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観光に資する交通の研究/秋山秀一,海口晴彦 - 東京成徳大学

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観 光 に 資 する 交 通 の 研 究秋 山 秀 一 *海 口 晴 彦 *Research on Transportation Modes which Contribute to TourismShuichi AKIYAMAHaruhiko UMIGUCHIThis research project examines the content of and various views about transportation modes in urban areaswhich are used by tourists in areas where city planning has taken into account various transportation modesincluding community buses and bicycles.1. 序 論今 日 の 観 光 は、ライフスタイルが 多 様 化 するなど 社 会 的 状 況 の 変 化 に 伴 い、これまでの 団 体 ツアーや 旅 行 会 社 が 企 画 募 集 した 発 地 型 のマスツーリズムから、 個 人 がそれぞれの 嗜 好 や 楽 しみを 現 地 で 訴求 する 着 地 型 ツーリズムや 地 域 資 源 を 活 性 化 につなげていくいわゆるニューツーリズムといわれる 分野 にシフトしている。これに 伴 い 旅 行 者 が 目 的 地 へアクセスする 手 段 および 目 的 地 内 での 移 動 手 段 など、 交 通 モードも 多様 化 している。目 的 地 まで 長 距 離 移 動 を 必 要 とする 場 合 の 旅 行 者 の 移 動 手 段 は、 鉄 道 や 飛 行 機 あるいはバスといった 選 択 肢 が 一 般 的 であるものの、 近 距 離 移 動 はもとより、 長 距 離 移 動 であっても 少 人 数 グループでの移 動 に 安 価 あるいは 気 ままで 自 由 度 が 高 いといった 理 由 からマイカー 移 動 が 観 光 交 通 の 大 きな 選 択 肢となっている。また 高 速 道 路 の 割 引 制 度 などがこうしたマイカー 移 動 需 要 をさらに 押 し 上 げた。しかしながら、 多 くの 旅 行 者 が 個 別 にマイカーで 観 光 地 を 訪 れて 回 遊 するとなると、 観 光 地 内 における 交 通 渋 滞 や 大 気 汚 染 などの 問 題 を 引 き 起 こすばかりでなく、 違 法 駐 車 問 題 と 駐 車 場 整 備 による 観光 地 たる 景 観 阻 害 を 引 き 起 こすなど、クルマ 中 心 の 観 光 地 とするならばその 持 続 的 発 展 は 極 めて 困 難な 状 況 に 陥 るものと 考 える。*Shuichi AKIYAMA 観 光 文 化 学 科 (Department of Tourism)*Haruhiko UMIGUCHI 観 光 文 化 学 科 (Department of Tourism) 非 常 勤 講 師1


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 19 号 (2012)こうした 問 題 ・ 危 惧 は 観 光 分 野 に 限 ることではなく、むしろ 人 々の 活 動 の 受 け 皿 となる 場 づくり、即 ち「まちづくり」の 分 野 と 共 通 するものであり、 駐 車 場 を 制 限 する 一 方 で 公 共 交 通 の 整 備 充 実 に 取り 組 むといった、 交 通 マネジメントの 分 野 に 通 じるものである。観 光 分 野 における 交 通 マネジメントは 既 にいくつかの 観 光 地 で 取 り 組 まれており、なかでも 有 名 な事 例 として、 長 野 県 の 上 高 地 におけるマイカー 規 制 による 自 然 景 勝 地 の 環 境 保 護 対 策 がある。しかし 都 市 部 においては、 地 域 住 民 の 生 活 利 便 性 への 配 慮 からマイカー 規 制 といったドラスティックな 手 法 はなかなか 展 開 しづらいため、むしろ 公 共 交 通 の 充 実 や 利 用 促 進 策 、 手 軽 な 移 動 円 滑 化 策 といった 取 り 組 みが 現 実 的 である。そこで 本 研 究 は、こうした 背 景 を 踏 まえて、 主 に 都 市 部 における 観 光 来 訪 者 の 移 動 手 段 として、まちづくりと 連 携 した 観 光 に 資 する 交 通 の 在 り 方 について、コミュニティバスと 自 転 車 といった 交 通モードに 着 目 して、その 活 用 に 関 する 課 題 と 展 望 を 考 察 するものである。本 研 究 の 構 成 はまず、まち 歩 き 観 光 の 重 要 性 を 示 したうえで 観 光 とまちづくりの 接 点 について 言 及する。 次 に、まち 歩 き 観 光 に 資 するいくつかの 交 通 モードの 活 用 を 考 察 し、これを 踏 まえた 今 後 の 展望 を 結 論 とする。2. 観 光 とまちづくりとの 接 点観 光 集 客 により 地 域 に 賑 わいを 創 出 するための 根 源 的 要 因 は、まちなかに 多 くの 来 訪 者 が“ 徒 歩 で回 遊 ”することにある。 所 謂 まち 歩 き 観 光 という 行 動 自 体 が 休 憩 や 食 事 あるいは 買 い 物 などの 消 費 行動 を 生 じて 地 域 経 済 の 活 性 化 に 幅 広 く 貢 献 することに 繋 がる。ただし 徒 歩 回 遊 の 行 動 範 囲 にも 限 界 があるので、より 広 範 囲 に 移 動 する 場 合 には 公 共 交 通 による 移動 支 援 が 必 要 となる。さらに 言 及 するならば、 歩 き 易 さといった 快 適 な 歩 行 空 間 、 防 犯 ・ 防 災 などの 安 心 ・ 安 全 対 策 、 当然 であるが 人 々を 楽 しませる 地 域 の 文 化 や 活 力 などといった 魅 力 資 源 が 必 要 となる。こうした 対 応 は 観 光 来 訪 者 に 限 るものではなく、 地 域 住 民 への 対 応 としても 重 要 なものであり、 観光 来 訪 者 の 行 動 パターンに 応 える「 場 」は 地 域 の 人 々の 生 活 を 支 える「 場 」として 共 通 点 があり、これが 即 ち「 住 んでよし 訪 れてよい まちづくり」に 繋 がる。図 1観 光 とまちづくりとの 接 点2


観 光 に 資 する 交 通 の 研 究3.まちなかに 求 められる 交 通 環 境環 境 保 全 への 対 応 、 高 齢 社 会 の 進 行 などに 適 切 に 対 応 していくためには、 公 共 交 通 の 充 実 は 極 めて重 要 である。地 域 住 民 にとっても、まち 歩 き 観 光 の 来 訪 者 にとっても、 公 共 交 通 サービスの 充 実 は、 生 活 の 行 動範 囲 の 拡 充 や 観 光 回 遊 エリアの 拡 充 といった、 地 域 の 活 力 向 上 が 期 待 できる。また、 歩 くには 遠 く 公 共 交 通 で 移 動 するには 近 いといった、 公 共 交 通 を 補 完 するミドルレンジの 移動 手 段 として 自 転 車 の 活 用 やベロタクシーといったような 新 たな 交 通 サービスなども 今 後 は 期 待 できる。いずれにしても、こうした 移 動 手 段 を 使 いながら、 最 終 的 には 快 適 な 歩 行 空 間 により、 歩 いて 暮 らせる、 歩 いて 観 光 できる 環 境 整 備 が 大 切 である。4. 今 後 の 観 光 に 資 する 交 通 モードの 考 察⑴コミュニティバスの 場 合観 光 客 の 移 動 に 対 応 する 公 共 交 通 では、きめ 細 かな 範 囲 でサービスが 可 能 な 交 通 モードであるバス交 通 が 挙 げられる。都 市 部 で 見 られるバス 交 通 には、 主 に 幹 線 道 路 を 中 心 路 線 とした 広 域 をカバーできる 路 線 バスと、まちなかの 細 街 路 に 入 り 込 んで 住 民 サービスを 提 供 するコミュニティバスといった 二 つのタイプがある。特 に 今 後 は、コミュニティバスを 観 光 客 の 移 動 手 段 としてサービスすることが 重 要 と 考 える。その理 由 として、1 観 光 資 源 の 有 効 活 用 、2 事 業 採 算 性 の 確 保 、3 観 光 交 流 の 推 進 、などがある。1コミュニティバスによる 観 光 資 源 の 有 効 活 用最 近 の 観 光 ニーズや 観 光 スタイルといったものは、 人 それぞれが 期 待 するテーマ 性 や 嗜 好 ・ 趣 味 に関 する 体 験 、 学 習 、 発 見 といった 多 様 な 楽 しみ 方 を 要 求 されており、これまでは 着 目 されなかった 物事 が 地 域 の 新 しい 観 光 資 源 として 活 用 されている。これらは、その 地 域 に 居 住 している 人 々の 活 動 や 発 信 から 生 まれるものも 数 多 くあり、 地 域 住 民 が主 体 となって 観 光 で 町 おこしを 積 極 的 に 展 開 するうえで 効 果 がある。一 つの 事 例 としては、 長 崎 市 のまち 歩 き 観 光 「 長 崎 さるく」がある。このコンセプトは 他 所 にない長 崎 の 魅 力 と 併 せて、これまで 発 信 されず 楽 しまれることの 少 なかった 多 くの 観 光 資 源 の 楽 しみ 方 を創 造 し、 発 信 することで 長 崎 での 新 しい 時 間 の 過 ごし 方 を 定 着 させることにある。これは 市 民 が 主 体 となって 企 画 し 実 施 しており、 生 活 に 密 着 したエリアの 観 光 資 源 を 地 域 の 共 有 財産 として 再 認 識 すると 同 時 に 知 られなかった 魅 力 を 体 験 ・ 発 見 してもらうため、これら 情 報 を 地 域 住民 が 自 ら 観 光 マップに 落 とし 込 んでいる。要 するに、これまであまり 観 光 客 が 入 り 込 まなかった 住 宅 地 域 でも、 新 しい 観 光 の 楽 しみ 方 や 知 ら3


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 19 号 (2012)れなかった 観 光 資 源 が 潜 在 しているということであり、 住 民 サービスを 目 的 としたコミュニティバスは、まさにこうした 住 宅 地 域 と 主 たる 鉄 道 駅 などを 結 節 する 路 線 とした 生 活 交 通 をサービスするものであるが、こうしたコミュニティバスを 運 行 しているエリアにおいても、 長 崎 の 事 例 のような 観 光 資源 の 掘 り 起 こしといった 活 動 を 展 開 することで、 移 動 にも 便 利 な 新 たなまち 歩 き 観 光 コースの 創 出 が期 待 できる。2コミュニティバスの 事 業 採 算 性 の 向 上コミュニティバスは 行 政 が 行 う 住 民 サービスの 観 点 から、 利 用 運 賃 は 低 料 金 ( 概 ね100 円 程 度 )に設 定 されているものが 多 いことと、 地 域 住 民 の 利 用 といった 利 用 者 数 の 拡 大 が 期 待 しにくい 状 況 であるため、その 大 部 分 が 赤 字 路 線 となっている。都 内 23 区 のうち20 区 でコミュニティバスを 運 行 あるいは 検 討 中 であり、 既 に 運 行 している 区 のうち10 区 では、 赤 字 部 分 に 対 する 運 行 費 補 助 を 入 れている。民 間 事 業 主 体 であっても 昨 今 の 公 共 交 通 全 般 における 事 業 採 算 性 は 厳 しい 状 況 であるが、 区 民 の 税金 を 投 入 して 運 行 するコミュニティバス 事 業 を 少 しでも 黒 字 化 に 転 換 するために 新 たな 利 用 者 を 確 保することは 意 義 が 深 い。前 述 1でも 示 す 通 り、コミュニティバスの 運 行 エリアであっても 観 光 集 客 力 を 発 揮 する 可 能 性 があり、 事 業 収 益 の 向 上 が 期 待 できる。特 に、 着 目 すべきは 利 用 時 間 帯 の 相 違 である。 一 般 的 に 地 域 住 民 がコミュニティバスを 利 用 する 時間 帯 は 朝 と 夕 方 にピークがあり、 逆 に 観 光 客 は 昼 間 をピークとする 傾 向 にある。また、 休 日 は 地 域 住民 よりも 観 光 客 の 利 用 が 主 となる。図 2住 民 と 観 光 客 との 利 用 時 間 帯 イメージ図 3は、 都 内 でコミュニティバスの 運 行 を 計 画 した 際 に 住 民 の 外 出 時 間 帯 について 質 問 した 住 民 アンケートの 結 果 である。その 結 果 、8 時 台 が 外 出 のピークで、 全 体 として 午 前 に 外 出 する 方 が 多 い。一 方 、19 時 台 が 帰 宅 のピークで、 全 体 として 午 後 に 帰 宅 する 方 が 多 い。双 方 をあわせると、8 時 台 が 朝 のピークとなり、17 時 台 から19 時 台 が 夜 のピークとなっている。このことは、 図 2で 示 す 利 用 時 間 帯 のイメージとほぼ 整 合 しており、 地 域 住 民 の 利 用 が 落 ち 込 む 時 間 帯を 補 完 する 形 で 観 光 客 が 乗 車 することにより、 事 業 採 算 性 の 向 上 に 効 果 があると 考 えられる。4


観 光 に 資 する 交 通 の 研 究図 3東 京 都 墨 田 区 における 外 出 ・ 帰 宅 時 刻 の 住 民 アンケート 結 果3コミュニティバスによる 観 光 交 流 の 推 進観 光 振 興 による 地 域 の 活 性 化 を 目 指 す 住 民 活 動 を 継 続 していくうえで 重 要 なことは、 活 動 の 成 果 を実 感 することである。この 場 合 、 約 100 円 程 度 と 安 価 で 利 用 できるコミュニティバスに 乗 って 来 訪 する 観 光 客 がまちなかを 回 遊 すること 自 体 が 目 に 見 える 成 果 の 一 端 となる。1で 述 べたような 住 民 活 動 を 契 機 として、コミュニティバスによる 観 光 客 の 来 訪 が 頻 繁 になることを 前 提 とするならば、 地 域 住 民 が 自 らの 生 活 エリアへ 観 光 客 を 迎 え 入 れ、 地 域 の 魅 力 を 観 光 客 に 楽 しんでもらうようなサービスの 提 供 、 情 報 発 信 など、 地 域 住 民 と 観 光 客 との 交 流 機 会 が 増 すことになり、 新 たな 地 域 活 力 の 創 出 に 繋 がるにちがいない。また、 地 域 住 民 は 地 元 への 愛 着 や 誇 りを 持 つことになり、 定 住 促 進 あるいは 新 たな 居 住 者 の 受 け 入れといった 地 域 コミュニティの 維 持 と 活 性 化 が 期 待 できる。⑵ 自 転 車 の 場 合図 4に 示 すとおり、 自 転 車 は5km 程 度 の 短 距 離 移 動 においては、 鉄 道 や 自 動 車 をはじめとした 交通 手 段 よりも 所 要 時 間 が 短 く、 都 市 観 光 の 移 動 手 段 としてもまち 歩 き 観 光 の 行 動 範 囲 をさらに 拡 大 するものであるが、 我 が 国 の 都 市 部 における 自 転 車 の 走 行 環 境 は、 現 状 の 道 路 空 間 が 自 動 車 と 歩 行 者 を中 心 とされているために、 必 ずしも 良 好 とは 言 い 難 い。しかし、 自 転 車 は 地 球 環 境 に 優 しく、 誰 もが 利 用 できる 乗 り 物 として、 安 全 で 快 適 に 走 行 できる 走行 空 間 整 備 および 駐 輪 対 策 やマナーの 改 善 等 の 諸 問 題 を 解 消 していくことが、 今 後 のまちづくりの 重要 な 課 題 である。5


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 19 号 (2012) 図 4移 動 距 離 と 所 要 時 間 における 自 転 車 の 優 位 性観 光 に 資 する 自 転 車 の 活 用 については、レンタサイクルとして 観 光 来 訪 者 への 貸 出 サービスが 一 般的 と 考 えるが、その 運 用 方 においては、1レンタルした 場 所 に 返 却 する、2レンタルした 場 所 以 外 でも 返 却 できる、といった2つのタイプがあり、それぞれに 長 所 ・ 短 所 がある。図 5レンタサイクルの 運 用 に 関 する2つのタイプの 比 較1レンタルした 場 所 に 返 却 するタイプの 長 所 ・ 短 所・ 自 転 車 の 状 況 は 貸 出 所 で 一 元 的 に 把 握 できるので 管 理 上 の 負 担 は 少 ない。・ 利 用 者 は 借 りた 場 所 に 戻 ってこなくてはならず 利 用 圏 域 が 狭 くなる。 一 方 で、 利 用 圏 域 内 に 利 用者 が 滞 留 することから、 貸 出 所 のあるエリアにおける 賑 わい 創 出 という 効 果 が 期 待 できる。2レンタルした 場 所 以 外 でも 返 却 できるタイプの 長 所 ・ 短 所・ 利 用 者 は 移 動 先 近 傍 の 貸 出 所 に 自 転 車 を 返 却 することができるため、 利 用 範 囲 の 自 由 度 が 高 く、広 域 的 な 回 遊 性 の 創 出 という 面 で 効 果 が 期 待 できる。・ 車 両 不 足 が 無 いように、 需 要 以 上 の 自 転 車 を 用 意 する 必 要 があるとともに、 各 貸 出 所 の 自 転 車 配 備 の均 衡 を 図 るため、 返 却 された 自 転 車 の 再 配 置 に 必 要 な 運 搬 コストなどの 管 理 上 の 負 担 が 大 きい。6


観 光 に 資 する 交 通 の 研 究1レンタルした 場 所 に 返 却 するタイプの 新 たな 展 開レンタルした 場 所 に 返 却 するタイプでは、マイカー 観 光 客 に 対 する 新 たな 展 開 が 期 待 できる。それは、 観 光 中 心 エリアの 外 側 にフリンジ・パーキング( 中 心 エリアの 縁 辺 部 の 駐 車 場 )を 用 意 して、マイカーによる 観 光 来 訪 者 の 車 はここへの 駐 車 を 誘 導 し、フリンジ・パーキング 内 でレンタサイクルのサービスを 提 供 する、パーク・アンド・サイクルライドといった 展 開 である。マイカーを 駐 車 した 観 光 客 は、 駐 車 場 から 自 転 車 でまちなかを 観 光 回 遊 し、 帰 宅 時 は 必 ず 駐 車 場 に戻 るので、 返 却 時 の 制 約 条 件 ( 借 りた 場 所 に 返 さなくてはならない)が 短 所 にはならない。さらに、駐 車 場 の 規 模 から 用 意 すべき 自 転 車 台 数 も 予 測 できるため、 設 備 投 資 が 効 率 的 である。これにより、 観 光 中 心 エリアの 交 通 渋 滞 の 解 消 、まち 歩 き 観 光 の 回 遊 性 の 向 上 等 が 期 待 できる。 何よりも 観 光 中 心 エリアに 過 度 な 駐 車 場 を 必 要 としないので、 観 光 地 たる 景 観 保 全 にも 効 果 がある。2レンタルした 場 所 以 外 でも 返 却 できるタイプの 新 たな 展 開観 光 回 遊 といった 点 では、レンタルした 場 所 以 外 でも 返 却 できるタイプが 効 果 的 であり、 短 所 とされる 管 理 面 でのコスト 負 担 については、ITを 応 用 した 新 たなシステムで 対 応 する 事 例 も 出 てきた。その 特 徴 は、 個 々の 拠 点 でレンタルおよび 返 却 する 際 に 利 用 者 が 登 録 したIDカードにより 行 う 方法 であり、 一 般 的 にバイクシェアリングと 呼 称 されている。具 体 的 には、 利 用 時 にはIDカードを 専 用 機 械 に 読 み 取 らせると 駐 輪 機 のロックが 解 除 され、 返 却時 には 貸 し 出 し 拠 点 であればどこででも 駐 輪 機 にはめ 込 むだけといったものである。さらに、これらの 貸 し 借 り 状 況 をコンピューターで 管 理 するため、このタイプの 短 所 とされている 返 却 された 自 転 車の 再 配 置 に 必 要 な 運 搬 コストなどの 管 理 上 の 負 担 も 軽 減 できる。こうした 新 たなシステムによるレンタサイクル 事 業 は、 既 に 欧 米 で 実 用 化 が 図 られており、 近 年 では2007 年 からパリで 導 入 ( 自 転 車 約 2 万 台 、 拠 点 約 1400カ 所 )されて 話 題 となった、「ヴェリブ」がよく 知 られている。図 6パリの 新 たなレンタサイクルシステム「ヴェリブ」7


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 19 号 (2012)国 内 では、こうした 新 たなレンタサイクルシステムの 展 開 について、いくつかの 社 会 実 験 により 検証 されており、2010 年 3 月 には 国 内 初 のバイクシェアリングとして 富 山 市 の 中 心 部 の 駅 や 公 共 施 設 の近 くに 設 置 された15 箇 所 の 貸 出 ・ 返 却 ステーションに 各 150 台 の 自 転 車 を 配 置 した「シクロシティ 富山 」を 事 業 化 している。内 閣 府 が 調 査 したデータでは、 我 が 国 のレンタサイクル 事 業 を 展 開 している 実 態 は、2005 年 の 全 国ベースで408 事 業 者 、 稼 働 能 力 台 数 は2 万 4 千 台 となっている。 経 年 過 去 の 実 態 から 右 肩 上 がりに 上 昇しており、 観 光 回 遊 と 連 携 したレンタサイクル 事 業 への 期 待 も 高 まっている。しかし、 本 項 目 (2)の 冒 頭 にも 示 したとおり、いずれのタイプの 場 合 においても、 自 転 車 走 行 環境 といったそもそものインフラ 整 備 が 整 わなければ 実 用 化 は 難 しい。また、 事 故 が 起 きた 場 合 の 責任 、 事 業 展 開 および 運 営 管 理 における 費 用 負 担 、など 観 光 行 政 と 道 路 行 政 との 連 携 が 求 められる。5. 結 論本 研 究 では、 都 市 交 通 のうち 観 光 に 資 するコミュニティバス 活 用 および 自 転 車 活 用 の 可 能 性 を 述 べた。しかし、これら 交 通 モードの 活 用 について 単 発 的 に 展 開 するのでは、 多 様 な 観 光 客 の 移 動 ニーズには 対 応 しきれない。また、 環 境 にも 移 動 の 魅 力 にも 期 待 が 高 まるLRTやベロタクシーといった 新 たな 交 通 モード、あるいは 水 辺 の 魅 力 と 一 体 となった 舟 運 の 復 権 など、 都 市 観 光 の 魅 力 向 上 に 資 する 交 通 モードをまちなかに 機 能 させることで、さらなる 観 光 の 利 便 や 地 域 の 生 活 利 便 といった 観 光 とまちづくりが 一 体 となった 展 開 が 期 待 できる。観 光 とまちづくりの 視 点 として、コミュニティバスの 活 用 を 図 るためには、 地 域 住 民 の 生 活 サービスと 観 光 振 興 といった 両 面 を 見 据 え、 住 民 意 向 と 観 光 行 政 との 共 通 理 解 を 図 りつつ 路 線 ルートを 決 定する 必 要 がある。また、レンタサイクルについても、 観 光 の 利 便 だけでなく 地 域 住 民 にとっても 生 活の 利 便 性 が 高 まる 展 開 とする 必 要 がある。これらを 踏 まえると、 行 政 は 公 共 交 通 を 主 体 とするまちづくりの 推 進 を 図 るなかで、 総 合 的 かつ 効果 的 な 交 通 結 節 のシステム 化 ・ネットワーク 化 について、 具 体 化 した 際 にこれらの 交 通 モードをどのように 観 光 振 興 のために 活 用 していくのかといった、 官 民 連 携 のソフト 施 策 も 含 めた 観 光 交 通 戦 略 を実 行 していくことが 重 要 となる。8

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