言語と意識の起源

LA 「ことばと 発 達 」 [ 第 4 講 ] テキスト 序 章
言 語 と 意 識 の 起 源
ヸネアンデルタヸルのアイデンティティを 探 るヸ
uchida.nobuko@ocha.ac.jp

なぜネアンデルタヸルか
発 達 心 理 学 は 個 体 発 生 の 過 程 を 知 る
「 個 体 発 生 は 系 統 発 生 を 辿 る」
RQ ヒトになるときに 何 が 変 わったか?
★ 言 語 の 起 源 を 探 る↕ 戦 略 は?
Ⅰ retrospective; ヒトとヒト 以 前 ( 遡 る)
Ⅱ prospective; 個 体 発 生 ( 順 向 )
↕ⅠとⅡを 照 らし 合 わせる

スクリプト
1.アイデンティティとは?
2. 進 化 の 矛 盾 を 解 消 する
3.ネアンデルタヸル 人 の 謎
4. 脳 の 拡 大 をもたらしたもの
5.ことばは….いつ? から

「アイデンティテイ」とは
「 自 我 同 一 性 」
「われわれは….なんぞや?」
◆ネアンデルタヸル 人
◆ 人 間 発 達 科 学 者
◆ 発 達 心 理 学 を 学 ぶ 人 々
★われわれは….なにものか
↕われわれ「 人 」に 課 せられた 課 題 は 何 か?

大 きな 脳 > 現 代 人
1.ルヸシヸ 500g
2.ジャワ 原 人 ;1,200 g
3.ネアンデルタヸル 人 ;1,500 g
4. 現 生 人 類 ;1400 g
350 万 年 で3 倍 !!
⇨ なぜ?

化 石 人 類 と 現 生 人 類 の 脳 の 重 さ
直 立 歩 行 の 開 始 :350 万 年 前
アウストラロピテクス
70 万 年 前
( 猿 人 )
ジャワ 原 人
50 万 年 前
ネアンデルタヸル 人
10 万 年 前
現 生 人 類

哺 乳 類 の 就 巣 性 ヷ 離 巣 性
【 就 巣 性 】 無 防 備 ヷ 未 成 熟 ヷ 体 毛 無 ヷ
愜 覚 器 官 未 成 熟
e.g., 下 等 哺 乳 類
【 離 巣 性 】 複 雑 な 組 織 体 制 ヷ 大 脳 の 形 成
水 準 が 高 いヷ 愜 覚 器 官 機 能
e.g., 有 蹄 類 、 猿 、 鯨
★ 人 間 は?==「 二 次 的 就 巣 性 」

生 理 的 早 産
(ポルトマン,1961)
1. 大 脳 進 化 最 高 水 準
2. 二 足 歩 行
3. 愜 覚 器 官 は 成 熟 ヷ 運 動 機 能 未 成 熟
⇩
進 化 の 矛 盾 !
大 きな 脳 の 胎 児 × 二 足 歩 行 ( 産 道 の 縮 小 )

生 得 的 要 因
習 得 的 要 因
【 道 具 立 ての 進 化 】
二 足
歩 行
脳 の
拡 大
発 語 器 官 の 構 造 の 進 化
口 が 自 由 ヷ 顔 面 筋 の 進 化
手 が 自 由
矛 盾 ↔ 生 理 的 早 産
発 語 器 官 のコントロヸル
顔 面 筋 ヷ 口 ヷ 手 のコントロヸル
象 徴 機 能 の 進 化
【 道 具 の 使 用 プランと 統 制 】
コミュニケーション
の 必 要 性
愛 着
人 への
愜 受 性 ヷ 共 鳴 動 作
身 振 り
音 声 言 語
言 語 音 への
愜 受 性
音 声 言 語 を 支 える 要 因 ( 内 田 ,1990)

ヒトの 成 人 とチンパンジヸの
のどの 形 態 の 比 較
ヒトののどの 横 断 面
チンパンジヸののどの 横 断 面
二 足 歩 行 前 の 乳 児 も!
S: 軟 口 蓋 N: 鼻 腔 P: 咽 頭 L: 咽 頭 の 喉 頭 への 開 口
E: 喉 頭 蓋 T: 舌 V: 声 帯

音 声 言 語 の 進 化
★ 人 間 の 音 声 言 語 の 進 化 にとって 喉 頭 が 下 がった
ことは 非 常 に 重 要 c.f., 大 型 動 物 ↕ 声 道 が 長 い
→ 喉 頭 の 降 下 により 実 際 より 大 きな 動 物 から
出 る 音 を 出 すことが 可 能 になる.
→ 捕 食 者 を 恐 れさせる.→ 選 択 的 淘 汰
★ 声 道 の 降 下 ;
呼 吸 と 嚥 下 が 同 じ 経 路 を 使 う
→ 呼 吸 と 嚥 下 は 同 時 には 行 えない( 息 がつまる)
↑
音 声 言 語 のために 支 払 った「 代 価 」

音 声 言 語 の 進 化
★ 生 後 3カ 月 に 喉 頭 の 下 降 がはじまる
3,4 歳 ごろに 完 成
男 性 は 第 二 次 性 徴 の 時 期 にさらに 下 降
(「 声 変 わり」 低 い 声 は 捕 食 者 を 怖 がらせる?)
フィリップヷリヸバヸマン(1991)
現 代 人 に 見 られる 声 道 の 変 化 はホモヷサピエンス
が 出 現 した15 万 年 前 まで 完 成 していなかった.
↓
★ネアンデルタヸル 人 ;せいぜい 現 代 人 の 赤 ん 坊
程 度 の 発 声 能 力 を 持 っていたにすぎない。

(b1)
チンパンジー
( 浅 層 )
(a) オランウータンの
顔 面 筋
(b2)
チンパンジー
( 深 層 )
(c) ゴリラの 幼 児
Huber, 1931による

ヒトの 顔 面 下 部 の 筋
笑 筋
頬 筋
浅 層
深 層
Braus, 1954 より
広 頸 筋

コミュニケヸションの 必 要 性
【 二 足 歩 行 】 発 語 器 官 の 構 造 の 変 化
口 が 自 由 ヷ 顔 面 筋 の 進 化
手 が 自 由
【 大 脳 の 拡 大 】 象 徴 機 能 の 発 生
口 ヷ 顔 面 発 語 筋 のコントロヸル
筋 ヷ 手 のコントロヸル

ネアンデルタヸル 人 の 謎 (1)
1. 死 者 を 弔 う ⇨ 埋 葬 の「 儀 式 」?
埋 葬 姿 勢 ヷ 副 葬 品
2. 花 を 愛 でる???
(シャニダヸル 洞 窟 の 花 粉 )
↕ 埋 葬 時 に 花 を 手 向 けたのではないか?

ネアンデルタヸル 人 の 謎 (1)
1. 死 者 を 弔 う ⇨ 埋 葬 の「 儀 式 」?↔ 否 定
埋 葬 姿 勢 ヷ 副 葬 品
2. 花 を 愛 でる???
(シャニダヸル 洞 窟 の 花 粉 ; 外 には 出 土 してい
ない; 地 形 のいたずら) ↔ 否 定
3. 副 葬 品 の 出 土 ( 赤 澤 , 2000)
★ 象 徴 機 能 の 発 生 !

ネアンデルタヸル 人 の 謎 (2)
★ムスティエ 型 石 器 ( 左 右 対 称 )の 使 用
1. 狩 猟 生 活 ⇨ 集 団 で 分 配
★ 石 器 の 技 能 と 象 徴 機 能
2. 石 器 の 斉 一 性 ⇨ きれいにつくる
無 駄 が 多 い
形 状 斉 一 !!
行 動 の 多 様 性 vs. 形 状 斉 一
★ルヸチン 的 技 能 = 創 造 性 の 欠 如
( 松 本 直 子 , 2003)

ムスティエ 型 石 器

ネアンデルタヸル 人 の 謎 (3)
1. 子 どもの 全 身 骨 格 の 発 見 1993 年
(デデリエ 洞 窟 日 本 ヷシリア 合 同 調 査 団 )
( 赤 澤 , 2000)
★ 埋 葬 の 模 型 ( 明 治 大 学 考 古 学 卙 物 館 )
姿 勢 前 屈
頭 上 に 平 らな 四 角 い 石 ?
⇨ 子 どもも「 神 のうち」ではない!?

ネアンデルタヸルの 子 どもの 全 身 骨 格 (デデリエ 洞 窟 )
( 赤 澤 ,2000,『ネアンデルタヸルヷミッション』 より)

コンピュヸタ 上 で 立 ち 上 がったデデリエの 子 ども
( 赤 澤 ,2000,『ネアンデルタヸルヷミッション』 p.260)

ネアンデルタヸル 人 の 謎 (4)
2. 過 酷 な 氷 河 期 のヨヸロッパで 生 存
⇨ 「 家 族 的 」 単 位 、「 生 活 協 同 体 」!?
↕ 社 会 的 相 互 行 為
1 対 人 関 係 を 結 ぶときヷヷヷヷ 気 質 は?
( 対 人 対 物 システム)
2コミュニケヸションの 手 段 は?

ネアンデルタヸル 人 の 謎 (5)
1.「 図 鑑 型 」で「 愚 直 な」 人
対 人 対 物 システム↕ 図 鑑 型 ヷ 物 語 型
e.g.,ヘアヸインディアン(カナダの 極 北 )
( 原 ,1989)
2. 居 住 地 域 が 狭 い
c.f.,クロマニヨン 人 交 流 盛 ん
物 語 型 ?
★ 社 会 的 相 互 行 為
⇨ コミュニケヸションの 手 段

ネアンデルタール 人 には
ことばは・・・・ 無 かった?
1. 人 の 進 化 系 統 樹 と 知 能 の 発 達
(Jerison,1976; 近 藤 ,1994)
2. 象 徴 機 能 の 未 成 熟 ( 内 田 ,1999)
3. 口 話 器 官 の 未 成 熟 ;
声 帯 の 位 置 が 高 すぎる(Lewin,1993)
ネアンデルタール=0.7 vs.ホモ・サピエンス=1.0
c.f., 舌 骨 ; 言 語 能 力 ?( 植 原 ,2000)

声 帯 の 位 置
( 相 対 値 )
ヒ ト ;1.0
ネアン;0.7
チンプ;0.0
ヒトの 進 化 系 統 樹 と 知 能 の 発 達
(Lewin, 1993; 近 藤 , 1994を 改 変 )

ヒトと 古 代 人 の 脳
Chimpanzee
H. erectus
1
A. africanus
3
H. sapiens
↑ネアンデルタヸル
2
4
(Holloway 、1974)

原 始 言 語 の 発 生
1. 初 期 人 類 ;ホモヷエレクトス
ブロヸカ 野 ( 澤 口 , 1995) ; 原 始 言 語
2. 愜 覚 統 合 のシステム(Jerison, 1976)
→ 大 脳 拡 大 : 循 環 的 進 化
3.「 現 実 世 界 のモデルの 構 成 」
→ 交 信 手 段 へ;e.g., 指 さし
c.f, 会 話 の65%が 社 会 関 係 の 話 題
(Dunbar,2000)

「ネアンデルタヸル 人 の 血 ヒトにも」
朝 日 新 聞 2010.5.7.(34 面 )
1. 独 マックスプランク 進 化 人 類 学 研 究 所
ネアンデルタヸル 人 のゲノム( 全 遺 伝 情 報 )
配 列 の6 割 を 解 析 し 突 き 止 めた。
2. 仏 、 中 国 、パプアニュヸギニア、アフリカ 南 部 と
西 部 の5 人 のヒトゲノムと 比 較 →アフリカ 以 外 の
ヒトゲノムの1~4%がネアンデルタヸル 人 由 来
と 推 測 できた。
3. 認 知 機 能 や 頭 の 骨 の 発 達 にかかわるとさ
れる 遺 伝 子 は 両 者 間 で 大 きな 違 いがある
ことが 判 明 した!

“ 固 体 発 生 は 系 統 発 生 を 繰 り 返 す”
↕ 個 体 発 生 から 眺 めてみると?
1. 指 さし;7ヶ 月 頃
二 項 関 係 ↕ 環 境 定 位
2.「 認 知 革 命 」 象 徴 機 能 の 発 生
10ヵ 月 頃 ; 三 項 関 係 < 乳 児 ヸ 母 親 ヸモノ>
「 社 会 的 参 照 」 指 示 機 能 !
★ 環 境 定 位 「 現 実 世 界 のモデルの 構 成 」
~ 交 信 手 段 が 付 け 加 わる

ことばは….いつから?
1. 脳 の 大 きさ
2. 声 帯 の 位 置
3. 工 作 物 の 量 と 精 巧 さ
★Homo sapiens(ヒト)
後 期 旧 石 器 時 代
c.f.,Neanderthal; 中 期 旧 石 器

シンボル 体 系 の 変 化 は 何 をもたらしたか
Vygotsky(1963); 旧 ソビエトの 心 理 学 者
「テクノロジヸや 道 具 の 変 化 が 労 働 の 構 造 に 変 化
をもたらすように 話 しことばや 書 きことばといった
シンボル 体 系 の 変 化 は, 精 神 活 動 の 再 構 造 化 を
もたらす. 人 間 の 認 識 活 動 のあらゆる 基 本 的 形
式 は,その 社 会 の 歴 史 の 過 程 でつくりあげたも
のである. 従 って,シンボル 体 系 に 変 化 をもたら
す 社 会 文 化 的 な 変 化 はより 高 次 の 記 憶 や 思 考
過 程 の,そしてより 複 雑 な 心 理 的 体 制 化 の 基 礎
を 形 成 する.」
+ 象 徴 機 能 の 進 化 ↔ 自 由 意 志 の 発 生

シンボルの 形 式 の 変 化
1. 音 声 言 語 ことば
2. 書 記 言 語 ( 紀 元 11,2 世 紀 )
3. 電 子 言 語
★ 精 神 構 造 の 再 体 制 化 (Vygotsky,1932)
↕ 最 高 水 準 の 象 徴 機 能 を 手 に 入 れた!
★われわれ 人 は 自 由 意 志 をもつ 存 在