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自閉症の「発見」と精神分析/加地雄一 - 東京成徳大学

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東 京 成 徳 大 学 研 究 紀 要 ― 人 文 学 部 ・ 応 用 心 理 学 部 ― 第 19 号 (2012)<br />

型 において 客 体 は、 意 識 的 には 関 心 が 向 けられないが、 無 意 識 的 には 不 安 をもたらすほどの 関 心 が 向<br />

けられる。したがって、 内 向 型 の 人 は「 安 心 を 得 るために 儀 式 体 系 を 自 分 の 周 りにはりめぐら」( 邦<br />

訳 p.408)せる。 無 意 識 においては、 客 体 からの 影 響 力 に 圧 倒 され、「『 自 分 を 保 つ』ために、ぞっ<br />

とするような 内 的 作 業 を 絶 えず 必 要 としている」( 邦 訳 p.408)のである。こうした 記 述 は、 神 経 症<br />

の 形 態 の 一 つについての 説 明 であるが、 自 閉 症 (が 示 す 儀 式 的 行 為 )にも 通 じるものと 考 えられる。<br />

対 象 ( 客 体 )との 関 係 については、 無 意 識 的 、 原 始 的 であり、 客 体 は「あたかも 呪 術 的 な 力 を 備 えて<br />

いるかのようになる」( 邦 訳 p.409)という。 新 奇 な 客 体 は 恐 怖 や 不 安 の 対 象 になるのに 対 し、なじ<br />

みのある 客 体 は「 見 えない 糸 」で「 魂 につながれているかのようである」という( 邦 訳 p.409)。こう<br />

した 客 体 との 関 係 のあり 方 は、Asperger, H.(1944)が 報 告 した「 周 囲 に 関 心 を 示 さないが、 特 定 の<br />

対 象 には 片 時 も 目 を 離 さない」という 自 閉 的 精 神 病 質 の 子 どもの 特 徴 と 重 なるものと 考 えられる。<br />

Jung, C. G.(1921)は、「 内 向 的 思 考 人 の 古 典 的 な 代 表 者 」として 古 代 ローマ 時 代 のカルタゴのキ<br />

リスト 教 教 父 ( 反 異 端 教 父 )Tertullianus, Q. S. F.(ca.A.D.160-ca.A.D.220)を 挙 げている。Jung, C.<br />

G.(1921)によれば、Tertullianus, Q. S. F. は「 鋭 い 精 神 によって 哲 学 的 な 知 やグノーシス 的 な 知 が<br />

劣 っていることを 見 ぬき、これを 軽 蔑 して 退 け」( 邦 訳 p.20)、 自 分 自 身 の 不 合 理 な 内 的 事 実 を 合 理<br />

的 な 哲 学 に 対 抗 するための 原 理 とした。このような 特 徴 は、Asperger, H.(1944)が 報 告 した 自 閉 的<br />

精 神 病 質 の 子 どもの「 日 常 からかけ 離 れた 問 題 を 追 いかける」という 特 徴 と 通 底 する 部 分 がある。<br />

9.おわりに<br />

以 上 、 自 閉 症 の「 発 見 」や 起 源 について 述 べてきた。 症 例 としての 自 閉 症 を「 発 見 」したのは<br />

Kanner, L.(1943, 1944)とAsperger, H.(1944)であるが、その 背 景 にはFreud, S.(1905)の<br />

AutoerotismusやJung, C. G.(1921)のIntrovertierten Denktypus(あるいはIntroversion)といった<br />

精 神 分 析 的 概 念 の 影 響 を 認 めることができた。 起 源 はさらに、 古 代 ローマのOvidiusやTertullianus,<br />

Q. S. F. にまで 遡 ることができる 可 能 性 についても 触 れた。 自 閉 症 「 発 見 者 」のKanner, L.(1943,<br />

1944)とAsperger, H.(1944)の 両 者 とも、Bleuler, E.(1911)を 自 らの 研 究 の 端 緒 としている。そ<br />

のBleuler, E.(1911)の 研 究 は、 精 神 分 析 と 自 然 科 学 のどちらかに 傾 倒 することなく 両 者 を 補 完 す<br />

ることによって 成 し 遂 げられた。 自 閉 症 に 限 らず 今 日 の 精 神 的 問 題 にアプローチする 上 で、Bleuler,<br />

E.(1911)のように 自 然 科 学 を 補 完 する 形 で 精 神 分 析 を 取 り 入 れることは 有 用 であると 考 えられる。<br />

引 用 文 献<br />

Asperger, H.(1944). Die "Autistischen Psychopathen" im Kindesalter. Archiv für psychiatrie und<br />

nervenkrankheiten, 117, 76–136.(アスペルガー, H.( 詫 摩 武 元 ・ 髙 木 隆 郎 ( 訳 )(2000). 小 児 期 の<br />

自 閉 的 精 神 病 質 高 木 隆 郎 ・ラター, M.・ショプラー, E.( 編 ) 自 閉 症 と 発 達 障 害 研 究 の 進 歩 2000 /<br />

Vol. 4 星 和 書 店 , pp.30-68.)<br />

Bleuler, E.(1911). Dementia praecox oder gruppe der Schizophrenien . Leipzig und Wien: Franz<br />

Deutike.(ブロイラー, L. 飯 田 真 ・ 下 坂 幸 三 ・ 保 崎 秀 夫 ・ 安 永 浩 ( 訳 )(1974). 早 発 性 痴 呆 また<br />

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