比例原則における事実と価値 - 早稲田大学リポジトリ
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208<br />
その 裁 判 で 問 題 なったのは, 薬 局 開 設 希 望 者<br />
の 職 業 の 自 由 と 州 による 薬 局 の 出 店 規 制 であっ<br />
た。 無 秩 序 な 薬 局 の 乱 立 は 過 当 競 争 につなが<br />
り,ひいては 不 適 切 な 薬 の 販 売 によって 住 民 に<br />
健 康 被 害 が 出 るとして,バイエルン 州 は 薬 局 の<br />
出 店 を 許 可 制 にしていた。<br />
当 事 者 が 揃 ったので,グラフを 考 えてみる。<br />
グラフの 縦 軸 を 薬 局 開 設 希 望 者 の 自 由 の 程 度 と<br />
して, 横 軸 を 州 が 守 ろうとしている 住 民 の 安 全<br />
の 程 度 としてみる。このように 捉 えれば,この<br />
職 業 の 自 由 にかかわる 憲 法 問 題 も, 薬 局 開 設 希<br />
望 者 と 州 のパレート 最 適 の 問 題 として 見 ること<br />
ができる。このグラフに 薬 局 の 出 店 規 制 とい<br />
う 州 の 目 的 達 成 手 段 を 点 Pとして 書 き 込 んでみ<br />
る。そしてさらに 連 邦 憲 法 裁 判 所 が 考 える 代<br />
案 ( 薬 局 の 開 設 を 規 制 するのではなく, 薬 の 売<br />
り 方 などを 規 制 する)を 点 Qとして 書 き 入 れる<br />
[Schlink 1976: 181]。<br />
こうして 出 来 上 がるのが 図 2である (17) 。<br />
図 2<br />
・ 縦 軸 が 薬 局 開 設 希 望 者 の 効 用 , 横 軸 が 国 家 の<br />
効 用 。<br />
・ 点 Pがバイエルン 州 の 規 制 。 点 Qが 連 邦 憲 法<br />
裁 判 所 の 代 案 。<br />
曲 線 の 内 側 が 当 事 者 双 方 の 効 用 が 両 立 可 能 な<br />
範 囲 で, 曲 線 の 上 に 点 があればパレート 最 適 に<br />
なる。バイエルン 州 の 規 制 を 表 した 点 Pは, 自<br />
らの 効 用 を 減 らすことなく 薬 局 開 設 希 望 者 の 効<br />
用 を 満 たす 施 策 である 点 Qの 施 策 が 存 在 する<br />
ために 必 要 性 がないとされ, 違 憲 無 効 と 判 断 さ<br />
れる。<br />
図 3<br />
点 Pの 規 制 に 比 してパレート 改 善 されるとい<br />
う 意 味 で, 市 民 の 自 由 により 大 きな 負 担 をかけ<br />
ないで 立 法 者 の 目 的 を 達 成 できる 選 択 肢 は, 非<br />
斜 線 部 分 にあるもののみである[Schlink 1976:<br />
188]。そして 実 際 の 基 本 権 問 題 においては, 国<br />
家 の 特 定 の 施 策 が 個 人 の 自 由 を 過 剰 に 侵 害 して<br />
いないが 問 題 となる。 点 Pという 施 策 が 与 えら<br />
れている 場 合 ,ここまでの 図 でいうならパレー<br />
ト 最 適 に 向 けて 上 方 向 つまり 市 民 の 自 由 を 擁 護<br />
する 方 向 に 進 む 余 地 があるのかないのかが 問 わ<br />
れるのである。<br />
しかし,パレート 最 適 では 判 断 できない 問 題<br />
もある。 図 4では,Rより Sの 方 がパレート 最<br />
適 である。ただし,T とSのどちらが 望 ましい<br />
かは,パレート 基 準 からは 出 てこない。 何 故 な<br />
ら,ここで 想 定 されている 個 人 の 利 益 も 国 家 の<br />
利 益 も 等 しく 憲 法 上 守 られるべき 利 益 だからで