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ニスキン 採 水 器 による 一 次 生 産 阻 害<br />

Inhibition of primary production by Niskin sampler<br />

正 しく 評 価 できない.それでもなお, 今 回 の 結 果 はニス<br />

キン 本 体 からの 微 量 金 属 汚 染 , 特 に 鉄 溶 出 による 一 次 生<br />

産 量 の 増 加 よりも,むしろノーマルニスキンのOリング<br />

に 由 来 する 毒 性 による 一 次 生 産 力 の 阻 害 がニスキン 採 水<br />

器 内 部 の 問 題 としては 深 刻 であることを 示 した.<br />

クリーンニスキンの 最 大 の 特 徴 は 内 部 がテフロンコー<br />

ティングされていることであるが, 検 証 実 験 -3の 結 果<br />

から,テフロンコーティングの 有 無 ,さらにはそれに 伴<br />

うノーマルニスキンとクリーンニスキンの 酸 洗 浄 手 法 の<br />

違 いは 一 次 生 産 力 に 影 響 を 及 ぼさないことが 分 かった<br />

(Table 5).また,ペットコック・エアーベントの 酸 洗 浄<br />

の 有 無 も 一 次 生 産 への 影 響 はなく,ニトリルゴム 製 Oリ<br />

ングの 使 用 が 一 次 生 産 を 阻 害 する 要 因 であることが 今 回<br />

の 実 験 により 明 らかとなった(Table 5).これはPrice et<br />

al.(1986); Williams and Robertson(1989)が 示 したゴムに<br />

よる 海 洋 微 生 物 への 毒 性 を 改 めて 支 持 する 結 果 である.<br />

Williams and Robertson(1989)はニスキンボトル 内 のゴム<br />

チューブの 使 用 によって, 培 養 後 にクロロフィルα 量 が<br />

大 きく 減 少 し, 一 次 生 産 量 が10% 程 度 にまで 減 少 するこ<br />

とを 示 した. 我 々の 実 験 では 一 次 生 産 量 の 減 少 は50% 程<br />

度 にとどまるが,ニスキンボトル 内 部 で 使 用 しているゴ<br />

ム 製 品 はOリングのみである. 今 回 の 実 験 により,たと<br />

えサンプル 海 水 との 接 触 面 積 の 広 い 蓋 閉 用 のゴムチュー<br />

ブをニスキンボトル 内 部 で 使 用 しなくても,ニトリルゴ<br />

ム 製 Oリングの 使 用 によって 一 次 生 産 量 が 半 減 するほど<br />

の 深 刻 な 毒 性 を 示 すことが 明 らかとなった.<br />

検 証 実 験 -1では,ノーマルニスキンでの 一 次 生 産 量<br />

は 約 70%に 減 少 したが,その 他 の 検 証 実 験 の 結 果 よりも<br />

減 少 率 は 低 か っ た(Table 3).Price et al.(1986) は<br />

Thalassiosira spp.やある 種 の 羽 状 目 珪 藻 は 比 較 的 ゴムの 毒<br />

性 に 対 する 耐 性 が 強 いことを 指 摘 している. 検 証 実 験 -1<br />

の 採 水 は 北 太 平 洋 のベーリング 海 に 近 い 観 測 点 で 実 施 し<br />

たものであり,これらの 珪 藻 が 優 占 していた 可 能 性 があ<br />

る.このように, 現 場 海 域 で 優 占 している 植 物 プランク<br />

トン 種 によってゴムの 毒 性 に 対 する 影 響 は 異 なる 可 能 性<br />

がある.しかし, 検 証 実 験 -2および 検 証 実 験 -3はそれ<br />

ぞれ 北 太 平 洋 の 亜 寒 帯 循 環 域 および 亜 熱 帯 循 環 域 の 観 測<br />

点 で 採 水 されたものであるが,どちらも 約 50%かそれ 以<br />

上 の 高 い 減 少 率 を 示 している(Table 4, 5). 両 海 域 の 栄 養<br />

塩 環 境 は 大 きく 異 なるため, 植 物 プランクトン 群 集 の 種<br />

組 成 および 優 占 種 の 細 胞 サイズも 大 きく 異 なっていると<br />

考 えられる(Table 2).このことは, 多 様 な 植 物 プランク<br />

トン 種 がゴムの 毒 性 によって 一 次 生 産 量 を 減 少 させるこ<br />

とを 示 唆 するものである.<br />

検 証 実 験 -3ではニトリルゴム 製 Oリングを 使 用 した<br />

場 合 に 全 てのサンプルで 一 次 生 産 量 は50% 以 下 に 減 少 し<br />

たが, 培 養 後 のクロロフィルαの 減 少 量 は 必 ずしも 一 致<br />

しなかった(Table 5).このことは, 一 次 生 産 量 の 減 少 は<br />

植 物 プランクトンの 細 胞 死 による 細 胞 数 減 少 の 結 果 とし<br />

て 生 じるものではないことを 示 唆 している.また,ゴム<br />

の 毒 性 によって 数 日 で 植 物 プランクトンの 細 胞 死 が 生 じ<br />

ることは 報 告 されているが(Price et al., 1986), 今 回 の 実<br />

験 のように, 約 30 分 間 のゴム 接 触 の 後 に 行 った24 時 間 の<br />

培 養 期 間 中 に,どの 程 度 植 物 プランクトンの 細 胞 死 が 生<br />

じていたかは 不 明 である.クロロフィルα 量 の 減 少 は,<br />

植 物 プランクトンの 細 胞 死 だけでなく,ゴム 毒 性 による<br />

植 物 プランクトンの 増 殖 阻 害 の 結 果 , 培 養 ボトル 内 で 動<br />

物 プランクトンによる 摂 餌 が 植 物 プランクトンの 増 殖 を<br />

上 回 った 可 能 性 もある.<br />

今 回 の 実 験 から,ニスキンボトルに 取 り 付 けられるニ<br />

トリルゴム 製 Oリングは 一 次 生 産 量 を 半 減 させるほどの<br />

影 響 を 及 ぼすが, 酸 洗 浄 を 行 ったフッ 素 (バイトン)ゴ<br />

ム 製 のOリングに 交 換 することで 一 次 生 産 を 阻 害 するこ<br />

となく 測 定 できることが 明 らかとなった.さらに,ペッ<br />

トコック・エアーベントの 酸 洗 浄 の 有 無 およびニスキン<br />

ボトルのテフロンコーティングの 有 無 は 一 次 生 産 量 の 測<br />

定 に 影 響 を 及 ぼさないことが 分 かった.このことは,ニ<br />

スキン-X 採 水 器 であればノーマルニスキンでも 一 次 生<br />

産 量 測 定 のサンプリングに 使 用 できることを 示 唆 してい<br />

る. 少 なくとも,クリーンニスキンで 実 施 しているアル<br />

カリ 性 洗 剤 洗 浄 に 加 えて,0.1Nの 塩 酸 による 酸 洗 浄 を 実<br />

施 したノーマルニスキンを 使 用 すれば, 酸 洗 浄 を 行 った<br />

フッ 素 (バイトン)ゴム 製 のOリングに 交 換 することで,<br />

クリーンニスキンと 同 等 に 扱 うことができる.これまで<br />

に,シリコーンゴムも 同 様 に 一 次 生 産 への 影 響 はないこ<br />

とが 報 告 されている(Price et al., 1986).ただし,シリ<br />

コーンゴムの 場 合 は 気 体 透 過 性 が 高 いため, 微 量 ガス 成<br />

分 の 分 析 を 同 時 に 実 施 する 場 合 には 使 用 にあたって 注 意<br />

が 必 要 であろう.また,ゴムの 毒 性 による 影 響 は 植 物 プ<br />

ランクトンだけでなく 動 物 プランクトンやバクテリアに<br />

も 生 じることが 指 摘 されている(Price et al., 1986). 従 っ<br />

て, 一 次 生 産 量 測 定 だけでなく, 微 生 物 活 性 に 関 する 実<br />

験 を 行 う 場 合 には, 採 水 には 通 常 のニトリルゴム 製 Oリ<br />

ングではなく, 酸 洗 浄 を 施 したフッ 素 (バイトン)ゴム<br />

製 Oリングを 取 り 付 けたニスキンボトルを 使 用 すること<br />

が 推 奨 される.<br />

5. 結 論<br />

ノーマルニスキンを 用 いたサンプリングは 一 次 生 産 を<br />

阻 害 し, 培 養 法 による 一 次 生 産 量 の 測 定 値 を 大 きく 過 小<br />

24 JAMSTEC Rep. Res. Dev., Volume 14, March 2012, 17 _ 25

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