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第22回 ロボット聴覚特集 - 奥乃研究室 - 京都大学

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Fig.6 は 幼 児 の ABR (Auditory Brainstem Response)の 変 化 を 図 表 化 したものである。ABR は 音 刺 激 に 対 する 脳 幹 の 反 応 で、クリック 音 刺 激 を 与 え 頭 皮 上 から微 弱 な 電 位 変 化 を 計 測 し、 通 常 は 10ms 以 内 に 陽 性 波が 出 現 する(Fig.6 の 右 にあるような 時 系 列 の 反 応 )。Ⅰは 聴 神 経 、Ⅱは 蝸 牛 核 、Ⅲは 上 オリーブ 核 、Ⅳは外 側 毛 帯 、Ⅴは 下 丘 、Ⅵは 内 側 膝 状 体 、Ⅶは 聴 覚 野の 反 応 であるとされている。 図 の 縦 軸 は 反 応 時 間 を表 し、 横 軸 は 月 齢 および 年 齢 を 表 す。たとえば、 一番 左 の 棒 グラフは 0-2 ヶ 月 の 幼 児 であり、 新 皮 質 の反 応 まで 9msec 強 を 用 している。 赤 丸 は 前 月 齢 より反 応 時 間 が 短 縮 した 部 分 を 示 し、 青 丸 は 反 対 に 反 応時 間 が 延 びた 部 分 を 示 している。つまり、2-4 ヶ 月では 0-2 ヶ 月 に 比 べ、 上 オリーブ 核 、 外 側 毛 帯 の 反応 時 間 が 短 縮 し、 皮 質 の 反 応 時 間 が 延 びている。幼 児 期 は 聴 覚 経 路 の 身 体 化 と 詳 細 化 がなされるので、 処 理 が 短 縮 していることはそのような 回 路 が 最適 化 されたこと、 処 理 が 延 びたときは 追 加 の 回 路 が形 成 されたことに 相 当 すると 考 えられる。すると、 幼 児 期 の 聴 覚 は 2-4 ヶ 月 までに 第 一 期 の発 達 が 脳 幹 で 生 じ、その 発 達 に 伴 い 新 皮 質 の 回 路 が形 成 され 始 めると 推 定 できる。 実 際 、たとえば 音 源の 定 位 は 生 後 直 後 にある 程 度 できるのであるが、その 後 1,2 ヶ 月 はうまくできなくなり、3,4ヶ 月 で再 びできるようになる[3]。Ⅲの 上 オリーブは 特 に 定位 に 関 連 する 部 分 なので、この 間 に 身 体 化 がなされているのだろう。 遅 れて 4-6 ヶ 月 から 新 しい 質 の 聴覚 情 報 の 回 路 が 蝸 牛 核 で 形 成 され、それは 月 齢 と 共に 上 オリーブ、 外 側 毛 帯 、 下 丘 と 伝 播 していく。 回路 形 成 が 下 丘 にいたる 1-2 才 のころから、 新 皮 質 で第 2 次 の 回 路 形 成 が 進 む。 実 は 2-4 ヶ 月 のころの 幼児 は4KHz 未 満 の 低 周 波 音 や 広 い 周 波 数 スペクトルをもった 音 に 強 く 反 応 する[25]。このことは、4KHz 未 満 の 音 に 対 し 位 相 に 合 った 発 火 を 行 う 聴 神経 が 回 路 形 成 を 誘 導 しているとも 考 えられる。 聴 神経 の 中 でも 自 発 発 火 率 の 低 い L 型 といわれるものは少 数 だがダイナミックレンジが 大 きくフォルマント等 の 大 局 構 造 の 表 現 が 可 能 なため、この L 型 の 発 火活 動 が 回 路 形 成 をこの 誘 導 を 行 っている 可 能 性 が 高い。このような 機 能 は、 生 後 母 親 の 音 声 を 優 位 に 検知 するのに 役 立 つものとして、ある 程 度 組 み 込 まれているのかもしれない。この 2-4 ヶ 月 ころに、 声 を発 することができる 程 度 に 発 声 器 官 が 発 達 する。この 時 期 以 降 の 第 2 次 発 達 は、 自 分 の 声 への 対 応 、 視覚 などとの 情 報 融 合 、 高 周 波 表 現 に 向 けた 発 達 が 行われているのだろう。2. 2.2. 基 底 核 や 小 脳 における 聴 覚 処 理Fig.2 からもわかるように、 脳 幹 により 聴 覚 情 報 の前 処 理 が 行 われ、 大 脳 により 言 語 の 認 識 や 発 声 の 高次 処 理 が 行 われるとされている。 大 脳 でも 特 にブローカ 野 とウェルニケ 野 がそれぞれ 運 動 性 、 感 覚 性 の言 語 処 理 中 枢 とされている。しかし、 近 年 計 測 手 法の 発 展 に 伴 い、 言 語 や 概 念 の 扱 いはこの 2 つの 領 野だけでなく、 脳 の 多 くの 部 分 が 内 容 に 応 じて 分 担 し関 与 していることがわかりつつある[20] 。Damasio[4]は 169 人 の 脳 損 傷 患 者 と 55 人 のコントロールに 対 して、 名 詞 、カテゴリ 化 を 中 心 に 脳 画 像 を用 いた 網 羅 的 解 析 を 行 い 大 脳 各 部 位 と 言 語 処 理 の 関係 を 示 した。 Watkins[24]は 遺 伝 的 言 語 障 害 をもつKE 家 系 では 基 底 核 の 尾 状 核 が 小 さいことを 計 測 し、言 語 処 理 と 基 底 核 の 強 い 関 与 を 示 した。 小 脳 の 損 傷が 構 音 生 成 障 害 を 起 こすことも 知 られている。ブローカ 野 が 損 傷 しても 基 底 核 に 損 傷 がなければ 言 語 機能 は 回 復 するが、 逆 に 基 底 核 に 損 傷 があるとブローカ 野 が 無 事 でも 言 語 機 能 は 回 復 しないという 知 見 もある[13]。Ullman[23] は 神 経 科 学 的 認 知 心 理 の 観 点 から、 基底 核 を 手 続 き 的 な 文 法 知 識 の 場 、 小 脳 を 獲 得 された手 続 き 情 報 の 修 正 の 場 と 考 え、 新 皮 質 の 各 領 野 との機 能 的 関 係 を 認 知 モデル 化 し、Dominey[6]は 言 語 のような 継 時 的 情 報 の 処 理 モデルとして、 新 皮 質 と 基底 核 からなる 計 算 モデルを 提 案 し、 幼 児 からの 言 語習 得 過 程 を 説 明 した。しかし、 脳 幹 の 処 理 に 比 べ、このような 機 能 的 モデルの 研 究 は 少 ない。3. 脳 型 情 報 処 理 と 聴 覚脳 を 参 考 に 新 しい 情 報 処 理 方 式 を 開 拓 しようとするアプローチは、 脳 において 観 測 される 現 象 に 注 目し、その 現 象 を 人 工 的 に 再 現 するモデル 化 を 行 い、次 に 情 報 科 学 的 洞 察 を 行 い、 情 報 科 学 的 意 味 をもった 情 報 処 理 方 式 を 提 案 するものである。 従 って、 具体 化 しようと 着 目 する 現 象 により、 開 発 される 方 式は 様 々である。 神 経 細 胞 といった 小 規 模 な 素 子 による 並 列 分 散 活 動 に 着 目 したものが、パーセプトロン、連 想 記 憶 、バックプロパゲーションなどの 神 経 回 路である。その 場 合 、その 他 の 要 素 である 脳 の 構 造 や神 経 細 胞 の 挙 動 などは 特 に 関 知 しない。並 列 分 散 活 動 に 加 えて、 我 々は 解 剖 学 的 関 係 、 解剖 学 的 構 造 、 神 経 細 胞 の 特 性 ( 放 電 パターン、 可 塑性 )に 着 目 している。 前 節 で 述 べたように、 脳 の 各部 位 はある 程 度 の 機 能 的 意 味 づけがされているので、それらの 解 剖 学 的 関 係 から、システム 構 造 が 推 定 できる。また、 解 剖 学 的 構 造 からは、 神 経 が 結 合 して構 成 される 回 路 構 造 の 青 写 真 が 描 ける。そして、そこに 神 経 細 胞 の 特 性 を 入 れ 込 むことで、 回 路 の 中 で行 われている 情 報 処 理 への 仮 説 が 形 成 できる。すでに 我 々はこれら 着 目 点 から、 脳 における 散 逸的 自 己 組 織 化 [30]、 双 方 向 の 仮 説 制 御 システム[12],スパイキングニューロンによる 時 間 符 号 化 [11], 変動 を 組 み 込 んだスパイキングニューロン 学 習 モデル[22]などを 提 案 してきた。 本 稿 では、スパイキングニューロンによる 情 報 処 理 モデルの 考 えをもとに 聴覚 処 理 を 考 察 する。38

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