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JAMSTEC Rep. Res. Dev., Volume 14, March 2012, 17 _ 25
― 原 著 論 文 ―
ニスキン 採 水 器 内 部 のニトリルゴム 製 O リングによる 一 次 生 産 阻 害
松 本 和 彦
1*
, 藤 木 徹 一 1
, 本 多 牧 生 1
, 脇 田 昌 英 2
, 川 上 創 2
, 喜 多 村 稔 3
, 才 野 敏 郎
1
海 洋 地 球 研 究 船 「みらい」では, 採 水 にニスキン-X 採 水 器 を 取 り 付 けたCTD 採 水 システムを 使 用 している.ニス
キン-X 採 水 器 は 蓋 閉 用 のスプリングが 採 水 器 外 側 に 配 置 され,ボトル 内 部 へのゴムや 微 量 金 属 による 汚 染 を 極 力 排 除
できる 仕 組 みとなっている. 通 常 , 一 次 生 産 量 測 定 用 のサンプリングには 海 水 サンプルへの 微 量 金 属 等 の 汚 染 防 止 を 徹
底 するため, 内 部 にテフロンコーティングを 施 し,ボトル 内 部 及 び 部 品 各 種 を 酸 洗 浄 した 採 水 器 をクリーンニスキンと
して 使 用 している.クリーンニスキンとその 他 のノーマルニスキンで 採 水 した 場 合 に, 実 際 に 一 次 生 産 量 に 差 が 生 じる
のかを 確 かめたところ,ノーマルニスキンで 採 水 した 場 合 に 一 次 生 産 量 測 定 値 が 激 しく 低 下 した.その 差 を 生 じる 原 因
を 把 握 するための 追 加 実 験 を 行 うと,ノーマルニスキンで 使 用 しているニトリルゴム 製 Oリングが 一 次 生 産 を 阻 害 して
いることが 明 らかとなった.
キーワード: 一 次 生 産 ,ニスキン 採 水 器 ,Oリング,ゴム 毒 性 ,ニトリルゴム,バイトンゴム
2011 年 6 月 27 日 受 領 ;2011 年 11 月 7 日 受 理
1 独 立 行 政 法 人 海 洋 研 究 開 発 機 構 地 球 環 境 変 動 領 域
2 独 立 行 政 法 人 海 洋 研 究 開 発 機 構 むつ 研 究 所
3 独 立 行 政 法 人 海 洋 研 究 開 発 機 構 海 洋 ・ 極 限 環 境 生 物 圏 領 域
* 代 表 執 筆 者 :
松 本 和 彦
独 立 行 政 法 人 海 洋 研 究 開 発 機 構 地 球 環 境 変 動 領 域
〒237-0061 神 奈 川 県 横 須 賀 市 夏 島 町 2-15
046-867-9496
matsumotok@jamstec.go.jp
著 作 権 : 独 立 行 政 法 人 海 洋 研 究 開 発 機 構
17

ニスキン 採 水 器 による 一 次 生 産 阻 害
Inhibition of primary production by Niskin sampler
― Original Paper ―
Inhibition of primary production by nitrile rubber O-rings in Niskin sampler
Kazuhiko Matsumoto 1* , Tetsuichi Fujiki 1 , Makio C. Honda 1 , Masahide Wakita 2 ,
Hajime Kawakami 2 , Minoru Kitamura 3 , and Toshiro Saino 1
Seawater sampling was conducted by a CTD system attached with Niskin-X sampler in the R/V Mirai. Niskin-X sampler
can eliminate the contamination of toxic rubber and trace metal in the bottle as much as possible, because its closure spring is arranged
outside of the bottle. Teflon-coated and acid-cleaned samplers of them were usually used for the sampling of primary production as
“clean” Niskin. We tested the difference of primary production between “clean” and other “normal” Niskin sampling. Primary
production estimated from “normal” Niskin sampling was decreased drastically than “clean” Niskin sampling. We tested again to
evaluate the cause of such difference, and it was revealed that the using of nitrile rubber O-rings in the “normal” Niskin sampler
inhibited primary production.
Keywords: Primary production, Niskin sampler, O-ring, toxic rubber, nitrile rubber, Viton rubber
Received 27 June 2011 ; Accepted 7 November 2011
1 Research Institute for Global Change (RIGC), Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC)
2 Mutsu Institute for Oceanography, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC)
3 Institute of Biogeosciences (Biogeos), Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC)
*Corresponding author:
Kazuhiko Matsumoto
Research Institute for Global Change (RIGC), Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC)
2-15 Natsushima-cho, Yokosuka 237-0061, Japan
Tel. +81-46-867-9496
matsumotok@jamstec.go.jp
Copyright by Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
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K. Matsumoto et al.,
1. はじめに
植 物 プランクトンの 光 合 成 による 一 次 生 産 は 海 洋 物 質
循 環 の 出 発 点 であり,その 海 洋 一 次 生 産 量 を 精 度 良 く 見
積 もることが 物 質 循 環 研 究 においては 要 求 される. 一 般
的 には, 海 洋 一 次 生 産 量 は 植 物 プランクトンを 現 場 海 水
で 数 時 間 から24 時 間 培 養 し, 単 位 時 間 当 たりの 炭 素 取 り
込 み 量 もしくは 酸 素 発 生 量 を 見 積 もることで 求 められる.
しかし, 培 養 法 による 一 次 生 産 量 の 算 出 に 際 しては,そ
のサンプリング 方 法 に 注 意 しなければならないことが 以
前 より 指 摘 されている(Karl and Dore, 2001).これまでに
も,サンプリング 時 に 銅 や 亜 鉛 ,カドミウム 等 の 微 量 金
属 の 汚 染 によって 一 次 生 産 が 阻 害 されることが 報 告 され
ている(Fitzwater et al.,1982; Brand et al.,1986).この 影 響 は
微 量 金 属 の 少 ない 外 洋 域 表 層 ではより 深 刻 なものになる
と 考 えられる. 一 方 で,いくつかの 微 量 金 属 は 植 物 プラ
ンクトンにとっては 必 要 な 栄 養 塩 でもあり, 特 に 鉄 はわ
ずかな 量 の 添 加 でも 植 物 プランクトンの 現 存 量 や 一 次 生
産 量 を 増 加 させる 効 果 があることが, 多 くの 知 見 で 示 さ
れている(Martin and Fitzwater 1988; Takeda and Obata 1995;
Fitzwater et al.,1996).さらに,ラテックスゴムやタイゴン
チューブが 植 物 プランクトンや 動 物 プランクトン,バク
テリア 等 の 海 洋 微 生 物 に 対 して 毒 性 を 示 すことが 指 摘 さ
れており(Price et al.,1986), 採 水 器 内 部 で 使 用 されている
ゴムチューブは 一 次 生 産 に 深 刻 な 阻 害 的 影 響 を 及 ぼすこ
とが 報 告 されている(Williams and Robertson, 1989).
このような 問 題 を 改 善 するため,クリーンテクニック
と 呼 ばれる 極 力 微 量 金 属 の 汚 染 を 避 ける 処 置 を 行 った 上
で, 採 水 器 内 にゴムや 金 属 のスプリングを 通 さず,テフ
ロンコーティングを 施 し, 表 面 水 からの 汚 染 も 防 げる 構
造 になっているGo-Flo 採 水 器 を 用 いて 一 次 生 産 測 定 を 行
う こ と が 推 奨 さ れ て い る(Fitzwater et al.,1982; Karl and
Dore, 2001). 近 年 では,スプリングを 採 水 器 の 外 に 配 し
た 改 良 型 のニスキン 採 水 器 としてニスキン-X 採 水 器 も
開 発 され, 海 洋 地 球 研 究 船 「みらい」では,12リットル
のニスキン-X 採 水 器 を36 本 取 り 付 けたCTD 採 水 システ
ムによる 採 水 が 行 われている.このうち,14 本 のニスキ
ン-X 採 水 器 については 内 部 にテフロンコーティングが
施 され, 観 測 前 に 酸 洗 浄 を 行 って 一 次 生 産 測 定 用 サンプ
ルの 採 水 に 用 いている. 本 研 究 では, 採 水 器 の 違 いが 一
次 生 産 測 定 に 影 響 を 及 ぼすのか, 及 ぼすとすれば 要 因 は
何 か 評 価 することを 試 みた.
2. 実 験 方 法
2.1. ニスキンボトル 洗 浄 処 理
「みらい」に 搭 載 されているニスキン-X 採 水 器 (Fig. 1)
Air vent
O-ring
Petcock
Fig. 1. Niskin-X sampler .
図 1. ニスキン-X 採 水 器 .
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ニスキン 採 水 器 による 一 次 生 産 阻 害
Inhibition of primary production by Niskin sampler
には 内 部 がテフロンコーティングされていないもの( 以
下 ,ノーマルニスキン)と,テフロンコーティングされ
ているもの( 以 下 ,クリーンニスキン)の 二 種 類 がある.
両 者 の 構 造 は,テフロンコーティング 以 外 は 基 本 的 には
同 一 の 仕 様 であるが,Oリングの 材 質 , 洗 浄 方 法 等 の 運
用 面 で 異 なる 点 がある(Table 1). 本 実 験 では, 観 測 航 海
開 始 前 に 行 うニスキンボトル 内 部 の 酸 洗 浄 については 両
者 ともに 実 施 しているが,ノーマルニスキンについては
内 部 の 器 具 接 合 面 の 樹 脂 がむき 出 しであることを 考 慮 し,
クリーンニスキンに 比 べて 弱 い0.1Nの 塩 酸 での 浸 漬 洗 浄
を 行 っている.なお, 採 水 観 測 後 には 塩 の 析 出 やバクテ
リアの 繁 殖 を 防 ぐため,ノーマルニスキンは 水 道 水 を 流
して 内 部 を 洗 浄 しているのに 対 し,クリーンニスキンは
水 道 管 に 含 まれる 金 属 等 の 汚 染 を 避 けるため, 水 道 水 の
洗 浄 を 行 わずに 次 回 の 採 水 時 まで 蓋 を 閉 めて 保 管 してい
る.ただし, 本 観 測 航 海 では 高 頻 度 でCTD 採 水 を 実 施 し
ており, 水 道 水 の 洗 浄 を 行 わないことによる 明 らかな 塩
の 析 出 やバクテリアの 繁 殖 は 確 認 されていない.また,
海 水 サンプルに 直 接 接 触 するペットコック,エアーベン
トおよびOリングはクリーンニスキンでは 事 前 に 酸 洗 浄
したものを 使 用 している(Fig. 1).Oリングはノーマルニ
スキンではニトリルゴム 製 のものを 使 用 しているが,ク
リーンニスキンでは 酸 洗 浄 するためより 耐 薬 品 性 の 強 い
フッ 素 ゴム(バイトン) 製 のものを 使 用 している.ク
リーンニスキンのOリングは 蓋 ,ペットコック,エアー
ベントに 使 われている 全 てのOリングをフッ 素 ゴム(バ
イトン) 製 に 交 換 している.ニスキンボトル,ペット
コック,エアーベントおよびOリングの 洗 浄 方 法 は 以 下
の 通 りである.
・ニスキンボトル
(クリーンニスキン)
5%アルカリ 性 洗 剤 (エキストランMA01)で 一 日 間
浸 漬 後 , 蒸 留 水 ですすぐ.1N 塩 酸 を 内 部 に 満 たし,
一 日 間 置 く.ミリQ 水 でよくすすいだ 後 ,ミリQ 水
を 内 部 に 満 たし, 二 日 間 置 くことを2 回 繰 り 返 して
内 部 の 酸 を 完 全 に 取 り 除 く.
(ノーマルニスキン)
クリーンニスキンの 洗 浄 方 法 と 同 じ.ただし1N 塩 酸
の 代 わりに0.1N 塩 酸 を 使 用 .
・ペットコック,エアーベント(クリーンニスキンの
み)
5%アルカリ 性 洗 剤 (エキストランMA01)で 二 日 間
浸 漬 後 ,ミリQ 水 ですすぐ.4N 塩 酸 に 一 日 間 浸 漬 後 ,
ミリQ 水 ですすぐ. 濃 硝 酸 ・ 濃 硫 酸 ・ 濃 過 塩 素 酸 の
1:1:1 混 液 を80℃に 加 温 して8 時 間 浸 漬 し,ミリQ 水
ですすぐ.その 後 ,6N 塩 酸 を80℃に 加 温 して8 時 間
浸 漬 し,ミリQ 水 ですすぐ.さらに,ミリQ 水 を80℃
に 加 温 して8 時 間 浸 漬 し,ミリQ 水 ですすぐ.
・Oリング(クリーンニスキンのみ)
0.3N 硝 酸 を60-80℃に 加 温 して8 時 間 浸 漬 する.さ
らに,ミリQ 水 を80℃に 加 温 して8 時 間 浸 漬 し,ミ
リQ 水 ですすぐ.
2.2. サンプリング
採 水 および 実 験 は, 西 部 北 太 平 洋 で 実 施 した「みらい」
MR10-06(2010 年 10 月 ~2010 年 11 月 ) お よ びMR11-02
(2011 年 2 月 ~2011 年 3 月 ) 航 海 中 に3 回 行 った(Table 2).
検 証 実 験 -1および 検 証 実 験 -3では, 採 水 はCTD 採 水
システムを 用 いてそれぞれ10 mおよび5 m 深 度 の 水 を 採
水 した. 検 証 実 験 -2では,プラスチックバケツを 用 い
て 表 面 海 水 を 採 水 した. 実 際 の 現 場 観 測 を 実 施 する 際 に
はニスキン 採 水 器 からの 取 水 作 業 に30 分 程 度 要 すること
から, 採 水 後 ニスキンボトル 内 で30 分 放 置 した 後 ,ニス
キンボトルからの 取 水 を 行 った. 採 水 地 点 の 採 水 時 の 硝
酸 塩 ,クロロフィルα 量 および 培 養 実 験 中 の 表 面 の 光 合
成 有 効 放 射 をTable 2に 示 す. 硝 酸 塩 はオートアナライ
ザー(QuAAtro2-HR; BL TEC)を 用 いて 測 定 し(Aoyama
et al., 2010), 表 面 の 光 合 成 有 効 放 射 は 紫 外 ・ 可 視 分 光 放 射
計 (PUV-510B; Biospherical Instruments)を 用 いて 測 定 した.
2.3. 一 次 生 産 量 測 定
ニスキンボトルから, 酸 洗 浄 した 大 型 のプラスチック
ボトルに 一 旦 取 水 し, 取 水 した 海 水 は 暗 所 で 酸 洗 浄 した1
リットルの 透 明 なポリカーボネート 容 器 に 分 注 した 後 ,
13
C 標 識 された 炭 酸 水 素 ナトリウム(CLM-441; CIL)を 最
Table 1. Specification of “normal” and “clean” Niskin sampler.
表 1. ノーマルニスキンとクリーンニスキンの 構 成 .
Normal Niskin
Clean Niskin
Teflon-coating × ○
Acid-cleaning
(Niskin bottle)
Bottle-wash
(tap water)
0.1N HCl 1N HCl
○ ×
O-ring Nitrile Viton
Acid-cleaning
(O-ring, petcock, × ○
air vent)
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K. Matsumoto et al.,
終 濃 度 0.2 mmol・L –1 になるように 添 加 した. 海 水 サンプ
ルは 甲 板 上 に 設 けた 表 面 海 水 を 通 水 している 水 槽 内 で 13 C
添 加 後 直 ちに 培 養 を 開 始 し, 培 養 は24 時 間 行 った. 培 養
後 , 海 水 サンプルは 事 前 に 燃 焼 処 理 したGF/Fフィルター
でろ 過 し, 安 定 同 位 体 比 質 量 分 析 計 (ANCA-SL; SerCon)
を 用 いて 一 日 当 たりの 炭 素 取 り 込 み 量 を 求 めた(Hama et
al.,1983; Matsumoto et al., 2010).
2.4. クロロフィルα 測 定
培 養 前 の 海 水 500 mlをGF/Fフィルターでろ 過 し,N,
N-dimethylformamide 溶 液 内 で24 時 間 以 上 ,-20℃の 暗 所
にてクロロフィルαを 抽 出 した.クロロフィルα 蛍 光 を
蛍 光 光 度 計 (model10-AU; Turner Designs)で 測 定 し,クロ
ロフィルαを 算 出 した(Welschmeyer, 1994; Matsumoto et al.,
2010). 検 証 実 験 -3では, 一 次 生 産 量 測 定 と 同 様 に 酸 洗
浄 したポリカーボネート 容 器 で24 時 間 培 養 後 の 海 水 サン
プルに 対 してもクロロフィルα 測 定 を 実 施 した.
3. 検 証 実 験 結 果
3.1. 検 証 実 験 −1(ノーマルニスキン-クリーンニスキ
ン 比 較 実 験 )
採 水 時 にノーマルニスキンとクリーンニスキンを 使 用
した 場 合 で,その 後 培 養 測 定 した 一 次 生 産 量 に 違 いが 生
じるのかどうかを 調 べるため,ノーマルニスキン3 本 と
クリーンニスキン3 本 からそれぞれ5サンプルずつ 取 水 し,
培 養 を 行 って 一 次 生 産 量 を 測 定 した. 一 次 生 産 量 はノー
マルニスキンおよびクリーンニスキンから 取 水 した 場 合
で 両 者 に 有 意 な 差 が 生 じ(t-test, P

ニスキン 採 水 器 による 一 次 生 産 阻 害
Inhibition of primary production by Niskin sampler
Table 3. Experiment-1: Comparison of primary production between
“normal” and “clean” Niskin sampler.
表 3. 検 証 実 験 -1:ノーマルニスキン-クリーンニスキン 一 次
生 産 量 比 較 .
Sampling ID Normal Niskin Clean Niskin
Primary production (mgC m -3 d -1 )
1 12.5 13.9
12.9 13.5
13.6 14.5
11.6 15.7
11.6 15.3
Bottle mean±S.D. 12.4±0.8 14.6±0.8
2 9.5 15.8
11.0 16.2
11.6 16.5
11.3 16.1
10.4 17.0
Bottle mean±S.D. 10.8±0.8 16.3±0.4
3 9.6 15.3
10.1 16.1
10.2 17.3
10.3 19.1
10.8 18.2
Bottle mean±S.D. 10.2±0.4 17.2±1.4
Total mean±S.D. 11.1±1.2 16.0±1.4
示 す.
A : バケツ(コントロール)
B : ノーマルニスキン( 水 道 水 洗 浄 あり)
C : ノーマルニスキン( 水 道 水 洗 浄 なし)
D : クリーンニスキン
Aのバケツ 採 水 サンプルとDのクリーンニスキンから
取 水 したサンプルには 一 次 生 産 量 に 有 意 な 差 は 見 られな
かった.ノーマルニスキンの 水 道 水 洗 浄 を 行 ったサンプ
ルBと 行 わなかったサンプルCの 間 には 有 意 な 差 は 見 ら
れなかったが, 両 者 ともAのバケツ 採 水 サンプルの 値 よ
りも 有 意 に 低 く(t-test, P

K. Matsumoto et al.,
トロールとして,ノーマルニスキンの 部 品 を 一 部 クリー
ンニスキン 用 のものに 交 換 して 培 養 実 験 を 行 った. 培 養
後 に 一 次 生 産 量 とクロロフィルα 量 を 各 ニスキンボトル
からそれぞれ3 本 測 定 した(Table 5). 以 下 にサンプル 種
別 を 示 す.
A : クリーンニスキン(コントロール)
B : ノーマルニスキン(オリジナル)
C : ノーマルニスキン(Oリングをクリーンニスキン 用
に 交 換 )
D : ノーマルニスキン(ペットコック・エアーベントを
クリーンニスキン 用 に 交 換 )
E : ノーマルニスキン(ペットコック・エアーベントお
よびOリングをクリーンニスキン 用 に 交 換 )
テフロンコーティングの 有 無 に 要 因 があれば,サンプ
ルAのみが 高 い 値 を 示 し,B,C,D,Eのサンプルは 同
様 に 低 い 値 を 示 すはずである.Oリングの 材 質 ・ 酸 洗 浄
の 有 無 に 要 因 があればA,C,Eのサンプルは 高 い 値 を 示
し,B,Dのサンプルは 低 い 値 を 示 すはずである.また,
ペットコック・エアーベントの 酸 洗 浄 の 有 無 に 要 因 があ
ればA,D,Eのサンプルは 高 い 値 を 示 し,B,Cのサン
プルは 低 い 値 を 示 すはずである.
一 次 生 産 量 およびクロロフィルα 量 の 測 定 結 果 を.
Table 5に 示 す.Aのコントロールサンプルに 対 し,B,D
のサンプルはそれぞれ37%,44%と 半 分 以 下 の 値 となり,
有 意 に 低 い 値 を 示 した(t-test, P

ニスキン 採 水 器 による 一 次 生 産 阻 害
Inhibition of primary production by Niskin sampler
正 しく 評 価 できない.それでもなお, 今 回 の 結 果 はニス
キン 本 体 からの 微 量 金 属 汚 染 , 特 に 鉄 溶 出 による 一 次 生
産 量 の 増 加 よりも,むしろノーマルニスキンのOリング
に 由 来 する 毒 性 による 一 次 生 産 力 の 阻 害 がニスキン 採 水
器 内 部 の 問 題 としては 深 刻 であることを 示 した.
クリーンニスキンの 最 大 の 特 徴 は 内 部 がテフロンコー
ティングされていることであるが, 検 証 実 験 -3の 結 果
から,テフロンコーティングの 有 無 ,さらにはそれに 伴
うノーマルニスキンとクリーンニスキンの 酸 洗 浄 手 法 の
違 いは 一 次 生 産 力 に 影 響 を 及 ぼさないことが 分 かった
(Table 5).また,ペットコック・エアーベントの 酸 洗 浄
の 有 無 も 一 次 生 産 への 影 響 はなく,ニトリルゴム 製 Oリ
ングの 使 用 が 一 次 生 産 を 阻 害 する 要 因 であることが 今 回
の 実 験 により 明 らかとなった(Table 5).これはPrice et
al.(1986); Williams and Robertson(1989)が 示 したゴムに
よる 海 洋 微 生 物 への 毒 性 を 改 めて 支 持 する 結 果 である.
Williams and Robertson(1989)はニスキンボトル 内 のゴム
チューブの 使 用 によって, 培 養 後 にクロロフィルα 量 が
大 きく 減 少 し, 一 次 生 産 量 が10% 程 度 にまで 減 少 するこ
とを 示 した. 我 々の 実 験 では 一 次 生 産 量 の 減 少 は50% 程
度 にとどまるが,ニスキンボトル 内 部 で 使 用 しているゴ
ム 製 品 はOリングのみである. 今 回 の 実 験 により,たと
えサンプル 海 水 との 接 触 面 積 の 広 い 蓋 閉 用 のゴムチュー
ブをニスキンボトル 内 部 で 使 用 しなくても,ニトリルゴ
ム 製 Oリングの 使 用 によって 一 次 生 産 量 が 半 減 するほど
の 深 刻 な 毒 性 を 示 すことが 明 らかとなった.
検 証 実 験 -1では,ノーマルニスキンでの 一 次 生 産 量
は 約 70%に 減 少 したが,その 他 の 検 証 実 験 の 結 果 よりも
減 少 率 は 低 か っ た(Table 3).Price et al.(1986) は
Thalassiosira spp.やある 種 の 羽 状 目 珪 藻 は 比 較 的 ゴムの 毒
性 に 対 する 耐 性 が 強 いことを 指 摘 している. 検 証 実 験 -1
の 採 水 は 北 太 平 洋 のベーリング 海 に 近 い 観 測 点 で 実 施 し
たものであり,これらの 珪 藻 が 優 占 していた 可 能 性 があ
る.このように, 現 場 海 域 で 優 占 している 植 物 プランク
トン 種 によってゴムの 毒 性 に 対 する 影 響 は 異 なる 可 能 性
がある.しかし, 検 証 実 験 -2および 検 証 実 験 -3はそれ
ぞれ 北 太 平 洋 の 亜 寒 帯 循 環 域 および 亜 熱 帯 循 環 域 の 観 測
点 で 採 水 されたものであるが,どちらも 約 50%かそれ 以
上 の 高 い 減 少 率 を 示 している(Table 4, 5). 両 海 域 の 栄 養
塩 環 境 は 大 きく 異 なるため, 植 物 プランクトン 群 集 の 種
組 成 および 優 占 種 の 細 胞 サイズも 大 きく 異 なっていると
考 えられる(Table 2).このことは, 多 様 な 植 物 プランク
トン 種 がゴムの 毒 性 によって 一 次 生 産 量 を 減 少 させるこ
とを 示 唆 するものである.
検 証 実 験 -3ではニトリルゴム 製 Oリングを 使 用 した
場 合 に 全 てのサンプルで 一 次 生 産 量 は50% 以 下 に 減 少 し
たが, 培 養 後 のクロロフィルαの 減 少 量 は 必 ずしも 一 致
しなかった(Table 5).このことは, 一 次 生 産 量 の 減 少 は
植 物 プランクトンの 細 胞 死 による 細 胞 数 減 少 の 結 果 とし
て 生 じるものではないことを 示 唆 している.また,ゴム
の 毒 性 によって 数 日 で 植 物 プランクトンの 細 胞 死 が 生 じ
ることは 報 告 されているが(Price et al., 1986), 今 回 の 実
験 のように, 約 30 分 間 のゴム 接 触 の 後 に 行 った24 時 間 の
培 養 期 間 中 に,どの 程 度 植 物 プランクトンの 細 胞 死 が 生
じていたかは 不 明 である.クロロフィルα 量 の 減 少 は,
植 物 プランクトンの 細 胞 死 だけでなく,ゴム 毒 性 による
植 物 プランクトンの 増 殖 阻 害 の 結 果 , 培 養 ボトル 内 で 動
物 プランクトンによる 摂 餌 が 植 物 プランクトンの 増 殖 を
上 回 った 可 能 性 もある.
今 回 の 実 験 から,ニスキンボトルに 取 り 付 けられるニ
トリルゴム 製 Oリングは 一 次 生 産 量 を 半 減 させるほどの
影 響 を 及 ぼすが, 酸 洗 浄 を 行 ったフッ 素 (バイトン)ゴ
ム 製 のOリングに 交 換 することで 一 次 生 産 を 阻 害 するこ
となく 測 定 できることが 明 らかとなった.さらに,ペッ
トコック・エアーベントの 酸 洗 浄 の 有 無 およびニスキン
ボトルのテフロンコーティングの 有 無 は 一 次 生 産 量 の 測
定 に 影 響 を 及 ぼさないことが 分 かった.このことは,ニ
スキン-X 採 水 器 であればノーマルニスキンでも 一 次 生
産 量 測 定 のサンプリングに 使 用 できることを 示 唆 してい
る. 少 なくとも,クリーンニスキンで 実 施 しているアル
カリ 性 洗 剤 洗 浄 に 加 えて,0.1Nの 塩 酸 による 酸 洗 浄 を 実
施 したノーマルニスキンを 使 用 すれば, 酸 洗 浄 を 行 った
フッ 素 (バイトン)ゴム 製 のOリングに 交 換 することで,
クリーンニスキンと 同 等 に 扱 うことができる.これまで
に,シリコーンゴムも 同 様 に 一 次 生 産 への 影 響 はないこ
とが 報 告 されている(Price et al., 1986).ただし,シリ
コーンゴムの 場 合 は 気 体 透 過 性 が 高 いため, 微 量 ガス 成
分 の 分 析 を 同 時 に 実 施 する 場 合 には 使 用 にあたって 注 意
が 必 要 であろう.また,ゴムの 毒 性 による 影 響 は 植 物 プ
ランクトンだけでなく 動 物 プランクトンやバクテリアに
も 生 じることが 指 摘 されている(Price et al., 1986). 従 っ
て, 一 次 生 産 量 測 定 だけでなく, 微 生 物 活 性 に 関 する 実
験 を 行 う 場 合 には, 採 水 には 通 常 のニトリルゴム 製 Oリ
ングではなく, 酸 洗 浄 を 施 したフッ 素 (バイトン)ゴム
製 Oリングを 取 り 付 けたニスキンボトルを 使 用 すること
が 推 奨 される.
5. 結 論
ノーマルニスキンを 用 いたサンプリングは 一 次 生 産 を
阻 害 し, 培 養 法 による 一 次 生 産 量 の 測 定 値 を 大 きく 過 小
24 JAMSTEC Rep. Res. Dev., Volume 14, March 2012, 17 _ 25

K. Matsumoto et al.,
評 価 させることが 明 らかとなった.ノーマルニスキンで
用 いているニトリルゴム 製 のOリングを 使 用 することが
その 原 因 である. 従 来 ,ニスキン 採 水 器 に 使 われている
ゴムの 一 次 生 産 への 影 響 は 指 摘 されていたものの, 今 日
では 採 水 器 の 改 良 が 進 み,みらいで 使 用 しているニスキ
ン-X 採 水 器 では 蓋 閉 用 のゴムチューブやスプリングを
ニスキン 採 水 器 内 部 へ 通 す 必 要 がなくなっている.その
ため, 現 状 ではサンプリングにおけるゴムの 影 響 はあま
り 考 慮 されていない.ところが 今 回 の 実 験 は, 採 水 器 中
のOリングだけでもゴムの 毒 性 により 一 次 生 産 測 定 に 深
刻 な 影 響 を 及 ぼすことを 再 認 識 させることとなった. 同
時 に,ニトリルゴム 製 Oリングの 代 わりにフッ 素 (バイ
トン)ゴム 製 Oリングを 酸 洗 浄 して 使 用 することで, 一
次 生 産 の 阻 害 を 受 けずに 培 養 できることを 明 らかにした.
6. 謝 辞
採 水 器 の 洗 浄 方 法 について 教 えて 頂 いた 長 崎 大 学 の 武
田 重 信 教 授 に 感 謝 します. 採 水 器 の 洗 浄 ,サンプルの 分
析 にご 協 力 頂 いた 株 式 会 社 マリンワークジャパンの 技 術
員 , 並 びに 船 舶 の 運 航 , 観 測 作 業 に 従 事 して 頂 いた「み
らい」 中 山 隆 夫 船 長 および 船 員 の 皆 様 に 感 謝 の 意 を 表 し
ます.
参 考 文 献
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