27.10.2013 Views

(pdf):『山地・森林における土壌(EGS-Soil.pd)』

(pdf):『山地・森林における土壌(EGS-Soil.pd)』

(pdf):『山地・森林における土壌(EGS-Soil.pd)』

SHOW MORE
SHOW LESS

Create successful ePaper yourself

Turn your PDF publications into a flip-book with our unique Google optimized e-Paper software.

9.1 土壌の基本的物理性<br />

9.1.1 土壌三相と間隙率<br />

環境地学9<br />

9.山地・森林における土壌<br />

土壌は,固相(土粒子・有機物など),液相(土壌水),気相(土<br />

壌空気)の三相からなっている(図 9.1).すなわち,土壌は土粒<br />

子と,その間隙に存在する水と空気から成り立っている.<br />

土壌中の間隙の量は,土壌の全体積に対する間隙体積に対する<br />

間隙率 n で表される.<br />

n=(V v/V)×100 (9.1)<br />

9.1.2 土壌の粒度区分と土性<br />

1<br />

大槻 恭一<br />

代表的な土壌の粒度区分を示したのが図 9.2 である.粒度分析の結果を,砂(粗砂,細砂),シルト,粘土に区分し,<br />

それらの割合を三角座標で示すことにより土性を知ることができる(図 9.3).砂,シルト,粘土の割合の高い土壌は,<br />

それぞれ砂土,壌土,埴土と呼ばれている.土性は,透水性,保水性,通気性,養分保持能などの土壌の理化学性と密<br />

接に関連している.<br />

粘<br />

土<br />

0.002<br />

mm<br />

シルト<br />

(微砂)<br />

9.2 土壌や生体内の水分の表示<br />

物質やエネルギーの状態を示すためには,量を表す示量変数と質や強度を表す示強変数の 2 種類の変数が必要<br />

である.ある系の水の示量変数は水分含有量,示強変数は水ポテンシャルと呼ばれる.水ポテンシャルは,温度<br />

が熱移動の方向と速度を決めるように,水移動の方向と速度を決定する.<br />

9.2.1 土壌水分量の表示<br />

土壌水分は,土壌を乾燥する前後の質量の差から求めることができる.<br />

Ww=W-Ws Vw=Ww/γw 0.02 0.2 2<br />

細<br />

砂<br />

ここに,γ w は水の密度(kg/m 3 )である.<br />

土壌水分は,一般に含水比ω,体積含水率θ,水深 d で表される.<br />

粗<br />

砂<br />

図 9.2 土壌の粒度区分(国際土壌学会法)<br />

(1) 含水比ω<br />

土壌の乾燥質量に対する土壌水分の質量の百分率である.採取した土壌の体積が不明のときは,一般に含水比<br />

で表示される.<br />

ω=(W m/W s)×100 (9.4)<br />

礫<br />

V<br />

体積 質量<br />

Vv<br />

V<br />

V<br />

V<br />

空気<br />

水<br />

土粒<br />

子<br />

Wa<br />

Ww<br />

W<br />

図 9.1 土の組成の模式図<br />

W<br />

図 9.3 三角座標による土性区分<br />

(国際土壌学会法)<br />

(9.2)<br />

(9.3)


環境地学9<br />

(2) 体積含水率θ<br />

土壌の全体積に対する土壌水分の体積の百分率であり,容積が既知の採土円筒を用いることにより求めること<br />

ができる.<br />

θ=(V m/V)×100 (9.5)<br />

(3) 水深 d<br />

降水量や蒸発量は水深で表すことが多く,土壌水分もこれらと比較するために水深で表されることがある.土<br />

壌水分を水深換算するためには,一般に次式が使用される.<br />

d=θ×(D/100) (9.6)<br />

ここに,D は土層の厚さ(mm),d は水深(mm)です.<br />

9.2.2 土壌水の分類<br />

土壌水分は,土粒子との結合強さによって吸着水,毛管水,<br />

重力水に分類される(図 9.4).<br />

(1) 吸着水<br />

吸着水は,土粒子と水分子の間の分子間力や,土粒子荷電に<br />

よる電場の影響を受けて土粒子表面に強く吸着されている水で<br />

ある.したがって,吸着水は植物にはほとんど利用されない.<br />

(2) 毛管水<br />

毛管水は,吸着水の外側に表面張力によって重力に逆らって<br />

保持されている水である.毛管水は土層に長く留まり,植物が<br />

最も吸水利用する水である.<br />

(3) 重力水<br />

重力水は,土壌の間隙を重力によって流れ去る水である.し<br />

たがって,重力水は植物にはあまり利用されない.重力水は,<br />

時には通気性を悪くして有害となる.<br />

9.2.3 水ポテンシャル<br />

水ポテンシャルは,純水をポテンシャル 0 として基準に置いたモル,単位質量,単位体積,単位質量当りの水<br />

が持っているポテンシャルエネルギーとして定義される.土壌水は,様々な化学成分が溶けた土壌溶液であり,<br />

また土粒子と水の間に生じる表面張力,土粒子近傍のファンデルワールス力や水素結合力などの力を受けている.<br />

したがって,土壌水の理化学性は純水と異なる.このような土壌水の状態は,基準高さの大気圧と平衡状態にあ<br />

る純水を基準としたポテンシャルで表される.<br />

水ポテンシャルは様々な単位で表されている:<br />

・質量あたりのエネルギー:J/Kg<br />

エネルギーと質量を表し,質量は水の密度が変化しても体積のように変化はしない.<br />

・体積当りのエネルギー:J/m 3 =kPa<br />

圧力単位は水ポテンシャルの単位としてよく用いられている.<br />

・重量当りのエネルギー:J/N=m<br />

重力場における水柱の高さと同等の次元で,土壌の水の流れに関する問題で主に用いられている.<br />

表 9.1 水ポテンシャルの単位換算表<br />

質量<br />

(J/kg)<br />

2<br />

体積<br />

(J/m 3 =Pa)<br />

吸着水<br />

重量<br />

(J/N=m)<br />

質量(J/kg) 1 1000 0.102040816<br />

体積<br />

(J/m 3 =kPa)<br />

0.001 1 0.000102041<br />

重量(J/N=m) 9.8 9800 1<br />

水の密度を1Mg/m 3 ,重力定数を 9.8ms -2 とすると,1J/kg = 1kPa = 0.001 MPa ≈ 0.1 m である.<br />

毛管水<br />

図 9.4 土壌水の状態<br />

重力水<br />

水ポテンシャルは様々な構成要素からなる.全水ポテンシャルΨ t は,通常,各構成要素の和として表される.<br />

Ψ t= Ψg + Ψm + Ψp +Ψo (9.7)<br />

ここに下付き文字の g,m,p,o はそれぞれ重力,マトリック,圧,浸透におけるポテンシャルを表す.それぞれ


環境地学9<br />

の構成要素は全水ポテンシャルに寄与しうるが,この内の一つか二つだけが有効である場合が多い.例えば,不<br />

飽和土壌では一般に全水ポテンシャルは,マトリックポテンシャルと重力ポテンシャルで表すことが多い.<br />

(1) 重力ポテンシャルΨ g<br />

重力場に水が存在することによって生じる水ポテンシャルエネルギーである.重力ポテンシャルの値は,基準<br />

レベルに対する相対的な位置によって決まる.したがって,重力ポテンシャルを計算するためには基準高を決定<br />

しなければならない.基準レベルの取り方によって重力ポテンシャルは正の値も負の値もとる.<br />

重力ポテンシャルは次のように表される<br />

Ψg = gh (9.8)<br />

ここに,g は重力定数(9.8 m s -2 )である.h はポテンシャルが規定される場所の基準高からの垂直距離である.<br />

基準高より上では正,下では負である.<br />

(2)マトリックポテンシャルΨ m<br />

水と土壌粒子,セルロース等の間で引き合う力によって生じる水ポテンシャルエネルギー.吸引力や吸着力は<br />

水を結合し,自由水と比較してポテンシャルエネルギーを減少させる.マトリックポテンシャルは,不飽和土壌<br />

中の水の流れの駆動力として重要な働きをする.<br />

水分含有量とマトリックポテンシャルの関係を水分特性と呼ぶ.図 9.5 は 3 つの異なった組成を持つ土壌の水分<br />

特性を示している.粘土は,広大な面積の表面に水を吸着するので,大半の水は(低いポテンシャルで)非常に<br />

しっかりと保持されている.砂は吸着能力がほとんど無いので,水は(高い水ポテンシャルで)ゆるやかに保持<br />

されている.セルロース,たんぱく質等についても類似の曲線を作ることができ,それらも似たような形になる.<br />

なお,マトリックポテンシャルは常に 0 か負の値をとる.水分特性曲線は次式により近似できる<br />

水分含有量(kg/kg)<br />

Ψm = a w<br />

-b (5.14)<br />

ここ,w は水分含有量,a, b は経験定数である.<br />

粘土<br />

ローム<br />

砂<br />

マトリックポテンシャル(J/kg)<br />

図 9.5 異なった組成の 3 種類の土壌の水分特性<br />

土壌水のポテンシャルは,単位体積当たりポテンシャル(=圧力単位)kJ/m 3 =kN/m 2 =kPa,あるいは吸引圧とし<br />

て扱い水頭 cmH 2O で表すのが一般的である.ただし,取り扱う値の範囲が非常に大きくなるため,吸引圧 h(cmH 2O)<br />

の常用対数をとり pF 値で表されることもある.<br />

pF=log 10h (9.9)<br />

表 9.2 水ポテンシャルの一般的な表示単位と相互関係<br />

pF cm m Pa kPa MPa<br />

pF 1 10 0.1 980 0.98 0.00098<br />

cm 0 1 0.01 98 0.098 0.000098<br />

m 2 100 1 9800 9.8 0.0098<br />

Pa -1.991226076 0.010204082 0.000102041 1 0.001 0.000001<br />

kPa 1.008773924 10.20408163 0.102040816 1000 1 0.001<br />

MPa 4.008773924 10204.08163 102.0408163 1000000 1000 1<br />

3<br />

マ<br />

ト<br />

リ<br />

ッ<br />

ク<br />

ポ<br />

テ<br />

ン<br />

シ<br />

ャ<br />

ル<br />

土粒子<br />

7<br />

6<br />

5<br />

4<br />

3<br />

2<br />

1<br />

ー∞<br />

pF<br />

7.0 炉乾<br />

6.3 単分子吸着<br />

5.5 風乾<br />

無効<br />

水分量<br />

4.2 永久しおれ点<br />

難利用水分量<br />

3.0 生長阻害水分点<br />

容易有効<br />

水分量<br />

図 9.6 土壌水分特性曲線と水分定数の関係<br />

1.5 圃場容水量<br />

重<br />

力<br />


自由水 水を吸った場合<br />

環境地学9<br />

図 9.7 に示すように,U 字管の自由水は同一水面で釣り合う.U 字管の片方に口を付け吸い込むと,もう一方<br />

の水面が下がる.これと同様に,チューブの先端に水だけを通すポーラスカップ(セラミックの多孔質管)を装<br />

着し土壌に差し込むと,土壌が水を吸うため,もう一方の水面が低下し,やがて釣り合う.ポーラスカップを埋<br />

めた位置と,低下した水位の差がマトリックポテンシャルである。このような方法では,土壌深くまでチューブ<br />

を埋める必要があるので,一般には吸引圧を圧力センサーで測定する(テンシオメータ法).<br />

テンシオメータは,先端にポーラスカップを付けたパイプに圧力センサーを取り付けたもので,これを土壌中<br />

に挿入する.ポーラスカップおよびパイプは蒸留水で満たしておく.すると,圧力センサーには,圧力センサー<br />

からポーラスカップまでの水柱高さ h に相当する重力ポテンシャル gh とマトリックポテンシャルψm がかか<br />

る.したがって,測定点のマトリックポテンシャルψm は次式で求めることができる.<br />

ψm= ψ t-ψ g = ψ t-gh<br />

飽和土壌の水ポテンシャルは 0 に近い値をとる.水ポテンシャルが-10~-30 J/kg に低下すると,土壌水中の重力<br />

水はすぐに排水される.この水ポテンシャルで保持されている水分含有量は圃場容水量と呼ばれ,有効水分量の<br />

上限の指標とされている.排水・蒸発散によって土壌から水が失われていくと土壌の水ポテンシャルは低下する.<br />

土壌の水ポテンシャルが-1500 J/kg 程度になると,土壌水は土壌に強固に吸着されるため,植物根の水ポテンシャ<br />

ルはそれ以上の水を土壌から引き出せるほど低下できなくなる.この時の土壌水分含有量は,永久しおれ点と呼<br />

ばれ,有効水分量の下限の指標とされている.<br />

(3)圧ポテンシャルΨ p<br />

水圧や圧縮空気圧にから生じるものである.このポテンシャルの例としては,水面下の水圧,植物細胞内の膨<br />

圧,動物の血圧,あるいは植物の葉や土壌のマトリックポテンシャルを測定する時の圧力容器の空気圧などが挙<br />

げられる.圧ポテンシャルをマトリックポテンシャルと区別することが難しい.例えば,土壌中の正圧は圧ポテ<br />

ンシャル,負圧はマトリックポテンシャルと呼ばれる.植物の木部内の圧力は一般に負圧であるが,圧ポテンシ<br />

ャルとされる.異なった系では水ポテンシャルの構成要素が異なること,また構成要素が正確な熱力学的な根拠<br />

によってではなく,主にその測定法によって定義されていることが混乱の原因である.ここでは,水に働いてい<br />

る力の性質によって圧ポテン<br />

シャルとマトリックポテンシ<br />

ャルを区別するように定義す<br />

る.マトリックポテンシャルは<br />

表面境界の近傍で作用する力<br />

(毛管力あるいはファンデル<br />

ワールス(van der Waals)力)<br />

による水ポテンシャルの減少<br />

と定義され,常に負の値をとる.<br />

圧ポテンシャルは系全体で作<br />

用する,より大きな効果とみな<br />

される.圧ポテンシャルは次の<br />

ように計算される<br />

Ψp = P /ρw (9.10)<br />

ここに,P は圧力(Pa),ρ w は<br />

水の密度である.圧ポテンシャ<br />

ルは正にも負にもなるが,通常<br />

は正の値をとる.<br />

基準レベル<br />

地下水面<br />

土壌<br />

図 9.7 マトリックポテンシャルとは<br />

d(cm)<br />

-300<br />

0<br />

-200 -100 0 100<br />

10<br />

重<br />

力<br />

20<br />

全<br />

30<br />

マ<br />

ト<br />

40<br />

リ<br />

ッ<br />

50<br />

60<br />

ク<br />

70<br />

80<br />

圧<br />

力<br />

4<br />

ψ(cmH2O)<br />

h<br />

H<br />

図 9.9 土壌中のポテンシャルの模式図<br />

Ψ=Ψ Ψ=Ψ g +Ψ +Ψ m =gh+Ψ =gh+Ψ m<br />

図 9.8 テンシオメータ<br />

ψg<br />

ψm<br />

ψp<br />

ψt


環境地学9<br />

例えば,土壌中では正圧は圧ポテンシャル,負圧はマトリックポテンシャルと呼ばれている.図 6.9 に土壌水<br />

のポテンシャルの状態を模式的に示す.ここでは,基準面を地表面においている.地下水面では,マトリックポ<br />

テンシャル,圧ポテンシャルは共に 0 である.マトリックポテンシャルは地下水面下では 0 で,地下水面上では<br />

乾燥状態に応じて減少し,負の値を取っている.圧ポテンシャルは,地下水面上では 0 で,地下水面下では水圧<br />

に従って直線的に増加している.マトリックポテンシャルの値から,地表面に近づくに従って土壌が乾燥してい<br />

ること,全ポテンシャルの値から土壌水が地下水面から上方に移動していることがわかる.<br />

(4)浸透ポテンシャルΨ o<br />

溶質が水の中で溶解する時の希釈効果によって浸透ポテンシャルが生じる.浸透ポテンシャルは,溶液が半透<br />

膜によって隔離されない限り,水移動のためのポテンシャルあるいは駆動力として作用しない.このようなこと<br />

は,主に動植物の細胞や水と気体の境界で生じる.ある溶液が完全半透膜によって隔離される場合,溶質ポテン<br />

シャルは次のように計算される<br />

Ψo = -CφνRT (9.11)<br />

C は溶液の濃度(mol/Kg),φは浸透係数,νはモル当たりのイオン数(たとえば NaCl は 2,CaCl 2 は 3,スクロー<br />

スは 1),R は気体定数(8.3143 Jmol -1 K -1 ),T は絶対温度である.浸透係数は理想的な溶質では 1 であり,生物体<br />

や環境中の溶液中では一般的にその値の 10%の範囲内の値になる.<br />

植物の細胞では,溶質の濃度は非常に高い.細胞膜は水を通すが溶質は通さないので,細胞周辺の水は細胞中<br />

に移動しようとする.細胞壁は細胞の膨張を妨げるので,細胞内の圧力は増加する.その圧力と浸透ポテンシャ<br />

ルの合計が木部の水ポテンシャルと等しくなった時,細胞への水移動は停止する.もし,植物の細胞壁が柔らか<br />

く,高い圧力に耐えられなければ,水は細胞の中に移動し続け,生命活動が停止するまで細胞内の溶質を希釈し<br />

続けることになるだろう.<br />

葉の場合,重力ポテンシャルΨ g とマトリックポテンシャルΨ m は無視できるので,水ポテンシャルΨ t は,圧ポ<br />

テンシャルΨp と浸透ポテンシャルΨ o の和で表すことができる.<br />

Ψ t=Ψ p+Ψ o<br />

葉が水を失うと,圧ポテンシャルΨ p は次第に小さくなる.すなわち,水ポテンシャルΨ t は水ストレスの指標にな<br />

る.圧ポテンシャルΨ p が失われた状態は,水ポテンシャルΨ t が浸透ポテンシャルΨo と等しくなった状態で,細胞<br />

質が細胞壁から離れた原形質分離の状態を表しています(図 6.10).<br />

Ψo=-1.5MPa<br />

Ψt=0Mpa<br />

【例題 9.1】 植物の樹液の浸透ポテンシャルΨ o が 0.3 モル濃度の KCl と同等で,組織の水ポテンシャルΨが-700<br />

J/kg であるとすると,膨圧はいくらか.<br />

【解答】 C = 0.3 mol/kg,φ = 1,ν = 2 として,(9.11)式によって浸透ポテンシャルΨ o を求める.<br />

Ψ o = -0.3 mol/kg × 1 × 2 × 8.31 J/mol/ K × 293 K = -1461 J/kg.<br />

膨圧Ψ p を求めるために(9.7)式を使用する.浸透ポテンシャルΨ o と圧ポテンシャルΨ p 以外の要素が無視できるとす<br />

ると:<br />

Ψ p = Ψt - Ψ o = -700 J/kg - (-1461 J/kg) = 761 J/kg.<br />

(9.10)式を使用すると<br />

Ψp=+1.5Mp<br />

φp=1.5Mpa<br />

P = 761 J/kg × 1000 kg/m 3 = 761 kPa.<br />

Ψo=-2.0MPa<br />

Ψt =-1.0Mpa<br />

1 気圧は 101.3kPa なので,細胞内部にかかる圧力は 7.5 気圧になる.植物が水をさらに吸収して十分に膨張したと<br />

すると(葉の水ポテンシャルが 0 になると),細胞内部にかかる圧力はこの値のほぼ 2 倍になるだろう.これらは<br />

植物の葉の典型的な値であり,生命体の中において日常的に驚くべき高い圧力がかかっていることを示している.<br />

5<br />

Ψp=+1.0Mp<br />

φp=1.5Mpa<br />

図 9.10 葉細胞の模式図<br />

(9.12)<br />

Ψo=-3.0MPa<br />

Ψt =-3.0Mpa<br />

φp=1.5Mpa<br />

Ψp=0Mpa


9.3 生物体とその周辺環境の水ポテンシャル<br />

環境地学9<br />

生物体と周辺環境における水ポテンシャルの範囲を把握しておくことは有用である.人間の血液の浸透ポテン<br />

シャルは約-700J/kg である.新鮮な汗は,血液の約半分の濃度に希釈,尿は血液の 2~3 倍の濃度に濃縮されている.<br />

大半のほ乳類の血液や他の体液の浸透ポテンシャルは,人間の場合と類似している.植物の葉の細胞液の浸透ポ<br />

テンシャルは,-500~-7000J/kg であり,湿潤地域の典型的な植物では-1000~-2000 J/kg の範囲である.蒸散速度<br />

が非常に低下する夜間には,葉の水ポテンシャルは土壌の水ポテンシャルに近づく.土壌が湿潤であれば,水ポ<br />

テンシャルは 0 に近づく.昼間は蒸散速度が高く,膨圧が 0 に近づき,葉の水ポテンシャルは浸透ポテンシャル<br />

とほぼ等しくなる.したがって,湿潤土壌で成長する植物の葉の水ポテンシャルは,-100~-2000J/kg の範囲で日<br />

変動する.<br />

葉の水分ポテンシャルΨは,一般にプレッシャーチャンバー法で測定される.プレッシャーチャンバー法とは,<br />

図 9.11 のように切断した葉をチャンバー内に入れ,葉柄の切断面をチャンバー外に出し,密閉した後に徐々に加<br />

圧し,切断面に樹液が現れた時の圧力を読み取る方法である.<br />

植物の葉を葉柄から切断すると,樹液は木部の負圧によって切断と同時に葉の内部に引き込まれる.そこで,<br />

プレッシャーチャンバー法により葉に圧力をかけていくと,葉の木部負圧に等しい圧になった時点で樹液が切断<br />

面に戻ってくる.一般に,樹液はほぼ純水で,溶質濃度が小さく<br />

浸透ポテンシャルΨ o は 0 に近いので,プレッシャーチャンバー内<br />

の圧力に負号を付けた値が水ポテンシャルΨ t とみなすことができ<br />

る.<br />

以下に,簡単にプレッシャーチャンバー法の手順について説明<br />

します.<br />

① 対象木の葉を葉柄から切断する<br />

② 切断した葉を図 6 のように,切断面をプレッシャーチャンバ<br />

ーの外に出して密封する.<br />

③ チャンバー内の圧力を高圧の窒素ガスボンベにより徐々に高<br />

めていく<br />

④ 葉の切断面をルーペや虫眼鏡で観察し,切断面に樹液が滲ん<br />

だ瞬間にプレッシャーチャンバーの加圧を止め,圧力計の値<br />

を読み取る.<br />

9.3.1 土壌水分定数<br />

飽和土壌の水ポテンシャルは 0 に近い.水ポテンシャルが-10~-30 J/kg に低下すると,重力水はすぐに排水され<br />

てしまう.この水ポテンシャルで保持されている水分量は圃場容水量と呼ばれ,有効水分量の上限の指標とされ<br />

ている.蒸発散によって土壌から水が失われていくと土壌の水ポテンシャルは低下していく.土壌の水ポテンシ<br />

ャルが-1500 J/kg 程度になると,土壌水が土壌に強固に吸着され,植物の根の水ポテンシャルは,それ以上の水を<br />

土壌から引き出せるほどには低下できなくなる.この時の土壌水分量を,永久しおれ点と呼び,有効水分量の下<br />

限の指標とされている.<br />

植物の生育や土壌水の移動にとって重要な水分状態を土壌水分定数という.主な土壌水分定数には次のような<br />

ものがある.<br />

単分子層吸着量(pF6.3 程度)<br />

水分子が土粒子に 1 分子層だけ吸着されている状態の土壌水分.<br />

風乾土水分(pF5.5 程度)<br />

日陰の風通しの良い条件下で土壌を乾燥させ,大気中の水蒸気と平衡させた状態の土壌水分<br />

しおれ点(pF3.8~4.2 程度)<br />

土壌水分が低下し,植物が吸水できず枯れる状態の土壌水分.水を補給すれば回復する初期しおれ点<br />

(pF3.8 程度),水を補給しても回復しない永久しおれ点(pF4.2 程度)がある.<br />

生長阻害水分点(pF3.0 程度)<br />

作物の生長阻害が起こり,正常な生育を行い得なくなった状態の土壌水分.<br />

圃場容水量(pF1.5~1.8 程度)<br />

多量の降雨またはかんがい後,土層からの重力排水の速度が非常に小さくなった水分状態の土壌水分.<br />

飽和水分量(pF0 程度)<br />

土壌が重力に抗して吸水保持できる水.地下水面近くの土壌水分はほぼこの状態で平衡を保っている.<br />

9.3.2 有効水分量<br />

植物が有効に利用できる土壌水分は圃場容水量からしおれ点までの範囲の水分で,有効水分量(available water)<br />

と呼ばれている.わが国では,24 時間容水量から生長阻害水分点までの範囲の土壌水分量を容易有効水分量(readily<br />

6<br />

図 9.11 プレッシャーチャンバー法


環境地学9<br />

available water)と定義し,これを用いることが多い.容易有効水分量は生長有効水分量と呼ぶべきもので,作物の<br />

正常な生育に有効な範囲の土壌水分量である.<br />

有効水分量は粘性土の方が砂質土より多い.また,同じ土壌でも,団粒構造(aggregate structure)が発達すると,<br />

有効水分量が多くなる.団粒構造とは,土粒子が集合してできた団粒が集まって構成された状態をいう.この状<br />

態の土壌では,団粒間間隙は水と空気の通路となり,団粒内間隙は水分を保持する.すなわち,団粒構造を有す<br />

る土壌は,通水性,通気性,保水性が良い,植物にとって生育しやすい環境を備えている.<br />

9.3.3 大気の水ポテンシャル<br />

大気の水ポテンシャルΨは,気温 T(K)と相対湿度 h r (= e/e s )の関数であり,次式で表される.<br />

RT ψ = ln hr<br />

(9.13)<br />

M<br />

w<br />

ここに,R は気体定数,T は気温(K),M は水の分子量 (0.018 kg/mol) である.(9.13)式を h<br />

w<br />

r について解くと,<br />

対象とする水ポテンシャルにおける液相-気相境界面の相対湿度を求めることができます.<br />

M wψ<br />

hr<br />

= exp<br />

(9.14)<br />

RT<br />

【例題 9.2】 生物体とその周辺環境の典型的な水ポテンシャルにおける,液相-気相境界面の相対湿度の表を作<br />

成せよ.<br />

【解答 9.2】 温度を 293K(20℃)とすると,式(9.14)は次のようになる.<br />

h r<br />

kg J<br />

0.<br />

018 × ψ<br />

mol kg ψ<br />

= exp<br />

= exp<br />

J<br />

8.<br />

31 × 293K<br />

135000<br />

molK<br />

この式を用いて次のような表が作れる.<br />

表 9.3 生物体とその周辺環境の代表的な水ポテンシャルの値<br />

組織または場所 水ポテンシャル(J/kg) 相対湿度<br />

葉(夜間) -100 0.999<br />

葉(昼間,ストレス状態) -2000 0.985<br />

乾生植物の葉 -8000 0.942<br />

乾生菌類 -58000 0.65<br />

土壌,圃場容水量 -30 0.9998<br />

土壌,永久しおれ点 -1500 0.989<br />

土壌,風乾 -100000 0.48<br />

飽和食塩水 -38000 0.755<br />

この表は,植物の成長を十分に維持できる程<br />

度に湿潤な土壌の相対湿度は,1.0 に非常に近い<br />

ことを示している.動物やほとんどの植物の葉<br />

の蒸発面での相対湿度も 1.0 に近い.一般に蒸<br />

発面における水蒸気濃度は,その表面温度にお<br />

ける飽和水蒸気濃度と等しいと仮定することが<br />

できる.この仮定が当てはまらないのは,高濃<br />

度の溶質が溶解している場合や,その表面が典<br />

型的な生物活動における水ポテンシャルを下回<br />

るまで乾燥した場合である.<br />

図9.12 に土壌-植物-大気系の水ポテンシャ<br />

ルを例示した.このような水ポテンシャルの差<br />

が駆動力となり,水は土壌-植物-大気系を移<br />

動する.<br />

湿潤条件<br />

ψψ air = -10MPa<br />

(h r =0.93)<br />

ψ ψ soil = -0.3MPa<br />

7<br />

ψψ air= air= -100MPa<br />

(h r =0.48)<br />

ψ ψ leaf= leaf= -1.0MPa ψ ψ leaf= leaf= -1.5MPa<br />

ψ ψ root = -0.6MPa<br />

乾燥条件<br />

ψ ψ root = -0.6MPa<br />

ψ ψ soil = -1.0MPa<br />

図9.12土壌―植物-大気における水ポテンシャル

Hooray! Your file is uploaded and ready to be published.

Saved successfully!

Ooh no, something went wrong!