発電機電源におけるマトリックスコンバータの 入力 ... - 長岡技術科学大学

発 電 機 電 源 におけるマトリックスコンバータの
入 力 電 流 ベクトル 制 御
春 名 順 之 介 * , 伊 東 淳 一 ( 長 岡 技 術 科 学 大 学 )
Input Current Vector Control for a Matrix Converter Connected a Generator Power Supply
Junnosuke Haruna, Jun-ichi Itoh (Nagaoka University of Technology)
1. はじめに
近 年 , 交 流 電 源 から 直 流 リンクを 介 さずに 任 意 の 電 圧 ,
周 波 数 の 交 流 に 直 接 変 換 可 能 なマトリックスコンバータが
盛 んに 研 究 されている (1-2) 。その 背 景 には,マトリックスコ
ンバータが 従 来 の 電 力 変 換 器 と 比 較 し, 小 型 , 軽 量 , 長 寿
命 , 高 効 率 の 点 で 優 れていること 等 が 挙 げられる。
一 方 ,マトリックスコンバータの 用 途 は, 現 在 用 いられ
ているエレベータ 等 の 他 にも 多 数 検 討 されており, 一 例 と
して, 風 力 発 電 との 連 系 システムやハイブリッドEVなどの
発 電 機 を 入 力 部 に 接 続 したシステムが 考 えられる。この 場
合 , 発 電 機 の 出 力 インピーダンスが 大 きいためにシステム
が 不 安 定 化 するが, 筆 者 らはこれまでに, 入 力 電 流 の 安 定
化 制 御 法 ,および, 電 圧 利 用 率 が 向 上 する 最 適 入 力 力 率 制
御 (1) を 提 案 している。
本 論 文 では, 入 力 電 流 の 安 定 化 制 御 と 最 適 入 力 力 率 制 御
が 同 時 に 可 能 となる 入 力 電 流 のベクトル 制 御 (3) を 導 入 する。
提 案 法 の 有 用 性 を 実 験 により 検 証 したので 報 告 する。
2. 入 力 電 流 ベクトル 制 御
図 1 に 発 電 機 を 電 源 とするマトリックスコンバータの 回
路 構 成 を 示 す。 入 力 フィルタは 発 電 機 の 同 期 リアクタンス
とフィルタコンデンサで 構 成 できる。 発 電 機 が 電 源 の 場 合 ,
電 圧 利 用 率 を 最 大 にするために, 逆 起 電 力 と 入 力 電 流 の 位
相 が 一 致 するように 入 力 力 率 を 制 御 しなければならない。
従 って, 逆 起 電 力 の 位 相 情 報 が 必 要 となる。よって, 本 稿
では 磁 極 位 置 センサを 用 いて 発 電 機 の 逆 起 電 力 の 位 相 を 検
出 する。 逆 起 電 力 位 相 は 入 力 端 子 電 圧 , 入 力 電 流 ,および
同 期 リアクタンスから 算 出 可 能 であるが, 演 算 量 が 増 加 す
るために 高 速 制 御 を 行 う 上 では 不 利 である。
これまで 提 案 してきた 入 力 電 流 の 安 定 化 制 御 法 では,マ
トリックスコンバータの 入 力 側 の 電 流 をオープンループ 制
御 している。 従 って, 発 電 機 側 の 電 流 を 直 接 制 御 が 出 来 な
い。 軽 負 荷 時 の 発 電 機 電 流 はフィルタコンデンサに 流 れる
電 流 の 影 響 を 大 きく 受 けるために 位 相 が 進 み, 入 力 力 率 が
悪 化 する。 入 力 力 率 が 悪 化 した 場 合 , 電 流 振 幅 が 大 きくな
るために 発 電 機 の 損 失 が 増 加 する。ハイブリッド EV に 本
システムを 適 用 した 場 合 , 電 動 機 は 軽 負 荷 で 運 転 する 場 合
が 圧 倒 的 に 多 いため, 効 率 の 低 下 が 懸 念 される。そこで,
re
Fig. 1. Configuration of the matrix converter and the
generator power supply.
G
MC
+
i * d =0
-
i q
*
i d i q
-
Load
C f
*
I r i Switching
V u
d
*
I uvw
Commands V v
s
to
calculator
*
V w
I t dq i q
*
I r
*
I s
*
I t
re
+
ACR
ACR
dq
to
uvw
Fig. 2. Block diagram of proposed input current vector
control.
入 力 電 流 の 安 定 化 と 力 率 改 善 が 可 能 な 入 力 電 流 フィードバ
ックを 用 いたベクトル 制 御 を 適 用 する。
図 2 に 提 案 する 入 力 電 流 ベクトル 制 御 のブロック 図 を 示
す。 発 電 機 に 付 属 する 磁 極 位 置 センサより 磁 極 位 置 信 号 を
検 出 し,PLL により 精 確 な 位 相 情 報 を 得 る。 得 られた 位 相
情 報 を 用 いて 発 電 機 電 流 を 回 転 座 標 変 換 し,フィードバッ
ク 制 御 する。これにより, 入 力 電 流 位 相 と 逆 起 電 力 位 相 を
常 に 同 相 に 制 御 可 能 になり, 電 圧 利 用 率 の 最 適 化 と 軽 負 荷
時 の 入 力 力 率 改 善 が 同 時 に 達 成 できる。
入 力 電 流 はフィルタ 共 振 の 影 響 を 受 けるため, 大 きな 振
動 が 発 生 する。さらに,その 影 響 でフィルタコンデンサが

Table 1. Generator parameter.
Terminal voltage (phase) [250V/div]
0
Input current [10A/div]
0
接 続 されている 入 力 端 子 電 圧 が 大 きく 上 昇 し,システムが
不 安 定 になる。そこで, 入 力 電 流 の 振 動 を 抑 制 するために,
電 流 制 御 には PID 制 御 を 適 用 する。 微 分 項 を 付 加 すること
で 瞬 時 的 な 電 流 の 変 動 を 抑 制 し, 入 力 電 流 を 正 弦 波 に 制 御
する。また,PID 制 御 によって 入 力 電 流 の 振 動 が 抑 制 でき
るため, 入 力 端 子 電 圧 の 急 峻 な 変 動 も 同 時 に 抑 制 可 能 にな
り,システムが 安 定 化 する。
3. 実 験 結 果
0
0
Output voltage (line-to-line) [250V/div]
Output current [10A/div]
10[ms/div]
Fig. 3. Experimental results of input and output waveforms.
図 3 に 表 1 の 発 電 機 を 用 いた 場 合 の RL 負 荷 における 実 験
結 果 を 示 す。ただし, 発 電 機 の 回 転 速 度 は 低 負 荷 時 を 想 定
しているため 1200[rpm]としている。 入 力 端 子 電 圧 , 入 力 電
流 に 大 きな 振 動 が 存 在 しないことから,ベクトル 制 御 の 導
入 によって 端 子 電 圧 の 上 昇 と 入 力 電 流 の 振 動 が 抑 制 され,
システムが 安 定 化 しているのが 確 認 できる。 入 力 電 流 ひず
み 率 は 6.44[%]であり,これまでの 入 力 電 流 安 定 制 御 と 同 程
度 の 振 動 抑 制 結 果 が 得 られている。また, 入 力 側 に 大 きな
ひずみが 発 生 していないため, 出 力 電 圧 , 電 流 共 に 正 弦 波
に 制 御 でき, 出 力 側 の 制 御 も 良 好 であることが 確 認 できる。
出 力 電 圧 が 指 令 値 通 りの 出 力 がされていることから, 発 電
機 の 逆 起 電 力 を 推 定 することでマトリックスコンバータの
最 大 電 圧 利 用 率 を 常 に 最 適 に 出 力 可 能 であることが 確 認 で
きる。
図 4 に 入 力 電 流 ベクトル 制 御 の 有 無 による 入 力 電 流 高 調
波 成 分 の 比 較 結 果 を 示 す。 安 定 化 制 御 を 適 用 しない 場 合 ,
11 次 ,13 次 高 調 波 成 分 が 特 に 大 きく, 同 期 リアクタンスと
フィルタコンデンサによる 共 振 が 発 生 しているのが 確 認 で
きるが,ベクトル 制 御 を 適 用 することで 共 振 成 分 を 抑 制 で
きる。また, 全 体 的 に 高 調 波 成 分 を 低 減 できる。
図 5 に 入 力 電 流 ベクトル 制 御 を 用 いた 場 合 の, 電 力 の 変
動 による 入 力 端 子 電 圧 , 入 力 電 流 , 入 力 力 率 の 変 動 を 示 す。
ただし, 入 力 力 率 は 入 力 端 子 電 圧 基 準 である。ベクトル 制
御 では 入 力 電 流 は 発 電 機 の 逆 起 電 力 と 同 相 制 御 されるた
め, 電 力 の 増 加 によって 端 子 電 圧 に 対 して 進 み 力 率 となる。
従 って, 図 より 最 適 入 力 力 率 制 御 が 行 われていることが 確
認 できる。また, 入 力 端 子 電 圧 は 同 期 リアクタンスに 流 れ
る 発 電 機 電 流 によって 上 昇 するため, 入 力 電 流 の 増 加 に 伴
い 上 昇 する。
4. まとめ
本 論 文 では 発 電 機 電 源 を 接 続 したマトリックスコンバー
タに 入 力 電 流 ベクトル 制 御 を 導 入 し, 実 機 検 証 により 有 用
性 を 確 認 した。 今 後 は 制 御 ゲインの 最 適 化 と 電 動 機 負 荷 へ
Fig. 4. Harmonics spectral analysis results.
Fig. 5. Relationship between load power and power factor.
の 適 用 を 行 う 予 定 である。なお, 本 研 究 は 平 成 17 年 度 産 業
技 術 研 究 助 成 事 業 の 支 援 を 受 けており, 関 係 各 位 に 感 謝 の
意 を 表 します。
文 献
(1) 春 名 順 之 介 ・ 伊 東 淳 一 ,JIASC2007,pp.I-223-I-226 (2007)
(2) I. Sato, J. Itoh, H. Ohguchi, A. Odaka, and H. Mine, IPEC-Niigata,
pp.546–551 (2005)
(3) 杉 本 英 彦 ・ 小 山 正 人 ・ 玉 井 伸 三 :「AC サーボシステムの 理 論
と 設 計 の 実 際 」, 総 合 電 子 出 版 社