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構造化箱庭療法の有効性に関する検討 ―量的データの ... - 東京成徳大学

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構 造 化 箱 庭 療 法 の 有 効 性 に 関 する 検 討― 量 的 データの 分 析 から―松 浦加 地鎌 田*隆 信雄 一弥 生*****The Effect of Structured Sandplay Therapy− Analysis of Quantitative Data −Takanobu MATSUURAYuichi KAJIYayoi KAMATA問 題 と 目 的箱 庭 療 法 は 砂 箱 を 用 いて,その 中 にミニチュアを 置 いて 自 己 の 内 的 世 界 を 表 現 する 心 理 療 法 である。 箱 庭 療 法 はLowenfeldが1929 年 に 考 案 し(Lowenfeld,1939), 河 合 が1965 年 に 日 本 で 実 践 を 行いはじめた( 河 合 ,1966)。 箱 庭 療 法 は,ミニチュアを 自 由 に 布 置 するという 自 由 度 の 高 い 方 法 もあって, 来 談 者 の 興 味 関 心 を 高 めつつ, 言 語 化 することが 困 難 な 感 情 表 現 を 促 すツールとして 臨 床 場面 での 有 用 性 が 高 い 技 法 であると 言 えよう。しかし, 箱 庭 療 法 には 施 行 に 向 けた 興 味 関 心 を 高 める 機能 があると 考 えられる 反 面 ,その 自 由 度 の 高 さが 構 造 化 されていない 場 面 における 自 己 表 現 に 困 難 を示 すクライエントには 心 理 的 負 荷 をかける 可 能 性 がある。 近 年 , 箱 庭 療 法 は 幅 広 い 病 態 水 準 に 適 用 されるようになっているが,その 際 にはセラピストの 慎 重 な 適 応 決 定 の 構 えと 治 療 上 の 種 々の 工 夫 が 必要 である( 入 江 ,1998)。したがって, 箱 庭 療 法 を 原 法 通 りの 実 施 方 法 で 用 いることが 難 しいクライエントに 対 する 表 現 促 進 のための 工 夫 についてさらに 検 討 を 進 める 必 要 がある。その 一 つの 工 夫 としては, 表 現 を 促 す 際 の 方 法 を 構 造 化 し, 一 定 の 手 順 で 施 行 するという 治 療 的 工夫 が 考 えられる。 例 えば 中 井 は, 箱 庭 療 法 をヒントに 風 景 構 成 法 という 構 造 化 された 描 画 法 (サイン*Takanobu MATSUURA 臨 床 心 理 学 科 (Department of Clinical Psychology) 非 常 勤 講 師**Yuichi KAJI 福 祉 心 理 学 科 (Department of Social Work and Psychology)***Yayoi KAMATA 福 祉 心 理 学 科 (Department of Social Work and Psychology) 非 常 勤 講 師139


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 20 号 (2013)ペンで 画 用 紙 に 枠 づけをし,その 中 でセラピストが 教 示 する 通 りに 対 象 物 を 描 いていき, 風 景 画 を 完成 させる 方 法 )を1969 年 に 考 案 し, 統 合 失 調 症 患 者 に 対 しても「より 安 全 な」 技 法 であることを 確 認した( 古 野 ,2005; 皆 藤 ,1994; 中 井 ,1970)。また, 入 江 (1987)は, 箱 庭 制 作 に 抵 抗 を 示 すクライエントから 箱 庭 制 作 に 対 するテーマ 設 定 の 希 望 を 受 けて, 風 景 構 成 法 に 準 じた 作 品 制 作 の 提 案 をしたことで 製 作 を 継 続 できた 実 践 例 を 報 告 している。しかし, 風 景 構 成 法 はミニチュアを 置 いていく 箱庭 療 法 とは 施 行 方 法 が 異 なり, 具 体 物 なしで 対 象 物 を 二 次 元 の 絵 として 表 現 しなければならない 困 難さが 伴 う。 特 に, 自 閉 症 者 など「 想 像 力 」の 領 域 に 困 難 を 抱 える 発 達 障 害 クライエントは, 口 頭 による 教 示 のみでは 頭 の 中 で 具 象 物 をイメージ 化 し,そのイメージ 化 された 具 象 物 を 紙 に 書 き 記 すことが困 難 である 場 合 が 少 なくないと 考 えられる。したがって、このような 特 性 を 有 するクライエントに 対しては, 入 江 (1987)の 知 見 に 示 唆 されるような, 具 体 物 の 提 示 と 環 境 の 構 造 化 の 両 方 を 取 り 入 れる技 法 が 有 効 な 可 能 性 がある。これらの 点 について 浦 崎 (2004)は, 自 閉 症 者 に 対 する 箱 庭 療 法 施 行 の 経 験 から, 彼 らに「 枠 」を提 示 することの 意 味 として, 自 閉 症 者 の 生 きる 世 界 からの 守 りとなること,また 感 覚 的 世 界 から 意 味世 界 へと 繋 げる 媒 介 となり, 自 閉 症 者 の 象 徴 機 能 の 形 成 , 身 体 像 の 獲 得 , 身 体 基 盤 の 安 定 をもたらせる 意 義 を 指 摘 している。 以 上 の 点 から, 箱 庭 制 作 時 に 風 景 構 成 法 の 手 続 きを 援 用 し, 作 品 の 配 置 順 序という「 枠 」を 提 示 することによって, 構 造 化 が 必 要 なクライエントに 対 しても 安 定 した 環 境 の 中 で内 的 世 界 の 象 徴 機 能 を 育 め,より 豊 かな 内 的 世 界 を 表 現 できる 工 夫 が 行 えると 推 察 される。そこで 本 研 究 では, 発 達 障 害 児 者 のように 具 体 物 の 提 示 と 環 境 の 構 造 化 の 両 方 が 必 要 なクライエントへの 箱 庭 療 法 の 適 用 に 向 けて, 箱 庭 療 法 の 具 体 物 と 風 景 構 成 法 の 構 造 化 を 取 り 入 れた「 構 造 化 された 箱 庭 療 法 」の 実 施 と 有 効 性 について, 量 的 データを 用 いた 検 討 を 行 う。 特 に, 今 回 は 後 述 する3 種類 の 施 行 方 法 各 々によって 完 成 された 作 品 に 対 する 印 象 評 価 から, 作 品 制 作 においてより 豊 かな 表 現を 促 せる 実 施 方 法 について 検 討 する。方 法 を 論 じる 前 に, 本 研 究 に 関 するいくつかの 補 足 説 明 を 行 う。まず, 本 研 究 における「 構 造 化 された 箱 庭 療 法 」とは, 風 景 構 成 法 の 教 示 ( 環 境 の 構 造 化 )で 箱 庭 療 法 ( 具 体 物 の 提 示 )を 行 うことを表 す。2 点 目 に, 本 研 究 では 大 学 生 を 調 査 対 象 者 としており, 心 理 療 法 として 箱 庭 を 用 いているわけではないことから, 本 文 以 降 では 箱 庭 を 用 いた 作 品 制 作 について,「 箱 庭 療 法 」ではなく「 箱 庭 」と表 記 する。3 点 目 に, 本 研 究 は 加 地 ら(2013), 鎌 田 ら(2013)との 一 連 の 研 究 プロジェクトとして共 同 で 行 ったものである。 同 じ 調 査 対 象 者 に 対 して 得 られたデータから, 筆 者 らは 量 的 データの 分 析を, 加 地 ら(2013)は 事 例 的 分 析 を,そして 鎌 田 ら(2013)では 質 的 な 分 析 を 行 っている。方 法本 研 究 では,1 通 常 の 箱 庭 ,2 通 常 の 風 景 構 成 法 ,3 構 造 化 された 箱 庭 ,の3 条 件 を 比 較 し, 作 品制 作 においてより 豊 かな 表 現 を 促 せる 実 施 方 法 を 検 討 した。なお,これら3 条 件 は 実 験 参 加 者 内 要 因とし, 実 施 順 序 は 上 記 1から3で 行 った。調 査 対 象 者 本 研 究 では 今 後 の 発 達 障 害 等 を 抱 える 臨 床 群 への 試 験 的 適 用 の 前 段 階 として, 健 常 大学 生 10 名 ( 男 性 7 名 , 女 性 3 名 , 平 均 年 齢 20.5(SD=0.7) 歳 )を 対 象 に 実 験 を 行 った。なお, 実 験 参 加140


構 造 化 箱 庭 療 法 の 有 効 性 に 関 する 検 討 ― 量 的 データの 分 析 から―者 10 名 中 6 名 について,その 内 の5 名 は 大 学 授 業 内 で 箱 庭 を1 度 経 験 しており, 残 りの1 名 は2 度 大 学 授業 内 で 箱 庭 を 経 験 している。使 用 質 問 紙 久 米 (2010;2011) が 用 いた 箱 庭 作 品 の 評 定 のためのSD 法 (20の 形 容 詞 対 )のうち,久 米 (2010) が 因 子 分 析 結 果 をもとに 取 捨 選 択 した18 項 目 を 使 用 した(Table 1)。 項 目 の 提 示 順 序 と形 容 詞 対 の 左 右 はTable 1の 通 りであった。 回 答 は7 件 法 で, 形 容 詞 対 の 左 の 形 容 詞 に 近 い 方 を1, 右の 形 容 詞 に 近 い 方 を7とした。 質 問 紙 における 教 示 の 文 面 は「あなたが 作 った 作 品 を 見 て 受 けた 印 象を 教 えてください。 正 しい 答 えや 間 違 った 答 えはありません。あまり 深 く 考 えず 第 一 印 象 で 答 えてください」とした。SD 法 は 作 品 が 見 える 位 置 で 回 答 してもらった。なお, 久 米 (2010)がこれら 形 容詞 対 に 対 して 因 子 分 析 を 行 った 結 果 では,「エネルギー」「まとまり」「 柔 らかさ」「 深 さ」という4 因 子 が 抽 出 されている(Table1)。Table 1 久 米 (2010)によるSD 法 の 形 容 詞 対形 容 詞 対因 子 名1 さびしい にぎやかな エネルギー2 消 極 的 積 極 的3 弱 い 強 い4 静 的 動 的5 空 虚 な 充 実 した6 貧 弱 な 豊 かな7 小 さい 大 きい8 不 調 和 な 調 和 した まとまり9 不 安 定 な 安 定 した10 雑 然 とした まとまった11 アブノーマルな ノーマルな12 未 熟 な 成 熟 した13 かたい 柔 らかい 柔 らかさ14 緊 張 した くつろいだ15 男 性 的 女 性 的16 不 愉 快 な 愉 快 な17 こせこせした のびのびした18 浅 い 深 い 深 さ実 験 手 続 き 作 品 づくりの 順 序 は「 箱 庭 」,「 風 景 構 成 法 」,「 構 造 化 箱 庭 」の 順 であった。 作 品完 成 にかかった 時 間 を, 調 査 者 が 時 計 の 針 を 目 視 で 確 認 し, 分 単 位 で 記 録 した。箱 庭 では 参 加 者 に「この 砂 箱 と 棚 のミニチュアを 使 って 自 由 に 作 品 を 作 って 下 さい」という 旨 の 教示 をした。風 景 構 成 法 では,「 風 景 に 関 する 項 目 を10 項 目 述 べるので, 言 われた 順 に 描 いていき, 最 終 的 に 一141


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 20 号 (2013)つの 風 景 になるように 描 いて 下 さい」という 旨 の 教 示 をした。 規 定 の 順 序 で10 項 目 ( 川 , 山 , 田 んぼ, 道 , 家 , 木 , 人 , 花 , 動 物 , 石 )を 指 示 した 後 ,「この 絵 を 完 成 させるために 付 け 加 えたいものがあれば, 付 け 足 して 描 いてください。なければそのままで 結 構 です」という 旨 の 教 示 を 行 った。 被調 査 者 の 拘 束 時 間 や 負 担 を 考 え, 彩 色 手 続 きは 行 わなかった。 用 紙 はA4 用 紙 を 横 長 に 使 用 し, 調 査者 がボールペンで 参 加 者 の 目 の 前 で 枠 を 描 き,その 用 紙 とボールペンを 参 加 者 に 渡 した。構 造 化 箱 庭 では,「 風 景 に 関 する 項 目 を10 項 目 述 べるので, 砂 箱 と 棚 のミニチュアを 使 って, 言 われた 順 に 作 っていき, 最 終 的 に 一 つの 風 景 になるように 作 って 下 さい」という 旨 の 教 示 を 行 った。それ 以 外 は 風 景 構 成 法 の 教 示 に 従 って 実 施 した。各 作 品 の 完 成 後 ,SD 法 を 施 行 した。仮 説 「 構 造 化 された 箱 庭 」は, 他 の2 条 件 ( 箱 庭 および 風 景 構 成 法 )に 比 べて,SD 法 の 各 尺 度 においてよりポジティブな 印 象 評 価 がなされるであろう。データ 分 析 はじめに, 得 られたデータに 基 づき 因 子 分 析 を 行 い, 形 容 詞 対 の 因 子 構 造 について 確認 した。 次 に, 因 子 分 析 によって 得 られた 因 子 毎 に 合 計 得 点 を 算 出 し,1 通 常 の 箱 庭 ,2 通 常 の 風 景構 成 法 ,3 構 造 化 された 箱 庭 , 以 上 の3つの 実 施 方 法 による1 要 因 ( 実 験 参 加 者 内 要 因 )3 水 準 ( 実 施方 法 )の 分 散 分 析 を 実 施 した。結 果因 子 分 析 SD 法 の 形 容 詞 対 18 項 目 に 対 して 主 因 子 法 ,Varimax 回 転 による 因 子 分 析 を 行 った。 固有 値 は5.58, 3.74, 2.13, 1.54, 1.18・・・となった。そこで, 久 米 (2010)の 因 子 分 析 の 結 果 も 踏 まえ,4 因子 構 造 を 仮 定 して 分 析 を 行 った 所 , 複 数 の 項 目 が 各 因 子 にまたがって.50 以 上 の 因 子 負 荷 量 を 示 したため,3 因 子 構 造 を 仮 定 して 再 度 分 析 を 行 った。その 結 果 ,2 因 子 にまたがり.50 以 上 の 負 荷 量 を 示 す項 目 がなくなったため,Table2に 示 した3 因 子 構 造 が 妥 当 であると 判 断 した。 累 積 寄 与 率 は56.85%であった。最 終 的 な 因 子 分 析 の 結 果 は, 概 ね 久 米 (2010)が 示 したものと 同 様 の 因 子 構 造 が 確 認 された。 以 下にその 詳 細 を 述 べる。 第 1 因 子 は,「 消 極 的 ― 積 極 的 」「 弱 い― 強 い」「 静 的 ― 動 的 」などの 作 品 の力 強 さやパワーを 表 す8 項 目 に 高 い 負 荷 を 示 したため「エネルギー」と 命 名 した。この 第 1 因 子 には 久米 (2010)の 研 究 では 第 4 因 子 とされていた 項 目 18「 浅 い― 深 い」が 含 まれた。 第 2 因 子 には「アブノーマルな―ノーマルな」「 不 安 定 な― 安 定 した」「 不 調 和 な― 調 和 した」など, 作 品 としての 一 貫性 や 安 定 性 を 示 す5 項 目 に 高 い 負 荷 を 示 したため,「まとまり」と 命 名 した。 第 3 因 子 には,「 緊 張 した―くつろいだ」「かたい― 柔 らかい」「 男 性 的 ― 女 性 的 」など, 作 品 の 硬 度 や 柔 軟 性 を 示 す5 項 目に 高 い 負 荷 を 示 したため,「 柔 らかさ」と 命 名 した。これらの 下 位 因 子 の 内 的 整 合 性 を 確 認 するためにα 係 数 を 算 出 した 所 ,それぞれ.85( 第 1 因子 ),.86( 第 2 因 子 ),.81( 第 3 因 子 )であり, 十 分 な 内 的 整 合 性 を 有 していると 判 断 した。分 散 分 析 因 子 分 析 によって 抽 出 された3 因 子 各 々の 項 目 の 合 計 得 点 を 算 出 し,1 通 常 の 箱 庭 ,2通 常 の 風 景 構 成 法 ,3 構 造 化 された 箱 庭 , 以 上 3つの 作 品 制 作 方 法 による1 要 因 ( 実 験 参 加 者 内 要 因 )分 散 分 析 を 実 施 した(Table3)。142


構 造 化 箱 庭 療 法 の 有 効 性 に 関 する 検 討 ― 量 的 データの 分 析 から―Table2 SD 法 による 印 象 評 価 の 因 子 分 析 結 果 ( n =10)第 1 因 子 第 2 因 子 第 3 因 子 共 通 性第 1 因 子 :エネルギー α=.855 空 虚 な 充 実 した .84 .06 .20 .752 消 極 的 積 極 的 .77 -.07 .29 .696 貧 弱 な 豊 かな .69 .28 .39 .711 さびしい にぎやかな .69 .19 -.06 .517 小 さい 大 きい .67 .03 -.06 .463 弱 い 強 い .59 .07 -.10 .364 静 的 動 的 .54 -.14 -.34 .4318 浅 い 深 い .50 -.10 .26 .33第 2 因 子 :まとまり α=.8611 アブノーマルな ノーマルな -.10 .87 -.02 .779 不 安 定 な 安 定 した .04 .81 .26 .7312 未 熟 な 成 熟 した .24 .68 -.07 .538 不 調 和 な 調 和 した .10 .64 .47 .6410 雑 然 とした まとまった .02 .62 .27 .46第 3 因 子 : 柔 らかさ α=.8114 緊 張 した くつろいだ -.09 .31 .80 .7517 こせこせした のびのびした .38 .21 .72 .7016 不 愉 快 な 愉 快 な .40 .12 .65 .6013 かたい 柔 らかい -.21 .33 .65 .5715 男 性 的 女 性 的 .02 -.07 .51 .26固 有 値 4.02 3.11 3.11寄 与 率 (%) 22.30 17.30 17.25累 積 寄 与 率 (%) 22.30 39.60 56.85Table3 作 品 制 作 方 法 毎 の 各 因 子 得 点 に 対 する 分 散 分 析 の 結 果 ( n =10)1 箱 庭 2 風 景 構 成 法 3 構 造 化 箱 庭エネルギー 37.2(8.1) 32.1(8.0) 40.3(9.1)4.24 *2


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 20 号 (2013)考 察 と 今 後 の 課 題本 研 究 の 結 果 からは, 構 造 化 された 箱 庭 の 手 法 に 基 づく 作 品 制 作 を 通 じて, 特 に 風 景 構 成 法 に 比 べて 作 品 に 対 して 力 強 さやパワーといった「エネルギー」を 感 じさせる 表 現 がより 促 される 可 能 性 が 示唆 された。 箱 庭 制 作 における 自 由 度 の 高 さは 想 像 力 を 用 いて 箱 庭 に 向 き 合 えるクライエントに 対 しては 豊 かな 表 現 を 促 せる 利 点 が 大 きいと 考 えられるが, 本 研 究 の 結 果 からは, 工 夫 として 箱 庭 の 施 行 方法 に「 枠 」を 与 えることで, 風 景 構 成 法 による 施 行 に 加 えてより 作 品 に「エネルギー」を 加 えられることが 明 らかとなった。鎌 田 ら(2013)は, 通 常 の 箱 庭 制 作 において「 入 り 込 めない」と 表 現 する 製 作 者 において, 実 際 には 自 らの 内 的 世 界 に 触 れる 体 験 をしているものの,そこに 触 れる 怖 さを 感 じているために「 入 り 込 めない」と 表 現 しており,それまでせき 止 められていた 心 的 エネルギーが 急 に 溢 れ 出 すことによって 心理 的 不 安 や 認 知 的 負 担 を 感 じさせる 可 能 性 を 指 摘 している。また, 風 景 構 成 法 においては 不 安 やアンヴィバレンツに 対 する 耐 性 や 認 知 的 成 熟 が 要 請 されるため, 作 品 制 作 時 に 認 知 的 負 担 を 感 じる 場 合 があることを 指 摘 している( 鎌 田 ら,2013)。 以 上 の 論 と 本 研 究 結 果 を 照 らし 合 わせると, 構 造 化 された 手 続 きに 基 づく 箱 庭 制 作 は, 溢 れるエネルギーの「 抱 え」の 機 能 として 作 用 し, 心 理 的 不 安 や 認 知的 負 担 を 緩 和 しつつもエネルギー 豊 かな 作 品 を 創 出 可 能 な 工 夫 となりうることが 示 唆 される。また,想 像 力 の 問 題 を 抱 えるなど, 具 体 物 の 提 示 と 環 境 の 構 造 化 の 両 方 が 必 要 な 制 作 者 に 対 しては, 風 景 構成 法 ではなく 構 造 化 された 箱 庭 を 施 行 することで, 安 全 な 枠 組 みに 加 えて 象 徴 機 能 の 形 成 が 図 れるなど( 浦 崎 ,2004), 箱 庭 が 有 する 内 面 の 表 現 及 び 発 達 を 促 進 できるという 利 点 を 活 かした 援 助 が 展 開できることが 推 察 される。今 後 の 研 究 に 向 けた 課 題 は 以 下 の 通 りである。まず, 本 研 究 は 健 常 大 学 生 に 実 施 した 予 備 的 調 査 であるため, 実 際 のクライエントに 治 療 として 構 造 化 された 箱 庭 を 実 施 した 際 にも 同 様 の 結 果 が 得 られるか 否 かを 確 認 する 必 要 がある。 特 に, 作 品 製 作 者 の 持 つ 認 知 特 性 と3 種 類 の 施 行 方 法 の 組 み 合 わせによって 有 効 性 が 異 なるか 否 かを 精 査 することが 望 まれる。また, 今 回 は 製 作 された 箱 庭 への 自 己 評定 による 量 的 データに 基 づく 印 象 評 価 のみで 効 果 を 判 定 している。したがって, 今 後 は 作 品 制 作 への取 り 組 みやすさや 他 者 評 定 による 作 品 への 印 象 評 価 など, 量 的 データに 質 的 データを 組 み 合 わせた 検討 を 進 めていく 必 要 があるだろう。引 用 文 献古 野 裕 子 (2005): 描 画 解 釈 における「 空 間 構 成 」の 意 義 と 課 題 京 都 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 紀 要 , 51,193-203.入 江 茂 (1987): 事 例 9 分 裂 病 者 の 寛 解 過 程 と 箱 庭 療 法 河 合 隼 雄 ・ 山 中 康 裕 ( 編 ) 箱 庭 療 法 研 究 3誠 信 書 房 pp190-211.入 江 茂 (1998): 第 7 章 箱 庭 療 法 の 実 際 ― 成 人 例 徳 田 良 仁 ・ 大 森 健 一 ・ 飯 森 眞 喜 雄 ・ 中 井 久 夫 ・ 山 中 康裕 ( 監 修 ) 芸 術 療 法 2 実 践 編 岩 崎 学 術 出 版 社 pp64-73.皆 藤 章 (1994): 風 景 構 成 法 ―その 基 礎 と 実 践 誠 信 書 房加 地 雄 一 ・ 松 浦 隆 信 ・ 鎌 田 弥 生 (2013): 構 造 化 箱 庭 療 法 の 有 効 性 に 関 する 検 討 ― 事 例 分 析 を 通 して― 東京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ,20, 123-137.鎌 田 弥 生 ・ 加 地 雄 一 ・ 松 浦 隆 信 (2013): 構 造 化 箱 庭 療 法 の 有 効 性 に 関 する 検 討 ― 修 正 版 グラウンデッド・セオリー・アプローチを 用 いての 質 的 データの 分 析 から― 東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ,20, 147-157.144


構 造 化 箱 庭 療 法 の 有 効 性 に 関 する 検 討 ― 量 的 データの 分 析 から―河 合 隼 雄 (1966): 箱 庭 療 法 (Sand-Play Technique)― 技 法 と 治 療 的 意 義 について 京 都 市 教 育 委 員 会 カウンセリングセンター 研 究 紀 要 , 2, 1-9.久 米 禎 子 (2010): 印 象 評 定 による 箱 庭 作 品 の 類 型 化 と 作 り 手 の 個 性 箱 庭 療 法 学 研 究 , 23(2), 39-52.久 米 禎 子 (2011):2 回 の 連 続 した 箱 庭 制 作 における 作 り 手 の 主 観 的 体 験 の 検 討 ― 印 象 評 定 とインタビュー分 析 を 用 いて― 鳴 門 教 育 大 学 研 究 紀 要 , 26, 213-220.Lowenfeld, M.(1939): The world pictures of children: A method of recording and studying them. BritishJournal of Medical Psychology, 18(1), 65-101.中 井 久 夫 (1970): 精 神 分 裂 病 者 の 精 神 療 法 における 描 画 の 使 用 ―とくに 技 法 の 開 発 によって 作 られた 知 見について― 芸 術 療 法 , 2, 77-90.浦 崎 武 (2004): 広 汎 性 発 達 障 害 者 の 身 体 としての 枠 に 焦 点 を 当 てた 遊 戯 療 法 ― 身 体 の 枠 作 りによる 関 係性 の 成 立 と 発 達 的 変 容 ― 岐 阜 大 学 医 学 部 紀 要 , 52, 36-45.145

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