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東京成徳大学大学院心理学研究科 臨床心理学研究13号

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東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 〈 目 次 〉[ 原 著 ]大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響 ……………………………… 黒 川 泰 貴 ・ 石 村 郁 夫 …… 3学 校 嫌 悪 感 の 高 い 中 学 生 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴………………………………………………………………… 風 間 和 ・ 石 村 郁 夫 ・ 杉 本 好 行 …… 17[ 事 例 研 究 ]援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その1)…………………… 石 崎 一 記 ・ 髙 井 美 佳 ・ 江 崎 華 子 …… 28援 助 的 サマースク-ルの 研 究 XI(その2)………………………………… 赤 坂 好 美 ・ 石 崎 一 記 …… 33援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その3)………………………………… 石 毛 遥 ・ 石 崎 一 記 …… 39援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その4)………………………………… 風 間 和 ・ 石 﨑 一 記 …… 51援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その5)………………………………… 小 池 春 菜 ・ 石 﨑 一 記 …… 61援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その6)………………………………… 阪 無 勇 士 ・ 石 﨑 一 記 …… 72援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その7)…………………… 松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 﨑 一 記 …… 86援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その8)……………………………… 矢 津 田 麻 希 ・ 石 﨑 一 記 ……100援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その9)………………………………… 渡 沼 良 美 ・ 石 﨑 一 記 ……107[ 資 料 ]Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の介 入 プログラムの 紹 介 ………………… 市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一 ……119心 理 学 領 域 における 愛 に 関 する 研 究 の 概 観………………………………… 羽 鳥 健 司 ・ 石 村 郁 夫 ・ 市 村 操 一 ・ 小 金 井 希 容 子 ・ 北 見 由 奈 ……150[ 研 究 会 報 告 ]平 成 24 年 度 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 研 究 会 報 告 ……………………………………………………………157[ 平 成 23 年 度 修 士 論 文 題 目 一 覧 ]… …………………………………………………………………………165[ 執 筆 規 程 ]… ……………………………………………………………………………………………………166[ 編 集 規 程 ]… ……………………………………………………………………………………………………167- 1 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 大 号 学 ,2013,3-16生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響原 著大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響Effect of Sleep Conditions on Truancy in University Students黒 川 泰 貴( 神 奈 川 県 スクールカウンセラー)石 村 郁 夫( 東 京 成 徳 大 学 )Taiki KUROKAWA(Kanagawa school counselor)Ikuo ISHIMURA(Tokyo Seitoku University)要 約睡 眠 は 健 康 や 安 全 に 強 く 影 響 を 及 ぼす 基 本 的 な 生 命 現 象 であり, 睡 眠 の 障 害 や 不 足 は, 人 間の 脳 機 能 , 心 身 健 康 や 行 動 面 と 密 接 に 関 係 すると 言 われている。しかし, 日 本 人 の 睡 眠 は 短 眠 ・後 退 化 傾 向 にあり,とりわけ 大 学 生 は 睡 眠 - 覚 醒 リズムが 夜 型 で 不 規 則 になりやすく,こうした 夜 型 の 生 活 パターンが, 午 前 中 の 活 動 性 や 低 調 感 に 影 響 し, 不 登 校 傾 向 に 結 びつくと 予 想 される。よって 本 研 究 の 目 的 は, 大 学 生 の 睡 眠 状 況 と 不 登 校 傾 向 との 関 連 についての 知 見 を 提供 することである。 大 学 生 139 名 を 対 象 とし, 大 学 生 の 睡 眠 (Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI) 日 本 語 版 ), 無 気 力 型 不 登 校 傾 向 ( 意 欲 低 下 領 域 尺 度 ), 情 緒 的 混 乱 型 不 登 校 傾 向 ( 登校 回 避 感 情 測 定 尺 度 ), 抑 うつ 傾 向 (K-six) に 関 する 質 問 紙 調 査 を 行 ったところ, 本 研 究 で 対象 とした 大 学 生 の 睡 眠 時 間 が, 一 般 的 な 睡 眠 時 間 と 比 べて 短 く, 睡 眠 相 は 一 般 的 なものよりも後 退 しており, 睡 眠 時 間 の 不 足 を 感 じていた。また, 大 学 生 は 学 年 が 上 がるに 連 れて 睡 眠 相 が後 退 するものの,より 長 い 睡 眠 時 間 を 確 保 でき,4 年 生 になるとこれらは 逆 転 するという 傾 向や, 女 性 の 方 が 男 性 よりも 睡 眠 状 況 が 悪 くなるという 傾 向 も 示 された。そして 大 学 生 において,こうした 睡 眠 状 況 が 生 じる 背 景 には, 生 活 パターンや, 睡 眠 についてのその 人 の 捉 え 方 , 生 理的 現 象 が 大 きく 影 響 していると 考 えられた。 更 に, 大 学 生 の 睡 眠 は, 無 気 力 型 不 登 校 における授 業 意 欲 の 低 下 , 情 緒 的 混 乱 型 不 登 校 における 学 校 への 嫌 悪 感 ,および 抑 うつ 傾 向 との 関 連 が見 られ, 大 学 生 の 睡 眠 の 乱 れが 不 登 校 傾 向 に 影 響 することが 推 察 され, 睡 眠 改 善 の 重 要 性 が 示唆 された。キーワード: 睡 眠 , 大 学 生 , 不 登 校 , 情 緒 的 混 乱 型 , 無 気 力 型 不 登 校 , 睡 眠 改 善AbstractSleep is a basic biological phenomenon that positively influences one's overall healthand safety. In contrast,sleep disorder or the lack of sleep can negatively affect humanbrain function,physical and mental well-being,as well as behavior. People in Japanare becoming increasingly sleep-deprived,and this is especially noticeable in universitystudents. They are “night owls”with irregular sleep-wake patterns. Such night-orientedlifestyles render these individuals sluggish in the morning,which can increase the- 3 -


黒 川 泰 貴 ・ 石 村 郁 夫tendency for truancy. Considering this issue,this study examines the sleep conditions ofuniversity students to determine the relationship between sleep disorders and truancy.A total of 139 university students participated in the survey that measured sleep quality(Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI) Japanese version),apathy type truancy (passivityscale),affective confusion type truancy (scale of school avoidance),and depressiontendency (K-six). The results revealed that the participants'sleep duration was shorter andtheir sleep phases regressed. They also indicated that as the students' years of attendanceincreased,their sleep phases regressed in spite of longer sleep durations; however,thesleep phases of the fourth (final) year students improved,but their sleep duration becameshorter. Furthermore,the sleep patterns of female students deteriorated to a greaterextent than their male counterparts. Lifestyle patterns,individual opinions on sleep,andphysiological factors predominantly influenced the students'sleep conditions. In addition,the students'lack of sleep was related to decreased motivation in class with apathy typetruancy,aversion towards school with affective confusion type truancy,and depressiontendency,all of which signify the importance of sleep habit improvement.Keywords: sleep,university students,truancy,affective confusion type truancy,apathy type truancy,sleep habit improvement.問 題 と 目 的睡 眠 とは, 健 康 や 安 全 に 強 く 影 響 を 及 ぼす 基 本的 な 生 命 現 象 であり( 白 川 ,2006), 私 たち 生 物が 脳 機 能 や 心 身 機 能 の 健 常 を 保 ち, 生 活 の 質 を 向上 させるために 必 要 不 可 欠 で 基 本 的 な 役 割 を 担 うものであると 言 える。NHK 放 送 文 化 研 究 所 (2006)によると, 日 本 人 の 平 均 睡 眠 時 間 は,1960 年 では8 時 間 25 分 であったのに 対 し,2005 年 では7 時 間 22分 と45 年 間 で1 時 間 の 短 縮 傾 向 が 見 られる。また,夜 10 時 に 眠 っている 人 の 割 合 は,1960 年 では60%以 上 であるのに 対 し,2005 年 では24%と 大 幅 に 減少 していることから, 入 眠 時 刻 もこの45 年 間 で 後退 傾 向 にある。 更 に NHK 放 送 文 化 研 究 所 (2000)によると, 日 本 人 の 多 くが 睡 眠 障 害 に 対 して 無 自覚 であり,およそ5 人 に1 人 が 不 眠 に 悩 まされている。こうした 睡 眠 の 問 題 は, 免 疫 力 や 運 動 能 力 ,身 体 回 復 機 能 , 生 活 習 慣 病 などの 身 体 的 健 康 をはじめ, 感 情 制 御 機 能 や 創 造 性 , 意 欲 , 心 的 ストレスなどの 心 的 健 康 , 集 中 力 や 記 憶 力 ・ 学 習 能 力 などの 脳 機 能 , 作 業 能 力 やうっかりミス・ 事 故 などの 行 動 面 と 密 接 に 関 係 し( 田 中 ・ 古 谷 ,2006),その 経 済 損 失 は 年 間 約 3 兆 5000 億 円 にものぼると推 定 されている( 朝 日 新 聞 ,2006)。 以 上 のように,現 代 の 日 本 人 は 入 眠 時 間 の 後 退 化 に 伴 い, 睡 眠 に関 する 様 々な 問 題 が 生 じてきており,こうした 現象 が 社 会 的 な 問 題 にまで 発 展 していると 言 える。中 でも 睡 眠 などの 生 活 リズムの 乱 れが, 抑 うつやストレスなどの 精 神 保 健 指 標 に 影 響 することが報 告 されている。 例 えば, 川 上 ・ 原 谷 ・ 金 子 ・ 小泉 (1987)は, 生 活 習 慣 と 抑 うつ 症 状 との 関 連 を調 べたところ, 男 女 共 に 睡 眠 時 間 が6 時 間 以 下 の人 の 方 が,7‐8 時 間 の 人 よりも 高 い 抑 うつ 得 点 を示 し, 更 に 男 性 の 場 合 は9 時 間 以 上 の 睡 眠 をとっている 人 も 抑 うつ 得 点 が 増 加 傾 向 にあることを 明らかにしている。また, 鈴 木 ・ 尾 崎 ・ 渋 井 ・ 関 口 ・ 譚 ・栗 山 ・ 有 竹 ・ 田 ヶ 谷 ・ 内 山 (2004)は, 睡 眠 の 問題 と 心 身 の 訴 えとの 関 連 を 検 討 したところ, 日 中の 過 剰 な 眠 気 ・ 睡 眠 時 間 不 足 ・ 主 観 的 睡 眠 時 間 不足 といった 睡 眠 の 問 題 が,“イライラする”“ 気 持ちのゆとりがない”“やる 気 がない”といった 心理 的 な 訴 えと 有 意 な 関 連 があったことを 報 告 しており,Doi,Minowa,& Tango(2003) は, 睡 眠 の質 の 低 い 労 働 者 は, 身 体 や 心 の 健 康 を 損 なうこと- 4 -


大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響が 多 く, 職 場 での 人 間 関 係 に 問 題 を 抱 えていることも 報 告 されている。以 上 のように, 睡 眠 は 人 間 の 精 神 面 において,肯 定 的 にも 否 定 的 にも 影 響 するものであり,メンタルヘルスを 形 成 する 大 きな 要 因 の1つであると言 えるが,とりわけ 大 学 生 における 睡 眠 の 乱 れが先 行 研 究 によって 報 告 されている。まず 全 国 民 の平 均 睡 眠 時 間 は7 時 間 22 分 である(NHK 放 送 文 化研 究 所 ,2006)のに 対 し, 大 学 生 を 対 象 に 調 査 した 林 ・ 堀 (1987)では6 時 間 56 分 , 並 びに 矢 島 ・中 野 ・ 橘 ・ 粥 川 (2003)では6 時 間 36 分 と, 共 に下 回 っている。 次 に 入 眠 時 刻 の 全 体 平 均 は11 時 以降 である(NHK 放 送 文 化 研 究 所 ,2006)のに 対 し,大 学 生 を 対 象 とした 林 ・ 堀 (1987) では, 入 眠 時刻 の 平 均 は0 時 11 分 と1 時 間 以 上 の 後 退 傾 向 が 見 られる。 続 いて, 起 床 時 刻 の 国 民 全 体 の 平 均 時 刻 は午 前 6 時 30 分 である(NHK 放 送 文 化 研 究 所 ,2006)のに 対 し, 大 学 生 を 対 象 とした 林 ・ 堀 (1987) の調 査 では, 大 学 生 の 平 均 起 床 時 刻 は7 時 11 分 と,起 床 時 刻 においても 一 般 平 均 と 比 べて 後 退 傾 向 があると 言 える。 更 に, 山 本 ・ 野 村 (2009) および坂 本 (2009)によると, 大 学 生 の 中 でも 学 年 が 上がるにつれて 入 眠 時 刻 も 起 床 時 刻 も 遅 くなり, 生活 パターンの 夜 型 化 が 進 むとのことである。 上 記のように, 大 学 生 は 一 般 的 な 睡 眠 パターンと 比 べると, 平 均 睡 眠 時 間 が 短 く, 睡 眠 相 が 後 退 して 生活 パターンが 夜 型 になりがちであることから, 睡眠 状 況 が 乱 れていると 考 えられる。これらの 大 学 生 の 睡 眠 の 乱 れに 伴 う 身 体 面 ・ 精神 面 ,そして 学 業 面 への 影 響 が 先 行 研 究 において報 告 されている。まず 身 体 面 への 影 響 として, 太田 ・ 太 田 (1999)によると, 睡 眠 不 足 が 健 康 状 態に 影 響 しており, 睡 眠 時 間 が5 時 間 以 下 で 体 調 が悪 くなる 学 生 が1 割 以 上 いるとのことである。また 松 井 ・ 古 見 ・ 角 田 ・ 松 本 ・ 照 屋 ・ 田 村 ・ 竹 前 (1989)によると, 夜 型 の 生 活 リズムの 学 生 は 朝 型 ・ 中 間型 に 比 べて 疲 労 感 と 不 健 康 感 を 生 じやすく, 逆 に本 多 ・ 鈴 木 ・ 城 田 ・ 金 子 ・ 高 橋 (1994)によると,朝 型 の 学 生 は 夜 型 よりも 心 身 に 関 する 不 定 愁 訴 が少 ないことが 報 告 されている。そして 續 木 ・ 平 田 ・円 田 (2009)では, 睡 眠 不 足 の 大 学 生 は, 適 切 な睡 眠 をしている 学 生 に 比 べて,ねむけ 感 ・ 不 安 定感 ・ 不 快 感 ・ぼやけ 感 といった 自 覚 疲 労 症 状 を 訴えることが 多 いことが 報 告 されている。 更 に 矢 島他 (2003)は, 睡 眠 時 間 が6 時 間 以 下 の 短 時 間 睡眠 者 と,10 時 間 以 上 の 長 時 間 睡 眠 者 の 中 には, 免疫 体 力 がなく 風 邪 を 引 きやすい 人 が 多 いという 調査 結 果 から, 大 学 生 の 普 段 の 眠 りが 免 疫 活 性 の 促進 に 関 係 することを 示 唆 している。これらのことから, 大 学 生 の 睡 眠 が, 体 調 不 良 や 疲 労 , 免 疫 力などといった 身 体 面 に 影 響 していることがうかがえる。次 に 精 神 面 への 影 響 として, 續 木 他 (2009)によると, 睡 眠 不 足 の 大 学 生 は, 適 切 な 睡 眠 をしている 学 生 に 比 べて, 覚 醒 ・ 緊 張 の 低 下 といった 心理 的 機 能 を 示 しやすいとのことである。そして,谷 島 (1996)は 睡 眠 などの 生 活 リズムの 乱 れと 抑うつとの 関 連 を 調 べたところ, 睡 眠 リズムの 乱 れが 体 調 不 良 を 引 き 起 こし, 自 責 や 判 断 における 抑うつを 引 き 起 こすことを 明 らかにし, 同 様 に 中 村(2004)では, 抑 うつ・ 不 安 ・ 神 経 過 敏 の 精 神 性愁 訴 を 高 く 示 す 群 は, 正 常 群 よりも 不 眠 得 点 が 有意 に 高 くなっていたことから, 抑 うつ 的 ・ 心 配 性 ・感 受 性 が 鋭 いなどの 神 経 質 的 性 格 の 人 は 不 眠 傾 向を 招 きやすいと 推 測 している。 更 に 西 岡 ・ 棟 方(2008)は, 女 子 大 学 生 を 対 象 に 生 活 習 慣 と 心 の健 康 に 関 する 調 査 を 行 ったところ, 睡 眠 の 総 合 得点 が 自 己 効 力 感 と 関 連 が 深 いという 知 見 を 見 出 している。これらのことから, 大 学 生 の 睡 眠 は, 抑うつや 不 安 , 緊 張 , 神 経 過 敏 などの 否 定 的 な 部 分のみならず, 自 己 効 力 感 といった 肯 定 的 な 部 分 にも 精 神 的 に 影 響 していることがうかがえる。続 いて 学 業 面 への 影 響 として, 富 田 (2007)が,大 学 生 の 睡 眠 と 学 業 との 関 係 を 調 査 したところ,睡 眠 不 足 から 授 業 中 に 寝 たり, 疲 れたりしやすいと 訴 えていた 人 が 全 体 の37%, 頭 がすっきりしな- 5 -


黒 川 泰 貴 ・ 石 村 郁 夫いと 訴 えていた 人 が22.8%, 勉 強 に 身 が 入 らないと 訴 えていた 人 が8.7%いたことから, 就 寝 時 刻 ・起 床 時 刻 ・ 睡 眠 時 間 ・ 起 床 時 の 気 分 がその 日 の 行動 を 前 向 きに 出 来 るか 否 かを 左 右 して, 結 果 的 に学 業 面 に 影 響 を 及 ぼすことを 指 摘 している。そして, 太 田 ・ 太 田 (1999) によると, 睡 眠 不 足 を 示す 学 生 は, 体 温 の 日 内 変 動 から 夜 型 の 生 活 パターンが, 午 前 中 の 活 動 性 や 低 調 感 に 影 響 していると述 べている。これらのことから, 大 学 生 は 睡 眠 が 乱 れることによって, 心 身 の 健 康 への 影 響 をはじめ, 学 業 意欲 や 活 動 性 の 低 下 ,そして 低 調 感 などといった 学業 面 への 影 響 を 及 ぼす 傾 向 があり,これらの 症 状が 大 学 生 の 登 校 する 時 間 帯 である 午 前 中 から 見 られることを 考 えると, 大 学 生 の 睡 眠 の 乱 れが, 授業 の 欠 席 や 不 登 校 に 起 因 する 可 能 性 が 予 測 される。ここで 読 売 新 聞 (2010)によると, 大 学 生 の不 登 校 の 出 現 率 は2.9% であり, 牧 野 (2001)によると, 大 学 生 の 学 校 に 行 きたくない 理 由 として“ 眠 いから”“ 疲 れているから”が 上 位 に 挙 げられ,大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 の 動 機 に 結 びついていることが 覗 える。しかし 睡 眠 状 況 と 不 登 校 傾 向 の関 連 を 扱 った 研 究 は,その 対 象 が 小 中 学 生 のものばかり( 三 池 ,2005; 市 川 ,2005など)で, 大 学生 を 対 象 にしたものは 見 当 たらない。よって 本 研究 の 目 的 は,この 大 学 生 という 時 期 に 焦 点 を 当 て,睡 眠 状 況 と 不 登 校 傾 向 との 関 連 についての 知 見 を提 供 することである。方 法調 査 対 象 と 調 査 手 続 き千 葉 圏 内 の 心 理 学 を 専 攻 する 大 学 生 139 名 (うち 男 性 61 名 , 女 性 78 名 ;1 年 生 71 名 ,2 年 生 48 名 ,3 年 生 ,4 年 生 15 名 )を 対 象 とした。 調 査 は 大 学 の講 義 時 間 内 に 集 団 配 布 し, 集 団 回 収 形 式 で 実 施 された。調 査 内 容1. 大 学 生 の 所 属 ・ 睡 眠 に 対 する 意 識まず 大 学 生 の 所 属 を 把 握 する 項 目 として, 性別 ・ 学 年 を 尋 ねた。 次 に 睡 眠 に 対 する 意 識 を 把握 する 項 目 として,“あなたにとって, 睡 眠 はとても 重 要 なものですか?”“あなたは 寝 る 前 に 考え 事 をよくしますか?”という2 項 目 を 尋 ねた。尚 ,これら2 項 目 については, 睡 眠 に 対 する 意 識によって 睡 眠 の 質 に 影 響 を 及 ぼすかを 調 査 する 目的 で 尋 ねたものである。2. 大 学 生 の 睡 眠大 学 生 の 睡 眠 状 況 を 把 握 す る た め に,Pittsburgh Sleep Quality Index( 以 下 PSQI と略 す) 日 本 語 版 を 用 いた。この 尺 度 は,Buysee,Reynolds,Monk,Berman,& Kupfer(1989)によって 作 成 された 尺 度 を, 土 井 ・ 箕 輪 ・ 内 山 ・大 川 (1997)が 日 本 語 版 に 翻 訳 したものであり,最 近 1 ヶ 月 の 睡 眠 について,1 睡 眠 の 質 ,2 入 眠時 間 ,3 睡 眠 時 間 ,4 睡 眠 効 率 ,5 睡 眠 困 難 ,6眠 剤 の 使 用 ,7 日 中 覚 醒 困 難 という7 因 子 19 項 目で 測 定 する 尺 度 である。PSQI は, 各 項 目 のスコア 化 と 総 合 得 点 が 算 出 でき, 現 在 , 睡 眠 障 害 を 治療 する 臨 床 現 場 や, 睡 眠 障 害 に 関 する 研 究 では 最も 多 く 使 われている 質 問 票 である( 堀 ,2008)。3. 不 登 校 傾 向大 学 生 の 不 登 校 要 因 として, 牧 野 (2001) は 大学 生 活 への 不 満 と 学 生 自 身 の 無 気 力 傾 向 があることを 明 らかにしている。 一 方 で, 田 中 ・ 菅 (2007)によると, 不 適 応 を 示 す 大 学 生 は, 対 人 関 係 や 日常 生 活 における 不 安 ,そして 評 価 に 対 する 不 安 を抱 える 傾 向 があるとのことである。よって, 大 学生 の 不 登 校 要 因 は 無 気 力 だけでなく, 不 安 などの情 緒 的 側 面 にも 関 与 してくるものであると 考 えられる。そこで 本 研 究 では, 不 登 校 傾 向 を 測 定 する尺 度 として, 大 学 生 の 生 活 領 域 ごとの 意 欲 低 下 を1 学 業 意 欲 低 下 ,2 授 業 意 欲 低 下 ,3 大 学 意 欲 低下 という3 因 子 20 項 目 ,“あてはまる”“ややあてはまる”“あまりあてはまらない”“あてはまらない”の4 件 法 で 測 定 する 意 欲 低 下 測 定 尺 度 ( 下 山 ,- 6 -


大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響1995)と, 学 校 に 行 きたくないと 思 いながらも 登校 している 生 徒 の 登 校 回 避 感 情 を1 学 校 への 反 発感 傾 向 ,2 友 人 関 係 における 孤 立 感 傾 向 ,3 登 校嫌 悪 感 傾 向 という3 因 子 26 項 目 ,“あてはまる”“ややあてはまる”“どちらでもない”“あまりあてはまらない”“あてはまらない”の5 件 法 で 測 定 する登 校 回 避 感 情 測 定 尺 度 ( 渡 辺 ・ 小 石 ,2000)を 用いた。4. 抑 うつ 傾 向本 研 究 では, 谷 島 (1996)や 中 村 (2004)が 報告 したように, 大 学 生 の 睡 眠 の 乱 れは 抑 うつ 傾 向を 高 めるという 先 行 研 究 の 結 果 から, 大 学 生 の 睡眠 状 況 を 把 握 する 指 標 の 一 つとして, 抑 うつ 傾 向も 尋 ねることとした。 抑 うつ 傾 向 を 把 握 する 尺 度として,Kessler が 開 発 し, 古 川 ・ 大 野 ・ 宇 田 ・中 根 (2002)が 日 本 語 版 を 作 成 した, 抑 うつ 傾 向を 感 じた 頻 度 について6 項 目 ,“いつも”“たいてい”“ときどき”“ 少 しだけ”“ 全 くない”の5 件 法で 簡 易 にスクリーニングできる 尺 度 である K-Sixを 使 用 した。結 果 と 考 察1. 大 学 生 の 睡 眠 状 況 について大 学 生 の 睡 眠 状 況 に 関 する 調 査 結 果 として, 睡眠 時 間 ・ 就 寝 時 刻 ・ 起 床 時 刻 ・ 理 想 睡 眠 時 間 の 記述 統 計 ( 平 均 値 ・ 標 準 偏 差 ・ 最 大 値 ・ 最 小 値 :N=139)を Table 1に 記 した。 本 調 査 における 平均 睡 眠 時 間 は5 時 間 55 分 (SD=1.61)と,NHK 放 送文 化 研 究 所 (2006)による 日 本 人 の 平 均 睡 眠 時 間である7 時 間 22 分 に 比 べると1 時 間 30 分 弱 も 短 く,林 ・ 堀 (1987) や 矢 島 他 (2003)が 大 学 生 を 対 象に 行 った 調 査 の 平 均 睡 眠 時 間 (6 時 間 56 分 ,6 時 間36 分 )よりも 更 に 短 かい 結 果 であった。そして,最 大 値 が12 時 間 , 最 小 値 が1 時 間 30 分 と, 過 眠 型や 短 眠 型 の 睡 眠 時 間 を 示 す 人 もおり, 睡 眠 時 間 は個 々によって 大 きな 開 きがあると 言 える。これらのことから, 本 研 究 における 対 象 者 の 睡 眠 時 間 は,個 々によって 開 きはあるものの, 一 般 平 均 よりも短 いだけでなく, 他 の 大 学 生 の 平 均 睡 眠 時 間 よりも 更 に 短 い 傾 向 があり, 睡 眠 時 間 が 足 りていないと 考 えられる。 次 に, 本 調 査 における 平 均 就 寝 時刻 は25 時 15 分 (SD=1.39)と,NHK 放 送 文 化 研 究 所(2006)が 示 した, 夜 寝 ている 人 が 半 数 を 越 える時 刻 は23 時 00 分 以 降 であるという 一 般 平 均 と 比べると2 時 間 以 上 遅 く, 林 ・ 堀 (1987) が 大 学 生 を対 象 にした 調 査 の 平 均 就 寝 時 刻 の0 時 11 分 と 比 較しても1 時 間 以 上 遅 い 時 刻 を 示 していた。 続 いて本 調 査 における 平 均 起 床 時 刻 は7 時 44 分 (SD=1.59)と,NHK 放 送 文 化 研 究 所 (2006)が 示 した, 朝 起きている 人 が 半 数 を 越 える 時 刻 は6 時 30 分 であるという 一 般 平 均 と 比 べると1 時 間 以 上 遅 く, 林 ・堀 (1987) が 大 学 生 を 対 象 にした 調 査 の 平 均 起 床時 刻 の7 時 11 分 と 比 較 しても30 分 以 上 遅 い 時 刻 を示 していた。これらのことから, 本 調 査 における対 象 者 は, 一 般 平 均 や 他 の 大 学 生 と 比 べると, 就寝 時 刻 と 起 床 時 刻 が 共 に 遅 く, 睡 眠 相 の 後 退 が 見られると 言 える。 更 に 本 調 査 における 理 想 睡 眠 時間 は7 時 間 45 分 であり, 平 均 睡 眠 時 間 の5 時 間 55 分と 比 べて2 時 間 弱 長 いことから, 本 調 査 の 対 象 者が, 自 分 の 睡 眠 時 間 について 足 りないと 感 じていることが 見 出 された。Table 1 大 学 生 の 睡 眠 状 況 に 関 する 記 述 統 計平 均 値 (SD) 最 大 値 最 小 値睡 眠 時 間 5 時 間 55 分 (1.61) 12 時 間 1 時 間 30 分就 寝 時 刻 25:15(1.39) 5:00 21:30起 床 時 刻 7:44(1.59) 14:00 4:30理 想 睡 眠 時 間 7 時 間 45 分 (1.61) 12 時 間 3 時 間- 7 -


黒 川 泰 貴 ・ 石 村 郁 夫以 上 のことを 総 括 すると, 大 学 生 の 睡 眠 時 間 は一 般 的 な 睡 眠 時 間 と 比 べて 短 く, 本 調 査 の 場 合 はその 傾 向 が 顕 著 に 見 られた。また, 大 学 生 の 睡 眠相 は 一 般 的 なものよりも 後 退 している 傾 向 があり,これについても 本 調 査 では 顕 著 に 見 られていた。ここで 一 般 の 就 寝 ・ 起 床 時 刻 と, 本 調 査 の 就寝 ・ 起 床 時 刻 の 開 き 方 を 見 てみると, 就 寝 時 刻 の開 きは2 時 間 以 上 あるのに 対 し, 起 床 時 刻 は1 時 間程 度 しかないことから, 大 学 生 の 睡 眠 相 は, 一 般のものと 比 べると 後 退 しているものの, 就 寝 時 刻の 遅 れを 起 床 時 刻 で 挽 回 する 傾 向 があり,その 結果 , 睡 眠 時 間 が 短 縮 されていると 言 える。この 背景 には, 大 学 生 の 場 合 , 時 間 的 拘 束 が 少 なく, 自らスケジュールを 立 てることが 出 来 るため, 睡 眠- 覚 醒 リズムが 夜 型 で 不 規 則 になりやすい( 竹内 ・ 犬 山 ・ 石 原 ・ 福 田 ,2000)が, 夜 寝 る 前 の 時間 帯 と 比 べると, 朝 は 大 学 の 授 業 があるため, 時間 の 拘 束 が 比 較 的 生 じてくることが 影 響 していると 考 えられる。そして, 大 学 生 の 理 想 睡 眠 時 間 が平 均 睡 眠 時 間 よりも2 時 間 程 上 回 っていたことを合 わせて 考 えると, 大 学 生 は 睡 眠 時 間 が 足 りないと 考 えているものの, 朝 の 授 業 に 合 わせて 早 く 起きる 必 要 性 があるため, 睡 眠 不 足 の 状 態 で 登 校 していることがうかがえ,この 状 態 では 富 田 (2007)や 太 田 ・ 太 田 (1999)が 指 摘 するような, 学 業 意欲 や 活 動 性 の 低 下 ,そして 低 調 感 などの 学 業 面 への 影 響 を 及 ぼすことが 懸 念 される。2. 学 年 ごとの 睡 眠 状 況大 学 生 の 学 年 ごと 睡 眠 状 況 に 関 する 調 査 結 果 として, 睡 眠 時 間 ・ 就 寝 時 刻 ・ 起 床 時 刻 の 平 均 値 をTable 2に 示 した。 平 均 睡 眠 時 間 は,1 年 生 が5.6時 間 と 一 番 短 く, 続 いて4 年 生 の6.0 時 間 ,2 年 生の6.3 時 間 ,そして 最 も 長 かったのが3 年 生 の6.6 時間 であった。このことから, 学 年 が 進 むに 連 れて短 眠 傾 向 が 落 ち 着 いていき,4 年 生 になると 再 び短 眠 に 戻 ることがうかがえた。 次 に 就 寝 時 刻 の 学年 ごとの 平 均 値 は,1 年 生 が25 時 3 分 と 一 番 早 く,続 いて2 年 生 の25 時 21 分 ,4 年 生 の25 時 32 分 ,そして 最 も 遅 かったのが3 年 生 の26 時 12 分 であった。このことから, 学 年 が 進 むに 連 れて 就 寝 時 刻 の 後退 化 が 進 むが,4 年 生 になると 少 し 落 ち 着 くことがうかがえた。 続 いて 起 床 時 刻 の 学 年 ごとの 平 均値 は,1 年 生 が6 時 59 分 と 一 番 早 く, 続 いて2 年 生の8 時 22 分 ,4 年 生 の8 時 48 分 ,そして 最 も 遅 かったのが3 年 生 の9 時 00 分 であった。このことから,学 年 が 進 むに 連 れて 起 床 時 刻 の 後 退 化 が 進 むが,4 年 生 になると 少 し 落 ち 着 くことがうかがえた。以 上 のことから, 大 学 生 は 学 年 が 進 むにつれてより 多 くの 睡 眠 時 間 が 確 保 されていくものの, 睡 眠相 が 後 退 化 する 傾 向 があり,これらの 傾 向 は4 年生 になると 共 に 逆 転 することが 見 出 された。この背 景 には,1 年 生 の 場 合 は, 朝 からの 授 業 が 多 く,それに 合 わせた 睡 眠 パターンが 必 要 になるが, 学年 が 進 むに 連 れて 朝 からの 授 業 も 少 なるので,より 多 くの 睡 眠 時 間 を 確 保 できたり, 夜 更 かしが 可能 になったりすることが 影 響 していると 考 えられる。またこの 結 果 は, 山 本 ・ 野 村 (2009) および坂 本 (2009)が 示 すような, 大 学 生 の 中 でも 学年 が 上 がるにつれて 入 眠 時 刻 も 起 床 時 刻 も 遅 くなり, 生 活 パターンの 夜 型 化 が 進 むという 見 解 とほぼ 同 じであるが,4 年 生 になると 短 眠 傾 向 や 睡 眠相 の 前 進 が 見 られるという 点 で 異 なっていた。こTable 2 学 年 ごとの 睡 眠 状 況 の 平 均 値学 年 平 均 睡 眠 時 間 就 寝 時 刻 起 床 時 刻1 年 生 (N = 71) 5.6 時 間 25:03 6:592 年 生 (N = 48) 6.3 時 間 25:21 8:223 年 生 (N = 5) 6.6 時 間 26:12 9:004 年 生 (N = 15) 6.0 時 間 25:32 8:48- 8 -


大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響の 背 景 には, 以 下 の2つのことが 考 えられる。1つ目 は, 本 調 査 の 標 本 数 が1,2 年 生 の 数 に 比 べて,3,4 年 生 が 圧 倒 的 に 少 なく, 中 でも3 年 生 は5 人 しかいなかったことで,ばらつきが 生 じてしまったということである。そしてもう 一 つは, 大 学 4 年生 になると 就 職 活 動 が 始 まっており, 朝 の 時 間 的制 約 が 生 じてくることから,それに 合 わせて 睡 眠相 も 前 進 していくということである。これらのことから, 本 調 査 の 場 合 は 標 本 数 にばらつきがあるため 一 概 には 言 い 切 れないかもしれないが, 大 学生 の 睡 眠 状 況 には, 朝 の 時 間 的 制 約 があるか 否 かという 大 学 生 の 生 活 パターンが 大 きく 影 響 すると考 えられる。3. 大 学 生 の 睡 眠 状 況 に 関 する 性 差 による 比 較 について大 学 生 の 睡 眠 状 況 に 関 して, 性 別 による 違 いが 見 られるかを 検 討 するため,PSQI の 総 合 得 点および 下 位 因 子 得 点 の 平 均 値 を 用 いて t 検 定 を 行い,その 結 果 を Table 3に 示 した。t 検 定 の 結 果 ,PSQI 総 合 得 点 (t(136)=1.986,p


黒 川 泰 貴 ・ 石 村 郁 夫Table 4 睡 眠 に 対 する 意 識 による 睡 眠 得 点 の 平 均 値 および t 検 定 の 結 果睡 眠 重 要 度 N M SD t 値 df pPSQI 総 合 得 点 重 要 である 126 7.36 3.44 1.786 137 .076重 要 でない 13 9.15 3.63C1 睡 眠 の 質 重 要 である 125 1.59 .72 .822 136 n.s重 要 でない 13 1.77 .93C2 入 眠 時 間 重 要 である 126 1.59 .98 2.814 137 .006重 要 でない 13 2.38 .87C3 睡 眠 時 間 重 要 である 126 1.18 1.07 2.325 137 .022重 要 でない 13 1.92 1.32C4 睡 眠 効 率 重 要 である 126 .42 .82 1.724 137 .087重 要 でない 13 .85 1.07C5 睡 眠 困 難 重 要 である 126 .94 .53 .576 12.96 n.s重 要 でない 13 1.08 .86C6 眠 剤 使 用 重 要 である 125 .19 .68 3.155 124 .002重 要 でない 13 .00 .00C7 覚 醒 困 難 重 要 である 126 1.46 1.00 1.037 137 n.s重 要 でない 13 1.15 1.14が 睡 眠 に 関 して 意 識 を 向 けていることが 明 らかになった。 続 いて 睡 眠 がその 人 にとって 重 要 なものである 否 かに 関 して,PSQI の 総 合 得 点 および 下 位 因 子 得 点 の 平 均 値 を 用 いて t 検 定 を 行 い,その 結 果 を Table 4に 示 した。t 検 定 の 結 果 , 睡眠 を 重 要 と 捉 えている 群 と 捉 えていない 群 では,PSQI(t(137)=1.786,p


大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響Table 5 眠 前 の 考 え 事 による 睡 眠 得 点 の 平 均 値 および t 検 定 の 結 果考 え 事 N M SD t 値 df pPSQI 総 合 得 点 する 95 8.37 3.42 4.363 136 .000しない 43 5.74 2.90C1 睡 眠 の 質 する 94 1.71 .71 2.369 136 .019しない 43 1.40 .76C2 入 眠 時 間 する 95 1.88 .93 4.007 136 .000しない 43 1.19 .98C3 睡 眠 時 間 する 95 1.43 1.15 2.972 98.56 .004しない 43 .88 .93C4 睡 眠 効 率 する 95 .56 .94 2.303 123.35 .023しない 43 .26 .58C5 睡 眠 困 難 する 95 1.02 .60 2.227 136 .028しない 43 .79 .47C6 眠 剤 使 用 する 94 .23 .75 2.070 133.58 .040しない 43 .05 .31C7 覚 醒 困 難 する 95 1.55 1.03 1.951 136 .053しない 43 1.19 .96(t(136)=2.369,p


黒 川 泰 貴 ・ 石 村 郁 夫る 前 に 考 え 事 をすることは, 認 知 的 覚 醒 を 経 て 入眠 困 難 に 繋 がり, 全 般 的 な 睡 眠 を 阻 害 すると 言 える。6. 大 学 生 の 睡 眠 状 況 と 無 気 力 による 不 登 校 傾 向との 関 連大 学 生 の 睡 眠 状 況 と, 無 気 力 型 の 不 登 校 傾 向 との 関 連 を 検 討 するため,PSQI の 総 合 得 点 および下 位 尺 度 と, 意 欲 低 下 領 域 尺 度 の 全 体 および 下位 尺 度 との 相 関 係 数 を 求 め,その 結 果 を Table 6に 示 した。 相 関 分 析 の 結 果 ,PSQI 総 合 得 点 は 意欲 低 下 領 域 尺 度 の 第 2 因 子 である 授 業 意 欲 低 下 因子 とのみ r=.254(p


大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響Table 7 PSQI 尺 度 と 登 校 回 避 感 情 測 定 尺 度 との 相 関 係 数登 校 回 避 感 情 反 発 感 傾 向 孤 立 感 傾 向 登 校 嫌 悪 傾 向PSQI 総 合 得 点 .087 -.057 .000 .318**C1 睡 眠 の 質 .019 -.088 -.057 .213*C2 入 眠 時 間 .146 .100 .053 .169*C3 睡 眠 時 間 -.072 -.101 -.083 .125C4 睡 眠 効 率 .059 .013 .005 .200*C5 睡 眠 困 難 .098 -.033 .092 .201*C6 眠 剤 使 用 .131 -.053 .142 .217*C7 覚 醒 困 難 .032 -.079 -.040 .223**注 )** 印 は p


黒 川 泰 貴 ・ 石 村 郁 夫Table.8 PSQI 尺 度 と K-six との 相 関 係 数PSQI 総 C1 C2 C3 C4 C5 C6 C7K-6 .494** .373** .308** .148 .143 .373** .338** .432**注 )** 印 は p < .01 で 有 意 ( 両 側 ) である。に 示 した。 相 関 分 析 の 結 果 ,PSQI の 総 合 得 点 はK-six との 間 に r=.494(p


大 学 生 の 睡 眠 状 況 が 不 登 校 傾 向 に 及 ぼす 影 響とであると 思 われる。よってこれらのことから,大 学 生 の 睡 眠 を 改 善 することは, 大 学 生 活 を 円 滑に 送 るだけでなく,その 後 の 生 活 を 健 全 なものにする 上 で 重 要 な 役 割 を 担 うものであると 考 えられ, 堀 (2008)が 不 適 切 な 睡 眠 に 関 連 する 習 慣 や誤 った 睡 眠 に 対 する 認 知 などの, 不 眠 症 状 を 維 持させる 要 因 に 焦 点 を 絞 ったアプローチが 有 効 であると 述 べているように, 認 知 行 動 的 なプログラムなどを 介 してそれを 実 現 することが 可 能 になると思 われる。研 究 課 題 と 今 後 の 展 望 について本 研 究 では, 大 学 生 の 睡 眠 実 態 を 把 握 するために 調 査 を 行 ったが,その 対 象 者 は, 千 葉 圏 内 の 心理 学 を 専 門 とする 大 学 生 という,1つの 大 学 における1つの 学 部 を 対 象 とするものであった。 大 学の 偏 差 値 や 立 地 条 件 ,そして 学 部 などによって,生 活 スタイルに 違 いがあると 思 われるため, 本 研究 では, 大 学 生 睡 眠 状 況 の 一 部 しか 把 握 できなかったと 考 えらえる。また, 学 年 ごとの 度 数 にはばらつきがあり,3,4 年 生 の 数 が 圧 倒 的 に 少 ないものであった。これらのことから,より 大 学 生 の睡 眠 実 態 の 本 質 を 把 握 するためには, 複 数 の 大 学における 複 数 の 学 部 生 を 対 象 にし, 各 学 年 の 度 数を 均 等 にする 必 要 があり,このような 調 査 が 今 後に 求 められると 言 える。更 に 本 研 究 では 講 義 に 出 席 した 大 学 生 139 名 を対 象 としたが,これらは 普 通 に 大 学 に 登 校 出 来 ている 学 生 であるため, 睡 眠 状 況 や 不 登 校 傾 向 が 健全 な 範 囲 にいると 思 われる。よって, 本 研 究 の結 果 が,もっと 重 篤 な 睡 眠 状 況 や 不 登 校 傾 向 を 持つ 人 に 対 して 有 効 であるかは, 疑 問 が 残 るものであったと 言 える。このことから, 今 後 は 臨 床 群 と正 常 群 を 対 象 にした 睡 眠 と 不 登 校 傾 向 の 関 連 を 調査 し, 両 群 における 効 果 の 違 いなども 検 討 することが 求 められると 考 えられる。最 後 に, 本 研 究 では, 大 学 生 の 睡 眠 を 改 善 することは, 大 学 生 の 不 登 校 傾 向 を 予 防 するのに 有 意義 なことであるという 見 解 が 見 出 されたが, 具 体的 な 改 善 方 法 の 実 施 と,その 効 果 の 検 討 というところまでは 至 っていない。よって, 今 後 はより 効果 的 な 睡 眠 改 善 方 法 を 選 出 した 上 で, 介 入 群 と 統制 群 に 対 して 実 施 し,その 効 果 を 検 討 していくことが 求 められると 考 えられる。( 付 記 ) 本 論 文 は, 黒 川 が 執 筆 した 修 士 論 文 を,後 に 石 村 の 指 導 のもとで 黒 川 が 加 筆 ・ 修 正 したものです。これに 伴 い, 修 士 論 文 時 に 調 査 に 御 協 力をいただきました 皆 様 に 心 よりお 礼 申 し 上 げます。引 用 文 献朝 日 新 聞 (2006). 眠 気 の 損 失 , 年 3 兆 5 千 億 円 ナリ2006 年 6 月 8 日 朝 刊 .Buysee,D.J.,Reynolds,C.F. Ⅲ .,Monk,T.H.,Berman,S.R.,& Kupfer,D.J.(1988).The Pittsburgh Sleep Quality Index : A newinstrument for psychiatric practice andresearch. Psychiatry Research,28,193-213.土 井 由 利 子 ・ 簔 輪 眞 澄 ・ 内 山 真 ・ 大 川 匡 子 (1998). ピッツバーグ 睡 眠 調 査 票 日 本 語 版 の 作 成 精 神 科 治 療 学 ,13,755-763.Doi,Y.,Minowa,M.,& Tango,T(2003). Impact andcorrelates of poor sleep quality in Japanesewhite-collar employees. Sleep,26,467-471.古 川 壽 亮 ・ 大 野 裕 ・ 宇 田 英 典 ・ 中 根 允 文 (2003). 一 般人 口 中 の 精 神 疾 患 の 簡 便 なスクリーニングに 関 する研 究 平 成 14 年 度 厚 生 労 働 科 学 研 究 費 補 助 金 ( 厚 生 労働 科 学 特 別 研 究 事 業 ) 心 の 健 康 問 題 と 対 策 基 盤 の 実態 に 関 する 研 究 研 究 報 告 書 .林 光 緒 ・ 堀 忠 雄 (1987). 大 学 生 及 び 高 校 生 の 睡 眠 生 活習 慣 の 実 態 調 査 広 島 大 学 総 合 科 学 部 紀 要 Ⅲ,11,53-67.本 多 正 喜 ・ 鈴 木 庄 亮 ・ 城 田 陽 子 ・ 金 子 鈴 ・ 高 橋 滋 (1994).朝 型 - 夜 型 における 自 覚 的 健 康 度 に 関 する 研 究 民 族- 15 -


黒 川 泰 貴 ・ 石 村 郁 夫衛 生 ,60,266-273.堀 忠 雄 (2008). 睡 眠 心 理 学 とは 堀 忠 雄 ( 編 ) 睡 眠 心 理学 北 大 路 書 房 .市 川 宏 伸 (2005). 不 登 校 と 睡 眠 障 害 小 児 看 護 ,28,1479-1483.川 上 憲 人 ・ 原 谷 隆 史 ・ 金 子 哲 也 ・ 小 泉 明 (1987). 企 業従 業 員 における 健 康 習 慣 と 抑 うつ 症 状 の 関 連 性 産 業医 学 ,29,55-63.Lichstein,K.L.,& Rosenthal,T.L.(1980).Insomniacs’perception of cognitive versussomatic determinants of sleep disturbance.Journal of abnormal psychology ,89,105-107.牧 野 幸 志 (2001). 大 学 生 の 不 登 校 に 関 する 基 礎 的 研 究( 1) - 大 学 生 の 不 登 校 と 退 学 希 望 の 理 由 の 探 索 -高 松 大 学 紀 要 ,36,79-91.松 井 和 子 ・ 古 見 耕 一 ・ 角 田 透 ・ 松 本 一 弥 ・ 照 屋 浩 司 ・田 村 ひろみ・ 竹 前 健 彦 (1989). 学 生 の 健 康 管 理 に 関する 研 究 - 生 活 習 慣 と 朝 ‐ 夜 型 生 活 リズムとの 関 連- 杏 林 医 会 誌 ,20,447-454.三 池 輝 久 (2009). 不 登 校 - 小 児 慢 性 疲 労 症 候 群 と 睡 眠- 保 健 の 科 学 ,51,35-42.中 村 万 理 子 (2004). 大 学 生 の 心 身 健 康 状 態 と 睡 眠 状 況の 臨 床 心 理 学 研 究 , 臨 床 教 育 心 理 学 研 究 ,30,1-16.NHK 放 送 文 化 研 究 所 (2002). 日 本 人 の 生 活 時 間 ―NHK 国 民 生 活 時 間 調 査 〈2000〉NHK 出 版 .NHK 放 送 文 化 研 究 所 (2006). 日 本 人 の 生 活 時 間 ―NHK 国 民 生 活 時 間 調 査 〈2005〉NHK 出 版 .西 岡 かおり・ 棟 方 百 熊 (2008). 女 子 大 学 生 の 心 の 健 康と 生 活 習 慣 - 自 己 効 力 感 と 身 体 的 訴 えを 中 心 に- 四国 公 衆 衛 生 学 会 雑 誌 ,53,111-120.坂 本 玲 子 (2009). 大 学 生 の 睡 眠 傾 向 について- 新 入 生への 睡 眠 調 査 を 通 して- 山 梨 県 立 大 学 人 間 福 祉 学 部紀 要 ,4,51-58.下 山 晴 彦 (1995). 男 子 大 学 生 の 無 気 力 の 研 究 教 育 心 理学 研 究 ,43,145-155.白 川 修 一 郎 (2006). 現 代 日 本 人 の 睡 眠 事 情 と 健 康 白 川修 一 郎 ( 編 ) 睡 眠 とメンタルヘルス- 睡 眠 科 学 への理 解 を 深 める- ゆまに 書 房 .鈴 木 博 之 ・ 尾 崎 章 子 ・ 渋 井 佳 代 ・ 関 口 夏 奈 子 ・ 譚 新 ・栗 山 健 一 ・ 有 竹 清 夏 ・ 田 ヶ 谷 浩 邦 ・ 内 山 真 (2004).睡 眠 不 足 , 過 眠 と 心 身 不 調 との 関 連 : 一 般 人 口 における 疫 学 的 検 討 精 神 保 健 研 究 所 年 報 ,17,122-123.太 田 賀 月 恵 ・ 太 田 裕 造 (1999). 大 学 生 の「 夜 型 」 生 活における 体 温 と 健 康 の 関 連 保 健 の 科 学 ,41,703-709.竹 内 朋 香 ・ 犬 山 牧 ・ 石 原 金 由 ・ 福 田 一 彦 (2000). 大 学生 における 睡 眠 習 慣 尺 度 の 構 成 および 睡 眠 パタンの分 類 教 育 心 理 学 研 究 ,48,294-305.田 中 秀 樹 ・ 古 谷 真 樹 (2006). 思 春 期 と 睡 眠 - 生 活 習 慣と 睡 眠 ・ 不 登 校 白 川 修 一 郎 ( 編 ) 睡 眠 とメンタルヘルス- 睡 眠 科 学 への 理 解 を 深 める- ゆまに 書 房 .田 中 存 ・ 菅 千 索 (2007). 大 学 生 活 不 安 に 関 する 心 理 学からのアプローチ 和 歌 山 大 学 教 育 学 部 紀 要 ,57,15-22.富 田 八 郎 (2007). 睡 眠 と 学 業 の 関 係 愛 知 工 業 大 学 研 究報 告 ,42,181-184.續 木 智 彦 ・ 平 田 大 輔 ・ 円 田 善 英 (2009). 大 学 生 における 生 活 規 律 の 乱 れと 自 覚 疲 労 症 状 の 実 体 運 動 とスポーツの 科 学 ,15,17-23.渡 辺 葉 一 ・ 小 石 寛 文 (2000). 中 学 生 の 登 校 回 避 感 情 とその 規 定 要 因 -ソーシャル・サポートとの 関 連 を 中心 にして- 神 戸 大 学 発 達 科 学 部 研 究 紀 要 ,8,1-11.山 本 隆 一 郎 ・ 野 村 忍 (2009). Pittsburgh Sleep QualityIndex を 用 いた 大 学 生 の 睡 眠 問 題 調 査 心 身 医 学 ,49,817-825.谷 島 弘 仁 (1996). 大 学 新 入 生 の 生 活 リズムと 抑 うつ 傾向 の 関 連 心 理 学 研 究 ,67,403-409.矢 島 すみ 江 ・ 中 野 功 ・ 麻 生 伸 代 ・ 橘 真 美 ・ 粥 川 裕 平 (2003).大 学 生 の 睡 眠 習 慣 と 免 疫 的 体 力 の 関 係 について- 睡眠 時 間 と 感 冒 罹 患 回 数 についての 質 問 紙 法 による 疫学 的 研 究 - 名 古 屋 工 業 大 学 紀 要 ,55,151-157.読 売 新 聞 (2010). ひきこもり 学 生 を 救 え… 各 校 が 相 談室 設 置 2010 年 5 月 11 日 朝 刊 .- 16 -


東 京 成 徳 大 学 臨 学 床 校 心 嫌 理 悪 学 感 研 の 究 高 い 13 中 号 学 ,2013,17-27生 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴学 校 嫌 悪 感 の 高 い 中 学 生 における 自 己 開 示および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴風 間 和( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )石 村 郁 夫( 東 京 成 徳 大 学 )杉 本 好 行( 常 葉 大 学 )Kazu KAZAMA (Graduate School of Psychology, Tokyo Seitoku University)Ikuo ISHIMURA (Tokyo Seitoku University)Yoshiyuki SUGIMOTO (Tokoha University)要約本 研 究 では, 不 登 校 の 前 駆 的 状 況 である, 学 校 嫌 悪 感 の 高 い 不 登 校 傾 向 の 生 徒 の, 友 人 関 係における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴 を 把 握 することを 目 的 として, 中 学 2年 生 172 名 を 対 象 に 質 問 紙 調 査 を 行 った。 学 校 嫌 悪 感 高 低 群 において, 自 己 開 示 得 点 および 対人 ストレスコーピング 下 位 因 子 得 点 に 差 が 見 られるかを 調 べるためにt 検 定 を 行 った 結 果 , 学校 嫌 悪 感 高 群 は 低 群 よりも 自 己 開 示 , 援 助 要 請 , 積 極 的 対 処 をしていないことが 明 らかになった。また, 学 校 嫌 悪 感 高 群 の 特 徴 をより 詳 細 に 把 握 するために, 学 校 嫌 悪 感 高 群 における 自 己開 示 高 低 群 の 対 人 ストレスコーピング 得 点 を 比 較 した 結 果 , 学 校 嫌 悪 感 が 高 くても 自 己 開 示 をしていれば, 援 助 要 請 , 積 極 的 対 処 , 思 考 の 転 換 を 行 う 程 度 が 高 くなることが 明 らかとなった。さらに, 学 校 嫌 悪 感 高 群 における 援 助 要 請 高 低 群 の 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピング 下位 因 子 得 点 を 比 較 した 結 果 , 学 校 嫌 悪 感 が 高 くても 援 助 要 請 を 行 っていれば, 自 己 開 示 を 行 う程 度 が 高 くなることが 明 らかとなった。 以 上 のことから, 学 校 嫌 悪 感 の 高 い 不 登 校 傾 向 の 生 徒に 対 する 予 防 的 介 入 として, 自 己 開 示 や 援 助 要 請 スキルを 獲 得 させる 支 援 が 重 要 であることが示 唆 された。キーワード: 学 校 嫌 悪 感 , 不 登 校 , 自 己 開 示 , 援 助 要 請 , 中 学 生問 題 ・ 目 的我 が 国 において 不 登 校 が 問 題 になり 始 めたのは,1959 年 に 佐 藤 によって 初 めて“ 神 経 症 的 登 校拒 否 ”として 研 究 報 告 がなされてからであり, 文部 科 学 省 の 学 校 基 本 調 査 (1966-1998)や 児 童 生徒 の 問 題 行 動 等 生 徒 指 導 上 の 諸 問 題 に 関 する 調査 (1991-)によれば,それ 以 降 , 不 登 校 児 童 生徒 数 は 増 加 の 一 途 をたどり,ピーク 時 の 平 成 13 年度 には138,722 人 となった。その 後 , 不 登 校 児 童生 徒 数 は 減 少 し,12 万 人 前 後 を 推 移 しているが,学 校 に 在 籍 する 児 童 生 徒 数 に 対 する 不 登 校 の 児 童生 徒 の 割 合 は, 小 学 校 0.32%, 中 学 校 2.73%と 高止 まりが 続 いているのが 現 状 である( 文 部 科 学省 ,2010)。さらに,52 人 のスクールカウンセラーを 対 象 に 行 われた 千 原 (2009)の 研 究 によれば,52 人 すべてのスクールカウンセラーが 不 登 校 の 児童 生 徒 を 対 象 としていることが 示 されている。 不登 校 児 童 生 徒 数 を 学 校 区 分 別 に 見 ると, 小 学 生 の不 登 校 児 童 数 は22,463 人 であるのに 対 して, 中 学- 17 -


風 間 和 ・ 石 村 郁 夫 ・ 杉 本 好 行生 の 不 登 校 生 徒 数 は97,428 人 と, 中 学 生 において不 登 校 が 多 くなっていることがわかる( 文 部 科 学省 ,2010)。 以 上 のことより, 不 登 校 は 依 然 として教 育 現 場 , 特 に 中 学 校 において 主 要 な 問 題 であることが 明 らかであると 言 える。また, 文 部 科 学 省 は 平 成 4(1992) 年 に“ 登 校拒 否 ( 不 登 校 ) 問 題 について― 児 童 生 徒 の『 心 の居 場 所 』づくりを 目 指 して―”を 刊 行 し,それにおいて 不 登 校 は“どの 子 にも 起 こりうる”とした。 現 在 では 不 登 校 に 関 する 理 解 も 広 がり,“ 学校 に 行 かない”という 選 択 も 認 められるようになり, 学 校 に 行 くことを 常 識 とする 規 範 そのものが問 い 直 され, 変 容 しつつある。そのような 価 値 観が 醸 成 される 中 で, 現 在 では,“ 第 二 の 学 校 ” 的居 場 所 として 適 応 指 導 教 室 やフリースクールが 数多 く 設 置 され,また 保 健 室 登 校 や 相 談 室 登 校 などの 通 学 スタイルが 認 められたり, 新 しい 取 り 組 みとして 山 村 留 学 やキャンプ 療 法 なども 展 開 されたりと, 不 登 校 の 児 童 生 徒 に 対 して 多 様 な 対 応 がとられるようになっている。しかし,これらはあくまで 不 登 校 状 態 に 陥 ってしまった 児 童 生 徒 に 対 する 第 3 次 予 防 的 対 応 であるといえる。不 登 校 を 経 験 した 生 徒 への 追 跡 調 査 ( 文 部 科 学省 ,2001)では, 約 4 割 (36%)が 不 登 校 について後 悔 しており,“ 生 活 リズムの 崩 れ”,“ 学 力 ・ 知識 不 足 ”,“ 人 間 関 係 に 不 安 ”,“ 体 力 低 下 ”といった 苦 労 を 抱 えていることが 明 らかとなった。 厚 生労 働 省 (2003)は,ひきこもりの33%に 不 登 校 経験 があったことを 明 らかとし, 北 村 ・ 加 藤 (2007)は, 中 学 , 高 等 学 校 時 代 に 中 途 退 学 や 不 登 校 などの 状 態 になっている 生 徒 の 多 くが 将 来 ,ひきこもり 生 活 に 陥 る 可 能 性 が 高 いことを 示 唆 している。 不 登 校 を 経 験 したことによって 将 来 的 に 困 難を 感 じたり, 成 人 期 にまでおよぶひきこもりや 社会 的 不 適 応 になったりすることを 防 止 するためには, 不 登 校 になってしまった 生 徒 への 第 3 次 予 防の 充 実 だけでなく, 予 防 的 観 点 に 立 ったリスクを持 った 児 童 生 徒 に 対 する 第 2 次 予 防 的 援 助 の 確 立等 , 対 応 の 幅 を 広 げることが 大 切 であると 考 えられる。これまでの 不 登 校 に 関 する 研 究 においては, 実際 に 不 登 校 に 陥 っている 子 どもだけでなく, 休 まず 学 校 に 通 っている 子 どもたちの 学 校 を 回 避 する傾 向 や, 学 校 に 対 して“ 行 きたくない”というネガティブな 感 情 を 抱 えながら 過 ごしている 子 どもの 存 在 が 指 摘 されている。 五 十 嵐 ・ 荻 原 (2004)は,そのような 子 どもを, 不 登 校 の 前 駆 的 状 態 である“ 不 登 校 傾 向 ”の 子 どもとし,その 多 様 な 様相 を 把 握 し,その 関 連 要 因 や 援 助 を 検 討 していくことは 不 登 校 傾 向 の 低 減 や 不 登 校 予 防 の 観 点 から重 要 であるとしている。 不 登 校 児 童 生 徒 数 の 増 加に 伴 い, 多 様 化 ・ 複 雑 化 している 不 登 校 問 題 において,“ 不 登 校 ”という 形 で 学 校 に 対 するネガティブな 感 情 を 表 わしている 子 どもは 氷 山 の 一 角 とされ,その 背 景 には 登 校 しているものの 学 校 に 対 するネガティブな 感 情 を 抱 えながら 過 ごす 子 どもが数 多 く 存 在 していることが 指 摘 されている( 風間 ,1998)。たとえば, 不 登 校 予 防 で 重 要 視 されている, 学校 嫌 悪 感 に 関 する 研 究 では, 古 市 (1991)は, 小学 生 311 名 , 中 学 生 337 名 を 対 象 に 学 校 ぎらいの 感情 を 測 定 し, 小 学 生 よりも 中 学 生 , 女 子 よりも 男子 の 方 が 学 校 ぎらいの 感 情 が 強 いこと, 学 校 ぎらいの 規 定 要 因 として, 友 人 関 係 上 の 不 適 応 が 大 きな 影 響 を 与 えていることを 明 らかにした。また,原 岡 (1970)や 篠 原 ・ 原 岡 (1972)では,いやいやながら 登 校 はしているが, 何 かきっかけがあれば 学 校 を 休 もうとする 子 どもを, 潜 在 的 な 登 校 拒否 傾 向 児 と 考 え,その 要 因 をさまざまな 観 点 から分 析 しており, 学 校 や 友 人 への 適 応 がよくないものほど 不 登 校 の 傾 向 があると 示 唆 している。上 記 のような 学 校 に 対 してネガティブな 感 情 を抱 えている 子 どもに 関 する 研 究 において,ネガティブな 感 情 の 規 定 要 因 として 共 通 して 示 唆 されているのが, 友 人 関 係 における 適 応 である。特 に, 中 学 生 は 子 どもから 大 人 への 過 渡 期 であ- 18 -


学 校 嫌 悪 感 の 高 い 中 学 生 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴る 思 春 期 の 真 っただ 中 にあり, 心 身 ともに 大 きく変 化 し, 揺 れ 動 く 時 期 である。 身 体 的 には 第 二 次性 徴 を 迎 え, 精 神 的 には 自 己 と 他 者 を 気 にするようになり, 親 から 独 立 して 自 分 の 価 値 観 を 形 成 することが 課 題 となる 時 期 である。しかし, 親 からの 独 立 と 自 己 の 価 値 観 の 形 成 は 簡 単 にできるものではないため, 一 番 近 くにいて 多 くの 時 間 と 状況 を 共 有 する 友 人 関 係 の 影 響 を 大 きく 受 け,まずは 友 人 の 価 値 観 を 自 分 の 価 値 観 とすることから 始まるとされる。そのため, 友 人 関 係 の 重 要 性 が 高まり( 大 久 保 ,2005), 友 人 とどう 付 き 合 うかは重 要 な 課 題 となると 考 えられている( 戸 田 ・ 福岡 ,2002)。住 田 ・ 藤 井 ・ 田 中 ・ 中 田 ・ 横 山 ・ 溝 田 ・ 東 野 (2002)によれば, 学 校 において 多 くの 時 間 と 状 況 を 共 有する 友 人 関 係 は, 学 校 生 活 における 主 要 な 居 場 所とされ, 杉 本 ・ 庄 司 (2007)によれば, 居 場 所 がない 子 どもの 方 が 不 登 校 傾 向 が 有 意 に 高 いことが示 唆 されている。また, 藤 田 ・ 西 川 (1999)によれば, 友 人 関 係 は 学 校 の 楽 しさを 規 定 するとされている。また, 文 部 科 学 省 の“ 平 成 22 年 度 児 童生 徒 の 問 題 行 動 等 生 徒 指 導 上 の 諸 問 題 に 関 する 調査 ”によれば, 不 登 校 になったきっかけと 考 えられる 学 校 に 係 る 状 況 として,いじめとそれ 以 外 の友 人 関 係 をめぐる 問 題 が20% 近 くを 占 めている。以 上 のように, 友 人 関 係 は 不 登 校 の 原 因 となるなど, 子 どもの 学 校 生 活 における 適 応 を 左 右 し,学 校 における 適 応 に 強 い 影 響 を 与 えている 重 要な 要 素 の1つといえる。 不 登 校 状 態 を 解 消 したり,学 校 に 対 するネガティブな 感 情 を 減 少 したりするためには, 友 人 関 係 における 適 応 を 促 すことが 有効 であるといえる。そこで, 学 校 への 適 応 に 影 響 する 友 人 関 係 に 関する1つ 目 の 要 因 として, 本 研 究 ではまず, 自 己開 示 に 着 目 する。 自 己 開 示 とは, 対 人 関 係 を 円滑 に 進 める 社 会 的 スキルの 一 つで, 自 分 に 関 することを 友 人 などの 他 者 に 開 示 することである。 宮原 (1992)において, 自 己 開 示 的 なコミュニケーションは 対 人 関 係 を 維 持 ・ 発 展 させること, 白 井(2006)において, 友 人 関 係 の 深 まりのためには自 己 開 示 が 重 要 であること, 大 見 (2001)において,友 人 や 好 きな 先 生 がいると 自 己 開 示 が 高 いこと,水 野 (2012)において, 自 己 の 内 面 を 開 示 するものほど, 友 人 関 係 や 日 常 生 活 に 満 足 し, 友 人 から認 められているという 受 容 感 を 得 られること, 小野 寺 ・ 河 村 (2002)において, 自 己 開 示 が 学 校 適応 感 に 正 の 影 響 を 及 ぼしていたことが 示 唆 されている。 以 上 のことから, 友 人 への 自 己 開 示 は, 友人 関 係 を 維 持 ・ 発 展 させ, 学 校 への 適 応 感 に 影 響する 重 要 な 要 因 であるといえ, 不 登 校 状 態 にある生 徒 , 学 校 に 対 してネガティブな 感 情 を 抱 える 生徒 の 対 応 を 考 える 際 においても 重 要 な 要 因 であるといえる。また, 学 校 への 適 応 に 影 響 する 友 人 関 係 に 関 する2つ 目 の 要 因 として, 対 人 ストレスコーピングに 着 目 する。 友 人 関 係 の 重 要 性 が 増 す 中 学 生 にとって, 学 校 生 活 において 感 じるストレスのうち,特 に 友 人 関 係 に 関 するストレスの 占 める 割 合 は 大きく, 心 身 の 健 康 状 態 に 影 響 を 与 えること( 岡 安 ・嶋 田 ・ 坂 野 ,1992), 友 人 関 係 のストレッサーを 経験 することは 直 接 的 にストレス 反 応 の 表 出 を 高 めること( 三 浦 ・ 上 里 ,2002)が 明 らかにされている。しかし,そういった 友 人 関 係 に 関 するストレスの程 度 は 使 用 された 対 処 方 略 によって 異 なる( 三浦 ・ 坂 野 ,1996)とされ, 児 童 生 徒 が 友 人 関 係 のトラブルを 経 験 した 際 に, 認 知 的 評 価 や 対 処 方 略に 関 する 援 助 をすることで,ストレス 反 応 を 軽 減できる 可 能 性 がある( 三 浦 ・ 上 里 2002)とされている。そのため, 多 くの 時 間 と 状 況 を 共 有 する 友人 関 係 上 のストレスや 問 題 を 適 切 に 対 処 できることは, 子 どもの 適 応 にとって 重 要 な 課 題 ある。また, 不 登 校 状 態 にある 生 徒 , 学 校 に 対 してネガティブな 感 情 を 抱 える 生 徒 の 対 応 を 考 える 際 の 重 要 な要 因 といえる。以 上 の 問 題 点 を 踏 まえて 本 研 究 では, 学 校 に 対するネガティブな 感 情 である 学 校 嫌 悪 感 の 少 ない- 19 -


風 間 和 ・ 石 村 郁 夫 ・ 杉 本 好 行状 態 を 学 校 に 適 応 している 状 態 と 定 義 し, 不 登 校の 多 い 中 学 2 年 生 を 対 象 に, 学 校 嫌 悪 感 の 程 度 と学 校 への 適 応 の 要 因 である 友 人 関 係 における 自 己開 示 の 状 態 及 び 友 人 関 係 における 問 題 の 対 処 方 法であるコーピングを, 質 問 紙 により 測 定 する。その 際 , 学 校 嫌 悪 感 の 高 い 不 登 校 傾 向 の 生 徒 だけでなく, 学 校 嫌 悪 感 の 低 い 生 徒 についても, 友 人 関係 においてどの 程 度 自 己 開 示 をし,どのような 対人 ストレスコーピングを 用 いる 傾 向 にあるのか,それぞれの 特 徴 を 把 握 することを 目 的 とする。どちらの 特 徴 も 把 握 することによって, 嫌 悪 感 のような 学 校 に 対 するネガティブな 感 情 を 抱 えている生 徒 に 対 してどのような 対 応 をとるべきかを 判 断する 際 , 良 い 手 がかりになると 考 えられる。方 法1. 調 査 対 象 者 および 調 査 時 期2011 年 10 月 上 旬 から11 月 下 旬 に, 県 内 市 立 の 中学 2 年 生 , 計 172 名 ( 男 性 86 名 , 女 子 86 名 )を 対 象 に,質 問 紙 調 査 を 行 った。 不 登 校 児 童 生 徒 数 は 小 学 生よりも 中 学 生 に 多 いこと, 中 学 においても 学 年 が上 がるにつれて 増 加 していること, 特 に1 年 生 と2年 生 の 間 でその 増 加 率 が 大 きいことが 示 されている( 文 部 科 学 ,2010)ため, 中 学 2 年 生 を 対 象 とした。また, 中 学 3 年 生 の 不 登 校 児 童 生 徒 数 も 多 いが,その 背 景 に 友 人 関 係 以 外 の 受 験 に 関 する 学 習 ストレスや 進 路 に 関 する 不 安 といった 影 響 が 想 定 されるため, 友 人 関 係 に 着 目 して 研 究 を 進 めるにあたり 妥 当 ではないと 判 断 し, 調 査 対 象 から 除 外 した。2. 調 査 内 容(a)フェイスシート調 査 内 容 の 概 略 , 注 意 事 項 , 回 答 方 法 , 性 別を 問 う 項 目 を 記 載 した。 注 意 事 項 には, 成 績 には 影 響 しないこと, 調 査 結 果 は 研 究 のためにのみ 使 用 されること,データの 保 管 と 管 理 は 厳 重に 行 われることなどを 記 載 した。(b) 中 学 生 用 対 人 ストレスコーピング 尺 度 ( 鴛渕 ,2009)友 人 関 係 における 問 題 をどのように 対 処 するのかを 測 定 するために, 鴛 渕 (2009)の 中 学生 用 対 人 ストレスコーピング 尺 度 を 用 いた。 他者 に 対 して 何 らかの 支 援 を 求 めようとする 項 目群 である“ 援 助 要 請 ”,その 問 題 についての 自分 の 考 えを 変 えようとする 項 目 群 である“ 思 考の 転 換 ”, 問 題 を 解 決 しようと 行 動 し, 未 解 決な 状 況 に 積 極 的 に 関 わろうとする 項 目 群 である“ 積 極 的 対 処 ”, 問 題 に 対 処 することに 消 極 的 で,問 題 から 回 避 しようとする 様 子 を 表 す 項 目 群 である“ 回 避 ”といった4 因 子 全 23 項 目 で 構 成 されている。それぞれの 項 目 に 対 して,“よくあてはまる”“ややあてはまる”“あまりあてはまらない”“あてはまらない”の4 件 法 で 回 答 を 求めた。(c) 友 人 関 係 測 定 尺 度 ( 吉 岡 ,2002)子 どもの 友 人 関 係 における 自 己 開 示 の 程 度 を測 定 するために, 吉 岡 (2002)の 友 人 関 係 測 定尺 度 を 用 いた。5つの 下 位 因 子 から 構 成 されているが 本 研 究 では, 友 人 へ 自 己 開 示 ができるという 項 目 と, 友 人 への 信 頼 感 を 表 す 項 目 からなる“ 自 己 開 示 ・ 信 頼 ” 因 子 9 項 目 に 対 し,“よくあてはまる”“ややあてはまる”“あまりあてはまらない”“あてはまらない”の4 件 法 で 回 答 を求 めた。(d) 登 校 回 避 感 情 測 定 尺 度 ( 渡 辺 ・ 小 石 ,2000)子 どもが 学 校 に 対 してどう 思 っているかを 測定 するために, 渡 辺 ・ 小 石 (2000)の 登 校 回 避感 情 測 定 尺 度 を 用 いた。3つの 下 位 因 子 から 構成 されているが 本 研 究 では, 学 校 に 対 する 嫌 悪感 を 測 定 する“ 学 校 嫌 悪 感 ” 因 子 6 項 目 に 対 して,“あてはまる”“ややあてはまる”“どちらともいえない”“あまりあてはまらない”“あてはまらない”の5 件 法 で 回 答 を 求 めた。結 果- 20 -


学 校 嫌 悪 感 の 高 い 中 学 生 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴1. 本 研 究 で 使 用 した 尺 度 の 尺 度 構 成(1) 中 学 生 用 対 人 ストレスコーピング 尺 度 の 探 索的 因 子 分 析鴛 渕 (2009)の 中 学 生 用 対 人 ストレスコーピング 尺 度 計 23 項 目 に 関 して, 因 子 分 析 ( 主 因子 法 ,バリマックス 回 転 )を 行 い, 因 子 負 荷 量が .35 以 下 であった4 項 目 を 削 除 した。 再 度 , 同様 の 因 子 分 析 を 行 ったところ, 先 行 研 究 と 同 様の 因 子 構 造 である4 因 子 (19 項 目 )が 抽 出 され,先 行 研 究 と 同 様 に,“ 友 達 やほかの 人 に 相 談 する”“どうしたら 良 いか 人 の 意 見 を 聞 く”といった“ 援 助 要 請 ” 因 子 ,“ 相 手 の 気 持 ちになって考 えてみる”“ 相 手 に 謝 る”といった“ 積 極 的対 処 ” 因 子 ,“こんなものだと, 開 き 直 って 過ごす”“なんとかなるさと 前 向 きに 考 える”といった“ 思 考 の 転 換 ” 因 子 ,“ 相 手 から 話 しかけてくるのを 待 つ”“ 何 もせず, 相 手 の 様 子 を知 ろうとする”といった“ 回 避 ” 因 子 とした。また,Cronbach のα 係 数 は 順 に .82,.71,.66,.64と 十 分 な 値 であり, 各 因 子 は 一 貫 性 の 高 い 項 目によって 構 成 されていることが 示 された。(2) 友 人 関 係 測 定 尺 度 の“ 自 己 開 示 ・ 信 頼 ” 因 子の 探 索 的 因 子 分 析吉 岡 (2001)の 友 人 関 係 測 定 尺 度 の“ 自 己 開示 ・ 信 頼 ” 因 子 9 項 目 に 関 して 因 子 分 析 を 行 った 結 果 , 先 行 研 究 と 同 様 の1 因 子 (9 項 目 )が 抽出 された。 累 積 寄 与 率 は54.70%であった。また,Cronbach のα 係 数 は .92と 十 分 な 値 であり, 因 子 は 一 貫 性 の 高 い 項 目 によって 構 成 されていることが 示 された。(3) 登 校 回 避 感 情 測 定 尺 度 の“ 学 校 嫌 悪 感 傾 向 ”因 子 の 探 索 的 因 子 分 析渡 辺 ・ 小 石 (2000)の 登 校 回 避 感 情 測 定 尺 度の“ 学 校 嫌 悪 感 ” 因 子 6 項 目 に 関 して, 因 子 分析 を 行 った 結 果 , 先 行 研 究 と 同 様 の1 因 子 (6 項目 )が 抽 出 された。 累 積 寄 与 率 は51.04%であった。また,Cronbach のα 係 数 は .85と 十 分 な値 であり 因 子 は 一 貫 性 の 高 い 項 目 によって 構 成されていることが 示 された。2. 学 校 嫌 悪 感 , 自 己 開 示 , 対 人 ストレスコーピングの 下 位 因 子 の 相 関 分 析学 校 嫌 悪 感 と 自 己 開 示 , 対 人 ストレスコーピングの4つの 下 位 因 子 の 関 連 を 検 討 するために 相 関係 数 を 算 出 した(Table 1 参 照 )。その 結 果 , 嫌悪 感 と 回 避 (r = .20, p < .01)は 弱 い 正 の 相 関 が,嫌 悪 感 と 自 己 開 示 (r = -.25, p < .01), 嫌 悪 感と 積 極 的 対 処 (r = -.22, p < .01)は 弱 い 負 の 相関 がみられた。3. 学 校 嫌 悪 感 高 低 群 における 自 己 開 示 および 対人 ストレスコーピングの 特 徴不 登 校 予 備 群 と 想 定 される 学 校 嫌 悪 感 が 高 い 中学 生 の 特 徴 を 把 握 するために, 渡 辺 ・ 小 石 (2000)の 登 校 回 避 感 情 測 定 尺 度 の“ 学 校 嫌 悪 感 ” 因 子 6項 目 の 得 点 の 平 均 値 (M =16.85, SD =5.77)によって, 調 査 協 力 者 を 高 低 群 の2 群 に 分 けた。 平 均点 よりも 得 点 の 高 い 群 を 学 校 嫌 悪 感 高 群 , 平 均Table 1. 対 人 ストレスコーピングの 下 位 因 子 、 自 己 開 示 、 学 校 嫌 悪 感 分 析 結 果平 均 SD 嫌 悪 感 自 己 開 示 援 助 要 請 積 極 的 対 処 思 考 の 転 換 回 避嫌 悪 感 16.85 5.75 1自 己 開 示 26.33 5.84 -.25** 1援 助 要 請 16.08 3.71 -.15 * .46** 1積 極 的 対 処 15.65 3.11 -.22** .38** .35** 1思 考 の 転 換 10.23 2.52 -.01ns .26** .17 * .14 + 1回 避 7.35 1.9 .20** -.07n.s. .10n.s .-.01n.s. .11n.s. 1** p


風 間 和 ・ 石 村 郁 夫 ・ 杉 本 好 行Table 2. 学 校 嫌 悪 感 高 低 群 別 の 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピング 下 位 因 子 の t 検 定 結 果低 群高 群平 均 SD 平 均 SDt 値 df p 値自 己 開 示 27.69 4.95 24.89 6.39 3.22 170 p 低 群 *回避7.45(2.48)7.65(1.74)7.18(1.71)7.11(1.67)1.93n.s. 0.05n.s. 0.23n.s. n.s.***p < .001,**p < .01,*p < .05,+p < .10,n.s. p > .10- 22 -


学 校 嫌 悪 感 の 高 い 中 学 生 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴Table 4. 学 校 嫌 悪 感 高 低 群 × 援 助 要 請 高 低 群 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピング 下 位 因 子分 散 分 析 結 果高 群 低 群 主 効 果 交 互 作 用学 校 嫌 悪 感援 助 要 請高 群(N =40)低 群(N =44)高 群(N =46)低 群(N =42)学 校 嫌 悪 感援 助 要 請学 校 嫌 悪 感× 援 助 要 請平 均 (SD ) 平 均 (SD ) 平 均 (SD ) 平 均 (SD ) F = F = F =学 校 嫌 悪 感高 群 における 多 重 比 較援 助 要 請26.88(5.26)23.09(6.84)30.00(3.89)25.17(4.78)10.34** 28.40*** 0.42n.s.援 助 要 請 高群 > 低 群 **積 極 的 対 応15.50(3.46)14.82(3.75)16.72(2.75)15.48(2.03)4.01* 4.22* 0.36n.s. n.s.思 考 の 転 換10.53(3.02)9.89(2.67)10.28(2.50)10.24(1.83)0.02n.s. 0.78n.s. 0.59n.s. n.s.回避7.85(2.17)7.30(2.02)7.11(1.78)7.19(1.60)2.13n.s. 0.67n.s. 1.21n.s. n.s.***p < .001,**p < .01,*p < .05,n.s.p > .10“ 思 考 の 転 換 ”において, 自 己 開 示 低 群 よりも 自己 開 示 高 群 の 得 点 が 有 意 に 高 くなり, 学 校 嫌 悪 感が 高 くても 自 己 開 示 をしていれば,“ 援 助 要 請 ”,“ 積 極 的 対 処 ”,“ 思 考 の 転 換 ”を 行 う 程 度 は 高 くなることが 明 らかとなった。5. 学 校 嫌 悪 感 高 低 群 × 援 助 要 請 高 低 群 における自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピング(“ 積極 的 対 処 ”,“ 思 考 の 転 換 ”,“ 回 避 ”)の 特 徴学 校 嫌 悪 感 ( 高 ・ 低 )と 援 助 要 請 ( 高 ・ 低 )を独 立 変 数 , 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 下 位 因 子 である“ 積 極 的 対 処 ”,“ 思 考 の 転 換 ”,“ 回 避 ”を 従 属 変 数 とした2×2の 分 散 分 析 を 行 った(Table 4. 参 照 )。その 結 果 , 有 意 な 交 互 作 用はみられなかったが(それぞれ F(1,168)=0.42, n.s .,F(1,168)=0.36, n.s. ,F(1,168)=0.59, n.s .,F(1,168)=1.21, n.s. ), 自 己 開 示 と“ 積 極 的 対処 ”では 学 校 嫌 悪 感 と 援 助 要 請 の 主 効 果 が 有 意で あ っ た( そ れ ぞ れ,F(1,168)=10.34, p < .01,F(1,168)=28.40, p < .001:F(1,168)=4.01, p < .05,F(1,168)=4.22, p < .05)。“ 思 考 の 転 換 ”,“ 回 避 ”は 主 効 果 が 有 意 でなかった。 学 校 嫌 悪 感 高 群 における, 援 助 要 請 高 低 群 の 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピング 下 位 因 子 得 点 (“ 積 極 的 対 処 ”,“ 思考 の 転 換 ”,“ 回 避 ”)を 比 較 した 結 果 , 自 己 開 示において, 援 助 要 請 低 群 よりも 援 助 要 請 高 群 の 得点 が 有 意 に 高 くなり, 学 校 嫌 悪 感 が 高 くても 援 助要 請 を 行 っていれば, 自 己 開 示 を 行 う 程 度 は 高 くなることが 明 らかとなった。考 察本 研 究 では, 不 登 校 の 前 駆 的 状 況 である, 学 校嫌 悪 感 の 高 い 不 登 校 傾 向 の 生 徒 の, 友 人 関 係 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特徴 を 把 握 することを 目 的 として 調 査 を 行 った。1. 学 校 嫌 悪 感 と 自 己 開 示 との 関 連学 校 嫌 悪 感 得 点 の 高 低 の 違 いが, 自 己 開 示 得 点に 影 響 を 与 えるかを 検 討 するためにt 検 定 を 行 った 結 果 , 学 校 嫌 悪 感 低 群 より 学 校 嫌 悪 感 高 群 の 自己 開 示 得 点 が 低 かった。 大 見 (2001)において,友 人 や 好 きな 先 生 がいると 自 己 開 示 が 高 いこと,水 野 (2012)において, 自 己 の 内 面 を 開 示 するものほど, 友 人 関 係 や 日 常 生 活 に 満 足 していることが 示 唆 されており,それらを 踏 まえると 学 校 嫌 悪感 の 高 い 生 徒 は, 学 校 嫌 悪 感 の 低 い 生 徒 に 比 べ,自 己 の 内 面 を 打 ち 明 けられる 友 人 や 先 生 がいない- 23 -


風 間 和 ・ 石 村 郁 夫 ・ 杉 本 好 行可 能 性 や, 友 人 関 係 や 日 常 生 活 に 満 足 できていない 可 能 性 が 考 えられる。 自 己 開 示 の 程 度 は, 学 校への 嫌 悪 感 と 学 校 生 活 の 満 足 感 に 影 響 するものであり, 学 校 への 嫌 悪 感 が 低 下 し, 学 校 生 活 の 満 足感 を 高 めるためには, 友 人 関 係 における 自 己 開 示を 促 すことが 必 要 である。また, 二 要 因 分 散 分 析の 結 果 , 学 校 嫌 悪 感 が 高 くても 自 己 開 示 をしていれば, 援 助 要 請 , 積 極 的 対 処 , 思 考 の 転 換 を 行 う程 度 が 高 くなることが 明 らかとなった。 現 在 , 教育 現 場 においては, 対 人 関 係 能 力 の 向 上 や 対 人 関係 の 問 題 解 決 のために,ソーシャルスキルトレーニングやアサーション・トレーニングなどが 行 われている( 赤 尾 ・ 東 條 ,2008; 児 玉 ,2011)。これらのトレーニングは, 子 どもの 状 態 把 握 や 子 どもの 抱 える 問 題 に 早 く 気 づくきっかけになりえるため, 学 校 に 対 してネガティブな 感 情 を 抱 えた 生徒 のネガティブ 感 情 を 緩 和 し, 不 登 校 の 予 防 につながるといえる。そのため, 本 研 究 の 結 果 を 踏 まえて, 今 後 はもっと 積 極 的 に 自 己 開 示 スキルを 獲得 させるトレーニングを 実 施 していく 必 要 があると 考 える。2. 学 校 嫌 悪 感 と 対 人 ストレスコーピング 尺 度 下位 因 子 との 関 連学 校 嫌 悪 感 得 点 の 高 低 の 違 いが, 対 人 ストレスコーピング 尺 度 の 下 位 因 子 得 点 に 影 響 を 与 えるかを 検 討 するためにt 検 定 を 行 った。その 結 果 ,“ 積極 的 対 処 ”では 学 校 嫌 悪 感 低 群 の 方 が, 学 校 嫌 悪感 高 群 よりも 有 意 に 高 く,“ 援 助 要 請 ”では 学 校嫌 悪 感 低 群 の 方 が, 学 校 嫌 悪 感 高 群 よりも 高 い 傾向 にあった。“ 思 考 の 転 換 ”と“ 回 避 ”では 群 間に 有 意 な 差 はみられなかった。“ 積 極 的 対 処 ”,“ 援 助 要 請 ”において 群 間 に 有意 な 差 が 見 られた 理 由 として, 学 校 嫌 悪 感 高 群 は学 校 嫌 悪 感 低 群 に 比 べ, 援 助 を 求 めたり, 積 極 的に 向 き 合 ったりといった 対 処 スキルが 上 手 く 用 いられておらず, 直 面 している 問 題 が 解 決 したり,抱 えているストレスが 軽 減 する 可 能 性 が 低 いことが 考 えられる。そのため, 学 校 に 対 してもネガティブな 感 情 を 抱 きやすくなっていることが 考 えられる。そこで, 学 校 嫌 悪 感 の 高 い 不 登 校 傾 向 の 子 どもに 対 しては, 他 者 に 援 助 を 求 めたり, 問 題 積 極的 に 向 き 合 ったりといった 対 処 スキルを 高 める 工夫 が 必 要 である。“ 思 考 の 転 換 ”,“ 回 避 ”において 群 間 に 有 意 差 が 見 られなかった 理 由 として, 対人 的 な 問 題 が 起 きた 際 に,“ 思 考 の 転 換 ”,“ 回 避 ”といった 対 処 方 略 を 用 いることは,“ 援 助 要 請 ”積 極 的 対 処 “といった 対 処 方 略 とは 異 なり, 誰 かに 助 けを 求 めるスキルや 実 際 に 助 けてくれる 他 者を 必 要 とせず,あるいは 問 題 に 直 面 することで 生じるストレスを 抱 えることなく, 今 生 じている 対人 的 な 問 題 を 考 えないことができたり, 問 題 から離 れることができるため, 学 校 嫌 悪 感 の 程 度 に 関わらず 中 学 生 に 用 いられる 対 処 方 略 であることが考 えられる。また, 二 要 因 分 散 分 析 の 結 果 , 学 校嫌 悪 感 が 高 くても 援 助 要 請 を 行 っていれば, 自 己開 示 を 行 う 程 度 が 高 くなることが 明 らかとなった。 高 野 ・ 吉 竹 ・ 池 田 ・ 佐 藤 ・ 関 谷 (2007)の大 学 生 を 対 象 にした 研 究 によれば, 他 者 への 援 助要 請 の 結 果 として 専 門 家 への 援 助 要 請 につながっていることが 示 されている。さらに, 岩 瀧 ・ 山 崎(2007)によれば, 援 助 要 請 スキルは,“ 援 助 者 探索 ”“ノンバーバル”“ 適 切 な 言 語 的 働 きかけ”“ 記述 による 働 きかけ”によって 構 成 されており,その 中 でも 特 に“ 適 切 な 言 語 的 働 きかけ”スキルが高 い 生 徒 は, 身 体 的 反 応 , 怒 り・ 不 機 嫌 , 無 力 感といったストレス 反 応 が 低 いことが 示 唆 されている。 以 上 のような 先 行 研 究 と 本 研 究 の 結 果 を 踏 まえて, 学 校 に 対 する 嫌 悪 感 が 高 い 生 徒 のストレス反 応 の 低 下 や 不 登 校 に 至 る 前 の 段 階 において 専 門家 の 援 助 につなげるためにも, 援 助 要 請 スキルを獲 得 させるトレーニングを 実 施 していく 必 要 があると 考 える。4. 本 研 究 の 問 題 点 および 課 題本 研 究 の 問 題 点 および 課 題 は 以 下 の3 点 である。1 点 目 として, 中 学 2 年 生 のみを 対 象 に 研 究 を行 った 点 が 挙 げられる。 文 部 科 学 省 のデータ- 24 -


学 校 嫌 悪 感 の 高 い 中 学 生 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴(2010)などにより, 不 登 校 が 多 いとされる 中 学 2年 生 を 対 象 にすることは, 中 学 2 年 生 の 実 態 を 把握 するという 点 では 意 味 のあることであると 言 える。しかし, 他 学 年 と 比 較 することで,より 詳 細な 中 学 2 年 生 の 特 徴 を 把 握 でき, 不 登 校 傾 向 の 生徒 に 対 する,より 具 体 的 な 対 応 についての 示 唆 が得 られると 考 えられる。そのため, 今 後 の 研 究 においては, 他 学 年 も 合 わせて 調 査 し, 中 学 2 年 生に 必 要 とされる,より 具 体 的 な 対 応 とは 何 かを 模索 していきたい。2 点 目 として, 学 校 に 対 するネガティブな 感 情である 学 校 嫌 悪 感 を 尺 度 による 自 己 評 定 によって測 定 した 点 が 挙 げられる。 自 己 評 定 での 回 答 は,回 答 に 意 図 を 含 めることができるため,どの 程 度客 観 的 かつ 正 確 に 学 校 に 対 する 嫌 悪 感 を 測 定 できているのか 疑 問 であるといえる。また, 尺 度 による 測 定 では 学 校 に 対 するネガティブ 感 情 である 嫌悪 感 が 高 くても 本 人 がそれを 問 題 視 しているかまではわからず, 学 校 嫌 悪 感 が 高 い 生 徒 が 不 登 校 傾向 の 生 徒 であると 判 断 するには 多 少 無 理 があるといえる。そこで, 今 後 の 調 査 では,ストレス 反 応といった 体 調 に 関 する 指 標 なども 合 わせて 測 定 することによって, 学 校 嫌 悪 感 が 高 いことが, 本 人にとっても 問 題 であると 考 えているかについて 確認 する 必 要 があると 言 える。3 点 目 として, 本 研 究 では 自 己 開 示 や 援 助 要 請ができない 背 景 要 因 については 明 らかにしていない。 新 見 ・ 近 藤 ・ 前 田 (2009)によれば, 相 談 に伴 う 利 益 とコストの 認 知 的 評 価 が 相 談 行 動 を 抑 制させる 要 因 であるとされている。これら 抑 制 要 因を 取 り 除 くことが, 引 いては 自 己 開 示 や 援 助 要 請を 促 進 させ, 最 終 的 には 不 登 校 が 予 防 されるのではないかと 考 えられる。そのため, 自 己 開 示 や 援助 要 請 を 抑 制 する 要 因 やそれを 取 り 除 く 方 法 についても 今 後 模 索 していきたい。引 用 文 献赤 尾 知 広 ・ 東 條 光 彦 (2008). 不 登 校 中 学 生 に 対 する社 会 的 スキル 訓 練 が 孤 独 感 の 変 容 に 及 ぼす 効 果 日本 教 育 心 理 学 会 総 会 発 表 論 文 集 ,50,370.藤 田 正 ・ 西 川 潔 (1999). 他 者 からの 受 容 感 と 学 校 が楽 しい 理 由 について 奈 良 教 育 大 学 教 育 研 究 所 紀要 ,35,95-102.古 市 裕 一 (1991). 小 ・ 中 学 生 の 学 校 ぎらい 感 情 とその 規 定 要 因 ( 資 料 ) カウンセリング 研 究 ,24,123-127.原 岡 一 馬 (1970). 登 校 拒 否 傾 向 の 要 因 分 析 (1) 日本 教 育 心 理 学 会 総 会 発 表 論 文 集 ,12,294-295.岩 瀧 大 樹 ・ 山 崎 洋 史 (2007). 中 学 校 の 教 師 への 援 助要 請 スキルに 関 する 研 究 -3―ストレス 反 応 との 関 連日 本 教 育 心 理 学 会 総 会 発 表 論 文 集 ,49,84.風 間 英 仁 (1998). 不 登 校 現 象 とその 対 応 策 : 不 登 校 発生 要 因 における 学 校 社 会 の 問 題 構 造 とその 対 応 策 の研 究 東 京 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 教 育 行 政 学 研 究室 紀 要 ,17,137-156.北 村 陽 英 ・ 加 藤 綾 子 (2007). 高 等 学 校 不 登 校 ・ 保 健室 登 校 ・ 中 途 退 学 の 経 過 研 究 ― 社 会 的 ひきこもりを視 野 に 入 れた 養 護 教 諭 による 調 査 より― 奈 良 教 育大 学 紀 要 , 自 然 科 学 ,56,21-28.小 玉 有 子 (2011). コミユニケーションスキルの 向 上が 子 どもの 対 人 関 係 に 及 ぼす 効果 弘 前 医 療 福 祉 大 学 紀 要 ,2,63-71.厚 生 労 働 省 (2003). 10 代 ・20 代 を 中 心 とした「ひきこもり」をめぐる 地 域 精 神 保 健活 動 のガイドライン ,「 社 会 的 ひきこもり」に 関する 相 談 ・ 援 助 状 況 実 態 調 査 報 告水 野 雄 希 (2012). 自 己 開 示 ができる 学 級 づくりのために 京 都 教 育 大 学文 部 科 学 省 (1992).「 登 校 拒 否 ( 不 登 校 ) 問 題 について― 児 童 生 徒 の『 心 の 居 場 所 』づくりを 目 指 して―」文 部 科 学 省 (2001).「 不 登 校 に 関 する 実 態 調 査 」文 部 科 学 省 (2010). 平 成 22 年 度 「 児 童 生 徒 の 問 題 行- 25 -


風 間 和 ・ 石 村 郁 夫 ・ 杉 本 好 行動 等 生 徒 指 導 上 の 諸 問 題 に 関 する 調 査 」 初 等 中 等教 育 局 児 童 生 徒 課 ,46-57.新 見 直 子 ・ 近 藤 菜 津 子 ・ 前 田 健 一 (2009). 中 学 生 の相 談 行 動 を 抑 制 する 要 因 の 検 討 広 島 大 学 心 理 学 研究 ,9,171-180.三 浦 正 江 ・ 坂 野 雄 二 (1996). 中 学 生 における 心 理 的ストレスの 継 時 的 変 化 教 育 心 理 学 研 究 ,44,368-378.岡 安 孝 弘 ・ 嶋 田 洋 徳 ・ 坂 野 雄 二 (1992). 中 学 生 用 ストレス 反 応 尺 度 の 作 成 の 試 み 早 稲 田 大 学 人 間 科 学研 究 ,5,23-29.小 野 寺 正 己 ・ 河 村 茂 雄 (2002). 中 学 生 の 学 級 内 における 自 己 開 示 が 学 級 への 適 応 に 及 ぼす 効 果 に 関 する研 究 カウンセリング 研 究 ,35,47-56.大 久 保 智 生 (2005). 青 年 の 学 校 への 適 応 感 とその 規定 要 因 ― 青 年 用 適 応 感 尺 度 の 作 成 と 学 校 別 の 検 討 ―教 育 心 理 学 研 究 ,53,307-319.大 見 サキエ(2001). 中 学 生 の 自 己 開 示 の 研 究 ― 学 校生 活 との 関 連 ― 日 本 教 育 心 理 学 会 総 会 発 表 論 文集 ,43,57.鴛 渕 るわ(2009). 中 学 生 用 対 人 ストレスコーピング 尺 度 の 作 成 東 京 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 紀要 ,49,259-264.篠 原 しのぶ・ 原 岡 一 馬 (1972). 登 校 拒 否 傾 向 の 要 因分 析 (2) 日 本 教 育 心 理 学 会 総 会 発 表 論 文 集 ,14,54-55.白 井 利 明 (2006). 現 代 青 年 のコミュニケーションから 見 た 友 人 関 係 の 特 徴 ― 変 容 確 認 法 の 開 発 に 関する 研 究 (III)― 大 阪 教 育 大 学 紀 要 .IV, 教 育 科 学54,151-171.杉 本 希 映 ・ 庄 司 一 子 (2007). 中 学 生 における「 居 場 所 」の 有 無 と 不 登 校 傾 向 との 関 連 の 検 討 日 本 教 育 心 理学 会 総 会 発 表 論 文 集 ,49,286.住 田 正 樹 ・ 藤 井 美 保 ・ 田 中 理 絵 ・ 中 田 周 作 ・ 横 山 卓 ・溝 田 めぐみ・ 東 野 充 成 (2002). 子 どもたちの「 居 場 所 」と 対 人 関 係 (II) : 小 学 生 ・ 中 学 生 の 場 合 ( 子 ども (2))日 本 教 育 社 会 学 会 大 会 発 表 要 旨 集 録 ,54,330-335.高 野 明 ・ 吉 武 清 實 ・ 池 田 忠 義 ・ 佐 藤 静 香 ・ 関 谷 佳 代 (2007).学 生 相 談 機 関 への 援 助 要 請 行 動 のプロセスに 関 する探 索 的 研 究 , 東 北 大 学 高 等 教 育 開 発 推 進 センター 紀要 ,2,157-164.千 原 美 恵 子 (2009). 学 校 臨 床 心 理 士 の 発 達 支 援 に 関する 研 究 ― 活 動 内 容 , 連 携 , 緊 急 支 援 についての 分析 ― 奈 良 大 学 紀 要 ,38,127-136戸 田 須 恵 子 ・ 福 岡 真 理 子 (2002). 中 学 生 の 対 人 関 係ストレス,コーピング 及 びソーシャル・サポートに関 する 研 究 :しないとへき 地 との 比 較 日 本 教 育 心理 学 会 総 会 発 表 論 文 集 ,44,442.渡 辺 葉 一 ・ 小 石 寛 文 (2000). 中 学 生 の 登 校 回 避 感 情とその 規 定 要 因 : ソーシャル・サポートとの 関 連 を中 心 にして 神 戸 大 学 発 達 科 学 部 研 究 紀 要 ,8, 1-12.吉 岡 和 子 (2002). 友 人 関 係 の 理 想 と 現 実 のズレ 及 び自 己 受 容 から 捉 えた 友 人 関 係 の 満 足 感 青 年 心 理 学研 究 ,13,13-30.謝 辞常 葉 大 学 に 提 出 した 卒 業 論 文 を 一 部 改 変 したものである。また,お 忙 しい 中 , 快 く 調 査 の 許 可 をくださった 中 学 校 の 校 長 先 生 , 教 頭 先 生 , 及 び 貴 重な 時 間 の 中 で 調 査 をさせていただいた 先 生 方 と 生徒 たちのご 協 力 , 心 より 感 謝 します。- 26 -


学 校 嫌 悪 感 の 高 い 中 学 生 における 自 己 開 示 および 対 人 ストレスコーピングの 特 徴Characteristics of Self-Disclosure and Interpersonal StressCoping among Junior High School Students Who Have aSevere Aversion to SchoolKazu KAZAMA (Graduate School of Psychology, Tokyo Seitoku University)Ikuo ISHIMURA (Tokyo Seitoku University)Yoshiyuki SUGIMOTO (Tokoha University)【Abstract】This study aims to understand the characteristics of self-disclosure and interpersonal stress coping inrelationships with friends among junior high school students who have warning symptoms of school nonattendance:a severe aversion to school and a tendency of non-attendance. The subjects were 172 eighthgraders, and a questionnaire survey was conducted. We conducted t-test to investigate whether or not adifference can be seen in the self-disclosure points and the interpersonal stress coping hypostatic factor pointsbetween a group of students who have a severe aversion to school (Group A) and another group of studentswho have a little aversion to school (Group B). As a result, it became clear that compared to Group B, GroupA haven’t made self-disclosure, requests for assistance or actively cope with their situations. Moreover, inorder to understand the characteristics of Group A in more details, we divided Group A into two groups - thehigh self-disclosure group and the low self-disclosure group. Then we compared their interpersonal stresscoping points. As a result, it became clear that even though the students have a severe aversion to school,if they have done self-disclosure, they tend to ask for assistance, actively cope with situations and changea way of thinking. In addition, we divided Group A into two groups - the group who request for assistancefrequently and the group, infrequently. Then we compared their self-disclosure and interpersonal stresscoping hypostatic factor points. As a result, it became clear that even though the students have a severeaversion to school, if they request for assistance, their self-disclosure will be done at a higher degree. From theabove, it was suggested that as a preventive intervention for students who have a severe aversion to schooland a tendency of non-attendance, it is important to support their skills to conduct self-disclosure and ask forassistance.Keywords: Severe aversion to school, school non-attendance, self-disclosure, request for assistance,junior high school students- 27 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 ,2013,28-32石 崎 一 記 ・ 髙 井 美 佳 ・ 江 崎 華 子事 例 研 究援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その1)A Study on Supportive Summer School Ⅺ(その1 )石 崎 一 記 1 ・ 髙 井 美 佳 2 2・ 江 崎 華 子(1 東 京 成 徳 大 学 )・(2 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 心 理 学 研 究 科 )Kazuki ISHIZAKI (Tokyo Seitoku University)Mika TakaiHanako Ezaki(Graduate School of Psychology Tokyo Seitoku University)要約本 研 究 では、 平 成 24 年 度 に 開 催 された、 第 11 回 援 助 的 サマースクールの 参 加 者 、 日 程 、プログラムなどの 概 要 が 報 告 された。 会 場 を 代 えて3 年 目 として、 新 たに 休 耕 田 を 使 った 泥 んこ 遊びを 加 えた 計 画 の 概 要 が 報 告 された。キーワード: 援 助 的 サマースクール、 日 程 、プログラムⅠ はじめに今 年 行 われた 第 11 回 目 は、 平 成 24 年 8 月 18 日 から23 日 の5 泊 6 日 で、 小 学 校 1 年 生 から 社 会 人 までの 参 加 者 37 名 で 実 施 された。 個 別 の 参 加 者 の 様 子とかかわりの 実 態 については、 援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その2)~(その9)で 詳 しく報 告 される。そこで、ここでは、その 概 要 について 報 告 する。Ⅱ. 平 成 24 年 度 第 11 回 の 計 画 の 概 要1. 期 日平 成 24 年 8 月 18 日 から23 日 (5 泊 6 日 )2. 場 所栃 木 県 鹿 沼 市 自 然 体 験 交 流 センター(わくわくネイチャーランド)3. 参 加 者 及 びスタッフ参 加 者 37 名 、スタッフ44 名 、 合 計 81 名 であった。グループ 別 参 加 者 及 び 担 当 スタッフは 表 1の 通りである。スタッフの 配 置 や 分 担 については 昨 年と 同 様 である。 緩 やかな 担 当 制 は 本 年 度 も 概 ね 成功 したといえる。本 年 度 はスーパーバイザーとして 参 加 した 経 験豊 富 な 修 了 生 等 ( 臨 床 心 理 士 等 )が5 名 確 保 できたので、 各 グループに1 名 づつ 配 置 した。グループ 全 体 を 見 てもらうという 期 待 には 十 分 に 応 えてもらえた。4. 日 程例 年 と 同 様 、 基 本 的 平 常 日 課 に 加 え、 各 日 1 ~2のイベントが 計 画 された。その 日 程 は 表 2の 通 りである。イベントについては、 昨 年 度 まで 組 み 込まれていた 消 し 炭 遊 びに 変 わり、どろんこ 遊 びを取 り 入 れた。 消 し 炭 遊 びは、 例 年 火 おこしの 後 、消 し 炭 を 使 ってお 互 いの 顔 に 振 り 合 う 遊 びが 行 われていたものだが、 当 初 自 然 発 生 的 に 行 われた 時の 遊 びとしての 魅 力 が 徐 々に 失 われ、 単 に「つける」「 逃 げる」の 鬼 ごっこになってしまっていた。- 28 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その1)表 1参 加 者 およびスタッフ名 前 性 学 年 特 記 事 項 スタッフ グループH.O 女 小 4初 参 加 ヌーナン 症 候 群 ・LD軽 度 知 的 障 害 ・ 夜 尿あめ(M1)Y.S 女 小 4 しーちゃん(B1)Y.I 女 小 5 こーちゃん(B1)A.N 女 小 5 G2T.N の 姉 ゆー( 終 了 生 )I.N 女 小 3 ゆー( 修 了 生 )H.O 女 中 2 初 参 加 高 機 能 自 閉 症 まっさん(M1)R.U 男 幼 稚 園 初 参 加 さおりん(B3)T.N 男 小 3 G1A.N の 弟 まっち(B2)K.T 男 小 5 ADHD・アスペルガー 症 候 群 ゆうじ(M1)M.K 男 小 6 初 参 加 そういちろう)B1)Y.N 男 中 1 精 神 遅 滞 らい( 修 了 生 )Y.K 男 中 1 G3M.K の 兄 みー(B3)R.M 男 高 3 知 的 障 害 ・LD せいや(B1)S.Y 男 幼 稚 園 初 参 加 よっちゃん(M1)M.E 男 小 4 広 汎 性 発 達 障 害 ともち(B3)K.S 男 小 3 初 参 加 こういち(B1)M.K 男 小 4 G2Y.K の 弟 こういち(B1)S.Y 男 小 5 広 汎 性 発 達 障 害 もも(B4)S.O 男 中 1 自 閉 症さとみ(B3)・いっこー(B1)・みおにゃん( 修 了 生 )Y.M 男 中 3 自 閉 症 すっぷー(M1)K.A 男 社 会 人 めっしー(M2)M.W 男 小 2初 参 加 軽 度 知 的 障 害 ・ 広 汎 性 発 達障 害かず(M1)R.N 男 小 2 初 参 加 G5S.N の 弟 ちばちゃん(B3)R.O 男 小 3 ちばちゃん(B3)S.S 男 小 5 なお(B3)K.M 男 小 6 こてつ( 修 了 生 )H.S 男 中 1 自 閉 症 はる(M1)A.U 男 中 3 アスペルガー 症 候 群 ・チック けんと(B4)R.M 男 中 3 自 閉 症 ハチ(M2)R.U 男 小 2 だいちゃん(B3)・ゆいちゃん( 卒 業 生 )A.K 男 小 3 初 参 加 だいちゃん(B3)S.N 男 小 5初 参 加 G4R.N の 兄 LD・ADHD・協 調 性 運 動 障 害 ・ 軽 度 知 的 障 害このみ(M1)I.K 男 小 5 たかちゃん(B1)A.T 男 小 6 ADHD・ 睡 眠 障 害 ・ 癇 癪 ぐりこ(M1)Y.K 男 小 6 ダウン 症 候 群 まゆ(B4)・ともこ( 修 了 生 )R.K 男 小 6 ゆうた (B1)S.M 男 中 3 高 機 能 自 閉 症 しょうた (B3)その 他トトロ 教 授 代 表ナッツ 修 了 生 ( 臨 床 心 理 士 ) バイザー(G1)ジョー 修 了 生 ( 臨 床 心 理 士 ) バイザー(G2)ブッキー 修 了 生 ( 臨 床 心 理 士 ) バイザー(G3)だっつ 修 了 生 ( 臨 床 心 理 士 ) バイザー(G4)やっくん 修 了 生 ( 臨 床 心 理 士 ) バイザー(G5)まっすー 修 了 生 ( 看 護 師 ) 健 康 管 理役 割G1G2G3G4G5- 29 -


石 崎 一 記 ・ 髙 井 美 佳 ・ 江 崎 華 子表 2 日 程 表朝 午 前 昼 午 後 夕 夜1 日 目 8 月 18 日参 加 者 集 合バスで 移 動食 事休 憩秘 密 基 地作 り入 浴食 事花 火オセロ 大 会日 記 ・ 就 寝2 日 目 8 月 19 日起 床ラジオ 体 操散 歩 ・ 朝 食野 外 遊 びピザ作 り川 遊 び入 浴食 事ゲーム 大 会オセロ 大 会日 記 ・ 就 寝3 日 目 8 月 20 日起 床ラジオ 体 操散 歩 ・ 朝 食どろんこ 遊 びマスつかみ火 おこしカレーコンテスト入 浴食 事ナイトハイクキャンプインキャンプオセロ 大 会日 記 ・ 就 寝4 日 目 8 月 21 日起 床ラジオ 体 操散 歩 ・ 朝 食川 遊 びタライそうめん野 外 遊 び入 浴食 事お 楽 しみ 会オセロ 大 会日 記 ・ 就 寝5 日 目 8 月 22 日起 床ラジオ 体 操散 歩 ・ 朝 食チャレンジハイク BBQ 別 れの 集 い オセロ 大 会日 記 ・ 就 寝6 日 目 8 月 23 日起 床ラジオ 体 操散 歩 ・ 朝 食帰 宅 準 備鹿 沼サンド表 彰 式 ・ 解 散そこで、 昨 年 度 より 休 耕 田 を 使 ったどろんこ 遊 びの 検 討 を 続 け、 今 年 度 はこちらに 変 更 した。 全 身でおもいっきり 土 に 触 れ、 泥 に 入 った 時 の 不 思 議な 感 触 を 味 わうどろんこ 遊 びは、 開 始 した 時 点 では 躊 躇 していた 参 加 者 も、すぐにこの 遊 びの 虜 となり、 満 足 げに 没 頭 していた。どろんこ 遊 びの 導入 は 成 功 したといえる。また、 会 場 近 くの 川 を 利用 した 川 遊 びも 導 入 し、こちらも 概 ね 成 功 であったといえる。5.スタッフ 研 修本 年 度 は 例 年 のように 主 力 となる M1に 対 して定 期 的 に、 系 統 的 な 事 前 指 導 が 十 分 に 行 えた。 加えて 事 前 に1 泊 2 日 で 下 見 の 合 宿 も 行 われた。 事前 準 備 については、 例 年 以 上 に 充 実 して 行 えたと思 われる。 昨 年 同 様 に 携 行 備 品 の 整 理 と 準 備 について 会 場 での 用 意 が 可 能 であったが、できる 限 り携 行 する 方 針 で 取 り 組 み、 事 前 のイメージ 作 りや自 我 関 与 の 不 十 分 さが 認 められないように 考 慮 した。その 他 のスタッフについては、 事 前 の 打 ち 合わせ 会 が4 回 開 催 されて、 顔 合 わせや 日 程 の 確 認などが 行 われた。これも 例 年 の 通 りである。Ⅲ 終 わりに始 まりは、 平 成 13 年 (2001)のことであった。着 任 したての 当 時 の 杉 原 研 究 科 長 と 勝 倉 孝 治 先 生と3 人 で 食 事 をしていたときに、 学 園 のもつ 戸 隠グリーンの 有 効 活 用 についての 話 題 になった。とてもいい 環 境 、いい 施 設 なのだから、 私 たちにもできることを 企 画 して、もっと 活 用 しようということになり、さまざまなアイディアの 中 のひとつとして、 子 どもたちを 集 めて、 夏 の 学 校 (サマースクール)をやったらどうかということになった。そのときには、 本 当 にできなくても、お 互 いの 考えや 夢 を 語 り 合 うことが 楽 しかったことを 覚 えている。ところが、それからまもなく、 事 務 の 皆 さんも一 緒 に 総 勢 6 名 での 下 見 から 始 まり、 参 加 者 募 集 、企 画 案 の 策 定 、スタッフの 募 集 とことは 順 調 に 進み、 翌 2002 年 には 第 1 回 が 実 施 され、 現 在 に 至 っ- 30 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その1)ている。その 当 時 は、これが 参 加 者 、その 家 族 にとってこれほど 大 きな 期 待 をされるような 行 事 になることは、 想 像 できていなかったように 思 う。その 後 、回 を 重 ねるにつれて、 参 加 者 の 家 族 から、いろいろな 話 を 伺 うようになった。ある 参 加 者 の 母 親 は、サマースクールから 帰 ってくるお 子 さんが、まるで 別 の 子 どものように 感 じられる 瞬 間 が 毎 年 楽 しみだという。また 別 の 母 親 からは、サマースクールが 終 わった 日 から、 翌 年 のサマースクール 日 程 の 予 定 を 立て 始 めるのだという 話 を 聞 いた。 毎 日 の 生 活 の 中では、 学 校 に 行 っている 時 間 以 外 は 片 時 も 離 れることができない。1 年 のうちで 唯 一 のまとまった 自 分 の 時 間 が、サマースクール 期 間 だけなのだという。 美 容 院 に 行 くこと、 映 画 を 見 に 行 くこと、お 友 達 と 食 事 をすることなど、 日 ごろできないでいることをその 期 間 にいろいろと 詰 め 込 むらしい。 自 分 にはそういう 時 間 があると 思 えることで、 私 はがんばれるんですということであった。ちょっと 疲 れたときに、8 月 の 予 定 を 考 えることで 元 気 が 回 復 するらしい。 当 日 までに 何 度 も 書 き換 えた 予 定 表 をかばんに 忍 ばせて、お 子 さんの 見送 りに 来 ている 姿 を 毎 年 目 にすることは、 私 たちにとってもささやかな 喜 びであった。スタッフの 成 長 についても、 当 初 はこれほど 大きな 機 会 になることは 意 図 していなかったことである。 毎 年 、 東 京 成 徳 大 学 の 臨 床 心 理 学 科 と 心 理学 研 究 科 の 修 士 課 程 の1 年 生 を 中 心 にスタッフの募 集 を 行 っているが、 彼 らの 多 くが 臨 床 を 学 ぶ 上での 貴 重 な 機 会 として 活 用 してもらっていることは、とてもうれしいことである。ある 修 了 生 が、サマースクールは 自 分 にとって臨 床 の 原 点 ですと 語 っていた。 人 として、 自 分 がどうあるか、 目 の 前 の 人 とどう 向 き 合 うか、 支 援するというのがどういうことかを 体 で 感 じ、 実 感する 機 会 となっているということである。こういったことは、 言 葉 で 伝 えることが 非 常 に困 難 である。 言 葉 で 分 かっていても、 実 際 にクライエントを 目 の 前 にしたときには、その 通 りにできるとは 限 らない。しかも、できていないことをやはり 言 葉 で 伝 えたとしても、 言 葉 の 世 界 では、分 かっているつもりでいるし、やろうとしているはずだし、やれているはずだと 思 っているのであるから、その 言 葉 は 伝 わらない。ところが、 参 加者 の 反 応 は 直 接 的 であり、 身 体 的 であり、 感 覚 的であるから、 実 感 として 体 験 することができる。別 の 学 校 臨 床 の 場 で 仕 事 をしている 修 了 生 は、リセットするために 参 加 するといって、 修 了 後 も 何度 も 参 加 してくれている。こういったことの 指 針 を 示 し、 身 をもって 伝 えてくれたのが、 勝 倉 孝 治 先 生 であった。 発 起 人 、当 初 の 計 画 に 加 わった 一 人 でもあり、 第 1 回 目 、2 回 目 には 実 際 に 参 加 してくれた。その 後 は、 期間 中 にその 場 に 加 わることはなかったが、 常 にもっとも 強 力 な 理 解 者 、 協 力 者 として、 支 えてくれていた。 臨 床 家 としてのあるべき 姿 について 語る 中 で、スタッフとして 大 事 にして 欲 しいことを伝 えてくれた。本 来 であるならば、ここで、その 詳 細 について記 すべきところであるが、その 言 葉 を 状 況 や 文 脈 、関 係 と 無 関 係 に 切 り 取 ったところで、その 意 味 は伝 わらない。それは、 本 人 の 望 むところではないはずである。それぞれの 人 の 中 で、その 状 況 や 先生 との 関 係 を 含 めた 全 体 として、それはとても 大切 なものとして 息 づいていることである。そのことを 大 切 にしたいと 思 っている。その 勝 倉 孝 治 先 生 も、ついに 今 年 定 年 を 迎 えられ、 大 学 院 を 去 ることになった。これで、 杉 原 先生 に 続 き、3 人 で 始 めた 援 助 的 サマースクールも一 人 になってしまうことになる。この 大 きな 行 事を 一 人 で 支 えることは、いささか 荷 が 勝 ちすぎることではあるが、 多 くの 人 たちの 期 待 には、 応 えたいと 思 っている。本 援 助 的 サマースクールの、 一 番 の 特 徴 は、 自然 体 験 や 野 外 活 動 を 重 視 しながら、その 専 門 家 が- 31 -


石 崎 一 記 ・ 髙 井 美 佳 ・ 江 崎 華 子一 人 もいないことかも 知 れない。 逆 にそのことが、プログラムやイベントとして 何 をやるか、またそのやり 方 や 方 法 論 を 深 めるのではない、 緩 やかに構 造 化 された 中 での、 参 加 者 、スタッフ、 環 境 すべての 相 互 作 用 のあり 方 を 追 及 するユニークなものに 育 ってきているように 思 う。それが、 多 くの参 加 者 とその 家 族 に 支 持 され、 修 了 生 に 臨 床 の 原点 と 言 わしめる 大 きな 要 因 になっているのではないだろうか。本 大 学 院 が、 臨 床 家 を 育 てようとする 限 り、 単なる 知 識 や 理 論 、 技 術 や 技 法 を 知 っていること、修 了 すること、 資 格 を 取 得 することを 支 える、「 臨床 家 を 生 きる」うえでの 基 本 を 学 ぶことのできる機 会 としてあり 続 けたいと 考 えている。(その9)2013、 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 ,13,107 ~ 118文 献赤 坂 このみ・ 石 崎 一 記 援 助 的 サマースクールの 研 究Ⅺ(その2)2013、 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 ,13,33 ~ 38石 毛 遥 ・ 石 崎 一 記 援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その3)2013、 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 ,13,39~ 50風 間 和 ・ 石 崎 一 記 援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その4)2013、 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 ,13,51~ 60小 池 春 菜 ・ 石 崎 一 記 援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その5)2013、 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 ,13,61 ~ 71阪 無 勇 士 ・ 石 崎 一 記 援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その6)2013、 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 ,13,72 ~ 85松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 崎 一 記 援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)2013、 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理学 研 究 ,13,86 ~ 99矢 津 田 麻 希 ・ 石 崎 一 記 援 助 的 サマースクールの 研 究Ⅺ(その8)2013、 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 ,13,100 ~ 106渡 沼 良 美 ・ 石 崎 一 記 援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ- 32 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 援 ,2013,33-38助 的 サマースク-ルの 研 究 Ⅺ(その2)事 例 研 究援 助 的 サマースク-ルの 研 究 Ⅺ(その2)A Study on Supportive Summer School Ⅺ (2)赤 坂 好 美( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )石 崎 一 記( 東 京 成 徳 大 学 )Konomi AKASAKA(Graduate School of Psychology Tokyo Seitoku University)Kazuki ISHIZAKI(Tokyo Seitoku University)要 約本 稿 では、2012 年 度 の 援 助 的 サマースクールにおける 参 加 者 37 人 のうち 初 参 加 となる 小 学 5 年生 の 男 児 N.S について、ギャングエイジに 至 るまでの6 日 間 の 発 達 課 題 の 獲 得 を 考 察 したものである。サマースクールで 本 児 の 自 立 性 やペースを 尊 重 されたことが、 本 児 の 持 っている 機 能を 引 き 出 したと 考 えられる。キーワード:ADHD、 援 助 的 サマースクール、 発 達 課 題Ⅰ.はじめに東 京 成 徳 大 学 大 学 院 が 主 催 する 援 助 的 サマースクール( 以 下 サマースクール)は、 今 回 で11 回 目を 迎 え、 本 年 度 は37 名 の 参 加 があった。「 浴 びるほどの 自 然 体 験 を 提 供 すること」「 異 年 齢 集 団 での 子 ども 同 士 の 相 互 作 用 を 大 切 にすること」「 子どもたちの 自 立 を 大 切 にし、 適 切 な 援 助 を 行 うこと」を 基 本 方 針 にもつサマースクールの 中 で、 子どもたちは 親 元 を 離 れ、 自 然 の 中 で 生 活 することで、ありのままの 自 己 を 表 現 し、 発 揮 するようになる。また、スタッフにとっては、 関 わり 方 や 運営 研 修 の 場 となり、 臨 床 現 場 における 重 要 な 体 験となる。本 稿 では、ADHD の 診 断 を 受 けている 小 学 5 年生 の 男 児 N.S の 行 動 の 記 録 を 整 理 し、その 変 化について 考 察 する。Ⅱ. 事 例 の 概 要1. 本 児 について名 前 :N . S性 別 : 男 子年 齢 ・ 学 年 :11 歳 小 学 5 年 生障 害 :ADHDLD軽 度 の 知 的 障 害協 調 性 運 動 障 害以 下 は、アンケートによる 事 前 調 査 の 記 述 である。 全 般 的 に 気 になること自 分 のテリトリーに 入 られることがキライでパニックを 起 こすところ。 友 達 を 作 り 遊 びたいと思 っているが、なかなか 人 との 関 わり( 交 流 )が出 来 ずほとんど 一 人 でいるところ。 生 活 習 慣- 33 -


赤 坂 好 美 ・ 石 崎 一 記起 床 : 寝 起 きが 悪 い就 寝 :メラトニン( 睡 眠 導 入 剤 )を 使 用夜 尿 症 (オムツ 使 用 )食 事 : 協 調 性 障 害 のため、 体 幹 が 弱 いの姿 勢 が 悪 く 食 べこぼしが 多 い好 き 嫌 いが 多 い 対 人 関 係自 分 からはなかなか 話 しかけられず、 会 話 も 続かない 勉 強 、 学 習 面漢 字 が 苦 手 。 特 に 書 き。3ケタの 計 算 が 苦 手 。 性 格 ・ 行 動 の 特 徴神 経 質 なところがある。 参 加 の 動 機普 段 、できない 体 験 をさせたい。 同 じ 通 級 で、本 援 助 的 サマースクールに 参 加 している T.A の母 親 からご 紹 介 されたとのこと。2. 参 加 の 経 緯初 参 加 。インテークでは、 初 めに 人 生 ゲームをし、 几 帳 面 にお 金 をそろえ 計 算 していた。その 後どらえもんのバランスゲームをした。 最 後 に 積 み木 で 秘 密 基 地 をつくった。 秘 密 基 地 の 中 には 椅 子をつくり、 床 にはボールを 敷 き 詰 めたりと 工 夫 を凝 らしていた。 秘 密 基 地 をつくっている 時 は 口 数が 少 し 増 えた。3. 期 間 中 の 行 動以 後 、S の 発 言 は「」、このみの 発 言 は、そのほかの 人 物 の 発 言 は()とする。( 第 一 期 ) 基 本 的 信 頼 と 自 律 性 の 時 期1 一 日 目受 付 であいさつをしたり、< 久 しぶり!>と 話しかけるが 頷 くだけの 反 応 が 多 かった。始 めは、< 何 か 描 いてみる?>「いい。」と、旗 に 何 も 描 かなかったが、 弟 や 周 りの 子 どもたちが 好 きなように 自 由 に 絵 を 描 いている 姿 を 見 ていた 後 に、もう 一 度 と 聞くと 頷 きながら「うん。」といい、ドラえもんとコロスケを 描 いた。バス 移 動 では A に 誘 われて 一 緒 に 乗 る。A の勢 いに 押 されて、 疲 れた 様 子 になる。バスの 中 での 目 標 は、 険 しい 表 情 でしばらく 悩んだ 後 、『 色 々がんばる』と 書 いた。バスレクのなぞなぞは 飴 が 欲 しいけれど 最 初 は答 えられず、 若 干 不 貞 腐 れ 気 味 に 見 えたが、 皆 で一 斉 に 答 える 問 題 には 答 えられるようになってきて、「 黄 色 のがいい!」とはしゃいでいた。休 憩 ではツナマヨのおにぎりを3つ 食 べ、「お 茶くんでくる」「おにぎりとってくる」と、このみに 声 をかけて 取 りにいっていた。虫 が 嫌 いなので M がさっそく 虫 取 りをしているのを 見 てビックリしていた。部 屋 に 着 くとすぐに2 段 ベッドにあがり 場 所 取りをした。 疲 れて 眠 そうにしていたが、 秘 密 基 地をつくることを 思 い 出 し、 元 気 になって 外 に 出 た。外 ではまず 林 の 中 をぐるっと 回 り、 秘 密 基 地 をつくるのにどこがいいか 下 見 をした。木 材 を 立 て 掛 けられる 木 を 発 見 し、トイレの裏 に 木 材 を 取 りに 行 った。S が「これがいっか。」と 言 った 木 は 下 に 埋 まっていたので、と 言 って 協 力 して 引 っ 張 り出 した。木 は 全 部 で3 本 運 び、その 上 にブルーシートをかけ、ひもで 縛 って、かべ( 屋 根 ?)にした。 地面 にもブルーシートをしき、 座 れるようにした。S が 右 のひもを 結 んでいると「そっち 結 んで」とお 願 いされたり、 木 材 を 立 て 掛 ける 場 所 を「あーどこにすっかなぁ。」「いいねぇ。」などのやりとりをして、 協 力 して 秘 密 基 地 づくりを 進 めた。 巻 き舌 が 出 てきて、 発 話 量 もぐっと 増 えた。秘 密 基 地 の 中 で2 人 で 座 っていると、 通 りがかる 人 に(いいなー。)(すごーい。)( 俺 もつくりてー。)( 入 りたーい。)と 褒 められ、S は 特 に 言葉 を 返 さなかったが 目 を 細 めてとてもニコニコだった。< 嬉 しいねー。>と 言 うと 頷 いていた。夕 飯 はハンバーグをおいしそうに 食 べ、 日 記 に- 34 -


援 助 的 サマースク-ルの 研 究 Ⅺ(その2)もハンバーグがおいしかったと 書 いた。宝 箱 とファイルを 同 じテープとシールでワンポイントをつけ、おそろいにする。日 記 の 時 間 では< 何 が 楽 しかったー?>と 聞 くと「 秘 密 基 地 づくり。」と 答 えた。 眠 いと 言 っていたけれど、 最 後 の 行 まで 日 記 を 書 いた。22 日 目起 こしにいくとぱっと 目 覚 めて 外 に 出 る。 散 歩では 秘 密 基 地 が「 遠 くからでも 見 える。」と 嬉 しそうにしていた。散 歩 が 終 わると 秘 密 基 地 の 修 理 をした。 風 でずいぶんシートがめくれあがっていた。ただ、1 番厚 手 で 大 きなビニールシートを1 番 下 に 使 っていて、そこは 丈 夫 で 壊 れていなかったので、しきりに「 最 初 に 厚 いビニールシートつかってよかったー。」と 言 っていた。それから 石 を 置 いて 下 のシートがとばないようにしたり、ひもやシートを増 やして 補 強 してグレードアップした。「 明 日 は何 付 け 足 すかなー?」とわくわくした 様 子 。係 りの 仕 事 ではそうじ 係 になってモップをやりたがったが、「じゃ、 明 日 でいい。」とゆずる。と 言 うと「まぁ、 明 日 やれるし 一緒 だから。」と 大 人 な 面 が 見 られた。学 習 は、 分 からない 漢 字 は、このみがへんやつくりのヒントを 出 しながら 決 めたとこまで 一 生 懸命 やった。 辞 書 も 引 いた。ピザづくりでは、こね 方 や 日 の 下 に 置 く 時 間 など、 意 見 を 主 張 するが 折 れる。 道 具 をそろえたり、洗 ったり、こねたり、 協 力 的 に 動 く。1,2 枚 目がすごくおいしかったと 言 う。3 枚 目 は、 嫌 いだったことを 忘 れてしまいマヨネーズとツナをたくさんのせてしまい、なかなか 口 が 進 まなかった。ピザを 焼 くために 列 に 並 んでいる 時 は、トッピングのチーズをつまみ 食 いしながら 待 ち、レッドに 笑われた。 暑 さでチーズが 溶 けてくると、「これもうこのまま 食 べられるんじゃないの?」と 言 っていた。川 遊 びでは、 最 初 に 水 に 慣 れるため 肩 まで 浸かっていた。それから 少 し 上 流 まで 行 って、 浮 かんで 下 まで 流 れていく 遊 びを 繰 り 返 した。 次 に、網 をかりてメダカをつかまえた。その 後 、K の 真似 をして 飛 び 込 みをしたり、K のグループがのっていたイカダに 一 緒 に 乗 ったり 終 始 笑 顔 。イカダに 乗 っている 時 は「みてー!」と 言 ってきた。夜 の 花 火 大 会 では、しゅーっと 出 るタイプの 花火 が「カッコイイ。」と 言 って、そのタイプの 花火 だと 嬉 しそうに 眺 めていた。日 記 にはたくさん 早 く 書 いていて、 今 日 一 日 がすごく 充 実 していたことが 伝 わってきた。コップ 洗 いをやっくんと A と 手 伝 った。このみにルールを 教 わりながら、 初 めてダイヤモンドゲームをした。 主 導 性 と 勤 勉 性 の 時 期13 日 目秘 密 基 地 には 石 をつけたして、あとは 二 人 でごろごろしてのんびりした。カメラのストラップについていたのでと 聞 くと、スティッチとどらえもんの 話 をしてくれた。そのあと、サマスクにくるすぐ 前 まで 行 っていた海 外 旅 行 の 話 をしてくれた。 日 本 よりも 技 術 が 進んでないのに、 建 物 がすごかったこと、 食 べ 物 が口 に 合 わなかったこと、たくさん 泳 いだことなど。班 の 代 表 で 水 着 を 取 りに 行 った。「しょうがねぇなー」と 言 っていたけど 足 並 みは 早 かった。学 習 では、 自 分 から「これの 左 側 は?」「ここヒント 教 えて。」と 聞 いてくるようになった。とても 早 くノルマが 終 わったので、と 聞 くと「うんやっちゃうか!」と 言 って 予 定 よりたくさん 勉 強 した。どろんこ 遊 びはどうしても 嫌 がる。「 汚 れんのいやだよ! 絶 対 いや!」と、 汚 れることに 対 しとても 抵 抗 を 見 せる。( 部 屋 も 何 度 も 掃 き 掃 除 し、秘 密 基 地 の 床 もこまめに 掃 除 する。カバンの 中 も非 常 に 整 理 整 頓 されていてきれい 好 き)。しかし水 遊 びは 好 きなので、 近 くの 小 さな 川 に 入 り、 石- 35 -


赤 坂 好 美 ・ 石 崎 一 記を 並 べてダムをつくって 遊 ぶ。 石 の 形 を 真 剣 に 選別 し、 水 がなるべく 漏 れないように 工 夫 していた。マスつかみはなかなかとれなくて、1 匹 目 は 他のスタッフがとったものをもらう。「やったー!」と 喜 んで 焼 き 場 に 持 っていく。2 匹 目 をとろうとするけれど、なかなかとれない。ギリギリで2 匹 目 を 自 力 でゲットし、さっきよりも 興 奮 して「やーったー!!!とったー!!!」と 大 声 を 上げながら 焼 き 場 に 走 って 行 った。帰 りは「1 番 じゃなくても 着 けばいいんだよー。」とのんびり 帰 る。 周 りはバスで 帰 る 人 が多 かったので、「 俺 たちあるってかえってきたんだぞー!」と 部 屋 に 行 く 途 中 にすれ 違 うスタッフやこどもに 話 していた。「キャンプで 火 起 こしよくやる」と、 慣 れた 手つきで 火 起 こしをする。 準 備 も 良 く 手 伝 う。3 位なのをすごく 喜 んでいた。 特 に 何 かあったわけではないけれど、こっちを 見 てニコっとするようになる。 友 達 の 名 前 を、 昨 日 までは 一 人 しか 出 なかったのに、 今 日 はたくさん 出 るようになる。 何 人 かの 友 達 のことはオリジナルのあだ 名 をつけて 呼 んでいた。カレー 作 りの 後 片 付 けも 率 先 してやる。 班 の 子が、 片 づけよりお 菓 子 を 食 べたがっている 場 面 で「 先 に 片 づけしよう」と 促 す。しかし、 時 間 がなくなってしまって 鈴 カステラを 食 べられなくなってしまいパニックが 起 こる。 真 っ 暗 になった 炊 事場 でしばらく 机 に 頭 を 突 っ 伏 していた。その 間 、と 声 をかけ、 反 応 はなかったが、「もどる。」と 顔 をあげた。< 立 派 だね。>と 声 をかけると 頷 いていた。ダイヤモンドゲームをリベンジしてくる。とても 工 夫 した 作 戦 をとってきてこのみに 勝 つ。24 日 目疲 れが 出 たのかラジオ 体 操 などは 行 けず、 咳 も出 ていたので 部 屋 でゆっくりする。 友 達 やスタッフに、 今 後 パソコンやケータイがどうなっていくかの 話 をする。朝 食 ではサケがあまり 好 きでなかったけれど 全部 食 べられた。掃 き 掃 除 をし、 学 習 もだんだん 覚 えてきてスムーズに 終 わる。野 外 遊 びでは、 秘 密 基 地 にハンモックで 棚 を 付け 足 す。 三 段 ハンモックでのんびりしたり、 秘 密基 地 でのんびりしたり、ゆっくり 過 ごす。 色 んなハンモックの 寝 心 地 を 試 す。そうめんの 準 備 では、 火 起 こしを 手 伝 う。リピーターの 友 達 にこつを 教 えてもらいながら 試 行 錯 誤する。 火 が 起 きると、 班 のみんなを 集 めて、 全員 がそろってからマシュマロと 鈴 カステラを 食 べる。と言 うとにこにこ 笑 って「ほんとだよ!」と 言 った。その 後 始 まった 水 遊 びでは、 友 達 と 背 中 を 守 り合 いながら 戦 っていた。夜 のお 楽 しみ 会 では 汗 だくになるが、 段 ボールの 中 に 入 っておどかすのをがんばる。お 楽 しみ 会 の 前 にやっくんに 預 けた 剣 がなくなってしまう。「(やっくんに)どうするのか 聞 いてよ。」と 強 い 口 調 で 言 ってくる。疲 れていて 少 し 早 めに 就 寝 した。 友 達 同 士 の 喧嘩 が2つあり、それに 少 しうんざりしていた。 自分 も 班 の 友 達 にどつかれたけど、「アイツ 謝 らないし。イライラして 怒 鳴 っても 声 が 出 なくなるだけ。」と 話 していた。 ギャングエイジの 時 期15 日 目沢 登 りでは、 友 達 と 先 に 登 れた 方 が 手 を 貸 すなどして 協 力 し 合 いながら、たくさんチャレンジをする。 流 されるときには 毎 回 「うそだろー!」と叫 ぶ。山 登 りでは 前 に 前 に 進 みたがる。降 りてきてアイスやスイカが 出 てくると、Sの方 からこのみに「 半 分 こしよう。」とアイスをくれる。- 36 -


援 助 的 サマースク-ルの 研 究 Ⅺ(その2)入 浴 後 には、 班 の 友 達 が 水 をばしゃばしゃかけてきたことをこのみに 報 告 し、「ずっとイライラしてたんだよね。」と 話 す。バーベキューでは 汗 だくになりながら 炭 を 運 んで 往 復 する。テーブルの 一 つを 任 され、お 肉 も 一生 懸 命 焼 いて 周 りに 配 る。バーベキューが 終 わり、 班 のみんなでテーブルの 席 についていた 時 、お 風 呂 でイライラしていた友 達 に 今 度 は 手 の 上 で 文 字 を 書 かれてしまう。「いてー!」と 大 きな 声 を 上 げ、 駆 け 付 けたこのみに事 情 を 説 明 する。S が 話 をしている 間 に、 友 達 が(きらい)という 文 字 を 書 いてSに 見 せる。 友 達 は、きらいだけど、だいすきという 言 葉 を 続 ける 予 定だったが、Sの 目 には 入 らない。「なんなんだよ!」と 机 をバンバン 叩 く。このみとジョーの 声 かけで少 し 落 ち 着 きを 取 り 戻 し、 片 づけに 協 力 する。別 れの 集 いでは、このみがオカリナの 発 表 している 間 に、 自 分 のとなりに 足 でこのみの 分 の 席 をとっておいてくれて、「まだー?まだー?」と 呼 ぶ。発 表 では 初 めはパスすると 言 っていたが、 自 分 の番 が 来 たら 少 し 沈 黙 した 後 「 楽 しかった。」とみんなの 前 で 言 えた。 帰 り 道 で< 何 が1 番 楽 しかった?>と 聞 くと、「 秘 密 基 地 づくり!」と 言 っていた。26 日 目遊 び 場 の 片 づけでは、たくさんの 道 具 を 使 っていて、「こんなに 使 ってたんだー。」と 改 めてしみじみしていた。自 分 の 荷 造 りも 普 段 から 整 頓 していたのですぐに 終 わる。学 習 では、このみがと 伝 えて 出 ていくと、しばらくして「まだー?」と 窓 から 呼 ぶことが2 回 あった。なくしていた 剣 が 出 てきてとても 喜 んでいた。鹿 沼 サンドでは、 甘 いクリームを 何 種 類 も 組 み合 わせて 食 べるのを 気 に 入 っていた。帰 りのバスでは、 行 きと 同 じく 友 達 と 乗 った。行 きよりも 遠 慮 がなくなっていて、 疲 れもあるがにぎやかだった。閉 会 式 では、たからばこに 色 々しまっていた。宝 箱 とファイルをおそろいにしたこと、 秘 密 基 地のことをさっそく 母 に 報 告 していた。4. 事 後 のアンケートいくつもの 項 目 に「 秘 密 基 地 が 楽 しかった」と書 かれていた。Ⅲ. 考 察保 護 者 からの 事 前 アンケートには『なかなか 人との 関 わり( 交 流 )ができず、ほとんど 一 人 でいる』と 書 いてあった 本 児 であったが、 本 サマースクールでは 友 達 と 積 極 的 に 意 見 を 交 換 したり 協 力して 行 動 する 姿 が 多 く 見 られた。この 友 達 との 関わりに 至 るまでの 仮 定 をもう 一 度 振 り 返 ってみたいと 思 う。まず、1 日 目 と2 日 目 を 第 一 期 とする。この 時 期は、 馴 染 んでいない 状 態 からこのみと 関 係 を 築 く。話 し 方 がくだけてきたことや、イカダに 乗 っている 時 に「 見 て」と 声 をかけてきたことから、この時 期 を 基 本 的 信 頼 の 時 期 と 捉 える。また、 第 一 期は、やりたい 仕 事 を 友 達 に 先 にさせてあげたり、班 の 中 で 意 見 がぶつかった 時 に 意 見 を 譲 ったりしていた。 我 慢 をしたり 自 分 の 感 情 をコントロールする 経 験 をしていた。これらのことから、この 時期 を 自 律 性 の 時 期 でもあると 捉 える。次 に、3 日 目 と4 日 目 を 第 二 期 とする。このみから 離 れて、 他 の 子 と 真 面 目 に 仕 事 に 取 り 組 む。班 の 中 で 率 先 して「 片 づけしよう」と 声 をかけたり、 班 の 洗 濯 物 を 進 んで 取 りに 行 っていた。これらの 行 動 から、この 時 期 を 主 導 性 の 時 期 と 捉 える。また、 第 二 期 は、 第 一 期 の 頃 から 継 続 して、 毎 日秘 密 基 地 を 掃 除 したり 改 良 を 加 えていったことや、 朝 の 学 習 を 決 めたところまで 必 ず 取 り 組 んでいたことから、 勤 勉 性 の 時 期 でもあると 捉 える。そして、5 日 目 と6 日 目 を 第 三 期 とする。サマー- 37 -


赤 坂 好 美 ・ 石 崎 一 記スクールにも 馴 染 み、 時 折 このみを 振 り 返 りながら、 他 の 子 どもと 協 力 して 行 動 する 姿 がよく 見 られる。 友 達 と 協 力 し 合 いながら 沢 を 登 ったり、バーベキューも 協 力 して 炭 を 運 んでいた。 同 じような顔 ぶれの 友 達 と、 大 人 からの 干 渉 を 受 けずに 行 っていたこれらの 行 動 をギャングエイジの 時 期 と 捉える。このように 見 てみると、 本 児 のサマースクールでの6 日 間 は、あたかもエリクソンの 発 達 段 階 をなぞるように 過 ごしていたことが 分 かる。サマースクールへ 来 た 直 後 は、バディであったこのみから 離 れて 他 児 と 関 わることがなく、 幼 い 子 どものようにも 捉 えられた 本 児 であったが、 次 第 にコントロールをテーマに、 次 はリーダーシップをテーマにと 取 り 組 んでいき、まるで 人 生 の 中 で 取 り 組んでいくような 課 題 にもう 一 度 取 り 組 んでいるようであった。つまり、このサマースクールの 中 で育 て 直 しを 行 っていたと 考 えられる。次 に、 育 ち 直 しへ 至 った 要 因 に 関 して 考 察 する。今 西 (2012)は、 施 設 において 母 親 の 育 ち 直 しに至 った 時 、 施 設 を 温 かな 場 所 として 考 え、 安 心 できる 場 所 と 捉 えており、 職 員 との 信 頼 関 係 が 根 底にあってこそだと 述 べている。S もサマースクールの 環 境 を 温 かな 場 所 と 考 え、また 安 心 できる 場所 と 捉 え、このみを 始 めとしスタッフと 信 頼 関 係を 築 けたため、 育 ち 直 しに 至 ったと 考 えられる。そして、 育 ち 直 しをしたことで、S が 本 来 持 っている 機 能 が 発 揮 されたのだと 考 えられる。 普 段 の日 常 生 活 では、 十 分 に 自 立 性 を 尊 重 されることやS のペースを 最 も 大 事 にされることなどが 足 りていないのかもしれない。 普 段 の 日 常 生 活 でも、 本児 の 自 立 性 を 大 切 にし、 本 児 のペースを 守 るサポートが 必 要 だと 考 えられる。この 短 期 間 での 育 ち 直 しに 関 する 文 献 は 筆 者 が探 した 限 り 見 当 たらなかった。しかし、このような 短 期 間 での 育 て 直 しの 支 援 も 理 論 化 していくことが 可 能 なのではないかと 考 えられる。Ⅳ. 終 わりに今 回 、S のバディとしてサマースクールに 参 加し、S のペースで 流 れている 時 間 や、S の 見 ている 世 界 に 少 しでも 触 れられたり 共 有 できたことが私 の6 日 間 の 宝 物 となった。 今 回 のサマースクールでは、 自 然 の 中 で 秘 密 基 地 に 費 やす 時 間 がとても 長 かった。 秘 密 基 地 の 増 築 や 改 築 をしては、 秘密 基 地 の 中 に 二 人 で 入 り、 外 を 眺 めたり、 寝 転 んで 話 をした。S にとって、 秘 密 基 地 はどのような意 味 をもつものであったのだろうか。 未 だしばらく 問 い 続 けたい。今 回 のサマースクールに 参 加 するにあたって、ご 指 導 してくださった 先 生 、バイザーの 皆 様 、 様 々な 場 面 で 助 けて 下 さったスタッフの 皆 様 、そして6 日 間 一 緒 に 過 ごしてくれた S に 深 く 感 謝 いたします。Ⅴ. 参 考 文 献今 西 良 輔 (2012)「 通 園 施 設 の 療 育 支 援 による 親 の 変化 ― 親 の 育 てなおしの 視 点 から―」『 北 海 道 医 療大 学 看 護 福 祉 学 部 学 会 誌 8, 69-72』- 38 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 援 ,2013,39-50助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その3)事 例 研 究援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その3)A Study on Supportive Summer school XI(3)石 毛 遥( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )石 崎 一 記( 東 京 成 徳 大 学 )Haruka ISHIGE (Graduate School of Psychology Tokyo Seitoku University)Kazuki ISHIZAKI (Tokyo Seitou University)要 約本 稿 では ,2012 年 度 の 援 助 的 サマースクールにおける 参 加 者 37 名 のうち ,3 回 目 の 参 加 となる 中学 1 年 生 の 男 児 H.S について , 担 当 者 とのラポールが 形 成 されていく 様 子 を 考 察 したものである。5つの 体 験 がラポール 形 成 に 大 きく 影 響 したと 考 えられる。キーワード: 自 閉 症 、 援 助 的 サマースクール、ラポール 形 成Ⅰ . はじめに援 助 的 サマースクールは,「 浴 びるほどの 自 然を 体 験 すること」「 異 年 齢 の 集 団 の 中 での 相 互 作用 を 体 験 すること」「 自 立 的 な 生 活 を 体 験 すること」を 基 本 方 針 としている。 今 年 で11 回 を 迎 え,8 月 18 日 から8 月 23 日 (5 泊 6 日 )に 実 施 された。 今年 度 も 昨 年 と 同 様 , 栃 木 県 鹿 沼 市 にて 援 助 的 サマースクールは 行 われた。 参 加 者 は 保 育 園 年 中 から 社 会 人 までの37 名 であった。本 稿 では,H.S について 焦 点 をあて,H.S の 期間 中 の 行 動 の 様 子 を 整 理 し, 子 どもとのラポールが 形 成 されていく 様 子 について 考 察 する。Ⅱ . 事 例 の 概 要1. 本 児 について 名 前 :H.S 性 別 : 男 子 年 齢 ・ 学 年 :12 歳 ・ 中 学 1 年 生 障 害 : 自 閉 症 ( 知 的 な 遅 れを 伴 う) 参 加 回 数 :3 回 目2. 期 間 中 の 行 動以 後 ,H の 発 言 は「」,はるの 発 言 は〈〉,その 他 の 発 言 は()とする。 1 日 目母 親 と 受 付 を 済 ませ,すぐに 会 場 へと 向 かった。はるや 母 親 を 気 にせず,まっすぐ 上 を 見 て階 段 をサッサッと 上 る 姿 から, 援 助 的 サマースクール( 以 下 ,サマスク)を 楽 しみにしていることが 窺 えた。H が 名 札 を 付 けたことをはるが 確 認 しすると,〈 今 度 は 旗 書 くよー〉と H に 伝 え,H と 一緒 に 旗 のもとへ 移 動 した。H ははじめ, 何 も書 かずに 黙 って 旗 をみたり 会 場 を 少 し 見 回 したりと,H は 自 分 が 今 どうすればいいのかよくわからない 様 子 がうかがえた。はるは,たくさんのペンが 入 った 箱 を 手 に 持 ち,H にその 箱の 中 を 見 せながら〈H は 何 色 が 好 き ?〉と 尋 ねると,H はショッキングピンクのペンを 選 び,キャップをはずしたが,しばらく,H はペンを 片 手 に 何 度 も 旗 全 体 を 見 回 すも 何 も 描 く 様 子- 39 -


石 毛 遥 ・ 石 崎一 記がなく,たまに 担 当 者 の 顔 を 確 認 していた。はるは” 何 を 描 ていいのかわからないのかな”と思 い,H に〈H の 好 きなもの, 描 いていいよ。H は 何 が 好 き ?〉と 尋 ねると,H は「 好 きなもの ?」とはるに 尋 ね,はるがうなずくと, 少 し考 えたあと, 魚 3 匹 とマンボウ1 匹 を 描 いた。周 りではゲームをしたり,トトロがお 話 ししたりしている 中 ,H は 静 かに 座 ったまま, 周囲 を 見 たりトトロを 見 たり, 母 親 を 見 たりして過 ごした。バスへ 乗 車 するまで,バスが 停 車 するはずの場 所 で 待 機 しているときには,H は 頭 をかいたり, 顔 をしかめたりしながら,「まだなの~ ?!」とはるに 尋 ね,なかなかバスに 乗 車 できないことにいら 立 ちを 示 し,それを 我 慢 していた。また,たまに 後 ろを 振 り 向 いて 何 かを 気 にしている 様 子 であった。はるには,H が 気 にする” 何 か”が 何 であるのか,この 時 点 ではわからなかったため, 一 緒 に 後 ろを 見 たり,H の 表 情 や 行 動を 観 察 したりしていた。バスが 出 発 するころ,H は 窓 から 外 を 見 て,外 に 手 を 振 りながら「いってくるよー ! いってきまーす !」と 大 きな 声 で 口 にした。 視 線 の 先には H の 母 親 がおり, 先 ほど H が 探 していたのは 母 親 だったのだろうなと,はるは 気 付 いた。休 憩 場 所 に 到 着 するまで,H はずっと, 自分 で 持 ってきたいるかのぬいぐるみと 遊 んでいた。バス 内 でバスレクが 始 まったが,H はバスレクよりもいるちゃん, 妹 ちゃんと 遊 ぶことに夢 中 であった。 時 々, 遊 ぶ 手 を 休 めて,みんなが 何 をしているのか, 周 囲 を 見 回 して 気 に 掛 ける 様 子 が 見 られたが,その 都 度 ,はるは〈 今 ね,これこれしてるんだよ〉と 伝 えた。すると,Hはまたいるちゃん, 妹 ちゃんと 遊 び 始 めた。バスレクで, 色 紙 にサマスクの 目 標 ややりたいことを 記 入 する 時 間 があった。その 際 ,Hは 色 紙 に 興 味 を 示 さず,しばらくの 間 窓 の 外 を眺 めていた。はるも H と 一 緒 に 窓 の 外 を 眺 めていると,はるには 川 の 上 を 飛 ぶ 鳥 が 見 えたので,H に〈あ ! 鳥 だね ! 白 い 鳥 !〉と 伝 えると,H は「どこ ?!」と 興 味 を 示 し, 探 したため,〈あそこだよ〉と 指 をさして 教 えた。すると H は,「 本 当 だ~ !」と 柔 らかい 笑 顔 を 浮 かべ, 鳥 を 見ていた。また, 不 思 議 そうにある 一 点 を 見 つめていたため,はるが〈サッカーしてるね。〉と 伝 えると,H は「サッカー ?」とはるに 尋 ね,はるが〈うん,サッカー〉と 伝 えると, 納 得 したのか, 窓の 外 からバス 内 に 視 線 をうつし, 体 制 も 窓 向 きではなく,バスの 進 行 方 向 へ 体 を 向 け, 椅 子 に座 りなおした。その 後 ,いままで 遊 んでいたぬいぐるみに 興味 を 示 すこともなく, 無 表 情 に 周 囲 を 見 回 している 様 子 から,はるは H が 手 持 無 沙 汰 になったのかなと 思 いながら, 先 ほどは H が 興 味 を示 さなかった 色 紙 を,H に〈H, 目 標 書 くんだって〉と 伝 えると,H は「 目 標 ?」と 言 いながら色 紙 に 興 味 を 示 した。そのため,はるはペンの箱 をこのみから 受 け 取 り,H にその 箱 の 中 身を 見 せ,ペンを 選 んでもらった。H ははるの顔 を 見 ながら「 何 かくの~ ?!」と 尋 ねた。そのため,〈H はサマスクで 何 したい ? 何 楽 しみ ?〉と H に 尋 ねると,「 川 遊 び !」と 大 きな 声 で 話した。それを 聞 いたはるは, 色 紙 を 指 さしながら〈じゃあここに, 川 遊 び 書 こう〉と H にいうと,H は「ここ ?」と 色 紙 を 見 ながらはるの顔 を 見 た。はるは H に 改 めて〈ここ。〉と 伝 えると,H は 色 紙 に” 川 遊 びがしたいです。”と書 き,これでいいかと 確 認 するようにはるの 顔を 覗 き 込 んだ。バスレクのクイズではると H が 一 緒 に 考 えて 正 解 し,もらった 飴 を H がはるから 受 け 取ると,”いいの ?”と 尋 ねるようにはるの 顔 色を 窺 っていたため,〈いいよ〉と 笑 顔 で 伝 えた。すると H は「いいの ?」と 尋 ね 返 したため,〈う- 40 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その3)ん〉と 伝 えると,H は 嬉 しそうな 表 情 を 浮 かべ,飴 を 食 べた。施 設 に 到 着 し,オリエンテーションが 終 わったあとの 外 遊 びの 時 間 に H は 室 内 を 少 し 歩 いたあと, 山 積 みになっているシュラフを 見 つけ,シュラフをいじり 始 めた。はじめ,はるにはH が 何 をしているのかわからなかったが,シュラフのチャックを 手 に,ずっと 同 じ 部 分 を 持 って 同 じことを 繰 り 返 している 様 子 から,”チャックをつなげたいのかな ?”と 思 い,H に〈こっちじゃなくて,こっちみたいだねー〉と 声 をかけると,H はチャックをつなげ,シュラフに 入 った。シュラフの 中 に 入 ったあと,H はミノムシのようになりながら, 両 腕 を 伸 ばし 気 持 ちよさそうに 床 の 上 をごろごろとずっところがっていた。はるは,H が 今 どんな 感 覚 を 味 わっているのか 気 になり,シュラフには 入 らなかったが,H と 一 緒 に 床 の 上 をごろごろとした。すると,床 はひんやりと 冷 たく, 気 持 ちの 良 い 感 覚 であった。H は, 時 折 一 緒 にごろごろするはるの 腕 をつかみ,はるの 肘 を 自 分 の 口 もとへ 持 っていき,舐 めたり, 吸 ったりを 繰 り 返 していた。花 火 の 時 間 になり,みんなで 外 に 出 て 移 動 をし 始 めると, 移 動 中 に 雷 が 鳴 り 響 いた。H は雷 の 音 を 聞 き, 耳 をふさいでは「 鬼 のせいかな ?」と 何 度 もつぶやいた。はるはその 都 度 ,〈 鬼のせいかなあ ? 怖 いね〉と 声 をかけた。 時 折 ,一 層 大 きな 雷 が 鳴 ると,H は 叫 び 声 のような大 きな 声 を 上 げ,はるは〈 怖 いね〉といいながら,H の 隣 にいた。雷 がひどいので 花 火 は 中 止 になり, 大 部 屋 に戻 ると,そこでは 宝 箱 を 作 ることになった。Hは 宝 箱 を 選 び 出 し, 組 み 立 てた。その 後 ,みんなが 宝 箱 に 装 飾 をする 姿 を 見 ながら, 自 分 が 何をしたらいいのかわからないようで, 周 りをきょろきょろと 見 回 していた。はるは H の 宝箱 を 指 さしながら,〈H,ここに 絵 をかいてもいいんだよ。〉と 声 をかけた。H がはるに「どこ ?」と 尋 ね 返 してきたため,はるはもう 一 度同 じことを 繰 り 返 し 伝 えたあと,〈ペンは( 指さしながら)あそこにあるね。 取 りに 行 こうか〉と 声 をかけた。H はピンク 色 のペンを 手 に, 宝 箱 のもとへと 戻 って,ペンを 片 手 に 動 きを 止 めたまま,はるの 顔 をじっと 見 つめた。はるは,” 何 を 描 いていいのかわからないのかな ?”と 思 いながら,〈H の 好 きなものを 描 いていいんだよ〉と声 をかけた。すると,H は 次 々に 絵 を 描 き 始 め,最 終 的 にマンボウ,たこ,かめ,イカ,カモメ,くじら, 貝 ,ヒトデ,イルカ,ペンギンなど,海 に 住 む 生 き 物 たちをたくさん 書 いた。就 寝 時 には, 眠 りたい 場 所 ( 二 段 ベッドの 上 段 )をさっと 選 び,すぐに 横 になり 眠 ろうとしたが,同 室 の R の 独 り 言 や 歌 が 気 になり,「うるさいなあ。」と 何 度 もつぶやいたり,「なんであの 子は 歌 ってるの ?」とはるに 尋 ねたりした。 時 々,我 慢 の 限 界 がきたのか, 身 を 乗 り 出 し M を 指さしながら「 静 かにしろ !」と 怒 ったように 大声 を 上 げたり,ベッドから 起 き 上 がり,M を見 ながらはしごのもとへいき,R のベッドに 向かおうとする 様 子 も 見 られた。H が 静 かに 布 団 に 入 っているとき,はるは床 に 座 って H を 見 ており,H が R に 対 して「うるさい !」と 怒 鳴 ったり, 身 を 乗 り 出 したときには,はるは 立 ち 上 がって H のベッドの 近 くへ 行 き,〈うるさくてごめんね。R はなかなか眠 れないみたい。〉と 話 しかける,ということを 繰 り 返 していた。しばらくこれを 繰 り 返 すと,H ははるに 向かって「なんでお 前 が 謝 るんだ !」と 同 室 のお友 達 ではなく,はるの 口 から 出 る 謝 罪 の 言 葉 に違 和 感 を 感 じ, 怒 った。はるは,〈そうだよね,はるが 謝 るのは 変 だね。〉と 伝 えた。それを 見ていた 同 室 のお 友 達 のバディが(H,うるさく- 41 -


石 毛 遥 ・ 石 崎一 記てごめんね)と 伝 えると,H は 少 しの 間 お 友達 を 見 つめたあと, 横 になった。それ 以 降 ,H はお 友 達 に 怒 鳴 る 前 にはるを見 て, 怒 鳴 らずに H が 持 ってきたぬいぐるみと 遊 んだり,ぎゅっと 抱 きしめて 目 をつむり,眠 ろうとするようになった。これ 以 降 ,H は「うるさいなあ」とつぶやいたり「H, 歌 嫌 い !」と 声 を 出 すことはあるが, 怒 鳴 ったり,ベッドから 身 を 乗 り 出 すということがなくなり, 代 わりに,はるが 部 屋 にいるかどうかを 確 認 するようにちらちらとはるを 見 たり,はるが 見 えないときには 上 体 起 こしてきょろきょろとし,はるを 探 すような 様 子 が 見 られた。はるは,H が 落 ち 着 いてきた 様 子 と,はるを 探 して 見 つけると 静 かに 眠 ろうとする 姿 をみて,”H は 眠 るまではるに 近 くにいてほしいのかな ?”と 思 い, 立 ち 上 がったまま〈H,おやすみ。〉と 伝 えたあと,H が 眠 るベッドの 柵をつかんで,ほほえみながら H のそばにいた。すると H ははるの 手 を 握 ろうと,はるの 柵 をつかむ 手 を 握 ったため,はるは 柵 から 手 を 放 し,H の 手 を 握 った。H はほっとしたのか, 笑 顔になりながら 抱 きしめていたぬいぐるみを 抱 きしめ 直 し, 目 をつむって 眠 った。 2 日 目ラジオ 体 操 には,H は” 見 学 ”という 形 で参 加 し, 散 歩 には 参 加 せず, 室 内 の 広 場 で 気 に入 ったシュラフにくるまりながら,ごろごろしたり,はるの 肘 を 触 ったりなめたりしながら 時間 を 過 ごした。朝 食 後 は, 再 び 室 内 の 広 場 へ 移 動 したが,Hはシュラフにくるまるのではなく, 全 体 が 外 遊びをしている 姿 を 窓 からじっと 見 ていた。はるも H と 一 緒 に 窓 の 外 の 様 子 を 見 ており,トンボを 捕 まえて 遊 んでいる 子 を 見 つけ,〈H,トンボ, 飛 んでるねー〉と 言 った。H は「どこ ?」とはるに 尋 ねたため,はるが〈いっぱい 飛 んでるよ。H も 捕 まえる ?〉というと,H は 移 動 し始 めた。外 では, 虫 取 り 網 を 手 にし,「えーい !」と 大きな 声 を 出 しながら 駆 け 回 り,はると 一 緒 にとんぼを3 匹 捕 まえた。しかし, 虫 かごを 持 っていなかったため,〈とんぼ 逃 がす ?〉と 声 をかけるが,H は 動 こうとしなかったため,〈じゃあ,お 友 達 の 虫 かごに 入 れてもらおうか。〉と 声 をかけると,H はキョロキョロとし 始 めた。近 くにいた T が 虫 かごを 持 っていることに気 づいたはるは,H に〈あ,T が 虫 かご 持 ってるね。お 願 いしてみようか。〉と 声 をかけたあと,H は T に 視 線 が 止 まったため,はるはT を 呼 び 止 めた。はるが H に〈 一 緒 に 入 れてっていったら,きっと 入 れてくれるよ〉と 声 をかけると,H は T に「 一 緒 に 入 れて」と 伝 えた。T はややキョトンとした 表 情 をしていたため,はるが 補 足 を 伝 えると,(いいよ)と H が 捕 まえたとんぼを 虫 かごに 入 れてくれた。H はとんぼを 捕 まえて 満 足 したのか, 虫 あみを 置 いて 広 場 の 林 へと 移 動 した。 林 ではみつけた3 段 ハンモックへ,すっと 移 動 し, 一 番 上のハンモックに 乗 ろうとした。そこで K がはるに(それ, 俺 が 作 ったんだけど・・・)と,やや 暗 い 声 で 話 しかけてきたため,はるは Kに〈そっか,これ,K が 作 ったんだね ! すごいね ! ごめんね, 勝 手 に 使 って。〉と 声 をかけたあと,H に〈H,これお 友 達 のハンモックなんだって。〉と 伝 えた。H は 動 きを 止 めたがそのまま 微 動 だにせず,ハンモックを 見 つめていたため,はるが H に〈H,お 友 達 に, 乗 らせてって 言 うんだよ。〉と 伝 えた。H が「 乗 らせて。」と K に 伝 えると,K は( 別 にいいけど。これ,俺 が 作 ったんだ ! じゃあ 俺 は2 段 目 に 乗 るよ !)と H に 伝 え,2 段 目 に 乗 った。やや 高 い 位 置( 脚 立 の 一 番 上 )にいた H には,その 声 がうまく 聞 こえなかったのか, 全 く 動 かない H を 見たはるは,〈お 友 達 が, 使 っていいよって。〉とH に 伝 えた。それを 聞 いた H は 我 慢 の 限 界 だ- 42 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その3)とでも 言 うように, 何 も 言 わず, 夢 中 になってハンモックに 乗 った。はるは H の 代 わりに,K に〈ありがとう〉と 伝 えた。川 遊 びでは,H がサマスクの 目 標 に「 川 で遊 びたい」と 書 いていたこと, 川 へ 移 動 中 に,川 が 見 えた 瞬 間 に 笑 顔 で 走 り 出 し, 止 まらなくなってしまったことから,H は 我 慢 できないほど 川 遊 びを 楽 しみにしていたことが 伺 える。川 についてからは,はるが H と 一 緒 に 川 に入 ろうとすると,H がはるに「どうして 入 るの ?!H は1 人 で 遊 びたいのにい !」と,1 人 で 遊びたいことを 訴 えた。はるは〈そっかそっか,H は1 人 で 遊 びたいんだね。ごめんね。じゃあはるはあそこ( 川 岸 を 指 差 し)にいるね。〉と伝 え, 川 岸 へ 移 動 したあとは H をみていた。H はうつぶせに 浮 かび, 上 流 から 下 流 に 流れたり, 流 れている 途 中 で 顔 を 水 につけたまま立 ち 止 まり, 魚 を 見 つけては「 魚 がいた !」とはるを 目 で 探 し,はる 見 つけるとはるに 教 えたりと, 思 い 切 り 川 遊 びを 楽 しんでいた。H が 魚 を 見 つけたときに,はるが〈 本 当 ?!どこどこ ?!〉と 魚 を 見 に 行 こうとすると,Hは「ちょっとまって !」といい 再 び 水 面 に 顔 をつけ, 右 を 向 いたり 左 をむいたりしていた。しばらくして H が 水 面 から 顔 をあげると H ははるに「いなくなっちゃった・・・。」と 残 念 そうに 言 った。昼 食 のピザでは,はるの 指 にピザソースがついていることに 気 づいた H は,はるの 指 を舐 めた。はるは,H の 行 動 に 驚 いたため,〈H,どうしたの ?〉と 尋 ねると,H は「 汚 れてたから, 綺 麗 にした。」と 教 えてくれた。就 寝 時 間 になると,1 日 目 と 同 様 に, 同 室 のお 友 達 の 独 り 言 や 歌 声 でなかなか 寝 付 けず,Hは「 静 かにしろー !」と 大 声 で 叫 んだり, 起 き上 がって 独 り 言 を 言 うお 友 達 のもとへと 行 こうとした。また,そのお 友 達 が 電 気 をつけたり 消したりし,また 寝 付 けなくなるということがあり,H は 電 気 の 紐 を 電 球 の 裏 に 隠 したり,お友 達 の 手 が 紐 に 届 かないよう 工 夫 したりしていた。はるは,H がどうしたら 安 心 して 眠 れるか考 えた 結 果 , 前 日 の 最 後 に H がはるの 手 を 握ろうとしたことを 思 い 出 し,H と 手 を 握 ることにした。すると,H は 静 かに 目 をつむり, 持 ってきたぬいぐるみを 抱 っこして 寝 ようとし 始 めた。また,お 友 達 の 独 り 言 や 歌 声 が 聞 こえてきても, 目 を 少 しだけ 開 け,はるの 目 を 見 てニコッとしたあと, 再 び 目 を 瞑 り,そのまま 眠 った。 3 日 目散 歩 の 時 間 ,しばらくシュラフで 遊 んだあと,床 にコロンと 仰 向 けに 転 がり,しばらく 動 かずに 床 の 冷 たさを 心 地 よく 感 じているようだった。はるも 一 緒 に 横 になっていたが, 近 くにあったビニール 袋 を 見 つけ, 空 気 を 入 れ 始 めた。Hはそれに 気 づき,「 何 ?」と 聞 いてきた。はるは〈 何 作 ってるんだろうねー〉と 言 いながら,袋 に 空 気 をいれ 続 けた。途 中 で H は「 風 船 ?!」と 目 を 輝 かせて 訪 ねてきたため,〈ピンポーン ! よくわかったね !H,行 くよ ?〉と 言 い,ビニール 袋 の 風 船 で 一 緒 に遊 んだ。しばらく 遊 んでいると, 外 で 遊 んでいた Kが 室 内 に 入 ってきて,H に 少 し 乱 暴 に 接 触 した。それを 嫌 がった H は,「やめて !」といいながら,外 に 出 た。外 遊 びをするときには, 日 射 病 や 熱 中 症 にならないよう, 帽 子 を 必 ずかぶることになっており, 今 まで H は 自 分 で 持 ってきた 帽 子 をかぶっていたが,このときは 自 分 の 帽 子 をかぶることを 嫌 がった。 代 わりに,H にはるが 持 ってきた 予 備 の 帽 子 を 手 渡 し,〈H,これかぶる ?〉と 聞 くと,H は 黙 ってその 帽 子 をかぶった。これ 以 降 , 最 終 日 のバスに 乗 るまではずっとはるが 持 ってきた 帽 子 をかぶった。外 では, 前 日 に 見 つけたハンモックのもと- 43 -


石 毛 遥 ・ 石 崎一 記へ 行 き,お 友 達 2 人 と 一 緒 にハンモックにのった。H は 一 番 上 の 段 に 乗 らせてもらい,その 後 ,先 ほど 室 内 で 出 会 ったお 友 達 が 一 番 上 に 乗 りたいと 聞 き,H は「いいよ」と 交 代 してあげた。交 代 してからは, 朝 食 の 時 間 まで 別 のハンモックに 乗 って 過 ごした。なかなか 終 着 点 が 見 えず,H はすっかり 疲れた 様 子 で 歩 く 速 度 もなおゆっくりになってきたため,はるは 休 憩 がてらにと, 道 の 途 中 で 見つけた 田 んぼに 生 えているまだ 緑 色 の 稲 を1 本取 り,H に 見 せながら〈これ, 大 きくなったら H が 大 好 きなお 米 になるんだよ。〉と 言 うと,H は 目 を 輝 かせ,「ほんと ?!」と 言 った。〈ほんと !〉といって,H に 稲 を 手 渡 すと H は「 食べていい ?!」と 興 奮 気 味 に 訪 ねてきた。はるが,〈これ, 食 べたいね。でも,まだ 食 べられないんだよ。もっと 大 きくなったら 食 べられるよ。〉というと,H は 不 思 議 そうに 稲 を 見 つめた。休 耕 田 についてからは, 躊 躇 うことなく 泥 の中 へ 入 って 行 き, 足 で 泥 の 感 触 を 楽 しんだ。しばらく 足 で 泥 の 感 触 を 楽 しんだころ,はるがH の 腕 に 泥 をゆっくりとつけた。H は 少 し 驚いて「 何 するの !」とはるに 言 ったが,〈H もはるにつけていいよ。〉と 言 って 腕 を 差 し 出 し,はるが 自 分 の 腕 に 泥 をつけると,H も 恐 る 恐るはるの 腕 に 泥 をつけた。それからは, 泥 を 投げたり, 友 達 に 泥 をつけたりつけられたり,また, 川 遊 びの 時 のようにうつ 伏 せになって 泥 水に 浸 かったり, 座 って 自 分 に 泥 をつけては 落 としたりと, 思 い 切 り 楽 しんだ。マスつかみの 時 間 では, 川 の 水 で 体 についた泥 を 落 とし,スタッフの 体 についた 泥 も 手 でとってあげたあと, 川 に 入 りマスを 探 した。 岩の 影 に 手 を 入 れたり, 上 流 に 行 ったり 下 流 にいったりして, 真 剣 にマスを 探 し,3 匹 捕 まえた。マスの 肝 を 抜 く 作 業 では,マスから 手 をパッと離 して 嫌 な 顔 をして 落 とし,そのまま 別 の 場 所へ 走 って 行 ってしまった。H は 海 の 生 物 や 川の 生 物 が 大 好 きなため,” 痛 々しく 思 ったのかな ?”とはるは 思 った。施 設 への 帰 り 道 は, 体 力 がない 子 が 車 に 乗 って 施 設 まで 移 動 するということになり,H は行 きの 様 子 から, 車 で 施 設 まで 移 動 することとなった。その 際 ,はるが H の 隣 に 座 ると,Hは「なんでここに 座 るの !」と, 怒 ったようにはるに 訴 えた。〈H の 隣 に 座 りたいからだよ。〉と 伝 えたが,H は 大 声 で「H は1 人 で 座 りたいのにい !」と 言 った。 座 席 数 が 限 られており,車 の 出 発 してしまったため 座 席 の 移 動 はできず,はるの〈H は1 人 でここに 座 りたいんだよね。ごめんね。でも,はるの 席 はもうここしかないんだ。H の 隣 がいいんだよ。〉と,H の「Hは1 人 で 座 りたいのにい !」というやり 取 りが何 度 も 続 いたあと,H はハッっとした 表 情 を浮 かべたあと,H は 大 きな 声 で「もしかして,はるちゃんは H のことが 好 きなの ?!」とはるに 訪 ねてきた。〈そうだよ,はるちゃんは,Hのことが 好 きなんだよ。だから, 隣 に 座 りたいんだよ。〉と 言 った。すると H はもう 一 度 同 じことをはるに 訪 ね,〈そうだよ。はるちゃんはH のことが 好 きなんだよ。〉と 伝 えた。H は 最後 に「もしかして,もしかして,はるちゃんはH のことが, 大 好 きなの ?!」と 大 きな 声 で 訪 ね,〈そうだよ。はるちゃんは,H のことが 大 好 きなんだよ。〉と 伝 えると,H は 今 まで 見 たことがない 笑 顔 で 優 しく 微 笑 んだあと, 静 かにずっと, 窓 の 外 を 見 ていた。H は 火 起 こし 大 会 でもカレーコンテストでも,ひたすら 薪 を 割 り,みんなから「 薪 割 り 職人 」と 呼 ばれ,お 友 達 から(H,これもお 願 い !)と 言 われると,「 任 せて !」と 返 し,とても 誇 らしげだった。日 記 を 書 いたあと,いつものようにシュラフに 包 まっていたが,トトロを 見 つけてからは,トトロの 前 でお 昼 に 見 たトトロのお 地 蔵 様 の 真似 をし,トトロと 一 緒 に 遊 んだ。その 後 手 持 ち- 44 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その3)無 沙 汰 になった H は, 同 じところを 行 ったり来 たりし,また, 周 りの 様 子 をみたりしていたため,それを 見 たはるは,”H は, 何 かしたいけど,したいことが 見 つからないのかな ?”と思 い, 初 日 に 作 った 宝 箱 の 余 りのキットを 見 つけ,H に〈H, 宝 箱 作 る ?〉と 聞 いた。H は 指が 指 された 方 向 を 見 てからはるのことを 見 て,「どこ ?」と 言 ったため,はるは H が 宝 箱 を 作る 気 持 ちなのかなと 思 い,〈これだよ。いろいろあるけど,H はどれがいい ?〉と,キットを何 種 類 か 取 り 出 した。そこから H は, 初 日 に作 ったものと 同 じものを 選 び, 絵 を 描 いて 宝 箱を 作 った。就 寝 時 は, 同 室 のお 友 達 の 独 り 言 が 気 になり,「うるさいなあ」と 独 り 言 のようにつぶやきながら,はるの 手 を 探 して 握 った。はるが「はるちゃんは,H が 眠 るまでここにいるから, 大丈 夫 だよ」と 声 をかけたると,H はぬいぐるみを 抱 き 直 し 目 をつむった。 疲 れていたのか,この 日 はすぐに 静 かに 寝 息 を 立 て 始 めた。 4 日 目自 由 時 間 には,ベッドでごろごろしたり, 持 ってきたぬいぐるみで 遊 んだりして 過 ごした。また,はるが 座 ったままうたた 寝 しているところを 見 つけ,こっそりと 室 内 広 場 へ 行 き, 自 分 の宝 箱 を 持 っていたあと, 施 設 内 の 人 形 を 集 め,その 人 形 もはるの 目 の 前 に 並 べていった。はるがハッっとして H を 見 ると,H は”あ ! 見 つかっちゃった !”というような 表 情 をして, 大 笑 いしながら 走 って 逃 げた。H が 後 ろを 振 り 返 りながら 走 っていったことで,はるは H ははるに 追 いかけられたいように 感 じられた。そのため,はるは〈 待 て~ !〉と 言 い,H を 追 った。その 後 ,H は 自 室 に 戻 りベッドの 上 で 人 形と 遊 び 始 めた。すると,K が H のベッドの 上に 遊 びにきた。K と 一 緒 にぬいぐるみで 遊 んだり,くすぐり 合 ったりして 遊 んだ。タライそうめんでは, 昨 日 と 同 様 に 薪 割 りをずっとしていた。R に( 僕 にもやらせて)と 言われ, 交 代 してあげたが,R は 薪 割 りがうまくできず,(H,すごいね !)と 言 われつつ, 黙 々と 薪 割 りをしていた。薪 割 りの 場 所 が 火 に 近 いことと,H があまり 水 分 補 給 をせずにひたすら 薪 割 りをしている姿 をはるが 見 て,〈H,お 水 飲 もう。〉と 言 うが,H は 夢 中 になっているためか, 薪 割 りから 動こうとしなかった。そこで,〈 薪 割 り 職 人 の Hさん,そろそろ 休 憩 しますか ?!〉と 声 をかけると,「 職 人 はなかなかしんどいわい。」と 言 いつつ 水 分 補 給 の 休 憩 をした。 休 憩 後 も,ずっと 薪を 割 っていた。そうめんを 食 べたあと,H は 自 分 の 部 屋 に移 動 し,ベッドの 上 でぬいぐるみを 使 って 遊 んでいた。すると K が「 誰 か ! 助 けて !」と 笑 いながら 走 って 部 屋 に 逃 げ 込 んできた。お 友 達 がドアを 抑 えて 一 生 懸 命 ドアの 鍵 を 締 めようとしている 姿 と, 鍵 がなかなか 締 まらない 様 子 をみて,「 僕 に 任 せて !」と 言 い, 鍵 をしめてあげた。また,H は 機 転 をきかせ, 窓 の 鍵 をすぐにしめ,ちょうどしめきったところで K を 追 いかけていた Y がやってきた。H はそこで, 追 っ 手 に向 かいながら 笑 顔 で 口 から 舌 をだし,「ベロベロベー !」と 言 った。その 後 , 追 われていたお友 達 とハイタッチし, 大 爆 笑 した。K が Y から 逃 げ 切 り, 部 屋 に 戻 ってくると(H, 一 緒 に 遊 ぼう !)と 言 って,H がぬいぐるみで 遊 んでいるベッドの 上 へと 上 がり,H と一 緒 にぬいぐるみで 遊 び 始 めた。すると 今 度 はS も 遊 びにきて,くすぐりあいが 始 まった。さらに,ケントも 加 わり,H はみんなで 大 はしゃぎして 楽 しんだ。みんなで 思 い 切 り 遊 んでお 友 達 が 別 の 場 所 へ行 ってしまってから,H は 布 団 に 横 になって目 をつむり,「お 昼 寝 する。」と 言 った。はるは〈お 昼 寝 するの ? じゃあ,H が 起 きるときにはるちゃんお 部 屋 にくるね。〉と 伝 え,しばらく- 45 -


石 毛 遥 ・ 石 崎一 記H の 様 子 を 見 たあと, 部 屋 から 出 た。夕 食 後 ,はるは 自 室 で 休 憩 することになり,H に〈はるちゃん,ちょっとお 部 屋 でお 休 みしてくるね。H が 寝 る 時 に,H のところにまた 来 るね。〉と 伝 え, 自 室 へと 戻 った。自 室 で 休 んでいたはるは,H の 就 寝 時 間 が20 分 ほど 過 ぎたころに H の 部 屋 へと 向 かった。H の 部 屋 のドアを 開 けるやいなや,H は「あ !はるちゃんが, 助 けに 来 てくれた ! 女 の 子 のはるちゃんが, 助 けに 来 てくれた !」と 笑 顔 ではるを 見 て 声 をあげた。どうやら, 同 室 のお 友 達の 独 り 言 で 寝 付 けなかったようで,そのお 友 達の 方 を 向 いてベッドに 座 っていた。H の 言 葉 を 受 けて,H に〈H,はるちゃん,来 るのが 遅 くなっちゃってごめんね。ちゃんと来 たよ。〉と 声 をかけた。すると H は 優 しい 微笑 みを 浮 かべながら 横 になり,はるを 見 つめながらはるの 方 へと 腕 を 伸 ばした。はるは”Hはずっと 待 っててくれたんだな。”と 思 いながら,H と 手 を 繋 ぎ,「それじゃあ H,おやすみ。」と 声 をかけた。H は「おやすみ。」といい,ぬいぐるみを 抱 きしめた。H が 眠 りかけたころ,はるは H から 手 を 離し, 床 に 座 って H が 眠 るまで 少 し 待 っていた。するとその 時 ,はるは H の 下 の 段 にいるお 友達 が 同 室 のお 友 達 の 独 り 言 で 寝 付 けず,イライラして 足 を 壁 にぶつけたり, 頭 をベッドの 転 落防 止 柵 にぶつけたりしている 様 子 や, 布 団 を 頭からかぶり 肩 を 震 わせている 姿 を 目 にしため,しばらくそのお 友 達 の 体 を 布 団 の 上 から 手 で 優しくなでることにした。ベッドの 下 のお 友 達 の 激 しい 動 きでベッドが揺 れ,それにより 起 きた H が,ベッドの 上 から 下 を 覗 き 込 んできた。はるが H に 向 けて「はるちゃん,ここにいるよー。」と 言 うと,H は横 になってベッドの 柵 の 隙 間 から 腕 を 出 し,ぶらぶらとさせたあと, 体 を 起 こして 再 びはるを見 た。はるは”H は 手 を 繋 いで 欲 しいんだな。”と 気 づき,H のベッドへと 手 を 伸 ばし,H と手 を 繋 いだ。すると H は 満 足 したようにぬいぐるみを 抱 き 直 し, 一 瞬 微 笑 んだあとに 目 をつむった。 5 日 目チャレンジハイクで 山 に 入 るとそこは 階 段 続きの 道 で, 頂 上 に 向 かってひたすら 階 段 を 登 るようになっていた。 階 段 の 途 中 には 少 し 広 めの踊 り 場 があった。H は 始 め,ぐんぐんと 階 段を 登 っていったが, 水 分 も 取 らずに 登 り 続 けていたため, 途 中 で〈H, 暑 いね。タオルで 汗 ふいて,お 茶 飲 もう !〉と H に 声 をかけた。すると H は 立 ち 止 まり,はるが 木 陰 に 誘 導 したのちに,はるが 持 っていたお 茶 を 飲 んだ。H は自 分 が 持 っていたタオルは 使 わず,はるが 持 ってきたタオルで 汗 を 拭 き 取 り,それ 以 降 はずっと,はるのタオルを 首 にかけ, 汗 が 流 れるとそのタオルで 自 分 の 汗 を 拭 いていた。頂 上 につくと,R が, 写 真 撮 影 をするために ずっと H を 待 っていてくれた。R は H に( 遅 いんだよ ! もっと 早 く 登 って 来 いよ ! 俺 たちずっと 待 ってたんだぞ !)と H に 言 った。すると H は R の 帽 子 のつばを 軽 く,パシッっと叩 いた。それを 受 けた R は, 拳 を 握 って H の顔 を 殴 った。H はもう 一 度 R の 帽 子 をパシッっと 叩 いた。そこで,はるは 叩 くことはサマスクのお 約 束 ( 相 手 を 傷 つけない)に 反 すると 思 ったことと,H の 視 点 が R に 向 いたままなことをみて,2 人 にむけて〈 叩 くのは 痛 いからやめようね。〉と 声 をかけた。H の 無 言 だけれども相 手 から 視 線 を 外 さない 様 子 から,はるは”Hは 言 いたいことがあるけど, 言 葉 にできないのかな ?”と 思 い,R に〈H は, 今 いっぱい 休 憩しながら, 一 生 懸 命 登 ってきたんだ。R はずっと H のことを 待 っててくれたんだよね。ありがとう。 待 ってたのに 叩 かれちゃって 腹 立 つよね。ごめんね。〉と 声 をかけた。それを 聞 いたR は 拳 を 握 ったまま 何 も 言 わず, 何 かをこら- 46 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その3)えるような 表 情 をしながら H を 見 つめていた。その 後 すぐにはるは H に〈H, 今 の 痛 かったね。R は H のことずっと 待 っててくれたんだって。H も 一 生 懸 命 登 ってきたんだもんね。 頑 張 って 登 ったんだよね。〉と 声 をかけた。R は( 次はちゃんと 着 いてこいよ。)と 言 って 去 っていった。別 れの 集 いの 時 間 になり, 点 火 された 火 をしばらく 火 を 見 つめていると, 近 くに 座 っていたお 友 達 が 数 人 でお 喋 りを 始 め,クスクスと 笑 い始 めた。そのお 友 達 はこのサマスクでとても 仲良 くなったお 友 達 だったためか,H は 一 緒 にお 喋 りをせずとも, 一 緒 にクスクスと 笑 っていた。別 れの 集 いで,コメントを 言 う 順 番 が 回 ってくるころ,はるは H に「サマスクの 感 想 をみんな 言 ってるよ。H も 言 える ?」と 声 をかけながら 順 番 を 待 った。H は,はるが 感 想 を 言 ったあとに, 自 分 で「 川 遊 びが 楽 しかった。」と 言 った。 6 日 目サンドイッチ 作 りでは,ホイップクリームをたくさんのせ,パンとパンの 間 にはハムとレタスをはさんで 大 きな 口 で 美 味 しそうに 頬 張 った。集 合 写 真 を 撮 影 後 ,すぐにバスへ 移 動 したが,既 にバスのドア 付 近 で 並 んで 乗 車 を 待 っているお 友 達 がいたため,H ははると 一 緒 に 並 んで待 った。バスに 乗 ってからは,5 日 間 の 疲 れが 出 たようで,ずっと 眠 り, 閉 会 式 の 会 場 に 到 着 するころに 目 覚 め, 今 までかぶっていたはるの 帽 子 をはるに 返 し, 自 分 の 帽 子 を 身 につけた。会 場 では,H が H の 母 親 を 見 つけるも,すっと 自 分 のグループの 場 所 へと 移 動 し, 席 につき,静 かに 閉 会 式 を 過 ごした。Ⅲ . 考 察飯 田 ・ 石 﨑 (2012)は, 小 川 (1999)・ 佐 伯 (2004)を 引 用 しながら,ラポールの 形 成 には,1この 人は 危 険 でないと 感 じられる 体 験 ,2この 人 は 自 分を 大 切 にしてくれると 感 じる 体 験 ,3この 人 は 自分 のことをわかってくれる,わかろうとしてくれると 感 じられる 体 験 ,4この 人 の 言 うことにしたがっておおむね 間 違 いはないと 感 じられる 体 験 ,5この 人 と 共 同 作 業 することで 自 分 の 問 題 が 解 決できると 感 じられる 体 験 の5つが 関 与 しているとしている。本 研 究 では,この5つの 観 点 をもとに,はるの視 点 から,はると H との 関 係 の 変 容 を 振 り 返 る。1.この 人 は 危 険 でないと 感 じられる 体 験H にとって,「この 人 は 危 険 でないと 感 じられる 体 験 」として, 次 のことが 挙 げられる。1 日 目 において,はると H は, 今 年 度 のサマスクにおいて, 開 会 式 の 際 に 初 めて 関 わりを 持 った。 開 会 式 からバス 内 では,H からはるに 向 けた 直 接 的 な 関 わりはあまり 見 られず,むしろはるから H に 向 けた 関 わりが 多 く 見 られた。 代 わりに,バスに 乗 る 前 やバスに 乗 り 始 めたころは,Hが 母 親 を 探 す 様 子 や,ぬいぐるみと 遊 びながらバスの 外 を 眺 めるという 様 子 がみられ,H にとってのはるは「ただ 隣 に 居 る 人 」あるいは「サマスクでの 案 内 人 」のような 存 在 に 感 じられているように 思 われた。バス 内 後 半 では,H がバスレクに 参 加 しようとするもうまく 参 加 できず,はるが H と 一 緒 にクイズの 回 答 を 考 え, 答 えることで 飴 をもらい,その 飴 を H に 渡 すというやりとりがあった。Hはこの 時 , 本 当 にいいの ? と 尋 ねるようにしたあとにはるから 飴 を 受 け 取 った。これ 以 降 ,H とはるのやりとりが 少 しずつ 増 えていく。施 設 に 到 着 し,オリエンテーションを 受 けている 際 ,H は 横 になりながらはるの 肘 を 舐 めたり吸 ったりして 過 ごした。この 時 , 初 めて H から- 47 -


石 毛 遥 ・ 石 崎一 記はるに 向 けた 関 わりがあった。これ 以 降 ,H はふとした 瞬 間 にはるの 肘 をつまんだり 立 ったままでもはるの 肘 を 舐 めたりするようになった。1 日 目 の 就 寝 時 には,H がなかなか 寝 付 けずにいる 中 ,はると 手 を 繋 いだことで 笑 顔 になり, 手を 繋 ぐ 以 前 と 比 較 して 確 実 にすんなりと 眠 る 態 勢に 入 ったことから,この 瞬 間 にはるは H に 少 なからず「H にとって 安 全 な 人 」であると 感 じた可 能 性 があると 考 えられる。2 日 目 の 川 遊 びでは,H がはるに「( 川 に) 入らないで !」「 一 人 で 遊 びたいのにい~ !」とはるに 声 をかけることからもわかるように,H は 川を 一 人 で 堪 能 したいという 気 持 ちが 強 く 伝 わってくるが,H が 魚 を 見 つけた 際 にははるをパッっと 探 し,はるもその 魚 を 見 ようとすると H が「 待 ってて !」と 魚 を 見 つけようとする 様 子 から,H ははると 同 じ 世 界 , 同 じ 感 動 を 共 有 しようとしていることもうかがえる。同 日 のピザづくりの 時 には,はるの 手 についたままのピザソースを H が 舐 めとるという 行 動 が見 られ, 次 の 日 には,H がはるがビニール 袋 を膨 らませている 際 に「 何 ?」と,はるの 行 動 に 興味 を 示 した。この, 川 遊 びでの 出 来 事 やビニール袋 で 遊 ぶことで,H ははると 一 緒 に 遊 びたいという 気 持 ちが 湧 いてきたのではないか。4 日 目 には,シュラフで 遊 ぶことの 中 でも, 今まで 見 られなかった「H が 入 るシュラフの 中 に,H がはるの 手 を 引 き 入 れる」という 行 動 が 見 られたり,H がはるの 居 眠 りしている 隙 をついてぬいぐるみをはるの 目 の 前 に 並 べ,はるがいつ 気づくのかうかがったり, 就 寝 時 に 寝 付 けないでいるところにはるが 来 ることで「はるちゃんが 助 けに 来 てくれた !」と 嬉 しそうに,かつ「これで 眠れる」とでもいうように 安 堵 した 表 情 を 見 せたことから,H にとってはるは 安 心 して 一 緒 に 遊べる 存 在 であり,それどころか H にとってはるは H が 困 っているときに 助 けてくれる 存 在 であると 認 識 していることがうかがえる。これは,Hが「この 人 は 危 険 でないと 感 じる 体 験 」を1 日 目よりより 強 く 感 じながら 体 験 しているといえるのではないか。4 日 目 において,はるが H と 手 を 繋 がずに 別 のお 友 達 を 布 団 の 上 から 撫 でている 姿 を 見 た H がとった「 腕 をベッドの 外 に 放 り 出 してぶらぶらさせる」という 行 為 は,はるからみて,H がはるに「はるは H のバディでしょ」というメッセージを 伝えているようにも 感 じられた。それを 受 け,はるが H と 手 を 繋 ぐと H が 笑 顔 を 浮 かべて 眠 りについたことが,それを 証 明 しているのではないか。2.この 人 は 自 分 を 大 切 にしてくれると 感 じる 体験H にとって,「この 人 は 自 分 を 大 切 にしてくれると 感 じる 体 験 」として, 次 のことが 挙 げられる。まず1 日 目 の 就 寝 時 において,H がなかなか 寝付 けずにいる 中 ,はると 手 を 繋 いだことで 笑 顔 になり, 手 を 繋 ぐ 以 前 の 比 較 して 確 実 にすんなりと眠 る 態 勢 に 入 ったこと H に 少 なからず「 自 分 を守 ってくれる 人 」であると 感 じた 可 能 性 があると考 えられる。3 日 目 の 休 耕 田 から 施 設 に 戻 る 車 の 中 での「もしかして,はるちゃんは H のことが 好 きなの ?!」〈そうだよ,はるちゃんは,H のことが 好 きなんだよ。だから, 隣 に 座 りたいんだよ。〉「もしかして,もしかして,はるちゃんは H のことが, 大好 きなの ?!」〈そうだよ。はるちゃんは,H のことが 大 好 きなんだよ。〉という H とはるのやり 取りは,H がはるに 対 して「この 人 は 自 分 を 大 切にしてくれる」 存 在 であると 実 感 した 瞬 間 であると 認 識 し, 体 験 した 瞬 間 であると 考 えられる。3.この 人 は 自 分 のことをわかってくれる,わかろうとしてくれると 感 じられる 体 験H にとって,「この 人 は 自 分 のことをわかってくれる,わかろうとしてくれると 感 じる 体 験 」として, 次 のことが 挙 げられる。2 日 目 の 川 遊 びにおいて,H がはるに「( 川 に)入 らないで !」「 一 人 で 遊 びたいのにい~ !」とは- 48 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その3)るに 声 をかけることからもわかるように,H は川 を 一 人 で 堪 能 したいという 気 持 ちが 強 く 伝 わってくるが,H が 魚 を 見 つけた 際 にははるをパッっと 探 し,はるもその 魚 を 見 ようとすると H が「 待 ってて !」と 魚 を 見 つけようとする 様 子 から,H ははると 同 じ 世 界 , 同 じ 感 動 を 共 有 しようとしていることもうかがえる。2 日 目 の 昼 食 のピザの 時 ,はるの 手 についたままのピザソースを H が 舐 めとるという 行 動 が 見られ, 次 の 日 には,H がはるがビニール 袋 を 膨らませている 際 に「 何 ?」と,はるの 行 動 に 興 味を 示 した。この, 川 遊 びでの 出 来 事 やビニール 袋で 遊 ぶことで,H ははると 一 緒 に 遊 びたいという 気 持 ちが 湧 いてきたのではないか。3 日 目 の 休 耕 田 から 施 設 に 戻 る 車 の 中 での「もしかして,はるちゃんは H のことが 好 きなの ?!」〈そうだよ,はるちゃんは,H のことが 好 きなんだよ。だから, 隣 に 座 りたいんだよ。〉「もしかして,もしかして,はるちゃんは H のことが, 大 好 きなの ?!」〈そうだよ。はるちゃんは,H のことが大 好 きなんだよ。〉という H とはるのやり 取 りは,「この 人 は 自 分 のことをわかってくれる」 存 在 であると 認 識 し, 体 験 した 瞬 間 であるとも 考 えられる。4 日 目 において,はるが H と 手 を 繋 がずに 別 のお 友 達 を 布 団 の 上 から 撫 でている 姿 を 見 た H がとった「 腕 をベッドの 外 に 放 り 出 してぶらぶらさせる」という 行 為 は,はるからみて,H がはるに”はるは H のバディでしょ”というメッセージを伝 えているようにも 感 じられた。それを 受 け,はるが H と 手 を 繋 ぐと H が 笑 顔 を 浮 かべて 眠 りについたことが,それを 証 明 しているのではないか。5 日 目 のチャレンジハイクにて, 頂 上 でお 友 達と 喧 嘩 をした 際 には,H が 言 葉 にできない 気 持ちを,はるの 視 点 からではあるが H の 代 わりにはるが 表 現 したことは,H にとって「この 人 は 自分 のことをわかってくれる,わかろうとしてくれると 感 じられる 体 験 」をすることを 支 援 したと 考えられる。4.この 人 の 言 うことにしたがっておおむね 間 違いはないと 感 じられる 体 験3 日 目 の 外 遊 びにて,H の 帽 子 ではなく,はるの 帽 子 をかぶるという 行 動 も 見 られ,H がはるの 帽 子 を 被 ること, 同 日 のどろんこ 遊 びで,Hが 自 身 の 腕 に 泥 をつけることを 嫌 がるものの,はるが 自 分 の 腕 に 泥 をつけて 見 せたうえで,H もはるの 腕 に 泥 をつけるという 行 動 以 降 ,いろいろなお 友 達 と 泥 を 使 った 交 流 を 行 うようになったことで,H にとってより 身 近 にはるを 感 じられるようになった,あるいはもっと 身 近 にはるの 存 在を 感 じたくなったのではないか。5.この 人 と 共 同 作 業 することで 自 分 の 問 題 が 解決 できると 感 じられる 体 験5 日 目 のチャレンジハイクでは,H が H のタオルではなくはるのタオルを 使 うこと, 周 囲 の 人 とは 別 のペースでゆっくりと 山 を 登 ったことが,「この 人 と 共 同 作 業 することで 自 分 の 問 題 が 解 決 できると 感 じられる 体 験 」につながったと 捉 えることができる。以 上 のことから,H は「この 人 は 危 険 でないと 感 じられる 体 験 」を 常 にしながら, 関 係 が 深 まるにつれて「この 人 は 自 分 を 大 切 にしてくれると感 じる 体 験 」をするようになり,この2つの 体 験が 特 に 基 盤 となりながら「この 人 は 自 分 のことをわかってくれる,わかろうとしてくれると 感 じられる 体 験 」「この 人 の 言 うことにしたがっておおむね 間 違 いはないと 感 じられる 体 験 」「この 人 と共 同 作 業 することで 自 分 の 問 題 が 解 決 できると 感じられる 体 験 」をさまざまな 時 に 体 験 していったのではないかと 考 えられる。そして,このそれぞれの 体 験 にはそれぞれ 程 度 があり, 関 係 が 深 まるにつれてより 強 くそれぞれの 体 験 を 体 感 しているように 捉 えられる。このように,この 理 論 に 基 づいて H とはるの関 係 の 変 化 を 見 ていくと,5つの 観 点 におけるすべての 体 験 が 見 られた。これにより,はると H- 49 -


石 毛 遥 ・ 石 崎一 記の 間 には,ラポールが 形 成 されていると 考 える。また,この5つの 体 験 は, 関 係 性 が 深 まるにつれて 時 間 を 追 ってより 強 く 体 感 される 可 能 性 があるのではないか。Ⅳ . 参 考 文 献飯 田 拓 也 ・ 石 崎 一 記 2012 援 助 的 サマースクールの研 究 Ⅹ(その2) 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 12号- 50 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 援 ,2013,51-60助 的 サマースクールの 研 究 XI(その4)事 例 研 究援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その4)A Study on Supportive Summer School XI(4)風 間 和( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )石 﨑 一 記( 東 京 成 徳 大 学 )Kazu KAZAMA (Graduate School of Psychology Tokyo Seitoku University)Kazuki ISHIZAKI (Tokyo Seitoku University)要約本 稿 では、2012 年 度 の 援 助 的 サマースクールにおける 参 加 者 37 名 のうち、 初 参 加 である 小 学 2 年 生 男 児 M.W の 行 動 を 整 理 し、 期 間 中 を 通 して 行 われた 虫 取 りと 虫 をちぎることの 意 味 について 考 察 した。 大 人 の 価 値 観 で M.W の 虫 取 りを 制 限 せずに、 見守 ったことが M の 発 達 にとって 重 要 であったと 考 えられる。キーワード: 援 助 的 サマースクール、 広 汎 性 発 達 障 害 、 虫 取 りⅠ.はじめに東 京 成 徳 大 学 が 主 催 する 援 助 的 サマースクールは、「 浴 びるほどの 自 然 を 体 験 すること」「 異 年 齢の 集 団 の 中 での 相 互 作 用 を 体 験 すること」「 自 立的 な 生 活 を 体 験 すること」を 基 本 方 針 としている。今 年 で11 回 を 迎 え、 本 年 度 は37 名 が 参 加 し、 栃 木県 鹿 沼 市 の 鹿 沼 自 然 体 験 交 流 センターで8 月 18 日から23 日 (5 泊 6 日 )に 実 施 された。本 稿 では、 小 学 2 年 生 男 児 M.W に 焦 点 をあて、M.W の 期 間 中 の 行 動 を 整 理 し、 期 間 中 を 通 して行 われた 虫 取 りと 虫 をちぎることの 意 味 について考 察 する。Ⅱ. 事 例1. 本 児 について名 前 :M.W性 別 : 男 子年 齢 ・ 学 年 :7 歳 、 小 学 2 年 生障 害 : 軽 度 知 的 障 害 、 広 汎 性 発 達 障 害以 下 は、アンケートによる 事 前 調 査 の 記 述 である。 全 般 的 に 気 になることコミュニケーション 力 は 全 体 的 に 低 い。 生 活 習 慣トイレをギリギリまでガマンして、 遊 ぼうとする。 対 人 関 係 について大 人 にはよく 懐 くが、 他 の 子 どもにはあまり自 分 から 関 わろうとしない。気 に 入 った 人 に 対 して、 顔 をぐぐーっと 近 づけて 覗 き 込 んだり、おでこを 触 ったりする。 勉 強 、 学 習 面 について算 数 や 生 活 、 図 工 が 好 き。 国 語 も 漢 字 に 興 味がある。 性 格 、 行 動 の 特 徴 についてだいたいいつもニコニコしている。 何 か 注 意すると「 怒 ってるの?」とよく 聞 いてくる。やりたくないときは「ポイ」とよく 言 う。 時 間 や- 51 -


風 間 和 ・ 石 﨑 一 記スケジュールを 気 にするところがある。 その 他かなり 早 寝 早 起 き。20 時 半 には 寝 て、5 時 前くらいに 起 きる。よく 食 べる。 食 べ 過 ぎてしまう。2.インテークの 様 子にこにこしながら、お 菓 子 を 食 べ、ジュースを 飲 んでおり、 自 分 の 座 っていた 席 にあったお菓 子 を 全 部 食 べていた。 自 分 の 席 に 用 意 されていた 分 のお 菓 子 が 食 べ 終 わると、ろうかに 置いてあった 余 りのお 菓 子 を 見 つけ、それが 気 になるのか、 廊 下 に 来 て 置 いてあるお 菓 子 を 触 っては 自 分 の 席 に 戻 るということを 繰 り 返 していた。 近 くにいたスタッフが「 食 べてもいいよ」と 言 っても 食 べなかったが、お 母 さんに「じゃあひとつだけもらいな」と 言 われ、もらっていた。M の 順 番 が 来 て、プレイルームに 向 かうが、「トイレに 行 きたい」と 言 い、まずトイレに 行 った。「 先 生 も 来 て」と 言 うので、トイレの 中 までかずが 着 いていった。M が「ドアを 持 ってて」と 言 うので、かずが「 閉 まると 怖い?」と 聞 くと M は「うん」と 言 っていた。プレイルームでは、トランポリンで 遊 んだり、パズルをバラバラにしたりして 遊 んだ。トランポリンにボールをいくつか 置 き、 飛 ぶと 跳 ねるのをにこにこしながら 楽 しんでいた。プレイルームの 窓 の 外 のびわの 木 を 見 つけ、M は「びわ!」「びわ、 食 べたい」と 言 った。講 義 室 に 戻 る 時 間 が 来 ても、M は「もっと遊 びたい」と 言 って、 戻 りたがらなかったため、トトロと「 時 計 の 針 が、いくつのところまでね」と 約 束 をし、 少 し 長 く 遊 んだ。講 義 室 に 戻 ってきてからは、 印 刷 用 紙 を 折 ったり、お 絵 かきをしたりしていた。廊 下 をうろうろしているときに、 階 段 を 見 つけ M は「 上 には 何 があるの。 行 ってみたい。」とほかの 階 に 行 きたがった。ゴミ 箱 のふたを 回 して 遊 んだり、ひっくり 返したりして 遊 んだ。 並 んでいる3つのゴミ 箱 のふた 全 部 をひっくり 返 したあとで、つんと 押 してもとに 戻 す 遊 びをした。かずにだっこしてもらって、ぐるぐる 回 されるのを、 気 に 入 ったのか、 何 回 も「やって!」とお 願 いしていた。 回 されている 間 はにこにこしていた。3. 期 間 中 の 行 動 1 日 目受 付 にはお 母 さんと 一 緒 に 来 て、お 母 さんの横 にくっついて 受 付 を 済 ませる。かずが「こんにちは。」と 声 をかけると、もじもじしており、お 母 さんに「こんにちはは?」と 言 われて、Mは「こんにちは」と 言 った。かずが「2 階 に 行くよ」と 言 うと、それまでお 母 さんにくっついていたのに、 一 人 で 先 に 階 段 を 登 っていき、 登 ったところでお 母 さんとかずが 来 るのを 待 っていた。講 義 室 で 名 札 を 作 るとき、かずが「 何 色 がいいかな」と 聞 くと 黄 色 のペンをとり、 名 前 を 書いた。この 時 、 手 にはセミをプリントした 紙 の切 り 抜 きを 持 っていた。バスまで 自 分 の 荷 物 を 運 んだ。M が 持 ってきていた、スーツケースの 進 む 向 きがよく 分 からず、 運 ぶのに 苦 戦 していた。ときどき「ポイッ」と 叫 んでいた。 途 中 の 木 にセミの 抜 け 殻 があるのを 見 つけ、 高 いところだったためか、かずにとってといい、とってもらうとにこにこしたり、 抜 け 殻 を 鼻 につけてにおいを 嗅 いだりしていた。その 後 は、スーツケースとセミの 抜 け 殻の 両 方 を 持 つのに 苦 労 していた。バスの 中 から、お 母 さんに 手 を 振 って 出 発 した。M が「これからキャンプいくの?」と 聞いてきたので、かずは「そうだよ。」と 答 えた。バスの 中 の 自 己 紹 介 で、 初 めは 嫌 がっていたが、 自 分 の 番 が 来 ると 小 さい 声 ではあるが 自 分の 名 前 を「M です」と 言 った。サマスクでの- 52 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その4)目 標 を 色 紙 に 書 くときも、 初 めは 嫌 がっていたが、『せみつかまえたい』と 書 くことができた。作 業 の 際 に、 大 学 院 に 来 た 時 から 手 に 持 っていたセミの 紙 が 邪 魔 になったようで、 背 負 っていたリュックの 小 さいポケットにしまっていた。お 昼 休 憩 では、まず 崖 のようなところに 向かい、トンボとりを 始 めた。トンボを 見 つけると、ずっと 追 いかけ、 止 まっているトンボにそっと 近 づき、 素 手 で 器 用 に 捕 まえていた。 捕 まえられないと「ポイッ」と 叫 んでいた。トンボを追 いかけると、どんどん 崖 の 斜 面 の 方 に 行 ってしまい、かずが「ケガしちゃうよ。あぶないよ。」と 伝 えてもどんどん 行 ってしまうので、かずが崖 の 上 にいて、M と 手 をつなぎ、その 状 態 で行 けるところまでの 範 囲 で 虫 を 取 ることにした。昼 食 はおにぎり2つをあっという 間 に 食 べてしまった。M は「もっと 食 べたい」と 言 い、最 終 的 には4つのおにぎりを 食 べた。もっと 食べたいようであったが、 事 前 アンケートで 食 べ過 ぎてしまうとあったため、かずが「お 腹 か 痛くなると 困 るし、まだ 食 べていない 子 もいるかもしれないから、もういいにしようか」と 伝 え、おかわりはやめた。おにぎりを 食 べ 終 わるとまたトンボとりをはじめ、 器 用 に 捕 まえていた。M が 虫 かごをほしがったがなかったので、ビニール 袋 をもらい、捕 まえたトンボやバッタなどをそれに 入 れた。集 合 の 声 がかかっても、まだトンボをとり 続けようとしていたので、かずが「 着 いたら、もっといろんな 虫 がいるかもしれないから、 今 は 一回 集 合 しよう」と 伝 え、なんとか 集 合 できた。前 でトトロが 話 しているが、そちらよりも 捕 まえたトンボを 触 ったりして 気 にしていた。休 憩 後 のバスの 中 では、クイズ 大 会 が 始 まった。 初 め、M は 参 加 していなかったが、 他 の子 が 正 解 して 飴 をもらっていることに 気 付 くと、 参 加 するようになり 元 気 に 手 を 挙 げていた。最 初 は 自 分 も 手 を 挙 げているのに 飴 をもらえないため、M は「ぼくも 食 べたい」と 言 っていた。かずが「あの 飴 はクイズに 正 解 したらもらえるよ」と 伝 えると、 他 の 子 が 答 えた 回 答 を聞 いて、 同 じことを 言 うということをするようになった。しかし、 指 名 されて 正 解 できた 子 しか 飴 がもらえないので、また M は「なんでもらえないの、 僕 も 食 べたい」といった。かずが「○○ 君 って 当 てられて、 正 解 したらもらえるんだよ」と 伝 えると、また 元 気 に 手 を 挙 げた。何 回 か 当 てられるも、 正 解 できずに 飴 がもらえなかったため、「ポイッ」と 言 ったり、「なんでもらえないの。 食 べたい。」と 泣 きそうな 顔 で言 っていた。 司 会 をしていた 子 に「お 前 、そんなのも 分 からないのかよ」と 言 われ、 泣 いてしまった。となりの 席 の 子 が、 正 解 を 教 えてくれたり、「 僕 、たくさん 飴 持 ってるからあげるよ」と 飴をくれたりするようになって、やっと 飴 が 食 べられるようになり、M はにこにこしていた。クイズが 一 斉 回 答 式 になると、みんなよりワンテンポ 遅 れてではあるが、 正 解 を 言 い、 飴 をもらっていた。 飴 が 回 ってくるたびににこにこと 嬉 しそうで、 黄 色 や 緑 といった 好 きな 色 から選 び、 最 終 的 にはまだ 食 べていない 色 の 飴 を 選んでいた。 飴 は 舐 めるものではなく、 噛 むものでバリバリ 食 べていた。施 設 に 着 いてからは「ポイッ」と 言 いながらも 部 屋 まで 荷 物 を 運 んでいたが、 荷 物 が 重 く、階 段 もあったので、 途 中 から M は「 先 生 、 持 って」と 言 って 持 とうとしなかった。部 屋 に 戻 り、シーツを 敷 くときも、 虫 かごをのぞいたり、 虫 を 触 ったりと 虫 に 関 心 があるようで、なかなか 始 まらなかった。かずが「シーツ 敷 いてから 遊 ぼう」と 言 っても、キーと 叫 んだり、ポイポイと 言 って、 嫌 がっていた。かずが「 一 緒 にやるから、シーツ 敷 こう。シーツ 敷かないとここで 寝 れなくなっちゃうよ。」と 声- 53 -


風 間 和 ・ 石 﨑 一 記をかけて、なんとかシーツを 敷 くことができた。午 後 の 秘 密 基 地 づくりでは、 秘 密 基 地 を 作 るのではなく、トンボやバッタなどを 一 人 でもくもくと 追 いかけていた。 虫 かごをもらい、たくさん 捕 まえていた。 外 遊 びの 初 めのうちは、 虫を 取 っていたが、 後 半 はみんなが 作 ったブランコやハンモックでも 遊 ぶようなった。しかし、勝 手 に 割 り 込 んで 他 の 子 に 怒 られたり、 順 番 だからダメと 貸 してもらえず、M は 怒 ってキーと 叫 んだり、ポイっと 言 っていた。研 修 室 では、 寝 袋 に 横 になったり、くるまったりしていて、 日 記 を 書 くのを 嫌 がった。かずが「 今 日 一 番 楽 しかったことは 何 かな。それ 書いてみない」と 説 得 し、 班 のみんなが 座 っているテーブルに 向 かった。しかし、 日 記 を 書 いている 他 の 子 の 手 や 顔 をさわったり、もう 座 っていた A の 椅 子 に 無 理 やり 座 って、 席 をとってしまったり、A の 鉛 筆 をとって、 日 記 を 書 きだしてしまい、みんなに 怒 られてしまった。 2 日 目朝 4 時 頃 起 床 し、 部 屋 で 虫 を 離 したり、ロビーのザリガニの 水 槽 を 眺 めていた。ラジオ 体 操 をやるのを 嫌 がり、 虫 を 取 っていた。 虫 をとっていたため、 散 歩 もいかなかった。朝 食 後 の 外 遊 びも 虫 取 りをして、バッタやトンボを 器 用 に 捕 まえていた。ロープの 上 のほうに 止 まっているトンボはロープを 揺 らして、 下まで 降 りるのを 待 って 捕 まえていた。 芝 生 の 上や 森 を 歩 くと、 飛 んで 逃 げるバッタなども 追 いかけて 捕 まえていた。「これは、アキアカネだよ」「これは 角 があるから、オス」「これは 茶 色 が 多い」「これは 模 様 がある」などと 捕 まえた 虫 の名 前 や 特 徴 をかずに 教 えてくれた。 羽 のふちが黒 いトンボ、 小 さいものよりも 大 きなバッタやカマキリをよく 追 いかけていた。お 昼 のピザづくりでは、 生 地 をこねるのを 少し 手 伝 い、 私 の 分 まで 生 地 を 伸 ばしてくれた。かずが「おいしい?」と 聞 くと、M は「おいしい」と 言 っていた。昼 食 後 の 川 遊 びでは、 深 いところは 入 らず、泳 ぐというよりは、 魚 を 探 して、 捕 まえようとしていた。 魚 がなかなかつかまらないと、「ポイッ」と 叫 んでいた。夕 飯 のとき、 前 に 出 ていただきますのあいさつをした。 同 じ 部 屋 の R にあだなで 呼 んでもらうようになった。この 日 も 日 記 は 書 かず、 就 寝 時 間 よりも 早 くに 就 寝 した。 3 日 目朝 早 く 起 床 し、 虫 と 遊 んでいた。前 日 嫌 がったラジオ 体 操 を、 森 の 方 を 時 々 見ながら、 広 場 ではなく、 森 の 近 くの 切 り 株 の 上でした。ラジオ 体 操 が 終 わるとハンコはもらいに 行 かず、 虫 取 りをした。かずが「ラジオ 体操 できたし、ハンコもらいに 行 かない?かわいい 絵 のハンコがあるんだよ。」と 声 をかけると、M が「どんな 絵 ?」と 聞 き、かずが「 見 に 行 ってみようよ」と 声 をかけると、 少 しの 沈 黙 の 後 、うなずき、みんなが 散 歩 に 出 かけた 後 で、ハンコをもらいに 行 った。朝 食 前 の、いただきますのあいさつをやりたいといって、 前 に 出 た。トトロに「 今 日 楽 しみなことは?」と 聞 かれ、M は「 川 遊 び」と 答えていた。どろんこ 遊 びでは、 泥 に 入 ることよりも 田 んぼ 近 くの 土 手 にいるカエルやバッタが 気 になり、 捕 まえていた。かずが「M あっち 見 てごらん。みんな 泥 の 中 で 遊 んでるよ」と 声 をかけて、 田 んぼの 方 に 向 かった。 田 んぼではアメンボ 探 しをして、 見 つけると 田 んぼの 端 に 追 い 込んで 器 用 に 捕 まえ、ゴーグルが 入 っていた 透 明なプラスチック 容 器 を 虫 かご 代 わりにして、 入れていた。かずが「 泥 はどう?」と 尋 ねるとM は「 気 持 ちいい」と 言 っていた。マスつかみでは、 石 の 下 などを 真 剣 に、 丁 寧に 探 し、マスを 捕 まえようとしていた。マスに- 54 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その4)触 るも、 捕 まえられずに 逃 げられてしまうことがあり、 最 初 は「 触 った」と 笑 顔 で 言 っていたが、次 第 に 捕 まえられないのが 悔 しいようで「ぽぉいっ!」と 大 声 で 叫 んでいた。1 匹 捕 まえると、嬉 しかったようで、にこにこしてマスを 見 つめていた。それを 逃 がさないように、バケツのところまで 運 びバケツにしまうと、M が「1 匹 だけ?もっと 捕 まえてもいいの?」と 聞 いてきたので、かずが「もっと 捕 まえてもいいよ。」と答 えると、 川 に 戻 って 行 った。 徐 々にコツをつかんだようで、 次 々にマスを 捕 まえていき、1匹 捕 まえると「てんてい( 先 生 )、 持 ってて。」と 言 い、かずにマスを 持 たせ、 次 のマスを 狙 っていた。2 匹 捕 まえたら、バケツまで 行 ってしまうということを 繰 り 返 し、 最 終 的 に7 匹 ほど捕 まえた。 内 臓 を 処 理 するところまでバケツを運 ぶときに、 他 の 子 に「M、そんなに 捕 まえたの!?」「すごっ」と 言 われ、M はにこにこしていた。 内 臓 の 処 理 は、 施 設 の 方 に 教 えてもらいながら 途 中 まで 一 緒 にやったが、 内 臓 を 洗 うところで、 渋 い 表 情 で 顔 を 横 に 振 り M は「もういい」と 言 い、マスをかずに 渡 した。かずが「てんてい( 先 生 )がやるから、もう 少 し 待 ってて」と 伝 えて、マスを 串 にさすところまで 終えた。マス 焼 き 場 では、マスにつける 塩 を 舐 めはじめ、かずが「それはマスにつけるのだよ。M のお 腹 痛 くなっちゃうよ。」と 声 をかけるも何 回 か 舐 めていた。 施 設 の 方 にも 笑 いながら「この 塩 舐 めてるの?おいしいかな?」と 聞 かれ、M はにこにこしながらうなずいていたが、 施設 の 方 に「でもね、これ 食 べるとお 腹 痛 くなっちゃうから、おさかなにつけようか。」と 言 われ、舐 めるのをやめ、マスに 塩 をつけ 始 めた。 焼 けたマスをもらい、それを 勢 いよく 食 べた。おにぎりも2 個 ぺろりと 食 べ、M は「もっとおにぎり 食 べたい」と 言 ったが、 数 が 少 なかったので、かずが「もうあんまり 残 ってないし、まだ 食 べていない 子 もいるかもしれないから、その 子 たちのために 残 しておこうね」と 伝 え、 説 得 した。昼 食 後 は、 再 び 土 手 の 虫 とりをした。 土 手 を歩 くと、 草 の 中 にいたバッタやカエルが 跳 びだしてくるので、それを 追 いかけ、 捕 まえていた。いろいろな 種 類 のカエルがおり、「 今 のミドリ!」「 今 のちょっと 茶 色 だった」「 大 きかった」「 小 さかった」など 言 っていた。 虫 かごを持 っていかなかったので、 捕 まえるたびに「てんてい( 先 生 )、 持 ってて」とかずにカエルやバッタを 預 けた。M が 虫 を 追 いかけながら、どんどん 進 んでいき、みんながいるところから 離 れたところに 来 てしまった。 帰 る 時 間 が 迫 っていたこともあり、かずが「もう 施 設 に 戻 る 時 間 だよ。みんなが 探 して 待 ってるかもしれないから、みんなのところに 行 こう」と 声 をかけて、みんなのところに 戻 った。 帰 りは 途 中 まで 歩 いたものの、 車 に 乗 って 帰 っていく 他 の 子 を 見 つけ「 僕も 車 で 帰 る!」と 言 って、 施 設 の 方 の 車 が 通 るたびに、 車 に 近 づき「 乗 せて! 乗 りたい!」と言 っていた。 何 台 か 通 るも、 定 員 オーバーで 乗せてもらえず、M は「ポイッ!」と 叫 んでいた。かずが「 残 念 だったね、 次 の 車 が 来 るまでもう少 し 歩 いて 待 ってみようか」と 声 をかけて 歩 いていると、 施 設 の 方 の 車 が 来 て、 助 手 席 に 乗 せてもらうことができたので、 車 で 施 設 まで 帰 った。野 外 あそびでは、 虫 とり 以 外 にブランコで 遊ぶことが 気 に 入 ったようで、「てんてい( 先 生 )、押 して!」と 何 回 も 言 い、かずが 押 すたびににこにこしながら 揺 られていた。ある 程 度 押 してスピードが 出 てくると、M が「もういい」と言 い、かずが「 怖 かった?」と 聞 くと「うん」と 言 ったので、 押 すのをやめた。スピードが 落ちてくると、また「てんてい( 先 生 )、 押 して!」と 言 い、これを 何 回 か 繰 り 返 した。カレーコンテストでは、 火 おこしやカレーの材 料 の 説 明 の 際 は、みんなと 一 緒 にいたが、それが 終 わると 虫 とりやブランコをして 遊 んでい- 55 -


風 間 和 ・ 石 﨑 一 記た。かずが「みんな、 向 こう( 炊 事 場 )でカレー作 りしているよ。ちょっとお 手 伝 いしに 行 こうよ。」と 声 をかけても、 虫 取 りを 続 けていた。だっつがニンジンを 持 って 来 て、M に「ニンジン、ちょっと 切 ってみない?」と 声 をかけてくれ、炊 事 上 の 方 にも 戻 ることになった。そして、 少しだけニンジンを 切 るお 手 伝 いをした。その 後 、かまどの 火 に、 木 を 入 れるのをやりたがり、 何本 か 大 胆 に 入 れ、にこにこしていた。カレーに 入 れるチョコレートを 見 つけ、Mは「これ 食 べちゃいけないの?」とかずに 聞 いた。かずは「これはカレーの 中 に 入 れるのだから、 食 べられないんだ」と 声 をかけるも、 気 になるようで、 他 のところにいっては、チョコのところに 戻 ってきて 触 るというのを 繰 り 返 していた。その 様 子 を 見 た R が M に「これは、カレーに 入 れるチョコだから、 食 べられないけど、きっとトトロはまだチョコを 持 っているかもしれないから、チョコ 食 べたいってトトロに 言 って、いいよって 言 ったら、もらいな」と 言 ってくれた。それを 聞 いた M はすぐにトトロのところに 向 かい「チョコください」と 言 った。かずがトトロに 事 情 を 説 明 したところ、トトロは「そっか、じゃあこっちにおいで。」と 言 ってくれて、 研 修 室 まで 行 った。 研 修 室 でトトロに「ここで 待 ってて」と 言 われ、 待 っていると、チョコを 持 ってきてくれた。M はにこにこしながら、チョコを 受 け 取 った。そして、 研 修 室 でチョコを 食 べてから、 外 に 戻 った。カレーを 食 べ 終 わった 後 に、 炊 事 場 の 前 の 広場 をうろうろしていたら、M に「こっち 来 て、あれ 見 て!」と 言 われて、M の 方 に 行 き、Mが 指 をさしている 方 を 見 ると、 丸 い 月 が 見 えた。かずが「きれいだね。 教 えてくれたの?ありがとう」と 声 をかけると、M は 笑 いながらうなずいた。日 記 は 書 かず、 就 寝 時 間 よりも 早 くに 就 寝 した。 4 日 目この 日 も 虫 取 りをして、 散 歩 は 行 かなかった。係 りの 仕 事 の 部 屋 掃 除 では、 少 し 掃 除 をしたら、 虫 かごを 覗 き 込 むというのを 繰 り 返 し、とても 虫 が 気 になるようだった。この 日 の 外 遊 びでは、トンボやバッタを 取 るたびに、 体 をちぎっていた。「 虫 さんたち 痛 いって 言 っているよ」と 伝 えても、にや~っとしたり、にこにこしながら、 楽 しそうにちぎっていた。M が 虫 をちぎる 際 に、かずが 虫 にアテレコ(「 痛 いよ 痛 いよ~」)したのが、おもしろかったのか、 捕 まえるたびにかずに 見 せるようにちぎっていた。今 まで 時 間 があればずっと 虫 取 りをして 過 ごしていたが、この 日 は「 部 屋 に 入 る」と 言 って、部 屋 で 過 ごした。 最 初 は、 虫 かごの 中 をじっと見 ていたが、そのうち 虫 を 部 屋 に 放 しはじめ、にこにこしながら、 捕 まえた 虫 たちを 布 団 の 上に 並 べていた。その 後 、 二 段 ベッドのふちにバッタを 置 いて、 指 でちょんとはじき、 床 に 向 かって 飛 ばせる 遊 びをしていた。 思 っていた 方 向 とは 異 なる 方 向 に 飛 んだ 時 、 飛 ぶときにブーンと音 が 聞 きえた 時 に、きゃっきゃと、とても 喜 んでおり、どこに 飛 んでいくかわからない 様 子 、飛 んでいくときの 音 を 楽 しんでいるようであった。またバッタを 二 段 ベッドの 上 から 飛 ばせた後 すぐ、かずに「てんてい( 先 生 )、とって!!」と 言 い、かずが 床 に 降 りた 虫 を 二 段 ベッドに 戻すと、M が 次 を 飛 ばす、かずが 戻 す、M が 飛ばすというのを、にこにこしながらずっと 繰 り返 しており、 気 に 入 ったようであった。お 昼 の 時 間 になったので、かずが「 今 日 のお昼 ごはんは、たらいそうめんだよ。お 腹 すかない? 外 行 ってみようか」と 声 をかけ、 外 に 出 るも、そうめんの 準 備 はせずに、 虫 取 りをしていた。みんなのところに 戻 ると、もうそうめんを食 べていて、 遅 れてそうめんを 食 べ 始 めた。そうめんを 食 べ 終 えた 後 、 前 日 の 火 おこし 大- 56 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その4)会 の 景 品 のお 菓 子 を 見 つけ、 触 ったり、「いつ食 べるの? 半 分 こするの?」と 聞 いたりとても 食 べたそうにしていた。M がお 菓 子 を 触 るたびに、 同 じ 班 の K や R が「おい、M にお 菓子 を 触 らせるな!」「これは 後 でみんなで 食 べるのだから、もう 少 し 待 ってね」と 止 められていた。なんとかみんなの 言 うことを 守 り、 班 のお 兄 さんたちが 分 けてくれたお 菓 子 を 食 べていた。昼 食 後 は、また 虫 取 りをして 遊 んだ。この 時 、相 変 わらず 虫 をちぎったり、「 虫 つぶしたい」「ふみたい」と 言 ったり、「とんぼ、 死 ぬの?」とかずに 聞 いたりしていた。午 後 も 少 し 虫 を 捕 まえた 後 で「 部 屋 で 遊 ぶ」と 言 い、 午 前 中 のように 部 屋 で 虫 を 広 げて 遊 んだ。 部 屋 で 遊 んでいると、 同 じ 部 屋 の 子 が 帰 ってきて、 虫 を 放 しているのに、 驚 き、 嫌 がったため、かずが「R が 虫 をしまってほしいって。虫 かごにしまおうか。」と 伝 えると、もっと 遊びたかったのか、 午 前 中 は 良 かったのに、 午 後はダメというのを 納 得 できなかったのか、「ぽい」と 言 って 嫌 がった。夕 飯 では、からあげをたくさん 食 べていた。プリンがもっと 食 べたかったようで、あまりのプリンじゃんけんに 参 加 するも、 負 けてしまい「 食 べられないの?」と 悲 しそうだった。M のほうが 先 に 食 べ 終 わり、「てんてい( 先 生 )、もう 少 しで 食 べ 終 わるから、 待 っててくれる?」と 声 をかけると、Y にずっとかまわれ、 逃 げながら、 追 いかけっこになりながらも、 待 っていてくれた。お 楽 しみ 会 は「ぽいっ」と 言 って、 行 くのを嫌 がった。 班 の 子 に「うちの 班 はここで 脅 かすんだよ」と 教 えもらったものの、 嫌 だったのかずっと「ぽーいっ」「ぽいぽい」と 言 って、 叫び、 班 の 子 から「 静 かにして!」「M、うるさい!」と 怒 られていた。M の 口 を 押 えて、 叫ばないように 止 めていたが、それも 楽 しくなってしまったのか、かずが M の 口 から 手 を 話 すと、 叫 ぶという 遊 びになってしまった。A が「 人が 来 て、 合 図 があったら、この 壁 をどんどん 叩くんだよ」と 教 えてくれて、2 班 だけではあるが、 脅 かすことができた。みんなより 先 に 施 設 に 戻 った。M が「ここ( 施設 入 口 のエントランス)で 待 ってる」と 言 い、施 設 で 飼 育 されているザリガニや 自 分 で 捕 まえた 虫 を 見 たりしていたが、そのうちソファで 寝てしまった。かずが「ここじゃなくて、ベッドで 寝 ようか」と 伝 えるも、M は「ここにいる」と 言 って、 寝 ていた。「てんてい(かず)も 行くから、 一 緒 に 寝 よう」と 説 得 し、M をおんぶして 部 屋 に 連 れて 行 き、 寝 かせた。 5 日 目朝 の 清 掃 では、 虫 のほうを 気 にしながらも、箒 で 床 をはいて、ごみをまとめることができた。時 々「てんてい( 先 生 )」になってしまうけれど、 前 日 から「かずって 呼 んで」と 伝 えていたこともあり、「かずたん(ちゃん?)」と 呼 んでくれるようになった。3 日 目 の 泥 んこあそびの 帰 りに、 車 に 乗 って帰 ったことを 思 い 出 したのか、チャレンジハイキングでは、 初 めは「 僕 車 で 行 く」と 言 い、トトロに「 車 で 行 きたい」と 直 談 判 しに 行 っていた。トトロから「 車 が 通 れるところまで、 歩 いて 行 こうか」と 言 われて、 納 得 していた。かずも「 歩 いて 行 ったら、 虫 も 捕 まえられるかもよ!」と 伝 えて、 歩 いて 川 を 登 ることになった。トンボやバッタの 入 った 虫 かごを 持 って、 魚がいないか 川 の 様 子 を 見 ながら 登 っていた。 魚を 捕 まえて、 虫 かごに 入 れたいけれど、ほかに虫 が 入 っていたため、たくさん 入 っていた 虫 を「いらない」と 言 って、 川 に 捨 て、 魚 を 入 れた。ずっと 魚 を 探 しながら 川 を、さくさく 登 って行 った。 川 を 渡 る 途 中 の 深 いところは、 怖 いと言 って 入 るのは 嫌 がったが、スタッフを 押 して落 とすことにはまっていた。「まっちー!」「いっ- 57 -


風 間 和 ・ 石 﨑 一 記こー!」と 呼 んでは、 突 き 落 すのを、にこにこしながら 繰 り 返 していた。かずが 反 対 岸 に 渡 らないと、お 昼 休 憩 をする施 設 に 行 けないことを 伝 えると、 川 を 渡 っていこうとしたが、M が「 深 くて 怖 い。 渡 りたくない」と 言 ったので、かずが「レッドさんを呼 んで 連 れて 行 ってもらおうか」と 提 案 すると、M は「うん」と 言 った。かずが「 自 分 で呼 んでみてごらん」というと M は「レッドさーん」と 呼 んで、 気 づいて 来 てくれたレッドさんに「あっちに 連 れてって」とお 願 いすることができた。そして、レッドさんに 抱 っこしてもらい、 川 の 深 いところを 渡 って、 反 対 岸 まで 連 れて 行 ってもらった。 深 いところを 通 る 際 に、Mの 体 がたくさん 水 につかり、 不 安 そうな 表 情 をしていた。川 からお 昼 休 憩 をする 施 設 に 向 かう 池 に、 大きなカエルがいて、それを 捕 まえたがりどんどん 池 に 入 っていこうとした。 捕 まえられないと「ぽいっ」と 叫 んだりして、 怒 っていたが、なんとか 捕 まえることができた。お 弁 当 はぺろりと 食 べていた。お 弁 当 が 食 べ終 わると、 草 村 のようなところで、バッタ、カマキリとりをした。休 憩 所 を 出 てハイキングに 向 かう 前 にMは、帰 りは 車 で 帰 ると 言 ったのを 思 い 出 し、M はトトロに「 車 で 帰 る」と 言 った。トトロの 車 に乗 せてもらい、みんなで 集 合 写 真 を 撮 ると 場 所に 行 ける 近 道 まで 連 れて 行 ってもらった。虫 を 追 いかけて、M がどんどん 進 んでいくのを、かずが 追 いかけていく 感 じで2 人 で 山 を登 って 行 った。集 合 写 真 を 撮 る 場 所 に 着 き、 椅 子 に 座 って 水分 補 給 休 憩 をした。 塔 の 周 りを 散 策 するつもりで、 虫 かごを 塔 の 中 の 椅 子 の 上 において、 歩 いていたが、2 人 で 少 し 遠 くまで 行 ってしまった。虫 かごを 取 りに 戻 って、それを 持 って 登 ろうとかずが 声 をかけるも、「ここで 虫 を 取 ってる!」と 聞 かなかったので、「じゃあ、 取 ってくるから、ここにいてくれる?」と 聞 くとMは「うん」と言 い、かずが 虫 かごを 取 ってくるまで、 待 っていた。かずが「よく 待 っていてくれたね。ありがとう」と 伝 えると、Mはにこにこ 笑 っていた。虫 を 探 しつつ、みんなと 会 えるかなとみんなも 探 しつつ、 山 を 登 って 行 った。 途 中 でみんなの 声 がきこえるとMは、 声 の 聞 こえる 方 を 見 て、「 聞 こえた!」と 言 っていた。そして、 一 緒 に「やっほー」「ここだよー」と 叫 びながら、 登 った。途 中 で 先 頭 集 団 と 再 会 し、かずがMに「 会 えたね」と 声 をかけると、にこにこしながら 頷 いていた。みんなと 合 流 した 後 、Mは 先 頭 を 歩 きたがり、ほかの 子 と 競 争 しながら、 走 るような 勢 いで、坂 を 下 って 行 った。施 設 に 帰 ってきてからのおやつの 時 間 は、スイカやアイスをすぐ 見 つけてもらいに 行 っていた。かずが「アイス 半 分 こにしない?」と 聞 くと、M は 笑 いながら「1 人 で 食 べる」と 言 い、アイスを 食 べていた。スイカもアイスもおかわりをしていた。テーマソングをみんなで 歌 ったときは、Mはアイスやスイカを 食 べながら、M なりの 歌詞 を、 音 楽 に 合 わせて 口 ずさんでいた。別 れの 集 いでは、M が「みんな 言 うの?」と 聞 いてきたので、「 順 番 が 来 て、 言 いたかったら 言 えばいいんだよ。M はどうする?」と伝 えると「 来 たら 言 う」と 言 っていた。しかし、順 番 が 来 る 前 に、 眠 ってしまい 言 うことができなかった。 6 日 目お 昼 までの 時 間 はオセロをして 過 ごした。M は「 今 日 で 終 わり?」と 何 回 もかずに 聞 いた。お 昼 の 鹿 沼 サンドでは、チョコクリーム、ピーナッツクリーム、 生 クリームというデザートサンドを 作 っていた。それをすぐに 食 べ 終 わり、 次 は 生 クリームのみの 鹿 沼 サンドを 作 って- 58 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その4)いた。おかわりしたものの、M は「いらない」と 言 った。かずが「おなかいっぱいなの?」と聞 くと、M は「うん」といった。 同 じ 班 の A.Uが「おれ、 食 べれるよ。」と 言 ってくれたので、食 べきれなかった 分 を 食 べてもらった。集 合 写 真 は 虫 かごと 一 緒 に 撮 った。帰 る 際 に、 捕 まえた 虫 がたくさん 入 った 虫 かごはどうしようかという 話 になり、ブッキーに「どれか1つだけ、 持 って 帰 ろうか」と 言 われ、M はあまり 悩 まずに1つだけ 選 んで、それ 以 外の 虫 かごはもう 関 心 がないようであった。帰 りのバスでは、 疲 れていたのかMはぐっすり 寝 ていた。トイレ 休 憩 で 止 まったところにいた、ハグロトンボを 捕 まえて、みんなにすごいねと 言 われ、にこにこしていた。大 学 院 に 着 いて、 迎 えに 来 ていたお 母 さんを見 つけると、Mはにこにこして、 捕 まえたトンボを 見 せてあげていた。閉 会 式 中 は、 目 をこすったりと 眠 たそうにしていた。 表 彰 式 で、かずが 賞 状 を 渡 すと、にこにこしていた。 賞 状 をもらった 後 も、ずっと 賞状 を 見 ており、 時 々にこっとしていた。4. 事 後 アンケート【よく 話 題 になった 事 柄 】虫 取 りをしたこと、キャャンプインキャンプはやらなかったということ、オセロ 大 会 のこと【 一 番 楽 しかったこと】トンボ、ばったをつかまえたこと【 一 番 印 象 に 残 っていること、 一 番 思 い 出 に 残 っていること】夜 に 馬 追 いをつかまえたこと( 家 では 外 に 出 てはいけないので、それがうれしかったようです。)【 初 めてやってみたこと、 挑 戦 してみたこと】川 遊 び【 何 かできるようになったこと】魚 をつかまえることⅢ . 考 察・M にとっての 虫 取 りの 意 味 について大 学 院 に 来 た 時 からセミの 切 り 抜 きを 持 っていたり、 木 にあったセミの 抜 け 殻 を 欲 しがったりと、初 日 から 虫 が 好 きである 様 子 がうかがえた。 虫 が好 きだから、 動 いている 虫 を 見 つけると、あれはなんだろう?という 虫 に 対 する 興 味 や 関 心 がわき、それが 虫 を 捕 まえたいという 気 持 ちの 原 動 力になっていたと 考 えられる。そして、 虫 を 追 いかけたり 捕 まえたりする 中 で、 捕 まらないようにと逃 げていく 虫 の 予 想 外 の 動 きに 驚 いたり、 飛 ぶときの 音 、 体 の 大 きさや 羽 の 色 の 違 いについて 観 察したり、 捕 まえた 虫 を 鼻 の 近 くに 持 ってきてにおいを 嗅 いだり、 身 体 の 感 覚 すべてを 用 いて 虫 を 感じることを 楽 しんでいた。 津 吹 (2008)は、 虫 は子 どもの 友 達 であるとし、 虫 と 深 く 付 き 合 う 方 法として、 五 感 を 使 って「 虫 の 生 き 方 」を 感 じ 取 ることを 挙 げている。M は 五 感 を 使 って「 虫 の 生き 方 」を 感 じ 取 っており、5 泊 6 日 の 中 で 虫 と 深 く付 き 合 っていたと 考 えられる。・M にとって 虫 をちぎることの 意 味 について次 に、 期 間 中 の 虫 取 りの 中 で1 日 だけではあるが 見 られた、 虫 をちぎるという 行 為 の 意 味 について 考 察 していく。 最 初 は 興 味 本 位 で 虫 をちぎり、ちぎられても 虫 は 動 くのかといった、ちぎることで 分 かる 虫 の 様 子 を 楽 しんでいたようであった。M にとってその 虫 は、M の 心 に 沸 き 起 こった 好奇 心 や 探 究 心 、あるいはふとした 衝 動 を 満 足 させるための 対 象 として 見 えていた ( 飛 田 ,1980) と 考えられる。かず 自 身 はMのその 行 動 に 驚 き、「かわいそう」という 価 値 観 の 下 、M の 虫 をちぎる行 為 と 向 き 合 っており、M が 虫 をちぎるたびに、虫 をちぎるのはかわいそうだよという 気 持 ちを 込めて、 虫 の 声 を 代 弁 (やめて~ 痛 いよ~)していた。しかし、かずのその 反 応 は、M にとっては命 の 大 切 さを 伝 えるものではなく、 自 分 が 虫 をちぎれば、 起 きる 楽 しいものと 受 け 止 められたよう- 59 -


風 間 和 ・ 石 﨑 一 記であった。そのため、M は 虫 をつかまえるたびに、にこにこしながらかずの 方 を 見 て、かずが 見 ているときに 虫 をちぎることを 繰 り 返 すようになったと 考 えられる。・まとめ虫 をちぎること 以 外 にも、 他 の 子 から、「そんなにたくさん 虫 かごに 入 れて、 虫 がかわいそうだよ。 死 んじゃうよ。」と 声 をかけられても 気 にしていなかったり、せっかく 捕 まえた 虫 をあっさりと 捨 てたりといった 行 動 が、 期 間 中 何 度 か 見 られた。このことからも、 虫 を 捕 まえたり、 観 察 したりすることの 楽 しさは 感 じていても、それは 命 あるもので、 飼 う、 育 てる、 大 切 にするという 概 念や 価 値 観 を M はまだ 理 解 していないようであった。M は、 虫 殺 しの 体 験 を 経 て、 生 命 尊 重 の 価値 観 や 道 徳 を 身 につけ、 残 酷 な 衝 動 を 抑 圧 するようになって 行 くという 成 長 の 過 程 ( 飛 田 ,1980) の途 中 であり、 虫 を 捕 まえ、 観 察 し、 時 にはいじめたりする 中 で、 実 感 として「それはかわいそうだ」ということを 感 じるようになっていくことが 考 えられる。そのため、M の 虫 取 りや 虫 をちぎるという 行 為 を、 大 人 の 倫 理 感 覚 で 制 限 するのではなく、 五 感 を 使 って 虫 取 りをするという 経 験 を 思 い切 りさせてあげることが、M の 発 達 にとって 重要 なものであったと 考 えられる。参 考 文 献津 吹 卓 (2008). 虫 は 子 どもの 友 達 : 虫 と 遊 ぶその 奥で 何 に 気 づくのか 幼 児 の 教 育 107(6),8-13.飛 田 裕 美 (1980). 子 どもの“ 虫 殺 し” 幼 児 の 教 育 ,79,9,36-37.Ⅳおわりに初 参 加 の M.W にとって、 自 然 の 中 でたくさんの 虫 を 捕 まえて 過 ごした5 泊 6 日 間 は、 楽 しくて 思い 出 に 残 る 体 験 になったと 思 われる。 筆 者 自 身 も初 参 加 で、 虫 一 直 線 な M.W に 初 めはとまどいもあったが、5 泊 6 日 間 のかかわりの 中 で、 様 々なことを 一 緒 に 体 験 することができて、とても 貴 重 な経 験 になった。M に 出 会 えたこと、M ととことん 関 われたこと、そのような 機 会 を 与 えてくれた先 生 、バイザー、スタッフの 方 に 感 謝 したい。- 60 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 援 ,2013,61-71助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その5)事 例 研 究援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その5)A Study On Supportive Summer School Ⅺ(5)小 池 春 菜( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )石 﨑 一 記( 東 京 成 徳 大 学 )Haruna KOIKE(Graduate School of Psychology Tokyo Seitoku University)Kazuki ISHIZAKI(Tokyo Seitoku University)要 約本 研 究 では、 今 年 度 のサマースクールにおける 参 加 者 37 名 のうち、 中 学 校 3 年 生 の 男 児 Y . Mの 行 動 を 整 理 し、 自 閉 症 者 の 自 己 理 解 と 確 認 の 質 問 に 焦 点 を 当 てて 考 察 した。 援 助 的 サマースクール 期 間 中 は、 自 己 の 内 面 について 言 及 する 場 面 や、 他 の 参 加 者 について 繰 り 返 し 質 問 する場 面 が 見 られた。このことは、 彼 の 思 春 期 という 発 達 段 階 と、 援 助 的 サマースクールの 環 境 が影 響 していたのではないかと 考 えられる。キーワード: 自 閉 症 、 自 己 理 解 、 確 認 の 質 問 、 援 助 的 サマースクールⅠ.はじめに東 京 成 徳 大 学 が 主 催 する 援 助 的 サマースクールは、「 浴 びるほどの 自 然 を 体 験 すること」「 異 年 齢の 集 団 の 中 での 相 互 作 用 を 体 験 すること」「 自 立的 な 生 活 を 体 験 すること」を 基 本 方 針 としている。今 年 で11 回 目 を 迎 え、8 月 18 日 から23 日 (5 泊 6 日 )に 実 施 された。 参 加 者 は、 幼 稚 園 年 中 から 社 会 人までの37 名 であった。本 稿 では、Y . Mについて 焦 点 を 当 て、Y.Mの 期 間 中 の 行 動 や 様 子 を 整 理 し、 本 スタッフとのかかわりの 様 子 から 考 察 する。Ⅱ. 事 例1. 対 象名 前 :Y . M性 別 : 男 子年 齢 ・ 学 年 :14 歳 、 中 学 3 年 生家 族 構 成 :3 人 家 族 ( 父 、 母 、 対 象 児 )障 害 : 自 閉 症以 下 は、アンケートによる 事 前 調 査 の 記 述 である。 全 般 的 に 気 になること・ 自 分 の 行 動 に 自 信 がなく、 確 認 の 質 問 が 多 く 周囲 の 人 を 不 快 にさせてしまうことがある。・ 清 潔 さにやや 過 敏 なところがあり、うがいや 手洗 いの 回 数 が 多 い。 生 活 習 慣・ 自 立 できているが、 年 齢 相 応 にヒゲをそったり体 臭 に 気 を 付 けたりするところが 未 熟 である。 対 人 関 係 について・ 友 人 を 増 やしたい、 友 だちともっと 仲 良 くなりたいという 気 持 ちは 強 いが、 話 題 提 供 をしたり交 互 に 話 し 続 けることは 苦 手 で、 同 じような 質問 を 繰 り 返 しがちである。- 61 -


小 池 春 菜 ・ 石 﨑一 記 勉 強 、 学 習 面 について・スケジュールに 組 み 入 れてあれば、 自 学 自 習 することができる。 性 格 ・ 行 動 の 特 徴 について・ 穏 やかで 人 なつこい 性 格 で、 笑 顔 でいることが多 い。・ 暴 力 的 な 行 動 や 乱 暴 な 言 葉 づかいをされることが 苦 手 で、 避 けようとする。・ 女 性 の 接 し 方 が 不 器 用 で、 必 要 以 上 に 恥 ずかしがり、 目 を 見 て 話 そうとしないことがある。 その 他・ 最 近 友 だちと 野 球 をしたいと 思 っており、 仲 間には 入 っているが、 本 来 臆 病 のためキャッチボールもおそるおそるという 感 じである。・ 同 じ 参 加 者 で あ る A . U や ス タ ッ フ と 少 しキャッチボールができればと 思 っている。2. 期 間 中 の 行 動 1 日 目受 付 には 両 親 と 一 緒 に 来 て、 置 いてある 名 簿 をじっと 見 つめながら 受 付 を 済 ませた。「こんにちは。」と 声 をかけると、Y.Mは「こんにちは。」と 小 さな 声 で 言 った。そのまま2 階 の 講 義 室 に 行くと、 荷 物 を 置 き、また1 階 の 受 付 に 下 りていった。 受 付 では、 名 簿 をじっと 覗 き 込 んでいた。その 後 、 階 段 で2 階 に 駆 け 上 がったかと 思 うと、 廊下 をうろうろし、また1 階 に 下 りて 今 度 は 外 を 走り 回 っていた。 少 しして2 階 に 戻 ると、Y.Mはプレイルームの 中 に 入 っていった。おもちゃの 車を2、3 台 手 に 取 り、「これは? 誰 のものですか?」と 聞 いてきたので、「この 部 屋 のものだよ。」と 返事 をすると、「はい。」と 言 った。そして、プレイルームで 自 己 紹 介 をした。「すっぷーだよ。よろしくね。」と 言 うと、Y.Mは「すっぷー…はい。」と 言 った。講 義 室 で 名 札 を 作 るとき、 自 分 が 所 属 するグループカラーの 名 札 に 名 前 を 書 くことになっていたため、「うちのグループはオレンジだよ。」と 伝えると、「はい。」と 言 ってオレンジの 名 札 を 手 にとった。しかし、その 名 札 に 名 前 を 書 くことをためらい、 他 の 色 の 名 札 を 手 に 取 ったり 置 いたりした 後 、 両 親 のもとへ 向 かった。 母 親 に「ちゃんと 自 分 でスタッフの 方 に 聞 いて 書 いてきてください。」と 言 われると、Y.Mは 名 札 が 置 いてあるところに 戻 り、 青 色 の 名 札 に 名 前 を 書 いてもいいかと 尋 ねてきた。「んー…そうだねぇ、グループのみんなでお 揃 いにするのはどう?」と 伝 えると、Y.Mはさっとペンを 持 ち、オレンジの 名 札 に 名前 を 書 いていた。開 会 式 では 指 つかみゲームをやったが、Y.Mはずっと 視 線 をそらしていたためか、なかなか 指をつかむことができなかった。テーマソング 練 習の 際 には、 今 年 のテーマソング『 笑 ってたいんだ』を 知 っており、 歌 集 を 見 ながら 歌 詞 を 追 うように歌 っていた。バスに 乗 るときには 両 親 に 手 を 振 り、 携 帯 電 話を 取 り 出 して 窓 越 しに 電 話 をしていた。バスが 出発 すると、 携 帯 電 話 で 好 きな 音 楽 を 聴 いたり、 外を 走 る 車 の 写 真 をとったりしていた。Y.Mの 携帯 電 話 には 車 の 写 真 がたくさん 入 っていたため、「 車 が 好 きなんだね、いっぱい 撮 ってるね。」と 言うと、「はい。」と 嬉 しそうに 答 えていた。その 後 、ゲームの 話 になり、Y.Mに「 何 使 う?」と 聞 かれたので「キャラクターってこと?」と 言 うと「はい。」と 答 えた。「うーん、クッパとか… 使 ってたっけなぁ。Yは?」と 聞 くと「カービイ。」と 言 った。バディの 返 事 になぜか 不 服 そうであったため、「クッパはだめ? 使 えない?」と 聞 くと、Y.Mは「はい。だめです。」と 答 えた。バスの 中 ではサマースクールの 目 標 を 色 紙 に 書 く 時 間 があり、Y.Mの 色 紙 には、みんなと 仲 良 くすると 書 かれていた。昼 食 はおにぎりを3つ 食 べていた。 昼 食 を 食 べた 後 は、 崖 のようなところを 恐 る 恐 る 歩 き 始 めた。「それ 以 上 行 くと 危 ないよ。」と 伝 えると「 何 で?」と 言 った。「 怪 我 をしちゃうからだよ。」と 言 うと「はい。」と 言 って 安 全 なところまで 戻 ってきた。- 62 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その5)しかし、 他 の 参 加 者 が 同 じところを 歩 いて 行 こうとするのを 見 て、 崖 を 行 き 来 していた。施 設 につくと、 自 分 の 部 屋 に 荷 物 を 置 きに 行 くことになった。 荷 物 を 持 って 階 段 を 上 る 際 、 近くにいた 参 加 者 が 苦 労 している 姿 を 見 て、「 手 伝う?」と 聞 いてきた。「 手 伝 ってあげようか。」と言 うと、 黙 って 荷 物 を 運 ぶお 手 伝 いをしていた。遊 び 場 作 りでは、 初 めは 何 をすればよいのかわからずふらふらと 歩 いたり 走 ったりしていたが、そのうち 虫 を 捕 まえることに 夢 中 になった。 蟋 蟀を 捕 まえ、「 虫 カゴは?」と 聞 いてきたので「 研修 室 にあるかな? 見 に 行 く?」と 言 うと「 見 に 行く。」と 言 って 研 修 室 まで 走 り 出 した。 虫 カゴを見 つけると、 捕 まえた 蟋 蟀 を 入 れ、 虫 の 様 子 をじっくりと 眺 めていた。その 後 、 蛙 を 捕 まえてカゴに入 れたがすぐに 死 んでしまい、「 何 で?」と 言 ってカゴから 出 していた。 蟋 蟀 の 入 ったカゴをぶら下 げて 歩 いていると、R.Mに「Y.M、バレーボールしようよ。」と 声 をかけられた。Y.Mは「うん。」と 言 って 仲 間 に 入 り、バレーボールを 始 めた。しばらくは 身 体 を 硬 くしてキャッチしていたためあまりボールが 跳 ばなかったが、R.Mに 何 度 かパスを 回 してもらうと 少 しずつボールが 跳 ぶようになっていった。 最 後 に「またやろうな。」と 言 われ、「うん。」と 力 強 く 頷 いていた。夜 、 少 し 雨 が 降 ってきたため、 花 火 は 翌 日 に 延期 になり、 研 修 室 でゲーム 大 会 をした。ゲーム 大会 では、『なんでもバスケット』などを 行 った。Y.Mは 男 性 スタッフに 代 わる 代 わるくっつき、 楽 しそうに 笑 いながら 移 動 していた。オセロの 時 間 には、 対 戦 表 を 見 て 自 分 の 名 前 を書 いていた。「 誰 とやればいいの?」と 聞 かれたので「この 表 に 書 いてあるみんなとやるよ。まだ誰 ともやってないから、 今 日 は 誰 とやろうか。」と 答 えると、 同 じグループであるK.Sのところに 行 ってしばらく 立 ち 止 まっていた。「オセロやろうって 言 ったら、きっとやってくれるよ。」と後 ろから 声 をかけると、「うん。」と 言 ってK.Sに「オセロやろう。」と 話 しかけていた。その 後 、S.Yにも 同 じように 声 をかけてオセロをしていた。 結 果 、1 勝 1 敗 であった。この 日 の 日 記 には、 虫 をたくさん 捕 まえたこと、蛙 が 死 んでしまって 悲 しかったこと、 花 火 が 中 止になって 残 念 だったこと、 昼 に 食 べたおにぎりがおいしかったことが 書 かれていた。低 学 年 就 寝 の 時 間 になると、「 誰 が 寝 たの?」と 何 度 も 聞 いてきていた。 同 じグループで 就 寝 時間 に 入 ったメンバーを 答 えると、その 個 人 個 人 について 寝 たのかどうか 確 認 の 質 問 を 繰 り 返 していた。バディが 答 えていると、 急 にバディの 顔 を 見て「 低 学 年 だからだよね。」と 言 っていた。 高 学年 就 寝 の 時 間 になると、 部 屋 に 戻 って 歯 ブラシを探 していた。 歯 ブラシが 見 つかると、 低 学 年 が 本当 に 寝 ているのか 見 に 行 くと 言 うので「 見 に 行 ったら 起 こしちゃうよ。」と 口 に 指 をあてて 返 事 をすると、Y.Mも 同 じように 口 に 指 をあてて「 寝てるんだよね。」と 言 って 笑 った。 歯 を 磨 き、 何度 か 廊 下 を 行 ったり 来 たりしていたが、「 寝 る 時間 だよ。」と 言 うと「はい。」と 言 って 布 団 に 入 り、「おやすみなさい。」と 眠 りについた。 2 日 目この 日 は 朝 、 起 こしに 行 くと、 布 団 に 包 まるようにして 眠 っていた。「おはよう。」と 声 をかけると「おはようございます。」と 言 って 起 き 上 がった。「ラジオ 体 操 だよ。」と 言 うと 急 いで 支 度 をして 外 へ 出 た。まだあまり 人 が 集 まっていなかったため、ラジカセでテーマソングを 聴 いたり、「ワンピース 聴 きたい。」と 言 って 曲 を 探 したりしていた。ラジオ 体 操 が 始 まると、 元 気 よく 身 体 を 動かしていた。 散 歩 の 時 間 、「ピザは?」と 聞 いてきたので「 今 日 だよ。」と 答 えると「わかった。」と 言 って 前 を 向 き、ぐんぐん 歩 いていった。 朝 食では、 率 先 してご 飯 の 盛 り 付 けを 手 伝 っていた。係 の 仕 事 では、 洗 濯 係 がやりたいと 言 い、グループの 洗 濯 物 を 持 って 外 へ 出 た。 洗 濯 機 の 近 くにはS.MやU.Aがおり、「Y.M!」と 話 しかけ- 63 -


小 池 春 菜 ・ 石 﨑一 記られると 笑 顔 で 輪 に 入 っていった。朝 の 学 習 では 漢 検 ドリルに 取 り 組 んでいた。 途中 、 研 修 室 に 置 いてあったシュラフのところへ 行き「 寝 たい。」と 言 ってシュラフに 包 まって 寝 ころがっていたが、しばらくするとまた 漢 検 ドリルに 戻 った。 朝 の 学 習 の 時 間 が 終 わるとR.Mに「 遊ぼうよ! 待 ってるから!」と 言 われ、Y.Mは「うん。」と 返 事 をしたものの 漢 検 ドリルを 続 けていた。 少 しして、「R.Mが 遊 ぼうって 言 ってたよ。」と 伝 えると、「いいや、 俺 勉 強 してるし。」と 言 っていた。野 外 遊 びでは、 虫 カゴを 持 って 虫 を 追 いかけては「どこ 行 った?」と 言 い、 次 から 次 へと 走 り 回 っていた。 草 むらでカマキリと 蛾 、 蜻 蛉 を 捕 まえてカゴに 入 れていた。また、 虫 カゴを 置 くと、 自 分がどこに 置 いたのか 忘 れてしまい、 探 し 回 るということを 繰 り 返 していた。 途 中 、 他 の 子 どもたちが 集 まっているところを 立 ち 止 まって 見 ていたため、「 入 れてもらう?」と 聞 くと「 考 え 中 です。」と 答 えていた。ピザ 作 りでは、 積 極 的 に 道 具 の 準 備 をしていた。その 後 、グループの 子 どもたちと 協 力 して 生 地 をこねていた。 生 地 が 出 来 上 がると、コーンやサラミなどの 具 をたくさんのせ、 釜 まで 走 って 焼 きに行 っていた。 焼 きあがると 席 に 着 き、 黙 々と 食 べていた。「もう1 枚 作 ってもいい?」と 聞 かれたので「いいよ。」と 言 うと、 再 び 生 地 に 具 をたくさんのせて、 釜 まで 走 って 行 っていた。午 後 は 川 遊 びをした。ライフジャケットを 着 る際 、 自 分 で 選 んで 大 人 用 のものを 着 ていたが、Y.Mには 大 きいように 見 えたため、「それより 小 さいのを 着 た 方 がいいんじゃないかな。 脱 げると 危ないよ。」と 言 うと「いい。 大 きいの 着 る。」と 言 って 脱 ごうとしなかった。 結 局 、バンザイをしても脱 げないことが 判 明 したため、 大 きいものを 着 用して 川 遊 びに 向 かった。 川 遊 びでは、 潜 ることができる 深 さのところを 好 んで 遊 び、 川 の 端 に 立 って 飛 び 込 むことを 繰 り 返 していた。 川 の 中 に 稚 魚を 見 つけると、ペットボトルに 入 れて 稚 魚 の 様 子を 眺 めていた。 筏 が 流 れてくると 近 づいていき、スタッフに「Y.Mも 乗 る?」と 聞 かれ「うん。」と 言 って 筏 にしがみついていた。 川 遊 びが 終 わると、タオルで 身 体 を 丁 寧 に 拭 き、バディが 持 っていたY.Mの 上 着 を 見 て「 着 る。」と 言 った。「そうだね。 寒 くなっちゃうもんね。」と 言 うと、「うん。 寒 くなっちゃう。 寒 くなったら 風 邪 ひいちゃう?」と 言 っていた。夜 の 花 火 大 会 では、 自 分 の 花 火 になかなか 火 がつかないので「 何 で?」と 言 っていた。しかし、他 の 子 どもたちが 花 火 同 士 をくっつけて 火 を 分 け合 っている 姿 を 見 て、 次 第 に 真 似 をするようになった。 同 じグループのS.Yが 火 をもらいにくると、「いいよ。」と 言 って 分 けてあげていた。オセロの 時 間 では、 誰 とオセロをしていいのかわからずうろうろしていた。「まだM.Eとやってないんじゃない?」と 言 うと「M.Eとやる。」と 言 った。「じゃあM.Eにお 願 いしてみようか。」と 言 うと、「お 願 いする。」と 言 ってM.Eのところまで 行 き、「M.E、オセロやろう。」と 声 をかけてオセロをしていた。M.Eとのオセロに 勝 利し、「 勝 ったね。よかったね。」と 言 うと「はい。」と 笑 顔 で 答 えていた。この 日 の 日 記 には、カマキリと 蛾 を 捕 まえたこと、ピザを 焼 いたこと、 川 遊 びをしたこと、 花 火大 会 で 友 だちと 火 を 分 け 合 ったことが 書 かれていた。寝 る 前 は「S.Yは 寝 た?」と 聞 き、「もう 寝たよ。 低 学 年 だからだよ。」と 言 うと「 低 学 年 だから、 寝 たんだね。」と 笑 って 歯 を 磨 きに 行 った。布 団 に 入 ると「 明 日 何 時 に 起 きる?」と 聞 いてきたので「6 時 には 起 こしにくるよ。」と 言 うと「わかった。」と 返 事 をして 眠 りについた。 3 日 目この 日 は 起 こしに 行 くとすでに 目 覚 めており、ベッドの 上 であぐらをかいていた。 着 替 える 際 、「 着 替 えてもいいですか?」と 聞 いてきたので- 64 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その5)「あぁ、そうか。ごめんね。」と 言 ってバディが 部屋 を 出 ると、ドアを 閉 めて 着 替 えていた。その 後 、虫 かごに 入 れていた 蛾 が 死 んでしまっていることに 気 が 付 き、「 何 で? 何 で?」と 繰 り 返 していた。朝 食 後 は、 今 日 も 洗 濯 係 をやると 言 い、グループの 洗 濯 物 を 集 めて 洗 濯 機 があるところへ 持 って行 った。 洗 濯 物 を 持 って 行 く 途 中 、 施 設 の 前 に 止まっていた 車 の 前 で 立 ち 止 まり、 携 帯 電 話 で 写 真を 撮 っていた。その 写 真 をじっと 見 ながら 歩 いていたY.Mは 突 然 、「 自 分 は 荒 っぽいところがある。」と 言 い 出 した。「 車 に 関 して? 荒 っぽいってこと?」と 聞 くと、 写 真 から 目 を 離 さずに「 違 う。」と 言 い、それ 以 上 は 何 も 言 わず 洗 濯 機 に 向 かって走 って 行 った。どろんこ 遊 びへ 向 かう 道 中 では、 歩 き 疲 れた 様子 で「 疲 れた。 休 む。」と 言 って 何 度 か 座 ったり、「 車 に 乗 りたい。トトロの 車 に 乗 る。」と 言 ったりしていた。また、「 俺 は 気 難 しい 性 格 だから。」と言 い 出 し、その 後 すかさず「 気 難 しいって 何 だ?」とぼそっとつぶやいていた。どろんこ 遊 びでは、「もう 入 っていい? 入 っていい?」と 繰 り 返 し 聞 いていた。「いいよ。」と 言うと、 勢 いよく 田 んぼに 入 っていった。スタッフに 泥 をかけたり、 相 撲 を 申 し 込 んだりしながら、肩 まで 泥 に 浸 かり 終 始 笑 顔 で 遊 んでいた。マスつかみでは、 初 めのうち、 魚 の 滑 りで 手 から 離 れてしまうことが 多 く、うまく 掴 むことができなかった。それでも 真 剣 な 面 持 ちで 川 を 覗 いていた。1匹 捕 まえることができると、「これ。」と 見 せてくれた。「よかったね。 捕 まったね。また 行 ってくる?」と 聞 くと「 行 く。」とすぐに 川 に 戻 っていった。 最 終 的 には2 匹 捕 まえることができた。 獲 ったマスの 内 臓 を 取 る 際 には、 割 り 箸 でうまく 取 ることができず「やって。」と 言 っていたが、「 一 緒にやってみる?」と 言 うと、「すっぷー、 一 緒 にやりましょう。」と 返 事 をした。 焼 けたマスを 食べると「おいしい。」と 言 って 夢 中 になって 食 べていた。帰 りは 年 少 の 子 や 疲 れている 子 が 車 に 乗 っているのを 見 て「 車 に 乗 りたい。トトロの 車 に 乗 る。」と 言 っていた。Y.Mの 足 取 りが 軽 かったため、「あれは 小 さい 子 や 疲 れている 子 が 乗 ってるんだよ。」と 言 うと、「Y.Kは?R.Mは?S.Yは?乗 ってるの? 何 で?」と 何 人 かの 名 前 を 出 して 聞いてきた。「 乗 ってるかもしれないね、S.Yは小 さい 子 だし、Y.KとR.Mは 疲 れているかもしれないね。」と 言 うと、「そうか。」と 笑 顔 になっていた。その 後 も 何 度 か、 誰 が 車 に 乗 っているかとその 理 由 を 確 認 する 質 問 が 続 き、バディの 返 事を 聞 いては 満 足 そうに 頷 いていた。 途 中 、R.Mに「Y.M、 一 緒 に 行 こうよ。」と 声 をかけられ、「うん。」と 返 事 をしていた。2 人 は 特 に 会 話 をしていなかったが、Y.Mの 後 ろをR.Mが 歩 くという 形 で 施 設 まで 戻 った。午 後 の 野 外 遊 びでは、 新 たに 虫 を 捕 まえに 走 ったり、ブランコに 乗 ったりしていた。ブランコに乗 った 時 、「 押 して。」と 言 われて 背 中 を 押 すと、気 持 ちよさそうな 顔 をして 足 をぶらぶらとさせていた。また、ハンモックに 乗 ると「 揺 らして。」と 言 い、しばらくして「もういいです。」と 言 ってハンモックに 揺 られながら 目 を 閉 じていた。火 起 こし 大 会 では、 最 初 グループが 集 まっている 中 をうろうろとしていたが、マッチをつける 段階 になると 年 少 のS.Yが 持 っていたマッチを 渡してもらい、「つけてあげるね。」と 言 ってマッチに 火 をつけていた。その 後 、「(S.Yは) 小 さいから。 危 ないから。だからやってあげた。」と 自らの 行 動 の 理 由 を 説 明 しに 来 ていた。カレーコンテストでは、ルーが 置 いてあるところに1 人 で 向 かい、「これにする。」と 決 めていた。その 頃 グループでは、まだ 誰 がどのように 動 くのか 話 し 合 っている 最 中 であったため、「そのルーを 使 ってもいいか、グループのみんなに 聞 いてみないとだね。」と 声 をかけると「うん。」と 言 って、「これでいい?」と 聞 きに 行 っていた。グループのみんなにOKをもらい、 今 度 は 野 菜 を 選 びに- 65 -


小 池 春 菜 ・ 石 﨑一 記行 っていた。 野 菜 の 切 り 方 について、スタッフに「 上 手 だね。」と 何 度 も 褒 められていた。 自 分 たちで 作 ったカレーを 食 べると「おいしい。もっと 食べたい。」と 鍋 を 覗 き 込 み、おかわりをして 食 べていた。この 日 の 日 記 には、 蛾 が 死 んで 悲 しかったこと、どろんこ 遊 びが 楽 しかったこと、マスがおいしかったことが 書 かれていた。研 修 室 にいるとき、 携 帯 電 話 を 片 手 に 突 然 「 手があかないって 何 ? 携 帯 の 辞 書 で 調 べても 出 てこないんだよ。 何 で? 何 で?」と 言 っていた。「 手があかない… 誰 かに 言 われたの? 忙 しいってことだよ。」と 言 うと、「わかった。」と 言 って 携 帯 電話 をしまった。寝 る 前 、「Y.Kは 寝 た?R.Mは 寝 た?S.Yは 寝 た?」と 聞 き、 寝 たことを 確 認 しにそれぞれの 部 屋 に 向 かった 後 、 自 分 の 布 団 に 入 っていった。 4 日 目この 日 は 朝 、「おはよう。」と 声 をかけると、 布団 から「おはようございます。」と 笑 って 顔 をのぞかせていた。 着 替 えて 何 も 持 たずに 外 へ 出 ようとしたため、「カードはいいの?」と 聞 くと「そうだ。」と 言 って 部 屋 に 戻 り、カードを 持 って 外に 出 た。 散 歩 の 時 、「 今 日 は 何 をするの?」と 聞いてきたので、「 今 日 はお 昼 にそうめんを 食 べるよ。タライに 入 ってて、そこからみんなでとって食 べるんだよ。 外 で 遊 ぶ 時 間 もあるよ。」と 伝 えると「そうめん?うどんは?」と 言 っていた。「 今年 はうどんじゃなくてそうめんなんだよ。」と 伝えると、「 何 で?うどんは?」と 強 い 口 調 であった。朝 食 の 後 、 研 修 室 でR.Uが 電 車 すごろくを 広げている 様 子 を 近 くで 見 ていた。すごろくに 書 かれている 電 車 の 名 前 を 見 たりR.Uの 顔 を 見 たりと、 目 線 をそわそわさせていた。「 入 れてもらう?」と 聞 くと、「うん。 入 れてもらう。」と 言 ったため「じゃあR.Uに 聞 いてみようか。」と 促 すと、R.Uの 前 に 座 って「R.Y、やろうよ。」と 声 をかけていた。その 後 、S.Yが 来 て「 入 れて。」と言 われると、 率 先 して「いいよ。」と 言 っていた。午 前 中 はずっと 漢 検 ドリルに 取 り 組 んでいた。「 外 で 遊 ばなくていいの?」と 聞 くと「いい。」と言 って、 勉 強 に 集 中 していた。わからない 漢 字 が続 くと「あー。」と 言 って 丸 つけを 始 めた。「 漢 字たくさん 勉 強 してるね。」と 言 うと、 今 まで 勉 強してきたノートを 見 せてくれた。それを 見 て「すごい、すごい。こんなにやったんだ。」と 言 うと「はい。」と 笑 顔 で 返 事 をしていた。 集 中 できなくなるとオセロやジェンガに 手 を 伸 ばしていたが、しばらくするとまた 漢 検 ドリルに 向 かっていた。お 昼 は、タライに 入 ったそうめんをたくさん 食べていた。 一 杯 目 を 食 べている 時 、 立 っているバディの 方 を 見 て「スタッフの 分 は?」と 聞 いてきた。「スタッフも 食 べるよ。だからY.Mは 食 べていて 大 丈 夫 だよ。ありがとう。」と 言 った。 途中 、Y.Mは 飲 み 物 を 取 りに 席 を 立 った。すると「みんなの 分 ?」と 聞 いてきたので、「みんなの 分も 持 って 行 く?」と 言 うと「 持 って 行 く。」と 言 ってグループのメンバーの 分 のお 茶 を 用 意 していた。昼 食 後 、どこからともなく 水 遊 びが 始 まると、Y.Mは 笑 顔 で 混 ざりに 行 っていた。スタッフにバケツで 水 をかけたり、 自 ら 水 を 被 ったりしていた。バディが 近 くにいる 時 は、ペットボトルで水 をかけてきた。 水 遊 びが 終 わってみんなが 片 づけを 始 めると、「もう 終 わり?もう 水 遊 びしないの?」と 何 度 も 言 っていた。午 後 の 野 外 遊 びでは、 即 座 にブランコに 向 かっていった。しかし、 最 初 は 女 の 子 たちが 使 っており、なかなか 乗 ることができなかった。その 後 、順 番 があくとブランコに 座 り、I.Nに「 押 しますか?」と 聞 かれ「はい。」と 答 えてI.NやH.Oにブランコを 押 してもらっていた。夜 のお 楽 しみ 会 では、 子 どもたちがお 化 け 役 となり 肝 試 しを 行 い、Y.Mも 同 じグループの 子 どもたちと 協 力 してスタッフを 驚 かせていた。- 66 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その5)日 記 の 時 間 には、H.Sが 大 きな 声 を 出 したことに 腹 を 立 て、「うっせんだよ。」とつぶやいていた。その 後 、ウノをしていたが 集 中 できずに 輪 から 離 れ、 耳 を 塞 いで 横 になって「あー。」と 苛 立 った 様 子 で 身 体 をゆすっていた。どうしたのか 聞 くと、2 年 前 に 参 加 者 の 中 でうるさい 子 がおり、その 時 のことを 思 い 出 してイライラしているとのことであった。ゆっくり 話 を 聴 いていると、 次 第 に身 体 を 起 こして 座 った。そして 近 くにいたA.Uに 話 しかけ、 中 学 のクラスで 誰 が 同 じ 高 校 に 行 くのかということを 話 し 始 めた。だんだんと 口 調 が落 ち 着 いてくると、A.Uとの 会 話 を 切 り 上 げ、ウノの 輪 に 戻 っていった。この 日 の 日 記 には、そうめんのことや 水 遊 びが楽 しかったことが 書 かれていた。寝 る 前 は 廊 下 を 何 度 も 行 き 来 していたものの、「 寝 る 時 間 だよ。」と 声 をかけると「みんな 寝 たの?S.Yは?Y.Kは? 寝 た?」と 言 っていた。みんな 寝 たことを 伝 えると、「はい。」と 言 って 布 団に 入 っていった。 5 日 目この 日 は 起 こしに 行 くと、 布 団 の 上 をごろごろとしており、 起 き 上 がるのに 時 間 がかかった。「おはよう。 眠 い?」と 聞 くと、「 眠 い…もうちょっと 寝 る。」と 言 った。「そっかぁ、もうちょっと 寝たいかぁ。じゃあ 今 日 はラジオ 体 操 お 休 みする?」と 言 うと、「ラジオ 体 操 行 く。」と 言 って 急 いで 着替 えて 外 に 出 た。 体 操 中 、 最 初 は 後 ろの 方 にいたが、 徐 々に 前 方 に 向 かって 歩 いていった。川 登 では、バディが 足 を 怪 我 しており 浅 いところしか 歩 くことができなかったため、 他 のスタッフと 一 緒 に 登 っていた。 登 る 前 、Y.Mに「これ持 ってて。」と 帽 子 とタオルを 渡 された。「じゃあ預 かっておくね。 濡 らさないように 頑 張 るね。」と 言 うと「うん。」と 返 事 をして 勢 いよく 登 っていった。 途 中 、スタッフに「すっぷーは?」と 聞いていた。スタッフが「すっぷーは 怪 我 してるから 後 ろにいるよ。」と 言 うと「うん。」と 言 ってまた 歩 き 出 した。 川 登 が 終 わると、Y.Mはタオルで 自 分 の 身 体 を 丁 寧 にふいていた。「 楽 しかった?」と 聞 くと「 楽 しかった。もう 終 わり?」と言 っていた。昼 食 を 食 べ、 近 くの 公 民 館 に 入 ると、 玄 関 のイスに 座 って 新 聞 のテレビ 欄 を 見 ていた。 突 然「えっ。」と 声 を 上 げたので、「どうしたの?」と聞 くと、Y.Mは AKB48のテレビ 番 組 欄 を 見 ながら、「あっちゃん 卒 業 するの?」と 言 った。「そうだねぇ。そろそろなんじゃないかなぁ。」と 言うと「あっちゃん 卒 業 したらどうなるの?」と 焦 ったように 聞 いてきた。「うーん、AKB としては歌 わなくなっちゃうのかな…。 悲 しい?」と 言 うと、「 悲 しい。」と 言 って 俯 いていた。山 登 りでは、 登 り 始 めてすぐに「もうダメだ。」と 言 っていたものの、 汗 をかきながら 一 生 懸 命登 っていた。 途 中 、「 疲 れた。」と 言 うので、「 疲れたね。 少 し 休 む?」と 聞 くと「 大 丈 夫 。」と 言 って 歩 き 出 していた。バディが 遅 くなると、 少 し 先で 待 っていてくれていた。 下 りでは、 大 きなカマキリと 小 さなバッタを 捕 まえており、それを 見 て近 づいてきたS.Yに 見 せていた。施 設 に 帰 りスイカを 食 べ、みんなでテーマソングを 歌 った。Y.Mはとても 楽 しそうに、 跳 びはねて 歌 っていた。バーベキューでは、 率 先 して 材 料 を 切 っていた。肉 を 切 る 時 、「どうやって 切 ればいいの?」と 聞いてきたので「ここを 切 って 開 いて… 後 は 食 べたい 大 きさでいいよ。」と 言 うと、「わかった。 大 きく 切 る。」と 言 って 宣 言 通 りに 大 きく 切 っていった。 食 事 が 始 まると、 自 分 が 切 った 肉 にタレをたくさんつけて「おいしい。」と 言 って 食 べていた。鉄 板 で 焼 いていたスタッフに「まだ 食 べられる?」と 聞 かれると、「 食 べられる。」と 言 って 何 度 もおかわりをしていた。夕 食 後 、A.UやI.Kたちが 野 球 をしているのを 見 て 近 くに 向 かい、A.Uに 誘 われて 野 球 をしていた。1 人 がフライを 上 げて 他 の 誰 かがそれ- 67 -


小 池 春 菜 ・ 石 﨑一 記をキャッチする、ということをしていたが、 最 初 、Y.Mはなかなかキャッチすることが 出 来 なかった。しかし、メンバーに「ドンマイ。」と 励 ましてもらいながら 続 けていると、 徐 々にキャッチできる 回 数 が 増 えていった。メンバーに「 上 手 くなったね。」と 言 われ、「うん。」と 言 って 笑 っていた。別 れの 集 いでは、 火 が 燃 えているのを 見 つめながら 席 についた。その 後 、 一 人 ずつ 今 感 じていることやこれからの 目 標 を 言 う 場 面 があった。はじめはどのように 言 えばいいのかわからず、「 何 て言 えばいいの。」と 聞 いてきたので、「 最 初 にY.Mですって 名 前 を 言 うよ。その 後 、サマースクールで 何 が 楽 しかったのかみんなに 話 せばいいんだよ。」と 言 うと「わかった。」と 言 い、 順 番 がくるとすらすらと 自 分 で 話 していた。この 日 の 日 記 では、 川 登 をする 自 分 の 絵 を 描 き、山 登 りやバーベキューのこと、たくさんの 友 達 ができて 嬉 しかったことなどを 文 章 で 書 いていた。夜 は、 洋 服 の 整 理 をしてから「 歯 磨 き。」と 言 って 足 早 に 歯 を 磨 きに 行 き、 布 団 に 入 るとすぐに眠 ってしまった。 6 日 目この 日 は 朝 起 きてさっと 洋 服 に 着 替 え、ラジオ体 操 のカードを 手 に 持 ち 素 早 く 外 へ 出 た。ラジオ体 操 の 音 楽 が 始 まると 参 加 者 とスタッフの 間 を 潜り 抜 け、お 手 本 で 立 っていたスタッフの 横 に 並 んで 笑 顔 で 体 操 をしていた。 散 歩 の 時 間 は、R.Mと 一 緒 に 歩 いていた。 途 中 で 振 り 返 り、「 今 日 は何 がある?」と 聞 かれたので、「 今 日 はお 昼 に 鹿沼 サンドがあるよ。みんなでサンドイッチ 作 るよ。その 後 はバスに 乗 って 帰 るよ。」と 言 うと「わかった。」とはっきりとした 声 で 頷 いた。朝 の 学 習 では、 漢 検 ドリルの 続 きに 取 り 組 んでいた。オセロ 大 会 の 結 果 について、「オセロ、どうなった? 勝 ったの?」と 聞 いてきたので「 勝 ったよ。 決 勝 トーナメントいけるよ。だから 前 にあるトーナメント 表 にY.Mの 名 前 が 書 かれると 思うよ。」と 言 うと、 自 ら 席 を 立 ち、 前 に 貼 り 出 されていたトーナメント 表 を 見 に 行 っていた。オセロ 大 会 の 決 勝 トーナメントでは、A.Nと戦 うことになった。 対 戦 相 手 が 女 の 子 ということがわかると、もじもじとして 落 ち 着 かないようで、なかなか 座 ろうとしなかった。A.Nが 準 備 を 整え 正 座 をして 待 っていたため、「じゃあ 始 めようか。」と 対 戦 する2 人 に 声 をかけると、Y.Mもようやく 腰 を 下 ろし、オセロを 始 めた。 対 戦 中 、Y.Mは、ほとんど 目 線 を 遠 くに 向 けている 状 態であった。昼 食 のサンドイッチ 作 りでは、まだ 準 備 の 段 階で「もうやっていいの?」と 聞 かれたので、「まだだよ。もう 少 し。みんなお 皿 持 って 並 んでいるから、Y.Mもお 皿 持 って 並 んできたらいいんじゃないかな。 準 備 ができたら 作 れるよ。」と 言 うと、お 皿 を 見 つけて 一 枚 手 に 持 ち、みんなの 列 に 並 んでいた。 初 めに 作 ったサンドイッチはハムやチーズなどを 挟 んだボリュームのあるもので、2 回 目はジャムやチョコレートクリームなどを 塗 った 甘いものを 作 っていた。 席 に 着 くと、 他 のメンバーが 作 ったものをちらちらと 見 ながら、 黙 々と 食 べていた。帰 りのバスでは、 男 性 スタッフのとなりに 座 りたいと 言 って 座 っていた。 途 中 、バスが 車 の 販 売店 の 横 を 通 り 過 ぎることがあり、Y.Mは 身 体 を浮 き 上 がらせて 車 を 見 ていた。「Y.M、 車 たくさんあるね。よかったね。」と 言 うと、「はい。」と 笑 顔 で 返 事 をした。セブンイレブンの 前 にバスが 到 着 し、 荷 物 を持 って 二 階 に 上 がると「どこに 行 けばいいの。」と 聞 かれたので「あそこだよ。グループのみんながいるよ。」とグループの 席 を 指 でさすと、そこへ 向 かって 歩 いて 行 った。グループごとに 表 彰 をすると、Y.Mは 賞 状 に 書 かれた 内 容 をじっと 見つめていた。 近 くにいたスタッフにも、 自 分 の 賞状 を 見 せていた。 解 散 になると、スタッフと 一 緒に 大 学 院 内 を 歩 いたり、「 写 真 撮 りたい。」と 言 って 写 真 を 撮 っているところに 自 分 から 混 ざりに- 68 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その5)いっていた。 門 のところまで 見 送 ると、「ありがとうございました。」と 言 って 母 親 と 共 に 帰 っていった。3. 事 後 のアンケート今 年 度 の 援 助 的 サマースクールについて、 保 護者 にアンケートを 行 った。 以 下 は、アンケートによる 事 後 報 告 である。帰 宅 後 、Y.Mが 家 で 話 したこととして、 友 だちと 食 事 を 一 緒 にしたり 作 ったりしたこと、 川 で泳 いだことやどろんこ 遊 びをしたこと、 野 球 やドッジボールをしたこと、キャンプファイヤーや朝 のラジオ 体 操 のこと、お 手 伝 いをしたこと、 去年 会 えたのに 今 年 会 えなかった 友 だちやスタッフのことなどが 挙 げられていた。また、 同 じ 中 学 の 友 だちとまた 一 歩 仲 良 くなったようで、おしゃべりだけでなく、 野 球 などのスポーツを 一 緒 に 楽 しむ 機 会 が 増 えたとのこと。洗 濯 や 食 事 作 り、 自 分 の 薬 の 管 理 などを 人 任 せにしないようになりつつあることや、 衣 類 の 好 みも 出 てきたようである。一 番 楽 しかったことは 仲 間 と 一 緒 においしい 食事 をしたことで、 一 番 印 象 に 残 っていることはチャレンジハイキングで 汗 をたくさんかいて 山 登りをしたことであった。Ⅲ. 考 察以 下 、Y.M と 過 ごした6 日 間 について、 自 己理 解 、 確 認 の 質 問 という 観 点 から 考 察 する。1. 自 己 理 解3 日 目 、Y.M は、「 自 分 は 荒 っぽいところがある。」「 俺 は 気 難 しい 性 格 だから。」といった、自 分 の 性 格 について 言 及 する 場 面 がみられた。 宮地 (2010)は、『 思 春 期 になると 人 への 関 心 も 高まり、 友 だちを 求 めたりするようにもなるが、 対人 交 流 を 円 滑 に 行 う 能 力 が 平 行 して 発 達 するわけではなく、そこでさまざまな 葛 藤 が 生 じる。またこの 時 期 には、 自 分 と 周 囲 とを 比 較 し、 自 分 には苦 手 なことがあること、ほかの 多 くの 子 とは 異 なることを 意 識 するようになる。』としている。 中学 生 の 時 期 は、 自 分 のことや 友 人 のこと、 将 来 のことなど、 漠 然 としたさまざまな 悩 みを 抱 えやすい 時 期 であると 言 われている。 中 学 3 年 である Y.M においても、 自 己 と 他 者 の 違 いについて 意 識し 始 める 時 期 なのではないかと 考 えられる。 谷 野(2010) によると、わが 国 の 子 どもたちは、 思 春 期になり 自 己 理 解 がすすむと 自 己 評 価 が 低 下 していくことが 指 摘 されている。また、 発 達 障 害 のある 子 どもたちの 場 合 にはこの 傾 向 が 顕 著 であり、「どうせ 僕 はダメな 人 間 だから」という 間 違 った自 己 意 識 を 抱 きがちであると 述 べられている。このことは、ネガティブな 意 味 をもつと 考 えられるY.M の 発 言 と 結 びつけることができるのではないだろうか。Y.M は、 援 助 的 サマースクールの中 で 他 者 と 関 係 を 構 築 する 上 で、 自 己 と 他 者 に 目を 向 け、 日 常 生 活 場 面 から 持 っている 自 身 についての 理 解 を 口 にしたのではないかと 考 えられる。そのような 時 、 健 常 児 においては、 周 囲 の 反 応 を手 がかりとして 自 身 がうまく 適 応 できているのかという 判 断 を 見 出 すことができると 思 われる。しかし、 自 閉 症 児 は 恐 怖 や 激 怒 、 喜 びのような 感 情を 体 験 することができるが、 彼 らは 他 者 への 心 からの 共 感 が 難 しく、たいていの 子 どもが 容 易 に選 び 取 る 微 妙 な 社 会 的 手 がかりに 気 がつかないと言 われている(Vilayanur S. Ramachandran &Lindsay M. Oberman,2006)。Y.M は、 捕 まえた 虫 が 死 んでしまった 悲 しさや 大 きな 声 に 対 する苛 立 ち、 自 分 達 で 作 った 食 事 を「おいしい。」と言 って 喜 ぶなどの 感 情 を 体 験 し、 表 現 していた。野 村 (2010)によると、ありのままでいられる 仲間 や 感 覚 を 受 け 止 めてくれる 支 援 者 の 存 在 は、 自己 理 解 を 促 進 し 他 者 との 違 いに 気 づかせるため 一度 有 能 感 を 下 げてしまうが、のちに“そういう 自分 も 受 け 入 れていこう”とする 際 の 支 えになっていくだろうとしている。 今 回 、Y.M は 参 加 者 やスタッフとのかかわりを 通 して、 他 者 との 違 いに- 69 -


小 池 春 菜 ・ 石 﨑一 記ついて 気 づかされる 場 面 が 多 くあったのではないかと 考 えられる。しかし、 他 者 への 共 感 が 難 しいといわれる 自 閉 症 児 の 特 徴 に 対 し、Y.M には、「スタッフの 分 は?」「みんなの 分 ?」などの 他 者を 気 遣 う 発 言 がみられていた。そして、グループのメンバーやスタッフに 感 謝 されることを 経 験 していた。このことは、 援 助 的 サマースクールの 環境 の 中 で、 対 人 関 係 の 相 互 作 用 を 体 験 していたものと 考 えられる。2. 確 認 の 質 問援 助 的 サマースクール 期 間 中 、Y.M は、 他 の参 加 者 の 様 子 ( 就 寝 しているのか、 車 に 乗 っているのか 等 )について 繰 り 返 し 質 問 する 場 面 が 多 く見 られた。これら1つ1つの 質 問 に 対 してバディは、その 時 に 把 握 していることを 返 答 し、「 何 で?」という 質 問 に 対 しては、 考 えられる 範 囲 の 明 確 な理 由 を 伝 えるように 心 がけていた。しかし、バディが 把 握 していないことや 返 答 に 自 信 がないような 質 問 の 場 合 には、「~かもしれないね。」「~なんじゃないかなぁ。」といった 曖 昧 な 表 現 になってしまい、そのことで Y.M は 何 度 も 同 じ 質 問を 繰 り 返 していた。 佐 々 木 (2011) は、 発 達 障 害スペクトラムの 特 性 として、 視 覚 的 情 報 への 親 和性 が 大 きいこと、 想 像 力 が 乏 しいことを 挙 げている。このことは、 物 を 目 で 見 て 理 解 しており、 具体 的 でないことやその 時 々の 状 況 などによって 推理 ・ 判 断 しなければならないという 想 像 力 を 必 要とするようなものを 理 解 することが 苦 手 であると説 明 されている。Y.M が 繰 り 返 し 他 の 参 加 者 の様 子 を 質 問 していたことは、 自 分 の 目 に 見 えていない 状 況 を 把 握 し、 場 面 を 秩 序 あるものとして 構造 化 することで 安 心 感 を 得 ていたのではないかと考 えられる。そのため、 他 の 参 加 者 が 就 寝 したことがわかると 自 分 も 就 寝 する 時 間 だということに納 得 し、 布 団 に 入 るという 行 動 をとっていたのではないかと 推 察 される。また、どうしても 視 覚 的に 判 断 をしに 行 くことが 難 しい 状 況 においては、バディに 質 問 し、そしてその 返 答 によって 明 確 な決 まりとして 理 解 していたのではないかと 考 えられる。このことから、バディの 曖 昧 な 返 答 には 困惑 し、 明 確 な 返 答 を 得 られるまで 同 じ 質 問 を 繰 り返 していたのではないかと 考 えられる。Ⅳ. 終 わりにY.M にとって3 回 目 の 参 加 となった 今 回 の 援助 的 サマースクールでは、 自 己 の 内 面 について 言及 する 場 面 や、 他 の 参 加 者 の 様 子 について 繰 り 返し 質 問 する 場 面 が 多 くみられた。このことは、 彼の 思 春 期 という 発 達 段 階 と、 彼 の 感 情 や 行 動 を 無条 件 に 受 け 入 れる 環 境 が 影 響 していたのではないかと 考 えられる。このような 貴 重 な 体 験 をさせていただき、Y.M や 先 生 、バイザーの 方 々、スタッフのみなさまに 感 謝 いたします。参 考 ・ 引 用 文 献宮 地 泰 士 2010 発 達 障 害 における 思 春 期 辻 井 正次 ・ 氏 田 照 子 ( 編 著 ) 発 達 障 害 の 臨 床 的 理 解 と 支 援4 思 春 期 以 降 の 理 解 と 支 援 充 実 した 大 人 の 生 活へのとりくみと 課 題 金 子 書 房 pp.47-52野 村 香 代 2010 社 会 性 の 発 達 支 援 辻 井 正 次 ・ 氏 田照 子 ( 編 著 ) 発 達 障 害 の 臨 床 的 理 解 と 支 援 4 思 春期 以 降 の 理 解 と 支 援 充 実 した 大 人 の 生 活 へのとりくみと 課 題 金 子 書 房 pp.80-84佐 々 木 正 美 2011 発 達 障 害 スペクトラムへの 理 解 ―TEACCH プログラムによる 支 援 ― 橋 本 和 明 ( 編 )花 園 大 学 発 達 障 害 セミナー3 関 係 性 からみる 発達 障 害 こころとこころの 織 りあわせ 創 元 社pp.29-62瀧 水 城 ・ 石 﨑 一 記 2011 援 助 的 サマースクールの 研究 Ⅱ(その2) 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 ,11,46-54滝 吉 美 知 香 ・ 田 中 真 理 2011 自 閉 症 スペクトラム 障害 者 の 自 己 に 関 する 研 究 動 向 と 課 題 東 北 大 学 大 学院 教 育 学 研 究 科 研 究 年 報 ,60(1),497-521谷 野 佳 代 子 2010 中 学 生 への 支 援 ― 学 校 生 活 の 中 で- 70 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その5)の 支 援 の 実 際 辻 井 正 次 ・ 氏 田 照 子 ( 編 著 ) 発 達 障害 の 臨 床 的 理 解 と 支 援 4 思 春 期 以 後 の 理 解 と 支 援充 実 した 大 人 の 生 活 へのとりくみと 課 題 金 子 書房 pp.53-56Vilayanur S. Ramachandran and Lindsay M.Oberman 2006 Broken Mirrors: A Theory ofAutism,SCIENTIFIC AMERICAN- 71 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 ,2013,72-85 阪 無 勇 士 ・ 石 﨑一 記事 例 研 究援 助 的 サマースクールの 研 究 (その6)A Study on Supportive Summer School Ⅺ (6)阪 無 勇 士( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )石 﨑 一 記( 東 京 成 徳 大 学 )Yuuji SAKANASHI (Graduate school of Psychology Tokyo Seitoku University)Kazuki ISHIZAKI (Tokyo Seitoku University)要約本 稿 は ,2012 年 度 の 援 助 的 サマースクールにおける 参 加 者 37 名 のうち 二 度 目 の 参 加 であり ,アスペルガー 障 害 ・ADHD と 診 断 を 受 けた 小 学 校 5 年 生 男 児 K.T について , 期 間 中 の 行 動 の記 録 を 整 理 し , どのような 体 験 をしていたのかを「 二 次 障 害 」の 観 点 から 考 察 した。K.T は 対人 関 係 における 不 安 や 恐 れを 示 していたが , 試 行 錯 誤 し , 前 向 きに 行 動 に 移 す 様 子 が 見 られた。その 一 因 としては , K.T が 自 ら 不 得 意 な 状 況 と 向 き 合 う 機 会 が 設 けられていたこと , 苦 手 さの背 景 にあると 思 われた 傷 つきや 失 敗 の 体 験 が 現 在 の 行 動 の 妨 げとならないようにスタッフが 配慮 し , 受 容 的 な 体 験 となるようにサポートしていたことが 推 測 される。 期 間 後 に 対 人 関 係 の 変化 が 見 られたことは , 自 発 性 が 受 容 される 体 験 の 中 で , 日 頃 の 対 人 関 係 への 苦 手 意 識 が 緩 和 され , 本 来 ある 他 者 への 関 わりの 欲 求 が 現 れたためと 考 えられる。キーワード: 援 助 的 サマースクール,アスペルガー,ADHD, 二 次 障 害Ⅰ.はじめに東 京 成 徳 大 学 大 学 院 が 主 催 する 援 助 的 サマースクール( 以 下 ,サマスク)は,「 浴 びるほどの 自然 体 験 を 提 供 すること」「 異 年 齢 集 団 での 子 ども同 士 の 相 互 作 用 を 大 切 にすること」「 子 どもたちの 自 立 を 大 切 にし, 適 切 な 援 助 を 行 うこと」を 基本 方 針 にもつ。 子 どもたちは 親 もとを 離 れて 自 然の 中 で 生 活 をし,ありのままの 自 己 を 表 現 し, 発揮 するようになる。また,スタッフにとっては,関 わり 方 や 運 営 研 修 の 場 となり, 臨 床 現 場 における 重 要 な 経 験 となる。Ⅱ. 事 例 の 概 要1. 本 児 について 名 前 :K.T 性 別 : 男 子 年 齢 ・ 学 年 :10 歳 小 学 5 年 生 障 害 :ADHD アスペルガー 障 害 参 加 回 数 : 二 回 目以 下 は 事 前 アンケートから 抜 粋 して 記 述 したものである。1 参 加 の 動 機団 体 行 動 の 大 切 さ, 楽 しさなどサマスクを 通 して 学 んできてほしい。2 全 般 的 に 気 になること- 72 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 (その6)学 校 や 家 でも, 思 ったらすぐ 行 動 に 移 す。 嫌 なことは 後 回 しにする。マイペースなところが 和 を乱 す( 注 意 をしても 分 からないことが 多 い)。3 対 人 関 係人 に 嫌 がられても,しつこくする。 来 る 者 はこばまず 去 る 者 追 わずのようなところもある。6 性 格 ・ 行 動 の 特 徴 について明 るくて 気 が 利 く。ふらっといなくなることもある。 団 体 行 動 は 気 が 向 かないと 参 加 しないこともある。7 その 他 , 特 に 伝 えておきたいところ初 参 加 の 年 , 不 安 なまま 出 発 した。 帰 ってきたら 少 し 変 わっていて, 積 極 的 に 家 事 の 手 伝 いをしたり,サマスクでピザが 失 敗 に 終 わり 悔 しかったこと,テント 泊 が 出 来 なかったことを 話 した。2012 年 度 もぜひ 参 加 してみたいと 楽 しそうに 話 していた。2. 期 間 中 の 行 動以 後 ,K.T の 発 言 は「 」, 筆 者 であるゆーじの 発 言 は< >,その 他 の 人 物 の 発 言 は()とする。 一 日 目1 出 会 いK.T は 家 族 とともに 大 学 院 へ 到 着 した。 見 送 りには 従 妹 の R が 来 ていた。K.T の 母 が 受 付 を 済ませる 横 で,K.T は 表 情 を 硬 くしたまま,ずらっといるスタッフの 方 を 見 ていた。 色 々なスタッフから(おはよう)と 声 を 掛 けられても 表 情 は 緩 まず, 無 言 でいた。 受 付 を 終 えたところにゆーじが近 寄 り,と 声 をかけると,「あっちゃんは?」と 昨 年 担 当 したスタッフはいるのかを 尋ねてきた。 今 年 は 参 加 しないこと,いないけどゆーじがいることを 伝 えて 自 己 紹 介 をしあった。その 後 , 外 へ 移 動 し,K.T と 母 とゆーじの 三 人で 参 加 にあたっての 気 持 ちを 話 していた。すると,K.T は 持 ってきたお 菓 子 のグミを 一 つつかみ,ゆーじの 胸 元 に「んっ」と 突 き 出 した。というと,「 担 当 だから」と 言 っていた。K.T の 後 を 追 って 二 階 へ 上 がると, 名 札 を 作 り,旗 に 絵 を 書 き 始 めた。 昨 年 の 旗 を 見 て“あっちゃん”という 文 字 を 見 つけると,「あ,あっちゃんだ!」と 声 を 上 げ, 笑 顔 でゆーじの 顔 を 見 た。 同じ 旗 の 中 に“ゆーじ”という 文 字 を 見 つけると,「あれ, 去 年 いたの!?」と 言 って 驚 いている 様 子 であった。< 実 はいたんだよ。ゆーじは K.T のこと 見 てたんだよ>というと,K.T は 笑 窪 を 出 して笑 っていた。館 内 をゆーじと 一 緒 に 歩 き 回 った。すると,Rが 近 寄 ってきて, 三 人 で 館 内 を 歩 き 回 ることとなった。K.T が 一 人 で 先 へ 歩 いていく 様 子 を 見て, 母 からは 心 配 そうに 声 をかけられていた。K.Tとゆーじがエレベーターへ 乗 ると,R が 乗 る 寸 前で K.T は 扉 を 閉 めた。エレベーターで 二 人 きりになったとき,K.T は「 一 人 になりたいんだ。 早く 行 きたい」と 胸 の 内 をゆーじに 話 した。< 心 配されたくないよね。 一 人 になりたいんだよね>と言 うと,「うん」と 言 って 頷 いていた。2 バスへの 乗 り 込 み開 会 式 が 終 わり,バスへ 備 品 を 運 ぶため,K.Tへゆーじが 側 を 離 れることを 伝 えた。その 際 , 他のスタッフは,K.T へ 皆 が 班 ごとに 並 べるように声 を 掛 けてほしいことを 伝 えていた。すると,K.Tは「 大 丈 夫 。こっちはまかせて」と 言 い, 集 まる人 へ 大 きく 声 掛 けをし 始 めた。バスへ 乗 り 込 む 際 は,R は( 私 も 行 きたい)と言 って 涙 をボロボロとこぼしていた。K.T は 何 も言 わずに 乗 り 込 み,R や 家 族 の 前 に 位 置 する 一 番前 の 窓 際 の 席 に 座 った。< K.T に 会 えなくなるのが 辛 いのかな。 大 好 きなんだね>と 言 うと, 窓を 開 けて,しかめた 表 情 で「なくなよ~」と 一 声掛 けていた。 窓 を 閉 めると,「ふ~」とため 息 をついていた。3 バス 移 動 ・ 休 憩 所見 送 る 家 族 に 手 を 振 ることなく, 顔 を 向 けることもなくバスは 出 発 した。K.T は 窓 の 外 を 眺 めており, 自 宅 のと 同 じ 車 種 の 車 をみつけると,「あ- 73 -


阪 無 勇 士 ・ 石 﨑一 記れ,うちの 車 かな?」と 笑 顔 を 見 せて 話 かけてきた。 席 から 身 を 乗 り 出 し,ナンバーを 確 認 しようとしていた。 家 族 を 気 にしているようであった。K.T にサマスクへの 期 待 や 不 安 について 聞 くと,ピザづくりが 楽 しみということを 話 した。「 去 年失 敗 したからな~・・・」「あっちゃん 元 気 かな~」とゆーじの 顔 を 見 て 言 っていた。 会 いたいのかを尋 ねると,「そりゃ 会 いたいよ~」と 言 う。あっちゃんはゆーじと 同 じ 学 年 であること, 仲 の 良 い 友 達であることを 伝 え,と 言 うと,嬉 しそうににやにやしていた。サマスクで 何 をしたいか 話 をしていると,ゆーじに 向 かって「あっちゃん」と 呼 んだ。と 言 うと,「あ~, 似 てるんだもん!」と 笑 っていた。どこが 似てるのかを 尋 ねると,「 雰 囲 気 とか, 優 しそうなところが 似 てる」と 言 う。 出 発 してから 一 番 表 情の 柔 らかい 笑 顔 を 見 せた。休 憩 所 につくと K.T は, 勢 いよくバスを 降 りた。 車 が 遠 くから 向 かってきているのを 確 認 し,急 いで 道 路 を 渡 ろうとしていたが, 安 全 のためスタッフに 止 められていた。 車 が 過 ぎるとゆーじを置 いて 一 人 で 集 合 場 所 へと 走 っていった。スタッフの 説 明 を 待 たずに 昼 食 のおにぎりを 手 に 取 り,スタッフに 食 べてよいかを 聞 いていた。すると,K.T に 対 し, 隣 でおにぎりの 順 番 を 待 っていた 子に(うるさいからだまれ)( 空 気 よめ)と 強 く 言われた。K.T は 何 も 言 い 返 さず 表 情 を 硬 くしており, 離 れたところにあるベンチに 向 かって 走 っていった。おにぎりを 食 べる K.T の 横 にゆーじが 座 り,「 何 かあった?」と 聞 くと, 質 問 には 答 えずに,「はい」とゆーじの 分 も 取 っておいたとおにぎりをゆーじに 差 し 出 した。と 言 うと,「そうだよ」とにこやかに 答 えた。 皆 から 離 れて 食 べていることに 対 して, 皆 に 伝 えてこなくてよいのか, 心 配 されてしまうことを 伝 えたが,「いいよ。 大 丈 夫 だよ」と 言 って,そのままおにぎりを 食 べ 続 けていた。 一 つ 食 べ 終 わると, 乗 ってきたバスに 乗 り 込んだ。「 良 い 眺 めだね, 皆 が 見 える」と 残 りのおにぎりを 食 べた。その 後 ,トイレへ 向 かう。トイレの 個 室 から 出 ると, 表 にいたゆーじと 目が 合 った。すると, 満 面 の 笑 みを 浮 かべて 反 対 側の 出 口 から 走 って 出 て 行 った。K.T を 探 すゆーじを 見 て,お 店 の 中 や 外 , 再 びトイレに 入 ったりと,逃 げ 回 っているようであった。K.T は 笑 っており,逃 げ 回 ることを 楽 しんでいるように 見 えた。バスの 運 行 表 をみていたところをゆーじが 両 肩 をつかむと,「あ!」と 声 をあげ 驚 いていた。< 走 り 回 ったら 皆 が 危 ないよ。ゆーじは 心 配 するから,どこかへ 行 く 前 には 一 声 かけてよね>というと「あー楽 しかった」と 笑 顔 で 答 え, 乗 ってきたバスへ 向かって 走 っていった。バス 内 ではバスレクが 行 われた。 準 備 をするスタッフを 見 て,マイクで「 準 備 中 なのでしばらくお 待 ちください」と 陽 気 に 皆 へ 声 を 掛 けていた。クイズの 問 題 が 始 まると,スタッフの 許 可 を 得 て問 題 を 出 す 係 を 担 当 した。 他 の 参 加 者 からは( 聞こえない~)と 度 々 言 われていたが,その 度 に 問題 を 繰 り 返 し, 丁 寧 にはっきりとした 声 で 伝 えようとしていた。 最 後 までにこやかな 表 情 でいた。施 設 の 近 くになると,「 皆 ついたよ」「お 疲 れ 様 でしたー」と,バスガイドのような 声 でアナウンスを 繰 り 返 していた。4 施 設 到 着施 設 に 到 着 し,スタッフに「 部 屋 はどこですか」と 尋 ねながら 自 室 を 探 していた。 荷 物 を 置 き,ゆーじの 顔 を 一 度 見 た 直 後 , 人 ごみをかき 分 けながらゆーじから 離 れるように 走 り 去 っていった。ちらちらと 後 ろを 振 り 返 り, 表 情 はにこやかだった。トイレから 出 て 来 たところを, 捕 まえるようにゆーじが 両 肩 をつかみ,と 聞 くと,「ゆーじを 困 らせようと 思 って」と 満 面 の 笑 みで 答 えた。その 後 , 研修 室 へ 向 かい, 班 ごとに 並 んで 静 かに 施 設 の 案 内- 74 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 (その6)を 聞 き, 外 へ 向 かった。外 に 出 ると,「ハンモックを 作 りたい。 手 伝 って」と 言 って, 設 置 に 取 り 掛 かった。「 昨 年 は 失 敗 したからね」と 昨 年 のサマスクのエピソードを 話 した。 設 置 後 は 自 ら 設 置 したハンモックの 上 で 仰 向けに 寝 そべり, 目 を 瞑 って, 柔 らかい 表 情 で「ふ~」と 言 い, 心 地 よさを 感 じ 取 っているようであった。しばらく 横 になった 後 ,「ゆーじも」と 言 ってゆーじをハンモックの 上 に 仰 向 けに 寝 かせた。< 気 持ちがいいね>と 言 うと,K.T は 笑 顔 を 見 せた。 同じ 感 覚 を 共 有 しているような 感 覚 を 互 いに 味 わっていたように 思 う。次 に 落 とし 穴 を 作 り 始 めた。まずは 道 具 を 揃 える 話 をし,「スタッフのトトロに 聞 いたら 貸 してくれるかも」と 言 うと, 自 分 からシャベルやバケツを 貸 してくださいと 頼 みに 向 かった。 周 囲 のスタッフにも「 手 伝 って」と 声 をかけていた。すると,スタッフの 近 くにいた 子 も 穴 の 近 くに 寄 ってきて, 一 緒 に 穴 を 作 る 手 伝 いをし 始 めた。 子 どもが一 人 胸 の 位 置 まで 入 るぐらいの 深 い 穴 を 作 った。5 お 風 呂 ・ゲーム 大 会 ・ 就 寝ゆーじと K.T で 話 し 合 い,お 風 呂 場 集 合 となった。K.T はゴーグルを 持 って, 湯 船 の 中 へ 向 かっていった。< 身 体 は 洗 った?>と 声 を 掛 けると,一 度 出 て 身 体 を 洗 い 始 める。その 後 は, 他 の 子が 泳 いだり 水 を 掛 け 合 ったりしている 中 で, 同じようなことをしていた。スタッフに 水 をかけ,(ギャー)と 反 応 する 姿 を 見 て K.T は 笑 っていた。夕 食 後 は 花 火 大 会 の 予 定 であったが, 雨 が 降 り始 めたため 施 設 内 でゲーム 大 会 をすることとなった。フルーツバスケットではお 題 を 言 う 役 になりたいのか, 輪 の 中 心 にとどまり, 座 らないでいることが 度 々あった。「ゆーじも」と 言 って 輪 の 中心 でゆーじを 押 さえていたが,ルールがあること,他 の 子 もやりたいからゆーじは 我 慢 することを 伝えて 座 ると, 一 人 で 次 のお 題 を 述 べていた。お 題を 言 うと 一 度 輪 の 中 へ 入 っていく。その 後 も 何 度かゆーじを 捕 まえて, 中 心 に 残 ろうとしていた。日 記 では “ 明 日 はどんな 初 めてがあるかな!”と 書 いていた。サマスクへの 期 待 を 語 っていた。就 寝 前 はなかなか 眠 れず,「 一 度 落 ちつこう」と言 って 持 参 した 課 題 の 本 を 読 んでいた。すると,日 ごろ 同 じ 通 級 に 通 う A.T も 眠 れないと 言 って近 くへ 来 た。K.T が 本 を 読 む 横 で,A.T から 日ごろの 話 を 聞 いていると,(こいつは 頼 りになるんだ, 信 頼 できる。でも,たまにバカする)と K.Tに 対 する 思 いをゆーじに 話 した。A.T のすぐ 隣にいる K.T に 聞 こえてどう 思 ったかを 尋 ねると,「うん」と 答 えていた。そのまま 本 を 読 み 続 けていた。しばらくすると,K.T は 部 屋 へ 戻 った。ベットの 上 で, 今 日 の 出 来 事 や 最 近 あったエピソードをお 互 いに 話 していた。 友 達 についての 話 では,「 友達 は 少 ないから」と, 日 ごろの 様 子 について 話 した。< 眠 れそう?>と 聞 くと,「 頑 張 る。 一 時 間後 また 来 て」とゆーじに 頼 んだ。 一 時 間 後 に 様 子を 見 に 来 ると,K.T は 寝 息 をたてて 眠 っていた。 二 日 目1 朝6 時 10 分 に 目 が 覚 める。ゆーじがとあいさつをすると, 第 一 声 は< 昨 日 から 楽 しい一 週 間 の 始 まりだよ~>であった。サマスクへの楽 しみを 話 していた。 着 替 えて 外 へ 向 かう。朝 食 の 時 間 になり, 食 堂 へ 向 かうと 座 る 席 のほとんどが 埋 まっていた。と声 をかけると,K.T は「ゆーじと 一 緒 に」と 答 え,隣 り 合 って 空 いている 席 を 見 つけて 座 った。 食 事の 挨 拶 をやっている 子 たちを 見 て,< K.T もやりたい?>と 聞 くと,「そんなにでしゃばるのはね」「でしゃばれない」と 答 えた。2 ピザ 作 り昨 年 のピザ 作 りの 失 敗 談 を 聞 きながら 炊 事 場 へと 向 かった。グループで 生 地 を 作 る 際 には,「 次はこれじゃない?」「もっとこうしたら」 等 発 言しており,グループの 会 話 の 中 にとけ 込 んでいた。ピザは 大 きいのを 作 りたいと 言 い,3 人 分 ほど- 75 -


阪 無 勇 士 ・ 石 﨑一 記の 大 きさの 生 地 を 用 意 した。うまく 生 地 を 伸 ばせず, 生 地 は 固 くなり, 生 地 が 切 れ,「あぁー」と泣 いているような 声 を 出 していた。ゆーじが 声 をかけると,スタッフに「 新 しい 生 地 をください」と 頼 みにいき, 柔 らかい 生 地 で 再 チャレンジしていた。完 成 したピザを 持 ってピザがまの 近 くへ 行 くと, 他 の 子 やスタッフたちが 順 番 を 待 っていた。近 くにいた 人 たちは,K.T の 誰 よりも 大 きいピザを 見 て( 大 きい!)( 食 べれるの?) 等 反 応 していた。K.T は 笑 っており, 嬉 しそうであった。かまどを 見 ると, 激 しく 燃 える 火 を 見 て 近 寄 って 行 った。 施 設 の 方 から 危 ないから 寄 らないようにと 注 意 を 受 けていた。焼 きあがったピザを 見 ると,「できたー」と 言 い,とても 満 足 そうな 様 子 であった。 半 分 でお 腹 一 杯と 言 っていたが, 苦 しそうな 表 情 をしながらも 食べ 続 けていた。ゆーじに 食 べてとお 願 いし, 二 人で 大 きなピザを 完 食 した。3 川 遊 び川 遊 びでは,ゆーじは 作 業 のためしばらく 離れたところにいるということを K.T に 伝 えると,K.T は「うん,わかった」とはっきりと 伝 え 返 した。K.T はスタッフのだっつやぶっきーと 一 緒 に,上 流 から 流 されながら 小 さな 網 で 小 魚 を 捕 まえようとしていた。 作 業 が 終 わり, 離 れていたゆーじが K.T のもとへ 行 くと,「 結 局 ゆーじは 遊 んでくれなかった」と, 強 い 口 調 で 残 念 そうに 伝 えてきた。4 花 火花 火 大 会 では, 手 持 ち 花 火 を 持 って 動 き 回 っていた。 一 人 で 花 火 をしている 様 子 であったが, 火のついた 花 火 をそのまま 水 の 中 に 入 れるということをしていると, 側 にいた 子 が 数 人 近 寄 ってきて,一 緒 に 同 じことをし 始 めた。 自 然 と 集 団 ができ,水 の 中 でも 火 がついている 花 火 を 見 て, 皆 と 一 緒に 驚 いていた。また, 他 の 子 が 火 をほしがっていると,すぐに 火 を 分 けるという 姿 も 見 られた。 花火 を 通 した 関 係 の 広 まりが 見 られた。5 日 記 ・ 就 寝日 記 では, 大 きなピザを 作 ったこと, 全 部 食 べきったこと, 川 遊 びが 楽 しかったことを 話 していた。と 聞 くと, 川 遊 びの 楽 しさは90% と 答 えた。 残 り10% は「ゆーじがいなかったから」と 言 っていた。寝 る 際 に, 改 めて 今 日 の 感 想 について 話 していた。「 一 日 が 一 瞬 で 過 ぎちゃうよ」と 言 っており,悲 しそうな 様 子 にみえた。 眠 れないと 言 っていたが, 一 時 間 後 には 眠 っていた。 三 日 目1 朝目 が 覚 めたばかりで, 横 になっている K.T におはようと 声 をかけると,「もう 半 分 過 ぎちゃうよー,ううー」と 返 ってきた。すると, 時 間 がもったいないと 言 って 身 体 を 起 こし,ロビーへ 向 かった。朝 食 が 終 わってトイレに 行 くと, 洗 面 台 にコオロギがいるのを 発 見 した。 近 くにいた Y.K の 提案 で 一 緒 にコオロギを 洗 ってあげることになり,「もっとかけようよ」と 二 人 で 話 しながら 一 緒 に水 をかけていた。ロビーでは, 背 中 についたバッタを 嫌 がる A.T を 見 て,バッタをとってあげたり,バッタの 向 く 先 を A.T の 方 へ 向 けて 置 き,A.Tの 方 へ 飛 ぶように 仕 向 けるといったことをしていた。2 泥 遊 び・マスつかみ遊 び 場 へと 向 かうため, 玄 関 前 にグループごとで 集 合 した。グループごとにまとまっていく 一 方で,K.T は 最 後 尾 をゆーじとだっつ,ぶっきーの4 人 で 歩 いていた。「 足 痛 いよー」「 車 乗 せてよー」と 言 いながらも 歩 き 続 け, 道 端 にある 木 いちごを積 んでいた。 荷 物 を 運 ぶ 施 設 の 車 が 横 を 走 ると,「 後 ろの 気 持 ち 考 えろこのやろー」と 大 きい 声 をだしていた。 歩 きながら, 自 然 豊 かな 風 景 を 見 て「ジブリみたい」と 言 っていた。 風 が 吹 くと,「 気持 ちい,ゆっくり 歩 いていくのもいいね」と 言 っ- 76 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 (その6)ており,ゆっくり 自 分 のペースで 歩 くからこそ 木いちごや 風 , 小 さなことを 感 じとれるというような 話 をしていた。 長 い 道 のりをヘトヘトになって歩 いていると, 車 を 運 転 する 施 設 の 人 が 近 寄 ってきた。( 喉 乾 いたでしょう)と K.T に 氷 を 渡 し,K.Tはゆーじにも 氷 を 渡 した。 氷 を 口 に 入 れると「おいしい!」と 言 っていた。いつも 以 上 においしく感 じる 感 動 をゆーじと 話 していた。泥 遊 びやマスつかみを 終 え, 施 設 へ 戻 るために片 づけが 始 まった。K.T のグループは 出 発 し, 荷物 がすべて 片 づけ 終 わる 間 ,K.T はマスを 焼 くために 起 こした 火 をずっと 見 ていた。< 施 設 へ 戻 るよ>と 声 をかけてもその 場 を 動 こうとしなかったが, 戻 って 火 おこしをやることを 伝 えると,そこで 初 めて 施 設 へ 帰 る 準 備 をし 始 めた。3 カレーコンテストカレー 作 りの 準 備 が 始 まると, 新 聞 紙 や 薪 ,マッチなどを 自 分 から 用 意 して, 一 人 かまどの 前 で 火おこしを 始 めた。 他 の 作 業 はどうするのかをゆーじと 話 していると,グループで 作 業 することは 嫌だということを 話 していた。どうしてなのかを 聞くと,「 皆 でやるのは 怖 い。 強 制 されるのが 嫌 」「 前にも 嫌 なことがあった」と 話 した。 話 を 聞 いていると,しばらくして K.T はグループのもとへ 近寄 って 行 った。その 後 ,スタッフと K.T,グループ 員 で 話 し 合 いが 行 われ,K.T は 火 の 番 を 担 当 することになった。グループの 子 も( 火 はどう?)と K.T に 声 を 掛 けに 来 ており,グループの 一 員として 作 業 の 一 端 を 担 っているようであった。また, 火 のついた 枝 を 持 ち,A.T と 二 人 でベンチに 座 る 姿 が 見 られた。 満 天 の 星 空 の 下 で, 揺 れる 炎 を 見 ながらお 喋 りをし, 交 互 に 火 を 吹 き 合 っていた。 誰 にも 邪 魔 されず, 二 人 だけの 空 間 に 見えた。その 後 ,スタッフに 危 ないからと 禁 止 されたが, 二 人 とも 表 情 はにこやかだった。4 日 記 ・ 就 寝日 記 では, 泥 遊 びと 火 おこしの 絵 を 描 いており,「なんだかわからないけど 楽 しかった」と 書 いていた。 就 寝 では, 三 日 目 で 初 めて「 眠 い」と 言 い,ベットに 入 ると30 分 もしないで 眠 った。 四 日 目1 朝目 が 覚 めた K.T にと 声 をかけると,「あと 二 日 だー, 嫌 だ~」と 身 体 を 丸 めて 悲痛 な 声 を 出 していた。「 夜 中 , 目 覚 めて 泣 いてるの 知 ってる?」とも 言 っていた。係 りの 仕 事 では, 洗 い 場 へグループの 洗 濯 物 を持 って 行 った。すると,スタッフのあめが 先 日 の泥 遊 びで 出 た 大 量 の 洗 濯 物 を 洗 っていた。あめは,K.T が 洗 濯 機 へ 近 寄 ったところで,( 手 伝 ってくれるの?)と 聞 いていた。K.T は 洗 濯 機 を 担 当 することとなった。 洗 濯 機 のふたを 開 けて 手 を 入 れたり, 排 水 口 のパイプを 上 向 きにして,あたり 一面 を 水 浸 しにしたりと, 楽 しんでいる 様 子 であったが, 洗 って 干 し 終 わるまで, 二 時 間 も 洗 濯 を 手伝 っていた。2 たらいそうめん昼 のたらいそうめんに 向 けて, 火 おこしを 一 人でやり 始 めた。「これ 以 上 楽 しいことはないよー」と 言 っており,ゲーム 機 より 楽 しいこと,「 考 える 関 係 で 一 番 好 きなのは 火 おこしだよ」と 言 っていた。しばらくすると, 同 じグループの Y.K が 寄 ってきて,(めっちゃ 燃 えてるね)と K.T に 声 をかけていた。Y.K も 隣 で 火 おこしをやり 始 めた。「 燃えてる 木 , 一 本 あげるよー。そうするとつくよ」(ありがとう)と 話 しており, 火 はかまどから 飛 び 出るほど 激 しく 燃 えていた。たらいそうめんの 準 備 が 始 まると,そのまま 火おこしを 担 当 することとなった。しかし,そうめんができあがってもかまどの 前 から 離 れないでいたため,グループのスタッフに( 食 べないの? 皆が 心 配 しているよ)と 言 われていた。すると,K.Tはグループの 人 たちへ「 先 に 食 べてて」と 声 掛 けをした。その 後 も 一 人 で 火 おこしをやり 続 けていた。 途 中 ,トトロに 付 近 の 片 づけ 担 当 を 任 命 され- 77 -


阪 無 勇 士 ・ 石 﨑一 記たが,それでも 火 おこしをやり 続 けていた。 薪 がなくなり, 火 が 消 えて, 新 しい 薪 をもらいにトトロへ 頼 みに 行 くと, 終 わりということを 伝 えられてしまい, 一 日 目 に 設 置 したハンモックにうつ 伏せになってしばらく 無 言 でいた。しばらくして,トトロから 施 設 の 人 が 代 わりに 片 づけ 始 めているということを 言 われ, 顔 をしかめながらも 片 づけのためにかまどへと 向 かった。 火 のついた 薪 に 風を 送 り, 再 び 火 を 起 こしていたが,K.T のやめたくない 気 持 ちを 聞 き, 明 日 のバーベキューでも火 を 使 うことを 伝 えると, 消 えていく 火 を 何 とか保 ちながらも,ゆーじに 見 張 りを 頼 みながらも,自 分 で 掃 除 用 具 の 場 所 を 施 設 の 人 に 尋 ねて 用 意 しを, 少 しずつ 片 づけをし 始 めた。 小 さくなる 火 を見 ながら,「 嫌 だ~」と 泣 いているような 声 を 出していたが,ゆーじに 手 伝 ってもらいながらも最 後 は 綺 麗 に 片 づけ 終 えることができた。10 時 半から16 時 半 のほとんどをかまどの 前 で 過 ごしていた。3 夜オセロ 大 会 ではまずは 誰 とやるのかを 話 した。K.T はゆーじを 指 名 し, 初 日 のオセロで 圧 倒 的 な数 でゆーじが 勝 利 をしたせいか,「 大 人 げないことしないでね」と 伝 えてきた。と 初 めに 約 束 をしてゲームを始 めた。 決 着 は 黒 32 枚 , 白 32 枚 の 同 点 で,「すげえ!」< 真 剣 にやったのに! K.T いろいろ 考 えながらやってたんだね!>とお 互 いに 目 を 見 開 いて 驚 き,ゲームの 感 想 を 共 有 し 合 った。次 は 誰 とやりたいのかを 話 し 合 った。やりたいけど 決 めかねている 様 子 であったため,ゆーじはまだやっていない 人 の 名 前 を 一 人 ひとり 挙 げていき, 自 己 決 定 を 促 した。すると,< Y.K 君 はどう?>と 聞 いた 際 には,「うん」と 言 って 頷 いていた。< 一 緒 にやってきていいよ> 言 うと, 動 かずためらっている 様 子 だったので,と 言 って,どうしたら Y.K とゲームができるのか, 作 戦 を 二 人 で 話 し 合 った。K.Tは「オセロやってるところをまずは 見 せて,そしたら 気 が 付 くから」と 提 案 したため, 直 接 話 しかけるのはどうなのかを 聞 いてみると, 顔 をしかめながら「 怖 い~」と 言 っていた。 気 づかなかったらゆーじが 直 接 聞 いてみるということを 二 人 で 決め,Y.K の 側 へと 近 寄 った。 作 戦 を 実 行 すると,気 づかれはしたが 一 緒 にやるという 話 にまでは 至らなかった。ゆーじが Y.K に 聞 こえるようにと 言 い,K.T と 改 めて 話 しをした。K.T が 自 発 的 に 声 をかけるのを 待 っていたが,K.T は 自 分 からは Y.K に 話 かけなかったので,ゆーじが Y.K に K.T と 一 緒 にどうかを 聞 いてみた。Y.K の 了 承 を 得 て,K.T と Y.K は 一 緒 にオセロをすることとなった。オセロの 後 は, 作 戦 が成 功 したという 話 を K.T とゆーじで 話 した。 五 日 目1 朝5 時 50 分 には 外 のベンチに 座 り,スタッフとお喋 りをしていた。ラジオ 体 操 では, 全 体 の 前 で 見本 を 見 せるスタッフの 近 くで 体 を 動 かし, 皆 の 見本 となっていた。 出 席 のスタンプを 押 す 係 りも 自ら 担 当 していた。ロビーの 椅 子 に 座 り, 置 いてある 本 を 読 んでいた。 本 はぐちゃぐちゃにしまわれており, 近 くにいたトトロに 本 の 片 づけを 任 された。しかし,K.Tは 片 づけようと 本 を 手 に 取 るとその 本 に 没 頭 し,読 み 終 わって 次 の 本 を 手 に 取 るとまた 再 び 本 に 没するということを 繰 り 返 しており,なかなか 片 づけは 進 まなかった。 集 合 の 時 間 が 差 し 迫 り,K.Tに 集 合 時 間 が 近 いことを 伝 えて 片 づけを 促 すと,「いや~」と 泣 いているような 声 をだし, 部 屋 へと 走 り 去 ってしまった。 本 の 片 づけはどうするのかを 尋 ねると,「 後 でする」と 言 っていた。部 屋 へ 戻 ると,チャレンジハイキングの 用 意 を始 めていた。すると, 水 着 がないことに 気 づいた。水 着 を 探 すためスタッフに 協 力 を 頼 み,K.T は 全部 の 部 屋 を 回 ろうという 提 案 を 出 し,ゆーじと 一緒 に 全 部 の 部 屋 を 尋 ねて 回 った。 泣 いているよう- 78 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 (その6)な 声 で「ない」という 言 葉 を 何 度 も 連 呼 し,とても 真 剣 な 様 子 で 探 していた。しかし, 見 つからず,出 発 の 時 間 も 近 くなったため,K.T と 誰 かがはいているかもしれないという 話 をし, 見 つからないから 代 わりにどうしていくかを 話 し 合 った。 話がまとまり,ゆーじと 二 人 で 事 務 室 へいき,K.Tは 自 ら 施 設 の 方 へ 事 情 を 話 し,みつかったら 教 えて 下 さいと 頼 んでいた。その 後 , 代 わりのズボンを 用 意 し, 集 合 時 間 にも 間 に 合 った。 無 くしてから 対 処 をし,グループに 合 流 するまでの 一 連 の 流れを 自 分 の 意 志 でやり 遂 げていた。2 チャレンジハイキングチャレンジハイキングは, 沢 登 を 始 めに 行 い,その 後 山 へ 登 るというものであった。 全 員 がライフベストを 着 用 し,K.T は 先 頭 を 歩 く 施 設 の 職 員と 手 をつないで 沢 を 登 って 行 った。K.T は 出 発 までの 暗 い 表 情 は 一 変 し, 声 をだして 笑 っており,施 設 の 職 員 とお 喋 りしながら 歩 いていた。 沢 を登 っていくと, 深 さ 約 5メートルある 川 へとたどり 着 いた。しばらくその 場 で 遊 ぶことになり,K.Tとゆーじも 川 へ 入 って 遊 び 始 めた。ゆーじの 帽 子が 外 れると,K.T はそれをかぶったまま 泳 いだり,岸 から 川 へ 飛 び 込 んだり,スタッフに 引 っ 張 ってもらったりして 遊 んでいた。K.T がはしゃいでいる 一 方 で,ゆーじは 水 の 中 で 深 さに 怯 え, 寒 さに震 えていた。ゆーじが K.T に 川 から 上 がることを 伝 えると,K.T はゆーじに 向 かって,「ゆーじ大 好 きー」と 言 いながら 飛 び 乗 ってきた。< 待 って, 溺 れる>と 言 って 必 死 に 水 面 に 顔 を 出 そうとするゆーじに 対 して, 上 に 乗 っかり,ゆーじの 帽子 をかぶって 無 邪 気 に 笑 っていた。 死 んでしまいそうということを 伝 えても,K.T は 声 を 出 して笑 ったまま,ゆーじにしがみついていた。川 から 上 がる 時 間 になり, 出 発 の 合 図 がだされた。しかし,K.T は 上 がる 時 間 を 過 ぎても 一 人 川に 入 り 続 けていたため,トトロからゆーじに 付 いて 行 くようにと 言 われていた。ゆーじは 近 くに 来た K.T に,トトロとのやり 取 りは 聞 こえていたこと,グループの 人 に 迷 惑 がかからないように 一緒 に 歩 いて 行 こうということを 話 し,いつまでも遊 んでいたくなるほど 川 遊 びは 楽 しかった 等 ,お喋 りしながらグループの 人 たちと 山 へ 向 かって 歩いた。山 のふもとへ 着 くと,グループで 山 を 登 り 始 めた。K.T は 先 頭 にたってどんどん 一 人 で 登 って行 き, 同 じグループの R.M に( 早 いよ。ちょっと 待 てよ)と 大 声 で 言 われながらも 先 へと 進 んでいった。ゆーじが R.M が 待 ってほしいと 言 っていること, 仲 間 が 心 配 していることを 伝 えると,「 大 丈 夫 。 大 丈 夫 」と 言 い,「 仲 間 なんていらねーよ」と 言 って 走 って 登 っていった。K.T は 一 番 に 頂 上へ 着 いて 景 色 を 眺 めていた。すぐにゆーじも 頂 上へ 着 き,K.T へ 命 を 預 かる 立 場 として 一 人 で 先 へ行 かせることを 本 当 に 心 配 していたこと,だから待 ってほしかったこと, 一 人 で 行 く 前 にグループの 皆 へ 一 言 伝 えてほしかったことを 伝 えた。K.Tは 頷 いており, 次 から 登 ってくる 人 たちへ「がんばれ~」と 応 援 をしていた。 登 ってきた R.M に( 心 配 してたんだよ)と K.T の 正 面 からはっきり言 われていた。 山 を 下 るときは, 登 るときとは 違 ってゆーじとグループの 子 と 一 緒 に 行 動 していた。施 設 へ 戻 り, 炊 事 上 に 集 合 した。グループはみな 同 じテーブルを 囲 んで 座 って,アイスやスイカを 食 べながら, 流 れる 歴 代 のサマスクのテーマソングを 聞 いていた。 昨 年 のテーマソングが 流 れると,ほとんど 全 員 の 子 ,スタッフが 自 然 と 声 に 出して 歌 い 始 め, 体 を 揺 らし, 笑 顔 で, 大 きな 声 で歌 っていた。その 場 にいたほとんどの 人 が 同 じことをしていて, 一 体 的 な 感 じに 包 まれており, 中には 涙 を 流 す 人 たちもいた。ゆーじの 隣 に 座 っていた K.T も 笑 顔 で 歌 っており, 涙 を 浮 かべるゆーじとがっちりと 肩 を 組 み, 音 楽 に 合 わせて 揺 れていた。その 後 は,スタッフや 他 の 子 と 水 を 掛 け 合 ったり,お 風 呂 で 一 緒 に 泳 いだり, 他 の 子 のボケに 突 っ込 んだりと,にこにこ 笑 っており, 楽 しそうにス- 79 -


阪 無 勇 士 ・ 石 﨑一 記タッフや 他 の 子 と 関 わる 様 子 が 見 られた3 バーベキュー・ 別 れの 集 いバーベキューでは,グループ 内 でそれぞれ 役 割を 決 め,K.T は 火 おこしを 担 当 していた。 途 中 抜けたゆーじが 戻 ってくると, 焼 きそばやトウモロコシなど,お 皿 いっぱいに 乗 せて「ゆーじの 分 」と 言 ってゆーじに 渡 した。< 優 しいね。どうしてゆうじのために?>と 伝 えると,「 好 きだから」と 言 っていた。別 れの 集 いへの 準 備 が 始 まった。キャンプファイヤー 場 へ 移 動 するため,グループごとに 集 合する 合 図 がかかったが,K.T は 炊 事 上 でバーベキューの 火 が 消 えないように 団 扇 で 風 を 送 っていた。グループの 皆 は K.T を 待 っていること, 残るなら 伝 えてこないと 心 配 をかけさせることを 話したが,K.T は 無 言 で 火 に 風 を 送 り 続 けていた。ゆーじはキャンプファイヤーで 何 をやるのかを 説明 した。 炎 を 囲 んで 思 い 出 を 伝 え 合 うこと,K.Tの 話 も 聞 きたいこと, 最 後 の 思 い 出 を 一 緒 に 作 りたいことを 伝 えた。その 間 も K.T は 無 言 でいたが,しばらくすると 自 分 から 火 を 吹 き 消 し,キャンプファイヤーの 場 所 へと 歩 いて 行 った。 自 ら 大好 きと 言 っていた 火 を 消 すのは, 期 間 中 始 めての出 来 事 だった。別 れの 集 いでは, 燃 え 盛 る 炎 を 囲 んで 椅 子 に 座り,サマスクの 思 い 出 を 振 り 返 った 後 , 一 人 ひとりが 感 想 を 話 していくということをした。 思 い 出を 振 り 返 る 場 面 では,K.T が 皆 の 前 で 自 分 の 意見 が 述 べられるように,まずは 話 す 内 容 を 決 めることをねらいにして,サマスクの 思 い 出 についてK.T と 話 し 合 った。 話 し 合 った 後 ,< K.T はなんて 言 う?>と 聞 くと,「どうすればいい?」「できるだけ 正 解 がいい」「 皆 に 何 か 言 われるのが 辛い」と 言 っていた。それらを 踏 まえて 話 していると,「 全 部 が 思 いで」ということを 何 度 も 言 っており,と 聞 くと, 深 く 頷 いていた。「また来 たい」とも 言 ってた。ゆーじは,K.T が 傷 つきや 自 己 を 否 定 されることを 恐 れていることを 配 慮し,K.T が 自 分 の 気 持 ちを 話 しても 皆 から 受 け入 れられる 体 験 をすることをねらいにして,K.Tの 言 葉 を 用 いて 大 多 数 の 人 に 共 感 してもらえるように 考 えた 上 で,と 言 った。K.Tは「うん」と 言 って 頷 いていた。K.T の 順 番 が 近づくと,K.T は 突 然 席 を 立 ち, 輪 から 離 れて 後 ろの 方 に 歩 いて 行 った。ゆーじが 目 立 たないように席 を 立 ち,K.T の 側 へ 近 づくと,K.T は 置 いてあった 火 のついたランタンで 草 を 燃 やしていた。 皆 の前 で 話 すのが 不 安 なのかを 尋 ねたが, 言 葉 では 何も 答 えずに 草 を 燃 やし 続 けていた。ゆーじは,K.Tの 思 いは 誰 にも 否 定 されるものではないことを 説明 したが,K.T は 何 も 答 えなかった。K.T の 順番 が 差 し 迫 り,ゆーじは, 皆 から 注 意 や 文 句 を 言われることによって,K.T の 思 いを 述 べることに関 する 傷 つき 体 験 が 増 す 可 能 性 を 考 慮 し,K.T が自 身 の 思 いが 皆 に 受 容 される 体 験 をすることをねらいにして,と K.T に 尋 ねた。K.T はしばらく 黙 っていたが,誰 にも 否 定 できないことを 説 明 し,ゆーじに 任 せてほしいということを 言 うと,K.T は 頷 いていた。強 制 してしまったようなやり 取 りだったため, 本当 によいのかを 改 めて 尋 ねると,K.T は 再 び 頷 いていた。ゆーじは K.T の 了 承 を 得 て, 静 かに 席へ 戻 り,K.T の 言 葉 を 皆 に 伝 えた。その 後 ,K.Tにと 聞 くと,K.T は「うん」と 言 葉 にして 伝え 返 し, 席 へ 戻 っていった。< 大 丈 夫 だったでしょ>と 皆 に K.T の 思 いが 受 け 入 れられたことを 伝えると,「うん」と, 言 っていた。 表 情 は 柔 らかく,安 心 したようであった。その 後 ,スタッフが 火 を 片 づけるのを 手 伝 った。サマスク 最 後 の 夜 , 改 めて 大 好 きな 火 を 自 ら 消 すという 体 験 をしていた。。 六 日 目- 80 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 (その6)1 朝目 が 覚 めた K.T にと 声 をかけると,「うう~」と 寂 しそうな 声 を 出 していた。と 言 うと,もっとサマースクに参 加 していたいこと, 今 日 で 終 わってしまう 残 念な 気 持 ちを 話 し 始 め,「 時 間 がもったいない」と言 って 体 を 起 こし, 外 へと 出 て 行 った。散 歩 が 終 わり, 遊 び 場 で 設 置 したもの, 作 ったものを 片 付 ける 時 間 となった。ゆーじと K.T でハンモックを 外 し, 落 とし 穴 はどうするのかを 話し 合 うと,K.T はタイムカプセルを 作 りたいと 提案 した。ゆーじはたまたまポケットに 入 っていた折 り 紙 とペンを 取 出 し, 二 人 でその 偶 然 に 驚 き,入 れ 物 となる 容 器 は 何 にするのかを 提 案 しながら探 し 始 めた。 竹 を 発 見 すると, 二 人 で 小 さいサイズに 折 り, 中 の 空 間 にメッセージを 書 いた 手 紙 を入 れた。K.T が 石 で 切 り 口 の 隙 間 を 埋 め, 掘 った落 とし 穴 の 奥 に 優 しく 置 き, 上 から 土 をかぶせて穴 を 埋 めた。 楽 しみが 増 えたこと, 来 年 一 緒 に 確認 できたらいいねということを 話 していた。2 バス 移 動眠 っている 子 がたくさんいる 中 ,K.T は 最 後 まで 起 き 続 けていた。サマスクはどうだったかを 聞くと,「 全 部 が 思 い 出 」と 昨 夜 と 同 じことを 言 っていた。「 目 を 瞑 るとハンモックに 揺 れてるところを 思 い 出 す」「 川 遊 びの 深 いところに 家 族 で 別で 来 たい。 泳 ぎたい。けど 頼 めない」と 内 容 を 話し 始 めた。3 閉 会 式グループごとに 席 へ 座 り, 閉 会 式 が 始 まった。一 日 目 では 歌 えていなかったテーマソングは, 歌詞 カードを 見 ないで 歌 っていた。 賞 状 受 賞 の 時 間では,K.T とサマスクの 出 来 事 を 一 つ 一 つ 振 り 返り,K.T がどのような 前 向 きな 努 力 をしていたのかをゆーじの 視 点 で 話 し, 別 れの 集 いで K.T の言 っていた「 全 部 が 思 い 出 」はゆーじも 同 じ 気 持ちだよということを 伝 えたうえで,“ 全 部 が 思 いで 賞 ”と 書 かれた 賞 状 を 手 渡 した。< 全 部 が 思 いで 賞 >と 読 み 上 げ, 具 体 的 な 努 力 のエピソードを語 りながら 文 面 を 読 み 上 げると,K.T は 目 に 涙 を浮 かべていた。 感 動 しているように 見 えた。閉 会 式 が 終 わり,グループで 写 真 を 撮 った 後 ,二 人 で 写 真 を 撮 った。K.T は 名 札 の 交 換 を 提 案 し,再 会 した 時 にまた 交 換 しようと 約 束 を 交 わした。別 れる 前 には 将 来 の 話 をした。K.T は 大 学 院 を 指さし,「ここで 働 く」と 言 っていた。サマスクのスタッフとして 参 加 したいとも 言 っていた。と 言 い, 二 人 で 笑 っていた。その 後 , 再 会 を 約 束 し,お 別 れした。Ⅲ . 事 後 アンケート保 護 者 の 方 へ,お 子 様 のサマスク 参 加 後 の 様 子に 関 するアンケートを 実 施 した。 以 下 はアンケートによる 事 後 報 告 を 抜 粋 したものである。(1) よく 話 題 になった 事 柄「 大 きなピザを 作 ったこと」「 火 おこしをしたこと」「バディのゆーじさんのお 話 」「ハンモックで寝 たこと」「 山 のぼりしたこと」「 同 じ 班 の 子 の 話 」「 泥 だらけになって 遊 んだこと」(2) 対 人 関 係 についてお 友 達 と 遊 ぶことが 多 くなってきた 様 に 思 います。 今 までは 一 人 で 自 由 奔 放 に 行 動 していたのでストレスがなく 過 ごしていましたが, 最 近 はお 友達 に 合 わせることがあったりして 疲 れているみたいで,たまにスキンシップを 求 めて 抱 きついてきます。 気 がすんだらさっさと 離 れていきます。(3) サマスクで 一 番 楽 しかったことゆーじといたこと(4) 初 めてやってみたことや 挑 戦 したこと泥 んこになって 遊 んだことは 今 まで 経 験 したことがないので 楽 しかったのではないでしょうか- 81 -


阪 無 勇 士 ・ 石 﨑一 記Ⅳ . 考 察 二 次 障 害 への 特 徴 の 理 解K.T の 期 間 中 の 様 子 を 見 ていると,グループから 離 れた 行 動 や, 火 を 消 けす 作 業 に 二 時 間 もかかる 様 子 , 歯 磨 きや 本 の 片 づけを 置 いて 飛 んでいるトンボや 本 の 内 容 に 集 中 する 等 , 回 避 的 な 対 人 関や, 出 来 事 への 注 意 散 漫 さといった 様 子 がいくつか 見 られた。そのうち, 対 人 関 係 については,「 認 知 の 発 達 ,年 齢 に 相 応 した 自 己 管 理 能 力 , 対 人 関 係 以 外 の 適応 能 力 ,および 小 児 期 における 環 境 への 好 奇 心 についての 臨 床 的 な 明 らかな 遅 れがない」というアスペルガー 症 候 群 の 特 徴 を, 注 意 散 漫 さについては「 注 意 の 集 中 ・ 持 続 ・ 構 成 , 衝 動 反 応 の 抑 制 」などの 注 意 欠 陥 障 害 (ADD),あるいは ADHDの 特 徴 を 含 んでいると 考 えられる( 山 崎 ,2008)。しかし, 齊 藤 (2009)は 発 達 障 害 の 全 体 像 を 捉えるためには, 発 達 障 害 の 障 害 としての 構 造 を 理解 する 必 要 があると 述 べている。 構 造 は 三 層 まであり, 第 一 層 には 発 達 障 害 の 主 症 状 が 存 在 し, 第二 層 には 主 症 状 を 修 飾 するような 他 の 障 害 が 併存 し( 一 次 性 併 存 障 害 ), 第 三 層 には 生 育 環 境 やライフ・イベントとの 相 互 作 用 を 通 じて 獲 得 されてきた 二 次 障 害 ( 二 次 性 併 存 性 障 害 )がある。 発達 障 害 はこの 三 層 すべての 総 和 として 成 立 するものとされている。また,DSM- TR と ICD-10は,ADHD と 広 汎 性 発 達 障 害 (PDD)の 特 徴 を 併 せ持 つケースの 場 合 は,PDD を 優 先 させて 診 断 するように 規 定 されている( 山 崎 ,2008)。K.T の場 合 は, 主 症 状 はアスペルガー 症 候 群 , 一 次 性併 存 障 害 は ADD あるいは ADHD を 指 しているといえる。 二 次 性 併 存 性 障 害 については, 齊 藤(2009)が 述 べるように,“その 年 代 に 至 るまでの時 間 経 過 の 上 で 出 会 った 外 相 的 な 経 験 や 対 人 交 流から 与 えられた 数 ある 痕 跡 のうち, 精 神 障 害 の 診断 に 当 てはまるもの”と 理 解 するならば,K.T が期 間 中 に 述 べていた,「 皆 でやるのは 怖 い。 強 制されるのが 嫌 。 前 にも 嫌 なことがあった」,「オセロやってるところをまずは 見 せて,そしたら 気 が付 くから」, 直 接 話 すことは「 怖 い」,「 仲 間 なんていらねーよ」,「できるだけ 正 解 がいい」「 皆 に何 か 言 われるのが 辛 い」といった 言 葉 に 込 められた 感 情 や,その 背 景 にある 日 常 での 失 敗 と 傷 つきの 経 験 がその 一 因 であると 推 測 される。 診 断 とまではいかずとも, 環 境 との 相 互 作 用 の 結 果 として,その 初 期 段 階 としての 対 人 不 安 やコミュニケーションの 問 題 が 示 唆 されるだろう。ここで 危 惧 されることは, 寺 沢 ・ 石 渡 ・ 大 澤(2006)が 述 べるように, 二 次 障 害 という 後 天 的な 要 因 のために, 反 社 会 的 行 動 だけではなく, 社会 不 適 応 や 精 神 障 害 を 呈 するケースも 少 なくないことである。齊 藤 (2009)は ADHD の 子 どもが 適 切 な 診 断やケアを 受 けられずに 二 次 障 害 の 存 在 が 強 まると, 外 在 化 障 害 の 展 開 としては 反 抗 挑 戦 性 障 害 や行 為 障 害 , 反 社 会 性 人 格 障 害 へと 展 開 させることになると 述 べている。一 方 で, 齊 藤 (2009)は 不 安 や 恐 れ, 無 力 感 といった 心 性 は, 幼 児 期 や 学 童 期 の 早 い 段 階 で 分 離不 安 障 害 を 生 じさせるといった 内 在 化 障 害 へ 展 開すると 述 べており,ADHD の 不 登 校 や 引 きこもりでは 受 動 攻 撃 的 反 抗 がよく 見 られ, 大 人 の 指 示に 従 わず, 前 向 きな 人 生 を 放 棄 した 不 従 順 さで 表現 される 自 虐 的 な 反 抗 がしばしば 見 られると 述 べている。K.T の 述 べるような 不 安 や 恐 れ, 思 いはあるのに 主 張 しない 態 度 ,そこから 推 測 される 自信 のなさや 無 力 感 は, 内 在 化 障 害 への 傾 向 に 該 当すると 考 えられる。以 上 のことから,K.T が 述 べていた 不 安 や 恐 れを 伴 う 体 験 に 焦 点 を 当 て, 適 切 な 支 援 や 関 わりを行 っていくことは, 二 次 障 害 へ 繋 がる 体 験 を 修 正し,K.T の 健 全 な 自 己 形 成 を 促 進 するためには 意義 のあることと 考 えられる。 二 次 障 害 への 特 徴 と 向 き 合 う 体 験K.T のサマスクへの 感 想 に 着 目 して 最 終 日 の 言- 82 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 (その6)動 を 振 り 返 ると,「もっと 参 加 していたい」「また来 年 も 参 加 したい」「 全 部 が 思 いで」「スタッフとして 参 加 したい」というような 発 言 や 思 いが 挙 げられる。事 後 アンケートからは,よく 話 題 に 上 がった 事柄 として 火 おこしや 山 登 り, 泥 遊 びが 記 されている。 保 護 者 の 方 も,K.T の 様 子 から, 楽 しかったという 印 象 を 受 けているようである。しかし,サマスク 中 の K.T の 行 動 を 振 り 返 ると,たらいそうめんや 山 登 り,カレーコンテスト等 ,K.T はグループの 人 の 意 向 を 聞 かずに 単 独 で行 動 していたため, 注 意 を 受 ける 場 面 が 多 々 見 られた。K.T が 一 番 好 きと 言 っていた 火 おこしでも,トトロから 片 付 けるようにと 指 示 を 受 け,K.T は自 分 にとっては 嫌 なことではあるが,その 状 況 には 望 ましいことに 取 り 組 んでいたことが 察 せられる。これらのことから,「 全 部 が 思 いで」と 笑 顔 で話 した K.T の 言 葉 には, 楽 しいことだけではなく, 嫌 なことを 我 慢 したという 思 い 出 も 含 まれていることが 推 測 される。サマスクが K.T にとって, 大 変 満 足 のいくものとなったこと,また 参 加したいという 思 いが 語 られたことの 要 因 は, 自 分の 楽 しいことばかりをやるのではなく, 自 分 の 嫌なことにも 取 り 組 み, 周 囲 との 折 り 合 いをつける過 程 で, 自 分 の 不 得 意 な 一 面 をコントロールする体 験 も 寄 与 していると 思 われる。氏 家 (2007)は 自 己 制 御 を 内 的 プロセスに 応 じた 行 動 の 維 持 ・ 抑 制 ・ 変 容 と 定 義 し, 自 己 制 御 ができるようになるために 少 なくとも 必 要 な 要 因 として,1 自 分 自 身 の 行 動 を 統 制 するためのスキルを 獲 得 していること,2 指 示 や 規 範 に 従 う 必 要 があると 認 識 していること,3 指 示 されたことや 規範 を 一 定 時 間 覚 えていることと 述 べている。 行 動を 自 己 制 御 していると, 社 会 的 に 有 能 で 自 己 価 値観 を 持 ち,さまざまな 問 題 行 動 を 起 こしにくいとされている。K.T は 二 日 目 のたらいそうめんの 際 に, 食 事 の準 備 が 終 わって 食 べる 時 間 になっても 火 おこしをやり 続 けていた。スタッフから( 周 りの 子 が 待 っているよ)と 声 をかけられると, 自 らグループの子 へ「 先 に 食 べてていいよ」との 声 掛 けを 行 っていた。また, 保 護 者 への 事 後 アンケートでは,K.Tが 最 近 友 達 に 合 わせることがあるといったことが報 告 された。これらは,サマスクの 期 間 中 に K.Tが 自 己 制 御 を 体 験 していること,サマスク 終 了 後も 自 己 制 御 を 行 っていることを 示 している。サマスクの 体 験 は, 終 了 後 にも 影 響 を 与 えている 可 能性 が 示 唆 される。a. 自 己 制 御氏 家 (2007)の 自 己 制 御 に 必 要 な 要 因 に 着 目 して 検 討 すると,1は 自 分 のやりたいことをやるために 周 囲 に 関 与 するという 対 人 スキル,2は 自 分のやりたいことをやっているとき, 周 囲 はグループの 一 員 として 自 分 を 待 ってくれているという 規範 への 認 識 ,3はさまざま 活 動 の 中 で 他 者 との 交渉 を 繰 り 返 したことで 形 成 された 自 己 制 御 の 体 験の 記 憶 として 捉 えることができる。 自 己 制 御 の 体験 を 経 験 として 積 み 重 ねたことが, 自 己 の 行 動 をコントロールするための 方 法 や 認 識 の 自 覚 を 深 めさせ, 体 験 様 式 に 取 り 入 れられ,サマスク 後 の 活用 を 可 能 にし, 対 人 関 係 の 変 化 に 影 響 を 及 ぼしたと 考 えられる。 自 己 決 定 や 自 立 への 欲 求 に 対 して,身 についた 自 己 制 御 の 方 法 を 活 用 していると 思 われる。b. 体 験 様 式 の 変 化また, 成 瀬 (2000)は,さまざまな 方 法 が 用 いられるのは,その 方 法 で 得 られる 体 験 がクライエントの 生 活 体 験 の 仕 方 をよりよい 方 向 へ 変 化 するのに 役 立 つ( 治 療 体 験 )であろうことが 期 待 されているためと 述 べている。K.T は 別 れの 集 いで,思 うことは 多 くあるのにも 関 わらず,「できるだけ 正 解 がいい」「 皆 に 何 か 言 われるのが 辛 い」と言 って, 発 言 の 場 という 葛 藤 場 面 を 回 避 する 態 度を 示 した。 山 登 りにおいても,グループで 上 る 約束 を 伝 えていたにも 関 わらず,「 仲 間 なんていら- 83 -


阪 無 勇 士 ・ 石 﨑一 記ねー」と 言 って, 対 人 場 面 を 避 けるかのように 山頂 へと 一 人 走 って 登 って 行 った。K.T の 場 合 は対 人 関 係 における 不 安 や 恐 れを 感 じていることもあり,サポートのない 場 面 では, 自 身 が 苦 手 とする 対 人 場 面 に 積 極 的 に 関 わることはせずに 回 避すること 予 想 される。しかし, 別 れの 集 いでは,ゆーじが K.T の 思 いを 代 わりに 皆 に 伝 えることによって,K.T は 回 避 的 な 対 処 をしていながらも,ゆーじに 任 せるという 積 極 的 な 対 処 を 行 うこととなった。さらには,K.T の 恐 れていた 他 者 からの否 定 もなく, 肯 定 的 なフィードバックを 受 け, 自分 の 思 いが 他 者 に 受 け 入 れられる 体 験 をしたと 思われる。これらのことから, 対 人 関 係 における 他者 への 認 識 や 自 己 受 容 感 を 肯 定 的 に 認 める 体 験 をしたことによって,これまでの 否 定 的 な 体 験 様 式が 肯 定 的 修 正 される 体 験 をしていたことが 推 測 される。 以 上 のことから, 期 間 終 了 後 の 対 人 関 係 の変 化 は,サマスクにおける 援 助 者 の 受 容 的 で 問 題解 決 的 なサポートの 体 験 ( 治 療 体 験 )をきっかけとして, 日 頃 の 対 人 関 係 への 苦 手 意 識 が 緩 和 され,本 来 ある 他 者 への 関 わりの 欲 求 が 現 れたことが 一因 していると 思 われる。 スタッフの 関 わりK.T にもともと 備 わっていた 努 力 の 発 現 を 可 能としたのは,スタッフの 対 応 が 一 因 していると 考えられる。K.T の 行 動 をみると,ピザづくりではうまくいかずに「 嫌 ぁ~」と 言 って 諦 めかけ, 火おこしではグループ 員 の 心 配 をよそに 一 人 で 行 動する 様 子 が 見 られた。しかし,K.T は,スタッフが 周 囲 の 状 況 やグループの 人 の 気 持 ちを 伝 えるだけで, 自 ら 動 いてスタッフやグループ 員 へ 声 掛 けを 行 っていた。これは, 一 日 目 のフルーツバスケットで 中 央 に 残 り 続 けたり, 山 登 りで「 仲 間 なんていらねー」と 言 って 一 人 走 って 上 るような 様 子 とは 異 なり, 他 者 を 配 慮 した 行 動 であると 考 えられる。K.T が 独 力 では 達 成 できない 水 準 をスタッフが 支 えていたと 考 えられる。氏 家 (2007)は, 子 どもの 適 応 的 な 行 動 システムが 機 能 するように, 課 題 や 情 動 を 自 分 でうまく処 理 するための 練 習 の 機 会 を 調 整 したりすると,やがて 手 助 けなしで 行 えるようになっていくと 述べている。スタッフは 自 己 制 御 の 練 習 の 機 会 を 調整 するような 関 わりをしていたと 考 えられ,K.Tはより 努 力 しやすい 環 境 を 体 験 していたと 思 われる。以 上 のことから, 努 力 の 過 程 が K.T の 満 足 感と 関 連 し, 周 囲 の 人 との 折 り 合 いをつける 過 程 に寄 与 し,その 後 の 対 人 関 係 の 在 り 方 に 変 化 をもたらした 一 因 である 可 能 性 が 示 唆 される。 今 後 もこのような 関 わりを 続 けることは K.T の 自 律 を 育み, 周 囲 との 適 応 を 促 し, 自 立 の 要 因 となると 思われる。また, 事 後 アンケートでは 友 達 に 合 わせるなどで 疲 れているとスキンシップを 求 めてくるという報 告 がされていた。このことから, 母 親 は,K.Tの 苦 手 とする 対 人 場 面 と 向 き 合 う 中 で 感 じるストレスを 緩 和 させる 機 能 を 担 っていると 推 測 される。このことから,K.T の 自 発 性 を 支 えるにあたっては, 恐 れや 不 安 といったストレスを 感 じている 状 態 から, 安 全 の 感 覚 の 回 復 を 図 れるような他 者 との 愛 着 関 係 (Bowlby,1969)が 機 能 していることが 重 要 であると 考 えられる。 軽 度 発 達 障害 時 の 二 次 障 害 を 生 み 出 す 大 きな 要 因 として, 養育 者 のパーソナリティと 子 どもへの 態 度 ( 寺 沢 他 ,2006)が 示 されていることからも, 自 発 的 に 努 力を 発 揮 できるような 援 助 者 の 関 わりが 望 まれると思 われる。期 間 中 ,K.T の 側 で 様 子 を 見 守 り,K.T のやりたいことと 周 囲 の 関 係 との 兼 ね 合 いを 考 慮 し,どうしたら 願 望 が 叶 うかを 共 に 考 え,その 後 の 過 程を 見 守 り,ありのままの 体 験 を 分 かち 合 おうとする 姿 勢 がところどころで 一 番 側 に 居 たゆーじに 見られた。また, 深 さ 約 5メートルもある 川 の 中 で遊 んでいる 際 には,ゆーじが 足 もつけず, 溺 れそうで 怖 いということを K.T へ 伝 えても,K.T は「ゆーじ 大 好 き」と 言 ってゆーじに 飛 び 乗 り, 満- 84 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 (その6)面 の 笑 顔 で 密 着 し 続 けていた。K.T にとって,ゆーじは 無 条 件 に 受 け 止 めてもらえる 他 者 として 機 能していたことが 示 唆 される。 事 後 アンケートの 一番 の 思 い 出 が「ゆーじといたこと」と 本 人 書 きで報 告 されていたこともふまえて 考 えると,ゆーじは 安 全 基 地 (Ainsworths,1978)としても 機 能していたことが 推 測 され,K.T が 自 身 の 苦 手 とする 対 人 関 係 の 状 況 で 前 向 きに 行 動 していけたことへの 一 因 となっていたことが 示 唆 される。援 助 的 サマスクの 場 のみならず,その 他 の 対 人援 助 の 機 会 においても, 苦 手 意 識 や 不 得 意 な 側 面を 克 服 していくにあたっては, 克 服 する 練 習 の 機会 を 設 けるような, 方 法 としての 援 助 者 の 関 わり方 は 重 要 であると 考 えられる。しかし, 苦 手 さ 向き 合 う 過 程 で 重 要 なのは, 設 定 された 練 習 場 面 において, 苦 手 意 識 を 持 ちながらも 努 力 していく 過程 をどのように 支 えるかであると 思 われる。このことから,K.T が 安 心 して 努 力 できるような 援 助者 の 在 り 方 が 望 まれるだろう。 寺 沢 他 (2006)が二 次 障 害 を 生 み 出 す 要 因 として 養 育 者 のパーソナリティを 示 しているように, 方 法 を 提 示 するだけではない 援 助 の 在 り 方 も 求 められていると 考 えられる。 例 えば, 安 全 基 地 のような, 援 助 者 のパーソナリティの 在 り 方 を 問 うことができるかもしれない。さらには,そのような 在 り 方 が 被 援 助 者 へ伝 わっていることも 重 要 であると 考 えられ, 援 助者 の 一 貫 した 態 度 も 望 まれるだろう。以 上 のことから, 対 人 援 助 に 関 わる 者 は, 役 割や 援 助 の 技 法 のみならず,パーソナリティや 人 間性 , 生 き 方 そのものを 問 う 過 程 が 必 要 である 見 解が 示 唆 される。それらを 認 識 し, 自 己 を 見 つめ,今 後 も 検 討 し 続 けていく 必 要 があると 思 われる。しかし, 本 稿 においては 主 として K.T の 質 的な 体 験 を 明 記 するため,これらの 知 見 を 十 分 に 説明 できるだけの 文 献 を 示 してはいない。また, 関係 性 の 変 化 や, 葛 藤 への 対 処 方 略 等 , 多 くの 考 察の 視 点 が K.T の 様 子 から 推 測 されるだろう。 今後 は 多 くの 知 見 を 検 討 し, 他 者 を 支 える 者 としての 在 り 方 について, 理 解 や 考 察 を 重 ね, 深 めていき, 実 証 的 に 検 討 していきたいと 思 う。引 用 文 献石 井 哲 夫 ( 監 修 )・ 山 崎 晃 子 ・ 宮 﨑 英 憲 ・ 須 田 初 枝 ( 編著 )(2008).これだけは 知 っておきたい 発 達 障 害 の基 礎 知 識 山 崎 晃 子 ( 編 ) 発 達 障 害 の 臨 床 的 理 解と 支 援 1 発 達 障 害 の 基 本 理 解 子 どもの 将 来 を 見据 えた 支 援 のために 金 子 書 房 pp.14-42内 田 伸 子 ・ 氏 家 達 夫 (2007). 心 を 育 む― 自 律 性 の 発達 と 養 育 者 の 役 割 氏 家 達 夫 ( 編 ) 発 達 心 理 学 特論 日 本 放 送 出 版 協 会 pp.109-124齊 藤 万 比 古 (2009). 発 達 障 害 が 引 き 起 こす 二 次 障 害へのケアとサポート 学 習 研 究 社寺 沢 由 布 ・ 石 渡 晶 子 ・ 大 澤 眞 木 子 (2006). 軽 度 発 達障 害 時 の 二 次 障 害 を 生 み 出 す 要 因 ~ 養 育 者 のパーソナリティと 子 どもへの 態 度 ~ 日 本 大 学 文 理 学 部 心理 臨 床 センター 心 理 臨 床 センター 紀 要 ,3(1),29-38.成 瀬 悟 策 (2000). 動 作 法 まったく 新 しい 心 理 治 療の 理 論 と 方 法 誠 信 書 房- 85 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 ,2013,86-99松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 﨑 一 記事 例 研 究援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)A Study on Supportive Summer School Ⅺ(7)松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )( 日 々 輝 学 園 高 等 学 校 横 浜 校 )石 﨑 一 記( 東 京 成 徳 大 学 )Naoko MATSUDA(Graduate school of Psychology Tokyo Seitoku University)Natsuho FURUHASHI(Hibiki gakuen high school)Kazuki ISHIZAKI (Tokyo Seitoku University)要約本 研 究 では、2012 年 度 のサマースクールにおける 参 加 者 37 名 のうち、 中 学 2 年 生 の 女 児 H.Oの 行 動 を 整 理 し、 援 助 的 サマースクール 期 間 中 の 対 人 関 係 、 安 全 基 地 、また 周 りとの 相 互 作 用による H の 変 化 に 焦 点 を 当 て 考 察 した。H は 安 全 基 地 を 基 盤 として、 少 しずつ 他 のスタッフ、仲 間 へと 交 流 を 広 げていったと 考 えられる。キーワード: 高 機 能 自 閉 症 児 、 援 助 的 サマースクールⅠ . はじめに本 研 究 では、 中 学 2 年 生 の 女 児 H.O のサマースクールにおいての 行 動 記 録 を 整 理 し、 安 全 基 地の 観 点 から 考 察 を 行 った。Ⅱ. 事 例 の 概 要1. 本 児 について名 前 :O.H性 別 : 女年 齢 ・ 学 年 :14 歳 中 学 2 年 生障 害 : 言 葉 の 遅 れ保 護 者 のお 話 から「6 歳 の 時 に 高機 能 自 閉 症 」と 診 断 を 受 ける以 下 は、アンケートによる 事 前 調 査 の 記 述 である。 全 体 的 に 気 になること・ 気 持 ちを 上 手 く 伝 えることが 出 来 ず、 興 奮 するときがある。・ 言 葉 が 覚 えられず 上 手 く 話 すことが 出 来 ない・ 片 づけが 苦 手・ 困 ったときは 自 分 で 考 えて 判 断 が 苦 手( 固 まったり 隠 れたりする) 生 活 習 慣・ 夜 尿 があるので 寝 る 前 の 薬 を 飲 む・オムツの 着 脱 はトイレでするように( 人 に 気 づかれるのが 恥 ずかしいため) 対 人 関 係・ 人 と 関 わるのは 大 好 きだが、 同 年 代 の 子 どもより 会 話 をリードしてくれる 大 人 との 交 流 を 特 に好 む 勉 強 、 学 習 面・ 小 学 校 5 年 生 程 度 の 内 容 は 理 解 している- 86 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)( 言 葉 はもっと 低 い) 性 格 ・ 行 動 の 特 徴・ 穏 やかだが、 思 い 通 りにならないと 嫌 がらせをしたりする。 人 の 気 を 引 きたいときなども 困 らせることをわざとする。 意 味 が 分 からないときは 自 傷 がでることもある。・ 遊 ぶときは 二 択 すると 選 びやすい。 参 加 の 動 機・ 人 との 交 流 を 通 じて 自 己 表 現 ( 言 葉 で 気 持 ちを伝 える)を 学 んでほしい・ 身 のまわりの 片 付 けなども 自 分 で 出 来 るようになると 嬉 しい。 その 他・ 夜 尿 の 薬 を 出 されているが、なかなか 飲 もうとしない。「 飲 まずにがんばる」という 本 人 の 気持 ちも 大 切 かと 思 い、 本 人 に 任 せている。2. 参 加 の 経 緯S.H の 母 親 からのご 紹 介3. 期 間 中 の 行 動以 後 、H の 発 言 は「」、まっさんの 発 言 は、そのほかの 人 物 の 発 言 は()とする。 事 前 の 面 接保 護 者 がトトロと 面 談 を 行 っている 間 、 隣 の部 屋 で 一 緒 に 過 ごした。 最 初 、 自 己 紹 介 をし、< 何 しようか>と 話 しかけたが、 返 答 はなくこちらをじっと 見 て 窺 っている 様 子 だった。 肩 から 重 そうな 荷 物 を 下 げていたため、と 言 うと、「いい。かばんいつもこうやって 背 負 ってる。」と 言 い、初 めて 会 話 をした。 事 前 のアンケートに、 塗 り絵 がすきとあったため、< H は 絵 描 くの 好 き?>と 聞 くと「うん」とうなずいたため、まっさんが 壁 際 にあった 引 き 出 しから 絵 を 描 く 道 具 を引 き 出 しごと(3 段 分 ) 持 ってこようとすると、「 片 付 けるとき 分 からなくなるから、 引 き 出 しの 順 番 覚 えておかないと」と 言 った。そして、H が 引 き 出 しのケースを 出 した 順 に 左 から 並べることを 提 案 した。道 具 が 揃 うと、H は 雑 誌 の 上 に 紙 を 置 き、 上からなぞるようにして 描 き 始 めた。とても 細 かい 絵 だったため、< 細 かいね>と 言 うと、 細 かいところを 描 くのが 得 意 と 言 い、 先 日 描 いた 写し 絵 も 上 手 く 描 けたことを 話 した。まっさんがじっと 見 ていると、「 何 で 見 てるの」と 言 い、遠 くに 離 れて 描 きはじめた。しばらくして、H の 使 っていたペンのインクが 出 なくなり、 描 くのを 中 断 した。置 いてあったフラフープを 触 り、 最 初 は 自 分 の腰 で 回 して 遊 んでいたが、 一 回 投 げて、 返 ってきたフラフープを 跳 ぶという 遊 びに 夢 中 になっている 様 子 であった。まっさんがと 言 うと、 私 にまっすぐフラフープを 回 し、「これを 跳 ぶんだよ」と 言 った。まっさんが 上 手 くまたげずに 転 ぶと、それをおかしそうに 笑 い、初 めて 笑 顔 を 見 せた。 一 日 目大 学 院 の 入 り 口 で 会 うと、H は 軽 く 会 釈 をした。そのまま2 階 に 上 がり、 教 室 に 入 ると、すでに 教 室 が 参 加 者 とスタッフでいっぱいだったため、H は 床 に 座 った。まっさんがと 言 うと、「ここがいい」と 言 い、 机 や人 の 隙 間 から 前 に 立 っていた 先 生 を 見 て「こっからも 見 える」とうれしそうに 笑 った。バスに移 動 する 時 間 になり、まっさんがしばらくトイレにいけなくなることを 伝 え、トイレに 行 くことを 勧 めるが、「いい」と 一 点 張 りで、トイレの 前 で 固 まっていた。と 言 い、 返 答 はなかったが、バスへと 移 動 した。出 発 前 、H がまっさんに「お 母 さんびっくりするかな」と 言 い、バスの 中 から 見 送 りに 来ている 保 護 者 に 大 仏 の 物 真 似 をしてみせた。バスでの 移 動 中 、なぞなぞの 企 画 があったため、まっさんが< 今 なぞなぞやってるって>と声 をかけたが、「いい」と 言 い、 鞄 から 歌 集 を- 87 -


松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 﨑 一 記取 り 出 し、 表 紙 の 絵 に 色 を 塗 り 始 めた。 色 を 塗る 作 業 がとても 細 かかったため、< 器 用 だね。色 のセンスがいいね。>と 声 をかけると「 細 かいところを 描 くのは 得 意 なんだ。」と 嬉 しそうに 話 した。また、バスの 中 でサマースクールのテーマソングが 流 れると、 歌 集 をパラパラとめくり「あっ、この 曲 も 知 ってる」といくつか 知 っている 曲 を 口 ずさんでいた。バスの 中 では、「わたし、キャンプに 行 くのは 慣 れてるんだけど5泊 するのは 初 めてだから」と 話 したため、と 言 った。「まっさんも 初 めてなんだ ・・・。」と、初 めて H が“まっさん”と 呼 んだ。サービスエリアに 着 き、 昼 食 をとるレジャーシートのあたりに 行 くと、 付 近 に 落 ちているセミの 抜 け 殻 を 拾 い、 男 性 のスタッフやトトロの胸 や 背 中 にくっつけていた。「 反 応 が 面 白 い 人がいい」と 言 い、「 次 誰 にしよう」と 歩 き 回 っていた。 昼 食 の 用 意 がされていたのでまっさんが< H、おにぎり 食 べようよ。あっちにあるから 取 りに 行 こ>と 声 をかけると、H が 不 意に 走 り 出 した。 車 道 の 方 に 向 かって 走 ったため、< H そっちは 危 ないよ。>と 大 きな 声 を 出 して 伝 えたが、 車 道 を 越 えて、バスの 止 めてある方 まで 走 っていった。まっさんが 慌 てて 追 いかけて、 再 度 < 車 も 通 ってるし、こっちは 危 険 だよ。 戻 ろう。>と 言 った。H は、「ちゃんと 確かめてるから 大 丈 夫 。その 辺 はちゃんとしてるもん。」といい、 再 び 走 り 出 した。バスの 周 りを 何 周 か 走 り、 車 道 を 渡 り、 再 度 バスへ 戻 るといったことを 何 度 か 繰 り 返 した。バスの 近 くへ来 たときに、まっさんがと 言 うと、H はバスの 中 に 戻 り、途 中 だった 歌 集 の 表 紙 絵 を 塗 り 始 めた。昼 食 後 、バスの 中 で、 再 びレクレーションが始 まり 景 品 のキャンディが 回 ってきたため、と 声 をかけたが、「いらない」と 言 って 断 った。 前 の 席 に 座 っていた R が(キャンディ 食 べなよ。おいしいよ)と 言 って H に1つ 自 分 の 分 を 渡 したが、「いい」と 言 って 返 していた。ネイチャーランドに 着 くと、 開 会 式 のために研 修 室 に 向 かった。 研 修 室 の 床 がつるつるしていたため、 着 くなり H は 助 走 をつけて、「ここ滑 る~」と 言 って 何 度 も 走 って 滑 るということを 繰 り 返 していた。そのとき、S .H と ( あっ )と 言 って 目 が 会 うと、「いや~」と 言 って、 廊下 まで 逃 げるように 走 っていった。まっさんがときくと、「 嫌 なんだよ。 学 校も 一 緒 で 学 校 で 会 うときも、 見 つけるといつも追 いかけてくる」と、 興 奮 した 様 子 で 話 していた。遊 び 場 ・ 基 地 作 りでは、 蛙 ・ 虫 採 りをした。バッタを 捕 まえると、 男 性 のスタッフやトトロを 探 して「これあげる」と 言 って 手 渡 していた。遊 び 場 の 奥 の 方 に 湿 った 草 地 があり、そこに 蛙がたくさんいたため、 長 い 時 間 そこで 蛙 を 捕 まえた。H が1 匹 捕 まえると、「これ 持 ってく」と 言 ったため、 用 意 した 虫 かごに 入 れた。 虫 かごには、 蛙 のエサとして 蟻 やバッタなど 数 種 類の 虫 を 入 れて 部 屋 に 持 ち 帰 った。部 屋 に 戻 ると 同 室 のO .H、A、I が H に (H、よろしくね。わあー 何 採 ってきたの。 見 ても 良い? ) と 声 をかけた。H は、 無 言 でカーテンの後 ろに 隠 れた。入 浴 の 時 間 になり、 部 屋 に 残 っているのはH のみとなったため< H お 風 呂 入 りに 行 こう>と 言 った。H はカーテンの 後 ろに 隠 れたままで、 返 答 がなかった。まっさんが< H どうしようか。シャワーだけの 部 屋 もあるよ。そこなら 一 人 で 入 れるよ。>と 声 をかけると、カーテンから 出 て、 押 入 れの 中 に 入 り 扉 を 閉 めた。同 室 の 参 加 者 が 風 呂 から 戻 ってきて、(H ご 飯一 緒 に 行 こう ) と 声 かけた。H は、 皆 が 食 堂 に- 88 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)向 かった 後 で、まっさんと 一 緒 に 向 かった。 食堂 の 前 にまで 行 くと、 急 に 部 屋 に 引 き 返 した。その 後 キャンプファイヤー 場 に 向 かうまで、 押入 れの 中 に 篭 ったままだった。手 をつなぎ、キャンプファイヤー 場 まで 向かったが、 雨 が 降 り 出 したため、 予 定 していた花 火 は 中 止 となり、 研 修 室 に 戻 った。 夜 のお 楽しみ 会 は、 会 場 まで 行 き、 輪 の 中 には 入 らなかったが、 部 屋 の 隅 のほうに 座 り 話 す。H が 涙 を見 せカーテンの 裏 に 隠 れたため、と 聞 くと、まっさんに 寄 りかかり、「 大 好 きな 英 語 の 先 生 のことを 思 い 出 してたら 悲 しくなった」と 話 した。日 記 を 書 くときは、 机 の 下 にもぐり 書 いていた。 書 き 終 わるとまっさんに 向 かって「 今 日 バスの 中 で 描 いたバスの 絵 、 初 めてだったけど 上手 く 描 けたことを 書 いた」「 絵 もつけたほうがいいかな」と 言 ったので、と 言 った。「じゃあ 描 く」と言 って、 日 記 に 絵 も 描 き 加 えていた。しばらくして 皆 が 宝 箱 作 りをやり 始 めたので、まっさんが< H、 宝 箱 一 緒 に 作 ろう>と 声 をかけたが、無 言 で 廊 下 に 出 て 行 った。 廊 下 に 座 り、 自 分 の書 いた 日 記 を 読 み 返 していたため、まっさんが近 くに 行 って 座 ると、まっさんに 無 言 で 日 記 を渡 した。まっさんがときくと、「うん。いいよ。」と 言 った。まっさんがページをめくりながらゆっくり 読 んでいると、H は1ページずつ 説 明 をしながら 家 族 のことについても 話 した。オセロ 大 会 が 始 まり、他 のスタッフが 声 をかけると、 研 修 室 に 戻 った。オセロ 大 会 ではO .H と 勝 負 をした。H は 負けたが、 試 合 後 まっさんに「いまの 試 合 、 分 かった?」と 小 声 で 聞 き、「 私 、 相 手 が 小 さかったからわざと 負 けてあげたんだよ」と 話 した。就 寝 時 間 が 近 づくと 本 館 につながる 渡 り 廊 下の 扉 の 前 に 座 り、 来 る 人 に 大 仏 の 真 似 をして 見せていた。 誰 かが 扉 を 通 ろうとすると、「ここ通 るにはジャンケンするんだよ」と 言 い、じゃんけんを1 回 し、 勝 っても 負 けても、 通 していた。 通 った 人 が(H ありがとう)と 言 うと、「 通れないと 思 った?」と 言 い、 嬉 しそうな 表 情 を見 せていた。22 時 の 就 寝 時 間 になり、 皆 が 続 々と 部 屋 に戻 っていったが、 渡 り 廊 下 の 扉 の 前 に 座 り、 大仏 の 真 似 を 続 けていた。「だんだん 人 が 通 らなくなってきた。もっと 誰 か 来 ないかな。」と 言 い、まっさんは< H もそろそろ 部 屋 に 戻 って 寝 る準 備 しよう>と 声 をかけた。H は、 戻 る 気 配はなく、 外 に 出 て 石 を 投 げたり、クモの 巣 を 壊したりしていた。まっさんが、と 言 うと、頷 き、2 階 に 続 く 階 段 の 一 段 目 に 腰 掛 けた。 会話 はあまりなかったが、1 時 半 くらいまでそこで 一 緒 に 過 ごした。まっさんがというと、H は 部 屋 の 押 入 れに 入 り、そのまま 眠 った。 2 日 目昨 日 、H は「 朝 、みんなをコケコッコーって 言 って 起 こしに 行 く。びっくりするかな」と言 っていた。そして、6 時 前 に 起 床 し、6 時 になると 同 時 に 皆 を 起 こしに 行 った。 起 きてきた人 に、「 朝 ニワトリのコケコッコーっていう 鳴き 声 聞 いた?」と 色 々な 人 に 聞 いて 回 っていた。朝 の 学 習 は 部 屋 で 行 った。 学 校 の 宿 題 を 持 ってきており、まっさんに「 見 て」と 言 って 渡 した。H は 英 語 のページを 開 き、「 英 語 が 好 きなの。先 生 がやさしいんだ。 大 好 きな 先 生 」と 話 した。研 修 室 から 戻 ってきた 同 室 のI .Y、O .H、A、I から(H、 中 学 ってどんなこと 勉 強 するの?見 ていい?)と 声 をかけられたが、 宿 題 を 閉 じ、かばんにしまった。H は、カーテンの 裏 に 隠 れ、しばらくすると 押 入 れの 中 に 入 った。I .Y、O .H、A、I が(H、 私 たちも 押 入 れ 入 ってみていい?)と 言 い、H の 入 っている 押 入- 89 -


松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 﨑 一 記れの 上 の 段 に 乗 って 入 った。( 全 員 入 れるかな)と 言 い、ぎゅうぎゅう 詰 めになりながら 入 っていった。その 様 子 を H は 時 折 見 上 げながら 笑 っていた。I .Y、O .H、A、I が(H 今 日 ピザ 作 りだって!一 緒 に 行 こうよ。まっさんも 一 緒 だって)と 声をかけた。H は 押 入 れに 入 ったままで、 返 答はしていなかった。皆 がピザ 作 りに 出 かけた 後 、H が 昨 日 着 替えをしていないため、まっさんが< 着 替 える?>と 聞 いた。H は 押 入 れには 入 ったままで 返答 はなかったが、まっさんが< 外 出 てるね。 今部 屋 だれもいないから H の 好 きなタイミングで 着 替 えしていいよ>と 声 をかけた。15 分 くらい 経 ち 少 し 部 屋 をのぞくと、 押 入 れから 出 て 着替 えていたため、もう 少 し 待 った。 少 しすると、H が 扉 をあけ、「いいよ。」と 言 った。その 後 渡 り 廊 下 で、 再 び 好 きな 英 語 の 先 生 の 話をした。H は 先 生 が 大 好 きだったが、 海 外 に 行 ってしまい、もう 会 えないこと、この 間 電 話 をしたが 出 てくれなかったことを 話 した。そして、 家 族 について、「 私 、 家 嫌 いなんだ。だから 家 に 帰 りたくない。」と 話 した。さらに、「 来 年 もサマースクール 絶 対 来 る!」と 宣 言 していた。< 川 行 ってみない?>と 声 をかけるが 返 事 がなかった。しばらくして、まっさんに 紙 を 渡 し、「いつもうまく 話 せないときはこうして 紙 に 書いてるんだ」と 言 った。まっさんは< 今 は Hどうしたい 気 持 ちかな?>と 書 いた。H から「どういうこと?」と 返 ってきたため、< 川 に 遊 びに 行 くとかお 部 屋 でまったりするのとか>と 書いた。H が 部 屋 の 方 を 選 んだため、と 書 くと「OK」と 返 事 が 来 た。しばらく 一 緒 にクマやワカメの 絵 を 書 いた後 、 川 へ 行 ってみようと 誘 うと、H は 玄 関 の方 へゆっくりと 移 動 し 始 めた。そして 一 緒 に 川辺 へ 向 かった。川 辺 に 着 くと、 石 が 沢 山 転 がっており、Hはずっと 下 のほうに 注 意 を 向 けて、 石 を 拾 い 始めた。 拾 った 石 を 持 っていた 帽 子 に 入 れ、まっさんに「これは、キラキラしてるからいい 石 なんだよ」と 言 って 取 った 石 を 見 せていた。また、ハート 型 の 石 を 見 つけ、「これどういう 意 味 か 分 かる?」と 言 い、と 聞 くと、「そう、まっさんへの 気 持 ちだよ」と 言 った。「トトロにあげるのも 探 す」と 言 い、 長 細 い三 角 形 の 石 を 見 つけ、「トトロにはピザあげる」と 言 いトトロに 渡 した。その 後 もスタッフを 見つけると、 気 に 入 った 石 を 渡 していた。宿 に 戻 ると、 風 呂 の 時 間 だっため、< 今 日 はいっぱい 汗 かいたし、 汗 流 そうか>と 声 をかけたが、 返 答 はなかった。 部 屋 の 皆 が 風 呂 場 に 行 ったため、< 一 人 で 入 れる 所 あるから 大 丈 夫 だよ。一 回 、 見 に 行 ってみようか>と 声 をかけ、 風 呂場 の 近 くまで 行 ったが、 近 づいたところで、Hは 部 屋 に 急 いで 引 き 返 した。H は 夕 食 の 時 間 まで 押 入 れに 入 っていたが、昼 間 にI .Y、O .H、A、I が H のために 作 ったピザを 押 入 れに 持 っていくと、ほとんど 食 べていた。それが、 今 回 のキャンプで 初 めて 摂 った 食 事 だった。 夜 の 花 火 では、 最 初 に 歌 を 歌 った。「まっさんと 一 緒 に 見 ようと 思 って 持 ってきた」とポケットから 歌 集 を 取 り 出 し、 一 緒 にテーマソングを 歌 った。 花 火 は、 何 本 か 配 られたが、「 弟 にお 土 産 で 持 って 帰 る」と 言 い、ずっと 手 に 握 っていた。また、 何 箇 所 か 火 が 消 えそうになっている 蝋 燭 があり、H はそれを 見 つけると、 急 いでろうそくの 周 りを 手 で 囲 み、 風が 当 たらないようにしていた。また 近 くいる 人に「こうすると 火 が 復 活 するよ」と 話 していた。宿 に 戻 り、ナッツが H に( 今 人 少 ないから着 替 えちゃおう)と 声 をかけると、H はパジャ- 90 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)マと 着 替 えを 持 ってトイレの 個 室 の 入 り、 着 替えをした。まっさんが< 薬 どうする?>と 聞 くと、かばんから 薬 を 取 り 出 し、 飲 んだ。就 寝 時 間 になり、 部 屋 の 布 団 の 上 に、 壁 にもたれかかった 状 態 で 座 っていた。まっさんが、< H おやすみ>と 言 って、H の 布 団 の 隅 で 横になった。30 分 位 経 つと、H も 横 になって 寝ていた。 3 日 目朝 、 目 は 覚 ましていたが、なかなか 布 団 から出 てこなかった。 部 屋 の 皆 が 朝 食 を 食 べている間 にナッツが 着 替 えをするよう 声 をかけた。 皆が 戻 ってくる 頃 には 着 替 え 終 わっていたが、 布団 の 中 にもぐりこんだ。「だって、T シャツ 恥ずかしいんだもん。だからこれ 着 てきたくなかったんだよ」と、まっさんに 向 かって 言 った。H はキャラクターが 描 かれた T シャツを 着 ており、まっさんがそれを 見 てと 言うと、「 可 愛 くないよ~やだよ~」と 布 団 をさらに 頭 からかぶった。そのやりとりを 見 ていた部 屋 の 女 の 子 が(H、 見 せてよー)と 言 った。H が「じゃあ 一 瞬 だよ」と 言 ってチラッと 見せると、 皆 は(かわいいじゃーん!)と 言 った。「やだよ~」と 言 いながらも、 少 しはにかんだ表 情 を 見 せていた。田 んぼへ 向 っている 間 、 日 差 しが 強 く、まっさんが 何 度 か 帽 子 を 被 るように 伝 えた。「まっさん 被 ってほしいの?」と 聞 かれたため、と 言 うと、「じゃあ、 被 る」と 言 い 被 った。長 い 道 のりだったが、ずっと 手 をつないで 歩 いた。田 んぼに 着 くと、まっさんが< H、 水 分 補給 しよう。>と 言 い、H の 分 のお 茶 をコップに 注 いだ。これまで、H は 人 前 で 飲 み 物 を 飲むことのが 恥 ずかしいと 言 い 隠 れて 飲 んでいたが、この 時 は、 大 勢 人 がいる 中 で、 隠 れることなく 飲 んでいた。 川 に 下 りて、 石 を 拾 った。 泥んこ 遊 びを 誘 ったが、「ここで 石 拾 う」と 言 い参 加 はしなかった。まっさんが、 祖 母 の 訃 報 を 受 け、トトロに 相談 した 上 で、H に 帰 らなくてはいけなくなった 事 情 を 説 明 した。Hは、 黙 ってまっさんに 抱きつき、 泣 いていた。まっさんは H に 手 紙 を渡 し、お 別 れをいった。その 後 、ナッツが 引 き 継 いだ。H はまっさんが 帰 る 時 、 車 が 見 えなくなるまで 見 送 った。「いつもこうだ」と 言 い、1 年 の 時 にお 世 話 になった 先 生 が 離 任 した 話 をした。 大 好 きな 英 語 の 先生 が9 月 からアメリカに2 年 行 くという 話 を 何度 もしていた。まっさんからもらった 手 紙 はすぐには 読 まず、ポケットにしまい、 時 々 思 い 出 しては「これは 後 で 読 もう」「 大 事 に 読 もう」と、ポケットを 触 っていた。 読 むタイミングをいつにするかを、あれこれ 考 えて 口 にしていた。 家 に 帰 って 読 もうか、サマスク 中 に 読 もうかと 言 っていたが、すぐに 読 むということだけはしたくないようだった。「 今 読 むと 悲 しくなるから」、「 忘れた 頃 に 読 む」と 言 っていた。川 で 遊 ぶ 時 、 自 分 から 同 室 の 参 加 者 に 話 しかけていた。 特 に、 低 学 年 のO .H やIには、 自分 から 積 極 的 に 関 わっていた。O .H が 持 っていたマスに 触 り、「ぬるぬるしているね」と 話しかけていた。マスつかみはしなかったが、 他 の 参 加 者 がバケツの 中 に 入 れたマスを 触 り、「 気 持 ちいい」と 言 い、マスがたくさん 入 っているのを 見 て「すごい」と 何 度 も 言 っていた。 他 の 参 加 者 がマスの 内 臓 を 取 り 出 す 様 子 を、 興 味 深 く 見 ていた。マスは 食 べなかったが、おにぎりは 自 分 で 選 び、参 加 者 の 間 をぬって、 自 ら 手 を 伸 ばしてとって食 べた。「どれ 選 ぶと 思 う?」とナッツにたずね、その 予 想 を 聞 いて 楽 しんでいた。ゴマが 好 きだということで、2 個 食 べたうちの 両 方 ともゴマ- 91 -


松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 﨑 一 記味 であった。ゴマ 味 を2 個 食 べたということを、嬉 しそうに 他 のスタッフに 話 していた。R が、まっさんがいなくなったことを 気 にかけ、 頻 繁 に 心 配 して 声 をかけてきた。その 時 は暗 い 表 情 になっていた。川 にいた 時 からカレーコンテストを 楽 しみにしており、「 野 菜 を 切 るの、やる!」とはりきっていた。「ルーは 甘 口 の 方 が、 小 さい 子 もみんな 食 べられるから、その 方 がいい」と 何 度 も 言 っていた。(まっさんのためにもコンテストで 優勝 しよう)という 同 室 の 参 加 者 の 発 言 に 大 きくうなずいていた。川 での 着 替 えの 際 、 同 室 の5 人 がテントの 中に 入 って 着 替 えをしていると、テントの 周 りからみんなの 体 を 触 っていたずらをした。 中 で 着替 えている 子 が(だれ? H ?)と 聞 いてくるのに 対 して「 正 解 」と 答 えるやり 取 りを 楽 しんでいた。川 にいる 時 に 首 が 日 焼 けしてしまった。 日 に焼 けるとかゆくなるとのことで、H はとても気 にしていた。 水 で 冷 やしたタオルを 首 にかけて 対 処 をした。 帰 りは、タオルがずれて 隙 間 があかないように 注 意 して 歩 いていた。川 にいる 時 に 下 着 が 濡 れていたため、 帰 り 道でナッツが、< 気 持 ち 悪 くない?お 風 呂 入 る?>と 聞 くと、 入 ると 答 えた。 大 きい 風 呂 と、 個室 の 小 さい 風 呂 のどちらがいいかを 聞 くと、「 大きい 風 呂 だと 他 の 子 がびっくりしちゃう」「 他の 子 は 小 学 生 だから」と、 自 分 だけ 体 が 成 長 していることを 気 にしているようだった。スタッフもみんな 一 緒 に 入 っているということを 伝 えたが、 個 室 の 風 呂 に 入 ることを 選 んだ。 同 室 の参 加 者 が、(お 風 呂 入 るの?)と 聞 いてきたときは、うなずいていた。これまでは、このような 質 問 を 同 室 の 参 加 者 からされると、 逃 げたり、黙 って 固 まったりしていた。川 からの 帰 り 道 では、ナッツを 挟 んで、O .Hとディズニーの 話 や、 旅 行 の 話 などをして 盛 り上 がった。風 呂 に 入 るところは 誰 にも 見 られたくないということで、 風 呂 の 前 に 誰 もいない 状 態 になった 時 に 入 った。 風 呂 では、 首 が 日 焼 けでかゆいということで、 首 から 上 は 洗 わなかった。 風 呂から 上 がると、 脱 衣 所 の 鍵 を 開 け、ドアは 開 けずに 中 で 待 っていた。ナッツが、 周 りに 誰 もいないことを 伝 えると 中 から 出 てきた。部 屋 に 荷 物 を 置 くと、すぐに 外 に 出 て、 火 おこしに 向 かった。 木 の 皮 を 剥 いたり、 薪 を 割 ったりして、 積 極 的 に 班 の 活 動 に 参 加 し、 役 割 を果 たしていた。カレーコンテストでは 野 菜 を 切 る 係 になり、司 令 塔 の 役 割 を 担 った。O .H とIに、 野 菜 の切 り 方 を 大 変 丁 寧 に 教 えていた。 具 材 を 押 さえる 際 の「ネコの 手 」や、 包 丁 の 持 ち 方 、 切 る 間隔 などを、やさしく 教 えていた。また、2 人 が手 を 滑 らしたり、 危 ない 時 にはすぐに 気 がつき、手 助 けをしていた。H が 野 菜 を 切 るのではなく、監 督 のような 立 場 で 見 守 っていた。 野 菜 を 炒 める 時 は、 汗 をかきながら 一 生 懸 命 具 材 を 混 ぜていた。 火 にくべるための 木 を 探 したり、 配 膳 を皆 と 一 緒 に 協 力 してやったりした。しかし、 食べる 時 になると、まっさんの 手 紙 を 握 り 締 め、下 を 向 いて 食 べずに 居 た。 声 をかけると、「まっさんと 一 緒 に 食 べたかった」「きっと 美 味 しいって 言 ってくれた」と 言 い 涙 を 流 した。コンテストで 優 勝 した 時 も、「まっさんがいたら…」と言 い、 喜 びは 表 していなかった。コンテストで優 勝 したことをまっさんに 報 告 しようと 伝 えるとうなずき、まっさんにいつ 会 えるのか、 来 年は 会 えるのかと 心 配 していた。夜 の 日 記 の 時 、ナッツがのかと 聞 くとうなずき、< 寂 しい 気 持 ちを 書 く?> 聞 くとうなずいた。 日 記 は 書 き 始 めると、 途 中 で 止 まり、 他 の 所 に 目 を 向 けていた。声 をかけると、また 書 き 始 めた。 字 が 気 に 入 らないと 言 って、 何 度 も 消 して 書 き 直 した。 実 際- 92 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)に 書 いた 内 容 は、まっさんのことではなかった。参 加 者 だけでお 楽 しみ 会 の 話 し 合 いをする際 、ナッツが 部 屋 の 外 に 出 るのは 不 安 か 聞 くとうなずき、まっさんの 手 紙 を 握 り 締 めた。しかし、 話 し 合 いが 終 わると、とても 楽 しそうな 表情 ではしゃいでいた。この 日 は 一 日 、 不 安 な 気持 ちのときには 必 ずまっさんの 手 紙 を 取 り 出 して 握 り 締 めていた。夜 は、 初 めてパジャマを 部 屋 の 中 で 着 替 えた。ズボンは 布 団 の 中 ではき、シャツは 押 入 れの 中 で 着 た。 押 入 れの 中 でまっさんからの 手 紙を 読 んだようで、ナッツを 呼 び、 手 紙 を 読 ませてくれた。その 時 、カレーコンテストでは、まっさんがいなくて 寂 しいからカレーが 食 べられなかったと 話 した。部 屋 の 電 気 を 消 すとき、 班 で 一 番 背 の 高 いH が 代 表 して 紐 を 引 っ 張 って 消 し、 班 全 体 で盛 り 上 がっていた。 4 日 目朝 は 布 団 の 中 で 着 替 えをし、この 日 初 めてラジオ 体 操 と 散 歩 に 参 加 した。 林 の 中 の 散 歩 は 初めてだったが、 何 度 も「おもしろい」と 言 い、楽 しんでいた。この 時 、「 初 めての 参 加 でわからないことがたくさん」と 話 した。 朝 食 までの時 間 は、ロビーで 他 の 班 の 参 加 者 と 一 緒 にUNOをして 遊 んだ。朝 食 は、 食 堂 の 前 に 並 んだが、 嫌 いなシャケがあることを 見 て、 入 ることをためらっていた。ナッツが、シャケは 見 ないようにして 入 ってみてはと 伝 えると、まず 食 堂 に 慣 れるために 少 しずつ 中 に 入 り、その 場 で 食 堂 の 様 子 をうかがっていた。 食 堂 の 中 では、シャケが 目 に 入 らないように、 床 を 這 うようにして 移 動 した。シャケ以 外 のおかずを 受 け 取 り、 同 室 の 参 加 者 が 座 っているテーブルの 脇 にある、 残 飯 を 入 れるバケツの 上 に 食 事 のトレーを 置 き、そのまま 床 に座 って 食 べた。「 人 がたくさんいるの 苦 手 だからこうする」と、 自 分 の 工 夫 について 話 した。また、 椅 子 を 引 く 音 がすると、 耳 をふさいでいた。 海 苔 が 好 きだと 言 うと、 同 室 の 参 加 者 が 海苔 を 分 けてくれた。もらった 海 苔 は 部 屋 に 持 ち帰 り、 大 事 に 保 管 した。ごはんと 味 噌 汁 は 食 べられなかったが、それに 気 づいた 同 室 の 参 加 者が 代 わりに 食 べてくれた。 食 べ 終 わった 後 は、同 室 の 参 加 者 と 一 緒 にスタッフにいたずらをして 楽 しんでいた。トイレの 出 入 りを 見 られたくないため、ナッツが、 入 る 時 は 廊 下 に 人 がいないか、 出 る 時 には 人 がこないかどうかを 見 張 ることで、 行 くことができた。その 後 、スタッフの、 手 の 人 差 し 指 と 親 指 の間 をさわってまわり、 色 々な 人 の 柔 らかさを 比べて 楽 しんでいた。 特 にそういちろうの 手 の 感触 を 気 に 入 り、 何 度 も 触 っていた。「まっさんのも 触 ればよかった」と 言 っていた。朝 学 習 の 時 間 は、 部 屋 で 過 ごした。 私 がテーマソングを 歌 うのを 真 剣 に 聞 いていて、 最 後 まで 歌 うよう 頼 んできた。 一 生 懸 命 覚 えようとしているようだった。 持 参 した 宿 題 の 表 紙 に、 好きな 先 生 の 名 前 とまっさんの 名 前 を 書 いた。 計算 の 宿 題 は、ナッツがと 言 うと、「2 分 で終 わる!」と 言 い、 時 間 を 計 って 一 気 に 解 いた。速 く 解 いて 速 く 書 けるように、 自 分 で 工 夫 をしていた。 結 果 は4 分 25 秒 で、ナッツの 予 想 より早 かった。 次 のページも 速 く 解 けるようやり 方を 工 夫 し、 時 間 を 計 って 取 り 組 んだ。 少 し 難 しい 問 題 にも、 粘 り 強 く 取 り 組 んでいた。外 遊 びの 時 間 になると 自 ら 水 分 補 給 をし、 外に 出 るときには、まっさんからの 手 紙 と、カレーコンテストのメダルをポケットに 入 れていった。 同 室 の 参 加 者 とコオロギを 捕 まえた。 捕 まえたコオロギは、 同 室 の 参 加 者 が 集 めているところに 持 って 行 き、 一 緒 に 加 えていた。 集 めたコオロギをスタッフに 食 べさせようとする 遊 びにも 加 わり、たくさん 笑 っていた。- 93 -


松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 﨑 一 記その 後 、 外 に 置 いてあるお 茶 のタンクが 空 になっていることにナッツが 気 付 き、 一 緒 に 補 充をしにいかないかと 提 案 すると、とても 張 り切 っていた。 水 を 入 れること、お 茶 パックを 入れること、 氷 を 取 りに 行 くこと、コップを 洗 うことを、どの 順 序 でやると 効 率 がいいかを 一 緒に 考 え、その 時 もとても 楽 しそうな 表 情 をしていた。お 茶 を 外 に 持 っていくと、 待 っていた 参加 者 がたくさん 集 まってきた。 皆 がおいしそうにお 茶 を 飲 む 様 子 を、 非 常 に 嬉 しそうな 表 情 で眺 めていた。その 後 も、タンクを 日 陰 にうつして、ゆっくり 飲 めるような 環 境 を 作 ったり、 洗 ったコップと 使 用 済 みのコップがわかりやすくなるようにしたりと、 様 々な 工 夫 をしていた。 火をおこして 遊 んでいる 参 加 者 にもお 茶 が 必 要 だと 気 付 き、そこにもお 茶 を 作 って 持 っていった。喉 が 渇 いていた 参 加 者 に 喜 ばれ、とても 嬉 しそうだった。たらいそうめんの 時 は、 班 の 机 の 近 くで 立 ち、かたくなっていたが、ナッツがつゆにそうめんをつけたものを 渡 すと、 少 しして 食 べた。 参 加者 のS.H が 大 きな 声 を 出 すと、 音 から 離 れた 場 所 に 行 って 食 べた。「 耳 栓 を 持 ってくればよかった」と 言 っていた。つゆを 飲 みながらそうめんを 食 べ、たくさん 入 っていたつゆがどんどんなくなっていくのをナッツに 見 せ、 反 応 を楽 しんでいるようだった。食 べ 終 わった 後 は、 施 設 のスタッフや、 色 々なスタッフに「 上 から 読 んでも 新 聞 紙 、 下 から読 んでも 新 聞 紙 。では、フルーツポンチは?」という 問 題 を 出 してまわった。 答 えられずにいるスタッフに「 答 えは、『こぼれる』でした!」と 言 い、(だまされたー!)というスタッフの反 応 を 非 常 に 楽 しんでいた。また、トンボを 捕まえ、その 様 子 を 興 味 深 く、 細 かく 観 察 し、 色 々なスタッフに 見 せて 歩 いた。 施 設 のスタッフに、おたまじゃくしがいるところを 教 えてもらい、おたまじゃくしを 手 ですくって 遊 んだ。洗 濯 物 は、 他 の 人 に 見 られないように 個 別 で洗 濯 機 で 洗 ったため、 皆 が 遊 んでいる 間 に、 見られないようにこっそりと 取 り 込 みんだ。部 屋 では、『キャンプだホイ』という 歌 をナッツに 教 えてくれた。その 後 、 宝 箱 を 作 った。まっさんと 一 緒 に 作 れなかったことを 悔 やんでいる様 子 だった。カレーコンテストのメダルを、「 初めてとったんだよ!」と、 何 度 も 言 っていた。初 めて 参 加 したサマースクールで、 初 めてやったカレーコンテストで 取 れたということがとても 嬉 しいようだった。その 後 、 事 務 室 で 仕 事 をしているももちゃんに、 事 務 室 の 外 からアピールをして、 気 付 いてもらうことを 楽 しんでいた。班 の 子 たちが 部 屋 のベランダで 遊 びだすと、ベランダに 出 て 一 緒 に 遊 んだ。その 後 のお 楽 しみ会 の 話 し 合 いには、 張 り 切 って 参 加 しに 行 った。話 し 合 いから 帰 ると、 外 で 同 室 の 参 加 者 やRと一 緒 に、キャッチボールをしたり、ボールを 蹴 ったりして 遊 んだ。 裸 足 で 外 を 歩 き 回 ったり 走 ったりと、とても 生 き 生 きした 様 子 を 見 せていた。ナッツの 名 札 が 部 屋 の 中 にあることに 気 付 くと取 りに 行 ったり、 他 の 参 加 者 にお 茶 を 持 ってこようかと 言 ったり、 周 りの 人 を 援 助 しようという 行 動 が 頻 繁 にみられた。 外 遊 びが 終 わると、足 を 洗 いに 個 室 の 風 呂 に 行 き、ナッツが 着 替 えなどを 持 ってくると、そのまま 風 呂 に 入 った。風 呂 から 出 た 後 ロビーにいると、Yが 来 て、一 緒 にオセロを 始 めた。しかし、その 直 後 にT . Aが 来 て、Y に、Sに 謝 るようにと 大 きな声 で 言 った。T . Aはオセロを 取 り 上 げ、 大 きな 声 でYを 叱 責 した。その 様 子 を 見 て、Hははじめは「やだ」と 言 っていたが、 途 中 で 走 って部 屋 に 戻 り、 押 入 れに 逃 げ 込 み、しゃくりあげて 泣 いていた。ナッツは、H が 感 じていると 思 われる 気 持 ちを 言 葉 にして 伝 え、けんかの状 況 を 整 理 して 説 明 した。1 ~ 2 分 で 泣 き 止 み、押 入 れから 出 てきた。 布 団 をかぶってしばらくゆっくり 過 ごした。その 後 は 食 堂 に 向 かう 姿 勢- 94 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)になった。Tのカエルが 死 んでしまったことを 聞 き、 自分 のカエルをあげようと 言 っていた。 同 室 の 参加 者 が、 夕 食 に 誘 いにきた。メニューにからあげとプリンがあるということを 聞 くと、 目 を 輝かせていた。おかずを 受 け 取 り、 朝 とは 違 う 場所 の 席 に 着 いたが、その 場 で 固 まってしまった。食 堂 の 外 に 出 て、 皆 が 食 べ 終 わるのを 待 った。人 が 少 なくなると 中 に 入 り、 人 がほとんどいなくなると 机 の 下 にもぐり、 椅 子 をテーブル 代 わりにして 食 べた。 食 べている 時 は、とても 楽 しそうな 表 情 だった。お 楽 しみ 会 は 肝 試 しをやり、とても 楽 しそうにスタッフを 驚 かせていた。 終わった 後 はナッツのところに 来 て、「 来 年 もまたやりたい」と 何 度 も 言 っていた。その 後 のオセロはAとやって 勝 ち、I . Yとやって 負 けた。I . Yは、 始 める 前 に、 手 加 減してと 言 っていたが、 実 際 負 けると 悔 しいようで、O .H に 負 けた 時 と 違 い、 沈 んだ 表 情 をしていた。その 後 は、 宝 箱 をはりきって 作 った。S.H が 大 きな 声 を 近 くで 出 した 時 は、S.H を 叱 っていたが、S.H が 相 手 にしてほしくて 近 づいてきたときには、 相 手 をして 喜 ばせていた。同 じ 学 校 で 普 段 交 流 があるため、どうやって喜 ばせるかを 知 っているとのことで、ナッツに喜 ばせ 方 を 説 明 した。 夜 、パジャマに 着 替 える時 は、 布 団 や 押 入 れに 入 ることなく、その 場 で着 替 えていた。 5 日 目朝 食 では、 好 物 のハッシュドポテトの 配 膳 をスタッフと 一 緒 にやった。 自 分 の 分 の 配 膳 では、自 分 が 食 べられるものを、 食 べられる 分 だけとり、 初 めて 食 堂 で 残 さずに 食 べた。 食 べる 場 所は4 日 目 の 朝 と 同 じ 場 所 であった。チャレンジハイキングには、 沢 登 りがあることをとても楽 しみにしており、 支 度 も 張 り 切 ってした。 荷物 の 準 備 は、 必 要 なものをナッツが 一 つずつ 言い、それを 自 分 でリュックにつめた。チャレンジハイキングの 冒 頭 で 川 に 向 かう 時 は、『キャンプだホイ』を 歌 いながら、 楽 しそうに 歩 いていた。ゴーグルを 持 ってきており、 泳 ぎが 得 意だから 川 では 泳 ぐということを、 何 度 も 言 っていた。 川 では、 深 くなる 場 所 では 顔 をつけて 泳ぎ、その 姿 を 色 々なスタッフに 見 せていた。 川の 底 にあるきれいな 石 を 拾 い、それを 色 々なスタッフにプレゼントしたり、ライフジャケットのポケットに 大 切 にしまった。 特 に 気 に 入 った石 があると、「これはまっさんにあげよう」と言 っていた。 川 の 中 では、H が 潜 って 川 底 の様 子 を 確 認 し、 足 場 のいいところをナッツに 教え、リードした。 沢 登 りをしている 間 、 何 度 も「おもしろい」と 言 い、 笑 顔 をみせていた。 沢登 りの 後 の 更 衣 室 での 着 替 えでは、 巻 タオルの中 で 早 く 着 替 えることが 得 意 と 言 い、 素 早 く 着替 えてナッツを 驚 かせて 楽 しんでいた。 昼 食 の弁 当 は、みんなが 座 っているレジャーシートに一 緒 に 座 って 食 べた。 出 発 の 時 、 皆 がいなくなった 後 、 弁 当 についていた 輪 ゴムがレジャーシートにたくさん 落 ちており、それを 全 部 拾 い 集 めて 腕 につけて 楽 しんでいた。その 後 のハイキングでは、 前 を 歩 くスタッフのリュックサックのチャックを 開 けて、そのスタッフが 気 づく 時 の反 応 を 見 て 遊 んだ。 山 登 りに 差 し 掛 かると、 落ちているまつぼっくりを 拾 い、「おいしいまつぼっくりはリスが 食 べるから、 芯 しか 残 っていない」とナッツや 近 くにいるスタッフに 教 え、芯 しか 残 っていないまつぼっくりを 見 つける 度に 拾 い 上 げた。 珍 しい 物 が 落 ちているとすぐに気 が 付 いて 拾 い、 自 分 のペースで 歩 いた。 急 な斜 面 もあったが、 真 剣 な 表 情 でほとんど 休 むことなく 登 り 切 った。 山 頂 では、 崖 のようになっているところの 端 に 腰 掛 けて 休 んだ。 写 真 に 写ることが 嫌 いだと 話 し、 山 頂 での 班 ごとの 集 合写 真 には 写 らなかった。しかし、 帰 りの 全 体 の集 合 写 真 の 時 は、ナッツが、「この 写 真 は 年 賀状 に 使 うから、H が 写 っているとまっさんが- 95 -


松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 﨑 一 記喜 ぶよ」と 伝 えると、「まっさんに 見 てもらう」と 言 い、 最 前 列 で 写 真 に 写 った。 初 めは 下 を 向いていたが、その 時 のカメラマンがそういちろうだったため、「ぷにぷにそういちろうだよ」と 伝 えると、 笑 顔 でカメラの 方 を 向 いた。 帰 り道 では、セミの 抜 け 殻 を 拾 ってブローチのように 服 につけ、それを 同 室 の 参 加 者 に 見 せた。 帰り 道 の 途 中 で 細 くてまっすぐな 竹 の 棒 を 拾 い、それをとても 気 に 入 り、サマースクールの 最 後まで 宝 物 にしていた。 施 設 に 着 き、アイスを 食べる 時 、アイスを 半 分 にしてナッツに 渡 した。野 外 炊 事 場 で、テーマソングや 歌 集 に 載 っている 曲 をたくさん 皆 で 歌 った 時 は、どの 曲 も 満 面の 笑 顔 で、 元 気 に 歌 っていた。 部 屋 に 戻 る 時 は、風 呂 に 入 ると 言 っていたが、 部 屋 で 布 団 に 入 ると、そのまま 動 かなかった。そのまま 夕 食 の 時間 まで 布 団 で 話 をしながら 休 んだ。 夕 食 のバーベキューは、 途 中 から 野 外 炊 事 場 に 行 った。ハイキングで 拾 った 棒 を 持 っていき、その 棒 で 地面 や 柱 、 壁 など 色 々なところを 叩 き、 音 の 違 いを 楽 しんでいた。 芝 生 に 小 さなボールが 落 ちていたため、それをナッツやはちと 蹴 りあって 遊んだ。バーベキューで 焼 いた 肉 や 焼 きそばを 同室 の 参 加 者 が 持 ってきて 食 べるよう 促 してきたが、 表 情 をかたくして 受 け 取 らなかった。 食 べ物 をナッツが 部 屋 に 運 ぶ 間 に、 建 物 の 陰 に 隠 れ、ナッツが H を 探 す 姿 を 見 て 楽 しんでいた。スタッフのゆいちゃんが、H に 食 べてもらおうと、ニンジンを 花 の 形 にして 乗 せた 焼 きそばを 持 ってきたが、 食 べなかった。しかし、ニンジンの切 れ 端 を 見 つけると、それを 食 べた。その 後 も、ニンジンのかけらを 野 外 炊 事 場 で 探 し 回 った。流 しに 落 ちていたかけらを 食 べたらスイカだったため、 驚 いて 笑 っていた。しばらくすると 部屋 に 戻 り、 焼 きそばのニンジンを 食 べたり、ナッツと 話 したりして 過 ごした。この 後 にキャンプファイヤー( 別 れの 集 い)をやるということを伝 えると、『 燃 えろよ 燃 えろ』を 歌 うと 張 り 切 り、「『 燃 えろ』 行 く」と 何 度 も 言 った。しかし、ハイキングの 疲 れもあり、 眠 くなったようで、 涙を 流 すほど 頻 繁 にあくびをした。それでも、「『 燃えろ』まだ?」と 言 いながら、キャンプファイヤーに 行 くために 頑 張 って 起 きていた。キャンプファイヤーに 向 かう 道 は 暗 かったため、 少 し怖 がっていた。キャンプファイヤーの 場 所 に 着くと、 燃 えている 炎 を 見 て、『 燃 えろよ 燃 えろ』を 楽 しそうに 歌 った。H が 歌 いだすと、 他 の参 加 者 もそれに 合 わせて 歌 い、みんなで 何 度 も歌 った。スタッフと 参 加 者 が 一 人 ひとり 気 持 ちを 話 していく 時 には、 恥 ずかしいと 言 い、 話 さなかった。その 後 の 線 香 花 火 は、 同 室 の 参 加 者と 一 緒 に 楽 しんだ。 蝋 燭 の 火 が 消 えると、 他 の蝋 燭 を 持 ってきて、 皆 が 使 えるように 火 を 移 していた。 6 日 目朝 は、 昨 日 の 疲 れもあり、 朝 食 の 時 間 まで 寝ていた。 朝 食 では、 配 膳 をするのを 楽 しみに 食堂 に 入 った。 好 物 を 配 膳 したいということで、オムレツの 配 膳 をした。5 日 目 の 夜 から 来 ている 他 の 参 加 者 の 保 護 者 が 近 くに 来 ると、ナッツの 後 ろや、 部 屋 に 隠 れ、 配 膳 の 時 も、 保 護 者 の配 膳 はナッツと 交 代 した。 食 事 は4 日 目 、5 日目 と 同 じ 場 所 で 食 べた。 食 事 の 手 が 止 まった 時 、ナッツが「これあと 何 口 で 食 べられるかなあ?」と 聞 くと、「2 口 !」などと、ぎりぎりの 数 を答 え、 口 いっぱいにおかずを 頬 張 って 食 べた。白 米 を 最 後 に 食 べたが、 口 いっぱいに 白 米 を 頬張 り、 頬 の 内 側 にためておき、 食 堂 を 出 てからいろいろなスタッフに、 米 がまだ 口 の 中 にあることを 見 せて 楽 しんでいた。スタッフの 名 前 をたくさん 覚 えたことを 喜 んでおり、まだ 覚 えていないスタッフの 名 前 をナッツにたずね、 覚 えようとしていた。 帰 りの 支 度 でやることがたくさんあったため、1シーツをたたむ、2 荷 物 をまとめるなどと、ナッツが 番 号 をつけて、 今 やるべきことを 明 確 に 示 した。 作 業 をしている 途- 96 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)中 でやりたいことが 出 てきた 場 合 は、それに 新たに 番 号 をつけた。 荷 物 をスーツケースに 詰 める 際 、 手 が 止 まった 時 にナッツが 次 に 入 れる 物の 名 前 を 言 うと、それを 探 して 入 れるということを 繰 り 返 し、すべて 自 分 で 用 意 した。まっさんに 手 紙 を 書 くということにも 番 号 をつけており、それを 励 みに 準 備 を 頑 張 っていた。4 日目 の 肝 試 しの 際 、ブロック 石 を 誤 って 砕 いてしまったことを 気 にしており、それを 施 設 スタッフのももちゃんに 自 ら 打 ち 明 け、 謝 った。ももちゃんはそのブロックのかけらで 置 物 を 作 ってくれ、H はそれを 見 て 喜 んでいた。ナッツがスタッフとしての 仕 事 をしなければならなかった 時 には、 他 のスタッフと 一 緒 に 過 ごした。 昼食 の 鹿 沼 サンドも 不 安 を 示 していたが、ジョーと 一 緒 に 食 べに 行 った。 帰 りの 集 合 写 真 には 写ることを 拒 否 し、 近 くで 撮 影 の 様 子 を 見 ていた。バスの 中 では、 歌 集 の 表 紙 に 色 を 塗 ったり、眠 っているスタッフを 見 て 笑 ったりして 過 ごした。ナッツが 隣 で 報 告 書 を 書 いていると、 書 きやすいように 台 として 宝 箱 の 蓋 を 貸 したり、 定規 を 渡 したりと、ナッツに 協 力 し、 励 ました。まっさんへの 手 紙 をバスの 中 で 書 くと 言 っていたが、 最 後 まで 書 かなかった。 大 学 院 に 着 くと、一 階 のエントランスで 立 ち 止 まり、「ここでまっさんに 初 めて 会 ったんだよ…まっさんここで待 っててくれたんだよ…」と、 初 めてまっさんに 会 った 時 のことを 話 し、サマースクールが 初めてで 不 安 だったけれど、まっさんと 関 係 ができたことによって 不 安 が 減 ったということを 涙を 浮 かべながら 語 った。 閉 会 式 での 表 彰 は、『 初めてのサマースクールで、いっぱい 挑 戦 し、いっぱい 楽 しんだで 賞 』とした。 母 親 と 会 うと、まっさんからもらった 手 紙 を 読 ませたり、カレーコンテストのメダルを 見 せたりして、 楽 しかった思 い 出 を 次 々と 報 告 していた。 初 めてだったけど○○できた。などと、 不 安 の 中 でいろいろなことに 挑 戦 したことを 誇 らしく 話 していた。 来年 もサマースクールに 参 加 したい、まっさんにまた 来 年 会 いたいということを 繰 り 返 し 言 っていた。Ⅲ 考 察今 回 、サマースクールでは、H は 最 初 は 自 分のペースを 守 って 行 動 していたが、 徐 々に 周 りに合 わせていく 姿 が 見 られた。H にとっての 担 当スタッフの 存 在 と “ 安 全 基 地 ”の 視 点 から 考 察 する。また、 同 室 の 参 加 者 が H に 積 極 的 に 話 しかけ、ご 飯 を 食 べない H を 心 配 したり、 優 しい 気 遣 いを 多 くみせていた。それは、 何 故 なのか、また、そのことが H にどのような 影 響 を 与 えていたかを 考 察 したい。高 機 能 自 閉 症 の 認 知 の 特 徴 と 対 人 関 係 への 影 響高 機 能 自 閉 症 の 子 どもたちは、 他 人 と 自 分 の 社会 的 な 位 置 関 係 に 理 解 を 示 すと 言 われている。また、 社 会 的 安 全 圏 の 範 囲 が 不 自 然 に 広 がりすぎたり 狭 すぎたりする 傾 向 がある。さらに 目 が 合 っただけで 不 安 になったり、たいして 親 しくないのにべたべたくっついたりするという 特 徴 がある。これらの 特 徴 から、 社 会 的 安 全 圏 の 範 囲 について、 適 度 な 距 離 感 を 保 つことが、 援 助 的 関 係 やラポールの 形 成 や 維 持 をする 要 因 になりうることが示 唆 される。H にとって、 今 回 サマースクールが 初 参 加 で、それも H にとって 不 安 の 大 きな 要 因 であったと考 えられる。また、1,2 日 目 は 風 呂 や 食 堂 など 人が 多 くいる 場 所 は、 近 くまで 行 くものの、そこで固 まってしまい、 急 いで 部 屋 に 引 き 返 すという 場面 が 何 度 かあった。また、 最 初 のうちは 同 室 の 参加 者 から 話 しかけられると、 押 入 れに 隠 れるなど回 避 的 な 行 動 をとっていた。これは、 新 しい 環 境 への 戸 惑 いや 対 人 関 係 への不 安 があり、 社 会 的 安 全 圏 の 範 囲 の 適 度 な 距 離 感がつかめずに 回 避 的 な 行 動 をとっていたのではな- 97 -


松 田 直 子 ・ 古 橋 夏 穂 ・ 石 﨑 一 記いかと 考 えられる。しかし、 時 間 の 経 過 とともに、 物 理 的 な 環 境 への 慣 れと 安 全 基 地 を 通 しての 対 人 関 係 の 広 がりにより、 少 しずつ H の 安 全 圏 が 増 えていったと 考えられる。愛 着 の 成 立 を 基 盤 とした 自 己 表 現 の 促 進山 上 (1999)は 自 閉 症 児 の 特 性 について、「 愛着 対 象 との 関 係 を 支 えとして 獲 得 した 情 意 的 、 認知 的 な 力 は 愛 着 対 象 から 離 れて 多 くの 社 会 的 なコミュニケーション 場 面 へと 般 化 しにくい 傾 向 が 見られた」と 指 摘 している。しかし、 今 回 のサマースクールの 中 で、H はまっさんやナッツとの 繋がりを 通 じて、 少 しずつ 周 りとコミュニケーションをとっていくという 姿 が 見 られた。神 園 (2000)によると、 自 閉 症 幼 児 の 愛 着 対 象形 成 の3 段 階 のうち、 不 安 ・ 不 快 な 場 面 に 立 ち 向かう 心 理 的 安 全 基 地 としての 段 階 があり、この 段階 に 至 ると、 情 動 行 動 やこだわり 行 動 が 消 失 するという。 今 回 まっさんとナッツが、H のペースを 守 ることを 心 がけて 接 することで、バディの 存在 が「 不 安 ・ 不 快 な 場 面 に 立 ち 向 かう 心 理 的 安 全基 地 」としての 段 階 にあった 考 えられる( 小 林 ,2012)。このことから H にとってサマースクールの 中 での 安 全 基 地 の 存 在 により、 自 閉 症 特 有 の 情動 行 動 やこだわり 行 動 が 軽 減 し、 他 者 との 関 わりが 拡 大 していったのではないかと 考 えられる。また、 神 園 (2000)によると 愛 着 関 係 が 成 立して 特 定 の 他 者 を 心 理 的 安 全 基 地 として 関 われるようになると、 要 求 行 動 も 以 前 のような 無 志 向 的で 不 明 瞭 な 形 態 ではなく、 直 接 的 でなおかつ 強 力な 要 求 行 動 に 変 わるという。これに 関 して、 例 えば、H は1 日 目 、 自 分 の 意 思 表 示 ( 嫌 な 感 情 など)をする 際 、 押 入 れに 隠 れたり、 走 り 出 しという 行動 で 示 していた。しかし、2 日 目 辺 りから、 自 分の 気 持 ちを 紙 に 書 くという 手 段 による 意 思 表 示 に変 わり、 最 終 日 までには 言 語 表 現 による 意 思 表 示へと 変 容 していった。この 言 語 表 現 はまっさん、ナッツの 存 在 が H の 安 全 基 地 として 機 能 し、 自由 な 自 己 表 現 が 促 進 されたためだと 考 えられる。愛 着 対 象 との 特 定 の 関 係 に 閉 じた 自 閉 症 児 の 表現 活 動 やコミュニケーション 行 動 が 周 りの 他 者 へ解 放 されたと 考 えられる。相 互 作 用H の 行 動 が 変 化 したもうひとつの 背 景 として同 室 の 参 加 者 の 存 在 がある。なぜ、 彼 女 らは、Hに 積 極 的 に 話 しかけ、 食 事 を 摂 らない H を 心 配したり 優 しい 気 遣 いを 多 くみせていたのであろうか。通 常 の 発 達 であれば 学 童 期 、 特 に 中 学 年 の9 歳 、10 歳 はギャングエイジの 時 期 と 言 われ、 集 団 による 仲 間 意 識 が 強 まる 時 期 とされる ( 浦 崎 , 2011)。同 室 の 参 加 者 が、「H、 絶 対 おもしろいよ」「 一 緒に 行 こうよ」と H を 誘 っていた 彼 女 らの 背 景 には、 自 分 が 経 験 して 面 白 かった、 楽 しかった 感動 を 仲 間 と 一 緒 に 味 わいたい、きっと H も 楽 しいだろうという 仲 間 意 識 が 強 くあったと 考 えられる。 彼 女 らの 誘 いに 対 し、H はそれに 全 て 応 えるというわけではなかったが、 彼 女 らは 誘 った 後 、理 由 を 聞 いたり、 強 引 に 連 れ 出 すのではなく、すぐに H を 尊 重 し、ペースを 守 るという 行 動 をとっていた。6 日 間 を 通 して、 最 後 まで H に 対 して積 極 的 に 声 をかけたり、 関 わりを 求 めていた。Hに 対 して 無 関 心 になったり、 強 引 にペースを 崩 すことは 一 度 もなかった。つまり、 彼 女 らは H の感 じていることに 沿 っていく 行 動 を 自 然 にとっていた。まっさん、ナッツが 安 全 基 地 となっていたことに 加 え、 彼 女 らのペースを 見 守 るという 姿 勢も、H 自 身 の 安 心 へと 繋 がったのではないかと考 えられる。このように、 同 室 の 参 加 者 との 接 触 も H に 少しずつ 変 化 をもたらしたと 考 えられる。H は、大 人 と 会 話 をするのも 好 きだが、 年 下 の 面 倒 を 見るのも 好 きだと 話 していた。それは、 初 日 のオセロ 大 会 で、 手 加 減 して 相 手 に 勝 たせてあげたことや、カレーコンテストで、 野 菜 の 切 り 方 を 丁 寧 に教 えている 場 面 にも 表 れている。 日 にちを 重 ねる- 98 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その7)ごとに 他 の 子 どもたちとの 関 わりが 増 えている。これらのことから、 同 室 の 参 加 者 の 積 極 的 な 関わりと 見 守 る 態 度 、H の 年 下 の 子 の 面 倒 を 見 ることが 好 きという 部 分 の 相 互 作 用 により、H の対 人 関 係 が 少 しずつ 変 化 していったのだと 考 えられる。また、 部 屋 の 女 の 子 たちが H を 年 上 と 慕 う 中で H も 年 上 としての 自 分 の 居 場 所 をみつけたのではないかと 推 測 する。現 の 仕 方 が 広 がっていくというのを、 目 の 当 たりにし、とても 貴 重 な 経 験 であった。このような 経験 をさせていただき、H や 先 生 、バイザーの 方 々、スタッフに 感 謝 いたします。引 用 文 献神 園 幸 郎 2000 自 閉 症 児 における 愛 着 の 形 成 過 程 :母 親 以 外 の 特 定 の 他 者 との 関 係 において 琉 球 大 学 教育 学 部 障 害 児 教 育 実 践 センター 紀 要まとめH は5 泊 6 日 のサマースクールの 中 で、 同 室の 参 加 者 との 関 わりやスタッフとの 関 わりの 中 で少 しずつ 変 化 していった。2 日 目 までは、 彼 女 の 枠 組 みの 中 で 過 ごしていた。そのため、 周 りが 食 事 をしていたり、 外 へ 移動 する 際 も 彼 女 のペースで 行 動 していた。その 背景 には、 高 機 能 自 閉 症 による、 環 境 への 適 応 のしにくさや、 対 人 関 係 の 距 離 感 が 上 手 くつかめないといった 特 性 もあると 考 えられる。しかし、まっさんとナッツ、さらに 同 室 の 参 加 者は、なるべく 彼 女 のペースを 尊 重 し、 接 した。それが、 彼 女 にとって 安 全 基 地 として 機 能 したのか、次 第 に 他 のスタッフ、 仲 間 へと 交 流 が 広 がっていく 姿 が 見 られた。浦 崎 武 2011 遊 びを 媒 介 とした 他 者 との 関 係 性 と共 有 に 基 づく 発 達 障 害 児 への 集 団 支 援 琉 球 大 学教 育 学 部 発 達 支 援 教 育 実 践 センター 紀 要山 上 雅 子 1999 自 閉 症 児 の 初 期 発 達 ミネルヴァ 書 房小 林 麻 里 子 、 石 崎 一 記 2012 援 助 的 サマースクールの 研 究 (その4)Ⅳ終 わりに今 回 、サマースクールへの 参 加 は 初 めてだったが、ひとりと 子 どもとこんなに 密 な 関 わりを 持 ったのはこれまでの 経 験 になく、 非 常 に 充 実 していた。 私 情 で、 途 中 で 帰 らなくてはならなくなり、残 念 だったが、それ 以 降 H が 少 しずつ 周 りとなじんで、 自 分 の 意 思 も 周 りに 伝 えていく 様 子 や 楽しんでいる 様 子 を 後 に 聞 き、うれしくもあった。もしかしたら、 途 中 で 担 当 スタッフが 変 わったことも 彼 女 にとって 頑 張 るきっかけとなったのかもしれない。 今 回 のサマースクールを 通 して、 様 々な 相 互 作 用 によって 行 動 範 囲 や 対 人 関 係 、 自 己 表- 99 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 ,2013,100-106 矢 津 田 麻 希 ・ 石 﨑 一 記事 例 研 究援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その8)A Study on Supportive Summer School XI(8)矢 津 田 麻 希( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )石 﨑 一 記( 東 京 成 徳 大 学 )Maki YATSUDA(Graduate School of Psychology Tokyo Seitoku University)Kazuki ISHIZAKI (Tokyo Seitoku University)要約本 研 究 では、 今 年 度 の 援 助 的 サマースクールにおける 参 加 者 37 名 のうち、 初 参 加 である 小 学校 4 年 生 女 児 O.H の 行 動 や 様 子 を 整 理 し、 筆 者 (あめ)の 関 わりや 関 係 について 考 察 した。 筆者 の 許 容 的 な 雰 囲 気 を 持 たない 関 わりや 自 己 開 示 のなさが 関 係 に 影 響 を 及 ぼしていたのではないかと 考 えられる。キーワード: 援 助 的 サマースクール、アクスラインの 基 本 原 理 、 自 己 開 示Ⅰ . はじめに東 京 成 徳 大 学 大 学 院 が 主 催 する 援 助 的 サマースクール( 以 下 、サマースクール)は、 今 年 で11 回を 迎 え、 本 年 度 は37 名 の 参 加 があった。「 浴 びるほどの 自 然 体 験 を 提 供 すること」「 異 年 齢 集 団 での 子 ども 同 士 の 相 互 作 用 を 大 切 にすること」「 子どもたちの 自 立 を 大 切 にし、 適 切 な 援 助 を 行 うこと」を 基 本 方 針 として、 栃 木 県 鹿 沼 市 の 鹿 沼 自 然交 流 センターでの 開 催 となり、 平 成 24 年 8 月 18 日から8 月 23 日 までの5 泊 6 日 の 間 に 実 施 された。本 稿 では、O.H について 焦 点 をあて、O.H の期 間 中 の 行 動 や 様 子 を 整 理 し、 筆 者 (あめ)の 関わりについて 考 察 する。Ⅱ . 事 例 の 概 要1. 本 児 について 名 前 :O.H 性 別 : 女 子 年 齢 ・ 学 年 :9 歳 小 学 4 年 生 家 族 構 成 : 父 、 母 、 姉 、 本 児 障 害 :ヌーナン 症 候 群LD軽 度 の 知 的 障 害 参 加 回 数 : 初 参 加 インテーク 時 の 様 子 :お 母 さんと 離 れて、あめとプレイルームで 過 ごす。テーブルに 持 ってきていた 自 由 帳 を 開 いておき、 鉛 筆 を 握 りしめたまま、 部 屋 の 中 や 窓 の 外 、ドア、あめを 見 ていた。その 間 も、 表 情 は 硬 く、 緊 張 している 様子 であった。あめが 自 由 帳 に 描 かれていた 絵 について 質 問 すると、うなずくことで 返 事 をしていた。ドアがノックされ、トトロとお 母 さんが入 ってくると、 自 由 帳 を 閉 じ、お 母 さんの 下 へ駆 け 寄 る。そのときに、 笑 顔 になった。2. 事 前 アンケート以 下 は 事 前 アンケートから 抜 粋 して 記 述 したも- 100 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その8)のである。 全 体 的 に 気 になること・ 行 動 が 遅 く、 時 間 がかかる・ 不 器 用 で 運 動 も 苦 手 なので、 川 遊 びが 少 し 心配 生 活 習 慣・ 夜 はオムツを 使 用 対 人 関 係・ 自 分 の 気 持 ちをうまく 表 現 できずに 誤 解 されたりして、 自 分 のカラに 閉 じこもってしまう・ 基 本 的 には 明 るく、 人 を 笑 わせるのが 大 好 きな 性 格 勉 強 について・ 定 着 させるのに 時 間 がかかる・ 算 数 の 分 野 では、 数 や 量 の 概 念 が 苦 手 性 格 ・ 行 動 の 特 徴・ 基 本 的 に 明 るくひょうきん・ 行 動 はゆっくりで 不 器 用・みんなに 追 いつくにはいつも 早 目 に 準 備 する様 に 言 っていますが、 次 に 何 をするのかすぐ忘 れる 参 加 の 動 機・ 学 校 や 普 段 の 生 活 で 自 信 をつける 機 会 が 少 なく、 自 信 を 失 っています。もともと 持 っている 明 るい 自 分 を 思 い 出 して、おもいっきり 友達 と 楽 しく 過 ごしてほしいです。3. 期 間 中 の 行 動以 後 、H の 発 言 は「」、あめの 発 言 は、そのほかの 人 物 の 発 言 は()とする。 1 日 目・お 母 さんと 一 緒 に 受 付 を 済 ませた H に、と 声 をかけると、お 母 さんを 見 上 げた 後 こちらを 向 いて、 無 言 であった。・2F に 上 がり、 名 札 を 書 く 際 、あめが< 何 色 が好 き?>と 尋 ねると、うつむいて 名 札 やペンのおいてあるテーブルを 見 たまま、「 青 とか 水 色 」と 小 さい 声 で 答 えた。・ 名 札 に 名 前 を 書 くために 手 に 取 ったのは 他 の 色のペンであり、あめが< 水 色 のペンあるよ。>と 声 をかけると、 無 言 で 首 を 振 り、 書 き 始 めた。・ 書 き 終 わった 後 、 名 札 をつけようとして、 針 が上 手 く 止 められず、 横 で 他 の 参 加 者 のお 母 さんと 話 していた H のお 母 さんをチラチラと 見 ながら、 何 度 も 試 して、 自 力 で 留 めていた。・あめが< 旗 書 きに 行 く?>と 声 をかけると、 旗の 方 に 行 き、ペンを 持 ったが、 時 々 部 屋 の 後 ろの 方 に 座 っているお 母 さんや 周 りの 参 加 者 と 旗を 見 つめていたが、 何 も 書 かないまま、 出 発 式が 始 まり、 班 の 席 についた。・バスでは、 後 ろの 席 に 座 っている 同 じ 班 の 子 に学 年 を 聞 かれ、その 子 の 方 に 向 き、 指 で4を 表した。( 同 じだ)( 夜 更 かしできるね~)と 言 われると、 目 を 少 し 見 開 いて、その 子 たちの 方 を見 たまま、 固 まっていた。・バスが 出 発 してからは、 窓 の 外 に 顔 を 向 け、 外を 眺 めている 様 子 だった。あめが< 何 か 見 える?>と 言 うと、H は 窓 の 外 を 向 いたまま、無 言 で 首 を 振 った。・サマスクの 目 標 の 紙 を 受 け 取 ると、「ペン」と小 さな 声 でつぶやき、 前 から 回 ってくるのを、見 つめながら 待 っていた。・サマスクの 目 標 を 書 く 際 に、H は「 何 を 書 くの?」とあめに 言 い、あめが< 楽 しみなこととか>と 答 えると、 周 りをキョロキョロと 見 回 した 後 、『サマスク 楽 しみ』と 書 いた。 書 き 終 わった 後 も、 周 囲 をキョロキョロと 見 回 していた。・マイクで 発 表 する 際 には、「 友 達 とたくさん 遊びたい」と、うつむきぎみのまま、 小 さな 声 で発 表 した。・ 休 憩 後 、 後 ろの 席 の 子 たちと 話 すようになり、H が 椅 子 の 間 から 腕 を 出 して、 後 ろの 席 の 子が 摑 むといった 遊 びをしていた。H は、ニコニコと 笑 顔 であった。・バスレクでは、 飴 がもらえるということを 聞 き、にっこりと 笑 い、 目 を 輝 かせていた。 答 えを 考えながら、これかも、あれかもと 言 っていた。- 101 -


矢 津 田 麻 希 ・ 石 﨑 一 記答 えがわからなかったときは、みんなの 答 えを聞 いて、 目 を 丸 くしながら「なるほど」と 言 って、大 きく 首 を 縦 に 振 っていた。 正 解 したときは、「やったー」と 言 い、ニコニコと 笑 顔 で、もらった 飴 をポケットにしまっていた。・ 外 遊 びでは、 最 初 、グループの 子 たちの 指 示 に合 わせて、 木 にロープを 回 すなどの 秘 密 基 地 づくりを 手 伝 っていた。その 後 は、 同 じグループの I と 共 に、 林 の 中 を 他 のグループの 活 動 を 見て 歩 いていた。・I と 内 緒 話 をしながら、スタッフや 他 のグループの 子 を 作 られていた 落 とし 穴 に 落 とそうとしていた。 少 しにやけながら「もう 少 し 前 に 来 て」「もっと、もっと。」とスタッフや 他 の 子 どもに声 をかけていた。・ 花 火 に 行 く 際 には、I やゆーの 手 を 取 ったが、ゆーに 言 われ、あめと 手 を 繋 ぐ。 眉 を 少 し 寄 せ、口 をキュッと 結 び、あめと 繋 いでいる 方 の 腕 を回 したり、 体 をよじったりしていた。・ 日 記 は 日 記 帳 に 覆 いかぶさるように 書 いていた。 書 き 終 わると 日 記 帳 を 閉 じ、 筆 箱 を 上 に 置いた。あめがと 言 うと、 眉 を 寄 せて、あめを 見 た 後 、 何 も言 わず、 部 屋 に 持 って 帰 り、カバンにしまった。・オセロは、A に 教 えてもらいながら、 対 戦 を 行 った。 2 日 目・ 学 習 の 時 間 は、こーちゃんに 算 数 の 問 題 の 解 き方 について、ヒントをもらいながら、 取 り 組 んでいた。・ 午 前 中 は「 外 が 暑 いから 出 たくない」と、グループの 子 たちと、 部 屋 の 中 で 過 ごした。 施 設 内 にいた 他 のスタッフを、グループの 子 が 連 れてきて、それぞれが 部 屋 の 中 に 隠 れる、 隠 れ 鬼 をしていた。H は 押 入 れに 隠 れるように 言 われて、きょとんとしたまま、 押 し 入 れに 入 った。その後 、「 暑 い、 嫌 」と 言 って、 出 てきた。・ 昼 食 準 備 のため、グループのみんなで 外 に 出 ることになった。 外 に 出 る 前 に、あめが< 虫 よけスプレーしようか>と 声 をかけると、H は、「しない!」と 眉 を 吊 り 上 げて、 強 い 調 子 で 言 った。・ピザ 生 地 をこねるのは、 他 の 子 の 提 案 で、 順番 でこねていくことになり、H の 番 になると、真 剣 な 顔 で、 生 地 をこねていた。 次 の 人 の 番 になると、 手 についた 生 地 を 取 ろうとボールの 上で、 手 を 擦 っていた。・ピザの 具 を 乗 せる 段 階 で、H たちの 分 が 作 り終 わったとき、I が(ゆーの 分 を 作 る)と 言 い、H は「 私 も!!」と 言 った。しかし、 他 の 子 に(Hのバディはあめだから、あめの 分 を 作 りな)と言 われて、 言 い 返 さず、 眉 を 寄 せてうつむき 気味 にピザづくりを 再 開 した。・ 川 遊 びでは、I と 一 緒 に 川 の 流 れに 沿 って 流 れるように 泳 いでは、スタッフに 捕 まえられるという 遊 びを 繰 り 返 していた。 笑 い 声 を 立 てて、「ゆー!」「ナッツ!」とスタッフの 名 前 を 呼 び、川 下 で 受 け 止 めてもらっていた。また、 水 の 掛け 合 いをして、 笑 っていた。・ 花 火 へ 向 かう 際 には、I とゆーと 手 を 繋 ごうと、I の 手 を 取 ったが、ゆーやナッツに 言 われて、あめと 手 を 繋 いだ。 小 走 り 程 度 の 速 度 で 歩 き、時 折 、 止 まると 後 ろを 歩 く I やスタッフに 話 しかけて、 少 し 上 ずったような 声 で 話 していた。・H は、 日 記 を 書 いた 後 、I と 一 緒 にゆーのところへ 日 記 帳 を 持 っていき、 渡 した。(H は、あめにコピーしてもらって)とゆーに 促 されて、無 表 情 であめに 渡 した。あめがというと、ムスッとした 顔 で 何 も 言 わずグループのテーブルのところに 戻 った。・オセロは、アドバイスをもらいながら、 取 り 組んでいた。・ 宝 箱 の 組 み 立 てを、ナッツに 手 伝 ってもらいながら 行 い、 星 柄 のシールなどを 張 っていった。・1 日 を 通 して、 時 折 あめを 振 り 返 るよう 見 るが、あめと 目 が 合 うと 眉 を 寄 せて、ムスッとした 顔- 102 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その8)をしていた。・ 寝 る 前 の 歯 磨 き 中 、 少 し 離 れて 立 っているあめと 目 が 合 うと、 眉 を 寄 せて、あめのいない 方 を少 し 勢 いをつけて 向 いた。あめが 洗 面 所 の 暖 簾の 外 に 出 て 待 つと、 小 走 りで 見 に 出 てきて、あめと 目 が 合 うと、 再 び 眉 を 寄 せ、すぐに 洗 面 所に 戻 った。 3 日 目・ 泥 んこ 遊 びでは、 最 初 にゆっくりと、 片 足 を 入れ、 目 を 丸 くして、すぐに 足 を 泥 から 上 げた。・「 汚 れちゃうから 嫌 」と 水 着 が 汚 れるのを 嫌 がり、 田 んぼの 淵 から、 他 の 参 加 者 やスタッフが泥 遊 びをするのを、I と 一 緒 に 見 ていた。 時 折 、泥 が 飛 んでくるのに、 眉 を 寄 せていた。・その 後 、ゆーやナッツ、 同 じグループの 子 たちに( 気 持 ちいいよ)(ここに H の 特 等 席 作 ったよ)と 声 をかけられ、ゆっくりと 泥 に 入 っていった。 足 だけ 入 り、 水 着 に 泥 が 付 かないように、慎 重 にみんなの 所 に 歩 いて 行 った。・ 腕 だけを 突 き 出 すようにして、ゆーやまっちに腕 に 泥 を 塗 られると、 自 分 も 泥 を 掬 い、ゆーたちの 腕 や 服 に 塗 り 付 けていた。ニコニコと 笑 いながら、 塗 ったり、 塗 られたりをしていた。・Y に 泥 を 塗 ろうと、「Y、 来 てよ」と 声 をかけていた。Y が( 泥 塗 るだろう!)というと、 持 っていた 泥 を 捨 てて、「 何 もしないから、 来 てよ」と 何 度 も 誘 っていた。 結 局 、Y は H の 方 に 来なかったため、「 泥 をかけたかったのに」と、眉 間 にしわを 寄 せ、 何 度 も 繰 り 返 していた。・グループの A が 捕 まえたマスをもらい、 真 剣な 顔 で、 内 臓 を 取 り 出 し、 塩 をまぶし、 火 のところまで 持 って 行 った。・ 着 替 えは、1つのテントにグループの 子 たち4 人と 一 緒 に 入 り、 着 替 えた。・カレー 作 りは、 野 菜 を 切 る 係 を 自 分 からやると言 い、H.O に 野 菜 の 切 り 方 を 教 えてもらいながら、ほとんどの 野 菜 や 肉 を 一 人 で 切 った。・ 包 丁 の 刃 の 方 を 触 ったりと、 包 丁 の 扱 いには 不慣 れな 様 子 で、ゆーが( 危 ないから、こっちは触 らないでね)と 声 をかけると、 真 剣 な 顔 で 無言 のまま、うなづいた。・カレーコンテストで 優 勝 が 発 表 されたときは、きょとんとして、その 後 、 同 じグループの 子 たちと、ハイタッチをするなどして、 笑 いあっていた。・ 日 記 を 書 き 終 えたとき、あめがと 尋 ねると、 少 し 眉 を 寄 せたまま、 小 さくうなづいた。 4 日 目・ 朝 の 散 歩 は、I と 手 を 繋 ぎ、2 人 とも 無 言 で 歩いていた。 林 を 抜 ける 少 し 前 に、 話 し 始 めた。・ 朝 食 は、I と 一 緒 に、「おなかが 空 いてない」と 言 い、おかずとお 味 噌 汁 、ごはんを 少 しずつ食 べた。・ 外 遊 びの 時 間 、まっちや R と 鬼 ごっこをした。逃 げる 側 になったときは、 満 面 の 笑 みで 逃 げ回 っていた。・ 水 遊 びをしていたまっちに、I と 一 緒 に 腕 に 水をかけてもらい、 笑 い 声 をあげて 笑 っていた。その 後 、Y に I やらいと 鬼 ごっこをしようと 提案 され、I を 振 り 返 り、I を 見 たまま 無 言 でうなづき、Y に 向 き 直 ると「いいよ」と 言 い、 一緒 に 鬼 ごっこをすることにした。その 際 に、Yが I ばかり 追 いかけるので、「 私 にタッチしていいよ」と 言 いながら、Y を 追 いかけていた。時 折 「Y は I が 好 きだから、I ばっかり 追 いかけるんでしょう」と、 眉 を 吊 り 上 げ、Y に 言 っていた。 途 中 で、 鬼 ごっこが 止 まると、I と Yの 間 に 立 ち、Y の 方 を 向 いたまま、やや 早 口 で「 私 が( 何 をやるか) 決 める」と 言 った 後 、Yに「 氷 鬼 と 普 通 の 鬼 ごっことどっちがいい?」と 尋 ね、 氷 鬼 をしていた。・Y が、 木 陰 で 休 むと「なんで 遊 んでるのに、 休んでるの」と 眉 を 吊 り 上 げながら 言 った。( 暑いから、 少 し 休 憩 してるんだよ)とらいに 言 われて、 口 を 閉 じ、 眉 を 寄 せまま、Y を 見 ていた。- 103 -


矢 津 田 麻 希 ・ 石 﨑 一 記あめが、< 汗 かいたし、お 茶 飲 む?>と 聞 くと、H は「 飲 む」と 言 い、お 茶 のある 方 に 向 かって 歩 いて 行 った。あめが 一 緒 に 行 こうとすると、H は「 一 人 で 大 丈 夫 」といい、 一 人 で 水 飲 み場 へ 行 った。・Y が、 他 の 子 に 言 った 言 葉 や 謝 らずに 笑 っていることが 許 せなかったようで、H は「 酷 い。かわいそうだよ。 早 く 謝 って。でないと、 遊 べないでしょ。 待 ってるんだから、 早 く 謝 って」と 眉 をつりあげ、 強 い 口 調 で Y に 言 った。・H は I と 他 のグループの 男 子 と 一 緒 に 室 内 に入 った Y を 追 いかけいき、「まだ 謝 ってないの?」と 言 い、Y が2 階 に 上 がると 階 段 の 下 で、「 逃 げるなんてひっきょうだ」と 言 って、 降 りてくるように 言 っていたが、まっすーに( 今 考えてるところだから、そっとしといてあげて)と 言 われて、 少 しむっとした 表 情 で、 外 遊 びに再 び 行 った。・あめが 日 焼 けで 真 っ 赤 になっているのを、Hと 同 じグループの 子 が 触 り、あめが 痛 がる 様 子を 見 た 後 、H は、 目 を 輝 かせて、ニコニコと笑 顔 を 浮 かべながら、あめの 腕 をこすったり、触 ったりを 繰 り 返 した。あめが、< 痛 いよ。 痛 い、痛 い。>と 反 応 を 返 すと、「 私 強 いから。お 姉 ちゃん、 泣 かせたこともあるんだから。」と、 腕 を組 んで 自 慢 気 に 話 していた。・ 午 後 にあめが< 洗 濯 物 取 り 込 んでくるね>と 声をかけると、H は 他 の 子 たちと 一 緒 になって、にこやかに「いってらっしゃい」と 言 った。・ 夜 、 布 団 にシーツを 被 せる 際 に、H はそばに 立 っていたあめに、「そっち 持 って」と 言 った。・ 就 寝 時 間 間 際 に、 同 じ 部 屋 の 高 学 年 グループの3 人 と 一 緒 に、「しゃちほこ!」と 言 いながら、体 操 をしていた。 5 日 目・チャレンジハイキングの 荷 物 がうまく 袋 に 入 らず、 眉 を 寄 せて、 詰 め 込 んでいた。・ 川 を 歩 いているとき、 流 れが 急 なところや 足 場が 不 安 定 な 場 所 ではゆーや I、あめの 手 を 時 折握 るなどをしていた。・ 途 中 地 点 で、 川 流 れを 笑 い 声 をあげて、 何 度 かした。・ 休 憩 所 に 上 がる 道 へ 通 じる 場 所 付 近 で、 一 度 、川 から 上 がり、 日 光 浴 をして 体 を 温 めた。・ 休 憩 所 に 行 き、 着 替 えをした 後 、 山 登 り 用 に 積んだ 靴 がないことに 気 づいた H は、あめに「 靴がない」と 言 った。 一 緒 に 探 して、なかなか 見つからないと、H は「もう、ない!」と、 眉を 寄 せて、 少 し 強 めにつぶやいた。あめがと 言 うと、 眉 を 寄 せたまま、うつむき 気 味 で 何 も 言 わず、あめの 後 ろをついて 歩 いた。あめが 休 憩 所 の 玄 関 に 荷 物 が置 いてあるのに、 気 づいて、というと、 小 走 りでそこにいき、 靴 の 入 った 袋 を 見 つけ、 表 情 が 和 らいだ。・ 昼 食 を 食 べているとき、 他 のグループの 男 の 子に、(Y がひどいことを 言 う)と 言 われ、I にその 話 を 伝 えたり、グループの 子 に 話 していた。しかし、グループの 子 に(もうほっときなよ)と 言 われ、「ひどいよね、もう Y なんか 知 らない」と、Y の 話 を 出 した 男 の 子 に 話 していた。・ 山 登 りの 途 中 は、 水 分 補 給 をしつつも、「 頂 上で 美 味 しい 水 を 飲 むから」とキラキラとした 目をしながら、 水 を 大 切 に 飲 んでいた。・ 階 段 状 の 傾 斜 を、 小 走 り 気 味 のペースで 登 っていた。 頂 上 近 くでは、みんなの 声 や 応 援 の 声 が聞 こえて、 一 気 に 駆 け 上 がった。・ 頂 上 では、 大 切 に 残 していた 水 を 一 気 に 飲 み 干した。 目 をキラキラと 輝 かせながら、ニコニコと、 風 にあたっていた。・ 以 前 家 族 で 山 登 りした 話 や、「 私 、 強 いから。」「お 姉 ちゃんを 泣 かしたことあるんだから。」と力 こぶを 見 せながら 言 った。・「 明 日 、あめにプレゼントがあるから」と、Iと 向 き 合 ったまま、ニコニコとして 言 った 後 、「でもあめには 内 緒 」と I と 一 緒 に 笑 いあって- 104 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 XI(その8)いた。・ 下 りは、I と 手 を 繋 いで、 歩 いていた。ドラえもんの 話 や、 学 校 の 話 をしていた。 学 校 で 嫌 いな 子 がいて、その 子 がどんな 子 かということを、時 折 声 まねをしながら、I に 話 していた。その途 中 、「その 子 が 大 好 き」と 言 い 間 違 え、I と2人 で、 大 きな 声 を 上 げ、おなかを 抱 えて、 笑 っていた。・ 施 設 に 帰 って、アイスを 食 べながら 話 しているとき、( 明 日 で 最 後 だね)とグループの 子 が 言うと「 初 日 に 戻 りたい」と 言 った。・ 別 れの 集 いの 最 後 の 花 火 のとき、あめが H たちのところに 戻 ると、I が(あめは、いつもいない)と 言 い、H は「そうだよ!」と 強 い 口調 で 言 った。あめがというと、 無言 で 花 火 をしていた。・ 就 寝 の 際 、I の 隣 で 寝 ると 言 い、 布 団 を I の 隣りに 移 動 させて、 眠 った。 6 日 目・ 未 来 の 自 分 への 手 紙 を 書 いているとき、「あめは 見 ちゃダメ。」とニコニコしながら、 手紙 に 覆 いかぶさるようにして 書 いていた。・ 帰 りのバスでは、 一 番 後 ろの 席 に、グループ 全員 で 座 り、 窓 際 に 座 った H は、うとうとと 眠 っていた。・ 休 憩 所 では、 同 じグループの 子 たちと 一 緒 に、やっくんを 取 り 囲 み、 話 していた。・ 閉 会 式 で、あめが 賞 状 を 読 み 上 げ、 渡 すと、 眉を 寄 せて、ムスッとしたまま 受 け 取 り、すぐに賞 状 を 伏 せた。4. 事 後 アンケート以 下 は、サマースクール 終 了 後 に 実 施 したアンケートの 内 容 を 抜 粋 したものである。・よく 話 題 になった 事 柄仲 良 くなったお 友 達 のこと川 遊 びカレー 大 会食 事 (ピザ・サンドウィッチ 等 )・ 生 活 習 慣 について野 菜 を 切 ることが 出 来 る !! と 自 信 をつけた様 で、 夕 食 のお 手 伝 い 等 をよくしてくれます。・ 対 人 関 係 について自 分 から 友 人 に TEL して 遊 ぶ 約 束 をしたりする 様 になりました。・サマスクで 一 番 楽 しかったこと川 遊 び・ 花 火Ⅲ. 考 察アクスラインは、 遊 戯 療 法 におけるセラピストの 基 本 原 理 として、 次 の8つを 提 唱 した。1ラポールの 確 立 、2あるがままの 受 容 、3 許 容 的 な 雰 囲気 、4 適 切 な 情 緒 的 反 射 、5 主 体 性 の 尊 重 、6 非指 示 的 態 度 、7 長 いプロセスの 認 識 、8 制 限 。この 原 則 を 基 に、サマースクール 期 間 中 の H に 対するあめの 関 わり、 関 係 について、 振 り 返 り、 考察 をしようと 思 う。あめは、H との 初 対 面 の 際 に、 上 手 く 関 係 を築 けなかったことが 気 がかりとなっており、サマースクール 初 日 の 朝 に 会 った 際 、H と 上 手 く関 係 を 築 けるのだろうかという 思 いから 戸 惑 いや不 安 感 が 強 くなり、 初 参 加 である H の 不 安 を 汲めていなかったのではないかと 思 われる。また、期 間 中 、あめは H の 怪 我 や 薬 の 飲 み 忘 れがないようにということに 注 意 が 向 いており、H がやろうとしていることに 対 して、 言 葉 や 態 度 で 心 配しているということを 伝 えていた。これは、 指 示的 な 側 面 を 持 ち、 主 体 性 を 阻 害 する 行 動 だったといえるのではないだろうか。そうしたあめの 態 度に 対 して H は、 表 情 や 態 度 で「いやだ」というメッセージを 出 していたが、あめは、 気 づかずに、 無視 していたり、Y に 対 する 攻 撃 的 な 態 度 を H が示 した 際 に、その 場 を 収 めることを 優 先 して、Hの 気 持 ちに 寄 り 添 うことをしていなかった。あめの 心 配 を H に 伝 えていたことも 含 め、 期 間 中 のあめの 関 わり 方 は、あるがままの 受 容 や 適 切 な 情- 105 -


矢 津 田 麻 希 ・ 石 﨑 一 記動 反 射 を 欠 いたものだったといえるだろう。H や 周 囲 の 子 どもたちがあめの 日 焼 けを 触 って 遊 ぶことをしている 際 の H とあめの 関 係 はそれ 以 外 のときと 異 なっていたように 思 う。それまで、H は 活 動 中 にあめを 振 り 返 ることはあったものの、 自 分 からあめのところに 来 て、 何 かをするということはなく、あめも、 多 くの 活 動 において、H が 遊 んだり、 何 かに 取 り 組 んだりする 姿を 眺 めているか、 薬 を 飲 む 声 かけといった 関 わりしか 持 っていなかった。この 日 焼 けを 触 って 遊 ぶようになってからは、H は、そのために 自 分 からあめのところに 来 るようになり、その 中 では、あめに 対 して 自 分 についての 話 をするようになった。 異 なったことの 理 由 として、 自 己 開 示 を 挙 げて 考 えたいと 思 う。 榎 本 (2002) は、 自 己 開 示 とは、「 自 己 を 他 者 に 知 ってもらうために 自 分 自 身 をあらわにすること」であり、 自 分 自 身 や 自 分 自 身 の経 験 に 直 接 言 及 する 言 表 、あるいは 自 分 自 身 がにじみ 出 るような 発 言 であると 述 べている。また、自 己 開 示 に 影 響 をする 状 況 要 因 として、 相 互 性 が指 摘 されており、 相 手 の 開 示 レベルに 合 わせて 自分 も 開 示 しようとする 傾 向 を 指 す( 榎 本 ,2002)。また、 牟 田 (1996) は、 教 師 が 自 身 について 話 してくれていると 認 識 する 児 童 は、 教 師 に 対 して 自分 のことを 話 すことを 明 らかにしている。このことから、 日 焼 けを 触 られている 際 に、あめが< 痛いなぁ>などと、 初 めて H に 対 して 自 分 の 思 いを 伝 えたことで、そのときの 関 係 に 変 化 がみられ、H からも「 私 強 いから」と 言 った H 自 身 の 話 が語 られたのではないだろうか。4 日 目 、5 日 目 とみられた、 上 記 のような 関 係 性が、 最 終 日 においてみられなくなったことについては、 次 のような 可 能 性 が 考 えられるのではないだろうか。まず、 日 焼 けを 触 るということをきっかけとした 自 己 開 示 の 相 互 性 による 関 わりが、その 場 限 りとなってしまい、 関 係 性 が 作 れなかったために、一 時 的 になってしまったという 可 能 性 である。2つ 目 は、5 日 目 の H の「 明 日 あめにプレゼントがあるから」や(あめはいつもいない)「そうだよ!」という 発 言 から、H はあめに 一 緒 にいてほしい思 いがあったのではないかと 思 われ、それにも 関わらず、 最 終 日 に 朝 と 閉 会 式 のわずかな 時 間 しか一 緒 にいなかったことで、 出 来 かけていた 関 係 が、一 時 的 なものになってしまった 可 能 性 である。Ⅳ . 終 わりに今 回 、 筆 者 は 関 係 をうまく 築 けないという 思 いから 生 じる 焦 りや 不 安 、また、H に 対 する 心 配の 思 いを 優 先 させてしまい、H との 関 わりの 中 で、H 自 身 の 思 いを 汲 んだり、 行 動 を 見 守 るという視 点 が 欠 けていた。そのことに、 期 間 中 に 気 づき、改 善 することができていれば、H との 関 係 も 違 ったものになったのではないかと 思 う。そのような中 一 緒 に 過 ごした H、ご 指 導 くださった 先 生 やバイザーの 方 々、サポートしてくださったスタッフの 皆 様 に、 心 から 感 謝 申 し 上 げます。参 考 文 献榎 本 博 明 2002 自 己 開 示 の 心 理 学 的 研 究 北 大 路 書房 初 版 第 2 刷牟 田 卓 生 1996 教 師 と 児 童 、 相 互 の 自 己 開 示 に 関 する 研 究 日 本 教 育 心 理 学 総 会 発 表 論 文 集 (38),318駿 地 眞 由 美 2007 心 理 的 援 助 の 方 法 としての 遊 戯 療法 追 手 門 学 院 大 学 心 のクリニック 紀 要 第 4 号- 106 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 援 ,2013,107-118助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その9)事 例 研 究援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その9)A Study on Supportive Summer School Ⅺ(9)渡 沼 良 美( 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 )石 﨑 一 記( 東 京 成 徳 大 学 )Yoshimi WATANUMA(Graduate School of Psychology Tokyo Seitoku University)Kazuki ISHIZAKI(Tokyo Seitoku University)要 約本 研 究 では、2012 年 度 のサマースクールにおける 参 加 者 37 名 のうち、 初 参 加 である 幼 稚 園 年中 の 男 児 S.Y について 考 察 した。サマースクール 期 間 中 の S.Y の 発 言 は 私 が 彼 の 安 全 基 地 になっているかということを 確 認 する 愛 着 行 動 であったと 考 えられる。また、 愛 着 行 動 が 拒 否 という 防 衛 的 な 行 動 で 表 出 したことは、 私 の 彼 に 対 するかかわり 方 が、 彼 の 自 尊 心 を 低 めるような 援 助 であったことが 要 因 であると 考 えられるため、 彼 が 何 を 思 い、 何 を 感 じているかを 常 に考 え、 不 必 要 な 援 助 はしないよう 私 自 身 の 行 動 を 決 めることが 重 要 である。キーワード:ラポール、 愛 着 行 動 、 安 全 基 地 、 援 助 的 サマースクールⅠ.はじめに東 京 成 徳 大 学 が 主 催 する 援 助 的 サマースクールは、「 浴 びるほどの 自 然 を 体 験 すること」「 異 年 齢の 集 団 の 中 で 相 互 作 用 を 体 験 すること」「 自 立 的な 生 活 を 体 験 すること」を 基 本 方 針 としている。第 11 回 目 である 今 年 は、 栃 木 県 鹿 沼 市 の 鹿 沼 自 然体 験 交 流 センターにて、2012 年 8 月 18 日 から23 日の5 泊 6 日 で 実 施 された。本 研 究 では、サマースクール 初 参 加 である 幼 稚園 年 中 の S.Y について、 期 間 中 の 行 動 の 様 子 を整 理 し、ラポールの 形 成 やそのためのかかわり 方ついて 考 察 する。Ⅱ. 事 例 の 概 要1. 本 児 について名 前 :S.Y性 別 : 男 子年 齢 ・ 学 年 :5 歳 幼 稚 園 年 中障 害 :なし参 加 回 数 : 初 参 加以 下 は、インテーク 時 の 様 子 と、アンケートによる 事 前 調 査 の 記 述 を 引 用 したものである。 インテーク 時 の 様 子母 親 からあまり 離 れず、ずっとくっついている様 子 だった。 紙 飛 行 機 を 作 ろうとスタッフに 紙 をもらうも、すぐに 母 親 のもとへ 持 って 行 った。 紙飛 行 機 ができると、 紙 を 渡 したスタッフに 見 せに行 ったが、 少 し 照 れている 様 子 もあった。スタッ- 107 -


渡 沼 良 美 ・ 石 﨑 一 記フが 紙 飛 行 機 を 作 って 見 せると、 少 し 興 奮 した 様子 で 追 いかけていた。 母 親 と 離 れプレイルームに入 ったときは、ボールを 投 げ 的 に 当 てるおもちゃや、 音 の 鳴 るおもちゃがお 気 に 入 りのようで、とっかえひっかえ 遊 んでいた。 面 接 を 終 えた 母 親 が 迎えに 来 ると、まだ 遊 びたいのか 帰 らない、もう 少し 遊 ぶと 駄 々をこねる 場 面 も 見 られた。 最 終 的 には 母 親 に 叱 られ、 自 分 でおもちゃを 片 付 け 部 屋 を出 た。「 次 の 人 が 終 わったらまた 遊 べばいいもんね」という 発 言 があった。 家 に 向 かうということ分 かると 大 学 院 の 入 り 口 で 駄 々をこねたが、 母 親に 連 れられて 帰 っていった。その 際 、「バイバイ」と 言 って 私 に 向 かって 手 を 振 っていた。 大 学 院 を出 られたので、 私 が 上 の 階 へ 上 がろうとすると、大 学 院 の 入 り 口 から 大 きな 声 で「バイバイ!」と私 に 向 かって S.Y が 叫 んできた。 私 がもう 一 度 「バイバイ、またね」と 手 を 振 りかえすと、 走 って 大学 院 を 出 て 行 った。 全 般 的 に 気 になること・ 初 めてのことは 慎 重 になり、 臆 病 なところがある・できないからやらない、まずそうだから 食 べない、 汚 いからヤダ…先 入 観 で 動 くので、やってみよう! 頑 張 ろう!と 少 し 思 えるようになったらな…と 思 う 生 活 習 慣疲 れや 気 分 で 甘 えることがあるが、 基 本 的 には全 て 自 分 でできる。 裏 表 を 直 したりもできる。 前後 間 違 えることも 少 ない。 対 人 関 係男 の 子 女 の 子 どちらとも 仲 良 く 遊 べている。 一人 っ 子 なので、 異 年 齢 児 との 関 わりが 下 手 かと 思う。 勉 強 、 学 習 面 について平 仮 名 、カタカナ、 読 める。 漢 字 の 多 少 読 む。書 くことに 少 しずつ 興 味 を 持 っているので、たくさんの 小 学 生 にかこまれて 刺 激 を 受 けてもらえたらと 思 う。 性 格 、 行 動 の 特 徴 について細 かいところもあるが、 特 に 気 になることはないと 思 っている。 性 格 はおだやか。おちゃらけたりすることも 普 通 にある。 参 加 動 機・いろいろな 人 と 関 わって、いろいろな 体 験 をしてほしい・ちょっと 難 しそうでも 頑 張 ろう! 頑 張 ってみたらできた!!と 思 える 場 面 が 少 しでもあればいいなと 思 う。 その 他本 人 に 不 安 はないようで 楽 しみにしているが、春 先 、 保 育 園 でクラス・ 担 任 が 変 わって 登 校 時 に泣 いていたので、いざ 当 日 になったら… 不 安 な 部分 もあるが、 親 から 離 れるのは 慣 れているので 楽しんできてもらいたい。2. 参 加 の 経 緯初 めての 参 加 。 母 親 が 狭 山 市 の 幼 稚 園 の 研 修 会に 出 席 した 際 に 本 援 助 的 サマースクールのことを知 ったとのこと。3. 期 間 中 の 行 動以 後 、S.Y の 発 言 は「 」、 私 の 発 言 は< >、そのほかの 人 物 の 発 言 は( )とする。1 日 目大 学 院 に 母 親 と 一 緒 に 来 校 。と 挨 拶 をすると、 母 親 の 後 ろに 隠 れてしまい、 大 学 院 の 外 に 出 た。 母 親 から S.Y に( 喫煙 所 にいる 石 﨑 先 生 にこれを 渡 して)と 手 紙 を 渡されると、 緊 張 したような 様 子 ではあったが、「はい」と 持 って 行 き、 手 渡 していた。 母 親 と 石 﨑 先生 が 話 している 間 、そばにいて 声 をかけたりしたが、そっぽを 向 いたまま 返 事 をしなかった。と 声 をかけると、 立ち 止 まり、 母 親 の 足 にしがみついていた。 半 ば 母親 にひきずられるような 形 で 大 学 院 1 階 の 階 段 のところまで 行 くと、 階 段 を 自 分 で 上 り、 部 屋 の 様子 を 見 ていた。しかし< 中 に 一 緒 に 入 ろうか>と声 をかけると 走 って 階 段 を 下 り、1 階 の 入 り 口 ま- 108 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その9)で 戻 ってしまった。 母 親 に 呼 ばれ 再 度 2 階 に 上 り、部 屋 の 中 に 入 った。 旗 作 りをしているテーブルを少 し 気 にしていたようなので< 旗 に 何 か 書 きに 行く?>と 聞 くと、 下 を 向 いたまま 首 を 横 に 振 り 母親 のもとへ 向 かった。歌 集 を 受 け 取 り、グループの 席 に 向 かうが、まわりをきょろきょろ 見 回 し、 落 ち 着 かない 様 子だった。 母 親 に(せっかくだから 歌 集 の 表 紙 に 色を 塗 ったら。 色 鉛 筆 持 ってきたでしょ)と 言 われると、1 階 の 自 分 の 荷 物 のところまで 行 き、リュックごと2 階 に 持 って 行 った。 再 度 グループの 席 に座 り、 色 鉛 筆 を 出 して、 表 紙 に 色 を 塗 り 始 めた。始 めは 黙 々と 色 を 塗 っていたが、< 綺 麗 に 塗 れたね>などと 声 をかけているうちに、「これはくじらさんだから 青 なんだ」「 青 く 塗 っちゃったから目 の 色 どうしよう」など 返 事 をするようになり、次 第 に 笑 顔 も 出 てきた。グループの 他 の 子 が 来 るとちらっと 見 るが、 声 をかけられると 下 を 向 いて黙 ってしまい、 表 紙 に 色 を 塗 る 作 業 に 戻 った。開 会 式 が 終 わり、バスへ 移 動 となった。 自 分 のキャリーバックを 自 分 で 持 ち、セブンイレブンの前 に 止 まっていたバスへ 向 かう。 母 親 に「バイバイ」と 元 気 よく 挨 拶 をしたが、その 後 は 下 を 向 いてしまった。 荷 物 を 積 み、バスに 乗 り 込 み、バスの 席 に 座 ると、 帽 子 を 外 し、 前 の 座 席 の 背 もたれのところにある 灰 皿 などで 遊 んでいた。 出 発 前 に、と 窓 の 外 を 指 さして 教 えると、「ママー!!ここだよ!!」と 大 きな 声 で 呼 んで手 を 振 ったが、 母 親 がなかなか 気 づかないので、窓 を 開 けたがった。 私 が 少 しだけ 窓 を 開 けると、その 隙 間 から「ママー!バイバイ!!」と 笑 顔 で手 を 振 っていた。バスの 中 でと 聞 くと、「 特 にない」「わかんない」と 繰 り 返 していた。 灰 皿 がぱかぱか 動くことを 発 見 してからは、ずっとおもしろそうにそれで 遊 んでいた。「よっちゃん( 私 のキャンプネーム)ここに 指 入 れて」と 言 い、 私 が 指 を 入 れるとその 指 を 灰 皿 で 挟 んで 遊 ぶ、ということを 繰り 返 していた。その 後 も 何 回 か「 知 ってる、ここ、開 くんだよ」と 笑 顔 で 話 してきた。バスレクが 始まり、サマースクール 中 の 目 標 を 書 く、というレクでは「 書 かない、いい」と 言 って 書 こうとしなかった。< 何 でもいいから 何 か 書 かない>と 聞くと、 黒 のマジックで×を 書 き、「じゃあ、ばつ。これでいい」と 笑 顔 で 言 っていた。と 言 うと、「そうだよ。 俺 のサマースクールはばつなんだ」と 笑 顔 で 話 していた。バスが 休 憩 所 に 着 くと、 一 人 でバスから 先 に 降りた。 走 って 道 路 を 渡 ろうとして 他 のスタッフに止 められると 驚 いた 様 子 だった。 一 緒 にビニールシートが 敷 いてある 場 所 まで 行 き、と 聞 くと、「ここでいい」とシートの 端 の 方 に荷 物 を 置 いた。おにぎりの 配 布 が 始 まり、 一 緒 に取 りに 行 くと、 他 の 子 たちの 勢 いに 押 されなかなか 取 りにいけない 様 子 だった。おにぎりを 取 り、自 分 の 場 所 に 戻 ろうとする 際 、ある 子 が 背 後 から( 邪 魔 だー!)と 大 きな 声 をあげたので、 身 を 強張 らせ 声 を 上 げた 子 を 見 上 げ 固 まり、とても 驚 いた 様 子 だった。その 後 もしばらく 下 を 向 いて 黙 っていたので、と 聞 くと 黙 って 頷いていた。おにぎりを 食 べ 始 めてからはまた 笑 顔になり、たくさん 食 べていた。「 俺 の 水 筒 の 中 身 、アクエリアスなんだ」と 笑 顔 で 話 し、 私 がと 言 うとにやりと 笑 っていた。途 中 、 虫 が 寄 ってきたときは 身 を 強 張 らせしきりに 虫 を 避 けており、 少 し 怖 がっている 様 子 だった。おにぎりの4つ 目 をもらい 食 べ 始 めたが、あと 一口 のところで 満 腹 になってしまったようで、「これ 食 べて」と 私 に 渡 してきた。と 言 うと「 食 べて!」と 地 団 駄 を 踏 んだので、と 言 い、 私 が 食 べると、S.Y は無 言 で 頷 いていた。バスに 戻 り、レクの 合 間 、 外 を 電 車 が 通 り、と 私 が 言 うと、「スペーシアだ- 109 -


渡 沼 良 美 ・ 石 﨑 一 記よ」と 電 車 の 名 前 を 教 えてくれた。しかし 私 がよく 聞 き 取 れなかったのでと 言 うと、「だから、スペーシア」と 少 しいらだったような 口 調で 再 度 教 えてくれた。と 言 うと、「だって 俺 乗 ったことあるもん」と 教 えてくれた。鹿 沼 自 然 体 験 交 流 センターに 着 くと、 少 し 落 ち着 かない 様 子 で、 話 さなくなった。 開 会 式 の 前 、「 来なくていいよ」「 一 人 で 遊 ぶ」と 言 って、 他 の 子たちに 混 ざろうとしながら 遊 んでいた。しかし 声をかけられると 黙 ってしまい、 下 を 向 いてしまった。部 屋 に 荷 物 を 置 きに 行 くと、 同 じ 部 屋 の 子 たちとベッドの 場 所 を 決 めることになり、 二 段 ベッドの 上 に 上 り、「 俺 ここ」と 笑 顔 だった。しかし、他 の 子 たちが 外 に 行 ってもなかなか 降 りようとしないので、と 聞 くと、「 怖 い」とベッドの 上 から降 りられない 様 子 だった。 何 度 か S.Y が 降 りようと 試 みるが、「 怖 い」と 言 ってどうしても 降 りられなかったので、と 聞 くと 頷 いたので、 私 が 抱 きかかえてベッドから 降 りた。 外 に 出 るとき、センター 入 り口 にある 虫 よけスプレーが 自 分 でできたことが 嬉しかったのか、「 手 出 して」と 言 って 私 にもかけてくれた。と 言 うと、笑 顔 で 他 のスタッフや 子 どもたちにもかけていた。 探 検 散 歩 の 際 、 別 の 男 性 スタッフと 手 をつなぎ、 私 とは 繋 がなかった。< 繋 いでくれないの>と 聞 くと「だって 俺 この 人 嫌 いだもん」と 笑 顔 で言 った。と 私 が 言 うと「うん、 嫌 い」と 言 っていた。 秘 密 基 地 づくりが 始 まると、 一 人 で 作 業 を 始 めた。 細 めのロープで 木 と木 をつないだところで、 他 の 子 が 穴 を 掘 ってるのが 目 についたのか、そちらに 向 かった。 落 ちていた 木 の 枝 や 石 、シャベルを 使 い、 一 生 懸 命 穴 を 掘 っていた。しばらくして、その 場 を 離 れ「バッタ 捕まえる」と 虫 かごを 取 りに 行 った。そのとき、「あ、トトロだ」と 石 﨑 先 生 を 見 つけて 声 をかけようとしたが、やめてしまった。< 声 かけてみたら>と言 うと 黙 って 下 を 向 いて 歩 いていたので、と 言 うと、「トトロー」と 声 をかけていた。 虫 取 りを 始 めたが、 私が 虫 を 怖 がっている 様 子 を 見 てセンターの 入 り 口まで 走 り、ついていくと「コオロギが 来 ないように」と 言 って、 私 の 両 足 に 虫 よけスプレーをかけてくれた。< 優 しいね、ありがとう>と 伝 えたが、S.Y は 無 言 で 立 ち 去 って 行 った。バッタを 捕 まえようとするがなかなか 捕 まえられず、 他 の 子 が 帽子 を 使 っているのを 見 て 真 似 して 捕 まえていた。センターの 中 に 入 り、 研 修 室 で 遊 んだ。ホワイトボードに 落 書 きをしたり、ホワイトボードのマーカーを 使 って 戦 いごっこをしたり、 卓 球 台 の裏 に 積 み 重 ねられていた 畳 の 上 に 乗 ったりして 遊んでいた。夕 食 の 際 、 順 番 を 待 ち 並 んでいるとき、S.Y がある 男 の 子 から 頬 にキスをされ、 驚 いていた。 私の 両 腕 を 掴 み、くっついてきたので、と 言 うと、 無 言 で 頷 いていた。S.Y の 食事 が 早 めに 終 わったので、 同 じテーブルで 食 べていたスタッフの 食 器 を 重 ねている 様 子 を 見 せ、と 言 うと、 無 言で 片 づけをしてくれた。ゲーム 大 会 では、 別 の 女 性 スタッフとずっと 一緒 に 楽 しそうに 参 加 していた。 私 に 対 しては「あっち 行 って」などの 発 言 が 多 かった。日 記 は、 絵 だけ 描 いて、 文 章 は 自 分 で 書 こうとしなかった。オセロはルールがわからないと 嫌 がっていたが、 男 性 スタッフと 私 から 一 度 ルールを 教 えてもらうと 楽 しそうに 続 けていた。 他 の 子 どもたちとはせずに、スタッフとずっとオセロをしていた。就 寝 の 時 間 になり、 部 屋 に 行 ったが、ベッドに上 がってからは「みんな 来 るまで 起 きてる」と 言 ってなかなか 寝 ようとしなかった。その 間 右 手 の 親指 をずっとしゃぶっていた。しばらく 一 緒 にいた- 110 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その9)が、「ママがいい」「あっち 行 って」「いなくていいよ」と 言 われたので、 私 は 部 屋 を 出 た。 同 じ 班の 別 のスタッフの 話 では、その 後 同 じ 部 屋 の 子 が来 る 時 まで 寝 つけておらず、そのスタッフが 一 緒にいることでようやく 寝 たとの 話 だった。2 日 目朝 がなかなか 起 きられず、 私 が 起 こそうとすると 嫌 がった。なんとか 上 体 を 起 し、 着 替 えたころにはラジオ 体 操 は 終 わっていたため、 朝 の 散 歩 から 参 加 した。係 の 仕 事 では、 洗 濯 係 を 希 望 した。 洗 濯 場 へ 行き、 洗 った 衣 服 を 受 け 取 ると、 洗 濯 バサミに 挟 んでいた。 何 度 も 自 分 から 洗 濯 物 を 受 け 取 りに 行 き、一 生 懸 命 行 っていた。< 上 手 だね>と 声 をかけるとにやりと 笑 っていた。朝 の 勉 強 では、 宝 箱 作 成 の 続 きをし、その 後 オセロをやりたがった。 簡 単 なドリルを 見 せと 聞くと「いいよ」と 言 ったので、 数 枚 コピーして 簡単 な 算 数 と 国 語 のドリルの 問 題 を 渡 した。すると「こんなの 簡 単 だよ」と 言 いながら 笑 顔 で 取 り 組んでいた。コピーした 分 の 問 題 が 終 わると、オセロを 持 ってきたので 一 緒 に 遊 んだ。その 後 の 外 遊 びは「 暑 い」とセンターの 中 に 入りたがったが、お 気 に 入 りのスタッフを 見 つけると、 大 声 で 呼 びながら 探 し 回 って 遊 んでいた。ピザ 作 りでは、 野 菜 を 切 ったり、きのこを 細 かく 裂 いたりなど、 積 極 的 に 手 伝 っていた。「これやりたい」と 自 分 から 手 を 出 して 作 業 に 参 加 するが、 少 しすると「もういい、こっちやる」と 一つの 作 業 に 長 時 間 というよりは、それぞれ 短 時 間でいろいろな 作 業 をという 感 じだった。ピザソースとコーンだけの 自 分 のピザを 作 り、と 聞 くと、「いいんだよ」と 満 面の 笑 顔 でピザ 窯 まで 走 って 持 って 行 った。 焼 いてもらっている 間 は、ピザ 窯 の 近 くにあった 木 製 のテーブルやベンチに 上 り 遊 んでいた。< 何 か 花 が咲 いてるよ>と 声 をかけると、 他 のスタッフを 呼びに 行 き「 見 て、ここに 花 があるんだよ」と 話 していた。ピザ 作 りが 終 わり、 川 遊 びに 行 った。 男 性 スタッフや 私 と 浮 き 輪 を 使 ったりして 遊 んでいた。 途 中 、唇 が 青 く 歯 をがちがちいわせ 震 えていたので、と 聞 くと「 大 丈 夫 だよ」と 言 って 遊 んでいた。ゴーグルをもらい 網 を 借 り、上 機 嫌 で 遊 んでいたが、 途 中 S.Y の 笑 顔 がなくなったので、 私 が 気 になって 近 くに 行 くと、「ちっこ」と 言 いトイレに 急 いだ。しかし 川 から 離 れる前 に 漏 らしてしまった。S.Y は 少 しショックを 受けた 様 子 だったが、すぐに「まぁ 川 の 近 くだからいっか」と 言 って 笑 顔 で 川 に 遊 びに 戻 った。 川 の段 差 になっているところで、 上 から 網 を 投 げ 落 とし、それに 対 して「よっちゃん 拾 ってきて」と 笑顔 で 言 った。 私 が 潜 って 網 を 拾 うと、「 貸 して、早 く 持 ってきて」と 言 ったので 渡 しに 行 くと、また 上 から 投 げ 落 とし、 私 がと 言 い、 網を 取 りに 潜 りに 行 くのを 笑 いながら 見 ていた。 川遊 びを 終 え、 施 設 に 戻 る 際 、トトロが 話 をしているのを 並 んで 待 っていると、また S.Y が 下 を 向いているので 声 をかけると「ちっこ」と 言 った。話 が 終 わるまで 待 てるか 聞 くと 頷 いたが、その 後すぐに 漏 らしてしまった。さっきよりもショックだったようで、 施 設 の 近 くに 戻 るまでずっと 私 と手 を 繋 いで 俯 いていた。施 設 に 戻 り、 夕 食 後 は、 施 設 のフロントにあった 将 棋 や 本 に 興 味 を 示 し、ことば 辞 典 のような 本をずっと 読 んでいたり、「これで 遊 ぶ」と 将 棋 を持 って 来 たりした。 長 椅 子 に 座 っていたが、 他の 子 どもが 来 ると 避 けるように 椅 子 を 降 り、 床 に座 って 本 を 読 んでいた。夜 、 花 火 に 向 かうときはお 気 に 入 りの 男 性 スタッフと 手 を 繋 いでいた、 花 火 が 始 まるとその 男性 スタッフは 仕 事 に 行 ったので、 私 と 手 を 繋 いていた。 花 火 に 火 をつけるときは、 火 が 怖 いのか 腰が 引 けている 状 態 で 私 の 手 を 強 く 握 り 火 の 方 に 花火 を 持 っている 手 を 伸 ばしていた、テーマソング- 111 -


渡 沼 良 美 ・ 石 﨑 一 記を 歌 うとき、 一 緒 に 歌 集 を 見 ていたので 前 日 と 同じように 今 歌 っている 歌 詞 の 部 分 を 指 でさしていたら、S.Y が 私 から 歌 集 を 取 り 上 げて 一 人 で 見 ていた。 花 火 の 帰 り、 参 加 者 の 男 の 子 から 頬 にキスをされ、 無 表 情 で 下 を 向 きその 男 の 子 を 突 き 放 していた。と 聞 くと、 無 言 で 頷 いていた。施 設 に 戻 ってからは、 絵 日 記 を 書 き、その 後 スタッフとオセロをした。 同 じ 班 の 他 の 子 とはやろうとせず、スタッフとのみオセロをしたがった。消 灯 の 時 間 になり、 部 屋 に 行 こうと 声 をかけると 駄 々をこねたが、 一 人 で 先 に 走 って 部 屋 に 行 き、歯 磨 きに 向 かった。いつも 家 で 母 親 に 仕 上 げ 磨 きをしてもらっているらしく、 私 に 歯 ブラシを 渡 してきたので、 仕 上 げ 磨 きをした。 部 屋 に 戻 ると、ベッドに 上 がったが、なかなか 寝 ようとせず、「みんなが 来 るまで 待 ってる」と 言 った。しばらく 一緒 にいるとうとうとし 始 めたので、< S.Y ちゃん、明 日 もあるしそろそろ 寝 ないかな>と 声 をかけると「うるさい」と 怒 った。しかし 疲 れていたのか、そのまま 寝 てしまった。3 日 目朝 はラジオ 体 操 が 終 わる 頃 に 起 床 。 何 度 か 声 をかけたが、その 度 に 手 を 振 り 回 すなどして 怒 っていた。 着 替 えが 終 わり、< 散 歩 行 く?>と 声 をかけると、「オセロがしたい」と 言 ったので 研 修 室に 向 かい、 朝 食 までずっと 二 人 でオセロをしていた。2 日 目 まででだいぶオセロのルールを 覚 えたのか、 笑 顔 だけでなく、 考 え 込 んで 真 剣 な 表 情 をする 場 面 もあった。< S.Y ちゃん 強 くなったね>と 言 うと 得 意 げに 笑 顔 で「ほら、 次 よっちゃんだよ、 早 く」と 急 かしてくることもあった。朝 食 の 時 間 になり、 食 堂 に 向 かった。この 日 の朝 食 メニューのミートボールが 嬉 しかったのか、「あ、ミートボールだ。 俺 ミートボールだけでいい」と 笑 顔 だった。 実 際 、よそってもらうときはミートボール 以 外 は 断 っていた。 食 べ 終 わると、おかわりに 行 くと 席 を 立 った。 私 がついて 行 こうとすると、「 来 なくていいよ」と 言 ったが、 食 堂 内 の柱 のところで 立 ち 止 まってこちらを 少 し 見 ていたので、< 一 人 で 行 ける>と 聞 くと S.Y は 首 を 横に 振 った。と 聞 くと 無 言 で 頷 いたので、おかわりについていった。ミートボールをおかわりし、 平 らげると、いつも 通 り 食 事 が 終 わった 人 の 食 器 をまとめるのを 積 極 的 に 手 伝 っていた。係 りの 仕 事 から 戻 るとき、< S.Y ちゃん、クワガタのメスがいるよ>と 教 えると、 触 ろうとするが 怖 いのか、すぐ 手 を 引 いていて、「よっちゃんとって」と 言 ってきた。 私 が 取 ると、「 虫 かご」と 言 って 研 修 室 に 走 って 行 った。 虫 かごがなかったので、 他 のスタッフにペットボトルで 虫 かごを作 ってもらい、その 中 にクワガタを 入 れ 部 屋 に持 って 行 った。朝 の 勉 強 の 時 間 では、 自 分 から「これやりたい」と 国 語 のひらがなの 練 習 ドリルを 持 ってきたので、コピーして 取 り 組 んだ。4 枚 ほど 取 り 組 んだ 後 、「オセロやりたい」と 言 ってオセロを 持 ってきたので、 一 緒 に 遊 んだ。その 後 、どろんこ 遊 びに 向 かった。 施 設 から 距離 があったが、ほぼ 全 て 自 力 で 歩 いて 行 った。 途中 、 私 や 他 のスタッフに「キック」「パンチ」と戦 いごっごをしかけていた。 私 が 猫 じゃらしを使 って S.Y をくすぐると、 自 分 も 猫 じゃらしを取 り、 反 撃 してきた。どろんこ 遊 びでは、 最 初 は 躊 躇 していたが、お気 に 入 りの 男 性 スタッフを 一 緒 に 一 度 入 ると 全 身泥 まみれになって 遊 んでいた。どろんこ 遊 びも 終わり、 水 で 洗 い 流 したが、 流 れてきた 水 の 勢 いが 強 く 驚 いていた。 川 の 中 を 一 人 で 歩 くのが 不 安だったのか、ずっと 手 を 繋 いでいた。 手 を 放 しても、 移 動 しようとするときは 必 ずこちらに 手 を 伸ばしてきた。マスが 流 れてきて、 捕 まえようとするが、マスが 勢 いよく 動 くのが 怖 かったようで、「こわい、よっちゃん 取 って」と 言 い、マスが 来ない 川 の 端 に 避 難 していた。 捕 まえたマスを 見 せ- 112 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その9)ると、 触 ろうとするが 少 し 触 れると 手 を 引 いていた。 焼 いたマスを 少 し 食 べたが、「しょっぱい、もういらない」と 言 い 渡 してきた。夕 飯 のカレーコンテストでは、 火 起 こしに 積 極的 に 参 加 した。 最 初 は 怖 がっていたが、スタッフからマッチの 火 のつけ 方 を 教 えてもらうと、マッチをずっと 握 りしめ、 班 の 子 から 声 がかかると走 っていって 火 をつけていた。カレー 作 りが 始 まると、 材 料 をたくさん 持 ってきては 嬉 しそうに笑 っていた。 途 中 からは 私 とずっと 戦 いごっこをしていた。 仮 面 ライダーのまねをしながらキックやパンチをしてきたり、 虫 取 り 網 で 叩 いてきたりした。 虫 取 り 網 で 私 の 顔 を 狙 ってきたので、 私 が< 危 ないでしょ>と 怒 り 虫 取 り 網 を 掴 むと「うるさい 離 せ」と S.Y も 怒 り、 喧 嘩 になった。S.Y が網 を 諦 め、またキックなどを 繰 り 出 してきたので、戦 いごっこは 続 いた。 椅 子 に 使 われていた 丸 太 を転 がし、 遊 んでいたが、 他 の 参 加 者 の 男 の 子 と 取り 合 いになり、お 互 いに 譲 らず、「 返 して、これ俺 の」と 喧 嘩 をした。 相 手 の 男 の 子 がいなくなると、 丸 太 を 転 がして 取 られないように 場 所 を 変 えていた。 完 成 したカレーを 食 べ、 班 のみんなが( 美味 しい)と 言 うと、「 俺 が 材 料 持 ってきたんだよ」と 得 意 げになっていた。しかしカレーは 辛 かったのか、コーンの 部 分 だけを 食 べて「あといらない」と 私 に 渡 してきた。その 後 の 片 づけは 積 極 的 に 参加 し、ほうきとちりとりで 起 こした 火 の 燃 えカスなどを 一 生 懸 命 掃 除 していた。入 浴 後 、 次 の 日 の 夜 にある 子 どもたち 企 画 のお楽 しみ 会 の 打 ち 合 わせに 行 った。 戻 ってくるときは 笑 顔 で、< S.Y ちゃん、どんなお 話 したの>と 聞 くと「 内 緒 だよ」と 笑 顔 で 言 っていた。日 記 は 書 かず、オセロをずっとスタッフとやっていた。 班 の 子 が 持 ってきた 虫 かごに 興 味 を 示 したが、すぐにオセロに 注 意 が 戻 った。消 灯 の 時 間 になり、 部 屋 に 行 くと、ベッドに 上り 布 団 に 入 り、すぐに 寝 入 った。4 日 目朝 は、お 気 に 入 りの 男 性 スタッフに 起 こしてもらい 笑 顔 で 起 床 した。ラジオ 体 操 終 了 と 同 時 に 広場 に 出 たので、スタンプカードをもらい、はんこを 押 してもらった。 朝 の 散 歩 から 係 の 仕 事 までは、男 性 スタッフとずっと 一 緒 にいた。 初 めて、 朝 の外 遊 びの 時 間 に 一 度 も「 中 に 入 りたい」と 言 わずに 遊 んでいた。係 の 仕 事 は 一 切 せず、 洗 濯 場 には 向 かおうとしたが、フロントまで 行 くと「やらない」と 言 って研 修 室 に 行 こうとした。その 際 、 死 角 から 出 てきた 女 の 子 と 衝 突 し、 頭 をぶつけた。 私 が 駆 け 寄り、しゃがんで 声 をかけると、 私 の 膝 につっぷして、 声 を 出 さずに 泣 いていた。(ごめんね、 大 丈夫 ?)と 声 をかけられると、 無 言 で 頷 き、 走 って部 屋 に 向 かった。 研 修 室 でずっとゲームをしていた。オセロだけでなく 他 のボードゲームにも 興 味を 持 ち、いろいろやりたがったので、 私 がルールを 教 えられるという 理 由 でダイヤモンドゲームをやった。ルールの 呑 み 込 みが 早 く、 終 始 笑 顔 で 楽しんでいる 様 子 だった。< S.Y ちゃん 強 いな、よっちゃん 負 けそう>と 言 うと、「 勝 っちゃうもんね」と 笑 顔 で 話 した。ダイヤモンドゲームを 終 え、 他の 参 加 者 の 男 の 子 がプラレールのカードで 遊 んでいるのを 見 て、「 俺 もやる」と 初 めてスタッフ 以外 の 人 と 一 緒 に 遊 んだ。しかし、 自 分 のやったところを( 違 う)と 言 われ 直 されてしまうと、「もういい」と 言 って 離 れてしまった。 施 設 の 中 で、お 気 に 入 りの 男 性 スタッフを 探 しているときに、参 加 者 の 女 の 子 の 部 屋 に 行 くと、(こっちおいで、押 し 入 れの 中 入 る?)と 誘 われ、その 輪 に 入 れてもらって 一 緒 に 遊 んだ。 初 めは 少 しびくびくしていたが、すぐに 笑 顔 になり 楽 しそうにしていた。外 に 移 動 する 際 、 女 の 子 たちと 分 かれると、その後 すぐに「お 姉 ちゃんたちは?」と 聞 いてきた。たらいそうめんの 準 備 が 始 まると、 女 の 子 たちと一 緒 に 調 理 室 から 野 外 炊 事 場 まで 氷 を 運 んだ。食 事 後 、 広 場 で 水 かけ 遊 びが 始 まると、 全 身 びしょびしょになりながら 楽 しんでいた。ホースを- 113 -


渡 沼 良 美 ・ 石 﨑 一 記使 いたがり、 他 の 男 の 子 が 使 っているのを「 貸 して、 貸 して」とずっとねだっていた。< 順 番 だよ>と 声 をかけても 聞 く 耳 持 たずという 様 子 で、しきりにホースを 使 っている 子 に「 貸 して」と 言 っていた。入 浴 後 、 夕 飯 のために 食 堂 に 向 かうと、 今 日 の食 事 にプリンが 出 ることを 知 り、「プリンだ!」と 声 をあげて 喜 んでいた。しかし、 食 事 の 途 中 で指 しゃぶりを 始 め、しばらく 眠 気 に 耐 えている 様子 だったがそのまま 席 で 寝 てしまった。 私 が 抱 え部 屋 に 連 れて 行 ったが、 部 屋 に 着 いたあたりで 目を 覚 まし、プリンを 食 べれなかったと 泣 き 始 めた。というと 階 段 まで走 って 行 った。 階 段 は 手 をつないで 降 り、その 後は 食 堂 まで 一 人 で 走 って 行 った。S.Y の 食 事 がそのまま 残 っていたため、プリンを 無 表 情 のまま 食べていた。< 本 当 にごめんね、よっちゃんの 分 もプリン 食 べる?>と 聞 くと 無 言 で 頷 いたので、プリンをあげると 無 言 のまま 食 べていた。< 許 してくれるかな>と 聞 くと 首 を 横 に 振 っていた。部 屋 に 戻 ってから 歯 磨 きに 向 かったが、 同 じ 班の 子 が 先 に 歯 磨 きを 終 え 急 いで 参 加 者 の 子 供 たちが 企 画 するお 楽 しみ 会 の 準 備 に 向 かうのを 見 ると、「もう 行 くの」と 聞 き、(だって 遅 れちゃうし)と 言 われると「やだ」と 言 い 準 備 に 向 かおうとした。< 歯 磨 きすぐ 終 わるよ、やっちゃわない?>と 声 をかけ 歯 磨 きを 促 したが、「やだ、なんでそういうことするの!」と 怒 って 泣 いてしまった。というと 無 言 で 頷 き 走 って 準 備 に 向かった。お 楽 しみ 会 では、 肝 試 しを 子 どもたちが 企 画し、S.Y は 最 後 のゴール 付 近 でスタッフを 驚 かす係 だった。 自 分 が 驚 かしたスタッフが 驚 くのを 見て 楽 しそうに 笑 っていた。 他 の 班 の 子 を 一 緒 に、箒 を 使 って 楽 しそうに 参 加 していた。 部 屋 に 戻 る前 に< S.Y ちゃんあそこにいたんだね、びっくりしちゃった>と 言 うと、 目 は 合 わさなかったが少 しニヤッと 笑 った 様 子 だった。歯 磨 きを 済 まし、 日 記 とオセロ 大 会 のために 研修 室 に 向 かったが、 日 記 は 書 かなかったが、スタッフとオセロをしたがった。スタッフと S.Y がオセロをしているところを 班 の 他 の 子 が 見 て、( 大人 が 手 抜 くなよ。わざと 弱 くやってあげてるんでしょ)と 言 ったのを 聞 き、それまで 笑 顔 でオセロをしていた S.Y から 表 情 がなくなり、 下 を 向 いたまま 黙 っていた。 他 の 班 の 中 でスタッフ 以 外 の子 どもの 誰 ともオセロをしていなかったので、 試しにやってみないかと 促 すと、 少 し 不 満 げながらも 参 加 していた。2 人 とオセロをして 勝 てないと「もういい」と 言 ってすっかりやる 気 をなくしてしまった 様 子 だった。その 後 オセロもやらず、ハローキティのゲームに 興 味 を 示 しにしゃがみこんでいたが、 班 の 別 の 子 が(S.Y ちゃん、 僕 とオセロやってくれないかな)とオセロを 持 ってくるとはじめは 首 を 横 に 振 っていたが、 何 回 か 聞 かれるうちに 不 満 げな 表 情 をしながらも 対 戦 していた。消 灯 の 時 間 になり、と 声をかけると 嫌 がったが、そのうち 自 分 から 部 屋 に向 かって 走 っていった。 部 屋 に 戻 ると、「 来 なくていいよ」と 言 いながらベッドに 上 がり、すぐに寝 入 った。5 日 目朝 のラジオ 体 操 の 時 間 には 起 きれなかったが、初 めて 一 人 で 二 段 ベッドの 上 からはしごを 使 って下 りることができた。 散 歩 に 行 き 帰 ってくると、朝 食 までの 間 施 設 のフロントにある 将 棋 で 遊 んでいた。ルールを 教 えながらやっていたが、S.Y 独自 のルールを 作 り、 私 の 駒 を 自 分 の 駒 にしたり、王 将 を3つほど 出 したり、 楽 しそうに 遊 んでいた。< 私 の 駒 無 くなっちゃうよ、S.Y ちゃんのこの 駒はやりたい 放 題 だな>と 笑 いながら 言 うと、「そうだよ、 俺 のこいつはやりたい 放 題 やってやるんだよ」と 笑 顔 で 言 い、 私 の 駒 を 指 で 払 ったりした。私 がそのたびにと 笑 いながら 駒 を 拾 う- 114 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その9)と、その 様 子 を 見 て S.Y は 笑 っていた。朝 食 後 も 同 じように 将 棋 で 遊 びたがり、S.Y 独自 のルールをたくさん 作 りながら 遊 んでいた。 川登 りからハイキングに 行 くチャレンジハイクの 準備 の 時 間 が 来 たが、それを 伝 えると「 俺 行 かない。ここで 遊 んでる。」と 言 い、 準 備 をしなかった。私 や 他 のスタッフからの 説 得 も 聞 かず、 頑 なに 施設 で 遊 びたがったが、 最 後 にトトロに 説 得 されると 渋 々みんなと 一 緒 に 川 に 向 かった。 私 のミスで水 着 に 着 替 えておらず、 私 服 で 川 登 りをすることになったが、「ももと 一 緒 がいい」とお 気 に 入 りの 女 性 スタッフと 一 緒 に 川 に 入 っていった。はじめは 嫌 がっていたが、 一 度 川 の 中 に 入 ると、 途 中から 吹 っ 切 れたのか、 自 分 から 川 の 中 に 入 り 楽 しんでいる 様 子 だった。 川 登 を 終 え、 洋 服 を 着 替 え、お 弁 当 を 食 べ、ハイキングへ 向 かった。リュックを 背 負 い、 黙 々と 道 を 歩 いていた。 頂上 で 写 真 を 撮 り、 下 りの 道 へ 向 かう 際 、 先 を 行 く別 の 班 を 追 い 抜 くような 勢 いで 進 んでいった。 山道 の 中 腹 で 一 度 止 まり、 水 分 補 給 と 写 真 撮 影 を済 ませると、またも 先 を 行 く 班 を 追 い 抜 きそうな 勢 いで 進 んでいった。< 前 の 班 の 人 は 追 い 越さないってお 約 束 だよ>というと 頷 きもしなかったが、 約 束 は 守 っていた。 自 分 の 班 の 他 の 人 が 見えないくらいにまで 先 頭 を 行 き、< S.Y ちゃん、後 ろ 見 てごらん、みんないないよ。S.Y ちゃん 早いね、 先 頭 だ>と 声 をかけると 嬉 しそうに 笑 い、速 度 を 上 げて 歩 いて 行 った。 山 を 下 り、 舗 装 された 道 に 出 たところで、 班 の 他 の 人 たちの 到 着 を待 った。そこから 施 設 に 向 かう 際 も 常 に 先 頭 を 行き、「 俺 先 頭 、 一 番 」と 得 意 げにしていた。そこから 先 もまた 先 頭 を 行 き、 班 の 誰 よりも 施 設 に 早く 着 いたときは 嬉 しそうに 笑 っていた。野 外 炊 事 場 でスイカとアイスを 食 べながらテーマソングを 歌 った。それまでは 歌 っていなかったが、 初 めて 声 に 出 してテーマソングを 歌 った。施 設 の 中 に 戻 ると、S.Y の 母 親 が 施 設 にいることに 驚 き、「なんでママいるの」と 言 いつつも 嬉しそうにしていた。入 浴 し、 夕 飯 のバーベキューまでの 間 、 施 設 のフロントにあることば 辞 典 を 読 んだり、 将 棋 で 遊んだりしていた。バーベキューをしに 野 外 炊 事 場 へ 移 動 するとき、 母 親 と 手 をつないで「ママも 一 緒 に 食 べるの?」としきりに 笑 顔 で 聞 いていた。バーベキューが 始 まってからは、 別 のテーブルで 食 べている 母親 のもとへ 何 度 か S.Y が 来 て 話 をしていた。とうもろこしが 好 きな S.Y は 肉 よりもとうもろこしを 多 く 食 べていた。別 れの 集 いでは、スタッフを 含 めた 参 加 者 全 員がサマースクールで 感 じたことを 話 したが、S.Yは 男 性 スタッフにくっついたまま、 俯 き 何 も 話 さなかった。 他 のスタッフからも 声 をかけられていたが、 首 を 横 に 振 り、 話 そうとしなかった。施 設 に 戻 り、 消 灯 時 間 を 過 ぎていたため、そのまま 部 屋 に 向 かった。 私 が 部 屋 に 入 ろうとすると、「 来 なくていいよ」と 部 屋 のドアを 閉 め、 私 を 部屋 に 入 れようとしなかった。6 日 目朝 は 起 きれなかったが、 母 親 が 部 屋 に 来 ると 怒られながらも 着 替 えて、ラジオ 体 操 に 向 かった。ラジオ 体 操 には 間 に 合 わなかったが、 朝 の 散 歩 から 参 加 した。 先 日 S.Y の 頬 にキスをした 子 が 虫を 追 いかけているのを 見 かけると、それまでは 声をかえることはなかったが、 初 めて S.Y から「 何捕 まえてるの」と 声 をかけていた。それに 気 づいた 相 手 が S.Y に 駆 け 寄 ってきて、S.Y の 頬 を 舐 めると、 驚 いたように 相 手 を 突 き 放 し、 俯 いたまま黙 ってしまった。< 驚 いたね>と 言 うと 無 言 で 頷き、と 言 うと 首 を 横 に 振 り 施 設 に 向 かい 走 っていった。朝 食 は 母 親 の 隣 に 座 り、いつになく 上 機 嫌 で 食べていた。 途 中 、「もう 食 べれない」と 母 親 に 駄 々をこね 怒 られていた。 叱 られながらもよそってもらった 分 は 全 てたいらげ、 食 器 を 片 す 手 伝 いも 率- 115 -


渡 沼 良 美 ・ 石 﨑 一 記先 してやった。荷 物 をまとめる 作 業 がなかなか 進 まず、 部 屋 に一 人 残 されると、 様 子 を 見 に 来 た 母 親 に 叱 られ、泣 きながら 一 人 で 荷 物 をまとめていた。 途 中 で「できない」と 泣 きながら 母 親 に 訴 える 場 面 もあったが、 最 終 的 には 自 分 で 全 て 詰 めていた。研 修 室 に 行 き、 手 紙 を 書 く 時 間 は、お 気 に 入 りの 男 性 スタッフと 一 緒 に 書 いていた。 参 加 者 の 女子 グループに(どんなこと 書 いてるの)と 聞 かれても 答 えず、その 男 性 スタッフのみに 教 えていた。< S.Y ちゃん、お 手 紙 書 いてるの>と 様 子 を 見に 行 くと、「 来 ないでいい」と 手 紙 を 隠 そうとした。帰 りの 写 真 撮 影 を 終 え、 荷 物 をバスに 積 み 込 むと、 施 設 で 分 かれることになるスタッフに 向 かい大 声 で 名 前 を 呼 びながら「ばいばい」と 手 を 振 った。バスに 乗 り 込 み、 席 に 座 ると、「クイズ 出 すね」と 周 りにいたスタッフや 女 の 子 に 楽 しそうにクイズを 出 していた。 帽 子 を 交 換 してかぶったりして遊 んでいて、と 聞 くと、「よっちゃんはだめー」と 笑 顔 で 言 った。大 学 院 に 着 き、 教 室 に 移 動 し、 閉 会 式 を 行 った。 担 当 のスタッフから 子 どもに 賞 状 を 贈 るとき、 賞 状 がお 気 に 入 りの 男 性 スタッフではなく 私からだったのが 気 に 食 わなかったのか、 賞 状 を 受け 取 っても 下 を 向 き、 不 満 げな 表 情 をしていた。帰 り 際 、 母 親 に 抱 っこをねだり、 指 をしゃぶりながら 抱 っこしてもらっていた。 写 真 を 撮 り、 大 学院 の 入 り 口 まで 見 送 りに 行 くと、 他 のスタッフには 少 し 寂 しそうに「ばいばい」と 手 を 振 っていたが、 私 が< S.Y ちゃんばいばい>と 手 を 振 ると、ちらっとこちらを 見 るものの、 手 を 振 ってはくれなかった。4. 事 後 アンケート家 では「ママの 仕 事 だから」と 言 い、 洗 濯 物 を干 す 手 伝 いはしない。お 気 に 入 りの 男 性 スタッフと 遊 んで 楽 しかったという 話 はするが、よっちゃんについて 母 親 に 聞 かれると、「よっちゃんは 嫌い」と 言 う。 母 親 から、 私 の S.Y に 対 する 言 葉が 少 し 乱 暴 に 感 じた、それを 子 どもは 感 じ 取 ったのではないか、との 指 摘 があった。Ⅲ 考 察Jhon Richer によると、 愛 着 とは、ある 特 定 の存 在 に 対 して 情 緒 的 なつながりを 持 とうとすること、 不 安 な 状 態 の 時 に 安 心 できるような 存 在 を 求めてその 存 在 に 接 近 し 安 心 することである。しかし、 非 常 に 不 安 の 強 い 子 どもは、 周 囲 の 人 々に 対し 非 常 に 敏 感 で 傷 つきやすく、なかなかそのような 行 動 をとることができない。 接 近 したいという気 持 ちはあるが、それと 同 時 に 警 戒 して 避 けたい、回 避 したいという 気 持 ちも 強 くなってしまい、 両者 の 気 持 ちの 中 で 葛 藤 状 態 を 起 こしやすい。また、非 常 に 敏 感 な 子 どもたちが 愛 着 行 動 を 起 こして 近づいてきたら、 私 たちは 抱 きかかえようとする。すると 彼 らは 避 けたり 怒 ったりする。しかしこちらが 遠 ざかると 再 び 彼 らは 近 づいてくる。そのため 私 たちは 再 び 抱 きかかえようとするが、やはり彼 らは 逃 げていく ( 小 林 ,2000)。サマースクール 期 間 中 の S.Y の「 嫌 い」という 発 言 も、このような 葛 藤 から 生 じた 愛 着 行 動 のひとつなのではないだろうか。S.Y は、サマースクール 期 間 の 始めの 方 は、 他 のスタッフや、 特 に 参 加 者 の 子 どもたちから 話 しかけられても 無 言 で、 俯 いたまま走 ってどこかへ 行 ってしまうという 行 動 がよく 見られた。 周 囲 の 人 々への 警 戒 が 強 かったようにも感 じられる。インテーク 時 や 初 日 の 母 親 に 甘 えている 様 子 から、 母 親 と 離 れて 数 日 過 ごすという 状況 に、S.Y の 精 神 状 態 は 不 安 が 強 かったと 考 えられる。そのような 状 態 の 中 での 愛 着 行 動 として、「 嫌 い」という 発 言 があったのではないだろうか。また、 上 田 、 山 崎 (2002) の 研 究 から、 乳 幼 児が 徐 々に 保 育 者 との 間 に 愛 着 関 係 を 形 成 させていくこと、それに 応 じて 友 達 に 対 する 優 しさが 芽 生えるなど、 友 達 関 係 にも 変 化 が 見 られたというこ- 116 -


援 助 的 サマースクールの 研 究 Ⅺ(その9)とが 明 らかになっている。このことから、S.Y のサマースクール 期 間 中 の 対 人 関 係 の 変 化 は、 少 なからず、 観 察 者 である 私 との 間 に 愛 着 関 係 が 形 成されていたということも 考 えられるのではないか。次 に、S.Y と 私 自 身 とのラポール 形 成 について考 察 する。ラポールの 形 成 について 必 要 なことは、1 相 手 の 言 葉 の 意 味 することを、 相 手 の 使 う 言 葉だけで 理 解 しようとするのではなく、 話 しているときの 声 の 大 きさや 抑 揚 、 身 振 りや 表 情 、 視 線 、その 前 に 話 題 になっていたことやその 場 の 状 況 などから 総 合 的 に 判 断 し、その 言 葉 で 伝 えたかった気 持 ちや 意 図 をできるだけ 正 確 に 受 け 止 めようとする 態 度 が 必 要 であるということ、2 援 助 者 が 相手 を 観 察 するのではなく、 相 手 と 一 緒 に 活 動 することによって 相 手 の 思 いを 一 緒 に 味 わうこと、3相 手 の 今 できることを 知 り、 次 の 援 助 につなげる視 点 で 見 るために、 相 手 の 否 定 的 な 面 ばかり 気 にするのではなく、 肯 定 的 な 面 を 積 極 的 に 見 ようとすることがあげられる ( 坪 井 )。これらの 点 について 検 討 してみると、23についてできていなかったように 思 う。S.Y が 見 ているものを 一 緒 に見 るなど、 体 験 を 共 にするというよりも、S.Y 自身 を 観 察 していた 自 分 がいたと 思 われる。また、私 自 身 が S.Y に 対 し 常 に 近 くで 行 動 したり、 何かと 心 配 になりあれは 平 気 かこれは 平 気 かと 何 度も 声 をかけるなど、 過 保 護 にも 思 える 態 度 をとってしまい、S.Y 自 身 がやれることをあまり 見 ていなかったようにも 思 われる。 結 果 、S.Y が 体 験 していることを 共 感 的 に 理 解 することができず、 彼の 肯 定 的 な 面 を 見 ることができず、ラポールの 形成 がうまくいかなかったと 考 えられる。しかし、私 に 対 して「 嫌 い」と 何 度 も 言 いながらも、S.Y自 身 がトイレに 行 きたいときやのどが 渇 いたとき等 に 私 のもとへ 来 て 言 葉 で 何 を 欲 しているか 伝 えてくることから、ラポール 形 成 も 少 しは 出 来 ていたのだろうかと 考 えられる。ラポールの 形 成 が 完全 に 出 来 ていないのなら、ゲームを 一 緒 にやったり、トイレに 行 くときに 声 をかけに 来 たりするなどという 行 動 をとるとは 考 えにくい。西 川 、 高 木 (1990)によると、 通 常 、 愛 他 的 に行 われる 自 発 的 な 援 助 は、その 受 け 手 に 好 ましい効 果 をもたらすと 考 えられる。しかし、 援 助 が 援助 者 の 被 援 助 者 に 対 する 憐 れみや 軽 蔑 を 意 味 する時 、また 援 助 が 社 会 の 中 で 本 来 望 ましいとされている 自 立 に 失 敗 したことを 意 味 する 時 、あるいは援 助 を 受 けることがあまり 有 益 な 結 果 とならない 時 に、 援 助 は 脅 威 的 になり、 被 援 助 者 は 防 衛 的にふるまうとしている。 以 上 の 先 行 研 究 は、 対 象は 大 学 生 としているが、S.Y との 関 わりの 中 でも同 じようなことが 考 えられるため、これらのことから S.Y との 関 わりを 検 討 する。S.Y が 私 に 対 して「 嫌 い」と 言 ったり、 部 屋 から 閉 め 出 したりするという 拒 否 的 な 行 動 は、 先 に 述 べたような 私 のS.Y とのかかわりが、 彼 にとっては 自 分 の 自 尊 感情 を 低 められる 脅 威 的 なかかわりであったことに原 因 があるという 可 能 性 が 十 分 考 えられる。 彼 の行 動 に 私 が 関 与 しすぎたために、 彼 の 自 尊 感 情 が損 なわれ、 先 述 したような 彼 の 愛 着 行 動 における葛 藤 が 生 じ、 拒 否 するという 防 衛 的 な 態 度 が 出 てきたのではないか。ここまで 考 察 してきて、 私 は 彼 の 年 齢 の 低 さから、 彼 に 対 し 必 要 以 上 に 世 話 を 焼 くという、 彼 の行 動 を 制 限 するような 接 し 方 をしてきたと 思 う。そしてその 結 果 、 彼 とのかかわりの 中 でラポールの 形 成 がうまくいかなかった。 年 齢 の 低 さなどの情 報 から 先 入 観 にとらわれず、 彼 の 世 話 をするのではなく 彼 と 共 に 行 動 し、 共 にその 体 験 を 感 じることができれば、ラポールの 形 成 や 彼 の 中 での 愛着 行 動 もより 良 い 形 で 行 われていただろうと 考 えられる。Ⅳ 終 わりに今 回 のサマースクールでの 経 験 は、 私 自 身 とって 自 分 の 未 熟 さや 年 齢 の 低 い 子 どもに 対 するかか- 117 -


渡 沼 良 美 ・ 石 﨑 一 記わり 方 について 考 えさせられるものであった。このような 経 験 をできるきっかけを 与 えてくださりご 指 導 してくださった 石 﨑 先 生 、 期 間 中 私 を 支 えてくださったスタッフの 皆 様 、 何 よりこのような貴 重 な 時 間 を 一 緒 に 過 ごしてくれた S.Y に 心 から 感 謝 致 します。引 用 文 献小 林 隆 児 不 適 応 行 動 を 起 こす 子 どもとの 関 係 づくりのコツ 東 海 大 学 健 康 科 学 部 紀 要 6, 57-64, 2000西 川 正 行 , 高 木 修 援 助 がもたらす 自 尊 心 への 脅 威 が被 援 助 者 の 反 応 に 及 ぼす 効 果 実 験 社 会 心 理 学 研 究30(2), 123-132, 1990坪 井 智 彦 子 どもとのラポールの 形 成 についての 一 考察 http://www.edu-ctr.pref.okayama.jp/chouki/study/h19/tsuboi/index.htm(2013 年 1 月 8 日 現 在 )上 田 七 生 , 山 崎 晃 乳 幼 児 の 愛 着 形 成 に 関 する 短 期 縦断 的 研 究 : 保 育 者 との 関 係 が 母 子 関 係 に 及 ぼす 影 響日 本 保 育 学 会 大 会 発 表 論 文 集 (55), 698-699, 2002-04-20- 118 -


東 Gardner 京 成 徳 と Moor 大 学 によるスポーツのパフォーマンス 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 ,2013,119-149向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 資 紹 料 介Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の介 入 プログラムの 紹 介A Review of the Intervention Program of the Mindfulness-Acceptance-Commitment Approach for Sport Performance Enhancementby Gardner and Moore*1市 村 操 一*2鈴 木 壮*1石 村 郁 夫*3羽 鳥 健 司*4浅 野 憲 一Soichi Ichimura, Masashi Suzuki, Ikuo Ishimura, Kenji Hatori, &Kenichi Asano*1東 京 成 徳 大 学 応 用 心 理 学 部*2岐 阜 大 学 教 育 学 部*3埼 玉 学 園 大 学 人 間 学 部*4千 葉 大 学 医 学 研 究 院Tokyo Seitoku University, College of Applied PsychologyGifu University, College of EducationSaitama Gakuen University, College of HumanitiesChiba Unversity, Graduate School of Medicineキーワード:マインドフルネス,アクセプタンス,スポーツ 心 理 学 ,メンタルトレーニング,パフォーマンス.Ⅰ 序 文「マインドフルネス」という 言 葉 は 意 識 の 状 態を 表 しており、 人 のおかれている 現 時 点 での 思 考や 情 動 や 感 覚 についての 意 識 を、 善 悪 や 正 誤 の 判断 ・ 評 価 を 加 えずに、あるがままに 受 け 入 れるということを 意 味 している。スポーツ 選 手 の 場 合 なら 重 要 な 試 合 で 感 じられる 緊 張 感 を、パフォーマンスの 妨 げになると 評 価 してその 緊 張 感 を 除 去 すべきものと 判 断 したりせずに、あるがままに 意 識し 続 ける 状 態 である。 自 然 体 という 言 葉 が 近 いかもしれない。Mindfulness という 英 語 は 古 代 インドの 宗 教 用 語 である smrti の 翻 訳 であり、 日 本の 仏 教 用 語 では「 念 」と 訳 されている。 正 念 場 の念 である。マインドフルな 意 識 を 高 めることによって、ビジネスやスポーツの 場 面 でのパフォーマンスを 向上 させようとする 方 法 が 開 発 され 始 めた。つまり、新 しいメンタル・スキルズ・トレーニングのひとつの 方 法 である。 本 資 料 で 紹 介 する“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”は Gardner & Moor (2007)による 一 組の 心 理 学 的 トレーニングプログラムである。このアプローチの 理 論 的 説 明 については、 本 紀 要 の12号 で 紹 介 した( 市 村 ,2012)。 今 回 は、その 理 論に 基 づいた 訓 練 法 ( 介 入 法 )のプログラムの 実 際を 紹 介 する。Mindfulness-Acceptance-CommitmentApproach (MAC)は“ 認 知 行 動 療 法 の 第 三 の波 ”と 呼 ばれる 新 しい 心 理 技 法 のひとつであり- 119 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一(Gardner & Moor, 2004)、 思 考 や 情 動 などの 歪の 修 正 と 行 動 の 変 容 を 含 んでいる。スポーツでの例 をあげるならば、 失 敗 を 恐 れて 技 能 を 十 分 に 発揮 できなかった 選 手 が、 失 敗 についての 認 識 を 修正 するとともに、 技 能 を 発 揮 する 習 慣 をつけていくような 心 理 的 技 能 である。Gardner & Moor (2007)は、スポーツ 選 手 のパフォーマンス 向 上 を 目 指 した MAC の 応 用 プログラムの 例 と、その 応 用 の 事 例 を 示 した。 本 稿 ではプログラムの 基 本 的 な 流 れをわかりやすく 俯 瞰できるように 要 約 し、 若 干 の 説 明 を 加 えた。7つのモジュール( 構 成 単 位 )から 構 成 されるプログラムの 内 容 はつぎのようなものである。モジュール1:クライアントに 心 理 教 育 を 行 うモジュール2:マインドフルネスと 認 知 的 デフュージョン( 脱 フュージョン)の 考 え 方を 紹 介 することモジュール3: 価 値 観 と 価 値 観 駆 動 的 行 動 の 導入モジュール4:アクセプタンス( 受 容 )の 導 入モジュール5:コミットメント( 関 与 )の 向 上モジュール6: 技 能 の 統 合 と 平 常 心 ―マインドフルネスとアクセプタンスとコミットメントを 結 び 付 けるモジュール 7:マインドフルネス、アクセプタンス、そしてコミットメントを 保 持 し 向上 させること原 書 でこの 部 分 に 費 やされている 紙 幅 は129(pp.65-193)ページにわたっている。そのなかには、プログラムの 指 導 者 であるコンサルタントと 指 導 される 選 手 であるクライアントのコンサルティングの 際 の 会 話 などが 紹 介 されていたり、指 導 する 際 の 詳 細 な 注 意 事 項 も 含 まれていたりする。そのために 通 読 しただけでは、この MACプログラムの 骨 子 を 把 握 するにはかなりの 努 力 が必 要 である。そこで、コンサルタントとクライアントの 会 話 のヴィネットは 大 幅 に 省 略 した。コンサルティングに 興 味 のある 読 者 は「 名 古 屋 大 学 スポーツ 心 理 学 文 献 コンテンツサービス」というウェブ-サイトに 全 訳 を 掲 載 してあるので、 原 著を 読 む 上 での 参 考 にされたい。なを、 本 稿 では 原著 との 対 応 が 可 能 なように、 訳 文 の 要 所 に 原 著 のページと 場 所 を 記 号 (U: 上 部 、M: 中 央 、L:下 部 )で 示 した。Ⅱ マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ(MAC)プログラムの7つのモジュール1 モジュール1:クライアントに 心 理 教 育 を 行う本 的 目 的 を 明 らかにし、クライアントのパフォーマンスの 経 験 (ポジティヴなものもネガティヴなものも 含 めて)を MAC の 観 点 から 説 明することによって 希 望 と 積 極 的 な 期 待 を 作 り 出 していくことなどによって、 効 果 的 な 介 入 をしやすくする。モジュール1で 実 施 されることの 概 要 はつぎのようである。 導 入 、 MAC プログラムの 理 論 的 基 礎 の 説明 、クライアントの 個 人 的 経 験 の 理 論 的 説 明 、エリートのパフォーマンスの 自 動 的 自 己 調 整 の説 明 、 MAC 訓 練 プログラムの 目 標 の 設 定 、簡 単 なセンタリング・エクササイズの 導 入1-1 導 入導 入 の 部 分 では、どのようにしてクライアントはこの MAC プログラムに 参 加 するようになったのかなどがたずねられ、プログラムの 開 始 にあたっては 適 切 なインフォームドコンセントがなされなければならない。1-2 MAC プログラムの 理 論 的 説 明第 1モジュールのこの 段 階 では、コンサルタントは MAC の 一 般 的 目 的 について 話 すことに- 120 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介なる。MAC の 究 極 的 目 的 は 注 意 と 平 静 さの 調整 を 通 してパフォーマンスを 向 上 させることであることが、クライアントに 伝 えられる。 注 意(attention)は、 課 題 に 関 連 のある 情 報 に 必 要 なときに 意 識 を 向 ける 能 力 と 定 義 される。 平 静 さ(poise)は、 思 考 や 情 動 や 身 体 感 覚 においてネガティヴな 内 的 状 態 を 経 験 しているにも 関 わらずに、 報 酬 や 目 標 を 目 指 して 行 動 する 能 力 と 定 義 される。基 本 的 な MAC の 目 標 はつぎのように 構 成 されている。(コンサルタントとクライアントの 話 し合 い)、(セッション 内 の 練 習 )、( 刻 々に 変 化 する自 己 意 識 への 気 づきを 高 める 練 習 )、(ネガティヴな 思 考 ・ 情 動 ・ 身 体 感 覚 に 耐 える 力 を 強 化 する)。他 のパフォーマンス 向 上 法 が 思 考 や 感 情 をよりよいものに 変 えていく 方 法 を 教 えているのに 対 して、MAC は 自 然 に 起 こってくるこれらの 内 的 経験 をコントロールしたり 低 減 させたりする 必 要 なしに、クライアントの 注 意 と 平 静 さを 保 つ 方 法 として 教 えられる。MAC ではこのような 内 的 経 験を、 人 間 の 経 験 の 変 化 する 側 面 として、 現 れるにまかせ 消 え 去 るにまかせる 能 力 を 開 発 することを目 的 としている。1-3 クライアントのパフォーマンス 経 験 に 理論 的 裏 付 けをあたえる。Module 1のつぎの 段 階 は、クライアントがカウンセリングルームに 来 た 特 別 の 目 的 や 期 待 について 話 し 合 う 段 階 である。 話 し 合 いの 中 で、ベストとワーストのパフォーマンスなど、クライアントのパフォーマンスの 歴 史 が 聞 かれる。 話 し 合 いの 中 では 試 合 の 場 面 だけではなく、 練 習 、トレーニング、 準 備 の 場 面 でのことについてもたずねられる。その 理 由 は MAC が 効 果 的 な 練 習 やトレーニングの 場 面 でも 必 要 な 努 力 や 注 意 の 焦 点 づけの向 上 を 目 的 としているからである。ここで 大 切 なことは、コンサルタントはクライアントのパフォーマンスや 信 念 や 経 験 や 欲 求 をMAC の 理 論 的 モデルと 関 連 付 けることである。エリート 選 手 たちはすでにスポーツ 心 理 学 のさまざまな 概 念 に 触 れている。それらの 概 念 のなかには、「ピークパフォーマンス」、「 努 力 なしの 動 き」「 自 信 」「ゾーンの 中 にいる」「 最 適 機 能 の 個 人 的ゾーン」「フロー」などが 含 まれよう。MAC ではそのような 概 念 は 使 用 しない( 通 俗 的 な 意 味 で使 われており、 専 門 的 な 概 念 化 がなされていない理 由 で)が、コンサルタントはこれらの 通 俗 的 言葉 で 表 される 概 念 が MAC の 目 標 とどのように関 係 しているかということや、それらの 方 法 よりも MAC の 技 能 を 習 得 するほうが 彼 らの 目 標 を 達成 しやすいということを 説 明 することは 大 切 である。この 時 点 でコンサルタントは、 最 初 の 面 接 や 心理 テストで 得 られた 情 報 を 組 み 合 わせなければならない。 問 題 となっている 心 理 的 プロセスやその結 果 を 説 明 できる 仮 説 がコンサルタントによって造 られ 提 示 されなければならない。この 段 階 ではつぎのような 概 念 について 丁 寧 な説 明 をすることが 望 まれる。それらは、「 自 己 指向 的 注 意 」と「 課 題 指 向 的 注 意 」の 違 いと、「 機能 的 パフォーマンス」と「 機 能 不 全 的 パフォーマンス」の 関 係 である。クライアントは 自 分 の 競 技歴 の 中 での 注 意 の2つの 指 向 性 の 経 験 について 述べることが 求 められる。 下 記 は、その 陳 述 の 簡 単な 例 である。コンサルタント: 成 績 が 期 待 したより 悪 かった 例を 思 い 出 すことができますか?クライアント:はい。2・3 週 間 前 にひどいゲームをしたことがあります。その 週 、 私 は少 し 練 習 をサボリました。コーチはそのことでうるさく 言 いました。コンサルタント:あなたはゲームの 間 、 心 の 中 で自 分 自 身 になんと 言 っていたか 思 い 出 せますか?- 121 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一クライアント:えーと、 私 は 正 しくプレーしているかどうか 迷 い 続 けました・・・コートの上 で 正 しい 位 置 でプレーできているかどうかと。コンサルタント: 期 待 に 近 い 状 態 でプレーしたときのことを 話 して 下 さい。クライアント:( 笑 )。それなら 簡 単 です。それはつぎのゲームでした。 何 も 考 えていなかったと 思 います。ひたすらプレーしていました。 相 手 のチームに 反 応 して、 私 がやらねばならないことをやっていました。いいゲームでした。このような 相 互 の 話 し 合 いが「 自 己 指 向 的 注 意 」と「 課 題 指 向 的 注 意 」の 関 係 を 示 す 事 例 として 使われる。 自 己 への 注 意 の 指 向 は「 私 は 正 しくプレーしているかどうか 迷 った」というような 文 言 に 現れている。それに 対 して、 課 題 に 注 意 を 向 けている 状 況 は、「 相 手 のチームに 反 応 して、 私 がやらねばならないことをやっていました」という 文 言の 中 に 現 れている。モジュール1のこの 部 分 の 最 後 に、クライアントは“パフォーマンス 評 価 用 紙 ”(PerformanceRating Form) *1 に 記 入 することが 求 められる。この 書 式 に 記 入 された 情 報 はクライアントとの 話し 合 いの 材 料 として、あるいは MAC プログラムの 進 行 状 況 をモニターするために 使 用 される。 進行 状 況 のモニターのためには、モジュール4と8の 後 にもこの 書 式 に 記 入 することをクライアントに 求 めるとよい。1-4 エリート 競 技 者 の 自 動 化 された 自 己 制 御の 説 明この 段 階 で、 技 能 の 発 揮 を 意 識 的 にコントロールする 試 みのネガティヴな 影 響 についての 説 明 を無 理 なく 始 めることができる。この 点 に 関 して 説明 されることは、よい 思 考 をし、よい 感 情 を 持 ち、ネガティヴなセルフトークを 避 け、 積 極 的 ・ 前 向きであろうとする 努 力 が 逆 効 果 をもたらすという自 己 矛 盾 に 関 することである。ク ラ イ ア ン ト は つ ぎ の よ う に 告 げ ら れ る。「MAC プログラムの 主 たる 目 標 は、あなたの 精神 が 平 静 で 当 面 する 課 題 に 集 中 したままで、あなたの 技 能 と 能 力 を 自 然 に 発 揮 できるようにすることです」この 段 階 で、 思 考 や 情 動 を 除 去 したり、思 考 や 情 動 を 変 化 させたりしようとする 努 力 は 理想 的 なパフォーマンスを 混 乱 させ、また 妨 害 する、ということを 話 すことは 大 切 である。クライアントたちはしばしば、 内 的 状 態 がコントロール 可 能であり、 消 滅 可 能 であり、そのことがパフォーマンスの 助 けになるという 信 念 をもってプログラムに 参 加 してきており、その 心 理 的 技 能 に 何 か 欠 点があるか 未 熟 のためにこの 目 標 が 達 成 されないと信 じている。クライアントが 内 的 なプロセスを 本当 に 消 去 したりコントロールしたりすることは 不可 能 であることを 知 ったならば、つぎに 展 開 されるプログラムに 強 い 関 心 を 示 すことになろう。1-5 MAC トレーニングプログラムの 目 標 設定モジュール1の 最 後 の 段 階 では、パフォーマンスに 関 連 する 内 的 ・ 外 的 手 掛 かりへの 注 意 を 高 め、妨 害 や 困 難 や 予 期 せぬ 出 来 事 に 対 して 平 静 を 保 つことの 重 要 性 が 明 確 に 示 されるべきである。このことは 繰 り 返 し 説 明 されるべきである。コンサルタントはこの 機 会 に、コントロールすることとアクセプタンスの 違 いを 説 明 することができる。コントロールは 伝 統 的 な 成 績 向 上 の 努 力によってもたらされることであり、アクセプタンスは MAC の 中 心 的 方 法 である。MAC の 方 法 を試 みる 以 前 には、クライアントは、もし 悪 い 感 情や 思 考 を 持 たずに、 自 信 を 持 ち、リラックスすることができ、 自 分 自 身 を『ゾーン』 状 態 におくことができれば、 成 績 が 向 上 するだろうと 教 えられてきた。MAC ではコンサルタントはつぎのように 説 明- 122 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介する:『 苦 痛 のない 状 態 でいようとする 努 力 が 問題 なのだ。 苦 痛 をもたらすような 思 考 や 感 情 の 存在 そのものが 問 題 なのではない』(The struggleto be without distress is the problem, not thepresence of these thoughts and feelings.)。 繰り 返 すが、 我 々が 患 者 に 強 調 すべきことは、『 悪 い』思 考 や 感 情 が 心 の 中 を 占 めたとしても、その 状 態を 変 えることなく 最 高 のパフォーマンスをする 能力 を 育 てることが 重 要 であるという 考 えである。この 時 点 でコンサルタントは2 章 で 示 したマインドフルネスの 練 習 の 重 要 性 を 強 調 する。マインドフルネスを MAC に 融 合 させるために、マインドフルネスの 意 識 (mindfulness awareness)の概 念 が 説 明 される。マインドフルネスの 意 識 というのは、 人 が 自 分 のさまざまな 思 考 や 情 動 を 自 然に 生 起 する 現 象 であり、コントロールする 必 要 のないものであることに 気 づき 受 容 するプロセスを意 味 する。これと 同 時 に、マインドフルな 注 意 という 概 念 についても 説 明 される。マインドフルネスな 注 意 は 課 題 への 注 意 を 自 己 調 整 する 能 力 と 定義 される(モジュール2で 説 明 )。1-6 簡 単 なセンタリング・エクササイズ最 後 に、 簡 単 なマインドフルネス 練 習 として、“ 簡 単 なセンタリング・エクササイズ”(BriefCentering Exercise) *2 (Eifer & Forsyth, 2005)が 行 われる。各 セッションの 後 で( 特 に 最 初 の3あるいは4セッションの 後 で)クライアントに“ 私 が 学んだこと:パフォーマンスと 自 分 自 身 について”(What I Have Learned About Performance andMyself) 質 問 紙 *3 が 渡 される。クライアントはセッションのすぐ 後 に、この 質 問 紙 に 記 入 しなければならない。さ ら に、“MAC の 準 備 ”(Preparing forMAC)のコピーが 渡 される。このコピーの 中 では MAC の 心 理 的 技 能 を 身 につけるためには、 適正 な 目 標 と、 技 能 の 練 習 を 規 則 的 に 実 行 することの 重 要 性 が 説 かれている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*1“パフォーマンス 評 価 用 紙 ”(PerformanceRating Form)(Chap 4, P.71):下 記 のような 質 問 に 応 える。「 過 去 2 週 間 内 に起 こった 競 技 実 行 上 の 障 害 を 書 き 出 して 下 さい。( 例 えば、ネガティヴな 思 考 、ネガティヴな 感 情 、対 人 的 問 題 、 集 中 力 の 欠 如 、などのようなものです)」そして、 練 習 、 試 合 、 人 間 関 係 などでの 満足 度 、 障 害 などを 評 定 する。*2“ 簡 単 なセンタリング・エクササイズ”(BriefCentering Exercise)(Chap4, P.75):この 簡 単 な 練 習 は 今 の 瞬 間 に 注 意 を 向 けることの 役 に 立 つ。そして、あなたはマインドフルな 注意 の 技 能 を 発 展 させる 最 初 のプロセスを 開 始 することになる。この 練 習 には 約 5 分 かかる。心 地 よく 腰 掛 けられる 場 所 を 探 しなさい。あなたの 脚 、 腕 、 手 に 注 意 を 向 けなさい。 目 を 静 かに閉 じなさい。(10 秒 間 休 み)。 数 回 、 息 を 静 かに 深く 吸 い、 吐 きなさい。 呼 吸 の 音 と 感 覚 を 感 じ 取 りなさい。(10 秒 間 休 み)。つぎに、 注 意 をあなたの 周 りに 向 けなさい。どんなもの 音 がしているかに 注 意 しなさい。 部 屋 の中 ではどんな 音 がしていますか? 部 屋 の 外 ではどんな 音 がしていますか?(10 秒 間 休 み)。つぎに、あなたの 身 体 のどの 部 分 が 椅 子 に 接 触 しているかに 注 意 を 向 けなさい。 接 触 している 身 体 の 感 覚 に注 意 を 向 けなさい(10 秒 間 休 み)。 膝 の 上 に 置 かれた 手 の 感 覚 に 注 意 しなさい。(10 秒 間 休 み)。つぎに、 身 体 の 残 りの 部 分 で 感 じられる 感 覚 に 注 意を 向 け、その 感 覚 があなたの 努 力 なしに 変 化 していく 有 様 を 感 じ 取 りなさい(10 秒 間 休 み)。これらの 感 覚 を 変 化 させようとしてはいけません。 変化 していくままを 感 じなさい(10 秒 間 休 み)。つぎに、このプログラムをなぜ 選 んだのかについての 考 えに 集 中 しなさい。(10 秒 間 休 み)。それらの 考 えに 集 中 する 以 外 に 何 もしない 状 態 で、 疑- 123 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一念 が 生 じたり 他 の 考 えが 生 じたりしないかを 確 かめなさい。あなたの 懸 念 、 心 配 、 恐 れなどを、 心の 中 を 通 り 過 ぎていく 行 列 の 一 部 のように 感 じ 取りなさい。(10 秒 間 休 み)。そのような 心 の 状 態 に気 づくことができているかどうかを、 自 分 で 確 かめなさい。(10 秒 間 休 み)。その 心 の 状 態 を 消 し 去ろうとしたり、 変 化 させたりする 努 力 をしてはなりません。(10 秒 間 休 み)。ここで、あなたがどのような 成 績 をどのようにして 達 成 したいと 欲 しているかに、 意 識 を 向 けなさい。あなたにとって 最 も 重 要 なことは 何 か?あなたの 技 能 をどのように 発 揮 したいのか?(10 秒間 休 み)。しばらく、くつろいでいて 下 さい。そして、ゆっくりと、もう 一 度 あなたのまわりの 音 や 動 きに 注意 を 向 けましょう。(10 秒 間 休 み)。もう 一 度 、あなたの 呼 吸 に 注 意 を 向 けて 下 さい。(10 秒 間 休 み)。目 を 開 いて、 自 分 が 集 中 し、 注 意 力 がさえていることを 感 じ 取 って 下 さい。*3“ 私 が 学 んだこと: パ フォーマンスと 自 分自 身 に つ い て ”(What I Have Learned AboutPerformance and Myself) 質 問 紙 : クライアントが 学 んだことを 自 由 に、 箇 条 書 き 的 に 記 入 する 用紙 。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 モジュール2:マインドフルネスと 認 知 的 デフュージョン( 脱 フュージョン)の 考 え 方を 紹 介 することモジュール2の 目 的 は、マインドフルな 意 識 とマインドフルな 注 意 が 行 動 の 変 容 、 特 に 成 績 の 向上 、にとって 重 要 性 を 持 っていることを 確 認 することである。さらに、このモジュールの 中 で、 認知 的 デフュージョンについて 紹 介 し 説 明 する。 認知 的 デフージョン(cognitive defusion)という言 葉 は、 心 がわれわれに 語 りかけていることを、そのまま 文 字 通 りに 受 け 取 らずに 距 離 をおいて 観察 することを 意 味 する。フュージョンは 心 が 語 りかける 言 葉 をそのまま 事 実 であると 受 け 止 めることであり、『 融 合 』と 訳 されることもある。モジュール2では、マインドフルネスの 練 習 は、自 己 制 御 された 注 意 、 認 知 的 脱 フュージョン、 自己 意 識 などの 特 殊 な 技 能 を 開 発 することにつながる 方 法 であると 指 摘 される。このセッションでは、モジュール2の 主 たるトピックスである、 自 己 意 識 とマインドフルネスの話 に 進 んでいき、 特 にそれらの 概 念 と 人 間 のパフォーマンスとの 関 係 に 焦 点 があてられる。この討 議 では、 思 考 (thought, ここではこの 言 葉 は、あなたの 心 があなたに 語 りかけることを 意 味 する。 以 下 この 論 文 では『 思 考 』はこのような 意 味で 使 われる)というものは 学 習 された 内 的 な 出 来事 であって、 常 に 現 実 を 正 しく 反 映 しているわけではないし、それに 対 する 行 為 を 要 求 するものでもないという、 考 え 方 を 紹 介 することを 含 んでいる。むしろ、われわれの 思 考 、つまり 特 定 の「こと」に 結 びつけられた 言 語 によって 学 習 された 思考 は、 自 然 にまかせれば 現 れては 消 えていく。マインドフルネスの 目 的 の 一 部 は、 内 的 なプロセスに 価 値 判 断 をせずに 意 識 し、そして、 当 面 する 課題 の 遂 行 に 意 識 の 焦 点 をあてる 能 力 を 開 発 させることである。この 討 議 のなかで、コンサルタントはクライアントが 彼 らの 思 考 について 考 えることを 助 け、クライアントが 思 考 は 単 に 一 過 性 の 出 来事 であり、クライアントをとりまく 現 実 を 正 確 に反 映 しているとはかぎらないと 考 えることができるように 指 導 する。MAC プログラムを 通 して 自 己 意 識 を 促 進 する主 な 手 段 は、 内 的 および 外 的 な 出 来 事 に 対 しての意 識 を 高 め 注 意 の 自 己 制 御 を 高 めるためのさまざまなマインドフルネス 練 習 法 の 利 用 である(このことは 最 高 のパフォーマンスのために 特 に 重 要 で- 124 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介ある)。MAC は、われわれの 思 考 を 絶 対 的 現 実とみなすことを 少 なくし、 情 動 をその 強 度 を 低 減したり 回 避 したりする 必 要 のない 経 験 と 見 る 能 力を 高 め、そして 自 己 の 定 めた 価 値 に 指 向 した 積 極的 行 動 の 強 度 と 頻 度 を 増 大 させることを 目 指 しているので、クライアントの 自 己 意 識 の 向 上 がMAC プログラムを 通 しての 重 要 な 内 容 となる。モジュール2で 行 われる 介 入 の 概 要 はつぎのようなものである。 簡 単 なセンタリング・エクササイズ(BCE)、「 私 の 学 んだこと」 質 問 紙 についての 討 論 、先 のセッションについての 質 問 や 不 明 な 点 についての 応 答 、マインドフルネスの 意 義 と 重 要 性 、セッション 間 のエクササイズの 討 議 :「 私 の 学んだこと」 質 問 紙 、 簡 単 なセンタリング・エクササイズ、 皿 洗 いマインドフルネス・エクササイズ、 見 直 しセッション、 簡 単 なセンタリング・エクササイズ。( 抄 訳 者 注 : 以 後 のモジュールの 内 容 の 紹 介 ・ 解説 では、 各 モジュールで 繰 り 返 し 行 われる 介 入 法については、その 解 説 を 短 縮 するか 省 略 する。 各モジュールでの 中 心 的 課 題 について 紹 介 していく)~セッションの 説 明 は 省 略 する。2-4 マインドフルネスの 意 義 と 重 要 性 、コンサルタントはパフォーマンス 向 上 のための MAC アプローチにおけるマインドフルネスの 定 義 とその 重 要 性 を 説 明 する。この 最 初 の 時点 で Mindfulness Attention Awareness Scale(Brown & Ryan, 2003) *1 を 用 いてマインドフルネスの 注 意 および 意 識 の 状 態 を 測 定 する。この 測定 は MAC プログラムの 終 了 時 点 でも 実 施 されマインドフルネス 技 能 の 変 化 が 評 価 される。コンサルタントはパフォーマンス 活 動 において「 現 時 点 」に 完 全 に 没 頭 することの 利 点 を 説 明 し、クライアントの 個 人 的 な 経 験 からそのような 経 験 の 例 を 取り 出 して 説 明 に 加 えるとよい。マインドフルな 意識 のさらなる 利 点 は、 注 意 をそらす 妨 害 刺 激 を 認知 する 能 力 を 高 めると 同 時 に、 必 要 なときには 当面 の 課 題 へのマインドフルな 注 意 を 取 り 戻 す 能 力を 高 めることである。( 抄 訳 者 注 :マインドフルネスの 定 義 は 原 書 P.9で 行 われており、その 訳 は市 村 (2012)P.98に 示 されている。『 現 時 点 での思 考 ・ 情 動 ・ 感 覚 から 生 ずる 意 識 を 非 判 断 的 に 受け 入 れること』)何 がマインドフルネスではないかということを説 明 することも 重 要 である。マインドフルネスは静 寂 の 感 じを 強 めるかもしれないが、マインドフルネス・エクササイズはリラクセーションやポジティヴ 思 考 の 一 形 態 ではない。それはリラクセーションの 度 合 いを 深 めることを 目 指 すのではなく、 自 己 意 識 ( 洞 察 )を 高 め、 習 慣 的 な 反 応 に 気づき、それから 自 由 になる 能 力 を 高 めることを 目指 している。さらに、マインドフルネスの 目 的 は自 分 の 思 考 を 注 意 の 対 象 として 注 意 を 向 けることである。モジュール2のこの 段 階 で、コンサルタントは cognitive fusion( 認 知 的 融 合 )の 概 念 を 始 めて 説 明 する。―――この 概 念 は 先 に 定 義 しておいたように、 個 人 が 自 分 の 思 考 をあたかも 絶 対 的 な真 実 と 思 いこみ、なんらかの 方 法 で 反 応 しなければならないと 考 えて、それに 反 応 するプロセスである。ここで、コンサルタントは 思 考 がパフォーマンスにおよぼす 悪 影 響 についてクライアントに説 明 しなければならない。ある 特 定 の 出 来 事 と 結びついた 思 考 は、しばしば 出 来 事 それ 自 体 とは異 なっているのだが、 我 々は、ある 出 来 事 についての 思 考 が 出 来 事 そのものと 同 じであるかのように、 反 応 してしまう 傾 向 がある。そのようにして、 我 々は 生 活 の 中 のある 物 事 や 事 柄 そのものに対 する 反 応 を 行 うかのように 思 いこんで、それらに 関 する 我 々の 思 考 に 対 して 反 応 していることが- 125 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一ある。モジュール2のこの 部 分 で、 我 々はクライアントに、 出 来 事 への 反 応 と、 出 来 事 についての 思 考への 反 応 を 区 別 することを 説 明 する。 前 者 の 例は、コーチやボスが 公 衆 の 面 前 でクライアントを怒 り、それで 彼 は 怒 りまごつくような 反 応 であり、 後 者 は、(クライアントが) 友 人 に 出 来 事 を物 語 るときに、その 出 来 事 を 思 い 出 し、その 思 い出 に 対 して 腹 立 たしさが 増 してくるような 反 応 である。このような 違 いを 説 明 すると、クライアントは 自 分 の 経 験 に 照 らして2つの 反 応 の 違 いを 理解 しやすくなる。MAC アプローチではコンサルタントはクライアントに「それが 何 であるか」ということと「それは 何 であると 心 があなたに 語 っているか」ということの 区 別 をすることを 助 けることになる。この 時 点 で、クライアントにこのような 違 いを 自 分の 経 験 のなかから 探 し 出 して 語 るようにもとめるとよい。クライアントにいくつかの 個 人 的 事 例 を 報 告 させることは、 認 知 的 脱 フュージョンのプロセスを開 始 させることになる。そのときには、クライアントが 言 葉 の 絶 対 的 意 味 とそれらの 言 葉 の 相 対 性や 信 頼 性 の 間 に 何 らかの 距 離 を 置 けるようになっている。この 概 念 は 少 し 難 しいので、 十 分 な 理 解が 得 られたかどうかを 確 かめるために、 個 人 的 な経 験 からの 例 を 語 らせるとよい。つぎの 会 話 の 場面 は 認 知 的 脱 フュージョンのプロセスの 例 である。クライアントはライターであり、 難 しい 執 筆を 避 けて 先 延 ばしにする 自 分 の 態 度 を 改 め、 能 力を 高 めたいと 思 っている。(91,L)コンサルタント:( 認 知 的 脱 フージョンの) 例 を示 しましょう。あなたが 寒 い 日 に 外 出 したとします。そこでつぎのようにつぶやく。「おー、 凍 え 死 にしそうだ!」と。そこで、本 当 にこの 言 葉 を 信 じていたとするならば、あなたは 本 当 に 不 安 になるでしょう。しかし、あなたは 自 分 の 言 った 言 葉 は 昔 からそのような 状 況 で 使 われるものにすぎないことを 知 っているから、あなたの 心 があなたに 告 げることを 信 ぜずに 無 視 して、 仕事 に 向 かうに 違 いありません。あなたが 執筆 で 困 難 を 感 じたとき 同 じような 思 考 が 働いていたならば、その 例 を 話 してください。クライアント:エー、 私 はその 仕 事 がやれると、自 分 に 言 い 聞 かせることができると 思 います。コンサルタント:はい、あなたにはできると 思 いますよ。でも、あなたは 依 然 としてあなたの 心 が 語 りかけることに 支 配 されることになるでしょう。あなたの 思 考 の 内 容 とはまった 関 係 なく 反 応 するにはどうしたらよいでしょうか?クライアント:ちょっと 考 えさせて 下 さい。えー、心 が 言 葉 に 左 右 されることを 忘 れないようにして、 心 の 内 部 で 何 が 起 こっていようが仕 事 に 本 腰 を 入 れるようにすることができると 思 います。この 会 話 の 例 にも 示 されるように、クライアントはおよその 考 え 方 を 素 早 く 理 解 するのだが、 多くの 場 合 、 認 知 的 脱 フュ-ジョンを 認 知 の 変 化 の一 つの 方 法 と 解 釈 してしまう。われわれは、そこで、われわれが 自 分 の 思 考 を 観 察 する 方 法 を 変 えることと、 思 考 の 内 容 を 変 化 させることを 区 別 することを 強 調 する。このことは、 思 考 を 抱 くことと、 思 考 を 受 け 入 れることを 区 別 することでもある。「 思 考 = thoughts」という 言 葉 を 使 う 代わりに、「 我 々の 心 が 我 々に 語 ること= what ourmind tells us」とか「 我 々の 思 考 が 我 々に 語 ること= what our thoughts tell us」というような 句を 使 った 方 が 分 かりやすいようである。この 時 点 で 認 知 的 フュージョン・プロセスにお- 126 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介けるマインドフルネス・トレーニングの 役 割 が 提示 される。 要 点 は、クライアントは、 心 が 彼 らに語 ることから 十 分 に 距 離 を 置 いて、それが 生 起 している 様 子 を 認 識 する 能 力 を 獲 得 するまでは、うまくディフューズ( 脱 融 合 )することができない、ということである。コンサルタントはクライアントに、 心 が 語 りかけることの 影 響 は 迅 速 で 自動 的 であることを 示 す。この 観 点 からすれば、マインドフルネスは 心 が 我 々に 語 ることに、それが生 起 したときに、より 大 きな 意 識 を 向 けることを促 進 する 働 きをする。そして、 心 の 活 動 に 反 応 する 方 法 の 選 択 の 柔 軟 性 を 増 すことができる。ここでクライアントにはマインドフルネスの 練 習 の 到達 目 標 がしめされる。 最 初 の 練 習 段 階 の 目 標 は 自己 意 識 (self-awareness)の 開 発 であり、それによって( 心 が 語 りかけることに 対 する 反 応 の) 自動 的 プロセスが 阻 止 される。 次 の 段 階 は 認 知 的 脱フュージョンであり、 心 が 語 りかけることから 距離 を 置 くことができる(decentering) 能 力 を 開発 する。そして 最 後 の 段 階 は、 必 要 に 応 じて 注 意を 調 整 できる 能 力 の 開 発 である。パレード 見 物 の 比 喩 。「パレードを 観 に 行 った2 人 がいた。 一 人 は 座 る 場 所 を 見 つけ、パレードが 過 ぎゆくすべての 光 景 を 見 た。 好 きなものも 嫌いなものも、すべてはやってきては、 少 し 留 まり、そして 去 っていった。 出 し 物 のすべてを 経 験 し 楽しんだ。もう 一 方 の 人 は、 好 きな 出 し 物 を 見 続 けようとパレードを 追 いかけ、 人 にぶつかってイライラし、 次 の 場 所 では 同 じ 出 し 物 が 見 られないのではと 心 配 になった。 一 日 中 見 物 したが、 他 のものは 見 ることができなかった」 この 比 喩 の 後 で、クライアントは 現 時 点 を 生 きることを 考 えるよう促 される。そのようにしてクライアントは 生 活 をゆがんだ 形 で 不 十 分 に 経 験 するのではなく、 十 分に 経 験 することを 学 ぶのである。以 上 のようなマインドフルネス・エクササイズは MAC のプログラムの 中 でさまざまな 形 で 実 施される。2-5 セッション 間 のエクササイズについての議 論 :「 私 の 学 んだこと」 質 問 紙 、 簡 単なセンタリング・エクササイズ(BCE)、皿 洗 いマインドフルネス・エクササイズ(p.98)モジュール1で、クライアントは 簡 単 なセンタリング・エクササイズ(BCE)と「 私 が 学 んだこと」質 問 の 練 習 を 行 った。モジュール2では、コンサルタントは「 皿 洗 い」と 名 前 がついたマインドフルネス・エクササイズ *2 が 新 たに 提 示 される。クライアントはつぎのセッションまでの6 日 間にマインドフルネス・エクササイズを 練 習 してくるよう 求 められる。BCE と 交 互 に、それぞれ3日 行 うことになる。2-6 セッション・レヴュー皿 洗 いエクササイズの 導 入 のあとで、コンサルタントはクライアントとともにセッションのレヴューを 行 う。 強 調 される 要 素 には、 認 知 的 フージ ョ ン と 脱 フ ー ジ ョ ン(cognitive fusion anddefusion)、 競 技 成 績 向 上 のための 自 己 洞 察 とマインドフルネスの 重 要 性 などが 含 まれる。2-7 簡 単 なセンタリング・エクササイズレヴュー・セッションの 後 で、クライアントは5 分 間 の 簡 単 なセンタリング・エクササイズを 実行 する。エクササイズの 進 行 に 従 って 生 ずるいらいら 感 、 飽 き、 不 安 、 欲 求 不 満 などにクライアントが 耐 えられるように(BCE などの 実 施 によって) 援 助 することが 大 切 である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*1宇 佐 美 麗 ・ 田 上 恭 子 (2012)による 翻 訳 がある。*2皿 洗 いマインドフルネス・エクササイズ比 較 的 静 かな 時 間 に 一 枚 の 皿 を 選 んで 空 の 洗 い- 127 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一桶 (シンク)の 中 におきなさい。しばらく 皿 を 見つめて、 色 ・ 形 ・ 質 感 に 意 識 をあてなさい。この練 習 をしている 間 に 他 の 思 考 があなたの 心 に 侵 入してくることに 気 づくようになるでしょう。このことは 否 応 なく 起 こってしまいます。なぜならば、さまざまな 思 考 が 毎 日 、そして 一 日 中 、 頭 の 中 に現 れては 消 えて 行 くからです。それらの 思 考 をただ 見 つめ、それらと 戦 おうとする 傾 向 も 見 つめ、思 考 があるがままにしておきなさい。そして、しずかーに 皿 の 物 理 的 性 質 に 焦 点 をあてる 課 題 に 心を 戻 しなさい。つぎに 皿 を 取 り 上 げ、その 上 にお 湯 をゆっくりとかけなさい。そのとき、 水 の 感 覚 や 温 度 や 皿 の感 覚 に 注 意 を 向 けなさい。そこでまた、あなたはこの 課 題 に 関 係 のないさまざまな 思 考 が 生 起 するのに 気 づくでしょう。もしそのような 状 態 が 起こったならば、 善 悪 や 正 誤 の 判 断 をせずに、あなたの 心 に 去 来 する 思 考 を、 浜 辺 に 打 ち 寄 せては 返す 波 のように 観 察 しなさい。どのような 思 考 が 生起 するかは 問 題 ではありません。お 湯 と 皿 が 作 り出 す 感 情 と 感 覚 に 注 意 を 向 けそれに 集 中 できるかどうかが 問 題 です。さらに、 感 覚 の 細 部 に 注 意 を深 めていきましょう。このようにして、あなたは集 中 の 度 合 いを 高 めていきます。つぎに、あなたが 普 段 につかっている 洗 剤 で 皿を 洗 います。この 行 動 から 生 じる 匂 いや 手 触 りなどの 新 しい 感 覚 に 注 意 を 向 けなさい。マインドフルにこの 皿 を 洗 い 続 けているあいだに、 外 部 の 音や 心 に 中 に 生 起 する 思 考 のすべてのものに、それらが 機 械 から 打 ち 出 される 言 葉 や 記 号 のように 注意 を 向 け、そして、 静 かに 皿 洗 い 課 題 に 注 意 を 向けなさい。さまざまな 思 考 が 現 れるのは 正 常 なことですから、 辛 抱 強 くやってください。 実 際 に、 心 はつねにさまよう 習 性 があるのです。 皿 を 洗 うという 現時 点 に 心 を 置 くことによって、あなたは 注 意 力 を徐 々に 高 めていくことでしょう。5 分 経 ったら、 皿 を 拭 き、 水 を 止 めて、 腰 を 下ろし、 下 の 欄 にあなたが 経 験 したことを 簡 単 に 書いて 下 さい。この 練 習 の 間 に 経 験 したすべての 思考 、 反 応 、 行 為 などを 書 いて 下 さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 モジュール3: 価 値 観 と 価 値 観 駆 動 的 行 動 の導 入モジュール3の 主 な 目 的 は、 行 動 を 方 向 づけるものとしての 価 値 観 の 理 解 と 探 求 である。パフォーマンスの 向 上 や 生 活 の 質 の 向 上 における 価値 観 の 役 割 を 理 解 する 際 に、 情 動 の 機 能 促 進 的 役割 とともに 機 能 妨 害 的 役 割 も 慎 重 に 考 慮 される。(103,L) 価 値 観 と 日 々の 行 動 およびその 選 択 の結 びつきがこのモジュールで 中 心 的 問 題 となることを 念 頭 に 置 くことは 極 めて 重 要 である。ここでクライアントは、 後 続 のセッションの 基 礎 となっている 価 値 観 の 概 念 が 提 示 される。つまり、 価 値観 を 定 め、 生 活 が 価 値 観 によって 方 向 付 けられているならば、パフォーマンスの 領 域 においても、人 の 目 標 は 達 成 される 可 能 性 が 高 くなるという 考え 方 によってクライアントは 指 導 を 受 ける。( 注 : 価 値 観 によって 方 向 づけられ、 価 値 の実 現 を 指 向 する 行 動 は 価 値 駆 動 的 行 動 【Valuesdrivenbehavior】と 呼 ばれる)この 価 値 駆 動 的 行 動 の 対 極 に 情 動 駆 動 的 行 動 があり、 個 人 の 行 動 はその 個 人 にとって 本 当 に 重 要なことのために 行 われるのではなく、 一 時 の 感 情を 満 足 させるために 行 われる。 価 値 づけられた 生活 を 生 きることは 終 局 的 には 個 人 の 目 標 を 達 成 する 可 能 性 を 高 めるという 考 え 方 が MAC プログラムの 中 心 的 考 えである。そこで、われわれはクライアントに、 彼 らの 個 人 の 価 値 観 が、パフォーマンス 向 上 と 目 標 達 成 に 必 要 なあらゆる 行 動 の 決 定- 128 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介の 基 盤 にあることを 強 調 する。この 価 値 観 の 基 盤の 上 でクライアントは 時 間 を 使 って、 彼 らの 行 動の 選 択 と 彼 らが 選 んだ 価 値 との 間 の 照 合 を 行 う。個 人 的 価 値 観 の 問 題 は、 日 常 生 活 の 中 で 直 面 するさまざまな 情 動 や“ 内 的 ルール” *1 が 働 いたときに 目 立 ってくる。このような 脈 絡 において、 人間 の 生 活 での 情 動 の 役 割 は、 機 能 不 全 的 側 面 も 含めて 詳 細 に 議 論 される。クライアントは 情 動 に 対して 反 応 する 前 に、つぎのように 自 問 することによって 情 動 を 認 識 し 対 処 することを 学 ぶ。その 自問 とは、「 私 は 自 分 の 価 値 観 にしたがって 行 為 しているのか、あるいは、いま 心 地 よく 感 じられることを 求 めて 行 為 しているのか?」という 問 いである。このような 問 いは、 行 動 の 選 択 を 当 座 の“ 内的 ルール”や 情 動 に 基 づいて 決 定 するのではなく、一 貫 性 のある 価 値 観 に 基 づいて 行 うことを 可 能 にする。*1“ 内 的 ルール”: 過 去 の 経 験 によって 習 得 された 習 慣 的 反 応 パタン。(104,M)モジュール3で 実 施 されるプログラムの 概 要 はつぎのようである。 簡 単 なセンタリング・エクササイズ、「 私が 学 んだこと」 用 紙 についての 討 論 、 前 のセッションでの 疑 問 、 不 確 かな 点 のチェック、 価値 観 と 価 値 観 に 駆 動 された 行 動 と 情 動 に 駆 動 された 行 動 の 説 明 と 討 議 、マインドフルネス・エクササイズの 自 宅 練 習 : 実 際 的 なマインドフルネス活 動 、セッション 間 のエクササイズ:「 私 が 学んだこと」 用 紙 、パフォーマンスの 価 値 観 用 紙 、情 動 のためにあきらめたこと 用 紙 、マインドフルネス・エクササイズ、 呼 吸 のマインドフルネス・エクササイズの 導 入 。~:これらの 項 目 の 説 明 はモジュール2の説 明 の 中 で 示 されている。モジュール3でもこのエクササイズを 実 行 することの 重 要 性 が 述 べられている。3-4 価 値 観 と 価 値 観 に 駆 動 された 行 動 と 情 動に 駆 動 された 行 動 の 説 明 と 討 議(106,L)ここまでの 準 備 の 上 で、つぎのおそらく MAC プ ロ グ ラ ム の な か で 最 も 重 要 な 段 階に 進 む。その 段 階 とは、 価 値 観 の 確 認 (valuesidentification)である。 価 値 観 に 駆 動 された 行動 の 選 択 と 情 動 に 駆 動 された 行 動 の 選 択 の 違 いを理 解 することは MAC プログラムのこの 時 点 で特 に 強 調 される。つぎのような 質 問 への 吟 味 がこの 時 点 で 始 まる。つまり、「あなたは 競 争 の 経験 の 中 から 何 を 得 ようとしているのか?」「あなたは 仲 間 やチームメイトからどのように 思 われ、あるいは 思 い 出 されたいか」「あなたの 望 んだ 目標 に 到 達 するまでに、あなたはどのような 道 程(journey)を 経 験 してそこにたどり 着 きたいか?」などの 質 問 への 答 えを 探 ることである。クライアントはパフォーマンス 向 上 のためのプログラムのなかで、このような 質 問 に 答 えることの 意 味 を 理 解 できない 場 合 がある。 多 くの 場 合 クライアントは 質 問 に 対 して 目 標 を 答 える。たとえば、「 私 はナンバーワンの 選 手 になりたい」「 優勝 チームの 一 員 でありたい」「 私 が 夢 見 ていたような 素 晴 らしい 成 功 をおさめたい」などの 目 標 が語 られる。クライアントがこのような 達 成 目 標 を価 値 観 の 枠 組 みのなかで 考 えられるようにするには、 若 干 の 努 力 が 必 要 である。 旅 の 終 着 駅 が 目 標であるとすると、 終 着 駅 にどのような 旅 をして 行くかが 価 値 観 にあたる。(108,T)つぎの 問 題 は、 価 値 観 とパフォーマンス向 上 の 問 題 を 結 び 付 けることである。ここで、 達成 目 標 は 人 生 の 大 きな 価 値 観 より 大 切 ではないと、 主 張 するわけではない。 我 々の 経 験 に 基 づいた 主 張 はつぎのようである。 選 択 した 競 技 目 標 の背 景 にある 価 値 観 を 意 識 している 競 技 者 は、 強 く持 続 的 なトレーニングを 行 い、 困 難 やネガティヴな 思 考 や 情 動 を 経 験 したときに、より 適 切 な 行 動の 選 択 をする。そして 日 々のトレーニングを 続 けて、 目 標 の 達 成 の 可 能 性 を 結 果 的 には 高 めると 考- 129 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一えられる。 価 値 観 に 導 かれた 選 択 と 行 動 ( 情 動 に導 かれた 行 動 ではなく)は、エリート 競 技 者 が 獲得 しようとしてやまない『メンタル・タフネス』の 本 質 であると 我 々は 信 じている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・われわれはメタル・タフネスをつぎのような 能 力と 定 義 する。 人 間 の 自 然 な 反 応 として 抑 えようとしたり、 静 めようとしたり、 除 去 しようとしたくなるような 強 い 情 動 に 襲 われたときでも、 目 的 的に、 計 画 的 に、 一 貫 して、パフォーマンス 活 動 の基 礎 にある 価 値 を 追 求 して 行 為 する 能 力 をメンタル・タフネスと 定 義 する。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(108,M) つぎの 対 話 は、メンタル・タフネスについてのオリンピック 出 場 を 目 指 すスイマーとの対 話 である。コンサルタント:あなたのスイマーとしてのキャリアをどのように 思 い 出 したいか、 教 えてくれませんか。クライアント:もちろん 金 メダルを 取 りたいです。でも、 練 習 時 間 に 関 しても 努 力 量 に 関 しても、 自 分 が 出 来 るだけのことはやったと 振り 返 れることを 欲 しています。「もし・・・していたら」などと 振 り 返 りたくはありません。コンサルタント: 最 近 の 練 習 上 のトラブルとそのことは 関 係 がありますか?クライアント:( 笑 い) 私 はいま 言 ったように 練習 しようとしていました。だが、そうは 行かなかったのです。 練 習 をサボった 日 がありました。サボることは 私 が 言 ったこととは 矛 盾 しますね。・・・ 私 はコーチをののしり、 汚 い 言 葉 を 吐 きました。コンサルタント:そういう 行 為 を 選 んだのは、そのときコーチに 抱 いていた 感 情 に 基 づいて行 動 したためですね。クライアント:ええ、それを 認 めなければなりません。あなたが 前 に 話 したように、 私 の 行為 は 私 が 本 当 に 望 んでいたこととは 関 係 がありません。そのときの 感 情 だけによる 行為 でした。(109,T)この 短 い 対 話 の 中 では、 価 値 に 基 づく 選択 と 情 動 に 基 づく 選 択 の 違 いが 強 調 されているだけでなく、この 考 えかたのパフォーマンスとの 関係 が 説 明 されている。( 抄 訳 者 注 :この 対 話 の 中には 目 標 『 金 メダル』と 価 値 観 『 最 大 限 の 努 力 をすること』の 違 いも 現 れている)。コンサルタントは、 実 際 のパフォーマンスで 現 れるこのような例 をクライアントの 競 技 生 活 の 中 から 見 つけ 出 して 話 し 合 うとよい。セッションのこの 時 点 で、コンサルタントはクライアントに 死 んだときの 競 技 略 歴 を 書 いた“パフォーマンス 墓 碑 銘 ” *2 を 完 成 することを 依頼 する。これは Hayes ら(1999)によって 臨 床の 中 で 使 われている 墓 碑 銘 エクササイズの 応 用 である。ここではクライアントは 自 分 の 競 技 キャリアに 関 連 した 墓 碑 銘 を 書 くことを 求 められる。 質問 は 次 のようになる。「 自 分 が 死 んだあとで、 自分 のことを 他 の 人 にどのように 思 い 出 してもらいたいか?」このエクササイズは、パフォーマンスの 価 値 観 を 明 らかにするための 出 発 点 になる。パフォーマンスの 墓 碑 銘 が 完 成 したら、コンサルタントとクライアントは 書 かれた 文 章 を 吟 味 して、そのなかに 認 められる 価 値 観 を 表 した 言 葉 を選 り 集 める。これらの 価 値 観 は、MAC プログラムの 進 行 中 繰 り 返 し 思 い 出 され 言 及 される。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*2Performance Obituary (パフォーマンス 墓 碑銘 )(110)あなたはあなたの 競 技 での 達 成 と 競 技 者 としてのあなたをどのように 回 想 されたいと 思 いますか?下 に 書 いてください。_____________________・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・- 130 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介(109,L) このエクササイズに 続 いて、コンサルタントは 人 間 の 生 活 における 情 動 の 機 能 に 関 して討 論 することが 薦 められる。人 間 のパフォーマンスに 関 連 して 情 動 の 問 題 を考 えると、この 練 習 のこの 段 階 で 考 慮 しなければならないさまざまな 問 題 がある。 第 一 の 問 題 は、クライアントにとってどのような 情 動 が 障 碍 と 思われているのか、という 問 題 である。どのような状 況 でどのような 情 動 が 起 こり、それがどのような 反 応 を 伴 うかを 明 らかにすることをコンサルタントが 手 助 けをすることは 大 切 である。クライアントにこの 問 題 に 答 えさせる 際 に 注 意 さなければならないことは、クライアントが 情 動 そのものを有 害 なものとして 語 ることがあることである。そこで、MAC のつぎの 基 本 を 心 の 中 で 確 認 することが 大 切 である。つまり、MAC の 目 標 の 一つは、 情 動 を 問 題 のある 有 害 なものとして 見 ることと、 情 動 をコントロールしたり 除 去 したりする努 力 を 問 題 のある 有 害 なものとして 理 解 することの 違 いを、クライアントが 納 得 するように 手 助 けするということである。(112,M) 情 動 と 人 間 のパフォーマンスに 関 する第 二 の 問 題 は、“ 純 粋 な 情 動 ”と“ 汚 れた 情 動 ”の 違 いである(Hayes et al., 1999)。“ 純 粋 な 情 動 ”はある 状 況 と 直 接 的 に 結 びついた 情 動 を 意 味 する。 一 方 、“ 汚 れた 情 動 ”は、 学 習 経 験 や、 言 語の 使 用 法 や、 最 初 の 情 動 に 対 する 個 人 特 有 の 反 応などによって 形 成 される 情 動 である。( 抄 訳 者 注 :コンサルタントとクライアントの 対 話 の 例 が 示 される。その 中 で、クライアントは 誰 でもがなんらかの 欲 求 不 満 を 感 じるような 状 況 で、 純 粋 な 情 動としての 怒 りを 感 じている。しかし、 怒 りの 情 動への 反 応 のなかで、 怒 るような 状 況 を 作 り 出 した自 分 への 悲 しみの 感 情 が 生 まれてくる。そして 仕事 を 回 避 するようになる)。 悲 しみという 二 次 的情 動 は、クライアントの 最 初 の 純 粋 な 情 動 によって 引 き 起 こされたものである。この 場 合 、 怒 りは“ 純 粋 な 情 動 ”とよばれ、 悲 しみは“ 汚 れた 情 動 ”とよばれる。(114,T) 汚 れた 情 動 と 純 粋 な 情 動 の 考 え 方 は、 日常 生 活 のなかで 情 動 を 感 じることの 正 常 さを 理 解することと、 価 値 に 駆 動 された 行 動 と 情 動 に 駆 動された 行 動 の 選 択 の 違 いを 認 識 することの 役 に 立つ。モジュール3の 中 では、マインドフルな 意 識 、マインドフルな 注 意 、 認 知 的 フージョン、そして認 知 的 脱 フージョンなどの 概 念 が 価 値 駆 動 的 行 動と 情 動 駆 動 的 行 動 の 考 えと 統 合 される。この 時 点 でコンサルタントはクライアントに“ 情 動 のための 諦 め” 用 紙 *3 を 手 渡 し、3セッションと4セッションの 間 に 記 入 するように 依 頼 する。この 用 紙 の 目 的 は、 価 値 駆 動 的 な 行 為 に 集 中せずに、 情 動 をコントロールしたり 除 去 したりすることに 努 力 した 結 果 、パフォーマンスにどのような 結 果 がもたらされたかを、クライアントに 理解 させることである。次 に、つぎのセッションまでにやってくる 宿 題が 手 渡 される。この 質 問 紙 は“スポーツの 価 値 観 ”用 紙 *4 この 質 問 紙 はクライアントのパフォーマンスに 関 連 した 価 値 観 を 明 らかにし、それを 文 章 に書 きだすことを 可 能 にする。この 結 果 は MAC プログラムのこの 後 の 過 程 で 使 われる。上 記 の 用 紙 は、 価 値 駆 動 的 選 択 と 情 動 駆 動 的 選択 の 違 いを 明 確 にすることに 役 立 つ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・- 131 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一*3“ 情 動 のための 諦 め” 用 紙氏 名 記 入 日 年 齢 職 業 性この 用 紙 の 目 的 はあなたの 情 動 を 低 減 したり 消 去 したりするために 何 をあきらめてきたかについての 気づきを 高 めるためのものです。 情 動 を 低 減 させるために 価 値 の 追 求 をあきらめたことはありませんでしたか?その 結 果 あなたの 実 行 能 力 や 仕 事 での 喜 びに 変 化 は 起 こりましたか?1 番 目 ( 左 )の 列 に、 練 習 や 試 合 で 情 動 が 引 き 起 こされた 状 況 を 書 いてください。2 番 目 の 列 には 経 験された 情 動 の 種 類 を 書 いてください。3 番 目 の 列 には 情 動 をコントロールした 方 法 を 書 いてください。4 番 目 の 列 にはコントロールした 効 果 を 書 いてください。 最 後 の( 右 )の 列 には、 情 動 を 克 服 しようとした 努 力 ( 情 動 を 低 減 させるためにあきらめたこと)の 効 果 を 書 いてください。例 に 従 って 皆 さんの 場 合 について 書 いてください。出 来 事 の 状 況 情 動 の 種 類 情 動 の 制 御 法 短 期 の 効 果 長 期 の 効 果コーチからの 批 判怒 り。コーチをくだらないやつと 繰 り 返し 思 う。静 かにして 冷 淡 を 装う。 友 人 のことを 思う。怒 り は い く ら か 静まったが、つぎの 日やる 気 が 低 下 。コーチの 印 象 を 悪 くしたようだ。 練 習 をしなくなった。ふてくされた 様 子 。 向 上心 を 失 った。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*4パフォーマンスの 価 値 観 調 査氏 名 記 入 日 年 齢 職 業 性つぎにあなたの 日 々の 行 為 を 助 けると 思 われるパフォーマンスの 価 値 観 が 示 されています。それぞれの価 値 が 書 き 入 れられた 後 に、それらの 価 値 を 追 求 するにあたっての 障 害 と、 価 値 を 実 現 するために 必 要な 行 為 を 書 いてください。チームメイト:あなたはどのようなタイプのチームメイトになりたいですか?よいチームメイトであることはどんなことを 意 味 しますか? 信 頼 できるチームメイトであることはあなたにとってなぜ 重 要 なのですか?障 害 と 必 要 な 行 為スポーツ 活 動 :あなたのスポーツ 活 動 で 価 値 を 置 いていることはなんですか? 挑 戦 ですか? 名 誉 ですか? 喜 びですか?チームメイトとの 付 き 合 いですか? 人 々を 助 けることですか?- 132 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介障 害 と 必 要 な 行 為トレーニング: 技 能 を 向 上 させることはあなたにとって 重 要 ですか? 成 績 の 向 上 のために 努 力 することはあなたにとって 何 の 意 味 がありますか?いっそう 発 展 させたい 技 能 はありますか?障 害 と 必 要 な 行 為テクニカル・スキル:テクニカル・スキルについてあなたが 上 達 したいと 思 っていることはなんですか( 例 、ゴルフのスキルなど)?障 害 と 必 要 な 行 為戦 術 的 技 能 : 戦 術 的 技 能 のどのような 面 を 伸 ばしたいと 思 いますか( 例 、ゴルフのピッチとクラブ 選 択の 理 解 など)? 何 をもっと 上 手 にできるようになりたいですか?障 害 と 必 要 な 行 為レクリエーション:どんな 活 動 を 楽 しみにしていますか? なぜそれを 楽 しいと 思 いますか?障 害 と 必 要 な 行 為・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3-5 マインドフルネス・エクササイズの 自 宅 われわれはクライアントにマインドフルに 関練 習 : 実 際 的 なマインドフルネス 活 動 与 する 一 つの 実 際 的 活 動 を 選 ばせ、われわれのプモジュール3のこの 部 分 では、クライアントは ログラムの 目 標 は 注 意 の 十 分 な、そして「いま、現 時 点 への 意 識 と 集 中 の 重 要 性 の 理 解 ができてい ここ」への 集 中 を 目 指 していることを 再 確 認 する。るので、マインドフルネスの 練 習 と 発 展 の 機 会 があたえられる。「 実 際 的 なマインドフル 活 動 の 練 3-6 セッション 間 のエクササイズについての習 」(The Relevant Mindful Activity Exercise)討 論 :「これまでに 学 んだこと 用 紙 」「パはマインドフルネスの 概 念 をクライアントの 生 活フォーマンスの 価 値 観 用 紙 」「 情 動 のたの 実 際 的 パフォーマンス 状 況 へ 応 用 することをねめにあきらめたこと 用 紙 」「マインドフらっている。たとえば、 競 技 者 の 場 合 にはマインルネス・エクササイズ 用 紙 」ドフルなストレッチングや、 特 定 の 技 能 のマイン この 時 点 で、モジュール3の 内 容 が 振 り 返 り 返ドフルな 繰 り 返 し 練 習 に 集 中 しているような 状 況 られ、これまでに 行 われたセッション 間 の 練 習 には、マインドフルネスのよい 練 習 になる。このよ ついて 討 論 が 行 われる。クライアントが MAC プうな 練 習 の 目 的 は、 競 技 者 の 注 意 を 彼 らの 運 動 の ログラムを 完 了 できるように、プログラムのなかなかに 含 まれている 特 定 の 感 覚 や 経 験 に 集 中 させ で「 価 値 」が 中 心 的 役 割 を 持 つことを 理 解 させる。ることである。われわれの 経 験 ではモジュール3 以 降 で MAC- 133 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一技 能 を 定 期 的 に 練 習 することが、 終 局 的 目 標 であるパフォーマンス 向 上 にとっては 決 定 的 に 重 要 であると 考 えられる。そのようなわけで、モジュール3は、これまでに 述 べた MAC の 概 念 、 目 標 、活 動 をクライアントが 十 分 に 理 解 するまでは、 終了 してはならない。3-7 呼 吸 のマインドフルネス・エクササイズの 導 入モジュール3では 最 後 に「 呼 吸 のマインドフルネス・エクササイズ」 *5 (Segal et al., 2002)の導 入 が 行 われる。このエクササイズは、 時 間 と 場所 に 余 裕 があるときに、“ 簡 単 なセンタリングイクササイズ”(BCE)の 代 わりに 実 施 することが期 待 される。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*5呼 吸 のマインドフルネス・エクササイズこの 簡 単 なエクササイズはあなたのマインドフルネス 技 能 を 高 め、マインドフルな 意 識 と 注 意 をいっそう 開 発 するだろう。 時 間 は 約 20 分 である。この 練 習 はなるべくゆっくりと 行 われることが 勧められる。ゆったりと 腰 を 下 ろしなさい。あなたの 体 の 位置 、 特 に 脚 、 手 、 足 に 注 意 を 向 けなさい。 静 かに目 を 閉 じなさい。(10 秒 ポーズ)。5・6 回 深 い 息 をして、 空 気 が 身 体 に 出 入 りする 様 子 を 感 じ 取 りなさい。 呼 吸 の 音 や 身 体 感 覚 にも 注 意 を 向 けなさい。 呼 吸 とともに 下 腹 部 が 膨 らんだりへこんだりすることに 注 意 を 向 けなさい。(10 秒 ポーズ)。呼 吸 の 観 察 を 続 けている 間 に、つぎのようなイメージを 描 きなさい。あなたは 一 本 の 鉛 筆 を 手 にしている。 呼 吸 をするごとに、その 鉛 筆 で 吸 気 のときには 上 方 に 線 を 書 き、 呼 気 のときには 下 方 に線 を 書 くことをイメージし 続 ける。(10 秒 ポーズ)。そのような 線 がどのような 絵 を 作 り 出 すかイメージしなさい(10 秒 ポーズ)。静 かに 呼 吸 を 続 けている 間 に、あなたの 脳 裏 にさまざまな 思 考 や 情 動 が 浮 かんでは 消 えていくありさまに 気 づくでしょう。そのような 思 考 をパレード( 行 列 )の 一 部 であるかのように 眺 めなさい。 静 かに、それらの 思 考 を 通 過 させなさい。そして 意 識 をあなたの 呼 吸 の 上 に 戻 しなさい。そこで 感 じられる 感 覚 に 意 識 を 置 きなさい。(10 秒 ポーズ)。さまざまな 思 考 や 情 動 が 現 れることは 悪 いことではないし、 問 題 でもない。 人 間 の 心 の 現 実の 現 れにすぎない。それらの 経 験 を 変 えようとしたり、 固 定 しようとしたり、コントロールしようとする 必 要 はない。 思 考 のパレードを 単 純 に 観 察し、あなたの 呼 吸 に 意 識 を 戻 しなさい。(10 秒 ポーズ)。静 かに 呼 吸 を 続 け、 呼 吸 をする 際 の 身 体 の 感 覚に 意 識 を 向 けなさい。 心 が 落 ち 着 いたら 目 を 開 け、周 りの 物 に 意 識 を 十 分 に 配 りなさい。そしてあなたの 一 日 を 続 けなさい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 モジュール4: 受 容 の 導 入モ ジ ュ ー ル 4 の 主 な 目 的 は 経 験 の 回 避(experiential avoidance)のために 支 払 われるコストの 理 解 を 深 めることである。それに 加 えて、 生 活 のなかでの 価 値 に 基 づくパフォーマン ス 追 求 に お い て、 経 験 の 受 容 (experientialacceptance)の 利 点 を 強 調 する。(126,U)クライアントは 経 験 の 回 避 をする 行 動 ではなく、 価 値 を 目 指 した 方 向 への 持 続 した 行 動 の利 点 を 理 解 するように 指 導 される。その 際 、 価 値を 目 指 した 行 動 の 持 続 には、これまで 有 害 で 我 慢できず 苦 痛 と 考 えられてきた 思 考 や 情 動 などの 内的 な 経 験 に 耐 え、それを 受 容 することが、しばしば 必 要 とされる。クライアントは 経 験 を 価 値 判 断せずに 受 容 する 有 効 な 方 法 の 指 導 を 受 ける。このようにして、 人 の 努 力 は、 思 考 や 情 動 をコントロールしたり 除 去 したりすることに 向 けられる 代 わり- 134 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介に、 当 面 する 課 題 に 向 けられるようになる。このような 討 論 を 通 して、クライアントはさまざまなパフォーマンスのなかで 経 験 するさまざまな 思 考や 情 動 や 身 体 感 覚 に 対 する 新 しい 対 応 法 を 発 展 させ 始 める。この 方 法 は Hayes et al. (1999)によって 開 発された 経 験 の 受 容 (experiential acceptance)と呼 ばれるものである。この 言 葉 の 意 味 するところは、 生 活 環 境 での 望 ましくない 経 験 をすべての 人が 簡 単 に 受 け 入 れることを 示 唆 するものではない。 受 容 という 言 葉 は、 生 活 やパフォーマンス 追求 活 動 のなかでネガティヴな 思 考 や 情 動 や 身 体 感覚 などが 必 然 的 に 起 こりうるものであることを 受け 入 れることをも 意 味 している。(126,M)モジュール4で 実 施 されるプログラムの概 要 はつぎのようである。このセッションでのマインドフルネス 練 習 、これまでの 章 の 内 容 についての 質 疑 応 答 、「パフォーマンスの 価 値 」 質 問 紙 、「 情 動 のためにあきらめたこと」 質 問 紙 などのレヴュー。 回 避 方 略についての 討 議 の 実 行 、 回 避 に 代 わっての 経 験の 受 容 。やる 気 と 価 値 に 動 かされた 行 動 の 結 合 、 適 切 なマインドフル 活 動 エクササイズの 継 続 、 簡 単 なセンタリング・エクササイズ。~:これらの 項 目 の 説 明 はモジュール2・3の 説 明 の 中 で 示 されているので、 省 略 。4-3 「パフォーマンスの 価 値 」 質 問 紙 、「 情 動のためにあきらめたこと」 質 問 紙 などのレヴュー。 回 避 方 略 についての 討 議 の 実行 。モジュール4では、コンサルタントとクライアントの 間 で 回 避 につての 討 議 が 行 われる。 回 避 が知 らぬ 間 に 行 われるような 巧 妙 性 、 過 剰 学 習 された 結 果 の 自 動 的 な 性 質 、ネガティヴに 強 化 された回 避 、そして 回 避 の 結 果 の 損 失 (コスト)などが討 論 される。 多 くのクライアントは 意 識 して 不 快な 思 考 や 情 動 を 回 避 する 決 定 をする。しかし、 巧妙 な 回 避 方 略 が 個 人 の 成 長 を 妨 げていることに 気づかぬものもいる。たとえば、 技 能 の 練 習 で 得 意な 技 能 で 実 行 すると 快 感 を 得 られる 練 習 に 集 中し、 困 難 だがより 重 要 な 技 能 の 練 習 を 無 意 識 に 回避 するようなケースがある。コンサルタントにとって 重 要 なことはクライアントの 生 活 の 中 で 生起 している 回 避 の 顕 在 的 なパタンと 潜 在 的 パタンについて 調 べて、 討 議 することである。この 討 議の 題 材 は「パフォーマンスの 価 値 」 用 紙 と「 情 動のためにあきらめたこと」 用 紙 を 読 み 直 すことによって 集 められる。そして、コンサルタントはクライアントが、 情 動 駆 動 的 行 動 ( 情 動 に 動 かされた 行 動 )としての 回 避 と、それに 対 して 不 快 な 経験 が 伴 う 価 値 駆 動 的 行 動 ( 価 値 を 追 求 した 行 動 )の 違 いを 理 解 するように 指 導 する。この 指 導 の 中 ではフィットネス 訓 練 の 比 喩 を 有効 に 使 うことができる。この 比 喩 ではコンサルタントはフィットネスの 高 いレベルへの 到 達 に 向かっての 必 要 な 段 階 を 示 す。 健 康 、 幸 福 感 、 美容 にとってあるレベルのフィットネスが 必 要 であると 決 定 すること。 行 動 プランの 決 定 ( 運 動 、食 事 など)。プランに 従 った 日 々の 行 動 の 選 択 。 空 腹 や 疲 労 を 感 じても、その 不 快 を 経 験 することを 喜 び、 計 画 を 実 行 すること。 長 期 にわたっての 多 くの 行 動 選 択 が 目 標 の 達 成 には 必 要 であるという 現 実 を 知 ること。 以 上 のような 段 階 が 示 される。クライアントは 目 標 に 向 かった 努 力 をサボるさまざまな 回 避 方 略 と、そのような 方 略 を 用 いた 理 由 を 言 語 化 することが 求 められる。この 討 議では、 長 期 展 望 での 利 益 よりは 短 期 の 快 適 さを 求めることが 多 くの 回 避 の 主 な 理 由 であることが 明らかになる。クライアントが、「 情 動 」―「 情 動 の 経 験 に 続く 回 避 行 動 」―「パフォーマンス」の 関 係 について 深 い 洞 察 を 得 るために、「 情 動 とパフォーマン- 135 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*1「 情 動 とパフォーマンスの 妨 害 」 質 問 紙名 前 月 日 年 齢 職 業 性先 週 起 こったパフォーマンス 状 況 を 書 いてください。そして、そのとき 経 験 した 情 動 の 種 類 と 強 さ、 情動 がパフォーマンスを 妨 害 した 強 さ、どのように 妨 害 したかなどを 書 いてください。状 況 情 動 パフォーマンスの 妨 害 何 が 起 こったか?強 度 0 ~ 10 強 度 0 ~ 10・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スの 妨 害 」 用 紙 *1 の 記 入 が 求 められる。この 用 紙の 記 入 は 次 回 までの 宿 題 となる。向 けるように 指 導 される。そこで 重 要 なことは、そのような 影 響 は 除 去 されたりコントロールされ4-4 回 避 に 代 わっての 経 験 の 受 容 。 積 極 性(willingness)と 価 値 駆 動 的 関 与 行 動 の結 合 。たりする 必 要 のないことが 指 摘 される。そうではなく、そのような 影 響 は 静 かに 観 察 され、その 時点 でのしなければならないことと 共 存 することが許 されるべきだということが 強 調 される。つまり、コンサルタントは 内 的 な 変 化 ( 出 来 事 )を 人 間 のこのセッションでは、この 時 点 で、 回 避 に 代わるべき 経 験 の 受 容 と、 経 験 への 積 極 性 について15 分 間 説 明 される。ここでは、 経 験 の 受 容(acceptance)と 積 極 性 (willingness)は 個 人 の目 標 や 価 値 観 の 達 成 に 関 係 し、 回 避 は 不 快 感 の 短期 のコントロールや 低 減 や 除 去 と 結 びついていることが 強 調 される。ここで 強 調 される 態 度 とは、「 良 い 成 績 を 上 げたい(あるいは、 厳 しい 練 習 をしたい)、しかし、私 はいま 怒 っていて、 不 安 で、 悲 しい」というスタンスから、「 良 い 成 績 を 上 げたい(あるいは、厳 しい 練 習 をしたい)、そして、 私 はいま 怒 っていて、 不 安 で、 悲 しい」というスタンスに 切 り 替えることである。 特 にこの 局 面 では「パフォーマンスの 価 値 」 用 紙 と「 情 動 のためにあきらめたこと」 用 紙 を 読 み 直 すことが 必 要 である。パフォーマンスの 正 常 な 側 面 として 位 置 付 ける 試みをすることが 重 要 である。このセッションで 強 調 されるべきことは、 高 度なパフォーマンス 活 動 と 関 連 して 不 可 避 的 に 生 起する 情 動 を 経 験 してもうろたえない 平 静 さを 保 つような 能 力 をクライアントが 育 てることである・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・われわれは Poise ( 平 静 さ)を、あらゆる 状 況で 生 起 するいかなる 思 考 や 情 動 を 経 験 していようとも、 要 求 されるように、そして 望 むように 機 能(パフォーム)する 能 力 、と 定 義 する。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この 観 点 からの 平 静 さの 説 明 と 討 議 は MAC 法の 中 心 であり、この 時 点 までのすべての 活 動 はこの 平 静 さの 概 念 が 提 示 されそれが 理 解 される 基 礎を 与 えている。この 時 点 で、すべてのエクササイズとセッション 間 の 宿 題 がばらばらなものではなモジュール4のこの 部 分 に 続 いて、クライアントはストレスフルなパフォーマンス 状 況 を 想 定し、そのような 事 態 が 身 体 に 及 ぼす 影 響 に 注 意 をく 一 つの 目 的 を 持 って 統 合 されることを 示 すことは 大 切 である。 注 意 の 自 己 調 整 、 自 己 意 識 、マインドフルネス 練 習 による 脱 センタリング、パ- 136 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介フォーマンスに 関 連 して 価 値 づけられた 方 向 の 確認 、 情 動 を 正 常 な 一 過 性 の 出 来 事 として 経 験 することの 重 要 性 の 認 識 、そして 最 後 に、 表 明 された目 標 に 向 かっての 行 動 に 積 極 的 に 関 与 することなどのすべてが、MAC の 過 程 のこの 時 点 で 統 合 される。4-5 適 切 なマインドフル 活 動 エクササイズの継 続この 部 分 では、コンサルタントは 再 び、パフォーマンスに 関 連 した 実 際 的 マインドフル 活 動 エクササイズ(Relevant Mindful Activity Exercise)に 戻 る。もしクライアントが 手 始 めの 練 習 として、パフォーマンスを 目 的 とする 活 動 を 選 ぶことが 難 しいようであるときには、パフォーマンスと関 係 ない、たとえばマインドフルに 食 事 をするなどの、パフォーマンスとは 関 係 のない 活 動 を 選 ぶことが 勧 められる。そのあとで、パフォーマンスを 目 指 したマインドフルな 活 動 の 応 用 練 習 に 移 るとよい。もし、クライアントがすでにパフォーマンスに 関 連 する 活 動 を 選 択 している 場 合 には、さらにマインドフルな 関 与 のレベルの 高 い 活 動 を 選択 するとよい。つぎの 対 話 は、マインドフルな 活動 の 練 習 を 伸 展 させるプロセスを 示 したサッカープレーヤーとの 対 話 の 例 である。コンサルタント:あなたが 練 習 や 試 合 の 前 のストレッチングでマインドフルな 活 動 を 利 用 しているのはとてもいいですね。クライアント:ええ、 思 ったより 有 効 な 感 じがします。ストレッチングの 間 、これまではほかのことを 考 えていたことにはまったく気 がつきませんでした。 白 状 すると、サッカーと 関 係 のないことばかり 考 えていました。 自 分 がストレッチしている 筋 肉 のことを 考 えるのにはほんの 数 パーセントの 時 間しか 使 いませんでした。しかし、 日 を 追 うごとにストレッチングに 集 中 できるようになりました。 週 の 終 わりには、 練 習 の 準 備が 前 よりもずっとよくできるようになりました。 身 体 のストレッチングが 良 くなったかどうかはわかりませんが、あなたがいうように、 自 分 は 現 在 に 集 中 していて、プレーの 準 備 ができた 気 がしました。 私 がやっている 方 法 は、センタリング・エクササイズで 始 めて、ストレッチングに 入 っていくやり 方 です。この 対 話 では、クライアントは 明 らかにマインドフルな 活 動 のエクササイズに 積 極 的 に 関 わっており、エクササイズの 目 標 とプロセスについて 十分 に 理 解 していることを 示 している。この 例 は、すべてのクライアントが 示 す 理 解 と 関 与 のレベルを 示 したものではなく、コンサルタントがこのエクササイズを 指 導 する 際 の 目 標 を 示 したものである。コンサルタントはクライアントがマインドフルに 練 習 するためのパフォーマンスに 関 連 する 課 題を 適 切 に 決 定 する 指 導 をしなければならない。このような 活 動 を 決 定 する 際 には 次 のようなことを心 に 留 めておくとよい。1 すべての 活 動 は、 前 の 活 動 より 少 しだけ 進歩 したものであること。 日 々のパフォーマンス 活動 にマインドフルに 関 わる 練 習 を 常 にパフォーマンスと 関 連 してシステマティックに 構 成 することを 目 標 とすべきである。2 つぎのより 高 度 な 段 階 に 進 む 前 に、クライアントが 前 のマインドフル 活 動 を 成 功 裏 に 完 了し、そこでの 欲 求 不 満 や 驚 きや 成 果 を 表 現 できることが 期 待 される。うまく 行 われていないという疑 いがある 場 合 には、もう1 週 間 、 繰 り 返 しを 行 う。早 く 先 へ 進 むよりは、 確 実 に 実 行 を 重 ねることが重 要 である。3 実 施 される 活 動 は、クライアントをスポーツやその 他 のパフォーマンス 活 動 へのマインドフ- 137 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一ルなかかり 合 いの 度 合 いを 高 めるように 導 いていく。クライアントはこの 活 動 で 毎 週 成 功 を 経 験 しなければならない。そしてこの 活 動 の 実 践 は 価 値駆 動 的 行 動 の 明 らかな 現 れとなるよう 工 夫 されなければならない。4-6 簡 単 なセンタリング・エクササイズMAC プログラムの 中 間 点 に 来 たので、コンサルタントは、このモジュールの 終 わりにあたって、クライアントの 努 力 と 協 力 をねぎらう 時 間 をとる。そして、「 簡 単 なセンタリング・エクササイズ」( 原 著 p.75 参 照 )で 締 めくくる。この 時 点 までには、この 練 習 は 容 易 に 実 行 できるようになっているはずである。5 モジュール5:コミットメント( 関 与 )の 向上MAC プログラムの 最 初 の4つのモジュールではつぎのようなことに 焦 点 があてられてきた。つまり、 注 意 の 自 己 調 整 や 自 分 の 内 的 経 験 からの 脱 センタリングの 手 段 としてマインドフルネスの 技 能を 高 めること、クライアントの 行 動 を 方 向 づけるための 価 値 の 確 認 、 価 値 ある 方 向 への 行 動 に 必 要な 冷 静 沈 着 さ(poise)( 経 験 の 回 避 ではなく 経 験の 受 容 )を 発 展 させることなどである。モジュール5からは、 価 値 に 方 向 づけられた行 動 を 活 性 化 することによって、 目 指 すべきパフォーマンスの 達 成 に 対 するクライアントのコミットメント( 関 与 )の 度 合 いを 高 めることを 目標 とする。モジュール5の 最 初 のセグメントでは、クライアントとコンサルタントは 人 の 現 時 点 の 経 験 への注 意 を、マインドフルネス 法 によって 高 めることが、 安 定 して 効 果 的 なパフォーマンスの 発 揮 に 役立 つことの 再 確 認 を 行 う。またわれわれは、 情 動 はパフォーマンス 行 動の 障 壁 となる 働 きをするが、 逆 に、 沈 着 冷 静 さ(poise)は 最 高 のパフォーマンスにとって 必 要 な条 件 であることを 復 習 する。さらに、「 価 値 」と「 目標 」の 違 いについても、これまで 以 上 に 詳 細 に 検討 される。 最 後 に、いくつかの 特 定 の 行 動 (たとえば、 練 習 時 間 の 強 度 や 質 など)が、 定 期 的 に 実行 されれば、パフォーマンスの 向 上 につながることが 討 論 される。モジュール5で 重 要 なことはパフォーマンス 向上 につながる「 特 定 の 行 動 」(specific behavior)の 確 認 である。このような 行 動 のなかにはつぎの3つの 種 類 が 含 まれる。 練 習 やトレーニングなどに 関 連 した 行 動 ( 例 :より 強 度 な、 心 を 配 った、集 中 した 練 習 );チームに 関 連 した 行 動 ( 例 :効 果 的 な 人 間 関 係 、コミュニケーション); 競争 行 動 ( 例 : 攻 撃 的 競 争 行 動 、 向 上 のためには 危険 を 冒 すこと)。ここで 重 要 なことは、 特 定 の 行動 の 活 性 化 は、クライアントが 価 値 を 置 いている方 向 と 関 係 し、つながっていることである。(142,M)モジュール5で 実 施 されるプログラムの概 要 はつぎのようである。セッション 内 マインドフルネス 練 習 、これまでのセッションの 復 習 、コミットメント( 関与 )の 向 上 : 価 値 ― 目 標 ― 行 動 をつなぐこと、パフォーマンスに 関 連 したマインドフルネスの 復習 と 宿 題 の 提 示 、セッションのレヴューと 簡 単なセンタリング・エクササイズ。5-1 セッション 内 マインドフルネス 練 習モジュール5では、 他 のモジュール 同 様 、 簡 単なセンタリング・エクササイズ(BCE)から 始まる。この 時 点 までに、マインドフルネスの 通 常 の 実行 は 可 能 になっており、その 効 用 は 言 葉 で 表 現 され、 障 壁 はかなり 少 なくなっていなければならない。もしそうでなければ、 時 間 を 十 分 にかけて 障壁 となっている 問 題 につて 話 し 合 い、クライアン- 138 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介トがこの 中 心 的 スキルを 習 得 する 方 法 を 見 つけることが 重 要 である。5-2 これまでのセッションの 復 習モジュール5の 前 半 では、これまでのセッションの 復 習 をすることが 特 に 大 切 である。コミットメント( 関 与 )を 高 めるためには、 個 人 の 価 値 観を 現 実 のものにするために 情 動 を 進 んで 経 験 すること、つまり 経 験 の 受 容 という 考 えを 理 解 し 納 得していることが 基 礎 になるからである。また、クライアントはこの 時 点 までに、 最 高 のパフォーマンスにおける 注 意 の 役 割 と 注 意 技 能 を高 めるためのマインドフルネスの 役 割 を 理 解 していなければならない。そして、クライアントは「 脱センタリング」(decentering)、つまり、 自 身 の思 考 や 情 動 の 客 観 的 な 観 察 者 になれる 手 段 としてのマインドフルネスの 価 値 を 理 解 していなければならない。 情 動 駆 動 的 行 動 と 価 値 駆 動 的 行 動 の 区別 も、クライアントに 十 分 に 理 解 されていなければならない。これまで 学 んだ 概 念 のレヴューで 大 切 なことはモジュール4で 手 渡 された“ 情 動 とパフォーマンスの 妨 害 ” 用 紙 の 内 容 の 検 討 である。この 討 議 の間 、コンサルタントは 用 紙 の 全 体 を 注 意 深 く 調 べ、記 録 された 状 況 についてクライアントと 討 論 する。 特 に、クライアントは、 特 定 の 情 動 がパフォーマンスにネガティヴな 影 響 を 与 える 道 筋 のつながりを 認 識 できることが 重 要 である。5-3 コミットメント( 関 与 )の 向 上 : 価 値 ―目 標 ― 行 動 をつなぐことこの 段 階 までにクライアントは 自 分 のパフォーマンス 生 活 、つまり 競 技 生 活 で 何 を 望 むかについてはっきりした 考 えを 持 ており、より 成 績 を 上 げるために 必 要 なことや、 障 壁 になりやすいことについてのしっかりした 考 えを 持 つようになっている。ここで 重 要 なことは、クライアントを 努 力 の成 果 のでる 行 為 や 活 動 に 深 く 継 続 して 関 わるように 活 性 化 させることである。 基 本 的 には、われわれはクライアントにパフォーマンスの 向 上 に 必 要なことにコミットするように 促 すことである。クライアントに 動 機 づけ(motivation)とコミットメント( 関 与 )(commitment)の 違 いを 区 別できるよう 援 助 することが、ここでの 重 要 なカギとなる。 動 機 づけは 単 に 何 かを 欲 することである。すべての 人 々は 愛 するときでも、 仕 事 をするときでも、 遊 ぶときでも、なんらかの 意 味 で 動 機 づけられている。しかし、 極 めてわずかの 人 しか、よりよい 遂 行 に 必 要 なことを 実 行 することに 本 当 にはコミットしていない( 関 わってはいない)。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コミットメントの 状 態 は、 人 が 最 高 の 成 績 をもたらす 特 定 の 行 動 や 活 動 を 常 に 変 わらずに 実 行 するときに 現 れる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここで、われわれはクライアントに 一 つの 重 要な 質 問 をする。われわれはクライアントに 最 高 のパフォーマンス、そして 個 人 のパフォーマンスの価 値 を 追 求 することのために 必 要 なことをする 準備 ができているかどうかを 尋 ねる。もちろん、 彼らには 内 的 経 験 が 不 快 なものであっても、その 仕事 にコミットする 必 要 があることを 再 確 認 する。クライアントはそのような 経 験 を( 良 くも 悪 くも、快 でも 苦 痛 でも)あるがままに 受 け 入 れるように指 導 される。 経 験 している 状 態 を、こうあってほしいと 思 ったり、 意 味 を 解 釈 したりせずに、 経 験をそのまま 受 け 入 れるのである。パフォーマンスを 向 上 させるためのコミットメントは“ 問 い”に対 してイエス・オア・ノーの 答 えを 要 求 し、 人 生は 障 壁 や 困 難 を 通 してこの“ 問 い”を 絶 えず 投 げかけているという 自 覚 を 要 求 する。その“ 問 い”というのは、このテキストで 先 述 したように、つぎのようなものである。「あなたはすでに 自 分 で決 めた 価 値 の 実 現 にコミットしており、 価 値 の 実現 の 途 上 で 不 快 な 精 神 的 ・ 肉 体 的 経 験 があろうともそれを 積 極 的 に 受 け 入 れようとしているか?」- 139 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一というものである。とが 求 められる。つぎの 段 階 で、コンサルタントは“パフォーマンスの 価 値 へのコミットメント・エクササイズ”(Committing to Performance Values Exercise)を 導 入 する。この 練 習 でクライアントはつぎのような 練 習 を 行 う。1. 価 値 を 短 期 の 目 標 と 長 期 の 目 標 につなぐ。2. 目 標 と 価 値 をそれらを 達 成 するために 必 要 な行 動 につなぐ。3. 目 標 と 価 値 を 達 成 するために 必 要 な 行 為 を 要5-4 パフォーマンスに 関 連 したマインドフルネスの 復 習 と 宿 題 の 提 示この 時 点 までには、クライアントはマインドフルネスの 定 期 的 な 練 習 をするようになっていると期 待 される。その 練 習 の 中 にはセンタリング・エクササイズやさまざまなマインドフルな 活 動 が 含まれている。もし、 定 期 的 な 練 習 の 習 慣 ができていないときには、この 習 慣 の 再 開 が 先 へ 進 むための 前 提 条 件 になることが 強 調 されねばならない。求 する 状 況 の 変 化 をいつもモニターし 続 けること。モジュール5でパフォーマンスの 価 値 へのコミットメント・エクササイズ(CPVE)が 導 入 されたとき、クライアントとコンサルタントは 最 近の 状 況 を 例 にしてそのエクササイズを 検 討 するとよい。クライアントはそこで、 出 来 事 と、 表 明 した 価 値 の 達 成 に 必 要 と 認 められた 行 動 ができたかできなかったかの 両 方 をモニターするためにセッションとセッションの 間 に“パフォーマンスの 価値 へのコミットメント 練 習 用 紙 ” *1 に 記 入 するこ(150,M)このとき、 適 切 なマインドフルな 活動 の 練 習 はクライアントを 競 技 や 競 技 以 外 のパフォーマンス 活 動 に 対 するマインドフルな 関 与 を高 めていくはずである。たとえば、マインドフルなストレッチングは 練 習 へのマインドフルな 関 与を 高 め、 練 習 の 他 の 重 要 な 側 面 へのマインドフルな 関 与 を 高 めることができる。センタリングとマインドフルな 呼 吸 をいつも 実 行 していることは、試 合 の 前 や 競 技 の 中 で 生 じる 中 断 の 間 にそのような 技 能 を 使 うことを 可 能 にする。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*1パフォーマンスの 価 値 へのコミットメント 練 習名 前 日 付 年 齢 職 業 性パフォーマンスの 価 値 (PV)PVを 実 現 するための 短 期 目 標PVを 実 現 するための 長 期 目 標PVを 実 現 するために 追 加 したり 変 更 したりすべき 行 動状 況実 行 した 行 為状 況 ( 状 況 の 数 はこれ 以 上 増 えてもよい)実 行 した 行 為・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・- 140 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介(150,L) モジュール5では、コンサルタントはクライアントにマインドフルネスの 練 習 を 重 視 して実 行 することによって、 試 合 へのマインドフルな関 与 ができるようにサポートし 続 ける。コンサルタントとクライアントは 協 力 して、 問 題 のある 特定 のパフォーマンスに 対 するマインドフルネス・エクササイズの 適 用 を 創 造 的 に 作 りあげていかねばならないことになろう。そのような 具 体 的 な 例としてつぎのようなことがあげられる。・ 練 習 や 試 合 の 前 のマインドフルなレイアップ練 習 、 ・ホッケーのゲーム 直 前 のマインドフルなパスやシュートの 練 習 、 ・ 野 球 の 投 手 のゲーム 前 やインニング 間 のマインドフルなウォームアップ、 ・ 練 習 でのマインドフルなフリースロー、・ 長 距 離 の 水 泳 でのマインドフルなストローク、・ 営 業 マンの 販 売 のプレゼンテーションのマインドフルな 練 習 。(151,M) これらのパフォーマンスに 関 連 したマインドフルネス・エクササイズに 共 通 することは、 実 行 者 が 現 時 点 に 完 全 に 集 中 して 存 在 することを 可 能 にするセンタリングとマインドフルな 呼吸 の 利 用 である。われわれがクライアントに 望 むことは、 思 考 や 感 情 が 生 起 することに 気 づき、しかしそれらが 移 ろっていくにまかせ、 当 面 する 身体 的 あるいは 精 神 的 課 題 を 十 分 に 経 験 するように集 中 することである。このマインドフルネス 活 動 は、 自 分 の 意 思 と 関わりなく 生 起 する 思 考 や 情 動 に 煩 わされずに 課 題に 集 中 し 続 けることを 助 ける。このような 集 中 は自 己 に 焦 点 づけされた 注 意 の 一 つの 形 態 か、という 疑 問 が 問 われてきた。われわれの 答 えは、 自 然に 起 こってくる 思 考 や 情 動 の 意 識 は 自 己 に 焦 点 づけられた 注 意 とは 同 じものではないということである。 自 己 に 焦 点 づけられた 注 意 は、そのような経 験 をコントロールしたり 消 去 したりしようとする 努 力 の 意 識 である(そしてその 努 力 の 意 識 は 自然 に 生 起 する 思 考 や 情 動 を 問 題 のあるものであり修 正 しなければならないという 信 念 と 結 びついている)。つまり、 自 己 に 焦 点 づけられた 注 意 は、人 が 抱 くネガティヴな 思 考 や 情 動 は 注 意 を 配 らなければならないという 信 念 を 生 み 出 し、 結 果 として 課 題 の 遂 行 にとってより 関 連 のある 刺 激 に 注 意が 配 られないという 結 果 につながるのである。MAC の 理 論 の 基 本 にはつぎのような 前 提 がある。つまり、 人 の 経 験 は 多 面 的 であり、 自 然 に 生起 する 思 考 や 感 情 ・ 情 動 を 経 験 することも 含 まれるが、それらは 自 覚 することができ、 観 察 することも 受 身 的 にやり 過 ごすこともできると 同 時 に、当 面 する 課 題 に 適 切 な 注 意 を 持 続 することもできるということである。5-5 セッションのレヴューと 簡 単 なセンタリング・エクササイズセッションの 終 盤 に、クライアントが 記 入 した質 問 紙 を 振 り 返 る。クライアントは 今 週 導 入 された「パフォーマンスの 価 値 への 関 与 練 習 」 用 紙 に記 入 する 同 時 に、 今 週 もクライアントは「 私 が 学んだこと」 用 紙 に 記 入 する。コンサルタントが 必要 と 感 じたクライアントには、モジュール4で 使用 した「 情 動 とパフォーマンスの 妨 害 」 質 問 紙 に記 入 することを 求 める。セッションの 最 後 は、いつものように、 簡 単 なセンタリング・エクササイズを 行 う。6 モジュール6: 技 能 の 統 合 と 平 常 心―マインドフルネスと 受 容 とコミットメントを 結び 付 けるモジュール6の 主 な 目 的 は、クライアントにより 大 きな 行 動 の 柔 軟 性 を 獲 得 させ、それを 維 持 させることである。コンサルタントは、クライアントが 個 人 にとって 意 味 あるパフォーマンスの 価 値を 追 求 するなかで 生 起 しがちなさまざまな 内 的 経験 の 全 体 を 自 発 的 に 受 け 入 れる 態 度 を 高 めるために、マインドフルネスの 使 用 ( 続 いて 脱 フージョ- 141 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一ンの 使 用 )を 続 けることを 勧 める。困 難 な 状 況 とそれに 結 びついた 内 的 経 験 が 回 避されてきた 結 果 、パフォーマンスを 最 高 レベルまで 高 める 行 動 や 選 択 が 行 われない 事 態 がある。このような 行 動 と 選 択 にはストレスや 疲 労 を 感 じたときの 練 習 や、 退 屈 したり 心 配 事 があったりするときの 会 議 の 出 席 や、 仕 事 の 電 話 をかけるときや、不 機 嫌 なときに 体 育 館 に 行 くことなどが 含 まれよう。これらはすべて 不 快 な 内 的 状 態 が 原 因 でよく回 避 される 状 況 の 例 である。(159,L) そこで、このモジュール6の 焦 点 は“ 平静 さ”(poise)の 概 念 をもう 一 度 提 示 することである。ここで“ 平 静 さ”は、さまざまな 思 考 や 情動 を 感 じながらも、 個 人 の 最 大 の 関 心 事 を 実 行 し、パフォーマンスの 価 値 を 目 指 して 機 能 的 に 行 動 する 能 力 と 定 義 される。クライアントの 平 静 さを 高めるために、コンサルタントはクライアントに 個人 にとって 問 題 となっている( 回 避 の 原 因 となっている) 状 況 と 情 動 を 確 認 させ、 回 避 的 行 動 とは反 対 の 行 動 に 専 念 する 計 画 を 入 念 に 作 ることを 助ける。(160,U) たとえば、 一 人 の 競 技 者 がオフシーズンのトレーニングに 回 避 傾 向 がでたり 手 抜きをしたくなったりしたことを 報 告 した 場 合 、コンサルタントはクライアントにたいしてこれまでよりも 多 くの 時 間 体 育 館 で 時 間 を 過 ごすような 週ごとの 計 画 を 作 ることを 勧 めることができよう。このような 方 法 は“ 対 抗 行 動 計 画 ”とよばれている(Linehan, 1993)。 対 抗 行 動 計 画 をたてるときに、コンサルタントはクライアントにそのような計 画 の 実 施 は 不 快 を 伴 うであろうことを 認 識 するよう 助 言 することができる。MAC モデルで 重 要なことは、このような 計 画 の 実 施 の 目 標 は 不 快 を低 減 させることではなく、 不 快 を 感 じながらも 最高 のパフォーマンスのために 必 要 なことを 遂 行 する 能 力 を 開 発 することである。モジュール6ではコンサルタントはクライアントのセッション 内 でのマインドフルネス 練 習 を 指導 し、セッション 間 のマインドフルネス( 自 主 )練 習 を 奨 励 し 続 け、パフォーマンスに 関 連 したマインドフルネス 活 動 を 指 導 する。 加 えて、このモジュールでは、“パフォーマンスの 価 値 へのコミットメント 練 習 ”がパフォーマンス 向 上 のためのマインドフルネス 練 習 の 拡 張 として 行 われる。(160,M)モジュール6で 実 施 されるプログラムの概 要 はつぎのようである。セッション 内 マインドフルネス 練 習 、 前 のセッションの 復 習 、 統 合 :イクスポージャー( 暴露 )を 基 礎 にした 活 動 を 通 しての“ 平 静 さ”の 向上 、パフォーマンスに 関 連 したマインドフルネスと、 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習 : 復 習 と 宿 題 、 簡 単 なセンタリング・エクササイズとセッション 間 の 質 問 紙 の 再 検 討 。6-1 セッション 内 マインドフルネス 練 習このセッションは 簡 単 なセンタリング・エクササイズ(BCE)から 始 める。 続 いて“ 課 題 に 焦点 づけられた 注 意 の 練 習 ”が 行 われる。この 簡 単 な 練 習 は、“ 私 はいまどのように 動 いているのか?”というような 思 考 や 不 安 のような感 情 などの、 内 的 な 経 験 に 向 けられた 注 意 の 方 向を 変 える 能 力 を 高 める 助 けとなる。BCE の 後 で、クライアントとコンサルタントは、 目 を 合 わせることがないように 背 中 合 わせに 座 る。コンサルタントは 彼 の 生 活 について2 分 間 の 物 語 を 話 して 聴かせる。クライアントはその 物 語 を 集 中 して 聞 くよう 指 示 される。 物 語 が 終 わったとき、クライアントはその 物 語 をできるだけ 詳 細 に 繰 り 返 すよう求 められるが、その 後 にコンサルタントはクライアントに 物 語 以 外 に 気 づいた 他 の 刺 激 、つまり 内的 思 考 や 外 的 雑 音 などについて 語 るよう 求 める。練 習 のこの 部 分 は、 毎 回 異 なった 物 語 を 使 ってクライアントが 物 語 の 細 部 のかなりの 分 量 (50%以 上 )を 再 生 できるまで 繰 り 返 される。クライアントがこの 練 習 をできるようになったならば、クライアントはコンサルタントと 向 かい 合 ってもう- 142 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介一 つの 物 語 を 聞 くよう 求 められる。このときには、コンサルタントとクライアントは 物 語 のあいだじゅうアイコンタクトを 持 続 させる。もう 一 度 、クライアントは 物 語 の 終 了 後 、その 細 部 を 物 語 るよう 求 められる。最 後 に、この 練 習 の 最 後 の 部 分 で、クライアントは 最 近 のパフォーマンスに 関 連 した 出 来 事 をいくらか 詳 細 に 述 べなければならない(コンサルタントは 質 問 をして、ネガティヴな 感 情 の 経 験 を 高めるようなイメージを 描 くよう 促 すとよい)。ネガティヴな 感 情 を 高 めた 後 で、コンサルタントは2 分 間 の 新 しい 物 語 を 提 示 し、クライアントは 細部 を 思 い 出 して 述 べるよう 要 求 される。この 手 続きは 物 語 の50% 以 上 が 想 起 されるまで 繰 り 返 される。(162,M) この 練 習 の 目 標 は 不 安 の 低 減 ではないことを 銘 記 することが 重 要 である。 多 くのクライアントはこの 練 習 が 進 むにつれて 不 快 感 のレベルが 高 まることを 報 告 する。 練 習 の 目 標 は2つある。最 初 の 目 標 はクライアントの 注 意 を、 情 動 や 思 考や 身 体 感 覚 などの 内 的 なプロセスへの 注 意 ( 自 己に 焦 点 づけた 注 意 )から、 課 題 にとってより 適 切な 外 的 刺 激 へと 穏 やかに 切 り 替 える 能 力 を 開 発 することである。 第 二 の 目 標 は、この 練 習 を 終 了 した 後 には、 不 安 やいらだちがあっても、 当 面 する課 題 に 必 要 な 注 意 の 集 中 ができることを、クライアントに 理 解 させることである。クライアントはMAC プログラムを 通 して 学 習 したことを 現 実 の場 で 経 験 することになる。そこでは、クライアントは 不 快 を 経 験 しながらも、 必 要 な 機 能 を 発 揮 することができる。しかも、 情 動 の 状 態 を 最 小 に 抑えたり、 除 去 したり、コントロールしたりしようとせずに、 機 能 を 発 揮 できるのである。多 くのクライアントにとってこの 練 習 は、 自 己に 焦 点 づけられた 注 意 を“ 念 頭 から 消 す:let go”ことの 最 初 の 経 験 となるだろう。6-2 前 のセッションの 復 習 ( 前 のモジュールと 同 じ)6-3 統 合 :イクスポージャー( 暴 露 )を 基 礎にした 活 動 を 通 しての“ 平 静 さ”の 向 上(163,L)“ 平 静 さ”を 高 めることはモジュール6の 主 たる 目 的 であり、そのことはクライアントにマインドフルネスやアクセプタンス( 受 容 )やコミットメント( 関 与 )に 関 して 習 得 しつつある 技能 を 効 果 的 に 利 用 することを 要 求 する。モジュール6のこの 部 分 は、 前 の 週 のモジュール5で 行 った“パフォーマンスの 価 値 へのコミットメント 練習 ”の 復 習 と 討 議 から 始 める。この 練 習 で 指 示 された 行 動 ができなかったことに 対 しては 注 意 深 く検 討 される。コンサルタントは 回 避 とその 結 果 に徐 々にではあるが 直 接 に 当 面 することになるだろう。そして、ある 個 人 については、 長 期 間 に 形 成された 回 避 パタンはそれを 断 ち 切 ることが 困 難 であるという 現 実 を 確 認 することになるだろう。コンサルタントが 回 避 の 低 下 を 示 す 行 動 にセッション 内 で 気 づくのは MAC プログラムのこの 時 点 であることが 多 い。 一 つのよい 例 は、 回 避 行 動 のより 直 接 的 で 素 早 い“ 白 状 ”である。この 時 点 までに、 何 人 かのクライアントは、 彼 らが 先 の 週 で 学んだ 行 動 を 実 行 しないで 安 易 な 行 動 を 選 んでいたことを 認 めるようになるだろう。われわれの 経 験 ではクライアントの 半 数 以 上 が“パフォーマンスの 価 値 の 関 与 練 習 ”を、 最 初 に宿 題 にだされたときには、 実 行 しておらず、コンサルタントの 側 の 根 気 強 さが、 先 へ 進 むために 必要 だった。(164,M) クライアントが“パフォーマンスの 価値 へのコミットメント 練 習 ”を 成 功 裏 に 完 了 させたとき、コンサルタントはクライアントに 過 去に 困 難 を 感 じたり 情 動 を 喚 起 されたりした 状 況 に直 面 することを 助 けることによって、パフォーマンスに 効 果 のある 行 動 に 力 点 をおくことを 始 めることができる。 行 動 の 活 性 化 の 最 初 の 目 標 はパフォーマンス 向 上 のためには 適 切 で 重 要 だが、 難- 143 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一し 過 ぎないものでなければならない。この 時 点 での MAC の 目 標 はクライアントがさまざまな 状 況やさまざまな 情 動 のもとでパフォーマンスを 行 うことを 支 援 することであることを 心 に 留 めてもらいたい。このことは、クライアントをこれまでに困 難 を 感 じた 状 況 におくような 行 動 を 奨 励 することによって 実 行 することができる。(165,U) こ の よ う な 経 験 の 臨 床 的 使 用 は“exposure"( 暴 露 ) と 言 わ れ、 さ ま ざ ま な 行動 の 困 難 の 軽 減 の 中 心 的 プロセスになっている(Barlow, 2001)。すでに 述 べたように、“ 平 静 さ”という 言 葉 は苦 痛 を 経 験 しながらも 必 要 とされた 機 能 を 実 行 する 能 力 を 意 味 している。われわれの 経 験 では、 実行 者 (performer)はこの 言 葉 をポジティヴにとらえ、この 技 能 を 発 展 させることの 利 点 を 理 解 している。“ 平 静 さ”を 発 展 させ 向 上 させることは、クライアントに 系 統 的 に 困 難 で 情 動 を 引 き 起 こす状 況 に 直 面 し、そこでこれまでの 回 避 的 な 方 法 ではなく 積 極 的 に 行 為 することを 要 求 する。そこで、クライアントは 一 時 の 苦 痛 からの 解 放 よりもパフォーマンスの 価 値 を 目 指 す 行 為 に 関 与 するようになる。(165,M)この“ 対 抗 行 動 法 ”(oppositeactionbehavior approach)を 困 難 な 状 況 で 効 果的 に 使 用 するためには、コンサルタントとクライアントはまず、 対 処 することが 最 も 困 難 なパフォーマンスに 関 連 する 状 況 を 特 定 し、その 後 にその 状 況 に 対 する 事 後 反 応 (reactive)ではなく先 取 り 的 (proactive)な 方 略 を 開 発 することが必 要 である。( 注 :ここで 先 取 り 的 方 略 の 事 例 が 示 される) たとえば、われわれは 最 近 、 経 費 削 減 をしなければならない 企 業 の 管 理 職 をクライアントにした。この 経 費 削 減 は 長 年 働 いている 従 業 員 にも 影 響 を 与えかねなかった。その 多 くは 彼 の 長 年 の 友 人 でもあった。 彼 の 行 動 のスタイルは 経 験 的 回 避 の 強 いものであって、 従 業 員 たちの 怒 りを 避 けようとし、対 人 関 係 の 問 題 を 避 けようとする 望 によって 重 要な 削 減 の 決 定 を 逃 げてきた。 彼 のボスは 彼 が 会 社の 業 務 命 令 に 忠 実 ではないことにいらだちを 募 らせ、 彼 も 強 いストレスを 経 験 するようになった。彼 の 方 略 は 事 後 反 応 的 なものであってなにかをしなければならない 状 況 に 追 い 込 まれて 始 めて 行 動するというものであり、 管 理 職 としては 効 果 的 な行 動 スタイルではなかった。われわれはクライアントである 彼 と 一 緒 に、 多 くの 従 業 員 と 先 取 り 的に 接 触 し、 彼 らに 悪 いニュースを 伝 える 必 要 のある 状 況 を 困 難 さに 従 って 段 階 づけすることを 始 めた。まず、 彼 が 最 も 抵 抗 が 少 ないと 予 想 される 状況 から 始 め、 最 も 抵 抗 の 強 いと 考 えられる 状 況 までを 段 階 づけた。クライアントは 次 週 までにこの作 業 をしてくるように 要 請 された。(167,M)(このような 事 例 の) 対 話 はクライアントの“パフォーマンスの 価 値 へのコミットメント練 習 ”を 振 り 返 らせることによって 開 始 される。対 話 は 次 の 行 動 の 計 画 、つまり“ 対 抗 行 動 ”の 確認 へ 進 んでいく。この 対 抗 行 動 は、 上 記 の 対 話 のような 状 況 に 特 有 な 困 難 な 情 動 への“ 長 期 の 暴 露 ”を 含 んでいる。ここでクライアントの 目 標 や 価 値の 達 成 のための 行 動 の 活 性 化 の 努 力 をつぎのレベルに 高 めていく 準 備 ができたことになる。 彼 は 最も 困 難 で 回 避 したくなる 状 況 に 直 面 することになる。このことは、MAC プログラムの 究 極 的 目 標につながっていき、そこでは、パフォーマンスの世 界 でより 生 産 的 な 活 動 へのクライアントの 関 わり 方 を 強 めることになる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“パフォーマンスの 価 値 へのコミットメント 練習 ” 要 点 は、クライアントが 表 明 した 目 標 と 価 値の 両 方 の 追 及 に 効 果 的 な 方 法 で、しかも、 普 段 行 っている 行 動 とは 反 対 のやり 方 で、クライアントに行 動 させることである。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・多 くのクライアントがこの 練 習 のためには 数 回のセッションを 必 要 とすることを 予 想 しておかね- 144 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介ばならない。 事 後 対 応 的 ではなく 先 取 り 的 反 応 を必 要 とする 困 難 な 状 況 をうまく 見 つけられるためには、いくつかの 追 加 的 セッションが 必 要 となる。そこで、いくつかの 課 題 が 出 される。(168,U)この 課 題 を 成 功 裏 に 行 うには、これまでに 教 えられた MAC の 諸 技 能 の 統 合 が 必 要 である。(a) 当 面 する 課 題 への 注 意 、(b) 個 人 の 内的 プロセスへの 意 識 とその 反 応 を 自 発 的 に 経 験 すること、(c) 一 時 の 不 快 感 の 緩 和 をもたらす 行 為ではなく、パフォーマンスに 関 連 した 目 標 と 価 値に 役 立 つ 行 為 への 個 人 の 努 力 を 活 性 化 すること。これら3つの 統 合 が 要 求 される。この 課 題 は、 不快 感 を 持 ちながらも 必 要 な 先 取 り 的 行 動 を 遂 行 することを 選 択 する 傾 向 を 強 めることにつながる。このことは 我 々の 言 う“ 平 静 さ”(cf. P. 125)の究 極 的 定 義 である。6-4 パフォーマンスに 関 連 したマインドフルネスと 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習 : 復習 と 宿 題(168,M)モジュール6ではコンサルタントは、クライアントにマインドフルネスの 練 習 はパフォーマンスに 関 連 した 状 況 で 役 に 立 つようになることを 保 証 することによって、クライアントを試 合 にマインドフルに 関 与 できるようにサポートし 続 ける。MAC プログラムのこの 時 点 において、コンサルタントは“ 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習 ”のパフォーマンスに 関 連 した 修 正 版 をセッションとセッションの 間 に 行 うように 指 導 するとよい。 例えば、モジュール6でこの 練 習 を 経 験 した 選 手 はそのことを 頭 において、 次 の 週 でも 同 じような 態度 でコーチやマネージャーの 言 うことを 聞 くよう指 示 することができよう。そうすると、つぎの 週にはクライアントはコーチやマネージャーの 話 したことをたくさん 思 い 出 すであろう。あるいは、選 手 は 他 者 が 運 動 を 実 行 する 様 子 を 観 察 することに 時 間 を 掛 けるようになり、たくさんの 細 部 に 気づくようになるだろう。クライアントは 彼 がどの細 部 に 注 意 を 配 ったか、 意 図 しない 思 考 が 脳 裏 に浮 かんだ 頻 度 に 注 意 し、 注 意 を 配 る 細 部 の 数 が 十分 に 多 くなるまでこの 方 法 を 繰 り 返 すように 教 示されなければならない( 最 初 のセッション 内 練 習と 同 じくらいの 数 まで)。6-5 簡 単 なセンタリング・エクササイズとセッション 間 の 質 問 紙 の 再 検 討(165,U) 他 のセッションと 同 様 に、このセッションもクライアントが 記 入 することを 求 められた 質問 紙 の 検 討 で 終 わる。 今 週 は“ 私 が 学 んだこと”用 紙 と“パフォーマンスの 価 値 へのコミットメント 練 習 ” 用 紙 への 記 入 が 求 められる。 後 者 はクライアントの 新 しい 行 動 の 活 性 化 を 促 進 しモニターするためには 極 めて 重 要 である。 特 に、クライアントの“ 対 抗 行 動 ”の 努 力 がうまくいっているかどうかをモニターするために 使 われる。モジュール6の 教 授 内 容 と 練 習 はかなり 難 しいが、 最 高 のパフォーマンスへ 向 けての 大 きなステップである。MAC のこの 部 分 は 特 に 丁 寧 に 進めることが 大 切 である。 特 に、 防 衛 的 な 経 験 回 避のパタンを 示 すものは、 価 値 を 目 指 しての 行 動 の活 性 化 はかなり 困 難 なので、 指 導 にあたっては 長い 時 間 と 忍 耐 が 必 要 である。このセッションも、“ 簡 単 なセンタリング・エクササイズ”で 終 わる。7 モジュール 7:マインドフルネス、アクセプタンス、そしてコミットメントを 保 持 し向 上 させること(175,M)MAC の 最 後 のモジュールまで、クライアントは 最 高 のパフォーマンスのために 重 要 なMAC の 技 能 を 促 進 するための 練 習 を 定 期 的 に 行わなければならない。それらの 技 能 にはつぎのようなものが 含 まれる。・マインドフルネス: 自 己 意 識 の 向 上 と、 課 題 に焦 点 を 当 てた 注 意 の 向 上 のためマインドフルネ- 145 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一ス。・アクセプタンス: 不 快 な 思 考 と 情 動 を 人 間 の 経験 の 正 常 な 部 分 として 受 容 すること。このことは、パフォーマンスの 目 標 と 価 値 を 達 成 するために、不 快 な 思 考 と 情 動 を 経 験 することを 自 発 的 に 受 け入 れる 行 動 の 中 に 明 確 に 示 される。・コミットメント: 個 人 が 決 定 したパフォーマンスの 価 値 の 追 求 に 必 要 な 行 動 を 常 に 使 用 することによって、そのような 行 動 の 活 性 化 を 促 進 すること。この 最 後 の MAC モジュールの 主 な 目 標 は、 以上 のような 基 礎 の 上 に、すでに 習 得 した 技 能 を 発展 させ、MAC プログラムの 完 了 後 も 望 ましいパフォーマンスを 可 能 にする 練 習 と 行 動 の 実 践 を 継続 させるようにすることである。(176, U)モジュール7の 最 初 の 区 分 は“ 課 題 に焦 点 づけられた 注 意 の 練 習 ”を 伸 展 させることである。この 練 習 は 自 己 に 当 てられている 注 意 を 自己 から 引 き 離 して、 外 的 な 環 境 や 状 況 が 要 求 することへ 注 意 を 移 しそこに 保 持 する 能 力 の 発 展 を 継続 させる 目 的 を 持 っている。さらに、モジュール7は、 思 考 や 情 動 を 単 なる 思 考 や 情 動 とみる 能 力をさらに 高 めるために、マインドフルネスの 基 本およびパフォーマンスに 関 連 した 練 習 を 継 続 し 発展 させる 必 要 性 を 強 調 する。すでに“ 脱 センタリング”と 言 う 言 葉 で 説 明 したように、この 能 力 はパフォーマンスを 目 指 す 生 活 においても、それ 以外 の 生 活 においてもきわめて 重 要 なものである。モジュール7の 第 2の 区 分 は、 回 避 の 明 白 なものも 捕 らえがたいものも 見 逃 さずに 監 視 する 必 要を 強 調 する。そうすることによって、 実 行 者 は 実際 の 生 活 から 避 けがたく 生 じてくるさまざまな“ 正 常 な 不 快 ”を 経 験 することに 自 発 性 を 保 つようになる。 自 発 性 は、 必 要 な 行 動 を 活 性 化 することによって 価 値 をおいた 目 標 を 追 及 し 続 ける 過 程で 起 こってくる 必 要 がある。この 必 要 な 行 動 の 活性 化 はすでに 身 についている 行 動 パタンとは 逆 のものであることが 多 い。モジュール7の 重 要 な 目 標 は、クライアントに、MAC プログラムの 中 で 学 んだ 技 能 と 練 習 法 はプログラムの 終 了 後 も 生 涯 を 通 して 役 に 立 つように指 導 することである。そうであるから、 第 3の 区分 は MAC プログラムの 終 了 後 の 練 習 ・ 実 践 のための 個 人 の 特 別 な 計 画 を 作 ることである。このなかには、 自 己 反 省 や 自 己 修 正 が 必 要 なときにはできるようにするセルフモニタリングの 方 法 を 開 発することが 含 まれる。(176,M)モジュール7で 実 施 されるプログラムの概 要 はつぎのようである。 前 のセッションおよび MAC プログラム 全 体 の復 習 、 簡 単 なセンタリング・エクササイズ、課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習 、 経 験 の 受 容 、 自発 性 、 価 値 への 関 与 の 現 在 のレベルを 振 り 返 る、 将 来 の 実 践 計 画 : 自 己 反 省 と 自 己 修 正 。7-1 前 のセッションおよび MAC プログラム全 体 の 復 習(176, L)モジュール7の 最 初 の 区 分 では、コンサルタントは MAC 全 体 の 簡 潔 なレヴューを 行い、 特 にモジュール6の 練 習 内 容 のレヴューを 行う。全 体 のレヴューを 行 うにあたっては、コンサルタントはクライアントがプログラムに 最 初 に 参 加した 際 に 述 べた 目 的 から 始 められることが 勧 められる。そのなかにはパフォーマンスに 関 する 問 題や 目 標 などが 含 まれよう。このような 話 題 を 出 発点 にして、コンサルタントはクライアントが 述 べたパフォーマンスの 価 値 を 確 認 し、 経 験 の 回 避 につながる 行 動 と、 価 値 をおいた 目 標 を 目 指 した 行動 の 違 いを 討 議 することが 望 まれる。この2つの行 動 の 差 異 がクライアントとの 練 習 で 取 り 上 げられた 例 を 使 って 討 議 されたならば、つぎの 段 階 で、MAC プログラムの 中 で 習 得 された 特 殊 な 技 能 について 討 議 される。マインドフルネスの 一 般 的 お- 146 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介よび 特 殊 技 能 、 課 題 焦 点 付 け 的 注 意 、 経 験 の 受 容と 自 発 性 、 行 動 的 関 与 と 行 動 の 活 性 化 などはすべて、クライアントが MAC のこれまでの6つのモジュールで 練 習 し 習 得 した 技 能 である。6つのモジュールで 練 習 された 内 容 は、MAC 全 体 の 討 議のなかで 慎 重 に 振 り 返 られなければならない。(177, M)モジュール7の 始 めには、コンサルタントはクライアントのプログラム 終 了 後 のことについて 話 さなければならない。 特 に、 学 んだことを 保 持 するためには 耐 えず 練 習 と 実 践 に 時 間 をかけて 注 意 を 払 う 必 要 があることが 強 調 されねばならない。7-2 簡 単 なセンタリング・エクササイズモジュール7でも 簡 単 なセンタリング・エクササイズ(BCE)は 続 けられる。BCE の 終 了 に 続いて、コンサルタントはクライアントのマインドフルネスの 実 践 を 日 常 生 活 のなかに 統 合 させる 努 力 を 評 価 しなければならない。このことは、MAC プログラムの 前 半 で 練 習 した BCE や 呼 吸のマインドフルネス 練 習 の 習 慣 的 使 用 を 含 んでいる。マインドフルネス 練 習 の 習 慣 的 活 用 を 勧 めることと、マインドフルな 意 識 と 注 意 を 高 めることの 効 用 をここで 再 び 述 べることは 重 要 である。(179,M) MAC プログラムの 終 了 後 も、 定 期 的 ・習 慣 的 にマインドフルネスを 練 習 する 必 要 性 をコンサルタントは 語 る 必 要 がある。この 努 力 を 助 けるために、コンサルタントは 定 期 的 マインドフルネス 練 習 とパフォーマンスに 関 連 したマインドフルネス 練 習 のための 計 画 を 作 成 することが 勧 められる。7-3 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習簡 単 なセンタリング・エクササイズに 続 いて、コンサルタントは“ 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習 ”をもちいて 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 持 続 とさらなる 発 展 を 指 導 する。モジュール6で 示 したように、この 練 習 はクライアントが 内 的 な 思 考 ( 例 : 私 はどのように 動 いているのだろう?)や 感 情 ( 例 :不 安 )への 注 意 から 当 面 する 実 際 のパフォーマンス 課 題 の 必 要 な 点 への 注 意 に 切 り 替 える 能 力 を 高めるように 援 助 することになる。そのためには、コンサルタントはクライアントに 最 後 にこの 練 習 をしたときのことを 思 い 出 させ、その 経 験 を 総 括 させ、 一 緒 に 検 討 することから 始 めるとよいだろう。この 討 論 の 話 題 には 最 後のセッションの 後 の 宿 題 で 行 った 練 習 内 容 を 利 用してもよい。この 討 論 が 終 了 したならば、コンサルタントは“ 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習 ”を 利 用 するクライアントの 独 自 の 努 力 を 振 り 返 り、クライアントにさらに 困 難 な 状 況 で 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 を 高める 努 力 に 挑 戦 させる。このプロセスはパフォーマンス 状 況 を 困 難 、 挑 戦 、 脅 威 のレベルによって階 層 づけることから 始 まる。ここで 作 られた 階 層は、 最 も 易 しいものから 最 も 難 しいものへと 記 録され、3つないし4つの 状 況 が 含 まれるとよい。ここでの“ 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習 ”ではつぎのようなステップに 従 って 進 められる。そして、易 しい 状 況 から 難 しい 状 況 へ 進 んでいく。1.つぎの 疑 問 についての 情 報 を 集 める:a. 何 が 課 題 であり、その 課 題 の 成 功 のパフォーマンスはどのように 評 価 されるか?b. このような 状 況 でクライアントはこれまでよく 注 意 を 向 けていた 場 所 はどこか?c. 課 題 の 遂 行 中 に 注 意 を 最 も 必 要 とする 適 切 な外 的 刺 激 は 何 か?2.その 困 難 な 状 況 の 感 情 的 経 験 を 言 葉 やイメージを 使 って 作 りだす。3.その 状 況 の 感 情 を 高 めた 後 で、 目 と 目 を 合 わせた“ 課 題 に 焦 点 づけた 注 意 の 練 習 ”をそれぞれの 状 況 で 行 う。そこでは、クライアントは 物語 の 細 部 を 聞 きとり、 後 にそれを 想 起 するよう指 示 される。4. 課 題 に 焦 点 づけられた 注 意 は、 想 起 された 物語 の 細 部 のパーセンテー ジで 評 価 される。- 147 -


市 村 操 一 ・ 鈴 木 壮 ・ 石 村 郁 夫 ・ 羽 鳥 健 司 ・ 浅 野 憲 一5.この 練 習 は、 物 語 の 細 部 の 半 分 以 上 が 想 起 されるまで 繰 り 返 される。6. 困 難 度 の 階 層 の 中 に 位 置 づけられたそれぞれの 状 況 は 上 記 のような 段 取 りで 系 統 的 に 練 習に 利 用 される。上 記 のプロセスが 終 了 したならば、コンサルタントは 結 果 を 振 り 返 り、クライアントに 正 規 のMAC プログラムの 完 了 後 にこの 実 践 をどのように 継 続 するかを 説 明 する。7-4 経 験 の 受 容 、 自 発 性 、 価 値 への 関 与 の 現在 のレベルを 振 り 返 る。(183,M)モジュール7のこの 区 分 では、コンサルタントはクライアントのパフォーマンス 場 面 での 行 動 ( 試 合 中 と 試 合 前 )を 振 り 返 り、 経 験 的 受容 の 傾 向 が 明 らかに 観 察 された 度 合 いを 評 価 する。この 時 点 では 経 験 的 受 容 の 頻 度 は 経 験 的 回 避の 頻 度 を 上 回 っていることが 期 待 される。コンサルタントは 経 験 的 回 避 の 生 起 が 残 存 している 状況 、 特 にクライアントのパフォーマンスの 価 値 にとって 重 要 な 行 為 ・ 活 動 を 阻 害 しているように 見える 状 況 を、 注 意 深 く 調 べるべきである。この 脈絡 のなかで、コンサルタントはクライアントと 共に、この 回 避 傾 向 を 克 服 する 努 力 を 継 続 する 特 別な 計 画 を 作 成 することが 必 要 になる(MAC の 事後 練 習 計 画 用 紙 を 参 照 )( 原 著 pp.180-181)。この 計 画 は 基 本 的 にはこれまでに 行 った 練 習 を 使い、クライアントに 次 のことを 確 認 させる。(a)適 切 なパフォーマンスの 価 値 、(b)これらの 価値 を 追 求 する 際 の 障 害 となっていること、(c) 不快 な 内 的 経 験 (『 私 にはこれはできない』といった 思 考 や 不 安 やいらだちなどの 情 動 )、(d) 回 避を 示 す 行 動 、(e) 回 避 に 対 抗 するのに 必 要 と 思 われる 行 動 ( 対 抗 行 為 行 動 )。クライアントは、この 用 紙 の 使 用 が 進 歩 の 継 続 を 促 進 するだけでなく、MAC プログラムの 終 了 後 に 回 避 行 動 を 再 現させず、 訓 練 の 成 果 を 持 続 させることを 認 識 するよう 指 導 される。7-5 将 来 の 実 践 計 画 : 自 己 反 省 と 自 己 修 正(184,U) モジュール7の 最 後 の 区 分 では、コンサルタントは“MAC の 事 後 練 習 計 画 用 紙 ”を 十分 に 検 討 することを 通 してクライアントを 指 導 する。この 用 紙 はモジュール7の 実 施 中 に 組 織 的 に記 入 される。 用 紙 全 体 を 振 り 返 えるとき、コンサルタントとクライアントは MAC プログラムを始 めたときのクライアントの 状 態 や、プログラムに 何 を 期 待 していたのかを 再 度 検 討 してみるとよい。クライアントによってなされた 努 力 、 避 けることのできなかった 葛 藤 、 成 し 遂 げられた 変 化 などはクライアントに 対 して 十 分 に 説 明 されなければならない。(184,M)MAC プログラムの 終 了 する 前 に、 自 己反 省 と 自 己 修 正 の2つは 切 り 離 すことができないことを 説 明 するとよい。MAC プログラムの 原 理の 一 つは、 自 己 意 識 が 自 己 反 省 を 生 み 出 すというものである。このことはさらに、 自 己 修 正 の 行 為の 選 択 を 生 み 出 し、 個 人 の 生 活 やパフォーマンスでの 利 得 をもたらすように 発 展 していく。Ⅲ MAC プログラムの 結 論(192, L) 以 上 で、MAC プログラムの 説 明 を 終 了したことになる。MAC の 方 法 について7つのモジュールを 提 示 した。それらのモジュールは 個 人対 象 でもグループ 対 象 でも 実 施 することができる。7つのモジュールはつぎのようである。 心理 教 育 、マインドフルネスと 認 知 的 脱 フュージョンの 導 入 、 価 値 観 と 価 値 観 に 駆 動 される 行動 の 導 入 、 受 容 の 導 入 、コミットメント( 関与 )を 高 める、 技 能 の 統 合 と 平 静 さ、マインドフルネス、 受 容 、 関 与 の 保 持 と 向 上 。パフォーマンスの 向 上 を 目 指 したこの 新 しい 介 入 法 を 学 ぶことは 希 望 をあたえる 道 であり、われわれのクライアントのパフォーマンス 生 活 や、 全 体 的 な 幸 福- 148 -


Gardner と Moor によるスポーツのパフォーマンス 向 上 のための“マインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 介 入 プログラムの 紹 介感 や、 生 活 の 効 率 によい 変 化 をあたえるものであることを 期 待 する。本 稿 は 東 京 成 徳 大 学 のポジティヴ 臨 床 心 理 学 研 究会 での 数 回 にわたる 発 表 をまとめたものである。引 用 文 献Brown,K.W., & Ryan,R.M. (2003). The benefits ofbeing mindful: Mindfulness and its role in psychologicalwell-being. Journal of Personality andSocial Psychology. 84, 822-848.Eifert,G.H., & Forsyth,J.P. (2005). Acceptance andcommitment therapy for anxiety disorders. Oakland,CA: New Harbinger Publications.Gardner,F.L., & Moore,Z.E. (2004). A Mindfulness-Acceptance-Commitment based approach toperformance enhancement: Theoretical considerations.Behavior Therapy, 35, 707-723.Gardner,F.L., & Moore,Z.E. (2007). The psychologyof enhancing human performance : the mindfulness-acceptance-commitment(mac) approach.New York, NY; Springer Publishing Company,LLC.Hayes,S.C., Strosal,K., & Watson,K.G. (1999). Acceptanceand commitment therapy:An experientialapproach to behavior change. New York: GuilfordPress.市 村 操 一 (2012).( 資 料 ) 人 間 のパフォーマンス 向上 のための 心 理 学 ―マイン ドフルネス-アクセプタンス-コミットメント・アプローチ―. 東 京 成 徳 大学 臨 床 心 理 学 研 究 ,12, 95-111Linehan,M.M. (1993). Skill training manual for treatingborderline personality disorder. New York:Guilford Press.宇 佐 美 麗 , 田 上 恭 子 (2012). マインドフルネスと 抑うつとの 関 係 : 自 己 抑 制 の 働 きに 着 目 して. 弘 前 大学 教 育 学 部 紀 要 ,107,131-138.- 149 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 羽 究 鳥 健 13 司 号 ・,2013,150-156石 村 郁 夫 ・ 市 村 操 一 ・ 小 金 井 希 容 子 ・ 北 見 由 奈資 料心 理 学 領 域 における 愛 に 関 する 研 究 の 概 観Overview of psychological study on love羽 鳥 健 司a) ・ 石 村 郁 夫b) ・ 市 村 操 一b) ・ 小 金 井 希 容 子c) ・ 北 見 由 奈a)埼 玉 学 園 大 学 人 間 学 部b)東 京 成 徳 大 学 応 用 心 理 学 部c)筑 波 大 学 人 間 総 合 科 学 研 究 科d)桜 美 林 大 学 健 康 心 理 ・ 福 祉 研 究 所d)Kenji Hatori a) , Ikuo Ishimura b) , Soichi Ichimura b) ,Kiyoko Koganei c) , Yuina Kitami d)a)Faculty of Humanities, Saitama Gakuen Universityb)Faculty of Applied Psychology, Tokyo Seitoku Universityc)Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukubad)Laboratory of Health Psychology and Welfare, J. F. Oberlin University要 約本 研 究 は、 主 に1980 年 以 降 に 行 われた 愛 に 関 する 心 理 学 的 実 証 研 究 を 概 観 した。 愛 に 関 する知 見 を「 愛 研 究 の 歴 史 」、「 愛 研 究 の 分 類 」、「 愛 の 測 定 方 法 」、「 現 在 の 愛 研 究 」に 分 けて 概 観 した。 愛 の 歴 史 では、20 世 紀 初 頭 から 現 在 までの 愛 研 究 の 変 遷 について 述 べた。 愛 研 究 の 分 類 では、これまでに 行 われてきた 愛 に 関 する 研 究 を「 情 欲 的 または 仲 間 的 な 愛 」、「 愛 着 理 論 と 愛 」、「 進化 論 と 愛 」、「 愛 の 原 型 」、「 愛 の 三 角 理 論 」、「 愛 のスタイル」の6つに 分 類 した。 愛 の 測 定 方 法では、 測 定 方 法 について 述 べた。 現 在 の 愛 研 究 では、 愛 に 関 する 最 新 の 心 理 学 的 実 証 研 究 を 中心 に 紹 介 した。 最 後 に「まとめと 今 後 の 展 開 」において、これまでの 愛 研 究 で 不 足 していると思 われる 箇 所 および 今 後 の 愛 研 究 の 方 向 性 について 展 望 した。キーワード: 愛 、 心 理 学 、 実 証 研 究 、 概 観 、ポジティブ 心 理 学本 研 究 では、2 者 間 の 対 人 関 係 における 愛 に 関する 心 理 学 的 研 究 を 概 観 することを 目 的 とする。愛 という 術 語 には、まだ 決 まった 定 義 は 存 在 しない。 研 究 によって「2 者 間 の 婚 姻 関 係 または 恋 愛関 係 の 前 または 最 中 にパートナーに 対 して 生 起 する 感 情 」であったり、 特 に 定 義 せずに 辞 書 的 な 意味 の「 相 手 をいつくしむこと」を 使 用 をすることもある。これまで、 伝 統 的 な 領 域 の 心 理 学 者 は、 愛 を軽 視 する 傾 向 にあった(Hendrick & Hendrick,2009)。しかし、 愛 はポジティブ 心 理 学 において 今 後 重 要 な 役 割 を 果 たす 可 能 性 を 秘 めている。Fredrickson (2001)が 提 唱 した 肯 定 的 感 情 の 拡張 理 論 (broaden-and-build theory of positiveemotions)では、 肯 定 的 感 情 が 有 する 様 々な 機能 が 網 羅 的 に 示 され、それらの 機 能 は 順 番 に 実 証されている。その 中 の 一 つに、 肯 定 的 感 情 は 個 人の 表 情 を 明 るくし、 他 者 を 信 頼 しやすくさせ、 自分 と 他 者 との 共 通 点 を 見 つけやすくさせることによって、 既 存 の 対 人 関 係 をより 強 固 にしたり 新 しい 対 人 関 係 の 資 源 を 構 築 しやすくなるという 機 能があることがわかっている。そして、 対 人 関 係 が強 固 になり、 対 人 関 係 の 資 源 が 構 築 されることによって、さらに 肯 定 的 感 情 が 生 起 しやすくなり、その 結 果 表 情 が 明 るくなって、 他 者 を 信 頼 し、 他者 との 共 通 点 を 見 出 しやすくなるという 上 方 スパ- 150 -


心 理 学 領 域 における 愛 に 関 する 研 究 の 概 観イラルが 出 現 するのである(Fredrickson, 2001)。愛 は 肯 定 的 感 情 の 拡 張 理 論 に 当 てはまる 可 能 性 があると 考 えられる。 前 述 の 理 由 で、 愛 の 心 理 学 的実 証 研 究 はあまり 行 われてこなかったため、 愛 が有 する 肯 定 的 機 能 については 未 知 な 部 分 が 多 く 今後 の 研 究 が 待 たれるところである。 本 研 究 では、今 後 、 愛 のポジティブ 心 理 学 的 な 実 証 研 究 が 行 われることを 期 待 し、 主 に1980 年 以 降 に 行 われた 愛の 実 証 研 究 を 中 心 に 概 観 する。 始 めに 愛 研 究 の 歴史 について 述 べ、 続 いて 愛 研 究 の 分 類 、 愛 の 測 定方 法 、 現 在 の 愛 研 究 を 紹 介 し、 最 後 に 今 後 の 展 開について 述 べる。愛 研 究 の 歴 史愛 に 関 す る 初 期 の 心 理 学 的 研 究 は、Singer(1984)の4 分 類 に 基 づいて 行 われることが 多 かった。4 分 類 は、エロス(Eros)、フィリア(Philia)、ノモス(Nomos)、アガペー(Agape)である。エロスは 美 しいものを 欲 すること、フィリアは 友人 的 な 愛 、ノモスは 愛 する 人 に 従 うこと、アガペーは 神 のような 無 条 件 の 絶 対 愛 である。20 世 紀 までは、 現 在 の 愛 研 究 が 行 われる 社 会 的な 土 壌 は 全 世 界 で 存 在 しなかった。なぜならば、この 時 代 の 結 婚 は 儀 式 的 であり、 特 定 の 年 齢 に 達したら 決 められた 相 手 と 結 婚 するという 場 合 がほとんであったからである。 情 熱 的 に 愛 し 合 う2 人が 結 ばれるということはまずなく、したがって 愛研 究 を 実 施 するという 発 想 自 体 がなかったのである。20 世 紀 に 入 ると、パートナーのことを 熱 烈 に 欲する 情 欲 的 な 愛 (passionate love)が 結 婚 に 必要 不 可 欠 であると 考 えられるようになってきた。Simpson, Campbell, & Berscheid (1984)は、 大学 生 を 対 象 に30 年 間 にわたって 結 婚 と 情 欲 的 な 愛との 関 係 を 調 査 した 結 果 、 時 代 が 進 むにつれて 結婚 および 結 婚 の 継 続 に 情 欲 的 な 愛 が 必 要 であると認 識 する 大 学 生 が 増 加 したことを 示 した。また、Sprecher & Toro-Morn (2002) お よ び Levine,Sato, Hashimoto, & Verma (1995)は、 東 洋 より 西 洋 の 大 学 生 の 方 が、 結 婚 に 情 欲 的 な 愛 が 必要 であると 認 識 していることを 示 した。さらにHendrick & Hendrick (2009)は、パートナーに対 する 情 欲 的 な 愛 が 減 少 すると、 婚 姻 関 係 も 恋 人関 係 も 破 綻 する 傾 向 があることを 示 した。1990 年 代 以 降 では、 婚 姻 関 係 や 恋 人 関 係 の 継 続には 情 欲 的 な 愛 以 外 に、 友 情 の 要 素 を 含 む 愛 が必 要 であると 考 えられるようになった。つまり、パートナーとの 関 係 が 長 続 きするためには、 恋 人や 伴 侶 としての 関 係 と、 親 友 としての 関 係 の2つの 要 素 が 必 要 であると 指 摘 されるようになったのである。 実 際 、Hendrick & Hendrick (1993)は、 大 学 生 に 任 意 の 人 を 想 起 させて「 情 欲 的 なパートナー」のエッセイと「 最 も 親 しい 友 人 」のエッセイを 書 くよう 求 めた 結 果 、 約 半 数 の 参 加 者が 同 じ 人 を 想 起 して2つのエッセイを 書 いた。 以上 から、 彼 らは、 恋 人 関 係 にあるパートナーは親 友 としての 役 割 も 同 時 に 果 たしていると 結 論づけた。Sprecher & Regan (1998)は、パートナーに 対 して 感 じる 親 友 的 な 愛 について、 情 欲的 な 愛 (passionate love)に 対 する 仲 間 的 な 愛(companionate love)として 概 念 的 に 位 置 づけた。そして、 情 欲 的 な 愛 と 仲 間 的 な 愛 の 両 方 が、パートナーに 対 する 没 入 感 と 関 係 性 の 満 足 感 に 正の 影 響 を 与 えることを 示 した。 以 上 から、 友 情 と情 欲 は、ロマンチックな 恋 人 関 係 や 婚 姻 関 係 の 重要 な 予 測 因 子 であるといえる。愛 研 究 の 分 類愛 の 研 究 は、 大 きく 分 けて6 種 類 に 分 類 できる。以 下 で6 種 類 の 研 究 を 順 番 に 紹 介 する。情 欲 的 または 仲 間 的 な 愛Hatfield (1988)は、 情 欲 的 な 愛 を「エクスタシーと 苦 痛 の 間 を 行 ったり 来 たりしながら、2 人がお 互 いに 完 全 に 没 頭 してあっている 状 態 」と 定- 151 -


羽 鳥 健 司 ・ 石 村 郁 夫 ・ 市 村 操 一 ・ 小 金 井 希 容 子 ・ 北 見 由 奈義 した。また、 仲 間 的 な 愛 を「2 人 で、お 互 いの人 生 が 深 い 場 所 で 絡 み 合 っていると 感 じられる 感情 」と 定 義 した。 彼 の 定 義 では、 愛 は 感 情 の 一 種であると 考 えられる。Hatfield (1988)によると、 恋 人 関 係 に 発 展 するまでの 間 および 恋 人 関 係 の 初 期 の 段 階 では 情 欲的 な 愛 が 優 位 であり、 恋 人 関 係 の 中 期 以 降 および婚 姻 関 係 後 には 仲 間 的 な 愛 が 優 位 になるとされている。愛 着 理 論 と 愛幼 少 期 の 母 親 との 愛 着 関 係 が、 青 年 期 以 降 のパートナーとの 関 係 性 に 影 響 を 与 える。Hazan& Shaver (1987)は、 乳 児 期 に 母 親 と 間 で 形 成 した 愛 着 の3つの 型 ( 安 定 、 回 避 、 不 安 )(Bowlby,1969)が、 青 年 期 以 降 の 恋 愛 関 係 に 影 響 を 与 えていることを 示 した。 安 定 型 は 恋 愛 関 係 に 喜 びなどの 快 感 情 を 感 じることが 他 の2つ 型 と 比 較 して 有意 に 多 く、 回 避 型 と 不 安 型 は、 恋 愛 関 係 に 悲 しみ等 の 不 快 感 情 を 感 じることが 安 定 型 と 比 較 して 有意 に 多 いことが 示 された。進 化 論 と 愛Mellen (1981)は、 進 化 論 的 な 立 場 から 愛 を 説明 した。つまり、 動 物 としてのヒトが 種 を 残 すためには、どちらか 一 方 の 性 が 一 人 で 子 供 を 育 てるよりも、 異 性 同 士 が 感 情 的 に 結 びつき、 協 力 して子 育 てもした 方 が 効 率 がよいから 愛 が 存 在 すると考 えた。 彼 は、 子 を 産 み、 育 てるために 必 要 なパートナー 同 士 の 原 始 的 な 感 情 的 結 びつきを 愛 と 定 義した。Buss (1988)も 進 化 心 理 学 の 立 場 から 愛 を定 義 した。 彼 の 定 義 は、 種 を 保 存 するために 雌 と雄 が 絆 を 強 めることである。愛 の 原 型Fehr (1994) は、 こ れ ま で の 愛 に 関 す る 研究 を 概 観 した 結 果 、 多 くの 研 究 で 仲 間 的 な 愛(companionate love) が 存 在 す る こ と を 見 出し、 仲 間 的 な 愛 を 愛 の 原 型 と 位 置 づけた。そして、 仲 間 的 な 愛 の 下 位 因 子 として、「 母 性 の 愛(maternal love)」、「 親 の 愛 (parental love)」、「 友情 (friendship)」の3つがあるとした。そして、仲 間 的 な 愛 が、 愛 という 概 念 の 中 心 部 分 を 構 成 してことが 実 証 的 に 示 された。すなわち、Regan,Kocan, & Whitlock (1998)は、 愛 の 特 徴 を 調 査した 結 果 、 仲 間 的 な 愛 であると 回 答 した 参 加 者 は、情 欲 、 誠 実 さ、 信 頼 と 回 答 した 参 加 者 よりも 有 意に 多 かったことを 示 したのである。愛 の 三 角 理 論Sternberg (1986) は、 親 密 さ(intimacy)、情 欲 (passion)、 没 入 (commitment) の 3 つの 要 素 が 愛 を 構 成 しているとする 愛 の 三 角 理 論(triangular theory of love)を 主 張 した。この 理論 に 基 づき、それぞれの 要 素 が 大 きいか 小 さいかによって、 愛 を8 種 類 に 分 類 した。 例 えば、3 要素 が 全 て 高 い 場 合 は、「 完 全 な 愛 (consummatelove)」、3 要 素 が 全 て 低 い 場 合 は「 愛 ではない(nonlove)」である。愛 のスタイルHendrick & Hendrick (2006)は、Lee(1973)に 基 づいて、 愛 のスタイルをエロス(Eros)、ルダス(Ludus)、ストルゲ(Storge)、プラグマ(Pragma)、マニア(Mania)、アガペー(Agape)の6 種 類 に 分 類 した。それぞれの 説 明 を 以 下 に 示す。エロスの 愛 は、 情 欲 的 な 愛 である。パートナーは 理 想 化 され、 身 体 的 な 特 徴 が 好 まれ、 強 烈 に求 められる。ルダスの 愛 は、 遊 びとゲームの 愛であり、 短 期 間 に 複 数 のパートナーと 同 時 進 行で 遊 びの 愛 を 楽 しむ。ストルゲの 愛 は、 友 情 的な 愛 (friendship love)である。これまでに 出 てきた 仲 間 的 な 愛 (companionate love)に 相 当 する。プラグマの 愛 は、 実 利 的 な 愛 である。 欲 しいものによってパートナーを「ショッピング」する。マニアの 愛 は、 死 にもの 狂 いでパートナーを求 める 愛 である。 痛 みを 伴 う。 嵐 の 情 欲 (stormypassion)とも 呼 ばれる。 劇 的 な 別 れと 仲 直 りを繰 り 返 し、パートナーに 強 い 嫉 妬 を 抱 く。アガペーの 愛 は、パートナーの 福 祉 を 最 優 先 する 愛 であり、- 152 -


心 理 学 領 域 における 愛 に 関 する 研 究 の 概 観隣 人 愛 である。愛 の 測 定 方 法愛 の 測 定 は 質 問 紙 で 行 われる。 以 下 に 代 表 的 な質 問 紙 を 紹 介 する。Rubin (1970) は 愛 (love) と 好 意 (liking)の 違 いを 測 定 できる 尺 度 を 開 発 した。Hatfield &Sprecher (1986)は, 情 欲 的 愛 尺 度 (PassionateLove Scale) を 作 成 し た。 こ の 尺 度 は、 個 人の 情 欲 的 な 愛 の 程 度 を 測 定 することができるHendrick & Hendrick (1986)は、 愛 の 態 度 尺 度(Love Attitude Scale)を 作 成 した。 愛 の 態 度 尺度 は、Lee (1973)の 分 類 に 基 づいた6 種 類 の 下位 尺 度 (エロス、ルダス、ストルゲ、プラグマ、マニア、アガペー)で 構 成 されている。現 在 の 愛 研 究1990 年 代 以 降 の 愛 の 実 証 研 究 を 以 下 の5 種 類 に分 けて 紹 介 する。すなわち、 愛 のコミュニケーション、 愛 のスタイルの 性 差 、 愛 と 性 的 魅 力 や 性 的 能力 、 愛 と 尊 敬 、 愛 と 幸 福 感 、の5つである。愛 のコミュニケーションHecht, Marston, & Larkey (1994)は、パートナーに 愛 を 伝 える 方 法 が5 種 類 あることを 示 した。その5 種 類 とは、 共 同 制 作 的 (collaborative)、没 入 的 (committed)、 直 観 的 (intuitive)、 安 全な(secure)、 伝 統 的 (traditonal)の5つである。Murray & Holmes (1997)は、カップルが2 人ともポジティブ・イリュージョンが 高 いと、 関 係の 良 好 さに 正 の 影 響 を 与 えることを 示 した。 同 様に、Meeks, Hendrick, & Hendrick (1998) は、大 学 生 のカップルを 対 象 とした 研 究 で、2 人 のポジティブ・イリュージョンが 高 い 場 合 、 葛 藤 を 建設 的 に 解 決 し、 関 係 性 の 満 足 感 に 正 の 影 響 を 与えることを 示 した。さらに、Murray & Holmes(1997)では、パートナーが 自 分 に 対 して 自 己 開示 していると 知 覚 すると、 関 係 性 の 満 足 感 が 上 昇することを 示 した。愛 のスタイルの 性 差性 別 によって、どの 種 類 の 愛 のスタイルが 優 位であるのかが 異 なる。ルダスとプラグマとストルゲの 愛 は、 男 性 よりも 女 性 の 方 が 強 く(Hendrick& Hendrick, 1986)、アガペーの 愛 は、 女 性 よりも 男 性 の 方 が 強 かった(Hendrick, Hendrick, &Dicke, 1998)。 さ ら に、Hendrick & Hendrick(1986)は、プラグマとストルゲの 愛 は、パートナーとの 関 係 性 の 満 足 感 に 有 意 な 影 響 を 与 えないことを 示 し、Hendrick, Hendrick, & Adler (1988)は、ルダスの 愛 はパートナーとの 関 係 性 の 満 足 感 に 負の 影 響 を 与 えることを 示 した。これらの 結 果 は、女 性 は 男 性 と 比 較 して、 実 利 的 な 側 面 から 複 数 のパートナーを 同 時 進 行 で 見 極 め、そこには 遊 びの愛 を 楽 しむ 要 素 が 含 まれ、 愛 に 友 情 の 要 素 を 取 り入 れることのできる 人 が 多 いことを 表 している。しかしながら、これらの 愛 が 強 い 女 性 は、パートナーとの 関 係 に 満 足 できることがほとんどないだけでなく、むしろ 不 満 をもつ 傾 向 があると 解 釈 することができる。そして、 男 性 は 女 性 と 比 較 して、パートナーに 対 して 利 他 的 な 隣 人 愛 を 持 てる 人 が多 いことを 表 している。愛 と 性 的 魅 力 や 性 的 能 力1990 年 代 まで、 愛 と 性 的 能 力 は 関 係 のない 全 く別 の 概 念 なのか、それとも 互 いに 関 連 していたり、どちらがどちらに 影 響 を 与 えるのかについては、明 確 にされてなかった。そんな 中 、Aron & Aron(1991)は、 愛 と 性 的 能 力 は 連 続 線 上 にあり、 互いに 影 響 し 合 っていることを 実 証 し、どちらの 概念 も 他 方 の 概 念 に 影 響 を 与 え 得 ることを 示 した。また、Regan & Berscheid (1999)は、 性 的 欲 求は、 恋 愛 関 係 や 婚 姻 関 係 を 継 続 させるための 基本 的 な 要 因 の 一 つであることを 示 し、Hendrick,Hendrick, & Reich (2006)は、 性 行 為 と 関 係 性の 満 足 感 は 正 の 関 係 にあることを 示 した。さらにHendrick, Hendrick, & Reich (2006)は、エロ- 153 -


羽 鳥 健 司 ・ 石 村 郁 夫 ・ 市 村 操 一 ・ 小 金 井 希 容 子 ・ 北 見 由 奈スの 愛 とアガペーの 愛 の 両 方 を 有 する 人 は、 異 性から 理 想 的 な 性 的 魅 力 を 持 っていると 見 られ、ルダスの 愛 のみを 有 する 場 合 は、 異 性 から 性 行 為 に関 する 性 的 魅 力 があると 見 られることを 示 した。これは、パートナーを 強 烈 に 求 め、かつパートナーの 福 祉 を 最 優 先 する 人 の 性 的 魅 力 は 理 想 的 であるとみなされ、 短 期 間 に 複 数 の 相 手 との 同 時 進 行 の愛 を 楽 しむ 傾 向 のある 人 は、 性 行 為 を 行 う 場 合 に限 り 異 性 から 最 も 魅 力 があるとみなされると 解 釈できる。性 的 行 動 と 愛 の 関 係 に 関 する 報 告 には、 以 下 のようなものがある。Hendrick & Hendrick (2002)は、 性 行 為 は、パートナーに 愛 を 示 す 重 要 な 方法 の 一 つであることを 示 した。これは、もし 性行 為 の 数 が 減 少 すると、パートナーに 自 分 への愛 が 減 少 したと 認 識 されることがあることを 表している。また、Lauman, Gagnon, Michael, &Michaels (1994)は、 身 体 的 および 感 情 的 に 最 も満 足 できる 関 係 性 は、 特 定 のパートナーとの1 対1の 関 係 であり、カップルの 男 性 か 女 性 のいずれか、または 両 方 が 複 数 のパートナーと 恋 愛 関 係 または 婚 姻 関 係 にある 場 合 は、 関 係 性 の 満 足 感 が 低いことを 示 した。愛 と 尊 敬パートナーに 対 する 尊 敬 は、 恋 愛 関 係 または 婚姻 関 係 を 築 くきっかけおよび 継 続 させる 要 因 の 一つである。Frei & Shaver (2002)は、パートナーへの 尊 敬 が2 人 の 関 係 性 の 満 足 感 を 予 測 する 因子 の1つであることを 示 した。また、Hendrick& Hendrick (2006)は、 大 学 生 および 社 会 人 を対 象 とした 調 査 で、 尊 敬 はエロス、アガペーおよびストルゲの 愛 と 正 の 相 関 関 係 にあり、ルダスの愛 と 負 の 相 関 関 係 にあることを 示 した。 同 様 に、Frei & Shaver (2002)は、 尊 敬 はエロス、プラグマ、アガペーの 愛 と 正 の 相 関 関 係 にあり、ルダス、マニアの 愛 と 負 の 相 関 関 係 にあることを 示 した。さらに、Hendrick & Hendrick, (2006)は、エロスの 愛 と 尊 敬 は、2 人 の 関 係 性 の 満 足 感 を 促進 させることを 示 した。愛 と 幸 福 感これまでの 研 究 では、 愛 を 感 じてない 人 と 比 較して 愛 を 感 じている 人 の 方 が 幸 福 感 が 高 く、また愛 と 幸 福 感 は 正 の 関 係 にあることが 示 されている。Baumeister & Leary (1995)によると、 人 間は「 所 属 したい 種 」であるため、 所 属 している 人と 比 較 して、 所 属 してない 人 は 幸 福 感 が 低 いと考 えられる。 実 際 、 男 性 も 女 性 も、 結 婚 して 婚姻 関 係 が 続 いている 人 は、 一 生 独 身 の 人 や 離 婚をした 人 よりも 幸 福 感 が 高 いことが 示 されている(Myers & Diener, 1995)。また、Hendrick &Hendrick (2002)は、 大 学 生 を 対 象 として 調 査を 行 った。その 結 果 、 恋 愛 中 の 人 はそうでない 人と 比 較 して 幸 福 感 が 高 いことを 示 した。さらに 幸福 感 は、エロスの 愛 およびストルゲの 愛 と 性 の 相関 関 係 にあり、2 人 の 関 係 性 の 満 足 感 とも 正 の 相関 関 係 にあることを 示 した。まとめと 今 後 の 展 開本 研 究 では、 主 に1980 年 以 降 の 実 証 研 究 を 中 心に 愛 の 心 理 学 的 研 究 を 概 観 した。 愛 に 関 する 研 究について、「 歴 史 」、「 分 類 」、「 測 定 方 法 」、「 最 新の 愛 研 究 」の4 種 類 に 分 類 して 概 観 してきたが、数 種 類 の 分 類 に 重 複 して 紹 介 せざるを 得 なかった知 見 や、4 分 類 では 過 不 足 がある 可 能 性 を 否 定 できないなど、 必 ずしもきちんと 整 理 できたとはいえない 箇 所 が 存 在 する。これは、 筆 者 らの 勉 強 不足 を 否 定 できない 一 方 で、 愛 の 心 理 学 的 研 究 が 統一 された 定 義 のないままに 進 められている 可 能 性があることを 指 摘 できる。 愛 研 究 は、 他 のポジティブ 心 理 学 領 域 の 実 証 研 究 と 比 較 して、 行 われている 数 が 少 ないという 印 象 を 受 ける。 今 後 、さらに多 くの 愛 研 究 が 実 施 されることで、 統 一 された 愛の 定 義 が 生 まれると 考 えられ、 統 一 された 定 義 が提 示 されることで、 心 理 学 的 な 愛 研 究 の 分 野 はさらに 発 展 するだろう。- 154 -


心 理 学 領 域 における 愛 に 関 する 研 究 の 概 観筆 者 らは、 今 後 の 愛 研 究 は、 愛 着 の 観 点 から研 究 を 展 開 する 必 要 があると 考 えている。これまでの 愛 研 究 では、 身 体 的 接 触 については、 性的 行 動 がパートナーとの 関 係 性 の 満 足 感 に 正の 影 響 を 与 えることが 示 されている( 例 えば、Hendrick, Hendrick, & Reich, 2006; Hendrick &Hendrick, 2002)。これらの 研 究 では、パートナーとのロマンチックな 関 係 における 性 行 為 が 有 する機 能 について 検 討 がなされている。 一 方 で、 性 行為 以 外 の 身 体 的 接 触 が 有 する 機 能 を 実 証 した 研 究も 存 在 する。Field (1998)は、 両 親 との 身 体 的接 触 が 多 い 乳 児 はそうでない 乳 児 と 比 較 して 体 重の 増 加 が 速 いことが 示 した。また、Vormbrock& Grossberg (1988)は、ペットを 飼 っている 人は 飼 ってない 人 と 比 較 して、 身 体 的 健 康 が 高 いことを 示 した。 以 上 のように、ロマンチックな 関 係における 性 行 為 が 有 する 独 自 の 効 果 と、 性 行 為 以外 の 身 体 接 触 が 有 する 独 自 の 効 果 、また 両 方 を 行うからこそ 発 揮 される 効 果 があると 考 えられる。さらに、これから 迎 える 超 高 齢 化 社 会 に 向 けて、高 齢 者 の 性 的 魅 力 や 性 的 能 力 について 研 究 する 必要 があるだろう。 現 在 までのところ、 若 者 にとっても 高 齢 者 にとっても、パートナーとの 関 係 性 においては、 性 行 為 が 全 てではなく、 一 緒 にいることこそが 親 密 な 関 係 (intimate relationship)に必 要 不 可 欠 な 要 素 であると 考 えられている。愛 には 多 くの 解 明 されるべき 点 が 残 されている。 今 後 、 多 くの 愛 研 究 が 行 われることを 期 待 する。引 用 文 献Aron, A., & Aron, E.N. (1991). Love and sexuality.In McKinney, K. & Sprecher, S. (Eds.), Sexualityin close relationships (pp. 25-48). Hillsdale, NJ:Erlbaum.Baumeister, R.F., & Leary, M.R. (1995). The need tobelong: Desire for interpersonal attachments asa fundamental human motivation. PsychologicalBulletin, 117, 497-529.Bowlby, J. (1969). Attachment and loss Vol.1. NewYork: Basic Books.Buss, D.M. (1988). Love acts: The theory of love.In R.J. Sternberg & M.L. Barnes (Eds.), Thepsychology of love (pp. 100-117). New Haven, CT:Yale University Press.Fehr, B. (1994). Prototype-based assessment oflaypeople’s view of love. Personal Relationships,13, 19-36.Field, T.M. (1998). Touch therapies. In Hoffman,R.R., Sherrick, M.F., & Warm, J.S. (Eds.), Viewingpsychology as a whole (pp.603-624.) Washington,DC: American Psychological Association.Frei, J.R., & Shaver, P.R. (2002). Respect in closerelationship: Prototype definition, self-reportassessment, and initial correlates. PersonalRelationships, 9, 121-139.Fredrickson, B.L. (2001). The role of positiveemotions in positive psychology: The broadenand-buildtheory of positive emotions. AmericanPsychologist, 56, 218-226.Hatfield, E. (1988). Passionate and compassionatelove. In R.J. Sternberg & M.L. Barnes (Eds.), Thepsychology of love (pp. 191-217). New Haven, CT:Yale University Press.Hatfield, E. & Sprecher, S. (1986). Measuringpassionate love in intimate relationship. Journal ofAdolescence, 9, 383-410.Hazan, C., & Shaver, P. (1987). Romantic loveconceptualized as an attachment process. Journalof Personality and Social Psychology, 52, 511-524.Hecht, L.M., Marston, P.J., & Larkey, L.K. (1994).Love ways and relationship quality. Journal ofSocial and Personal Relationships, 11, 25-43.Hendrick, C., & Hendrick, S.S. (1986). A theory andmethod of love. Journal of Personality and SocialPsychology, 50, 392-402.- 155 -


羽 鳥 健 司 ・ 石 村 郁 夫 ・ 市 村 操 一 ・ 小 金 井 希 容 子 ・ 北 見 由 奈Hendrick, C., & Hendrick, S.S. (2009). Love. InLopez, S.J., & Snyder, C.R. (Eds.), The OxfordHandbook of Positive Psychology (pp. 447-454).New York: Oxford University Press.Hendrick, C., Hendrick, S.S., & Dicke, A. (1998). Thelove attitude scale: Short form. Journal of Socialand Personal Relashionships, 15, 147-159.Hendrick, C., Hendrick, S.S., & Reich, D.A. (2006).The brief sexual attitudes scale. The Journal ofSex Research, 43, 76-86.Hendrick, S.S., & Hendrick, C. (1993). Loversas friends. Journal of Social and PersonalRelashionships, 10, 459-466.Hendrick & Hendrick (2002). Linking romantic loveand sex: Development of the Perception of Loveand Sex Scale. Journal of Social and PersonalRelationships, 19, 361-378.Hendrick, S.S., & Hendrick, C. (2006). Measuringrespect in close relationships. Journal of Socialand Personal Relationships, 23, 881-899.Hendrick, S.S., & Hendrick, C., Adler, N.L. (2006).Romantic relationships: Love, satisfaction, andstay together. Journal of Personality and SocialPsychology, 54, 980-988.Lauman, E.O., Gagnon, J.H., Michael, R.T., &Michaels, S. (1994). The social organization ofsexuality: Sex practices in United States. Chicago:University of Chicago Press.Lee, J.A. (1973). The colors of love: An exploration ofthe way of loving. Don Mills, ON: New Press.Levine, R., Sato, S., Hashimoto, T., & Verma, J. (1995).Love and marriage in 11 cultures. Journal of CrossculturalPsychology, 26, 554-571.Meeks, B.S., Hendrick, S.S., & Hendrick, C.(1998). Communication, love, and relationshipsatisfaction. Journal of Social and PersonalRelationships, 15, 755-773.Mellen, S.L.W. (1981). The evolution of love. SanFrancisco: FreemanMurray, S.L., & Holmes, L.G. (1997). A leap offaith? Positive illusions in romantic relationships.Personality and Social Psychology Bulletin , 23,586-604.Myers, D.G., & Diener, E. (1995). Who is happy?Psychological Science, 6, 10-19.Regan, P.C., & Berscheid, E. (1999). Lust: What weknow about human sexual desire. Thousand Oaks,CA: Sage.Regan, P.C., Kocan, E.R., & Whitlock, T. (1998). Ain’t love grand! A prototype analysis of the conceptof romantic love. Journal of Social and PersonalRelationships, 15, 411-420.Rubin, Z (1970). Measurement of romantic love.Journal of Personality and Social Psychology, 16,265-273.Simpson, J.A., Cambell, B., & Berscheid, E. (1986).The association between romantic love andmarriage: Kephart (1967) twice revised. Personalityand Social Psychology Bulletin, 12, 363-372.Singer, I. (1984). The nature of love: Plato to Luther.Chicago: University of Chicago Press.Sprecher, S., & Regan, P.C. (1998). Passionate andcompanionate love in courting and young marriedcouples. Sociological Inquiry, 68, 163-185.Sprecher, S., & Toro-Morn, M. (2002). A study ofmen and women from different sides of earthto determine if men are from Mars and womenare from Venus in their beliefs about love andromantic relationship. Sex Roles, 46, 131-147.Sternberg, R.J. (1986). A triangular theory of love.Psychological Review, 93, 119-135.Vormbrock, J.K., & Grossberg, J.M. (1988).Cardiovascular effects of human―pet doginteractions. Journal of Behavioral Medicine, 11,509-517.- 156 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 平 ,2013,157-164成 24 年 度 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 研 究 会 報 告研 究 会 報 告平 成 24 年 度 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 研 究 会 報 告1.ポジティブ 臨 床 心 理 学 研 究 会 活 動 報 告ポジティブ 臨 床 心 理 学 研 究 会 は, 約 3 ~ 4カ 月 に1 度 の 間 隔 で 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 にて 開 催 している。研 究 会 のメンバーには, 市 村 操 一 教 授 をはじめ, 石 村 郁 夫 助 教 , 本 多 麻 子 助 教 , 山 口 正 寛 助 教 , 埼 玉 学園 大 学 の 羽 鳥 健 司 講 師 , 千 葉 大 学 の 浅 野 憲 一 助 教 がおり,さらに,ポジティブ 心 理 学 の 臨 床 的 応 用 に 興味 のある 他 大 学 の 教 員 や 大 学 院 生 , 社 会 人 の 方 が 参 加 している。また, 本 研 究 会 の 活 動 を 支 えるアドバイサーには, 新 井 邦 二 郎 研 究 科 長 , 海 保 博 之 副 学 長 も 本 研 究 会 の 活 動 を 積 極 的 に 支 援 して 頂 いている。平 成 24 年 度 の 活 動 は, 第 10 回 (2 月 21 日 ), 第 11 回 (6 月 16 日 ), 第 12 回 (12 月 22 日 )の 計 3 回 実 施 した。ここでは, 平 成 24 年 度 の 第 10 回 から 第 12 回 までの 本 研 究 会 の 活 動 内 容 の 概 略 を 報 告 する。第 10 回 研 究 会 の 活 動 報 告第 10 回 研 究 会 は 平 成 24 年 2 月 21 日 ( 火 )の 午 後 2 時 から6 時 に 行 われ, 当 日 は5 名 の 発 表 者 の 他 , 本 多 助教 を 迎 えて 実 施 された。はじめに, 市 村 教 授 はスポーツ 競 技 におけるマインドフルネス( 非 評 価 的 集 中 )とアクセプタンス( 受 容 ) 技 法 を 取 り 上 げて,マインドフルネス-アクセプタンス 技 法 に 基 づくプログラムの 実 際 について 報 告 した。 次 に, 羽 鳥 助 教 がポジティブ 心 理 学 の 中 核 的 テーマである 肯 定 的 感 情 の役 割 について 最 新 の 実 証 研 究 を 概 観 し, 今 後 の 研 究 の 方 向 性 について 報 告 した。 次 に, 石 村 助 教 は, 自己 への 思 いやりの 態 度 を 育 成 させる 介 入 法 により 抑 うつや 反 芻 が 軽 減 し, 問 題 解 決 的 思 考 が 高 まることを 実 証 した 研 究 成 果 を 報 告 した。 次 に, 浅 野 助 教 は, 行 動 分 析 学 から 捉 えた 不 登 校 に 関 する 包 括 的 なレビュー 論 文 を 紹 介 し, 我 が 国 における 不 登 校 支 援 について 問 題 提 起 をした。 最 後 に, 山 口 助 教 が 本 学 臨床 心 理 学 科 内 で 行 われている“ 学 内 のメンタルヘルスに 対 する 援 助 活 動 に 関 するプロジェクト”の 研 究成 果 を 報 告 し, 学 生 の 発 達 障 害 傾 向 やリテラシーに 関 するニーズ, 精 神 的 健 康 に 関 する 援 助 ニーズの 概要 について 報 告 した。第 11 回 研 究 会 の 活 動 報 告第 11 回 研 究 会 は 平 成 23 年 6 月 16 日 ( 土 )の 午 後 3 時 から6 時 に 実 施 された。 当 日 は,オープンキャンパスのために 来 校 した1 名 の 訪 問 者 を 迎 えて, 計 5 名 で 実 施 された。はじめに, 市 村 教 授 は 価 値 判 断 を 伴 わずに 認 知 ・ 感 情 ・ 感 覚 を 注 意 深 く 意 識 し,それらを 受 け 入 れるマインドフルネス-アクセプタンス-コミットメント・アプローチや 脱 フュージョンを 紹 介 し, 瞑 想 法 と 呼 吸 法 の 実 践 演 習 を 行 った。 次 に, 石村 助 教 は 英 国 の 認 知 行 動 療 法 センターの 元 センター 長 であったポール・ギルバートが 提 唱 するコンパッション・フォーカスト・セラピーの 基 礎 理 論 を 紹 介 し, 愛 着 障 害 に 対 する 治 療 の 有 効 性 に 関 して 説 明 した。 最 後 に, 本 多 助 教 は, 方 略 的 楽 観 主 義 ・ 悲 観 主 義 ・ 防 衛 的 悲 観 主 義 傾 向 における 課 題 成 績 とストレス 反 応 に 関 する 研 究 成 果 を 発 表 し, 課 題 成 績 , 心 拍 数 , 唾 液 アミラーゼに 群 差 は 見 られなかったものの,悲 観 主 義 群 のポジティブ 覚 醒 得 点 は 方 略 的 楽 観 主 義 群 ・ 防 衛 的 悲 観 主 義 群 よりも 低 かったことを 報 告 した。第 12 回 研 究 会 の 活 動 報 告- 157 -


第 12 回 研 究 会 は 平 成 24 年 12 月 22 日 ( 土 )の 午 後 2 時 から 午 後 6 時 に 実 施 された。 当 日 は, 他 大 学 院 の 博士 後 期 課 程 に 在 籍 する 院 生 2 名 を 含 めて, 計 6 名 で 実 施 された。はじめに, 市 村 教 授 が 本 学 大 学 院 紀 要 に投 稿 する 論 文 である“ガードナーとモーによるパフォーマンス 向 上 のためのマインドフルネス・アクセプタンス・コミットメント・アプローチ”の 概 略 を 説 明 し, 特 に, 情 動 によって 駆 動 される 行 動 ではなく, 価 値 感 によって 駆 動 される 行 動 の 重 要 性 について 指 摘 した。 次 に, 石 村 助 教 が 科 学 研 究 費 補 助 金 ( 若手 研 究 B)に 申 請 した「 強 みの 発 見 や 活 用 を 支 援 するポジティブ 心 理 学 的 介 入 法 の 開 発 」の 概 要 を 紹 介し,11 月 初 旬 にスペインのバルセロナで 開 催 された 気 分 障 害 ・ 不 安 障 害 国 際 フォーラムで 発 表 した 研 究成 果 を 説 明 した。 次 に, 埼 玉 学 園 大 学 の 羽 鳥 講 師 が 心 理 学 研 究 に 投 稿 中 の“ 対 人 ストレス 経 験 から 獲得 した 利 益 の 筆 記 が 精 神 的 健 康 に 及 ぼす 効 果 ”に 関 して 報 告 した。 最 後 に, 本 多 助 教 が 積 極 的 休 養 によるパフォーマンスと 疲 労 回 復 の 促 進 に 関 する 研 究 成 果 を 報 告 し,パフォーマンスに 群 間 の 差 は 見 られなかったが, 統 制 群 と 比 較 して 積 極 的 休 養 群 は 自 覚 疲 労 を 促 進 的 に 回 復 させることを 紹 介 した。 ( 石 村 郁 夫 )2.スクールカウンセリング 研 究 会スクールカウンセリング 研 究 会 は, 月 1 回 ~ 隔 月 のペースで, 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 にて 開 催 している。研 究 会 のメンバーの 中 心 は, 現 在 スクールカウンセリングの 分 野 で 活 動 している 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 の修 了 生 である。 参 加 者 は, 小 学 校 ・ 中 学 校 ・ 高 校 でスクールカウンセラーをしている 方 や, 大 学 で 学 生相 談 員 をされている 方 , 教 育 相 談 所 に 所 属 し 巡 回 相 談 をされている 方 や 児 童 相 談 所 で 心 理 判 定 員 をされている 方 , 子 ども 家 庭 サポートセンターで 相 談 員 をされている 方 など, 多 様 な 職 場 で 働 く 方 たちが 集 まって 勉 強 している。 教 育 臨 床 分 野 で 活 動 することを 目 指 す 大 学 院 生 も 参 加 できることになっているので,心 理 士 の 働 く 場 面 について 学 んだり, 現 場 にでたときに 心 理 士 としてかかわるケースに 直 接 ふれることができ, 貴 重 な 学 びの 場 になっている。 活 動 内 容 の 中 心 は,テーマを 決 めた 勉 強 会 や 事 例 検 討 等 を 行 っている。 時 には, 外 部 講 師 をお 願 いし,より 専 門 的 な 研 修 も 行 っている。 大 学 院 修 了 3 年 目 の 学 年 が 幹事 学 年 となり, 名 簿 の 管 理 や ML の 管 理 , 参 加 者 のとりまとめ 等 の 運 営 を 担 ってくれている。 今 年 度 ,幹 事 を 務 めてくれているのは 第 11 期 生 の 方 々である。第 1 回 4 月 28 日 ( 土 )10:00 ~ 12:00 テーマ「1 年 間 のスタートの 切 り 方 ~ 相 談 室 便 りについて」修 了 生 5 名 , 大 学 院 生 3 名 にご 参 加 いただいた。 初 めに 自 己 紹 介 をし,それぞれの 方 の 職 場 の 様 子 などについて 情 報 交 換 を 行 なった。 次 に, 今 年 度 の 日 程 と 内 容 と 担 当 者 を 決 定 した。その 後 ,「 心 理 士 としてどのように 良 いスタートをきるか」ということをテーマに,「 今 , 困 っていること」などの 情 報 交 換を 行 った。 最 後 に, 各 自 昨 年 度 あるいは 今 年 度 の 始 めに 作 成 した 相 談 室 便 りと, 歴 代 の SC 研 の 先 輩 が作 成 したお 便 りを 配 布 し, 相 談 室 便 りの 作 成 のポイント 等 を 検 討 した。第 2 回 6 月 16 日 ( 土 )10:00 ~ 12:00 テーマ「 描 画 法 - MSSM 法 」修 了 生 7 名 , 北 区 のスクールカウンセラー 1 名 , 学 部 生 ・ 大 学 院 生 5 名 と,とても 多 くの 方 にお 集 まりいただいた。 今 回 のテーマは, 描 画 法 の MSSM 療 法 であった。この 療 法 を 実 際 に 現 場 で 使 ってらっしゃる 修 了 生 の 方 に,この 療 法 について 解 説 いただきデモンストレーションをしていただいた 後 , 修 了 生- 158 -


平 成 24 年 度 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 研 究 会 報 告と 現 役 学 生 がペアになりカウンセラー 役 と 生 徒 役 に 分 かれてそれぞれ 体 験 した。スクイッグル 法 やワルテッグ, 文 章 完 成 法 等 の 要 素 を 含 んだ 新 しい 描 画 法 で,アセスメントにもカウンセリングにも 使 える 方法 で,とても 楽 しく 学 ぶことができた。 描 画 法 は, 小 学 校 や 中 学 校 では 必 須 アイテムなので, 新 しいアイテムを 学 び,とても 充 実 した 時 間 であった。第 3 回 7 月 7 日 ( 土 )10:00 ~ 12:00 テーマ「 家 族 療 法 とシステムズ・アプローチ」講 師 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 博 士 課 程 田 原 直 久 氏参 加 者 は, 修 了 生 5 名 , 北 区 のスクールカウンセラー 1 名 , 学 部 生 ・ 大 学 院 生 4 名 と,とても 多 くの 方にお 集 まりいただいた。 今 回 のテーマは,「 家 族 療 法 とシステムズ・アプローチ~スクールカウンセリングにおいて」であった。 初 めに, 講 師 の 田 原 氏 からパワーポイントの 資 料 を 基 に, 家 族 療 法 とシステムズ・アプローチの 基 本 的 な 考 え 方 (do more, do different という 考 え 方 )や, 個 人 療 法 との 違 いや,具 体 的 な 技 法 (ミラクル・クエッション,リフレーミング,コンプリメントなど)を 紹 介 していただいた。次 に, 家 族 療 法 に 基 づく 面 接 はどのように 行 われるのか,ロールプレーで 実 際 の 面 接 場 面 を20 分 程 度 見せていただいた。 最 後 に, 参 加 者 からの 質 問 に, 答 えていただいた。 参 加 者 の 当 日 の 感 想 をいくつか 紹介 すると,「 家 族 療 法 とシステム・アプローチについて,とても 分 かりやすい 言 葉 で, 説 明 してくださり,ありがとうございました。 私 の 勤 務 する 学 校 でも, 使 えそうなヒントがたくさんありましたし,システムアプローチをよく 知 らない 私 でも,そういえば,やっていたかも・・・というところもありました。システムは 何 年 もかけて,できてきたものもあると 思 うので,そこで 介 入 していくことは 一 見 , 難 しいし,クライエントの 方 も 壊 される 怖 さをどこかで 感 じているかもしれませんが,そのためには,ユーモアや,臨 機 応 変 な, 言 葉 かけ 等 が, 本 当 に 必 要 なのではないかと 思 いました。」「システムを 見 立 てて,その 中に 介 入 していくという「 感 じ」がロールプレーと 講 義 で 体 験 できました。ロールプレーで 使 われていた声 掛 けや,ユーモア,リフレーミングなど, 実 際 に 使 えることばかりですが,その「さじ 加 減 」の 感 覚をもつことが, 大 切 と 思 いました。」あっという 間 の2 時 間 で,とても 内 容 の 濃 い 研 修 会 であった。 原 因探 しをしない, 誰 も 責 めることのない,ポジティブな 面 接 のやり 方 に,とても 新 鮮 さを 感 じた。第 4 回 10 月 6 日 ( 土 )10:00 ~ 12:00 テーマ「 事 例 検 討 会 」最 初 に 自 己 紹 介 プラス 夏 休 みの 報 告 ということで, 参 加 者 全 員 で 情 報 交 換 を 行 った。そのあとに, 事例 検 討 を 行 った。 事 例 の 内 容 はここでは 控 えるが, 発 表 してくださった 方 がとても 丁 寧 に 事 例 に 関 わっていて, 情 報 がたくさんあったため 事 例 の 理 解 を 深 めることができた。また 組 織 のなかで 働 く 心 理 士 としてのむずかしさについても 考 えさせられる 事 例 で,ケースについてと 組 織 についての2つの 次 元 から考 えることができた。第 5 回 12 月 1 日 ( 土 )10:00 ~ 12:00 テーマ「 行 動 観 察 のポイント」参 加 者 は, 修 了 生 7 名 , 北 区 のスクールカウンセラー 1 名 , 学 部 生 ・ 大 学 院 生 6 名 と,とても 多 くの 方にお 集 まりいただいた。 今 回 のテーマは,「 行 動 観 察 のポイント」で, 大 学 院 生 の 皆 様 に 準 備 をしていただき, 講 師 をしていただいた。 初 めに, 行 動 観 察 のポイントについて,「 応 用 行 動 分 析 」の 考 え 方 やカレンダーや 日 課 表 を 使 って, 行 動 をチェックするなどのアイディアを 発 表 していただいた。 次 に, 心理 検 査 をとりながら 行 動 観 察 を 行 うロールプレーをペアになって 行 った。その 後 ,ロールプレーを 行 っ- 159 -


た 感 想 を 話 し 合 った。 修 了 生 の 方 からは 新 しい 心 理 検 査 を 学 ぶ 機 会 になった, 行 動 観 察 を 行 う1つの 視点 が 増 えたという 感 想 がきかれ, 大 学 生 ・ 大 学 院 生 からは 現 場 で 日 々いろいろな 子 どもと 接 している 現役 の 心 理 士 の 方 が 演 じる 子 どもの 様 子 が,とてもリラルで 勉 強 になったという 感 想 があった。 互 いに 学びあえる 充 実 した 勉 強 会 になった。第 6 回 2 月 9 日 ( 土 )10:00 ~ 12:00 テーマ「 感 覚 統 合 」第 7 回 3 月 2 日 ( 土 )10:00 ~ 12:00 テーマ「1 年 間 のふりかえり~ 今 年 度 の 成 果 と 次 年 度 への 課 題 」 ( 飯 田 順 子 )3. 王 子 スクールカウンセラー 研 究 会王 子 スクールカウンセラー 研 究 会 ( 略 称 OSC)は、 実 践 活 動 に 重 きを 置 き 学 校 現 場 に 役 立 つグッズ,ツール,プログラム 作 り、および 学 校 をめぐる 課 題 や 対 応 策 の 検 討 を 目 的 として 発 足 された。スクールカウンセラーの 活 動 に 関 心 があり, 子 どもや 保 護 者 , 先 生 方 の 役 に 立 ちたい 人 が, 自 由 にアイデアや 発 想 をもちより, 誰 もが 使 えるようなツール 等 を 開 発 することが 目 的 です。 自 分 のやりたいことを 形 にしていくという 開 発 の 過 程 を 通 じて, 私 たち 参 加 者 も 生 き 生 きとすることも 目 的 のひとつである。参 加 者 は 主 催 者 ( 教 授 田 村 節 子 )と、 現 在 スクールカウンセラーとして 活 躍 している 修 了 生 、および 現役 院 生 , 学 部 生 などである。さらに OSC - brains( 頭 脳 集 団 )として,カードゲーム 開 発 に 関 心 のある 阿 部 宏 徳 准 教 授 , 石 村 郁 夫助 教 , 山 口 正 寛 助 教 にも 加 わってもらい,グッズ 開 発 の 効 果 研 究 も 行 っている。研 究 会 の 活 動 内 容昨 年 度 から 顔 の 表 情 を 手 がかりに 人 探 しをするカードゲーム「 面 ( めん ) 探 偵 ( たんてい ) 困 難 ( こんなん )」(めんたんてい こんなん)を 開 発 している。デジタル 世 代 の 今 の 子 ども 達 は, 表 情 から 気持 ちを 読 み 取 ることが 苦 手 だったり, 子 どもの 表 情 を 読 むことが 苦 手 な 保 護 者 も 多 い。 発 達 障 害 がある子 どもも 表 情 が 読 みとりにくく 苦 戦 を 強 いられている。そこで、「 遊 んでいるうちに 知 らぬ 間 に 表 情 を 読 み 取 るコツがつかめ, 楽 しい 気 分 も 生 まれるカードゲーム」というのが 開 発 の 原 点 である。平 成 24 年 度 の 活 動 は、 第 1 回 (5 月 26 日 )、 第 2 回 (7 月 28 日 )、 第 3 回 (9 月 1 日 )、 第 4 回 (9 月 28 日 ) 特 別 講 座 、第 5 回 (10 月 20 日 )、 第 6 回 (12 月 8 日 ), 第 7 回 (3 月 16 日 )である。ここでは 第 1 回 から 第 6 回 までの 第 1 部の 活 動 を 紹 介 する。第 1 回 研 究 会 の 活 動 内 容 5 月 26 日 ( 土 )第 2 回 研 究 会 の 活 動 内 容 7 月 28 日 ( 土 )両 日 とも 昨 年 度 から 開 発 しているカードゲーム「 面 ( めん ) 探 偵 ( たんてい ) 困 難 ( こんなん )」の 微調 整 を 行 った。ビデオ 撮 影 を 行 い「 面 探 偵 困 難 」のロールプレイを 行 った。ルール 説 明 のあと、 事 前 に作 成 した“ 面 探 偵 ”“ 依 頼 人 ”のプレートを 首 から 下 げて、ゲームがスタート。ロールプレイ 終 了 後 ,ハプニングカード,所 持 金 , 相 棒 カード, 依 頼 文 ,カードデザイン, 表 情 カード 等 について 下 記 の 意 見 が 出 された。- 160 -


平 成 24 年 度 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 研 究 会 報 告・カードのデザインのキャラクターのシルエットが 著 作 権 にひっかかりそう。・ 依 頼 文 の 内 容 で、 誰 を 探 してほしいのかが 分 からないものがあった。・ 表 情 を 読 むのが 苦 手 な 子 がゲームに 参 加 した 場 合 、 所 持 金 が0のままになってしまう 可 能 性 があり、かわいそうな 気 がする 等 。これらの 意 見 を 元 に 下 記 のように 工 夫 することとなった。カードデザイン…デザインを 一 新 する。ハプニングカード… 他 のカードとは 色 を 変 えて、レア 感 を 出 し 作 成 する。 枚 数 も 検 討 する。所 持 金 … 最 初 に 参 加 者 全 員 に 資 本 金 を 配 布 する。依 頼 文 … 内 容 に 関 して、 分 かりやすくなるよう 検 討 した。表 情 カード… 大 学 院 で 撮 影 された2 名 ( 岡 部 氏 , 水 野 氏 )の 表 情 写 真 を 使 用 する。 本 人 了 承 済 。第 3 回 研 究 会 の 活 動 内 容 9 月 1 日 ( 土 )表 情 研 究 の 第 1 人 者 である P, Ekman が 抽 出 した6 表 情 ( 怒 り, 嫌 悪 , 恐 れ, 幸 福 感 , 悲 しみ, 驚 き)を 参 考 にカードゲーム 面 探 偵 困 難 の 表 情 写 真 の 妥 当 性 と 依 頼 文 の 妥 当 性 を 下 記 の 要 領 で 確 認 することとした。Ⅰ 他 者 の 表 情 に 対 する 感 情 理 解 を 促 進 させるカードゲームの 予 備 的 検 討本 研 究 では, 表 情 写 真 から 他 者 の 感 情 理 解 を 促 進 させるカードゲームを 開 発 するために, 作 成 したカードゲームの 表 情 写 真 および 教 示 文 から 予 測 される 感 情 の 一 致 率 を 算 出 し, 予 備 的 検 討 を 行 うことを 目 的とした。調 査 協 力 者 : 臨 床 心 理 学 科 1 年 生 の 必 修 授 業 に 参 加 している 大 学 生 47 名 ( 男 性 21 名 , 女 性 27 名 )であった。平 均 年 齢 は19.3±1.33 歳 であった。調 査 内 容 : ATR 顔 画 像 表 情 データベースの 表 情 写 真 と 感 情 の 妥 当 性ATR 顔 画 像 表 情 データベースの6 個 の 表 情 写 真 が P, Ekman が 抽 出 した6つの 基 本 感 情 (1 怒 り,2嫌 悪 ,3 恐 れ,4 幸 福 感 ,5 悲 しみ,6 驚 き)のどれに 当 てはまるかについて 回 答 を 求 めた。 具 体 的 には 示 した 写 真 の 人 物 が6つの 基 本 感 情 のどのような 感 情 であるかを 推 測 して, 上 記 の1から6の 中 から1つ 選 んで 回 答 を 求 め, 回 答 の 一 致 率 を 確 認 した。上 記 の 一 致 率 が60% 以 下 の 回 答 者 2 名 の 回 答 は 除 外 した。 状 況 場 面 と 感 情 の 妥 当 性作 成 したカードゲームの 教 示 文 の 中 の 登 場 人 物 2 名 ( 男 性 1 名 , 女 性 1 名 )の44 個 の 表 情 写 真 が,P,Ekmanが 抽 出 した6つの 基 本 感 情 (1 怒 り,2 嫌 悪 ,3 恐 れ,4 幸 福 感 ,5 悲 しみ,6 驚 き)のどれに 当 てはまるかを 測 定 した。 具 体 的 には 教 示 文 を 示 し,その 教 示 文 の 人 物 がどのような 感 情 であるかを 推 測 して,上 記 の1から6の 中 から1つ 選 んで 回 答 を 求 め, 回 答 の 一 致 率 を 確 認 した。その 結 果 、 数 枚 の 表 情 写 真の 一 致 率 が 悪 かったものは 差 し 替 えた。 状 況 場 面 と 表 情 写 真 の 妥 当 性作 成 したカードゲームの29 個 の 教 示 文 を 提 示 し,ここから 予 想 される 登 場 人 物 の 感 情 に 関 してP,Ekman が 抽 出 した6つの 基 本 感 情 (1 怒 り,2 嫌 悪 ,3 恐 れ,4 幸 福 感 ,5 悲 しみ,6 驚 き)のどれに 当 てはまるかを 測 定 した。それによって, 本 研 究 で 作 成 された 教 示 文 による 表 情 の 予 測 可 能 性 および- 161 -


教 示 文 と 表 情 の 一 致 率 を 確 認 した。結 果 と 考 察 については 分 析 中 である。第 4 回 研 究 会 の 活 動 内 容 9 月 28 日 ( 金 )東 京 都 発 達 障 害 当 事 者 の 会 イイトコサガシ 代 表 冠 地 ( かんち ) 情 ( じょう )(かんち じょう) 氏 を 招 き,「コミュニケーションのワークショップ」を 体 験 した。 冠 地 氏 の 他 に2 名 のファシリテーターが 来 校 し,ワークショップのリードをとった。 発 達 障 害 のある 人 の 生 きづらさをテーマに 開 発 されたワークショップを 実 際 に 体 験 することで,いかに 共 感 が 大 切 か,コミュニケーションにズレが 生 じるかなど, 相 手 の身 になる 貴 重 な 体 験 となった。また、イイトコサガシでもカードゲーム 等 の 開 発 をしており, 発 想 こそ異 なるものの 今 後 の 活 動 に 役 立 てられる 体 験 となった。第 5 回 研 究 会 の 活 動 内 容 10 月 20 日 ( 土 )「ミニミニカンファ」と 称 し 学 校 現 場 での 課 題 について 事 例 検 討 を 行 った。 具 体 的 には, 東 京 都 でスクールカウンセラーとして 活 躍 している 修 了 生 や, 東 北 地 方 でスクールカウンセラーになったばかりのこの春 の 修 了 生 から 出 された 課 題 解 決 を 目 指 した。 課 題 を 出 した 人 が 自 分 の 援 助 のいいところに 気 づき 元 気になることも 目 的 とした。第 6 回 研 究 会 の 活 動 内 容 12 月 8 日 ( 土 )表 情 カード, 依 頼 文 の 妥 当 性 を 確 認 するために,1 標 準 化 された 表 情 を 用 いた 質 問 項 目 ,2 面 探 偵 困難 で 使 用 された 表 情 を 用 いた 質 問 項 目 が 入 った 質 問 紙 を 行 った 結 果 のデータ 入 力 を 行 った。また,エクマンの6 表 情 を 元 に 作 成 した 依 頼 文 についても, 同 様 に 質 問 紙 を 作 成 し 実 施 した。質 問 紙 の 結 果 をもとに, 使 用 する 表 情 写 真 を 決 定 した。さらに, 依 頼 文 については 訂 正 を 行 った。この6 回 の 研 究 会 の 他 に、 随 時 M1の OSC メンバーが 中 心 となり、ゲーム 解 説 のビデオ 作 成 やカードゲームのシミュレーションを 数 度 行 った。その 結 果 によりゲームのルールやカードの 微 調 整 を 繰 り 返 した。さらに、OSC メンバー 横 野 氏 ( 修 了 生 )を 通 じてカードゲームの 試 作 品 を2 月 末 頃 までに 作 成 することとなった。また,「このカードゲームを 使 用 することで, 表 情 を 読 み 取 る 力 が 向 上 するのか」,「 楽 しい 気 分 は 上昇 するのかどうか」 等 について, 時 間 の 経 緯 を 考 慮 に 入 れて3 月 に 効 果 研 究 を 行 う 予 定 である。 ( 田 村 節 子 )4. 子 育 て・ 母 親 支 援 研 究 会第 82 回日 時 :2012 年 4 月 18 日 ( 水 )10:30 ~ 12:30場 所 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 講 義 室 Ⅰ , Ⅱ参 加 者 :7 名テ ー マ:『 第 23 回 日 本 発 達 心 理 学 会 大 会 報 告 』- 162 -


平 成 24 年 度 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 研 究 会 報 告~ 共 同 研 究 ポスター 発 表 「ママ 友 の 形 成 を 規 定 する 要 因 について」~』話 題 提 供 者 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 修 士 課 程 2 年 飯 田 拓 也 、 塩 沢 奈 保 、 関 陽 一 、内 容 :ママ 友 は 子 育 ての 相 談 相 手 となり、 情 報 のやり 取 りやグループに 所 属 する 安 心 感 と 関 連 する 一 方 で、グループ 自 体 がストレスとなり、かえって 育 児 不 安 が 生 じることを、 研 究 のまとめとして 報 告 された。 議 論 の 場 では、 対 人 関 係 の 希 薄 化 や 親 自 身 の 発 達 の 視 点 から 話 を深 めた。第 83 回日 時 :5 月 16 日 ( 水 )10:30 ~ 12:30場 所 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 講 義 室 Ⅰ , Ⅱ参 加 者 :7 名テ ー マ:『 父 親 の 子 育 て 参 加 について』話 題 提 供 者 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 修 士 課 程 1 年 石 毛 遥 、 風 間 和 、 阪 無 勇 士 、 松 田 直 子内 容 :イクメンが 注 目 されている 現 代 における、 父 親 の 子 育 てについての 現 状 、 子 育 てに 対 する意 識 等 が 報 告 され、 父 親 の 子 育 て 参 加 の 課 題 や 重 要 性 について 議 論 された。第 84 回日 時 :2012 年 6 月 20 日 ( 水 )10:30 ~ 12:30場 所 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 講 義 室 Ⅰ , Ⅱ参 加 者 :8 名話 題 提 供 者 : 前 西 都 、 増 井 佐 緒 里 、 加 藤 雅 子テ ー マ:『 子 育 てサポートシステム』内 容 : 横 浜 市 で 行 われている 子 育 てサポートシステム、 地 域 子 育 て 拠 点 についての 現 状 や 活 動 内容 が 報 告 され、 実 際 に 活 動 している 方 の 体 験 談 を 共 有 し、 子 育 てをしている 母 親 への 支 援の 重 要 性 について 理 解 を 深 めた。第 85 回日 時 :2012 年 7 月 18 日 ( 水 )10:30 ~ 12:30場 所 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 講 義 室 Ⅰ , Ⅱ参 加 者 :6 名テ ー マ:『 共 同 研 究 ( 1) 「 立 会 分 娩 と 父 親 としての 意 識 について」』話 題 提 供 者 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 修 士 課 程 1 年 石 毛 遥 、 風 間 和 、 阪 無 勇 士 、 松 田 直 子内 容 : 第 83 回 『 父 親 の 子 育 て 参 加 について』の 議 論 を 踏 まえて、いつ 父 親 になったという 自 覚 が芽 生 えるかということについて 立 ち 会 い 分 娩 経 験 の 有 無 に 焦 点 を 当 てて 議 論 され、 研 究 中の 内 容 が 報 告 、 検 討 された。第 86 回日 時 :2012 年 9 月 26 日 ( 水 )10:30 ~ 12:30- 163 -


場 所 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 講 義 室 Ⅰ , Ⅱ参 加 者 :6 名テ ー マ:『 子 どもらしさを 育 む』話 題 提 供 者 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 修 士 課 程 1 年 阪 無 勇 士内 容 :「 自 分 らしさとは 何 か」「 子 どもらしさとは 何 か」について、 先 行 研 究 や 似 た 概 念 を 示 し、不 登 校 やキャリアとの 関 連 、 個 人 化 と 社 会 化 の 視 点 からの 考 察 を 話 された。また、 参 加 者の 実 際 の 現 場 での 体 験 をもとに 議 論 を 深 め 合 い、「その 子 らしさを 育 む」ことについて 理解 を 深 めた。第 87 回日 時 :2012 年 10 月 17 日 ( 水 )10:30 ~ 12:30場 所 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 講 義 室 Ⅰ , Ⅱ参 加 者 :8 名テ ー マ:『 愛 着 障 害 子 ども 時 代 を 引 きずる 人 々』話 題 提 供 者 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 修 士 1 年 石 毛 遥内 容 : 岡 田 尊 司 (2012) 先 生 のご 本 「 愛 着 障 害 子 ども 時 代 を 引 きずる 人 々」を 紹 介 された。 愛着 障 害 が 生 まれる 要 因 や 背 景 、 愛 着 スタイルごとの 特 徴 や 克 服 の 課 程 について 話 され、 不登 校 や 発 達 障 害 、 友 人 関 係 や 性 差 等 の 各 種 要 因 と 絡 めて 議 論 を 行 った。第 88 回日 時 :2012 年 11 月 21 日 ( 水 )10:30 ~ 12:30場 所 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 講 義 室 Ⅰ , Ⅱ参 加 者 :4 名テ ー マ:『 良 い 子 と 不 登 校 』話 題 提 供 者 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 修 士 課 程 1 年 風 間 和内 容 : 良 い 子 になる 原 因 や 背 景 、 不 登 校 との 関 連 、また 良 い 子 と 類 似 した 概 念 である 過 剰 適 応 について 報 告 され、 良 い 子 はどうしてそのような 方 法 を 身 に 着 けたのか、その 子 たちにどのように 気 づき 対 応 していくかについて 議 論 された。第 89 回日 時 :2012 年 12 月 19 日 ( 水 )10:30 ~ 12:30場 所 : 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 講 義 室 Ⅰ , Ⅱ ( 石 崎 一 記 )- 164 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 ,2013,165修 士 論 文 題 目 一 覧修 士 論 文 題 目 一 覧学 籍 番 号 氏 名 指 導 教 員 論 文 題 目10M102 大 久 保 啓 裕 市 村 操 一 防 衛 的 悲 観 者 と 不 安 の 関 連 について10M103 大 友 健 飯 田 順 子 ラテン 系 ニューカマーの 母 親 の 日 本 への 適 応 過 程10M105 小 川 康 代 田 村 節 子ADHD のある 子 どもは、 思 春 期 の 友 人 関 係 をどのように 体 験 するのか- 当 事 者 ( 成 人 期 )の 方 の 回 想 による 語 りを 通 して-10M106 小 野 坂 益 成 石 崎 一 記 バーンアウトによって 離 職 した 看 護 師 が 再 就 職 に 至 る 過 程 の 研 究10M107 川 島 正 義 市 村 操 一ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の 心 理 的 柔軟 性 の 効 果10M109 佐 々 木 ちひろ 田 村 節 子 「 母 親 が 働 いていること」に 対 する 学 童 保 育 児 の 体 験 過 程10M110 清 水 正 江 田 村 節 子10M111 鈴 木 健 一 郎 新 井 邦 二 郎10M112 鈴 木 ちひろ 田 村 節 子10M113 瀧 水 城 中 村 真 理母 親 は 子 どもにつらくあたってしまうことをどのように 感 じているのか~グループインタビューによる14 人 の 母 親 の 語 りの 分 析 から~大 学 生 の 主 張 性 と 適 応 について- 自 己 表 明 ・ 他 者 配 慮 と 外 的 適 応 ・ 内 的 適 応 との 関 係 -女 子 中 学 生 は 友 人 グループをどのように 捉 えているのか~ 大 学 生 の 回 想 を 通 して~発 達 障 害 児 を 養 育 する 保 護 者 のストレスと 自 己 成 長 感-サポートとのかかわり-10M114 橋 本 純 市 村 操 一 被 害 者 支 援 相 談 員 における 共 感 満 足 と 共 感 疲 労 について10M115 東 原 史 恵 田 村 節 子母 親 は 担 任 教 師 との 関 わりをどのように 体 験 しているのか- 通 常 学 級 に 在 籍 する 発 達 障 害 のある 子 どもの 支 援 において-10M116 宮 崎 雅 代 飯 田 順 子 就 労 におけるリアリティ・ショックと 認 知 特 性 の 関 係10M117 門 馬 恵 美 根 津 克 己過 剰 適 応 の 中 学 生 における 親 の 期 待 の 受 け 止 め 方- 動 的 家 族 画 を 用 いた 親 子 関 係 の 無 意 識 的 側 面 の 検 討 -10M118 横 野 めぐみ 市 村 操 一 認 知 行 動 療 法 介 入 による 睡 眠 の 改 善- 165 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 ,2013,166執 筆 規 程「 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 」 執 筆 規 定1. 論 文 は 刷 り 上 がり16,000 字 以 内 、 事 例 研 究 は20,000 字 以 内 を 原 則 とする。2.すべての 投 稿 論 文 には 日 本 語 による 要 約 をつける。 但 し 原 著 には、 英 語 による 要 約 もつける。 要 約は、 日 本 語 で800 字 、 英 語 で175 字 以 内 を 原 則 とする。また、 日 本 語 及 び 英 語 でそれぞれに5 項 目 以 内の Key words をつける。3. 本 誌 の 規 格 はB5 判 とし、 横 2 段 組 ( 各 段 22 文 字 38 行 )によるものとする。4. 原 稿 作 成 にはワードプロセッサーを 用 い、 図 表 および 写 真 を 含 め 印 刷 完 成 時 のレイアウトをした 上で、3 部 提 出 する。なお、 本 文 を 記 録 した 電 子 ファイル(テキストファイル)を 同 時 に 提 出 する。英 語 、 数 字 は 半 角 にする。 印 刷 所 では 文 字 データのみ 仕 用 するので、 文 字 サイズ、 傍 点 、 傍 線 などによる 修 飾 、 罫 線 などは 変 換 できない。プリントアウトは、A4 版 縦 置 きで 横 書 き、 全 角 で40×40で 打ち 出 す。5. 手 書 き 原 稿 は、 別 途 原 稿 入 力 にかかる 実 費 を 徴 収 する。6. 原 稿 の 書 き 出 しには、タイトル、 所 属 、 氏 名 を 明 記 する。7. 図 版 、 写 真 、その 他 などで 印 刷 上 とくに 費 用 を 要 するものは、 執 筆 者 の 負 担 とする。8. 原 稿 記 述 の 詳 細 については、 日 本 心 理 学 会 編 「 心 理 学 執 筆 ・ 投 稿 の 手 引 きけ」1991 年 改 訂 版 ( 以下 「 投 稿 の 手 引 き」という)の 第 3 章 「 原 稿 の 作 り 方 」を 参 照 すること。9. 原 稿 とは 別 に、 表 題 と 原 著 論 文 、 事 例 研 究 、 資 料 、 論 考 、 展 望 、 報 告 の 区 別 を 明 記 し、 紙 に 表 題 、著 者 名 、 所 属 機 関 名 、 並 びにそれらの 英 訳 を 記 す。10. 引 用 文 献 は 論 文 の 最 後 に、 著 者 名 のアルファベット 順 に 一 括 してあげる。11. 脚 注 は 通 し 番 号 をつけ、 本 文 中 にそれに 対 する 番 号 を 付 す。12. 投 稿 論 文 は 常 用 漢 字 、 現 代 かなづかいを 用 い、 簡 潔 、 明 瞭 に 記 述 する。13.カタカナは、 原 則 として 日 本 語 化 した 外 国 語 を 記 述 する 時 にのみ 用 いる。14. 本 文 中 の 外 国 語 の 使 用 はできるだけ 避 け、 外 国 人 名 、 適 切 な 日 本 語 のない 術 語 、 書 物 やテキスト 名などにのみ 用 いる。15. 数 字 は 原 則 として 算 用 数 字 を 用 いる。 度 量 衡 の 単 位 については、「 投 稿 の 手 引 き」を 参 照 すること。16. 略 語 は 一 般 に 用 いられているものに 限 る。ただし、 必 要 な 場 合 には、 初 出 の 時 にその 旨 を 明 記 する。17. 表 と 図 ・ 写 真 は、 表 1、 図 1のように 通 し 番 号 をつける。18. 表 の 題 はその 上 部 に、 図 ・ 写 真 の 題 は 下 部 に 書 く。 説 明 文 はいずれも 下 部 に 記 す。 表 、 図 ・ 写 真 の題 、 説 明 文 、 図 表 中 の 文 字 は 英 文 にしてもよい。19. 校 正 は、 初 稿 を 著 者 、 再 校 以 降 は 編 集 委 員 会 で 行 う。- 166 -


東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 13 号 ,2013,167編 集 規 程編 集 委 員石 﨑 一 記 市 村 操 一 勝 倉 孝 治「 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 」 編 集 規 定1. 本 誌 は、 東 京 成 徳 大 学 大 学 院 心 理 学 研 究 科 が 発 行 する、 臨 床 心 理 学 とその 近 接 領 域 の 研 究 と 報 告 等を 掲 載 する 機 関 誌 であり、 年 1 回 発 行 する。2. 本 誌 は、 原 則 として 心 理 学 研 究 科 の 構 成 員 の 研 究 論 文 を 掲 載 する。3. 本 誌 は、 原 著 論 文 、 事 例 研 究 、 資 料 、 論 考 、 展 望 、 報 告 等 を 掲 載 する。4. 原 著 論 文 、 事 例 研 究 は 未 公 刊 のものに 限 り、 編 集 委 員 会 において 査 読 審 査 され、その 掲 載 が 決 定 される。その 際 、 倫 理 上 の 問 題 について 十 分 配 慮 されなければならない。5. 掲 載 される 論 文 等 は、 別 に 定 める「 執 筆 規 定 」によって 執 筆 されたものに 限 る。6. 執 筆 者 には、 抜 刷 50 部 を 贈 呈 する。それを 越 える 分 の 費 用 については、 執 筆 者 の 負 担 とする。7. 論 文 等 の 題 目 の 提 出 期 限 は 毎 年 9 月 30 日 、 原 稿 の 提 出 期 限 は11 月 30 日 とする。8. 本 誌 の 編 集 は、「 東 京 成 徳 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 」 編 集 委 員 会 の 責 任 のもとに 行 われる。9. 編 集 委 員 は 若 干 名 とし、 研 究 科 委 員 会 の 議 を 経 て 科 長 が 委 嘱 する。10. 単 著 および 共 著 における 筆 頭 執 筆 者 としての 論 文 等 は、 原 則 として 構 成 員 1 人 につき1 編 とする。11. 構 成 員 の 共 同 研 究 者 を 執 筆 者 とする 論 文 等 は、その 指 導 にあたる 構 成 員 が 共 著 者 である 場 合 に 限 り認 められる。12. 筆 頭 執 筆 者 とする 論 文 等 は、 原 則 として 共 著 者 である 構 成 員 1 人 につき1 編 限 りとする。13.その 他 編 集 上 疑 義 の 生 じた 時 は、その 都 度 編 集 委 員 会 において 検 討 し、 解 決 するものとする。付 則 この 規 定 は、 平 成 20 年 4 月 1 日 より 施 行 される。- 167 -


東 京 成 徳 大 学臨 床 心 理 学 研 究13 号 平 成 25 年 3 月 31 日 発 行発 行 ・ 編 集東 京 成 徳 大 学 大 学 院 心 理 学 研 究 科〒114-0002 東 京 都 北 区 王 子 3-23-2Tel. 03-3927-4116( 大 学 院 心 理 学 研 究 科 )印 刷 ・ 製 本 : 三 陽 メディア 株 式 会 社Tel. 03-5679-0639 Fax. 03-5679-3610

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