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スピン軌道相互作用のある系における 量子ポイントコンタクト ... - 家研究室

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修 士 論 文スピン 軌 道 相 互 作 用 のある 系 における量 子 ポイントコンタクトの 電 気 伝 導東 京 大 学 大 学 院 理 学 系 研 究 科 物 理 学 専 攻学 生 番 号 096038金 善 宇指 導 教 官勝 本 信 吾 教 授2011 年 1 月


概 要本 研 究 は,スピン 軌 道 作 用 のある 量 子 閉 じ 込 め 系 における「 量 子 ポイントコンタクトの 電 気伝 導 」と「 量 子 ドットスピン 軌 道 ブロッケード」の 2 つのテーマについて 実 験 的 に 調 べたものである.スピン 軌 道 相 互 作 用 のある 系 における 量 子 ポイントコンタクト半 導 体 スピントロニクスにおいては, 磁 性 半 導 体 接 合 や 量 子 ポイントコンタクト(QPC)など,様 々な 方 法 によるスピン 偏 極 の 創 出 が 重 要 な 技 術 である.スピン 軌 道 (SO) 相 互 作 用 の 強 い,InGaAs系 などの2 次 元 電 子 系 (2DEG)を 用 いた QPC やその 他 の 量 子 構 造 において 零 磁 場 で 外 部 電 流 によってスピン 偏 極 を 持 ったスピン 流 が 生 じることが 理 論 的 に 予 測 されている.[Eto, M. et al.,Yamamoto, M. et al., Aharony, A. et al.]一 方 ,このような 系 でスピンフィルター 効 果 を 示 唆 する 実 験 結 果 が 報 告 されている.これはCincinnati 大 学 グループの 研 究 で,InAs の 2DEG を 加 工 した QPC において, 通 常 の QPC で 観 測 される 伝 導 度 量 子 化 の 単 位 G q =2e 2 /h の 半 分 0.5×2e 2 /h= e 2 /h を 単 位 にする 伝 導 度 の 量 子 化 (0.5 プラトー)が 得 られた,というものである[Debray, P. et al.]. 彼 らは 理 論 計 算 も 行 い,e 2 /h の 伝 導 度 プラトーでは,SO 相 互 作 用 と 電 子 間 クーロン 相 互 作 用 のため, 伝 導 電 子 はほとんど 1 つのスピンに 偏 極するとしている.これは 大 変 重 要 な 報 告 であり, 我 々は,まずこの 実 験 結 果 を 確 認 することを 目標 に,InGaAs 系 2DEG を QPC に 加 工 して 電 気 伝 導 を 調 べた.InGaAs 系 2DEG は 表 面 準 位 の 条 件 によって 金 属 ゲートによるショットキー 障 壁 の 形 成 が 困 難 であることが 知 られているため, 最 初 は 原 子 間 力 顕 微 鏡 (AFM)ティップを 使 用 した 陽 極 酸 化 法 により QPC を 作 製 した. 極 低 温 における 電 気 伝 導 を 調 べた 結 果 ,やはり e 2 /h を 単 位 とする 伝 導 度 量 子化 が 得 られた.Cincinnati グループではウェットエッチ 法 によって QPC を 形 成 していたが, 我 々も 引 き 続 きウェットエッチ 法 による QPC において 同 じ 結 果 を 確 認 することができた. 更 に, 金 属ゲートについても, 冷 却 時 の 条 件 を 工 夫 することでショットキー 障 壁 の 形 成 に 成 功 し,この 試 料においても e 2 /h 単 位 の 量 子 化 を 確 認 し, 更 に 垂 直 磁 場 を 印 加 した 際 Zeeman 分 裂 による 0.5 プラトーと 零 磁 場 における 0.5 プラトーが 一 致 することを 確 認 した. 強 磁 場 においてはスピン 軌 道 ギャップ[Pershin, Y. V. et al.]に 起 因 する 可 能 性 がある 伝 導 度 のディップを 観 測 した.さらに,QPC の 2つのゲート 電 圧 を 非 対 称 にすることで 0.7 プラトーから 0.5 プラトーに 連 続 的 に 変 化 することを 確認 した.量 子 ドットスピン 軌 道 ブロッケード上 に 述 べたように,SO 相 互 作 用 が 強 い 系 で 電 気 伝 導 に 0.5 プラトーを 生 じている QPC では零 磁 場 でスピン 偏 極 が 生 じている,という 議 論 が, 非 平 衡 グリーン 関 数 を 用 いた 計 算 に 基 づいて行 われている.しかし,その 実 験 的 サポートはまだ 乏 しい.また,その 他 のスピンフィルターに関 する 理 論 的 提 案 を 実 験 的 に 検 証 する 手 法 も 十 分 確 立 されてはいない.ここでは,このような 手法 を 提 示 し, 前 項 で 見 出 した 0.5 プラトーに 適 用 することで,これらの 問 題 に 解 答 を 与 えることを 目 標 とした.3


前 項 において InGaAs 系 で 金 属 ショットキーゲートを 形 成 する 手 法 を 見 出 したことは,この 系 においてもスプリットゲート 法 によって 量 子 ドットその 他 の 構 造 を 比 較 的 自 由 に 形 成 できることを 意味 する.そこで InGaAs 系 2DEG に 金 属 ゲートによる QPC を 直 列 に 置 く 方 法 で 量 子 ドット(QD)を形 成 した. 近 藤 効 果 を 示 す 状 態 に 隣 接 する 単 一 スピン 状 態 を 通 した 電 気 伝 導 を 調 べた 結 果 , 有 限のソースドレイン 電 圧 がに 対 してクーロンピークが 消 滅 する 現 象 が 見 られた.これはスピンフィルター 効 果 を 持 つトンネル 障 壁 によって, 直 列 2 量 子 ドット 系 で 観 測 されたスピンブロッケードと 類 似 の 機 構 によってブロッケードが 生 じたものである.この「スピン 軌 道 ブロッケード」 現 象は 特 徴 的 な 発 現 の 仕 方 をするため,スピン 選 択 トンネル 現 象 が 生 じていることが 明 らかである.このことは, 近 藤 効 果 領 域 で,ゼロバイアスピークが 一 見 頂 点 付 近 で 分 離 した 形 となることにも現 れている.また,スピン 軌 道 ブロッケードは 敏 感 で 明 瞭 な 方 法 であることを 示 し,スピンフィルター 効 果 測 定 に 現 実 的 な 実 験 手 法 を 与 えた.4


目 次第 1 章 序 論 .......................................................................................................................................... 71.1 本 研 究 の 目 的 ............................................................................................................................ 71.2 本 研 究 の 背 景 ............................................................................................................................ 81.2.1 スピン 軌 道 相 互 作 用 ......................................................................................................... 81.2.2 量 子 ポイントコンタクト ............................................................................................... 131.2.3 量 子 ドット ....................................................................................................................... 141.2.4 近 藤 効 果 ........................................................................................................................... 171.3 本 論 文 の 構 成 ............................................................................................................................ 19第 2 章 実 験 方 法 ................................................................................................................................ 202.1 試 料 の 作 製 .............................................................................................................................. 202.1.1 InGaAs/AlGaAs 2 次 元 電 子 系 ........................................................................................ 202.1.2 微 細 加 工 ........................................................................................................................... 212.2 測 定 .......................................................................................................................................... 242.2.1 低 温 ................................................................................................................................... 242.2.2 電 気 伝 導 測 定 ................................................................................................................... 25第 3 章 スピン 軌 道 相 互 作 用 のある 系 における 量 子 ポイントコンタクト ................................ 273.1 試 料 .......................................................................................................................................... 273.1.1 陽 極 酸 化 による QPC ...................................................................................................... 273.1.2 ウェットエッチング 法 による QPC .............................................................................. 283.1.3 金 属 ゲートによる QPC .................................................................................................. 293.2 伝 導 度 の 量 子 化 観 測 .............................................................................................................. 293.3 非 対 称 ゲート 電 圧 による 伝 導 度 プラトーの 変 化 .............................................................. 313.4 有 限 ソースドレイン 電 圧 による 特 性 .................................................................................. 323.5 外 部 磁 場 による 特 性 .............................................................................................................. 333.6 議 論 .......................................................................................................................................... 353.7 結 論 .......................................................................................................................................... 365


第 4 章 量 子 ドットスピン 軌 道 ブロッケード ................................................................................ 374.1 試 料 .......................................................................................................................................... 374.2 弱 結 合 の 場 合 .......................................................................................................................... 384.3 強 結 合 の 場 合 .......................................................................................................................... 394.3.1 近 藤 効 果 の 観 測 ............................................................................................................... 394.3.2 有 限 ソースドレイン 電 圧 におけるクーロン 振 動 の 消 滅 ........................................... 404.4 議 論 .......................................................................................................................................... 424.5 結 論 .......................................................................................................................................... 44第 5 章 総 括 ........................................................................................................................................ 45付 録 A 近 藤 状 態 の 伝 導 度 ............................................................................................................... 47付 録 B Landauer 公 式 ....................................................................................................................... 49付 録 C Spin-orbit gap ........................................................................................................................ 52付 録 D Spin-orbit Blockade がある 時 の Coulomb diamond ........................................................... 556


第 1 章 序 論Equation Chapter (Next) Section 1この 章 では,まず 研 究 の 目 的 を 提 示 し, 続 く 節 においてその 背 景 を 説 明 し,その 後 に 本 論 文 の 構成 について 述 べる.1.1 本 研 究 の 目 的電 気 と 磁 気 , 言 い 換 えれば 電 場 と 磁 場 は 双 対 的 な 関 係 にあり,エレクトロニクスでいずれも主 役 を 演 じる 要 素 である.しかし, 回 路 中 での 情 報 の 伝 達 ・ 処 理 に 関 してはどちらかと 言 えばこれまで 電 場 ・ 電 流 ・ 電 荷 が 主 役 を 演 じ, 磁 気 的 な 要 素 は 脇 役 に 甘 んじてきた.エレクトロニクスの 主 役 電 子 について 見 れば, 本 来 磁 気 的 な 力 は 微 細 構 造 定 数 の 逆 数 137 倍 だけ 電 気 力 よりも 強 く働 いて 良 いはずであるが, 電 子 が 負 電 荷 の 電 気 単 極 子 であるのに 対 して, 磁 気 的 にはスピン 1/2に 起 因 する 双 極 子 であり, 磁 場 による 直 接 的 な 運 動 制 御 が 困 難 であることがその 原 因 である.ところが, 電 子 回 路 の 超 高 密 度 化 ・ 高 機 能 化 によってその 物 理 的 限 界 が 見 えてきたことに 呼応 して 電 子 の 持 つ 唯 一 の 内 部 自 由 度 としての 電 子 スピンが 大 きな 注 目 を 集 めるようになった. 固体 中 ではスピンと 軌 道 運 動 との 間 には 強 い 相 互 作 用 があるため,スピンを 通 して 電 子 の 運 動 を 制御 することも 可 能 であることが 見 出 され,これを 応 用 した 巨 大 磁 気 抵 抗 (Giant Magnetoresistance,GMR [Baibich, M. et al., Binasch, G. et al.]) 素 子 は 磁 気 記 録 密 度 を 桁 違 いに 高 めて 情 報 機 器 の 大 発 展をもたらした. 固 体 中 の 磁 気 的 な 相 互 作 用 について 新 たな 分 野 を 切 り 拓 き,2007 年 のノーベル 賞がこれに 対 して 付 与 されたことは 記 憶 に 新 しい.このように, 電 子 スピンをエレクトロニクスの要 素 として 積 極 的 に 利 用 しようとする 工 学 分 野 をスピントロニクスと 呼 ぶ[Awschalom, D. D. etal.].スピントロニクス 分 野 において 大 きくクローズアップされてきたのが,スピン 偏 極 の 流 れ「スピン 流 」である. 単 極 子 の 流 れであるためベクトルで 表 され, 流 れの 保 存 則 が 成 立 する 電 流 に 対し,スピン 流 は 双 極 子 の 流 れであるため 一 般 にテンソルで 表 され, 生 成 消 滅 して 保 存 しない. 電流 を 伴 うこともあれば, 角 運 動 量 のみが 流 れる 場 合 もあり, 絶 縁 体 中 も 流 れることがある.スピン 流 を 軸 に,スピンホール 効 果 など 固 体 中 でのトポロジカル 量 子 効 果 に 光 が 当 たり, 固 体 物 理 学の 新 しい 局 面 が 切 り 拓 かれている. 一 方 ,このスピン 流 をいかに 生 成 し, 制 御 するかがスピントロニクス 展 開 の 上 でも 鍵 となる.半 導 体 物 理 学 ・デバイス 工 学 の 上 でもスピンに 起 因 する 現 象 が 注 目 を 集 めており,トポロジカル 量 子 効 果 が 量 子 閉 じ 込 めのような 境 界 条 件 量 子 効 果 のある 系 でどのように 現 れるか, 精 力 的な 研 究 が 進 められると 同 時 に, 光 アイソレーターやスピン MOSFET, 量 子 情 報 処 理 のためのスピン 量 子 ビットなどへの 応 用 が 考 えられている. 強 磁 性 を 持 つ 半 導 体 も 広 く 研 究 されると 同 時 に,より 大 きな 自 由 度 を 求 めて, 非 磁 性 の 半 導 体 中 に, 外 部 磁 場 や 強 磁 性 電 極 のような 時 間 反 転 対 称性 を 直 接 的 に 破 る 環 境 や 材 料 を 使 用 せずスピン 偏 極 を 作 り 出 すことが, 半 導 体 スピントロニクスの 上 で非 常 に 重 要 な 技 術 とされている. 対 称 性 の 高 い 非 磁 性 の 系 においてあたかも 強 磁 性 のような 対 称7


性 が 破 れた 状 態 を 作 り 出 す 機 構 を 見 出 すことは, 技 術 の 上 だけでなく 物 理 現 象 としても 極 めて 興味 深 い.外 部 磁 場 や 強 磁 性 電 極 を 使 わずにスピン 流 を 生 じる 方 法 として,スピン 軌 道 相 互 作 用 と 量 子 細 線を 使 用 する 方 法 が 理 論 的 に 数 多 く 提 案 されている.しかし,その 多 くはスピン 流 の 生 成 までの 考 察 に留 まり,デバイス 動 作 を 通 しての 現 実 的 検 証 までは 考 えておらず, 明 瞭 な 実 験 的 サポートはまだほとんどない. 強 磁 性 体 電 極 のような 簡 便 な 検 出 法 では, 感 度 が 大 変 低 い 上 にスピン 流 生 成 源 に 対する 擾 乱 が 大 きく, 現 状 では 実 験 的 検 証 には 程 遠 い.本 研 究 は, 以 上 の 研 究 の 現 状 を 踏 まえ,スピン 軌 道 相 互 作 用 によるスピン 偏 極 源 としてスピン 軌 道相 互 作 用 が 強 い InGaAs/AlGaAs 2 次 元 系 を 加 工 して 作 製 した 量 子 ポイントコンタクト(quantumpoint contact,QPC)を 用 い, 零 磁 場 におけるスピンフィルター 効 果 を 調 べることを 目 的 とする.その検 証 の 過 程 において,スピン 状 態 に 鋭 敏 で 測 定 系 に 対 する 擾 乱 の 尐 ない 量 子 ドットをトンネルの向 きを 固 定 した 場 合 のスピン 偏 極 の 新 たな 検 出 器 として 利 用 し, 新 しいスピンフィルター 効 果 測定 のスキームを 確 立 することも 本 研 究 の 目 的 である.1.2 本 研 究 の 背 景Equation Section (Next)以 上 の「 本 研 究 の 目 的 」を 述 べる 際 に 使 用 してきた, 鍵 となる 物 理 的 概 念 に 関 して, 特 に「スピン 軌 道 相 互 作 用 」,「 量 子 ポイントコンタクト」,「 量 子 ドット」,「 量 子 ドットの 近 藤 効 果 」について, 今 後 の 議 論 のためにやや 詳 しく 述 べておく.1.2.1 スピン 軌 道 相 互 作 用[ 江 藤 幹 雄 . 固 体 物 理 . ]1.2.1.1 原 子 でのスピン 軌 道 相 互 作 用図 1.1 (a) 原 子 におけるスピン 軌 道 相 互 作 用 の 古 典 モデル (a’) 電 子 が 静 止 した 座 標 系 では 原子 核 の 正 電 荷 が 円 運 動 をし,それが 作 る 有 効 磁 場 を 電 子 スピンが 感 じる.(b)ラシュバのスピン 軌 道 相 互 作 用 の 古 典 モデル. 電 子 の 運 動 する 2 次 元 平 面 に 垂 直 方 向 の電 場 を±の 外 部 電 荷 で 表 している.(b’) 電 子 が 静 止 した 座 標 系 では 外 部 電 荷 の 運 動 が 環 状 電 流に 相 当 し,それが 作 る 有 効 磁 場 を 電 子 のスピンが 感 じる.8


図 1.2 GaAs などの 化 合 物 半 導 体 における 伝 導 バンド,および 価 電 子 バンドの 概 念 図 . 価 電 子バンドは 原 子 由 来 のスピン 軌 道 相 互 作 用 によって,heavy-hole(HH)バンド,light-hole(LH)バンドの3つに 分 裂 しているまず 原 子 におけるスピン 軌 道 相 互 作 用 について 考 えてみる. 電 子 が 電 荷 の 原 子 核 から 距 離 のところを 速 度 で 回 っているとする( 図 1.1(a)). 電 子 が 静 止 した 座 標 系 では, 電 子 の 周 りを 原 子 核が 速 度 で 回 っている 様 にみえる( 図 1.1(a’)). 原 子 核 の 運 動 の 作 る 環 状 電 流 が 電 子 の 位 置 に 作 る磁 場 はビオサバールの 法 則 によって(1.2.1)と 書 くことができる.ここで は 透 磁 率 ,磁 気 モーメント角 運 動 量 である. 一 方 , 電 子 のスピン は(1.2.2)( はボーア 磁 子 , 因 子 を 2 にする) を 持 つので, 磁 場 中 のエネルギーとして(1.2.3)が 得 られる.この 加 速 度 を 持 つ 座 標 系 を 相 対 論 的 に 正 確 に 取 り 扱 っていない 古 典 論 の 結 果 は, 加速 度 を 正 しく 扱 った 計 算 ,あるいはディラックの 相 対 論 的 量 子 力 学 の 結 果 とはトーマス 因 子 2 倍だけ 異 なり, 相 対 論 的 に 正 確 なスピン 軌 道 相 互 作 用 は 次 式 で 与 えられる.(1.2.4)9


この 式 は 電 子 の 感 じる 電 場(1.2.5)またはポテンシャル を 用 いると(1.2.6)のように 変 形 される.ここで は 光 速 , はパウリ 行 列 である.以 上 のような 単 一 原 子 の 場 合 に 限 らず, 電 場 中 において 原 子 のスピンは 有 効 磁 場 を 感 じ,スピン 軌 道 相 互 作 用 が 働 く.しかしスピン 軌 道 相 互 作 用 は 相 対 論 的 効 果 であり, 原 子 番 号 Z の 大 きい原 子 の 場 合 を 除 くと 真 空 中 原 子 においては 普 通 は 非 常 に 小 さい.1.2.1.2 半 導 体 中 のスピン 軌 道 相 互 作 用価 電 子 バンドSi などの IV 族 半 導 体 ,GaAs, InAs などの III-V 族 化 合 物 半 導 体 ,また II-VI 族 半 導 体 などでは 価 電 子 バンドの 頂 上 付 近 の 電 子 の 波 動 関 数 は 主 として 構 成 原 子 の 軌 道 ( 角 運 動 量 )からなるため, 原 子 由 来 のスピン 軌 道 相 互 作 用 が 働 く.まず 孤 立 した 原 子 の 軌 道 を 考 える.は , と 可 換 であるが, , はとは 可 換 でない. 全 角 運 動 量 を 導 入 すると(1.2.7)ゆえに は および と 可 換 であり,エネルギー 準 位 はそれらの 量 子 数 で 分 類 される.それより,SO 相 互 作 用 の 結 果 , 軌 道 は , ,の2つの 多 重 項 に 分 裂 することがわかる. 荷 電 したいでも 類 似 のことが 生 じると 考 えられる.実 際 , 代 表 的 III-V 族 半 導 体 GaAs のバンド 構 造 は,バンド 頂 点 ( 底 ) 付 近 でよい 近 似 である摂 動 によると 図 1.2 のように 与 えられる. 価 電 子 バンドは 点 [ の 点 ]で との2つに 分 かれ, 後 者 は split-off バンドと 呼 ばれる. 前 者 は 点 を 離 れると,されに =の heavy-hole バンド, の light-hole バンドの2つに 分 裂 する.これに 対 して, 伝 導 バンドの 底 付 近 では 電 子 の 波 動 関 数 は 主 として 構 成 原 子 の 軌 道 からなる. 原 子 由 来 のスピン軌 道 相 互 作 用 の 影 響 は 小 さく, 通 常 無 視 される.伝 導 バンド電 子 のフェルミ 波 長 など, 考 える 空 間 スケールは 原 子 スケール( 格 子 定 数 )よりもずっと 大 きく, 有 効 質 量 近 似 が 成 り 立 つことを 仮 定 する.スピン 軌 道 相 互 作 用 では 相 対 論 的 効 果 であって,真 空 中 では 大 きいな 効 果 ではないが,GaAs などの 半 導 体 での 伝 導 バンドでは,バンドの 効 果 によって 有 効 的 なスピン 軌 道 相 互 作 用 が 増 大 する. 摂 動 によると 式 (1.2.6)は 次 式 で 近 似 される.10(1.2.8)


図 1.3 (a) ラシュバのスピン 軌 道 相 互 作 用 がある 場 合 の 1 次 元 運 動 の 分 散 関 係 . 同 じエネルギーに対 して,スピンによって 異 なる 波 数 k ± が 対 応 している. (b) スピン 軌 道 相 互 作 用 がなく, 外 部 磁 場によるゼーマン 効 果 がある 場 合 の 分 散 関 係p は 伝 導 バンドと 価 電 子 バンド 間 の 行 列 要 素 , は 伝 導 バンドと 価 電 子 バンド 間 のバンドギャップ, は 価 電 子 バンドにおける と バンド 間 のエネルギーである.ディラック 理 論の 粒 子 ・ 反 粒 子 のギャップが 半 導 体 でのバンドギャップに 対 応 しており,InGaAs, InAs などの狭 ギャップ 半 導 体 でスピン 軌 道 相 互 作 用 の 増 大 が 著 しいことがわかる[Luo, J. et al.].その 中 でも次 のラシュバ 項 とドレッセルハウス 項 の2つが 重 要 と 考 えられている.ラシュバ(Rashba)のスピン 軌 道 相 互 作 用電 子 の 軌 道 運 動 方 向 に 対 して 垂 直 方 向 に 電 場 がある 場 合 のスピン 軌 道 相 互 作 用 がラシュバ 項 である.InAlAs/InGaAs などの 単 一 ヘテロ 構 造 では 界 面 近 傍 に2 次 元 電 子 系 が 形 成 されるがこの 時 ,2 次 元 面 に 垂 直 に 素 子 構 造 に 起 因 する 作 り 付 けの 電 場 が 生 じており,また,これにショットキーゲート 電 圧 を 加 えた 場 合 ,その 電 場 もこれに 加 わる.(この 電 場 は 2 次 元 面 内 に 加 えるソース・ドレイン 間 のバイアス 電 場 とは 独 立 のものであることに 注 意 )2 次 元 電 子 系 の 面 を 平 面 ,したがってラシュバ 項 を 生 じる 電 場 を z 軸 方 向 に 座 標 系 を 取 った 場 合 ラシュバ 項 は(1.2.9)の 形 をとる.その 大 きさを 無 次 元 のパラメータ , ただし ( は 有 効 質量 , は Fermi 波 数 )で 表 すと,In0.75Al0.25As/In0.75Ga0.25As ヘテロ 構 造 [Grundler, D.]では, より と 測 定 されている.ラシュバスピン 軌 道 相 互 作 用 は, 原 子 のそれと 同 様 に 古 典 的 な 解 釈 が 可 能 である.z 向 きの 電 場がかかっている 環 境 は, 図 1.1(b)のように±の 外 部 電 荷 が 2 次 元 電 子 を 挟 んでいる 状 況 と 見 ることが 出 来 る. 電 子 の 方 向 へ 等 速 運 動 を 考 え, 電 子 が 静 止 した 座 標 系 で 見 ると, 外 部 電 荷 は 向 に運 動 を 考 える. 電 子 が 静 止 した 座 標 系 で 見 ると, 外 部 電 荷 は 方 向 に 運 動 しているように 見 える( 図 1.1(b’)).それは 電 流 か 無 限 遠 で 環 状 となって 流 れていることと 等 価 であるから,この 座 標 系では 向 に 磁 場 が 発 生 し,その 結 果 , 電 子 スピンに 伴 う 磁 気 モーメントのエネルギーが 変 化 する[ 式 (1.2.9) 最 右 辺 の 第 2 項 ]. 以 上 の 議 論 は xy 座 標 の 取 り 方 には 無 関 係 であるから 有 効 磁 場 は 2次 元 面 内 で 電 子 の 運 動 方 向 に 対 して 常 に 垂 直 に 働 くことがわかる.11


ドレッセルハウスのスピン 軌 道 相 互 作 用一 方 ドレッセルハウス(Dresselhaus) 項 は 半 導 体 の 結 晶 構 造 に 起 因 する.Ⅲ-Ⅴ 族 化 合 物 半導 体 では 空 間 反 転 対 称 性 が 破 れているため, 結 晶 が 作 る 電 場 に 起 因 したスピン 軌 道 相 互 作 用 が 働く.3 次 元 のバルク 半 導 体 において , , 軸 をそれぞれ[100],[010],[001] 方 向 に 選 ぶとき(1.2.10)で 与 えられる. 今 [001] 方 向 に 成 長 したヘテロ 構 造 における2 次 元 電 子 系 を 考 え,z 方 向 の 広 がりについて 平 均 をとると, (1.2.11)の3 次 の 項ここで , また にした. 更 にラシュバ 項 は 外 部 電 場 によって 大 きく 制 御 できるため, 半 導 体 スピントロニクスへ 応 用 が 期 待 されている.12


図 1.4 量 子 ポイントコンタクトの 伝 導 度 量 子 化[Van Wees, B. J. et al.]1.2.2 量 子 ポイントコンタクト [Van Wees, B. J. et al.]ポイントコンタクト( 点 接 触 )とは,2つの 伝 導 体 を 点 的 につないだ 系 である. 最 初 のトランジスタが 点 接 触 を 使 用 していたのは 有 名 であるし, 接 触 電 流 I を 電 圧 V で 微 分 した 微 分 コンダクタンスdI/dV から 状 態 密 度 や 伝 導 電 子 とフォノンの 相 互 作 用 など, 様 々な 情 報 が 得 られるため 古 くから 研究 されてきた.ここでは 2 次 元 電 子 を 加 工 してくびれた 形 状 にした 点 接 触 を 考 える. 接 触 領 域 の 長 さを L, 幅を W として 伝 導 電 子 平 均 自 由 行 程 l mfp よりもこれらは 十 分 に 短 い(W, L


単 位 として 量 子 化 されることが 明 瞭 に 現 れる.この 伝 導 度 量 子 化 は,Van Wees らと Wharam らにより 1988 年 に 実 験 的 に 見 出 された[Van Wees, B. J. et al., Wharam, D. A. et al.].2 次 元 電 子 系 にスプリット 金 属 ゲートを 形 成 し,これに 負 電 圧 を 印 加 すると,ゲート 下 の2 次 元 電 子 が 逸 失 して QPC構 造 が 形 成 される. 負 電 圧 値 を 増 加 させると,QPC の 幅 が 狭 くなると 同 時 に, 狭 窄 された 領 域 の電 子 密 度 も 減 尐 する. 系 の2 端 子 コンダクタンス G はランダウアー 公 式(1.2.12)で 与 えられる.ここで は QPC を 通 過 するモード m の 透 過 率 である.コンタクト 領 域 の 閉 じ 込 めポテンシャルの 空 間 的 変 化 に 特 徴 的 な 長 さがフェルミ 波 長 F よりずっと 長 い( 断 熱 ポテンシャル 近 似 )とすれば,ほとんどのゲート 電 圧 V g の 条 件 で は 0 か 1 である.したがって, 伝 導 度 は V g を 変 化 させ 通 過 モード数 が 変 化 するのに 従 い 階 段 状 に 変 化 する( 各 段 それぞれを 伝 導 度 プラトーと 呼 ぶ).ここまでの 議 論 では, 電 子 間 の 相 互 作 用 を 考 えていない. 電 子 間 相 互 作 用 は,これによって 系 に 相変 化 ,すなわち 対 称 性 の 低 下 を 伴 うような 変 化 がもたらされない 限 りは,ポテンシャル 散 乱 のない 弾 道 的 な 伝 導 においては 伝 導 に 定 性 的 な 変 化 をもたらさないことが, 様 々な 場 合 について 確 認されてきた.これは 一 口 で 言 えば, 外 部 ポテンシャル 散 乱 のない 系 での 電 子 間 相 互 作 用 は, 運 動する 系 の 内 力 であり, 全 系 の 運 動 量 を 変 化 させないからである.ポテンシャル 散 乱 がある 場 合 は,フェルミ 端 異 常 に 起 因 する Altshuler-Aronov 異 常 が 伝 導 度 に 現 れる. 上 記 断 熱 ポテンシャル 近 似が 成 立 しない 場 合 も 同 様 で,ポテンシャル 変 化 が 急 峻 な 領 域 で 電 荷 密 度 波 (charge density wave,CDW) 的 な 電 子 密 度 変 化 が 現 れ, 電 気 伝 導 に 影 響 を 与 えることが 考 えられる.これは, F が 長 くなった 場 合 も 同 様 であるから, 伝 導 度 が 低 くなったステップ 付 近 で 現 れる 可 能 性 が 高 い.このようなことから, 電 子 間 相 互 作 用 の 影 響 が 生 じているのではないかとされている 現 象 に,G 0 の 0.7倍 のところにプラトー 的 構 造 が 出 る,0.7 異 常 と 呼 ばれるものがある.これは, 同 時 に 自 発 的 スピン 偏 極 が 生 じているのではないかとも 言 われ, 精 力 的 な 研 究 が 続 けられているが, 万 人 が 認 める結 論 には 達 していない. 後 述 する 0.5G 0 プラトーでのスピン 偏 極 理 論 も 類 似 の 議 論 に 立 脚 している.1.2.3 量 子 ドット電 子 を 微 小 な 空 間 領 域 に 閉 じ 込 めたデバイス「 量 子 ドット」は, 特 に 半 導 体 人 工 構 造 を 用 いたものにおいて,その 電 子 数 や 閉 じ 込 めポテンシャル 形 状 などの 各 種 パラメータを 操 作 できるため, 盛 んに 研 究 がなされている.[Kouwenhoven,L. P. et al.,Reimann,S. M. et al.]この 量 子 ドットにおける 伝 導 特 性 を 調 べる 際 には, 図 1.5 のような 単 電 子 トランジスタの 構 造 が 用 いられることが 多 い.14


図 1.5: (a) 単 電 子 トランジスタの 等 価 回 路 . 量 子 ドットは 静 電 容 量 C L , C R のトンネル 障 壁 を 介して 測 定 リードにつながれ,また 静 電 容 量 C g のゲート 電 極 の 電 圧 Vg を 操 作 することにより, 量子 ドット 内 のエネルギー 準 位 を 操 作 することができる.(b) 量 子 ドットの Coulomb 振 動 ( 上 図 ).ゼロバイアスでのゲート 電 極 電 圧 に 対 する 伝 導 度 を 模 式 的 に 示 したもの.N − 1, N, N + 1 は 量子 ドット 内 の 電 子 数 を 表 している. 量 子 ドットの Coulomb ダイアモンド( 下 図 ). 青 色 背 景 をつけた 部 分 が Coulomb ブロッケードの 領 域 を 表 す.量 子 ドットは 静 電 容 量 C L ,C R のトンネル 障 壁 を 介 して 測 定 リードにつながれ,また 静 電 容 量 C g のゲート 電 極 の 電 圧 V g を 操 作 することにより, 量 子 ドット 内 のポテンシャルを 操 作 することができる.ここで量 子 ドット 内 に N 個 の 電 子 が 存 在 し,ソースドレインバイアス V sd が 0 V のとき, 量 子 ドットのエネルギーは,(1.2.13)と 表 される.ただし,C = C L + C R + C g は 量 子 ドットの 静 電 容 量 ,e は 素 電 荷 ,ϵ n は 閉 じ 込 めによるn 番目 の 電 子 の 軌 道 エネルギー 準 位 である. 電 子 数 をN − 1 個 から1つ 増 やしてN 個 にするのに 必 要 なエネルギー,すなわち 電 気 化 学 ポテンシャル は,(1.2.14)と 求 まる.C が 非 常 に 小 さい 場 合 には,この が 系 の 温 度 よりも 大 きくなるため, 量 子 ドットとリードとの 間 の 電 子 のトンネリングが 禁 止 された,Coulomb ブロッケード 状 態 となる.ここでゲート 電 圧 V g をまで 動 かすと, となり, 量 子 ドットとリード 間 のトンネルが 許 されて有 限 の 伝 導 度 を 生 じる(Coulomb ピーク).さらにV g を 動 かしていくとCoulombブロッケードが 次 々とon/offされるために 図 1.5(b) 上 図 のような 伝 導 度 の 振 動 (Coulomb 振 動 ) が 観 測 される.この 量 子 ドットのCoulomb ピーク 間 のエネルギー 差 は(1.2.15)と 表 される.ただし, は 量 子 ドットの 単 電 子 帯 電 エネルギー, は 離 散 準位 間 隔 である.これをピーク 間 のゲート 電 圧 の 差 に 変 換 すると,15


(1.2.16)となる.ただし, は 量 子 ドットの 静 電 容 量 とゲート 電 極 の 静 電 容 量 の 比 である. 実 験 的には Coulomb ピーク 間 隔 よりこの 式 を 使 って 量 子 ドット 内 の 準 位 のエネルギーを 求 めることが 行われ,これを 付 加 エネルギー 分 光 と 呼 ぶ.また Coulomb ブロッケードは 有 限 のソースドレインバイアス V sd によっても 解 除 される.バイアスを 変 化 させていくと, 左 右 リードの Fermi エネルギーが 作 る 伝 導 可 能 な 電 子 のエネルギー 帯 の 中 に が 入 ってくる 毎 に, 伝 導 度 が 階 段 状 に 変 化 し,この 構 造 は Coulomb 階 段 と 呼 ばれる.ゲート 電 圧 とバイアス 電 圧 の 関 数 として 伝 導 度 を 測 定 すると, 図 1.5(b) 下 図 のように Coulomb ブロッケードを 表 す 部 分 が 菱 形 になって 見 える Coulomb ダイアモンドが 観 測 される.この Coulomb ダイアモンドのバイアス 方 向 の 大 きさは, となる.図 1.6 尐 数 電 子 量 子 ドットにおける Coulomb 振 動 .N は 電 子 数 を 表 す. 電 子 数 が 2, 6, 12個 において 殻 構 造 を 反 映 してピーク 間 隔 が 広 くなっている.また 電 子 数 4 個 のところも Hund 則を 反 映 してピーク 間 隔 が 広 くなっている.[Tarucha, S. et al.]尐 数 電 子 量 子 ドット量 子 ドットにおいてゲート 電 圧 を 電 子 数 N が 減 尐 する 方 向 に 変 化 させると,ゲートの 耐 圧 が 十分 であれば 最 終 的 には N を 0 にすることができる.この 状 態 からゲート 電 圧 を 掃 引 して 電 子 を 1個 ずつ 付 加 することにより,N が 正 確 に 特 定 された 状 態 を 作 ることができる. 電 子 数 が 数 十 を 超えた 量 子 ドット 内 のエネルギー 準 位 構 造 は 閉 じこめポテンシャルの 歪 み( 低 対 称 性 )によって,極 めて 複 雑 になり,ランダム 行 列 理 論 などによる 統 計 的 処 理 を 考 えるべき 対 象 となる. 一 方 , 電子 数 がこれより 尐 なく,かつ 特 定 できている 場 合 は,ポテンシャル 形 状 や 電 子 相 関 など 精 度 の 高い 議 論 が 可 能 となる.このような 量 子 ドットを 尐 数 電 子 量 子 ドットと 呼 ぶことにする. この 尐 数電 子 量 子 ドットは 縦 型 の 量 子 ドットでよく 研 究 されており, 閉 じ 込 めポテンシャルの 対 称 性 が 良い 形 状 においては, 電 子 数 が 2, 6, 12 個 のときが 安 定 であるという 殻 構 造 や Hund 則 などの 現象 が 観 測 されている( 図 1.6) [Tarucha, S. et al., Kouwenhoven, L P., Oosterkamp, T. H. et al.].16


1.2.4 近 藤 効 果図 1.7 : 量 子 ドットに 電 子 を 詰 めていったときの 模 式 図 . 電 子 数 が 奇 数 のときはペアを 組 まない 電 子 が 1 つ 残 り S = 1/2 のスピンが 残 る. 電 子 数 が 偶 数 のときはすべてペアを 組 みスピンは S= 0 となる近 藤 効 果 [Kondo, J. et al.]は 局 在 スピンと 伝 導 電 子 のスピンが 相 互 作 用 し, 低 温 において 局 在 スピンを 遮 蔽 する 多 体 状 態 が 形 成 される 効 果 である. 近 藤 効 果 の 研 究 の 発 端 は 磁 性 合 金 において 発 見 された電 気 抵 抗 極 小 現 象 [Franck, J. P. et al.]にあるが,その 後 も 様 々な 系 でこの 効 果 が 研 究 されている.量 子 ドットにおける 近 藤 効 果軌 道 縮 退 が 解 けた 量 子 ドット 内 準 位 を 考 え, 最 も 単 純 に 電 子 は 下 から 順 に 詰 まっていくと 考 えると, 図1.7 に 示 すように, 電 子 数 N が 奇 数 ではペアを 組 まない 電 子 が 1 つ 残 り,トータルスピン S = 1/2 となるのに 対 し,N が 偶 数 ではすべての 電 子 がペアを 組 み,トータルスピンが S = 0 となる.すなわちの N の偶 奇 を 操 作 することで 量 子 ドットの 局 在 スピンを on/off できる.この 局 在 スピンを 利 用 して, 量 子 ドットにおいても 近 藤 効 果 が 研 究 されている.[Kawabata, A., Van derWiel, W. G. et al.]Coulomb ブロッケード 領 域 では 量 子 ドットからリードへの 通 常 の 過 程 のトンネルは 禁 止され, 仮 想 状 態 を 介 したトンネル(cotunneling) が 主 な 寄 与 をする.N が 奇 数 のときには,このコトンネリングによる 電 気 伝 導 度 が 近 藤 効 果 により 低 温 で 異 常 に 増 大 する.( 希 薄 磁 性 合 金 での 抵 抗 極 小 現 象 の 場合 は 量 子 ドットの 場 合 とは 異 なり, 近 藤 効 果 によって 伝 導 度 は 抑 制 される.) 量 子 ドットとリードとの 結 合 を2 次 摂 動 まで 扱 うと, 次 の 有 効 Hamiltonian,ϵ,,(1.2.17)を 導 くことができ,この Hamiltonian (の 第 2 項 ) は sd-Hamiltonian と 呼 ばれる.ただし, , ,はリード 中 の 伝 導 電 子 のエネルギー,および 生 成 消 滅 演 算 子 ,S は 量 子 ドット 中 のスピン 演 算 子 であり,量 子 ドット 中 の 局 在 電 子 の 生 成 消 滅 演 算 子 , を 用 いて,, , (1.2.18)と 表 される.また J は 局 在 電 子 と 伝 導 電 子 の 結 合 定 数 で, 量 子 ドットとリードの 結 合 の 強 さにより 決 まる.この 項 の 摂 動 計 算 ( 付 録 B 参 照 ) 等 より 分 かるように, 近 藤 効 果 の 発 現 には 量 子 ドット 内 のスピンが 反 転17


するスピン 反 転 過 程 が 不 可 欠 である.この 系 の 基 底 状 態 はスピン 1 重 項 (S = 0) の 近 藤 状 態 と 呼 ばれる多 体 状 態 であり,その 束 縛 エネルギーに 対 応 する 温 度 は 近 藤 温 度 T K と 呼 ばれ,(1.2.19)で 与 えられる.ここで D はリードの 伝 導 電 子 のバンド 幅 , はリード 中 の 状 態 密 度 である. 温 度 T ≪ T Kのときにはこの 近 藤 状 態 が 量 子 ドットの 周 りに 局 所 的 に 形 成 され, 量 子 ドット 中 の 局 在 スピンは 完 全 に 遮蔽 される. 一 方 , 伝 導 電 子 は 近 藤 状 態 を 通 って 共 鳴 的 に 伝 導 できるようになり, 電 気 伝 導 度 は 増 大 する.この 現 象 は 共 鳴 幅 が k B T K , 共 鳴 準 位 がつねに Fermi 準 位 に 一 致 した 共 鳴 トンネルが 起 こっているものとして 理 解 される. 近 藤 温 度 T K を 量 子 ドットのパラメータ,リードとの 結 合 による 準 位 幅 (V はリードとの 結 合 の 強 さ), 単 電 子 帯 電 エネルギーU,Fermi 面 から 測 った 量 子 ドット 内 の 準 位 のエネルギーを 使 って 表 すと,(1.2.20)となる. 近 藤 効 果 は 温 度 が 近 藤 温 度 T K 以 下 のときに 発 現 するので, 実 験 的 には 近 藤 温 度 を 大 きくすることが 重 要 である.このため 通 常 ,ゲートにかける 電 圧 を 緩 めて, 量 子 ドットとリードとの 結 合 を 大 きくして を大 きくするという 方 策 がとられる. 以 下 , 量 子 ドットにおける 近 藤 効 果 の 発 現 の 様 子 を, 図 1.8 に 沿 って概 観 する.1. 図 (a): 近 藤 効 果 は,Coulomb 振 動 の 電 子 数 N が 奇 数 の 谷 で T < T K において 起 こり, 伝 導 度 を 増加 させる.2. 図 (b): 近 藤 効 果 による 伝 導 度 の 温 度 依 存 性 は,T ∼ T K で 対 数 依 存 性 を 示 す.この 温 度 依 存 性 には,高 温 と 低 温 の 極 限 でそれぞれ 成 立 する 理 論 式 を 自 然 につなぐ 経 験 式 ,(1.2.21)(1.2.22)が 存 在 する[Costi, T. A. et al.].ただし,G I は 充 分 低 温 での 伝 導 度 ,s はパラメータでその 値 はスピン1/2 の 系 では 0.22 程 度 となる.この 式 で 実 験 結 果 をフィットすることによって 近 藤 温 度 T K を 実 験 的 に 求めることができる.また 温 度 の 減 尐 と 共 に 伝 導 度 は 増 加 し, で 量 子 ドットとリードの 結 合 が 対 称 な場 合 には に 収 束 する[Van der Wiel, W. G. et al.].3. 図 (c): 近 藤 共 鳴 準 位 は 程 度 の 共 鳴 幅 を 持 つ.2 つのリード 間 に 有 限 バイアスをかけると,それぞれの Fermi 準 位 で 形 成 された 共 鳴 準 位 が 互 いに 離 れるために, 微 分 伝 導 度 dI/dV はゼロバイアスと中 心 とし, 幅 ∼ を 持 つピークとなる.このゼロバイアスピークは, 実 験 的 に 近 藤 効 果 を 同 定 するための 重 要 な 指 標 となっている.18


図 1.8 量 子 ドットにおける 近 藤 効 果 による 諸 現 象 の 概 念 図 .(a) 電 気 伝 導 度 のゲート 電 圧 依 存性 .T > T K のときを 実 線 で,T < T K のときを 破 線 で 表 してある. 後 者 の 場 合 には 奇 数 電 子 のCoulomb 谷 で 近 藤 効 果 によって 伝 導 度 が 増 大 する.(b) 近 藤 効 果 による 電 気 伝 導 度 の 温 度 依 存 性 .破 線 は 弱 結 合 領 域 での 摂 動 計 算 の 結 果 を 示 し,ln T で 発 散 する.(c) T < T K における 微 分 伝 導 度dI/dV のバイアス 電 圧 V 依 存 性 . 挿 入 図 は, 有 限 バイアス 下 で 2 つの 近 藤 共 鳴 状 態 が 離 れる 様 子を 示 す.[ 江 藤 幹 雄 . 物 性 研 究 ]1.3 本 論 文 の 構 成以 上 を 踏 まえ, 本 論 文 は 以 下 次 のように 構 成 されている. 第 2 章 では, 実 験 のための 試 料 作 製法 , 作 製 した 試 料 を 冷 却 し 電 気 伝 導 を 測 定 する 実 験 手 法 について 述 べる. 続 く 第 3 章 では, 測 定結 果 のうち 特 に 単 一 QPC に 限 ったものについて 提 示 し 議 論 する. 第 4 章 では, 第 3 章 の 研 究 で 見出 した 0.5 プラトーがスピン 選 択 性 トンネルによるものであることを 示 すために, 量 子 ドット 伝導 を 調 べた 結 果 について 述 べ,このような 場 合 の 近 藤 効 果 , 更 に 新 たに 見 出 したスピン 軌 道 ブロッケード 効 果 について 詳 述 する.Equation Chapter (Next) Section 119


第 2 章 実 験 方 法2.1 試 料 の 作 製研 究 目 標 で 述 べたような QPC や QD などの 量 子 閉 じ 込 め 系 を 実 現 するには 微 細 な 実 験 系 を 作 製 する必 要 がある. 本 研 究 で 用 いた 試 料 は 分 子 線 エピキタクシー(molecular beam epitaxy, MBE)で 作 製 されたIn 0.10 Ga 0.90 As/AlGaAs ヘテロ 界 面 に 形 成 される 2 次 元 電 子 系 (2 dimensional electoron gas, 2DEG)を 微 細加 工 して 作 製 した.2.1.1 InGaAs/AlGaAs 2 次 元 電 子 系ラシュバ 型 スピン 軌 道 相 互 作 用 が 強 い In 0.10 Ga 0.90 As 2 次 元 系 基 板 は MBE を 用 いて GaAs(001) 基 板 上で Pseudomolphic 条 件 で 成 長 した.( 同 研 究 室 橋 本 義 昭 氏 作 製 ) 基 板 の 構 成 は 図 2.1 で 示 す.2DEG の電 子 密 度 は n s = 1.2× 10 12 cm -2 , 移 動 度 は μ = 8.22× 10 4 cm 2 /Vs で, 平 均 自 由 行 程 ,フェルミ 波 長 は以 下 に 示 す 通 りである.図 2.1 InGaAs/AlGaAs 2 次 元 電 子 系20


2.1.2 微 細 加 工III-V 族 半 導 体 は 一 般 に 高 い 状 態 密 度 の 表 面 準 位 を 持 ち,これがフェルミ 準 位 をピン 止 めする.ショットキー 障 壁 の 高 さもこれで 決 まることが 多 いが,InGaAs 系 基 板 はこの 準 位 位 置 が 伝 導 帯 端よりやや 下 に 位 置 することが 多 く, 従 って 特 に n 型 の 場 合 ショットキー 障 壁 が 低 く, 金 属 ゲートによる閉 じ 込 めが 困 難 な 場 合 が 多 い.この 問 題 を 解 決 するために 陽 極 酸 化 法 ,ウェットエッチングによるトレンチを 用 いたサイドゲートの 作 製 を 試 みた.ただし,ここで 使 用 している 試 料 の 場 合 ,In 0.1 Ga 0.9 As 薄 膜はあくまで 量 子 井 戸 の 部 分 であり, 表 面 は GaAs であるから, 表 面 準 位 によるショットキー 形 成の 困 難 はない 可 能 性 がある. 実 際 , 微 細 加 工 金 属 ゲートの 試 料 の 場 合 は 冷 却 法 を 工 夫 することで 微 細加 工 による 量 子 系 の 作 製 に 成 功 した.この 場 合 , 冷 却 に 特 別 な 工 夫 を 要 したのは,InGaAs の 材 料 特性 というよりは,2DEG の 濃 度 が 非 常 に 高 く,また 量 子 井 戸 位 置 が 表 面 に 近 かったためと 考 えられる.図 2.2 電 子 線 リソグラフィーの 模 式 図2.1.2.1 電 子 線 リソグラフィー試 料 の 作 製 は 電 子 線 リソグラフィーを 基 本 に 行 う.2DEG 基 板 に 電 子 線 リソグラフィー 用 レジストを 塗 布 し 電 子 線 を 照 射 することで 描 画 領 域 のレジストの 化 学 性 質 を 変 化 させ, 現 像 液 により描 画 領 域 のレジストを 除 去 する(ポジ 型 レジスト).その 後 , 金 属 蒸 着 後 のリフトオフ 法 やエッチング 法 によって 試 料 を 作 製 した. 図 2.2 に 模 式 図 を 示 す.1. レジスト 塗 布基 板 の 上 にレジストと 呼 ばれる 感 光 膜 を 塗 布 する. 本 研 究 で 用 いたレジストはZEP520A( 日 本 ゼオン 株 式 会 社 )で 物 質 はα-クロロメタクリレートとα-メチルスチレンの 重 合 体 である.このレジストは 分 子 量 が 小 さく( 分 子 量 57000) 細 線 パターンの 描 画 に 適している.これをアニソールで 希 釈 して 使 用 した.2. 露 光電 子 線 描 画 装 置 を 用 いてレジストを 露 光 する.レジストに 電 子 線 が 照 射 されるとその 部位 ではレジストが 分 解 される. 本 研 究 では 描 画 装 置 に ELS7700(ELIONIX 株 式 会 社 )を 用いた.この 装 置 は 電 子 銃 に ZrO/W 熱 電 界 放 射 型 の Schottky 放 出 を 利 用 したフィラメントを 用 いており, 加 速 電 圧 が 75 kV のとき, 最 小 ビーム 径 は 0.7 nm となる. 描 画 ステージの 移 動 には,レーザー 測 長 計 を 用 いて x, y, z 方 向 を 補 正 し,さらに 重 ね 描 画 の 際 に 平行 移 動 と 回 転 の 補 正 をかけており,40 nm の 精 度 で 重 ね 描 画 が 可 能 である.21


3. 現 像露 光 されたレジストを 現 像 し, 分 解 されたレジストを 取 り 除 く. 本 研 究 では ZED-N50 レジスト 用 現 像 液 ( 日 本 ゼオン 株 式 会 社 ), 物 質 は 酢 酸 イソアミル 90 %, 酢 酸 エチル 10 %混 合 液 を 用 いて 現 像 を 行 った.その 後 に,イソプロピルアルコールですすいで 現 像 を 止める.4. エッチングエッチングをする 場 合 は,リン 酸 と 過 酸 化 水 素 水 の 混 合 液 (エッチング 液 )に 浸 し, 基 板を 溶 解 させる.レジストが 残 っている 領 域 においては 基 板 はエッチング 液 に 接 触 しないためエッチングされず,レジストが 無 い 部 分 のみがエッチングされる.5. 蒸 着金 属 蒸 着 を 行 う 場 合 は, 真 空 蒸 着 装 置 を 用 いて 金 属 薄 膜 を 試 料 全 体 に 形 成 する.レジストが 残 っている 領 域 においては 金 属 はレジスト 表 面 に 付 着 するが,レジストが 無 い 部 分においては 基 板 表 面 に 金 属 が 付 着 する.6. リフトオフ最 後 に 不 要 となったレジストおよびレジスト 上 の 金 属 膜 を 取 り 除 く. 本 研 究 で 用 いたZEP520A はトリクロロエチレンに 溶 解 するのでこれを 用 いて 溶 解 させて 取 り 除 いた.2.1.2.2 電 極 作 製試 料 に 電 極 を 作 製 する 際 は 上 記 の 電 子 線 リソグラフィーで AuGe 700Å/Ni 70Åを 蒸 着 する.その後 に 基 板 をフォーミングガス (N 2 97.1 %, H 2 2.9 % 混 合 気 体 ) 雰 囲 気 中 で 加 熱 (~390℃)し,2 次元 電 子 系 と 基 板 表 面 とのオーミックコンタクトを 取 る.コンタクトが 取 れているかどうかは,2つのコンタクト 間 の 電 気 抵 抗 を 測 定 しながら 試 料 を 液 体 He 温 度 まで 冷 却 することで 最 終 的 に 判断 した.22


2.1.2.3 陽 極 酸 化 法 [Fuhrer, A. at al.]原 子 間 力 顕 微 鏡 (Atomic Force Microscopy, AFM)を 用 いて 局 所 的 に 半 導 体 基 板 を 酸 化 し, 試 料 を微 細 加 工 する 方 法 である.その 模 式 図 を 図 2.3 に 示 す. 湿 度 が 40~50%RH の 場 合 , 半 導 体 表 面 には 30nm 程 の 水 の 膜 が 形 成 されていて,この 水 膜 を 電 解 質 にして 針 と 基 板 の 間 に 電 圧 を 印 加 することで 針 の 下 の 領 域 が 微 細 に 酸 化 される.2DEG 基 板 の 場 合 は 基 板 の Cap layer が 酸 化 されることによって 2DEG の 表 面 までの 距 離 が 近 くなり 表 面 状 態 の 数 が 増 えることから 下 の 2DEG を 空 乏 化することができる. 本 研 究 で 用 いた AFM は Veeco 社 製 の Innova で,Pt/Ir コートされた 針 を 使 用した.バネ 係 数 は 2.8N/m, 共 振 周 波 数 は 75kHz である.2.1.2. 4 ウェットエッチング 法 によるサイドゲート電 子 線 リソグラフィー 法 を 用 いて H 2 PO 4 溶 液 に 浸 すことで 200nm 程 度 のトレンチを 作 ることで, 前 節 で述 べたような 2DEG の 空 乏 化 もしくは 2DEG 領 域 を 取 り 除 きサイドゲートを 作 製 すると, 横 方 向 から 閉 じ込 めポテンシャルを 印 加 することが 出 来 る.ウェットエッチング 法 によるサイドゲート 作 製 は 75kV の 加 速 電圧 で 電 子 線 リソグラフィー 法 で 描 画 してレジストを 現 像 し,H 2 O 2 :H 3 PO 4 :H 2 O (=1:1:50) 溶 液 に 30秒 間 ウェットエッチングする.図 2.3 陽 極 酸 化 法 の 模 式 図Equation Section (Next)23


2.2 測 定2.2.1 低 温図 2.4 希 釈 冷 凍 機 の 概 略 図 . 左 側 の 部 分 が 希 釈 冷 凍 機 本 体 を 表 し, 運 転 中 は 液 体 He 中 にある.希 釈 冷 凍 機 に 導 入 された He ガスは Joule-Thomson 効 果 で 液 化 し, 分 溜 器 と 熱 交 換 器 の 間 で 更 に 冷却 されて 混 合 槽 にたどり 着 く.ここで 3 He が 希 釈 冷 凍 し, 分 溜 器 から 選 択 的 に 外 部 ポンプによって 排 気 される.その 後 , 再 度 コンプレッサー, 液 体 N 2 トラップを 通 って 本 体 を 循 環 し 続 ける.量 子 効 果 の 特 徴 的 なエネルギーは 非 常 に 小 さいことが 多 く,その 観 測 には 熱 揺 らぎを 抑 えるため, 極低 温 が 必 要 となる. 本 研 究 では,すべての 測 定 において 希 釈 冷 凍 機 を 使 用 した. 図 2.4 に 本 研 究 で 用いた 希 釈 冷 凍 機 の 概 略 図 を 示 す. 右 側 の 部 分 はガスハンドリング 装 置 であり, 室 温 部 に 設 置 されている.一 方 , 左 側 の 部 分 は 希 釈 冷 凍 機 本 体 であり 運 転 中 は 液 体 He 中 にある.まず 分 溜 器 においてその 高 い蒸 気 圧 を 利 用 して 3 He が 選 択 的 に 希 釈 冷 凍 機 本 体 より 取 り 出 される. 取 り 出 された 3 He はポンプ,コンプレッサーを 通 して 液 体 N 2 トラップに 導 入 され, 不 純 ガスが 取 り 除 かれる.その 後 , 再 度 希 釈 冷 凍 機 本体 に 導 入 され,Joule-Thomson 弁 で 液 化 される.さらにいくつかの 熱 交 換 器 を 通 して 冷 却 された 後 , 混合 槽 に 導 入 される. 混 合 槽 内 では,c 相 ( 3 He 濃 厚 相 )と d 相 ( 3 He 希 薄 相 )が 上 下 2 層 に 分 離 しており,c相 から d 相 に 3 He が 希 釈 される 際 に 冷 却 が 起 こる.その 後 , 希 釈 された 3 He は 再 び 分 溜 器 で 選 択 的 に取 り 出 され, 上 記 のプロセスを 繰 り 返 し 循 環 し 続 ける. 本 研 究 では TBT 社 ( 現 Air Liquide 社 ) 製 の 希 釈 冷凍 機 を 使 用 した.この 希 釈 冷 凍 機 の 特 色 は 上 記 のように Joule-Thomson 弁 を 用 いて 3 He の 液 化 を 行 う 点である. 他 の 多 くの 希 釈 冷 凍 機 は 4 He のポンピングを 用 いて 3 He の 液 化 を 行 うのであるが, 本 機 はこれを 必 要 としないためコンパクトな 形 状 となり,また 詰 まりの 起 こりがちな 1 K ポットの 吸 入 口 が 存 在 しない.本 研 究 で 使 用 した 希 釈 冷 凍 機 には 2 タイプあり, 試 料 を 3 He- 4 He 混 合 槽 内 で 直 接 冷 却 するものと, 混 合槽 から 伸 びている 銅 板 に 取 り 付 けて 熱 接 触 によって 冷 却 するものと, 混 合 槽 においてリード 線 やゲート 線を 冷 却 して 熱 接 触 で 試 料 を 冷 却 する 方 法 がある. 図 2.4 に 熱 接 触 型 の 希 釈 冷 凍 機 の 最 低 温 部 の 写 真 を示 す. 右 上 に 写 っているものが 混 合 槽 で,そこから 左 下 の 構 造 はリード 線 によって 混 合 槽 と 熱 接 触 が 取 ら24


れている. 混 合 槽 の 温 度 は 4.2 K 以 下 で 較 正 された RuO の 抵 抗 値 を ac ブリッジ(25 Hz) でモニタしながら,ヒーター(~1 kΩ の 抵 抗 )にかける 電 圧 を PID 制 御 することにより 最 低 到 達 温 度 の 約 30 mK から 800mK 程 度 までの 温 度 領 域 で 0.1~ 数 mK の 範 囲 内 で 安 定 化 させることができる. 3 He ガスはロータリーポンプ(もしくはスクロールポンプ) とコンプレッサーで 循 環 させ 長 期 間 (~ 数 ヶ 月 )の 測 定 も 可 能 である.また磁 場 の 印 加 には 超 伝 導 マグネットを 利 用 しており, 最 大 で 15 T までの 磁 場 を 発 生 できるものを 使 用 し,必 要 なときにはヒートスイッチを 切 って 電 源 から 切 り 離 して 永 久 電 流 モードで 利 用 した. 磁 場 掃 引 の 速 度は 最 大 でも 2 mT/s 程 度 で, 渦 電 流 による 発 熱 の 影 響 が 尐 なくなるようにした.2.2.2 電 気 伝 導 測 定本 研 究 では 電 気 伝 導 度 測 定 によって 量 子 現 象 を 観 測 する. 図 2.5 に 電 気 伝 導 度 測 定 の 回 路 を 模 式 的に 示 す. 最 も 簡 単 な 伝 導 度 の 測 定 方 法 としては, 試 料 に 一 定 の 電 圧 をかけて 試 料 に 流 れる 電 流 を 測 定する 定 電 圧 測 定 と, 試 料 に 一 定 の 電 流 を 流 して 試 料 端 に 現 れる 電 圧 を 測 定 する 定 電 流 測 定 の 2 つがある. 本 研 究 では 試 料 の 抵 抗 値 に 応 じて 双 方 の 測 定 方 法 を 使 用 した. 図 2.5(a)の 回 路 を 使 用 した 定 電 圧測 定 においては, 直 流 バイアス V dc にトランスによって 交 流 電 圧 V ac を 付 加 し,R i と R s の 抵 抗 からなる 分割 器 によって 電 圧 分 割 を 行 い 試 料 に 電 圧 をかける.これは, 能 動 素 子 により 低 歪 の 信 号 を 作 るには 大 きな 振 幅 の 方 が 有 利 であり,これを 受 動 素 子 で 小 振 幅 にするためである. 抵 抗 R s を 試 料 の 抵 抗 値 よりも 十分 小 さくしてやることによって 試 料 にかかる 電 圧 を 一 定 にしている.この 定 電 圧 の 状 況 で 試 料 より 出 力 される 電 流 をまず 電 流 アンプによって 電 圧 に 変 換 する.その 後 に SN 比 を 向 上 させるために 電 圧 をロックインアンプに 入 力 し,V ac の 周 波 数 成 分 のみを 抽 出 した 後 にデジタルマルチメータを 通 してコンピュータに 取 り込 む. 回 路 構 成 より 明 らかなようにこの 回 路 は 高 抵 抗 値 の 試 料 に 対 して 有 効 である. 本 研 究 においては量 子 ドットのクーロンブロッケード 領 域 が 非 常 に 高 抵 抗 (> 10 GΩ)になるので 量 子 ドットを 通 しての 伝 導 度を 測 定 するときにこの 回 路 を 用 いた. 実 験 では 多 くの 場 合 R s = 100 Ω ,R i = 100 kΩ として 入 力 信 号 を1/1000 にして 最 終 的 に 試 料 に 対 して 10 µV の 交 流 入 力 となるように 設 定 した.また 交 流 周 波 数 は 80 Hzとした.図 2.5 電 気 伝 導 測 定 の 回 路 の 模 式 図 .(a) 定 電 圧 測 定 の 回 路 . 直 流 バイアス V dc にトランスによって 交 流 電 圧 V ac を 付 加 し,R i と R s の 抵 抗 からなる 分 割 器 によって 電 圧 分 割 を 行 い 試料 に 電 圧 をかける.(b) 定 電 流 測 定 の 回 路 . 直 流 バイアス V dc にトランスによって 交 流 電 圧V ac を 付 加 し,R i の 大 きな 抵 抗 によって 定 電 流 を 試 料 に 流 す.25


図 2.6 各 温 度 領 域 でのフィルタの 配 置 .オーミックコンタクトについては 室 温 部 に RC フィルタを 30 mK 部 に LCR フィルタを 搭 載 している.またゲートについてはこれに 加 えて,室 温 部 に 市 販 ローパスフィルタを 挿 入 している.Equation Chapter (Next) Section 126


Leak Current (A)第 3 章 スピン 軌 道 相 互 作 用 のある 系 における量 子 ポイントコンタクトこの 章 では,スピン 軌 道 相 互 作 用 のある 系 における 量 子 ポイントコンタクト(QPC)の 量 子 輸 送 現 象 について 述 べる.まず, 試 料 構 造 を 紹 介 した 後 ,QPC の 伝 導 測 定 結 果 を 示 す.そして, 零 磁 場 で 伝 導 度 にスピンの 縮 退 が 解 けたような 0.5× 2e 2 /h(0.5G q )のプラトーが 観 測 され,この 系 においてほぼ 完 全 にスピン 偏極 している 可 能 性 について 述 べる.[Wan, J et al., Debray, P. et al.] さらに, 試 料 に 垂 直 方 向 の 有 限 磁場 においてプラトー 上 に 現 れたディップ 構 造 について,スピン 軌 道 ギャップ[Pershin, Y. V. et al.,Quay, C. H. L. et al.]によるものである 可 能 性 について 議 論 する.3.1 試 料QPC 構 造 による 伝 導 度 の 量 子 化 現 象 を 観 測 するために 作 製 した 試 料 について 述 べる. 電 子 の 運 動 する3 次 元 方 向 の 自 由 度 から 1 つの 次 元 は 2DEG によって 閉 じ 込 められ,QPC のような 準 1 次 元 系 を 作 るにはもう 一 つの 次 元 に 対 して 閉 じ 込 めポテンシャルを 加 える 必 要 がある.その 方 法 として 以 下 の 3 つの 方 法で 試 料 を 作 製 した. 各 々のサンプルの 測 定 結 果 は 3.2 章 以 降 から 議 論 する.3.1.1 陽 極 酸 化 による QPC2 章 で 述 べたように,InGaAs 系 2DEG 基 板 は 表 面 準 位 の 関 係 から 半 導 体 と 金 属 の 間 にショットキー 障 壁 を 作 ることが 難 しく, 半 導 体 加 工 でよく 使 われるスプリットゲートによって 閉 じ 込 めポテンシャルを 加 えることは 難 しいとされている. 解 決 法 の1つは 2 章 で 説 明 した 陽 極 酸 化 法 によって 2 次 元 系 に 障 壁 を 作 り, 孤 立 された 2 次 元 系 をサイドゲートにして 使 うことである. 本 研 究に 使 用 した 試 料 では 結 局 後 述 するように 表 面 準 位 問 題 は 深 刻 ではなかったが, 陽 極 酸 化 法 自 身 はGaAs/AlGaAs 系 でも 使 用 されることからわかるように,EB 描 画 法 よりも 試 料 への 損 傷 を 押 さえて,より 微 細 な 構 造 を 形 成 できるポテンシャルを 持 っており, 更 に In 組 成 の 高 い 系 へ 実 験 範 囲 を 広 げる 可 能 性 を 考 え,この 手 法 を 微 細 加 工 技 術 として 確 立 する 意 味 からも,この 加 工 法 を 試 みた.まず,リーク 電 流 のない 障 壁 の 条 件 を 調 べるため, 陽 極 酸 化 による 空 乏 層 の I-V 特 性 を 測 った( 図6x10 -9 4T = 153mKGate1 Characteristic20-2-4-6-0.4 0.0 0.4Gate Voltage (V)図 3.1 左 : 陽 極 酸 化 による QPC - 試 料 1右 : 陽 極 酸 化 による 伝 導 障 壁 の I-V 特 性27


3.1).-0.4 V から+0.46 V 間 に 伝 導 がないことがわかる.このときの AFM による 陽 極 酸 化 の 条 件として, 基 板 と 針 の 間 に Δ V = -20 V, 針 の 速 度 は v = 50 nm/s で, 気 温 24.7℃ 湿 度 59 %の 環 境で 行 った. 針 の 基 板 との 距 離 を 保 つフィードバックのパラメータである Setpoint は-0.005 であった.他 にも 様 々な 条 件 で 陽 極 酸 化 を 行 ったが,Ensslin グループの 試 料 のような 幅 100nm の 陽 極 酸 化ではリーク 電 流 の 小 さな 障 壁 を 得 ることができなかった.QPC 試 料 の AFM トポグラフィーを 図3.2 に 示 す. 陽 極 酸 化 によって 孤 立 された Sidegate1 と Sidegate2 の 間 に 伝 導 チャンネルがある 構 造になっている.Sidegate に 電 圧 を 印 加 する 事 で 伝 導 チャンネルに 閉 じ 込 めポテンシャルを 加 えることが 可 能 になる.QPC の 幅 は 100 nm である. 陽 極 酸 化 の 障 壁 は 1. 低 温 に 冷 却 の 際 の 時 間 的 温 度勾 配 ,2. 冷 却 の 際 に 有 限 ゲートバイアスを 保 ったまま 冷 却 ,の 2 要 因 に 留 意 することで 形 成 できた.2 つの 要 因 によって 障 壁 の 強 さが 変 わることが, 原 因 は 不 明 であるが, 経 験 的 には 再 現 性 良く 生 じた.3.1.2 ウェットエッチング 法 による QPC研 究 初 期 は 陽 極 酸 化 による 量 子 閉 じ 込 め 系 の 試 料 作 製 を 目 指 していたが,1.ゲート 電 圧 が-0.4 V程 しかかけられない 点 ,2. 同 じ 条 件 でも 陽 極 酸 化 の 様 子 が 違 ったり, 一 回 の 酸 化 に 酸 化 線 に 切 れ目 があるなど AFM による 陽 極 酸 化 の 条 件 に 揺 らぎが 激 しい 点 ,3. 十 分 な 障 壁 がある 陽 極 酸 化 だと図 3.2 のように 突 出 の 多 い 形 になり, 障 壁 の 鏡 面 性 (specularity)が 落 ちることが 測 定 結 果 に 影 響を 及 ぼしている 可 能 性 があり, 残 念 ながら 現 状 では 量 子 ドット 等 にも 応 用 可 能 な 高 い 精 度 が 得 られているとは 言 えない.これが, 現 在 の 描 画 系 や 条 件 の 問 題 なのか, 材 料 系 の 問 題 であるのか,今 後 の 検 討 課 題 である.次 に, 陽 極 酸 化 の 代 わりにウェットエッチングにより 微 細 トレンチを 形 成 する 方 法 で 試 料 を 作製 した.この 方 法 は 結 局 EB 露 光 を 必 要 とし,また AFM 陽 極 酸 化 ほど 原 理 的 な 加 工 限 界 が 微 細 ではないが,ショットキー 障 壁 の 問 題 は 回 避 できる.トレンチの 幅 は 200 nm, 深 さは 69 nm で,QPCの 幅 は 220 nm である.この 試 料 は 4 端 子 測 定 が 可 能 なように 作 製 し, 接 QPC2 触 抵 抗 問 題 を 回 避 できるようにした.QPC1QPC2図 3.2 ウェットエッチング 法 による QPC- 試 料 2図 3.3 金 属 ゲートによる QPC- 試 料 328


3.1.3 金 属 ゲートによる QPC本 研 究 に 使 われた 2 次 元 電 子 系 基 板 の 場 合 ,InGaAs は 量 子 井 戸 部 分 のみであり, 表 面 側 は 通 常の GaAs/AlGaAs 基 板 と 同 じ 構 成 であるから 実 際 には 表 面 準 位 はほとんど 問 題 にならない.ただし,非 常 に2 次 元 電 子 濃 度 が 高 く( 後 述 するように, 濃 度 が 低 い 場 合 ,0.5 プラトーが 現 れない), 表 面層 の 厚 さも 陽 極 酸 化 のことを 考 慮 して 薄 くしたため, 通 常 よりはショットキーゲートの 形 成 が 難しい 状 況 である.そこで,3.1.1 に 言 及 したように 冷 却 時 間 と 冷 却 時 の 有 限 ゲート 電 圧 を 調 節 することで,ショットキー 障 壁 を 強 くすることに 成 功 した.Cryostat の 熱 交 換 ガス( 4 He)を 0.3 mbar にして 12 時 間 程 度 ,ゲートには 室 温 から+0.2 V をかけて 4.2 K まで 冷 やす. 電 子 線 リソグラフィーを 用 いた Ti/Au ゲートによる 試 料 の 電 子 顕 微 鏡 写 真 を 図 3.3 に 示 す.ゲート 間 の 幅 は 150nm である.Equation Section (Next)3.2 伝 導 度 の 量 子 化 観 測3.1 節 で 述 べた 試 料 について 低 温 で 伝 導 測 定 を 行 った.その 結 果 , 零 磁 場 において 0.5× G q の 伝導 度 を 持 つプラトーが 観 測 されている( 図 3.4, 3.5, 3.6). 量 子 ポイントコンタクトにおける 伝 導度 の 量 子 化 は, 時 間 反 転 対 称 性 を 崩 す 要 因 がない 限 り, 電 子 はスピンの 自 由 度 で 縮 退 していて 1つのサブバンドに 2 つの 電 子 が 流 れることから 2e 2 /h の 伝 導 度 に 量 子 化 する.だが 本 研 究 の 試 料 では 外 部 磁 場 も, 強 磁 性 体 リードも 使 っていないにもかかわらず,スピンの 縮 退 が 解 けたかのような 0.5G q プラトーが 見 られる.図 3.4 陽 極 酸 化 で 作 製 した QPC の 伝 導 度 の 量 子 化29


図 3.5 ウェットエッチング 法 で 作 製 した QPC の 伝 導 度 量 子 化図 3.6 金 属 ゲートで 作 製 した QPC の 伝 導 度 量 子 化30


3.3 非 対 称 ゲート 電 圧 による 伝 導 度 プラトーの 変 化図 3.3 の QPC1 と QPC2 のゲート 電 圧 に 差 がある 場 合 の 伝 導 測 定 結 果 を 図 3.7 に 示 す.QPC1 を V QPC1に 固 定 してコンダクタンスの QPC2 のゲート 電 圧 依 存 性 を 測 定 した. 図 の 赤 から 紫 色 のトレースに V QPC1が 変 わるほどゲート 間 の 非 対 称 性 が 変 わる.0.7 異 常 問 題 でもよく 見 られたように[Nakamura, S et al.],QPC のポテンシャルの 非 対 称 性 を 変 えることで,0.5 プラトーが 徐 々に 高 くなり,G q プラトーに変 わることが 確 認 された.図 3.7 非 対 称 閉 じ 込 めポテンシャルによる 伝 導 度 プラトーの 変 化31


3.4 有 限 ソースドレイン 電 圧 による 特 性QPC に 有 限 のソースドレインバイアスをかけて 伝 導 度 を 調 べた 結 果 を 図 3.8 に 示 す.0.7 異 常の 場 合 , 近 藤 状 態 と 類 似 したゼロバイアスピークの 表 れ[Cronenwett, S. M. et al.]や,QPC 内 の 電 子の 反 射 で 量 子 ドットのような 局 在 状 態 が 生 じて,クーロンダイアモンドのような 現 象 が 見 られるが, 試 料 1,2に 対 してはそのような 結 果 は 得 られなかった. 原 因 は 不 明 であるが, 有 限 バイアス 時 に 生 じるポップコーンノイズのために 構 造 が 平 均 化 されてしまった 可 能 性 がある.図 3.8 ソースドレイン 電 圧 特 性 左 は 陽 極 酸 化 による 試 料 1,右 はウェットエッチングによる 試 料 232


3.5 外 部 磁 場 による 特 性試 料 3 に 対 して 垂 直 磁 場 依 存 性 を 調 べた.その 結 果 を 図 3.9 に 示 す. 零 磁 場 で 0.5 プラトーが再 現 するが,0.5 T ほどの 低 磁 場 をかけると 0.5 プラトーが 引 き 上 がって G q プラトーに 変 わる.さらに 磁 場 をかけると図 3.9 垂 直 磁 場 依 存 性 – 零 磁 場 で 見 えていた 0.5 プラトーが0.5T 付 近 でなくなって, 強 磁 場 領 域 でまた 現 れる7 T 付 近 で 再 び 0.5 プラトーが 現 れる.0.5 T で 0.5 プラトーがなくなるのは Debray らのメカニズムにおける 非 対 称 性 が 弱 磁 場 によって 対 称 になったためであると 考 える[Akera, H., Ando, T.].さらに 7 T のような 強 磁 場 領 域 ではゼーマン 分 裂 からスピンごとのサブバンドがが 十 分 に 広 がり,0.5プラトーが 現 れる. 垂 直 磁 場 のため,2DEG のホール 抵 抗 も 一 緒 に 見 積 もられるので 7T のトレースは G q プラトーが G q から 尐 しずれている.さらに,8 T 以 上 の 磁 場 では G q プラトーにディップが 現 れることが 確 認 された. 強 い 垂 直 磁 場 では 強 いエッジ 状 態 に 沿 った 弾 性 的 伝 導 をするのため後 方 散 乱 が 非 常 に 尐 なくなるが, 磁 場 を 強 めるほどディップが 大 きくなる.これはスピン 軌 道 相互 作 用 による 有 効 磁 場 の 向 きと 外 部 磁 場 の 向 きが 有 限 な 角 度 を 持 つとき,スピン 毎 に 分 かれたサブバンドの 接 点 がギャップである 可 能 性 がある.「スピン 軌 道 ギャップ(Spin-orbit Gap)」 現 象 である [Pershin, Y. V. et al., Quay, C. H. L ] ( 詳 しくは 付 録 3) .33


図 3.10 スピン 軌 道 ギャップによるディップ 構 造左 から 垂 直 磁 場 が 8 T から 10 T に 変 わる図 3.11 強 磁 場 領 域 の 2 次 元 プロット-8 T からディップが 見 られる.34


3.6 議 論0.5 プラトーの 由 来 について 考 えてみる.SO 相 互 作 用 のある 材 料 系 の 量 子 構 造 において 提 案 されているスピン 偏 極 機 構 の 多 くは,0.5 プラトーを 説 明 し 得 ない.これは,これらが, 電 流 + 空 間 局 在ポテンシャルによって 発 生 する 軌 道 角 運 動 量 を SO 相 互 作 用 を 通 して 電 子 スピンへ 渡 し,その 結果 ,スピンが 反 転 して 一 方 のスピン 状 態 の 電 子 数 が 増 加 する,というメカニズムであるからで,スピン 偏 極 しても 流 れる 電 流 は 変 化 しないので 伝 導 度 自 身 には 変 化 が 生 じない.0.5 プラトーが 理 論 的 に 再 現 できる 計 算 の1つが,J. Wan らが 行 った 非 平 衡 グリーン 関 数(Non-Equilibrium Green function Formalism) によるものである.[Wan, J., Cahay, M. et al., Debray, P. etal.] 彼 らは,この 計 算 における 重 要 な 3 つの 原 因 は, 非 対 称 な 閉 じ 込 めポテンシャル,Lateral SO 相互 作 用 , 電 子 ― 電 子 相 互 作 用 だと 主 張 している. 彼 らのモデルでは,QPC ポテンシャル 近 傍 に 半 ば局 在 した 確 率 密 度 の 不 均 一 を 伴 う 状 態 が 生 じ,これが 空 間 的 に 非 対 称 であると,Lateral SO 相 互 作用 によって 小 さいスピン 偏 極 が 起 こる.ここに, 非 断 熱 的 に 次 の 電 子 が 流 れてくると, 電 子 間 相 互作 用 によってスピン 依 存 障 壁 が 形 成 され, 透 過 する 電 子 に 限 ればほぼ 完 全 なスピン 偏 極 になって 0.5プラトーが 観 測 できるようになると 説 明 する.本 研 究 の 結 果 では 対 称 なポテンシャルでも 0.5 プラトーが 現 れる.まず 考 えられるのは,2 つのゲートに 同 じ 電 圧 をかけるとしても, 実 験 的 に 2DEG が 受 けるポテンシャルは,ゲートの 形 状 や, 電 源 からリード 線 を 伝 わるときの 抵 抗 などの 原 因 で 完 全 に 対 称 にはならない.ここで 特 筆 しなければならないものは, 電 子 密 度 の 尐 ない( 試 料 1,2,3 の 1/3 程 度 )の 2DEGで 作 製 した QPC はゲートを 非 対 称 に 操 作 しても 0.5 プラトーは 現 れなかったことである( 図 3.12).このことから, 零 磁 場 における 0.5 プラトーは,スピン 軌 道 相 互 作 用 の 強 さだけでなく, 電 子 間相 互 作 用 も 関 係 していることを 支 持 できる.V図 3.12 電 子 密 度 n=3.66×10 11 cm -2 , 移 動 度 μ =6.13×10 4 cm 2 /Vs の InGaAs/GaAs 2DEG で 作 製 した QPC( 左 )と 伝 導 度 量 子 化 の 特 徴 ( 右 ).この 試 料 では 0.5 プラトーは 見 られなかった.35


垂 直 方 向 の 強 磁 場 中 の 結 果 については,10 T 程 度 の 強 い 垂 直 磁 場 ではエッジ 状 態 形 成 のため,後 方 散 乱 が 非 常 に 尐 なく, 零 磁 場 の QPC で 見 られる 反 射 による 振 動 や 不 純 物 による 振 動 などが 起き 難 い.にもかかわらず, 磁 場 を 強 めることでディップはどんどん 大 きくなる.( 図 3.10, 3.11)試 料 3 の QPC が 作 るポテンシャルは 2DEG が 作 る z 方 向 の 非 対 称 な 閉 じ 込 めポテンシャルとゲートが 作 る y 方 向 ( 正 確 には 2DEG までの 深 さを 考 えて x-y 平 面 上 )の 非 対 称 なポテンシャルを 伝導 チャンネルは 受 けている. 言 い 換 えると,x 方 向 に 伝 導 する 電 子 は y-z 平 面 上 の 有 効 磁 場 を 受 けていると 考 えられる.Pershin らの 理 論 計 算 によると (ただし, は 有 効 磁 場 と 外 部 磁 場 との 角 度 )の 場 合 はスピン 軌 道 有 効 磁 場 によるサブバンドの 波 数 方 向 の 分 裂 とゼーマン 分 裂 によるエネルギー 方 向 の 分 裂 が 両 方 存 在 して,0.5 プラトーとディップがどちらも 現 れると 予 想 されていた( 付 録 C の 図 C.1 b), C.2 b)). 本 研 究 も z 方 向 の 外 部 磁 場 に 対 して, 有 効 磁 場 は y-z 平 面 上 にあると 考 えられ 10T 付 近 の 実 験 結 果 はこれとよく 一 致 している( 図 3.10).3.7 結 論スピン 軌 道 相 互 作 用 の 強 い 2DEG を 用 いて QPC を 作 製 した. 低 温 において 電 気 伝 導 測 定 行 った結 果 , 零 磁 場 で 0.5G q (0.5×2 h)コンダクタンスを 持 つプラトーが 観 測 された, 通 常 , 零 磁 場 では 電 子 スピンが Kramers 縮 退 していて QPC による 伝 導 は G q で 量 子 化 され,0.5 プラトーは 強 磁 場におけるゼーマン 分 裂 によって 縮 退 がとけることで 現 れる. 本 研 究 の 0.5 異 常 はスピン 軌 道 相 互作 用 と 電 子 間 相 互 作 用 による 現 象 であると 考 えられる.この 場 合 0.5 プラトーの 伝 導 では 100%スピン 偏 極 されている 可 能 性 がある.また, 強 い 垂 直 磁 場 において QPC の 伝 導 にスピン 軌 道 ギャップと 見 られるディップが 観 測 された. 量 子 化 コンダクタンスの 特 徴 から 有 効 磁 場 が 外 部 磁 場 に 対して 斜 めになっていることが 考 えられ,これは 実 験 で 働 く 電 場 の 向 きから 考 えると 妥 当 である.Equation Chapter (Next) Section 136


第 4 章 量 子 ドットスピン 軌 道 ブロッケード前 章 で 述 べたようにスピン 軌 道 相 互 作 用 のある QPC において 零 磁 場 で 0.5 プラトーが 現 れることを 確 認 した.スピン 縮 退 が 解 けた 場 合 の 伝 導 度 量 子 で 量 子 化 されていることは,この 領 域 では 縮 退 が 解 けて 電 子 スピンが 偏 極 していることを 示 唆 し,Debray らもそのように 主 張 しているが,伝 導 度 プラトー 以 外 の 実 験 的 手 段 では 検 証 されていない. 本 章 では, 量 子 ドット 伝 導 を 用 いてこの 領 域 のスピン 偏 極 伝 導 を 検 証 した 実 験 について 述 べる.2 量 子 ドットの 直 列 回 路 系 では, 有 限 バイアス 下 において「スピンブロッケード」[Ono, K. et al.]が 起 こり, 量 子 ドットのスピン 状 態 を 調 べることにしばしば 用 いられる. 後 述 するように, 量 子ドットを 形 成 する2つのトンネル 接 合 の 内 一 方 でスピン 選 択 性 のあるトンネルが 生 じていると,1つの 量 子 ドットでもスピンブロッケードが(2 量 子 ドット 系 とは 現 れ 方 にやや 違 いがあるが) 生 じる.ここではそのようなブロッケード 現 象 の 観 測 を 通 して, 0.5 プラトー 領 域 でほぼ 100%のスピン 偏 極 が 起 こっていることを 検 証 する.4.1 試 料試 料 は 電 子 線 リソグラフィーを 使 って Ti/Au ゲートを 蒸 着 する 方 法 で 作 製 した. 金 属 ゲートで 作 製 した QPC と 同 様 に 時 間 をかけ,ゲートに 有 限 電 圧 を 印 加 しながら 冷 却 することで 低 温 でショットキー 障 壁 を 形 成 することが 出 来 た. 試 料 の 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 図 と 測 定 のセットアップを 図4.1(a)に 示 す. 低 温 は 希 釈 冷 凍 機 を 用 いて 50mK 程 度 で 測 定 した. 量 子 ドットは2つの QPC によるトンネル 障 壁 で 構 成 されている.QPC1 の 特 性 を 図 4.1(b)に 示 す.この QPC も 0.5 プラトーが 観測 される.QPC2 についても 試 料 形 状 の 対 称 性 のためほぼ 同 じ 特 性 を 示 している.図 4.1(a) QD の SEM 写 真 と 測 定 のセットアップ (b) QPC 特 性Equation Section (Next)37


4.2 弱 結 合 の 場 合図 4.1 の QPC1 と QPC2 を 強 く 閉 じ 込 め,リードとの 結 合 の 弱 い 量 子 ドットを 形 成 した.V 1 =-0.82 V, V 2 = -0.83 V にして 伝 導 特 性 を 調 べる.その 場 合 のクーロン 振 動 とクーロンダイアモンドを 図 4.2,4.3 に 示 す.図 4.2 弱 結 合 の 場 合 のクーロン 振 動図 4.3 弱 結 合 の 場 合 のクーロンダイアモンド38


クーロンピークは 20 mV 間 隔 で 振 動 していて,ダイアモンドの 大 きさからゲートと QD の 静電 容 量 C g = 0.011 pF, 量 子 ドットの 静 電 容 量 C = 0.20 pF, 帯 電 エネルギーU = 0.93 meV と 見 積 もられる.また,ピークの 幅 から 電 子 温 度 は 300 mK 程 度 である.これをもって 2DEG に QD が 形成 されていることが 確 認 できた.Equation Section (Next)4.3 強 結 合 の 場 合QPC1 = -0.8 V, QPC2 = -0.71 V にして,QPC1 は 0.5 プラトー 領 域 ,QPC2 は G q 領 域 に 設 定する.つまり,QD の 左 のトンネル 障 壁 はスピン 偏 極 源 としてスピン 選 択 性 (SS)を 持 っている可 能 性 がある. 右 のトンネル 障 壁 である QPC2 では QD とリードのトンネル 確 率 が 大 きくなり,リードとの 結 合 が 強 い.このような 条 件 では 式 1.2.20 で 表 すように 近 藤 温 度 が 上 昇 し, 近 藤 効 果が 現 れやすい.この 時 のクーロン 振 動 を 図 4.4 に 示 す.4 つのクーロンピークを 各 々p a ,p b ,p c ,p d と 命 名 し,その 間 の 谷 を A,B,C,D と 呼 ぶことにしよう.図 4.4 強 結 合 の 場 合 のクーロン 振 動4.3.1 近 藤 効 果 の 観 測スピン 自 由 度 による 近 藤 効 果 は 量 子 ドットがスピンを 持 っている 時 にのみ 現 れるので, 量 子 ドットのスピン 状 態 同 定 に 使 用 することができる. 谷 C は 他 と 比 べて 伝 導 度 の 減 尐 の 度 合 いが 尐 なく,リードのフェルミ 準 位 と 結 合 した 量 子 ドット 内 の 近 藤 状 態 を 通 した 伝 導 が 行 われている 可 能性 がある. 式 (1.2.21, 22)から, 谷 C の 伝 導 度 の 温 度 依 存 性 を 調 べることで 近 藤 状 態 であるかどうか 確 認 することが 出 来 る. 図 4.5 は 谷 C の 真 ん 中 の 伝 導 度 を 式 (1.2.21)でフィットしたもので,T K =995 mK でフィットすることができる. 測 定 点 が 尐 なく,フィットの 良 し 悪 しを 議 論 できないが, 低 温 に 向 かって 伝 導 度 が 増 加 していることは 定 性 的 に 明 らかであり, 近 藤 効 果 が 生 じていることは 間 違 いない.39


図 4.5 ソースドレイン 電 圧 特 性 - 近 藤 ピークが 2 つに 分 かれている. 挿 入 された図 は 谷 C の 伝 導 度 の 温 度 変 化 とそのフィット 曲 線 である. 近 藤 温 度 は T K = 995 mK以 上 の 推 論 を 補 助 する 事 実 として, 谷 C を 挟 むピーク p c ,p d がその 前 後 のピークに 比 して 非 常に 高 いことが 挙 げられる.このような 現 象 は,Silvestrov と Imry が 指 摘 したようにドット 内 波 動関 数 の 内 , 特 に2つの 接 合 を 結 合 させるような 振 幅 の 大 きな 部 分 を 持 つもの( 強 結 合 状 態 )が 存 在 するためであるが, 特 にこの2つのピークが 高 いことから,これらは 同 じ 強 結 合 軌 道 状 態 を 通 して伝 導 していることがわかる.これはすなわち, 谷 C がこの 状 態 に 電 子 1 個 がいる 状 態 であることを 意 味 している.[Silverstov, P. G. et al., Aikawa, H. et al.]有 限 ソースドレインバイアスが 量 子 ドットにかかっている 場 合 は, 通 常 のスピン 1/2(SU2)の場 合 , 近 藤 状 態 を 介 したトンネルが 可 能 になるため,クーロンブロッケード 領 域 でもゼロバイアスでトンネルが 出 来 る.このような 現 象 をゼロバイアス 異 常 と 呼 び, 近 藤 効 果 に 特 徴 的 な 現 象 である.だが,この QD に 対 するソースドレイン 電 圧 依 存 性 は 伝 導 度 のピークが 広 く 2 つに 分 離 したような 形 状 になっている.これは QPC1 のスピン 選 択 性 によるものと 考 える.これについては4.4 節 にて 詳 述 する.4.3.2 有 限 ソースドレイン 電 圧 におけるクーロン 振 動 の 消 滅谷 A について 見 てみよう. 谷 C で 近 藤 効 果 が 生 じていたこと,ピーク p b が p c に 比 べてずっと 小 さく, 異 なる 軌 道 準 位 を 通 した 伝 導 であると 考 えられることから, 谷 B のドット 内 占 有 状 態は 閉 殻 構 造 , 従 って 谷 A は 再 び 不 対 電 子 によるスピン 1/2 が 存 在 する 状 態 である. 近 藤 効 果 が 生じる 可 能 性 があるが,ピーク p a , p b は 谷 C の 両 端 のものに 比 べて, 小 さく, 従 って Γ が 小 さくT K が 低 く, 近 藤 効 果 が 現 れていないと 考 えられる. 図 4.4 に 示 したように V sd =0 V の 場 合 は 何 も異 常 は 見 つからない.そこで 有 限 な V sd でクーロン 振 動 を 見 てみる( 図 4.6). 小 さいバイアス 電圧 (V sd =100 μV)では, 通 常 のクーロンピークは 太 く 高 くなるにもかかわらず,p a が 消 失 している( 図 4.6 の 青 い 曲 線 ). 一 方 p b は 通 常 通 りの 変 化 をしている.これは「スピンブロッケード」 現象 と 類 似 している[Ono, K. et al.].しかし,この 実 験 ではバイアス 電 圧 の 符 号 を 反 転 すると, 今 度は p b が 消 失 し,p a は 一 般 的 な 量 子 ドットと 同 じように 大 きく 太 くなっていく( 図 4.6 の 赤 い 曲 線 ).40


このような 異 常 現 象 がなくなって 本 来 のピークが 再 現 するのは|V sd |=250 μV 以 上 になった 場 合 であった.( 図 4.6 のオレンジ 色 のカーブ)これらの 現 象 を 図 4.6( 右 )の 3 次 元 プロットにまとめている.ピークがなくなった 領 域 を 白 い 点 線 で 囲 っている.図 4.6 左 : 有 限 バイアス 電 圧 におけるクーロン 振動 異 常右 :クーロンダイアモンド有 限 バイアスでピークが 消 える 現 象 が 見られる.クーロンダイアモンドにおいて白 い 点 線 で 囲 った 領 域 がそれに 対 応 している.41


4.4 議 論ブロッケード 現 象 について 考 察谷 C に 近 藤 状 態 があったことから p c と p d は 同 じ 軌 道 の 準 位 であることがわかり,p a と p b も 同じ 軌 道 の 準 位 であることがわかる. 従 って,p a と p b の 違 いは QD の 全 スピンの 違 いである.このことは,このブロッケードが QPC1 のスピン 選 択 性 (Spin-Selectivity,SS)に 起 因 していることを示 唆 する.そこで,QPC1 が SS を 持 ち,QPC2 はそうでないと 仮 定 した 場 合 にどのような 伝 導 が生 じるべきかを 考 える. 一 般 性 を 失 わずに QPC1 は↑スピンの 電 子 だけトンネルできるとする.図 4.7 スピン 軌 道 ブロッケード 概 略 図a, b, c, d は SS-↑の 場 合 ,a’, b’, c’, d’は SS-↓の 場 合 で, 伝 導 の 向 きで SS が 反 転 する場 合 も( 例 えば a’, c’, b, d)も SOB メカニズムは 実 験 とよく 一 致 する.最 上 位 の 軌 道 状 態 に 対 になっていない 電 子 が 占 有 している 状 況 であるピーク p b から 考 えよう.正 の V sd がかかったとき( 電 子 系 であるのでソース 電 極 の 電 気 化 学 ポテンシャルは 下 がる) 以 下 の過 程 で 伝 導 が 可 能 になる.ドレインから 電 子 がトンネルして, 最 上 位 のどちらかの 電 子 がソースにトンネルする.↑-SS のため QPC1 を 通 ってソースに 抜 けるのは 常 に↑ 電 子 でありドット 中 には↓ 電 子 が 残 される.QPC2 は↑も↓もトンネル 出 来 るためドレインから↑スピンの 電 子 が 供 給 され 伝 導 が 可 能 になる( 図 4.7c).これによってこの 方 向 では 太 いピークが 立 つ. 一 方 バイアス 電42


圧 が 逆 になると 流 れも 逆 になり,QPC1 から QPC2 に 流 れる.QPC2 から↓スピンが 流 れ 出 した 場合 , 最 上 位 準 位 には↑スピンが 残 り,QPC1 からの↑ 電 子 のトンネルはパウリ 排 他 律 のため 禁 止される.また,QPC1 は↑ 電 子 しか 通 すことが 出 来 ないので 伝 導 は 出 来 なくなる( 図 4.7d).バイアス 電 圧 がゼロに 近 ければ, 最 上 位 準 位 の↑ 電 子 が QPC2 を 抜 けて↓ 電 子 と 入 れ 替 わって 流 れることができるが,バイアス 電 圧 が 温 度 ゆらぎよりも 十 分 大 きくなると,この 過 程 は 禁 止 され,ブロッケードが 生 じる. 最 初 に QPC2 から↑ 電 子 が 流 れ 出 したとしてもいずれは(sooner or later)前 述 のような 状 況 でブロッケードが 起 こり,QD にスピンフリップが 起 こるまで 有 効 になる.p a については 以 下 のように 説 明 できる. 正 のバイアス 電 圧 の 場 合 ,QPC2 から 量 子 ドットの 閉 ざされた 殻 のすぐ 上 の 最 低 位 準 位 ,QPC1 の 順 に 流 れる.だが,QPC2 から↓ 電 子 が 入 ってくるとQPC1 の↑SS によって 伝 導 が 出 来 なくなる( 図 4.7a). 負 のバイアス 電 圧 では↑ 電 子 は QPC1 を通 して 伝 導 できるため,QPC2 を 通 して 伝 導 が 可 能 になる.このような 非 対 称 ブロッケードを「スピン 軌 道 ブロッケード(Spin-orbit blockade,SOB)と 呼 ぶことにする.SOB は V sd を 大 きくすることで, 二 つのメカニズムで 壊 れる. 電 子 がクーロンエネルギーを 超えて QPC を 透 過 する 際 電 源 から 必 要 なエネルギーを 超 過 エンタルピー,ΔH とする. 一 般 の 単 電子 トンネル 理 論 だと ΔH は V sd ,V p と 線 形 的 関 係 を 持 つ.|eV sd |を 大 きくすると ΔH も 大 きくなり,それが 単 電 子 の 軌 道 準 位 を 越 えたとき, 多 準 位 輸 送 によってスピンバイパスが 形 成 される. 或 いは,QPC1 をまたぐ 電 圧 が,↑チャンネルと↓チャンネルを 越 えた 場 合 はどのスピンもトンネル出 来 る. 気 をつけなければならないのは,V sd =0 でも 一 般 的 には 単 電 子 回 路 に 於 ける 電 荷 の 量 子 化のため 電 極 間 にある 程 度 の 電 圧 がかかっていることである.だが,QPC のポテンシャルは 中 間 点で 最 大 値 を 持 ち, 電 荷 量 子 化 による 電 圧 はちょうどこの 点 でなくなる. 従 って,SOB が 壊 れる 領域 はクーロンダイアモンドの 端 に 沿 った 形 になり 図 4.7e に 描 いたようになる.近 藤 領 域 においても,ピーク p c と p d は 大 きい Γ のため 完 全 にブロック 出 来 ないが, 前 述 同 様 のSOB が 働 いていることも 確 認 できた.クーロンピークの 高 さから 見 ると p a ,p b と 同 じ 傾 向 が 見 られる( 図 4.10a の 青 と 赤 の 曲 線 ). 図 4.10b の 分 かれた 近 藤 ピークもこれと 同 じ 物 理 的 起 源 により説 明 することが 出 来 る.ゼロバイアスでは co-tunneling の 増 大 が QPC1 に 頼 っていて,QPC2 まで通 るトンネルは T K が 減 尐 する.つまり 式 (1.2.20)によって,SOB を 引 き 上 げる 閾 値 を V th とする 場合 ,から T K が 小 さくなる. V sd を 大 きくすることで,この 減 尐 は 抑 えられ 通 常の 近 藤 効 果 の 伝 導 度 増 大 が 回 復 する.その 結 果 , 図 4.5 では 広 がった 2 つのピーク 構 造 が 見 られる.SOB と 異 なり,ディップ 構 造 はいつもゼロバイアスで 見 られるが,これは 近 藤 雲 が QPC2 を通 じて 常 に QPC2 側 のフェルミ 面 に 張 り 付 いて 存 在 していることを 反 映 する.以 上 で 述 べた 説 明 は 図 4.7e にまとめられる.QPC1 の SS 仮 定 のもとで 導 かれたすべての 量 子 伝導 異 常 現 象 が 実 験 と 良 く 一 致 している. 逆 にこれ 以 外 の 簡 単 な 説 明 は 困 難 であり,QPC1 の SS 仮定 が 現 実 に 正 しいものであったことが 証 明 された.スピン 選 択 性 (SS)が↓の 場 合 ( 図 4.7 a’, b’, c’, d’)も 同 じようなブロッケードが 起 こることがわかる.もちろん 伝 導 の 向 きによって SS の 向 きも 変 わることも 考 えられる.これについては 外 部 垂直 磁 場 をかけた 場 合 の SOB の 応 答 を 見 て 電 子 の 運 動 方 向 の 反 転 に 対 して SS も 反 転 するか, 向 きによらないか 確 認 できると 考 えるが,これは 今 後 の 課 題 である.p a と p b の 高 さの 比 からスピン 偏 極 率 を 考 えることができて,それは 80% 以 上 になる.これはQPC1 のゲート 電 圧 は 0.5G q プラトー 領 域 に 設 定 していて,すでに 100%のスピン 偏 極 があると 考43


えると 特 に 不 思 議 ではない.しかし,ここで 使 われた 2DEG は In 組 成 が 10%であって,それほどスピン 軌 道 相 互 作 用 が GaAs/AlGaAs 基 板 に 比 べて 強 くないにもかかわらず,このような 結 果 になったことは 驚 くべきことである. 可 能 性 としては,1 次 元 系 で 運 動 量 の 方 向 を 決 めたとすると,2DEG の 電 子 密 度 の 高 さからスピン 状 態 間 のギャップが 広 がったことが 考 えられる.弱 結 合 の 場 合図 4.8 [Debray, P. et al.]で 示 された 計 算 結 果 .0.5 プラトー( 青 の 曲 線 ,G AS )において 閉 じ 込めを 強 くすると(グラフの-x 方 向 )↓スピンの伝 導 度 と↑スピンの 伝 導 度 が 同 程 度 になりスピン 偏 極 が 0 になる.弱 結 合 の QD の 場 合 はクーロンピークにおいて 前 述 のようなブロッケード 現 象 は 見 られない.もしスピン 偏 極 が 外 部 磁 場 によるゼーマン 分裂 のような 特 性 で, 弱 結 合 状 態 でもスピン 選択 性 は 働 いているとすると,パウリ 排 他 律 から 有 限 バイアスのクーロンピークが 2 つの 周期 で 小 さくなることが 起 きると 考 えられる.しかし,そのような 現 象 がおきないことから,弱 結 合 状 態 のトンネル 障 壁 にはスピン 選 択 性がない.Debray らの 計 算 によると 図 4.8 のように0.5 プラトー 下 方 でスピン↓のトンネルが 再び 可 能 になり,スピン 偏 極 率 が 0 になる. 弱結 合 の 実 験 結 果 はこの 理 論 計 算 を 支 持 する結 果 を 示 していると 考 える.Equation Section (Next)4.5 結 論2 つの 量 子 ポイントコンタクト(QPC)で 構 成 された 量 子 ドット(QD)に 有 限 のソースドレイン 電 圧 をかけた 場 合 クーロンピークがなくなる 現 象 が 見 られ,スピン 選 択 性 とパウリ 排 他 律 の 複合 過 程 による 伝 導 ブロック 現 象 (Spin-orbit Blockade,SOB)であることがわかった.この 観 測 によってスピン 軌 道 相 互 作 用 のある 系 で 作 製 された QPC の 完 全 スピンフィルタリングを 証 明 できた.SOB がある 量 子 ドットの 近 藤 状 態 においても SOB による 有 限 バイアスに 置 けるピークの 減 尐が 見 られ, 近 藤 ピークが 2 つに 分 かれる.このことも SOB メカニズム 同 様 に,QPC のスピン 選 択トンネルによって 説 明 できる.SOB 現 象 は 今 後 , 量 子 ドットのスピン 操 作 に 利 用 できると 期 待 される.Equation Chapter (Next) Section 144


第 5 章 総 括スピン 軌 道 相 互 作 用 のある 系 における 量 子 ポイントコンタクトスピン 軌 道 相 互 作 用 の 強 い InGaAs/AlGaAs 2 次 元 電 子 系 を 用 いて 量 子 ポイントコンタクトを 作製 した.その 伝 導 特 性 に 零 磁 場 で 0.5G q のプラトーが 観 測 された.これはスピン 軌 道 相 互 作 用 と電 子 間 相 互 作 用 のために 100%のスピン 偏 極 が 生 じたためではないかと 考 えられる.また,QPCの 閉 じ 込 めポテンシャルを 非 対 称 にすることで 0.5G q プラトーが G q に 変 化 するのが 観 測 された.さらに 強 磁 場 で QPC の 伝 導 特 性 にディップが 現 れる 現 象 が 見 られた.これはスピン 軌 道 ギャップである 可 能 性 がある.スピン 軌 道 ブロッケードスピン 軌 道 相 互 作 用 のある 系 における QPC の 場 合 ,0.5G q プラトーにおいて 100%スピン 偏 極 している 可 能 性 がある.このような QPC をトンネル 障 壁 にし 量 子 ドット(QD)を 作 製 した.2 つのQPC の 内 一 つを 0.5G q プラトー,もう 一 つを G q プラトーにした 場 合 , 有 限 ソースドレイン 電 圧V sd で QD のクーロンピークの 一 部 が 消 失 する 現 象 が 見 られた.このブロッケード 現 象 は V sd の 符号 を 変 えることで 隣 あった 2 つのピークが 交 互 に 消 失 する 事 から,2QD のスピンブロッケードとは 異 なるものである.これは QPC のスピン 選 択 性 とパウリ 排 他 律 で 説 明 でき,これによって QPCの 完 全 スピン 偏 極 トンネル(スピンフィルター 効 果 )を 検 証 することができた. 近 藤 領 域 においてもこの 効 果 に 起 因 する 現 象 が 見 られる.45


謝 辞本 研 究 は 多 くの 方 々の 御 協 力 , 御 支 援 によって, 成 り 立 っています.勝 本 信 吾 教 授 には, 興 味 深 い 課 題 と 恵 まれた 研 究 環 境 を 頂 き,また 試 料 作 製 から 論 文 執 筆 に 至るまであらゆる 局 面 で 御 指 導 , 御 助 言 を 頂 きました. 家 泰 弘 教 授 には, 様 々な 局 面 で 貴 重 な 御 助言 と 御 指 導 を 頂 きました.阿 部 英 介 博 士 , 遠 藤 彰 博 士 には, 多 くの 有 益 な 御 指 導 と 議 論 を 頂 きました. 特 に 橋 本 義 昭 氏 には 貴 重 な2 次 元 系 基 板 を 成 長 していただき, 実 験 技 術 に 関 しても 多 大 な 御 助 言 と 御 指 導 頂 きました. 土 屋 光 氏 をはじめとする 物 性 研 究 所 低 温 液 化 室 の 皆 様 方 には 寒 剤 の 供 給 等 で 大 変 お 世 話 になりました. 川 村 順 子 氏 をはじめとする 皆 様 方 には, 事 務 手 続 き 等 で 大 変 お 世 話 になりました.また 京 都 大 学 の 小 林 研 介 准 教 授 には 実 験 手 法 等 について 多 くの 御 助 言 を 頂 きました. 小 林 研 介准 教 授 , 相 川 恒 博 士 , 加 藤 雅 紀 博 士 , 佐 野 浩 孝 博 士 をはじめとする 研 究 室 OB の 皆 様 方 には, 試料 の 作 製 から 測 定 に 至 る 手 法 , 数 々の 有 益 なプログラム 等 を 残 していただき,また 多 くの 御 指 導頂 きました. 特 に 大 塚 朊 廣 博 士 には 試 料 作 製 から 測 定 に 関 して 綿 密 な 御 指 導 と 御 助 言 を 頂 き 大 変お 世 話 になりました. 藤 田 和 博 氏 , 天 野 裕 昭 氏 , 梶 岡 利 之 氏 , 桑 原 優 樹 氏 , 高 橋 侑 市 氏 , 加 藤 悠人 氏 , 田 中 寛 治 氏 には 研 究 生 活 をともにし, 様 々な 議 論 や 御 助 言 いただきました.ロッテ 国 際 奨 学 財 団 , 東 京 大 学 ナノ 量 子 エレクトロニクス 研 究 機 構 には 経 済 的 援 助 を 頂 きました.本 研 究 は 科 学 研 究 費 補 助 金 , 科 学 技 術 振 興 調 整 費 の 御 支 援 の 下 に 行 われました.そして, 家 族 , 友 人 には 研 究 に 理 解 を 示 し 応 援 していただきました.皆 様 方 の 御 協 力 , 御 支 援 があってこそ 本 研 究 を 行 うことができました. 心 より 感 謝 し,お 礼 申し 上 げます.ありがとうございます.Equation Chapter 1 Section 146


付 録 A 近 藤 状 態 の 伝 導 度[ 江 藤 幹 雄 . 物 性 研 究 ]式 (1.2.17)の sd-Hamiltonian,† † † †Hsd J Sc c S c c Sz( c c c c )k k k k k k k k (A.1)kk , を 摂 動 として 扱 い, 伝 導 電 子 | k が| k に 散 乱 される 確 率 を 求 める.Hsd の 1 次 の 摂 動 の 結 果 は 図 A.1(a)に 示 された 過 程 によるもので,J†J; k| Hsd| ; k ; k| c c | ;k (A.2)kk2 2となる.ただし,| ;k は 量 子 ドットが| , 伝 導 電 子 が| k である 状 態 を 示 す.次 に H の 2 次 の 摂 動 ,sd1; k | H sdsd| ;H iH k については, 図 A.1 (b)に 示 された 3 つの 過 程 が 寄 与 する. 左 端 の 過 程 では,| k の 電 子 が 中 間状 態 | q に 散 乱 され, 最 終 的 に| k に 散 乱 される. 中 央 の 過 程 では,| k ,?qの 電 子 正孔 対 が 生 成 された 中 間 状 態 を 経 て,| k ,?q0 が 対 消 滅 して 終 状 態 に 至 る. 右 端 の 過 程 では,| k ,?qの 電 子 正 孔 対 が 生 成 され, 量 子 ドット 内 のスピンが| に 反 転 した 中 間 状 態 を 経 て,| k ,?q が 対 消 滅 して, 量 子 ドット 内 のスピンが| の 状 態 に 戻 り 終 状 態 となる.スピン 反転 を 伴 わない, 最 初 の 2 つの 過 程 からの 寄 与 は,qq2 † † 2† † J ; k| c c c c | ; k ; k | c c c c | ; kk q q k J q k kq 2 iq 2 (2 ) i2 2 J 1 f( q) J f( q) 2 iq 2 i2 J D 1 d2D iqqq J D ln i2D となる.ただしこの 計 算 の 過 程 でリード 中 の 状 態 密 度 はバンド[ DD,? で 一 定 値 とした.この計 算 では Fermi 分 布 関 数 f (q) は 2 つの 過 程 により 相 殺 され 発 散 は 起 こらない.一 方 ,スピン 反 転 を 伴 う 3 つめの 過 程 からの 寄 与 は,q ; k | c c c c | ; k f ( )(2 ) i i† †2 q kkq2 qJ젨Jq q q qD2 1J f( )dDqi2J ln | | / D for젨 kBT| |2 J ln kBT / D for젨| | kBT q(A.3)(A.4)(A.5)47


なり, 対 数 で 発 散 する 項 が 出 てくる[Kondo, J].さらに 高 次 の 項 でもこの 発 散 は 見 られ, 各 次 数 での最 強 発 散 項 を 足 し 合 わせると, 伝 導 電 子 | k が| k に 散 乱 される 確 率 は, | | kTのとき,となる[Abrikosov, A. A].この 結 果 はJ / 2 J / 212J ln k T / D 2J ln T / TT TKBで 発 散 することより, 摂 動 計 算 は KKTBT で 有 効 であることが 分 かる. 同 様 に, 他 の| k の 散 乱 や 始 状 態 と 終 状 態 でスピンが 異 なる 過 程 を 全 て合 わせた 遷 移 確 率 を 求 めると, 電 気 伝 導 度 G を 計 算 することができ,その 結 果 は,2e431G h2 2L R2 2( L R ) 16 (ln( T / TK))(A.6)(A.7)となる.一 方 ,TT においては, 量 子 ドット 中 の 局 在 スピンは 完 全 に 遮 蔽 された 状 況 となり,FermiK流 体 論 が 成 立 することが 知 られている.これによると 電 気 伝 導 度 G は,2eG h24L R( )LR22 21 ( T / TK) (A.8)となる.図 A.1(a) H sd の 1 次 で 寄 与 する 項 のダイアグラム. の 電 子 が に 散 乱 される.(b) H sd の 2 次 で 寄 与 する 項 のダイアグラム. の 電 子 が 各 種 中 間 状 態 を 経 た 後 に,に 散 乱 される.Equation Chapter (Next) Section 148


付 録 B Landauer 公 式[Datta, S.] [Datta, S.] [Datta, S.]図 B.1(a) 長 さ L , 幅 W のバリスティックな 伝 導 体 が 反 射 の 無 いコンタクトにつながれている系 の 模 式 図 .(b) バリスティックな 伝 導 体 の 中 に 形 成 されているサブバンドの 模 式 図 .B.1 バリスティックな 伝 導 体 の 伝 導 度図 B.1a に 示 すように, 長 さ L , 幅 W のバリスティックな 伝 導 体 が 反 射 の 無 いコンタクトにつながれている 系 を 考 える.バリスティックな 伝 導 体 の 幅 W は 小 さく, 図 B.1(b)のようにサブバンド(チャネル)が 形 成 されているものと 仮 定 する.それぞれのチャネルi の 分 散 関 係 を E( i, k)とする.したがってエネルギー E におけるチャネルの 数 は,と 表 される.ここで 各 チャネルにおいてM ( E) ( E E( i, k 0))(B.1)i k 方 向 の 状 態 による 電 流 I を 計 算 する. 電 流 は 電 子 濃 度 n , 電 子の 速 度 v とすると env で 表 される. 今 ,ある k の 状 態 による 電 子 密 度 は1/ L であることより,e 1 E 2e I f ( E) f ( E)dEL k hとなる.ただし, f ( E) (B.2)kは kの 状 態 の Fermi 分 布 関 数 , は 伝 導 体 のカットオフエネルギーであり,2 段 目 での 係 数 2 はスピンの 自 由 度 より 生 じている.この 結 果 を 全 チャネルについて 足 し合 わせると,と 書 くことができる.2eI f ( E) M ( E)dEh(B.3)ここで 図 B.1a の 状 況 においては 正 味 の 電 流 I は 右 へ 行 く 電 流 から 左 へ 行 く 電 流 を 引 いたものなので,49


2e2eI f1 ( E) M ( E)d E f2( E) M ( E)dEhh(B.4)22e M12h eとなり, 結 局 伝 導 度 は,22eG M(B.5)hとなる.ただしこの 計 算 の 過 程 で 2 1 E の 範 囲 では M は 一 定 であると 仮 定 した.B.2 Landauer 公 式図 B.2 (a) 透 過 率 T の 伝 導 体 がバリスティックな 伝 導 体 をリードとしてコンタクトに 結 合 している 系 の 模 式 図 .(b) リード 1, 2 におけるサブバンドの 模 式 図 .透 過 率 T の 伝 導 体 が, 前 述 のバリスティックな 伝 導 体 をリードとしてコンタクトに 結 合 している系 について, 伝 導 率 を 求 める.リード 1 において 伝 導 体 へ 流 れる 電 流 I 1 は,(B.4)より,2eI 1M( 1 2)h (B.6)となる. 一 方 , 伝 導 体 からリード 2 へ 流 れる 電 流 I 2 は I 1 に 透 過 率 T をかければよく,2eI 2MT ( 1 2)h (B.7)となる.また, 伝 導 体 からリード 1 へ 反 射 される 電 流 I 1 は,50


2eI 1M (1 T)( 1 2)h (B.8)となる.したがって 正 味 の 電 流 I は, 2eI I1 I1 I2 MT ( 1 2)(B.9)hとなり,この 結 果 伝 導 度 G は,22eG MT(B.10)hとなる[Landauer, R.].上 記 の 議 論 では, 透 過 率 T は 全 てのチャネルで 同 じとしたが,これをそれぞれのチャネルi の 透過 率 がT と 異 なっている 場 合 に 拡 張 すると,iとなる.Equation Chapter (Next) Section 1M 22eG Ti(B.11)hi151


付 録 C Spin-orbit gap[Pershin, Y. V. et al.]スピン 軌 道 相 互 作 用 と 外 部 磁 場 のある 1 次 元 系 における 量 子 伝 導ここでは 電 場 が z 方 向 にある 場 合 について 考 える.さて,SOI と 面 内 磁 場 がある 準 一 次 元 系 を 考 えてみよう. 伝 導 のハミルトニアンは(C.1)p は 電 子 の x 方 向 の 運 動 量 , は 有 効 質 量 は 方 向 の 閉 じ 込 めポテンシャル, は 有 効 ファクター, はボーア 磁 子 である.ラシュバ 項 から 電 子 の 運 動 量 が 方 向 にだけあることから 第 2項 が 減 らされた. 外 部 からの 面 内 磁 場 はと 考 える.シュレディンガー 方 程 式 の 解 を 以 下 のように 分 けて 考 える.. (C.2)ϕ (y)は transverse mode における 波 動 関 数 ,はスピンアップ,ダウンのスピノール 成 分 である. 上 記 のハミルトニアンと 波 動 関 数 に 関 するシュレディンガー 方 程 式 の 固 有 エネルギーは2 2*2n k tr g BB*E E sin* n g BkB k2m2 21/2(C.3)ここで+-はスピンアップとダウンを 表 す. は 磁 場 と 電 子 伝 導 との 角 度 を 示 す. は 磁 場 の y成 分 ,は 横 方 向 のサブバンドの 分 散 関 係 である.y 方 向 に 双 曲 線 方 ポテンシャルがあると 仮 定 するとになる.いくつかの に 対 する 分 散 関 係 は 図 C.1 のように 示 される.図 C.1 スピン 軌 道 相 互 作 用 による 有 効 磁 場 と 外 部 磁 場 がある 系 における 1 次 元 系 のサブバンド(a)は θ = 0, (b)は θ =π /4, (c)は θ = π/2ここで 注 目 すべきものは, の 図 C.1(c)と の(b)に =0 付 近 でギャップが 生 じることである.このようなことはの 際 は 起 こらない.52


これに 有 限 温 度 のハミルトニアンにおけるスピン 軌 道 相 互 作 用 の 影 響 を 取 り 入 れて 考 えてみる.この 場 合 は,Landauer-Buttiker 式 を 使 う.量 子 細 線 に 2 つの 電 極 があり,その 電 極 の 右 と 左 のケミカルポテンシャルを 各 々 , としよう.この 系 には 散 乱 がないとして,トンネル 係 数 は1になる.このコンダクタンスにバイアスの 差 で 現 すことができる.をかけると, 電 流 I は 正 方 向 と 負 方 向,,,(C.4), ,は 左 と 右 の 電 極 にある 電 子 の Fermi-Dirac 分 布 関 数 であり, は で 与えられた 電 子 の 速 度 , はスピンの 状 態 を 表 し, は 式 (C.3)で 与 えられた 固 有 エネルギー,はステップ 関 数 である.このシステムのバンド 構 造 は 式 (C.4)を 計 算 することで 複 数 の 極 値 を 示 す.たとえば 任 意 の 数 の極 値 を 持 つシングルサブバンドを 考 えたときコンダクタンスの 計 算 は external ポイントで 式(C.4)の 分 かれた 形 で 得 られる.,,,, ,,(C.5),,,, は n,s と 名 づけられたサブバンドの 寄 与 分 で, , はサブバンドの i 番 目 の 極 値 である.バイアス 電 圧 を 尐 しだけかけると 仮 定 すると, 式 (C.5)のテイラー 展 開 をすることができて, 違 うサブバンドとの 和 をとることでコンダクタンスが 得 られる.図2図 C.2 スピン 軌 道 ギャップがある 1 次 元 系 の 伝 導 度 量 子 化 (a)は θ = 0, (b)は θ =π /4,(c)は θ = π/253


ここで,この 和 はすべてのサブバンドの 極 値 において 計 算 していて, は 最 小 値 のとき+1で, 最大 値 のとき-1 である.よって,サブバンドの 最 大 値 はコンダクタンスを 減 らすことがわかった., ,,(C.6)実 験 的 に,コンダクタンスのプラトーはゲートによってポテンシャルを 変 化 することで 観 測 できる.このようなポテンシャルの 変 化 は 科 学 ポテンシャルが 変 わるのと 同 じく 見 ることができる.式 C.6 を 用 いて, 化 学 ポテンシャルに 対 する 温 度 による G の 変 化 を 表 したのが 図 C.2 ある. 図C.2 (a)では が 大 きくなることにつれて 零 度 におけるコンダクタンスは hの 階 段 でプラトーを作 っているのがわかる.これはゼーマン 分 裂 がないときの 半 分 である. 温 度 が 上 がるにつれてコンダクタンスの 階 段 が 鈍 くなるのがわかる.reservoirs からくる 電 子 はシャープなステップのようなエネルギー 分 布 を 持 たない.磁 場 に 成 分 が 消 えてないとき, 特 に 低 温 において,コンダクタンスプラトーに 新 しい 効 果 が 現れる. 図 C.2(b),(c)に と のそれぞれの 計 算 結 果 を 示 している. の 場 合 , 図C.1(a)を 見 ると,エネルギーサブバンドにギャップが 生 じていて,ケミカルポテンシャルが 大 きくなるにつれて, 初 めてコンダクタンスの 階 段 への 寄 与 はは 一 番 下 の 極 小 値 のところである. 次に 階 段 があるのは 化 学 ポテンシャルが 同 じサブバンドの 2 番 目 の 極 小 値 にきたときである. が 極大 値 を 通 過 するとコンダクタンスは h に 減 尐 する.このようなメカニズムでは 図 C.2(b),(c)で 見 られるようなコンダクタンスのピークが 現 れる. 有 限 温 度 におけるピークは 0.7 アノマリーとよく 似 た 形 をしている.この 計 算 は, 外 部 磁 場 なしの 状 態 でコンダクタンスのピークが 現 れる 可 能 性 も 提 案 している.同 じ 効 果 が 混 合 スピン 状 態 において 得 られるためである. 一 番 単 純 な 例 は 偏 極 された 原 子 核 スピンである. 原 子 核 スピン 偏 極 はスピン 拡 散 と 緩 和 によって 時 間 変 化 する. 電 子 平 衡 化 時 間 は 原 子核 のスピンのそれよりはるかに 小 さいので, 断 熱 的 近 似 が 使 える.この 近 似 によると, 原 子 核 スピン 偏 極 による 有 効 磁 場 が 考 えられ,これとの 関 係 から 先 ほどのようなコンダクタンスへの 議 論ができる.Equation Chapter (Next) Section 154


付 録 D Spin-orbit Blockade がある 時 の Coulomb diamond[Katsumoto, S.]まずは,ソースドレイン 電 圧 V sd ,ゲート 電 圧 V g に対 する, 余 剰 電 子 数 n の 状 態 の 安 定 条 件 を 調 べておこう. 左 図 のような「 片 持 ち」のバイアスを 加 える 単 電子 トランジスタを 考 える.それぞれのパラメーターは図 のように 置 く. 簡 単 のため,ソース,ドレインそれぞれの 接 合 容 量 は 同 じで C とする. 量 子 ドットの 電 位を ϕ として,まず, 各 接 合 の 電 荷 q j 1 ... q j 3 を ϕ によって 表 すと(D.1)また,ドット 上 の 余 剰 電 荷 ( 電 気 的 中 性 に 対 して 余 分 な 電 荷 ) を-ne( 余 剰 電 子 数 n) とすると,(D.2)( は 全 接 合 容 量 の 和 )であるから, 各 接 合 の 電 圧 は(D.3)となる.これより, 系 全 体 の 帯 電 エネルギーは(D.4)55


と 大 変 簡 単 な 形 になる. 今 ,n の 変 化 に 対 する 帯 電 エネルギーの 変 化 がわかれば 良 いので, 途 中で n に 関 係 のない 項 を 落 とした.n が n+1 へ 変 化 するのに 応 じた , の 変 化 は(D.5)であるから,の 変 化 は(D.6)である.電 子 のトンネルに 際 しては, 外 部 の 定 電 圧 電 源 が 瞬 時 に 仕 事 をして 各 部 の 電 位 変 化 に 対 応 する.電 子 数 状 態 の 安 定 性 を 議 論 するにはこれらの 仕 事 を 差 し 引 き,「エンタルピー」としてエンタルピー 変 化 により 安 定 性 を 議 論 する.Enthalpy 変 化 からトンネルしてドットに 入 る(case 1i)左 図 のように, 接 合 1を 介 して 電 荷 -e を 持 つ 電 子 がドット 内 に 入る 過 程 を 考 える.まず, 接 地 電 位 は 電 子 を 供 給 しても 今 のエネルギー 原 点 の 取 り 方 から 仕 事 はゼロ.その 他 , 供 給 電 荷 に 電 源 の 電位 をかけたものが 仕 事 となる.ソース・ドレイン 電 源 は,トンネルした 電 子 分 を 補 う 電 荷 を 供 給 していることに 意 する.以 上 から,n → n + 1 の 変 化 に 伴 うエンタルピー 変 化は(D.7)となる.ここで 記 号, , (D.8)を 導 入 した. 平 面 で, となる 領 域 は,このトンネル過 程 によりエンタルピーが 増 加 するため,その 増 加 分 が 温 度 揺 らぎよりも 大 きければトンネルが 禁 止 される.(D.7) よりこの 領 域 は, 左 図 の 斜 線 を 引 いた 部 分 である.56


1.2.2 接 合 2 から 電 子 がトンネルしてドットに 入 る(case 2i)今 度 は 左 図 のように 接 合 2 からトンネルする 場 合 を 考 える. 以下 , 計 算 の 仕 方 等 , 場 合 が 変 わっているだけで 全 く 同 様 である.젨 H ? E ( n? / 2) ? E ( u ? u .2i c c sd gcase1i に 対 する 安 定 領 域 と,線 で 示 すと, 左 図 のようになる.(D.9)の 両 方 を 満 たす 部 分 を 斜1.2.3 ドットから 電 子 が 接 合 1 をトンネルして 抜 ける(case1o)まず, 静 電 エネルギー 変 化 はの 表 式 を 採 用 して,(D.10)である. 電 源 の 仕 事 はであるから,(D.11)となり,case1i,case1o,case2i の 過 程 に 対 する 安 定 領 域 を 描 くと 左 上 の 図 の 斜 線 部 のようになる.1.2.4 ドットから 電 子 が 接 合 2 をトンネルして 抜 ける(case2o), , より(D.12)57


る.となり,4 過 程 全 てに 対 して 安 定 な 領 域 を 描 くと, 下 の 斜 線 部 のようにダイアモンドが 得 られ2 ソース・ドレインにかかる 電 圧 についてこのような 量 子 ドット 系 を 電 子 がトンネルで 流 れているとき, 接 合 にはどのような 電 圧 がかかっているか 考 える. 接 合 1 で 考 えると,(D.3) より, , を 使 うと(D.13)である.トンネルによって n が ±1 だけ 変 化 すると, は ± 変 化 する. も 同 様 である. 例 えば, 前 節 までの 解 析 で,クーロンピークが 出 る , の 位 置 で 考 えると,,である.ダイアモンド 頂 点 位 置 の V sd を 求 めるとちょうど V s であるから,クーロンピーク 位 置で 電 流 が 流 れている 時 , 実 は, 接 合 にはクーロンダイアモンドの 半 分 もの 大 きさの 電 圧 がかかり,ただし, 電 子 のトンネルによってこれが 正 負 に 振 動 して 平 均 がゼロになっている.接 合 が QPC だとすると, 最 もポテンシャルの 高 い 部 分 は 丁 度 中 央 であろうから,ここを 電 子 が通 過 するときはこの 振 動 (single electron tunnleing 振 動 ,SET 振 動 ) の 中 心 位 の 電 圧 が QPC にかかっている.したがって, 結 局 上 の 図 のように,クーロンピーク 位 置 で を 閾 値 電 圧 まで 上 げたときにスピン 軌 道 ブロッケード (SOB) が 解 除 される. 振 動 の 中 心 電 圧 は,ダイアモンドの 辺 に 沿 って 一 定 となる (これは (D.13) を 見 れば 明 らか) ので, 結 局 ,SOB は 電 子 数 奇 数 のダイ58


アモンドの 上 下 辺 を 上 の 図 のように 上 下 に 押 し 広 げることがわかる.なお,ダイアモンド 中 に 引いた 斜 めの 破 線 は, 接 合 1 にかかる 電 圧 がゼロになる 条 件 である.59


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