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真田 陽一郎 - 慶應義塾大学SFC研究所

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2007 年 度 森 泰 吉 郎 記 念 研 究 振 興 基 金 研 究 成 果 報 告 書<br />

慶 應 義 塾 大 学 政 策 ・メディア 研 究 科 後 期 博 士 課 程 2 年<br />

真 田 陽 一 郎 (さなだ よういちろう)<br />

sanada@sfc.keio.ac.jp<br />

1. 研 究 テーマ<br />

主 題 : 大 型 インフラ 開 発 における 移 転 住 民 に 対 する 生 活 基 盤 の 再 建 へ 向 けた 支 援 モデルの 検 討<br />

副 題 :インドネシアにおけるダム 建 設 に 伴 う 住 民 移 転 を 事 例 に<br />

2. 研 究 の 概 要 と 目 的<br />

本 研 究 は、 日 本 の ODA( 政 府 開 発 援 助 )によって 進 められる 大 型 インフラ 開 発 に 伴 い 発 生 する 住 民 移 転<br />

に 関 し、 移 転 後 の 生 活 基 盤 再 建 を 支 援 する 際 の 有 効 な 支 援 モデルの 構 築 を 目 指 すものである。<br />

この 支 援 モデルの 構 築 に 向 けて、 具 体 的 に 次 の 3 つの 作 業 を 柱 とし、 研 究 を 実 施 する。<br />

第 1 に、インドネシア 国 スマトラ 島 に 建 設 されたコトパンジャン・ダムを 事 例 に、 移 転 後 、 生 活 基 盤 の 再<br />

建 を 成 し 得 た 事 例 および 再 建 が 進 んでいない 事 例 からそのメカニズムを 抽 出 し、 第 2 に、そのメカニズムを<br />

同 国 スラウェシ 島 に 建 設 されたビリビリ・ダムおよび 西 ジャワ 州 に 建 設 されたチラタ・ダムの 事 例 へ 適 用 を<br />

試 みることでその 共 通 項 を 抽 出 し、 第 3 に、その 正 当 性 を 図 ると 同 時 に、 既 存 の 村 落 開 発 アプローチとの 異<br />

質 性 を 確 認 しながら、 生 活 基 盤 再 建 のための 支 援 モデルを 構 築 していくものである。<br />

3. 研 究 の 背 景 と 問 題 関 心 の 所 在<br />

3-1. 当 該 分 野 における 動 向<br />

日 本 のODAの 歴 史 は、1950 年 代 に 実 施 された 戦 後 の 賠 償 、 準 賠 償 にその 萌 芽 を 見 ることができる。も<br />

っとも、その 実 施 は、1954 年 に 日 本 がコロンボ・プランに 参 加 したことにより 本 格 化 し、その 量 的 拡 大 を<br />

背 景 に、1961 年 には 海 外 経 済 協 力 基 金 (OECF) 1 が、1963 年 には 海 外 技 術 協 力 事 業 団 (OTCA) 2 が 設<br />

立 されたことで、 今 日 の 実 施 体 制 の 基 礎 が 構 築 された 3 。 特 に、 日 本 がOECD( 経 済 協 力 開 発 機 構 )へ 加 盟<br />

し 貿 易 収 支 が 黒 字 に 転 じた 1964 年 以 降 、ODAの 量 的 拡 大 が 顕 著 化 し、1990 年 代 には、 世 界 最 大 の 援 助<br />

供 与 国 となった 4 。<br />

他 の 援 助 国 との 比 較 において、これまで 日 本 が 実 施 してきたODAの 特 徴 として、 高 い 借 款 比 率 とインフ<br />

ラ 支 援 ということが 挙 げられる 5 。2000 年 初 頭 には、この 借 款 およびインフラ 重 視 の 政 策 が、 他 の 援 助 国<br />

から 債 務 貧 困 国 の 多 額 の 債 務 救 済 を 招 いたとの 批 判 がなされた 6 。また、 大 型 インフラ 開 発 が 及 ぼす 自 然 環<br />

境 への 影 響 、 住 民 移 転 などに 代 表 される 社 会 環 境 への 影 響 などへの 懸 念 が、 具 体 的 なプロジェクトを 通 じ<br />

活 発 に 議 論 されるようになった 7 。<br />

他 方 、 近 年 においては、インフラ 支 援 に 関 し、その 効 果 を 再 評 価 する 動 きが 顕 著 化 している。 世 界 銀 行<br />

1<br />

1999 年 10 月 に、 旧 日 本 輸 出 入 銀 行 と 統 合 され、 現 在 は、 国 際 協 力 銀 行 (JBIC)。<br />

2<br />

1974 年 8 月 、 旧 海 外 移 住 事 業 団 と 統 合 され 国 際 協 力 事 業 団 (JICA)が 設 立 された。その 後 、2003 年 10 月 に、 独 立 行 政 法<br />

人 化 され、 現 在 は、 国 際 協 力 機 構 (JICA)。<br />

3<br />

渡 辺 利 夫 、 三 浦 有 史 『ODA( 政 府 開 発 援 助 )』 中 公 新 書 、2003 年 、8‐9 頁 。<br />

4<br />

草 野 厚 『ODAの 正 しい 見 方 』ちくま 新 書 、1997 年 、49‐50 頁 および 84‐86 頁 。 現 在 は、アメリカについで 第 2 位 。<br />

5<br />

渡 辺 、 三 浦 前 掲 書 、36 頁 。<br />

6<br />

2003 年 に 出 された『 対 日 援 助 審 査 (DAC 勧 告 )』では、「 債 務 貧 困 国 へのローンの 供 与 が 多 額 の 債 務 救 済 を 招 いた 経 験 から 得<br />

られた 教 訓 を、 今 後 の 貸 付 政 策 に 生 かすべきである」との 勧 告 がなされている。<br />

7<br />

例 えば、インドのナルマダ・ダムやインドネシアのコトパンジャン・ダム、あるいは、 中 国 の 三 峡 ダムなどの 事 例 。


が 2003 年 に 打 ち 出 した 行 動 計 画 8の 中 では、ミレニアム 開 発 目 標 (MDGs)の 達 成 の 鍵 となるのがインフ<br />

ラ 支 援 であるとの 見 解 が 示 され、また、JICAが 2003 年 に 取 り 纏 めたプロジェクト 研 究 9の 中 でも、なぜ<br />

今 インフラ 支 援 が 重 要 なのかが 示 され、 過 去 の 取 り 組 みにおける 反 省 を 示 しつつ、 今 後 も 積 極 的 に 取 り 組<br />

んでいく 姿 勢 が 打 ち 出 されている。これら 日 本 の 取 り 組 みに 関 し、2003 年 、DAC( 開 発 援 助 委 員 会 ) 10 か<br />

ら 出 された 報 告 書 11では、 既 述 のとおり 債 務 貧 困 国 等 の 問 題 点 を 指 摘 しながらも、 日 本 のインフラ 支 援 に<br />

ついて、 経 済 成 長 と 貧 困 削 減 に 関 するDACの 新 しい 活 動 で 指 導 的 な 役 割 を 果 たしていると 評 し、 今 後 の 日<br />

本 の 取 り 組 みに 対 しては、 期 待 を 寄 せている。<br />

3-2. 日 本 の ODA 実 施 体 制 の 変 革<br />

1960 年 代 にその 実 施 体 制 の 基 礎 が 築 かれて 以 来 の 大 きな 改 革 が 実 施 されようとしている。 小 泉 内 閣 が 進<br />

める 政 府 系 金 融 機 関 の 統 廃 合 問 題 に 関 係 し、これまで 円 借 款 ( 有 償 資 金 協 力 )の 実 施 機 関 であった 国 際 協<br />

力 銀 行 が 整 理 され、JICA へその 業 務 が 移 譲 される 見 通 しとなった。 更 には、これまで 外 務 省 が 実 施 して<br />

いた 無 償 資 金 協 力 に 関 しても、 原 則 、JICA<br />

が 担 うことにより、 円 借 款 ( 有 償 資 金 協 力 )、<br />

無 償 資 金 協 力 、 技 術 協 力 の 一 元 化 が 図 られ<br />

ることとなった。<br />

このODA 実 施 体 制 の 変 革 が 齎 す 影 響 は、<br />

非 常 に 大 きいものと 推 測 される。 新 ODA 大<br />

綱 の 前 文 で 謳 われている 戦 略 性 、 機 動 性 、<br />

透 明 性 、 効 率 性 の 確 保 に 大 きく 寄 与 すると<br />

期 待 されるほか、 既 述 の 円 借 款 供 与 による<br />

大 型 インフラ 開 発 に 伴 い 発 生 する 自 然 環 境<br />

あるいは 社 会 環 境 に 与 える 負 の 影 響 に 関 し、<br />

今 後 、JICA 内 部 で 新 たな 開 発 課 題 として 取<br />

り 組 みが 始 まることが 予 想 されている 12<br />

出 所 : 草 野 厚 『JICA 職 員 対 象 講 演 会 配 布 資 料 』2006 年<br />

3-3.ダム 建 設 を 事 例 として 住 民 移 転 問 題 を 扱 う 正 当 性<br />

大 型 インフラ 開 発 に 伴 う 住 民 移 転 問 題 を 研 究 のテーマとして 扱 う 上 で、その 最 も 顕 著 な 事 例 は、ダム 開<br />

発 であると 認 識 している。ダム 開 発 は、その 規 模 の 大 きさから 1 案 件 あたりの 移 転 を 強 いられる 住 民 の 数<br />

が 圧 倒 的 に 多 く、 世 界 ダム 委 員 会 (WCD) 13 の 報 告 書 14によれば、これまで 全 世 界 で 4,000~8,000 万 人 が<br />

ダム 建 設 により 立 ち 退 きを 強 いられ、 世 界 銀 行 融 資 案 件 に 占 める 立 退 き 者 の 実 に 65%がダム 建 設 によるも<br />

のであったという。また、ダムが 建 設 される 流 域 で 生 活 をしている 住 民 の 多 くは、その 水 源 から 生 活 の 糧<br />

を 得 ている 場 合 が 多 い。 従 って、 移 転 に 伴 い 移 転 住 民 が 生 活 基 盤 の 再 建 を 図 る 際 には、 他 事 例 と 比 較 して<br />

もより 多 くの 困 難 が 伴 うことは 想 像 に 難 くない。<br />

8<br />

世 界 銀 行 『Infrastructure Action Plan』2003 年 。<br />

9<br />

JICA 国 際 協 力 事 業 団 『ひとびとの 夢 を 叶 えるインフラへ』2004 年 。<br />

10<br />

DACは、 貿 易 委 員 会 、 経 済 政 策 委 員 会 と 並 ぶOECD( 経 済 開 発 協 力 機 構 )の 三 大 委 員 会 の 一 つで、 援 助 供 与 国 の 間 で、 援 助<br />

政 策 について 意 見 調 整 を 行 う 国 際 フォーラムである。<br />

11<br />

DAC『 対 日 援 助 審 査 (DAC 勧 告 )』2003 年 。<br />

12<br />

JICA 国 際 協 力 事 業 団 総 務 部 および 農 村 開 発 部 職 員 に 対 するインタビュー(2006 年 3 月 21 日 )による。<br />

13<br />

世 界 ダム 委 員 会 (WCD : World Commission on Dam)は、1998 年 に 世 界 銀 行 と 世 界 自 然 保 護 連 合 (ICUN)が 中 心 となっ<br />

て 設 立 された 機 関 であり、その 目 的 は、1ダム 開 発 の 有 効 性 を 検 討 し 水 資 源 開 発 、エネルギー 開 発 の 代 替 案 を 評 価 し、2ダム<br />

の 計 画 、 設 計 、 建 設 、モニタリング、 運 用 、 廃 止 に 関 する「 国 際 的 に 受 け 入 れられる 基 準 と 指 針 」を 作 成 し、 将 来 の 意 志 決 定<br />

に 助 言 を 与 えること、とされている。<br />

14<br />

世 界 ダム 委 員 会 『World Commission on Dams Final Report』2000 年 。


3-4.これまでの 研 究 成 果 と 残 された 課 題<br />

自 身 の 修 士 課 程 における 研 究 では、インドネシア 共 和 国 スマトラ 島 に 建 設 されたコトパンジャン・ダム<br />

により 発 生 した 住 民 移 転 を 事 例 に、 移 転 後 に 生 じている 生 活 状 況 の 格 差 というものがどのような 要 因 によ<br />

り 発 生 したのかということに 関 し、 住 民 個 々のエンパワーメントという 概 念 15に 着 目 しつつ、インタビュ<br />

ー 調 査 を 通 じ 検 討 を 加 えた。その 結 果 、「 気 づき」「 能 力 開 発 」「 能 力 を 発 揮 する 場 の 獲 得 」というエンパ<br />

ワーメントを 構 成 する 3 要 素 が 深 く 関 係 していることが 確 認 された。このことは、これまで 人 権 、 環 境 、<br />

政 府 補 償 あるいはグッド・ガバナンス 16 といった 観 点 から 論 じられてきた 当 該 問 題 に 対 し、エンパワーメ<br />

ントというもう 一 つの 重 要 な 視 点 を 提 示 するものであった。<br />

この 研 究 成 果 は、 人 権 、 環 境 、 政 府 補 償 あるいはグッド・ガバナンスに 対 する 対 処 のみでは、 移 転 住 民<br />

の 生 活 基 盤 の 再 建 は 十 分 には 進 まないことを 示 している。しかしながら、この 研 究 の 主 眼 を 生 活 状 況 の 格<br />

差 の 原 因 を 明 らかにするということを 主 眼 としていたために、そのメカニズムを 解 明 するまでには 至 って<br />

いない。 今 後 は、これまでの 研 究 で 明 らかにした 生 活 基 盤 の 再 建 が 進 んだ 事 例 および 進 まなかった 事 例 か<br />

ら 抽 出 された 要 因 を 細 分 化 し、そのメカニズムを 解 明 していくことが 重 要 であると 認 識 している。さらに<br />

そこで 得 られた 成 果 を 他 事 例 へ 適 用 していくことで、 移 転 住 民 の 生 活 基 盤 の 再 建 を 支 援 するための 方 法 論<br />

を 検 討 していくところまでが、 一 連 の 研 究 射 程 と 考 えている。<br />

4. 研 究 の 手 法<br />

4-1. 分 析 の 枠 組 み<br />

既 述 のとおり、 修 士 課 程 における 研 究 では、エンパワーメントを 構 成 する 3 要 素 をその 分 析 の 枠 組 みと<br />

して 採 用 している。これは 生 活 状 況 の 格 差 の 要 因 を 端 的 に 説 明 するのに 優 れているためであったが、 本 研<br />

究 の 目 的 の1つであるメカニズムを 解 明 するに 際 しては、 多 少 、 単 純 化 されすぎている。<br />

そこで 本 研 究 においては、 国 連 開 発 計 画 (UNDP)や 英 国 国 際 開 発 省 (DFID)などで 採 用 されている<br />

SL(Sustainable Livelihoods: 持 続 的<br />

な 生 計 )フレームワーク 17 の 一 部 、 生<br />

計 資 産 (Livelihood Assets)の 分 析 枠<br />

組 みを 用 いることを 想 定 している。<br />

この 分 析 枠 組 みは、 特 に 貧 困 層 の 生 計<br />

をよりよく 理 解 し、 生 計 の 持 続 性 を 多<br />

面 的 に 検 討 するためのツールとして、<br />

5 つの 側 面 、1Human Capital( 人 的<br />

資 本 )、2Natural Capital( 自 然 資 本 )、<br />

3Financial Capital( 金 融 資 本 )4<br />

Social Capital( 社 会 関 係 資 本 )、5<br />

Physical Capital( 物 的 資 本 )、から 構<br />

出 所 :DFID『Sustainable Livelihoods Guidance Sheets』1999 に 筆 者 が 一 部 加 筆<br />

成 されており、この 枠 組 みに 基 づく 分 析 により 多 様 な 要 素 の 相 関 としての 生 計 の 成 り 立 ちが 総 合 的 に 把 握<br />

15<br />

佐 藤 寛 編 『 援 助 とエンパワーメント‐ 能 力 開 発 と 社 会 環 境 変 化 の 組 み 合 わせ‐』アジア 経 済 研 究 所 、2005 年 によると、エ<br />

ンパワーメントという 概 念 はまだ 共 有 された 定 義 はないとしながらも、「きづき」「 能 力 開 発 」「 能 力 を 発 揮 する 場 の 獲 得 」とい<br />

う 3 要 素 が 共 通 土 台 となり 得 ると 指 摘 している。<br />

16<br />

黒 部 邦 雄 『 開 発 途 上 国 におけるガバナンスの 諸 課 題 ‐ 理 論 と 実 践 ‐』アジア 経 済 研 究 所 、2004 年 によれば、1950 年 代 以 降<br />

の 開 発 戦 略 の 失 敗 、 即 ち、 援 助 資 金 ( 有 償 ・ 無 償 )、 技 術 協 力 などが 必 ずしも 有 効 、 効 率 的 かつ 公 平 に 使 われてこなかったこと<br />

へのドナー 側 の 苛 立 ちから、 被 援 助 国 側 の 政 治 家 、 官 僚 、ビジネスマン、さらに 先 進 国 側 も 巻 き 込 んだ 腐 敗 ・ 汚 職 の 蔓 延 に 対<br />

し、その 防 止 が 必 要 だという 考 えから 生 まれた 概 念 であるとしている。<br />

17<br />

JICA 国 際 協 力 総 合 研 修 所 編 著 『 援 助 の 潮 流 がわかる 本 ‐ 今 、 援 助 で 何 が 焦 点 となっているのか‐』 国 際 協 力 出 版 会 、2003<br />

年 、180‐181 頁 によると、SLの 概 念 とアプローチは、これまでに 試 みられてきた 農 村 開 発 や 参 加 型 アプローチの 諸 概 念 を 修<br />

正 、 統 合 し、 生 計 論 や 社 会 関 係 資 本 論 などの 理 論 的 枠 組 みを 用 いて 整 理 したものであるとしている。


され、その 上 で、 最 も 効 果 的 な 関 与 領 域 が 特 定 できるとされている 18 。<br />

しかしながらこの 生 計 資 産 の 分 析 枠 組 のみでも、 関 係 領 域 を 特 定 することは 可 能 であっても 生 活 基 盤 再<br />

建 のメカニズムを 考 察 するには 十 分 でないものと 推 測 される。そこでこの 既 存 の 分 析 枠 組 みに、2 つの 時<br />

間 の 概 念 を 加 えることを 検 討 している。これを 端 的 に 説 明 するならば、まず 第 1 の 時 間 の 概 念 は、 生 活 基<br />

盤 再 建 の 成 功 事 例 が 伝 播 するということである。つまり、 村 内 の 第 1のグループが 生 計 資 産 を 確 立 し、そ<br />

の 事 例 を 自 身 の 生 活 基 盤 の 再 建 にフィ<br />

ードバックし 生 計 資 産 を 確 立 していく<br />

第 2 グループが 生 まれる、しかしこの<br />

伝 播 はあるところで 機 能 を 止 め、 生 活<br />

基 盤 の 再 建 が 進 まないグループが 取 り<br />

残 される、といった 一 連 の 流 れが 第 1<br />

の 時 間 の 概 念 である。<br />

第 2 の 時 間 の 概 念 としては、 各 グル<br />

ープの 5 つの 関 係 領 域 の 時 系 列 的 順 位<br />

である。それぞれのグループで 生 計 資<br />

産 が 確 立 する 過 程 を、5つの 側 面 の 関<br />

係 性 を 時 系 列 に 抽 出 することで、 各 グ<br />

ループの 生 計 資 産 の 確 立 メカニズムを<br />

示 すことが 可 能 となると 認 識 している。<br />

出 所 : 筆 者 作 成<br />

4-2. 本 研 究 で 扱 う3つの 事 例<br />

本 研 究 で 扱 う 事 例 としては、 次 の 3 つを 想 定 している。<br />

ダム 名 所 在 地 完 成 年 (ダム 本 体 ) ドナー<br />

1 コトパンジャン・ダム スマトラ 島 中 部 1996 年 日 本<br />

2 ビリビリ・ダム スラウェシ 島 南 部 2001 年 日 本<br />

3 チラタ・ダム ジャワ 島 西 部 1988 年 世 界 銀 行<br />

コトパンジャン・ダムに 関 しては、 修 士 課 程 における 研 究 でも 取 り 扱 ってきた 事 例 である。この 1990<br />

年 代 に 建 設 された 事 例 を 基 本 に、2000 年 代 の 事 例 としてビリビリ・ダムを、1980 年 代 の 事 例 として、チ<br />

ラタ・ダムを 加 えた。これは、1997 年 に 東 南 アジアを 襲 った 通 貨 危 機 による 経 済 的 な 要 因 を 含 め、 本 研 究<br />

の 最 終 的 な 目 標 である 支 援 モデルを 構 築 するに 際 し、その 汎 用 性 を 担 保 する 上 で 特 に 重 要 であるとの 認 識<br />

からである。また、チラタ・ダムに 関 しては、 世 界 銀 行 が 主 立 って 借 款 供 与 した 案 件 であり、ドナー 間 の<br />

違 いというものがあるとするならば、きわめて 興 味 深 い 考 察 が 得 られる 可 能 性 がある。<br />

4-3. 分 析 の 手 法 と 対 象<br />

既 述 の 分 析 枠 組 みを 用 いて 各 側 面 の 要 因 を 抽 出 する 際 には、 参 与 観 察 19および 半 構 造 型 インタビュー20 を<br />

基 本 にその 手 法 を 検 討 したい。 具 体 的 には、 本 研 究 で 扱 う 3 つの 事 例 であるインドネシア 共 和 国 スマトラ<br />

島 中 部 のコトパンジャン・ダム 周 辺 村 、スラウェシ 島 南 部 のビリビリ・ダム 周 辺 村 およびジャワ 島 西 部 チ<br />

ラタ・ダム 周 辺 村 に、それぞれ 数 週 間 程 度 居 住 し 調 査 を 進 めることを 想 定 している。また 半 構 造 型 インタ<br />

18<br />

JICA 国 際 協 力 総 合 研 修 所 編 著 、 前 掲 書 、175‐176 頁 。<br />

19<br />

JICA 国 際 協 力 総 合 研 修 所 『 参 加 型 評 価 基 礎 研 究 国 際 協 力 と 参 加 型 評 価 』2001 年 、250‐251 頁 によると、 参 与 観 察 とは、<br />

コミュニティに 入 り 込 み 住 民 とともに 日 々の 生 活 を 送 り、 社 会 参 加 しながら 調 査 する 手 法 であるとされている。<br />

20<br />

JICA 国 際 協 力 総 合 研 修 所 前 掲 書 、247‐248 頁 によると、 半 構 造 型 インタビューとは、 大 まかな 質 問 項 目 は 決 っているもの<br />

の、 質 問 の 順 番 や 詳 細 は 決 定 せずに 日 常 会 話 を 通 じて 質 問 を 展 開 し、 必 要 に 応 じて 詳 細 な 質 問 へと 掘 り 下 げていくという 手 法<br />

であるとされている。


ビューという 手 法 を 採 用 することで、 得 られた 情 報 を 定 量 化 することにも 留 意 したい。<br />

分 析 の 対 象 の 選 定 に 際 しては、 各 村 の 政 治 的 ・ 宗 教 的 指 導 者 、 一 般 の 村 民 、あるいは 性 別 、 年 齢 といっ<br />

たファクターを 考 慮 し、 村 落 のコミュニティの 構 成 要 員 を 多 角 的 に 捉 えていきたい。<br />

5. 研 究 の 意 義 と 期 待 される 成 果<br />

本 件 研 究 のテーマである 移 転 住 民 の 生 活 基 盤 再 建 に 対 する 支 援 政 策 に 関 しては、 世 界 の 主 だったドナーに<br />

まだその 蓄 積 はない。これは、 世 界 銀 行 が 中 心 となって 設 立 された 世 界 ダム 委 員 会 の 議 論 にも 顕 著 に 現 れて<br />

いるように、あくまで 貸 し 手 であるドナー 側 の 供 与 条 件 としての 環 境 配 慮 や 社 会 配 慮 というものに 焦 点 があ<br />

てられており、 移 転 住 民 の 生 活 基 盤 再 建 への 支 援 の 方 策 などに 関 しては、 相 手 国 政 府 のガバナンスという 言<br />

葉 に 置 き 換 えられ、 主 体 的 に 取 り 組 む 姿 勢 は 打 ち 出 されていない。これはある 意 味 、 実 質 的 に 対 応 可 能 なス<br />

キームを 持 ち 合 わせていない 世 界 銀 行 としては、いわば 止 むを 得 ないこととも 理 解 できる。このことは、ア<br />

ジア 開 発 銀 行 、あるいはこれまでの 国 際 協 力 銀 行 に 関 しても 例 外 ではなかったと 推 測 できる。しかしながら、<br />

多 くの 熱 心 な NGO のアドボカシー 運 動 に 代 表 されるとおり、 現 在 のインフラ 開 発 をめぐる 環 境 は、それを<br />

許 さないものとなっていることもまた 事 実 である。<br />

インフラ 開 発 が 貧 困 削 減 に 寄 与 する 可 能 性 が 認 識 される 潮 流 にあり、また、その 分 野 で 日 本 に 対 する 世 界<br />

的 な 期 待 が 存 在 する 中 、 今 般 の ODA 実 施 体 制 の 変 化 を 踏 まえ、 移 転 住 民 の 生 活 基 盤 の 再 建 を 新 たな 開 発 課<br />

題 と 位 置 づけ 取 り 組 んでいくことの 意 義 は 大 きい。その 点 において 本 研 究 が 持 つ 意 義 が 確 認 できよう。 更 に、<br />

その 方 法 として、 具 体 的 なモデルを 構 築 し 提 示 していくことで、 当 該 分 野 に 与 え 得 る 実 質 的 な 成 果 というも<br />

のも 期 待 できると 認 識 している。<br />

6. フィールドワーク 計 画<br />

現 時 点 で 想 定 される 博 士 課 程 全 体 の 研 究 スケジュールに 関 しては、 以 下 の 通 りである。 本 年 度 は、この 研<br />

究 計 画 に 沿 い、コトパンジャン・ダム 周 辺 村 およびビリビリ・ダム 周 辺 村 にてフィールドワークを 実 施 する。<br />

研 究 スケジュール<br />

2006 年 度 秋 学 期 村 落 開 発 と 生 活 基 盤 再 建 の 概 念 整 理 / 分 析 枠 組 み・ 研 究 手 法 の 再 検 討<br />

2007 年 度 春 学 期 フィールドワーク(コトパンジャン・ダム)/データ 整 理 /メカニズムの 解 析<br />

2007 年 度 秋 学 期 フィールドワーク(ビリビリ・ダム)/データ 整 理 /メカニズムの 適 用<br />

2008 年 度 春 学 期 フィールドワーク(チラタ・ダム)/データ 整 理 /メカニズムの 適 用<br />

2007 年 度 フィールドワーク 計 画 ( 森 基 金 助 成 申 請 対 象 フィールドワーク)<br />

期 間<br />

フィールドワーク 対 象 地 域<br />

2007 年 08 月 上 旬 から 3 週 間 インドネシア 共 和 国 リアウ 州 コトパンジャン・ダム 周 辺 村 (2 カ 村 )<br />

2007 年 12 月 中 旬 から 3 週 間 インドネシア 共 和 国 南 スラウェシ 州 ビリビリ・ダム 周 辺 村 (4 カ 村 )<br />

以 上

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