27.12.2013 Views

比例原則における事実と価値 - 早稲田大学リポジトリ

比例原則における事実と価値 - 早稲田大学リポジトリ

比例原則における事実と価値 - 早稲田大学リポジトリ

SHOW MORE
SHOW LESS

You also want an ePaper? Increase the reach of your titles

YUMPU automatically turns print PDFs into web optimized ePapers that Google loves.

204<br />

のだろうか。<br />

裁 判 所 による 法 律 に 対 する 違 憲 立 法 審 査 権<br />

は,これまでの 大 陸 法 的 な 司 法 観 念 との 齟 齬<br />

を 生 じさせる。ドイツという 国 家 がいかに 大<br />

陸 法 の 伝 統 である 法 典 化 志 向 を 強 固 に 持 ってい<br />

たとしても 違 憲 立 法 審 査 権 が 憲 法 に 規 定 されて<br />

いる 以 上 ,その 法 体 系 は 判 例 法 の 傾 向 をもた<br />

ざるをえないのである[シュリンク 1992: 264,<br />

Schlink 1996: 269]。<br />

人 口 に 膾 炙 した 言 い 方 を 使 って Schlinkの 説<br />

明 をパラフレーズすることが 許 されるならば,<br />

以 下 のようにいうこともできるだろう。 英 米 法<br />

圏 の 司 法 観 念 は 判 事 が 法 廷 で 述 べたものが 法 で<br />

あるという judge makes lawであるのに 対 し, 大<br />

陸 法 圏 の 司 法 観 念 は 大 前 提 たる 法 規 定 に 小 前 提<br />

たる 事 実 を 当 てはめれば 半 ば 自 動 的 に 結 論 たる<br />

判 決 がもたらされるという vending machineで<br />

あるとされている。この 大 陸 法 の 前 提 は, 準 拠<br />

点 としての 法 律 が 確 固 たるものであればこそ 成<br />

立 するものであった。 違 憲 立 法 審 査 権 は,その<br />

準 拠 点 たる 法 律 自 体 の 正 当 性 を 問 うものであ<br />

る。 違 憲 立 法 審 査 権 が 行 使 されれば, 文 面 上 違<br />

憲 であろうと 適 用 違 憲 であろうと,もしくは 合<br />

憲 限 定 解 釈 をした 上 で 合 憲 であろうと 何 の 問 題<br />

もなく 合 憲 であろうと,その 結 果 が 実 質 的 な 法<br />

律 の 内 容 となる。その 意 味 において, 違 憲 審 査<br />

制 は 判 例 法 化 を 伴 わざるをえないのである。<br />

Schlinkはこの 傾 向 を 不 可 避 のものであると<br />

考 えた。ただし, 個 別 の 事 件 の 結 論 が 法 となる<br />

判 例 法 には 決 定 の 不 確 実 性 が 必 然 的 につきまと<br />

う。そこで 彼 は, 法 的 安 定 性 を 確 保 しつつ, 判<br />

決 が 裁 判 官 の 恣 意 に 陥 らないようにするため<br />

に, 裁 判 官 の 決 定 すなわち 判 決 の 決 定 過 程 の 合<br />

理 化 が 必 要 であると 考 え, 一 連 の 憲 法 判 断 の 方<br />

法 に 関 する 論 文 を 執 筆 したといえる[Schlink<br />

1976; 1980a]。<br />

その 一 方 でSchlinkは, 比 例 原 則 についてど<br />

う 認 識 していたのか。 上 述 の 通 り『 憲 法 上 の 衡<br />

量 』が 公 表 された 時 期 には, 比 例 原 則 が3つの<br />

部 分 原 則 である「 適 合 性 」「 必 要 性 」「 狭 義 の 比<br />

例 性 」で 構 成 されることは, 広 く 共 有 されてい<br />

た。Schlinkはこの 理 解 を 拒 否 して, 自 らの 判<br />

例 分 析 に 基 づき「 狭 義 の 比 例 性 」を 抜 いた 形 で<br />

の 異 なった 定 式 化 をしている。Schlinkの 判 例<br />

分 析 は, 判 決 をありのままに 描 き 出 すことを 意<br />

図 していない。 詳 しくは4で 検 討 するが,『 憲<br />

法 上 の 衡 量 』において 彼 は, 判 例 の 中 から 合 理<br />

的 なモデルを 抽 出 し,そのモデルを 選 択 理 論 を<br />

用 いることによって 正 当 化 し,それによって 決<br />

定 過 程 を 合 理 化 , 明 確 化 しようとした。またそ<br />

れによって, 判 例 法 化 によって 失 われかねない<br />

法 的 安 定 性 を 確 保 しようとしていた。その 合 理<br />

化 , 明 確 化 において, 狭 義 の 比 例 性 を 排 除 する<br />

ことが 不 可 欠 であったのが, 彼 なりの 独 自 の 定<br />

式 化 を 行 った 理 由 であった。<br />

(2) 批 判 対 象<br />

Schlinkが 批 判 対 象 にしたのは, 憲 法 判 断 の<br />

方 法 としての 利 益 衡 量 論 ,そしてそれを 支 え<br />

る 基 本 権 の 価 値 秩 序 という 考 え 方 であった。<br />

Schlinkは, 利 益 衡 量 賛 成 の 立 場 として,Peter<br />

Häberleの 議 論 を 取 り 上 げ る[Schlink 1976:<br />

128]。その 議 論 によれば, 利 益 衡 量 ・ 価 値 衡 量<br />

によって, 基 本 権 の 内 容 と 限 界 は 定 められ, 憲<br />

法 上 の 利 益 間 の 争 いも 解 決 するし, 基 本 権 領 域<br />

での 立 法 の 拘 束 の 内 容 も 突 きとめられる。また<br />

個 人 と 共 同 体 , 国 家 と 社 会 , 存 在 と 当 為 といっ<br />

た 二 分 法 から 逃 れられる。そして, 憲 法 上 の 価

Hooray! Your file is uploaded and ready to be published.

Saved successfully!

Ooh no, something went wrong!