルバニア 州 UCCJEA[Uniform ChildCustody Jurisdiction and Enforcement Act 子 の 監 護 事 件 に 関 する 管 轄 及 び 執 行 に 関する 統 一 法 - 筆 者 注 ]によれば、 子 の 監 護 に 関 する 処 分 事 件 に 関 する『 排 他 的 かつ 継 続 的 な管 轄 』は 原 則 として 監 護 に 関 する 処 分 を 最 初 に 下 した 州 が 持 つとされているが、その 州 が 第5422 条 に 従 ってもはや 排 他 的 かつ 継 続 的 な 管 轄 を 有 しないと 判 断 した 場 合 (〔1〕 子 と 子 の 親がその 州 に 住 んでいないとき,もしくは〔2〕 子 もしくは 子 の 親 がその 州 と 密 接 な 関 係 を 持 たず、40114


子 に 関 する 実 質 的 な 証 拠 がもはやその 州 では 得 られないとき)はその 限 りではないとされており( 第 5423 条 )、その 場 合 にはペンシルバニア 州 の 裁 判 所 が 本 件 のように 我 が 国 で 定 めた 面接 交 渉 に 関 する 調 停 条 項 の 変 更 を 求 める 事 件 についても 管 轄 を 持 つとされていることにか んがみると、 本 件 においては、 我 が 国 に 本 件 子 の 監 護 に 関 する 事 件 の 裁 判 管 轄 を 認 めなけ ればならないような 特 段 の 事 情 は 存 在 しないといわざるを 得 ない。したがって、 我 が 国 には 本 件 子の 監 護 に 関 する 処 分 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 はないというべきであ」る。(3) 子 の 奪 取奪 取 された 子 の 引 き 渡 しを 求 める 手 続 としては、 現 在 のところ、(イ) 家 事 審 判 手 続 によるもの、(ロ)( 子 の 監 護 等 につき 確 定 した 外 国 判 決 がある 場 合 には) 外 国 判 決 の 執 行 手 続 、(ハ) 人身 保 護 手 続 、の 3 つが 考 えられる。(イ)の 手 続 によったもの[12] 東 京 家 審 平 成 4 年 9 月 18 日 家 月 45-12-63 ( 子 の 監 護 に 関 する 処 分 ( 子 の 引 渡 し)申 立 事 案 )申 立 人 ( 父 - 英 国 籍 )相 手 方 ( 母 - 日 本 国 籍 )子 ( 英 国 および 日 本 国 籍 )★いずれも、 住 所 は 日 本 (ただし、 申 立 人 は 生 活 の 本 拠 が 安 定 していない)「・・・ 和 正 [ 子 - 筆 者 注 ]は、 日 本 国 と 連 合 王 国 の 両 国 籍 を 有 し、 母 である 相 手 方 とともに 肩書 住 所 地 に 住 所 を 有 する 者 であるから、 別 居 しているが 婚 姻 中 の 夫 婦 間 で、 夫 が 妻 に 対 し 子の 引 渡 を 求 めている 本 件 については、 我 が 国 に 裁 判 管 轄 権 があり、 当 裁 判 所 の 管 轄 に 属 す るものということができ」る。(ロ)によったもの[14] 東 京 高 判 平 5 年 11 月 15 日 高 民 46-3-98( 執 行 判 決 等 請 求 控 訴 事 件 )原 告 ( 被 控 訴 人 )( 元 夫 -アメリカ 国 籍 、 住 所 はアメリカ・テキサス 州 )被 告 ( 控 訴 人 )( 元 妻 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )子 (アメリカ 国 籍 、 住 所 は 日 本 )★ 被 控 訴 人 を 子 の 単 独 支 配 保 護 者 に、 控 訴 人 を 一 時 占 有 保 護 者 に 定 め、かつ 子 の 被 控 訴人 への 引 渡 し、 控 訴 人 に 対 する 養 育 費 の 支 払 いを 命 じたテキサス 州 裁 判 所 判 決 ( 本 件 外国 判 決 )の 執 行 が 求 められたが、 同 判 決 は 民 訴 法 200 条 3 号 ( 公 序 ) 要 件 を 欠 くとして、その 執 行 が 否 定 された 事 案 。「・・・・ 非 訟 事 件 の 裁 判 についても、これによって 請 求 権 が 形 成 されると 同 時 にその 給 付 を 命ずるいわゆる 形 成 給 付 の 裁 判 及 びそれに 従 たる 非 訟 手 続 の 費 用 確 定 の 裁 判 については、 民事 執 行 法 24 条 が 類 推 適 用 ないし 準 用 され、 執 行 判 決 を 得 て 強 制 執 行 をすることができ、ま40215


た、 民 事 訴 訟 法 200 条 1 号 及 び 3 号 の 要 件 を 具 備 するときには、 外 国 裁 判 は 承 認 されるも のと 解 するのが 相 当 である。」「 本 件 外 国 判 決 は、それに 先 行 して 本 件 外 国 裁 判 所 によってされた 控 訴 人 ・ 被 控 訴 人 間 の 離婚 判 決 (テキサス 州 の 法 令 に 基 づいて 婚 姻 し、 同 州 に 居 住 していた 控 訴 人 及 び 被 控 訴 人 を 離婚 する 旨 の 判 決 )に 含 まれていたアメリカ 合 衆 国 の 国 籍 を 有 し、かつ、テキサス 州 に 居 住 していた 未 成 年 であるナオミ[ 子 - 筆 者 注 ]の 単 独 支 配 保 護 者 等 の 定 めに 関 する 判 決 等 並 びにその 後 に 本 件 外 国 裁 判 所 がしたナオミ 及 び 控 訴 人 の 住 所 変 更 等 の 許 可 決 定 の 修 正 変 更 を 求 めて、 被 控 訴 人 が 控 訴 人 を 相 手 方 として 提 起 した 訴 訟 において、 本 件 外 国 裁 判 所 がテキサス 州法 に 基 づき、 陪 審 による 事 実 審 理 を 経 て 宣 告 したものであり、また、 右 提 訴 の 当 時 、 控 訴 人 及びナオミはいずれも 同 州 に 居 住 しており、しかも 控 訴 人 は 右 訴 訟 に 応 訴 していたものであるから、 本 件 外 国 判 決 事 件 につき、 本 件 外 国 裁 判 所 に 裁 判 管 轄 権 があったことは 明 らかである(もとより、わが 国 の 法 令 又 は 条 約 において、 右 の 事 柄 に 関 する 本 件 外 国 裁 判 所 の 裁 判 管 轄 権 を否 定 しているものは 見 当 たらない。)。このことは、 右 事 件 の 提 訴 後 、 控 訴 人 及 びナオミが 日 本に 居 住 するようになった 事 実 によっては 左 右 されないというべきである。」(ハ)によったもの[31] 大 阪 高 決 平 22 年 2 月 18 日 家 月 63-1-99( 人 身 保 護 請 求 事 案 )請 求 者 ( 父 -ニカラグア 国 籍 、 住 所 はアメリカ・ウィスコンシン 州 )拘 束 者 ( 母 - 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )被 拘 束 者 ( 子 -ニカラグア、アメリカおよび 日 本 国 籍 、 住 所 は 日 本 )★ 請 求 者 を 被 拘 束 者 の 単 独 監 護 権 者 として 認 めたウィスコンシン 州 判 決 は 日 本 においても承 認 されるとした 上 で( 間 接 管 轄 については 被 告 住 所 地 主 義 )、 子 の 監 護 権 を 有 する 者から、これを 有 しない 者 に 対 する 人 身 保 護 請 求 の 当 否 を 判 断 するについては、 被 拘 束 者を 請 求 者 の 監 護 の 下 に 置 くことが 拘 束 者 らの 監 護 の 下 に 置 くことに 比 べて 被 拘 束 者 の 幸福 の 観 点 から 著 しく 不 当 なものと 言 えるかどうかによって 検 討 すべきであり、 本 件 は、こ れに 当 たらないとして、 請 求 を 棄 却 した 事 案 (その 後 の 特 別 抗 告 審 において、 審 問 手 続 を 経た 上 で 判 決 によるべきであったと 判 示 された)。★なお、 人 身 保 護 法 4 条 は、「 第 2 条 の 請 求 [ 人 身 保 護 請 求 - 筆 者 注 ]は、 書 面 又 は 口 頭をもつて、 被 拘 束 者 、 拘 束 者 又 は 請 求 者 の 所 在 地 を 管 轄 する 高 等 裁 判 所 若 しくは 地 方 裁判 所 に、これをすることができる」と 定 めている。(4) 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見 ( 後 見 開 始 の 審 判 )法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 5 条 は、「 裁 判 所 は、 成 年 被 後 見 人 、 被 保 佐 人 又 は 被 補 助 人 となるべき 者 が 日 本 に 住 所 若 しくは 居 所 を 有 するとき 又 は 日 本 の 国 籍 を 有 するときは、 日 本 法 により、後 見 開 始 、 保 佐 開 始 又 は 補 助 開 始 の 審 判 ( 以 下 「 後 見 開 始 の 審 判 等 」と 総 称 する。)をすることができる」と 定 める。しかし、 同 条 が 適 用 された 公 表 判 例 はなく、また、 後 見 ( 未 成 年 後 見 、 成 年 後 見 、 後 見 開 始 の審 判 )に 関 し 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 自 体 が 争 われた 公 表 判 例 も 見 当 たらなかった。40316


ただし、 後 見 の 準 拠 法 が 問 題 となった 事 案 (すなわち、 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 の 存 在 を 前 提 とした 事 案 )には、 次 のようなものがある。[1] 東 京 家 審 昭 和 40 年 12 月 20 日 ( 家 月 18-8-83) ( 未 成 年 者 の 特 別 代 理 人 選 任 事 案 )事 件 本 人 ( 未 成 年 者 -アメリカ 国 籍 )申 立 人 ( 未 成 年 者 の 父 -アメリカ 国 籍 、 未 成 年 者 の 母 -アメリカ 国 籍 )★いずれも、 住 所 は 日 本「・・・・・・・・ 申 立 人 ( 父 ) 及 び 事 件 本 人 はアメリカ 合 衆 国 人 であり、 申 立 人 ( 母 )は 日 本 人 であって、 本 件 は 渉 外 事 件 であるので、まずその 裁 判 権 ならびに 管 轄 権 について 考 察 すると、 申 立人 両 名 および 事 件 本 人 はいずれも 東 京 都 内 に 住 所 を 有 していることが 認 められるので、 日 本国 裁 判 所 が 本 件 について 裁 判 権 を 有 し、かつ、 当 家 庭 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 することは 明 ら かである。」[2] 東 京 家 審 昭 和 41 年 9 月 22 日 ( 家 月 19-5-108)( 未 成 年 者 の 特 別 代 理 人 選 任 事 案 )事 件 本 人 ( 未 成 年 者 -アメリカ 国 籍 )申 立 人 ( 未 成 年 者 の 父 -アメリカ 国 籍 、 未 成 年 者 の 母 - 日 本 国 籍 )★いずれも 住 所 は 日 本 (なお、 父 および 事 件 本 人 のドミサイルは、ミズーリ 州 と 認 定 )「この 申 立 については、 事 件 本 人 が 合 衆 国 市 民 であつて、その 本 国 法 上 の 住 所 たるドミサイル( 法 定 住 所 として、 父 のドミサイルが 本 人 のドミサイルとなる)は 日 本 にいないけれども、 前記 のように 出 生 以 来 東 京 に 居 住 し、 日 本 人 として 同 所 に 住 所 を 有 する 母 の 手 許 で 教 育 されて来 たものであつて、その 居 住 の 場 所 は 日 本 の 法 制 でいう 住 所 ( 註 、 渉 外 事 件 の 裁 判 権 の 有 無を 判 定 するのに 必 要 な 住 所 観 念 については、 日 本 の 法 制 上 は、 実 質 法 たる 準 拠 法 を 定 める 基礎 となる 場 合 とは 異 なり、 本 国 法 上 のそれによるべきものではなくて、 当 該 法 廷 地 国 たる 日 本の 法 制 上 の 観 念 によるべきものと 解 する)に 相 当 する 実 質 を 具 えているものということがで きるから、 日 本 の 法 制 上 、 日 本 の 裁 判 所 はこれが 裁 判 権 (または 国 際 的 裁 判 管 轄 権 )を 持 つ ことができるものと 解 すべきであり、その 管 轄 は 当 裁 判 所 にあるということができる。」[5] 東 京 家 審 昭 和 48 年 10 月 3 日 ( 家 月 26-4-95)( 未 成 年 後 見 人 選 任 事 案 )事 件 本 人 ( 未 成 年 者 -アメリカ 国 籍 )申 立 人 ( 未 成 年 者 の 父 -アメリカ 国 籍 、 未 成 年 者 の 母 - 日 本 国 籍 )★いずれも 住 所 は 日 本「 本 件 は 渉 外 事 件 であるが、 申 立 人 両 名 および 事 件 本 人 はいずれも 東 京 都 内 に 住 所 を 有していることが 認 められるから、 日 本 国 裁 判 所 が 本 件 について 裁 判 権 を 有 し、かつ 東 京 家 庭裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 する。」[6] 東 京 家 審 昭 和 49 年 12 月 27 日 ( 家 月 27-10-71) ( 未 成 年 後 見 人 選 任 事 案 )事 件 本 人 ( 未 成 年 者 - 無 国 籍 )40417


申 立 人 ( 未 成 年 者 の 母 - 日 本 国 籍 )★いずれも 住 所 は 日 本★ 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 言 及 はなし。★ 事 件 本 人 の 日 本 国 への 帰 化 申 請 手 続 をするための 後 見 人 選 任 手 続 という 特 殊 な 事 情あり。[8] 札 幌 家 審 昭 和 51 年 7 月 26 日 ( 家 月 29-4-149)( 未 成 年 後 見 人 選 任 事 案 )事 件 本 人 ( 未 成 年 者 - 韓 国 籍 )申 立 人 ( 未 成 年 者 の 祖 母 - 日 本 国 籍 か? 未 成 年 者 ( 非 嫡 出 子 )の 亡 父 が 日 本 国 籍 )★いずれも 住 所 は 日 本★ 事 件 本 人 の 母 は 行 方 不 明★ 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 言 及 はなし。[24] 東 京 高 決 平 成 18 年 7 月 11 日 ( 判 時 1958-73)( 成 年 後 見 ・ 法 例 4 条 適 用 事 案 )事 件 本 人 ( 韓 国 籍 )申 立 人 ( 抗 告 人 )( 事 件 本 人 の 妻 - 韓 国 籍 )★いずれも 住 所 は 日 本★ 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 言 及 はなし。40518


7. 氏( 執 筆 担 当 : 九 州 大 学 小 池 泰 )氏 名 変 更 の 国 際 裁 判 管 轄 権 については 1 、 学 説 上 、 本 国 管 轄 を 原 則 とし、 例 外 的 に 住 所 地国 の 管 轄 を 認 める、とするものが 多 い 2 。もっとも、この 立 場 に 対 しては、1 戸 籍 実 務 と 整合 しないこと 3 、2 住 所 地 国 での 裁 判 が 本 国 で 承 認 されなかった 場 合 にどうなるのかが 不 明であること、などの 問 題 点 が 指 摘 されている 4 。裁 判 例 のうち、 管 轄 に 言 及 するものには、 本 国 管 轄 によるもの(10・14)、 住 所 地 国 の 管轄 を 認 めるもの(05・08・09・11・15、 本 国 管 轄 原 則 の 例 外 として 認 めるものは 12・16、事 案 の 特 殊 性 から 認 めるものは 17・18)、いずれもある。また、 住 所 地 国 の 管 轄 を 認 める場 合 において、 本 国 での 承 認 可 能 性 を 要 件 とするもの(11)がある。5* 判 例 一 覧01: 京 都 家 審 昭 和 33・4・21 家 月 10 巻 5 号 64 頁 : 氏 の 変 更 ・ 却 下 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 日 本 国 籍 、 日 本 に 住 所 )は、 米 国 籍 の 者 の 養 子 となり、 日 常 生 活 では 養 親 の 氏 Aを 用 いているが、 戸 籍 上 の 氏は 縁 組 前 のBのままなので、 戸 籍 法 107 条 の 氏 の 変 更 を 申 立 てた( 米 国 籍 は 未 だ 取 得 できていない。)。「…… 実 体 上 変 更 を生 じた 氏 につき 単 に 戸 籍 記 載 を 合 致 訂 正 する 目 的 のために 重 ねて 戸 籍 法 第 107 条 の 手 続 によりAからBへの 創 設 的 変 更 の許 可 を 求 めることは 許 されない……」1日 本 の 公 的 文 書 に 外 国 人 の 氏 名 の 記 載 がある 場 合 において、それを 正 しい 氏 名 に 訂 正 するような 場 合 は 除 く。そのような 場 合 として、たとえば、 婚 姻 届 出 中 の 夫 の 氏 名 ・ 生 年 月 日 の 記 載 がその 本 国 の 記 載 と 異 なるとしてその 訂 正 を 求 めたのに 対 して、 戸 籍 法 113 条 の 類 推 適 用 により、 訂 正 を 認 めた 事 案 がある( 福 岡 家 裁 小 倉 支 審 平 成 12・12・12 家 月 53 巻 6 号117 頁 )。 本 審 判 は、「いわゆる 戸 籍 訂 正 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 については、 日 本 法 において 明 文 の 規 定 はないが、 事 案 の 性質 上 、 原 則 としてその 者 の 本 国 に 国 際 裁 判 管 轄 権 があると 解 するのが 相 当 である。しかし、 本 件 は 本 国 の 戸 籍 の 内 容 を 訂正 するといったものではなく、 外 国 人 が 法 例 の 準 拠 法 により 日 本 の 方 式 によって 行 った 婚 姻 届 の 記 載 の 訂 正 を 求 める 者 であって、 日 本 の 方 式 による 内 容 の 問 題 であるから、 住 所 地 である 日 本 国 に 管 轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。」とした。なお、 司 法 研 修 所 編 『 渉 外 家 事 ・ 人 事 訴 訟 事 件 の 審 理 に 関 する 研 究 』( 法 曹 会 、2010 年 )187 頁 は、 他 に、 戸 籍 の 身 分 事項 欄 に 記 載 された 外 国 人 配 偶 者 の 氏 名 の 訂 正 ( 戸 籍 訂 正 )を 挙 げている。いずれも 日 本 の 公 的 文 書 の 記 載 を 訂 正 するものであり、 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認 めることは 可 能 であろう(もっとも、 対 応 する 手 続 が 国 内 法 で 整 備 されているかは 別問 題 である)。なお、 石 黒 一 憲 『 現 代 国 際 私 法 ( 上 )』( 東 京 大 学 出 版 会 、1986 年 )359 頁 は、 氏 名 変 更 すなわち 戸 籍 や 旅 券 などの 公 簿の 変 更 と 把 握 することを 批 判 している。2澤 木 敬 郎 「 人 の 氏 名 に 関 する 国 際 私 法 上 の 若 干 の 問 題 」 家 月 32 巻 5 号 1(29-31) 頁 (1980 年 )(なお、 氏 名 は 公 法 上 の問 題 であるとの 性 質 決 定 を 前 提 としている); 山 田 鐐 一 『 国 際 私 法 第 3 版 』( 有 斐 閣 、2004 年 )563 頁 ; 司 法 研 修 所 ・ 前掲 書 177 頁 ; 佐 藤 文 彦 ・ 名 城 法 学 48 巻 2 号 193(198) 頁 ( 判 例 16 評 釈 )など。 住 所 地 国 での 変 更 裁 判 が 本 国 で 承 認 されて 登 録 されることを 必 要 とするのは、 加 藤 令 造 ・ジュリ 473 号 145 頁 ( 判 例 08 評 釈 )。これに 対 して、なお、 第 99 回 戸 籍 事 務 連 絡 協 議 会 議 事 録 ( 家 月 22 巻 3 号 179 頁 )は、 韓 国 人 の 名 の 変 更 許 可 事 件 の 取 り 扱 いについて、「 法 例 第 22 条 韓 国 戸 籍 法 第 113 条 により、 日 本 の 家 庭 裁 判 所 が 許 可 することができると 思 われるが、 許 可 した 場 合 戸 籍 事務 管 掌 者 はその 届 出 を 受 理 することができるか。 受 理 できないとしても、 外 国 人 登 録 においては、 変 更 後 の 名 に 更 正 することが 認 められるか」という 問 に 対 して、 前 段 は 否 定 、 後 段 は 所 定 の 要 件 をみたせば 肯 定 できるとしている。そして、 前提 問 題 である 韓 国 人 の 名 の 変 更 許 可 審 判 を 日 本 の 家 庭 裁 判 所 がなしうるかについては、 名 の 変 更 の 性 質 を 韓 国 戸 籍 上 の 表示 の 問 題 とすれば 日 本 の 裁 判 所 ・ 官 庁 の 管 轄 は 認 められず、 他 方 で 身 分 実 体 的 なものとみるならこれを 認 める 余 地 がある、とする。3戸 籍 実 務 では、 日 本 人 の 氏 名 の 変 更 許 可 の 管 轄 は 日 本 の 裁 判 所 に 専 属 的 に 属 し、 外 国 裁 判 所 による 氏 名 変 更 の 裁 判 に 基づく 届 出 は 受 理 しない、としている( 昭 和 47・11・15 民 甲 4679 号 回 答 )。4佐 藤 ・ 前 掲 論 文 198-199 頁 。5以 下 のリストは 網 羅 的 でないことをお 詫 びしておく。なお、 平 成 22 年 度 司 法 統 計 ・ 家 事 傷 害 事 件 の 事 件 別 新 受 件 数 ・ 全家 庭 裁 判 所 では、 戸 籍 法 による 氏 の 変 更 についての 許 可 が 115 件 、 名 の 変 更 についての 許 可 が 68 件 ある。1406


02: 東 京 家 審 昭 和 34・6・1 家 月 11 巻 9 号 119 頁 : 氏 の 変 更 ・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 米 国 籍 、 未 成 年 子 )は、 日 本 で 出 生 し、 父 母 の 離 婚 後 は 親 権 者 である 母 とともに 日 本 で 生 活 しているので、 父の 氏 から 母 の 氏 へと 変 更 することを 申 し 立 てた 事 案 ( 父 は 米 国 に 帰 国 )。「 人 の 名 の 変 更 は、 本 人 の 本 国 法 によるものと 解 するのであるが、 本 件 においては、 申 立 人 はその 本 国 であるところのアメリカ 合 衆 国 ハワイ 州 に 住 所 を 有 しないで、 日 本 に 住 所 を 有 するので 同 州 法 においては、この 場 合 、 申 立 人 の 住 所 地 である 日 本 の 法 律 によるべきものと 解 する。」03: 東 京 家 審 昭 和 38・6・1 家 月 15 巻 9 号 230 頁 : 氏 の 変 更 ・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 米 国 籍 。 日 本 に 住 所 。 日 本 で 職 を 持 ち、すでに 8 年 程 度 もっぱら 日 本 に 在 住 し、 今 後 も 数 年 は 日 本 に 滞 留 する予 定 )が、 氏 を Hood から Hudachek に 変 更 することの 許 可 を 申 し 立 てた 事 案 。04: 東 京 家 審 昭 和 39・2・14 家 月 16 巻 7 号 77 頁 : 氏 の 変 更 ・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ら( 未 成 年 子 。 日 本 国 籍 。 日 本 に 住 所 )は、 父 ( 米 国 籍 )と 母 ( 日 本 国 籍 )の 間 の 非 嫡 出 子 として 日 本 で 出 生 し、母 の 氏 を 称 してきたが、 父 は 申 立 人 ら 及 びその 母 と 共 同 生 活 を 続 けており、また、 父 が 申 立 人 らを 認 知 したので、 父 の 氏に 変 更 することを 申 し 立 てた 事 案 。05: 東 京 家 審 昭 和 41・6・8 家 月 19 巻 1 号 66 頁 : 氏 の 変 更 ・ 認 容申 立 人 ( 米 国 籍 。 日 本 に 住 所 )は、 米 国 籍 の 夫 婦 ( 氏 はテーラー)の 養 子 となり、マーフィからテーラーへ 氏 を 変 更 することを 申 し 立 てた 事 案 。「…… 申 立 人 は、アメリカ 合 衆 国 人 であるが、 東 京 都 内 に 住 所 を 有 しているので、 日 本 国 裁 判 所が、 本 件 について 裁 判 権 を 有 し、……」06: 東 京 家 審 昭 和 41・7・9 家 月 19 巻 1 号 68 頁 : 氏 と 名 の 変 更 ・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 未 成 年 子 。 日 本 国 籍 と 思 われる)は、 米 国 籍 夫 婦 の 養 子 となったので、 養 親 と 同 じ 氏 を 称 し、さらにアメリカ人 らしい 名 にしたいとして、 氏 ・ 名 の 変 更 を 申 立 てた 事 案 。 本 審 判 は、 申 立 人 の 養 子 縁 組 に 関 する 準 拠 法 は 父 の 本 国 法 であり、それによれば、 養 子 決 定 をする 裁 判 所 がその 決 定 にあたり 氏 名 の 変 更 を 命 じることができるとされており、 日 本 では 養 子 縁 組 によって 当 然 に 養 親 の 氏 を 称 することになる 点 でこのような 権 限 を 裁 判 所 は 有 していないが、 戸 籍 法 107 条 の名 の 変 更 の 権 限 がこれに 類 似 しており、この 権 限 によって 養 子 決 定 の 際 の 養 子 の 氏 変 更 を 認 める 前 記 本 国 法 を 適 用 実 現 する、としている。07: 東 京 家 審 昭 和 43・2・5 家 月 20 巻 9 号 116 頁 : 氏 の 変 更 ・ 認 容 ( 管 轄 に 言 及 なし)申 立 人 ( 日 本 国 籍 )は、A(ポルトガル 国 籍 )との 間 に 子 1をもうけ、Aは 子 1を 認 知 した 後 に 申 立 人 と 婚 姻 し、その後 子 2が 誕 生 したが、 以 上 の 結 果 、 申 立 人 と 子 1は 村 川 の 氏 、Aと 子 2はデ・アウトの 氏 を 称 することになった。そこで、申 立 人 の 氏 をAの 氏 に 改 めることを 申 し 立 てた 事 案 。08: 名 古 屋 家 審 昭 和 44・12・1 家 月 22 巻 7 号 48 頁 : 名 の 変 更 ・ 認 容申 立 人 (アメリカ 国 籍 ・ 住 所 は 日 本 )は、 出 生 から 数 日 して 事 実 上 の 養 子 として 引 き 取 られ、まもなく 洗 礼 を 受 け、 以後 は 洗 礼 名 を 用 いているとして、 本 当 ( 出 生 証 明 書 )の 名 を 洗 礼 名 に 変 更 することを 申 し 立 てた。「…… 申 立 人 が 現 に 日 本 に 住 所 をもち、かつ、 本 国 の 住 所 地 州 で 氏 名 の 変 更 を 求 めうるのに 必 要 な 居 住 期 間 を 日 本 におい2407


て 充 足 している 場 合 は、 申 立 人 の 住 所 地 国 である 日 本 に 国 際 的 裁 判 管 轄 権 を 認 め、……」09: 東 京 家 裁 昭 和 46・7・21 家 月 24 巻 3 号 82 頁 : 氏 の 変 更 ・ 認 容西 ドイツ 国 籍 の 男 性 と 婚 姻 して 夫 の 氏 を 称 することとしたアメリカ 国 籍 の 女 性 が、( 婚 姻 から 約 8か 月 後 の 調 停 ) 離 婚 後に(その 際 、 離 婚 後 に 婚 姻 前 の 氏 を 称 することの 許 可 を 申 し 立 てていなかったため)、 婚 姻 前 の 氏 への 変 更 を 申 し 立 てた 事案 。「 申 立 人 は、アメリカ 合 衆 国 人 であるが、 現 在 東 京 に 居 住 しているので、 日 本 国 の 裁 判 所 が 本 件 申 立 てについて 裁 判 権を 有 し、かつ、 当 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 していることは 明 らかである。」10: 東 京 家 審 昭 和 50・6・25 家 月 28 巻 5 号 66 頁 : 名 の 変 更 ・ 却 下申 立 人 ( 韓 国 籍 )による 名 の 変 更 の 申 立 てについて、「 韓 国 戸 籍 上 その 表 示 を 変 更 するものであって、 日 本 国 の 家 庭 裁 判所 が 右 の 事 項 につき 裁 判 権 を 有 するものではないと 解 される……」として 却 下 (なお、 呼 称 の 変 更 について 日 本 の 家 裁 が権 限 を 有 するか 否 かについて、 肯 定 した 場 合 を 前 提 とした 検 討 もしている(この 点 については、 変 更 に 正 当 な 理 由 はない、とする)。11: 大 阪 家 審 昭 和 52・3・31 家 月 29 巻 12 号 88 頁 : 名 の 変 更 ・ 認 容来 日 して 約 4 年 で 日 本 に 住 所 を 有 する 申 立 人 (アメリカ 国 籍 )からの 名 の 変 更 の 申 立 ての 事 案 。「 人 格 権 の 一 種 ともいうべき 氏 名 権 の 行 使 に 関 するものについて、 申 立 人 の 本 国 にのみ 裁 判 権 が 存 するとすべきではなく、 申 立 人 の 本 国 法 によっても 名 の 変 更 が 許 され、その 登 録 がされ 得 る 場 合 で、かつ、 申 立 人 が 日 本 に 住 所 を 有 する 限 り、 日 本 に 国 際 裁 判 管 轄 権 があるというべき……」12: 京 都 家 審 昭 和 55・3・31 家 月 33 巻 5 号 98 頁 : 氏 の 変 更 ・ 却 下申 立 人 ( 朝 鮮 国 籍 を 取 得 して 日 本 国 籍 を 離 脱 した 者 。 日 本 に 住 所 を 有 する。)からの 氏 の 変 更 について、 管 轄 は 認 めたものの、 準 拠 法 ( 北 朝 鮮 法 )では 自 己 の 意 思 で 姓 を 変 更 できない、として 却 下 した 事 案 。「 氏 の 変 更 に 関 する 問 題 は、 氏 名 権 たる 一 種 の 人 格 権 に 関 するものであり、かつ、 氏 の 変 更 は 公 の 文 書 に 記 載 され 登 録 されその 国 の 行 政 的 監 督 に 服 せしめられるものであるから、 原 則 として、それが 記 載 ないし 登 録 される 本 国 の 管 轄 に 属 するものと 解 すべきであるが、 本 国 にのみ 管 轄 権 が 専 属 するものとすると 不 都 合 が 生 じる 場 合 があるので、 当 事 者 の 便 宜 を 考慮 して 例 外 的 に 住 所 地 国 に 管 轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。」13: 大 阪 家 審 昭 和 56・9・21 家 月 34 巻 9 号 88 頁 : 名 の 変 更 ・ 却 下来 日 以 来 10 年 以 上 日 本 に 滞 在 し、 現 在 も 日 本 に 住 所 を 有 する 在 日 韓 国 人 からの 名 の 変 更 ( 外 国 人 登 録 原 簿 上 の 名 の 表 示の 変 更 )の 申 立 てについて、 外 国 人 登 録 原 票 上 の 名 の 変 更 は 家 事 審 判 事 項 ではないことを 理 由 に 却 下 した 事 案 ( 申 立 人 の望 む 名 は、 外 国 人 登 録 原 票 上 、 通 称 の 表 示 としてすでに 記 載 されている)。14: 大 阪 高 決 昭 和 57・5・10 家 月 35 巻 8 号 106 頁 : 名 の 変 更 ・ 即 時 抗 告 棄 却申 立 人 ( 韓 国 籍 )が 本 国 の 公 簿 上 の 表 示 の 変 更 ( 名 の 変 更 )を 求 めたのを 日 本 の 家 裁 に 裁 判 権 はないとして 却 下 した 原審 を 維 持 した。 原 審 は「 氏 名 は 人 格 権 の 問 題 であり、その 本 国 の 公 簿 上 の 表 示 変 更 は、 当 該 本 国 の 裁 判 所 (…)の 許 可 を要 すると 解 すべきで、 日 本 国 の 家 庭 裁 判 所 はその 事 項 について 裁 判 権 を 有 しない」と 述 べている。15: 横 浜 家 審 平 成 3・11・28 家 月 44 巻 8 号 49 頁 : 名 の 変 更 ・ 認 容3408


日 本 で 出 生 した 韓 国 国 籍 を 有 する 申 立 人 が、 名 の 変 更 を 申 立 てた 事 案 。「 申 立 人 が 出 生 以 来 本 邦 に 居 住 している 事 実 からすると、 本 件 については 我 国 の 裁 判 所 が 国 際 裁 判 管 轄 権 を 有 すると 解 して 差 支 えない。」16: 千 葉 家 市 川 出 審 平 成 8・5・23 家 月 48 巻 10 号 170 頁 : 名 の 変 更 ・ 許 可申 立 人 ( 韓 国 籍 、 日 本 で 出 生 以 来 日 本 に 居 住 ・ 住 所 あり)からの 名 の 変 更 の 申 立 てを 認 容 した。「 人 の 氏 名 は、 公 の 文 書 に 記 載 又 は 登 録 されて、その 者 の 属 する 国 の 行 政 的 監 督 に 服 せしめられるのが 通 常 であるから、氏 名 の 変 更 は、 原 則 としてそれが 記 載 又 は 登 録 されるその 者 の 本 国 に 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。( 改 行 )しかしながら、 本 国 にのみ 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認 めると、 本 国 を 離 れて 住 所 地 に 永 住 している 外 国 人 に 不 便 を 強 いる 結 果 となるので、 氏 名 変 更 の 裁 判 が 本 国 で 承 認 されることが 明 らかな 場 合 には、 例 外 的 に 住 所 地 国 にも 管 轄 権 を 認 めるのが 相 当 である。」として、 本 件 では、 申 立 人 が 日 本 で 出 生 子 して 以 後 現 在 まで 日 本 に 居 住 し、 将 来 も 日 本 に 永 住 することを 希 望 し、韓 国 へ 帰 国 する 意 思 がない 者 であることから、 例 外 を 認 めるのが 相 当 で、 申 立 人 の 住 所 も 日 本 にあるので、 国 際 裁 判 管 轄権 が 認 められるとする。17: 横 浜 家 裁 川 崎 支 審 平 成 8・7・3 家 月 48 巻 12 号 69 頁 : 名 の 変 更 ・ 許 可( 特 別 永 住 者 の 資 格 で 本 邦 に 在 留 する 朝 鮮 国 籍 の) 申 立 人 による 外 国 人 登 録 上 の 名 の 変 更 の 申 立 てを 認 容 したもの。本 審 判 は、 外 国 人 登 録 は 当 該 外 国 人 の 国 籍 の 属 する 国 で 登 録 された 公 簿 上 の 表 示 を 正 確 に 登 録 するものであって、そうした 公 簿 上 の 表 示 と 別 に 定 め・ 変 更 できる 性 質 のものではない。したがって、 外 国 人 登 録 上 の 登 録 名 の 変 更 は、 当 該 本 国の 公 簿 上 の 表 示 の 変 更 を 求 める 実 質 を 有 することになり、 日 本 の 裁 判 所 の 裁 判 権 は 及 ばない。しかし、 申 立 人 にはこのような 本 国 における 登 録 された 名 はもともと 存 在 せず、 日 本 での 社 会 生 活 を 続 けていくうえで、 外 国 人 登 録 上 の 名 が 日 本 人の 場 合 の 戸 籍 と 同 様 の 個 人 識 別 機 能 を 有 している。このような 場 合 に 限 っては、「 外 国 人 登 録 上 の 名 の 変 更 許 可 の 申 立 ては、戸 籍 法 の 規 定 に 基 づく 名 の 変 更 許 可 の 申 立 てに 準 じる 性 質 を 有 するものとして、 我 が 国 の 家 庭 裁 判 所 の 管 轄 に 属 するものであ」る、として 管 轄 権 を 認 めた。18: 東 京 高 決 平 成 19・5・29 家 月 59 巻 10 号 64 頁 : 名 の 変 更 ・ 認 容本 国 で 公 簿 上 の 名 を 有 しない 申 立 人 ( 朝 鮮 国 籍 ・ 特 別 永 住 者 )が、 外 国 人 登 録 上 の 名 の 変 更 を 求 めた 事 案 。「 抗 告 人 は、 国 籍 が 韓 国 又 は 朝 鮮 民 主 主 義 人 民 共 和 国 のいずれにしても、 両 国 の 公 簿 上 その 名 が 登 録 されていないのであるから、 両 国 の 公 的 機 関 に 対 してその 変 更 手 続 を 行 い、その 証 明 書 の 交 付 を 受 けることは 事 実 上 不 可 能 であるといわざるを 得 ない。その 上 、 抗 告 人 は、 登 録 原 簿 、…… 等 から、 抗 告 人 は、 日 本 で 出 生 し、49 年 間 にわたり、 特 別 永 住 者 の 資 格で 我 が 国 で 生 活 していること、 我 が 国 においては、 国 民 の 身 分 関 係 を 登 録 公 証 する 戸 籍 制 度 が 存 し、 我 が 国 に 居 住 する 外国 人 については 登 録 原 簿 が 戸 籍 と 同 様 の 機 能 を 果 たしていることなどから、 抗 告 人 の 登 録 原 簿 に 登 録 された「 名 」の 変 更については、 戸 籍 法 107 条 2 項 に 準 じて、 正 当 な 事 由 があるときに 限 り、 家 庭 裁 判 所 の 許 可 を 受 けて、これを 許 すことができると 解 するのが 相 当 である。」(なお、 原 審 は、 日 本 国 籍 を 有 しない 外 国 人 について 外 国 人 登 録 上 の 名 の 変 更 を 許 可 すべきか 否 かを 判 断 する 権 限 を 家 庭 裁 判 所 に 与 えた 規 定 は 存 在 せず、 本 件 申 立 てについて 家 裁 は 判 断 する 権 限 がない、として、 却 下 した)。4409


8. 扶 養 義 務( 執 筆 担 当 : 九 州 大 学 西 谷 祐 子 )1. 総 説扶 養 料 の 請 求 は, 扶 養 権 利 者 が 生 活 維 持 のために, 配 偶 者 又 は 親 族 等 の 扶 養 義 務 者 に 対 して行 うものである。 扶 養 義 務 の 履 行 は 定 期 金 の 形 をとることが 多 く, 一 回 ごとの 額 は 限 られていても, 支 払 が 滞 れば, 直 ちに 扶 養 権 利 者 が 生 活 に 困 窮 するおそれがある。それゆえ, 各 国 は,できるだけ 簡 易 かつ 迅 速 に 扶 養 料 の 回 収 を 行 うための 制 度 設 計 を 行 っている。わが 国 においては, 平 成 15 年 改 正 によって 1 民 事 執 行 法 第 151 条 の 2 が 新 設 されており, 扶養 義 務 等 にかかる 定 期 金 債 権 を 請 求 する 場 合 の 特 例 として, 確 定 期 限 がまだ 到 来 していないものについても 債 権 執 行 を 開 始 することができる( 民 事 執 行 法 第 167 条 の 15・16 も 参 照 )。 英 米 法 系 諸 国では, 行 政 機 関 の 略 式 命 令 によって 扶 養 料 の 支 払 いを 命 ずることが 多 く, 特 に 米 国 各 州 は, 執 行方 法 として 扶 養 義 務 者 の 給 与 からの 天 引 き 2 や 運 転 免 許 証 の 取 り 上 げなどの 各 種 手 段 を 整 えている。また,ドイツ FamFG 第 249 条 以 下 も, 未 成 年 者 から 非 同 居 親 に 対 する 扶 養 料 請 求 について特 別 な 簡 易 手 続 を 設 けているほか,ZPO 第 850d 条 第 3 項 は, 将 来 発 生 する 扶 養 定 期 金 債 権 に 関する 執 行 も 認 めている。このような 簡 易 かつ 迅 速 な 扶 養 料 の 回 収 は, 国 際 的 な 扶 養 料 請 求 においてはより 切 実 な 問 題となる。そこで,ハーグ 諸 条 約 及 び EU 規 則 ,そして 各 国 国 内 法 は, 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 及 び 外国 判 決 の 承 認 執 行 等 について, 要 扶 養 者 の 保 護 に 配 慮 した 準 則 を 設 けてきた( 後 述 III-3 参 照 )。また, 扶 養 料 の 国 際 的 な 回 収 を 安 価 かつ 迅 速 に 行 うための 行 政 協 力 体 制 を 構 築 したものとして,2007年 11 月 23 日 「 子 及 びその 他 の 親 族 の 扶 養 料 の 国 際 的 な 回 収 に 関 するハーグ 条 約 」がある。わが 国 においては, 扶 養 関 係 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 明 文 規 定 はなく,これまで 裁 判 例及 び 学 説 上 の 議 論 にゆだねられてきた。 扶 養 義 務 の 準 拠 法 については,わが 国 は 1956 年 10 月 24日 「 子 に 対 する 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 するハーグ 条 約 」 3 及 び 1973 年 10 月 2 日 「 扶 養 義 務 の 準 拠法 に 関 するハーグ 条 約 」 4 を 批 准 しており, 後 者 は「 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 する 法 律 」 5 として 国内 法 化 されている。しかし,1958 年 4 月 15 日 の「 子 に 対 する 扶 養 義 務 に 関 する 判 決 の 承 認 及 び執 行 に 関 するハーグ 条 約 」,1973 年 10 月 2 日 「 扶 養 義 務 に 関 する 裁 判 の 承 認 及 び 執 行 に 関 するハーグ 条 約 」,2007 年 11 月 23 日 「 子 及 びその 他 の 親 族 の 扶 養 料 の 国 際 的 な 回 収 に 関 するハーグ 条12平 成 15 年 法 律 第 134 号 。給 与 からの 天 引 きを 命 ずる 米 国 ミネソタ 州 判 決 の 承 認 執 行 が 問 題 となった 事 件 として, 東 京 高 判 平 成 10年 2 月 26 日 判 時 1647 号 107 頁 がある。3昭 和 52 年 8 月 17 日 条 約 第 8 号 。45昭 和 61 年 6 月 12 日 号 外 条 約 第 3 号 。昭 和 61 年 6 月 12 日 法 律 第 84 号 。1410


約 」,2007 年 11 月 23 日 「 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 するハーグ 議 定 書 」,そして,1956 年 6 月 20 日の「 外 国 における 扶 養 料 の 回 収 に 関 するニューヨーク 条 約 」( 後 掲 参 照 )はいずれも 批 准 していない。また,1989 年 7 月 15 日 扶 養 義 務 に 関 する 米 州 モンテヴィデオ 条 約 ( 後 掲 参 照 )も, 同 条 約25 条 において 米 州 機 構 以 外 の 国 の 加 入 も 認 めているが,わが 国 は 加 入 していない。ところで, 扶 養 料 請 求 には 様 々な 形 態 があり, 夫 婦 間 での 生 活 費 の 請 求 として, 夫 婦 間 の 協力 扶 助 に 関 する 処 分 の 審 判 事 件 ( 家 事 事 件 手 続 法 別 表 第 二 の 1) 又 は 婚 姻 費 用 の 分 担 に 関 する 処 分 の審 判 事 件 となるもの( 同 別 表 第 二 の 2), 監 護 親 から 非 監 護 親 に 対 する 子 の 養 育 費 の 請 求 など, 子の 監 護 に 関 する 処 分 の 審 判 事 件 となるもの( 同 別 表 第 二 の 3),あるいは 親 族 間 での 扶 養 料 請 求 として, 扶 養 義 務 の 設 定 の 審 判 事 件 ( 同 別 表 第 一 の 84) 又 は 扶 養 の 順 位 ないし 扶 養 の 程 度 ・ 方 法 についての 決 定 等 の 審 判 事 件 ( 同 別 表 第 二 の 9 及 び 10)となるものがある 6 。 夫 婦 間 の 婚 姻 費 用 分 担 については, 従 来 の 国 際 私 法 の 多 数 説 は, 婚 姻 生 活 維 持 のための 出 捐 として 夫 婦 財 産 制 の 問 題 と 見 たうえで, 一 方 配 偶 者 が 自 分 の 分 担 を 果 たせず, 相 手 方 にその 分 を 請 求 するに 至 った 段 階 で 初 めて扶 養 義 務 の 問 題 になると 解 していた 7 。しかし, 裁 判 例 においては, 婚 姻 費 用 分 担 を 扶 養 義 務 の 問題 と 性 質 決 定 するのがほとんどであり 8 , 学 説 でも 支 持 する 立 場 が 増 えている 9 。また, 上 述 の 民事 執 行 法 第 151 条 の 2 は, 扶 養 義 務 等 に 関 する 将 来 の 定 期 金 債 権 の 執 行 について 特 則 を 設 けるものであるが,その 適 用 対 象 となる 事 項 として, 同 条 第 1 項 第 1 号 ~ 第 4 号 は,1 夫 婦 間 の 協 力 ・扶 助 義 務 ( 民 法 第 752 条 ),2 婚 姻 費 用 分 担 の 義 務 ( 民 法 第 760 条 ),3 子 の 監 護 に 関 する 義 務 ( 民法 第 766 条 〔 民 法 第 749 条 , 第 771 条 及 び 第 788 条 において 準 用 する 場 合 を 含 む〕),そして4 親 族 間 の 扶養 義 務 ( 民 法 第 877 条 から 第 880 条 まで)を 挙 げており, 参 考 になる。 以 下 においても,これらの扶 養 義 務 に 関 する 類 型 を 包 括 して 扶 養 関 係 事 件 と 称 し, 広 義 の 用 語 法 に 従 うこととする。わが 国 の 家 庭 裁 判 所 において 渉 外 的 な 扶 養 料 請 求 がなされる 事 例 は,まだ 限 られている。たとえば, 平 成 22 年 度 において, 乙 類 審 判 事 件 ( 渉 外 事 件 )として 婚 姻 費 用 の 分 担 が 申 し 立 てられた 事 件 は 57 件 , 扶 養 に 関 する 処 分 が 申 し 立 てられた 事 件 は 12 件 あったに 過 ぎない 10 。このような 事 情 から, 扶 養 義 務 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 議 論 の 蓄 積 は 必 ずしも 多 くはないが, 以 下 では,6早 田 芳 郎 「 渉 外 的 扶 養 関 係 事 件 の 裁 判 管 轄 権 及 び 準 拠 法 」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5・ 渉 外 関 係 事 件 』( 日本 評 論 社 ,1990 年 )265 頁 参 照 。7溜 池 良 夫 『 国 際 私 法 講 義 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ,2006 年 )454 頁 以 下 , 同 ・ 溜 池 良 夫 「 婚 姻 の 効 果 」『 国 際 私法 講 座 〔 第 2 巻 〕』( 有 斐 閣 ,1955 年 )552 頁 。 裁 判 例 として, 大 阪 家 審 昭 和 54 年 2 月 1 日 家 月 32 巻 10 号67 頁 。8山 田 鐐 一 『 国 際 私 法 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ,2004 年 )541 頁 。 高 鳥 トシ 子 「 渉 外 婚 姻 の 効 力 の 準 拠 法 ―― 夫婦 財 産 制 を 中 心 として――」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5・ 渉 外 関 係 事 件 』( 日 本 評 論 社 ,1990 年 )140 頁 。 古い 裁 判 例 である 東 京 家 審 昭 和 49 年 1 月 29 日 家 月 27 巻 2 号 95 頁 , 那 覇 家 (コザ 支 ) 審 昭 和 53 年 3 月 7 日 家月 31 巻 12 号 87 頁 , 大 阪 高 決 昭 和 55 年 8 月 28 日 家 月 32 巻 10 号 90 頁 ( 前 掲 ・ 大 阪 家 審 昭 和 54 年 2 月 1日 の 抗 告 審 ), 東 京 家 審 昭 和 55 年 9 月 22 日 家 月 35 巻 6 号 120 頁 , 神 戸 家 審 平 成 4 年 9 月 22 日 家 月 45 巻 9号 61 頁 , 熊 本 家 審 平 成 10 年 7 月 28 日 家 月 50 巻 12 号 48 頁 など。9詳 細 は, 上 述 ・ 婚 姻 の 身 分 的 ・ 財 産 的 効 力 の 箇 所 参 照 。10 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B22DKAJ10~12.pdf2411


従 来 の 裁 判 例 及 び 学 説 の 状 況 を 整 理 し, 比 較 法 的 検 討 を 踏 まえたうえで,わが 国 において 扶 養 義務 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 法 制 化 するに 当 たって 留 意 すべき 点 を 指 摘 することにしたい。2. 日 本 法 の 状 況(1) 当 事 者 双 方 又 は 相 手 方 の 住 所 地婚 姻 費 用 分 担 請 求 ( 監 護 親 が 他 方 親 に 対 して 自 己 及 び 子 に 対 する 扶 養 料 を 請 求 したケースを 含 む 11 )の 多 くは, 夫 婦 双 方 が 日 本 に 住 所 12 を 有 していた 事 案 である 13 。 同 様 に, 子 から 親 に 対 する 扶 養 料請 求 ,あるいは 監 護 親 から 他 方 親 に 対 する 子 の 養 育 費 の 請 求 についても, 当 事 者 双 方 が 14 ,あるいは 少 なくとも 相 手 方 が 15 日 本 に 住 所 を 有 していたケースが 多 い。これらの 扶 養 関 係 事 件 について, 正 義 ・ 公 平 の 観 点 から, 当 事 者 双 方 の 住 所 地 又 は 扶 養 義 務 者 である 相 手 方 の 住 所 地 に 国 際 裁判 管 轄 を 認 めることには,ほぼ 異 論 がない 16 。この 管 轄 原 因 を 認 める 理 由 として, 受 動 的 な 立 場にある 相 手 方 の 保 護 に 資 すること, 相 手 方 の 生 活 及 び 収 入 の 現 況 等 を 正 確 に 把 握 できること, 迅速 な 扶 養 料 の 回 収 が 可 能 になることなどが 挙 げられよう。 比 較 法 的 にみても, 相 手 方 の 住 所 地 管轄 は, 一 般 に 受 け 入 れられている。(2) 申 立 人 の 住 所 地問 題 となるのは, 扶 養 料 の 支 払 いを 求 める 扶 養 権 利 者 だけが 日 本 に 住 所 を 有 し, 扶 養 義 務 者である 相 手 方 が 外 国 に 住 所 を 有 している 場 合 である。 申 立 人 の 住 所 地 管 轄 について 判 断 している裁 判 例 として, 以 下 のものが 挙 げられる。11東 京 家 審 昭 和 55 年 9 月 22 日 家 月 35 巻 6 号 120 頁 ( 日 本 在 住 の 台 湾 人 夫 婦 間 の 請 求 )。12 なお, 住 所 と 常 居 所 のいずれを 管 轄 原 因 とするかは, 別 途 検 討 する 必 要 がある。 婚 姻 の 成 立 及 び 効 力 に 関する 調 査 参 照 。13東 京 家 審 昭 和 49 年 1 月 29 日 家 月 27 巻 2 号 95 頁 ( 日 本 在 住 の 日 本 人 妻 からドイツ 人 夫 に 対 する 請 求 ),那 覇 家 (コザ 支 ) 審 昭 和 53 年 3 月 7 日 家 月 31 巻 12 号 87 頁 ( 日 本 在 住 の 米 国 (ハワイ 州 ) 人 夫 婦 間 の 請 求 ),前 掲 ・ 東 京 家 審 昭 和 55 年 9 月 22 日 家 月 35 巻 6 号 120 頁 , 神 戸 家 審 平 成 4 年 9 月 22 日 家 月 45 巻 9 号 61 頁( 日 本 在 住 の 中 国 人 夫 婦 間 の 請 求 ), 熊 本 家 審 平 成 10 年 7 月 28 日 家 月 50 巻 12 号 48 頁 ( 日 本 在 住 の 中 国 人妻 から 日 本 人 夫 に 対 する 請 求 )。14東 京 家 審 平 成 4 年 3 月 23 日 家 月 44 巻 11 号 90 頁 ( 日 本 在 住 の 台 湾 人 男 ( 成 年 者 )が 台 湾 人 父 に 対 して 扶養 料 を 請 求 した 事 案 ), 大 阪 家 審 平 成 4 年 4 月 21 日 家 月 45 巻 3 号 63 頁 ( 日 本 在 住 の 韓 国 人 夫 婦 の 離 婚 後 ,妻 が 夫 に 対 して 子 らの 養 育 費 を 請 求 した 事 案 ), 東 京 高 決 平 成 18 年 10 月 30 日 判 例 時 報 1965 号 70 頁 ( 日 本在 住 の 中 国 人 父 母 の 離 婚 後 ,1 母 が 父 に 対 して 過 去 の 養 育 費 相 当 額 の 支 払 い, 子 が 父 に 対 して,2 中 国 法 によって 成 年 に 達 した 後 , 高 等 教 育 終 了 までの 期 間 の 扶 養 料 の 支 払 いを 求 めた 事 案 である。1については, 同じ 請 求 を 内 容 とする 中 国 判 決 が 民 事 訴 訟 法 第 118 条 に 従 って 承 認 されることを 理 由 に 却 下 されたが,2については 期 間 及 び 扶 養 料 の 額 を 縮 減 したうえで 認 容 した)。15浦 和 家 審 ( 川 越 支 ) 判 平 成 11 年 7 月 8 日 家 月 51 巻 12 号 37 頁 (フィリピン 人 母 が 日 本 在 住 の 日 本 人 父 に対 して 子 の 養 育 費 を 請 求 した 事 案 。フィリピン 人 母 は,フィリピンで 非 嫡 出 子 〔 日 本 国 籍 〕を 出 産 した 後 ,平 成 10 年 12 月 から 日 本 に 居 住 している)。16早 田 ・ 前 掲 論 文 266 頁 。3412


大 阪 家 審 昭 和 54 年 2 月 1 日 ( 家 月 32 巻 10 号 67 頁 : 抗 告 審 ・ 大 阪 高 決 昭 和 55 年 8 月 28 日 家 月 32巻 10 号 90 頁 )は, 別 居 中 の 日 本 在 住 の 日 本 人 妻 が, 米 国 カリフォルニア 州 に 居 住 している 夫 ( 婚姻 当 時 は 日 本 国 籍 であったが, 現 在 は 米 国 籍 )に 対 して, 婚 姻 費 用 分 担 等 を 請 求 したものである。 本審 判 は, 申 立 を 受 ける 相 手 方 を 保 護 するため, 原 則 として 相 手 方 の 本 国 又 は 住 所 に 国 際 裁 判 管 轄を 認 めるのが 公 平 の 理 念 にかなうとしたうえで,「 本 件 のような 別 居 中 の 夫 婦 で,しかも 一 方 が 外国 に 居 住 する 場 合 , 常 に 相 手 方 の 本 国 もしくは 住 所 地 国 の 裁 判 所 に 申 立 をしなければならないものとすると, 事 実 上 申 立 人 にとって 請 求 の 途 が 閉 ざされることとなつて 著 しく 不 利 な 結 果 になる。そこで 申 立 人 の 利 益 保 護 についても 考 慮 する 必 要 があるから, 夫 婦 が 最 後 に 婚 姻 共 同 生 活 をしていた 住 所 地 から 相 手 方 の 方 が 去 って 別 居 し, 申 立 人 がなおもとの 婚 姻 住 所 地 にそのまま 引 続 きとどまっている 場 合 には,そのもとの 婚 姻 住 所 地 国 にも 裁 判 管 轄 権 を 認 めるのが 妥 当 と 考 えられる」とし,わが 国 にも 例 外 的 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるべき 場 合 にあたるとした。 本 審 判 は, 日 本 が 申立 人 及 び 相 手 方 の 最 後 の 婚 姻 住 所 地 であり,しかも 申 立 人 が 引 き 続 き 居 住 していることを 考 慮 要素 としたうえで, 申 立 人 の 住 所 地 である 日 本 の 管 轄 を 肯 定 するものである。また, 大 阪 高 決 平 成 18 年 7 月 31 日 家 月 59 巻 6 号 44 頁 は,タイで 婚 姻 生 活 を 送 っていた 日本 人 夫 婦 が 別 居 し, 単 身 で 日 本 に 戻 った 妻 が 夫 に 対 して 婚 姻 費 用 分 担 を 請 求 した 事 件 である。 夫は, 妻 との 別 居 後 ,タイ 人 女 性 と 内 縁 関 係 にあり, 同 女 との 間 に 二 子 をもうけている。 本 決 定 は,理 由 を 明 らかにしていないが, 本 件 の 事 実 関 係 の 下 では,わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるとし, 夫 に 対 して 婚 姻 費 用 分 担 を 命 じている。これは, 申 立 人 の 住 所 地 管 轄 を 認 めるものであるが,おそらくは,1 本 件 において 妻 が 帰 国 するに 至 ったのは, 夫 が 妻 に 離 婚 を 求 め 帰 国 を 促 したからであること,2 夫 は 妻 との 婚 姻 関 係 を 解 消 しないままない 内 妻 との 関 係 を 継 続 していること,3夫 は 日 本 でずっと 生 活 していた 日 本 人 であり, 日 本 での 訴 訟 追 行 に 支 障 がないこと 等 の 事 情 を 考慮 しているのではないかと 推 測 される( 本 決 定 は,12に 鑑 みて, 夫 が 内 妻 及 びその 子 らに 対 する 扶 養義 務 を 理 由 に 婚 姻 費 用 の 減 額 を 主 張 することは, 信 義 則 に 照 らし 許 されないと 判 断 している)。他 方 , 外 国 で 扶 養 料 支 払 命 令 が 下 され, 日 本 で 執 行 判 決 ( 民 事 執 行 法 第 22 条 第 6 号 , 第 24 条 )が 求 められた 事 案 においても, 民 事 訴 訟 法 第 118 条 第 1 号 との 関 係 で 間 接 管 轄 の 有 無 が 審 査 されているため, 参 考 になる。東 京 高 判 平 成 9 年 9 月 18 日 判 時 1630 号 62 頁 は, 次 のような 事 案 である。 日 本 に 在 住 していた 日 本 人 母 X は, 日 本 人 男 性 A と 婚 姻 して 米 国 オハイオ 州 に 居 を 移 し, 同 地 で 別 の 日 本 人 男 性Y の 子 を 出 産 した。そして,X は 同 州 裁 判 所 において, 夫 A に 対 しては 父 子 関 係 不 存 在 確 認 を,子 の 父 Y に 対 しては 父 子 関 係 確 定 及 び 養 育 費 の 支 払 いを 命 ずる 判 決 を 得 たため,わが 国 において養 育 費 の 給 付 を 命 ずる 部 分 について 執 行 判 決 を 求 めた。 本 判 決 は, 日 本 法 上 養 育 費 請 求 事 件 は 子の 監 護 に 関 する 処 分 事 件 の 一 つであり, 子 の 福 祉 に 鑑 みて, 原 則 として 子 の 住 所 地 に 国 際 裁 判 管4413


轄 を 認 めるべきであること,しかし, 両 親 間 の 経 済 的 負 担 の 調 整 を 図 るという 観 点 からは, 紛 争当 事 者 間 の 公 平 にも 十 分 配 慮 する 必 要 があるとした。そして,「 具 体 的 な 事 情 に 基 づき 条 理 に 照 らして 判 断 し, 子 の 住 所 地 ないし 常 居 所 地 のある 国 ではなく, 相 手 方 ( 義 務 者 )の 住 所 地 ないし 常居 所 地 のある 国 の 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 権 を 認 めるのを 相 当 とする 特 別 の 事 情 のある 場 合 には」,例 外 的 に 扶 養 義 務 者 の 住 所 地 管 轄 を 認 めるとした。 本 件 において,X は 自 らの 都 合 で 日 本 を 離 れて 米 国 オハイオ 州 に 赴 き, 同 地 で 子 を 出 産 し, 現 在 も 子 と 共 に 同 州 に 在 住 しているのに 対 して,Y は, 従 前 から 引 き 続 き 日 本 に 居 住 している。このように 子 及 びその 監 護 親 X の 住 所 地 と 非 監 護親 Y の 住 所 地 が 異 なるに 至 った 原 因 が 専 ら X にかかわる 事 情 にある 場 合 には, 条 理 上 , 養 育 費 請求 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 は Y の 住 所 地 にだけ 認 められ, 米 国 オハイオ 州 は 管 轄 を 欠 いていたとした。東 京 高 判 平 成 10 年 2 月 26 日 判 時 1647 号 107 頁 は, 米 国 ミネソタ 州 在 住 の 日 本 人 母 X が,米 国 カリフォルニア 州 在 住 の 日 本 人 父 Y に 対 して, 父 子 関 係 確 定 及 び 養 育 費 の 支 払 いを 命 ずる 判決 を 得 た 後 ,わが 国 において 養 育 費 の 給 付 を 命 ずる 部 分 について 執 行 判 決 を 求 めた 事 件 である。17本 判 決 は, 間 接 管 轄 について,マレーシア 航 空 事 件 以 来 の 条 理 の 枠 組 みに 従 っている。そして,親 子 関 係 事 件 については, 原 則 として 被 告 の 住 所 地 管 轄 を 認 めるべきであるが, 本 件 Y は 仕 事 上の 出 張 で 数 回 にわたりミネソタ 州 を 訪 れて X と 接 触 しており, 同 州 裁 判 所 での 提 訴 が Y の 予 測 の範 囲 を 超 えるとはいえないこと,X は 子 の 懐 胎 ・ 出 産 後 もミネソタ 州 を 生 活 の 本 拠 としており,採 証 上 の 便 宜 が 同 州 内 に 集 中 していること, 他 方 で,X には 収 入 がなく,Y の 住 所 地 の 裁 判 所 に提 訴 することは 過 大 な 負 担 となること 等 の 事 情 を 考 慮 して,XY 双 方 の 住 所 地 に 管 轄 が 認 められるとし, 米 国 ミネソタ 州 の 管 轄 を 肯 定 した 18 。以 上 のようなわが 国 の 裁 判 例 の 動 向 に 鑑 みれば, 基 本 的 には 条 理 を 根 拠 として, 離 婚 に 関 する 昭 和 39 年 ルールと 同 様 の 判 断 枠 組 みに 従 っているものと 理 解 してよいであろう。すなわち, 原則 として 相 手 方 の 住 所 地 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めるが, 事 案 ごとの 具 体 的 な 事 情 を 勘 案 したうえで,当 事 者 間 の 公 平 及 び 手 続 的 正 義 の 観 念 に 照 らして 申 立 人 の 住 所 地 に 管 轄 を 認 めるべき 事 情 があれば, 例 外 的 に 申 立 人 の 住 所 地 に 管 轄 を 認 めるものである 19 。 前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 9 年 9 月 18 日 は,養 育 費 請 求 事 件 について 原 則 と 例 外 を 逆 転 させているが, 条 理 に 基 づき 各 事 案 ごとの 具 体 的 な 事情 に 照 らして 管 轄 の 有 無 を 判 断 するという 基 本 的 な 発 想 は 共 通 しているといえるであろう。1718最 判 昭 和 56 年 10 月 16 日 民 集 37 巻 5 号 1224 頁 。原 審 ( 東 京 地 判 平 成 8 年 9 月 2 日 判 時 1608 号 130 頁 )は, 給 与 の 天 引 きを 命 ずる 本 件 外 国 判 決 は,わが国 の 強 制 執 行 に 親 しむような Y の X に 対 する 具 体 的 な 給 付 請 求 権 を 包 含 するものではないとして, 執 行 判決 請 求 を 棄 却 したが, 控 訴 審 は 強 制 執 行 を 許 可 した。19早 田 ・ 前 掲 論 文 267 頁 。 前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 9 年 9 月 18 日 〔オハイオ 州 判 決 の 承 認 執 行 〕は,その 旨 を述 べている。5414


このような 判 断 枠 組 みは, 柔 軟 性 には 優 れているが, 当 事 者 の 予 見 可 能 性 や 法 的 安 定 性 を 保証 するものではないことは,すでに 離 婚 事 件 について 指 摘 されているとおりである 20 。しかも,扶 養 関 係 事 件 においては, 子 の 扶 養 が 問 題 となる 場 合 は 言 うまでもなく, 夫 婦 間 の 扶 養 や 親 族 間の 扶 養 が 問 題 となる 場 合 にも, 扶 養 権 利 者 の 生 活 を 維 持 し, 経 済 的 に 保 護 するための 配 慮 が 必 要になる。その 意 味 では, 扶 養 関 係 事 件 においては, 身 分 関 係 事 件 よりも, 扶 養 権 利 者 の 提 訴 の 便宜 を 優 先 させることが 考 慮 されてよいであろう 21 。3. 比 較 法(1) 扶 養 義 務 に 関 するハーグ 条 約(a) 1958 年 条 約 及 び 1973 年 条 約ハーグ 国 際 私 法 会 議 は,これまでに 複 数 の 扶 養 義 務 関 連 の 条 約 を 採 択 してきた。 扶 養 義 務 に関 する 外 国 裁 判 の 承 認 執 行 については,1958 年 4 月 15 日 の「 子 に 対 する 扶 養 義 務 に 関 する 判 決の 承 認 及 び 執 行 に 関 するハーグ 条 約 」( 以 下 ,「1958 年 条 約 」という)と 1973 年 10 月 2 日 「 扶 養 義務 に 関 する 裁 判 の 承 認 及 び 執 行 に 関 するハーグ 条 約 」( 以 下 ,「1973 年 条 約 」という)がある。いずれの 条 約 も, 外 国 裁 判 の 承 認 要 件 として 間 接 管 轄 に 関 する 規 定 を 置 いている。1958 年 条 約 第 3 条 は, 間 接 管 轄 について 次 のように 定 めている。「この 条 約 に 関 しては, 次の 裁 判 所 が 扶 養 料 についての 裁 判 をする 管 轄 権 を 有 するものとする。1 訴 訟 が 提 起 されたとき,扶 養 義 務 者 の 常 居 所 の 存 する 国 の 裁 判 所 ,2 訴 訟 が 提 起 されたとき, 扶 養 権 利 者 の 常 居 所 の 存 する 国 の 裁 判 所 ,3 扶 養 義 務 者 が, 明 示 的 に 又 は 管 轄 につき 留 保 することなく 本 案 について 弁 論 することにより,その 管 轄 権 に 服 した 裁 判 所 。」同 様 に,1973 年 条 約 第 7 条 は, 間 接 管 轄 について 次 のように 定 めている。「この 条 約 の 適 用については, 裁 判 の 行 われた 国 の 当 局 は, 次 の 場 合 に 管 轄 権 を 有 するものとする。1 訴 訟 手 続 が開 始 された 時 に, 扶 養 義 務 者 又 は 扶 養 権 利 者 が,その 国 に 常 居 所 を 有 した 場 合 ,2 訴 訟 手 続 が 開始 された 時 に, 扶 養 義 務 者 及 び 扶 養 権 利 者 が,その 国 の 国 籍 を 有 した 場 合 ,3 被 告 が, 明 示 的 に又 は 管 轄 に 関 して 留 保 することなく 本 案 について 弁 論 することにより,その 当 局 の 管 轄 権 に 服 した 場 合 。」1958 年 条 約 第 3 条 及 び 1973 年 条 約 第 7 条 においては,1 扶 養 義 務 者 の 常 居 所 地 ,2 扶 養 権利 者 の 常 居 所 地 ,そして3 被 告 ( 扶 養 義 務 者 )の 応 訴 が 共 通 の 管 轄 原 因 として 挙 げられている。そ20西 島 太 一 「 身 分 関 係 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 権 総 論 ―― 管 轄 権 の 判 断 手 法 に 関 する 一 つの 仮 説 ――」 阪 大 法 学46 巻 6 号 (1997 年 )90 頁 以 下 , 本 間 靖 規 ・ 中 野 俊 一 郎 ・ 酒 井 一 『 国 際 民 事 手 続 法 』( 有 斐 閣 ,2005 年 )77頁 参 照 。21早 田 ・ 前 掲 論 文 267 頁 。6415


れに 加 えて,1973 年 条 約 だけは,その 第 7 条 第 2 号 において, 扶 養 義 務 者 と 扶 養 権 利 者 の 共 通 本国 も 管 轄 原 因 としている。(b) 2007 年 条 約2007 年 11 月 23 日 に 採 択 された「ハーグ 扶 養 料 の 国 際 的 回 収 に 関 する 条 約 」においては, 長い 議 論 の 結 果 , 直 接 管 轄 に 関 する 一 般 的 な 準 則 は 置 かれなかった。これは, 各 国 の 管 轄 ルールがいくつかの 重 要 な 点 で 異 なっており, 調 整 ができなかったことによる。第 一 に, 扶 養 料 支 払 決 定 を 下 すための 国 際 裁 判 管 轄 について,ヨーロッパ 諸 国 は,1968 年 ブ22リュッセル 条 約 及 び 2000 年 ブリュッセル I 規 則 23 ,2008 年 EU 扶 養 義 務 規 則 24 ,そして 2007 年ルガノ 条 約 25 (1988 年 条 約 26 を 改 正 )において, 被 告 の 住 所 地 と 並 んで 原 告 ( 扶 養 権 利 者 )の 住 所 地を 管 轄 原 因 としている 27 。 米 州 のモンテビデオ 条 約 も 同 様 である 28 。それに 対 して, 米 国 には, 管轄 ルールについて 連 邦 憲 法 修 正 第 14 条 (デュー・プロセス 条 項 )の 制 約 があり, 被 告 が 法 廷 地 州 と「 最 小 限 の 関 連 」(minimum contact)をもつことが 要 件 となる 29 。そして, 原 告 の 住 所 地 管 轄 は,被 告 の 法 廷 地 との 関 連 性 を 度 外 視 することになるため, 米 国 には 受 け 入 れられなかった。第 二 に, 一 旦 扶 養 料 支 払 命 令 が 下 された 後 ,それを 変 更 する 又 は 新 たな 決 定 を 下 すための 国際 裁 判 管 轄 について, 前 掲 のヨーロッパ 及 び 米 州 の 各 規 範 が 一 般 的 な 管 轄 ルールに 従 い, 当 事 者の 住 所 地 が 変 更 されれば, 変 更 後 のそれを 基 準 としている。それに 対 して, 米 国 は, 原 則 として最 初 の 扶 養 料 支 払 決 定 を 下 した 州 の 裁 判 所 が 継 続 して 管 轄 をもつとしており 30 , 通 常 の 管 轄 ルールを 適 用 することはできないとした。このような 各 国 法 制 の 齟 齬 の 結 果 ,2007 年 条 約 においては, 直 接 管 轄 について 条 文 化 は 見 送られた。そのため, 直 接 管 轄 の 決 定 は, 各 締 約 国 において 妥 当 する 国 内 法 その 他 の 法 規 範 (EU 扶22 Brussels Convention of 27 September 1968 on jurisdiction and the enforcement of judgments in civil and commercialmatters, O.J. 1972, L 299/32.23 Council Regulation (EC) No 44/2001 of 22 December 2000 on jurisdiction and the recognition and enforcement ofjudgments in civil and commercial matters, O.J. 2001, L 12/1.24 Council Regulation (EC) No 4/2009 of 18 December 2008 on jurisdiction, applicable law, recognition andenforcement of decisions and cooperation in matters relating to maintenance obligations, O.J. 2009, L 7/1.25 Lugano Convention of 30.10.2007 on jurisdiction and the recognition and enforcement of judgments in civil andcommercial matters, O.J. L. 339, 21.12.2007, p. 3.26 Lugano Convention of 16 September 1988 on jurisdiction and the enforcement of judgments in civil and commercialmatters, O.J. L 319, 25.11.1988, p. 9.27 ブリュッセル 条 約 及 びブリュッセル I 規 則 並 びにルガノ 条 約 第 5 条 第 2 号 前 段 ,EU 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 b号 。28 Inter-American convention on support obligations, Montevideo, 1989. モンテビデオ 条 約 第 8 条 a 号 。29 1996 年 米 国 統 一 州 際 家 族 扶 養 法 (Uniform Interstate Family Support Act: UIFSA)(2001 年 及 び 2008 年 に 改訂 ) 第 201 条 ( 後 述 参 照 )。30 UIFSA 第 202 条 ( 後 述 参 照 )。7416


養 義 務 規 則 ,モンテビデオ 条 約 ほか)にゆだねられている 31 。もっとも,2007 年 条 約 も, 扶 養 料 支 払決 定 の 変 更 については 特 則 を 置 いており 32 , 第 18 条 は 次 のように 規 定 している。「 第 18 条 手 続 の 制 限1. 扶 養 権 利 者 が 常 居 所 を 有 する 締 約 国 において 決 定 がされた 場 合 には,その 決 定 を 変 更 し 又は 新 たな 決 定 をするための 手 続 は, 決 定 がされた 国 に 扶 養 権 利 者 が 常 居 所 を 保 持 する 限 りにおいて, 扶 養 義 務 者 により 他 の 締 約 国 において 開 始 されてはならない。2. 前 項 の 規 定 は, 次 の 場 合 には 適 用 しない。a) 子 に 対 する 扶 養 義 務 に 関 する 争 いを 除 き, 当 該 他 の 締 約 国 の 管 轄 について 当 事 者 間 に書 面 による 合 意 がある 場 合b) 扶 養 権 利 者 が, 明 示 的 に, 又 は 管 轄 について 異 議 を 述 べることができる 最 初 の 機 会に 異 議 を 述 べることなく 本 案 について 防 御 することにより, 当 該 他 の 締 約 国 の 管 轄 に 服する 場 合c) 決 定 国 の 権 限 当 局 がその 決 定 を 変 更 し 又 は 新 たな 決 定 をするための 管 轄 権 を 行 使 することができず 又 は 行 使 することを 拒 否 する 場 合d) 決 定 国 でされた 決 定 が,その 決 定 を 変 更 し 又 は 新 たな 決 定 をするための 手 続 が 求 められる 締 約 国 において 承 認 されず 又 は 執 行 可 能 であることが 宣 言 されない 場 合 。」この 第 18 条 によれば, 扶 養 権 利 者 の 常 居 所 のある 締 約 国 において 扶 養 料 の 支 払 いが 決 定 され, 扶 養 権 利 者 が 同 地 に 常 居 所 を 保 持 している 場 合 には, 扶 養 義 務 者 は, 原 則 として 他 の 締 約 国において 決 定 の 変 更 ( 又 は 新 たな 決 定 )を 求 めることができない。ただし, 例 外 も 設 けられており,(a) 当 事 者 による 管 轄 の 合 意 があること( 子 に 対 する 扶 養 義 務 を 除 く),(b) 扶 養 権 利 者 が 応 訴 したこと,(c) 決 定 国 が 変 更 のための 管 轄 権 を 行 使 しないこと,あるいは(d) 決 定 国 の 決 定 がその 変 更 をする 締 約 国 において 承 認 執 行 されないことという 事 情 があれば, 他 の 締 約 国 の 管 轄 が 認 められる。この 規 定 は, 各 締 約 国 の 直 接 管 轄 がその 締 約 国 の 国 内 法 その 他 の 法 規 範 によって 決 定 されることを 前 提 としたうえで, 一 旦 扶 養 料 支 払 決 定 が 下 された 後 ,それが 変 更 される 又 は 新 たな 決 定 が 下される 場 合 に 直 接 管 轄 が 認 められる 範 囲 を 制 限 するものである。それに 加 えて,2007 年 条 約 は, 他 の 締 約 国 が 下 した 扶 養 義 務 に 関 する 裁 判 の 承 認 執 行 についても 規 定 しており, 第 20 条 第 1 項 は 間 接 管 轄 について 次 のように 定 めている。31以 上 の 経 緯 については,Alegría Borrás and Jennifer Degeling, Explanatory Report to the Convention of 23November 2007 on the International Recovery of Child Support and other forms of Family Maintenance, pp. 13 et seq.参 照 。32翻 訳 は, 法 制 審 議 会 国 際 扶 養 条 約 部 会 第 11 回 会 議 ( 平 成 20 年 1 月 15 日 開 催 )において 配 布 された 会 議用 資 料 73 を 参 照 した(http://www.moj.go.jp/content/000012394.pdf からダウンロード 可 )。8417


「 第 20 条 承 認 及 び 執 行 の 原 因1. 締 約 国 ( 以 下 「 決 定 国 」という。)でされた 決 定 は, 次 の 場 合 には, 他 の 締 約 国 において承 認 及 び 執 行 されなければならない。a) 手 続 が 開 始 された 時 に 相 手 方 が 決 定 国 に 常 居 所 を 有 していた 場 合b) 相 手 方 が, 明 示 的 に, 又 は 管 轄 について 異 議 を 述 べることができる 最 初 の 機 会 に 異議 を 述 べることなく 本 案 について 防 御 することにより, 管 轄 に 服 した 場 合c) 手 続 が 開 始 された 時 に 扶 養 権 利 者 が 決 定 国 に 常 居 所 を 有 していた 場 合d) 手 続 が 開 始 された 時 に 扶 養 が 決 定 された 子 が 決 定 国 に 常 居 所 を 有 していた 場 合 において, 相 手 方 がその 国 においてその 子 と 共 に 居 住 したことがあるとき, 又 はその 国に 居 所 を 有 し,そこでその 子 を 扶 養 したことがあるとき。e) 子 に 対 する 扶 養 義 務 に 関 する 争 いを 除 き, 当 事 者 間 に 管 轄 について 書 面 による 合 意 がある 場 合f) その 決 定 が 身 分 又 は 親 責 任 に 関 する 事 項 について 管 轄 権 を 有 する 当 局 によりされた場 合 (その 管 轄 権 が 当 事 者 の 一 方 の 国 籍 のみに 基 づく 場 合 を 除 く。)」 33第 20 条 第 1 項 の 規 定 によれば, 外 国 裁 判 の 承 認 要 件 としての 間 接 管 轄 が 認 められるのは,次 の 場 合 である。1 相 手 方 の 常 居 所 地 (a 号 ),2 相 手 方 の 応 訴 (b 号 ),3 扶 養 権 利 者 の 常 居 所 地(c 号 ),4 相 手 方 が 子 の 常 居 所 地 で 過 去 に 子 と 共 に 居 住 していた 又 は 居 所 を 有 し 子 を 扶 養 していた 場 合 には, 子 の 常 居 所 地 (d 号 ),5 当 事 者 の 管 轄 の 合 意 ( 子 に 対 する 扶 養 義 務 を 除 く)(e 号 ),6身 分 関 係 事 件 又 は 親 責 任 事 件 について 管 轄 をもつ 当 局 が 決 定 したこと(その 管 轄 が 当 事 者 の 一 方 の国 籍 のみに 基 づく 場 合 を 除 く)(f 号 )である。なお,2007 年 条 約 第 22 条 f 号 においては, 上 述 の 第 18 条 の 規 定 に 違 反 して 下 された 外 国 裁判 は 承 認 執 行 されないことが 明 記 されている。33第 20 条 第 2 項 から 第 6 項 は, 次 のように 定 めている。「2. 締 約 国 は, 第 62 条 の 規 定 に 従 って, 前 項 c 号 ,e 号 又 は f 号 については 留 保 をすることができる。3. 前 項 の 留 保 をする 締 約 国 は,その 法 律 が 類 似 の 事 実 的 な 状 況 においてその 当 局 にそのような 決 定 をすることについての 管 轄 権 を 付 与 し 又 は 付 与 したであろう 場 合 には, 決 定 を 承 認 及 び 執 行 しなければならない。4. 締 約 国 は, 決 定 の 承 認 が 第 2 項 の 留 保 の 結 果 として 不 可 能 である 場 合 において, 扶 養 義 務 者 がその 国 に常 居 所 を 有 しているときには, 扶 養 権 利 者 の 利 益 のため, 決 定 を 求 めるためのあらゆる 適 切 な 措 置 をとらなければならない。 本 項 の 規 定 は, 前 条 第 5 項 の 規 定 による 承 認 及 び 執 行 の 直 接 の 申 立 て 又 は 第 2 条 第 1 項 b号 の 扶 養 の 請 求 については 適 用 しない。5. 18 歳 未 満 の 子 のための 決 定 であって 第 1 項 c 号 ,e 号 又 は f 号 の 留 保 のみを 理 由 として 承 認 されないものは, 承 認 及 び 執 行 を 求 められた 国 において,その 子 が 扶 養 を 受 ける 資 格 を 認 めるものとして 取 り 扱 われる。6. 決 定 は, 決 定 国 において 効 力 を 有 する 場 合 に 限 り 承 認 され,かつ, 決 定 国 で 執 行 可 能 である 場 合 に 限 り 執行 される。」9418


(2) EUEU においては, 従 来 1968 年 ブリュッセル 条 約 及 び 2000 年 ブリュッセル I 規 則 によって 扶 養義 務 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 が 定 められていた。その 後 ,2008 年 12 月 18 日 EU 扶 養 義 務 規 則 が 制定 された 後 は,ブリュッセル I 規 則 の 内 容 は EU 扶 養 義 務 規 則 によって 改 正 されたものと 扱 われている(EU 扶 養 義 務 規 則 第 68 条 第 1 項 )。 他 方 ,1988・2007 年 ルガノ 条 約 は, 被 告 がスイス,ノルウェー,アイスランドのいずれかに 住 所 をもつ 場 合 に 適 用 されるほか,これらの 締 約 国 のいずれかが 判 決 国 又 は 承 認 国 である 場 合 の 判 決 の 承 認 執 行 もルガノ 条 約 による 34 。扶 養 義 務 とは,ヨーロッパ 法 固 有 の 概 念 として 解 釈 されており,たとえばフランス 法 上 の「 夫婦 間 の 救 護 義 務 」(devoir de secours) 35 ,「[ 親 による 子 の] 養 育 義 務 」(devoir d’entretien),「 夫 婦間 の 家 事 費 用 負 担 義 務 」(contributions aux charges du ménage),さらには 離 婚 後 の「 補 償 給 付 」(prestationcompensatoire) 36 もすべて 対 象 となる。 契 約 に 基 づく 扶 養 料 請 求 権 については,すでに 家 族法 上 の 身 分 関 係 に 基 づいて 扶 養 料 請 求 権 が 発 生 しており,それを 具 体 化 する 形 で 契 約 が 締 結 されている 場 合 にのみ, 扶 養 義 務 の 問 題 となる( 契 約 に 基 づく 生 活 費 の 支 払 いは, 契 約 の 問 題 となる) 37 。EU 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 によれば, 一 般 的 な 管 轄 ルールとして,まず1 被 告 の 常 居 所 地 (a 号 )及 び2 扶 養 権 利 者 の 常 居 所 地 (b 号 )に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。これらの 管 轄 原 因 は, 同 時に 土 地 管 轄 も 定 めている。また,3 身 分 関 係 事 件 (c 号 ) 又 は4 親 責 任 事 件 (d 号 )について 国 際裁 判 管 轄 をもつ 裁 判 所 は,その 管 轄 が 一 方 当 事 者 の 国 籍 だけを 根 拠 とするのでないかぎり, 附 帯処 分 としての 扶 養 料 請 求 についても 管 轄 をもつ。さらに,EU 扶 養 義 務 規 則 第 4 条 によれば,5 当 事 者 は,すでに 発 生 した 又 は 将 来 発 生 する扶 養 義 務 をめぐる 争 いについて,18 歳 未 満 の 子 に 対 する 扶 養 義 務 を 除 いて( 第 4 条 第 3 項 ), 一 定範 囲 で 管 轄 を 合 意 することができる。 同 規 則 第 4 条 第 1 項 第 1 文 によれば, 当 事 者 は, 以 下 の 裁判 所 の 管 轄 を 合 意 することができる。すなわち,(a) 当 事 者 の 一 方 が 常 居 所 をもつ 構 成 国 の 裁 判 所34 EU 扶 養 義 務 規 則 及 びその 他 の 規 範 の 適 用 関 係 の 詳 細 については,ドイツに 関 する 調 査 報 告 4 頁 以 下 参 照 。35 「 夫 婦 間 の 救 護 義 務 」(フランス 民 法 第 212 条 )とは, 夫 婦 それぞれの 資 力 ・ 身 分 に 応 じて 必 要 の 場 合 になすべき 配 偶 者 相 互 間 の 金 銭 的 ・ 財 産 的 扶 養 義 務 (obligation alimentaire)を 内 容 とする。 通 常 の 生 活 においては 住 居 共 同 , 同 居 , 家 事 費 用 の 共 同 負 担 によって 行 われる。それが 行 われえない 例 外 的 場 合 すなわち, 裁判 上 の 別 居 , 事 実 上 の 別 居 の 状 態 の 場 合 などにおいては, 夫 婦 の 合 意 または 判 決 によって 定 められた 扶 養 定期 金 (pension alimentaire)の 形 式 でなされる。 山 口 俊 夫 ・ 編 『フランス 法 辞 典 』( 東 京 大 学 出 版 会 ,2002 年 )参 照 。36 「[ 離 婚 の 効 果 としての] 補 償 給 付 」は, 離 婚 が 配 偶 者 のそれぞれの 生 活 条 件 に 作 り 出 す 不 均 衡 を 是 正 するために, 夫 婦 の 年 齢 及 び 健 康 状 態 , 子 の 育 成 のための 時 間 , 職 業 上 の 地 位 や 資 産 状 態 などを 考 慮 して 支 払 われるものである(フランス 民 法 第 270 条 )。 一 括 みなし 的 性 格 (caractère forfaitaire)をもち, 原 則 として 改定 されることがない(フランス 民 法 第 273 条 )。 扶 養 定 期 金 (pension alimentaire)とは 別 個 のものとされる。山 口 ・ 前 掲 書 参 照 。EuGH 6.3.1980 ― 120/79, De Cavel/De Cavel は,フランス 法 上 の 扶 養 定 期 金 及 び 補 償 給付 はいずれもブリュッセル 条 約 上 の「 扶 養 義 務 」に 当 たると 解 釈 している。37 Jan Kropholler, Europäisches Zivilprozeßrecht – Kommentar zu EuGVO und Lugano-Überein- kommen, 7. Aufl.,Heidelberg 2002, Art. 5 Rn. 48; Heinrich Dörner, in: Eschenbruch (Hrsg.), Der Unterhaltsprozess, 3. Aufl., Düsseldorf2002, para. 8008.10419


(a 号 ),(b) 当 事 者 の 一 方 が 国 籍 をもつ 構 成 国 の 裁 判 所 (b 号 ),(c) 夫 婦 間 又 は 元 夫 婦 間 の 扶 養 義 務については,(i)その 婚 姻 事 件 について 管 轄 をもつ 構 成 国 の 裁 判 所 ,あるいは(ii) 最 後 の 共 通 常 居 所地 であって, 両 者 が 1 年 以 上 居 住 していた 構 成 国 の 裁 判 所 (c 号 )である。a 号 ~c 号 の 要 件 は,合 意 をした 時 点 又 は 提 訴 時 に 充 足 されなければならない( 同 第 4 条 第 1 項 第 1 文 )。 合 意 によって 定められた 管 轄 は, 当 事 者 が 別 異 の 合 意 をしないかぎり, 専 属 管 轄 となる( 同 第 2 文 )。また, 管 轄合 意 は 書 面 で 行 われなければならない( 第 4 条 第 2 項 )。なお, 当 事 者 が EU 構 成 国 以 外 の 2007 年ルガノ 条 約 締 約 国 の 裁 判 所 の 専 属 管 轄 を 合 意 した 場 合 には,18 歳 未 満 の 子 に 対 する 扶 養 義 務 を 除いて( 第 4 条 第 4 項 ), 同 条 約 が 適 用 される。これらの 規 定 によれば 国 際 裁 判 管 轄 をもたない 締 約 国 の 裁 判 所 に 提 訴 された 場 合 に, 被 告 が異 議 をとどめず 本 案 について 争 った 場 合 には, 応 訴 管 轄 が 認 められる( 第 5 条 )。以 上 の EU 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 ~ 第 5 条 の 規 定 に 従 い,EU 構 成 国 又 はルガノ 条 約 締 約 国 のいずれにも 管 轄 が 認 められない 場 合 には, 補 充 的 に 夫 婦 の 共 通 本 国 の 管 轄 が 認 められる( 第 6 条 )。そのほか,その 法 的 紛 争 が 密 接 な 関 係 をもつ 第 三 国 において 裁 判 手 続 を 開 始 する 又 は 追 行 することが 期 待 できない 又 は 不 可 能 であると 解 される 場 合 には, 例 外 的 に,その 法 的 紛 争 が 十 分 な結 び 付 きをもつ 構 成 国 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 行 使 することができるとされている。いわゆる 緊 急 管轄 を 認 める 規 定 である( 第 7 条 ) 38 。また, 第 8 条 には,2007 年 ハーグ 条 約 第 18 条 に 準 ずる 形 で,扶 養 料 支 払 決 定 の 変 更 等 に 関 する 管 轄 権 行 使 を 制 限 するための 規 定 が 置 かれている。これらの EU 扶 養 義 務 規 則 上 の 管 轄 ルールは, 各 構 成 国 の 国 内 法 上 の 管 轄 ルールを 排 除 するものである。つまり,EU 扶 養 義 務 規 則 は,ブリュッセル I 規 則 (ブリュッセル I 規 則 は, 被 告 が 構成 国 に 住 所 をもつ 場 合 にのみ 適 用 される〔 第 3 条 第 1 項 及 び 第 4 条 第 1 項 〕) 及 びブリュッセル IIbis 規 則39 ( 第 7 条 : 同 規 則 第 3 条 ~ 第 5 条 の 規 定 に 従 いいずれの 構 成 国 も 管 轄 をもたない 場 合 には, 構 成 国 国 内 法によるとする)とは 異 なって, 場 所 的 適 用 範 囲 を 限 定 しておらず,その 事 項 的 適 用 範 囲 に 含 まれるすべての 事 案 に 適 用 される。したがって,EU 扶 養 義 務 規 則 が 適 用 される 事 案 については, 国 内法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 ルールが 適 用 される 余 地 はない 40 。なお,EU 扶 養 義 務 規 則 においては, 構 成 国 の 一 つが 下 した 扶 養 料 支 払 決 定 の 承 認 執 行 について, 当 該 構 成 国 が 2007 年 ハーグ 議 定 書 が 定 める 準 拠 法 ルールに 従 っているか 否 かによって 区 別をしている。 当 該 構 成 国 が 2007 年 ハーグ 議 定 書 に 拘 束 されている 場 合 には,その 裁 判 の 執 行 には執 行 宣 言 が 必 要 とされないのに 対 して( 欧 州 債 務 名 義 規 則 型 〔EU 扶 養 義 務 規 則 第 17 条 〕), 当 該 構 成38 ドイツ 調 査 報 告 71 頁 参 照 。39 Council Regulation (EC) No 2201/2003 of 27 November 2003 concerning jurisdiction and the recognition andenforcement of judgments in matrimonial matters and the matters of parental responsibility, repealing Regulation (EC)No 1347/2000, O.J. L 338, p. 1.40 Rauscher/Andrae, Europäisches Zivilprozess- und Kollisionsrecht — Kommentar, München 2010,Vorbem Artt. 3 ff.EG-UntVO, Rn. 1 et seq.11420


国 が 2007 年 ハーグ 議 定 書 に 拘 束 されていない 場 合 には,その 裁 判 の 執 行 に 執 行 宣 言 が 必 要 とされる(ブリュッセル I 規 則 型 〔EU 扶 養 義 務 規 則 第 26 条 〕) 41 。(3) モンテビデオ 条 約1989 年 7 月 15 日 扶 養 義 務 に 関 する 米 州 モンテヴィデオ 条 約 (1996 年 3 月 6 日 発 効 42 )は,国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 規 定 ( 第 8 条 )のほか, 扶 養 義 務 に 関 する 準 拠 法 の 決 定 ( 第 6 条 ) 43 及 びその 適 用 範 囲 ( 第 7 条 ) 44 ,そして 扶 養 料 の 算 定 基 準 ( 第 9 及 び 第 10 条 ) 45 を 定 める 規 定 を 置 いている。 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 第 8 条 は, 次 のように 定 めている( 筆 者 訳 )。「 扶 養 料 の 支 払 を 求 める 訴 えは, 扶 養 権 利 者 の 選 択 によって, 以 下 のいずれかの 国 の 司 法 機関 又 は 行 政 機 関 によって 審 理 されうる。(a) 扶 養 権 利 者 の 住 所 又 は 常 居 所 がある 国 。(b) 扶 養 義 務 者 の 住 所 又 は 常 居 所 がある 国 。(c) 扶 養 義 務 者 が 財 産 を 所 有 していること, 収 入 を 得 ていること, 経 済 的 利 益 を 得 ていることなどによって, 個 人 的 な 結 び 付 きをもっている 国 。本 条 の 規 定 にかかわらず, 他 の 締 約 国 の 司 法 機 関 又 は 行 政 機 関 は, 被 告 がその 国 の 管 轄 について 争 うことなく 応 訴 した 場 合 には 管 轄 をもつものとする。」(4) アメリカ 合 衆 国41 ドイツ 調 査 報 告 9 頁 参 照 。42本 条 約 は,1989 年 7 月 9 日 から 15 日 までモンテヴィデオにて 開 催 された 第 4 回 米 州 国 際 私 法 会 議 (CIDIP-IV)において 採 択 された。2012 年 3 月 1 日 現 在 , 締 約 国 数 は 13 を 数 える(http://www.oas.org/juridico/english/sigs/b-54.html)。43第 6 条 「 扶 養 義 務 ,そして 扶 養 権 利 者 と 扶 養 義 務 者 としての 資 格 は, 以 下 の 法 のうち, 管 轄 当 局 が 扶 養 権利 者 にとって 最 も 有 利 であると 判 断 する 法 によって 規 律 される。(a) 扶 養 権 利 者 の 住 所 又 は 常 居 所 地 法 。(b) 扶 養 義 務 者 の 住 所 又 は 常 居 所 地 法 。」44第 7 条 「 第 6 条 に 定 める 準 拠 法 は, 以 下 の 事 項 について 規 律 する。(a) 扶 養 料 の 額 ,その 支 払 期 限 及 び 条 件 。(b) 扶 養 権 利 者 を 代 理 して 扶 養 料 を 請 求 することができる 者 。(c) 扶 養 料 請 求 権 を 享 受 するために 必 要 となる 他 の 要 件 。」45第 9 条 「 扶 養 料 の 増 額 を 求 める 訴 えは, 第 8 条 に 定 めるいずれの 国 の 機 関 によっても 審 理 されうる。 扶 養料 の 支 払 停 止 又 は 減 額 を 求 める 訴 えは, 扶 養 料 の 額 を 確 定 した 国 の 機 関 によってのみ 審 理 されうる。」第 10 条 「 扶 養 料 は, 扶 養 権 利 者 の 必 要 性 と 扶 養 義 務 者 の 資 力 の 双 方 を 勘 案 して 決 定 する。判 決 を 執 行 する 又 は 判 決 の 実 効 性 を 確 保 する 責 任 を 負 っている 司 法 機 関 又 は 行 政 機 関 が, 請 求 された 額 よりも 低 い 額 に 限 って 仮 処 分 を 命 ずる 場 合 又 は 判 決 の 執 行 を 認 める 場 合 にも, 扶 養 権 利 者 の 権 利 は 害 されない。」12421


アメリカ 合 衆 国 においては,1996 年 に 米 国 統 一 州 際 家 族 扶 養 法 (Uniform Interstate FamilySupport Act: UIFSA)が 採 択 され,2001 年 及 び 2008 年 に 改 正 されている 46 。UIFSA 第 201 条 a 項 47 は, 扶 養 料 支 払 決 定 について 州 内 に 居 住 していない 相 手 方 に 対 するロングアーム 管 轄 として, 以 下 の 場 合 に 当 該 州 の 管 轄 を 認 めている。すなわち,1 相 手 方 が 召 喚 状を 当 該 州 内 において 直 接 送 付 された 場 合 ,2 相 手 方 が 管 轄 に 同 意 した 又 は 応 訴 した 場 合 ,3 相 手方 が 過 去 に 当 該 州 において 子 と 一 緒 に 居 住 していた 場 合 ,4 相 手 方 が 過 去 に 当 該 州 に 居 住 し, 子の 出 産 前 の 費 用 又 は 養 育 費 を 支 払 っていた 場 合 ,5 相 手 方 の 行 為 又 は 命 令 の 結 果 として 子 が 当 該州 に 居 住 している 場 合 ,6 相 手 方 が 当 該 州 において 性 交 渉 に 従 事 し, 子 がその 行 為 によって 懐 胎された 可 能 性 がある 場 合 ,7〔 被 告 が( 当 該 州 の 推 定 父 登 録 簿 において) 子 との 親 子 関 係 を 認 めている 場 合 〕 48 ,8その 他 対 人 管 轄 権 の 行 使 に 関 して 当 該 州 憲 法 及 び 合 衆 国 憲 法 に 合 致 する 根 拠 がある 場 合 である。このように UIFSA 第 201 条 a 項 は, 州 外 に 居 住 する 相 手 方 について 対 人 管 轄 権 が 認 められる場 合 を 列 挙 しており, 管 轄 が 認 められる 範 囲 はかなり 広 い。 特 に1は 送 達 による 管 轄 (tag servicejurisdiction),34は 相 手 方 の 過 去 の 居 住 ,6は 同 州 での 性 交 渉 による 子 の 懐 胎 を 管 轄 原 因 とするものである。 上 述 のように, 米 国 においては 連 邦 憲 法 修 正 第 14 条 (デュー・プロセス 条 項 )による制 約 があり, 対 人 管 轄 権 を 行 使 するには, 被 告 が 法 廷 地 州 と「 最 小 限 の 関 連 」(minimum contact)をもつことが 要 件 となるが, 現 実 にはこの 基 準 はきわめて 緩 やかに 解 釈 されているといえよう。他 方 , 一 旦 下 された 扶 養 料 支 払 決 定 を 変 更 するための 管 轄 については,UIFSA 第 202 条 49 に規 定 がある。それによれば, 第 201 条 に 従 って 認 められた 当 該 州 裁 判 所 の 対 人 管 轄 権 は, 当 該 州の 裁 判 所 が 第 205 条 50 51, 第 206 条 及 び 第 211 条 52 に 従 って 扶 養 命 令 を 変 更 する 又 は 扶 養 命 令 を 執46米 国 に 関 する 調 査 報 告 参 照 。47 § 201. Bases for Jurisdiction Over Nonresident.“(a) In a proceeding to establish or enforce a support order or to determine parentage of a child, a tribunal of this statemay exercise personal jurisdiction over a nonresident individual [or the individual's guardian or conservator] if:(1) the individual is personally served with [citation, summons, notice] within this state;(2) the individual submits to the jurisdiction of this state by consent in a record, by entering a general appearance, or byfiling a responsive document having the effect of waiving any contest to personal jurisdiction;(3) the individual resided with the child in this state;(4) the individual resided in this state and provided prenatal expenses or support for the child;(5) the child resides in this state as a result of the acts or directives of the individual;(6) the individual engaged in sexual intercourse in this state and the child may have been conceived by that act ofintercourse;(7) [the individual asserted parentage of a child in the [putative father registry] maintained in this state by the[appropriate agency]; or(8)] there is any other basis consistent with the constitutions of this state and the United States for the exercise ofpersonal jurisdiction.”48 7がブラケットに 入 っているのは,すべての 州 が 推 定 父 登 録 簿 を 備 えているわけではないからである。49 § 202. Duration of Personal Jurisdiction.“Personal jurisdiction acquired by a tribunal of this state in a proceeding under this [act] or other law of this state relatingto a support order continues as long as a tribunal of this state has continuing, exclusive jurisdiction to modify its order orcontinuing jurisdiction to enforce its order as provided by Sections 205, 206, and 211.”50 § 205. Continuing, Exclusive Jurisdiction to Modify Child-Support Order.13422


行 するための 継 続 的 かつ 排 他 的 管 轄 をもつかぎり, 継 続 するとしている。つまり,この 規 定 は,一 旦 扶 養 料 支 払 決 定 を 下 した 州 の 裁 判 所 に 継 続 的 な 専 属 管 轄 を 認 めるものである。1996 年 にUIFSA が 採 択 される 以 前 の 1968 年 改 正 統 一 相 互 扶 養 執 行 法 (Revised Uniform Reciprocal Enforcementof Support Act: RURESA) 53 においては, 同 一 事 件 について 複 数 の 州 が 扶 養 料 支 払 決 定 を 下 し,決 定 相 互 の 優 先 劣 後 がはっきりせず 混 乱 を 招 くこともあった。その 反 省 を 踏 まえて,UIFSA は 扶養 料 支 払 決 定 の 変 更 について 継 続 的 な 専 属 管 轄 を 定 めることで, 管 轄 をもつ 州 を 明 確 にしている54 。4. 考 察(1) 一 般 的 な 管 轄 ルール“(a) A tribunal of this state that has issued a child-support order consistent with the law of this state has and shall exercisecontinuing, exclusive jurisdiction to modify its child-support order if the order is the controlling order and:(1) at the time of the filing of a request for modification this state is the residence of the obligor, the individual obligee,or the child for whose benefit the support order is issued; or(2) even if this state is not the residence of the obligor, the individual obligee, or the child for whose benefit the supportorder is issued, the parties consent in a record or in open court that the tribunal of this state may continue to exercisejurisdiction to modify its order.(b) A tribunal of this state that has issued a child-support order consistent with the law of this state may not exercisecontinuing, exclusive jurisdiction to modify the order if:(1) all of the parties who are individuals file consent in a record with the tribunal of this state that a tribunal of anotherstate that has jurisdiction over at least one of the parties who is an individual or that is located in the state ofresidence of the child may modify the order and assume continuing, exclusive jurisdiction; or(2) its order is not the controlling order.(c) If a tribunal of another state has issued a child-support order pursuant to [the Uniform Interstate Family Support Act]or a law substantially similar to that Act which modifies a child-support order of a tribunal of this state, tribunals of thisstate shall recognize the continuing, exclusive jurisdiction of the tribunal of the other state.(d) A tribunal of this state that lacks continuing, exclusive jurisdiction to modify a child-support order may serve as aninitiating tribunal to request a tribunal of another state to modify a support order issued in that state.(e) A temporary support order issued ex parte or pending resolution of a jurisdictional conflict does not create continuing,exclusive jurisdiction in the issuing tribunal.”51 § 206. Continuing Jurisdiction to Enforce Child-Support Order.“(a) A tribunal of this state that has issued a child-support order consistent with the law of this state may serve as aninitiating tribunal to request a tribunal of another state to enforce:(1) the order if the order is the controlling order and has not been modified by a tribunal of another state that assumedjurisdiction pursuant to the [Uniform Interstate Family Support Act]; or(2) a money judgment for arrears of support and interest on the order accrued before a determination that an order of atribunal of another state is the controlling order.(b) A tribunal of this state having continuing jurisdiction over a support order may act as a responding tribunal to enforcethe order.”52 § 211. Continuing, Exclusive Jurisdiction to Modify Spousal-Support Order.“(a) A tribunal of this state issuing a spousal-support order consistent with the law of this state has continuing, exclusivejurisdiction to modify the spousal-support order throughout the existence of the support obligation.(b) A tribunal of this state may not modify a spousal-support order issued by a tribunal of another state or a foreigncountry having continuing, exclusive jurisdiction over that order under the law of that state or foreign country.(c) A tribunal of this state that has continuing, exclusive jurisdiction over a spousal-support order may serve as:(1) an initiating tribunal to request a tribunal of another state to enforce the spousal-support order issued in this state; or(2) a responding tribunal to enforce or modify its own spousal-support order.”53 これは,1950 年 に 採 択 された 統 一 相 互 扶 養 執 行 法 (Uniform Reciprocal Enforcement of Support Act: URESA,1952 年 及 び 1958 年 に 改 正 )が 大 きく 改 正 されたため, 名 称 が 変 更 されたものである。54 Uniform Laws Annotated: Uniform Interstate Family Support Act (2008), UIFSA § 201.14423


(a) 客 観 的 な 管 轄 原 因(aa) 相 手 方 の 住 所 地扶 養 義 務 とは, 夫 婦 又 は 親 族 等 の 身 分 関 係 に 基 づいて 発 生 する 生 活 保 持 又 は 生 活 扶 助 の 義 務であり, 当 事 者 間 の 経 済 的 な 公 平 を 図 るものである。 扶 養 義 務 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 基 準として, 原 則 として 相 手 方 の 住 所 地 に 管 轄 を 認 めることに 争 いはなく,わが 国 の 裁 判 例 においても 比 較 法 的 にも 広 く 認 められている 55 。 通 常 の 家 事 事 件 と 同 様 に, 相 手 方 の 防 禦 権 の 保 障 の 要 請が 働 くほか, 扶 養 義 務 の 履 行 として 金 銭 給 付 等 が 対 象 となることから 執 行 の 便 宜 等 の 要 素 を 考 え合 わせても, 相 手 方 の 住 所 地 の 管 轄 を 認 めるのは 相 当 であろう。わが 国 の 土 地 管 轄 については, 家 事 事 件 手 続 法 第 182 条 第 1 項 が 扶 養 義 務 の 設 定 の 審 判 事 件について, 扶 養 義 務 者 の 住 所 地 の 管 轄 を 認 めている。 同 第 150 条 第 1 号 及 び 第 2 号 は, 夫 婦 間 の協 力 扶 助 及 び 婚 姻 費 用 の 分 担 に 関 する 処 分 の 審 判 事 件 について, 夫 又 は 妻 の 住 所 地 を 管 轄 原 因 としており, 同 じく 相 手 方 の 住 所 地 の 管 轄 も 認 める 趣 旨 である。なお, 子 の 監 護 に 関 する 処 分 の 審判 事 件 については, 子 の 住 所 地 に 管 轄 がある( 家 事 事 件 手 続 法 第 150 条 第 4 号 )。(bb) 扶 養 権 利 者 の 住 所 地わが 国 の 扶 養 関 係 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 に 関 する 裁 判 例 においては, 上 述 のように, 条 理 の 枠組 みにおいて 具 体 的 な 事 情 を 考 慮 し, 申 立 人 である 扶 養 権 利 者 の 住 所 地 の 管 轄 を 認 めた 例 がある。もっとも,どのような 場 合 に 申 立 人 の 住 所 地 管 轄 が 認 められるのかは 明 確 ではなく, 当 事 者 の 予見 可 能 性 や 法 的 安 定 性 に 資 するものではない。わが 国 の 土 地 管 轄 に 関 しては, 夫 婦 間 の 協 力 扶 助及 び 婚 姻 費 用 の 分 担 に 関 する 処 分 の 審 判 事 件 について 夫 又 は 妻 の 住 所 地 が 管 轄 原 因 となるため,端 的 に 扶 養 権 利 者 の 住 所 地 の 管 轄 も 認 められる( 家 事 事 件 手 続 法 第 150 条 第 1 号 及 び 第 2 号 )。比 較 法 的 にみると, 扶 養 義 務 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 について, 端 的 に 扶 養 権 利 者 の 住 所 地 管轄 を 認 める 例 はかなり 多 い。 特 にハーグ 諸 条 約 (1958 年 条 約 第 3 条 第 2 号 ,1973 年 条 約 第 7 条 第 1 号 ,2007 年 条 約 第 20 条 第 1 項 c 号 )のほか,ブリュッセル/ルガノ 体 制 (ブリュッセル 条 約 及 びブリュッセル I 規 則 並 びにルガノ 条 約 第 5 条 第 2 号 ) 及 び EU 扶 養 義 務 規 則 ( 第 3 条 b 号 ),モンテビデオ 条 約( 第 8 条 a 号 )が 挙 げられる。扶 養 料 ( 特 に 定 期 金 )の 額 は 大 きくはないが, 支 払 われなければ, 直 ちに 扶 養 権 利 者 の 生 活維 持 が 困 難 になるのが 通 常 であるため, 扶 養 権 利 者 が 迅 速 かつ 容 易 に 扶 養 料 支 払 決 定 を 得 られるように 配 慮 する 必 要 がある。 扶 養 権 利 者 は 金 銭 的 余 裕 がないうえ, 扶 養 義 務 者 は 事 後 的 に 外 国 に赴 くことも 多 いため, 常 に 相 手 方 の 住 所 地 での 訴 訟 追 行 を 求 めるのは 扶 養 権 利 者 に 酷 である。また, 扶 養 権 利 者 の 住 所 地 の 裁 判 所 は,その 生 活 状 態 や 収 入 等 に 関 する 証 拠 を 収 集 して 扶 養 の 必 要55上 述 3 参 照 。15424


性 を 判 断 し, 所 得 水 準 及 び 物 価 水 準 等 を 考 慮 して 扶 養 料 を 決 定 するのに 適 している。 相 手 方 にとっては, 扶 養 権 利 者 の 住 所 地 での 訴 訟 追 行 は 負 担 になることもあろうが, 保 護 を 必 要 としている扶 養 権 利 者 の 利 益 とのバランスを 考 慮 すれば, 端 的 に 扶 養 権 利 者 の 住 所 地 管 轄 を 認 めることには合 理 性 があると 解 される 56 。なお, 上 記 の 立 法 例 においては, 文 言 上 ,「 原 告 」 又 は「 申 立 人 」の 住 所 地 又 は 常 居 所 地 ではなく,「 扶 養 権 利 者 」の 住 所 地 又 は 常 居 所 地 が 管 轄 原 因 とされている。これは,この 管 轄 原 因 が経 済 的 な 弱 者 の 保 護 を 目 的 とした 特 別 の 管 轄 原 因 であることから,その 対 象 者 を 特 定 する 趣 旨 である。それゆえ, 扶 養 義 務 者 が 債 務 不 存 在 確 認 や 扶 養 料 支 払 決 定 の 変 更 等 を 請 求 する 場 合 ,あるいは 公 的 機 関 又 は 第 三 者 が 扶 養 義 務 者 に 代 わって 扶 養 料 に 相 当 する 金 額 を 扶 養 権 利 者 に 支 払 い,事 後 的 に 扶 養 義 務 者 に 求 償 する 場 合 などには 57 , 自 己 の 住 所 地 において 提 訴 することはできないと 解 されている。(cc) 国 籍わが 国 の 裁 判 例 において, 端 的 に 扶 養 権 利 者 と 扶 養 義 務 者 の 一 方 又 は 双 方 の 国 籍 を 基 準 として 管 轄 を 決 定 しているものは 見 られず, 例 外 的 に 申 立 人 の 住 所 地 管 轄 を 認 めるに 当 たって, 考 慮要 素 の 一 つとして 勘 案 しているに 過 ぎない。それに 対 して, 立 法 例 の 中 には, 扶 養 権 利 者 と 扶 養義 務 者 に 共 通 の 本 国 を 管 轄 原 因 として 認 めているものが 散 見 される。たとえば,ハーグ 1973 年 条約 第 7 条 第 2 号 において, 扶 養 義 務 者 と 扶 養 権 利 者 の 共 通 本 国 にも 間 接 管 轄 を 認 めている。また,EU 扶 養 義 務 規 則 第 6 条 は, 同 規 則 第 3 条 ~ 第 5 条 の 規 定 に 従 い EU 構 成 国 又 はルガノ 条 約 締 約 国のいずれにも 管 轄 が 認 められない 場 合 には, 補 充 的 に 夫 婦 の 共 通 本 国 の 管 轄 を 認 めるとしている。婚 姻 や 離 婚 , 親 子 関 係 のような 身 分 関 係 事 件 であれば, 身 分 関 係 の 安 定 性 及 び 戸 籍 訂 正 の 必要 性 などの 理 由 から 本 国 管 轄 を 認 めることにも 一 定 の 合 理 性 がある。しかし, 扶 養 関 係 事 件 は,扶 養 権 利 者 の 生 活 維 持 のための 金 銭 給 付 等 を 対 象 とし, 迅 速 に 扶 養 料 請 求 権 を 実 現 し, 当 事 者 間の 経 済 的 公 平 を 図 ることが 最 も 重 要 である。その 意 味 では, 当 事 者 がいずれもその 共 通 本 国 に 居住 していない 場 合 も 含 めて 本 国 管 轄 を 認 めることが 相 当 であるか 否 かは, 慎 重 に 検 討 する 必 要 があろう。56 なお,ブリュッセル 条 約 の 公 式 報 告 書 によれば, 扶 養 権 利 者 の 住 所 地 の 管 轄 を 認 める 理 由 として, 本 文 に掲 げた 理 由 のほか, 法 廷 地 が 1956 年 10 月 24 日 「 子 に 対 する 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 するハーグ 条 約 」 及 び1973 年 10 月 2 日 「 扶 養 義 務 の 準 拠 法 に 関 するハーグ 条 約 」を 批 准 している 場 合 には, 第 一 義 的 には 扶 養 権利 者 の 常 居 所 地 法 が 準 拠 法 となるため, 管 轄 と 準 拠 法 の 並 行 が 確 保 され, 法 の 適 用 が 容 易 になるという 点 も挙 げられている Jenard-Report on 1968 Brussels Convention and the Protocol concerning its interpretation signed on3 June 1971 (OJ C 59/1, 5.3.1979)(Jenard, BT-Drucks. VI/1973, S. 72 から 引 用 )。57 この 趣 旨 を 明 らかにした 欧 州 司 法 裁 判 所 の 判 例 として,European Court of Justice, 14 November 2002 - 271/00 Gemeente Steenbergen/Luc Baten 及 び European Court of Justice, 15 January 2004 - 433/01 Freistaat Bayern/JanBlijdenstein がある。16425


(dd) 附 帯 処 分扶 養 料 請 求 は, 親 子 関 係 存 否 確 認 , 強 制 認 知 ,あるいは 婚 姻 有 効 確 認 , 離 婚 などの 身 分 関 係事 件 ,あるいは 親 権 者 又 は 監 護 者 の 指 定 ・ 変 更 などに 附 帯 してなされることがある( 上 掲 ・ 東 京 高判 平 成 9 年 9 月 18 日 〔 米 国 オハイオ 州 判 決 の 承 認 執 行 〕, 上 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 10 年 2 月 26 日 〔 米 国 ミネソタ 州 判 決 の 承 認 執 行 〕など)。このような 場 合 には, 身 分 関 係 の 確 定 や 親 権 者 又 は 監 護 者 の 指 定 は,扶 養 料 支 払 請 求 の 不 可 欠 の 前 提 をなすもので, 密 接 に 関 連 している。また, 扶 養 料 請 求 について附 帯 的 な 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めれば, 当 事 者 間 の 紛 争 の 画 一 的 かつ 一 回 的 解 決 が 可 能 になるという利 点 もあろう。比 較 法 的 には, 従 来 からブリュッセル/ルガノ 体 制 において 扶 養 料 支 払 請 求 を 身 分 関 係 事 件の 附 帯 処 分 とすることが 認 められている(ブリュッセル 条 約 及 びブリュッセル I 規 則 並 びにルガノ 条 約第 5 条 第 2 号 後 段 )。また,EU 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 c 号 及 び d 号 は, 各 々 身 分 関 係 事 件 及 び 親 責 任事 件 について 国 際 裁 判 管 轄 をもつ 裁 判 所 は, 附 帯 処 分 としての 扶 養 料 請 求 についても 管 轄 をもつと 規 定 している。ただし,これらの 規 定 は 過 剰 管 轄 を 避 けるため, 身 分 関 係 事 件 又 は 親 責 任 事 件の 管 轄 が 一 方 当 事 者 の 国 籍 だけを 根 拠 とする 場 合 には, 扶 養 料 請 求 に 関 する 附 帯 的 な 管 轄 を 否 定している。 同 趣 旨 の 規 定 は, 間 接 管 轄 の 決 定 基 準 として,2007 年 ハーグ 条 約 第 20 条 第 1 項 f 号にも 置 かれている。(b) 応 訴 管 轄 ・ 合 意 管 轄(aa) 応 訴 管 轄わが 国 の 裁 判 例 においては, 扶 養 関 係 事 件 において 応 訴 管 轄 を 認 めたものは 見 受 けられない。それに 対 して, 比 較 法 的 には 応 訴 管 轄 を 認 めるのが 一 般 的 である。 上 掲 のハーグ 条 約 は,すべて間 接 管 轄 として 応 訴 管 轄 を 認 めているほか(1958 年 条 約 第 3 条 第 3 号 ,1973 年 第 7 条 第 3 号 ,2007 年条 約 第 20 条 b 号 ),ブリュッセル/ルガノ 体 制 (ブリュッセル I 規 則 及 び 2007 年 ルガノ 条 約 第 24 条 ),EU 扶 養 義 務 規 則 第 5 条 ,モンテビデオ 条 約 第 8 条 第 2 文 ,そして 米 国 UIFSA 第 201 条 a 項 第 2号 はすべて 応 訴 管 轄 を 認 めている。 扶 養 関 係 事 件 は, 家 事 事 件 の 一 つであるが, 金 銭 給 付 等 を 目的 とし, 当 事 者 に 一 定 範 囲 で 処 分 権 も 認 められるため, 相 手 方 が 異 議 をとどめず 本 案 について 争った 場 合 には, 応 訴 管 轄 を 認 めることに 合 理 性 があるといえよう。(bb) 合 意 管 轄17426


従 前 のハーグ 条 約 ,すなわち 1958 年 条 約 第 3 条 第 3 号 及 び 1973 年 第 7 条 第 3 号 は, 間 接 管轄 の 原 因 として 応 訴 管 轄 を 認 めるだけであったが,2007 年 条 約 第 20 条 第 1 項 e 号 は, 応 訴 管 轄のみならず, 合 意 管 轄 を 認 めている。ただし, 子 に 対 する 扶 養 義 務 は 除 かれる。ヨーロッパのブリュッセル/ルガノ 体 制 においても, 扶 養 関 係 事 件 は 通 常 の 民 商 事 事 件 の 一つとして 扱 われており, 特 則 も 設 けられていないことから, 選 択 されうる 法 廷 地 を 限 定 することなく 合 意 管 轄 が 認 められると 解 される(ブリュッセル I 規 則 及 び 2007 年 ルガノ 条 約 第 23 条 参 照 )。EU 扶 養 義 務 規 則 第 4 条 も 合 意 管 轄 を 認 めているが,18 歳 未 満 の 子 に 対 する 扶 養 義 務 を 明 示的 に 対 象 外 としているほか( 第 4 条 第 3 項 ), 選 択 されうる 法 廷 地 を 限 定 している( 第 4 条 第 1 項 a~c 号 )。それによれば, 法 廷 地 として 選 択 されうるのは,(a) 一 方 当 事 者 の 常 居 所 地 ,(b) 一 方 当 事者 の 国 籍 ,(c)( 元 ) 夫 婦 間 の 扶 養 義 務 については,(i)その 婚 姻 事 件 について 管 轄 をもつ 構 成 国 の裁 判 所 又 は(ii) 最 後 の 共 通 常 居 所 地 で, 両 者 が 1 年 以 上 居 住 していた 構 成 国 の 裁 判 所 である。 合 意によって 定 められた 管 轄 は, 当 事 者 が 別 異 の 合 意 をしないかぎり, 専 属 管 轄 となる( 第 4 条 第 1項 第 2 文 )。また, 管 轄 合 意 は 書 面 で 行 われなければならない( 第 4 条 第 2 項 )。なお, 当 事 者 が EU構 成 国 以 外 の 2007 年 ルガノ 条 約 締 約 国 の 裁 判 所 の 専 属 管 轄 を 合 意 した 場 合 には,18 歳 未 満 の 子に 対 する 扶 養 義 務 を 除 いて( 第 4 条 第 4 項 ), 同 条 約 が 適 用 される。おそらく 米 国 UIFSA 第 201 条 a 項 第 2 号 も, 合 意 管 轄 を 認 める 趣 旨 であると 解 される。比 較 法 的 に 見 ると, 欧 米 諸 国 の 実 質 法 上 は, 特 に 夫 婦 間 の 扶 養 義 務 について 夫 婦 財 産 制 と 同様 に 当 事 者 の 処 分 を 認 める 法 制 が 増 えている。そして, 国 際 私 法 上 の 準 拠 法 の 決 定 についても,2007 年 ハーグ 議 定 書 第 7 条 及 び 第 8 条 は 当 事 者 自 治 を 認 めており,これらの 規 定 は EU 扶 養 義 務規 則 第 15 条 を 介 して, 同 議 定 書 を 採 用 する EU 構 成 国 においても 適 用 される。 第 7 条 によれば,法 廷 地 法 の 選 択 が 認 められる 58 。また, 第 8 条 によれば, 当 事 者 はどの 時 点 においても,1 一 方当 事 者 の 本 国 法 ,2 一 方 当 事 者 の 常 居 所 地 法 ,3 夫 婦 財 産 制 の 準 拠 法 ,あるいは4 離 婚 又 は 別 居の 準 拠 法 のいずれかを 選 択 することができる( 第 8 条 第 1 項 a~d 号 ) 59 。 第 8 条 においては,18 歳58 「 第 7 条 個 別 の 手 続 のための 準 拠 法 の 指 定1. 第 3 条 から 前 条 までの 規 定 にかかわらず, 扶 養 権 利 者 及 び 扶 養 義 務 者 は, 特 定 の 国 における 個 別 の 手 続のためにのみ,その 国 の 法 律 を 扶 養 義 務 の 準 拠 法 として 明 示 的 に 指 定 することができる。2. そのような 手 続 の 開 始 前 にされる 指 定 は, 当 事 者 双 方 により 署 名 された 合 意 であって, 書 面 によるもの又 はその 中 に 含 まれた 情 報 が 後 の 参 照 のために 利 用 することができるアクセス 可 能 な 媒 体 に 記 録 されたものによらなければならない。」( 翻 訳 は, 法 制 審 議 会 国 際 扶 養 条 約 部 会 第 11 回 会 議 ( 平 成 20 年 1 月 15 日 開催 ) 会 議 用 資 料 74 による)(http://www.moj.go.jp/content/000012395.pdf)。59 「 第 8 条 準 拠 法 の 指 定1. 第 3 条 から 第 6 条 までの 規 定 にかかわらず, 扶 養 権 利 者 と 扶 養 義 務 者 は,いつでも 次 の 法 律 のいずれかを 扶 養 義 務 の 準 拠 法 として 指 定 することができる。a) 指 定 時 においていずれかの 当 事 者 が 国 籍 を 有 するいずれかの 国 の 法 律b) 指 定 時 におけるいずれかの 当 事 者 の 常 居 所 地 国 の 法 律c) これらの 者 の 財 産 制 について, 当 事 者 により 準 拠 法 として 指 定 された 法 律 又 は 実 際 に 適 用 された 法 律d) これらの 者 の 離 婚 又 は 法 律 上 の 別 居 について, 当 事 者 により 準 拠 法 として 指 定 された 法 律 又 は 実 際 に 適用 された 法 律18427


未 満 の 子 及 び 要 保 護 成 年 者 に 対 する 扶 養 義 務 については 準 拠 法 の 選 択 が 認 められないが( 第 8 条第 3 項 ), 特 に 夫 婦 間 の 扶 養 義 務 について, 近 時 の 各 国 実 質 法 上 の 当 事 者 による 処 分 の 可 能 性 を 国際 私 法 にも 拡 張 するものである。そして, 国 際 私 法 上 の 当 事 者 自 治 を 認 めることで, 夫 婦 は 現 在又 は 将 来 の 扶 養 義 務 に 適 用 される 準 拠 法 を 確 定 的 に 決 定 し, 蓄 財 や 財 産 処 分 の 計 画 を 立 てることができるほか, 夫 婦 財 産 制 又 は 離 婚 の 準 拠 法 を 選 択 することで 将 来 における 財 産 の 分 配 や 清 算 等の 処 理 を 円 滑 に 行 うこともできる。このような 実 質 法 上 の 私 的 自 治 及 び 国 際 私 法 上 の 当 事 者 自 治の 尊 重 という 近 時 の 動 向 に 鑑 みれば,2008 年 に 制 定 された EU 扶 養 義 務 規 則 第 4 条 が 当 事 者 間 の争 いを 解 決 すべき 法 廷 地 の 選 択 を 認 めているのも, 同 様 の 発 想 に 立 つものであると 解 されよう。(c) その 他 の 管 轄 原 因モンテビデオ 条 約 第 8 条 は, 扶 養 権 利 者 の 住 所 地 (a 号 ) 及 び 扶 養 義 務 者 の 住 所 地 (b 号 )に加 えて, 一 般 的 かつ 補 充 的 な 管 轄 原 因 を 定 めている。それによれば,「 扶 養 義 務 者 が 財 産 を 所 有 していること, 収 入 を 得 ていること, 経 済 的 利 益 を 得 ていることなどによって, 個 人 的 な 結 び 付 きをもっている 国 」の 管 轄 も 認 められる(c 号 )。この 管 轄 原 因 は, 扶 養 権 利 者 を 保 護 するために 広く 援 用 されうるものであるが, 扶 養 義 務 者 の 予 見 可 能 性 には 欠 ける 結 果 となる 場 合 もあろう。他 方 , 米 国 UIFSA 第 201 条 a 項 第 1 号 ~ 第 8 号 は, 上 述 のように 米 国 独 自 の 発 想 に 従 った 管轄 ルールを 置 いており, 州 外 に 居 住 する 相 手 方 について 広 範 な 管 轄 原 因 を 認 めている。すなわち,1 同 州 内 での 相 手 方 に 対 する 送 達 ,2 相 手 方 の 管 轄 への 同 意 又 は 応 訴 ,3 相 手 方 と 子 の 過 去 の 居住 ,4 相 手 方 の 過 去 の 居 住 と 子 の 養 育 費 等 の 支 払 い,5 相 手 方 の 居 所 指 定 による 子 の 居 住 ,6 相手 方 の 同 州 における 性 交 渉 による 子 の 懐 胎 ,7〔 被 告 の 認 知 〕,8その 他 対 人 管 轄 権 の 行 使 に 関 して 当 該 州 憲 法 及 び 合 衆 国 憲 法 に 合 致 する 根 拠 がある 場 合 には, 当 該 州 の 管 轄 が 認 められる。それに 対 して,EU 扶 養 義 務 規 則 第 7 条 は,このような 射 程 の 広 い 補 充 的 管 轄 原 因 を 定 める代 わりに, 緊 急 管 轄 を 認 めている。すなわち,EU 扶 養 義 務 規 則 第 3 条 ~ 第 6 条 の 規 定 に 従 えばいずれの EU 構 成 国 又 はルガノ 条 約 締 約 国 も 管 轄 をもたない 場 合 であっても,その 法 的 紛 争 が 密接 な 関 係 をもつ 第 三 国 において 裁 判 手 続 を 開 始 する 又 は 追 行 することが 期 待 できない 又 は 不 可 能2. そのような 合 意 は, 書 面 により, 又 はその 中 に 含 まれた 情 報 が 後 の 参 照 のために 利 用 することができるアクセス 可 能 な 媒 体 に 記 録 されなければならず,かつ, 当 事 者 双 方 により 署 名 されなければならない。3. 第 1 項 の 規 定 は,18 歳 未 満 の 者 及 びその 人 的 な 能 力 の 障 害 又 は 不 十 分 さのためにその 利 益 を 守 ることができない 成 年 者 の 扶 養 義 務 については 適 用 しない。4. 第 1 項 の 規 定 に 従 って 当 事 者 により 指 定 された 法 律 にかかわらず, 扶 養 権 利 者 がその 扶 養 についての 権利 を 放 棄 することができるか 否 かは, 指 定 時 における 扶 養 権 利 者 の 常 居 所 地 法 により 決 定 される。5. 指 定 時 において, 当 事 者 がその 指 定 の 結 果 について 十 分 に 知 らされ,かつ, 認 識 していた 場 合 を 除 き,当 事 者 により 指 定 された 法 律 の 適 用 が 当 事 者 のいずれかにとって 明 らかに 不 公 正 又 は 不 合 理 な 結 果 をもたらす 場 合 には,その 法 律 は 適 用 しない。」( 翻 訳 は, 前 掲 注 資 料 による)。19428


である 場 合 には, 緊 急 管 轄 として,その 法 的 紛 争 が 十 分 な 関 連 性 をもつ 構 成 国 の 裁 判 所 は, 管 轄権 を 行 使 しうるとされている( 第 7 条 )。(2) 扶 養 料 の 変 更扶 養 関 係 事 件 においては, 一 旦 扶 養 料 支 払 決 定 が 下 された 後 , 居 住 地 や 職 業 , 生 活 条 件 の 変更 を 理 由 に, 扶 養 権 利 者 又 は 扶 養 義 務 者 が 扶 養 料 支 払 決 定 の 変 更 又 は 取 消 し 等 を 求 めるケースが少 なくない。その 場 合 に, 当 初 の 扶 養 料 支 払 決 定 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 基 準 に 従 うか,あるいは 原 則 として 最 初 に 扶 養 料 支 払 決 定 を 下 した 裁 判 所 の 継 続 的 な 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 するかは,基 本 的 な 政 策 決 定 の 問 題 となる。 上 述 のとおり, 比 較 法 的 にはハーグ 諸 条 約 ,ブリュッセル/ルガノ 体 制 ,そしてモンテビデオ 条 約 が 扶 養 料 支 払 決 定 の 変 更 等 についても, 通 常 の 管 轄 ルールによっているのに 対 して, 米 国 UIFSA 第 202 条 , 第 205 条 ,そして 第 211 条 は, 原 則 として, 当 初の 扶 養 料 支 払 決 定 を 下 した 裁 判 所 の 継 続 的 な 専 属 管 轄 を 認 める 規 定 を 置 いている。 米 国 型 のルールによれば, 管 轄 をもつ 裁 判 所 が 一 義 的 に 確 定 する 反 面 で, 扶 養 権 利 者 と 扶 養 義 務 者 の 双 方 がいずれも 当 初 の 扶 養 料 支 払 決 定 を 下 した 国 とは 別 の 国 に 移 り 住 んでいるような 場 合 にも,もはや 実質 的 な 結 び 付 きをもたない 国 の 裁 判 所 が 判 断 せざるを 得 ず, 当 事 者 双 方 にも 訴 訟 追 行 の 負 担 がかかることになろう。この 二 つの 異 なる 立 場 を 調 整 するため, 上 述 のように,2007 年 ハーグ 条 約 第 18 条 は, 扶 養料 支 払 決 定 の 変 更 に 関 する 管 轄 権 行 使 を 制 限 する 規 定 を 置 いている。それによれば, 扶 養 権 利 者の 常 居 所 地 の 裁 判 所 が 決 定 を 下 し, 扶 養 権 利 者 がその 決 定 国 に 常 居 所 を 保 持 している 場 合 には,決 定 の 変 更 等 は,その 決 定 国 の 専 属 管 轄 に 属 するのが 原 則 である( 第 18 条 第 1 項 )。ただし, 合 意管 轄 又 は 応 訴 管 轄 が 認 められる 場 合 のほか, 決 定 国 の 権 限 当 局 が 決 定 の 変 更 等 のための 管 轄 権 を行 使 しない 又 はできない 場 合 ,あるいは 当 初 の 決 定 がその 決 定 の 変 更 等 を 求 められた 締 約 国 において 承 認 執 行 されない 場 合 は,その 例 外 となる( 第 18 条 第 2 項 )。この 第 18 条 に 相 当 する 規 定 は,EU 扶 養 義 務 規 則 第 8 条 にも 置 かれており,2007 年 ハーグ 条 約 との 調 整 が 図 られている。なお,わが 国 の 土 地 管 轄 については, 扶 養 義 務 の 設 定 の 取 消 しの 審 判 事 件 は,その 扶 養 義 務の 設 定 の 審 判 をした 家 庭 裁 判 所 の 管 轄 に 属 するとされ( 家 事 事 件 手 続 法 182 条 第 2 項 ), 管 轄 継 続 の原 則 が 認 められている。 他 方 , 扶 養 の 順 位 の 決 定 及 びその 決 定 の 変 更 又 は 取 消 しの 審 判 事 件 ,そして 扶 養 の 程 度 又 は 方 法 についての 決 定 及 びその 決 定 の 変 更 又 は 取 消 しの 審 判 事 件 については,相 手 方 の 住 所 地 に 土 地 管 轄 が 認 められる( 家 事 事 件 手 続 法 182 条 第 3 項 )。20429


9. 相 続( 執 筆 担 当 : 九 州 大 学 西 谷 祐 子 )1. 総 説国 境 を 越 えた 人 の 移 動 が 活 発 になるに 伴 い, 被 相 続 人 が 外 国 に 財 産 を 遺 して 死 亡 した 場 合 等に 関 する 国 際 相 続 の 問 題 も 増 えることが 予 想 される。 平 成 22 年 の「 人 口 動 態 統 計 ( 確 定 数 )の 概況 」によれば, 日 本 で 死 亡 した 外 国 人 の 数 は 6,425 名 であるのに 対 して, 外 国 で 死 亡 した 日 本 人の 数 は 1,615 名 である 1 。 国 籍 別 にみると, 日 本 で 死 亡 した 6,425 名 の 外 国 人 のうち 韓 国 又 は 朝 鮮人 が 4,746 名 と 突 出 して 多 く,ついで 中 国 人 が 580 名 ,ブラジル 人 が 160 名 , 米 国 人 が 135 名 ,フィリピン 人 が 120 名 と 続 いている 2 。 過 去 の 統 計 をみると, 平 成 9 年 には, 日 本 で 死 亡 した 外 国人 は 5,514 名 , 外 国 で 死 亡 した 日 本 人 は 1,346 名 3 であり, 平 成 12 年 には 各 々5,542 名 と 1,414 名 4 ,平 成 17 年 には 各 々6,047 名 と 1,594 名 5 であった。これをみると, 少 しずつではあるが, 国 際 的 な相 続 が 問 題 となる 場 面 が 増 えてきていると 評 価 することができる。もっとも, 実 際 に 家 庭 裁 判 所 に 国 際 相 続 に 関 する 事 件 が 申 し 立 てられる 例 はまだ 多 くはない。甲 類 審 判 事 件 としての 渉 外 事 件 のうち, 圧 倒 的 に 多 いのは 相 続 放 棄 の 申 述 受 理 に 関 する 事 件 であり( 平 成 22 年 度 においては 1,663 件 ),その 次 に 相 続 人 が 不 分 明 である 場 合 の 相 続 財 産 管 理 人 の 選 任等 に 関 する 事 件 ( 同 49 件 ), 遺 言 書 の 検 認 に 関 する 事 件 ( 同 47 件 ), 限 定 承 認 の 申 述 受 理 に 関 する事 件 ( 同 23 件 ), 遺 言 執 行 者 の 選 任 に 関 する 事 件 ( 同 7 件 )と 続 いている。 他 方 , 乙 類 審 判 事 件 としては, 遺 産 分 割 処 分 に 関 する 事 件 ( 同 20 件 ;ただし 調 停 の 申 立 ては 85 件 )と 寄 与 分 を 定 める 処 分に 関 する 事 件 ( 同 3 件 ; 調 停 の 申 立 ては 4 件 )があるが, 同 様 に 数 は 少 ない 6 。2. 日 本 法 の 状 況(1) 民 事 訴 訟 法 上 の 国 際 裁 判 管 轄 規 定「 民 事 訴 訟 法 及 び 民 事 保 全 法 の 一 部 を 改 正 する 法 律 」の 施 行 後 (2012 年 4 月 1 日 )は, 訴 訟事 件 としての 国 際 相 続 事 件 については, 民 事 訴 訟 法 第 3 条 の 2 以 下 に 従 って 国 際 裁 判 管 轄 の 有 無が 決 定 される。 対 象 となる 訴 訟 は,「 相 続 権 若 しくは 遺 留 分 に 関 する 訴 え 又 は 遺 贈 その 他 死 亡 によって 効 力 を 生 ずべき 行 為 に 関 する 訴 え」( 民 事 訴 訟 法 第 3 条 の 3 第 12 号 ),あるいは「 相 続 債 権 その他 相 続 財 産 の 負 担 に 関 する 訴 えで 前 号 に 掲 げる 訴 えに 該 当 しないもの」( 同 第 13 号 )である。これ1 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei10/dl/12_beppyo.pdf2前 注 参 照 。3 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=0000010533344 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=0000010537445 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=0000010534326 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B22DKAJ10~12.pdf1430


らの 事 件 については, 被 告 の 住 所 等 が 日 本 にある 場 合 ( 民 事 訴 訟 法 第 3 条 の 2 第 1 項 )のほか, 相続 開 始 時 の 被 相 続 人 の 住 所 等 が 日 本 国 内 にある 場 合 ( 同 第 3 条 の 3 第 12 号 及 び 第 13 号 )に 国 際 裁 判管 轄 が 認 められる。被 相 続 人 の 住 所 等 を 管 轄 原 因 としているのは, 基 本 的 に 土 地 管 轄 に 関 する 民 事 訴 訟 法 第 5 条第 14 号 及 び 第 15 号 の 規 定 にならったものである。これは, 国 際 相 続 事 件 においても 相 続 開 始 時の 被 相 続 人 の 住 所 等 に 証 拠 の 多 くが 所 在 すること, 当 事 者 の 便 宜 や 相 続 債 権 者 の 予 測 可 能 性 を 考慮 すると, 相 続 開 始 時 の 被 相 続 人 の 住 所 等 が 日 本 にあるかぎり, 日 本 の 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 を認 め,その 紛 争 の 統 一 的 解 決 を 可 能 にすべきであることを 理 由 とする 7 。ただし, 土 地 管 轄 に 関 する 従 前 の 民 事 訴 訟 法 第 5 条 第 15 号 は, 執 行 の 便 宜 に 配 慮 して, 相 続 財 産 の 全 部 又 は 一 部 が 管 轄 区域 内 に 所 在 していることを 要 件 としていたが, 国 際 裁 判 管 轄 に 関 しては, 日 本 国 内 に 相 続 財 産 が存 在 しない 場 合 には 相 続 債 権 等 に 関 する 訴 えを 日 本 の 裁 判 所 に 提 起 できないとすると, 紛 争 の 統一 的 解 決 を 図 ることができず, 相 続 債 権 者 の 予 測 も 害 されることが 指 摘 された 8 。そこで, 民 事 訴訟 法 第 3 条 の 3 第 13 号 においては, 財 産 所 在 の 要 件 は 課 されないこととなった。そして, 結 局 は土 地 管 轄 についても,わが 国 では 裁 判 機 関 と 執 行 機 関 が 分 離 されており, 相 続 財 産 の 所 在 を 土 地管 轄 の 要 件 としても 常 に 執 行 の 便 宜 が 図 られるわけではないこと,むしろ 同 要 件 を 課 すことで,被 相 続 人 の 普 通 裁 判 籍 の 所 在 地 における 紛 争 解 決 の 可 能 性 が 狭 められることから, 最 終 的 に 財 産所 在 の 要 件 は, 民 事 訴 訟 法 第 5 条 第 15 号 においても 削 除 されることとなった。もとより 家 事 事 件 手 続 法 の 適 用 対 象 となる 国 際 相 続 事 件 の 管 轄 ルールを 考 察 する 際 には, 民事 訴 訟 法 の 国 際 裁 判 管 轄 規 定 との 平 仄 にも 配 慮 する 必 要 があろう。 他 方 で, 相 続 事 件 においては,相 続 財 産 管 理 人 の 選 任 , 限 定 承 認 ・ 単 純 承 認 や 相 続 放 棄 , 遺 言 の 検 認 , 遺 言 執 行 者 の 選 任 , 遺 産分 割 等 の 多 様 な 問 題 が 生 じうるため, 個 別 の 問 題 領 域 ごとに 国 際 裁 判 管 轄 のあり 方 を 検 討 しておく 必 要 もあると 解 される 9 。(2) 従 来 の 学 説2011 年 に 上 述 の「 民 事 訴 訟 法 及 び 民 事 保 全 法 の 一 部 を 改 正 する 法 律 」が 制 定 されるまでは,わが 国 には 国 際 相 続 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 を 決 定 するための 明 文 規 定 は 存 在 しなかった。また,わが 国 は, 国 際 相 続 については, 準 拠 法 決 定 について 1961 年 10 月 5 日 「 遺 言 の 方 式 に 関 する 法 律の 抵 触 に 関 するハーグ 条 約 」を 批 准 し,「 遺 言 の 方 式 の 準 拠 法 に 関 する 法 律 」として 国 内 法 化 して7法 務 省 民 事 局 参 事 官 室 「 国 際 裁 判 管 轄 法 制 に 関 する 中 間 試 案 の 補 足 説 明 」(2009 年 )( 以 下 , 補 足 説 明 として 引 用 )26 頁 。8前 掲 ・ 補 足 説 明 26 頁 参 照 。9国 際 相 続 事 件 全 般 に 妥 当 する 統 一 的 な 管 轄 ルールを 立 てることには, 実 務 家 による 有 力 な 批 判 がある。 野田 愛 子 監 修 ・ 第 一 東 京 弁 護 士 会 司 法 研 究 委 員 会 編 『 国 際 相 続 法 の 実 務 』(1997 年 )41 頁 , 山 田 真 「 法 例 改 正と 渉 外 家 事 実 務 入 門 ( 三 )―― 渉 外 遺 産 分 割 事 件 ――」ケース 研 究 223 号 147 頁 ( 注 4)(いずれも 野 村 美 明「 外 国 にある 日 本 人 の 遺 産 の 処 理 ―― 外 国 の 銀 行 預 金 ――」 判 タ 1100 号 428 頁 から 引 用 )。2431


いるに 過 ぎず,それ 以 外 に 締 約 国 となっている 条 約 は 存 在 しない。それゆえ, 国 際 相 続 事 件 の 国際 裁 判 管 轄 の 決 定 は, 裁 判 例 及 び 学 説 上 の 議 論 にゆだねられてきた。わが 国 の 学 説 においては, 通 常 , 相 続 に 関 する 個 別 の 問 題 ,すなわち 遺 産 分 割 , 遺 言 書 の 検認 , 遺 言 執 行 者 の 選 任 , 相 続 人 不 明 の 場 合 の 相 続 財 産 管 理 等 を 区 別 せず, 一 般 に 妥 当 すべき 管 轄ルールが 論 じられている。 多 数 説 によれば, 国 際 相 続 事 件 について, 被 相 続 人 が 最 後 の 住 所 ( 又は 常 居 所 ) 10 を 日 本 に 有 していた 場 合 又 は 相 続 財 産 が 日 本 に 所 在 している 場 合 に, 日 本 の 国 際 裁 判管 轄 が 認 められる。また, 学 説 の 中 には, 被 相 続 人 が 日 本 人 であった 場 合 に 一 般 的 な 本 国 管 轄 を認 める 見 解 もある。そのほか 遺 言 の 検 認 に 関 しては, 多 数 説 は, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 及 び 財産 所 在 地 に 加 えて, 遺 言 の 所 在 地 の 管 轄 も 認 めている( 詳 細 は, 後 述 4 参 照 )。なお, 従 来 の 学 説 においては, 非 訟 事 件 としての 相 続 事 件 については,いわゆる「 並 行 の 原則 」に 従 う 見 解 もあった。その 一 つによれば, 原 則 として, 相 続 準 拠 法 が 日 本 法 である 場 合 にのみ 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるが, 被 相 続 人 が 外 国 人 であるときにも,その 本 国 が 日 本 に 所在 する 財 産 について 財 産 所 在 地 としての 日 本 の 管 轄 を 認 めている 場 合 には, 例 外 的 に 日 本 の 管 轄が 認 められるという 11 。また,わが 国 が 管 轄 をもつのは, 原 則 として 相 続 準 拠 法 が 日 本 法 である場 合 であるとしたうえで,わが 国 の 裁 判 所 の 職 務 と 相 続 準 拠 法 たる 外 国 実 質 相 続 法 との 間 に 調 和を 見 出 しうる 限 りは,わが 国 の 管 轄 を 肯 定 しうるとする 見 解 12 もあった。 裁 判 例 においても,「 並行 の 原 則 」に 従 い, 外 国 人 の 被 相 続 人 については 原 則 として 本 国 に 管 轄 があるとしている 例 もある 13 。しかし,このような 準 拠 法 と 管 轄 の 並 行 を 出 発 点 とする 考 え 方 は, 現 在 ではわが 国 の 学 説において 一 般 に 否 定 されていると 解 され 14 , 支 持 する 見 解 はほとんど 見 られない 15 。また, 日 本 の学 説 に 影 響 を 与 えてきたドイツにおいては, 国 際 相 続 事 件 についてだけごく 最 近 まで「 並 行 の 原則 」が 維 持 されていたが,2008 年 FamFG の 制 定 に 際 して 廃 止 されている 16 。ただし,フランス 17や 英 米 法 系 諸 国 18 においては, 現 在 でも 準 拠 法 と 管 轄 の 一 致 が 図 られることが 多 いものと 解 される。10住 所 と 常 居 所 のいずれを 管 轄 原 因 とするかは, 別 途 検 討 する 必 要 がある。 婚 姻 の 成 立 及 び 効 力 に 関 する 調査 参 照 。11川 上 太 郎 「 渉 外 相 続 非 訟 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 」 民 商 61 巻 6 号 (1970 年 )966 頁 , 実 方 正 雄 『 国 際 私 法 概論 〔 再 訂 版 〕』( 有 斐 閣 ,1952 年 )400 頁 ( 未 確 認 ) 参 照 。12折 茂 豊 「 我 が 国 に 於 ける 英 国 人 の 相 続 問 題 」 国 際 法 外 交 雑 誌 39 巻 5 号 436 頁 以 下 ,6 号 506 頁 以 下 (1940年 )。13大 阪 家 審 昭 和 54 年 3 月 26 日 家 月 34 巻 2 号 160 頁 。14櫻 田 嘉 章 「 相 続 財 産 の 移 転 」『 国 際 私 法 の 争 点 〔 新 版 〕』( 有 斐 閣 ,1996 年 )201 頁 。15 ただし, 山 田 鐐 一 『 国 際 私 法 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ,2004 年 )591 頁 ( 注 1)は,「 並 行 の 原 則 」に 言 及 している。16 ドイツに 関 する 調 査 報 告 70 頁 参 照 。17 フランスに 関 する 調 査 報 告 参 照 。18 イギリス 及 びアメリカ 合 衆 国 に 関 する 調 査 報 告 参 照 。3432


(3) 裁 判 例(a) 推 定 相 続 人 の 排 除わが 国 の 裁 判 例 においては, 法 定 推 定 相 続 人 の 排 除 に 関 する 事 案 としては 次 のものがあるが,いずれも 国 際 裁 判 管 轄 については 判 断 していない。大 判 昭 和 16 年 5 月 31 日 ( 民 集 20 巻 756 頁 )は, 原 告 が 長 男 に 対 して(いずれも 朝 鮮 人 ), 法定 推 定 家 督 相 続 人 であることの 排 除 を 求 めた 事 件 であるが, 国 際 裁 判 管 轄 には 言 及 しないまま,本 案 について 判 断 している 19 。 他 方 , 大 阪 高 決 昭 和 62 年 3 月 20 日 ( 家 月 39 巻 7 号 43 頁 )は, 日本 に 在 住 していた 台 湾 人 被 相 続 人 が, 遺 言 において 複 数 の 相 続 人 を 排 除 する 意 思 表 示 をしたため,遺 言 執 行 者 がわが 国 の 裁 判 所 に 推 定 相 続 人 廃 除 の 申 立 をしたという 事 件 である。 本 決 定 は, 相 続準 拠 法 である 台 湾 法 上 は, 日 本 民 法 第 893 条 とは 異 なって, 表 示 失 権 の 場 合 には 被 相 続 人 が 遺 言において 意 思 表 示 すれば 足 り, 裁 判 所 の 関 与 は 必 要 とされていないため, 本 件 においては,すでに 実 体 法 上 推 定 相 続 人 排 除 の 効 果 が 生 じているとして, 申 立 てを 却 下 した。(b) 限 定 承 認 ・ 相 続 放 棄 ほか相 続 人 等 による 相 続 の 限 定 承 認 や 相 続 放 棄 は, 単 独 行 為 としての 法 律 行 為 であり, 実 質 は 相続 準 拠 法 によって( 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 第 36 条 ), 方 式 は 相 続 準 拠 法 又 は 行 為 地 法 のいずれかによって( 同 第 10 条 ) 規 律 される。 他 方 で, 限 定 承 認 や 相 続 放 棄 等 の 申 述 受 理 に 裁 判 所 が 関 与 する場 合 には,どの 国 の 裁 判 所 がどの 範 囲 で 国 際 裁 判 管 轄 をもつか 問 題 となる 20 。 裁 判 例 においては,特 に 国 際 裁 判 管 轄 に 言 及 していないものもあるが 21 , 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 が 日 本 にあったこと22を 根 拠 として 国 際 裁 判 管 轄 を 認 め, 限 定 承 認 の 申 述 又 は 相 続 放 棄 の 申 述 23 を 受 理 しているものがある。東 京 家 審 昭 和 52 年 7 月 19 日 家 月 30 巻 7 号 82 頁 においては, 韓 国 籍 の 被 相 続 人 は, 最 後 の住 所 を 韓 国 に 有 しており, 日 本 にも 韓 国 にも 積 極 財 産 はほとんどなく, 日 本 に 債 務 を 遺 して 死 亡した。 限 定 承 認 の 申 述 人 3 名 は 韓 国 籍 であるが, 長 く 日 本 に 居 住 している。 本 件 審 判 は, 相 続 に関 する 非 訟 手 続 の 国 際 裁 判 管 轄 は, 原 則 として 被 相 続 人 の 本 国 に 属 するとしたうえで, 本 件 については, 例 外 的 にわが 国 の 管 轄 が 認 められるとした。すなわち,「 申 述 人 三 名 はわが 国 に 永 く 居 住して 現 在 に 至 っており, 限 定 承 認 が 真 意 によるものか 否 か 等 必 要 な 審 理 を 行 うには,わが 国 裁 判所 が 最 も 適 していること, 被 相 続 人 はわが 国 に 積 極 財 産 を 有 しないがわが 国 に 債 務 を 有 し, 限 定19朝 鮮 民 事 令 第 11 条 に 従 い 適 用 されるべき 朝 鮮 の 慣 習 法 上 , 法 定 推 定 家 督 相 続 人 の 排 除 を 認 める 規 範 はないとして 請 求 を 容 れなかった。20山 田 ・ 前 掲 書 577 頁 以 下 。21東 京 高 決 昭 和 62 年 10 月 29 日 家 月 40 巻 2 号 190 頁 〔ドイツ 人 被 相 続 人 , 最 後 の 住 所 は 日 本 〕。22東 京 家 審 平 成 11 年 10 月 15 日 家 月 52 巻 3 号 60 頁 〔ニュージーランド 人 被 相 続 人 , 日 本 法 への 反 致 〕。23神 戸 家 審 平 成 6 年 7 月 27 日 家 月 47 巻 5 号 60 頁 〔インド 人 被 相 続 人 , 日 本 法 への 反 致 〕: 家 事 審 判 規 則 99条 を 援 用 。4433


承 認 に 基 づく 清 算 手 続 はわが 国 においてこれを 処 理 するのが 最 も 合 理 的 であり,しかも 被 相 続 人は 韓 国 にはほとんど 財 産 を 有 しないと 認 められること, 申 述 人 らはわが 国 の 裁 判 所 に 受 理 の 申 立をなし, 本 件 についてわが 国 裁 判 所 の 管 轄 に 服 する 意 思 を 表 示 していること, 限 定 承 認 の 申 述 には 前 記 のとおり 期 間 の 制 限 があり,これをしようとする 相 続 人 の 居 住 国 における 申 述 を 認 めないとその 機 会 を 失 わしめるおそれがあること」 等 の 事 情 があることから, 韓 国 法 に 基 づいて 限 定 承認 の 申 述 を 受 理 しうるとした。また, 東 京 高 判 平 成 14 年 3 月 5 日 民 集 57 巻 6 号 708 頁 ( 上 告 審 : 最 判 平 成 15 年 6 月 12 日 57巻 6 号 640 頁 )は, 在 日 韓 国 人 で 日 本 と 韓 国 に 財 産 を 遺 して 死 亡 した 被 相 続 人 に 関 して, 相 続 放 棄の 申 述 が 行 われた 事 件 であり,わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めている。その 理 由 として, 被 相 続 人は 韓 国 籍 であるが 日 本 に 永 住 していたこと, 日 本 に 不 動 産 及 び 預 貯 金 等 の 相 続 財 産 が 所 在 すること,また 同 人 の 相 続 人 らが 日 本 に 居 住 していることから「わが 国 との 生 活 関 連 性 を 有 」していたことを 挙 げている。もっとも, 本 件 相 続 人 らは, 日 本 において 相 続 放 棄 の 申 述 を 行 う 一 方 で, 韓国 に 所 在 する 相 続 財 産 を 隠 匿 しており,これらの 行 為 は, 韓 国 法 上 法 定 単 純 承 認 に 当 たるものであった。そこで, 本 判 決 は, 相 続 人 らが 日 本 における 相 続 放 棄 は 日 本 に 所 在 する 財 産 しか 対 象 とせず, 韓 国 に 所 在 する 財 産 には 及 ばないと 主 張 していたのを 容 れず,わが 国 国 際 私 法 が 相 続 統 一主 義 によっており, 相 続 準 拠 法 である 韓 国 法 上 法 定 単 純 承 認 の 事 由 が 存 する 以 上 は, 相 続 放 棄 の効 力 は 認 められないとした。(c) 相 続 財 産 管 理 人 の 選 任相 続 人 が 不 分 明 である 場 合 の 相 続 財 産 管 理 人 の 選 任 については, 国 際 裁 判 管 轄 に 触 れないまま, 本 案 について 判 断 している 裁 判 例 が 少 なくない 24 。もっとも,これまでに 裁 判 例 に 現 れたケースは,いずれも 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 が 日 本 にあったと 解 される 事 案 であり 25 , 管 轄 権 を 行使 したこと 自 体 は 相 当 であったと 解 される。それに 対 して, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 が 日 本 にあったことを 理 由 として,わが 国 の 管 轄 を認 めた 例 もある。 神 戸 家 審 昭 和 56 年 9 月 21 日 ( 家 月 34 巻 7 号 89 頁 )は,オーストラリア 人 被 相24東 京 控 判 明 治 41 年 12 月 7 日 法 律 新 聞 550 号 9 頁 ( 川 上 ・ 前 掲 論 文 から 引 用 :オランダ 人 被 相 続 人 の 妻 ( 元日 本 人 )が,オランダ 国 横 浜 領 事 裁 判 長 から 遺 産 管 理 人 に 選 任 された 相 手 方 に 対 して 相 続 財 産 との 更 改 による 貸 付 金 の 返 還 を 請 求 ), 大 阪 高 決 昭 和 40 年 11 月 30 日 家 月 18 巻 7 号 45 頁 ( 英 国 人 被 相 続 人 , 最 後 の 住 所は 日 本 又 は 香 港 。 相 続 財 産 管 理 人 の 選 任 後 に 相 続 人 が 判 明 したため, 日 本 法 によって 相 続 財 産 管 理 人 取 消 審判 を 行 う), 東 京 家 審 昭 和 41 年 9 月 26 日 家 月 19 巻 5 号 112 頁 (イラン 人 被 相 続 人 , 日 本 に 住 所 。 法 例 10条 の 趣 旨 に 従 い, 財 産 所 在 地 法 である 日 本 法 によって 相 続 財 産 管 理 人 を 選 任 ), 東 京 家 審 昭 和 42 年 4 月 17日 家 月 19 巻 11 号 127 頁 ( 韓 国 人 被 相 続 人 , 日 本 に 住 所 。 被 相 続 人 による 非 嫡 出 子 の 出 生 届 に 認 知 の 効 力 が認 められ〔 実 質 は 韓 国 法 , 方 式 は 日 本 法 による〕, 相 続 人 がいることを 理 由 に 申 立 却 下 )。なお, 大 阪 地 決 昭和 40 年 8 月 7 日 判 タ 185 号 154 頁 ( 韓 国 人 被 相 続 人 )は, 日 本 所 在 の 財 産 については, 無 主 の 財 産 の 処 理として 法 例 10 条 に 従 い 日 本 法 によるとし, 相 続 財 産 管 理 人 ではなく 特 別 代 理 人 を 選 任 した 事 案 である。25 ただし, 前 掲 ・ 大 阪 高 決 昭 和 40 年 11 月 30 日 においては, 英 国 人 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 が 日 本 と 香 港 のいずれにあったか 明 らかではない。5434


続 人 について 相 続 人 が 不 分 明 である 場 合 に, 被 相 続 人 が 最 後 の 住 所 を 日 本 に 有 していたことを 理由 にわが 国 の 管 轄 を 肯 定 し, 内 縁 の 妻 ( 日 本 人 )の 申 立 てに 従 い 相 続 財 産 管 理 人 を 選 任 している。他 方 , 次 の 裁 判 例 は, 日 本 が 財 産 所 在 地 であることを 理 由 に, 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めている。水 戸 家 審 昭 和 36 年 6 月 23 日 ( 家 月 13 巻 11 号 110 頁 )は, 日 本 に 最 後 の 住 所 をもつ 韓 国 人 被 相 続人 の 相 続 人 が 不 分 明 である 場 合 に, 本 件 相 続 は 韓 国 法 によるが, 相 続 人 の 有 無 が 不 分 明 である 又は 明 らかであっても 日 本 に 来 て 日 本 に 所 在 の 相 続 財 産 の 管 理 をすることが 不 能 又 は 困 難 な 場 合 には, 財 産 所 在 地 たる 日 本 の 裁 判 所 は 当 該 相 続 財 産 に 利 害 関 係 を 有 する 者 の 申 立 によって, 相 続 財産 管 理 人 を 選 任 することができるとした 26 。 同 様 に, 新 潟 家 ( 長 岡 支 ) 審 昭 和 42 年 1 月 12 日 ( 家月 19 巻 8 号 113 頁 )も, 失 踪 宣 告 によって 相 続 が 開 始 した 本 件 において, 相 続 財 産 の 所 在 地 である 日 本 の 裁 判 所 は, 利 害 関 係 人 の 申 立 てによって 相 続 財 産 管 理 人 を 選 任 できるとしている 27 。さらに, 大 阪 家 審 昭 和 54 年 3 月 26 日 ( 家 月 34 巻 2 号 160 頁 )は, 中 国 人 被 相 続 人 について,準 拠 法 と 管 轄 の「 並 行 の 原 則 」に 従 い 中 国 に 管 轄 が 認 められるのが 原 則 であるが, 相 続 人 が 不 分明 である 場 合 には, 相 続 債 権 者 らの 利 害 関 係 人 の 保 護 のため, 日 本 にある 相 続 財 産 については 日本 でその 財 産 の 管 理 等 をする 必 要 があるとし, 財 産 所 在 地 であるわが 国 にも 例 外 的 に 国 際 的 裁 判管 轄 が 認 められるとした。(d) 特 別 縁 故 者 への 相 続 財 産 の 分 与特 別 縁 故 者 への 相 続 財 産 の 分 与 が 申 立 てられた 事 件 として, 次 のものがある。仙 台 家 審 昭 和 47 年 1 月 25 日 ( 家 月 25 巻 2 号 112 頁 )は, 相 続 人 のいない 韓 国 人 被 相 続 人 ( 最後 の 住 所 は 日 本 )の 財 産 取 得 に 多 年 協 力 した 内 縁 の 妻 ( 日 本 人 )について, 韓 国 民 法 第 1058 条 を 適用 して 相 続 財 産 を 国 庫 に 帰 属 させることは 法 例 30 条 ( 当 時 )の 公 序 に 反 するとし, 日 本 民 法 第 958条 の 3 を 適 用 して 特 別 縁 故 者 として 相 続 財 産 の 分 与 を 認 めた 事 案 である。また, 大 阪 家 審 昭 和 52年 8 月 12 日 家 月 30 巻 11 号 67 頁 は, 相 続 人 のいない 朝 鮮 人 被 相 続 人 ( 最 後 の 住 所 は 日 本 )の 内 縁の 妻 に 対 して, 財 産 所 在 地 法 としての 日 本 法 に 従 い, 特 別 縁 故 者 として 相 続 財 産 の 分 与 を 認 めたものである。いずれの 裁 判 例 においても 国 際 裁 判 管 轄 には 言 及 されていないが, 被 相 続 人 は 本 国との 関 係 がほとんどなく, 被 相 続 人 及 び 内 縁 の 妻 の 住 所 地 も 財 産 所 在 地 もすべて 日 本 であったことから,わが 国 の 管 轄 を 認 めた 結 論 は 正 当 であったといえよう。他 方 , 名 古 屋 家 審 平 成 6 年 3 月 25 日 家 月 47 巻 3 号 79 頁 は, 相 続 人 のいない 朝 鮮 人 被 相 続人 と 長 年 日 本 で 暮 らしてきた 内 縁 の 妻 が, 特 別 縁 故 者 として 相 続 財 産 の 分 与 の 申 立 てをした 事 案2627相 続 財 産 管 理 人 の 選 任 は, 財 産 所 在 地 法 としての 日 本 法 によるとした。被 相 続 人 はオランダ 人 との 婚 姻 後 , 日 本 国 籍 を 喪 失 (インドネシアのオランダからの 独 立 後 は 国 籍 不 明 )。本 審 判 は, 相 続 財 産 管 理 人 の 職 務 執 行 の 範 囲 は 一 般 に 属 地 的 なものであって, 必 ずしも 他 国 にある 資 産 の 管理 に 及 ばないものであり, 又 日 本 における 相 続 人 不 存 在 手 続 の 目 的 は 相 続 人 の 捜 索 と 相 続 債 権 者 のための 清算 であると 解 されていることを 理 由 に, 相 続 財 産 管 理 人 の 選 任 は 日 本 法 によるとした。6435


である。 本 審 判 は, 国 際 裁 判 管 轄 については 条 理 によるとしたうえで, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地及 び 相 続 財 産 の 所 在 地 が 日 本 である 本 件 においては,わが 国 に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるとしている。そして, 特 別 縁 故 者 への 財 産 分 与 は, 相 続 財 産 の 処 分 の 問 題 であるため, 条 理 に 基 づいて財 産 所 在 地 法 である 日 本 法 が 準 拠 法 となるとし, 申 立 てを 認 容 した。(e) 遺 言 の 検 認遺 言 の 検 認 が 求 められた 事 案 として, 次 のものがある。神 戸 家 審 昭 和 33 年 11 月 28 日 家 月 11 巻 2 号 85 頁 は, 日 本 に 居 住 していたインド 人 被 相 続人 ( 遺 言 者 )の 遺 言 の 検 認 が 申 し 立 てられた 事 案 で, 国 際 裁 判 管 轄 に 触 れることなく, 遺 言 書 を検 認 している。 他 方 , 神 戸 家 審 昭 和 57 年 7 月 15 日 家 月 35 巻 10 号 94 頁 は,フランス 国 副 領 事 がフランス 人 遺 言 者 による 遺 言 書 の 作 成 者 及 び 保 管 者 として 検 認 を 求 めた 事 案 であるが, 同 様 に 国際 裁 判 管 轄 には 触 れていない。もっとも, 本 審 判 は, 本 件 遺 言 書 がフランス 民 法 上 の 公 正 証 書 遺言 の 方 式 を 満 たしており,フランス 法 上 も 日 本 法 上 も 家 庭 裁 判 所 による 検 認 手 続 を 経 ることなく効 力 が 発 生 していたことから 本 件 申 立 てを 却 下 したもので,そもそも 国 際 裁 判 管 轄 に 言 及 する 必要 がなかったといえよう。(f) 遺 言 執 行 者 の 選 任わが 国 の 裁 判 例 において, 遺 言 執 行 者 が 選 任 されたケースは 比 較 的 多 いが, 国 際 裁 判 管 轄 に言 及 しないまま, 端 的 に 遺 言 執 行 者 を 選 任 しているものが 多 く 見 られる 28 。それに 対 して, 国 際 裁 判 管 轄 について 論 じているものとして, 次 のような 例 がある。 神 戸 家審 昭 和 35 年 12 月 6 日 家 月 13 巻 3 号 156 頁 は, 日 本 に 居 住 していたインド 人 の 遺 言 者 が 指 定 した遺 言 執 行 者 が 指 定 の 受 諾 を 拒 んだため,それに 代 わる 遺 言 執 行 者 の 選 任 が 申 し 立 てられた 事 案 である。 本 審 判 は, 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 は「 事 の 性 質 に 即 して 合 理 的 な 解 決 を 求 める 外 ない」としたうえで, 法 例 第 6 条 ( 当 時 )が「 外 国 人 の 生 死 不 分 明 の 場 合 日 本 に 在 る 財 産 について 例 外 的 に日 本 の 裁 判 所 に 失 踪 宣 告 の 管 轄 権 を 認 めている 点 を 類 推 すれば 本 件 の 如 く 日 本 に 在 る 外 国 人 の 財産 に 関 する 遺 言 の 執 行 者 選 任 についても 我 国 の 裁 判 所 の 管 轄 権 を 肯 認 するのが 合 理 的 であると 思われる」として,わが 国 の 管 轄 を 肯 定 した。そして, 相 続 準 拠 法 であるインド 法 に 従 い, 遺 言 執行 者 を 選 任 している。ところが,この 遺 言 執 行 者 についてインド 法 上 欠 格 事 由 があることが 判 明28神 戸 家 審 昭 和 32 年 12 月 23 日 家 月 10 巻 1 号 56 頁 ( 日 本 で 死 亡 したドイツ 人 の 遺 言 執 行 者 の 選 任 。ドイツ 法 上 は 必 ずしも 遺 言 執 行 者 は 必 要 ないが, 日 本 での 登 記 手 続 の 必 要 性 から 選 任 ), 神 戸 家 審 昭 和 33 年 7 月31 日 家 月 10 巻 10 号 67 頁 ( 米 国 カリフォルニア 州 人 遺 言 者 )。また, 大 判 明 治 38 年 10 月 30 日 民 録 11 輯1414 頁 ( 英 国 人 遺 言 者 ), 大 阪 控 判 明 治 37 年 6 月 6 日 法 律 新 聞 227 号 7 頁 , 大 阪 控 判 昭 和 3 年 12 月 28 日 新報 182 頁 18 頁 ( 川 上 ・ 前 掲 論 文 988 頁 から 引 用 :スイス 人 被 相 続 人 が 遺 言 において 選 任 した 遺 言 執 行 者 の権 限 ), 横 浜 地 判 年 月 日 不 明 ・ 法 律 新 聞 325 号 8 頁 も 参 照 。7436


したため, 改 めてその 解 任 と 申 立 人 ( 遺 言 者 の 妻 。 受 遺 者 であり,かつ 受 遺 者 である 未 成 年 子 らの 法 定後 見 人 )を 遺 言 執 行 者 にするよう 申 立 てがなされた。そして, 神 戸 家 審 昭 和 37 年 12 月 11 日 家 月15 巻 4 号 78 頁 は,「 印 度 国 籍 を 有 する 遺 言 者 が 日 本 に 最 後 の 住 所 を 有 した 場 合 ,その 最 後 の 住 所地 を 管 轄 する 日 本 の 家 庭 裁 判 所 が 遺 言 執 行 者 選 任 および 解 任 の 裁 判 管 轄 権 を 有 すると 解 するのが相 当 である」とし, 日 本 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 したうえで, 相 続 準 拠 法 であるインド 相 続 法 に 従い, 申 立 人 を 遺 言 執 行 者 に 選 任 した。この 後 者 の 審 判 と 同 じく, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 が 日 本 であったことを 理 由 に,わが 国 の国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 している 裁 判 例 として, 東 京 家 審 昭 和 45 年 3 月 31 日 家 月 22 巻 10 号 101 頁 29 ,東 京 家 審 昭 和 48 年 4 月 20 日 家 月 25 巻 10 号 113 頁 30 ,そして 東 京 家 審 平 成 13 年 9 月 17 日 家 月54 巻 3 号 91 頁 31 が 挙 げられる。なお, 外 国 において 選 任 された 遺 言 執 行 者 の 権 限 が 認 められるか 否 かについては, 外 国 非 訟裁 判 の 承 認 の 問 題 となると 解 される。 外 国 非 訟 裁 判 の 承 認 については, 多 数 説 によれば, 民 事 訴訟 法 第 118 条 第 1 号 及 び 第 3 号 だけが 類 推 適 用 されるが 32 , 近 時 は, 民 事 訴 訟 法 第 118 条 を 全 面的 に 類 推 適 用 する 説 も 有 力 に 唱 えられている 33 。もっとも, 裁 判 例 においては, 外 国 で 選 任 された 遺 言 執 行 者 の 権 限 を 必 ずしも 外 国 裁 判 の 承 認 の 問 題 として 捉 えないまま 論 じているものもある( 大 判 明 治 38 年 10 月 30 日 民 録 11 輯 1414 頁 , 大 阪 高 判 昭 和 56 年 9 月 30 日 家 月 35 巻 3 号 49 頁 など)。(g) 遺 産 分 割遺 産 分 割 についても, 国 際 裁 判 管 轄 の 決 定 に 言 及 しないまま,わが 国 の 管 轄 を 肯 定 している裁 判 例 が 多 い 34 。 福 岡 高 決 平 成 4 年 12 月 25 日 家 月 46 巻 3 号 50 頁 は, 在 日 韓 国 人 であった 被 相29英 国 人 遺 言 者 , 日 本 に 住 所 。 遺 言 執 行 者 の 選 任 は 相 続 準 拠 法 である 英 国 法 によるが, 本 件 では 日 本 法 への反 致 が 成 立 するとした。30英 国 人 遺 言 者 , 日 本 に 住 所 。タイプライター 作 成 による 遺 言 書 が 方 式 要 件 を 具 備 しているとしたうえで,遺 言 執 行 者 の 選 任 は 相 続 準 拠 法 である 英 国 法 によるが, 本 件 では 日 本 法 への 反 致 が 成 立 するとした。31 インド 人 遺 言 者 , 日 本 に 住 所 。 遺 言 執 行 者 の 選 任 は 相 続 準 拠 法 であるインド 相 続 法 によるが, 本 件 では 日本 法 への 反 致 が 成 立 するとした。32鈴 木 忠 一 「 外 国 の 非 訟 裁 判 の 承 認 ・ 取 消 ・ 変 更 」 曹 時 26 巻 9 号 (1974 年 )1504 頁 以 下 , 中 野 貞 一 郎 『 民事 執 行 法 [ 第 5 版 ]』( 青 林 書 院 ,2006 年 )186 頁 , 高 桑 昭 ・リマークス 13 号 (1996 年 )159 頁 以 下 ほか。また, 争 訟 性 が 強 い 非 訟 裁 判 については, 民 事 訴 訟 法 第 118 条 第 1 号 及 び 第 3 号 に 加 えて 第 2 号 も 類 推 適 用 するとするのは, 櫻 田 嘉 章 ・ 平 成 4 年 度 重 判 297 頁 以 下 及 び 海 老 沢 美 広 「 非 訟 事 件 裁 判 の 承 認 」『 国 際 私 法 の争 点 [ 新 版 ]』( 有 斐 閣 ,1996 年 )246 頁 以 下 である。33河 野 俊 行 「 子 の 養 育 ・ 監 護 ・ 引 き 渡 し―― 子 の 奪 取 の 民 事 面 に 関 するハーグ 条 約 と 国 際 民 事 訴 訟 法 ・ 国 際私 法 の 統 一 的 解 釈 論 の 試 み――」 国 際 法 学 会 編 『 日 本 と 国 際 法 の 100 年 [ 第 5 巻 ・ 個 人 と 家 族 ]』(2001 年 ,三 省 堂 )193 頁 以 下 , 住 田 裕 子 「 民 事 訴 訟 法 200 条 と 外 国 裁 判 所 による 非 訟 事 件 」 戸 籍 549 号 (1989 年 )14頁 以 下 , 村 上 正 子 「 外 国 非 訟 裁 判 の 承 認 執 行 制 度 再 考 ―― 子 の 監 護 ・ 扶 養 に 関 する 裁 判 を 中 心 に――」 民 訴雑 誌 51 号 (2005 年 )184 頁 以 下 ほか。34大 阪 高 判 昭 和 38 年 3 月 25 日 下 民 集 14 巻 3 号 462 頁 (ドイツ 人 被 相 続 人 , 日 本 に 住 所 。 遺 産 分 割 協 議 が行 われ, 調 停 が 成 立 した 後 , 相 続 人 の 一 人 が, 本 調 停 はドイツ 国 民 の 財 産 処 分 に 必 要 な 大 蔵 大 臣 の 許 可 を 得ておらず, 強 行 法 規 に 違 反 していたとして 無 効 を 主 張 した 事 案 ), 東 京 家 審 昭 和 38 年 11 月 18 日 家 月 16 巻 4号 165 頁 ( 米 国 オクラホマ 州 人 被 相 続 人 。その 最 後 の 住 所 及 び 財 産 所 在 地 が 日 本 であったため, 遺 産 全 体 の8437


続 人 に 関 する 遺 産 分 割 について, 本 件 の 事 案 では 日 本 に 国 際 裁 判 管 轄 があるのが 当 然 であると 述べるにとどまっている 35 。それに 対 して, 国 際 裁 判 管 轄 に 言 及 している 例 として, 次 のものがある。 大 阪 家 審 昭 和 51年 2 月 25 日 家 月 29 巻 4 号 152 頁 は, 日 本 に 永 住 していた 韓 国 人 被 相 続 人 が 死 亡 した 後 , 裁 判 上の 認 知 を 受 けた 非 嫡 出 子 ら(いずれも 日 本 在 住 )が 他 の 相 続 人 に 対 して 遺 産 分 割 の 申 立 てをしたものである。 本 審 判 は, 被 相 続 人 は「 韓 国 籍 を 有 する 外 国 人 であるが, 我 が 国 に 永 住 して 大 阪 市 に住 所 を 有 し, 同 地 で 死 亡 したものであり, 本 件 当 事 者 らもいずれも 我 が 国 に 住 所 を 有 するものであるので, 本 件 遺 産 分 割 については, 我 が 国 に 裁 判 権 があ」るとした。そして, 韓 国 民 法 上 の 法定 相 続 分 を 基 準 に, 債 務 負 担 による 遺 産 分 割 を 命 じている。 同 様 に, 神 戸 家 審 平 成 6 年 3 月 25日 家 月 47 巻 8 号 59 頁 は, 中 華 民 国 籍 の 被 相 続 人 の 遺 産 分 割 に 関 して, 被 相 続 人 が 相 続 開 始 時 点において 日 本 に 住 所 を 有 していたことを 理 由 に,わが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 を 肯 定 している。そして,台 湾 法 を 準 拠 法 として 遺 産 分 割 を 命 じている。なお, 東 京 家 審 昭 和 41 年 4 月 8 日 家 月 18 巻 11 号 93 頁 は, 日 本 在 住 の 日 本 人 母 の 死 亡 後 ,相 続 人 であるその 米 国 人 夫 が 利 益 相 反 行 為 であることを 理 由 に, 同 じく 相 続 人 である 未 成 年 の 日本 人 子 との 間 で 遺 産 分 割 協 議 を 行 うための 特 別 代 理 人 の 選 任 を 求 めた 事 案 である。 本 審 判 は, 子が 日 本 国 籍 であること,そして 申 立 人 と 子 はいずれも 日 本 に 住 所 をもっていることを 理 由 に 国 際裁 判 管 轄 を 肯 定 した。そして, 本 件 は 相 続 問 題 であると 性 質 決 定 し, 被 相 続 人 の 本 国 法 である 日本 法 を 適 用 して 特 別 代 理 人 を 選 任 している。3. 比 較 法(1) ハーグ 条 約遺 産 管 理 については,1973 年 ハーグ 遺 産 管 理 条 約 が 存 する。 本 条 約 は, 締 約 国 が「 被 相 続 人の 動 産 を 管 理 する 権 限 を 有 する 者 を 指 定 し,その 権 限 内 容 を 示 す 国 際 的 証 明 書 を 制 定 する」ことによって 遺 産 管 理 の 円 滑 化 を 図 ることを 目 的 としている。もっとも, 第 2 条 は, 被 相 続 人 が 常 居所 をもつ 国 の 当 局 が 証 明 書 を 発 行 するものと 定 めているが,あくまで 証 明 書 の 発 行 権 限 を 定 めるに 過 ぎず, 相 続 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 を 定 めるものではない。(2) EU 相 続 規 則 提 案相 続 準 拠 法 が 日 本 法 となることを 前 提 として 遺 産 分 割 調 停 が 行 われた)。35本 審 判 は, 遺 産 分 割 は 相 続 準 拠 法 である 韓 国 法 によるとした。そして, 韓 国 には 日 本 民 法 906 条 に 相 当 する 規 定 がないが,その 趣 旨 に 則 り, 当 事 者 の 希 望 に 応 じて 遺 産 の 一 部 の 不 動 産 につき 共 有 による 分 割 をした。9438


EU においては, 国 際 相 続 事 件 に 関 する 国 際 裁 判 管 轄 , 準 拠 法 ,そして 外 国 裁 判 の 承 認 執 行に 関 する EU 相 続 規 則 を 制 定 する 予 定 で 作 業 が 進 められており,2009 年 には 委 員 会 提 案 が 公 表 されている 36 。EU 相 続 規 則 提 案 第 4 条 は,まず 被 相 続 人 が 死 亡 当 時 に 常 居 所 を 有 していた 構 成 国 の 裁 判 所が 一 般 管 轄 権 (general jurisdiction)をもつことを 定 めている。次 に, 第 5 条 によれば, 第 17 条 に 基 づいて 被 相 続 人 が 相 続 準 拠 法 を 選 択 した 場 合 に, 第 4条 によって 一 般 管 轄 権 をもつ 裁 判 所 は,その 準 拠 法 所 属 国 の 裁 判 所 のほうが 当 該 相 続 事 件 について 裁 判 手 続 を 行 うのにより 適 していると 判 断 する 場 合 には, 当 事 者 による 申 立 てを 要 件 として,手 続 を 中 止 し, 当 事 者 に 対 して 当 該 構 成 国 の 裁 判 所 に 申 立 てをするよう 促 すことができる( 第 1項 )。ただし, 第 4 条 に 基 づいて 一 般 管 轄 権 をもつ 裁 判 所 は, 当 事 者 が 当 該 構 成 国 の 裁 判 所 に 申 立てをする 期 限 を 設 定 しなければならず, 期 限 内 に 申 立 てがなされなければ, 手 続 を 再 開 するものとされている( 第 2 項 )。 他 方 , 準 拠 法 所 属 国 の 裁 判 所 は, 第 2 項 に 基 づいて 当 事 者 の 申 立 てを 受けてから 8 週 間 以 内 に, 管 轄 権 を 行 使 することを 宣 言 しなければならない。その 宣 言 がなされれば, 最 初 に 申 立 てを 受 理 した 裁 判 所 は 自 らの 管 轄 を 否 定 することに,そうでなければ, 引 き 続 き管 轄 権 を 行 使 することになる( 第 3 項 )。さらに, 第 6 条 は, 被 相 続 人 が 死 亡 当 時 , 構 成 国 以 外 の 第 三 国 に 常 居 所 を 有 していた 場 合 であっても, 相 続 財 産 が 所 在 している 構 成 国 であって, 以 下 のいずれかの 要 件 を 満 たすものは 管 轄をもつとしている。 具 体 的 には,(a) 被 相 続 人 が 過 去 5 年 間 の 間 にその 構 成 国 に 常 居 所 をもっていたこと,(b) 被 相 続 人 が 死 亡 当 時 にその 国 の 国 籍 を 有 していたこと,(c) 相 続 人 又 は 受 遺 者 の 一 人 がその 構 成 国 に 常 居 所 をもっていること,あるいは(d)その 申 立 てが 当 該 財 産 だけを 対 象 としているという 要 件 のいずれかが 満 たされれば, 財 産 所 在 地 の 管 轄 が 肯 定 される。第 7 条 は, 第 4~ 第 6 条 に 基 づいて 管 轄 をもつ 裁 判 所 は,EU 相 続 規 則 の 事 項 的 適 用 範 囲 に 含まれる 反 訴 についても 管 轄 をもつと 定 めている。さらに, 第 8 条 は, 相 続 ないし 遺 贈 の 承 認 又 は 放 棄 に 関 する 申 述 ,あるいは 相 続 人 又 は 受 遺者 の 責 任 制 限 を 目 的 とする 申 述 が 裁 判 所 において 行 われるべき 場 合 には, 相 続 人 又 は 受 遺 者 が 常居 所 を 有 している 構 成 国 の 裁 判 所 が 管 轄 をもつとしている。そのほか 第 9 条 は, 相 続 財 産 の 所 在 地 である 構 成 国 の 法 が, 財 産 の 移 転 ,その 登 記 簿 への 登記 又 は 移 転 登 記 を 行 うに 当 たって 裁 判 所 の 関 与 を 要 件 としている 場 合 には, 当 該 構 成 国 の 裁 判 所は,それらの 措 置 をとるための 管 轄 をもつと 定 めている。36 Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on jurisdiction, applicable law recognitionand enforcement of decisions and authentic instruments in matters of succession and the creation of of a EuropeanCertificate of Succession, 14.10.2009, COM (2009) 154 final.10439


(3) ヨーロッパ 各 国ドイツについては, 従 来 , 非 訟 事 件 としての 相 続 及 び 遺 産 分 割 事 件 の 国 際 裁 判 管 轄 は, 判 例法 理 によって「 並 行 の 原 則 」に 従 っており,EGBGB 第 25 条 第 1 項 によってドイツ 法 が 準 拠 法 となる 場 合 にだけドイツ 裁 判 所 の 管 轄 が 認 められるとされていた。しかし,2008 年 FamFG の 制 定に 伴 い,その 立 場 は 放 棄 されている。 現 在 では,FamFG 第 105 条 に 従 い, 土 地 管 轄 に 関 する FamFG第 343 条 及 び 第 344 条 の 規 定 を 準 用 することで 国 際 裁 判 管 轄 ルールが 導 られる。FamFG 第 343 条の 準 用 によって,ドイツ 相 続 裁 判 所 は,1 被 相 続 人 が 最 後 の 住 所 をドイツに 有 していたとき,2被 相 続 人 がドイツ 人 であったとき,3 相 続 財 産 が 内 国 に 所 在 している 場 合 に 管 轄 をもつ。他 方 , 遺 言 に 関 わる 特 殊 な 問 題 については,FamFG 第 344 条 の 準 用 によって, 主 として 以 下の 管 轄 原 因 が 認 められる。1 公 的 機 関 による 特 別 な 遺 言 書 の 保 管 (Verwahrung)は, 公 正 証 書 遺言 については, 公 証 人 が 本 拠 をもつ 地 を 管 区 とする 裁 判 所 (FamFG 第 344 条 第 1 項 第 1 号 ), 遺 言 が市 区 町 村 長 の 面 前 で 作 成 された 場 合 には,その 市 区 町 村 長 を 管 区 とする 裁 判 所 ( 同 第 2 号 )の 管轄 に 属 する。BGB 第 2247 条 に 基 づく 自 筆 証 書 遺 言 については,あらゆる 裁 判 所 が 管 轄 をもつのが 原 則 である( 同 第 3 号 )。 相 続 契 約 書 の 保 管 もそれに 準 ずる(FamFG 第 344 条 第 3 項 )。2 相 続 財産 の 保 全 (Sicherung)については,その 保 全 の 必 要 性 が 存 する 管 区 の 裁 判 所 が 管 轄 をもつ( 同 条第 4 項 )。3 夫 婦 財 産 制 について 共 有 制 がとられており, 夫 婦 総 括 財 産 の 一 部 が 相 続 財 産 に 帰 属 している 場 合 の 夫 婦 総 括 財 産 の 分 割 については, 原 則 として 遺 産 分 割 を 行 う 裁 判 所 が 管 轄 をもつ( 同条 第 5 項 )。4FamFG 第 343 に 定 める 以 外 の 裁 判 所 が 終 意 処 分 証 書 を 保 管 している 場 合 には,その裁 判 所 が 終 意 処 分 を 開 始 するための 管 轄 をもつ( 同 条 第 6 項 )。5 相 続 放 棄 又 は 相 続 放 棄 の 取 消 しの 意 思 表 示 については, 相 続 放 棄 を 行 う 者 又 はその 取 消 しを 行 う 者 が 住 所 をもつ 管 区 の 相 続 裁 判所 も 管 轄 をもつ( 同 条 第 7 項 ) 37 。オーストリアの JN 第 106 条 によれば, 以 下 の 場 合 に 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる。すなわち,1オーストリア 国 内 に 不 動 産 が 所 在 しているとき( 同 第 1 項 第 1 号 ),2オーストリア 国 内 に 動 産が 所 在 しているとき(ただし, 被 相 続 人 が 最 後 にオーストリア 国 籍 を 有 していた 場 合 ,オーストリアに 最後 の 常 居 所 を 有 していた 場 合 ,あるいは 外 国 での 相 続 権 , 遺 留 分 減 殺 請 求 権 等 の 行 使 が 不 可 能 である 場 合 に限 られる: 同 第 2 号 a)~c)),3 外 国 に 動 産 が 所 在 しているとき(ただし, 被 相 続 人 が 最 後 にオーストリア 国 籍 を 有 しており,しかもオーストリアに 最 後 の 常 居 所 を 有 していたとき 又 は 外 国 での 相 続 権 , 遺 留 分 減殺 請 求 権 等 の 行 使 が 不 可 能 であるときに 限 られる( 同 第 3 号 a)~b)) 38 。 他 方 , 外 国 所 在 の 不 動 産 については 特 段 の 規 定 がなく,おそらくは 管 轄 を 否 定 する 趣 旨 であろうと 解 される。フランスにおいては, 相 続 に 関 する 訴 訟 について, 土 地 管 轄 に 関 する NCPC45 条 の 規 定 を 援用 することで, 相 続 人 間 の 請 求 , 被 相 続 人 の 債 権 者 による 請 求 , 死 因 処 分 の 履 行 に 関 する 請 求 に37相 続 証 書 に 関 する 問 題 その 他 の 詳 細 については,ドイツに 関 する 調 査 報 告 73 頁 以 下 参 照 。38 オーストリアに 関 する 調 査 報 告 参 照 。11440


ついて, 相 続 開 始 地 ,すなわち 被 告 の 最 後 の 住 所 地 の 裁 判 所 に 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めている。フランス 裁 判 所 は,たとえ 相 続 がフランスにおいて 開 始 しても, 外 国 に 所 在 する 不 動 産 については 管轄 をもたない。それに 対 して, 外 国 で 相 続 が 開 始 しても,フランスに 所 在 する 不 動 産 については,フランスの 裁 判 所 に 管 轄 があるとされている 39 。スイスにおいては,1 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 がスイスにあれば, 相 続 財 産 全 体 についてスイスの 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められる(IPRG 第 86 条 第 1 項 )。ただし, 外 国 の 不 動 産 所 在 地 が 専 属 管轄 をもつ 場 合 には,その 限 りでない( 同 2 項 )。2 外 国 在 住 であったスイス 人 被 相 続 人 に 関 して 外国 当 局 が 必 要 な 手 続 をとらない 場 合 にも, 管 轄 が 認 められる(IPRG 第 87 条 第 1 項 )。また, 被 相続 人 がスイス 所 在 の 財 産 又 は 相 続 財 産 全 体 について,スイスの 国 際 裁 判 管 轄 又 はスイス 法 を 選 択した 場 合 にも 管 轄 が 認 められる(ただし, 外 国 の 不 動 産 所 在 地 が 専 属 管 轄 をもつ 場 合 を 除 く〔 同 条 第 2項 〕)。3 外 国 在 住 であった 外 国 人 被 相 続 人 について, 外 国 当 局 が 必 要 な 手 続 をとらない 場 合 には,スイス 所 在 の 相 続 財 産 について 管 轄 が 認 められる(IPRG 第 88 条 第 1 項 )。なお, 外 国 在 住 であった 被 相 続 人 がスイスに 相 続 財 産 を 遺 して 死 亡 した 場 合 には, 所 在 地 の 裁 判 所 が 保 全 処 分 を 行 うための 管 轄 をもつ(IPRG 第 89 条 ) 40 。(4) その 他中 国 においては, 民 事 訴 訟 法 34 条 第 3 号 によれば,「 相 続 財 産 に 係 る 紛 争 について 提 起 される 訴 訟 」は, 被 相 続 人 の 死 亡 時 の 住 所 地 又 は 主 要 な 遺 産 の 所 在 地 の 人 民 法 院 の 専 属 管 轄 に 属 する 41 。韓 国 においては, 相 続 に 関 する 事 件 は 相 続 開 始 地 の 家 庭 法 院 が, 遺 言 に 関 する 事 件 は 相 続 開始 地 の 家 庭 法 院 の 管 轄 に 属 する。ただし, 民 法 第 1070 条 第 2 項 による 遺 言 の 検 認 事 件 は, 相 続 開始 地 又 は 遺 言 者 住 所 地 の 家 庭 法 院 の 管 轄 に 属 するという 42 。4. 考 察(1) 一 般 的 な 管 轄 原 因(a) 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地わが 国 の 多 数 説 によれば, 相 続 財 産 管 理 人 の 選 任 , 遺 産 分 割 , 遺 言 の 検 認 , 遺 言 執 行 者 の 選任 等 の 問 題 について, 被 相 続 人 が 最 後 の 住 所 ( 又 は 常 居 所 )を 日 本 に 有 していた 場 合 に, 日 本 の 国際 裁 判 管 轄 が 認 められる 43 。 一 般 に, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 が 日 本 にあり, 生 活 の 中 心 を 置 いて39 フランスに 関 する 調 査 報 告 参 照 。40 スイスに 関 する 調 査 報 告 参 照 。41中 国 に 関 する 調 査 報 告 参 照 。42韓 国 に 関 する 調 査 報 告 参 照 。43村 重 慶 一 「 渉 外 遺 産 分 割 事 件 の 裁 判 管 轄 権 とその 準 拠 法 」『 講 座 ・ 実 務 家 事 審 判 法 5・ 渉 外 関 係 事 件 』( 日本 評 論 社 ,1990 年 )289 頁 , 山 田 ・ 前 掲 書 576 頁 以 下 ,Takami Hayashi, International Succession in Japan, in: Japanese12441


いた 場 合 には, 相 続 財 産 も 日 本 に 所 在 しており, 相 続 人 や 相 続 債 権 者 も 日 本 に 所 在 しているのが通 常 である。このような 場 合 には, 日 本 において 遺 産 分 割 その 他 の 手 続 を 行 うことで, 裁 判 所 が適 正 な 遺 産 の 範 囲 確 定 ・ 評 価 を 行 い, 公 告 ・ 催 告 等 の 手 続 を 行 い, 共 同 相 続 人 間 の 平 等 を 図 り,利 害 関 係 人 に 対 する 分 配 を 含 めた 遺 産 分 割 の 安 定 性 を 実 現 することができると 解 されている。この 考 え 方 は, 上 述 のように, 民 事 訴 訟 法 第 3 条 の 3 第 12 号 及 び 第 13 号 とも 整 合 的 である。また,比 較 法 的 にも, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 に 一 般 的 管 轄 を 認 める 例 は 多 く,EU 相 続 規 則 提 案 第 4条 のほか,ドイツ FamFG 第 105 条 及 び 第 343 条 第 1 項 ,スイス IPRG 第 86 条 第 1 項 ,フランス,中 国 , 韓 国 が 挙 げられる。もっとも, 仮 に 相 続 財 産 の 全 部 又 は 一 部 が 外 国 に 所 在 していた 場 合 に, 日 本 の 裁 判 所 が 相 続財 産 全 体 を 対 象 として 管 轄 権 を 行 使 しうるか 否 かは, 別 途 問 題 となる。 学 説 の 中 には, 外 国 の 不動 産 所 在 地 が 遺 産 管 理 について 専 属 管 轄 をもつ 場 合 には, 日 本 の 裁 判 所 は 外 国 所 在 の 不 動 産 の 遺産 分 割 につき 一 般 管 轄 権 をもたないとする 見 解 がある 44 。これは, 日 本 の 裁 判 所 が 事 実 上 遺 産 分割 を 行 い 得 ず, 審 判 を 下 しても,それが 外 国 の 不 動 産 所 在 地 において 承 認 される 可 能 性 がないことを 理 由 とする。また, 日 本 の 裁 判 所 が 公 平 ・ 適 切 な 資 料 をもっており,その 裁 判 が 外 国 の 財 産所 在 地 において 承 認 されうることを 要 件 として, 外 国 所 在 の 財 産 を 含 めて 相 続 財 産 全 体 に 管 轄 権が 及 ぶとする 見 解 もある 45 。それに 対 して, 多 数 説 は, 日 本 の 裁 判 所 の 管 轄 権 が 及 ぶ 範 囲 を 限 定 すべきではないとしている 46 。その 理 由 として, 多 数 説 は,わが 国 の 国 際 私 法 が 相 続 統 一 主 義 によっており( 法 の 適 用 に 関する 通 則 法 第 36 条 ), 相 続 関 係 の 画 一 的 かつ 統 一 的 な 規 律 を 旨 としていること,また 遺 産 関 係 者 間の 公 平 に 配 慮 すべきことを 指 摘 する。 特 に 被 相 続 人 の 積 極 財 産 と 消 極 財 産 が 複 数 の 国 に 分 かれて所 在 している 場 合 に, 各 所 在 地 ごとに 対 象 を 限 定 して 遺 産 分 割 を 行 うとなると, 手 続 が 煩 雑 になるだけではなく, 遺 産 関 係 者 間 の 公 平 が 図 られず, 不 当 な 結 果 となりうる。そこで, 遺 産 分 割 のような 相 続 事 件 においても, 国 際 倒 産 における 普 及 主 義 と 同 様 に, 財 産 の 所 在 地 を 問 うことなく相 続 財 産 全 体 について 管 轄 権 を 行 使 すべきであるという 47 。その 場 合 に, 実 効 性 の 面 で 問 題 は 残るが, 遺 産 分 割 の 実 体 的 判 断 においてその 点 を 考 慮 するという 見 解 もある 48 。この 点 については,上 記 の 民 事 訴 訟 法 第 3 条 の 3 第 12 号 及 び 第 13 号 が, 国 内 土 地 管 轄 に 関 する 第 5 条 第 15 号 とは 異なって, 日 本 における 財 産 の 所 在 を 要 件 としていないことも 参 考 になろう。Yearbook of International Law 52 (2009), p. 439.44早 田 芳 郎 「 相 続 」 山 田 鐐 一 ・ 澤 木 敬 郎 編 『 国 際 私 法 演 習 』( 有 斐 閣 ,1973 年 )184 頁 以 下 。45 あき 場 準 一 ・ジュリ 315 号 (1965 年 )116 頁 。46林 貴 美 「 在 日 ブラジル 人 の 相 続 をめぐる 諸 問 題 」 野 田 愛 子 ・ 梶 村 太 一 編 『 新 家 族 法 実 務 大 系 ・ 第 4 巻 〔 相続 II: 遺 言 ・ 遺 留 分 〕』( 新 日 本 法 規 ,2008 年 )528 頁 以 下 , 村 重 ・ 前 掲 論 文 289 頁 , 山 田 ・ 前 掲 書 577 頁 ,Hayashi, op.cit., pp. 441 et seq.ほか。47林 ・ 前 掲 論 文 529 頁 ,Hayashi, op.cit., pp. 441 et seq.48山 田 ・ 前 掲 書 588 頁 。13442


わが 国 の 裁 判 例 においても, 一 般 に, 財 産 所 在 地 如 何 を 問 うことなく, 相 続 財 産 全 体 を 対 象として 管 轄 権 が 行 使 されている 49 。 特 に 前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 14 年 3 月 5 日 民 集 57 巻 6 号 708 頁は, 在 日 韓 国 人 である 被 相 続 人 が 日 本 と 韓 国 に 財 産 を 遺 して 死 亡 した 事 件 である。 相 続 人 らは,わが 国 において 相 続 放 棄 の 申 述 をしたが, 実 際 には 韓 国 に 所 在 する 相 続 財 産 を 隠 匿 していた。そして, 相 続 人 らが,わが 国 での 相 続 放 棄 の 効 力 は 韓 国 所 在 の 財 産 に 及 ばないと 主 張 したのに 対 して, 本 判 決 はそれを 容 れず,わが 国 国 際 私 法 が 相 続 統 一 主 義 によっており, 相 続 人 らの 行 為 が,相 続 準 拠 法 である 韓 国 法 上 法 定 単 純 承 認 事 由 に 該 当 する 以 上 は, 相 続 放 棄 の 効 力 は 認 められないとしている 50 。比 較 法 的 に 見 ると,EU 相 続 規 則 提 案 第 4 条 における 一 般 管 轄 権 は, 財 産 所 在 地 の 如 何 を 問わず 行 使 されうると 解 される。また,ドイツにおいては, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 (FamFG 第 105条 及 び 第 343 条 第 1 項 ) 又 は 国 籍 (FamFG 第 343 条 第 2 項 )に 基 づく 管 轄 権 は 包 括 的 であるとされ,外 国 所 在 の 相 続 財 産 にも 及 ぶとされている 51 。それに 対 して,フランス 及 びオーストリアは, 外国 所 在 の 不 動 産 については, 自 国 の 管 轄 を 否 定 する 趣 旨 であると 解 される。また,スイスも, 外国 の 不 動 産 所 在 地 が 専 属 管 轄 をもつ 場 合 には 管 轄 権 が 及 ばないとしており(IPRG 第 86 条 第 1・ 第 2項 ), 不 動 産 所 在 地 の 公 益 に 配 慮 して 管 轄 権 を 制 限 している。(b) 相 続 財 産 所 在 地わが 国 の 多 数 説 は, 相 続 財 産 管 理 人 の 選 任 , 遺 産 分 割 , 遺 言 の 検 認 , 遺 言 執 行 者 の 選 任 等 の問 題 について, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 以 外 に, 相 続 財 産 が 日 本 に 所 在 していた 場 合 にも 国 際 裁49相 続 財 産 管 理 人 の 事 案 として, 神 戸 家 審 昭 和 56 年 9 月 21 日 家 月 34 巻 7 号 89 頁 (オーストラリア 人 被 相続 人 は 香 港 に 預 金 債 権 ),フランス 副 総 領 事 による 遺 言 の 検 認 が 申 立 てられた 事 案 として, 神 戸 家 審 昭 和 57年 7 月 15 日 (フランス 人 被 相 続 人 はスイスに 預 金 債 権 )。そのほか 大 判 昭 和 9 年 6 月 5 日 民 集 13 巻 968 頁(ハワイに 所 在 する 相 続 財 産 をめぐる 争 いにおいて, 遺 言 無 効 確 認 が 請 求 された 事 件 ( 消 極 )), 大 阪 地 判 昭和 62 年 2 月 27 日 判 時 1263 号 32 頁 ( 米 国 カリフォルニア 州 において 交 通 事 故 に 遭 った 被 害 者 が 死 亡 した 加害 者 の 相 続 人 である 両 親 に 対 して 損 害 賠 償 を 請 求 した 事 件 。 法 例 11 条 1 項 によって 本 件 不 法 行 為 の 準 拠 法となる 米 国 カリフォルニア 州 法 は, 本 件 債 務 の 相 続 性 を 否 定 していることを 理 由 に 請 求 棄 却 )も 参 照 。50反 対 に, 韓 国 においては, 平 成 17 年 11 月 10 日 にソウル 家 庭 法 院 によって, 遺 産 分 割 の 効 力 が 及 ぶ 範 囲を 属 地 的 に 限 定 する 判 断 が 下 されている。 本 件 においては, 日 本 在 住 の 韓 国 人 被 相 続 人 が 日 本 と 韓 国 の 双 方に 財 産 を 遺 して 死 亡 しており, 相 続 人 の 居 住 地 も 日 本 と 韓 国 に 分 かれていた。 韓 国 に 居 住 する 相 続 人 がソウル 家 庭 法 院 に 日 本 に 所 在 する 財 産 を 含 めて 相 続 財 産 全 体 について 遺 産 分 割 を 行 うよう 申 し 立 てたところ, 家庭 法 院 は 日 本 に 所 在 する 財 産 は 対 象 外 となるとした。その 理 由 として, 日 本 に 所 在 する 財 産 に 関 する 必 要 な証 拠 は 日 本 にあるため( 不 動 産 の 価 額 , 抵 当 権 その 他 の 債 権 を 満 足 させるのに 必 要 な 額 など), 韓 国 裁 判 所が 適 切 かつ 迅 速 に 判 断 することはできないこと,また, 相 手 方 は 公 示 送 達 によって 呼 出 しを 受 けたために,韓 国 裁 判 所 が 下 す 裁 判 は 日 本 で 承 認 され 得 ないことを 挙 げているという。 金 「 相 続 財 産 分 割 事 件 の 国 際 裁 判管 轄 」 国 際 商 事 法 務 34 巻 4 号 (2006 年 )544 頁 以 下 ( 未 確 認 ),Hayashi, op.cit., p. 441 参 照 。51 ドイツに 関 する 調 査 報 告 75 頁 参 照 。14443


判 管 轄 を 認 めている 52 。これは, 相 続 財 産 の 所 在 地 には, 登 記 等 の 証 拠 が 集 中 し, 利 害 関 係 人 の便 宜 が 図 られることを 理 由 としている 53 。もっとも, 立 法 論 としても, 端 的 にわが 国 が 相 続 財 産 所 在 地 であるというだけで 国 際 裁 判 管轄 を 認 めてよいか,またその 場 合 に 外 国 に 所 在 する 財 産 も 含 めて 相 続 財 産 全 体 に 管 轄 権 が 及 ぶと扱 いうるかは, 別 途 検 討 すべきであろう。 後 者 の 点 については, 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 第 6 条は, 失 踪 宣 告 について, 不 在 者 が 日 本 の 国 籍 又 は 住 所 をもっていた 場 合 にはわが 国 の 一 般 管 轄 を認 めるが( 第 1 項 ), 不 在 者 の 財 産 所 在 地 を 根 拠 とする 特 別 管 轄 については( 第 2 項 前 段 ), 実 効 性及 び 外 国 との 調 整 に 配 慮 して 日 本 に 所 在 する 財 産 に 対 象 を 限 定 しており, 参 考 になる。比 較 法 的 には,ドイツは, 端 的 に 財 産 所 在 地 の 管 轄 を 認 めている(FamFG 第 105 条 及 び 第 343条 第 3 項 )。ただし,FamFG の 立 法 者 は, 財 産 所 在 地 管 轄 も, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 又 は 国 籍 に 基づく 管 轄 と 同 様 に 包 括 的 な 管 轄 原 因 であり, 外 国 所 在 の 相 続 財 産 にも 及 ぶと 考 えていたようであるが, 学 説 は,ドイツにおける 財 産 の 所 在 自 体 を 管 轄 原 因 とする 以 上 は, 内 国 所 在 の 財 産 に 対 象が 限 定 されると 解 釈 している 54 。それに 対 して,EU 相 続 規 則 提 案 第 6 条 は,EU 以 外 の 第 三 国 に 常 居 所 をもっていた 被 相 続 人について, 相 続 財 産 が 所 在 している 構 成 国 の 管 轄 を 認 めるための 要 件 を 加 重 している。 具 体 的 には,(a) 被 相 続 人 が 過 去 5 年 の 間 にその 構 成 国 に 常 居 所 をもっていたこと,(b) 被 相 続 人 が 死 亡 当 時その 国 籍 をもっていたこと,(c) 相 続 人 又 は 受 遺 者 の 一 人 がその 構 成 国 に 常 居 所 をもっていること,あるいは(d)その 申 立 てが 当 該 財 産 だけを 対 象 とすることといういずれかの 要 件 が 満 たされて 初めて, 財 産 所 在 地 の 管 轄 が 認 められる。また,オーストリア JN 第 106 条 によれば, 内 国 所 在 の 不 動 産 については 常 に 管 轄 が 認 められるのに 対 して, 内 国 所 在 の 動 産 については, 被 相 続 人 がオーストリア 人 であったこと, 国 内 に最 後 の 常 居 所 を 有 していたこと,あるいは 外 国 での 相 続 権 等 の 行 使 が 不 可 能 であることといういずれかの 要 件 が 満 たされて 初 めて 管 轄 が 肯 定 される。スイスも, 外 国 に 住 所 を 有 していた 被 相 続人 についてスイスに 財 産 所 在 地 としての 管 轄 を 認 めるのに, 被 相 続 人 がスイス 国 籍 でしかもスイスの 裁 判 管 轄 又 はスイス 法 を 選 択 していること,あるいは 外 国 当 局 が 必 要 な 措 置 をとらないことを 要 件 としている(IPRG 第 86~ 第 88 条 )。(c) 本 国 管 轄5253村 重 ・ 前 掲 論 文 289 頁 , 山 田 ・ 前 掲 書 576 頁 以 下 ほか。江 泉 芳 信 「 日 本 人 の 海 外 資 産 の 相 続 をめぐる 諸 問 題 」 野 田 愛 子 ・ 梶 村 太 一 編 『 新 家 族 法 実 務 大 系 ・ 第 4 巻〔 相 続 II: 遺 言 ・ 遺 留 分 〕』( 新 日 本 法 規 ,2008 年 )539 頁 。54 ドイツに 関 する 調 査 報 告 75 頁 参 照 。15444


被 相 続 人 が 日 本 人 であった 場 合 の 本 国 管 轄 の 可 能 性 については, 立 場 が 分 かれている。 上 述のように 55 , 比 較 的 古 い 学 説 は,「 並 行 の 原 則 」に 従 い, 原 則 として 相 続 準 拠 法 が 日 本 法 である 場合 にのみわが 国 の 国 際 裁 判 管 轄 が 認 められるとしていた 56 。 裁 判 例 においても,「 並 行 の 原 則 」に従 い, 原 則 的 な 管 轄 が 本 国 に 認 められることを 前 提 とするものがある 57 。 近 時 では, 一 般 にわが国 国 際 私 法 が 被 相 続 人 の 本 国 法 を 準 拠 法 としている 趣 旨 に 鑑 みて,わが 国 の 本 国 管 轄 を 認 めるとする 説 もある 58 。個 別 の 問 題 ごとに 見 ると, 特 に 相 続 財 産 管 理 人 の 選 任 について, 被 相 続 人 の 本 国 にはしばしば 相 続 人 や 縁 故 者 が 存 在 すること,また 相 続 財 産 が 残 されている 外 国 では 相 続 財 産 管 理 人 が 選 任されない 場 合 がありうることを 理 由 に, 本 国 管 轄 を 認 める 学 説 がある 59 。また, 非 訟 事 件 においては 準 拠 法 と 管 轄 権 が 密 接 に 関 係 していることを 理 由 に, 遺 言 書 の 検 認 について 60 ,あるいはそれに 加 えて 遺 言 執 行 者 の 選 任 についても 61 本 国 管 轄 を 認 める 学 説 もある。それに 対 して, 遺 産 分割 については, 被 相 続 人 の 住 所 地 及 び 財 産 所 在 地 のみに 管 轄 を 認 め, 本 国 管 轄 を 否 定 する 学 説 が多 いようである 62 。比 較 法 的 には,ドイツが 端 的 に 本 国 管 轄 を 認 めているが(FamFG 第 105 条 及 び 第 343 条 ),それ 以 外 の 例 はあまり 見 られないようである。EU 相 続 規 則 提 案 第 6 条 やオーストリア JN 第 106 条 ,スイス IPRG 第 87 条 においては, 国 籍 は, 財 産 所 在 地 管 轄 等 を 認 める 際 の 考 慮 要 素 として, 間 接的 に 援 用 されるにとどまっている。(2) 特 別 な 管 轄 原 因(a) 遺 言 の 検 認わが 国 では, 遺 言 の 検 認 の 国 際 裁 判 管 轄 については, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 及 び 相 続 財 産の 所 在 地 という 管 轄 原 因 に 加 えて, 遺 言 書 が 物 理 的 に 所 在 する 地 にも 管 轄 を 認 めるとするのが 現在 の 多 数 説 である 63 。これは, 遺 言 の 検 認 が 遺 言 書 の 存 在 を 確 認 し, 遺 言 書 の 偽 造 ・ 変 造 を 防 止し, 遺 言 書 を 確 実 に 保 存 するための 一 種 の 認 証 手 続 又 は 証 拠 保 全 手 続 であるため, 現 実 に 遺 言 書が 所 在 している 地 の 裁 判 所 が 手 続 を 行 うのに 適 していることを 理 由 とする。5556575859606162上 述 2 参 照 。川 上 ・ 前 掲 論 文 966 頁 , 実 方 ・ 前 掲 書 400 頁 ( 未 確 認 )。前 掲 ・ 東 京 家 審 昭 和 52 年 7 月 19 日 ほか。加 藤 令 造 「 外 国 人 預 金 者 の 死 亡 と 相 続 問 題 」 金 融 法 務 事 情 516 号 6 頁 , 野 村 ・ 前 掲 論 文 428 頁 。鳥 居 淳 子 『 渉 外 判 例 百 選 〔 第 三 版 〕』( 有 斐 閣 ,1995 年 )172 頁 以 下 。山 田 ・ 前 掲 書 591 頁 。木 棚 照 一 『 国 際 相 続 法 の 研 究 』( 有 斐 閣 ,1995 年 )399 及 び 402 頁 , 野 村 ・ 前 掲 論 文 429 頁 。村 重 ・ 前 掲 論 文 289 頁 , 山 田 ・ 前 掲 書 576 頁 以 下 ,Hayashi, op.cit., p. 439.63 あき 場 準 一 「 遺 言 の 検 認 」『 国 際 私 法 の 争 点 〔 新 版 〕』( 有 斐 閣 ,1996 年 )210 頁 , 矢 澤 昇 治 『 国 際 私 法 判例 百 選 〔 新 法 対 応 補 訂 版 〕』( 有 斐 閣 ,2007 年 )155 頁 , 横 山 潤 『 渉 外 判 例 百 選 〔 第 3 版 〕』( 有 斐 閣 ,1995年 )176 頁 以 下 ,Hayashi, op.cit., p. 439. 織 田 有 基 子 「 遺 言 の 検 認 ・ 確 認 ―― 日 本 の 裁 判 所 による 遺 言 執 行 者の 選 任 ・ 権 限 ――」 判 タ 1100 号 (2002 年 )486 頁 も 参 照 。16445


もっとも, 遺 言 書 の 所 在 地 の 管 轄 を 認 めるとしても, 他 の 管 轄 原 因 を 排 除 する 趣 旨 ではない。多 数 説 は,1 遺 言 書 の 所 在 地 のほか, 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 及 び 財 産 所 在 地 の 管 轄 を 認 める。他 方 ,2 遺 言 書 の 所 在 地 及 び 被 相 続 人 の 最 後 の 住 所 地 に 管 轄 を 認 める 説 64 ,あるいは31に 加 えて, 非 訟 事 件 においては 準 拠 法 と 管 轄 が 密 接 に 関 連 していることを 理 由 に, 被 相 続 人 の 本 国 の 管轄 を 認 める 説 65 もある。 比 較 的 古 い 学 説 として,4「 並 行 の 原 則 」に 従 い, 原 則 として 相 続 準 拠法 が 日 本 法 である 場 合 にのみ 管 轄 を 認 める 立 場 があるのは, 上 述 のとおりである 66 。(b) 限 定 承 認 ・ 相 続 放 棄 等 の 申 述相 続 人 らによる 限 定 承 認 や 相 続 放 棄 等 について, 限 定 承 認 や 相 続 放 棄 等 の 申 述 自 体 は 法 律 行為 ( 単 独 行 為 )であるため,その 実 質 は 相 続 準 拠 法 によって( 法 の 適 用 に 関 する 通 則 法 第 36 条 ), 方式 は 相 続 準 拠 法 又 は 行 為 地 法 によって( 同 第 10 条 ) 規 律 される。また, 外 国 でなされた 限 定 承 認や 相 続 放 棄 等 の 効 力 についても, 民 事 訴 訟 法 第 118 条 によるのではなく, 法 律 行 為 の 実 質 及 び 方式 の 準 拠 法 に 照 らしてその 要 件 が 具 備 されているか 否 かを 基 準 とすることになる 67 。もっとも, 限 定 承 認 や 相 続 放 棄 等 の 申 述 に 裁 判 所 が 関 与 するかぎりは,どの 国 の 裁 判 所 がどの 範 囲 で 国 際 裁 判 管 轄 をもつか 問 題 となる 68 。 基 本 的 には, 他 の 国 際 相 続 事 件 と 平 仄 を 合 わせて,被 相 続 人 の 住 所 地 又 は 相 続 財 産 の 所 在 地 に 管 轄 を 認 めるのが 多 数 説 であるが 69 ,それ 以 外 にも,相 続 人 の 住 所 地 に 管 轄 を 認 めることも 検 討 されてよいであろう。 特 に 限 定 承 認 や 相 続 放 棄 等 には比 較 的 短 期 の 期 限 が 付 されるため, 相 続 人 の 便 宜 を 考 慮 すれば, 申 述 を 行 いやすい 相 続 人 の 住 所地 の 管 轄 を 認 めることにも 十 分 な 理 由 がある( 上 掲 ・ 東 京 家 審 昭 和 52 年 7 月 19 日 は, 基 本 的 には 申 述人 の 住 所 が 日 本 にあることに 着 目 して, 国 際 裁 判 管 轄 を 認 めたものと 解 される)。EU 相 続 規 則 提 案 第 8条 及 びドイツ FamFG 第 105 条 ・ 第 344 条 第 7 項 も, 相 続 ないし 遺 贈 の 承 認 又 は 放 棄 等 に 関 する申 述 の 受 理 について, 相 続 人 又 は 受 遺 者 の 常 居 所 地 / 住 所 地 の 管 轄 を 認 めている。しかし, 他 方 で, 複 数 の 相 続 人 らが 各 々 異 なる 国 に 居 住 している 場 合 に, 各 々の 国 の 裁 判 所が 限 定 承 認 や 相 続 放 棄 等 の 申 述 を 受 理 する 管 轄 をもつとすると, 相 続 人 が 互 いに 不 知 のまま 並 行して 手 続 が 進 み, 相 続 財 産 の 清 算 の 統 一 性 が 図 られないおそれもある。 相 続 人 の 住 所 地 管 轄 を 認める 可 能 性 については,メリットとデメリットを 勘 案 したうえで 慎 重 に 検 討 する 必 要 があろう。6465久 保 岩 太 郎 「 遺 言 」『 国 際 私 法 講 座 〔 第 2 巻 〕』( 有 斐 閣 ,1955 年 )680 頁 。木 棚 ・ 前 掲 書 398 頁 , 山 田 ・ 前 掲 書 591 頁 。ただし, 木 棚 ・ 前 掲 書 399 頁 は, 相 続 準 拠 法 とわが 国 の 検 認手 続 が 調 和 し,わが 国 の 裁 判 所 が 準 拠 法 上 予 定 された 手 続 を 行 いうることを 要 件 としている。66上 述 2 参 照 。6768南 敏 文 「 渉 外 相 続 放 棄 と 限 定 承 認 申 述 の 受 理 」 判 タ 1100 号 (2002 年 )433 頁 参 照 。山 田 ・ 前 掲 書 577 頁 以 下 。69 あき 場 準 一 「 相 続 限 定 承 認 申 述 事 件 の 準 拠 法 と 国 際 的 管 轄 」ジュリ 696 号 285 頁 ( 未 確 認 ), 山 田 ・ 前 掲書 578 頁 。17446

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