高エネ研メカ・ワークショップ報告集 - KEK

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第 13 回 KEK Proceedings 2012-2 July 2012 A/H 高エネ研メカ・ワークショップ報告集 Proceedings of the 13th KEK Mechanical Engineering Workshop KEK San-Go-Kan Building 6 April 2012 編集:共通基盤研究施設 機械工学センター 山中 将 Edited by Masashi Yamanaka, Mechanical Engineering Center High Energy Accelerator Research Organization

第 13 回<br />

<strong>KEK</strong> Proceedings 2012-2<br />

July 2012<br />

A/H<br />

高エネ研メカ・ワークショップ報告集<br />

Proceedings of the 13th <strong>KEK</strong> Mechanical Engineering Workshop<br />

<strong>KEK</strong> San-Go-Kan Building<br />

6 April 2012<br />

編集:共通基盤研究施設 機械工学センター 山中 将<br />

Edited by<br />

Masashi Yamanaka, Mechanical Engineering Center<br />

High Energy Accelerator Research Organization


High Energy Accelerator Research Organization (<strong>KEK</strong>), 2012<br />

<strong>KEK</strong> Reports are available from:<br />

High Energy Accelerator Research Organization (<strong>KEK</strong>)<br />

1-1 Oho, Tsukuba-shi<br />

Ibaraki-ken, 305-0801<br />

JAPAN<br />

Phone: +81-29-864-5137<br />

Fax: +81-29-864-4604<br />

E-mail: irdpub@mail.kek.jp<br />

Internet: http://www.kek.jp


はじめに<br />

第13 回 高エネ研メカ・ワークショップを平成 24 年 4 月 6 日に開催しました。昨<br />

年は東日本大震災の影響で、開催時期を 6 月に変更しましたが、本年は例年通り 4 月<br />

の開催となりました。機械工学センターも震災により大きな被害を受けました。関係<br />

各位のご支援により早急な復旧を果たし、現在は平常どおりに活動しております。<br />

本年度は加速器装置・機械工学に関連する 8 件の口頭発表と 13 件のポスター発表<br />

が行われました。また、平成 24 年 3 月にて定年退職された前機械工学センター長の<br />

上野健治先生に、「「超」に挑戦する技術開発」という題目で特別講演をお願いしまし<br />

た。<br />

ご発表いただいた内容は興味深く、物理の研究者からは機械工学に対する要望や期<br />

待をお話いただきました。大学・企業からは最新の研究成果や技術を報告いただきま<br />

した。これらに対して設計・解析・加工・計測等の機械工学の視点から活発な議論が<br />

行われました。当センターが今後、どのように支援体制を築き、技術開発を進めてい<br />

けばよいか、多くの示唆をいただけたと思います。また、当センターの教職員が取組<br />

んでいるプロジェクトとセンターの施設を <strong>KEK</strong> 内外の多くの皆様にご紹介できたこ<br />

とは、意義深いと考えております。<br />

本ワークショップが成功裏に終えられたことは、ご多用の中お越しいただいた多く<br />

の皆様、運営に尽力された方々のお陰であり、深く謝意を表します。<br />

平成 24 年 6 月 16 日<br />

高エネルギー加速器研究機構 共通基盤研究施設<br />

機械工学センター長<br />

山 中 将


時間<br />

会場<br />

開始 終了 3号館1Fセミナーホール 3号館1F会議室(ポスター講演)<br />

9:30 9:40 開会の挨拶,事務連絡<br />

山中 将(<strong>KEK</strong>)<br />

9:40 10:05 「平成23年度機械工学センターの活動報告」<br />

山中 将(<strong>KEK</strong>)<br />

10:05 10:30 「結晶格子コンパレーターのための回転機構の設計と製造」<br />

【座長】 江並 和宏<br />

高富 俊和(<strong>KEK</strong>)<br />

10:30 10:45 コーヒーブレイク<br />

10:45 11:10 「ERL主加速部クライオモジュールの開発」<br />

梅森 健成(<strong>KEK</strong>)<br />

11:10 11:35 「電子ビーム溶接の概要と加工事例の紹介」<br />

進藤 稔(東成エレクトロビーム)<br />

11:35 12:00 「多点法を用いた加速器の高精度アライメント方法の検討」<br />

久米 達哉(<strong>KEK</strong>)<br />

12:00 13:00 昼休み(60分間)<br />

13:00 14:00<br />

ポスターセッション(60分間)<br />

【ポスター講演の会場は3号館1F会議室です】<br />

※ポスター講演の方は、<br />

この時間ポスターの近くでご説明ください.<br />

ポスターは、この時間以前に,<br />

休み時間等を利用してご掲示ください.<br />

また,この時間以降に,<br />

休み時間等を利用しておはずし下さい.<br />

14:00 14:10 移動<br />

【座長】 山中 将<br />

14:10 14:50 【特別講演】「「超」に挑戦する技術開発」<br />

上野 健治(<strong>KEK</strong>)<br />

14:50 15:15 「ハイレシプロ研削に関する研究」<br />

吉原信人(岩手大学)<br />

15:15<br />

「ラインレーザを用いた超伝導加速空洞の非接高速触形状計<br />

15:40 測法の開発」<br />

江並 和宏(<strong>KEK</strong>)<br />

15:40 15:55 コーヒーブレイク<br />

「Super<strong>KEK</strong>B用のRF電子銃の開発及び近年の機械工学への<br />

15:55 16:20 期待」<br />

吉田 光宏(<strong>KEK</strong>)<br />

16:20 16:45 「タンパク質結晶構造解析を支援するロボットの開発」<br />

平木 雅彦(<strong>KEK</strong>)<br />

16:45 16:50 閉会の挨拶<br />

山中 将(<strong>KEK</strong>)<br />

第13回 高エネ研メカ・ワークショッププログラム(2012年4月6日)<br />

(講演時間は質疑応答の5分を含む)<br />

無酸素銅精密切削における単結晶ダイヤモンド工具損耗<br />

―顕微FT-IRによる内部欠陥分析と欠陥が工具損耗に及ぼす影響―<br />

安藤 寛(岡山理科大学) P01<br />

純ニオブ板材の切削基本特性<br />

山田 正大(岡山理科大学) P02<br />

重力波望遠鏡用光学素子の超精密研磨技術の研究<br />

-単結晶Al 2O 3(サファイヤ)の研磨速度の結晶方位依存性の検討-<br />

岡田 睦(中部大学) P03<br />

脆性材料製非球面レンズの研削加工<br />

籠橋 勇介(中部大学) P04<br />

脆性材料製非球面レンズの均等研磨加工<br />

加藤 大祐(中部大学) P05<br />

K-プロジェクト(宮城)による加速管製造の取り組み<br />

鈴石 光信(K-プロジェクト) P06<br />

超伝導空洞製造技術開発のための電子ビーム溶接基礎試験(3)<br />

安島 泰雄(<strong>KEK</strong>) P07<br />

シームレス空洞の製作<br />

井上 均(<strong>KEK</strong>) P08<br />

科学技術分野における技術伝承について:新大学システムの提案<br />

上野 健治(<strong>KEK</strong>) P09<br />

ERL Main Linac用チューナの特性試験<br />

江並 和宏(<strong>KEK</strong>) P10<br />

LCGT(KAGRA)用クライオスタットの設計<br />

小池 重明(<strong>KEK</strong>) P11<br />

初期宇宙の痕跡を観る<br />

鈴木 純一(<strong>KEK</strong>) P12<br />

Super <strong>KEK</strong>B用 超伝導磁石のエンドスペーサ製作について<br />

東 憲男(<strong>KEK</strong>) P13<br />

12:30~13:30 見学ツアー(機械工学センター,空洞製造技術開発施設(CFF)) 参加ご希望の方は,12:30に受付にお集まりください.


特 別 講 演


「特別講演」<br />

「超」に挑戦する技術開発<br />

上野健治<br />

(高エネルギー加速器研究機構)<br />

Technology Development of challenging to “Super”<br />

1. はじめに<br />

高エネルギー加速器研究機構(<strong>KEK</strong>)においては、国際<br />

Kenji UENO<br />

(<strong>KEK</strong>)<br />

リニアコライダー(ILC)計画に向け、常伝導用Xバンド<br />

加速管の開発と並行して超伝導空洞の開発を長期に亘り行っ<br />

てきていたが、2004(平成 16)年8月に ITRP の判断は、<br />

ILC計画においては超伝導技術を採用するということであ<br />

った。この決定時期まで常伝導加速管技術開発にかかわって<br />

いた筆者は、超過伝導空洞技術開発へ舵を切ることになり、<br />

超伝導空洞の製造設備建設とシームレス空洞技術開発に取り<br />

組むこととなった。<br />

一方、J-PARC の技術支援の観点から、物質・生命科学実験<br />

施設で使用される T0 チョッパ(100Hz)、フェルミチョ<br />

ッパ(600Hz)の共同開発を依頼され、超高精度での高<br />

速回転機器の開発を中心に取り組んだ。<br />

本稿において、超精密接合、超伝導空洞製造施設、超伝導<br />

シームレス研究、及び回転体の超高速制御について、9年間<br />

と1ヶ月に亘る期間の技術開発状況を基に報告し、最後に人<br />

材育成にかかる提案と今後の課題について提言したいと思う。<br />

2.超精密接合<br />

Xバンド加速管は、無酸素銅(純度99.9996%)で<br />

作られた加速管ディスクを特殊形状に加工して積層する方法<br />

で製作され、ディスクの接合にはアウトガスの発生を極力避<br />

ける目的から、拡散接合方式を採用している。この場合、加<br />

速管ディスクの配列に誤差が大きく生じると加速ビームの性<br />

質を崩してしまう可能性があり、また軸方向の寸法精度が大<br />

きく狂うと、加速(速度の上昇のみならずエネルギーをチャ<br />

ージすることをいう)が設計通り実施できない恐れがある。<br />

一般に、加速管の接合後の精度は、寸法変化率として 0.01%<br />

であるが、筆者らはさらに高精度な0.01%以内を目標と<br />

して取り組んだ 1) 。ディスク幅が約8mmから11mmである<br />

ので、1枚のディスクあたりの変化を1μm以内とすること<br />

- 1 -<br />

である。この研究は、諏訪熱工業株式会社が独自に開発され<br />

たパルス通電接合方式(金属接合方式のひとつであるパルス<br />

通電接合方式は、熱交換用曲線流路を内蔵した成形金型等の<br />

分野 1) において、その利用が既に広まりつつあった。)を無酸<br />

素銅に適用することを目的として共同研究を実施した。<br />

1 本の 60cmX バンド加速管には、1 枚あたりの厚みが、8 か<br />

ら11mm であり1 枚ごとに寸法が異なっている高精度に加工さ<br />

れた無酸素銅の特殊形状の加速管ディスクを 60 枚必要とし、<br />

それらを接合して製作される。このため、加速管ディスクを<br />

精度良く接合するための要素研究として 高精度の平面度を<br />

有する無酸素銅のディスクブランク(以下ブランクと呼ぶ)を<br />

用いた接合技術の開発が進められてきた。その一つとして<br />

2003(平成 15)年 4 月の高エネ研 第 4 回メカ・ワークシ<br />

ョップにおいて人見宣輝氏(元高エネルギー加速器研究機構<br />

機械工学センター長)からXバンド加速管接合への開発研究<br />

としてパルス通電接合(プラズマ通電接合(KPS))技術適用の<br />

可能性が、初めて提案された本研究は、図1に示すブランク<br />

を用いて基礎的な数枚接合より取り組む必要があった。この<br />

数枚接合によるブランクの接合条件を見出した後、60 枚のブ<br />

ランクを接合するという最終目標の接合実験を実施した。以<br />

下、開発した技術の要点を述べる。<br />

0.0005<br />

8.74±<br />

0.02<br />

0.0005<br />

0.001 A<br />

A<br />

0.05<br />

R 0 . 2<br />

C 0 . 1<br />

R 0 . 2<br />

C 0 . 1<br />

L<br />

L<br />

S 0.05 S<br />

図1 ディスクをモデルとした接合用ブランク<br />

φ20 ± 0.02<br />

φ61 ± 0.02


基礎実験の最終目標である 60 枚接合は、各段階での条件を<br />

以下のように設定した。すなわち<br />

第 1 段階; 荷重 6KN、パルス通電で 300℃まで昇温し、0.5<br />

時間保持する。パルス通電接合方式の概念図を図<br />

2に示す。また上部電極(CEE)を、図3に、<br />

下部電極(CEE)を図4にそれぞれ示す。<br />

第 2 段階; 荷重 0.01KN、パルス通電で 800℃まで昇温。<br />

保持時間は取らず、測温箇所の最も低い箇所が<br />

800℃に達したところで通電を止める。<br />

第 3 段階;真空炉で 850℃ 1 時間の拡散処理を行う。<br />

である。<br />

実験数は3通りとした。 サンプル No1 を標準とし、No2 で<br />

は、量産時を想定してブランクの積み上げを外部で行い、No3<br />

では、チャンバの占有時間の短縮を狙った強制冷却で寸法精<br />

度と真空度にどのような影響が出るかを調べたものである。<br />

寸法変化に関する実験結果、全サンプルが目標値に達した。<br />

内訳は、第 3 段階接合後つまり全接合工程終了後でサンプル<br />

No1 は、0.007%、No2 は、0.01%、No3 は、0.007%であった。寸<br />

法差については、サンプル 3 個中、最も差が大きかったのは、<br />

サンプル No1 であるが、その差は、12μm であり、No2 と No3<br />

は、8μm であった。<br />

各段階で接合体を室温まで冷却後マイクロメータで計測し<br />

た。CCE を用いて 800℃ 0.01KN、第 3 段階は、850℃ 1 時間と<br />

することで目標とした寸法変化率 0.01%以下並びに加速器が<br />

必要とする真空漏れのないレベル、3.99×10 -6Pa L/sec(3×<br />

10- 8Torr L/sec)以下で、接合できた。なお、接合時間は、強<br />

制冷却を行うことでパルス通電接合と拡散熱処理の合計で 6<br />

時間 18 分であり、従来の低温並びに高温拡散接合の合計時間<br />

72 時間と比べ1/11に接合時間が短縮された。<br />

図2 パルス通電接合方式(概念図)<br />

本研究で扱った寸法精度と真空度の他に加速管運転中の放<br />

電現象に関わるアウトガスの発生の有無及び加速管運転中の<br />

寸法精度の変化、加速管据付の真直度の保持等について評価<br />

が進めばXバンド加速管の接合の一方法として、パルス通電<br />

- 2 -<br />

接合方式が将来提案できると考える。<br />

なお、変化率の計算には、銅の膨張係数を用いて温度補正<br />

を行なった。添付資料参照。<br />

図3 上部電極(CEE) 弾性材がスプリング<br />

とカーボンチップ(またはカーボンファイ<br />

バー)で構成されている<br />

図4 下部電極(CEE) 弾性材はカーボンチ<br />

ップ(またはカーボンファイバー)のみ<br />

3.超伝導空洞の製造設備建設<br />

3.1 電解研磨設備<br />

超伝導空洞製造上、電解研磨工程は空洞表面処理をするた<br />

め必須かつ重要工程である。特に ILC 用高電界の空洞製造に<br />

は、表面処理技術の工程開発に多くの内外の研究者が努力し<br />

ている。このような背景の中、加速器研究施設と共同で高エ<br />

ネルギー加速器研究機構(<strong>KEK</strong>)の STF 棟に2006(平成 18)<br />

年度から電解研磨設備(EP 設備)建設を行なった。2006<br />

年度には、主要設備の建設を完了し、2007(平成 19)年<br />

度には水試験(超純水による漏れ防止試験)、各種装置性能評<br />

価試験を経て、2008(平成 20)年 3 月から試用運用を開<br />

始した 2)、3) 。<br />

この電解研磨設備(EP 設備)の対象空洞としては、<strong>KEK</strong> が<br />

扱う空洞(ILC 用空洞、<strong>KEK</strong>B 用空洞、他)およびそれらの部<br />

品であるが、全体建設計画は数年に亘る大型工事であるので、<br />

1期、2期工事として建設、その後の立ち上げとした。<br />

図5に、ILC 用超伝導空洞図を示す。ILC 空洞の長さは、1300<br />

mm、最大直径部 200mm、重量は約 20Kgである。<br />

EP設備の設置場所は、STF 棟(Superconducting Test<br />

Facility)の西南側、1階部である。図6にそのレアイウト<br />

図を示す。STF 棟内部設置エリアは概略6m×30mの広さで<br />

あり、作業性、安全性を考慮して2階建てとした。本設備の<br />

考え方は以下のとおりである。


図5 国際リニアコライダー(ILC)用<br />

超伝導空洞図<br />

高電界の確保・維持及び管理のために、一貫した空洞内面<br />

仕上げを1箇所の設備で実施する。隣接する組み立て用クリ<br />

ーンルームとの相乗効果が期待できる。将来の工業化を狙っ<br />

た場合、モデルルームとして構築、運用することは、意義が<br />

ある。<strong>KEK</strong> を本処理の拠点の一つとし、さらには高電界空洞の<br />

R&D の拠点を構築する。各空洞処理の操作データは、ソフト化<br />

管理し、オンタイムでトレース可能である。本装置を使用し<br />

て、電解研磨固有の技術開発を積極的に進めたいと考えてい<br />

る。図7に STF 棟に設備した ILC 空洞用電解研磨EPベッド<br />

の外観図を示す。<br />

最近の性能として、S1グローバル計画時に企業の協力を<br />

得て製作した ILC 空洞において、このEP処理設備を使用し<br />

て35MV/mの電界性能を数台の空洞で達成することがで<br />

きている。<br />

図6 電解研磨設備(レイアウト図)<br />

図7 STF棟に設備したILC空洞用電解<br />

研磨EPベッド<br />

- 3 -<br />

3.2 超伝導空洞製造技術開発施設<br />

前述の ITRP の決定を受け、<strong>KEK</strong> においては2005年から<br />

1.3GHz9セル超伝導空洞の実用化開発研究を開始し、<br />

STF-1計画、S1グローバル計画が、国際協力の下で実施さ<br />

れた。国際的にも大きな開発プロジェクトの一つになってい<br />

る ILC 計画を、マスタープランに沿って進めるために、特に<br />

空洞は 18,000 本(台)必要とする大型計画であることから、<br />

製作期間が画 5 年以内の条件であると1社では到底製作、評<br />

価作業ができない 4) 。また、空洞の電界性能については、近年<br />

著しく改善が進んでいるものの、その性能ばらつきを最小に<br />

するために、まだ改善しなければならない点が多い。空洞製<br />

造工程中、主になる電子ビーム溶接(以後 EBW という)につ<br />

いても、特有のビード幅の一定化、溶接部及びその付近にピ<br />

ットがないこと、安定したバンプであること等、技術的に検<br />

討、すなわち R&D 要素を解決しなければならない。<br />

<strong>KEK</strong> においては、空洞製造上の技術的改善 R&D を目的とした<br />

空洞製造技術開発施設の建設計画を立案し、2009(平成<br />

21)年度から具体化に取り組み、2011(平成23)年<br />

度に完成した 4) 。外観図を図8に示す。<br />

図8 クリーンルームの外観<br />

この施設の目的は、空洞の製造技術の確立、製造コスト低<br />

減の他、空洞に関する製造技術を広めることである。共通の<br />

場で R&D 活動を共有し、将来空洞製造の工業化のきっかけを<br />

目指すものである。このことは、言い換えれば人材育成と開<br />

発できた技術の伝承(継続)である。さらに、<strong>KEK</strong> には3.1<br />

で述べた表面処理(EP)設備が機能しているので、空洞製造<br />

部が立ち上がれば <strong>KEK</strong> 一箇所で空洞性能に関する R&D が取り<br />

組める。<br />

まず、主要マシンとなる電子ビーム溶接(EBW)機につ<br />

いては表1に記載のテーマを協議し、また国内外の調査を経<br />

て、EBW の最新技術及び動向調査をした。<br />

この空洞製造技術開発施設は、<strong>KEK</strong> の開発共用棟にクリーン<br />

ルームを建設し、その中に設備している。図9にクリーンル<br />

ーム内のレイアウトを示す。このクリーンルームは、清浄度<br />

が、数万値のクラスである。室内が一定の清浄度が保たれれ<br />

ば、EBW 作業はさらに真空チャンバ内で実施することから EBW<br />

の品質には影響がないと判断した。


表1 調査内容<br />

1.加速電圧 :高電圧:150kV、低電圧:60kV<br />

2.電子銃移動方式 :<br />

電子銃自体の移動 または 電子銃固定でワーク(テー<br />

ブル)移動<br />

3.最先端 EBW 技術 :ビームサイズ、ビーム位置再現性、フィ<br />

ラメント寿命、真空度、ハード面、ソフト面、メンテナンス面<br />

4.周辺整備 :クリーンルーム(ISO 程度)、 搬送装置、等<br />

5.将来性 :拡張性、発展性のある装置<br />

6.マンパワー :設備維持の必要人数、作業員の必要レベ<br />

ル、等<br />

図9 クリーンルームのレイアウト図<br />

正面 19m、奥行き 14m、高さ 5m<br />

(一部 3,5m)<br />

EBW の対象空洞は、図5に示す空洞である。この空洞は、大<br />

きく分けて中央 9 セルの本体部と両端のエンドグループ部に<br />

分けられる。中央部の空洞の 8 セル分は同一仕様の EBW 作業<br />

となる。具体的には赤道部、アイリス部、及び空洞の剛性を<br />

高めるスティフネスリングの固定部である。本体部の EBW 箇<br />

所は、合計で 24 箇所存在する。両端のエンドグループの EBW<br />

部は、12 箇所、左右 2 個のエンドグループのため、計 24 箇所<br />

の EBW 箇所が存在する。全てを併せて 48 箇所である 4) 。<br />

3.3 EBW マシンとプレス機<br />

半年間の EBW マシンの動向、先端技術調査、研究会等の議<br />

論の結果、<strong>KEK</strong> が求める EBW マシンの主仕様は、表2に纏めた<br />

仕様であり、最も重要と判断した項目は、ビーム品質である。<br />

これに大きく影響する項目として、出力電力と加速電圧があ<br />

る。空洞部の Nb 板の EBW あるいはエンドグループの Nb 部品<br />

の EBW の電力は、一定の制限の中でどのような部品の EBW を<br />

求められても可能なように 15kW とした。また、加速電圧に関<br />

しては、高電圧型 70kV~150kV と低電圧型 ~60kV との比較<br />

を行い、ビームの質とビームの絞れる大きさ、電子銃(また<br />

は天井)から焦点までの距離(ワークディスタンスという)<br />

- 4 -<br />

が大きくとれること、フィラメント交換時のビーム位置再現<br />

性、及び非点収差補正機能の性能等を重視し、低電圧での試<br />

験も考慮し 60kV を含む高電圧型とした。ソフト機能は、最先<br />

端技術を装備している。図10に設備した高電圧型 EBW マシ<br />

ンの外観を示す。<br />

表2 EBW マシンの主仕様<br />

1.定格出力電力 15kW<br />

2.加速電圧 60~150kV 間で連続可変<br />

3.電子ビーム電流<br />

0~100mA 間で連続可変<br />

4.ビーム最小半径 0.25mm<br />

(ワークディスタンス 200mm)<br />

5.ビームの位置再現性 ±0.05mm<br />

6.非点収差補正機能(Stigmator)付属<br />

図10 EBW マシン<br />

Steigerwald 社製高電圧150kV タイプ<br />

空洞製造にあたり、現状の製造過程で R&D を必要とする工<br />

程の一つに、プレス及びトリミング加工がセットとして必要<br />

であることから、対象工作機械を設備した。図11にサーボ<br />

プレス機の外観図を示す。このサーボプレス機は、1500kN<br />

(150ton)の加圧能力を備えており、また9種類のプレスパ<br />

ターンを有している。<br />

図11 サーボプレス機


4. 施設の活動状況と運用案<br />

4.1 施設の活動状況<br />

空洞製造技術に関する情報を、直接経験して評価するとい<br />

う考え方に基づいて、施設の活動として取り組んでいる。図<br />

5に示した空洞を2011(平成23)年度に1台試作した。<br />

プレス金型についても、<strong>KEK</strong> 内で設計製作し、その形状評価<br />

試験も実施している。ハーフセルの形状精度を三次元測定器<br />

で計測し、金型の形状を決定した。最終的に設計値に対して<br />

±0.25~0.3mmの公差内に入ることを確認している。<br />

真空チャンバの仕様を表3に示す。この真空チャンバの仕<br />

様は、空洞 1 本を立てて水平方向に EBW する、あるいは水平<br />

方向に置いて EBW を天上から可能なことにも対応できる大き<br />

さである。また将来数本をまとめて回転テーブルに載せ、1<br />

度の真空引き後にEBW 作業が可能な場合を想定して決定した。<br />

エンドグループの EBW に関しては、サイズが小さいことから<br />

真空チャンバ内のスペース上十分余裕がある。<br />

表3 EBW 用真空チャンバの主仕様<br />

正面(内寸) 3200mm<br />

奥行き(内寸) 1500mm<br />

高さ(内寸) 2200mm<br />

真空度 1×10-2Pa その達成時間 20 分以内<br />

真空チャンバの材質<br />

ステンレス(SUS316L)<br />

内面 ベーパシールド付<br />

EBW 加工<br />

基礎 EBW 試験を経て、対象空洞の EBW 工程の本格実験を行っ<br />

た。図12に2個のハーフセルをアイリス部で EBW したダン<br />

ベル形状の中間完成した状態を示す。このようなダンベルを<br />

8個製作し、8セルの空洞本体部(センターセル部)を試作<br />

した。これらのダンベル形状は、EBW の熱ひずみのために変形<br />

が生じている。このためダンベル状態で設計値に合致するよ<br />

うに塑性変形をさせ、形状を整形している。その後、ダンベ<br />

ルを赤道部で EBW した。図13にセンターセル部を示す。さ<br />

らに両端部のエンドグループを製作し、センターセル部に EBW<br />

する。この様子を図14に示す。最終的に図15に完成した<br />

空洞を示す 5) 。<br />

図12 完成したダンベル形状<br />

- 5 -<br />

図13 センターセル部の完成<br />

図14 エンドグループを EBW する最終 EBW 工程<br />

図15 完成した空洞<br />

EBW時の上昇温度計算<br />

EBW 部の加工中の温度に関しては、ANSYS を使用して計算し<br />

ている。実験条件に合わせた計算をすすめ、計算により主要<br />

パラメータの傾向を求めている。例えば、NbとTiの EBW<br />

は、2 素材の融点温度に約 700℃の温度差があることから、簡<br />

単ではない。接合部にビームを当てて EBW するとTiのみが<br />

溶けて流れ出し、この EBW が成立しないことがある。ILC<br />

空洞の場合、NbとTiをEBWする工程があるので、温度<br />

計算により EBW に関する条件、特にビーム位置(接合位置か<br />

らの距離、オフセット)について慎重に検討している。図1<br />

6には、実機 EBW 条件をシミュレーションした温度計算例を<br />

示す。図の上側がNb材、下側がTi材であり、接合面は、<br />

黒色の直線で表示しているところである。ビーム中心は、赤<br />

色の中心であるが、この場合 1.5mmオフセットしてい<br />

る。なお、ビーム直径は3mmである。図17は、このオフ<br />

セット量を、0mmから1.5mmまで変化させた時の、温<br />

度分布を示している。融点の低いTiの温度が融点の高いN<br />

bとほぼ同じ温度、図 17 においては、最高温度がNb側に位<br />

置していることがわかる。実機の場合、この結果を基に 0.5<br />

mmオフセットして EBW した。


図16 温度計算例――上部は、Nb材、<br />

下部は Ti材である。<br />

矢印間がオフセット量を示す<br />

ビーム直径3mm、移動速度 5mm/秒 1.5kW<br />

図17 オフセット量を変化させたときの<br />

最高温度位置 左側 Nb材、右側Ti材<br />

4.2 施設運用案<br />

EBW マシンを核にして、このクリーンルーム内で空洞製造が<br />

可能な、すなわち一箇所で空洞製造するというコンセプト実<br />

現のために、必要な工程(マシン、装置)を計画、設備した。<br />

この考え方に沿って、まず後戻りのない製造工程を確立し、<br />

<strong>KEK</strong> 内で実証したいと考えている。この施設にて行う加工条件<br />

は、すべてデータベースとして記録し、その後の工程の検証<br />

に有効活用する。この活動の中から最適な手順が固まれば、<br />

我々の工程をたたき台として、空洞製造の工程の検証のため<br />

に、多方面から <strong>KEK</strong> 外の一般企業からの、関連する研究機関<br />

からの積極的な本施設の利用を期待している。空洞製造は、<br />

数本/日のレベルで必要であり、本施設が先端対応施設として<br />

利用されることは、意味があることと考えている。<br />

5.シームレス空洞製造技術開発<br />

ILC 用超伝導空洞の製造方法は、Nb の板材をプレス加工し、<br />

それぞれの部品を EBW により接合して完成する方式が、試験<br />

的に技術上確立されている。しかしながらこの EBW は工程の<br />

- 6 -<br />

作業時間が長時間であるため生産性が必ずしも高いといえな<br />

いこと、および完成した空洞の赤道部(空洞最大直径部のこ<br />

と)に EBW のビードが残り、このビードを滑らかに加工する<br />

ことなど工程上の課題は少なくない。また基本的に高電界が<br />

発生する赤道部に電界の方向に直角方向にビードが走ってい<br />

ることは、空洞の性能上から存在しないことが望まれる。<br />

このような観点から、空洞のシームレス化が可能になれば、<br />

いくつかの改善が図れる。さらにコスト高であるNb素材の<br />

使用量を削減するため、Nb材と銅材のクラッドパイプ材を<br />

シームレス化で使用することが可能になれば、空洞性能の向<br />

上だけでなく、コスト上の改善も期待できる。このような目<br />

的で、超伝導空洞のシームレス化に必要な装置開発を実施し<br />

た 6)、7) 。<br />

空洞のシームレス化を実施するには、絞り工程(ネッキン<br />

グ工程)とその後のアニール処理、続いて液圧成形工程が必<br />

須である。このため、筆者らは、3 セル空洞モデルを製作する<br />

工作機械を、加工要領が最も近い仕様である旋盤を使用して<br />

開発した。旋盤はベッド長 2910mm のものである。工具台、ワ<br />

ーク取付け部に改造を実施し、曲率半径 10mm の直径 165mm、<br />

幅 20mm のローラを、素材(銅パイプ)にドライ条件で押し付<br />

ける手法で絞り加工を行う。銅パイプの絞り加工する際に、<br />

先に加工済みの絞り部に形状変形を与えないようなパイプク<br />

ランプの方式の開発が必要であった。工具の移動は、2軸 NC<br />

を採用し繰り返し性のある方式である。<br />

図18に開発したネッキングマシンの外観図を示す。<br />

図18 9セル絞り加工が可能な<br />

ネッキング加工機の外観<br />

コスト及び性能向上素材パイプは、厚み 3.1mm、リン脱酸銅<br />

最大応力点 265MPa の銅材を使用し、素材長 2000mmから 10<br />

溝加工を行った。加工条件は、主軸 200rpm、送り速度 90mm<br />

/min である。1 溝当り 11mm素材が延びるが、この変形分は、<br />

クランプ部で対応できる。加工時間は、37 分/溝である。<br />

液圧成形機は、軸方向プレス加工と内部圧力加工が並行し<br />

て動作できる 3 セル空洞用の装置を開発した。まず、軸方向<br />

に圧力を付加し、金型のスキマがゼロになるまで加圧する。<br />

軸方向に移動量変化がゼロになったことを確認し、その後、<br />

内圧を付加する方式としている。確認のため本方式により3


セル空洞を成形加工した。図19にネッキング工程後、中間<br />

液圧成形後、最終液圧成形後の銅パイプを並べて示す。図<br />

20には、3セル空洞の再現性を調べるために成形した空洞<br />

モデルである。<br />

図19 試作したモデル空洞 左ネッキング後<br />

中央 中間液圧成形後、 右 液圧成形完了<br />

図20 試作した銅製の 3 セルモデル空洞<br />

3セルのモデル空洞を製作し、肉厚分布、形状精度、及び<br />

アイリス部のクラックの有無を調査した。対象材料が、銅材<br />

であるがNbパイプの場合を想定しても、参考にはなると判<br />

断した。成形空洞モデルを放電加工機により軸断面で切断し、<br />

その断面部の肉厚寸法を計測した。 肉厚寸法は、加工前が<br />

3.1mm である。肉厚分布は、1.3mm から 2.5mm に変化している<br />

が、最少肉厚が 1.3mm であることは、本方式がシームレス化<br />

に適用できると考える。<br />

6. T0 チョッパ、フェルミチョッパ<br />

J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)における<br />

パルス中性子源では,陽子ビームが中性子発生ターゲットに<br />

入射後,極めて短い時間に中性子が放出される。このうち特<br />

に高エネルギー中性子が中性子分光器に入射すると,分光器<br />

内で散乱及び熱化され,飛行時間(TOF)の初期にバックグラウ<br />

ンドノイズを発生させる.特に数 100meV 以上の高いエネルギ<br />

ーの中性子を利用する実験では,このバックグランドノイズ<br />

の低減が必須である.T0 チョッパはその目的を実現させる装<br />

置であり,高エネルギー中性子に対する遮蔽材である鋼材<br />

(Inconel X 750)を,中性子の発生に同期させて回転させ,<br />

TOF=0 付近の時間帯で中性子ビームラインを遮蔽し,分光器に<br />

- 7 -<br />

入射する高エネルギー中性子を低減させるものである.図21<br />

では,横軸に飛行時間を縦軸にパルス中性子源からの距離を<br />

とり,J-PARC では 40msec ごとにパルス中性子が発生し,フェ<br />

ルミチョッパで単色化して中性子非弾性散乱を測定する様子<br />

が示されている.単色化された中性子は,そのエネルギーが<br />

高くなると,フェルミチョッパでは遮蔽できない高エネルギ<br />

ーの領域(点線)と重なるが,T0 チョッパの動作により,この<br />

バックグランドノイズが低減する 8) .<br />

80mm×80mm のビーム断面積の対象とする中性子ビームライ<br />

ンでは,ビーム断面積に対して±1mm のマージンをとり,82mm<br />

×82mm の遮蔽体(ビーム方向の長さは 300mm)をビームライン<br />

から 300mm 離れた位置でビームラインに平行な軸のまわりに<br />

回転させる(回転半径 300mm).TOF=0 で,遮蔽体部分の中心が<br />

ビームラインの中心にあって,ビームラインを完全に閉じて<br />

いたとすると,100Hz 回転時には 430μsec 後に完全に開口す<br />

る.これを線源から 8.5m 位置に設置すれば,2eV 以下のエネ<br />

ルギーの中性子が利用できる.100Hz 回転時には、マージン<br />

(±1mm)が回転位相の制御精度±5 μsec に対応する.T0 チ<br />

ョッパでは,この遮蔽体が一部になっているロータを真空中<br />

に置き、その両軸を玉軸受で保持し、大気中に設置したモー<br />

タの回転を磁気シールを介して導入した.部品交換なしで,<br />

連続 1000 時間,累積 4000 時間の運転を目指した 。<br />

Distance<br />

background<br />

noise<br />

sample<br />

Fermi chopper<br />

0<br />

background<br />

suppression chopper<br />

40msec 80msec Time<br />

図21 T0 チョッパの動作と中性子散乱実験<br />

T0の開発に当たり、いくつかの開発要素を検証した。主<br />

な内容として、ロータの加工、軸受位置の高精度加工、真空<br />

中の潤滑剤の検討、磁気シールの寿命延長化、および半導体<br />

等の放射線損傷対策等である。もちろん評価基準は、ロータ<br />

回転揺らぎ(回転速度のばらつき)が±0.5μs以内であ<br />

ることが条件である。<br />

プロトタイプが完成した時点で、連続運転(中性子ビーム<br />

なし)を実施しその成果を実機似反映している。このプロト<br />

タイプのT0の設計、開発データ及び運転調整法等を、J-<br />

PARC向けの実機製作の協力企業へ技術移転した。技術移<br />

転後のT0を図22に、その制御装置を図23に示す。技術<br />

移転後、T0のバリエーションとして片刃式ロータ、および<br />

2ビーム方式のT0が開発されてJ-PARCのビームライ<br />

ンに設置されている。


図22 J-PARCの中性子ビームライン<br />

(HRCライン)へ据付けたT0本体<br />

図23 J-PARCの中性子ビームラインへ据<br />

付けたT0チョッパの制御盤の外観<br />

フェルミチョッパは、中性子遮蔽材で構成されるスリット<br />

を、加速器の運転周期に同期して回転させ、中性子を単色化<br />

する装置である。基本的に毎秒600回転(600Hz)以<br />

上の高速回転が要求されており、ロータ軸受は、磁気軸受を<br />

採用することが一般的である。<br />

図24 フェルミチョッパのロータ断面(模式図)<br />

矢印は、パルス中性子ビームを示し、左か<br />

ら右へ抜けるところを示している<br />

図21は、フェルミチョッパを用いたチョッパ分光器の動<br />

作原理である。加速器から発生された陽子ビームが中性子<br />

- 8 -<br />

源に入射されると、その時刻(図21の座標原点)に中性子<br />

が発生する。図21の場合は、25Hz(40mesc)の繰り返<br />

しで、パルス中性子が発生する。このパルス中性子を、まず<br />

T0チョッパで一定エネルギー範囲の中性子に絞り込むが、<br />

まだそのエネルギー範囲が広いので、フェルミチョッパによ<br />

り、必要エネルギーレベルの単色化を行う。この単色化がフ<br />

ェルミチョッパの主機能である。図24にフェルミチョッパ<br />

のロータ断面図の模式図を示す。パルス中性子ビームは、図<br />

24の矢印の方向から入るとして、そのビームの中から白色<br />

部のスキマを通過する中性子パルスは、単色化され後方にセ<br />

ットされた試料に衝突する。<br />

開発対象のフェルミチョッパは、海外では開発されている<br />

が、国産で該当する機能の装置がない。また、輸入の場合、<br />

発注後の納期が長いためビームラインの改善要求などの対応<br />

は、簡単でなくなる。J-PARCの運転を考えると、国産<br />

化は非常に重要な意味を持つ。このような理由から基礎から<br />

の開発を目的として研究を開始した。主仕様は、表4に示す<br />

通りである 8) 。<br />

表4 開発に取り組むフェルミチョッパの主仕様<br />

パルス幅 1.8μsec<br />

要求開口時間 1.0μsec<br />

w 0.4mm<br />

回転速度 600Hz<br />

回転速度の揺らぎ ±0.2μsec(±0.07Hz)<br />

このロータの回転速度は、600Hzの高速回転であり、<br />

このため直進する中性子粒子のため、通過部は、必要に応じ<br />

て曲率を持っている。このパラメータは、w=1.2mm<br />

(中性子が通過する部分の幅)、d=0.3mm(遮蔽板の幅)、<br />

D=98mm(回転体、ロータの直径)R=820mm(積<br />

層曲率)と設計した。また、回転数f=600Hzのとき、<br />

開口時間は、3.2μsec(半値幅)最適エネルギ-Eopt<br />

=200meVである。<br />

磁気軸受は開発が容易ではないので、市販のターボ分子ポ<br />

ンプモータ(TMP)の磁気軸受を利用することを計画し、基礎<br />

運転試験を実施し、TMP 単独運転で600Hz±0.3μsec<br />

の回転精度が確認できたので、この案ですすめることとした。<br />

この±0.3μsec の制御精度では、フェルミチョッパとし<br />

て使用できないが、回転(ロータ)軸受部についてはTMP<br />

の軸をそのまま利用した。すなわちTMPの羽の部分を切り<br />

離し、この位置にスリットを仕込むロータの本体部が位置す<br />

る。図25に製作したフェルミチョッパの概略図を示す。<br />

ロータには、1 回転信号処理が不足していたのでTMP本体<br />

にセンサを追加して、改善を図っている。また、タッチダウ<br />

ンのベアリングの保護のため、ブレーキ回路(回生抵抗)を<br />

付加して急激な回転停止動作を避けるように改善した。


1回転検出センサ<br />

図25 試作したフェルミチョッパ<br />

制御回路<br />

TMP 自体の制御系をそのままにして、外部から回転制御精度<br />

の向上を図ることを、開発の主目的として制御系の開発に取<br />

り組んだ。<br />

誘導電動機の場合、ロータの回転数はすべりが0と仮定す<br />

ると、式(1)で表される。<br />

n=120f/p (1)<br />

ここで<br />

n=ロータの回転数(rpm)<br />

f=供給される電力周波数<br />

p=電動機の極数<br />

式(1)の供給する周波数fのところに着目し、この周波<br />

数を一定値で供給できれば、ロータは精度良く回転するので<br />

はないかと考えた。<br />

図26の上図に現状 TMP の制御系を模式化して示す。制御<br />

回路からTMPへの指令は、アナログ指令であり、例えば6<br />

00Hzで、回転することが可能であればよいという制御精<br />

度である。応答時間もそれほど早くはない。この部分につい<br />

て、式(1)の考え方を適用する目的から、インバータを介<br />

してフェルミチョッパ本体の回転系に指令を行う方式を検討<br />

した。ここで回転速度にかかるフィードバック信号は、従来<br />

通りモータから制御回路へ戻しており、同じ系である。TMP<br />

のコントローラは、図26から判るように制御回路から分離<br />

しているが、磁気軸受の回転制御のために、従来のまま運転<br />

される。インバータを用いた制御精度は、600Hz±0.<br />

04Hzまで向上できた。しかしながら、インバータから発<br />

生するノイズが無視できないため、ノイズの発生の小さい<br />

DDS(Direct Digital Synthesis) を最終的に採用した。<br />

このような改造を実施して、600Hz±0.001Hzの<br />

回転精度を実現した。図 27 にHRCラインでT0チョッパ、<br />

フェルミチョッパを通過した中性子ビームの強度比較を示す。<br />

- 9 -<br />

図26 開発した高精度を目指した制御回路<br />

上図:改善前 下図:改善後<br />

同図においてT0、フェルミチョッパとも作用していない<br />

OFF 条件と、100Hzのデータを比較すると、TOF2000μsec<br />

以内では、2 桁以上のバックグランドノイズが低減しているこ<br />

とが判る。<br />

INTENSITY<br />

10 5<br />

10 4<br />

10 3<br />

10 2<br />

10 1<br />

10 0<br />

0<br />

2000<br />

4000 6000<br />

TOF (μs)<br />

OFF<br />

100Hz<br />

50Hz<br />

25Hz<br />

8000<br />

10000<br />

図27 HRCラインでT0チョッパ、フェルミチ<br />

ョッパを通過した中性子ビームの強度比較<br />

ロータ内部に組み込まれるスリットは、グリッドと称する<br />

アルミ製補強材に挟み、ロータ内部へ10数枚をセットにし<br />

て組み込む。400Hz以上、600Hzの回転時の遠心力<br />

によるグリッドの変形の最小化は、高速回転を維持するため<br />

に、必須の条件である。この目的からグリッドの600Hz<br />

運転時の強度解析をFEM解析により行いその可能性を検討<br />

した、計算結果を図28に示す。スリットに相当する材料は、<br />

ボロンB4C線材(直径100μm)をアルミ板に拡散接合<br />

するものである。<br />

ロータ本体についても、高速回転時の強度について計算し<br />

てみたところ、アルミ材 A5056 の場合、最大変位が、3.4mm<br />

が推定され、実際に運転すればバランスが崩れ、回転不能に<br />

なると予測された。そこで材質を ANB79 に置き換え計算を行<br />

ったところ、最大変位は 0.4mmに収まることが判明した。実<br />

機にはこの ANB79 相当材料を用いてロータ製作した。


図28 グリッドの強度解析例(材料は、アルミ材)<br />

筆者らの更なる目標は、1KHzとしているので、この場<br />

合のロータ形状を同じ考え方で求めてみた。例えば、図29<br />

に示すような結果を得ている。結果として、1KHzの場合<br />

は、ロータの無駄な余肉部の削除、ロータ径の縮小等の改善<br />

が、必要であることが判明している。<br />

図29 1KHzの場合のロータの変形量<br />

5.人材育成の提案<br />

最先端科学を維持発展する実験装置の場合には、そのマー<br />

ケットが一般の工学分野対象に比べ小さい。したがって、科<br />

学技術を支える高度な技術(者)の必要性を、図30に示す<br />

ようにエンジニアリングを科学者と工学者が互いに共存共栄<br />

しながら支えていく関係がどうしても必要になる 9) 。マーケッ<br />

トが小さいために特殊技術として扱われることもしばしばあ<br />

るが、基礎(基本)は一般的な工学の学問及び専門的な技術<br />

が扱えれば十分であると信じている。つくば市には、多くの<br />

高度研究機関が存在するが、これらを支える技術者育成を直<br />

接実施している例は少ない。したがって、各研究機関等の内<br />

部に技術者育成の専門的な大学(院)を創設することを提案<br />

したい。この施設は、従来の大学(院)とは異なり、実学重<br />

視が制度の骨格をなしており、インターンシップを核にした<br />

実学実施を想定している。<br />

- 10 -<br />

エンジニアリング (案)<br />

科学技術<br />

科学者,<br />

仕様、図面情報 工学者、<br />

科学に関係する研究者<br />

エンジニア(設計工学者)<br />

共存共栄<br />

仕様等の情報に対して、その段階において、具体的なも<br />

のを造るために工学的立場から検討し、最適な条件を見<br />

出して、創造過程を書面化する。<br />

書面に基づいて、製作、組立、運転、評価を工学的に行な<br />

う。<br />

エンジニアリング<br />

次世代のために工学的研究を行なう。<br />

図30 サイエンスとエンジニアリング<br />

7.まとめ<br />

加速器科学分野においては、超のつくテーマが、いくつも<br />

ある中で機械工学センターが、常に研究者と伍して対応する<br />

には日頃の研鑽、努力が必要であることと、併せて世界の最<br />

新情報の収集力が大切である。ここに述べた研究テーマは、<br />

これからも日々進歩することを疑わないが、その中でリード<br />

できる人材育成が継続的に行われることを期待している。こ<br />

のための新しい人材育成のしくみが構築でき、国際プロジェ<br />

クトへの参加力が高まれば、機械工学センターから世界発信<br />

できる技術開発が、現在以上に新たに可能となると信じてい<br />

る。<br />

謝 辞<br />

本稿で紹介した技術は、多くの企業の方々との共同開発や<br />

協力により取り組めた案件であります。特に諏訪熱工業株式<br />

会社、株式会社野村鍍金、株式会社シーケービー、株式会社<br />

清水製作所、金属技研株式会社、および有限会社テクノエー<br />

ピーの各社の方々には心からお礼申しあげます。<br />

参考 添付資料<br />

変化率の計算には、銅の膨張係数を用いて温度補正を行な<br />

った。資料末尾添付。<br />

・ブランク厚さ LBn mm:総数 60 枚<br />

・接合体 全長 Lx mm:X=0 (初期寸法)<br />

:X=1(第 1 段階接合後)<br />

: 2(第 2 段階接合後)<br />

: 3(第 3 段階接合後)<br />

・銅 線膨張係数 α=16.5×10 -9mm/℃ ・初期測定温度 tB℃ ・各段階接合後の測定温度 tw℃ ・接合体寸法変化量 Δℓ mm<br />

寸法変化温度補正は、式(1)、(2)による。<br />

L0=ΣL Bn (1)<br />

Δℓ=Lx -L 0×{1+α×(tw-tB)} (2)


参考文献<br />

1) 石川政幸、他 「パルス通電による加速管用無酸素<br />

銅ディスクブランクの60枚接合」 溶接学会論文集<br />

第23巻 第2号(2005)、P344-168<br />

2) 上野健治、舟橋義聖、他 「<strong>KEK</strong>電解研磨設備の開<br />

発」 日本加速器学会 第 5 回年次大会 2008、8 月<br />

3) 上野健治、舟橋義聖、他 「<strong>KEK</strong>電解研磨設備の開<br />

発(2)」 日本加速器学会 第 6 回年次大会2009、8<br />

月<br />

4) 上野健治、安島泰雄、井上均、渡辺勇一、佐伯学行、<br />

山口誠哉 「空洞製造技術開発施設(CFF)の建設」<br />

日本加速器学会 第 7 回年次大会 2010、8 月<br />

5) 上野健治、安島泰雄、井上均、渡辺勇一、佐伯学行、<br />

山口誠哉 「空洞製造技術開発施設(CFF)の建設<br />

(Ⅱ)」 日本加速器学会 第8回年次大会 2011、8<br />

月<br />

6) 上野健治、井上均、渡辺勇一、斎藤健治、東保男<br />

「超伝導空洞のシームレス化に関する装置開発」 日<br />

本加速器学会 第 3 回年次大会 2006、8 月<br />

7) 上野健治、井上均、渡辺勇一、斎藤健治、東保男<br />

「超伝導空洞のシームレス化に関する装置開発(第 2<br />

報)」 日本加速器学会 第4回年次大会 2007、8 月<br />

8) 伊藤晋一 他 「高性能パルス中性子分光器実現に<br />

向けた技術開発」 第8回高エネ研メカ・ワークショッ<br />

プ 平成19年4月13日<br />

9) 上野健治、他 「科学分野における技術伝承につ<br />

いて:新大学システムの提案 ――大学院 加速器<br />

工学(精密工学系)コースについて」 第13 回高エネ<br />

研メカ・ワークショップ 平成 24 年 4 月 6 日<br />

- 11 -


一 般 講 演


平成 23 年度機械工学センターの活動報告<br />

山中 将<br />

(高エネルギー加速器研究機構)<br />

Activity of Mechanical Engineering Center in FY2011<br />

Masashi YAMANAKA<br />

(<strong>KEK</strong>)<br />

The topics of Mechanical Engineering Center (MEC) in FY2011 are as follows; Owing to the Great East Japan<br />

Earthquake in March 11, 2011, 58 in total machine tools and equipments were damaged. With the help of staffs<br />

and machine builders, the repair and recovery were finished until August, 2011. Now, the job shop is run as the<br />

pre-earthquake conditions. The engineer, Toshikazu Takatomi was awarded the <strong>KEK</strong> Technology Prize 2011 for<br />

the development of rotary mechanism of the lattice comparator. The number of manufacturing support was 420<br />

including many kinds of parts and equipments. MEC engineers are joining to 44 science programs in <strong>KEK</strong> to<br />

support as the mechanical engineering expertise.<br />

Key Words: MEC, Great East Japan Earthquake, Manufacturing support, Engineering support<br />

1.はじめに<br />

機械工学センターは高エネルギー加速器研究機構共<br />

通基盤研究施設に所属し,機械工学を専門とする研究<br />

者と技術者により構成されています.当センターの業<br />

務は大きく以下の 3 項目に分類されます.<br />

・短期作業(一般加工):ユーザの依頼に基づく,各種<br />

部品の加工・組立・測定<br />

・中長期作業:各研究プロジェクトに参加し,装置・<br />

設備の設計・製作などを行うエンジニアリング支援<br />

・研究開発:研究プロジェクト間に共通の機械工学に<br />

関する高度な要素技術の研究開発<br />

平成 23 年度のトピックスとしては,平成 23 年 3 月<br />

11 日に発生した東日本大震災による設備の被災と復旧<br />

が上げられます.所有する工作機械・機器類の計 58 台<br />

が転倒したり,位置がずれたりしました.図1に示す<br />

ようにマシニングセンタを設置している床面は沈下し<br />

ました.関係各署,メーカ様のご協力をいただき,8 月<br />

までには全面復旧し,現在は問題なく稼動しています.<br />

図1 沈下したマシニングセンター(第2工作棟)<br />

- 13 -<br />

建設を進めてまいりました空洞製造技術開発施設<br />

(CFF)が竣工しました.電子ビーム溶接機,プレス機<br />

等の超伝導加速器空洞を製造するために必要な設備が<br />

そろっています.この施設を活用して,高性能な空洞<br />

を低コストで製造する技術開発を加速器研究施設と共<br />

同で実践しています.うれしい知らせとしては,高富<br />

俊和技師が平成 23 年度 <strong>KEK</strong> 技術賞を受賞しました.<br />

受賞題目は「結晶格子コンパレーターのための回転機<br />

構の設計と製造」です.キログラム原器を廃して,ア<br />

ボガドロ定数からキログラムを再定義するというニュ<br />

ースを耳にされたと思います.その研究に用いられる<br />

高分解能結晶格子ゴニオメータの開発に貢献しました.<br />

最後に教員の異動を報告します.平成 23 年 10 月に<br />

山中将教授が着任しました.また平成 23 年 3 月末をも<br />

って上野健治教授と東保男准教授が定年退職されまし<br />

た.これまでの貢献に感謝申し上げます.お二人とも<br />

シニアフェローとして,引き続き <strong>KEK</strong> にて仕事をされ<br />

ます.<br />

2.短期作業<br />

平成 23 年度の短期作業の依頼件数は 420 件でした.<br />

最近の依頼件数の変化を図2に示します.例年 400 件<br />

程度の依頼に対応しております.製作依頼の内容は多<br />

岐にわたります.超伝導空洞に用いられるニオブ(Nb)<br />

材は,一般的には馴染の無い材料ですが,ここでは頻<br />

繁に依頼があります.図3に示す RF 電子銃のロウ付け<br />

作業は水素炉中で行います.他にも真空炉を所有して<br />

おり,各種熱処理を行います.各種溶接作業にも対応


します.<br />

件数<br />

500<br />

400<br />

300<br />

200<br />

100<br />

0<br />

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011<br />

図2 最近の短期作業依頼件数の変化<br />

図3 RF 電子銃のロウ付け作業<br />

3.中長期作業<br />

管理局<br />

共通基盤<br />

加速器<br />

物構研<br />

素核研<br />

平成 23 年度は中長期作業として図4に示す 44 件の<br />

依頼に対応中です.複数年にわたり取組んでいるプロ<br />

ジェクトもいくつかあります.「空洞製造技術開発施<br />

設(CFF)の構築および BL 空洞の製造」には,教員 3<br />

名と技術職員 5 名が参加しています.治具の設計,機<br />

械加工,溶接作業,プレス加工,シミュレーション,<br />

計測などを分担して,図4に示す空洞を製造していま<br />

す.その他の例としては,J-PARC 物質・生命科学実験<br />

用ビームラインにおける中性子スピンエコー分光器の<br />

設計,図6に示す Super <strong>KEK</strong>B Belle-2 Endcap PID HAPD<br />

固定板の試作,ミューオン HFS 実験用超伝導ソレノイ<br />

ドシステムの製作などを担当しています.3 次元 CAD<br />

で設計した後,FEM で解析して構造を最適化すること<br />

や,製造メーカとの打合せや立会い,実際の製作や運<br />

転など,さまざまな形態の支援を行っています.職員<br />

は複数の依頼を掛け持ちして対応しております.<br />

共通基盤,<br />

9<br />

加速器,<br />

13<br />

素核研, 9<br />

物構研,<br />

11<br />

図4 中長期作業の依頼件数の内訳<br />

- 14 -<br />

図5 空洞製造技術開発施設と製造した空洞<br />

図6 Super <strong>KEK</strong>B Belle-2 Endcap PID HAPD 固定板<br />

4.研究開発<br />

設計・加工・計測等の機械工学な基礎的な研究と将<br />

来の加速器開発に向けた先行的な要素開発を行ってい<br />

ます.現在取組んでいる主なテーマは以下の通りです.<br />

各テーマについては,本報告集または参考文献に詳述<br />

されておりますので,ご覧下さい.<br />

・X バンド高電界加速管開発 1)<br />

・シームレス空洞の開発<br />

・多点法による真直度測定<br />

・Linac のアライメント測定<br />

・ハーフセル測定装置の開発<br />

5.おわりに<br />

機械工学センターは教員 4 名,技術職員 17 名,事務<br />

員 1 名(シニアフェロー,研究支援員を含む)で運営<br />

しています.時代とともに必要となるサービスの内容<br />

が変わることは自明です.<strong>KEK</strong> の研究活動を十分支援<br />

できるように,サービス内容の拡充と職員のスキル向<br />

上に取り組んで生きます.<br />

参考文献<br />

1) 阿部・東・肥後・松本,高電界加速研究の動向,<br />

加速器,8, 3 (2011), 155-162.


概要<br />

結晶格子コンパレーターのための回転機構の設計と製造<br />

産総研の国際アボガドロ定数プロジェクトでキロ<br />

グラムの定義のためX線結晶密度法の研究が進めら<br />

れている。それらの研究をおこなう装置の一つとし<br />

て、単結晶シリコンの完全性評価をおこなうための<br />

回転分解能を1ミリ秒でコントロールする高分解能<br />

結晶格子ゴニオメーター(以下、ゴニオメーター)<br />

の開発をおこなった。<br />

大型の試料ホルダーを高精度に回転角の位置決め<br />

するためには安定性と再現性のある回転位置出し機<br />

構を開発する必要がある。本装置では微動機構に弾<br />

性ヒンジを用いることで1ミリ秒の回転分解能を持<br />

つゴニオメーターを開発した。<br />

本報では今回開発した微動回転機構を中心にゴニ<br />

オメーターの製作について報告する。<br />

1.はじめに<br />

産総研で研究が進められているX線結晶密度法と<br />

は、同位体濃縮単結晶シリコンの密度、格子定数、<br />

モル質量からアボガドロ定数を決定するというもの<br />

で、そのためには、「密度、格子定数、モル質量の<br />

精密計測」と「結晶シリコンの結晶完全性を評価す<br />

るための超高分解能結晶格子評価システムの構築」<br />

が必要となる。その中の単結晶シリコンの結晶完全<br />

性の評価をおこなう装置として放射光実験施設で高<br />

精度なゴニオメーターを使用した実験がおこなわれ<br />

た。これらの研究を踏まえて昨年の 10 月に 120 年ぶ<br />

りにキログラム原器の定義の直しが決定された。<br />

本報ではその実験で使用したゴニオメーターの開<br />

発および製作ついて報告する。<br />

2.ゴニオメーターの開発及び製作<br />

2.1 要求される仕様<br />

高富俊和* 張小威* 藤本弘之**<br />

(*高エネルギー加速器研究機構)<br />

(**産業技術総合研究所)<br />

この実験に使用されるゴニオメーターは、X線を結<br />

晶にあて、二つの反射角度の差を計測することで結<br />

晶の不均一性を評価する。そのため、回転分解能を<br />

1ミリ秒以下とする必要がある。また、測定精度を<br />

向上させるために動作の安定性と再現性が求められ、<br />

広い範囲の測定をおこなうために測定の高速化が必<br />

要となる。その他として、既存の実験ステーション<br />

の限られたスペースで稼働できる構造とコストを抑<br />

えるためできるだけ手持ちの部品を再利用すること<br />

が求められた。<br />

- 15 -<br />

図1:ゴニオメーターと結晶の X 線回折測定<br />

2.2 製作上の問題点<br />

本ゴニオメーターの製作において最も困難となっ<br />

たのが、回転機構が全周回転でき、かつ1ミリ秒の<br />

分解能を持つことである。<br />

通常の回転機構に良く用いられるボールベアリン<br />

グではベアリング球の転がりによる誤差があるため、<br />

要求される微小な角度が得ることは不可能である。<br />

また、静圧軸受等では構造が複雑かつ安価にできな<br />

いなど、本ゴニオメーターの回転機構としては適さ<br />

ない。<br />

そこで、概念設計の見直しをおこない、いろいろ<br />

と検討した結果、X 線反射を測定するためには結晶<br />

に回転角度が与えられればよいので、同軸上にはこ<br />

だわらず、粗動と微動を組み合わせてゴニオを構成<br />

することとした。粗動を全周回転できるベアリング<br />

の構造で作り、微動に弾性ヒンジを用いる方法を提<br />

案した。<br />

2.3 全体構造<br />

ゴニオメーターの全体構造を図2に示す。全長は<br />

500mm以下、幅は400mm以下でテーブル面<br />

からビームラインまで300mmという制約から、<br />

全長は480mm、幅は360mmとした。<br />

構造は結晶を取り付ける結晶台を回転面盤に取付<br />

け、粗動回転機構として精密スピンドルをウォーム<br />

ギアで回転させる構造とし全周回転を可能とした。<br />

測定時は粗動軸を完全に固定するためディスクブレ<br />

ーキを取り付けた。ディスクブレーキには発熱を避


けるため圧空とばねの制御機構を採用した。微動回<br />

転機構は回転面盤に取付けている。<br />

2.4 微動回転機構<br />

図2:ゴニオメーターの全体図<br />

図3に微動回転機構を示す。微動機構には回転の<br />

安定性と再現性を得るため材料のたわみを利用する<br />

弾性ヒンジを用いる設計とした。青色が可動部で緑<br />

色が固定部となっている。可動部と固定部は上部に<br />

支点と 4 ヶ所のヒンジで支持しており、材料には<br />

YH75 アルミ合金を使用した。試料ホルダーの重量に<br />

耐える剛性を持たせるため厚さを 30mmとした。<br />

駆動にはピエゾ素子を用い、回転範囲は 150 秒で、<br />

ピエゾ素子1µm の伸びに対して可動部が 1 秒回転す<br />

るように設計した。<br />

図3:微動回転機構<br />

ここでピエゾ素子をどのように取付けるかが問題<br />

となった。今回使用したピエゾ素子は長さが 180mm<br />

でピエゾ素子と回転半径との角度を 90°に設置する<br />

ことができない。<br />

- 16 -<br />

そのため、ピエゾの伸縮により接触点の横滑りお<br />

よび反力により素子への曲げ力が発生する。それら<br />

を改善するため、ピエゾの先端に平行ばねを設ける<br />

ことで素子への曲がりを抑え、接触点に球状の超硬<br />

材を用いることで横滑りによる角度誤差を抑える構<br />

造とした。(図4)<br />

また、ピエゾの固定方法についても当初はピエゾ<br />

本体の後部をネジで固定していたが、固定すること<br />

でスムーズに変位しないことが判明したため、本体<br />

後部と前方 2 カ所を点接触で固定する方法とした。<br />

図4:ピエゾ先端部<br />

図5:回転面盤<br />

微動回転機構は固定版と微動機構板をねじ止めに<br />

より固定する構造とした。(図5)<br />

大型の試料ホルダーを取付けられる剛性を得るた<br />

めに摺動面にキサゲ加工を施し、平面度を向上させ<br />

接触面積を減らす構造とした。この構造では最初は<br />

順調に動いていたが時間がたつと接触点の摩耗によ<br />

り動かなくなってしまった。<br />

そこで、可動部との摺動面を 0.1mm 削り込んで固<br />

定板より完全に浮かせる構造に修正した。幸い板厚


を 30mm としていたため、たわみ等の問題は生じな<br />

かった。<br />

ピエゾの伸縮と微動機構の変位量の関係を図6に<br />

示す。計測にはオートコリメーターを用いた。横軸<br />

がピエゾに与えた電圧で縦軸は変位量である。赤は<br />

回転方向で青は前後方向の変位量を表している。上<br />

部は回転方向の変位量の傾き補正をおこなったもの<br />

である。<br />

回転の行きと帰りで 10 秒程度のヒステリシスが見<br />

られるが、再現性があるので補正により対応が可能<br />

である。また、回転範囲も 150 秒が得られているの<br />

で機能的には問題ないことが分かった。<br />

図6:ピエゾの伸縮と微動機構回転量との関係<br />

(a) 本装置によって得られた X 線反射<br />

- 17 -<br />

(b)従来型の装置によって得られた X 線反射<br />

図7:結晶のX線反射から見た装置の安定性<br />

2.5 結晶のX線回析 による計測結果<br />

図7(a)は放射光実験施設の BL−3C に設置後、結晶<br />

のX線回折を計測したもので、微動回転機構の繰返<br />

し位置決め精度と再現性および安定性を表したもの<br />

である。横軸は測定回数で縦軸は回転角度を表して<br />

いる。<br />

従来型のベアリングを用いた回転ステージの図7<br />

(b)では、ベアリング球の転がりによる接触点の変化<br />

により回転中心の位置決めが不安定になっているこ<br />

とが分かる。本装置は弾性変形をもちいているため,<br />

回転中心がずれることなく,スムーズな回転が実現<br />

されている。<br />

本装置を使って結晶の不均一性を測定した結果を<br />

図8に示す。48mm×24mm の結晶の両面をスキャニ<br />

ング計測し、結晶表面の状態を表したものである。<br />

結晶の不均一性を測定した結果、3x10 -9 レベルの分<br />

解能での計測が実現できた。<br />

図8:結晶の不均一性を測定した結果<br />

3x10 -9 レベルの分解能が実現できた。<br />

2.6 その他の要素開発について<br />

図9に完成後のゴニオメーターの写真を示す。粗<br />

動系の部品およびリニアガイドなどできるだけ手持<br />

ちの部品を再利用することで製作費を抑えた。また、<br />

マシニングセンターを利用し、計測しながら組立て<br />

をおこない組立て精度の向上を図った。<br />

放射光実験施設の BL−3C に設置されたゴニオメー<br />

ターを図 10 に示す。このように限られたスペースに<br />

設置されるためコンパクトな設計が求められた。


図9:完成後のゴニオメーター写真<br />

図10:放射光実験施設 BL−3C に設置された<br />

ゴニオメーター<br />

4.まとめ<br />

本装置で最も難題となったのが、全周回転ができ,<br />

かつ 150 秒角区間において分解能を1ミリ秒の回転<br />

機構を持つことであった。ボールベアリングや静圧<br />

軸受では達成することが困難であることが分かった<br />

ため、概念設計からの見直しをおこない、粗動軸と<br />

微動軸を分けて直列組み合わせすることと、微動機<br />

構に弾性ヒンジとピエゾ素子を用いることで、要求<br />

の仕様を達成することができた。限られた予算の中<br />

で,手持ちの機械部品を再利用したことで低いコス<br />

トで本装置を作製組み立てができた。<br />

- 18 -<br />

微動機構では行きと帰りに 10 秒のヒステリシスは<br />

見られるが、再現性があるため、150 秒の回転範囲と<br />

1 ミリ秒の分解能が達成できたと言える。粗動軸につ<br />

いても精密スピンドルとウォームギアを使用するこ<br />

とで全周回転が実現でき、角度エンコーダの取り付<br />

けで,回転精度が 0.001°にできた。これにより、従<br />

来のものより信頼性が1桁良くなり、測定速度も3<br />

倍程度速くすることができた。この装置での結晶評<br />

価が国際アボガドロ定数プロジェクトに寄与した。<br />

参考文献<br />

[1] Xiaowei ZHANG 他, “A Silicon d-spacing Mapping<br />

Measurement System With Resolution of 10 -9 ” SRI 2009:<br />

THE 10TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON<br />

SYNCHROTRON RADIATION INSTRUMENTATION,<br />

1234 (2010),<br />

[2] Hiroyuki FUJIMOTO 他, “Homogeneity<br />

characterization of lattice spacing of silicon single<br />

crystals by a self-referenced lattice comparator” 2011<br />

Metrologia 48 S55


ERL 主加速部クライオモジュールの開発<br />

梅森 健成、江並 和宏、阪井 寛志、佐藤 昌史、篠江 憲治、古屋 貴章(<strong>KEK</strong>)、<br />

沢村 勝(JAEA)、Enrico Cenni(総研大)<br />

Development of ERL Main Linac Cryomodule<br />

Kensei UMEMORI, Kazuhiro ENAMI, Hiroshi SAKAI, Masato SATOH, Kenji Shinoe and Takaaki Furuya<br />

(<strong>KEK</strong>), Masaru SAWAMURA (JAEA), Enrico CENNI (The Graduate University for Advanced Studies)<br />

Energy Recovery Linac(ERL) is recognized as promising future light source. The Compact ERL (cERL) is a test<br />

facility of ERL and now advanced in <strong>KEK</strong>. Its aim is to demonstrate the critical key technologies, one of which is<br />

main linac superconducting cavity. Nine-cell superconducting cavity, input coupler, higher-order-mode damper<br />

and frequency tuners have been developed and their performances have been verified. A main linac cryomodule is<br />

now under construction for cERL project and will be completed in 2012. Cooling tests, high-power tests and<br />

beam-tests will follow.<br />

Key Words: ERL, Superconducting cavity, Cryomodule, cERL project<br />

1.Compact ERL (cERL) 計画<br />

ERL(エネルギー回収型リニアック)は、超低エミッ<br />

タンス、短パルスを実現する放射光源の将来計画とし<br />

て期待されている。ERL 実現のためには、電子銃の開<br />

発とならんで超伝導空洞の開発が重要な要素として挙<br />

げられる。<br />

Chicane<br />

Arc 1<br />

(Bunch compression)<br />

Beam dump<br />

Extractor<br />

Main<br />

acceleration<br />

module 2<br />

Straight section<br />

Main<br />

acceleration<br />

module 1<br />

Merger<br />

Arc 2<br />

Injector<br />

cavity<br />

Solenoid, buncher<br />

Electron<br />

gun<br />

図 1 cERL 計画の概念図<br />

<strong>KEK</strong> では現在、その ERL の試験機である Compact<br />

ERL (cERL) [1] の建設が進められている。その概要図<br />

を図 1 に、主なパラメータを表 1 に示す。電子銃から<br />

出たビームは入射部で 5~10MeV に加速された後、主加<br />

速部で加速され、1 周した後に今度は主加速部で減速さ<br />

れてビームダンプへと捨てられる。ERL のビーム品質<br />

に最も影響を与えるのは低エネルギーの部分であるの<br />

で、エネルギーは低いながらも重要な技術要素の検証<br />

が一通りできる構成となっている。<br />

表 1 cERL 計画の主なパラメータ<br />

ビームエネルギー 35 – 245 MeV<br />

ビーム電流値 10 – 100 mA (CW)<br />

規格化エミッタンス 0.1 – 1 mm mrad<br />

バンチ長 1 – 3 ps (usual)<br />

100 fs (bunch compression)<br />

我々が現在行っているのが、この cERL に向けた主<br />

加速部クライオモジュールの開発である [2, 3]。まず最<br />

初の段階として 35MeV でのビーム運転を目指しており、<br />

主加速部では、2 台の 9 セル超伝導空洞入りのクライオ<br />

- 19 -<br />

モジュールの製作を進めている。このクライオモジュ<br />

ールに必要な各要素の開発状況について説明する。<br />

2.ERL 主加速部クライオモジュール<br />

ERL では超伝導空洞は 2Kに冷やされてビーム運転が<br />

行われる。クライオモジュールはそのために必要な、<br />

入力カップラー、高次モード減衰器、周波数チューナ<br />

ーなどが組み込まれた断熱真空槽である。図 2 にクラ<br />

イオモジュールの概念図を示す。超伝導空洞は He ジャ<br />

ケットを装着し、モジュールの中心付近に位置してい<br />

る。これらの構成要素が全てうまく動作して、初めて<br />

ビーム運転が可能となる。現在は、これらの構成要素<br />

ならびにクライオモジュール本体がほぼ完成したとこ<br />

ろである。今年度夏頃にクライオモジュールの組立を<br />

行う予定であり、それに向けて準備を進めている。<br />

図 2 ERL 主加速部クライオモジュールの概念図<br />

3.ERL 主加速部用超伝導空洞の開発<br />

ERL 主加速部用超伝導空洞には、15~20MV/m 程度<br />

の加速勾配が求められる。また CW 運転の加速器であ<br />

るため、冷凍機負荷を抑えることも重要で 1x10 10 以上<br />

の空洞 Q 値が求められる。それとともに空洞に励振さ


れる高次モードを強力に減衰させることが ERL 用の空<br />

洞においては非常に重要である。この高次モードが十<br />

分減衰できていないと、ビーム電流値の制限、エミッ<br />

タンスの悪化、冷凍機負荷の増大などを引き起こす事<br />

になる。ERL 空洞はこの高次モード抑制を最大のター<br />

ゲットとして設計された空洞である [4]。アイリス直径<br />

を 80mm として高次モードのインピーダンスを下げた<br />

一方で、表面電場は高目になっているので、空洞 Q 値<br />

を劣化させる電界放出(field emission)を起こしやすく<br />

なっている。いかに電界放出を抑えるかが安定な空洞<br />

運転に向けての鍵である。<br />

図 3 cERL 主加速部用 9 セル超伝導空洞<br />

図 3 に cERL 用に製作した 2 台の主加速部用 9 セル空<br />

洞(3 号機、4 号機)の写真を示す。この 2 台の空洞に<br />

対し、電解研磨、アニール、周波数調整、仕上げ電解<br />

研磨、超純水高圧洗浄、フランジアセンブリ、ベーキ<br />

ングなどの一連の処理工程を行い、性能評価のための<br />

縦測定を行った。各空洞 2 回の縦測定を行い、その最<br />

終の結果を図 4 に示してある。横軸に加速勾配、縦軸<br />

に空洞 Q 値を示してある。仕様の 20MV/m を超え、両<br />

空洞ともに 25MV/m まで到達した。また空洞 Q 値も十<br />

分良いものであった。電界放出による放射線が見られ<br />

たのが、3 号機は 15MV/m から、4 号機は 22MV/m から<br />

と電界放出の抑制もひとまず合格であった。<br />

図 4 cERL 用 9 セル超伝導空洞の縦測定結果<br />

この2 台の空洞はその後、He ジャケットの溶接が無<br />

事行われ、いよいよ夏のクライオモジュールへの組み<br />

込み作業を待つ、という状況にある。<br />

4.周辺装置の開発<br />

空洞以外の入力カップラー、高次モード減衰器、周<br />

波数チューナーについても開発が進められている。そ<br />

の開発状況について、以下に述べる。<br />

- 20 -<br />

4.1 入力カップラー<br />

ERL 主加速部の空洞は減速ビームから回収したエネ<br />

ルギーを用いて次のビームの加速を行うため、ビーム<br />

へのエネルギー供給は基本的にゼロである。入力カッ<br />

プラー [5, 6] からは、空洞に電圧を立てるためのパワ<br />

ー供給がされる。入力カップラーの結合度は 2x10 7 程度<br />

に設定され、常にほぼ全反射の条件にてパワー供給を<br />

行う。機械的振動に伴う空洞共振周波数のずれを考慮<br />

に入れると、最大 20kW (CW)が入力カップラーへの要<br />

求となる。<br />

図 5 (左)カップラー試作機における大電力試験の結果<br />

(右) cERL 用入力カップラー<br />

図5 の左図がカップラー試作機での大電力試験の結<br />

果である。クライオモジュールでの状況を模擬するた<br />

め、断熱真空槽の中に設置し、液体窒素により 80K ま<br />

で冷却した状況で試験を行った。16 時間連続して 20kW<br />

の電力を問題なく通せることが確認できた。また、入<br />

力カップラー各部の温度上昇も熱設計で想定している<br />

程度で収まっていることが確認できた。<br />

図5 の右図は、cERL 用に製作された 2 台の入力カッ<br />

プラーである。組立まで無事完了し、近々行われるコ<br />

ンディショニングに備えている。<br />

4.2 高次モード減衰器の開発<br />

高次モード減衰器 [7, 8] はクライオモジュール内の<br />

80K の場所に置かれる。強力な高次モード減衰を実現す<br />

るために、<strong>KEK</strong>B の技術をベースにしたビームパイプ型<br />

高次モード減衰器を採用、フェライトは銅ダクトに HIP<br />

(熱間等方圧加圧法)加工されている。このフェライ<br />

トは冷却試験を行い 80K での吸収特性が十分あること<br />

を確認した上で採用されている。1 空洞あたり高次モー<br />

ドの吸収により 150W 程度の熱負荷が想定される。<br />

図 6 の左図に試作高次モード減衰器を用いた低温試<br />

験の様子を示す。断熱真空槽に試作機を設置し液体窒<br />

素にて冷却した上で、ヒーターにて加熱し、150W 相当<br />

の熱負荷があった場合の熱分布について評価した。こ<br />

の高次モード減衰器には、櫛歯型の RF シールドを採用<br />

しているが、測定結果を元に櫛歯形状にフィードバッ


クをかけている。図 6 の右図は試作機を ERL9 セル空洞<br />

に接続し、高次モード特性の測定を行っているところ<br />

である。常温での試験ではあるが、ほぼ設計通りに高<br />

次モードの Q 値が落とせていることが確認できた。<br />

図 6 (左)断熱真空槽での試作機の低温試験 (右) ERL<br />

空洞に試作機を接続しての高次モード特性の測定<br />

cERL 用高次モード減衰器もほぼ完成している。内部<br />

の清浄度確保のため、しばらくは真空引きをしながら<br />

保管し、夏のクライオモジュール組み込みの際に空洞<br />

に接続される。<br />

4.3 周波数チューナーの開発<br />

周波数チューナーは、機械的振動や He の圧力変動な<br />

どにより常に変動している空洞の共振周波数を一定に<br />

保つ役割を担う。高品質ビームの実現を目指す ERL で<br />

は、加速電圧の振幅・位相の安定化は重要であり、周<br />

波数チューナーも重要な役割を担う。<br />

周波数チューナーは、<strong>KEK</strong>-STF にてリニアコライダ<br />

ー空洞用に開発されているものをベースにしている。<br />

粗調整用には Slide-Jack チューナーという機械式チュー<br />

ナー、微調整用にはピエゾチューナーを使用している。<br />

チューナーは運転時には 5K まで冷やされる。<br />

Displacement (um)<br />

3000<br />

2500<br />

2000<br />

1500<br />

1000<br />

500<br />

A (With Load) B (with Load)<br />

C(with Load) A (No Load)<br />

B (No Load) C(No Load)<br />

Load (With Load) Load (No Load)<br />

0<br />

0<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

‐500<br />

Shaft Rotation (Revolution)<br />

‐100<br />

図 7 (左) 試作機による特性評価のセットアップ (右)<br />

Slide-Jack チューナーのストロークの測定<br />

常温中ではあるが、この試作機チューナーを用いて<br />

特性評価が行われた。詳しくは文献 [9] を参照のこと。<br />

図 7 の左図に、試作機チューナーの特性評価実験のセ<br />

ットアップの様子を示す。図 7 の右図が Slide-Jack チュ<br />

ーナーのストローク試験の結果である。約 3mm のスト<br />

ロークが得られている。これは約 900kHz の周波数変化<br />

に対応する。また空洞を伸ばしていくと負荷が増して<br />

いくが、その時のバックラッシュについても評価を行<br />

い、最大 0.4μm 程度であるとの結果が得られている。<br />

ピエゾ素子についてもストロークとヒステリシスの試<br />

験が行われた。常温での 80μm のストロークが確認さ<br />

れた。ヒステリシス測定では、動きが十分スムーズで、<br />

再現性も十分あることが確認できた。<br />

600<br />

500<br />

400<br />

300<br />

200<br />

100<br />

Load (fgf)<br />

- 21 -<br />

cERL のクライオモジュールに組み込む 2 台の周波数<br />

チューナーも既に完成している。<br />

5.cERL の今後のスケジュール<br />

空洞を始めとする各種部品もできあがり、これから<br />

いよいよクライオモジュールへと仕上げていくことに<br />

なる。夏頃に、空洞、高次モード減衰器、入力カップ<br />

ラーをクリーンルームにて接続する作業を行う。その<br />

後、周波数チューナーや温度シールド、モニター等を<br />

取り付けた後に、クライオモジュールへ組み込む。<br />

クライオモジュールは cERL の設置場所に移動して<br />

から He 冷凍機と接続される。秋以降、冷却試験および<br />

大電力試験が予定されている。クライオモジュールと<br />

いう超伝導加速空洞システムをまずは安定に動かすこ<br />

とが最大の課題となる。来年度にはリングの真空ダク<br />

トと接続され、主加速部空洞にもビームが通され、い<br />

よいよビーム運転が始まる。<br />

6.3GeV-ERL の実現に向けて<br />

今回は 2 空洞入りクライオモジュールの製作を行っ<br />

ているが、最終目標である放射光利用のための 3GeV ク<br />

ラスの ERL では、200 台以上の超伝導空洞が必要とな<br />

る。また、それに伴い大規模な He 冷凍機システムも必<br />

要となる。<br />

まず空洞性能に関連した課題としては、より高い空<br />

洞 Q 値を実現すること、また電界放出による電子放出<br />

を十分抑制することが挙げられる。これにより、冷凍<br />

機の負荷を抑えるとともに、放射線や暗電流の問題を<br />

低減することができる。それとともに、200 台以上もの<br />

超伝導空洞を製作・処理・測定・クライオモジュール<br />

化することは非常に大変な作業であり、施設・設備を<br />

状況に応じて充実させていくことが求められる。<br />

7.まとめ<br />

将来光源 ERL の実現に向けて、超伝導空洞、入力カ<br />

ップラー、高次モード減衰器、周波数チューナーなど<br />

の開発を進めてきた。それぞれ要求される性能を満た<br />

すことが確認され、現在は ERL 試験機である cERL の<br />

ための 9 セル空洞 2 台入りのクライオモジュールの製<br />

作を進めている。今年度夏にはクライオモジュールと<br />

して組みあがり、その後各種試験の後に、ビーム運転<br />

が行われる予定である。<br />

参考文献<br />

1) 羽島良一 他 「コンパクト ERL の設計研究」<br />

<strong>KEK</strong> Report 2007-7/ JAEA-Research 2008-032 (2008)


2) K. Umemori et al., “Development of a main linac<br />

cryomodule for Compact ERL project”, LINAC’10,<br />

Tsukuba, Sep 2010, p.404 (2010)<br />

3) K. Umemori et al., “Construction of cERL cryomodules<br />

for Injecctor and Main Linac”, SRF’2011, Chicago,<br />

July, 2011, FRIOA06<br />

4) K. Umemori et al., “Design of L-band superconducting<br />

cavity for the energy recovery linacs”, APAC’07,<br />

Indore, India, Feb 2007, p.570 (2007)<br />

5) H. Sakai et al., “High power tests of <strong>KEK</strong>-ERL input<br />

coupler for main linac under liquid nitrogen condition”,<br />

SRF’2011, Chicago, July, 2011, TUPO005<br />

6) H. Sakai et al., “Power Coupler Development for ERL<br />

Main Linac in Japan”, IPAC’10, Kyoto, May, 2010,<br />

p.2953 (2010)<br />

7) M. Sawamura et al., “Cooling properties of HOM<br />

absorber model for cERL in Japan”, SRF’2011,<br />

Chicago, July, 2011, THPO003<br />

8) M. Sawamura et al., “Cooling test of ERL HOM<br />

absorber”, IPAC’10, Kyoto, May, 2010, p.2944 (2010)<br />

9) 江並和宏 他,「ERL Main Linac 用チューナの特性<br />

試験」 平成24年4月6日 第13回高エネ研<br />

メカ・ワークショップ 於 <strong>KEK</strong><br />

- 22 -


電子ビーム溶接の概要と加工事例の紹介<br />

進藤 稔<br />

(東成エレクトロビーム株式会社)<br />

Outline of Electron Beam Welding and introduction of processing cases<br />

Minoru SHINDO<br />

( Tosei Electrobeam Co., Ltd. )<br />

We has contracted the trust business of Electron Beam Welding and Laser Beam Processing over 34 years as a<br />

Job shop of the biggest scale in domestic. The feature of Electron Beam Welding is a penetration depth as wide<br />

range as from 0.1 mm to not less than 300 mm, a width of the welding condition selection range from which the<br />

arbitrary penetration shape according to each material and products is acquired, and etc.. Moreover, in the<br />

welding quality, no other processing is better than Electron Beam Welding at present, and the application fields,<br />

such as an aerospace part, an automobile associated part, a semiconductor device associated part, and electronic<br />

components, are various. In this paper, we introduce the principle and feature, and a part of processing cases in<br />

our company about Electron Beam Welding in which is one of the processing methods which have a big charm<br />

even now when 50 years or more have passed since the appearance.<br />

Key Words: Electron Beam Welding, Steel, Stainless steel, Aluminum alloy, Copper alloy, Dissimilar materials<br />

1. はじめに<br />

当社は国内最大規模のジョブショップとし<br />

て 34 年にわたり電子ビーム溶接加工・レーザ<br />

加工の受託業務を請け負っている.電子ビーム<br />

を用いた溶接は 0.1mm から 300mm 以上といった<br />

広範囲の溶込み深さが得られること,それぞれ<br />

の材料・製品に応じた任意の溶込み形状が得ら<br />

れる溶接条件選択範囲の広さなどが特長とし<br />

て挙げられる.また,溶接品質の高さにおいて<br />

は未だ他の追随を許さず,航空宇宙部品・自動<br />

車関連部品・半導体装置関連部品・電子部品な<br />

ど,その適用分野は多岐にわたっている.本報<br />

では登場から 50 年以上が経過した現在でも大<br />

きな魅力を持つ加工法のひとつである電子ビ<br />

ーム溶接について,その原理・特徴や当社にお<br />

ける加工事例の一部について紹介する.<br />

2. 電子ビーム溶接の概要<br />

2.1 電子ビーム溶接機の構成<br />

図 1 に電子ビーム溶接機の概略図を示す.電<br />

子ビーム溶接機は電子ビームを発生させる電<br />

子銃,電子ビームを収束・偏向させる電磁レン<br />

ズ,ワーク(被溶接物)を溶接する溶接チャン<br />

バー,真空排気装置で構成されている.<br />

2.2 電子ビームの発生原理<br />

(1) フィラメントを加熱させて電子を発生さ<br />

せる.<br />

(2) フィラメントとアノードとの間に加速電<br />

圧を印加して電子を加速する.照射される電子<br />

- 23 -<br />

の量はフィラメントとグリッドの間に印加さ<br />

れるバイアス電圧によって制御される.<br />

(3) 加速された電子は収束レンズによって任<br />

意のスポット径に収束され,ワークに照射され<br />

る.<br />

電子銃<br />

電磁レンズ<br />

コラムバルブ<br />

溶接チャンバー<br />

2.3 電子ビーム溶接のメカニズム<br />

(1) 電子ビームがワークに照射されると照射<br />

された部分が瞬時に溶融・気化し,キーホ<br />

ール(穿孔)が生じる.<br />

(2) ワークまたは電子ビームを移動させるこ<br />

とで,電子ビームはワークを溶融させなが<br />

ら進行する.この溶融金属はキーホールの<br />

後方で合流して凝固し,溶接ビードを形成<br />

する.図 2 にイメージ図を示す.<br />

ワーク<br />

XY ステージ<br />

フィラメント<br />

グリッド<br />

アノード<br />

収束レンズ<br />

偏向レンズ<br />

電子ビーム 電子ビーム<br />

電子ビーム<br />

照射 キーホール<br />

ワーク<br />

溶融部<br />

ワーク<br />

高圧ケーブル<br />

真空排気<br />

観察光学系<br />

図 1 電子ビーム溶接機概略図<br />

キーホール<br />

ワーク<br />

図 2 電子ビーム溶接のメカニズム<br />

電子ビーム<br />

真空排気<br />

移動<br />

溶融部<br />

凝固部


2.4 電子ビーム溶接の特徴<br />

電子ビーム溶接はキーホール作用により溶<br />

接を行う為,アーク溶接等の熱伝導による溶接<br />

法と比較して深溶込み・低入熱・低歪溶接が可<br />

能である.以下に電子ビーム溶接の特徴を示す.<br />

<br />

(1) 厚板の 1 パス溶接が可能である.<br />

(2) 高アスペクトの溶接ビードが得られる.<br />

(3) 高エネルギー密度の熱源であり,高融点金<br />

属(タングステン,タンタル,モリブデン等)<br />

の溶接が可能である.<br />

(4) 真空中で溶接を行う為,チタンなどの活性<br />

金属の溶接が容易である.<br />

(5) ビームオシレーションを用いた溶接が可<br />

能である.<br />

(6) 溶接パラメータは全て電気的に制御され,<br />

再現性の高い溶接が可能である.<br />

<br />

(1) ワークサイズが溶接チャンバーサイズに<br />

制限される.<br />

(2) 真空排気・給気時間が必要である.<br />

(3) ワークの残留磁束により,ビーム偏向(ビ<br />

ームの曲がり)が起こる.<br />

(4) 絶縁物への照射が困難である.<br />

2.5 電子ビーム溶接における継手形状<br />

電子ビーム溶接は基本的に溶加材を用いな<br />

い溶接であり,それに留意した継手形状,部品<br />

構造に設計する事でより高品質な溶接が可能<br />

となる.以下に電子ビーム溶接で用いられる一<br />

般的な継手形状を示す.<br />

(1) 突き合わせ継手<br />

最も一般的な継手形状であり,電子ビーム溶<br />

接において最大の特長である深い溶込み,細い<br />

ビード幅が得られ,高強度・低歪溶接が可能で<br />

ある.<br />

(2) 重ね継手<br />

電子ビームのキーホール作用により,上側の<br />

材料を瞬時に貫通させて下側の材料との溶接<br />

を行う.熱伝導による溶接法とは異なり,銅や<br />

アルミニウムといった熱伝導率の高い材質に<br />

おいても容易に溶接可能である.<br />

(3) 隅肉継手<br />

他の溶接法では比較的多く見られる継手形<br />

状であるが,電子ビーム溶接においては特長を<br />

生かす事ができる,突き合わせ継手に変更して<br />

施工する事例も多々ある.<br />

- 24 -<br />

2.6 溶接部品の機械加工における留意点<br />

(1) 継手表面<br />

電子ビーム溶接では基本的に溶加材を用い<br />

ない事から,継手表面部分の開先(面取り)は<br />

取らずにシャープエッジとする事が望ましい.<br />

(面取りをする場合,糸面取り程度に留める.)<br />

面取りが大きい場合,溶接部が欠肉状態となり,<br />

クラック等の溶接欠陥の原因となる場合があ<br />

る.<br />

(2) 角部・隅部の加工<br />

段付突き合わせ形状では段付部(インロー<br />

部)の角部・隅部にニゲが設けられている場合<br />

があるが,過度のニゲは継手表面部の面取りと<br />

同様に溶接部の欠肉の要因となる為,ニゲによ<br />

る継手部の空間を最小限にする事が望ましい.<br />

(3) 嵌め合い精度<br />

部品の嵌め合い部分のギャップ(隙間)は極<br />

力ゼロにする事が理想である.一般的には<br />

0.03mm 程度の絞まり嵌めから中型の嵌め合い<br />

部品で 0.1mm 程度の隙間嵌めとしている事例<br />

が多い.但し,部品の制約上それ以上のギャッ<br />

プを有しているものも溶接条件を最適化する<br />

事で溶接を可能としている事例もあり,要求品<br />

質とコストにより決定される.<br />

(4) 接合面の粗さ<br />

接合面の面粗さは溶接部品の要求精度にも<br />

よるが,溶接部の欠肉防止および脱脂・洗浄時<br />

における洗浄不良防止の為,中仕上げあるいは<br />

それ以上の面粗さにすることが望ましい.<br />

2.7 溶接部品の洗浄<br />

溶接部分の錆や油脂等の汚れは溶接欠陥の<br />

要因となる為,清浄にしておく必要がある.<br />

(1) 脱脂・洗浄<br />

当社では炭化水素系の洗浄液による超音波<br />

洗浄機,MEK(メチルエチルケトン)・アセトン・<br />

IPA等による超音波洗浄およびハンドワイプに<br />

て部品の脱脂・洗浄を行っている.電子ビーム<br />

溶接では真空中で溶接を行う為,より入念な脱<br />

脂・洗浄が部品の品質向上へと繋がる.<br />

(2) 酸化皮膜の除去<br />

鉄系部品の錆や銅・アルミニウム部品の酸化<br />

皮膜等は除去が必要である.<br />

2.8 溶接部品の脱磁<br />

鉄系部品の場合,部品が帯磁している事があ<br />

り,ビーム偏向により電子ビームが溶接部継目<br />

から外れてしまう事がある.ビーム偏向防止の


為,部品の溶接前に脱磁機を用いて部品の脱磁<br />

をしておく必要がある.<br />

3. 当社における加工事例の紹介<br />

3.1 鋼の電子ビーム溶接事例<br />

C0.25%以下であれば基本的に溶接性は良好<br />

であるが,C0.35%以上ではクラックが発生する<br />

場合があり,適切な溶接条件,予・後熱条件を<br />

設定する必要がある.<br />

(1) 大型ギアの溶接事例<br />

図 3 は大型ギアの電子ビーム溶接ビードの<br />

横断面画像である.材質: SCM420H と S45C,溶<br />

込み深さ: 約 28mm の溶接であるが,SCM420H<br />

側が浸炭焼入済み(溶接部近傍を除く)で,予・<br />

後熱温度に制限がある為,収束位置の調整およ<br />

びビームオシレーションの併用にて溶接ビー<br />

ド形状を最適化することで,クラック・ポロシ<br />

ティを抑制している.<br />

電子ビーム溶接では溶接ビード形状に影響<br />

するパラメータが多々あり,個々のワークに最<br />

適な溶接ビード形状を選択することが可能で<br />

ある.<br />

図 3 大型ギアの電子ビーム溶接事例<br />

(2) 浸炭焼入ギアの予・後熱によるクラック抑<br />

制事例<br />

C0.35%以上では基本的に予・後熱の実施が望<br />

ましい.図 4,図 5 は浸炭焼入されたギア(溶<br />

込み深さ: 約 3mm)の電子ビーム溶接トライ事<br />

例で,溶接ビード形状の最適化および予・後熱<br />

の実施によるクラック抑制事例である.<br />

- 25 -<br />

※ 当該事例はあくまでトライ事例であり,実<br />

製品の溶接においては溶接部近傍の浸炭層除<br />

去あるいは防炭処理を推奨する.<br />

<br />

<br />

クラック発生<br />

クラック発生<br />

図 4 浸炭焼入れギアのクラック発生事例<br />

(予・後熱なし)<br />

<br />

<br />

クラック抑制<br />

クラック抑制<br />

図 5 浸炭焼入れギアのクラック抑制事例<br />

(予・後熱あり)


3.2 ステンレス鋼の電子ビーム溶接事例<br />

オーステナイト系,フェライト系ステンレス<br />

の電子ビーム溶接性は基本的に良好である.<br />

(鋼種による.)<br />

マルテンサイト系ステンレスでは溶接部の<br />

硬度上昇によりクラックが発生することがあ<br />

るが,適切な溶接条件,予・後熱条件の設定に<br />

よってクラックを防止できる場合がある.<br />

(1) SUS420J2 の電子ビーム溶接部硬度<br />

マルテンサイト系ステンレスの中でも焼入<br />

れ性の良い材料では予熱を行うと硬度が上昇<br />

する場合がある.図 6 は SUS420J2 の電子ビー<br />

ム溶接において予・後熱実施の組合せが溶接部<br />

硬度に及ぼす影響を確認したものである.<br />

Hardness(Hv)<br />

800<br />

700<br />

600<br />

500<br />

400<br />

300<br />

200<br />

100<br />

0<br />

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112131415161718192021<br />

(2) SUS304ダイアフラムの溶接事例 図 7 は厚さ 30ミクロンの SUS304 ダイアフラ<br />

ム(薄膜)を SUS304 の本体に溶接したもので,<br />

ダイアフラムの変形・破れが無く,溶接部の気<br />

密性も良好となっている.厚板の 1 パス溶接は<br />

電子ビーム溶接の特長のひとつであるが,当該<br />

事例のように厚さ 0.1mm 以下の材料の薄物溶<br />

接にも数多く適用されている.<br />

製品外観<br />

Measurement point<br />

Nothing Preheat only<br />

Afterheat only Preheat&Afterheat<br />

図 6 予・後熱実施の組合せが溶接部<br />

硬度に及ぼす影響<br />

溶接径: φ10<br />

- 26 -<br />

溶接部<br />

図 7 SUS304 ダイアフラムの溶接事例<br />

3.3 アルミニウム合金の電子ビーム溶接事例<br />

(1) A2219 合金の貫通溶接事例<br />

図 8 は厚さ: 12mm の A2219 合金の貫通溶接<br />

事例である.A2000 系合金の中では溶接性の良<br />

い A2219 合金ではあるが,溶接部の欠肉による<br />

表面の微細クラックが発生しやすい.反面,溶<br />

接ビードを安定させる為にビード幅を確保す<br />

ると比較的大きなクラックが発生しやすく,溶<br />

接条件の設定には注意が必要である.当該事例<br />

では収束位置の調整およびビームオシレーシ<br />

ョンの併用にてクラック・ポロシティを抑制し<br />

ている.<br />

図 8 A2219 合金の貫通溶接事例<br />

(2) A5052 合金のポロシティ抑制事例<br />

電子ビーム溶接部の溶け込み形状は細く深<br />

い為,ルートポロシティが発生しやすい.発生<br />

の原因としては溶接部に介在する汚れ等の不<br />

純物によるガス,合金に含まれる蒸気圧の高い<br />

元素によるもの,溶融金属の流れ(凝固状態)<br />

によるもの等がある.低融点の合金元素を多量<br />

に含む材料はポロシティを発生しやすい.電子<br />

ビーム溶接時の一般的なポロシティ対策とし<br />

ては以下が挙げられる.


・ 不純物の除去,溶接前の脱脂・洗浄を<br />

徹底する.<br />

・ 溶接速度を遅くする.<br />

・ 溶接ビード幅を広くする.<br />

・ ビームオシレーションを併用する.<br />

図 9 に A5052 合金の電子ビーム溶接における<br />

ビームオシレーションによるルートポロシテ<br />

ィ抑制例を示す.<br />

<br />

<br />

表面ビード幅を広げずにル<br />

表面ビード幅を広げずにル<br />

ート部ビード幅を確保して<br />

ート部ビード幅を確保して<br />

ルートポロシティを抑制し<br />

ルートポロシティを抑制し<br />

ている。 ている。<br />

図 9 A5052 合金のルートポロシティ抑制事例<br />

(3) A5052 合金の厚板溶接事例<br />

電子ビーム溶接では厚板の 1 パス溶接が可<br />

能である点も特長のひとつである.図 10 は厚<br />

さ 150mm の A5052 合金に 1 パス貫通溶接を行っ<br />

た事例で,電子銃を下向き・横向きの 2 姿勢に<br />

て比較をしたものである.電子銃: 下向きでは<br />

溶融金属の溶け落ちが生じているのに対して<br />

電子銃: 横向きでは良好な溶接ビードが得ら<br />

れている.当該事例のように電子銃を任意の角<br />

度に設定する場合,ムービングガンタイプの電<br />

子ビーム溶接機はセットアップ時間を大幅に<br />

短縮することができ,大変有利である.<br />

図 10 A5052 合金(厚さ 150mm)の<br />

1 パス貫通溶接事例<br />

3.4 銅合金の電子ビーム溶接事例<br />

(1) C1020 球形チャンバーの溶接事例<br />

C1020 球形チャンバーの溶接事例を図 11 に<br />

示す.(溶込み深さ: 約 3mm)溶接箇所は半球<br />

形チャンバーの内面から C1020 パイプを溶接<br />

- 27 -<br />

後,半球形のチャンバー同士を突き合わせて赤<br />

道部分の溶接を行っている.電子ビーム溶接で<br />

は溶接トーチ,加工ヘッド等が存在しない為,<br />

ビームが干渉しない範囲であれば,内面や溝底<br />

面の溶接に対しても対応可能である.<br />

製品外観<br />

溶接部断面<br />

赤道溶接<br />

パイプ内面溶接<br />

図 11 C1020 合金球形チャンバーの溶接事例<br />

3.5 異種材料の電子ビーム溶接事例<br />

電子ビーム溶接では,融点や熱伝導率の異な<br />

る異種材料の溶接が比較的容易に実施可能で<br />

ある.<br />

(1) C1020 パイプと SUS304 フランジの電子ビー<br />

ム溶接事例<br />

図 12 は前述した球形チャンバーの C1020パ イプと SUS304 フランジの溶接(溶込み深さ:<br />

3mm)を行ったものである.銅とステンレス鋼<br />

の溶接は当社の異材溶接の組合せの中では最<br />

も多く実施されている.<br />

(2) Ta と SUS316 の電子ビーム溶接事例<br />

図 13 に Ta リング(厚さ=0.2mm)と Ta ダイ<br />

アフラム(厚さ=0.1mm)と SUS316 ベースの溶<br />

接事例を示す.ベースに SUS を用いてコスト削<br />

減した事例である.高エネルギー密度のビーム<br />

である為,融点・熱伝導率の異なる材質の組合<br />

せでも溶接が可能である.気密性もリークレー<br />

ト=1×10 -9Pa・m 3 /sec 以下に確保されている.


製品外観<br />

溶接部断面<br />

パイプ+フランジ溶接<br />

図 12 C1020 パイプと SUS304 フランジの<br />

溶接事例<br />

製品外観<br />

溶接部拡大<br />

図 13 Ta と SUS316 の溶接事例<br />

3.6 その他の電子ビーム溶接事例<br />

その他,当社にて電子ビーム溶接を行ってい<br />

- 28 -<br />

る材料としては多々挙げられるが,一例として<br />

図 14にチタン合金の溶込み深さ 60mm の部分溶<br />

込み溶接事例とインコネル 718 の板厚 30mm 貫<br />

通溶接事例を示す.<br />

図 14 チタン合金、インコネル 718 の溶接事例<br />

4. おわりに<br />

電子ビーム溶接の原理・特徴および当社にお<br />

ける電子ビーム溶接事例の一部について紹介<br />

した.当社においても引き続き,更なる電子ビ<br />

ーム溶接の適用範囲拡大や信頼性の向上へ向<br />

けて取組んでいきたい.<br />

参考文献<br />

1) 上野 保: 高温学会誌「ジョブショップにおける<br />

電子ビーム溶接の現状」(1997)<br />

2) 溶接学会編: 溶接・接合便覧(1990)<br />

3) 上野 保,横井 哲郎: 軽金属学会 軽金属 第 52<br />

巻 第 1 号「電子ビーム溶接」(2002)<br />

4) 上野 邦香,進藤 稔,望月 正人: 溶接学会全国<br />

大会講演概要 88 集 「パルス電子ビーム溶接による<br />

アルミニウム合金材のブローホール低減」(2011)


多点法を用いた加速器の高精度アライメント方法の検討<br />

高エネルギー加速器研究機構(<strong>KEK</strong>) ○久米 達哉,江並 和宏,東 保男,山中 将,上野 健治<br />

Precision alignment for particle accelerators using multi-probe methods<br />

High Energy Accelerator Research Organization (<strong>KEK</strong>)<br />

Tatsuya KUME, Kazuhiro ENAMI, Yasuo HIGASHI, Masashi YAMANAKA, Kenji UENO<br />

1. 緒 言<br />

高エネルギー物理実験や放射光源に用いられる大型の粒子加<br />

速器を運転するには,それらを構成する機器の高精度なアライメ<br />

ントが必要となる.加速器の最終的なアライメントは,加速器を運<br />

転することで得られる粒子ビームを基準として行われるが,基準<br />

となる高品質なビームを得るには,加速器を構成する機器間の相<br />

対位置をある程度の精度で合わせ込む必要がある.この作業を加<br />

速器の初期アライメント,もしくは,機械的アライメントと呼ぶ.<br />

我々は,ILC 計画などの将来計画において計画される 10 km を<br />

超えるような規模の大型の粒子加速器に望まれる,既存技術では<br />

達成困難な高精度のアライメントを実現するため,加速器の機械<br />

的アライメントを精密形状測定と考え,超精密形状測定分野にお<br />

いて用いられる精度向上手法を取り入れた検討を行っている.こ<br />

こでは,多点法を用いたこれまでの検討をまとめ,その適用可能性<br />

について述べる.<br />

2. 加速器の初期アライメント<br />

加速器の初期アライメントでは,一般的にまず,数 m~10 m 程<br />

度の加速器構成単位(加速器ユニット)内において,高周波加速<br />

空洞やマグネットなどの加速器を構成する機器間の位置合わせ<br />

が行われる.その後,加速器ユニット間の相対位置合わせが行われ<br />

るが,加速器の高性能化と大型化に伴い,加速器の大きな形状成分<br />

(形状の低周波成分)を合わせこむために,より大きな範囲,また<br />

は,長さ (数 100 m~数 10 km) における相対位置を,より高精度<br />

(サブmmもしくはそれ以下)に評価することが求められるように<br />

なった.このとき測定範囲と測定精度の比は 10 -6 ~10 --7 と,既存の<br />

形状測定方法では実現困難な領域となる.この方法を確立するこ<br />

とが,本検討の目的である.<br />

現状における加速器の初期アライメントでは,Wire Positioning<br />

System(WPS), Hydraulic Leveling System (HLS), 真空中のレーザビ<br />

ームなどの高安定な直線基準を用意して,それらからの偏差によ<br />

り評価する方法や,高性能な測量器などで得られた測量結果をつ<br />

なぎ合わせた,測量ネットワークを用いる方法が主となっている.<br />

さらに,より高精度のアライメントが必要とされる場合などは,こ<br />

れらを組み合わせることで対応している.1)<br />

前者の方法では,測定長の拡大による誤差の拡大や蓄積の問題<br />

は無い.しかし,測定基準の変動や不確定性の影響を受け,定義可<br />

能な測定基準の範囲より評価可能な範囲が制限されるといった<br />

問題を持つ.後者の方法では,前者で定義されるような測定基準を<br />

必ずしも必要としないことから,その変動の影響や測定範囲制限<br />

- 29 -<br />

の影響を受けないが,測定データをつなぎ合わせることよる誤差<br />

拡大や誤差蓄積の影響を受ける.<br />

測定精度(定義値,または2σ) [μm]<br />

図1.形状測定における測定長と測定精度(定義値,もしくは,測定<br />

値のばらつき=2×標準偏差),本検討ではマゼンタ部分の確立<br />

を目指す,直定規,干渉計-1,2,レーザトラッカ-1,2,トータルステ<br />

ーション-1,2,GPS は,代表的な市販品のカタログ値,laser in<br />

pipe, HLS, WPS, combined については,文献 2~9 を引用<br />

ここでは,測量ネットワークを用いる方法において行われる測<br />

定データのつなぎ合わせが,形状測定におけるスティッチングと<br />

等価であると考え,その影響を見積る.形状測定におけるスティッ<br />

チングにおいて,隣り合う 2 つの形状を,それら共通の測定区間の<br />

形状から導出された最小二乗近似直線が等しくなるように,2 つ<br />

の形状の相対位置を平行,または,回転移動してつなぎ合わせる場<br />

合,形状のつなぎ合わせによる誤差伝播は,(1)式のように示され<br />

る.10)<br />

s<br />

100000<br />

10000<br />

1000<br />

100<br />

10<br />

1<br />

直定規 干渉計-1(短距離) 干渉計-1(長距離)<br />

干渉計-2(短距離) 干渉計-2(長距離) レーザトラッカ-1<br />

レーザトラッカ-2 トータルステーション-1 トータルステーション-2<br />

GPS laser in pipe,2-4) HLS, 5)<br />

WPS, 6,7) combined, 7-9)<br />

0.1<br />

1 10 100 1,000 10,000<br />

<br />

2<br />

l lus2lllu<br />

k lu<br />

lu<br />

s<br />

d<br />

1kklu klu sklu<br />

2s<br />

4<br />

<br />

<br />

1 2<br />

測定長 [m]<br />

10 -6 ~10 -7<br />

ここで, d は,つなぎ合わせる前の形状測定値に含まれる偶然誤<br />

差, s は,つなぎ合わせにより得られた形状の誤差,l,lu,s は,全測定<br />

(1)


長,個々の測定区間長,および,測定間隔である.さらに,k は,個々の<br />

測定区間長に対するつなぎ合わせの”のりしろ”部分の割合を示<br />

す.<br />

(1)式は複雑な形状をしているが,測定長 l が大きな場合,即ち測<br />

定範囲が大きな場合に着目すると,つなぎ合わせて得られた形状<br />

の誤差 sは,測定長 l の3/2 乗に比例するものと考えられる.<br />

一方,測量ネットワークを用いる方法では,ネットワークを構成<br />

する個々の測量において,主として三角測量による座標導出が行<br />

われる.この時,三角測量での測定長 l と得られる形状の誤差 t と<br />

の関係は,(2)式のように示され,得られる形状の誤差は,測定長 l に<br />

比例するものと考えられる.<br />

l <br />

t<br />

<br />

ただし, は,三角測量の見込み角に含まれる偶然誤差である<br />

測量ネットワークを用いた測定において,三角測量で得られた<br />

データをつなぎ合わせて得られる形状では,(1)式と(2)式の効果が<br />

重畳されるものと考えられることから,測定長 l の増加に対する,<br />

誤差拡大の割合は,(1)式で表わされるものよりも大きくなるもの<br />

と,予想される.<br />

3.1 2 点法に基づく形状測定<br />

3. 多点法による形状測定<br />

図2.2 点法に基づく形状測定<br />

2点法に基づく形状測定法として,水準器(傾斜計)やオートコリ<br />

メータなどの角度検出器(角度計)を用いて,被測定形状の接線の<br />

傾斜角を検出する方法,または,微分干渉計や2台の形状検出器(変<br />

位計)を用いて,被測定形状の隣り合う二点の差分形状を検出する<br />

方法などがある.これらの方法は角度検出器や形状検出器を,求め<br />

る形状に沿って走査しながら計測を行う走査型の形状測定法で<br />

あるが,形状基準として用いられる走査軌跡の誤差(送り誤差)の<br />

影響を受けないことから,高精度の形状基準を用意することの難<br />

しい長距離における高精度な形状測定に有利と考えられている.<br />

例として水準器を用いた方法を考える11).各測定点x iにおいて<br />

検出される接線の傾斜角を(x i),測定点の間隔を s,さらに,積分の<br />

初期条件として,測定開始点 x 0の形状を 0 とすると, n 回の測定で<br />

得られる形状 f(x n)は,次のように示される.<br />

(2)<br />

- 30 -<br />

f<br />

n<br />

<br />

i1<br />

xs x n<br />

(3)<br />

i<br />

このとき,検出される傾斜角に含まれる偶然誤差を とすると,導<br />

出形状 f(x n)への誤差伝播 v は,s には誤差がないとの仮定の下,次<br />

のように見積もられる.<br />

s l <br />

v <br />

(4)<br />

ただし,lは測定長であり,l=n*sなる関係を満たす.(4)式より,2 点法<br />

で得られた形状の誤差 vは,測定長lの1/2乗に比例するものと考<br />

えられる.<br />

3.2 3 点法に基づく形状測定<br />

図3.3 点法に基づく形状測定<br />

3 点法に基づく形状測定法として,2 台の角度計を用いて,被測<br />

定形状の隣り合う二点の接線の傾斜角の差分値を検出する方法<br />

(差動オートコリメーション)や,3 台の変位計を用いて,測定対象<br />

の隣り合う3点の二階差分形状を検出する方法がある. これらの<br />

方法も,2 点法と同様の走査型の形状測定法であるが,走査誤差の<br />

影響を受けない 2 点法の特長に加えて,走査時の姿勢変化の影響<br />

も受けないことから,さらなる高精度の形状測定が実現可能と期<br />

待される.<br />

例として 3 台の変位計を 2 組対向させ反転測定することで,変<br />

位計相対位置の初期位置のずれの影響を除去する,ゼロ点調整法<br />

を適用した 3 点法を考える.12)各測定点 x iにおいて検出される二<br />

階差分形状を c(x i),測定点の間隔を s,さらに,積分の初期条件とし<br />

て,測定開始点 x 0の形状および接線の傾斜角をともに 0 とすると,<br />

n 回の測定で得られる形状 f(x n)は次のように示される.<br />

f<br />

n<br />

<br />

i1<br />

2 xs nicx n<br />

1 (5)<br />

このとき,検出される二階差分形状に含まれる偶然誤差を c とす<br />

ると, 送り方向には誤差がないとの仮定の下,導出形状 f(x n)への<br />

誤差伝播 zは,次のように見積もられる.<br />

1 3 1 2 2 1 3<br />

z s l<br />

s l<br />

s l<br />

<br />

c<br />

3 2 6<br />

ただし,l は測定長である.<br />

測定長lが大きな場合に着目すると,3 点法で得られた形状の誤<br />

差 sは,測定長 l の3/2 乗に比例するものと予想される.<br />

i<br />

(6)


4.1 誤差見積り値の検証<br />

4. 考 察<br />

図 4 に,2,点法,3 点法,および,スティッチングによる形状測定に<br />

おいて,実際の形状測定において得られた測定値のばらつきと,式<br />

(1),(4),(6)より得られた誤差見積り値の,測定長lに対する変化を示<br />

す.<br />

2 点法に基づく形状測定として,水準器を用いた方法について,<br />

測定値を level-exp,見積り値を level-est で示す.測定パラメータと<br />

して,測定点の平均間隔 s=1.9 m,水準器出力の標準偏差 =9 rad<br />

を用いる.測定値は,4 回の繰り返し測定時の標準偏差であり,l=3<br />

~71 m の範囲で求められた.測定値は見積り値とほぼ一致してい<br />

る.<br />

3 点法に基づく形状測定として,ゼロ点調整法を適用した 3 点<br />

法について,測定値を 3p-exp,見積り値を 3p-est で示す.測定パラメ<br />

ータとして,測定点の間隔 s=0.1 mm,二階差分形状の標準偏差 c=<br />

2×10 -8 /mm を用いる.測定値は,10 回の繰り返し測定時の標準偏<br />

差であり,l=10~1000 mm の範囲で求められた.測定値は見積り値<br />

よりも 1 桁程度大きくなっているが,測定長に対する増加割合は<br />

一致している.測定値と見積り値との差は,測定時の送り方向の誤<br />

差によるものと考えられる.<br />

スティッチングにおける誤差蓄積ついて,測定値を stitch-exp,見<br />

積り値を stitch-est で示す.測定パラメータとして,個々の測定区間<br />

長lu=280 mm,測定点の間隔 s=4 mm,のりしろ部分の割合 k=0.2,各<br />

測定値の標準偏差 d=0.34 m を用いる.測定値は, 10 回の繰り返<br />

し測定形状間の標準偏差であり,l=280~1400 mmの範囲で求めら<br />

れた.測定値は見積り値と良く一致している.<br />

Error (Standard deviation) [um]<br />

1000<br />

100<br />

10<br />

1<br />

0.1<br />

0.01<br />

0.001<br />

level-exp<br />

level-est<br />

3p-exp<br />

3p-est<br />

stitch-exp<br />

stitch-est<br />

0.0001<br />

0.01 0.1 1<br />

Measurement distance l [m]<br />

10 100<br />

図4.導出形状の偶然誤差(ばらつき)の測定長による変化<br />

4.2 測定長による誤差の増加<br />

我々は,粒子加速器のアライメント評価のため,測定長 l=100 m<br />

~10 km 程度の大型対象物の形状測定の実現を目指している.こ<br />

の場合,測定長 l は固定され,その他のパラメータを調整すること<br />

で,目標精度が実現可能であるかが検討される.誤差見積り式<br />

(1),(4),(6)に着目すると,2 点法に基づく形状測定法では,導出形状<br />

への誤差伝播が測定長 l の1/2 乗に比例するのに対して,3 点法に<br />

基づく形状測定法とスティッチングでは,測定長 l が大きくなる<br />

につれ,測定長の 3/2 乗に比例する成分が支配的になるものと予<br />

想される.<br />

図4に着目すると,3点法の測定値が見積り値よりも1桁程度大<br />

きい他は,見積り値は測定値とほぼ一致し,すべての測定法におい<br />

て,測定長に対する誤差拡大率を示すグラフの傾きは,3 点法の場<br />

- 31 -<br />

合であっても,見積り値と測定値の間で一致している.これらから,<br />

実際の測定においても,導出形状への誤差伝播は,2 点法に基づく<br />

形状測定法では測定長 l の1/2 乗に比例し,3 点法に基づく形状測<br />

定法,および,スティッチングでは,測定長lが大きな領域において,<br />

測定長 l の3/2 乗に比例するものと考えられる.<br />

これらの関係を,(2)式で示される三角測量法における誤差拡大<br />

式とともに図 5 に示す.ここでは,l=100 m の場合に測定誤差 100<br />

m (2)が得られると仮定して描いているが,実際には,選定した<br />

測定パラメータにより,これらの関係を示すグラフが全体的に上<br />

下する.<br />

測定値ばらつき(標準偏差×2) 2σ[um]<br />

100,000<br />

10,000<br />

1,000<br />

100<br />

10<br />

WPS, HLS, Laser<br />

2-point<br />

triangular<br />

3-point, stitching<br />

1<br />

1 10 100 1,000 10,000<br />

測定長 [m]<br />

図5.測定長による導出形状の偶然誤差(ばらつき)の変化<br />

4.3 加速器アライメントへの適用可能性<br />

現在,加速器の初期アライメントに用いられる,WPS, HLS,レー<br />

ザなどの直線基準からの偏差を用いて評価する方法では,多点法<br />

やその他の方法と異なり,測定長に関わらず,誤差は一定となり,<br />

誤差蓄積や誤差拡大の影響を考慮する必要はない.しかし,測定基<br />

準に起因する系統誤差の影響を受け,定義可能な測定基準の大き<br />

さにより,その測定範囲が制限される.<br />

一方,現在同様に加速器の初期アライメントに広く用いられる,<br />

測量ネットワークを用いる方法ではこれらの問題は無いが,測定<br />

長の増加に対し,測定データの重ね合わせに起因する誤差蓄積に<br />

よる誤差の拡大が問題となる.測定長 l の増加に対する誤差拡大<br />

の割合は,3 点法と等しく 3/2 乗に比例するものと考えられるが,<br />

もととなる個々の測量が三角測量に基づくものである場合,測定<br />

長 l に比例する誤差拡大成分により,さらに急峻な誤差拡大が発<br />

生することが危惧される.<br />

それに対して,3 点法では,測定長 l に対する誤差拡大に関して,<br />

大きな改善は見られない.しかし,走査型の測定であることから,<br />

自動測定への親和性が高く,加速器アライメントの省力化やリア<br />

ルタイム化に寄与するものと期待される.<br />

一方,2 点法では,その誤差拡大が測定長 l の1/2 乗に比例するこ<br />

とから,測量ネットワークを用いる方法と比較して,測定長に対す<br />

る誤差拡大において大きな改善が期待される.さらに,前述の 3 点<br />

法と同様に走査型の測定方法であることから,自動測定への親和<br />

性が高いものと考えられる.ただし,走査時の姿勢変化の影響を除<br />

去することができないために,何らかの方位基準を必要とする.鉛<br />

直面内の測定では重力方向を基準とすることができ,さらに,水平<br />

面の曲率が問題となる場合は,補正が可能である.その一方で,こ<br />

のようなことのできない水平面内の測定では,高性能なジャイロ<br />

などを方位基準とする方法が考えられる.


5. 結 言<br />

2点法と3点法の多点法に基づく形状測定法の加速器アライメ<br />

ントへの適用可能性を見積るため,誤差伝播則に基づき偶然誤差<br />

の蓄積を見積り,実験値との比較により見積り値を検証した.さら<br />

に,現状における加速器アライメントに用いられる直線基準を用<br />

いる方法と測量ネットワークを用いる方法について,測定長に対<br />

する誤差蓄積の様子を見積り,予測した.<br />

その結果,測量ネットワークを用いる方法は,3 点法と同様に,測<br />

定長 l の3/2 乗に比例して誤差蓄積量が増加すると考えられるこ<br />

と,2 点法での誤差蓄積量は測定長 l の1/2 乗に比例し,前述の 2 つ<br />

の方法と比較して,誤差蓄積量の増加が抑えられることが示され<br />

た.<br />

実際の測定では,測定基準の誤差,さらに,測定器のオフセット<br />

や非線形性などに起因する系統的な誤差要因が存在し,今回の検<br />

討ではこれらの影響は考慮されていない.今後,より高精度に誤差<br />

を見積もるにあたり, これらの系統的な誤差要因の評価が課題<br />

となる.<br />

謝 辞<br />

本研究は科研費(22560130), および,<strong>KEK</strong> 共同開発研究<br />

(2010-APL-03, 2011-APL-03)の助成を受けたものである.<br />

- 32 -<br />

文 献<br />

1). International Workshops on Accelerator Alignment (IWAA),<br />

http://www-conf.slac.stanford.edu/iwaa/default.htm.<br />

2). Y. Ogawa, et al.,” Improvement of the alignment system for the <strong>KEK</strong><br />

2.5-GeV electron linac,” Pac 95.<br />

3). M. Ikegami, et al., “Development of a laser-based alignment system<br />

for the J-parc linac,” IWAA2002.<br />

4). C. Schwalm, et.al. “Straight line reference system,” IWAA2010.<br />

5). M. Jones, et al., “Latest results from the CLIC geodetic studies,”<br />

IWAA2010.<br />

6). A. Herty, et al., “Intercomparison tests with HLS and WPS,”<br />

IWAA2010.<br />

7). D. Missiaen, et al., “The alignment of the LHC during the shut-down<br />

2008-2009,” IWAA2010.<br />

8). H.M.Durond, et al., “CLIC active pre-alignment system: proposal for<br />

CDR and program for TDR,” IWAA2010.<br />

9). T. Touze, et al., “Feasibility of the CLIC metrological reference<br />

network,” IWAA2010.<br />

10). T. Kume, K. Enami, Y. Higashi, and K. Ueno, “Error estimation for<br />

the stitched profile in straightness measurement,” euspen 2011, p2.45,<br />

Como, Italy, May 25, (2011).<br />

11). T. Kume, E. Okuyama, M. Satoh, T. Suwada, K. Furukawa,<br />

“Straightness alignment of linac by detecting slope angle, “ IPAC10,<br />

WEPEB055, Kyoto, May 25, (2010).<br />

12). 久米, 江並, 東, 上野, ”3 点法を用いた真直度測定における<br />

ゼロ点ずれの除去,” 精密工学会誌, 75, 5, pp. 657-662 (2009).


Grinding machines that employ a high high-speed high speed rec reciprocating iprocating worktable or wheel head are known as high-speed high speed<br />

reciprocation grinding. The high high-speed high speed reciprocation grinding is developed to achieve high high-efficiency<br />

efficiency grinding.<br />

Curr Currently, ently, ently, the the demands demands for for smooth smooth surface surface are are increasing. increasing. In In this this study, study, relationships relationships between between the the roughness roughness of<br />

of<br />

high-speed<br />

speed reciprocation reciprocation ground ground surface surface and and grinding grinding conditions conditions are are investigated. investigated. As As a<br />

a result, it is found that<br />

the surface ground by high high-speed high speed rec reciprocation iprocation grinding becomes becomes rough rough when when the the grinding grinding efficiency efficiency is is low.<br />

low.<br />

Therefore, the grinding condition conditions<br />

need to be optimized in finish grinding pr process ocess.<br />

Key Words Words: High-speed speed reciprocation reciprocation grinding, grinding, Surface Surface roughness,<br />

roughness, Statistical Statistical grinding grinding theory, theory, Grinding Grinding condition<br />

condition<br />

現在 仕上げ研削は,トラバース送り量と工作物送り<br />

仕上げ研削は,トラバース送り量と工作物送り<br />

速度を小さく設定し,単位時間当たりに仕上げられる<br />

速度を小さく設定し,単位時間当たりに仕上げられる<br />

研削面の面積が小さい状態でなされている.その結果,<br />

研削面の面積が小さい状態でなされている.その結果,<br />

研削工程に要する時間が長くなっている.本研究では<br />

研削工程に要する時間が長くなっている.本研究では<br />

ハイレシプロ研削法を用いることにより,仕上げ研削<br />

ハイレシプロ研削法を用いることにより,仕上げ研削<br />

面を生成の高速化を試みる.ハイレシプロ研削とは工<br />

面を生成の高速化を試みる.ハイレシプロ研削とは工<br />

作物を高速反転運動させて研削を行う高能率研削の一<br />

作物を高速反転運動させて研削を行う高能率研削の一<br />

種である.ハイレシプロ研削盤を用いてトラバース研<br />

種である.ハイレシプロ研削盤を用いてトラバース研<br />

削を行う場合,工作物が 1 回送られるときに砥石に与<br />

えられるピックフィードは小さい.したがって研削点<br />

えられるピックフィードは小さい.したがって研削点<br />

の大部分はスパークアウトの状態となり<br />

の大部分はスパークアウトの状態となり,良好な研削<br />

の大部分はスパークアウトの状態となり ,良好な研削<br />

面が得られることが期待される.またトラバース速度<br />

面が得られることが期待される.またトラバース速度<br />

を上げた場合も,ハイレシプロ研削条件下ではピック<br />

を上げた場合も,ハイレシプロ研削条件下ではピック<br />

フィードは十分に小さな値に抑えることが可能である.<br />

フィードは十分に小さな値に抑えることが可能である.<br />

したがってトラバース速度が速い,高能率な仕上げ研<br />

したがってトラバース速度が速い,高能率な仕上げ研<br />

削が可能になると期待される.<br />

本報では研削面の創成において,高能率化が研削面<br />

本報では研削面の創成において,高能率化が研削面<br />

粗さに及ぼす影響に関して理論的な検討を行う.また<br />

粗さに及ぼす影響に関して理論的な検討を行う.また<br />

高能率条件下における研削条件の最適化に関して統計<br />

高能率条件下における研削条件の最適化に関して統計<br />

的研削理論を用いて検討する.<br />

2.統計的研削理論<br />

平面研削における砥石と工作物の相対関係を<br />

平面研削における砥石と工作物の相対関係を図 平面研削における砥石と工作物の相対関係を 1 に<br />

示す.ここで O は砥石の回転軸,D は砥石の回転軸, は砥石直径,<br />

は砥石直径,ΔΔ<br />

は<br />

砥石半径切込み量,<br />

砥石半径切込み量,AX は工作物の理想的な仕上がり面<br />

は工作物の理想的な仕上がり面<br />

である.研削方向に垂直な工作物断面を任意に定め,<br />

である.研削方向に垂直な工作物断面を任意に定め,<br />

これを基準断面とする.つぎに,この基準断面が OA の<br />

位置にきた瞬間をとらえ,砥石の円周方向に角度<br />

位置にきた瞬間をとらえ,砥石の円周方向に角度(半<br />

位置にきた瞬間をとらえ,砥石の円周方向に角度 (半<br />

時計方向を正),砥石の最外周面から δ の位置にある砥<br />

粒切れ刃の座標を<br />

粒切れ刃の座標を(,δ) )と表す.切れ刃<br />

と表す.切れ刃(,δ)はある時 はある時<br />

ハイレシプロ研削に関する研究<br />

吉原信人,袰屋恭平,西川尚宏,水野雅裕,井山俊郎<br />

Roughness of high high-speed speed speed reciprocation reciprocation profile profile ground ground surface<br />

surface<br />

Nobuhito YOSHIHARA, Kyohei HOROYA, Naohiro NISHIKAWA,<br />

Masahiro MIZUNO and Toshirou IYAMA<br />

( (Iwate Iwate University University)<br />

1.緒言<br />

(岩手大学) )<br />

図 1<br />

- 33 -<br />

理論解析モデル 図 2 等高切削曲線<br />

間経過後基準断面を切削する.そのときの切削高さ 間経過後基準断面を切削する.そのときの切削高さ H<br />

は次式のように求められる 1) .<br />

D v 2<br />

H <br />

4 V<br />

<br />

ここで V は砥石周速,<br />

は砥石周速,v はテーブル送り速度である.<br />

H を一定としたとき,<br />

を一定としたとき,(,δ)が描く曲線を,高さ<br />

が描く曲線を,高さ H の等<br />

高切削曲線と名付ける.<br />

高切削曲線と名付ける.図 2 の曲線 CBD が等高切削曲<br />

線である.<br />

2<br />

砥粒切れ刃の形状を,砥石半径方向に一致した軸を<br />

砥粒切れ刃の形状を,砥石半径方向に一致した軸を<br />

持つ先端角 2の円すい形状であるとする.この場合,<br />

の円すい形状であるとする.この場合,<br />

円すいの母面においても切削が行われる.したがって<br />

円すいの母面においても切削が行われる.したがって<br />

等高切削曲線 CBD を頂とする 2 つの面 CBDE CBDE,CBDF<br />

上に存在する砥粒も,基準断面を高さ 上に存在する砥粒も,基準断面を高さ H で切削する.<br />

この 2 つの面 CBDE CBDE,CBDF および砥石外周面に囲まれ<br />

る立体を W とする.この立体 とする.この立体 W の体積が大きいほど,<br />

その内部に砥粒が存在する可能性が高くなる.この場<br />

その内部に砥粒が存在する可能性が高くなる.この場<br />

合,最大高さ粗さが<br />

,最大高さ粗さが H よりも小さくなる可能性が高い.<br />

いま,最大高さ粗さを Hm とし,それに対応する立体の<br />

体積を Wm とすると,<br />

とすると,Wm はその内部に切れ刃が存在し<br />

ないようにとりうる立体の上限となる.この体積 ないようにとりうる立体の上限となる.この体積 Wm は<br />

幾何学的に求めることができ,D,H 幾何学的に求めることができ, m,,VV,v<br />

の関数<br />

として与えられる.<br />

(1)


また砥粒切れ刃 1 個が占める体積を W o とすると,W o<br />

と立体の体積 W m の間には次式に示す関係が知られて<br />

いる 2) .<br />

m<br />

D Hm,<br />

, V,<br />

v<br />

nWo<br />

W , <br />

(2)<br />

同式中の n はランダム係数と呼ばれる係数である.ランダ<br />

ム係数は砥石の種類によらず,平均 3.3 であることがわか<br />

っている 2) .<br />

3. 統計的研削理論のハイレシプロ研削への応用<br />

ハイレシプロ研削による成形研削を考えるとき,トラバ<br />

ース研削モデルを考慮する必要がある.トラバース研削の<br />

モデルを図 3 に示す.砥石幅 b の平砥石が,ピックフィー<br />

ド a で送られているモデルを考える.このとき図 2 に示し<br />

た立体は b/a 個存在していることになるため式(2)は次式<br />

のように表わされる 3) .<br />

m<br />

D Hm,<br />

, V,<br />

vb<br />

a nWo<br />

W , <br />

(3)<br />

式(3)の中で不明な値は最大高さ粗さ H m のみである.他<br />

は研削条件によって決まる値,あるいは定数である.<br />

したがって立体の体積 W m を幾何学的に求めることに<br />

より,トラバース研削面の最大高さ粗さ H m を計算する<br />

ことができる.またハイレシプロ研削において研削条<br />

件として用いられるパラメータはクロス送り速度 v c,テ<br />

ーブルのストローク L,テーブル往復運動の周波数 f で<br />

ある.ピックフィード a と工作物送り速度 v は次式で与<br />

えられる.<br />

a vc<br />

2 f<br />

v 2Lf<br />

まず研削条件と研削面粗さの関係を解析する.解析<br />

条件を表 1 に示す.本研究では研削能率を単位時間当<br />

たりに得られる研削面の面積と定義する.研削能率 Q<br />

は次式で与えられる.<br />

図 3 トラバース研削モデル<br />

表 1 解析条件<br />

砥石径 D mm 125<br />

砥石周速 V m/s 30<br />

ストローク L mm 20<br />

テーブル往復運動の周波数 f min -1<br />

10 ~ 1000<br />

クロス送り速度 vc mm/min 0.1 ~ 1<br />

ランダム係数 n 3.3<br />

砥粒 1 個が占める体積 W0 mm 3<br />

0.0005<br />

砥粒半頂角 ° 80<br />

(4)<br />

(5)<br />

- 34 -<br />

最大高さ粗さ mm<br />

0.08<br />

0.06<br />

0.04<br />

0.02<br />

最大高さ粗さ μm<br />

0.1<br />

0<br />

図 4 テーブル往復周波数と最大高さ粗さの関係<br />

Q av Lv<br />

c<br />

各研削能率におけるテーブル往復運動の周波数 f と最大<br />

高さ粗さの関係を図 4 に示す.同図より,f が大きくなる<br />

ほど最大高さ粗さが大きくなり,最大高さ粗さが最小に<br />

なる最適な研削条件が存在することがわかる.ただし研<br />

削能率が高くなるほど最大高さ粗さの最小値は大きくな<br />

る.また最大高さ粗さが最小値をとる研削条件の範囲が,<br />

研削能率の加工とともに狭くなっている.したがって研<br />

削条件の最適化が困難になると考えられる.<br />

実際の実験結果を図 5 に示す.同図より研削能率が<br />

高いほど最大高さ粗さが大きくなること,テーブル往<br />

復周波数が高いほど最大高さ粗さが大きくなる傾向が<br />

確認される.<br />

0 200 400 600 800 1000<br />

0.4<br />

0.35<br />

0.3<br />

0.25<br />

20mm 2 /min<br />

10 mm 2 /min<br />

5 mm 2 /min<br />

2 mm 2 /min<br />

テーブル往復周波数 min -1<br />

0.2<br />

0.15<br />

0.1<br />

20mm2/min<br />

10mm2/min<br />

5mm2/min<br />

0.05<br />

0<br />

2mm2/min<br />

0 100 200 300 400 500 600<br />

テーブル往復周波数 min -1<br />

図 5 実験結果<br />

4. 結言<br />

ハイレシプロ研削による研削面粗さの理論解析を可<br />

能にした.以下に得られた結論を示す.<br />

・統計的研削理論を成形研削面の最大高さ粗さの理論<br />

解析に応用することが可能である.<br />

・最大高さ粗さの観点では,粗研削はハイレシプロ研<br />

(6)<br />

削,仕上げ研削は通常の研削が適している.<br />

・研削能率が低いほど,最大高さ粗さは良好になるが,<br />

研削条件の最適化は困難になる.<br />

参考文献<br />

1) 小野浩二:研削仕上, 槇書店, (1962)71.<br />

2) S. Matsui and K. Syoji:On the Maximum Height Roughness of<br />

Ground Surface, Technology Reports, Tohoku Univ., 38,2(1973)615.<br />

3) 吉原信人,閻 紀旺,厨川常元:砥粒切削方向が研削面粗さ<br />

に及ぼす影響について-非軸対称非球面研削に関する研究-,<br />

76,7(2010)781-785.


DEVELOPMENT OF NON-CONTACT 3D MEASUREMENT SYSTEM FOR<br />

HALF CELLS<br />

Kazuhiro Enami 1,A) , Tatsuya Kume A) , Yasuo Higashi A) , Kenji Ueno A) , Masashi Yamanaka A)<br />

A) High Energy Accelerator Research Organization<br />

1-1, Oho, Tsukuba, Ibaraki, 305-0801<br />

Abstract<br />

We strive to develop a 3D coordinate measuring machine, which can measure the shape of parts of accelerator cavity<br />

with without contact and rapidly. Currently, the ILC (International Linear Collider) project is progressing through<br />

international collaboration. The major goal of ILC is to produce and investigate Higgs bosons. ILC consists of two<br />

linear accelerators facing each other, and will hurl some 10 billion electrons and positrons toward each other at nearly<br />

the speed of light. The cavity is an important component to accelerate particles to near light speed. A cavity’s inner 3D<br />

shape influences the accelerating performance. Therefore, it is important to measure the shape of the parts of a cavity.<br />

We are developing a highly accurate and non-contact shape measuring machine using triangulation method.<br />

1 E-mail: gakkai@kasokuki.com<br />

ハーフセルの非接触形状測定<br />

1.緒言<br />

現在,アジア―アメリカ―ヨーロッパの世界的協<br />

力で ILC(International Linear Collider)計画が進め<br />

られている.これは,理論的に存在が予測されてい<br />

るヒッグス粒子を検出し,宇宙や重力の起源を解明<br />

する計画である.この計画では,300GeV 以上のエ<br />

ネルギを持つ電子―陽電子衝突実験が必要となる.<br />

そのため,世界に一台全長 50km 程度の線形加速器<br />

を建造する予定である.<br />

従来の衝突実験には円形加速器が用いられていた.<br />

これは環状の加速管内を粒子を周回させて加速する<br />

方式である.しかし,粒子は円運動時にシンクロト<br />

ロン放射をおこしてエネルギを失ってしまう.この<br />

ため,300GeV といった高エネルギを与えることが<br />

できない.このため,直線加速器を使用する.<br />

円形形加速器では周回させることで加速に必要な<br />

距離を稼ぐことが可能だが,直線加速器では射出点<br />

から衝突点までの直線区間内で最終速度まで加速す<br />

る必要がある.そのため,従来の加速器より高い加<br />

速勾配(単位距離あたりのエネルギ増加量)が必要<br />

となる.この高加速勾配をもつ加速管の開発を現在<br />

おこなっている.<br />

電子・陽電子を加速するためには Fig. 1 に示す形<br />

状の加速空洞を使用する.加速管の加速勾配など性<br />

能は,空洞内部の形状によって左右され,全体形状<br />

の変化や,クラック・突起部の発生は加速勾配の悪<br />

化を招く.<br />

現在開発中の加速空洞の作製方法を以下に示す.<br />

まず,底の抜けたお椀状のハーフセルをニオブ板か<br />

らプレス成形する(Fig.2).ついで,アイリス部(お<br />

椀の底)同士を電子ビーム溶接してダンベル形状を<br />

作成する,最後にダンベルの赤道部同士を溶接し,<br />

___________________________________________<br />

#<br />

enami@post.kek.jp<br />

- 35 -<br />

両端のエンドグループ等を溶接して加速空洞とする.<br />

基本部品となるハーフセルを設計値通りの形状を均<br />

一にプレス成形することは困難である.これは,材<br />

料コストのためプレス時の”みみ”を大きく取ること<br />

は困難なことや,その物性や異方性に起因する.ま<br />

た,ダンベル等の溶接によりセルには歪みが発生す<br />

る.こうした状況から,大量生産においてはプレス<br />

時等の品質管理が重要になる.この時,CMM で全<br />

数測定することは以下の点で現実的ではない.<br />

• 接触による傷がつく<br />

• 測定用セッティングの手間がかかる<br />

• 測定時間がかかる<br />

• ジグによる変形が考えられる.<br />

Figure 1 Accelerating Cavity<br />

そこで,本研究では,ハーフセルの非接触三次元<br />

形状測定装置の開発を目指す.また,ダンベル作製<br />

時の溶接における歪みの測定も目標とする.


Figure 2 Halfcell and Dumbel<br />

Figure 3 Deformation in process<br />

2. 測定機の仕様と測定原理の決定<br />

目標とする測定機に求める条件を以下に示す<br />

• 非接触で測定する.<br />

• 測定が容易であり,専門の人間を必要としない.<br />

• 測定時間が短い.<br />

• 測定用セッティングが容易である.<br />

• ジグによる固定の必要がない.<br />

そこで,ラインレーザを用いた三角法による形状測<br />

定を採用し,現在別途開発中の内面形状測定装置の<br />

知見を応用することとした.<br />

3. 測定機の構成<br />

Fig.3 に開発した測定装置を示す.測定ヘッドは<br />

レーザユニットとカメラからなり,ラインレーザに<br />

そった 2 次元形状測定が可能である.ラインレーザ<br />

として,360°方向に照射可能なリングレーザを採用<br />

した.これは円錐ミラーを用いてリング状にレーザ<br />

を照射するものである.これにより,回転楕円体に<br />

近い測定面への均一な光量での照射が可能になる.<br />

また,測定ヘッド回転軸上にレーザを当てることが<br />

できるため,レーザのアライメントがしやすい利点<br />

もある.<br />

形状測定には乱反射成分を利用してすることとす<br />

る.測定される表面は,加速空洞製造の工程として,<br />

化学研磨を行うため,粗面から準鏡面と幅がある.<br />

化学研磨後も,弱くはなるが乱反射成分は帰ってく<br />

るため,これを用いることとした.<br />

この測定ヘッドを回転させることで 3 次元測定を<br />

おこなう.現状ではラインレーザの片側だけの測定<br />

のため,1 回の測定にほぼ 1 回転が必要になるが,<br />

最終的にはカメラを増設して両側を同時測定出来る<br />

- 36 -<br />

ようにする.これにより半回転で 1 ハーフセル測定<br />

出来るようになる.測定ヘッド下部はセルの上端と<br />

干渉しない構成になっているため,横から滑らせて<br />

セット可能である.これにより,プレスしたハーフ<br />

セルをその場で容易に検査することが可能となる.<br />

Figure 4 Measuring System<br />

4.測定実験<br />

本測定機の実験手順を以下に示す.まず,ハーフ<br />

セルを設置し,測定ヘッドを回転させながら単位角<br />

度毎に画像を取得する.このとき,セルをジグ等で<br />

がっちり固定する必要はない.<br />

カメラで取得した原画像から,中心線検出をおこ<br />

ない,次いでレーザ切断面上の 2 次元座標に変換す<br />

る.これを各角度においておこなうことで 3 次元形<br />

状を測定する.本装置でハーフセルの測定実験を<br />

行った.測定時の取得映像を Fig.5,構成した 2 次<br />

元断面を Fig.6 に示す.2 次元断面データの色は Z<br />

座標(高さ)を示している.また,Fig.7 に 1 断面<br />

の測定結果とその設計形状からの誤差を示す. X<br />

方向,Z 方向及び法線方向の誤差を求めることで,<br />

プレスの改良や品質管理,溶接ひずみの監視を行う<br />

ことが可能である.Fig.8 に 3 次元形状データを示<br />

す.これらから,本装置を用いてハーフセル形状が<br />

測定できていることを示した.<br />

Figure 5 Line Laser Image


Figure 6 2D Profile<br />

Figure 7 Comparison of Measured shape and design<br />

Figure 8 3D Shape of a Half Cell<br />

5. 誤差の原因と対策<br />

測定精度の評価のため,CMM での測定結果との<br />

比較をおこなった.Fig.9 は設計値からの法線方向<br />

のずれの測定結果を CMM 測定と比較したものであ<br />

る.各々90°毎に 4 プロファイル測定している.<br />

測定結果は,ほとんどの領域で CMM 測定結果と<br />

の誤差は 0.1mm に収まっている.しかし,X 面の<br />

測定では,一部のデータに 0.4mm 程度の誤差が生<br />

じている.これは,レーザと測定面,カメラの位置<br />

関係の変化のため,測定画像のレーザ輝度変化が大<br />

きく変わってしまい,カメラ上のレーザラインの輝<br />

度が強すぎてしまうためサチュレーションをおこし,<br />

中心検出がうまく行っていないことに起因する.そ<br />

こで,サチュレーションに対応した中心検出アルゴ<br />

リズムを開発し,形状算出をやり直した.結果を<br />

Fig.10 に示す.CMM 測定(紫線)とレーザ測定<br />

(水色線)で結果がずれている箇所があるが,改善<br />

後のレーザ測定データ(赤の十字)では,CMM の<br />

測定結果と一致しており, CMM との誤差は<br />

0.1mm 以下に抑えることができた.<br />

- 37 -<br />

0<br />

-58 -48 -38 -28 -18 -8 2<br />

-0.2<br />

1<br />

0.8<br />

0.6<br />

0.4<br />

0.2<br />

-0.4<br />

-0.6<br />

-0.8<br />

Figure 9 Measurement Result<br />

Figure 10 Improved Data<br />

-1<br />

Laser +X<br />

Laser +Y<br />

Laser -X<br />

Laser -Y<br />

CMM +X<br />

CMM +Y<br />

CMM -X<br />

CMM -Y<br />

6.測定機の改良<br />

もともとハーフセル測定を目的として本研究は発<br />

生しているが,現在はダンベル測定までも目的とし<br />

ている.ダンベルは,溶接時に CP 処理をするため<br />

により鏡面に近くなり,測定条件が悪化している.<br />

このため,上記のようなソフトウェアによる対策で<br />

はマージンがないため測定の困難さが増していくこ<br />

とになる.そこで,装置のハードウェア改良を行う<br />

こととした.カメラは画素数を向上させ,測定プロ<br />

グラムから動的にゲイン・露出を変更させることの<br />

できる機種に変更し,レーザも青色レーザに変更し<br />

てスペックルノイズの低減,輝度の向上を果たした<br />

(Table 1).Fig.11 に改良型測定装置の概要を示す.<br />

カメラ<br />

Table 1 Improvement of components<br />

旧 新<br />

解像度 1600x1200 2592x1944<br />

カラー カラー モノクロ<br />

ゲイン調整 手動 プログラム制御<br />

レンズ<br />

評価用小型 C マウントレンズ<br />

レンズ (f 値 6mm)<br />

波長 635nm 406nm<br />

レーザ 形状 リング ライン<br />

― 設計値<br />

― CMM データ<br />

― 測定結果(改良<br />

前)


Figure 11 Measuring System (After Improvement)<br />

7.改良された測定手順<br />

測定対象上のライン輝度に応じて複数の画像を取<br />

得する.ここでは,明画像と暗画像の 2 枚を例にと<br />

る.まず,明画像から領域を抽出する(Fig.12).こ<br />

れは,暗画像ではラインが消える部分があるためで<br />

ある.次に,明画像と暗画像それぞれで中心検出を<br />

おこなう(Fig.13,Fig.14).<br />

最後に,両データから,正しく検出できているデー<br />

タのみ抽出して貼り合わせる.<br />

Figure A Dark Image and Bright Image<br />

Figure 12 Region extraction from the Bright Image<br />

Figure 13 Extracted Center Line(from Dark Image)<br />

Blue:Center Line Red:Profiling Direction<br />

- 38 -<br />

Figure 14 Extracted Center Line(from Bright<br />

Image)<br />

Blue:Center Line Red:Profiling Direction<br />

8.測定実験<br />

制作途中であるが,新測定機の測定実験をおこ<br />

なった.Fig.15 に Cu Tesla-like cavity の測定結果を<br />

示す.また,Cu-Nb clad Cavity の測定結果を Fig.16<br />

に示す.キャビティの 3D 形状が測定できている.<br />

底面のデータの存在しない部分は,キャビティを載<br />

せた V ブロックの V 字部分である.<br />

70<br />

60<br />

50<br />

40<br />

30<br />

20<br />

10<br />

0<br />

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110<br />

Figure 15 2D Profile<br />

50mm<br />

0mm<br />

Figure 16 3D Measurement Data<br />

6.まとめ<br />

現在,装置改良後,断面形状まで算出することが


できた.機構キャリブレーション部分を完成させ,<br />

3 次元形状を算出する.精度評価のため,球面アー<br />

ティファクトを作製済である.このアーr 非ファク<br />

トを用いて精度評価をおこなう.<br />

6. 結言<br />

加速空洞の開発及び製作におけるハーフセル測定<br />

の意義について説明し,その要求について述べた.<br />

この要求に従い,ハーフセル形状測定装置を考案・<br />

開発したものを現在性能向上のために改良中であり,<br />

最終的な測定実現を目指す.<br />

- 39 -


Super<strong>KEK</strong>B RF<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

Super<strong>KEK</strong>B() LINAC()<br />

- 40 -


<strong>KEK</strong>B <br />

design<br />

design<br />

since Feb. 2007<br />

10 34 cm -2 s -1<br />

=10 /nb/s<br />

600 /pb/day<br />

e Next-generation<br />

B-factories<br />

+ e- <br />

- 41 -


(LER)<br />

<br />

<br />

<br />

TiN<br />

z<br />

<br />

<br />

<br />

<strong>KEK</strong>B (Crab )<br />

*<br />

x<br />

6-7 mm<br />

100-150 m<br />

overlap region = bunch length<br />

Hourglass requirement<br />

*<br />

y z<br />

<br />

e- 7 GeV 2.6 A<br />

<br />

RF<br />

~ 6 mm<br />

e+ 4 GeV 3.6 A<br />

<br />

Belle II<br />

New IR<br />

RF<br />

<br />

Colliding bunches<br />

<br />

<br />

Super<strong>KEK</strong>B <br />

*<br />

z 5-6 mm x 10-12 m<br />

d *<br />

x<br />

<br />

overlap region


<strong>KEK</strong>B<br />

Design<br />

<strong>KEK</strong>BAchieved<br />

:withcrab<br />

Super<strong>KEK</strong>B<br />

NanoBeam<br />

Energy(GeV)(LER/HER) 3.5/8.0 3.5/8.0 4.0/7.0<br />

y * (mm) 10/10 5.9/5.9 0.27/0.30<br />

x * (mm) 330/330 1200/1200 32/25<br />

x (nm) 18/18 18/24 3.2/5.3<br />

y x (%) 1 0.85/0.64 0.27/0.24<br />

y (m) 1.9 0.94 0.048/0.062<br />

y 0.052 0.129/0.090 0.09/0.081<br />

z (mm) 4 6 7 6/5<br />

I beam (A) 2.6/1.1 1.64/1.19 3.6/2.6<br />

N bunches 5000 1584 2500<br />

Luminosity(10 34 cm 2 s 1 ) 1 2.11 80<br />

Y. Ohnishi et al.<br />

• High charge positron source and low-emittance RF electron gun are designed to<br />

improve the rate and quality of injected beams to deliver the required beams with<br />

increased injection efficiencies.<br />

e - :<br />

e + :<br />

(e+ / e-) <strong>KEK</strong>B obtained Super<strong>KEK</strong>B required<br />

Beam energy 3.5 GeV / 8.0 GeV 4.0 GeV / 7.0 GeV<br />

Bunch charge<br />

e- e+ / e-<br />

10 1.0 nC / 1.0 nC<br />

e- e+ / e-<br />

10 4.0 nC / 5.0 nC<br />

Beam emittance()[1 2100 m / 300 m 6 m / 20 m<br />

High Charge<br />

Low emittance Photo RF gun<br />

High Charge Adiabatic matching dev.<br />

+ Large aperture accel.<br />

Low emittance Damping Ring<br />

Emittance preservation<br />

Alignment, dispersion, wake, CSR<br />

Simultaneous injection<br />

Pulse-to-pulse optics Pulse magnet<br />

- 43 -<br />

HE<br />

R<br />

7Ge<br />

V<br />

LER<br />

4Ge<br />

V<br />

e<br />

- e<br />

+<br />

J-linac<br />

SuperK<br />

EKB<br />

AR<br />

36.5<br />

GeV<br />

PF<br />

2.5~3<br />

GeV


e –<br />

1.7 GeV<br />

@J-arc<br />

e +<br />

B<br />

A<br />

C 1 2 3 4 5<br />

B<br />

A1 gun 10nC e –<br />

A<br />

Photocat<br />

hode RF<br />

gun<br />

DR<br />

1.1 GeV@DR<br />

C Target @1-4 1 2 3 4 5<br />

3.5 GeV<br />

10nC x 2<br />

RF gun<br />

target bypass<br />

bump orbit<br />

A1 gun<br />

Capture and<br />

acceleration<br />

e- bypass line for<br />

DC separation bend<br />

BCS<br />

ECS<br />

<br />

- 44 -<br />

Nominal acceleration<br />

S-band 160MeV / RF unit<br />

+ C-band 8m at 4-4<br />

For both e+ and e-<br />

Emittance preservation<br />

through whole linac<br />

C-band<br />

9<br />

for PF<br />

2.5 GeV<br />

0.1nC x 1<br />

for HER<br />

7.0 GeV<br />

5nC x 2<br />

for AR<br />

e – or e + ?<br />

for LER<br />

4.0 GeV<br />

4nC x 2<br />

ECS<br />

T.Higo


<strong>KEK</strong>B <br />

60cm<br />

f 500MHz<br />

kW<br />

MV/m<br />

LINAC <br />

10cm<br />

f 3 GHz<br />

10MWs<br />

10MV/m<br />

- 45 -


• :<br />

– /<br />

– <br />

• :<br />

– <br />

– <br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

• : <br />

• <br />

– HFSS / MW-STUDIO <br />

• <br />

–3 : Inventor / SolidWorks / CATIA <br />

–2 : <br />

• <br />

– CAD/CAM 3<br />

– <br />

• / <br />

• : / or <br />

• : / HIP / / TIG / FSW <br />

• / : / <br />

- 46 -


DCAD<br />

S<br />

<br />

- 47 -


•RF<br />

Super <strong>KEK</strong>B <br />

LINAC <br />

• , <br />

• <br />

•L(1300MHz) <br />

• X<br />

- 48 -


RF : <br />

<br />

<br />

- 49 -


<br />

RF<br />

- 50 -


3<br />

• <br />

– <br />

– / <br />

– <br />

– (STEP/IGES )<br />

– <br />

• <br />

– <br />

–3/<br />

• <br />

– CAD/CAM <br />

– <br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

Cu,Mg…,LaB 6 etc…<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

LaB 6<br />

<br />

- 51 -


Ir 5 Ce<br />

Mo<br />

2<br />

LaB6 : <br />

<br />

<br />

<br />

0.25mm<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

Ir 5 Ce<br />

<br />

P255<br />

<br />

<br />

•<br />

Ir5Ce •<br />

0.5mmLaB6 •<br />

3<br />

LaB 6 <br />

LaB 6 <br />

<br />

LaB 6 <br />

- 52 -


•FLC<br />

Beam Transport<br />

• :<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

Bz field was measured in air.<br />

Bz at target = 45% of Bz max<br />

due to 5.5mm separation<br />

Slope is steeper than AMD<br />

requirement<br />

Summary of yield and loss<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

/ <br />

– <br />

– <br />

– <br />

<br />

• <br />

• <br />

- 53 -<br />

• :<br />

– <br />

– <br />


• C-band PPM Klystron<br />

HIP SUS Cu <br />

L (1300MHz )<br />

(HIP)<br />

TIG<br />

- 54 -<br />

HIP<br />

<br />

Al-SUS HIP<br />

<br />

<br />

TIG


SUS<br />

<br />

<br />

EBW<br />

(EBW)<br />

<br />

- 55 -


Nextef (X)<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

1,2,3,4<br />

<br />

/<br />

<br />

<br />

- 56 -


• <br />

• <br />

• <br />

• <br />

• CAD/CAM<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

• <br />

<br />

• <br />

- 57 -


タンパク質結晶構造解析を支援するロボットの開発<br />

平木 雅彦,山田 悠介,Leonard M. G. CHAVAS,松垣 直宏,五十嵐 教之,若槻 壮市<br />

(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 構造生物学研究センター)<br />

Automated system for protein crystallography experiments<br />

Masahiko HIRAKI, Yusuke YAMADA, Leonard M. G. CHAVAS, Naohiro MATSUGAKI, Noriyuki IGARASHI<br />

and Soichi WAKATSUKI<br />

(Structural Biology Research Center, Institute of Materials Structure Science, <strong>KEK</strong>)<br />

To achieve automated and/or remote data collection in high-throughput X-ray experiments, the Structural Biology<br />

Research Center at the Photon Factory (PF) has developed PAM (PF Automated Mounting system) for sample<br />

exchange robots, and installed this system at PF macromolecular crystallography beamlines BL-5A, BL-17A,<br />

AR-NW12A and AR-NE3A. We are upgrading the experimental systems, including the PAM for stable and<br />

efficient operation. Load distribution obtained by a force and torque sensor installed at the PAM when the tongs<br />

access the sample cassettes; the sensor records various parameters of the robots' status. Distorted load distribution<br />

is caused by inclination of the cassette, miscalculation of the center of the cassette, mis-setting of the robot<br />

parameters, and other causes. In order to assure stable operation, the robots are appropriately re-calibrated<br />

according to the load distribution information.<br />

Key Words: Protein crystallography, sample-exchange robot, automated system, calibration<br />

1.はじめに<br />

タンパク質の立体構造を原子レベルで解明するため<br />

の強力なツールとして,放射光 X 線を用いた結晶構造<br />

解析がある.高エネルギー加速器研究機構物質構造科<br />

学研究所構造生物学研究センターでは,フォトンファ<br />

クトリー(PF)の2つの放射光リング(PF および PF-AR)<br />

に 5 本のタンパク質結晶構造解析ビームラインを建設<br />

し,大学・公的研究機関・企業に供している.最近で<br />

は,遠隔地からのリモート実験,製薬企業による大規<br />

模な全自動実験に対応するために,自動化技術は欠く<br />

ことができないものとなっている.そこで我々は,試<br />

料(タンパク質結晶)を自動的に交換するためのロボ<br />

ットを開発し,ビームラインで運用を行っている.試<br />

料は液体窒素中のカセットに格納されており,ロボッ<br />

トがアクセスするためには,その位置を事前に測定し<br />

ておく必要がある.一方,ユーザー運転中は 2 週に 1<br />

回しかメンテナンスを行うことができないため,作業<br />

の省力化・効率化が必須である.<br />

2.結晶交換システム<br />

図 1 に開発したタンパク質結晶交換システム(PAM:<br />

PF Automated Mounting system)を示す 1) .4 軸産業用ロ<br />

ボットは,液体窒素デュワーから試料を取り出し,放<br />

射光 X 線を結晶に当てたときの回折像を撮影するため<br />

の装置(回折計)上の試料回転軸にマウントする.そ<br />

して回折実験終了後,次の試料と入れ替える.PAM は<br />

- 58 -<br />

スタンフォード放射光研究所で開発されたロボット 2)<br />

を元に PF のビームラインに合うように開発されたもの<br />

であるが,一度に 2 個のサンプルを持つことができる<br />

ハンドを開発し約 10 秒で試料の交換が可能である.<br />

PAM は現在,BL-1A,BL-5A,BL-17,AR-NW12A,<br />

AR-NE3A の 5 本のビームラインに設置されており,<br />

2006 年からユーザー実験に供されている.<br />

試料保管カセットは液体窒素デュワー内の台に設置<br />

されるが,液体窒素がある場合とない場合とで,部材<br />

の温度変化によりロボット座標でのカセットの位置が<br />

変化する.液体窒素を入れた状態でカセットの位置を<br />

測定するために,力トルクセンサを取り付け,3次元<br />

測定器の測定原理と同じ方法でカセットの位置を検出<br />

できるようになっている.<br />

Force and torque sensor<br />

Double tongs<br />

Liquid nitrogen Dewar<br />

Industrial 4-axis robot<br />

Diffractometer<br />

図 1 タンパク質結晶交換システム PAM


ポスター講演


無酸素銅精密切削における単結晶ダイヤモンド工具損耗<br />

-顕微 FT-IR による内部欠陥分析と欠陥が工具損耗に及ぼす影響-<br />

Diamond tool wear in precision turning of oxygen free copper disks<br />

-Micro FT-IR analysis of internal defects and effects of internal defects on diamond tool wear-<br />

金枝敏明 * ,安藤寛 * ,島田尚一 ** ,小畠一志 <br />

( * 岡山理科大学, ** 大阪電気通信大学, (株)アライドマテリアル )<br />

Toshiaki Kaneeda * , Yutaka Ando * , Shoichi Shimada ** ,and K. Obata <br />

( * Okayama University of Science, ** Osaka Electro-Communication University, Allied Material Co.Ltd. )<br />

This paper dealt with the relationship between tool wear properties and internal defects of<br />

diamond tools. FT-IR analysis were done to determine qualitative amount and kind of<br />

internal defects. The analysis suggested that N2 impurities as an internal defect affected the<br />

crater wear significantly.<br />

Key Words: diamond tools, tool wear, synthetic diamond tool, precision cutting, oxygen-free copper, FT-IR, internal defects<br />

1. 緒 言<br />

宝石として高い価値を有しているダイヤモンドは一<br />

方で,地球上に存在する物質の中で最高の硬度を持ち,<br />

優れた熱伝導性を有している.そのため,切削工具材<br />

料としても利用されている.とくに超精密加工の分野<br />

においては,単結晶ダイヤモンド工具は切れ刃稜の鋭<br />

利さに優れ 1) ,μm オーダーの微小切削が可能で,加工<br />

面の加工変質層も極めて少ないことから必須とされて<br />

いる.さらに近年では,合成ダイヤモンド単結晶工具<br />

が工業生産され,レーザーミラーや光磁気ディスク,<br />

光学レンズ金型などの超精密切削加工用工具に実用化<br />

されている.<br />

ダイヤモンドには細かく分けて Ia 型, Ib 型, IIa 型, IIb<br />

型がある 2) .Ia 型のほとんどが天然ダイヤモンドと呼ば<br />

れ,宝石用そして工業用としても重宝されてきました.<br />

さらに現在の人工ダイヤモンドの合成技術の発達によ<br />

り Ib 型, IIa 型, IIb 型のような不純物などの性質を制御<br />

したダイヤモンドが製作されるようになった.とくに<br />

Ib 型は工業用ダイヤモンドとして優れており,現在ダ<br />

イヤモンド工具材料として最も重宝されている.<br />

しかし,ダイヤモンド工具の製作技術,利用技術は<br />

経験に頼る部分が多く,学術的に不明な点も多い.中<br />

でも工具の摩耗,欠損は大きな問題で,同一条件で切<br />

削を行っても工具寿命が大幅に異なることがある 3) .こ<br />

の工具損耗や寿命がバラつく原因として,ダイヤモン<br />

ド結晶内部の不純物の存在が挙げられる.すなわち結<br />

晶内に主に窒素不純物が含まれており, その分布は不<br />

- 61 -<br />

均一である 2) .そして実際に切削に使用される部分は刃<br />

先先端部であり,この部分に存在する窒素不純物が損<br />

耗に関与すると考えられるので,刃先先端の微小部分<br />

の窒素を検出する必要がある.これらの欠陥を非破壊<br />

で検出する方法に,顕微赤外吸収分光装置(以下顕微<br />

FT-IR と略す)がある.顕微 FT-IR は微小面積の赤外スペ<br />

クトル分析が可能であり,微小面積の不純物分析を必<br />

要とする今回の実験に適している.<br />

そこで本研究では,ダイヤモンド工具の損耗や寿命<br />

がばらつく原因を明らかにするために,まず,ダイヤ<br />

モンド工具で切削実験を行い,各種ダイヤモンド工具<br />

の損耗形態を把握する.それと同時に顕微 FT-IR による<br />

内部欠陥の分析を行い,次に内部欠陥と工具損耗の関<br />

係を求め,寿命のばらつきの原因を求める.<br />

2. 実験方法<br />

被削材には加速管セル材と同一の,真空中 500℃で 2<br />

時間焼鈍した無酸素銅(Cu99.96%)を用いた.加速管セル<br />

は直線加速器で電子や陽子などの粒子を光速近くまで<br />

加速さす部品であり,超精密切削部品である.超精密<br />

切削で仕上げさせたセルは,その後端面どうしを拡散<br />

接合させる.したがってその部分が切削油剤で汚れて<br />

いると拡散接合されにくく,また接合後ブレークダウ<br />

ン 4) の可能性が出てくる.今回は被削材を加速管セル用<br />

と想定しているので,乾式切削とした.工具は合成単<br />

結晶ダイヤモンド Ib 型,IIa 型の 2 種類を使用した.<br />

表1 に各種ダイヤモンドの特性を示す.Ib 型は窒素<br />

不純物が 10-100ppm ほど含まれており 2) ,工業用工具で


最も多く使用されている.IIa 型は窒素不純物をほとん<br />

ど含まず,工具としては,ほとんど使用されてない.<br />

今回は本実験のための特注で製作したものである.す<br />

くい面は剣バイト形状で,刃先のノーズ先端は R 部を<br />

持たず極力鋭利なものにしている.研磨方向は刃先先<br />

端から刃元方向に直線状である.これらを NC 旋盤に取<br />

り付け,表 2 の切削条件で切削実験を行った.工具は<br />

切削距離に応じ定期的に取り外し,KEYENCE 社製レー<br />

ザー顕微鏡により工具刃先の摩耗状態を観察した.な<br />

お,工具寿命は,加工面平均粗さ Ra が急激に上昇した<br />

時点とした.<br />

μm<br />

3.1 FT-IR 分析<br />

表 2 精密切削条件<br />

3. 実験結果<br />

図 1 にダイヤモンド工具の FT-IR 分析範囲を示す.通<br />

常の FT-IR では,分析範囲が直径 2mm と広く,刃先先<br />

端部の不純物情報が得られにくい.そこで顕微 FT-IR を<br />

採用した.<br />

表 1 各種ダイヤモンドの特性 2)<br />

図 2 に顕微 FT-IR 分析範囲を示す.ダイヤモンド工具<br />

の摩耗領域を含む, 刃先先端部 100μm 四方の領域を顕<br />

- 62 -<br />

吸光度 A<br />

図1 FT-IR 分析範囲<br />

顕微 FT-IR 分析範囲<br />

図 2 顕微FT-IR 分析範囲<br />

P1 センタ<br />

波数 λ cm -1<br />

図 3 ダイヤモンド工具刃先の吸光度<br />

:Type Ib<br />

:Type IIa<br />

微 FT-IR により分析した.このように通常の FT-IR より<br />

かなり微小な部分の分析が可能となる.<br />

図 3 に各種単結晶ダイヤモンド工具の刃先先端部を<br />

顕微 FT-IR 分析を行った結果を示す.縦軸に吸光度,横<br />

軸に波数を示す.ダイヤモンド工具は,1400cm -1 から<br />

900cm -1 の赤外吸収スペクトルの領域に窒素不純物に関<br />

連する吸収を持つ 2) .Ib 型では 1344cm -1 と 1130cm -1 に<br />

P1 センタと呼ばれるピークが見られる 7) .これらのピ<br />

ークは共に炭素原子が単体で窒素原子に置換した構造<br />

によるものである.一方,IIa 型にはピークが見られな<br />

い.この分析結果より IIa 型にはほとんど窒素が含まれ<br />

ておらず,Ib 型には少なからず単体原子の分散形態に<br />

より不純物を含んでいるということがわかる.


3.2 クレータ摩耗<br />

無酸素銅切削におけるダイヤモンド工具の場合,ク<br />

レータ摩耗は,レドックス反応による熱化学的摩耗で<br />

あると考えられている.ダイヤモンドは 900K を超える<br />

と炭化が起きることはよく知られているが,銅のよう<br />

な金属触媒を挟むことで,ダイヤモンドが炭化に必要<br />

とするエネルギーは低下することが知られている 8) .<br />

図4 に各種ダイヤモンド工具の刃先先端部のクレー<br />

タ摩耗を示す.この画像はすくい面上からダイヤモン<br />

ド工具の刃先先端部をレーザー顕微鏡により測定し,<br />

高低差別に着色をしたものである.赤くなるほど,高<br />

度が高く,そして青いほど低くなる. IIa 型はクレー<br />

タ摩耗の領域(面積)が Ib 型に比べて極めて小さいこ<br />

とがわかる.図 5 にクレータ摩耗深さ K T の切削距離に<br />

よる推移を示す.Ib 型は IIa 型よりクレータ摩耗深さが<br />

深いという結果となった.図 6 に示すようにクレータ<br />

摩耗体積 Wc についても,Ib 型のクレータ摩耗量は IIa<br />

型より多い結果になった.さらに Ib 型はクレータ摩耗<br />

深さの初期摩耗が顕著であり,その後深さ方向の摩耗<br />

はほとんど進展しなくなる.しかし,クレータ摩耗体<br />

積はそれぞれの工具とも図 6 に示すように増加量の大<br />

小はあるが初期摩耗後も増加している.これらの結果<br />

から,深さ方向の摩耗進展はある切削距離からほとん<br />

どなくなるが,摩耗体積は連続的に増加することがわ<br />

かった.顕微 FT-IR 分析の結果と照らし合わせると窒素<br />

不純物をほとんど含まない IIa 型は Ib 型よりクレータ<br />

摩耗量が顕著に少ないことがわかる.これにより,窒<br />

素不純物の含有が少ないほど,クレータ摩耗は低減で<br />

きると考えられる.<br />

ダイヤモンドの熱伝導率は優れているが, 不純物を<br />

含むことにより低下することが知られている.クレー<br />

タ摩耗は, 既述したように銅の酸化とダイヤモンドに<br />

よる酸化銅の還元によって進行する熱化学的なレドッ<br />

クス反応 8) で進展する摩耗である.ダイヤモンドでは,<br />

(フォノン)格子振動が熱伝導を担っている 2) .ダイヤ<br />

a) Ib 型 (切削距離 L=1600km)<br />

- 63 -<br />

クレータ摩耗深さ KT μm<br />

クレータ摩耗体積 W C μm 3 ×10 3<br />

b) IIa 型 (切削距離 L=1600km)<br />

図 4 各種ダイヤモンドのクレータ摩耗形状<br />

切削距離 L km<br />

図 5 クレータ摩耗深さの切削距離による推移<br />

切削距離 L km<br />

図 6 クレータ摩耗体積の切削距離による推移<br />

モンド中に不純物が含まれるとそこでフォノンが散乱<br />

され,熱伝導率が低下する.そのため不純物の多いダ<br />

イヤモンド工具は切削中に熱が溜まり易くなり, レド<br />

ックス反応を促進させる.それにより摩耗が促進され<br />

たと考えられる.


3.3 チッピングと欠損<br />

工具刃先にチッピングが生じても切削が十分可能な<br />

場合もある.ダイヤモンドの場合,硬度が非常に高く<br />

脆いため,上述したように工具研磨時にマイクロクラ<br />

ックが導入され,それらが切削中にチッピングや欠損<br />

に成長し,また切削中に突発的に発生するとも考えら<br />

れる.<br />

図7 には各種単結晶ダイヤモンド工具の刃先先端部<br />

のSEM画像示す.切削距離は L>1000 ㎞である.同<br />

図 a)の Ib 型では,チッピングはほとんど見られず,刃<br />

先稜は滑らかである.次に同図 b)の IIa 型は切削領域全<br />

体の刃先稜に多くのチッピングが存在し,先先端部分<br />

研磨方向<br />

逃げ面<br />

研磨方向<br />

チッピング<br />

逃げ面<br />

すくい面<br />

a) Ib 型 (切削距離 L=1800km)<br />

すくい面<br />

欠損<br />

b) IIa 型 (切削距離 L=1600km)<br />

図 7 刃先稜の損耗形態<br />

- 64 -<br />

には大きな欠損が発生している.特に IIa 型のチッピン<br />

グは幅も広く,10μm を超えるものが多い.また IIa 型<br />

は 1600km で寿命に至った.<br />

以上のことから Ib 型は IIa 型より耐チッピング性に<br />

優れていると考えられる.<br />

4.結 言<br />

1. 顕微 FT-IR によって工具刃先先端部の窒素不純物<br />

は,分析可能である.<br />

2. Ib 型は IIa 型に比べ,耐摩耗性が高い.<br />

3. IIa 型は Ib 型に比べ,耐チッピング性が高い.<br />

4. ダイヤモンド工具による無酸素銅切削における工<br />

具寿命は,クレータ摩耗よりチッピングの影響が<br />

大きいと考えられる.<br />

参考文献<br />

1) 金技敏明: 切削における分離作用に関する研究,大阪<br />

大学学位論文,(1981)14.<br />

2) 角谷均 他:大型ダイヤモンド単結晶, ダイヤモン<br />

ド工業協会編: ダイヤモンド技術総覧,<br />

NGT(2007)61-69.<br />

3) 樋口誠宏, 島田尚一, 金枝敏明他:ダイヤモンド工<br />

具寿命に及ぼす窒素不純物の影響, 精密工学会<br />

2005 年春季学術講演論文集 (2005)677.<br />

4) N. Toge, <strong>KEK</strong> : Activities on the Linear Collider Project<br />

at <strong>KEK</strong>, APAC98 <strong>KEK</strong> Preprint (1998)851-855<br />

5) 山口智実, 樋口誠宏, 金技敏明 他 : 無酸素銅の表<br />

面特性が真空中の絶縁破壊に及ぼす影響, 砥粒加<br />

工学会誌,Vol. 49 No, 10 OCT. (2005) 564-569.<br />

6) S.Shimada et al :Qualification of Raw Diamond from a<br />

Viewpoint of Chipping and Wear Resistance for<br />

Ultraprecision Cutting Tool, Proceedings of the<br />

euspen(2007)103-106.<br />

7) J. Walker : Optical Absorption and Luminescence in<br />

Diamond, Reports on Progress in Physics, 42,10<br />

(1979) .<br />

8) S.Shimada, et al.:Suppession of Tool Wear in Diamond<br />

Turning of Copper under Reduced Oxygen Atmosphere,<br />

Annals of the CIRP, 49/ 1 (2000) 21.


1. 緒 言<br />

純ニオブ板材の切削基本特性<br />

金枝敏明*, 山田正大*<br />

(*岡山理科大学)<br />

Fundamental cutting performance in pure niobium plate cutting<br />

純ニオブは、高い融点、超伝導特性ならびに高<br />

温強度を有する金属である。その特性を生かし、<br />

実際には超伝導加速空洞の空洞材料に適用されて<br />

いる。しかし、その切削加工は、他の純金属であ<br />

る純Alや純Cuなどと同様に困難を極めるものと言<br />

われている 1) 。今後純ニオブの特性に着目し、部品<br />

や製品に積極的に利用しようとしても、難削性が<br />

大きな障害となってくる。その上、難削性の具体<br />

的かつ学術的なデータは見当たらないのが現状で<br />

ある。そこで純ニオブの切削実験を行い、切削抵<br />

抗ならびに加工面粗さなどから難削性の具体的な<br />

根拠を追求しようとした。<br />

Toshiaki Kaneeda * , Masahiro Yamada *<br />

( * Okayama University of Science)<br />

2. 実験方法<br />

実験は図 1 に示すような(株)不二越製 NC2 次元<br />

切削装置(形式: NTC-01)を用いた平面 2 次元切<br />

削とした。被削材にはひずみ取り真空焼鈍を行っ<br />

た純ニオブ(99.9%)の板材(80×25×t3)を超硬合<br />

金 K10 種の切削工具を用いた。また、純ニオブは<br />

溶着性に富む延性材料であるため、切削工具の刃<br />

先稜はシャープにし、切削油剤には高冷却効果を<br />

持つエマルション系水溶性切削液である JX 日鉱<br />

日石エネルギー製ユニソルブル EM-R を使用した。<br />

前加工の影響が残った状態では正確な切削抵抗<br />

が測定できない。そこで、各実験において加工変<br />

質層の状態を統一するために、すなわち極力加工<br />

変質層を薄くするために切込み 10μm で数十回程<br />

度前加工を加工面及び切削抵抗が安定するまで行<br />

う。次に工具を本実験用に取替え、本実験切り込<br />

み t 本実験速度 V で切削を行い、切削抵抗や加工<br />

表面の粗さを測定する。<br />

表 1 に実験条件を、表 2 に焼鈍条件を示す。<br />

- 65 -<br />

工<br />

具<br />

表 1 実験条件<br />

実験装置 NC2 次元精密切削装置<br />

被削材 純ニオブ<br />

材料 K10 種超硬合金<br />

すくい角 α° 30<br />

逃げ角 ε° 7<br />

切削速度 V m/min 25.7<br />

本実験切込み t μm 10~50<br />

切削油剤 ユニソルブル EM-R<br />

表 2 焼鈍条件<br />

焼鈍温度 ℃ 720<br />

焼鈍時間 hour 2<br />

真空度 torr 10 -5<br />

Tool<br />

Cutting direction<br />

図 1 2 次元平面切削実験<br />

Cutting oil<br />

Work<br />

3. 実験結果<br />

予備実験においてすくい角の小さな 0°や 10°<br />

の工具での切削では刃先に切りくずが滞留し、切<br />

削抵抗が著しく高くなり、刃先稜に欠損が発生し<br />

た。それにより加工面が安定せず再現性のある実<br />

験結果が得られなかった。そこで、すくい角を 30°<br />

として切削を行った。この場合においても後述す<br />

るように切りくずが刃先に滞留した場合と、切り<br />

くずがスムーズに排出され切削抵抗が安定した


Depth from machined surface d µm<br />

場合があった。図 2、図 3 は切りくず排出がスムー<br />

ズな場合の結果である。<br />

図 2 は加工表面下の硬度分布を示す。被削材の<br />

硬度は約 65Hv であった。加工表面下付近では母材<br />

硬度の 2 倍近くにまで硬度が増していることがわ<br />

かる。また、切込み t = 50 µm で切削を行った時、<br />

加工表面の軟化が発生しており、純 Al 等の切削と<br />

同様の傾向であった 2) 。<br />

主分力切削抵抗 N<br />

Vickers micro hardness Hv<br />

60 80 100 120 140 160<br />

0<br />

40<br />

80<br />

120<br />

160<br />

200<br />

240<br />

280<br />

320<br />

450<br />

400<br />

350<br />

300<br />

250<br />

200<br />

150<br />

tL=10 :t = 10 µm<br />

tL=50 :t = 50 µm<br />

Load 0.49 N<br />

図 2 加工面のマイクロビッカース硬度分布<br />

0.25<br />

0.2<br />

0.15<br />

0.1<br />

加工表面粗さ Ra µm<br />

100<br />

切削抵抗 0.05<br />

50<br />

0<br />

加工表面粗さ<br />

0<br />

10 30 50<br />

本実験切込み t µm<br />

図 3 切込みの主分力切削抵抗と加工表面粗さ<br />

に及ぼす影響<br />

- 66 -<br />

t = 30µm , V=25.7m/min<br />

図 4 切りくず滞留発生時の加工面と切りくず<br />

図 3 に t を変化させた場合の切削抵抗、加工表<br />

面粗さを示す。切削抵抗、加工表面粗さともに t =<br />

50 µm で急激に上昇している。これは、後述する<br />

切りくずの滞留の影響が現れたと考えられる。<br />

図 4 に切りくずが刃先に滞留したときの切りく<br />

ずと加工面の写真を示す。<br />

切りくずの滞留により加工面には不規則な凹凸<br />

が発生し、むしれ痕のようになっていることがわ<br />

かる。切りくずは刃先で滞留することで極めて分<br />

厚くなっている。これは切りくずと工具すくい面<br />

間の凝着が主な原因の一つであると考えられる。<br />

それに伴い切削抵抗の増加や工具の欠損、加工面<br />

性状の悪化を発生させていることが純ニオブの難<br />

削の原因一つであると考えられる。また、その対<br />

策として工具すくい面-切りくず間の摩擦を低減<br />

させることのできる工具形状や切削油剤の使用が<br />

挙げられる。<br />

参考文献<br />

500µm<br />

切りくず流出方向<br />

切削方向<br />

a ) SEM b ) 実体顕微鏡<br />

i ) 加工面写真<br />

すくい面側<br />

ii ) 切りくず写真<br />

1 ) 横山哲男 : 機械加工技術 Q&A , 技術評論社, (2011) 30.<br />

2 ) 金枝敏明,久保田知宏 : 2001 年度精密工学会春期大会<br />

学術講演会講演論文集 (2001) 198.<br />

自由面側<br />

1mm<br />

1mm


重力波望遠鏡用光学素子の超精密研磨技術の研究<br />

-単結晶 Al 2O 3(サファイア)の研磨速度の結晶方位依存性の検討-<br />

犬飼 力 * ,岡田 睦 * ,鈴木浩文 * ,鈴木敏一 ** ,東 保男 **<br />

(*中部大学,**高エネルギー加速器研究機構)<br />

Study on ultraprecision polishing of optical device for cryogenic gravitational wave telescope<br />

-study for polishing rate of crystal orientation of α-alumina-<br />

Chikara INUKAI*, Mutsumi OKADA*, Hirofumi SUZUKI*, Toshikazu SUZUKI**, Yasuo HIGASHI**,<br />

(* Chubu University, ** High Energy Accelerator Research Organization, <strong>KEK</strong>)<br />

In the telescopic interferometer LCGT (Large-scale Cryogenic Gravitational wave Telescope), the mirror made of<br />

sapphire (α-alumina) is required. The focal length of mirror is 7 km and it must be finished by polishing after<br />

grinding. In order to polish the mirror precisely, polishing characteristics of the Sapphire must be researched. In this<br />

study, the polishing characteristics are examined and the dependence of the crystal orientation on the polishing rates<br />

is researched. In the experiment, Sapphire wafer is polished by using rotational small tool and SiO 2 abrasive. micro<br />

changes differ in.<br />

Key Words: polishing characteristics, Sapphire, crystal orientation<br />

1. はじめに<br />

重力波望遠 LCGT(Large-scale Cryogenic Gravitational<br />

wave Telescope )の光学系にはサファイア製(α アルミ<br />

ナ単結晶)の鏡が必要とされる.低温域で機械的損失が少<br />

ないサファイア鏡をサファイアの細いロッドで吊り,20K<br />

に冷却する.サファイア製ミラーは,焦点距離 7km(±数<br />

m)の非球面形状に常温で超精密加工したあと,冷却して<br />

もその形状精度を維持しなければならない.これまでは結<br />

晶面ごとに研磨特性が異なることは報告されていたが,同<br />

一結晶面内での結晶方位による研磨特性の差異は報告さ<br />

れた事例が見られない.そこで,サファイアの基本的研磨<br />

特性を評価し,結晶構造の異なる単結晶 CaF 2,ガラス(BK<br />

7)と比較しながら結晶方位依存性を検討したので報告す<br />

る.<br />

2.実験方法<br />

平面形状のワークを回転速度 ω w で回転させ,このワー<br />

クの回転半径位置 R の位置において,曲率半径 r t の回転工<br />

具を接触させる.回転工具とワークの接触点における研磨<br />

方向は,図 2 に示すようにワークの結晶方位に対して各点<br />

において変化することになる.ワークの回転速度 ω W が工<br />

具の回転速度 ω t に対して十分に小さい場合,ワークの研<br />

磨方向はワーク中心方向であると近似することができる.<br />

したがって各方位における研磨断面形状を計測すること<br />

により,同時に結晶方位に対する研磨方向の影響を計測す<br />

ることができる.その断面形状をレーザプローブ走査式測<br />

定装置により各方位に計測した.<br />

X,Y,Z 同時3軸(X,Y,Z)制御本実験で用いた研磨実験装<br />

置を図 2 に示す.ワークはジグに接着して,マグネットチ<br />

ャックにより回転テーブル(C 軸)に取り付けた.研磨条<br />

件を表 1 に示す.曲率半径 3mm の発泡ポリウレタン工具を<br />

用いた.ワーク周辺にやといを設けて.研磨剤である SiO 2<br />

を満たした.<br />

- 67 -<br />

研磨<br />

工具<br />

ω t<br />

図 1 実験方法<br />

図 2 CNC 同時3軸(X,Y,Z)制御研磨装置<br />

ポリシャ<br />

曲率半径<br />

回転速度<br />

周速<br />

ワーク<br />

»<br />

ω w<br />

ワーク<br />

半径方向位置<br />

単一加工痕:円形<br />

180°<br />

2r<br />

研磨方向<br />

270<br />

工具:自転,ワーク:回転, ω t » ° ω w より<br />

ワークの結晶方位に対して研磨方向が変化<br />

表 1 研磨条件<br />

発泡ポリウレタン<br />

r t=3.01mm<br />

1660 rpm<br />

188.5 mm/min<br />

サファイア,蛍石,BK7 ガラス<br />

1.5 mm<br />

研磨剤 SiO 2(COMPOL EX-3 原液)<br />

研磨時間 10 分<br />

研磨ヘッド<br />

ポリシャ<br />

ワーク<br />

研磨荷重 2.5 gf, 5 gf, 10 gf<br />

計測ピッチ 5°<br />

90° (36 断面)<br />

R<br />

0°<br />

研磨方向<br />

研磨液


研磨量δ m㎡<br />

研磨量δ m㎡<br />

研磨量δ m㎡<br />

Z μm<br />

2.5<br />

2.0<br />

1.5<br />

1.0<br />

0.5<br />

×10<br />

3.0<br />

-2<br />

2.5<br />

2.0<br />

1.5<br />

1.0<br />

330 300<br />

270 240<br />

0.5<br />

210<br />

150<br />

180<br />

120<br />

90 60<br />

0.0<br />

30 0<br />

0 5<br />

荷重W gf<br />

10<br />

2.0<br />

1.5<br />

1.0<br />

0.5<br />

×10 -3<br />

×10 -2<br />

Radial position X mm<br />

図 3 研磨したワークの断面の計測例<br />

0.0<br />

0 5<br />

荷重W gf<br />

10<br />

(a) サファイア<br />

(b) CaF 2(111 面)<br />

330 300<br />

270 240<br />

210 180<br />

150 120<br />

330 300<br />

270 240<br />

210 180<br />

150 120<br />

90 60<br />

30 0<br />

0.0<br />

0 5 10<br />

荷重W gf<br />

(c) BK7 ガラス<br />

図 4 研磨荷重 W 対する研磨量δの変化<br />

3.研磨量の評価法<br />

研磨量 δ は一般的に,プレストンの法則より次式の関<br />

係が成り立つ. δ = k・p・v・t ・・(1)<br />

研磨荷重を W,単一加工痕の半径を r とすると,平均圧力<br />

p は次式で表される. p = W/A = W/(πr 2 ) ・・(2)<br />

研磨痕の断面積を B,ワークの研磨半径位置を rとすると,<br />

総研摩量 S は次式となる . S = B・2πr ・・(3)<br />

単一加工痕の面積 A に対する平均研磨深さ δm は次式とな<br />

る. δm=S/A=B・2πR/(πr 2 )=2B・R/r 2 ・・(4)<br />

研磨畳数 K は次式となる. k=2πB・R/(W・v・t) ・・(5)<br />

研磨実験で得られたリング状の研磨痕をレーザプロー<br />

ブ走査式測定装置で計測し,式(4)(5)により研磨量と研磨<br />

定数を算出した.測定ピッチは 1μm とし,各結晶方位に<br />

D 1<br />

D 2<br />

R<br />

r<br />

- 68 -<br />

研磨定数 k<br />

研磨定数 k<br />

研磨定数 k<br />

×10<br />

3.5<br />

3.0<br />

2.5gf<br />

2.5<br />

5gf<br />

2.0<br />

1.5<br />

1.0<br />

0.5<br />

0.0<br />

10gf<br />

0 90 180<br />

結晶方位 °<br />

270 360<br />

-6<br />

2.5<br />

×10-5 (a) サファイア<br />

2.0<br />

1.5<br />

1.0<br />

0.5<br />

2.5gf<br />

0.0 0 90 180<br />

結晶方位 °<br />

270 360<br />

3.5<br />

3.0<br />

2.5<br />

×10<br />

2.0<br />

2.5gf<br />

1.5<br />

5gf<br />

1.0<br />

0.5<br />

0.0<br />

10gf<br />

0 90 180<br />

結晶方位 °<br />

270 360<br />

-5<br />

(b) CaF2(111 面)<br />

(c) BK7 ガラス<br />

図 5 結晶方位による研磨定数の変化<br />

5gf<br />

10gf<br />

おいて評価した.図 3 に実際に計測した一例を示す.得ら<br />

れた断面曲線から,研磨領域を限定し,研磨面積 B を積分<br />

して求めた.<br />

4.実験結果<br />

サファイアの研磨荷重に対する研磨量の変化を図 4 に示<br />

す.この結果から計算した研磨方向に対する研磨定数 K の<br />

分布を図 5 に示す.比較のため,単結晶 CaF 2(蛍石),BK7<br />

ガラスの結果も合わせて示す.サファイアの場合,結晶方<br />

位の影響が出ているのがわかる.<br />

5. まとめ<br />

重力波望遠鏡 LCGT のサファイア製大型の反射ミラーの<br />

超精密研磨技術を確立するため,本研究ではサファイアの<br />

基本的研磨特性,特に研磨の結晶異方性を検討するためサ<br />

ファイアの研磨実験を行なった.その結果,研磨速度が研<br />

磨方向により大きく異なることが明らかとなった.<br />

参考文献<br />

1)鈴木 敏一:大型低温重力波望遠鏡 LCGT 計画 CM11-P06,<br />

第 12 回高エネ研メカ・ワークショップ,第3回先端加速器基<br />

盤技術研究会報告集,399.<br />

2)鈴木 敏一:大型低温重力波望遠鏡 LCGT のサファイア鏡懸架<br />

のための接合技術の現状 CM11-P07,第 12 回高エネ研メカ・<br />

ワークショップ,第3回先端加速器基盤技術研究会報告<br />

集,400.


脆性材料製非球面レンズの研削加工<br />

鈴木浩文,籠橋勇介,古木辰也,岡田 睦<br />

(中部大学)<br />

Grinding process of aspheric lens made of brittle material<br />

Hirofumi SUZUKI, Yusuke KAGOHASHI, Tatsuya FURUKI, Mutsumi OKADA<br />

(Chubu university)<br />

Recently, needs of aspheric lens is made of hard brittle materials such as glass and sapphire glass, are increasing with the increasing of<br />

demands for various optical devices. A series of grinding and polishing process is effective in order to manufacture those large lenses. In the<br />

grinding process, the base aspheric shape is generated by the diamond wheel and in the polishing process the surface roughness must be<br />

decreased to the required value. In the conventional method, the worn diamond wheel must be often trued and dressed in the grinding process.<br />

In this study, 3-axis (X,Y,Z) controlled grinding method with straight diamond wheel is proposed in order to the improve the grinding<br />

efficiency and accuracy. In this method, the wheel scans vertically along the Y axis in order to decrease the wheel wear. In the grinding<br />

experiments, the aspheric glass lenses are ground and the changes of form accuracy and surface roughness are evaluated. From the<br />

experimental results, it is found that the proposed grinding method is effective.<br />

1.緒 言<br />

近年,様々な光学デバイスのニーズが拡大するのに伴い,サ<br />

ファイヤガラスやガラスなどの脆性材料製の非球面レンズの要求<br />

が増大している.本研究では非球面ガラスレンズについて研削加<br />

工の検討を行った.ガラスレンズはダイヤモンドホイールによる研<br />

削加工の後,遊離砥粒を用いた研磨加工により形状を維持しな<br />

がら表面粗さを向上させる.しかし,従来のダイヤモンドホイール<br />

による研削加工法では砥石摩耗が大きいため,摩耗する度に砥<br />

石のツルーイング・ドレッシングをしなければならない.そのため<br />

非加工時間が多く,加工能率の改善が求められている.<br />

本研究は,凸型の脆性材料製非球面レンズの高精度・高能率<br />

研削をするために,平型ストレートダイヤモンドホイールを Y 軸方<br />

向に走査する 3 軸制御研削法を提案し,その加工精度を評価<br />

したので報告する.<br />

2.従来の研削法とその問題点<br />

従来の R 付ストレートダイヤモンドホイールによる非球面の研<br />

削法では,図 1 に示すようにワークを回転させ,縦型のスピンドル<br />

に取り付けられた砥石を(X,Y)制御しながら走査する.その際 R<br />

のついた砥石側面の 1 点にワークが当たるため,砥石の先端が<br />

局部的に摩耗する.摩耗した砥石を使い続けると,ワーク中心部<br />

に俗に「ヘソ」と呼ばれる凸型の形状誤差が生じる.そのため砥<br />

石が摩耗する度にツルーイング・ドレッシングを行わなければなら<br />

ず,非加工時間が多いのが現状である.<br />

2.提案の 3 軸駆動の研削法<br />

そこで上述の問題点を解決するため,平型ストレートダイ<br />

ヤモンドホイールを用いる 3 軸制御研削法を提案した.砥石<br />

の局部摩耗を防ぐため,図 2 に示すように Y 軸方向に随時砥石<br />

の厚さの範囲で動かし,加工を行う.これにより局部的な砥石摩<br />

耗が抑制され,ツルーイングを行わずに形状精度を上げ,その形<br />

状精度を維持することができる.また,従来法よりもツルーイング<br />

による非加工時間を減らし,加工能率の向上が可能である.<br />

Z<br />

- 69 -<br />

Z<br />

Workpiece<br />

Workpiece<br />

Y<br />

Y<br />

X<br />

X<br />

3.実験方法<br />

Wheel path<br />

Work<br />

piece<br />

Wheel<br />

path<br />

Wheel<br />

Wheel<br />

Contact line to workpiece<br />

図 1 従来の研削法<br />

Wheel<br />

Changed contact line<br />

to workpiece<br />

Wheel wear<br />

図 2 提案の 3 軸制御研削法<br />

平型ストレートダイヤモンドホイールを用い,凸型非球面ガラス<br />

レンズの研削加工を連続して行った. 本実験では提案法の有<br />

効性を確認する為,平型のストレートダイヤモンドホイールを用<br />

い Y 軸を走査した場合において,安定して形状精度を得ることを<br />

試みた.加工には超精密加工機 ULG-100D(SH 3 )(東芝機械社<br />

製)を用いた.図 3 に実験装置の外観を示す.<br />

Workpiece<br />

Workpiece<br />

Wheel<br />

表 1 に加工条件を示す.研削ホイールには粒度#1200 を用い<br />

Z<br />

Wheel<br />

Y<br />

Y<br />

Z X<br />

X


た.ホイールはスピンドル取り付け時のみ,振れを取るためにレア<br />

メタルでツルーイングを行った.ワークにはφ60 mm の光学ガラ<br />

スレンズを用い,レンズの近似曲率半径は約 550 mm とした.<br />

研削プロセスは次の手順で行った.まず,近似曲率半径など<br />

のデータを元に NC プログラムを作成し,第 1 次加工を行った.<br />

次に,第 1 次加工後の形状を測定し,砥石の X 方向のずれ量<br />

ΔXと砥石半径誤差ΔRを補正して第 2 次加工を行った.その後,<br />

第 2 次加工後の形状を測定し,NC プログラム作成ソフトによりプ<br />

ログラムを Z 方向に補正し,第 3 次加工を行った 1),2) .要求精度<br />

が得られるまで補正と加工を繰り返した.その際,提案法の通り Y<br />

軸を随時走査し,砥石の局部摩耗を防いだ.<br />

形状精度の測定には触針式測定器 Form Talysurf (Taylor<br />

Hobson 社製)を使用した.<br />

図3 実験装置の外観<br />

表1 加工条件<br />

ワーク 光学ガラス<br />

寸法 φ60 mm<br />

形状 非球面<br />

近似曲率半径 550 mm<br />

回転数 500 min -1<br />

砥石<br />

形状 平型ストレート<br />

寸法 φ100 mm×5t<br />

粒度 #1200<br />

回転数 15000 min -1<br />

レジンボンド・ダイヤモンドホイール<br />

切り込み 3 μm/pass (仕上げ加工時)<br />

送り速度 5 mm/pass (仕上げ加工時)<br />

クーラント ソリューションタイプ<br />

5.実験結果<br />

Z-axis<br />

Work<br />

spindle<br />

Work<br />

Y-axis<br />

X-axis<br />

#1200 のダイヤモンドホイールを用いて従来研削法により 42 回<br />

の加工で仕上げた.その形状誤差曲線を図 4 に示す.形状誤差<br />

は 2.9 μm P-V であった.Y 軸を走査しない従来法では局部的な<br />

砥石摩耗により中心付近に凸型の形状誤差がみられる.この時<br />

のノマルスキー顕微鏡写真を図 5 に示す.次に,本提案法による<br />

加工の形状誤差曲線の一つを図 6 に示す.形状誤差は 0.88 μm<br />

P-V であった.また,Y 軸を砥石の厚さ内で走査し,加工したそれ<br />

ぞれの形状誤差を図 7 に示す.これらは合計で 70 回の加工を行<br />

った.Y 軸を走査した場合においても,提案法により高精度の研<br />

削加工が継続されることがわかった.<br />

Wheel<br />

spindle<br />

Wheel<br />

Coolant<br />

nozzle<br />

- 70 -<br />

形状誤差 μm<br />

6.結 言<br />

図4 砥石摩耗時の形状誤差曲線<br />

図5 凸型形状誤差のノマルスキー顕微鏡写真(50x)<br />

2.5<br />

2<br />

1.5<br />

1<br />

0.5<br />

図6 提案法による形状誤差曲線<br />

0<br />

0 10 20 30 40 50 60 70 80<br />

切り込み回数 回<br />

図7 加工形状精度の変化<br />

400μm<br />

本研究では,様々な非球面ガラスレンズを高精度・高能率研<br />

削をするために,平型ストレートダイヤモンドホイールを用いた 3<br />

軸制御研削法を提案し,Y 軸走査時の加工における形状精度を<br />

評価した.その結果,提案法により高い形状精度を安定して得る<br />

ことができ,高い加工能率が得られることが明らかとなった.<br />

7.参考文献<br />

1) 鈴木 浩文,小寺 直,中筋 智明,長谷川 森,原 成一:非球面研削<br />

に関する研究-砥石走査速度制御による高精度加工-,1994 年度精密工<br />

学会春季大会学術講演会講演論文集,(1994) 799.<br />

2) 鈴木 浩文,北嶋 孝之,奥村 繁樹:軸対称非球面の高精度切削に関<br />

する研究-工具の各種誤差要因が形状誤差に与える影響およびその最<br />

適補正法の検討-,精密工学会誌,65,3 (1999) 401.


脆性材料製非球面レンズの均等研磨加工<br />

鈴木浩文,○加藤大祐,犬飼力,岡田睦<br />

(中部大学)<br />

Uniform polishing of aspheric lenses made of brittle materials<br />

Hirofumi SUZUKI, ○Daisuke KATO, Chikara INUKAI, and Mutsumi OKADA<br />

(Chubu University)<br />

Recently, high-precision aspheric lenses of hard brittle materials such as glass, sapphire, silicon and ceramic are used for optical<br />

devices such as optical camera and laser device. In manufacturing of aspheric glass lenses, a series of grinding and polishing<br />

process is more effective and more precise than the molding process. Precision grinding and polishing technologies for the complex<br />

shape of the aspheric lenses are required furthermore. In this study, a new precision uniform polishing method is proposed and the<br />

machine was developed for the aspheric glass lenses. In the polishing experiments, convex aspheric lenses made of glass were<br />

ground by the diamond wheel and the ground lenses were uniform-polished and the changes of its form and surface roughness were<br />

evaluated. From the experiments, it was clarified that the proposed polishing method is useful for the large aspheric glass lenses.<br />

Key Word: polishing, brittle materials, aspheric glass lens, uniform polishing, surface roughness<br />

1.はじめに<br />

近年,ガラス,サファイヤ,シリコン,セラミックなどの<br />

硬質脆性材料製の高精度な非球面レンズが,光学カメラやレ<br />

ーザ機器などの先端デバイスに要求されている.非球面ガラ<br />

スレンズの生産プロセスは,研削加工により形状を創成した<br />

後,遊離砥粒を用いた均等研磨加工により,形状を維持しな<br />

がら表面粗さを向上させるプロセスが有効である.そのため,<br />

さらに高精度の非球面ガラスレンズを高能率に生産するため<br />

には,均等な研磨を高能率で実現する研磨装置の開発が不可<br />

欠である.<br />

そこで本研究では,空気圧を利用した軟質なポリシャを有<br />

する均等研磨装置を提案・開発し,研削加工で前加工した凸<br />

型非球面ガラスレンズを用いて均等研磨実験を行い,その形<br />

状精度と表面粗さを評価したので報告する.<br />

2.均等研磨装置の開発<br />

開発した研磨装置の概略図を図 1 に示す.本研磨装置は研<br />

磨盤に空気を密閉するための軟質ゴムシートが張られ,さら<br />

にその上に軟質のポリシャが張られている.内部に空気を送<br />

り込み風船状に膨らませ,そのポリシャ上にジグに貼付けた<br />

レンズを置く.ジグ裏面に設けたセンター穴に加圧軸を置き,<br />

錘を乗せて垂直荷重を付与することで,曲面のワークに対し<br />

ても一定の圧力でワーク表面がポリシャに接触する構造であ<br />

る.加圧軸は転がり軸受で支持されており,研磨盤を回転さ<br />

せると,研磨盤上の一定の場所でレンズも自転しながら遊星<br />

運動をする.ポリシャの上には研磨用のスラリーがかけられ<br />

ており,レンズ面が研磨される.<br />

なお,研磨盤の内外の周速の差よりワークも同方向にかつ<br />

同回転数で回転し,全面の相対速度はほぼ等しくなるため,<br />

ポリシャとワークの接触圧分布のみがレンズの研磨量分布に<br />

影響を与えることとなる.<br />

- 71 -<br />

3.研磨実験<br />

研磨装置の外観を図 2 に示す.研削加工により前加工を行<br />

った光学用非球面ガラスレンズを用いて,計 60 分間の研磨実<br />

験を行い,その加工面の形状誤差と研磨量および表面粗さを<br />

検証した.研磨ワークの仕様および研磨条件を表 1 に示す.<br />

ポリシャには厚さ 0.8 mm のウレタンパッドを使用し,遊離砥<br />

粒として酸化セリウムを用いて研磨加工実験を行った.また,<br />

研磨後の形状から研磨量を算出し,形状精度と表面粗さの評<br />

価を行った.形状精度の測定には,非接触プローブ走査式青<br />

色レーザ測定器 NH-3UP(三鷹光器製)を,表面粗さの評価<br />

には走査型白色干渉計 NewView6200(ZYGO 社製)を使用し<br />

て評価した.<br />

錘による加圧<br />

研磨ジグ<br />

研磨液散布<br />

図 1 均等研磨装置の概略図<br />

ワーク<br />

ポリシャ<br />

ウレタンパッド<br />

空気圧<br />

空気<br />

図 2 開発した均等研磨装置の外観<br />

軟質ゴム<br />

研磨盤<br />

レンズを貼付けた<br />

研磨ジグ


4.実験結果<br />

表1の研磨条件で計 60 分の研磨加工実験を行い,それぞれ<br />

研磨前後の形状誤差曲線を重ね合わせて表示したものを図 3<br />

に示す.図 3 のデジタルデータを PC に取り込んで計算した<br />

研磨量分布を図 4 に示す.外周部は中心部と比べて研磨量が<br />

少ないものの,全面でほぼ均等に研磨されているのがわかる.<br />

これは,ウレタンのしなりが少なく全面に均一な圧力が掛ら<br />

なかったため,外周部の研磨量が減少したと思われる.<br />

研磨後の表面粗さの測定結果を図 5 に示す.研磨時間に対<br />

する研磨量と表面粗さの変化を図 6 に示す.表面粗さは加工<br />

時間とともに改善されているのがわかる.また,研磨量と研<br />

磨時間には比例関係が見られ,Preston の法則に従っているこ<br />

とがわかる.<br />

深さ分布 μm<br />

深さ分布 μm<br />

表1 研磨ワークの仕様および研磨条件<br />

レンズ 光学用 BK7 ガラスレンズ<br />

有効径<br />

曲率半径<br />

Φ80 mm<br />

R280 mm<br />

ポリシャ ウレタン<br />

厚さ 0.8 mm t<br />

研磨剤 酸化セリウム<br />

砥粒密度 10 wt%<br />

加圧法 錘による加圧<br />

研磨圧力 10.2 kPa (104.1 gf/cm 2 )<br />

研磨盤回転数 30 min -1<br />

旋回半径 110 mm<br />

周速度 20.7 m/min<br />

半径方向位置 mm<br />

(a) 30 分後<br />

(b) 60 分後<br />

図 3 研磨前と研磨後の形状誤差曲線の比較<br />

5.おわりに<br />

研磨前(研削後)<br />

研磨後<br />

研磨前(研削後)<br />

研磨後<br />

半径方向位置 mm<br />

本研究では,ガラスやサファイヤなどの硬質脆性材料製非球面<br />

レンズの高精度・高能率均等研磨を行うために均等研磨装置を提<br />

- 72 -<br />

研磨量 μm<br />

研磨量分布 μm<br />

研磨量分布 μm<br />

18 nm Rz 1.9 nm Ra<br />

10 nm Rz 1.7 nm Ra<br />

7<br />

6<br />

5<br />

4<br />

3<br />

2<br />

1<br />

半径方向位置 mm<br />

(a) 30 分後<br />

半径方向位置 mm<br />

(b) 60 分後<br />

図 4 研磨量分布図<br />

(a) 30 分後 (b) 60 分後<br />

図 5 中心部の研磨後の表面粗さ<br />

図 6 研磨時間に対する研磨量と表面粗さの変化<br />

案・開発し,その加工精度を評価した.その結果,本提案の研磨<br />

法は硬質脆性材料製非球面レンズの仕上げ加工において有効<br />

であることが明らかとなった.<br />

16 nm Rz 1.6 nm Ra<br />

9 nm Rz 1.2 nm Ra<br />

0<br />

0<br />

0 30<br />

研磨時間 min<br />

60<br />

2.5<br />

1.5<br />

0.5<br />

参考文献<br />

(1)砥粒加工学会編:砥粒加工技術のすべて,工業調査会,(2006) 45.<br />

(2)鈴木浩文ほか:超音波援用マイクロ研磨法による非球面研磨,2003 年<br />

度砥粒加工学会学術講演会講演論文集,(2003)159.<br />

3<br />

2<br />

1<br />

表面粗さ μm Rz


K - Project (Miyagi Japan)<br />

K-Project<br />

<br />

CELL<br />

<br />

<br />

K-ProK<strong>KEK</strong> K<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

<br />

HS650L<br />

Sodick<br />

ULG100D<br />

<br />

3 UPMC 850 CARAT ACCURACY<br />

ZEISS<br />

GPI-XP4<br />

ZYGO<br />

K-Pro<br />

http://www.sendai-marushige.com/<br />

<br />

ZYGO<br />

ZEISS<br />

<br />

<br />

CELL <br />

<br />

<br />

<br />

N=10<br />

(mm) <br />

0<br />

69.9923<br />

φ70 - 0.015<br />

+0.015 70.0151<br />

φ70.01 0<br />

<br />

DIM φ2a<br />

0.01 0.0008 <br />

<br />

DIM d<br />

0.01 0.0029 <br />

<br />

<br />

0.001 0.00065<br />

<br />

<br />

0.001 0.00052<br />

0.002 0.00155<br />

<br />

<br />

E-mail ksaitou@sendai-marushige.com<br />

- 73 -


超伝導空洞製造技術開発のための<br />

電子ビーム溶接基礎試験(Ⅲ)<br />

安島泰雄、佐伯学行、渡辺勇一<br />

(高エネルギー加速器研究機構)<br />

It is important for future large-scale SRF-projects, like ILC, to establish the technology of SRF cavity<br />

fabrication in the style of mass-production. It is also required to establish more cost-effective fabrication<br />

methods too. In order to address these issues, more advanced fabrication methods should be studied. In the<br />

Cavity Fabrication Facility (CFF) at <strong>KEK</strong>, we installed a new Electron Beam Welding (EBW) machine in April<br />

2011 to address these issues. The beam-acceleration voltage range of 60 kV - 150 kV is available with the<br />

EBW machine in CFF. We studied the relation of welding parameters and the smoothness of welding seam<br />

through 60 kV to 150 kV. Also we fabricated the end-group of 9-cell cavity <strong>KEK</strong>-00with this EBW machine. We<br />

would report the study of EBW parameter search and the fabrication of 9-cell cavity<strong>KEK</strong>-00.<br />

Keywords: ILC,Cavity,Electron Beam Welding, CFF<br />

1 はじめに<br />

国際リニアコライダー(ILC)のような、将来の大型<br />

プロジェクトでは超伝導空洞の量産技術が非常に重<br />

要である。製造方法に関して、さらなるコストダウ<br />

ンを進めていく必要がある。そのためにはより先進<br />

的な製造方法を発案していかなければならない。そ<br />

のような目的で、超伝導空洞の量産研 究を行う施設<br />

(CFF)に、2011 年 4 月 電子ビーム溶接機(EBW)が 導<br />

入された。この EBW は加速電圧を 60kV から 150kV<br />

間 で連続可変が可能である。低電圧領域から高電圧<br />

領域までの Nb(ニ オブ)の溶接特性、特に裏ビー<br />

ドの形成に関する溶接基礎試験を行ってきた。また、<br />

<strong>KEK</strong># 0 号機の空洞エンド部の溶接は導入された EBW<br />

を使用して製作した。<strong>KEK</strong>#0 号機の製作と併せて報<br />

告する。<br />

2 <strong>KEK</strong>#0 号機のエンドグループの製作<br />

エンドグループの溶接は、EBW 組立調整直後の最<br />

初の本格的な溶接であった。また、それまで経験し<br />

たことのない、異種金属(Nb,NbTI,Ti)そして厚肉溶<br />

接(4~20mm)である。それぞれ、フルペネトレーショ<br />

ン(完全溶け込み)溶接が求められていた。また<br />

NbTI+Ti(End Plate 部)の片側完全溶け込み溶接の<br />

- 74 -<br />

溶接条件を探索するための厚肉テスト用の材料も必<br />

要最小限の手持ちしかない状態であった。まして、<br />

我々はまだ経験不足であり、さらに時間的な制限も<br />

あることから、両側から溶接することで完全溶け込<br />

みに対応することにした。(Fig.1)<br />

ビームパイプのバーリングは、これまでの経験をも<br />

とに独自の方法でφ84mmとφ20mmの 2 種類を内作加<br />

工(<strong>KEK</strong>)で設計通りの物を製作した。(Fig.2)<br />

Fig.1 異種金属の溶接条件出し<br />

Fig.2 Beam Pipe バーリング溶接部


3 EBW の性能試験と裏ビードの形成管理<br />

超伝導空洞の特徴として内面の平たん度、清浄度<br />

が強く求められている。清浄度については CFF 全<br />

体がクラス 10,000(溶接時)以下のクリーンルーム<br />

であり、CP 処理室を備えて対策を講じている。内<br />

面の平たん度については構造上の特徴から赤道部の<br />

溶接は、表からの溶接で裏ビードの正常な形成を管<br />

理する必要があった。<strong>KEK</strong>#0 号機の製作は、東成<br />

エレクトロビーム㈱所有の EBW(30kW)で製作を<br />

行ってきた。<strong>KEK</strong> の EBW(15kW)で、これまでの<br />

溶接データーの再現性を試みたが定格出力、フィラ<br />

メントの構造の違いもあり、ビード形状が大きく違<br />

っていた。そのため、EBW の性能試験を兼ねた、<br />

裏ビード形成のための最適溶接条件の探索を行って<br />

いる。試験方法は加速電圧、ワークディスタンス、<br />

溶接速度を固定し、ビーム電流、フォーカス電流値<br />

を変化させることによるビード形状の形成観察を行<br />

った。また、この EBW は 60kV から 150kV まで加<br />

速電圧を可変することが可能である。<br />

そのため、60kV,90kV,120kV,150kV の 4 条件での<br />

ビードオン試験をすることとなった。Nb 試料は、<br />

150□×2mmT の平板を使用した。これまでの試験<br />

結果の一部を報告する。(Fig.3)<br />

Fig.3 Nb 平板上にビードオン試験<br />

4 9-Cell Cavity の穴補修溶接<br />

<strong>KEK</strong>#0 号機の最終組立てで、End Cell と Center<br />

Cell の赤道部 EBW で1ヶ所穴があいてしまった。<br />

我々が行った穴補修方法を簡単に紹介する。まず、<br />

リューターで穴の成形(洋ナシ形)をする。続いて<br />

成形した穴に合わせて、ワイヤーカットで Nb のパ<br />

ッチ(Fig.4)を作り手仕上げでテーパー形状に仕上げ<br />

る。空洞側の内面はリューターで穴の成形をしてい<br />

るために十分気を付けて洗浄しなければならない、<br />

- 75 -<br />

今回は、穴に合わせたゴム栓(Fig.5)を作り、空洞内<br />

面全体の CP 洗浄を行い、さらにゴム栓を外し、空<br />

洞外側に帯状のゴム(Fig.6)を巻き、穴部を新液で<br />

CP 洗浄を行った。最後に純水で何度も水洗いをし<br />

たが手作業であるため大変苦労する作業であった。<br />

ここで気を付けなければならないことは、穴、補修<br />

ピース共に CP 処理をすることで想像以上にギャッ<br />

プが出来てしまうことに注意が必要である。<br />

Fig.4 Nb 製補修ピース<br />

Fig.5 ゴム栓<br />

Fig.6 外側帯状のゴム<br />

Fig.7 CP 液の排出


Fig.8 ドラフトチェンバー内作業風景<br />

Fig.9 仮付け<br />

Fig.10 本溶接終了後<br />

以上の手順で補修溶接を完了することが出来た。<br />

ここに至るまでには、平板に意識的に穴をあけるこ<br />

とに始まり、2ダンベル製作時に穴をあけたものを<br />

練習台にして、わずか1度の予備試験の基礎データ<br />

ーを基に本番溶接に挑んだ、全てにおいて初めての<br />

ことであったが成功裡に終わることが出来た。これ<br />

は今後起こりえることであろう補修溶接の際の自信<br />

につながることになり非常に重要な経験を積むこと<br />

が出来た。この経験が生かされないことを願いたい。<br />

それは、穴をあけることのない最適溶接条を作り上<br />

げたいと考えているからです。<br />

- 76 -<br />

本溶接<br />

ビード<br />

本溶接<br />

ビード<br />

5 まとめ<br />

現在 <strong>KEK</strong>#0 号機は、SFT 棟で縦測定中である。<br />

性能結果が近々報告される予定である。<br />

今年度 <strong>KEK</strong>#1 号機(HOM あり)の製作を計画中<br />

である。超伝導空洞製造技術、Nb の最適溶接条件<br />

の確立に向けて、研究、開発を進めて行く。<br />

6 参考文献<br />

補修ピース EBOVIEW 画像<br />

修復溶接の範囲<br />

修復部の内部を京都カメラで撮影<br />

1) 安島泰雄 他 「超伝導空洞製造技術開発のた<br />

めの電子ビーム基礎試験(Ⅱ) 平成 23 年 6 月 2<br />

日、3 日 第 12 回高エネ研メカ・ワークショップ、<br />

第 2 回先端加速器・機械工学・超伝導低温技術研究<br />

会 於 <strong>KEK</strong><br />

2) 上野健治 他「空洞製造技術開発施設(パイロ<br />

ットプラント)について(Ⅱ)」 平成 23 年 6 月 2<br />

日、3 日 第 12 回高エネ研メカ・ワークショップ、<br />

第 2 回先端加速器・機械工学・超伝導低温技術研究<br />

会 於 <strong>KEK</strong>


シームレス空洞の製作<br />

井上 均,田島 健、山中 将、上野 健治<br />

(高エネルギー加速器研究機構)<br />

The manufacture of seamless Cavity<br />

Hitoshi INOUE<br />

Tsuyoshi TAJIMA, Kenji UENO and Masashi YAMANAKA<br />

(<strong>KEK</strong>)<br />

Seamless fabrication of multi-cell TESLA like shape cavities by hydro-forming has been developed at <strong>KEK</strong>.<br />

It is to be expected, that this technology will only reduce the production costs, but also improve accelerating<br />

performance of the cavities.<br />

Key Words: ILC, Seamless multi-cell cavities, Hydro-forming<br />

1.はじめに<br />

国際リニアコライダー(ILC)用の 9 連超伝導空洞の製<br />

造方法は,Nb 板をプレス加工、トリミングした後に電<br />

子ビーム溶接(以後 EBW という)により組み立てる方<br />

法が確立されている。しかし機械加工や EBW による作<br />

業時間が長い事や工数が多いために生産性が高いとは<br />

言えない。空洞内面の EBW による溶接欠陥も考えられ<br />

課題も少なくない。特に赤道部は高電界が発生し電流<br />

の直角方向に溶接ビードが走っている事は空洞性能上、<br />

存在しないほうが望ましい。このような観点から、空<br />

洞のシームレス化が可能になれば幾つかの改善が図ら<br />

れ、コストダウンが期待できる。最終目標は液圧成型<br />

による一体 Nb 製、9 連超伝導空洞の製作であるが、当<br />

面の目標は Nb 材による 3 連空洞を作る事である。Nb<br />

材が非常に高価な為に、比較的に材料特性が似ている<br />

銅パイプも使って実験を行っている。<br />

2.ネッキング加工<br />

空洞のシームレス化についてはパイプ形状から始め<br />

た。写真 1 のような汎用旋盤を改造した装置で、パイ<br />

プ(外径 130mmX 肉厚 3.5mm)にくびれた形状(アイ<br />

リス部、外径 76mm)を加工できるように 2 軸の NC 装<br />

置が付いている。またパイプ中心軸に V 溝加工による<br />

軸方向に伸びて加工部分が肉薄にならないようにパイ<br />

プ両端に皿バネで圧力をかけて調整している。パイプ<br />

を回転(200rpm)させながら 2 つのローラで押し付け<br />

て変形させる。この方法は冷間加工で温度上昇も少な<br />

く Nb の材料劣化の問題もない。スピンニング加工(ヘ<br />

ラ絞り)と同じ要領で少しずつ変形させて所定の形に<br />

する。このネッキングマシンは最大 10 溝の加工が可能<br />

で 1 体の 9 連空洞が出来るようになっている。1 溝の加<br />

工に要する時間は約 15 分である。<br />

- 77 -<br />

写真1 ネッキングマシン<br />

写真2 Nb パイプをネッキング加工<br />

3.液圧成型<br />

パイプをネッキング後、アニール処理(Cu 500℃ x 2h、<br />

Nb 750℃ x 3h)を行う。Nb は高温での酸化性が強い材<br />

料なので真空炉で行う。熱処理されたパイプに分割で<br />

きる中間金型(外径 160mm、4 個)をセットする。金<br />

型はアルミ合金(ANP89)で製作した。パイプ内の圧<br />

力媒体に加圧(最大 25MPa)されるので金型の外側に<br />

は鉄製リングを嵌め込んで金型を拘束している。金型<br />

をセットした後、パイプ内部に油を充填し 10MPa 程度、<br />

加圧しながら径方向の膨らみを金型の隙間から確認し


写真3 銅パイプを中間成型<br />

ながら軸方向に油圧シリンダーで押し付ける。金型が<br />

密着した後、高圧ポンプに切り替えて 25MPa まで加圧<br />

してパイプが金型の全面に密着するようにする。外径<br />

160mm まで膨らまし、再度アニール処理して最終金型<br />

(外径 210mm)を用いて 2 段階で成形する。<br />

図1、2 段回による液圧成形法<br />

この方法は成形ベローズを作る方法と良く似ている。<br />

違うのはネッキングを行わないで、薄肉パイプ内に水<br />

を充填し、加圧しながら軸方向に縮めて径方向に膨ら<br />

ませる。軸方向に力を加えながら内圧をかけることで<br />

赤道部の肉厚の減少や、より大きい膨らみが得られる。<br />

写真 4 最終成形した後、中央部で切断。<br />

アイリス部(谷の部分)、赤道部(一番膨らんでいる)<br />

の減肉率は 32%、最大減肉率は 41%でアイリス部から<br />

20mm程度立ち上がった所が一番薄くなっていた。<br />

- 78 -<br />

銅の引張り試験結果<br />

試験片:無酸素銅(Anneal)試験速度:5mm/min<br />

引張り強さ:215.5MPa(Av)伸び率:62.6%(Av)<br />

硬度(Hv):40.7<br />

Nb の引張り試験結果<br />

左のグラフは Non Anneal 、右は Anneal 処理した。<br />

引張り強さ:170.46MPa(Av), 156.4MPa(Av)<br />

伸び率:45.2%(Av), 57.4%(Av)<br />

試験片は RRR200 の板材を使用した。<br />

試験結果から言えるのは Nb 材をアニール処理すること<br />

によって引張り強度は 10%減って、伸びは 12%増える。<br />

3.おわりに<br />

液圧成形法で銅パイプによる 3 連空洞は出来るよう<br />

になった。Nb パイプでは中間成形途中でバーストして<br />

いる。銅と比較して十分な伸びが得られてないのが原<br />

因の一つだと思われる。現在、液圧成型機をプログラ<br />

ム制御が出来るように改造している。これによって最<br />

適化、再現性を期待している。アイリス部(内面)は<br />

ネッキング加工時の肌荒れが空洞性能に悪影響が予想<br />

される。この除去が課題である。<br />

空洞製造技術の確立に向けさらに取り組んでいく。<br />

参考文献<br />

1) 斉藤健治“ニオブ・銅クラッド材を用いたシームレ<br />

ス超伝導高周波加速空洞の開発”文部科学省科学研<br />

究費補助金成果報告集 平成 14 年 7 月<br />

2) 藤野武夫“ニオブ・銅クラッドシームレス超伝導高<br />

周波加速空洞の研究”博士論文 平成 15 年 5 月<br />

3) 上野健治“超伝導空洞のシームレス化に関する装置<br />

開発”加速器学会 平成 18 年 8 月


科学技術分野における技術伝承について:<br />

新大学システムの提案――大学院 加速器工学(精密工学系)コースについて<br />

上野健治, 西谷隆義, 富江伸治, 三國 晃<br />

(高エネルギー加速器研究機構,CROSS)<br />

Technology Education on Science technique to young generation in Tsukuba<br />

1. 加速器科学から加速器工学へ<br />

実験物理学の世界において、その対象となる理論の検証目<br />

的で実験する場合、必要なことは事象を人工的に創り出し、<br />

正確に計測すること、自然界の現象を高精度に観測すること、<br />

あるいは、計測、観測した非常に多量のデータを大型コンピ<br />

ュータで処理することである。物理学の分野とはいえ、この<br />

実行部に必要な機器はまさに工学(機械、制御あるいは電気)<br />

系の仕事であり、筆者らはこの加速器科学の中に現象を具体<br />

化するために必要な領域、すなわち加速器機器工学(以後、<br />

加速器工学という)の領域があると考える。<br />

加速器の性能向上の推移を図1に示す。加速器の発展は1<br />

0年を節として、到達エネルギーが一桁ずつ性能向上されて<br />

きている。縦軸は対数であることに注意<br />

していただきたい。これらは、加速器科学に携わる関係者の<br />

方々の成果とそれを支えた加速器工学の発展の歴史でもある。<br />

比較する目的で全く分野の異なる歯車生産現場のサイクルタ<br />

イムの改善事例を図2に示す。図2は、図1と同様に横軸に<br />

時間をとり、縦軸にその時期の生産能率を特定の歯車に固定<br />

して生産時間でまとめたものである。<br />

これらの図から共通して言えることは、ニーズがあれば、<br />

それを実現する技術がどの分野においても必ず存在し、改善<br />

する方向で多くの関係者が努力してきたことが明らかである。<br />

さらに、これらの図を単に歴史として見るのではなく、これ<br />

を支えてきた技術の集積成果として扱うべきである。両図に<br />

共通していえることは、その分野のトップを走ることと拠点<br />

となることの意味が非常に重要であるということに他ならな<br />

い。<br />

2.つくばにおける新たな大学(院)システム案<br />

つくばにおける加速器科学に関する大学院は、高エネルギ<br />

ー加速器研究機構(<strong>KEK</strong>)内に総合研究大学院大学加速器<br />

科学専攻としてすでに確立し、歴史もある。科学・工学に関<br />

Kenji UENO, Takayoshi NISHITANI, Shinji TOMIE, Akira MIKUNI<br />

(<strong>KEK</strong>,CROSS)<br />

- 79 -<br />

する大学院も筑波大学を中心に確立している。これらはいず<br />

れも研究者あるいは、企業における高度技術管理者を育成す<br />

るしくみとしてその成果を挙げている。<br />

図 1 加速器の種類と到達エネルギーの進歩 1)<br />

図2 歯車加工技術の進展 2)<br />

筆者らは、この両者の教育システムにのらない現場の技術<br />

管理者育成のために、つくばにある研究機関のそれぞれの分<br />

野における実習教育主体の技術者教育の場を新たな大学院構


築として提案したい。その理由は、少子化傾向におけるわが<br />

国において、科学技術分野における技術伝承の必要性を強く<br />

訴えたいからである。<br />

この新大学システムの大きな特徴は、大学キャンパスを1<br />

箇所に集中させない、現状の各研究機関等の設備をそのまま<br />

流用することからいわゆる分散型を考えている。核となる大<br />

学本部をつくば市内に設置し、各研究機関等は、この本部と<br />

連携を取り交わす方式を想定している。図3に概念図を示す。<br />

教育現場となる各研究機関等は、大学(院)本部と連携方式<br />

で結ばれている 3)、4) 。<br />

図3 新しい大学システムの施設の概念図 3)<br />

3.新大学システムの提案<br />

3.1 デュアル・システムの採用 3)<br />

つくばにおける研究、教育の外的条件として、30 分走れば<br />

目的の研究施設へ到達できる地域性、各研究機関の高度な専<br />

門性、それぞれ最先端のテーマへの挑戦力、及び内部施設の<br />

学ぶ雰囲気などどれをとっても十分であり、非常に恵まれた<br />

環境である。そこでこの利便性、高度専門性を有効利用でき<br />

る大学院コース、システムについて西谷隆義レポート3) を参<br />

考にして改めて提案したい。<br />

高度な科学分野におけるものづくりを狙う工学的技術の修<br />

得には、現場教育が最重要であると思う。このため、現場で<br />

の教育をまず取り上げたいと考える。しかしながら、終日全<br />

てが現場教育だけではかつての徒弟制度になりながってしま<br />

い、教育指導に限界があると思われる。そのため、西谷レポ<br />

ートは、「デュアル・<br />

システムの採用、例えば、午前は座学、午後の時間帯<br />

の大半は工場、現場等での実習学習とする、または前期は座<br />

学中心で、後期は工場、現場中心コース」を提案している。<br />

座学は、共通の場で行い、もし基礎科目で共通科目であるな<br />

ら、多くの研究コースの学生を一同で講義が可能になる。こ<br />

の座学は、つくば市内の大学院本部(仮称)でおこない、実<br />

技は各専門の研究機関(現場)で進める。専門性の高い座学<br />

- 80 -<br />

は、各専門のいわゆる研究機関研究者 OB の指導も求める。<br />

この大学(院)は、研究者の育成が目的でなくまた、実技の<br />

専門家育成を目指すのではなく、実技の要点を理解させその<br />

中から高度技術を学ぶ、指導することに主眼をおくものとし<br />

たい。この理由は、将来現場を任されたときに、全くの素人<br />

で無いような経験を与えておく。また、座学だけでは教えき<br />

れない内容、知識を現場でなら安易に教授できることがある。<br />

この結果、現場に出ることにより、座学の時間が短時間にな<br />

りその分時間の有効活用、現場では、緊張感のある授業時間<br />

を経験できる。現場授業が増加すれば、いかにも知識に関す<br />

る勉強時間が、短いような印象を持つが、内容を事前にまと<br />

めておけば、教える側も時間的なロスは少ない。<br />

さらにつくば市の多くの高度研究機関のアドバンテージと<br />

して、指導者のうち一部は現場経験豊かな研究者・技術者O<br />

Bに参加してもらうこととする。この大学院は、知識の習得<br />

のみに拘らず、技術とそして現場の知恵の伝承を優先するこ<br />

とがその理由である。<br />

そのために、たとえば高度な大型研究装置などにおける現<br />

場実習の内容は、次の通りとする。<br />

① 完成された大型装置の運転、メンテナンスなどを学科の<br />

1科目とする。<br />

② このような事例を3ヶ月ごとに4コマ巡回できるように<br />

する。<br />

③ 3ヶ月間にその装置の根幹部の原理、設計思想、及び仕<br />

様について理解する。さらに改善の手法など研鑽する。<br />

3.2 高エネルギー加速器研究機構のコース(案)<br />

高エネルギー加速器研究機構でのコースの一つの事例とし<br />

て、この新大学が高エネルギー加速器研究機構との連携の場<br />

合には、精密工学系においては次のようなテーマが考えられ<br />

る。<br />

①医療用加速器に必須の超精密加工技術<br />

②加速器要素機器設計技術、製造技術<br />

③超伝導空洞の清浄度に関する製造技術<br />

である。<br />

加速器工学の中で、機械系の部分に限れば具体的には、加<br />

速器という装置設計・製造の分野となり、その中には、<br />

① 超精密加工、高精度加工<br />

② 加工部品の精密計測技術<br />

③ 拡散接合、ロー付け接合、異材質の接合、<br />

溶接技術<br />

④ 超真空技術、真空容器製造技術<br />

⑤ 超伝導(低温)技術<br />

⑥ 真空下の機械要素設計、高速回転技術<br />

⑦ 放射線対策、放射線下の機械要素開発<br />

⑧ 制御技術<br />

等が含まれた装置製造技術になる。これらの技術レベル、す


なわち要求仕様は、一般産業装置に比べ非常に高い。例えば、<br />

加速管用セルの場合、その面粗度は拡散接合工程のため 0.1<br />

μmから 0.05μm、であり、加速管装置内真空度は、加速粒<br />

子がその進行をさえぎられないために 10 -6 Pa~10-8Pa である。<br />

このような使用環境を維持するため、加速器装置の製造技術<br />

として、技術伝承するべき工学的対象(加速器工学)が存在<br />

している。これらの技術に強く関係する科目を座学と実習で<br />

指導、修得できる大学(院)コースを提案する。<br />

以上加速管を取り上げ主に精密工学系の課題について述べ<br />

たが、電気系(電源部、制御部等)についても同様に、要求<br />

レベルは高度であるが、ニーズがあればコースを起案するこ<br />

とは困難ではないと思う。<br />

4.超伝導空洞製造技術開発施設<br />

さらに、高エネルギー加速器研究機構内での具体的な実験<br />

装置開発施設として、新大学システムの一教育設備として有<br />

効利用可能と考える超伝導空洞製造施設について簡単に触れ<br />

る。この施設は機構内開発共用棟の中に建設したものである 5)、<br />

6) 。具体的には、19m×14m×高さ 5m(一部 3.5m)のクリ<br />

ーンルームを設備し、その中にプレス機、電子ビーム溶接機<br />

等 空洞製造に関係する設備を設置した。図 4 にプレス機、<br />

図5に電子ビーム溶接(EBW)機の外観図を示す。<br />

空洞製造技術は、電子ビーム溶接(EBW)技術が中心的<br />

技術であるが、その前後にいくつかの工程(技術)を必要と<br />

しており、一箇所で空洞製造するというコンセプト実現のた<br />

めに、必要な工程(マシン、装置)を計画し、設備している。<br />

素材の持ち込み後、空洞の機械的な完成まではこの施設で行<br />

うことができる(図6参照)ので、空洞製造技術開発のモデ<br />

ルルームとしても意義があると考える。<br />

この施設は、研究開発のために将来どのようなことでもで<br />

きる限り実証可能なように設備を準備しており、教育的目的<br />

からも十分その機能が生かされると判断される。<br />

図4 サーボプレス機<br />

- 81 -<br />

図5 電子ビーム溶接機<br />

図6 電子ビーム作業終了直後<br />

5.科学技術の発展のための共通課題<br />

最先端科学を維持発展する実験装置の場合には、そのマー<br />

ケットが一般の工学分野対象に比べ小さい。したがって、科<br />

学技術を支える高度な技術(者)の必要性を、図7に示すよ<br />

うにエンジニアリングを科学者と工学者が互いに共存共栄し<br />

ながら支えていく関係がどうしても必要になる。マーケット<br />

が小さいために特殊技術として扱われることもしばしばある<br />

が、基礎(基本)は一般的な工学の学問及び専門的な技術が<br />

扱えれば十分であると信じている。この大学院においては、<br />

このエンジニアリングの範囲を、ある専門的な分野に限り取<br />

り扱うことになると考える。<br />

エンジニアリング (案)<br />

科学技術<br />

科学者,<br />

仕様、図面情報 工学者、<br />

科学に関係する研究者<br />

エンジニア(設計工学者)<br />

共存共栄<br />

仕様等の情報に対して、その段階において、具体的なも<br />

のを造るために工学的立場から検討し、最適な条件を見<br />

出して、創造過程を書面化する。<br />

書面に基づいて、製作、組立、運転、評価を工学的に行な<br />

う。<br />

エンジニアリング<br />

次世代のために工学的研究を行なう。<br />

図7 サイエンスとエンジニアリング


6.おわりに<br />

科学技術分野における技術伝承に関する施策として、<br />

加速器工学の大学(院:精密工学系)コースについて、デュ<br />

アル・システムを提案した。また、<strong>KEK</strong>内には、すでにこ<br />

のシステムに参加可能な設備が多いが、新たに今年度完成し<br />

た空洞製造技術開発施設の例を挙げて、その具体性について<br />

紹介した。本新大学(院)システムまだまだ検討すべき課題<br />

はあるが、各研究機関においても同じような考え方が適用で<br />

きるのではないかと思う。このような新たな枠組みつくりが、<br />

近年及び将来の少子化対策、若者の科学技術離れ、製造業離<br />

れへの改善につながればと期待している。<br />

- 82 -<br />

参考文献<br />

(1)高エネルギー加速器研究機構 要覧<br />

(2)上野健治「CNC ギヤマニファクチャリング」<br />

(3)「新しい大学システム」の構築に関する研究会 「新しい大学シ<br />

ステム」に関する調査報告書 平成23年3月<br />

(4)西谷隆義「つくば専門職大学院」の設立について<br />

(5)上野健治、他「空洞製造技術開発施設(CFF)の建設」<br />

平成22年8月 第7回に本加速器学会年会 姫路市<br />

(6)上野健治、他「空洞製造技術開発施設(CFF)の建設(Ⅱ)」<br />

平成23年8月 第8回に本加速器学会年会 つくば市


Performance Evaluation of <strong>KEK</strong> ERL Main Linac Tuner<br />

Kazuhiro Enami A) , Takaaki Furuya A) , Hiroshi Sakai A) , Masato Sato A) , Kenji Shinoe A) ,<br />

Kensei Umemori A) , Nobuhiko Sato A) ,Masaru Sawamura B) , Enrico Cenni C)<br />

A) High Energy Accelerator Research Organization<br />

1-1, Oho, Tsukuba, Ibaraki, 305-0801<br />

B) Japan Atomic Energy Agency,Ibaraki<br />

Tokai, Naka, Ibaraki 319-1195, Japan,<br />

C) Sokendai<br />

Shonan Village, Hayama, Kanagawa 240-0193, Japan<br />

Abstract<br />

We evaluated a Slide jack tuner adopted as compact ERL Main Linac tuner. The Frequency of a cavity is disturbed<br />

by its Lorenz detuning. <strong>KEK</strong> tuner compensates the frequency by extending a cavity. Tuning is driven by two system,<br />

piezo and slide-jack system. Slide-jack mechanism with long stroke drives coarsely piezo adjust precisely and fast. We<br />

evaluated performance of mechanical drive and piezo drive to confirm its effectiveness.<br />

1.はじめに<br />

現在,ERL(3GeV クラス)の要素技術・測定技術<br />

を獲得するために, compact ERL(35~200MeV)の<br />

開発が進められている(Fig.1).その一環として,<br />

我々は 1.3GHz 超伝導空洞からなる compact ERL<br />

Main Linac のクライオモジュール製作に向けて<br />

R&D を進めている(Fig.2),本報ではその構成部<br />

品の一つであるチューナの基本的特性を測定する.<br />

Figure 1 compact ERL<br />

Figure 2 CryoModule<br />

ERL Main Linac 用チューナの特性試験<br />

- 83 -<br />

2.<strong>KEK</strong> チューナの構成<br />

compact ERL Main Linac クライオモジュールでは,<br />

超伝導加速空洞のチューナとしてスライドジャッキ<br />

方式を採用している.これは,ピエゾ素子による微<br />

調整とスライドジャッキのメカ駆動による粗調整を<br />

おこない,キャビティの全長を弾性変形により変化<br />

させてチューニングをおこなうシステムである.高<br />

剛性という利点を持っており,STF における運用実<br />

績がある [1] (Fig.3).<br />

compact ERL Main Linac 用チューナの周波数は,<br />

その全長の変動に対し 300kHz/mm の割合で変動す<br />

る.ピエゾ駆動は,ストローク 80um.冷却等で<br />

10%の性能となり,ピエゾ素子で片側を駆動するた<br />

め,チューナ駆動量は 50%となり,4um のストロー<br />

クを見込んでいる.そこで,メカ駆動によりこの<br />

4um 以内に粗動調整する必要がある.<br />

Figure3 <strong>KEK</strong> Tuner at STF


3.特性試験の内容<br />

ピエゾ駆動,メカ駆動共に所定の位置に位置決め<br />

可能であることが重要である.これを保証するため<br />

両駆動システム共にストローク,ヒステリシスの測<br />

定をおこなう.加えて,ピエゾ駆動は追従性が求め<br />

られるため,高周波での特性を測定する.メカ駆動<br />

では,モータを用いてシャフトを回転させて制御を<br />

おこなうため,シャフトにかかるトルクを測定する.<br />

本実験では,特性試験用サンプルを用意し,<br />

チューナ単体での実験をおこなった(Fig.4).実験<br />

ではビーム軸が鉛直方向になる配置にしている.実<br />

機ではキャピティが引っ張られることでチューナに<br />

押付力が生じる.実験では皿ばねを用いてこの<br />

チューニング時の押付力を再現した.ばね定数は<br />

キャビティの機械特性に合わせて約 300kgf/mm と<br />

なっている.皿ばねの押付力は,ピエゾ上部に設置<br />

したロードセルを用いて測定した.押付力は,2 対<br />

のスライドジャッキ機構で受けており,ロードセル<br />

はこのうち一方の荷重を測定している.このため,<br />

ばね押付力の約半分がロードセル,ピエゾにかかる<br />

荷重となる.チューナを引き伸ばす方向.Fig.4 で<br />

は上方を正方向とした.正方向に変位するほど板バ<br />

ネの押付力による荷重が大きくなることになる.<br />

以後の章の各実験では,Fig.5 に示す各位置に変<br />

位計を設置し,チューナ変位量を測定した.ピエゾ<br />

素子上に設置したロードセルで荷重を測定している.<br />

変位計は,測定レンジに応じて,ダイヤルゲージ<br />

(最小メモリ 0.01mm),静電容量計(日本 ADE 社<br />

製 MicroSense 3401HR:測定レンジ ±250um,測定<br />

分解能 0.025um 及び 3401R02:測定レンジ ±250m,<br />

測定分解能 0.012um)を使用した.また,荷重測定<br />

には(株)共和電業製 LCR-S-10KNSB8A2:定格荷<br />

重 10kN)を使用した(Fig.6).<br />

Figure4 <strong>KEK</strong> Tuner at Experimental Setup<br />

E<br />

C<br />

A D B<br />

Disk<br />

Spring<br />

Figure 5 Measuring Point<br />

Piezo<br />

Holder<br />

- 84 -<br />

Dial Gauge Capacitive Sencer<br />

load cell<br />

Figure 6 measurement hardware<br />

4.ピエゾ微調整システムの測定<br />

ピエゾ微動システムの特性試験の概要を Fig.7 に<br />

示す.ピエゾ駆動では,片側駆動のためチューナと<br />

しての変位量になる中央部変位はピエゾ変位の約半<br />

分になる.このため 2 ヶ所での測定をおこない,ピ<br />

エゾによる微調整システムを評価する.<br />

Slide<br />

Jack<br />

Load by Disk Spring<br />

Displacement Gauge<br />

(Capacitive Sensor)<br />

Load Cell<br />

Piezo<br />

Module<br />

Figure 7 Piezo Drive System<br />

8<br />

Piezo<br />

Module<br />

Slide<br />

Jack<br />

3.1 ストローク測定<br />

定格の 1000V まで印加し,そのストロークを調<br />

べた.チューナは,キャビティを最大限伸ばした場<br />

合に,そのばね定数により 1000kgf,ロードセル上<br />

で 500kgf の荷重がかかる.これによるストローク<br />

の減少を測定した.スライドジャッキで粗動し,各<br />

点でピエゾ振動量を測定した.測定点は中央付近<br />

(Fig.5 点 E)とピエゾ付近の(Fig.5 点 D)2 ヶ所<br />

である.結果を Fig.8 に示す.縦軸は振幅,横軸は<br />

ロードセルにかかっている荷重を示す.ピエゾ付近<br />

の変位は荷重が大きくなるに従い減少しているが,<br />

中央部ではほとんど変化していない.このことから,<br />

キャビティによる荷重は,チューナのピエゾによる<br />

変位に殆ど影響しないことがわかった.


Amplitude (um)<br />

90<br />

80<br />

70<br />

60<br />

50<br />

40<br />

30<br />

20<br />

10<br />

Piezo module<br />

Center of the tuner<br />

0<br />

0 50 100 150 200 250<br />

Load (KgF)<br />

300 350 400 450 500<br />

3.2 ヒステリシス測定<br />

Figure 8 Piezo Amplitude<br />

ピエゾ駆動が”がた”無しにスムーズに動く事を確<br />

認するため,ヒステリシス測定をおこなった.ピエ<br />

ゾをフルストローク,0.1Hz で振動させ,ピエゾ上<br />

部(Fig.5 点 D),チューナ中央部(Fig.5 点 E)で<br />

静電容量センサを用いて変位量を測定した.<br />

Fig.9 に実験結果を示す.赤線がピエゾ上部,緑線<br />

がチューナ中央部のデータである.ヒステリシスに<br />

より,中央部で最大 10um 程度の差が生じている.<br />

動きは十分スムーズであり,周波数をモニタして問<br />

題なくチューニングが可能である.<br />

Displacement (um)<br />

Piezo module<br />

Center of the tuner<br />

50<br />

40<br />

30<br />

20<br />

10<br />

0<br />

‐100 100 300 500 700 900 1100<br />

‐10<br />

‐20<br />

‐30<br />

‐40<br />

Slide<br />

Jack<br />

‐50<br />

Piezo Voltage (V)<br />

Displacement Gauge<br />

(Capacitive Sensor)<br />

0.1Hz,500±500V<br />

Displacement (um)<br />

50<br />

40<br />

Piezo module<br />

Center of the tuner<br />

30<br />

20<br />

10<br />

0<br />

‐100 100 300 500 700 900 1100<br />

‐10<br />

Piezo<br />

Module<br />

‐20<br />

‐30<br />

‐40<br />

‐50<br />

Piezo Voltage (V)<br />

Load by Disk<br />

8kgf 500kgf<br />

Spring<br />

Figure9 Piezo Hysteresis<br />

3.3 周波数特性<br />

ピエゾ素子の高周波駆動時の特性を調べる.<br />

チューナから取り外したピエゾ素子単体に 200±<br />

100V(16um 相当)のサイン波を印加し,振幅の変<br />

化を静電容量センサで測定した.0.1Hz 時の値を 1<br />

として正規化したグラフを Fig.10 に示す.振幅(青<br />

線)は 50%まで低下しているが,これはピエゾドラ<br />

イバの出力(赤線)が高周波になるに従い落ちてい<br />

ることに起因する.ドライバの出力電圧の低下を考<br />

慮し,ピエゾ振幅をドライバ出力で割った値(緑<br />

線)では,ピエゾ素子の出力低下は 200Hz で 10%<br />

にとどまっており,ピエゾドライバを改善すること<br />

により 200Hz でも 90%の振幅を保つことが期待で<br />

きる.<br />

- 85 -<br />

Normalized Value<br />

1.2<br />

1<br />

0.8<br />

0.6<br />

0.4<br />

0.2<br />

0<br />

Piezo Voltage (Normalized)<br />

Microsense Voltage<br />

(Normalized)<br />

Mixrosense Voltage / Piezo<br />

Voltage (Normalized)<br />

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200<br />

Frequency (mHz)<br />

Figure 10 Amplitude Vs Load<br />

4.スライドジャッキ粗動システムの構成<br />

スライドジャッキ粗動システムの特性試験の概要<br />

を Fig.11 に示す.チューナ上面に変位センサを取り<br />

付け,シャフトの回転を与えて測定した.微小変位<br />

測定には静電容量センサ,100um 以上の変位測定に<br />

はダイヤルゲージを用いた.<br />

Displacement Gauge<br />

(Capacitive Sensor<br />

or Dial Gauge)<br />

Load by Disk Spring<br />

Load Cell<br />

Piezo<br />

Module<br />

Shaft<br />

Figure 11 Slide-Jack Mechanism<br />

7<br />

Slide<br />

Jack<br />

4.1 ストローク測定<br />

本装置に要求される約 3mm のストロークが,荷<br />

重等に影響されず達成できるかどうかを確かめる実<br />

験をおこなった.<br />

Fig.5 の A,B,C3 点での変位量をダイヤルゲージを<br />

用いて測定した.また,この時ピエゾに掛かる荷重<br />

をロードセルを用いて測定した.横軸はシャフトの<br />

回転量である.また,移動範囲両端の回転は挙動が<br />

不安定になるため,1 回転分除いて測定した.<br />

Fig.12 に測定結果を示す.変位量はどの測定でも<br />

2500um 以上あり,荷重による影響は 80um 以下と<br />

十分小さかった.これは,要求を満たしている.


Displacement (um)<br />

3000<br />

2500<br />

2000<br />

1500<br />

1000<br />

500<br />

0<br />

0<br />

0 10 20 30 40 50 60<br />

‐500<br />

A (With Load) B (with Load)<br />

C(with Load) A (No Load)<br />

B (No Load) C(No Load)<br />

Load (With Load) Load (No Load)<br />

Shaft Rotation (Revolution)<br />

Figure 12 Amplitude Vs Load<br />

4.2 バックラッシュ測定<br />

600<br />

500<br />

400<br />

300<br />

200<br />

100<br />

‐100<br />

メカ駆動ではかさ歯車を使用しており,必然的に<br />

バックラッシュが生じる.この影響を調べる.シャ<br />

フトにモータで回転を与え,その時の変位を測定し<br />

た. 4.1 節の実験結果から, 50um/1 回転とし,こ<br />

れを指示値として 5um に対応する領域で往復させ<br />

た.変位は Fig.5 点 A,B の,ピエゾを挟んだ 2 点<br />

を静電容量センサで測定し,その平均値をピエゾに<br />

よる変位量とした.Fig.13 に測定結果を示す.<br />

負荷が大きくなるに従い,不感・反転領域が大き<br />

くなっているが,動き出してからの移動量は一定と<br />

なっている.指示と反対側に変位する反転量は最大<br />

で 0.4um となるが,その後は直線的に変位しており,<br />

最初の反転量を考慮して制御を行えば 0.1um 程度の<br />

制御は十分可能である.<br />

Displacement (um)<br />

5<br />

4<br />

3<br />

2<br />

1<br />

0<br />

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5<br />

‐1<br />

Displacement of the center<br />

9kgf 217kgf 405kgf<br />

Input (um)<br />

Figure 13 Mechanical Hysteresis<br />

4.3 トルク測定<br />

シャフトにかかるトルクの測定をおこなった.<br />

シャフトをトルクスレンチで回転させ,回転時のト<br />

ルクを測定した.実験結果を Fig.14 に示す.トルク<br />

は荷重に逆らう場合に最大 3.8kgf,従う場合に最大<br />

2.7kgf となっている.最大でも 4N・m 以下となっ<br />

ており,これを元にモータの選定を行った.このト<br />

ルクは,再組立により減少することがあるため,今<br />

後トルクの主原因を調査し,組み立て手法を確立し<br />

たい.<br />

Load (fgf)<br />

- 86 -<br />

Torque (N・m)<br />

4<br />

3.5<br />

3<br />

2.5<br />

2<br />

1.5<br />

1<br />

0.5<br />

Up (N・m)<br />

Down (N・m)<br />

0<br />

0 100 200 300<br />

Load (kgf)<br />

400 500 600<br />

Figure 14 Shaft Torque<br />

5. まとめ<br />

チューナ特性試験の結果を Table 1,Table 2 に示<br />

す.これらをの結果を元に,compact ERL に適応し<br />

た装置の改善を現在おこなっている.<br />

Table 1 Evaluation Result of Piezo Drive<br />

項目 値 考察<br />

ストローク 80um 問題なし<br />

共振周波数 >200Hz 問題なし<br />

高周波での出力 90%@200Hz 問題なし<br />

バックラッシュ なし 問題なし<br />

ヒステリシス 20um (素子) 周波数をモニタしての制<br />

10um (中央) 御では問題なし<br />

放電 湿度 70% 改良した試作 0 号機では<br />

電圧 700V 湿度 70%で放電なし.<br />

負荷によるスト 90% @500kgf 素子では減少するが,中<br />

ローク減少<br />

央部は減少しない<br />

Table 2 Evaluation Result of Mechanical Drive<br />

項目 値 考察<br />

変位量 2500um 2500um は線形に利用で<br />

きる範囲.問題なし<br />

分解能 7°/1um 1 回転 72 分割問題なし<br />

傾き 0.15mm チューナの反対端に換算<br />

しての値.問題なし<br />

バックラッシ 中央 0.4um 問題なし<br />

ヒステリシス 10um 周波数をモニタしての制<br />

御では問題なし<br />

トルク 3.8Nm 取り付け・繰り返しにより<br />

変化.今後の課題<br />

シャフト φ8mm 剛性不足,改良済<br />

6. 結言<br />

<strong>KEK</strong> スライドジャッキチューナの 2 つの駆動機<br />

構の特性試験をおこない,基本的な要求仕様を満た<br />

している事を確認し,組立工程やシャフト径等の改<br />

善事項を洗い出し,改良モデルを現在作成中である.<br />

今後,低温実験や,安定したパフォーマンスを得るた<br />

めの組立手順の確立等の作業を予定している.<br />

参考文献<br />

[1] Y. Yamamoto et al. : Experimental Result of Lorentz<br />

Detuning in STF Ppase-1 at <strong>KEK</strong>-STF, SRF 2009.


- 87 -


CMB()<br />

CMBQuietPOLARBEARLiteBIRD<br />

POLARBEARPBPB-UCPB-<strong>KEK</strong><br />

<br />

LiteBIRD20089WGJAXA<br />

POLARBEAR-II CMBB POLARBEAR-II <br />

<br />

<br />

B-mode B-mode<br />

<br />

<br />

<br />

Pulse Tube Cooler (PT415)<br />

300k 4k<br />

Sorpon Cooler<br />

4k 0.4k<br />

+ ADR Cooler<br />

0.4k 0.02k<br />

13<br />

<br />

-<br />

<br />

3-<br />

<br />

<br />

<br />

PB-<br />

<br />

<br />

<br />

Univ. of California at Berkeley , Univ. of Colorado , Univ. of California at San Diego<br />

, Lawrence Berkeley Naonal Laboratory<br />

Focal Plane<br />

()<br />

Opcs Tube<br />

<br />

Focal Plane<br />

<br />

50k4kFocal PlaneOpcs Tube<br />

<br />

- 88 -<br />

<br />

+<br />

<br />

-/3<br />

<br />

<br />

<br />

-<br />

5,000m


Super <strong>KEK</strong>B 用 超伝導磁石のエンドスペーサの製作について<br />

東 憲男,大内 徳人<br />

(高エネルギー加速器研究機構)<br />

Manufacturing the end spacers of the superconducting quadrupole magnet<br />

for the Super<strong>KEK</strong>B IR<br />

Norio HIGASHI and Norihito Ohuchi<br />

(<strong>KEK</strong>)<br />

For construction of the Super <strong>KEK</strong>B, <strong>KEK</strong> is developing the superconducting quadrupole magnets for the beam<br />

interaction region. In the interaction region, eight quadrupoles will be installed in two cryostats and the electron<br />

and positron beams will be squeezed to 50 nm in size at the interaction point. In this report, we will describe the<br />

production of the end spacers for the QC1E prototype magnet as the R&D of these eight magnets.<br />

Key Words: Super <strong>KEK</strong>B, Superconducting quadrupole magnets, End spacers, IR<br />

1.はじめに<br />

現在、高エネルギー加速器研究機構(<strong>KEK</strong>)では、<br />

<strong>KEK</strong>B のアップグレードに向けて、Super <strong>KEK</strong>B 用の超<br />

伝導電磁石の開発を行っている。<br />

本報告では、ビーム衝突点直近に設置される超伝導 4<br />

極電磁石 8 台の内、QC1E と呼ばれる磁石用のエンドス<br />

ペーサ製作の現状について報告する。<br />

す。<br />

図 1 に、Super <strong>KEK</strong>B 用超伝導電磁石の基本配置を示<br />

図1 Super <strong>KEK</strong>B用電磁石の基本配置図<br />

(筑波実験室)<br />

衝突点<br />

2012/03/23 図 1 東の Super <strong>KEK</strong>B 用超伝導電磁石の基本配置<br />

2.各エンドスペーサの製作<br />

2.1 QC1RP 用 エンドスペーサ<br />

外注した 4 極コイルエンドスペーサと昨年度に製作<br />

した小型の捲き線機 1) を使用して、コイル内径 φ44mm<br />

全長 340mm のコイル捲き線成型が完了した。図 2 に、<br />

4 極分のコイル一式 を示す。<br />

QC1RP 用エンドスペーサの製作部品数量<br />

13 個(1 極分)x 4 極分 合計 52 個<br />

2.2 QC1RP 試捲き用 エンドスペーサ<br />

2011年1月時点の検討案<br />

衝突点を中心に左右に4台ずつの電磁石がクライオスタット内に配置される<br />

プロトタイプの QC1E 用エンドスペーサを製作する<br />

2<br />

- 89 -<br />

前に、2 層捲きの基本構造のスプライス部形状の加工方<br />

図 2 コイル捲き線完了(4 極分)<br />

法等の確認と試捲き用として試作を行った。図 3 に示<br />

す 3D-CAD/CAM ソフト(CATIA V5 R20)のモデル図の<br />

ように、1 層目コイルから 2 層目コイルへの超伝導線材<br />

の渡り部(斜面)をスプライス部と呼んでいる。<br />

喰い込み箇所<br />

1 層目用<br />

図 3 CATIA V5 R20 工具軌跡表示画面<br />

CAM 側で工具軌跡の APT データによる確認を行い、<br />

ポスト変換処理した NC データを使い、実際にマシニン<br />

グセンター上で動かしてみると、図 3 中の写真に示す


ように、ワーク側に工具のエンドミルが喰込む現象が<br />

見られた。<br />

この喰い込み現象は、NC データのポスト変換処理ソ<br />

フトの「LINTOL ON」オプションを有効にし、許容量<br />

を 0.001mm に設定する事に因って、改善する事が可能<br />

となった。<br />

図 4 に試作した QC1RP エンドスペーサを示す。<br />

図 4 QC1RP 試捲き用 エンドスペーサ<br />

2.3 QC1E 用 R&D エンドスペーサ<br />

コイル内径 φ66mm 全長 340mm の QC1E コイル捲き<br />

線図を図 4 に示す。<br />

QC1E 用エンドスペーサの製作日程(案)<br />

一式の部品数量合計: 88 個<br />

1 st . Return : 16 個 (一部製作完了)<br />

2 nd . Return : 16 個 (現在、製作中)<br />

1 st . Lead : 28 個 (今後、製作予定<br />

2 nd . Lead : 28 個 ( 同上 )<br />

これら各部品の加工精度としては、 0.02 mm 以内を<br />

目標としているが、機上測定では 0.02 ~ 0.05mm 以内<br />

の測定結果となった。今後は目標の加工精度を達成す<br />

る為に、更に NC データ修正や加工手順(抑え治具)等<br />

の検討が必要と思われる。<br />

1 層目用<br />

2 層目用<br />

図 4 中に示すように、最小厚さが 0.36(0.298)mm<br />

となるような薄肉形状部品が多い設計となっている。<br />

これらの部品を目標とする加工精度で製作する為に、<br />

抑え治具やスペーサ等の多く治具が必要となっている。<br />

3.QC1E 用 R&D エンドスペーサの製作例<br />

QC1E 用 1st.Layer Return 側のエンドスペーサの作製<br />

の詳細な内容については、発表ポスターに記載する。<br />

QC1E 用に試作したエンドスペーサを図 5 に示す。<br />

- 90 -<br />

0.36mm<br />

0.298mm<br />

m<br />

図 4 QC1E コイル捲き線図<br />

図 5 QC1E 用に試作したエンドスペーサ<br />

4.まとめ<br />

Super <strong>KEK</strong>B 用 R&D エンドスペーサの製作を行う為<br />

に、同時 5 軸( 4 軸)制御マシニングセンターを用いた。<br />

加工データや加工治具等を改善する事で目標とする<br />

加工精度に近づいてきた。<br />

今後は、更に機上測定の精度向上や測定時間の短縮<br />

検討および製作精度の改善を行う予定である。また、<br />

機上測定の結果とポータブル 3 次元測定機等で測定す<br />

る寸法測定値とを比較する案も検討している。具体的<br />

には、エンドスペーサ形状を CAD で作成した 3D モデ<br />

ルと 3 次元座標の測定結果から作成する 3D モデルとの<br />

形状比較の方法を検討していく予定である。<br />

参考文献<br />

1) 東憲男 他 「Super <strong>KEK</strong>B 用超伝導電磁石の捲き<br />

線治具の製作」 平成22年4月8日,9日 第<br />

12回高エネ研メカ・ワークショップ,第3回先<br />

端加速器・機械工学・超伝導低温技術研究会 於<br />

<strong>KEK</strong>

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