ビザンティン聖堂の儀礼化研究序説 - 早稲田大学リポジトリ
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140<br />
ンティンのマリア 図 像 の 選 択 について、ここで<br />
は 上 記 の 問 題 を 指 摘 するにとどめ、 別 稿 をたて<br />
て 検 討 することにする。<br />
後 期 のアプシスにおけるもう 一 つの 変 化 は<br />
アムノス<br />
メ リ ス モ ス<br />
「 聖 羔 」、または「 聖 体 の 分 割 」と 呼 ばれる 図 像<br />
が 導 入 されたことである。 中 期 ビザンティンに<br />
おいてコンク 下 部 の 主 教 群 像 が 厳 正 な 正 面 観 か<br />
ら 典 礼 を 捧 げる 四 分 の 三 正 面 観 に 変 化 したこと<br />
に 伴 い、その 中 心 モティーフとして「エティマ<br />
シア」や 祭 壇 が 加 えられたことは 既 に 述 べた。<br />
この 祭 壇 の 上 に 犠 牲 たる 幼 子 キリストが 加 えら<br />
れたのである。 現 存 最 古 の「アムノス」は 中 期<br />
のクルビノヴォ( 図 18) 41 に 遡 る。ここでは 祭 壇<br />
布 の 上 に 直 接 幼 子 キリストが 寝 かされ、 右 手 で<br />
祝 福 する。 幼 子 の 腹 部 は 十 字 架 の 刺 繍 が 施 され<br />
たヴェールで 覆 われる。 幼 子 の 後 方 、 採 光 部 の<br />
プロスフォラ<br />
真 下 に 聖 餅 を 載 せたパテナを、 幼 子 の 枕 元 にワ<br />
インを 入 れるカリスが 配 されている。13 世 紀 以<br />
降 、「アムノス」は「 典 礼 を 捧 げる 主 教 」の 中<br />
心 モティーフとして 急 速 に 普 及 し、 収 集 作 例 で<br />
も 58 例 を 数 える。<br />
後 期 に 入 ると、「アムノス」は 聖 餅 の 代 わりにパテナの 上 に 描 かれるようになる。 先 に 挙 げた<br />
マナスティルのスヴェティ・ニコラ 聖 堂 ( 図 19) 42 では、 典 礼 を 捧 げる 主 教 の 中 央 、 採 光 部 の 真<br />
下 に 祭 壇 が 描 かれる。 祭 壇 の 後 ろには 輔 祭 姿 の 二 天 使 が 団 扇 を 手 に 控 える。 祭 壇 の 上 には 壺 とパ<br />
テナが 置 かれ、 後 者 の 上 に 腹 部 を 覆 われた 幼 子 キリストが 寝 かされている。 主 教 の 数 、 天 使 の 有<br />
無 に 異 同 はあるものの、 大 凡 これが「アムノス」の 定 型 となる。<br />
図 18 スヴェティ・ギョルギ 聖 堂 1191 年<br />
クルビノヴォ<br />
図 19 スヴェティ・ニコラ 聖 堂<br />
マナスティル<br />
1271 年<br />
マケドニア、マトゥカ、スヴェティ・アンドレヤ 聖 堂 (1388/89 年 )のように、 祭 壇 付 近 に 聖<br />
霊 を 象 徴 する 光 輪 を 帯 びた 鳩 が 付 加 された「アムノス」も 散 見 される。 周 知 の 通 り、ビザンティ<br />
ン 美 術 最 大 の 特 徴 は 高 度 に 規 格 化 されたイコノグラフィにある。ビザンティン 人 は 変 化 を 恐 れる<br />
かのように 連 綿 と 同 じ 図 像 を 描 き 続 けた。こうしたビザンティン 美 術 の 特 質 に 鑑 みれば、 図 像 の<br />
微 細 な 変 化 や 新 たな 図 像 の 創 出 は 描 かれる 対 象 に 対 する 理 解 が 変 化 したことを 反 映 する。14 世<br />
41<br />
42<br />
C. Grazdanov, Kurbinovo i Druga Studii za Freskožibopisot bo Prespa, Skopje, 2006.<br />
A. Serafimova, “St. Nicholas in Manastir,” Macedonian Cultural Monuments: Christian Monuments, ed. by<br />
J. Tričikovska, Skopje, 2008, pp. 140-143.