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社会福祉施設職員の職務ストレッサーに関する基礎的研究 - 東京成徳大学

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社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーに 関 する 基 礎 的 研 究鎌 田 大 輔 *A Preliminary Study on Work-Related Stressors among Social WorkersDaisuke KAMADAThis study had three purposes. The first purpose was to examine the differences of work-related stressorsamong Social Workers. The second purpose was to examine the relationship between work-related stressorsand stress responses. The third purpose was to examine the inferences of the work-related stressors to the stressresponses. Participants in this study were 398 social workers (176 men, 222 women). The results of the t-testindicated that the average scores of women’s work-related stressors on environments and supervisions werehigher than the average scores of men. The results of ANOVA indicated that some average scores of youngersocial workers were higher than the average scores of social workers over 50 years old on the sub-scales ofwork-related stressors. The results of co-relational analysis indicated that there were positive relations betweenthe work-related stressors and the stress responses. The results of multiple regression analysis indicated thateach inference from the work-related stressors to the stress responses was different.Key words: Social Workers, Work-Related Stressors, Stress ResponsesⅠ. 問 題現 代 社 会 はストレスが 多 く、ストレス 社 会と 呼 ばれており( 松 原 1989; 上 野 ・ 高 下 ・ 原口 ・ 津 田 1992)、 厚 生 労 働 省 による 平 成 12 年保 健 福 祉 動 向 調 査 の 概 況 によると「ストレスが 大 いにある」という 回 答 が11.8%、「ストレスが 多 少 ある」という 回 答 が42.4%とストレスを感 じている 人 が 過 半 数 を 超 えている.また、仕 事 上 のストレスが 男 性 では41.3% 女 性 では21.3%( 計 30.5%)となっており、 働 き 盛 りの*Daisuke KAMADA 臨 床 心 理 学 科 (Department of Clinical Psychology)103


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 17 号 (2010)男 性 においては25〜34 歳 が61.6%、35〜44 歳 が64.2%、45〜54 歳 が55.3%と 高 い 数 値 を 示 している.このように 職 場 におけるストレスの 深 刻 化 が報 告 される 中 、ヒューマンサービス 関 連 職 種は 特 に 他 職 種 と 比 べてストレスが 多 いとされている(Maslach & Jackson 1981; Yamada &Drake 1995; 植 戸 2000)。そのため、 我 が 国 においても、 看 護 師 を 中 心にヒューマンサービス 関 連 職 種 を 対 象 としたストレス 研 究 が 行 われており、 廣 瀬 ・ 堀 川 ・ 宇 田川 (2001)や 久 保 ・ 田 尾 (1994)などが 報 告 されている。しかし、 看 護 師 と 同 様 にヒューマンサービス関 連 職 種 であるにもかかわらず、 社 会 福 祉 施 設職 員 を 対 象 としたストレス 研 究 は 比 較 的 少 ない。我 が 国 における 社 会 福 祉 施 設 職 員 を 対 象 とした 研 究 としては、 川 田 (1986)が、 医 療 現 場 で働 くソーシャルワーカーのバーンアウトに 関 する 研 究 を 行 っており、 尺 度 は、 保 健 師 を 対 象 とした 調 査 において 使 用 されたバーンアウト 尺 度を 一 部 変 更 したものを 用 いて 検 討 している。また、 矢 富 (1993)は、 既 存 の 様 々な 尺 度 から 項 目 を 抽 出 して 作 成 した 尺 度 を 用 い、 介 護 スタッフのストレスと 施 設 の 特 性 について 考 察 している。植 戸 (2000)は、 社 会 福 祉 施 設 職 員 のストレスとその 対 応 についての 文 献 研 究 を 行 い、 職 場におけるストレスだけではなく、 社 会 福 祉 施 設職 員 が 経 験 するであろうと 考 えられるストレスについて 多 面 的 に 考 察 している。また、 南 (2000)は、 天 理 大 学 社 会 福 祉 専 攻卒 業 生 50 名 を 対 象 に 職 務 上 のストレス 構 造 についての 調 査 を 行 い、 回 答 者 の 属 性 とストレス 度の 関 連 について 検 討 している。藤 野 (2001)は、 関 西 圏 の 高 齢 者 施 設 、 福 祉公 社 284 施 設 に 所 属 する2801 名 の 社 会 福 祉 施 設職 員 を 対 象 として、 先 行 研 究 で 用 いられた 項 目等 を 複 合 して 尺 度 を 作 成 し、 社 会 福 祉 従 事 者 のバーンアウトとストレッサーおよび 個 人 属 性 の関 連 性 について 検 討 している。また、 鎌 田 (2007)は、ストレッサーについての 自 由 記 述 を 行 い、それをもとに 暫 定 尺 度 を構 成 し、 因 子 分 析 を 行 っている。そして、a)対 人 関 係 的 要 因 14 項 目 、b) 利 用 者 支 援 6 項目 、c) 環 境 的 要 因 5 項 目 、d) 自 己 の 能 力 6項 目 に、 社 会 福 祉 施 設 職 員 を 対 象 とした 半 構 造化 面 接 により 得 られた、e) 研 修 ・スーパーヴィジョン4 項 目 を 加 えた 計 35 項 目 からなる 社会 福 祉 施 設 職 員 用 ストレッサー 尺 度 を 作 成 している。ところで、ヒューマンサービス 関 連 職 種 とは、 主 に 対 人 援 助 に 関 わる 業 務 を 行 う 者 の 総 称であり、 例 えば、 看 護 師 、 教 員 、そして 本 研 究の 調 査 対 象 となっている 社 会 福 祉 施 設 職 員 などが 挙 げられる。また、 社 会 福 祉 施 設 職 員 とは、 社 会 福 祉 施 設に 勤 務 する 職 員 の 総 称 であり、 社 会 福 祉 施 設 とは、 社 会 福 祉 法 第 2 条 第 2 項 および 第 3 項 に 規定 する 第 一 種 社 会 福 祉 事 業 および 第 二 種 社 会 福祉 事 業 を 行 う 施 設 のことである。そこで 本 研 究 では、 社 会 福 祉 施 設 職 員 の 定 義を 社 会 福 祉 法 第 2 条 第 2 項 および 第 3 項 に 規 定 する 第 一 種 社 会 福 祉 事 業 および 第 二 種 社 会 福 祉 事業 を 行 う 施 設 に 勤 務 するものとした。Ⅱ. 目 的本 研 究 では、 社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーの 特 性 について 検 討 するために、 社 会福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーの 性 差 、 年 齢および 経 験 年 数 による 違 いについての 検 討 を 行なうことを 第 一 の 目 的 とした。104


社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーに 関 する 基 礎 的 研 究次 に、 社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーとストレス 反 応 の 関 連 性 について 検 討 することを 第 二 の 目 的 とし、ストレス 反 応 に 対 する 職 務ストレッサーの 影 響 性 について 検 討 することを第 三 の 目 的 とした。Ⅲ. 方 法1. 調 査 協 力 者 関 東 圏 の 知 的 障 害 者 、 精 神 障害 者 、 身 体 障 害 者 、 高 齢 者 関 連 の21 施 設 に所 属 する 社 会 福 祉 施 設 職 員 を 対 象 として 調査 を 行 い、 回 答 が 得 られたもの529 名 のうち、 回 答 に 不 備 のなかった398 名 ( 男 性 176名 、 女 性 222 名 )を 分 析 対 象 とした。2. 対 象 施 設 関 東 圏 の 知 的 障 害 者 、 精 神 障 害者 、 身 体 障 害 者 、 高 齢 者 関 連 の21 施 設 を 対象 とした。3. 調 査 時 期 2005 年 10 月 〜12 月 に 実 施 した。4. 質 問 紙⑴ 社 会 福 祉 施 設 職 員 用 ストレッサー 尺 度 鎌 田(2007)が 作 成 した 社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務ストレッサーを 測 定 するための 尺 度 で、「 対人 関 係 的 要 因 」 尺 度 14 項 目 、「 利 用 者 支 援 」尺 度 6 項 目 、「 環 境 的 要 因 」 尺 度 5 項 目 、「 自 己 の 能 力 」 尺 度 66 項 目 、「 研 修 ・スーパーヴィジョン」 尺 度 4 項 目 の 計 35 項 目 からなる。 回 答 は、「いつもある」から「ない」までの5 件 法 で、 採 点 は5 件 法 の 回 答 にそのまま1〜5 点 を 割 り 当 て、 下 位 尺 度 ごとに 合計 得 点 を 算 出 する。⑵ストレス 反 応 尺 度 尾 関 (1993)の 大 学 生 用ストレス 評 価 尺 度 におけるストレス 反 応 を 測定 するための 尺 度 で、⒜ 抑 うつ、⒝ 不 安 、⒞怒 り、⒟ 認 知 的 混 乱 、⒠ 引 きこもり、⒡ 身 体的 疲 労 感 、⒢ 自 律 神 経 系 の 活 動 性 亢 進 、という7つの 下 位 尺 度 ( 各 5 項 目 、 計 35 項 目 )からなる。 回 答 は、「あてはまらない」から「 非 常 にあてはまる」までの4 件 法 で、 採 点は4 件 法 の 回 答 にそのまま0〜3 点 を 割 り 当て、 下 位 尺 度 ごとに 合 計 得 点 を 算 出 する。なお、この 尺 度 は 大 学 生 用 ストレス 評 価 尺 度の 下 位 尺 度 の 一 つではあるが、 大 学 生 に 特 有 のストレス 反 応 を 測 定 するものではなく、 全 般 的なストレス 反 応 を 網 羅 していると 判 断 し、 本 研究 で 使 用 することとした。5. 手 続 き調 査 は、 法 人 ・ 事 業 団 ごとに 調 査 についての協 力 依 頼 を 行 い、 協 力 が 得 られた 法 人 ・ 事 業 団ごとに 郵 送 法 を 用 いて 行 った。また、 調 査 用 紙は 無 記 名 とした。Ⅳ. 結 果1. 職 務 ストレッサーの 性 差 についての 検 討社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーについての 性 差 を 検 討 するために、 社 会 福 祉 施 設 職 員用 ストレッサー 尺 度 の 下 位 尺 度 ごとにt 検 定 を行 った。なお、 下 位 尺 度 ごとの 平 均 および 標 準偏 差 をTable1に 示 した。その 結 果 、 環 境 的 要 因 において 男 女 の 平 均 の差 が 有 意 であり(t(396)=3.33)、 女 性 の 方が 環 境 的 要 因 によるストレッサーを 体 験 しているということが 明 らかになった。また、 研 修 ・スーパーヴィジョンにおいて男 女 の 平 均 の 差 が 有 意 傾 向 であり(t(396)=1.78)、 女 性 の 方 が 研 修 ・スーパーヴィジョンについてのストレッサーを 体 験 している 傾 向があることを 示 唆 された。2. 職 務 ストレッサーの 年 齢 差 についての 検 討年 齢 による 職 務 ストレッサーの 違 いについて検 討 するために、 年 齢 を 独 立 変 数 、 社 会 福 祉 施設 職 員 用 ストレッサー 尺 度 の 各 下 位 尺 度 得 点 を従 属 変 数 とした1 元 配 置 の 分 散 分 析 を 行 った。年 齢 の 群 分 けについては、 度 数 分 布 の 状 況 か105


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 17 号 (2010)ら、20 歳 以 上 〜25 歳 未 満 、25 歳 以 上 〜30 歳 未満 、30 歳 以 上 〜40 歳 未 満 、40 歳 以 上 〜50 最 未満 、50 歳 以 上 の5 群 とした。なお、 下 位 尺 度 ごとの 平 均 および 標 準 偏 差 をTable2に 示 した。その 結 果 、 利 用 者 支 援 (F(4,397)=4.75,p


社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーに 関 する 基 礎 的 研 究p


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 17 号 (2010)人 関 係 的 要 因 が、 不 安 については 自 己 の 能 力 、環 境 的 要 因 、 利 用 者 支 援 が、 怒 りについては 対人 関 係 的 要 因 、 自 己 の 能 力 が 有 意 な 正 の 影 響 を示 した。情 緒 的 反 応 については 自 己 の 能 力 、 利 用 者 支援 、 環 境 的 要 因 が、 引 きこもりについては、 自己 の 能 力 、 対 人 関 係 的 要 因 が 有 意 な 正 の 影 響 を示 した。身 体 的 疲 労 感 については 環 境 的 要 因 、 自 己 の能 力 が、 自 律 神 経 系 の 活 動 性 の 亢 進 については環 境 的 要 因 、 対 人 関 係 的 要 因 が 有 意 な 正 の 影 響を 示 した。これらの 結 果 から、 職 務 ストレッサーの 種 類により、 現 れるストレス 反 応 も 異 なるということが 明 らかになった。Ⅴ. 考 察本 研 究 では、 社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーの 特 性 について 検 討 するために、 社 会福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーの 性 差 、 年 齢および 経 験 年 数 による 違 い、 社 会 福 祉 施 設 職 員の 職 務 ストレッサーとストレス 反 応 の 関 連 性 についての 検 討 を 行 った。まず、 職 務 ストレッサーの 性 差 について 検 討するために、 社 会 福 祉 施 設 職 員 用 ストレッサー尺 度 の 下 位 尺 度 ごとにt 検 定 を 行 った 結 果 、 女性 の 方 が 環 境 的 要 因 によるストレッサーを 体 験しており、 研 修 ・スーパーヴィジョンについても 多 く 体 験 している 傾 向 があることが 明 らかになった。この 点 については、 嶋 (1992)において、 調査 対 象 者 は 大 学 生 ではあるが、 女 性 の 対 人 ストレスが 男 性 よりも 有 意 に 高 いことが 報 告 されていることから、ストレス 全 般 についての 性 差 が反 映 された 結 果 である 可 能 性 が 示 唆 された。次 に、 年 齢 および 経 験 年 数 による 職 務 ストレッサーの 違 いについて 検 討 するために、 年 齢および 経 験 年 数 を 独 立 変 数 、 社 会 福 祉 施 設 職 員用 ストレッサー 尺 度 の 各 下 位 尺 度 得 点 を 従 属 変数 とした1 元 配 置 の 分 散 分 析 を 行 った。その 結 果 、 利 用 者 支 援 、 環 境 的 要 因 、 自 己 の能 力 、 研 修 ・スーパーヴィジョンにおいて 有 意差 がみられた。また、 多 重 比 較 の 結 果 、 利 用 者 支 援 については、50 歳 以 上 の 群 と40 歳 未 満 の 年 齢 群 との 間 に有 意 差 がみられ、50 歳 以 上 のものは、40 歳 未満 のものに 比 して 利 用 者 支 援 についてのストレッサーを 体 験 していないということが 明 らかになった。このことについては50 歳 以 上 のものは、 年 齢 的 に 管 理 的 な 立 場 に 付 くことが 多 く、利 用 者 への 直 接 的 な 支 援 が 減 少 し、 施 設 の 運 営管 理 的 な 職 務 が 増 加 するためと 考 えられた。環 境 的 要 因 については、30 歳 以 上 〜40 歳 未 満と40 歳 以 上 〜50 最 未 満 の 間 に 有 意 差 がみられた。このことについては40 歳 以 上 〜50 最 未 満 のものは、 他 の 若 い 年 齢 層 に 比 して、 体 力 的 な 衰えがみられるとともに、 現 場 では、 若 手 の 職 員への 指 導 や 管 理 を 担 う 立 場 にあるのに 対 し、50歳 以 上 のものは、その 多 くが 管 理 運 営 的 な 立 場にあることと 関 係 しているのではないかと 考 えられた。自 己 の 能 力 については50 歳 以 上 の 群 と 他 の 年齢 群 との 間 に 有 意 差 がみられた。このように50 歳 以 上 のものは、 他 の 年 齢 層 に比 して 有 意 に 自 己 の 能 力 に 関 するストレッサーの 体 験 が 少 ないということが 明 らかになった。このことについてもまた、50 歳 以 上 のものは、その 多 くが 管 理 運 営 的 な 立 場 にあり、 利 用 者への 直 接 援 助 よりも 職 員 のシフトの 調 整 などといった 施 設 の 運 営 ・ 管 理 的 な 職 務 が 増 えることと 関 連 しているのでないかと 思 われた。つまり、 他 職 種 に 比 してストレスフルであるとされる 対 人 援 助 に 携 わる 時 間 が 物 理 的 に 減 少 するこ108


社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーに 関 する 基 礎 的 研 究とが 起 因 しているのではないだろうか。研 修 ・スーパーヴィジョンについては、30 歳未 満 の 年 齢 群 と50 歳 以 上 との 間 に 有 意 差 がみられた。このことについても、 直 接 援 助 に 不 慣 れな 若 手 職 員 とベテランの 年 配 職 員 、 若 手 職 員 の直 接 援 助 を 中 心 とした 職 務 内 容 と 年 配 のベテラン 職 員 の 職 務 内 容 の 違 いが 起 因 しているものと考 えられた。また、このことから 若 手 職 員 を 中心 とした 研 修 ・スーパーヴィジョンの 重 要 性 が明 らかになった。これらの 結 果 から、 総 じて、50 歳 以 上 のものが 他 の 年 齢 層 に 比 してストレッサーの 体 験 が 少ないことが 明 らかになった。また、その 多 くが職 務 の 変 化 によるものと 考 えられた。経 験 年 数 の 差 については、 対 人 関 係 的 要 因 、利 用 者 支 援 、 環 境 的 要 因 で 有 意 差 がみられた。多 重 比 較 の 結 果 、 対 人 関 係 的 要 因 については、0〜3 年 未 満 と10 年 以 上 の2 群 との 間 に 有 意差 がみられた。利 用 者 支 援 については0〜3 年 未 満 と15 年 以上 との 間 にのみ 有 意 差 がみられた。環 境 的 要 因 については0〜3 年 未 満 と10 年 以上 の2 群 との 間 、3 年 以 上 〜5 年 未 満 、5 年 以上 〜10 年 未 満 の2 群 と15 年 以 上 との 間 に 有 意 差がみられた。これらの 結 果 については、 年 齢 における 結 果 と 同 様 に、 主 に 経 験 に 乏 しい 若 手 職員 と 年 配 のベテラン 職 員 の 差 、 職 務 の 違 いによる 差 に 起 因 するところが 大 きいものと 考 えられた。特 に、 利 用 者 支 援 においては、0〜3 年 未 満と15 年 以 上 との 間 にのみ 有 意 差 がみられ、このことが 顕 著 に 現 れているといえるのではないだろうか。また、 年 齢 差 および 経 験 年 数 の 差 についての結 果 から、 職 務 経 験 の 短 い 若 手 職 員 が 最 も 多 くストレッサーを 体 験 していることが 明 らかになった。このことは、 堀 田 (2007)や 佐 藤 ・ 澁谷 ・ 中 嶋 ・ 香 川 (2003)が 言 及 している 社 会 福祉 施 設 職 員 の 離 職 率 の 高 さとも 関 連 していると考 えられ、これらの 職 員 を 対 象 としたストレスマネジメント・トレーニングを 行 うなどの 対 策が 今 後 重 要 となってくるだろう。また、 職 務 ストレッサーとストレス 反 応 の 関連 性 について 検 討 するために、 社 会 福 祉 施 設 職員 用 ストレッサー 尺 度 およびストレス 反 応 尺 度の 各 下 位 尺 度 得 点 についてPearsonの 相 関 分 析を 行 ったところ、 研 修 ・スーパーヴィジョン 尺度 得 点 と 自 律 神 経 系 の 活 動 性 の 亢 進 尺 度 得 点 間の 関 連 性 を 除 いて、すべての 下 位 尺 度 間 で 有 意な 弱 い 正 の 相 関 または 中 程 度 の 正 の 相 関 がみられた。また、 中 程 度 の 相 関 がみられたものに 焦 点 を当 ててみてみると、 対 人 関 係 的 要 因 と 怒 り、 環境 的 要 因 と 身 体 的 疲 労 感 、 自 己 の 能 力 と 不 安 、怒 り、 情 緒 的 反 応 、というようにストレッサーの 種 類 によって 関 連 するストレス 反 応 には 違 いがあり、それぞれ 特 徴 があることが 明 らかになった。そのため、それぞれのストレッサーが 各 ストレス 反 応 にどのような 影 響 を 与 えているのかを検 討 するために、 社 会 福 祉 施 設 職 員 用 ストレッサー 尺 度 の 各 下 位 尺 度 得 点 を 説 明 変 数 、ストレス 反 応 尺 度 の 各 下 位 尺 度 を 従 属 変 数 としたステップワイズ 法 による 重 回 帰 分 析 を 行 ったところ、 抑 うつについては 自 己 の 能 力 、 対 人 関 係 的要 因 が、 不 安 については 自 己 の 能 力 、 環 境 的 要因 、 利 用 者 支 援 が、 怒 りについては 対 人 関 係 的要 因 、 自 己 の 能 力 が 有 意 な 正 の 影 響 を 示 した。情 緒 的 反 応 については 自 己 の 能 力 、 利 用 者 支援 、 環 境 的 要 因 が、 引 きこもりについては 自 己の 能 力 、 対 人 関 係 的 要 因 が 有 意 な 正 の 影 響 を 示した。 身 体 的 疲 労 感 については 環 境 的 要 因 、 自己 の 能 力 が、 自 律 神 経 系 の 活 動 性 の 亢 進 については 環 境 的 要 因 、 対 人 関 係 的 要 因 が 有 意 な 正 の109


東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 17 号 (2010)影 響 を 示 した。これらの 結 果 から、 職 務 ストレッサーの 種 類により、 現 れるストレス 反 応 も 異 なるということ、ストレッサーを 多 く 体 験 することにより、ストレス 反 応 が 増 大 するというが 明 らかになった。ストレッサーがストレス 反 応 に 正 の 影 響 を示 すことは、 大 学 生 を 対 象 とした 尾 関 ・ 原 口 ・津 田 (1994)と 同 様 の 結 果 であった。また、 自 己 の 能 力 に 関 するストレッサーが 自律 神 経 系 の 活 動 性 の 亢 進 以 外 のすべてのストレス 反 応 を 増 大 することについては、 逆 の 視 点 ではあるが、 嶋 田 (1998)が 示 唆 しているストレス 過 程 に 肯 定 的 な 影 響 を 持 つとされる 自 己 効 力経 験 年 数 においても 再 度 カテゴライズする 必 要があった。そのため、 今 後 、 調 査 対 象 を 拡 大し、より 詳 細 な 検 討 を 加 える 必 要 があるだろう。 第 二 に、 社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーに 焦 点 を 当 てた 研 究 であるため、これまで大 学 生 等 を 対 象 とした 研 究 において、ストレスと 関 連 があることが 示 唆 されているソーシャルサポート( 嶋 1992; 和 田 1998; 福 岡 ・ 橋 本1997)、 自 己 効 力 感 ( 嶋 1998)、ユーモアのセンス( 上 野 ・ 高 下 ・ 原 口 ・ 津 田 1992)、 等との 関 連 性 については 検 討 がなされていない。このため、このことについても 今 後 、 検 討 していく 必 要 があるだろう。感 との 関 連 性 がうかがえる。つまり、 自 己 の 能力 不 足 などに 関 する 事 象 がストレッサーとなっているということは、ここでは 因 果 関 係 について 述 べることができないが、 状 態 としてはストレス 低 減 効 果 があるとされる 自 己 効 力 感 についても 低 いということが 考 えられるため、ストレス 反 応 の 度 合 いも 高 いものと 考 えられる。これらのことから、 社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務ストレッサーは、 性 別 、 年 齢 、 経 験 年 数 によって 異 なり、さらにストレッサーの 種 類 により 現れるストレス 反 応 も 様 々であるということが 明らかになった。そのため、 性 別 、 年 齢 、 経 験 年数 といった 属 性 の 違 いや 社 会 福 祉 施 設 職 員 個 々の 体 験 しているストレッサーの 種 類 、 程 度 により 異 なるアプローチを 用 いた、より 効 果 的 なストレスマネジメントを 進 めていくことが 重 要 であるといえよう。Ⅵ. 今 後 の 課 題本 研 究 は 調 査 データ 等 にいくつかのリミテーションがあった。 第 一 に、 本 研 究 においては、各 属 性 ( 年 齢 ・ 経 験 年 数 )における 調 査 協 力 者の 分 布 に 多 少 のばらつきがあったため、 年 齢 、引 用 文 献藤 野 好 美 (2001)「 社 会 福 祉 従 事 者 のバーンアウトとストレスについての 研 究 」『 社 会 福 祉学 』42⑴, 137-149.福 岡 欣 治 ・ 橋 本 宰 (1997)「 大 学 生 と 成 人 における 家 族 と 友 人 の 知 覚 されたソーシャル・サポートとそのストレスの 緩 和 効 果 」『 心 理 学 研究 』68, 403-409.廣 瀬 清 人 ・ 堀 川 悦 夫 ・ 宇 田 川 一 夫 (2001)「 看護 婦 のストレス 対 処 行 動 の 有 効 性 に 関 する 研 究― 自 己 評 価 の 観 点 を 中 心 にして―」『 感 性 福 祉研 究 年 報 』 2, 213-220.堀 田 聰 子 (2007)「 訪 問 介 護 員 の 定 着 促 進 に 向けて― 離 職 の 現 状 と 介 護 職 の 意 識 を 手 がかりに―」『 月 間 福 祉 』90(12), 29-32.厚 生 労 働 省 (2001)「 過 半 数 がストレスを 感 じている〜 平 成 12 年 度 保 健 福 祉 動 向 調 査 の 概 況〜」『 労 務 事 情 』38(990), 60-64.鎌 田 大 輔 (2007)「 社 会 福 祉 施 設 職 員 用 ストレッサー 尺 度 の 作 成 」『 福 祉 心 理 学 研 究 』 4⑴,26-34.川 田 素 子 (1986)「 医 療 環 境 のストレス 要 因 と各 職 種 の 精 神 的 健 康 度 ソーシャルワーカーの場 合 」『 看 護 展 望 』11⑽, 960-963.久 保 真 人 ・ 田 尾 雅 夫 (1994)「 看 護 婦 におけるバーンアウト―ストレスとバーンアウトの 関 係―」『 実 験 社 会 心 理 学 研 究 』34, 33-43.松 原 達 哉 (1989)「 大 学 生 のストレス 解 消 法 」110


社 会 福 祉 施 設 職 員 の 職 務 ストレッサーに 関 する 基 礎 的 研 究『カウンセリング 研 究 』21, 166-171.Maslach, C. & Jackson, S. E.(1981)Themeasurement of experienced burnout, Journalof Ocupational Behaviour, 2, 99-113.南 彩 子 (2000)「 社 会 福 祉 従 事 者 が 抱 える 職 務上 のストレス 構 造 の 分 析 」『 天 理 大 学 社 会 福 祉学 研 究 室 紀 要 』2, 17-29.尾 関 友 佳 子 ・ 原 口 雅 浩 ・ 津 田 彰 (1992)「 大 学生 の 生 活 ストレッサー,コーピング,パーソナリティとストレス 反 応 」『 健 康 心 理 学 研 究 』4⑵, 1-9.尾 関 友 佳 子 ・ 原 口 雅 浩 ・ 津 田 彰 (1994)「 大 学生 の 心 理 的 ストレス 過 程 の 共 分 散 構 造 分 析 」『 健 康 心 理 学 研 究 』7⑵, 20-36.佐 藤 ゆかり・ 澁 谷 久 美 ・ 中 嶋 和 夫 ほか(2003)「 介 護 福 祉 士 における 離 職 意 向 と 役 割 ストレスに 関 する 検 討 」『 社 会 福 祉 学 』44⑴, 67-78.嶋 信 宏 (1992)「 大 学 生 におけるソーシャルサポートの 日 常 生 活 ストレスに 対 する 効 果 」『 社会 心 理 学 研 究 』7⑴, 45-53.嶋 田 洋 徳 (1998)「 小 中 学 生 の 心 理 的 ストレスと 学 校 不 適 応 に 関 する 研 究 」 風 間 書 房 .上 野 良 重 ・ 高 下 保 幸 ・ 原 口 雅 浩 ・ 津 田 彰(1992)「ストレス 緩 和 要 因 としてのユーモアのセンス」『 人 間 性 心 理 学 研 究 』10, 69-76.植 戸 貴 子 (2000)「 社 会 福 祉 施 設 職 員 のストレスとその 対 応 ― 施 設 現 場 の 現 状 ・ 問 題 点 および今 後 の 課 題 ―」『ソーシャルワーク 研 究 』62-67.和 田 実 (1998)「 大 学 生 のストレスへの 対 処 ,およびストレス,ソーシャルサポートと 精 神 的健 康 の 関 係 ― 性 差 の 検 討 ―」『 実 験 社 会 心 理 学研 究 』38, 193-201.Yamada, G. N. & Drake, B.(1995)Comfirmatory factor analysis of the MaslachBurnout Inventory. Social Workers Research,19, 184-192.矢 富 直 美 (1993)「 特 養 介 護 職 員 のストレス 研究 ~ 施 設 特 性 の 影 響 に 関 する 分 析 」『 季 刊 老 人 福祉 』98, 50-56.111

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