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植物ウイルスの特性とその保存について - NIAS Genebank

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微 生 物 遺 伝 資 源 利 用 マニュアル(31)(2012)<br />

MAFF Microorganism Genetic Resources Manual No.31 (2012)<br />

ISSN 1344-1159<br />

<br />

花 田 薫<br />

農 業 生 物 資 源 研 究 所<br />

<br />

農 業 生 物 資 源 ジーンバンクでは, 微 生 物 を 長 い 期 間 を 通 じて 活 性 のある 状 態 で 維 持 保 存 し, 研 究 や 防 除 対<br />

策 の 検 討 などのために 利 用 される 方 々に 広 く 配 布 している.1985 年 にジーンバンク 事 業 が 発 足 すると 同 時 に,<br />

植 物 ウイルスも 保 存 ・ 配 布 の 対 象 として 含 められ,その 活 動 を 開 始 した.それ 以 来 , 四 半 世 紀 以 上 経 過 した<br />

2012 年 2 月 現 在 , 植 物 ウイルスに 関 しては 252 種 (ウイロイド 16 種 を 含 む)が 公 開 され, 保 存 ・ 配 布 の 対 象<br />

となっている(Tomioka et al., 2012). 保 存 ・ 配 布 するウイルス 感 染 葉 の 真 空 乾 燥 保 存 アンプルは, 多 くのウ<br />

イルスについては 5 ~ 10 年 は 活 性 が 安 定 している.しかし, 保 存 機 関 としては 将 来 的 には 50 年 ,100 年 ,あ<br />

るいはそれを 越 える 長 い 期 間 の 安 定 保 存 が 求 められるので, 真 空 乾 燥 保 存 だけでなく, 感 染 葉 を 液 体 窒 素 気 相<br />

中 で 保 存 することも 併 行 して 行 っている.<br />

日 本 国 内 で 発 生 して 分 離 同 定 された 植 物 ウイルスのすべてをジーンバンクで 保 存 ・ 配 布 できればよいのだ<br />

が, 実 施 体 制 や 予 算 には 限 りがあるほか, 特 性 が 類 似 したウイルス 株 を 多 数 集 めても 利 用 価 値 や 管 理 上 の 効 率<br />

があまり 高 くないなどの 理 由 から, 取 り 扱 うウイルス 株 を 絞 り 込 むこととなる.したがって,ジーンバンクで<br />

は, 農 業 上 重 要 と 思 われるウイルス 株 , 何 らかの 特 異 性 を 持 った 株 など,それらの 重 要 度 を 個 々に 考 慮 して 保<br />

存 ・ 配 布 株 を 選 定 している.<br />

なお, 本 マニュアルでは,はじめに 植 物 ウイルス 全 般 に 関 する 概 要 およびウイルス 保 存 のための 基 礎 的 な 手<br />

法 について 紹 介 した 後 ,ウイルス 保 存 に 直 接 関 わる 手 法 について 順 次 説 明 する.その 後 ,ジーンバンクに 保 存<br />

されているウイルスの 特 徴 , 配 布 の 実 際 , 配 布 ウイルス 標 品 使 用 の 際 の 注 意 等 について 具 体 的 に 紹 介 する.な<br />

お, 随 所 に 出 てくる 別 枠 の【ミニコラム】という 短 い 解 説 は, 飛 ばして 読 んで 頂 いてもよいが, 私 見 とともに<br />

最 新 の 情 報 もたくさん 盛 り 込 んでいるので, 理 解 を 深 めるために 読 んでいただければと 思 う.<br />

植 物 ウイルスの 名 称 は,「そのウイルスが 感 染 している 植 物 の 名 前 , 病 徴 ,ウイルス」の 3 要 素 を 続 けた 形<br />

で 表 記 される.そのためにウイルス 名 がたくさん 出 てくると 長 くなり, 読 みにくくなるとともに 混 乱 も 生 じや<br />

すくなることから, 通 常 はこれら 3 要 素 の 英 語 の 頭 文 字 を 並 べて 表 記 される.たとえば, 植 物 ウイルスで 最 も<br />

有 名 なタバコモザイクウイルスは 英 語 で Tobacco mosaic virus であり,これらの 3 つの 頭 文 字 をとって TMV<br />

と 呼 ばれる. 他 の 植 物 ウイルスも 同 様 である.ただし, 同 じ 頭 文 字 の 組 合 せとなるウイルスが 複 数 ある 場 合 に<br />

は,いずれかの 要 素 の 頭 文 字 を 長 くとることで 区 別 している.たとえば,3 文 字 のみでは TMV となってしま<br />

うトマトモザイクウイルスはタバコモザイクウイルスと 区 別 するために ToMV と 略 記 する. 本 マニュアルに<br />

出 てくる 植 物 ウイルスの 一 覧 を, 広 く 使 われている 略 称 とともにまとめて 表 1 に 示 した.なお, 本 文 中 で 1 度<br />

しか 出 てこないウイルスは 文 中 でフルネーム 表 記 としており, 表 1には 含 めていない.<br />

<br />

<br />

植 物 に 病 気 を 引 き 起 こす 病 原 は, 菌 類 , 細 菌 ,およびウイルスに 大 別 される.それらの 中 で 最 小 のものがウ<br />

イルスである.ウイルスは 自 らに 親 和 性 の 生 物 体 の 中 で 自 分 と 同 じものを 作 らせることができる.ウイルスは<br />

Kaoru Hanada [National Institute of Agrobiological Sciences]<br />

Biological characteristics and long term preservation of plant viruses. MAFF Microorganism Genetic Resources Manual<br />

No.31 (2012)<br />

-1-


略 称 ウイルス 名 ウイルス 属 名 ウイルス 科 名<br />

AMV アルファルファモザイクウイルス アルフモウイルス ブロモウイルス 科<br />

AlsVX アルストロメリア X ウイルス ポテックスウイルス アルファフレキシウイルス 科<br />

ArMV アラビスモザイクウイルス ネポウイルス セコウイルス 科<br />

BBWV ソラマメウイルトウイルス ファバウイルス セコウイルス 科<br />

BCMV インゲンマメモザイクウイルス ポティウイルス ポティウイルス 科<br />

CaMV カリフラワーモザイクウイルス カウリモウイルス カウリモウイルス 科<br />

CaLtV カーネーション 潜 在 ウイルス カルラウイルス ベータフレキシウイルス 科<br />

CaMtV カーネーション 斑 紋 ウイルス カルモウイルス トンブスウイルス 科<br />

CCYV ウリ 類 退 緑 黄 化 ウイルス クリニウイルス クロステロウイルス 科<br />

CGMMV スイカ 緑 斑 モザイクウイルス トバモウイルス ビルガウイルス 科<br />

CMV キュウリモザイクウイルス ククモウイルス ブロモウイルス 科<br />

CVB キク B ウイルス カルラウイルス ベータフレキシウイルス 科<br />

GMV リンドウモザイクウイルス ファバウイルス セコウイルス 科<br />

IYSV アイリス 黄 斑 ウイルス トスポウイルス ブニアウイルス 科<br />

KGMMV キュウリ 緑 斑 モザイクウイルス トバモウイルス ビルガウイルス 科<br />

MNSV メロンえそ 斑 点 ウイルス カルモウイルス トンブスウイルス 科<br />

MYSV メロン 黄 化 えそウイルス トスポウイルス ブニアウイルス 科<br />

PMMoV トウガラシ 微 斑 ウイルス トバモウイルス ビルガウイルス 科<br />

PPV ウメ 輪 紋 ウイルス ポティウイルス ポティウイルス 科<br />

PSTVd ジャガイモやせいもウイロイド ポスピウイロイド ポスピウイロイド 科<br />

PSV ラッカセイわい 化 ウイルス ククモウイルス ブロモウイルス 科<br />

PVX ジャガイモ X ウイルス ポテックスウイルス アルファフレキシウイルス 科<br />

PVY ジャガイモ Y ウイルス ポティウイルス ポティウイルス 科<br />

RDV イネ 萎 縮 ウイルス ファイトレオウイルス レオウイルス 科<br />

RMV ダイコンモザイクウイルス コモウイルス セコウイルス 科<br />

RSV イネ 縞 葉 枯 ウイルス テヌイウイルス 未 分 類<br />

SBMV インゲンマメ 南 部 モザイクウイルス ソベモウイルス 未 分 類<br />

SDV 温 州 萎 縮 ウイルス サドワウイルス セコウイルス 科<br />

SMV ダイズモザイクウイルス ポティウイルス ポティウイルス 科<br />

SPFMV サツマイモ 斑 紋 モザイクウイルス ポティウイルス ポティウイルス 科<br />

SqMV スカッシュモザイクウイルス コモウイルス セコウイルス 科<br />

TAV トマトアスパーミィウイルス ククモウイルス ブロモウイルス 科<br />

TbLcV タバコ 巻 葉 ウイルス ベゴモウイルス ジェミニウイルス 科<br />

TbRsV タバコ 輪 点 ウイルス ネポウイルス セコウイルス 科<br />

TBRV トマト 黒 色 輪 点 ウイルス ネポウイルス セコウイルス 科<br />

TCDVd トマト 退 緑 萎 縮 ウイロイド ポスピウイロイド ポスピウイロイド 科<br />

TMV タバコモザイクウイルス トバモウイルス ビルガウイルス 科<br />

ToMV トマトモザイクウイルス トバモウイルス ビルガウイルス 科<br />

TRV タバコ 茎 えそウイルス トブラウイルス ビルガウイルス 科<br />

TSWV トマト 黄 化 えそウイルス トスポウイルス ブニアウイルス 科<br />

TuMV カブモザイクウイルス ポティウイルス ポティウイルス 科<br />

TYLCV トマト 黄 化 葉 巻 ウイルス ベゴモウイルス ジェミニウイルス 科<br />

WMV カボチャモザイクウイルス ポティウイルス ポティウイルス 科<br />

ZYMV ズッキーニ 黄 斑 モザイクウイルス ポティウイルス ポティウイルス 科<br />

本 文 中 に1 度 しか 出 てこないウイルスは 本 表 には 含 まれていない.<br />

ウイルス 名 は 日 本 植 物 病 理 学 会 植 物 ウイルス 分 類 委 員 会 の 表 記 ( 学 会 のウェブサイト 参 照 )に 従 った.<br />

-2-


これまでに 知 られているものの 中 で 最 小 の 複 製 単 位 である. 自 らに 必 要 な 遺 伝 情 報 とそれを 外 界 から 守 る 構 造<br />

物 しか 持 っていないために,ウイルスのみで 増 えることはできず, 自 分 に 適 合 した 生 きた 生 物 体 の 体 内 に 入 る<br />

ことによって,はじめて 増 殖 することができる.ウイルスの 中 で 植 物 に 感 染 して 増 殖 するウイルスを 植 物 ウイ<br />

ルスとよぶ. 植 物 ウイルスは 目 には 全 く 見 えないのに, 侵 入 した 農 作 物 に 次 のようないろいろな 異 常 を 引 き 起<br />

こして,さまざまなレベルの 被 害 を 与 える.もちろん 無 病 徴 感 染 や 非 感 染 の 場 合 もある.<br />

1その 作 物 を 枯 死 させるか, 激 しい 病 徴 を 生 じさせて 収 量 を 皆 無 としてしまう.<br />

2 明 瞭 な 異 常 を 引 き 起 こしてその 作 物 の 収 穫 物 の 収 量 ・ 品 質 を 低 下 させる.<br />

3 顕 著 な 病 徴 は 出 さないが 収 穫 物 の 品 質 を 低 下 させる.<br />

さらに,これらの 感 染 株 から 同 種 の 他 株 あるいは 別 種 の 植 物 へ 次 々に 伝 染 されて 広 がっていくために,ウイ<br />

ルス 病 はすべての 農 業 にとって 大 きな 生 産 阻 害 要 因 となっている.このようにウイルスは 世 界 中 の 農 作 物 の 安<br />

定 供 給 の 大 きな 妨 げとなっており,その 発 生 は 拡 大 しているのに, 植 物 ウイルスに 対 する 有 効 な 対 策 は 多 くの<br />

場 合 まだ 確 立 されていないのが 現 状 である.<br />

植 物 ウイルスは, 遺 伝 子 本 体 である 核 酸 成 分 と,その 周 りを 取 り 囲 んで 核 酸 を 保 護 するタンパク 質 のみから<br />

基 本 的 には 構 成 されている. 植 物 ウイルスに 含 まれる 核 酸 成 分 は,DNA または RNA の 一 方 のみであり,ど<br />

ちらを 持 っているかはウイルス 種 によって 決 まっている.DNA を 持 つウイルスには,カウリモウイルス 科 ,<br />

ジェミニウイルス 科 およびナノウイルス 科 に 属 するウイルスがある. 同 じ DNA といっても,カウリモウイル<br />

スは 2 本 鎖 DNA を 遺 伝 子 として 持 っており, 後 の 2 つは 1 本 鎖 DNA を 持 つ.これらの 3 科 のウイルス 以 外<br />

の 多 くの 植 物 ウイルスは RNA を 持 つ.これらは,1 本 鎖 RNA を 持 つウイルスと 2 本 鎖 RNA を 持 つウイルス<br />

とに 分 類 され, 前 者 はさらにプラスセンスとマイナスセンスを 持 つものに 大 別 される.トスポウイルス 属 のウ<br />

イルスはその 最 小 の RNA 成 分 が, 遺 伝 子 によってプラスセンスとマイナスセンスとなっていることから,ア<br />

ンビセンスウイルスとも 呼 ばれる.<br />

タンパク 質 の 設 計 図 が 遺 伝 子 であるが, 植 物 ウイルスの 遺 伝 子 本 体 は 極 度 に 合 理 化 されているものが 多 く,<br />

植 物 ウイルスの 代 表 である TMV などでは, 以 下 の 3 つの 遺 伝 子 しか 持 っていない.<br />

1ウイルスの 増 殖 に 必 要 な 複 製 酵 素 タンパク 質 のための 遺 伝 子<br />

2 感 染 植 物 体 内 で 細 胞 から 細 胞 への 移 行 に 必 要 な 移 行 タンパク 質 のための 遺 伝 子<br />

3ウイルス 遺 伝 子 を 周 囲 の 攻 撃 から 守 る 外 被 タンパク 質 のための 遺 伝 子<br />

これらの 3 つの 必 須 遺 伝 子 のウイルス RNA における 並 び 方 を 図 1 に 示 した.ただし,ウイルスの 複 製 は 複<br />

雑 な 過 程 を 経 て 行 われるものであり, 実 際 にはウイルス 複 製 酵 素 タンパク 質 というのは 1 種 類 ではなく, 複 数<br />

の 遺 伝 子 が 関 与 しているものが 多 い. 図 1 の TMV でも 実 際 のウイルス 複 製 酵 素 遺 伝 子 は 2 種 類 のものが 一 部<br />

オーバーラップして 存 在 しているが,ここではわかりやすいように 1 つの 遺 伝 子 として 表 記 している. 移 行 タ<br />

ンパク 質 遺 伝 子 や 外 被 タンパク 質 遺 伝 子 は 多 くの 植 物 ウイルスでは 1 種 類 のみである. 同 じ 植 物 ウイルスでも<br />

他 のものではより 複 雑 なものもあり, 多 くのウイルスタンパク 質 遺 伝 子 を 持 つものもある.<br />

1 TMV <br />

REP: 複 製 酵 素 タンパク 質 ,MP: 移 行 タンパク 質 ,<br />

CP: 外 被 タンパク 質 .<br />

植 物 ウイルスは 自 らが 増 殖 できる 植 物 に 感 染 すると,ウイルス 核 酸 を 自 分 のタンパク 質 合 成 のための 鋳 型 に<br />

させて, 植 物 に 優 先 的 にウイルスに 必 要 なウイルスタンパク 質 を 合 成 させながら,もう 一 方 では 植 物 に 合 成 さ<br />

せたウイルス 複 製 酵 素 によってウイルス 核 酸 をどんどん 作 らせるのである.ウイルスタンパク 質 の 中 でも 特 に<br />

外 被 タンパク 質 を 大 量 に 合 成 させる.こうして 感 染 植 物 体 内 で 複 製 された 莫 大 な 数 のウイルス 核 酸 と 外 被 タン<br />

-3-


パク 質 が, 植 物 細 胞 内 で 出 会 い 合 体 してウイルス 粒 子 が 形 成 される.さらに,この 間 にぬかりなくウイルスの<br />

ための 移 行 タンパク 質 も 合 成 させており,それを 利 用 して, 感 染 した 細 胞 から 他 の 細 胞 に 移 行 し, 植 物 体 内 に<br />

ウイルスがあまねく 広 がって 行 く.こうして 形 成 された 新 しいウイルス 粒 子 が, 次 の 植 物 を 求 めて 外 に 出 てい<br />

くこととなる,そのときにウイルス 遺 伝 子 を 周 囲 のきびしい 環 境 (たとえば 核 酸 分 解 酵 素 や 酸 化 酵 素 , 過 湿 や<br />

乾 燥 など)から 守 ってくれる 保 護 タンパク 質 が 外 被 タンパク 質 である.そして, 次 の 植 物 に 伝 搬 される 際 に 媒<br />

介 生 物 で 運 ばれるために 特 異 的 なタンパク 質 を 必 要 とするウイルスは,そのために 必 要 なタンパク 質 まで, 感<br />

染 植 物 にちゃっかり 合 成 させておいてそれを 利 用 して, 媒 介 生 物 の 体 内 に 入 って, 次 の 植 物 に 運 ばれていくこ<br />

ととなる.このように 植 物 ウイルスは,きわめて 巧 妙 なシステムを 構 築 して, 感 染 植 物 を 自 由 に 最 大 限 利 用 し<br />

ながら, 増 殖 してひろがっていくのである.もちろん, 植 物 側 もだまってウイルスにされるがままになってい<br />

るわけではないのであるが,その 実 態 がわれわれ 人 間 にもわかってきたのは,ごく 最 近 になってのことであっ<br />

た.これについては 長 くなるので 13 ページ 以 降 の RNA サイレンシングのところで 説 明 する. 驚 いたことに,<br />

その 植 物 の 防 御 手 段 に 対 抗 するための 手 段 もウイルスはすでに 持 っているのである.<br />

このように 植 物 ウイルスは 超 スリムなものが 多 く,まさに 独 立 の 複 製 単 位 としての 単 純 さの 限 界 を 極 めてい<br />

るといってよいと 思 われる.これら 3 つ 1 組 の 最 低 必 須 遺 伝 子 以 上 の 遺 伝 子 を 持 ったウイルス 粒 子 が 媒 介 生 物<br />

等 によって 植 物 体 内 に 侵 入 し, 各 遺 伝 子 が 単 独 あるいは 協 調 して 植 物 宿 主 のシステムを 巧 みに 利 用 して, 植 物<br />

体 内 での 大 規 模 な 増 殖 を 完 遂 する.しかし, 侵 入 したところで 増 えただけでは,ウイルスはその 細 胞 や 植 物 体<br />

の 死 とともに 途 絶 えてしまうことになる.それを 防 ぐために 増 殖 したウイルスは 他 の 宿 主 個 体 に 移 る 必 要 があ<br />

り, 他 の 植 物 体 に 移 ることがウイルスの 伝 染 である. 伝 染 によってウイルスは 次 の 個 体 で 増 えることが 可 能 と<br />

なり, 最 初 に 増 殖 した 生 物 が 死 滅 してもウイルスは 途 絶 えないですむこととなる.これらのサイクルを 繰 り 返<br />

すことでウイルスの 伝 染 環 がつながり,ウイルスは 消 えてしまうことなく 存 在 しつづけることができるのであ<br />

る.<br />

ウイルスの 伝 染 を 媒 介 する 生 物 ( 媒 介 生 物 )として, 通 常 は 植 物 以 外 の 生 物 である 昆 虫 , 糸 状 菌 , 線 虫 など<br />

があり,これらの 助 けを 借 りて 植 物 ウイルスは 自 らが 増 殖 できる 植 物 から 植 物 へ 伝 搬 されて 行 くこととなる.<br />

多 くのウイルスはそのために 必 要 な 特 別 な 遺 伝 子 を 自 ら 保 持 している.しかし, 例 外 的 に 最 も 単 純 なウイルス<br />

の 一 つである TMV の 仲 間 では,ウイルス 感 染 植 物 の 葉 や 根 が 近 くの 健 全 植 物 の 葉 や 根 との 接 触 やこすれあう<br />

ことで 植 物 から 植 物 に 伝 搬 されるために, 媒 介 生 物 を 必 要 としないので 伝 搬 のための 特 別 な 遺 伝 子 は 持 ってい<br />

ない.その 代 わりに TMV は 極 めて 安 定 なウイルス 外 被 タンパク 質 とウイルス RNA の 構 造 体 (すなわち,ウ<br />

イルス 粒 子 )からできており,いつでも 接 触 によって 近 隣 の 植 物 に 移 ることができるようになっているのであ<br />

る.また,キュウリ 等 にモザイク 病 を 生 じる CMV では, 媒 介 してくれるアブラムシが 植 物 の 師 部 に 口 針 を 差<br />

し 込 む 際 に,ウイルス 粒 子 が 単 独 で 付 着 することで 次 の 植 物 に 伝 搬 されることから,こちらも 伝 搬 のための 特<br />

別 な 遺 伝 子 は 持 っていない.<br />

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ウイルスの 特 徴 は 周 知 のように, 何 といってもその 小 ささにある.ともかく 小 さくて 肉 眼 ではとても 見 るこ<br />

とはできない. 光 学 顕 微 鏡 を 用 いても 見 ることは 不 可 能 で, 電 子 顕 微 鏡 を 使 うことでようやく 見 ることができ<br />

るものである.それらの 中 で 植 物 に 感 染 するものが 植 物 ウイルスである.<br />

植 物 ウイルスは, 他 の 動 物 ウイルスや 細 菌 ウイルス(バクテリオファージ)と 同 じく, 遺 伝 子 本 体 である 核<br />

酸 とそれを 取 り 囲 んでいるタンパク 質 からなる 粒 子 として 通 常 は 存 在 している. 植 物 ウイルスの 粒 子 は, 電 子<br />

顕 微 鏡 によって 100 万 倍 程 度 に 拡 大 するとわれわれが 通 常 見 ているものの 大 きさになる.ピンポン 玉 程 度 の 大<br />

きさになる 球 形 ウイルス, 割 箸 くらいの 大 きさになる 棒 状 ウイルス,それらをひき 伸 ばしたひものような 形 に<br />

なるひも 状 ウイルスなどが 多 い. 変 わったものでは, 細 菌 のような 形 のもの, 弾 丸 状 のもの, 被 膜 を 持 つウイ<br />

ルスもある.それらの 概 略 図 を 図 2 に 示 した. 植 物 ウイルスの 一 つの 特 徴 は, 遺 伝 子 が RNA であるものが 多<br />

いという 点 である.もちろん, 遺 伝 子 として DNA を 持 つものもあり,その 中 の 一 つであるジェミニウイルス<br />

科 に 属 するウイルスは,ウイルス 種 の 数 と 感 染 植 物 の 種 類 及 び 発 生 地 域 を 最 近 になって 急 速 に 拡 大 している.<br />

それらの 中 でもベゴモウイルス 属 のウイルスは, 病 徴 が 激 しいうえにコナジラミできわめて 効 率 よく 伝 搬 され<br />

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ここに 示 したウイルス 名 は 科 または 属 の 名 称 である. 個 別 のウイルス 名 は 表 1 を 参 照 .ジェミニ<br />

ウイルス 以 外 は RNA ウイルスであり, 複 数 個 の 粒 子 からなるものは 多 粒 子 性 ウイルスである.<br />

るために,エマージングウイルスの 一 つとして 世 界 の 農 業 にとっての 大 きな 脅 威 となっている(25 ページを<br />

参 照 ).<br />

植 物 ウイルスの 種 類 は 驚 くほど 多 く, 世 界 中 では, 国 際 ウイルス 命 名 委 員 会 ICTV(International Committee<br />

on Taxonomy of Viruses)で 承 認 されたものだけでもほぼ 1,000 種 に 達 しており(21 ページの 表 3), 日 本 で<br />

も 300 種 を 越 えるものがすでに 報 告 されている.ウイルスは 基 本 的 には 種 の 単 位 で 命 名 されて 分 類 される. 種<br />

より 上 位 の 分 類 階 級 として, 他 の 生 物 と 同 様 に 属 ・ 科 ・ 目 がある.1 つの 種 を,ウイルス 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 等<br />

の 違 いによってさらに 分 けることが 必 要 な 時 には,サブグループとするのが 最 近 の 原 則 である.また, 特 殊 な<br />

病 徴 を 示 すウイルス 株 や 特 定 の 植 物 に 感 染 するウイルス 株 ・ 集 団 を 区 別 したい 時 には,□□ウイルスの○○ 系<br />

または○○ 系 統 とよぶ.たとえば,CMV の 黄 斑 系 やマメ 科 系 統 などとする.<br />

ウイルスは 植 物 に 感 染 すると 通 常 は 5 ~ 14 日 程 度 でものすごい 数 にまで 増 殖 し, 感 染 された 植 物 はウイル<br />

ス 病 特 有 のモザイク,えそ, 萎 縮 , 黄 化 などの 症 状 を 呈 する.これらの 病 徴 によってウイルスは 農 作 物 に 被 害<br />

を 与 えることとなり, 通 常 は 病 徴 が 激 しいほど 被 害 も 大 きくなってしまう. 病 徴 以 外 には, 植 物 に 目 立 った 変<br />

化 がみえないのもウイルス 病 の 特 徴 の 一 つである.<br />

植 物 ウイルスでは, 発 病 している 植 物 の 葉 の 磨 砕 液 を, 細 かい 傷 を 付 けた 健 全 植 物 の 葉 に 擦 りつけること<br />

で, 病 原 となっているウイルスを 伝 染 させることができるものが 比 較 的 多 い.このような 接 種 によってウイル<br />

スを 伝 染 させる 方 法 は 機 械 的 接 種 とよばれ, 糸 状 菌 や 細 菌 による 病 害 ではできない 接 種 法 であるために, 機 械<br />

的 接 種 ができるというのはウイルス 病 の 特 徴 の 一 つとなっている.また, 植 物 ウイルスの 中 には, 乾 燥 した 感<br />

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染 葉 の 中 で 通 常 の 温 度 のもとで 数 年 間 活 性 を 持 ち 続 けることができるものが 多 くある. 特 に TMV のように 感<br />

染 葉 磨 砕 液 中 では 10 分 間 以 上 沸 騰 させないと 死 滅 しないような 異 常 に 強 い 耐 熱 性 を 有 しているものもある.<br />

このように 超 安 定 性 を 示 す 植 物 ウイルスもあるが, 逆 にきわめて 不 安 定 なウイルスもあるので 注 意 が 必 要 であ<br />

る.<br />

ウイルス 病 が 全 く 発 生 しない 作 物 はないといってよいであろう. 現 在 までに 発 生 報 告 がないものもあるかも<br />

しれないが,それは 調 査 不 足 のためと 思 われる.それらの 作 物 の 中 でウイルスの 発 生 する 種 類 が 多 くて 特 にウ<br />

イルスに 弱 いと 思 われる 作 物 がある.2012 年 に 改 訂 された 日 本 植 物 病 理 学 会 の 病 名 目 録 から 集 計 すると,わ<br />

が 国 の 作 物 の 中 で 発 生 するウイルスの 種 類 が 多 く,その 種 が 10 を 越 える 植 物 は, 多 い 順 にトウガラシ(ピー<br />

マン)・トマト,ダイズ・トルコギキョウ,エンドウ,タバコ,ジャガイモ・メロン,ソラマメ・スイセン,<br />

キュウリである.ここで 中 点 によって 区 切 ったものは, 同 じ 数 のウイルスに 感 染 されるものである.これらを<br />

植 物 の 科 で 見 てみると,ナス 科 作 物 が 最 も 多 く, 次 がマメ 科 であり,これらの 植 物 は 特 にウイルスに 弱 いと<br />

言 ってよいであろう.<br />

これらのウイルスによる 病 徴 は 多 種 多 様 で 多 岐 にわたっているが,もっとも 多 いのはモザイク 症 状 である.<br />

葉 の 緑 色 部 に 葉 脈 に 沿 った 濃 淡 を 生 じるのがモザイクであり, 多 くのウイルスと 植 物 の 組 み 合 わせで 病 名 がモ<br />

ザイク 病 となっている. 全 く 異 なるウイルスであるにもかかわらず, 同 じような 病 徴 を 出 す 例 はかなり 多 い.<br />

たとえばピーマンのモザイク 病 を 見 てみると,ピーマンでは 実 に 11 種 ものウイルスがモザイク 病 の 病 原 とな<br />

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ることがわかっている. 他 の 野 菜 や 花 きでも 同 様 な 例 は 多 く,モザイク 病 というだけではウイルスを 特 定 でき<br />

ない. 逆 に,ある 1 種 のウイルスが, 多 くの 植 物 にモザイク 病 を 引 き 起 こすこともある.それらの 中 でも 特 に<br />

CMV は 実 に 多 くの 植 物 にモザイク 病 を 引 き 起 こす.このようにウイルスの 種 と 植 物 の 病 名 とは 必 ずしも 1 対<br />

1 に 対 応 するわけではないので, 注 意 が 必 要 である.もちろん,1 対 1 に 対 応 しているものもある.モザイク<br />

病 に 類 似 した 病 徴 にモットル 症 状 があるが,モットルは 葉 脈 と 関 係 なく 葉 に 生 じる 退 色 症 状 である.ウイルス<br />

病 でモザイクやモットルの 次 に 多 いのが, 黄 化 やえそ 症 状 , 萎 縮 や 葉 巻 症 状 を 示 すものである. 一 方 , 全 く 病<br />

徴 を 出 さない 無 病 徴 感 染 をする 組 合 せもあり,その 場 合 には, 感 染 植 物 には 被 害 は 殆 ど 出 ないが, 病 徴 を 生 じ<br />

る 他 種 の 植 物 への 伝 染 源 となるのでやはり 注 意 が 必 要 となる.ウイルスによる 代 表 的 な 植 物 の 病 徴 写 真 を 図 3<br />

に 示 す.<br />

ウイルスは,それまでに 最 小 の 病 原 とされていた 細 菌 よりさらに 小 さい 病 原 として 1898 年 に 発 見 された.<br />

その 際 に 見 つかったのは 今 日 でも 植 物 ウイルスの 代 表 である TMV であった. 植 物 ウイルスに 感 染 したという<br />

植 物 の 最 古 の 記 録 は,17 世 紀 のヨーロッパのチューリップの 斑 入 り(モザイク 病 )の 絵 画 であると 長 い 間 考<br />

えられてきた.しかし, 比 較 的 最 近 になってわが 国 の 研 究 者 が,ずっと 古 い 8 世 紀 の 日 本 の 万 葉 集 の 中 で 感 染<br />

植 物 が 詠 まれていることを 紹 介 した( 井 上 , 1983).すなわち,「この 里 は 継 ぎて 霜 や 置 く 夏 の 野 にわが 見 し<br />

草 は 黄 葉 (もみ)ちたりけり」の 黄 葉 こそが,ウイルス 感 染 により 葉 が 美 しく 黄 化 したヒヨドリバナを 指 し,<br />

世 界 最 古 の 記 録 であるとしている. 生 物 である 限 りウイルス 感 染 はさけられないので,すべての 生 物 には 感 染<br />

するウイルスがあると 現 在 では 考 えられている.ウイルスは DNA か RNA の 一 方 しか 有 しておらず, 自 分 で<br />

は 増 えられないことから 無 生 物 とされている.しかし, 自 然 界 には 多 種 多 様 なものがあるわけで, 小 さいもの<br />

にはさらに 小 さいものがいることが 明 らかにされている. 本 マニュアルの 10 ページで 紹 介 するように,これ<br />

らの 小 さいウイルスを 利 用 するさらに 小 さなウイルスや 低 分 子 核 酸 も 見 つかっている.さらに 他 のウイルスの<br />

助 けは 必 要 としないでずっと 裸 で 過 ごす 極 小 の 病 原 ウイロイドというものもあって, 植 物 ウイルス 界 というの<br />

は, 探 してみたら 何 でも 見 つかりそうな「 微 小 化 コンテスト」の 世 界 のようである.<br />

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植 物 ウイルスのほとんどは 球 形 , 棒 状 ,ひも 状 などの 形 をしている( 図 2).ウイルスの 形 はウイルス 種 に<br />

特 有 であり, 種 によって 決 まっている. 異 なる 種 であっても 同 じ 属 のものは 類 似 の 形 態 を 持 っている.これま<br />

でに 見 つかっている 一 番 小 さな 粒 子 形 態 を 持 つ 植 物 ウイルスは,ナノウイルスとよばれている 直 径 16 nm(ナ<br />

ノメートル)の 球 形 ウイルスである.また,これが 双 子 のように 2 個 くっついたジェミニウイルスという 一 風<br />

かわった 双 子 型 のものもある. 球 形 で 種 類 が 多 いのは 直 径 約 30 nm のものであり, 粒 子 の 形 だけでは 種 を 識<br />

別 することは 不 可 能 である.これらは 厳 密 には 球 形 ではなく 正 20 面 体 である. 球 形 の 植 物 ウイルスの 中 で 最<br />

大 のものは 直 径 約 130 nm のもので 植 物 ウイルスには 珍 しく 糖 タンパク 質 からなる 被 膜 を 持 っていて,その 表<br />

面 には 多 数 の 突 起 がある. 棒 状 の 植 物 ウイルスは 長 さ 300 nm で 幅 15 nm のものが 多 く, 粒 子 としての 安 定<br />

性 がきわめて 高 い.これより 少 し 短 い 粒 子 もある. 棒 状 のウイルスより 少 し 細 く 幅 12 nm のひも 状 の 粒 子 か<br />

らなるウイルスにも 多 くの 種 があり,それらの 長 さは 500 nm ~ 2,000 nm と 多 岐 にわたっていて, 長 さ 700<br />

~ 800 nm のものが 種 としてもっとも 多 い. 植 物 ウイルスの 中 で 最 も 長 い 粒 子 は, 世 界 の 柑 橘 類 に 大 きな 被 害<br />

を 与 えているトリステーザウイルスであり,その 長 さは 最 長 2,000 nm である.なお, 代 表 的 なウイルスの 電<br />

子 顕 微 鏡 写 真 を 図 4 に 示 す.これらの 他 に 細 菌 型 の 粒 子 を 持 つウイルスや 弾 丸 状 の 形 をしたものもあり, 植 物<br />

ウイルスの 形 は 実 に 多 種 多 様 である.<br />

ところで 世 の 中 , 上 には 上 があるものである. 小 さなもの 同 士 の 比 較 であるから, 小 には 小 があるものであ<br />

る. 植 物 ウイルスは 植 物 に 寄 生 するが,その 植 物 ウイルスに 寄 生 するウイルスが 見 つかっている.これらは<br />

サテライトウイルス(SV)とよばれ,タバコえそウイルスにおいて 世 界 で 最 初 に 見 出 された.サテライトと<br />

いう 名 称 は, 惑 星 の 廻 りを 廻 る 衛 星 のようなものという 意 味 で 命 名 されたが, 惑 星 の 廻 りをただ 廻 るのでは<br />

なく, 惑 星 を 自 分 の 増 殖 のために 利 用 する 曲 者 であった.SV は, 自 身 の 外 被 タンパク 質 遺 伝 子 は 自 身 のゲノ<br />

ムにコードして 持 っているが, 複 製 酵 素 や 移 行 タンパク 質 は 宿 主 ウイルス(ヘルパーウイルス,つまり 惑 星 )<br />

のものを 借 用 する.これまでのところ, 植 物 ウイルスの SV では 遺 伝 物 質 として RNA を 有 するものしか 見 つ<br />

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A ) TYLCV:トマト 黄 化 葉 巻 ウイルス ( 双 球 形 )【ベゴモウイルス 属 】<br />

B ) CMV:キュウリモザイクウイルス ( 小 球 形 )【ククモウイルス 属 】<br />

C ) PMMoV:トウガラシ 微 斑 ウイルス ( 棒 状 )【トバモウイルス 属 】<br />

D ) SCMV:サトウキビモザイクウイルス (ひも 状 )【ポティウイルス 属 】.<br />

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かっていない.<br />

驚 いたことに,SV よりさらに 寄 生 度 の 高 いものとしてサテライト 核 酸 とよばれるものが 見 つかっているの<br />

である.サテライト 核 酸 は, 複 製 酵 素 はもちろん, 自 身 の 外 被 タンパク 質 までヘルパーウイルスのものを 利<br />

用 するというもので,SV よりさらに 寄 生 性 が 進 んだものといえる.サテライト 核 酸 には DNA のものと RNA<br />

のものとがあり, 核 酸 の 種 類 (DNA か RNA か)はヘルパーウイルスと 一 致 している.サテライト RNA は<br />

最 初 は CMV で 報 告 されたが,その 後 多 くの 植 物 ウイルスで 見 つかってきており,すでに 24 種 の 植 物 ウイル<br />

スでその 存 在 が 確 認 されている. 小 さいタイプと 大 きいタイプがあり, 小 型 のサテライト RNA はタンパク 質<br />

はコードしていないと 言 われているが, 大 きいサテライト RNA は 何 らかのタンパク 質 をコードしている. 最<br />

も 研 究 が 進 んでいる CMV のサテライト RNA( 小 型 )については 100 種 を 超 えるものの 塩 基 配 列 がすでに 明<br />

らかにされている( 花 田 , 2008). 一 方 ,サテライト DNA はジェミニウイルスで 最 初 に 見 つかり,その 後 バ<br />

ブウイルスやナノウイルスでも 見 つかった(Briddon and Stanley, 2006).これらはα(アルファー)とβ(ベー<br />

タ)に 大 別 されていて,これまでに 少 なくともαには 40 種 ,βには 61 種 の 存 在 が 確 認 されている.<br />

これらサテライト 核 酸 の 中 の 小 型 サテライト RNA は,タンパク 質 をコードしている 配 列 はないようであ<br />

り, 自 分 では 自 己 維 持 のための 本 当 に 最 低 限 のものしか 持 っておらず,なんでも 植 物 や 他 のウイルスから 借<br />

りてすませようというタイプである. 一 方 ,サテライト DNA や 大 型 のサテライト RNA は 何 らかの 遺 伝 子 を<br />

コードしているものが 多 く, 同 じサテライトでも 大 きさばかりでなく 質 的 にも 異 なるタイプのものが 存 在 して<br />

いるということになる.<br />

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1970 年 代 になって,ウイルスと 同 様 に 植 物 に 感 染 して 独 自 で 増 殖 して 他 の 植 物 にも 伝 搬 する 能 力 を 持 った,<br />

ウイルスよりもさらに 一 桁 小 さな 病 原 であるウイロイドが 見 つかった. 驚 いたことにウイロイドはウイルスよ<br />

りかなり 小 さいのに, 裸 で 感 染 植 物 細 胞 内 に 存 在 しており, 裸 のままで 単 独 で 感 染 性 を 有 している.ウイロイ<br />

ドはウイルスに 似 ているが, 本 質 的 に 異 なる 点 があるために‘ウイルスもどき’ウイロイドと 命 名 され,その<br />

略 記 はウイルス V と 区 別 するために Vd とされている. 世 界 最 小 の 病 原 であるウイロイドは, 外 被 タンパク<br />

質 を 持 たない 裸 の RNA として,やせイモ 症 状 を 呈 するジャガイモの 病 原 として 最 初 に 見 つかった(Diener,<br />

2003).ウイロイドは 最 小 の 植 物 ウイルスの 1/10 以 下 の 大 きさのゲノムしか 有 していないが, 植 物 に 感 染 する<br />

とウイルスと 同 様 に 複 製 増 殖 することができる.ウイロイドはこれまで 見 つかった 範 囲 ではすべて RNA のみ<br />

であり, 多 くは 機 械 的 接 触 によってのみ 伝 搬 されるが, 中 には 種 子 伝 染 するものもある.<br />

ウイロイドにはカンキツやブドウなど 栄 養 繁 殖 で 増 やす 果 樹 に 寄 生 するものが 多 く, 現 在 では ICTV に 2 科<br />

8 属 31 種 ものウイロイドが 登 録 されている( 表 3 の 2 つの 科 である Avusunviroidae と Pospiviroidae を 参 照 ).<br />

ウイロイド RNA は 裸 で 感 染 性 を 維 持 できるために, 外 被 タンパク 質 は 全 く 不 要 でタンパク 質 は 全 く 持 ってい<br />

ない. 大 きさやこれらの 特 性 だけを 見 ると,ウイロイドはサテライト RNA と 類 似 したものと 思 われがちであ<br />

るが, 両 者 は 本 質 的 に 異 なるものである.サテライト RNA は 裸 では 存 在 できず,ヘルパーウイルスの 外 被 タ<br />

ンパク 質 を 必 ずまとっている 点 ,またその 増 殖 にはヘルパーウイルスとの 重 複 感 染 が 必 要 である 点 が 明 確 に 違<br />

う.ウイロイドは 自 身 の RNA 分 子 内 の 高 次 構 造 によって 単 独 でも 安 定 した 分 子 となっていて, 単 独 で 植 物 に<br />

感 染 して 増 殖 し, 単 独 で 植 物 から 植 物 へも 伝 搬 されうる.<br />

現 在 までに, 日 本 で 発 生 しているウイロイドの 種 が 最 も 多 いのはカンキツ 類 である.ブドウやリンゴでも 多<br />

くの 種 類 が 報 告 されている.ほとんどのウイロイドは 栄 養 繁 殖 性 作 物 に 多 く 発 生 しているが,ウイルスと 異 な<br />

りウイルス 粒 子 のような 安 定 した 保 護 体 を 持 っていないために, 植 物 から 植 物 への 伝 搬 が 比 較 的 おこりにくい<br />

ことがこの 一 因 であろう. 栄 養 繁 殖 性 植 物 なら, 植 物 から 植 物 への 伝 搬 が 必 要 でないからである.ただし, 最<br />

近 はトマトや 種 子 繁 殖 性 の 花 きなどでのウイロイドの 発 生 も 増 えてきている.ウイロイドによる 病 徴 として<br />

は,トマトなどでは 激 しい 場 合 には 萎 縮 モットル 症 状 を 示 すが,マイルドな 退 緑 モザイクとなるものもあり,<br />

ほとんど 病 徴 を 生 じないものもある.トマトのウイロイドには 他 の 植 物 に 感 染 しても 病 徴 を 殆 ど 出 さないもの<br />

が 多 い. 果 樹 などではほぼ 無 病 徴 感 染 のものも 多 いので, 特 に 管 理 作 業 や 株 分 け 等 の 際 には 注 意 が 必 要 であ<br />

る.キクではわい 化 ウイロイドに 感 染 すると 背 丈 が 低 くなって 開 花 が 不 揃 いになりやすいが, 大 輪 のキクでは<br />

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一 般 に 病 徴 が 出 にくいなど, 植 物 ごとの 特 性 によって 病 徴 が 異 なることがある.<br />

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動 物 ウイルスの 中 にはかなり 大 きなゲノムを 持 つウイルスも 多 く 存 在 しているが,これまでに 解 説 したよう<br />

に 植 物 ウイルスのゲノムの 特 徴 はまずそのサイズにあり, 小 さく 簡 単 な 構 造 のものが 多 い.この 小 ささは,た<br />

またまこれまでに 見 つかった 植 物 ウイルスが 小 さいものであったということの 一 時 的 な 反 映 である 可 能 性 が 全<br />

くないとは 言 いきれないが,ICTV で 正 式 に 承 認 された 植 物 ウイルス 種 は,すでに 約 1,000 種 に 達 しているこ<br />

とから, 小 さいゲノムを 持 つウイルスの 方 が 植 物 では 都 合 がよいのだと 考 えられる.<br />

植 物 ウイルスで 最 小 の 自 立 性 ウイルスである 1 成 分 性 ジェミニウイルスは 3 種 類 のタンパク 質 をコードして<br />

いて,その DNA ゲノムサイズは 約 2.6 kb( 約 2,600 個 の 塩 基 からなる)である. 同 様 なゲノムサイズの 3 タ<br />

ンパク 質 のみの RNA ウイルスも 多 数 存 在 している.ウイロイドや 小 型 サテライト RNA は 350 個 程 度 の 塩 基<br />

(0.35 kb)から 構 成 されており,ジェミニウイルスよりずっと 小 さく,これらはタンパク 質 は 全 くコードし<br />

ていないといわれている. 大 きい 方 を 見 てみると,ポティウイルスは 植 物 ウイルスとしては 比 較 的 大 きなゲノ<br />

ムを 有 していて,10 種 類 のウイルスタンパク 質 をコードしているが,それでも 大 型 動 物 ウイルスと 比 べると<br />

ずっと 小 さい. 既 知 の 植 物 ウイルスで 最 長 の 長 さと 最 大 のゲノムを 持 つカンキツトリステザウイルスでも,ウ<br />

イルス 粒 子 は 最 長 2,000 nm と 長 いが,その 1 成 分 からなるゲノムは 約 12 種 類 のタンパク 質 をコードし,サ<br />

イズは 19.3 kb である.<br />

また, 植 物 ウイルスのゲノムの 大 きな 特 徴 の 一 つが,ゲノムがしばしば 複 数 の 成 分 から 成 るという 点 であ<br />

り,これらのゲノム 構 造 は 分 節 ゲノム Multi-partite genome とよばれていて,ヒトや 動 物 などのウイルスで<br />

は 殆 ど 知 られていない.つまり, 植 物 ウイルスでは 必 須 の 成 分 が 2 ~ 3 の 複 数 成 分 に 分 かれているものが 多 い<br />

ということである.それらにはウイルスの 種 によって,ウイルス 粒 子 レベルで 長 さや 密 度 などで 明 確 に 区 別 で<br />

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きるものと, 粒 子 では 区 別 できず RNA にしたときにはじめて 区 別 できるものとがある. 特 に 粒 子 レベルで 区<br />

別 できるものは 多 粒 子 性 ウイルスと 呼 ばれる. 多 粒 子 性 ウイルスでは, 異 なる 粒 子 の 中 に 含 まれている RNA<br />

成 分 の 大 きさが 異 なっているために, 異 なる 粒 子 成 分 として 分 けることができるのである.Multi-partite<br />

genome を 持 つウイルスの RNA 成 分 は,5’ 及 び 3’の 両 末 端 に 共 通 配 列 を 有 しており,それらの 成 分 数 はウ<br />

イルスの 種 や 属 に 特 異 的 であり, 複 数 の 成 分 がウイルスの 感 染 増 殖 伝 搬 に 必 須 である.たとえば,ネポウイル<br />

スやトブラウイルスでは 2 成 分 ,ククモウイルスでは 3 成 分 が 必 須 であるといった 具 合 である.これらではウ<br />

イルスの 遺 伝 子 が 複 数 の 核 酸 成 分 の 上 に 分 かれてコードされている. 一 方 , 文 節 ゲノムを 持 たない 単 一 ゲノム<br />

Mono-partite genome を 有 するトバモウイルスやトンブスウイルスでは 1 成 分 のみが 必 須 であり, 必 要 なウ<br />

イルス 遺 伝 子 はすべてその 上 にのっている.<br />

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植 物 ウイルス 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 は,すでに 説 明 した 3 つのウイルス 必 須 遺 伝 子 を 含 めて,その 遺 伝 子 の 5’<br />

側 から 3’ 側 に 向 けて, 以 下 のような 順 番 に 並 んでいるのが 基 本 である.ウイルスの 各 種 タンパク 質 遺 伝 子 は<br />

その 両 端 を 非 翻 訳 領 域 というタンパク 質 には 翻 訳 されない 塩 基 集 団 で 守 られている. 両 末 端 の 非 翻 訳 配 列 領 域<br />

はそれぞれ,ウイルスタンパク 質 合 成 のためやウイルス 複 製 のための 重 要 な 機 能 も 担 っている.<br />

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これらの 他 に 非 翻 訳 領 域 に 存 在 しているものとして,5’ 最 末 端 には Cap と 呼 ばれる 構 造 をもつウイルス<br />

が 多 く, 中 には 特 別 なタンパク 質 である Vpg を 持 つウイルスもある.また,3’ 最 末 端 にはポリ A テイルや<br />

tRNA 様 構 造 を 持 つウイルスがある.3 つの 必 須 遺 伝 子 以 外 のウイルス 遺 伝 子 としては, 伝 搬 のために 必 要 な<br />

遺 伝 子 などがあり, 他 にも 多 くの 名 前 のついた 遺 伝 子 があるが,それらの 機 能 は 必 須 遺 伝 子 を 補 完 するものが<br />

多 い. 両 末 端 の 非 翻 訳 配 列 や 各 タンパク 質 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 およびそれから 決 定 されるアミノ 酸 配 列 は, 類 縁<br />

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関 係 の 近 いものほど 相 互 に 類 似 している. 複 数 ウイルスの 相 互 の 関 係 を 知 るために, 類 縁 関 係 の 近 いウイルス<br />

間 で 比 較 する 際 には, 外 被 タンパク 質 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 やアミノ 酸 配 列 の 相 同 性 を 比 較 し, 遠 縁 のウイルス 間<br />

では 非 翻 訳 領 域 塩 基 配 列 や 複 製 酵 素 遺 伝 子 で 比 較 することになる.これは,タンパク 質 に 翻 訳 される 部 位 には<br />

変 異 が 生 じやすいが, 非 翻 訳 配 列 では 共 通 性 が 保 存 されるために 遠 縁 のウイルスの 間 でも 類 似 性 が 高 いためで<br />

あり,また, 同 じ 必 須 タンパク 質 でも 外 被 タンパク 質 遺 伝 子 には 変 異 が 生 じやすく, 複 製 酵 素 遺 伝 子 は 変 わり<br />

にくいからである.<br />

植 物 ウイルスがウイルスとして 存 在 し 続 けていくために 必 須 の 3 遺 伝 子 についてもう 少 し 説 明 しておこう.<br />

ウイルスの 本 体 は 複 製 酵 素 ということになるだろうから,ウイルスにとってこれが 最 重 要 である. 移 行 タンパ<br />

ク 質 遺 伝 子 は,ウイルスが 増 殖 した 細 胞 から 隣 の 細 胞 に 移 動 する 際 に 必 須 であり,これがないか 機 能 しないと<br />

ウイルスはその 細 胞 内 に 閉 じ 込 められてしまうことになる.このタンパク 質 は 細 胞 と 細 胞 をつないでいる 原 形<br />

質 連 絡 の 穴 を 大 きくする 作 用 を 持 つことが 証 明 されている. 外 被 タンパク 質 (CP) 遺 伝 子 は, 内 部 の 特 に 複<br />

製 酵 素 遺 伝 子 核 酸 を 外 界 から 守 るばかりでなく, 種 々の 機 能 を 担 っており, 病 徴 決 定 機 能 , 遠 距 離 移 行 機 能 ,<br />

被 伝 搬 機 能 などをあわせ 持 っている.CP が 1 種 類 だけのものが 殆 どであるというのも 植 物 ウイルスの 大 きな<br />

特 徴 であるが,1 種 類 しかないことと 多 機 能 を 併 せ 持 っていることとは 密 接 な 関 連 があると 思 われる.CP 遺<br />

伝 子 がウイルスにとって 外 界 と 直 接 接 する 部 分 であることもあり,CP 遺 伝 子 がウイルスの 分 類 において 特 に<br />

重 要 な 基 準 となっていることもうなずける.<br />

理 解 を 深 めるために, 特 殊 なケースをあげてみると, 以 下 のような 例 がある. 複 製 酵 素 を 持 たないウイル<br />

スはウイルスとはいえないであろう. 一 方 , 移 行 タンパク 質 については,TRV などで 外 被 タンパク 質 がなく<br />

ても, 複 製 酵 素 タンパク 質 と 移 行 タンパク 質 のみで 植 物 体 内 で 増 殖 して 全 身 に 広 がりうることが 知 られてい<br />

るが,そこから 他 の 植 物 に 自 然 界 で 伝 搬 されることはない.また,CP 遺 伝 子 については,CP を 取 り 除 いて<br />

RNA だけにしても 感 染 性 を 示 すウイルスは 多 くあるが, 一 度 増 殖 したウイルスはすべて CP を 被 っており,<br />

CP で 包 まれることによってはじめて 自 然 界 での 他 の 植 物 への 伝 搬 が 可 能 となる.<br />

これらの 3 必 須 遺 伝 子 と 伝 搬 に 必 要 な 遺 伝 子 のすべてを, 植 物 に 作 らせる 能 力 を 完 備 した 植 物 ウイルスは,<br />

以 下 のようなサイクルを 繰 り 返 しながら, 野 外 やハウスなどで 植 物 から 植 物 へと 次 第 に 広 がっていくこととな<br />

る. 特 に 圃 場 やハウスでは, 植 物 の 生 育 や 品 種 までそろっているので,ウイルスには 信 じられないほど 有 り 難<br />

い 好 条 件 となる.<br />

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ウイルス 病 の 防 除 のためには,このサイクルをどこかで 断 ち 切 ってしまえばよいのであるが,それは 必 ずし<br />

も 容 易 ではない. 容 易 に 遮 断 されうるものはとっくにウイルスとして 存 在 していないはずである.<br />

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植 物 ウイルスの 遺 伝 子 についてこれまで 説 明 してきた 以 外 に, 最 近 になって, 新 たに 重 要 なウイルス 遺 伝 子<br />

が 見 つかり, 普 遍 的 に 植 物 ウイルスが 持 っていることが 判 ってきた.ウイルスが 植 物 に 感 染 して 細 胞 内 に 侵 入<br />

して 増 殖 を 始 めるまでは, 当 然 のことながら, 植 物 もさまざまなバリヤーを 設 けていて 抵 抗 する,それが 抵 抗<br />

性 の 主 要 なものと 考 えられていた.つまり,ウイルス 増 殖 開 始 まではいろいろと 抵 抗 するが,ウイルスが 一 度<br />

増 殖 を 始 めると 植 物 は 黙 ってなされるがままにウイルス 遺 伝 子 の 指 示 に 従 うのだとずっと 考 えられてきた.し<br />

かし, 実 はそうではなく, 植 物 はウイルスが 侵 入 してきて 増 殖 を 始 めると,そのウイルス RNA を 分 解 してし<br />

まう 仕 組 みを 広 く 有 していることが,しだいにわかってきたのである.しかも,それはウイルスに 対 して 作 用<br />

するばかりでなく, 広 く 植 物 に 入 ってくる 外 来 遺 伝 子 一 般 に 対 して 作 用 することが 判 明 し,この 作 用 は 広 く<br />

RNA サイレンシングと 呼 ばれるようになった.<br />

このような 機 構 がサイレンシングといわれるようになったのは,「 特 定 の RNA を 分 解 してだまらせてしま<br />

う」という 意 味 からである.このサイレンシングによって, 植 物 自 身 が 持 っている RNA を 分 解 してしまって<br />

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は, 植 物 自 身 が 困 ってしまうので, 新 たに 外 から 侵 入 してきた RNA を,その 配 列 を 標 的 として 分 解 してしま<br />

うという 防 御 機 構 の 発 見 であった.これは, 動 物 のように 逃 げ 隠 れできない 植 物 が, 他 の 生 物 や 遺 伝 子 によっ<br />

て 操 られないために 作 られてきた 機 構 と 思 われる. 最 近 になるまでわれわれ 人 間 が 知 らなかっただけで, 植 物<br />

はずいぶん 前 からこのすぐれた 防 御 機 構 を 持 っていて,その 強 化 や 改 良 も 進 めてきたものと 思 われる. 植 物 ウ<br />

イルスもこの 強 力 な RNA サイレンシングには 困 ったようで,これに 対 する 対 応 策 を 講 じないとウイルスとし<br />

て 残 っていけないほど, 強 力 なウイルス 対 抗 策 でもあったと 思 われる.<br />

しかし,このサイレンシングに 対 抗 するすべを 植 物 ウイルスはすでに 持 っていることも,その 後 になって<br />

判 ってきたのである.ウイルス 側 はこの 厄 介 な RNA サイレンシングを 抑 えるためのサプレッサーとよばれる<br />

ウイルスタンパク 質 の 1 つを 植 物 に 作 らせ,すでに 対 抗 してきている. 現 在 では,ほとんどの 植 物 ウイルスが<br />

このサプレッサー 遺 伝 子 を 持 っていることが 証 明 され,ウイルスがサイレンシングに 対 する 抑 制 効 果 を 有 して<br />

いることが 判 明 している.サプレッサー 機 能 を 持 つタンパク 質 を 持 っていないウイルスは, 植 物 に 感 染 しても<br />

ウイルスとはなりえないと 考 えてよい.もちろん,われわれのまだ 知 らない 他 の 対 抗 手 段 を 持 つウイルスもあ<br />

るかもしれない. 最 近 になるまでウイルスサイドからこの 遺 伝 子 の 存 在 が 見 つけられなかったのは,このタン<br />

パク 質 のコーディング 領 域 が 他 の 既 知 の 遺 伝 子 の 一 部 であったり, 既 知 の 遺 伝 子 の 別 機 能 であることが 多 かっ<br />

たためであった( 志 村 ・ 増 田 ,2012).<br />

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植 物 ウイルスの 伝 染 方 法 は 多 種 多 様 であるが,その 方 法 はウイルスによって 決 まっていて,ウイルスは 特 定<br />

の 媒 介 生 物 によってのみ 伝 搬 される. 具 体 的 には, 媒 介 生 物 , 種 子 , 土 壌 , 接 触 などによって 伝 染 が 行 われて<br />

いる. 生 物 を 介 する 伝 染 法 として 代 表 的 なのは 植 物 に 寄 生 する 小 さな 昆 虫 による 伝 搬 である. 伝 搬 する 昆 虫 の<br />

種 類 としては,アブラムシ,アザミウマ,コナジラミ,ヨコバイなどが 多 く, 一 般 的 には,これらの 虫 が 感 染<br />

植 物 に 飛 来 して 吸 汁 する 際 にウイルスも 虫 の 体 内 に 入 って,ウイルスが 増 殖 した 後 ,その 虫 が 次 の 健 全 な 植 物<br />

を 吸 汁 する 時 にウイルスが 植 物 体 内 にはき 出 されることによってウイルスが 運 ばれて, 感 染 が 成 立 し 伝 搬 が 起<br />

きることになる.これらとは 異 なり,アブラムシの 体 内 には 入 らないで,その 口 針 に 一 時 的 にくっ 付 くだけ<br />

で,アブラムシが 次 の 植 物 の 汁 を 吸 うときには 離 れてしまうことで 伝 染 するような 巧 妙 な 機 構 を 確 立 している<br />

ウイルスもある. 前 者 のようにウイルスが 虫 の 体 内 に 入 ってから 伝 搬 されるウイルスは 長 期 間 にわたって 伝 搬<br />

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されることになることから 永 続 的 伝 搬 とよばれ, 後 者 は 短 い 期 間 しか 伝 搬 されないことから 非 永 続 伝 搬 と 呼 ば<br />

れている.<br />

植 物 ウイルスを 媒 介 する 昆 虫 あるいはそれに 近 い 節 足 動 物 は,かなり 多 岐 にわたっており,これまでに 確 認<br />

されたものだけでも 80 種 以 上 のアブラムシ,6 種 のアザミウマ,2 種 のコナジラミ,3 種 のウンカ,2 種 のヨ<br />

コバイ,4 種 のダニ,1 種 のハムシ,2 種 のカイガラムシなど 多 種 多 様 なものが 知 られており,これらの 数 も<br />

増 えてきている.これらの 主 要 なウイルスと 媒 介 生 物 の 関 係 を 表 2 にまとめておいた.<br />

土 壌 中 の 糸 状 菌 や 線 虫 がウイルスを 媒 介 することもあり,この 場 合 はウイルス 伝 染 が 土 壌 中 で 植 物 の 根 を 通<br />

じて 起 こるために 土 壌 伝 染 とよばれている.ウイルスを 伝 染 する 糸 状 菌 には,ポリミキサ,オルピディウム,<br />

スポンゴスポラが 知 られていて, 特 定 の 糸 状 菌 が 特 定 のウイルスを 伝 搬 する.これらの 糸 状 菌 が 媒 介 するウ<br />

イルス 病 にはオオムギ 縞 萎 縮 病 やメロンえそ 斑 点 病 などがあり,いずれも 防 除 が 困 難 な 重 要 土 壌 病 害 で ある.<br />

一 方 , 線 虫 が 媒 介 するウイルスにはネポウイルスやトブラウイルスがあり,Xphimema や Longidorus など<br />

の 3 属 10 種 以 上 の 線 虫 が 特 異 的 に 媒 介 する. 最 近 のわが 国 ではウイルスを 伝 染 する 線 虫 は 比 較 的 少 なく, 線<br />

虫 伝 染 性 のウイルス 病 の 発 生 は 限 定 的 で 被 害 もそれほど 大 きくはない.<br />

一 方 , 生 物 を 介 さない 伝 搬 法 として 代 表 的 なものには,ウイルスに 感 染 した 葉 が 隣 の 植 物 の 葉 と 機 械 的 にこ<br />

すりあわされるだけで 伝 染 するという 方 法 があり,これを 接 触 伝 染 という. 安 定 性 の 高 い 粒 子 を 持 つウイルス<br />

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では, 感 染 した 植 物 の 根 やその 周 囲 の 土 の 中 で,ウイルスが 長 期 に 渡 って 感 染 性 を 維 持 していて,その 根 や 土<br />

壌 に 健 全 植 物 の 根 が 接 触 した 時 にウイルスに 感 染 することがある.これも 土 壌 中 でウイルスが 伝 染 することか<br />

ら, 糸 状 菌 による 伝 染 と 同 じ 土 壌 伝 染 に 含 められている.トマトやピーマンなどの 重 要 ウイルスであるトバ<br />

モウイルス(TMV, ToMV, PMMoV 等 )がこのような 伝 染 をするために 感 染 植 物 さえあれば 伝 搬 してしまい,<br />

他 のウイルスのように 媒 介 生 物 の 防 除 等 による 対 策 がとれないことから, 防 除 がむずかしく, 一 度 発 生 すると<br />

大 問 題 となりやすい.<br />

また, 他 の 生 物 を 介 しないもう 一 つの 重 要 な 伝 染 法 として, 発 病 した 植 物 にできた 種 子 の 内 部 にウイルスが<br />

媒 介 虫<br />

アブラムシ<br />

コナジラミ<br />

アザミウマ<br />

ウンカ<br />

ヨコバイ<br />

ダニ<br />

カイガラムシ<br />

ハムシ<br />

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日 本 で 発 生 している 主 なウイルス<br />

CMV,PSV,PVY,CVB<br />

TYLCV,CCYV<br />

TSWV,MYSV<br />

RSV<br />

RDV<br />

OFV<br />

ブドウウイルス3 種 (GLRaV-3, GVA, GVB)<br />

SqMV,RMV<br />

ウイルス 名 : 以 下 のウイルス 以 外 は 表 1を 参 照 .<br />

OFV:ランえそ 斑 紋 ウイルス<br />

GLRaV-3:ブドウ 葉 巻 随 伴 ウイルス3<br />

GVA:ブドウ A ウイルス<br />

GVB:ブドウ B ウイルス<br />

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残 っていて,その 種 子 から 発 芽 した 次 世 代 の 植 物 が 発 病 するというものがあり,これを 種 子 伝 染 とよぶ. 特 に<br />

ダイズなどのマメ 科 植 物 のウイルスに 多 く,これらでは 種 子 内 部 に 活 性 を 持 ったウイルスが 残 っていて,それ<br />

が 種 子 から 発 芽 した 次 世 代 の 植 物 に 感 染 する. 一 方 ,トマト・ピーマン・キュウリ・メロンなどではウイルス<br />

によっては, 感 染 植 物 にできた 種 子 の 表 面 にウイルスが 残 り, 発 芽 するときに 種 皮 表 面 に 残 存 していたウイル<br />

スが 侵 入 して 発 病 することがあり,こちらは 見 かけの 種 子 伝 染 とよばれている.たとえこれらの 種 子 伝 染 その<br />

ものは 低 率 であっても, 種 子 伝 染 性 ウイルスにはアブラムシや 接 触 伝 染 で 広 がるものが 多 いために,1 株 でも<br />

種 子 伝 染 すると,その 感 染 株 から 二 次 伝 染 によってウイルスが 広 がってしまうことがある.したがって, 低 率<br />

だからといって, 決 して 軽 視 することはできない.それどころか 一 次 伝 染 率 がごく 低 率 であっても,その 後 の<br />

重 大 な 被 害 となる 大 きな 原 因 となってしまうことがあるのである.また 種 子 伝 染 はウイルスの 次 代 植 物 への 移<br />

行 のために 媒 介 者 を 必 要 としないことから,ウイルスにとっては 効 率 的 で 確 実 な 伝 染 法 である. 種 子 伝 染 の 1<br />

方 法 として 花 粉 を 介 しての 伝 染 があり, 特 に 区 別 して 花 粉 伝 染 とよばれ, 果 樹 等 を 主 要 な 宿 主 とするイラルウ<br />

イルスなどで 顕 著 な 現 象 として 古 くから 知 られている.<br />

ウイロイドは 種 子 伝 染 や 接 触 伝 染 して, 多 くの 植 物 -ウイロイドの 組 合 せではほぼ 無 病 徴 感 染 する.ウイロ<br />

イドが,たまたま 特 定 の 作 物 , 場 合 によっては 特 定 の 品 種 に 感 染 したときに 激 しい 病 徴 を 出 して 大 きな 問 題 と<br />

なる. 植 物 工 場 と 同 じく 野 菜 などの 水 耕 栽 培 においても,ウイロイドは 特 に 警 戒 が 必 要 な 病 原 である. 土 や 植<br />

物 残 渣 がない 清 潔 な 状 況 で 栽 培 しているのでウイロイドの 持 ち 込 みはありえないと 思 いこんでいると, 気 がつ<br />

かないうちに 種 子 やヒトを 通 じてウイロイドを 持 ち 込 んでしまう 可 能 性 があるからである.ウイロイドは,ウ<br />

イルスを 想 定 した 診 断 では 検 出 ができない 点 も 重 要 である.もちろん,TMV のように 接 触 伝 染 能 の 高 いウイ<br />

ルスについても, 植 物 工 場 や 水 耕 栽 培 では 持 ち 込 み 完 全 防 止 に 細 心 の 注 意 が 肝 要 である.<br />

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ウイルス 病 の 防 除 には 発 生 させないことが 一 番 であるが,ウイルスも 自 身 の 効 率 的 な 感 染 , 増 殖 , 伝 染 のた<br />

めに 種 々 工 夫 をしているわけで,いつのまにか 侵 入 して 発 生 していることが 多 い. 一 度 , 発 生 してしまったウ<br />

イルス 病 の 防 除 のためには, 第 一 にウイルスの 以 下 の 伝 染 環 をどこかで 断 つことが 必 要 であり,それができた<br />

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ら 今 度 は 細 心 の 注 意 を 払 って 再 侵 入 をきちんと 防 止 することがウイルス 防 除 に 必 須 である.この 点 はウイロイ<br />

ドでも 同 様 である.<br />

ウイルス 病 の 場 合 には, 糸 状 菌 による 病 気 のような 農 薬 による 防 除 法 は 確 立 されていない.また,ヒトのウ<br />

イルスでは 最 近 になって, 有 効 で 安 全 な 抗 ウイルス 剤 が 実 用 的 に 用 いられるようになってきているが, 植 物 ウ<br />

イルスではそのような 抗 ウイルス 剤 はまだ 見 つかっていないのが 現 状 である. 共 通 的 に 用 いることができる 植<br />

物 ウイルスの 防 除 法 には, 耕 種 的 防 除 法 とよばれる 方 法 がある. 耕 種 的 防 除 法 には, 非 感 染 性 作 物 を 含 めた 輪<br />

作 体 系 の 導 入 ・ 抵 抗 性 品 種 や 台 木 の 利 用 ・ 無 病 苗 の 使 用 ・ 感 染 植 物 や 被 害 残 さの 除 去 ・ 栽 培 環 境 の 適 正 化 お<br />

よびその 保 持 ・ 播 種 期 の 移 動 等 がある. 虫 が 媒 介 するウイルス 病 の 場 合 には 媒 介 虫 の 防 除 という 観 点 から 殺 虫<br />

剤 を 使 って 防 除 するという 化 学 的 防 除 も 可 能 であるし,また,シルバーマルチや 防 虫 ネットなどを 張 って 媒 介<br />

虫 の 侵 入 を 防 止 するという 物 理 的 防 除 法 も 使 うことができる.もちろん,これらは 直 接 ウイルスをたたいてい<br />

るわけではなく,ウイルスを 媒 介 する 虫 を 寄 せ 付 けないようにするのである.<br />

土 壌 中 の 菌 やウイルスが 土 壌 中 に 残 って 伝 搬 されるウイルスでは, 土 壌 くん 蒸 剤 等 の 処 理 によって 菌 や 残<br />

根 中 のウイルス 密 度 を 下 げることでウイルス 病 の 発 生 拡 大 を 防 止 できるので,これまで 高 い 防 除 効 果 をあげ<br />

てきた.しかし, 土 壌 くん 蒸 剤 として 広 く 利 用 されてきた 臭 化 メチルは,そのオゾン 層 破 壊 性 の 故 に 国 際 条<br />

約 によって, 日 本 では 2013 年 から 全 く 使 用 できなくなるので 注 意 が 必 要 である. 以 前 から 他 の 農 薬 などが 代<br />

用 できるものについては 対 応 策 が 検 討 され 確 立 されてきたが, 臭 化 メチル 以 外 には 有 効 な 対 策 が 見 つかって<br />

いなかったものについて, 個 別 の 代 替 策 が 農 林 水 産 省 の 実 用 技 術 の 重 要 課 題 として 検 討 され, 課 題 別 にきち<br />

んとしたマニュアルが 2012 年 12 月 に 公 開 された. 臭 化 メチル 全 廃 で 問 題 となりうるウイルスとしてはピー<br />

マンの PMMoV,キュウリの KGMMV,メロンの MNSV があげられており,これらが 発 生 した 場 合 の 個 別<br />

の 対 応 策 がくわしく 適 切 に 紹 介 されている. 具 体 的 な 内 容 については, 中 央 農 業 総 合 研 究 センターのサイト<br />

に 示 してある「 臭 化 メチルにたよらない 新 規 栽 培 マニュアル」http://www.naro.affrc.go.jp/narc/contents/<br />

post_methylbromide/index.html を 参 照 されたい.どのような 防 除 法 を 適 用 する 場 合 であっても, 発 病 株 を 早<br />

期 に 除 去 して 伝 染 源 をきちんと 取 り 除 くことはウイルス 病 の 発 生 拡 大 防 止 や 次 作 での 発 生 防 止 には 一 番 重 要 な<br />

ことである.<br />

一 部 のウイルスと 作 物 の 組 み 合 わせでは,ウイルス 病 の 防 除 に, 野 生 植 物 などが 持 つ 抵 抗 性 遺 伝 子 が 交 配 な<br />

どによって 栽 培 品 種 に 導 入 され, 有 効 かつ 実 用 的 な 抵 抗 性 遺 伝 子 を 持 つ 品 種 が,すでにいくつかの 作 物 で 広 く<br />

市 販 されている. 抵 抗 性 遺 伝 子 は 一 度 植 物 に 安 定 的 に 入 れてしまうと, 最 も 簡 単 かつ 有 効 な 防 除 法 であるため<br />

に, 世 界 中 で 広 く 探 索 研 究 されている. 日 本 における 現 時 点 での 抵 抗 性 遺 伝 子 の 主 たる 利 用 はトマトやピーマ<br />

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ン 等 の 一 部 ウイルスに 限 定 されている. 抵 抗 性 品 種 の 利 用 に 際 しては, 早 いものでは 2 ~ 3 年 でその 抵 抗 性 を<br />

打 破 するウイルスの 新 系 統 が 出 現 することを 前 提 とする 必 要 があり, 遺 伝 的 背 景 の 異 なる 抵 抗 性 遺 伝 子 の 利 用<br />

や 感 受 性 品 種 との 混 植 などを 考 慮 しながら 進 めて 行 けば 抵 抗 性 品 種 は 長 持 ちすると 言 われている.このような<br />

延 命 対 策 はウイルス 以 外 の 病 原 では 実 際 に 検 討 されているが, 抵 抗 性 遺 伝 子 が 少 ないウイルスではなぜかあま<br />

り 検 討 されていない.トマトで 発 生 すると 大 きな 被 害 を 与 えてしまうトバモウイルスの ToMV に 対 する 効 果<br />

的 な 抵 抗 性 遺 伝 子 である Tm-2a は 例 外 的 にきわめて 安 定 である.これは 長 い 間 , 広 い 地 域 に 渡 って 多 用 され<br />

てきているのに,ごくまれに 抵 抗 性 打 破 株 が 出 現 するのみで,その 発 生 が 広 がった 例 はこれまでのところまっ<br />

たくないのである. 本 ウイルスのように 安 定 かつ 強 力 なウイルスに 対 して,1 つの 抵 抗 性 遺 伝 子 がなぜこのよ<br />

うに 安 定 して 長 期 間 にわたってブレイクダウン( 抵 抗 性 の 崩 壊 )を 起 こさないで 利 用 され 続 けているのか 実 に<br />

不 思 議 な 現 象 である.これら 抵 抗 性 遺 伝 子 の 構 造 や 機 能 についての 研 究 が 進 んできており, 今 後 は 適 用 範 囲 の<br />

拡 大 なども 可 能 となるかもしれない.<br />

ジェミニウイルスである TYLCV の 最 近 のわが 国 のトマトにおける 発 生 拡 大 に 伴 って, 野 生 トマトから 導<br />

入 された TYLCV 抵 抗 性 遺 伝 子 を 持 つ 抵 抗 性 品 種 の 利 用 がかなり 急 速 に 進 んできている.すでに 日 本 では<br />

TYLCV イスラエル 系 統 とマイルド 系 統 の 2 系 統 が 主 に 発 生 し 広 がっているために,1 個 の 抵 抗 性 遺 伝 子 しか<br />

有 していないトマトではいずれか 一 方 のみにしか 抵 抗 性 を 示 さないので,その 利 用 に 際 しては 現 地 で 発 生 し<br />

ているウイルスの 系 統 の 確 認 がまず 前 提 となる. 最 近 になって 両 系 統 に 同 時 に 抵 抗 性 を 示 す 品 種 が 市 販 され<br />

るようになってきており,これらを 利 用 する 方 が 安 定 的 に 被 害 を 軽 減 できると 思 われる.しかし,これらの<br />

TYLCV 抵 抗 性 は,ウイルスには 感 染 するが, 病 徴 が 出 にくい,あるいは 軽 いというものであるために, 市 販<br />

の 抵 抗 性 品 種 を 栽 培 していてもウイルスはある 程 度 増 殖 することになるので, 媒 介 虫 の 防 除 や 侵 入 阻 止 は 必 須<br />

である.<br />

植 物 ウイルスにおいても,ヒトのインフルエンザ 予 防 に 利 用 されているワクチンと 同 様 な 手 法 で 防 除 が 可 能<br />

なものもあって, 植 物 ワクチンと 呼 ばれる 効 果 的 な 弱 毒 ウイルスがすでに 実 用 化 されている.しかし, 植 物 ワ<br />

クチンや 弱 毒 ウイルスはごく 限 られた 作 物 とウイルスの 組 み 合 わせでしか 利 用 できないのが 現 状 である. 最<br />

近 になって, 有 効 な 弱 毒 ウイルスについて 農 薬 登 録 をとって 微 生 物 農 薬 として 市 販 することが 始 まっており,<br />

ZYMV のキュウリでのワクチン 株 キュービオ ZY-02 がそれに 当 たる(Kosaka et al., 2006). 植 物 ワクチンは<br />

野 外 の 強 毒 株 の 感 染 前 に 処 理 しておけば 有 効 であるが, 治 療 効 果 はないので, 発 病 後 に 接 種 しても 効 果 はな<br />

い.ウイルス 病 治 療 については, 最 近 になって 早 野 ら(2010)がトマトでの CMV の 治 療 にサテライト RNA<br />

が 利 用 できることを 報 告 しており, 我 々も 同 様 なことを 確 認 した. 植 物 ウイルスの 発 病 後 の 治 療 についてはこ<br />

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れから 研 究 が 進 むことが 期 待 される.<br />

ウイルスの 感 染 を 抑 える 物 質 である 抗 ウイルス 剤 の 探 索 については, 植 物 ウイルスでも 古 くから 多 くの 研 究<br />

がなされてきているが, 植 物 ウイルスでは 明 確 な 安 定 した 効 果 を 示 すものはまだ 見 つかっていない.シイタケ<br />

菌 糸 体 抽 出 物 であるレンテミンの 接 触 伝 染 防 止 についての 有 効 性 が 広 く 認 められているくらいである.ほとん<br />

どの 研 究 者 は 有 望 なものが 見 つからないので, 抗 ウイルス 剤 の 探 索 についてはあきらめ 気 味 というのが 実 情 の<br />

ようである.<br />

一 方 , 栄 養 繁 殖 性 作 物 では,ウイルス 感 染 植 物 にウイルスフリー 化 処 理 をして 得 られるウイルスを 含 まない<br />

ウイルスフリー 苗 を 作 って, 実 際 の 栽 培 に 利 用 することも 有 効 な 被 害 回 避 法 であり,ジャガイモ,イチゴ,サ<br />

ツマイモなどで 広 く 利 用 されている.ウイルス 感 染 株 を 高 温 処 理 や 生 長 点 培 養 によってフリー 化 することがで<br />

きるのである.しかし,ウイルスフリー 苗 の 安 定 的 な 栽 培 のためにはウイルス 再 感 染 への 対 策 や 栽 培 条 件 変 更<br />

の 検 討 などの 必 要 がある.<br />

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2011 年 までに ICTV に 登 録 されたヒトや 動 物 も 含 めたウイルスの 総 数 は 2,420 種 であり,それらの 特 性 に<br />

よって 395 の 属 に 分 類 されている.それらの 属 の 中 で 共 通 する 特 性 を 持 つものは 94 科 にまとめられ,さらに<br />

6 つの 目 に 整 理 されている.これら 2,420 の 中 には 分 類 学 的 位 置 が 確 定 していない 種 が 多 数 あるとともに, 今<br />

日 も 新 しいウイルス 種 が 見 つかっていることから,まだ 完 成 された 分 類 体 系 ではないと 思 われる.<br />

本 マニュアルのでも 簡 単 に 紹 介 したように, 植 物 ウイルスの 命 名 に 関 しては, 一 般 の 生 物 で 広 く 採<br />

用 されている 2 名 法 はなじまないということで,ずっと 以 前 から 植 物 ウイルスは 以 下 の 3 つを 順 番 に 並 べた 名<br />

称 でよばれている.そして, 表 記 はラテン 語 ではなく 英 語 であり, 植 物 名 の 頭 文 字 は 大 文 字 とする.<br />

<br />

たとえばタバコにモザイクを 生 じるウイルスなのでタバコ~モザイク~ウイルスだから 単 純 に Tobacco<br />

mosaic virus( 短 くするときは 3 つの 頭 文 字 をとって TMV),キュウリにモザイクを 出 すウイルスなので<br />

Cucumber mosaic virus(CMV)などである. 日 本 語 での 命 名 も 同 様 に 行 われている. 感 染 植 物 名 や 病 名 は<br />

日 本 語 で 表 記 されて virus はすべてウイルスとなるので,TMV はタバコモザイクウイルス,CMV はキュウリ<br />

モザイクウイルスと 呼 ばれている. 一 部 にはジャガイモ A ウイルス (PVA),ジャガイモ M ウイルス (PVM),<br />

ジャガイモ X ウイルス (PVX),ジャガイモ Y ウイルス (PVY)など,またアスパラガスウイルス I (AspVI),<br />

アスパラガスウイルス II (AspVII),アスパラガスウイルス III (AspVIII)などのように 単 なるアルファベッ<br />

トや 順 番 でよばれているウイルスもある.<br />

植 物 ウイルスやウイロイドの 新 種 の 和 名 は, 新 種 の 発 見 者 が 日 本 植 物 病 理 学 会 の 命 名 委 員 会 に 提 案<br />

し,そこで 審 査 されて 決 定 される.この 学 会 が 2012 年 に 発 行 した 日 本 植 物 病 名 目 録 第 2 版 に 最 新 の 和 名<br />

も 含 めてすべて 掲 載 されている. 一 方 , 英 名 については ICTV で 決 定 されており,その 最 新 版 は 2009 年<br />

に 改 訂 さ れ た 第 9 次 報 告 で あ り, そ の 概 要 は ICTV の HP(http://www.ictvonline.org/virusTaxonomy.<br />

asp?version=2009&bhcp=1)で 見 ることができ,その 内 容 は 随 時 更 新 されている.また,その 詳 細 は ICTV<br />

が 2011 年 に 発 行 した 特 に 分 厚 い 本 である ‘Virus Taxonomy’(King et al., 2011)で 知 ることができる.<br />

2012 年 2 月 に 更 新 された ICTV による 最 新 のウイルスの 分 類 によると, 植 物 に 感 染 する 植 物 ウイルスは 17<br />

科 79 属 に 分 類 されている.その 概 要 を 表 3 に 示 した.なお,ICTV の 分 類 では,Partiviridae 科 の 後 に 来 る<br />

Phycodnaviridae 科 のウイルスは, 藻 類 や 植 物 プランクトンに 感 染 することから 植 物 ウイルスに 含 める 研 究 者<br />

もいるが, 一 般 の 植 物 ウイルスとはいえないのでここでは 省 略 した. 一 方 , 本 マニュアルの 2 4<br />

で 紹 介 したウイロイドはその 遺 伝 子 の 小 ささと 粒 子 を 形 成 しない 故 に,ウイルスではなく Subviral Agents<br />

として 分 類 されている.サテライトウイルスやサテライト 核 酸 はそれ 単 独 では 増 殖 できないため, 同 様 に<br />

Subviral Agents に 含 まれているが.これらは 単 独 では 感 染 性 を 示 さず 一 人 前 のウイルスでないと 考 えられる<br />

ので, 表 3 には 掲 載 しなかった.<br />

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ウイルス 門 ・ 科 ・ 属 の 名 称 Type virus 種 数<br />

Order: Mononegavirales (1/4 Families)<br />

Family: Rhabdoviridae (2/6 Genera)<br />

Genus: Cytorhabdovirus (9 Species) Lettuce necrotic yellows virus 9<br />

Genus: Nucleorhabdovirus (9 Species) Potato yellow dwarf virus 9<br />

Order: Picornavirales (1/5 Families)<br />

Family: Secoviridae (1 Subfamily + 5 Genera)<br />

Subfamily: Comovirinae (3 Genera)<br />

Genus: Comovirus (15 Species) Cowpea mosaic virus 15<br />

Genus: Fabavirus (4 Species) Broad bean wilt virus 1 4<br />

Genus: Nepovirus (34 Species) Tobacco ringspot virus 34<br />

5 Genera not in a Subfamily (5 Genera)<br />

Genus: Cheravirus (3 Species) Cherry rasp leaf virus 3<br />

Genus: Sadwavirus (1 Species) Satsuma dwarf virus 1<br />

Genus: Sequivirus (3 Species) Parsnip yellow fleck virus 3<br />

Genus: Torradovirus (2 Species) Tomato torrado virus 2<br />

Genus: Waikavirus (3 Species) Rice tungro spherical virus 3<br />

Genus: Unassigned (3 Species) 3<br />

Order: Tymovirales (3/4 Families)<br />

Family: Alphaflexiviridae (4/6 Genera)<br />

Genus: Allexivirus (8 Species) Shallot virus X 8<br />

Genus: Lolavirus (1 Species) Lolium latent virus 1<br />

Genus: Mandarivirus (1 Species) Indian citrus ringspot virus 1<br />

Genus: Potexvirus (35 Species) Potato virus X 35<br />

Family: Betaflexiviridae (7 Genera)<br />

Genus: Capillovirus (2 Species) Apple stem grooving virus 2<br />

Genus: Carlavirus (43 Species) Carnation latent virus 43<br />

Genus: Citrivirus (1 Species) Citrus leaf blotch virus 1<br />

Genus: Foveavirus (4 Species) Apple stem pitting virus 4<br />

Genus: Tepovirus (1 Species) Potato virus T 1<br />

Genus: Trichovirus (5 Species) Apple chlorotic leaf spot virus 5<br />

Genus: Vitivirus (6 Species) Grapevine virus A 6<br />

Genus: Unassigned (6 Species) 6<br />

Family: Tymoviridae (3 Genera) 3<br />

Genus: Maculavirus (1 Species) Grapevine fleck virus 1<br />

Genus: Marafivirus (4 Species) Maize rayado fino virus 4<br />

Genus: Tymovirus (25 Species) Turnip yellow mosaic virus 25<br />

Virus families not assigned to an order (19/65 Families)<br />

Family: Avsunviroidae (3 Genera)<br />

Genus: Avsunviroid (1 Species) Avocado sunblotch viroid 1<br />

Genus: Elaviroid (1 Species) Eggplant latent viroid 1<br />

Genus: Pelamoviroid (2 Species) Peach latent mosaic viroid 2<br />

Family: Bromoviridae (6 Genera)<br />

Genus: Alfamovirus (1 Species) Alfalfa mosaic virus 1<br />

Genus: Anulavirus (1 Species) Pelargonium zonate spot virus 1<br />

Genus: Bromovirus (6 Species) Brome mosaic virus 6<br />

Genus: Cucumovirus (3 Species) Cucumber mosaic virus 3<br />

Genus: Ilarvirus (16 Species) Tobacco streak virus 16<br />

Genus: Oleavirus (1 species) Olive latent virus 2 1<br />

Family: Bunyaviridae (1/5 Genera)<br />

Genus: Tospovirus (8 Species) Tomato spotted wilt virus 8<br />

Family: Caulimoviridae (7 Genera)<br />

Genus: Badnavirus (18 Species) Commelina yellow mottle virus 18<br />

Genus: Caulimovirus (8 Species) Cauliflower mosaic virus 8<br />

Genus: Cavemovirus (2 Species) Cassava vein mosaic virus 2<br />

Genus: Petuvirus (1 Species) Petunia vein clearing virus 1<br />

Genus: Solendovirus (2 Species) Tobacco vein clearing virus 2<br />

Genus: Soymovirus (3 Species) Soybean chlorotic mottle virus 3<br />

Genus: Tungrovirus (1 Species ) Rice tungro bacilliform virus 1<br />

( ) 内 が 整 数 の 場 合 : 全 部 のウイルスが 植 物 に 感 染 する.<br />

( ) 内 が 分 数 の 場 合 : 植 物 に 感 染 するウイルス 科 ・ 属 ・ 種 の 数 / 全 部 の 科 ・ 属 ・ 種 の 数 .<br />

*タイプウイルスは 菌 類 に 感 染 するウイルスであり, 植 物 には 感 染 しない.<br />

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ウイルス 門 ・ 科 ・ 属 の 名 称 Type virus 種 数<br />

Family: Closteroviridae (3 Genera)<br />

Genus: Ampelovirus (8 Species) Grapevine leafroll-associated virus 3 8<br />

Genus: Closterovirus (9 Species) Beet yellows virus 9<br />

Genus: Crinivirus (12 Species) Lettuce infectious yellows virus 12<br />

Genus: Unassigned (1 Species) 1<br />

Family: Endornaviridae (1 Genus)<br />

Genus: Endornavirus (6 Species) Vicia faba endornavirus 6<br />

Family: Geminiviridae (4 Genera)<br />

Genus: Begomovirus (196 Species) Bean golden yellow mosaic virus 196<br />

Genus: Curtovirus (7 Species) Beet curly top virus 7<br />

Genus: Mastrevirus (14 Species) Maize streak virus 14<br />

Genus: Topocuvirus (1 Species ) Tomato pseudo-curly top virus 1<br />

Family: Luteoviridae (3 Genera)<br />

Genus: Enamovirus (1 Species) Pea enation mosaic virus-1 1<br />

Genus: Luteovirus (6 Species) Barley yellow dwarf virus-PAV 6<br />

Genus: Polerovirus (13 Species) Potato leafroll virus 13<br />

Genus: Unassigned (8 Species) 8<br />

Family: Metaviridae (1/3 Genera)<br />

Genus: Metavirus (3/21 Species) Saccharomyces cerevisiae Ty3 virus * 3<br />

Family: Nanoviridae (2 Genera)<br />

Genus: Babuvirus (3 Species) Banana bunchy top virus 3<br />

Genus: Nanovirus (3 Species) Subterranean clover stunt virus 3<br />

Genus: Unassigned (1 Species) 1<br />

Family: Ophioviridae (1 Genus) 1<br />

Genus: Ophiovirus (6 Species) Citrus psorosis virus 6<br />

Family: Partitiviridae (2/4 Genera)<br />

Genus: Alphacryptovirus (16 Species) White clover cryptic virus 1 16<br />

Genus: Betacryptovirus (4 Species) White clover cryptic virus 2 4<br />

Family: Pospiviroidae (5 Genera)<br />

Genus: Apscaviroid (10 Species) Apple scar skin viroid 10<br />

Genus: Cocadviroid (4 Species) Coconut cadang-cadang viroid 4<br />

Genus: Coleviroid (3 Species) Coleus blumei viroid 1 3<br />

Genus: Hostuviroid (1 Species) Hop stunt viroid 1<br />

Genus: Pospiviroid (9 Species) Potato spindle tuber viroid 9<br />

Family: Potyviridae (7 Genera)<br />

Genus: Brambyvirus (1 Species) Blackberry virus Y 1<br />

Genus: Bymovirus (6 Species) Barley yellow mosaic virus 6<br />

Genus: Ipomovirus (4 Species) Sweet potato mild mottle virus 4<br />

Genus: Macluravirus (6 Species) Maclura mosaic virus 6<br />

Genus: Potyvirus (143 Species) Potato virus Y 143<br />

Genus: Rymovirus (3 Species) Ryegrass mosaic virus 3<br />

Genus: Tritimovirus (4 Species) Wheat streak mosaic virus 4<br />

Genus: Unassigned (3 Species) 3<br />

Family: Pseudoviridae (2/3 Genera)<br />

Genus: Pseudovirus (15/20 Species) Saccharomyces cerevisiae Ty1 virus * 15<br />

Genus: Sirevirus (5 Species) Glycine max SIRE1 virus 5<br />

Genus: Unassigned (1 Species) 1<br />

Family: Reoviridae (2 Subfamilies)<br />

Subfamily: Sedoreovirinae (1/6 Genera)<br />

Genus: Phytoreovirus (3 Species ) Wound tumor virus 3<br />

Subfamily: Spinareovirinae (2/9 Genera)<br />

Genus: Fijivirus (8 Species) Fiji disease virus 8<br />

Genus: Oryzavirus (2 Species) Rice ragged stunt virus 2<br />

Family: Tombusviridae (8 Genera)<br />

Genus: Aureusvirus (4 Species) Pothos latent virus 4<br />

Genus: Avenavirus (1 Species) Oat chlorotic stunt virus 1<br />

Genus: Carmovirus (16 Species) Carnation mottle virus 16<br />

Genus: Dianthovirus (3 Species) Carnation ringspot virus 3<br />

Genus: Machlomovirus (1 Species) Maize chlorotic mottle virus 1<br />

Genus: Necrovirus (7 Species) Tobacco necrosis virus A 7<br />

Genus: Panicovirus (1 Species) Panicum mosaic virus 1<br />

Genus: Tombusvirus (17 Species) Tomato bushy stunt virus 17<br />

Genus: Unassigned (2 Species) 2<br />

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ウイルス 門 ・ 科 ・ 属 の 名 称 Type virus 種 数<br />

Family: Virgaviridae (6 Genera)<br />

Genus: Furovirus (5 Species) Soil-borne wheat mosaic virus 5<br />

Genus: Hordeivirus (4 Species) Barley stripe mosaic virus 4<br />

Genus: Pecluvirus (2 Species) Peanut clump virus 2<br />

Genus: Pomovirus (4 Species) Potato mop-top virus 4<br />

Genus: Tobamovirus (25 Species) Tobacco mosaic virus 25<br />

Genus: Tobravirus (3 Species) Tobacco rattle virus 3<br />

Family: Unassigned (10/13 Genera)<br />

Genus: Benyvirus (2 Species) Beet necrotic yellow vein virus 2<br />

Genus: Cilevirus (1 Species) Citrus leprosis virus C 1<br />

Genus: Emaravirus (1 Species)<br />

European mountain ash ringspotassociated<br />

virus<br />

1<br />

Genus: Idaeovirus (1 Species) Raspberry bushy dwarf virus 1<br />

Genus: Ourmiavirus (3 Species) Ourmia melon virus 3<br />

Genus: Polemovirus (1 Species) Poinsettia latent virus 1<br />

Genus: Sobemovirus (13 Species) Southern bean mosaic virus 13<br />

Genus: Tenuivirus (6 Species) Rice stripe virus 6<br />

Genus: Umbravirus (7 Species) Carrot mottle virus 7<br />

Genus: Varicosavirus (1 Species) Lettuce big-vein associated virus 1<br />

Genus: Unassigned (2 Species) 2<br />

種 の 合 計 数 990<br />

( ) 内 が 整 数 の 場 合 : 全 部 のウイルスが 植 物 に 感 染 する.<br />

( ) 内 が 分 数 の 場 合 : 植 物 に 感 染 するウイルス 科 ・ 属 ・ 種 の 数 / 全 部 の 科 ・ 属 ・ 種 の 数 .<br />

*タイプウイルスは 菌 類 に 感 染 するウイルスであり, 植 物 には 感 染 しない.<br />

<br />

植 物 ウイルスでは, 比 較 的 最 近 までは 共 通 した 性 質 を 示 すものをまとめてグループとして 分 類 していた. 最<br />

近 になって 他 の 生 物 の 分 類 に 近 づけるべく,グループという 表 現 はやめて, 複 数 の 種 をその 形 ・ 伝 染 方 法 ・ 宿<br />

主 域 ・ 塩 基 配 列 などによってまとめて 属 とし, 類 似 した 属 をさらにまとめて 科 としてまとめるようになった.<br />

こうして 植 物 ウイルスは 他 の 生 物 と 同 様 に 科 ・ 属 ・ 種 に 分 類 されるようになり,それらの 数 は 着 実 に 増 えてき<br />

ており,それらの 科 ・ 属 の 名 称 もラテン 語 表 記 となっている.しかし,その 基 盤 となる 種 名 については, 他 の<br />

生 物 のような 2 名 法 やラテン 語 が 使 われる 見 込 みは 当 分 の 間 ないと 思 われる.<br />

最 新 の 第 9 次 ICTV 報 告 では, 植 物 ウイルスについては 新 たに 発 見 確 認 された 種 の 追 加 のために 新 しい 科<br />

や 属 が 追 加 されたり, 既 知 のものに 含 められたりしている.1 属 1 種 のユニークなウイルスについては, 科 に<br />

分 類 されている 属 だけを 見 ても 20 属 以 上 あるが,これらは 単 に 探 索 が 遅 れているだけかもしれない.すでに<br />

Fuji et al. (2013)などは 単 独 種 の 属 に 新 種 の 追 加 提 案 をしている. 一 方 , 植 物 ウイルスのすべての 属 の 中 で,<br />

特 に 種 の 数 が 多 いものから 5 つを 並 べると 表 4 のようになり,ジェミニウイルス 科 の 中 のベゴモウイルス 属 や<br />

ポティウイルス 科 のポティウイルス 属 で 100 を 越 える 種 が 見 つかっており,これらの 2 属 で 特 に 種 の 分 化 が 進<br />

んでいることがわかる.これら 多 くの 種 に 分 化 しているウイルスは, 現 代 農 業 で 広 く 栽 培 されている 作 物 種 や<br />

それらの 栽 培 条 件 などにうまくマッチしながら,その 変 異 を 拡 大 して 発 生 範 囲 を 広 げ, 感 染 した 植 物 に 自 分 と<br />

同 じウイルスをどんどん 作 らせていっている.これらのウイルスの 今 後 の 大 発 生 への 警 戒 やモニタリングが 特<br />

に 重 要 となっている. 多 種 属 ウイルスの 収 集 についてジーンバンクでも 特 に 積 極 的 に 取 り 組 んで 行 く 必 要 があ<br />

ると 考 えているが,そのためには 機 械 的 接 種 ができないジェミニウイルスについては 何 らかの 工 夫 が 必 要 であ<br />

る.<br />

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ウイルス 属 各 属 の 所 属 する 科 種 数 代 表 的 なウイルス<br />

ベゴモウイルス 属 ジェミニウイルス 科 192 TYLCV,TbLcV<br />

ポティウイルス 属 ポティウイルス 科 146 PVY, TuMV<br />

カルラウイルス 属 ベータフレキシウイルス 科 43 CaLtV, CVB<br />

ポテックスウイルス 属 アルファフレキシウイルス 科 35 PVX, AlsVX<br />

ネポウイルス 属 セコウイルス 科 34 TbRsV, TBRV<br />

ウイルスの 分 類 基 準 は,ICTV の 専 門 家 が 提 案 し, 相 互 に 協 議 してわかりやすく,かつ 数 字 などで 明 確 に 表<br />

示 できる 塩 基 配 列 の 相 同 性 や 生 物 学 的 特 性 を 基 準 として 合 理 的 に 決 定 されているので,ぶれることはほとんど<br />

なく, 新 種 候 補 がみつかればその 基 準 にそって 検 討 され 新 種 として 認 定 される. 新 種 認 定 の 基 準 となる 相 同 性<br />

の 数 値 や 遺 伝 子 の 部 位 は 属 により 異 なっている.たとえば,トスポウイルスでは N タンパク 質 遺 伝 子 の 相 同<br />

性 が 90% 未 満 のウイルスがみつかれば 新 種 となるが,ジェミニウイルスでは 原 則 として 全 塩 基 配 列 の 相 同 性<br />

が 75% 未 満 というのが 新 種 の 基 準 とされている.もちろん 遺 伝 子 の 相 同 性 だけではなく 他 の 生 物 学 的 特 性 も<br />

重 要 であり,それらも 新 種 かどうかの 判 断 基 準 として 考 慮 される. 科 属 ごとの 分 類 基 準 は, 個 々の 分 類 単 位 で<br />

少 しずつ 異 なっており,ICTV の 冊 子 ‘Virus Taxonomy’にきちんと 掲 載 されているので,それを 参 照 され<br />

たい.なお,ICTV で 種 として 認 定 されたウイルスはイタリックで 表 記 されるので, 本 解 説 もそれにならって<br />

いる.<br />

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ここでは, 最 近 になってわが 国 で 特 に 問 題 となっているウイルスについて,それらの 概 要 を 紹 介 する. 特 に<br />

エマージングウイルスとして 世 界 中 で 問 題 となっている 小 昆 虫 媒 介 性 ウイルスが 現 状 では 最 も 重 要 である.も<br />

ちろん,これら 以 外 のウイルスの 中 にも 重 要 なウイルスはあるし,これから 突 然 大 きな 問 題 となってくるウイ<br />

ルスもありうることはつねに 考 慮 に 入 れておく 必 要 がある.イネのウイルスももちろん 重 要 であるが, 機 械 的<br />

接 種 が 不 可 能 なウイルスが 殆 どであるために, 現 在 ではジーンバンクの 配 布 対 象 となっていないのでここでは<br />

解 説 に 含 めていない.<br />

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ジェミニウイルスはコナジラミやヨコバイによって 永 続 的 に 長 期 間 媒 介 (14 ページ 参 照 )される 小 球 形 ウ<br />

イルス 粒 子 2 個 がくっついた 双 子 型 (ジェミニ)ウイルスの 総 称 でジェミニウイルス 科 にすべて 属 する.ジェ<br />

ミニウイルス 科 の 中 でも 特 にコナジラミ 伝 搬 性 のベゴモウイルス 属 のウイルスは, 近 年 急 速 に 多 くの 種 に 分 化<br />

が 進 んでおり,かつ 世 界 中 で 分 布 を 拡 大 して 多 発 生 している 大 きなウイルス 集 団 である. 特 にトマトでは 多<br />

くの 種 が 発 生 しており, 被 害 も 大 きくトマト 栽 培 の 大 きな 阻 害 要 因 となっている. 日 本 では 特 にトマトでの<br />

TYLCV の 発 生 が 最 も 多 く, 被 害 も 大 きくて,2012 年 4 月 現 在 37 都 府 県 で 発 生 が 報 告 されている.わが 国 で<br />

の TYLCV の 発 生 初 期 には 関 東 東 海 地 域 はマイルド 系 統 , 西 日 本 はイスラエル 系 統 と 明 確 に 分 かれて 発 生 して<br />

いたが, 現 在 は 両 方 が 発 生 しているところも 増 えてきており, 系 統 の 複 雑 化 が 生 じている.TYLCV に 感 染 し<br />

て 発 病 するとトマトの 果 実 が 殆 ど 収 穫 できなくなるので,トマト 栽 培 農 家 にとって 大 きな 脅 威 となっている.<br />

これまでの 懸 命 な 防 除 対 策 の 検 討 によって, 媒 介 虫 であるタバココナジラミの 徹 底 防 除 や 網 目 の 細 かい 防 虫<br />

ネットを 利 用 しての 侵 入 阻 止 によって,トマトの TYLCV は 防 除 可 能 であることが 判 明 した.しかし,トマト<br />

ハウスに 保 毒 虫 がただ 1 頭 でも 入 ってくるとかなりの 発 病 率 となることもあり,その 防 除 には 細 心 の 注 意 が 必<br />

要 である. 野 生 トマトの 持 つ TYLCV 抵 抗 性 品 種 の 利 用 も 進 んできており,はじめは 一 方 の 系 統 のみに 抵 抗 性<br />

のものが 利 用 されたが, 最 近 になって 両 系 統 に 抵 抗 性 を 示 す 品 種 も 作 出 され 利 用 が 始 まった.TYLCV はまた<br />

トルコギキョウでも 発 生 し 葉 巻 症 状 を 引 き 起 こして 被 害 を 与 えている.TYLCV の 他 に 日 本 で 主 要 農 作 物 に 発<br />

生 しているジェミニウイルスには,TbLcV やカッコウアザミ 葉 脈 黄 化 ウイルスなどがある.これらはトマト<br />

にも 感 染 して 病 徴 を 出 すうえに,これらに 含 まれているサテライト DNA が 存 在 すると TYLCV の 抵 抗 性 を 打<br />

破 するかもしれないという 報 告 も 出 されており, 今 後 ,これらと TYLCV との 混 合 感 染 による 変 異 に 対 する 十<br />

分 な 警 戒 が 必 要 であると 思 われる.<br />

ジェミニウイルスの 遺 伝 子 は 1 本 鎖 の DNA であり,1 成 分 のものと 2 成 分 のものとがある.TYLCV のよ<br />

うに 同 じウイルスでも 分 離 株 によって 1 成 分 と 2 成 分 のものがあるようなウイルスも 存 在 している.その 中 で<br />

も 特 にベゴモウイルス 属 は, 爆 発 的 といっても 良 いくらいウイルス 種 の 数 が 急 速 に 増 加 してきている,2012<br />

年 3 月 現 在 で 193 種 がすでに ICTV に 登 録 されており, 最 近 までずっと 植 物 ウイルス 界 でトップに 君 臨 し 続 け<br />

ていたポティウイルスを 抜 き 去 って, 植 物 ウイルスでは 最 大 の 属 となっている.ベゴモウイルスでは 類 縁 関 係<br />

の 比 較 的 近 いウイルスが 重 複 感 染 して 発 生 することもあり,また 感 染 には 必 須 ではないサテライト DNA を 含<br />

むウイルス 株 もあって,その 遺 伝 子 解 析 や 病 徴 決 定 因 子 の 解 析 をむずかしくしている.さらに 最 近 になって 急<br />

速 にサテライト DNA を 含 むジェミニウイルスが 増 加 しており,これがジェミニウイルスの 急 速 な 変 異 や 種 の<br />

増 加 にも 関 連 していると 考 えられている.<br />

ジェミニウイルスについては, 以 前 は 熱 帯 から 亜 熱 帯 にかけての 発 生 が 多 く, 温 帯 地 域 での 発 生 は 問 題 とな<br />

らなかったが, 最 近 は 温 帯 においても 世 界 中 で 発 生 がほぼ 同 時 多 発 的 に 起 こっている. 日 本 では,これまでの<br />

ところトマトやトルコギキョウで 被 害 が 報 告 されているだけであるが, 世 界 的 にみるとトマトやピーマンなど<br />

のナス 科 作 物 ばかりでなく,キャッサバやワタ,ウリ 科 やマメ 科 作 物 でも 各 国 で 多 発 して 被 害 も 大 きく 大 きな<br />

問 題 となっている.ジェミニウイルスに 感 染 した 植 物 では, 特 にその 病 徴 が 萎 縮 叢 生 という 形 で 現 れてくるも<br />

のが 多 いために 被 害 が 激 しく 収 量 への 影 響 が 大 きい.そのために, 一 度 発 生 すると 大 きな 被 害 を 与 えてしまう<br />

ので, 植 物 におけるエマージングウイルスの 一 つとして 恐 れられている. 幸 いなことに, 諸 外 国 で 発 生 して 問<br />

題 となっているマメ 科 ,ウリ 科 ,イネ 科 などの 作 物 に 被 害 をあたえるジェミニウイルスはまだ 日 本 では 発 生 し<br />

ていない.これらのジェミニウイルスの 今 後 の 侵 入 防 止 と 万 一 侵 入 した 場 合 の 可 能 な 早 期 撲 滅 対 策 を 考 えてお<br />

くことが 重 要 である.<br />

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トスポウイルスは, 動 物 ウイルスが 多 いブニアウイルス 科 に 属 する 植 物 ウイルスの 属 であり,アザミウマに<br />

よって 永 続 的 に 伝 搬 される, 被 膜 を 持 った 直 径 100 nm 以 上 の 大 型 球 型 ウイルスの 総 称 である. 発 生 している<br />

トスポウイルスの 種 の 数 はここのところ 急 速 に 増 加 してきており, 各 ウイルスは 世 界 的 に 多 発 しているため<br />

に,トスポウイルスもジェミニウイルスとともにエマージングウイルスとよばれて,その 緊 急 の 発 生 拡 大 防 止<br />

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と 防 除 対 策 の 確 立 が 緊 急 の 重 要 課 題 となっている.<br />

日 本 で 発 生 しているトスポウイルスだけでも,TSWV,MYSV,IYSV,スイカ 灰 白 色 斑 紋 ウイルス<br />

(WSMoV),インパチエンスえそ 斑 点 ウイルス(INSV),キク 茎 えそウイルス(CSNV),トウガラシ 退 緑 ウ<br />

イルス(CaCV)の 7 種 類 がある. 最 近 では,タイプウイルスである TSWV の 多 数 の 作 物 での 急 速 かつ 全 国<br />

的 な 発 生 拡 大 に 続 いて,トルコギキョウやネギ 類 (ネギ,タマネギ,ワケギ)での IYSV の 発 生 ,キュウリ<br />

やメロンでの MYSV の 発 生 などとその 被 害 が 拡 大 している.その 後 ,さらにトマトなどでの CSNV や CaCV<br />

の 発 生 も 報 告 されている.また, 各 ウイルスが 発 生 する 作 物 の 種 類 も 増 加 してきているので,これからトスポ<br />

ウイルスへのさらなる 警 戒 が 必 要 である.<br />

TSWV は 1960 年 代 にわが 国 に 侵 入 し 一 部 の 県 でピーマンやトマトで 問 題 となったが, 全 国 的 な 大 発 生 には<br />

至 らなかった.しかし,ミカンキイロアザミウマという 新 種 の 媒 介 虫 の 日 本 への 侵 入 と 発 生 拡 大 に 伴 って 超 広<br />

宿 主 域 の TSWV は 本 当 に 多 くの 作 物 での 全 国 的 な 発 生 となり,その 被 害 の 拡 大 と 継 続 が 心 配 され 続 けてきた.<br />

しかし, 最 近 になって 原 因 は 不 明 であるが,なぜか TSWV の 発 生 は 沈 静 化 してきている.もちろんまだまだ<br />

油 断 はできない. 一 方 ,ネギ 類 での IYSV やウリ 科 での MYSV の 発 生 は, 特 に 最 近 になって 拡 大 し 被 害 も 大<br />

きくなってきている.<br />

MYSV は 静 岡 県 のマスクメロンにおいて 世 界 で 初 めて 見 つかったウイルスであり,すぐに 被 害 の 激 しさが<br />

想 定 されたこと,メロンでの 発 生 しか 認 められていなかったことから, 静 岡 県 とメロン 生 産 組 合 の 連 携 協 力 に<br />

よって 発 病 株 の 早 期 抜 き 取 りと 媒 介 虫 の 防 除 が 徹 底 的 に 行 われた 結 果 , 本 ウイルスの 発 生 を 完 全 になくすこと<br />

ができた.このように 一 度 発 生 した 植 物 ウイルスを 撲 滅 したという 事 例 は 世 界 でも 殆 ど 知 られておらず, 本 ウ<br />

イルスの 撲 滅 は 世 界 的 にも 希 有 なすぐれた 防 除 例 となった( 池 田 ら,2001).しかし 残 念 なことに, 本 ウイル<br />

スはその 後 , 他 地 域 のキュウリで 発 生 して 広 がってしまい,ごく 最 近 になって 静 岡 県 のキュウリにも 発 生 して<br />

しまったということである.<br />

網 目 の 細 かい 防 虫 ネットを 用 いることで 媒 介 アザミウマの 侵 入 阻 止 が 可 能 であり,これらのトスポウイルス<br />

による 被 害 軽 減 のために, 細 い 網 目 のネット 利 用 が 全 国 的 に 進 んでいる.トスポウイルスは, 世 界 的 にはこれ<br />

までにすでに 16 種 が 見 つかっており, 今 後 もその 種 数 と 発 生 地 域 は 増 加 拡 大 していくと 思 われ,その 宿 主 域<br />

の 広 さもからんで,これからも 突 然 の 発 生 拡 大 と 大 被 害 が 懸 念 される 重 要 なウイルス 属 である.<br />

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3<br />

ポティウイルスはウイルスがコードする HC 成 分 の 助 けを 借 りることでアブラムシなどで 容 易 に 非 永 続 的<br />

に 伝 搬 される(16 ページ 参 照 ) 長 さ 700 ~ 850 nm のほそ 長 いひも 状 の 形 態 をしたウイルスの 総 称 であり,ジェ<br />

ミニウイルスについで 多 くの 種 に 分 化 している 重 要 なウイルスである.タイプウイルスは PVY であり, 世 界<br />

中 のジャガイモに 広 く 発 生 している.ポティウイルスには 病 徴 の 激 しいウイルスもあり,それらが 特 に 農 業 上<br />

は 大 きな 問 題 となる.ポティウイルスは 宿 主 側 から 見 て 種 特 異 性 が 比 較 的 高 く,ある 作 物 ではこのポティウイ<br />

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ルス 種 が 発 生 するが, 他 の 作 物 では 他 のポティウイルス 種 が 発 生 するという 性 格 が 強 いのが 一 般 的 である.た<br />

とえば,アブラナ 科 作 物 で 発 生 が 多 いのは TuMV,マメ 科 作 物 一 般 では BCMV,ダイズでは SMV,ウリ 科<br />

では ZYMV や WMV,ジャガイモでは PVY,コムギでは WYMV,オオムギでは BaYMV などといった 具 合<br />

である.ポティウイルスの 遺 伝 子 である 1 本 鎖 RNA は, 植 物 ウイルスとしてはサイズが 大 きく,その 遺 伝 子<br />

構 造 は 複 雑 で 9 つもの 遺 伝 子 を 有 していて,それらの 機 能 は 現 在 でも 十 分 に 解 明 されたとは 言 い 難 い.その 特<br />

徴 の 一 つはアブラムシなどで 媒 介 されるために 必 要 なウイルスタンパク 質 HC をコードしているという 点 で<br />

ある.そのためもあって,ポティウイルスはアブラムシ 伝 染 しやすいので, 防 除 に 際 しては 特 に 注 意 が 必 要 で<br />

ある. 日 本 ではこれまでに 上 にあげた 8 種 のポティウイルスが 主 として 問 題 となってきた. 最 近 になって, 発<br />

生 が 確 認 されて 新 たに 問 題 となっているものとしてウメの 仲 間 に 発 生 する PPV があり, 核 果 類 果 樹 に 被 害 発<br />

生 が 懸 念 されるところから,その 蔓 延 防 止 のために 感 染 ウメ 樹 の 伐 採 が 行 われている.<br />

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ククモウイルスは,アブラムシによって 極 めて 効 率 的 に 媒 介 される 直 径 約 30 nm の 小 さな 球 形 ウイルスの<br />

総 称 である.その 代 表 が CMV であり, 他 に PSV と TAV がある.これらは 世 界 の 温 帯 地 域 において,CMV<br />

は 特 に 野 菜 や 花 き 類 で,PSV はマメ 科 作 物 で 多 発 している.TAV は 一 部 トマト,ピーマン,キクなどで 発 生<br />

している.ククモウイルスはアブラムシで 容 易 に 非 永 続 的 に 伝 搬 されるが,ポティウイルスとは 異 なり,その<br />

ために 必 要 なヘルパータンパク 質 は 有 しておらず,ウイルス 粒 子 があればアブラムシ 伝 搬 されるのである.ク<br />

クモウイルスの 粒 子 は,アブラムシの 口 針 が 植 物 師 管 内 に 入 ってくると,すぐに 単 独 で 付 着 し,アブラムシが<br />

次 に 健 全 植 物 を 吸 汁 する 際 にはその 口 針 からすぐに 離 れることができ,それによって 簡 単 にウイルスの 伝 搬 が<br />

行 われるというきわめて 単 純 で 上 品 な 無 駄 のないすぐれたシステムを 持 っている.ククモウイルスのゲノムは<br />

1 本 鎖 RNA であり,3 つの 感 染 に 必 須 な 成 分 から 構 成 されているのが 大 きな 特 徴 である( 図 2). 長 い 間 ,ク<br />

クモウイルスには 上 記 の 3 種 しかなかった.しかし, 最 近 になってククモウイルスの 新 種 と 思 われるゲイフェ<br />

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ザーマイルドモザイクウイルスが, 後 で 紹 介 する deep sequencing によって 発 見 された.<br />

CMV にはサブグループ I と II があり, 両 者 は 別 種 のウイルスとしてもよいほど 類 縁 関 係 が 離 れており, 各<br />

種 植 物 での 病 徴 も 異 なっている.CMV には 感 染 しやすい 植 物 によって,マメ 科 系 ・ダイズ 系 ・ラゲナリア<br />

系 ・ユリ 系 などの 系 統 がある.CMV の 複 数 系 統 の 重 複 感 染 などによって,これらの RNA 成 分 を 交 換 した 新<br />

しい 組 換 え 株 Reassortant ができることがあり,それが CMV の 変 異 を 増 加 させ,その 幅 を 拡 大 していると 考<br />

えられている.ウイルス 株 によってはこれらの 他 に 感 染 には 必 須 でないサテライト RNA を 含 むものもあり,<br />

特 に CMV で 多 くの 株 が 報 告 されている.サテライト RNA の 多 くは,CMV の 病 徴 を 軽 減 することが 多 いこ<br />

とから CMV の 防 除 に 利 用 されている( 佐 山 ,2003). 一 方 ,サテライト RNA の 中 にはトマトの 全 身 えそ 症<br />

や 葉 の 白 化 など 顕 著 な 異 常 を 引 き 起 こすものもあるので,その 利 用 の 際 には 十 分 な 注 意 が 必 要 である.<br />

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トバモウイルスは 長 さ 約 300 nm の 棒 状 粒 子 を 持 つウイルスの 総 称 である. 各 ウイルスの 宿 主 域 は 比 較 的 狭<br />

く,ウイルス 種 によって 決 まっている.トバモウイルスは 接 触 伝 染 や 土 壌 伝 染 で 発 生 を 急 速 に 拡 大 するため<br />

に, 一 度 発 生 するとその 防 除 は 難 しいのが 一 般 的 である.タイプウイルスは TMV であり,その 安 定 性 及 び 純<br />

化 精 製 の 容 易 さの 故 に 世 界 のウイルス 研 究 を 長 い 間 リードしてきたウイルスである( 岡 田 , 2004).わが 国 で<br />

1970 年 代 にキュウリ 及 びスイカで 大 発 生 して 大 きな 問 題 となった CGMMV や, 日 本 のラン 科 植 物 に 発 生 して<br />

いるオドントグロッサム 輪 点 ウイルス(ORSV)もこの 仲 間 であり,その 強 い 接 触 伝 染 力 故 に 防 除 の 面 から 見<br />

ると 手 強 いウイルスたちである.<br />

トバモウイルスは, 小 昆 虫 や 菌 類 などによっては 伝 搬 されず, 作 物 の 管 理 作 業 や 収 穫 作 業 による 苗 どうしの<br />

接 触 やウイルスに 汚 染 された 土 と 根 の 接 触 によって 容 易 に 伝 染 される.そのため,トバモウイルスの 防 除 は,<br />

トマトやピーマンでは 抵 抗 性 品 種 のあるものではその 利 用 ,ないものでは 臭 化 メチルによる 土 壌 消 毒 などで 行<br />

われてきている.しかし, 臭 化 メチルはそのオゾン 破 壊 性 のために 国 際 条 約 によって 2013 年 度 からは 日 本 で<br />

は 全 く 使 えなくなるので, 注 意 が 必 要 である. 抵 抗 性 品 種 のないものでは 臭 化 メチルの 代 替 策 として 弱 毒 ワク<br />

チンなどの 利 用 の 検 討 が 進 められている(18 ページを 参 照 ).<br />

<br />

ウイロイドは 裸 の 1 本 鎖 の 小 さな RNA 分 子 からなる 病 原 体 の 総 称 である. 日 本 では, 比 較 的 古 くから 知 ら<br />

れているキクの 矮 化 ウイロイドや,カンキツ 類 のエクソコーティスウイロイドなどが 問 題 となってきており,<br />

カンキツやブドウでは 多 くのウイロイドの 発 生 が 確 認 されている.ごく 最 近 になって,わが 国 のトマトにお<br />

いて 重 要 な 2 種 のウイロイドの 発 生 が 報 告 された. 一 つは TCDVd で,もう 一 つは 世 界 のジャガイモで 問 題 と<br />

なっている PSTVd である. 早 期 に 適 切 な 対 策 をとったおかげで TCDVd については 2 県 のみの 発 生 でいちお<br />

う 落 ちつき,その 後 の 発 生 報 告 はない. 一 方 ,PSTVd ははじめに 見 つかったトマトでは 対 応 できたが,その<br />

後 , 見 つかったダリアでは 保 毒 ダリア 苗 がすでにいくつかの 県 に 移 動 してしまっていたために, 今 後 の 対 策 が<br />

必 要 となっている.また,キクでも 新 しくキク 退 緑 斑 紋 ウイロイドの 発 生 が 確 認 された.<br />

ウイロイドは 外 被 タンパク 質 を 持 たない 裸 の 小 さな RNA であるが,その 高 次 構 造 のゆえに 安 定 性 は RNA<br />

にしては 高 いので, 裸 でしかも RNA だから 不 安 定 で 発 生 拡 大 の 心 配 はないと 油 断 してはいけない 病 原 であ<br />

る.ウイロイドは 土 壌 伝 染 しないと 思 われているが, 栄 養 繁 殖 性 作 物 で 株 分 けや 挿 し 木 ・ 接 ぎ 木 によって 容 易<br />

に 伝 搬 し 発 生 拡 大 するものが 多 く,また 種 子 伝 染 するものがあるので 注 意 が 必 要 である, 接 触 伝 染 もするが,<br />

特 にトマトなどでは 管 理 や 収 穫 などの 日 常 の 作 業 によっても 急 速 に 発 生 が 拡 大 するおそれがある.ウイロイド<br />

は 病 徴 が 不 明 瞭 なことが 多 いので,まったく 気 がつかないうちに 大 発 生 となっていたという 恐 れもあるため<br />

に,その 対 応 にはトバモウイルスにも 増 した 注 意 が 必 要 である.ウイロイドでは 特 に 無 病 徴 感 染 植 物 が 伝 染 源<br />

として 重 要 となるので, 近 くにある 植 物 について,ウイロイド 感 染 が 報 告 されていない 種 であるからと 思 って<br />

伝 染 源 となりうる 植 物 から 除 外 して 残 しておいてよいと 判 断 しないで,まず, 感 染 の 有 無 をきちんと 遺 伝 子 診<br />

断 等 で 確 認 すべきである.なお 次 章 でも 説 明 するように,ウイロイドは 外 被 タンパク 質 を 持 たないために 抗 血<br />

清 診 断 では 検 出 できないので, 遺 伝 子 診 断 か 病 徴 の 出 る 植 物 に 接 種 して 検 出 することとなる.<br />

-28-


日 本 では 2008 年 までは,コナジラミで 永 続 伝 搬 されるひも 状 ウイルスとしては,オンシツコナジラミ 媒 介<br />

性 のキュウリ 黄 化 ウイルス(Beet pseudoyellows virus)が 関 東 や 四 国 地 方 の 一 部 で 問 題 となっていただけで<br />

あったが,2009 年 頃 からタバココナジラミで 媒 介 される CCYV が 九 州 ・ 四 国 ・ 関 東 のメロンやキュウリで<br />

次 々に 発 生 して 大 きな 問 題 となっている.この 新 規 ウイルスはキュウリやメロンの 葉 を 激 しく 黄 化 させてしま<br />

い, 収 量 や 糖 度 に 悪 影 響 を 及 ぼす.なお, 最 近 になって 本 ウイルスの 発 生 が 確 認 されたスイカでは,えそを 生<br />

じ 枯 死 することもあるので 注 意 が 必 要 である.<br />

一 方 ,トマトでは 2008 年 から 栃 木 県 でクリニウイルスに 属 するトマト 退 緑 ウイルス(Tomato chlorosis<br />

virus)の 発 生 が 始 まった.その 後 , 隣 の 群 馬 県 や 九 州 の 一 部 地 域 へと 発 生 を 拡 大 している. 外 国 では 本 ウイ<br />

ルスのピーマンでの 発 生 も 報 告 された. 困 ったことに 本 ウイルスは,オンシツコナジラミ 及 びタバココナジラ<br />

ミの 両 方 によって 媒 介 されるので, 今 後 の 発 生 拡 大 に 特 に 注 意 が 必 要 と 思 われる.<br />

<br />

本 マニュアルは 植 物 ウイルス 保 存 をテーマとしているので,ここではその 前 提 となるウイルスの 特 性 解 明 や<br />

保 存 についての 基 本 的 な 実 験 法 ( 高 価 な 機 器 を 必 要 としない 大 切 な 手 法 )に 重 点 をおいて 解 説 する. 特 にこ<br />

れまであまり 解 説 されていないと 思 われる 植 物 を 使 う 手 法 である1~4<br />

についてはできるだけ 詳 細 に 解 説 した.その 他 の5 以 降 については,その 冒 頭<br />

で 紹 介 している 参 考 書 等 に 詳 しく 解 説 されているので, 重 複 する 部 分 については 本 書 では 詳 細 は 割 愛 した. 詳<br />

しい 解 説 やマニュアル 等 はそれらを 参 照 されたい. 本 マニュアルの 重 要 なテーマである 植 物 ウイルス 保 存 の 具<br />

体 的 な 手 法 については, 本 解 説 の6で 詳 しく 紹 介 する.<br />

<br />

植 物 ウイルスの 接 種 は, 基 本 的 には 目 的 とするウイルスが, 自 然 界 で 何 によってどのように 他 の 植 物 に 移 さ<br />

れるのかを 調 べ,それを 再 現 することで 行 うこととなる.しかし, 媒 介 虫 や 媒 介 菌 を 常 に 良 好 な 状 態 で 維 持 す<br />

るためには,それに 必 要 な 施 設 や 機 器 が 必 要 であり,そのために 時 間 も 手 間 も 経 費 も 必 要 となる. 一 方 , 虫 や<br />

菌 類 で 伝 搬 されるウイルスの 中 には, 機 械 的 接 種 によって 伝 搬 されるものも 多 い.そこで,ウイルスの 接 種 の<br />

ために 最 も 多 用 されるのは, 簡 便 な 機 械 的 接 種 ということになる.ジーンバンクでこれまでに 配 布 されている<br />

-29-


植 物 ウイルスもすべて 機 械 的 接 種 が 可 能 なウイルスのみとなっているので,ここではこの 機 械 的 接 種 法 につい<br />

てのみ 解 説 する. 他 の 手 法 については 他 の 実 験 法 に 関 する 参 考 書 (37 ページに 示 した 2 冊 等 )を 参 照 されたい.<br />

機 械 的 接 種 とは, 植 物 の 葉 に 細 かい 研 磨 剤 などで 機 械 的 に 傷 をつけながら 感 染 葉 磨 砕 液 を 塗 布 することに<br />

よってウイルスを 接 種 するものであり,この 接 種 法 が 容 易 で 確 実 なことから 多 くの 植 物 ウイルスで 広 く 利 用 さ<br />

れている. 葉 に 傷 をつけるのは, 植 物 ウイルスの 細 胞 内 への 侵 入 口 を 作 ってやるのが 目 的 であり,これがない<br />

と 植 物 ウイルスは 細 胞 内 にまれにしか 入 れないためほとんど 感 染 できないことになるので,ウイルス 接 種 に<br />

とってきわめて 重 要 なポイントである. 植 物 葉 に 傷 をつけるための 研 磨 剤 としては, 炭 化 ケイ 素 からできてい<br />

るカーボランダム(SiC)が 一 般 に 用 いられており, 他 にパーライトなども 使 うことができる. 市 販 されてい<br />

る SiC には,その 粒 子 のサイズが 異 なるものがいくつかあるが, 通 常 は 400 か 600 メッシュであり,このく<br />

らいの 大 きさのもので 植 物 ウイルスの 接 種 に 十 分 に 使 える.より 細 かい 粒 子 のものや 粗 いものもあり, 特 殊 な<br />

場 合 にはそれらを 使 った 方 がよいこともある.<br />

通 常 は,SiC を 三 角 フラスコ 等 に 1/3 ~ 1/4 程 度 まで 入 れ,その 口 にガーゼ( 通 常 の 薬 局 で 市 販 されている<br />

もの)をフラスコの 口 を 十 分 にカバーできる 大 きさに 切 って 4 重 ~ 6 重 にして, 周 囲 を 輪 ゴムやタコ 糸 などで<br />

しっかりと 止 めておく. 雑 菌 や 植 物 ウイルスのコンタミネーション( 汚 染 )の 心 配 があるときは,ガーゼをと<br />

める 前 に 乾 熱 滅 菌 処 理 をしてから 使 用 する.しばらく 使 っていると,ガーゼが 目 詰 まりを 起 こして SiC の 出<br />

が 悪 くなるので, 適 宜 新 しいものと 交 換 する.<br />

機 械 的 接 種 の 具 体 的 な 手 順 を 図 5 に 示 す. 接 種 源 となる 植 物 または 感 染 葉 , 並 びにその 磨 砕 液 を 接 種 するた<br />

めのウイルスに 感 染 する 植 物 を 準 備 する. 接 種 する 植 物 は, 窒 素 がやや 過 多 気 味 で 水 をあまりきらせないよう<br />

に 育 てたものがよく, 接 種 する 葉 としては 柔 らかい 若 い 葉 が 向 いており, 古 い 下 葉 は 避 けた 方 がよい. 接 種 の<br />

<br />

A: 接 種 植 物 へ SiC を 振 りかけているところ , B: SiC をかけ 終 わったところ,<br />

C: 磨 砕 液 を 接 種 しているところ , D: 接 種 後 の 洗 浄 .<br />

-30-


際 にはエイジもあまり 進 んでいない 若 い 植 物 を 選 んで 接 種 に 用 いる.これは,エイジの 進 んだ 古 い 植 物 は 一 般<br />

にはウイルス 感 受 性 が 低 下 するためである. 接 種 する 植 物 と 葉 が 決 まったら, 接 種 しようと 思 う 葉 に, 三 角 フ<br />

ラスコを 逆 さにして SiC を 少 量 ずつ,できるだけ 均 一 になるようにふりかけておく.SiC は 保 存 の 際 は 湿 気<br />

を 避 けて 保 管 するとよいが,デシケーターなどに 入 れておく 必 要 はない.<br />

ここまで 準 備 ができたところで, 感 染 葉 の 磨 砕 に 進 む.この 際 には, 必 ずオートクレーブか 乾 熱 滅 菌 してさ<br />

ましておいた 清 潔 な 乳 鉢 と 乳 棒 を 用 いることが 肝 要 である.これは 他 のウイルスのコンタミネーションを 防 止<br />

するために 極 めて 重 要 である.TMV のように in vivo でも in vitro でも 安 定 なウイルスでは 問 題 とならないが,<br />

安 定 性 が 低 いウイルスの 場 合 には, 感 染 葉 を 磨 砕 する 際 に, 緩 衝 液 に 何 らかの 酸 化 防 止 剤 を 添 加 することとな<br />

る.これは, 植 物 葉 に 含 まれるポリフェノールオキシダーゼをはじめとする 酸 化 酵 素 が 磨 砕 液 中 に 出 てきてウ<br />

イルスの 感 染 性 を 低 下 させるので,それらの 働 きを 抑 えるためである.<br />

感 染 葉 の 磨 砕 の 際 に 用 いる 緩 衝 液 としては 中 性 のリン 酸 緩 衝 液 を 用 いるのが 一 般 的 であるが,それはリン 酸<br />

が 植 物 のウイルス 感 受 性 を 増 強 するという 事 実 に 基 づいている. 保 護 剤 としては, 以 前 はメルカプトエタノー<br />

ル(ME)などが 頻 繁 に 使 われていたが, 現 在 では ME は 毒 物 の 指 定 を 受 けていて 保 管 や 使 用 に 特 別 の 許 可 が<br />

必 要 となっており 使 いにくいのが 実 状 である. 亜 硫 酸 ナトリウムやアスコルビン 酸 は, 水 にとけやすく 使 い<br />

やすいので,いずれかを 0.5 ~ 1% 程 度 添 加 して 使 用 するとよい. 特 に 安 定 性 の 低 いトスポウイルスではこれ<br />

を 加 用 すべきである. 磨 砕 する 乳 鉢 や 乳 棒 はあらかじめ 氷 に 浸 けておいて 冷 やしたものを 用 いるとよいこと<br />

が 多 い. 少 量 の 葉 の 磨 砕 には, 乳 鉢 乳 棒 でなく, 市 販 されている 使 い 捨 てのフィンガーマッシャー( 井 出 ら,<br />

2011)を 用 いてもよい.これなら, 自 分 の 指 ではさんで 擦 りあわせるだけで 十 分 に 磨 砕 できるし,どの 程 度 磨<br />

砕 できたかを 指 で 感 じることができる.いずれにしても, 感 染 葉 は 十 分 に 磨 砕 しておくことが 肝 要 である.も<br />

ちろん, 乳 鉢 乳 棒 , 手 袋 や 綿 棒 等 はウイルス 株 やウイルス 種 ごとに 新 しい 物 と 取 り 替 えながら 接 種 していくこ<br />

とは 当 然 なことである.<br />

これらの 準 備 ができたところで,ようやく 接 種 を 行 うこととなる. 通 常 は 感 染 葉 磨 砕 液 に 浸 した 綿 棒 で,<br />

SiC をふりかけた 葉 を『 力 をいれすぎない 程 度 にしっかりと』こすりつける.この『』の 中 が 重 要 なところで<br />

あり,こすりつける 力 が 強 すぎると 後 で 葉 の 接 種 部 がえそを 起 こして 枯 れてしまい,ウイルス 感 染 もおこりに<br />

くくなる. 一 方 , 力 が 弱 すぎると 傷 がつかないために,ウイルスが 侵 入 できず,やはり 接 種 に 失 敗 する.この<br />

力 加 減 は 経 験 で 会 得 するしかないが,それほど 難 しいことではない. 接 種 のために 葉 を 擦 る 際 には, 感 染 植 物<br />

磨 砕 液 をしみこませた 綿 棒 ( 通 常 の 薬 局 などで 販 売 しているものでよい)で 擦 ってもよいし, 使 い 捨 ての 新 品<br />

のビニル 手 袋 や 実 験 に 用 いる 薄 手 の 手 袋 を 着 用 して 磨 砕 液 に 人 差 し 指 を 浸 して,その 指 でこすってもよい. 接<br />

種 する 植 物 の 葉 がタバコの 大 きい 葉 のように 面 積 が 広 い 時 は,1 本 の 指 ではなく,4 本 の 指 を 磨 砕 液 に 浸 して<br />

接 種 してもよい. 接 種 が 終 わったら, 新 鮮 な 水 道 水 で SiC を 洗 い 流 す 感 じで 接 種 した 葉 をやさしく 洗 浄 する.<br />

その 後 ,しばらくはエアコンの 風 や 自 然 の 風 が 直 接 あたらないところに 置 いておく.もちろん, 直 射 日 光 は 厳<br />

禁 である. 心 配 な 場 合 は 2 時 間 ~ 1 夜 清 潔 な 新 聞 紙 などをかけておくとよい.<br />

接 種 した 植 物 は, 虫 などがはいらないガラス 温 室 やビニル 温 室 の 中 で,ウイルスが 増 えるまで 一 定 期 間 おい<br />

ておく 必 要 がある. 温 室 内 に 虫 が 入 ってしまうと,その 中 には 検 定 対 象 としていないウイルスを 保 毒 伝 搬 する<br />

ものがいたり, 温 室 内 のウイルス 感 染 植 物 から 健 全 植 物 へウイルスを 伝 搬 する 虫 がいたりして, 実 験 をだめに<br />

してしまう 危 険 が 生 じるからである.もちろん, 葉 を 食 されても 困 る. 虫 に 対 する 注 意 ばかりでなく,TMV<br />

のように 容 易 に 接 触 伝 染 するウイルスに 感 染 しているものに 触 れた 時 には,コンタミネーション 防 止 のため<br />

に, 事 前 に 十 分 に 手 指 を 石 けん 等 で 洗 浄 してから, 接 種 や 観 察 を 行 うようにすることも 重 要 である.<br />

ウイルス 感 染 が 疑 われる 植 物 から 接 種 する 際 に 特 に 気 をつけるべき 一 般 的 な 事 項 として 以 下 の 点 があるの<br />

で, 参 考 にされたい.<br />

1 ウイルス 濃 度 の 高 そうな 部 位 を 選 ぶこと:えそ 症 状 が 進 んでいる 葉 や 下 葉 は 避 け,できるだけ 若 い 葉<br />

で 新 鮮 と 思 われる 病 徴 部 位 を 選 んで 接 種 源 とする. 葉 1 枚 や 半 葉 とかにこだわらないで, 病 徴 の 特 に 明<br />

瞭 な 部 分 のみを 集 めて 接 種 源 とするようにした 方 が 良 い.<br />

2 大 きな 植 物 や 葉 から 接 種 するときには, 特 に 磨 砕 中 にも 酸 化 が 進 み 褐 変 しやすいので, 必 ず 酸 化 防 止<br />

剤 (31 ページ)を 加 用 し, 氷 で 冷 やしながら 磨 砕 して 接 種 すること. 花 が 咲 いていれば, 新 鮮 な 花 弁<br />

-31-


を 磨 砕 して 接 種 するとよい 場 合 もある.<br />

3 ピーマンなどのトウガラシ 類 から 接 種 するときには,これらの 葉 には 感 染 阻 害 物 質 (IS)が 含 まれ<br />

ているので, 必 ず 同 じ 種 であるピーマンなどにも 接 種 しておく 方 がよい.というのは, 一 般 的 に IS は<br />

同 種 の 植 物 には 作 用 しにくいが, 近 縁 な 植 物 であっても 他 種 には 作 用 するためである.たとえば,ピー<br />

マンの IS は 同 じナス 科 のタバコなどには IS が 働 いてしまい, 接 種 しても 感 染 しないことが 多 い.ア<br />

カザ 科 植 物 から 接 種 するときも 同 様 で, 必 ず,アカザ 科 植 物 にも 接 種 しておく.これらの IS を 多 く 含<br />

む 植 物 からタバコなどに 接 種 する 際 には,PEG を 加 え 沈 殿 させたウイルス(47 ページ)を 緩 衝 液 に 懸<br />

濁 して 接 種 するとよい.もし, 対 象 作 物 に 花 が 咲 いていれば 花 弁 には IS が 少 ないので, 新 鮮 な 花 弁 や<br />

蕾 の 花 弁 部 を 接 種 源 としてみるとよい. 感 染 葉 を 凍 結 乾 燥 してから 接 種 源 とするとうまくいくこともあ<br />

る.<br />

4 上 のような 植 物 でなくとも, 通 常 はウイルス 調 査 が 行 われていない 植 物 などでは, 同 様 に 感 染 阻 害 物<br />

質 を 含 んでいる 可 能 性 があるので,3と 同 様 な 注 意 が 必 要 である.たとえば,オシロイバナやリンドウ<br />

等 には 強 力 な 感 染 阻 害 物 質 が 含 まれているという 報 告 がある.<br />

次 に 一 度 接 種 して 発 病 した 植 物 から 感 染 葉 をとって, 他 の 健 全 苗 に 接 種 する 際 に 留 意 する 点 として 以 下 のポ<br />

イントがある.ポティウイルスなどではウイルス 接 種 によって 軽 いモザイク 症 状 などが 接 種 5 日 くらいで 現 れ<br />

ることがあるが,ウイルスはまだきちんと 増 殖 していないために,それから 継 代 接 種 してもウイルス 感 染 が 起<br />

きないことがあるので,8 日 以 上 経 過 してから 継 代 接 種 を 行 うようにする. 逆 にえそ 症 状 が 激 しい 他 のウイル<br />

スの 場 合 には, 接 種 後 日 数 が 経 過 しすぎると, 病 原 性 が 低 下 して, 継 代 できなくなるので 注 意 が 必 要 である.<br />

一 度 接 種 して 病 徴 の 出 た 植 物 から 接 種 すると,ウイルス 濃 度 が 高 くなっていることなどのために, 病 徴 が 最 初<br />

のときよりも 早 く 出 やすいことや, 植 物 種 によっては 病 徴 が 少 し 変 化 する 場 合 もあることは 知 っておいた 方 が<br />

よい .<br />

<br />

ウイロイドはその 遺 伝 子 RNA の 周 囲 に 外 被 タンパク 質 を 有 していないために, 一 般 の 植 物 ウイルスと 同 様<br />

な 手 法 で 接 種 しても, 磨 砕 液 の 中 に 含 まれる 主 に 植 物 由 来 の RNA 分 解 酵 素 等 によって 分 解 されてしまってほ<br />

とんど 感 染 性 しないことから, 接 種 には 特 別 な 注 意 が 必 要 となる.ウイロイドの 接 種 は 以 下 のように 行 う.あ<br />

らかじめ 氷 冷 しておいた 滅 菌 乳 鉢 乳 棒 を 用 い, 病 徴 の 明 瞭 な 感 染 植 物 葉 に 高 圧 滅 菌 した 緩 衝 液 を 加 えて 磨 砕 し<br />

てえた 磨 砕 液 を, 滅 菌 した 綿 棒 またはガラスのヘラにつけて, 滅 菌 カーボランダムを 表 面 に 散 布 した 検 定 植 物<br />

の 葉 にこすりつける.また, 別 の 接 種 法 として, 感 染 植 物 の 茎 葉 を 切 り 付 けたナイフの 刃 で, 健 全 な 植 物 の 茎<br />

葉 を 数 回 切 りつけるという 方 法 でも,ウイロイドは 接 種 可 能 である.<br />

植 物 ウイルスの 多 くは 1 本 鎖 RNA のプラスセンスのゲノムを 有 することから,ウイルス RNA のみを 接 種<br />

してもウイルスが 増 殖 してくる.ウイルス RNA を 接 種 する 場 合 も, 上 のウイロイドと 同 様 に 行 えばよいが,<br />

切 り 付 け 法 は 成 功 しにくい.RNA やウイロイド 接 種 の 際 の 緩 衝 液 としては,pH 8.4 ~ 9.0 の 弱 アルカリ 性 の<br />

リン 酸 緩 衝 液 かトリス 緩 衝 液 を 用 いる 方 が 感 染 率 が 高 くなる. 多 くの 植 物 ウイルスは, 純 化 ウイルスや 感 染 植<br />

物 葉 から,フェノール 抽 出 などでウイルスや 植 物 由 来 のタンパク 質 を 除 いて 得 た 核 酸 を,RNA 接 種 法 により<br />

接 種 すると 感 染 させることができる.しかし, 中 にはそのような 処 理 をすると 感 染 性 を 示 さない,マイナスセ<br />

ンス RNA や 2 本 鎖 RNA を 持 つウイルスもあるので 注 意 が 必 要 である.たとえば,トスポウイルスはタンパ<br />

ク 質 を 取 り 除 いた RNA では 感 染 性 を 示 さない.また,DNA ウイルスであるカリモウイルスやジェミニウイ<br />

ルスのウイルス 粒 子 から 抽 出 した DNA も 感 染 性 を 示 さない.<br />

いずれにしても, 遺 伝 子 実 験 でも 同 様 であるが,RNA を 取 扱 う 際 に 注 意 すべき 以 下 のことは RNA 接 種 に<br />

際 しても 重 要 である.1 RNA 分 解 酵 素 はヒトの 手 や 汗 や 唾 液 の 中 にも 含 まれているので, 直 接 実 験 器 具 にふ<br />

れないこと,2 実 験 器 具 や 緩 衝 液 などはすべて 滅 菌 しておき, 実 験 台 は 常 に 清 潔 にしておくこと,3 使 用 する<br />

水 は 滅 菌 水 に 限 定 すること,4 RNA を 扱 う 実 験 機 器 や 器 具 はできる 限 り DNA やタンパク 質 用 のものとは 区<br />

別 して 専 用 のものとしておくこと.<br />

-32-


植 物 にウイルスの 感 染 が 疑 われ,そのウイルスの 特 性 を 解 明 することによってウイルス 種 を 特 定 するときに<br />

は,まず 単 病 斑 分 離 (1 個 の 局 部 病 斑 を 接 種 源 として 接 種 すること)を 繰 り 返 して,ウイルスを 単 離 してから<br />

研 究 を 進 める 方 が 効 率 的 な 事 が 多 い,また 科 学 的 にもそのようにすべきであるので,その 単 離 方 法 について 紹<br />

介 する. 野 外 の 植 物 はもちろん,ハウス 内 の 植 物 でも 複 数 ウイルスに 重 複 感 染 していることが 比 較 的 多 く,そ<br />

れらを 個 別 のウイルスに 分 離 して, 個 々のウイルスについて 研 究 を 進 め,それらを 総 合 して 全 体 を 解 析 するこ<br />

とで 再 現 性 を 担 保 することができる.また, 変 異 をおこしているウイルス 等 が 共 存 している 場 合 に 変 異 ウイル<br />

スを 除 く 場 合 ,サテライトウイルスやサテライト 核 酸 など 解 析 を 複 雑 にするものをひとまず 取 り 除 く 場 合 に<br />

も, 以 下 に 紹 介 する 単 離 法 は 有 効 である.<br />

ウイルスを 単 離 するためには,まずそのウイルスが 感 染 した 場 合 に 局 部 病 斑 を 形 成 する 宿 主 植 物 を 見 つ<br />

ける 必 要 がある. 最 も 可 能 性 が 高 いのはアカザ 科 のキノア Chenopodium quinoa やアマランティカラー C.<br />

amaranticolor であり,まずはこれらの 苗 を 育 成 して 上 で 紹 介 したように 機 械 的 に 接 種 してみる.いずれか 1<br />

種 でもよいので,ウイルスの 実 験 をする 間 はこれらのアカザ 科 の 植 物 苗 を 少 数 ずつ 継 続 して 育 てておくとよ<br />

い. 接 種 後 2-10 日 ぐらいで 接 種 葉 にえそ 性 あるいは 退 緑 性 の 斑 点 ( 病 斑 )が 生 じてくればしめたものである.<br />

早 めに 病 斑 が 出 る 場 合 にはえそ 性 であることが 多 く, 病 斑 内 でウイルスの 増 殖 が 停 止 するものが 多 い. 退 緑 性<br />

の 病 斑 の 場 合 には, 病 斑 が 肉 眼 で 明 瞭 に 見 える 時 とみえにくい 場 合 があるので, 気 をつける 必 要 がある. 退 緑<br />

斑 の 場 合 には,ウイルス 病 斑 の 外 でも 増 殖 が 進 み,ウイルスが 広 がってしまい 後 になって 全 身 感 染 することが<br />

多 い.<br />

これら 2 種 のアカザ 科 の 植 物 をまず 使 うのは,アカザ 科 の 植 物 は 多 くのウイルスに 対 して 局 部 病 斑 を 生 じや<br />

すいことがわかっているからである.まれにはキノアはだめでアマランティカラーでないと 明 瞭 な 局 部 病 斑 を<br />

作 らないウイルスや 系 統 もある.どちらも 駄 目 な 場 合 には, 他 のアカザ 科 植 物 ,ササゲ,センニチコウ,キン<br />

ギョソウ,タバコ,ソラマメなどに 接 種 して 試 してみるとよい.これらの 植 物 は, 植 物 ウイルスを 接 種 して 局<br />

部 病 斑 を 作 ったという 報 告 があるからである.もし, 原 宿 主 でえそ 斑 や 退 緑 斑 が 出 ていたなら, 同 じ 植 物 で 健<br />

全 な 苗 に 接 種 する. 原 寄 主 でえそ 斑 や 退 緑 斑 が 出 ていない 場 合 でも 同 種 植 物 の 異 なる 品 種 や 野 生 種 , 類 縁 植 物<br />

に 接 種 してみると 良 いこともある. 同 じ 植 物 種 でも, 品 種 によってその 反 応 が 大 きく 異 なることは, 植 物 ウイ<br />

ルスではよくあるからである.どうしても 局 部 病 斑 植 物 が 見 つからない 場 合 には, 手 間 がかかるが, 感 染 ウイ<br />

ルス 単 離 のために 以 下 の3のように 全 身 感 染 植 物 を 使 うことになる.<br />

これらの 調 査 を 行 った 結 果 は 以 下 の 3 つのいずれかになる : 1 接 種 葉 に 明 瞭 なえそ 病 斑 のみを 作 る 場 合 ,2<br />

接 種 葉 に 退 緑 病 斑 を 作 る 場 合 ,3 局 部 病 斑 植 物 が 見 つからなかった 場 合 . 以 下 にそれぞれの 場 合 にわけて 単 離<br />

法 を 説 明 する. 病 斑 を 切 り 出 す 際 には, 手 袋 をした 両 手 で 両 刃 のカミソリの 刃 をまず 中 央 で 2 つに 折 って,さ<br />

らに 各 片 方 を 2 つか 3 つに 折 ったものを 多 数 作 っておいて 使 うと 良 いので, 以 下 ではこれを 折 刃 とよぶことと<br />

する.カミソリの 刃 なので, 怪 我 をしないようにつねに 注 意 して 扱 うことは 当 然 である.<br />

1 えそ 病 斑 のみの 場 合 : 最 も 簡 単 に 単 離 ができる. 接 種 後 , 病 斑 が 明 瞭 になってきたら,その 病 斑 より<br />

少 し 大 きめに 病 斑 部 を 中 心 に 折 刃 で 切 り 出 す.えそが 進 んでいるところでは, 植 物 細 胞 死 が 起 こってい<br />

て,ウイルスも 失 活 している 可 能 性 が 高 く 感 染 性 が 低 いことが 多 いので, 病 斑 部 のみをギリギリで 切 り<br />

出 してしまうのはあまり 良 くない. 少 し 廻 りの 健 全 と 思 われる 部 分 も 一 緒 に 切 り 出 すとよい.もちろ<br />

ん,その 際 に 隣 の 病 斑 に 近 づきすぎたのでは, 単 病 斑 分 離 にならないので, 接 種 葉 全 体 を 見 て 病 斑 が 相<br />

互 に 十 分 に 離 れた 部 分 の 病 斑 を 選 んで 切 り 出 すようにする.その 際 に, 葉 の 下 には 通 常 のスライドグラ<br />

スなどをあてて 支 えとして 用 いる. 切 り 出 した 病 斑 をスモーク 付 きのスライドグラスのスモーク 部 分 に<br />

静 かに 置 き, 中 性 リン 酸 緩 衝 液 を 1,2 滴 たらして, 一 端 を 押 しつぶして 平 らにしたガラスヘラなどで 押<br />

しつぶし,その 磨 砕 液 をつけた 同 じヘラで 機 械 的 に 健 全 な 他 の 局 部 病 斑 植 物 の 葉 に 接 種 する. 局 部 病 斑<br />

を 磨 砕 する 時 には, 厚 手 のスライドグラスの 一 部 を 丸 く 切 り 取 ったものや, 小 さめの 乳 鉢 乳 棒 を 使 って<br />

もよい.もちろん,これら 使 用 する 器 具 はすべて 乾 熱 滅 菌 をしておくか, 新 品 を 新 品 の 手 袋 などで 扱 っ<br />

たものを 使 用 すること.ここで,トバモウイルスや CMV などを 混 入 させてしまっては,その 後 の 仕 事<br />

はすべて 無 駄 となる.<br />

-33-


病 斑 磨 砕 液 を 接 種 した 葉 に 病 斑 が 現 れたら, 同 じことをもう 一 度 繰 り 返 して 行 って, 再 度 分 離 する.<br />

そして 再 分 離 に 用 いた 葉 に 病 斑 がでたら,もう 一 度 だけ 分 離 を 繰 り 返 す.3 度 目 の 病 斑 がでてきたら,<br />

その 病 斑 を 切 り 出 して 磨 砕 した 液 を 今 度 は 全 身 感 染 植 物 に 接 種 して 発 病 させる.それが 発 病 したところ<br />

で 単 病 斑 分 離 株 として 解 析 に 用 いることができる.このように 単 病 斑 分 離 は 少 なくとも 3 回 は 繰 り 返 す<br />

必 要 があり,6 回 くらい 繰 り 返 す 場 合 もある.ここで 注 意 することは,えそ 斑 が 出 てから 日 数 が 経 過 し<br />

すぎるとウイルスの 活 性 が 低 下 してしまい, 磨 砕 液 を 接 種 しても 病 原 性 がなくなっていることが 多 いの<br />

で, 病 斑 が 見 えてきたら 早 めに 磨 砕 して 接 種 することである.<br />

2 退 緑 病 斑 の 場 合 : 局 部 病 斑 がほぼ 明 瞭 になってきた 時 点 で,1と 同 様 にして 病 斑 を 切 りだして, 磨 砕<br />

して 接 種 する.この 際 に 気 をつけることは, 退 緑 斑 の 場 合 にはウイルスは,その 部 分 にのみ 局 在 してお<br />

らず, 周 囲 にも 広 がっている 可 能 性 があるということである. 病 斑 が 出 現 してからあまり 日 数 が 経 過 す<br />

ると 単 病 斑 とはいえなくなるので, 早 めに 行 う 方 がよい.その 他 の 点 は,1と 同 様 に 折 刃 とスライドグ<br />

ラスなどを 使 って 行 うとよい.<br />

3 局 部 病 斑 植 物 がない 場 合 : 全 身 感 染 植 物 の 感 染 葉 を 磨 砕 して, 通 常 は 10 倍 ずつの 段 階 希 釈 液 を 作 成<br />

する.それを 各 々 10 本 ずつ 程 度 の 健 全 植 物 に 接 種 する. 発 病 したら 感 染 率 を 調 査 し, 希 釈 が 高 い 区 ほ<br />

ど 発 病 株 が 少 ないことを 確 認 し,1 ~ 2 株 のみ 発 病 した 区 の 発 病 株 から, 感 染 葉 を 取 って 最 初 と 同 様 に<br />

接 種 する.そして 同 様 に 1 ~ 2 株 のみ 発 病 した 区 の 発 病 株 から, 感 染 葉 を 取 って 同 様 にして 接 種 する.<br />

この 分 離 を 3 回 以 上 行 って 最 終 的 に 発 病 した 株 を 分 離 株 とする.もちろん,この 方 法 はあくまで 便 法 で<br />

あり,えられた 株 は 厳 密 には 単 病 斑 分 離 株 ではないことを 理 解 しておく 必 要 がある.ウイルス 濃 度 が 低<br />

いと 思 われる 場 合 には 10 倍 ではなく 5 倍 ずつかそれ 以 下 の 段 階 希 釈 とする.<br />

4 異 なるウイルスが 重 複 感 染 している 場 合 : このような 場 合 には, 上 の 単 病 斑 分 離 の 前 に 目 的 のウ<br />

イルスをあらかじめ 単 離 しておく 必 要 がある. 運 がよい 場 合 には, 対 象 植 物 の 磨 砕 液 を 接 種 した<br />

Chenopodium spp. の 接 種 葉 にえそ 性 と 退 緑 性 の 2 種 の 病 斑 が 出 てくれて,それらをくりかえして 別 々<br />

に 分 離 すればよいという 場 合 もある.また, 一 方 のみがこれらに 局 部 病 斑 を 作 る 場 合 もあり,このよう<br />

な 場 合 には 局 部 病 斑 を 作 ったウイルスの 方 は 問 題 なく 単 離 できる.2 種 ウイルスが 両 方 ともえそ 斑 を 生<br />

じる 場 合 , 退 緑 斑 を 生 じる 場 合 も 同 様 に 単 離 できる.これらの 場 合 には 病 斑 の 現 れるまでの 日 数 なり,<br />

外 観 などが 多 少 とも 異 なることが 多 いので,それらの 違 いを 利 用 することによってどちらのウイルスか<br />

を 識 別 できる.もちろん,それぞれのウイルスの 宿 主 域 が 異 なる 場 合 には, 一 方 のウイルス A のみが<br />

増 殖 する 植 物 種 アに 接 種 してウイルス A を 分 離 し,ウイルス B のみが 感 染 する 植 物 種 イに 接 種 してウ<br />

イルス B を 分 離 できるので 簡 単 に 単 離 できてしまう.トバモウイルスがポティウイルスやポテックス<br />

ウイルスと 重 複 感 染 している 場 合 ,ポテックスウイルスとポティウイルスが 重 複 感 染 している 場 合 がこ<br />

れに 当 たる.3 種 以 上 の 重 複 の 場 合 も 同 様 に 行 うとよい.<br />

しかし, 実 際 の 現 場 で 複 数 ウイルスが 対 象 作 物 に 重 複 感 染 しているという 場 合 には,CMV とポティ<br />

ウイルスの 重 複 感 染 というのが 最 も 多 い.ちょっと 考 えると Chenopodium spp. に 磨 砕 液 を 接 種 すれ<br />

ば, 接 種 葉 に CMV による 早 めのえそ 病 斑 とポティウイルスによる 遅 めの 退 緑 病 斑 が 出 てくれてラッ<br />

キーということで 簡 単 に 分 離 できるように 思 えるが, 実 際 にはそうはいかない 場 合 がほとんどである.<br />

通 常 は CMV の 方 がずっとよく 増 殖 しているために, 早 めにできてくる CMV による 病 斑 が 多 すぎて,<br />

ポティウイルスによる 遅 く 出 てくる 病 斑 が 現 れてこないか,たとえ 現 れても CMV のものと 重 なってい<br />

て 分 離 できない 場 合 が 多 いので 困 ってしまう.この 場 合 には 希 釈 度 を 高 くして 接 種 してもほとんど 解 決<br />

にはならない.また,CMV の 宿 主 域 が 広 すぎるために,CMV とポティウイルスではポティウイルス<br />

が 増 殖 する 植 物 すべてにおいて,CMV も 増 殖 することがほとんどである.このような 場 合 には 重 複 感<br />

染 ウイルスの 宿 主 域 が 重 なってしまって, 植 物 種 を 選 ぶ 方 法 では 簡 単 には 両 ウイルスを 分 離 できない.<br />

このようなケースの 対 処 法 について 次 に 考 えてみよう.<br />

ポティウイルスと CMV の 重 複 感 染 植 物 では,CMV を 分 離 するのは 濃 度 が 高 いので 比 較 的 簡 単 であ<br />

る. 感 染 葉 磨 砕 液 を 段 階 希 釈 して,キノアかササゲに 接 種 して 早 めに 形 成 されてくる 局 部 病 斑 を 切 り 出<br />

してタバコやトマトに 接 種 すればよい.これをもう 1 度 繰 り 返 せば 通 常 はポティウイルスは 落 ちてしま<br />

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う.ところが, 逆 にポティウイルスを 分 離 するという 場 合 は 簡 単 ではない.そのためには, 全 身 感 染 葉<br />

の 磨 砕 液 の 段 階 希 釈 液 に CMV の 抗 血 清 を 加 えて,1 夜 冷 蔵 保 存 した 後 , 低 速 遠 心 で 清 澄 化 したものを<br />

分 離 したいポティウイルスが 全 身 感 染 する 植 物 に 接 種 してみるとよいことがある.CMV 抗 血 清 処 理 に<br />

よって CMV の 濃 度 が 低 下 しても, 一 部 に 残 った CMV が 増 殖 してしまうために,これで 必 ずしもうま<br />

くいくという 保 証 はない.しかし, 抗 血 清 の 濃 度 を 3 段 階 くらいとっておくと,うまく CMV をのぞけ<br />

る 場 合 もあるので, 他 に 手 段 がみつからない 場 合 にはこれでやってみてほしい.もちろん, 媒 介 生 物 を<br />

用 いた 分 離 も 原 理 的 には 可 能 であり,CMV とポティウイルスでもアブラムシを 用 いて 分 離 することは<br />

できないことはないが,ここでも CMV の 濃 度 の 高 さが 障 害 となろう.<br />

他 の 複 数 ウイルスの 重 複 感 染 の 場 合 に,どのようなウイルスが 重 複 感 染 しているか 推 定 できるときに<br />

は,それらのウイルスによって 明 確 に 異 なる 他 の 特 性 を 利 用 することも 可 能 である.たとえば, 有 機 溶<br />

媒 に 対 する 耐 性 が 明 確 に 異 なる 場 合 , 耐 熱 性 が 異 なる 場 合 など,それらの 違 いを 利 用 して 分 離 すること<br />

が 可 能 であろう.たとえば,トバモウイルスを 分 離 したいときは, 磨 砕 液 を 80℃くらいの 温 度 で 10 分<br />

処 理 してから,そのトバモウイルスが 感 染 する 植 物 に 段 階 希 釈 して 接 種 するとよい. 媒 介 生 物 が 異 なる<br />

場 合 には,それを 用 いた 分 離 も 可 能 である.ウイルスが 推 定 できない 場 合 には, 異 なる 特 性 を 探 すこと<br />

からはじめ, 見 つけた 違 いを 利 用 して 同 様 に 行 うこととなる.<br />

<br />

接 種 して 一 定 の 日 数 が 経 過 するとそれぞれのウイルス 種 に 特 徴 的 な 病 徴 が, 植 物 の 種 に 応 じて 現 れてくる.<br />

病 徴 には 全 身 に 現 れる 全 身 病 徴 と 接 種 葉 にのみ 現 れる 局 部 病 徴 とがある. 植 物 ウイルスで 最 も 一 般 的 な 全 身 病<br />

徴 はモザイク 症 状 である. 葉 脈 に 沿 って, 葉 の 緑 色 が 薄 くなったり, 逆 に 濃 くなったりする. 葉 脈 のみの 緑 色<br />

が 濃 くなる 病 徴 を 葉 脈 緑 帯 , 逆 に 葉 脈 の 緑 色 が 薄 くなるのを 葉 脈 透 過 という. 一 方 , 葉 脈 とは 無 関 係 にこれら<br />

の 症 状 がでる 場 合 があるが,そのときにはモザイクとは 区 別 してモットル 症 状 とよぶ. 局 部 病 徴 のうちの 斑 点<br />

となる 局 部 病 斑 は Local Lesion とよばれ,その 数 はウイルス 濃 度 に 比 例 することから,ウイルスの 感 染 性 の<br />

検 定 に 広 く 用 いられている. 局 部 病 斑 の 病 斑 数 が 少 ない 場 合 には, 各 病 斑 は 均 一 なウイルス 集 団 から 形 成 され<br />

ると 考 えられるので,ウイルスの 分 離 に 利 用 できる.<br />

一 般 に 被 害 が 激 しいのは 全 身 症 状 でしかもえそ 症 状 を 伴 う 場 合 である. 葉 脈 にそって 生 じる 葉 脈 えそ, 葉 が<br />

かれてしまうえそ, 全 身 が 枯 れてしまう 枯 死 などの 段 階 に 分 けて 区 別 される. 全 身 枯 死 の 場 合 には 当 然 ,その<br />

後 の 収 穫 は 皆 無 となってしまうので, 被 害 は 甚 大 となる.また, 萎 縮 やわい 化 といった 症 状 は, 植 物 の 高 さが<br />

明 瞭 に 低 くなり, 生 育 が 遅 れてくる 症 状 をいうが,これらも 被 害 が 大 きい. 萎 縮 の 場 合 には, 叢 生 といって 無<br />

数 の 脇 芽 などが 無 秩 序 に 出 てくる 症 状 を 伴 うこともあり, 萎 縮 叢 生 症 状 とよばれてほとんど 収 穫 皆 無 となるこ<br />

とが 多 い. 黄 化 は 葉 が 黄 色 くなることで 葉 脈 のみの 黄 化 を 葉 脈 黄 化 と 呼 んで 区 別 する.ウイロイドについても<br />

それらの 病 徴 は,ウイルスの 場 合 と 同 様 に 記 載 する.<br />

全 身 的 に 現 れる 病 徴 は,ウイルス 種 に 特 異 的 なものと,ウイルス 種 によらず 多 くのウイルスで 現 れる 病 徴 と<br />

がある. 局 部 病 斑 は,えそ 性 のものと 退 緑 斑 や 黄 斑 に 分 けられるが, 局 部 病 斑 が 拡 大 して 全 身 症 状 となること<br />

もある.このように 全 身 に 拡 大 するかどうかは,ウイルス 種 と 植 物 種 の 組 合 せによることが 多 いが,たまたま<br />

植 物 が 日 照 不 足 などで 軟 弱 に 育 った 場 合 に 全 身 症 状 となることもある.このような 場 合 には 再 現 性 に 乏 しいの<br />

で, 安 定 した 特 性 とはいえない. 局 部 病 斑 もウイルス 種 と 植 物 種 の 組 合 せによって 基 本 的 には 決 まっている.<br />

全 身 病 徴 についても 局 部 病 斑 についても, 同 じ 植 物 種 でも 品 種 によっては, 同 一 ウイルスに 対 してもウイルス<br />

株 によって 病 徴 が 大 きく 異 なってくる 場 合 もある.それらが 安 定 して 再 現 できれば, 植 物 の 場 合 には 抵 抗 性 品<br />

種 や 高 感 度 判 別 品 種 として 利 用 できる 可 能 性 があり,ウイルスでは 特 異 系 統 となる.<br />

各 種 ウイルスによる 代 表 的 な 病 徴 は 図 3 に 示 しておいた.これらの 病 徴 は,ウイルスと 植 物 が 同 じでも 接 種<br />

時 期 , 環 境 条 件 , 接 種 濃 度 , 品 種 などによって 変 化 しうること, 異 なるウイルスでも 同 様 な 病 徴 を 生 じること<br />

があるので 病 徴 だけからウイルスを 特 定 することは 困 難 な 場 合 が 多 いことなどに 注 意 する 必 要 がある.しか<br />

し,これらの 病 徴 の 中 でウイルス 特 異 的 な 病 徴 も 一 部 にはあり,39 ページの3で 示 し<br />

たような 組 合 せでは 病 原 ウイルスを 推 定 できる.もちろん,これに 頼 りすぎてはいけないわけで,あくまで 最<br />

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終 診 断 は, 以 下 で 説 明 する 抗 血 清 診 断 か 遺 伝 子 診 断 によるべきである.<br />

植 物 ウイルスの 接 種 及 びその 後 の 病 徴 観 察 に 関 して,もう 一 つ 大 切 なポイントがある.それは 接 種 してから<br />

明 瞭 な 病 徴 が 出 るまでの 間 に,その 植 物 を 置 いておく 温 度 である. 通 常 は 20-30℃ 程 度 の 温 度 で 育 成 する 必 要<br />

があり,いつも 30℃を 越 えるような 温 度 条 件 やいつも 20℃ 以 下 では 通 常 のウイルス 検 定 には 不 向 きである.<br />

ところが,ウイルスによっては 通 常 の 25-30℃では 病 徴 を 出 さないものがある.たとえば,ネポウイルスでは<br />

ウイルスによっては 25℃をこえると 全 く 病 徴 を 出 さないで,それ 以 下 の 温 度 でおいておくとはじめて 明 瞭 な<br />

病 徴 を 出 すものがある.また,ムギのウイルスでは 15℃ 以 下 でないと 感 染 しないし,もちろん 病 徴 も 出 ない<br />

ウイルスが 多 い.これらは 事 前 の 知 識 として 知 っておく 必 要 がある. 一 方 ,ウイロイドではかなり 高 温 でない<br />

と 病 徴 が 出 にくいものがある.これらの 低 温 や 高 温 を 好 むウイルスやウイロイドおよびそれに 近 いと 思 われる<br />

ものを 扱 う 際 には, 接 種 した 植 物 を 発 病 に 適 した 温 度 で 育 成 しないと, 接 種 葉 でもウイルスが 増 殖 しないこと<br />

が 多 いため,ウイルスの 維 持 継 代 にすら 失 敗 してしまってウイルス 株 をなくしてしまうことになりかねないの<br />

で, 十 分 に 注 意 する 必 要 がある.<br />

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ウイルス 病 による 病 害 が 何 というウイルスによって 引 き 起 こされているかを 調 べることがウイルス 病 の 診 断<br />

である. 各 種 植 物 における 病 徴 だけからウイルスを 正 確 に 特 定 することはできないし, 場 合 によっては 原 因 ウ<br />

イルスをまちがえてしまうことも 多 く 危 険 である. 同 じような 病 徴 を 出 していても 全 く 異 なるウイルスが 原 因<br />

であることも 多 いためである. 間 違 った 診 断 をしてしまうと, 誤 った 防 除 法 を 採 用 することにつながりやす<br />

く, 間 違 った 防 除 によって 逆 にウイルス 病 の 発 生 を 拡 大 させてしまったり, 防 除 を 困 難 にしてしまう 場 合 もあ<br />

るので, 正 確 な 診 断 はきわめて 重 要 である.ウイルス 病 の 主 な 診 断 法 には 生 物 検 定 , 抗 血 清 診 断 , 遺 伝 子 診 断<br />

の 3 つがある.これらの 個 々の 手 法 については 具 体 的 なプロトコールが 開 発 され 利 用 されている. 研 究 者 の<br />

方 々やメーカーなどから 詳 しいプロトコールの 紹 介 や 解 説 がすでになされているものについては, 関 係 の 単 行<br />

本 や HP,メーカー 各 社 のプロトコールなどを 参 照 されたい.ここでは, 特 にわかりやすく 書 かれている 2 冊<br />

の 単 行 本 を 下 記 にあげておいた.また, 特 に 農 研 機 構 の 以 下 の 2 つの HP を 推 薦 する. 本 マニュアルでは,こ<br />

れらと 重 複 する 内 容 についてはできるだけ 図 表 は 省 き, 説 明 も 簡 略 にした.ただし, 他 に 詳 しい 解 説 がないと<br />

思 われるゲル 内 拡 散 法 ,ウイルスの 特 定 法 , 遺 伝 子 診 断 のための 共 通 プライマー 配 列 などについては, 本 マ<br />

ニュアルの 中 で 詳 しく 解 説 するとともに, 診 断 法 全 体 の 流 れや 個 々の 診 断 法 の 基 本 的 な 考 え 方 ・ 特 徴 ・ 使 い 分<br />

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けなどについても 詳 しく 説 明 する.<br />

・ 大 木 理 (1997) 植 物 ウイルス 同 定 のテクニックとデザイン. 日 本 植 物 防 疫 協 会 ,pp.184.<br />

本 書 の 改 訂 版 として「 植 物 ウイルス 同 定 の 基 礎 」が 出 版 される 予 定 である.<br />

・ 脇 本 哲 監 修 (1993) 植 物 病 原 性 微 生 物 実 験 法 .ソフトサイエンス 社 ,pp.553.<br />

・ウイルス 病 検 定 マニュアル ver. 2<br />

http//www.naro.affrc.go.jp/org/karc/VM/uirusu_bing_jian_dingmanyuaru.html<br />

・マクロアレイマニュアル〔Maoka et al., 2010 に 基 づいて 作 成 されたもの〕<br />

http//www.ncss.go.jp/main/gyomu/.../h22macroaraymanu.pdf<br />

<br />

ウイルス 診 断 を 行 う 場 合 には,まず 対 象 となっている 作 物 に,わが 国 のどこでどのようなウイルスが 多 く 発<br />

生 しているかを 予 備 知 識 として 知 っておく 必 要 がある.それによって 効 率 的 に 診 断 を 行 うことができるからで<br />

ある.もちろん, 対 象 となっている 地 域 での 発 生 状 況 がわかればそれに 越 したことはない.また, 日 本 で 未 報<br />

告 のウイルスかもしれないと 考 えられる 場 合 には, 当 然 諸 外 国 の 情 報 も 必 要 となってくる. 一 方 , 外 国 でウイ<br />

ルス 診 断 を 行 う 場 合 には,その 国 におけるウイルスの 発 生 状 況 をまずつかんでおくことが 前 提 となる. 対 象 ウ<br />

イルスが 未 知 の 新 規 ウイルスであるかもしれないと 思 われた 場 合 には,その 特 性 をきちんと 調 べて 既 知 のウイ<br />

ルスとの 違 いを 明 確 にする 必 要 がある.その 進 め 方 については 本 章 の7で 紹<br />

介 する.ここではまず 日 本 での 主 要 なウイルスの 発 生 状 況 について 概 要 を 紹 介 する.<br />

これまでに 日 本 で 多 く 発 生 しているウイルスの 名 称 と 略 称 およびその 重 要 特 性 を 表 5 にまとめておいた.わ<br />

が 国 で 最 も 多 く 発 生 してきているウイルスといえばククモウイルスに 属 する CMV であろう.CMV はイネ 以<br />

外 の 作 物 ではほとんどすべての 種 類 の 作 物 および 雑 草 で 発 生 していて, 単 子 葉 植 物 でも 広 く 発 生 しており,ユ<br />

<br />

ウイルス 略 称 所 属 する 属 形 態 大 きさ 主 な 伝 染 方 法 主 な 発 生 作 物<br />

キュウリモザイクウイルス CMV Cucumovirus 小 球 形 直 径 30nm アブラムシ 殆 どの 野 菜 や 花 き<br />

トマト 黄 化 えそウイルス TSWV Tospovirus 球 形 直 径 100nm アザミウマ 殆 どの 野 菜 や 花 き<br />

タバコモザイクウイルス TMV Tobamovirus 棒 状<br />

長 さ300nm,<br />

幅 15nm<br />

接 触 ・ 土 壌 タバコ<br />

トマト 黄 化 葉 巻 ウイルス TYLCV Begomovirus 双 球 形<br />

各 々の 直 径<br />

18nm<br />

コナジラミ トマト,トルコギキョウ<br />

ウリ 類 退 緑 黄 化 ウイルス CCYV Crinivirus ひも 状 長 さ800nm コナジラミ キュウリ,メロン,スイカ<br />

メロンえそ 斑 点 ウイルス MNSV Carmovirus 小 球 形 直 径 30nm 糸 状 菌 メロン,スイカ<br />

ジャガイモ Y ウイルス PVY Potyvirus ひも 状<br />

長 さ700nm,<br />

幅 12nm<br />

アブラムシ ジャガイモ<br />

イネ 縞 葉 枯 ウイルス RSV Tenuivirus ひも 状 細 長 いひも 状 ウンカ イネ<br />

オオムギ 縞 萎 縮 ウイルス BaYMV Baymovirus 小 球 形 直 径 30nm 糸 状 菌 オオムギ<br />

トウガラシ 微 斑 ウイルス PMMoV Tobamovirus 棒 状<br />

長 さ300nm,<br />

幅 15nm<br />

接 触 ・ 土 壌 トウガラシ,ピーマン<br />

温 州 萎 縮 ウイルス SDV Sadwavirus 小 球 形 直 径 30nm 不 明 カンキツ 類<br />

リンゴクロテッククリーフスポットウイルス ACLSV Closterovirus ひも 状<br />

長 さ600nm,<br />

幅 12nm<br />

不 明 リンゴ<br />

メロン 黄 化 えそウイルス MYSV Tospovirus 球 形 直 径 120nm アザミウマ キュウリ,メロン,スイカ<br />

アイリス 黄 斑 ウイルス IYSV Tospovirus 球 形 直 径 120nm アザミウマ ネギ,タマネギ,ニラ,<br />

トルコギキョウ<br />

ズッキーニ 黄 斑 モザイクウイルス ZYMV Potyvirus ひも 状<br />

長 さ700nm,<br />

幅 12nm<br />

アブラムシ キュウリ,メロン<br />

ソラマメウイルトウイルス2 BBWV-2 Fabavirus 小 球 形 直 径 30nm アブラムシ 多 くの 野 菜 や 花 き<br />

本 表 では 特 に 重 要 と 思 われるウイルスを 選 んだ.<br />

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リ,ラン,ショウガ,サトイモらの 仲 間 で 自 然 発 生 している.イネ 科 でもトウモロコシでは CMV が 発 生 して<br />

いる.もちろん, 表 5 に 掲 載 したウイルス 以 外 にもたくさんのウイルスが 各 種 作 物 で 発 生 して 被 害 を 与 えて<br />

いるのは 言 うまでもない.これらの 代 表 ウイルスの 中 でも 特 に 重 要 なものについては 属 ごとにまとめて,4<br />

の 代 表 ウイルス 属 各 論 で 解 説 している.<br />

各 種 作 物 での 個 別 ウイルスの 発 生 の 有 無 については, 日 本 植 物 病 名 目 録 第 2 版 を 参 照 されたい.また,この<br />

目 録 を 元 に 作 られた 日 本 植 物 病 名 データベース(http://www.gene.affrc.go.jp/databases-micro_pl_diseases.<br />

php)は, 最 新 の 情 報 を 掲 載 しているだけでなく,ジーンバンク 所 蔵 のウイルス 株 や,ウイルス 病 の 病 徴 など<br />

が 載 ったサイトとリンクしているため, 予 備 知 識 を 得 るには 大 変 便 利 である.さらに, 雑 誌 「 植 物 防 疫 」には,<br />

農 業 にとってその 時 点 で 大 きな 問 題 となっているウイルスの 特 性 や 発 生 状 況 が 個 別 に 適 切 な 時 期 に 解 説 されて<br />

いるので,それらも 大 いに 参 考 になる.<br />

<br />

生 物 検 定 とは,ウイルスに 特 徴 的 な 病 徴 を 出 す 種 類 の 植 物 に, 現 地 から 採 取 してきた 発 病 植 物 からの 摩 砕 液<br />

を 接 種 したり, 現 地 で 発 生 していた 昆 虫 で 伝 搬 させてみたりして, 後 で 現 れてくる 病 徴 などからウイルスの 種<br />

類 を 決 める 検 定 法 である. 最 も 簡 便 にできる 手 法 であり, 他 の 診 断 法 が 使 えない 場 合 にはこれに 頼 ることにな<br />

る.しかし, 本 法 は 類 似 した 病 徴 を 出 す 複 数 のウイルスがある 場 合 には 誤 診 につながりやすいこと 等 に 常 に 留<br />

意 しておく 必 要 がある.<br />

抗 血 清 診 断 は, 各 種 ウイルスに 対 する 抗 血 清 をあらかじめ 作 っておいてそれを 用 いてウイルスを 診 断 する 方<br />

法 であり,その 特 異 性 の 高 さや 簡 便 さからもっとも 広 く 利 用 されてきている 診 断 法 のひとつである.シャーレ<br />

に 流 し 込 んだアガロースに 穴 をあけて 行 うゲル 内 拡 散 法 ,96 穴 のマイクロプレートを 用 いるエライザ 法 ,ニ<br />

トロセルロースのようなプラスチック 性 薄 膜 を 用 いるダイバ 法 やティッシュプリント 法 , 最 も 簡 便 な 方 法 とし<br />

てリトマス 試 験 紙 のようなろ 紙 を 用 いるリパ 法 などがある. 現 在 では, 多 数 の 試 料 の 検 定 にはエライザ 法 が<br />

もっとも 適 しており 広 く 用 いられている.<br />

遺 伝 子 診 断 法 は,ウイルス 遺 伝 子 の 一 部 を 核 酸 合 成 酵 素 を 用 いて 増 幅 させ 検 出 する 方 法 であり, 特 異 性 は 高<br />

く 少 数 の 検 定 では 有 用 性 が 高 いが, 手 間 がかかってコストも 高 い 点 で 多 数 の 検 定 には 現 状 では 不 向 きである.<br />

しかし, 抗 血 清 診 断 法 では 検 定 対 象 のウイルスが 何 のウイルスであるかを 知 ることはできるが,それ 以 上 の 情<br />

報 はあまり 得 られないのに 対 し, 遺 伝 子 診 断 では,その 産 物 の 塩 基 配 列 を 解 析 して 既 知 の 配 列 と 比 較 すること<br />

により,それが 既 知 のどの 株 にどの 程 度 近 いか, 発 生 しているウイルスは 一 種 のみか 複 数 種 か,なども 比 較 的<br />

容 易 に 判 定 できる.また, 類 似 のウイルスの 報 告 がなければ, 新 系 統 あるいは 新 種 と 推 定 できる.<br />

生 物 検 定 では, 一 般 に 複 数 のウイルスが 重 複 感 染 している 場 合 には,それらのウイルスの 感 染 を 的 確 に 診 断<br />

することは 困 難 なことが 多 い. 単 離 していないウイルスを 用 いた 場 合 には, 特 に 特 定 の 植 物 の 病 徴 からだけで<br />

はウイルスの 特 定 がむずかしくなり,その 結 果 は 信 頼 度 が 低 い.もちろん,ササゲにえそ 性 の 特 徴 的 な 局 部 病<br />

斑 を 作 ることから CMV であると 判 定 する 場 合 などは 生 物 検 定 のみでほぼ 可 能 だが,そのようなケースはまれ<br />

である. 一 方 , 抗 血 清 診 断 や 遺 伝 子 診 断 を 用 いる 場 合 には, 複 数 の 異 なるウイルスが 重 複 感 染 していても,そ<br />

れらが 既 知 のウイルスであり, 診 断 に 利 用 できる 抗 血 清 やプライマーがあれば,それらを 一 つ 一 つ 単 離 しなく<br />

とも 検 出 することはできる.<br />

しかし, 抗 血 清 診 断 や 遺 伝 子 診 断 でもいずれも 限 界 があることはしっかり 認 識 しておく 必 要 がある. 現 在 ,<br />

多 用 されている 遺 伝 子 診 断 や 抗 血 清 診 断 でも, 新 種 のウイルスは 検 出 できない 場 合 があるということである.<br />

既 知 のウイルスと 遠 くてもよいので 類 縁 関 係 があることがわかれば, 保 存 性 の 高 い 領 域 の 共 通 プライマーを 作<br />

ることで 遺 伝 診 断 ができるようになる 可 能 性 はある.もちろん, 全 く 新 しいウイルスや 類 縁 関 係 がかなり 遠 い<br />

ウイルスの 場 合 には,ウイルスの 遺 伝 子 配 列 が 不 明 な 間 は 遺 伝 子 診 断 のためのプライマーを 作 ることができな<br />

いので, 遺 伝 子 診 断 も 無 力 である.つまり, 診 断 とは 既 知 のウイルスとの 比 較 で 行 えるものである.<br />

それでは, 新 種 のウイルスの 場 合 にはどうやって 新 種 かどうかを 判 定 し, 診 断 法 を 確 定 すればよいのであろ<br />

うか. 具 体 的 な 新 規 ウイルスの 特 定 方 法 と 手 順 については 以 下 の7で 説 明 す<br />

るので,ここでは 簡 単 に 概 要 を 紹 介 しておく. 生 物 検 定 のみでも 既 知 のウイルスと 明 確 に 異 なる 宿 主 域 や 特 定<br />

の 植 物 で 特 有 の 病 徴 を 出 すウイルスが 見 つかった 場 合 には, 新 種 かもしれないと 考 えて 検 討 を 進 めていくこと<br />

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となる.そのためにはウイルス 粒 子 の 形 態 や 媒 介 生 物 などの 特 性 も 検 討 が 必 要 となる. 類 似 のウイルスに 対 す<br />

る 抗 血 清 を 用 いた 検 討 でも,その 作 製 に 用 いられたウイルスと 明 確 に 異 なる 反 応 を 示 すことが 確 認 できれば,<br />

さらに 新 種 に 近 づくこととなる.しかし, 現 在 では 新 種 であると 言 うためには, 最 終 的 には 遺 伝 子 レベルで 既<br />

知 のウイルスすべてと 異 なることの 確 認 が 必 要 となる. 抗 血 清 による 検 定 だけでは, 既 知 のウイルスのすべて<br />

は 網 羅 できないためであり,また 抗 血 清 はウイルスの 外 被 タンパク 質 の 特 性 を 反 映 しているだけで, 他 の 特 性<br />

については 何 もわからないためである.そこで,そのウイルスを 純 化 するなり,ウイルス 核 酸 を 分 離 精 製 する<br />

なりして,ウイルス 特 異 的 な 配 列 を 特 定 し, 既 知 のウイルス 配 列 と 比 較 して, 新 規 ウイルスであるかどうかを<br />

確 認 することとなる.<br />

これらの 検 討 を 経 た 上 で 新 種 であることが 確 認 できたなら, 農 林 水 産 省 が 2012 年 9 月 に 発 表 した 重 要 病 害<br />

虫 発 生 時 対 応 基 本 指 針 ( 農 林 水 産 省 や 日 本 植 物 病 理 学 会 の HP に 掲 載 されている)に 沿 って 検 討 した 上 で,そ<br />

れを 公 表 することとなる.その 際 にすでに 海 外 では 発 生 しているウイルスなのか, 外 国 でも 発 生 していないウ<br />

イルスなのかも 大 切 なポイントとなる. 新 種 のウイルスの 場 合 には,そのインパクトは 大 きい 場 合 が 多 いこと<br />

が 想 定 される. 防 除 法 も 従 来 とは 異 なった 新 しい 手 法 が 必 要 となるかもしれないし,どんな 作 物 に 被 害 が 出 る<br />

かもわからないからである.その 後 に 大 量 の 植 物 の 検 定 が 必 要 となる 場 合 には,ウイルス 抗 血 清 を 作 成 して,<br />

抗 血 清 診 断 法 を 確 立 する 必 要 がある.もし,あまり 多 数 の 検 定 は 必 要 でないということならば,ウイルス 遺 伝<br />

子 の 塩 基 配 列 の 一 部 を 利 用 して,それから 特 異 的 プライマーを 合 成 し, 遺 伝 子 診 断 を 行 えるようにしておけば<br />

よい.<br />

以 下 にこれら 3 つの 診 断 法 の 具 体 的 手 順 を 紹 介 する.<br />

<br />

検 定 植 物 を 用 いた 診 断 法 が 生 物 学 的 診 断 法 である. 通 常 は,その 病 原 ウイルスを 同 定 しようとしている 植 物<br />

の 明 瞭 な 病 徴 を 示 す 葉 を 磨 砕 し, 検 定 植 物 に 接 種 して 発 病 してきた 検 定 植 物 の 病 徴 を 調 査 し,その 代 表 的 な 植<br />

物 の 病 徴 から 病 原 ウイルスを 特 定 するという 手 順 で 行 う. 接 種 の 具 体 的 なやり 方 や 病 徴 の 表 示 法 については<br />

前 章 の1) で 説 明 しているので 参 照 されたい. 特 に 現 地 から 採 取 してきた 罹 病 植 物 では,<br />

ウイルスが 1 種 のみ 感 染 しているとは 限 らないので, 複 数 のウイルスが 感 染 している 可 能 性 も 十 分 に 考 慮 しな<br />

がら 診 断 を 進 めていくことが 重 要 である. 複 数 ウイルスの 単 離 法 についても 前 章 を 参 照 のこと.<br />

ウイルスを 植 物 に 接 種 して 特 徴 的 な 病 徴 が 現 れてもそれだけで 病 原 ウイルスを 特 定 することは 困 難 である.<br />

一 般 的 なモザイク 症 状 では,ウイルスが 原 因 であるとは 判 定 できても 何 というウイルスが 病 原 であるかは 多 く<br />

の 場 合 に 特 定 することはできない.たとえば,トマトで 萎 縮 叢 生 の 激 しい 病 徴 が 出 た 場 合 を 例 にとって 考 え<br />

て 見 よう.このような 病 徴 を 生 じるものとして,これまで 知 られているウイルスだけでも,TYLCV,TSWV,<br />

CMV といった 発 生 が 多 いウイルスがあり,さらにウイロイドである TCDVd の 可 能 性 もある.もちろん, 新<br />

規 ウイルスや 既 知 ウイロイドの 新 系 統 かもしれないし,これらの 病 原 の 重 複 感 染 の 可 能 性 もある.これらのう<br />

ちどれであるかを 決 定 するためには, 後 述 の 血 清 学 的 診 断 法 か 遺 伝 子 診 断 によるしかないのである.<br />

しかし,ウイルスを 植 物 に 接 種 した 際 に, 以 下 のような 植 物 に 特 異 的 な 病 徴 を 生 じた 場 合 には,そこに 記 し<br />

ているウイルスによるものといちおう 判 断 して 良 いと 思 われる.しかし, 未 知 のウイルスや 新 系 統 については<br />

この 限 りではないので, 注 意 されたい.<br />

・ 糸 葉 Fern-Leaf: 糸 のように 見 える 細 くなった 葉 .CMV のトマトでの 病 徴 としてよく 見 られる.<br />

例 : トマト / CMV- サブグループ I (ただし, 同 じ CMV でもサブグループ II では 軽 度 のモザイク<br />

症 状 のみを 示 す)<br />

・ 帯 状 粗 皮 Russet Crack:サツマイモでのみ 見 られる 塊 根 表 面 に 帯 状 のひび 割 れが 入 った 状 態 .<br />

例 : サツマイモ / サツマイモ 斑 紋 モザイクウイルス 強 毒 系 ( 同 じ SPFMV でも 普 通 系 や 徳 島 系 で<br />

は 退 色 症 状 は 出 ることがあっても,ひび 割 れにはならない)<br />

・やせイモ Spindle: 細 長 くやせた 状 態 .ジャガイモでの 特 定 のウイロイドによる 病 徴 .<br />

例 : ジャガイモ / PSTVd (わが 国 のジャガイモでは 未 発 生 )<br />

・Big vein:レタスで 見 られる 葉 の 葉 脈 が 太 く 濃 くなる 症 状 .<br />

例 :レタス / レタスビッグベインミラフィオリーウイルス<br />

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すでに 述 べたように,ウイルスを 検 定 している 間 は, 接 種 のための 健 全 なキノアやタバコ 植 物 を 育 成 して 維<br />

持 しておくことはきわめて 重 要 である.これらの 植 物 苗 は 播 種 してから 使 用 できるようになるまでにかなりの<br />

日 数 がかかるため,1-2 週 間 おきに 播 種 して 育 成 しておくと,いろんなウイルスで 局 部 病 斑 の 形 成 やウイルス<br />

の 増 殖 に 使 える 場 合 が 多 い. 一 方 ,ササゲやメロンなどは 種 子 が 比 較 的 大 きく, 播 種 後 10 日 以 内 に 接 種 でき<br />

るので, 接 種 検 定 を 行 う 際 に 播 種 しても 少 し 待 てば 利 用 できて 便 利 である.ササゲでは,CMV の 多 くが 接 種<br />

2-3 日 後 には 接 種 葉 にえそ 性 の 局 部 病 斑 を 生 じるので,この 病 徴 が CMV の 簡 易 な 診 断 基 準 として 広 く 利 用 さ<br />

れている. 中 には 全 身 感 染 してモザイクとなるマメ 科 系 CMV もあるので,その 点 は 注 意 が 必 要 である.メロ<br />

ンに 接 種 した 時 には,ウリ 科 に 感 染 するポティウイルス(WMV,ZYMV), 通 常 の CMV,SqMV などで 明 瞭<br />

かつ 特 徴 的 なモザイクやモットル 症 状 を 示 し,MNSV では 接 種 葉 に 特 異 的 な 大 きなえそ 斑 点 を 生 じるなどそ<br />

れぞれ 特 徴 のある 病 徴 を 出 す.しかし,CMV のラゲナリア 系 も MNSV の 病 徴 と 類 似 の 病 徴 を 出 すので,メ<br />

ロンの 病 徴 だけからではウイルスを 特 定 できない.このように, 特 定 の 植 物 の 病 徴 だけでウイルスを 同 定 する<br />

ことは 困 難 な 場 合 もあり, 他 のウイルスについても 同 様 な 場 合 があるので 注 意 する.そのためにも 1 種 類 のみ<br />

の 検 定 植 物 ではなく, 複 数 の 検 定 植 物 を 使 って 生 物 検 定 を 行 っていく 必 要 がある.こうして 進 めていけば, 対<br />

象 ウイルスの 感 染 性 を 確 認 しながら, 他 のウイルスのコンタミネーションが 起 きていないことも 確 かめつつ 研<br />

究 を 進 めていけるという 点 で 生 物 検 定 は 有 益 である.<br />

検 定 植 物 による 診 断 方 法 で 忘 れてならないことは, 感 染 しない 検 定 植 物 も 重 要 な 診 断 基 準 となるということ<br />

である.たとえば,PSV はウリ 科 植 物 に 感 染 しないし,TSWV も 同 様 である.CMV の 多 くはササゲの 接 種<br />

葉 にのみえそ 斑 のみを 生 じて 全 身 感 染 しない.WMV はマメ 科 植 物 に 感 染 するが,ZYMV は 感 染 しないなど<br />

が 知 られている.<br />

<br />

遺 伝 子 診 断 法 が 広 く 利 用 されるようになるまでは, 血 清 学 的 診 断 法 がウイルス 同 定 の 主 流 となっており,そ<br />

のための 多 くの 手 法 が 開 発 されて 広 く 用 いられてきたが, 最 近 では 遺 伝 子 診 断 法 が 主 流 となってきていて, 血<br />

清 学 的 診 断 法 ( 血 清 診 断 法 や 抗 血 清 診 断 などともよばれる)はかなり 押 され 気 味 である.それでも 血 清 学 的 診<br />

断 法 はきわめて 有 用 な 手 法 であり, 簡 易 でコストも 低 く 抑 えられることから, 重 要 な 手 法 であることに 変 わり<br />

はない.ここでは, 現 在 でも 広 く 用 いられていて,かつ 使 いやすいものにしぼって 解 説 する.<br />

用 いる 抗 血 清 の 種 類 としては, 抗 血 清 作 製 に 使 用 した 動 物 の 種 によってウサギ 抗 血 清 ,マウス 抗 血 清 などが<br />

一 般 的 である, 通 常 の 抗 血 清 はポリクローナル 血 清 であり, 抗 原 として 用 いたウイルスの 複 数 の 抗 原 決 定 基 と<br />

反 応 する. 特 殊 なマウスとシステムを 用 いて 作 出 したものはモノクローナル 抗 体 と 呼 ばれ,ウイルスの 1 個 の<br />

抗 原 決 定 基 のみと 反 応 するという 特 性 を 持 っている.モノクローナル 抗 体 は 特 殊 な 場 合 の 利 用 に 限 定 されてお<br />

り, 通 常 の 診 断 ではポリクローナル 抗 体 の 使 用 で 特 に 問 題 はない.なお,ウイロイドは 外 被 タンパク 質 を 持 た<br />

ないために 血 清 診 断 はできず, 遺 伝 子 を 利 用 した 診 断 のみ 可 能 なので 注 意 する.<br />

抗 血 清 や 抗 体 は 純 化 ウイルスをウサギやマウスに 接 種 して 自 分 で 作 製 することも 可 能 であるが, 市 販 されて<br />

いるものも 多 くあるので,それらについては 購 入 して 利 用 することが 可 能 である. 植 物 ウイルスに 対 する 抗 血<br />

清 を 市 販 しているのは 国 内 では 日 本 植 物 防 疫 協 会 であり, 主 要 なウイルスの 抗 血 清 は 一 通 りそろっていて,さ<br />

らに 後 で 説 明 するエライザ 法 のためのキットも 同 時 に 販 売 している.また, 外 国 の 会 社 の 抗 血 清 などは 国 内 の<br />

試 薬 取 り 扱 い 会 社 を 通 じて 購 入 できる.アメリカの ATCC(American Type Culture Collection)でも 植 物 ウ<br />

イルス 抗 血 清 を 販 売 している. 研 究 者 が 自 分 で 純 化 ウイルスや 大 腸 菌 での 特 異 的 発 現 タンパク 質 を 準 備 して,<br />

抗 体 作 製 会 社 に 抗 体 作 製 のみを 依 頼 することもできる.<br />

抗 血 清 は, 以 下 の 手 順 で 作 製 されるのが 一 般 的 である.まず 健 全 なウサギやマウスに 純 化 したウイルスを 注<br />

射 することによってウイルスに 対 する 抗 体 を 作 らせる.これらの 動 物 から 抗 体 を 含 む 血 液 を 採 取 し 血 球 成 分 を<br />

固 まらせて 除 去 して 上 清 (これが 血 清 である)を 得 れば,その 中 には 注 射 したウイルスに 対 する 抗 体 が 多 量 に<br />

含 まれている. 注 射 したウイルスとの 反 応 の 程 度 を 力 価 とよび, 抗 血 清 の 特 異 性 とともに 重 要 な 特 性 となる.<br />

以 下 に 個 々の 血 清 診 断 法 を 具 体 的 に 紹 介 する.<br />

1 ゲル 内 拡 散 法<br />

アガロースを 緩 衝 液 ( 通 常 は 中 性 のリン 酸 緩 衝 液 を 利 用 )に 溶 かして 固 めたゲルにコルクボーラー<br />

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などで 穴 (ウェル)をあけて,そこにウイルス 感 染 葉 磨 砕 液 と 想 定 されるウイルスに 対 する 抗 血 清 を<br />

入 れて 静 置 しておき,2-3 日 後 に 肉 眼 で 観 察 して 沈 降 線 ができるかどうかで,ウイルスを 同 定 する 方<br />

法 である. 診 断 の 結 果 を 2-3 日 後 に 肉 眼 で 判 定 できる 点 がこの 方 法 の 利 点 である. 抗 血 清 は 上 で 紹 介<br />

した 市 販 のものを 購 入 して 用 いることができる. 具 体 的 な 結 果 を 図 6 に 示 す.<br />

各 種 ウイルスに 対 する 抗 血 清 は,はじめに 注 射 したウイルスと 同 じか 近 縁 のウイルスに 出 会 うと 結<br />

合 して 凝 集 させるという 性 質 を 持 っている. 抗 血 清 とウイルスを 同 じゲル 内 の 異 なるウェルに 入 れて<br />

静 かにおいておくと, 抗 血 清 とウイルスがゲル 内 を 浸 透 して 行 き, 両 者 が 出 会 ったところで 会 合 して<br />

沈 降 帯 を 作 る.この 沈 降 帯 はやがて 白 い 沈 降 線 となって 肉 眼 で 見 えるようになる( 図 6). 簡 単 に 言<br />

うと,この 沈 降 線 を 肉 眼 で 観 察 して, 検 定 対 象 ウイルスが 抗 血 清 の 作 製 もととなったウイルスと 同 一<br />

または 類 似 のウイルスであると 判 定 する.なお, 沈 降 線 が 融 合 した 例 は 図 6 には 例 示 していない. 一<br />

方 , 沈 降 線 が 見 えないときには 検 定 対 象 ウイルスが 抗 血 清 作 製 に 用 いたウイルスと 全 く 異 なるウイル<br />

スであると 判 定 するのがゲル 内 拡 散 法 である( 図 6 の d と e).このように, 本 法 は 明 瞭 で 一 目 で 判<br />

定 が 可 能 で, 抗 血 清 さえあれば 簡 便 に 行 うことができる. 以 下 にもう 少 し 詳 しく 解 説 することとす<br />

る.<br />

抗 血 清 作 製 ウイルスを A とし, 検 定 対 象 ウイルスを B として, 中 央 のウェルに A ウイルス 抗 血 清<br />

を 入 れ, 周 囲 の 隣 り 合 ったウェルにそれぞれの 純 化 ウイルス(a と b)を 入 れた 場 合 で 説 明 しよう( 図<br />

6A). 両 ウイルスが 近 縁 なウイルスの 場 合 はちょっと 複 雑 になるが,もう 少 し 多 くの 情 報 を 得 ること<br />

ができる.この 場 合 には, 沈 降 線 同 士 が 融 合 して 1 本 の 線 になる 場 合 と,どちらか 一 方 のみが 外 側 に<br />

伸 長 していわゆるスパー( 突 起 )を 形 成 する 場 合 のいずれかとなる.スパーができず 完 全 に 融 合 した<br />

ときには,A と B は 血 清 学 的 に 同 一 なウイルスであり,スパーができたときには( 図 6A のウェル a,<br />

b を 参 照 ),A と B は 一 部 が 異 なる 性 質 を 持 つ 近 縁 なウイルスと 判 定 できる. 抗 血 清 とウイルスの 組<br />

み 合 わせを 逆 にするとスパーのでる 向 きが 逆 転 する( 図 6B のウェル a, b を 参 照 ).このスパーとい<br />

う 現 象 は,ウイルス 粒 子 が 複 数 の 抗 原 決 定 基 を 持 つために 生 じるものであり,モノクローナル 抗 体 を<br />

用 いた 場 合 にはできてこない. 形 成 されるスパーの 大 きさがそれを 形 成 する 両 ウイルスの 類 縁 関 係 の<br />

<br />

A : CMV-A ウイルスに 対 する 抗 血 清 を 中 央 のウェルに 入 れた.<br />

B : CMV-B ウイルスに 対 する 抗 血 清 を 中 央 のウェルに 入 れた.<br />

周 囲 のウェルには 以 下 の 純 化 ウイルスを 入 れた: a, CMV-A; b, CMV-B; c, CMV-C;d, PSV;e, TAV.<br />

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近 さと 反 比 例 している. 類 縁 関 係 が 遠 いもの 同 士 ほどより 大 きなスパーを 形 成 することになる( 図 6<br />

の b と c では c の 方 が b より a に 対 して 近 縁 である).<br />

ゲル 内 拡 散 法 で 用 いるウイルス 試 料 としては, 感 染 植 物 葉 内 でのウイルス 濃 度 が 高 くなりやすい<br />

ウイルスでは, 感 染 葉 磨 砕 液 をガーゼ 等 でろ 過 したものでよいが,そうでないウイルスの 場 合 には,<br />

PEG などで 濃 縮 (48 ページ)したウイルス 試 料 か 精 製 ウイルスを 用 いる 方 がよい.また, 球 形 ウイ<br />

ルスでは 必 要 でないが,ひも 状 ウイルスではウイルスがアガロース 内 を 粒 子 のままでは 通 りぬけられ<br />

ないので,アガロースに 粒 子 をバラバラにするためのタンパク 質 変 性 剤 を 添 加 しておくことが 必 要 と<br />

なる.<br />

精 製 ウイルス 等 を 用 いて 自 分 で 抗 血 清 を 作 製 した 場 合 や 市 販 のものを 購 入 した 場 合 , 抗 血 清 によっ<br />

ては 健 全 植 物 成 分 とも 反 応 してしまい, 非 特 異 反 応 が 出 てしまう 場 合 が 結 構 ある.その 時 には, 健 全<br />

植 物 葉 磨 砕 液 で 抗 血 清 を 希 釈 して, 健 全 植 物 成 分 と 反 応 するものを 吸 収 してから 使 ってみるとよい.<br />

どの 程 度 の 濃 度 のもので 吸 収 するかは 抗 血 清 によって 違 ってくるので,まずやってみることである.<br />

何 度 も 使 うことになる,あるいは 定 量 性 が 必 要 になる 場 合 には, 健 全 葉 をウイルスと 同 じ 手 順 で 部 分<br />

純 化 レベルまで 処 理 したものを 再 懸 濁 した 液 を 抗 血 清 と 混 合 して 1 晩 5℃に 静 置 し, 低 速 遠 心 分 離 で<br />

清 澄 化 したものを 用 いるとよい. 以 下 に 紹 介 するエライザ 法 でもダイバ 法 でも, 健 全 植 物 成 分 で 吸 収<br />

したものを 用 いるとバックグランドが 低 くなって 定 量 化 しやすくなることがある.<br />

2 エライザ 法<br />

エライザ 法 (Enzyme-Linked Immunosorbent Assay:ELISA)は Clark and Adams が 考 案 した<br />

酵 素 結 合 抗 体 法 と 日 本 語 に 訳 されている 検 定 法 であり, 血 清 反 応 を 酵 素 反 応 で 増 幅 して 検 出 感 度 を 高<br />

めたところがポイントである. 抗 血 清 から 精 製 したγ - グロブリンに 酵 素 をラベルしたコンジュゲイ<br />

トを 作 製 しておき, 最 終 的 にはその 酵 素 による 基 質 の 分 解 に 伴 う 発 色 反 応 の 有 無 で, 元 の 試 料 内 のウ<br />

イルスの 有 無 を 検 定 する.また,その 発 色 の 程 度 がウイルス 濃 度 と 比 例 することから,ウイルス 濃 度<br />

を 比 較 ・ 定 量 することもできる. 本 法 は 検 出 感 度 が 高 く,しかも 非 特 異 反 応 も 出 にくい 優 れた 方 法<br />

であり, 酵 素 反 応 の 有 無 をマイクロプレートを 用 いて 検 定 するために 多 数 の 検 体 のウイルス 感 染 の<br />

チェックに 適 しており, 現 在 では 圃 場 やハウスなどでの 多 検 体 からのウイルス 検 定 に 広 く 用 いられて<br />

いる.エライザ 法 には 直 接 法 と 間 接 法 があり,それぞれ 特 性 が 異 なっているので, 使 用 目 的 に 応 じて<br />

使 い 分 ける 必 要 がある( 花 田 ,1991). 直 接 法 は, 最 初 にウイルス 抗 血 清 をウェルに 入 れて 開 始 する<br />

もので, 間 接 法 は 最 初 に 植 物 葉 磨 砕 液 を 入 れて 始 めるものである. 前 者 は 特 異 性 が 高 くて 検 出 感 度 も<br />

高 く, 後 者 は 少 し 血 清 学 的 類 縁 関 係 の 離 れたウイルスでも 検 出 できるというメリットがある. 後 者 は<br />

ウイルス 毎 にコンジュゲイトを 準 備 する 必 要 がないが,ウイルス 抗 血 清 を 作 製 した 動 物 以 外 のグロブ<br />

リンに 対 する 抗 血 清 のコンジュゲイトを 購 入 しておく 必 要 がある.これらより 簡 便 な 方 法 として, 感<br />

染 葉 磨 砕 液 とコンジュゲイトまたはウイルス 抗 血 清 を 同 時 にウェルに 入 れておく 簡 易 法 もあり, 検 定<br />

に 要 する 時 間 を 短 縮 できる.これらの 詳 しい 手 順 については 37 ページの 両 参 考 書 を 参 照 されたい.<br />

なお, 直 接 エライザ 法 ( 二 重 抗 体 サンドイッチ 法 ともよぶ)では, 検 定 対 象 植 物 ウイルス 別 のウイ<br />

ルス 抗 血 清 かそれから 精 製 したグロブリン,さらにそのグロブリンに 酵 素 を 結 合 させたコンジュゲイ<br />

トが 必 要 となるが,わが 国 の 主 要 なウイルスについては,ウイルスごとにグロブリンとコンジュゲイ<br />

トのセットが 日 本 植 物 防 疫 協 会 から 市 販 されている.また, 同 協 会 では 市 販 されていないウイルスに<br />

ついては Agdia 社 で 購 入 できるものがある.また, 磨 砕 しにくい 果 樹 などの 多 数 の 植 物 試 料 の 磨 砕<br />

にはフィンガーマッシャーを 用 いるとよい 場 合 がある( 井 出 ら,2011).なお,アジ 化 ナトリウムは<br />

植 物 ウイルス 検 定 で 広 く 用 いられているエライザのための 酵 素 の 反 応 を 阻 害 するので, 一 般 のエライ<br />

ザ 法 では 使 わない 方 がよい.<br />

また, 一 定 量 の 植 物 葉 に 一 定 量 の 緩 衝 液 を 加 えて 磨 砕 した 磨 砕 液 を 段 階 的 に 希 釈 して 検 定 すること<br />

により, 複 数 の 試 料 のウイルス 濃 度 を 比 較 することができる.つまり,エライザ 法 には 定 量 性 がある<br />

ので,これにより 同 じ 作 物 の 品 種 別 抵 抗 性 の 比 較 , 生 育 時 期 や 栽 培 方 法 などによるウイルスの 増 殖 程<br />

度 などを 直 接 比 較 できる.<br />

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3 ダイバ 法 及 びその 他 の 手 法<br />

ダイバ 法 (Dot-immunobinding Assay:DIBA 法 )は, 日 比 (1984)が 考 案 したエライザ 法 の 簡 便<br />

法 であり,マイクロプレートの 代 わりにニトロセルロースシートを 用 いる 点 が 特 徴 であり, 洗 浄 や 反 応<br />

を 1 ウエル 毎 に 行 う 必 要 がないために, 手 早 く 効 率 的 に 検 定 を 行 うことができる. 本 法 でも 段 階 希 釈 す<br />

ることで,ウイルスの 定 量 は 可 能 である.また,ウイルスタンパク 質 を 電 気 泳 動 したゲルをニトロセ<br />

ルースフィルターなどに 電 気 的 にうつし 取 ったものをウイルス 抗 血 清 と 反 応 させるウエスタンブロット<br />

法 というものもあり,ウイルス 特 異 的 なタンパク 質 の 特 性 解 明 に 役 立 つ.<br />

最 近 では 葉 や 茎 を 磨 砕 することなく,それらを 切 断 直 後 に 出 てくる 汁 液 をシートに 直 接 つけて 検 定 す<br />

る 手 法 -ティッシュブロット 法 も 考 案 されている.この 方 法 だと 磨 砕 する 必 要 はなくなるので, 一 定 量<br />

の 植 物 葉 を 一 定 量 の 緩 衝 液 を 加 えて 磨 砕 した 磨 砕 液 の 一 定 量 を 計 ってエライザプレートやシートにアプ<br />

ライするという, 手 間 と 時 間 が 短 縮 できる. 本 法 では 定 量 性 は 落 ちてしまうが, 最 終 反 応 の 濃 淡 である<br />

程 度 のウイルス 濃 度 の 比 較 は 可 能 である. 植 物 の 葉 や 茎 内 部 のウイルスの 分 布 状 況 を 検 定 する 際 には<br />

ティッシュブロット 法 が 有 効 である.<br />

リパ 法 (Rapid immuno-filter paper assay:RIPA 法 )は, 着 色 ラテックスを 結 合 させたウイルス 抗<br />

体 をろ 紙 の 一 部 に 塗 布 して 乾 燥 させておき,そのろ 紙 の 一 端 から 検 定 対 象 の 植 物 磨 砕 液 を 吸 わせて,そ<br />

のウイルスに 感 染 していれば,ラテックスが 集 まることでラテックスの 色 がろ 紙 の 上 で 肉 眼 で 見 えるよ<br />

うになることを 利 用 したウイルス 診 断 法 であり,pH 試 験 紙 の 感 覚 で 簡 易 に 利 用 できる. 今 日 では 多 く<br />

の 重 要 ウイルスについて RIPA 診 断 が 可 能 となっており, 日 本 植 物 防 疫 協 会 や Agdia 社 からそのキッ<br />

トが 市 販 されている.<br />

<br />

遺 伝 子 診 断 は 遺 伝 子 増 幅 法 とハイブリダイゼーション 法 に 大 別 され,それぞれがまたいくつかの 手 法 に 分 け<br />

られるが,ここでは, 診 断 のために 現 在 広 く 用 いられている PCR(Polymerase Chain Reaction) 増 幅 法 に<br />

ついてのみ 解 説 する. 比 較 的 簡 便 なマクロプレートでのハイブリダイゼーションを 用 いる 手 法 は,エライザ<br />

法 やダイバ 法 において 抗 血 清 の 代 わりに 核 酸 プローブを 用 いるような 感 じで 利 用 できるという 利 点 を 持 つが.<br />

その 解 説 についてはここでは 割 愛 する. 必 要 なら 37 ページの Maoka et al. の 論 文 等 を 参 照 されたい.ここ<br />

で 1 つだけ 紹 介 しておきたいのは 2012 年 に 出 された 論 文 についてであり,ハイブリダイゼーションのための<br />

プローブとして, 異 なる 10 種 のウイルスやウイロイドの 配 列 をタンデムにつないだリボプローブを 用 いて 10<br />

種 すべてを 安 定 して 検 出 できるという 報 告 である (Perio et al., 2012). 本 法 を 用 いれば 1 つのプローブだけで<br />

10 種 を 検 出 できるわけで, 今 後 のハイブリダイゼーション 利 用 法 の 新 しい 方 向 を 示 すものと 思 われる.<br />

ウイルス 感 染 植 物 から 何 らかの 手 法 ( 市 販 の 植 物 核 酸 抽 出 キットを 用 いることが 多 いので,その 詳 細 につ<br />

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いては 各 社 のマニュアルを 参 照 )によって 核 酸 成 分 を 抽 出 した 後 , 既 知 の 想 定 されるウイルスの 塩 基 配 列 の<br />

一 部 を 参 考 にして 作 成 した 短 い DNA(プライマーとよぶ)を 加 えた 遺 伝 子 増 幅 系 を 用 いて,DNA ウイルス<br />

ならはじめから PCR を 行 う.RNA ウイルスならまず 逆 転 写 (Reverse transcription, RT)を 行 って RNA を<br />

DNA に 変 換 した 後 で PCR を 行 う 必 要 があるので RT-PCR とよぶ.ウイルスによってこれらの 手 法 を 使 い 分<br />

けることで,DNA ウイルスでも RNA ウイルスでもウイルス 遺 伝 子 の 一 部 を 増 幅 することができる. 遺 伝 子<br />

増 幅 のためには, 耐 熱 性 の DNA 合 成 酵 素 を 加 えた 後 で, 温 度 を 繰 り 返 し 急 速 に 変 換 できる 恒 温 器 を 用 いて<br />

95℃,70℃,50℃ 程 度 の 温 度 での 短 時 間 処 理 を 40 回 程 くりかえす.このような PCR によって 特 定 の 遺 伝 子<br />

が 増 幅 されたことを 確 認 することにより,プライマー 配 列 の 元 となっていたウイルスが 感 染 していたと 判 定<br />

するのが,PCR による 遺 伝 子 診 断 である.RNA ウイルスの 場 合 には PCR の 前 に 逆 転 写 を 行 う 必 要 があるが,<br />

以 下 では, 特 に 区 別 が 必 要 な 場 合 を 除 いて RT-PCR も PCR と 区 別 しないで PCR とよぶこととする.<br />

遺 伝 子 の 増 幅 が 実 際 におきたかどうかは,その 反 応 産 物 の 一 部 をとって,アガロースゲルなどを 用 いての 電<br />

気 泳 動 を 行 った 後 で,Ethidium bromide などの 核 酸 染 色 剤 で 染 色 してから, 紫 外 線 照 射 下 でバンドが 見 える<br />

かどうかで 判 定 するのが 一 般 的 である.なお,Ethidium bromide は 変 異 原 であり, 紫 外 線 は 目 に 有 害 である<br />

ので, 注 意 して 取 り 扱 う 必 要 がある. 泳 動 の 際 に 分 子 量 マーカーを 入 れておけば,その 増 幅 産 物 のサイズも 確<br />

認 できる. 以 下 で 解 説 するように 増 幅 産 物 のサイズも 遺 伝 子 診 断 の 重 要 な 結 果 となる. 複 数 の 異 なる 植 物 から<br />

同 一 プライマーを 用 いて 同 様 なサイズの 増 幅 産 物 が 得 られた 時 には,それらの 産 物 を 制 限 酵 素 で 切 断 したもの<br />

を 泳 動 してそれらの 大 きさを 比 較 することによって, 複 数 の 植 物 が 同 じウイルス 株 に 感 染 していたかどうかを<br />

ある 程 度 まで 判 断 することも 可 能 である.この 手 法 は PCR-RFLP とよばれている.<br />

PCR で 遺 伝 子 の 増 幅 が 起 きると 白 濁 化 が 起 きるようにしておく PCR 系 も 開 発 されていて,これを 用 いれば<br />

ウイルス 感 染 の 有 無 は 反 応 後 の 電 気 泳 動 なしで 判 定 できるが,プライマーの 選 定 がやや 複 雑 である.また, 通<br />

常 の PCR では 感 染 植 物 中 のウイルス 濃 度 を 測 定 することはできないが,リアルタイム PCR を 用 いるとウイ<br />

ルス 密 度 も 定 量 することができる. 通 常 の PCR でも, 増 幅 に 用 いる 感 染 植 物 からの 核 酸 調 製 液 を 段 階 希 釈 し<br />

ておくことで,およそのウイルス 濃 度 を 推 定 することは 可 能 であるが,あくまでアバウトである.<br />

20 ~ 30 塩 基 がつながったプライマーとして 用 いる 2 種 の DNA の 配 列 は,ウイルスの 遺 伝 子 配 列 のどの 部<br />

分 を 用 いでも 良 い.20 ~ 30 個 の 塩 基 がつながったウイルスセンス 側 とそれに 相 補 的 なものの 両 方 をプライマー<br />

セットとしてプライマー 作 製 会 社 に 合 成 を 依 頼 することになるが, 現 在 では 比 較 的 安 価 で 入 手 できる. 一 般 に<br />

は,GC 含 量 が 高 すぎない 部 分 で, 反 復 配 列 のない 部 分 を 選 び,それ 自 身 では 高 次 構 造 をとりにくい 配 列 が 良<br />

いなどいくつかの 基 本 的 な 選 定 条 件 があるが, 結 局 はやってみて 増 幅 バンドが 得 られるかどうかであり,バン<br />

ドが 得 られなければどうしようもない.<br />

どのような 配 列 のプライマーを 用 いるかは 遺 伝 子 診 断 を 行 った 際 にえられる 結 果 にとってきわめて 重 要 とな<br />

る.どの 部 分 の 配 列 を 利 用 するかによって, 検 出 できるウイルスの 系 統 や 種 の 範 囲 が 決 定 されるばかりでな<br />

く, 反 応 の 特 異 性 や 容 易 さが 左 右 されるためである.さらに, 用 いるプライマーの 選 定 部 位 によって, 増 幅 さ<br />

れてくるウイルス 遺 伝 子 のひろがり 具 合 (スペクトラム)も 決 まってくる.プライマーのスペクトラムによっ<br />

て,あるウイルスの 特 定 系 統 のみ 検 出 するための 系 統 特 異 的 プライマー,ウイルス 種 ごとにすべての 既 知 の<br />

系 統 を 検 出 できる 種 特 異 的 プライマー, 複 数 の 種 を 検 出 できるグループ 特 異 的 プライマー, 属 特 異 的 プライ<br />

マー, 科 特 異 的 プライマーなどと 呼 ばれ, 目 的 に 応 じてデザインして 作 製 すれば,それぞれの 識 別 に 利 用 でき<br />

る.<br />

複 数 の 系 統 や 種 以 上 のものを 検 出 できるプライマーを 共 通 プライマーと 呼 び, 複 数 の 同 一 種 内 の 系 統 や 複 数<br />

の 種 以 上 のウイルスを 検 出 する 場 合 には,それらの 間 で 共 通 する 配 列 部 分 をプライマーとするか, 複 数 のプラ<br />

イマーを 作 製 して 混 合 して PCR に 用 いることとなる. 複 数 のプライマーセットを 用 いる 場 合 には 以 下 の 2 つ<br />

のやり 方 がある.<br />

一 つは, 複 数 の 検 定 対 象 となる 系 統 やウイルスがある 場 合 に,それらの 異 なる 配 列 部 分 の 塩 基 を 混 合 して 作<br />

製 する Degenerate primer 縮 重 プライマーを 使 う 方 法 であり, 一 度 で 数 種 ウイルスの 感 染 の 有 無 を 判 定 でき<br />

有 用 である. 混 合 塩 基 のアルファベット 表 記 は 統 一 されており, 表 6 の 下 の 方 に 示 しておいた.Degenerate<br />

primer を 用 いた RT-PCR によって,たとえウイルスを 厳 密 に 特 定 できなくとも,トスポウイルスであると<br />

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ウイルス 属 等 プライマー 名 称 と 配 列 産 物 のサイズ 文 献 特 徴 ・ 使 用 の 際 の 注 意<br />

<br />

ククモウイルス 共 通<br />

CPTALL-5 5‘-YASYTTTDRGGTTCAATTCC-3‘<br />

CPTALL-3 5’-GCCGATTTTACCAGTCAG-3’<br />

950bp Choi et al. (1999)<br />

CMV, PSV, TAV の3 種 に 共<br />

通<br />

トスポウイルス 共 通<br />

gM410 for F 5’-AACTGGAAAAATGATTYNYTTGTTCG-3’<br />

gM870c for RT 5’-ATTAGYTTGCAKGCTTCAATNAARGG-3’<br />

500bp Chen et al. (2012) 他 のプライマーセットも 有 り<br />

ファバウイルス 共 通<br />

Fab5’R1F 5’-AAATATTAAAACAAACAGCTTTCGTT-3’<br />

Fab5’R1R 5’-TTCAAAGCTCGTGCCATNTYATTKGC-3’<br />

320, 350, 390bp Ferrer et al. (2007)<br />

Gentian mosaic viruss も 検<br />

出 可<br />

BBWV-1, -2 共 通<br />

BBWVKMRM 5’-TDGWDCCATCVAGICKCATTTT-3’<br />

BBWVVSSP 5’-GTBTCDAGTGCTYTDGAAGG-3’<br />

320bp Kondo et al. (2005)<br />

イラルウイルス 共 通<br />

Ilar2F5 5’-TCRAYRTTYGAYAARTCNCA-3’<br />

Ilar2R9 5’-GGTTGRTTRTGHGGRAAYTT-3’<br />

380bp<br />

Untiveros et al.<br />

(2010)<br />

ネポウイルス A group 共 通<br />

NepoA-F 5’-ACDTCWGARGGTTAYCC-3’<br />

NepoA-R 5’-RATDCCYACYTGRCWIGGCA-3’<br />

340bp<br />

Wei and Clover<br />

(2008)<br />

ネポウイルス B group 共 通<br />

NepoB-F 5’-TCTGGTTTTGCYTTRACRGT-3’<br />

NepoB-R 5’-CTTRTCATVCCATCRGTAA-3’<br />

250bp<br />

Wei and Clover<br />

(2008)<br />

<br />

トバモウイルス 共 通 tobamo1 5’-TGATHAARMGDAAYWTBAAYDCDCC-3’<br />

tobamo2 for RT 5’-TTBGCYTCRAARTTCCA-3’<br />

850bp Gibbs et al. (1998)<br />

ポテックスウイルス 共 通 1<br />

ポテックスウイルス 共 通 2<br />

カルラウイルス 共 通<br />

potex2 for RT 5’-TCDGTRTTDGCRTCRAADGT-3’<br />

potex1 5’- CAYCARCARGCXAARGAYSA-3’<br />

potex5’ 5’-CAYCARCARGCMAARGAYGApotex1RC<br />

5’-TCAGTRTTDGCRTCRAARGT-3’<br />

potex2RC 5’-AGCATRGCNSCRTCYTG--3<br />

Caqr-F2b 5’-GGRCTDGGDGTVCCNACTGA-3’<br />

Car-R 5’-CCWCATYSRCTCSRCTWTGG-3’<br />

800bp Gibbs et al. (1998)<br />

600bp Rene et al. (2002) RT には2 種 類 混 合 して 使 用<br />

800-850bp Nie et al. (2008) ジャガイモ 感 染 ウイルスのみ<br />

ポティウイルス 共 通<br />

<br />

Potyvirid primer 2 5’-GGBAAYAAYAGYGGDCARCC-3’<br />

Gibbs and<br />

1,600 - 2,100bp<br />

Mackenzie (1997)<br />

Potyvirid primer 1 5’-CACGGATCCTTTTTTTTTTTTTTTTTV-3’ Gibbs et al. (2003)<br />

最 も 頼 りになるプライマー<br />

PSTVd & TCDVd<br />

MpPTC-F 5’-CGGTGGGGAGTGCCTC-3’<br />

MpPCT-F 5’-CGGTGGGGAGTGCCCT-3’<br />

MpPTA-F 5’-CGGTGGGGAGTGCCTA-3’<br />

RT 用 Mp-R 5’-TCAGGTGTGAACCACAGGAA-3’<br />

271bp :PSTVd<br />

191bp :TCDVd<br />

Matsushita et al.<br />

(2010)<br />

F 用 は3 種 混 合 使 用 とされて<br />

いるが,degenerate でもよ<br />

い 可 能 性 あり<br />

事 前 に 非 特 異 反 応 の 有 無 を 確<br />

認 する<br />

<br />

カウリモウイルス 共 通<br />

C4281 5’-WWGGRTTTTCWRAACWWACT-3<br />

840bp<br />

Caulimo3’cpF 5’-GAARRHCATTATGCMAAYGARTGTCCW-3’<br />

Pappu and Druffel<br />

(2009)<br />

ベゴモウイルス 共 通<br />

BM-V 5’-KSGGGTCGACGTCATCAATGACGTTRTAC-3’<br />

BM-C 5’-AARGAATTCATKGGGGCCCARARRGACTGGC-3’<br />

2,600 - 2,800bp<br />

Briddon and<br />

Markham (1994)<br />

プライマーの 配 列 が 報 告 された 以 降 に 見 つかったウイルスについては,これらのプライマーで 検 出 できるとは 限 らないので, 事 前 に 配 列 などで 確 認 するこ<br />

と.<br />

ATGC 以 外 の 文 字 は 以 下 の 縮 重 配 列 である:K=G or T, M = A or C, R=A or G, W= A or T, S= C or G, Y= C or T, B=C or G or T; V=A or C or G,<br />

H=A or C or T, D=A or G or T, N=A or G or C or T.<br />

-45-


かジェミニウイルスであるとかが 判 明 するだけで 防 除 対 策 がたてられることも 多 いことから,Degenerate<br />

primer を 用 いた 検 討 は 簡 便 でかつ 有 用 なことが 多 い.そこで,これまでに 報 告 されている 各 ウイルス 属 等 に<br />

共 通 な 代 表 的 プライマーの 具 体 例 を 表 6 に 示 す.<br />

もう 一 つの 方 法 は, 複 数 の 種 特 異 的 プライマーセットを 用 い, 増 幅 されてくるバンドのサイズをあらかじめ<br />

ウイルスによって 異 なるように 設 定 しておき, 増 幅 されてきたバンドのサイズからウイルス 種 まで 決 定 するこ<br />

とができるようにするものであり,Multiplex 法 と 呼 ばれている.これは 1 種 の 宿 主 植 物 に 複 数 の 異 なる 種 の<br />

ウイルスが 発 生 しているときには 一 度 の PCR で 複 数 のウイルスの 種 まで 特 定 できるので 有 効 な 手 法 で,ウイ<br />

ルス 種 ごとの 詳 しい 発 生 調 査 などの 際 にはきわめて 有 効 な 手 段 となる.なお,PCR 増 幅 の 際 には, 特 にアニー<br />

リングの 温 度 (プライマーの Tm 値 と 関 連 )や 各 プライマーの 濃 度 が 増 幅 の 特 異 性 やバンドの 濃 さに 大 きく<br />

影 響 してくる 場 合 もあるので 本 法 を 用 いる 場 合 には, 最 適 プライマー 濃 度 やプライマーの 一 次 構 造 などからの<br />

最 適 アニーリング 温 度 をきちんと 設 定 しておくことが 特 に 重 要 となる.<br />

PCR 増 幅 を 行 った 場 合 には, 得 られた 増 幅 産 物 の 塩 基 配 列 を 決 定 することによって,そのウイルスの 特 性<br />

についての 情 報 を, 血 清 学 的 診 断 の 場 合 よりたくさん 知 ることができる.たとえば, 外 被 タンパク 質 遺 伝 子 を<br />

増 幅 できるようなプライマーを 用 いた 場 合 には,その 増 幅 バンドの 塩 基 配 列 を 決 定 することによって, 配 列 既<br />

知 のウイルスと 比 較 することができ, 発 生 しているウイルスの 分 類 学 的 な 位 置 を 考 察 できる. 現 在 では,ウイ<br />

ルスの 分 類 には 外 被 タンパク 質 遺 伝 子 の 配 列 が 最 も 重 要 視 され, 頻 繁 に 用 いられ 多 くの 情 報 が 蓄 積 されている<br />

からである.また, 非 翻 訳 領 域 の 配 列 を 増 幅 してその 配 列 を 決 定 すれば, 種 を 越 えたより 大 きな 分 類 への 手 が<br />

かりをえることもできる.このような 点 が,PCR 増 幅 による 遺 伝 子 診 断 の 利 用 が 血 清 診 断 を 超 えた 利 点 であ<br />

り, 遺 伝 子 診 断 の 利 用 が 増 えてきている 理 由 でもある.<br />

一 方 ,PCR では 試 薬 キットや 機 器 にコストがかかる, 電 気 泳 動 したあとで 特 殊 な 染 色 剤 で 染 色 して, 紫 外<br />

線 をあてないと 結 果 がわからないなどの 欠 点 がある.これらの 点 は 最 近 は 一 部 改 良 されてきており, 次 の 簡 易<br />

診 断 キットでもその 工 夫 が 見 られる 物 がある.PCR 機 も 最 近 はかなり 廉 価 になってきており,ごく 最 近 になっ<br />

て 22 万 円 程 度 の 機 器 が 市 販 されたとのことである. 上 で 述 べたように 通 常 の PCR では,ウイルスの 定 量 は<br />

ほとんどできない.その 欠 点 を 補 うために 開 発 された 定 量 PCR という 手 法 があるが,それについては,その<br />

ために 用 いる 試 薬 や 機 器 によって 異 なる 点 も 多 いので, 各 種 キットや 機 器 を 販 売 している 各 社 のマニュアルを<br />

参 照 されたい.また, 本 章 で 説 明 したこと 以 外 の PCR についての 情 報 や 具 体 的 なプロトコールについては,<br />

37 ページに 紹 介 したウイルス 検 定 マニュアル HP 等 を 参 照 されたい.<br />

<br />

簡 易 診 断 キットは 基 本 的 には 上 の 2 種 の 診 断 法 , 血 清 学 的 診 断 法 か 遺 伝 子 診 断 法 のいずれかを 利 用 したもの<br />

<br />

名 称 メーカー 利 用 原 理 価 格 反 応 時 間 対 象 ウイルス<br />

蘭 のウイルス 診 断 キット 日 本 植 物 防 疫 協 会 血 清 反 応 5 回 で5,250 円 5 分 ランウイルス2 種<br />

Immuno-strip Agdia 社 血 清 反 応 25 回 で19,000 円 5-30 分 ウイルス 別<br />

SDV クロマト ミズホメディー 血 清 反 応 10 回 で11,000 円 15 分 温 州 萎 縮 ウイルス<br />

PPV 検 出 キット ニッポンジーン 血 清 反 応 50 回 で28,000 円 15 分 ウメ 輪 紋 ウイルス<br />

PPV 検 出 キット ニッポンジーン 遺 伝 子 診 断 48 回 で47,900 円 60 分 ウメ 輪 紋 ウイルス<br />

TYLCV 検 出 キット ニッポンジーン 遺 伝 子 診 断 50 回 で33,300 円 60 分 トマト 黄 化 葉 巻 ウイルス<br />

CCYV 検 定 試 薬 日 本 植 物 防 疫 協 会 血 清 反 応 1 千 ウエル 用 で21,000 円 1-2 日 ウリ 類 退 緑 黄 化 ウイルス<br />

TSWV 検 定 試 薬 日 本 植 物 防 疫 協 会 血 清 反 応 2.5 千 ウエル 用 で50,000 円 1-2 日 トマト 黄 化 えそウイルス<br />

エライザキット 日 本 植 物 防 疫 協 会 血 清 反 応 2.5 千 ウエル 用 で44,000 円 1-2 日 多 数 の 植 物 ウイルス<br />

エライザキット Agdia 社 血 清 反 応 不 明 : 和 光 純 薬 1-2 日 多 数 の 植 物 ウイルス<br />

ウイルス 抗 血 清 ATCC 血 清 反 応 不 明 : 住 商 ファーマ 1-2 日 多 数 の 植 物 ウイルス<br />

ウイルス 抗 血 清 日 本 植 物 防 疫 協 会 血 清 反 応 2.5 千 ウエル 用 で25,000 円 1-2 日 多 数 の 植 物 ウイルス<br />

ウイルス 抗 血 清 Agdia 社 血 清 反 応 不 明 : 和 光 純 薬 1-2 日 多 数 の 植 物 ウイルス<br />

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で,それらの 操 作 を 簡 便 化 したものである. 現 在 では 多 くのものが 市 販 されているので, 代 表 的 なものを 表 7<br />

に 示 しておいた.それらの 中 から 使 用 目 的 や 検 定 数 及 びコスト 等 の 条 件 によって 選 んで 使 うことになる.これ<br />

らの 簡 易 キットは, 少 数 の 検 定 の 場 合 には 結 果 が 安 定 しているものが 多 く 有 用 であるが, 判 定 結 果 の 解 釈 をま<br />

ちがわないために 原 理 をよく 理 解 してから 使 うようにすべきである.この 表 に 掲 載 しているもの 以 外 にもいろ<br />

いろな 種 類 のキットがたくさんあるので, 各 社 に 問 い 合 わせられたい.<br />

<br />

未 知 のウイルスというのは 新 規 ウイルスのことで, 既 知 のウイルスとかなり 類 縁 関 係 が 遠 いウイルスで, 既<br />

存 の 抗 血 清 による 診 断 ができなかったり, 既 知 ウイルスのプライマーによって 検 出 できないウイルスをさす.<br />

それを 診 断 するというのはちょっとおかしい 感 じがするので,ここでは 特 定 という 言 葉 を 使 うこととする.も<br />

ちろん, 新 規 ウイルスでも 種 々の 純 化 精 製 法 を 検 討 してきちんと 精 製 して 研 究 を 進 めていくのが 一 番 のぞまし<br />

いことであるが, 一 度 やってみるとわかるように 新 規 ウイルスではこの 正 道 を 歩 むのはかなり 大 変 である.ど<br />

のようなウイルスであるか 見 当 をつけることができればこの 種 の 研 究 は 大 きく 進 展 することとなる.そのため<br />

のヒントをここでは 紹 介 する.これまで 述 べてきた 手 法 はすべて 対 象 が 既 知 のウイルスと 同 一 種 であるか, 比<br />

較 的 近 縁 なウイルスの 場 合 には 有 効 であるが, 既 知 のウイルスとかなり 離 れたウイルスや 全 く 新 規 なウイルス<br />

である 場 合 には 役 に 立 たないことが 多 いのである. 各 種 の 検 定 植 物 での 病 徴 から,どのウイルスに 近 いかが 推<br />

定 できる 場 合 には,その 想 定 されるウイルス 種 を 含 む 表 6 に 揚 げた 共 通 プライマーを 用 いることで, 新 規 ウイ<br />

ルスでも 増 幅 断 片 をえることができる 場 合 もあるので, 是 非 試 していただきたい.これらのプライマーは, 特<br />

に 種 の 多 いジェミニウイルスやポティウイルスでは 幅 広 く 活 用 できることがすでに 確 認 されている. 増 幅 断 片<br />

が 得 られれば,その 塩 基 配 列 を 知 ることができ,そのウイルスの 分 類 学 的 所 属 や 特 性 解 明 ,それに 確 実 な 診 断<br />

法 の 開 発 は 大 きく 進 むこととなる.<br />

植 物 ウイルスであると 思 われるのに, 既 存 の 各 種 抗 血 清 を 用 いても 反 応 しないときや 共 通 プライマーを 用 い<br />

た PCR でバンドが 出 ない 時 には, 以 下 のように PEG 濃 縮 でうまくいくことある. 酸 化 防 止 剤 を 加 えて 作 製<br />

した 感 染 葉 磨 砕 液 をウイルスの 感 染 性 を 低 下 させない 有 機 溶 媒 等 で 処 理 後 に, 低 速 遠 心 して 得 た 上 清 に,10%<br />

程 度 のポリエチレングリコール(PEG)を 加 えて 氷 冷 した 後 で 低 速 遠 心 して 得 た 沈 殿 を, 少 量 の 20 mM 程 度<br />

の 中 性 リン 酸 緩 衝 液 に 完 全 に 溶 解 する.PEG を 加 える 前 に 1% 程 度 のトライトン X-100 を 加 えておくと 植 物<br />

由 来 の 膜 成 分 等 が 除 去 されて 濃 縮 試 料 がきれいになるばかりでなく,ウイルスによってはウイルス 密 度 が 高 ま<br />

ることがある.CMV などでは 再 懸 濁 液 に 少 量 の EDTA を 加 えておくとよいが,EDTA で 解 離 してしまうウ<br />

イルスでは 加 えない. 再 懸 濁 液 の 泡 立 ちが 激 しい 場 合 やトライトンが 次 のステップの 反 応 を 阻 害 する 心 配 があ<br />

る 場 合 には, 沈 殿 を 溶 かさないように 再 懸 濁 液 を 静 かに 加 えて 沈 殿 の 周 囲 を 洗 浄 し,その 洗 浄 液 を 慎 重 に 完 全<br />

に 取 り 除 いてから, 新 たに 再 懸 濁 液 を 加 えて 沈 殿 を 溶 かす.また 再 懸 濁 液 の 濁 りが 激 しい 場 合 には,もう 一 度<br />

低 速 遠 心 を 行 って 沈 殿 を 除 いてから, 次 の 解 析 に 進 むとよい.<br />

こうして 得 られた 試 料 を 電 気 泳 動 で 分 離 解 析 してウイルス 核 酸 のおよその 大 きさと 成 分 数 を 知 ることで, 対<br />

象 ウイルスがどんなウイルスに 近 いかを 推 定 することができる. 多 くの 植 物 ウイルスの 場 合 には,その 核 酸 成<br />

分 の 数 がいくつあるかが 判 明 すれば,おおよそのウイルス 同 定 のための 大 きな 助 けとなるからである. 研 究 対<br />

象 としている 未 知 のウイルスが,ポティウイルスであるなら 泳 動 度 の 小 さなところに 1 本 のバンド,トバモウ<br />

イルスならポティウイルスより 早 く 泳 動 する 1 本 のバンド,ククモウイルスや AMV ならトバモウイルスより<br />

先 に 泳 動 する 3-4 本 のバンド(いずれも 大 きい 2 成 分 の 分 離 がよくないことが 多 いため),BBWV やネポウイ<br />

ルスなら 離 れた 2 本 のバンドが 現 れる.サテライト RNA を 含 む CMV ではかなり 早 く 泳 動 するバンドの 数 が<br />

1 本 増 える( 図 7). 同 じ 数 のバンドとなるウイルスであっても 属 が 異 なれば 相 対 的 な 泳 動 度 が 異 なるので, 識<br />

別 可 能 な 場 合 もある. 泳 動 するときには,CMV と TMV は 対 照 レーンで 同 時 に 流 しておく.これらがないと<br />

きには 核 酸 の 分 子 量 マーカーをいれておくことで,おおよそのウイルス 核 酸 の 大 きさを 推 定 できる. 核 酸 の 成<br />

分 数 ばかりでなく,そのサイズも 同 定 の 重 要 な 助 けとなるのである.<br />

なお, 通 常 は 部 分 純 化 試 料 にはウイルス 粒 子 が 含 まれているために, 核 酸 抽 出 処 理 を 行 ってからでないと,<br />

ウイルス 核 酸 の 泳 動 を 行 うことはできない.そこで, 試 料 からの 核 酸 抽 出 を 行 う 手 間 を 省 くとともに,それ<br />

に 伴 うロスを 減 らすために, 以 下 のように Sodium dodecyl sulfate (SDS)を 用 いるとよい. 電 気 泳 動 緩 衝 液<br />

-47-


に 0.1%SDS をいれておき, 泳 動 する 前 に 15 分<br />

程 度 予 備 泳 動 を 行 ってゲル 内 に SDS を 入 れてお<br />

く. 各 試 料 にも 0.5-1% 程 度 の SDS をあらかじめ<br />

加 えておき,ネポウイルスなどのようにウイル<br />

ス 粒 子 がこわれにくいものでは 70℃ 程 度 での 5<br />

分 間 の 熱 処 理 をしておくとよい.なお,SDS は<br />

Ethidium bromide による 核 酸 の 染 色 を 阻 害 する<br />

ので, 泳 動 終 了 後 はゲルを 蒸 留 水 中 で 軽 く 浸 透 し<br />

ながらの 洗 浄 を 2 回 行 ってから 染 色 することが 重<br />

要 である.<br />

同 じウイルスの 異 なる 系 統 の 識 別 など,より 詳<br />

細 な 違 いを 検 討 したいときには, 本 法 においてア<br />

ガロースゲルではなく,より 細 かい 泳 動 度 の 違 い<br />

が 明 確 になるアガロースとアクリルアミドから<br />

なる 複 合 ゲルを 用 いるとよい 場 合 もある( 図 7).<br />

これは 通 常 のウイルス 核 酸 の 分 離 に 好 適 な 2% 程<br />

度 のアクリルアミドゲル 単 独 では 強 度 が 弱 く 扱 い<br />

にくいので, 強 度 を 高 めるために 0.8% 程 度 のア<br />

ガロースを 混 合 して 用 いる 泳 動 であり, 他 の 点 で<br />

は 通 常 の 電 気 泳 動 と 変 わらない. 泳 動 度 が 近 接 し<br />

ているために 通 常 のアガロースゲルでは 分 離 が 不<br />

<br />

十 分 な CMV-RNA の 大 きい 方 の 2 成 分 も,この 複 合 ゲ ル を 用 い て SDS を 加 え て CMV を 泳 動 し た.P:<br />

複 合 ゲルでは 分 離 がよくなることが 確 認 されてお<br />

CMV-P, E1 と E2:CMV-E, A1 と A2:CMV-A. P のみ 一 番<br />

下 のサテライト RNA を 含 んでいない .<br />

り, 系 統 によっては 系 統 間 の 識 別 も 可 能 となる.<br />

なお,わずかな 違 いしかないものの 比 較 を 行 う 際<br />

には,ウイルス 試 料 中 のウイルス 濃 度 が 高 すぎると 分 離 が 不 十 分 になるので, 最 適 な 密 度 を 事 前 にチェックし<br />

てから 行 うようにする.この 試 料 濃 度 の 事 前 チェックは 電 気 泳 動 に 限 らず 他 の 種 々の 比 較 を 行 う 時 にも, 大 切<br />

なポイントのひとつである.もちろん,アガロースやアクリルアミドの 最 適 濃 度 もあるので, 細 かい 比 較 のた<br />

めにはさまざまなファクターについて 最 適 化 を 検 討 しておくことが 必 要 となる.<br />

同 様 なウイルス 濃 縮 試 料 を 用 いての 解 析 を 10% 程 度 のアクリルアミドゲルを 用 いた 電 気 泳 動 で 行 って,タ<br />

ンパク 質 レベルで 検 定 してみることもウイルスの 特 定 に 役 立 つこともある.ただし, 残 念 ながら 植 物 ウイルス<br />

は 外 被 タンパク 質 (CP)は 1 成 分 のものが 殆 どであり,かつ 健 全 植 物 の 大 量 に 含 まれる Rubisco と 類 似 の 大<br />

きさのものも 多 いために,あまり 多 くの 情 報 はえられないというのがタンパク 質 レベルでの 解 析 による 通 常 の<br />

結 果 である.しかし,CP を 2 種 類 持 つ SqMV をはじめとしたコモウイルスの 大 半 や BBWV を 含 むファバウ<br />

イルス,1 種 類 のみでも 大 きな CP を 持 つネポウイルス,トバモウイルスのように 特 に 小 さな CP をもつもの<br />

では,タンパク 質 泳 動 はウイルス 属 の 特 定 に 有 用 である.<br />

感 染 葉 から 核 酸 を 抽 出 して,それに 含 まれているウイルス 核 酸 を 直 接 , 電 気 泳 動 で 分 離 検 出 して, 上 の 部 分<br />

濃 縮 ウイルスを 用 いた 方 法 と 同 様 に 解 析 することも 可 能 である.しかし, 全 核 酸 を 用 いた 場 合 には 健 全 植 物 由<br />

来 の 核 酸 成 分 がウイルス 核 酸 と 同 様 な 位 置 に 泳 動 されてきて, 解 析 のじゃまをすることが 多 い.それを 防 ぐた<br />

めには,ウイルス 感 染 植 物 細 胞 内 に 形 成 されるウイルス 特 異 的 2 本 鎖 核 酸 を 濃 縮 するとよい.その 詳 細 につい<br />

ては 脇 本 (1993)に 掲 載 された 実 験 法 を 参 照 されたい.ウイロイドは 感 染 植 物 での 濃 度 が 低 いが, 外 被 タンパ<br />

ク 質 を 持 たないために,PEG 遠 心 で 部 分 濃 縮 (47 ページ 参 照 )することはできない.しかし,RNA として<br />

強 い 高 次 構 造 を 有 しているので 2 本 鎖 RNA の 精 製 法 と 同 様 な 手 法 で 濃 縮 することができる.<br />

<br />

最 近 になって, 次 世 代 シーケンスによって 従 来 の 手 法 では 特 定 できなかった 病 原 ウイルスを 特 定 できたとい<br />

-48-


う 報 告 ,また,ディープシーケンシングの 利 用 によってこれまでに 見 つかっていなかった 新 しいウイルスが 見<br />

つかったという 報 告 が 出 されるようになってきている. 特 にこれまで 病 原 を 特 定 できにくかった 果 樹 のウイル<br />

スやウイロイドでは, 本 法 は 強 力 な 助 けになると 思 われるが,ここではその 詳 細 は 割 愛 する.その 手 法 の 詳 細<br />

や 解 説 は 最 近 の 文 献 を 参 照 されたい(Adams et al., 2009 ; Studholme et al., 2009).<br />

次 世 代 シーケンサーによって 得 られた 膨 大 かつ 比 較 的 短 い 配 列 データの 山 から 既 知 の 配 列 を 除 き, 残 った 配<br />

列 を 対 象 としてデータベース 検 索 とつなぎ 合 わせによって 新 規 ウイルス 様 配 列 が 得 られたからといって,それ<br />

だけで,それが 病 害 の 原 因 となっているウイルスであるということを 断 定 することはむろんできない.もちろ<br />

ん,ウイルスの 精 製 や 単 離 が 困 難 であったために 取 り 残 されていたものもありうるのであるが.これから 次 世<br />

代 シーケンスによって 見 出 されてくる 新 規 ウイルス 様 配 列 については,その 単 離 やそれが 真 の 病 原 であること<br />

の 証 明 は 困 難 なものが 多 いと 思 われる.しかし, 伊 藤 ら(2012)が 果 樹 に 関 して 報 告 しているように, 新 たに<br />

検 出 されたウイルス 様 配 列 が 接 ぎ 木 で 健 全 植 物 に 伝 染 することを 証 明 しながら 進 めていくという 方 法 は,これ<br />

らの 困 難 に 立 ち 向 かうための 比 較 的 簡 便 でかつ 有 効 な 手 法 となると 思 われる. 草 本 植 物 のウイルスに 対 しても<br />

この 接 ぎ 木 手 法 は 有 効 と 思 われ, 今 後 の 次 世 代 シーケンスと 接 ぎ 木 等 を 利 用 した 感 染 性 の 証 明 による, 新 規 ウ<br />

イルスの 発 見 競 争 に 大 いに 期 待 したい.<br />

<br />

<br />

植 物 ウイルスは 研 究 者 個 人 が 必 要 な 間 だけ 使 うものであれば, 特 に 長 期 の 保 存 は 考 えなくてよいと 思 われ<br />

る.しかし, 研 究 者 が 分 離 し 特 性 を 調 べて 解 析 したウイルスは,その 後 になっていろいろな 役 に 立 つことを 忘<br />

れないでほしいのである.たとえば,その 後 になって 見 つかってくるウイルスとの 塩 基 配 列 や 各 種 特 性 の 比<br />

較 , 各 種 品 種 での 病 徴 や 増 殖 度 の 比 較 など,ウイルスの 解 析 や 防 除 対 策 のためにいろいろな 情 報 が 必 要 となっ<br />

てくる.その 際 に, 過 去 の 類 似 ウイルスとの 比 較 解 析 が, 新 発 生 ウイルスの 更 なる 特 性 解 明 や 防 除 に 直 接 つな<br />

がってくるのである.ウイルスを 分 離 した 研 究 者 本 人 が 以 下 に 解 説 する 方 法 できちんと 保 存 しておいてくれた<br />

なら,しばらくの 間 はそのウイルスを 分 譲 してもらえる 可 能 性 はある.しかし, 時 間 が 経 つとそのような 幸 運<br />

はありえないであろう.また,「しばらく」とはどれくらいの 期 間 なのか 実 際 にはわからないのである.した<br />

がって,どこかきちんと 長 期 保 存 ができるところでウイルスを 保 存 しておく 必 要 がある.そのための 機 関 が<br />

ジーンバンク 微 生 物 部 門 である.ここでは, 研 究 者 自 身 におこなっておいて 頂 きたい 比 較 的 簡 単 な 保 存 方 法 と<br />

ジーンバンクでの 実 際 に 行 っている 長 期 保 存 方 法 について 詳 しく 紹 介 する.<br />

植 物 ウイルスの 保 存 には 以 下 のような 方 法 がある.まず, 用 いる 素 材 によって 感 染 葉 の 乾 燥 葉 保 存 , 感 染 葉<br />

の 磨 砕 液 保 存 および 純 化 ウイルス 保 存 に 分 けられる.そして 保 存 方 法 により, 乾 燥 葉 保 存 , 凍 結 乾 燥 保 存 , 真<br />

空 乾 燥 保 存 , 凍 結 保 存 , 液 体 窒 素 保 存 に 分 類 される. 一 般 には, 感 染 葉 やその 磨 砕 液 の 中 で 安 定 して 感 染 性 を<br />

保 持 できるウイルスほど 長 期 保 存 に 耐 えうるといってよい.<br />

最 初 に 見 つけたウイルスに 感 染 していた 植 物 ( 原 株 )をそのまま 生 かして 置 いておくのが, 簡 単 かつ 有 効 な<br />

<br />

<br />

<br />

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-49-


保 存 方 法 であると 思 われるかもしれない.しかし, 現 実 には, 原 株 は 他 のウイルスにも 感 染 している 可 能 性 が<br />

あること, 生 きた 植 物 体 内 ではいつウイルスに 変 異 が 生 じるかわからないこと,ウイルス 濃 度 が 時 間 の 経 過 と<br />

ともに 低 下 する 可 能 性 があること, 他 のウイルスが 混 入 する 危 険 性 が 常 にあることなどの 点 から, 原 株 のその<br />

ままの 保 存 は 推 奨 できないのである.もちろん, 以 下 にのべる 方 法 でも 変 異 や 他 ウイルスの 混 入 などは 生 じる<br />

可 能 性 があるので,その 点 については 常 に 念 頭 においておき, 多 少 でも 異 常 が 認 められた 場 合 にはすぐに 一 つ<br />

前 に 戻 って 変 異 や 異 常 のないウイルスを 保 存 しなおすことが 肝 要 である.<br />

保 存 に 用 いる 感 染 葉 として 適 しているのは,すべての 方 法 を 通 じて 以 下 のものである. 窒 素 をやや 多 めに 与<br />

えて 柔 らかめに 育 てた 大 きくなりすぎていない 植 物 の, 若 い 方 の 葉 の 複 数 枚 に 接 種 したものであること.ま<br />

た, 接 種 後 あまりに 日 数 が 経 過 した 葉 ではウイルス 濃 度 が 低 下 していることも 多 いので, 発 病 後 の 適 切 な 時 期<br />

に 採 取 した 葉 であることである. 病 徴 が 出 るものでは 病 徴 が 明 瞭 な 部 位 のみを 選 んでおくことが 重 要 である.<br />

CMV やトスポウイルスなどでは, 一 般 に 病 徴 が 出 始 めたころ 採 葉 して 保 存 すると 良 いが,ポティウイルスな<br />

どでは,ウイルスの 増 殖 が 遅 いために, 病 徴 が 出 た 直 後 の 葉 を 保 存 すると 感 染 性 がきわめて 低 くうまくいかな<br />

い 場 合 もあるので 注 意 する.ウイルスによって 保 存 に 最 適 な 時 期 が 異 なるのである.いずれにしても 採 取 後 に<br />

速 やかに 保 存 した 葉 を 検 定 植 物 に 接 種 して 病 原 性 を 確 認 しておくことが 絶 対 に 必 要 である.<br />

<br />

乾 燥 葉 を 用 いた 保 存 法 が 最 も 簡 便 であり, 比 較 的 安 定 なウイルスであればこれでよい.TMV などでは 問 題<br />

なくこの 方 法 で 可 能 である. 大 切 なことは, 保 存 材 料 として 十 分 に 対 象 ウイルスが 増 殖 しているウイルス 濃 度<br />

の 高 い 新 鮮 な 葉 を 用 いることである.トバモウイルスでは 風 乾 した 葉 を 用 いればよく,あまり 細 かい 点 は 気 に<br />

しなくてよいが, 水 分 が 多 いと 腐 敗 しやすくなってよくないので 注 意 する.また, 他 のウイルスへのコンタミ<br />

ネーションの 原 因 となるので,その 扱 いには 注 意 する.ククモウイルスでは, 風 乾 葉 ではどのくらいのあいだ<br />

感 染 性 を 保 持 できるか 心 許 ない.そこで,ククモウイルスでは 感 染 葉 を 細 長 く 刻 んで 紙 などでくるみ,シリカ<br />

ゲルや 炭 酸 カルシウムなどの 乾 燥 剤 とともに 袋 にいれて, 葉 の 内 部 までよく 乾 燥 するように 注 意 するなど,ウ<br />

イルス 濃 度 の 高 い 感 染 葉 を 十 分 に 乾 燥 した 状 態 で 保 存 することが, 長 期 安 定 保 存 には 重 要 である. 乾 燥 剤 は 吸<br />

水 によって 色 が 変 わるようなものを 用 い, 色 が 少 し 変 わってきたら 早 めに 新 しい 乾 燥 剤 と 交 換 する.<br />

保 存 中 は,しっかりと 封 のできる 袋 や 箱 に 入 れておく. 冷 蔵 庫 に 入 れておくのが 望 ましい.トバモウイルス<br />

なら 湿 気 の 多 いところや 高 温 にならない 部 屋 であれば 通 常 の 室 内 で 数 年 間 程 度 の 保 存 なら 問 題 ない.しかし,<br />

トバモウイルスといえども 直 射 日 光 や 高 温 はもちろん 禁 物 である.<br />

<br />

アスコルビン 酸 などの 酸 化 防 止 剤 を 1 % 程 度 添 加 した 中 性 のリン 酸 緩 衝 液 で 感 染 葉 を 磨 砕 した 液 をアンプ<br />

ルやきちんとふたのできるチューブなどに 小 分 けして, 凍 結 保 存 することによって, 長 期 間 安 定 して 保 存 でき<br />

るウイルスもある. 液 状 とすることによって, 感 染 葉 を 細 切 してアンプルなどにいれる 手 間 や 時 間 を 大 きく 減<br />

らすことが 可 能 となる. 保 存 のために 感 染 葉 を 磨 砕 する 際 に,ウイルスの 種 類 に 応 じて 表 8 のような 添 加 物 を<br />

加 えておくと, 多 くのウイルスでその 保 存 性 が 高 まることがわかっている( 福 本 , 1987). 対 象 ウイルスに 応<br />

じてリジン,ぶどう 糖 ,またはしょ 糖 を 0.5 ~ 5% 程 度 を 添 加 するとよい.ペプトンは 0.5%,グリセリンは<br />

3%(V/V),ビタミン C は 1%が 有 効 とされている.なお,グリセリンを 使 用 する 場 合 は, 古 くなったものや<br />

等 級 の 低 いものはウイルスを 失 活 させてしまう 危 険 があるので, 新 しい pH が 中 性 付 近 の 特 級 以 上 ものを 使 う<br />

のがポイントである.<br />

<br />

ウイルス 濃 度 を 一 定 にして 再 現 性 の 高 い 試 験 などを 行 う 時 には,ウイルスを 純 化 精 製 して 定 量 し,その 濃 度<br />

を 測 定 して 一 定 濃 度 で 分 注 したものを 冷 凍 保 存 や 凍 結 乾 燥 保 存 しておくと 便 利 である.ウイルスの 感 染 性 を 定<br />

量 比 較 する 際 の 絶 好 の 対 照 として 利 用 できるからである.その 際 にはウイルスの 活 性 が 低 下 しないような 条 件<br />

で 保 存 しておく 必 要 があるので, 福 本 (1987)がまとめた 表 8 の 添 加 物 を 利 用 するとよい.ポティウイルスで<br />

はリジン,ククモウイルスならショ 糖 という 具 合 である. 保 存 に 有 効 なことが 判 明 しているこれらの 添 加 物 を<br />

混 合 して 添 加 しておくと, 多 くのウイルスの 保 存 に 有 効 な 添 加 物 となると 思 われる.<br />

-50-


ウイルス 名 凍 結 保 存 で 有 効 添 加 物 凍 結 乾 燥 保 存 で 有 効 な 添 加 物 備 考<br />

CMV(ククモウイルス 属 ) N T しょ 糖 ,イノシトール TAV,PSV も 同 様<br />

TBRV(ネポウイルス 属 ) ペプトン,グリセリン しょ 糖 ,イノシトール,ペプトン<br />

ArMV(ネポウイルス 属 ) N T ソルビトール,ぶどう 糖 TBRV も 同 様<br />

AMV(アルフモウイルス 属 ) しょ 糖 ,ペプトン,グリセリン しょ 糖 ,イノシトール<br />

RMV(コモウイルス 属 ) ペプトン,グリセリン ソルビトール,ぶどう 糖 ,ビタミンC<br />

SqMV(コモウイルス 属 ) N T ソルビトール,リジン,ビタミンC<br />

CaMtV(カルモウイルス 属 ) ペプトン,グリセリン リジン,しょ 糖 ,ペプトン<br />

SBMV(ソベモウイルス 属 ) ペプトン,グリセリン リジン<br />

TuMV(ポティウイルス 属 ) ペプトン<br />

リジン,ペプトン<br />

TSWV(トスポウイルス 属 ) しょ 糖 ,グリセリン<br />

システイン<br />

NT, 未 調 査<br />

a) 福 本 (1987)を 改 変 したもので, 使 用 濃 度 は0.5 ~ 5% ( 各 添 加 物 の 推 奨 使 用 濃 度 は50ページを 参 照 ).<br />

<br />

通 常 の 植 物 ウイルスの 長 期 保 存 には 真 空 乾 燥 が 最 適 な 方 法 であるが, 真 空 凍 結 乾 燥 機 および 感 染 葉 を 詰 める<br />

硬 質 ガラスアンプルが 必 要 となる. 硬 質 ガラスアンプルは 継 ぎ 目 があるとその 部 分 から 空 気 がもれやすいの<br />

で, 継 ぎ 目 のないものが 望 ましいが, 継 ぎ 目 なしアンプルでは 小 さいために 中 に 入 れられる 感 染 葉 の 量 が 少 な<br />

いので 不 便 なこともある.<br />

真 空 乾 燥 には 一 般 にウイルス 感 染 葉 を 利 用 する. 上 で 述 べたようにして 作 製 したウイルス 濃 度 の 高 い 感 染 葉<br />

を 細 長 く 切 って,ガラスアンプルに 詰 めて, 真 空 凍 結 乾 燥 機 でまず 低 温 条 件 下 で 真 空 にしておくことで 十 分 に<br />

乾 燥 したのち, 真 空 条 件 下 で 溶 封 したものは, 長 期 間 にわたって 安 定 してウイルス 活 性 を 保 持 できることか<br />

ら, 植 物 ウイルスの 長 期 安 定 保 存 に 広 く 利 用 されている. 図 8 に 代 表 的 な 真 空 凍 結 乾 燥 機 および 具 体 的 な 真 空<br />

乾 燥 の 手 順 を 示 す.ウイルスの 長 期 安 定 保 存 のためには 注 意 すべきことがいくつもあるので, 以 下 に 実 際 に 真<br />

空 乾 燥 を 行 う 際 に 注 意 すべき 点 を 記 しておく.<br />

◎ 保 存 の 材 料 として, 十 分 にウイルス 活 性 の 高 い 新 鮮 な 若 い 葉 を 用 いることが 重 要 である. 一 般 的 には 病<br />

徴 が 出 始 めたばかりの 葉 が 最 適 だが,ウイルスによっては 病 徴 が 出 てからしばらく 経 過 しないと 感 染 性<br />

が 低 いウイルスもあるので 注 意 が 必 要 である. 扱 ったことのない 新 しいウイルスを 扱 う 時 にはその 点 を<br />

事 前 にチェックしておくことが 重 要 である. 取 り 違 えのないように,アンプルには 中 にいれる 試 料 の 情<br />

報 が 書 かれたラベルをあらかじめ 貼 っておく.<br />

◎ アンプルにいれる 葉 はできるだけ 細 長 く 切 ったものとすること. 大 きな 葉 を 丸 ごと 無 理 矢 理 にアンプル<br />

内 にいれるのでは, 傷 がついて 植 物 細 胞 が 壊 されてしまう 上 に, 試 料 の 乾 燥 が 不 十 分 ・ 不 均 一 となって<br />

しまい,ウイルスの 感 染 性 を 保 持 できなくなるからである.アンプルにいれる 葉 の 量 は 多 すぎては 乾 燥<br />

が 不 十 分 となりやすい 上 に 相 互 にすれあって 傷 がつきやすいためよくないので,ウイルスがよく 増 えた<br />

若 い 葉 を 適 量 入 れるようにする.<br />

◎ 水 分 をとばすための 真 空 吸 引 は 低 温 で 行 い,1 晩 程 度 は 継 続 して 行 う.<br />

◎ アンプルを 溶 封 する 時 に, 感 染 葉 の 入 ったアンプルを 多 岐 管 に 付 け 替 えることがあるが,その 際 には 付<br />

け 替 えた 後 も 十 分 に 真 空 が 上 がってから 溶 封 を 開 始 し, 溶 封 している 間 に 空 気 漏 れがおきないように 注<br />

意 すること. 溶 封 のためにガスバーナーなどを 使 用 することになるが,バーナーの 熱 をアンプル 内 の 感<br />

染 葉 にできるだけあてないようにする.もちろん,やけどをしないように 十 分 に 注 意 する. 特 に 溶 封 直<br />

後 のアンプルは 一 瞬 さわるだけで 激 しいやけどをするほど 熱 いので, 十 分 にさましてから 次 の 作 業 に<br />

移 るようにする.<br />

◎ 十 分 に 冷 ました 溶 封 アンプルを, 袋 に 小 分 けして,- 70℃から- 20℃の 冷 凍 庫 に 保 存 すること.これ<br />

らの 冷 凍 庫 がないときは, 冷 蔵 庫 でも 保 存 可 能 であるが,その 保 存 可 能 期 間 は 冷 凍 庫 の 場 合 より 短 くな<br />

-51-


A : 真 空 凍 結 乾 燥 機 ,B : 細 く 切 った 感 染 葉 をアンプルに 詰 める,<br />

C : アンプルを 真 空 凍 結 乾 燥 機 に 取 り 付 ける,D : 乾 燥 後 にアンプルを 溶 封 する.<br />

るものと 思 われるので 注 意 する.ククモウイルスについては, 真 空 乾 燥 後 , 数 年 間 は 冷 蔵 庫 に 放 置 して<br />

も 感 染 性 は 十 分 に 残 っていたが, 他 のウイルスについては 個 々の 検 証 が 必 要 であり, 冷 凍 保 存 を 優 先 す<br />

べきである.<br />

◎ 真 空 乾 燥 保 存 したアンプルを 接 種 するために 開 封 する 際 に,アンプルに 傷 を 付 けて 折 った 時 , 通 常 は 真<br />

空 アンプルの 中 に 空 気 が 入 るのでポーンという 音 がするわけであるが, 音 が 殆 どしない 場 合 がまれにあ<br />

る.この 場 合 には,アンプルのどこかから 空 気 が 漏 れ 入 っていたことが 否 めず,トバモウイルス 以 外 で<br />

は 病 原 性 が 失 われていることもあるので, 留 意 する 必 要 がある.<br />

◎ 最 後 に 忘 れてならないことは, 真 空 乾 燥 が 終 わったらできるだけ 早 く,アンプルのうちの 1 本 を 開 封 し<br />

感 受 性 植 物 に 接 種 して,ウイルス 活 性 をきちんと 確 認 しておくことである.もし, 複 数 本 のアンプルで<br />

確 認 してみて 病 原 性 がないときは, 保 存 のために 用 いる 感 染 葉 をつくるための 接 種 からやりなおすべき<br />

である. 数 年 後 に,はじめて 保 存 アンプルを 出 してきて 接 種 したが 病 原 性 がなかったという 場 合 , 保 管<br />

がきちんとしていたならば,もとの 接 種 か 真 空 乾 燥 の 際 に 失 敗 していた 可 能 性 が 高 いことになるが,も<br />

う 後 の 祭 りである.その 可 能 性 を 除 くために,アンプル 標 品 のウイルス 活 性 は 保 管 前 に 必 ず 確 認 してお<br />

くことが 肝 要 である.<br />

-52-


本 手 法 は, 感 染 葉 の 磨 砕 液 をアンプルに 分 注 して 凍 結 した 後 , 真 空 条 件 下 で 乾 燥 するものである.その 利 点<br />

としては, 細 切 した 葉 をアンプルに 詰 める 必 要 がないので, 大 量 のアンプルを 一 度 に 比 較 的 容 易 に 作 成 できる<br />

こと, 感 染 葉 を 用 いた 場 合 には 不 安 定 なウイルスでも, 本 手 法 では 磨 砕 液 に 福 本 の 保 護 剤 ( 表 8)を 添 加 して<br />

おくことで 安 定 性 を 高 めることができる 点 などである.ただし, 本 手 法 では, 多 岐 管 に 凍 結 アンプルをつけて<br />

真 空 にする 際 に 試 料 が 一 部 でも 溶 けていると, 真 空 にする 際 に 突 沸 などによる 試 料 の 噴 き 出 しに 注 意 する 必 要<br />

がある.アンプルに 磨 砕 液 を 分 注 した 後 , 真 空 にする 前 に 十 分 に 凍 結 させた 試 料 を 用 いることとし, 真 空 にす<br />

る 際 にできるだけゆっくりと 真 空 にしていくことが 大 切 である.できれば 冷 凍 チャンバーの 中 で 一 晩 真 空 にし<br />

て 水 分 を 飛 ばした 後 で, 多 岐 管 につけなおして 再 度 真 空 吸 引 を 行 った 後 で 溶 封 を 行 うとよい.ただし,その 場<br />

合 にも 乾 燥 した 汁 液 の 固 まりが 真 空 にする 際 に 吸 い 出 されないように,ゆっくりと 真 空 にすることが 大 切 であ<br />

る.<br />

<br />

以 上 のようにして 作 製 した 乾 燥 アンプルは, 通 常 は- 20℃の 冷 凍 庫 で 保 存 すれば 十 分 であり, 少 なくとも<br />

数 年 間 は 感 染 性 を 十 分 に 保 持 している.もちろん, 作 製 した 時 に 感 染 性 が 低 いものではすぐに 失 活 するものも<br />

出 てくるので,くどいようだが,ウイルスが 十 分 に 増 殖 した 葉 を 乾 燥 処 理 に 用 いることをいつも 心 がけてほし<br />

い.ジーンバンクでは 安 全 を 考 慮 して, 乾 燥 直 後 にすみやかにアンプルの 感 染 性 を 検 定 植 物 を 用 いて 検 定 する<br />

とともに,すべて- 70℃の 超 低 温 槽 ( 図 9)で 保 管 している.<br />

<br />

A: 保 存 に 使 用 している 超 低 温 槽 (- 70℃),B: 超 低 温 槽 の 内 部 .<br />

<br />

ウイルス 感 染 植 物 葉 を 液 体 窒 素 で 保 存 するのは, 長 期 保 存 に 適 した 方 法 として 期 待 されているところであ<br />

る.ジーンバンクでは, 特 に 安 定 なトバモウイルスを 除 き, 感 染 葉 を 真 空 乾 燥 するのと 併 行 して, 耐 凍 性 のプ<br />

ラスチックチューブに 感 染 葉 を 小 分 けして 入 れ, 液 体 窒 素 気 相 中 ( 約 - 165℃)にも 保 存 することとしている<br />

( 図 10).<br />

液 体 窒 素 気 相 中 で 保 存 した 場 合 , 実 際 に 植 物 ウイルスがどのくらいの 期 間 にわたって 感 染 性 を 維 持 できるの<br />

かを, 特 に 不 安 定 であると 考 えられているトスポウイルスについて 確 認 を 試 みた.その 結 果 ,TSWV につい<br />

ては 10 年 前 の 保 存 標 品 でも 高 い 感 染 性 が 保 持 されていることが 判 明 した.また,グラジオラスからの CMV<br />

についても 検 定 したが, 問 題 は 認 められなかった. 現 在 ,ジーンバンクに 保 存 されている 植 物 ウイルスが,50<br />

年 あるいは 100 年 後 にその 感 染 性 を 検 定 される 日 がくるのが 待 たれる.<br />

-53-


A: 保 存 に 使 用 している 液 体 窒 素 タンク( 約 - 165℃),B: 感 染 葉 を 細 切 してチューブへ 入 れ,タンクに 格 納 している.<br />

<br />

ウイルスを 保 存 した 場 合 あるいはこれから 保 存 しようとする 場 合 を 含 めて, 供 試 するウイルス 試 料 中 のウイ<br />

ルスの 感 染 性 を 比 較 定 量 することが 必 要 となることがある.また, 多 くの 研 究 においてウイルスの 感 染 性 の 比<br />

較 定 量 は 必 須 の 手 法 となっている. 植 物 ウイルスの 感 染 性 の 検 定 には 植 物 に 接 種 するのが 一 般 的 であり,それ<br />

によってウイルスの 感 染 力 を 比 較 判 定 できる. 植 物 への 接 種 法 については5 1で 説<br />

明 しているので 参 照 されたい. 接 種 による 定 量 の 際 には 対 象 ウイルスで 局 部 病 斑 を 作 る 植 物 が 知 られている<br />

場 合 には, 局 部 病 斑 植 物 を 用 いる.たとえば, 多 くのウイルスではアカザ 科 植 物 ,TMV ではグルチノーザ,<br />

CMV ではササゲ 初 生 葉 ,PVX ではセンニチコウなどである.これは, 接 種 した 葉 に 形 成 される 局 部 病 斑 数 が,<br />

ウイルスの 感 染 性 に 比 例 することを 利 用 するものである. 植 物 は 生 育 のそろった 感 受 性 の 高 い 状 態 のものを 使<br />

う 必 要 があり, 接 種 源 を 2 倍 ずつ,5 倍 ずつ,あるいは 10 倍 ずつなど 段 階 的 に 希 釈 したものを 接 種 に 用 いる.<br />

検 定 植 物 の 葉 を 半 分 ずつ 接 種 する 半 葉 法 と 1 枚 ずつ 使 う 全 葉 法 とがあり, 接 種 区 の 数 や 植 物 数 によって 使 い 分<br />

けることになるが, 半 葉 法 の 方 がデータのそろいがよくなることが 多 い. 具 体 的 な 配 置 は 37 ページ 記 載 の 参<br />

考 書 ( 脇 本 ,1993)を 参 照 されたい. 接 種 区 を 設 定 したら, 間 違 わないように 対 応 する 葉 に 油 性 インクで 数 字<br />

を 書 き 込 んでおくとよい.<br />

局 部 病 斑 植 物 が 見 つかっていないウイルスでは,アカザ 科 植 物 の 反 応 が 未 確 認 の 場 合 には,まずはアカザ 科<br />

の 植 物 であるキノアやアマランティカラーに 接 種 してみる.これらの 植 物 は 多 くのウイルスに 対 して 局 部 病 斑<br />

を 作 るからである.これらが 局 部 病 斑 を 作 らない 場 合 には, 他 の 植 物 に 接 種 して 探 索 することとなる.それで<br />

もみつからない 時 には 全 身 感 染 植 物 を 用 いることになる.この 場 合 にももちろん 生 育 の 十 分 にそろった 感 受 性<br />

の 高 い 植 物 を 使 うことは 大 切 であり, 不 揃 いの 植 物 を 使 うと 再 現 性 が 低 下 する. 全 身 感 染 植 物 を 用 いる 場 合 に<br />

は, 接 種 区 の 1 区 につき, 最 低 5 株 の 植 物 を 供 試 する. 発 病 率 で 感 染 性 を 判 定 するためには, 希 釈 倍 率 を 変 え<br />

た 区 を 用 いることは 局 部 病 斑 植 物 の 場 合 よりも 重 要 となる. 接 種 する 葉 の 枚 数 やそれらの 葉 位 などを 同 一 の 条<br />

件 でそろえて 接 種 し, 全 身 感 染 し 発 病 してくるまで 待 ち, 発 病 してきたところでその 発 病 株 数 を 調 査 して, 区<br />

で 比 較 することによって 相 対 的 な 感 染 性 を 知 ることができる. 発 病 までの 日 数 もウイルス 濃 度 と 関 連 すること<br />

が 多 いので 調 査 しておくとよい. 上 の 局 部 病 斑 植 物 を 用 いる 場 合 も 含 めて, 感 染 性 が 安 定 な 純 化 ウイルスを 試<br />

験 区 の 中 に 含 めておくと,それに 応 じた 感 染 性 がわかるので, 異 なる 時 に 用 いた 接 種 区 の 感 染 性 を 純 化 ウイル<br />

ス 区 との 相 対 的 な 数 値 として 比 較 することができる.<br />

-54-


本 マニュアルのはじめにも 書 いたとおり, 農 業 生 物 資 源 ジーンバンクでは 1985 年 から 植 物 ウイルスの 保 存<br />

配 布 を 開 始 しており,2012 年 2 月 現 在 で,ウイロイド 16 株 を 含 めて 植 物 ウイルス 252 株 を 保 存 ・ 配 布 してい<br />

る.ウイルス 種 ( 英 名 )ごとの 保 存 株 数 を 表 9 に 示 す.これらのウイルスには 菌 類 や 細 菌 などと 同 様 にすべて<br />

固 有 の MAFF 番 号 がつけられている.これらの 植 物 ウイルスのあらゆる 情 報 はデータベースで 管 理 されてお<br />

り, 個 々のウイルス 株 の 分 離 年 ・ 分 離 植 物 名 ・ 品 種 名 ・ 採 取 地 ・ 他 の 重 要 特 性 なども 検 索 できるシステムと<br />

なっている.データベースに 収 録 されていない 情 報 も 一 部 付 記 した 上 で,ジーンバンクが 配 布 している 植 物 ウ<br />

イルス・ウイロイド 株 を 表 10・11 に 示 した.<br />

ジーンバンクに 登 録 済 みの 植 物 ウイルスの 中 で, 現 時 点 で 株 数 として 最 多 のものが CMV の 39 株 であり,<br />

次 が ToMV の 27 株 ,TMV の 15 株 の 順 となっている.これらの 株 は 同 種 ウイルスであっても,ウイルスの 特<br />

性 , 原 宿 主 植 物 の 種 類 , 発 生 地 域 , 発 生 年 度 などが 異 なっているユニークなものばかりである.ポティウイル<br />

ス 属 のウイルスとしては 16 種 , 計 60 株 がそろっており,その 中 で 最 多 の ZYMV が 11 株 で, 次 が SMV の 8<br />

株 である. 他 のウイルスでは,MNSV や CGMMV および BBWV が 各 7 株 などとなっている.これら 配 布 し<br />

ているウイルス 株 の 中 で 特 に 注 目 して 頂 きたいウイルスとしては, 変 異 の 豊 富 な CMV,わが 国 で 初 めて 見 つ<br />

かった 新 種 ウイルスであるアマゾンユリ 微 斑 ウイルス Amazon lily mild mottle virus(Fuji et al., 2013),キュ<br />

ウリ 斑 紋 ウイルス Cucumber mottle virus(Orita et al., 2007),メロン 黄 化 えそウイルス Melon yellow spot<br />

virus(Kato et al., 2000),リンドウモザイクウイルス Gentian mosaic virus (Kobayashi et al., 2005),ソテ<br />

ツえそ 萎 縮 ウイルス Cycas necrotic stunt virus(Hanada et al., 1988)などがある. 今 後 はトスポウイルスや<br />

ポティウイルスについてできるだけ 保 存 株 を 増 やしていく 方 針 である.<br />

機 械 的 接 種 が 容 易 にできるウイルスが, 現 時 点 でジーンバンクの 配 布 対 象 となっているウイルスである.そ<br />

れらの 農 業 上 の 重 要 性 からこれまでに 対 象 ウイルスとして 特 に 重 点 的 に 取 り 組 んできたものとして,トバモウ<br />

イルス,トスポウイルス,ククモウイルス,ポティウイルスなどがある. 虫 でしか 伝 搬 されないウイルスで<br />

は, 真 空 乾 燥 によって 植 物 組 織 が 破 壊 されてしまうために, 媒 介 虫 に 真 空 乾 燥 標 品 からウイルスを 獲 得 させる<br />

ことはまず 不 可 能 であることから, 虫 媒 介 性 のウイルスはこれまで 配 布 の 対 象 となってこなかった.しかし,<br />

一 部 の 虫 媒 性 ウイルスについては 機 械 的 接 種 の 方 法 をいろいろと 工 夫 することで 機 械 的 接 種 を 可 能 にできると<br />

思 われる. 特 にルテオウイルスやジェミニウイルスでは,その 可 能 性 が 高 いと 思 われる.いろいろな 工 夫 や 利<br />

用 場 面 を 考 えることによって,ジーンバンクの 対 象 ウイルスを 今 後 さらに 増 やしていく 方 向 で 検 討 していくこ<br />

ととしている.<br />

<br />

ジーンバンクへのウイルス 配 布 の 申 込 は,ジーンバンクのウェブサイト (http://www.gene.affrc.go.jp/<br />

index_j.php)からいつでも 可 能 である. 申 し 込 んだ 株 の 配 布 を 受 けて 使 用 される 場 合 には, 以 下 の 点 に 特 に<br />

留 意 してほしい.まず,アンプルからの 接 種 の 際 には,5 1を 参 考 にして, 適 正 な<br />

緩 衝 液 を 用 いること, 十 分 に 葉 を 磨 砕 すること,その 際 に 冷 やしておくこと, 感 受 性 の 高 い 植 物 に 接 種 するこ<br />

となどに 特 に 注 意 する. 感 受 性 の 高 い 植 物 というのは, 柔 らかい 葉 を 持 つ 若 い 植 物 のことであり, 固 いゴツゴ<br />

ツした 葉 の 植 物 に 接 種 しても,ウイルス 感 受 性 が 低 いために, 発 病 しないことが 多 くなってしまうからであ<br />

る. 接 種 する 際 に 適 正 な 量 のカーボランダムをかけておくこと, 強 くこすりすぎないこと, 逆 に 接 種 圧 が 弱 す<br />

ぎないようにすることも 大 切 である.<br />

ジーンバンクに 依 頼 されて 送 ってきたアンプルの 葉 が 少 なすぎると 心 配 になられる 方 もおられるかもしれな<br />

いが,ジーンバンクの 試 料 はそのままでは 大 量 接 種 用 には 作 られていないので, 注 意 してほしい. 保 存 や 移 動<br />

によってウイルス 濃 度 が 低 下 していることもありうるので, 必 ず 一 度 は 増 殖 用 植 物 に 接 種 してから 利 用 してい<br />

ただきたい. 大 量 検 定 に 使 われる 際 には, 受 け 取 られた 後 で 必 ず 一 度 若 い 感 受 性 の 高 い 植 物 苗 に 接 種 してウイ<br />

ルスが 十 分 に 増 殖 した 葉 を, 大 量 検 定 のための 接 種 原 として 利 用 するようにしてほしい.これらはジーンバン<br />

クのウイルスを 利 用 して 頂 く 上 で 大 切 なポイントである.<br />

-55-


これまでに 実 際 にジーンバンクに 配 布 依 頼 があったウイルスについて 2007 ~ 2011 年 度 の 配 布 実 績 を 調 査 集<br />

計 した.その 結 果 , 配 布 要 望 の 多 かったトップ 3 は,CMV,SMV,TMV の 順 であった.ウイルス 属 別 に 見<br />

てもククモウイルス 属 ,ポティウイルス 属 ,トバモウイルス 属 の 順 であった. 最 近 の 傾 向 として 近 年 問 題 と<br />

なっている TSWV の 依 頼 が 増 えている.トスポウイルスについては,この TSWV しか 現 時 点 では 登 録 されて<br />

いないので,TSWV のみの 依 頼 が 増 加 していると 思 われる.これから 他 のトスポウイルスについても 至 急 そ<br />

ろえていくこととしている.すでにトスポウイルスである MYSV や IYSV については 準 備 ができている.ま<br />

た, 配 布 先 としては 大 学 , 国 ・ 独 法 , 民 間 の 順 であり, 大 学 の 基 礎 研 究 , 民 間 の 抵 抗 性 検 定 などに 多 く 利 用 さ<br />

れている.<br />

ジーンバンクは 植 物 ウイルス 研 究 のためのシーズとして 存 在 しているのであるから,これからますます, 皆<br />

さんに 興 味 を 持 っていただけるウイルス 株 の 収 集 およびそれらの 株 の 情 報 収 集 と 提 供 に 力 を 入 れていく 必 要 が<br />

あると 考 えている.これまでの 配 布 実 績 から 見 て, 株 が 多 くそろっているウイルスほど 需 要 が 多 い 傾 向 が 明 瞭<br />

であるので, 重 要 なウイルスについてはさらに 配 布 可 能 株 数 を 増 やしていく 予 定 である.なお,2012 年 7 月<br />

までは, 依 頼 のあったアンプル 試 料 は 夏 場 でも 通 常 の 宅 配 便 で 送 っていた.これまで 特 に 問 題 があるといった<br />

ご 意 見 は 頂 いていないものの,2012 年 8 月 からは, 万 全 を 期 すために 夏 場 は 冷 蔵 便 でお 送 りすることにした.<br />

<br />

日 本 国 内 で 植 物 ウイルスの 収 集 ・ 保 存 ・ 配 布 を 行 っている 施 設 は, 農 業 生 物 資 源 ジーンバンクのみである.<br />

植 物 ウイルス 抗 血 清 については, 茨 城 県 牛 久 市 にある 日 本 植 物 防 疫 協 会 の 研 究 所 で, 現 在 39 種 類 の 重 要 なウ<br />

イルスの 診 断 に 利 用 可 能 なウイルス 抗 血 清 を 販 売 している. 特 に 重 要 なウイルスについては,エライザ 検 定 用<br />

のコンジュゲートも 一 緒 に 販 売 しており,いつでも 大 量 診 断 に 利 用 できるようなシステムになっていて 便 利 で<br />

ある. 協 会 の HP で 確 認 の 上 , 積 極 的 に 利 用 していただきたい.<br />

国 外 では, 菌 類 や 細 菌 については 多 数 の 機 関 が 収 集 配 布 を 行 っているが,ウイルスの 特 性 を 公 表 した 上 で 配<br />

布 業 務 を 行 っているのは ATCC(American Type Culture Collection)のみである.ATCC は 1925 年 に 米 国<br />

に 設 立 された 世 界 最 大 級 の 微 生 物 保 存 機 関 であり, 日 本 の 業 者 を 通 じてウイルス 株 の 分 譲 を 受 けることができ<br />

る.ATCC の 他 には 韓 国 の Plant Virus GenBank も 植 物 ウイルスの 配 布 を 行 っている.また,ATCC は 植 物<br />

ウイルス 抗 血 清 の 配 布 も 行 っている.ATCC の 2012 年 2 月 現 在 の 配 布 対 象 ウイルスは 158 株 (ウイロイドも<br />

含 む)である.<br />

抗 血 清 や 植 物 ウイルス 検 出 キットを 市 販 している 団 体 や 会 社 には,ATCC の 他 には,USA の Agdia 社 や<br />

イタリアの IIPADLAB 社 など 世 界 的 にいくつかある.これらの 会 社 ではウイルス 抗 血 清 のポジティブコント<br />

ロールとして 感 染 植 物 磨 砕 液 を 配 布 している.ATCC のウイルス 試 料 や 外 国 の 会 社 からの 対 照 ウイルス 株 に<br />

ついては,わが 国 の 植 物 防 疫 法 による 規 制 のために 購 入 者 が 植 物 に 接 種 してウイルスをふやすことは 勝 手 には<br />

できないので 注 意 が 必 要 である.これらは 外 国 のウイルスの 日 本 への 侵 入 防 止 のための 輸 入 禁 止 品 に 相 当 する<br />

ので, 大 臣 許 可 をとってから 輸 入 し, 隔 離 可 能 な 温 室 などで 実 験 を 行 い, 定 期 的 に 植 物 防 疫 所 の 検 査 を 受 ける<br />

などの 必 要 がある.<br />

<br />

菌 類 については,すでに 多 くの 登 録 株 についてその rDNA-ITS 領 域 などの 塩 基 配 列 をジーンバンクの HP<br />

から MAFF 番 号 別 に 公 開 しているところであり, 植 物 ウイルスについてもそれに 習 って 外 被 タンパク 質 遺 伝<br />

子 の 塩 基 配 列 を 順 次 公 開 することとしている. 現 時 点 ではウイルスでの 公 開 例 はまだまだ 少 ないが, 鋭 意 その<br />

拡 大 に 努 めていくこととしているのでご 利 用 頂 きたい.ジーンバンクのウイルス 株 は 長 い 間 保 存 ・ 継 代 されて<br />

いるために,どこかで 取 り 違 えやコンタミネーションがおきてしまう 可 能 性 を 完 全 に 排 除 することはできな<br />

い.そこで, 増 殖 したウイルスの 特 に 外 被 タンパク 質 遺 伝 子 の 配 列 を 確 認 していくことによってこれらの 防 止<br />

ができると 考 えている.このためにも 保 存 ウイルスの 塩 基 配 列 を 明 らかにしおくことは 有 意 義 である.<br />

-56-


ジーンバンクにこれまでに 多 くの 植 物 ウイルス 株 が 保 存 され, 希 望 者 への 配 布 を 続 けてこられたのは, 多 く<br />

の 植 物 ウイルス 研 究 者 の 方 々から, 各 位 の 貴 重 なウイルス 株 を 提 供 していただいた 賜 である.ここに 記 して 心<br />

からお 礼 申 しあげる. 今 後 も,50 年 ,100 年 後 の 植 物 ウイルスの 研 究 及 び 防 除 対 策 への 活 用 の 可 能 性 について<br />

考 えていただき, 一 人 でも 多 くの 方 々から, 解 析 が 終 わったウイルスの 1 株 でも 多 くをジーンバンクに 積 極 的<br />

に 提 供 して 頂 きたい.まさに 各 位 のウイルス 株 の 一 つ 一 つが 貴 重 な 遺 伝 資 源 なのである.<br />

ウイルスはきちんと 管 理 保 管 されていてはじめて 活 性 を 維 持 できるものであるのに, 昨 今 は 研 究 の 継 続 性 が<br />

重 要 視 されなくなってきており, 研 究 者 の 異 動 や 退 職 によって 研 究 試 料 が 散 り 散 りになったり, 廃 棄 されてし<br />

まう 危 険 性 がかなり 高 くなってきていると 思 われる.そのために, 貴 重 なウイルス 株 の 喪 失 が 大 いに 危 惧 され<br />

る 事 態 となっている.このような 状 況 だからこそ, 研 究 者 の 方 々にジーンバンクへの 積 極 的 な 提 供 を 是 非 とも<br />

お 願 いしたい. 来 週 , 来 月 あるいは 来 年 くらいまでなら, 誰 かがあなたが 使 っているウイルス 株 が 必 要 となっ<br />

たときに,あなた 自 身 で 対 応 できるかもしれない.しかし,10 年 後 ,50 年 後 ,100 年 後 に 誰 かがそれを 必 要<br />

とした 際 には,おそらくあなた 自 身 では 対 応 できないのではないだろうか.あなたの 研 究 の 後 継 者 もいるかど<br />

うかわからないし,もしポストを 継 承 できたとしても 同 じ 研 究 をするとは 限 らない.あなたが 使 ってきたウイ<br />

ルスは 廃 棄 されるかどこかの 冷 凍 庫 のかたすみで 失 活 を 待 つだけとなりかねない.<br />

しかし,ジーンバンクに 連 絡 して 送 っておいて 頂 ければ, 今 後 ジーンバンク 事 業 が 継 続 される 限 りはあなた<br />

の 大 切 なウイルスは 活 性 をもった 状 態 で 保 存 され, 利 用 の 要 請 があればいつでも 対 応 でき, 将 来 のウイルス 研<br />

究 に 役 立 つこととなる. 研 究 に 利 用 したいと 思 った 研 究 者 は 誰 でもジーンバンクでウイルスのリストを 調 べ,<br />

MAFF 番 号 を 連 絡 すれば 入 手 できるのである. 次 に 使 ったときにジーンバンクに 連 絡 して 送 ろうではなく,<br />

できるだけ 早 くお 願 いしたい.もちろん,まだ 研 究 が 完 了 していない 場 合 やライバルには 渡 したくないウイル<br />

スもあると 思 われる.その 際 には,まだ 研 究 中 や 論 文 発 表 予 定 ということで,5 年 先 までは 非 公 開 とすること<br />

もできる.ジーンバンクでは 海 外 からの 要 請 があれば 送 ることとなっているので,あなたの 競 争 相 手 にも 送 ら<br />

れてしまう 可 能 性 があるが, 非 公 開 としておけば,そのような 懸 念 はないということは 知 っておいていただき<br />

たい.ジーンバンクの 植 物 ウイルス・ウイロイドのリストを 見 て 頂 いて 保 存 されていないウイルス・ウイロイ<br />

ドならなんでも 提 供 して 頂 きたい.すでにリストにあるウイルスでも,リストのウイルス・ウイロイドと 何 ら<br />

かの 特 性 が 異 なるものであれば,その 旨 を 明 記 して 送 って 頂 きたい.ルテオウイルスやジェミニウイルスなど<br />

も, 現 状 では 少 なくともプローブなどでの 利 用 はできるわけであり, 今 後 , 凍 結 乾 燥 試 料 からのウイルスの 接<br />

種 法 なども 検 討 していきたいので,すぐに 公 開 することはできないと 思 われるが,お 送 り 頂 きたい.ただし,<br />

DNA クローンなどの 遺 伝 子 組 換 えウイルスについては 現 状 では 受 け 入 れできないので,ご 了 解 頂 きたい.<br />

真 空 乾 燥 のアンプル 1 本 ずつに, 必 要 十 分 な 量 の 細 かく 切 った 感 染 葉 を 詰 めるのは 結 構 大 変 な 仕 事 である.<br />

また,ガスバーナーで 1 本 ずつ 火 傷 しないように 溶 封 した 上 で, 真 空 や 温 度 もチェックしながら 保 存 するな<br />

ど,1 本 のアンプル 作 成 にはかなりの 手 間 と 時 間 と 注 意 がかけられており,それなりのコストもかかっている.<br />

また,コンタミネーションや 取 り 違 えの 防 止 などのために 細 心 の 注 意 が 払 われているので, 利 用 されるときに<br />

は 1 本 1 本 を 大 切 に 扱 って 頂 けると 幸 いである.また,ウイルス・ウイロイドの 増 殖 植 物 や 分 離 のための 植 物<br />

がなかなか 入 手 できないことも 多 いと 思 われるが.ジーンバンクの 植 物 遺 伝 資 源 部 門 で 植 物 を 検 索 して 依 頼 し<br />

ていただければ, 国 内 外 の 多 くの 植 物 種 や 品 種 の 種 子 をすみやかに 入 手 できる. 微 生 物 部 門 と 同 じサイトにあ<br />

る HP を 見 ていただきこちらもあわせて 利 用 して 頂 ければ 大 いに 植 物 ウイルス 研 究 の 進 展 に 役 立 つことが 期 待<br />

される.<br />

-57-


株 数 株 数<br />

<br />

Caulimoviridae<br />

Cucumovirus<br />

Caulimovirus Cucumber mosaic virus 39<br />

Cauliflower mosaic virus 5 Peanut stunt virus 3<br />

Tomato aspermy virus 2<br />

Apple mosaic virus 1<br />

Bunyaviridae Asparagus virus 2 1<br />

Tospovirus<br />

Closteroviridae<br />

Tomato spotted wilt virus 2 Ampelovirus<br />

<br />

Grapevine leafroll-associated virus 3 6<br />

Closterovirus<br />

Alphaflexiviridae Citrus tristeza virus 6<br />

Potexvirus<br />

Luteoviridae<br />

Alstroemeria virus X 1 Polerovirus<br />

Asparagus virus 3 1 Citrus vein enation virus UN 2<br />

Narcissus mosaic virus 1 Potyviridae<br />

Nerine virus X 1 Potyvirus<br />

Potato virus X 4 Alstoroemeria mosaic virus 5<br />

Betaflexiviridae Amazon lily mosaic virus 1<br />

Capillovirus Bean common mosaic virus 4<br />

Apple stem grooving virus 1 Bean yellow mosaic virus 2<br />

Carlavirus Carnation vein mottle virus 1<br />

Butterbur mosaic virus UN 1 Clover yellow vein virus 4<br />

Potato virus M 1 Dasheen mosaic virus 1<br />

Potato virus S 1 Konjac mosaic virus 2<br />

Vitivirus Lettuce mosaic virus 1<br />

Grapevine virus A 3 Peanut mottle virus 1<br />

Grapevine virus B 2 Potato virus A 1<br />

Bromoviridae Potato virus Y 5<br />

Alfamovirus Soybean mosaic virus 8<br />

Alfalfa mosaic virus 3 Turnip mosaic virus 6<br />

Bromovirus Watermelon mosaic virus 5<br />

Amazon lily mild mottle virus UN 1 Zucchini yellow mosaic virus 11<br />

UN : ICTV 未 認 定 ウイルス.<br />

Tomioka et al. (2012)より 改 変 .<br />

-58-


Secoviridae<br />

<br />

株 数<br />

Tobamovirus<br />

Comovirus Cucumber green mottle mosaic virus 7<br />

Radish mosaic virus 1 Kyuri green mottle mosaic virus 3<br />

Squash mosaic virus 1 Odontoglossum ringspot virus 1<br />

Fabavirus Pepper mild mottle virus 4<br />

Broad bean wilt virus 2 7 Tobacco mosaic virus 15<br />

Gentian mosaic virus 1 Tomato mosaic virus 27<br />

Nepovirus Youcai mosaic virus 1<br />

Arabis mosaic virus 2 Tobravirus<br />

Cycas necrotic stunt virus 3 Tobacco rattle virus 2<br />

Mulberry ringspot virus 2 Families are undefined.<br />

Tobacco ringspot virus 1 Benyvirus<br />

Tomato ringspot virus 1 Beet necrotic yellow vein virus 1<br />

Sadwavirus<br />

Sobemovirus<br />

Satsuma dwarf virus 1 Cocksfoot mottle virus 6<br />

Tombusviridae Ryegrass mottle virus 1<br />

Carmovirus Southern bean mosaic virus 2<br />

Carnation mottle virus 1 <br />

Melon necrotic spot virus 7 <br />

Necrovirus<br />

Pospiviroidae<br />

Olive latent virus 1 2 Apscaviroid<br />

Olive mild mosaic virus 1 Apple fruit crinkle viroid 1<br />

Tobacco necrosis virus UN 1 Apple scar skin viroid 4<br />

Tombusvirus Citrus bent leaf viroid 1<br />

Grapevine Algerian latent virus 1 Citrus viroid III 1<br />

Tymoviridae Citrus viroid original source UN 1<br />

Maculavirus<br />

Virgaviridae<br />

Cocadviroid<br />

Grapevine fleck virus 1 Citrus viroid IV 1<br />

Hostuviroid<br />

Hordeivirus Hop stunt viroid 1<br />

Barley stripe mosaic virus 2 Pospiviroid<br />

UN : ICTV 未 認 定 ウイルス.<br />

Tomioka et al. (2012)より 改 変 .<br />

株 数<br />

Chrysanthemum stunt viroid 5<br />

Citrus exocortis viroid 1<br />

-59-


MAFF<br />

番 号<br />

種 名 ( 属 名 ) 株 名 分 離 源 植 物 採 集 地 特 性<br />

104001 Alfalfa mosaic virus (Alfamovirus) 千 葉 1 シロクローバ 千 葉 104002と 血 清 型 異 なる<br />

104002 Alfalfa mosaic virus (Alfamovirus) PP84-1 ペピーノ 神 奈 川 104001と 血 清 型 異 なる<br />

104069 Alfalfa mosaic virus (Alfamovirus) C-1 ツノナス 千 葉<br />

104102 Alstoroemeria mosaic virus (Potyvirus) V アルストロメリア 属 北 海 道<br />

104103 Alstoroemeria mosaic virus (Potyvirus) A4-SF13 アルストロメリア 属 愛 知<br />

104104 Alstoroemeria mosaic virus (Potyvirus) M1B アルストロメリア 属 北 海 道<br />

104105 Alstoroemeria mosaic virus (Potyvirus) HK511 アルストロメリア 属 北 海 道<br />

104120 Alstoroemeria mosaic virus (Potyvirus) GT-E アルストロメリア 属 北 海 道<br />

104109 Alstroemeria virus X (Potexvirus) HK9CSA アルストロメリア 属 北 海 道<br />

104118 Amazon lily mild mottle virus ES アマゾンユリ 沖 縄 ブロモウイルス 科 に 属 する<br />

104117 Amazon lily mosaic virus (Potyvirus) EF2 アマゾンユリ 沖 縄<br />

642007 Apple mosaic virus (Ilarvirus) P-133 リンゴ 不 明<br />

642006 Apple stem grooving virus (Capillovirus) MO-84 マルバカイドウ 岩 手<br />

104003 Arabis mosaic virus (Nepovirus) 広 島 1 フキ 広 島<br />

307006 Arabis mosaic virus (Nepovirus) クレソン 他 新 潟<br />

715030 Asparagus virus 2 (Ilarvirus) アスパラガス 北 海 道<br />

715029 Asparagus virus 3 (Potexvirus) アスパラガス 北 海 道<br />

307038 Barley stripe mosaic virus (Hordeivirus) Im 系 統 六 条 オオムギ 岡 山<br />

307039 Barley stripe mosaic virus (Hordeivirus) 7039 六 条 オオムギ 岡 山<br />

104042 Bean common mosaic virus (Potyvirus) 千 葉 ラッカセイ 千 葉<br />

104043 Bean common mosaic virus (Potyvirus) 千 葉 ラッカセイ 千 葉<br />

105007 Bean common mosaic virus (Potyvirus) 12 インゲンマメ 北 海 道<br />

715049 Bean common mosaic virus (Potyvirus) Pn-F ラッカセイ 三 重<br />

104005 Bean yellow mosaic virus (Potyvirus) 茨 城 1 グラジオラス 茨 城<br />

104054 Bean yellow mosaic virus (Potyvirus) O エンドウ 岩 手<br />

307054 Beet necrotic yellow vein virus (Benyvirus) S 系 統 テンサイ( 多 胚 ) 北 海 道<br />

715032 Broad bean wilt virus 2 (Fabavirus) ニンジン 北 海 道<br />

104049 Broad bean wilt virus 2 (Fabavirus) G ピーマン 他 高 知<br />

104050 Broad bean wilt virus 2 (Fabavirus) O ピーマン 他 高 知<br />

104080 Broad bean wilt virus 2 (Fabavirus) 2002/1/2 リンドウ 埼 玉<br />

104111 Broad bean wilt virus 2 (Fabavirus) RS-A アルストロメリア 属 長 野<br />

307009 Broad bean wilt virus 2 (Fabavirus) E エンドウ 埼 玉<br />

307015 Broad bean wilt virus 2 (Fabavirus) IP(フィリ 系 ) ピーマン 他 広 島<br />

104006 Butterbur mosaic virus (Carlavirus) 長 久 手 1 フキ 愛 知<br />

104008 Carnation mottle virus (Carmovirus) 千 葉 2 カーネーション 千 葉<br />

104009 Carnation vein mottle virus (Potyvirus) 神 奈 川 4 カーネーション 神 奈 川<br />

104018 Cauliflower mosaic virus (Caulimovirus) M キャベツ 東 京 アブラムシ 伝 搬 性<br />

104019 Cauliflower mosaic virus (Caulimovirus) S1 セイヨウワサビ 他 長 野<br />

104020 Cauliflower mosaic virus (Caulimovirus) S2 セイヨウワサビ 他 長 野<br />

104021 Cauliflower mosaic virus (Caulimovirus) UV-1 キャベツ 茨 城 アブラムシ 非 伝 搬 性<br />

104022 Cauliflower mosaic virus (Caulimovirus) UV-2-6 キャベツ 茨 城 アブラムシ 非 伝 搬 性<br />

652002 Citrus tristeza virus (Closterovirus) M-16A カンキツ 類 雑 種 静 岡<br />

652009 Citrus tristeza virus (Closterovirus) 1417 グレープフルーツ 長 崎<br />

652010 Citrus tristeza virus (Closterovirus) 1513 スイートオレンジ 長 崎<br />

652011 Citrus tristeza virus (Closterovirus) 1595 スイートオレンジ 長 崎<br />

652017 Citrus tristeza virus (Closterovirus) M15A サワーオレンジ 他 静 岡<br />

672003 Citrus tristeza virus (Closterovirus) 1597 カンキツ 類 雑 種 長 崎<br />

672004 Citrus vein enation virus (Polerovirus) 1605 カンキツ 類 雑 種 長 崎<br />

672005 Citrus vein enation virus (Polerovirus) 2120 カンキツ 類 雑 種 長 崎<br />

104075 Clover yellow vein virus (Potyvirus) S スターチス 長 野<br />

715041 Clover yellow vein virus (Potyvirus) ソラマメ-A ソラマメ 三 重<br />

715042 Clover yellow vein virus (Potyvirus) ソラマメ-H ソラマメ 兵 庫<br />

715043 Clover yellow vein virus (Potyvirus) ソラマメ-T ソラマメ 三 重<br />

104072 Cocksfoot mottle virus (Sobemovirus) M( 岩 手 株 ) オーチャードグラス 他 岩 手<br />

104073 Cocksfoot mottle virus (Sobemovirus) I( 長 野 株 ) オーチャードグラス 他 長 野<br />

307042 Cocksfoot mottle virus (Sobemovirus) 7042 オーチャードグラス 他 青 森<br />

307049 Cocksfoot mottle virus (Sobemovirus) 7049 オーチャードグラス 他 青 森<br />

307050 Cocksfoot mottle virus (Sobemovirus) 7050 オーチャードグラス 他 岩 手<br />

307051 Cocksfoot mottle virus (Sobemovirus) 7051 オーチャードグラス 他 北 海 道<br />

104026 Cucumber green mottle mosaic virus (Tobamovirus) W-1 スイカ 千 葉<br />

260018 Cucumber green mottle mosaic virus (Tobamovirus) SH メロン 他 静 岡<br />

260019 Cucumber green mottle mosaic virus (Tobamovirus) SH33b メロン 他 不 明 メロンでの 有 効 な 弱 毒 株<br />

260026 Cucumber green mottle mosaic virus (Tobamovirus) SHY メロン 他 不 明<br />

307029 Cucumber green mottle mosaic virus (Tobamovirus) スイカ 系 ユウガオ 栃 木<br />

307056 Cucumber green mottle mosaic virus (Tobamovirus) L85-1 ユウガオ 栃 木<br />

-60-


MAFF<br />

番 号<br />

種 名 ( 属 名 ) 株 名 分 離 源 植 物 採 集 地 特 性<br />

307057 Cucumber green mottle mosaic virus (Tobamovirus) GA-30 ユウガオ 栃 木<br />

104010 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) 千 葉 1 ダイコン 千 葉<br />

104011 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) 神 奈 川 PP 84-5 ペピーノ 神 奈 川 Subgroup 1に 属 する<br />

104012 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) P-1 フキ 広 島 Subgroup 2に 属 する<br />

104013 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Gun トマト 群 馬 Subgroup 2に 属 する<br />

104014 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) K トマト 栃 木 Subgroup 1に 属 する<br />

104016 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) SRO ホウレンソウ SR 由 来 Subgroup 1に 属 する<br />

104058 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) S-2(SA) ダイズ 岩 手 ダイズ 萎 縮 ウイルス A 系 統<br />

104059 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Y68-4(SAE) ダイズ 山 形 ダイズ 萎 縮 ウイルス Ae 系 統<br />

104060 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) SB-35(SB) ダイズ 埼 玉 ダイズ 萎 縮 ウイルス B 系 統<br />

104061 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) SB-109(SC) ダイズ 埼 玉 ダイズ 萎 縮 ウイルス C 系 統<br />

104062 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) SV-253(SD) ダイズ 埼 玉 ダイズ 萎 縮 ウイルス D 系 統<br />

104070 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) G グラジオラス 属 長 野 Subgroup 1に 属 する<br />

104081 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Alst アルストロメリア 属 千 葉<br />

104087 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) 42CM キュウリ 香 川 Subgroup 1に 属 する<br />

104088 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) P(No.7)+Sat55-1 トマト 北 海 道 Subgroup 2に 属 する<br />

104089 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) P(No.7)+Sat28-19 トマト 北 海 道 Subgroup 2に 属 する<br />

104092 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) ツワブキ ツワブキ 三 重<br />

104106 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) GTF アルストロメリア 属 長 野 Subgroup 1に 属 する<br />

104107 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) C21 アルストロメリア 属 長 野 Subgroup 1に 属 する<br />

104108 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) R11 アルストロメリア 属 長 野 Subgroup 1に 属 する<br />

104113 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) G93 トリカブト 群 馬 Subgroup 2に 属 する<br />

104114 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Ac21 トリカブト 群 馬 Subgroup 2に 属 する<br />

104115 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) G81 トリカブト 群 馬 Subgroup 2に 属 する<br />

104116 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Ra ラナンキュラス 三 重<br />

104119 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) ES-A1 アマゾンユリ 沖 縄 多 くの 植 物 での 病 徴 が 軽 い<br />

307008 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) リョクトウ 不 明 Subgroup 1に 属 する<br />

307040 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Ta9 トマト 東 京 Subgroup 1に 属 する<br />

307041 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Ta8 トマト 東 京 Subgroup 2に 属 する<br />

307045 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) 7045 グラジオラス 茨 城 Subgroup 1に 属 する<br />

715038 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) CMV ダイコン 千 葉 Subgroup 1に 属 する<br />

715039 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Ta-17 トマト 東 京 Subgroup 1に 属 する<br />

715040 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) アマゾンユリ 沖 縄<br />

715050 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) To-Gi-7 トマト 岐 阜<br />

715053 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) Me-92-2 メロン 他 三 重<br />

715055 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) PEAN エンドウ 和 歌 山 エンドウに 単 独 でえそ 症 状<br />

715056 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) PB1 エンドウ 和 歌 山 エンドウに 単 独 でえそ 症 状<br />

715057 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) PE3A エンドウ 和 歌 山 エンドウに WMV と 重 複 感 染 でえそ 症 状<br />

715058 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) PE2 エンドウ 和 歌 山 エンドウに WMV と 重 複 感 染 でえそ 症 状<br />

715064 Cucumber mosaic virus (Cucumovirus) PM-N トウガラシ 三 重<br />

260063 Cycas necrotic stunt virus (Nepovirus) SV-115 ダイズ 青 森<br />

307036 Cycas necrotic stunt virus (Nepovirus) 7036 グラジオラス 茨 城<br />

307037 Cycas necrotic stunt virus (Nepovirus) 7037 ソテツ 千 葉<br />

104052 Dasheen mosaic virus (Potyvirus) D-1 サトイモ 群 馬<br />

104068 Gentian mosaic virus (Fabavirus) N-1 リンドウ 属 長 野<br />

104126 Grapevine Algerian latent virus (Tombusvirus) 8E ツノナス 千 葉<br />

662015 Grapevine fleck virus (Maculavirus) AQ27 ブドウ 近 縁 種 広 島<br />

662002 Grapevine leafroll-associated virus 3 (Ampelovirus) 3 FE5 ヨーロッパブドウ 岡 山<br />

662005 Grapevine leafroll-associated virus 3 (Ampelovirus) 3 FE6L ヨーロッパブドウ 岡 山<br />

662008 Grapevine leafroll-associated virus 3 (Ampelovirus) 3 KSEK ヨーロッパブドウ 山 梨<br />

662009 Grapevine leafroll-associated virus 3 (Ampelovirus) 3 HB22 ブドウ 類 雑 種 広 島<br />

662012 Grapevine leafroll-associated virus 3 (Ampelovirus) 3 SP15 ブドウ 近 縁 種 広 島<br />

662014 Grapevine leafroll-associated virus 3 (Ampelovirus) 3 AQ7 ブドウ 近 縁 種 岡 山<br />

662003 Grapevine virus A (Vitivirus) Var ヨーロッパブドウ 広 島<br />

662006 Grapevine virus A (Vitivirus) CA8 ヨーロッパブドウ 山 梨<br />

662011 Grapevine virus A (Vitivirus) FE6A ヨーロッパブドウ 岡 山<br />

662004 Grapevine virus B (Vitivirus) Sek ヨーロッパブドウ 山 梨<br />

662013 Grapevine virus B (Vitivirus) HS3 ブドウ 近 縁 種 広 島<br />

104051 Konjac mosaic virus (Potyvirus) K-2 コンニャク 群 馬<br />

104056 Konjac mosaic virus (Potyvirus) F コンニャク 福 島<br />

104024 Kyuri green mottle mosaic virus (Tobamovirus) 余 戸 系 /Y-1 キュウリ 徳 島<br />

104025 Kyuri green mottle mosaic virus (Tobamovirus) Cu 66-1 キュウリ 徳 島<br />

715061 Kyuri green mottle mosaic virus (Tobamovirus) Aichi キュウリ 愛 知<br />

715025 Lettuce mosaic virus (Potyvirus) レタス 北 海 道<br />

104044 Melon necrotic spot virus (Carmovirus) NK メロン 他 長 崎<br />

-61-


MAFF<br />

番 号<br />

種 名 ( 属 名 ) 株 名 分 離 源 植 物 採 集 地 特 性<br />

104045 Melon necrotic spot virus (Carmovirus) NH メロン 他 長 崎<br />

104094 Melon necrotic spot virus (Carmovirus) Chiba1 メロン 他 千 葉<br />

104095 Melon necrotic spot virus (Carmovirus) Kochi1 メロン 他 高 知<br />

104097 Melon necrotic spot virus (Carmovirus) mel 山 口 1 メロン 他 山 口<br />

104125 Melon necrotic spot virus (Carmovirus) Chiba メロン 他 千 葉<br />

260030 Melon necrotic spot virus (Carmovirus) J strain メロン 他 静 岡 世 界 で 初 めて 発 見 された 株<br />

307014 Mulberry ringspot virus (Nepovirus) トウグワ 埼 玉<br />

307018 Mulberry ringspot virus (Nepovirus) 黄 葉 株 トウグワ 埼 玉<br />

307001 Narcissus mosaic virus (Potexvirus) クレソン 他 東 京<br />

104121 Nerine virus X (Potexvirus) Ag11 ムラサキクンシラン 他 北 海 道<br />

104037 Odontoglossum ringspot virus (Tobamovirus) H-1 シンビジューム 類 広 島<br />

307005 Olive latent virus 1 (Necrovirus) イチゴ 宮 城 以 前 は Tobacco nerosis virus として 登 録<br />

307013 Olive latent virus 1 (Necrovirus) SN タバコ 神 奈 川 以 前 は Tobacco nerosis virus として 登 録<br />

307011 Olive mild mosaic virus (Necrovirus) Fv 株 イチゴ 栃 木 以 前 は Tobacco nerosis virus として 登 録<br />

307044 Peanut mottle virus (Potyvirus) 7044 ラッカセイ 岡 山<br />

104041 Peanut stunt virus (Cucumovirus) P-1 ラッカセイ 千 葉<br />

715037 Peanut stunt virus (Cucumovirus) エンドウ 岐 阜<br />

715044 Peanut stunt virus (Cucumovirus) Pn-T ラッカセイ 三 重<br />

104032 Pepper mild mottle virus (Tobamovirus) 野 栄 1 ピーマン 他 千 葉<br />

104086 Pepper mild mottle virus (Tobamovirus) Pa18 ピーマン 他 北 海 道<br />

104099 Pepper mild mottle virus (Tobamovirus) pep 八 幡 1 ピーマン 他 岩 手<br />

715065 Pepper mild mottle virus (Tobamovirus) トウガラシ 高 知<br />

307028 Potato virus A (Potyvirus) バレイショ 岡 山<br />

307027 Potato virus M (Carlavirus) バレイショ 群 馬<br />

307026 Potato virus S (Carlavirus) モザイク 系 統 バレイショ 北 海 道<br />

260048 Potato virus X (Potexvirus) 環 絞 系 ,No.5 バレイショ 北 海 道<br />

307022 Potato virus X (Potexvirus) PVX-b 系 統 バレイショ 北 海 道<br />

307023 Potato virus X (Potexvirus) PVX-O バレイショ 群 馬<br />

715063 Potato virus X (Potexvirus) PVX-TO トマト 愛 知<br />

104046 Potato virus Y (Potyvirus) K-1 トマト 神 奈 川<br />

104074 Potato virus Y (Potyvirus) C ツノナス 千 葉<br />

104077 Potato virus Y (Potyvirus) PVY-Y7 バレイショ 北 海 道<br />

307024 Potato virus Y (Potyvirus) 普 通 系 統 バレイショ 群 馬<br />

307025 Potato virus Y (Potyvirus) えそ 系 統 バレイショ 群 馬<br />

104028 Radish mosaic virus (Comovirus) 大 曲 5 ダイコン 秋 田 もとの Radish enation mosaic virus<br />

307043 Ryegrass mottle virus (Sobemovirus) 7043 イタリアンライグラス 栃 木<br />

652018 Satsuma dwarf virus (Sadwavirus) SDV-LB1 ワシントンネーブル 大 分<br />

307034 Southern bean mosaic virus (Sobemovirus) 7034 ダイズ 山 形<br />

307035 Southern bean mosaic virus (Sobemovirus) 7035 ダイズ 京 都<br />

104029 Soybean mosaic virus (Potyvirus) SB 84-27 ダイズ 茨 城<br />

104030 Soybean mosaic virus (Potyvirus) SB 84-1 ダイズ 茨 城<br />

104063 Soybean mosaic virus (Potyvirus) S-1(A 系 統 ) ダイズ 岩 手<br />

104064 Soybean mosaic virus (Potyvirus) SV-18(B 系 統 ) ダイズ 岩 手<br />

104065 Soybean mosaic virus (Potyvirus) SV-15(C 系 統 ) ダイズ 岩 手<br />

104066 Soybean mosaic virus (Potyvirus) SV-70(D 系 統 ) ダイズ 岩 手<br />

104067 Soybean mosaic virus (Potyvirus) SV-127(E 系 統 ) ダイズ 秋 田<br />

260049 Soybean mosaic virus (Potyvirus) AS ダイズ 千 葉<br />

260055 Squash mosaic virus (Comovirus) Y( 夕 張 ) メロン 他 北 海 道<br />

104033 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) 栃 木 1 ワサビ 栃 木<br />

104036 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) 千 葉 1 ピーマン 他 千 葉<br />

260003 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) C キレハイヌガラシ 他 北 海 道<br />

260008 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) Chiba No.3 トマト 千 葉<br />

260014 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) OM8 不 明<br />

260015 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) OM12 不 明<br />

260017 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) C32 トマト 不 明<br />

260025 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) OMY タバコ 不 明<br />

260031 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) O 北 海 道<br />

260056 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) OM Ni9 タバコ 千 葉<br />

260058 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) NA23 千 葉<br />

260061 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) Y タバコ 千 葉<br />

260068 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) LFD-L トマト 千 葉<br />

260070 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) Chiba no.1 トマト 千 葉<br />

307032 Tobacco mosaic virus (Tobamovirus) 7032 トマト 長 野<br />

307007 Tobacco necrosis virus (Necrovirus) チューリップ 富 山<br />

307003 Tobacco rattle virus (Tobravirus) クレソン 他 東 京<br />

-62-


MAFF<br />

番 号<br />

種 名 ( 属 名 ) 株 名 分 離 源 植 物 採 集 地 特 性<br />

307017 Tobacco rattle virus (Tobravirus) HSN タバコ 神 奈 川<br />

104031 Tobacco ringspot virus (Nepovirus) 茨 城 1 グラジオラス 茨 城<br />

104038 Tomato aspermy virus (Cucumovirus) 浜 松 9 キク 静 岡<br />

715036 Tomato aspermy virus (Cucumovirus) 1 系 統 トマト 群 馬<br />

104034 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) T トマト 千 葉<br />

260001 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L トマト 北 海 道<br />

260002 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11 トマト 北 海 道<br />

260004 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11A トマト 北 海 道 実 用 的 な 弱 毒 株<br />

260005 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11A 237 トマト 茨 城 実 用 的 な 弱 毒 株<br />

260006 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) Ls1 トマト 千 葉<br />

260007 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) Chiba No.2 トマト 千 葉<br />

260009 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11Y トマト 不 明<br />

260010 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11Y 237 トマト 不 明<br />

260011 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11Y 236 トマト 不 明<br />

260012 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11Y 254 トマト 不 明<br />

260013 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11Y 390 トマト 不 明<br />

260022 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) Ltb1 トマト 不 明 トマト 抵 抗 性 品 種 打 破 株<br />

260023 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) Lta1 トマト 不 明 トマト 抵 抗 性 品 種 打 破 株<br />

260051 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) LFD-ST トマト 千 葉<br />

260062 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) LY タバコ 千 葉<br />

260072 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11Y237.236 トマト 千 葉<br />

260073 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) L11Y236.237.254 トマト 千 葉<br />

260074 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) CH2-mild トマト 千 葉<br />

260075 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) CH2/254-1 トマト 千 葉<br />

260076 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) CH2/254-2 トマト 千 葉<br />

260077 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) CH2/254-Y トマト 千 葉<br />

307019 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) N(トマト 系 ) トマト 長 野<br />

715016 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) strain 0 トマト 愛 知<br />

715017 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) strain 1 トマト 奈 良<br />

715051 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) To-Gi-1 トマト 岐 阜<br />

715052 Tomato mosaic virus (Tobamovirus) To-Gi-11 トマト 岐 阜<br />

307002 Tomato ringspot virus (Nepovirus) クレソン 他 千 葉<br />

104085 Tomato spotted wilt virus (Tospovirus) 宮 城 トマト トマト 宮 城<br />

260050 Tomato spotted wilt virus (Tospovirus) シネラリア 東 京<br />

104047 Turnip mosaic virus (Potyvirus) 15 ハクサイ 長 崎<br />

715026 Turnip mosaic virus (Potyvirus) ダイコン 北 海 道<br />

715027 Turnip mosaic virus (Potyvirus) ダイコン 北 海 道<br />

715054 Turnip mosaic virus (Potyvirus) Ra-2 ダイコン 三 重<br />

715062 Turnip mosaic virus (Potyvirus) F1 ナタネ 他 福 井<br />

715066 Turnip mosaic virus (Potyvirus) ストック 千 葉<br />

104039 Watermelon mosaic virus (Potyvirus) W-80 アレチウリ 香 川<br />

104055 Watermelon mosaic virus (Potyvirus) I-9 セイヨウカボチャ 茨 城<br />

307031 Watermelon mosaic virus (Potyvirus) ユウガオ 栃 木<br />

715059 Watermelon mosaic virus (Potyvirus) PEW エンドウ 和 歌 山<br />

715060 Watermelon mosaic virus (Potyvirus) 亀 井 株 キュウリ 愛 知<br />

104110 Youcai mosaic virus (Tobamovirus) 722 アルストロメリア 属 北 海 道 アブラナ 科 植 物 に 感 染<br />

104040 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) ZY-8(E) キュウリ 愛 媛<br />

104048 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) 山 2 キュウリ 山 梨<br />

104057 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) 91 セイヨウカボチャ 茨 城<br />

104071 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) O-20-02-T ペポカボチャ 不 明<br />

260020 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) emmb メロン 他 不 明<br />

260027 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) E キュウリ 愛 媛<br />

307030 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) ユウガオ 栃 木<br />

715045 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) Cu キュウリ 三 重<br />

715046 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) Pn カボチャ 近 縁 種 三 重<br />

715047 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) レイシ ニガウリ 三 重<br />

715048 Zucchini yellow mosaic virus (Potyvirus) トウガン トウガン 三 重<br />

-63-


MAFF<br />

番 号<br />

学 名 株 名 分 離 源 植 物 採 集 地 特 性<br />

104023 Chrysanthemum stunt viroid (Pospiviroid) 三 重 1 キク 三 重 キク 品 種 ‘Mistletoe’に 黄 斑<br />

260079 Chrysanthemum stunt viroid (Pospiviroid) CSV-IB1 キク 鹿 児 島 キク 品 種 ‘Mistletoe’に 黄 斑<br />

260080 Chrysanthemum stunt viroid (Pospiviroid) CSV-IB2 キク 鹿 児 島 キク 品 種 ‘Mistletoe’に 黄 斑<br />

260081 Chrysanthemum stunt viroid (Pospiviroid) CSV-OK1 キク 鹿 児 島 キク 品 種 ‘Mistletoe’に 黄 斑<br />

260082 Chrysanthemum stunt viroid (Pospiviroid) CSV-OK2 キク 鹿 児 島 キク 品 種 ‘Mistletoe’に 黄 斑<br />

642001 Apple scar skin viroid (Apscaviroid) P-112 栽 培 リンゴ 青 森<br />

642002 Apple scar skin viroid (Apscaviroid) PI-1 栽 培 リンゴ 長 野<br />

642003 Apple scar skin viroid (Apscaviroid) PK-6 栽 培 リンゴ 岩 手<br />

642004 Apple scar skin viroid (Apscaviroid) P-128 栽 培 リンゴ 岩 手<br />

642005 Apple fruit crinkle viroid (Apscaviroid) P-196 リンゴ 岩 手<br />

672007 Citrus exocortis viroid (Pospiviroid) ADG レモン 長 崎<br />

672008 Citrus bent leaf viroid (Apscaviroid) TS タンゴール 長 崎<br />

672009 Hop stunt viroid (Hostuviroid) TS タンゴール 長 崎<br />

672010 Citrus viroid III (Apscaviroid) TS タンゴール 長 崎<br />

672011 Citrus viroid IV (Cocadviroid) TS タンゴール 長 崎<br />

672012 Citrus viroid original source (Apscaviroid) TS タンゴール 長 崎<br />

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-66-


生 物 研 資 料<br />

<br />

<br />

微 生 物 遺 伝 資 源 利 用 マニュアル(31)


微 生 物 遺 伝 資 源 利 用 マニュアル(31)<br />

<br />

花 田<br />

薫<br />

農 業 生 物 資 源 研 究 所<br />

目 次<br />

1. はじめに …………………………………………………………………………………………………… 1<br />

2. 植 物 ウイルスとは 何 か …………………………………………………………………………………… 1<br />

3. 植 物 ウイルスの 最 新 の 分 類 …………………………………………………………………………… 20<br />

4. 主 要 な 植 物 ウイルスとその 特 性 ……………………………………………………………………… 24<br />

5. 植 物 ウイルス 実 験 法 : 特 に 保 存 に 関 連 する 重 要 な 手 法 …………………………………………… 29<br />

6. 植 物 ウイルスの 保 存 マニュアル ……………………………………………………………………… 49<br />

7. ジーンバンク 登 録 植 物 ウイルスと 世 界 のバンク …………………………………………………… 55<br />

8. 終 わりに ………………………………………………………………………………………………… 57<br />

9. 参 考 文 献 ………………………………………………………………………………………………… 64<br />

2012 年 12 月<br />

編 集 兼 発 行 者 独 立 行 政 法 人 農 業 生 物 資 源 研 究 所

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