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ビザンティン聖堂の儀礼化研究序説 - 早稲田大学リポジトリ

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130<br />

れ、「 審 判 」 図 の 中 心 的 モティーフともなる。 上<br />

引 のアイヴァル・キリセ 北 礼 拝 堂 ( 図 8)では、<br />

中 央 に「マイエスタス」、セラフィムから 炭 火 と<br />

巻 物 を 受 け 取 るイザヤとエゼキエルを 配 するが、<br />

大 天 使 の 代 わりにマリアと 洗 礼 者 を 加 えた 点 で<br />

南 礼 拝 堂 のそれと 異 なる。このように「マイエ<br />

コンポジット<br />

スタス」の 枠 組 みを 借 りた「 複 合 的 デイシス」<br />

はやがて 旧 約 ・ 典 礼 的 な 文 脈 から 離 れ、11 世 紀<br />

にはギョレメの 円 柱 式 聖 堂 ( 図 9) 17 が 示 すよう<br />

に 独 立 した 主 題 としてアプシスを 飾 るようになる。<br />

他 方 、カッパドキア 以 外 の 地 域 に 目 を 移 せば、<br />

聖 母 子 像 をアプシスに 配 するプログラムが 定 型 化 している。アプシスに 配 される 聖 母 子 像 のイコ<br />

ノグラフィは 聖 母 子 坐 像 が 30 例 と 最 も 多 く、プラティテラ 型 ( 胸 にキリスト・インマヌエルの<br />

メダイヨンを 伴 うブラケルニティッサ 型 の 亜 種 )8 例 、ブラケルニティッサ 型 7 例 、オディギト<br />

リア 4 例 、キリオティッサ 型 2 例 、 不 明 が 5 例 である。 前 章 で 既 に 見 たように、「アプシス= 聖<br />

母 子 像 」というプログラムは 6 世 紀 に 萌 芽 するが、これが 定 型 化 したのはイコノクラスム(726<br />

~ 843 年 )が 終 結 した 9 世 紀 以 後 のことである。<br />

図 9 カランルク・キリセ 11 世 紀 中 葉<br />

ギョレメ<br />

周 知 の 通 り、イコノクラスムでは 人 像 表 現 の 根 拠 となるキリストの 人 性 、すなわち 神 の 受 肉 が<br />

争 点 となった。 宗 教 的 画 像 を 支 持 する 勢 力 の 論 点 をまとめると 次 のようになろう。 神 の 受 肉 によ<br />

り 不 可 視 の 神 は 目 に 見 えるようになった。それゆえ、 聖 像 の 制 作 は 神 の 受 肉 を 証 しする 行 為 であ<br />

る。かつ、キリストの 到 来 により 旧 約 の 予 型 は 成 就 し、 旧 き 契 約 の 時 代 は 終 焉 を 迎 えた。かつて<br />

は 天 使 や 預 言 者 にしか 見 られなかった 神 を 画 像 によって 見 ることができる。<br />

こうした 聖 像 擁 護 派 の 論 調 は 旧 約 的 な「 顕 現 」 図 像 の 重 要 性 を 減 じせしめる 結 果 となった 18 。<br />

さらに、イコノクラスムに 先 立 つ 692 年 のクィニセクトゥム 公 会 議 において、キリストを 十 字 架<br />

や 小 羊 といった 象 徴 的 な 手 段 や 旧 約 の 予 型 によってではなく 人 性 に 則 した 姿 で 描 くよう 定 められ<br />

た 19 が、この 規 定 ――「 正 統 信 仰 の 勝 利 」とはこの 規 定 の 再 確 認 に 他 ならない――もアプシスに「 顕<br />

現 」を 配 するプログラムの 制 約 となった。 先 のカッパドキアの 作 例 は 修 道 院 的 な 環 境 にあって 神<br />

テオーリア<br />

の 観 想 への 直 接 的 な 要 求 により 保 存 された 古 き 伝 統 の 残 滓 なのである。<br />

イコノクラスムの 神 学 論 争 を 経 て 旧 約 的 な「 顕 現 」 図 像 への 需 要 が 失 われていく 一 方 で、キリ<br />

17<br />

Ibid., pp. 122-125, 128-131, 132-135, pls. 75-76, 80-81, 82-84. 円 柱 式 聖 堂 の 聖 所 のプログラムについては<br />

菅 原 裕 文 、 益 田 朋 幸 「カッパドキア 円 柱 式 聖 堂 群 の 装 飾 プログラムと 制 作 順 」『 美 術 史 研 究 』 第 50 号 (2013 年 )<br />

45-79 頁 を 参 照 されたい。<br />

18<br />

辻 佐 保 子 「エゼキエルとイザヤの 幻 想 ―コプト 修 道 院 ならびにカッパドキア 岩 窟 教 会 アプシス 装 飾 の 一 主<br />

題 と 典 礼 の 関 係 」 前 掲 書 、62-69 頁 。<br />

19<br />

ed. by G. D. Mansi, Sacrorm conciliorum nova et amplissima collectio, vol.11., Florence, 1759, cols. 977-980.

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