比例原則における事実と価値 - 早稲田大学リポジトリ
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206<br />
は,「 狭 義 の 比 例 性 」を 排 除 して,その 代 わり<br />
に「 最 低 限 度 の 地 位 」の 保 障 を 入 れているとこ<br />
ろである。<br />
Schlinkの 比 例 原 則 理 解 から「 狭 義 の 比 例 性 」<br />
が 除 外 される 理 由 は, 他 の 基 準 と 違 い 価 値 判 断<br />
であるため, 判 断 のための 基 準 が 欠 けているか<br />
らとされる。では, 何 故 , 他 の 基 準 は 事 実 認 識<br />
であり 基 準 があるとされる 一 方 で, 狭 義 の 比 例<br />
性 だけ 価 値 判 断 とされ 基 準 がないとされるの<br />
か。Schlinkの 説 明 をみていこう。<br />
(3) 比 較 衡 量 の 方 法 と 解 釈 について-ゲーム<br />
理 論 ・ 厚 生 経 済 学 からの 示 唆 -<br />
第 二 部 ではSchlinkは, 判 例 分 析 から 得 たモ<br />
デルを 理 論 的 に 正 当 化 しようとする。まず 彼 は<br />
比 較 衡 量 とはどのようなものであるのかから 明<br />
らかにしようとする。<br />
1 比 較 衡 量 とは 何 か<br />
そもそも 比 較 には 二 種 類 のスケールがあると<br />
される。 一 つは 序 数 スケールでものの 順 序 を 表<br />
す。もう 一 つは 基 数 スケールでものの 多 さを 表<br />
す[Schlink 1976: 130f.]。 序 数 スケールの 場 合 ,<br />
大 きさ 等 によって 順 序 はわかるが, 差 異 がどの<br />
程 度 あるかは 考 慮 されないので 分 からない。 目<br />
視 による 背 の 順 ,タイムを 測 らない 徒 競 走 での<br />
順 位 等 が 例 として 挙 げられる。そのため,7 位<br />
が1 位 の7 分 の1かどうかは, 序 数 スケールで<br />
はわからない。ゆえに 量 の 大 小 を 知 るために<br />
は, 基 数 スケールによって 並 べ 直 さないといけ<br />
ない。ただし, 基 数 スケールには 比 較 のために<br />
メートルや 秒 のような 共 通 の 基 準 が 必 要 であ<br />
る。 価 値 秩 序 としての 基 本 権 には, 基 数 スケー<br />
ルのための 共 通 の 基 準 が 存 在 しない。よって,<br />
抽 象 的 に 基 本 権 間 の 序 数 的 秩 序 を 構 想 すること<br />
は 可 能 かもしれないが, 基 本 権 が 問 題 となる 具<br />
体 的 な 事 件 において 役 に 立 つ 基 数 的 秩 序 を 構 想<br />
することは 難 しい。<br />
比 較 衡 量 擁 護 の 論 者 は,どの 法 益 が 基 本 権 と<br />
同 じ 価 値 もしくは 基 本 権 より 高 い 価 値 にあるか<br />
を 確 定 させることによって, 全 ての 基 本 権 の 位<br />
置 を 定 められるとした[Schlink 1976: 133]。<br />
それに 対 し, 比 較 衡 量 に 消 極 的 な 地 位 しか<br />
与 えない 論 者 としてKraussとLercheを 挙 げる。<br />
彼 らの 議 論 は Schlinkが 判 例 分 析 から 見 出 した<br />
モデル,すなわち 目 的 分 析 , 適 合 性 審 査 , 必 要<br />
性 審 査 , 最 低 限 度 の 地 位 の 保 障 からなる 比 較<br />
衡 量 モデルと 一 致 するとされる[Schlink 1976:<br />
143ff.]。このモデルは 価 値 の 比 較 を 行 わない。<br />
なぜなら, 価 値 秩 序 をもたらす 価 値 哲 学 の 方 法<br />
には 基 準 がないからである。 比 較 衡 量 に 消 極 的<br />
な 位 置 付 けしか 与 えない 論 者 は, 基 準 がない 場<br />
合 は, 民 主 的 方 法 によって,すなわち 立 法 者 で<br />
ある 議 会 が 諸 個 人 の 価 値 秩 序 から 共 同 体 の 価 値<br />
秩 序 を 導 き 出 すべきであるとする。では,この<br />
立 ち 位 置 にふさわしい 比 較 衡 量 はどのようなも<br />
のか。<br />
2 厚 生 経 済 学 の 方 法 論<br />
Schlinkは, 上 記 の 問 題 の 解 決 のヒントを 厚<br />
生 経 済 学 に 求 める[Schlink 1976: 155ff.] (14) 。ベ<br />
ンサム 流 の 功 利 主 義 において, 厚 生 経 済 学 と<br />
利 益 法 学<br />
(15) は 共 通 の 根 を 持 っている。ゆえに,<br />
厚 生 経 済 学 における 財 の 配 分 の 問 題 は, 憲 法 に<br />
おける 価 値 ・ 利 益 衡 量 の 問 題 に 示 唆 を 与 えるこ<br />
とができるとされる。すなわち, 厚 生 経 済 学 が<br />
分 配 問 題 を 扱 うように, 憲 法 における 衡 量 問 題<br />
も 分 配 問 題 として 把 握 しうるのである。<br />
厚 生 経 済 学 が 配 分 問 題 を 扱 う 場 合 , 個 人 間 の<br />
効 用 比 較 を 行 う。アナロジーを 使 って 考 える 際