ICP-MS法による海水分析 - サーモサイエンティフィック

ICP-MSApplicationNoteICP-MS 法 による 海 水 分 析X シリーズ2の 第 三 世 代 コリジョンセルテクノロジー(KED)による 海 水 迅 速 分 析サーモフィッシャーサイエンティフィック 株 式 会 社編 集 発 行 : サイエンティフィックインスツルメンツ 事 業 本 部 事 業 企 画 部EL06002Key Words• FT-IR ICP-MS• CCT PEMモジュール• KED 偏 光 変 調• 高 有 マトリックス 機 薄 膜 試 料• 海 その 水 場 測 定はじめに海 水 中 には 様 々な 共 雑 物 質 が 含 まれ、 地 域 ごとの 微 量 元 素の 濃 度 の 違 いや、その 推 移 は、 地 質 学 の 研 究 や 環 境 のモニタリングなどの 目 的 のために 重 要 視 されてきています。そのため、 多 元 素 同 時 分 析 で 高 感 度 分 析 が 可 能 なICP-MS 法 を 用いての 分 析 が 主 要 となってきています。しかしながら 海 水 は、 塩 分 を 約 2.7% 含 有 しており( 海 水 中 の 主成 分 元 素 を 表 1に 示 します。)ICP-MSへの 直 接 導 入 は、ネブライザーの 目 詰 まり、サンプリングコーンやスキマーコーンの目 詰 まり、イオンレンズ 系 の 汚 れの 原 因 となり、これらの 問 題から 長 時 間 の 連 続 測 定 は 安 定 性 に 問 題 がありました。また、多 くの 測 定 微 量 元 素 は 極 微 量 濃 度 のため、 塩 による 妨 害 干渉 を 受 け 正 確 な 測 定 値 を 得 ることは 難 しいとされてきました。表 2に 海 水 試 料 マトリックス 起 因 およびプラズマガス 起 因 による 妨 害 多 原 子 イオンの 例 を 示 します。そのため、 海 水 を 希 釈 して(300 倍 ~1000 倍 )そのまま 測 定 したり、キレートを 用 いて 脱 塩 を 行 うなどの 前 処 理 等 が 必 要 でした。高 倍 率 の 希 釈 操 作 は 測 定 元 素 の 濃 度 が 希 薄 になるため、 極微 量 元 素 の 測 定 が 難 しくなります。 一 方 、キレート 等 の 前 処 理においては、 用 いる 試 薬 の 精 製 、 実 験 器 具 の 特 殊 な 洗 浄 、 前処 理 時 の 空 気 中 からの 塵 埃 などの 混 入 の 恐 れなどから、 鉄 を始 めとする 汚 染 を 受 けやすい 元 素 の 微 量 分 析 には、 様 々なノウハウが 必 要 とされます。本 実 験 では 海 水 標 準 物 質 (SLEW-3)を 測 定 試 料 とし、 改 良 されたX シリーズ 2の 第 三 世 代 のコリジョンセルテクノロジー(KED)を 用 いた 正 確 な 迅 速 分 析 及 び、 高 塩 濃 度 試 料 対 応 に改 良 されたインターフェイス( 図 1)における 試 料 の 安 定 した 連続 測 定 をご 紹 介 いたします。 また、X シリーズ2 はパラメータが 単 純 なため 装 置 設 定 が 容 易 で、オートチューニングや 精 度管 理 などを 有 する 使 いやすいソフトウェアを 採 用 しています。そのため、 研 究 目 的 だけでなく、 日 常 的 なルーチン 分 析 装 置としても 優 れた 処 理 能 力 を 有 します。第 三 世 代 コリジョンセルテクノロジーコリジョンセルテクノロジー(CCT)とはセル 内 の6 本 のマルチポールにより 構 成 されており、 衝 突 ガスを 導 入 して 妨 害 イオンを 除 去 するシステムです。セルに 導 入 するガスとして、 反 応性 が 比 較 的 低 いH 2 /He 混 合 ガスを 使 用 し、 元 素 ごとにガスや流 量 を 変 える 必 要 は 無 く、 試 料 マトリックスと 反 応 して 副 生 成物 が 出 来 ることもほとんどありません。また、 新 たに 改 良 された 第 三 世 代 のCCTは、KED(KineticEnergy Discrimination)を 利 用 して 妨 害 イオンを 飛 躍 的 に 排除 します。KEDとは、 同 じ 質 量 / 電 荷 比 を 持 つ 測 定 対 象 元 素と 妨 害 多 原 子 イオンを、 運 動 エネルギーの 違 いで 選 別 する 機能 です。 大 きなイオン 半 径 を 持 つ 妨 害 多 原 子 は、セルの 中 でCCTガスと 衝 突 する 回 数 が 多 く、 結 果 として 測 定 元 素 よりエネルギーを 多 く 失 います。この 差 を 利 用 して、 測 定 元 素 だけを四 重 極 に 導 入 して 測 定 します。そのため、 海 水 などの 複 雑 なマトリックスを 持 つ 試 料 でも、 正 確 に 測 定 が 出 来 ます。測 定表 1. 海 水 中 の 主 成 分 元 素元 素 濃 度 (mg/L) 全 体 の 割 合 (%)Cl 18,980 55.05Br 65 0.19硫 酸 塩 2,649 7.68炭 酸 塩 140 0.41F 1 0.00B 26 0.07Mg 1,272 3.69Ca 400 1.16Sr 13 0.04K 380 1.10Na 10,556 30.61総 量 34,482 99.99表 2. 海 水 試 料 マトリックス 起 因 およびプラズマガス 起 因 による 妨 害 多 原 子 の 例測 定 元 素 妨 害 分 子51 V ClO,ClN,ArB,SOH52 Cr ArC,ClO,ClOH,CaC,ArO,ArN,SO55 Mn KO,KN,ClOH,CAC,CaN,ArN,ArF56 Fe CaO,KOH,CaC,CaN,ArO59 Co ArF,CaOH,CaO,NaAr,ArOH60 Ni CaO,MgAr,CaC,CaOH63 Cu NaAr64 Zn CaO,SO 2 ,S 275 As ArCl,KAr111 Cd Ar 2 Cl測 定 サンプルとして、 海 水 標 準 物 質 (SLEW-3)を5 倍 希 釈した 試 料 および、5 倍 希 釈 後 測 定 対 象 元 素 を2μg/L 添 加 した 試 料 を 調 製 し、 定 量 値 と 添 加 回 収 率 を 評 価 しました。 検量 線 は 硝 酸 2%ベースで 表 5の 濃 度 で 作 成 し、マトリックスによる 減 感 を 補 正 するために 内 部 標 準 法 を 用 いました。また 長 時 間 安 定 性 評 価 のために、SLEW-3を10 倍 希 釈 し 標準 液 を2μg/L 添 加 した 試 料 を200 分 間 連 続 測 定 しました。

表 3. 装 置 条 件ネブライザーガラス 同 軸 ネブライザースプレーチャンバー ガラスインパクトビード 型スプレーチャンバー 冷 却 温 度 3℃インターフェースXt Ni インターフェイスプラズマ 入 射 出 力1400W補 助 ガス 流 量0.7 L/ 分冷 却 ガス 流 量13 L/ 分CCTガス 8%H2/Heベース 4 mL/ 分コリジョンモードKED(+2V)表 4. 分 析 条 件• FT-IR 内 部 標 準 元 素71 Ga, 115 In, 205 Tl 各 2μg/L繰 り 返 し 測 定 回 数3 回• PEMモジュールデータ 取 り 込 みモード ピークジャンプ• 偏 光 変 調 1 試 料 あたりの 所 要 時 間 2 分 30 秒• 有 機 薄 膜 ( 吸 上 げ, 測 定 , 洗 浄 )• その 場 測 定表 5. 検 量 線 濃 度単 位 :μg/Lブランク 0標 準 液 ー1 0.25標 準 液 ー2 0.5標 準 液 ー3 1.0図 1 高 マトリックス 対 応 のXtインターフェイスまとめ表 6に 示 すように、 今 まで 妨 害 イオン 干 渉 を 受 けて 正 確に 測 定 が 出 来 なかった 元 素 :Fe(CaO), V(ClO),Cr(ClOH), Cu(NaAr)の 定 量 結 果 が 認 証 値 とよく 一 致 し良 好 な 添 加 回 収 率 も 得 られることがわかります。CCT-KEDモードが 優 れた 妨 害 多 原 子 イオンの 除 去 能 力 を 持つことを 証 明 しています。希 釈 倍 率 を 可 能 なかぎり 抑 えることにより、 極 微 量 に 存 在する 元 素 の 測 定 も 可 能 となりました。 海 水 のような 高 マトリックス 試 料 でも、マトリックスマッチングを 行 なわずに 内 部標 準 補 正 外 部 検 量 線 法 で 測 定 が 可 能 でした。図 2にSLEW-3を10 倍 希 釈 後 測 定 元 素 を2μg/L 添 加 した試 料 を200 分 間 連 続 測 定 したときの、 添 加 元 素 濃 度 の 変動 を 示 しました。インターフェイスのオリフィスの 目 詰 まりなどは 見 られず、 各 元 素 のばらつきが3% 以 内 と 長 時 間 安定 測 定 においても 良 好 な 結 果 が 得 られました。本 実 験 では、 海 水 を5 倍 希 釈 のみの 前 処 理 で、 測 定 装 置条 件 も 全 元 素 についてCCT-KEDモードのみの 同 一 条件 を 使 用 しました。このため、CCTガスの 切 り 替 え 時 間 も必 要 なく、1 試 料 当 たりわずか2 分 30 秒 という 迅 速 な 測 定が 実 現 しました。これらの 結 果 より、Xシリーズ2 を 用 いて、 改 良 された 高 マトリックス 対 応 のXtインターフェイスとCCT-KEDモードを組 み 合 わせる 事 により、 海 水 だけでなく、 食 品 , 環 境 , 医薬 , 生 体 試 料 など、より 幅 広 い 分 野 での 微 量 分 析 に 適 用が 可 能 です。※SLEW-3:アメリカ 合 衆 国 カリフォルニアのサンフランシスコ 湾 、 水 深 5メートル 地 点 で 採 取 された 海 水 を、CanadaCouncilにより、 認 証 値 を 決 定 された 海 水 標 準 物 質EL06002サーモフィッシャーサイエンティフィック 株 式 会 社フリーダイヤル0120-753-670FAX0120-753-671E-mailinfo-jp@thermofisher.com結 果表 6. 海 水 標 準 物 質 SLEW-3 測 定 結 果 5 倍 希 釈 サンプル 濃 度 単 位 :μg/LDL(3σ) 測 定 値 保 証 値 回 収 率 (%) 2μg/L 添 加 試 料 添 加 回 収 率 (%)51V 0.006 0.679 0.514 132 2.643 9852Cr 0.003 0.042 0.037 115 2.016 9955Mn 0.006 0.326 0.322 101 2.348 10156Fe 0.075 0.140 0.114 123 2.234 10559Co 0.001 0.008 0.008 95 1.977 9860Ni 0.009 0.239 0.246 97 2.196 9863Cu 0.051 0.344 0.310 111 2.227 9464Zn 0.033 0.039 0.040 97 1.929 9575As 0.006 0.280 0.272 103 2.087 90111Cd 0.001 0.011 0.010 115 2.082 104208Pb 0.001 0.0019 0.0018 108 1.883 94351Vwww.thermoscientific.jp( 日 本 )www.thermo.com(グローバル)濃 度 (μg/L)2.521.510 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200時 間 ( 分 )52Cr55Mn56Fe59Co60Ni63Cu64Zn75As111Cd208Pb©2009 Thermo FisherScientific Inc. All rightsreserved. All trademarks arethe property of ThermoFisher Scientific Inc. and itssubsidiaries.Specification, terms andpricing are subject tochange. Not all products areavailable in all countries.Please consult your localsales representative fordetails.図 2 SLEW-3 10 倍 希 釈 +2μg/L 添 加 試 料 200 分 安 定 性 調 査