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セラーズの所与の神話批判は どの程度成功しているのか

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2014-06-28<br />

所 与 の 神 話<br />

セラーズの 所 与 の 神 話 批 判 は<br />

どの 程 度 成 功 しているのか?<br />

笠 木 雅 史<br />

学 振 特 別 研 究 員 PD( 京 都 大 学 )<br />

第 73 回 日 本 哲 学 会<br />

2014 年 6 月 29 日<br />

所 与 の 神 話 がとる 形 式 の 一 つは、 以 下 の 様 な<br />

個 別 的 事 実 の 層 が 存 在 する、また 実 際 には 存<br />

在 しなければならないという 考 え 方 である:(a) 各<br />

事 実 は 成 立 していると 非 推 論 的 に 知 られうるだ<br />

けでなく、 個 別 的 な 事 実 や 一 般 的 な 真 理 に 関 す<br />

るいかなる 他 の 知 識 も 前 提 にしない。(b)…この<br />

層 に 属 する 事 実 は、 個 別 的 であれ 一 般 的 であ<br />

れ、 世 界 についてのあらゆる 主 張 の 究 極 的 な 法<br />

廷 を 構 成 する(EPM §32)<br />

1<br />

2<br />

所 与 の 神 話 批 判<br />

所 与 の 神 話 批 判<br />

1. 所 与 の 学 説 とは 以 下 の 考 え 方 である:pといういかなる<br />

経 験 的 知 識 も、pに 関 して 認 識 的 に 関 与 する、(g、h、iな<br />

どの) 基 礎 的 で、 認 識 的 に 独 立 した 知 識 を 必 要 とする<br />

(あるいは、それ 自 体 がそうした 知 識 である)<br />

2. 認 識 的 関 与 性 ( 認 識 的 支 持 の 関 係 )は、 形 式 的 であれ<br />

実 質 的 であれ、 常 に 推 論 的 支 持 である<br />

3. 推 論 的 関 係 は、 常 に 命 題 内 容 を 持 ったものの 間 で 成 立<br />

する<br />

4. それ 故 、( 感 覚 与 件 のような) 非 命 題 的 なものは、 認 識<br />

的 関 与 性 を 持 たず、 所 与 として 機 能 しえない<br />

3<br />

5. 推 論 的 に 獲 得 され、かつ 命 題 内 容 を 持 ついかなる 心 的<br />

状 態 も、 認 識 的 に 独 立 ではない<br />

6. 非 推 論 的 に 獲 得 され、かつ 命 題 内 容 を 持 つ 心 的 状 態 の<br />

複 数 の 候 補 の 検 討 によって、それらの 認 識 的 身 分 は、<br />

個 物 と 一 般 的 経 験 的 真 理 に 関 する 他 の 経 験 的 知 識 が<br />

認 識 主 体 によって 所 有 されることを 前 提 にする<br />

7. 認 識 主 体 による 他 の 経 験 的 知 識 の 所 有 を 前 提 にする<br />

経 験 的 知 識 は、 認 識 的 に 独 立 ではない<br />

8. あらゆる 経 験 的 知 識 は、 推 論 的 か 非 推 論 的 かのいずれ<br />

かである<br />

9. それ 故 、いかなる 経 験 的 知 識 も、 所 与 の 機 能 を 果 たし<br />

えない (DeVries 2004: 118)<br />

4<br />

1


2014-06-28<br />

所 与 の 神 話 批 判<br />

ه<br />

この 論 証 は 決 定 的 でも、 異 論 の 余 地 がないわけでもない。 (2)、(3)、(5)、(6)、(7)の 全 ての 実 質 的 前 提 は 疑 わしい。<br />

ه<br />

本 稿 では、(5)、(6)を 検 討 し、 批 判 する。 5. 非 推 論 的 に 獲 得 され、かつ 命 題 内 容 を 持 つ 心 的 状 態 の<br />

複 数 の 候 補 の 検 討 によって、それらの 認 識 的 身 分 は、<br />

個 物 と 一 般 的 経 験 的 真 理 に 関 する 他 の 経 験 的 知 識 が<br />

認 識 主 体 によって 所 有 されることを 前 提 にする<br />

6. 認 識 主 体 による 他 の 経 験 的 知 識 の 所 有 を 前 提 にする<br />

経 験 的 知 識 は、 認 識 的 に 独 立 ではない<br />

ه<br />

(5)から 結 論 へのステップは 一 般 化 を 必 要 とする。また、 「 前 提 」、「 認 識 論 的 身 分 」に 複 数 の 解 釈 が 可 能 。<br />

所 与 の 神 話 批 判<br />

ه<br />

(5)、(6)は、 所 与 の 神 話 批 判 の 一 部 だが、Sellarsの 積 極 的 な 認 識 論 的 立 場 から 導 出 される<br />

非 推 論 的 に 獲 得 された 知 識 ( 正 当 化 された 信 念 )であっても、<br />

その 知 識 ( 正 当 化 された 信 念 )としての 認 識 的 身 分 は、 他 の<br />

命 題 の 知 識 ( 正 当 化 )を 前 提 とする。なぜなら、この 認 識 的<br />

身 分 は 後 者 の 命 題 の 推 論 的 支 持 によって 構 成 されるからで<br />

ある<br />

ه<br />

本 発 表 では、(a)この 立 場 に 詳 細 な 解 釈 的 検 討 を 加 え、 (b)この 立 場 がSellarsの 他 の 見 解 と 不 整 合 であるか、 認<br />

識 論 的 問 題 があると 論 じる<br />

5<br />

6<br />

言 語 的 行 動 主 義<br />

ある 出 来 事 、 状 態 を 知 るという 出 来 事 、 知 っているという 状<br />

態 として 特 徴 づける 際 に、 我 々はその 出 来 事 、 状 態 の 経 験<br />

的 記 述 を 与 えているのではない。 我 々はそれを 理 由 の 論 理<br />

空 間 、 自 分 が 言 うことを 正 当 化 し、 正 当 化 できることの 論 理<br />

空 間 に 置 き 入 れているのである (EPM §36)<br />

Sellarsの 知 識 ( 正 当 化 )に 関 する 見 解<br />

[ 言 語 的 行 動 主 義 ]モデルによれば、「pと 考 えること」は、そ<br />

れが「pという 思 考 が 自 分 に 起 こる」を 意 味 する 限 りで、「p」と<br />

言 うという 一 次 的 意 味 を 持 っており、「p」と 言 うことへの 短 期<br />

間 の 直 前 傾 向 性 を 表 す 派 生 的 な 意 味 を 持 っている(SK(II)<br />

§10)<br />

ه<br />

この 論 理 空 間 は、それがなんであれ 信 念 ではなく、 主 張 に 関 わる<br />

ه<br />

また、 正 当 化 することと、 正 当 化 できることも 異 なる ه<br />

Sellarsの 言 語 的 行 動 主 義 が 前 提 になっている。 ه<br />

観 察 報 告 は、 外 的 刺 激 によって 推 論 という 内 的 プロセス を 経 ることなく 引 き 起 こされる 言 語 反 応 であり、そうした 反<br />

応 への 短 期 間 の 直 前 傾 向 性 が、 観 察 的 ( 知 覚 的 ) 信 念<br />

7<br />

8<br />

2


2014-06-28<br />

Sellarsの 知 識 ( 正 当 化 )に 関 する 見 解<br />

Sellarsの 知 識 ( 正 当 化 )に 関 する 見 解<br />

ه<br />

正 当 化 の 言 語 行 動 主 義 モデル: 命 題 pがSに 対 して 正 当 化 されるのは、もしSがpという 信 念 ( 主 張 への 短 期 的 直<br />

前 傾 向 性 )を 持 っているならば、(a)pという 信 念 の 表 現 で<br />

ある 主 張 にSが 理 由 を 与 えて 正 当 化 するか、(b) 正 当 化 す<br />

る 短 期 的 な 直 前 傾 向 性 を 持 っているときであり、そのとき<br />

に 限 る<br />

ه<br />

観 察 報 告 ( 観 察 的 信 念 )に 対 するこうした 傾 向 性 を、 言 語 学 習 によって 身 に 付 ける。<br />

ه<br />

観 察 報 告 の 内 化 としての 観 察 的 信 念 の 正 当 化 は、 経 験 に 対 する 気 付 きに 基 づき 観 察 報 告 を 意 識 的 に 形 成 する<br />

こと( 規 則 順 守 )によって 構 成 されるのではない⇒ 非 概 念<br />

経 験 の 言 語 的 認 識 を 要 請 する 所 与 の 神 話 の 一 形 式 。<br />

9<br />

観 察 報 告 の 内 化 としての 観 察 的 信 念 の 正 当 化 ( 認 識 的 権 威 )につい<br />

ても、Sellarsは 推 論 的 正 当 化 であると 見 なす。<br />

… そのような 権 威 を 構 成 するとわずかにでも 想 定 されうる 唯 一 のものは、 誰 か<br />

が[「これは 緑 だ」という 観 察 ] 報 告 を 行 うという 事 実 から、 人 々が 緑 の 対 象 の 存<br />

在 を 推 論 できるという 事 実 である。… 知 識 の 表 現 であるためには、 報 告 は 権 威<br />

を 持 たなければならないだけでなく、この 権 威 が 報 告 を 行 う 人 物 によってある 意<br />

味 で 認 識 されていなければならない。 (EPM § 35)<br />

ه<br />

[ 観 察 的 信 念 の 権 威 ]は、 知 覚 的 状 況 でジョーンズが 関 連 する 語 をどのように 使<br />

うかを 学 んだという 事 実 へと 辿 られうる。… この 理 由 で、 視 覚 刺 激 への 反 応 とし<br />

て、ジョーンズが 率 直 に「 見 よ、ここに 赤 いリンゴがある」と 言 ったならば、 彼 の 前<br />

に 赤 いリンゴがあるということは 真 である 可 能 性 が 高 い。… 真 である 可 能 性 が<br />

高 い、 何 故 なら 物 事 が 誤 りうる 様 々な 仕 方 を 我 々は 皆 知 っているからである。…<br />

彼 の 言 語 を 完 全 に 習 得 するために、ジョーンズは 知 覚 的 文 脈 で 知 覚 的 文 の 使<br />

用 を 学 習 に 何 が 含 まれているのかについての 同 一 の 事 実 を 知 っていなければ<br />

ならない。(SK(II) §39–40)<br />

10<br />

Sellarsの 知 識 ( 正 当 化 )に 関 する 見 解<br />

Sellarsの 知 識 ( 正 当 化 )に 関 する 見 解<br />

ه<br />

ه<br />

観 察 報 告 の 内 化 としての 観 察 的 信 念 の 正 当 化 は、 「なすべき 規<br />

則 」に 従 った 非 概 念 的 な 経 験 に 基 づく 意 識 的 な 信 念 形 成 であると<br />

いうことではなく、 言 語 学 習 によって、「あるべき 規 則 」を 知 り、そ<br />

れに 合 致 した 仕 方 で 信 念 が 形 成 されるということに 由 来 する。<br />

あるべき 規 則 を 知 っている 認 識 主 体 は、 非 推 論 的 に 引 き 起 こされ<br />

た 観 察 報 告 に 対 して、 以 下 の 様 な 推 論 的 正 当 化 を 与 えることが<br />

できる<br />

( 観 察 報 告 に 関 するレベル 横 断 的 推 論 )<br />

私 はたった 今 、 見 よ、ここに 赤 いリンゴがあると 声 に 出 して 考 えた<br />

(いかなる 阻 却 条 件 も 成 立 していない)<br />

それ 故 、 私 の 前 に 赤 いリンゴがあると 信 じる 十 分 な 理 由 がある<br />

(SK(II) §40)<br />

11<br />

ه<br />

観 察 報 告 への 推 論 的 正 当 化 をこのような 仕 方 で 与 えるこ とができるならば、 非 推 論 的 に 形 成 される 観 察 的 信 念 に<br />

対 して、 正 当 化 の 言 語 的 行 動 主 義 的 モデルが 適 用 でき<br />

る<br />

知 覚 的 正 当 化 の 言 語 行 動 主 義 モデル:<br />

命 題 pがSに 対 して 知 覚 的 に 正 当 化 されるのは、(1)Sがpとい<br />

う 知 覚 的 ( 非 推 論 的 )に 形 成 された 信 念 ( 短 期 間 の 直 前 傾 向<br />

性 )を 持 つならば、(a)その 信 念 の 表 現 である 観 察 報 告 をレ<br />

ベル 横 断 推 論 によって 理 由 を 与 えてSが 擁 護 するか、(b) 擁<br />

護 する 短 期 的 直 前 傾 向 性 を 持 っているときであり、そのとき<br />

に 限 る<br />

12<br />

3


2014-06-28<br />

Sellarsの 知 識 ( 正 当 化 )に 関 する 見 解<br />

Sellarsの 知 識 ( 正 当 化 )に 関 する 見 解<br />

ه<br />

ه<br />

ه<br />

ه<br />

このセラーズ 解 釈 は 基 本 的 に 正 しいが、 観 察 的 信 念 に 対 するレベル<br />

横 断 的 推 論 による 正 当 化 の 条 件 に 関 しては 複 数 の 解 釈 が 可 能 かも<br />

しれない。<br />

Williams (2002)と 筆 者 の 解 釈 は 異 なる。<br />

(レベル 横 断 的 推 論 )<br />

私 はたった 今 、 見 よ、ここに 赤 いリンゴがあると 声 に 出 して 考 えた<br />

(いかなる 阻 却 条 件 も 成 立 していない)<br />

それ 故 、 私 の 前 に 赤 いリンゴがあると 信 じる 十 分 な 理 由 がある<br />

Williamsの 解 釈 によれば、 最 初 の 前 提 からこの 推 論 によって 観 察 的<br />

信 念 が 正 当 化 されるためには、 何 らかの 阻 却 条 件 が 成 立 していると<br />

いう 理 由 を 所 有 していないことで 十 分<br />

筆 者 の 解 釈 によれば、いかなる 阻 却 条 件 も 成 立 していないという 理<br />

由 の 所 有 が 必 要<br />

ه<br />

ه<br />

ه<br />

Williamsはこの 解 釈 のテキスト 的 証 拠 をほとんど 挙 げていな<br />

い⇒SellarsがSMで、「あるべき 規 則 」を「 批 判 の 規 則 」と 呼 んで<br />

いるでいることだけ<br />

他 のテキスト 的 証 拠 として、SK(II) §40のレベル 横 断 的 推<br />

論 で、「いかなる 阻 却 条 件 も 成 立 していない」という 前 提<br />

だけ 何 故 か 括 弧 に 入 れられていることが 挙 げられる<br />

Williamsがこのような 解 釈 をとる 理 由 は、Sellarsが 用 いる「 非<br />

推 論 的 知 識 」という 表 現 を、「 非 推 論 的 に 形 成 された 信 念 が 推<br />

論 的 に 正 当 化 ( 保 証 )された 状 態 」として 解 釈 せず、「 非 推 論 的<br />

に 形 成 された 信 念 が 非 推 論 的 に 正 当 化 ( 保 証 )された 状 態 」と<br />

して 解 釈 するため⇒ 他 の 解 釈 者 の 誰 も 取 らない 解 釈 であり、<br />

根 拠 も 極 めて 不 明 確<br />

13<br />

14<br />

Sellarsの 知 識 ( 正 当 化 )に 関 する 見 解<br />

Sellarsの 立 場 の 問 題 点<br />

ه<br />

SK(II)のテキストは 両 方 の 解 釈 を 許 す 余 地 が 若 干 あるが、 筆 者 の 解 釈 の 方 を 強 く 支 持 する<br />

ه<br />

「もし 我 々が[ジョーンズの 観 察 報 告 ]を 聴 くならば、そし て 我 々がいかなるこれらの 阻 却 条 件 も 成 立 していないと<br />

信 じる 理 由 を 持 っているならば、[レベル 横 断 的 推 論 を 用<br />

いて] 推 論 するために 正 当 化 されうるだろう…」 (SK(II)<br />

§39)<br />

EPM、SK(II)の 認 識 主 体 自 身 が 観 察 の 信 頼 性 、 阻 却 条 件 の<br />

不 在 を 知 っていなければならないという 要 求 は、それを 理 由 と<br />

して 持 つことを 意 味 するという 解 釈 のほうが 自 然<br />

Williamsの 解 釈 によるSellarsの 立 場 は、 推 論 的 正 当 化 を 要 求<br />

する 正 当 化 に 関 する 立 場 としては 極 めて 弱 い<br />

ه<br />

ه<br />

ه<br />

ه<br />

筆 者 の 解 釈 によるSellarsの 立 場 には、(a)セラーズの 他 の 見 解 と 整 合 し<br />

ない、(b) 正 当 化 に 関 する 立 場 として 問 題 がある、という2つの 難 点 が 存<br />

在 する。これらの 難 点 を 解 説 するために、 命 題 的 正 当 化 と 信 念 的 正 当<br />

化 の 区 別 が 重 要<br />

命 題 的 正 当 化 :Sがpを 信 じるために 正 当 化 されている( 命 題 pがSにとっ<br />

て 正 当 化 されている)<br />

信 念 的 正 当 化 :Sのpという 信 念 が 正 当 化 されている<br />

命 題 的 正 当 化 は、 信 念 的 正 当 化 を 含 意 しない<br />

i. Sがpと 信 じていない<br />

ii. Sはpと 信 じているが、 命 題 的 正 当 化 を 与 える 理 由 に 基 づいてそう 信 じて<br />

いるのではない<br />

信 念 的 正 当 化 = 命 題 的 正 当 化 + 適 切 な 基 づけ 関 係 の 成 立<br />

15<br />

16<br />

4


2014-06-28<br />

Sellarsの 立 場 の 問 題 点<br />

Sellarsの 立 場 の 問 題 点<br />

ه<br />

実 のところ、SellarsはAAE(1973/1969)で、 行 為 の 理 由 に 関 する 基 づけ 関 係 について 明 示 的 に 議 論 している:<br />

ه<br />

この 見 解 が、 観 察 的 信 念 の( 知 覚 的 ) 正 当 化 に 適 用 されたならば、 簡 潔 に 表 現 するならば、XをもたらすためにジョーンズはYをしたと 言 うことは、<br />

彼 が 上 述 のような 実 践 的 推 論 のようなものを 経 たと 言 うことである。この 意 味 で、<br />

Xをもたらす 主 要 な「 理 由 」(the ‘reason’)は、 彼 がYすることの 主 要 な「 原 因 」(the<br />

‘cause’)である(そして 定 冠 詞 がどのように 文 脈 依 存 的 であるかはよく 知 られた<br />

事 実 である)<br />

見 よ、ここに 赤 いリンゴがあるという 思 考 が 私 にたった 今 生 じた<br />

いかなる 阻 却 条 件 も 成 立 していない<br />

という2つの 命 題 をSが 信 じており、これらの 信 念 が 原 因 となって、<br />

簡 略 には、 実 践 的 な 諸 前 提 が 実 践 的 結 論 の 諸 原 因 であるが 故 に、 諸 理 由 は<br />

行 為 の 諸 原 因 でありうるのである。(AAE § 47–48)<br />

私 の 前 に 赤 いリンゴがあると 信 じる 十 分 な 理 由 がある<br />

という 信 念 が 形 成 ・ 維 持 されるという 条 件 が 満 たされる 必 要 がある。<br />

ه<br />

セラーズはここで 明 確 に、 行 為 が 理 由 に 基 づけられるために、 単 にその 理 由 によって 行 為 を 正 当 化 したり、そうした 正 当 化 への 傾 向 性 を 持 つだけでなく、<br />

その 理 由 を 前 提 とする 推 論 を 経 ることが 必 要 であるという 見 解 をとっている。<br />

また、 同 様 の 見 解 を 信 念 の 正 当 化 にも 適 用 しうると 考 えている<br />

ه<br />

さらに、(2) 目 の 前 に 赤 いリンゴがあるという 信 念 そのものも、この 結 論 として の 信 念 が 原 因 となって 形 成 ・ 維 持 されるという 条 件 が 満 たされる 必 要 がある<br />

17<br />

18<br />

Sellarsの 立 場 の 問 題 点<br />

結 論<br />

ه<br />

ه<br />

ه<br />

ه<br />

ه<br />

問 題 は、これが 正 しい 限 り、 観 察 的 信 念 は、 推 論 的 形 成 ・ 維 持 されるというこ<br />

とになる<br />

つまり、SellarsのEPMの 言 語 行 動 主 義 的 モデルは、「 非 推 論 的 に 形 成 された<br />

信 念 が 推 論 的 に 命 題 的 に 正 当 化 される」という 説 明 を 与 えるが、 信 念 的 正<br />

当 化 を 説 明 するために、「 推 論 的 正 当 化 を 与 える 推 論 の 前 提 がその 信 念 の<br />

形 成 ・ 維 持 の 原 因 である」という 条 件 が 付 加 されたならば、 観 察 的 信 念 は 推<br />

論 的 に 形 成 ・ 維 持 されたということが 帰 結 する<br />

これがSellarsの 立 場 に 存 在 する 不 整 合 である<br />

この 難 点 をSellarsの 立 場 から 回 避 するために、 知 覚 的 信 念 ( 主 張 への 短 期<br />

的 直 前 傾 向 性 )を 正 当 化 したり、 正 当 化 する 傾 向 性 を 持 つことで、 知 覚 的 信<br />

念 の 信 念 的 正 当 化 には 十 分 であるという 見 解 を 採 用 することが 可 能 ?<br />

しかし、この 見 解 は、そもそも 命 題 的 正 当 化 と 信 念 的 正 当 化 を 区 別 できない<br />

という 認 識 論 的 難 点 を 不 可 避 的 に 含 む。 問 題 は、 非 推 論 的 に 形 成 ・ 維 持 さ<br />

れる 知 覚 的 信 念 の 推 論 的 正 当 化 という 考 え 方 が 適 切 な 基 づけ 関 係 の 要 求<br />

と 整 合 しないこと<br />

ه<br />

Sellarsが 所 与 の 神 話 批 判 の 過 程 で 訴 える 議 論 は、 彼 の 他 の 著 作 での 見 解 と 組 み 合 わされたならば、 不 整 合 であ<br />

る(Williamsの 解 釈 を 採 用 しても、この 不 整 合 は 起 こる)<br />

ه<br />

この 不 整 合 を 回 避 しようとすれば、 認 識 論 的 な 問 題 が 生 じる<br />

ه<br />

この 問 題 を 回 避 する 方 法 の 一 つは、 何 らかの 認 識 論 的 基 礎 づけ 主 義 をとることである<br />

ه<br />

それ 故 、Sellarsの 所 与 の 神 話 批 判 は 認 識 論 的 問 題 をは らむだけでなく、 批 判 として 失 敗 している。 最 低 限 、 基 礎<br />

づけ 主 義 を 採 用 せずにこの 問 題 を 回 避 する 方 法 を 見 つ<br />

けない 限 り、 批 判 として 未 完 結<br />

19<br />

20<br />

5


2014-06-28<br />

参 考 文 献<br />

deVries, Willem A (2005), Wilfrid Sellars, Chesham, Bucks: Acumen<br />

Publishing and Montreal & Kingston: McGill-Queen’s<br />

University Press.<br />

Sellars, Wilfrid (1963), “Empiricism and the Philosophy of Mind”, in<br />

Wilfrid Sellars, Science, Perception and Reality. London: Routledge.<br />

—— (1968), Science and Metaphysics. London: Routledge.<br />

——(1973), “Actions and Events,” Noûs 7: 179–202.<br />

——(1975), “The Structure of Knowledge: (I) Perception; (II) Minds;<br />

(III) Epistemic Principles,” in Action, Knowledge and Reality: Studies in<br />

Honor of Wilfrid Sellars, edited by Hector-Neri Castañeda (Indianapolis:<br />

Bobbs-Merrill, 1975): 295–347.<br />

Williams, Michael (2006), “Science and Sensibility: McDowell and<br />

Sellars on Perceptual Experience,” European Journal of Philosophy 14<br />

(2): 302–325.<br />

21<br />

6

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